(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】鉄基非晶質ナノ結晶合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 45/02 20060101AFI20240723BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240723BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C22C45/02 A
H01F1/153 133
H01F1/153 108
H01F1/153 141
C21D6/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503949
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 CN2022091867
(87)【国際公開番号】W WO2023115785
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】202111583663.7
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519446562
【氏名又は名称】チンタオ ユンルー アドバンスド マテリアルズ テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プー、チエンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】パン、チン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、トン
(72)【発明者】
【氏名】リン、フーチアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ、ウェンカン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ホンユー
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041AA19
5E041BD03
5E041CA01
5E041HB11
5E041HB19
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN17
(57)【要約】
本発明は、式Fe(100-a-b-c-d-e)BaSibPcCdCue(式中、d+(b/c)=0.85~1.3であり、粘度係数ηが(3.0~8.0)×10-3Pa/sである)で示される鉄基非晶質ナノ結晶合金およびその製造方法を提供する。本願では、上記合金元素の含有量を変化させることにより、動粘度係数ηを調節して、溶鋼の粘度を一定の範囲に制御可能になり、従って溶鋼の純度の向上が図れ、鋳造の連続性および薄帯の表面品質が確保される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で示され、
Fe
(100-a-b-c-d-e)B
aSi
bP
cC
dCu
e (I)
式中、a、b、c、d、eはそれぞれの成分元素の原子パーセント含有量を表し、1≦a≦12、0.2≦b≦6、2≦c≦6、0.5≦d≦4、0.6≦e≦2、a+b+c+d+e=100、かつd+(b/c)=0.85~1.3を満たすことを特徴とする、鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項2】
5≦a≦12、0.8≦b≦6、2≦c≦5、0.5≦d≦3、0.6≦e≦1.3であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項3】
8≦a≦12、0.8≦b≦1.5、3≦c≦5、0.7≦d≦1.2、0.6≦e≦1.3であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項4】
Feの原子パーセントが83以上であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項5】
前記鉄基非晶質ナノ結晶合金において、不純物元素Alが50ppm以下、不純物元素Mnが100ppm以下、不純物元素Tiが80ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項6】
前記鉄基非晶質ナノ結晶合金は、粘度係数ηが(3.0~8.0)×10
-3Pa/sの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項7】
d+(b/c)=0.86~1.2であり、粘度係数ηが(4.1~6.9)×10
-3Pa/sの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項8】
前記鉄基非晶質ナノ結晶合金において、N<100、M<200(ただし、Nは、スラグラインの発生頻度を表し、鉄基非晶質ナノ結晶合金の薄帯の幅を80~122mmとする場合、連続した1メートル以内のスラグラインの発生頻度がN=m×L(ただし、mはスラグラインの数であり、Lは単位mmでスラグラインの長さである)で示され、Mは単位面積3mm×3mm内にある不純物の頻度を表し、M=n×h(但し、nは不純物の数であり、hは単位μmで不純物の高さである)で示される)を満たすことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金。
【請求項9】
請求項1に記載の鉄基非晶質ナノ結晶合金を製造するための方法であって、
各原料を所定の成分配合率になるように配合して溶融した後に静置し、単ロールによる急冷を行う工程を含む、製造方法。
【請求項10】
前記静置の時間が30~50分であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[相互参照]
この出願は、2021年12月22日に中国特許庁に出願された、出願番号202111583663.7、発明名称「鉄基非晶質ナノ結晶合金及びその製造方法」である中国特許出願の優先権を主張し、その全部内容は参照により本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、磁性材料の技術分野に関し、特に、鉄基非晶質ナノ結晶合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、変圧器、モーター又は発電機の磁気コア、電流センサー、磁気センサー、及びパルスパワー磁気コンポーネントなどに用いられる軟磁性材料としては、ケイ素鋼、フェライト、非晶質合金、及びナノ結晶合金が挙げられる。これらの軟磁性材料の中でも、ケイ素鋼は、安価であり、磁束密度及び機械加工性が高いが、高周波下においては高い損失を起こし易いため、板厚方向での薄肉化が困難である。フェライトは、飽和磁束密度が低いので、高出力高飽和磁気誘導の条件での使用は限られてきた。Co基非晶質合金は、高価であるだけでなく、飽和磁束密度も低いため、高出力デバイスに用いられた場合、部品が大型化になり、熱力学的に不安定になり、使用中に損失が大きくなることがある。
【0004】
鉄基非晶質合金は、飽和磁束密度及び高出力下での損失などに利点を有し、最も理想的な磁性材料であるため、飽和磁気誘導の高い非晶質鉄磁合金の開発が急務となっている。現在、この材料を製造する主な方法は、鉄基非晶質中のFeの含有量を増加させることであるが、鉄含有量の増加につれて合金の熱安定性が低下する問題を軽減するために、Sn、S、C、Pなどの元素が添加される。米国特許第6416879号では、非晶質Fe-Si-B-C-P系にPを添加することにより、Fe含有量を増加させて飽和磁気誘導を増加させているが、同特許にはP元素の添加により長期的な熱安定性が低下することも開示されているので、上記特許における非晶質合金は、それらの溶融状態からの鋳造により製造されていない。日本公開特許第2009052064号には、高飽和磁気誘導の非晶質合金薄帯が記載されており、Cr、Mnを添加することでC析出層の高さが制御されるため、この薄帯は熱安定性が高いことが記載されている。米国特許第7425239号には、Fe-Si-B-Cにおいて一定レベルのSi:Cの比率で選択することにより、高い延性以外の磁気特性が実現されたことが記載されている。しかしながら、上記特許で製造された薄帯には、
図1、2に示されるように、表面に亀裂線、スラグライン、引っかき傷、介在物などの多くの欠陥が見られる。
【発明の概要】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、溶融鋼の純度が高く、薄帯表面の欠陥を効果的に改善し、積層係数を効果的に向上させ、性能良好な製品を得ることが図れる鉄基非晶質ナノ結晶合金を提供することである。
【0006】
本願は、上記事情に鑑みてなされたものであり、下記の式(I)で示される鉄基非晶質ナノ結晶合金を提供する。
Fe(100-a-b-c-d-e)BaSibPcCdCue (式I)
(式中、a、b、c、d、eはそれぞれの成分元素の原子パーセント含有量を表し、1≦a≦12、0.2≦b≦6、2≦c≦6、0.5≦d≦4、0.6≦e≦2、a+b+c+d+e=100、かつd+(b/c)=0.85~1.3を満たす)
【0007】
好ましくは、5≦a≦12、0.8≦b≦6、2≦c≦5、0.5≦d≦3、0.6≦e≦1.3である。
【0008】
好ましくは、8≦a≦12、0.8≦b≦1.5、3≦c≦5、0.7≦d≦1.2、0.6≦e≦1.3である。
【0009】
好ましくは、Feの原子パーセントは83以上である。
【0010】
好ましくは、前記鉄基非晶質ナノ結晶合金において、不純物元素であるAlは50ppm以下、Mnは100ppm以下、Tiは80ppm以下である。
【0011】
好ましくは、前記鉄基非晶質ナノ結晶合金は、粘度係数ηが(3.0~8.0)×10-3Pa/sである。
【0012】
好ましくは、d+(b/c)=0.86~1.2であり、粘度係数ηは(4.1~6.9)×10-3Pa/sである。
【0013】
好ましくは、前記鉄基非晶質ナノ結晶合金においてN<100、M<200である。ただし、Nは、スラグラインの発生頻度を表し、鉄基非晶質ナノ結晶合金の薄帯の幅が80~122mmである場合、連続した1メートル以内におけるスラグラインの発生頻度がN=m×L(ただし、mはスラグラインの数、Lはスラグラインの長さ(単位:mm)である)で表される。Mは単位面積3mm×3mm以内における不純物の頻度を表し、M=n×h(ただし、nは不純物の数、hは不純物の高さ(単位:μm)である)で表される。
【0014】
本願はまた、各原料を成分配合率になるように配合して溶融した後に静置し、単ロールによる急冷を行う工程を含む鉄基非晶質ナノ結晶合金の製造方法を提供する。
好ましくは、前記静置の時間は30~50分である。
【0015】
本願は、一般式Fe(100-a-b-c-d-e)BaSibPcCdCue(式中、d+(b/c)=0.85~1.3である)で示される鉄基非晶質ナノ結晶合金を提供する。本願では、上記合金元素含有量を変化させることにより、溶鋼の粘度の範囲が制御され、溶鋼の純度が増加可能になり、鋳造の連続性や帯材の表面品質を確保することが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、従来技術により製造された鉄基非晶質ナノ結晶合金のスラグライン欠陥を示す写真である。
【
図2】
図2は、従来技術により製造された鉄基非晶質ナノ結晶合金の介在物欠陥を示す写真である。
【
図3】
図3は、溶鉄の粘度に対する1873K溶鋼中の元素の影響を示すグラフである。
【
図4】
図4は、表面欠陥突起の写真とサイズ表記の概略図である。
【
図5】
図5は、本願による鉄基非晶質ナノ結晶合金の製造プロセスフローを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をさらに明らかにするために、本発明の好ましい実施形態について、実施形態を参照しながら記述するが、これらの記述は本発明の特徴及び利点をさらに明らかにするためのもので過ぎなく、本発明の特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0018】
以上のことから、本発明には、主としてP含有系溶鋼に対しては鋳造により製造されることが困難であることを説明する。研究により、このP含有系鉄基非晶質合金の鋳造成形が困難になる原因は、P含有量の増加と判明した。つまり、高い飽和磁気誘導を保証するために溶鋼中の高融点酸化物元素Siは含有量が低下するので、溶鋼中の低融点酸化物は含有量が増加して溶鋼から分離されにくくなり、そして鋳造過程中に酸化物がスラグとして溶鋼とともに排出されたため、鋳造成形が困難になる。
【0019】
そこで、本発明では、P含有系成分の熱安定性が悪い問題による帯材表面欠陥の問題について改善して調べたところ、溶鋼の動粘度であるパラメータηを制御することを制御手段として、溶鋼の流動性やスラグ粘度などを調節して十分な溶鋼純度を有する液体を得ることで、薄帯表面欠陥の発生が根本的に抑制されることを確認した。この欠陥は鋳造開始の初期に発生し、かつ時間の経過につれて発展し、十分に大きくなると、欠陥の位置に亀裂が発生し、亀裂が発生-成長-破断する途中で、鋳造が停止することから、η制御によれば、鋳造時間の延長が保証できる。また、η制御によれば、鋳造開始から30分以内に発生する欠陥の発生率が70%減少し、欠陥発生の時間を1h後に遅らせることもできるので、帯材の歩留まり率の向上に有効である。
【0020】
このように、その二点の改善によれば、鋳造成形が可能な飽和磁気誘導の高い薄帯が得られるとともに、薄帯表面の欠陥が効果的に改善され、良好な非晶質薄帯が得られる。従って、応用段階における鉄心や変圧器などの製品の作製過程では、積層係数が効果的に向上し、より優れた性能を持つ製品が得られる。
【0021】
本願は、上記事情に鑑みてなされたものであり、式(I)で示される鉄基非晶質ナノ結晶合金を提供する。
Fe(100-a-b-c-d-e)BaSibPcCdCue (式I)
(式中、a、b、c、d、eはそれぞれの成分元素の原子パーセント含有量を表し、1≦a≦12、0.2≦b≦6、2≦c≦6、0.5≦d≦4、0.6≦e≦2、a+b+c+d+e=100、かつd+(b/c)=0.85~1.3を満たす)
【0022】
式中、Feは鉄磁性元素であり、高い飽和磁気誘導(Bs、本願ではBs≧1.75T)を保証するために、Feの原子パーセントが83%を超える、即ち(100-a-b-c-d-e)≧83であることが保証されている。必須元素であるFeによれば、飽和磁気誘導の向上、材料コストの低減を図すことができる。Feの含有量が78原子%未満である場合、所望される飽和磁気誘導を得ることができない。Feの含有量が86原子%以上である場合、急冷法による非晶質相の形成が困難になり、粗いα-Fe結晶粒が形成されることになる。その結果、均一なナノ結晶構造を得ることができず、軟磁気特性の低下に繋がる。
【0023】
Siは、結晶化したナノ結晶構造中のFe及びB化合物の析出を抑制することができ、したがって、ナノ結晶構造を安定化させる。本願では、Siの含有量は0.2~6%である。Siの含有量が8%を超える場合、飽和磁気誘導及び非晶質形成能力が低下し、その結果として軟磁気特性が低下する。特に、Siの含有量が0.8%以上である場合、非晶質形成能力が改善され、薄帯を安定にかつ連続的に製造することができる。Siは、溶鋼の製錬過程で高融点酸化物の構成元素として、鋼スラグの分離性が良くなるように高融点スラグを形成し、低融点酸化物を包み込んで一緒に浮上し、溶鋼の純度を上げることができるという主な機能を持っている。また、Siは、溶鋼と空气との接触を遮断するように溶鋼の表面に緻密な酸化膜を形成し、低融点酸化物の形成の動力学条件を低下させることができる。好ましい実施形態において、前記Siの含有量は0.8~6%であり、0.8~1.5%であることがより好ましい。
【0024】
必須元素であるBによれば、非晶質形成能力を向上させることができる。Bの含有量が5%未満である場合、急冷法による非晶質相の形成が困難である。Bの含有量が12%を超える場合、均一なナノ結晶構造の形成に寄与せず、その結果として軟磁気特性が低下する。本願では、Bの含有量は1~12%であり、好ましい実施形態としては、Bの含有量は5~12%であり、より好ましくは、Bの含有量は8~12%である。
【0025】
必須元素であるPによれば、非晶質形成能力を向上させることができる。Pの含有量が1%未満である場合、急冷法による非晶質相の形成が困難である。Pの含有量が8%を超える場合、飽和磁気誘導及び軟磁気特性が低下することになる。本願では、Pの含有量は2~6%とする。Pの含有量が2~5%である場合、非晶質形成能力を向上させることができる。より具体的には、Pの含有量は3~5%である。
【0026】
その中、B及びP元素は共に鋼スラグの分離に不利な低融点酸化物の構成元素であり、製錬過程で生成したB2O3及びP2O5が少ないほど、鋳造過程における溶鋼の純度の向上、粘度の低下、溶鋼の流動性の向上により有利になる。そのため、性能を保証することを前提として、元素配合率により溶鋼の粘度を調節する必要がある。
【0027】
C元素によれば、非晶質形成能力を高めることができる。さらに、Cの添加によれば、メタロイドの含有量を低下させ、材料コストを低減することができる。Cの含有量が5%を超えると、脆化が引き起こされることになり、その結果として軟磁気特性が低下する。特に、Cの含有量が3%以下である場合、Cの揮発によって引き起こされる成分偏析を抑制することができる。この成分系では、Cは溶鋼の活性を向上させ、スラグ反応過程の進行を促進することができる。
【0028】
必須元素であるCuは、ナノ結晶化に有利である。Cuの含有量が0.6%未満である場合、ナノ結晶化に不利である。本願では、Cuの含有量は0.5~4%とする。好ましい実施形態としては、Cuの含有量を0.5~3%とし、より具体的には、Cuの含有量を0.7~1.2%でとする。Cuの含有量が1.4%を超える場合、非晶質相が不均一となり、均一なナノ結晶構造の形成に不利となり、その結果として軟磁気特性が低下する。特に、ナノ結晶合金の脆化が考慮される場合、Cuの含有量は1.3%以下に制御することが望ましい。
【0029】
また、Cu元素の含有量は、急冷状態中にfcc-Cuクラスター及びbcc-(Fe)結晶核が多く形成することに寄与し、また熱処理中にbcc-(Fe)結晶核の析出を促進し、それによって、飽和磁気誘導が向上し、また合金により広い結晶化温度領域で結晶粒サイズが小さくて均一な分布を有するナノ結晶構造が形成する。不純物元素であるAl、Mn、Tiは、溶鋼の冷却過程で不均質核生成を引き起こす恐れがあるため、このような元素の含有量を一定に制御する。具体的には、Al≦50ppm、Mn≦100ppm、Ti≦80ppm。鉄磁性元素Co、NiはFeの一部の代わりとして使用しても高いBs性能を維持することができる。Coは、最大15%原子パーセントのFeを置換する可能性があり、Niは最大10%原子パーセントのFeを置換する可能性がある。
【0030】
溶鋼の純度に関する問題を解決するために、本願では、成分設計を通じて元素含有量を調節し、さらに成分含有量に基づいて粘度係数を制限することで、粘度係数によりスラグ系の成分、スラグ系内の成分含有量の配合率、スラグ系の状態、スラグ排出のタイミング及びスラグ排出の重量などを制御して、溶鋼中からスラグ排出しにくい低融点酸化物を全て析出させる。従って、溶鋼の純度が向上し、鋳造特性に優れた溶鋼が実現される。また、溶鋼中の介在物に起因した薄帯の表面欠陥を解決するためにも、同様にこの手段で溶鋼の純度を制御する。本明細書では、どのように元素配合率を通じて元素含有量と溶鋼の動粘度ηとの関係を確立するかに着目し、元素含有量を変化させて動粘度係数ηを調節することにより、溶鋼の粘度が一定の範囲に制御され、鋳造の連続性や薄帯の表面品質が保証される。溶鋼の粘度や拡散、電気伝導率などは、液体の伝達特性であり、溶融体の構造を研究するための基礎であるだけでなく、製錬にとっても最も重要な特性でもある。流れる液体中に各層における定向的な移動の速度は同じではなくて、隣接する層間で相対運動が発生するため、各層間に摩擦が発生して動きが継続できなくなり、液体の流速が遅くなることは、粘性現象である。溶鋼の動粘度は、単位速度勾配下で平行な液体層間に作用する単位面積あたりの摩擦力であり、ηにより単位Pa.sで表され、粘度の逆数(φ=1/η)が流動性を示す。溶鋼の粘度を影響する要因は数多くあるが、一定の温度を前提とした場合は、主に成分元素の含有量に関係する(元素が1873Kで溶鉄の粘度に対して生じる影響は、
図3に示されている)。N、O、Sは、それら元素の濃度が低い場合、溶鋼の粘度を高められることが一般であり、例えば、w[O]=0.05%である場合、粘度を30~50%向上させる可能性がある。Niや、Cr、Si、Mn、P、Cなどは、粘度を下げられることがあるが、脱酸に用いられたか又はこれらの元素を含む溶融鋼が酸化された場合、酸化物がスムーズに浮き上がらず、粘度が上昇することになる。
【0031】
溶鋼の粘度は、減衰振動粘度計で測定され、また異なる成分の比較を保証するために、本願に記載されている粘度がすべて同じ温度1450℃で測定したものである。P含有系の非晶質ナノ結晶合金については、溶鋼の粘度、流動性及び鋳造成形などに関する研究はまだ少ないから、本願ではこれらの点を当てて検討した。ηを制御することにより、溶鋼の流動性を一定の範囲に保証し、薄帯表面欠陥の発生を根本的に抑制する。この制御により鋳造時間が延長され、この欠陥の発生が鋳造開始の初期に起こり、時間の経過とともに発生し続け、欠陥が十分に大きくなると、欠陥の位置に亀裂が発生し、この亀裂の発生-成長-破断の過程中に鋳造が停止する。この制御により、鋳造の30分前に欠陥が発生する確立を70%減少させ、欠陥発生の時点を1時間後に遅らせることができ、従って薄帯の合格率が効果的に向上する。また、薄帯の表面品質の欠陥を大幅に改善し、表面スラグラインの状態を大幅に改善し、スラグラインの発生頻度Nを低下させることができる(この頻度は、幅80~122mmの薄帯として、連続1メートル以内のスラグラインの数m×長さL(単位mm)、N=m×Lで統計される)。また、薄帯表面のスラグなどの不純物の付着状態の改善は、単位面積3mm×3mm内の不純物の頻度Mによって特徴付けられ、
図4に示すように、M=n×h(不純物数n×不純物の高さh(um))として定義される。本願では、前記鉄基非晶質ナノ結晶合金において、N<100、M<200である。
【0032】
このように、薄帯表面のスラグラインや不純物などの欠陥が改善されると、薄帯の積層係数は84%から89%に大幅に改善される。積層係数のレベルは、製品の性能-損失を大きく影響し、積層係数が高い場合、薄帯製品の損失が低下する。この成分系の損失は、50Hz、1.5Tの条件で鉄心Ps損失が0.35W/kg未満、励磁Ssが0.4Va/Kg未満であることを満たす。
【0033】
本願では、式Fe(100-a-b-c-d-e)BaSibPcCdCue(式中、Fe、Si及びBは、飽和磁気誘導の高い鉄基非晶質合金の形成に寄与するものである)で示される鉄基非晶質合金を提供する。
【0034】
母合金の製錬:本願の合金及びその化学成分は、Fe
(100-a-b-c-d-e)B
aSi
bP
cC
dCu
e(但し、a、b、c、d、eは、それぞれの成分元素の原子パーセント含有量を表し、1≦a≦12、0.2≦b≦6、2.0≦c≦6.0、0.5≦d≦4、0.6≦e≦1.3、a+b+c+d+e=100である)で表される。母合金に必要とされる工業的原材料は、単一Fe、単一Cu、元素状Si、単一C、並びにFe-B及びFe-P合金であり、原材料の純度を表1に示す。
【表1】
【0035】
各原材料を一定の質量比になるように量り、中周波誘導加熱炉に投入し、アルゴンガスを保護ガスとして導入しながら溶融する。溶融後、溶鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一になるように、材料を30分間静置する。静置終了後、溶融鋼の粘度値を減衰振動粘度計により1450℃温度下で測定する。次に、前記溶鋼を1400℃~1500℃温度下で注入し、銅ロール急冷法によって非晶質ナノ結晶薄帯を得るという銅ロール急冷法による手段で非晶質合金薄薄帯を製造する。製造過程では、欠陥が発生し始めた時刻を溶鋼の品質の巨視的な尺度として記録し、欠陥が発生し始めた時点でスラグラインの特徴を光学電子顕微鏡で分析し、不純物突起の特徴を走査電子顕微鏡で分析する。次に、製造された非晶質ナノ結晶薄帯を、ループの内径φ65mm、外径φ70mmのループ試料になるように巻き取り、薄帯の熱処理性能を評価する。
【0036】
熱処理後、次のように性能評価及び分析を行う。
1)飽和磁気誘導及び保磁力の測定:振動試料型磁力計(VSM)及び軟磁気直流測定装置によって焼鈍した合金薄帯の飽和磁化強度Bs及び保磁力を測定する。なお、この装置は、電磁誘導の原理に基づいて、試料の磁気モーメントと外部磁場変化との間の曲線関係を得るものであり、磁場を-10000~10000Oeの範囲にして測定を行う。また、測定の前に、用意したNi標準で装置を校正し、試験される磁気試料を粉砕し、試料を約0.030g取り、スズ箔でしっかり包み、銅型中に入れて測定する。
2)損失電力及び励磁電力の測定:B-Hアナライザを使用して測定を行う。試料のパラメータ(有効磁気回路の長さ、有効断面積、巻数など)及び試験条件(試験周波数、磁場強度、最大磁束密度、最大誘導電圧など)を設定することによって、B-H曲線を出力し、そして注目される損失電力(Ps)及び励磁電力(Ss)を含む様々な磁気特性パラメータを測定する。
【0037】
本発明をさらに明らかにするために、本発明で提供される鉄基非晶質ナノ結晶合金について実施例を参照しながら以下に詳述するが、本発明の保護範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
1)粘度係数ηと主元素であるSi元素の含有量の関係:
各原材料は、一定の質量比になるように量り、その後、中周波誘導加熱炉に投入し、アルゴンガスを保護ガスとして導入しながら溶融した。溶融後、溶鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一になるように、材料を30分間静置した。静置終了後、溶融鋼の粘度値を減衰振動粘度計により1450℃温度下で測定した。
【0039】
ηと元素含有量を決定するために、スラグの状態によく関連するSi、B、P、Cの4つの主元素を分析した。1)では、Si元素とηの関係、及び薄帯鋳造に関連するパラメータ間の関係を調べることにより、薄帯の性能に利点を与える元素含有量及び粘度係数ηを決定した。実施例に用いられた具体的な元素の配合率を以下の表2に示す。
【表2】
【0040】
上表からわかるように、Siは、溶鋼の製錬過程で高融点酸化物の構成元素であり、鋼スラグの分離性が良くなるように高融点スラグを形成し、低融点酸化物を包み込んで一緒に浮上し、溶鋼の純度を向上するという機能、および溶鋼の表面に緻密な酸化膜を形成し、溶鋼と空气との接触を遮断し、低融点酸化物の形成動力学条件を低下させるという機能として働いた。Siの含有量が低かった場合、高融点酸化物の形成が減少して浮上できなくなり、溶鋼中の鋼スラグが効果的に分離できなかったため、溶鋼の粘度係数が著しく上昇した。その結果として、スラグは、溶鋼の粘度の上昇につれて鋳造過程中に溶鋼と一緒に流出し、薄帯表面に欠陥や傷をもたらす一方、薄帯表面に沈殿して不純物スラグ介在物を形成した。その両方は、共に薄帯の積層係数に悪影響を及ぼし、その結果、熱処理後のループの性能が低下した。上表によれば、Siを好ましくは0.8~1.5%の範囲とする。この組成範囲内には、粘度係数が5.3~6.9の範囲であり、鋳造欠陥の発生時間が50分を超え、スラグラインが80~120の範囲であり、Mが15~100の範囲であった。Si含有量が低かったため、比較例1~3におけるFeの含有量がかなり高くなり、Bsに有利であったが、スラグが多い状態になった。Siの含有量が高かった場合、全体的にスラグ状態に有利であるが、Feの含有量が低かったからBsが1.75T未満と低くなり、要求を満たすことができなかった。
【0041】
2)粘度係数ηと主元素であるB元素の含有量の関係:
各原材料は、一定の質量比になるように量り、その後、中周波誘導加熱炉に投入し、アルゴンガスを保護ガスとして導入しながら溶融した。溶融後、溶鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一になるように、材料を30分間静置した。静置終了後、溶融鋼の粘度値を減衰振動粘度計により1450℃温度下で測定した。
【0042】
ηと元素含有量を決定するために、スラグの状態によく関連するSi、B、P、Cの4つの主元素を分析した。2)では、主にB元素とηの関係、及び薄帯鋳造に関連するパラメータ間の関係を調べることにより、薄帯の性能に利点を与える元素含有量及び粘度係数ηを決定した。具体的な実施例における元素の配合率を以下の表3に示す:
【表3】
【0043】
表3から、B元素が溶鋼の製錬過程で生成したスラグは、低融点の酸化物であるB2O3であることが分かった。また、実験中に、B元素の含有量を0~15%原子パーセントとした場合、粘度係数が5%から7%までの間に保持したから、B元素の含有量は溶鋼の粘度係数にあまり影響しないことが発見した。鋳造欠陥の発生時間やBsなどの性能指標も考慮して見ると、Bの含有量が8%未満である場合は、この系の非晶質形成能力が低下し、薄帯の非晶質度が低下し、積層係数が同じである条件下で、薄帯のPs及びSs性能が低下するが、Bの含有量が12%を超える場合は、Feの含有量が低下し、そしてBsが1.75T未満と低下する。上記の分析に基づいて、Bの含有量は8~12%に制限される。
【0044】
3)粘度係数ηと主元素であるP元素の含有量の関係:
各原材料は、一定の質量比になるように量り、その後、中周波誘導加熱炉に投入し、アルゴンガスを保護ガスとして導入しながら溶融した。溶融後、溶鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一になるように、材料を30分間静置した。静置終了後、溶融鋼の粘度値を減衰振動粘度計により1450℃温度下で測定した。
【0045】
ηと元素含有量を決定するために、スラグの状態によく関連するSi、B、P、Cの4つの主元素を分析した。3)では、主にP元素とηの関係、及び薄帯鋳造に関連するパラメータ間の関係を調べることにより、薄帯の性能に利点を与える元素含有量及び粘度係数ηを決定した。具体的な実施例における元素の配合率を以下の表4に示す。
【表4】
【0046】
表4から、Pは低融点酸化物の構成元素として流動特性である溶鋼の粘度に重大な影響を及ぼすことが分かった。また、それらの検討により、この成分系におけるP元素は非晶質形成能力に強影響を及ぼし、P元素の増加により非晶質形成能力を著しく向上させることができることが見出された。P元素が低かった場合、非晶質形成能力が低くて、薄帯の密度が低くなった。そして、薄帯の積層係数が低くなり、薄帯の密度が低く鋳造過程中に介在物、スラグラインなどの欠陥が顕著になり、鋳造欠陥がより早期に発生し、薄帯全体の品質が低下した。Pの含有量が3~5%に増加したことにつれて、非晶質形成能力が向上し、密度が増加し、薄帯の鋳造欠陥時間が60分以後に遅延するようになった。それにより、積層係数が上昇し、表面欠陥などが減少し、性能が最適された。さらに、Pの含有量が続いて増加したことにつれて、P元素から生成された低温スラグの一部がSi元素から生成された高温スラグで被覆されなくて高温スラグにつれて浮上することができなくなったため、溶鋼中に低融点酸化物が残留してしまった。また、Pの含有量が高くなるほど、低融点酸化物の含有量が多くなり、薄帯鋳造欠陥の発生及び薄帯の外観スラグライン、介在物などに悪影響を及ぼす。性能及び積層の結果から分かるように、Pの含有量が6%を超える場合、性能が低下し始めるから、P元素の原子パーセントは3~5%に制御される。
【0047】
4)粘度係数ηと主元素であるC元素の含有量の関係:
各原材料は、一定の質量比になるように量り、その後、中周波誘導加熱炉に投入し、アルゴンガスを保護ガスとして導入しながら溶融した。溶融後、溶鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一になるように、材料を30分間静置した。静置終了後、溶融鋼の粘度値を減衰振動粘度計により1450℃温度下で測定した。
【0048】
ηと元素含有量を決定するために、スラグの状態によく関連するSi、B、P、Cの4つの主元素を分析した。4)では、C元素とηの関係、及び薄帯鋳造に関連するパラメータ間の関係を調べることにより、薄帯の性能に利点を与える元素含有量及び粘度係数ηを決定した。具体的な実施例における元素の配合率を以下の表5に示す:
【表5】
【0049】
表5から分かるように、C元素は、溶鋼中でのスラグの生成反応に関与せず、溶鋼中のSi元素の活性を高める機能として働く、より多くの高融点酸化物を生成するようにし、溶鋼の純度を高め、溶鋼の粘度を下げることにより、溶鋼の流動性を保証するものである。表のデータから分かるように、成分系にC元素が存在しなかった場合、溶鋼の粘度係数が10.2となり、溶鋼の流動性が悪く、鋳造過程中に欠陥が早期に発生し、薄帯にスラグラインや不純物欠陥が多くなり、その結果、積層係数が低くなるから、性能が低下した。C元素の添加量が増加してきたことにつれて、溶鋼の品質が大幅に向上し粘度が低下して流動性が増加し、溶融鋼中に介在されるスラグなどの酸化物が減少した。従って、薄帯の品質が向上するとともに、性能が向上した。Bs値を保証するために、Cの含有量は0.7~0.9%に決めった。
【0050】
5)粘度係数ηと主元素であるC+Si/P元素の含有量の関係:
上記の四つの実験例から、粘度係数に影響をよく与える3つの元素はSi、P、Cであるが、その3つの元素は独立して影響を与えるものではなく、共同してスラグ系に影響を与えることが確認された。そして、C+Si/Pとηの関係を検証した。各原材料は、一定の質量比になるように量り、その後、中周波誘導加熱炉に投入し、アルゴンガスを保護ガスとして導入しながら溶融した。溶融後、溶鋼の組成が偏析を起こすことなく確実に均一になるように、材料を30分間静置した。静置終了後、溶融鋼の粘度値を減衰振動粘度計により1450℃温度下で測定した。
【0051】
ηと元素含有量を決定するために、スラグの状態によく関連するSi、B、P、Cの4つの主元素を分析した。5)では、主元素の相互結合とηの関係、及び薄帯鋳造に関連するパラメータ間の関係を調べることにより、薄帯の性能に利点を与える元素含有量及び粘度係数ηを決定した。具体的な実施例における元素の配合率を以下の表6に示す。
【表6】
【0052】
表6から分かるように、Cと(Si/P)との合計が0.86~1.2である場合、粘度係数が4.1~6.9になり、この範囲内での溶鋼の粘度係数が最適になるように保証され、さらに溶鋼の流動性が最適になるように保証される。この区間内であれば、時間tから、欠陥発生の時点が最も遅くなることが分かって、また時点が60分以後である薄帯表面の性能のパラメータ、例えば、薄帯の欠陥数Nが100未満で、Mが200未満であることから、それらの成分は他の成分より性能を大幅に改善することができったことが分かった。それに対応して、薄帯の積層係数が85~90に上昇し、ループの性能としてPs≦0.35W/kg、Ss≦0.4VA/kgとなった。
【0053】
上記の実施形態の説明は、本発明の方法及びその要旨の理解を助けるために使用されるもので過ぎない。当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく本発明にいくつかの改良及び修飾を行い得る。これらの改良及び修飾も本発明の特許請求の範囲に含まれることに留意されたい。
【0054】
開示された実施形態の上記の説明は、当業者が本発明を実現又は使用できるようにするものである。これらの実施形態に対する様々な修正は当業者にとって自明なものである。本明細書で定義される一般的な原理は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく他の実施形態で実施し得る。従って、本発明は、本明細書に記載されている実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書に開示される原理及び新規な特徴と一致する最も広い範囲が与えられるべきである。
【国際調査報告】