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特表2024-528623質量分析計およびプロセッシング手段に接続した液体分離装置を用いたペプチドの同定に基づく微生物の同定
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  • 特表-質量分析計およびプロセッシング手段に接続した液体分離装置を用いたペプチドの同定に基づく微生物の同定 図1
  • 特表-質量分析計およびプロセッシング手段に接続した液体分離装置を用いたペプチドの同定に基づく微生物の同定 図2
  • 特表-質量分析計およびプロセッシング手段に接続した液体分離装置を用いたペプチドの同定に基づく微生物の同定 図3
  • 特表-質量分析計およびプロセッシング手段に接続した液体分離装置を用いたペプチドの同定に基づく微生物の同定 図4
  • 特表-質量分析計およびプロセッシング手段に接続した液体分離装置を用いたペプチドの同定に基づく微生物の同定 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】質量分析計およびプロセッシング手段に接続した液体分離装置を用いたペプチドの同定に基づく微生物の同定
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240723BHJP
   C07K 4/00 20060101ALI20240723BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240723BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 9/76 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X ZNA
G01N27/62 D
C07K4/00
C12M1/34 B
C12Q1/37
C12N9/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501945
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2022069857
(87)【国際公開番号】W WO2023285653
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】21305988.4
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511196870
【氏名又は名称】ユニベルシテ クロード ベルナール リヨン プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】512291156
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリュール デ リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】508277405
【氏名又は名称】ホスピス・シビル・ドゥ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】HOSPICES CIVILS DE LYON
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム、ルモワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】モード、グレグソン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー、ジル
(72)【発明者】
【氏名】ロマン、カリエール
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ、ヴァンデネシュ
【テーマコード(参考)】
2G041
4B029
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA13
2G041GA09
2G041GA20
2G041HA01
2G041HA02
2G041JA02
2G041KA01
2G041LA07
2G041MA05
4B029AA07
4B029BB01
4B029FA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QS02
4B063QS16
4B063QS17
4B063QS40
4H045AA10
4H045AA30
4H045AA40
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA10
4H045EA50
4H045GA21
4H045GA30
(57)【要約】
本発明は、サンプル中に存在する少なくとも1つの微生物を、前記微生物のリボゾームタンパク質の切断から生じるペプチドの検出に基づいて同定するための方法であって、本明細書に記載の工程a)、工程b)、工程c)、工程d)、工程e)、工程f)、工程g)、工程h)および工程i)を含み、予め定義されたリストから読み取られた各トランジションはペプチドに関連付けられ、前記ペプチドの検出に従って微生物が同定される方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中に存在する少なくとも1つの微生物を、前記微生物のリボゾームタンパク質の切断から生じるペプチドの検出に基づいて同定するための方法であって、以下の工程:
a)微生物を溶解し、前記サンプル中に存在するタンパク質を切断してペプチド混合物を得る工程、
b)質量分析計に接続した液体分離装置を用いて、前記ペプチド混合物を脱複合体化する工程、
c)前記分離装置から溶出した液体を、イオン源を用いて霧化してイオン電流を発生させる工程、
d)前記質量分析計を用いて、前記イオン源からの前記イオン電流を受信し、複数のサイクルの各サイクルについて、前記イオン電流に対して、トランジションを検出するための一連のフィルタリングステップを実行する工程であって、前記トランジションは、前駆体イオンと、前記前駆体イオンの少なくとも1つのフラグメントイオンとを含み、前記トランジションは、質量分析計を用いて予め定義されたトランジションリストから読み取られ、前記一連のトランジションの各トランジションについて、質量分析計は、各トランジションの前駆体イオンを選択してフラグメント化する工程、
e)プロセッサを用いて、ペプチド混合物をモニタリングするために、使用される複数のトランジションに関するデータを受信する工程、
f)プロセッサを用いて、前記複数のトランジションを、2つ以上の連続するトランジショングループに割り当て、前記予め定義されたトランジションリストに割り当てる工程、
g)プロセッサを用いて、2つ以上の連続するグループの各グループにおいて、1つのセンチネル化合物に関連する少なくとも1つのセンチネルトランジションをモニタリングする工程であって、前記少なくとも1つのセンチネルトランジションは、そのグループにおいて最も遅い予想保持時間を有するものとして選択される工程、
h)あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計で検出された場合、プロセッサを用いて、前のグループのトランジションのモニタリングを停止する一方で、次の連続するグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのモニタリングを開始する工程、
i)場合によっては、プロセッサを用いて、前記質量分析計で予め定義されたリストから読み取られたトランジションの検出から、クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムを作成する工程
を含み、予め定義されたリストから読み取られた各トランジションはペプチドに関連付けられ、前記ペプチドの検出に従って微生物が同定される、方法。
【請求項2】
前記ペプチド混合物を脱複合体化する工程が、液体クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチド混合物を脱複合体化する工程が、40%未満のアセトニトリルを含む移動相を用いて行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記質量分析計がタンデム質量分析計である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記質量分析計がPRM(並列反応モニタリング)、MRM(多重反応モニタリング)、DIA(データ非依存的取得)またはSWATH MS(全理論的フラグメントイオンスペクトル質量分析の逐次枠取得)を使用する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルに界面活性剤を添加することにより、リボゾームタンパク質の切断から生じないペプチドを除去する予備工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
2つ以上の連続するトランジショングループがペプチド群と関連しており、ペプチドのそれぞれが微生物の属および/または種に特異的である、請求項1~6いずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質の切断がトリプシン酵素での消化により行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記予め定義されたリストが、6~20個のアミノ酸を含むペプチドに関連し、工程b)で、40%未満のアセトニトリルで脱複合体化される少なくとも1つのトランジションを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記予め定義されたリストが、配列番号1~配列番号423から選択される配列を示すペプチドに関連する少なくとも1つのトランジションを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記センチネル化合物が以下の化合物群:工程(a)の微生物タンパク質の切断から生じるペプチド、トリプシン酵素の自己切断から生じるペプチド、サンプルに導入されたタンパク質またはペプチドの切断から生じるペプチド、外因性導入ペプチド、および他の化合物から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルが、
・血液、血清、リンパ、粘液、悪臭、唾液、気管気管支吸引液、脳脊髄液および尿からなる群から選択される、哺乳動物から得られる生物学的サンプル、または
・使用済みの水、食品、飲料、土壌サンプルおよび表面サンプルからなる群から選択されるサンプル
である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
液体分離装置に接続した質量分析計と、工程e)、f)、g)およびh)の実施に適合した、特に、
・ペプチド混合物をモニタリングするために、使用される複数のトランジションに関するデータを受信すること、
・複数のトランジションを、2つ以上の連続するトランジショングループに割り当て、前記予め定義されたトランジションリストに割り当てること、
・前記2つ以上の連続したグループの各グループにおいて少なくとも1つのセンチネルトランジションをモニタリングすること、
・あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計によって検出された場合に、次の連続するグループの少なくとも1つのトランジションのモニタリングを開始すること、および
・場合によっては、クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムを作成すること
に適合したプロセッシング手段とを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実施するためのシステム。
【請求項14】
前記ペプチドがリボゾームタンパク質から生じ、6~20アミノ酸を含み、40%未満のアセトニトリルを含む移動相を用いて脱複合体化される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法の実施に適合したペプチド群。
【請求項15】
配列番号1~配列番号423から選択されるペプチド配列を示す少なくとも1つのペプチドを含む、請求項14に記載のペプチド群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル、特に、ヒト由来血液サンプルからの生物学的サンプル中の微生物を同定するための方法に関する。この方法は、敗血症、すなわち、血液感染症の検出に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
感染症の原因となる微生物を同定することは、患者を管理する上で不可欠な工程である。感染部位からの病原体の持続的な拡散によって引き起こされ、その後、敗血症候群に至り得る症候性菌血症の場合、この同定情報への迅速なアクセスがより重要となる。敗血症は軽症から重症となり、最終的には敗血症性ショックに発展し、死亡率は最大80%に達する。
【0003】
したがって、菌血症の原因となっている病原体を迅速に特定することは、抗菌薬療法の選択を方向づける、または最初の広域抗菌薬療法の漸減を進めることを可能とするための重要な工程である。このような迅速な診断によって期待されることは、患者における治療上の副作用を軽減するだけでなく、抗生物質の使用が新たな抗菌薬耐性株または耐性メカニズムの出現に寄与することを抑制することである。
【0004】
ヒトの健康以外の分野では、サンプル中に存在する微生物の迅速な同定は、抗菌戦略を適応させるための重要な要素でもある。
【0005】
過去20年間で、以前使われていた生化学的技術に比べて同定時間を大幅に短縮することにより微生物同定を革新した2種類の技術が登場した。これらはMaldi-Tof質量分析法と分子生物学に基づくツールである。
【0006】
Maldi-Tof(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型)質量分析法による病原体同定の原理は、対象とする微生物の溶解によって放出される低分子量タンパク質のフィンガープリントの実験的質量スペクトルと、既知の微生物の菌株から得られたフィンガープリントの数万の質量スペクトルを含むデータベースとの比較に基づいている。そして、病原体の属または病原体の属と種を同定するための一致スコアが確立される。Maldi-Tofによる微生物の同定原理は、低分子量タンパク質について1999年に初めて記載されている(Holland et al.,1999)。
【0007】
その後、この技術はVITE(登録商標)MS(Biomerieux)およびMALDI Biotyper(登録商標)(Brucker Daltonics)という銘柄で広く病院に導入された。
【0008】
血液サンプルに適用する場合、質量スペクトル上の干渉シグナルのソースを制限するために、血球を溶解して除去する必要がある。特許US8569010は、Maldi-Tof分析前の効率的な血球溶解を補助するドデシルナトリウム洗剤の使用に基づいたプロトコールを開示している。
【0009】
事前に微生物の分離を必要とする生化学的同定技術と比較して、Maldi-Tof技術は同定時間を約24時間短縮することができ、したがって死亡率統計または平均入院期間に直接的影響を与えることができる。さらに、1サンプル当たりの算定分析コストは非常に低く、この技術は病院廃棄物もほとんど出さない。これらの有利な医療経済的特徴が、Maldi-Tofの病院への迅速な導入を説明する。
【0010】
しかしながら、Maldi-Tof法には限界がある。例えば、系統学的に近い種(すなわち、エシェリヒア・コリ(大腸菌)(Escherichia coli)/シゲラ(赤痢菌)属(Shigella)、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)またはエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)群に属すもの)iiまたはエンテロバクター・クロアカグループのメンバーなど)の同定は難しい。同様に、多微生物感染の場合には、フィンガープリントが重複しているため、またはある微生物が別の優勢種に比べて発現が乏しいために、同定が難しくなる。このような状況は一般に、消化器の多微生物感染症(腹膜炎、腹腔内膿瘍)に関する菌血症の状況で遭遇する。
【0011】
このような感度の低さは、分子生物学に基づく技術ではそれほど問題ではない。広義の分子生物学を用いた市販のソリューションは、i)蛍光in-situハイブリダイゼーション(FISH)、ii)DNAマイクロアレイハイブリダイゼーション、iii)核酸増幅(PCR)、またはiv)それらの組合せに基づく方法を採用しているかどうかによって、4つのカテゴリーに区別することができる。
【0012】
理想的な病原体同定技術は、敗血症に関連する大部分の菌種をカバーし、陽性血液培養アリコートから直接導入でき、可能な限り短時間で(理想的には1時間未満)、経済的に実行可能で、多微生物感染を構成する種々の病原体の同定を可能とし、付随的には、病原体の相対的または絶対的な定量を推定できるものでなければならない。理想的には、この技術を単一の分析プラットフォームに導入し、同定された病原体に関連する可能性のある抗生物質耐性メカニズムまたは感受性プロファイルを何らかの方法で同時にまたは連続的に同定できなければならない。
【0013】
最近、細菌を同定するために、液体クロマトグラフィーと質量分析計の組合せをボトムアッププロテオミクス解析アプローチと併用することの潜在的な関心が、いくつかの探索的研究で評価されている。このアプローチでは、細菌または酵母のタンパク質含量に特定の酵素消化を施してペプチドを生成し、次に、クロマトグラフィー工程で部分的に分離した後に、特徴的なイオンに再構成した質量スペクトルおよび/またはクロマトグラムを作成し、これを公開または独自のデータベースと比較する。質量分析は、ノンターゲット法またはターゲット法で実施することができる。
【0014】
ノンターゲット分析の場合、質量分析計は、例えば、酵素的加水分解から得られた混合物中のペプチドそれぞれの正確な(モノアイソトピック)質量または化学質量または分子質量または平均質量に関する情報を得るような方法で作動させることができる。この場合、MSまたはMS1と呼ばれる単純な分析が実行され、Maldi-Tofの場合と同様に、酵素消化から得られたペプチドの全ての質量の実験的フィンガープリント(または質量電荷比値;m/z)が、全ての細菌または酵母プロテオームの同じ酵素消化により得られた全ての理論的フィンガープリントと比較される。これは(Lasch et al. 2020)に記載されているようにLC-MS1と称されるアプローチである。
【0015】
別の実施態様では、このプロセスは、ペプチド質量情報に加えて、またはペプチド質量情報の代わりに、ペプチドにフラグメント化を行う工程を含む。この工程は、無傷のペプチドのn個の質量(または質量電荷比の値;m/z)のクロマトグラムの時間tにおける予備的な観察によって条件付けることができる。この操作様式はデータ依存的取得(Data Dependent Acquisition)(DDA)と呼ばれ、ショットガンプロテオミクスまたは情報依存的取得(Information Dependent Acquisition)(IDA)としても知られている。次に、ペプチドの実験的フラグメント化スペクトルとそれらの質量に関する情報を組み合わせて、または組み合わせずに、細菌または酵母プロテオームの酵素消化から得られた全てのペプチドの理論的フラグメント化スペクトルと比較して病原体を同定する。このプロセスは、例えば、(Boulund et al. 2017)で使用される。
【0016】
あるいは、ペプチドは、質量スペクトルから個々に選択されず、理論的フラグメントイオンスペクトル質量分析のシークエンシャル・ウインドウ取得(Sequential Window Acquisition of all Theoretical Mass Spectra)(SWATH)またはMSEとしても知られるデータ非依存的取得(Data Independent Acquisition)(DIA)と呼ばれる取得様式に従う盲検様式で体系的にフラグメント化される。これは、抗生物質耐性に関与するタンパク質の酵素消化から生じるペプチドを検出するために、(Blumenscheit et al., 2020)によって用いられる方法である。
【0017】
標的取得様式は、選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring)(SRM)、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring)(MRM)、並列反応モニタリング(Parallel Reaction Monitoring)(PRM)、多重反応モニタリング-高分解能(Multiple Reaction Monitoring-High Resolution)(MRM-HR)、多重反応モニタリングキューブ(Multiple Reaction Monitoring cubed)(MRM3)と呼ばれている。細菌または酵母の同定を目的とした、例えば尿中、気管気管支吸引液中、または分離コロニーから細菌を同定するためのターゲット質量分析の実施に関するいくつかの研究が報告されている。この方法はまた、アシネトバクター属の細菌のタイプ分け、毒素の検出と定量、抗生物質耐性機序の検出のためにも実施されている。
【0018】
国際出願WO2011/045544は、分離コロニーからのスタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌)(Staphylococcus aureus)株のタイプ分けおよび病原性因子と抗生物質耐性の並行検出のための、このターゲット質量分析法とクロマトグラフィー分離システムの併用を記載している。同様に、出願WO2012/143535およびWO2012/143534は、種々の抗生物質耐性機序に関連するタンパク質を検出するための、この同じ方法の使用を記載している。
【0019】
しかしながら、これまでにペプチド分離法と質量分析によるそれらの検出を併用するこの方法に基づく血液感染の診断方法はないことに留意されたい。その理由は2つある。
【0020】
第一に、これらの分析方法の時間が長すぎ、ほとんどの場合、クロマトグラフィー分離は30~120分である。このため1日当たりに分析できるサンプルの数が限定され、分析コストが上昇する。
【0021】
第二に、ターゲット質量分析法では、多数のターゲットがサンプリングされる場合、これらのターゲットのシグナルは、それらが検出されると予想されるクロマトグラフィーの保持時間枠でのみ追跡しなければならない。これにより、化合物のクロマトグラフィピークの形状を十分な精度で定義できるようにするためには、クロマトグラフィー分離システムから溶出した化合物のシグナル強度を少なくとも8回測定する。このアプローチは、質量分析メーカーにより「スケジュールMRM、スケジュールMRM HR、タイムドMRM、ダイナミックMRM」と呼ばれている。欠点は、保持時間が予期せず変更された場合(例えば、サンプル組成もしくは濃度、またはクロマトグラフィーカラムの摩耗の影響による)、標的化合物がスケジュールされた保持枠から外れて検出されない可能性があることである。この制限を考慮し、ユーザーは通常、十分に広い保持時間枠をとるが、この予防措置は、この方法で検出できる化合物の数の減少を意味する。
【0022】
特許EP3384517には、これらの制限を克服する技術が記載されている。この方法は、クロマトグラフィー分離スケール上に広がる化合物に属する「センチネルシグナル」のモニタリングに頼るものである。センチネルシグナルが定義された閾値を超えて検出されると、新しいセンチネルシグナルが検出されるまで、それが対象とする標的分子に特異的なシグナルのセットをモニタリングするトリガーとなる。したがって、保持時間のドリフトにもかかわらず、全ての標的化合物が確実に検出され続ける。
【発明の概要】
【0023】
本特許出願は、10分未満、好ましくは5~7分で微生物を迅速に同定するための方法であって、前記微生物のリボソームタンパク質の酵素消化に由来するペプチドのみから選択されるバイオマーカーペプチドを標的とする方法を記載する。
【0024】
本方法は、この同定法を実施するために徹底的に選択されたペプチドのリストに基づく。これらのペプチドは同定される種に特異的であり、分離工程のために設定された仕様を満たす、すなわち約5分の勾配時間中に最適なピークキャパシティを持つことを可能にする物理化学的特性を備えている。
【0025】
本発明は、サンプル中に存在する少なくとも1つの微生物を、前記微生物のリボゾームタンパク質の切断から生じるペプチドの検出に基づいて同定するための方法であって、以下の工程:
a)微生物を溶解し、前記サンプル中に存在するタンパク質を切断してペプチド混合物を得る工程、
b)質量分析計に接続した液体分離装置を用いて、前記ペプチド混合物を脱複合体化する工程、
c)前記分離装置から溶出した液体を、イオン源を用いて霧化してイオン電流を発生させる工程、
d)前記質量分析計を用いて、前記イオン源からの前記イオン電流を受信し、複数のサイクルの各サイクルについて、前記イオン電流に対して、トランジションを検出するための一連のフィルタリングステップを実行する工程であって、前記トランジションは、前駆体イオンと、前記前駆体イオンの少なくとも1つのフラグメントイオンとを含み、前記トランジションは、質量分析計を用いて予め定義されたトランジションリストから読み取られ、前記一連のトランジションの各トランジションについて、質量分析計は、各トランジションの前駆体イオンを選択してフラグメント化する工程、
e)プロセッサを用いて、ペプチド混合物をモニタリングするために、使用される複数のトランジションに関するデータを受信する工程、
f)プロセッサを用いて、前記複数のトランジションを、2つ以上の連続するトランジショングループに割り当て、前記予め定義されたトランジションリストに割り当てる工程、
g)プロセッサを用いて、2つ以上の連続するグループの各グループにおいて、1つのセンチネル化合物に関連する少なくとも1つのセンチネルトランジションをモニタリングする工程であって、前記少なくとも1つのセンチネルトランジションは、そのグループにおいて最も遅い予想保持時間を有するものとして選択される工程、
h)あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計で検出された場合、プロセッサを用いて、前のグループのトランジションのモニタリングを停止する一方で、次の連続するグループの少なくとも1つのトランジションのモニタリングを開始する工程、
i)場合によっては、プロセッサを用いて、前記質量分析計で予め定義されたリストから読み取られたトランジションの検出から、クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムを作成する工程
を含み、予め定義されたリストから読み取られた各トランジションはペプチドに関連付けられ、前記ペプチドの検出に従って微生物が同定される方法に関する。
【0026】
本発明はまた、上記で定義されるような方法を実施するためのシステムであって、液体分離装置に接続した質量分析計と、工程e)、f)、g)およびh)の実施に適合した、特に、
・ペプチド混合物をモニタリングするために、使用される複数のトランジションに関するデータを受信する、
・複数のトランジションを、2つ以上の連続するトランジショングループに割り当て、前記予め定義されたトランジションリストに割り当てる、
・前記2つ以上の連続したグループの各グループにおいて少なくとも1つのセンチネルトランジションをモニタリングする、
・あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計によって検出された場合に、次の連続するグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのモニタリングを開始する、および
・場合によっては、クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムを作成する
に適合したプロセッシング手段とを含むシステムに関する。
【0027】
本発明はまた、上記のような方法の実施に適合したペプチド群に関し、前記ペプチドは、リボゾームタンパク質から生じ、6~20アミノ酸を含み、脱複合体化工程で、40%未満のアセトニトリルを含む移動相を用いて脱複合体化される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、「センチネル-内因性」法で得られたクロマトグラムである。ペプチドの強度が保持時間の関数で示されている。強度はカウント/秒で表される。グループa:腸内細菌目(Enterobacterales)グループは、18の腸内細菌目に共通するペプチドと各腸内細菌目に特異的なペプチドに関連するトランジション(135のトランジション)を含む。グループb:シュードモナス・エルギノーザ(緑膿菌)(Pseudomonas aeruginosa)グループは、シュードモナス・エルギノーザに特異的な12のペプチド(配列番号290~300の配列を示す)に関連する47のトランジションを含む。グループc:スタフィロコッカス・アウレウス_アルゲンテウスグループは、スタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌)およびスタフィロコッカス・アルゲンテウス(Staphylococcus argenteus)に特異的な10のペプチド(配列番328~337号の配列を示す)に関連する35のトランジションを含み、これらの選択されたペプチドは、パネルの他のスタフィロコッカス(ブドウ球菌)種(コアグラーゼ陰性スタフィロコッカス)には存在しない(35のトランジション)。グループd:アシネトバクター(Acinetobacter)グループは、4つのアシネトバクターに共通する16のペプチド(配列番号18~33の配列を示す)と各アシネトバクターに特異的なペプチドに関連するトランジション(128のトランジション)を含む。グループe:エンテロコッカス(腸球菌)(Enterococcus)グループは、2つのエンテロコッカスに共通するペプチドと各エンテロコッカスに特異的なペプチドに関連するトランジション(53のトランジション)を含む。グループf:カンジダ(Candida)グループは、7つのカンジダに共通するペプチドと各カンジダに特異的なペプチドに関連するトランジション(81トランジション)を含む。グループg:その他の種のグループは、31の他の種に特異的なペプチドに関連するトランジション(139のトランジション)を含む。グループh:「ストレプトコッカス(連鎖球菌)(Streptococcus)属その他」のグループは、17のストレプトコッカス属および特定のストレプトコッカス属またはストレプトコッカス属のグループに特異的なペプチドに関連するトランジションを含む。このグループはまた、他の7種のトランジションも含む。これはセンチネルペプチドによってトリガーされない唯一のグループである(105のトランジション)。
図2図2は、トリプシン自己消化から生じた以下の4つのセンチネルペプチドのクロマトグラフィー勾配上での分布を示す。・NKPGVYTK(配列番号424)・VATVSLPR(配列番号425)・LGEHNIDVLEGNEQFINAAK(配列番号426)・IITHPNFNGNTLDNDIMLIK(配列番号427)
図3図3:「内因性」センチネルペプチドを用いて分析した、本発明の同定方法を用いて血液培養サンプルから得られたクロマトグラム:同定された微生物は、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)である。
図4図4:「トリプシン」センチネルペプチドを用いて分析した、本発明の同定方法を用いて血液培養サンプルから得られたクロマトグラム:同定された微生物は、エンテロコッカス・フェシウムである。
図5図5:「トリプシン」センチネルペプチドを用いて分析した、本発明の同定方法を用いて多部生物サンプルから得られたクロマトグラム:同定された微生物は、エシェリヒア・コリ(配列番号200および201)ならびにストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)(配列番号365および367)である。
【発明の具体的説明】
【0029】
本発明の方法の目的は、短時間で、特に10分未満の時間で、高度な資格を有する人員を必要とせずに日常的に使用可能な安価なプロセスで微生物の同定を可能にすることである。
【0030】
特に、本発明は、サンプル中に存在する少なくとも1つの微生物を、前記微生物のリボゾームタンパク質の切断から生じるペプチドの検出に基づいて同定するための方法であって、以下の工程:
a)微生物を溶解し、前記サンプル中に存在するタンパク質を切断してペプチド混合物を得る工程、
b)質量分析計に接続した液体分離装置を用いて、前記ペプチド混合物を脱複合体化する工程、
c)前記分離装置から溶出した液体を、イオン源を用いて霧化してイオン電流を発生させる工程、
d)前記質量分析計を用いて、前記イオン源からの前記イオン電流を受信し、複数のサイクルの各サイクルについて、前記イオン電流に対して、トランジションを検出するための一連のフィルタリングステップを実行する工程であって、前記トランジションは、前駆体イオンと、前記前駆体イオンの少なくとも1つのフラグメントイオンとを含み、前記トランジションは、質量分析計を用いて予め定義されたトランジションリストから読み取られ、前記一連のトランジションの各トランジションについて、質量分析計は、各トランジションの前駆体イオンを選択してフラグメント化する工程、
e)プロセッサを用いて、ペプチド混合物をモニタリングするために、使用される複数のトランジションに関するデータを受信する工程、
f)プロセッサを用いて、前記複数のトランジションを、2つ以上の連続するトランジショングループに割り当て、前記予め定義されたトランジションリストに割り当てる工程、
g)プロセッサを用いて、2つ以上の連続するグループの各グループにおいて、1つのセンチネル化合物に関連する少なくとも1つのセンチネルトランジションをモニタリングする工程であって、前記少なくとも1つのセンチネルトランジションは、そのグループにおいて最も遅い予想保持時間を有するものとして選択される工程、
h)あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計で検出された場合、プロセッサを用いて、前のグループのトランジションのモニタリングを停止する一方で、次の連続するグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのモニタリングを開始する工程、
i)場合によっては、プロセッサを用いて、前記質量分析計で予め定義されたリストから読み取られたトランジションの検出から、クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムを作成する工程
を含み、予め定義されたリストから読み取られた各トランジションはペプチドに関連付けられ、検出される前記ペプチドに従って微生物が同定される方法に関する。
【0031】
以下、この同定方法の各工程をより詳細に示す。
【0032】
本発明の意味において、「微生物」という用語は、細菌または酵母を意味する。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、微生物は、ヒトに疾患を引き起こす病原性微生物である。特に、微生物は、細菌感染症、敗血症、または尿路感染症を引き起こす最も一般的な微生物から選択される。
【0034】
本発明の方法によって同定することができる微生物は、病原性または非病原性の微生物の科、属または種に相当する微生物のグループであり得る。
【0035】
例えば、ESKAPEグループに属す以下の細菌が同定される微生物の例である:
・エンテロコッカス・フェシウム、
・スタフィロコッカス・アウレウス、
・クレブシエラ・ニューモニエ(肺炎桿菌)(Klebsiella pneumoniae)、
・アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、
・シュードモナス・エルギノーザ、および
・エンテロバクター種。
【0036】
同定可能な微生物の他の例としては、以下のものが挙げられる:
・酵母、例えば、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、
・ストレプトコッカス属、例えば、ストレプトコッカス・ニューモニエ(肺炎レンサ球菌)(Streptococcus pneumoniae)、
・コアグラーゼ陰性スタフィロコッカス。
【0037】
本発明の意味において、「サンプル」という用語は、
・血液、血清、リンパ、粘液、悪臭、唾液、気管気管支吸引液、脳脊髄液および尿からなる群から選択される、哺乳動物から得られる生物学的サンプル、または
・使用済みの水、食品、飲料、土壌サンプルおよび表面サンプルからなる群から選択されるサンプル
を意味する。
【0038】
サンプルは、1または複数の微生物を含んでもよい。本方法は、少なくとも1つの微生物の同定に適合しているため、複数の微生物の同定のために実施することができる。
【0039】
有利なことに、本発明の方法は短時間で、いずれの場合にも10分未満で実現される。したがって、本方法は診断、特にヒトの敗血症の診断に適合している。
【0040】
好ましい実施形態では、サンプルは、血液、血清、リンパ、粘液、悪臭、唾液、気管気管支吸引液、脳脊髄液および尿からなる群から選択される、ヒトから得られる生物学的サンプルであり、特に、血液サンプルである。
【0041】
本方法の工程(a)
いずれの分析工程の前でも、サンプル中に存在する微生物は、好ましくは、遠心分離、濾過、音響泳動、浮遊または回転によってペレット化される。
【0042】
本発明の特定の実施形態において、工程(a)は、リボゾームタンパク質の切断から生じないペプチドを除去する予備的下位工程を含む。これは、特に、アッセイされるサンプルへの界面活性剤の添加により達成される。
【0043】
ペプチド混合物を得るために、サンプル中に存在する微生物の溶解およびタンパク質の切断が行われる。特定の実施形態では、両操作が並行して実施される。
【0044】
微生物の特徴はタンパク質に由来するので、分析前に質量分析によりサンプルを処理する必要がある。サンプル中に存在するタンパク質からペプチドを生成するために、これらのタンパク質をタンパク質脱複合体化酵素(プロテアーゼ)、例えば、トリプシンもしくはペプシンで、または化学試薬の作用、例えば、臭化シアノゲン(CNBr)処理もしくはヒドロキシルラジカル(H)処理によって消化することができる。
【0045】
しかしながら、酵素消化によるタンパク質の切断の方が、制御が容易で、化学試薬による処理に比べてタンパク質構造の変性が少なく,特に特異的であるために好ましい。
【0046】
酵素消化は、特定の反応条件下で、タンパク質からペプチドの産生を可能とする1つ(または複数)の酵素の作用である。タンパク質を特定の場所で切断する、したがってタンパク質の脱複合体化を遂行する酵素をプロテアーゼと呼ぶ。各プロテアーゼは通常、アミノ酸配列内の特定の切断部位を認識できる。
【0047】
国際出願WO2005/098071には、例として引用できるプロテアーゼが記載されている:
・芳香族アミノ酸(Tyr、Trp、Phe)のアミン官能基のレベルでペプチド結合を加水分解するペプシン、これは酸性pHで使用する、
・リジンのCO基のペプチド結合を切断するエンドリジン、
・LysおよびArg残基のカルボキシル基のレベルでペプチド結合を加水分解するトリプシン。
【0048】
本発明の方法において、タンパク質の切断は、好ましくは、トリプシン酵素による消化により実施される。
【0049】
有利には、工程(a)の溶解およびタンパク質の切断中のインキュベーション温度は約37℃である。
【0050】
ペプチド混合物の生成は単純な溶解で行うことができる。また、加圧、電子レンジまたはさらには超音波装置など、様々な補助的プロセスを用いてスピードアップすることもできる。サンプル中に存在する細胞の溶解は、これらの3つの方法の1つを用いることでより効率的となり得る。
【0051】
工程(b)
ペプチドの脱複合体化は、ペプチドを分離する部分的工程を意味する。この工程は、液体クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動などの液体分離技術によって行われる。
【0052】
液体クロマトグラフィー(LC)は、移動相が液体である分離技術である。これはカラムまたは平板のいずれかで行うことができる。これには特に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相液体クロマトグラフィー(NPLC)および逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)が含まれる。
【0053】
キャピラリー電気泳動(CE)は、サブミリメートル径のキャピラリーならびにマイクロチャネルおよびナノチャネルで行われる一連の分離法である。これには特にキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、キャピラリーゲル電気泳動(CGE)、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)、キャピラリーアイソタコフォレーシスおよびミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)が含まれる。
【0054】
本発明の好ましい実施形態では、脱複合体化工程は、逆相液体クロマトグラフィーにより行われる。
【0055】
本発明の一実施形態において、ペプチド混合物を脱複合体化する工程は、逆相カラムで、40%未満のアセトニトリルを含む移動相を用いて行われる。ペプチドはその配列長の関数として選択されるが、これは、この特徴が保持因子k、したがって逆相カラムからの溶出に必要なアセトニトリルの割合と相関しているからである。
【0056】
アセトニトリル(シアン化メチル)は、極性非プロトン性溶媒である。
【0057】
工程(c)
本方法は、液体分離装置に接続した質量分析計で実施される。質量分析による分析はターゲット様式で行われる。
【0058】
一般に、質量分析(MS)は、イオン電流を発生させるためにイオン源を用いて、分析される液体をイオン化する分析方法である。ペプチド混合物を含有する液体の「霧化」は、当業者に周知である。
【0059】
好ましい実施形態では、質量分析は、タンデム型質量分析MS/MS、優先的には、並列反応モニタリング(PRM)または多重反応モニタリングMRMである。
【0060】
この実施形態では、トランジションは、MRMトランジションである。
【0061】
工程(d)
質量分析計は、イオン源から前記イオン電流を受信し、複数のサイクルの各サイクルについて、イオン電流に対してトランジションを検出するための一連のフィルタリングステップを実行し、前記トランジションは、前駆イオンと、前記前駆イオンの少なくとも1つのフラグメントイオンとを含み、前記トランジションは、質量分析計を使用して予め定義されたトランジションリストから読み取られ、一連のトランジションの各トランジションについて、質量分析計は、各トランジションの前駆イオンを選択してフラグメント化する。
【0062】
本発明の意味において、「予め定義されたトランジションリスト」とは、トランジションの、すなわち、前駆体イオンとフラグメントイオンに関連するm/z値の特定のペアの有限リストを意味し、各トランジションは特定のペプチドに関連する。言い換えれば、質量分析計は、それぞれが特定のペプチドに関連し、分析前に定義されたこれらのトランジションを系統的にモニタリングする。
【0063】
このプロセスは、前駆体イオンのスペクトルをリアルタイムで分析するものではなく、リストに情報を追加するものでもない。このようなリアルタイム分析は、例えば国際出願WO2014/116711に記載されている。
【0064】
予め定義されたトランジションリストは、配列番号1~配列番号423の配列を有する以下に示す423のペプチドを再グループ化した表1に基づいて確立された。
【0065】
この予め定義されたリストは、分析されるペプチドの混合物中に存在し得る特異的ペプチドにそれぞれ関連し、したがってモニタリングされるトランジションを含む。
【0066】
本発明の特定の実施形態において、予め定義されたリストは、配列番号1~配列番号423から選択されるペプチド配列を示すペプチドに関連する少なくとも1つのトランジションを含む。
【0067】
有利には、予め定義されたリストは、配列番号1~配列番号423から選択されるペプチド配列を有するペプチドからなる群から選択される少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300または400の異なるペプチドに関連するトランジションを含む。
【0068】
特に、予め定義されたリストは、表1に挙げられるような423のペプチドに関連するトランジションを含む。
【0069】
別の実施形態では、予め定義されたリストは、以下のペプチド群の少なくとも1つにのみ関連するトランジションを含む:
・特に配列番号155~158、配列番号168~180、配列番号200~201、配列番号223~229、配列番号245~264、配列番号274~277、配列番号282~289、配列番号306~307、配列番号320~327、配列番号393~395、配列番号398~409および配列番号422~423から選択される配列を示す腸内細菌目に特異的なペプチド;
・特に配列番号13~配列番号42から選択される配列を示すアシネトバクターに特異的なペプチド:
・特に配列番号181~配列番号199から選択される配列を示すエンテロコッカスに特異的なペプチド;
・特に配列番号81~配列番号150から選択される配列を示すカンジダに特異的なペプチド;
・特に配列番号328~配列番号345および配列番号410~配列番号421から選択される配列を示すに特異的なペプチド;
・特に配列番号349~配列番号392から選択される配列を示すストレプトコッカス属に特異的なペプチド;
・特に配列番号290~配列番号300から選択される配列を示すシュードモナス・エルギノーザに特異的なペプチド:または
・特に配列番号1~配列番号12、配列番号43~80、配列番号151~154、配列番号159~167、配列番号202~222、配列番号230~244、配列番号265~273、配列番号278~281、配列番号301~305、配列番号308~319、配列番号346~348、および配列番号396~397から選択される配列を示すその他の属/種に特異的なペプチド。
【0070】
工程(e)
生成された複数のトランジションは、プロセッサにより受信されるデータであり、前記プロセッサを用いてペプチド混合物をモニタリングするために使用することができる。
【0071】
「プロセッサ」という用語は、本発明の意味において、何らかの外部データ源に対して演算を実行する任意のデジタル回路を意味する。特に、プロセッサはコンピュータである。この場合、外部データ源は質量分析計であり、送信されるデータは複数のトランジションである。
【0072】
古典的な方法では、コンピュータは、データ処理の一部を実施するコード命令を実行するように適合される。それはまた、データ記憶モジュール(メモリ、例えばフラッシュ)、有利にはユーザーインターフェース(典型的にはスクリーン)、およびバイオメトリック取得手段を含むことができる。
【0073】
工程(f)、(g)、(h)
前記複数のトランジションは、プロセッサを用いて、2つ以上の連続するトランジショングループを前記予め定義されたトランジションリストに割り当てる。
【0074】
ある実施形態によれば、2つ以上の連続するトランジショングループは、ペプチドグループに関連し,各ペプチドは、微生物の属および/または種に特異的である。
【0075】
次に、2つ以上の連続するグループの各グループにおいてセンチネル化合物に関連する少なくとも1つのセンチネルトランジションをモニタリングする工程が実施され、前記少なくとも1つのセンチネルトランジションは、プロセッサを用いて、そのグループにおいて最も遅い予想保持時間を有するものとして選択される。
【0076】
センチネル化合物は、それを扱った章でより詳細に示す。
【0077】
次の工程で、あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計で検出された場合、プロセッサを用いて、前のグループのトランジションのモニタリングを停止する一方で、次の連続するグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのモニタリングを開始する。
【0078】
任意選択の工程(i)
クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムは、前記質量分析計で予め定義されたリストから読み取られたトランジションの検出から、プロセッサを用いて作成することができる。
【0079】
このクロマトグラムまたはエレクトロフェログラムでは、各ペプチドは、質量分析計で得られたデータから「再構成」されたピークによって表される。
【0080】
この工程は必須ではないが、結果を視覚的に解釈するのに有用である。
【0081】
検出されたペプチド
微生物の同定のための方法は、前記微生物に属すリボゾームタンパク質の切断から生じるペプチドの検出に基づく。リボゾームタンパク質は、豊富にあり、時間が経っても安定であり、すなわち変異しにくいことが知られている。これらのタンパク質はリボソームの一部であり、特にメッセンジャーRNAにコードされた遺伝子を翻訳する。リボソームタンパク質には、それが属するリボソームサブユニットによって2つのタイプがある。文字L(ラージ)は大サブユニット、文字S(スモール)は小サブユニットを表す。
【0082】
本発明の方法において、予め定義されたリストから読み取られた各トランジションは、ペプチドに関連し、これはさらに編集されたクロマトグラムまたはエレクトロフェログラム上のピークにより表される。
【0083】
実施例のセクションに示されるように、前記クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムに存在するピークに基づいて、微生物が同定できる。
【0084】
本発明の一実施形態では、このような微生物を同定するには、微生物の属および/または種に特異的な1つのペプチドの検出で十分である。
【0085】
本発明の別の実施形態では、前記微生物を同定するために、微生物の属および/または種に特異的な少なくとも2つのペプチドの検出が用いられる。
【0086】
有利には、本発明のプロセスで、同じサンプル中に存在し、それぞれ1つが属および/または種に特異的である2つ以上のペプチドの検出で、2つ以上の異なる種が同定できる。
【0087】
各トランジションは、以下に示す特徴に従って徹底的に選択された微生物由来のリボゾームタンパク質から生じたペプチド、以下、「バイオマーカーペプチド」に関連している。
【0088】
第一に、これらのバイオマーカーペプチドは、同定される微生物の属および/または種に特異的である必要がある。
【0089】
第二に、バイオマーカーペプチドは、液体分離工程のために設定された仕様、すなわち数分の短い勾配時間中に最適なピークキャパシティを満たすことを可能にする物理化学的特性を備えている必要がある。
【0090】
ピークキャパシティは、下式で定義される。
【数1】
式中、
・Nは、無勾配モードで計算したカラム効率であり;
・Bは、移動相中の有機溶媒のパーセンテージに対するln kの線形依存性の傾きである
【数2】
・Δcは、勾配時間(tg)中の移動相の組成の違いであり、t0はボイド保持時間に相当する。
【0091】
例えば、カラム長100mm、内径1mm、粒径3.5μm、流量100μL/分、迅速なターンアラウンドタイムを実現するための短縮勾配時間(4.12分)を用いる実験設定では、勾配溶媒中のアセトニトリルが30~35%になるとすぐにピークキャパシティが最適値に達する。このパーセンテージを超えると、同じピークキャパシティでより多くのペプチドが溶出されることになり、対象とするターゲットに関連するシグナルにおける干渉確率が高くなる。
【0092】
第三に、バイオマーカーペプチドは、配列の長さの関数としても選択されるが、これはこの特徴が保持係数k、したがって、逆相カラムからの溶出に、特にオクタデシル逆相カラムからの溶出に必要なアセトニトリルのパーセンテージと相関しているからである。よって、勾配溶媒中のアセトニトリルを40%以下に保持するために、種の特異的バイオマーカーとして同定された全てのペプチド候補のうち6~20のアミノ酸を含むものだけが最終的に同定アッセイに残された。
【0093】
本発明の好ましい実施形態では、予め定義されたリストは、6~20のアミノ酸を含むペプチドに関連し、工程(b)中、40%未満のアセトニトリルを含む移動相で脱複合体化される少なくとも1つのトランジションを含む。
【0094】
より具体的には、予め定義されたリストは、下表1に示されるように配列番号1~配列番号423から選択されるペプチド配列を示すペプチドに関連する少なくとも1つのトランジションを含む。
【0095】
有利には、予め定義されたリストの各トランジションは、配列番号1~配列番号423に示されるような配列を有するペプチドを含む、またはからなるペプチドの群から選択されるペプチドに関連する。
【0096】
このプロセスの特定の実施では、予め定義されたリストにおいて、少なくとも1つのトランジションは、配列番号1~配列番号423から選択される配列を示す少なくとも1つのペプチドに関連する。
【0097】
別の実施形態では、予め定義されたリストは、以下のペプチドグループのうち少なくとも1つにのみ関連するトランジションを含む:
・特に配列番号155~158、配列番号168~180、配列番号200~201、配列番号223~229、配列番号245~264、配列番号274~277、配列番号282~289、配列番号306~307、配列番号320~327、配列番号393~395、配列番号398~409および配列番号422~423から選択される配列を示す腸内細菌目に特異的なペプチド;
・特に配列番号13~配列番号42から選択される配列を示すアシネトバクターに特異的なペプチド:
・特に配列番号181~配列番号199から選択される配列を示すエンテロコッカスに特異的なペプチド;
・特に配列番号81~配列番号150から選択される配列を示すカンジダに特異的なペプチド;
・特に配列番号328~配列番号345および配列番号410~配列番号421から選択される配列を示すに特異的なペプチド;
・特に配列番号349~配列番号392から選択される配列を示すストレプトコッカス属に特異的なペプチド;
・特に配列番号290~配列番号300から選択される配列を示すシュードモナス・エルギノーザに特異的なペプチド:または
・特に配列番号1~配列番号12、配列番号43~80、配列番号151~154、配列番号159~167、配列番号202~222、配列番号230~244、配列番号265~273、配列番号278~281、配列番号301~305、配列番号308~319、配列番号346~348、および配列番号396~397から選択される配列を示すその他の属/種に特異的なペプチド。
【0098】
【表1】
【0099】
本発明の方法は、特に、以下の群に属す微生物の同定を可能とする:
・腸内細菌目
・アシネトバクター
・エンテロコッカス
・カンジダ
・ブドウ状球菌、および
・ストレプトコッカス属。
【0100】
エンテロバクテリウム_コモンと呼ばれる腸内細菌目のグループには、32種が含まれる:シトロバクター・フロインディ、シトロバクター・ブラキー(Citrobacter braakii)、シトロバクター・コセリ(Citrobacter koseri)、シトロバクター・ヨンエ(Citrobacter youngae)、シトロバクター・ワークスマニー(Citrobacter werkmanii)、シトロバクター・ポルトゥカレンシス(Citrobacter portucalensis)、シトロバクター・クロナエ(Citrobacter cronae)、シトロバクター・アマロナティカス(Citrobacter amalonaticus)、シトロバクター・ファーメリ(Citrobacter farmer)、シトロバクター・セドラキー(Citrobacter sedlakii)、シトロバクター・コセリ(Citrobacter koseri)、エンテロバクター・アズブリエ(Enterobacter asburiae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・ホルマケイ(Enterobacter hormachei)、エシェリヒア・コリ、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、クレブシエラ・ニューモニエ、モルガネラ・モルガニイ(Morganella _ morganii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロテウス・コランバエ(Proteus columbae)、プロテウス・ペンネリ(Proteus penneri)、プロテウス・テラエ(Proteus terrae)、ラウルテラ・オルニチノリティカ(Raoultella ornithinolytica)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)およびプロビデンシア・スチュアルティ(Providencia stuartii)。
【0101】
この腸内細菌目のグループのペプチドは,このグループの全種に共通する。
【0102】
アシネトバクター_コモンと呼ばれるアシネトバクターグループには、4つのアシネトバクターが含まれる:アシネトバクター・バウマニ、アシネトバクター・ルオフィイ(Acinetobacter Iwoffii)、アシネトバクター・ウルシンギ(Acinetobacter ursingii)およびアシネトバクター・ピッティー(Acinetobacter pittii)。
【0103】
このアシネトバクター_コモングループのペプチドは、このグループの全種に共通する。
【0104】
エンテロコッカス_コモンと呼ばれるエンテロコッカスグループには、2つのエンテロコッカスが含まれる:エンテロコッカス・フェシウムおよびエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)。
【0105】
このエンテロコッカス_コモングループのペプチドは、このグループの全種に共通する。
【0106】
カンジダ_コモンと呼ばれるカンジダのグループには、7つのカンジダが含まれる:カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・アウリス(Candida auris)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、カンジダ・ケフィール(Candida kefyr)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)およびカンジダ・パラシローシス(Candida parapsilosis)。
【0107】
このカンジダ_コモングループのペプチドは、このグループの全種に共通する。
【0108】
スタフィロコッカス_コアグラーゼ_ネガティブグループには、10のコアグラーゼ陰性スタフィロコッカスが含まれる:スタフィロコッカス・カピティス(Staphylococcus capitis)、スタフィロコッカス・カプラエ(Staphylococcus caprae)、スタフィロコッカス・コーニー(Stapylococcus cohnii)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)、スタフィロコッカス・ペッテンコルフェリ(Staphylococcus pettenkorferi)、スタフィロコッカス・サプロフィティカス(Staphylococcus saprophyticus)、スタフィロコッカス・ワルネリ(Staphylococcus warneri)。
【0109】
このブドウ球菌_コアグラーゼ_陰性グループのペプチドは、このグループの全種に共通する。
【0110】
ストレプトコッカス_コモングループには、17のストレプトコッカス属が含まれる:ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・ピオゲネス(化膿レンサ球菌)(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ガロリティカス亜種ガロリティカス(Streptococcus gallolyticus subsp. Gallolyticus)、ストレプトコッカス・パスツリアヌス(Streptococcus pasteurianus)(ストレプトコッカス・ガロリティカス亜種パスツリアヌス)、ストレプトコッカス・インファンタリウス亜種コリ(Streptococcus infantarius spp. Coli)(またはストレプトコッカス・ルテチエンシス(Streptococcus lutetiensis))、ストレプトコッカス・インファンタリウス亜種インファンタリウス、ストレプトコッカス・ミチス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・アンギノサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・パラサンギニス(Streptococcus parasanguinis)、ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus constellatus)、ストレプトコッカス・サンギニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・インターメジウス(Streptococcus intermedius)。
【0111】
このストレプトコッカス_コモングループのペプチドは、このグループの全種に共通する。
【0112】
ストレプトコッカス_ボビス_および_関連グループには、4つのストレプトコッカス属が含まれる:ストレプトコッカス・ガロリティカス亜種ガロリティカス、ストレプトコッカス・パスツリアヌス(ストレプトコッカス・ガロリティカス亜種パスツリアヌス)、ストレプトコッカス・インファンタリウス亜種コリ(またはストレプトコッカス・ルテチエンシ)、ストレプトコッカス・インファンタリウス亜種インファンタリウス。
【0113】
ストレプトコッカス_ボビス_および_関連グループのペプチドは、このグループの全種に共通する。
【0114】
ストレプトコッカス_その他_ストレプトコッカスグループには、9つのストレプトコッカス属が含まれる:ストレプトコッカス・ミチス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・アンギノサス、ストレプトコッカス・パラサンギニス、ストレプトコッカス・コンステラタス、ストレプトコッカス・サンギニス、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・インターメジウス。
【0115】
このストレプトコッカス_その他_ストレプトコッカスグループのペプチドは、このグループの全種に共通する。
【0116】
質量分析計
本方法は、液体分離装置およびプロセッシング手段に接続した質量分析計を使用する。
【0117】
本発明の特定の実施形態において、質量分析計は、タンデム質量分析計である。
【0118】
タンデム質量分析計は、通常、何らかの形の分子フラグメンテーションによって分離された、複数回の質量分析が可能である。タンデムMSは、四重極イオントラップのように、単一の質量分析計で経時的に行うこともできる。タンデムMS用の分子のフラグメンテーションには、衝突誘起解離(CID)、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、赤外多光子解離(IRMPD)、黒体赤外放射解離(BIRD)、電子離脱解離(EDD)、および表面誘起解離(SID)を含む様々な方法がある。
【0119】
本発明の別の実施形態では、質量分析計は、以下の技術:PRM(並列反応モニタリング)、MRM(多重反応モニタリング)、DIA(データ非依存的取得)またはSWATH(全理論的フラグメントイオンスペクトル質量分析の逐次枠取得)のうちの1つを使用する。
【0120】
これらの技術は当業者に周知である。
【0121】
本発明はまた、液体分離装置に接続した質量分析計を含み、かつ、工程工程e)、f)、g)およびh)の実施に適合した、特に、
・ペプチド混合物をモニタリングするために、使用される複数のトランジションに関するデータを受信すること、
・複数のトランジションを、2つ以上の連続するトランジショングループに割り当て、前記予め定義されたトランジションリストに割り当てること、
・前記2つ以上の連続したグループの各グループにおいて少なくとも1つのセンチネルトランジションをモニタリングすること、
・あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計によって検出された場合に、次の連続するグループの少なくとも1つのトランジションのモニタリングを開始すること、および
・場合によっては、クロマトグラムまたはエレクトロフェログラムを作成すること
に適合したプロセッシング手段を含む、上記の方法の実施のためのシステムに関する。
【0122】
古典的な方法では、システムはデータ処理モジュール、すなわちプロセッサ、マイクロプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、FPGAなどのコンピュータを含む。このコンピュータは、必要に応じて、上記に示したデータ処理の一部を実施するためのコード命令を実行するように適合されている。このコンピュータは、上記に示したデータ処理の一部を実施するためのコード命令を実行するように適合されている。
【0123】
システムはまた、データ記憶モジュール(メモリ、例えばフラッシュ)、有利にはユーザーインターフェース(典型的には、スクリーン)、およびバイオメトリック取得手段も含む。
【0124】
センチネル化合物
本発明は、特許EP3384517に記載の、本明細書では「センチネル」取得モードと呼ばれる、大きな多重化能を可能とする技術を使用する。
【0125】
この方法論は、タンデム質量分析計による「センチネル化合物」の検出を含み、より正確には、グループの少なくとも1つのセンチネルトランジションが前のグループの一部として検出された場合に、一連の連続するグループから多重反応モニタリング(MRM)トランジションのグループをトリガーする方法であり、
・分離装置を用いてサンプルから1以上の化合物を分離する工程;
・分離装置から受け取った分離された1以上の化合物を、イオン源を用いてイオン化し、1以上の前駆体イオンのイオンビームを生成する工程;
・タンデム質量分析計を使用して、イオン源からイオンビームを受け取り、複数のサイクルの各サイクルについて、タンデム質量分析計を使用して、リストから読み取られた一連のMRM前駆体イオンから生成物イオンへのトランジションをイオンビーム上で実行する工程であって、一連の各トランジションについて、タンデム質量分析計が、各トランジションの前駆体イオンを選択してフラグメント化し、各トランジションの生成物イオンが検出されるかどうかを決定するために、各トランジションの生成物イオンのm/zの周辺の小さな質量電荷比(m/z)範囲を質量分析する工程;
・プロセッサを用いて、サンプルをモニタリングするために使用される複数のMRMトランジションを受信する工程
を含み、この方法は、
・プロセッサを用いて複数のサイクル中に異なるグループを別々にモニタリングできるように、複数のMRMトランジションを2つ以上の連続するMRMトランジショングループに分割する工程;
・プロセッサを用いて、モニタリングされる2つ以上の連続するグループの次のグループを識別する、2つ以上の連続するグループの各グループ内の少なくとも1つのセンチネルトランジションを選択する工程;
・プロセッサを用いて、2つ以上の連続するグループの第1のグループをタンデム質量分析計のリストに入れる工程;および
・第1のグループの少なくとも1つのセンチネル遷移がタンデム質量分析計によって検出された場合、プロセッサを用いて、センチネルトランジションによって識別された2つ以上の連続するグループの次のグループをリストに工程
をさらに含むことを特徴とする。
【0126】
この方法の微生物検出への応用が、本明細書に記載される。
【0127】
本方法で使用するセンチネル化合物は、以下の化合物から選択することができる:
・工程(a)の微生物タンパク質の切断から生じるペプチド、「内因性ペプチド」とも呼ばれる、この場合、本方法は以下、「センチネル-内因性」法と呼ぶ;
・トリプシン酵素の自己切断(自己消化)から生じるペプチド、またはサンプルに導入されたタンパク質もしくはペプチドの切断から生じるペプチド、または外因性導入ペプチド、「外因性ペプチド」とも呼ばれる、この場合、本方法は以下、「センチネル-外内因性」法と呼ぶ;
・他の化合物。
【0128】
本方法の各実施は、実施例のセクションにより詳細に示す。
【0129】
本発明のプロセスで、工程(g)および(h)において、プロセッサを用いて、1つのセンチネル化合物に関連する少なくとも1つのセンチネルトランジションがモニタリングされ;あるグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのシグナルが質量分析計で検出された場合、プロセッサを用いて、前のグループのトランジションのモニタリングを停止する一方で、次の連続するグループの少なくとも1つのセンチネルトランジションのモニタリングを開始する。
【0130】
センチネル化合物は、それらのトランジショングループにおいて最も遅い予想保持時間を有するものとして選択される。言い換えれば、センチネル化合物は、プロセッサを用いて、センチネルよりも保持時間が早いペプチドグループに関連するトランジションのモニタリングを停止し、センチネルよりも保持時間が遅いペプチドグループに関連するトランジションのモニタリングを介するように適合されている。
【0131】
ペプチドグループ
別の側面において、本発明は、上記のような方法の実施に適合されたペプチドグループに関し、前記ペプチドは、微生物のリボゾームタンパク質から生じ、6~20のアミノ酸を含み、逆相カラムで、優先的には、オクタデシル逆相カラムで、40%未満のアセトニトリルを含む移動相を用いて脱複合体化される。
【0132】
さらに、これらのペプチドは微生物の属および/または種に特異的であり、したがって、その同定に有用である。
【0133】
このペプチドグループは、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300または400の異なるペプチドを含み得る。
【0134】
本発明の特定の実施形態において、ペプチドグループは、配列番号1~配列番号423から選択されるペプチド配列を示す少なくとも1つのペプチドを含む。
【0135】
有利には、このペプチドグループは、配列番号1~配列番号423から選択されるペプチド配列を有するペプチド群から選択される少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300または400の異なるペプチドを含む。
【0136】
本発明による特定のペプチドグループは次の通りである:
・特に配列番号155~158、配列番号168~180、配列番号200~201、配列番号223~229、配列番号245~264、配列番号274~277、配列番号282~289、配列番号306~307、配列番号320~327、配列番号393~395、配列番号398~409および配列番号422~423から選択される配列を示す腸内細菌目に特異的なペプチド;
・特に配列番号13~配列番号42から選択される配列を示すアシネトバクターに特異的なペプチド:
・特に配列番号181~配列番号199から選択される配列を示すエンテロコッカスに特異的なペプチド;
・特に配列番号81~配列番号150から選択される配列を示すカンジダに特異的なペプチド;
・特に配列番号328~配列番号345および配列番号410~配列番号421から選択される配列を示すスタフィロコッカスに特異的なペプチド;
・特に配列番号349~配列番号392から選択される配列を示すストレプトコッカス属に特異的なペプチド;
・特に配列番号290~配列番号300から選択される配列を示すシュードモナス・エルギノーザに特異的なペプチド:または
・特に配列番号1~配列番号12、配列番号43~80、配列番号151~154、配列番号159~167、配列番号202~222、配列番号230~244、配列番号265~273、配列番号278~281、配列番号301~305、配列番号308~319、配列番号346~348、および配列番号396~397から選択される配列を示すその他の属/種に特異的なペプチド。
【0137】
特定の実施形態では、ペプチドグループは、表1に挙げられるペプチドを全て含む。
【0138】
別の実施形態では、ペプチドグループは、表1に挙げられているような423のペプチドからなる。
【0139】
本発明によるこれらのペプチドグループは、サンプル中の少なくとも1つの微生物の同定のためのいずれの方法またはプロセスにも使用可能である。
【0140】
本発明はまた、サンプル中、特に、生物学的サンプル中、より詳しくは、ヒト血液サンプル中の少なくとも1つの微生物の同定のための、上記で定義されたようなこのペプチドグループの1つの使用に関する。
【実施例
【0141】
本明細書では、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これらの実施形態は、本発明の原理および応用を単に例示するものであることを理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態に多数の変更を加えることができ、他の配置を考案することができることを理解されたい。
【0142】
実施例1: 内因性ペプチドをグループトリガーとして用いるセンチネル-MRM法の構築
微生物を同定するために、例えば、グループトリガーとして内因性ペプチド、すなわちセンチネル化合物を使用することができる。
【0143】
例えば、下記のようなセンチネル-MRM法を構築することができる。
【0144】
各微生物の特異的ペプチドは以下の8つのグループに分けられる:
a)32の腸内細菌目を同定するための腸内細菌目グループ;
b)シュードモナス・エルギノーザを同定するためのシュードモナス・エルギノーザグループ;
c)スタフィロコッカス・アウレウスまたはスタフィロコッカス・アルゲンテウスを同定するためのスタフィロコッカス・アウレウス-スタフィロコッカス・アルゲンテウスグループ;
d)4つのアシネトバクターを同定するためのアシネトバクターグループ;
e)2つのエンテロコッカスを同定するためのエンテロコッカスグループ;
f)7つのカンジダを同定するためのカンジダグループ;
g)17のストレプトコッカス属と4つのその他の種を同定するためのストレプトコッカス属その他のグループ;
h)10のコアグラーゼ陰性スタフィロコッカスを含む34種を同定するための「その他の種」グループ。
【0145】
各グループ(グループhを除く)は、グループの各種に特異的なペプチドとグループの全種に共通するペプチドを含む。
【0146】
a、b、c、d、eおよびfのグループでは、2つのセンチネルペプチドがグループのトリガーとなり得る。これらの2つのセンチネルペプチドは、所望の属に厳密に特異的であり、そのグループの全種に共通である。
【0147】
例えば、グループa)腸内細菌目では、センチネルペプチドは、全ての腸内細菌目に共通であり、腸内細菌目種にのみ存在する2つのペプチドであり、これはそれらが他のいずれのグループにも見られないことを意味する。
【0148】
病原体アシネトバクター・バウマニを含有するサンプルの例を考えてみると、このサンプルのセンチネル-MRM分析に、グループd)、グループd)のみがトリガーされ、アシネトバクターペプチドのトランジションがモニタリングされる。グループはまた、アシネトバクター・バウマニに特異的なペプチドも含み、同定が成功する。
【0149】
図1は、内因性センチネル-MRM法の一例として得られたクロマトグラムを示す。ペプチド強度は任意の単位で表す。
【0150】
1つだけではなく2つのペプチドをセンチネル化合物として使用するのは、トランジショングループのトリガーに確実を期すためである。例えば、ペプチドが変異しているか、または分析サンプル中に存在しない場合、第2のペプチドがトランジショングループのトリガーとなり得る。
【0151】
実施例2: 外因性ペプチド(トリプシン)をグループトリガーとして用いる外因性センチネル-MRM法の構築
サンプル調製において、トリプシンを消化酵素として使用する。したがって、トリプシンは全てのサンプルに過剰に存在し、トリプシン自体の自己消化から生じたペプチドを、トランジショングループのセンチネル化合物として使用することができる。原理は、トリプシンの自己消化から生じる4つのペプチドをトリガーとして、各細菌種(表1参照)の特異的ペプチドを4つのグループに分配することである。
【0152】
トリプシンのFASTA配列(受託番号P00761)(以下、配列番号428として参照)は次の通りである。
【化1】
【0153】
センチネルトリガー(センチネル化合物)として選択された4つのペプチドは次の通りである:
・NKPGVYTK(配列番号424)
・VATVSLPR(配列番号425)
・LGEHNIDVLEGNEQFINAAK(配列番号426)
・IITHPNFNGNTLDNDIMLIK(配列番号427)
【0154】
図2はクロマトグラム上のこれらの4つのペプチドの分布を示す。
【0155】
トリプシン由来のペプチドを使用する利点の一つは、選択されたペプチドの全てのトランジションを追跡できることであり、強度が低い(例えばサンプル中に存在する細菌の量が少ない)ためにグループがトリガーされないリスク、またはサンプル中の干渉によってグループがトリガーされるリスクがない。
【0156】
この実施のもう一つの利点は、例えば、多感染の場合に複数の細菌を同定できることである。
【0157】
この方法の実施は、新しい種または本発明に関して選択されたパネルとは異なる種に由来するペプチドを用いて、「内因性」の方法よりも容易に増加させることもできる。例えば、「新しい」ペプチドでMRM法を作成し、それらの保持時間を知り、トリプシン性ペプチドの溶出順序に対応するトランジショングループに入れることで十分である。
【0158】
実施例3: センチネル-MRMモードの取得による陽性血液培養からの微生物の同定
1.陽性血液培養からの微生物の単離
陽性、すなわち少なくとも1つの微生物を含むとして検出された血液培養フラスコ中に存在する細菌/酵母を分離するため、手順は、溶解バッファー(ここでは、12%SDS)を用いて血球を溶解させ、次いで遠心分離により細菌を回収することからなる。
・シリンジと21Gの針を用い、1mLの血液培養培地を取り、1.5mLのエッペンドルフチューブに移す。
・200μLの12%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加え、次いで、10秒間ボルテックスで撹拌する。
・16100gで2分間遠心分離し、上清を除去する。
・ペレットを1mLの生理学的血清に再懸濁させる。
・16100gで1分間遠心分離し、上清を廃棄する。
・ペレットを1mLの生理学的血清に再懸濁させる。
【0159】
2.酵素消化および細胞溶解によるペプチドの生成
・1.5mLのエッペンドルフLowBindチューブに、一さじのガラスビーズ(ガラスビーズ、酸洗浄、150~212μm、Sigma-Aldrich、ref G1145)を高さ約3~4mm(終容量の3分の1)になるように加える。
・段落1に従って調製したサンプルを10分間ボルテックスで撹拌した後、200μLを取り、ガラスビーズを含むチューブに入れる。
・凍結乾燥トリプシンから150 mM重炭酸アンモニウムバッファーで1mg/mLのトリプシン溶液を調製する。
・新しく調製した50μLのトリプシン溶液(1mg/mL)を、ビーズと細菌/酵母を含むチューブに加え、3秒間ボルテックスで撹拌する。
・50℃に設定した超音波発生装置、例えば、Diagenodeの水浴にサンプルを入れる。
・すぐに1分10サイクルの超音波処理を開始する。
・30秒超音波オン
・30秒超音波オフ 超音波出力:低
・消化の後、5μLのギ酸を加え、3秒間ボルテックスで撹拌して反応を停止させる。
・チューブを9600g(10,000rpm Accuspin Micro 17ベンチチップ遠心機)で5分間遠心分離する。
・150μLの上清を、インサートを備えたアンバーバイアルに移す。
【0160】
3.分析条件:クロマトグラフィーおよび質量分析条件
各サンプルを段落1および2のプロトコールに従って処理した後、5μL容量の消化タンパク質を注入し、以下の条件で分析する。
・AGILENT社(AGILENT、サンタクララ、米国)のHPLC装置Agilent Pump 1290
・WATERSクロマトグラフィーカラム(WATERS、サン・カンタン・アン・イブリーヌ、フランス)XBridge Peptide BEH C18、内径1mm、長さ100mm、粒径3.5μm、孔径130Å)
・溶媒A:HO99.9%+0.1%ギ酸
・溶媒B:アセトニトリル99.9%+0.1%ギ酸
・カラムオーブン温度:60℃
・HPLC勾配は、以下に示される表2に従って定義される。
【0161】
【表2】
【0162】
ペプチドの脱複合体化工程(すなわち、部分的分離)は、主として極性溶媒アセトニトリルから構成される40%未満の溶媒Bを用いる条件下で行う。
【0163】
クロマトグラフィーカラムから出てくる溶出液をQTRAP(登録商標)6500+AB SCIEX(フレーミングハム、マサチューセッツ州、米国)からの質量分析計のイオン化源に直接注入する。
【0164】
機器の他の設定を下表3にまとめる。
【0165】
【表3】
【0166】
細菌のタンパク質のトリプシンによる消化から得られたペプチドを、質量分析計により、センチネル-MRMモードで分析する。追跡・検出したペプチドは、微生物に特異的であるため、微生物の同定が可能となる。
【0167】
4.センチネル-MRM取得モードによる微生物の同定、センチネルなどの内因性ペプチドの使用、血液培養サンプルへの適用(盲検同定)
実施例1に示すセンチネル-MRM法を血液培養サンプルに適用する。
【0168】
センチネル-MRM取得法は、各ペプチドにつき3以上のトランジションを使用し(表4の取得法参照)、これは1500を超えるトランジションを含む方法から構成される。トリガーセンチネルの特異性を高め、ひいてはサンプル中に存在する干渉によりグループのトリガーを避けるために、グループのトリガーには3つのトランジションのアラインメントが必要であると判断された。
【0169】
得られたクロマトグラムを図3に示す。エンテロコッカスグループはうまくトリガーされ、エンテロコッカス属およびエンテロコッカス・フェシウム種に特異的なペプチドだけが検出された。この結果をMALDI-TOFにより確認した。
【0170】
5.センチネル-MRM取得モードによる微生物の同定、トリプシンにより生成されたペプチドのセンチネル化合物としての使用
上記実施例と同じサンプルを、センチネル-MRM取得法をセンチネルトリガートランジショングループとしてのトリプシンペプチドとともに適用することで分析した。
【0171】
結果を図4に示す。エンテロコッカス属およびエンテロコッカス・フェシウム種に特異的なペプチドだけが検出された。この結果をMALDI-TOFにより確認した。
【0172】
実施例4:MALDI-TOFによる分析との比較における2つの取得方法の分析バリデーション
2つの取得方法のバリデーションを行うために、42のサンプルを分析した。結果を表4に示す。
【0173】
【表4】
【0174】
患者から採取した264の血液培養(細菌または酵母)陽性サンプルに対する他の検査も実施されている。
【0175】
本発明のプロセスで得られた結果を、MALDI-TOF MS同定技術で得られた結果と比較したところ、結果の100%の相関が認められた。
【0176】
同定率に関しては、本発明のプロセスにより、アッセイしたサンプルの93%で、少なくとも1種の細菌または酵母の同定が可能であった。サンプルの7%では同定が得られなかったが、これはおそらくサンプル中の微生物の量が不十分であったか、サンプルが実際には微生物を含んでいなかったためであると思われる。
【0177】
実施例5.トリプシン法によるサンプル中に存在する2種類の細菌種の同定
陽性血液サンプルを、センチネル-MRM取得法をセンチネルトリガートランジショングループとしてのトリプシンペプチドとともに適用することで分析した。
【0178】
結果を図5に示す。グループストレプトコッカス・ボビス群に特異的なペプチド(配列番号365、367)およびエシェリヒア・コリ種(配列番号200、201)に特異的なペプチドが検出された。
【0179】
この結果を、血液サンプルの一晩の継代培養工程の翌日にMALDI-TOFで確認した。
【0180】
有利なことに、本発明のプロセスは、同一サンプル中の少なくとも2つの異なる種の同定を可能にする。
【0181】
参考文献:本文中の引用順
特許文献
・WO 2011/045544
・WO 2012/143535
・WO 2012/143534
・EP 3384517
・WO 2005/098071
・WO 2014/116711
参考文献
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図5
【配列表】
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【国際調査報告】