(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】マルチウェルプレート親油性アッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20240725BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01N21/78 C
G01N21/03 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504870
(86)(22)【出願日】2022-08-02
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2022071609
(87)【国際公開番号】W WO2023012131
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ルフェーブル アポリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグナー ビョルン
【テーマコード(参考)】
2G057
【Fターム(参考)】
2G057AA01
2G057AB03
2G057AC01
2G057BA03
2G057CB01
(57)【要約】
本発明は、試験化合物の親油性を決定するための方法であって、a)マルチウェルプレートを提供する工程であって、ウェルは底部において親油性膜を含み、かつ前記マルチウェルプレートの底部は、前記マルチウェルプレートの液密の底部を生成するための液密バリアを含む、工程、b)工程a)の前記ウェル中の親油性膜に非極性溶媒を添加する工程、c)前記試験化合物を含む水溶液を工程b)の前記ウェルに添加する工程、およびd)分配平衡に達した後に前記水溶液中の前記試験化合物の量を決定する工程を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験化合物の親油性を決定するための方法であって、
a)マルチウェルプレートを提供する工程であって、ウェルは底部において親油性膜を含み、かつ前記マルチウェルプレートの底部は、前記マルチウェルプレートの液密の底部を生成するための液密バリアを含む、工程、
b)工程a)の前記ウェル中の親油性膜に非極性溶媒を添加する工程、
c)前記試験化合物を含む水溶液を工程b)の前記ウェルに添加する工程、および
d)分配平衡に達した後に前記水溶液中の前記試験化合物の量を決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記非極性溶媒がオクタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記親油性膜が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)またはポリカーボネート(PC)からなる群から選択され、好ましくはPVDF膜である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記マルチウェルプレートが96マルチウェルプレートであり、好ましくは、前記底部で液密ホイルと、好ましくはヒートシーリングホイルと溶接されたマルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記試験化合物の親油性値logDを計算する追加の工程e)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートであって、ウェルが前記ウェルの底部において親油性膜を含み、かつ前記マルチウェルプレートの底部が液密バリアを含む、マルチウェルプレート。
【請求項7】
前記親油性膜が、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)またはポリカーボネート(PC)からなる群から選択される、請求項6に記載の試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレート。
【請求項8】
前記液密バリアが、液密ホイル、好ましくはヒートシーリングホイルである、請求項6または7に記載の試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレート。
【請求項9】
前記親油性膜がPVDF膜である、請求項6~8のいずれか一項に記載の試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレート。
【請求項10】
前記マルチウェルプレートが96ウェルプレートである、請求項6~9のいずれか一項に記載の試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレート。
【請求項11】
前記マルチウェルプレートが、底部で液密ホイルと溶接されたマルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートである、請求項6~10のいずれか一項に記載の試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレート。
【請求項12】
化合物の親油性を決定するための前記方法が、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法である、請求項6~11のいずれか一項に記載の試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレート。
【請求項13】
マルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートであって、前記プレートの底部が液密ホイル、好ましくはヒートシーリングホイルで溶接されている、マルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物の親油性値の高、中および低を決定する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
親油性は、創薬において重要な分子特性である。薬物の親油性を正確に知ることは、膜透過、溶解度、分布容積、代謝安定性およびタンパク質結合などの医薬プロセスとの相関に有用である。親油性は、logP(中性種のオクタノール-水分配係数)またはlogD(荷電分子のオクタノール-水分配係数)のいずれかによって表される。
【0003】
通常、親油性は、従来の振盪フラスコ法(M.M.Abraham,H.S.Chadha,J.P.Dixon,およびA.J.Leo.Hydrogen bonding.Part 9.The partition of solutes between water and various alcohols.Phys.Org.Chem.7:712-716(1994)(非特許文献1))により決定される。手動で行う場合、この方法は非常に時間がかかる(1日当たり2~5個の化合物のみ)。しかし、迅速な類似体合成およびコンビナトリアルケミストリーのために、創薬で生成される化合物の数は劇的に増加した。この状況により、化合物の親油性を決定するための迅速かつ効率的な方法が要求されている。
【0004】
欧州特許第1705474号(特許文献1)は、2つのマルチウォールプレートからなる化合物の親油性を決定するためのアッセイ系を開示している。アッセイの完了後、溶媒中の化合物の濃度を測定し得るように、溶媒をプレートから除去しなければならない。さらに、分配平衡に達するまでアッセイ系を12時間インキュベートしなければならない。
【0005】
したがって、迅速で実行が容易であり、低可溶性化合物の親油性の決定を可能にする方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.M.Abraham,H.S.Chadha,J.P.Dixon,およびA.J.Leo.Hydrogen bonding.Part 9.The partition of solutes between water and various alcohols.Phys.Org.Chem.7:712-716(1994)
【発明の概要】
【0008】
第1の態様では、本発明は、試験化合物の親油性を決定するための方法であって、
a)マルチウェルプレートを提供する工程であって、ウェルは底部において親油性膜を含み、かつ前記マルチウェルプレートの底部は、前記マルチウェルプレートの液密の底部を生成するための液密バリアを含む、工程、
b)工程a)の前記ウェル中の親油性膜に非極性溶媒を添加する工程、
c)前記試験化合物を含む水溶液を工程b)の前記ウェルに添加する工程、および
d)分配平衡に達した後に前記水溶液中の前記試験化合物の量を決定する工程
を含む、方法を提供する。
【0009】
試験化合物の親油性を決定する方法の一実施形態では、非極性溶媒はオクタノールである。
【0010】
試験化合物の親油性を決定する方法の一実施形態では、親油性膜は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)またはポリカーボネート(PC)からなる群から選択され、好ましくはPVDF膜である。
【0011】
試験化合物の親油性を決定する方法の一実施形態では、マルチウェルプレートは96マルチウェルプレートであり、好ましくは、底部で液密ホイルと、好ましくはヒートシーリングホイルと溶接されたマルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートである。
【0012】
試験化合物の親油性を決定するための方法の一実施形態では、この方法は、試験化合物の親油性値logDを計算する追加の工程e)を含む。
【0013】
第2の態様では、本発明は、試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートであって、ウェルが前記ウェルの底部において親油性膜を含み、かつ前記マルチウェルプレートの底部が液密バリアを含む、マルチウェルプレートを提供する。
【0014】
試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートの一実施形態では、親油性膜は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)またはポリカーボネート(PC)からなる群から選択される。
【0015】
試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートの一実施形態では、液密バリアは、液密ホイル、好ましくはヒートシーリングホイルである。
【0016】
試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートの一実施形態では、親油性膜はPVDF膜である。
【0017】
試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートの一実施形態では、マルチウェルプレートは96ウェルプレートである。
【0018】
試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートの一実施形態では、マルチウェルプレートは、マルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートであって、前記プレートの底部が液密ホイル、好ましくはヒートシーリングホイルで溶接されている、マルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートである。
【0019】
試験化合物の親油性を決定するための方法で使用するためのマルチウェルプレートの一実施形態では、化合物の親油性を決定するための方法は、本発明の方法による方法である。
【0020】
第3の態様では、本発明は、マルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートであって、前記プレートの底部がヒートシーリングホイルで溶接されている、マルチスクリーン疎水性イモビロンP PVDF膜プレートを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
試験化合物は、あらゆる化学的または生物学的化合物であり得る。試験化合物は、例えば、有機化合物、タンパク質、ペプチドまたは核酸であり得る。有機化合物は、有機-無機分子も含み得る。本明細書で使用される有機-無機分子という用語は、少なくとも1つの無機原子が炭素原子に結合している有機分子を指す。無機原子は、すなわち、金属原子、例えば、ケイ素(Si)またはゲルマニウム(有機金属、すなわち有機分子のSiまたはGeバイオイソエステル)であり得る。
【0022】
試験化合物は、固体であっても液体であってもよい。試験化合物を水溶液に溶解する。試験化合物は、親油性化合物であっても親水性化合物であってもよい。
【0023】
本明細書で使用される場合、「マルチウェルプレート」という用語は、小さな試験管として使用される複数のウェルを有するプレートを指す。マルチウェルプレートは、24ウェル、48ウェル、96ウェルおよび384ウェルプレートとして市販されている。マルチウェルプレートは、例えばポリスチレン、ポリプロピレンおよびアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などの様々な材料で製造し得る。
【0024】
液密バリアは、好ましくは液密ホイル、好ましくはヒートシーリングホイルである。ヒートシーリングホイルするとき、シーリング材は最初にプレート上の所定位置に配置される。熱が数秒間均一に加えられ、その結果、シーリング材がプレートに結合して完全なシールが達成される。ヒートシーリングホイルは、例えばThermo Fisher scientific社から市販されている。
【0025】
本明細書で使用される場合、「非極性溶媒」という用語は、疎水性溶媒を指す。非極性溶媒は、例えば水などの極性溶媒と混和しないか、ほとんど混和しない。親油性化合物は、通常、極性溶媒よりも非極性溶媒に可溶性である傾向がある。非極性溶媒の誘電率は、通常、水よりも低い。疎水性溶媒の例は、有機溶媒、例えばオクタノールまたは脂肪族炭化水素(ドデカン、ヘキサデカンまたはハロゲン化炭化水素)である。
【0026】
水溶液は、例えば、目的のpH範囲内の高い緩衝能を有する水中の緩衝塩(すなわち、pH7.4で緩衝したリン酸塩またはTAPSO塩の水溶液)からなり得る親水性緩衝溶液であり得る。目的のpHは、pH0~14の範囲であり得、好ましくはpHは約7.4である。
【0027】
本明細書で使用される場合、「分配平衡」という用語は、試験化合物を含む水溶液と親油性膜に含浸させるために使用される非極性溶媒との間の分配の平衡を指す。好ましくは、分配平衡は0.1~24時間の間に達成され、より好ましくは2時間以内に達成される。
【0028】
本明細書で使用される場合、「親油性膜」という用語は、非極性溶媒用の膜を指す。そのような膜は、親油性材料をメッシュアウトするか、または細孔を有する層として形成されてもよい。好ましくは、細孔サイズまたはメッシュサイズは、0.01~100μmの範囲内である。親油性膜材料は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)またはポリカーボネート(PC)を含むが、これらに限定されない。
【0029】
親油性膜、好ましくはPVDF膜は、膜に非極性溶媒を塗布することによって含浸させ得、それによって膜は溶媒を完全に吸収し得る。溶媒は、すなわちディスペンサーによって塗布され得る。膜の表面に0.1μl-50μl/cm2の有機修飾剤を分注することを可能にする、例えばロボット液体処理システムなどのさらなる方法が当技術分野で知られている。
【0030】
水溶液中の試験化合物の量は、UVおよび/または質量分析、キャピラリー電気泳動(CE)および高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)からなる群からなるがこれらに限定されない方法によって決定し得る。
【0031】
親油性試験化合物は、例えば、多環式芳香族または脂肪族炭化水素、脂溶性ビタミン、防かび剤のような疎水性薬物、ハロゲン含有芳香族または脂肪族炭化水素、窒素および酸素含有芳香族または脂肪族炭化水素であり得る。
【0032】
非極性溶媒は、試験化合物を含む水溶液と混和しないか、またはほとんど混和しない。好ましい非極性溶媒はオクタノール(オクタン-1-オール)である。好ましい水溶液は、水であっても緩衝液であってもよい。
【0033】
試験化合物は、固体であっても液体であってもよい。試験化合物は、例えばDMSO(ジメチルスルホキシド)などの適切な溶媒に溶解し得る。親水性化合物に適した溶媒は、好ましくは極性溶媒である。親油性化合物に適した溶媒は、好ましくは非極性溶媒である。
【0034】
本発明の方法は、欧州特許第1705474号に開示された方法と比較して、以下の利点を提供する:溶媒B中の試験化合物の濃度を測定し得るようにするために、溶媒AおよびBの分離は必要ない。試験化合物を含む水溶液を含むマルチウェルプレートを適切な装置に直接挿入して、分配平衡に達した後の試験化合物の濃度を測定し得る。さらに、分配平衡に達するためのインキュベーション時間は、欧州特許第1705474号の方法における12時間と比較して約1.5時間である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1:以前のCAMDIS(欧州特許第1705474号明細書参照)および新規なCAMDIS フィルターボトムプレート(FBP)に使用された様々な種類のウェルのスキーム。先のCAMDISでは、オクタノール(赤色)が、水溶液と接触するDIFIチューブに注がれる。CAMDIS FBPでは、フィルタはオクタノールで直接コーティングされている。
【
図2】
図2は、底部のウェルを密封するPVDF膜(赤色)を有する例示的な96-マルチウェルプレートを示す。そのようなプレートの底部は、液密ウェルを有するようにホイルと溶接されている。好ましいホイルはヒートシーリングホイルである。得られた液密96マルチウェルプレートは、本発明の親油性方法で使用し得る。
【
図3】
図3は、封止された底部を有するマルチウェルプレートのウェルの詳細図を示す。各ウェルの底部のPVDF膜は、オクタノールの担体として使用される(赤色)。水性サンプル試料溶液はPVDF膜を覆っている(青色)。プレートの底部は、ヒートシーリングホイルと溶接される。CAMDISと同じプレート配置。
【
図4】
図4:CAMDIS FBP法のアッセイプレートのフォーマット。親水性条件および親油性条件でのLogD値を三重反復で測定する。
【実施例】
【0036】
キャリア媒介分配システム(CAMDIS)フィルターボトムプレート
本発明の方法は、従来のCAMDIS(Wagnerら:Eur J Pharm Sci.2015 Feb 20;68:68-77を参照されたい)のような古典的な振盪フラスコ法で使用される原理、すなわち2つの相(水性緩衝液および有機溶媒、典型的にはオクタノール)に分配する薬物の濃度比を分析する原理を保持している。本発明のCAMDIS方法の設定および欧州特許第1705474号に開示されたCAMDIS方法の間の主な違いは、以前に使用された2つのプレートの代わりにフィルターボトムプレート(例えば、Milliporeマルチスクリーンフィルタープレート、MSIPN45)を使用することである。この新規プレートのフィルタは、DIFIチューブと同じ材料、すなわち疎水性PVDFで製造されている。この疎水性材料は、オクタノール相が水相と混合するのを防ぐために使用された。膜をオクタノールでコーティングし、次いで2つの相を混合することなく水溶液で覆い得る。
【0037】
インキュベーション時間
本発明の方法の主な利点は、新規プレートの使用により、2つの相間の交換面が以前の設定よりも大きくなることである。実際、最後のCAMDISバージョンで使用されたDIFIチューブは2.3mmの直径を有し、一方、新規フィルターボトムプレートは6.6mmの直径を有する。したがって、2つの相間の交換に利用可能な表面がより広いため、分配の平衡に達するのに必要なインキュベーション時間は、CAMDISフィルターボトムプレートではより短くなると予想される。
【0038】
LC-MS/UVを使用して、広範囲のlogD値をカバーする3種の標準化合物のUV吸収を測定した。全ての化合物を、Roche内部ライブラリーから貯蔵液(10mM)として直接注文し、使用前に品質管理を無事に通過させた。種々の時点(種々のインキュベーション時間)で分析を行い、以前のCAMDIS法によって決定されたlogD値と比較した。実験は、添付のセクション5.1.3に詳細に記載されている。
図3に示される結果に基づいて、両方の相体積比について最も正確なlogD値を得るために、1000rpmで振盪しながら90分間のインキュベーション時間が推奨された。特に親水性条件下で、化合物の濃度に対する蒸発効果を測定するために、さらなる実験を行うべきである。
【0039】
CAMDISフィルターボトムプレートプロトコル(CAMDIS FBP)
実験の前に、オクタノール相の漏れまたは蒸発を防止するために、フィルターボトムプレートの底部をヒートシーリングホイルと溶接した。以前のCAMDISバージョンと同様に、オクタノールおよびリン酸緩衝液(25mM、pH7.4)は室温で相互に飽和していた。DMSO貯蔵液(10mM)として14μLの薬物を1200μLの水性緩衝液に導入した。溶液を以前のCAMDISと同じ様式でフィルタにかけ、1400μLの最終体積に達するように2回目の希釈を行った。
図4に示すプレートレイアウトに従って自動液体ディスペンサーを使用して、フィルターボトムプレートを4μLのオクタノールでコーティングした。50または200μLの濾液のアリコートをプレコートプレートに移した。基準Rbは、オクタノールでコーティングされていないウェル中の150μLの水性緩衝液から構成されていた。Rb基準のRaと呼ばれる1:5希釈も行った。プレートを密封し、1000rpm、21℃で90分間振盪した。平衡水性薬物濃度をLCMS/UVによって分析した。4種の注入量(1、2、3および4μL)でRbへの数回の注入を行った。これらを使用して、MSによる分析に必要な注入体積の関数のピーク面積の検量線を作成した。実際、UVデータを使用する場合、ランベルト・ベールの法則は、濃度をUVピーク面積で置き換えることによって式2を直接使用し得るが、これがMSには当てはまらないように、吸収は化合物の濃度に正比例することを示している。また、UV検出は広範囲の直線性を有し、これは化合物特性とは無関係である。対照的に、使用したMS法は、化合物特性に強く依存して、その読み出しに関して限られた線形性範囲を有していた。したがって、MSデータを使用する場合、各化合物についてピーク面積対濃度の較正が必要であった。二次多項式関数に適合させるために、Rbの4回の注入およびRa基準を使用して較正を行った。この式により、MSピーク面積(薬物の量に比例する)の関数として注入体積を決定し得、次いで、以下のようにlogDを計算するために物質の量の代わりに注入体積を使用した。
【0040】
アッセイ検証
CAMDISフィルターボトムプレートの新規な実験装置を検証するために、CAMDISの最新のバージョンで使用されたのと同じ薬物セット(Wagnerら.Eur J Pharm Sci,68:68-77,2015)を使用した(表1参照)。セットは、pH7.4で振盪フラスコ法または小型振盪フラスコ法で決定した既知のlogD値を有する52種の薬物でまとめた。文献平均値を取得し、各化合物について新しいCAMDIS設定から得られた平均logD値と比較した。文献全体の標準偏差も追加の品質パラメータとして計算され、いくつかの化合物ではかなりのものであった。
【0041】
測定した化合物をその文献、ならびにCAMDISフィルターボトムプレートのlogD値および標準偏差と共に表1に示す。標準としてデキサメタゾンを使用して、自動液体ディスペンサーの誤差を補償するためにオクタノールの体積を調整した。次いで、全ての化合物に同じ補正体積を適用した。データ品質が不十分であるため、3種の化合物(シメチジン、ジソピラミドおよびエリスロマイシン)についてLogD値を計算し得なかった。以前のCAMDIS法は、それらのlogDを測定し得ず、それらの化合物の文献標準偏差は非常に高かった。
【0042】
結論
このセクションの結果は、新規なCAMDISフィルターボトムプレート法がlogD値の測定のための有望な新しい方法であることを実証している。以前のCAMDIS法と比較して、サンドイッチプレートの代わりに1つのフィルターボトムプレートのみを使用することにより、取り扱いが単純化されている。新規なCAMDISフィルターボトムプレート法は、CAMDISプール法と比較してlogD値の8倍速い決定を可能にし、文献の振盪フラスコ値および以前のCAMDIS値と非常に一致する値がもたらされる。この方法により、創薬範囲内の分子の典型的な範囲である各化合物の読み出しに応じて、-0.2~4の広い範囲のlogD値を測定することが可能になる。振盪フラスコ法と比較して、以前のCAMDISバージョンと同様に、この方法により、相分離プロセスを削除することによってlogD値を得るのに必要な時間が短縮される。実際、CAMDISでは、振盪フラスコ法とは対照的に、2つの相、オクタノールおよび水性緩衝液を分離して薬物濃度を決定する必要がない。以前のCAMDISプールバージョンと比較して、この方法、二相間での化合物の交換に利用可能な表面が増加するためにさらに速く、これによりインキュベーション時間が12時間から90分に短縮される。
【0043】
(表1) CAMDIS FBP logD(pH7.4)と文献の振盪フラスコlogD値(pH7.4)との比較。
*2つのlogD値のみが利用可能である場合、標準偏差は計算されない
[1]Wagner,B.ら:Carrier Mediated Distribution System(CAMDIS):A new approach for the measurement of octanol/water distribution coefficients,European Journal of Pharmaceutical Sciences 68(2015)68-77”
【国際調査報告】