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特表2024-528724抗PD-1抗体医薬組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】抗PD-1抗体医薬組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240723BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240723BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240723BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
A61K39/395 U ZNA
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/10
A61P35/00
A61P31/00
A61P29/00
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505015
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 CN2022108825
(87)【国際公開番号】W WO2023006055
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】202110863978.0
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】320000850
【氏名又は名称】上海君▲実▼生物医▲薬▼科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JUNSHI BIOSCIENCES CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Floor 13, Building 2, Nos. 36 and 58, Haiqu Road, Pilot Free Trade Zone, Shanghai 201210 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ホンチョアン
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ペイシアン
(72)【発明者】
【氏名】トゥー, シアオチエ
(72)【発明者】
【氏名】モン, チン
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ホイ
(72)【発明者】
【氏名】フォン, ホイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB16
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC27
4C076DD09E
4C076DD23Q
4C076DD38Q
4C076DD41Z
4C076DD43Z
4C076DD51Q
4C076DD51Z
4C076DD67Q
4C076EE23E
4C076FF11
4C076FF36
4C076FF61
4C085AA14
4C085BB12
4C085BB31
4C085EE01
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
(57)【要約】
当該医薬組成物は、緩衝液及び抗PD-1抗体又はその抗原結合断片を含み、そのうち上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片の濃度は約100~250mg/mL、且つアミノ酸配列がそれぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3、並びにアミノ酸配列がそれぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、そのうち、上記医薬組成物のpHは約5.0~6.5である。本発明は、上記医薬組成物を含む注射剤、並びにPD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療する薬物の製造における上記医薬組成物及び注射剤の使用を更に提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、
(1)緩衝液と、
(2)抗PD-1抗体又はその抗原結合断片と、を含み、
そのうち、前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列がそれぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3、並びにアミノ酸配列がそれぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含み、
好ましくは、前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片の濃度は約100~250mg/mL、
好ましくは約150~250mg/mL、より好ましくは約150~200mg/mLであり、
好ましくは、前記医薬組成物のpHは約5.0~6.5、好ましくは約5.5~6.2、より好ましくは5.9~6.1であり、好ましくは、前記医薬組成物の浸透圧は260~320mOsm/kgの範囲内である、
医薬組成物。
【請求項2】
前記緩衝液は、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液から選ばれる1つ又は複数であり、好ましくは、前記緩衝液はヒスチジン緩衝液であり、前記ヒスチジン緩衝液は、ヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液又はヒスチジン-ヒスチジン酢酸塩緩衝液から選ばれ、好ましくは、前記緩衝液の濃度は約10~50mMであり、より好ましくは、前記緩衝液の濃度は約10~30mMであり、好ましくは、前記緩衝液のpHは約5.0~6.5であり、より好ましくは約5.5~6.2である、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物は、アルギニン、アルギニン塩、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、スクロース、グリシン及びトレハロースから選ばれる1つ又は複数である安定剤を更に含み、好ましくは、前記アルギニン塩は塩酸アルギニンであり、好ましくは、前記安定剤の濃度は約100~250mM、好ましくは約120~220mM、好ましくは約130~180mMである、
請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記安定剤は濃度が約120~220mMのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは前記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約100~180mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは前記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約50~150mMのグリシンとの組み合わせであり、好ましくは、前記安定剤は濃度が約130~180mMのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは前記安定剤は濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約110~170mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは前記安定剤は濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約80~120mMのグリシンとの組み合わせであり、好ましくは、前記アルギニン塩は濃度が約130~180mMの塩酸アルギニンである、
請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物は、ポリソルベート80、ポリソルベート20及びポロキサマー188から選ばれる1つ又は複数である界面活性剤を更に含み、好ましくは、w/vで計算すると、前記界面活性剤の濃度は約0.01~0.1%、より好ましくは、前記界面活性剤の濃度は約0.02~0.08%である、
請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7に示される軽鎖可変領域及び配列番号8に示される重鎖可変領域を含み、好ましくは、前記抗PD-1抗体は、配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む、
請求項1~5の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
それぞれ、以下の(1)~(8):
(1)(a)約150~250mg/mLの前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.5のpHを有する約10~30mMのヒスチジン緩衝液、(c)約120~220mMのアルギニン又はアルギニン塩、及び(d)約0.01~0.1%のポリソルベート80、或いは
(2)(a)約150~250mg/mLの前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.5のpHを有する約10~30mMのヒスチジン緩衝液、(c)濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約100~180mMのスクロースとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.01~0.1%のポリソルベート80、或いは
(3)(a)約150~250mg/mLの前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.5のpHを有する約10~30mMのヒスチジン緩衝液、(c)濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約50~150mMのグリシンとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.01~0.1%のポリソルベート80、或いは
(4)(a)約150~200mg/mLの前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.0のpHを有する約10~30mMの酢酸緩衝液、(c)約130~180mMのアルギニン又は塩酸アルギニン、及び(d)約0.02~0.08%のポリソルベート80、或いは
(5)(a)約150~200mg/mLの前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.0のpHを有する約10~30mMの酢酸緩衝液、(c)濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約110~170mMのスクロースとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.02~0.08%のポリソルベート80、或いは
(6)(a)約150~200mg/mLの前記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.0のpHを有する約10~30mMの酢酸緩衝液、(c)濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約80~120mMのグリシンとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.02~0.08%のポリソルベート80、
(7)(a)配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む約180mg/mLの抗PD-1抗体、(b)約6.0のpHを有する約20mMのヒスチジン緩衝液、(c)約140mMの塩酸アルギニン、及び(d)約0.02%のポリソルベート80、或いは
(8)(a)配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む約180mg/mLの抗PD-1抗体、(b)約6.0のpHを有する約20mMのヒスチジン緩衝液、(c)約150mMの塩酸アルギニン、及び(d)約0.04%のポリソルベート80、の何れか1つに示される成分を含む、
請求項1~6の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の医薬組成物及び塩化ナトリウム溶液又はグルコース溶液を含む注射剤であって、
好ましくは、前記塩化ナトリウム溶液の濃度は約0.85~0.9%(w/v)であり、好ましくは、前記グルコース溶液の濃度は約5~25%(w/v)であり、好ましくは、前記注射剤において、前記抗PD-1抗体の濃度は約0.5~50mg/mL、より好ましくは約0.5~20mg/mLであり、好ましくは、前記注射剤のpHは約5.0~6.5、より好ましくは約5.5~6.2である、注射剤。
【請求項9】
皮下注射により投与される、
請求項1~7の何れか1項に記載の医薬組成物又は請求項8に記載の注射剤。
【請求項10】
PD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療する薬物の製造における、請求項1~7の何れか1項に記載の医薬組成物又は請求項8に記載の注射剤の使用であって、好ましくは、前記疾患又は病状はがん、感染性疾患又は炎症性疾患から選ばれる、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療性医薬組成物の分野に関し、具体的には、抗PD-1抗体医薬組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫回避は、がんの特徴の一つである。Ahmadzadeh、M.ら、Blood、114:1537-44には、腫瘍特異的Tリンパ球が腫瘍微小環境、流入領域リンパ節と末梢血中によく存在するが、腫瘍微小環境にある免疫抑制機構ネットワークのため、それは通常、腫瘍の進行を制御することができないことが開示されている。CD8+腫瘍浸潤Tリンパ球(TIL)は通常、CTLA-4とPD-1を含む活性化誘発性の抑制性受容体を発現するが、腫瘍細胞は、PD-1リガンド1(PD-L1、B7-H1又はCD274とも呼ばれる)を含む免疫抑制リガンドを常に発現し、当該リガンドは、T細胞の活性化とエフェクター機能を抑制する。抑制機構において、PD-1及びそのリガンドは、腫瘍細胞がそれにより腫瘍微小環境で活性化されたT細胞を抑制する重要な経路となっている。
【0003】
プログラム死受容体1(PD-1)は、免疫調節及び末梢性免疫寛容の維持において重要な役割を果たしている。PD-1は主に、活性化されたT細胞とB細胞に発現され、リンパ球の活性化を抑制するように機能し、これは、免疫過剰反応を防止・治療する免疫系の正常な末梢組織寛容機構である。しかし、腫瘍微小環境で浸潤した活性化T細胞はPD-1分子を高発現しており、活性化白血球により分泌された炎症性因子は、腫瘍細胞がPD-1のリガンドPD-L1とPD-L2を高発現することを誘発し、それにより、腫瘍微小環境において活性化T細胞PD-1経路が活性化し続け、T細胞機能が抑制され、腫瘍細胞を殺傷することができなくなる。治療型抗PD-1抗体は、活性化T細胞が引き続き腫瘍細胞を殺傷できるように、この経路を遮断し、T細胞の機能の一部を回復させることができる。
【0004】
ここ十年来、PD-1/PD-L1経路の遮断は、種々のがん適応症において持続的な抗腫瘍応答を誘導する有効な経路であることが既に証明されている。PD/PD-L1経路を遮断するモノクローナル抗体(mAbs)は、腫瘍特異的T細胞の活性化とエフェクター機能を増強し、腫瘍負荷を低減し、生存率を向上させることができる。
【0005】
抗体医薬製剤は、長時間安定的で、安全且つ有効な用量が含まれる医薬製剤であり、抗体の特別な構造及び性質のため、抗体系薬物には、製造、保存、輸送の過程で安定した環境が必要である。タンパク質の種類や抗体の種類が異なる場合、その物理化学的性質及び分解反応なども異なるため、抗体系医薬製剤の緩衝液、補助剤などの配合も異なる。
【0006】
腫瘍患者のコンプライアンスと投与の利便性を向上させるために、皮下(SC)注射が好ましい実施形態であるが、その効果を発揮するために必要な投与量が比較的高いため、高濃度の製剤を製造する必要がある。しかし、高濃度の抗体製剤は多くの困難が伴っている。例えば、このような製剤は粘度が非常に高いため、注射器で薬剤を吸引・注入することが困難であり、容器と注射器内に薬剤が多く残留するため、投与量の偏差が大きくなり、且つ注射部位に痛みが生じるなど、また、製剤の粘度が高いと、濃縮及びろ過プロセスで非常に高い圧力が必要になり、又はろ過膜を通過できなくなるなどの、製造プロセスにおいて重大な問題をもたらす。また、例えば、製剤中の高濃度抗体タンパク質は極めて凝集しやすいため、製剤が不安定になったり、不溶性微粒子を形成しやすくなったり、薬物の免疫原性を増加させたり、薬物の副作用を増加させたりする。
【0007】
従って、この分野では、高抗体濃度且つ長時間安定的で、凝集なし、低粘度などの製造及び臨床応用の要件を満たすために、ヒトプログラム死受容体1を標的とする高濃度抗体製剤の開発が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明に記載の医薬組成物は、PD-1と特異的に結合する抗体を含む高安定性医薬組成物である。特に、本発明が適切な緩衝系及びpHを選択し、安定剤及び界面活性剤を最適化し、そして薬物動態学的及び薬効的研究を行うことによって開発した高濃度抗体製剤は、皮下投与に使用でき、且つ長時間安定的で、凝集なし、超低粘度である。
【0009】
本発明は、(1)緩衝液と、(2)抗PD-1抗体又はその抗原結合断片と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0010】
幾つかの形態において、上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列がそれぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3、並びにアミノ酸配列がそれぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含む。
【0011】
幾つかの形態において、上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、マウス抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、ヒト化抗体又はその抗原結合断片から選ばれ、好ましくはヒト化抗体又はその抗原結合断片である。
【0012】
幾つかの形態において、上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7に示される軽鎖可変領域及び配列番号8に示される重鎖可変領域を含む。
【0013】
幾つかの形態において、上記抗PD-1抗体は、配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む。
【0014】
幾つかの形態において、上記医薬組成物における抗PD-1抗体又はその抗原結合断片の濃度は約100~250mg/mL、好ましくは約150~250mg/mL、より好ましくは約150~200mg/mLであり、より好ましくは、上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片の濃度は約100mg/mL、110mg/mL、120mg/mL、130mg/mL、140mg/mL、150mg/mL、160mg/mL、170mg/mL、175mg/mL、180mg/mL、185mg/mL、190mg/mL、195mg/mL、200mg/mL、210mg/mL、220mg/mL、好ましくは約180mg/mL、185mg/mL、190mg/mL又は195mg/mLである。
【0015】
幾つかの形態において、上記医薬組成物のpHは約5.0~6.5、好ましくは約5.5~6.2、より好ましくは5.9~6.1、更に好ましくは約6.0である。
【0016】
幾つかの形態において、上記医薬組成物の浸透圧は260~320mOsm/kgの範囲内であり、好ましくは290~310mOsm/kgの範囲内である。
【0017】
幾つかの形態において、上記医薬組成物は、約25℃で測定された粘度が8.0cP以下である。
【0018】
幾つかの形態において、上記緩衝液は、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液から選ばれる1つ又は複数であり、好ましくは、上記緩衝液はヒスチジン緩衝液である。
【0019】
幾つかの形態において、上記ヒスチジン緩衝液は、ヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液又はヒスチジン-ヒスチジン酢酸塩緩衝液から選ばれ、好ましくはヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液である。
【0020】
幾つかの形態において、上記ヒスチジン緩衝液はヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液である。幾つかの形態において、上記ヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液は、ヒスチジン及びヒスチジン塩酸塩、好ましくはL-ヒスチジン及びL-ヒスチジン一塩酸塩により製造される。幾つかの形態において、ヒスチジン緩衝液は、1~30mMのL-ヒスチジン及び1~30mMのL-ヒスチジン一塩酸塩により製造される。幾つかの形態において、ヒスチジン緩衝液は、モル比が1:1~1:4のヒスチジン及びヒスチジン塩酸塩により製造される。幾つかの形態において、ヒスチジン緩衝液は、モル比が約1:1のヒスチジン及びヒスチジン塩酸塩により製造される。幾つかの形態において、ヒスチジン緩衝液は、モル比が約1:3のヒスチジン及びヒスチジン塩酸塩により製造される。幾つかの形態において、ヒスチジン製剤は、約4.5mMのL-ヒスチジン及び約15.5mMのL-ヒスチジン一塩酸塩により製造されたpHが約5.5のヒスチジン緩衝剤である。幾つかの形態において、ヒスチジン製剤は、約7.5mMのL-ヒスチジン及び約22.5mMのL-ヒスチジン一塩酸塩により製造されたpHが約5.5のヒスチジン緩衝剤である。幾つかの形態において、ヒスチジン製剤は、約10mMのヒスチジン及び約10mMのヒスチジン塩酸塩により製造されたpHが約6.0のヒスチジン緩衝液である。
【0021】
幾つかの形態において、上記ヒスチジン緩衝液はヒスチジン-ヒスチジン酢酸塩緩衝液であり、好ましくは、両者のモル比は1:1~1.5:1であり、好ましくは、このような緩衝液のpHは6.0±0.3、好ましくは約6.0であり、好ましくは、このような緩衝液は、10~15mMのヒスチジン及び10~15mMのヒスチジン酢酸塩を含む。
【0022】
幾つかの形態において、上記緩衝液は酢酸緩衝液であり、好ましくは、上記酢酸緩衝液は酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液又は酢酸-酢酸カリウム緩衝液であり、好ましくは酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液である。幾つかの形態において、酢酸緩衝液は、1~30mMの酢酸及び1~30mMの酢酸ナトリウムにより製造される。幾つかの形態において、酢酸緩衝液は、モル比が約1:2.1の酢酸及び酢酸ナトリウムにより製造される。幾つかの形態において、酢酸緩衝液は、モル比が約1:5.7の酢酸及び酢酸ナトリウムにより製造される。幾つかの形態において、酢酸緩衝液は、約6.5mMの酢酸及び約13.5mMの酢酸ナトリウムにより製造されたpHが約5.0の酢酸緩衝液である。幾つかの形態において、酢酸緩衝液は、約3mMの酢酸及び約17mMの酢酸ナトリウムにより製造されたpHが約5.5の酢酸緩衝液である。
【0023】
幾つかの形態において、上記緩衝液はクエン酸緩衝液であり、好ましくは、上記クエン酸緩衝液はクエン酸-クエン酸ナトリウム緩衝液である。幾つかの形態において、クエン酸緩衝液は、1~30mMのクエン酸及び1~30mMのクエン酸ナトリウムにより製造される。幾つかの形態において、クエン酸緩衝液は、モル比が約1:1~1:4のクエン酸及びクエン酸ナトリウムにより製造される。幾つかの形態において、クエン酸緩衝液は、約5.0mMのクエン酸及び約15.0mMのクエン酸ナトリウムにより製造されたpHが約6.0のクエン酸緩衝液である。幾つかの形態において、クエン酸緩衝液は、約10mMのクエン酸及び約10mMのクエン酸ナトリウムにより製造されたpHが約6.0のクエン酸緩衝液である。
【0024】
幾つかの形態において、上記緩衝液の濃度は約5~100mM、好ましくは約10~50mM、より好ましくは約10~30mM、更に好ましくは約15~25mMであり、上記緩衝液濃度の非限定的な実施例は、約10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、40mM、45mM、50mM又はこれらの範囲内の任意の2つの数値を端点として形成される範囲であり、好ましくは約15mM、20mM又は25mMである。
【0025】
幾つかの形態において、上記緩衝液のpHは約5.0~6.5、好ましくは約5.5~6.5、より好ましくは約5.5~6.2、更に好ましくは約5.9~6.1であり、上記緩衝液のpHの非限定的な実施例は、約5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、好ましくは約5.9、6.0又は6.1である。
【0026】
幾つかの形態において、上記医薬組成物は、アルギニン、アルギニン塩、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、スクロース、グリシン及びトレハロースから選ばれる1つ又は複数である安定剤を更に含み、好ましくは、上記アルギニン塩は塩酸アルギニンである。
【0027】
幾つかの形態において、上記安定剤の濃度は約10~400mM、好ましくは約100~250mM、より好ましくは約120~220mM、更に好ましくは約130~180mMであり、上記安定剤の濃度の非限定的な実施例は、約100mM、110mM、120mM、130mM、140mM、145mM、150mM、160mM、170mM、180mM、190mM、200mM、210mM、220mM、230mM又はこれらの範囲内の任意の2つの数値を端点として形成される範囲であり、好ましくは約140mM、150mM又は160mMである。
【0028】
幾つかの形態において、上記安定剤は濃度が約120~220mMのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約100~180mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約50~150mMのグリシンとの組み合わせであり、好ましくは、上記安定剤は濃度が約130~180mMのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは上記安定剤は濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約110~170mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは上記安定剤は濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約80~120mMのグリシンとの組み合わせであり、好ましくは、上記アルギニン塩は塩酸アルギニンである。
【0029】
幾つかの形態において、上記安定剤はアルギニン又はアルギニン塩である。幾つかの形態において、上記安定剤は濃度が約30~250mMのアルギニン又はアルギニン塩であり、上記アルギニン又はアルギニン塩の濃度は、好ましくは約100~250mM、より好ましくは約120~220mM、更に好ましくは約130~180mM、最も好ましくは約140~160mMであり、上記アルギニン又はアルギニン塩濃度の非限定的な実施例は、約100mM、110mM、120mM、125mM、130mM、135mM、140mM、145mM、150mM、155mM、160mM、170mM、180mM、190mM、200mM、好ましくは約135mM、140mM、145mM、150mM又は155mMであり、好ましくは、上記アルギニン塩は塩酸アルギニンである。
【0030】
幾つかの形態において、上記安定剤はスクロースである。幾つかの形態において、上記安定剤は濃度が約100~300mMのスクロースであり、上記スクロースの濃度は、好ましくは約150~300mM、より好ましくは約200~280mMであり、上記スクロース濃度の非限定的な実施例は、約200mM、210mM、220mM、230mM、240mM、250mM、260mM、270mM、280mM、好ましくは約220mMである。
【0031】
幾つかの形態において、上記安定剤はトレハロースである。幾つかの形態において、上記安定剤は濃度が約100~300mMのトレハロースであり、上記トレハロースの濃度は、好ましくは約150~300mM、より好ましくは約200~280mMであり、上記トレハロース濃度の非限定的な実施例は、約180mM、200mM、210mM、220mM、230mM、240mM、250mM、260mM、270mM、280mM、好ましくは約220mMである。
【0032】
幾つかの形態において、上記安定剤は塩化ナトリウムである。幾つかの形態において、上記安定剤は濃度が約30~200mMの塩化ナトリウムであり、上記塩化ナトリウムの濃度は、好ましくは約50~190mM、より好ましくは約100~180mM、更に好ましくは約120~170mM、最も好ましくは約130~150mMであり、上記塩化ナトリウム濃度の非限定的な実施例は、約100mM、110mM、120mM、125mM、130mM、135mM、140mM、145mM、150mM、155mM、160mM、170mM、180mM、190mM、200mM、好ましくは約135mM又は140mMである。
【0033】
幾つかの形態において、上記安定剤はマンニトールである。幾つかの形態において、上記安定剤は濃度が約100~300mMのマンニトールであり、上記マンニトールの濃度は、好ましくは約150~300mM、より好ましくは約200~280mMであり、上記マンニトール濃度の非限定的な実施例は、約200mM、210mM、220mM、230mM、240mM、250mM、260mM、270mM、280mM、好ましくは約240mMである。
【0034】
幾つかの形態において、上記安定剤はソルビトールである。幾つかの形態において、上記安定剤は濃度が約100~300mMのソルビトールであり、上記ソルビトールの濃度は、好ましくは約150~300mM、より好ましくは約200~280mMであり、上記ソルビトール濃度の非限定的な実施例は、約200mM、210mM、220mM、230mM、240mM、250mM、260mM、270mM、280mM、好ましくは約240mMである。
【0035】
幾つかの形態において、上記安定剤は、塩化ナトリウムとマンニトールとの組み合わせである。幾つかの形態において、上記安定剤は、約30~200mMの塩化ナトリウムと約30~200mMのマンニトールとの組み合わせ、好ましくは約30~100mMの塩化ナトリウムと約100~180mMのマンニトールとの組み合わせ、より好ましくは約30~70mMの塩化ナトリウムと約120~180mMのマンニトールとの組み合わせであり、上記安定剤の非限定的な実施例は、約50mMの塩化ナトリウムと約140mMのマンニトールとの組み合わせ、又は約50mMの塩化ナトリウムと約150mMのマンニトールとの組み合わせである。
【0036】
幾つかの形態において、上記安定剤は、塩酸アルギニンとスクロースとの組み合わせである。幾つかの形態において、上記安定剤は、約30~200mMの塩酸アルギニンと約30~200mMのスクロースとの組み合わせ、好ましくは約30~100mMの塩酸アルギニンと約100~180mMのスクロースとの組み合わせ、より好ましくは約30~70mMの塩酸アルギニンと約110~170mMのスクロースとの組み合わせであり、上記安定剤の非限定的な実施例は、約50mMの塩酸アルギニンと約130mMのスクロースとの組み合わせであり、上記安定剤の非限定的な実施例は、約50mMの塩酸アルギニンと約140mMのスクロースとの組み合わせ、又は約50mMの塩酸アルギニンと約150mMのスクロースとの組み合わせである。
【0037】
幾つかの形態において、上記安定剤は、塩酸アルギニンとグリシンとの組み合わせである。幾つかの形態において、上記安定剤は、約30~200mMの塩酸アルギニンと約30~200mMのグリシンとの組み合わせ、好ましくは約30~100mMの塩酸アルギニンと約50~150mMのグリシンとの組み合わせ、より好ましくは約30~70mMの塩酸アルギニンと約80~120mMのグリシンとの組み合わせであり、上記安定剤の非限定的な実施例は、約50mMの塩酸アルギニンと約100mMのグリシンとの組み合わせ、又は約50mMの塩酸アルギニンと約110mMのグリシンとの組み合わせである。
【0038】
幾つかの形態において、上記安定剤は、塩化ナトリウムとスクロースとの組み合わせである。幾つかの形態において、上記安定剤は、約30~200mMの塩化ナトリウムと約30~200mMのスクロースとの組み合わせ、好ましくは約30~100mMの塩化ナトリウムと約100~180mMのスクロースとの組み合わせ、より好ましくは約30~70mMの塩化ナトリウムと約100~150mMのスクロースとの組み合わせであり、上記安定剤の非限定的な実施例は、約50mMの塩化ナトリウムと約120mMのスクロースとの組み合わせ、又は約50mMの塩化ナトリウムと約130mMのスクロースとの組み合わせである。
【0039】
幾つかの形態において、上記安定剤は、塩化ナトリウムとトレハロースとの組み合わせである。幾つかの形態において、上記安定剤は、約30~200mMの塩化ナトリウムと約30~200mMのトレハロースとの組み合わせ、好ましくは約40~150mMの塩化ナトリウムと約40~180mMのトレハロースとの組み合わせ、より好ましくは約40~100mMの塩化ナトリウムと約80~160mMのトレハロースとの組み合わせであり、上記安定剤の非限定的な実施例は、約50mMの塩化ナトリウムと約120mMのトレハロースとの組み合わせ、又は約50mMの塩化ナトリウムと約140mMのトレハロースとの組み合わせである。
【0040】
幾つかの形態において、上記医薬組成物は、ポリソルベート80、ポリソルベート20及びポロキサマー188から選ばれる1つ又は複数である界面活性剤を更に含む。
【0041】
幾つかの形態において、上記界面活性剤はポリソルベート80から選ばれる。
【0042】
幾つかの形態において、上記界面活性剤はポリソルベート20から選ばれる。
【0043】
幾つかの形態において、w/vで計算すると、上記界面活性剤の濃度は約0.001~0.1%、好ましくは約0.01~0.1%、より好ましくは約0.02~0.08%、更に好ましくは約0.02~0.06%であり、非限定的な実施例として、上記界面活性剤の濃度は約0.02%、0.04%又は0.08%、好ましくは約0.04%である。
【0044】
幾つかの形態において、医薬組成物は、以下の(1)~(8)の何れか1つに示される成分を含むか、又はそれぞれ(1)~(8)の何れか1つに示される成分で構成される。
【0045】
(1)(a)約150~250mg/mLの上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.5のpHを有する約10~30mMのヒスチジン緩衝液、(c)約120~220mMのアルギニン又はアルギニン塩、及び(d)約0.01~0.1%(w/v)のポリソルベート80、或いは
(2)(a)約150~250mg/mLの上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.5のpHを有する約10~30mMのヒスチジン緩衝液、(c)濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約100~180mMのスクロースとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.01~0.1%(w/v)のポリソルベート80、或いは
(3)(a)約150~250mg/mLの上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.5のpHを有する約10~30mMのヒスチジン緩衝液、(c)濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約50~150mMのグリシンとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.01~0.1%(w/v)のポリソルベート80、或いは
(4)(a)約150~200mg/mLの上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.0のpHを有する約10~30mMの酢酸緩衝液、(c)約130~180mMのアルギニン又は塩酸アルギニン、及び(d)約0.02~0.08%(w/v)のポリソルベート80、或いは
(5)(a)約150~200mg/mLの上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.0のpHを有する約10~30mMの酢酸緩衝液、(c)濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約110~170mMのスクロースとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.02~0.08%(w/v)のポリソルベート80、或いは
(6)(a)約150~200mg/mLの上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、(b)約5.5~6.0のpHを有する約10~30mMの酢酸緩衝液、(c)濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約80~120mMのグリシンとの組み合わせである安定剤、及び(d)約0.02~0.08%(w/v)のポリソルベート80、
(7)(a)配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む約180mg/mLの抗PD-1抗体、(b)約6.0のpHを有する約20mMのヒスチジン緩衝液、(c)約140mMの塩酸アルギニン、及び(d)約0.02%(w/v)のポリソルベート80、或いは
(8)(a)配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む約180mg/mLの抗PD-1抗体、(b)約6.0のpHを有する約20mMのヒスチジン緩衝液、(c)約150mMの塩酸アルギニン、及び(d)約0.04%(w/v)のポリソルベート80。幾つかの形態において、本発明は、緩衝液、抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、安定剤及び界面活性剤を含む医薬組成物を提供し、そのうち、上記抗PD-1抗体は、配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含み、上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片の濃度は150~200mg/mLであり、上記医薬組成物のpHは5.9~6.1であり、浸透圧は260~320mOsm/kg、好ましくは290~310mOsm/kgの範囲内である。好ましくは、上記医薬組成物において、緩衝液はヒスチジン緩衝液であり、その濃度は15~25mMであり、pHは約5.9~6.1、好ましくは約6.0である。好ましくは、上記医薬組成物において、安定剤は約140~160mM、好ましくは約150mMの塩酸アルギニンである。好ましくは、上記医薬組成物において、界面活性剤はポリソルベート80であり、その濃度は、好ましくは0.02~0.06%(w/v)、より好ましくは約0.04%(w/v)である。好ましくは、上記医薬組成物は、約25℃で測定された粘度が8.0cP以下、より好ましくは7.0cP以下である。
【0046】
幾つかの形態において、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の医薬組成物は液体製剤又は凍結乾燥製剤である。
【0047】
幾つかの形態において、上記医薬組成物は液体製剤である。
【0048】
幾つかの形態において、上記液体製剤又は凍結乾燥製剤は、2~8℃で、少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間又は少なくとも24ヶ月間安定している。
【0049】
幾つかの形態において、上記液体製剤又は凍結乾燥製剤は、40℃で少なくとも7日間、少なくとも14日間又は少なくとも28日間安定している。
【0050】
本発明は、本明細書の何れか1つの形態に記載の医薬組成物及び塩化ナトリウム溶液又はグルコース溶液を含む注射剤を更に提供し、好ましくは、上記塩化ナトリウム溶液の濃度は約0.85~0.9%(w/v)であり、好ましくは、上記グルコース溶液の濃度は約5~25%(w/v)、より好ましくは約5~10%(w/v)であり、好ましくは、上記注射剤において、上記抗PD-1抗体の濃度は約0.5~50mg/mL、より好ましくは約0.5~20mg/mLであり、上記注射剤のpHは約5.0~6.5、好ましくは約5.5~6.2である。
【0051】
幾つかの形態において、上記医薬組成物又は注射剤は、皮下注射により投与される。
【0052】
本発明は、PD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療する薬物の製造における、本明細書の何れか1つの形態に記載の医薬組成物又は注射剤の使用を更に提供する。
【0053】
本発明は、PD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療するための、本明細書の何れか1つの形態に記載の医薬組成物又は注射剤を更に提供する。
【0054】
本発明は、PD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療する方法であって、本明細書の何れか1つの形態に記載の医薬組成物又は注射剤を、それを必要とする受検者に投与することを含む、方法を更に提供する。
【0055】
幾つかの形態において、上記疾患又は病状は、がん又は感染性疾患又は炎症性疾患から選ばれる。
【0056】
本発明は、高濃度抗体医薬製剤の粘度を低減する方法を更に提供し、そのうち、上記抗体医薬製剤における抗体濃度は150mg/mL以上、例えば150~250mg/mLの範囲内であり、上記方法は、塩酸アルギニン、塩化ナトリウム、又はスクロース及び塩酸アルギニンを安定剤として使用し、並びにヒスチジン緩衝液を緩衝液として使用することによって当該高濃度抗体医薬製剤を製造することを含む。好ましくは、塩酸アルギニンは、製造された抗体医薬製剤中の濃度が約100~200mM、好ましくは約140~160mMとなる用量で使用される。好ましくは、塩化ナトリウムは、製造された抗体医薬製剤中の濃度が約100~200mM、好ましくは約140~160mMとなる用量で使用される。好ましくは、スクロースと塩酸アルギニンとの混合物を安定剤として使用する場合、スクロースは、製造された抗体医薬製剤中の濃度が約100~180mM、好ましくは約110~150mMとなる用量で使用され、塩酸アルギニンは、製造された抗体医薬製剤中の濃度が約30~80mM、好ましくは約30~60mMとなる用量で使用される。好ましくは、使用されるヒスチジン緩衝液のpH値は5.0~6.5、好ましくは5.5~6.2、より好ましくは5.9~6.1である。好ましくは、使用されるヒスチジン緩衝液は、製造された抗体医薬製剤中の濃度が15~25mM、好ましくは約20mMとなる量で使用される。好ましくは、上記抗体は、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の抗PD-1抗体である。好ましくは、上記の高濃度抗体医薬製剤の粘度を低減する方法は、製造された抗体医薬製剤の粘度を約8.0cP以下(約25℃で測定)に低減することができる。幾つかの形態において、上記方法は、上記抗体医薬製剤に本明細書の何れか1つの実施形態に記載の界面活性剤、好ましくは0.02~0.06%(w/v)のポリソルベート80を添加することを更に含む。
【0057】
幾つかの形態において、本発明は、安定剤としての塩酸アルギニン、塩化ナトリウム、又はスクロース並びに塩酸アルギニン及びヒスチジン緩衝液の、高濃度抗体医薬製剤の粘度の低減における応用、或いは、低減した粘度を有する高濃度抗体医薬製剤の製造における応用を更に提供する。好ましくは、上記安定剤及びヒスチジン緩衝液、抗体及び抗体濃度は、本明細書の何れか1つの実施形態に記載される通りである。好ましくは、上記応用は、高濃度抗体医薬製剤の粘度を約8.0cP以下(約25℃で測定)に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】処方スクリーニング1回目-高温試験でのSEC-HPLC純度トレンドチャートである。
図2】処方スクリーニング1回目-高温試験でのCEX-HPLC純度トレンドチャートである。
図3】処方スクリーニング2回目-高温試験でのSEC-HPLC純度トレンドチャートである。
図4】処方スクリーニング2回目-高温試験でのCEX-HPLC純度トレンドチャートである。
図5】処方スクリーニング3回目-高温試験でのSEC-HPLC純度トレンドチャートである。
図6】処方スクリーニング3回目-高温試験でのCEX-HPLC純度トレンドチャートである。
図7】A、Bの2群の平均血中薬物濃度-時間変化曲線である。
図8】皮下注射製剤によるhPD-1ヒト化マウス移植MC38腫瘍成長への阻害作用曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
定義及び説明
本発明をより容易に理解できるように、技術と科学用語を以下のように定義する。本明細書で明確に別途定義しない限り、本明細書で使用されるその他の全ての技術と科学用語は、本発明の当業者が通常理解する意味を有する。本発明は具体的な方法、試薬、化合物、組成物又は生体系に限らず、当然、上記に対して変化を行うことができる。本願で使用される用語は、具体的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定を加えるためのものではない。本明細書に引用される特許、特許出願、論文、教科書などの全ての参考文献、並びにそれらに引用される参考文献が、まだ引用されていない範囲において、それらを全体として引用により組み込まれる。組み込まれた文献及び類似する材料のうちの1つ又は複数が、本願と異なるか又は矛盾する場合、定義された用語、用語の使用方法、記載された技術などを含むが、これらに限定されず、本願を優先とする。
【0060】
その内容は別途で明確な説明がない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される「1つ」、「1種」及び「当該」の単数表現は複数の意味を含む。従って、例えば、「1種のポリペプチド」は、2種又はそれ以上のポリペプチドなどの組み合わせを含む。
【0061】
「医薬組成物」又は「製剤」という用語は、本明細書に記載される抗体の1つ又は複数、及び生理学的に薬用可能なベクター及び賦形剤などの他の成分を含有する混合物を意味する。医薬組成物は、生体への投与を促進し、活性成分の吸収を高め、更に生理活性を発揮することを目的とする。
【0062】
「液体製剤」という用語は、液体状態の製剤を指し、再懸濁される凍結乾燥製剤を指すためのものではない。本発明に係る液体製剤は安定的に保存できるとともに、その安定性が凍結乾燥(又はその他の状態変換方法、例えば、噴霧乾燥)によるものではない。
【0063】
「水性液体製剤」という用語は、水を溶媒とする液体製剤を指す。幾つかの実施形態において、水性液体製剤とは、凍結乾燥、噴霧乾燥及び/又は冷凍を必要とせず、安定性(例えば、化学的及び/又は物理的安定性及び/又は生理活性)が維持できる製剤である。
【0064】
「賦形剤」という用語は、必要な特性(例えば、稠度、高安定性)の提供、及び/又は浸透圧の調整のために製剤に添加できる試薬を指す。一般的に使われる賦形剤の実例は、糖類、ポリオール、アミノ酸、界面活性剤及びポリマーを含むが、これらに限定されない。
【0065】
本願で使用される「約」は、測定可能な数値(例えば、数量、持続時間など)を表す場合、開示された方法に適用できる変化であって、具体的な数値に対する±20%又は±10%の変化、例えば、±5%、±1%及び±0.1%の変化を含むことを意味する。
【0066】
「緩衝液のpH値が約5.0~6.5である」という用語は、その酸/塩基共役成分の作用により当該試薬を含む溶液がpH値の変化に耐性のある試薬を指す。本発明に係る製剤で使用される緩衝液は、pH値が約5.0~約6.5の範囲内、又は約5.5~約6.5の範囲内、又は約5.0~約6.0の範囲内であってもよい。
【0067】
本明細書において、pHをこの範囲内に制御する「緩衝液」の実例としては、酢酸、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)、コハク酸、コハク酸塩(例えば、コハク酸ナトリウム)、グルコン酸、ヒスチジン、ヒスチジン塩(例えば、ヒスチジン塩酸塩)、メチオニン、クエン酸(枸櫞酸)、クエン酸塩(枸櫞酸塩)、リン酸塩、クエン酸塩/リン酸塩、イミダゾール、これらの組み合わせ及び他の有機酸緩衝剤を含む。
【0068】
「ヒスチジン緩衝液」はヒスチジンイオンを含む緩衝液である。ヒスチジン緩衝液の実例は、ヒスチジン及びヒスチジン塩酸塩、ヒスチジン酢酸塩、ヒスチジンリン酸塩、ヒスチジン硫酸塩などのヒスチジンの塩を含み、例えば、ヒスチジンとヒスチジン塩酸塩を含むヒスチジン緩衝液であり、また、本発明のヒスチジン緩衝液はヒスチジンと酢酸塩(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩)を含むヒスチジン緩衝液を含む。
【0069】
「クエン酸緩衝液」は「枸櫞酸緩衝液」とも呼ばれ、クエン酸イオンを含む緩衝液である。クエン酸塩緩衝液の実例は、クエン酸-クエン酸ナトリウム、クエン酸-クエン酸カリウム、クエン酸-クエン酸カルシウム、クエン酸-クエン酸マグネシウムなどを含む。好ましいクエン酸塩緩衝液はクエン酸-クエン酸ナトリウム緩衝液である。
【0070】
「酢酸塩緩衝液」は酢酸イオンを含む緩衝液である。酢酸塩緩衝液の実例は、酢酸-酢酸ナトリウム、酢酸-酢酸カリウム、酢酸-酢酸カルシウム、酢酸-酢酸マグネシウムなどを含む。好ましい酢酸塩緩衝液は酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液である。
【0071】
「コハク酸緩衝液」はコハク酸イオンを含む緩衝液である。コハク酸塩緩衝液の実例は、コハク酸-コハク酸ナトリウム、コハク酸-コハク酸カリウム、コハク酸-コハク酸カルシウム、コハク酸-コハク酸マグネシウムなどを含む。好ましいコハク酸塩緩衝液はコハク酸-コハク酸ナトリウム緩衝液である。
【0072】
「安定剤」という用語は薬学的に許容される賦形剤を意味し、製造、保存及び適用の過程において活性薬物成分及び/又は製剤が化学的及び/又は物理的に分解されないように保護する。安定剤は、下記に定義される糖、アミノ酸、塩、ポリオール及びこれらの代謝産物、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、マンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロース、アルギニン又はその塩(塩酸アルギニンなど)、グリシン、アラニン(α-アラニン、β-アラニン)、ベタイン、ロイシン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、4-ヒドロキシプロリン、サルコシン、γ-アミノ酪酸(GABA)、オパイン(opines)、アラノピン、オクトピン、ストロンビン(strombine)及びトリメチルアミンのN-酸化物(TMAO)、ヒト血清アルブミン(hsa)、ウシ血清アルブミン(BSA)、α-カゼイン、グロブリン、α-ラクトアルブミン、LDH、リゾチーム、ミオグロビン、オボアルブミン及びRNAase Aを含むが、これらに限定されない。塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、マンニトール、ソルビトール、スクロースなどの一部の安定剤は、浸透圧の制御効果を果たすことができる。本発明で具体的に使用される安定剤はポリオール、アミノ酸、塩、糖のうちの1種又は1種以上から選ばれる。好ましい塩は塩化ナトリウムであり、好ましい糖はスクロース及びトレハロースであり、好ましいポリオールはソルビトール及びマンニトールである。好ましいアミノ酸はアルギニン、グリシン、プロリンであり、アミノ酸は、そのD-型及び/又はL-型で存在し得るが、典型的にはL-型であり、アミノ酸は、任意の適切な塩、例えば、塩酸塩、例えば、塩酸アルギニンとして存在し得る。好ましい安定剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロース、塩酸アルギニン、グリシン、プロリン、塩化ナトリウム-ソルビトール、塩化ナトリウム-マンニトール、塩化ナトリウム-スクロース、塩化ナトリウム-トレハロース、塩酸アルギニン-マンニトール、塩酸アルギニン-スクロースである。
【0073】
「界面活性剤」という用語は、一般的に、抗体凝集の低減又は製剤における粒状物の形成の最小化を図るために、空気/溶液界面により誘導される応力、溶液/表面により誘導される応力の影響から抗体などのタンパク質を保護する試薬を含む。例示された界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80)、ポリエチレン-ポリプロピレン共重合体、ポリエチレン-ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン-ステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えばポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton-X)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(ポロキサマー、Pluronic)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの、非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない。本明細書において、特に明記しない限り、「ポリソルベート20の濃度」及び「ポリソルベート80の濃度」という用語は両方とも、「質量体積濃度(w/v)」を意味し、例えば、「約0.04%のポリソルベート80」における「0.04%」は、「100mLの液体に0.04gのポリソルベート80が含まれる」ことを意味する。
【0074】
本明細書で使用される用語「粘度」は「動粘度」又は「絶対粘度」であってもよい。「動粘度」とは、流体が重力の影響で発生した流動抵抗を測定するための指標である。「絶対粘度」とは、粘性係数や粘性率とも呼ばれ、動粘度と流体密度の積(絶対粘度=動粘度×密度)である。動粘度のディメンションはL2/Tであり、そのうち、Lは長さで、Tは時間である。通常、動粘度はセンチストークス(cSt)で表す。動粘度の国際単位系単位はmm2/sであり、即ちlcStである。絶対粘度はセンチポアズ(cP)で表す。絶対粘度の国際単位系単位はミリパスカル・秒(mPa・s)であり、そのうち1cP=lmPa・sである。
【0075】
本発明に係る液体型製剤について、本明細書で使用される用語「低レベル粘度」とは約15センチポアズ(cP)より低い絶対粘度である。例えば、標準粘度測定技術で測定する場合、当該製剤の絶対粘度が約15cP、約14cP、約13cP、約12cP、約11cP、約10cP、約9cP、約8cP、又は更に低い粘度であれば、本発明に係る液体型製剤は「低粘度」と見なされる。本発明に係る液体型製剤について、本明細書で使用される用語「中レベル粘度」とは約35cP~約15cPの絶対粘度である。例えば、標準粘度測定技術で測定する場合、当該製剤の絶対粘度が約34cP、約33cP、約32cP、約31cP、約30cP、約29cP、約28cP、約27cP、約26cP、約25cP、約24cP、約23cP、約22cP、約21cP、約20cP、約19cP、約18cP、約17cP、約16cP、又は約15cPであれば、本発明に係る液体型製剤は「中粘度」と見なされる。本発明の医薬組成物は、幾つかの実施形態において、約7cP又はそれ以下の超低レベル粘度を示すことができる。幾つかの実施形態において、異なる補助剤の粘度の比較から、アルギニン又はその塩は、他の補助剤よりも明らかに優れた粘度、安定性及び薬効を達成できることを見出した。幾つかの実施形態において、緩衝系の比較から、ヒスチジン緩衝系は、他の緩衝系よりも明らかに優れた粘度、安定性及び薬効を達成できることを見出した。
【0076】
「等張」という用語は、当該製剤がヒト血液と基本的に同じ浸透圧を有することを意味する。等張製剤は、一般的に約250~350mOsmの浸透圧を有する。蒸気圧式又は氷点降下方式の浸透圧計で等張性を測定することができる。
【0077】
「安定的な」製剤という用語は、製造期間及び/又は保存期間において、その中の抗体の物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生理活性が基本的に保持される製剤である。たとえ、一定の期間で保存した後、含まれる抗体の化学構造又は生理機能が100%保持できなくても、医薬製剤も安定し得る。一定の期間で保存した後、抗体構造又は機能が約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%保持できると、「安定的」と見なされる場合がある。タンパク質安定性を測定するための各解析技術が本技術分野において利用可能であり、「ペプチド及びタンパク質の薬物送達」(Peptide and Protein Drug Delivery)247~301,Vincent Lee編集,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)、及びJones,A.(1993)Adv.Drug Delivery Rev.10:29~90に記載されている(両者を参考として引用)。
【0078】
製剤は、一定の温度及び一定の期間で保存した後、その中に残された天然抗体のパーセンテージを測定すること(及びその他の方法)により、その安定性を測定することができる。その他の方法以外に、天然抗体のパーセンテージはサイズ排除クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー[SEC-HPLC])により測定できるが、「天然の」とは凝集されていない、及び分解されていないものを指す。幾つかの形態において、タンパク質の安定性は、分解した(例えば、断片化)及び/又は凝集したタンパク質を低いパーセンテージで有する溶液における、タンパク質単体のパーセンテージにより決められる。幾つかの形態において、製剤は、室温、約25~30℃又は40℃で、少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも7ヶ月間、少なくとも8ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも10ヶ月間、少なくとも11ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、少なくとも24ヶ月間、又は更に長期間で、多くとも約6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.1%を超えない範囲で凝集された抗体を、安定的に保存できる。
【0079】
イオン交換期間における、この抗体の主要留分(「主要荷電形態」)のやや酸性である留分で遷移する抗体(「酸性形態」)のパーセンテージを測定すること(及びその他の方法)により、安定性を測定することができ、そのうち、安定性は酸性形態の抗体のパーセンテージに反比例する。その他の方法以外に、「酸性化」抗体のパーセンテージは、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン交換高速液体クロマトグラフィー[CEX-HPLC])により測定できる。幾つかの実施形態において、許容可能な安定性とは、製剤を一定の温度及び一定の期間で保存した後、検出可能な酸性形態の抗体が多くとも約49%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%を超えないことを意味する。安定性を測定する前に保存された一定の期間は、少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月、又は更に長期間であってもよい。安定性を評価する際に、医薬製剤を保存できる一定の温度は、約-80℃~約45℃範囲内の任意の温度であってもよく、例えば、約-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約2~8℃、約5℃、約25℃、又は約40℃で保存される。
【0080】
抗体に対して色及び/又は清澄度の肉眼観察、又はUV光散乱又はサイズ排除クロマトグラフィーによる測定を行う場合、例えば、凝集、沈殿及び/又は変性の兆候が基本的に現れなければ、上記抗体は当該医薬組成物において「その物理的安定性を保持する」。凝集とは、単一の分子又は複合体が共有結合又は非共有結合により結合して凝集体を形成する過程である。凝集は沈殿物が見られるまで行われてもよい。
【0081】
製剤の安定性、例えば、物理的安定性は、サンプルの表面消衰係数(吸光度又は光学濃度)の測定など、本技術分野における周知の方法により評価することができる。この消衰の測定は製剤の濁度と関わる。製剤の濁度の一部は溶液に溶解されるタンパク質の固有性質によるものであり、通常、比濁法により測定され、比濁法の濁度単位(NTU)で測定する。
【0082】
例えば、溶液における1種又は複数種の成分の濃度(例えば、タンパク質及び/又は塩の濃度)に応じて変化する濁度レベルは、製剤の「混濁」又は「混濁外観」とも呼ばれる。濁度レベルは濁度が既知の懸濁液を用いて作成された検量線を参照して計算することができる。医薬組成物の濁度レベルを測定するための参照標準品は「欧州薬局方」基準に従ってもよい(「欧州薬局方」(European Pharmacopoeia)、第四版、「欧州薬品品質委員会指令」(Directorate for the Quality of Medicine of the Council of Europe)(EDQM)、Strasbourg、France)。「欧州薬局方」基準によれば、清澄溶液は「欧州薬局方」基準に基づく約3の参照懸濁液より低い又は同じ濁度を有する溶液と定義される。比濁法による濁度測定は、結合が発生しない又は非理想効果の場合におけるレイリー散乱を測定することができ、レイリー散乱は通常、濃度に従って線形に変化する。物理的安定性を評価するためのその他の方法は本技術分野において周知である。
【0083】
所定の時点における抗体の化学的安定性により、抗体が下記に定義されるその生理活性を依然として保持すると考えられると、上記抗体は医薬組成物において「その化学的安定性を保持する」。例えば、抗体の化学的変化を検出又は定量化することで、化学的安定性を評価することができる。サイズ変化(例えば、短く切断)を含む化学的変化は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、SDS-PAGE及び/又はマトリックス補助レーザー脱離イオン化法/飛行時間型質量分析計(MALDI/TOF MS)により評価することができる。電荷変化(例えば、脱アミド又は酸化の結果として発生)を含むその他の化学的変化は、例えば、イオン交換クロマトグラフィーにより評価することができる。
【0084】
医薬組成物における抗体がその予期目的に対して生理活性を有すると、上記抗体は医薬組成物において「その生理活性を保持する」。例えば、製剤を、例えば、5℃、25℃、45℃などの温度で一定の期間(例えば、1~12ヶ月)保存した後、当該製剤に含まれる抗PD-1抗体のPD-1への結合の親和力が上記保存前の抗体の結合親和力の少なくとも90%、95%又はそれ以上であれば、本発明に係る製剤は安定的であると見なされてもよい。結合親和力は、例えば、ELISA又はプラズマ共鳴技術により測定することができる。
【0085】
本発明の実施形態において、薬理学の観点から、抗体の「治療有効量」又は「有効量」とは、抗体が効果的に治療できる障害の症状の予防、治療又は軽減において有効な量である。本発明において、薬物の「治療有効量」又は「治療有効用量」とは、単独で使用するか又はその他の治療剤とを組み合わせて使用する場合、受検者を疾患発作から保護するか又は疾患退行を促進する薬物の任意の量であり、上記疾患退行は、疾患症状の重症度低下、疾患無症候期の頻度及び持続期間の増加、又は疾患苦痛による損傷又は機能障害の予防によって証明される。薬物の疾患退行促進効果は当業者に既知の複数の方法により評価することができ、例えば、臨床試験期間におけるヒト受検者において、ヒトに対する効果を予測するための動物モデル系において、又はインビトロ測定法により上記薬剤の活性を測定する。薬物治療有効量は「予防有効量」を含み、即ち、単独で又はその他の治療薬物との組合せで疾患罹患リスクに曝される受検者又は疾患再発の受検者に投与する場合、疾患の進行又は再発を阻害する薬物の任意の量である。
【0086】
「受検者」又は「患者」という用語は、哺乳類動物の生体を含むことを意味する。受検者/患者の実例は、ヒト及び非ヒト哺乳類動物、例えば、非ヒト霊長類動物、イヌ、乳牛、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット及び非ヒト遺伝子組換え動物を含む。本発明の特定の実施形態において、受検者はヒトである。
【0087】
「施用」、「投与」及び「処理」という用語は、当業者に既知の様々な方法又は送達システムの何れか1種により、治療剤を含む組成物を受検者に導入することを指す。抗PD-1抗体の投与経路は、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髄又は他の非経口投与経路、例えば注射や輸注を含む。「非経口投与」とは、経腸又は局所投与以外の、一般的に注射による投与方法であり、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ内、病変内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊椎内、硬膜内及び胸骨内の注射と輸注、及びインビボエレクトロポレーションを含むが、これらに限定されない。
【0088】
抗PD-1抗体
本明細書で使用される「抗体」という用語は、完全な抗体分子及びその抗原結合断片を含むと理解されるべきである。本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」又は「抗原結合断片」(或いはその略称「抗体部分」又は「抗体断片」)という用語は、ヒトPD-1又はそのエピトープと特異的に結合する能力が保持されている、抗体における1つ又は複数の断片を指す。従って、最も広義に使用される場合、それは、具体的には、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、キメラ抗体、及びラクダ化単一ドメイン抗体を含むが、これらに限定されない。
【0089】
「単離抗体」という用語は、結合化合物の精製状態を指し、且つこのような場合、当該分子が基本的にその他の生物分子、例えば、核酸、タンパク質、脂質、糖、細胞破片と成長培地などのその他の物質を含まないことを意味する。「単離(した)」という用語は、本明細書の上記結合化合物の実験又は治療への使用を明らかに干渉する量で存在しない限り、このような物質が完全に存在しない、或いは水、緩衝液又は塩が存在しないことを意味するものではない。
【0090】
「モノクローナル抗体」という用語は、基本的に均質な抗体群から得る抗体であり、即ち、天然に存在し得る少量の変異以外、この群を構成する各抗体は同じである。モノクローナル抗体は高い特異性を持ち、単一の抗原エピトープに対するものである。それと比べて、一般的な(ポリクローナル)抗体製造物は、通常、異なるエピトープに対する大量の(又は異なるエピトープに対して特異性を有する)抗体を含む。「モノクローナル」という修飾語は、基本的に均質な抗体群から得る抗体の特徴を示し、且つ任意の特定の方法により抗体を産生する必要があると解釈されない。
【0091】
「マウス抗体」又は「ハイブリドーマ抗体」という用語は、本開示において、この分野の知識とスキルに基づいて製造された抗ヒトPD-1のモノクローナル抗体である。製造する場合、PD-1抗原を試験対象に注射してから、所望の配列又は機能特性を有する抗体を発現するハイブリドーマを単離する。
【0092】
「キメラ抗体」という用語は、第1の抗体の可変ドメインと第2の抗体の定常ドメインとを有する抗体であり、そのうち、第1の抗体と第2の抗体は異なる種に由来する。通常、可変ドメインは齧歯動物などの抗体(「親抗体」)から得られ、定常ドメイン配列はヒト抗体から得られ、それにより、親齧歯動物抗体に比べて、得られたキメラ抗体は、ヒト受検者において不良免疫応答を誘導する可能性が比較的低い。
【0093】
「ヒト化抗体」という用語は、ヒトと非ヒト(例えばマウス、ラット)抗体に由来する配列を含む抗体の形態である。一般には、ヒト化抗体は、基本的に全ての少なくとも1個、通常2個の可変ドメインを含み、そのうち、全て又は基本的に全ての超可変ループは、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに相当し、全て又は基本的に全てのフレームワーク(FR)領域は、ヒト免疫グロブリン配列のフレームワーク領域である。ヒト化抗体は、任意に少なくとも一部のヒト免疫グロブリン定常領域(Fc)を含んでもよい。
【0094】
「全長抗体」又は「完全な抗体分子」という用語は、4本のペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子を指し、2本の重(H)鎖(全長の場合は約50~70kDa)と2本の軽(L)鎖(全長の場合は約25kDa)は、ジスルフィド結合により互いに連結される。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略される)と重鎖定常領域(本明細書においてCHと略される)からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略される)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH領域とVL領域は、高可変性を有する相補性決定領域(CDR)と、その間に保存され、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域と、更に細かく区分され得る。各VH領域又はVL領域は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ基末端からカルボキシル基末端まで配列された、3つのCDR及び4つのFRからなる。重鎖と軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫グロブリンが宿主組織又は因子(免疫系の各細胞(例えば、エフェクター細胞)と古典的補体系の第一成分(Clq)を含む)に対する結合を仲介することができる。
【0095】
「CDR」という用語は、抗体の可変配列内の相補性決定領域を指す。各重鎖と軽鎖の可変領域に3つのCDRが存在し、各重鎖と軽鎖の可変領域に対して、HCDR1、HCDR2及びHCDR3、又はLCDR1、LCDR2及びLCDR3と名づけられる。これらのCDRの精確な境界は、異なる系によって異なる定義を有する。
【0096】
本発明に記載の抗体の可変領域CDRにおける精確なアミノ酸配列の境界は、多くの周知の方法の任意の形態により決定することができ、抗体の立体構造とCDRループのトポロジーに基づくChothia(Chothia et al.(1989)Nature 342:877~883,Al-Lazikani et al.,「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」,Journal of Molecular Biology,273,927~948(1997))、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,4th edition,U.S. Department of Health and Human Services,National Institutes of Health(1987))、AbM(University of Bath)、Contact(University College London)、国際的ImMunoGeneTics database(IMGT)(1999 Nucleic Acids Research,27,209~212)、及び大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義を含む。本発明に係る抗体のCDRは、当業者がこの分野の任意形態(例えば、異なる割り当てシステム又は組み合わせ)により境界を決定することができる。
【0097】
本明細書で使用される「抗原結合断片」は、抗体の断片又はその誘導体を含み、通常、親抗体の抗原結合領域又は可変領域(例えば、1つ又は複数のCDR)の少なくとも1つの断片を含み、親抗体の少なくとも一部の結合特異性を保持している。抗原結合断片の実例は、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片、二重抗体、線形抗体、sc-Fvなどの一本鎖抗体分子、抗体断片から形成されるナノ抗体(nanobody)及び多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。抗体の結合活性がモル濃度に基づいて示される場合、結合断片又はその誘導体は、通常、親抗体の抗原結合活性の少なくとも10%を保持する。結合断片又はその誘導体が親抗体の抗原結合親和力の少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%、100%又はそれ以上を保持することが好ましい。抗体の抗原結合断片は、その生理活性を明らかに変えない保存又は非保存アミノ酸置換(抗体の「保存的変異体」又は「機能保存的変異体」をいう)を含むことが期待される。
【0098】
本発明に記載の抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、出願番号CN201310258289.2に説明された何れか1つの抗PD-1抗体又はその抗原結合断片を含み、その開示された全ての内容は引用により本明細書に組み込まれる。幾つかの形態において、本発明の方法及び組成物で使用される抗体のCDR配列は、CN201310258289.2に説明されたヒト化抗体クローン38に由来するものを含む。
【0099】
幾つかの形態において、本発明の方法及び組成物で使用される抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列がそれぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3、並びにアミノ酸配列がそれぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含む。
【0100】
幾つかの形態において、本発明の方法及び組成物で使用される抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、マウス抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、ヒト化抗体又はその抗原結合断片から選ばれ、好ましくはヒト化抗体又はその抗原結合断片である。
【0101】
幾つかの形態において、本発明の方法及び組成物で使用される抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7に示される軽鎖可変領域及び配列番号8に示される重鎖可変領域を含む。
【0102】
幾つかの形態において、本発明の方法及び組成物で使用される抗PD-1抗体は、配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む。
【0103】
幾つかの形態において、本明細書の実施例で使用される非限定的、例示的な抗体は、Toripalimab(WHO Drug Information(vol.32,no.2,pp.372~373(2018))に記載される構造を有し、且つ配列番号9及び10に示される重鎖及び軽鎖アミノ酸配列のヒト化IgG4 mAbを含む。
【0104】
本明細書で言及される配列番号1~10のアミノ酸配列は、下記の表に示される通りである。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
幾つかの実施形態において、本発明の方法及び組成物で使用される抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、ヒト化抗体又はキメラ抗体であり、且つヒト定常領域を含んでもよい。幾つかの実施形態において、定常領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4定常領域からなる群より選ばれ、好ましくは、本発明に記載される方法及び組成物に適用される抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1又はIgG4アイソタイプの重鎖定常領域、より好ましくはヒトIgG4定常領域を含む。幾つかの実施形態において、抗PD-1抗体又はその抗原結合断片のIgG4重鎖定常領域の配列は、S228P変異を含み、IgG1アイソタイプ抗体の対応する位置で通常に存在するプロリン残基により、ヒンジ領域におけるセリン残基を置換する。
【0108】
幾つかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗PD-1抗体又はその抗原結合断片を製造するための方法であって、上記抗体又はその抗原結合断片の発現に適する条件で、本明細書に記載の宿主細胞に上記抗体又はその抗原結合断片を発現すると共に、発現する抗体又はその抗原結合断片を上記宿主細胞から回収することを含む、方法を提供する。
【0109】
本発明は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)により得られる大量の不死化細胞系を含む、本発明の組換え抗体を発現するための哺乳類動物宿主細胞を提供する。これらは、特に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NS0、SP2/0細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞がん細胞、A549細胞、293T細胞及び大量のその他の細胞系を含む。哺乳類動物宿主細胞は、ヒト、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、及びハムスターの細胞を含む。どの細胞系が高発現レベルを有するかについて測定することで、特に好ましい細胞系を選択する。
【0110】
一実施形態において、本発明は、抗PD-1抗体の製造方法であって、発現ベクターを哺乳類動物宿主細胞に導入する場合、宿主細胞を一定の時間で十分に培養することで、抗体が宿主細胞に発現すること、或いは更に好ましくは抗体が宿主細胞の成長培地に分泌することを許可するように、抗体を産生することを含む、方法を提供する。標準タンパク質精製方法により培地から抗体を回収することができる。
【0111】
異なる細胞系で発現される、又は遺伝子組換え動物で発現される抗体同士が異なるグリコシル化を示す可能性がある。しかしながら、抗体のグリコシル化にも関わらず、本明細書に係る核酸分子によりコードされる、又は本明細書に係るアミノ酸配列を含む、全ての抗体が本発明の構成部分である。同様に、幾つかの実施形態において、非フコシル化抗体の糖構造が天然ヒト血清IgGの一般的な成分であるため、通常、インビトロ及びインビボにおいてそのフコシル化対応物より更に強力な効果を持つとともに、免疫原性である可能性がないことから、非フコシル化抗体が優位性を持つ。
【0112】
医薬製剤
本発明に記載の医薬組成物は、PD-1と特異的に結合する抗体を含む、高濃度、高安定性、超低粘度の医薬組成物である。100mg/mLを超える高用量のタンパク質薬物の皮下(SC)投与に対する臨床需要は通常、製造、分析試験、安定性及び送達に関する追加の技術開発課題をもたらす。高濃度のタンパク質製剤の一般的な特性は、タンパク質の可逆的な自己会合に直接起因する高粘度である。高い注射力(注射部位の疼痛の増加)のため、高粘度は追加の臨床開発課題を引き起こすことができ、また薬物の薬物動態性質を変化させることができる。従って、製品開発の取り組みの重要な要因は、低粘度を有する製剤の同定を求めることである。本発明が適切な緩衝系及びpHを選択し、安定剤及び界面活性剤を最適化し、そして薬物動態及び薬効の研究を行うことによって開発した高濃度抗体製剤は、皮下投与剤形に使用でき、且つ長時間安定的で、凝集なし、超低粘度である。
【0113】
本発明は、(1)緩衝液と、(2)抗PD-1抗体又はその抗原結合断片と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0114】
本発明に記載の医薬組成物における抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、本願の「抗PD-1抗体」部分の何れか1つの実施形態に記載される通りである。
【0115】
例えば、本発明に記載の医薬組成物における抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列がそれぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3、並びにアミノ酸配列がそれぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含む。好ましくは、上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、マウス抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、ヒト化抗体又はその抗原結合断片から選ばれ、好ましくはヒト化抗体又はその抗原結合断片である。好ましくは、上記抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7に示される軽鎖可変領域及び配列番号8に示される重鎖可変領域を含む。より好ましくは、上記抗PD-1抗体は、配列番号9に示される軽鎖アミノ酸配列及び配列番号10に示される重鎖アミノ酸配列を含む。
【0116】
本発明に記載の医薬組成物における抗PD-1抗体又はその抗原結合断片の濃度は約100~250mg/mL、好ましくは約150~250mg/mL、より好ましくは約150~200mg/mLである。
【0117】
本発明に記載の医薬組成物のpHは約5.0~6.5、好ましくは約5.5~6.2、より好ましくは約6.0である。
【0118】
本発明に記載の医薬組成物における緩衝液は、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びヒスチジン緩衝液から選ばれる1つ又は複数であり、好ましくは、上記緩衝液はヒスチジン緩衝液である。好ましくは、ヒスチジン緩衝液は、ヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液又はヒスチジン-ヒスチジン酢酸塩緩衝液から選ばれ、好ましくはヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液である。好ましくは、緩衝液の濃度は約5~100mM、好ましくは約10~50mM、より好ましくは約10~30mM、更に好ましくは約15~25mMである。好ましくは、緩衝液のpHは約5.0~6.5、好ましくは約5.5~6.5、より好ましくは約5.5~6.2である。
【0119】
従って、本発明の医薬組成物は、pHが約5.5~6.5であり、医薬組成物における濃度が約10~30mMであるヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液、及び前述した何れか1つの実施形態に記載の約150~250mg/mLの抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、特に本明細書に記載のヒト化抗体クローン38又はその抗原結合断片を含んでもよい。
【0120】
幾つかの形態において、本発明に記載の医薬組成物は、アルギニン、アルギニン塩、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、スクロース、グリシン及びトレハロースから選ばれる1つ又は複数である安定剤を更に含み、好ましくは、上記アルギニン塩は塩酸アルギニンである。好ましくは、上記安定剤の濃度は約10~400mM、好ましくは約100~250mM、より好ましくは約120~220mM、更に好ましくは約130~180mMである。好ましくは、上記安定剤は濃度が約120~220mMのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約100~180mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約50~150mMのグリシンとの組み合わせであり、好ましくは、上記安定剤は濃度が約130~180mMのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは上記安定剤は濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約110~170mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは上記安定剤は濃度が約30~70mMの塩酸アルギニンと約80~120mMのグリシンとの組み合わせであり、好ましくは、上記アルギニン塩は塩酸アルギニンである。
【0121】
従って、本発明の医薬組成物は、pHが約5.5~6.5であり、医薬組成物における濃度が約10~30mMであるヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液、前述した何れか1つの実施形態に記載の約150~250mg/mLの抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、特に本明細書に記載のヒト化抗体クローン38又はその抗原結合断片、及び約100~250mMの安定剤を含んでもよく、好ましくは、上記安定剤は、アルギニン、アルギニン塩、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、スクロース、グリシン及びトレハロースから選ばれる1つ又は複数であり、好ましくは、上記アルギニン塩は塩酸アルギニンである。好ましくは、上記安定剤は濃度が約120~220Mmのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約100~180mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約50~150mMのグリシンとの組み合わせである。
【0122】
幾つかの形態において、上記医薬組成物は、ポリソルベート80、ポリソルベート20及びポロキサマー188から選ばれる1つ又は複数である界面活性剤を更に含む。好ましくは、w/vで計算すると、上記界面活性剤の濃度は約0.001~0.1%、好ましくは約0.01~0.1%、より好ましくは約0.02~0.08%である。
【0123】
従って、本発明の医薬組成物は、pHが約5.5~6.5であり、医薬組成物における濃度が約10~30mMであるヒスチジン-ヒスチジン塩酸塩緩衝液、前述した何れか1つの実施形態に記載の約150~250mg/mLの抗PD-1抗体又はその抗原結合断片、特に本明細書に記載のヒト化抗体クローン38又はその抗原結合断片、約100~250mMの安定剤、好ましくは、上記安定剤は濃度が約120~220Mmのアルギニン又はアルギニン塩であり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約100~180mMのスクロースとの組み合わせであり、或いは上記安定剤は濃度が約30~100mMの塩酸アルギニンと濃度が約50~150mMのグリシンとの組み合わせであり、及びw/vで計算すると、約0.01~0.1%のポリソルベート80を含んでもよい。
【0124】
本発明の医薬組成物は液体製剤又は凍結乾燥製剤である。
【0125】
本発明の医薬組成物の浸透圧は260~320mOsm/kgの範囲内であり、好ましくは290~310mOsm/kgの範囲内である。本発明の医薬組成物は、約25℃で測定された粘度が8.0cP以下である。
【0126】
医薬的使用及び方法
本発明は、PD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療する薬物の製造における、本明細書の何れか1つの形態に記載の医薬組成物又は注射剤の使用を更に提供する。
【0127】
本発明は、PD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療するための、本明細書の何れか1つの形態に記載の医薬組成物又は注射剤を更に提供する。本発明は、PD-1活性を除去、阻害又は低減することによって疾患又は病状を治療する方法であって、本明細書の何れか1つの形態に記載の医薬組成物又は注射剤を、それを必要とする受検者に投与することを含む、方法を更に提供する。幾つかの形態において、上記疾患又は病状は、がん又は感染性疾患又は炎症性疾患から選ばれ、上記がんは、好ましくは結腸癌、神経内分泌腫瘍、食道がん、鼻咽頭がん、肉腫、黒色腫、尿路上皮がん及び非小細胞肺がんから選ばれる。
【実施例
【0128】
以下、具体的な実施例により本発明を説明する。なお、これらの実施例は、説明するためのものであり、本発明の範囲を意図的に制限するものではない。本明細書は、既に本発明について詳しく説明し、そのうち、その具体的な実施形態も開示した。当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の具体的な実施形態に対する様々な変更や改善が明らかである任意の修正、同等置換、改善などは、何れも本発明の請求範囲内に含まれる。特に断りのない限り、実施例で使用される方法及び材料は、この分野における従来の方法及び材料である。
【0129】
実施例で用いた検出方法は以下を含む。
(1)外観目視検査法を用いて外観検査を行った。清澄度検出器の照度を1000lx~1500lxの間にすることを確保した。サンプルを目の同一水平面に保持し、軽く揺らしたり、ひっくり返したりして、気泡の発生を防いだ。黒色の背景と白色の背景の前にそれぞれ目視検査を行った。色、乳白光、可視異物の3つの方面から結果を記録した。
【0130】
(2)タンパク質含有量タンパク質濃度はNanodrop及びSoloVPEを用いて検出した。Nanodropを使用する場合、パーセンテージ消衰係数(E1%)を1.416(mg/mL)-1cm-1に設定した。超純水で検出器を3回洗浄し、更に検出ウェルに3μLの超純水を加え、校正をクリックし、超純水をブランクとして校正した。ブランク校正後にサンプルを測定し、検出ウェルに3μLのサンプルを加え、「検出」ボタンをクリックし、そして機器の検出データを記録した。各サンプルについて3部の溶液を平行して測定し、各部の溶液を1回測定した。SoloVPEを使用して検出する場合、パーセンテージ消衰係数(E1%)を1.416(mg/mL)-1cm-1に設定した。超純水をブランクとして校正した後にサンプルを測定し、キュベットに120μLのサンプルを加え、「検出」ボタンをクリックし、そして機器の検出データを記録した。
【0131】
(3)SEC-HPLC純度SEC-HPLC純度は、SECクロマトグラフィーカラム(TSK gel G3000SWXL、7.8×300mm、5μm)を装着したHPLC(Waters e2695機器)を用いて検出した。移動相の組成は、50mMのリン酸塩、300mMのNa2SO4であり、pHが7.0±0.2であった。ピーク面積正規化を用いて結果を定量的に分析した。モノマー、ポリマー及び断片のピーク面積パーセンテージをそれぞれ計算し、モノマーのピーク面積パーセンテージをサンプルの純度として、ポリマー及び断片のピーク面積パーセンテージをポリマー及び断片の含有量とした。クロマトグラフィーパラメータは下記の表1に示された。
【0132】
【表3】
【0133】
(4)R-CE-SDS純度抗体製剤還元CE-SDS電気泳動法純度検出は、高圧直流電界を駆動力とし、キャピラリーを分離チャネルとした。予め充填されたゲルは、キャピラリー内で分子篩を形成し、ドデシル硫酸ナトリウムは、異なるタンパク質分子の電荷効果を除去し、還元剤β-メルカプトエタノールは、サンプル中のジスルフィド結合を切断し、分子の大きさが異なるサンプルは、キャピラリー内での移動速度が異なるため、分離することができる。サンプル緩衝液(SDS-MW Sample Buffer)でサンプルを1mg/mLに希釈し、サンプル緩衝液(SDS-MW Sample Buffer)95μLを取り、β-メルカプトエタノール5μLを加え、ボルテックスして均一に混合した後にブランク対照とした。供試品(1mg/mL)95μLを取り、β-メルカプトエタノール5μLを加え、3000rpmで室温で30sec遠心分離し、70±2℃で15±2minインキュベートし、室温に冷却し、6000rpmで室温で1min遠心分離し、分離時間を40minとし、キャピラリー電気泳動装置(Beckman)を用いて検出した。重鎖(HC)、非グリコシル化重鎖(NGHC)及び軽鎖(LC)の純度を計算し、3つの合計はサンプルの純度であった。
【0134】
(5)NR-CE-SDS純度抗体製剤非還元CE-SDS電気泳動法純度検出は、高圧直流電界を駆動力とし、キャピラリーを分離チャネルとした。予め充填されたゲルは、キャピラリー内で分子篩を形成し、ドデシル硫酸ナトリウムでサンプルを処理して異なるタンパク質分子の電荷効果を除去し、分子の大きさが異なるため、キャピラリー内での移動速度が異なるサンプルを分離した。供試品溶液にアルキル化試薬を加えることにより、成分の拡散を効果的に減少させ、得られたピークの形を鋭くにし、分離効率が高く、且つサンプルが非還元状態を保持することを保証できる。サンプル緩衝液(SDS-MW Sample Buffer)でサンプルを1mg/mLに希釈し、サンプル緩衝液(SDS-MW Sample Buffer)95μLを取り、0.8Mのヨードアセトアミド溶液5μLを加え、ボルテックスして均一に混合した後にブランク対照とし、供試品(1mg/mL)95μLを取り、0.8Mのヨードアセトアミド溶液5μLを加え、3000rpmで室温で30sec遠心分離し、70±2℃で5±1minインキュベートし、室温に冷却し、6000rpmで室温で1min遠心分離し、キャピラリー電気泳動装置(Beckman)を用いて検出した。
【0135】
(6)CEX-HPLC純度CEX-HPLC純度は、クロマトグラフィーカラム(ProPac WCX-10、4×250mm)を装着したHPLC(Waters e2695機器)を用いて検出した。移動相の組成は、A相が10mMのリン酸二水素ナトリウム二水和物溶液(pH4.7±0.2)、B相が10mMのリン酸水素二ナトリウム十二水和物溶液(pH9.2±0.2)であった。ピーク面積正規化法を用いてメインピーク、酸性ピーク、塩基性ピークのパーセンテージを計算し、自動積分では合理的な積分結果が得られない場合、手動積分を用いた。詳細なクロマトグラフィーパラメータは下記の表2に示された。
【0136】
【表4】
【0137】
(7)細胞活性この方法において、PD-1 Jurkat T細胞をエフェクター細胞として使用し、PD-L1を過剰発現するCHO改変細胞を標的細胞とした。Jurkatエフェクター細胞上のT細胞抗原受容体は、CHO標的細胞上の抗原に結合することができ、NFATルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現を阻害することができる。PD-1モノクローナル抗体は、Jurkat T細胞上のPD-1に結合することができ、それによりJurkat T細胞上のPD-1とCHO標的細胞上のPD-L1との相互作用を遮断してT細胞の活性化を促進し、NFATルシフェラーゼレポーター遺伝子を活性化させる。Lueiferase検出試薬を加え、マイクロプレートリーダー化学発光法を用いてT細胞-Jurkat細胞内のNFAT-Luciferaseによるルシフェラーゼの発現によって生成されるシグナルの強さを検出することで、PD-1モノクローナル抗体によるPD-1分子への結合能力を調べた。
【0138】
(8)結合活性この方法は間接法を用い、ヒトPD-1を抗原として96ウェルプレートにコーティングし、PD-1モノクローナル抗体はヒトPD-1に結合することができ、ビオチン標識抗体(Biotinylated Mouse Anti-Human IgG4)は、固相抗原(ヒトPD-1)に結合したPD-1モノクローナル抗体と特異的に結合することができ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(Peroxidase-conjugated Streptavidin)は、ビオチン標識抗体(Biotinylated Mouse Anti-Human IgG4)に結合することができ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンは、過酸化水素の作用下でTMBの青色の発色を触媒し、青色の濃淡はホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンの結合量と正の相関があり、2Mの塩酸で停止させた後に黄色に変化した。マイクロプレートリーダーを用いて波長450nm/620nmで吸光度(OD値)を測定し、検量線の有効結合活性(EC50)によりPD-1モノクローナル抗体によるPD-1への結合能力を調べた。
【0139】
(9)MFIサブ可視粒子検出MFIサブ可視粒子検出は微粒子検出器(MFI5100)を用いて検出した。サンプルは高濃度サンプルであるため、サンプル注入前に所定の希釈を行う必要があり、希釈後に気泡を避けるように軽く十分且つ均一に混合した後、スーパークリーンベンチにおいて発熱物質を含まないピペットチップでサンプル1.3mLをサンプルプレートに入れ、サンプルプレートを清潔なアルミホイル紙で緊密に覆い、スーパークリーンベンチから機器の対応する作業プレートに移した後、サンプル位置を機器に入力し、検出配列を実行し、サンプルがフローセルを流れる時、その中のサブ可視粒子をマイクロカメラで撮影してカウントした。
【0140】
(10)HIACサブ可視粒子検出サブ可視粒子検出はHIACを用いて検出した。気泡を避けるようにサンプルを軽く十分且つ均一に混合した後、サンプルセルに配置し、機器のロボットアームが自動的にサンプリングし、サンプルがセンサーを流れる時、その中のサブ可視粒子をフォトレジスト法によりカウントした。
【0141】
(11)粘度粘度検出は粘度計(メーカー:RheoSense、型番:MicroVisc)を用い、試験温度は約25℃、せん断速度は約1000~2000s-1であった。
【0142】
以下の実施例における略語について、「hr」が時間、「W」が週、「M」が月、「C」が凍結融解サイクルの回数、「FT」が凍結融解サイクル、「RT」が室温、「T0」が処方サンプルの分注前の初期テストを表す。
【0143】
実施例1:緩衝液系及び安定剤の初期スクリーニング実験
液体型医薬組成物において、緩衝液系及びpHが抗体の安定性に密接に影響しており、特別な物理化学的性質を有する各抗体は、それぞれ最適な緩衝液の種類及びpHを有する。本実施例は、臨床応用に適用できるために本発明に開示された抗PD-1抗体が最適な安定性を持つように、最適な緩衝液系及び安定剤を初期スクリーニングすることを目的とする。
【0144】
1.1 実験手順
本実施例は抗体toripalimabで行った。サンプルを、Millipore Pellicon3 0.11m2膜を用いてUF/DF限外ろ過により約180mg/mLの濃度に濃縮し、そしてサンプルを、表3に示される対応する処方に透析し、最終濃度を約180mg/mLに調整し、更に対応する濃度のポリソルベート80(II)を加えた。スーパークリーンベンチにおいて2Rバイアルに2.0mL/ボトルで無菌充填し、安定性分注及び検出を行った。
【0145】
【表5】
【0146】
1.2 実験結果
1.2.1 外観及び粘度の結果
表4の結果により、全ての処方においても、T0時点で明らかな可視異物は認められず、明らかな乳白光がなかった。3回及び5回凍結融解後のサンプルは、外観に何れも顕著な変化が発生せず、高温及び長期条件で1ヶ月間放置しても、外観に何れも顕著な変化が発生せず、FS1-1、FS1-3及びFS1-6処方の粘度が比較的大きかった。
【0147】
【表6】
【0148】
1.2.2 SEC純度の結果
図1のSEC-HPLC純度トレンドチャート及び表5のSEC-HPLC純度の結果により、全ての処方を高温条件で1ヶ月間(1M)放置すると、FS1-4処方の純度が明らかに低下し、ポリマーが何れも明らかに増加し、他の処方の純度は顕著な変化が認められなかった。長期条件での放置で、1Mを放置し、及び5回凍結融解を繰り返すと、全ての処方のSEC純度は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0149】
【表7】
【0150】
1.2.3 R-CE-SDS純度の結果
表6のR-CE-SDS純度の結果により、高温条件で1M放置すると、全てのサンプルのR-CE-SDS純度は何れも低下した。全てのサンプルは、1M長期放置及び5回凍結融解後、R-CE-SDS純度は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0151】
【表8】
【0152】
1.2.4 NR-CE-SDS純度の結果
表7のNR-CE-SDS純度の結果により、高温条件で1M放置すると、全てのサンプルのNR-CE-SDS純度は何れも顕著に低下し、そのうちFS1-4及びFS1-5処方の純度の低下は相対的に速く、全てのサンプルは、1M長期放置及び5回凍結融解後、NR-CE-SDS純度は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0153】
【表9】
【0154】
1.2.5 CEX-HPLC純度の結果
図2のCEX-HPLC純度トレンドチャート及び表8のCEX-HPLC純度の結果により、高温条件で1M放置すると、全ての処方の純度は何れも顕著に低下し、何れも顕著な酸性ピーク増加が認められた。FS1-3処方の純度が最も速く低下し、全てのサンプルは、1M長期放置及び5回凍結融解後、全ての処方のCEX純度は何れも顕著な低下が認められなかった。
【0155】
【表10】
【0156】
1.2.6 結合活性の結果
表9の結合活性の結果により、高温又は長期条件での1M放置及び5回凍結融解後、結合活性は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0157】
【表11】
【0158】
1.2.7 細胞活性の結果
表10の細胞活性の結果により、全てのサンプルは、高温又は長期条件での1M放置及び5回凍結融解後、細胞活性は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0159】
【表12】
【0160】
1.2.8 サブ可視粒子結果
表11のサブ可視粒子検出結果により、高温条件で1M放置した後、全ての処方のサブ可視粒子は何れも顕著な増加が認められず、長期条件で1M放置し、及び5回凍結融解を繰り返すと、全ての処方のサブ可視粒子の数は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0161】
【表13】
【0162】
1.3 処方スクリーニング1回目の結論
外観の結果から、各処方に顕著な差異が認められなかった。粘度の結果から、FS1-1、FS1-3及びFS1-6処方の粘度は比較的大きかった。SEC-HPLC結果から、処方FS1-4は比較的多いポリマーを生成した。NR-CE-SDS純度の結果から、処方FS1-4及びFS1-5純度の結果は比較的低かった。CEX-HPLC純度の結果から、FS1-3処方のCEX純度は比較的速く低下した。R-CE-SDS純度、結合活性及び細胞活性の結果において、何れも処方の差異が示されず、サブ可視粒子の結果から、処方FS1-4の結果は比較的多いサブ可視微粒子が見られ、他の処方に顕著な差異がなかった。
【0163】
以上のように、処方FS1-2及びFS1-5は全体的に優れているため、安定剤としてスクロース及び塩酸アルギニンを選択して次のスクリーニング実験に進んだ。
【0164】
実施例2:pH、補助剤のスクリーニングと低濃度処方の比較研究
異なる補助剤の抗体安定性に対する影響を更に研究するために、塩化ナトリウム、スクロース、塩酸アルギニン、グリシン又はマンニトールのうちの1つの補助剤を選択して比較試験を行った。pH6.0、20mMのヒスチジン緩衝系、pH5.5、20mMのヒスチジン緩衝系及びpH6.0、20mMのクエン酸緩衝系について、抗体toripalimabの濃度が180mg/mLの条件で、上記異なる補助剤の安定性に対する影響を調べた。
【0165】
2.1 実験手順
本実施例は抗体toripalimabで行った。サンプルを、Millipore Pellicon3 0.11m2膜を用いてUF/DF限外ろ過により約180mg/mLの濃度に濃縮し、そしてサンプルを、表12に示される対応する処方に透析し、最終濃度を約180mg/mLに調整し、更に対応する濃度のポリソルベート80(II)を加えた。スーパークリーンベンチにおいて2Rバイアルに2.0mL/ボトルで無菌充填し、安定性分注及び検出を行った。
【0166】
【表14】
【0167】
2.2 実験結果
2.2.1 外観及び濃度の結果
表13の結果により、高温条件及び長期条件で1M放置すると、全てのサンプルのタンパク質含有量は何れも顕著な変化が認められず、高温、加速又は長期条件で1M放置すると、サンプルは何れも明らかな可視異物が認められず、何れも明らかな乳白光がなく、FS2-2及びFS2-6処方の粘度の結果はより優れた。
【0168】
【表15】
【0169】
2.2.2 SEC-HPLC純度の結果
図3のSEC-HPLC純度トレンドチャート及び表14のSEC-HPLC純度の結果により、全てのサンプルは高温条件で1M放置すると、SEC純度は何れも低下し、FS2-4、FS2-5及びFS2-7処方のSEC純度の低下は比較的速く、全てのサンプルは加速条件又は長期条件で1M放置すると、何れもSEC純度の顕著な変化が認められなかった。
【0170】
【表16】
【0171】
2.2.3 R-CE-SDS純度の結果
表15のR-CE-SDS純度の結果により、高温40℃の条件で1M放置すると、サンプルの純度は何れも低下し、加速25℃の条件又は長期条件で1M放置すると、全てのサンプルの純度は何れも顕著な変化が認められなかった。サンプルは群間の差異がなかった。
【0172】
【表17】
【0173】
2.2.4 NR-CE-SDS純度の結果
表16のNR-CE-SDS純度の結果により、高温40℃の条件、加速25℃の条件又は長期条件で1M放置すると、全てのサンプルの純度は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0174】
【表18】
【0175】
2.2.5 CEX-HPLC純度の結果
図4のCEX-HPLC純度トレンドチャート及び表17のCEX-HPLC結果により、高温条件で1M放置すると、全てのサンプルのCEX-HPLC純度は何れも低下し、FS2-4処方の純度の低下は比較的速く、加速及び長期条件で1M放置すると、全てのサンプルのCEX-HPLC純度は何れも顕著な変化がなかった。
【0176】
【表19】
【0177】
2.2.6 細胞活性の結果
表18の細胞活性の結果により、高温、加速条件及び長期条件で1M放置し、更に3回及び5回凍結融解サイクルを行うと、全てのサンプルは何れも細胞活性の顕著な変化が認められなかった。
【0178】
【表20】
【0179】
2.2.7 結合活性の結果
表19の結合活性の結果により、高温、加速条件及び長期条件で1M放置し、更に3回及び5回凍結融解サイクルを行うと、全てのサンプルの結合活性は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0180】
【表21】
【0181】
2.2.8
サブ可視粒子結果表20のサブ可視粒子の結果により、加速条件又は長期条件で1M放置すると、全てのサンプルのサブ可視粒子は何れも顕著な変化が認められなかった。
【0182】
【表22】
【0183】
2.3 処方スクリーニング2回目の結論
タンパク質の含有量、外観、R-CE-SDS純度の結果、NR-CE-SDS純度の結果、CEX-HPLC純度の結果、細胞活性、結合活性の結果及びサブ可視粒子の結果から、各処方間に顕著な差異が認められなかった。粘度の結果から、FS2-2及びFS2-6処方は比較的優れ、SEC-HPLC純度の結果から、FS2-4、FS2-5及びFS2-7処方の純度の低下は比較的速く、そのうちFS2-4は原静脈注射製剤(CN出願番号201610628048.6)によって決定された低濃度処方であり、実験によって高濃度抗体製剤に適しないことを見出した。以上のように、最終的にFS2-2(20mMのヒスチジン緩衝液、pH6.0、140mMの塩酸アルギニン含有)処方を選択し、浸透圧を300mOsm/kg程度となって皮下注射剤により良く適するために、塩酸アルギニンの含有量を150mMに増加させるように処方を更に調整し、そしてこの処方のツイーン濃度を更に調べた。
【0184】
実施例3:界面活性剤のスクリーニング実験
液体製剤に添加される界面活性剤は、一般的に、抗体凝集の低減又は製剤における粒状物の形成の最小化を図るために、保存中に空気/溶液界面により誘導される応力、溶液/表面により誘導される応力の影響から抗体などのタンパク質を保護するための試薬であり、抗体の物理化学的性質の安定化に有利である。20mMのヒスチジン緩衝液及び180mg/mLの抗体toripalimabを含む製剤において、それぞれ異なる濃度のポリソルベート80を加え、上記異なる濃度の界面活性剤の安定性に対する影響を調べた。
【0185】
3.1 実験手順本実施例は抗体toripalimabで行った。サンプルを、Millipore Pellicon3 0.11m2膜を用いてUF/DF限外ろ過により約180mg/mLの濃度に濃縮し、そしてサンプルを、表21に示される対応する処方に透析し、最終濃度を約180mg/mLに調整し、更に対応する濃度のポリソルベート80(II)を加えた。スーパークリーンベンチにおいて1mLの予備充填シリンジに1.1mL/ボトルで無菌充填し、安定性分注及び検出を行った。
【0186】
【表23】
【0187】
3.2 実験結果
3.2.1 外観及び濃度の結果表22の結果より、全てのサンプルのタンパク質含有量は何れも顕著な変化が認められず、全てのサンプルの外観は何れも明らかな可視異物が認められず、明らかな乳白光がなかった。
【0188】
【表24】
【0189】
3.2.2 SEC-HPLC純度の結果
図5のSEC-HPLC純度トレンドチャート及び表23のSEC-HPLC純度の結果より、全てのサンプルは何れも純度の顕著な変化が認められなかった。
【0190】
【表25】
【0191】
3.2.3 R-CE-SDS結果
表24のR-CE-SDS純度の結果により、全てのサンプルは何れも顕著な変化が認められなかった。
【0192】
【表26】
【0193】
3.2.4 NR-CE-SDS結果
表25のNR-CE-SDS純度の結果により、全てのサンプルは何れも顕著な変化が認められなかった。
【0194】
【表27】
【0195】
3.2.5 CEX-HPLC純度の結果
図6のCEX-HPLC純度トレンドチャート及び表26のCEX-HPLC純度の結果により、全てのサンプルは何れも純度の顕著な変化が認められなかった。
【0196】
【表28】
【0197】
3.2.6 結合活性の結果
表27の結合活性の結果により、全てのサンプルは何れも活性の顕著な変化が認められなかった。
【0198】
【表29】
【0199】
3.2.7 細胞活性の結果
表28の細胞活性の結果により、全てのサンプルは何れも活性の顕著な変化が認められなかった。
【0200】
【表30】
【0201】
3.2.8 サブ可視粒子の結果
表29のサブ可視粒子の結果により、全てのサンプルは何れも顕著な変化が認められなかった。
【0202】
【表31】
【0203】
3.3 処方スクリーニング3回目の結論
サンプルの外観、濃度、純度、活性及びサブ可視粒子は何れも顕著な差異が認められず、処方は比較的良好な安定性を示した。ツイーンは溶解度を促進することができ、高濃度製剤に対して、ツイーン濃度の向上はサブ可視粒子の数の増加を効果的に緩和することができるため、最終的に0.04%の処方を選択した。
【0204】
実施例4:影響因子実験
4.1 実験手順
本実施例は抗体toripalimabで行った。サンプルを、Millipore Pellicon3 0.11m2膜を用いて限外ろ過により約180mg/mLの濃度に濃縮し、そしてサンプルを、表21に示される対応する処方2に透析し、最終濃度を約180mg/mLに調整し、更に対応する濃度のポリソルベート80(II)を加えた。スーパークリーンベンチにおいて1mLの予備充填シリンジに1.1mL/ボトルで無菌充填し、影響因子実験を行い、具体的な計画は表30に示された。
【0205】
【表32】
【0206】
4.2 実験結果
4.2.1 水平振とう実験結果のまとめ
表31の結果により、全てのサンプルのタンパク質濃度、外観、SEC-HPLC純度、R-CE-SDS純度、NR-CE-SDS純度、CEX-HPLC純度、結合活性及び細胞活性は、何れも顕著な変化が認められなかった。
【0207】
【表33】
【0208】
4.2.2 凍結融解実験の結果
表32の結果により、全てのサンプルのタンパク質濃度、外観、SEC-HPLC純度、R-CE-SDS純度、NR-CE-SDS純度、CEX-HPLC純度、結合活性及び細胞活性は、何れも顕著な変化が認められなかった。
【0209】
【表34】
【0210】
4.2.3 光照射実験の結果
表33の結果により、全てのサンプルのタンパク質濃度、外観、SEC-HPLC純度、R-CE-SDS純度、NR-CE-SDS純度、CEX-HPLC純度、結合活性及び細胞活性は、何れも顕著な変化が認められなかった。
【0211】
【表35】
【0212】
以上のように、発明者らは、異なる緩衝系、異なるpH条件、異なる抗体濃度及び異なる補助剤の組成を検討し、目標のpH範囲を5.9~6.1とし、浸透圧範囲を260~320mOsm/kgとするように制御することよって、20mMのヒスチジン緩衝液(pH6.0)、150mMの塩酸アルギニン及び0.04%のポリソルベート80(II)といった最適な製剤配合を決定した。
【0213】
実施例5:製剤の長時間安定性の研究
通常、治療性抗体が含まれる液体薬物製品を2~8℃の条件で保存する必要があるため、製剤が長時間保存において高安定性を保持できることは、非常に重要である。上記スクリーニング結果により、抗体toripalimabの濃度が約180mg/mL、20mMのヒスチジン緩衝液(pH6.0)、150mMの塩酸アルギニン及び0.04%のポリソルベート80(II)であった。発明者らは、この処方で後続の生産及び長時間安定性の調査を行った。
【0214】
2ロットの完成品を選用し、2~8℃の条件で6ヶ月間放置した後、各サンプルに対して分析試験を行った。安定性は、(a)目視外観、(b)pH、(c)CE-SDS(ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動)法により検出された抗体の分子量、(d)SEC-HPLCにより測定された抗体モノマー、ポリマー、(e)CEX-HPLCにより測定された抗体の主要電荷、酸性電荷又は塩基性電荷の含有量、(f)ELISA法により検出された抗体結合活性、(g)タンパク質含有量といったパラメータでによって評価された。
【0215】
結果は、2ロットの完成品が外観、pH値、タンパク質含有量、純度(SEC-HPLC(サイズ排除高速液体クロマトグラフィー)、CEX-HPLC(弱カチオン交換高速液体クロマトグラフィー)、R-CE-SDS(還元電気泳動法)、NR-CE-SDS(非還元電気泳動法)及び生理活性において何れも顕著な変化がなかったことを示し、具体的には表34に示された。結果は、上記2ロットの完成品を2~8℃の条件で保存する場合、0~6ヶ月の保存過程において非常に良好な安定性を有することを示した。
【0216】
【表36】
【0217】
実施例6:製剤の加速安定性の研究
2ロットの完成品を選用し、25±2℃、60±5%の相対湿度(RH)の条件で0~6ヶ月間放置した後、各サンプルに対して分析試験を行った。製剤処方は、抗体toripalimab濃度が約180mg/mL、20mMのヒスチジン緩衝液(pH6.0)、150mMの塩酸アルギニン及び0.04%のポリソルベート80(II)であった。
【0218】
表35に示すように、当該完成品製剤はタンパク質分解に対して比較的高い安定性を有し、25±2℃で測定された分解動力学パラメータは室温環境における6ヶ月保存の要件を満たした。
【0219】
【表37】
【0220】
実施例7:カニクイザルインビボでの皮下及び静脈製剤の薬物動態比較研究
7.1 実験目的
カニクイザルに異なる用量でJS001(toripalimab)皮下製剤を皮下注射し、血清中の薬物濃度を検出することにより、JS001皮下製剤(処方が実施例2におけるFS2-2)の初期薬物動態特性を評価し、同時に、約40mg/mLのJS001、約20mMの枸櫞酸塩緩衝液(pH約6.0)、約150mMのマンニトール、約50mMの塩化ナトリウム、約0.02%のポリソルベート80をJS001静脈製剤の処方として、静脈投与群を設定し、JS001の異なる投与経路の薬物動態特性を評価し、及び生物学的利用能を初期調査した。
【0221】
7.2 試験品の調製方法
カニクイザルの最近の体重、投与量及び薬物含有量により必要な供試品の量を計算し、静脈製剤を、0.9%の塩化ナトリウム注射液で無菌で0.8mg/mLに希釈した。この実験では、試験動物に30分間の輸注時間で直ちに静脈輸注を必要とし、定速輸液ポンプを使用することが推奨された。皮下製剤を、プラセボ(君盟自製)で必要な濃度に希釈し、0.5mL/kgの投与体積で後肢大腿外側に注射した。
【0222】
7.3 動物の選択、投与量の設計及び群分け
この実験では、各群3匹でランダムに群分けした、動物体重が2.5~5kgのカニクイザルを選用した。カニクイザル実験の群分けと投与状況は表36に示された。そのうち、群Bは4mg/kgの投与量で単回投与され、そのうち、群Bの投与製剤はJS001皮下製剤であり、一方では、群Aの投与製剤はJS001静脈製剤、投与量は4mg/kgであった。
【0223】
【表38】
【0224】
7.4 血液サンプルの採取及び結果
全血サンプル(PK採血約1mL)をカニクイザルの非投与肢の静脈から取り出し、血液サンプルを採取した後に標識サンプルチューブに入れ、アイスボックスに置いて、血液を自然凝固させた後、2~8℃の遠心分離機に入れて1500×gで10分間遠心分離し、サンプル番号が標識されたEPチューブ内に血清を分離し、1本を検出サンプルとし、もう1本をバックアップサンプルとするように、全てのPKサンプルを2チューブに分注した。サンプル処理後、-60~-90℃の冷蔵庫に保存した。サンプル採取後、コールドチェーン物流を利用して生体サンプル分析部門に輸送し、関連する輸送記録及び温度制御記録を添付し、輸送中にサンプルが解凍されないことを確保した。WinNonlin v 6.4(Pharsight Inc.)ソフトウェアのノンコンパートメントモデルを用いて薬物動態パラメータを計算した。AUC(0-t)の計算方法はLinear Trapezoidal Linear Interpolationであった。排除速度定数Kel、半減期t1/2、ピーク到達時間Tmax、ピーク濃度Cmax、薬物曝露量AUC(0-t)、見かけの分布容積Vd、システムクリア率CLs、平均滞留時間MRTなどのパラメータを報告した。2群の平均血清薬物濃度は表37、2群の平均血中薬物濃度-時間変化曲線は図7、2群の平均血清薬物動態結果は表38に示された。
【0225】
【表39】
【0226】
【表40】
【0227】
結果により、カニクイザルに4mg/kgの投与量で試験薬物JS001を単回皮下注射する場合、AUC(0-t)は11800±700hr×μg/mLであり、4mg/kgの投与量で試験薬物JS001を単回静脈注射する場合、AUC(0-t)は12300±1910hr×μg/mLであり、JS001皮下注射の生物学的利用能は95.9%であり、試験薬物JS001の皮下注射及び静脈注射の2群の平均血中薬物濃度-時間変化曲線の傾向も基本的に一致することが示され、そのため、JS001静脈製剤を皮下注射製剤に開発することで、同等の薬物動態効果が得られ、また、皮下注射製剤は腫瘍患者のコンプライアンス及び投与利便性を向上させることがでる。
【0228】
実施例8:皮下注射製剤によるhPD-1ヒト化マウス移植MC38腫瘍成長への阻害作用
8.1 試験目的
マウス結腸がんMC38皮下移植モデルにおける本発明のJS001(toripalimab)皮下注射製剤(処方は実施例2におけるFS2-2)の抗腫瘍作用を評価した。
【0229】
8.2 試験過程
6~7週齢の雌hPD-1ヒト化マウス(百奥賽図江蘇遺伝子生物技術有限公司)を取り、右側背部に1×106のMC38細胞(0.1mL/匹)を皮下接種した。平均腫瘍体積が約134mm3となる場合、24匹の動物を選択し、腫瘍体積に応じて各群6匹の動物で4群にランダムに群分けした。各群はそれぞれ、生理食塩水を投与する陰性対照群、及び1mg/kg、3mg/kg及び10mg/kgのFS2-2製剤をそれぞれ投与するJS001-FS2-2治療群であった。
【0230】
群分けの当日に投与し、全ての群の投与経路は頸部皮下注射であり、週に2回、連続6回投与し、最後投与から3日後に実験を終了した。腫瘍の体積及び体重を週に2回測定し、マウスの体重と腫瘍の体積を記録した。実験終了時、マウスを安楽死させ、腫瘍阻害率TGI%(TGI%=[1-(Ti-T0)/(Vi-V0)]×100%)を計算した。(Ti:投与i日目の治療群の腫瘍体積平均値、T0:投与0日目の治療群の腫瘍体積平均値、Vi:投与i日目の陰性対照群の腫瘍体積平均値、V0:投与0日目の陰性対照群の腫瘍体積平均値)。
【0231】
結果は図8に示された。その結果、投与開始後の21日目、陰性対照群の平均腫瘍体積は1501±122mm3であった。JS001-FS2-2は、1、3及び10mg/kgの用量で、平均腫瘍体積がそれぞれ、661±108mm3、578±75mm3、531±184mm3であり、TGI%がそれぞれ61.5%、67.5%及び71.0%であった。JS001-FS2-2は、1、3及び10mg/kgの用量で、hPD-1ヒト化マウス移植MC38腫瘍体積の増加を顕著に阻害し、良好な用量効果を有することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】