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特表2024-528618トラップイオン量子情報処理のためのデュアル空間単一種アーキテクチャ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】トラップイオン量子情報処理のためのデュアル空間単一種アーキテクチャ
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240723BHJP
【FI】
G06N10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501821
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 US2022033118
(87)【国際公開番号】W WO2023027795
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】63/222,765
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/836,670
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】セージ ジェレミー マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドマン マイケル ルリー
(72)【発明者】
【氏名】イーガン レアード ニコラス
(57)【要約】
トラップイオン量子情報処理のためのデュアル空間単一種アーキテクチャを含む、量子情報処理(QIP)システムを動作させるための方法及びシステムが提供される。量子情報処理(QIP)システムを動作させる例示的な方法は、グローバル光ビームを複数のデュアル空間単一種(DSSS)トラップイオンに適用するステップと、複数のラマンビームのうちの少なくとも1つのラマンビームを前記複数のDSSSトラップイオンのうちの1つのDSSSトラップイオンに適用して、前記1つのDSSSトラップイオンに関連する量子ビットを基底状態、準安定状態又は光学状態から異なる状態に遷移させるステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子情報処理(QIP)システムを動作させる方法であって、
グローバル光ビームを複数のデュアル空間単一種(DSSS)トラップイオンに適用するステップと、
複数のラマンビームのうちの少なくとも1つのラマンビームを前記複数のDSSSトラップイオンのうちの1つのDSSSトラップイオンに適用して、前記1つのDSSSトラップイオンに関連する量子ビットを基底状態、準安定状態又は光学状態から異なる状態に遷移させるステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記グローバル光ビームを適用することは、コヒーレント量子パルスシーケンスを適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グローバル光ビームを適用することは、前記複数のDSSSトラップイオンに沿った方向に偏心性を有する単一のレーザビームを適用して、前記単一のレーザビームが前記複数のDSSSトラップイオンをカバーするようになる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記グローバル光ビームを適用することは、前記複数のDSSSトラップイオンに対して第一の45度の角度で、磁場に対して第二の45度の角度で前記グローバル光ビームを適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
電気光学変調器(EOM)又はEOMと直列に配置された音響光学変調器(AOM)を使用して、前記複数のラマンビームのうちの前記少なくとも1つのラマンビームの周波数を調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のラマンビームのうちの冷却ラマンビームを前記複数のDSSSトラップイオンのうちの少なくとも冷却イオンに適用して、前記冷却イオンを第一の状態から前記第一の状態より高い第二の状態へ遷移させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記量子ビットの計算中に、前記1つのDSSSトラップイオンに関連する前記複数のDSSSトラップイオンのアンシライオンを読み出すステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記量子ビットの計算中に、前記アンシライオンの前記読み出しに基づいて、前記1つのDSSSトラップイオンを較正するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複数のDSSSトラップイオンと1つ以上のリモートDSSSトラップイオンとの間のリモートもつれ生成を実行するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
量子情報処理(QIP)システムであって、
複数のデュアル空間単一種(DSSS)トラップイオンと、
前記複数のDSSSトラップイオンをアドレス指定するように構成されたグローバル光ビームと、
前記複数のDSSSトラップイオンのうちの少なくとも1つのDSSSトラップイオンを個々にアドレス指定して、1つ以上のDSSSトラップイオンに関連する量子ビットを基底状態、準安定状態、又は光学状態から異なる状態に遷移させるようにそれぞれ構成された複数のラマンビームと、
を備える、QIPシステム。
【請求項11】
前記グローバル光ビームは、コヒーレント量子パルスシーケンスを放出するように構成される、請求項10に記載のQIPシステム。
【請求項12】
前記グローバル光ビームを適用することは、前記複数のDSSSトラップイオンに沿った方向に偏心性を有する単一のレーザビームを適用して、前記単一のレーザビームが前記複数のDSSSトラップイオンをカバーするようになる、請求項10に記載のQIPシステム。
【請求項13】
前記グローバル光ビームは、前記複数のDSSSトラップイオンに対して第一の45度の角度で、磁場に対して第二の45度の角度で放射されるように構成される、請求項10に記載のQIPシステム。
【請求項14】
前記複数のラマンビームの周波数を調整するように構成された電気光学変調器(EOM)又は音響光学変調器(AOM)のうちの少なくとも1つをさらに備える、請求項10に記載のQIPシステム。
【請求項15】
前記複数のDSSSトラップイオンは、前記複数のラマンビームのうちの冷却ラマンビームに応答して、冷却イオンを第一の状態から前記第一の状態よりも高い第二の状態に遷移させるように構成された冷却イオンを含む、請求項10に記載のQIPシステム。
【請求項16】
前記複数のDSSSトラップイオンは、前記量子ビットの計算中に読み出されるように構成された前記1つのDSSSトラップイオンに関連する前記複数のDSSSトラップイオンのうちのアンシライオンを含む、請求項10に記載のQIPシステム。
【請求項17】
量子情報処理(QIP)システムであって、
命令が記憶されたメモリと、
前記メモリと通信可能に結合されたプロセッサであって、前記命令を実行して、
グローバル光ビームを複数のデュアル空間単一種(DSSS)トラップイオンに適用することと、
複数のラマンビームのうちの少なくとも1つのラマンビームを前記複数のDSSSトラップイオンのうちの1つのDSSSトラップイオンに適用して、前記1つのDSSSトラップイオンに関連する量子ビットを基底状態、準安定状態又は光学状態から異なる状態に遷移させることと、
を行うように構成されたプロセッサと、
を備える、QIPシステム。
【請求項18】
前記プロセッサは、コヒーレント量子パルスシーケンスを適用することによって、前記グローバル光ビームを適用するための前記命令を実行するように構成される、請求項17に記載のQIPシステム。
【請求項19】
前記プロセッサは、前記複数のDSSSトラップイオンに沿った方向に偏心性を有する単一のレーザビームを適用して、前記単一のレーザビームが前記複数のDSSSトラップイオンをカバーするようになることによって、前記グローバル光ビームを適用するための前記命令を実行するように構成される、請求項17に記載のQIPシステム。
【請求項20】
前記プロセッサは、前記複数のDSSSトラップイオンに対して第一の45度の角度で、磁場に対して第二の45度の角度で、前記グローバル光ビームを適用するための前記命令を実行するように構成される、請求項17に記載のQIPシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年7月16日に出願された米国特許仮出願第63/222,765号、及び2022年6月9日に出願された米国特許非仮出願第17/836,670号に対する優先権及びその利益を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の態様は、概して量子情報処理(QIP)アーキテクチャに関し、より具体的には、トラップイオンQIPのためのデュアル空間単一種アーキテクチャに関する。
【背景技術】
【0003】
トラップされた原子は、量子情報処理又は量子計算の主要な実装の1つである。原子ベースの量子ビットは、量子コンピュータ及びシミュレータにおいて量子メモリとして、量子ゲートとして使用することができ、量子通信ネットワークのためのノードとして作用することができる。トラップされた原子イオンに基づく量子ビットは、希少な属性の組み合わせを享受する。例えば、トラップされた原子イオンに基づく量子ビットは、非常に良好なコヒーレンス特性を有し、ほぼ100%の効率で準備及び測定することができ、光場又はマイクロ波場等の好適な外部制御場とのそれらのクーロン相互作用を変調することによって、容易に互いにもつれ合う。これらの属性によって、原子ベースの量子ビットは、量子計算又は量子シミュレーション等の拡張量子演算にとって魅力的なものになる。
【0004】
したがって、異なるタイプのトラップイオン技法をサポートするアーキテクチャを含め、原子ベースの量子ビットを利用するアーキテクチャを有することが重要である。
【発明の概要】
【0005】
以下は、1つ以上の態様の簡略化された概要を提示して、そのような態様の基本的な理解を与える。この概要は、全ての企図された態様の包括的な概観ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を識別するものでも、いずれか又は全ての態様の範囲を定めるものでもない。その唯一の目的は、1つ以上の態様のいくつかの概念を簡略化した形で、後述するより詳細な説明への前置きとして提示することである。
【0006】
本明細書に記載される量子情報処理のためのトラップイオンのためのデュアル空間単一種アーキテクチャは、柔軟であり、デュアル種に依存するアーキテクチャに勝るいくつかの利点を有する。例えば、イオンの単一チェーンは、物理的シャトリングがなくても、必要に応じて再構成可能である。また、共同冷却(sympathetic cooling)は、完全に質量整合することができる。例示的な態様は、それ自体が危険であり得る狭いライン冷却を必要とせず、(電磁誘起透明化:electromagnetically-induced-transparency)EIT冷却ほど冷たくならないことがある。また、この例示的な態様によって、高速のための双極子許容(広域)遷移での中間アルゴリズム読み出し及びリモートもつれ生成(REG)が可能になる。さらに、リモートもつれ(RE)分配のために、混合種2量子ビット(2q)ゲートは必要とされない。
【0007】
デュアル空間単一種アーキテクチャのためにグローバル1762nm光ビームを使用することは、読み出し中のシェルビングのために既に検討されている。短波長ラマンビームのみが、アドレス指定のために緊密に集束される必要がある。しかし、g型ゲート(接地量子ビットゲート)を使用するアプローチでは、別の独立したトーンが10GHz離れて必要とされ得る。これは、電気光学変調器(EOM)、及び/又は第二のレーザ及び高周波音響光学変調器(AOM)を用いて達成されてもよい。イオントラップRFからのものを含むm型(準安定量子ビット)のACシュタルクシフト(AC Stark shifts)を考慮/管理する必要がある。また、グローバル1762光ビームは、将来的に統合フォトニクスを可能にするであろう。
【0008】
本明細書で説明されるデュアル空間単一種アーキテクチャは、また、より高い忠実度及びより効率的なゲートを生成することができるm型ラマン動作をサポートすることができる。そのようなアプローチは、ローカルm型及びg型ラマンで約80MHz(10GHzではない)だけ離間された1762個のトーンのみを必要とする。さらに、本開示の例示的な態様は、連続波(CW)ラマンシステムの使用を含む。利点は、EIT冷却がg状態で生じるので、m状態で回路を実行することにより、計算中に量子ビット及びアンシラ(ancillae)をg状態とm状態との間で往復させる必要がなくなることを含む。
【0009】
上記の目的及び関連する目的を実現するために、本出願の1つ以上の態様は、以下で完全に説明され、特に特許請求の範囲において指摘される特徴を含む。以下の説明及び添付の図面は、その1つ以上の態様のいくつかの例示的な特徴を詳細に説明する。しかしながら、これらの特徴は、様々な態様の原理が採用され得る様々な方法のうちのごく少数の方法を示すものであり、この説明は、全てのそのような態様及びそれらの均等物を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
開示される添付の図面と併せて以下で説明するが、開示される態様を例示するためで、限定するためのものではない。同様の符号は、同様の要素を示す。
【0011】
図1】本開示の態様に関連して133Baにおけるデュアル空間単一種実装の例を示す。
図2】本開示の態様に関連して量子ビット+冷却剤/較正イオンに関連する特徴の第一のクラスを示す。
図3】本開示の態様に関連して量子ビット+アンシラ+冷却剤イオンに関連する特徴の第二のクラスを示す。
図4】本開示の態様に関連した共同冷却/較正の一例を示す。
図5】本開示の態様に関連して代替的な共同冷却/較正の一例を示す。
図6】本開示の態様に関連したアンシラ読み出しの一例を示す。
図7】本開示の態様に関連して、アンシラ読み出しを介した中間アルゴリズム較正の例を示す。
図8】本開示の態様に関連して、アンシラを介したREG及び分配の一例を示す。
図9】本開示の態様に関連して、アンシラを介したREG及び分配の一例を示す。
図10】本開示の態様に関連したm型ラマンゲートの一例を示す。
図11】本開示の態様に関連して量子ビット+冷却剤/較正イオンに関連するm型ラマンを有する特徴の第一のクラスを示す。
図12】本開示の態様に関連して量子ビット+アンシラ+冷却剤イオンに関連するm型ラマンを有する特徴の第二のクラスを示す。
図13】本開示の態様に関連して高忠実度デュアル空間動作のためのレーザスキームを示す。
図14】本開示の態様による、デュアル空間単一種アーキテクチャを実装することができる量子情報処理(QIP)システムの一例を示す。
図15】本開示の態様による、量子情報処理のためにデュアル空間単一種アーキテクチャを実装することができるコンピュータデバイスの一例を示す。
図16】本開示の態様によるQIPシステムを動作させる方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成の説明として意図され、本明細書で説明される概念が実施され得る唯一の構成を表すことは意図されていない。発明を実施するための形態は、様々な概念の完全な理解を提供することを目的として、具体的な詳細を含む。しかしながら、これらの概念は、これらの具体的な詳細なしに、実施され得ることが当業者には明らかであろう。いくつかの事例では、そのような概念を不明瞭にすることを回避するために、周知の構成要素をブロック図の形態で示す。
【0013】
一般に、二重種トラップイオン量子計算は、実用的な高忠実度システムにとって有利であると考えられる。このアプローチは、長いアルゴリズムの中間の共同冷却中及び/又はイオン輸送後のデータ及びシンドローム量子ビットのデコヒーレンス、量子プロセッサのサブセットの中間アルゴリズム量子ビット読み出し、中間アルゴリズムリモートもつれ生成(REG)、及び中間アルゴリズム較正を軽減するために使用することができる。このアプローチは、非常に異なる遷移周波数を有する異なる種を有することに依存する。これらの差は、遷移線幅及び遷移速度と比較して大きい必要がある。
【0014】
しかし、トラップイオン量子計算における二重種の使用は、いくつかの課題が生じる可能性がある。例えば、レーザ及び光ビームをより多く必要とし、チェーン(例えば、イオンの線形配列)の順序は、イオンアドレス指定可能性及びモード構造の両方にとって重要であり、より複雑な負荷がかかり、及び意図しないチェーンの再順序付けが、何らかの問題を引き起こす可能性がある。さらに、混合種チェーンにおける共同冷却(特にラジアルモード)は、非効率的となる可能性があり、混合種チェーンにおける往復及びスプリット/マージ動作は、異なる質量のイオンによって見られる異なる擬ポテンシャルのため困難である。混合種2量子ビット(2q)ゲート(REG分布のために必要とされる)は、忠実度がより低くなる可能性がある。
【0015】
(デュアル空間の概念)
デュアル空間の概念を図1に関連して説明する。このアプローチでは、二重種機能を得るために、1つのイオン種に2つのヒルベルト空間を使用する。これらの空間は、自然に分離されるが、光学場を印加して結合することができる。空間は、基底状態又は準安定状態のいずれで構成される。
【0016】
このアプローチは、「omg」又は「OMG」概念と呼ばれる場合があるが、その理由は、高周波数測定のための光量子ビット(すなわち、図1で垂直な線を伴う円として示される、o型)と、低磁場クロック状態T1~30sを有する保護メモリのための準安定量子ビット(すなわち、図1で点を伴う円として示されるm型)と、処理、冷却、及びリモートもつれ生成のための接地量子ビット(すなわち、図1で水平な線を伴う円として示されるg型)と、を伴うからである。このアプローチは、型を変更するための矢印四重極遷移「ヒルベルト空間シャトリング(Hilbert space shuttling)」(HSS)を伴う。
【0017】
(共同冷却)
トラップイオン量子コンピュータにおいて、イオンチェーンの集合運動モードは、原子量子ビットの高忠実度操作を可能にするために冷却されなければならない。しかしながら、計算中に、電場ノイズにより、これらの運動モードが加熱され、これによって、計算の最中にシステムの性能を劣化させる可能性がある。さらに、複数のチェーン内のイオンを伴う計算を行うために、チェーンは、計算中に空間的に往復されなければならず、これもまた、運動モードの加熱につながる可能性がある。共同冷却は、典型的には、計算中にこれらの運動モードを冷却するために使用される。これは、「量子ビット」イオンの1つのセットを使用して計算を実行すると同時に、「冷却剤」イオンの別個のセットに対してレーザ冷却動作を実行することを含み、これはチェーン全体の集合運動モードを冷却する効果を有する。これは、量子ビット及び冷却剤イオンのために、2つの別個の元素(例えば、Yb及びBa)又は同じ元素の2つの同位体(例えば、Yb-171及びYb-172)を使用することによって実証されている。
【0018】
しかしながら、1つの問題は、集合運動モードへの個々のイオンの結合が、それらのイオンの質量に依存し、したがって、異なる質量を有するイオン(例えば、異なる元素又は同位体)は、運動モードに異なって結合し、共同冷却スキームの有効性を低下させることである。さらに、異なる質量を有するイオンの存在は、量子ゲートの設計を複雑にし、量子ゲートは、集合運動モードの特性に非常に敏感である。第二の重要な技術的問題は、バックグラウンドガス分子との衝突が、チェーン内のイオンを再順序付けさせ、量子ビット及び冷却剤イオンをスクランブルし、チェーンの再順序付け又は再構築のいずれかで、動作が強制的に遅くなり、コスト高になる可能性があることである。第三の問題は、同じ元素の2つの同位体から構成されるチェーンについて、冷却剤イオンの冷却に関与する光学遷移の周波数が、典型的には、量子ビットイオンの周波数に近く、したがって、冷却剤イオンによって放出される光が、量子ビットイオンによって吸収され、計算を劣化させる可能性があることである。
【0019】
共同冷却に関連して本明細書に記載されるアプローチには、いくつかの利点がある。量子ビットイオンと冷却剤イオンは同じであるので、異なる質量及びチェーンの再順序付けに関連する問題は、排除される。さらに、チェーン内の全てのイオンは、量子ビット又は冷却剤イオンのいずれかに割り当てられるまで同一であるので、割り当ては、新しいチェーンを再ロードすることなく、冷却剤イオンの数及び位置を最適化するように、各計算に対して動的に決定することができる。
【0020】
(高忠実度読み出し)
計算の終わりに、全ての量子ビットイオンの状態が光学的に読み出されなければならない。一般に、これは、グローバル検出レーザを適用することによって行われ、グローバル検出レーザは、「明」状態にあるイオンに蛍光を発させるが、「暗」状態にあるイオンには蛍光を発させない。超微細量子ビットの明状態及び暗状態は、概して、同じマニホルドの一部(すなわち、133Ba又は171YbにおけるS1/2状態)であるため、検出レーザによってアドレス指定される遷移は、イオンが暗状態から励起されて誤った蛍光が発生することを避けるために、またイオンを明状態から暗状態にポンピングすることによって、蛍光が誤って消失することを避けるために、慎重に選択されなければない。しばしば、これらの誤りが生じる速度は、イオンの固有の原子特性によって設定され、イオンの状態を読み取ることができる忠実度に基本的な制限を課す。
【0021】
読み出しに関連して本明細書に記載されるアプローチには、様々な利点がある。例えば、これらの誤差は、量子ビット状態の1つを別個のマニホルド(すなわち、133BaにおけるD5/2の状態)に転送することによって回避することができ、これはシェルビングとして知られているプロセスである。次いで、イオンは、元のマニホルド内の全ての状態が蛍光を発するように照射することができる。2つのマニホルドが切り離されているため、暗状態(シェルビングされた状態)が誤って蛍光を発する可能性のある割合と、明状態(シェルビングされていない状態)が誤って蛍光を発しなくなる可能性のある割合は、極めて小さい。その結果、読み出し忠実度を極めて高くすることができる。
【0022】
(中間回路較正)
量子計算の忠実度は、多種多様な実験的要因、例えば、光学ビーム整列、イオンでのレーザ強度、イオンをトラップする閉じ込め電位の強度、迷走電界の存在、及びその他の多くの要因に極めて敏感である。これらの要因は、時間の経過ともにドリフト又は変化する可能性が高いので、このドリフトを考慮して、較正を実行する必要がある。
【0023】
これらの較正は、これらの要因についての情報を抽出するためにイオンの状態を読み取ることを必要とするため、典型的には、計算の間に実行され、その間は、計算に関与する量子ビットイオンの状態を読み取ることが禁止される。しかしながら、これにより、これらの較正を行うことができる速度が制限され、較正フィードバックの帯域幅が制限される。
【0024】
代替として、較正は、計算自体に関与しないアンシライオンを使用して、計算中に行うこともできる。しかしながら、これらの較正ルーチンは、アンシライオンからの蛍光を収集して、それらの状態を読み出すため、以前は、この蛍光が計算に関与する量子ビットイオンの状態を妨害しないように、アンシライオンに異なる原子元素又は異なる同位体のいずれかを使用することが必要であった。その結果、アンシライオンの様々な特性は、量子ビットイオンの種々の特性と異なることがあり、このため、微妙に異なる方法で、これらの実験的要因によって影響を受け、アンシラベースの較正の予測値が制限される可能性がある。
【0025】
中間回路較正に関連して本明細書に記載のアプローチには、様々な利点がある。例えば、アンシライオン及び量子ビットイオンは、同一であり、較正ルーチンは、計算を実行するために使用されるのと正確に同じ技法によって実行される。したがって、較正結果は、アンシライオン上で実行される較正ルーチンと量子ビットイオン上で実行される計算との間の物理的差異を考慮して調整する必要はない。
【0026】
(中間回路部分読み出し)
多くの量子アルゴリズム又は回路は、測定されない割合がコヒーレントのままであることを必要としながら、中間回路で量子ビットの割合を測定することを伴う。そのような中間回路測定は、量子誤差補正(QEC)のクリティカルな構成要素であり得る。QECでは、データ量子ビットともつれ合っているアンシラ量子ビットを測定し、データ量子ビットにおける誤りを隠し、識別する。次いで、データ量子ビットの誤差は、後続の量子演算によって補正することができるが、これは、データ量子ビットの量子情報がアンシラの測定中に破壊されない場合にのみ機能する。これは、単種トラップイオン量子ビットシステムに対する課題を提示するが、その理由は、アンシラの測定が、典型的には、読み出しレーザからの多くの光子の散乱を必要とし、これらの光子が、近傍のデータイオンによって再吸収され、それらの量子情報を失わせる可能性があるためである。この問題を解決するための1つの標準的なアプローチは、アンシライオンがデータイオンともつれた後であるが、測定前(及び測定中)に、アンシライオンをデータイオンから遠くに離すことである。しかしながら、イオン量子ビット位置のこの動的中間回路再構成は、多くの状況において非実用的な場合又は望ましくない場合がある。また、アンシラ及びデータイオンが異なる種であるデュアル種トラップイオンシステムを使用すると、この問題が緩和され、イオンが互いに近接して留まることも可能になる。しかしながら、デュアル種の操作の欠点は、既に以前に解明されている。QECのためのこの中間回路部分読み出しプロトコルでは、デュアル種もつれ(2量子ビット)ゲートが必要とすることがあり、これは、典型的には、単一種もつれゲートの忠実度ほど良好ではない忠実度を有することがある。
【0027】
中間回路部分読み出しに関連して本明細書に記載されるアプローチには、様々な利点がある。例えば、データ量子ビットは、アンシラが測定される間、m型空間に記憶され得る。これは、データ量子ビット内の量子情報を、近くのアンシラ量子ビットから放出される光子の吸収から保護する。結果として、この測定プロセスからのデコヒーレンスはなく、イオンレジスタの中間回路部分読み出しは、データとアンシライオン量子ビットとの間の距離に対する制約なしに実行することができる。さらに、単一の種イオンのみが使用されるので、データイオンとアンシライオンとの間のもつれゲートは、典型的には、より高い忠実度のものとなる。
【0028】
(中間回路リモートもつれ生成)
イオンベースの量子コンピュータは、単一のトラップで処理できる量子ビット数より多い量子ビット数にスケーリングする必要がある。別個のトラップに保持されたイオンのレジスタ間の通信を可能にするためには、「リモートもつれ生成」(REG)と呼ばれる技法が必要になることがある。リモートもつれ生成の一般的な方法は、別個のトラップ内の「アンシラ」イオンによって放出される単一光子をビームスプリッタ上に結合するステップと、そのビームスプリッタの出力を測定するステップとを含む。REGのプロセスの間、アンシライオンは、典型的には、g型空間内に保持され、多くの光子を放出するが、そのわずかな一部だけが、典型的には、収集され、前述のビームスプリッタ干渉プロトコルで使用できる。これらの光子の残りは、あらゆる方向に散乱され、同じくg型空間にある隣接する量子データイオンによって再吸収され得る。これらの隣接するデータイオンがそれらの中に量子情報を有する場合(量子アルゴリズムの途中で試みられるREGの場合のように、しばしば望ましいことがある)、この情報は、失われる。全てのイオンがg型空間にある場合(標準的なアプローチである)、REGは、デコヒーレンスを被ることなく、又はアンシライオンをデータイオン(後者は、多くの状況において実用的でないか、又は望ましくない)から非常に遠くに保つことなく実行できない。また、アンシラ及びデータイオンが異なる種であるデュアル種トラップイオンシステムを使用すると、この問題が緩和され、イオンが互いに近接して留まることも可能になる。しかしながら、デュアル種の操作の欠点は、既に以前に解明されている。デュアル種を使用する中間回路REGでは、量子レジスタの周りに量子情報を分配するために、もつれ(2量子ビット)ゲートが必要とされ、そのようなデュアル種ゲートは、典型的には、単一種エンタングリングゲートよりも忠実度が悪い。
【0029】
中間回路リモートもつれ生成に関連して本明細書に記載されるアプローチには、様々な利点がある。例えば、m型イオンはg型イオンから放出された光子を吸収することができないので、REGの間にm型空間内の隣接するイオンを保護することが可能である。その結果、近傍の量子データイオンのデコヒーレンスを引き起こすことなく、REGアンシライオンを用いた量子回路の途中で、REGを実行できる。さらに、本発明者らのアプローチでは、単一の種イオンのみが使用され、したがって、データイオンとアンシライオンとの間のもつれゲートは、典型的には、忠実度がより高くなる。
【0030】
(デュアル種に対する二重空間の利点)
デュアル種に対するデュアル空間の利点は、図1に関連して少なくとも部分的に説明される。例えば、デュアル空間アプローチを使用して、m型量子ビットは、近隣のエントロピー動作(例えば、共同ドップラー、EIT冷却、REG)において迷走制御(stray control)又は散乱光から保護される。デュアル空間アプローチによって、中間回路冷却、較正、読み出し、REGが可能になる。1つの種の使用は、レーザ及び光路がより少ないこと、標準的で効率的な共同冷却、より直接的なシャトリング、HSSを介して達成されるチェーンの再順序付け(レーザによるチェーンの動的再構成可能性)、及び混合種2量子ビット(2q)ゲートではなくHSSを介して達成されるRE分配を意味する。
【0031】
(特徴の2つのクラス:CLASS I-量子ビット+冷却剤/較正イオン)
第一のクラスCLASS Iの特徴を図2に関連して説明する。CLASS Iに関連して、以下のスキームを(図2に示すように)実行することができる:
(1)初期化:量子ビット及び冷却剤イオンをg(例えば、133BaにおけるS1/2)及びm(例えば、D5/2)マニホルドに分離する。冷却剤イオンのみをmマニホルドに転送する。
(2)g型量子ビットに対してアルゴリズムの一部を実行する。
(3)中間アルゴリズムで、gマニホルドとmマニホルドとの間の全てのイオンをフリップ・フロップ(HSS)し、量子ビットと冷却剤イオンを常に反対側のマニホルドにする。g型は、ラマン、レーザ冷却、低忠実度読み出し、ポンピングを有する。m型は、ストレージを有する。アルゴリズムが完了するまで2~3を繰り返す。
(4)高忠実度読み出しのために量子ビットをo型に転送する。
【0032】
CLASS Iを使用することで、(1)完璧な質量マッチングによるあらゆるフレーバーの共同冷却、物理的シャトリングを伴わない回路ごとに再構成可能な冷却剤イオンの配置、及び(2)量子ビットの状態と同一の超微細量子ビット状態を有する冷却剤イオンの回路中間較正ルーチンが可能になる。
【0033】
(特徴の2つのクラス:CLASS II-量子ビット+アンシラ+冷却剤イオン)
第二のクラスCLASS IIの特徴を図3に関連して説明する。CLASS IIに関連して、以下のスキームを(図3に示すように)実行することができる:
(1)g型におけるデータ量子ビット及びアンシラを用いて部分アルゴリズムを実行する。
(2)HSS及びアンシラの高忠実度読み出しを介して、アンシラのみをo型に転送し、データをm型に転送する。
(3)アンシラ量子ビットを量子ビットマニホルドに戻し、回路を継続する。
(4)共同冷却/較正は、また、いつでも中断させることができる(CLASS I及びIIを参照)。
【0034】
CLASS II機能(functions)は、CLASS Iよりも多くのHSSを必要とするが、両方ともローカルg型ラマン及びグローバルHSS、冷却及び読み出し「のみ」を必要とする。
【0035】
CLASS IIを使用すると、(1)物理的シャトリングを伴わない量子レジスタの中間回路部分高忠実度読み出し、及び(2)物理的シャトリングを伴わない中間回路REG(図示せず)が可能になる。
【0036】
(実施例-(A)共同冷却/較正)
共同冷却/較正の一例を図4に関連して説明する。図4に関連して、以下のスキームを実行することができる(これは、図4で上から下への概略フローに従う):
(1)光ポンピング(OP)を介して全てを│0>に初期化する。
(2)データのローカルg型ラマンを│1>gに。
(3)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(4)g型単一及び2量子ビットラマンゲートを介するアルゴリズム。
(5A)│0>←→│0>;│1>←→│1>(m型)のグローバルHSS。
(6Ai)g型空間におけるグローバル共同冷却。
(6Aii)ローカルラマンによる較正及び冷却剤に対する「ローファイ」又は低忠実度の読み出し:ラムゼイ(Ramsey)、キャリアラビ(carrier Rabi(B場等)、側波帯(トラップ周波数)。
(7A)│0>←→│0>;│1>←→1>のグローバルHSS。
4~7を繰り返す。
【0037】
(実施例-(Aの代替)共同冷却/較正)
m型スプリッティングのみでHSSビームを必要とする代替的な共同冷却/較正の例を図5に関連して説明する。図5に関連して、以下のスキームを実行することができる(これは、図5で上から下への概略フローに従う):
(1)OPを介して全てを│0>に初期化する。
(2)データのローカルg型ラマンを│1>gに。
(3)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(4)g型単一及び2量子ビットラマンゲートを介するアルゴリズム。
(5A)│0>←→│0>(o型)のグローバルHSS。
(6A)全てのイオンのローカルORグローバルg型ラマン;グローバルはOKであるので、これはu波駆動とすることができる。
(7A)│0>←→│1>(m型)のグローバルHSS。
(8Ai/ii)g型空間におけるグローバル共同冷却/較正。
(9A)ステップ7A~5Aを逆に行う。
【0038】
(実施例-(B)アンシラ読み出し)
アンシラ読み出しの一例を図6に関連して説明する。図6に関連して、以下のスキームを実行することができる(これは、図6で上から下への概略フローに従う):
(1)OPを介して全てを│0>に初期化する。
(2)データのローカルg型ラマンを│1>gに。
(3)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(4)g型単一及び2量子ビットラマンゲートを介するアルゴリズム.
(5B)│1>←→│1>(両方とも量子ビットo型)のグローバルHSS。
(6B)アンシラのローカルg型ラマンを│1>に対。
(7B)│0>←→│0>(o型アンシラ、m型データ)のグローバルHSS。
(8B)グローバル検出レーザでアンシラのみを読み出し、│0>にポンピングする。
(9B1)│1>←→│1>のグローバルHSS。
(9B2)アンシラ読み出しを条件としたアンシラ上のローカルg型ラマン。
(10B)│0>←→│0>のグローバルHSS→5A。
【0039】
(実施例-(C)アンシラを介した中間アルゴリズム較正)
アンシラを介した中間アルゴリズム較正の一例を図7に関連して説明する。図7に関連して、以下のスキームを実行することができる(これは、図7で上から下への概略フローに従う):
(1)OPを介して全てを│0>に初期化する。
(2)データのローカルg型ラマンを│1>gに。
(3)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(4C)アンシラ上のローカルラマンによる較正:ラムゼイ、キャリアラビ(B場等)、側波帯(トラップ周波数)。
(5B)│1>←→│1>のグローバルHSS。
(6B)アンシラのローカルg型ラマンを│1>に。
(7B)│0>←→│0>のグローバルHSS(o型アンシラを生成する)。
(8B)グローバル検出レーザによるアンシラのみの読み出し。
(9B1)│1>←→│1>gのグローバルHSS。
(9B2)アンシラ読み出しを条件としたアンシラ上のローカルg型ラマン。
(10B)│0>←→│0>のグローバルHSS→5A。
【0040】
(実施例-(D)アンシラを介したREG及び分配)
アンシラを介したREG及び分配の一例を図8及び図9に関連して説明する。図8に関連して、以下のスキームを実行することができる(これは、図8で上から下への概略フローに従う):
(1)OPを介して全てを│0>に初期化する。
(2)データのローカルg型ラマンを│1>gに。
(3)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(4C)アンシラ上のローカルラマンによる較正:ラムゼイ、キャリアラビ(B場等)、側波帯(トラップ周波数)。
(5B)│1>←→│1>のグローバルHSS。
(6B)アンシラのローカルg型ラマンを│1>に。
(7B)│0>←→│0>のグローバルHSS(o型アンシラを生成する)。
(8B)グローバル検出レーザによるアンシラのみの読み出し。
(9D)交互に行うREG試行及び共同冷却。
【0041】
図9に関連して、上述のスキームは継続される(図9で上から下への概略フローに従って):
ステップ(9D)は、ここで最上部に示すが、図9に示す最後のステップである。
(9D)交互に行うREG試行及び共同冷却。
(10D)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(11D)REGアンシラ上のローカルg型ラマン。
(12Di)│1>←→│1>のグローバルHSS。
(12Dii)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(13D)REGアンシラ上のローカルg型ラマン。
(14D)│0>←→│0>のグローバルHSS。
(15D)単一種2qゲートを用いたg型におけるもつれ分配。
【0042】
(ヒルベルト空間シャトリング(HSS))
HSSに関連して、1762nmパルスがどれだけ良好であるかについての疑問が浮かび上がることがある。Blatt/Homeは、40Ca(729nm)において5e-5の忠実度を主張し、他者は、88Sr(674nm、GST)において約4e-4とすることができた。一態様は、改善するために潜在的に複合パルスを使用することを含む。さらに、1762パルスは、デバイ-ワラー係数(DW)(Debye-Waller factors)が小さいため、674、729パルスよりも良好である可能性が高い。しかし、おそらく、DWを低く保つために、半径方向に沿ってグローバル1762を使用することを望む場合がある。
【0043】
別の考えられる考慮事項は、1762パルス位相に関する。光学相は、o型にインプリントされるが、レーザがo型滞在時間(o-type dwell time)にわたってコヒーレントである限り、g型に戻るときに除去される。o型の場合、10~100ミリ秒(ms)のコヒーレンス時間が達成可能である。
【0044】
m型の場合、│0>←→│0>ビームと│1>←→│1>ビームとの間の位相差のみが問題となる。1つのアプローチは、同じレーザから両方のビームを導出し、経路長の差を最小にすることである。
【0045】
浮かび上がり得る別の問題は、ACシュタルクがグローバル1762パルスからシフトすることである。g型の場合、Δ=10GHzは、ΔAC~25Hzとなる。m型の場合、Δ=80MHzは、ΔAC~3kHzとなる。F=1からF’=3ビーム(F=0からF’=3は、四重極禁止である)に対してのみ発生する。スピンエコーを潜在的に使用して、Zゲート回転を相殺すること、又は単に追跡することができる。
【0046】
浮かび上がり得るさらなる別の問題は、必要とされ得る1762個というトーン/レーザの数である。上記で説明した方式は、約10GHzだけ分離された独立した1762個のトーンを必要とする。そのような実装の例を以下に説明する。修正バージョンは、約80MHzの中間回路REGによって分離された1762個のトーンのみを必要とする。しかしながら、REGは、考慮すべき他の技術的課題であるとともに、長期的な目標である。
【0047】
(m型ラマンゲート)
本開示の他の側面は、m型ラマンゲートを実装することを含んでもよい。m型ラマンゲートは、以下に説明するg型ラマンスキームと同じクラスの特徴を実装することができる。m型ラマンゲートの一例を図10に関連して説明する。基本的に、より高い忠実度のゲートは、ラマンレーザ532nmでの133Baのためである。D5/2はP3/2にのみ結合するので、Δ>>ωHFSであっても1/Δラビレート(Rabi rate)を得ることが可能である。自然放出(約1/Δ)との戦いに勝ち、→約5倍の誤差低減になる。
【0048】
このアプローチは、技術的により単純であり、所望であれば、直接的なCWラマンを伴う。CWラマンは、g型ラマンにも使用することができる。EOMの代わりにAOMを使用して、量子ビット周波数を拡張すること(to span)もできる。
【0049】
さらに、回路の性能は、不完全なHSSの影響をほとんど受けない。計算中のHSS転送の必要性を減らすか(CLASS II機能)、完全になくす(CLASS I機能)ことで、不完全なHSS転送が計算の忠実度に与える影響を大幅に減らすことができる。
【0050】
(m型ラマンを有する特徴の2つのクラス:CLASS I-量子ビット+冷却剤/較正イオン)
m型ラマンを有する特徴の第一のクラスCLASS Iを以下に示す図11に関連して説明する。CLASS Iに関連して、以下のスキームを実行することができる(図11に示すように):
(1)初期化:量子ビット及び冷却剤イオンを、グローバルHSSを有するg(S1/2)及びm(D5/2)マニホルドに分離する。量子ビットイオンのみをmマニホルドに転送する。
(2)(現在ラマンを有する)mマニホルド内の回路を実行し、その間に(ラマン、EIT冷却、読み出し、ポンピングを有する)gマニホルド内のイオンによる冷却/較正を挟み込む。回路/冷却/較正中に、HSSを必要としない。
(3)グローバルHSSによる量子ビットの高忠実度読み出しのために、1つの量子ビット状態をo型に転送する。
【0051】
CLASS Iを使用することで、(回路/冷却/較正中にHSSがなくても)、(1)完璧な質量マッチングによるあらゆるフレーバーの共同冷却、物理的シャトリングを伴わない回路ごとに再構成可能な冷却剤イオンの配置、及び(2)量子ビットの状態と同一の超微細量子ビット状態を有する冷却剤イオンの回路中間較正ルーチンが可能になる。CLASS Iを使用すると、HSSの場合、│0>←→│0>遷移のみを必要とし、m型ACシュタルクシフトは必要としない。また、g型ではなく、m型ラマンのみを必要とする。
【0052】
(m型ラマンを有する特徴の2つのクラス:CLASS II-量子ビット+アンシラ+冷却剤イオン)
m型ラマンを有する特徴の第二のクラスであるCLASS IIを図12に関連して説明する。CLASS IIに関連して、以下のスキームを実行することができる(図12に示すように):
(1)m型におけるデータ量子ビット及びアンシラを用いて部分アルゴリズムを実行する。
(2)HSS及びアンシラの高忠実度読み出しを介して、アンシラのみをo型に、データをm型に転送する。
(3)アンシラ量子ビットを量子ビットマニホルドに戻し、回路を継続する。
(4)共同冷却/較正は、また、いつでも割り込ませることができる(クラスAは、Bのサブセットである)。
【0053】
前述のように、CLASS II機能は、CLASS Iよりも多くのHSSを必要とするが、両方ともローカルm型及びg型ラマン並びにグローバルHSS、冷却、及び読み出し「のみ」を必要とする。
【0054】
CLASS IIを使用すると、(1)物理的シャトリングを伴わない量子レジスタの中間回路部分読み出し、及び(2)物理的シャトリングを伴わない中間回路REGが可能になる。
【0055】
(両方のHSS遷移を同時に駆動することによってHSSレーザ位相ノイズをゼロにするためのスキーム(CLASS I機能))
このアプローチにおける誤差の1つの原因は、HSS遷移を駆動するために使用されるレーザにおける位相ノイズである可能性が得る。このノイズは、技術的であるが、本質的なもので、レーザ位相を適切に安定した基準にロックすることによって、低減することができるが、完全に排除することはできない。特に、このレーザ位相ノイズは、gマニホルドとmマニホルドとの間のアンシライオンと量子ビットイオンとの交換が行われるたびに、我々の量子ビットに位相ノイズを与える可能性がある。例えば、│0>から│0>のHSS遷移を駆動し、続いて、│1>から│1>の遷移(又はその逆)を駆動することによって、次いで、これらの2つの遷移の時間の間のレーザ位相のいかなるドリフトも、│0>と│1>との間の相対位相にインプリントされ、このことは、計算に入り、計算の忠実度を低下させる。
【0056】
言い換えれば、2つのHSS遷移を順次実行する際、量子ビットがgマニホルドとmマニホルドとの間で分割されるとき、光量子ビットにおける量子ビット情報の短い記憶がある。この時間の間、光量子ビットとレーザの位相間のいかなるドリフトも、mマニホルドへの転送が完了すると、量子ビット位相上にインプリントされる。
【0057】
本明細書で説明される技法は、上記で概説される問題に対する解決策として使用することができる。量子ビット位相に対するレーザ位相ノイズの影響は、│0>から│0>への遷移と│1>から│1>への遷移とを同時に駆動することによってゼロにすることができる。遷移におけるレーザ位相は、│0>及び│1>の両方に共通であり、したがって、誤った位相を計算に導入しない。言い換えれば、量子ビット情報は、いつでも光量子ビットに記憶されず、レーザ位相ノイズが量子ビット位相誤差に変換される機会を排除する。
【0058】
レーザ位相ノイズが十分に大きい場合、転送が不完全になる可能性がある(すなわち、│0>の母集団が完全には│0>に転送されない)が、他の場所で明らかにされるように、このスキームは、十分に一般的であるため、BB1又は他のパルスシーケンスを使用することを可能にするように、位相ノイズのような実験的不完全性の存在下でさえも転送を最適化するように設計される。さらに、不完全な転送の誤差、量子ビットにインプリントされるレーザ位相の誤差とは異なり、容易に検出することができ、その場合、計算結果が誤差によって影響を受ければ、計算結果を拒否することし、又は影響を受けなければ、計算結果を受け入れることのいずれかを選択することが可能である。
【0059】
この解決策は、m状態ラマンを使用しないスキームにおけるCLASS I機能に特に有用であっり、常に、計算の途中で(すなわち、初期化と読み出しとの間ではなく)、2つのHSS遷移を共に駆動する。したがって、この技法は、CLASS I機能のみを使用するアルゴリズムのための量子ビット位相に対するレーザ位相ノイズの影響を排除することができる。
【0060】
(エコーシーケンスを実行することによってHSSレーザ位相ノイズをゼロにするためのスキーム(CLASS II機能))
レーザ位相ノイズが量子ビットにインプリントされるのを防ぐために、│0>から│0>及び│1>から│1>への遷移を同時に駆動する技術は、これらの2つの遷移の間に他の動作が実行される必要がない場合にのみ機能する。これは、CLASS IIの遷移には当てはまらない。例えば、アンシラ読み出しの場合、1つのHSS遷移(│0>から│0>又は│1>から│1>のいずれか)が駆動され、次いで、これらのイオンにラマンパルスを印加することによって読み出すべきアンシライオンを選択し、次いで、他方のHSS遷移を駆動する。ラマン遷移は必然的に持続時間が有限なので、このシーケンスは、量子ビット位相ノイズ上にレーザ位相ノイズをインプリントし易い。
【0061】
言い換えれば、量子ビット情報を有限の時間にわたって光量子ビットに格納する必要があり、レーザ位相ノイズが量子ビット位相誤差に変換される機会が生じる。
【0062】
本明細書で説明される技法は、上記で概説される問題に対する解決策として使用することができる。例えば、NMR及び量子情報コミュニティにおいて一般的な「スピンエコー」と呼ばれる技法は、本明細書で説明されるスキーム/アーキテクチャとともに使用するために適合され得る。基本的な概念は、量子ビット情報がラマンパルス中に光量子ビット上にインプリントされるときに、レーザにおける位相ノイズが、量子ビットに伝達されることである。この位相誤差を「エコーアウト」するために、│0>から│0>への遷移及び│1>から│1>への遷移を同時に駆動することによって、ラマンパルスの後にエコーパルスが光量子ビットに印加され、これには、光量子ビットを反転させる効果がある。これにより、レーザ位相ノイズが光量子ビットに反対符号でインプリントされる。エコーパルスの後に、mマニホルドへの遷移を完了する前のラマンパルスの持続時間に等しい時間の待機があるので、エコーパルスの前後にインプリントされた誤差は、互いに相殺される。レーザ位相がドリフトする速度(rate)が一定である場合、この相殺は、原則として完璧であり得る。したがって、このエコー技法は、一定の速度でドリフトするレーザ位相に対するOMGスキームの影響を排除し、その代わりに、このスキームが、エコーシーケンスの過程にわたってレーザ位相がドリフトする速度の変化にのみ、影響を受けるようにする。
【0063】
Class II機能を実行する過程でレーザ位相ノイズに対するOMGスキームの感受性をさらに低減するために、追加のレベルのエコーを適用することができる。中間回路アンシラ読み出しの場合、読み出しアンシラを他の量子ビットから分離しながら、上述のように位相ノイズをエコーすることが可能である。また、読み出しアンシラを量子ビットレジスタに折り返すために、読み出しを実行した後、この動作を逆転させる必要がある。この第二の動作に追加のエコーパルスを適用することによって、一定の速度でドリフトするレーザ位相だけでなく、読み出し動作全体の過程にわたってそれ自体一定の速度で変化する速度でドリフトするレーザ位相に対するスキームの感受性をゼロにすることが可能である。本質的に、HSS遷移のシーケンスは、例えば、光量子ビットが初期アンシラ分離(ancillae-separation)シーケンスに対して正の符号とそれに続く負の符号を有する位相ノイズを獲得した場合、それがアンシラリフォールディング(ancillae-refolding)シーケンスに対して負の符号とそれに続く正の符号を有する位相誤差を獲得するように駆動される。したがって、アンシラ分離シーケンス及びアンシラリフォールディングシーケンス自体は、各シーケンス内で取得された位相誤差を相殺するように個別にエコーされるだけでなく、アンシラリフォールディングシーケンス中に取得された位相ノイズがアンシラ分離シーケンス中に取得された位相ノイズを相殺するように構築される。
【0064】
(グローバルビームを用いた高忠実度HSSのスキーム)
発生し得る問題は、チェーン軸に沿っていない方向からイオンの長いチェーンをグローバルにアドレス指定する有限サイズのレーザビームの場合、チェーンにわたるレーザ強度の不均質性に起因して、πパルスの忠実度に限界が生じることである。例えば、3μmのイオン間隔を有する32個のイオンからなるチェーンで、レーザ強度が中心イオン上で完全なπパルスを駆動するように選択される場合、85μmの半径をチェーンの中心とし、チェーン軸に対して垂直に伝搬するグローバルビームは、エッジイオン(1個目と32個目)でのπパルス忠実度は、わずか0.84である。
【0065】
本開示は、上記で概説した問題に対処する2つの例示的な実施形態(例えば、例示的なスキーム又は態様)を提供する。
【0066】
スキーム1:レーザビームは、チェーン軸に沿った方向のみに大きくする(高偏心楕円ビーム)。上記の例では、ビーム半径を600μmにして、外側イオンに対するHSS誤差を<1e-4にする。これは、同じレーザパワーに対して、πパルスHSS転送のために2.66倍の時間を要する。
【0067】
スキーム2:コヒーレント量子パルスシーケンスを使用して、不均質なレーザ強度によるπパルスの忠実度を最小限に抑える。BB1シーケンス(例えば、BB1の一般的概要については、http:// cds.cern.ch/record/599468/files/0301019.pdf)及び同じ(例えば、85μmの)ビームサイズ(低偏心楕円形ビーム)を使用することができる。これも、HSS誤差を<1e-4にすることができるが、スキームよりも1.9倍の時間を要する。
【0068】
スキーム1対スキーム2:スキーム2は、光アクセス上の理由から大きなビームを有することが望ましくない場合に、適している。スキーム1は、より速いHSS転送(固定レーザパワーに対して)又はより小さい必要とされるレーザパワー(固定転送時間に対して)を望む場合に、適している。スキーム1の別の利点は、BB1を必要としないので、他の種類の転送誤差(例えば、周波数又は位相ノイズ)に対して最適化されたパルスシーケンスを使用できることである。
【0069】
(高忠実度デュアル空間動作のためのレーザスキーム)
高忠実度デュアル空間動作のためのレーザスキームを図13に関連して説明する。このレーザビームスキーム(伝搬方向/偏光/B場配向)は、高忠実度デュアル空間動作に非常に適している。
【0070】
個々のラマン構成は、パルスレーザを使用する場合、有害なACシュタルクシフトを最小限に抑える。
【0071】
グローバルHSSは、典型的には、原子四重極遷移によって駆動される。図13に示されるHSSビーム配向は、遷移レートを最大化する。長波長HSSレーザ(例えば、Baイオンについては1762nm)の場合、小さいラム-ディッケパラメータは、32個のイオンからなるチェーンにおける軸方向モードの熱集団が大きい(nbar=50)場合でも、HSS転送誤差は小さくなる(<1e-4)。
【0072】
HSSビームの偏光は、HSSシーケンス中に使用されるm状態マニホルド内の特定の状態に依存する。クロック状態(すなわち、m=0のクロック状態)の場合、遷移レートを最大化するために、磁場に垂直な偏光を利用することができる。しかしながら、mの非ゼロ値を有するが、その相対周波数が一次で磁場に対して非感受性である他の状態(いわゆる「一次場非感受性」又は「FOFI」状態)がある。│m│=1を有するこれらの状態の場合、遷移レートは、偏光をビーム伝搬の方向及び磁場によって画定される平面内にあるように設定することによって最大化される。
【0073】
(AOM及びEOMを使用して1つ又は2つのHSS遷移の同時駆動を可能にするスキーム)
(1)│0>から│0>への遷移と│1>から│1>への遷移との同時駆動、又は(2)遷移を個別駆動のいずれかを可能にする技術的解決策を実装する必要がある。これらの遷移は、多くのイオン種に対して多くのGHzによって周波数が分離され得るため、これは技術的に困難なことがある。
【0074】
例示的な態様では、これは、電気光学変調器(EOM)を使用して、側波帯の2つのセットを適用し、各セットからの1つの側波帯が各遷移に対処することによって達成される。次いで、側波帯のこれらの2つのセットを一緒に又は個別にオンにして、一方又は両方の遷移を駆動することができる。しかしながら、これによって、光パワーが5つのトーン(側波帯の各セットにある2つ+キャリア)に分割されることは避けられず、EOMの上流の光学システムに必要とされるパワーが増加することになる。
【0075】
あるいは、これは、例示的な態様において、音響光学変調器(AOM)及びEOMを直列に使用することによって達成される。EOMは、2つの遷移(1つがEOMキャリアで、1つが1つの側波帯)に対処するようにレーザ周波数を変調するであろう。これは、側波帯の1つのセットのみが生成される必要があるので、浪費される電力の量を低減する。しかしながら、キャリアにおける電力をゼロにすることができないので、ビームにおける全体的な電力を変調するためにAOMが必要である。このアプローチでは、両方の遷移に対処し、EOM側波帯をオフにすることによって、EOMキャリアによって対処される遷移のみに対処することは容易であるが、EOM側波帯によって対処される遷移のみに対処することは困難である。これを達成するために、EOM及びAOMの両方の駆動周波数を等しい量だけシフトして、キャリアをその遷移から離調させるが、キャリアをその遷移と共振したままにすることができる。しかしながら、この場合、AOMの有限帯域幅は、特別な措置を講じない限り、数十MHzに制限されることが多く、望ましくない遷移の共振外励起と、遷移が駆動される速度とのバランスを取らざるを得なくなる。
【0076】
上記で概説した問題に対する解決策は、上記で列挙した第二のスキームにおけるように、AOM及びEOMを順番に使用するが、望ましくない遷移の励起を相殺するためにAOM及びEOM位相の独立制御を使用することを拡張することである。EOMキャリアに対応する光トーンの位相は、AOM駆動位相のみの位相で与えられるが、EOM側波帯に対応する光トーンの位相は、AOMとEOM駆動トーンの位相の和で与えられる。他の箇所で説明されているように、BB1及び関連する複合パルスシーケンスは、公称回転パルスと、それに続く、回転角度が固定されているが位相が公称回転角度に依存するいくつかの補正パルスとからなる。公称回転パルスの途中で、AOM及びEOM駆動トーンの位相をπだけ変更することが可能である。この結果、キャリア光トーンの位相はπだけ変化し、側波帯光トーンの位相は2*πだけ変化し、これは、その位相が変わらないことに等しい。したがって、側波帯遷移は、公称回転角度πを得、キャリア遷移は、公称回転角度0を得る。次いで、AOM位相及びEOM位相と同じ技法を使用して、両方の遷移に補正パルスを適用して、0及びπの公称角度に対して適切な位相を補正パルスに与える。
【0077】
このスキームは、2つのHSS遷移の強度が等しい(すなわち、2つの遷移は、所与の光パワーに対して同じレートで駆動される)場合に拡張することができる。この場合、2つの遷移は、本質的に電力整合されたEOM側波帯の同じセットで駆動することができる。これにより、EOM側波帯の光パワーのパワーを正確に較正してEOMキャリアの光パワーに適合させる必要がなくなる。この場合、一方の光トーンの位相は、AOM駆動とEOM駆動の位相の和で与えられ、他方の光トーンの位相は、その差で与えられる。公称回転パルスの途中で、AOM駆動の位相を+π/2だけ変化させ、EOM駆動の位相を+π/2又は-π/2のいずれかだけ変化させることができる。この結果、光トーンの一方の位相はπだけ変化し、他方の位相は変化しない。上述のように、遷移の一方は公称回転角度πを得、他方は公称回転角度0を得る。次いで、補正パルスが両方の遷移に適用され、再び、AOM及びEOM駆動の位相を設定して、補正パルスに0及びπの公称角度に対する適切な位相を与える。この技法は、どちらかの遷移を駆動することが可能であり、AOM駆動とEOM駆動の位相を変えずに両方を駆動することが可能である。
【0078】
概して、本明細書に記載される量子情報処理のためのトラップイオンのためのデュアル空間単一種アーキテクチャは、柔軟であり、デュアル種に依存するアーキテクチャに勝るいくつかの利点を有する。例えば、イオンの単一チェーンは、物理的シャトリングがなくても、必要に応じて再構成可能である。また、共同冷却は、完全に質量整合することができる。本明細書の例示的な態様は、それ自体が危険であり得る狭いライン冷却を必要とせず、(電磁誘起透明化)EIT冷却ほど冷たくならないことがある。また、このアプローチによって、高速のための双極子許容(広域)遷移での中間アルゴリズム読み出し及びリモートもつれ生成(REG)が可能になる。さらに、リモートもつれ(RE)分配のために、混合種2量子ビット(2q)ゲートは必要とされない。
【0079】
デュアル空間単一種アーキテクチャのためにグローバル1762光ビームを使用することは、読み出し中のシェルビングのために既に検討されている。短波長ラマンビームのみが、アドレス指定のために緊密に集束される必要がある。しかし、g型ゲート(接地量子ビットゲート)を使用するアプローチでは、別の独立したトーンが10GHz離れて必要とされ得る。これは、第二のレーザ及び高周波音響光学変調器(AOM)を用いて達成されてもよい。イオントラップRFからのものを含むm型(準安定量子ビット)のACシュタルクシフトを考慮/管理する必要がある。また、グローバル1762光ビームは、将来的に、統合フォトニクスを可能にするであろう。
【0080】
デュアル空間単一種アーキテクチャは、また、より高い忠実度及びより効率的なゲートを生成することができるm型ラマン動作をサポートすることができる。そのようなアプローチは、ローカルm型及びg型ラマンで約80MHz(10GHzではない)だけ離間された1762個のトーンのみを必要とする。
【0081】
図14は、本開示の態様によるQIPシステム1400の一例を示すブロック図であり、デュアル空間単一種トラップイオンアーキテクチャについて上述した技法を実装することができる。QIPシステム1400は、量子コンピューティングシステム、コンピュータデバイス、トラップイオンシステム等と呼ばれることもある。
【0082】
QIPシステム1400は、イオン化(例えば、光イオン化)されると原子種をトラップするイオントラップ1470を有するチャンバ1450に原子種(例えば、中性原子のプルーム又はフラックス)を提供するソース1460を含むことができる。イオントラップ1470は、QIPシステム1400のプロセッサ又は処理部分の一部であってもよい。ソース1460は、チャンバ1450とは別個に実装されてもよい。
【0083】
撮像システム1430は、原子イオンがイオントラップに提供されている間、又は原子イオンがイオントラップ1470に提供された後に、原子イオンを監視するための高分解能撮像装置(例えば、CCDカメラ)を含むことができる。一態様では、撮像システム1430は、光学及びトラップコントローラ1420とは別個に実装することもできるが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出、識別、及び標識するために蛍光を使用するには、光学及びトラップコントローラ1420と協調させる必要があり得る。
【0084】
QIPシステム1400は、また、アルゴリズム構成要素1410を含んでもよく、これは、QIPシステム1400の他の部分(図示せず)とともに動作して、量子アルゴリズム又は量子演算(単一量子ビット演算及び/又はマルチ量子ビット演算(例えば、2量子ビット演算)ならびに拡張量子計算の組合せのスタック又はシーケンスを含む)を実行することができる。したがって、アルゴリズム構成要素1410は、QIPシステム1400の様々な構成要素に(例えば、光学及びトラップコントローラ1420に)命令を提供して、量子アルゴリズム又は量子演算の実装を可能にすることができる。
【0085】
ここで図15を参照すると、本開示の態様による例示的なコンピュータシステム又はデバイス1500が示されている。コンピュータデバイス1500は、例えば、単一のコンピューティングデバイス、複数のコンピューティングデバイス、又は分散コンピューティングシステムを表すことができる。コンピュータデバイス1500は、量子コンピュータ(例えば、QIPシステム)、古典的コンピュータ、又は量子及び古典的コンピューティング機能の組み合わせとして構成されてもよい。例えば、コンピュータデバイス1500は、トラップイオン技術に基づく量子アルゴリズムを使用して情報を処理するために使用されてもよく、したがって、本明細書で説明されるデュアル空間単一種アーキテクチャを実装してもよい。図14に示すQIPシステム1400には、QIPシステムとしてのコンピュータデバイス1500の一般的な例が示されている。
【0086】
一例では、コンピュータデバイス1500は、本明細書で説明する特徴のうちの1つ以上に関連する処理機能を実行するためのプロセッサ1510を含んでもよい。プロセッサ1510は、プロセッサ又はマルチコアプロセッサの単一又は複数のセットを含んでもよい。さらに、プロセッサ1510は、統合処理システム及び/又は分散処理システムとして実装されてもよい。プロセッサ1510は、中央処理ユニット(CPU)、量子処理ユニット(QPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、又はこれらのタイプのプロセッサの組合せを含んでもよい。一態様では、プロセッサ1510は、コンピュータデバイス1500の汎用プロセッサを意味することがあり、それは、また個々のビーム制御のための機能等、より具体的な機能を実行するための追加のプロセッサ1510を含んでもよい。
【0087】
一例では、コンピュータデバイス1500は、本明細書で説明する機能を実行するために、プロセッサ1510によって実行可能な命令を記憶するためのメモリ1520を含んでもよい。一実装形態では、例えば、メモリ1520は、本明細書で説明する機能又は動作のうちの1つ以上を実行するためのコード又は命令を記憶するコンピュータ可読記憶媒体に対応してもよい。プロセッサ1510と同様に、メモリ1520は、コンピュータデバイス1500の汎用メモリ意味することがあり、それは、また個々のビーム制御のための命令及び/又はデータ等、より具体的な機能のための命令及び/又はデータを記憶するための追加のメモリ1520を含んでもよい。
【0088】
さらに、コンピュータデバイス1500は、本明細書で説明されるようなハードウェア、ソフトウェア、及びサービスを利用して、1つ以上の当事者との通信を確立して、維持する通信構成要素1530を含んでもよい。通信構成要素1530は、コンピュータデバイス1500上の構成要素間の通信と、コンピュータデバイス1500と、通信ネットワークを横断して位置するデバイス及び/又はコンピュータデバイス1500に直列もしくはローカルに接続されるデバイス等の外部デバイスとの間の通信とを搬送してもよい。例えば、通信構成要素1530は、1つ以上のバスを含みんでもよく、外部デバイスとインターフェース接続するために動作可能な、それぞれ送信機及び受信機に関連する送信チェーン構成要素及び受信チェーン構成要素をさらに含んでもよい。
【0089】
さらに、コンピュータデバイス1500は、データストア1540を含んでもよく、これは、本明細書で説明される実装形態に関連して使用される情報、データベース、及びプログラムの大容量記憶を提供するハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の好適な組み合わせとすることができる。例えば、データストア1540は、オペレーティングシステム1560(例えば、古典的OS又は量子OS)のためのデータリポジトリであってもよい。一実装形態では、データストア1540は、メモリ1520を含んでもよい。
【0090】
コンピュータデバイス1500はまた、コンピュータデバイス1500のユーザから入力を受信するように動作可能であり、ユーザへの提示のための出力を生成するように、又は異なるシステムに(直接又は間接的に)提供するようにさらに動作可能である、ユーザインターフェース構成要素1550を含んでもよい。ユーザインターフェース構成要素1550は、キーボード、数字パッド、マウス、タッチ感知ディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、機能キー、マイクロフォン、音声認識構成要素、ユーザからの入力を受信することが可能な任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されない、1つ以上の入力デバイスを含んでもよい。さらに、ユーザインターフェース構成要素1550は、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザに出力を提示することが可能な任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されない、1つ以上の出力デバイスを含んでもよい。
【0091】
一実装形態では、ユーザインターフェース構成要素1550は、オペレーティングシステム1560の動作に対応するメッセージを送信及び/又は受信してもよい。さらに、プロセッサ1510は、オペレーティングシステム1560及び/又はアプリケーション又はプログラムを実行してもよく、メモリ1520又はデータストア1540は、それらを格納してもよい。
【0092】
コンピュータデバイス1500がクラウドベースのインフラストラクチャソリューションの一部として実装される場合、ユーザインターフェース構成要素1550は、クラウドベースのインフラストラクチャソリューションのユーザがコンピュータデバイス1500と遠隔で対話することを可能にするために使用されてもよい。
【0093】
ここで図16を参照すると、QIPシステムを動作させる方法は、QIPシステム1400、コンピュータデバイス1500、及び/又はQIPシステム1400若しくはコンピュータデバイス1500のサブ構成要素のうちの1つ以上によって実行され得る。
【0094】
ブロック1605で、QIPシステム1400、コンピュータデバイス1500、及び/又はQIPシステム1400若しくはコンピュータデバイス1500のサブ構成要素は、グローバル光ビームを複数のデュアル空間単一種(DSSS)トラップイオンに適用してもよい。
【0095】
ブロック1610で、QIPシステム1400、コンピュータデバイス1500、及び/又はQIPシステム1400若しくはコンピュータデバイス1500のサブ構成要素は、複数のラマンビームのうちの少なくとも1つのラマンビームを複数のDSSSトラップイオンのうちの1つのDSSSトラップイオンに適用して、その1つのDSSSトラップイオンに関連する量子ビットを基底状態、準安定状態、又は光学状態から異なる状態に遷移させてもよい。
【0096】
本開示の態様は、グローバル光ビームを複数のデュアル空間単一種(DSSS)トラップイオンに適用し、複数のラマンビームのうちの少なくとも1つのラマンビームを複数のDSSSトラップイオンのうちの1つのDSSSトラップイオンに適用して、その1つのDSSSトラップイオンに関連する量子ビットを基底状態、準安定状態又は光学状態から異なる状態に遷移させるための方法及び/又はシステムを含む。
【0097】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、グローバル光ビームを適用することは、コヒーレント量子パルスシーケンスを適用することを含む。
【0098】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、グローバル光ビームを適用することは、複数のDSSSトラップイオンに沿った方向に偏心性を有する単一のレーザビームを適用して、単一のレーザビームが複数のDSSSトラップイオンをカバーするようにすることを含む。
【0099】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、グローバル光ビームを適用することは、複数のDSSSトラップイオンに対して第一の45度の角度で、磁場に対して第二の45度の角度でグローバル光ビームを適用することを含む。
【0100】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、電気光学変調器(EOM)又はEOMと直列に配置された音響光学変調器(AOM)を使用して複数のラマンビームのうちの少なくとも1つのラマンビームの周波数を調整することをさらに含む。
【0101】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、複数のラマンビームのうちの冷却ラマンビームを複数のDSSSトラップイオンのうちの少なくとも冷却イオンに適用して、冷却イオンを第一の状態から第一の状態より高い第二の状態へ遷移させることをさらに含む。
【0102】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、量子ビットの計算中に、1つのDSSSトラップイオンに関連する複数のDSSSトラップイオンのアンシライオンを読み出すことをさらに含む。
【0103】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、量子ビットの計算中に、アンシライオンの読み出しに基づいて、1つのDSSSトラップイオンを較正することをさらに含む。
【0104】
本開示の態様は、上記の方法及び/又はシステムのいずれかを含み、複数のDSSSトラップイオンと1つ以上のリモートDSSSトラップイオンとの間のリモートもつれ生成を実行することをさらに含む。
【0105】
本開示の前述の説明は、当業者が本開示を作成又は使用することを可能にするために提供される。本開示に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される共通の原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく他の変形形態に適用されてもよい。さらに、説明された態様の要素は、単数形で説明又は特許請求されていることもあるが、単数形に限定することが明示的に述べられていない限り、複数形が企図される。さらに、別段の記載がない限り、任意の態様の全部又は一部は、任意の他の態様の全部又は一部とともに利用されてもよい。したがって、本開示は、本明細書で説明する例及び設計に限定されるべきではなく、本明細書で開示する原理及び新規の特徴に合致する最も広い範囲を与えられるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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【国際調査報告】