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特表2024-528737子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー、プライマー、プローブ、及びキット
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  • 特表-子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー、プライマー、プローブ、及びキット 図1
  • 特表-子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー、プライマー、プローブ、及びキット 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー、プライマー、プローブ、及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240723BHJP
   C12Q 1/6874 20180101ALI20240723BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240723BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6874 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506622
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 CN2022095439
(87)【国際公開番号】W WO2023010964
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】202110898883.2
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202111228571.7
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524015670
【氏名又は名称】ベイジン オリジン-ポリー バイオ-テック シーオー., エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】BEIJING ORIGIN-POLY BIO-TEC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】シオン シージュン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ41
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー、プライマー、プローブ、及びキットを開示する。マーカーは、CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2の4遺伝子の部分メチル化領域である。検出プライマー及びプローブは、これらのメチル化領域について、また、クラスプ構造を有するように設計されている。キットは前述のプライマー及びプローブを含む。本発明は、複数のメチル化領域をスクリーニングして組み合わせて、複合診断に最適なメチル化位置を決定することで、初期子宮内膜がんの検出の感度及び特異度を大幅に改善させることができる。キットは、頸部剥離細胞を試料として用いて、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断に特に適切である。DNA鋳型濃度が低い場合でも、子宮内膜がんを検出することができる。キットは、非侵襲性のサンプリング、迅速な検出速度、より高い感度及び特異度などの利点を有しており、結果の正確性を確実にして、子宮内膜がんの早期検出、早期診断、及び早期治療の目的の達成を助けることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的遺伝子CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2のそれぞれにおいて、以下のメチル化領域の少なくともいずれか1つから選択されることを特徴とする、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー。
CDO1遺伝子:Chr5:115816884-115817037、Chr5:115816018-115816152、Chr5:115815760-115815872;
CELF4遺伝子:Chr18:37566573-37566662、Chr18:37565524-37565639、Chr18:37565036-37565173;
HAND2遺伝子:Chr4:173530858-173530953、Chr4:173530225-173530335、Chr4:173528847-173528958;
HS3ST2遺伝子:Chr16:22813813-22813928、Chr16:22814029-22814146、Chr16:22814452-22814557;
【請求項2】
標的遺伝子CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2のそれぞれにおいて、以下のメチル化領域から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー。
CDO1遺伝子:Chr5:115815760-115815872;
CELF4遺伝子:Chr18:37565524-37565639;
HAND2遺伝子:Chr4:173528847-173528958;
HS3ST2遺伝子:Chr16:22813813-22813928;
【請求項3】
子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出プライマーであって、前記検出プライマーが、請求項1に記載のマーカー遺伝子中のメチル化領域のメチル化状態を対応して検出するために使用され;前記プライマーの設計がクラスプ構造を採用し;前記プライマーのヌクレオチド配列の5’末端には、3’末端と相補的で対をなし、CG部位を含有しない、長さ5~10bpの配列が付加され;前記3’末端の終端の最後の2つの塩基がCGであり;前記プライマー中の二本鎖結合領域のTm値が、PCR反応システムにおけるアニーリング温度と一貫しているべきである;ことを特徴とする、前記検出プライマー。
【請求項4】
以下のヌクレオチド配列を有することを特徴とする、請求項3に記載の子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出プライマー。
CDO1遺伝子において:
Chr5:115816884-115817037に対応する前記検出プライマーが配列番号1~2であり、
Chr5:115816018-115816152に対応する前記検出プライマーが配列番号4~5であり、
Chr5:115815760-115815872に対応する前記検出プライマーが配列番号7~8であり;
CELF4遺伝子において:
Chr18:37566573-37566662に対応する前記検出プライマーが配列番号10~11であり、
Chr18:37565524-37565639に対応する前記検出プライマーが配列番号13~14であり、
Chr18:37565036-37565173に対応する前記検出プライマーが配列番号16~17であり;
HAND2遺伝子において:
Chr4:173530858-173530953に対応する前記検出プライマーが配列番号19~20であり、
Chr4:173530225-173530335に対応する前記検出プライマーが配列番号22~23であり、
Chr4:173528847-173528958に対応する前記検出プライマーが配列番号25~26であり;
HS3ST2遺伝子において:
Chr16:22813813-22813928に対応する前記検出プライマーが配列番号28~29であり、
Chr16:22814029-22814146に対応する前記検出プライマーが配列番号31~32であり、
Chr16:22814452-22814557に対応する前記検出プライマーが配列番号34~35である;
【請求項5】
子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出プローブであって、
前記検出プローブが、請求項1に記載のマーカー遺伝子を対応して検出するために使用され、前記検出プローブのヌクレオチド配列の設計がクラスプ構造を採用し;前記ヌクレオチド配列の5’末端には、3’末端付近の終端3~4bpの領域と相補的で対をなし、CG部位を含有しない、長さ3~6bpの配列が付加され;前記プローブ中の二本鎖結合領域のTm値が、PCR反応システムにおけるアニーリング温度よりも2~15℃高いべきであり;前記プローブの前記ヌクレオチド配列と前記マーカー遺伝子の前記配列との間の結合の自由エネルギーが、前記プローブ自身によって形成される前記クラスプ構造のものよりも高く;
前記検出プローブの5’末端が、蛍光基で標識されており、前記3’末端が消光基で標識されており、同じ検出システム中のマーカー遺伝子の異なる検出プローブが異なる蛍光基で標識されている;ことを特徴とする、前記検出プローブ。
【請求項6】
検出プローブのヌクレオチド配列が以下のとおりであることを特徴とする、請求項5に記載の子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出プローブ。
CDO1遺伝子検出プローブ:配列番号9
CELF4遺伝子検出プローブ:配列番号15
HAND2遺伝子検出プローブ:配列番号27
HS3ST2遺伝子検出プローブ:配列番号30
【請求項7】
請求項3又は4に記載の検出プライマーと、請求項5又は6に記載の検出プローブとを含むことを特徴とする、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出キット。
【請求項8】
請求項7に記載の子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出キットであって、前記検出キットが、内部参照遺伝子のための検出プライマー及び検出プローブも含み、前記内部参照遺伝子がGAPDHであり;前記内部参照遺伝子の前記検出プライマーのヌクレオチド配列が、配列番号37~38で示され、前記内部参照遺伝子の前記検出プローブの前記ヌクレオチド配列が、配列番号39で示され、前記内部参照遺伝子の前記検出プローブの前記ヌクレオチド配列の5’末端が蛍光基で標識され、3’末端が消光基で標識され;同じ検出システム中において、前記内部参照遺伝子の前記検出プローブを標識するための前記蛍光基が、マーカー遺伝子の前記検出プローブを標識するための前記蛍光基とは異なる;ことを特徴とする、前記検出キット。
【請求項9】
請求項7に記載の子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出キットであって、前記検出キットが、PCR反応溶液及び試料用のメチル化前処理試薬をさらに含み;前記試料が頸部剥離細胞であり、前記試料用の前記メチル化前処理試薬が、細胞ゲノムDNA抽出試薬及びDNA亜硫酸水素塩変換試薬を含む;ことを特徴とする、前記検出キット。
【請求項10】
PCR反応溶液の各1人分が、1U/μLの濃度のメチル化特異的Taq DNAポリメラーゼ0.5~1μL、10mMの濃度のdNTP2~5μL、2~5mMの濃度のMg2+2~6μL、10×DNAポリメラーゼ緩衝液5μL、及び15μLまでにする精製水から構成されることを特徴とする、請求項9に記載の子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸インビトロ診断の技術分野、より詳細には子宮内膜がんの早期スクリーニング及び早期検出における特異的遺伝子メチル化マーカーの使用、より詳細には子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー、プライマー、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜がんは、子宮内膜において発生する上皮悪性腫瘍であり、50~60歳の人々に高い罹患率を有し、閉経後の女性において最も一般的であり、近年ではより若年化する傾向にある。最新の世界規模のがんデータ報告によれば、2020年における世界中の女性の子宮内膜がんの新規症例数は420,000件に達し、世界中の女性の悪性腫瘍の罹患率の順位が6位となった。2020年には、中国における女性の子宮内膜がんの新規症例数は80,000件であり、中国における女性の悪性腫瘍の罹患率の順位が9位となった。米国では、子宮内膜がんは、乳房、肺、及び結腸直腸がんに続く、4番目に一般的ながんである。類内膜がんを有する患者のおよそ70%で、発見されたとき、病変は子宮に限局される。ほとんどの事例では、子宮内膜がんは局在型の病変であり、生存率は比較的高いが、初期の不正膣出血及び膣分泌物などの症状はしばしば無視され、早期診断の機会が失われる。データにより、近年、中国における子宮内膜がんの死亡率の増加率が罹患率の増加率を上回っていることが示されている。死亡率の増加は、進行症例、高リスク病理型(子宮漿液性乳頭がんなど)、診断時での高齢の増加に関連している場合がある。米国における監視、疫学、及び結果(SEER)のデータにより、若年患者、初期症例、及び低悪性度疾患を有する患者がより良好な生存率を有することが示されている。
【0003】
子宮内膜がんを有する患者のほとんどにおける子宮内膜がんは散発性であるが、子宮内膜がんを有する患者の約5%においては遺伝性であり、これは、これらの患者の発症年齢が、散発性子宮内膜がんを有する患者の平均年齢よりも10~20歳若いことによって特徴づけられる。リンチ症候群を有する女性は子宮内膜がんの高リスク群であり、60%と高い罹患率を有する。リンチ症候群を有する患者は、子宮内膜を綿密にモニタリングすることが推奨される。
【0004】
子宮内膜がんの診断及び治療の現在の指針によれば、子宮内膜がんの早期検出のための現在の臨床方法は、経膣超音波、血清腫瘍マーカーCA125、子宮内膜細胞試料採取器に基づく細胞学的検出、並びに最終の確定診断のための組織病理学的方法:診断的掻爬術及び子宮鏡検査生検を主に使用する。子宮内膜がんが特定の超音波の特徴的な画像を有することが、文献中に報告されている。子宮内膜がんの超音波の診断技法及び画像特長に熟練した者である限り、超音波は子宮内膜がんの診断において依然として大きな価値を有するが、初期子宮内膜がんに対する超音波診断の感度は高くない。子宮内膜がんの超音波診断では、感度は59.4%であり、特異度は81.1%であり、偽陰性率は40.6%であり、偽陽性率は18.9%である。血清CA125の検出は、子宮内膜がんの早期診断及び予後診断の予測において一定の価値を有する。しかし、子宮内膜がん及び良性子宮病変を有する患者における血清CA125の陽性率はそれぞれ24%及び20%である。したがって、血清CA125の検出は、子宮内膜がんの早期診断について感度を欠いており、比較的乏しい特異度を有する。子宮内膜細胞は月経周期外では容易に脱落しない、一方、子宮腔から脱落するがん細胞は溶解及び変性しやすく、染色後に同定することが困難である。したがって、膣剥離細胞診の陽性率は高くない。子宮内膜細胞収穫器を液体ベースの検体細胞診セクション技法と組み合わせたものが、子宮内膜がんの早期検出に一般的に使用される。子宮内膜非定型過形成の診断では、感度は55%であり、特異度は82.6%であり、子宮内膜がんの診断では、感度は36.4%であり、特異度は99.7%であった。したがって、子宮内膜細胞収穫器によって得られた材料を使用した液体ベースの検体細胞診試験を使用して、子宮内膜病変について症候性集団及び高リスク集団をスクリーニングすることができるが、細胞診試験方法における診断技法の感度は乏しく、サンプリングはある程度外傷性である。診断的掻爬術及び子宮鏡検査生検は、子宮内膜がんの確定診断に必要な方法である。子宮内膜生検が約10%の偽陰性を有し得るという事実に鑑みて、子宮内膜がんが強く疑われる又は典型的な症状を有する場合は、診断の見逃しを減らすために、陰性子宮内膜生検を有する患者を麻酔下で、部位別掻爬術及び頸管掻爬を用いて再度診断するべきである。不明確な子宮内膜病変を有し、持続性又は繰り返す膣出血を有する患者では、補助的子宮鏡検査が良性又は悪性子宮内膜病変の決定を助けることができるが、これは人体に有害であり、子宮内膜がんの早期スクリーニングには不適切であり、したがって、最終の病理学的診断にのみ使用することができる。したがって、子宮内膜がんの可能性をより良好に同定するための、客観的であり、再現性があり、特異度の高い検出方法が必要である。現在、子宮内膜がんの有効なスクリーニング方法は依然として欠如しており、非侵襲性スクリーニング方法を探索することができる。現在、中国における子宮内膜がんの罹患率は毎年増加しており、緊急に新しいスクリーニング方法を要している。
【0005】
DNAメチル化はエピジェネティクスの一種であり、DNAの5’末端でのシトシンの共有結合修飾である。この修飾は通常、遺伝子サイレンシングに関連する。DNAメチル化は、長期間の間、比較的安定に保たれる可能性があり、加えて試料(パラフィン切片など)中に存在することができるため、DNAメチル化は、ヒト疾患研究における最も有用な明白なマーカーとなっている。DNAメチル化マーカーはmRNA、タンパク質、又は代謝物マーカーよりも良好な安定性を有しており、そのような安定性は安定した検出を容易にするため、早期スクリーニングに関連する研究及び応用において、メチル化マーカーの検出は現在、最も実現可能な検出スキームとして一般に認識されている。DNAマーカーと比較して、メチル化マーカーはより良好な多様性を有しており、身体の内部及び外部環境における変化の影響を反映することができる。メチル化は、遺伝子転写を細かく調節するDNA上の修飾であり、基本的には、過剰メチル化が遺伝子発現を減らし、低メチル化が遺伝子発現を増やすことが示されている。メチル化のレベル及びパターンの変化は、腫瘍抑制遺伝子の発現がオフになること、又はがん原遺伝子の発現が活性化されることを引き起こす。したがって、特異的部位でのDNAメチル化レベルの検出を使用して、個体における腫瘍の増殖を予測し、それによって、腫瘍の早期スクリーニング及び早期診断の目的を達成することができる。
【0006】
近年、DNAメチル化は、基礎研究及び臨床的変革から、ますますの注目を集めている。多数の経路がエピジェネティクスによって調節されることが見出され、チップ技術及び次世代シーケンシング技術に基づいてメチル化についてのビッグデータが生成され、多くの既存の研究によって実証された体液中のDNAメチル化レベルの変化をがんの早期診断、予後診断評価、及び治療上有効性の評価に使用することができる。一部の最先端の研究は、変革され始め、臨床応用に入っている。DNAメチル化は、腸がんの早期スクリーニング及び早期診断において診療所で応用されており、代表的なものは米国のExact Sciences社並びに中国のNew Horizon Health社及びCreative Biosciences社からのCologuardである。他の種類のがんにおけるDNAメチル化に関する腫瘍の早期スクリーニング及び早期診断では、関連研究を実施している国内及び海外の企業も存在するが、全体的な研究は依然として科学的研究段階にあり、診療所に応用することができ、確定診断的価値を有するものはわずかである。それらのうち、米国企業のFoundation Medicine社は、複数固形腫瘍(肺がん、乳がん、胃がん、食道がん、結腸直腸がん、肝臓がん、胆管及び胆嚢がん、膵がん、胃腸間質腫瘍、頭頸部がん、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、前立腺がん、膀胱がん、腎臓がん、黒色腫など)のメチル化の方向における一部のデータに対して、科学的研究を実施した。2016年に、Huangらは、180個の関連遺伝子を、50件の子宮内膜がん、40件の子宮筋腫、及び56件の健康な人々の頸部分泌物を研究対象としてスクリーニングし、それらのうちの14個が、子宮内膜がんにおいて過剰メチル化されていたことを見出した。それらのうち、3つの遺伝子、BHLHE22、CDO1、及びCELF4は特に突出しており、83.7%~96%の感度及び78.7%~96.0%までの特異度を有していた。対で試験した際、感度は91.8%に達する場合がある一方で、特異度は95.5%に維持される場合がある。2014年に、Nicolasらは148個の子宮内膜がん試料及び23個の良性子宮内膜試料を収集し、807個の遺伝子を網羅する1500個のプローブを研究し、良性及び悪性子宮内膜を識別する潜在性を有する8個の潜在的な遺伝子をスクリーニングして選出した(ADCYAP1、ASCL2、HS3ST2、HTR1B、MME、NPY、及びSOX1)。2013年に、Allisonらは、64個の子宮内膜組織試料及び23個の対照試料において27,000個のCpGアイランドのメチル化を研究し、HAND2遺伝子が、子宮内膜がんにおいて最も一般的な過剰メチル化された遺伝子のうちの1つであることを見出した。同時に、272人の女性の経過観察研究において、HAND2の役割が再度証明された。この遺伝子のメチル化は、子宮内膜病変の発生における重要な要因のうちの1つである。
【0007】
DNAメチル化は、主に遺伝子のプロモーター領域中に起こり、通常は腫瘍抑制遺伝子の発現の不活性化に密接に関連している。遺伝子メチル化の検出において現在使用されている主な方法としては、メチル化特異的PCR(MSP, methylation-specific PCR)、亜硫酸水素塩シーケンシングPCR(BSP, bisulfite sequencing PCR)、及び高分解能溶解(HRM, high resolution melting)などが挙げられる。メチル化特異的PCRは、PCR増幅のためにプライマーと標的鋳型との結合に主に依存して、メチル化された部位を検出する。亜硫酸水素塩シーケンシングPCRは、PCR増幅のためにシーケンシングプライマーに依存し、続くシーケンシングはこれに基づいて行って、メチル化された部位の検出を実現する。高分解能溶解は、主に試料中のCG含有率の変化によって引き起こされる融解温度の変化を通じて、メチル化及び非メチル化の状態間を識別する。それぞれの方法はそのそれぞれの特徴を有する。BSPは、高い正確性を有し、直感的な解釈が容易であるが、感度が低く、操作が比較的厄介であり、高コストである。HRM方法は、感度が比較的低く、結果の分析が少し複雑である。MSPは、検出感度が高く、試料の所要量が比較的少なく、同時に、検出時間が短く、低コストであり、結果の解釈が容易である。
【0008】
非侵襲性及び低コストが、早期がんスクリーニングの理想的な特長である。子宮内膜がんの検出では、経膣超音波、又は子宮内膜細胞試料採取器に基づく細胞学的検出及び診断的掻爬術などが主に臨床的に使用されている。一態様では、検出感度は低く、別の態様では、子宮内膜細胞の直接収集は一定度合の侵襲性を有する。
【0009】
これに鑑みて、本発明を提案する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術における上述の弱点に取り組み、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカー、プライマー、プローブ、及びキットを提供することである。マーカー、プライマー、プローブ、及びキットは、高い検出の正確性を有し、操作が好都合かつ迅速であり、子宮内膜がんの臨床的診断のために信頼性のある参照を提供することができる。頸部剥離細胞を被検試料として使用することができ、これは、患者に損傷を与えず、患者により受け入れられ易い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の具体的な技術的スキームを以下に詳述する。
【0012】
第1の態様では、本発明は、標的遺伝子CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2のそれぞれにおいて、以下のメチル化領域の少なくともいずれか1つから選択される、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のためのマーカーセットを提供する:
CDO1遺伝子:Chr5:115816884-115817037、Chr5:115816018-115816152、Chr5:115815760-115815872;
CELF4遺伝子:Chr18:37566573-37566662、Chr18:37565524-37565639、Chr18:37565036-37565173;
HAND2遺伝子:Chr4:173530858-173530953、Chr4:173530225-173530335、Chr4:173528847-173528958;
HS3ST2遺伝子:Chr16:22813813-22813928、Chr16:22814029-22814146、Chr16:22814452-22814557。
【0013】
子宮内膜がん関連遺伝子の種類及びそれぞれの遺伝子のメチル化領域を複合的にスクリーニングすることにより、上記4つのマーカー遺伝子(又は標的遺伝子)及びそれらの対応する機能的な最適にメチル化領域を、最終的にスクリーニングして選出する。解釈閾値は、それぞれのマーカー遺伝子のメチル化結果の相補性によって決定することができる。子宮内膜がんの早期検出のためにそれぞれのメチル化領域の結果を互いに合わせた際、検出結果の正確性は非常に高く、臨床家に補助的診断参照を提供することができる。
【0014】
任意選択で又は好ましくは、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための上述のマーカーは、標的遺伝子CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2のそれぞれにおいて、以下のメチル化領域から選択される:
CDO1遺伝子:Chr5:115815760-115815872;
CELF4遺伝子:Chr18:37565524-37565639;
HAND2遺伝子:Chr4:173528847-173528958;
HS3ST2遺伝子:Chr16:22813813-22813928。
【0015】
上述の組合せが最良の検出効果を有する。
【0016】
第2の態様では、本発明はまた、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出プライマー組も提供する。検出プライマーを使用して、上述のマーカー遺伝子中のメチル化領域のメチル化状態を対応して検出する。プライマー設計はクラスプ構造を採る。3’末端と相補的で対をなしし、CG部位を含有しない、長さ5~10bpの配列を、プライマーのヌクレオチド配列の5’末端に付加させる。3’末端の終端の最後の2つの塩基はCGである。プライマー中の二本鎖結合領域のTm値は、PCR反応システムにおけるアニーリング温度と一貫しているべきである。
【0017】
上記プライマー設計において、5~10bpの長さの付加した配列は、CG部位を含有せず、クラスプを形成する際により密な結合を確実にすることができる。プライマー配列はクラスプ設計構造を採る。第一に、プライマー二量体は産生されない。アニーリングプロセス中、プライマーは優先的に自身で二本鎖構造を作り、他のプライマーと二本鎖構造を形成しないため、プライマー二量体は形成されない。第二に、高い特異性が存在する。プライマー自身がクラスプ構造を有するため、プライマーとメチル化された標的配列との間の結合の自由エネルギーは、プライマー自身によって形成される環自由エネルギーよりも高い必要があるので、プライマーの3’末端にミスマッチ塩基が存在する場合、クラスプ構造を含有するプライマーはメチル化されていない配列と結合することがほぼ困難であり、プライマー増幅のためのより良好な特異性が維持される。第三に、使用する試料が頸部剥離細胞であり、DNA鋳型の量は少なく、鋳型中のメチル化されたDNAの含有率は少なく、クラスプ構造を用いて設計されたプライマーはメチル化された標的配列とのみユニークにマッチするため、高い感度が存在する。プライマーの増幅効率は大きく改善される。プライマーの設計及び合成中に他の追加の修飾を付加する必要はなく、合成は単純であり、一般的に使用される合成機のみによって完了することができる。
【0018】
上述のプライマーは、クラスプ設計構造が原因でプライマー増幅に対して高い特異性を維持するため、プライマー間の増幅効率は干渉せず、これは複数プライマーの増幅における明白な利点である。本発明は、4個の標的遺伝子+1個の内部参照遺伝子を採用して反応システムにおける増幅を行い、それぞれの遺伝子のプライマー間の増幅効率に対する相互影響はない。
【0019】
任意選択で又は好ましくは、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための上述の検出プライマーは、以下のヌクレオチド配列を有する:
CDO1遺伝子において:
Chr5:115816884-115817037に対応する検出プライマーは配列番号1~2であり、
Chr5:115816018-115816152に対応する検出プライマーは配列番号4~5であり、
Chr5:115815760-115815872に対応する検出プライマーは配列番号7~8であり、
CELF4遺伝子において:
Chr18:37566573-37566662に対応する検出プライマーは配列番号10~11であり、
Chr18:37565524-37565639に対応する検出プライマーは配列番号13~14であり、
Chr18:37565036-37565173に対応する検出プライマーは配列番号16~17であり、
HAND2遺伝子において:
Chr4:173530858-173530953に対応する検出プライマーは配列番号19~20であり、
Chr4:173530225-173530335に対応する検出プライマーは配列番号22~23であり、
Chr4:173528847-173528958に対応する検出プライマーは配列番号25~26であり、
HS3ST2遺伝子において:
Chr16:22813813-22813928に対応する検出プライマーは配列番号28~29であり、
Chr16:22814029-22814146に対応する検出プライマーは配列番号31~32であり、
Chr16:22814452-22814557に対応する検出プライマーは配列番号34~35である。
【0020】
第3の態様では、本発明はまた、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出プローブ組も提供する。検出プローブを使用して、請求項1に記載のマーカー遺伝子を対応して検出する。検出プローブのヌクレオチド配列の設計はクラスプ構造を採る。3’末端付近の終端3~4bpの領域と相補的で対をなし、CG部位を含有しない、長さ3~6bpの配列を、ヌクレオチド配列の5’末端に付加させる。プローブ中の二本鎖結合領域のTm値は、PCR反応システムにおけるアニーリング温度よりも2~15℃高いべきである。プローブのヌクレオチド配列とマーカー遺伝子の配列との間の結合の自由エネルギーは、プローブ自身によって形成されるクラスプ構造のものよりも高く、検出プローブの5’末端を蛍光基で標識し、3’末端を消光基で標識し、同じ検出システム中のマーカー遺伝子の異なる検出プローブを異なる蛍光基で標識する。
【0021】
蛍光基としては、それだけには限定されないが、FAM、ROX、CY5、及びHEXが挙げられ、消光基としては、それだけには限定されないが、BHQ1及びBHQ2が挙げられる。
【0022】
異なる蛍光基で標識した標的遺伝子の検出プローブは、反応が、試料中の様々な標的遺伝子の最良の増幅効率を確実にするために、1本のチューブに入れることができる。蛍光曲線は標準のS字形増幅曲線であり、蛍光曲線は、それぞれの遺伝子の単独増幅曲線と同じ傾向を保つ。
【0023】
プローブの設計もクラスプ設計構造を採り、これは蛍光基と消光基とを近くにすることができ、プローブが環構造を形成した際に蛍光は存在しない。同時に、プローブ配列は、メチル化された配列の特異的認識のための、2~5個のCG部位を含有する。3’末端付近の終端3~4bp領域の塩基配列と相補的である3~6bpの長さの配列を、プローブの5’末端に付加させて、CG部位を含有しない相補的領域を形成する。プローブ中の二本鎖結合領域のTm値は、反応システム中のアニーリング温度よりも2~5℃高い。CG部位の増加に伴って、Tm値を5~10℃増加させる必要があり、特異的要件はプローブのスクリーニング結果に従って決定される。プローブを設計するプロセスにおいて、プローブ配列と標的配列との間の結合の自由エネルギーは、プローブ配列自身によって形成されるクラスプ構造のものよりも高い。
【0024】
このプローブ設計の利点は、第一に、クラスプ構造の形成が原因で、配列の蛍光基及び消光基がより近く、蛍光消光効果がより良好であり、追加の蛍光は生じないため、蛍光バックグラウンドが低いことである。第二に、高い特異性が存在する。一態様では、プローブはクラスプ設計構造を有しており、配列自身が、メチル化されていない配列と結合することが困難である。別の態様では、プローブは2~5個のCG部位を含有して、このプローブ配列がマッチするメチル化された配列とのみ結合することを確実にする。第三に、高い感度が存在する。プローブ環構造が開かれ、メチル化配列と結合し、蛍光基が消光基から分離された場合に、蛍光を検出することができる。第四に、設計は複数の増幅反応に適している。プローブ配列のそれぞれがクラスプ構造を形成する。相補的対合及び互いとの結合を行うことは困難である。したがって、プライマー二量体は産生されず、プローブ配列と標的配列の結合には影響が与えられない。
【0025】
任意選択で又は好ましくは、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための上述の検出プローブは、以下のヌクレオチド配列を有する:
CDO1遺伝子検出プローブ:配列番号9
CELF4遺伝子検出プローブ:配列番号15
HAND2遺伝子検出プローブ:配列番号27
HS3ST2遺伝子検出プローブ:配列番号30。
【0026】
第4の態様では、本発明は、上述の検出プライマーのうちのいずれかのものと、上述の検出プローブのうちのいずれかのものとを含む、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための検出キットを提供する。
【0027】
任意選択で又は好ましくは、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための上述の検出キット中において、内部参照遺伝子のための検出プライマー及び検出プローブがさらに含まれる。内部参照遺伝子はGAPDHであり、内部参照遺伝子の検出プライマーのヌクレオチド配列を配列番号37~38に示し、内部参照遺伝子の検出プローブのヌクレオチド配列を配列番号39に示し、内部参照遺伝子の検出プローブのヌクレオチド配列の5’末端を蛍光基で標識し、3’末端を消光基で標識し、同じ検出システム中において、内部参照遺伝子の検出プローブを標識するための蛍光基は、マーカー遺伝子の検出プローブを標識するための蛍光基とは異なる。
【0028】
任意選択で又は好ましくは、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための上述の検出キットは、PCR反応溶液及び試料用のメチル化前処理試薬をさらに含み、試料は頸部剥離細胞であり、試料用のメチル化前処理試薬は、細胞ゲノムDNA抽出試薬及びDNA亜硫酸水素塩変換試薬を含む。
【0029】
試料の前処理はキット全体に対して非常に重要であり、続くPCR増幅効果に直接関連している。
【0030】
本キットは、試料として剥離頸部細胞に特に適切である。現在、一般的に使用される臨床的サンプリング方法は、子宮内膜細胞試料採取器に基づいて子宮内膜試料を収集すること、又は掻爬術を通じて子宮内膜組織を得ることである。このサンプリング方法は患者に対して侵襲性であり、患者にある程度の外傷を与える。上記キットは、頸部剥離細胞の試料を使用し、また、子宮内膜領域から子宮頸部へと脱落した細胞を検出するため、子宮内膜細胞の量は非常に少ないが、試料源はより単純であり、試料は侵襲性なしで採取が容易である。頸部剥離細胞中の子宮内膜細胞の量は少ないため、それに対応して、本キットが含む試料の前処理試薬及び続くPCR反応溶液が、子宮内膜細胞中におけるDNAメチル化の変化を検出することができるかどうかを決定するために特に重要である。
【0031】
上記試料用のメチル化前処理試薬を使用する場合、2つの方法が存在し、一方はゲノムDNAの抽出方法であり、他方は亜硫酸水素塩の変換方法である。方法のうちの一方が失敗した場合、最終結果は大きく変わるであろう。
【0032】
細胞ゲノムDNA抽出試薬は、頸部剥離細胞を試料として使用する。好ましくは、出願人が独立して開発したゲノムDNA抽出キット(核酸抽出又は精製試薬(Beijing OriginPoly Bio-Tec Co., LtD.社、北京大スケール医療機器記録(Beijing Large-scale Medical Equipment Record)第20210020号))を使用して、DNAを頸部剥離細胞から抽出する。この抽出/精製キットは、開発方法中の比較スクリーニングを通じて、DNA収率及びDNA純度に関して大きく改善されている。2mLの頸部剥離細胞保存溶液を抽出する。DNAの総量は4μg~8μgであり、OD260/280は1.9~2.0であり、良好な収率及び純度を維持している。
【0033】
DNA抽出が完了した後、DNA亜硫酸水素塩変換実験ではDNA亜硫酸水素塩変換試薬を使用する必要がある。ここでも出願人が独立して開発した亜硫酸水素塩変換キット(メチル化検出試料前処理キット(Beijing OriginPoly Bio-Tec Co., LtD.社、北京大スケール医療機器記録第20200110号))を使用することが好ましい。変換方法の主な指標を比較する:1つの指標は、亜硫酸水素塩の変換率、すなわち、配列中のどれだけの量のCがUへと変換されることができるかであり、別の指標は、変換後の精製効率、すなわち、最終ビスDNA収率がどれほどであるかである。上述のDNA亜硫酸水素塩変換試薬を使用した場合、亜硫酸水素塩について99.8%の変換効率及び99%の精製効率が、続くPCR増幅反応のための高品質なビスDNAをもたらす。
【0034】
任意選択で又は好ましくは、子宮内膜がんの早期スクリーニング及び診断のための上述の検出キット中において、PCR反応溶液の各1人分は、1U/μLの濃度のメチル化特異的Taq DNAポリメラーゼ0.5~1μL、10mMの濃度のdNTP2~5μL、2~5mMの濃度のMg2+2~6μL、10×DNAポリメラーゼ緩衝液5μL、及び15μLまでにする精製水から構成される。
【0035】
上記PCR反応システムにおいて、重要な構成要素はメチル化特異的Taqポリメラーゼであり、これは以下の利点を有する:亜硫酸水素塩の変換後の鋳型配列を増幅し、変換後の配列を特異的に認識することができ、変換後の配列上のプライマーの増幅効率が改善される。不十分な量の酵素は増幅効率を低下させるであろうし、過剰量の酵素は非特異的な増幅を容易に引き起こすであろうため、酵素の量は、続くPCR増幅結果に顕著な影響を与える可能性がある。さらに、システム中のdNTP、Mg2+、及び10×DNAポリメラーゼ緩衝液の比もまた、プライマーとプローブの組合せの増幅効率に直接関連している。
【0036】
PCR反応システムは、亜硫酸水素塩変換後のビス-DNAの増幅に具体的に向けられており、複数のプライマー及びプローブを含有する。したがって、PCR反応溶液の選抜が特に重要である。システム中のプライマー又はプローブが互いに干渉せず、プライマー及びプローブのそれぞれの組の増幅効果が真価を発揮することを確実にするために、システム中のそれぞれの遺伝子のプライマー及びプローブの増幅効率は、その対応するシングルプレックス増幅のそれと同様であるべきである。マルチプレックス増幅システム全体の最良の増幅効率を確実にするために、様々なメチル化特異的Taqポリメラーゼ及びそれらの他の構成要素との比をスクリーニング及び検証することが必要である。
【0037】
従来技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0038】
1.本発明は、4つのマーカー遺伝子(標的遺伝子、所望の遺伝子)、CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2をスクリーニングして選出し、それぞれの遺伝子中の最適にメチル化領域を決定する。メチル化領域を、子宮内膜がんの早期検出のために互いに合わせることができる。選択された領域は、遺伝子のプロモーター領域だけでなく、遺伝子のコード領域も含む。子宮内膜がんの多様性が原因で、機能間で相補的である、複数の遺伝子のメチル化領域の複合的検出は、子宮内膜がんの検出の感度を顕著に改善させるが、正常及び良性の子宮内膜腫瘍に対して高い特異性を有するように選択される。検出組成物は、婦人科悪性腫瘍の可能性を有する患者を、メチル化検出技術を使用した分子エピジェネティクス法を通じて早期に検出し、結果は非常に正確であり、早期の予防治療のための補助的診断参照を臨床家に提供することができる。
【0039】
2.検出プライマー及びプローブは、合わせた4つのマーカー遺伝子の特異的なメチル化された部位について設計される。プライマー及びプローブはすべてクラスプ設計構造を採り、メチル化された鋳型を二重に認識することができる。検出の感度及び特異度は顕著に改善され、検出の正確性は増加し、検出の誤りは低下する。頸部剥離細胞を試料として使用する事例では、DNAの量は少量であり、DNAメチル化の量はより少なく、感度を改善させることが非常に重要である。本発明のプライマー及びプローブを使用して、少量の試料で正確な検出結果を得ることができる。これは臨床応用により適切である。
【0040】
プライマー及びプローブから構成されるすべての検出システムはまた、CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2遺伝子中のメチル化された部位を正確に検出し、複数の遺伝子中のメチル化された部位の検出をバッチで完了するために、複数遺伝子の複数チャネルの蛍光検出方法を使用することができ、5個の蛍光プローブ標識を使用することができ、特異的なプライマー及びプローブを通じてメチル化された配列を正確に認識することができ、最適化された特殊なメチル化DNA Taqポリメラーゼを使用することができる。検出方法は操作が単純であり、解釈が直感的であり、結果を8時間以内に得ることができる。汎用蛍光定量PCR機器が検出の必要性を満たすことができる。実験方法全体は、ワンストップの完全に密封された形態を採り、これは、操作が容易であり、相互汚染の可能性を回避する。
【0041】
3.キット中の試料用のメチル化前処理試薬並びにPCR反応溶液はそれぞれ、DNA抽出及び頸部剥離細胞の前処理並びに続くPCR反応の保証を提供する。現在、PCR増幅における非特異的な増幅(偽の陽性結果)の多数の現象が存在する。現在、最も主流の亜硫酸水素塩変換技術は、抽出した試料に対して変換を行う。現在の亜硫酸水素塩変換技術の制限によって限定されることによって、標的ゲノムの約80%が失われ得ることに加えて、一定の確率で未変換の鋳型も存在するであろう。これらが、偽の陽性結果を引き起こし得る理由である。本発明では、標的遺伝子のためのプライマー及びプローブの設計においてクラスプ構造を採ること、並びに増幅の感度及び特異度を増加させることに加えて、試料のメチル化の前処理(DNA抽出及び亜硫酸水素塩変換を含む)も、最終ビスDNA変換収率を改善させるために最適化されている。
【0042】
4.キットは、特異的なプライマー及びプローブ、試料前処理試薬、PCR反応溶液中のDNAポリメラーゼなどを組み合わせて、キットを使用した場合に高い感度を維持すること、プライマー及びプローブが良好な特異性を有すること、増幅効率が高いこと、低濃度の鋳型について非常に良好な検出率も存在すること、並びに、初期子宮内膜がんの検出について非常に高い感度が存在することを確実にする。このキットの高い感度は、子宮内膜がんの早期検出に適切である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2のそれぞれの遺伝子についてスクリーニングした、メチル化領域のROC曲線を示す図である。
図2】複合的検出におけるCDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2のROC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
当業者が本発明をより良好に理解及び実行することができるように、本発明の技術的解決策を、以下に、図面に従った好ましい具体的な実施形態と併せて説明及び詳述する。
【実施例1】
【0045】
子宮内膜がん関連遺伝子、CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2中におけるメチル化を検出するためのキットの検出試験。
【0046】
使用したプライマー及びプローブの具体的なヌクレオチド配列を以下の表に示す:
【表1】

注記:Fはフォワード検出プライマーを表し、Rはリバース検出プライマーを表し、FPは検出プローブを表す。本表では、示したプローブ配列は蛍光基及び消光基で標識されている。
【0047】
試料前処理試薬なしのキット中の構成要素は以下のとおりである:
【表2】
【0048】
既知かつ明確な病理学的情報を有する60個の子宮内膜がん試料を選択した。15件が類内膜がん腫として同定され、15件が子宮内膜粘液性がんとして同定され、15件が子宮内膜漿液性がんとして同定され、15件が子宮内膜明細胞がんとして同定され、40件が良性子宮内膜試料であった。上記試料はすべて、頸部剥離細胞の保留試料から得た。
【0049】
I.試料のメチル化前処理
試料用のメチル化前処理試薬は、細胞ゲノムDNA抽出試薬及びDNA亜硫酸水素塩変換試薬を含む。
【0050】
1.本企業の自己開発のゲノムDNA抽出キット(核酸抽出又は精製試薬(Beijing OriginPoly Bio-Tec Co., LtD.社、北京大スケール医療機器記録第20210020号))を細胞ゲノムDNA抽出試薬として使用して、ゲノムDNAを、上述の100個の子宮内膜の良性及び悪性頸部剥離細胞の試料から抽出した。同時に、DNA品質をモニタリングした。DNAの総量は4μg~8μgであり、OD260/280は1.9~2.0であり、良好な収率及び純度を維持していた。
【0051】
2.本企業の自己開発の亜硫酸水素塩変換キット(メチル化検出試料前処理キット(Beijing OriginPoly Bio-Tec Co., LtD.社、北京大スケール医療機器記録第20200110号))をDNA亜硫酸水素塩変換試薬として使用して、亜硫酸水素塩変換を抽出したDNAに対して行った。DNA中のメチル化されていないシトシン(C)はウラシル(U)へと変換された一方で、メチル化されたシトシン(C)は未変化のままであった。変換されたビス-DNAが得られた。本実施例における亜硫酸水素塩の変換効率は99.8%であり、市場にあるほとんどの亜硫酸水素塩変換キットよりも高い。
【0052】
II.ビス-DNAの蛍光定量PCR増幅I
3.PCR反応溶液並びにプライマー及びプローブの混合溶液の配合
PCR反応溶液(15μL/人)
【表3】

プライマー及びプローブの混合溶液(5μL/人)
【表4】
【0053】
4.試料の添加
5μLの陰性品質コントロール、陽性品質コントロール、及び形質転換させたビス-DNA臨床試料をそれぞれ上述のシステムに加えた。PCR反応を実施し、条件は以下のとおりであった:96℃で5分間の前変性、94℃で15秒間の変性、60℃で35秒間のアニーリング及び伸長、45サイクル、25℃で10分間保持。
【0054】
5.増幅手順は以下のとおりである:
ステップ1:96℃で5分間の前変性、
ステップ2:94℃で15秒間の変性、60℃で35秒間のアニーリング及び伸長、45サイクル、
ステップ3:25℃、10分間、
シグナル収集、FAM、HEX、ROX、Joe、及びCY5シグナルを60℃で収集した。
【0055】
6.結果の解釈
(1)内部標準チャネルはS字形増幅曲線を有しており、Ct値≦32.2は、結果が妥当であることを意味する。
(2)4つの遺伝子のΔCt値は以下のとおりである:
ΔCt(CDO1)=Ct(CDO1)-Ct(GAPDH)、
ΔCt(CELF4)=Ct(CELF4)-Ct(GAPDH)、
ΔCt(HAND2)=Ct(HAND2)-Ct(GAPDH)、
ΔCt(HS3ST2)=Ct(HS3ST2)-Ct(GAPDH)。
(3)標的遺伝子中の複数のメチル化領域の閾値及び性能(特異度、感度、陰性予測値、陽性予測値を含む)を、上記4つの遺伝子のΔCt値を積分することによって決定し、ROC曲線に従って、4個の標的遺伝子の最適にメチル化領域及び解釈方法を決定した。
【0056】
7.検出結果の分析
上記キットの反応システムを使用して、60個の子宮内膜がんの試料及び40個の良性子宮内膜の試料を含む合計100の試料を検出した。
【0057】
100個の頸部剥離細胞の試料における臨床病理学的結果を比較して、
子宮内膜がんにおけるCDO1(Chr5:115816884-115817037)の陽性率は58.3%(35/60)であり、良性試料中における特異度は82.5%(33/40)であり、ROC面積は0.728であり、
子宮内膜がんにおけるCDO1(Chr5:115816018-115816152)の陽性率は50%(30/60)であり、良性試料中における特異度は92.5%(37/40)であり、ROC面積は0.714であり、
子宮内膜がんにおけるCDO1(Chr5:115815760-115815872)の陽性率は68.3%(41/60)であり、良性試料中における特異度は80%(32/40)であり、ROC面積は0.767であり、
子宮内膜がんにおけるCELF4(Chr18:37566573-37566662)の陽性率は61.7%(37/60)であり、良性試料中における特異度は90%(36/40)であり、ROC面積は0.776であり、
子宮内膜がんにおけるCELF4(Chr18:37565524-37565639)の陽性率は73.3%(44/60)であり、良性試料中における特異度は87.5%(35/40)であり、ROC面積は0.847であり、
子宮内膜がんにおけるCELF4(Chr18:37565036-37565173)の陽性率は86.7%(52/60)であり、良性試料中における特異度は62.5%(25/40)であり、ROC面積は0.792であり、
子宮内膜がんにおけるHAND2(Chr4:173530858-173530953)の陽性率は46.7%(28/60)であり、良性試料中における特異度は100%(40/40)であり、ROC面積は0.742であり、
子宮内膜がんにおけるHAND2(Chr4:173530225-173530335)の陽性率は60%(36/60)であり、良性試料中における特異度は95%(38/40)であり、ROC面積は0.811であり、
子宮内膜がんにおけるHAND2(Chr4:173528847-173528958)の陽性率は78.3%(47/60)であり、良性試料中における特異度は90%(36/40)であり、ROC面積は0.882であり、
子宮内膜がんにおけるHS3ST2(Chr16:22813813-22813928)の陽性率は86.7%(52/60)であり、良性試料中における特異度は95%(38/40)であり、ROC面積は0.915であり、
子宮内膜がんにおけるHS3ST2(Chr16:22814029-22814146)の陽性率は66.7%(40/60)であり、良性試料中における特異度は95%(38/40)であり、ROC面積は0.790であり、
子宮内膜がんにおけるHS3ST2(Chr16:22814452-22814557)の陽性率は91.7%(55/60)であり、良性試料中における特異度は65%(26/40)であり、ROC面積は0.797であった。
【0058】
CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2中の複数のメチル化領域の比較分析の後、CDO1遺伝子中の選択されたメチル化領域はChr5:115815760-115815872であり、CELF4遺伝子中の選択されたメチル化領域はChr18:37565524-37565639であり、HAND2遺伝子中の選択されたメチル化領域はChr4:173528847-173528958であり、HS3ST2中の選択されたメチル化領域はChr16:22813813-22813928であった。
【0059】
CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2の最良のメチル化領域のそれぞれに従って、複合的検出を行った。2つの遺伝子が解釈に関与することができる、又は3つ若しくは4つの遺伝子が同時の解釈及び分析に関与することができ、以下の表の結果を得ることができる。
【表5】

【表6】

【表7】
【0060】
上記表から、4つの遺伝子のうちのいずれかの2つが同時に陽性である場合、子宮内膜がんにおける陽性率は98.3%(59/60)であり、良性試料中における特異度は100%(40/40)であり、検出されたROC面積は0.990であることを見ることができる。
【0061】
したがって、実施例1の分析を通じて、CDO1、CELF4、HAND2、及びHS3ST2の複合的検出は、子宮内膜がんについて最も高い検出率を有し、良好な特異度を有すると結論づけることができる。少量の試料の検証を通じて、子宮内膜がんの早期検出のDNAメチル化の予備的応用が確認され、頸部剥離細胞を使用して、高い検出率及び非常に低い偽陽性率を達成することができる。
【実施例2】
【0062】
キット中の他の構成要素は、実施例1のものと同じである。実施例1では、少量の単一センターの試料を試験し、その後、複数のセンターからの約1,000の試料を検出のために収集した。複数のセンターは、北京共和医学院病院(Peking Union Medical College Hospital)、北京大学国際病院(Peking University International Hospital)、中国人民解放軍総合病院(Chinese PLA General Hospital)、内蒙古自治区人民医院(Inner Mongolia People's Hospital)、滄州市中心医院(Hebei Cangzhou Central Hospital)を含む(450件は子宮内膜がん試料であり、650件は良性子宮内膜試料であり、試料は合計1,100であった)。
【0063】
組織病理学的結果と病理学的結果を比較すると、このメチル化検出キットを使用することによって得られた合わせたROC曲線面積は0.98であり、全体的な特異度は98.5%(640/650)であり、子宮内膜がんの検出感度は98.9%(445/450)であった。
【0064】
本発明のキットは、少量の試料を使用した検証から大量の試料を使用した研究まですべて、子宮内膜がんの早期検出のためのDNAメチル化の使用が高い正確性を有することを証明しており、検出は頸部剥離細胞のみを使用することができる。本発明は、本企業が独立して開発した特殊なプライマー及びプローブ設計方法並びに試料前処理キットを使用する。複数の遺伝子を複合的検出に使用し、機能は相補的である。初期子宮内膜がんの検出は顕著に改善される。
【0065】
本明細書中、本発明の概念を詳細に説明するために具体的な例を使用し、上記実施形態の説明は、本発明の核心のアイデアの理解を助けるためにのみ使用する。当業者にとっては、行った任意の明白な改変、等価の置換え、又は他の改善は、本発明の概念から逸脱せずに、本発明の保護的範囲に含まれるべきであることが指摘されるべきである。
図1
図2
【配列表】
2024528737000001.app
【国際調査報告】