(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池に遷移金属イオンを捕捉するための無機添加剤
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20240723BHJP
C01B 25/32 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240723BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240723BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240723BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240723BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240723BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240723BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M10/054
C01B25/32 P
H01M4/58
H01M4/587
H01M10/0568
H01M4/136
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M10/0567
H01M50/434
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500242
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2022068498
(87)【国際公開番号】W WO2023280798
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブライダ, マルク-ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ルクレール, フロラン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE04
5H021EE10
5H021EE21
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029EJ03
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB05
5H050CB07
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA09
5H050EA01
(57)【要約】
本発明は、ヒドロキシアパタイトなどの無機遷移金属陽イオントラップを含むナトリウムイオン電池に関する。本発明はまた、正極、負極、電解質、及び当該無機遷移金属陽イオントラップを含むセパレータに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
セパレータと、
電解質組成物と、
無機遷移金属陽イオントラップと、
を含む、ナトリウムイオン電池。
【請求項2】
前記無機遷移金属陽イオントラップが、前記遷移金属陽イオンの前記負極への移動及び前記負極での又は前記負極上でのその堆積を低減又は防止する、請求項1に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項3】
前記無機遷移金属陽イオントラップが、リン酸三カルシウムCa
3(PO
4)
2、リン酸八カルシウムCa
8H
2(PO
4)
6、二リン酸二カルシウムCa
2P
2O
7、三リン酸カルシウムCa
5(P
3O
10)
2、リン酸四カルシウムCa
4(PO
4)
2O、アパタイトCa
10(PO
4)
6(OH,F,Cl,Br)
2、ヒドロキシアパタイト(HAP)及びそれらの混合物などのリン酸カルシウムから選択される、請求項1又は2に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項4】
前記無機遷移金属陽イオントラップが、1.50~2.00の範囲のCa/Pモル比を有するヒドロキシアパタイトから選択される、請求項3に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項5】
前記正極が、Na
3V
2(PO
4)
2F
3(NVPF)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項6】
前記負極が、ハードカーボンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項7】
前記電解質組成物が、NaPF
6を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項8】
前記無機遷移金属陽イオントラップが、前記カソードに組み込まれている、請求項1~7のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項9】
前記無機遷移金属陽イオントラップが、前記アノードに組み込まれている、請求項1~8のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項10】
前記無機遷移金属陽イオントラップが、前記電解質組成物に組み込まれている、請求項1~9のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項11】
前記無機遷移金属陽イオントラップが、前記セパレータに組み込まれている、請求項1~10のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項12】
遷移金属陽イオンが、V
2+、V
3+、V
4+及びV
5+などのVからの陽イオンを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項13】
無機遷移金属陽イオントラップを含む正極。
【請求項14】
無機遷移金属陽イオントラップを含む負極。
【請求項15】
無機遷移金属陽イオントラップを含む電解質組成物。
【請求項16】
無機遷移金属陽イオントラップを含むセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年7月7日に欧州で出願された欧州特許出願公開第21315123.6号の優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヒドロキシアパタイトなどの無機遷移金属陽イオントラップを含むナトリウムイオン電池に関する。本発明はまた、正極、負極、電解質、及び当該無機遷移金属陽イオントラップを含むセパレータに関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池に対する需要は、近年、携帯電話及び電気自動車などの、多種多様の電子機器への適用が進んでいる。実際に、リチウムベースの化合物は、比較的高価であり、天然リチウム源は、地球上に不均等に分布しており、少数の国に局在しているため容易に入手できない。従って、この要素の代替物が求められている。この目的のために、ナトリウムイオン電池が開発されている。これは、ナトリウムが非常に豊富であり、且つ、均質に分布しており、有利には非毒性であり、経済的により有利であるからである。
【0004】
ナトリウムイオン電池は、一般に、負極(アノード)と正極(カソード)との間でナトリウムイオンを可逆的に通過させることにより作動する。負極及び正極は、一般に、ナトリウムイオンを伝導するのに適した電解質組成物で浸漬された多孔質セパレータの両側に位置する。各電極は、集電体に関連付けられている。集電体は、関連するナトリウムイオンの移動のバランスをとるために電極間に電流を流すことを可能にする外部回路に接続される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電解質組成物中の正極からの遷移金属陽イオンの溶解は、アルカリイオン電池技術、特にナトリウムイオン電池技術において多種多様な高電圧電極材料が遭遇する問題である。この現象は、アノード側での陽イオンの移動及びそのSEI構造との干渉のために有害である。選択された陽イオンの溶解度を低下させるための電解質改質、又は活物質の表面の改質又はセパレータとしてのイオン選択性膜の使用などの、偶発事故対策を必要とすることは、主な注目点である。
【0006】
国際公開第2021/073467A1号パンフレットは、正極活物質が低価不活性遷移金属Li+でドープされているナトリウムイオン電池を開示している。充放電時に、電解液中の有効成分がLi+イオンと相互作用して安定なカソード電解質界面(CEI)膜を形成し、正極活物質の他の遷移金属イオンの溶解を抑制する。
【0007】
米国特許出願公開第2019/296305A1号明細書は、非水電解質リチウム電池の金属吸着に適した陽イオン交換体を開示している。
【0008】
ナトリウムイオン電池では、正極材料の性質に応じて、異なる遷移金属陽イオンが溶解すると予想される。単なる一例として、バナジウム陽イオン(V2+、V3+、V4+又はV5+)の溶解は、一般に、フルオロリン酸ナトリウム(NVPF)/ハードカーボンセルのサイクル中に観察され、負極に堆積することによって電池性能を低下させる。
【0009】
ナトリウムイオン電池の正極からの遷移金属陽イオンの溶解を防止する必要がある。正極から負極への当該遷移金属陽イオンの移動を防止する必要もある。最後に、固体電解質相間界面(SEI)構造に有害な負極上の当該遷移金属陽イオンの堆積を防止する必要がある。
【0010】
これらの全ての必要性及び他の必要性は、
- 正極と、
- 負極と、
- セパレータと、
- 電解質組成物と、
- 無機遷移金属陽イオントラップと、
を含むナトリウムイオン電池を提供することにより満たされる。
【0011】
定義
本明細書の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、用語「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」又は「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「包含する(includes)」、「包含している(including)」などの変形は、述べられた要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の排除を意味しないと理解されるであろう。好ましい実施形態によれば、用語「含む」及び「包含する」並びにそれらの変形は、「のみからなる」を意味する。
【0012】
本明細書において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数態様を包含する。用語「及び/又は」は、意味「及び」、「又は」及びまたこの用語と関係した要素の他の可能な組合せを全て包含する。
【0013】
用語「~」は、限界点を含むと理解されるべきである。
【0014】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で示され得る。そのような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために用いられること並びに範囲の限界点として明示的に列挙された数値を包含するのみならず、各数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのように、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲を全て包含すると柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点のみならず、125℃~145℃、130℃~150℃等などの部分範囲並びに例えば122.2℃、140.6℃及び141.3℃などの明記された範囲内の小数点数などの個々の量も包含すると解釈されるべきである。
【0015】
用語「電解質」は、特に、それを通してイオン、例えばNa+を移動させるが、それを通して電子を伝導させない材料を指す。電解質は、電解質を通してイオン、例えばNa+を伝導させる一方、電池のカソードとアノードとを電気的に絶縁するのに有用である。
【0016】
本明細書で用いる場合、用語「カソード」及び「アノード」は、電池の電極を指す。Na二次電池における充電サイクル中、Naイオンは、カソードから離れ、電解質を通してアノードに移動する。充電サイクル中、電子は、カソードから離れ、外部回路を通してアノードに移動する。Na二次電池における放電サイクル中、Naイオンは、電解質を通して及びアノードからカソードの方に移動する。放電サイクル中、電子は、アノードから離れ、外部回路を通してカソードに移動する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、
- 正極と、
- 負極と、
- セパレータと、
- 電解質組成物と、
- 無機遷移金属陽イオントラップと、
を含むナトリウムイオン電池に関し、
無機遷移金属陽イオントラップは、当該遷移金属陽イオンの負極への移動及び負極での又は負極上でのその堆積を低減又は防止する。
【0018】
第2の態様では、本発明は、正極、負極、電解質、及び当該無機遷移金属陽イオントラップを含むセパレータに関する。
【0019】
本発明に関して更に詳しくは、特許請求の範囲を含めて、これから以下に示される。
【0020】
無機遷移金属陽イオントラップ
上述のように、無機遷移金属陽イオントラップは、当該遷移金属陽イオンの負極への移動及び負極での又は負極上でのその堆積を低減又は防止する。
【0021】
無機遷移金属陽イオントラップは、一般に、リン酸カルシウムから選択される。いくつかの実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、リン酸三カルシウムCa3(PO4)2、リン酸八カルシウムCa8H2(PO4)6、二リン酸二カルシウムCa2P2O7、三リン酸カルシウムCa5(P3O10)2、リン酸四カルシウムCa4(PO4)2O、アパタイトCa10(PO4)6(OH,F,Cl,Br)2、ヒドロキシアパタイト(HAP)及びそれらの混合物から選択される。
【0022】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、リン酸カルシウムは、金属陽イオンの形態又は金属陽イオン含有化合物の形態の様々な遷移金属種に対する効果的なトラップであると考えられる。リン酸カルシウム骨格のCa(I)又はCa(II)イオンのいずれかの置換を含むイオン交換、表面錯形成、及び新たに形成された安定なリン酸含有相の溶解-沈殿などの2つ以上の金属捕捉機構を予想することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、ヒドロキシアパタイト(HAP)から選択される。HAPは、モルCa/P比が1.67(化学量論比)の一般式Ca10(PO4)6OH2であるが、他の金属陽イオンが部分的にCa2+を置換することができ、他の陰イオン種が部分的にリン酸及び/又はヒドロキシル陰イオンを置換することができる非常に柔軟な構造を有する。これらの可能な置換の結果として、Ca/P比が変化する可能性があり、Ca/P比は、典型的には、製造法に応じて1.50~2.08の範囲である。例えば、炭酸基は、リン酸基及び/又はヒドロキシル基を置換して炭酸化ヒドロキシアパタイトを形成することによって、ヒドロキシアパタイト構造に挿入することができる。従って、リン酸基を置換する場合、炭酸基は、Ca/P比が1.67を超えるHAPに寄与する。
【0024】
いくつかの実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、1.50~2.00の範囲のCa/P比を有するヒドロキシアパタイトから選択される。
【0025】
いくつかの好ましい実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、1.50~1.80の範囲のCa/P比を有するヒドロキシアパタイトから選択される。
【0026】
いくつかのより好ましい実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、1.50~1.67の範囲のCa/P比を有するヒドロキシアパタイトから選択される。
【0027】
いくつかの更により好ましい実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、1.60のモルCa/P比を有するヒドロキシアパタイトである。
【0028】
様々な品質の天然由来HAPは、魚の骨、牛の骨(大量のHAPを含む)などの骨の焼成及び処理後に回収される。主な不純物は炭素及び炭酸カルシウムであり、そのような天然由来のHAPは骨炭と呼ばれる。骨炭のCa/P比は一般に1.67未満である。異なるグレードの骨炭が存在し、いくつかは焼成後に後処理を受けて不純物量を減少させる。
【0029】
合成HAPは、一般に乾式、湿式及び高温法に分類されるいくつかの方法によって合成することができる。
【0030】
乾式法としては、固相合成及び機械化学的合成が挙げられる。
【0031】
固相反応は、加熱による混合固体反応物の分解反応を意味し、新しい固体及びガスを生成する。HAPを調製するための固相法は、一般に、粉砕及び焼成されるカルシウム及びリン酸塩を含有する化学前駆体を含む。HAP合成は、例えばCaOとP2O5、CaHPO4とCaO、Ca3(PO4)2とCa(OH)2、CaHPO4とCaCO3、又はCaCO3とNH4H2PO4との間の高温(約1000℃)での反応によって行うことができる。
【0032】
機械化学的合成は、反応物質の摩砕及び粉砕による圧縮、剪断又は摩擦によって化学反応を誘導するものである。HAP合成は、例えばCaO及びP2O5、Ca3(PO4)2及びCa(OH)2、Ca2P2O7及びCaCO3又はCaHPO4.2H2O、尿素及びCaCO3を含む機械化学法によって行うことができる。
【0033】
湿式化学的製造法は、沈殿法によって、例えば9を超えるpHで、水酸化物の希薄溶液/懸濁液への酸の添加によって水酸化カルシウム及びオルトリン酸を反応させることによって実施することができる。ヒドロキシアパタイトは、硝酸カルシウム又は塩化カルシウムと、リン酸水素二アンモニウムと、pH調整剤としての水酸化アンモニウムとの反応中の沈殿によっても回収される。9未満のpHでの処理により、カルシウム欠乏ヒドロキシアパタイト、すなわち化学量論比1.67未満のCa/P比を有するカルシウム欠乏ヒドロキシアパタイトの生成がもたらされる可能性がある。回収された沈殿粉末は、一般に、化学量論的ヒドロキシアパタイトを得るために400℃~600℃以上で焼成される。沈殿による合成HAPの形態学的特性(形状及びサイズ)、化学量論、比表面積及び結晶化度は、温度、時間、試薬添加速度、焼成、pH、並びに様々な試薬の使用及びそれらの純度などの合成パラメータによって大きく影響される。
【0034】
別の湿式化学的製造法は、水熱法と呼ばれる。HAPを合成するための水熱法は、カルシウム及びリン酸塩前駆体を含有する水性媒体中で反応を刺激するために高温及び高圧を使用する。水熱法は、例えば高温及び高圧でCaCO3、Ca(OH)2又はCa(NO3)2.4H2O及び(NH4)2(HPO4)を使用して実施することができる。一般に、カルシウム源、リン酸源及び/又はアルカリ源の量は、生成物のCa/P比を制御するように設定される。
【0035】
HAPは、燃焼噴霧熱分解技術を含む高温法によっても調製することができる。
【0036】
燃焼法は、水相中の酸化剤と有機燃料との間の急速な発熱及び自己持続的な酸化還元反応を使用する。単なる一例として、硝酸カルシウム又は酢酸カルシウム及びリン酸水素二アンモニウムをそれぞれカルシウム源及びリン酸塩源として使用することができ、クエン酸、コハク酸及び尿素を燃料として使用することができる。燃焼法は、一般に他の相不純物を伴う高結晶性HAPを生成することができる。
【0037】
噴霧熱分解は、前駆体溶液を電気炉のホットゾーンの火炎に噴霧することからなる。前駆体は、例えばCa3(PO4)2、Ca(NO3)2.4H2O及び(NH4)2HPO4;Ca(C2H3O2)2(酢酸カルシウム)及び(NH4)2HPO4;Ca(NO3)2、(NH4)2HPO4及びHNO3;Ca(OH)2及びH3PO4又はCa(C2H3O2)2及び(CH3)3PO4である。HAP相は、一般に他のリン酸カルシウム相を伴う噴霧熱分解によって生成することができる。
【0038】
HAPは、その製造方法に応じて、結晶性、非晶質又は部分結晶性であってもよい。HAPが結晶性である場合、結晶は、棒状又は小板などの異なる形状を有し得る。結晶の形態は、HAPに異なる特性を付与し得る。
【0039】
本発明に適したHAPは、結晶性、非晶質又は部分結晶性であってもよい。結晶性HAPで良好な結果が得られた。一般に、本発明に適したHAPは、40m2/g~200m2/g、好ましくは40m2/g~180m2/gの範囲のBET比表面積を有する。一般に、本発明に適したHAPは、5μm~100μmの範囲、好ましくは5~60μmの範囲のレーザー回折によって測定されるD50サイズを有する。166m2/gの比表面積及び45μmのD50サイズを有する結晶性HAPで良好な結果が得られた。
【0040】
加えて、本発明に適したヒドロキシアパタイトの合成の例は、国際公開第15173437号パンフレットに見出すことができる。
【0041】
正極
本発明によるナトリウムイオン電池は、ナトリウムイオン電池のセル電圧及び容量ひいてはエネルギー密度を決定し、ナトリウムイオン伝導性材料、少なくとも1つの電子伝導性材料及び場合によりバインダーである、電気化学的に活性なカソード材料を含む正極又はカソードを含む。
【0042】
電気化学的に活性なカソード材料は、一般に、Na系層状遷移金属酸化物、プルシアンブルー類似体及びポリアニオン型材料から選択される。
【0043】
いくつかの実施形態では、電気化学的に活性なカソード材料は、酸素層の積層順序に応じてO3、P2、及びP3型として分類されるNa系層状遷移金属酸化物である。P2型構造は、一般に、一般式NaxMO2(式中、Mは、Co、Mnなどの遷移金属イオンを表し、xは2/3である)に応答する。
【0044】
いくつかの実施形態では、電気化学的に活性なカソード材料は、Na0.81Fe[Fe(CN)6]0.79□0.21、NaFe2(CN)6、Na1.63Fe1.89(CN)6、Na1.72MnFe(CN)6、Na1.76Ni0.12Mn0.88[Fe(CN)6]0.98、Na2NixCo1-xFe(CN)6(0≦x≦1、例えばNa2CoFe(CN)6)などの、0≦x≦2及び0≦y<1を有する、Aはアルカリ金属イオン、PはN配位遷移金属イオン、RはC配位遷移金属イオン、□は[R(CN)6]空孔を有する、一般式AxP[R(CN)6]1-y□y.mH2Oのプルシアンブルー類似体(PBA)である。
【0045】
いくつかの他の実施形態では、電気化学的に活性なカソード材料は、一連の四面体陰イオン単位(XO4)n-及びそれらの誘導体(XmO3m+1)n-を有する、一般式NaxMy(XO4)n(式中、X=S、P、Si、As、Mo及びWであり、Mは遷移金属である)のポリアニオン型材料である。このうち、NaFePO4、Na0.7FePO4、又はNaMnPO4などのリン酸塩NaMPO4;一般式NaxM2(XO4)3のNASICON型構造のナトリウム(natrium)(ナトリウム(sodium))超イオン伝導体(式中、1≦x≦4であり、M=V、Fe、Ni、Mn、Ti、Cr、Zrなどであり;X=P、S、Si、Se、Moなどである)、Na3V2(PO4)3(NVP)、Na3Cr2(PO4)3、Na3Fe2(PO4)3などの単一遷移金属型;Na2VTi(PO4)3、Na3FeV(PO4)3、Na4MnV(PO4)3、Na3MnZr(PO4)3、Na3MnTi(PO4)3、Na4Fe3(PO4)2(P2O7)(NFPP)などの二元遷移金属型;ピロリン酸塩Na2FeP2O7、Na2MnP2O7、Na2CoP2O7、Na4-xFe2+x/2(P2O7)2(2/3≦x≦7/8)、例えばNa3.12Fe2.44(P2O7)2又はNa3.32Fe2.34(P2O7)2、Na2(VO)P2O7、Na7V3(P2O7)4;フルオロリン酸塩NaVPO4F、Na2CoPO4F、Na2FePO4F、Na2MnPO4F、Na3(VO1-xPO4)2F1+2x(0≦x≦1)、例えばNa3(VOPO4)2F又はNa3V2(PO4)2F3(NVPF);NaMSO4F(M=Fe、Co、Ni)などのフルオロ硫酸塩;一般式Na4M3(PO4)2(P2O7)の混合リン酸塩/ピロリン酸塩(Mは遷移金属を表す)、例えば、Na4Mn3(PO4)2(P2O7)、Na4Co3(PO4)2(P2O7)、Na4Ni3(PO4)2(P2O7)、Na4Fe3(PO4)2(P2O7)(NFPP)、Na7V4(P2O7)4(PO4);Na2Fe2(SO4)3、Na2+2xFe2-x(SO4)3、Na2+2xCo2-x(SO4)3、Na2+2xMn2-x(SO4)3(0≦x≦1)などの硫酸塩;一般式Na2MSiO4(M=Mn、Fe、Co及びNi)のケイ酸塩である。
【0046】
いくつかの好ましい実施形態では、電気化学的に活性なカソード材料は、好ましくはNaVPO4F、Na2CoPO4F、Na2FePO4F、Na2MnPO4F、Na3(VO1-xPO4)2F1+2x(0≦x≦1)、例えばNa3(VOPO4)2F又はNa3V2(PO4)2F3(NVPF)からなるリストから選択されるフルオロリン酸塩である。
【0047】
電気化学的に活性なカソード材料がNa3V2(PO4)2F3(NVPF)である場合、良好な結果が得られた。分子式Na3V2(PO4)2F3のNVPF化合物では、バナジウムは+III酸化状態で存在する。NVPFは、部分酸化され得る。この場合に、生成物は、また+IV酸化状態でのバナジウムの存在によって並びに酸素原子によるフッ素原子の部分置き換えによって特徴付けられる。部分酸化NVPFは、式Na3V2(PO4)2F3-xOx(xは、0~2の整数である)で表され得る。これらの電気化学的に活性なカソード材料は、ヘテロ元素(Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Zrなど)でドープすることができる。
【0048】
正極はまた、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの類似体から選択され得る少なくとも1つの電子伝導性材料を含む。導電性材料の例は、Alfa Aesarによって販売される、Super Pカーボン、例えばH30253である。正極は、場合により、有利にはポリマーであり得るバインダーを含む。バインダーは、有利には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン又はフッ化ビニリデンと、例えば、ヘキサフルオロプロピレンなどの、少なくとも1種のコモノマーとのコポリマー、カルボキシメチルセルロースに由来するポリマー、多糖類及び、特にスチレン/ブタジエンゴムタイプの、ラテックスから選択される。バインダーは、好ましくは、フッ化ビニリデンと、例えば、ヘキサフルオロプロピレンなどの、少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーである。バインダーは、例えば、Solvayによって販売されるSolef(登録商標)5130グレードであってもよい。
【0049】
正極組成物は、70.0重量%~97.0重量%の電気化学的に活性なカソード材料、1.5重量%~15.0重量%の電子伝導性材料及び1.5重量%~15.0重量%のバインダーを含み得る。
【0050】
負極
本発明によるナトリウムイオン電池は、好適な電気化学的に活性なアノード材料、場合により1つの電子伝導性材料、及び場合によりバインダーを含む負極又はアノードを含む。
【0051】
一般に、電気化学的に活性なアノード材料は、炭素系材料、変換/合金化化合物及び合金化化合物から選択される。
【0052】
いくつかの他の実施形態では、電気化学的に活性なアノード材料は、膨張黒鉛、液体若しくは気相熱分解から得ることができる黒鉛化炭素であるソフトカーボン、又はセルロース、木炭、石炭、糖の固相熱分解によって形成された難黒鉛化炭素であるハードカーボンなどの非黒鉛化炭素、又はカーボンナノチューブ、グラフェン若しくはカーボンナノファイバーなどのカーボンナノ材料、及び有機金属骨格(MOF)系炭素材料から選択される炭素系材料である。
【0053】
いくつかの他の実施形態では、電気化学的に活性なアノード材料は、金属酸化物又は硫化物を化学変換によって何らかの新しい化合物に変換する変換/合金化材料である。適切な金属酸化物は、Fe3O4、SnO2、SnO、CuO、Co3O4、MoO3、MnO2、TiO2、NiO、MnOである。適切な金属硫化物は、MoS2、ZnS、SnS2、FeS、CuS、Sb2S3、Co3S4、NiS、MoS、WS2であり、適切な金属セレン化物は、Sb3Se3、MoSe2、FeSe2、ZnSe、NiSeである。適切な金属リン化物は、Se4P4、Sn4P3、CoP、FeP、MoP、CuP2である。
【0054】
いくつかの他の実施形態では、電気化学的に活性なアノード材料は、ナトリウムと合金を形成することができる元素である合金材料である。適切な合金材料は、一般に、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi及びそれらの混合物などの第14族及び第15族の元素から選択される。当該合金材料は、Co、Ni、Zn、Mo、Cu、Ti、Te又はFなどの不活性元素と混合されてもよい。
【0055】
いくつかの他の実施形態では、電気化学的に活性なアノード材料は、共役カルボキシラート有機化合物、シッフ塩基ポリマー、ポリアミド、ポリキノン又は共役ポリマーなどの有機材料である。
【0056】
電気化学的に活性なアノード材料がハードカーボンである場合、良好な結果が得られた。
【0057】
電気化学的に活性なカソード材料がNa3V2(PO4)2F3(NVPF)であり、電気化学的に活性なアノード材料がハードカーボンである場合、良好な結果が得られた。
【0058】
導電性材料は、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの類似体から選択され得る。導電性材料の例は、Alfa Aesarによって販売される、Super Pカーボン、例えばH30253である。バインダーは、有利には、ポリマーであり得る。バインダーは、有利には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン又はフッ化ビニリデンと、例えば、ヘキサフルオロプロピレンなどの、少なくとも1種のコモノマーとのコポリマー、カルボキシメチルセルロース(CMC)に由来するポリマー、多糖類、及び特にスチレン/ブタジエンゴム(SBR)タイプの、ラテックスから選択される。バインダーは、好ましくは、フッ化ビニリデンと、例えば、ヘキサフルオロプロピレンなどの、少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーである。バインダーは、例えば、Solvayによって販売されるSolef(登録商標)5130グレードであってもよい。
【0059】
負極組成物は、70.0重量%~98.0重量%の電気化学的に活性なアノード材料、0.0重量%~15.0重量%の電子伝導性材料及び1重量%~15.0重量%のバインダーを含み得る。
【0060】
セパレータ
ナトリウムイオン電池に有用なセパレータは、一般に、ポリプロピレン、ポリエチレン、PVDF、金属酸化物(SiO2、Al2O3)被覆ポリプロピレン又はポリエチレン、改質酢酸セルロース又は不織布マットを含む高多孔性ポリマー膜からなる。ガラス繊維不織布マット及びチタン酸バリウム系ポリマーセラミック膜も使用することができる。
【0061】
ガラス繊維不織布セパレータ(Whatman(登録商標)GF6)を用いて得られた良好な結果。
【0062】
電気化学的に活性なカソード材料がNa3V2(PO4)2F3(NVPF)であり、電気化学的に活性なアノード材料がハードカーボン及びガラス繊維不織布セパレータ(Whatman(登録商標)GF6)である場合、良好な結果が得られた。
【0063】
電解質組成物
電解質組成物は、多孔質セパレータを通るイオン輸送を促進するカソードとアノードとの間の接触媒体である。電解質組成物は、電気的絶縁を提供しながら、電荷移動反応に十分なイオンを含有している。電解質組成物は、液体、ゲル又は固体のいずれであってもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は液体であり、有機溶媒に溶解した塩を含む。単なる一例として、適切な塩は、NaBF4、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(NaTF)、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、ナトリウム4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール(NaTDI)、NaPF6、NaClO4又はこれらの混合物である。NaPF6を含む電解質組成物で良好な結果が得られた。
【0065】
更に例として、適切な有機溶媒は、エチレンカルボナート、プロピレンカルボナート、ビニレンカルボナート又はビニルエチレンカルボナートなどの非フッ素化環状カルボナート、フルオロエチレンカルボナートなどのフッ素化環状カルボナート、メチルエチルカルボナート、ジエチルカルボナート又はジメチルカルボナートなどの非フッ素化非環状カルボナート及びそれらの混合物である。網羅的ではないが、電解質組成物は、ジグリム、トリグライム、フッ素化カルボナート、フッ素化エーテル、フッ化水素化エーテル又はフッ素化エステルなどのいくつかの他の溶媒を含んでもよい。
【0066】
エチレンカルボナートとジメチルカルボナートとの混合物を含む電解質組成物で良好な結果が得られた。
【0067】
電気化学的に活性なカソード材料がNa3V2(PO4)2F3(NVPF)であり、電気化学的に活性なアノード材料がハードカーボン、ガラス繊維不織布セパレータ(Whatman(登録商標)GF6)であり、電解質組成物がNaPF6と、エチレンカルボナートとジメチルカルボナートとの混合物である場合、良好な結果が得られた。
【0068】
無機遷移金属陽イオントラップの組み込み
本発明による無機遷移金属陽イオントラップは、カソード、アノード、セパレータ、電解質組成物、又はそれらの任意の組合せにおいてナトリウムイオン電池に組み込むことができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、当業者に公知の任意の手段によってカソードに組み込まれる。例えば、電子伝導性材料及び場合によりバインダーを添加する前に、遷移金属陽イオントラップを電気化学的に活性なカソード材料と適時に混合することによって、組み込むことができる。更に例として、ヒドロキシアパタイトは、電子伝導性材料及び場合によりバインダーを添加する前に、電気化学的に活性なカソード材料と適時に混合することができる。ヒドロキシアパタイトは、プラネタリーミキサーで電気化学的に活性なカソード材料を添加する前に、NMPのような処理溶媒と混合することによって組み込むこともできる。
【0070】
いくつかの実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、当業者に公知の任意の手段によってアノードに組み込まれる。例えば、電子伝導性材料及び場合によりバインダーを添加する前に、無機遷移金属陽イオントラップを電気化学的に活性なアノード材料と適時に混合することによって、組み込むことができる。更に例として、ヒドロキシアパタイトは、場合により電子伝導性材料及び場合によりバインダーを添加する前に、電気化学的に活性なアノード材料と適時に混合することができる。ヒドロキシアパタイトは、プラネタリーミキサーで電気化学的に活性なカソード材料を添加する前に、NMPのような処理溶媒と混合することによって組み込むこともできる。
【0071】
いくつかの他の実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、当業者に公知の任意の手段によってセパレータに組み込まれる。例えば、セパレータを無機遷移金属陽イオントラップの水性懸濁液でコーティングし、更に乾燥させることによってである。更に例として、ヒドロキシアパタイトをセパレータにコーティングすることによって、ヒドロキシアパタイトをセパレータに組み込むことができる。アルミナをコーティングするために使用され、当業者に知られている方法を使用して、このコーティングを行うことができる。ヒドロキシアパタイトは、単独で、ポリマーで、又はポリマー及びアルミナなどの追加の無機材料でコーティングすることができる。
【0072】
いくつかの他の実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、電解質組成物中に当該遷移金属陽イオントラップの懸濁液を添加することによってナトリウムイオン電池に組み込まれる。例えば、ヒドロキシアパタイトは、その粉末を溶媒と混合し、次いでナトリウム塩を添加することによって、又は粉末を配合された電解質と混合することによって、電解質組成物に添加することができる。
【0073】
更にいくつかの他の実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、カソード及びセパレータのナトリウムイオン電池に組み込まれる。
【0074】
更にいくつかの他の実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、カソード、アノード及びセパレータのナトリウムイオン電池に組み込まれる。
【0075】
いくつかの他の実施形態では、無機遷移金属陽イオントラップは、カソード、アノード、電解質組成物中の懸濁液及びセパレータのナトリウムイオン電池に組み込まれる。
【0076】
ナトリウムイオン電池に組み込まれる無機遷移金属陽イオントラップの量は、一般に、電気化学的に活性なカソード材料の0.01重量%~10重量%に相当する。
【0077】
一般に、ナトリウムイオン電池に組み込まれるHAPの量は、電気化学的に活性なカソード材料(例えば、NVPF)の0.01重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%に相当する。
【0078】
遷移金属陽イオン
電気化学的に活性なカソード材料の上記の説明によれば、電解質組成物中の電気化学的に活性なカソード材料から溶解されやすい遷移金属陽イオンは、一般に、Mn4+、Mn3+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Cr2+、Cr3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、Mo6+、Ti4+、Zr4+、V2+、V3+、V4+、V5+及びそれらの組合せからなるリストから選択される。
【0079】
好ましくは、電解質組成物中の電気化学的に活性なカソード材料から溶解されやすい遷移金属陽イオンは、Mn4+、Mn3+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Cr2+、Cr3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、V2+、V3+、V4+、V5+及びそれらの組合せからなるリストから選択される。
【0080】
より好ましくは、電解質組成物中の電気化学的に活性なカソード材料から溶解されやすい遷移金属陽イオンは、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、V2+、V3+、V4+、V5+及びそれらの組合せからなるリストから選択される。
【0081】
更により好ましくは、電解質組成物中の電気化学的に活性なカソード材料から溶解されやすい遷移金属陽イオンは、V2+、V3+、V4+、V5+及びそれらの組合せからなるリストから選択される。
【0082】
本発明の別の目的は、前述の無機遷移金属陽イオントラップを含む正極を開示することである。本発明の正極は、前述の正極の全ての特徴を有することができる。
【0083】
本発明の更に別の目的は、前述の無機遷移金属陽イオントラップを含む負極を開示することである。本発明の負極は、前述の負極の全ての特徴を有することができる。
【0084】
本発明の別の目的は、前述の無機遷移金属陽イオントラップを含む電解質組成物を開示することである。本発明の電解質組成物は、前述の電解質組成物の全ての特徴を有することができる。
【0085】
最後に、本発明の別の目的は、前述の無機遷移金属陽イオントラップを含むセパレータを開示することである。本発明のセパレータは、前述のセパレータの全ての特徴を有することができる。
【0086】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、ある用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例】
【0087】
材料
Na3V2(PO4)2F3(NVPF)を、国際公開第2020025638A1号パンフレットの実施例1に従ってSolvayによって合成した。
【0088】
PVDFは、Solvay Specialty Polymersから入手し、グレードSolef(登録商標)5130であった。
【0089】
NaPF6は、Sigma Aldrichから入手した(純度>99%)。
【0090】
エチレンカルボナート(EC)及びジメチルカルボナート(DMC)は、Sigma Aldrichから購入した(純度>99%)。
【0091】
ヒドロキシアパタイトは、Solvay Soda Ash & Derivativesによって提供され、グレードCapterall(登録商標)(D50:45μm;比表面積166m2/g;Ca/P=1.6)であった。前述のように、本発明に適したヒドロキシアパタイトの合成の例は、国際公開第15173437号パンフレットに見出すことができる。
【0092】
ヒドロキシアパタイトの多孔性特性を、真空下、110℃で一晩(約16時間)の熱処理後に決定した。BET比表面積は、Micromeritics ASAP2020機でのガス吸着によって決定した。分析の前に、4~5μbarの安定した真空が達成されるまで、サンプル(0.7~1g)を真空下、110℃で前処理する。測定は、ISO9277:2010規格(ガス吸着による固体の比表面積の決定-BET法)に従って、体積測定法により77°Kで吸着剤ガスとして窒素を使用して行った。BET比表面積は、約0.05から0.20まで変化する相対圧力(P/P0)範囲で計算した。
【0093】
ヒドロキシアパタイトの粒度測定は、水中に懸濁させた粒子について、Beckman Coulter LS230レーザー回折式粒度分析計(波長750nmのレーザー)を用いて、フラウンホーファー回折理論(10μmを超える粒子)及びミー散乱理論(10μm未満の粒子)に基づく粒度分布計算を使用して行い、粒子は球形であるとみなした。平均直径D50は、粒子の50重量%が当該値未満の直径を有するような直径である。
【0094】
電極:
正極は、NVPF(Na3V2(PO4)2F3)と、カーボンブラック及びPVDFとを、それぞれ94:3:3の重量比で、12mg/cm2の負荷で配合したものであった。カソードにはアルミニウム集電体(厚さ20μm)を使用した。
【0095】
ハードカーボン(HC)電極は、ハードカーボンと、カーボンブラック及びPVDFとを、それぞれ94:3:3の重量比で、6mg/cm2の負荷で配合したものであった。アノードにはアルミニウム集電体(厚さ20μm)も使用した。
電極をそれぞれ直径14mm及び直径16mmで打ち抜き、グローブボックス(H2O<10ppm、O2<5ppm)で使用する前に真空下で120℃のBuchiオーブンで12時間乾燥させた。
【0096】
電解質の調製:
EC:DMC中の1モル/LのNaPF6溶液(重量比で1:1)を、15mLのNalgeneバイアル中に0.84gのNaPF6(白色粉末)を導入し、次いで5mL(5.95g)のEC:DMC(重量比で1:1)を導入することによってグローブボックス中で調製した。塩が完全に溶解するまで溶液を手動で撹拌した。
【0097】
コインセルの実装:
8個のCR2032inoxコインセルを、以下の成分を使用してグローブボックス(H2O<10ppm、O2<5ppm)中で調製した:
・1つのステンレス鋼スペーサ(厚さ0.5mm)、
・1つのNVPF電極(直径14mm)、
・1つのガラス繊維セパレータ(直径16mm、厚さ250μm)、
・1つのHC電極(直径16mm)、
・1つのステンレス鋼スペーサ(厚さ1mm)、
・1つのスプリング(厚さ1.4mm)。
【0098】
コインセルを、EC:DMC(重量比で1:1)電解液中の130μLの1モル/LのNaPF6で満たし、過剰の電解質を封止前に除去した。
【0099】
NVPF電極を、2032(直径20mm×厚さ3.2mm)ボタンセル構造で、ハードカーボン(HC)負極に面して、完全セル構成に組み立てた。ボタンセルは、NVPF正極、HC負極、100μlの電解質、1mmの厚さのステンレス鋼電流スペーサ、1.4mmの厚さのリング状スプリング、250μmの厚さのガラス繊維セパレータ及びセルの硬質ケーシング(シールと連結した2つの中空ピース)からなっていた。これらの要素を、硬質ケーシングの内側でスプリングによる圧力下に保ち、その後、システムの漏れ防止を保証するために圧着された。
【0100】
サイクル条件:
OCVで12時間後、セルをBiologic MPG 2ポテンショスタット上で室温にて2V~4.25VのC/10レート(1Cは128mA/gNVPFである)で5回サイクルし、次いで4.25Vまで同じCレートでチャージした。チャージしたセルのOCVは、最後の充電後に全て4.10Vを超えていた。
【0101】
セルの分解:
チャージしたコインセルを、Hohsen分解ツールを使用してグローブボックス内で開き、NVPF電極を回収した。
【0102】
NVPF電極からのバナジウムの溶解:
8つのチャージしたNVPF電極を回収し、EC:DMC(重量比で1:1)電解液(30mLのNalgeneバイアル中の溶媒20mL(23.59g)中の3.365gのNaPF6)中の1モル/LのNaPF6 20mLに浸漬した。30mLの密封したNalgeneバイアルをパラフィルムで密封し、55℃のグローブボックス外のオーブンに7日間入れた。このエージング工程の後、質量変化は検出されず、電解質は緑色に変化した。
【0103】
HAP分散液の調製:
カレンダエージング後、バイアルをグローブボックス中で開き、エージングした電解質を8つのNalgeneバイアル(それぞれ2.5mL)に分けた。2つを参照として保持し、異なる量のヒドロキシアパタイト(Solvay Soda Ash & Derivativesによって提供されるSolvay Capterall(登録商標))を表1に従って他に添加した。次いで、バイアルをパラフィルムで再び密封した。
【0104】
【0105】
異なる分散液をグローブボックスから出し、室温で24時間磁気撹拌した。
【0106】
投入方法:
ヒドロキシアパタイトの沈降後、上清をグローブボックス内で抽出した。次いで、バナジウムをICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)によってAnalytic Jena PQ 9000 Eliteに投入した。サンプルをマイクロ波(一般的な反応方法)によって無機化し、8mLのHNO3(67%)を約200mgの上清に添加した。次いで、サンプルを約30mLの超純水で(質量で)希釈し、バナジウム投入のために再び(体積で)半分に希釈した。
【0107】
290.881~292.464nmのスペクトル線を使用して、0.05/0.1/0.2/0.3mg/L溶液で外部較正を行った。
【0108】
バナジウム濃度を質量で報告した。各参照について2つの試験サンプルを行い、これらの2つの試験サンプルの分析は再現可能であった。不確実性を10%と評価した。
【0109】
表1に報告された結果は、ヒドロキシアパタイトの沈降後に電解質組成物中の溶液中に残存するバナジウム種の量が、バイアル中に存在していたヒドロキシアパタイトの量に依存することを示している。従って、ヒドロキシアパタイトは、当該陽イオンが溶解している電解質組成物と接触して存在する場合、バナジウム陽イオントラップの役割を果たすことが明らかである。
【国際調査報告】