(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】IR透過性ペイン
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20240723BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240723BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
B32B7/023
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500020
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2022069864
(87)【国際公開番号】W WO2023001706
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ラロワイヨ, グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ロキニー, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ファリナ, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】マディソン, ティモシー エドワード
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
4F100AA12B
4F100AA17B
4F100AA20B
4F100AB01B
4F100AG00A
4F100AH06B
4F100AK03A
4F100AK15A
4F100AK25A
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4F100BA07
4F100BA08
4F100EH46B
4F100GB32
4F100GB41
4F100GB61
4F100JN06B
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4F100JN30
4F100YY00B
4G059AA11
4G059AC04
4G059EA04
4G059EA05
4G059EA09
4G059EA12
4G059EB04
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA12
(57)【要約】
本発明は、赤外線透過性基材と、赤外線透過性コーティングとを含む赤外線透過性ペイン、及び前記ペインを含む光学装置、及び前記ペインの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面、及び前記第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第1の赤外線透過性基材と、前記第1の表面上の赤外線反射防止コーティングとを含む赤外線透過性ペインであって、
前記コーティングが、薄層のS個の配列を含み、
- 各配列が、低屈折率材料の層の真下に高屈折率材料の層を含み、
- S≧2であり、
低屈折率材料の前記コーティングの最上層の波長λ
IRにおける光学的厚さe
ULが、
(λ
IR*0.12)≦e
UL≦(λ
IR*0.40)
の範囲であり、
ここでλ
IRは、800~2000nmの範囲内で選択される赤外線波長であることを特徴とする赤外線透過性ペイン。
【請求項2】
S≧2であり、前記赤外線反射防止コーティングの高屈折率材料の層の波長λ
IRにおける光学的厚さの合計Σe
Hが、(λ
IR*0.10)≦Σe
H≦(λ
IR*0.55)の範囲である、請求項1に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項3】
S=2又は3であり、低屈折率を有する層の光学的厚さの合計Σe
Lの、550nmの可視波長に対する比「Σe
L/550nm」が、前記選択された赤外線動作波長(λ
IR)に関して、パーセント値の単位で、以下の式:
(0.0614×λ
IR)-K1≦Σe
L/550nm≦(0.0614×λ
IR)-K2
に従い、
ここでK1=25%及びK2=-3%である、請求項1又は2に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項4】
S=2又は3であり、前記赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最上層の波長λ
IRにおける光学的厚さe
ULが、
(λ
IR*0.15)≦e
UL≦(λ
IR*0.33)
の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項5】
S=2又は3であり、前記赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最上層の波長λ
IRにおける光学的厚さe
UHが、
(λ
IR*0.25)≦e
UH≦(λ
IR*0.50).
の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項6】
S=2又は3であり、前記赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最下層LAの波長λ
IRにおける光学的厚さe
LAがe
LA≦(λ
IR*0.13)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項7】
S=2又は3であり、前記赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最下層HAの波長λ
IRにおける光学的厚さe
HAがe
HA≦(λ
IR*0.15)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項8】
S≧4であり、前記赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最上層UHの光学的厚さe’
UHが15~110nmの範囲である、請求項1又は2に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項9】
S≧4であり、前記赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最上層ULの光学的厚さe
ULが、(λ
IR*0.15)≦e
UL≦(λ
IR*0.37)の範囲である、請求項1、2、又は8のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項10】
S=4であり、高屈折率材料の層の光学的厚さの合計Σe
H(=e
HA+e
HB+e
HC+e
HD)の、前記選択されたλ
IRに対する比「(Σe
H/λ
IR)」と、
前記最上層から離れた低屈折率材料の層の光学的厚さの合計Σe
L-e
LD(=e
LA+e
LB+e
LC)の、選択されたλ
IRに対する比「(Σe
L-e
LD)/λ
IR」との両方が、
前記選択された赤外線動作波長(λ
IR)に関して、パーセント値の単位で以下の式に従い:
(-0.0017×λ
IR)+K3≦Σe
H/λ
IR≦(-0.0017×λ
IR)+K4、
ここで、Σe
H/λ
IR≧5%において最小の組となり、
(-0.0017×λ
IR)+K3≦(Σe
L-e
LD)/λ
IR≦(-0.0017×λ
IR)+K4
ここで(Σe
L-e
LD)/λ
IR≧5%において最小の組となり、
ここでK3=30%及びK4=50%である、
請求項1、2、8、又は9のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項11】
S≧4又はS=4であり、前記赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最下層の光学的厚さe’
HAが15~38nmの範囲である、請求項1、2、8~10のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項12】
S≧4又はS=4であり、前記赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最下層の光学的厚さe’
LAが55~100nmの範囲である、請求項1、2、8~11のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項13】
高屈折率を有する層が、Zn、Sn、Ti、Nb、Zr、Hf、Ta、Ni、In、Al、Si、Ce、W、Mo、Sb、La、及びBiの酸化物、及びそれらの混合物、又はSi、Al、Zr、B、Y、Ce、及びLaの窒化物、及びそれらの混合物、又はセレン化亜鉛、硫化亜鉛、若しくはフッ化亜鉛、及びそれらの混合物の少なくとも1つから独立して選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項14】
高屈折率を有する層が:
- Zr、Nb、Sn、Zn、又はTiの酸化物;
- Ti、Zr、Nb、Si、Sb、Sn、Zn、Inの2つ以上の混合酸化物;
- Si、Zr、Al、Bの窒化物;
- Si、Zr、Al、Bの2つ以上の混合窒化物、
から独立して選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項15】
低屈折率を有する層が、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素アルミニウム酸化物、混合ケイ素ジルコニウム酸化物、アルミニウムドープ酸化ケイ素、ホウ素ドープ酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化イットリウム、又はそれらの混合物から独立して選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項16】
低屈折率を有する層が、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素アルミニウム酸化物、混合ケイ素ジルコニウム酸化物、アルミニウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化ケイ素、ホウ素ドープ酸化ケイ素、又はそれらの混合物から独立して選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項17】
低屈折率を有する最上層が、混合ケイ素ジルコニウム酸化物の少なくとも1つの副層を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項18】
混合ケイ素ジルコニウム酸化物の少なくとも1つの副層が、低屈折率を有する最上層の最上副層である、請求項17に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項19】
透明な加熱システムをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項20】
前記反射防止コーティングの上若しくは下のいずれかの赤外線透過性ペインの第1の表面上、又は前記赤外線透過性ペインの第2の表面上に、前記加熱システムが設けられる、請求項19に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項21】
前記第1の表面とは反対側の前記第2の表面上に第2の赤外線反射防止コーティングをさらに含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項22】
中間層と、第1の表面、及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第2の赤外線透過性基材であって、前記中間層によってその第2の表面により前記第1の赤外線透過性基材の第2の表面に積層される第2の赤外線透過性基材とをさらに含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項23】
前記第1及び/又は第2の赤外線透過性基材が、ガラス、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)、又は混合物及び複合材料であって、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)の2つ以上の混合物及び複合材料から独立して選択される、請求項1~22のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項24】
前記第1及び/又は第2の赤外線透過性基材の厚さが、独立して、0.5mm~約15mm、或いは1mm~約10mm、或いは1mm~約8mm、或いは1mm~約6mm、或いは0.5~4mmの範囲である、請求項1~23のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項25】
ガラスが、750~1650nmの波長範囲で15m
-1未満の吸収係数を有する「赤外線透過性ガラス」である、請求項1~24のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項26】
前記第1及び/又は第2の赤外線透過性基材が、750~1650nmの波長範囲で15m
-1未満の吸収係数を有する「赤外線透過性ガラス」である、請求項1~25のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項27】
前記第2の赤外線透過性基材の第1の表面に、第2の赤外線反射防止コーティングが設けられる、請求項22~26のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項28】
第1及び第2の赤外線反射防止コーティングが同じ又は異なる、請求項21又は27に記載の赤外線透過性ペイン。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペインと、赤外感受性レセプター及び/又は赤外光源とを含む光学装置であって、前記ペインは、センサーへの赤外光及び/又は赤外光源からの赤外光を透過するように構成される、光学装置。
【請求項30】
前記赤外感受性レセプター及び/又は赤外光源が、放出/受信赤外光学センサーである、請求項29に記載の光学装置。
【請求項31】
前記赤外線透過性ペインが、前記赤外感受性レセプター及び/又は赤外光源のカバーである、請求項29又は30に記載の光学装置。
【請求項32】
請求項1~28のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペインを含む、800~2000nmの範囲内の赤外光のための、赤外線感受性センサー及び/又は赤外光源用のカバー。
【請求項33】
請求項32に記載のカバーを含むライダー装置。
【請求項34】
前記赤外線透過性ペインに不透明化コーティングが設けられている、請求項33に記載のライダー装置。
【請求項35】
請求項29~31のいずれか一項に記載の光学装置を含む乗り物。
【請求項36】
請求項33又は34に記載のライダーを含む乗り物。
【請求項37】
赤外センサー及び/又は赤外光源のカバーとしての、請求項1~28のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペインの使用。
【請求項38】
ライダー装置中での請求項1~28のいずれか一項に記載の赤外線透過性ペインの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線透過性基材と赤外線透過性コーティングとを含む赤外線透過性ペイン、及び前記ペインを含む光学装置、及び前記ペインの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線波又は赤外線は、多数の供給源及び使用を有する。典型的な赤外線は、可視範囲を超える波長、すなわち780nmを超え(近赤外)、3mm(遠赤外)までの波長で太陽から発生する。
【0003】
例えば熱画像測定における赤外(IR)信号の検出から、IR分光法における元素同定までの範囲の種々の用途で赤外光が利用される。ある範囲の基材は、IR光を透過する、IR光反射する及び/又はIR光の軌道を全体的に制御する光学素子、例えば、平面光学(すなわち窓、鏡、偏光子、ビームスプリッター、プリズム)、球面レンズ(すなわち平凹/平凸、両凹/両凸、メニスカス)、非球面レンズ(放物線、双曲線、複合)、色消しレンズ、及びレンズ装置(すなわち、結像レンズ、ビーム拡大器、接眼レンズ、対物レンズ)の製造に使用されている。赤外用途のこれらの基材のバルク材料は、それらの物理的特性、特に光学的特性が変動する。結果として、それぞれの特性の利点を知ることで、任意のIR用途に適切な材料を選択することができる。赤外光は、可視光よりも長い波長で構成されるので、2つの波長領域の可視及び赤外は、同じ光媒体を通って伝播する場合に異なる挙動を示す。一般に、IR及び可視の両方の用途には、ある種の材料、特に溶融石英、ホウケイ酸ガラス、サファイア、アルミナ-ケイ酸塩ガラス、及びある種のソーダ石灰ガラスを使用することができ、一方又は他方の用途のみには別のものが使用される。赤外光のためのいずれかのバルク材料を確定する最も重要な属性は、赤外光の透過率である。透過率は、処理量の尺度の1つであり、入射光のパーセント値として示される。
【0004】
一部の光学素子は、光源及び/又はレセプターの間で赤外光を透過させるために用いることができる。このような光学素子の例としては、赤外光とともに使用されるカバーガラス及び光学素子、例えばレンズ、プリズム、又はミラーが挙げられる。
【0005】
現在、自走車両には、特に、赤外線の動作波長範囲、例えば、350~780nmの範囲の可視光スペクトルに近いため「近赤外」と呼ばれることもある800~2000nmの動作波長範囲を有するますます多くの光レセプター及び光学素子が取り付けられている。自走車両としては、自動車、バン、ローリー、モーターバイク、バス、路面電車、列車、ドローン、飛行機、ヘリコプターなどが挙げられる。
【0006】
国際公開第2018015312A1号パンフレットは、(i)750~1050nmの波長範囲で5m-1未満の吸収係数を有し、外面及び内面を有する少なくとも1つのガラスシートと、(ii)赤外フィルターとを含む自動車用グレージングに関係する。赤外フィルター層がないゾーン内のガラスシートの内面上に、750~1050nmの波長範囲における赤外線に基づく遠隔計測デバイスが配置される。このようなデバイスは、外部環境に対して耐性ではないので、風防などのガラスシートの後ろで外部環境から保護する必要がある。
【0007】
このような光学素子の特定の一例としては、赤外線カメラ又はライダー(lidar)などの特に自動車分野で使用される赤外線レセプターのカバーが挙げられる。実際、典型的にはレセプターは、レセプターを外部環境から保護するためにカバーの後ろに配置される。レセプターの検出限界は、レセプターの動作波長範囲におけるカバーの透過レベルと明らかに関連している。
【0008】
したがって、赤外線波長範囲における前記カバーの透過レベルを増加させる必要がある。このような透過の増加は、典型的には、低屈折率材料と高屈折率材料との交互層を含む反射防止コーティングを用いて実現することができ、これによって、カバー表面での入射光の反射が減少する。このような多層コーティングは、典型的には、前記のコーティングされた基材を透過する赤外光を増加させ、コントラストを向上させ、ゴースト像をなくすことによって、光学素子の効率を改善することができる。
【0009】
中国特許第110218006B号明細書は、レーザーレーダー又は近赤外線カメラを使用するために適合させることができる乗り物用の積層ガラスに関する。この積層ガラスは、特に、レーザー又は近赤外線カメラの近赤外光のエネルギー損失を減少させるための反射防止フィルムを含む。このような反射防止コーティングの動作波長は狭く、したがって、種々の用途において有用とはならない。さらに、このような積層ガラスは外部環境に対して耐性ではない。
【0010】
多層コーティングは、IR反射率を低下させるのに有効であるが、一般に基材自体よりも耐久性が低い。したがって、典型的には、反射防止コーティングは、赤外レセプターに面するカバーの面上を意味するカバーの内面上に配置される(一方、外面は外部環境に面する)。
【0011】
反射防止コーティングの耐久性は、今までのところ、製品の寿命中の光学性能を維持するためなど、カバーの外面上に配置できるのに十分ではない。さらに、反射防止コーティングがカバーの内面上に配置される限り、可視範囲(波長350~780nmを有する)における反射の色は必ずしも最適化されなかった。
【0012】
特に、低可視光反射率及び/又は無彩色に近い反射光の色を維持しながら、赤外放射線、特に800~2000nmの間の範囲内の近赤外光のための反射防止コーティングを得ることは困難である。
【0013】
したがって、改善された耐久性を有し、物理的及び環境的の両方の損傷に対する耐性、及び/又は無彩色の演色、及び/又は低光反射率を有する反射防止コーティングが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、第1の表面、及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第1の赤外線透過性基材と、第1の表面上の赤外線反射防止コーティングとを含む赤外線透過性ペインであって、
前記コーティングが、薄層のS個の配列を含み、
- 各配列が、低屈折率材料の層の真下に高屈折率材料の層を含み、
- S≧2であり、
低屈折率材料を有する前記コーティングの最上層の波長λIRにおける光学的厚さeULが、
(λIR*0.12)≦eUL≦(λIR*0.40)
の範囲であり、
ここでλIRは、800~2000nmの範囲内で選択される赤外線波長であることを特徴とする赤外線透過性ペインを提供する。
【0015】
本発明は、前記赤外線透過性ペインと、赤外線感受性レセプター又は赤外光源の少なくとも1つとを含み、ペインが、レセプターへの赤外光及び/又は光源からの赤外光を透過するように構成される、800~2000nmの範囲内の赤外光用の光学装置をさらに提供する。
【0016】
最後に、前記赤外線透過性ペインのライダー中での使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、第1の表面、及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第1の赤外線透過性基材と、第1の表面上の赤外線反射防止コーティングとを含む赤外線透過性ペインであって、
前記コーティングが、薄層のS個の配列を含み、
- 各配列が、低屈折率材料の層の真下に高屈折率材料の層を含み、
- S≧2であり、
低屈折率材料を有する前記コーティングの最上層の波長λIRにおける光学的厚さeULが、
(λIR*0.12)≦eUL≦(λIR*0.40)の範囲であり、
λIRは、800~2000nmの範囲内で選択される赤外線波長であることを特徴とする赤外線透過性ペインを提供する。
【0018】
赤外線波長は、典型的には800nmから10マイクロメートルを超えるまでの範囲である。しかしながら、赤外線技術の使用は、典型的には、近赤外の波長、すなわち可視波長の赤色への境界に最も近い波長の範囲、すなわち、λIRとも表される本発明で考慮される動作波長範囲である800~2000nmの範囲で処理が行われる。
【0019】
本発明の範囲内で、「赤外線」、「赤外光」、及び「赤外線波長」という用語は、同義で使用されることができ、800~2000nmの範囲の同じ波長領域を含んでいる。すなわち、本赤外線反射防止コーティングは、800~2000nmの赤外の範囲の動作波長を有する。
【0020】
本発明の範囲内で、「或いは」及び「好ましくは」という用語は、同義で使用される場合がある。
【0021】
本発明の範囲内で、例えば、λIRは、800~2000nmの範囲内で選択される選択された動作赤外線波長である。すなわち、λIRは、800~2000nmの範囲内で選択される正確な値であり、したがって前記範囲内の波長の値の平均値ではない。
【0022】
本発明の範囲内で、赤外領域内の動作波長は、特に、850nm、905nm、940nm、1064nm、1310nm、1350nm、1550nm、1650nmであってよい。これらの動作波長は、本赤外線透過性ペインを利用する光学装置によって決定される。自動車用途のライダーでは、例えば、動作波長は、特に905nm、又は1550nmであってよい。波長の公称値付近の25nmの容認できる差を考慮することができ、例えば、1550nmの公称値付近で1525~1575nmの波長範囲を容認することができる。
【0023】
赤外線透過性基材は、赤外線の透過が最適化されるように特に選択される。基材は、ガラス、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)、又は混合物及び複合材料であって、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)の2つ以上の混合物及び複合材料から選択することができる。好ましい基材はガラスである。
【0024】
赤外線透過性基材は、0.5mm~約15mm、或いは1mm~約10mm、或いは1mm~約8mm、或いは1mm~約6mm、或いは0.5~4mmの厚さ範囲を有することができる。
【0025】
ガラスの場合、ガラスは、シリカ系ガラス、例えば、ソーダ石灰シリカ、アルミノケイ酸塩、又はホウケイ酸塩のタイプのガラスであってよい。
【0026】
好ましいガラスのタイプは、本明細書では「赤外線透過性ガラス」と呼ばれ、典型的には750~1650nmの波長範囲において15m-1未満、或いは5m-1未満の吸収係数を有するガラスである。赤外範囲におけるガラスシートの低吸収を定量化するために、本明細書の説明では、750~1650nmの波長範囲における吸収係数が使用される。
【0027】
したがって、好ましい基材は、長期間の曝露に対する抵抗性、色安定性、並びに使用及び再利用に関して環境に対する影響が少ないことから、赤外線透過性ガラスから選択することができる。ガラスのさらなる利点は、ペインの全重量が減少するようにガラスシートの厚さを調整できることである。
【0028】
吸収係数は、特定の環境における吸光度と電磁放射線が横断する光路長との間の比によって定義される。これはm-1の単位で表される。これは材料の厚さとは無関係であるが、吸収した放射線の波長及び材料の化学的性質の関数となる。
【0029】
選択された波長λにおける吸収係数(μ)は、材料(thick=厚さ)の透過率(T)及び屈折率nの測定から計算することができ、n、ρ、及びTは、選択された波長λの関数となり:
ここで、ρ=(n-1)
2/(n+1)
2である。
【0030】
本発明によるガラスシートのタイプは、好ましくは、750~1650nmの波長範囲で吸収係数<15m-1である。このようなガラスのタイプは、800~2000nmの赤外範囲に動作波長を有する光学技術に一般に使用されるが、その理由は、低吸収係数であることで、材料中の光路による最終IR透過率の影響がより少ないというさらなる利点が得られるからである。好ましくは、ガラスシートは、5m-1未満、又は3m-1未満、又はさらには2m-1未満の吸収係数を有する。このようなガラスのタイプは、「超透明」ガラスと呼ばれることもある。
【0031】
幾つかの場合では、ガラスは、緑色、青色、又は灰色から黒色のガラスの着色ガラスであってよく、但し、ガラスは、800~2000nmの赤外線が透過性である。例えばライダー用途では、ガラス基材は、赤外線透過性灰色ガラス又は赤外線透過性黒色ガラスであってよい。
【0032】
従来の「透明ガラス」は、典型的には吸収係数が約30m-1程度であり、本好ましいガラスのタイプよりもはるかに大きい。
【0033】
前述の議論のように、750~1650nmの波長範囲で吸収係数が<15m-1、或いは5m-1未満であれば、本発明の範囲において異なる組成のガラスが適切となりうる。
【0034】
本発明の基本ガラス組成物は、ガラスの重量パーセント値の単位で表して:
SiO2 55~85%
Al2O3 0~30%
B2O3 0~20%
Na2O 0~25%
CaO 0~20%
MgO 0~15%
K2O 0~20%
BaO 0~20%
の全含有量で構成されうる。
【0035】
或いは、基本ガラス組成物は、ガラスの重量パーセント値の単位で表して:
SiO2 55~78%
Al2O3 0~18%
B2O3 0~18%
Na2O 0~20%
CaO 0~15%
MgO 0~10%
K2O 0~10%
BaO 0~5%
の全含有量で構成されうる。
【0036】
或いは、基本ガラス組成物は、ガラスの重量パーセント値の単位で表して:
SiO2 60~75%
Al2O3 0~6%
B2O3 0~4%
CaO 0~15%
MgO 0~10%
Na2O 5~20%
K2O 0~10%
BaO 0~5%
の全含有量で構成されうる。
【0037】
その基本的組成に加えて、ガラスは、所望の効果により別の成分を含むことができる。本発明の範囲内で、その審美性又はその色に弱い影響がある又はまったく影響がない高赤外(IR)において非常に透明なガラスは、少ない量の鉄と、ガラス組成物中の特定の含有量の範囲内のクロムとを組み合わせることによって得ることができる。
【0038】
したがって、ガラスシート組成物は、全重量のガラスのパーセント値で表される以下の含有量を含むことができる。
- 0.002~0.06%の量の全Fe(Fe2O3として表される)、及び0.0001~0.06%の量のCr2O3;又は
- 0.002~0.06%の量の全Fe(Fe2O3として表される)、及び0.0015~1%の量のCr2O3、及び0.0001~1%の量のCo;又は
- 0.02~1%の量の全Fe(Fe2O3として表される)、及び0.002~0.5%の量のCr2O3、及び0.0001~0.5%の量のCo;又は
- 0.002~1%の量の全Fe(Fe2O3として表される)、及び0.001~0.5%の量のCr2O3、及び0.0001~0.5%の量のCo、及び0.0003~0.5%の量のSe;又は
- 0.002~0.06%の量の全Fe(Fe2O3として表される)、及び0.001~1%の量のCeO2;又は
- 0.002~0.06%の量の全Fe(Fe2O3として表される);及び以下の成分:
- 0.01~1重量%の範囲の量のマンガン(MnOとして計算される);
- 0.01~1重量%の範囲の量のアンチモン(Sb2O3として表される);
- 0.01~1重量%の範囲の量のヒ素(As2O3として表される)、若しくは
- 0.0002~0.1重量%の範囲の量の銅(CuOとして表される)
の1つ。
【0039】
赤外において高い透過率を有するこれらのタイプのガラスは、当業者には周知であり、本明細書においてさらに説明する必要はない。前述のように、吸収係数が<15m-1、或いは5m-1未満であれば、本発明の範囲内で適切となりうる代替物が存在し得る。
【0040】
ガラスは、アニール、強化、曲げ、又は熱強化が行われたガラスであってよい。
【0041】
典型的な熱処理は、熱処理のタイプ及びグレージングの厚さにより、グレージングを空気中で少なくとも560℃、例えば560℃~700℃の間、特に約640℃~670℃の温度に、約3、4、6、8、10、12、又はさらには15分の間加熱することを含む。ガラスの表面と中心との間に応力差を導入するために、処理は、加熱ステップの後に急冷ステップを含むことができ、それによって、衝撃の場合、いわゆる強化ガラスシートは、小さな断片に安全に破壊される。
【0042】
ガラスは、最終用途により必要な特定の設計又は形状に正確に適合させるために、平坦な場合があるし、全体的又は部分的に湾曲している場合もある。湾曲及び/又は曲げの技術は周知であり、本明細書ではさらに説明されることはない。
【0043】
基材は、典型的には2つの反対側の表面、すなわち、第1の表面及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する。
【0044】
赤外線反射防止コーティングは、第1の表面上に存在する。
【0045】
本発明の範囲内で、薄膜は、0.5~900nm、又は0.5~800nm、又は0.5~700nm、又は0.5~500nmの幾何学的厚さを有する材料の層を意味する。
【0046】
このような薄膜は、典型的には、化学蒸着(CVD)、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、物理蒸着(PVD)、マグネトロンスパッタリングなどを用いて形成することができる。
【0047】
本発明の範囲内で、「~の下方」(below)、「~の真下」(underneath)、「~の下部」(under)という用語は、基材から出発する層配列内で向かい合う次の層との層の相対位置を示している。本発明の範囲内で、「~の上」(above)、「~の上方」(upper)、「~の上部」(on top)、「~上」(on)は、基材から出発する層配列内で向かい合う次の層との層の相対位置を示している。
【0048】
本発明の範囲内で、赤外線反射防止コーティングは、薄層のS個の配列を含み、1つの配列は、低屈折率材料の層の真下に高屈折率材料の層を含む。光路の最適化を保証するために、配列内の前記低屈折率材料の層の真下の前記高屈折材料の間の接触を確実にすることが推奨されうる。次に、これらの配列は、互いに積層され、それによってコーティングは、交互の高屈折率及び低屈折率の層を含む。光路のさらなる最適化を考慮して、配列を互いに接触していてもよい。典型的には、各層は、<900nm、或いは<800nm、或いは<700nmの幾何学的厚さを有する。
【0049】
本発明の範囲内で、反射防止コーティング中に少なくとも2個の配列が存在する。典型的には、2個、3個、4個、5個、又はそれを超える配列が存在しうる。本明細書において、反射防止コーティングが配列の数#によって規定される場合、規定された配列の#数を超えてさらなる配列が存在することを考慮できることを意味することは意図されない。したがって、反射防止コーティングの最上配列は、前記コーティングの最後の配列でもある。800~2000nmの赤外範囲で機能する適切な反射防止コーティングは、前述のように2個、3個、4個、又はそれを超える配列を有するように設計されており、反射を低下させる実現性能の利点ともに、妥当な製造コストで加工可能である。
【0050】
したがって、本発明の範囲内で、低屈折率材料の層の真下に高屈折率材料の層を含む最上配列は、基材から上向きに最も離れた反射防止コーティングの最終配列でもある。すなわち、低屈折率材料の最上層は、環境に接触する反射防止コーティングの最終層でもある。
【0051】
同様に、低屈折率材料の層の真下に高屈折率材料の層を含む最下配列は、基材から上向きに最も近い反射防止コーティングの最初の配列でもある。
【0052】
本発明の範囲内で、2又は3個の配列を含む反射防止コーティングは、高い赤外線透過率を有するが、可視領域内でのそれらの色の中立性のため、又は低光反射率のためには最適に設計はされないことが分かった。
【0053】
本発明の範囲内で、4個以上の配列を含む反射防止コーティングは、高い赤外線透過率を有し、可視領域におけるそれらの色の中立性のため、低光反射率(Rc≦11%)のために最適に設計されることが分かった。
【0054】
本発明の範囲内で、1つの層は1つ以上の副層を含むことができる。層が低屈折率層と見なされる場合、これはそれぞれが低屈折率を有する副層を含むことができる。層が高屈折率層と見なされる場合、これはそれぞれが高屈折率を有する副層を含むことができる。
【0055】
本発明の範囲内で、高屈折率材料は、550nmの波長において≧1.8或いは≧1.9、或いは≧2.0の屈折率を有する。
【0056】
本発明の範囲内で、低屈折率材料は、550nmの波長において≦1.7、或いは≦1.6の屈折率を有する。
【0057】
高屈折率材料の550nmの波長における屈折率は、低屈折率材料の屈折率よりも高い。高屈折率材料及び低屈折率材料の屈折率は、少なくとも0.1の値だけ、好ましくは少なくとも0.2の値だけ、より好ましくは少なくとも0.25の値だけ異なりうる。このような屈折率差によって、最適な材料界面を得ることができ、そのため赤外光の最適な透過率が実現される。
【0058】
しかしながら、800~2000nmの範囲の赤外線波長において光学的厚さを計算する場合、前記赤外波長領域内で測定される材料の屈折率が用いられる。屈折率は、薄膜の分野で利用可能な一般的なツールにおいて利用可能であり、それぞれの材料については本明細書に示されない場合がある。情報源としては、薄膜分析及び設計のため及び光学薄膜設計のためにも用いられるWTheiss Hardware and SoftwareのCODEソフトウェアが挙げられる。
【0059】
配列の数とは独立して、反射防止コーティングは、基材に接触し、高屈折率を有する最も下の層、高屈折率を有する最下層にも接触するベース層を設けることができる。前記任意選択のベース層は、典型的には反射防止コーティングの赤外線反射防止特性には関与しない。このような任意選択のベース層は、コーティングの基材への接着を保証し、及び/又はガラス基材とともに生じうるなど、上にあるコーティングを劣化させうる基材からのイオン移動を防止するために、設けることができる。任意選択のベース層は、任意の屈折率を有することができ、本コーティングの反射防止効果には光学的に寄与しない。すなわち、ベース層は、反射防止コーティングの反射防止機能の一部の役割を果たすことはなく、光学層設計の一部とはならない。好ましくは、任意選択のベース層は、基材と同様の屈折率、すなわち基材の屈折率と比較して0.3の値の範囲内である屈折率を有することができる。
【0060】
ベース層の例としては、酸化ケイ素が挙げられる。
【0061】
本発明の赤外線反射防止コーティングが2つの配列を含む場合、すなわちS=2の場合、高屈折率を有する第1の層は、層HAと呼ばれることがあり、前記HA層の上の低屈折率の第1の層は、層LAと呼ばれることがあり、前記LAの上の高屈折率を有する第2の層は、層HBと呼ばれることがあり、前記HB層の上の低屈折率の第2の層は、層LBと呼ばれることがある。
基材/HA/LA/HB/LB
又は
基材/ベース層/HA/LA/HB/LB。
【0062】
S=2の場合、低屈折率層の第2の層LBは、低屈折率を有する最上(及び最終)層ULと呼ばれることがあり、高屈折率層の第2の層HBは、高屈折率を有する最上層UHと呼ばれることがある。同様に、低屈折率層の第1の層LAは、低屈折率を有する最下層と呼ばれることがあり、高屈折率層の第1の層HAは、高屈折率を有する最下層と呼ばれることがある。
【0063】
本発明の赤外線反射防止コーティングが3個の配列を含む場合、すなわちS=3の場合、高屈折率を有する第1の層は層HAと呼ばれることがあり、前記HA層の上の低屈折率の第1の層は、層LAと呼ばれることがあり、前記LAの上の高屈折率を有する第2の層は、層HBと呼ばれることがあり、前記HB層の上の低屈折率の第2の層は、層LBと呼ばれることがあり、前記LBの上の高屈折率を有する第3の層は、層HCと呼ばれることがあり、前記HC層の上の低屈折率の第3の層は、層LCと呼ばれることがある:
基材/HA/LA/HB/LB/HC/LC
又は
基材/ベース層/HA/LA/HB/LB/HC/LC。
【0064】
S=3の場合、低屈折率層の第3の層LCは、低屈折率を有する最上(及び最終)層ULと呼ばれることがあり、高屈折率層の第3の層HCは、高屈折率を有する最上層UHと呼ばれることがある。この場合も、低屈折率層の第1の層LAは、低屈折率を有する最下層と呼ばれることがあり、高屈折率層HAの第1の層は、高屈折率を有する最下層と呼ばれることがある。
【0065】
本赤外線反射防止コーティングが4個の配列を含む場合、すなわち、S=4の場合、高屈折率を有する第1の層は、層HAと呼ばれることがあり、前記HA層の上の低屈折率の第1の層は、層LAと呼ばれることがあり、前記LAの上の高屈折率を有する第2の層は、層HBと呼ばれることがあり、前記HB層の上の低屈折率の第2の層は、層LBと呼ばれることがあり、前記LBの上の高屈折率を有する第3の層は層HCと呼ばれることがあり、前記HC層の上の低屈折率の第3の層は層LCと呼ばれることがあり、前記LCの上の高屈折率を有する第4の層は層HDと呼ばれることがあり、前記HD層の上の低屈折率の第4の層は層LDと呼ばれることがある:
基材/HA/LA/HB/LB/HC/LC/HD/LD
又は
基材/ベース層/HA/LA/HB/LB/HC/LC/HD/LD。
【0066】
S=4の場合、低屈折率層の第4の層LDは、低屈折率を有する最上(及び最終)層ULと呼ばれることがあり、高屈折率層の第4の層HDは、高屈折率を有する最上層UHと呼ばれることがある。この場合も、低屈折率層の第1の層LAは、低屈折率を有する最下層と呼ばれることがあり、高屈折率層の第1の層HAは、高屈折率を有する最下層と呼ばれることがある。
【0067】
本赤外線反射防止コーティングが5個の配列を含む場合、すなわち、S=5の場合、高屈折率を有する第1の層は、層HAと呼ばれることがあり、前記HA層の上の低屈折率の第1の層は、層LAと呼ばれることがあり、前記LAの上の高屈折率を有する第2の層は、層HBと呼ばれることがあり、前記HB層の上の低屈折率の第2の層は、層LBと呼ばれることがあり、前記LBの上の高屈折率を有する第3の層は、層HCと呼ばれることがあり、前記HC層の上の低屈折率の第3の層は、層LCと呼ばれることがあり、前記LCの上の高屈折率を有する第4の層は、層HDと呼ばれることがあり、前記HD層の上の低屈折率の第4の層は、層LDと呼ばれることがあり、前記LDの上の高屈折率を有する第5の層は、層HEと呼ばれることがあり、前記HE層の上の低屈折率の第5の層は、層LEと呼ばれることがある:
基材/HA/LA/HB/LB/HC/LC/HD/LD/HE/LE
又は
基材/ベース層/HA/LA/HB/LB/HC/LC/HD/LD/HE/LE。
【0068】
S=5の場合、低屈折率層の第5の層LEは、低屈折率を有する最上(及び最終)層ULと呼ばれることがあり、高屈折率層の第5の層HEは、高屈折率を有する最上層UHと呼ばれることがある。この場合も、低屈折率層の第1の層LAは、低屈折率を有する最下層と呼ばれることがあり、高屈折率層の第1の層HAは、高屈折率を有する最下層と呼ばれることがある。
【0069】
S>5の場合、配列は同様の命名法に従う。
【0070】
S≧2の場合、赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最上層の光学的厚さeULは、(λIR*0.12)≦eUL≦(λIR*0.40)の範囲となることができ、ここでλIRは、800~2000nmの範囲内で選択される赤外線波長である。
【0071】
低屈折率を有する最上層のこのような光学的厚さによって、赤外線波長の適切な反射防止効果が可能となる。光学的厚さが<(λIR*0.12)又は>(λIR*0.40)である場合、入射赤外線は表面上で反射され、反射防止コーティングの性能の最適なレベルが保証されず、及び/又は反射の色は、外部観察者の観点からは不適当となる。
【0072】
すなわち、赤外領域の動作波長が、850nm、905nm、940nm、1064nm、1310nm、1350nm、1550nm、1650nmの波長の中から選択される場合、低屈折率を有する最上層の光学的厚さeULは、前記の選択された動作波長を用いて計算される。例えば、905nmの動作波長において、光学的厚さeULは108.6~362nmの範囲となることができ;又は1550nmの動作波長において、光学的厚さeULは186~620nmの範囲となることができる。
【0073】
別の本実施形態に適合する実施形態では、S≧2の場合、赤外線反射防止コーティングの高屈折率材料の層の光学的厚さの合計ΣeHは、(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.55)の範囲となることができる。
【0074】
すなわち、S=2又は3の場合、高屈折率材料の層の光学的厚さの合計ΣeHであるeHA+eHB(+eHC)は、(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.55)の範囲、或いは(λIR*0.28)≦ΣeH≦(λIR*0.55)の範囲、或いは(λIR*0.35)≦ΣeH≦(λIR*0.50)の範囲、或いは(λIR*0.38)≦ΣeH≦(λIR*0.47)の範囲となることができる。
【0075】
すなわち、S=4以上の場合、又は特にS=4の場合、高屈折率材料の層の光学的厚さの合計ΣeHは、(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.55)の範囲、或いは(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.45)の範囲、或いは(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.35)の範囲となることができる。S=4の場合、ΣeH=eHA+eHB+eHC+eHD+eHEなど、S>4の場合。
【0076】
これによって、2若しくは3個の配列を含むコーティング、又は4個以上の配列を含むコーティングのいずれかは、場合により第1の特定の動作波長を含む波長領域における広い動作範囲にわたって、赤外線透過率がさらに改善されるというさらなる利点が得られる。これらの場合、ある第1の特定の動作波長のために設計された反射防止コーティングは、第2又はさらなる特定の動作波長に実際に適切となりうる。これによって、設計の可能性の多様性が得られるが、製造の変更は限定され、その理由は、1つの反射防止コーティングが複数の目的を果たすことができるからである。
【0077】
S=2又は3の場合、低屈折率を有する層の光学的厚さの合計ΣeLの550nmの可視波長に対する比「ΣeL/550nm」は、選択された赤外線動作波長(λIR)に関して、パーセント値の単位で以下の式:
(0.0614×λIR)-K1≦ΣeL/550nm≦(0.0614×λIR)-K2
に従い、
ここで、K1=25%及びK2=-3%である。
【0078】
この比「ΣeL/550nm」は、S=2又は3を有する赤外線反射防止コーティングの最適な赤外反射防止効果を保証することが分かった。
【0079】
或いは、K1は22%、又は19%であってよい。或いは、K2は1%であってよい。
【0080】
前記と適合する実施形態では、S=2又は3の場合、赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する上部(又は最終)層UL、層LB、又はLCの光学的厚さeULは、(λIR*0.15)≦eUL≦(λIR*0.33)、好ましくは(λIR*0.20)≦eUL≦(λIR*0.32)、又は(λIR*0.22)≦eUL≦(λIR*0.29)、又は(λIR*0.24)≦eUL≦(λIR*0.27)であってよく、
及び/又は
赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最上層UHの光学的厚さeUHは、(λIR*0.25)≦eUH≦(λIR*0.50)、好ましくは(λIR*0.31)≦eUH≦(λIR*0.42)の範囲であってよく、
及び/又は
赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する下部(又は第1の)層LAの光学的厚さeLAは、eLA≦(λIR*0.13)、好ましくは(λIR*0.04)≦eLA≦(λIR*0.07)であってよく、
及び/又は
赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する下部(又は第1の)層HAの光学的厚さeHAは、eHA≦(λIR*0.15)、好ましくは(λIR*0.02)≦eHA≦(λIR*0.11)、より好ましくは(λIR*0.03)≦eHA≦(λIR*0.10)であってよい。
【0081】
S=2又は3の場合、又は特にS=2の場合で、前記特性の1つ以上が得られる場合、最適な反射防止コーティングは、単純なコーティングを用いて得ることができ、これは費用対効果が高く、標準的な薄膜堆積方法によって得ることができる。
【0082】
種々の層中のこれらの独立した変形形態は、赤外の種々の波長で作用する分野の範囲内で最適化することができ、これによって、第1の選択された動作赤外線波長において、及びより広い範囲の第2の動作赤外線波長にわたって、適切に機能できる反射防止コーティングを得ることができる。
【0083】
本発明に適合する実施形態では、S≧4の場合、層の光学的厚さe’は、550nmの波長における材料の屈折率を用いて考慮することができ、一方、光学的厚さeは、800~2000nmの範囲内で選択された赤外線波長において考慮される。実際、4個以上の配列を有する反射防止コーティングの場合、可視における反射で無彩色を有する赤外線波長用の反射防止コーティングが得られることが分かったので、可視領域における層の光学的厚さe’を考慮すると有利であることが分かった。すなわち、反射防止コーティングは、800~2000nmの赤外線の最大透過率が最適化され、一方、350~780nmの可視波長において外部観察者の観点からは(反射コーティング側)無彩色で、低光反射を示す。
【0084】
本発明の範囲内で、反射の無彩色は、350~780nmの可視波長、0~60°の入射角において-4<a*<1及び-5<b*<1がコーティング側の反射において中間色面(neutralaspect)である場合(光源D65下のCIELAB値)に実現される。
【0085】
色は角度的にも安定であり、すなわち、垂直から60°の間の入射で測定した場合にΔa*及びΔb*が<5である。
【0086】
本発明の範囲内で、コーティング側の低光反射は、Rc≦11%の場合に考慮される。
【0087】
したがって、S≧4の場合、赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最上層UHの光学的厚さe’UHは、15~110nm、好ましくは15~105nm、より好ましくは20~100nmの範囲となりうる。
【0088】
S≧4の場合、赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最上層ULの光学的厚さeULも、(λIR*0.12)≦eUL≦(λIR*0.40)、好ましくは(λIR*0.15)≦eUL≦(λIR*0.37)、より好ましくは(λIR*0.19)≦eUL≦(λIR*0.33)の範囲となりうる。このようなさらなるパラメーターによって、色の中立性及び前記無彩色の角度安定性がさらに改善される。
【0089】
S=4の場合、高屈折率材料の層の光学的厚さの合計ΣeH(=eHA+eHB+eHC+eHD)の、選択されたλIRに対する比である比「(ΣeH/λIR)」と、
最上層から離れた低屈折率材料の層の光学的厚さの合計ΣeL-eLD(=eLA+eLB+eLC)の、選択されたλIRに対する比である比「(ΣeL-eLD)/λIR」との両方は、
選択された赤外線動作波長(λIR)に関して、パーセント値の単位で以下の式に従う:
(-0.0017×λIR)+K3≦ΣeH/λIR≦(-0.0017×λIR)+K4
ここで、ΣeH/λIR≧5%において最小の組となり、
(-0.0017×λIR)+K3≦(ΣeL-eLD)/λIR≦(-0.0017×λIR)+K4
ここで、(ΣeL-eLD)/λIR≧5%において最小の組となり、
ここで、K3=30%及びK4=50%である。
【0090】
比「ΣeH/λIR」及び「(ΣeL-eLD)/λIR」によって境界が画定され、これによって、S=4を有する赤外線反射防止コーティングが、最適な赤外反射防止効果を、無彩色及び光反射Rc≦11%とともに実現することが分かった。
【0091】
或いは、K3は32%、又は34%であってよい。或いは、K4は48%、又は47%であってよい。
【0092】
これによって、明らかな審美性及び適切な赤外線反射防止特性を有するので、外部に面する光学素子又はデバイスの中に本反射防止コーティングを配置でき、そのため外部観察者が観察することができる。
【0093】
S≧4の場合、又はS=4の場合にさらなる最適化が実現される場合があり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最下層の光学的厚さe’HAは、15~38nm、好ましくは17~35nmの範囲であってよく、
及び/又は
赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最下層の光学的厚さe’LAは、55~100nm、好ましくは60~95nmの範囲であってよい。
【0094】
S≧4の場合、又は特にS=4の場合で、前記の独立した特性の1つ以上が得られる場合、さらなる最適な反射防止効果によって、可視波長範囲における反射の色は、0°(垂直入射)で観察した場合に中性となり、最大60°の角度での入射においても中性となるというさらなる利点が得られる。
【0095】
4個の配列を含む反射防止コーティングのさらなる最適化は、本明細書で後述するような光学的厚さe’の境界の範囲内で得ることができ(材料の屈折率は550nmにおいて考慮した)、これによって、色の中立性、低反射(Rc)及び赤外線透過率の両方が最適化される。
【0096】
本発明の範囲内で、高屈折率を有する層は、Zn、Sn、Ti、Nb、Zr、Hf、Ta、Ni、In、Al、Si、Ce、W、Mo、Sb、La、及びBiの酸化物、及びそれらの混合物、又はSi、Al、Zr、B、Y、Ce、及びLaの窒化物、及びそれらの混合物、又はセレン化亜鉛、硫化亜鉛、若しくはフッ化亜鉛、及びそれらの混合物の少なくとも1つからから独立して選択される。
【0097】
幾つかの好ましい実施形態では、ペインに対して、以下に規定される熱処理を行う必要が生じうる場合、高屈折率を有する層は:
- Zr、Nb、Sn、Zn、又はTiの酸化物;
- Ti、Zr、Nb、Si、Sb、Sn、Zn、Inの2つ以上の混合酸化物;
- Si、Zr、Al、Bの窒化物;
- Si、Zr、Al、Bの2つ以上の混合窒化物、
から独立して選択される。
【0098】
さらなる好ましい実施形態では、ペインに対して熱処理を行う必要が生じることがあり、製造が簡略化されるべき場合、高屈折率を有する層は、チタンとジルコニウムとの混合酸化物、窒化ケイ素、ケイ素とチタンとの混合窒化物、ケイ素とジルコニウムとの混合窒化物、ケイ素とハフニウムとの混合窒化物、窒化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ケイ素ドープ酸化ジルコニウム、ジルコニウムとホウ素との混合窒化物、亜鉛とスズとの混合酸化物、酸化ニオブ、アルミニウムドープ酸化亜鉛から独立して選択される。
【0099】
本発明の範囲内で、低屈折率を有する層は、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素アルミニウム酸化物、混合ケイ素ジルコニウム酸化物、アルミニウムドープ酸化ケイ素、ホウ素ドープ酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化イットリウム、又はそれらの混合物から独立して選択される。
【0100】
幾つかの好ましい実施形態では、ペインに対して、以下に規定される熱処理を行う必要が生じうる場合、低屈折率を有する層は、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素アルミニウム酸化物、混合ケイ素ジルコニウム酸化物、アルミニウムドープ酸化ケイ素、ホウ素ドープ酸化ケイ素、又はそれらの混合物から独立して選択される。
【0101】
本発明の範囲内で、材料の<10重量%の量でドーパントが存在し、一方、混合X及びY(又はさらなる)材料は、混合材料中に15重量%を超えるX及びY(又はさらなる材料)のそれぞれを含む。
【0102】
前の実施形態に適合するある実施形態では、2個以上の配列を含む反射防止コーティングの低屈折率を有する最上層は、混合ケイ素ジルコニウム酸化物の少なくとも1つの副層を含むことができる。混合ケイ素ジルコニウム酸化物の副層は、5~50モル%、好ましくは8~20モル%の酸化ジルコニウムを含むことができる。このような混合ケイ素ジルコニウム酸化物の副層は、550nmにおいて≦1.7、或いは1.55~1.65の屈折率を有することができる。
【0103】
このような混合ケイ素ジルコニウム酸化物が低屈折率の最上層中に存在する場合、優れた耐久性が反射防止コーティングに付与される。低屈折率を有する最上層中に最上副層としてこの副層を配置することで、さらなる耐久性、並びにすりきず及び外部条件に対する抵抗性が得られる。
【0104】
混合ケイ素ジルコニウム酸化物の最上副層は、3~200nm、或いは4~150nmの範囲の幾何学的厚さを有することができる。しかしながら、3~20nmの範囲の混合ケイ素ジルコニウム酸化物の最上副層の幾何学的厚さで、必要となる優れた耐久性を得るのに既に十分である。>20nmの厚さによって、反射防止コーティングの反射防止特性を調整することができる。前記幾何学的厚さは、前述の最上層の全体の光学的厚さeULに含まれる。
【0105】
これによって、外部環境に接触し、及び/又はほこり、雨、又は過酷な状況が生じうる光学装置中の赤外線透過性ペインの用途が得られる。本発明の範囲内の反射防止コーティングは、このような最上副層なしに提供することができるが、最初の反射防止目的には依然として適切となりうる。しかしながら、それらの耐久性は低下する場合がある。したがって、本発明の範囲内の好ましい反射防止コーティングには、このような最上副層を設けることができ、最初の反射防止目的に適切となり、外部環境に対する耐久性のさらなる利点も得ることができる。したがって、これによって用途の種類が決定される。したがって、本反射防止コーティングは、外部環境に曝露される又は曝露されないさまざまな種類の用途に使用することができる。
【0106】
反射防止コーティングの異なる層の堆積方法としては、化学蒸着(CVD)、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、物理蒸着(PVD)、マグネトロンスパッタリング、湿式コーティングなどが挙げられる。異なる層は、異なる技術を用いて堆積することができる。
【0107】
幾つかの実施形態では、低屈折率層は、中空カソードPECVD方法などのPECVD方法によって堆積することができる。この方法は、コストが低く堆積速度が速いというさらなる利点が得られる。
【0108】
別の実施形態に適合する幾つかの実施形態では、本発明の赤外線透過性ペインは、加熱システムをさらに含むことができる。このような加熱システムとしては、加熱フィルム又は印刷された加熱システムが挙げられる。加熱システムは、反射防止コーティングの上若しくは下のいずれかの赤外線透過性ペインの第1の表面上に設けることができ、又は赤外線透過性ペインの第2の表面上に配置することができる。このような加熱システムは、本赤外線透過性ペインの目的を損なうべきではなく、できる限り技術的に実現可能な薄さとなるべきである。
【0109】
印刷された加熱システムは、非平面状基材(典型的にはプラスチック)上の炭素、又は銀、又は銅をベースとする印刷回路及び/又は細いワイヤ、又は導電性インクを用いて得ることができる。これらは当業者には周知であり、本明細書ではさらなる説明は行わない。
【0110】
赤外線透明導電性フィルムは、当業者には周知であり、本明細書ではさらなる説明は行わない。このようなフィルムの一例は、Canatu Corp.のCanatu Carbon NanoBudヒーターである。
【0111】
加熱システムは、例えば、最終用途に意図される赤外線透過率が得られるように選択されるべきである。このような加熱システムは、最終用途によりペインの除氷又は霜取りを行うことができるように設けることができる。
【0112】
幾つかの第1の特定の実施形態では、種々の実施形態で前述したような、第1の表面及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第1の赤外線透過性基材と、第1の表面上の赤外線反射防止コーティングとを含む本発明の赤外線透過性ペインは、第1の表面とは反対側の第2の表面上に第2の赤外線反射防止コーティングをさらに含むことができる。
【0113】
このような第1の特定の実施形態では、第1及び第2の赤外線反射防止コーティングは、同じ場合も異なる場合もある。
【0114】
このような第1の特定の実施形態では、第1及び第2の表面のそれぞれの上に赤外線反射防止コーティングを有する赤外線透過性ペインは、後述のようにペインが第2のペインと積層される別の実施形態には好ましくは提供されない。
【0115】
第2の特定の一実施形態では、前述のような、第1の表面及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第1の赤外線透過性基材と、第1の表面上のみの赤外線反射防止コーティングとを含む本発明の赤外線透過性ペインは、中間層と、第1の表面及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第2の赤外線透過性基材であって、前記中間層によってその第2の表面により第1の赤外線透過性基材の第2の表面に積層される第2の赤外線透過性基材とをさらに含むことができる。
【0116】
このような第2の特定の実施形態では、第1の赤外線透過性基材の第2の表面は、好ましくは赤外線反射防止コーティングを有しない。中間層に接触する反射防止コーティングの存在によって、追加の効果はまったく得られないと思われ、したがって好ましくは回避される。
【0117】
第2の赤外線透過性基材は、第1の赤外線透過性基材と同じ場合も異なる場合もあり、ガラス、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)、又は混合物及び複合材料であって、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)の2つ以上の混合物及び複合材料から選択することができる。
【0118】
すなわち、第1及び/又は第2の赤外線透過性基材は、ガラス、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)、又は混合物及び複合材料であって、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)の2つ以上の混合物及び複合材料から独立して選択することができる。
【0119】
前述のように、両方の赤外線透過性基材の厚さは、独立して、0.5mm~約15mm、或いは1mm~約10mm、或いは1mm~約8mm、或いは1mm~約6mm、或いは0.5~4mmの範囲となりうる。
【0120】
両方の赤外線透過性基材の厚さは、同じ場合も異なる場合もある。
【0121】
例えば、両方の基材は、同じ厚さ、例えば0.5mm、又は0.8mm、又は1.2mm、又は1.6mm、又は2.1mm、又は3mmを有することができる。このような対称構造によって、プロセスが容易になり、積層プロセスの従来のサイジングが可能となる。
【0122】
両方の基材は、異なる厚さを有することもでき、例えばペイン1=0.5mm及びペイン2=2.1mm、又はペイン1=0.8mm及びペイン2=2.1mm、又はペイン1=0.5mm及びペイン2=1.6mm、ペイン1=0.8mm及びペイン2=1.6mm、又はペイン1=1.6mm及びペイン2=2.1mmであってよい。このような非対称構造によって、湾曲、及び/又は重量管理の自由度が得られ、及び/又は赤外線透過率の自由度が得られる。
【0123】
前述のように、両方の基材の色は、同じ場合も異なる場合もある。
【0124】
2つの基材は、それらの長期間の曝露に対する抵抗性、それらの安定性、並びに使用及び再利用に関して環境に対する影響が少ないことから、赤外線透過性ガラスから選択されることが好ましくなりうる。ガラスのさらなる利点は、ガラスシートの厚さが、ペインの全重量を減少させるために調整可能であり、2つの基材で同じでも異なっていてもよいことである。
【0125】
赤外線透過性ペインの好ましいガラスは、750~1650nmの波長範囲において15m-1未満、或いは5m-1未満の吸収係数を有する前述の「赤外線透過性ガラス」であってよい。
【0126】
ガラス基材は、赤外線透過性灰色ガラス又は赤外線透過性の灰色がかった黒色のガラスであってよい。
【0127】
接着のために提供される中間層は、典型的には、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)、ポリビニルクロリド、ポリ(ビニルクロリド-コ-メタクリレート)、ポリエチレン、ポリオレフィン、エチレンアクリレートエステルコポリマー、ポリ(エチレン-コ-アクリル酸ブチル)、シリコーンエラストマー、エポキシ樹脂、酸コポリマー、又はそれらの混合物から選択される。好ましくは、中間層は、本赤外線透過性ペインの機能に悪影響がないという条件で、エチレン酢酸ビニル及び/又はポリビニルブチラール及び/又はポリエチレンテレフタレートから選択することができる。
【0128】
幾つかの場合では、赤外線透過率が得られるのであれば、中間層は、灰色又は黒色などの着色中間層であってよい。このような着色中間層は、外部観察者の観点から優れた審美性を得ることができる。
【0129】
中間層は、2つのペインの間でその表面全体にわたって均一な厚さを有することができ、又はその表面全体にわたって不均一な厚さを有することができ、すなわち、中間層は「くさび形」中間層であってよい。
【0130】
第1及び第2の基材は、平坦な基材の場合は積層ステップによって組み立てることができ、又は湾曲した基材の場合は曲げステップによって組み立てることができ、この曲げステップは、ペインを曲げる第1のステップと、前記の曲げたペインを積層する第2のステップとを含む。これらのプロセスは、当業者には周知であり、本明細書ではさらなる説明は行わない。自由度が高く容易に実現可能な種々の形状が得られるので、<1又は2m2のサイズを有する基材、特にガラス基材の断片の場合に適切な冷間曲げ、又はバルミー曲げ(balmy bending)などの室温における特殊な積層ステップを使用することもできる。
【0131】
したがって、本赤外線透過性ペインは、モノリスペイン、又は積層ペインであってよい。
【0132】
典型的には、モノリスペインは、外面(P1)及び内面(P2)を含む。
【0133】
典型的には、積層ペインは、第1の表面(P1)及び第2の表面(P2’)を有する外側ペインと、第1の表面(P3’)及び第2の表面(P4)を有する内側ペインとを含む。積層グレージングの外側ペインは、画定された空間(乗り物又は建造物)の外側に接触するペインである。内側ペインは、前記の画定された空間の内部空間に接触するペインである。これら2つのペインは、2つのガラスの間の接着及び接触の機能を果たす積層シート又は中間層に接触して維持される。中間層によって、内側ペインの第1の表面(P3’)と、外側ペインの第2の表面(P2’)との間の接触が形成される。
【0134】
前述の第2の特定の実施形態に適合する幾つかの実施形態では、第2の赤外線透過性基材の第1の表面には、前述のように第2の赤外線反射防止コーティングを設けることができる。
【0135】
このような場合では、第1及び第2の赤外線反射防止コーティングは、同じ場合も異なる場合もある。
【0136】
例えば、赤外線透過性ペインがモノリス赤外線透過性ペインである場合、反射防止コーティングは、P1及びP2表面の一方又は両方の上に存在することができる。このような場合、任意選択の加熱システムは、反射防止コーティングの下又は上のP1又はP2表面のいずれか1つの上に存在することができる。
【0137】
例えば、赤外線透過性ペインが積層赤外線透過性ペインである場合、反射防止コーティングは、P1及びP4表面の両方の上に存在することができる。このような場合、任意選択の加熱システムは、反射防止コーティングの下若しくは上でP1又はP4表面のいずれか1つの上に存在することができ、又は中間層に接触して若しくは中間層の中でP2’又はP3’表面のいずれか1つの上に存在することができる。P2’又はP3’表面のいずれか1つの上には、反射防止コーティングは存在しない。
【0138】
例えば、モノリス赤外線透過性ペイン又は積層赤外線透過性ペインは、P1表面上で、特定の動作赤外線波長における透過率に関して最適化され、反射(可視において)で無彩色となるように最適化された第1の赤外線反射防止コーティングを含むことができ、一方、第2の赤外線反射防止コーティングは、P2又はP4表面の上の特定の動作赤外線波長における透過率に関してのみ最適化することができる。別の場合では、第1のコーティングは、P1表面上で、特定の動作赤外線波長における透過率に関して最適化され、反射(可視において)で無彩色となり、及び外部環境への曝露に関する耐久性のために最適化されることが必要となる場合があり、一方、第2の反射防止コーティングは、P2又はP4表面上で同じ耐久性は必要でない場合がある。
【0139】
このような実施形態の利点の1つは、本反射防止コーティングは、最終用途に必要な性質に関して自由度を示すように設計できるということである。すなわち、両方の反射防止コーティングは、効率及びコストの目的で最適に設計することができる。
【0140】
モノリス赤外線透過性ペイン又は積層赤外線透過性ペインには、エナメル又は塗料などの不透明化コーティングを設けることができる。このようなエナメル又は塗料は、スクリーン印刷、ローラーコーティング、吹き付け、カーテンコーティング、転写塗布などによって、場合により当業者に周知のマスキング又は形状/陰影画定要素の存在下で、グレージング上に塗布することができる。このようなエナメル又は塗料によって、優れた審美性を得ることができ、赤外線透過性ペインの周囲領域に合わせることができる。
【0141】
本発明は、前記実施形態に記載の赤外線透過性ペインと、赤外線感受性レセプター又は赤外光源の少なくとも1つとを含む光学装置も提供し、前記ペインは、センサーへの赤外光及び/又は光源からの赤外光を透過するように構成される。
【0142】
本発明の範囲内で、赤外線感受性レセプター及び赤外光源は、800~2000nmの範囲の動作波長を有するデバイスを意味する。
【0143】
赤外線感受性レセプターは、受信赤外線光学センサーと呼ばれることもあり、すなわち、赤外光信号を放出しないが、赤外光信号を受信することができるセンサーである。カメラは、赤外線感受性レセプター、又は受信赤外線光学センサーの典型的な例である。
【0144】
赤外光源は、放出赤外線光学センサーと呼ばれることもあり、すなわち、赤外光信号を受信しないが、赤外光信号を放出することができるセンサーである。
【0145】
幾つかの実施形態では、光学装置は、赤外線感受性レセプターと赤外光源との両方を含むことができる。このような複合レセプター及び光源は、放出/受信赤外線光学センサーと呼ばれることがある。
【0146】
このような放出用/受信用赤外線光学センサーは、典型的には、最初に乗り物の外側に向けて乗り物から赤外光信号を放出し、次に乗り物の外側のある障害物によって反射された赤外光信号を受信するセンサーを意味する。ライダーは、放出/受信近赤外光学センサーの典型的な例である。
【0147】
したがって本光学装置は、前述の赤外線透過性ペインと、放出/受信赤外線光学センサーとを含むことができる。
【0148】
赤外線感受性レセプター及び/又は赤外光源、又は放出/受信赤外光学センサーが、好ましくは、ハウジングであって、本発明による赤外線透過性ペインの内面(1i)に面し、外部環境に面する反対側の外面(1o)を含むハウジング内に配置されるように本光学装置が搭載される。
【0149】
例えば、本赤外線透過性ペインは、光学装置中でレセプターへの赤外光及び/又は光源からの赤外光を透過するように構成される。例えば、前述の反射防止コーティングが設けられた本ペインは、選択された動作赤外線波長λIRにおいてレセプター及び/又は光源の機能が最適化されるように、改善された赤外光透過率を有することができる。
【0150】
反射防止コーティングを含む赤外線透過性ペインの第1の表面が、前記によりモノリスの場合はP2とも呼ばれ、又は積層の場合はP4とも呼ばれる内面(1i)である場合、これは、反射防止コーティングが外部環境にさらされないことを意味する。
【0151】
反射防止コーティングを含む赤外線透過性ペインの第1の表面が、前記によりP1とも呼ばれる外面(1o)である場合、これは反射防止コーティングが外部環境にさらされうることを意味する。
【0152】
赤外線透過性ペインが、2つの側の上に反射防止コーティングを有する(同じ又は異なる)場合、一方の反射防止コーティングは、外面(1o)又はP1に面し、外部環境にさらされることがあり、他方の反射防止コーティングは、モノリスの場合はP2、又は積層の場合はP4である内面(1i)に面する。
【0153】
本明細書に記載の種々の実施形態による赤外線透過性ペインの利点は、高い赤外光透過率が必要となり、場合によりこれとともに色の中立性及び/又は高い耐久性が必要となる種々の用途の要求に適合させるために設計できることである。
【0154】
本発明は、本赤外線透過性ペインを含む、800~2000nmの範囲内の赤外光のための赤外線感受性センサー及び/又は赤外光源のためのカバーを提供する。
【0155】
赤外線センサー及び/又は赤外光源のため、又は放出/受信赤外光学センサーのためのカバーとしての本赤外線透過性ペインの使用も提供される。
【0156】
このようなセンサーは、通常、カバーの後ろに配置される。このカバーは、センサーを外部環境から保護する。これはカバーのみとして設計し、それによってセンサーが中に配置されるハウジングを閉じることができる。又はこれは一体化要素の一部であってよく、例えばセンサーは、内装又は外装要素の後ろに配置することができ、したがってカバーはこの内装又は外装要素の一部となる。乗り物の内装要素は、ガラス又はプラスチックの成形品、フレーム、並びに車体及び内装への他の装飾的付加、例えば、計器パネル、エアバッグカバー、ドアトリム、アームレスト、センターコンソール、ピラートリム、トリムストリップ、シートベルトガイド、又はルーフハンドルとして規定される。外装要素としては、バンパー、ウィンドウ/ドアシール、ホイールウェル、及びヘッドライトが挙げられる。製造業者はこれらを審美性の付与、機能の増加、及び乗り物のデザインへの自由度の追加のために使用する。カバーは、当然ながらセンサーの動作赤外線波長に対して透明である。カバーの可視波長に対する透明性は、必須ではない。
【0157】
センサーの検出限界は、センサーの動作波長内のカバーの透過レベルと明らかに関連している。したがって、近赤外線波長範囲内のカバーの透過レベルを増加させることが必要となる。
【0158】
したがって、低屈折率の層の真下に高屈折率材料の層を含む2個以上の配列を含む赤外線反射防止コーティングを含む場合に、特定の動作波長における透過率が改善されることによって、最適に赤外光を透過するために設計することができるので、本明細書に記載の種々の実施形態による赤外線透過性ペインは、このようなセンサーのカバーとして十分に適している。
【0159】
低屈折率の層の真下に高屈折率材料の層を含む4個以上の配列を含む赤外線反射防止コーティングを含む赤外線透過性ペインを使用することによって、カバーを外部観察者が見ることができる場合に、色の中立性の要求を調整することができる。
【0160】
バンパー又は装置の別の露出部分などの過酷な外部環境に耐えることができる乗り物の一部にセンサーが一体化される場合、耐久性の要求は、低屈折率材料の最上層が、<1.7の屈折率を有するSiZrOxの最上層を含むことによって保証されうる。
【0161】
本発明は、本明細書に記載のカバーを含むライダー装置を提供する。
【0162】
したがって、本発明は、ライダー中での赤外線透過性ペインの使用も提供する。
【0163】
本ペインによって、風防、バックライト、サイドライト、又はピラーなどの乗り物のさらなる透明又は不透明のペインなしにこのようなライダーを使用することができる。
【0164】
実際、本赤外線透過性ペインを用いて得られる光学装置、カバー、及びライダーは、雨、ひょう、大きな温度変化、及び砂利などの種々の物体の衝突にさらされる攻撃的な環境に曝露されうる自走車両の外部に搭載することができる。
【0165】
したがって本赤外線透過性ペインは、赤外線の透過を使用できる輸送用途又は建築用途において有用となりうる。建築用途としては、ディスプレイ、窓、ドア、パーティション、シャワーパネルなどが挙げられる。
【0166】
輸送用途としては、道路上、空中、水中、及び水上での輸送のための乗り物、特に自動車、バス、列車、船、航空機、宇宙船、宇宙ステーション、ドローン、及びその他の原動機付き乗り物が挙げられる。したがって、乗り物とは、乗用車、トラック、自動車、バン、ローリー、モーターバイク、バス、路面電車、列車、飛行機、ヘリコプター、船舶などを意味する。
【0167】
したがって、本発明は、最後に、前記による光学装置又はライダーを含む乗り物を提供する。
【0168】
条項
本発明は、以下の条項によって説明することができる
【0169】
条項1:第1の表面、及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第1の赤外線透過性基材と、第1の表面上の赤外線反射防止コーティングとを含む赤外線透過性ペインであって、
前記コーティングが、薄層のS個の配列を含み、
- 各配列が、低屈折率材料の層の真下に高屈折率材料の層を含み、
- S≧2であり、
低屈折率材料の前記コーティングの最上層の波長λIRにおける光学的厚さeULが、
(λIR*0.12)≦eUL≦(λIR*0.40)の範囲であり、
ここでλIRは、800~2000nmの範囲内で選択される赤外線波長であることを特徴とする赤外線透過性ペイン。
【0170】
条項2:S≧2であり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率材料の層の波長λIRにおける光学的厚さの合計ΣeHが、(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.55)の範囲である、条項1による赤外線透過性ペイン。
【0171】
条項3:S=2又は3であり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率材料の層の波長λIRにおける光学的厚さの合計ΣeHが、(λIR*0.28)≦ΣeH≦(λIR*0.55)、或いは(λIR*0.35)≦ΣeH≦(λIR*0.50)、或いは(λIR*0.38)≦ΣeH≦(λIR*0.47)の範囲である、条項1による赤外線透過性ペイン。
【0172】
条項4:S=2又は3であり、低屈折率を有する層の光学的厚さの合計ΣeLの、550nmの可視波長に対する比「ΣeL/550nm」が、選択された赤外線動作波長(λIR)に関して、パーセント値の単位で、以下の式:
(0.0614×λIR)-K1≦ΣeL/550nm≦(0.0614×λIR)-K2
に従い、
ここでK1=25%及びK2=-3%である、条項1~3のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0173】
条項5:K1=25%である、条項4による赤外線透過性ペイン。
【0174】
条項6:K2=-3%である、条項4による赤外線透過性ペイン。
【0175】
条項7:S=2又は3であり、赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最上層の波長λIRにおける光学的厚さeULが、(λIR*0.15)≦eUL≦(λIR*0.33)、好ましくは(λIR*0.20)≦eUL≦(λIR*0.32)、又は(λIR*0.22)≦eUL≦(λIR*0.29)、又は(λIR*0.24)≦eUL≦(λIR*0.27)の範囲である、条項1~4のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0176】
条項8:S=2又は3であり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最上層の波長λIRにおける光学的厚さeUHが、(λIR*0.25)≦eUH≦(λIR*0.50)、好ましくは(λIR*0.31)≦eUH≦(λIR*0.42)の範囲である、条項1~4のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0177】
条項9:S=2又は3であり、赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最下層LAの波長λIRにおける光学的厚さeLAが、eLA≦(λIR*0.13)、好ましくは(λIR*0.04)≦eLA≦(λIR*0.07)である、条項1~4のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0178】
条項10:S=2又は3であり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最下層HAの波長λIRにおける光学的厚さeHAが、eHA≦(λIR*0.15)、好ましくは(λIR*0.02)≦eHA≦(λIR*0.11)、より好ましくは(λIR*0.03)≦eHA≦(λIR*0.10)である、条項1~4のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0179】
条項11:S=4であり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率材料の層の波長λIRにおける光学的厚さの合計ΣeHが、(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.45)、或いは(λIR*0.10)≦ΣeH≦(λIR*0.35)の範囲である、条項1又は2による赤外線透過性ペイン。
【0180】
条項12:S≧4であり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最上層UHの光学的厚さe’UHが、15~110nm、好ましくは15~105nm、より好ましくは20~100nmの範囲である、条項1、2、又は11のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0181】
条項13:S≧4であり、赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最上層ULの光学的厚さeULが、(λIR*0.15)≦eUL≦(λIR*0.37)、好ましくは(λIR*0.19)≦eUL≦(λIR*0.33)の範囲であってもよい、条項1、2、11、又は12のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0182】
条項14:S=4であり、高屈折率材料の層の光学的厚さの合計ΣeH(=eHA+eHB+eHC+eHD)の、選択されたλIRに対する比である比「(ΣeH/λIR)」と、
最上層から離れた低屈折率材料の層の光学的厚さの合計ΣeL-eLD(=eLA+eLB+eLC)の、選択されたλIRに対する比である比「(ΣeL-eLD)/λIR」との両方が、
選択された赤外線動作波長(λIR)に関して、パーセント値の単位で以下の式に従い:
(-0.0017×λIR)+K3≦ΣeH/λIR≦(-0.0017×λIR)+K4、
ここでΣeH/λIR≧5%において最小の組となり、
(-0.0017×λIR)+K3≦(ΣeL-eLD)/λIR≦(-0.0017×λIR)+K4
ここで(ΣeL-eLD)/λIR≧5%において最小の組となり、
ここでK3=30%及びK4=50%である、
条項1、2、11~13のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0183】
条項15:K3=32%、或いは34%である、条項14による赤外線透過性ペイン。
【0184】
条項16:K4=48%、或いは47%である、条項14による赤外線透過性ペイン。
【0185】
条項17。S≧4又はS=4であり、赤外線反射防止コーティングの高屈折率を有する最下層の光学的厚さe’HAが、15~38nm、好ましくは17~35nmの範囲である、条項1、2、11~14のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0186】
条項18:S≧4又はS=4であり、赤外線反射防止コーティングの低屈折率を有する最下層の光学的厚さe’LAが、55~100nm、好ましくは60~95nmの範囲である、条項1、2、11~14、又は17のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0187】
条項19:高屈折率を有する層が、Zn、Sn、Ti、Nb、Zr、Hf、Ta、Ni、In、Al、Si、Ce、W、Mo、Sb、La、及びBiの酸化物、及びそれらの混合物、又はSi、Al、Zr、B、Y、Ce、及びLaの窒化物、及びそれらの混合物、又はセレン化亜鉛、硫化亜鉛、若しくはフッ化亜鉛、及びそれらの混合物の少なくとも1つからから独立して選択される、条項1~18のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0188】
条項20:高屈折率を有する層が:
- Zr、Nb、Sn、Zn、又はTiの酸化物;
- Ti、Zr、Nb、Si、Sb、Sn、Zn、Inの2つ以上の混合酸化物;
- Si、Zr、Al、Bの窒化物;
- Si、Zr、Al、Bの2つ以上の混合窒化物、
から独立して選択される、条項1~19のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0189】
条項21:低屈折率を有する層が、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素アルミニウム酸化物、混合ケイ素ジルコニウム酸化物、アルミニウムドープ酸化ケイ素、ホウ素ドープ酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化イットリウム、又はそれらの混合物から独立して選択される、条項1~20のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0190】
条項22:低屈折率を有する層が、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素アルミニウム酸化物、混合ケイ素ジルコニウム酸化物、アルミニウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化ケイ素、ホウ素ドープ酸化ケイ素、又はそれらの混合物から独立して選択される、条項1~21のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0191】
条項23:低屈折率を有する最上層が、混合ケイ素ジルコニウム酸化物の少なくとも1つの副層を含む、条項1~22のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0192】
条項24:混合ケイ素ジルコニウム酸化物の少なくとも1つの副層が、低屈折率を有する最上層の最上副層である、条項23による赤外線透過性ペイン。
【0193】
条項25:透明な加熱システムをさらに含む、条項1~24のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0194】
条項26:加熱システムが、反射防止コーティングの上若しくは下のいずれかの赤外線透過性ペインの第1の表面上、又は赤外線透過性ペインの第2の表面上に設けられる、条項25による赤外線透過性ペイン。
【0195】
条項27:第1の表面とは反対側の第2の表面上に第2の赤外線反射防止コーティングをさらに含む、条項1~26のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0196】
条項28:中間層と、第1の表面、及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する第2の赤外線透過性基材であって、前記中間層によってその第2の表面により第1の赤外線透過性基材の第2の表面に積層される第2の赤外線透過性基材とをさらに含む、条項1~27のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0197】
条項29:第1及び/又は第2の赤外線透過性基材が、ガラス、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)、又は混合物及び複合材料であって、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレン(PB)の2つ以上の混合物及び複合材料から独立して選択される、条項1~28のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0198】
条項30:第1及び/又は第2の赤外線透過性基材の厚さが、独立して、0.5mm~約15mm、或いは1mm~約10mm、或いは1mm~約8mm、或いは1mm~約6mm、或いは0.5~4mmの範囲である、条項1~29のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0199】
条項31:ガラスが、750~1650nmの波長範囲で15m-1未満の吸収係数を有する「赤外線透過性ガラス」である、条項29による赤外線透過性ペイン。
【0200】
条項33:第1及び/又は第2の赤外線透過性基材が、750~1650nmの波長範囲で15m-1未満の吸収係数を有する「赤外線透過性ガラス」である、条項1~30のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0201】
条項34:第2の赤外線透過性基材の第1の表面に、第2の赤外線反射防止コーティングが設けられる、条項28~32のいずれか1つによる赤外線透過性ペイン。
【0202】
条項35:第1及び第2の赤外線反射防止コーティングが同じ又は異なる、条項27又は33による赤外線透過性ペイン。
【0203】
条項36:条項1~34のいずれか1つによる赤外線透過性ペインと、及び赤外線感受性レセプター及び/又は赤外光源とを含む光学装置であって、ペインが、センサーへの赤外光及び/又は光源からの赤外光を透過するように構成される、光学装置。
【0204】
条項37:赤外感受性レセプター及び/又は赤外光源が、放出/受信赤外光学センサーである、条項35による光学装置。
【0205】
条項38:赤外線透過性ペインが、赤外感受性レセプター及び/又は赤外光源のカバーである、条項35又は36のいずれか1つによる光学装置。
【0206】
条項39:800~2000nmの範囲内の赤外光の赤外線感受性センサー及び/又は赤外光源のためのカバーであって、条項1~34のいずれか1つによる赤外線透過性ペインを含む、カバー。
【0207】
条項40:条項39に記載のカバーを含むライダー装置。
【0208】
条項41:赤外線透過性ペインに不透明化コーティングが設けられる、条項40によるライダー装置。
【0209】
条項42:条項35~37のいずれか1つによる光学装置を含む乗り物。
【0210】
条項43:条項40~41のいずれか1つによるライダーを含む乗り物。
【0211】
条項44:条項1~34のいずれか1つによる赤外線透過性ペインの赤外センサー及び/又は赤外光源のカバーとしての使用。
【0212】
条項45:条項1~34のいずれか1つによる赤外線透過性ペインのライダー装置中での使用。
【実施例】
【0213】
第1の表面及び第1の表面とは反対側の第2の表面を有する赤外線透過性基材と、第1の表面上の赤外線反射防止コーティングとを含む赤外線透過性ペインを以下のように得て、特定の光条件を考慮し、赤外線透過率に関するそれらの能力を考慮して、それらの光学パラメーターを評価した。
【0214】
本実施例で用いた赤外線透過性基材は、いずれかのコーティング堆積の前に十分に清浄にした、透明で1.6mmの厚さの赤外線透過性ガラス(低鉄、クロム含有フロートガラス)であった。
【0215】
可視において、反射又は透過レベルの場合は光源D65、2°、色指数(a*及びb*)の場合は光源D65、10°ですべての光学パラメーターが得られる。
【0216】
すべての光学的厚さは、示される赤外線動作波長における材料の屈折率を用いて考慮される。したがって、以下の表中に示される厚さは、別に示されるのでなければ、幾何学的厚さであり、幾何学的厚さ=光学的厚さ/特定の波長における屈折率である。
【0217】
材料:
- TZO:(550nmにおいて)2.19の高屈折率を有する、55/45重量%の比率の酸化チタン/酸化ジルコニウム
- SiO2:(550nmにおいて)1.46の低屈折率を示す酸化ケイ素
- SiZrO:(550nmにおいて)1.57の低屈折率を有する65/35重量%の比率の酸化ケイ素/酸化ジルコニウム
【0218】
本明細書において用いられる選択された材料の他の屈折率を示す。
【0219】
化学的及び機械的安定性は、当業者には周知の以下の試験方法により評価される。
【0220】
本発明の範囲内の化学耐久性は、クリーブランド試験、気候室試験、及び塩水噴霧試験の試験方法を含む。
【0221】
クリーブランド試験
クリーブランド試験は、規格のISO 6270-1:1998に準拠して少なくとも2日間、或いは5日間、或いは10日間、或いは15日間行われる。
【0222】
気候室試験(CC)
この試験は、H2Oの雰囲気を満たしたチャンバー内に試料を入れ、温度を45℃から55℃まで変化させ、45℃に戻すそれぞれ2時間の温度サイクルに、少なくとも2日間、或いは5日間、或いは10日間、或いは21日間曝露することにある。CC BBは、ペインの熱処理前(焼き付け前(post bake))に行われる試験であり、一方、CC ABは、ペインの熱処理後(焼き付け後(after bake))に行われる試験である。
【0223】
塩水噴霧試験(NSST)
この試験は、35℃に維持されたチャンバー中で、50g/lの塩化ナトリウムを含有する水溶液を噴霧することによって形成される塩の霧の作用に試料を少なくとも5日、或いは少なくとも10日、或いは少なくとも21日の曝露時間の間曝露することにある(この試験の全詳細は国際規格のISO 9227-1990に示されている)。
【0224】
本発明の範囲内の機械的耐久性は、熱処理の前後の、自動湿式摩擦試験、及び乾式ブラシ試験の試験方法を含む。
【0225】
自動湿式摩擦試験(AWRT)
濡れた状態が維持される濡れた綿布で覆われたピストンを、評価される層に接触させ、その表面上で前後に移動させる。このピストンは、直径17mmのフィンガーに33Nの力が加わるようにおもりを有する。コーティングされた表面上を綿でこすると、あるサイクル数の後で層が損傷する(除去される)。この試験は、層が変色し(層の部分的除去)、その中にすりきずが現れる限界を定めるために用いられる。この試験は、試料上の種々の離れた位置で、10サイクル、50サイクル、100サイクル、250サイクル、500サイクル、及び1000サイクルの間行われる。試料の変色又はすりきずが反射により見えるかどうかを調べるために、試料はアーティフィシャルスカイの下で観察される。AWRT結果は、劣化がない又は非常にわずかである(試料から80cmの距離で均一なアーティフィシャルスカイの下で肉眼で見ることができない)結果が得られるサイクル数を示している。
【0226】
乾式ブラシ試験
乾式ブラシ試験(DBT)は、規格のASTM D2486-00(試験方法「A」)に準拠し、或いは少なくとも250サイクル、或いは少なくとも500サイクルで行われる。この試験は、熱処理(本明細書では「焼き付け」と呼ばれる)を行った後の試料に対して行うこともできる。
【0227】
前述の各試験の結果は、基準試料の規定されたスケールと比較して試料の視覚的評価によって得られる。クリーブランド環境室及び塩水噴霧試験のスケールは、内部スケール0~5に基づいており、0は、重大な劣化(ピクセル、深いドット、すりきずの跡など)を有する基準試料に相当する。5の値は、あらゆる劣化の跡がない完全又は実質的に完全な表面に相当する。中間の値(0.25単位まで減少)は、劣化のレベル順にランク付けされる異なる劣化レベルを有する内部スケールの試料に相当する。許容できる値は3~5である。DBT及びAWRTの試験の場合は、0~10の範囲の第2の内部スケールが設定され、許容できる値は6~10である。1つの値は、典型的には1つの実験での少なくとも3つの試料の平均である。以下の表中の比較例は、実験の各「回」での手順の内部検証として、本発明による実施例に沿って調製した。
【0228】
焼き付け条件は、670℃の温度の対流炉内に試料を4~5分間入れることを伴う。
【0229】
測定したパラメーターは以下の通りであった:
a)光源D65、2°
- Tv(%)=可視範囲内の透過レベル
- Rc(%)=可視範囲内のコーティング側の反射レベル
b)光源D65、10°
- Rca*=a*色指数、可視範囲内の反射コーティング側、8°における光入射
- Rcb*=b*色指数、反射コーティング側、可視範囲内、8°における光入射
- Rc60a*=a*色指数、反射コーティング側、可視範囲、60°における光入射
- Rc60b*=b*色指数、反射コーティング側、可視範囲内、60°における光入射
c)異なる特定の動作波長λIRにおける赤外線透過率、0°の入射角を有する光=λIRにおけるT(%)、及び60°の入射角を有する光=λIRにおけるT60(%)
【0230】
結果は一般に、以下のことを示している:
・ 赤外光の透過率は、コーティングなしの赤外線透過性ガラスよりも増加する
・ S=4の場合、色は中性であり:0°及び60°の両方でのコーティング側の反射で-4<a*<1及び-5<b*<1(前述の規定の通り)
【0231】
これらの結果は、最適化された赤外光の透過率に対する赤外線透過性ペインの適合性を示している。
【0232】
実施例1~5
測定値が示される表1中に示されるように、実施例1~5の反射防止コーティングをS=2で調製し、1.6mmの赤外線透過性ガラス基材上に堆積した。
【0233】
堆積は、マグネトロンスパッタリング技術を用いて行った。
【0234】
比較の目的で、コーティングなしのガラスの測定値も含めている。
【0235】
値は、反射防止コーティングによって、計画された特定の動作波長、及び場合により一部の厳密な動作波長をさらに超えた特定の動作波長における赤外線透過率が改善されることを示している。これによって、複数の使用又は用途に適したコーティングを得るために有利であることが分かる。
【0236】
実施例1では、905nmの動作波長のための反射防止コーティングが得られ、赤外線透過率は、0°の入射光で92%(コーティングなしのガラス)から94.5%まで、60°の入射光で84.5%から87.7%まで増加する。この赤外光透過率の増加は、コーティングの最終用途の目的のために重要であると考えられる。
【0237】
λIR=1310nmにおける実施例2、λIR=1550nmにおける実施例3、並びにλIR=1064nmにおける実施例4及び5で同様の増加が観察される。
【0238】
実施例4及び5は、紫色又は緑色がかった色などの異なる色を反射で示し、これは本明細書で規定される中性と見なすことはできない。
【0239】
実施例1~5は、SiZrOxの最上層を有しない同じコーティングと比較して大幅に改善された化学的及び機械的耐久性を示した。
【0240】
実施例6~9
測定値が示される表2中に示されるように、実施例6~9の反射防止コーティングをS=4で調製し、1.6mmの赤外線透過性ガラス基材上に堆積した。
【0241】
堆積は、マグネトロンスパッタリング技術を用いて行った。
【0242】
比較の目的で、コーティングなしのガラスの測定値も含めている。
【0243】
値は、反射防止コーティングによって、計画された特定の動作波長、及び場合により一部の厳密な動作波長をさらに超えた特定の動作波長における赤外線透過率が改善されることを示している。これによって、複数の使用又は用途に適したコーティングを得るために有利であることが分かる。
【0244】
実施例6では、905nmの動作波長のための反射防止コーティングが得られ、赤外線透過率は、0°の入射光で92%(コーティングなしのガラス)から94.1%まで、60°の入射光で84.5%から87.1%まで増加する。このコーティングは、1064nmの動作波長における赤外光の透過率の改善にも有効であり、複数の波長に適切になるという本コーティングの利点を示している。
【0245】
λIR=1064nmにおける実施例7、λIR=1310nmにおける実施例8、及びλIR=1550nmにおける実施例9で同様の増加が観察される。これらのコーティングは、計画された動作波長において有効な光透過率を示すが、周辺の動作波長においても有効であり、最終用途及び利用に対する自由度を示している。
【0246】
この赤外光透過率の増加は、コーティングの最終用途の目的のために重要であると考えられる。Rcが依然として<11%となるように、反射防止効果(コーティング側)も注目に値する。
【0247】
実施例6~9は、-1.5~0.6のa*値、及び-3.3~-2.5のb*の値を有する無彩色を示し、本発明で規定される範囲内である。
【0248】
実施例6~9は、SiZrOxの最上層を有しない同じコーティングと比較して大幅に改善された化学的及び機械的耐久性を示した。
【0249】
実施例1~9のすべてで、クリーブランド試験で15日後、気候室試験で21日後、NSST試験で21日後のスケールで5のスコアを達成した。実施例1~9のすべてで、焼き付け前及び後の1000サイクルのAWRT、並びに焼き付け前及び後の1000サイクルの乾式ブラシ試験のスケールで10のスコアを達成した。
【0250】
比較例1~3
測定値が示される表3中に示されるように、本発明の範囲内ではない比較例1~3の反射防止コーティングをS=4で調製し、1.6mmの赤外線透過性ガラス基材上に堆積した。
【0251】
堆積は、マグネトロンスパッタリング技術を用いて行った。
【0252】
比較の目的で、コーティングなしのガラスの測定値も含めている。
【0253】
比較例1では、905nmの動作波長のための反射防止コーティングが得られ、最上層の波長λIR=905nmにおける光学的厚さeUL<λIR*0.12(すなわち、905*0.12=108.6nmの光学的厚さ、したがってSiO2層の場合、108.6/1.467=74nmの幾何学的厚さに等しい)であり、赤外線透過率は、実際に、0°の入射光で92%(コーティングなしのガラス)から89.6%まで減少し、60°の入射光で84.5%から83.9%まで減少する。このようなコーティングは、特定の動作波長に最適となるように設計されていない。
【0254】
比較例2では、905nmの動作波長のための反射防止コーティングが得られ、最上層の波長λIR=905nmにおける光学的厚さ<λIR*0.12であり、この場合、赤外線透過率は、0°の入射光で92%(コーティングなしのガラス)から93.7%まで改善され、60°の入射光で84.5%から86.5%まで改善される。しかしながら、透過における色のため、外部観察者によって観察されうる用途には、このコーティングは不適当となる。
【0255】
比較例1及び2の耐久性は非常に低く、コーティングが外部環境に接触する用途には、このコーティングは不適当となる。実際、比較例1及び2によって、クリーブランド試験の15日後のスケールに対して2及び3.5のスコア、気候室試験で21日後に1及び2のスコア、NSST試験で21日後に3及び2.5のスコアを達成した。比較例1及び2は、焼き付け前のAWRTの1000サイクルにおけるスケールで1.5及び4.5のスコア、焼き付け後に1及び3.5のスコアを達成した。
【0256】
実施例10
測定値が示される表4中に示されるように、実施例10の反射防止コーティングをS=2で調製し、1.6mmの赤外線透過性ガラス基材上に堆積した。高屈折率層は、数層の高屈折率の副層で構成される。
【0257】
堆積は、マグネトロンスパッタリング技術を用いて行った。
【0258】
比較の目的で、コーティングなしのガラスの測定値も含めている。
【0259】
値は、反射防止コーティングによって、計画された特定の動作波長、すなわち905nm、及び場合により一部の厳密な動作波長をさらに超えた特定の動作波長、すなわち最大1064nmにおける赤外線透過率が改善されることを示している。これによって、複数の使用又は用途に適したコーティングを得るために有利であることが分かる。
【0260】
実施例10では、905nmの動作波長のための反射防止コーティングが得られ、赤外線透過率は、0°の入射光で92%(コーティングなしのガラス)から93.1%まで、60°の入射光で84.5%から87.9%まで増加する。この赤外光透過率の増加は、コーティングの最終用途の目的のために重要であると考えられる。
【0261】
実施例11~15
測定値が示される表5中に示されるように、実施例11~15の反射防止コーティングをS=4で調製し、1.6mmの赤外線透過性ガラス基材上に堆積した。層は、それぞれ高屈折率又は低屈折率の数層の副層で構成されてよい。
【0262】
堆積は、マグネトロンスパッタリング技術を用いて行った。
【0263】
比較の目的で、コーティングなしのガラスの測定値も含めている。
【0264】
値は、反射防止コーティングによって、計画された特定の動作波長、及び場合により一部の厳密な動作波長をさらに超えた特定の動作波長における赤外線透過率が改善されることを示している。これによって、複数の使用又は用途に適したコーティングを得るために有利であることが分かる。
【0265】
実施例11では、905nmの動作波長のための反射防止コーティングが得られ、赤外線透過率は、0°の入射光で92%(コーティングなしのガラス)から94.2%まで、60°の入射光で84.5%から87.4%まで増加する。このコーティングは、1064nmの動作波長における赤外光の透過率の改善にも有効であり、複数の波長に適切になるという本コーティングの利点を示している。
【0266】
λIR=905nmにおける実施例12、λIR=1064nmにおける実施例13、λIR=1310nmにおける実施例14、λIR=1550nmにおける実施例15で同様の増加が観察される。これらのコーティングは、計画された動作波長において有効な光透過率を示すが、周辺の動作波長においても有効であり、最終用途及び利用に対する自由度を示している。
【0267】
この赤外光透過率の増加は、コーティングの最終用途の目的のために重要であると考えられる。
【0268】
実施例11~15は、-2.0~0.0のa*値、及び-4.9~-0.5のb*の値を有する無彩色を示し、本発明で規定される範囲内である。
【0269】
実施例11~15は、SiZrOxの最上層を有しない同じコーティングと比較して大幅に改善された化学的及び機械的耐久性を示した。
【0270】
高屈折率を有する別の層、例えばチタンとジルコニウムとの混合酸化物、窒化ケイ素、ケイ素とチタンとの混合窒化物、ケイ素とジルコニウムとの混合窒化物、ケイ素とハフニウムとの混合窒化物、窒化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ケイ素ドープ酸化ジルコニウム、ジルコニウムとホウ素との混合窒化物、亜鉛とスズとの混合酸化物、酸化ニオブ、アルミニウムドープ酸化亜鉛などの、及び/又は低屈折率を有する別の層、例えば、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、酸化アルミニウム、混合ケイ素アルミニウム酸化物、混合ケイ素ジルコニウム酸化物、アルミニウムドープ酸化ケイ素、ホウ素ドープ酸化ケイ素を用いて、同様のコーティングを得ることができる。
【国際調査報告】