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特表2024-528633液体培地における菌糸素材の加工処理の改良
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】液体培地における菌糸素材の加工処理の改良
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20240723BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20240723BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240723BHJP
   C08H 1/00 20060101ALN20240723BHJP
   C08L 101/00 20060101ALN20240723BHJP
   C08L 1/00 20060101ALN20240723BHJP
   C08L 5/00 20060101ALN20240723BHJP
   C08L 77/00 20060101ALN20240723BHJP
   C08L 99/00 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C12N1/00 N
C12N1/14 Z
C12M1/00 Z
C08H1/00
C08L101/00
C08L1/00
C08L5/00
C08L77/00
C08L99/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502053
(86)(22)【出願日】2022-07-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 US2022037406
(87)【国際公開番号】W WO2023288118
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/222,511
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522017737
【氏名又は名称】マイコワークス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ペリー スティーヴン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4J002
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB06
4B029DG10
4B065AA57X
4B065BD08
4B065BD10
4B065BD14
4B065CA02
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA60
4J002AA001
4J002AB011
4J002AB051
4J002CL001
(57)【要約】
液体化学処理バイオポリマーベース真菌マットを製造するためのシステム及び方法を、記載する。本方法は、多数の新鮮な菌糸体材料を採取するステップ、及び同定のために、それらを標識するステップを含み、次いで多数の菌糸体材料のそれぞれの初期質量を秤量して記録するステップを実行する。0:100~100:0の溶媒:化学物質の比を使用する液体化学溶液を、調製する。次に、菌糸体材料を分布させた真空タンブラードラム中に液体化学溶液をデカントするステップ。真空を印加し、真空タンブラードラムを回転させて、菌糸体表面での、液体化学溶液の徹底した混合とリフレッシュを確実にするステップ。真空タンブラードラムを真空引きし、回転させるステップを反復し、少なくとも1つの形成された真菌マットを真空タンブラードラムから取り出す。最終的に、表面水分を排出し、少なくとも1つの真菌マットを風乾するステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体化学処理バイオポリマーベース真菌マットを製造するための方法であって、
a.真菌組織を接種した基質から多数の新鮮な菌糸体材料を採取するステップと、
b.同定のために、多数の菌糸体材料のそれぞれを標識するステップと、
c.多数の菌糸体材料のそれぞれの初期質量を秤量して記録するステップと、
d.0:100~100:0の溶媒:化学物質の比及び摂氏10~90度の範囲の温度を使用して、液体化学溶液を調製するステップと、
e.真空タンブラードラム中に液体化学溶液をデカントするステップと、
f.真空タンブラードラム全体に、少なくとも1種の多数の菌糸体材料を分布させるステップと、
g.真空タンブラードラムに真空を印加して、多孔質菌糸体構造を引き開け、それを介して化学物質の侵入を容易にするステップと、
h.真空タンブラードラムを回転させて、菌糸体表面での、液体化学溶液の徹底した混合及びリフレッシュを確実にし、停滞する表面層の化学物質の菌糸体表面上の集中を回避するステップと、
i.真空タンブラードラムを反復的に真空引きし、回転させ、菌糸体材料による液体化学溶液の取り込みの程度を決定して、少なくとも1つの真菌マットを形成するステップと、
j.真空タンブラードラムから少なくとも1つの真菌マットを取り出し、表面水分を排出し、少なくとも1つの真菌マットを乾燥させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
標識するステップが、同定及び多数の菌糸体材料のそれぞれに関連するデータの追跡を可能とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
天秤が、多数の菌糸体材料のそれぞれの初期質量を秤量して記録するために利用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
多数の菌糸体材料のそれぞれの初期質量を秤量して記録するステップが、多数の菌糸体材料のそれぞれによる液体化学溶液からの化学物質の取り込みをアッセイすることを可能とし、真菌マットを乾燥させた後に保持される化学物質の質量の定量化を可能とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
液体化学溶液が、1.0~14.0の範囲の潜在的pHを有することにより、真菌マットの動きと平衡化を最適化し、更に、真空タンブラードラムにおける液体化学溶液の分布を最適化する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
真空タンブラードラムの転動作用により、真菌マットの軽度の屈曲及び液体化学溶液の軽度の混合を創出して、継続的に液体化学溶液を真菌マットに吸入し、且つ排出させ、化学溶液の優良な分布をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
真空タンブラードラムを利用するバイオポリマーベース真菌マットを製造するための方法であって、
a.真菌組織を接種した基質から、多数の新鮮な菌糸体材料を切断するステップと、
b.同定及び多数の菌糸体材料のそれぞれに関連するデータの追跡のために、多数の菌糸体材料のそれぞれの近位端の上に標識するステップと、
c.天秤を利用して、多数の菌糸体材料のそれぞれを秤量し、初期質量を記録するステップと、
d.0:100~100:0の溶媒:化学物質の比及び摂氏10~90度の範囲の温度を使用して、1.0~14.0の範囲の潜在的pHを有する液体化学溶液を調製するステップと、
e.真空タンブラードラム中に液体化学溶液をデカントするステップと、
f.真空タンブラードラム全体に、少なくとも1種の多数の菌糸体材料を分布させるステップと、
g.真空タンブラードラムに真空を印加して、多孔質菌糸体構造を引き開け、それを介して化学物質の侵入を容易にするステップと、
h.真空タンブラードラムを回転させて、菌糸体表面での、液体化学溶液の徹底した混合及びリフレッシュを確実にし、停滞する表面層の化学物質の菌糸体表面上の集中を回避するステップと、
i.真空タンブラードラムを反復的に真空引きし、回転させ、更に菌糸体材料による液体化学取り込みの程度を決定して、少なくとも1つの真菌マットを形成するステップと、
j.真空タンブラードラムから少なくとも1つの真菌マットを取り出し、表面水分を排出し又は軽くふき取り、少なくとも1つの真菌マットを乾燥させるステップと
を含む方法。
【請求項8】
多数の菌糸体材料のそれぞれの初期質量を秤量して記録するステップが、化学物質の取り込みをアッセイすることを可能にし、真菌マットを乾燥させた後に保持される化学物質の質量の定量化を可能とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
液体化学溶液が、1.0~14.0の範囲の潜在的pHを有することにより、真菌マットの動きと平衡化を最適化し、真空タンブラードラムにおける液体化学溶液の分布を最適化する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
真空タンブラーの転動作用により、真菌マットの軽度の屈曲及び液体化学溶液の軽度の混合を創出し、継続的に液体化学溶液を真菌マットに吸入し、且つ排出させ、それにより、化学溶液の優良な分布をもたらす、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
バイオポリマーベース真菌マットを生成するためのシステムであって、
多数の新鮮な真菌材料と、
多数の真菌材料のそれぞれを標識するステップのための標識手段と、
多数の真菌材料のそれぞれの初期質量を秤量するための天秤と、
多数の真菌材料の上に適用するための液体化学溶液と、
多数の真菌材料のうちの少なくとも1種及び液体化学溶液を封入するのに適合可能な真空タンブラードラムと、を含み、
それによって、印加される真空と組み合わせた真空タンブラードラムの転動作用により、真空タンブラードラムの内側に供給された液体化学溶液を、真空タンブラードラムの内側で、継続的に真菌材料に吸入し、且つ排出させ、それにより、バイオポリマーベース真菌マットを生成する真菌材料の上に、化学物質溶液の優良な分布をもたらす、システム。
【請求項12】
標識手段が、多数の真菌材料のそれぞれの標識を可能とし、それにより多数の真菌材料のそれぞれに関連するデータの追跡を可能とする、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
天秤を用いて多数の真菌材料のそれぞれの初期質量を秤量するステップが、乾燥後の真菌マットに保持された化学物質の質量の定量化を可能とする、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
真菌材料が菌糸体である、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
液体化学溶液を、0:100~100:0の溶媒:化学物質の比を使用して、摂氏10~90度の温度で調製する、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
真空タンブラードラムの反復的な真空引き及び回転が、少なくとも1種の真菌材料による液体化学取り込みを拡大して、優良な高品質の真菌マットを形成する、請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年7月16日付けで出願された米国特許仮出願第63/222511号に基づく優先権を主張する。その仮出願の開示は、あたかも全部が記載されているかのように、本明細書に組み込まれる。
本発明は、一般に、液体化学を真菌材料及びその物品に適用するためのシステム及び方法に関する。より具体的には、液体化学を、徹底的で完全な化学的分布を達成する成長後加工処理を介し、変化可能な形状、寸法、厚さ、密度、柔軟性及び他の所定の品質を有する真菌材料及び物品に適用するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
獣皮、マイクロポリマー、布地等に関連する液体化学及び適用方法が、様々に調査されてきた。かかる処理した材料は、家具、車両インテリア、及び衣類、建築材料、使い捨て吸収性製品、保護材等を含む多様な材料に作り変えることが可能な不織シートなどを含む、多くの異なる適用において、広範な使用に適してきた。液体化学で処理した典型的な最終製品は、一般に、いくつかの例では構造的に異なる内部構造を含むが、構造的に均質な複合材料構造を含む。
真菌材料の性質及び適用は、それらの形態学、構造及び寸法に強く関連付いている。いくつかの場合では、真菌材料は、綿織物及び/又はキチンナノウィスカなどの他の材料を有する複合材料を形成することができる。かかる複合材料は、種々の適用に使用することが可能であり、織物、包装用及び建築用材料に広く利用される。真菌材料の性質は、液体化学物質の処理を含む種々の方法によって制御することができる。前記化学物質の処理により、染料及び油の分布と固着などの種々の化学的性質に加え、引張強度、引裂強度、摩耗耐性を含む、複数の重要なパラメータの制御ができるようになる。液体化学処理はまた、所与の真菌材料の、所与の最終製品における腐敗又は安定化の度合いを最適化するのに役立つ場合がある。微視的な規模では、異なる化学物質の結合配列が、コラーゲン又は類似材料と比較する場合(獣皮革は、有機の、繊維性材料であるコラーゲンからなる)、真菌材料の液体化学処理に利用することができる。真菌材料は、一方、主に種々の多糖類及びタンパク質からなり、化学反応に利用することができるヒドロキシル基対アミン基の異なる構成を有する分子的に異なる有機繊維材料を創出する。
【0003】
菌糸体材料に当てはめると、液体化学処理真菌材料は、天然又は変性の真菌タンパク質、炭水化物及び核酸からなってもよい。真菌材料はまた、一般に、菌糸と呼ばれる、連結する分岐中空管の網状組織を含んでよい。上記のとおり、菌糸は、キチンと呼ばれる固有の分子化合物を含有する。キチンはまた、甲殻類の殻における主要な構成要素であり、セルロースの他に、最も豊富に天然に存在するバイオポリマーである。キトサンはキチンに由来し、キチンの脱アセチル化によって、形成することが可能である。キトサンは、多種多様な分子質量で市販されており(例えば、10~1,000kDa)、通常は、70%と90%との間の範囲の脱アセチル化度を有する。キトサンは、植物の世話、化粧品添加物、食用及び栄養サプリメント並びに医療を含む多種多様な目的に使用されている。
糸状菌は、分岐したコロニー状菌糸の小片が繋がり合って、大きい構成要素の全体である、菌糸体と呼ばれる組織の集合し、織合わさった束及びシートになる自然な傾向を有する。栄養維持の供給源としての機能を超えた、空間への調査のガイドとして近隣の感知と検索の機能を使用する菌糸の伸長部分を介し、菌糸体は、接触したあらゆる他の材料に付着し、おそらくそれらを飲み込むことが可能である。セメント及び漆喰のように、真菌組織は、菌糸成長及び自己付着という天然生物学的機能を介して、多様な固化構造に結び付き、硬化し、固定する。いくつかの例では、適当な生存条件が与えられた場合、真菌組織は、即座に大規模に増幅することが可能である。これらの条件は、有機体が利用できる可能性がある栄養、成長環境範囲内の可能性があるガス勾配、並びに有機体が形成される際に曝される可能性がある、湿度、明るさ及び温度を含む。真菌は、それらの周囲の状況に対する感受性が非常に高く、微妙な因子を変化させることにより、それらの組織に可変的に決定される一連の物理的特性を発現するように促すことが可能である。
【0004】
真菌は、環境中に存在する化学物質に対する感受性が非常に高く、走化性の忌避又は誘引を介して実証されるとおり、伸長する菌糸の成長の方向及び活力を変化させる能力を有する。真菌はまた、それらの環境における他の刺激に対する感受性が非常に高く、重力屈性の、サーモトロピックな、接触屈性の、屈光性の、及び屈水性の刺激に反応して、伸長する菌糸の成長の方向及び活力を変化させる能力を有する。真菌菌糸でコロニー化された基質は、適切な封入及び環境的制御が提供されれば、およそ1~3日の間に、前記基質の最上部から成長する真菌菌糸の層を生成するであろうし、その真菌菌糸は、不明瞭で未分化なやり方で、層として空間中に広がるであろう。この未分化の菌糸の層は、成長を継続させれば、程なく発達し、子実体又は他の子実体を生成する構造となるよう決定された特殊な組織に分化するであろう。
セルロース系材料は、液体化学の適用を介して物理的な変化を示してきたが、真菌材料は、乏しい化学的分布のために、同様な物理的な変化にそれほど成功していなかった。本明細書に記載される本方法は、均質な化学的分布を達成する。最適化された条件下、真菌複合材料を、液体化学の適用を介して変化させることができ、それにより、獣皮及び類似材料と比較した場合、同等又は改良された性質及び特性を呈する。
セルロース系材料の処理と関連して使用することができる種々のプロセスが、先行技術に存在している。かかる1つの方法は、溶液におけるキチンとタンパク質材料との混合を使用する。このアプローチは、構成成分を凌ぐ混合物の機械的性質にいかなる改良も生み出さず、典型的には、互いの分子及び結晶構造に干渉する両種ポリマーの相互作用のために、一層弱い材料を生成する。更には、この方法は、液体化学処理キチンベース真菌材料及びそれらの複合材料に、固有の分子構造をもたらすことができない。
【0005】
別の方法は、低い環境負荷及び乏しい化学的分布を有する水性液体組成物を利用する真菌材料の制御について記載する。この方法において、基材に付着したセルロース系材料の物理的性質は、電気伝導性及び親水性などの種々の機能のために変化する。更には、この方法は、改良された柔軟性及び引張強度など所望の特性を向上させない。
したがって、このように、安全で効率的な菌糸体材料など真菌材料の性質を制御するためのシステム及び方法の必要性が存在する。かかる必要とされる方法により、バイオポリマーベース真菌マットに、十分に制御された機械的及び化学的性質が付与されるであろう。更に、かかるシステム及び方法は、液体化学処理により、菌糸体材料の変化、保存、強化に成功するであろうし、それにより、獣皮革、普通の工業化された獣皮等に等しく挙動し、機能する。加えて、かかるシステム及び方法は、産業用途のために、変化し得る形状、厚さ、密度、柔軟性及び他の所定の品質を有する、固有の分子構造の液体化学処理真菌マットをもたらすであろう。真菌材料の液体化学処理のためのかかるシステム及び方法は、真菌材料の改良された柔軟性及び引張強度など、所望の特性を向上させるであろう。加えて、かかる方法は、真菌材料の構造又は化学組成を修正するであろうし、それにより、所望の適用に応じた物理的品質を付与する。かかる方法は、液体化学処理キチンベース真菌材料及びそれらの複合材料の固有の分子構造を利用するであろう。更に、かかるシステム及び方法は、機能製品に使用するための液体化学処理真菌バイオポリマーベース真菌マットをもたらすであろう。加えて、かかるシステムは、合成のプラスチック材料、発泡体及び獣皮の類似物として役割を果たすことが可能な材料をもたらすであろう。本実施形態は、これらの重大な目的を達することによって当該分野の弱点を克服する。
【発明の概要】
【0006】
先行技術に見出される制限を最小限にするため、及び本明細書を読むことによって明らかとなる制限を最小限にするため、本願は、液体化学を、徹底的で完全な化学的分布を達成する成長後加工処理を介し、可変の、形状、寸法、厚さ、密度、柔軟性及び他の所定の品質を有する真菌材料及び物品に適用するためのシステム及び方法を提供する。本願は、液体化学処理真菌複合材料に、複数の固有の審美的及び性能的特徴を提供する。
本発明のある特定の実施形態は、本来は、主として真菌組織からなる真菌材料の液体化学処理のための方法を提供する。結果として得る材料は、合成のプラスチック並びに獣皮が現在は機能を果たす適用において、機能を果たすことが可能である、柔軟性があり、光学的に均質な、調節可能な密度の非晶性ポリマーである。当該技術分野において公知のように、液体化学処理により、引張強度、引裂強度、摩耗耐性などの機械的性質及び染料固着など他の化学的性質を含む、多くの利便性のある真菌の性質の制御ができるようになる。
【0007】
真菌マットと呼ばれる、液体化学処理バイオポリマーベース真菌材料を製造する方法は、10ステップのプロセスを含む。本方法は、真菌組織を接種した基質から多数の新鮮な菌糸体材料を採取するステップ、及び同定のために、多数の菌糸体材料のそれぞれを標識するステップを含む。次いで、多数の菌糸体材料のそれぞれの初期質量を秤量して記録するステップ。次に、0:100~100:0の溶媒:化学物質の比及び摂氏10~60度の範囲の温度を使用して、液体化学溶液を調製するステップ、及び真空タンブラードラム中に液体化学溶液をデカントするステップ。真空タンブラードラム全体に、少なくとも1種の多数の菌糸体材料を分布させるステップ、及び多孔質菌糸体構造を引っ張り開けるため、及びそれを介して化学物質の侵入を容易にするため、真空タンブラードラムに真空を印加するステップ。次いで、菌糸体表面での、液体化学溶液の徹底した混合とリフレッシュを確実にするため、及び停滞する表面層の化学物質の菌糸体表面上の集中を回避するため、真空タンブラードラムを回転させるステップ。その後、少なくとも1つの真菌マットを形成するため、反復的に真空タンブラードラムを真空引きし、回転させるステップ、及び菌糸体材料による液体化学溶液の取り込みの程度を決定するステップ。最終的に、真空タンブラードラムから少なくとも1つの真菌マットを取り外すステップ、表面水分を排出するステップ、少なくとも1つの真菌マットを乾燥させるステップ。
【0008】
巨視的なレベルでは、本方法は、光学的に及び化学的に均質な処理した真菌マットを提供する。微視的な規模では、本方法は、多様な化学的再構成を真菌材料に持たせ、より化学的に均質化した真菌マットを生成する。
バイオポリマーベース真菌マットを製造するためのシステムは、多数の新鮮な真菌材料、多数の真菌材料のそれぞれを標識するステップのための標識手段、多数の真菌材料のそれぞれの初期質量を秤量するための天秤、多数の真菌材料の上に適用するための液体化学溶液、並びに多数の真菌材料のうちの少なくとも1種及び液体化学溶液を封入するのに適合可能な真空タンブラードラムを含む。印加される真空と組み合わせた真空タンブラードラムの転動作用により、真空タンブラードラムの内側に提供された液体化学溶液を、真空タンブラードラムの内側で、継続的に菌糸体材料に吸入と排出させ、それにより、バイオポリマーベース真菌マットを生成する真菌材料の上に、優良な化学溶液の分布をもたらす。
【0009】
本実施形態の第1の目的は、十分に制御された機械的及び化学的性質を有するバイオポリマーベース真菌マットを提供することである。
本実施形態の第2の目的は、液体化学処理により、真菌材料の変化、保存、強化に成功することが可能であり、それにより、獣皮革、普通の工業化された獣皮等に等しく挙動し、機能する方法を提供することである。
本実施形態の第3の目的は、産業用途のために、変化し得る形状、厚さ、密度、柔軟性及び他の所定の品質を有する、固有の分子構造の液体化学処理真菌マットを提供することである。
本実施形態の更なる別の目的は、改良された柔軟性及び引張強度など所望の特性を向上させる、真菌材料の液体化学処理のためのシステム及び方法を提供することである。
本実施形態の更なる別の目的は、真菌材料の構造又は化学組成を修正することが可能である真菌材料のための液体化学処理のための方法を提供することであり、それにより、所望の適用に応じた物理的品質を付与する。
【0010】
本実施形態の更なる別の目的は、機能的製品における使用のための液体化学処理真菌バイオポリマーベース真菌マットを提供することである。
本実施形態の更なる別の目的は、合成のプラスチック材料、発泡体及び獣皮の類似物として役割を果たすことが可能な材料を提供することである。
本発明のこれら及び他の利点と特徴は、当業者が本発明を理解できるように、具体的に記載される。
それらの明瞭さを向上させ、本明細書に示される種々の要素及び実施形態の理解を改良するために、図は、必ずしも正確な比率で描かれていない。その上、当該産業の人々に一般的に十分に理解されている公知の要素は、本発明の種々の実施形態の明確な表示を提供するために描写されておらず、したがって図面は、明瞭さ及び簡潔さのために形式的に一般化されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の好ましい実施形態に従う、標準的な液体化学処理バイオポリマーベース真菌マットを例示する図である。
図2】本発明の好ましい実施形態に従う、液体化学処理バイオポリマーベース真菌マットを製造するために用いられるシステムの構成図を例示する図である。
図3】本発明の好ましい実施形態に従う、液体化学処理バイオポリマーベース真菌マットを製造するための方法を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
いくつかの本発明の実施形態及び適用に対応する以下の議論において、その一部を形成し、本発明を実施し得る特定の実施形態の画図により示す、添付図面を参照する。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態が利用されてよく、変更がなされてよいと理解されるべきである。
それぞれ互いに独立して又は他の特徴と組み合わせて、使用することが可能である種々の発明の特徴が、以下に記載される。しかしながら、任意の単一の発明の特徴が、上記で議論したあらゆる問題に対応できないか、又は上記で議論した問題のうちの1つに対応するのみである。更に、以下に記載される特徴のいずれかによって、上記で議論した問題のうちの1つ又は複数に、完全に対応し得ないこともある。
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別段に明示しない限り、複数の指示対象物を含む。「and」が本明細書で使用される場合、別段に明示的に述べられない限り、「or」と同義的に使用される。本明細書で使用される場合、用語「約」は、引用されるパラメータの+/-5%を意味する。本発明の態様の全ての実施形態は、文脈が別段に明示しない限り、組み合わせて使用することが可能である。
【0013】
文脈で別段に明確に求められない限り、本明細書及び請求項の全体を通して、語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」等は、排他的又は網羅的意味とは対照的に、包括的な意味で、すなわち、「~を含むが、これらに限定されない」の意味で理解されるべきである。単数又は複数の数を使用する語はまた、複数及び単数の数をそれぞれ含む。なおその上、本願で使用される場合、語「本明細書に、」「ここで」、「~である一方、他方は~」、「上記に、」及び「以下に」並びに類似の意味語は、全体として本願を指し、本願のいかなる特定の部分を指すものではない。
本開示の実施形態の説明は、網羅的であること又は本開示を開示した厳密な形態に限定することを意図しない。本開示についての特定の実施形態及び例は、例示的目的で本明細書に記載されているが、当業者が認識するように、本開示の範囲内で種々の同等の修正が可能である。
【0014】
液体化学処理前の真菌材料(液体化学処理前の菌糸体材料)を生成するために使用される基本の接種材料及び成長条件は、変更することができる。真菌マット10と呼ばれる液体化学処理後の真菌材料(菌糸体材料)を、図1に示す。真菌材料のための例示的な成長条件は、以下に提供される(以下の「真菌材料」のセクションを参照されたい)。基本の接種材料は、所望の真菌株から調製される真菌の接種材料である、真菌の接種材料からなる。一部の実施形態では、所望の真菌株は、新しい真菌コロニーを成長させることができる真菌の、栄養体、有性又は無性の構造を含むことができる。とりわけ、出発材料にかかわらず、液体化学処理により、引張強度、引裂強度、摩耗耐性など機械的性質及び染料固着など他の化学的性質を含む、多くの利便性のある真菌の性質の制御ができるようになる。
【0015】
上記のとおり、本願は、その液体化学処理前の形態において主として真菌組織からなる真菌材料の液体化学処理のためのシステム及び方法を提供する。本実施形態の真菌材料は、菌糸体材料である。図1を参照すると、標準的な液体化学処理バイオポリマーベース真菌マット10(本明細書では、「真菌マット材料見本」又は「スウォッチ」とも称される)が、液体化学処理後の形態で例示されている。液体化学処理真菌マット10を製造する方法は、10ステップのプロセスを含む。液体化学処理真菌マット10は、近位端14に沿って方向付けた標識18を含み、近位端14は遠位端12に対向する。一部の実施形態では、液体化学処理真菌マット10は、均一に透光性の領域20を含む。液体化学処理真菌マット10の光学密度、引張強度及び他の特性は、以下に記載される10ステップ調製方法100の種々のステップにて、可変的に最適化することができる。他の実施形態では、液体化学処理真菌マット10は、暗色色素沈着の領域16を含む、ユーザが、一時的及び空間的に制御するやり方で、種々の皮革と獣皮の外見を模倣することが可能となる。
図1に示すとおり、他の部分より高度な不透明性と高度な透光性を有する真菌マット10の部分がある。バイオポリマーベース真菌マット10は、透明ではないが、材料の全体を通して及びその表面積全体にわたって類似である透明度を呈する。本明細書に記載されるプロセスの結果として、真菌マット10は、種々の符号12、14及び20が指す真菌マット10の種々の部分において、実質的に同様の不透明性、質感及び外見を有する。
【0016】
例示的な実施形態では、図1に示す例の真菌マット10が、真四角形、例えば、4個の四角形、16個の四角形又は64個の四角形に分かれると考えられる場合、それぞれの四角形は、測定することができる不透明性、透光性及び透明性の値を有する。固体の真菌マット10は、完全に不透明ではないので、固体の真菌マット10に当たる光の一部が、その表面を透過し、内部の散乱と水平方向の拡散が、入射点から離れて発生する。この水平方向の拡散は、透光性の固体の反射が、試験されている試料寸法により低下することを意味する。したがって、真菌マット10の表面積全体にわたって、類似の試料寸法を測定することが重要である(図1に示す側面の表面積など)。本プロセスでは、1つの真四角形の透光性、透明性及び不透明性は、個々に、又は互いに、試料における他の四角形全部の値の5%以内、又は全体としてまとめた試料全部の全体的な透光性、透明性及び不透明性の5%以内であってよい。他の実施形態では、透光性、透明性及び不透明性の値が、試料における他の四角形全部の値の10%以内、15%以内、25%以内、40%以内、若しくは60%以内、又は全体としてまとめた試料全部の全体的な透光性、透明性及び不透明性の5%以内である。
【0017】
図2は、本発明の好ましい実施形態に従う、液体化学処理バイオポリマーベース真菌マット10を製造するために用いられるシステム22の構成図を例示する。システム22は、多数の新鮮な菌糸体材料24、多数の菌糸体材料24のそれぞれを標識するステップのための標識手段26、多数の菌糸体材料24のそれぞれの初期質量を秤量するための天秤28、多数の菌糸体材料24に適用するための液体化学溶液32、並びに多数の菌糸体材料24のうちの少なくとも1種及び液体化学溶液32を封入するのに適合可能な真空タンブラードラム30を共に含む。標識手段26により、多数の菌糸体材料24のそれぞれの標識ができるようになり、それにより、多数の菌糸体材料24のそれぞれに関連するデータの追跡ができるようになる。多数の菌糸体材料24のそれぞれの初期質量の天秤28を用いた秤量により、乾燥後に真菌マット10に保持される化学物質の質量の定量化を可能にする。多数の菌糸体材料24と共に真空タンブラードラム30中に液体化学溶液32をデカントする際、印加される真空と組み合わせた真空タンブラードラム30の転動作用により、真空タンブラードラム30の内側に提供された液体化学溶液32を、真空タンブラードラム30の内側で、継続的に菌糸体材料24に吸入と排出させる、それにより、バイオポリマーベース真菌マット10を生成する菌糸体材料24上に、優良な化学溶液の分布をもたらす。
【0018】
図3は、本発明の好ましい実施形態に従う、液体化学処理バイオポリマーベース真菌マット10を製造するための方法100を例示する。液体化学処理真菌マット10を製造する好ましい方法100は、多数の新鮮な菌糸体材料24を、液体化学処理真菌マット10に変える10ステップのプロセスを含む。本方法は、ブロック102で表されるように、真菌組織を接種した基質から多数の新鮮な菌糸体材料を採取するステップ、及びブロック104で表されるように、同定のために、多数の菌糸体材料のそれぞれを標識するステップ、のステップを含む。次いで、ブロック106で表されるように、多数の菌糸体材料のそれぞれの初期質量を秤量して記録するステップ。次に、ブロック108において表されるように、0:100~100:0の溶媒:化学物質の比及び摂氏10~90度又は摂氏10~60度の範囲の温度を使用して、液体化学溶液を調製するステップ、及びブロック110で表されるように、真空タンブラードラム中に液体化学溶液をデカントするステップ。次いで、ブロック112で表されるように、真空タンブラードラム全体に、少なくとも1種の多数の菌糸体材料を分布させるステップ、及びブロック114で表されるように、多孔質菌糸体構造を引っ張り開けるため、及びそれを介して化学物質の侵入を容易にするため、真空タンブラードラムに真空を印加するステップ。次いで、ブロック116で表されるように、菌糸体表面での、液体化学溶液の徹底した混合とリフレッシュを確実にするため、及び停滞する表面層の化学物質の菌糸体表面上の集中を回避するため、真空タンブラードラムを回転させるステップ。その後、ブロック118で表されるように、少なくとも1つの真菌マットを形成するため、反復的に真空タンブラードラムを真空引きし、回転させるステップ、及び菌糸体材料による液体化学溶液の取り込みの程度を決定するステップ。最終的に、ブロック120で表されるように、真空タンブラードラムから、少なくとも1つの真菌マットを取り外すステップ、表面水分を排出するステップ、少なくとも1つの真菌マットを乾燥させるステップ。
【0019】
巨視的なレベルでは、本願の液体化学物質の処理方法100は、光学的に均質な液体化学的処理真菌マット10を提供する。微視的な規模では、本方法は、多様な化学的再構成を菌糸体材料24に持たせ、より化学的に均質化した、真菌マット10という名称の製品を生成する。
例として、方法100のこれらの10ステップの以下の詳細な説明を容易にするため、真菌マット10の2つの材料見本調製物が考えられる。図3のブロック102で表されるように、第1のステップは、多数の菌糸体材料24を採取するステップを含む。例示的な実施形態では、当該技術分野において公知のハサミを用いて、液体化学処理真菌マット10を製造する好ましい方法の第1のステップにおいて、2つの6インチ×4インチの新鮮な菌糸体材料24の材料見本を切断して、近位端14及び遠位端12を創出する。一実施形態では、後続の湿式プロセスを行うことができる、直径30cmの小規模ステンレス鋼染料ドラムを使用する。他の実施形態では、他の最適化スキームは、寸法の最大化、強度の最大化、及び/又はユニット当たりの真空タンブラードラムのアウトプットの最大化を含むと考えられる。
【0020】
第2のステップは、図3のブロック104に表されるとおり、標識手段26を利用する同定のために、多数の菌糸体材料24のそれぞれを標識するステップを含む。標識手段26により、多数の菌糸体材料24のそれぞれの標識、それによる、多数の菌糸体材料24のそれぞれに関連するデータの追跡ができるようになる。一実施形態では、ユーザは、多数の菌糸体材料24のそれぞれに関連するデータの追跡が可能となる同定のために、多数の菌糸体材料24にパンチ穴を創出することができる。一部の実施形態では、多様な同定方法は、簡易な焼印記章(heat-branded insignia)、RFIDタグ、数値的同定、バーコード等を含むと考えられる。一部の実施形態では、近位端14に沿ったパンチ穴を、光学的にセンサーによって読み取ることができ、自動同定及びあらゆる所与の真菌材料の追跡が可能となる。
液体化学処理真菌マット10を製造する例示的な実施形態における第3のステップでは、ユーザに、両方の菌糸体材料の材料見本を秤量し、天秤28を利用して、それらの初期質量を記録することを求める。天秤28を利用して、化学物質の取り込みをアッセイし、乾燥後に保持される化学物質の質量の定量化が可能となる。交互に、このような定量化のために、MALDI質量分析、核磁気共鳴、左旋性平面偏光の分析等を含む多様な方法を用いてもよい。
【0021】
図3のブロック108に示すとおり、第4のステップにおいて、液体化学溶液32を調製する。具体的には、好ましい例では、3キログラムの液体化学溶液を調製する。この特定の質量を、実験室規模の2つの材料見本アプローチにおいて、最適化した菌糸体材料24の動きと平衡化を達成すること、及び更に、標準的な真空タンブラードラム30における液体の分布を最適化することが公知である、1.0~14.0、又はより好ましくは2.0~12.0の潜在的pH範囲で利用する。液体化学溶液を、液体化学溶液の全質量3000gを達成するよう、0:100~100:0の溶媒:化学物質の比を使用し、及び摂氏10~90度又は摂氏10~60度の温度を使用して調製する。化学物質は、好ましくは、ガラス棒で撹拌しながら液体に添加する。本実施形態で利用される液体化学溶液32は、透過及び分布を達成するために真空処理手法を必要とするあらゆる化学物質溶液でもよい。可塑化/加脂、染色、洗浄、酸性化、塩基性化、タニング、リタニング、充填、脱脂、極性溶媒中での反応、非極性溶媒中での反応、酵素的/生物学的反応及び漂白として機能することができる液体化学溶液の一部の例を、使用することができる。
【0022】
図3のブロック110に示すとおり、液体化学的処理真菌マット10を製造する好ましい方法における第5のステップは、真空タンブラードラム30中に液体化学溶液32をデカントするステップを伴う。具体的には、ユーザが、真空タンブラードラム30から蓋を取り外し、引き続いて真空タンブラードラム30中に液体化学溶液32を注ぐ。一部の実施形態では、真空タンブラードラム30中に液体化学溶液32を導入した後、真空タンブラードラム30に菌糸体材料24を添加する。大きな規模では、この順序が、近位端14若しくは遠位端12又は平坦な境界面での菌糸体材料24の自己付着を防止し、液体の化学的分布及び菌糸体材料24の全角度へのアクセスを改良するであろう。とりわけ、真空タンブラードラム30の転動作用により、菌糸体材料24の軽度の屈曲及び液体化学溶液32の軽度の混合が創出される。印加される真空と組み合わせた多孔質な菌糸体材料24の屈曲作用により、それが撓むにつれて、液体化学溶液32を継続的に菌糸体材料24に吸入と排出させるのに加え、菌糸体マトリックスの全体を介した屈曲作用により送り出し、優良な化学溶液の分布をもたらす。少ないドラム回転(0.5~10)RPMの使用により、菌糸体材料24が、遠心力の作用のために、真空タンブラードラム壁に付着しないことが確実となる。自己付着性の境界にわたる抵抗は、菌糸体材料24の自己付着性の表面積に正比例して変化し、可溶化溶液の吸湿性に反比例して変化する。
【0023】
図3のブロック112に示すとおり、好ましい方法100における第6のステップは、真空タンブラードラム30全体に菌糸体材料24を分布させるステップを伴う。具体的には、好ましい例では、2つの秤量された菌糸体材料24の材料見本を、1つの試料を穴の開いた仕切りのそれぞれの側面の上に乗せ、真空タンブラードラム30の中へ配置することを伴う。菌糸体材料24の材料見本を、それらの近位端14又は遠位端12のいずれかに据え置くことができる。本例では、菌糸体材料24の試料を穴の開いた仕切りのいずれかの側面に配置することの目的は、試料の自己付着強度を取り除くこと、又は低減すること、並びに液体化学溶液32の菌糸体材料24のそれぞれの試料への分布及びアクセスを最大化することである。穴の開いた仕切りのない真空タンブラードラムについては、材料見本を、その中に均一に分布する。上記のとおり、真空タンブラードラム30の転動作用により、速度(m/s)又は加速度(m/s2)として表現することができる遠心力を創出する。
図3のブロック114に示すとおり、好ましい方法100の第7のステップは真空タンブラードラム30に真空を印加するステップを含む。好ましい例では、手作業で、蓋を手でねじとめることを含む、真空タンブラードラム30の蓋を元に戻すことが求められる。一部の実施形態では、真空を印加するので、蓋をきつく締める必要性がない。一部の実施形態では、ユーザは、確実に蓋の最上部の真空バルブを開けたままにしておく。次に、真空ホースを蓋に適用し、ユーザが、真空起動ボタンを押す。デジタル表示/ダイヤルにより、目標の真空レベルに達するまで、真空タンブラードラム30に、真空を印加する。次に、真空バルブを閉め、真空ホースを外す。このように、真空を印加して多孔質菌糸体構造を引っ張り開け、化学物質の侵入を促進する。
【0024】
図3のブロック116に示すとおり、好ましい方法100の第8のステップは、菌糸体表面での液体化学溶液32の徹底した混合とリフレッシュを確実にするため、及び停滞する表面層の化学物質の菌糸体表面上の集中を回避するため、真空タンブラードラム30を回転させるステップを含む。本例では、第8のステップは、真空タンブラードラム30を回転台に配置することを求める。次に、ユーザは、稼働時間(分単位)及び所望の回転のスピード(可変のスピード制御を有する真空タンブラーにおいて)を選択し、開始ボタンを押し、それにより、真空タンブラードラム30の回転を始める。とりわけ、この機械的真空タンブラードラム30の回転により、菌糸体表面での及び近位端14又は遠位端12での液体化学溶液32の徹底した混合とリフレッシュを確実にし、それにより、停滞する表面層の化学物質の集中が確立しない。上記のとおり、とりわけ真空タンブラードラム30の転動作用により、菌糸体材料24の軽度の屈曲及び液体化学溶液32の軽度の混合が創出される。印加される真空と組み合わせた多孔質な菌糸体材料24の屈曲作用により、それが撓むにつれて、液体化学溶液32を継続的に菌糸体材料24に吸入と排出させるのに加え、菌糸体マトリックスの全体を介した屈曲作用により送り出し、液体化学溶液32の優良な分布をもたらす。少ない真空タンブラードラム回転RPM(0.5~10)の使用により、菌糸体材料24が、遠心力の作用のために、真空タンブラードラム壁に付着しないことが確実となる。
【0025】
図3のブロック118で表されるように、好ましい方法100の第9のステップは、少なくとも1つの真菌マット10を形成するため、真空タンブラードラム30を反復的に真空引きし、回転させるステップ、及び菌糸体材料24による液体化学溶液32の取り込みの程度を決定するステップを含む。好ましい例では、第9のステップは、所望の期間(例えば、30分)、真空タンブラードラム30を稼働すること、次いでこのように形成された真菌マット10を取り外すステップにより、液体化学溶液32の取り込みの程度を決定するステップを伴う。
図3のブロック120で表されるように、方法100の第10のステップは、真空タンブラードラム30から少なくとも1つの真菌マット10を取り外すステップ、表面水分を排出するステップ、少なくとも1つの真菌マット10を乾燥させるステップを含む。例示的な実施形態では、それらの近位端14又は遠位端12の側の真菌マット10を取り外すステップのプロセスの後に、ペーパータオルを使い、表面の/余分な液体を軽くふき取るステップ、及び真菌マット10を秤量するステップが続く。一部の実施形態では、このプロセスは、2つの連続した真菌マット質量測定が等しくなる(すなわち、時間に対する質量増加が、横這いになる)まで続けられる。真菌マットは、それらの近位端14又は遠位端12のいずれかで据え置いて、活用することができる。
【0026】
第10のステップの一部の実施形態、真空タンブラードラム30についての稼働の時間を、自動的に設定して、プロセスを介在させるのを停止することができる。他の実施形態では、質量測定を行うための便宜的な間隔として、30分が使用される。上記のとおり、質量測定は、時間に対してプロットし、それにより、液体化学物質の取り込みの程度を追跡する。とりわけ、一部の実施形態では、質量増加単独で利用して、液体化学物質の取り込みの完全性をアッセイすることができる。一部の実施形態では、試料の透光パーセントを、光学密度測定及び光強度測定を含む当該分野で確立された種々の方法によりモニターする。とりわけ、上記の水性ステップの前に、乾燥した繊維は、容易に、均一に、水により元に戻すことができ、下流の水性化学物質の相互作用に対する改良された菌糸体の可用性を結果としてもたらす。結果は、より軟質な製品であり、当該技術分野において公知の類似材料よりも割れる傾向が少ない。
【0027】
液体化学処理真菌マット10を製造する好ましい方法100における第10のステップでは、真空タンブラードラム30から真菌マット10を取り外すステップ、表面水分を軽くふき取るステップ、及び真菌マット10を乾燥させるステップを求める。一部の実施形態では、真菌マット10の乾燥は、少なくとも4日間続く。乾燥後、真菌マット10を秤量し、水分含量についてアッセイする。とりわけ、このやり方で質量及び水分含量の測定値を得ることにより、ユーザは、化学物質の作用に大きく起因する質量増加と共に、液体化学物質の処理の最終的な程度を経時的に追跡することができるようになる。真菌マット10は、上記のとおり、それらの近位端14又は遠位端12の側で活用することができる。最終的に、液体化学処理真菌マット10を、手作業で乾燥させた後、出荷する。第10のステップのこの最終部分により、輸送中に別段に基礎レベルで続くかもしれない、液体化学処理真菌マット10内のあらゆる残存する生物学的活性を、最小化又は阻害する。
【0028】
一部の実施形態では、液体化学処理真菌マット10はまた、暗色色素沈着の領域16(「非透光性エリア」としても公知)を含んでよい。これらのシートの非透光性エリアは、具体的には、隙間がない菌糸体繊維領域からなる。一部の実施形態では、真空処理中の液体化学物質による透過により、これらの暗色色素沈着の領域16が透光性に見えるが、そのため、真空液体化学処理が進行するにつれ、透光面積パーセントは、時間と共に増加する。とりわけ、液体化学物質が透過していない任意の隙間がないエリアの乾燥は、菌糸体繊維の自己付着を含有してよい。ウォータースポット試験の後、菌糸体繊維は、より疎水性になる場合がある。一部の実施形態では、これらの隙間がないエリアに液体化学物質が透過した後は、それらのエリアは、より透光性で、より親水性になる。
上記のとおり、液体化学的処理真菌マット10は、固有の10ステップ調製方法100に由来する、均一に透光性の領域20を含む。とりわけ、完成した真菌マット10は、当該技術分野において公知の菌糸体の典型的なシートから期待するより、より均一な透光性を有する。透光性を、ビューアーに対して均一な強度で、所与の真菌マットを通る光の通過により、定性的に観察する。交互に、透光性を、例えば、所与の真菌マット10を通る光の通過の強度の95%~100%の均質な測定値によって、光学密度測定装置を用いて実験的に測定することができる。ライトボックスを利用して、光強度、視野角及び照明強度を制御することもできる。
【0029】
図1を参照すると、標準的な液体化学処理真菌マット10は、光に対して透光性であり、その種々の端部で光学的に不均一であり、多様な寸法、形状、及び剛性に適合可能である。一例では、採取するステップ、標識するステップ、秤量するステップ、化学溶液を調製するステップ、真空引きするステップ、乾燥させるステップ等の、10ステップのプロセス100の後に、液体化学処理製品の1枚だけの大型シートが生成する。本例では、真空タンブラードラム30の容積に依存して、近位端14は、1000~500インチ延伸することができ、遠位端12は、1000~500インチ延伸することができ、近位端14での標識18は、左側方向から1000~500インチ、又はこれらの長さの任意の所望の変形にわたって延伸する。一部の実施形態では、本例における液体化学的処理真菌マット10は、暗色色素沈着の領域16に加え、均一に透光性の領域20を含み、ユーザが非常に大きな規模で、種々の皮革と獣皮の外見を模倣することが可能となる。
【0030】
別の例では、採取するステップ、標識するステップ、秤量するステップ、液体化学溶液を調製するステップ、真空引きするステップ、乾燥させるステップ等の、10ステップのプロセス100の後で、可塑化製品の中型寸法のシートが生成する。標準的な中型寸法の液体化学処理真菌マット10もまた、光に対して透光性であり、その種々の端部で光学的に不均一であり、多様な寸法、形状、及び剛性に適合可能である。本例では、真空タンブラードラム30の容積に依存して、近位端14は、1000~500インチ延伸することができ、遠位端12は、1000~500インチ延伸することができ、近位端14の標識18は、左側方向から2~10インチ、又はこれらの長さの任意の所望の変形にわたって延伸する。一部の実施形態では、本例における液体化学処理真菌マット10は、暗色色素沈着の領域16に加え、均一に透光性の領域20を含み、ユーザが中型寸法規模で、種々の皮革と獣皮の外見を模倣することが可能となる。
【0031】
更なる別の例では、採取するステップ、標識するステップ、秤量するステップ、液体化学溶液を調製するステップ、真空引きするステップ、乾燥させるステップ等の、10ステップのプロセス100の後で、液体化学処理真菌マット10の小型寸法のシートが生成する。標準的な小型寸法の液体化学処理真菌マット10はまた、光に対して透光性であり、その種々の端部で光学的に不均一であり、多様な寸法、形状、及び剛性に適合可能である、更に、キルトのように、種々の形状及び寸法に閉じ合わせることもできる。本例では、真空タンブラードラム30の容積に依存して、近位端14は、2~10インチ延伸することができ、遠位端12は、2~10インチ延伸することができ、近位端14の標識18は、左側方向から、約1~2インチ、又はこれらの長さの任意の所望の変形にわたって延伸する。一部の実施形態では、本例における液体化学処理真菌マット10は、暗色色素沈着の領域16に加え、均一に透光性の領域20を含み、ユーザが小型寸法規模で、種々の皮革と獣皮の外見を模倣することが可能となる。
【0032】
真菌材料
上記のとおり、本発明は、液体化学物質を、本来は、主として真菌組織からなった真菌材料に適用するためのシステム22及び方法100を提供する。この初期の真菌材料源は、液体化学処理前の菌糸体材料を含む。好ましい実施形態では、菌糸体材料24を、真菌を接種したコロニー化可能な基質から繁殖させる。好ましい類として、Ganoderma、目名Polyporalesが、一般に挙げられ、リグニン及びセルロースリッチな供給源から栄養を得る腐生菌の候補全てを含む。
液体化学処理前の菌糸体の成長条件の例が、以下に示される。第一に、真菌の接種材料は、全体にわたって一様な真菌の分布を提供するように、封入の範囲内又は封入に導入される前に、基質中に導入してもよい。次に、基質を放置して、コロニー形成させる。中間層を、コロニー化された基質の開放表面に確立して、形成中の真菌組織構造物の基質との相互作用を制御する。基質の上の均一な中間材料の存在により、そこから真菌組織が成長し得る安定的な表面を実現し、環境中への真菌菌糸の均一な増殖を支え、化学的及び物理的制御による活用のための特定の空間を提供する。生きた真菌菌糸が、基質から及び中間層を介して成長する。いくつかの例では、中間層を介して延伸する生きている組織を活用して、所望の厚さ、形状、寸法及び品質を有する材料を達成する。
【0033】
次に、中間層は、その中間層が成長して、そこからの更なる材料の成長が終了した栄養供給源から剥がれ得るか、又は真菌組織層が、中間層から剥がれ得るが、現状のまま放置し、再利用してもよい。結果として得る生きている真菌組織構造物は、他の生きている真菌組織構造物と融合させて、二次元及び三次元の構造物を創出してもよい。最終の真菌組織は、次いで、下流での利用のための所望の性質を達成するために、成長後加工処理に供してもよい。
真菌基質前駆体材料(「液体化学処理前の真菌マット」)は、バッチ又は連続的プロセスのいずれかで培養することができ、真菌組織は、成長中、変性及び指向性で有り得、それにより、表面全体にわたって均一な特性を達成するか、又は成長する組織の操作、若しくは粒子、繊維、メッシュ、布地及び他の添加物、骨組み(armature)、並びに構成成分の添加により、異なる局所的品質を取るように工作し得る。真菌組織シートは、切断又は他の形成方法により加工処理して、二次元の特徴及びレリーフを得てもよく、又は個別のシートを一緒に積層するか成長させて、三次元の特徴を形成してもよく、又は成長する組織に組み込み得る補強材若しくは他の構造修正材で構成してもよい。
【0034】
一部の実施形態では、本明細書に記載される液体化学処理真菌材料は、獣皮革、普通の工業化された獣皮等に等しく挙動し、機能することができる。これは、液体化学処理キチンベース真菌材料及びそれらの複合材料の固有の分子構造に基づき、達成され得る。一部の実施形態では、液体化学処理真菌材料の、後加工処理を使用して、その構造又は化学組成を修正することができ、それにより、所望の適用に応じた物理的品質を付与する。
本発明の好ましい実施形態の前述の説明は、例示及び説明の目的のために提示されている。網羅的であること、又は本発明を開示した厳密な形態に限定することを意図するものではない。上記の教示に照らして、多くの修正及び変形が可能である。本発明の範囲は、この詳細な説明によって限定されず、本明細書に添付の請求項及び請求項と同等のものによって限定されることを意図している。
図1
図2
図3
【国際調査報告】