(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】高性能のネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 28/00 20060101AFI20240723BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240723BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240723BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240723BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20240723BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240723BHJP
B22F 3/00 20210101ALN20240723BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20240723BHJP
B22F 9/04 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C22C28/00 A
H01F1/057
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
C21D6/00 B
B22F3/24 K
B22F3/24 B
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
B22F9/04 C
B22F9/04 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503619
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 CN2022106752
(87)【国際公開番号】W WO2023001189
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】202110819841.5
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523304098
【氏名又は名称】南通正海磁材有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】李志強
(72)【発明者】
【氏名】張▲テイ▼
(72)【発明者】
【氏名】趙南
(72)【発明者】
【氏名】薛令文
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB09
4K017BB12
4K017BB13
4K017CA07
4K017DA04
4K017EA03
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
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4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018FA06
4K018FA08
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB07
5E040NN01
5E040NN12
5E040NN13
5E040NN18
5E062CD04
5E062CG02
(57)【要約】
本発明は、高性能のネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法を開示し、上記磁石は、R1
mFenBpM2
wを基材とし、RH
xM1
yBz合金を拡散源とし、拡散熱処理により製造して得る。本発明は、RH
xM1
yBz合金を拡散源とし、且つ着脱可能の材料反応バレルを用いて拡散することにより、高いコストパフォーマンスの希土類永久磁石を効率的に製造し、従って、拡散プロセスにおける拡散源及び基材間の融着、粘着の問題を解決し、且つネオジム鉄ボロン系焼結磁石のHcjを向上させ、且つ拡散プロセスの効率改善の問題を解決し、更に本発明の拡散源を再利用できることによりネオジム鉄ボロン系焼結磁石の製造コストを低減し、且つサイズの比較的大きい磁石に適用でき、特に配向方向の厚さが8~30 mmの高いコストパフォーマンスの焼結ネオジム鉄ボロン系製品の量産性を確保できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R
H
xM
1
yB
z合金であって、前記R
HはDy、Tbから選ばれる1種又は2種の元素であり、M
1はTi、Zr、Al元素から選ばれる1種、2種又は3種の元素であり、Bはホウ素元素であり、x、y、zは元素の重量パーセントを表し、x、y、zは75%≦x≦90%、0.1%≦z≦0.5%、y=1-x-zの関係を満たす、ことを特徴とするR
H
xM
1
yB
z合金。
【請求項2】
前記R
H
xM
1
yB
z合金においては、80%≦x≦85%、0.15%≦z≦0.3%、y=1-x-zであり、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z合金において、M
1はTi、Zr、Al元素のうちの何れか2種の元素であり、2種の元素の質量比が1:1~2:1であり、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z合金は、シート状形態であってもよく、例えば、その平均厚さ≦10mm、好ましくは、平均厚さ≦5mmである、ことを特徴とする請求項1に記載のR
H
xM
1
yB
z合金。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のR
H
xM
1
yB
z合金の製造方法であって、前記製造方法は、R
H元素、M
1元素及びB元素を含む原料を製錬・急結し、前記R
H
xM
1
yB
z合金を製造して得ることを含み、
好ましくは、前記R
H元素、M
1元素及びB元素は、請求項1に記載の意味を有し、
好ましくは、前記R
H元素、M
1元素及びB元素の使用量は、R
H:M
1:B重量比=x:y:zに従って計量され、そのうち、x、y及びzは、請求項1に記載の意味を有する、ことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記製錬は、不活性ガス雰囲気中で行われ、好ましくは、前記不活性ガス雰囲気は、アルゴンガスにより提供され、
好ましくは、前記製錬の温度は1350℃~1550℃であり、前記製錬の保温時間は0~30minであり、
好ましくは、前記製錬は、原料が熔融して合金液に形成され、合金液が完全に熔融するまでであり、
好ましくは、前記製造方法は、製錬して得られた合金液が完全に熔融した後、鋳込みの温度まで冷却することを更に含み、
好ましくは、前記冷却の速度は3~9℃/minであり、
好ましくは、前記鋳込みの温度は1330~1530℃である、ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、鋳込みの温度まで冷却した合金液をメルトスピニング法により鋳込んで、R
H
xM
1
yB
z急結合金シートを得、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z急結合金シートの平均厚さ≦10mm、好ましくは、平均厚さ≦5mmであり、
好ましくは、前記製造方法は、不活性ガス雰囲気において、R
H元素、M
1元素及びB元素を含む原料を製錬して合金液になり、合金液が完全に熔融した後、鋳込みの温度まで冷却し、スピニング方法を用いて鋳込んで、平均厚さ≦10mmのR
H
xM
1
yB
z急結合金シートを得ることを含む、ことを特徴とする請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のR
H
xM
1
yB
z合金及び/又は請求項3~5の何れか一項に記載の製造方法により得られたR
H
xM
1
yB
z合金の、焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造における応用であって、好ましくは高性能の焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造における応用であり、
好ましくは、請求項1又は2に記載のR
H
xM
1
yB
z合金及び/又は請求項3~5の何れか一項に記載の製造方法で得られたR
H
xM
1
yB
z合金は、焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造における拡散源とする、応用。
【請求項7】
ネオジム鉄ボロン系焼結磁石であって、前記磁石は、R
1
mFe
nB
pM
2
wを基材とし、R
H
xM
1
yB
z合金を拡散源とし、拡散熱処理により製造して得、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z合金は、請求項1又は2に記載の意味を有する、ことを特徴とするネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項8】
前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、前記R
1はPr、Nd、Dy、Tb、Ho、Gd、Ce、La及びY元素からなる群より選ばれる1種、2種又は更なる複数種の元素であり、Feは鉄元素であり、Bはホウ素元素であり、M
2はTi、Zr、Co、V、Nb、Ni、Cu、Zr、Al及びGa元素からなる群より選ばれる1種、2種又は更なる複数種の元素であり、
好ましくは、前記R
1はNd及びDyから選ばれ、前記M
2はTi、Cu、Ga及びCoから選ばれ、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、mはR
1の重量百分率含有量を表し、35%≧m≧27%であり、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、nはFeの重量百分率含有量を表し、70%≧n≧60%であり、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、pはBの重量百分率含有量を表し、前記B元素の含有量は0.8%≦n≦1.5%であり、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基体材料の製造方法は、製錬、製粉、プレス加工、焼結・時効により磁石を製造することを含み、更に機械加工、表面処理ステップを含んでもよく、
好ましくは、前記基材の配向方向の厚さは、30mmを超えず、例えば1~30mmである、ことを特徴とする請求項7に記載の磁石。
【請求項9】
前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石のHcj(固有保磁力)は、20kOe以上、好ましくは21~29kOeであり、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石のBrは、13.8~14.6kGsであり、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の密度は、7.50~7.60g/cm
3である、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の磁石。
【請求項10】
請求項7~9の何れか一項に記載の磁石の製造方法であって、前記製造方法は、
拡散源R
H
xM
1
yB
z合金及び基体材料R
1
mFe
nB
pM
2
wを均一に混合し、拡散熱処理により、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石を得るステップを含み、
好ましくは、拡散源R
H
xM
1
yB
z合金及び基材R
1
mFe
nB
pM
2
wの質量比は(1~5):1であり、
好ましくは、前記拡散熱処理は、段階的に昇降温の方式を用い、好ましくは、三段階の昇降温の方式を用い、
好ましくは、三段階の昇降温の方式の第一段階は、300~650℃まで昇温され、第一段階は、1~8h保温され、
第二段階は、750~980℃まで昇温され、第二段階は、7~50h保温され、
第三段階は、700~930℃まで降温され、第三段階は、3~20h保温され、
好ましくは、各段階の昇温速度は3~15℃/min、降温速度は5~30℃/minであり、
好ましくは、前記拡散熱処理は、時効処理を更に含み、
好ましくは、時効処理の温度は400~680℃であり、時効処理の保温時間は2~10hである、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年7月20日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202110819841.5であり、発明名称が「高性能のネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
本発明は、希土類永久磁石材料の分野に属し、具体的には、高性能のネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ネオジム鉄ボロン磁石は、現代において比較的優れた性能を有する永久磁石として、それらの性能にも差があり、そのうち、性能が最も優れているのは高性能の焼結ネオジム鉄ボロンである。高性能の焼結ネオジム鉄ボロンは、メルトスピニング法、水素破砕、ジェットミル、プレス加工、及び焼結などのプロセスにより、無酸素プロセスなどを用いて、Hcj(固有保磁力、KOe)及び(BH)max(最大磁気エネルギー積、MGOe)の和が60より大きいネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石材料を製造して得る。近年、如何にBrの低下幅が非常に小さく、コストの増加幅が大きくなく、且つHcjの向上が顕著であるネオジム鉄ボロン磁石製造プロセスを開発するかは、各ネオジム鉄ボロン磁石製造業者の重要な目標となっている。最初は、軽希土類の代わりに高価な重希土類を用いることなどによる成分の最適化、そして結晶粒の微細化によりネオジム鉄ボロン磁石の磁気エネルギー積及び保磁力を高め、同時に、二重合金、二重主相プロセスなどの粒界強化プロセスも進んでいるが、上記プロセスには何れも重希土類の高い添加割合が必要であり、これによりBrの大幅な低下をもたらし、且つ主に使用されている重希土類のDy及びTbの埋蔵量が限られており、その上コストも比較的高いため、このプロセスの発展は制限されている。近年、業界内で比較的速く発展しているネオジム鉄ボロン磁石のHcj性能を高める新たなプロセスは、焼結ネオジム鉄ボロン粒界拡散希土類及び希土類合金であり、このプロセスはコストパフォーマンスが高く、希土類永久磁石資源の節約、製品のアップグレード・モデルチェンジ、省エネルギー・排出削減、持続可能な発展などを推進する面で重要な役割を果たしている。
【0004】
例えば、公開番号がCN101707107Aである特許出願は、高残留磁気高保磁力の希土類永久磁石材料の製造方法を開示しており、それは母合金の製造、粉砕、成形、焼結による焼結磁石の製造、時効処理、機械加工、表面処理のプロセスステップを含み、焼結して焼結磁石R1-T-B-M1を製造するプロセスステップの後、重希土類HR2M2合金粉末及びR3酸化物、R4フッ化物、R5フッ化物のうちの1種又は複数種の粉末からなる予め混合した混合粉末に、焼結磁石を埋め込むことを特徴としている。そのうち、HR2はDy、Ho及びTbのうちの少なくとも1種であり、M2はAl、Cu、Co、Ni、Mn、Ga、In、Sn、Pb、Bi、Zn及びAgのうちの少なくとも1種であり、R3、R4、R5はY及びScを含む希土類元素のうちの1種又は複数種である。上記方法では、拡散処理において、磁石の間に一定の隙間を空ける必要があり、さもなければ磁石の接触面に接着のリスクがあり、これによりその外観に影響を与える。そのため、作業員が間隔をあけて磁石を配置する必要があり、これにより作業効率が低下し、且つ間隔をあけて配置することにより装入量が影響されるため、製造効率も低下する。
【0005】
公開番号がCN106298219Aである特許出願は、R-T-B希土類永久磁石の製造方法を開示しており、以下のステップを含む:a)拡散源として用いられるRL
uRH
vFe100-u-v-w-zBwMz希土類合金を製造し、上記RLはPr、Ndのうちの少なくとも1種の元素を表し、RHはDy、Tb、Hoのうちの少なくとも1種の元素を表し、MはCo、Nb、Cu、Al、Ga、Zr、Tiのうちの少なくとも1種の元素を表し、この希土類合金はR-Fe-B正方晶の主相構造を含み、u、v、w、zは各物質の重量パーセントであり、u、v、w、zは0≦u≦10、35≦v≦70、0.5≦w≦5、0≦z≦5の関係を満たし、b)RL
uRH
vFe100-u-v-w-zBwMz希土類合金を粉砕して合金粉末を形成し、c)上記合金粉末をR-T-B磁石と共に拡散装置に入れ、温度区間が750~950℃、時間区間が4~72 hで熱拡散し、d)時効処理を行う。当該発明で用いられる拡散源合金はR-Fe-B合金であるが、R-Fe-B合金が拡散源として用いられ、且つ拡散源におけるBの含有量が高すぎる場合、その融点が比較的高く、これにより拡散速度が低下する。即ち、同じ時間内に基材に入り込む有効成分が少なく、一旦拡散温度を高めると、主相結晶粒が破壊され、これにより拡散効果が弱くなる。そのため、拡散効率が悪く、理想的な性能に達することができない。
【0006】
公開番号がCN107731437Aである特許出願は、ネオジム鉄ボロン系焼結シート磁石の不可逆損失を低減する方法を開示しており、軽希土類金属Nd、Pr又はPrNd合金急結シートと、不合格のネオジム鉄ボロン系焼結シート磁石とを一定の割合で混合した後、拡散炉に入れて一定の回転速度、温度条件下で熱処理し、最後に、拡散後の磁石を460℃~520℃で3~5 hアニール処理する。この発明は、軽希土類金属Nd、Pr又はPrNd合金急結シートを拡散源として用い、Nd又はPr元素をブロックネオジム鉄ボロン系焼結シート磁石の表面層区域内に拡散させ、更にネオジム鉄ボロン系焼結シート磁石の表面区域における損傷した微細組織を修復することにより、ネオジム鉄ボロン系焼結シート磁石の保磁力を高める。しかし、当該プロセスで用いられる拡散源は軽希土類であり、軽希土類の拡散効果が限られているため、シート製品だけに対して比較的有効であり、そのHcj性能の向上は限られており(僅か1~3 KOeの増加)、そしてやや厚い製品に対して、そのHcj性能を改善する作用は明らかではない。
【0007】
公開番号がCN105321702Aである特許出願は、NdFeB系焼結磁石の保磁力を高める方法を開示しており、重希土類元素を含まない粒界拡散合金材料を用いることにより、粒界拡散法によりNdFeB系焼結磁石の保磁力を高め、拡散合金の成分はRe100-x-yAlxMyであり、ReはCe、Pr、Ndのうちの1種又は複数種であり、MはMg、Cuのうちの1種又は複数種であり、2≦X≦33、0≦y≦5である。当該プロセスの具体的なステップは、拡散合金を真空製錬し、拡散合金を粉末にするか、又はラピッドクエンチして薄いストリップにし、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の表面に拡散合金を被覆し、次いで、真空炉において、600~1000℃で1~10時間拡散し、500℃で1~5時間焼き戻すことである。当該方法は、上記分析された特許文献CN107731437Aで分析した欠点以外、その拡散プロセスは拡散源を磁石表面に被覆して拡散し、拡散源粉末又は破片が磁石表面に付着しやすく、且つ下表面に磁石自体の重力のために異なる程度の凹みが生じ、従って製品のサイズ及び/又は外観に影響を与える。
【0008】
公開番号がCN103003899Aである特許出願は、拡散処理部、分離部、熱処理部を備える処理装置を開示しており、そのうち、拡散処理部は、Re-Fe-B系焼結磁石、及び重希土類元素を含む金属RHの金属又は合金の拡散源を加熱しながら回転させるためのものであり、分離部は、拡散処理部より受け取った焼結磁石及びRH拡散源から、RH拡散源を選択的に分離するものであり、熱処理部は、重希土類元素が拡散されたRe-Fe-B系焼結磁石に対して、RH拡散源を除去した状態で熱処理を行うものである。当該装置における異なるキャビティの連結部位では、低温点が生じやすく、炉内の温度均一区域が確保されにくく、一方、拡散区域及び熱処理区域は、所要タクトが比較的長く、分離部は所要時間が比較的短いため、当該連続処理炉は効率改善の作用を更に発揮できず、例えば、拡散区域に材料がある時、分離部及び熱処理部は材料無しで待機状態であるため、拡散部、分離部、熱処理部がそれぞれ単独である設備と比較して明らかな優位性はない。
【0009】
従って、如何にネオジム鉄ボロン系焼結磁石の拡散プロセスにおける拡散源と基材間の融着、粘着の問題を解決するか、Hcjの向上が不十分であり、拡散の効率改善が困難であり、拡散源が再利用できないことにより、コストが比較的高く、且つサイズの比較的大きい磁石に適用できないネオジム鉄ボロン系製品は、早急に解決すべき技術問題となっている。
【発明の概要】
【0010】
上記技術問題を改善するために、本発明はRH
xM1
yBz合金を提供し、上記RHはDy、Tbから選ばれる1種又は2種の元素であり、M1はTi、Zr、Al元素から選ばれる1種、2種又は3種の元素であり、Bはホウ素元素であり、x、y、zは元素の重量パーセントを表し、x、y、zは75%≦x≦90%、0.1%≦z≦0.5%、y=1-x-zの関係を満たす。
【0011】
本発明の実施形態によれば、上記RH
xM1
yBz合金において、80%≦x≦85%、0.15%≦z≦0.3%、y=1-x-zであり、例示的に、x=80%、81%、82%、83%、84%、85%、z=0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%である。
【0012】
本発明の例示的な実施形態によれば、上記RH
xM1
yBz合金において、M1は、好ましくはTi、Zr、Al元素のうちの何れか2種であり、2種の元素の質量比は1:1~2:1、例示的には1:1、1.5:1、1:2、2:1である。
【0013】
本発明の例示的な実施形態によれば、上記RH
xM1
yBz合金において、RHはDyであり、M1はTi、Alのうちの2種であり、x=85%、z=0.4%、y=14.6%である。例えば、上記RH
xM1
yBz合金はDy85%Ti9.73%Al4.87%B0.4%である。
【0014】
本発明の例示的な実施形態によれば、上記RH
xM1
yBz合金において、RHはTbであり、M1はTi、Zrのうちの2種であり、x=80%、z=0.3%、y=19.7%である。例えば、上記RH
xM1
yBz合金はTb80%Ti11.82%Zr7.88%B0.3%である。
【0015】
本発明の実施形態によれば、上記RH
xM1
yBz合金は、シート状形態であってもよく、例えば、その平均厚さ≦10 mm、好ましくは、平均厚さ≦5 mm、例示的には1 mm、1.8 mm、2 mm、3 mm、4 mm、5 mmである。
【0016】
本発明は、RH元素、M1元素及びB元素を含む原料を製錬・急結し、上記RH
xM1
yBz合金を製造して得ることを含む、上記RH
xM1
yBz合金の製造方法を更に提供する。
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記RH元素、M1元素及びB元素は、上述した意味を有する。
【0018】
本発明の実施形態によれば、上記RH元素、M1元素及びB元素の使用量は、RH:M1:B重量比=x:y:zに従って計量され、そのうち、x、y及びzは、上述した意味を有する。
【0019】
本発明の実施形態によれば、上記製錬は不活性ガス雰囲気中で行われ、例えば、上記不活性ガス雰囲気は、アルゴンガス及び/又はヘリウムガスにより提供されてもよく、好ましくはアルゴンガスにより提供される。
【0020】
本発明の実施形態によれば、上記製錬の温度は1350℃~1550℃、例示的には1350℃、1450℃、1480℃、1500℃であり、更に、上記製錬の保温時間は0~30 min、例示的には5 min、10 min、20 min、30 minである。
【0021】
本発明の実施形態によれば、上記製錬は、原料が熔融して合金液に形成され、合金液が完全に熔融するまでである。
【0022】
本発明の実施形態によれば、上記製造方法は、製錬して得られた合金液が完全に熔融した後、鋳込みの温度まで冷却することを更に含む。
【0023】
好ましくは、上記冷却の速度は3~9℃/min、例示的には3℃/min、4℃/min、6℃/min、8℃/min、9℃/minである。
【0024】
好ましくは、上記鋳込みの温度は1330~1530℃、例示的には1340℃、1400℃、1430℃、1450℃である。
【0025】
本発明の実施形態によれば、上記製造方法は、鋳込みの温度まで冷却した合金液をスピニング法により鋳込んで、RH
xM1
yBz急結合金シートを得ることを含む。
【0026】
本発明の実施形態によれば、上記RH
xM1
yBz急結合金シートの平均厚さ≦10 mm、好ましくは、平均厚さ≦5 mm、例示的には1 mm、2 mm、3 mm、4 mm、5 mmである。
【0027】
本発明の例示的な実施形態によれば、上記製造方法は、不活性ガス雰囲気中で、RH元素、M1元素及びB元素を含む原料を製錬して合金液にし、合金液が完全に熔融した後、鋳込みの温度まで冷却し、スピニング法を用いて鋳込んで、平均厚さ≦10 mmのRH
xM1
yBz急結合金シートを得ることを含む。
【0028】
本発明は、焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造、好ましくは高性能の焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造における、上記RH
xM1
yBz合金の応用を更に提供する。そのうち、上記高性能の焼結ネオジム鉄ボロン材料は、Hcj(固有保磁力、KOe)及び(BH)max(最大磁気エネルギー積、MGOe)の和が60より大きいネオジム鉄ボロン系焼結永久磁石材料を指す。好ましくは、上記RH
xM1
yBz合金は、焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造で拡散源とする。
【0029】
本発明は、R1
mFenBpM2
wを基材とし、RH
xM1
yBz合金を拡散源とし、拡散熱処理により製造して得られるネオジム鉄ボロン系焼結磁石を更に提供する。
【0030】
本発明の実施形態によれば、上記RH
xM1
yBz合金は、上述した意味を有する。
【0031】
本発明の実施形態によれば、上記R1
mFenBpM2
w基材において、上記R1はPr、Nd、Dy、Tb、Ho、Gd、Ce、La及びY元素からなる群から選ばれる1種、2種又は更なる複数種の元素であり、Feは鉄元素であり、Bはホウ素元素であり、M2はTi、Zr、Co、V、Nb、Ni、Cu、Zr、Al及びGa元素からなる群から選ばれる1種、2種又は更なる複数種の元素である。
【0032】
好ましくは、上記R1はNd及びDyから選ばれ、上記M2はTi、Cu、Ga及びCoから選ばれる。
【0033】
本発明の実施形態によれば、上記R1
mFenBpM2
w基材において、mはR1の重量百分率含有量を表し、35%≧m≧27%、例示的に、m=29%、29.5%、30%、31%、32%である。
【0034】
本発明の実施形態によれば、上記R1
mFenBpM2
w基材において、nはFeの重量百分率含有量を表し、70%≧n≧60%、例示的に、n=62%、64%、66.5%、67.5%、68.5%である。
【0035】
本発明の実施形態によれば、上記R1
mFenBpM2
w基材において、pはBの重量百分率含有量を表し、上記B元素の含有量は0.8%≦p≦1.5%、例示的に、p=0.8%、1.0%、1.1%である。
【0036】
本発明の実施形態によれば、R1
mFenBpM2
w基体材料の製造方法は、製錬、製粉、プレス加工、焼結・時効で磁石を製造することを含み、更に機械加工、表面処理ステップを含んでもよい。
【0037】
本発明の実施形態によれば、上記基材の配向方向の厚さは30 mmを超えず、例えば1~30 mmであり、1~8 mm、8~15 mm、15~20 mm、20~30 mmに分けられる。
【0038】
本発明の実施形態によれば、上記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石のHcj(固有保磁力)は20 kOe以上、好ましくは21~29 kOe、例示的には23.61 kOe、24.45 kOe、25.63 kOe、26.40 kOe、27.50 kOe、28.89 kOeである。
【0039】
本発明の実施形態によれば、上記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石のBrは13.8~14.6 kGs、例示的には13.85 kGs、13.94 kGs、14.1 kGs、14.2 kGs、14.3 kGs、14.55 kGsである。
【0040】
本発明の実施形態によれば、上記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の密度は7.50~7.60 g/cm3、例示的には7.50 g/cm3、7.56 g/cm3、7.60 g/cm3、好ましくは7.56 g/cm3である。
【0041】
本発明は、上記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の製造方法を更に提供し、上記製造方法は、
拡散源RH
xM1
yBz合金及び基体材料R1
mFenBpM2
wを均一に混合し、拡散熱処理により、上記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石を得るステップを含む。
【0042】
本発明の実施形態によれば、拡散源RH
xM1
yBz合金及び基材R1
mFenBpM2
wの質量比は(1~5):1、例示的には1:1、1.5:1、2:1、2.3:1、3:1、5:1である。
【0043】
本発明の実施形態によれば、上記拡散熱処理は段階的な昇降温の方式を用いる。好ましくは、三段階の昇降温の方式を用いる。
【0044】
本発明の実施形態によれば、三段階の昇降温の方式の第一段階は、300~650℃まで昇温され、例示的には400℃、480℃、550℃、650℃であり、第一段階は、1~8 hで保温され、例示的には2 h、4 h、6 h、8 hである。
【0045】
第二段階は、750~980℃まで昇温され、例示的には800℃、850℃、930℃、980℃であり、第二段階は、7~50 hで保温され、例示的には10 h、20 h、30 h、40 h、50 hである。
【0046】
第三段階は、700~930℃まで降温され、例示的には750℃、800℃、880℃、930℃であり、第三段階は、3~20 hで保温され、例示的には5 h、10 h、15 h、20 hである。
【0047】
例えば、各段階の昇温速度は3~15℃/min、例示的には6℃/min、10℃/minであり、降温速度は5~30℃/min、例示的には6℃/min、10℃/min、20℃/minである。
【0048】
本発明実施形態によれば、上記拡散熱処理は、時効処理を更に含む。好ましくは、時効処理の温度は400~680℃、例示的には400℃、500℃、520℃、600℃、680℃であり、時効処理の保温時間は2~10 h、例示的には2 h、4 h、6 h、8 h、10 hである。
【0049】
本発明の実施形態によれば、上記拡散熱処理は、着脱可能の拡散装置内で行われる。着脱可能の材料反応バレルは容易に入れ替えられ、1バレルの材料を処理した後、引き続き次の炉で処理することができ、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の連続化製造を容易にする。
【発明の効果】
【0050】
(1)本発明は、RH
xM1
yBz合金を拡散源とし、且つ着脱可能の反応バレルを用いて拡散する方式であり、高いコストパフォーマンスの希土類永久磁石を効率的に製造することにより、拡散プロセスにおける拡散源と基材間の融着、粘着の問題を解決し、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石のHcjを向上させ、且つ拡散プロセスにおける効率改善の問題を解決し、更に本発明の拡散源を再利用できることにより高性能のネオジム鉄ボロン系焼結磁石の製造コストを低減でき、且つサイズの比較的大きい磁石に適用でき、特に配向方向の厚さが8~30 mmの高いコストパフォーマンスの焼結ネオジム鉄ボロン系製品の量産性を確保できる。
【0051】
(2)本発明において、拡散源RH
xM1
yBz合金におけるRHはDy、Tbのうちの1種又は組合せを用いて拡散し、且つB元素の含有量を0.1%≦z≦0.5%に制御する場合、RH
xM1
yBz合金の融点を適度に高めると同時に、拡散プロセスにおいてDy、Tbが磁石内部に効率的に拡散して入れることを確保し、且つDy、Tbなどが温度が高すぎることにより昇華して浪費されることを回避でき、M1はTi、Zr、Al元素からなる群より選ばれる1種又は複数種の元素であり、上記成分の配合比を合理的に最適化することにより、重希土類の拡散効果を確保すると同時に、拡散源の温度安定性を効果的に改善し、これによりネオジム鉄ボロン系焼結磁石のHcj及び磁気エネルギー積を顕著に高め、高性能のネオジム鉄ボロン系焼結材料磁石を製造して得ることができる。
【0052】
(3)本発明の拡散装置の内蔵材料反応バレルは、着脱可能に設置されるため、互換的に使用でき、これにより、材料の供給又は除去の連続作業を容易にし、製造効率を大幅に向上させ、同時に拡散源及び基材は拡散プロセスにおいて常に接触及び相対運動をしているので、基材間の接着及び拡散源と基材間の接着を回避でき、且つ効果的に拡散できることにより、ネオジム鉄ボロン系焼結材料磁石の性能を向上させる。
【0053】
(4)本発明は、三段階の昇降温拡散熱処理方式を用いることにより、そのうち、第一保温段階は、拡散源、基材表面、及び内部の残留水分と有機物を排除することを目的とし、且つ300℃より低い温度では、より長い保温時間を必要とし、エネルギー消費量が多く、一方、650℃より高い温度では、磁石表面の粒界は熔融状態になり、個別の部位が優先的に拡散し、再昇温プロセスにおいて、その拡散量が不均一となり、性能が大きく変動することをもたらし、第二保温段階は、拡散源と基材が十分に反応し、拡散源において重希土類元素が粒界付近の狭い範囲に効果的に集中することにより、磁石のHcjを向上させると共に、残留磁気の損失を低減させることを目的とし、750℃より低い温度では、重希土類の拡散速度が低下し、磁石のHcj性能の向上に不利であり、且つ重希土類の利用率も比較的低く、一方、980℃より高い温度では、重希土類が粒界相に入った後も主相であるNd2Fe14Bに拡散し続け、これにより、結晶構造を破壊し、磁石のBr及びHcj両方も低下することをもたらす。従って、本発明は、二段階の熱処理温度を750~980℃の範囲内に制御することにより、高性能のネオジム鉄ボロン系焼結材料磁石を製造し、第三降温段階の温度は、拡散源の流動をより十分にし、拡散効果を高めるために、緩やかな温度低下を生じさせることを目的とし、第二段階よりも20~50℃若干低く設定される。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないと理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0055】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
〔実施例1〕
(1)製錬法によりR1
mFenBpM2
w基材を製造した。アルゴンガス雰囲気中で各原料を製錬し、当該合金の配合は29.5%Nd、0.5%Dy、1.0%B、0.2%Ti、0.2%Cu、0.1%Ga、1%Co、残部がFeで構成され、配合の割合で各原材料を準備し、製錬炉に入れ、合金が熔融した後、1480℃まで昇温して5 minで保温し、その後、1400℃に冷却して鋳込み、スピニングプロセスにより平均厚さが0.28 mmである急結シートを得、
(2)製粉:水素破砕+ジェットミルにより、最終的に平均粒度が3.0 μmである粉末を得、
(3)プレス加工:磁界下で圧粉体にプレスし、且つ等方圧により約4.6 g/cm3の圧粉体を形成し、
(4)焼結成形:まず350℃で3 h保温し、次に850℃に昇温して1 h保温することにより脱気し、更に1060℃で120 min高温保温して焼結し、最後に520℃で300 min時効保温した後、これにより焼結ネオジム鉄ボロン基材を形成し、
(5)ステップ(4)により得られた基材を加工して40-20-5 mmのサイズの製品(即ち、厚さ5 mm)をそれぞれ得、更に油除去、洗浄、酸洗いにより表面化学的前処理を行い、基材表面に酸化物皮膜を無くし、拡散源の拡散を阻害することを防止し、
(6)拡散源RH
xM1
yBz合金-アルゴンガス雰囲気の中で各原料を製錬し、当該合金は85%Tb、0.4%B、残部がTi+Al(質量比は2:1)により構成され、合金が完全に熔融した後、1500℃まで昇温して10 min保温し、1430℃に冷却して鋳込み、スピニングプロセスにより平均厚さが1.8 mmである急結厚シートを得、
(7)拡散処理:ステップ(5)で表面の前処理をしたR1
mFenBpM2
w基材及びステップ(6)で得られたRH
xM1
yBz拡散源合金を内蔵反応バレル(基材:拡散源合金の質量比は1:2.3)に均一に散布し、拡散炉に入れ、100 Pa以下に引き抜いて加熱を開始し、拡散の第一段階の温度は400℃×4 hで保温し、第二段階は930℃×20 hで保温し、第三段階は880℃×10 hで保温し、各段階の昇温速度は何れも6℃/minであり、降温速度は10℃/minであり、時効は520℃×4 hで、ネオジム鉄ボロン系焼結磁石を得た。
〔比較例1〕
比較例1は、RH
xM1
yBz拡散源の各元素の含有量組成が85%Tb、Bなし、残部がTi+Al(質量比は2:1)である点で、実施例1と異なる。
〔比較例2〕
比較例2は、RH
xM1
yBz拡散源の各元素の含有量組成が85%Tb、1%B、残部がTi+Al(質量比は2:1)である点で、実施例1と異なる。
【0056】
比較例1及び比較例2により拡散材のBの含有量を調整し、拡散材のBの含有量が拡散後の磁石の外観及び磁気特性に与える影響を考察し(外観検査方式は、一定量の材料を炉から出した後、100%の材料外観を検査し、当該炉の材料拡散が終了した後、磁石の2枚又は複数のシート間に接着がない場合、外観の粘着割合が0%であるとし、2枚又は複数のシート間に分離できない場合、接着シートであるとし、即ち粘着割合=(粘着シートの数/炉から出されたシートの総数)×100%である)、結果は下記表1に示された通りである。
【0057】
【0058】
表1の結果によると、適量のBを添加し、RH
xM1
yBz合金の融点を適度に高めることができ、これにより、RH
xM1
yBz拡散源合金の表面熔融による接着を回避し、更に磁石間の外観の粘着割合を低減し、炉から出された磁石の外観を改善し、且つ磁石のHcjを効果的に高めることができるが、Bの含有量が高すぎる場合、拡散経路に影響し、逆に拡散後の磁石のHcjの向上幅に影響することが分かった。
〔実施例2〕
(1)製錬法によりR1
mFenBpM2
w基材を製造した。アルゴンガス雰囲気の中で各原料を製錬し、当該合金は、29.5%Nd、0.5%Dy、1.0%B、0.2%Ti、0.2%Cu、0.1%Ga、1%Co、残部がFeで構成され、合金が熔融した後、1480℃まで昇温して5 min保温し、その後、1400℃に冷却して鋳込み、スピニングプロセスにより平均厚さが0.28 mmである急結シートを得、
(2)製粉:水素破砕+ジェットミルにより、最終的に平均粒度が3.0 μmである粉末を得、
(3)プレス加工:磁界下で圧粉体にプレスし、且つ等方圧により約4.6 g/cm3の圧粉体を形成し、
(4)焼結成形:まず350℃で3 h保温し、次に850℃に昇温して1 h保温することにより脱気し、更に1060℃で120 min高温保温して焼結し、最後に520℃で300 min時効保温した後、これにより焼結ネオジム鉄ボロン基材を形成し、
(5)ステップ(4)で得られた基材を加工して40-20-10 mmのサイズの製品(即ち、厚さ10 mm)をそれぞれ得、更に油除去、洗浄、酸洗いにより表面化学的前処理を行い、基材表面に酸化物皮膜を無くし、拡散源の拡散を阻害することを防止し、
(6)拡散源RH
xM1
yBz合金-アルゴンガス雰囲気の中で各原料を製錬し、当該合金は80%Tb、0.3%B、残部がTi+Zr(質量比は1.5:1)で構成され、合金が完全に熔融した後、1500℃まで昇温して10 min保温し、1430℃に冷却して鋳込み、スピニングプロセスにより平均厚さが2.0 mmである急結厚シートを得、
(7)拡散処理:ステップ(5)で表面の前処理をしたR1
mFenBpM2
w基材及びステップ(6)で得られたRH
xM1
yBz拡散源合金を内蔵反応バレル(基材:拡散材が質量比1:2で拡散炉に入れ)に均一に散布し、100 Pa以下に引き抜いて加熱を開始し、拡散の第一段階の温度は400℃×4 hで保温し、第二段階は930℃×30 hで保温し、第三段階は880℃×10 hで保温し、各段階の昇温速度は何れも6℃/minであり、降温速度は10℃/minであり、時効は500℃×6 hである。
〔比較例3〕
比較例3は、RH
xM1
yBz拡散源の各元素の含有量組成が70%Tb、0.3%B、残部がTi+Zr(質量比は1.5:1)である点だけで、実施例2と異なる。
〔比較例4〕
比較例4は、ステップ(7)の拡散が二段階の処理を用い、即ち、拡散の第一段階の温度は400℃×4 hで保温し、第二段階は930℃×30 hで保温し、各段階の昇温速度は何れも6℃/minであり、降温速度は10℃/minであり、時効は500℃×6 hである点で、実施例2と異なる。
〔実施例3〕
本実施例は、以下の点で実施例2と異なる:
(1)R1
mFenBpM2
w基材を加工し、40-20-15 mmのサイズの製品を得(即ち、厚さ15 mm)、
(2)拡散の第二段階は930℃×40 hで保温した。
【0059】
実施例2~3及び比較例3~4で得られた磁石の外観及び磁気特性を試験し、結果は下記表2に示された通りである。
【0060】
【0061】
表2によると、実施例2と比較し、比較例3ではTbの含有量の割合が低下し、拡散後で得られた磁石のHcjが低下し、比較例4は拡散プロセスを調整し、三段階の昇降温の拡散方式から二段階の昇降温の拡散方式に調整し、これにより得られた磁石のHcjが低下したことが分かった。実施例3の結果によると、R1
mFenBpM2
w基材の厚さを増加させた場合、三段階の昇降温拡散処理の時間を調整することにより、拡散後の磁石のHcj性能を向上させることもできることが明らかになった。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限定されない。本発明の精神及び原則の範囲内でなされた何れの修正、同等置換、改良等も、本発明の請求範囲内に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R
H
xM
1
yB
z合金であって、前記R
HはDy、Tbから選ばれる1種又は2種の元素であり、M
1はTi、Zr、Al元素から選ばれる1種、2種又は3種の元素であり、Bはホウ素元素であり、x、y、zは元素の重量パーセントを表し、x、y、zは75%≦x≦90%、0.1%≦z≦0.5%、y=1-x-zの関係を満たす、ことを特徴とするR
H
xM
1
yB
z合金。
【請求項2】
前記R
H
xM
1
yB
z合金においては、80%≦x≦85%、0.15%≦z≦0.3%、y=1-x-zであり、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z合金において、M
1はTi、Zr、Al元素のうちの何れか2種の元素であり、2種の元素の質量比が1:1~2:1であり、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z合金は、シート状形態であってもよく、例えば、その平均厚さ≦10mm、好ましくは、平均厚さ≦5mmである、ことを特徴とする請求項1に記載のR
H
xM
1
yB
z合金。
【請求項3】
請求項
1に記載のR
H
xM
1
yB
z合金の製造方法であって、前記製造方法は、R
H元素、M
1元素及びB元素を含む原料を製錬・急結し、前記R
H
xM
1
yB
z合金を製造して得ることを含み、
好ましくは、前記R
H元素、M
1元素及びB元素は、請求項1に記載の意味を有し、
好ましくは、前記R
H元素、M
1元素及びB元素の使用量は、R
H:M
1:B重量比=x:y:zに従って計量され、そのうち、x、y及びzは、請求項1に記載の意味を有する、ことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記製錬は、不活性ガス雰囲気中で行われ、好ましくは、前記不活性ガス雰囲気は、アルゴンガスにより提供され、
好ましくは、前記製錬の温度は1350℃~1550℃であり、前記製錬の保温時間は0~30minであり、
好ましくは、前記製錬は、原料が熔融して合金液に形成され、合金液が完全に熔融するまでであり、
好ましくは、前記製造方法は、製錬して得られた合金液が完全に熔融した後、鋳込みの温度まで冷却することを更に含み、
好ましくは、前記冷却の速度は3~9℃/minであり、
好ましくは、前記鋳込みの温度は1330~1530℃である、ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、鋳込みの温度まで冷却した合金液をメルトスピニング法により鋳込んで、R
H
xM
1
yB
z急結合金シートを得、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z急結合金シートの平均厚さ≦10mm、好ましくは、平均厚さ≦5mmであり、
好ましくは、前記製造方法は、不活性ガス雰囲気において、R
H元素、M
1元素及びB元素を含む原料を製錬して合金液になり、合金液が完全に熔融した後、鋳込みの温度まで冷却し、スピニング方法を用いて鋳込んで、平均厚さ≦10mmのR
H
xM
1
yB
z急結合金シートを得ることを含む、ことを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項
1に記載のR
H
xM
1
yB
z合
金の、焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造における応用であって、好ましくは高性能の焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造における応用であり、
好ましくは、請求項
1に記載のR
H
xM
1
yB
z合
金は、焼結ネオジム鉄ボロン材料の製造における拡散源とする、応用。
【請求項7】
ネオジム鉄ボロン系焼結磁石であって、前記磁石は、R
1
mFe
nB
pM
2
wを基材とし、R
H
xM
1
yB
z合金を拡散源とし、拡散熱処理により製造して得、
好ましくは、前記R
H
xM
1
yB
z合金は、請求項
1に記載の意味を有する、ことを特徴とするネオジム鉄ボロン系焼結磁石。
【請求項8】
前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、前記R
1はPr、Nd、Dy、Tb、Ho、Gd、Ce、La及びY元素からなる群より選ばれる1種、2種又は更なる複数種の元素であり、Feは鉄元素であり、Bはホウ素元素であり、M
2はTi、Zr、Co、V、Nb、Ni、Cu、Zr、Al及びGa元素からなる群より選ばれる1種、2種又は更なる複数種の元素であり、
好ましくは、前記R
1はNd及びDyから選ばれ、前記M
2はTi、Cu、Ga及びCoから選ばれ、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、mはR
1の重量百分率含有量を表し、35%≧m≧27%であり、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、nはFeの重量百分率含有量を表し、70%≧n≧60%であり、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基材において、pはBの重量百分率含有量を表し、前記B元素の含有量は0.8%≦n≦1.5%であり、
好ましくは、前記R
1
mFe
nB
pM
2
w基体材料の製造方法は、製錬、製粉、プレス加工、焼結・時効により磁石を製造することを含み、更に機械加工、表面処理ステップを含んでもよく、
好ましくは、前記基材の配向方向の厚さは、30mmを超えず、例えば1~30mmである、ことを特徴とする請求項7に記載の磁石。
【請求項9】
前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石のHcj(固有保磁力)は、20kOe以上、好ましくは21~29kOeであり、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石のBrは、13.8~14.6kGsであり、
好ましくは、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石の密度は、7.50~7.60g/cm
3である、ことを特徴とする請求項
7に記載の磁石。
【請求項10】
請求項
7に記載の磁石の製造方法であって、前記製造方法は、
拡散源R
H
xM
1
yB
z合金及び基体材料R
1
mFe
nB
pM
2
wを均一に混合し、拡散熱処理により、前記ネオジム鉄ボロン系焼結磁石を得るステップを含み、
好ましくは、拡散源R
H
xM
1
yB
z合金及び基材R
1
mFe
nB
pM
2
wの質量比は(1~5):1であり、
好ましくは、前記拡散熱処理は、段階的に昇降温の方式を用い、好ましくは、三段階の昇降温の方式を用い、
好ましくは、三段階の昇降温の方式の第一段階は、300~650℃まで昇温され、第一段階は、1~8h保温され、
第二段階は、750~980℃まで昇温され、第二段階は、7~50h保温され、
第三段階は、700~930℃まで降温され、第三段階は、3~20h保温され、
好ましくは、各段階の昇温速度は3~15℃/min、降温速度は5~30℃/minであり、
好ましくは、前記拡散熱処理は、時効処理を更に含み、
好ましくは、時効処理の温度は400~680℃であり、時効処理の保温時間は2~10hである、製造方法。
【国際調査報告】