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特表2024-528583事前鋳型化インスタント隔壁を生成するためのデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】事前鋳型化インスタント隔壁を生成するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500510
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 US2022036464
(87)【国際公開番号】W WO2023283408
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】63/220,097
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523436964
【氏名又は名称】フルーエント バイオサイエンシーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】キアニ, セファー
(72)【発明者】
【氏名】アリッキオ, コーリー
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA15
4B029BB01
4B029DG10
(57)【要約】
本発明は、事前鋳型化インスタント隔壁を生成するためのデバイスを提供する。デバイスは、ボルテキサなどのせん断機構と、液体を含む容器をボルテキサに保持するためのホルダと、対流により容器の温度を調節するための温度制御ユニットとを含んでよい。本発明はまた、そのようなデバイスを使用して事前鋳型化インスタント隔壁内の検体を処理する方法を提供する。本発明は、一般に、生体試料を調製するためのデバイスおよび方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
事前鋳型化インスタント隔壁を生成するためのデバイスであって、
少なくとも1つの容器に含まれる液体を複数の事前鋳型化インスタント隔壁にせん断するためのボルテキサと、
前記少なくとも1つの容器を前記ボルテキサに固定するためのホルダと、
対流により前記液体の温度を調節するように動作可能な温度制御ユニットと
を備えるデバイス。
【請求項2】
前記ホルダは、異なるサイズまたは形状の1つまたは複数の容器を収容可能なクランプを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ホルダは、前記ボルテキサが前記液体をせん断する間に、前記少なくとも1つの容器を実質的に鉛直な位置に保持するように動作可能である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記ホルダは、前記ボルテキサが前記液体をせん断する間に、前記少なくとも1つの容器を実質的に水平な位置に固定することと実質的に鉛直な位置に固定することとの間で移動するように動作可能である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記ボルテキサは、前記少なくとも1つの容器を少なくとも5,000回転/毎分の速度でボルテックスすることにより前記液体をせん断するように動作可能である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記温度制御ユニットは、前記温度制御ユニット内の流体を第1の温度まで加熱するための第1の導管を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記温度制御ユニットは、前記流体を第2の温度まで冷却するための第2の導管を備える、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記温度制御ユニットは、バルブを備え、前記バルブは、第1の位置および第2の位置を備え、前記バルブが前記第1の位置にあるとき、流体が前記第1の導管を通って流れることが阻止される、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスは、光学系をさらに備え、前記光学系は、
前記少なくとも1つの容器に光を送出するように配置された光源と、
前記少なくとも1つの容器に含まれる前記液体からの光を検知するように配置された光検出器と
を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ボルテキサおよび前記光学系に結合された制御システムをさらに備える、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記制御システムは、前記送出光に応じて、前記少なくとも1つの容器に印加されるせん断エネルギーを変化させるように前記ボルテキサの速度を制御する、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記制御システムは、前記液体が実質的に単分散であるときに、前記少なくとも1つの容器に前記せん断エネルギーを印加することを停止するように前記ボルテキサに指示する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスは、3Dプリンティングにより製造された少なくとも1つの構成要素を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
事前鋳型化インスタント隔壁を生成するための方法であって、
液体を含む少なくとも1つの容器を、ボルテキサ、前記少なくとも1つの容器を前記ボルテキサに固定するように構成されたホルダ、および前記ホルダと流体連通する温度制御ユニットを備えるデバイスと接触させることと、
前記少なくとも1つの容器内の前記液体を複数の事前鋳型化インスタント隔壁にせん断するように前記デバイスを動作させることであって、前記複数の事前鋳型化インスタント隔壁の各々は、1つの検体を含むかまたは検体を含まないことと、
前記温度制御ユニットを用いて、対流により前記少なくとも1つの容器を加熱することと
を含む方法。
【請求項15】
前記液体を約5,000回転/毎分の速度でボルテックスすることをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第1の導管を介して所定の温度の流体を前記ホルダに供給することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
第2の導管を介して第2の所定の温度の第2の流体を前記ホルダに供給することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの容器内の前記液体に光を送出することと、
前記少なくとも1つの容器内の前記液体からの前記送出光を検知することと
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの容器内の前記液体からの前記送出光を基準と比較することと、
前記比較に応じて前記ボルテキサの速度を調節することと
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
第1の流体を前記ホルダに供給することで前記少なくとも1つの容器を加熱することにより、前記事前鋳型化インスタント隔壁のうちの1つまたは複数の内部の検体を処理することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、生体試料を調製するためのデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
早期発見は、多数の疾患の治療の成功に対する大きな障壁となっている。例えば、がんは、単一細胞内でのゲノム変異から生じる。それらの変異により、細胞が急速に増殖し他の組織に侵入することが可能となる。しかしながら、初期段階では、遺伝子改変細胞は、特定の組織または集団における細胞のほんの一部分のみに相当し、早期に発見されれば、より容易に根絶することができる。
【0003】
がんの早期発見を促進するために、個々の細胞の隔離および分析を可能とするマイクロ流体システムが開発されてきた。残念ながら、マイクロ流体デバイスの使用は、専用のハードウェアおよび高度に専門的な技能を必要とする。そのため、マイクロ流体システムは、ほとんどの研究施設または臨床施設には単純に費用効果が低い。結果として、毎年数百万の初期段階疾患の事例が、それらの疾患の治療を成功させる可能性のある時期が実質的に限られていく中で、発見されないままとなっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
本発明は、事前鋳型化インスタント隔壁を用いて細胞を分離し処理するためのデバイスを提供する。結果として、本発明のデバイスは、がんの初期段階における発がん性細胞などの少量で存在する異常な細胞または分子を検出することにより、臨床診断ワークフローを促進するのに有用である。具体的には、本発明は、数百万の細胞を含む試料などのバルク試料から単一容器において多数の事前鋳型化インスタント隔壁を生成するためのデバイスおよび方法を提供する。事前鋳型化インスタント隔壁は、容器内の液体をせん断することで、均一なサイズの液滴のほぼ瞬間的な自己集合を生じさせることにより形成される。液滴は、液滴の鋳型として機能する鋳型粒子の周りに形成され、液滴内の単一検体を処理のために分離することを容易にする。各液滴は、超並列規模での多数の細胞または細胞物質の同時処理を可能とする個別の「反応チャンバ」として機能する。細胞または細胞物質は、非常に急速な温度変化を可能とする対流熱伝達を用いて処理される。事前鋳型化インスタント隔壁の温度を制御することにより、核酸増幅、逆転写、および配列決定などの反応を、膨大な数の試料に対して同時に独立して行うことができる。
【0005】
本発明のデバイスは、容器ホルダおよび温度制御ユニットに結合された、ボルテキサなどのせん断機構を含む。検体を有する液体、すなわち水溶液および油の混合物を含む容器がホルダに配置されると、デバイスは、液体にせん断エネルギーを印加する。制御されたせん断力により、デバイスは、実質的に単分散の液滴(事前鋳型化インスタント隔壁)のエマルジョンを生成する。
【0006】
事前鋳型化インスタント隔壁を生成することにより、本発明のデバイスは、単一細胞または分子などの個々の標的をバルク生体試料から隔離することを可能とする。例えば、数百万の個々の標的細胞を、単一の反応容器に含まれるエマルジョン中の別個の流体隔壁に捕捉することができる。液滴は、PCRなどの試料調製ステップを実行するための個々のマイクロ反応器として機能する。よって、デバイスは、バルク液体中の単一の標的細胞または分子の大規模な並列処理を実行することができる。
【0007】
本発明のデバイスは、多数の利点を有する。例えば、最も従来的なマイクロ流体システムは、既成のマイクロ流体チップおよび精巧なマイクロ空気圧システムを必要とする。マイクロ流体チップは、生産に多額の費用を要し、生産規模を変更するために容易に適合させることができない。加えて、マイクロ流体システムの設置および使用には、相当な訓練が必要となる。これに対し、本発明のデバイスは、0.5ミリリットルのマイクロ遠心チューブなどの標準的なマイクロ遠心チューブまたはアッセイプレートと共に使用することができ、その使用には、大規模な設置、メンテナンス、または技術的訓練が必要でない。実際、本発明のデバイスは、様々な形状またはサイズのチューブを収容することができ、これは、デバイスを既存の分子生物学ワークフローに組み込むのに有用である。
【0008】
本明細書において提供されるデバイスは、一体化されたせん断機構、例えばボルテキサ、および急速温度制御機構を含むので、事前鋳型化インスタント隔壁を生成するための従来のボルテキサよりも使用が容易でもあり、多数のライブラリ調製ステップを自動化するのに有用でもある。他の市販のボルテキサを使用して不混和性の液体を混合した場合、事前鋳型化インスタント隔壁が形成される程度が適切に制御されない。不十分な混合により、サイズの不均一な隔壁が生じ、一方で、過度な混合は、液体隔壁の生体内容物を、損傷を生じさせ得る不要な力にさらす。両方の事例において、下流のライブラリ調製が悪影響を受ける。加えて、デバイスは、温度制御ユニット(例えば対流サーモサイクラ)を含むので、本発明のデバイスは、特定のライブラリ調製ステップを高速に、かついかなる人的介入もなく実行することができる。これは、試料調製時間を短縮し、人的エラーの可能性を最小化するのに有用である。
【0009】
加えて、温度制御ユニットは、対流の法則に従って動作する。そのため、温度制御ユニットは、試料調製中において、容器内の試料の温度を急速に変化させるように動作可能である。実際、試料温度変化が生じ得る速度は、特定の反応の時間の長さを短縮する。これは、試料をより迅速に調製するのに有用であり、一方で、mRNA分解などの試料の劣化の可能性を最小化する。本発明のデバイスは、個々の隔壁内に分離された単一細胞の溶解、隔壁内の捕捉プローブによる検体(例えばRNA、DNA、またはタンパク質)の標的捕捉、PCR、cDNA合成等のような特定のライブラリ調製方法を自動化するために使用することができる。ライブラリ調製を自動化することができるので、人的エラーのおそれが実質的に低減する。
【0010】
好ましい実施形態において、温度制御ユニットは、強制対流により動作する。強制対流は、試料温度を急速に変化させることができ、それにより、例えばポンプまたはファンを用いて、容器を固定するホルダに所定の温度の流体を迅速に供給することにより、酵素反応を促進することができる。強制対流を用いることにより、本発明のデバイスは、試料をより迅速に、より精度良く処理し、プロセスにおいて消費するエネルギーをより少量にし、それによりコストを節減することができる。試料温度を調節するために加熱ブロックが加熱または冷却されることを待機する必要がある従来のサーモサイクラとは異なり、本発明のデバイスは、強制的な流体の移動により、試料との間で迅速に熱を伝達する。強制対流を用いることにより、本発明のデバイスは、少なくとも25パーセント増しで迅速に、検体を処理(例えば核酸を捕捉または増幅)することができる。
【0011】
一態様において、本発明は、事前鋳型化インスタント隔壁を生成するためのデバイスを提供する。デバイスは、少なくとも1つの容器に含まれる液体をせん断するためのせん断機構、すなわちボルテキサを含む。液体は、一般に、油で覆われた検体(例えば細胞)を含む水溶液の混合物を含む。液体をせん断すると、液体は、ほぼ瞬間的に複数の隔壁に分かれ、複数の隔壁のかなりの部分は、1つの検体を含むか、または検体を含まない。
【0012】
本発明のデバイスは、少なくとも1つの容器をボルテキサに固定するためのホルダを含む。ホルダは、異なる形状およびサイズの1つまたは複数の容器を収容するように設計されることが好ましい。例えば、好ましい実施形態において、ホルダは、クランプである。そのため、ホルダは、1つまたは複数のチューブ(例えば0.5ミリリットルのマイクロ遠心チューブ)、チューブのストリップ(例えば2、3、4、6、8、10、12またはそれよりも多くのチューブのストリップ)、15ミリリットル円錐チューブ、またはマルチウェルプレート(例えば2、4、6、8、12、24、48、96、192、384、またはそれよりも多くのウェルを有するプレート)などの任意の数または任意の種類の容器を固定することができ、これは、高スループットのアプリケーションに有用である。
【0013】
本発明のデバイスは、温度制御ユニットをさらに含む。温度制御ユニットは、ホルダに格納される容器から熱を伝達および除去するために流体がデバイス内で導管を通して押し進められる、強制対流により動作することが好ましい。温度制御ユニットは、所定の温度の流体を供給することにより容器内の試料の温度を急速にかつ精度良く変化させることができ、これは、複数の隔壁内の検体を処理するのに有用である。したがって、本発明のデバイスは、液体内に検体を含む容器を急速にボルテックスし、細胞溶解および標的捕捉またはPCRなどの様々な反応を調整するように容器内の温度を急速に調節することにより、事前鋳型化インスタント隔壁を生成し、それらの隔壁内の検体を処理するのに有用である。
【0014】
試料の隔離を促進するために、本発明のデバイスは、高速で容器をボルテックスするように動作可能である。例えば、本発明のデバイスは、最大で約5,000回転/毎分のボルテックス速度を実現することができる。加えて、本発明のデバイスは、ボルテックスを実行することを可能とする一方で、容器が1つまたは複数の異なる位置に保持され、これは試料の適切な混合を実現するのに有用である。例えば、本発明のデバイスは、液体をせん断するときに、少なくとも1つの容器を実質的に鉛直な位置に保持するように動作可能なホルダを含んでよい。ホルダは、液体をせん断するときに、試料を実質的に水平な位置に保持してもよい。あるいは、ホルダは、少なくとも2つの異なる位置の間を行き来してよい。例えば、ホルダは、液体をせん断する間の異なる時点において、容器を実質的に水平な位置に保持し、次いで実質的に鉛直な位置に保持してもよく、またはその逆を行ってもよい。
【0015】
標準的なサーモミキサは、一般に等温である。それらは、伝導により加熱および冷却を行うために取り付けられるヒータを有するカスタムの機械加工ブロックを有する場合がある。しかしながら、これは、温度遷移に対して敏感な多数のPCRまたは他の分子生物学反応を行うのに必要な急速な温度変化を可能としない。これに対して、本発明のデバイスは、強制対流を用いて、隔壁の温度を、またそれによりその内部の反応の温度を調節することが可能な温度制御ユニットを含む。これは、特にさらに熱伝達を向上させる同時の試料混合の追加により、熱を伝達するのにかかる時間の長さを劇的に変化させる。このプロセスにより、ePCR(これは標準的なPCRサイクルよりも2~6倍長い)のためのより短いPCRサイクルが可能となる。これは、本発明のデバイスが加熱および冷却を行うことが可能な速度が、いかなる従来のサーモミキサよりも一桁分高速であるためである。この急速かつ高精度な温度サイクルにより、とりわけ、制御された細胞溶解、および、例えば鋳型粒子に結合された捕捉プローブによる標的(例えばRNA、DNA、タンパク質)の捕捉が可能となる。一部のアプリケーションにおいては、事前鋳型化インスタント隔壁内でのPCR(例えばdPCR)が望ましい。急速な熱サイクルにより、同じ器具における統合されたエマルジョンおよびPCRが可能となり得る。
【0016】
好ましい実施形態において、本発明のデバイスは、流体が押し進められる1つまたは複数の導管を有する温度制御ユニットを含む。流体は、1つまたは複数の導管内で予め選択された温度まで加熱または冷却されてよい。例えば、温度制御ユニットは、流体を第1の温度まで加熱するための第1の導管を含んでよい。流体は、流体を第1の導管に通過させることにより、第1の温度まで選択的に加熱されてよい。流体を第1の導管に通過させた後、ポンプまたはファンにより、流体をホルダに向かって流し、それによりそこに含まれる試料を加熱することができる。温度制御ユニットは、流体を第2の温度まで冷却するための第2の導管をさらに含んでよい。流体を第2の導管に通過させることにより、流体は、第2の温度まで選択的に冷却されてよい。試料処理の間、第1の導管と第2の導管との間で流体の流れを交互に入れ替え、それにより流体をそれぞれ加熱および冷却することにより、試料温度を管理することができる。流体の流れを導管の間で交互に入れ替えることにより、容器内の試料の温度を循環させることができる。
【0017】
例えば、第1の導管は、流体(例えば空気)を第1の温度(例えば摂氏90度超)まで加熱することができる。デバイスにより容器内の液体をせん断した後、またはそれと同時に、第1の温度の流体を、隔壁を含む容器の近傍のまたはそれと接する領域に供給して、それらの隔壁内に含まれる単一細胞を溶解させることができる。細胞溶解の後、例えばバルブの位置を変化させることにより、第2の導管を通るように流体を誘導するように流体の流れが方向転換されてよい。流体を第2の導管に流すことにより、流体が第2の温度(例えば摂氏80度未満)まで急速に冷却され、これがその後、容器の近傍のまたはそれに接する領域に供給されることにより、試料温度を冷却し、単一細胞から放出された検体の捕捉を生じさせる。
【0018】
いくつかの実施形態において、本発明のデバイスは、事前鋳型化インスタント隔壁の形成の監視および/またはそこで行われる反応の監視を行うための光学系をさらに含む。したがって、「ブラックボックス」であり、生成プロセス中における産物の目視検査を可能としない従来のサーモミキサとは異なり、本発明のデバイスは、1つまたは複数のライブラリ調製ステップの全体にわたって品質を可視化および監視するための光学系を備える。光学系は、1つまたは複数の光源および1つまたは複数の光検出器を含んでよい。各光源は、容器内の液体に光を送出するように配置されてよい。各光源は、容器の異なるウェル内の液体に光を送出するように配置されてよい。各光検出器は、異なる容器内の液体からの送出光(例えば光散乱)を検知するように配置されてよい。各光検出器は、容器の異なるウェル内の液体からの送出光を検知するように配置されてよい。光源は、レーザ、発光ダイオード、または水銀アークランプなどのランプのうちのものであってよい。
【0019】
本発明のデバイスは、制御システムをさらに含んでよい。制御システムは、ボルテキサおよび光学系に結合されてよい。制御システムは、送出光に応じてボルテキサの速度を制御してよい。制御システムは、ボルテキサの速度を増大または減少させてよい。制御システムは、ボルテキサを始動または停止させてよい。制御システムは、液体が実質的に単分散の液滴を含む場合に、液体にせん断エネルギーを印加することを停止するようにボルテキサに指示してよい。
【0020】
加えて、コストを低減し、部品最適化および製造のための柔軟性を向上させるために、本発明のデバイスは、3Dプリンティングにより製造される少なくとも1つの構成要素を含む。一部の事例において、ハウジングまたはホルダが、3Dプリンティングにより製造される。そのため、本発明のデバイスは、様々な容器のサイズまたは形状に適応するように迅速にかつ安価に改変することができ、これは、ライブラリ調製プロセスをスケールアップまたはスケールダウンするのに有用である。本発明のデバイスは、3Dプリンティングを用いて、一体化された断熱材、すなわちハニカムインフィルを作製することができる。本発明のデバイスは、3Dプリンティングを用いて、新たな部品および交換部品を迅速にかつ効率的にプリントすることにより、現場の機械整備を促進することもできる。
【0021】
別の態様によれば、本発明は、事前鋳型化インスタント隔壁を生成するための方法を提供する。方法は、液体を含む少なくとも1つの容器を、ボルテキサ、少なくとも1つの容器をボルテキサに固定するためのホルダ、およびホルダと流体連通する温度制御ユニットを備えるデバイスと接触させることを含む。方法は、少なくとも1つの容器内の液体を複数の事前鋳型化インスタント隔壁にせん断するようにデバイスを動作させることをさらに含み、複数の事前鋳型化インスタント隔壁の各々は、1つの検体を含むか、または検体を含まない。例えば、液体をせん断するようにデバイスを動作させることは、液体を5,000回転/毎分の速度でボルテックスすることを伴ってよい。
【0022】
本発明の方法は、事前鋳型化インスタント隔壁を作製し、それらの隔壁内の試料物質を高速に処理するのに有用である。本発明のデバイスは、強制熱対流により迅速にかつ効率的に温度を調節するためのモジュールを含むことが有利である。したがって、本発明のいくつかの実施形態は、第1の導管を介して所定の温度の流体をホルダに向かって供給することを含む。第1の導管は、流体を第1の所定の温度まで急速に加熱するための固体加熱機構を含んでよい。加えて、本発明の方法は、第2の導管を通るように流体の流れを誘導することをさらに含む。第2の導管は、流体を急速に冷却するためのペルチェを備える。冷却された流体は次いで、ホルダに向かって流れて試料液体を冷却する。
【0023】
方法は、事前鋳型化インスタント隔壁の自動化された生成のために、または隔壁内で行われる反応を自動化するためにデバイスを動作させることを含んでよい。例えば、本発明の方法は、少なくとも1つの容器内の液体に光を送出し、少なくとも1つの容器内の液体からの送出光を検知することを含んでよい。いくつかの実施形態において、方法は、少なくとも1つの容器内の液体からの送出光を基準と比較し、比較に応じてボルテキサの速度を調節することを含む。方法は、少なくとも1つの容器内の液体からの送出光を基準と比較することを含んでよい。基準は、せん断力にさらされていない試料からの送出光であってよい。基準は、事前鋳型化インスタント隔壁を有する試料からの送出光であってよい。事前鋳型化インスタント隔壁は、規定されたサイズまたはサイズ範囲を有してよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、事前鋳型化インスタント隔壁を作製するための例示的なデバイスを示す。
図2図2は、例示的な温度制御ユニットを示す。
図3図3は、例示的なホルダの画像を示す。
図4図4は、調節可能ラッチ機構を示す。
図5図5は、本発明の一実施形態に係るデバイスを示す。
図6図6は、異なる実施形態に係る事前鋳型化インスタント隔壁を作製するためのデバイスを示す。
図7図7は、対流加熱中におけるデバイス内の経時的な温度変化を示す。
図8図8は、対流冷却中におけるデバイス内の経時的な温度変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本発明は、均一なサイズの事前鋳型化インスタント隔壁を生成し、それらの隔壁内の検体を処理するための試料調製装置を提供する。事前鋳型化インスタント隔壁の形成は、単一細胞または単一分子などの個々の標的を個別処理のために既定の体積の液体を含む別個の隔壁内に捕捉することを可能とするので、多様な研究および診断アプリケーションに有用である。液体は、隔壁内で様々な試料処理反応を行うための試薬を含んでよい。その後の隔壁の操作により、核酸増幅、逆転写、および配列決定などの反応を、膨大な数の試料に対して同時に独立して行うことができる。結果として、デバイスは、がんの初期段階における発がん性細胞などの少量で存在する異常な細胞または分子の検出に有用である。
【0026】
個々の標的を含む反応セルの有用性は、分子生物学において長年にわたり認識されていたが、個々の標的を含む液滴のエマルジョンを作製するための従来のシステムには問題がある。個別の反応セルを得ることは、単分散の、すなわち均一なサイズの液滴の生成に依拠する。単分散液滴は、マイクロ流体システムを使用して生成されてよい。マイクロ流体システムは通常、液体の適切な混合を可能とするために、カスタム設計された流体チャネルを有するマイクロ流体チップへの2種類またはより多くの種類の液体の制御された注入を伴う。マイクロ流体システムの設計は、投入液体に基づく特定のサイズの液滴を生成するように最適化される必要があるので、マイクロ流体チップは一般に、アプリケーションごとに異なるサイズの液滴を生成するように適合させることができない。加えて、チップは、予め製造される必要があり、通常は再利用できないため、高価である。最後に、マイクロ流体圧送システムの設置およびメンテナンスは容易でなく、一定レベルの熟練した専門技能を必要とする。本明細書に記載のデバイスは、それらの欠陥を回避する。
【0027】
デバイスは、試験管またはマルチウェルプレートなどの単純な容器内でのバルク液体(数百万またはそれよりも多くの検体、例えば細胞を含む液体)からの事前鋳型化インスタント隔壁の製造を可能とし、そのため、特殊な使い捨ての消耗品を必要としない。加えて、液滴のサイズおよび内容物は、液体に添加される下記で詳細に論じる粒子のサイズにより決定されるので、デバイスは、投入される粒子の内容物を変更することにより、異なる特性を有する液滴を生成するように容易に適合させることができる。加えて、デバイスは、使用が簡単であり、使用ごとの大規模な清掃またはメンテナンスを必要としない。
【0028】
加えて、本発明のデバイスは、試料温度を急速にかつ精度良く変化させることにより、特定の実験調製ステップを実行するのに有用である。急速な温度変化を促進するために、本発明のデバイスは、一般に、試料調製中に容器が固定される環境の温度を急速に変化させるように動作可能な対流ベースの温度制御ユニットを含む。例えば、温度制御装置は、ユーザ入力を受け取るように動作可能なインターフェースを介してデバイスに命令をプログラミングすることにより、温度を上昇または低下させるために使用されてよい。本発明のデバイスは、個々の隔壁内に分離された単一細胞の溶解、隔壁内の捕捉プローブによる検体(例えばRNA、DNA、またはタンパク質)の標的捕捉、PCR、qPCR、デジタルPCR、cDNA合成等のような特定のライブラリ調製方法を自動化するために使用することができる。ライブラリ調製ステップは、自動処理のために予めプログラミングすることができるので、本発明のデバイスは、人的エラーの可能性を実質的に低減する。
【0029】
好ましい実施形態において、温度制御ユニットは、熱対流により試料温度を制御する。対流、または対流熱伝達は、空気または水などの流体の移動による熱の伝達を伴う。流体が熱源、例えばヒータから離れるように移動させられると、熱エネルギーがそれと共に搬送される。対流ベースの温度制御ユニットは、所定の温度の流体を容器へとまた容器から離れるように迅速に移動させることにより、容器の温度を急速に調節するのに有用である。加えて、流体の一部分を試料ホルダとは別個の1つまたは複数の導管内で所望の温度に維持することができるので、所望の温度まで予め加熱され得る流体をホルダへと押し進める(例えば圧送する)ことにより、容器の温度を、またそれによりその内部の試料を、迅速にかつ効果的に変化させることができる。したがって、従来のサーモサイクラとは異なり、本発明のデバイスは、試料温度を調節するために加熱ブロックが加熱または冷却されることを待機する必要がない。
【0030】
図1は、事前鋳型化インスタント隔壁を作製するための例示的なデバイス101を示す。デバイス101は、少なくとも1つの容器に含まれる液体をせん断するためのボルテキサ103を含む。デバイス101はまた、少なくとも1つの容器をボルテキサ103に固定するためのホルダ105を含む。デバイスは、少なくとも1つの容器内の試料の温度を急速に変化させるための温度制御ユニット107をさらに含む。特に、温度制御ユニット107は、対流により流体の温度を管理する。温度制御ユニットはさらに、試料へのまたは試料から離れる熱の伝達を制御するために、デバイスを通る流体の流路を管理する。
【0031】
ホルダ105は、少なくとも1つの容器をデバイス101のフレーム109に固定するように設計される。ホルダ105は、少なくとも1つの容器を保持するのに好適な任意のデバイスであってよい。ホルダ105は、クランプ、プラットフォーム、ラック、またはトレイであってもよく、またはそれを含んでもよい。ホルダは、様々なサイズおよび形状の容器を容易に収容するためのクランプを含むことが好ましい。クランプ(不図示)は、プラットフォーム、ラック、またはトレイと一体であってもよく、あるいはプラットフォーム、ラック、またはトレイとは別個であってもよい。
【0032】
ホルダ105は、液体をせん断する間に、ホルダ105がフレーム109に対する移動を吸収することができるように、フレーム109に装着されてよい。例えば、ホルダ105は、ホルダ105により保持される容器内の液体にせん断力を印加する目的で、液体をせん断する間に、ホルダ105が円形動作で振動または旋回する、かつ/または水平面もしくは鉛直面のうちの1つもしくは複数に沿って移動することができるように装着されてよい。
【0033】
せん断力は、典型的には油の被膜を有する水性液体である液体に事前鋳型化インスタント隔壁を生成するために、試料に印加される。特定の範囲内のせん断力を印加することにより、事前鋳型化インスタント隔壁の最適な生成が実現されてよい。例えば、せん断力が不十分である場合、複数の隔壁鋳型化粒子を含む大きな液滴が、単一粒子の液滴に割れないおそれがある。他方、過度なせん断力は、粒子および/または液滴により捕捉すべき標的を損傷させるおそれがある。
【0034】
特定の実施形態において、せん断力は、試料をボルテックスまたは撹拌することにより印加される。試料は、ホルダ105に固定されている間に、フレーム109に対するホルダ105の移動を駆動するモータ駆動撹拌機(ボルテキサ)の作動によりボルテックスされてよい。試料は、規定された期間にわたってボルテックスまたは撹拌されてよい。例えば、限定ではないが、試料は、約1秒、約2秒、約4秒、約6秒、約8秒、約10秒、約15秒、約20秒、約30秒、約45秒、約1分、約2分、約3分、約4分、または約5分にわたってボルテックスまたは撹拌されてよい。試料は、規定された速度でボルテックスまたは撹拌されてよい。例えば、限定ではないが、試料は、約5,000回転/毎分(rpm)、約4,000rpm、約3,000rpm、約1,000rpm、約500rpm、約600rpm、約700rpm、約800rpm、約900rpmでボルテックスまたは撹拌されてよい。一部の事例においては、5,000rpmを超えるボルテックス速度が望ましい場合がある。開示の目的で、約とは、明示されたrpmよりも上または下の15パーセント以内を意味する。
【0035】
印加されるせん断力は、下限閾値を超えるが上限閾値を下回るものであってよい。例えば、本発明のデバイスは、最大6,000rpmでありかつ2,000rpmを超える速度で容器をボルテックスすることにより、十分なせん断力を実現してよい。あるいは、本発明のデバイスは、最大5,000rpmでありかつ3,000rpmを超える速度でボルテックスすることにより、十分なせん断力を実現してよい。せん断力は、約5,000rpmであることが好ましい。加えて、本発明のデバイスは、50rpmのように例えば約20~100rpmの間の比較的遅いボルテックス速度を提供してよく、これは、熱混合に有用である。
【0036】
いくつかの実施形態において、本発明のデバイスは、事前鋳型化インスタント隔壁の形成を可視化するための一体化された光学系を含む。光学系は、ボルテックスの振幅または継続時間を調節するための制御システムと連動して動作してよい。せん断力の継続時間および振幅を制御することにより、デバイスは、同様の構造の事前鋳型化インスタント隔壁を高信頼に生成することができる。ほぼ均一な液滴サイズが実現されると、光学系は、送出光の変化を検出することができる。デバイスは次いで、せん断力の印加を止め、ユーザに通知し、かつ/またはその後の反応が行われることを可能としてよい。本明細書のデバイスと共に使用するための光学系のさらなる議論については、参照により組み込まれる共同出願第17/146,768号を参照されたい。
【0037】
本発明のデバイス101は、1つまたは複数の容器内の試料の温度を制御するための機構を含むことが有利であり、これは、事前鋳型化インスタント隔壁内で行われる様々な反応の速度および/または発生を制御するのに有用である。具体的には、好ましい実施形態において、デバイス101は、熱対流を用いて試料の温度を調節するための温度制御ユニットを含む。熱対流を用いることにより、試料に熱を伝達するまたは試料から熱を除去するのにかかる時間の長さを実質的に短縮することができ、よって、試料内での反応の速度および効率が増大する。これは、少数または少量の繊細な試料を処理するために、例えば、単一細胞の不安定なRNAを、実質的により安定なcDNAに迅速に複製するために、特に有用である。
【0038】
図2は、例示的な温度制御ユニット201を示す。温度制御ユニット201は、流体を所定の温度まで加熱または冷却するための、チャンバとも称される少なくとも2つの導管を含む。温度制御ユニット201は、流体(例えば高温の空気または水)を第1の温度まで加熱するための第1の導管203と、流体を第2の温度まで冷却する第2の導管205とを含む。導管内の流体の温度は、調節可能である。流体の温度は、固体熱電技術、例えばペルチェ冷却により調節可能であることが好ましい。
【0039】
従来の冷却システムにおいて使用される冷媒とは対照的に、固体熱電デバイスは、電気および半導体を使用して冷却および加熱を生じさせる。熱流の大きさは、電流量を変動させることにより調節可能である。固体熱電デバイスは、いくつかの理由で好ましい。第1に、可動部品が存在しない。これは、固体熱電技術が、デバイスにより高い信頼性を提供し得ることを意味し、これは大幅なコスト節減をもたらす。また、コンプレッサベースの従来の冷却システムとは異なり、固体熱電の加熱および冷却は、高価な冷媒を必要としない。したがって、本発明のデバイスは、より環境に優しい。固体技術により、本発明のシステムは、1ワット未満の冷却電力から最大数キロワットまでスケーリングすることができる。熱電式の熱管理システムをスケーリングする能力は、はるかに広範なデバイス構成を提供する。共通の構成要素を、大規模および小規模のデバイスに使用することができる。この結果、製造および設計のコストが低減する。
【0040】
本発明のデバイスは、強制対流により温度を調節してよい。強制対流は、システム内での流体の強制移動を伴う。流体の移動は、ファンまたはポンプ215を用いて押し進められてよい。試料温度を制御するために、温度制御ユニットは、少なくとも2つの導管のうちの1つを通るように流体を押し進める。流体が第1の導管203を通過することにより、流体の温度が上昇する。流体の温度は、導管の一部分に結合したヒータにより上昇する。ヒータは、流体が導管を通過することに伴い、流体に熱エネルギーを伝達する。ヒータは、流体を約摂氏130度まで、例えば摂氏110度、または摂氏100度、または少なくとも摂氏90度まで、加熱するように動作可能である。
【0041】
第2の導管205は、流体温度の低減を実現するために電気エネルギーを消費して熱エネルギーを伝達することが可能なペルチェ素子と結合されてよい。例えば、第2の導管205は、約摂氏0度、例えば約摂氏5度、または摂氏10度、または摂氏15度の流体温度を実現してよい。いくつかの実施形態において、第3、第4、または第5のさらなる導管が設けられてもよい。さらなる導管は、摂氏0度~130度の間の温度を有する流体を急速に供給するのに有用であり得る。
【0042】
第1の導管203および第2の導管205は、ホルダ207の近傍またはそれに接する領域と流体連通することにより、それぞれ第1の温度または第2の温度の流体をホルダ207により保持される試料に提供する。第1の導管203および第2の導管205は、ホルダ207に結合した熱環境と流体連通することにより、流体をホルダ207に向かって提供し、それにより試料温度を調節する。例えば、ホルダ207の底面は、実質的に対流加熱装置の流体チャネル211内に配されてよい。底面は、比熱の低い、よって流体の急速な温度変化に敏感な材料を備えてよい。温度制御ユニット201は、単一のファンまたはポンプにより、第1の導管203および第2の導管205を通るように流体の流れを制御するように構成されることが有利である。これは、製造コストを最小化するのに有用である。
【0043】
温度制御ユニット201は、押し進められる流体の流れを第1の導管203または第2の導管205を通るように選択的に誘導するための機構を含む。押し進められる流体がどちらの導管を通して流れるかを制御することにより、試料の温度を調節することができる。例えば、温度制御ユニット201は、押し進められる流体の流れを誘導するための、摺動バルブなどのバルブ221を含むことが好ましい。バルブ221は、少なくとも2つの位置のうちの1つに移動可能である。第1の位置においては、流体が第1の導管203に流入することが阻止される。これは、曲線矢印により示すように、第2の導管205を通るように流体を押し流す。代替的に、バルブは、第2の導管205への流体の流れが阻止される第2の位置に移動可能である。流体が第2の導管205に流入することを阻止することにより、流体が第1の導管203を通って移動し、それにより流体が加熱される。バルブはさらに、第1の位置と第2の位置との間の任意の数の中間位置に配置されてよく、それにより、流体の様々な部分が第1の導管203および第2の導管205を通って流れることが阻止される。これは、流体全体の様々な部分を加熱または冷却することにより流体の温度を迅速に変化させることを可能とするので、有利である。温度制御ユニット201は、流体が第1の導管または第2の導管のうちの1つに逆流することを防止し、また熱エネルギーが逃げることも防止するための自動閉鎖フラップ231をさらに含む。
【0044】
図3は、例示的なホルダ301の画像を示す。ホルダは、1つまたは複数の容器をホルダ内に固定するためのクランプ蓋305を含む。クランプ蓋305は、容器の上面を加熱するのに有用な銅ばねプレートを含んでよく、それにより、容器内の温度が均一であることが確実になる。いくつかの実施形態において、クランプ蓋は、30ワット・24ボルトの膜ヒータを含む。これは、温度制御ユニット201内の流体の温度変化と同期して蓋の温度を急速に変化させるのに有用である。
【0045】
ホルダは、せん断機構309と結合される。せん断機構は、容器内の液体にせん断力を印加することが可能な任意のデバイスであってよい。いくつかの実施形態において、せん断力は、ホルダ301を移動させる、例えばホルダ301をスピン、回転、振盪、または揺動させることにより印加される。そのような実施形態において、せん断機構は、撹拌機、振盪機、またはボルテキサであってもよく、またはそれを含んでもよい。いくつかの実施形態において、せん断力は、電気力により印加される。そのような実施形態において、せん断機構は、圧電モータであってもよく、またはそれを含んでもよい。いくつかの実施形態において、せん断力は、音波により印加される。そのような実施形態において、せん断機構は、ソニケータまたは超音波デバイスであってもよく、またはそれを含んでもよい。せん断力は、手段の組合せにより印加されてよく、せん断機構は、上記のデバイスの任意の組合せであってもよく、またはそれを含んでもよい。
【0046】
ホルダ301は、液体を保持するのに好適な任意の容器またはコンテナを保持するように設計される。例えば、限定ではないが、容器は、チューブまたはマルチウェルプレートのウェルであってよい。容器は、互いに物理的に接続された一組のチューブであってもよく、またはそれを含んでもよい。例えば、容器は、2、3、4、6、8、10、12、もしくはそれよりも多くのチューブのストリップであってもよく、またはそれを含んでもよい。容器は、2、4、6、8、12、24、48、96、192、384、もしくはそれよりも多くのウェルを有するプレートのウェルであってもよく、またはそれを含んでもよい。
【0047】
液体のせん断を促進するために、ホルダ301は、液体をせん断する間、少なくとも1つの容器を実質的に鉛直な位置または実質的に水平な位置のいずれかで保持してよい。そのため、本発明のデバイスは、ホルダを交換するまたは手でチューブを回転させることを物理的に必要とすることなく、自動的に水平方向および鉛直方向に混合(非対称混合)する能力を有する。これにより、制御された熱混合が可能となり、これは、充填された鋳型における試料の分散を助け、所望の熱培養が有益であるアプリケーション(例えばエマルジョンPCR)に適応することができる。格納容器の軸方向対称性が崩れた場合に、試料におけるせん断が増強される。これは、標準的なチューブを水平な向きまたは角度の付いた向きに保持することにより実現することができる。例えば、ホルダ301は、液体をせん断する間に、軸方向に移動する、任意の方向に移動する、かつ/または回転するように構成される可動アームに取り付けられてよい。せん断は、チューブの形状を非円形に変化させる、またはリブ付きチューブを使用することにより引き起こされてもよい。これらは全て、デバイスの可撓性チューブホルダにより収容可能である。
【0048】
図4は、調節可能ラッチ機構401を示す。調節可能ラッチ機構は、ホルダ301が様々なサイズまたは外観の容器を収容することを可能とする。ラッチ機構を調節することにより、より大きいまたは小さいチューブを本発明のデバイス内に収容することができる。
【0049】
図5は、本発明の一実施形態に係るデバイス501を示す。デバイス501は、一体化されたボルテックスおよび熱制御部を含む。製造コストを低減するために、デバイス501の少なくとも1つの構成要素は、3Dプリンティングにより製造されてよい。例えば、一部の事例において、ハウジング503は、3Dプリンティングにより製造される。ハウジング503は、より高精度な温度調節のための断熱性を追加的に提供してよい。3Dプリンティングを実施することにより、製造のコストが実質的に低減し、部品最適化の柔軟性が増大する。一部の事例において、3Dプリンティングは、一体化された断熱材、例えばハニカムインフィルを作製するために用いられる。3Dプリンティングはまた、新たな部品および交換部品を迅速にかつ効率的にプリントすることにより、現場で機械を整備する可能性を提供する。
【0050】
図6は、異なる実施形態に係る事前鋳型化インスタント隔壁を作製するためのデバイス601を示す。デバイスは、様々な形状およびサイズのチューブを収容するためのクランプ603を伴う加熱蓋を含む。例えば、クランプ603は、非円形の形状を有する容器、またはリブ付きチューブなどの容器を固定するのに有用である。それらは両方、従来のサーモミキサには不適合であるが、液体を隔壁に効率的にせん断するのに有用である。
【0051】
別の態様によれば、本発明は、事前鋳型化インスタント隔壁を生成するための方法を提供する。方法は、液体を含む少なくとも1つの容器を、ボルテキサ、少なくとも1つの容器をボルテキサに固定するためのホルダ、およびホルダと流体連通する温度制御ユニットを備えるデバイスと接触させることを含む。方法は、少なくとも1つの容器内の液体を複数の事前鋳型化インスタント隔壁にせん断するようにデバイスを動作させることをさらに含み、複数の事前鋳型化インスタント隔壁の各々は、1つの検体を含むか、または検体を含まない。例えば、液体をせん断するようにデバイスを動作させることは、液体を5,000回転/毎分の速度でボルテックスすることを伴ってよい。
【0052】
本発明の方法は、事前鋳型化インスタント隔壁を作製し、それらの隔壁内の試料物質を高速に処理するのに有用である。
【0053】
例えば、本発明の方法は、隔壁内で1つまたは複数のライブラリステップを行うことを含んでよい。例えば、一部の事例において、本発明の方法は、細胞を含む液体をせん断することを伴う。それにより、単一細胞が隔壁内に隔離される。方法は、隔壁内の単一細胞を溶解させることをさらに含んでよい。細胞溶解は、細胞溶解を生じさせるのに十分な温度までホルダを加熱することにより引き起こされてよい。例えば、いくつかの実施形態において、溶解は、鋳型粒子内に含まれる溶解試薬を隔壁に放出するのに十分な温度まで隔壁を加熱することを伴う。本発明のデバイスによれば、熱対流により溶解を高速に実現できることが有利である。
【0054】
いくつかの実施形態において、隔壁内の細胞を溶解させると、下記で論じるように、鋳型粒子により提供される捕捉オリゴによる捕捉のために、RNA(例えばmRNA)および/またはDNAが細胞から隔壁に放出される。捕捉オリゴは、各鋳型粒子に固有の一意のバーコードを含んでよい。したがって、RNAおよび/またはDNAおよび捕捉オリゴの相補的部分の捕捉、すなわちハイブリダイゼーションを行うと、単一細胞のRNAおよび/またはDNAの全てが、共通のバーコード配列により効果的に結び付けられる。各隔壁は、1つの単一細胞および1つの鋳型粒子のみを含むので、任意の1つの鋳型粒子の一意のバーコード配列は、RNAおよび/またはDNAを、それらが放出される単一細胞と関連付けるのに有用である。
【0055】
捕捉は、ハイブリダイゼーションに十分な温度まで隔壁の温度を急速に冷却することにより行われる。本発明のデバイスは、強制対流により温度変化を管理することができるので、従来の方法と比較して、温度サイクル間の時間が短縮し、よって細胞溶解と捕捉との間の時間が実質的に短縮する。この細胞溶解と捕捉との間の時間の短縮は重要である。なぜならば、この時間幅の間に、多数の核酸がヌクレアーゼなどの特定の要因により分解または消化されるためである。一部の事例において、温度変化は自動的である。例えば、温度変化は、ユーザによりデバイスに入力される命令に基づいて生じてよい。命令は、デバイスのインターフェースを介してデバイスに入力されてよい。
【0056】
捕捉の後、本発明の方法は、捕捉されたRNAをcDNAに逆転写することを含んでよい。逆転写は、ライブラリの読み取られた各配列をmRNAが導出された単一細胞まで遡ることを可能とする、バーコード配列を有するcDNAを含むライブラリを生成するために実行されてよい。バーコード付きcDNAを含むライブラリが生成されると、cDNAは、配列決定のためのアンプリコンを生成するために、例えばPCRにより増幅されてよい。
【0057】
いくつかの実施形態によれば、本発明の方法は、事前鋳型化インスタント隔壁内に含まれるDNAに対してPCRを行うように本発明のデバイスを動作させることを含む。本発明のデバイスは、強制空気対流を用いて温度を調節することが有利である。これは、熱を伝達するのにかかる時間の長さを劇的に変化させる。これにより、加熱および冷却の速度がほとんどのサーモミキサよりも一桁分高速であるため、より短いPCRサイクルが可能となる。例えば、本発明のデバイスを使用することにより、DNA増幅を、標準的なサーモサイクラを使用する場合に必要となる時間の長さのおよそ2分の1または3分の1で生じさせることができる。
【0058】
方法は、事前鋳型化インスタント隔壁の自動化された生成のために、または隔壁内で行われる反応を自動化するためにデバイスを動作させることを含んでよい。例えば、本発明の方法は、少なくとも1つの容器内の液体に光を送出し、少なくとも1つの容器内の液体からの送出光を検知することを含んでよい。いくつかの実施形態において、方法は、少なくとも1つの容器内の液体からの送出光を基準と比較し、比較に応じてボルテキサの速度を調節することを含む。方法は、少なくとも1つの容器内の液体からの送出光を基準と比較することを含んでよい。基準は、せん断力にさらされていない試料からの送出光であってよい。基準は、事前鋳型化インスタント隔壁を有する試料からの送出光であってよい。事前鋳型化インスタント隔壁は、規定されたサイズまたはサイズ範囲を有してよい。
【0059】
本発明は、例えば、参照により組み込まれるHatori, 2018, Particle-templated emulsification for microfluidics-free digital biology, Anal Chem 90:9813-9820において論じられているように、事前鋳型化インスタント隔壁を生成する方法に関する。簡潔に言えば、水性流体(例えば水、生理食塩水、緩衝液、栄養培地等)中に鋳型粒子および検体(例えば細胞または核酸)を含む水性混合物が、反応チューブにおいて調製される。不混和性の流体(例えば油)がチューブに添加され、チューブが撹拌される。粒子は、油により取り囲まれた水性液滴中に各々1つの鋳型粒子を含む隔壁の形成の鋳型となるように働く。
【0060】
鋳型粒子は、標的捕捉およびDNAまたはRNAなどの検体のバーコーディングのためのオリゴヌクレオチドを提供してよい。各鋳型粒子に固有のバーコードは、その群内の他のバーコードと区別可能なヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド配列の任意の群であってよい。したがって、鋳型粒子および単一細胞を包囲する隔壁は、例えば、単一細胞から放出された各核酸分子にバーコード群のうちの同じバーコードを提供する。鋳型粒子により提供されるバーコードは、その鋳型粒子に対して一意であり、全ての他の鋳型粒子により核酸分子に提供されるバーコードと区別可能である。配列決定されると、バーコード配列を用いることにより、単一細胞が共に隔離された鋳型粒子により提供されるバーコードに基づいて、核酸分子を単一細胞まで遡ることができる。バーコードは、そのバーコードを他のバーコードと区別するのに十分な任意の好適な長さのものであってよい。例えば、バーコードは、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25ヌクレオチド、またはそれよりも長い長さを有してよい。
【0061】
本発明のいくつかの方法において、インデックスまたはバーコード配列は、固有分子識別子(UMI)を備えてよい。UMIは、増幅中の増幅バイアスまたは誤った塩基対合などの増幅中に生じる誤りを修正するために用いることができる点で有利である。例えば、UMIを用いる場合、UMIまたは複数のUMIを伴う試料中の全ての核酸分子は一意またはほぼ一意であるため、増幅および配列決定の後、同一の配列を有する分子は、同じ開始核酸分子を指すとみなされてよく、それにより増幅バイアスが低減する。
【0062】
鋳型粒子は、多孔質または無孔質であってよい。本明細書における任意の好適な実施形態において、鋳型粒子は、追加の成分および/または試薬、例えば本明細書に記載の単分散液滴に放出可能であり得る追加の成分および/または試薬を含み得るマイクロコンパートメント(本明細書では「内部コンパートメント」とも称される)を含んでよい。鋳型粒子は、ポリマー、例えばヒドロゲルを含んでよい。鋳型粒子は一般に、直径が約0.1~約1000μmの範囲であるか、またはより大きい寸法である。いくつかの実施形態において、鋳型粒子は、約1.0μm~1000μm(両端含む)、例えば1.0μm~750μm、1.0μm~500μm、1.0μm~250μm、1.0μm~200μm、1.0μm~150μm、1.0μm~100μm、1.0μm~10μm、または1.0μm~5μm(両端含む)の直径または最大寸法を有する。いくつかの実施形態において、鋳型粒子は、約10μm~約200μm、例えば約10μm~約150μm、約10μm~約125μm、または約10μm~約100μmの直径または最大寸法を有する。
【0063】
本明細書に記載の方法を実施するにあたり、鋳型粒子の組成および性質は様々であってよい。例として、特定の態様において、鋳型粒子は、ゲルマトリックスのミクロンスケールの球体であるマイクロゲル粒子であってよい。いくつかの実施形態において、マイクロゲルは、アルギネートまたはアガロースを含む、水に可溶な親水性ポリマーから構成される。他の実施形態において、マイクロゲルは、親油性マイクロゲルから構成される。他の態様において、鋳型粒子は、ヒドロゲルであってよい。特定の実施形態において、ヒドロゲルは、天然由来材料、合成由来材料およびその組合せから選択される。ヒドロゲルの例としては、限定されるものではないが、コラーゲン、ヒアルロナン、キトサン、フィブリン、ゼラチン、アルギネート、アガロース、コンドロイチン硫酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリルアミド/ビスアクリルアミドコポリマーマトリックス、ポリアクリルアミド/ポリ(アクリル酸)(PAA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、およびポリ無水物、ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)が挙げられる。
【0064】
いくつかの実施形態において、本開示の鋳型粒子は、鋳型粒子に正の表面電荷または増大した正の表面電荷を与える材料をさらに備える。そのような材料は、限定ではないが、ポリリジンもしくはポリエチレンイミン、またはその組合せであってよい。これは、鋳型粒子と、例えば一般には大部分が負電荷の膜を有する細胞との間の会合が生じる可能性を増大させ得る。
【0065】
本発明の方法は、事前鋳型化インスタント隔壁の形成を可視化するための光学制御システムを使用することを含む。光学制御システムは、一般に、光を送出するための光源と、散乱光を検出するための光検出器とを含んでよい。
【0066】
光の液体への送出に好適な任意の光源が、デバイスに使用されてよい。例えば、限定ではないが、光源は、アルゴンランプ、重水素ランプ、ハロゲンランプ、レーザ、発光ダイオード(LED)、水銀ランプ、ネオンランプ、タングステンランプ、キセノンアークランプ、キセノンフラッシュランプ、または上記の光源のいずれかの組合せであってもよく、またはそれを含んでもよい。
【0067】
同様に、液体から送出された光の検出に好適な任意の光検出器が使用されてよい。例えば、限定ではないが、光検出器は、カメラ、電荷結合デバイス(CCD)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサ、ダイオードアレイ、ガスイオン化検出器、フォトダイオード、光電子増倍管、フォトレジスタ、フォトトランジスタ、光電管、光起電セル、ピン留めフォトダイオード、量子ドット光伝導体、または量子ドットフォトダイオードであってもよく、またはそれを含んでもよい。
【0068】
ホルダおよび光学系は、光を容器内の複数の容器または複数のチャンバに送出し、それらから検知することができるように、互いに対して移動可能であってよい。例えば、いくつかの実施形態において、光源および光検出器はデバイス内で固定され、ホルダは、光源および光検出器に対する液体試料の位置を調節するために1つ、2つ、または3つの次元で移動可能である。他の実施形態においては、ホルダがデバイス内で固定され、光源および光検出器が、光源および光検出器に対する液体試料の位置を調節するために1つ、2つ、または3つの次元で移動可能である。他の実施形態においては、ホルダおよび光学系の両方が、光源および光検出器に対する液体試料の位置を調節するために1つ、2つ、または3つの次元で移動可能である。
【0069】
いくつかの実施形態において、デバイスは、せん断機構および光学系に結合された制御システムを含む。制御システムは、送出光に応じて、液体に印加されるせん断エネルギーを変化させるようにせん断機構に指示する。制御機構は、せん断エネルギーを増大または減少させてよい。制御システムは、液体が実質的に単分散の液滴を含むエマルジョンを含む場合に、液体にせん断エネルギーを印加することを停止するようにせん断機構に指示してよい。
【0070】
いくつかの実施形態において、デバイスは、ユーザとデバイスとの間のインタラクションを可能とするユーザインターフェースを含む。ユーザインターフェースは、試料に関する出力をユーザに提供してよい。例えば、限定ではないが、ユーザインターフェースは、試料が単分散液滴を含んでいるか否かを示す光学測定についての情報、または印加されるせん断力の継続時間および/もしくは強さについての情報を提供してよい。ユーザインターフェースは、ディスプレイを含んでよい。ユーザインターフェースは、せん断により得られる単分散液滴の所望のサイズもしくはサイズ範囲についての情報、または印加されるせん断力の継続時間および/もしくは強さについての情報などの入力をユーザが提供することを可能としてよい。ユーザインターフェースは、ボタン、ダイアル、キーボード、レバー、スイッチ、またはタッチパッドを含んでよい。
【0071】
光学系は、複数の光源および光検出器を含んでよい。例えば、マルチチューブ容器またはマルチウェル容器が用いられる場合、光学系は、チューブまたはウェルごとに別個の光源および光検出器を有してよい。代替的にまたは追加的に、光学系は、チューブまたはウェルの列ごとに別個の光源および光検出器を有してよい。いくつかの実施形態において、複数の測定結果を単一の液体試料から取得することを可能とするために、1つの光源が複数の光検出器と共に使用される。
【0072】
事前鋳型化インスタント隔壁の形成を監視する目的で、単分散液滴を実現するためには追加のせん断力が試料に印加されるべきであるか否かを決定するために、送出された光信号が基準と比較されてよい。基準は、試料、例えば同じ試料または異なる試料からの、その試料がせん断力にさらされる前の送出光であってよい。基準は、単分散液滴を有する試料からの送出光であってよい。単分散液滴は、規定されたサイズまたはサイズ範囲を有してよい。
【0073】
例えば、エマルジョンがサイズの不均一な液滴を含むことを最初のせん断後光学測定が示す場合、せん断および測定のステップが、単分散液滴を実現するために必要な回数繰り返されてよい。せん断および測定のステップを繰り返すか否かの判断は、人の入力に依拠するものであってよい。代替的にまたは追加的に、この判断は、アルゴリズムにより自動的に行われてもよい。アルゴリズムは、予め定められた最大および最小の信号強度を含んでよい。代替的にまたは追加的に、最大および最小の信号強度は、機械学習プロセスにより決定されてもよい。
【0074】
隔壁鋳型化粒子を用いて単分散液滴を生成することにより、個々の標的を捕捉することが可能となる。均一なサイズの液滴の形成と組み合わせて開始試料中の標的の濃度を調節することにより、全てまたはほぼ全ての液滴が標的を含まないかまたは1つの標的を含むエマルジョンを生成することができる。その内容が参照により本明細書に組み込まれるMakiko N. Hatori, Particle-Templated Emulsification for Microfluidics-Free Digital Biology, Anal. Chem. 2018, 90, 9813-9820を参照されたい。したがって、各液滴は、単一標的に対して反応を行うための反応セルとして機能することができる。
【0075】
本発明の方法は、上述のステップのうちの1つまたは複数により形成される単分散液滴中で反応を行うことを含んでよい。例えば、限定ではないが、方法は、細胞溶解、核酸増幅、逆転写、または配列決定のうちの1つまたは複数を含んでよい。上述のステップのうちの1つまたは複数に従って形成される液滴中で反応を行うことは、エマルジョンの温度を調節することを含んでよい。例えば、方法は、対流熱伝達によりエマルジョンを加熱および/または冷却することを含んでよい。
【0076】
本明細書に記載の方法およびデバイスは、増幅反応と共に使用するのに特に適する。当技術分野において公知の任意の増幅反応が、事前鋳型化インスタント隔壁内の放出された核酸に対して行われてよい。例示的な増幅技法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写PCR、リアルタイムPCR、定量リアルタイムPCR、デジタルPCR(dPCR)、デジタルエマルジョンPCR(dePCR)、クローンPCR、増幅断片長多型PCR(AFLP PCR)、アレル特異的PCR、アセンブリPCR、非対称PCR(選定されたストランドのための大量の余分なプライマーが用いられる)、コロニーPCR、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、ホットスタートPCR、逆PCR(IPCR)、in situ PCR、ロングPCR(約5キロベースを超えるDNAの伸長)、マルチプレックスPCR、ネステッドPCR(1対よりも多くのプライマーを用いる)、単一細胞PCR、タッチダウンPCR、ループ介在等温PCR(LAMP)、および核酸配列ベース増幅(NASBA)が挙げられる。他の増幅スキームとしては、リガーゼ連鎖反応、分岐DNA増幅、ローリングサークル増幅、サークル-サークル増幅、SPIA増幅、捕捉およびライゲーションによる標的増幅(TACL)増幅、およびRACE増幅が挙げられる。
【0077】
特定の実施形態において、反応は、QPCRまたはデジタルPCRである。デジタルPCRは、希釈試料が多数の別個の反応に分割される増幅反応である。例えば、Brownら(米国特許第6,143,496号および第6,391,559号)、Vogelsteinら(米国特許第6,440,706号、第6,753,147号、および第7,824,889号)、ならびにLarsonら(米国特許出願第13/026,120号)、Linkら(米国特許出願第11/803,101号、第11/803,104号、および第12/087,713号)、およびAndersonら(米国再発行特許発明第41,780号として再発行された米国特許第7,041,481号)を参照されたい。それらの各々の内容全体が、本明細書に参照により組み込まれる。反応間の標的DNA分子のバックグラウンドからの分布は、ポアソン統計に従い、終端または限界の希釈度において、反応の大多数は、1つの標的DNA分子を含むかまたは標的DNA分子を含まない。
【実施例
【0078】
(実施例1)
試料温度を急速に制御する本発明のデバイス601の能力を評価した。
【0079】
図7は、対流加熱中におけるデバイス内の経時的な温度変化を説明するグラフ701を示す。管705および高温チャンバ711において収集された温度変化のグラフが示されている。グラフのY軸は、摂氏度単位の温度に対応する。X軸は、秒単位の時間を示す。管705および高温チャンバ711に対応する線の滑らかかつ急峻な傾きは、本発明のデバイスが、強制対流を用いて効率的かつ急速な温度変化を提供することを示す。
【0080】
図8は、対流冷却中におけるデバイス内の経時的な温度変化を説明するグラフ801を示す。
参照による組込み
本開示の全体にわたって、特許、特許出願、特許公報、雑誌、書籍、論文、ウェブコンテンツなどの他の文献の参照および引用がなされている。全てのそのような文献は、ここで、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
均等物
本明細書において図示および説明されているものに加えて、本発明の様々な変形例およびその多数のさらなる実施形態が、本明細書において引用されている科学文献および特許文献の参照を含む本文献の全内容から、当業者に明らかとなるであろう。本明細書の主題は、本発明の様々な実施形態およびその均等物における本発明の実施に適合させることが可能な重要情報、例示、および教示を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】