(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】少なくとも1つの寄生化学種を含有するガス試料内に存在する分析物を特徴づけるための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20240723BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01N33/00 C
G01N21/41 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502544
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2022055555
(87)【国際公開番号】W WO2022189292
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522276459
【氏名又は名称】アリバル
【氏名又は名称原語表記】ARYBALLE
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】マホ,ピエール
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE09
2G059FF01
2G059FF05
2G059KK04
2G059KK08
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM04
2G059MM05
2G059MM14
(57)【要約】
本発明は、Mの感応性部位を備える電子鼻を使用してガス試料内に存在する分析物Aを特徴づけるための方法に関し、寄生化学種Pは、ガス試料内に存在し、方法は、分析物Aおよび寄生種Pを含有するガス試料のNの第1のシグネチャを獲得するフェーズ100であって、N>1であり、ガス試料は、一方のガス試料から次のガス試料で異なる偏差Δc
P(n)を示すフェーズ100と、2つの目的関数を最適化することにより、Nの第1のシグネチャから、Nのガス試料内に存在する分析物Aを特徴づけるNの補正されたシグネチャを得るように、最適化問題を解決するフェーズ200とを備える。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子鼻の測定表面と接触して配置されたガス試料内に存在する分析物Aの特徴づけ方法であって、前記測定表面は、吸着/脱着により前記分析物Aと、かつ前記ガス試料内に存在する少なくとも1つのいわゆる寄生化学種Pと相互作用するように適合された受容体を有する、1~Mの範囲に及ぶランクmの互いに別個のMの感応性部位を含み、前記特徴づけ方法は、
○前記接触表面と、
●第1のフェーズPh1の間に、濃度c
P(n)iの前記寄生化学種Pを含有してよいキャリアガスを、次いで
●第2のフェーズPh2の間に、濃度c
A(n)の前記分析物A、および前記値c
P(n)iから非ゼロの偏差Δc
P(n)を有する濃度c
P(n)fの前記寄生化学種Pを含有する前記ガス試料を
接触させるための流体注入ステップ(110)と、
○前記流体注入ステップの間、Mの前記感応性部位ごとに前記分析物Aおよび前記寄生化学種Pと前記受容体の前記相互作用を表す測定信号S
(n,m)(t)を決定するステップ(120)と、
○前記キャリアガスに関連する前記測定信号S
(n,m)(t∈Ph1)から得られた基準値S
(n,m)iだけ補正された、前記ガス試料に関連する前記測定信号S
(n,m)(t∈Ph2)から第1のシグネチャSu
(n,m)fを決定するステップ(130)と、
○前記第1のフェーズPh1と前記第2のフェーズPh2の間の前記寄生化学種Pの前記濃度の差Δc
P(n)を決定するステップと、
○前記分析物Aおよび前記寄生化学種Pと前記受容体の前記相互作用を表すNの前記第1のシグネチャを得るまで前記ランクnを増分させて前述のステップを何回も繰り返すステップであって、N>1であり、前記ガス試料は、前記差Δc
P(n)が対で異なるようなものであるステップと、
を決定するステップ(200、300)であって、前記推定解は、
前記ガス試料のNの濃度値c
A(n)から形成された、次元Nの前記分析物Aの濃度ベクトルであり、
前記分析物Aと前記感応性部位の前記受容体の相互作用親和力のMの値から形成された、次元Mの前記分析物Aの親和力ベクトルであり、
前記分析物Aが存在する状態での寄生化学種Pと前記感応性部位の前記受容体の相互作用親和力のMの値から形成された、次元Mの前記寄生化学種Pの親和力ベクトルである
ように規定される変数である
ステップと
を含む特徴づけ方法。
【請求項2】
前記推定解を決定する前記ステップ(300)は、
請求項1に記載の特徴づけ方法。
【請求項3】
前記推定解を決定する前記ステップ(300)は、
反復インジケータiの反復アルゴリズムにより遂行される
請求項2に記載の特徴づけ方法。
【請求項4】
前記推定解を決定する前記ステップ(300)は、
請求項3に記載の特徴づけ方法。
【請求項5】
前記推定解を決定する前記ステップ(300)は、
請求項4に記載の特徴づけ方法。
【請求項6】
前記推定解を決定する前記ステップ(200)は、
最初に、Q>1で、目的関数fを最小化して前記目的関数fを最小化する複数のQの局所解を得るサブステップ(210)に続いて、前記目的関数gを最大化するサブステップ(220)を含む
請求項1に記載の特徴づけ方法。
【請求項7】
最小化する前記サブステップ(210)は、
請求項6に記載の特徴づけ方法。
【請求項8】
前記最大化するサブステップ(220)は、
請求項7に記載の特徴づけ方法。
【請求項9】
請求項8に記載の特徴づけ方法。
【請求項10】
請求項9に記載の特徴づけ方法。
【請求項11】
請求項8に記載の特徴づけ方法。
【請求項12】
請求項11に記載の特徴づけ方法。
【請求項13】
前記電子鼻(1)は、
表面プラズモン共鳴光タイプの、またはマッハ-ツェンダー干渉計タイプの吸着/脱着による相互作用を測定するための機器を含む
請求項1~12のいずれか一項に記載の特徴づけ方法。
【請求項14】
前記電子鼻(1)は、
抵抗性の、圧電性の、機械的、または音響のタイプの吸着/脱着による相互作用を測定するための機器を含む
請求項1~12のいずれか一項に記載の特徴づけ方法。
【請求項15】
前記電子鼻(1)は、
前記流体注入ステップ(110)を遂行するように適合された流体供給機器(2)と、前記測定信号を決定する前記ステップ(120)を遂行するように適合された測定機器(3)と、前記寄生化学種の前記相対濃度を測定および決定するためのセンサ(9)と、前記推定解を決定する前記ステップ(200;300)を実装するように適合された処理ユニットとを含む
請求項1~14のいずれか一項に記載の特徴づけ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、電子鼻を用いてガス試料内に存在する分析物を特徴づける分野に関する。特徴づけるべき分析物に加えて、ガス試料はこの場合、電子鼻の官能化された測定表面とさらにまた相互作用できる少なくとも1つの化学種を含む。
【背景技術】
【0002】
ガス試料内に含有される分析物、たとえば匂い分子または有機化合物を特徴づける能力は、特に健康分野、農業食品産業、香水産業(香り)、限られた公共空間または私的空間(自動車、ホテル、共用空間…)での嗅覚的快適さなどにおいてますます重要な課題となっている。ガス試料内に存在するそのような分析物の特徴づけは、「電子鼻」と呼ばれる特徴づけシステムにより行うことができる。
【0003】
詳細には顕色剤(revelation agent)を用いてあらかじめ分析物または受容体に「ラベルを付ける」必要があるかないかという点で互いに異なる、特徴づけのさまざまな取り組み方法が存在する。たとえばそのようなラベルを使用する必要がある蛍光測定と異なり、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance、SPR)を使用する測定およびマッハ-ツェンダー干渉計(Mach-Zehnder interferometer、MZI)を使用する測定は、ラベルを用いない技法である。
【0004】
SPRまたはMZIの技術を使用する電子鼻では、ガス試料内に存在する分析物は、官能化された測定表面のいくつかの別個の感応性部位に位置する受容体と吸着/脱着により相互作用する。電子鼻は、一次信号に応答して分析物と受容体の間の吸着/脱着相互作用を表す、感応性部位の各々に関連する測定信号をリアルタイムで検出することからなる。測定信号は、分析物と受容体の相互作用による局所屈折率の時間的変動を表す光信号であり得る。たとえばSPR技術では、異なる感応性部位から到来する光信号の強度は、リアルタイムで測定され、これらの光信号は、光源が放出する一次光信号が反射された部分である。光センサが検出した各光信号の強度は、分析物と受容体の吸着/脱着相互作用と直接相関関係がある。国際公開第2018/158458号という出願は、SPR技術を使用するそのような電子鼻の例について記述している。
【0005】
分析物と受容体の相互作用の化学的親和力および/または物理的親和力が先験的に公知である限り、分析物の特徴づけはこの場合、分析物と受容体の吸着/脱着相互作用を表すパラメータ、この場合は感応性部位ごとの局所屈折率の時間的変動を表すパラメータの値または変動を決定することに帰着する。このようにして、分析物を特徴づける相互作用パターンまたはシグネチャを得る。実際は、異なる吸着特性を有する感応性部位(官能化された表面)上での分析物の吸着/脱着相互作用により、異なる感応性部位の表面に付着した、ガス内に存在する分子を考慮できるようになる。
【0006】
図1Aおよび
図1Bは、国際公開第2018/158458号という文献に記述されるようなSPRタイプの電子鼻の例を示す。このタイプの電子鼻1は、一般に流体供給機器2、SPR画像法による特徴づけのための機器3、および処理ユニット(図示せず)を備える。
【0007】
特徴づけ機器3は、感応性部位のマトリックスが存在する測定表面5が配置された、ガス試料を受け取ることを意図する測定チャンバ4を含む。測定表面5は、分析物と相互作用するように適合されたさまざまな受容体が固定された金属層により形成され、受容体は、互いに別個の異なる感応性部位を形成するように配列される。受容体はこの場合、金属層と誘電体媒質、この場合はガス状媒質の間の界面に位置する。
【0008】
この特徴づけ機器3は、一次光信号の光源7および画像センサ8をさらに備える。光源7は、作用角θRで測定表面5の方向に一次光信号を放出するように適合され、測定表面5で表面プラズモンを発生させることができるようにする。光測定信号を形成する、一次光信号が反射された部分は、次いで画像センサ8により検出される。光測定信号の強度は、局所的に測定表面5の屈折率に依存し、測定表面5の屈折率は次に、発生させた表面プラズモン、および各反応性部位の量に依存し、材料のこの量は、分析物が受容体と相互作用するとき、経時的に変動する。測定表面5は、特徴づけるべき分析物が吸着/脱着により相互作用できる受容体の存在により官能化した複数の感応性部位6mを、この場合、別個のMの感応性部位を備える。
【0009】
電子鼻の処理ユニットは、分析物と受容体の相互作用(吸着および脱着)の動力学に関する情報を感応性部位6mから抽出する目的で、「センサーグラム(sensorgram)」を、すなわち、異なる感応性部位6mの各々の受容体と分析物の吸着/脱着相互作用を表すパラメータの時間的進展に対応する信号を分析するのに適している。これらのセンサーグラムは、感応性部位6mの各々に関連する反射率の変動の時間的進展Δ%Rm(t)に対応する有用な信号Sum(t)と言える。反射率%Rはこの場合、画像センサ8が検出した光測定信号の強度と光源7が放出した一次光信号の強度の間の比である。反射率の変動Δ%Rは、分析物とは無関係に測定チャンバ4内部に存在するガスだけに関連するベースライン値を反射率の時間的変動%R(t)から減算することにより得られる。
【0010】
最後に、流体供給機器2は、センサーグラムの分析、およびしたがって分析物の特徴づけを可能にする状態で、分析物を測定チャンバ4の中に導入するのに適している。この点で、Brenet et al.による、Anal.Chem.、2018年、90、16、p.9879-9887の「Highly-Selective Optoelectronic Nose based on Surface Plasmon Resonance Imaging for Sensing Gas Phase Volatile Organic Compounds(気相揮発性有機化合物を検知するための表面プラズモン共鳴画像法に基づく高度選択性光電子鼻)」と題する論文は、SPR画像法を使用して電子鼻を用いてガス試料を特徴づけるための方法について記述している。この特徴づけ方法は、反応物と受容体の間の相互作用の動力学が定常平衡状態に到達するように、ガス試料を測定チャンバに供給するステップからなる。
【0011】
このために、
図1Cは、
図1Aの電子鼻により得たセンサーグラムSu
m(t)の例を示す。センサーグラムSu
m(t)はこの場合、感応性部位6
mの各々に関連する反射率の変動の時間的進展Δ%R
m(t)に対応する。このように、特徴づけ方法は、複数の連続する流体注入ステップを、すなわち、
-分析物なしにキャリアガスだけを測定表面と接触させる第1の基準フェーズPh1であって、このキャリアガスは、一般にガス試料のキャリアガスと同一である第1の基準フェーズPh1、
-キャリアガスおよび特徴づけるべき分析物により形成されたガス試料を測定表面と接触させる第2の供給フェーズPh2、および
-分析物を受容体から脱着して測定チャンバから分析物を除去するように、基準ガスだけを測定チャンバの中に再度注入する第3のパージフェーズPh3
を含む。
【0012】
初期フェーズPh1は、上記で言及した基準値(ベースライン)を獲得可能にし、次いで測定信号Sm(t)から基準値を減算して有用な信号Sum(t)(換言すれば、ランクmの反応性部位ごとの反射率の変動の時間的進展Δ%Rm(t))を得る。上記で示すように、この流体注入フェーズは、センサーグラムが遷移性の同化持続期間の存在の後に続いて定常平衡状態を示すように行われる。この定常平衡状態が達成されたとき、有用な信号Sum(t)の(定常)平衡値Sum、fは、処理ユニットにより抽出され、分析物のシグネチャを画定する。
【0013】
しかしながら、水分子(相対湿度)など、キャリアガス内に他の化学種が存在することにより、Shao et al.による、Sensors、2018年、18、p.2029による「Mechanism and Characteristics of Humidity Sensing with Polyvinyl Alcohol-Coated Fiber Surface Plasmon Resonance Sensor(ポリビニルアルコール被覆繊維表面プラズモン共鳴センサを用いる湿度検知の機構および特性)」と題する論文に示されるように、光測定信号の強度が影響を受け得ることは明らかである。この論文で著者らは、SPRセンサを湿度センサとして使用している。しかしながら、電子鼻を用いて分析物を特徴づけるための方法に関連して、測定チャンバ内の相対湿度の変動は、特徴づけの品質を低下させる測定バイアスを形成する。それに加えて、長い期間にわたり相対湿度が変動し、したがって、同じ分析物および同じ動作条件に関して一方の特徴づけから他方の特徴づけで変動するとき、この相対湿度の変動は、同じ分析物のシグネチャを互いに異なったものにする時間ドリフトを生じさせる。
【0014】
さらに、国際公開第2020/141281(A1)号という文献は、電子鼻タイプの分析システムを用いて標的化合物を特徴づけるための方法について記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2018/158458号
【特許文献2】国際公開第2020/141281(A1)号
【特許文献3】欧州特許第3184485号明細書
【特許文献4】仏国特許発明第2011842号明細書
【特許文献5】仏国特許発明第1913555号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Brenet et al.、「Highly-Selective Optoelectronic Nose based on Surface Plasmon Resonance Imaging for Sensing Gas Phase Volatile Organic Compounds(気相揮発性有機化合物を検知するための表面プラズモン共鳴画像法に基づく高度選択性光電子鼻)」、Anal.Chem.、2018年、90、16、p.9879-9887
【非特許文献2】Shao et al.、「Mechanism and Characteristics of Humidity Sensing with Polyvinyl Alcohol-Coated Fiber Surface Plasmon Resonance Sensor(ポリビニルアルコール被覆繊維表面プラズモン共鳴センサを用いる湿度検知の機構および特性)」、Sensors、2018年、18、p.2029
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、従来技術の欠点を少なくとも部分的に克服することであり、より詳細には初期フェーズPh1と流体注入の特徴づけフェーズPh2の間に存在する1つまたは複数の寄生化学種(parasitic chemical species)の濃度の変動に関連する測定ノイズを制限可能にする、またはさらには排除可能にする、分析物を特徴づけるための方法を提案することである。このように、特徴づけ方法は、分析物の特徴づけの品質を改善可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このために、本発明の目的は、電子鼻の測定表面と接触して配置されたガス試料内に存在する分析物Aを特徴づけるための方法であって、測定表面は、吸着/脱着により分析物Aと、かつガス試料内に存在する少なくともいわゆる寄生化学種Pと相互作用するように適合された受容体を有する、1~Mの範囲に及ぶランクmの、互いに別個のMの感応性部位を含み、方法は、
-第1のフェーズPh1の間に濃度c
P(n)iの寄生種Pを含有してよいキャリアガスを、次いで第2のフェーズPh2の間に濃度c
A(n)の分析物Aおよび濃度c
P(n)fの寄生種Pを測定表面と接触させるための流体注入ステップであって、値c
P(n)fは値c
P(n)iからの非ゼロ変動Δc
P(n)を有するステップと、
-流体注入ステップの間にMの感応性部位ごとに分析物Aおよび寄生種Pと受容体の相互作用を表す測定信号S
(n,m)(t)を決定するステップと、
-キャリアガスに関連する測定信号S
(n,m)(t∈Ph1)から得られた基準値S
(n,m)iだけ補正された第1のシグネチャSu
(n,m)fをガス試料に関連する測定信号S
(n,m)(t∈Ph2)から決定するステップと、
-第1のフェーズPh1と第2のフェーズPh2の間の寄生種Pの濃度の差Δc
P(n)を決定するステップと、
-分析物Aおよび寄生種Pと受容体の相互作用を表すNの第1のシグネチャを得るまでランクnを増分させて前述のステップを何回も繰り返すステップであって、N>1であり、ガス試料は、差Δc
P(n)が対で異なるようなものであるステップと、
【0019】
【0020】
を最小化し、かつコスト関数
【0021】
【0022】
ガス試料のNの濃度値c
A(n)から形成された、次元Nの分析物Aの濃度ベクトルであり、
分析物Aと感応性部位の受容体の相互作用親和力のMの値から形成された、次元Mの、分析物Aの親和力ベクトルであり、
分析物Aが存在する状態での寄生化学種Pと感応性部位の受容体の相互作用親和力のMの値から形成された、次元Mの、寄生化学種Pの親和力ベクトルである
ステップと
を含む。
【0023】
いくつかの好ましいが限定しないこの特徴づけ方法の様態は、以下のようなものである。
【0024】
【0025】
推定解を決定するステップは、反復インジケータiの反復アルゴリズムにより遂行できる。
【0026】
【0027】
推定解を決定するステップは、行列
【0028】
【0029】
【0030】
推定解を決定するステップは、Q>1で、目的関数fを最小化する複数のQの局所解を得るために、目的関数fを最小化するサブステップに続いて目的関数gを最大化にするサブステップを含み得る。
【0031】
【0032】
最大化するサブステップは、
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
電子鼻は、光表面プラズモン共鳴タイプの、またはマッハ-ツェンダー干渉計タイプの吸着/脱着による相互作用を測定するための機器を含み得る。
【0040】
電子鼻は、抵抗性の、圧電性の、機械的な、または音響的なタイプの吸着/脱着による相互作用を測定するための機器を含み得る。
【0041】
電子鼻は、流体注入ステップを遂行するように適合された流体供給機器と、測定信号を決定するステップを遂行するように適合された測定機器と、寄生化学種の相対濃度を測定および決定するためのセンサと、推定解を決定するステップを遂行するように適合された処理ユニットとを含み得る。
【0042】
本発明の他の様態、目的、有利な点、および特徴は、限定しない例として示し、添付図面を参照して行う、以下の好ましい実施形態の詳細な記述を読むとより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1A】すでに記述したが、従来技術の例によるSPR画像法電子鼻の横断面の概略の部分投影図である。
【
図1B】すでに記述したが、Mの別個の感応性部位を含む、
図1Aの電子鼻の官能化された測定表面の概略の部分的平面図である。
【
図1C】すでに記述したが、
図1Aの電子鼻により得たセンサーグラムSu
m(t)の例であり、これらのセンサーグラムはこの場合、感応性部位に関連する反射率の変動の時間的進展Δ%R
m(t)に対応する。
【
図2】一実施形態による電子鼻の概略的な部分投影図である。
【
図3A】従来技術による特徴づけ方法により得た3つのシグネチャの例であり、初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間の寄生化学種(この場合、気相の水)の濃度の変動に起因する分析物の特徴づけの劣化を示す。
【
図3B】初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間に濃度c
Pの変動がまったくない場合(左側部分)、および初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間に濃度c
Pの非ゼロ変動がある場合(右側部分)の、寄生化学種の濃度c
Pの、測定信号S
m(t)の、および有用な信号Su
m(t)の時間的進展を例示する。
【
図4】第1の実施形態による特徴づけ方法の流れ図である。
【
図5】第1の実施形態の変形形態による特徴づけ方法の流れ図である。
【
図6】第2の実施形態による特徴づけ方法の流れ図である。
【
図7A】寄生化学種の濃度c
Pの変動が存在したガス試料内に存在する分析物の補正されていないシグネチャの例を示す。
【
図7B】第2の実施形態による特徴づけ方法により補正した
図7Aの分析物シグネチャを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図、および本明細書以下の部分では、同じ参照番号は、同一の、または類似する要素を提示する。それに加えて、さまざま要素は、図の明瞭性に優先度を与えるような方法でスケールを変更するように示されていない。その上、さまざまな実施形態および変形形態は、互いに排他的ではなく、一緒に組み合わされてよい。特に指定のない限り、「実質的に」、「ほぼ」、「のオーダーの」という用語は、最も近い10%を、好ましくは最も近い5%を意味する。その上、「…と…の間」という用語および均等物は、特に指定のない限りそれらの範囲が含まれることを意味する。
【0045】
本発明は、分析すべきガス試料内に存在する分析物Aの特徴づけに関する。特徴づけは、測定機器、流体供給機器、寄生化学種P用濃度センサ、および処理ユニットを備える「電子鼻」と呼ばれる分析システムを用いて遂行される。
【0046】
以下で詳細に記述するように、測定機器は、複数の感応性部位を画定する官能化された測定表面を含み、各感応性部位は、吸着/脱着により分析物と、およびこの場合、分析物と異なる、したがって、分析物Aのシグネチャに測定ノイズを誘発する限り寄生物と分類される少なくとも1つの化学種Pと、相互作用できる受容体を含む。
【0047】
例示として、電子鼻は、シリコン干渉計技術(MZI)または表面プラズモン共鳴(SFR)を使用する光測定技術を使用する。したがって、測定機器は、光源と、画像センサ、または光検出器のマトリックスであり得るがある少なくとも1つの光検出器とを備える。検出した測定信号の強度は、特徴づけるべき分析物A(および寄生化学種P)と受容体の間の相互作用を表す当該の感応性部位の局所屈折率の値に依存する。
【0048】
あるいは(たとえば、欧州特許第3184485号明細書という文献で記述される)MEMSまたはNEMSのタイプの電磁共振器などの他の測定技術を実装してよい。より広義的には、抵抗性の、圧電性の、機械的な、音響的な、または光学式のタイプの測定機器であってよい。NEMSまたはMEMSの微小共振器の共振周波数を特定するための技法の場合、測定信号は、ミクロ電子放射線または均等物の変動を表す電気信号であり得る。
【0049】
一般に、「特徴づけ」という用語は、ガス試料が含有する分析物Aと電子鼻の感応性部位の受容体の相互作用を表す情報を得ることを意味する。当該の相互作用はこの場合、分析物Aと受容体の吸着および/または脱着の事象である。このように、この情報は、相互作用パターンを、換言すれば分析物の「シグネチャ」を形成し、このパターンは、たとえばヒストグラムまたはレーダー図の形で表現される。換言すれば、電子鼻がMの別個の感応性部位を備える場合、分析物Aのシグネチャは、当該の感応性部位に関連する有用な信号Sum(t)から導出されたスカラーの代表情報により形成された次元Mのベクトルである。
【0050】
分析物Aは、電子鼻により特徴づけることを意図する少なくとも1つの化学種であり、ガス試料内に存在する。化学種は、例示として細菌、ウイルス、タンパク質、脂質、揮発性有機分子、無機化合物などであってよい。さらに、受容体(リガンド)は、感受性部位に固定された要素であり、kAで示される分析物Aと受容体の間の化学的親和力および/または物理的親和力が最初は既知ではないが分析物Aと相互作用する能力を有する要素である。異なる感応性部位の受容体は、分析物Aと相互作用する自身の能力に影響を及ぼす異なる物理化学的性質を有し、それにより異なる感応性部位を画定する。たとえば、受容体は、アミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド、ポリペプチド、タンパク質、有機ポリマーなどを含んでよい。分析物Aは、単一化学種、またはガス試料の間で相対的比率が(たとえば、5%または10%の範囲内で)一定のままである異なる化学種の組であり得る。
【0051】
本発明の範囲内で、分析物Aを含有するガス試料はまた、特徴づけるべき分析物Aと別個のものであり受容体と相互作用できるとき、少なくとも1つのいわゆる寄生化学種Pを含有する。吸着/脱着によるガス試料と受容体の相互作用は、測定信号に影響を及ぼし、測定信号はこの場合、分析物Aに関連する有用な部分、および当該の化学種Pに関連し測定ノイズを形成する有用ではない部分を含み得る。有用ではない部分はとりわけ、ガス試料の相対湿度がゼロではないときの水分子、アルコール(エタノール、ブタノール、…)、硫化水素であり得る。しかしながら、初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間の化学種Pの濃度の変動は、分析物Aの特徴づけの品質を劣化させ得る測定ノイズを形成することは明らかである。本発明による特徴づけ方法は、この測定ノイズを排除可能にする。
【0052】
図2は、一実施形態によるSPR画像法を使用する電子鼻1の概略的な部分図である。本発明による電子鼻1は、
図1Aおよび
図1Bを参照して記述する電子鼻に類似し得、たとえば測定チャンバ内に位置する寄生化学種Pの濃度用センサ9を含むという点で本質的に異なる。流体注入フェーズPh1とPh2の間にいくつかの寄生種P
1、P
2、…の濃度に変動が存在する場合、電子鼻は、各寄生種Pの濃度を測定するように適合された単一センサ9または複数のセンサ9を備え得る。本明細書の残りの部分では、明確にするために、1つの寄生種Pだけが存在すると仮定する。
【0053】
この例では、電子鼻1は、SPR技術に基づき、この例では当業者に公知のクレッチマン(Kretschmann)構成の特徴を有し、本発明はこの構成に限定されない。しかしながら、上記に示すように、MEMSまたは官能化NEMSのタイプの微小共振器の共振周波数の測定などの他の測定技法を使用できる。上記に言及するように、電子鼻1はまた、2020年11月18日に提出された特許出願である仏国特許発明第2011842号明細書に記述されるような、たとえばシリコンフォトニクス技術で、マッハ-ツェンダー干渉計による光測定に基づき得る。
【0054】
電子鼻1は、分析すべきガス試料を受け取ることを意図する測定チャンバ4内に配置された互いに別個の、mが1~Mの範囲に及ぶMの感応性部位6
mを含み、これらの感応性部位6
mはそれぞれ、特徴づけるべき分析物Aと(
図1Bを参照されたい)この場合、寄生種Pと相互作用できる受容体により形成される。感応性部位6
mは、特徴づけるべき分析物Aについて化学的親和力および/または物理的親和力に関して異なる受容体を備えているという意味で互いに別個のものであり、したがって、感応性部位6
mの間で異なる相互作用情報を提供することを意図する。感応性部位6
mは、測定表面5の別個のゾーンであり、互いに隣接する、または間隔を置いて離して配置され得る。電子鼻1はまた、たとえばどんな測定ドリフトも検出すること、および/または欠陥がある感応性部位の識別を可能にすることを目的として、複数の同一感応性部位を含み得る。
【0055】
電子鼻はこの場合、SPR画像法タイプの測定機器3を含み、この場合、当該の感応性部位6mから到来する測定光信号の強度をリアルタイムで測定することにより感応性部位6mごとに化学種と受容体の相互作用を定量化可能にし、この光信号はこの場合、光源7が放出した一次光信号が反射した部分である。光センサ8が検出した光測定信号の強度は、詳細には化学種と受容体の吸着/脱着相互作用と直接相関関係がある。MEMSまたはNEMSの微小共振器の共振周波数を測定するための技法の場合、測定信号は、ミクロ電子放射線または均等物の変動を表す電気信号であり得る。
【0056】
SPR画像法測定に関連して、測定機器3は、感受性部位6mのすべてから到来する光測定信号Sm(t)をリアルタイムで獲得できる。このように、一次光信号に応答して感受性部位6mから到来する光測定信号Sm(t)は、同じ光センサ8が獲得した画像の形でリアルタイムに一緒に検出される。
【0057】
このように、光測定機器3は、感応性部位6mの方向に一次光信号を送ることができ測定支持物5の高さで表面プラズモンを発生させることができる光源7を含む。光源7は、放出スペクトルが中心波長λcを中心とする放出ピークを有する発光ダイオードにより形成できる。光源7と測定支持物5の間にさまざまな光学素子(レンズ、偏光子、…)を配列できる。
【0058】
光測定機器3はまた、光センサ8を、この場合、画像センサを、すなわち、一次光信号に応答して感応性部位から到来する光信号の画像を収集し検出できるマトリックス光センサを含む。画像センサ8は、マトリックス光検出器、たとえばCMOSセンサまたはCCDセンサである。したがって、光センサ8は、好ましくは、空間分解能が、同じ感応性部位6mから到来する光測定信号をいくつかの画素が獲得するようなものである画素のマトリックスを含む。
【0059】
処理ユニット(図示せず)は、特徴づけ方法の一部として、以下で記述する処理動作を行うことを可能にする。この処理ユニットは、少なくとも1つのマイクロプロセッサおよび少なくとも1つのメモリを含み得る。処理ユニットは、光測定機器3に、より具体的には画像センサ8に接続される。処理ユニットは、情報記録媒体に記録された命令を実行できるプログラム可能プロセッサを含む。処理ユニットは、特徴づけ方法を実装するのに必要な命令を包含する少なくとも1つのメモリをさらに含む。メモリはまた、測定の各瞬間に算出した情報を記憶するように適合される。
【0060】
以下で記述するように、処理ユニットは詳細には、現在の瞬間tiに、感応性部位6mに関連する測定信号Sm(ti)を決定するために、測定期間Δtにわたり所与のサンプリング周波数feで獲得した複数のいわゆる基本画像を記憶および処理するように構成される。好ましくは、測定信号Sm(ti)は、測定の瞬間tiに、感応性部位6mに関連する画素上で反射し画像センサ8が検出した光信号の平均強度に対応する。画素上で検出した平均光強度は、以下で詳細に記述するように、感応性部位6mの1つまたは複数の画像に関して実現できる。
【0061】
流体供給機器2は、初期フェーズPh1の間にキャリアガスだけを(すなわち、分析物Aなしに)、かつ特徴づけフェーズPh2の間にキャリアガスにより形成されたガス試料、および分析物を測定チャンバ4に供給するのに適している。ガス試料は、特徴づけるべき分析物Aを含むという点で本質的にキャリアガスと異なり、寄生種Pは、ガス試料内に存在し、さらにまたキャリアガス内に存在しても存在しなくてもよい。1つまたは複数の追加ガスは、存在してよいが、電子鼻1から実質的に応答をまったく誘発しないという意味で無臭である。第2のガス試料内に存在する追加ガスの例は、気相の希釈剤であり得る。このように、分析物Aは、貯蔵器10が含有する液状希釈剤に貯蔵できる。希釈剤の気相および分析物Aをキャリアガス(たとえば、湿った空気)に追加してガス試料を形成する。いずれの場合も、寄生種Pは、キャリアガス内で非ゼロまたはさらにはゼロであり得る濃度cP,iを、およびガス試料内で非ゼロでありcP,iと異なる濃度cP,fを有する。したがって、ゼロではない差ΔcP=cP,f-cP,iが存在する。
【0062】
図2の例では、流体供給機器2は、キャリアガス注入口11、および分析物Aの貯蔵器10を含み得る。この場合、貯蔵器10は、中に分析物Aが配置された希釈剤を含有する。貯蔵器10は、一方ではキャリアガス注入口11および貯蔵器10を、他方では測定チャンバ4の注入口に接続する複数の流体管路を含み、弁、および場合によって質量流調整器を含む。このように、貯蔵器10は、初期フェーズPh1およびパージフェーズPh3の間にキャリアガス(たとえば、水濃度がc
P,iの湿った空気)を、かつ特徴づけフェーズPh2の間にガス試料(水の濃度がc
P,fの湿った空気、分析物A、および気相の希釈剤)を測定チャンバ4に供給可能にする。貯蔵器10は、測定チャンバ内の分析物Aの濃度c
Aが経時的に一定のままであることを確実にするのに適し得る。さらに、電子鼻は、寄生種Pの濃度c
P用センサ9を、この場合たとえば相対湿度センサをさらに備える。濃度c
Pのセンサ9は、測定チャンバ内に、または測定チャンバの上流もしくは下流に配列できる。濃度c
Pのセンサ9は、初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間の濃度の変動Δc
P=c
P,f-c
P,i(または相対濃度)を算出できる処理ユニットに接続される。
【0063】
しかしながら、流体注入ステップ(フェーズPh1およびPh2)の間に測定チャンバ内に存在する寄生種Pの濃度cPの変動は、特徴づけの品質を低下させる測定ノイズを生じさせることは明らかである。この測定ノイズは、初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間の、測定チャンバ内部の濃度cPの非ゼロの差につながるノイズである。この測定ノイズは、測定チャンバの内側の環境を特徴づける、通常は経時的に定常のままであるべきパラメータの時間的変動から生じるという点で測定ノイズを構成する。
【0064】
ΔcPに関係するこの測定ノイズの問題は、有用な信号Sum(t)に基づき特徴づけ方法が行われるとき、すなわち、特徴づけ方法が、対応する測定信号Sm(t)から基準値Sm,i(ベースライン)を減算するステップを含むとき、特に重要である。実際は、このステップの目的は、測定信号の環境に関連する影響を、詳細にはキャリアガスの影響を、分析物Aの特徴づけから除去することである。しかしながら、この基準値Sm,iは、初期フェーズPh1の間のキャリアガスを表すが、測定チャンバ内でのキャリアガスの物理的性質は変化してしまっていることがあるので(寄生種Pの濃度cPの変動)、特徴づけフェーズPh2の間にもはや必ずしもキャリアガスを表さないことは明らかである。
【0065】
図3Aは、異なるガス試料の特徴づけを反映する3つの相互作用パターンまたはシグネチャを例示し、この特徴づけは、従来技術の例による特徴づけ方法により行われる。これらのシグネチャM1、M2、M3はこの場合、定常平衡状態Ph2.2(
図1Cを参照されたい)でセンサーグラムSu
m(t)により決定された平衡値(定常)Su
m,fのレーダー図の形をとる表現である。これらのシグネチャM1、M2、M3は、流体注入フェーズPh1とPh2の間の濃度c
Pの変動の影響を、この場合、分析物Aの特徴づけでの相対濃度Δc
Pの変動の影響を強調する。これらのシグネチャM1、M2、M3を得るために、キャリアガスは、3つの試験の間、同一であり、約12%の初期相対湿度c
P,iを有する湿った空気に対応する。
【0066】
第1のシグネチャM1は、相対湿度cP,fが約50%に等しい湿った空気から形成された、分析物Aがブタノール分子であるガス試料に対応する。このように、特徴づけ方法の実装形態は、この場合、初期フェーズPh1の間にほぼ12%に等しいcP,iから特徴づけフェーズの間にほぼ50%に等しいcP、fになる、測定チャンバ内の相対湿度の比較的大きな変動を有する。また、基準値Sm,iは、キャリアガス(12%のcP,iの湿った空気)に関して決定され、平衡値は、この基準値Sm,iを減算することによりガス試料(分析物Aを伴う50%のcP,fの湿った空気)に関して決定される。このように、この相対濃度ΔcPは、測定ノイズを形成し、測定ノイズの影響は、シグネチャM1がブタノール分子だけを効果的に表すように制限しなければならない。
【0067】
第2のシグネチャM2は、相対湿度cP,fがcP,i(すなわち、12%)に実質的に等しい湿った空気により形成された、分析物Aが同じくブタノール分子であるガス試料に対応する。特徴づけ方法の実装形態は、相対湿度の変動ΔcPがゼロである限り、キャリアガス(cP,iの湿った空気)に関連する基準値Sm,iを減算することにより、ガス状の環境の影響を排除して、その結果、分析物Aと受容体だけの相互作用を特徴づけることを可能にする。また、シグネチャM2は、相対湿度の変動ΔcPに関連する測定ノイズがまったく存在しないので、分析物Aだけを表す。シグネチャM1は、シグネチャM2の上に重ならず、M1の場合ΔcPに関連する測定ノイズの存在を反映することが留意される。したがって、初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間に測定チャンバ内に相対湿度の差ΔcPが存在する場合でさえ、分析物だけを表すシグネチャM2に向けて移行するために、シグネチャM1を補正できることは重要である。
【0068】
第3のシグネチャM3は、相対湿度cP,fがほぼ50%に等しい湿った空気だけにより形成されたガス試料に対応する。この場合、相対濃度の変動ΔcPだけが湿った空気の特徴づけに及ぼす影響は、分析物が存在しない状態で電子鼻により測定される。初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間の相対濃度の増分ΔcPは、反応性部位6mの反射率の変動のΔ%Rmの増大に帰着することは明らかである。シグネチャM1(非ゼロのΔcPの、分析物Aが存在する湿った空気)は、シグネチャM2(ゼロのΔcPの、分析物Aが存在する湿った空気)とシグネチャM3(非ゼロのΔcPの、分析物Aが存在しない湿った空気)の間に位置し、非ゼロの相対濃度ΔcPに関連する測定ノイズが分析物Aのシグネチャに及ぼす影響を明確に示すことが理解できる。したがって、分析物Aの特徴づけの品質を改善するために、この測定ノイズを制限できる、またはさらには排除できることは重要である。
【0069】
図3Bは、初期フェーズPh1と特徴づけフェーズPh2の間に測定チャンバ内に存在する寄生種Pの濃度c
Pの時間的進展の例、ランクmの感応性部位6
mに関する測定信号S
m(t)の時間的進展の例、および最後に有用な信号Su
m(t)の時間的進展の例を示す。
【0070】
グラフの左側は、2つの流体注入フェーズPh1とPh2の間に濃度c
P(t)が一定のままである状況に対応する。初期フェーズPh1では、測定チャンバ内にキャリアガスだけが存在し、寄生種Pは、値c
P,iの濃度を有し、その結果、基準値S
m,iを有する測定信号S
m(t)をもたらす。フェーズPh2では、分析すべきガス試料を測定チャンバの中に導入する。分析物Aが存在することに起因して、かつ濃度c
P(t)が一定のままであるので、測定信号S
m(t)は、S
m,iよりも大きな定常値S
m,fに向けて移行する。
【0071】
グラフの右側は、2つの流体注入フェーズPh1とPh2の間に濃度cP(t)が変動する状況に対応する。その結果、初期フェーズPh1の間、測定チャンバ内にキャリアガスだけが存在し、寄生種Pは、値cP,iの濃度を有し、その結果、基準値Sm,iを有する測定信号Sm(t)を得る。しかしながら、フェーズPh2では、ガス試料を導入することにより、寄生種Pの濃度cP(t)を変動させ、この場合、基準値cP,iに対してΔcP大きな値cP,fまで増大する。
【0072】
寄生種Pの濃度がこのように変動する結果、このフェーズPh2の間、この場合、濃度cPの変動がまったく存在しない場合(点線の曲線)よりも、ΔSm大きな値Sm,fに移行する測定信号Sm(t)の変動をもたらす。この場合、有用な信号Sum(t)は、差ΔcPに依存する値ΔSmの測定ノイズを有すると言える。これはこの場合、分析物Aの特徴づけに関して、測定ノイズΔSmを評価して、基準値Sm,iを有する測定信号Sm(t)から測定ノイズΔSmを減算する問題である。
【0073】
測定信号Sm(t)から測定ノイズΔSm(ΔcP)を減算するために、1つの取り組み方法は、特徴づけステップの前に較正を遂行することであり得る。2019年11月29日に提出された特許出願である仏国特許発明第1913555号明細書という特許出願は、そのような較正ステップを含む特徴づけ方法について記述している。従来の較正は、寄生種Pだけに関連する(すなわち、分析物Aなしに)測定信号Sm(t)の基準値Sm,iの変化を表現する補正関数を寄生種Pの濃度cPの関数として決定するステップを伴う。このように、特徴づけステップでは、濃度cPがcP,iを有する初期フェーズPh1の間に決定された基準値Sm,iを定常値Sm,fから減算する代わりに、フェーズPh2の間に有効値cP,fに対応する補正関数から得られた値Sm,iを減算する。
【0074】
しかしながら、寄生種Pと受容体の親和力kPは、分析物Aの存在により影響を受得ることは明らかである。たとえば、寄生種Pが水分子(気相の水)であり分析物Aが親水性または疎水性であるとき、受容体に吸着した分析物Aは、引力または反発力を水分子に誘発し得、それにより、寄生種Pの親和力kPを修正する。親和力kP|Aはこの場合、分析物Aが存在する状態での寄生種Pの親和力であるとして留意される。較正ステップはこの場合、寄生種Pと受容体の相互作用が分析物Aの存在により影響を受ける限り、特徴づけフェーズPh2の間の実際の測定ノイズを正確に推定しないことがある。
【0075】
また、本発明による特徴づけ方法は、これまでの較正の取り組み方法のように分析物Aが存在しない状態ではなく、分析物Aが存在する状態で寄生種Pと受容体の相互作用から測定ノイズを推定するという考え方に基づく。このために、特徴づけ方法は最初に、同じ化学種を、すなわち、同じ分析物Aおよび同じ寄生種Pを含有するが、一方の獲得nからn+1へ相対濃度Δc
P(n)が異なる、Nの異なるガス試料に関して有用な信号Su
(n,m)(t)の定常値Su
(n,m)fを獲得するステップを伴う。
【0076】
特徴づけ方法の次の例では、この最適化問題は、2段階で解決でき、これは、第1の実施形態(
図4および
図5の流れ図)である。あるいは、この最適化問題は、1段階で解決でき、これは、第2の実施形態(
図6の流れ図)である。当然のことながら、この最適化問題を解決する他の方法が可能である。
【0077】
図4は、注入フェーズPh1とPh2の間の、非ゼロの相対濃度度Δc
Pに関連する測定ノイズを低減する、またはさらには排除することにより、分析物Aの特徴づけの品質を改善可能にする第1の実施形態による、分析物Aを特徴づけるための方法の流れ図である。ガス試料は分析物Aを含有し、さらにまた少なくとも1つの寄生化学種Pを含有する。この例では、寄生種Pは、水分子であるが、とりわけエタノールおよび硫化水素などの1つまたは複数の他の寄生種であってよい。
【0078】
上記で示すように、第1のフェーズ100では、ガス試料のNの最初のシグネチャ(補正されていないシグネチャ)を獲得し、したがって、これらのシグネチャは、分析物Aおよび寄生種Pと受容体の相互作用を表す。次いで、第2のフェーズ200では、分析物Aだけを特徴づける補正されたシグネチャを得るために、第1のシグネチャでの寄生種Pの寄与を推定するように最適化問題を解決する。
【0079】
フェーズ100:分析物Aおよび寄生種Pを含有するガス試料の、N>1であるNの第1のシグネチャの獲得。
【0080】
次のステップ110~140は、N回行われ、N>1であり、異なるガス試料に関して毎回、これらのNのガス試料は、分析物Aおよび寄生種Pを含有し、注入フェーズPh2の間に少なくとも寄生種Pの濃度cPだけ互いに異なる。各獲得フェーズは、1~Nの範囲に及ぶ非ゼロ整数であるインジケータnにより示される。Nの値が大きければそれだけ水シグネチャの推定値の品質、したがって、第1のシグネチャの補正はよくなることに留意されたい。
【0081】
第1のステップ110では、測定チャンバの中にキャリアガスG(n)を注入し、これは、上記で言及する流体注入フェーズPh1である。キャリアガスG(n)は、分析物Aを含有しない。キャリアガスG(n)は、寄生種Pを含有してもしなくてもよく、したがって、濃度cP(n)iは、非ゼロであってもゼロであってもよい。キャリアガスG(n)はまた、他の化学種を含んでよいが、他の化学種は、感応性部位6mの受容体と吸着/脱着式相互作用が実際にあるので、いわゆる寄生有ではない。
【0082】
次いでガス試料E(n)を測定チャンバの中に注入し、これは、上記で言及する流体注入フェーズPh2である。ランクnのガス試料E(n)は、濃度cA(n)の分析物Aおよび濃度cP(n)fの寄生種Pを含む。この場合もまた、ガス試料は、受容体と相互作用しない科学寄生種を含んでよい。また、分析物Aおよび寄生種Pだけは、受容体と相互作用し、測定信号S(n,m)(t)の変動を生じさせる。
【0083】
ステップ120では、ステップ110と平行して、感応性部位6mに関連する測定信号S(n,m)(t)を決定し、mは1~Mの範囲に及び、M>1である。したがって、これらの測定信号S(n,m)(t)は、流体注入フェーズPh1(キャリアガスG(n)だけ)では寄生種Pの相互作用を表し、次いで流体注入フェーズPh2(ガス試料E(n))では分析物Aおよび寄生種Pの相互作用を表す。
【0084】
ステップ130では、キャリアガスに関連する基準値S(n,m)i(ベースライン)は、注入フェーズPh1で決定され、注入フェーズPh2で決定された測定信号S(n,m)(t)の定常値S(n,m)fから減算される。このように、mの感応性部位ごとに、ランクnの獲得に関してガス試料E(n)に関連するシグネチャSu(n,m)f=S(n,m)f-S(n,m)iを得る。
【0085】
ステップ140では、注入フェーズPh1での種Pの濃度の値cP(n)iを測定し、次いで注入フェーズPh2での値cP(n)f、および濃度の差(または相対濃度)ΔcP(n)=cP(n)f-cP(n)iを決定する。
【0086】
1~Nの範囲に及ぶN,および1~Mの範囲に及ぶmについて、Nの第1のシグネチャSu(n,m)fを得るように、先行するステップをN回繰り返す。一方の反復から他方の反復まで、したがって、nとn+1の間、対応するガス試料E(n)およびE(n+1)は、本質的に差ΔcP(n)≠ΔcP(n+1)だけ互いに異なり、したがって、互いに異なる値を有するNの差ΔcPが存在する。分析物Aの濃度cAは、一方のガス試料から他方のガス試料まで変動しても変動しなくてもよいことに留意されたい。
【0087】
【0088】
フェーズ200:Nのガス試料内に存在する分析物Aを特徴づける、Nの補正されたシグネチャを得るために、最適化問題を解決する。
【0089】
【0090】
【0091】
を最小化し、目的関数
【0092】
【0093】
【0094】
ステップ210では、以下の最適化問題を解決する。
【0095】
【0096】
換言すれば、
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
の間で二乗誤差を最小化するステップを伴う。
関数f(および関数g)は、ここでは「コスト関数」と呼ばれるが、さらにまた「コスト」、「目的関数」、「目的物」、またはさらには「基準」とも呼ぶことができる。コスト関数fを最小化することは、関数-fを最大化することと等化であることに留意されたい。
【0101】
最適化問題を解決するためのさまざまな公知の技法を、たとえば、パラメータすべてに関する勾配降下法(gradient descent)、またはその他のパラメータを固定して考慮することにより各パラメータを最適化するブロック勾配降下法(block gradient descent)を実装できる。2つの事例では、最適条件を見つけ出すことを困難にする目的関数の非凸性に起因して、初期条件をランダムに選択することから始める必要がある。
【0102】
ステップ220では、以下の最適化問題を解決する。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
であるようにコスト関数gを最大化するステップからなる。
【0107】
このために、ステップ221では、Qの局所解
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
ステップ222では、次いでQの局所解からどの解qfが最小分散スコアを有するか決定する。
分散スコアはこの場合、局所解ごとの共分散行列のトレース、すなわち、局所解qごとのmの各センサの分散の合計である。より詳細には、分散スコアは、1つの乗法因子
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
図5は、第1の実施形態の一変形形態による、分析物Aの特徴づけ方法の流れ図である。この変形形態は、本質的にコスト関数gを最適化する手法が
図4の方法と異なる。
【0117】
方法は、Nの第1のシグネチャを獲得するフェーズ100を含む。このフェーズ100は、
図4を参照して記述したフェーズと同一、またはそれに類似し得る。したがって、フェーズ100は、ステップ110~150を含んでよく、したがって、ここで再度詳細に示さない。
【0118】
方法はこの場合、コスト関数fを最小化するステップ、および次いでコスト関数gを最大化するステップからなる最適化問題を解決するステップからなるフェーズ200を含む。コスト関数fを最小化するステップ210は、すでに記述したステップと同一であってよく、ここで再度説明しない。
【0119】
ステップ230は、ステップ210の後に得たQの局所解からコスト関数gを最大化するステップからなる。ステップ230はこの場合、すでに決定した局所解から解を決定し、
【0120】
【0121】
であるようにコスト関数gを最大化するステップからなる。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
図6は、第2の実施形態による分析物Aの特徴づけ方法の流れ図である。この方法は、2つのコスト関数fおよびgを最適化する手法が
図4および
図5の方法と本質的に異なる。
【0130】
方法は、Nの第1のシグネチャを獲得するフェーズ100を含む。このフェーズ100は、
図4を参照して記述するフェーズと同一、またはそれに類似すし得る。フェーズ100は、ステップ110~150を含んでよく、したがって、ここで再度詳細に記述しない。
【0131】
方法はこの場合、同時にコスト関数
【0132】
【0133】
を最小化しコスト関数
【0134】
【0135】
を最大化するステップからなる最適化問題を解決するフェーズ300を含む。これは以下の関数Jを最小化するステップになる。
【0136】
【0137】
ここでは、収束条件付の反復アルゴリズムによりこの最適化問題を解決する。このように、初期化ステップ311の後、収束基準が検証されるまでステップ312および313を反復して遂行する。したがって、各初期化が(局所解ではない)大域解につながるので、多数のランダムな初期化を遂行する必要がない。
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
方法は、収束するまで関数hを連続して適用することになる。
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
である。
【0152】
ステップ314では、収束基準が検証されたかどうかを判断する。これは、変数の一方および/または他方のiとi+1の間の変動と事前に規定されたしきい値を比較するステップを伴う。この変動がこのしきい値よりも大きいとき、インジケータiを1単位だけ増分することによりステップ312および313を繰り返す。逆に、この変動がしきい値以下であるとき、次のステップを遂行する。
【0153】
ステップ320では、
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
フェーズ100のNの獲得の間に決定した差ΔcP(n)は、より大きな、またはより小さな変動の大きさを有してよく、この変動の大きさは、最大偏差max(ΔcP(n))と最小偏差min(ΔcP(n))の間の差として画定されることに留意されたい。たとえば10%のオーダーの小さな変動の大きさではこの場合、より正確な結果を与える第2の実施形態による特徴づけ方法を使用することは有利である。
【0158】
図7Aは、異なる濃度の寄生種Pが存在する状態で分析物Aを表す3つの補正されていないシグネチャSu
1、Su
2、およびSu
3を例示する。これらの例では、分析物Aは、ブタノールであり、寄生種Pは、気相の水(湿った空気)である。シグネチャSu
1(点線)は、36.5%の偏差Δc
P,1に対応し、シグネチャSu
2(破線)は、33.5%の偏差Δc
P,2に対応し、シグネチャSu
3(実線)は、-1%の偏差Δc
P,3に対応する。
【0159】
図7Bは、第2の実施形態による特徴づけ方法の第2のフェーズ300を用いてシグネチャSu
1およびSu
2を補正することにより得た、2つの補正されたシグネチャSuc
1およびSuc
2を例示する。ここでは比較のために、補正されていないシグネチャSu
3を再現する(しかし最適化で使用されない)。小さな変動Δc
Pは、基準値S
m,fを減算したのでシグネチャSuにほとんど影響を及ぼさないことに留意されたい。補正されたシグネチャSuc
1(点線)およびSuc
2(破線)は、実質的に併合され、シグネチャSu
3(実線)に近いことを理解でき、このように、寄生種Pと受容体の相互作用につながる影響は補正されているという事実を例示している。
【0160】
上記で特定の実施形態について記述してきた。さまざまな変形形態および修正形態が当業者に明らかになるであろう。
【0161】
このように、上記で示すように、獲得フェーズ100の間に使用するガス試料は、複数の寄生化学種P1、P2、…を含み得る。また、ステップ140の間、注入フェーズPh1およびPh2の間にこれらの異なる寄生種の濃度を測定し、次いで偏差ΔcP1、ΔcP2、…を決定する。補正フェーズ200および300はこの場合、上記で記述したものに類似し、目的関数
【0162】
【0163】
の最適化に基づく。
【国際調査報告】