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特表2024-528843フルオロポリマーを含む強化された成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】フルオロポリマーを含む強化された成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240725BHJP
   C08F 14/22 20060101ALI20240725BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20240725BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20240725BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20240725BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240725BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20240725BHJP
   B01D 71/80 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
C08F14/22
C08L27/16
C08J9/28 101
C09D127/16
C09D7/20
B01D71/32
B01D71/80
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503381
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2022070185
(87)【国際公開番号】W WO2023001815
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】21187478.9
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マッツォラ, ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ニコロ, エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ブリナーティ, ジュリオ
(72)【発明者】
【氏名】ペーニャ カブレラ, ロシータ リセッテ
(72)【発明者】
【氏名】オリアーニ, アンドレーア ヴィットーリオ
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
4F074
4J002
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA21
4D006MA25
4D006MC04
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC28
4D006MC29X
4D006MC36X
4D006MC48
4D006MC71
4D006MC81
4D006MC88
4D006NA05
4D006NA13
4D006NA40
4D006NA62
4F071AA26X
4F071AA32X
4F071AA81
4F071AA84
4F071AB03
4F071AB17
4F071AF09
4F071AF15
4F071AF19
4F071AF20
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH15
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F074AA38
4F074AA47
4F074AB01
4F074CB43
4F074CC04Z
4F074DA04
4F074DA08
4F074DA23
4J002BD141
4J002BD181
4J002DA030
4J002DE050
4J002DE090
4J002GD05
4J002GQ00
4J038CD111
4J038GA03
4J038GA06
4J038GA07
4J038GA12
4J038JA25
4J038JA27
4J038JB14
4J038JB27
4J038JC16
4J038KA06
4J038MA09
4J038MA14
4J038NA12
4J038PA19
4J038PB09
4J038PC02
4J100AC24P
4J100AJ02Q
4J100FA04
4J100GC29
4J100HA21
4J100HA35
4J100HB29
4J100JA43
(57)【要約】
本発明は、強化された成形品を作製する方法であって、a)融点Tmを有する1種以上のフルオロポリマーを提供する工程であって、前記1種以上のフルオロポリマーは、(i)ポリマーの繰り返し単位の総数に対して30モル%超の、VDFに由来する繰り返し単位を含み、(ii)1つの鎖あたり0.1~0.9の量のヨウ素含有鎖末端-CHIを有することを特徴とする、工程、b)前記フルオロポリマーを適切な溶媒に溶解させ、且つ前駆体溶液を形成する工程、c)前記前駆体溶液から前記フルオロポリマーを固体形態として析出させ、それにより前記フルオロポリマーを含む成形品を得る工程、e)前記成形品を、100℃~前記1種以上のフルオロポリマーの最低融点Tmに含まれる温度で少なくとも15分間にわたって熱処理し、それにより前記強化された成形品を得る工程を含む方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化された成形品を作製する方法であって、
a)融点Tmを有する1種以上のフルオロポリマーを提供する工程であって、前記1種以上のフルオロポリマーは、
(i)前記ポリマーの繰り返し単位の総数に対して30モル%超の、VDFに由来する繰り返し単位を含み、
(ii)1つの鎖あたり0.1~0.9の量のヨウ素含有鎖末端-CHIを有することを特徴とする、工程、
b)前記フルオロポリマーを適切な溶媒に溶解させ、且つ前駆体溶液を形成する工程、
c)前記前駆体溶液から前記1種以上のフルオロポリマーを固体形態として析出させ、それにより前記1種以上のフルオロポリマーを含む成形品を得る工程、
e)前記成形品を、100℃~前記1種以上のフルオロポリマーの最低融点Tmに含まれる温度で少なくとも15分間にわたって熱処理し、それにより前記強化された成形品を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
前記1種以上のフルオロポリマーは、前記ポリマーの繰り返し単位の総数に対して50モル%超、より好ましくは70モル%超、更により好ましくは85モル%超の、VDFに由来する繰り返し単位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上のフルオロポリマーは、1つの鎖あたり0.3~0.7の量のヨウ素含有鎖末端-CHIを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上のフルオロポリマーは、単分散ポリスチレン標準に対して、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を使用してGPCによって測定される場合、少なくとも200キロダルトン、好ましくは少なくとも300キロダルトン、より好ましくは少なくとも400キロダルトン、更により好ましくは少なくとも500キロダルトン、最も好ましくは少なくとも600キロダルトン及び最大で1400キロダルトン、好ましくは最大で1300キロダルトン、より好ましくは最大で1200キロダルトン、更により好ましくは最大で1100キロダルトン、最も好ましくは最大で1000キロダルトンの重量平均分子量(M)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上のフルオロポリマーは、ヒドロキシル基、カルボン酸基、エポキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基を含むモノマー、好ましくは(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上のフルオロポリマーは、前記ポリマーの繰り返し単位の総数に対して少なくとも0.1モル%、好ましくは少なくとも0.2モル%及び/又は最大で10モル%、より好ましくは最大で7.5モル%、更により好ましくは最大で5モル%、最も好ましくは最大で3モル%の量において、(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上のフルオロポリマーは、本明細書に記載の不溶性ゲル含有量試験で測定されて、前記1種以上のフルオロポリマーの総重量を基準として20重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、更により好ましくは3重量%未満の割合の不溶性ゲルを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1種以上のフルオロポリマーは、1種以上のラジカル開始剤及び1種以上のヨウ素含有連鎖移動剤の存在下において水性環境での乳化重合反応を含む重合方法で製造されたものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記乳化重合反応は、最大で0.12、好ましくは最大で0.10、より好ましくは最大で0.09及び少なくとも0.015、好ましくは少なくとも0.03、より好ましくは少なくとも0.06の、前記ラジカル開始剤と前記ヨウ素含有連鎖移動剤との間のモル比で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記乳化重合反応は、フッ素化界面活性剤を添加せずに行われる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記適切な溶媒は、
N-メチル-2-ピロリドン、N-ブチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド、ジヒドロレボグルコセノン(Cyrene(登録商標))、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、並びに/又は
式(I-de)のジエステル、式(I-ea)のエステルアミド及び式(I-da)のジアミド:
(O=)CO-Ade-OC(=O)R (I-de
O(O=)C-Aea-C(=O)NR (I-ea
N(O=)C-Ada-C(=O)NR (I-da
(式中、
- 互いに等しいか又は異なるR及びRは、独立して、C~C20炭化水素基からなる群から選択され、
- 互いに等しいか又は異なるR、R、R及びRは、独立して、水素、場合により置換されているC~C36炭化水素基からなる群から選択され、R、R、R及びRは、それらが結合されている窒素原子を含む環状部分であって、場合により置換されており、且つ/又は1つ若しくは2つ以上の追加のヘテロ原子を場合により含む環状部分の一部であり得ることが理解され、
- Adeは、1つ以上のエーテル酸素原子を含むC~C10二価アルキレン基であり、
- 互いに等しいか又は異なるAea及びAdaは、独立して、1つ以上のエーテル酸素原子及び/又は1つ以上の官能側基を任意選択的に含むC~C10二価アルキレン基である)
或いはこれらの混合物
から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱処理は、100~150℃、好ましくは110~140℃の温度において、1~16時間、好ましくは1~12時間、より好ましくは2~8時間、更により好ましくは3~6時間の時間にわたって行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記1種以上のフルオロポリマーは、前記成形品中に含まれる場合、前記熱処理工程前に、本明細書に記載の不溶性ゲル含有量試験で測定されて、前記1種以上のフルオロポリマーの総重量を基準として20重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、更により好ましくは3重量%未満の割合の不溶性ゲルと、好ましくは、単分散ポリスチレン標準に対して、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を使用してGPCによって測定される場合、少なくとも200キロダルトン、好ましくは少なくとも300キロダルトン、より好ましくは少なくとも400キロダルトン、更により好ましくは少なくとも500キロダルトン、最も好ましくは少なくとも600キロダルトン及び最大で1400キロダルトン、好ましくは最大で1300キロダルトン、より好ましくは最大で1200キロダルトン、更により好ましくは最大で1100キロダルトン、最も好ましくは最大で1000キロダルトンの分子量Mwとを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法で得ることができる強化された成形品であって、電極コーティングである、強化された成形品。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法で得ることができる強化された成形品であって、濾過膜である、強化された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年7月23日に出願された欧州特許出願公開第21187478.9号に対する優先権を主張する。この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、選択されたフッ化ビニリデン(VDF)に基づくフルオロポリマーを含む成形品を作製する方法であって、物品は、形成された後、制御された条件での熱処理によって強化される、方法に関する。選択されたフルオロポリマーを含む成形品は、最初に溶媒処理技術を使用して形成され得、且つその後、単純な熱処理で強化され得る。熱処理後に得られる物品は、向上した機械的特性及び場合により基材への接着力の改善などの他の有利な特性も有する点で強化されている。本発明の方法は、例えば、電極などの電気化学セルの構成要素の製造において又は膜、特に多孔質膜の製造のために適用され得る。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマー、特にVDFに基づくフルオロポリマーを含む成形品を製造するとき、多くの場合、優れた機械的特性を実現することが望ましい。他方で、成形品の製造を容易にするために、溶融処理技術又は溶媒処理技術のいずれかを使用して、取り扱い易いVDFに基づくフルオロポリマーを選択することが典型的には望ましい。溶融処理を行い易くするために、フルオロポリマーが熱可塑性であり、且つ比較的低い融点及び比較的低い溶融粘度を有することが典型的には望ましく、その結果、比較的低い温度及び圧力で成形及び/又は押出を行うことができ、滑らかな表面仕上げを有する欠陥のない成形品が得られる。同様に、例えばフィルム、膜又は電極コーティングを含むコーティングを作製するために使用される例えば溶媒キャスト技術など、ポリマーを適切な溶媒で溶液に溶解した後、その溶液からその最終形態で析出させる溶媒処理技術が使用される場合、ポリマーが従来の溶媒に溶解し易いことが望ましい。
【0004】
材料の処理を容易にするこれらの望ましい特性は、一般に、最終製品において優れた機械的特性を得ることと相反する。すなわち、所定の分類のポリマーでは、一般に、融点が低く、溶融物の粘度が低く、フルオロポリマーの溶解度が高いほど、得られる製品の機械的特性が低くなる。
【0005】
この問題を解決するために、当技術分野では、処理が容易なポリマーを使用して成形品を形成する試みが行われてきたが、これらのポリマーには、組成物中に架橋剤又はラジカル開始剤を添加することによって後に架橋することができる選択された末端が導入される。
【0006】
この方法は、効果的であり、多くの状況で工業的に使用されているが、多くの用途に適していない、出発ポリマーと大きく異なる特性を有する高度に架橋した材料を典型的には生成するため、全ての状況に適用できるわけではない。完全に架橋したポリマーは、一般に、熱可塑性でなくなるため、リサイクル又は再利用をより難しくすることにもなる。
【発明の概要】
【0007】
そのため、処理が容易であり、且つこれらの欠点を有しないポリマーから作製された物品を強化する方法が必要とされている。
【0008】
一態様では、本発明は、強化された成形品を作製する方法に関し、前記方法は、
a)融点Tmを有する1種以上のフルオロポリマーを提供する工程であって、前記1種以上のフルオロポリマーは、
(i)ポリマーの繰り返し単位の総数に対して30モル%超の、VDFに由来する繰り返し単位を含み、
(ii)1つの鎖あたり0.1~0.9の量のヨウ素含有鎖末端-CHIを有することを特徴とする、工程、
b)前記フルオロポリマーを適切な溶媒に溶解させ、且つ前駆体溶液を形成する工程、
c)前記前駆体溶液から前記フルオロポリマーを固体形態として析出させ、それにより前記フルオロポリマーを含む成形品を得る工程、
e)前記成形品を、100℃~前記1種以上のフルオロポリマーの最低融点Tmに含まれる温度で少なくとも15分間にわたって熱処理し、それにより前記強化された成形品を得る工程
を含む。
【0009】
別の態様では、本発明は、本発明の方法で得ることができる電極コーティング及び濾過膜に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、選択されたフルオロポリマーを含む強化された成形品を作製する方法に関する。
【0011】
「成形品」という用語は、形状を有する固体物品として広い意味を有することが意図されなければならない。これは、中空形状を含む三次元形状を有する物品及びフィルムなどの本質的に平面である物品も含む。繊維及び中空繊維も「成形品」の例であるとみなされる。コーティングは、本発明に関連して「成形品」ともみなされるが、コーティングの基材は、「成形品」の一部とはみなされない。
【0012】
本発明によれば、そのような成形品は、最初に形成される。すなわち、選択されたフルオロポリマーを含む組成物から、規定された形状を有する固体物品が得られ、その後、後続の工程で、前記成形品は、以下で詳細に説明するような熱処理を受けることによって強化され、その結果強化された成形品が得られる。熱処理は、ポリマーの融点より低い温度(又はポリマーブレンドが使用される場合には最も低い融点のポリマーの融点よりも低い温度)で行われるため、成形品は溶融しない。場合により、溶融しなくても、成形品は、熱処理の結果としてその形状が部分的に変化する(例えば収縮する)ことがあるため、本発明の「強化された成形品」の形状は、最初に形成されたとき、すなわち熱処理前の「成形品」の形状と異なることがある。例として、ある寸法を有する長方形のフィルムは、熱処理の結果として、1つ以上の寸法方向に沿って収縮することがある。
【0013】
上述したように、本発明の強化された成形品は、1種以上の選択されたフルオロポリマーを含む組成物から製造される。そのような1種以上の選択されたフルオロポリマーは、以下の特徴を有する:
(i)ポリマーの繰り返し単位の総数に対して30モル%超、好ましくは50モル%超、より好ましくは70モル%超、更により好ましくは85モル%超の、VDFに由来する繰り返し単位を含み、
(ii)1つの鎖あたり0.1~0.9、好ましくは0.3~0.7の量のヨウ素含有鎖末端-CHIを有し、
(iii)好ましくは、単分散ポリスチレン標準に対して、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を使用してGPCによって測定される場合、少なくとも200キロダルトン、好ましくは少なくとも300キロダルトン、より好ましくは少なくとも400キロダルトン、更により好ましくは少なくとも500キロダルトン、最も好ましくは少なくとも600キロダルトンの重量平均分子量(M)を有する。
【0014】
本発明の選択されたフルオロポリマーは、VDFと異なる少なくとも1種の他のコモノマーに由来する繰り返し単位を更に含み得る。そのようなコモノマーは、水素化コモノマー又はフッ素化コモノマーのいずれかであることが可能である。「水素化コモノマー」という用語は、本明細書中では、フッ素原子を含まないエチレン性不飽和コモノマーを意味することが意図されている。適切な水素化コモノマーの非限定的な例としては、特に、エチレン、プロピレン、ビニルモノマー、例えば酢酸ビニル及びスチレンモノマー、例えばスチレン及びp-メチルスチレンが挙げられる。
【0015】
水素化コモノマーは、ヒドロキシル基、カルボン酸基、エポキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基を含むモノマーであり得る。
【0016】
特定の好ましい実施形態によれば、水素化モノマーは、以下の式の親水性(メタ)アクリルモノマーから選択することができる:
【化1】
(式中、互いに等しいか又は異なるR、R、Rのそれぞれは、独立して、水素原子又はC~C炭化水素基であり、ROHは、ヒドロキシル基又は少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部位である)。
【0017】
より好ましくは、Rは、水素であり、更により好ましくは、R、R、Rのそれぞれは、水素である。
【0018】
親水性(メタ)アクリルモノマーの非限定的な例は、とりわけ、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0019】
親水性(メタ)アクリルモノマーは、より好ましくは、以下の中から選択される:
- 下式のヒドロキシエチルアクリレート(HEA):
【化2】
- 下式のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)
【化3】
- 下式のアクリル酸(AA):
【化4】
- 及びこれらの混合物。
【0020】
より好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマーは、AA及び/又はHEAであり、更により好ましくはAAである。
【0021】
本発明のフルオロポリマー中の親水性(メタ)アクリルモノマーの量の決定は、任意の適切な方法によって行うことができる。特に、例えばアクリル酸含有量の決定によく適している酸-塩基滴定法、側鎖に脂肪族水素を含む(メタ)アクリルモノマー(例えばHPA、HEA)の定量に適したNMR法、フルオロポリマーの製造中の供給された(メタ)アクリルモノマーの合計と未反応の残留(メタ)アクリルモノマーとに基づく重量バランスを挙げることができる。
【0022】
本発明の選択されたフルオロポリマーの1種以上が、親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含む場合、それらの量は、好ましくは、少なくとも0.1モル%、より好ましくは少なくとも0.2モル%及び/又は最大で10モル%、より好ましくは最大で7.5モル%、更により好ましくは最大で5モル%、最も好ましくは最大で3モル%である。
【0023】
用語「フッ素化コモノマー」とは、少なくとも1つのフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを意味することを本明細書では意図する。好適なフッ素化コモノマーの非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロイソブチレンなどのC~Cフルオロ及び/又はペルフルオロオレフィン、
(b)C~C水素化モノフルオロオレフィン、例えばフッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレン、
(c)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン、
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロ-、及び/又はブロモ-、及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン、
(e)式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えば-CF、-C、-Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル、
(f)式CF=CFOX(式中、Xは、1つ以上のエーテル基を有するC~C12オキシアルキル基又はC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル、
(g)式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えば-CF、-C、-C又は1つ以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキル基、例えば-C-O-CFである)のフルオロアルキル-メトキシ-ビニルエーテル、
(h)式:
【化5】
(式中、互いに等しいか又は異なるRf3、Rf4、Rf5及びRf6のそれぞれは、独立して、フッ素原子、任意選択的に1つ以上の酸素原子を含むC~Cフルオロ-又はパー(ハロ)フルオロアルキル基、例えば-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFである)
のフルオロジオキソール。
【0024】
最も好ましいフッ素化コモノマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)及びフッ化ビニルであり、これらの中でHFPが最も好ましい。
【0025】
少なくとも1種のコモノマー(好ましくはHFP)が存在する場合、ポリマーは、典型的には、フルオロポリマーの繰り返し単位の総モル数に対して0.05モル%~14.5モル%、好ましくは1.0モル%~13.0モル%の前記コモノマーに由来する繰り返し単位を含む。
【0026】
上述したように、本発明の選択されたフルオロポリマー中のVDFに由来する繰り返し単位の含有量は、30%超、好ましくは50%超、より好ましくは70%超、更により好ましくは85%超である。本発明の方法は、広範囲の材料に適用することができるが、特定の用途のために、VDFに由来する繰り返し単位の量がより多いフルオロポリマーが好ましい。いくつかの実施形態では、フルオロポリマー内のフッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位の量は、耐薬品性、耐候性及び耐熱性などのフッ化ビニリデン樹脂の優れた特性を損なうことがないように、少なくとも85モル%、好ましくは少なくとも86モル%、より好ましくは少なくとも87モル%である。例えば、そのようなフルオロポリマーが85モル%未満の量のVDF単位を含むいくつかの場合、それらは、例えば、二次電池の電解質液相で使用される溶媒などの特定の溶媒に溶解することがある。
【0027】
特定の実施形態によれば、本発明のフルオロポリマーは、VDFに由来する繰り返し単位と上で定義した親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位とから本質的になる。
【0028】
別の実施形態によれば、本発明のフルオロポリマーは、VDFと、HFPと、任意選択的な上で定義された親水性(メタ)アクリルモノマーとに由来する繰り返し単位から本質的になる。
【0029】
「本質的になる」という表現は、本発明のフルオロポリマーの繰り返し単位に関連して使用される場合、フルオロポリマーの有利な特徴に実質的に影響を及ぼすことなく、列挙された繰り返し単位に加えて、欠陥、末端鎖及び不純物が本発明のフルオロポリマー中に存在し得ることを意味するものとして理解される。
【0030】
通常、本発明の選択されたフルオロポリマーは、その物理化学的特性に影響を与えることも損なうこともない、欠陥、末端基などの他の部位を更に含み得る。
【0031】
本発明のフルオロポリマーは、好ましくは、単分散ポリスチレン標準に対して、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を使用してGPCによって測定される場合、少なくとも200キロダルトン、好ましくは少なくとも300キロダルトン、より好ましくは少なくとも400キロダルトン、更により好ましくは少なくとも500キロダルトン、最も好ましくは少なくとも600キロダルトンの重量平均分子量(M)を有する。Mの上限は、特に重要ではないが、本発明の選択されたフルオロポリマーは、好ましくは、同じ方法でGPCによって測定される場合、最大で1400キロダルトン、好ましくは最大で1300キロダルトン、より好ましくは最大で1200キロダルトン、更により好ましくは最大で1100キロダルトン、最も好ましくは最大で1000キロダルトンのMを有することが好ましい。
【0032】
上述したように、本発明のフルオロポリマーは、制御された量のヨウ素含有鎖末端-CHIを含むことを特徴とする。具体的には、本発明のフルオロポリマーは、1つのポリマー鎖あたり0.1~0.9、好ましくは0.3~0.7の量のヨウ素含有鎖末端-CHIを有する。ヨウ素含有鎖末端-CHIの存在は、乳化重合におけるヨウ素含有連鎖移動剤の使用に起因するフィンガープリントである。本発明のフルオロポリマーの水性分散液を形成するこの製造プロセスは、Solvay Specialty Polymers S.p.Aの国際公開第2020/126449号パンフレットに記載されている。
【0033】
一般に、前記鎖末端は、式-CHIの鎖末端である。ヨウ素含有鎖末端-CHIの濃度は、PIANCA,M.,et al.End groups in fluoropolymers.Journal of Fluorine Chemistry.1999,vol.95,p.71-84に詳述されている技術によるH-NMRにより、-CF-CHBr末端基又は-CF-CHOH末端基の決定と実質的に類似した形式において、-CHIの化学シフトを考慮して決定することができる。
【0034】
記載されているNMR法は、ヨウ素含有鎖末端-CHIの濃度(mmol/Kg)に関する情報を提供し、この値は、上述したGPCを介して測定することができる分子量分布に関する情報と組み合わせて、1つのポリマー鎖あたりのヨウ素含有鎖末端-CHIの量に変換することができる。記載されているGPC法は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の両方を提供し、これは、ヨウ素含有量の値をmmol/Kgから1つのポリマー鎖あたりのヨウ素含有鎖末端に変換するために必要な値である。
【0035】
特定の好ましい実施形態によれば、本発明の選択されたフルオロポリマーは、フッ素化界面活性剤を実質的に含まない。
【0036】
特定の好ましい実施形態によれば、本発明の選択されたフルオロポリマーは、水性環境におけるラジカル重合、好ましくは乳化重合により製造され、重合媒体は、好ましくはフッ素化界面活性剤を実質的に含まない。上述したように、本発明で使用するために適切に選択されたフルオロポリマーは、Specialty Polymers S.p.A.の国際公開第2020/126449号パンフレットに記載されている手順に従って調製することができる。
【0037】
反応媒体中のフッ素化界面活性剤の量に言及する場合の「実質的に含まない」という表現は、あらゆる有意な量の前記フッ素化界面活性剤の存在を排除することが意図されており、例えば反応媒体の総重量に対してフッ素化界面活性剤が5ppm未満、好ましくは3ppm未満、より好ましくは1ppm未満の量で存在することを必要とする。同様に、「実質的に含まない」という表現は、フルオロポリマー中のフッ素化界面活性剤の量に言及する場合、あらゆる有意な量の前記フッ素化界面活性剤の存在を排除することが意図されており、例えばフルオロポリマーの総重量に対してフッ素化界面活性剤が5ppm未満、好ましくは3ppm未満、より好ましくは1ppm未満の量で存在することを必要とする。
【0038】
有利には、本発明の選択されたフルオロポリマーは、実験項で記載されるゲル含有量試験で測定される比較的低い割合の不溶性ゲルを含む。そのようなゲル含有量は、フルオロポリマーの総重量を基準として好ましくは20重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、更により好ましくは3重量%未満である。
【0039】
上述したように、本発明のフルオロポリマーは、1種以上のラジカル開始剤及び1種以上のヨウ素含有連鎖移動剤の存在下において水性環境で乳化重合を行うことを含む方法で製造することができる。
【0040】
無機ラジカル開始剤は、分散液中のフルオロポリマーの粒子を安定化する効果を有する極性鎖末端を生成する能力を有しているため、通常、フッ素化界面活性剤が添加されない実施形態では無機ラジカル開始剤が好ましいであろう。過硫酸塩ラジカル開始剤は、一般に、この目的のために最も使用されるものである。
【0041】
過硫酸塩ラジカル開始剤の選択は、特に限定されないが、水性乳化重合プロセスのために好適なラジカル開始剤は、重合プロセスを水性環境で開始及び/又は加速することができる化合物から選択され、それらには、限定するものではないが、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムが含まれると理解される。
【0042】
上に定義した1つ以上のラジカル開始剤は、水性媒体の重量に基づいて有利には0.001重量%~20重量%の範囲の量において、上に定義された水性媒体に添加され得る。
【0043】
上述したように、本発明の選択されたフルオロポリマーの製造方法では、ヨウ素含有連鎖移動剤が添加される。ヨウ素含有連鎖移動剤は、一般に、以下からなる群から選択される:
- 式R(I)(式中、Rは、1~8つの炭素原子を含有するフッ素を含まないアルキル基であり、且つxは0~2の整数である)のヨード化された炭化水素剤(その一例は、CHである)、
- 式R(I)(式中、Rは、1~8つの炭素原子を含有する(ペル)フルオロアルキル又は(ペル)フルオロクロロアルキルであり、且つxは0~2の整数である)のヨード化されたフルオロカーボン剤(その一例は、式Cのジヨードペルフルオロブタンである)、及び
- とりわけ米国特許第5173553号明細書(AUSIMONT SRL)(1992年12月22日)に記載のものなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属ヨウ化物。ヨウ化カリウムは、特に本発明の方法におけるヨウ素連鎖移動剤として効果的であることがわかった。
【0044】
前記ヨウ素含有連鎖移動剤と前記開始剤との間のモル比は、0.12モル/モル未満、好ましくは最大で0.10、より好ましくは最大で0.09モル/モルである。本出願人は、驚くべきことに、そのような少量のヨウ素含有連鎖移動剤が、高分子量を達成すること及び最終ポリマーの性能におけるあらゆる変更を避けることを可能にしながら、重合に対して擬リビングの特徴を促進するのに有効であることを見出した。
【0045】
前記ヨウ素含有連鎖移動剤の下限は、特に制限されないが、少なくとも0.015、好ましくは少なくとも0.03、より好ましくは少なくとも0.06モル/モルの前記ヨウ素含有連鎖移動剤と前記開始剤との間のモル比が提供されるような量が一般に使用される。
【0046】
前述したように、好ましくはこの方法はフッ素化界面活性剤を添加せずに行われる。本発明における「フッ素化界面活性剤」は、次の式に従う物質を意味する:
f§(X(M
(式中、
- Rf§は、任意選択的に、1つ以上のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含むC~C16(ペル)フルオロアルキル鎖及び(ペル)フルオロポリオキシアルキル鎖から選択され、
- Xは、-COO、-PO 及び-SO から選択され、
- Mは、NH 及びアルカリ金属イオンから選択され、及び
- kは、1又は2である)。
【0047】
反応媒体中でのその存在が実質的に回避されるフッ素化界面活性剤の非限定的な例は、以下の通りである:
(a)CF(CFn0COOM’(式中、nは、4~10、好ましくは5~7の範囲の整数であり、好ましくは、nは、6に等しく、M’は、NH、Na、Li又はK、好ましくはNHを表す)、
(b)T-(CO)n1(CFXO)m1CFCOOM’’(式中、Tは、Cl原子又は式C2x+1-x’Clx’Oのパーフルオロアルコキシド基(xは、1~3の範囲の整数であり、x’は、0又は1である)を表し、nは、1~6の範囲の整数であり、mは、0~6の範囲の整数であり、M’’は、NH、Na、Li又はKを表し、Xは、F又は-CFを表す)、
(c)F-(CFCFn2-CH-CH-ROM’’’(式中、Rは、リン又は硫黄原子であり、好ましくは、Rは、硫黄原子であり、M’’’は、NH、Na、Li又はKを表し、nは、2~5の範囲の整数であり、好ましくは、nは、3に等しい)、
(d)A-Rbf-B二官能性フッ素化界面活性剤(式中、互いに等しいか又は異なるA及びBは、式-(O)CFX’’-COOM(式中、Mは、NH、Na、Li又はKを表し、好ましくは、Mは、NHを表し、X’’は、F又は-CFであり、pは、0又は1に等しい整数である)を有し、Rbfは、A-Rbf-Bの数平均分子量が300~1800の範囲内にあるような二価の(ペル)フルオロアルキル又は(ペル)フルオロポリエーテル鎖である)、及び
(e)それらの混合物。
【0048】
典型的には、フルオロポリマーを調製するための本記載の乳化重合法は、ラテックスなどのフルオロポリマーの水分散体を提供する。しかしながら、本発明で使用するために、選択されたフルオロポリマーは、好ましくは、ペレットなどの固体又はより好ましくは微細に分散された形態、例えば粉末若しくは顆粒として供給される。最も好ましくは、本発明の選択されたフルオロポリマーは粉末形態で供給され得る。
【0049】
選択されたフルオロポリマー粉末は、特にフルオロポリマー分散液から公知の技術により、凝固、例えばせん断凝固又は温度誘発凝固によって得ることができるか、或いは噴霧乾燥若しくは他の乾燥又は液体/固体分離によって得ることができる。他の固体ポリマー形態(顆粒又はペレットなど)は、公知の技術を使用して粉末から得ることができるが、上述したように、凝固及び/又は噴霧乾燥によって分散液から得られる粉末形態は、その表面積対体積比のために溶媒中でより容易に可溶化できる形態であるため、本発明の選択されたフルオロポリマーを提供するのに最も好ましい形態である。
【0050】
実際、本発明の方法の工程では、1種以上の選択されたフルオロポリマーが適切な溶媒に溶解されて前駆体溶液が形成される。
【0051】
前駆体溶液に適した溶媒は、本発明の選択されたフルオロポリマーを可溶化できる任意の溶媒である。本発明の選択されたフルオロポリマーはかなりの量のVDF繰り返し単位を含むため、VDFに基づくポリマー及びコポリマーに公知であり且つ一般的に使用されている全ての溶媒を本発明で使用することができる。そのような溶媒は、典型的には極性有機溶媒であり、これは、好ましくは、N-メチル-2-ピロリドン(一般にNMPと呼ばれる)、N-ブチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド、ジヒドロレボグルコセノン(Cyrene(登録商標))、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル及びリン酸トリメチルの1つ以上から選択することができる。本発明で使用される選択されたフルオロポリマーは比較的高い分子量を有するため、より好ましくは、溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミドなどのより大きい溶解力を有する窒素含有有機溶媒から選択される。
【0052】
本発明に適した他の溶媒は、式
(I-de)のジエステル、式(I-ea)のエステルアミド及び式(I-da)のジアミドである:
(O=)CO-Ade-OC(=O)R (I-de
O(O=)C-Aea-C(=O)NR (I-ea
N(O=)C-Ada-C(=O)NR (I-da
(式中、
- 互いに等しいか又は異なるR及びRは、独立して、C~C20炭化水素基からなる群から選択され、
- 互いに等しいか又は異なるR、R、R及びRは、独立して、水素、場合により置換されているC~C36炭化水素基からなる群から選択され、R、R、R及びRは、それらが結合されている窒素原子を含む環状部分であって、場合により置換されており、且つ/又は1つ若しくは2つ以上の追加のヘテロ原子を場合により含む環状部分の一部であり得ることが理解され、
- Adeは、1つ以上のエーテル酸素原子を含むC~C10二価アルキレン基であり、
- 互いに等しいか又は異なるAea及びAdaは、独立して、1つ以上のエーテル酸素原子及び/又は1つ以上の官能側基を任意選択的に含むC~C10二価アルキレン基である)。
【0053】
全てのこれらの有機溶媒は、単独で又は2つ以上の種の混合物で使用され得る。
【0054】
なお、製造される物品のタイプに応じて、前駆体溶液は、得られる物品の適切な機能及び性能に必要な添加剤などの追加の成分を含み得る。以降の説明では、電極、電池セパレータコーティング及び膜である物品を形成するための前駆体溶液の組成が詳細に説明される。異なるタイプの物品の前駆体溶液を構成する成分は、本発明の選択されたフルオロポリマーの1種以上が成形品を構成する組成物中に存在する限り、大きく異なり得る。
【0055】
本発明において、「前駆体溶液」とは、典型的には形成工程に付随して起こる溶媒成分の除去により、成形品に変換することができる組成物を示すことが意図される。そのような前駆体溶液は、本発明による選択されたフルオロポリマーを適切な溶媒に可溶化した形態で含む液相を含む。前記前駆体溶液が前駆体となる物品に応じて、前記前駆体溶液は、前記選択されたフルオロポリマーを含む前記液相中の追加の溶質として、又は追加の液相として、又は分散固体として存在し得る他の液体又は固体成分を含み得る。
【0056】
例えば、当技術分野で公知の電極コーティングのための前駆体溶液は、わずか数重量%の選択されたフルオロポリマーと、ポリマーを可溶化するのにちょうど十分な少量の溶媒とを含む一方、組成物の大部分は(典型的には50重量%超)は、分散された粉末状の電気活性材料及び充填剤によって形成される。
【0057】
他方で、膜又はポリマーコーティングを作製するための前駆体溶液は、選択されたフルオロポリマー及び溶媒を主成分又はコーティングの場合には更に唯一の成分として含むことができる。
【0058】
典型的には溶媒の除去中及び/又は除去直後に行われる「形成工程」への言及は、溶媒が除去される間、例えば前駆体溶液のフィルムが基材上にキャストされるとき又は電極形成組成物(これは、本発明の定義によれば前駆体溶液である)が集電体上に広げられるとき、前駆体溶液が既にその最終形状を本質的に有する「受動的」形成工程を含む非常に広い意味で意図されなければならない。この場合、物品に形状を付与するための外力が加えられることなしに、溶媒が単に蒸発して前駆体溶液が成形品に変換される。別の場合、形成工程は、「能動的」であり得、例えば成形されたシートとしてなど、固体として乾燥される場合、例えば前駆体溶液のキャストフィルムが乾燥されるときに機械的作用によって所定の形状を得るようにすることができる。
【0059】
本発明を電極、電池セパレータのコーティング及び膜の作製に適用する場合について詳細に説明するが、本発明の基礎となる基本原理及び改善された機械的特性の相対的な利点は、最も広い意味で本発明の方法に従って得ることができる任意の他の物品に転用できることが理解されるべきである。
【0060】
前駆体溶液が形成された後、追加の後続の工程は、必要な添加剤が存在する場合には典型的にはそれらと一緒に、溶液からポリマーを固体材料として析出させて、本発明の選択されたフルオロポリマーを含む成形品を得ることである。特定のタイプの成形品を形成するためのポリマーの析出は、そのタイプの物品の調製に典型的に使用される任意の公知の技術、例えば溶媒の蒸発、好ましくは60~95℃の温度での蒸発又は非溶媒の添加による相反転によって得ることができる。ポリマーの析出は、他の添加剤及び前駆体溶液の成分の析出を伴う場合がある。
【0061】
成形品の製造をもたらす析出工程は、洗浄、形成、張力付与、延伸、カレンダー加工又は他の機械的処理など、前記成形品の製造に慣習的な追加の工程を伴うことができる。
【0062】
本発明の方法の最終工程は、前の工程で形成された成形品を熱処理することである。改善された機械的特性の観点からは、100℃以上の温度で15分以上の時間の熱処理で効果がみられる。上述したように、熱処理は、100℃と成形品中に存在する最も融点が低いフルオロポリマーの融点との間に含まれる温度で行われなければならない。効果を測定可能な最小処理として100℃で15分間が示されているが、本発明の強化された成形品の機械的特性を向上させることに関し、より長い処理時間及びより高い温度でより強い効果が生み出されることが観察されている。熱処理は、110℃を超える温度において、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間、より好ましくは少なくとも3時間にわたって行われる場合に最も効果的である。一定の温度を超えて熱処理の温度及び時間を増やしても、強化された物品の特性にわずかな影響のみを有することが見出されている。
【0063】
通常、前記熱処理は、100~150℃、好ましくは110~140℃の温度において、1~16時間、好ましくは1~12時間、より好ましくは2~8時間、更により好ましくは3~6時間の時間にわたって行われる。
【0064】
非常に好ましい熱処理は、110~140℃の温度において、1~12時間、好ましくは2~8時間、更により好ましくは3~6時間の時間にわたって行われる。処理が長く継続される場合、低い温度でも高い温度と同様の効果を達成し得ることに留意すべきである。したがって、110℃では4~10時間の処理時間が好ましい一方、130℃では2~6時間の処理時間が好ましい。130℃で6時間又は110℃で10時間を超える処理時間は、強化された成形品の特性に悪影響を及ぼさないが、それ以上の改善はもたらさないため不要である。
【0065】
本発明による熱処理は、場合により、溶媒の蒸発直後に行われ得ることが理解されるべきである。実際、溶媒が100℃以上の温度で蒸発する場合、本発明による熱処理工程は、溶媒が蒸発を完了した時点、すなわち成形品が形成された時点に始まる。
【0066】
通常、工程c)で得られる成形品においてフルオロポリマーの元の特性が維持されることが期待され、特に熱処理の開始直前に、本発明の選択された1種以上のフルオロポリマーが、フルオロポリマーの総量を基準として20重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、更により好ましくは3重量%未満のゲル含有量と、好ましくは、単分散ポリスチレン標準に対して、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を使用してGPCによって測定される場合、少なくとも200キロダルトン、好ましくは少なくとも300キロダルトン、より好ましくは少なくとも400キロダルトン、更により好ましくは少なくとも500キロダルトン、最も好ましくは少なくとも600キロダルトン及び最大で1400キロダルトン、好ましくは最大で1300キロダルトン、より好ましくは最大で1200キロダルトン、更により好ましくは最大で1100キロダルトン、最も好ましくは最大で1000キロダルトンの分子量Mとを有することが好ましい。
【0067】
更により好ましい実施形態では、本発明の成形品は、熱処理中、重合反応から残留するもの及び成形品の製造中に添加されるものの両方のラジカル開始剤及び/又は架橋剤を含まない。
【0068】
以下では、本発明を、強化された電極及び強化された濾過膜の製造におけるその利用に焦点を当てて詳細に説明する。
【0069】
溶媒ベースの電極形成組成物(本発明の定義によれば、「前駆体溶液」である)は、粉末形態の本発明の1種以上の選択されたフルオロポリマーを上述した極性有機溶媒に可溶化してバインダー溶液を得ることにより、且つ前記バインダー溶液に粉末状の電極材料(電池又は電気二重層キャパシタのための活物質)及び任意選択的な添加剤、例えば導電性付与添加剤及び/又は粘度調整剤を添加し、分散させることにより得ることができる。得られる組成物は、典型的には、スラリーの形態であり、本発明による「前駆体溶液」である。
【0070】
この溶媒ベースの電極形成組成物に使用することができ、且つ選択されたフルオロポリマーを溶解して本発明によるバインダー溶液を提供するために使用することができる極性有機溶媒は、一般的な説明において前駆体溶液に適した溶媒として上述したものと同じ溶媒である。
【0071】
上で詳述された選択されたフルオロポリマーのバインダー溶液を得るために、100重量部のこのような有機溶媒に0.1~15重量部、特に1~10重量部の選択されたフルオロポリマーを溶解させることが好ましい。0.1重量部未満では、ポリマーは、溶液において少なすぎる割合を占め、したがって、粉末状の電極材料を結び付けるその性能を示すことを果たせなくなりがちである。15重量部超では、溶液の異常に高い粘度が得られ、その結果電極形成組成物の調製が困難になる。
【0072】
バインダー溶液を調製するために、1種以上のフルオロポリマーを20~99℃、より好ましくは25~95℃、更により好ましくは50~90℃の温度で有機溶媒に溶解することが好ましい。25℃未満では溶解に長時間要し、均一な溶解が困難になる。
【0073】
リチウムイオン二次電池のための正極を形成する場合、前記活物質(粉末状の電極材料)は、以下からなる群から選択され得る:
- 式LiMQの複合金属カルコゲニド(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、Vなどの遷移金属、Alなどの金属及びそれらの混合から選択される少なくとも1種の金属であり、Qは、O又はSなどのカルコゲンである)。これらの中でも、式LiMO(式中、Mは、上記定義と同じである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例は、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNiCoAlO2(a+b+c=1)及びスピネル構造化LiMnを含み得る。
- 式M(JO1-f(式中、Mは、M金属の20%未満を占める別のアルカリ金属で部分的に置き換えられ得るリチウムであり、Mは、+1~+5の酸化レベルでの、M金属の35%未満(0を含む)を占める1つ以上の更なる金属で部分的に置き換えられ得る、Fe、Mn、Ni又はこれらの混合から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、JOは、任意のオキシアニオンであり、ここで、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組み合わせのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、通常、0.75~1に含まれるJOオキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活性材料。上で定義されたようなM(JO1-f電気活性材料は、好ましくはホスフェート系であり、規則正しい又は変性されたかんらん石構造を有し得る。
【0074】
より好ましくは、正極を形成する場合の活物質は、式Li3-xM’M’’2-y(JO(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、これらの少なくとも1つは遷移金属であり、JOは、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置き換えられ得るPOであり、式中、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組み合わせのいずれかである)を有する。更により好ましくは、化合物(AM)は、式Li(FeMn1-x)PO(式中、0≦x≦1であり、xは、好ましくは、1である)(すなわち式LiFePOのリチウム鉄ホスフェート)のホスフェート系電極活物質である。
【0075】
リチウム電池のための陰極を形成する場合、活物質は、以下からなる群から選択され得る:
- リチウムをホストする粉末、フレーク、繊維又は球体(例えば、メソカーボンマイクロビーズ)などの形態で通常存在する、リチウムを挿入することができる炭素質材料(例えば黒鉛炭素)、
- リチウム金属、
- リチウム合金組成物、特に米国特許第6,203,944号明細書(3M INNOVATIVE PROPERTIES CO.)2001年3月20日及び/又は国際公開第00/03444号パンフレット(MINNESOTA MINING AND MANUFACTURING CO.)10/06/2005に記載されているもの、
- 一般に式LiTi12で表される、チタン酸リチウムであって、これらの化合物は、可動イオン、すなわちLiを受け入れるときに低レベルの物理的膨脹を有する、「ゼロ歪」挿入材料と一般に考えられる、チタン酸リチウム、
- 高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般的に知られるリチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム、
- 式Li4.4Geの結晶相を含むリチウム-ゲルマニウム合金
を含み得る。
【0076】
これらの実施形態において、活物質は、好ましくは、黒鉛、活性炭などの炭素質物質又はフェノール樹脂、ピッチなどの炭化によって得られる炭素質物質を含み得る。炭素質物質は、好ましくは、約0.5~100μmの平均直径を有する粒子の形態で用いられ得る。
【0077】
特に、限定的な導電性を示すLiCoOなどの活物質を用いる場合、本発明の電極形成組成物の塗布及び乾燥により形成された結果として生じる複合電極層の導電性を改善するために導電性付与添加剤が添加され得る。それらの例には:カーボンブラック、黒鉛微粉末及び繊維などの炭素質材料並びにニッケル及びアルミニウムなどの金属の微粉末及び繊維が挙げられ得る。
【0078】
電気二重層キャパシタのための活物質は、好ましくは、0.05~100μmの平均粒子(又は繊維)径及び100~3000m/gの比表面積を有する、すなわち電池のための活物質のものと比べて比較的小さい粒子(又は繊維)径及び比較的大きい比表面積を有する、活性炭、活性炭繊維、シリカ又はアルミナ粒子などの微細な粒子又は繊維を含み得る。
【0079】
正極のための好ましい電極形成組成物は、固体に関して(すなわち溶媒を除いて)以下を含む:
(a)総重量(a)+(b)+(c)に対して1~10重量%、好ましくは2~9重量%、より好ましくは約3重量%の合計量の、1種以上の選択されたフルオロポリマー、
(b)総重量(a)+(b)+(c)に対して2~10重量%、好ましくは4~6重量%、より好ましくは約5重量%の量の、導電性付与添加剤としてのカーボンブラック、
(c)80~97重量%、好ましくは85~94重量%、より好ましくは約92重量%の量の、粉末状電極材料、好ましくは、上に詳述した一般式:LiMQで表される複合金属カルコゲニド。
【0080】
電極を製造するために、スラリー形態の前駆体溶液は、典型的には、適切な金属基材(典型的には平坦な金属シート)の少なくとも1つの表面上にキャスティング、印刷又はロールコーティングなどの任意の適切な手順によって塗布され、それにより少なくとも1つの表面上に前駆体溶液でコーティングされた金属基材を含むアセンブリが得られる。その後、このアセンブリを乾燥させて溶媒を除去し、フルオロポリマーを固体形態で析出させることにより、本発明によるまだ強化されていない「成形品」である電極コーティングが得られる。乾燥工程は、典型的には、50℃~99℃、好ましくは80℃~95℃に含まれる温度において、5分~5時間、好ましくは30分~2時間、典型的には約90℃で50分間にわたって行われる。
【0081】
当技術分野で知られているように、典型的には80℃において、カレンダー加工及びホットプレスなどの追加の従来の工程を電極コーティングに対して行うことができる。
【0082】
乾燥工程に続いて、このようにして得られた電極コーティング(本発明の意味における「成形品」)は、その後、本発明の熱処理を受け、それにより、これは、本発明の強化された成形品に変換される。熱処理は、別個の独立した工程であり得るか、又はこれは、溶媒が除去されて「成形品」が形成された後、前記成形品が特許請求された効果を得るのに十分な時間にわたり、本発明が必要とする温度にさらされる、乾燥プロセスの延長であり得る。熱処理の時間は、溶媒の除去が完了した時点から開始されるものとして計算される。
【0083】
好ましくは、電極形成組成物の場合、熱処理は、100℃~150℃の温度で50分~24時間の時間にわたって行われる。例示的な効果的な熱処理は、130℃で3時間、110℃で3時間であった。電極に対する全ての熱処理は、好ましくは、真空で行われる。
【0084】
本発明の熱処理を電極コーティングに対して行うと、驚くべきことに、本発明の熱処理を受けていない同じ材料のコーティングと比較して、金属基材上へのコーティングの接着力が増加することが判明した。
【0085】
本発明の方法を使用して製造及び強化することができる別の成形品は、膜である。
【0086】
「膜」という用語は、その通常の意味において本明細書で使用され、すなわち、膜は、その膜と接触する化学種の浸透を緩和する個別の、通常、薄い界面を意味する。この界面は、分子的に均一であり得、すなわち構造が完全に一様(稠密な膜)であり得るか、又はそれは、化学的に若しくは物理的に不均一であり得、例えば有限寸法のボイド、穴若しくは細孔を含有し得る(多孔質膜)。
【0087】
多孔質膜は、一般に、細孔径分布、平均細孔径及び多孔率、すなわち多孔質である全体の膜の体積分率によって特徴付けられる。
【0088】
それらの厚さの全体にわたって一様な構造を有する膜は、一般に、対称的な膜として知られており、それらは、稠密又は多孔質のいずれかであり得、それらの厚さの全体にわたって均一に分布していない細孔を有する膜は、一般に、非対称膜として知られている。非対称膜は、薄い選択的な層(厚さ0.1~1μm)と、支持体としての役割を果たし、且つこの膜の分離特性にほとんど影響を及ぼさない高多孔質の厚い層(厚さ100~200μm)とで特徴付けられる。
【0089】
膜は、平らなシートの形態又は管の形態であり得る。管状の膜は、その寸法に基づいて、3mm超の直径を有する管状膜、0.5mm~3mmに含まれる直径を有するキャピラリー膜及び0.5mm未満の直径を有する中空繊維に分類される。キャピラリー膜は、多くの場合、「中空繊維」とも呼ばれる。
【0090】
大きい表面積のコンパクトなモジュールが必要とされる用途では中空繊維が特に有利であるのに対して、大きい流束が必要とされる場合には平らなシート膜が一般に好ましい。
【0091】
膜は、その用途に応じて、機械的抵抗性を改善するために支持され得る。支持体材料は、この膜の選択性に対する影響が最小限であるように一般に選択される。
【0092】
前記支持体材料は、不織布材料、ガラス繊維及び/又はポリマー系材料、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートのいずれかであり得る。
【0093】
前記成形品が膜である、本発明による強化された成形品を作製する方法は、典型的には、以下の工程を含む:
- 本発明に従って選択される前記1種以上のフルオロポリマーを提供する工程、
- 前記フルオロポリマーを適切な溶媒に溶解し、且つ前駆体溶液(典型的には膜の分野では「ドープ液」と呼ばれる)を形成する工程であって、前記前駆体溶液は、任意選択的に、1種以上の細孔形成剤及び当技術分野で公知の塩、充填剤などの他の任意選択的な添加剤も含む工程、
- 前記前駆体溶液を処理してフィルムにする工程、及び
- 前記フィルムを非溶媒浴に浸漬して前記フルオロポリマーを析出させ、それにより本発明による成形品である膜を形成する工程。
【0094】
典型的には、この方法に従って製造された膜は、その後、残留溶媒及び添加剤を完全に除去するために洗浄され、1回以上の延伸工程を受ける場合がある。
【0095】
追加の工程として、このようにして得られた膜(典型的には洗浄及び/又は必要に応じて延伸後)は、本発明による強化された成形品である強化膜を得るために、記載されている熱処理を受ける。熱処理は、膜に張力を掛けた状態又は延伸した状態で行うことができる。
【0096】
上記方法で使用される極性有機溶媒は、溶媒の一般的なリストで上述したものの1つ以上である。好ましくは、膜では、溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N-ブチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、ジヒドロレボグルコセノン(Cyrene(登録商標))、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル又は上記式(I-de)の1種以上のジエステル、式(I-ea)のエステルアミド及び式(I-da)のジアミドの1つ以上である。
【0097】
細孔形成剤は、形成される膜からそれらが少なくとも部分的に除去されて、多孔性がもたらされるように、極性有機溶媒及び非溶媒浴中で溶解度を有する化合物の中から一般に選択される。
【0098】
塩化リチウムのような無機化合物及び無水マレイン酸を含むモノマー有機化合物を使用することができるが、ポリマー細孔形成剤が一般に好ましいことが一般に理解される。
【0099】
特にポリマー細孔形成剤は、好ましくは、ポリ(アルキレンオキシド)及びその誘導体(POA)並びにポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される。
【0100】
ポリ(アルキレンオキシド)(PAO)は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びその混合物を含むアルキレンオキシドを重合させることから得られるポリマーである。
【0101】
PAOの誘導体は、特にエーテル基、特にアルキルエーテル、エステル基、例えば酢酸エステルなどを生成するように、そのヒドロキシル基末端基を適切な化合物と反応させることによって得ることができる。
【0102】
それにもかかわらず、ヒドロキシル基末端基を有するPAOが一般に使用される。
【0103】
PAOの中でも、ポリエチレンオキシド(PEO又はPEG)ポリマーが特に好ましい。
【0104】
ポリビニルピロリドン(PVP)は、一般にホモポリマーであるが、他のモノマーとのビニルピロリドンのコポリマーも有利に使用可能である。前記モノマーは、一般に、N-ビニルカプロラクタム、無水マレイン酸、メタクリル酸メチル、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレートからなる群から選択される。それにもかかわらず、PVPホモポリマーが一般に利用される。
【0105】
PVPの分子量は、特に制限されない。それにもかかわらず、前駆体溶液を膜に処理する目的のために、PVPの比較的高い分子量が好ましいことが理解される。これ故に、その分子量の好適な尺度として広く認められた、PVPのK値は、一般に、少なくとも10のものである。
【0106】
使用される場合、細孔形成剤の合計量は、通常、前駆体溶液の総重量を基準として0.1~5重量%、好ましくは0.5~3.5重量%に含まれる。
【0107】
膜を作製するための前駆体溶液は、任意の従来の方法によって調製することができる。前駆体溶液は、典型的には少なくとも25℃、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも40℃、更により好ましくは少なくとも50℃の温度で調製される。前駆体溶液は、典型的には99℃未満、好ましくは95℃未満の温度で調製される。
【0108】
前駆体溶液中の選択されたフルオロポリマーの全体濃度は、前駆体溶液の総重量を基準として少なくとも8重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも12重量%である必要がある。典型的には、溶液中の選択されたフルオロポリマーの濃度は、前駆体溶液の総重量を基準として50重量%を超えず、好ましくは40重量%を超えず、より好ましくは30重量%を超えない。
【0109】
前駆体溶液を得るのに必要な混合時間は、成分の溶液の割合、温度、混合装置の効率、調製される前駆体溶液の粘度などに依存して大きく変化し得る。
【0110】
任意の好適な混合装置が用いられ得る。好ましくは、混合装置は、最終的な膜に欠陥を生じさせ得る、前駆体溶液中に閉じ込められた空気の量を減らすように選択される。選択されたフルオロポリマーと極性有機溶媒との混合は、任意選択的に不活性雰囲気下に保持された密閉容器内で都合よく行うことができる。不活性雰囲気、より正確には窒素雰囲気が、PVPを含む前駆体溶液の調製のために特に有利であることが分かった。
【0111】
前述したように、後続の工程で前駆体溶液は処理されてフィルムにされる。
【0112】
用語「フィルム」は、本明細書では、前駆体溶液の処理後に得られる前駆体溶液の層を意味するために使用される。膜の最終形態に応じて、フィルムは、平らな膜が必要とされる場合、平らであるか、又は管状若しくは中空繊維膜が得られるべきである場合、形状が管状であるかのいずれかであり得る。
【0113】
前駆体溶液を処理してフィルムにするために従来技術を用いることができ、キャスティング技術が好ましいことが理解される。
【0114】
製造される膜の最終形態に応じて異なるキャスティング技術が使用される。最終製品が平らな膜である場合、ポリマー溶液は、キャスティングナイフ、ドローダウンバー、好ましくはスロットダイを用いて、平らな支持体、典型的にはプレート、ベルト若しくは布地上又は別の微孔質支持膜上にフィルムとしてキャストされる。
【0115】
したがって、その第1実施形態では、本発明の方法は、前駆体溶液を支持体上にキャストして平らなフィルムにする工程を含む。
【0116】
中空繊維及びキャピラリー膜は、いわゆる湿式紡糸法によって得ることができる。そのような方法では、通常紡糸口金を通して、すなわち少なくとも2つの同心キャピラリー、すなわち、前駆体溶液の通路のための第1の外側キャピラリーと、一般に「ルーメン」と呼ばれる支持流体の通路のための第2の内側キャピラリーとを含む環状ノズルを通して前駆体溶液がポンプで送られる。ルーメンは、前駆体溶液のキャストのための支持体としての役割を果たし、中空繊維又はキャピラリー前駆体の穴を開いた状態に維持する。ルーメンは、繊維の紡糸の条件で気体又は好ましくは液体であり得る。ルーメン及びその温度の選択は、それらが膜における細孔のサイズ及び分布に著しい影響を及ぼし得ることから、最終的な膜に必要とされる特性に依存する。一般に、ルーメンは、選択されたフルオロポリマーに対する強い非溶媒ではないか、又は代わりに、ルーメンは、前記フルオロポリマーに対する溶媒若しくは弱い溶媒を含む。ルーメンは、典型的には、選択されたフルオロポリマーの非溶媒と及び極性有機溶媒と混和性である。
【0117】
紡糸口金の出口で、空気中での又は制御された環境中での短い滞留時間後、中空繊維又はキャピラリー前駆体は、非溶媒浴中に浸漬され、浴でフルオロポリマーが析出して中空繊維又はキャピラリー膜を形成する。
【0118】
したがって、その第2の実施形態において、本発明の方法は、前駆体溶液を支持流体周りにキャストして管状フィルムにする工程を含む。
【0119】
ポリマー溶液のキャスティングは、通常紡糸口金を通して行われる。支持流体は、最終的な中空繊維又はキャピラリー膜の穴を形成する。支持流体が液体である場合、非溶媒浴中への繊維前駆体の浸漬は、有利には、繊維の内部から支持流体も除去する。
【0120】
管状膜は、それらのより大きい直径のために、中空繊維膜の製造のために用いられる方法と異なる方法を用いて製造される。
【0121】
その第3の実施形態において、本発明の方法は、ポリマー溶液を支持管状材上にキャストして管状フィルムにする工程を含む。
【0122】
前駆体溶液の処理が、上に詳述されたいずれの形態でも、フィルムを得るために完了した後、前記フィルムは、非溶媒浴中へ浸漬される。この工程は、通常、前駆体溶液からの選択されたフルオロポリマーの析出を誘発するのに有効である。その結果、析出したフルオロポリマーが最終的な膜構造を形成する。
【0123】
本明細書で使用される場合、「非溶媒」という用語は、溶液又は混合物の所定の成分を溶解することができない物質を意味するとされる。
【0124】
本発明の選択されたフルオロポリマーに適切な非溶媒は、水及び脂肪族アルコールであり、好ましくは短鎖(例えば、1~6つの炭素原子)を有する脂肪族アルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノール及びイソプロパノールである。前記好ましい非溶媒のブレンド、すなわち水と1種以上の脂肪族アルコールとを含むブレンドを使用することができる。好ましくは、非溶媒浴の非溶媒は、水、上で定義した脂肪族アルコール及びそれらの混合物からなる群から選択される。更に加えて、非溶媒浴は、非溶媒に加えて(例えば、水に加えて、上で詳述した脂肪族アルコール又は水と脂肪族アルコールとの混合物に加えて)、少量(非溶媒浴の総重量に対して典型的には最大で40重量%、通常、25~40重量%)の、選択されたフルオロポリマーのための溶媒を含むことができる。溶媒/非溶媒混合物の使用は、有利なことに、膜の多孔率を制御することを可能にする。非溶媒は、通常、前駆体溶液の調製のために使用される極性有機溶媒と混和性のものの中から選択される。好ましくは、本発明の方法における非溶媒は、水である。水は、最も安価な非溶媒であり、それは、大量に使用することができる。
【0125】
使用される場合、細孔形成剤は、通常、非溶媒浴中において、膜から、完全にとはいかないまでも少なくとも部分的に除去される。
【0126】
析出浴から取り出された後、膜は、例えば、すすぎ洗いなどの追加の処理を受けることができ、場合によりPVP細孔形成剤をより完全に除去するために次亜塩素酸ナトリウム溶液によるすすぎ洗いが行われる。その後、膜は、典型的には、乾燥されるか又は水浴中で保管される。
【0127】
更なる工程として、このようにして得られた膜(本発明の成形品)は、本発明による強化された成形品である強化膜を製造するために必要に応じて熱処理される。
【0128】
本発明は、上記されたような方法によって得られる膜に更に関する。
【0129】
本発明の方法から得られる膜は、好ましくは、多孔質膜である。典型的には膜は、非対称構造を有する。膜の気孔率は、3~90%、好ましくは5~80%の範囲であり得る。
【0130】
細孔は、少なくとも0.001μmの、少なくとも0.005μmの、少なくとも0.01μmの、少なくとも0.1μmの、少なくとも1μmの、少なくとも10μmの及び最大で50μmの平均直径を有し得る。
【0131】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0132】
本発明は、以下の実施例に関連してより詳細に以下で説明されるが、それらは、本発明を単に例示する目的で提供され、本発明の範囲を限定する意図はない。
【実施例
【0133】
平均分子量の決定
GPCによって分子量を測定した。粉末形態のポリマーを、溶液中で0.01Nの濃度のLiBrの存在下において45℃で2時間撹拌しながら、DMA中0.25g/100mlでDMAに溶解させた。溶解した後、Sorvall RC-6 Plus遠心分離機(ローターモデル:F21S-8X50Y)を使用して、20000rpmで60分間、溶液を室温で遠心分離した。
【0134】
各サンプルの上清を、下で詳述される機器及び条件を用いて分析した。
移動相:DMA
流量:1mL/分
温度:45℃
注入システム:Waters 717plus Autosampler
注入量:200μL
ポンプ:Waters Isocratic Pump model 515
カラム:Four Water Styragel HT(300x7.5)mm、10μm粒径:Styragel HT-6、HT-5、HT-4、HT-3、ガードカラム付き
検出器:Waters refractive index model 2414
データ取得及び処理のためのソフトウェア:Waters Empower。
【0135】
この方法では、定量的分子量を表す曲線が生成され、そこからM(数平均)とM(重量平均)の両方の値を計算することができる。
【0136】
不溶性ゲル含有量の測定
フルオロポリマーの溶液を製造し、「平均分子量の測定」の方法で上述した通りに遠心分離する。上清(GPC法で使用)を除去した後、析出した残渣がバイアル内に残る。ゲル含有量は、150℃の温度で48時間乾燥させた後、前記残渣を秤量し、それをポリマーサンプル試料全体の重量で割ることによって決定した。
【0137】
機械的特性
膜の機械的特性は、ASTM D638標準手順(タイプV、グリップ距離=25.4mm、初期長さLo=21.5mm)に従って室温(23℃)で評価した。各サンプルの5つの試験片を、保管に使用した脱塩水から取り出した直後に試験した。
【0138】
膜の透過性測定
膜の透過性は、水の流束(J)として測定した。これは、所定の圧力における単位面積あたり及び単位時間あたりに膜を透過する体積として定義される。
【0139】
水の流束(J)は、以下の式を用いて計算される:
【数1】
(式中、
- V(L)は、透過液の体積であり、
- A(m)は、膜の面積であり、
- Δt(h)は、稼働時間である)。
【0140】
水の流束の測定は、1barの一定の窒素圧力下に終端形状を用いて、高純度MilliQ水を用いて室温で行った。11.3cm2の有効面積を有する膜のディスクを、膜シート(水中に保管)から切り出し、金属グリッド上に置いた。各材料について、流束は、少なくとも5つの異なるディスクの平均である。流束は、LMH(リットル/(平方メートル×時間))で表される。
【0141】
接着力の測定(電極形成組成物について)
アルミニウム箔と電極形成組成物との間の接着剥離力:
Al箔への乾燥コーティング層の接着力を評価するために、20℃において300mm/分の速度で規格ASTM D903に記載されているセットアップに従って180°剥離試験を行った。
【0142】
フルオロポリマーF1の調製
実施例で使用されるフルオロポリマーF1は、0.3モル%のアクリル酸を含むVDFとアクリル酸とのコポリマーである。ポリマーは、以下の通りに調製した。
【0143】
バッフル及び50rpmで作動するスターラーを装備した21リットルの水平反応器オートクレーブ内に13.4リットルの脱イオン水を導入した。温度を80℃にし、29.4g/lのヨウ化カリウム(KI)水溶液100mlを添加し、その後、VDFガス状モノマーを供給することによって重合反応全体を通して38Bar(絶対圧)の圧力を一定に維持した。圧力が到達した後、250mlの100g/lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を20分間かけて添加し、その後、追加量のAPS溶液を重合の全期間にわたって60ml/hの流束速度で連続的に添加した。更に50mlのアクリル酸(AA)溶液(50g/lのアクリル酸水溶液)を、モノマー250gが消費される毎に供給した。
【0144】
4500gのVDFが供給されたときにガスの供給を中断し、次いで、反応温度を一定に保持したまま、圧力を4barまで低下させた。最終反応時間は、270分間であった。
【0145】
反応器を室温に冷却し、ラテックスを回収した。
【0146】
最終比率(KI)/APSは0.084モル/モルであった。
【0147】
そのようにして得られた水性ラテックスは、25.2重量%の固形分含有率を有していた。VDF-AAポリマーを、ISO 13321に従って測定して251nmの平均一次サイズを有する粒子の形態で水性ラテックスに分散した。
【0148】
250mLのラテックスを48時間凍結させ、次いでこれを解凍してVDF-AAポリマーを回収し、得られた粉末をすすぎ洗いし、70℃で12時間乾燥した。得られたVDF-AAポリマーは、0.3モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有し、160.8℃(ASTM D3418に従って決定)の融点、57.9キロポアズの溶融粘度MV(230℃/100秒-1)、254キロダルトンの平均分子量Mn及び871キロダルトンのMw、<3%のゲル含有量並びに以下の末端基含有量を有する:-CF2H:20mmol/kg、-CF2-CH3:14mmol/kg、-CH2OH:5mmol/kg、-CH2I:2mmol/kg。1つのポリマー鎖あたりのヨウ素原子の量は、0.5である。
【0149】
実施例1 - 強化された電極の製造
この実施例は、本発明による強化された成形品の調製を説明するものであり、前記強化された成形品は、電極活物質と金属集電体(Al箔)との間の接着力が改善された強化された電極である。
【0150】
使用した材料:
活物質:リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)。
フルオロポリマー:上記F1
導電性材料:カーボンブラックSC-65
【0151】
NMP中の6重量%のフルオロポリマーの溶液34.7g、133.8gのNMC622、2.8gのSC-65及び8.8gの追加のNMPを遠心ミキサー中で10分間予備混合することによって第1の分散液を調製した。
【0152】
次いで、混合物を、高速ディスクインペラを用いて2000rpmで50分間混合した。その後、追加の7.2gのNMPを分散液に添加し、それを、バタフライ型インペラを用いて1000rpmで20分間更に混合した。
【0153】
得られた組成物を、ドクターブレードを用いて厚さ15μmのAl箔上にキャストし、コーティング層を90℃の温度において約50分間真空オーブン中で乾燥させることによって正極(本発明による「成形品」)を得た。乾燥コーティング層の厚さは、約110μmであった。
【0154】
得られた成形品は、1.5重量%のポリマー、2重量%の導電性添加剤及び96.5重量%の活物質NMC622を含む。
【0155】
その後、このようにして得た電極を、真空下のオーブンで110℃において3時間熱処理し、強化された電極(本発明による「強化された成形品」)を形成した。
【0156】
実施例2 - 強化された電極の製造
熱処理を130℃で1時間にわたって行ったことを除いて、実施例1と同じ手順に従った。
【0157】
実施例3 - 強化された電極の製造
熱処理を130℃で3時間にわたって行ったことを除いて、実施例1と同じ手順に従った。
【0158】
実施例4 - 強化された電極の製造
熱処理を130℃で16時間にわたって行ったことを除いて、実施例1と同じ手順に従った。
【0159】
比較例5 - 電極の製造
熱処理を行わなかったことを除いて、実施例1と同じ手順に従った。
【0160】
実施例6 - 強化された電極の製造
NMC622の代わりにLiCoO(LCO)を使用したことを除いて、実施例1と同じ手順に従った。
【0161】
実施例7 - 強化された電極の製造
NMC622の代わりにLiCoO(LCO)を使用したことを除いて、実施例2と同じ手順に従った。
【0162】
実施例8 - 強化された電極の製造
NMC622の代わりにLiCoO(LCO)を使用したことを除いて、実施例3と同じ手順に従った。
【0163】
実施例9 - 強化された電極の製造
NMC622の代わりにLiCoO(LCO)を使用したことを除いて、実施例4と同じ手順に従った。
【0164】
比較例10 - 電極の製造
NMC622の代わりにLiCoO(LCO)を使用したことを除いて、比較例5と同じ手順に従った。
【0165】
電極の接着力のデータ。
【0166】
【表1】
【0167】
表1のデータは、熱処理工程を含む本発明に従って製造された強化された電極が、熱処理工程なしで製造された同じ電極よりも金属基材に対してはるかに高い接着力を有することを示している。
【0168】
実施例11 - 強化された膜の製造
使用した材料:
フルオロポリマー:上記F1
N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、Sigma Aldrichから入手
ポリエチレングリコール(PEG)200、Sigma Aldrichから入手
ポリビニルピロリドン(PVP)K10、Sigma Aldrichから入手
イソプロピルアルコール(IPA)、Sigma Aldrichから入手
【0169】
前駆体(ドープ)溶液の調製:
64.5のDMACに、15gのフルオロポリマー1、10gのPEG200及び10.5gのPVPを添加し、完全に溶解するまで65℃においてマグネチックスターラーで撹拌することにより、多孔質膜製造のためのドープ溶液を調製した。
【0170】
膜の作製:
自動型キャスティングナイフにより、適切な滑らかなガラス支持体上で上記ドープ液をフィルム化することにより、A4サイズの平らなシートの多孔質膜を作製した。ポリマーの早過ぎる析出を防ぐために、ドープ液、キャスティングナイフ及び支持体温度を25℃に保つことによって膜キャスティングを行った。ナイフのギャップは、250μmに設定した。キャスティング後、ポリマーフィルムを直ちに凝固浴に浸し、相反転を誘発させた。この凝固浴は、純粋な脱イオン水から構成されていた。凝固後、膜を純水で数回洗浄し、残留している微量の溶媒を除去した。洗浄後、膜をオーブン中で大気圧下において130℃で6時間熱処理した。膜は、熱処理前及び後の両方で常に水中に(湿った状態で)保管した。
【0171】
比較例12 - 非強化膜の製造
膜に対して熱処理を行わなかったことを除いて、実施例11と同じ手順に従った。
【0172】
機械的特性
【0173】
【表2】
【0174】
表2のデータは、熱処理工程を含む本発明に従って製造された膜が、熱処理工程なしで製造された同じ膜と比較して改善された機械的特性を有することを示している。
【0175】
膜は、熱処理中に収縮する傾向があることが観察された。流束のデータは、強化された膜の流束が非強化膜よりも低いことも示している。いずれにせよ、強化された膜の流束は、従来の用途のために十分に高い。理論に拘束されるものではないが、流束の低下は、対応する細孔径の減少を引き起こす収縮と関連している可能性があると考えられる。熱処理前にグリセロール又は他の湿潤剤で膜を湿らせると、収縮が減少し、その結果流束の損失が低減されることが期待され得る。膜に張力を掛けた状態を維持しながら熱処理を行うと、特に管状膜で流束容量の損失も低減できることも期待される。
【国際調査報告】