(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】リチウム電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20240725BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240725BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240725BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240725BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240725BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240725BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023581034
(86)(22)【出願日】2022-08-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2022072293
(87)【国際公開番号】W WO2023017008
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】102021120615.4
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021120624.3
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021120635.9
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021126477.4
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003563
【氏名又は名称】ノルクシ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライヒマン、ウドー
(72)【発明者】
【氏名】ヌーベール、マルセル
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ - バーダー、アンドレアス
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM01
5H029AM12
5H029AM16
5H029BJ13
5H029CJ15
5H029CJ22
5H029CJ24
5H029CJ28
5H029EJ01
5H029HJ02
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB08
5H050CB11
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA16
5H050GA22
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、キャリア基材にシリコン層構造が適用される、リチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法に関する。特に電池使用中の初期損失を補償するために、アノードとしてのシリコン電極内に追加のリチウムを導入するのに適した、及び工業用途に適した方法を特定するという、本発明が対処する問題は、シリコン電極が、プロセスを通して、リチウムがシリコン層構造内に導入される予備リチウム化に供され、保護層が適用され、導入されたリチウムが、標的を絞ってエネルギーの適用を使用した続く急速アニーリングによって、規制され拡散制御された様式でシリコン層構造との反応に供されて、リチウム・シリサイドが生成される、というかたちで解決される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア基材に層状シリコン構造が適用される、リチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法であって、前記シリコン電極にはプロセスによって前記層状シリコン構造内にリチウムを導入することによる予備リチウム化が施され、保護層が適用され、前記導入されたリチウムが、標的を定めたエネルギーが投入される続く急速アニーリングによって、前記層状シリコン構造との拡散制御された定量的な反応に供されて、リチウム・シリサイドが形成されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記リチウムはドライ・プロセスで前記層状シリコン構造内に導入されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項3】
前記リチウムは制御されたスパッタリングによって前記層状シリコン構造内に導入されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項4】
前記リチウムは制御された熱蒸発によって前記層状シリコン構造内に導入されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項5】
前記リチウムは熱支援圧延によって前記層状シリコン構造内に導入されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項6】
前記リチウムは真空下又は不活性ガス雰囲気下でのリチウム溶融堆積によって層状シリコン・スタック内に導入されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項7】
前記リチウムは個別の層として別々に導入されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項8】
前記リチウムは混合層、より詳細にはリチウムとシリコンの混合層として導入されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項9】
前記保護層はシリコン又は炭素又は銅から堆積されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項10】
前記保護層は、真空プロセス又は不活性ガス・プロセスで堆積される人工的な固体電解質界面相(SEI)の1つ又は複数の層から追加的に形成されることを特徴とする、請求項9に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項11】
前記人工的なSEIはAl
2O
3、TiO
2、SiO
2、及び/又はLiOHから形成されることを特徴とする、請求項10に記載のリチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法。
【請求項12】
請求項1から11までに記載のリチウム電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法の、電池セル内での使用であって、前記リチウムはカソードから離れたところで前記電池セル内に添加される、使用。
【請求項13】
硫黄をカソード材料とするリチウム-硫黄電池を構築するための、請求項1から11までに記載のリチウム電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法の使用。
【請求項14】
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物、NMC、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物、NCA、又はリン酸鉄リチウム、LFP、カソードを有するリチウム・イオン電池を構築するための、請求項1から11までに記載のリチウム電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は電気化学的エネルギー貯蔵器であり、一次電池と二次電池に区別される。リチウム(Li)イオン電池の一般原理と主な特徴は、Verein Deutscher Ingenieure(VDE)の大要にまとめて発表されており、その中から特定の原理を引用した(非特許文献1を参照)。
【0003】
一次電池は、化学エネルギーが電気エネルギーに不可逆的に変換される、電気化学的電源である。したがって一次電池は再充電不可能である。一方、蓄電池とも呼ばれる二次電池は再充電可能な電気化学エネルギー貯蔵器であって、行われる化学反応が可逆的であり、複数回の使用が可能である。充電中、電気エネルギーは化学エネルギーに変換され、放電時には化学エネルギーから電気エネルギーに戻される。
【0004】
それぞれの一貫した完全な充放電手順をサイクルと呼ぶ。電池の寿命はサイクル数と関連している。充電式電池の寿命は、種類、用途、及び取り扱いによって異なる。リチウム・イオン電池は堅牢で、サイクル安定性が高く、エネルギー密度が大きい。
【0005】
「電池(battery)」は、相互接続されたセルの見出しとなる語(headline term)である。セルは、2つの電極、電解質、セパレータ、及びセル・ケーシングから成るガルバニック・ユニットである。
図1は、放電中のリチウム・イオン・セルの例示的な構造及び機能を示す。セルの構成要素を以下に簡単に説明する。
【0006】
各Li-イオン・セルは、2つの異なる電極7、9、すなわち、充電状態で負に帯電する電極9と、充電状態で正に帯電する電極7と、から成る。エネルギーの解放、換言すれば放電は、負に帯電した電極から正に帯電した電極へのイオンの移動を伴うので、正に帯電した電極をカソード7と呼び、負に帯電した電極をアノード9と呼ぶ。電極は、電流コレクタ2、8とその上に適用された活物質とで、各々構成されている。電極の間にはまず、要求される電荷の交換を可能にするイオン伝導性電解質4と、電極の電気的分離を保証するセパレータ5とが存在する。
【0007】
Li-イオン・セルのアノードは、銅箔と炭素層とで構成されている。使用される炭素化合物は通常、天然又は合成グラファイトであるが、その理由は、これが低い電極電位を有し、充放電中に体積膨張をほとんど示さないからである。充電中、リチウム・イオンは還元され、グラファイト層内にインターカレートされる。
【0008】
また、Li電池のアノードにはカーボンではなくシリコンが使用されていることも知られている。シリコンは、理論上最大の蓄電容量が4200mAh/gであることから、リチウム電池のアノード材料としては特に適している。
【0009】
カソードは例えば、アルミニウム・コレクタ上に適用された混合酸化物から成る。コバルト(Co)、マンガン(Mn)、及びニッケル(Ni)の遷移金属酸化物、又は酸化アルミニウム(Al2O3)がこのとき最も一般的な化合物である。適用された金属酸化物層は、セルの放電中のリチウム・イオンのインターカレーションに役立つ。
【0010】
リチウム・イオン電池の構造において、カソードがアノードでの充放電のためのリチウム原子を供給するのが一般的であり、このため電池容量はカソード容量によって制限される。現在使用されている典型的なカソード材料は、例えばLi(Ni,Co,Mn)O2及びLiFePO4である。カソードはリチウム金属酸化物によって構築されているため、容量が上がる可能性はごくわずかである。
【0011】
シリコン・アノードの予備リチウム化(preliminary lithiation)又は予備リチウム化(prelithiation)は、特に初期サイクルにおけるリチウム損失を補償し、運転中のリチウム保持を確保するための1つの好適な可能性を示すことが知られている。リチウム化とは、ホスト材料、例えばシリコン又はグラファイトにおける、リチウム・イオンのインターカレーションを指す。ただし予備リチウム化は複雑なプロセスである。電気化学的予備リチウム化プロセスでは、Li金属電極とアノードは互いから電子的に絶縁され、アノードはリチウム化を行うために低電流又は電気的短絡によって充電される。この手順は、複数の充放電サイクルに対して、決められた持続時間の間、又はアノードが決められた電位に達するまで、繰り返すことができる。しかしながら、電気化学的予備リチウム化プロセスでは、予備リチウム化したアノードをリチウム・イオン電池セルに再び取り付けるステップが必要であり、このため複雑さが増し、この方法の商業利用の可能性が低くなる。
【0012】
予備リチウム化を行うもう1つの可能性は、安定化Li金属粉末を使用することである。しかしながら、リチウムの添加は、設置後にリチウムの残留物が残らないように、正確に計量されねばならない。このことは、層の均質性のわずかなばらつきのため、制御が非常に困難である。もう一つの欠点は反応性の高いLi金属が使用されることであり、このことは、電極製造の全プロセス又はこのプロセスの少なくとも一部を乾燥雰囲気条件下で行わねばならず、そのため、リチウム・イオン電池(LIB:lithium-ion battery)セル製造のコストが更に上昇することを意味する。
【0013】
予備リチウム化の別の可能性は、セル内の電解質に過剰なリチウム塩を添加することである。しかしながら、このことによってセルのパラメータ、特に電解質の導電率が変化する。このことはLIBの動作上望ましくない。
【0014】
図1を参照すると、放電により、リチウム・イオンはアノードから電解質及びセパレータを通ってカソードへと移動し、そこで可逆的にインターカレートされる。アノードで行われ酸化プロセスの結果、電子が放出される。それら電子は負に帯電したアノードから外部電気接続を介して正のカソードへと流れ、そこで相応に還元プロセスが生じ、電子が取り込まれる。外部からの電流の流れにより、電気消費部を動作させることができる。充電時、プロセスは正反対となる。
【0015】
充放電中、電解質は電極での反応の媒介物質として働き、Liイオンの輸送を保証する。その際、高いイオン伝導性を有することと、基準となるLi/Li+に対して0~4.5Vの電圧範囲において、また電池が動作する温度範囲においても、安定であることとが要求される。液体電解質、高分子電解質、固体電解質、及びこれらの混合物(ハイブリッド・セル)が存在する。好適な液体電解質及び重合電解質では、炭素ベースのアノード上だけでなく、シリコン又は他の電極上にも直接、被覆層が形成される:固体電解質界面相(SEI:solid-electrolyte interphase)と呼ばれるものである。これは腐食性電解質溶液からアノードを保護すると同時に、リチウム・イオンを透過させる。この層は、一次電池及び二次電池でリチウム及びリチウム・イオン・インターカレーション化合物を使用するために不可欠である。しかしながら、電池動作の初期サイクルでは、SEI層の蓄積によって遊離リチウム・イオンが失われ、その場合遊離リチウム・イオンをそれ以上動作に利用できなくなる。このことが前述の予備リチウム化を採用する理由であり、その影響が
図2に図示されている。カソードのリチウム貯蔵量は限られている。予備リチウム化によってアノード中に追加のリチウムを導入することで、結果的に、通常であれば避けられない損失を補償することが可能になる。
図2cはカソードの蓄電容量が尽きたことを示しており、これを超えて過剰なリチウムを導入することはできない。
【0016】
セパレータは、直接接触の結果生じる電気的短絡が防止されるように、2つの電極を互いから分離する。使用される材料は例えば、ポリマー膜若しくはセラミック・セパレータ、又は不織布及びガラス繊維セパレータである。
【0017】
エネルギー密度とは、単位体積又は単位質量当たりの、セル又は電池のエネルギー含有量を示す尺度である。このため例えば、エネルギー密度は、所与の質量又は所与の体積のトラクション・バッテリを備えた純電気駆動車の達成可能な航続距離に直接影響を及ぼすものであり、比[Wh/kg]又は体積[Wh/l]エネルギー密度として表される。高いエネルギー密度を有するセルは、高い電荷密度と電位差を持つ2つの電極材料の組合せに依存している。
【0018】
Li-イオン電池は、エネルギー密度が高く電力密度及び平均放電電流が低い、エネルギー最適化電池と、エネルギー密度が比較的低く、電力密度が高く、放電電流が短時間に非常に高くなる、電力最適化電池と、に分けられる。前者は特に電池電気自動車(BEV:battery-electrically operated vehicle)にとって重要であるが、その理由は、自動車の航続距離が容量に依存するからである。ハイブリッド電気自動車(HEV:hybrid-electric vehicle)では逆に、電力密度に、及びしたがって充放電中の高い電流能力にも、厳密な要件が課される。
【0019】
Li-イオン電池の寿命は、要求仕様で通常定義されている特性によって特徴付けられる、引き渡しの瞬間(寿命の始まり、BoL(beginning of life))から、経年劣化によってこれらの特性が事前に定めた値を下回る瞬間(寿命の終わり、EoL(end of life))までの期間として定義される。電気自動車の電池のEoLには通常、蓄電能力が公称容量の80%未満に低下したときに到達する。寿命の測定においては、サイクル寿命又はサイクル安定性と暦上の寿命とが区別される。経年劣化とは、電気化学的特性の劣化(例えば、静電容量の低下、内部抵抗の上昇、等)を指す。これはエネルギーのスループット又はサイクルによって非常に大きく左右される。電池の充放電中の高い電力要求の結果、高レベルの内部発熱が生じる。その結果、使用される電極材料が不可逆的に損傷し、セル又はシステムの経年劣化が直接影響を受け、加速される可能性がある。静電容量は時間とともに低下し、内部抵抗は上昇し、それに応じて電力が減少する。活物質に関する膨張現象などの充電中に電解質中で起こる二次反応、又は例えば活動量が行う機械的な仕事が、同様に経年劣化に影響を与える。
【0020】
現在のリチウム・イオン蓄電池の構造では、リチウム原子はカソードから供給される。それらの原子はリチウム金属酸化物格子の隙間の空間内に可逆的にインターカレートされる(
図1)。例えば、市販のニッケル・マンガン・コバルト(NCM622)カソードは、最大210mAh/gの蓄電密度を有する。高静電容量の電池セルに十分な静電容量を持たせるために、アノードとのバランシングを行うことが可能になるように、カソードの層厚さを適宜厚くする。バランシングとは、カソードとアノードの絶対静電容量の比を指す。典型的な比率は1:1~1:1.3(カソード:アノード)であり、信頼性の高い動作のためには、リチウムめっきを防止するためにアノードをより大きくする。充放電中にカソードからリチウムが限界値を超えて除去されると、金属酸化物格子の格子構造が崩壊し、それ以上リチウムを可逆的に導入することができなくなる。使用されるリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)は、より好ましいものの蓄電密度がより低いが(最大160mAh/g)、比較して著しく堅牢である。したがって通常、既に述べたように、電池容量はカソード容量によって制限される。
【0021】
特にリチウム・イオン電池の初期サイクルにおいて、電解質の分解とそれに伴うSEI(固体電解質界面相)の蓄積によって、損失が生じる。この時点またアノードの最初の充電中のいずれにおいても、不可逆的なリチウム損失が存在するが、これはセル構造において及びバランシングにおいて考慮する必要がある。カソードの限られたリチウム容量を持続的に増加させることはできない(
図2c)。したがって、特に初期損失を補償するためのリチウムの追加導入は、アノードを介してのみ可能である。
【0022】
既存の解決法では、ドライ・プロセスで粉末として又は溶融状態で電池に供給される反応性リチウムを使用することによって、アノードの予備リチウム化が利用される。ドライ・プロセスとは、水を使わないか又は溶剤を使わないプロセスを意味する。更なる可能性は、リチウム箔をリチウム化を意図するアノードと単純に接触させる可能性であり、その場合、リチウムの拡散速度が速いことは、室温領域の温度であっても予備リチウム化が起こることを意味している。
【0023】
技術的に複雑な予備リチウム化プロセスには、Si-Liハーフ・セルの構築と、リチウムを有するSiアノードへの電気化学的充電とが含まれる。もう1つの可能性は、電池の初期損失を補償するために、電解質中に過剰なリチウム塩を使用することである。電池に添加されるリチウムの量は制御が難しく、問題となる。更なる一面はナノ構造の使用であって、これが均一な予備リチウム化を妨げる。また更に、ドライ・プロセスでの遡及的な予備リチウム化は表面的にしか行われず、その結果アノードは一般に非常に反応性が高くなり、純粋なリチウム箔と同程度に取り扱いが難しい。粉末形態での添加は制御が難しく、またセルにはやはり純粋な反応性リチウムが含まれるが、これは非常に反応性が高く、吸湿性があり、非常に早く酸化する。リチウムの高い反応性は一般にSEIの顕著な形成をもたらそし、これにより電池動作中に高いセル抵抗が生じる。また更に、高性能電池に典型的に見られるような高いシート電流は、デンドライト、すなわち樹状又はブッシュ状の結晶構造の形成につながり、これがセパレータに穴を開け、短絡につながる。
【0024】
電気化学的予備リチウム化については、ロール・ツー・ロール設備の設計コンセプトがあるが-
図3を参照、この設計コンセプトは非常に複雑である。
【0025】
図3aは、c-SiO
x電極9の予備リチウム化のプロセスを概略的に示す。c-SiO
x電極9と1片のリチウム金属箔10との間では、電解質4及びセパレータ5の存在下で電気的短絡が生じ、この結果、2つの電極間の電位差によって、自発的な予備リチウム化が開始される(
図3a)。予備リチウム化の速度は、取り付けられた抵抗13によって制御することができる。予備リチウム化の終点は、予備リチウム化の間中モニタされるセル電圧14によって決定される。
図3bは、ロール・ツー・ロールのコーティング工程における予備リチウム化プロセスを示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】https://www.dke.de/resource/blob/933404/dd44d15918ce4d4aefc363a4ef1490e1/kompendium-li-io-batterien-2021-de-data.pdf - 2022-01-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
したがって、本発明の目的は、特に初期損失を補償するために、シリコン電極内に追加のリチウムを導入するのに適しており、また工業用途に適しているが、先行技術の欠点が見られない方法を、特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この目的は独立請求項1に記載の方法によって達成される。リチウム・イオン電池のアノードとしてのシリコン電極を製造するための本発明の方法では、層状シリコン構造がキャリア基材に適用され、本発明は、シリコン電極に、プロセスによって層状シリコン構造内にリチウムを導入することによる予備リチウム化が施されることを実現する。層状シリコン構造は、基材にシリコン、及び任意選択で他の機能層を繰り返し適用することを特徴とする(多層又は多重スタック)。保護層を適用し、導入されたリチウムを、標的を定めたエネルギーが投入される続く急速アニーリングによって、層状シリコン構造との拡散制御された定量的な(metered)反応に供して、リチウム・シリサイドを形成する。
【0029】
急速アニーリングとは特に、フラッシュ・ランプ・アニーリング及び/又はレーザ・アニーリングを指す。フラッシュ・ランプ・アニーリングは、0.3~20msの範囲内のパルス持続時間又はアニーリング時間で、0.3~100J/cm2の範囲内のパルス・エネルギーで、行われる。レーザ・アニーリングの場合、0.01~100msのアニーリング時間が局所加熱部位の走査速度によって設定されて、0.1~100J/cm2のエネルギー密度が生じる。急速アニーリングで達成される加熱勾配は、この方法に必要な10^4-10^7K/sの範囲内にある。この目的のためのフラッシュ・ランプ・アニーリングでは、可視波長域内のスペクトルを使用するが、一方でレーザ・アニーリングでは、赤外(IR:infrared)から紫外(UV:ultraviolet)までのスペクトルの範囲内の離散波長を使用する。
【0030】
本発明の方法により、大きなコスト及び複雑さを伴うことなく、定められた量のリチウムをシリコン電極に組み込むことが可能になる。その結果、電池開始動作中の初期損失を標的を絞った方法で補償することができ、リチウム・イオン電池のカソードとアノードのより容易なバランシングが可能になる。
【0031】
利点は、シリコン又は炭素などの、保護層として機能する更なる被覆層が自動的に堆積され、その結果、アノードの簡単な更なる処理が支援されることである。
【0032】
本発明の方法では、続く急速アニーリングにより、リチウム層の安定化が可能になる。標的を定めたエネルギーを投入することで、シリコン中のリチウムの望ましい分布が可能になり、また可能であれば、拡散を制御しながらリチウム・シリサイドを形成する反応も可能になる。換言すれば、飽和が起きるとリチウム・シリサイドを形成する反応は終了する。
【0033】
有利なエネルギー投入が達成されるのは、フラッシュ・ランプ・アニーリングが、0.3~20msの範囲内のパルス持続時間、0.3~100J/cm2の範囲内のパルス・エネルギー、及び4℃~200℃の予熱又は冷却で行われたときである。
【0034】
使用される急速アニーリングがレーザ・アニーリングである場合、シリコンの拡散及び金属との反応は、レーザ・アニーリングにおける、局所加熱部位の走査速度の設定による0.01~100msの範囲内のアニーリング時間と、0.1~100J/cm2の範囲内のエネルギー密度と、更に4℃~200℃の範囲内の予熱又は冷却と、によって制御される。
【0035】
本発明の方法の一実施例では、リチウムはドライ・プロセスで層状シリコン構造内に導入される。このことは、この独自の層状シリコン構造の場合にのみ可能となる。層状シリコン構造の特別な特徴は、シリコン層の領域及び金属基材の領域内に多相が存在することであり、この多相は、シリコン層中のシリコンのアモルファス・シリコン及び/又は結晶性シリコンと、金属基材の結晶性金属と、シリサイドと、から成る。多相Si層はリチオ化による体積変化に対応するための自由空間を有し、したがって全体的な材料集合体の安定化をもたらす。この場合のリチウムは、ドライ・プロセスによって、例えばカソード・スパッタリングによって、中間層として任意の所望の量で組み込むことができ、このリチウムにはその後、保護層を設けることができる。
【0036】
したがって本発明の方法の更なる実施例では、リチウムは制御されたスパッタリングによって層状シリコン構造内に導入される。スパッタリングは、シリコン電極内に導入されるリチウムの量の精確な制御を可能にする、制御可能な方法である。この場合のリチウムは、固体の形態で標的の形態をとる。
【0037】
本発明の方法の別の更なる実施例では、リチウムは制御された熱蒸発によって層状シリコン構造内に導入される。熱蒸発は、シリコン電極内に導入されるリチウムの量の精確な制御を可能にする、制御可能な方法である。この場合のリチウムは、最初は固体の形態であり、液化され、その後蒸発する。
【0038】
本発明の方法の別の実施例では、リチウムは熱支援圧延によって層状シリコン構造内に導入される。熱支援圧延は、シリコン電極内にリチウムを導入する方法としては精度に劣るものの、実施は非常に容易である。この場合のリチウムは固体の形態である。
【0039】
本発明の方法の一実施例では、リチウムは、真空下又は不活性ガス雰囲気下でのリチウム溶融堆積によって、層状シリコン構造内に導入される。真空下又は不活性ガス雰囲気下でのリチウム溶融堆積は、シリコン電極内にリチウムを導入する方法としてはやはり精度に劣るが、実施は同じく容易である。この場合のリチウムは、液体の形態で開始材料の形態をとる。リチウム溶融堆積の特別な特徴は、この堆積プロセスを、リチウムが層状シリコン構造内に中間層として導入される平面ロール・ツー・ロール・プロセスに統合するのが容易なことである。例えば、液体リチウムに対する濡れ性を高めるためのシリコン層の適用によってなど、銅層を、すなわち電流コレクタを予備的に機能化することは、容易に可能である。
【0040】
本発明の方法の別の実施例では、リチウムは、個別の層として別々に導入されるか、又は、混合層、より詳細にはリチウムとシリコンの混合層として導入される。
【0041】
本発明の方法の一実施例では、保護層はシリコン又は炭素又は銅から堆積される。保護層は、真空又は不活性ガス・プロセス、例えばALD(atomic layer deposition:原子層堆積)プロセスで堆積される、人工的な固体電解質界面相(SEI)の1つ又は複数の層から追加的に形成され得る。人工的なSEIがAl2O3、TiO2、SiO2、及び/又はLiOHから形成されると有利であるが、その理由は、これらが更なる酸化を防止し、それにもかかわらず電池動作中にLi+イオンに対して十分な透過性を有するからである。
【0042】
本発明の方法は、電池セル内のアノードとしてシリコン電極を製造するのに有利に使用され、その場合、リチウムはカソードから離れたところで電池セルへと添加される。カソードから離れたところでリチウムを導入することは、電池セルへのリチウムの添加にカソードを介さないことを意味する。これは革新的なタイプの電池の場合であり、実例としては第3世代リチウム硫黄(Li-S)電池のセルタイプがある。「第3世代」という呼称はLiイオン電池(第2世代)と区別して用いられるが、その理由は、カソードとアノードとの間の輸送がLi+イオンを介してではなく代わりにLi2Sの化合物を介して行われるからである。アノードとしてのシリコン電極内へのリチウムの標的を絞った導入、すなわち予備リチウム化により、これまでは箔形態の非常に反応性の高いリチウムのみが可能と思われた新しい革新的なセル設計コンセプトが可能になる。
【0043】
本発明の方法は、リチウム-硫黄(Li-S)電池にも同じく有利に使用することができる。特に、硫黄をカソード材料とする省資源のLi-S電池構造にはしたがって、本発明で製造されたSiアノードが理想的であると考えられる。カソード材料としての硫黄は、最大1600mAh/gという既知の最高のリチウム蓄電密度を有する。したがってこれにより、体積エネルギー密度及び重量エネルギー密度の極めて高い電池が可能になる。硫黄とシリコンはいずれも豊富な資源であり、リチウムの定量的な導入とも相まって、この設計コンセプトは、再利用可能なリチウム電池の最も省資源的な展開となっている。
【0044】
本発明の方法は、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物(NMC:nickel manganese cobalt oxide)、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物(NCA:nickel cobalt aluminum oxide)、又はリン酸鉄リチウム(LFP:lithium iron phosphate)カソードを有するリチウム・イオン電池の構築にも、同じく有利に使用することができる。
【0045】
本発明について、例示的な実施例を参照して以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】放電中のリチウム・イオン・セルの例示的な構造及び機能を示す図である。
【
図2】リチウム・イオン電池の初期充電サイクルにおけるリチウムの利用可能性に対する、予備リチウム化の影響を示す図である。
【
図3】a)予備リチウム化、及び更にロール・ツー・ロール製造工程での使用を表す図である。
【
図4】リチウム・イオン電池のアノードとしてシリコン電極を製造するための本発明の方法を概略的に表す図である。
【
図5】本発明の方法を実施するための設備を概略的に表す図である。
【
図6】本発明の方法で製造したSiアノードをLi-S電池に使用した様子を示す図である。
【
図7】本発明の方法により製造された、それぞれ100nmの銅及び100nmのリチウムで中断された、3μmのシリコンの活性層のSEM-SE顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図4は本発明の方法ステップをフロー図で示す。同時に電流コレクタとしても機能する基材を、プラズマ雰囲気中の真空条件下で前洗浄にかける。この後で、層状シリコンの構築、及びスパッタリングによる予備リチウム化を行う。ここでは、Si/Li層が順次適用され、フラッシュ・ランプ・アニーリングによって層が安定化される。フラッシュ・ランプ・アニーリングは、リチウム・シリサイドを形成するように層状シリコン構造を拡散制御された定量的な方法で制御するために使用可能な、標的を定めたエネルギーの投入を可能にする、換言すれば、飽和に達するとリチウム・シリサイドを形成する反応は終了する。フラッシュ・ランプ・アニーリングにおける好ましいプロセス・パラメータは、パルス持続時間が0.3~20msの範囲内、パルス・エネルギーが0.3~100J/cm
2の範囲であり、予熱又は冷却は4℃~200℃の範囲内が有利である。層はスパッタリングによって様々な階層に適用され、フラッシュ・ランプ・アニーリングによって安定化されて、所望の標的厚さを得るに至る。この方法は実施が非常に容易である。
【0048】
図5は、本発明の方法を実施するためのロール・ツー・ロール・コーティング工程の例示的な設備を概略的に示す。アノード9としてのSi電極を製造するために、金属基材2にシリコン層又は層状Si構造を適用する。ベルト開始部15にある最初のロールから、例えば、銅箔が設備に通される。この箔上には機能層、次にシリコンの層16及びリチウムの層17が、交互にスパッタリングされ、これらにフラッシュ・ランプによる急速アニーリング18が施される。所望の層構造を適用するために、ベルトはいつでも設備内を前進・後退させることができる。チャンバ16、17、21内には最大3つのソースを設置することができ、1つのチャンバにつき最大3つの異なる材料の堆積が可能である。したがって、全てのチャンバにリチウムを導入してもよい。ただし重要なことは、リチウムが表面に出ないように、層スタック内に埋め込むことである。その後、熱蒸発19によってシリコンが適用され、急速アニーリング、より特定的にはフラッシュ・ランプ・アニーリング、20によって、リチウム・シリサイドへの制御された変換がもたらされる。スパッタリング21によって更なる層を適用してもよい。(反応性)プラズマ22での最終処理が可能であり、また、最終的な急速アニーリング、より特定的にはフラッシュ・ランプ・アニーリング23で、スタックを完成させることも可能である。コーティングされた基材は再びロール24に巻き取られる。層状シリコン構造の適用後、急速アニーリング、より特定的にはフラッシュ・ランプ・アニーリングによってもたらされる可能性には、アモルファス・シリコン又はナノ結晶シリコンが空洞又は細孔を伴って生じる、多孔質シリサイド・マトリックスの形成が含まれる。ただしシリサイド・マトリックスは絶対に必要というわけではない。
【0049】
図6は、本発明の方法で製造したSi電極を、Li-S電池でアノード9として使用した様子を示す。シリコン・アノード9内へのリチウムの標的を絞った導入、すなわち予備リチウム化により、これまでは箔形態の非常に反応性の高いリチウムのみが可能と思われた新しい革新的なセル設計コンセプトが可能になる。特に、硫黄をカソード材料とする省資源のLi-S電池構造には、本発明の方法で製造されたSiアノードが理想的であると考えられる。カソード材料としての硫黄は、最大1600mAh/gという既知の最高のリチウム蓄電密度を有する。硫黄とシリコンはいずれも豊富な資源であり、リチウムの定量的な導入とも相まって、この設計コンセプトは、再利用可能なリチウム電池の最も省資源的な展開となっている。
【0050】
図7のSEM-SE画像は、それぞれ100nmの銅28と100nmのリチウム27とで中断された、3μmのシリコン26の層配列25を有する活性層を示す。材料は
図5に表した設備においてスパッタリングで堆積させた。
【符号の説明】
【0051】
1 リチウム・イオン電池
2 アノード側コレクタ
3 SEI-固体電解質界面相
4 電解質
5 セパレータ
6 導電性界面相
7 カソード、正電極
8 カソード側コレクタ
9 アノード、負電極
10 リチウム箔
11 リチウム・イオン
12 ロール
13 抵抗
14 セル電圧
15 ベルト開始部
16 第1のスパッタリング、スパッタ・モジュール
17 第2のスパッタリング、スパッタ・モジュール
18 第1のフラッシュ・ランプ・アニーリング、急速アニーリング
19 熱蒸発
20 第2のフラッシュ・ランプ・アニーリング、急速アニーリング
21 第3のスパッタリング、スパッタ・モジュール
22 プラズマ洗浄
23 第3のフラッシュ・ランプ・アニーリング、急速アニーリング
24 ベルト端
25 層状シリコン構造
26 シリコン
27 リチウム
28 銅
【国際調査報告】