(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】シリカ不動態化物品およびそれを形成する方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240725BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C23C26/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505336
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 US2022038021
(87)【国際公開番号】W WO2023009395
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501351357
【氏名又は名称】レステック・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ロペス,ディエゴ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,ブライアン・エイ
(72)【発明者】
【氏名】プルカイト,タパス・ケイ
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA16A
4F100AA20
4F100AA20B
4F100AB01B
4F100AB03B
4F100AB04B
4F100AB10B
4F100AB12B
4F100AB16B
4F100AB24B
4F100AH06C
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4F100DE10B
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4F100GB90
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4F100YY00B
4K044AA02
4K044AA03
4K044AA06
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4K044AB03
4K044AB08
4K044BA21
4K044BB01
4K044BC02
4K044CA44
4K044CA53
(57)【要約】
流体経路と、流体経路に面する流体経路表面と、コンフォーマルコーティングであって、流体経路表面の不動態化された部分上であって流体経路表面と流体経路との間に、流体経路がコンフォーマルコーティングを隔てて流体経路表面の不動態化された部分から離れて維持されるように配置されたコンフォーマルコーティングと、を含む、シリカ不動態化物品が開示される。コンフォーマルコーティングが、シリカ系コーティングであり、シリカ系コーティングの単一のケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を含み、シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を実質的に含まず、ケイ素の塊の層を実質的に含まない。流体経路表面の不動態化された部分は、表面積で流体経路表面の少なくとも67%を占める。シリカ不動態化物品を形成するための方法であって、流体経路にシルセスキオキサンを塗布するステップと、硬化させるステップとを含む方法が開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体経路と;
前記流体経路に面する流体経路表面と;
コンフォーマルコーティングであって、前記流体経路表面の不動態化された部分上であって前記流体経路表面と前記流体経路との間に、前記流体経路が前記コンフォーマルコーティングを隔てて前記流体経路表面の前記不動態化された部分から離れて維持されるように配置されたコンフォーマルコーティングと、を備えるシリカ不動態化物品であって、
前記コンフォーマルコーティングが、シリカ系コーティングであり;
前記コンフォーマルコーティングが、前記シリカ系コーティングの単一のケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を含み、
前記コンフォーマルコーティングが、前記シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を実質的に含まず、
前記コンフォーマルコーティングが、ケイ素の塊の層を実質的に含まず;
前記流体経路表面の前記不動態化された部分が、表面積で前記流体経路表面の少なくとも67%を占める、前記物品。
【請求項2】
前記コンフォーマルコーティングが、前記シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を含まない、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項3】
前記コンフォーマルコーティングが、ケイ素の塊の層を含まない、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項4】
前記流体経路表面の前記不動態化された部分が、表面積で前記流体経路表面の少なくとも90%を占める、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項5】
表面積で前記コンフォーマルコーティングの少なくとも67%が、25%未満だけ変動する厚さを有する、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項6】
前記コンフォーマルコーティングが、それぞれがシリカ系コーティングである複数の層を含む、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項7】
前記流体経路表面が前記シリカ不動態化物品の内部表面である、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項8】
前記流体経路表面が金属材料を含む、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項9】
前記流体経路表面が、鋼合金、ステンレス鋼合金、チタン、チタン基合金、ニッケル、ニッケル基合金、ポリマー、シリカ、有機官能化シリカ、アルミナ、チタニア、またはこれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項10】
前記シリカ不動態化物品が少なくとも1つの内部流路を含み、
前記流体経路表面が、前記少なくとも1つの内部流路の内側表面を含み、
前記流体経路が、前記少なくとも1つの内部流路の前記内側表面により画定される内腔を含む、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項11】
前記シリカ不動態化物品が少なくとも1つの多孔質媒体を含み、
前記流体経路表面が、前記少なくとも1つの多孔質媒体の内側表面を含み、
前記流体経路が、前記少なくとも1つの多孔質媒体の前記内側表面により画定される細孔を含む、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項12】
前記少なくとも1つの多孔質媒体が、少なくとも1つの金属フリットを含み、
前記少なくとも1つの多孔質媒体の前記内側表面が、前記少なくとも1つの金属フリットの内側表面を含み、
前記流体経路が、前記少なくとも1つの金属フリットの前記内側表面により画定される細孔を含む、請求項11に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項13】
前記シリカ不動態化物品が、ガスクロマトグラフィー部品、液体クロマトグラフィー部品、マイクロ流体機器部品、またはこれらの組合せである、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項14】
前記コンフォーマルコーティングが、0.1nm~1μmの平均厚さを有する、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項15】
前記コンフォーマルコーティングが、前記流体経路表面の表面粗度より小さい、前記流体経路に面する表面粗度を有する、請求項1に記載のシリカ不動態化物品。
【請求項16】
シリカ不動態化物品を形成するための方法であって、
物品の流体経路に面する流体経路表面にシルセスキオキサンを塗布して、中間体コーティングを形成するステップと;
前記中間体コーティングを硬化させてコンフォーマルコーティングを形成するステップであって、前記流体経路表面の不動態化された部分上であって前記流体経路表面と前記流体経路との間に、前記流体経路が前記コンフォーマルコーティングを隔てて前記流体経路表面の前記不動態化された部分から離れて維持されるように配置されるコンフォーマルコーティングを形成するステップと、を含み、
前記コンフォーマルコーティングが、シリカ系コーティングウェイトであり;
前記コンフォーマルコーティングが、前記シリカ系コーティングの単一のケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を含み、
前記コンフォーマルコーティングが、前記シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を実質的に含まず、
前記コンフォーマルコーティングが、ケイ素の塊の層を実質的に含まず;
前記流体経路表面の前記不動態化された部分が、表面積で前記流体経路表面の少なくとも67%を占める、前記方法。
【請求項17】
前記シルセスキオキサンが、水素シルセスキオキサン、メチルシルセスキオキサン、エチルシルセスキオキサン、プロピルシルセスキオキサン、アルキルシルセスキオキサン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記シルセスキオキサンが、モル比が3:4~4:3である水素シルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの混合物である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、コンフォーマルコーティング表面に面する流体経路を、下記式
【化1】
(式中、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、-NH(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルコキシ、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルケニル、(C
1~C
6)アルキニル、OH、ハロゲン、および水素からなる群から選択され;R
4は、水素、(C
1~C
20)アルキル、フェニル、およびビフェニルからなる群から選択される)を有するアルキルシランで化学的に官能化するステップをさらに含む、前記方法。
【請求項20】
請求項16に記載の方法であって、前記流体経路表面に前記シルセスキオキサンを塗布するステップが、
前記シルセスキオキサンおよび溶媒を含有する溶液中に前記物品を浸漬し、次いで前記溶液から前記溶媒を除去するステップ;
前記物品に前記溶液を噴霧し、次いで前記溶液から前記溶媒を除去するステップ;
化学気相堆積により前記シルセスキオキサンを前記物品上に堆積させるステップ;または
これらの組合せを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
[0001]本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2021年07月30日出願の米国仮特許出願第63/227,539号、名称「Hybrid Coatings and Methods for Producing the Same」の利益およびそれに対する優先権を主張する。
【0002】
[0002]本出願は、シリカ不動態化物品およびシリカ不動態化物品を形成するための方法に関する。特に、本出願は、シリカ系コーティングの単一のケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を含み、ケイ素の塊の層を実質的に含まず、かつ、そのシリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を実質的に含まないコンフォーマルコーティングを備える、シリカ不動態化物品およびシリカ不動態化物品を形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]クロマトグラフィーは、混合物の成分を移動相と固定相との間の相互作用に基づいて分離するために使用される技術である。液体クロマトグラフィー(「LC」)およびガスクロマトグラフィー(「GC」)は、目的とする分析物の同定、定量および精製に使用される最も一般的な技術のうちの2つである。LCおよびGC機器は、典型的には、固定相を通って検出器に至るまでの移動相(液体または気体)の輸送を可能とする金属部品を使用する。その例として、溶媒溜めのフリット、ポンプ部品、接続チューブ、オートサンプラニードル、カラムハードウェア、および検出器部品(質量分析(「MS」)の場合のように)が挙げられる。多くの分析物は金属表面に不活性であるが、金属表面上の活性部位に、または流体経路内の金属表面から浸出したイオンに結合し得るものもある。この現象は、非特異的吸着(「NSA」)または非特異的結合(「NSB」)として一般的に知られており、分析のワークフローに著しい影響を与える。
【0004】
[0004]ステンレス鋼は、ほとんどの分析器具における主要な金属成分である。ステンレス鋼は、約7の等電点(「pI」)を有し、また、ある特定の有機溶媒に曝露されると金属イオンの浸出を生じやすい。これらの2つの因子が、カルボン酸およびリン酸基を含有する多くの分析物の非特異的結合の主な誘因である。この影響は、ある特定の分析物のMS分析における一般的な条件である低いイオン強度の移動相および低いpHにおいて悪化する。
【0005】
[0005]液体クロマトグラフィーでは、NSAを回避するために採られてきた解決策がいくつかある。カラムハードウェアの壁を被覆するポリエーテルエーテルケトン(「PEEK」)およびPEEKフリット等の材料が市販されている。しかしながら、圧力の限界、低い透過性、および溶媒適合性によって、PEEK被覆およびフリットの使用は制限されてきた。酸による不動態化および移動相(「MP」)添加剤は、NSAを軽減するための別の手段であるが、これらの解決策は一時的であり、時間を要し、また、分析を妨げ得る。チタンは、その生体適合性のために多くの部品に使用されているが、チタンは、流体経路内にイオンを浸出させ、孔食をもたらすことが示されている。
【0006】
[0006]より長期的な解決策として、シラン試薬の化学気相堆積(「CVD」)あるいは原子層堆積(「ALD」)により堆積される工業的コーティングが挙げられる。しかしながら、これらのプロセスは、コーティング材料の蒸気圧に応じて、追加的な器具、高真空、および高温を必要とし得る。さらに、そのようなコーティングは、コンフォーマルでない(形状追従性のない)層となり得、また、流出が生じやすくなり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007]1つの例示的実施形態において、シリカ不動態化物品は、流体経路と、流体経路に面する流体経路表面と、コンフォーマルコーティングとを含み、コンフォーマルコーディングは、流体経路表面の不動態化された部分上であって流体経路表面と流体経路との間に、流体経路がコンフォーマルコーティングを隔てて流体経路表面の不動態化された部分から離れて維持されるように配置されている。コンフォーマルコーティングは、シリカ系コーティングであり、シリカ系コーティングの単一のケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を含み、シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を実質的に含まず、かつ、ケイ素の塊の層を実質的に含まない。流体経路表面の不動態化された部分は、表面積で流体経路表面の少なくとも67%を占める。
【0008】
[0008]別の例示的実施形態において、シリカ不動態化物品を形成するための方法は、物品の流体経路に面する流体経路表面にシルセスキオキサンを塗布して、中間体コーティングを形成するステップと、中間体コーティングを硬化させて流体経路表面と流体経路との間の流体経路表面の不動態化された部分上に配置されたコンフォーマルコーティングを形成するステップと、を含み、流体経路はコンフォーマルコーティングを隔てて流体経路表面の不動態化された部分から離れて維持される。コンフォーマルコーティングは、シリカ系コーティングであり、シリカ系コーティングの単一のケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を含み、シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を実質的に含まず、かつ、ケイ素の塊の層を実質的に含まない。流体経路表面の不動態化された部分は、表面積で流体経路表面の少なくとも67%を占める。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】[0009]本開示の一実施形態によるシリカ不動態化物品の斜視図である。
【
図2】[0010]本開示の一実施形態による
図1のシリカ不動態化物品の線2-2に沿った断面図である。
【
図3】[0011]本開示の一実施形態によるフリットの断面図である。
【
図4】[0012]本開示の一実施形態によるシリカ不動態化後の
図3のフリットの断面図である。
【
図5】[0013]コーティングされていないフリット、メドロン酸で不動態化したフリット、および本開示の一実施形態によるシリカ不動態化フリットを比較した、ステンレス鋼カラムを通過した後のアデノシン一リン酸(「AMP」)分析物のピーク面積のグラフである。
【
図6】[0014]
図6A~Cは、コーティングされていないフリット(
図6A)、メドロン酸で不動態化したフリット(
図6B)、および本開示の一実施形態によるシリカ不動態化フリット(
図6C)を通過したAMPのクロマトグラムを比較した図である。
【
図7】[0015]コーティングされていないフリットおよび本開示の様々な実施形態によるコーティングされたフリットのエネルギー分散分光法(「EDS」)の結果を比較した図である。
【
図8】[0016]製造されたままのコーティングされていない2μmフリットの走査型電子顕微鏡(「SEM」)後方散乱画像を示す図である。
【
図9】[0017]本開示の一実施形態によるコーティングされた2μmフリットのSEM後方散乱画像を示す図である。
【
図10】[0018]メチルシルセスキオキサンハイブリッドプレポリマー中の異なるパーセンテージの有機部分の
1H核磁気共鳴(「NMR」)スペクトルを比較した図である。
【
図11】[0019]内径2.1mmのステンレス鋼316の2μmフリットの漸増水銀圧入対細孔サイズによる細孔分析を示す図である。
【
図12】[0020]分析物としてリン酸ヒドロコルチゾンおよびリン酸デキサメタゾンを使用した、未処理の内径4.6mmのステンレス鋼316のフリットでの典型的な試料飽和曲線を示す図である。
【
図13】[0021]本開示の実施形態による、シリカ不動態化された内径4.6mmのステンレス鋼316のフリット(50モル%のアルキルシルセスキオキサンおよび50モル%の水素シルセスキオキサンを使用)での分析物であるリン酸ヒドロコルチゾンおよびリン酸デキサメタゾンの回収率を示す図である。
【
図14】[0022]未処理分析カラム、単一のコーティングされたフリットを有する分析カラム、2つのコーティングされたフリットを有する分析カラム、ならびに本開示の実施形態による2つのフリットおよび管を有する分析カラムからのヌクレオチドアデノシン三リン酸の漸増回収率を比較した図である。カラム寸法は50mm×内径2.1mmであり、コーティング剤は50モル%アルキルシルセスキオキサンおよび50モル%水素シルセスキオキサンであった。
【
図15】[0023]硬化前(「プレポリマー」)、ならびに異なる雰囲気:真空、空気/真空、および空気下での275℃での硬化後のコーティングポリマーの塊の拡散反射フーリエ変換赤外分光法(「DRIFTS」)のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0024]可能な限り、同じ部品を表すために、図面全体において同じ参照番号が使用される。
[0025]本明細書に記載の特徴の少なくとも1つが欠落した物品および方法と比較して、本実施形態の物品および方法は、広範な分析物による金属表面への非特異的吸着を減少させること、流体と流体路との間の化学的または物理的相互作用を減少させること、分析測定(例えばクロマトグラフィー、電気化学、分光法、分光分析)中の目的とする分析物の回収を容易にすること、分析器具の感度を高めること、分析物の回収を増加させること、不動態化される期間を延ばすこと、またはこれらの組合せを提供する。
【0011】
[0026]本開示のある特定の実施形態は、とりわけ、多くの分析器具の流体経路および流路内における広範な分析物による金属表面への非特異的吸着の問題に対処する。本開示の実施形態はまた、流体と流路との間の化学的または物理的相互作用を軽減し得る。化学的相互作用は、浸出、腐食、吸着、キレート化、または流体経路と接触している間の流体組成における他の化学変化を含み得るがこれらに限定されない。物理的相互作用は、摩擦熱、流体乱流、または流体経路に沿った圧力変化を含み得るがこれらに限定されない。
【0012】
[0027]分析実験室において一般的に見られる流体路を有する器具および装置は、LC分析器、GC分析器、MS機器、ポンプ、通気装置、ミキサ、脱ガス機器、マイクロ流体機器部品、試料収集容器および機器、試料調製および抽出器具、圧縮ガスボンベ、金属表面部品を含むがこれらに限定されない。これらの器具および装置の多くは、狭い空洞および/または多孔質な機構を有する複雑な構造を有する。本開示の実施形態はまた、孔食を軽減し得る。本開示のある特定の実施形態において、シリカ不動態化表面は、実験室で行われる多くの分析および日常的な使用において生体不活性および生体適合性であると考えられている。
【0013】
[0028]本開示の実施形態は、分析手段の感度を高めながら、分析測定プロセスに供された目的とする分析物の最初の分析、測定、注入、または反復からの回収を容易にし得る。本開示の実施形態は、分析物の完全な回収を促進し得、酸(例えばメドロン酸またはクエン酸)による不動態化、試料による不動態化、キレート化添加剤(例えばEDTAまたはメドロン酸)、および他の工業的に形成されたコーティング等の一時的な回収策の1つまたは複数の組合せの効果を上回る。部品は、永久的に不動態化され得る。
【0014】
[0029]「微細孔」は、本明細書において使用される場合、10nm未満の直径を有する細孔を指す。
[0030]「フリット」は、本明細書において使用される場合、融合させた多孔質金属基板を指す。フリットは、拡散器、制限器、流路の開口部でのキャップ部品、またはこれらの組合せとして機能し得る。フリットは、フリットが捕捉し得る微粒子のサイズに基づいて表示される。例えば、2μmフリットは、2μmまでの粒子を捕捉するが、2μmフリットの細孔サイズは実際には2μmではない。実験によれば、市販の2μmフリットは、実際には約10μmの平均細孔サイズを有することが示されている。
【0015】
[0031]「コンフォーマルコーティング」は、本明細書において使用される場合、それが配置される基板の輪郭に沿ったコーティングを指す。一実施形態において、コンフォーマルコーティングは、基板の表面的特徴が10nm超のサイズである場合、その特徴に沿った輪郭となり得る。
【0016】
[0032]「実質的に含まない」は、本明細書において使用される場合、2重量%未満を示す。
[0033]「ケイ素の塊」は、本明細書において使用される場合、結晶性ケイ素の塊(金属ケイ素とも呼ばれる)および非晶質ケイ素の塊の両方を指す。
【0017】
[0034]「シリカ」は、本明細書において使用される場合、通常の結晶性または非晶質シリカ、ならびに構造的に修飾されたシリカ(ハイブリッドコーティングまたはハイブリッドシリカとも呼ばれる)の両方を包含し、構造的に修飾されたシリカでは、シリカの第1の割合のケイ素原子が4つの酸素原子に共有結合し、シリカの第2の割合のケイ素原子が、3つの酸素原子と、水素または炭素系部分のいずれかである第4の置換基とに共有結合している。このように、構造的に修飾されたシリカは、水素および/または炭素系部分がケイ素に共有結合し全体に分布された、断続的なシリカのネットワークを有する。炭素系部分は、任意の好適な官能基、例えば、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、芳香族炭化水素基、イオン性基、三級基、四級基、芳香族アミン基、硫酸基、リン酸基、カルボキシレート基、またはこれらの組合せであってもよいがこれらに限定されない。構造的に修飾されたシリカは、シルセスキオキサンから得られてもよい。
【0018】
[0035]「シリカ系コーティング」は、本明細書において使用される場合、そのコーティングが、通常の結晶性シリカ、通常の非晶質シリカ、または構造的に修飾されたシリカの少なくとも1つを含むことを示し、構造的に修飾されたシリカでは、シリカの第1の割合のケイ素原子が4つの酸素原子に共有結合し、シリカの第2の割合のケイ素原子が3つの酸素原子と、水素または炭素系部分のいずれかである第4の置換基と、に共有結合している。
【0019】
[0036]
図1、
図2、および
図4を参照すると、一実施形態において、シリカ不動態化物品100は、流体経路102と、流体経路102に面する流体経路表面104と、流体経路表面104の不動態化された部分108上に配置されたコンフォーマルコーティング106と、を含む。コンフォーマルコーティング106は、流体経路表面104と流体経路102との間に配置され、流体経路102がコンフォーマルコーティング106を隔てて流体経路表面104の不動態化された部分108から離れて維持される。
【0020】
[0037]コンフォーマルコーティング106は、シリカ系コーティングである。一実施形態において、コンフォーマルコーティング106は、少なくとも50重量%がシリカ、代替として少なくとも55重量%がシリカ、代替として少なくとも60重量%がシリカ、代替として少なくとも65重量%がシリカ、代替として少なくとも70重量%がシリカ、代替として少なくとも75重量%がシリカ、代替として少なくとも80重量%がシリカ、代替として少なくとも85重量%がシリカ、代替として少なくとも90重量%がシリカ、代替として少なくとも95重量%がシリカ、代替として少なくとも98重量%がシリカ、代替として少なくとも99重量%がシリカ、代替として55~95重量%がシリカ、代替として60~90重量%がシリカ、またはこれらの任意の部分範囲もしくは組合せである。コンフォーマルコーティング106のシリカ含量は、シリカ系コーティングのシリカのいかなる表面修飾、官能化あるいは誘導体化を考慮せずに測定される。
【0021】
[0038]コンフォーマルコーティング106は、シリカ系コーティングのケイ素原子に共有結合した炭素系部分を含む。そのような炭素系部分はそれぞれ、シリカ系コーティングの単一のケイ素原子に結合している。炭素系部分は、任意の好適な官能基、例えば、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、芳香族炭化水素基、イオン性基、三級基、四級基、芳香族アミン基、硫酸基、リン酸基、カルボキシレート基、またはこれらの組合せであってもよいがこれらに限定されない。
【0022】
[0039]コンフォーマルコーティング106は、シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分(すなわち、シリカ系コーティングの2つのケイ素原子の間を橋かけする炭素系部分(シリカ系コーティングのシリカ原子を橋かけする酸素ではなく))を実質的に含まない、あるいは含まない。一実施形態において、コンフォーマルコーティング106は、重量で2%未満、代替として1.5%未満、代替として1%未満、代替として0.5%未満、代替として0.25%未満、代替として0.1%未満、代替として0.01%未満、代替として0.001%未満の、シリカ系コーティングの1を超えるケイ素原子にそれぞれ共有結合した炭素系部分を有する。
【0023】
[0040]コンフォーマルコーティング106は、ケイ素の塊の層を実質的に含まない、あるいは含まない。一実施形態において、コンフォーマルコーティング106は、重量で2%未満、代替として1.5%未満、代替として1%未満、代替として0.5%未満、代替として0.25%未満、代替として0.1%未満、代替として0.01%未満、代替として0.001%未満のケイ素の塊を有する。
【0024】
[0041]流体経路表面104の不動態化された部分108は、表面積で流体経路表面104の少なくとも67%、代替として少なくとも75%、代替として少なくとも80%、代替として少なくとも85%、代替として少なくとも90%、代替として少なくとも95%、代替として少なくとも99%、代替として少なくとも99.9%を占める。一実施形態において、流体経路表面104の不動態化された部分108は、本質的に流体経路表面104全体、あるいは流体経路表面104全体である。本明細書において使用される場合、「本質的に流体経路表面104全体」は、不動態化の程度に大きく影響せず、非破壊試験により検出不可能な、コンフォーマルコーティング106の最小限の欠陥を許容する。
【0025】
[0042]一実施形態において、表面積でコンフォーマルコーティング106の少なくとも67%、代替としてコンフォーマルコーティング106の少なくとも75%、代替としてコンフォーマルコーティング106の少なくとも80%、代替としてコンフォーマルコーティング106の少なくとも85%、代替としてコンフォーマルコーティング106の少なくとも90%、代替としてコンフォーマルコーティング106の少なくとも95%、代替としてコンフォーマルコーティング106の少なくとも9%は、25%未満だけ変動する厚さ、代替として20%未満だけ変動する厚さ、代替として15%未満だけ変動する厚さ、代替として10%未満だけ変動する厚さ、代替として5%未満だけ変動する厚さ、代替として1%未満だけ変動する厚さを有する、または上記の任意の部分範囲、もしくは上記の表面積および厚さの任意の組合せを有する。流体経路表面104が顕著な表面粗度、確率的な多孔度、またはその両方を有するある特定の実施形態において、コンフォーマルコーティング106は、狭い細孔の通路を詰まらせることなく流体経路表面に依然として追従する(
図8と比較した
図9;コーティングされた、およびコーティングされていない部品は、物品118がフリットである場合でも部品の背圧において差異を示さない)。
【0026】
[0043]一実施形態において、コンフォーマルコーティング106は、それぞれがシリカ系コーティングである複数の層を含む。さらなる実施形態において、複数の層はそれぞれ、少なくとも60重量%がシリカである。そのような複数の層は、コンフォーマルコーティング106の厚さを増加させ得、コンフォーマルコーティング106の寿命および耐久性の増加をもたらし、またpH安定性を改善し得る。
【0027】
[0044]流体経路表面104は、シリカ不動態化物品100の外部表面、内部表面、またはこれらの組合せであってもよい。
図1および
図2を参照すると、物品118が管である一実施形態において、流体経路表面104は、管の内部表面であってもよい。物品118がフリットである別の実施形態において、流体経路表面は、フリットの内部表面および外部表面の両方であってもよい。
【0028】
[0045]流体経路表面104は、金属材料を含むがこれに限定されない、任意の好適な材料組成物を含み得る。一実施形態において、流体経路表面104材料は、鋼合金、ステンレス鋼合金、チタン、チタン基合金、ニッケル、ニッケル基合金、ポリマー、シリカ、有機官能化シリカ、アルミナ、チタニア、またはこれらの組合せを含む。
【0029】
[0046]一実施形態において、シリカ不動態化物品100は、少なくとも1つの内部流路110を含み、流体経路表面104は、少なくとも1つの内部流路110の内側表面112を含み、流体経路102は、少なくとも1つの内部流路110の内側表面112により画定される内腔114を含む。
【0030】
[0047]
図3および
図4を参照すると、別の実施形態において、シリカ不動態化物品100は、少なくとも1つの多孔質媒体を含み、流体経路表面104は、少なくとも1つの多孔質媒体の内側表面を含み、流体経路102は、少なくとも1つの多孔質媒体の内側表面により画定される細孔を含む。さらなる実施形態において、少なくとも1つの多孔質媒体は、少なくとも1つの金属フリットを含み、少なくとも1つの多孔質媒体の内側表面は、少なくとも1つの金属フリットの内側表面を含み、流体経路102は、少なくとも1つの金属フリットの内側表面により画定される細孔を含む。
【0031】
[0048]シリカ不動態化物品100は、ガスクロマトグラフィー部品、液体クロマトグラフィー部品、マイクロ流体機器部品、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、任意の好適な物品であり得る。物品100は、これらに限定されないが、多孔質または非多孔質基板を含む、流体経路表面104を形成する任意の好適な基板を有し得る。
【0032】
[0049]一実施形態において、コンフォーマルコーティング106は、0.1nm~1μm、代替として0.1nm~200nm、代替として100nm~300nm、代替として200nm~400nm、代替として300nm~500nm、代替として400nm~600nm、代替として500nm~700nm、代替として600nm~800nm、代替として700nm~900nm、代替として800nm~1μm、またはこれらの任意の好適な部分範囲もしくは組合せの平均厚さ116を有する。
【0033】
[0050]一実施形態において、コンフォーマルコーティング106は、流体経路表面104の表面粗度より小さい、流体経路102に面する表面粗度を有する。一実施形態において、流体経路102に面する表面粗度は、流体経路表面104の表面粗度より少なくとも10%小さい、または代替として少なくとも15%小さい、または代替として少なくとも20%小さい、または代替として少なくとも25%小さい、または代替として少なくとも30%小さい、または代替として少なくとも35%小さい、または代替として少なくとも40%小さい、または代替として少なくとも45%小さい、または代替として少なくとも50%小さい。
【0034】
[0051]コンフォーマルコーティング106のコンフォーマルコーティング表面120に面する流体経路は、微細孔を含んでいてもよい。そのような微細孔は、10nm未満、代替として5nm未満、代替として2nm未満、代替として1nm未満、代替として0.5nm未満の平均直径を有してもよい。コンフォーマルコーティング106のコンフォーマルコーティング表面120に面する流体経路における微細孔は、平均細孔または内腔直径を減少させながら、全細孔面積を増加させ得る。シリカ不動態化物品100がステンレス鋼フリットである一実施形態において、コンフォーマルコーティングは、フリットの多孔度を実質変化(500μm~3nmの分析範囲内で測定)させず、ステンレス鋼フリットにおける圧力降下に対して測定可能な影響を及ぼさない(15psi未満の圧力変化)。
【0035】
[0052]一実施形態において、シリカ不動態化物品100を形成するための方法は、物品118の流体経路102に面する流体経路表面104にシルセスキオキサンを塗布して、中間体コーティングを形成するステップを含む。中間体コーティングは硬化されて、流体経路表面104の不動態化された部分108上であって流体経路表面104と流体経路102との間に、流体経路102がコンフォーマルコーティング106を隔てて流体経路表面104の不動態化された部分108から離れて維持されるように配置されたコンフォーマルコーティング106を形成する。
【0036】
[0053]中間体コーティングの硬化は、熱硬化、化学硬化、またはこれらの組合せを含み得る。一実施形態において、熱硬化は、堆積された中間体コーティングの溶融リフローを開始して平坦化を進める。そのような平坦化は、化学硬化のみに比べて流体経路表面104に対するコンフォーマルコーティング106の追従性を改善し得る。
【0037】
[0054]シルセスキオキサンは、水素シルセスキオキサン、メチルシルセスキオキサン、エチルシルセスキオキサン、プロピルシルセスキオキサン、アルキルシルセスキオキサン、アルコキシシルセスキオキサン、フェニルシルセスキオキサン、ベンジルシルセスキオキサン、芳香族シルセスキオキサン、イオン性シルセスキオキサン、三級シルセスキオキサン、四級シルセスキオキサン、芳香族アミンシルセスキオキサン、サルフェートシルセスキオキサン、ホスフェートシルセスキオキサン、カルボキシレートシルセスキオキサン、またはこれらの組合せ(前記組合せは、ハイブリッドシルセスキオキサンと呼ばれる)を含むがこれらに限定されない、任意の好適なシルセスキオキサンまたはシルセスキオキサン誘導体であってもよい。
【0038】
[0055]一実施形態において、シルセスキオキサンは、モル比が3:4~4:3、代替として4:5~5:4、代替として1:1である水素シルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの混合物である。
【0039】
[0056]コンフォーマルコーティング106は、コンフォーマルコーティング106を様々な長さのリンカーおよび官能基でグラフト化することを含むがこれに限定されない、任意の好適な技術により官能化または誘導体化され得、その最終生成物は、顕微鏡技術によって特性が明らかにされ得る(
図7)。官能化または誘導体化されたコンフォーマルコーティング106は、親水性、疎水性、酸腐食耐性、塩基腐食耐性、化学的不活性、温度安定性、使用可能なpH範囲、クロマトグラフィー特性(例えば、保持係数、対称ピーク形状、回収率増加)、またはこれらの組合せに関して調整され得る。理論に束縛されないが、グラフト材料(リンカー)は、その立体的かさ高さ、疎水性、静電引力もしくは反発力、ファンデルワールス力、下に位置するコンフォーマル層への追加された物理的厚さ、またはこれらの組合せに基づいて、これらの特性に影響を与えると考えられる。
【0040】
[0057]一実施形態において、コンフォーマルコーティング106のコンフォーマルコーティング表面120に面する流体経路は、下記式
【0041】
【0042】
(式中、R1、R2、およびR3は、それぞれ独立して、-NH(C1~C6)アルキル、(C1~C6)アルコキシ、(C1~C6)アルキル、(C1~C6)アルケニル、(C1~C6)アルキニル、OH、ハロゲン、および水素からなる群から選択され;R4は、水素、(C1~C20)アルキル、フェニル、およびビフェニルからなる群から選択される)を有するアルキルシランで化学的に官能化されていてもよい。
【0043】
[0058]流体経路表面104にシルセスキオキサンを塗布するステップは、シルセスキオキサンおよび溶媒を含有する溶液中に物品118を浸漬し、次いで溶液から溶媒を除去するステップ、物品118に溶液を噴霧し、次いで溶液から溶媒を除去するステップ、CVDによりシルセスキオキサンを物品118に堆積させるステップ、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、任意の好適な技術を含み得る。
【0044】
[0059]コンフォーマルコーティング106は、コーティング試薬の溶液に物品118を浸漬することにより塗布されてもよい。Lauberらは以前、米国特許出願公開第2019/0086371A1号において、複雑な構造を有する分析部品に浸透する毛管作用が有効ではないことに起因して、シリカコーティングの液相堆積が効果的でないことを開示している。本開示の実施形態は、驚くべきことに、コーティング試薬が浸透して金属表面と反応するようにコーティング試薬を一定期間塗布し、続いてその試薬を液相中において一定期間または硬化中に架橋し、コンフォーマルコーティング106を生成することによって、この難点を克服する。いくつかの実施形態において、物品118は、より厚くより高密度のコンフォーマルコーティング106を生成するために、2回以上のコーティングステップの反復に供される。
【0045】
[0060]本開示のある特定の実施形態は、LPDに代わる代替方法として、CVDによる薄膜の堆積を可能にする。Hackerは、米国特許第6,472,076B1号において、CVDによりシリカ由来薄膜から得られた低誘電率材料、および半導体産業におけるその応用に焦点を当てているが、この参考文献は、半導体産業における低誘電率材料を作製するウエハ材料に限られ、ステンレス鋼等の本明細書において考慮される基板のいくつかとは異なる基板に関するものであった。Carrらは、米国特許第10,895,009B2号において、金属への強力な接着をもたらす長く狭い流管のための、CVDによりシリカ由来薄膜から得られた低誘電率材料に焦点を当てているが、この参考文献は、単原子ケイ素化合物に呼応するポリシロキサンコーティングについて議論しており、これとは著しく異なるシルセスキオキサンについて議論していない。
【0046】
[0061]Hackerは、米国特許第6,472,076B1号において、様々な周囲環境および温度において硬化されたシリカ由来膜が多様な特性となることを説明している。本開示の実施形態は、少なくとも1つの硬化プロセスを利用する。周囲環境での硬化プロセスは、空気、アンモニア、窒素、アルゴン、水素、またはこれらの組合せにおける硬化を含む。典型的な硬化プロセスは、約400℃の温度で少なくとも30分の硬化時間、進行する。硬化の種類は、得られる膜の機能性に影響する。空気中での硬化は、主にSi-O膜表面をもたらし、一方アンモニア中での硬化は、主に酸窒化ケイ素膜表面をもたらし、不活性または還元雰囲気中での硬化は、膜表面に広くSi-H部分をもたらす。
【実施例】
【0047】
[0062]実施例1:アルキルシルセスキオキサンハイブリッドプレポリマー(75mol%アルキルシルセスキオキサン-25mol%水素シルセスキオキサン)の調製
[0063]米国特許第6,218,497B1号に記載の文献手順を修正して、アルキルシルセスキオキサンハイブリッドプレポリマーを調製した。75mol%アルキルシルセスキオキサンおよび25mol%水素シルセスキオキサンのアルキルシルセスキオキサンハイブリッドプレポリマーを、トリクロロシラン(1.0モル当量)およびアルキルトリクロロシラン(1.0モル当量)から調製した。凝縮器および撹拌棒を備えた100mLのモートン(Morton)フラスコをシュレンクラインに接続し、反応中、凝縮器を通して水酸化ナトリウムのスクラバ内にアルゴンガスをパージした。3.02gのAmberjet 4200イオン交換樹脂触媒(メタノールで洗浄し、真空炉内60℃で一晩乾燥させた)、0.8mLのメタノール、および50mLのヘキサンをフラスコに加え、撹拌を開始した。
【0048】
[0064]トリクロロシラン(1.0当量、18.0mmol、1.82mL)およびアルキルトリクロロシラン(1.0当量、18.0mmol)を混ぜ合わせ、シリンジポンプを介して0.6mL/分の速度で添加した。クロロシランの添加が完了したら、シリンジを介して1.25mLの水を1分間にわたり滴下により添加し、反応混合物をさらに90分撹拌した。
【0049】
[0065]その溶液をブフナー漏斗内のWhatman#4濾紙を通して真空濾過した。得られた溶液を分液漏斗内に移し、下の水層を廃棄した。上層を、3Å分子篩(8.0g)上で2.5時間乾燥させた。その溶液をブフナー漏斗内のWhatman#4濾紙を通して濾過し、ロータリーエバポレータを使用して60℃で濃縮した。粗生成物をヘキサン中に分散し、その溶液を冷蔵庫内(2~8℃)で一晩保存した。ブフナー漏斗内のWhatman#4濾紙を使用して、白色沈殿物を濾過により除去した。得られた溶液はロータリーエバポレータを使用して濃縮した。Si-H基のアルキル基に対するモル比を、
1H NMRスペクトル(
図10)から見積もり、1:2であると決定した。アルキルシルセスキオキサンハイブリッドポリマー(1.2g)を無水ペンタン(0.24mL)中に分散し、20%(w/v)の最終濃度を得た。
【0050】
[0066]実施例2:アルキルシルセスキオキサンハイブリッドプレポリマー(50mol%アルキルシルセスキオキサン-50mol%水素シルセスキオキサン)の調製
[0067]50mol%アルキルシルセスキオキサンおよび50mol%水素シルセスキオキサンのアルキルシルセスキオキサンハイブリッドプレポリマーを、トリクロロシラン(0.75モル当量)およびメチルトリクロロシラン(0.25モル当量)から調製した。凝縮器および撹拌棒を備えた100mLのモートン(Morton)フラスコをシュレンクラインに接続し、反応中、凝縮器を通して水酸化ナトリウムのスクラバ内にアルゴンガスをパージした。3.02gのAmberjet 4200イオン交換樹脂触媒(メタノールで洗浄し、真空炉内60℃で一晩乾燥させた)、0.8mLのエタノール、および50mLのヘキサンをフラスコに加え、撹拌を開始した。
【0051】
[0068]トリクロロシラン(0.75当量、27.0mmol、および2.725mL)およびアルキルトリクロロシラン(0.25当量、9.0mmol)を混ぜ合わせ、シリンジポンプを介して0.6mL/分の速度で添加した。クロロシランの添加が完了したら、シリンジを介して1.25mLの水を1分間にわたり滴下により添加し、反応混合物をさらに90分撹拌した。
【0052】
[0069]その溶液をブフナー漏斗内のWhatman#4濾紙を通して真空濾過した。得られた溶液を分液漏斗内に移し、下の水層を廃棄した。上層を、3Å分子篩(8.0g)上で2.5時間乾燥させた。その溶液をブフナー漏斗内のWhatman#4濾紙を通して濾過し、ロータリーエバポレータを使用して60℃で濃縮した。粗生成物をヘキサン中に分散し、その溶液を冷蔵庫内(2~8℃)で一晩保存した。ブフナー漏斗内のWhatman#4濾紙を使用して、白色沈殿物を濾過により除去した。得られた溶液はロータリーエバポレータを使用して濃縮した。Si-H基のメチル基に対する比を、
1H NMRスペクトル(
図10)から見積もり、1:1であることが分かった。アルキルシルセスキオキサンハイブリッドポリマーを無水ペンタン中に分散し、20%(w/v)の最終濃度を得た。
【0053】
[0070]実施例3:アルキルシルセスキオキサンハイブリッドポリマーを使用した金属フリットのコーティング
[0071]金属フリット(ステンレス鋼、内径2.1mm、表面積453mm2)を20mLのシンチレーションバイアルまたは100mLのフラスコに入れ、アルキルシルセスキオキサンハイブリッド(ペンタン/ヘプタンの50:50混合物中に10%)溶液(実施例2で調製されたハイブリッドシルセスキオキサン、ヘプタンで10%(w/v)の濃度まで希釈)を添加した。金属フリットは全てアルキルシルセスキオキサン溶液中に完全に浸し、シェーカーを使用してバイアルを1,200rpmで一晩振盪した。余分な溶液を除去し、フリットをシュレンクラインに接続された50mLのシュレンクフラスコに移した。フラスコ内を排気し、アルゴンガスでパージした。全てのコーティングされた材料を、アルゴンガス流下、250℃で一晩硬化した。
【0054】
[0072]コーティングされたフリットの官能化
[0073]アルキルシルセスキオキサンでコーティングされたフリット(実施例3に従って調製、ただし25mol%アルキルシルセスキオキサン/75mol%水素シルセスキオキサンを使用)の官能化を、無水トルエン中0.4モルのアルコキシシラン溶液を使用して、Piers-Rubinsztajn反応/従来の結合手段により行った。コーティングされたフリットを無水トルエン(5mL)中に分散した。2.0mmolのアルコキシシラン(メトキシジメチル(オクタデシル)シランまたは(11-ブロモウンデシル)トリメトキシシラン)、続いてトリス(パーフルオロフェニル)ボラン(アルコキシシランの1mol%、8mg)を添加した。反応混合物を、アルゴンガス流下、室温で30分間撹拌した。これをアルゴンガス下で16時間、還流下で加熱した。このような官能化によって、コーティングの特性(例えば、疎水性、pH安定性)が改変された。
図7を参照すると、最初のスペクトルは、(11-ブロモウンデシル)トリメトキシシランによるポリマーの官能化を示すピークを表している。
【0055】
[0074]コーティングされたフリットのポロシメトリー検討
[0075]ある特定の実施形態において、内径2.1mmのステンレス鋼316のいくつかのフリットを、50mol%アルキルシルセスキオキサン/50mol%水素シルセスキオキサンの溶液でコーティングし、空気雰囲気下、275℃で4時間硬化させた(それ以外は実施例2および3と同様に調製された)。これらのフリットは水銀圧入技術により分析し、漸増圧入対細孔サイズのプロットを作成した。コーティングのコンフォーマル特性(形状追従性)によって、
図11に示されるように、細孔直径が大きく変化することなく空洞内部の水銀体積が低減することが明らかにされている。
【0056】
[0076]性能試験
[0077]453mm
2の表面積を有するステンレス鋼フリット(内径2.1mm)を、実施例3に記載のようにコンフォーマル試薬によりコーティングした。そのフリット部品を、Agilent 1260 Infinity II UHPLCにおいて、部品を通してアデノシン一リン酸(「AMP」)をサンプリングすることにより評価した。ピーク面積を50ppm濃度でのAMPの15回連続注入に対してプロットした。コーティングされた部品は、メドロン酸で処理された以外は同一の比較部品、および未処理であること以外は同一の比較未処理部品と比較して、1回目の注入からより高いピーク面積を示した(
図5)。コーティングされていないフリットおよびメドロン酸処理は、それぞれ60~80%の分析物回収率を示すに留まった。未処理部品は、試料飽和に達するために数回の注入を必要としたが、それでも試験をした条件下でこの種の分析物では100%の回収率は達成されなかった。
図6A~Cは、未処理部品(
図6A)、メドロン酸で処理された部品(
図6B)、およびアルキルシルセスキオキサンでコーティングされた部品(
図6C)を通過した後のAMPのクロマトグラムを示す。コーティングされた部品は、他の2つのフリットと比較して、より高いピーク強度、より対称的なピーク、およびより少ないテーリングを示した。
【0057】
[0078]ステンレス鋼フリット(内径2.1mm)を、実施例3に記載のようにコンフォーマル試薬によりコーティングした。そのフリット部品を、ステロイドであるリン酸ヒドロコルチゾンおよびリン酸デキサメタゾンを500ppbの濃度でサンプリングし、Shimadzu 8045トリプル四重極型質量分析計を使用することによって評価した。コーティングされたフリット部品を通過した場合のステロイドの回収率は、90~100%の範囲内であった(
図13)。未処理フリット部品を同じサンプリングに供すると、最初の2回の注入では分析物の回収率は測定可能でなかったが、これは、金属フリットの壁内での非特異的結合の影響を示している(
図12)。分析物が金属フリットの活性部位を飽和するにつれてパーセント回収率が増加するが、信号は、数回の注入後に80%回収率に達するに留まった。
【0058】
[0079]いくつかのステンレス鋼カラム部品を、実施例3に記載のようにコンフォーマル試薬によりコーティングした。これらの部品は、50mm×内径2.1mmの寸法の、異なる分析カラムに組み込まれた(
図14)。これにより、ヌクレオチドアデノシン三リン酸(5ppm)の漸増パーセント回収率を、単一のコーティングされたフリットを有する分析カラムから、入口および出口の両方のフリットがコーティングされた分析カラム、ならびにコーティングされた管およびコーティングされたフリット(入口および出口)を有する分析カラムに至るまで示した。分析物の回収率は、コンフォーマルコーティングが分析カラム内のいくつかの部品に適用されるにつれて付加的であった。
【0059】
[0080]コーティングされた部品のスペクトル検討
[0081]ある特定の実施形態において、50mol%アルキルシルセスキオキサンおよび50mol%水素シルセスキオキサンのアルキルシルセスキオキサンハイブリッドプレポリマー500mgを、
図15に列挙される条件下で硬化させた。硬化および予備硬化試料を、DRIFTS技術を用いた赤外分光法(「IR」)により分析した。試料は、ハイブリッドシルセスキオキサンの特有の特徴を示す。Si-H、C-H、およびSiO-H(「シラノール」)の伸縮および変角が、それに応じて、2300cm
-1、2900cm
-1、および3700cm
-1に現れている。空気下275℃で硬化したポリマーは、水素化シラン官能基を維持しながら、得られるシラノールの量によってより高度の硬化を示した。
【0060】
[0082]上記明細書は例示的実施形態を例示および説明しているが、本発明の範囲から逸脱せずに、様々な変更が行われてもよく、またその要素が等価物で置換されてもよいことが、当業者に理解されるだろう。さらに、その本質的な範囲から逸脱せずに、特定の状況または材料を本発明の教示に適応させるために多くの変更が行われてもよい。したがって、本発明は本発明を実施するために企図される最良の態様として開示される特定の実施形態に限定されず、本発明は添付の特許請求の範囲内に包含される全ての実施形態を含むことが意図される。
【国際調査報告】