(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】HFO-1234YF及びHFC-152Aの組成物並びに組成物を使用するためのシステム
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20240723BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20240723BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20240723BHJP
C10M 107/34 20060101ALI20240723BHJP
C10M 107/24 20060101ALI20240723BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C10M105/38
C10M107/02
C10M107/34
C10M107/24
C10N40:30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501999
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 US2022037061
(87)【国際公開番号】W WO2023287942
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン アール.ジュハス
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド マシュー スナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ルーク デイビッド シモーニ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB02A
4H104CB14A
4H104EA01R
4H104EA02R
4H104EA13R
4H104EA21R
4H104PA20
(57)【要約】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)及び1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)を含む冷媒を利用する、環境に優しい冷媒ブレンド。ブレンドは、乗員室に空調(A/C)又は暖房を提供する乗員区画の熱管理(車両のある部分から他の部分への伝熱)のためにハイブリッド、マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、又は完全電気車両において使用するための、小さい温度勾配と共に低いGWP、低い毒性、及び低い燃焼性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約70~95重量パーセントのHFO-1234yf及び約5~30重量パーセントのHFC-152aを含む冷媒ブレンドを含む、組成物。
【請求項2】
前記冷媒ブレンドが、約70~90重量パーセントのHFO-1234yf及び約30~10重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記冷媒ブレンドが、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf及び約30~15重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記冷媒が、約72~84重量パーセントのHFO-1234yf及び約28~16重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記冷媒ブレンドが、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf及び約18~12重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記冷媒が、以下:
約70重量パーセントのHFO-1234yf及び約30重量パーセントのHFC-152a、
約72重量パーセントのHFO-1234yf及び約28重量パーセントのHFC-152a、
約74重量パーセントのHFO-1234yf及び約26重量パーセントのHFC-152a、
約76重量パーセントのHFO-1234yf及び約24重量パーセントのHFC-152a、
約78重量パーセントのHFO-1234yf及び約22重量パーセントのHFC-152a、
約80重量パーセントのHFO-1234yf及び約20重量パーセントのHFC-152a、
約82重量パーセントのHFO-1234yf及び約18重量パーセントのHFC-152a、
約84重量パーセントのHFO-1234yf及び約16重量パーセントのHFC-152a、
約86重量パーセントのHFO-1234yf及び約14重量パーセントのHFC-152a、
約88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12重量パーセントのHFC-152a、
約90重量パーセントのHFO-1234yf及び約10重量パーセントのHFC-152a、
約92重量パーセントのHFO-1234yf及び約8重量パーセントのHFC-152a、又は
約94重量パーセントのHFO-1234yf及び約6重量パーセントのHFC-152aから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記冷媒が、約0.5K未満の平均温度勾配を提供する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記冷媒が、約0.1K未満の平均温度勾配を提供する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記冷媒が、約0.01K未満の平均温度勾配を提供する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記冷媒が、約50以下のGWPを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記冷媒が、約30未満のGWPを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記冷媒が、約20未満のGWPを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの追加の化合物:
a.HCFC-244bb、HFC-245cb、HFC-254eb、CFC-12、HCFC-124、3,3,3-トリフルオロプロピン、HCC-1140、HFC-1225ye、HFO-1225zc、HFC-134a、HFO-1243zf、及びHCFO-1131からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むか、又は
b.HFC-143a、HCFC-22、HCC-40、HFC-161、HFO-1141、HCO-1140、HCFC-151a、HCC-150a、HCC-160、HCFO-1130a、HCFC-141b、HFC-143a、HCFO-1122、及びHCFC-142bからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むか、又は
c.a)とb)との組み合わせを更に含み、
追加の化合物の総量が、0重量パーセント超かつ1重量パーセント未満を構成する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記追加の化合物が、HFC-161、HFO-1141、HCO-1140、HCFC-151a、HCC-150a、若しくはHCC-160、又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記追加の化合物が、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記追加の化合物が、HFO-1243zf、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記追加の化合物が、HFO-1243zf、HCC-40、及びHFC-161を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記冷媒が、ISO817垂直管法に従って測定したときに10cm/s以下の燃焼速度を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記冷媒が、ANSI/ASHRAE規格34に定義される燃焼性について2Lとして分類される、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記冷媒が、ASTM-E681に従って測定したときに10体積パーセント未満のLFLを有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
潤滑剤を更に含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記潤滑剤が、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ポリ-α-オレフィン、及びポリビニルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
ポリオールエステル潤滑剤が、カルボン酸を、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの混合物からなる群から選択されるネオペンチル骨格を含むポリオールと反応させることによって得られる、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記カルボン酸が、2~18個の炭素原子を有する、請求項1~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記潤滑剤が、20℃で10
10Ω-mを超える体積抵抗率を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記潤滑剤が、20℃で約0.02N/m~0.04N/mの表面張力を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記潤滑剤が、40℃で約20cSt~約500cStの動粘度を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記潤滑剤が、少なくとも25kVの絶縁破壊電圧を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記潤滑剤が、最大0.1mg KOH/gのヒドロキシ価を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
約0.1~200重量ppmの水を更に含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
約10体積ppm~約0.35体積パーセントの酸素を更に含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
約100体積ppm~約1.5体積パーセントの空気を更に含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
安定剤を更に含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記安定剤が、ニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、アゾール、フェノール化合物、環状モノテルペン、テルペン、ホスファイト、ホスフェート、ホスホネート、チオール、及びラクトンからなる群から選択される、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記安定剤が、トルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、トコフェロール、ヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、2,6-ジ-ターブチル-4-メチルフェノール、フッ素化エポキシド、n-ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、d-リモネン、α-テルピネン、β-テルピネン、α-ピネン、β-ピネン、又はブチル化ヒドロキシトルエンから選択される、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記安定剤が、前記冷媒の重量に基づいて、約0.001~1.0重量パーセントの量で存在する、請求項1~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
少なくとも1つのトレーサーを更に含む、請求項1~36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
前記少なくとも1つのトレーサーが、約10重量ppm~約1000重量ppmの量で存在する、請求項1~37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記少なくとも1つのトレーサーが、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロクロロカーボン、ヒドロクロロオレフィン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロオレフィン、ヒドロクロロカーボン、ヒドロクロロオレフィン、クロロフルオロカーボン、クロロフルオロオレフィン、炭化水素、ペルフルオロカーボン、ペルフルオロオレフィン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~38のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
前記少なくとも1つのトレーサーが、HFC-23、HCFC-31、HFC-41、HFC-161、HFC-143a、HFC-134a、HFC-125、HFC-236fa、HFC-236ea、HFC-245cb、HFC-245fa、HFC-254eb、HFC-263fb、HFC-272ca、HFC-281ea、HFC-281fa、HFC-329p、HFC-329mmz、HFC338mf、HFC-338pcc、CFC-12、CFC-11、CFC-114、CFC-114a、HCFC-22、HCFC-123、HCFC-124、HCFC-124a、HCFC-141b、HCFC-142b、HCFC-151a、HCFC-244bb、HCC-40、HFO-1141、HCFO-1130、HCFO-1130a、HCFO-1131、HCFO-1122、HFO-1123、HFO-1234ye、HFO-1243zf、HFO-1225ye、HFO-1225zc、PFC-116、PFC-C216、PFC-218、PFC-C318、PFC-1216、PFC-31-10mc、PFC-31-10my、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
請求項1~40のいずれか一項に記載の冷媒を含む冷媒貯蔵容器であって、前記冷媒が、気相及び液相を含む、冷媒貯蔵容器。
【請求項42】
蒸発器、圧縮機、凝縮器、及び膨張デバイスを備え、各々が蒸気圧縮サイクルを行うように動作可能に接続されている、電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムであって、請求項1~40のいずれか一項に記載の組成物を含む、システム。
【請求項43】
前記平均温度勾配が、加熱モードにおいて、0.5K未満、又は0.1K未満、又は0.01K未満である、請求項42に記載のシステム。
【請求項44】
前記システムが、PTCヒータを含まない、請求項42又は43に記載のシステム。
【請求項45】
前記システムが、前記圧縮機と前記凝縮器との間に動作可能に接続された再加熱器を更に備える、請求項42~44のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項46】
前記システムが、可逆冷却ループではない、請求項42~45のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項47】
請求項1~40のいずれか一項に記載の組成物を伝熱流体として提供することを含む、電気車両内に含まれた暖房及び冷房システムにおいてHFO-1234yfを代替するための、方法。
【請求項48】
前記冷媒が、同じ条件下で動作する場合に、HFO-1234yf単独よりも少なくとも1%高い、好ましくは3%高い、より好ましくは5%高い、最も好ましくは7%高い体積容量を生じさせる、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記冷媒が、前記同じ条件下で動作する場合に、HFO-1234yf単独のCOP以上の前記COPを生じさせる、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項50】
電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムにおける伝熱流体としての、請求項1~40のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項51】
以下:
約80重量パーセントのHFO-1234yf及び約20重量パーセントのHFC-152a、又は
約75重量パーセントのHFO-1234yf及び約25重量パーセントのHFC-152a、又は
約70重量パーセントのHFO-1234yf及び約30重量パーセントのHFC-152a、又は
約91重量パーセントのHFO-1234yf及び約9重量パーセントのHFC-152a、
から本質的になる冷媒を含む組成物の、電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムにおける伝熱流体としての、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HFO-1234yf及びHFC-152aを含む組成物、並びに空調及びヒートポンプシステムにおける冷媒としての使用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
自動車業界は、内燃エンジン(internal combustion engine、ICE)を使用して推進力を得ることから、電動機を使用して推進力を得ることに、アーキテクチャプラットフォームの一新を進めている。このプラットフォームの一新により、ハイブリッド、プラグインハイブリッド車の内燃エンジン(ICE)のサイズが大幅に制限されるか、又は純粋な電気車両においてICEが完全に排除される可能性がある。一部の車両は、依然としてICEを維持しており、ハイブリッド電気車両(hybrid electric vehicle、HEV)又はプラグインハイブリッド電気車両(plug-in hybrid electric vehicle、PHEV)又はマイルドハイブリッド電気車両(mild hybrid electric vehicles、MHEV)として知られている。電池式電気車両(battery electric vehicles、BEV)を含む、完全に電動であり、ICEを有しない車両は、完全電気車両(electric vehicles、EV)と呼ばれる。全てのHEV、PHEV、MHEV、及びEVは、少なくとも1つの電気モータを使用する。この電気モータは、ガソリン/ディーゼル車に見られる内燃エンジン(ICE)によって通常提供される、何らかの形の推進力を車両に提供する。
【0003】
電動車両では、ICEは通常、サイズを縮小するか(HEV、PHEV、又はMHEV)、又は排除(EV)して、車両の重量を減らし、それによって電気駆動サイクルを増やす。ICEの主な機能は車両の推進力を提供することであるが、また、副次的な機能として乗員室に熱を提供する。典型的には、周囲条件が10℃以下である場合には、加熱が必要である。電動でない車両では、ICEからの過剰な熱があり、これを捕捉して、乗員室を加熱するために使用することができる。ICEは、加熱して発熱するまでに若干時間が(数分)かかる場合があるが、-30℃もの低温に至るまで十分に機能することに留意すべきである。したがって、電気車両では、ICEのサイズ低減又は排除によって、乗員室の効果的な暖房に対する需要が生じている。ICEを有しない現在のEVでは、正温度係数(positive temperature coefficient、PTC)ヒータが使用されている。冷房及び暖房のためにヒートポンプを使用すると、空調システムと共にPTCヒータに取って代わることができ、より効率的な冷房及び暖房が可能になる。
【0004】
環境圧に起因して、ヒドロフルオロカーボン、すなわちHFCであるR-134aは、地球温暖化係数(global warming potential、GWP)が150未満の低GWP冷媒に有利になるように移動式空調では段階的に廃止されている。ヒドロフルオロオレフィンであるHFO-1234yfは、低GWP要件(AR5当たりGWP<1)を満たすが、R-134aと比較して冷蔵容量が低い。自動車用ヒートポンプの別の選択肢は、固定冷媒用途で一般に使用される冷媒ブレンドである。HFO-1234yfを含む組成物の例は、国際公開第2007/126414号に開示され、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
同様に、据え置き型の住宅及び商業用構造物の加熱及び冷却も、現在使用されている古い高GWP冷媒に代わる好適な低GWP冷媒の不足に悩まされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ハイブリッド、マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、及び電気車両、電化大量輸送、並びに住宅及び商業用構造物における、冷房及び暖房の両方を提供することができる熱管理に対する高まるニーズを満たすために、低GWPヒートポンプタイプ流体に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、完全な車両の熱管理(車両のある部分から別の部分への熱の伝達)のためにハイブリッド、マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、又は完全電気車両において使用するための、低い温度勾配と共に、低いGWP(GWPが100以下)、低い毒性(ANSI/ASHRAE規格34又はISO規格817に準拠してクラスA)、及び低い燃焼性(ASHRAE34又はISO817に準拠してクラス2又はクラス2L)を有する、環境に優しい冷媒ブレンドの組成物に関する。熱管理システムは、パワーエレクトロニクス、バッテリ、モータの冷却及び/又は加熱を提供し、乗員室に空調(air conditioning、A/C)又は加熱を提供するように動作することができる。これらの冷媒は、バッテリ、モータ、乗員区画エリアの加熱及び冷却の両方を可能にするヒートポンプ型システムの恩恵を受ける大量輸送移動用途にも使用することができる。大量輸送移動用途は、救急車、バス、シャトル、及び列車などの運送車両を含み得るが、これらに限定されない。
【0009】
本発明の一態様では、冷媒組成物は、HFO-1234yf及びHFC-152aの混合物を含む。本発明の組成物は、車両の熱管理システムの動作条件にわたって低い温度勾配を示す。自動車の車両を修理又は整備する様式に起因して、温度勾配が低い流体を有するか又は勾配のないことが好ましい。現在、車両のA/Cの修理又は整備プロセス中に、冷媒は特定の自動車整備機械を通して取り扱われ、この機械は、冷媒を回収し、冷媒を断続的な品質レベルまでリサイクルして、全体的な汚染物質を除去し、次いで、修理又は整備が完了した後に車両に冷媒を再充填する。これらの機械は、冷媒を回収(recover)、リサイクル(recycle)、及び再充填(recharge)することからR/R/R機械と呼ばれる。単一化合物冷媒、現在はHFO-1234yfが使用されているため、車両のメンテナンス又は修理中に冷媒をこのように現場で回収、リサイクル、及び再充填することが可能である。現在の自動車整備機械は、典型的には、使用中に分留され、場合によっては最低沸点成分が優先的に漏出する恐れのある冷媒ブレンドを取り扱うことはできない。したがって、整備中にシステムから除去される冷媒は、充填された元のブレンドとは成分の割合が同じにならない可能性がある。冷媒は車両修理工場において「現場で」取り扱われるため、冷媒リサイクル業者が行うようにブレンド冷媒を元の組成物の濃度に再構成する機会はない。より温度勾配の大きい冷媒は、時に元の製剤への「再構成」を必要とする場合があり、そうしなければ、サイクル性能の損失が生じる恐れがある。したがって、自動車用途のためのより温度勾配の少ない冷媒に対する必要性が存在する。ヒートポンプ流体は空調流体と同じ様式で取り扱われるため、温度勾配が低いというこの要件は、従来の空調流様式で取り扱われる及び/又は整備される場合、ヒートポンプタイプの流体にも適用される。加えて、現行の熱交換器は、単一化合物冷媒の使用に基づいて設計されている。単一成分流体を利用する現行システムの全体的なシステム性能を維持するためには、著しい温度勾配を有する新規の冷媒では、熱交換器及び他のシステム構成要素を完全に再設計することが必要になる可能性がある。
【0010】
HFO-1234yfは空調用冷媒として使用することができるが、ヒートポンプタイプの流体として機能する、すなわち、冷却及び加熱モードの両方で必要な容量を提供することができる能力には限界がある。したがって、本明細書に記載の冷媒は、暖房動作範囲でHFO-1234yfよりも改善された容量を独自に提供し、かつ/又はHFO-1234yfを超える加熱範囲の能力を-20℃よりも低い蒸発器温度まで拡張し、同様の若しくは改善された効率(COP)を提供し、GWPが低く、燃焼性が低~軽度であると同時に、低い温度勾配も独自に示す。したがって、これらの冷媒は、電化車両用途、特に、下限加熱範囲を超えてこれらの特性を必要とするHEV、PHEV、MHEV、EV、及び大量輸送車両で最も有用である。ヒートポンプ流体は、空調サイクル、すなわち、最大40℃の冷媒平均凝縮温度において良好に機能し、望ましくは、HFO-1234yfと比べて同等以上の容量を提供する必要があることに留意すべきである。したがって、本明細書に記載の冷媒ブレンドは、特に約-30℃~+40℃までの温度範囲にわたって良好に機能し、ヒートポンプシステムがどのサイクルを必要とするかに応じて加熱又は冷却を両方提供することができる。
【0011】
本発明者らは、加熱モードにおいてHFO-1234yf単独よりも高い冷却容量、低及び超低平均温度勾配を有するHFO-1234yf単独のCOP以上のCOPは非毒性であり、ASHRAEによってクラス2又は2L燃焼性として分類され得ることを発見した。
【0012】
本発明は、以下の態様及び実施形態を含む。
一実施形態では、本明細書に開示されるのは、冷媒及び伝熱流体として有用な組成物である。本明細書に開示される組成物は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、及び1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)を含む。
【0013】
前述の実施形態のいずれかによれば、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf、及び約5~30重量パーセントのHFC-152aを含む冷媒ブレンドを含む組成物も本明細書において開示される。
【0014】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、約70~90重量パーセントのHFO-1234yf及び約30~10重量パーセントのHFC-152aから本質的になる組成物も本明細書において開示される。
【0015】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf及び約30~15重量パーセントのHFC-152aから本質的になる組成物も本明細書において開示される。
【0016】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、約72~84重量パーセントのHFO-1234yf及び約28~16重量パーセントのHFC-152aから本質的になる組成物も本明細書に開示される。
【0017】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf及び約18~12重量パーセントのHFC-152aから本質的になる組成物も本明細書において開示される。
【0018】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒組成物が、以下:
約70重量パーセントのHFO-1234yf及び約30重量パーセントのHFC-152a、
約72重量パーセントのHFO-1234yf及び約28重量パーセントのHFC-152a、
約74重量パーセントのHFO-1234yf及び約26重量パーセントのHFC-152a、
約76重量パーセントのHFO-1234yf及び約24重量パーセントのHFC-152a、
約78重量パーセントのHFO-1234yf及び約22重量パーセントのHFC-152a、
約80重量パーセントのHFO-1234yf及び約20重量パーセントのHFC-152a、
約82重量パーセントのHFO-1234yf及び約18重量パーセントのHFC-152a、
約84重量パーセントのHFO-1234yf及び約16重量パーセントのHFC-152a、
約86重量パーセントのHFO-1234yf及び約14重量パーセントのHFC-152a、
約88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12重量パーセントのHFC-152a、
約90重量パーセントのHFO-1234yf及び約10重量パーセントのHFC-152a、
約92重量パーセントのHFO-1234yf及び約8重量パーセントのHFC-152a、又は
約94重量パーセントのHFO-1234yf及び約6重量パーセントのHFC-152aから本質的になる組成物も本明細書において開示される。
【0019】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが約0.1K~約0.5K未満の平均温度勾配を提供する組成物も本明細書に開示される。
【0020】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが約0.1K未満の平均温度勾配を提供する組成物も本明細書に開示される。
【0021】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが約0.05K未満の平均温度勾配を提供する組成物も本明細書に開示される。
【0022】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドがAR5に基づいて、約50以下のGWPを有する組成物も本明細書に開示される。
【0023】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、AR5に基づいて、約30未満のGWPから本質的になる組成物も本明細書に開示される。
【0024】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、AR5に基づいて、約20未満のGWPから本質的になる組成物も本明細書に開示される。
【0025】
前述の実施形態のいずれかによれば、少なくとも1つの追加の化合物:
a)HCFC-244bb、HFC-245cb、HFC-254eb、CFC-12、HCFC-124、3,3,3-トリフルオロプロピン、HCC-1140、HFC-1225ye、HFO-1225zc、HFC-134a、HFO-1243zf、及びHCFO-1131からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むか、又は
b)HFC-23、HCFC-31、HFC-41、HFC-143a、HCFC-22、HCC-40、HFC-161、HFO-1141、HCO-1140、HCFC-151a、HCC-150a、HCC-160、HCFO-1130a、HCFC-141b、HFC-143a、HCFO-1122、及びHCFC-142bからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むか、又は
c)a)とb)との組み合わせ、を更に含み、
追加の化合物の総量が、0重量パーセント超かつ1重量パーセント未満を構成する、組成物が本明細書に開示される。
【0026】
前述の実施形態のいずれかによれば、追加の化合物が、HFC-161、HFO-1141、HCO-1140、HCFC-151a、HCC-150a、若しくはHCC-160、又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む組成物も本明細書に開示される。
【0027】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aを含む追加の化合物から本質的になる組成物も本明細書に開示される。
【0028】
前述の実施形態のいずれかによれば、追加の化合物が、HFO-1243zf、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aを含む組成物も本明細書に開示される。
【0029】
前述の実施形態のいずれかによれば、追加の組成物が、HFO-1243zf、HCC-40、及びHFC-161を含む組成物も本明細書に開示される。
【0030】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、ISO 817垂直管法に従って測定したときに10cm/s以下の燃焼速度を有する組成物も本明細書に開示される。
【0031】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、ANSI/ASHRAE規格34において定義される燃焼性について2Lとして分類される組成物も本明細書に開示される。
【0032】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該冷媒ブレンドが、ASTM-E681に従って測定したときに10体積パーセント未満のLFLを有する組成物も本明細書に開示される。
【0033】
前述の実施形態のいずれかによれば、潤滑剤を更に含む組成物も本明細書に開示される。
【0034】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該潤滑剤が、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ポリ-α-オレフィン、及びポリビニルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つを含む組成物も本明細書に開示される。
【0035】
前述の実施形態のいずれかによれば、ポリオールエステル潤滑剤が、カルボン酸を、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの混合物からなる群から選択されるネオペンチル骨格を含むポリオールと反応させることによって得られる組成物も本明細書に開示される。
【0036】
前述の実施形態のいずれかによれば、カルボン酸が2~18個の炭素原子を有する組成物も本明細書に開示される。
【0037】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該潤滑剤が、20℃で1010Ω-mを超える体積抵抗率を有する組成物も本明細書に開示される。
【0038】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該潤滑剤が、20℃で約0.02N/m~0.04N/mの表面張力を有する組成物も本明細書に開示される。
【0039】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該潤滑剤が、40℃で約20cSt~約500cStの動粘度を有する組成物も本明細書に開示される。
【0040】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該潤滑剤が、少なくとも25kVの絶縁破壊電圧を有する組成物も本明細書に開示される。
【0041】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該潤滑剤が、最大0.1mg KOH/gのヒドロキシ価を有する組成物も本明細書に開示される。
【0042】
前述の実施形態のいずれかによれば、0.1~200重量ppmの水を更に含む組成物も本明細書に開示される。
【0043】
前述の実施形態のいずれかによれば、約10体積ppm~約0.35体積パーセントの酸素を更に含む組成物も本明細書に開示される。
【0044】
前述の実施形態のいずれかによれば、約100体積ppm~約1.5体積パーセントの空気を更に含む組成物も本明細書に開示される。
【0045】
前述の実施形態のいずれかによれば、安定剤を更に含む組成物も本明細書に開示される。
【0046】
前述の実施形態のいずれかによれば、安定剤が、ニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、アゾール、フェノール化合物、環状モノテルペン、テルペン、ホスファイト、ホスフェート、ホスホネート、チオール、及びラクトンからなる群から選択される組成物も本明細書に開示される。
【0047】
前述の実施形態のいずれかによれば、安定剤が、トルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、トコフェロール、ヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、2,6-ジ-ターブチル(terbutyl)-4-メチルフェノール、フッ素化エポキシド、n-ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、d-リモネン、α-テルピネン、β-テルピネン、α-ピネン、β-ピネン、又はブチル化ヒドロキシトルエンから選択される組成物も本明細書に開示される。
【0048】
前述の実施形態のいずれかによれば、本明細書には、安定剤が、冷媒の重量に基づいて約0.001~1.0重量パーセントの量で存在する、組成物が更に開示される。
【0049】
前述の実施形態のいずれかによれば、少なくとも1つのトレーサーを更に含む組成物も本明細書に開示される。
【0050】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該少なくとも1つのトレーサーが約10重量ppm~約1000重量ppmの量で存在する組成物も本明細書に開示される。
【0051】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該少なくとも1つのトレーサーが、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロクロロカーボン、ヒドロクロロオレフィン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロオレフィン、ヒドロクロロカーボン、ヒドロクロロオレフィン、クロロフルオロカーボン、クロロフルオロオレフィン、炭化水素、ペルフルオロカーボン、ペルフルオロオレフィン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される組成物も本明細書に開示される。
【0052】
前述の実施形態のいずれかによれば、当該少なくとも1つのトレーサーが、HFC-23、HCFC-31、HFC-41、HFC-161、HFC-143a、HFC-134a、HFC-125、HFC-236fa、HFC-236ea、HFC-245cb、HFC-245fa、HFC-254eb、HFC-263fb、HFC-272ca、HFC-281ea、HFC-281fa、HFC-329p、HFC-329mmz、HFC338mf、HFC-338pcc、CFC-12、CFC-11、CFC-114、CFC-114a、HCFC-22、HCFC-123、HCFC-124、HCFC-124a、HCFC-141b、HCFC-142b、HCFC-151a、HCFC-244bb、HCC-40、HFO-1141、HCFO-1130、HCFO-1130a、HCFO-1131、HCFO-1122、HFO-1123、HFO-1234ye、HFO-1243zf、HFO-1225ye、HFO-1225zc、PFC-116、PFC-C216、PFC-218、PFC-C318、PFC-1216、PFC-31-10mc、PFC-31-10my、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される組成物も本明細書に開示される。
【0053】
別の実施形態では、冷媒が気相及び液相を含む、前述の実施形態のいずれかによる組成物を含む冷媒貯蔵容器が本明細書に開示される。
【0054】
別の実施形態では、電気車両の乗員区画を加熱及び冷却するためのシステムであって、蒸発器、圧縮機、凝縮器及び膨張デバイスを含み、各々が蒸気圧縮サイクルを実行するように動作可能に接続されており、前述の実施形態のいずれかの冷媒組成物が蒸発器、圧縮機、凝縮器及び膨張デバイスの各々を通して循環される、システムも本明細書に開示される。
【0055】
前述の実施形態のいずれかによれば、平均温度勾配が、0.5K、0.1K、又は0.05K未満である、冷房及び暖房システムも本明細書に開示される。
【0056】
前述の実施形態のいずれかによれば、PTCヒータを含まない冷房及び暖房システムも本明細書に開示される。
【0057】
前述の実施形態のいずれかによれば、可逆冷却ループではない冷房及び暖房システムも本明細書に開示される。
【0058】
前述の実施形態のいずれかによれば、圧縮機と凝縮器との間に動作可能に接続された再加熱器を更に備える冷房及び暖房システムも本明細書に開示される。
【0059】
前述の実施形態のいずれかによれば、電気車両内に含まれた暖房及び冷房システムにおいてHFO-1234yfを代替するための方法であって、前述の組成物のうちのいずれかを伝熱流体として当該加熱及び冷却システムに提供することを含む、方法も本明細書に開示される。
【0060】
前述の実施形態のいずれかによれば、HFO-1234yfを代替するための方法であって、冷媒ブレンドが、同じ加熱条件下で動作したときにHFO-1234yf単独よりも少なくとも1%高い、又は3%高い、又は5%高い、又は更には7%高い体積加熱容量を生じさせる、方法も本明細書に開示される。
【0061】
前述の実施形態のいずれかによれば、HFO-1234yfを代替するための方法であって、冷媒ブレンドが、同じ条件下で動作したときにHFO-1234yf単独のCOP以上のCOPを生じさせる、方法も本明細書に開示される。
【0062】
前述の実施形態のいずれかによれば、電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムにおける伝熱流体としての、前述の組成物のうちのいずれかの使用が本明細書に開示される。
【0063】
本発明の様々な態様及び実施形態は、単独で、又は互いに組み合わせて使用されることができる。本発明の他の特徴及び利点は、例として本発明の原理を例示する好ましい実施形態の以下のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】実施形態による可逆冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図2】実施形態による可逆冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図3】実施形態による可逆冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図4】実施形態による冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図5】実施形態による冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図6】実施形態による冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図7】実施形態による冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図8】実施形態による冷却又は加熱ループシステムを示す。
【
図9】実施形態による冷却又は加熱ループシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
定義
本明細書で使用するとき、伝熱組成物又は伝熱流体という用語は、熱源からヒートシンクへと熱を運ぶために使用される組成物を意味する。
【0066】
熱源は、熱を加える、伝達する、移動させる又は除去することが望ましい任意の空間、場所、物又は物体として定義される。この実施形態における熱源の例は、空調を必要とする車両乗員区画である。
【0067】
ヒートシンクは、熱を吸収することができる任意の空間、場所、物又は物体として定義される。一実施形態におけるヒートシンクの例は、加熱を必要とする車両乗員区画である。
【0068】
伝熱システムは、特定の場所において加熱又は冷却効果を生じるために使用されるシステム(又は装置)である。本発明における伝熱システムは、自動車の乗員区画の加熱又は冷却を提供する可逆暖房又は冷房システムを意味する。このシステムは、ヒートポンプシステムと呼ばれることもあり、可逆暖房システム若しくは可逆冷房システム、又は単に暖房及び冷房システムであり得る。
【0069】
伝熱流体は、少なくとも1つの冷媒と、潤滑剤、安定剤、トレーサー、UV色素、及び火炎抑制剤からなる群から選択される少なくとも1つの成分とを含む。
【0070】
体積容量は、吸収又は排出された熱の量を理論上の圧縮機変位で除したものである。除去又は吸収される熱は、熱交換器間のエンタルピ差に冷媒質量流量を乗じたものである。理論上の圧縮機変位は、冷媒質量流量を圧縮機に入るガスの密度(すなわち、圧縮機吸入密度)で除したものである。より単純には、体積容量は、吸引密度に熱交換器エンタルピ差を乗じたものである。体積容量がより高いと、同じ熱負荷に対してより小さな圧縮機を使用することが可能になる。本明細書において、冷却容量とは冷却モードにおける体積容量を指し、加熱容量とは加熱モードにおける体積容量を指す。
【0071】
成績係数(Coefficient of performance、COP)は、吸収又は排出された熱の量を、そのサイクルが動作するのに必要なエネルギー入力(圧縮機の能力によって近似)で除したものである。COPは、ヒートポンプの動作モードに特有であり、したがって、加熱についてのCOP又は冷却についてのCOPである。COPは、エネルギー効率比(energy efficiency ratio、EER)に直接関連する。
【0072】
過冷却は、所定の圧力で、その液体の飽和点を下回るまで液体の温度を低下させることを指す。液体飽和点は、蒸気が完全に液体に凝結する温度である。飽和温度(又は沸点温度)を下回る温度まで液体を冷却することによって、正味の冷蔵効果を増大させることができる。それにより、過冷却は、システムの冷蔵容量及びエネルギー効率を向上させる。過冷却量は、飽和温度(度)を下回る冷却量である。
【0073】
過熱は、所定の圧力で、その蒸気の飽和点を上回るまで蒸気の温度を上昇させることを指す。蒸気飽和点は、液体が完全に蒸気に蒸発する温度である。過熱は、所与の圧力において、蒸気をより高温の蒸気に加熱し続ける。飽和温度(又は露点温度)を上回る温度まで蒸気を加熱することによって、正味の冷蔵効果を増大させることができる。それにより、過熱は、蒸発器内で生じたときにシステムの冷蔵容量及びエネルギー効率を向上させる。吸引ラインの過熱は、正味の冷蔵効果を付加せず、効率及び容量を低下させる可能性がある。過熱量は、飽和温度(度)を上回る加熱量である。
【0074】
温度勾配(単に「勾配」と称されることもある)は、任意の過冷却又は過熱を除く、冷媒システムの凝縮器内の冷媒による相変化プロセスの開始温度と終了温度との間の差の絶対値である。蒸発器の場合、勾配は露点と蒸発器入口との間の温度差である。勾配は、近共沸混合物又は非共沸組成物の凝縮又は蒸発について説明するために使用され得る。空調システム又はヒートポンプシステムの温度勾配を指す場合、蒸発器内の温度勾配と凝縮器の温度勾配との平均値である平均温度勾配を提供することが一般的である。勾配は、ブレンド冷媒、すなわち、少なくとも2つの成分で構成される冷媒に適用可能である。
【0075】
ここでの低勾配は、加熱のための条件下で、対象の動作範囲にわたって0.5K未満の平均勾配として定義され、より好ましくは、対象の動作範囲にわたって0.1K未満であり、最も好ましくは、対象の動作範囲にわたって0.05K未満(例えば、0より大きく約0.05K未満の範囲の勾配)である。
【0076】
共沸組成物は、所与の圧力及び温度の条件で単一の物質として挙動する2つ以上の物質の定沸混合物である。共沸組成物を特性評価する1つの方式は、液体の部分的蒸発又は蒸留によって生成された蒸気が、蒸発又は蒸留させた液体と同じ組成を有すること、すなわち、混合蒸留物/還流物が組成変化しないことである。定沸点組成物は、共沸であると特徴付けられるが、その理由は、同一化合物の非共沸混合物と比較すると、最高沸点又は最低沸点のいずれかを示すためである。共沸組成物は、一定の温度及び圧力であると仮定すると、動作中に空調又は暖房システム内で分留されることはない。加えて、空調システム又は暖房システムからの漏出時に、共沸組成物が分留されることはない。
【0077】
近共沸組成物(一般に「共沸様組成物」とも称される)は、本質的に単一の物質として挙動する2つ以上の物質の実質的に定沸点の液体混合物である。近共沸組成物を特性評価する1つの方式は、液体の部分的蒸発又は蒸留によって生じた蒸気が、蒸発又は蒸留した液体と実質的に同じ組成を有する、すなわち、混合物が実質的に組成が変化することなく蒸留/還流することである。近共沸組成物を特性評価する別の方式は、特定の温度における組成物の沸点蒸気圧力及び露点圧力が実質的に同じであることである。
【0078】
本明細書において、近共沸組成物は、実質的に圧力差のない露点圧力及び沸点圧力を示す。すなわち、所与の温度における露点圧力と沸点圧力との差は、小さな値になる。露点圧力と沸点圧力との差が(沸点圧力に基づいて)3パーセント以下である組成物は、近共沸混合物であるとみなしてよいと記載することができる。
【0079】
本明細書で使用するとき、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」という用語、又はこれらの他の任意の変化形は、非排他的な包含を網羅することを意図する。例えば、列挙する要素を含む、組成物、プロセス、方法、物品、又は装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されるものではなく、明示的に列挙されない他の要素、又はそのような組成物、プロセス、方法、物品、若しくは装置などに内在する他の要素を含み得る。更に、明示的にこれに反する記載がない限り、「又は」は、包括的な「又は」を指し、排他的な「又は」を指すものではない。例えば、条件A又はBは、以下、すなわち、Aが真であり(又は存在し)かつBが偽である(又は存在しない)、Aが偽であり(又は存在しない)かつBが真である(又は存在する)、並びにA及びBの両方が真である(又は存在する)のいずれか1つにより満たされる。
【0080】
移行句「からなる(consisting of)」は、特定されていないあらゆる要素、工程、又は成分を除外する。特許請求の範囲における場合、このような句は、材料に通常付随する不純物を除き、列挙された材料以外の材料を含むことに対して特許請求の範囲を閉ざすことになる。語句「からなる」がプリアンブルの直後ではなく特許請求の範囲の本文の分節内で現れる場合、この語句はその節内に示される要素のみを限定するものであり、その他の要素が特許請求の範囲全体から除外されるわけではない。
【0081】
移行句「から本質的になる(consisting essentially of)」は、文字どおり開示されているものに加えて、材料、工程、特徴、成分、又は要素を含む、組成物、方法を定義するために使用されるが、ただし、これらの追加的に含まれる材料、工程、特徴、成分、又は要素は、特許請求される発明の基本的及び新規の特徴、特に本発明のプロセスのいずれかの所望の結果を達成するための行動様式に実質的に影響を及ぼす。用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、「含む(comprising)」と「からなる(consisting of)」との間の中間の意味を持つ。
【0082】
出願人らが、発明又はその一部を、「含む」などの非限定的な用語で定義していた場合、(特に明記しない限り)その記載は、例えばから本質的になる又はからなる組成物を含む、用語「から本質的になる」又は「からなる」を使用する発明もまた含むと解釈すべきであることが容易に理解されるべきであろう。
【0083】
また、「a」又は「an」の使用は、本明細書に記載された要素及び成分を説明するために用いられる。これは、単に便宜上なされるものであり、本発明の範囲の全般的な意味を与えるためのものである。この記載は、1つ又は少なくとも1つを含むものと解釈されるべきであり、単数形は、別の意味を有することが明白でない限り、複数形も含む。
【0084】
冷媒ブレンド
地球温暖化係数(global warming potential、GWP)は、1キログラムの二酸化炭素の排出と比較して、1キログラムの特定の温室効果ガスの大気排出に起因する相対的な地球温暖化への寄与を推定するための指数である。GWPは、様々な対象期間について計算することができ、所与のガスの大気寿命の影響を示す。100年間を対象期間とするGWPが、一般的に参照される値である。混合物については、各成分に関する個々のGWPに基づいて加重平均を計算することができる。国連の気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、IPCC)は、公式の評価レポート(assessment report、AR)で冷媒GWPの精査された値を提供している。4番目の評価レポートはAR4として示され、5番目の評価レポートはAR5として示される。本明細書において本発明の冷媒ブレンドについて報告されるGWP値は、AR5値を指す。
【0085】
オゾン破壊係数(ozone depletion potential、ODP)は、物質によって生じるオゾン破壊の量を指す数値である。ODPは、化学物質がオゾンに及ぼす影響の、類似の質量のR-11又はトリクロロフルオロメタンの影響に対する比である。R-11はクロロフルオロカーボン(chlorofluorocarbon、CFC)の一種であり、オゾン層破壊の原因となる塩素を有する。更に、CFC-11のODPが1.0と定義される。他のCFC及びヒドロフルオロクロロカーボン(hydrofluorochlorocarbon、HCFC)は、0.01~1.0の範囲のODPを有する。本明細書に記載されたヒドロフルオロカーボン(Hydrofluorocarbon、HFC)及びヒドロフルオロオレフィン(hydrofluoro-olefin、HFO)は、オゾン層分解及び破壊に寄与することが知られている種である、塩素、臭素、又はヨウ素を含有しないため、ゼロのODPを有する。
【0086】
組成物は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、及び1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)から本質的になる冷媒ブレンドを含む。冷媒ブレンド中のHFC-152aの好適な量としては、総冷媒ブレンド組成物に基づいて、約5重量パーセント~30重量パーセント、又は約10重量パーセント~30重量パーセント、又は約15重量パーセント~30重量パーセント、約16重量パーセント~28重量パーセント、又は約18重量パーセント~25重量パーセント、又は約20重量パーセント~25重量パーセント、又は約12重量パーセント~18重量パーセントの量が挙げられるが、これらに限定されない。冷媒ブレンド中のHFO-1234yfの好適な量としては、総冷媒ブレンド組成物に基づいて、約70重量パーセント~95重量パーセント、又は約70重量パーセント~90重量パーセント、又は約70重量パーセント~85重量パーセント、約72重量パーセント~84重量パーセント、又は約75重量パーセント~82重量パーセント、又は約75重量パーセント~80重量パーセント、又は約82重量パーセント~88重量パーセントの量が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
本発明の伝熱システム及び方法で使用するのに好適な具体的な組成物は、以下を含む:
約70重量パーセントのHFO-1234yf及び約30重量パーセントのHFC-152a、
約72重量パーセントのHFO-1234yf及び約28重量パーセントのHFC-152a、
約74重量パーセントのHFO-1234yf及び約26重量パーセントのHFC-152a、
約76重量パーセントのHFO-1234yf及び約24重量パーセントのHFC-152a、
約78重量パーセントのHFO-1234yf及び約22重量パーセントのHFC-152a、
約80重量パーセントのHFO-1234yf及び約20重量パーセントのHFC-152a、
約82重量パーセントのHFO-1234yf及び約18重量パーセントのHFC-152a、
約84重量パーセントのHFO-1234yf及び約16重量パーセントのHFC-152a、
約86重量パーセントのHFO-1234yf及び約14重量パーセントのHFC-152a、
約88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12重量パーセントのHFC-152a、
約90重量パーセントのHFO-1234yf及び約10重量パーセントのHFC-152a、
約91重量パーセントのHFO-1234yf及び約9重量パーセントのHFC-152a、
約92重量パーセントのHFO-1234yf及び約8重量パーセントのHFC-152a、又は約94重量パーセントのHFO-1234yf及び約6重量パーセントのHFC-152a。
【0088】
一実施形態では、組成物は、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf、及び約30~5重量パーセントのHFC-152aを含む冷媒ブレンドを含む。別の実施形態では、当該冷媒ブレンドは、約70~90重量パーセントのHFO-1234yf、及び約30~10重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、当該冷媒ブレンドは、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf、及び約30~15重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、冷媒ブレンドは、約72~84重量パーセントのHFO-1234yf、及び約28~16重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、冷媒ブレンドは、約75~82重量パーセントのHFO-1234yf、及び約25~18重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、冷媒ブレンドは、約75~80重量パーセントのHFO-1234yf、及び約25~20重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、冷媒ブレンドは、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~12重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。
【0089】
HFO-1234yfは、GWP=1(AR5)を有する非常に低いGWPを有し、HFC-152aは、GWP=138(AR5)を有する。
【0090】
したがって、最終ブレンドは、0のODP及び低GWP、又はGWP<50、又は好ましくは、GWP<30、又はより好ましくは、GWP<20(AR5値による)を有する。以下に示す表1は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、及び1,1-ジフルオロメタン(HFC-152a)、並びにこれらの様々な組み合わせについて実施した第5次評価レポートによる冷媒ブレンド及びGWPを示す要約表である。本発明の冷媒ブレンドは、AR5からの値に基づいて、0超~約50未満、又は0超~約30未満、又は0超~20未満の範囲のGWPを有し得る。
【0091】
冷媒ブレンドの場合、GWPは、ブレンド内の各成分の質量(例えば、重量%)を考慮して、ブレンド内の個々のGWP値の加重平均として計算することができる。
【0092】
【0093】
本明細書に記載される冷媒ブレンドは、熱交換器、すなわち、温度勾配の低い蒸発器及び/又は凝縮器において動作する。したがって、冷却及び加熱のために効率的かつ一貫した性能を提供する動作では組成物の分留が制限される。
【0094】
いくつかの実施形態では、冷媒ブレンドは、対象の動作範囲にわたって0.5K未満の平均温度勾配を提供し、より好ましくは、勾配が小さいとは、対象の動作範囲にわたって0.1K未満であり、最も好ましくは、対象の動作範囲にわたって0.05K未満(例えば、0超~約0.05K未満の範囲の勾配)である。この効果は、前述の冷媒ブレンドのうちのいずれかが加熱モードで動作するヒートポンプで使用されるときに観察される。
【0095】
冷媒添加剤
冷媒ブレンドを含む本発明の組成物は、潤滑剤を更に含むことができ、伝熱流体として使用することができる。本発明の冷媒ブレンド及び潤滑剤を含有する本発明の組成物は、安定剤、漏出検出材料(例えば、UV色素)、トレーサー、及び他の有益添加剤などの添加剤を含有し得る。
【0096】
この組成物のために選択された潤滑剤は、好ましくは、潤滑剤が蒸発器から凝縮器に戻ることができることを確実にするために、冷媒ブレンドにおいて十分な可溶性を有する。更に、混和性は、圧縮機を潤滑するための潤滑剤の有効粘度を低下させるほど大きくてはならない。好ましい一実施形態では、潤滑剤及び冷媒ブレンドは、幅広い温度範囲にわたって混和性である。移動式空調及び暖房における使用については、摂氏約-40度~摂氏約+40度の温度範囲にわたる混和性が望ましい。本発明の潤滑剤としては、ポリアルキレングリコール潤滑剤(polyalkylene glycol lubricant、PAG)、ポリオールエステル潤滑剤(polyol ester lubricant、POE)、ポリビニルエーテル潤滑剤(polyvinyl ether lubricant、PVE)、ポリ-α-オレフィン(poly-α-olefin、PAO)、アルキルベンゼン、鉱油、フッ素化ポリエーテル、及びシリコン潤滑剤を挙げることができる。
【0097】
好ましい潤滑剤は、1つ以上のポリアルキレングリコールタイプの潤滑剤(PAG)、1つ以上のポリオールエステルタイプの潤滑剤(POE)、1つ以上のポリ-a-オレフィン、又は1つ以上のポリビニルエーテル潤滑剤であり得る。加えて、本発明の冷媒ブレンドと組み合わせるための潤滑剤は、PAG、POE、及び/又はPVE潤滑剤のいずれかの混合物であってもよい。
【0098】
ポリアルキレングリコール(PAG)油は、2つ以上のオキシプロピレン基からなるホモポリマー又はコポリマーであってもよい。PAG油は、末端保護されていなくても、一端が保護されていても、又は両端が保護されていてもよい。市販のPAG油の例としては、ND-8、Castrol PAG 46、Castrol PAG 100、Castrol PAG 150、Daphne Hermetic PAG PL、及びDaphne Hermetic PAG PRが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
本発明においてそれらを使用するPAG潤滑剤特性は、20℃で1010Ω-m超の体積抵抗率、20℃で約0.02N/m~0.04N/mの表面張力、40℃で約20cSt~約500cStの動粘度、少なくとも25kVの絶縁破壊電圧、及び最大0.1mgKOH/gのヒドロキシ価を含む。
【0100】
この実施形態の態様では、潤滑剤は、PAGを含み、冷媒は、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf、及び約5~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PAGを含み、冷媒は、約70~90重量パーセントのHFO-1234yf、及び約10~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PAGを含み、冷媒は、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf、及び約15~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PAGを含み、冷媒は、約72~84重量パーセントのHFO-1234yf、及び約16重量パーセント~28重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PAGを含み、冷媒は、約75~82重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~25重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PAGを含み、冷媒は、約75~80重量パーセントのHFO-1234yf、及び約20~25重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PAGを含み、冷媒は、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~12重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。更なる態様では、冷媒組成物は、追加の化合物の約0より多く、かつ1重量パーセント未満を更に含む。
【0101】
POE潤滑剤は、典型的には、カルボン酸又はカルボン酸の混合物と、アルコール又はアルコールの混合物との化学反応(エステル化)によって形成される。
【0102】
一実施形態では、ポリオールエステルは、本明細書で使用するとき、約3~20個のヒドロキシル基を有するジオール又はポリオールと、約1~24個の炭素原子を有するカルボン酸(又は脂肪酸)とのエステルを含み、好ましくは、ポリオールとして使用される。基油として使用することができるエステルは、参照により本明細書に組み込まれる、第153条(4)に従って公開された欧州特許出願第2727980(A1)号に記載されている。ここで、ジオールの例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0103】
上記ポリオールの例としては、多価アルコール、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの二量体から二十量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトール-グリセリン縮合体、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなど;多糖類、例えば、特にキシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース;これらの部分的エーテル化生成物及びメチルグルコシドなどが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードアルコール、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)などがポリオールとして好ましい。
【0104】
脂肪酸の炭素数は特に限定されないが、一般に、1~24個の炭素原子を有する脂肪酸が使用される。1~24個の炭素原子を有する脂肪酸では、潤滑特性の観点から、3個以上の炭素原子を有する脂肪酸が好ましく、4個以上の炭素原子を有する脂肪酸がより好ましく、5個以上の炭素原子を有する脂肪酸が更により好ましく、10個以上の炭素原子を有する脂肪酸が最も好ましい。加えて、冷媒との適合性の観点から、18個以下の炭素原子を有する脂肪酸が好ましく、12個以下の炭素原子を有する脂肪酸がより好ましく、9個以下の炭素原子を有する脂肪酸が更により好ましい。一実施形態では、カルボン酸は、2~18個の炭素原子を有する。
【0105】
加えて、脂肪酸は、直鎖脂肪酸及び分岐鎖脂肪酸のいずれかであってもよく、脂肪酸は、潤滑特性の観点からは直鎖脂肪酸が好ましく、一方、加水分解安定性の観点からは分岐鎖脂肪酸が好ましい。更に、脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれかであってもよい。具体的には、上記脂肪酸の例としては、直鎖又は分岐鎖脂肪酸、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸など;カルボン酸基が四級炭素原子に結合している、いわゆるネオ酸などが挙げられる。より具体的には、その好ましい例としては、吉草酸(n-ペンタン酸)、カプロン酸(n-ヘキサン酸)、エナント酸(n-ヘプタン酸)、カプリル酸(n-オクタン酸)、ペラルゴン酸(n-ノナン酸)、カプリン酸(n-デカン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデカン酸)、イソペンタン酸(3-メチルブタン酸)、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸などが挙げられる。ちなみに、ポリオールエステルは、ポリオールのヒドロキシル基が完全にエステル化されずに残っている部分エステル;全てのヒドロキシル基がエステル化されている完全なエステル;又は部分エステルと完全エステルとの混合物であってもよく、完全エステルが好ましい場合がある。
【0106】
ポリオールエステルにおいて、より優れた加水分解安定性の観点から、ヒンダードアルコール、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)などのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、又はペンタエリスリトールのエステルが更により好ましく;冷媒との特に優れた適合性及び加水分解安定性の観点から、ペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。
【0107】
ポリオールエステルの好ましい具体例としては、ネオペンチルグリコールと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのジエステル;トリメチロールエタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールプロパンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールブタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのトリエステル;並びにペンタエリスリトールと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸から選択される1種又は2種以上の脂肪酸とのテトラエステルが挙げられる。ちなみに、2種以上の脂肪酸とのエステルは、1種の脂肪酸とポリオールとの2種以上のエステルの混合物、及びその2種以上の混合脂肪酸とポリオールとのエステルであってもよく、特に、混合脂肪酸とポリオールとのエステルは、低温特性及び冷媒との適合性において優れている。
【0108】
電化自動車の空調及び暖房用途のために使用されるPOE潤滑剤は、20~500cSt、75~110cSt、理想的には約80cSt~100cSt、最も具体的には85cst~95cStの(ASTM D445に準拠して40℃で測定した)動粘度を有し得る。しかしながら、本発明を限定することを望むものではないが、電化車両のヒートポンプ圧縮機の必要性に応じて、他の潤滑剤粘度が含まれてもよいことに留意すべきである。本発明の組成物と共に使用するための自動車用POEタイプ潤滑剤の好適な特徴を以下に列挙する。
【0109】
【0110】
一実施形態では、潤滑剤はPOEを含み、POEは、本発明の組成物への曝露時に安定であり、冷媒組成物は、約500ppm未満のFイオン、場合によっては0超~500ppm未満、0超~100ppm未満、場合によっては0超~50ppm未満のFイオン量を有する。この実施形態の態様では、冷媒は、約70~約95重量パーセント、好ましくは、約70重量パーセント~90重量パーセント、より好ましくは約70~85重量パーセント、より好ましくは約72~84重量パーセント、より好ましくは約75~82重量パーセント、より好ましくは約82~88重量パーセント、及び更により好ましくは75~80重量パーセントのHFOー1234yf、並びに約5重量パーセント~30重量パーセント、又は約10重量パーセント~30重量パーセント、又は約15重量パーセント~30重量パーセント、又は約16重量パーセント~約28重量パーセント、又は約18重量パーセント~約25重量パーセント、又は約12重量パーセント~約18重量パーセント、又は約20重量パーセント~約25重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。また、更なる態様では、冷媒組成物は、約0超~1重量%未満の追加の化合物を更に含む。
【0111】
一実施形態では、潤滑剤はPOEを含み、POEは、本発明の組成物への曝露時に安定であり、冷媒ブレンド組成物は、約1未満、0超~1未満、0超~約0.75未満、場合によっては0超~約0.4未満の全酸価(Total Acid Number、TAN)、mg KOH/g数を有する。
【0112】
この実施形態の態様では、潤滑剤は、POEを含み、冷媒は、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf、及び約5~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、POEを含み、冷媒は、約70~90重量パーセントのHFO-1234yf、及び約10~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、POEを含み、冷媒は、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf、及び約15~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、POEを含み、冷媒は、約72~84重量パーセントのHFO-1234yf、及び約16重量パーセント~28重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、POEを含み、冷媒は、約75~82重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~25重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、POEを含み、冷媒は、約75~80重量パーセントのHFO-1234yf、及び約20~25重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、POEを含み、冷媒は、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~12重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。更なる態様では、冷媒組成物は、追加の化合物の約0より多く、かつ1重量パーセント未満を更に含む。
【0113】
別の実施形態では、PVE潤滑剤が、本発明の組成物に潤滑剤として含まれてもよい。本発明の範囲を何ら限定することを意味するものではないが、本発明の実施形態では、ポリビニルエーテル油としては、米国特許第5,399,631号及び同第6,454,960号に記載されているような文献に教示されているものが挙げられる。本発明の別の実施形態では、ポリビニルエーテル油は、式1によって示されるタイプの構造単位で構成され、
-[C(R1,R2)-C(R3,-R4)]- 式1
式中、R1、R2、R3、及びR4は、独立して、水素及び炭化水素から選択され、炭化水素は、任意選択で、1つ以上のエーテル基を含有していてもよい。本発明の好ましい実施形態では、式2に示すように、R1、R2、及びR3は各々水素である。
-[CH2-CH(-O-R4)]- 式2
【0114】
本発明の別の実施形態では、ポリビニルエーテル油は、式3によって示されるタイプの構造単位で構成され、
-[CH2-CH(-O-R5)m-[CH2-CH(-O-R6)]n 式3
式中、R5及びR6は、独立して、水素及び炭化水素から選択され、m及びnは、整数である。
【0115】
一実施形態では、ポリビニルエーテル油は、以下の2つの単位のコポリマーを含む:
【0116】
【0117】
潤滑剤の特性(粘度、冷媒の溶解度、及び冷媒との混和性)は、n/n比及びm+nの合計を変化させることによって調整することができる。別の実施形態では、PVE潤滑剤は、50~95重量パーセントの単位1であるものである。
【0118】
この実施形態の態様では、潤滑剤は、PVEを含み、冷媒は、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf、及び約5~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PVEを含み、冷媒は、約70~90重量パーセントのHFO-1234yf、及び約10~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PVEを含み、冷媒は、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf、及び約15~30重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PVEを含み、冷媒は、約72~84重量パーセントのHFO-1234yf、及び約16重量パーセント~28重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PVEを含み、冷媒は、約75~82重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~25重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PVEを含み、冷媒は、約75~80重量パーセントのHFO-1234yf、及び約20~25重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。別の実施形態では、潤滑剤は、PVEを含み、冷媒は、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~12重量パーセントのHFC-152aから本質的になる。更なる態様では、冷媒組成物は、追加の化合物の約0より多く、かつ1重量パーセント未満を更に含む。
【0119】
POE潤滑剤に関しては、本明細書に記載の組成物においてPVE潤滑剤を使用するため、特に自動車の冷房及び暖房システムにおいて使用するため、同様の特性及び特徴が必要とされ得る。
【0120】
好ましい実施形態では、潤滑油は、約-40℃~約80℃の温度、より好ましくは約-30℃~約40℃の範囲内で、更により具体的には-25℃~40℃で、冷媒内に溶解する。別の実施形態では、圧縮機内で潤滑剤を維持しようとする試みは優先ではないので、高温不溶性は好ましくない。
【0121】
潤滑剤の量は、約1重量%~約20重量%、約1重量%~約7重量%、場合によっては約1重量%~約3重量%の範囲であり得る。
【0122】
潤滑油の加水分解を抑えるためには、電気タイプの車両の暖房/冷房システムの水分濃度を制御する必要がある。したがって、この実施形態における潤滑剤は、水分が少なく、典型的には100重量ppm未満の水しか有しない必要がある。
【0123】
好ましい実施形態では、潤滑剤は、約-35℃~約100℃、より好ましくは約-35℃~約50℃の範囲内、更により具体的には-30℃~40℃の温度で車両ヒートポンプシステムの冷媒ブレンドに可溶性であるPOE潤滑剤を含む。別の好ましい実施形態では、POE潤滑剤は約70℃を超える温度で、より好ましくは約80℃を超える温度で、最も好ましくは90~95℃の温度で可溶性である。
【0124】
特に留意すべきは、20℃で1010Ω-mを超える体積抵抗率;20℃で約0.02N/m~0.04N/mの表面張力;40℃で約20cSt~約500cSt、又は約50cSt~約200cSt、又は約75cSt~約100cStの動粘度;少なくとも25kVの絶縁破壊電圧;及び最大0.1mg KOH/gのヒドロキシ価を有するPAG、POE、PAO、及びPVE潤滑剤である。
【0125】
HFOタイプの冷媒は、二重結合が存在するため、熱的に不安定になり、極端な使用、取り扱い、又は保管状況で分解する可能性がある。したがって、HFOタイプの冷媒に安定剤を添加することには利点がある場合がある。安定剤としては、特に、ニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾール又はベンゾトリアゾールなどのアゾール、トコフェロールなどのフェノール化合物、ヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、2,6-ジ-tertブチル-4-メチルフェノール、n-ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのエポキシド(場合によっては、フッ素化若しくは過フッ素化アルキルエポキシド又はアルケニル若しくは芳香族エポキシド)、環式モノテルペン、d-リモネン、a-テルピネン、b-テルピネン、g-テルピネン、a-ピネン、又はb-ピネンなどのテルペン、ホスファイト、ホスフェート、ホスホネート、チオール、及びラクトンを挙げることができる。好適な安定剤の例は、国際公開第2019213004号、同第2020222864号、及び同第2020222865号に開示され、これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0126】
ブレンドは、使用されているシステムの要件に応じて、安定剤を含むか、又は含まない場合がある。冷媒ブレンドが安定剤を含む場合、それは、0.001重量%~1重量%以下の任意の量、好ましくは約0.01~約0.5重量パーセント、より好ましくは約0.01~約0.3重量パーセントの上に列挙した安定剤のいずれか、ほとんどの場合、好ましくはd-リモネンを含み得る。
【0127】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、トレーサー化合物又はトレーサーを含有していてもよい。トレーサーは、2つ以上のトレーサー化合物を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、トレーサーは、全組成物の重量に基づいて、約50重量百万分率(parts per million、ppm)~約1000ppmの合計濃度で組成物中に存在する。他の実施形態では、トレーサーは、約50ppm~約500ppmの合計濃度で存在する。代替的に、トレーサーは、約100ppm~約300ppmの合計濃度で存在する。
【0128】
組成物の何らかの希釈、混入、又は他の変化の検出を可能にするための所定の量のトレーサーが本発明の組成物に存在してもよい。組成物中の特定の化合物の存在は、どの方法又はプロセスによって成分のうちの1つが生成されたかを示し得る。組成物の供給源を同定するために、指定の量のトレーサーを組成物に添加してもよい。このようにして、特許権の侵害の検出を達成することができる。トレーサーは冷媒化合物であってもよいが、組成物の冷媒成分の性能に影響を与える可能性が低いレベルで組成物中に存在する。
【0129】
トレーサー化合物は、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロクロロカーボン、ヒドロクロロオレフィン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロオレフィン、ヒドロクロロカーボン、ヒドロクロロオレフィン、クロロフルオロカーボン、クロロフルオロオレフィン、炭化水素、ペルフルオロカーボン、ペルフルオロオレフィン、及びこれらの組み合わせであってもよい。トレーサー化合物の例としては、HFC-23(トリフルオロメタン)、HCFC-31(クロロフルオロメタン)、HFC-41(フルオロメタン)、HFC-161(フルオロエタン)、HFC-143a(1,1,1-トリフルオロエタン)、HFC-134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)、HFC-125(ペンタフルオロエタン)、HFC-236fa(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン)、HFC-236ea(1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン)、HFC-245cb(1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン)、HFC-245fa(1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン)、HFC-254eb(1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)、HFC-263fb(1,1,1-トリフルオロプロパン)、HFC-272ca(2,2-ジフルオロプロパン)、HFC-281ea(2-フルオロプロパン)、HFC-281fa(1-フルオロプロパン)、HFC-329p(1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブタン)、HFC-329mmz(1,1,1-トリフルオロ-2-メチルプロパン)、HFC-338mf(1,1,1,2,2,4,4,4-オクタフルオロブタン)、HFC-338pcc(1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロブタン)、CFC-12(ジクロロジフルオロメタン)、CFC-11(トリクロロフルオロメタン)、CFC-114(1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン)、CFC-114a(1,1,-ジクロロ-1,2,2,2-テトラフルオロエタン)、HCFC-22(クロロジフルオロメタン)、HCFC-123(1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン)、HCFC-124(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロエタン)、HCFC-124a(1-クロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン)、HCFC-141b(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン)、HCFC-142b(1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン)、HCFC-151a(1-クロロ-1-フルオロエタン)、HCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)、HCC-40(クロロメタン)、HFO-1141(フルオロエテン)、HCFO-1130(1,2-ジクロロエテン)、HCFO-1130a(1,1-ジクロロエテン)、HCFO-1131(1-クロロ-2-フルオロエテン)、HCFO-1122(2-クロロ-1,1-ジフルオロエテン)、HFO-1123(1,1,2-トリフルオロエテン)、HFO-1234ye(1,2,3,3-テトラフルオロプロペン)、HFO-1243zf(3,3,3-トリフルオロプロペン)、HFO-1225ye(1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン)、HFO-1225zc(1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン)、PFC-116(ヘキサフルオロエタン)、PFC-C216(ヘキサフルオロシクロプロパン)、PFC-218(オクタフルオロプロパン)、PFC-C318(オクタフルオロシクロブタン)、PFC-1216(ヘキサフルオロエタン)、PFC-31-10mc(1,1,1,2,2,3,3,4,4,4-デカフルオロブタン)、PFC-31-10my(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-2-トリフルオロメチルプロパン)、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
冷媒ブレンドの可燃性
可燃性は、発火し、かつ/又は炎を伝播させる組成物の能力を意味するために使用される用語である。冷媒及び他の伝熱組成物又は作動流体については、燃焼下限濃度(lower flammability limit、「LFL」)とは、ASTM(American Society of Testing and Material、米国材料検査協会)E681に記述されている試験条件下で組成物の均質混合物及び空気を介して火炎伝播することができる、空気中における伝熱組成物の最低濃度である。可燃上限(upper flammability limit、「UFL」)とは、同じ試験条件下で組成物の均質混合物及び空気を介して火炎を伝播することができる、空気中における伝熱組成物の最高濃度である。
【0131】
ANSI/ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)規格34又はISO 817 ISO 817:2014(en)Refrigerants-Designation and Safety Classificationにより、非可燃性(クラス1、火炎伝播なし)として分類されるためには、冷媒は、液体及び蒸気相内の両方で配合されたときに、ASTM E681の条件を満たさなければならず、並びにANSI/ASHRAE規格34:2019又はISO 817:2014(en)Refrigerants-Designation and Safety Classificationによって定義される漏出時に得られる液体相及び蒸気相の両方において、非可燃性でなければならない。
【0132】
冷媒ブレンドがANSI/ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)によって低い燃焼性(クラス2L)として分類されるためには、製造許容差及び蒸気漏出挙動に基づいて冷媒ブレンドの配合の最悪ケース(worst case of formulation、WCF)及び燃焼性の分留の最悪ケース(worst case of fractionation for flammability、WCFF)を決定しなければならない。2L、低い燃焼性として分類されるためには、WCF及びWCFFは、1)140°F(60℃)及び14.7psia(101.3kPa)で試験したときに火炎伝搬を示し、LFL>0.0062lb/ft3(0.10kg/m3)を有し、2)73.4°F(23.0℃)及び14.7psia(101.3kPa)で試験したときに≦3.9in./s(10cm/s)の最大燃焼速度を有していなければならない。加えて、公称冷媒ブレンドは、8169 Btu/lb(19,000kJ/kg)未満の燃焼熱を有していなければならない。
【0133】
ASHRAE規格34は、化学量論的反応に十分な酸素を伴う1モルの冷媒の完全燃焼に基づくバランスの取れた化学量論方程式を使用して、冷媒ブレンドの燃焼熱を計算する方法論を提供する。
【0134】
HFO-1234yf、及びHFC-152a成分を特定の比率でブレンドすると、得られるブレンドは、ANSI/ASHRAE規格34及びISO817によって定義されるクラス2Lの燃焼性を有する。クラス2Lの可燃性は、クラス2及びクラス3の両方の可燃性よりも本質的に可燃性が低く(すなわち、燃焼熱つまりHOC値で例示されるようにエネルギー放出が低い)、自動車の暖房/冷房システムで管理することができる。ASHRAE規格34は、化学量論的反応に十分な酸素を伴う1モルの冷媒の完全燃焼に基づくバランスの取れた化学量論方程式を使用して、冷媒ブレンドの燃焼熱を計算する方法論を提供する。
【0135】
本発明の組成物は、(クラス2LについてのANSI/ASHRAE規格34の定義に従って測定した場合)2Lの燃焼性等級、10cm/秒未満の燃焼速度、及び10体積パーセント未満のLFLを有する。本組成物は、組成物が0重量%超及び20重量%未満のHFC-152a、並びに100重量%未満及び80重量%超のHFO-1234yfを含有する場合に、10cm/秒未満の燃焼速度を有する。特に、HFO-1234yf及びHFC-152aを含むか、本質的にそれらからなるか、又はそれらからなる組成物は、0超及び20重量パーセント未満のHFC-152a、並びに100重量パーセント未満及び80重量パーセント超のHFO-1234yfを有する2L、低い燃焼性として分類される。加えて、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12~18重量パーセントのHFC-152aを含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなる組成物は、ASHRAEによって2L、低い燃焼性として分類されることになる。
【0136】
実施形態では、冷媒ブレンドは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、及び1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)を含む。いくつかの実施形態では、冷媒ブレンドは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、及び1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)を含んでいてもよく、それらから本質的になっていてもよく、それらからなっていてもよい。いくつかの実施形態において、冷媒ブレンドは、約70重量%~95重量%、又は約70重量%~90重量%、又は約70重量%~85重量%、又は約72重量%~84重量%、又は約75重量%~82重量%、又は約75重量%~80重量%、又は約82重量%~88重量%のHFO-1234yf、及び約5重量%~30重量%、又は約10重量%~30重量%、又は約15重量%~30重量%、又は約16重量%~28重量%、又は約18重量%~25重量%、又は約20重量%~25重量%、又は約12重量%~18重量%のHFC-152aを含むか、本質的にそれらからなるか、又はそれらからなってもよい。
【0137】
一実施形態では、前述の冷媒組成物のうちのいずれかは、HCFC-244bb、HFC-245cb、HFC-254eb、HFO-1234ze、CFC-12、HCFC-124、3,3,3-トリフルオロプロピン、HCC-1140、HFC-1225ye、HFO-1225zc、HFC-134a、HFO-1243zf、及びHCFO-1131からなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物を更に含んでいてもよい。
【0138】
一実施形態では、前述の冷媒組成物のうちのいずれかは、HFC-23、HCFC-31、HFC-41、HFC-143a、HCFC-22、HCC-40、HFC-161、HFO-1141、HCO-1140、HCFC-151a、HCFO-1130a、HCFC-141b、HFO-1132a、HFC-143a、HCFO-1122、及びHCFC-142bからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物を更に含んでいてもよい。
【0139】
一実施形態では、前述の冷媒組成物のうちのいずれかは、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物を更に含んでいてもよい。代替的に、組成物は、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aを含んでいてもよい。
【0140】
一実施形態では、前述の冷媒組成物のうちのいずれかは、HFO-1243zf、3,3,3-トリフルオロプロピン、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物を更に含んでいてもよい。代替的に、組成物は、HFO-1243zf、HFC-143a、HCC-40、HFC-161、及びHCFC-151aを含んでいてもよい。
【0141】
前述の冷媒組成物のうちのいずれかに存在する追加の化合物の量は、0ppmより多く、かつ5,000ppm未満であることができ、特に約5~約1,000ppm、約5~約500ppm、及び約5~約100ppmの範囲であることができる。
【0142】
一実施形態では、前述の冷媒組成物のうちのいずれかに存在する追加の化合物の量は、冷媒組成物の0超~1重量%未満、好ましくは0.5重量パーセント未満、又はより好ましくは0.1重量パーセント未満であってもよい。
【0143】
一実施形態では、前述の冷媒組成物のうちのいずれかは、HFO-1234yfのオリゴマー及び/又はホモポリマーのうちの少なくとも1つを含む追加の化合物を更に含んでいてもよい。量は、0より多く、かつ約100ppm、いくつかの場合では約2ppm~約100ppmの範囲であることができる。この実施形態の態様では、冷媒は、約70~95重量%のHFO-1234yf、及び約5~30重量%のHFC-152aを含み、更なる態様では、冷媒組成物は、オリゴマー及びホモポリマーに加えて、約0超及び1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、更により好ましくは0.1重量%未満の追加の化合物を更に含む。この実施形態の別の態様では、冷媒は、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf、及び約18~12重量パーセントのHFC-152aを含み、更なる態様では、冷媒組成物は、オリゴマー及びホモポリマーに加えて、約0超~1重量%未満、好ましくは0.5重量パーセント未満、更により好ましくは0.1重量パーセント未満の追加の化合物を更に含む。
【0144】
本発明の別の実施形態は、密閉容器内で気相及び/又は液相中に前述の組成物のうちのいずれかを貯蔵することに関する。密閉容器における気相及び/又は液相内の水濃度は、約0.1~200重量ppmの範囲である。密閉容器における気相及び/又は液相内の酸素濃度は、約25℃で約10体積ppm~約0.35体積パーセントの範囲である。密閉容器における気相及び/又は液相内の空気濃度は、約100体積ppm~約1.5体積パーセントの範囲である。
【0145】
前述の組成物を貯蔵するための容器は、気相及び液相を維持しながら組成物を密封することができる任意の好適な材料及び設計で構築することができる。好適な容器の例は、タンク、充填シリンダー、及び二次充填シリンダーなどの耐圧容器を含む。容器は、炭素鋼、マンガン鋼、クロム-モリブデン鋼、特に低合金鋼、ステンレス鋼、場合によってはアルミニウム合金などの任意の好適な材料から構築することができる。
【0146】
本発明の組成物は、所望の量の個々の成分を合わせるための任意の簡便な方法によって調製することができる。好ましい方法は、所望の成分量を計量し、その後、適切な槽内で成分を組み合わせることである。所望の場合、撹拌を使用してもよい。別の実施形態では、前述の冷媒組成物のうちのいずれかは、HFO-1234yf、及びHFC-152a、並びに場合によっては、追加の組成物のうちの少なくとも1つをブレンドすることによって調製することができる。
【0147】
更なる実施形態では、組成物は、リサイクル又は再生された冷媒から調製されてもよい。空気、水、又はシステム成分からの潤滑剤若しくは微粒子残留物を含み得る残留物などの汚染物質を除去することによって、成分のうちの1つ以上をリサイクル又は再生することができる。汚染物質を除去する手段は、広く変動し得るが、蒸留、デカンテーション、濾過、及び/又はモレキュラーシーブ若しくは他の吸収剤の使用による乾燥を含み得る。次いで、リサイクル又は再生された成分を、上記のように他の成分と組み合わせてもよい。
【0148】
本発明の実施形態では、電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムが提供される。システムは、蒸発器、圧縮機、凝縮器、及び膨張デバイスを含み、各々が蒸気圧縮サイクルを行うように動作可能に接続されており、システムは、HFC-1234yf、及びHFC-152aから本質的になる冷媒ブレンドを含む前述の組成物のうちのいずれかを含む。本発明のシステムにおける平均温度勾配は、0.5K未満、好ましくは0.1K未満、最も好ましくは0.05K未満である。システムは、好ましくはヒートポンプである。電気車両の乗員区画の冷房及び暖房の両方におけるヒートポンプシステムの優れた性能により、システムはもはや正温度係数(PTC)ヒータを必要としない。
【0149】
冷媒ブレンドは、様々な暖房及び冷却システムで使用できる。いくつかの実施形態では、逆転弁が使用され、同じループが冷却及び加熱のために使用される。他の実施形態では、空気側バイパス又は冷媒弁/システムの設計変更は、逆転弁なしで、可逆サイクルと同じ効果を達成することができる。
【0150】
図1の実施形態では、冷蔵ループ110を有する冷蔵システム100は、第1の熱交換器120、圧力調整器130、第2の熱交換器140、圧縮機150、及び四方弁160を備える。第1及び第2の熱交換器は、空気/冷媒タイプである。ループ110の冷媒、及びファンによって生じた空気の流れが第1の熱交換器120を通過する。
【0151】
冷却モードでは、圧縮機150によって移動し始めた冷媒は、弁160を経由して、凝縮器として作用する、すなわち熱エネルギーを外部に引き渡す熱交換器120を通過した後、圧力調節器130を通過し、次に、蒸発器として作用することにより自動車の室内に吹き込まれることが意図される空気流を冷却する熱交換器140を通過する。
【0152】
ヒートポンプモードでは、冷媒の流れの方向は、弁160を使用して逆にされる。熱交換器140は凝縮器として機能し、熱交換器120は蒸発器として機能する。次に、熱交換器140を使用して、自動車の車室に向けられた空気の流れを加熱することができる。
【0153】
追加の伝熱ループは、ヒートポンプシステムに接続され、熱交換器120及び/又は140において熱を吸収又は排出してモータ又はバッテリから離れる方向に熱を伝達することを可能にするので、車両のそれらの区画の熱管理並びに乗員室のための冷房及び暖房を提供する機能を有することができる。
【0154】
図2の実施形態では、冷蔵ループ310を有する冷蔵システム300は、第1の熱交換器320、圧力調整器330、第2の熱交換器340、圧縮機350、及び四方弁360を備える。第1の熱交換器320及び第2の熱交換器340は、空気/冷媒タイプである。熱交換器320及び340が動作する方式は、
図1に示す第1の実施形態と同じである。2つの流体/液体熱交換器370及び380は、冷蔵ループ回路310及びエンジン冷却回路又は二次グリコール-水回路の両方に設置されている。中間の気体流体(空気)を通過させることなく流体/液体熱交換器を設置すると、空気/流体熱交換器と比較して熱交換の改善に寄与する。
【0155】
一実施形態では、電気車両の乗員区画の加熱及び冷却のためのシステムにおいて、システムは、冷却モード中に乗員区画内の湿度を低下させるために圧縮機と凝縮器との間に動作可能に接続された再加熱器を更に備える。
【0156】
図3の実施形態では、冷蔵ループ410を有する冷蔵システム400は、第1の熱交換器(凝縮器)420、圧力調整器430、第2の熱交換器(蒸発器)440、圧縮機450、三方弁460、及び第3の熱交換器(再加熱用)470を備える。冷却モードでは、圧縮機450から出る吐出流の少なくとも一部が、三方弁460を通って第3の熱交換器470に導かれる。第3の熱交換器470からの出口流は、第1の熱交換器420の入口に吐出される。冷媒は、外部ファン480及びヒートシンクとしての周囲空気を使用して、第1の熱交換器420によって凝縮される。既存の飽和又は過冷却液体は、圧力調整器430内で膨張し、その結果生じる冷媒液体及び蒸気の低圧飽和混合物は、第2の熱交換器440に入る。冷却ループの外部にある第2のファン490の使用によって、冷媒が第2の熱交換器440内で蒸発する。第2の熱交換器440を通過する空気は、空気露点温度未満に冷却される。これにより、空気中の水分が部分的に凝縮して、空気の絶対湿度が低下する。次いで、空気は、熱を空気に伝達する第3の熱交換器470を通過して、空気温度が露点よりも高く上昇し、空気の相対湿度が低下し、次いで、空気は乗員区画に供給される。露点温度よりも低い温度に冷却して水分を除去し、その後露点温度よりも高い温度に再加熱するこのプロセスにより、車両客室の冷却及び相対湿度制御が可能になる。加熱モードでは、三方弁460は、第3の熱交換器470への冷媒の流れを妨げるように調節され、全ての車両客室加熱は、
図1に記載のヒートポンプ構成における第2の熱交換器440を使用して達成される。
【0157】
図4の実施形態では、車両客室内で又は他の車両荷重のために、空調(AC)及びヒートポンプ(heat pump、HP)システム500、暖房、冷房、又はその両方を達成することができる。システム500は、AC回路510及びHP回路520を含む。空調のみのモードでは、ヒートポンプ凝縮器540の上流にあるHP制御弁530が閉じられ、冷媒が圧縮機550から空冷式AC凝縮器560に流入し、AC膨張弁570を通ってAC蒸発器580に流入し、客室に冷房を提供する。冷媒は、AC蒸発器580から圧縮機550に戻ることになる。ヒートポンプのみのモードでは、AC凝縮器560の上流にあるAC制御弁535が閉じられ、冷媒が圧縮機550からHP凝縮器540に流入して、客室に暖房を提供する。冷媒は、HP凝縮器540からHP膨張弁575を通ってHP蒸発器585に流入することになる。別個の湿度制御モードは、圧縮機吐出ガスの一部をAC回路510に送り、残りの部分をHP回路520に送ることによって達成することができる。
【0158】
図5の実施形態では、車両客室又は他の車両荷重のための暖房、冷房、又はその両方のためのシステム600を実現することができる。システム600は、AC回路610及び水冷/HP回路620を含む。ACのみのモードでは、水冷式凝縮器660の上流側の水ループ制御弁630が閉じられ、冷媒が圧縮機650からAC凝縮器640に流入し、AC膨張弁670を通ってAC蒸発器680に流入し、客室に冷房を提供する。HPのみのモードでは、AC凝縮器660の上流にあるAC制御弁635が閉じられ、冷媒が圧縮機650から水冷式凝縮器640に流入することになる。伝熱流体(例えば、水又は他の伝熱流体)は、水冷凝縮器640内で生成された熱を受け取り、それを客室ヒータコア690に伝達し、客室に熱を供給する。伝熱流体は、客室ヒータコア690から水冷式凝縮器640に戻ることができる。冷媒は、水冷式凝縮器640から、HP膨張弁675を通って、自動車の他の構成部品を冷却するために使用され得る伝熱流体を冷却するHP蒸発器685に流入し、次いで圧縮機650に戻る。いくつかの実施形態では、車両の様々な他の構成部品を加熱及び/又は冷却するために使用され得る1つ以上の水/伝熱流体ループが存在する。別個の湿度制御モードは、圧縮機吐出ガスの一部をAC回路610に送り、残りの部分を水冷式/HP回路620に送ることによって達成することができる。
【0159】
図6~
図9の実施形態では、同じ構成部品がシステム内に存在するが、動作モードに応じて、それらの構成部品のうちのいくつかだけが利用される。
【0160】
一実施形態では、車両客室及び他の車両構成部品の両方が熱を必要とする特定の条件が存在する加熱モードでは、冷媒回路700は、
図6に示すように動作する。圧縮機750から出発して、吐出冷媒蒸気は2つの経路をとることになる。1つの経路は、客室凝縮器740を通る。客室凝縮器740は、典型的にはフィンチューブ型又はマイクロチャネル型の冷媒-空気熱交換器であり、シングルパスであってもマルチパスであってもよい。車両換気配管内の第1のファン745は、100%外気又は外気と車両客室からの帰り空気との混合物のいずれかの流れを、この客室凝縮器740を横切るように誘導し、冷媒は、凝縮する際に空気を加熱することになる。このモードでは、車両換気配管内の物理的バイパス735が、客室蒸発器730を越えて任意の空気が流れるのを防ぐことになる。圧縮機から出た冷媒の第2の経路は、弁770を通り、液体/伝熱流体熱交換器720に入るものであり、これにより、熱を温冷媒から車両の伝熱流体ループ(図示せず)に伝達することができるようになる。次いで、この車両伝熱ループを使用して、他の車両熱負荷を管理することができる。伝熱流体ループの伝熱流体は、水又は水/グリコール溶液であってもよい。次いで、交換器720から出た凝縮冷媒は、凝縮器740の液体冷媒出口と合流し、合流した流れは膨張デバイス775を通って流れ、これにより液体冷媒の圧力が低下し液体-蒸気混合物が生じることになる。次いで、この液体-蒸気混合物は、室外熱交換器780(すなわち、この構成では蒸発器)を通って流れる。室外熱交換器780は、典型的にはフィンチューブ型又はマイクロチャネル型の冷媒-空気熱交換器であり、シングルパスであってもマルチパスであってもよい。第2のファン785は、室外熱交換器780を横切る空気流を誘導し、液体-蒸気冷媒混合物が周囲空気から熱を取り出し、圧縮機750に戻る前に完全に蒸発することを可能にすることになる。
【0161】
別の実施形態では、客室加熱のみを必要とする特定の条件が存在するときの加熱モードでは、冷媒回路800は、
図7に示すように動作する。圧縮機850から出発して、吐出蒸気は、まず客室凝縮器840を通って流れることになる。車両換気配管内の第1のファン845は、100%外気又は外気と車両客室からの帰り空気との混合物のいずれかの流れを、この客室凝縮器840を横切るように誘導し、冷媒は、凝縮器840と空気との間で熱を交換することになる。このモードでは、車両換気配管内の物理的バイパス835が、客室蒸発器830を越えて任意の空気が流れるのを防ぐことになる。冷媒は、乗員室凝縮器840内で凝縮し、膨張デバイス875に流れ、これにより液体冷媒の圧力が低下し液体-蒸気混合物が生じることになる。この液体-蒸気混合物は、室外熱交換器880(すなわち、この構成では蒸発器)を通って流れる。第2のファン885は、室外熱交換器880を横切る空気流を誘導し、液体-蒸気冷媒混合物が周囲空気から熱を取り出し、圧縮機850に戻る前に完全に蒸発することを可能にすることになる。
【0162】
別の実施形態では、車両客室及び車両構成部品の両方が冷却を必要とする特定の条件が存在するときの冷却モードでは、冷媒回路900は、
図8に示すように動作する。圧縮機950から出発して、吐出冷媒蒸気はまず客室凝縮器940を通って流れるが、このモードでは、車両換気配管内の物理的バイパス945が、客室凝縮器940を越えてあらゆる空気が流れるのを防ぐので、伝熱は存在しない。蒸気冷媒は、客室凝縮器940を通過し、弁975を通って室外熱交換器980に流入することになる。このモードでは、第1のファン985が熱交換器を横切る流れを誘導し、高温冷媒蒸気が熱を交換し、液体に凝縮するので、室外熱交換器980が凝縮器として機能する。この液体冷媒の一部は、室外熱交換器980を離れて、内部熱交換器990に入ることになる。液体冷媒は、内部熱交換器990内で過冷却され、次いで、膨張デバイス910に、そして客室蒸発器930に流入することになる。この空気-冷媒客室蒸発器930は、フィンチューブ型又はマイクロチャネル型の熱交換器であり、シングルパスであってもマルチパスであってもよい。第2のファン(又は客室送風ファン)935は、100%外気又は外気と客室からの帰り空気との混合物のいずれかの流れを、客室蒸発器930のコイルを横切るように誘導し、そこで空気と冷媒との間で熱が交換されることになる。冷媒は蒸発し、内部熱交換器990に戻り、そこで、最終的に圧縮機950に再び入るまで更に過熱されることになる。凝縮器980を出た冷媒の残りの部分は、膨張弁915を通って液体/伝熱流体熱交換器920に流入し、そこで、車両構成部品の熱が伝熱流体ループ(図示せず)を介して冷媒に伝達される。次いで、この車両伝熱ループを使用して、他の車両熱負荷を管理することができる。冷媒は、熱交換器920内で蒸発し、圧縮機950の吸入口で内部熱交換器990を出た冷媒と合流する。
【0163】
別の実施形態では、車両客室冷却のみを必要とする特定の条件が存在するときの冷却モードでは、冷媒回路1000は、
図9に示すように動作する。圧縮機1050から出発して、吐出冷媒蒸気はまず客室凝縮器1040を通って流れ、このモードでは、車両換気配管内の物理的バイパス1045が、客室凝縮器1040を越えてあらゆる空気が流れるのを防ぐので、伝熱は存在しない。蒸気冷媒は、客室凝縮器1040を通過し、弁1075を通って室外熱交換器1080に流入することになる。このモードでは、第1のファン1085が熱交換器1080を横切る流れを誘導し、高温冷媒蒸気が熱を交換し、液体に凝縮するので、室外熱交換器1080は凝縮器として機能する。この液体冷媒は、室外熱交換器1080を離れて、内部熱交換器1090に入ることになる。液体冷媒は、内部熱交換器1090内で過冷却され、次いで、膨張デバイス1010に、そして客室蒸発器1030に流入することになる。第2のファン(又は客室送風ファン)1035は、100%外気又は外気と客室からの帰り空気との混合物のいずれかの流れを、客室蒸発器1030を横切るように誘導し、そこで空気と冷媒との間で熱が交換されることになる。冷媒は蒸発し、内部熱交換器1090に戻り、そこで、最終的に圧縮機1050に戻るまで更に過熱されることになる。
【0164】
ブレンドは、乗員室に空調(A/C)又は暖房を提供する乗員区画の熱管理(車両のある部分から他の部分への伝熱)のためにハイブリッド、マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、又は完全電気車両において使用するための、小さな温度勾配と共に低いGWP、低い毒性、及び低い燃焼性を有する。加えて、冷媒ブレンドは、HFO-1234yfと比較して、加熱モード条件下で改善された性能を提供し、特に、同じ暖房条件下で動作したとき、HFO-1234yf単独よりも高い、HFO-1234yf単独よりも1%高い、又は3%高い、又は5%高い、又は更には7%高い加熱容量、及びHFO-1234yf単独と同等以上の加熱についてのCOPを提供する。加熱についてのCOPは、同じ加熱条件下で動作したとき、HFO-1234yf単独と同等、又は好ましくはHFO-1234yf単独よりも少なくとも1%高く、又はより好ましくはHFO-1234yf単独よりも少なくとも2%高く、又は最も好ましくはHFO-1234yf単独よりも少なくとも3%高い。
【0165】
別の実施形態では、電気車両内に含まれた暖房及び冷房システムにおけるHFO-1234yfを代替するための方法であって、前述の組成物のうちのいずれかを伝熱流体として当該暖房及び冷房システムに提供することを含む、方法も本明細書に開示される。前述の実施形態のいずれかによれば、冷媒ブレンドは、同じ加熱条件下で動作したとき、HFO-1234yf単独よりも少なくとも1%高い、又は少なくとも3%高い、又は少なくとも5%高い、又は更には少なくとも7%高い体積加熱容量を生じさせる。HFO-1234yfを代替する方法において、代替組成物による平均温度勾配は、加熱条件下で、0.5K未満、好ましくは0.1K未満、又は最も好ましくは0.01K未満である。
【0166】
一実施形態では、電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムにおける伝熱流体としての、HFO-1234yf及びHFC-152aを含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなる冷媒ブレンドを含む前述の組成物のうちのいずれかの使用が提供される。本発明の組成物のこの使用については、前述の説明において詳細に記載されており、以下の実施例において実証されるであろう。
【0167】
別の実施形態では、
約80重量パーセントのHFO-1234yf及び約20重量パーセントのHFC-152a、又は
約75重量パーセントのHFO-1234yf及び約25重量パーセントのHFC-152a、又は
約70重量パーセントのHFO-1234yf及び約30重量パーセントのHFC-152a、又は
約91重量パーセントのHFO-1234yf及び約9重量パーセントのHFC-152a
から本質的になる冷媒を含む組成物の、電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムにおける伝熱流体としての使用が提供される。
【0168】
従来の高GWP冷媒を代替すること又は及びヒートポンプ用途を意図した組成物を含む他の実施形態では、冷媒組成物は、従来の冷媒と比較して、低いGWP及び同様の又は改善された冷媒特性を示すことが望ましい。
【0169】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、冷蔵、空調、及びヒートポンプシステムなどの固定システムにおいて使用されてもよい。HFO-1234yf及びHFC-152aを含有する本発明の組成物は、はるかに高いGWPを有する従来の冷媒、特にR-404A、R-410A、R-407A、R-407C、又はR-407Fなどの代替品として機能し得る。固定システムは、スーパーマーケットの冷蔵ケース、スーパーマーケットの冷凍ケース、アパート、オフィスビル、病院、及び/又は学校の建物などの大きな建物に空調を提供する冷却装置、住宅用空調装置、空気を加熱若しくは冷却するための、又は水若しくは他の伝熱流体を加熱するための住宅用ヒートポンプ、あるいは住宅用冷蔵庫又は冷凍庫を含み得る。
【0170】
一実施形態では、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf及び約5~30重量パーセントのHFC-152a、又は約70~90重量パーセントのHFO-1234yf及び約10~30重量パーセントのHFC-152a、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf及び約15~30重量パーセントのHFC-152a、約72~84重量%のHFO-1234yf及び約28~16重量%のHFC-152a、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12~18重量パーセントのHFC-152aから本質的になる冷媒を含有する固定式冷蔵、空調、又はヒートポンプ装置が本明細書に開示される。
【0171】
別の実施形態では、R-404A、R-507A、R-507B、R-410A、R-407A、R-407C、又はR-407Fから選択される第1の冷媒を代替するための方法であって、当該第1の冷媒の少なくとも一部を除去することと、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf及び約5~30重量パーセントのHFC-152a、又は約70~90重量パーセントのHFO-1234yf及び約10~30重量パーセントのHFC-152a、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf及び約15~30重量パーセントのHFC-152a、約72~84重量%のHFO-1234yf及び約28~16重量%のHFC-152a、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12~18重量パーセントのHFC-152aから本質的になる第2の冷媒を充填することとを含む、方法が、本明細書に開示される。
【0172】
別の実施形態では、R-513A、R-448A、R-448B、R-449A、R-452A、R-454A、R-454B、R-454C、R-466A、R-1234yf、又はR-1234zeから選択される第1の冷媒を代替するための方法であって、当該第1の冷媒の少なくとも一部を除去することと、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf及び約5~30重量パーセントのHFC-152a、又は約70~90重量パーセントのHFO-1234yf及び約10~30重量パーセントのHFC-152a、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf及び約15~30重量パーセントのHFC-152a、約72~84重量%のHFO-1234yf及び約28~16重量%のHFC-152a、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12~18重量パーセントのHFC-152aから本質的になる第2の冷媒を充填することとを含む、方法が、本明細書に開示される。
【0173】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を例示するために提供されるものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0174】
(実施例1)
ヒートポンプシステム加熱モードについての熱力学的モデリングの比較:HFO-1234yf/HFC-152a
熱力学的モデリングプログラムを使用して、HFO-1234yfと比較したHFO-1234yf/HFC-152aのブレンドの予測される性能をモデル化した。成分の物性は、NIST REFPROPバージョン10から得た。表中、吸引圧力=圧縮機吸入圧力、吐出圧力=圧縮機吐出圧力、吐出温度=圧縮機吐出温度、平均勾配=熱交換器#1及び熱交換器#2についての温度勾配の平均、熱容量=体積熱容量
【0175】
加熱モードに使用したモデル条件は次の通りであり、熱交換器#2は20℃刻みで増加させた。
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
上記のデータは、HFO-1234yf及びHFC-152aを含有する冷媒ブレンドが、正確な条件に応じて、0又は0.05K未満である、0又は超低平均温度勾配を有する性能を提供することを実証している。
【0181】
HFO-1234yf及びHFC-152aのブレンドは、HFO-1234yfよりもかなり高い体積加熱容量を有することも示されている。本特許請求された冷媒ブレンドは、HFO-1234yf単独と比較して1%~8%高い体積加熱容量、及びHFO-1234yf単独の場合と同等又はより高いCOPを有する。本発明のブレンドの改善された加熱容量は、新しい流体を容易に使用して、乗員室に適切な熱を提供できることを示している。加えて、結果として得られる本発明のブレンドは、一般に、ヒートポンプの動作範囲にわたって、純粋なHFO-1234yfに対して、同様のコ圧縮機吐出量比を有する。
【0182】
(実施例2)
冷却モード:HFO-1234yf/HFC-152a
ヒートポンプシステムの熱力学的モデリングの比較
熱力学的モデリングプログラムを使用して、HFO-1234yfと比較したHFO-1234yf/HFC-152aのブレンドの予測される性能をモデル化した。成分の物性は、NIST REFPROPバージョン10から得た。表中、吸引圧力=圧縮機吸入圧力、吐出圧力=圧縮機吐出圧力、吐出温度=圧縮機吐出温度、平均勾配=熱交換器#1及び熱交換器#2についての温度勾配の平均、冷却容量=体積冷却容量、熱交換器#2は10℃刻みで増加させた。
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
ヒートポンプ流体が実行可能な候補であるためには、冷却モードでも良好に機能する必要がある。すなわち、周囲温度が高い場合は、適切な冷却を提供する必要がある。モデリング結果は、HFO-1234yf及び152aを含有する冷媒ブレンドが、約20℃から最大40℃までの平均冷媒温度の冷却範囲において、純粋なHFO-1234yfと同等又はそれよりも改善された冷却の利点を提供することを示す。
【0188】
HFO-1234yf及びHFC-152aを含有する冷媒ブレンドは、HFO-1234yf単独よりも最大で5%高い改善された冷却容量という観点で、純粋なHFO-1234yfを超える利点を提供する。本発明のブレンドの同等の又は改善された冷却容量は、新しい流体を容易に使用して、乗員室に適切な冷却(空調)を提供することができることを示している。
【0189】
モデリングは、HFO-1234yf及びHFC-152aを含有する冷媒ブレンドが、+20~+40℃の平均冷媒温度の冷却範囲において同様のCOP又はエネルギー性能を有することを示す。
【0190】
加えて、HFO-1234yf及びHFC-152aを含有する冷媒ブレンドはまた、ほとんどの場合、所望の冷却範囲、すなわち約+20℃~+40℃にわたって、0.05K未満の小さい平均温度勾配を示す。
【0191】
(実施例3)
燃焼速度
燃焼速度を、空気中に異なる割合で80.1重量%のHFO-1234yf及び19.9重量%のHFC-152aを含有する組成物について測定した。燃焼速度を試験するために使用した方法は、ISO 817、付録Cに示されている通りの標準垂直管法である。燃焼速度を試験するための装置は、内径40mm×長さ1.3メートルのパイレックス管である。火炎を観察し、十分に発達した火炎前面の画像を使用して火炎の前面面積を測定し、そこから燃焼速度を計算する。
【0192】
【0193】
燃焼速度は、20重量%のHFC-152以下を有する組成物については10cm/秒をはるかに下回る。
【0194】
本発明を好ましい実施形態を参照して説明してきたが、当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができ、その要素の代わりに同等物を使用することができることが理解されるであろう。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図される最良の形態として開示されている特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲内に含まれる全ての実施形態を含むことが意図される。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約70~95重量パーセントのHFO-1234yf及び約5~30重量パーセントのHFC-152aを伝熱流体として含む冷媒ブレンド組成物を提供することを含む、電気車両内に含まれた暖房及び冷房システムにおいてHFO-1234yfを代替するための、方法。
【請求項2】
前記冷媒ブレンドが、約70~90重量パーセントのHFO-1234yf及び約30~10重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷媒ブレンドが、約70~85重量パーセントのHFO-1234yf及び約30~15重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記冷媒が、約72~84重量パーセントのHFO-1234yf及び約28~16重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記冷媒ブレンドが、約82~88重量パーセントのHFO-1234yf及び約18~12重量パーセントのHFC-152aから本質的になる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記冷媒が、以下:
約70重量パーセントのHFO-1234yf及び約30重量パーセントのHFC-152a、
約72重量パーセントのHFO-1234yf及び約28重量パーセントのHFC-152a、
約74重量パーセントのHFO-1234yf及び約26重量パーセントのHFC-152a、
約76重量パーセントのHFO-1234yf及び約24重量パーセントのHFC-152a、
約78重量パーセントのHFO-1234yf及び約22重量パーセントのHFC-152a、
約80重量パーセントのHFO-1234yf及び約20重量パーセントのHFC-152a、
約82重量パーセントのHFO-1234yf及び約18重量パーセントのHFC-152a、
約84重量パーセントのHFO-1234yf及び約16重量パーセントのHFC-152a、
約86重量パーセントのHFO-1234yf及び約14重量パーセントのHFC-152a、
約88重量パーセントのHFO-1234yf及び約12重量パーセントのHFC-152a、
約90重量パーセントのHFO-1234yf及び約10重量パーセントのHFC-152a、
約92重量パーセントのHFO-1234yf及び約8重量パーセントのHFC-152a、又は
約94重量パーセントのHFO-1234yf及び約6重量パーセントのHFC-152aから選択される、
請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記冷媒ブレンド組成物が、潤滑剤を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑剤が、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ポリ-a-オレフィン、及びポリビニルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムにおける伝熱流体としての、約70~95重量パーセントのHFO-1234yf及び約5~30重量パーセントのHFC-152aを含む組成物の、使用。
【請求項10】
以下:
約80重量パーセントのHFO-1234yf及び約20重量パーセントのHFC-152a、又は
約75重量パーセントのHFO-1234yf及び約25重量パーセントのHFC-152a、又は
約70重量パーセントのHFO-1234yf及び約30重量パーセントのHFC-152a、又は
約91重量パーセントのHFO-1234yf及び約9重量パーセントのHFC-152a、
から本質的になる冷媒を含む組成物の、電気車両の乗員区画の暖房及び冷房のためのシステムにおける伝熱流体としての、使用。
【国際調査報告】