(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーGメンバー1(KLRG1)枯渇性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240725BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240725BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240725BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240725BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240725BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20240725BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240725BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240725BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 N
A61P43/00 105
A61P37/06
A61P37/02
A61P21/02
A61P35/00
C12N15/13
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504840
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 US2022038310
(87)【国際公開番号】W WO2023009498
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521111504
【氏名又は名称】アブクロ,インク.
【氏名又は名称原語表記】Abcuro, Inc.
【住所又は居所原語表記】90 Bridge Street, Newton, MA 02458, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ ヴィセンゾ ガラ
(72)【発明者】
【氏名】ケネス エヴァン トンプソン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、KLRG1へ特異的に結合する抗体またはその断片、キラー細胞レクチン様受容体G1(KLRG1)を発現するT細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることを必要とする対象において、当該T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させる方法、過剰のKLRG1発現T細胞と関係する障害を処置することを必要とする対象において当該障害を処置する方法、対象においてがんを処置する方法、対象におけるがんの処置のための補助療法、細胞の混合集団においてKLRG1発現細胞を枯渇させる方法、KLRG1発現CDSエフェクターT細胞を選択的に枯渇させる方法、抗KLRG1抗体の医薬組成物、ならびに抗KLRG1抗体のためのキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号11(CDR-L1)、配列番号12(CDR-L2)、及び配列番号13(CDR-L3)のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変領域とを含む、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する、抗体またはその断片。
【請求項2】
前記軽鎖可変領域が配列番号5のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項3】
前記抗体またはその断片が、配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖を含む、請求項1または2に記載の抗体またはその断片。
【請求項4】
前記抗体またはその断片が、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項5】
前記抗体またはその断片が、配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項6】
前記抗体またはその断片が、エピトープPLNFSRI(配列番号14)、または少なくとも5個の連続するアミノ酸を含むその断片を特異的に結合する、先行請求項のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
前記抗体またはその断片が、モノクローナル抗体またはその断片もしくは派生体を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項8】
前記抗体またはその断片が、ヒト化抗体またはその断片を含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項9】
前記KLRG1が、ヒトKLRG1またはカニクイザルKLRG1を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項10】
KLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることを必要とする対象において前記細胞を枯渇させる方法であって、
前記対象へ、治療有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片を送達し、それによって、前記対象においてKLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることを含む、前記方法。
【請求項11】
過剰のKLRG1発現T細胞と関係する障害を処置することを必要とする対象において前記障害を処置する方法であって、
前記対象へ、治療有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片を送達し、それによって、前記対象における前記過剰のKLRG1発現T細胞を低減させることを含む、前記方法。
【請求項12】
前記障害が、移植性障害である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記障害が、自己免疫疾患である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記障害が、封入体筋炎(IBM)である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
がんが、KLRG1を発現するがん細胞を含む、対象における前記がんを処置する方法であって、
前記対象へ、治療有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片を送達することを含み、前記対象への前記送達が、前記KLRG1を発現するがん細胞を枯渇させる、前記方法。
【請求項16】
対象におけるがんの処置のための補助療法であって、前記がんがKLRG1を発現するか否かに関わらず、前記対象がチェックポイント療法を受けている、前記補助療法であって、
前記対象へ、治療有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片を送達することを含み、送達が、前記対象において自己組織を攻撃するKLRG1発現病原性T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させる、前記補助療法。
【請求項17】
細胞の混合集団においてKLRG1発現細胞を枯渇させる方法であって、前記KLRG1発現細胞が、T細胞、NK細胞、がん細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の細胞を含む、前記方法であって、
前記細胞の混合集団へ、治療有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片を送達することを含み、前記送達が、前記細胞の混合集団においてKLRG1発現T細胞、NK細胞、がん細胞、及びこれらの組み合わせを枯渇させる、前記方法。
【請求項18】
KLRG1発現CD8エフェクターT細胞を選択的に枯渇させるが、ナイーブT細胞及び/または調節性T細胞を相対的に温存する方法であって、
対象へ、治療有効量の請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片を送達し、それによってKLRG1発現CD8エフェクターT細胞を選択的に枯渇させることを含む、前記方法。
【請求項19】
請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片と、医薬として許容され得る担体とを含む、医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片と、使用説明書とを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月26日に出願された米国仮特許出願第63/225,828号、及び2022年2月9日に出願された米国仮特許出願第63/308,222号の利益を主張し、その内容全体は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
細胞傷害性T細胞またはNK細胞は、不適切な細胞損傷を通じて(例えば、自己免疫)、または制御されていない増殖を通じて(例えば、細胞傷害性T細胞またはNK細胞を包含する特定の白血病及びリンパ腫)、疾患をもたらし得る。細胞傷害性T細胞による組織への損傷は、自己免疫疾患、1型糖尿病、実質臓器移植片拒絶反応、及び移植片対宿主病に関与する。細胞傷害性T細胞またはNK細胞の制御されていない増殖はまた、肝脾T細胞リンパ腫及びNK/T細胞リンパ腫など、特定のT細胞白血病及びリンパ腫にも関与する。成熟細胞傷害性T細胞上に存在することが公知の細胞表面マーカーであるキラー細胞レクチン様受容体G1(KLRG1)は、高い殺傷能を有する細胞傷害性T細胞上に存在することが実証されている(WO2018053264)。したがって、KLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることを必要とする対象において、当該細胞を枯渇させるための組成物及び方法に対する必要性が存在する。
【0003】
発明の概要
多くの異なる実施形態のうち、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する抗体及びその断片、ならびに枯渇処置を必要とする対象においてかかる抗体及び断片を使用してKLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させる方法が、本明細書に開示される。
【0004】
一態様において、本開示は、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号11(CDR-L1)、配列番号12(CDR-L2)、及び配列番号13(CDR-L3)のアミノ酸配列を含む3つの相補性決定領域を含む軽鎖可変領域を含む、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する抗体またはその断片に関する。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号5を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号6を含む重鎖を含む。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号7を含む軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号6を含む重鎖、及び配列番号7を含む軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、エピトープPLNFSRI(配列番号14)または少なくとも5個の連続するアミノ酸を含むその断片を特異的に結合する。抗体またはその断片は、モノクローナル抗体、またはその断片もしくは派生体であり得る。抗体またはその断片は、ヒト化抗体、またはその断片であり得る。KLRG1は、ヒトKLRG1またはカニクイザルKLRG1であり得る。
【0005】
いくつかの態様において、本開示は、KLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることを必要とする対象において当該細胞を枯渇させる方法に関するものであり、対象へ治療有効量の本明細書に開示される抗体またはその断片を送達し、それによって対象においてKLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることを含む。
【0006】
本開示の他の態様は、過剰のKLRG1発現T細胞と関係する障害を処置することを必要とする対象において、当該障害を処置する方法に関するものであり、対象へ治療有効量の本明細書に開示される抗体またはその断片を送達し、それによってKLRG1発現T細胞を枯渇させることを含む。障害は、移植障害であり得る。障害は、自己免疫疾患であり得る。障害は、封入体筋炎であり得る。
【0007】
一態様において、本開示は、対象におけるがんを処置する方法であって、当該がんが、KLRG1を発現するがん細胞を含む方法であって、対象へ治療有効量の本明細書に開示される抗体またはその断片を送達することを含む方法であって、対象への当該送達が、KLRG1を発現するがん細胞を枯渇させる方法に関する。
【0008】
別の態様において、本開示は、対象における補助療法を用いたがんの処置であって、(当該がんがKLRG1を発現するかどうかに関係なく)、当該対象が、チェックポイント療法を受けている処置であって、当該補助療法が、対象へ治療有効量の本明細書に開示される抗体またはその断片を送達することを含む処置であって、送達が、対象における自己組織を攻撃するKLRG1発現病原性T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させる処置に関する。
【0009】
一態様では、本開示は、細胞の混合集団においてKLRG1発現細胞を枯渇させる方法に関し、KLRG1発現細胞は、T細胞、NK細胞、がん細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の細胞を含み、細胞の混合集団に、細胞の混合集団においてKLRG1発現T細胞、NK細胞、がん細胞、またはそれらの組み合わせを枯渇させるのに有効な量で、本明細書に開示される抗体またはその断片の治療有効量を送達することを含む。
【0010】
本開示の別の態様は、KLRG1発現CD8エフェクターT細胞を選択的に枯渇させるが、ナイーブT細胞及び/または調節性T細胞を相対的に温存する方法であって、対象へ、治療有効量の本明細書に開示される抗体またはその断片を送達し、それによってKLRG1発現CD8エフェクターT細胞を選択的に枯渇させることを含む方法に関する。
【0011】
本開示の他の態様は、本明細書に開示される少なくとも1つの抗体またはその断片と、医薬として許容され得る担体とを含む医薬組成物に関する。
【0012】
本開示はまた、本明細書に開示される少なくとも1つの抗体またはその断片及び使用説明書を備えるキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】正常脾臓での発現と比較した、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)新生物によるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図2】NK細胞株及びG-D T細胞株と比較した、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)新生物によるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図3】末梢T細胞リンパ腫(PTCL)と比較した、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)新生物によるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図4】NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)新生物によるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図5】菌状息肉症によるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図6】健常細胞と比較した、菌状息肉症によるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図7】KARPAS-384(γ-δT細胞株)、KHYG-1(進行性NK細胞白血病)、及びMTA(進行性NK細胞白血病)を含む、T細胞及びNK細胞リンパ腫細胞株及び白血病細胞株によるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図8】T細胞性前リンパ性白血病(T-PLL)新生物にわたるヒトKLRG1の遺伝子発現を示す。
【
図9】カニクイザルにおけるKLRG1陽性CD8陽性T細胞集団に対する抗体ABC008の影響を示す。
【
図10】封入体筋炎(IBM)に罹患している3人の対象におけるKLRG1陽性CD8陽性T細胞集団に対する抗体ABC008の影響を示す。
【
図11】封入体筋炎(IBM)に罹患している3人の対象におけるCD3陽性CD57陽性大顆粒リンパ球(LGL)T細胞集団に対する抗体ABC008の影響を示す。
【
図12】カニクイザルにおけるKLRG1陽性CD8陽性T細胞集団に対する抗体ABC008の種々の用量及び投与計画の影響を示す。
【
図13】IBMに罹患している9人の対象(3人の対象からなるコホート3つ)におけるベースラインCD8 KLRG1陽性/KLRG1陰性T細胞の比率を示す。
【
図14】
図13に示されるベースライン値と比較した、3つのコホートにおけるCD8陽性KLRG1陽性T細胞の枯渇を示す。
【
図15】IBMに罹患している3人の対象における調節性T細胞(Treg)に対する抗体ABC008の影響を示す。
【
図16】IBMに罹患している9人の対象(3人の対象からなるコホート3つ)におけるTregに対する抗体ABC008の影響を示す。アレムツズマブについての比較データも示す。
【
図17】IBMに罹患している9人の対象(各々3人の対象からなるコホート3つ)におけるセントラルメモリーT細胞に対する抗体ABC008の影響を示す。アレムツズマブについての比較データも示す。
【
図18】ABC008についての薬物動態データを示す。
【
図19】0.1mg/kg、0.5mg/kg、または2.0mg/kgのABC008を受けた9人の対象(各々3人の対象からなるコホート3つ)におけるABC008についての薬物動態データを示す。
【
図20A】ABC008を受けたIBMに罹患している3人の対象象についての、経時的な散発性封入体筋炎の身体機能評価(sIFA)スコアを示す。
【
図20B】ABC008を受けたIBMに罹患している3人の対象についての経時的な修正されたタイムアップアンドゴー(mTUG)スコアを示す。
【
図20C】ABC008を受けたIBMに罹患している3人の対象について、56日後のsIFA、封入体筋炎機能評価尺度(IBMFRS)、mTUG、及び徒手筋力テスト(MMT12)スコアの変化を要約する。
【
図21】CD8陽性CD57陽性LGLに対するABC008、フコシル化ABC008(ABC108)、及びアイソタイプ対照についてのインビトロ力価データを示す。
【
図22】IBMに罹患している11人の対象におけるベースラインCD8 KLRG1陽性/KLRG1陰性T細胞比率を示す。
【
図23】
図13に示されるベースライン値と比較した、11人の対象におけるCD8陽性KLRG1陽性T細胞の枯渇を示す。
【
図24】封入体筋炎(IBM)に罹患している3人の対象からなる第1のコホートにおけるCD3陽性CD57陽性大顆粒リンパ球(LGL)T細胞集団に対する抗体ABC008の影響を示す。
【
図25】封入体筋炎(IBM)に罹患している3人の対象からなる第2のコホートにおけるCD3陽性CD57陽性大顆粒リンパ球(LGL)T細胞集団に対する抗体ABC008の影響を示す。
【
図26】封入体筋炎(IBM)に罹患している5人の対象からなる第3のコホートにおけるCD3陽性CD57陽性大顆粒リンパ球(LGL)T細胞集団に対する抗体ABC008の影響を示す。
【
図27】IBMに罹患している3つの対象コホートにおけるCD8ナイーブT細胞に対する抗体ABC008の影響を示す。アレムツズマブについての比較データも示す。
【
図28】IBMに罹患している3つの対象コホートにおけるCD8セントラルメモリーT細胞に対する抗体ABC008の影響を示す。アレムツズマブについての比較データも示す。凡例:円形、コホート1;菱形、コホート2;逆三角形、コホート3;正方形、アレムツズマブ。
【
図29】IBMに罹患している3つの対象コホートにおけるCD8エフェクターメモリーT細胞(TEM)に対する抗体ABC008の影響を示す。アレムツズマブについての比較データも示す。凡例:円形、コホート1;菱形、コホート2;逆三角形、コホート3;正方形、アレムツズマブ。
【
図30】IBMに罹患している3つの対象コホートにおけるCD8終末分化エフェクターメモリーT細胞(TEMRA)に対する抗体ABC008の影響を示す。アレムツズマブについての比較データも示す。
【
図31A】ABC008を受けたIBMに罹患している複数の対象についての経時的な封入体筋炎機能評価尺度(IBMFRS)スコアを示す。
【
図31B】ABC008を受けたIBMに罹患している複数の対象についての経時的な徒手筋力テスト(MMT)スコアを示す。
【
図31C】ABC008を受けたIBMに罹患している複数の対象についての経時的な修正されたタイムアップアンドゴー(mTUG)スコアを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
キラー細胞レクチン様受容体G1(KLRG1)は、T細胞及びNK細胞の活性を調節することによって共抑制性受容体として機能することができるII型膜貫通タンパク質である。KLRG1の細胞内部分は、T細胞受容体(TCR)介在性シグナル伝達の共抑制に関与する免疫受容体チロシン系抑制モチーフ(ITIM)ドメインを含有する。KLRG1の細胞外部分は、既知のリガンドがカドヘリンであるC型レクチンドメインを含有する。KLRG1リガンドには、E-カドヘリン、N-カドヘリン、R-カドヘリン、及びこれらの組み合わせがある。
【0015】
受容体KLRG1は、上皮細胞及び間葉系細胞上のリガンドへ結合するT細胞及びNK細胞の細胞表面上に発現する。ヒトにおいて、KLRG1発現は、一般に、免疫系の細胞に限定され、具体的にはCD8陽性T細胞、NK細胞に限定され、これらまでではないにせよ、CD4陽性T細胞に限定される。KLRG1発現は、後期分化表現型と関係している。抗原特異的T細胞が分化するにつれて、細胞傷害性分子の高い発現を獲得することができるため、高い細胞傷害性能力を有することができる。
【0016】
したがって、KLRG1発現(またはKLRG1陽性)T細胞及び/またはNK細胞は病原性であり得、それゆえ、細胞枯渇療法のための有利な標的である。例えば、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)エフェクター機能を有する有効量のKLRG1枯渇薬(例えば、KLRG1発現細胞枯渇薬)を必要とする対象へ投与することにより、例えば、自己免疫疾患及び移植障害の場合、健常細胞を損傷する細胞傷害性T細胞及び/またはNK細胞を排除することができる、または当該細胞傷害性T細胞及び/またはNK細胞の数を低減させることができる。本明細書に開示される抗体及びその断片などのKLRG1発現細胞枯渇薬を投与することを含む方法はまた、KLRG1を発現するがん細胞を有する患者を処置する上で有利である。
【0017】
KLRG1陽性細胞の枯渇は、組織試料におけるKLRG1細胞またはKLRG1陽性細胞の異常な蓄積を有する疾患において望ましいであろう。当該疾患には、成熟T細胞及びNK細胞の特定のリンパ腫及び白血病、特に、NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)、進行性NK細胞白血病(ANKL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)、γ-δT細胞リンパ腫(GDTCL)、NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)、進行性NK細胞白血病(ANKL)、T細胞性前リンパ性白血病(T-PLL)、成熟T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)、亜急性脂肪織炎様T細胞リンパ腫(SPTCL)、腸症型T細胞リンパ腫(EATL)、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)、他に特定されない末梢性T細胞リンパ腫(PTCL-NOS)、分類不能T細胞リンパ腫(TCL-UN)、及びT細胞大顆粒リンパ球性白血病(T-LGLL)がある。加えて、特定の自己免疫疾患、特に封入体筋炎(IBM)、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、多発性硬化症、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、口腔扁平苔癬、白斑、シェーグレン症候群、赤芽球癆、再生不良性貧血、1型糖尿病、狼瘡、ループス腎炎、円形脱毛症、及びアジソンについては、KLRG1陽性細胞を枯渇させることも望ましくあり得る。
【0018】
特定の例示的な実施形態は今から、本明細書に開示される抗体、その断片、物質の組成物、キット、ならびに関連する方法及び療法の構造、機能、製造、ならびに使用の原理の全体的な理解を提供するために説明される。当業者は、本明細書に説明される開示が例示的な実施形態であること、及び本開示の範囲が特許請求の範囲によってのみ定義されていることを理解するであろう。1つの例示的な実施形態と関連して示されるまたは説明される特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わせられ得る。かかる変更及び変化は、本開示の範囲内に包含されることが企図される。
【0019】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書における本開示の説明で使用される用語は、具体的な実施形態を説明する目的のためにのみあるのであって、本開示、及び本明細書で説明されるまたは他の方法で提供されるいかなる発明(複数可)の制限となるよう企図するものではない。
【0020】
アミノ酸は、本明細書において、確立された用法に従って、一文字表記または三文字表記のいずれかによって表される。
【0021】
本明細書で引用される全ての公表物、特許出願、特許、特許公開、及び他の参考文献は、参照が提示される文及び/または段落に関連する教示について、参照によりそれらの全体が組み込まれる。
【0022】
文脈が別段明らかに示さない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲の説明で使用されるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数形も同様に含むことが意図される。
【0023】
本明細書で使用されるとき、「及び/または」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のいかなる及び全ての可能な組み合わせ、ならびに選択肢(「または」)で解釈されるときの組み合わせの欠如を指し、これらを包含する。
【0024】
本明細書で使用される「約」及び「おおよそ」という用語は、ポリペプチドの量、用量、時間、温度、酵素活性、または他の生物学的活性などの測定可能な値を指す場合、指定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、+0.5%、またはさらには±0.1%の変化を包含することを意味する。
【0025】
「本質的にからなる(consisting essentially of)」という移行句は、請求項の範囲が、当該請求項において列挙された指定の材料またはステップ、及び特許請求された本発明の「基本的なかつ新規の特性(複数可)に実質的に影響を及ぼさないもの」を包含すると解釈されることを意味する。
【0026】
本開示のポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列に適用される場合、「本質的にからなる(consists essentially of)」という用語(及び文法上の異形体)は、列挙される配列(例えば、配列番号)と、ポリペプチドの機能が実質的に変化しないように、列挙される配列のN末端及び/またはC末端上への合計10個以下(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の追加のアミノ酸との両方からなるポリヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する。合計10個以下の追加のアミノ酸は、両端の追加のアミノ酸を一緒に加算した総数を含むことができる。
【0027】
本明細書で使用される「有効量」は、所望の効果を提供する量である。「有効量」という用語は、KLRG1の活性を低下させて、患者の症状の改善をもたらすか、または所望の生物学的転帰、例えば、KLRG1の活性の低下、リンパ球共抑制応答の調節、細胞傷害性T細胞及びNK細胞の活性化の上昇もしくは低下、または細胞傷害性T細胞もしくはNK細胞によるIFNγの放出の増大もしくは減少を達成するのに十分な、抗体または抗原結合断片の投与量または量を指す。
【0028】
本明細書で使用される「治療有効量」は、何らかの臨床上の改善または利益を対象へ提供する量である。言い換えれば、「治療有効」量は、対象における少なくとも1つの臨床症状において何らかの緩和、軽減、または減少をもたらす量である。当業者であれば、何らかの利益が対象に提供される限り、治療効果が完全または治癒的である必要はないことを理解するであろう。
【0029】
「処置する」、「処置すること」、または「の処置」という用語は、対象の容態の重症度が低減されるか、または少なくとも部分的に改善もしくは修正されること、及び少なくとも1つの臨床症状の何らかの緩和、軽減、または低減が達成されることを意図する。
【0030】
T細胞及び/またはNK細胞ならびに/またはKLRG1発現がん細胞に関して本明細書で使用される「枯渇させる」という用語は、対象におけるまたは試料中の当該細胞の数の測定可能な減少を指す。低減は、少なくとも約10%、例えば、少なくとも約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはそれより大であり得る。特定の実施形態において、当該用語は、対象におけるまたは試料中のT細胞及び/またはNK細胞ならびに/またはKLRG1発現がん細胞の数が検出可能な限界を下回る量まで減少することを指す。
【0031】
「自己免疫障害」という用語は、自己免疫反応と関係するいかなる障害も指す。例としては、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎、狼瘡、及び炎症性腸疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書で使用される「がん」という用語は、細胞のいかなる悪性異常成長も指す。例としては、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、皮膚癌、膵癌、結腸癌、黒色腫、悪性黒色腫、卵巣癌、脳腫瘍、原発性脳腫瘍、頭頸部癌、神経膠腫、神経膠芽腫、肝癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、頭頸部癌腫、乳癌腫、卵巣癌腫、肺癌、小細胞肺癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、精巣癌、膀胱癌腫、膵癌腫、胃癌、結腸癌腫、前立腺癌腫、腎尿路生殖器癌、甲状腺癌、食道癌、骨髄腫、多発性骨髄腫、副腎癌、腎細胞癌、子宮内膜癌、副腎皮質癌、悪性膵インスリノーマ、悪性カルチノイド癌、絨毛癌、菌状息肉症、悪性高カルシウム血症、子宮頚部過形成、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性顆粒球性白血病、有毛細胞白血病、神経芽腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、真性多血症、本態性血小板増加症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、軟部組織肉腫、骨肉腫、原発性マクログロブリン血症、及び網膜芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、がんは、腫瘍形成がんの群から選択される。当業者は、どのがんがその群の範囲内にあるかを認識するであろう。
【0033】
がんの別の例は、骨髄異形成症候群(MDS)である。
【0034】
本明細書で使用される場合、「移植」という用語は、その元の天然の部位または宿主から取り出され、同じ人間または別個の個体における新たな位置へ移される、組織の切片または完全な器官を指す。移植のレシピエントを処置するための方法は、特に哺乳動物において、器官または組織の移植片拒絶反応を阻害する方法に関する。より具体的には、本開示は、移植片拒絶反応を阻害することを必要とする哺乳動物における移植拒絶反応を阻害する方法に関し、この方法は、かかる哺乳動物へ、KLRG1を特異的に結合する抗体及びその断片を含む、移植拒絶反応阻害量の抗KLRG1結合薬を投与することを含むことができる。
【0035】
本明細書で使用する場合の「単離された」という用語は、細胞材料、ウイルス材料、及び/または培養培地(組換えDNA技法によって産生される場合)、または化学物質前駆体もしくは他の化学物質(化学的に合成される場合)を実質的に含まないポリペプチドを指す。さらに、「単離された断片」は、断片として天然に存在せず、天然状態では認められないポリペプチドの断片である。「単離された」とは、調製物が技術的に純粋(均一)であることを意味するのではなく、ポリペプチドまたは核酸を、意図した目的のために使用することができる形態で提供するのに十分に純粋であることを意味する。したがって、「単離された」という用語は、その天然環境を実質的に含まない分子を指す。例えば、単離されたタンパク質は、細胞材料またはそれが由来する細胞源もしくは組織源からの他のタンパク質を実質的に含まない。「単離された」という用語はまた、単離されたタンパク質が、医薬組成物として投与されるのに十分に純粋であるか、またはおおよそ少なくとも70~80%(w/w)純粋である、より好ましくはおおよそ少なくとも80~90%(w/w)純粋である、さらにより好ましくはおおよそ90~95%純粋である、及び最も好ましくはおおよそ少なくとも95%、おおよそ少なくとも96%、おおよそ少なくとも97%、おおよそ少なくとも98%、おおよそ少なくとも99%、もしくはおおよそ少なくとも100%(w/w)純粋である調製物も指す。
【0036】
ポリペプチドに適用される場合、本明細書で使用される「断片」という用語は、参照のポリペプチドまたはアミノ酸配列と比較して長さが短く、かつ参照のポリペプチドまたはアミノ酸配列と同一またはほぼ同一(例えば、おおよそ90%、おおよそ92%、おおよそ95%、おおよそ98%、おおよそ99%同一)の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むか、本質的にそれからなるか、及び/またはそれからなる、アミノ酸配列を指す。本開示によるかかるポリペプチド断片は、適宜、その構成要素である大きめのポリペプチドに含まれ得る。いくつかの実施形態において、かかる断片は、本開示によるポリペプチドまたはアミノ酸配列の少なくとも約4、約5、約6、約8、約10、約12、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約100、約150、約200、またはそれより多数の連続したアミノ酸の長さを有するペプチドを含むか、本質的にそれからなるか、及び/またはそれからなることができる。
【0037】
本明細書で使用されるとき、「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、別途示されない限り、互換的に使用され、ペプチド及びタンパク質の両方を包含する。
【0038】
本明細書で使用される融合タンパク質は、天然では一緒に融合しているのが見つかっていない2つ(またはそれより多数)の異なるポリペプチドをコードする2つの異種ヌクレオチド配列またはその断片が、正しい翻訳リーディングフレームで一緒に融合する場合に生成されるポリペプチドを指す。例示的な融合ポリペプチドとしては、グルタチオン-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、またはレポータータンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなど)、赤血球凝集素、cーMyc、FLAGエピトープなどの全部または一部に対する本開示のポリペプチド(またはその断片)の融合体が挙げられる。
【0039】
本明細書で使用される「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語は、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEを含む、全てのタイプの免疫グロブリンを指す。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、ヒト、ヒト化を含むいかなる起源種でもあり得るか、あるいはキメラ抗体であり得る。抗体は、例えば、米国特許第4,474,893号または米国特許第4,816,567号に開示される方法によって生成される組換えモノクローナル抗体であり得る。抗体はまた、例えば、米国特許第4,676,980号に開示される方法によって、化学的に構築することもできる。
【0040】
本明細書で使用する「抗原結合ドメイン」、「抗原結合断片」、及び「結合断片」という用語は、抗体と抗原との間の特異的結合を担うアミノ酸を含む抗体分子の一部を指す。抗原が大きい事例では、抗原結合ドメインは、抗原の一部へのみ結合し得る。抗原結合ドメインとの特異的相互作用を担う抗原分子の一部は、「エピトープ」または「抗原決定基」と称される。
【0041】
「KLRG1と関係する障害」という句は、本明細書で使用される場合、KLRG1タンパク質及び/またはKLRG1の発現が、疾患、障害、または容態における原因、病理的性質、副作用、症状、または他の態様において役割を担っているいかなる疾患、障害、または容態も指す。かかる障害の例としては、自己免疫障害(例えば、封入体筋炎(IBM)、多発性硬化症、及び関節リウマチ)、移植障害、1型糖尿病、及びがん(例えば、黒色腫、前立腺癌、ならびに特定の白血病およびリンパ腫、例えば、成熟T及びNK細胞リンパ腫ならびにT細胞大顆粒リンパ球性白血(TーLGLL))が挙げられるが、これらに限定されない。KLRG1と関係する障害の他の例としては、微生物(例えば、細菌)、ウイルス(例えば、インフルエンザなどの全身性ウイルス感染症、ヘルペスまたは帯状疱疹などのウイルス性皮膚疾患)、または寄生虫による感染が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
KLRG1と関係する障害の別の例は、骨髄異形成症候群(MDS)である。
【0043】
本明細書で使用する「KLRG1活性」という用語は、KLRG1と関係する1つ以上のリンパ球共抑制性活性を指す。例えば、KLRG1活性は、細胞傷害性T細胞及びNK細胞の活性化の調節を意味し得る。
【0044】
「調節する」という用語及びその同系語は、抗KLRG1抗体との相互作用に起因する、T細胞及びNK細胞の活性化と関係するKLRG1の活性の低下または上昇を指すのであって、その低下または上昇は、同じ抗体の不在下でのKLRG1の活性と比較される。活性の低下または上昇は、好ましくは、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、またはそれより大である。KLRG1活性が低下する場合、「調節性の」及び「調節する」という用語は、「抑制性の」及び「抑制する」という用語と互換性がある。KLRG1活性が上昇する場合、「調節性の」及び「調節する」という用語は、「活性化している」及び「活性化する」という用語と互換性がある。
【0045】
抗体及び組成物
本明細書に説明する抗体などの抗体は、免疫系において少なくとも2つの機能を呈する。抗体は、抗原、例えばKLRG1を結合し、補体系の活性化、またはマクロファージなどの食細胞にある細胞受容体(Fc受容体)、及び/またはNK細胞、白血球、血小板、及び胎盤栄養芽細胞などの他の免疫細胞にある細胞受容体(Fc受容体)との相互作用、を含むがこれらに限定されない免疫グロブリンエフェクター機能を介して、抗原を発現する細胞を含むこれらの抗原を排除する。KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合するが、KLRG1へのE-カドヘリン、N-カドヘリン、またはRーカドヘリンの結合と競合せず、かつ対象へ投与されるとKLRG1を発現する細胞を枯渇させる、抗体またはその断片が本明細書に開示される。
【0046】
抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)、及び補体依存性細胞傷害性(CDC)は、標的細胞を殺滅する、従って枯渇させるための3つの周知の抗体介在性機序である。
【0047】
機序または理論に拘束されることを望むものではないが、抗体の抗原結合領域(可変ドメイン)を経た標的細胞への抗体の結合は、抗体の定常領域のFc領域(複数可)を経た免疫エフェクターへの標的細胞の結合を提供することができる。ADCCにおいて、典型的には、抗体のFc領域は、免疫エフェクター細胞、例えば、NK細胞上のFcγRIIIa受容体へ結合し、次いで、標的細胞を殺滅することができる。ADCPにおいて、典型的には、抗体のFc領域は、免疫エフェクター細胞、例えば、マクロファージ細胞上のFcγRIIa受容体へ結合し、次いで、標的細胞を貪食及び殺滅することができる。免疫複合体C1qが標的細胞へ結合した抗体のFc領域へ結合すると、CDCが誘導され、標的細胞の表面内へと孔を開ける膜攻撃複合体の形成の引き金となる。
【0048】
したがって、抗体の定常領域は、補体の活性化及びFc受容体との相互作用を含むエフェクター機能に介在し、ADCC、ADCP、またはCDCなどの効果を可能にする。CH1ドメインもCκドメインまたはCλドメインもエフェクター機能に介在せず、このことは、FabがADCC、ADCP、またはCDCを示さない理由である。
【0049】
Fcγ受容体には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、及びFcγRIII(CD16)の3つのクラスがある。FcγRIのみが単量体形態でIgGを結合することができ、免疫グロブリン受容体FcγRII及びFcγRIIIと比較してFcγRI受容体の親和性は高い。高親和性受容体FcγRlは、単球、マクロファージ、及び樹状細胞上で構成性発現しており、発現は、好中球及び好酸球上で誘導されることができる。したがって、これらの細胞は、標的細胞へ結合した、Fc領域を含む抗体またはその抗体断片を通じて、標的細胞へ動員されることができる。
【0050】
FcγRIIa受容体は、マクロファージ、単球、及び好中球上に認められ、FcγRIIb受容体は、B細胞、マクロファージ、マスト細胞、及び好酸球上に認められる。FcγRIIIa受容体は、NK細胞、マクロファージ、好酸球、単球、及びT細胞上に認められ、FcγRIIIb受容体は、好中球上で高水準で発現する。ここでもまた、これらの種々の細胞型は、標的細胞へ結合したfc領域を含む抗体またはその抗体断片を通じて標的細胞へ結合した抗体によって、標的細胞へ動員されることができる。
【0051】
したがって、いくつかの態様において、本明細書に開示される抗体およびその抗原結合断片を含む、KLRG1結合分子は、抗体定常ドメインまたはその断片と一緒にKLRG1抗原結合部位を含む。このことは、ADCC、ADCP、またはCDCを含むがこれらに限定されないエフェクター機能に介在するように機能することができる。いくつかの態様において、KLRG1結合分子は、国際特許出願公開第WO02/44215号に説明されているように、抗体の抗原結合部位及びペプチド結合Fc-エフェクター分子からなるか、またはこれらを含む。
【0052】
免疫グロブリンとしても公知のインタクトな抗体は、典型的には、各々おおよそ25キロダルトン(kDa)の2つの軽(L)鎖と、各々おおよそ50kDaの2つの重(H)鎖とから構成される四量体グリコシル化タンパク質である。抗体がグリコシル化され得る例示的な炭水化物部分は、フコース部分である。λ鎖及びκ鎖として示される2つのタイプの軽鎖が、抗体において認められる。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、免疫グロブリンは、5つの主要なクラス、すなわち、A、D、E、G、及びMに割り当てられることができ、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2へとさらに分けられ得る。
【0053】
異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び3次元配置は、当該技術分野で周知である。簡潔に述べると、各軽鎖は、N末端可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)から構成されることができる。各重鎖は、N末端可変ドメイン(VH)、3つまたは4つの定常ドメイン(CH)、及びヒンジ領域から構成することができる。VHに最も近位のCHドメインは、CH1と呼ばれる。VHドメイン及びVLドメインは、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3、及びFR4)と呼ばれる比較的保存された配列の4つの領域からなるか、またはそれらで構成され、CDRと呼ばれる高度可変配列の3つの領域のための足場を形成する。CDRは、抗原との特異的相互作用を担う残基のほとんどを含有することができる。3つのCDRは、CDR1、CDR2、及びCDR3と称される。重鎖のCDR成分は、H1、H2、及びH3と称されるのに対し、軽鎖のCDR成分は適宜、L1、L2、及びL3と呼ばれる。CDR3、及び特H3は、抗原結合ドメイン内の分子多様性の最大の源である。H3は、例えば、26を超える2つのアミノ酸残基のように短くあることができる。
【0054】
本開示の範囲内に含まれる抗体断片の例としては、Fab、Fab′、F(ab′)2、及びFv断片;ドメイン抗体、ダイアボディ、二重特異性抗体;ヴァクシボディ(vaccibody)、直鎖状抗体;一本鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多特異的抗体が挙げられる。かかる断片は、既知の技法によって製造することができる。例えば、F(ab’)2断片は、抗体分子のペプシン消化によって製造することができ、Fab断片は、F(ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することによって生成することができる。あるいは、Fab発現ライブラリーは、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速かつ容易な特定を可能にするように構築することができる(Huse et al,Science 1989 Dec 8;246(4935):1275-1281を参照されたい)。
【0055】
Fab断片(抗原結合断片)、またはFabは、定常領域間のジスルフィド結合によって共有結合したVH-CH1及びVL-CLのドメインからなるか、またはそれらを含む。当業者に既知であるが、Fab(大きさ約50kDa)は、分子内ジスルフィド結合によって結合したVH,CH1及びVL,CL領域からなるか、またはそれらで構成される、IgG及びIgMから製造される一価の断片である。宿主細胞において共発現させたときにFv中の非共有結合したVH及びVLのドメインが解離する傾向を克服するために、一本鎖(sc)Fv断片(scFv)を構築することができる。scFvにおいて、可撓性のかつ十分に長いポリペプチド、VHのC末端をVLのN末端へ、またはVLのC末端をVHのN末端へ、のいずれかで連結する。最も一般的には、15残基(Gly4Ser)3ペプチド(配列番号15)は、リンカーとして使用することができるが、他のリンカーも当該技術分野で公知である。
【0056】
抗体多様性は、可変領域をコードする複数の生殖系列細胞遺伝子と種々の体細胞事象との組合せ集合の結果である。体細胞事象には、完全なVH領域を作製するための多様部(D)及び結合部(J)の遺伝子セグメントとの可変部遺伝子セグメントの組換え、ならびに完全なVL領域を作製するための可変部及び結合部の遺伝子セグメントの組換えが含まれ得る。組換えプロセス自体は不正確であり、V(D)J接合部でアミノ酸の喪失または付加をもたらす。これらの多様性の機序は、抗原曝露に先立って発生中のB細胞において生じる。抗原刺激後、B細胞内で発現した抗体遺伝子は体細胞突然変異を起こし得る。
【0057】
Fundamental Immunology,3rd ed.,ed.Paul,Raven Press,New York, N.Y.,1993によると、生殖系列細胞遺伝子セグメントの推定数、これらのセグメントのランダムな組換え、及びランダムVH-VL対合に基づいて、最大おおよそ1.6×107個の異なる抗体を製造することができる。Immunoglobulin Genes,2nd ed.,eds.Jonio et al.,Academic Press,San Diego,Calif.,1995によって裏付けられるように、抗体多様性に寄与する他のプロセス(体細胞変異など)を考慮に入れると、おおよそ1×1010個以上の異なる抗体が潜在的に生成され得ると考えられる。抗体の多様性に多くのプロセスが関与するために、独立して生成された抗体がCDRならびに重鎖及び軽鎖可変領域において同一のアミノ酸配列を有する可能性はほとんどない。
【0058】
本開示は、細胞表面KLRG1を発現する細胞を枯渇させる上で有効である、新規の可変重鎖及び完全重鎖配列を提供する。CDRを担持するための足場構造は、一般に、抗体の重鎖もしくは軽鎖またはその一部分であり得るが、それに限定されず、CDRは、天然に存在するVH及びVLのCDRに対応する位置に位置する。免疫グロブリン可変ドメインの構造及び位置は、例えば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,No.91-3242,National Institutes of Health Publications,Bethesda,Md.,1991に記載されているように決定することができる。
【0059】
特定の実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号4を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号11(CDR-L1)、配列番号12(CDR-L2)、及び配列番号13(CDR-L3)の3つの軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域を含む。これらの態様のいくつかの態様において、抗体またはその断片は、配列番号4を含む重鎖可変領域、及び配列番号5を含む軽鎖可変領域を含む。これらの実施形態のいくつかの態様において、抗体またはその断片は、配列番号6を含む重鎖を含む。あるいは、または加えて、抗体またはその断片は、配列番号7を含む軽鎖を含む。これらの実施形態のより具体的な態様において、抗体またはその断片は、配列番号6を含む重鎖、及び配列番号7を含む軽鎖を含む。
【表1】
【表2】
【0060】
いくつかの実施形態において、開示される抗体またはその断片が結合するKLRG1は、ヒトKLRG1またはカニクイザルKLRG1であり得る。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、少なくとも5個の連続するアミノ酸を含むエピトープPLNFSRI(配列番号14)またはその断片を特異的に結合することができる。
【0061】
いくつかの実施形態において、抗体は、抗体アミノ酸配列が、配列番号4、5、6、または7と少なくとも約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはそれを超えて同一である配列を含む限り、結合の特異性及び/またはKLRG1発現細胞枯渇薬である能力を保有すると予想することができる。これらの実施形態のいくつかの態様において、抗体またはその断片は、配列番号8~13の重鎖CDR及び軽鎖CDRを保有する。これらの態様の各々において、重鎖可変領域は、配列番号4、及び配列番号11~13の軽鎖CDRを含む。同一性の百分率は、例えば、Altshul et al.(1990)J.Mol.Biol.,215:403-410に記載されるBasic Local Alignment Tool(BLAST)などの標準的な整列アルゴリズム、Needleman et al.(1970)J.Mol.Biol.,48:444-453のアルゴリズム、またはMeyers et al.(1988)Comput.Appl.Biosci.,4:11-17のアルゴリズムによって決定することができる。Appl.Biosci.,4:11-17。
【0062】
いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、モノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態において、モノクローナル抗体またはその断片は、キメラ抗体またはその断片を含む。いくつかの実施形態において、モノクローナル抗体またはその断片は、ヒト化抗体、またはその断片を含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、モノクローナル抗体またはその断片は、配列番号4を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号11(CDR-L1)、配列番号12(CDR-L2)、及び配列番号13(CDR-L3)の3つの軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域を含む。これらの実施形態のいくつかの態様において、モノクローナル抗体またはその断片は、配列番号4を含む重鎖可変領域、及び配列番号5を含む軽鎖可変領域を含む。これらの実施形態のいくつかの態様において、モノクローナル抗体またはその断片は、配列番号6を含む重鎖を含む。これらの実施形態のいくつかの態様において、モノクローナル抗体またはその断片は、配列番号7を含む軽鎖を含む。これらの実施形態のいくつかのより具体的な態様において、モノクローナル抗体またはその断片は、配列番号6を含む重鎖、及び配列番号7を含む軽鎖を含む。
【0064】
いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号4を含む重鎖可変領域、配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖、またはそれとおおよそ90%の配列同一性、例えば、それと少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、もしくは約99%同一の配列同一性を有する配列、ならびに軽鎖CDR配列番号11(CDR-L1)、配列番号12(CDR-L2)、及び配列番号13(CDR-L3)を含む軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号6のアミノ酸配列の少なくとも50個の連続するアミノ酸を含む重鎖、または当該連続するアミノ酸と、例えば、少なくとも約100個もしくは約150個もしくは約200個もしくはそれより多数の連続するアミノ酸とおおよそ少なくとも90%同一の配列を含む重鎖を含む。
【0065】
いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号4を含む重鎖可変領域、配列番号7のアミノ酸配列またはそれとを含むおおよそ90%の配列同一性、例えば、それと少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、もしくは約99%同一の配列同一性を有する配列を含む軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号7のアミノ酸配列の少なくとも50個の連続するアミノ酸を含む軽鎖、または当該連続するアミノ酸と、例えば、少なくとも約100個もしくは約150個もしくは約200個もしくはそれより多数の連続するアミノ酸とおおよそ少なくとも90%同一の配列を含む軽鎖を含む。
【0066】
いくつかの実施形態において、抗体またはその断片は、配列番号4を含む重鎖可変領域、配列番号6のアミノ酸配列またはそれとおおよそ少なくとも90%の配列同一性を有する、例えば、少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、もしくは約99%同一の配列を含む重鎖を含み、及び配列番号7のアミノ酸配列、またはそれとおおよそ少なくとも90%の配列同一性を有する、例えば、少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、もしくは約99%同一の配列を含む軽鎖を含む。
【0067】
KLRG1発現細胞の枯渇
処置を必要とする対象においてKLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させる方法が本明細書に開示される。本明細書に提供される方法は、処置を必要とする対象へ、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する、有効量の本明細書に開示されているものなどの抗体またはその断片などのKLRG1枯渇薬を送達し、それにより対象においてKLRG1発現T細胞を枯渇させることを含む。
【0068】
処置を必要とする対象における過剰の及び/または望ましくないKLRG1発現T細胞と関係する障害を処置する方法であって、対象へ、治療有効量のKLRG1枯渇薬(例えば、上述に開示される抗KLRG1抗体)を送達することを含む方法もまた本明細書に開示される。KLRG1枯渇薬は、KLRG1発現T細胞を枯渇させることができ、対象への送達は、過剰のまたは望ましくないKLRG1発現T細胞を枯渇させる。
【0069】
本方法のいくつかの実施形態において、障害は、移植関連障害であり得、対象への送達は、対象における移植された組織を攻撃するKLRG1発現病原性T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させる。本方法のいくつかの実施形態において、障害は、対象への送達が対象における自己組織を攻撃するKLRG1発現病原性T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させる、自己免疫疾患(例えば、封入体筋炎)であり得る。
【0070】
対象におけるがんを処置する方法であって、がんがKLRG1を発現するがん細胞を含む方法もまた本明細書に開示される。この方法は、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する、治療有効量の本明細書に開示される抗体またはその断片などのKLRG1枯渇薬を対象へ送達することを含むことができる。
【0071】
成熟細胞傷害性T細胞及びNK細胞上に存在することが公知の細胞表面マーカーであるKLRG1は、特定の成熟T細胞及びNK細胞リンパ腫及び白血病にもまた存在する(実施例1~8を参照されたい)。本明細書に記載の処置方法は、他の特定の成熟T細胞及びNK細胞リンパ腫/白血病の中でも、KLRG1枯渇薬が進行性NK細胞白血病(ANKL)、NK-T細胞リンパ腫(NKTCL)、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCK)、γ-δT細胞リンパ腫の処置において有用であり得るという発見に関する。例えば、処置方法は、本明細書に記載の抗体またはその断片を含む,有効量のKLRG1枯渇薬(例えば、KLRG1発現細胞枯渇薬)を投与することを必要とする対象へ、それを投与することを含むことができる。加えて、本明細書に記載の抗体またはその断片の抗体薬物複合体(ADC)は、新生物のT細胞またはNK細胞の数を排除するまたは低減させることができる。本明細書に開示されるADCは、以下に記載されるように、毒性薬または別の治療薬を含み得る。
【0072】
いくつかの実施形態において、KLRG1を発現する細胞の増殖を包含する特定の白血病及びリンパ腫が処置される。KLRG1は、通常、T細胞及びNK細胞、特に成熟T細胞及びNK細胞の亜集団において発現する。いくつかの血液学的新生物は、成熟T細胞及びNK細胞の増殖を包含しているので、これらの腫瘍細胞は、KLRG1をしばしば発現する。処置され得る例示的な白血病及びリンパ腫としては、T細胞性前リンパ性白血病、T細胞性大顆粒リンパ球性白血病、NK細胞の慢性リンパ増殖異常症、進行性NK細胞白血病、小児期の全身性EBV陽性T細胞リンパ腫、種痘様水疱症様リンパ増殖異常症、成人T細胞白血病/リンパ腫、NK/T細胞リンパ腫、腸症型T細胞リンパ腫、単一型上皮向性腸管T細胞リンパ腫、くすぶり型と予後不良因子とがない慢性型の消化管T細胞リンパ増殖異常症、肝脾T細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T細胞リンパ腫、菌状息肉症、セザリー症候群、原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖異常症、リンパ腫様丘疹症、原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫、原発性皮膚γ-δT細胞リンパ腫、原発性皮膚CD8陽性進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫、原発性皮膚末端型CD8陽性T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小型/中型T細胞リンパ増殖異常症、末梢T細胞リンパ腫の非特定型、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、TFH表現型を有する結節性末梢T細胞リンパ腫、ALK1陽性未分化大細胞型リンパ腫、ALK1陰性未分化大細胞型リンパ腫、及び乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫が挙げられる。
【0073】
特に、進行性NK細胞白血病(ANKL)及びNK/T細胞リンパ腫(NKTCL)は、ある範囲の疾患を構成し得かつ本明細書に開示される抗体の投与によって処置され得る関連障害である。いくつかの肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)がγ/δT細胞受容体を発現する場合、HSTCL及びHSTCLと重積するγ-δT細胞リンパ腫(GDTCL)もまた、本明細書に開示される抗体及び方法を使用して処置され得る。
【0074】
チェックポイント療法を受けている対象など、対象におけるがんの処置のための補助療法が本明細書に開示される。補助療法は、がんがKLRG1を発現するか否かに関わらず行うことができる。補助療法は、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する、抗体またはその断片など、治療有効量のKLRG1枯渇薬を対象へ送達することを含むことができる。対象への送達は、対象における自己組織を攻撃するKLRG1発現病原性T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることによって、KLRG1活性を変調することができる。
【0075】
細胞の混合集団においてKLRG1発現細胞を枯渇させる方法が本明細書に開示される。KLRG1発現細胞は、T細胞及び/またはNK細胞及び/またはがん細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞を含むことができる。この方法は、KLRG1へ特異的に結合しかつKLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞及び/またはがん細胞を枯渇させる、抗体またはその断片など、有効量のKLRG1枯渇薬を細胞の混合集団へ送達し、それによって細胞の混合集団におけるKLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞及び/またはがん細胞を枯渇させることを含むことができる。
【0076】
ナイーブT細胞及び/または調節性T細胞を相対的に温存しながらKLRG1発現CD8エフェクターT細胞を選択的に枯渇させる方法が、本明細書に開示される。この方法は、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する治療有効量の抗体またはその断片を対象へ送達し、それによってKLRG1発現CD8エフェクターT細胞を選択的に枯渇させることを含むことができる。
【0077】
KLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を選択的に枯渇させることを必要とする対象において、当該細胞を選択的に枯渇させる方法が、本明細書に開示される。この方法は、KLRG1の細胞外ドメインへ特異的に結合する、治療有効量の抗体またはその断片を対象へ送達し、それによって対象におけるKLRG1発現T細胞及び/またはNK細胞を枯渇させることを含むことができる。
【0078】
KLRG1発現細胞の枯渇のための手段としての免疫毒素
いくつかの態様において、本開示によって提供される抗体及び/またはその抗原結合断片は、毒性薬へ結合しており、したがって、標的細胞、例えば、細胞表面KLRG1を発現する病原性細胞及び/またはがん細胞を枯渇させるために、ADCC、ADCP、またはCDCにおける内在性エフェクター細胞に必ずしも依存しない。
【0079】
1つ以上の細胞毒素を含む免疫複合体は、「免疫毒素」と称される。細胞毒性のある作用薬、薬物、またはこれらに類するものへ結合した抗体はまた、抗体薬物複合体(ADC)としても公知である。免疫複合体は、抗体薬物複合体が内在化し分解されかつ、放出された毒素による細胞殺滅を誘導するのに十分な期間の半減期を有し得る。細胞毒素または細胞毒性薬には、細胞に対して有害である(例えば、細胞を殺滅する)いずれかの作用薬を含むことができる。本開示の免疫複合体を形成するための適切な細胞毒性作用薬としては、タキソール、ツブリシン、デュオスタチン、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、メイタンシンまたはその類似体もしくは誘導体、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、及びピューロマイシン;カリケアマイシンまたはその類似体もしくは誘導体、代謝拮抗薬(メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、クラドリビンなど)、アルキル化薬(メクロレタミン、チオエパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC、シスプラチン、及びカルボプラチンなどの他の白金誘導体;ならびにデュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA、CC-1065(別名、ラケルマイシン)、またはCC-1065の類似体もしくは誘導体)、ドラスタチン、アウリスタチン、ピロロ[2,1-c][1,4]ベンゾジアゼピン(PDB)、インドリノベンゾジアゼピン(IGN)、またはその類似体、抗生物質(ダクチノマイシン(旧アクチノマイシン)、ブレオマイシン、ダウノルビシン(旧ダウノマイシン)、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、ミトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC)など)、ジフテリア毒素及び関連分子(ジフテリアA鎖及びその活性断片ならびに複合分子など)などの抗有糸分裂薬(例えば、チューブリンターゲティング薬);リシン毒素(リシンAまたは脱グリコシル化リシンA鎖毒素など)、コレラ毒素、志賀様毒素(SLT-I、SLT-II、SLT-IIV)、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、ダイズBowman-Birkプロテアーゼ阻害薬、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素、アロリン、サポリン、モデシン、ゲラニン、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害薬、クルシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、及びエノマイシン毒素が挙げられる。他の適切な結合分子としては、CLIP、マガイニン2、メリチン、セクロピン、及びP18などの抗菌性/溶解性ペプチド、リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)、DNアーゼI、ぶどう球菌エンテロトキシンA、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジフテリア毒素、ならびにシュードモナス(Pseudomonas)外毒素が挙げられる。
【0080】
補足的治療薬
本開示の抗体であって、その断片及びその複合体を含む抗体は、任意選択的に、他の治療薬と併せて患者へ送達することができる。追加の治療薬は、本開示の抗体と併行して送達することができる。本明細書で使用されるとき、「併行して」という語は、併用効果を生み出すのに十分に近い時間を意味する(すなわち、併行してというのは、同時であり得るか、または、併行してというのは、互いの前または後の短い期間内に発生する2つ以上の事象であり得る)。特定の実施形態において、他の治療薬は、ADCを形成するために、本明細書に開示される抗体または断片へ結合させることができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、本開示の抗体は、ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン)、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシド及びテニポシド)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、及びマイトマイシン(マイトマイシンC))、酵素(例えば、L-アスパラギナーゼ)、生物学的応答修飾因子(例えば、インターフェロン-α)、白金配位錯体(例えば、シスプラチン及びカルボプラチン)、アントラセンジオン(例えば、ミトキサントロン)、置換尿素(例えば、ヒドロキシ尿素)、メチルヒドラジン誘導体(例えば、プロカルバジン(N-メチルヒドラジン,MH))、副腎皮質抑制薬(例えば、ミトタン(o,P’-DDD)及びアミノグルテチミド)、副腎皮質ステロイド(例えば、プレドニゾン)、プロゲスチン(例えば、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、及び酢酸メゲストロール)、エストロゲン(例えば、ジエチルスチルベストロール及びエチニルエストラジオール)、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン)、アンドロゲン(例えば、テストステロンプロピオナート及びフルオキシメステロン)、抗アンドロゲン(例えば、フルタミド)、及び 生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体(例えば、ロイプロリド)などの抗がん薬と併せて投与することができる。いくつかの実施形態において、本開示の抗体は、VEGFに対する抗体(例えば、ベバシズマブ(アバスチン)、ラニビズマブ(ルセンティス))、及び血管新生の他のプロモーター(例えば、bFGF、アンギオポイエチン1)、α-v/β-3血管インテグリンに対する抗体(例えば、ビタキシン)、アンギオスタチン、エンドスタチン、ダルテパリン、ABT-510、CNGRCペプチドTNFアルファ複合体(配列番号16として開示される「CNGRC」)、シクロホスファミド、コンブレタスタチンA4ホスファート、ジメチルキサンテノン酢酸、ドセタキセル、レナリドミド、エンザスタウリン、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン安定化ナノ粒子製剤(アブラキサン)、ダイズイソフラボン(ゲニステイン)、クエン酸タモキシフェン、サリドマイド、ADH-1(エクスヘリン)、AG-013736、AMG-706、AZD2171、ソラフェニブトシラート(sorafenib tosylate)、BMS-582664、CHIR-265、パゾパニブ、PI-88、バタラニブ、エベロリムス、スラミン、スニチニブリンゴ酸塩、XL184、ZD6474、ATN-161、シレンギチド、及びセレコキシブなどの抗血管新生薬と併せて投与することができる。
【0082】
自己免疫疾患の処置または移植処置における処置を含むがこれらに限定されないいくつかの実施形態において、本開示の抗体は、例えば、シクロスポリンA、ラパマイシン、グルココルチコイド、アザチオプリン、ミゾリビン、アスピリン誘導体、ヒドロキシクロロキン、メトトレキサート、シクロホスファミド、及びFK506(タクロリムス)を含む免疫抑制薬と併せて投与することができる。特定の実施形態において、免疫抑制薬は、ADCを形成するために、本明細書に開示される抗体または断片へ結合させることができる。
【0083】
抗KLRG1抗体は、任意選択的に、抗体定常領域またはその部分を含み得る。例えば、VLドメインは、そのC末端に、ヒトCκ鎖またはCλ鎖を含む抗体軽鎖定常ドメインを結合させていてもよい。同様に、VHドメインに基づく特異的抗原結合ドメインは、任意の抗体同位体、例えば、IgG、IgA、IgE、及びIgM、ならびにIgG1及びIgG4を含むがこれらに限定されない、同位体サブクラスのいずれかに由来する免疫グロブリン重鎖の全部または一部を結合させていてもよい。のC末端断片についてのDNA配列及びアミノ酸配列は当該技術分野において周知である。
【0084】
「レパートリー」という用語は、発現した免疫グロブリンをコードする配列から全部または部分的に誘導されるヌクレオチドの遺伝的に多様な集合を指す。配列は、例えば、H鎖に対するV、D、及びJセグメント、ならびに例えば、L鎖に対するV及びJセグメントのインビボでの再配列によって生成することができる。あるいは、配列は、インビトロでの刺激に応答して再配列が生じる当該刺激によって細胞株から生成され得る。あるいは、配列の部分または全部は、ヌクレオチド合成、ランダム突然変異誘発、及び、例えば、米国特許第5,565,332号に開示されるような他の方法によって、例えば、再配列されていないVセグメントをD及びJセグメントと組み合わせることによって得られ得る。
【0085】
「特異的相互作用」及び「特異的結合」という用語は、生理学的条件下で比較的安定である複合体を形成する2つの分子を指す。特異的結合は、通常、中程度~高容量で低親和性を有する非特異的結合と区別されるように、高親和性及び低~中程度の容量を特徴とし得る。典型的には、結合は、親和性定数KAがおおよそ106M-1よりも高いとき、またはより好ましくはおおよそ108M-1よりも高いとき、特異的とみなされる。必要に応じて、非特異的結合は、例えば、結合条件を変化させることによって、特異的結合に実質的に影響を与えることなく、低減することができる。抗体の濃度、溶液のイオン強度、温度、結合に許容される時間、ブロッキング剤(例えば、血清アルブミン、乳カゼイン)の濃度などの適切な結合条件は、日常的な技法を使用して当業者によって最適化され得る。
【0086】
ある特定の実施形態において、抗体は、ヒトまたはマウスまたはサルKLRG1の細胞外ドメイン(ECD)内のエピトープを、少なくとも約2nM、約1nm、約100pM、約10pM、または約5pMのKDで表される親和性で特異的に結合することができる。ヒト及びカニクイザルKLRG1のECDのアミノ酸配列を、表1に列挙するように、配列番号1及び配列番号2に示す。
【0087】
抗体及びその断片を生成するための方法
本開示はまた、KLRG1に特異的な抗体を得るための方法も提供する。かかる抗体におけるCDRは、本明細書に開示されるVH及びVLの具体的な配列に限定されず、これらの配列の変異体を含み得る。かかる変異体は、当該技術分野で周知の技術を用いて当業者によって、本明細書に提供される配列から得られ得る。例えば、アミノ酸の置換、欠失、または付加は、フレームワーク領域(FR)において及び/またはCDRにおいて行うことができる。FRの変更は通常、抗体の安定性及び免疫原性を改善するように設計され得るが、CDRの変更は、典型的には、抗体の標的に対する抗体の親和性を高めるように設計され得る。
【0088】
FRへの変更には、非ヒト由来をヒト化すること、または抗原接触のためにもしくは結合部位を安定化するために重要である特定のフレームワーク残基を操作すること、例えば、米国特許第5,624,821号及び同5,648,260号、ならびにLund et al.(1991)J. Immun.147:2657-2662及びMorgan et al.(1995)Immunology 86:319-324に記載の通り、Fc受容体絵都合などのエフェクター機能を変化させ得る具体的なアミノ酸残基を変化させることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
FRの変異体には、天然に存在する免疫グロブリンアロタイプも含まれる。かかる親和性の高まる変化は、CDRを改変すること、及び親和性抗体の標的に対する親和性抗体を試験することを包含する日常的な技法によって経験的に決定され得る。例えば、保存的アミノ酸置換は、開示されるCDRのうちのいずれか1つ内で行われ得る。種々の改変は、例えば、Antibody Engineering,2nd ed.,Oxford University Press,ed.Borrebaeck,1995に記載される方法に従って行うことができる。これらには、限定されないが、配列内の機能的に等価なアミノ酸残基をコードする異なるコドンの置換によって改変され、したがって「サイレント」変化を生じるヌクレオチド配列が含まれる。例えば、非極性アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが挙げられる。極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが挙げられる。正に帯電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが挙げられる。負に帯電した(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。配列内のアミノ酸の置換基は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバー(すなわち、非極性、極性中性、塩基性、または酸性)から選択され得る。
【0090】
一実施形態において、置換は、表3に列挙される例示的な保存的置換から選択され得る。
【表3】
【0091】
さらに、ポリペプチド中の任意の天然残基もまた、アラニンで置換され得る(例えば、MacLennan et al.(1998)Acta Physiol.Scand.Suppl.643:55-67、Sasaki et al.(1998)Adv.Biophys.35:1-24を参照されたい)。
【0092】
本開示の抗体は、抗体が産生された種以外の種との適合性に関して改変され得または突然変異し得る。例えば、抗体は、ヒト化またはラクダ化され得る。非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそれらの断片(例えば、Fv、Fab、Fab1、F(ab′)2、または抗体の他の抗原結合部分配列)である。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含み、レシピエントのCDRからの残基は、所望の特異性、親和性、及び容量を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基により置き換えられる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基で置き換えることができる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも、移入されたCDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含んでもよい。概して、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことができ、CDR領域の全てまたは実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク(FR)領域(すなわち、CDR領域間の配列)の全てまたは実質的に全ては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体はまた、最適に、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部分を含むことができる。
【0093】
ある特定の実施形態では、VH及び/またはVLドメインは、生殖系列化(germlined)されていてもよく、すなわち、これらのドメインのフレームワーク領域(FR)は、生殖系列細胞によって産生されるものと一致するように従来の分子生物学技法を使用して突然変異させられる。他の実施形態では、フレームワーク配列は、コンセンサス生殖系列配列から乖離したままである。
【0094】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野で周知である。本開示、及び本明細書に提供される任意の発明(複数可)は、任意の特定の供給源、起源の種、または製造の方法に限定されない。一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである起源からヒト化抗体へと導入される1つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、典型的に「移入」可変ドメインから取られるため、「移入」残基と称されることが多い。ヒト化は、本質的に、Winter及び共同研究者の方法(Jones et al.,Nature,321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature,332:323-327(1988)、Verhoeyen et al.,Science,239:1534(1988))に従って、齧歯類CDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列に置換することによって行うことができる。したがって、このようなヒト化抗体は、キメラ抗体(米国特許第4,816,567号)であり、実質的に決して未処置ではない非ヒト可変ドメインが、非ヒト種からの対応する配列により置換されている。実際に、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基(例えば、CDR全部またはその一部)及びおそらくいくつかのFR残基は、齧歯類抗体における類似部位からの残基により置換されたヒト抗体である。
【0095】
ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーを含む、当該技術分野において公知の様々な技法を使用して産生されることもできる(Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.227:381(1991)、Marks et al,J.Mol Biol 222:581(1991))。ColeらおよびBoernerらの技法も、ヒトモノクローナル抗体の調製に使用可能である(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985)、及びBoerner et al.,J.Immunol.,147:86(1991))。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を遺伝子導入動物、例えば、内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたマウスへと導入することによって作製されることができる。負荷時に、遺伝子再配列、集合、及び抗体レパートリーを含む全ての点でヒトにおいて見られるものと非常に類似するヒト抗体産生が観察される。このアプローチは、例えば、米国特許第9,434,782号、第9,253,965号、第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、及び第5,661,016号において、ならびに以下の科学的な公表物において記載されている。Lee,E-Chiang et al.“Complete humanization of the mouse immunoglobulin loci enables efficient therapeutic antibody discovery”Nature Biotechnology volume 32,pages 356-363(2014)、Marks et ah,Bio/Technology 10:779(1992)、Lonberg et l,Nature 368:856 (1994)、Morrison, Nature 368:812 (1994)、Fishwild et ah, Nature Biotechnol.14:M5(1996)、Neuberger,Nature Biotech 14:826(1 96)、Lonberg and Huszar,Intern,Rev.Immunol 13:65(1995)。
【0096】
本開示を実施するために使用されるモノクローナル抗体は、Kohler and Milstein,Nature 265:495(1975)の技法により、ハイブリドーマ細胞株で産生されることができる。例えば、適切な抗原を含有する溶液をマウスに注射し、十分な時間の後、マウスを屠殺し、脾細胞を得ることができる。次いで、脾細胞を、例えば、典型的にはポリエチレングリコールの存在下で、骨髄腫細胞またはリンパ腫細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を産生することによって不死化させることができる。次いで、ハイブリドーマ細胞は、適切な培地で成長させることができ、上清は、所望の特異性を有するモノクローナル抗体についてスクリーニングされることができる。モノクローナルFab断片は、当業者に公知の組換え技術によってE.coliにおいて産生されることができる。標的ポリペプチドに特異的な抗体はまた、当技術分野で周知のようにファージディスプレイ技術により得ることができる。
【0097】
様々なイムノアッセイをスクリーニングに使用して、KLRG1の細胞外ドメインに対して所望の特異性を有する抗体を特定することができる。確立された特異性を有するモノクローナル抗体を用いた競合的結合分析または免疫放射定量分析のための多くのプロトコルが当該技術分野で周知である。かかるイムノアッセイは典型的には、抗原とその特異的抗体との間の複合体形成(例えば、抗原/抗体複合体形成)の測定を包含する。本開示のポリペプチドまたはペプチド上の2つの非干渉エピトープに反応するモノクローナル抗体を利用する2部位のモノクローナルベースのイムノアッセイを、競合結合アッセイと同様に使用することができる。
【0098】
本明細書に記載される抗KLRG1抗体は、公知の技術に従って、固体支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンなどの材料から形成されるビーズ、プレート、スライド、またはウェル)に結合することができる。本明細書に記載される抗KLRG1抗体は、同様に、公知の技術に従って、放射性標識(例えば、従来の化学的特性を使用して抗体へ結合し得る35S、125I、131Iまたは99mTc)、酵素標識(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ)、及び蛍光標識(例えば、フルオレセイン)などの検出可能な基へ結合させることができる。検出可能な標識は、特定の同族検出可能な部分、例えば、標識アビジンへの結合を介して検出され得る、ビオチンなどの化学部分をさらに含む。本開示の方法における抗体/抗原複合体の形成の決定は、例えば、沈降、凝集、フロキュレーション、放射能、発色または変色、蛍光、発光などの検出によるものであり得、当該技術分野で周知である。
【0099】
上述のように、本明細書に記載される抗KLRG1抗体は、別の機能的分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質(アルブミン、別の抗体など)、毒素、放射性同位体、細胞傷害性作用薬、または細胞分裂抑制薬へ連結することができる。例えば、抗体は、化学架橋によってまたは組換え法によって、かかる他の機能分子へ連結することができる。抗体はまた、米国特許第4,640,835号、同第4,496,689号、同第4,301,144号、同第4,670,417号、同第4,791,192号、及び同第4,179,337号に記載される様式で、様々な非タンパク質性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアルキレンのうちの1つへも連結することができる。抗体は、例えば、それらの循環半減期を延長させるために、ポリマーへの共有結合によって化学修飾され得る。例示的なポリマー及び当該ポリマーを結合させる方法はまた、米国特許第4,766,106号、同第4,179,337号、同第4,495,285号、及び同第4,609,546号において示されている。
【0100】
本明細書に記載の抗KLRG1抗体はまた、天然パターンとは異なるグリコシル化パターンを有するように改変され得る。例えば、1つ以上の炭水化物部分を欠失させ、及び/または1つ以上のグリコシル化部位を元の抗体へ付加することができる。本開示の抗体へのグリコシル化部位の付加は、当該技術分野で公知のグリコシル化部位コンセンサス配列を含有するようにアミノ酸配列を変更することによって達成することができる。かかる方法は、国際特許出願公開第WO87/05330号、及びAplin et al.(1981)CRC Crit.Rev.Biochem.,22:259-306に記載されている。グリコシル化の低減は、かかる部位を構成する1つまたは2つのアミノ酸を変更することによってグリコシル化部位を除去することによって達成することができる。抗体からのいかなる炭水化物部分の除去もまた、化学的または酵素で、例えば、Hakimuddin et al.(1987)Arch.Biochem.Biohys.,259:52、及びEdge et al.(1981).Biochem,118:131によって、ならびにThotakura et al.によって記載されるとおり、達成され得る。
【0101】
一実施形態において、抗体またはその断片は、1つ以上のフコシル化アミノ酸残基を含有し得る。別の実施形態において、抗体またはその断片は、いかなるフコシル化アミノ酸残基も欠失させ得、及び/またはいかなる他のグリコシル化アミノ酸残基も欠失させ得る。フコシル化の欠失は、抗体またはその断片の製造条件から生じ得るか、または当業者に公知の技術によって影響され得る。
【0102】
特定の実施形態において、モノクローナル抗体またはその断片は、キメラ抗体またはヒト化抗体であり得る。さらなる実施形態において、キメラ抗体またはヒト化抗体は、モノクローナル抗体のCDRの少なくとも一部を含む。本明細書で使用される場合、CDRの「部分」は、CDRを構成する軽鎖および重鎖の各々からの(例えば、CDRの1~6からの)3つのループのうちの1つ以上、または少なくとも3つの連続するアミノ酸を含む、本質的にそれからなる、またはそれからなるループのうちの1つ以上の部分として定義される。例えば、キメラ抗体またはヒト化抗体は、1、2、3、4、5、もしくは6個のCDRループ、1、2、3、4、5、もしくは6個のCDRループの部分、またはそれらの混合物を、いずれかの組み合わせで含み得る。
【0103】
核酸、クローン化、及び発現系
本開示は、開示された抗体をコードする単離された核酸をさらに提供する。核酸は、DNAまたはRNAを含んでもよく、全体的または部分的に合成または組換えであってもよい。本明細書に示されるヌクレオチド配列への言及は、文脈上別段の必要がない限り、特定の配列を有するDNA分子を包含し、TがUで置換される特定の配列を有するRNA分子を包含する。
【0104】
本明細書に提供される核酸は、本明細書に開示されるCDR、VHドメイン、及び/またはVLドメイン、完全長重鎖、ならびに/または完全長軽鎖についてのコード配列を含むことができる。本開示はまた、本明細書に開示されるCDR、VHドメイン、及び/またはVLドメイン、完全長重鎖、ならびに/または完全長軽鎖をコードする少なくとも1つの核酸を含むことができる、プラスミド、ベクター、ファージミド、転写または発現カセットの形態の構築物を提供する。本開示は、上述のような1つ以上の構築物を含み得る宿主細胞をさらに提供する。
【0105】
いずれかのCDR(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、またはCDR-L3)、VHドメイン及び/またはVLドメイン、重鎖及び/または軽鎖をコードする核酸、ならびにコードされた産物を作製する方法も提供される。この方法は、コード核酸からコードされた産物を発現することを含み得る。発現は、例えば、核酸を含有する組換え宿主細胞を適切な条件下で培養することによって達成され得る。VHドメインまたはVLドメインの発現による産生に続いて、特異的結合メンバーは、任意の適切な技術を使用して単離及び/または精製され得、次いで、適切に、かつ当業者によって理解されるように使用され得る。
【0106】
種々の異なる宿主細胞におけるポリペプチドのクローン化及び発現のためのシステムは、当該技術分野で周知である。抗体を産生するのに適した細胞については、Gene Expression Systems,Academic Press,eds.Fernandez et al.,1999を参照されたい。簡潔には、好適な宿主細胞としては、細菌、植物細胞、哺乳動物細胞、ならびに酵母系及びバキュロウイルス系が挙げられる。異種ポリペプチドの発現のために当該技術分野で利用可能な哺乳動物細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOマウス骨髄腫細胞、及び多くの他の細胞が挙げられる。一般的な細菌宿主は、E.coliである。本発明と適合性のある任意のタンパク質発現系を使用して、開示される抗体を産生し得る。好適な発現系としては、Gene Expression Systems,Academic Press, eds.Fernandez et al.,1999に記載されるトランスジェニック動物が挙げられる。
【0107】
好適なベクターは、プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子、及び必要に応じて他の配列を含む、適切な調節配列を含有するように選択または構築することができる。ベクターは、必要に応じて、プラスミドまたはウイルス、例えば、ファージもしくはファージミドであってもよい。さらなる詳細については、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2012を参照されたい。例えば、核酸構築物の調製、突然変異誘発、配列決定、細胞へのDNAの導入及び遺伝子発現、ならびにタンパク質の分析における核酸の操作のための多くの公知の技法ならびにプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology,2nd Edition,eds.Ausubel et al.,John Wiley & Sons,1992において詳細に記載されている。
【0108】
本開示のさらなる態様は、本明細書に開示される核酸を含むかさもなくば本開示から誘導可能な核酸を含む宿主細胞を提供する。本開示のなおもさらなる態様は、かかる核酸を宿主細胞へと導入することを含む方法を提供する。導入は、任意の利用可能な技法を用いることができる。真核細胞の場合、好適な技法としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム介在性トランスフェクション、ならびにレトロウイルスもしくは他のウイルス、例えば、ワクシニア、または昆虫細胞についてはバキュロウイルスを使用した形質導入が挙げられ得る。細菌細胞の場合、好適な技法としては、塩化カルシウム形質転換、エレクトロポレーション、及びバクテリオファージを使用したトランスフェクションが挙げられ得る。細胞内への核酸の導入に続いて、例えば、遺伝子の発現のための条件下で宿主細胞を培養することによって、核酸からの発現を引き起こすか、またはそれを可能にすることができる。
【0109】
医薬組成物及び投与方法
本開示は、本明細書に記載の少なくとも1つのKLRG1枯渇薬、抗KLRG1抗体、及び/またはその断片、及び/またはその結合体及び/または融合タンパク質を含む、本明細書に記載の組成物を提供する。本開示の組成物は、任意選択的に、薬用品、医薬品、担体、薬学的に許容され得る担体、アジュバント、分散剤、希釈剤などを含み得る。かかる組成物、薬学的使用及び患者への投与に好適であり得る。「薬学的に許容され得る」とは、生物学的または他の様式では望ましくないことのない材料を意味し、すなわち、毒性などのいかなる望ましくない生物学的効果も引き起こすことなく、当該材料を対象へ投与することができる。組成物は典型的には、本開示の1つ以上の抗体と、薬学的に許容され得る賦形剤と、を含む。「薬学的に許容され得る賦形剤」という句は、薬学的投与と適合するあらゆる全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌薬及び抗真菌薬、等張化剤、ならびに吸収遅延剤などを含む。薬学的活性のある物質のためのかかる媒体及び作用薬の使用は、当該技術分野で周知である。組成物はまた、補足的、追加の、または増強された治療機能を提供する他の活性化合物も含有し得る。薬学的組成物は、投与のための指示書とともに、容器、パック、またはディスペンサーに含まれていてもよい。
【0110】
当業者は、全体として本開示の利益とともに、ラクトース、グルコース、ならびにスクロース等の糖類;トウモロコシデンプンならびにジャガイモデンプン等のデンプン;セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロース等のその誘導体;粉状トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバターならびに坐剤ワックス等の賦形剤;落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ならびにダイズ油等の油;プロピレングリコール等のグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ならびにポリエチレングリコール等のポリオール;オレイン酸エチルならびにラウリン酸エチル等のエステル;寒天;水酸化マグネシウムならびに水酸化アルミニウム等の緩衝剤;界面活性剤;アルギン酸;発熱物質非含有水;等張性塩類溶液;リンガー液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;ヒスチジン緩衝液;薬学的製剤において採用される他の非毒性の適合性材料が挙げられるがこれらに限定されない様々な薬学的に許容される担体を使用することができることを理解するであろう。薬学的に許容される担体は、例えば、FDAによって指定される「安全であると一般にみなされる」(GRAS)物質を含むことができる。
【0111】
本開示の組成物は、公知の技術に従って、薬学的担体中での投与のために製剤することができる。本開示による薬学的製剤の製造において、化合物(生理学的に許容され得るその塩を含む)は、典型的には、とりわけ、許容され得る担体と混合することができる。担体は、固体もしくは液体、またはその両方であることができ、化合物を単位用量製剤、例えば錠剤として化合物と共に製剤することができ、これはおおよそ0.1重量%またはおおよそ0.5重量%からおおよそ95重量%またはおよそ99重量%または99体積%の化合物を含有することができる。1つ以上の化合物は、本開示の製剤中に組み込むことができ、これは、当業者に公知の薬剤学の技術のいずれかによって調製することができる。
【0112】
本開示の薬学的組成物は、その意図した投与経路と適合しているように製剤することができる。投与を達成する方法は、当業者に公知である。投与は、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、皮下、及び/または経皮であり得る。局所もしくは経口を含む他の方法で投与され得る、または経粘膜送達をすることができ得る組成物を得ることも可能であり得る。
【0113】
皮内または皮下適用に使用される液剤または懸濁剤としては、典型的には、以下の成分のうちの1つ以上が挙げられる:注射用水、生理塩類溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート化剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝剤;及び塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性の調整のための作用薬。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる。かかる製剤は、アンプル、使い捨て注射器、または例えばガラス製もしくはプラスチック製の複数回用量バイアルに封入してもよい。
【0114】
注射に好適な薬学的組成物は、滅菌注射液もしくは分散液を即時調製するための滅菌水溶液もしくは分散液及び滅菌粉末を含む。静脈内投与では、好適な担体として、生理塩類溶液、静菌水、クレモフォールEL(BASF、Parsippany、N.J.)、またはリン酸緩衝塩類溶液(PBS)が挙げられる。典型的には、組成物は無菌であるものとし、容易な注射可能条件が存在する程度まで流体であるものとする。組成物は、製造及び保管の条件下で安定であるものとし、細菌及び真菌等の微生物の混入作用から保護されるものとする。微生物作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどを含む種々の抗菌薬及び抗真菌薬によって達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖ならびに/または、マンニトール、ソルビトール、及び塩化ナトリウムなどの多価アルコールを組成物中に含むことが好ましい。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びそれらの好適な混合物を含有する、溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用して、分散液の場合における必要な粒径の維持によって、及び/または界面活性剤を使用して維持することができる。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を延長させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、及びゼラチンを含めることによってもたらすことができる。
【0115】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または可食性担体を含む。経口組成物は、ゼラチンカプセル内に封入され得るか、または場合によっては錠剤へと圧縮され得る。経口投与のために、抗体を賦形剤と組み合わせ、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形態で使用することができる。薬学的に適合性のある結合剤及び/またはアジュバント材料は、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の成分のいずれか、または同様の性質の化合物を含有することができる:微結晶性セルロース、トラガカントガム、またはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたはラクトースなどの賦形剤;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはトウモロコシでんぷんなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはSterotesなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;スクロースまたはサッカリンなどの甘味剤;あるいはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料などの香料。
【0116】
全身投与は、経粘膜的または経皮的手段によって行うこともできる。経粘膜投与または経皮投与のために、浸透するバリアに適切な浸透剤を製剤に使用することができる。かかる浸透剤は一般に当該技術分野で公知であり、例えば、界面活性剤、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、例えば、ロゼンジ剤、点鼻用スプレー剤、吸入剤、または坐剤を使用して達成され得る。例えば、Fc部分を含む抗体の場合、組成物は、腸、口腔、または肺の粘膜を横断して(例えば、米国特許第6,030,613号に記載されるFcRn受容体介在経路を介して)送達することが可能であり得る。経皮投与の場合、活性化合物は、例えば、当該技術分野で一般的に公知の軟膏、ジェル剤、またはクリーム剤へと製剤され得る。吸入による投与の場合、抗体は、好適な噴霧剤、例えば、二酸化炭素などのガスを含有することができる加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからのエアゾールスプレーの形態で送達され得る。
【0117】
ある特定の実施形態において、本開示の抗体は、インプラント及びマイクロカプセル化送達系を含む制御放出製剤など、体からの急速な排出から化合物を保護するよう構成された担体を用いて調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及び/またはポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。かかる製剤の調製のための方法は、当業者に明らかである。本明細書に開示される抗体を含有するリポソーム懸濁剤もまた、薬学的に許容される担体として使用することができる。当該リポソーム懸濁剤は、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるように、当業者に公知の方法により調製することができる。
【0118】
経口または非経口組成物を、投与の容易さ及び投与量の均一性のために単位剤形に製剤することが有利であり得る。本明細書で使用される「単位剤形」という用語は、処置される対象のために単位薬用量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な薬学的担体と関連して所望の治療効果がもたらされるように計算された所定の量の活性化合物を含有する。
【0119】
本開示の組成物の毒性及び治療有効性は、例えば、LD50(集団のおおよそ50%に対して致死的な用量)及びED50(集団のおおよそ50%における治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって、決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は、治療指数であり、それは、LD50/ED50比として表すことができる。大きな治療指数を呈する組成物が典型的には好ましい。
【0120】
本開示で使用される、または本開示から得られ得る任意の組成物について、治療有効量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。好適なバイオアッセイの例としては、DNA複製アッセイ、サイトカイン放出アッセイ、転写ベースのアッセイ、KLRG1/カドヘリン結合アッセイ、免疫学的アッセイ、他のアッセイ、例えば、下記の実施例に記載されるようなものが挙げられるが、これらに限定されない。細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータを、ヒトで使用するための投与量範囲の策定に使用することができる。用量は、IC50を含む循環血漿濃度範囲(すなわち、症状の最大半量阻害を達成する抗体の濃度)を達成するために動物モデルで策定できる。血漿における循環レベルは、例えば、高性能液体クロマトグラフィーによって測定され得る。任意の特定の投与量の効果を、好適なバイオアッセイによって監視することができる。投与量は、好ましくは、毒性がほとんどまたは全くない循環濃度の範囲内にある。投与量は、採用される剤形及び利用される投与経路に少なくとも一部応じて変化し得る。あるいは、本開示の抗体または本開示から得られ得る抗体を、全身様式よりもむしろ局所様式で、例えばデポー製剤または徐放性製剤で投与することができる。
【0121】
本明細書に記載の任意の抗体の医薬組成物は、静脈内投与に適したいずれかの形態であり得る。
【0122】
本開示のさらなる態様は、本明細書に提供される方法に使用するための、または本開示を考慮して他の方法で得られ得るキットに関する。キットは、対象への投与に適した形態で、及び/または製剤への配合に適した形態で、本開示の少なくとも1つ以上の抗体もしくはその断片、及び/または本開示から得られ得る1つ以上の抗体を含むことができる。キットは、治療薬、担体、緩衝剤、容器、投与用のデバイスなどの他の構成要素をさらに備えることができる。キットは、治療用途、診断用途、及び/または研究用途のために設計することができ、追加の構成要素は、意図した用途に適したものとすることができる。当業者は、この性質のキットに含めるのに適した様々なかかる構成要素を認識するであろう。キットは、例えば、障害の処置のためのラベル及び/または説明書をさらに備えることができる。かかるラベル表示及び/または説明書は、例えば、抗体の投与の量、頻度、及び方法に関する情報を含むことができる。本開示を考慮して、当業者は、キットの一部として組み合わせて含まれ得る説明書のタイプを理解するであろう。説明書は、本明細書に提供されるか、または本開示を考慮して当業者によって得られ得る。
【実施例】
【0123】
実施例1:肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)
肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)に罹患している4人の患者からの腫瘍生検からの発現データ(GSE57520)の遺伝子発現解析を行い、3人の患者からの正常脾と比較した発現は、KLRG1の発現上昇を示した(13.0倍比)(
図1)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0124】
実施例2:肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)
肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)に罹患している4人の患者からの腫瘍生検からの発現データ(GSE19067)の遺伝子発現解析を行い、発現を11人の患者からのNK細胞株及び3人の患者からのγ-δT細胞株と比較し、KLRG1の発現の上昇を示した(NK細胞株と比較して10.0倍の比率)(
図2)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0125】
実施例3:肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)
肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)に罹患している5人の患者からの腫瘍生検からの発現データ(GSE11946)の遺伝子発現解析を行い、発現を、他のタイプの末梢T細胞リンパ腫(PTCL)に罹患している11人の患者からの腫瘍生検と比較し、KLRG1の発現上昇を示した(2.1倍比)(
図3)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、肝脾T細胞リンパ腫(HSTCL)は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0126】
実施例4:NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)。
NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)に罹患している19人の患者からの腫瘍生検からの発現データ(GSE19067)の遺伝子発現解析を行い、発現を11人の患者からのNK細胞株及び3人の患者からのγ-δT細胞株と比較し、KLRG1の発現の上昇を示した(NK細胞株と比較して2.2倍の比率)(
図4)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0127】
実施例5:菌状息肉症
菌状息肉症に罹患している2人の患者からの腫瘍生検からの発現データ(GSE19067)の遺伝子発現解析を行い、発現を11人の患者からのNK細胞株及び3人の患者からのγ-δT細胞株と比較し、KLRG1の発現の上昇を示した(NK細胞株と比較して9.1倍の比率)(
図5)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、菌状息肉症は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0128】
実施例6:菌状息肉症
菌状息肉症に罹患している6人の患者からの腫瘍生検からの発現データ(GSE39041)の遺伝子発現解析を行い、発現を3人の患者からの健常皮膚CD4陽性T細胞と比較し、KLRG1の発現の上昇を示した(3.1倍の比率)(
図6)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、菌状息肉症は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0129】
実施例7:T細胞及びNK細胞リンパ腫細胞株
T細胞及びNK細胞リンパ腫細胞株及び白血病細胞株からの発現データ(GSE114085)の遺伝子発現解析を行い、KARPAS-384(γ-δT細胞株)、KHYG-1(進行性NK細胞白血病)、及びMTA(進行性NK細胞白血病)を含む特定の細胞株におけるKLRG1の発現の上昇を示した(
図7)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、γ-δT細胞リンパ腫及び進行性NK細胞白血病は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0130】
実施例8:T細胞性前リンパ性白血病(T-PLL)
T細胞性前リンパ性白血病(T-PLL)に罹患している6人の患者由来の腫瘍生検からの発現データ(GSE5788)の遺伝子発現解析を行い、発現を8人の患者からの健常ドナーT細胞と比較し、KLRG1の発現の上昇を示した(1.4倍の比率)(
図8)。データセットを、National Center for BioinformaticsのGene Expressionオムニバスデータベースから得、KLRG1発現について解析した。そのため、T細胞性前リンパ性白血病は、本発明による療法のための特に魅力的な標的である。
【0131】
実施例9:HG1D03と比較したフコシル化ABC008の優れた純度
実施例9~12は、ABC108及びHG1D03と命名された抗体を指す。ABC008は、表2の配列番号4~配列番号13に示されるアミノ酸配列を特徴とする抗体であり、抗体はさらに脱フコシル化されている。ABC108は、ABC008と同一のアミノ酸配列を有し、野生型フコシル化を保持する。HG1D03は、KLRG1陽性T細胞において枯渇効果を及ぼすヒト化抗体である。HG1D03は、米国特許第11,180,561号において、重鎖及びκ鎖可変領域配列を含めて、より詳細に記載されている。
【0132】
ABC108及びHG1D03は、1LスケールでExpiCho発現系(Thermo Fisher)を用いて産生された。還元キャピラリー電気泳動(rCE)、非還元キャピラリー電気泳動(nrCE)、及びキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)を行い、3つの独立した実験において、4時間、7日、及び28日のストレス実験(実施例11~12に記載のストレス実験)において、主ピークの割合を測定した。結果は、HG1D03と比較して、ABC108の、CHO細胞産生中の優れた純度を示す(表4)。
【表4】
【0133】
実施例10.HG1D03と比較したABC108の優れた熱特性(融点及び凝集温度)
ABC108及びHG1D03は、1LスケールでExpiCho発現系(Thermo Fisher)を用いて産生された。融点(Tm)を全スペクトル蛍光によって測定し、小分子凝集塊形成(Tagg 266)及び大分子凝集塊形成(Tagg 473)を、UNCLE(Unchained Labs,Inc.)を使用して、静的光散乱(SLS)によって測定した。データを、3つの独立した実験において、4時間、7日間、及び28日間のストレス実験(実施例11~12に記載されているストレス実験)において収集した。結果は、HG1D03と比較して、ABC108について優れた熱特性(より高い融点及び凝集温度)を示す(表5)。
【表5】
【0134】
実施例11:HG1D03と比較したABC108の40℃ストレス試験後の優れた安定性
ABC108及びHG1D03をPBS中1mg/mLで、4時間、7日間、及び28日間40℃への曝露によって熱安定性ストレス試験に供した。非還元キャピラリー電気泳動(nrCE)及びキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)を行い、主ピークの割合を測定した。Tm1、Tagg 266、及びTagg 473パラメータを、UNCLEプラットフォームを使用して測定した。温度走査を、毎分0.3℃の走査速度で25℃から95℃まで行った。Tm値は、重心平均法(BCM)の解析によって計算した。純度の結果(表6)は、同様のrCE測定純度を示し、nrCE測定純度(例えば、28日間で85.5%対79.3%)及びcIEF測定純度(例えば、7日間で78.0%対41.6%)は、ABC108対HG1D03について改善されている。熱特性についての結果(表7)は、ABC108対HG1D03について類似の、またはわずかに優れた熱特性を示す。
【表6】
【表7】
【0135】
実施例12:HG1D03と比較した、ABC108の低pH及び高pHストレス試験後の優れた安定性
ABC108及びHG1D03をPBS中1mg/mLで4時間、7日間、及び28日間、低pH(3.5)、及び高pH(8.5)ストレス試験に供した。純度についての結果(表8)は、ABC108対HG1D03について測定された純度を高感度のキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)によって測定された改善された純度を示す。熱特性についての結果(表9~10)は、ABC108対HG1D03について類似の、またはわずかに優れた熱特性を示す。
【表8】
【表9】
【表10】
【0136】
実施例13:カニクイザルにおけるABC008によるKLRG1陽性血球の枯渇
カニクイザルに、ビヒクル対照またはABC008を5mg/kg、25mg/kg、または50mg/kgで皮下投与した。血液免疫細胞集団をFACSによってモニターした。ABC008は、KLRG1陽性CD8陽性T細胞集団のほぼ完全な枯渇をもたらした(
図9)。
【0137】
別の実験において、カニクイザルに、ビヒクル対照またはABC008を0.1mg/kg、0.3mg/kg、10mg/kg、または30mg/kgで、
図12に示す投与計画により複数回投与で皮下投与した。血液免疫細胞集団をFACSによってモニターした。0.1mg/kgのABC008は、KLRG1陽性CD8陽性T細胞集団において、おおよそ50%を超える低減をもたらした。0.3mg/kg以上のABC008を投与した場合、KLRG1陽性CD8陽性T細胞集団の枯渇はほぼ完全だった(
図12)。
【0138】
実施例14:IBMに罹患している患者におけるABC008によるKLRG1陽性血球の枯渇
IBMに罹患している3人の患者に、臨床試験NCT04659031においてABC008(0.1mg/kg皮下)の単回用量を投与した。血液免疫細胞集団をFACSによってモニターした。ベースラインにおいて、CD8 T細胞のKLRG1陽性%は50~88%であった。ABC008は、KLRG1陽性CD8陽性T細胞集団の46~96%のピーク枯渇をもたらした(
図10)。
【0139】
最初の3人の患者を第1のコホートとした。2つの追加のコホートで、IBMに罹患している各々3人の患者に、臨床試験NCT04659031においてABC008の単回用量を皮下投与した。用量は、コホート1:0.1mg/kg、コホート2:0.5mg/kg、コホート3:2.0mg/kgとした。
【0140】
血液免疫細胞集団をFACSによってモニターした。
図13に示すように、ベースラインにおいて、KLRG1陽性CD8 T細胞の割合は46~88%の範囲であった。
図14に示すように、ABC008の投与は、コホート1においてKLRG1陽性CD8陽性T細胞集団の約70%、ならびにコホート2及びコホート3の両方において約95%のピーク枯渇をもたらした。
【0141】
2人の追加の患者は、コホート3に含める要件を満たしており、C3P4及びC3P5として匿名にした。
図22に示すように、ベースラインでは、これら2人の患者におけるKLRG1陽性CD8 T細胞の割合は54~60%の範囲であった。
【0142】
図23は、コホート3を112日間追跡することによって
図14を補足する。
図23に示すように、3つのコホート全てにわたって、コホート1及びコホート2についてのKLRG1陽性CD8陽性T細胞集団は、投与後84日目から168日目までベースラインを約50~70%下回ったままであった。コホート3についてのKLRG1陽性CD8陽性T細胞集団は、投与112日後に約40%枯渇した。
【0143】
実施例15.IBMに罹患している患者におけるABC008による大顆粒リンパ球(LGL)の枯渇
IBMに罹患している3人の患者に、臨床試験NCT04659031においてABC008の単回用量0.1mg/kgを皮下投与した。血液免疫細胞集団をFACSによってモニターした。ベースラインにおいて、大顆粒リンパ球(CD3陽性CD57陽性LGL)T細胞のKLRG1陽性%は、64~98%であった。ABC008の投与は、CD3陽性CD57陽性LGL T細胞集団の40~100%のピーク枯渇をもたらした(
図11)。
【0144】
患者を168日間追跡した。2人は、CD3陽性CD57陽性LGL T細胞集団の持続的枯渇を示した(
図24)。
【0145】
2つの追加のコホートで、3人の患者のうちの1人及び5人の患者のうちの1人に、実施例14のコホート2及びコホート3について記載のように、ABC008の単回用量を投与し、血液免疫細胞集団をFACSによって168日間(コホート2)または28~112日間(コホート3)モニターした。
【0146】
コホート2については、大顆粒リンパ球(CD3陽性CD57陽性LGL)T細胞のベースラインKLRG1陽性%は、69~97%であった。ABC008の投与は、CD3陽性CD57陽性LGL T細胞集団の約90~100%のピーク枯渇、及びモニタリング期間の約40~80%の持続的枯渇をもたらした(
図25)。
【0147】
コホート3については、大顆粒リンパ球(CD3陽性CD57陽性LGL)T細胞のベースラインKLRG1陽性%は、47~85%であった。ABC008の投与は、CD3陽性CD57陽性LGL T細胞集団の約50~100%のピーク枯渇を、患者1(112日間モニター)については約25~55%の、及び患者3(84日間モニター)については90%超の持続的枯渇をもたらした(
図26)。
【0148】
実施例16.T細胞性大顆粒リンパ球性白血病(T-LGLL)に罹患している患者におけるABC008による大顆粒リンパ球(LGL)の枯渇。
T細胞性大顆粒リンパ球性白血病(T-LGLL)に罹患している3人の患者に、臨床試験において、1日目ならびに1、12、24、及び36週目にABC008を0.25mg/kg皮下投与する。血液免疫細胞集団をFACSによってモニターする。ABC008を受ける群は、LGL細胞の枯渇を示す。
【0149】
実施例17:調節性T細胞(Treg)は、IBMに罹患している患者においてABC008によって温存される。
3人のIBMに罹患している患者へ、臨床試験NCT04659031においてABC008(0.1mg/kg)の単回用量を皮下投与した。血液免疫細胞集団をFACSによってモニターした。ABC008は、Treg細胞集団の無視できる枯渇をもたらした(投与後21~84日目で約20%未満)(
図15)。
【0150】
3人のIBMに罹患している患者を各々含む3つのコホートに、実施例14に示したABC008を皮下投与した。FACSによってTreg細胞集団をモニターし、多発性硬化症に対するアレムツズマブの試験からの履歴データと比較した。ABC008の投与は、180日間にわたってTregの無視できる枯渇(ピーク枯渇約10%未満)をもたらした(
図16)。対照的に、アレムツズマブは、同じ期間にわたってTregの約75%を枯渇させた(
図16)。
【0151】
実施例18:セントラルメモリーT細胞は、IBMに罹患している患者においてABC008によって温存される。
各々が3人のIBMに罹患している患者を含む3つのコホートに、実施例14に示したABC008を皮下投与した。FACSによってセントラルメモリーT細胞集団をモニターし、多発性硬化症に対するアレムツズマブの試験からの履歴データと比較した。ABC008の投与は、180日間にわたってセントラルメモリーT細胞の無視できる枯渇(ピーク枯渇約25%未満)をもたらした(
図17)。対照的に、アレムツズマブは、同じ期間にわたってセントラルメモリーT細胞の約80%超を枯渇させた(
図17)。
【0152】
3人のIBMに罹患している患者を2つが含みかつ3つ目が5人の患者を含む3つのコホートへ、実施例14に示したABC008を皮下投与した。FACSによってセントラルメモリーT細胞集団をモニターし、多発性硬化症に対するアレムツズマブの試験からの履歴データと比較した。ABC008の投与は、180日間にわたってセントラルメモリーT細胞の約60%未満のピーク枯渇をもたらした(
図28)。対照的に、アレムツズマブは、同じ期間にわたってセントラルメモリーT細胞の約80%超を枯渇させた(
図28)。
【0153】
実施例19:IBMに罹患している患者におけるABC008の薬物動態。
IBMに罹患している患者へ、臨床試験NCT04659031においてABC008(0.1mg/kg)の単回用量を皮下投与した。
図18に示すように、ABC008は、モノクローナル抗体療法に典型的な長い吸収及び遅いクリアランスを示した。
【0154】
3人のIBMに罹患している患者を各々含む3つのコホートに、実施例14に示したABC008を皮下投与した。
図19に示すように、ABC008は、モノクローナル抗体療法に典型的な長い吸収及び遅いクリアランスを示した。
【0155】
実施例20:IBMに罹患している患者における疾患重症度に対するABC008の影響。
3人のIBMに罹患している患者における疾患の重症度は、臨床試験NCT04659031において、散発性封入体筋炎身体機能評価(sIFA)、封入体筋炎機能評価尺度(IBMFRS)、修正されたタイムアップアンドゴー(mTUG)、及び徒手筋力テスト(MMT12)の後に単回用量のABC008(0.1mg/kg)を皮下投与し、それに続いて同じ評価を56日間にわたって用いる評価によって評価された。
図20Aは、ABC008投与後の様々な時点での絶対的なsIFAスコアを示す。
図20Bは、様々な時点におけるmTUGの改善の割合を示す。
図20Cは、56日後の4つの評価全部における変化をまとめたものである。最も顕著な改善は、ベースラインで最も高いIBM疾患重症度を有していた患者第2番でみられた。
【0156】
図31A~
図31Cは、同じ臨床試験においてABC008の単回漸増皮下用量(0.1、0.5及び2.0mg/kg)を受けるIBM患者の3つのコホートにわたる組み合わせた機能的読出しについて、少なくとも56日目までのIBMFRS、MMT、及びmTUGの機能的安定性または改善に向かう傾向を示す。
【0157】
実施例21:ABC008またはABC108によるヒトCD8陽性CD57陽性LGLのインビトロ枯渇。
精製ヒトCD8陽性CD57陽性LGLを、ABC008、ABC108(ABC008のフコシル化形態)、またはアイソタイプ対照とともに、約0.1nM~約1mMの濃度でインキュベートした。ABC008は、CD8陽性CD57陽性LGLに対してABC108よりも高い効力を示した(
図21)。
【0158】
実施例22:ナイーブT細胞は、IBMに罹患している患者においてABC008によって温存される。
2つが3人のIBMに罹患している患者を含みかつ3つ目が5人の患者を含む3つのコホートへ、実施例14に示したABC008を皮下投与した。FACSによってナイーブT細胞集団をモニターし、多発性硬化症に対するアレムツズマブの試験からの履歴データと比較した。ABC008の投与は、180日間にわたってナイーブT細胞の約40%未満のピーク枯渇をもたらした(
図27)。対照的に、アレムツズマブは、同じ期間にわたってナイーブT細胞の約80%超を枯渇させた(
図27)。
【0159】
実施例23:CD8エフェクターメモリーT細胞は、IBMに罹患している患者においてABC008によって枯渇される。
2つが3人のIBMに罹患している患者を含みかつ3つ目が5人の患者を含む3つのコホートへ、実施例14に示したABC008を皮下投与した。FACSによってCD8エフェクターメモリーT(TEM)細胞集団をモニターし、多発性硬化症に対するアレムツズマブの試験からの履歴データと比較した。ABC008の投与は、TEM細胞の約50~75%のピーク枯渇をもたらし、112~180日間にわたって約30~50%の持続的枯渇をもたらした(
図29)。比較すると、アレムツズマブは、同じ期間にわたってTEM細胞の約80%超を枯渇させた(
図29)。
【0160】
実施例24:CD8末端分化型エフェクターメモリーT細胞は、IBMに罹患している患者においてABC008によって枯渇される。
2つが3人のIBMに罹患している患者を含みかつ3つ目が5人の患者を含む3つのコホートへ、実施例14に示したABC008を皮下投与した。FACSによってCD8末端分化型エフェクターメモリーT(TEMRA)細胞集団をモニターし、多発性硬化症に対するアレムツズマブの試験からの履歴データと比較した。ABC008の投与は、TEMRA細胞の約55~95%のピーク枯渇をもたらし、112~180日間にわたって約20~70%の持続的枯渇をもたらした(
図30)。比較すると、アレムツズマブは、同じ期間にわたってTEMRA細胞の約80%超を枯渇させた(
図29)。
【0161】
当業者であれば、本開示の趣旨または範囲を変更することなく実施され得る多数の変更及び変形を認識するであろう。かかる変更及び変形は、本開示の範囲内に包含される。本出願を通じて引用される全ての参考文献、特許、及び公開特許出願の全体の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0162】
参考文献
Swerdlow SH,et al.The 2016 revision of the World Health Organization classification of lymphoid neoplasms.Blood 2016;127(20):2375-90。
【0163】
Takata K,et al.Primary cutaneous NK/T-cell lymphoma,nasal type and CD56-positive peripheral T-cell lymphoma:a cellular lineage and clinicopathologic study of 60 patients from Asia.The American journal of surgical pathology 2015;39(1):1-12。
【0164】
Zing NPC,et al.Peripheral T-Cell Lymphomas:Incorporating New Developments in Diagnostics,Prognostication,and Treatment Into Clinical Practice-PART 2:ENKTL,EATL,Indolent T-Cell LDP of the GI Tract,ATLL,and Hepatosplenic T-Cell Lymphoma.Oncology(Williston Park)2018;32(8):e83-e9。
【国際調査報告】