IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】車両用電気駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20240725BHJP
   B60L 15/00 20060101ALI20240725BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20240725BHJP
   B60K 11/02 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K9/19 B
B60L15/00 H
F16H57/04 G
B60K11/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505387
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2021071460
(87)【国際公開番号】W WO2023006221
(87)【国際公開日】2023-02-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】テオドア ガスマン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン フォールシャム
【テーマコード(参考)】
3D038
3J063
5H125
5H609
【Fターム(参考)】
3D038AB01
3D038AC23
3J063AA04
3J063AB01
3J063AC01
3J063BA11
3J063BA15
3J063CD41
3J063XD03
3J063XD23
3J063XD38
3J063XD62
3J063XD72
3J063XH02
3J063XH13
3J063XH23
5H125AA01
5H125FF22
5H609BB03
5H609BB16
5H609BB19
5H609PP06
5H609PP07
5H609PP09
5H609PP11
5H609PP17
5H609QQ05
5H609QQ11
5H609RR37
5H609RR48
5H609RR50
5H609RR52
5H609SS21
5H609SS23
(57)【要約】
本発明は、車両用電気駆動装置であって、電気駆動装置は、電気機械(4)を含み、電気機械(4)は、ハウジング(3)に接続されていて、かつステータ端部巻線(8,8’)を含んでいるステータ(7)と、ステータ(7)に対して回転可能なロータ(9)と、ロータ(9)に回転可能に接続された駆動シャフト(10)とを備え、電気駆動装置は、駆動シャフト(10)からの回転運動をドライブラインに伝達するための伝動装置(5)を含み、電気駆動装置は、電気機械(4)および伝動装置(5)を冷却および/または潤滑するための流体を収容するサンプ(6)を含み、電気駆動装置は、液圧式装置(12)を含み、液圧式装置(12)は、少なくとも1つの双方向ポンプ(13,14)と、ポンプ(13,14)に液圧式に接続されている第1の吸込ライン(24,24’)と、ステータ(7)を冷却するためのステータ経路(17)と、ポンプ(13,14)に接続されている第2の吸込ライン(25,25’)と、伝動装置(5)を冷却するための伝動装置経路(18)とを含み、電気駆動装置は、複数の弁(20,21,22,23;20’,21’,22’,23’)を備えた弁装置(16)を含み、複数の弁(20,21,22,23;20’,21’,22’,23’)は、サンプ(6)から第1の吸込ライン(24,24’)を通ってステータ経路(17)に流体が供給されるか、または第2の吸込ライン(25,25’)を通って伝動装置経路(18)に流体が供給されるように構成されている、電気駆動装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用電気駆動装置であって、
前記電気駆動装置は、ハウジング(3)を含み、
前記電気駆動装置は、電気機械(4)を含み、前記電気機械(4)は、
前記ハウジング(3)に接続されていて、かつステータ端部巻線(8,8’)を含んでいるステータ(7)と、
前記ステータ(7)に対して回転可能なロータ(9)と、
前記ロータ(9)に回転可能に接続された駆動シャフト(10)と
を備え、
前記駆動シャフト(10)は、回転軸線(A4)を中心にして回転可能となるように前記ハウジング(3)に支持されており、
前記電気駆動装置は、前記駆動シャフト(10)からの回転運動を自動車のドライブラインに伝達するための伝動装置(5)を含み、
前記電気駆動装置は、前記電気機械(4)および前記伝動装置(5)のうちの少なくとも1つを冷却および/または潤滑するための流体を備えたサンプ(6)を含み、
前記電気駆動装置は、液圧式装置(12)を含み、前記液圧式装置(12)は、
少なくとも1つの双方向ポンプ(13,14)と、
前記サンプ(6)と前記ポンプ(13,14)との間に配置された第1の吸込ライン(24,24’)と、
前記ステータ(7)を冷却するための流体を供給するために前記ポンプ(13,14)と前記電気機械との間に配置されたステータ経路(17)と、
前記サンプ(6)と前記ポンプ(13,14)との間に配置された第2の吸込ライン(25,25’)と、
前記伝動装置(5)を冷却するための流体を供給するために前記ポンプ(13,14)と前記伝動装置(5)との間に配置された伝動装置経路(18)と
を含み、
前記電気駆動装置は、複数の弁(20,21,22,23;20’,21’,22’,23’)を備えた弁装置(16)を含み、
前記複数の弁(20,21,22,23;20’,21’,22’,23’)は、前記双方向ポンプ(13,14)の回転方向に応じて、前記電気機械(4)を冷却するために前記サンプ(6)から前記第1の吸込ライン(24,24’)を通って前記ステータ経路(17)に流体が供給されるか、または前記伝動装置(5)を冷却するために前記サンプ(6)から前記第2の吸込ライン(25,25’)を通って前記伝動装置経路(18)に流体が供給されるように構成されている、
電気駆動装置。
【請求項2】
前記弁装置(16)は、
前記第1の吸込ライン(24,24’)に配置された第1の逆止弁(20,20’)と、
前記第2の吸込ライン(25,25’)に配置された第2の逆止弁(21,21’)と、
前記伝動装置経路(18)の一部である第1の圧力ライン(26,26’)に配置された第3の逆止弁(22,22’)と、
前記ステータ経路(17)の一部である第2の圧力ライン(27,27’)に配置された第4の逆止弁(23,23’)と
を含む(すべての図)、
請求項1記載の電気駆動装置。
【請求項3】
前記液圧式装置(12)は、第1の双方向ポンプ(13)および第2の双方向ポンプ(14)を含み、
前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)は、吸込側における前記サンプ(6)と、圧力側における前記電気機械(4)または前記伝動装置との間で液圧式に並列に配置されている(図1A図1D図2図3A図3D)、
請求項1または2記載の電気駆動装置。
【請求項4】
低速モードでは、前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)の両方が、前記電気機械(4)を冷却するために前記サンプ(6)から前記ステータ経路(17)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能であり(図1B図3B)、
中速モードでは、前記第1の双方向ポンプおよび前記第2の双方向ポンプのうちの一方(13,14)が、前記電気機械(4)を冷却するために前記サンプ(6)から前記ステータ経路(17)に流体を供給すべく駆動され、前記第1の双方向ポンプおよび前記第2の双方向ポンプのうちの他方(14,13)が、前記伝動装置(5)を冷却するために前記サンプ(6)から前記伝動装置経路(18)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能であり(図1C図3C)、かつ/または
高速モードでは、前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)の両方が、前記伝動装置(5)を冷却するために前記サンプ(6)から前記伝動装置経路(18)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能である(図1D図3D)、
請求項3記載の電気駆動装置。
【請求項5】
前記サンプ(6)は、前記電気機械(4)の流体と前記伝動装置(5)の流体とが収容される1つの共同のサンプとして構成されており、前記共同のサンプには、ただ1つのサンプライン(15)のみが液圧式に接続されており、
前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)の両方の前記第1の吸込ライン(24,24’)および前記第2の吸込ライン(25,25’)は、前記サンプライン(15)を介して前記共同のサンプに液圧式に接続されている(図1A図1D図2)、
請求項1から4までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項6】
前記サンプ(6)は、前記電気機械(4)に関連付けられたモータ側リザーバ(39)と、前記伝動装置(5)に関連付けられた伝動装置側リザーバ(40)とを含み、
前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)の両方の前記第1の吸込ライン(24,24’)は、前記モータ側リザーバ(39)に液圧式に接続されており、
前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)の両方の前記第2の吸込ライン(25,25’)は、前記伝動装置(5)に液圧式に接続されている(図3A図3D)、
請求項1から4までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項7】
モータサンプライン(15)が、前記第1の双方向ポンプ(13)の前記第1の吸込ライン(24)と、前記第2の双方向ポンプ(14)の前記第1の吸込ライン(24’)とに液圧式に接続されており、
伝動装置サンプライン(41)が、前記第1の双方向ポンプ(13)の前記第2の吸込ライン(25)と、前記第2の双方向ポンプ(14)の前記第2の吸込ライン(25’)とに液圧式に接続されている(図3A図3D)、
請求項6記載の電気駆動装置。
【請求項8】
低速モードでは、前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)の両方が、前記電気機械(4)を冷却するために前記モータ側リザーバ(39)から前記ステータ経路(17)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能であり(図3B)、
中速モードでは、前記第1の双方向ポンプ(13)が、前記伝動装置(5)を冷却するために前記伝動装置側リザーバ(40)から前記伝動装置経路(18)に流体を供給すべく駆動され、前記第2の双方向ポンプ(14)が、前記電気機械(4)を冷却するために前記モータ側リザーバ(39)から前記ステータ経路(17)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能であり(図3C)、
高速モードでは、前記第1の双方向ポンプ(13)および前記第2の双方向ポンプ(14)の両方が、前記伝動装置(5)を冷却するために前記伝動装置側リザーバ(40)から前記伝動装置経路(18)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能である(図3D)、
請求項6または7記載の電気駆動装置。
【請求項9】
前記液圧式装置(12)は、ただ1つの双方向ポンプ(13)を含み、
前記サンプ(6)は、前記電気機械(4)に関連付けられたモータ側リザーバ(39)と、前記伝動装置(5)に関連付けられた伝動装置側リザーバ(40)とを含み、
前記双方向ポンプ(13)の前記第1の吸込ライン(24)は、前記モータ側リザーバ(39)に液圧式に接続されており、前記双方向ポンプ(13)の前記第2の吸込ライン(25)は、前記伝動装置側リザーバ(40)に液圧式に接続されている(図4A図4C)、
請求項1または2記載の電気駆動装置。
【請求項10】
低速モードでは、前記双方向ポンプ(13)が、主に前記電気機械(4)を冷却するために前記モータ側リザーバ(39)から前記ステータ経路(17)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能であり(図4B)、
高速モードでは、前記双方向ポンプ(13)が、主に前記伝動装置(5)を冷却するために前記伝動装置側リザーバ(40)から前記伝動装置経路(18)に流体を供給すべく駆動されるように、前記液圧式装置(12)を制御することが可能である(図4C)、
請求項9記載の電気駆動装置。
【請求項11】
前記低速モードでは、前記サンプ(6)から前記伝動装置(5)に受動的に流体が供給され、
前記低速モードでは、前記伝動装置側リザーバ(40)内の流体レベルを、前記高速モードにおける流体レベルよりも高くすることができる、
請求項4、8、または10記載の電気駆動装置。
【請求項12】
前記液圧式のステータ経路(17)は、前記ハウジング(3)内に配置された前記電気機械(4)のジャケット冷却構造体(37)へと分岐されたジャケットライン(38)を含む(図2)、
請求項1から11までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項13】
前記液圧式の伝動装置経路(18)は、前記駆動シャフト(10)の内側長手方向孔(33)へと分岐されたシャフトライン(32)を含む(すべての図)、
請求項1から12までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項14】
前記高速モードでは、前記内側長手方向孔(33)を前記電気機械(4)の前記ロータ(9)および/または前記ステータに接続している前記駆動シャフト(10)の半径方向孔(34,34’)を介して前記電気機械(4)に流体が供給される、
請求項13記載の電気駆動装置。
【請求項15】
前記ハウジング(3)は、内部空間をモータ側チャンバと伝動装置側チャンバとに隔てている中間壁(35)を含み、
前記中間壁(35)には、貫通開口部(36)が配置されており、前記貫通開口部(36)を通って前記伝動装置側リザーバから前記モータ側リザーバへと流体を流すことができる(すべての図)、
請求項1から14までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【請求項16】
前記ステータ経路(17)に熱交換器(19)が配置されている(すべての図)、
請求項1から15までのいずれか1項記載の電気駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械と、伝動装置と、電気機械および伝動装置を冷却および/または潤滑するための液圧式装置とを備えた、車両用電気駆動装置アセンブリに関する。
【0002】
米国特許出願公開第2019/0229582号明細書から、潤滑経路を備えた車両用駆動装置が公知であり、この潤滑経路は、ケース内に貯留されたオイルを汲み上げ、その汲み上げたオイルを動力伝達機構に供給して動力伝達機構を潤滑する第1のオイルポンプと、潤滑経路から分離されていて、かつ回転電機に設けられた冷却経路とを含む。冷却経路は、ケース内に貯留されたオイルを汲み上げ、その汲み上げたオイルを専ら回転電機に供給して回転電機を冷却する第2のオイルポンプを含む。第2のオイルポンプは、電動ポンプであり、冷却経路には、回転電機に供給されるオイルを冷却するオイルクーラが設けられている。
【0003】
米国特許出願公開第2017/0285062号明細書は、第1のモータと、第2のモータと、エンジンとによって駆動されるハイブリッド車両の伝動装置を動作させるための電動オイルポンプ制御方法を開示している。同方法は、電動オイルポンプの低圧ポンプの回転数を、第1のモータの潤滑流量と、第2のモータの潤滑流量と、第1のモータの冷却流量と、第2のモータの冷却流量とに基づいて決定することと、電動オイルポンプの高圧ポンプの回転数を、伝動装置のクラッチの制御流量と、伝動装置に含まれる回転駆動装置の潤滑流量とに基づいて決定することとを含む。
【0004】
米国特許出願公開第2019/0081537号明細書からは、車両を駆動するための回転電機の冷却システムが公知である。冷却システムは、車両の走行に伴って駆動され、回転電機に潤滑油を供給する第1のポンプと、第2の駆動源によって駆動され、回転電機に潤滑油を供給する第2のポンプとを含む。第1のポンプは、回転電機のロータコアの回転軸の内側に第1の油路を介して潤滑油を供給するように構成されている。第2のポンプは、第2の油路を介して回転電機のステータのコイルに潤滑油を供給するように構成されている。
【0005】
国際公開第2020/069744号から、ハウジングアセンブリと、電気機械と、遊星歯車伝動装置と、出力分岐ユニットとを備えた、自動車を駆動するための電気駆動装置が公知である。ハウジングアセンブリは、モータ側の第1のハウジング部分と、伝動装置側の第2のハウジング部分と、モータ空間と伝動装置空間とを隔てている中間ハウジング部分とを有する。中間ハウジング部分は、軸方向で第1のハウジング部分の外側のハウジング区分内に延在しているモータ側のハウジング区分と、軸方向で第2のハウジング部分内に延在している伝動装置側のハウジング区分とを有する。モータ側のハウジング区分の外面と第1のハウジング部分の内面との間に、冷却剤の通流のためのシールされた中空室が形成されている。
【0006】
国際公開第2015/058788号は、互いに駆動接続された第1の歯車および第2の歯車と、駆動装置アセンブリの静的な組み込み状態において潤滑油レベルを規定する潤滑油の充填部とを備えた、自動車のための駆動装置アセンブリを開示している。第1の歯車の回転の結果として潤滑油を充填することができる第1のリザーバが、潤滑油レベルの上方に配置されている。第2の歯車の回転の結果として潤滑油を充填することができる第2のリザーバが、潤滑油レベルの上方に配置されている。第1のリザーバは、駆動装置アセンブリの第1の軸受領域を潤滑するために使用され、その一方で、第2のリザーバは、駆動装置アセンブリの第2の軸受領域を潤滑するために使用される。
【0007】
車両用電気駆動装置の電気機械と伝動装置とは、それぞれ異なる冷却要件および潤滑要件を有しており、これらの要件は、動作状況に依存している。電気機械の性能は、動作中、熱的に制限されている。電気モータの銅、鉄、および磁石において固有損失が生じる可能性があり、材料特性によってそれぞれのコンポーネントおよび構造体の温度が制限される。十分なトルク性能を達成するためには効果的な冷却が必要である。伝動装置の受動的なはねかけ式潤滑は、高速動作下では結果的に撹拌損失を生じさせる可能性がある。電気機械および伝動装置の両方のために冷却と潤滑とを組み合わせることは、効率に関する妥協である。伝動装置および電気モータのために1つの共通の制御されるポンプを使用することは、オンデマンドの潤滑および冷却を可能にするが、いずれにしても、電気モータの必要性と伝動装置の必要性との間の妥協である。
【0008】
したがって、本発明の課題は、電気機械および伝動装置を効率的に冷却および潤滑する目的で、流体を循環させるための液圧回路を備えた車両用電気駆動装置を提案することである。
【0009】
車両用電気駆動装置であって、電気駆動装置は、ハウジングを含み、電気駆動装置は、電気機械を含み、電気機械は、ハウジングに接続されていて、かつステータ端部巻線を含んでいるステータと、ステータに対して回転可能なロータと、ロータに回転可能に接続された駆動シャフトとを備え、駆動シャフトは、回転軸線を中心にして回転可能となるようにモータハウジングに支持されており、電気駆動装置は、自動車のドライブラインを駆動するために駆動シャフトからの回転運動を伝達するための伝動装置を含み、電気駆動装置は、電気機械および伝動装置のうちの少なくとも1つを冷却および/または潤滑するための、流体が収容されたサンプを含み、電気駆動装置は、液圧式装置を含み、液圧式装置は、少なくとも1つの双方向ポンプと、サンプとポンプとの間に配置された第1の吸込ラインと、ステータを冷却するための流体を供給するためにポンプと電気機械とを液圧式に接続しているステータ経路と、サンプとポンプとの間に配置された第2の吸込ラインと、伝動装置を冷却するための流体を供給するためにポンプと伝動装置とを液圧式に接続している伝動装置経路とを含み、電気駆動装置は、複数の弁を備えた弁装置を含み、複数の弁は、双方向ポンプの回転方向に応じて、電気機械を冷却するためにサンプから第1の吸込ラインを通ってステータ経路に流体が供給されるか、または伝動装置を冷却するためにサンプから第2の吸込ラインを通って伝動装置経路に流体が供給されるように構成されている、電気駆動装置が提供される。
【0010】
したがって、電気駆動装置は、良好な性能および効率を少ない複雑性および電力消費量で達成するために、適切な量の流体を電気機械および伝動装置に供給することを可能にする適応型の冷却および潤滑システムを提供する。電気機械の動作は、どこでどのくらい冷却が必要とされるかを規定し、このことを、液圧式装置によって相応に制御することができる。必要性に応じた良好な冷却および/または潤滑を達成するように、上述の電気駆動装置を複数の異なる冷却方式で動作させることができる。
【0011】
本開示において、電気機械または伝動装置が冷却されるということが記載されている限り、このことは、前述のコンポーネントを主に/能動的に冷却することに関連しており、言及されていない他のコンポーネントは、間接的に/受動的に冷却されてよいということが理解される。さらに、本開示が概して流体について言及している限り、この流体は、上述のコンポーネント、特に電気機械の一部および/または伝動装置の一部を冷却および/または潤滑するために適した任意の流体であってよいということが理解される。例えば、電気駆動装置のための冷媒/潤滑剤として油を使用することができる。
【0012】
電気駆動装置は、単一または二重のサンプおよび冷却システムと組み合わされた、双方向の単一または二重のポンプ装置を含むことができる。双方向動作は、特に電気機械の低速/高トルク動作および高速/低トルク動作のために構成された、2つの異なる潤滑または冷却の方式を可能にする。双方向ポンプは、電気的に駆動されてよく、例えば、それぞれのポンプの速度を制御することによって負荷に応じた流体の流れを達成することができる。電気機械の低速/高トルクモードでは、ポンプを第1の回転方向で駆動することができる。このモードでは、ポンプは、サンプから主に電気機械のステータおよび巻線ヘッドに流体を供給する。電気機械の高速/低トルク動作では、ポンプを逆向きの回転方向に駆動することができる。このモードでは、ポンプは、磁石および積層体を冷却するためにサンプから主に電気機械のステータおよびロータに流体を供給する。低圧/高流量の第1の双方向ポンプと、高圧/低流量の第2の双方向ポンプとを組み合わせることにより、潤滑冷却システムを、(例えば、ステータ冷却、ロータ冷却、伝動装置の潤滑を行う)低圧/高流量回路と、(例えば、高速動作における端部巻線の噴霧冷却、歯車の噴霧潤滑を行う)高圧/低流量回路とに分割することができる。これにより、より洗練された効果的な冷却/潤滑のコンセプトさえも可能となる。
【0013】
以下では、本発明のいくつかのさらなる仕様についてより詳細に説明する。この関連において、ある1つのコンポーネントの任意の記載を、さらなるそれぞれのコンポーネントにも適用することができ、例えば、ある1つのポンプ、サンプ、弁、または他のコンポーネントに関連して記載された任意の技術的な特徴を、任意の他のポンプ、サンプ、弁、またはコンポーネントにもそれぞれ適用することができるということが理解される。
【0014】
弁装置は、それぞれのポンプの回転方向に応じて流体の流れを制御するように構成されている。弁装置は、第1の吸込ラインに配置された逆止弁、第2の吸込ラインに配置された逆止弁、伝動装置経路の一部である第1の圧力ラインに配置された逆止弁、および/またはステータ経路の一部である第2の圧力ラインに配置された逆止弁を含むことができる。第1の吸込ラインをポンプの第1の入口に接続することができ、第2の吸込ラインをポンプの第2の入口に接続することができる。サンプを第1の吸込ラインおよび第2の吸込ラインに液圧式に接続するために、流体供給ラインを設けることができる。例えば、流体供給ラインにおけるポンプの上流に、吸込フィルタを配置することができる。例えば、ステータ経路におけるポンプの下流に、熱交換器を配置することができる。
【0015】
1つの実施形態によれば、液圧式装置は、第1の双方向ポンプおよび第2の双方向ポンプを含むことができ、第1の双方向ポンプおよび第2の双方向ポンプは、吸込側におけるサンプと、圧力側における電気機械または伝動装置との間で互いに機能的に並列に配置されてよい。2つの双方向ポンプを備えたこのような装置では、低速モードでは、第1の双方向ポンプおよび第2の双方向ポンプの両方が、電気機械を冷却するためにサンプからステータ経路に流体を供給すべく駆動されるように、液圧式装置を制御することが可能であってよい。中速モードでは、2つの双方向ポンプのうちの一方が、サンプからステータ経路に流体を供給すべく駆動されてよく、その一方で、2つのポンプのうちの他方が、サンプから伝動装置経路に流体を供給すべく駆動される。高速モードでは、両方の双方向ポンプが、サンプから伝動装置経路に流体を供給すべく駆動されてよい。
【0016】
上述のように、サンプは、電気機械および伝動装置の両方のための、ポンプへの単一の接続を備えた1つの単一のサンプを含むことができるか、またはこれに代えて、ポンプへのそれぞれ別個の接続を備えた2つの別個のサンプ、すなわち電気機械に関連付けられたモータ側リザーバと、伝動装置に関連付けられた伝動装置側リザーバとを含むことができる。動作中の電気駆動装置の任意の回転するコンポーネントからの流体の飛沫または滴下を、サンプ内に一時的に貯留することができる。ここから、回転するコンポーネントによって流体を再循環させることができるか、または要求に応じてサンプから冷却および/または潤滑されるべき場所へと流体を供給する少なくとも1つのポンプによって流体を再循環させることができる。
【0017】
2つの双方向ポンプと、電気機械および伝動装置の流体を貯留することができる1つの単一のサンプとを備えた実施形態(図1A図1D図2)では、両方の双方向ポンプのそれぞれの第1の吸込ラインおよび第2の吸込ラインは、共同のサンプに液圧式に接続されている。したがって、共同のサンプには、ただ1つのサンプラインのみが接続されている。
【0018】
2つの双方向ポンプと、2つのリザーバ、すなわちモータ側リザーバおよび伝動装置側リザーバを備えたサンプとを備えた実施形態(図3A図3C)では、両方の双方向ポンプの第1の吸込ラインは、モータ側リザーバに液圧式に接続可能であり、両方の双方向ポンプの第2の吸込ラインは、伝動装置に液圧式に接続可能である。より具体的には、モータサンプラインが、第1の双方向ポンプの第1の吸込ライン/吸込側入口と、第2の双方向ポンプの第1の吸込ライン/吸込側入口とに液圧式に接続可能である。相応に、伝動装置サンプラインが、第1の双方向ポンプの第2の吸込ライン/第2の吸込側入口と、第2の双方向ポンプの第2の吸込ライン/第2の吸込側入口とに液圧式に接続可能である。
【0019】
低速/高トルクモード(図3B)では、両方のポンプが、モータ側リザーバから主に電気機械のステータおよび/または巻線ヘッドに流体を供給すべく駆動されてよい。モータリザーバから液体を取り出すことにより、伝動装置リザーバ内の流体レベルの上昇をもたらすことができ、これによって伝動装置をより浸漬させることが可能となる。このモードでは、伝動装置は、受動的な潤滑を伴って動作している。中速/中トルクモード(図3C)では、2つのポンプは、機能的に互いに逆向きに動作することができ、すなわち、一方のポンプは、伝動装置を冷却するために、伝動装置リザーバから流体を吸入して、この流体を主に伝動装置に供給し、他方のポンプは、電気機械を冷却するために、モータリザーバから流体を吸入して、この流体を主に電気機械のステータおよび/またはロータに供給する。伝動装置リザーバから流体を取り出すことにより、このリザーバ内の流体レベルの低下をもたらすことができ、これによって歯車の浸漬を減少させることができる。このモードでは、伝動装置は、撹拌損失を低減させて高効率を得るために能動的に潤滑される。高速/低トルクモード(図3D)では、両方のポンプが、伝動装置リザーバから主に伝動装置の1つまたは複数の部分に流体を供給すべく駆動されてよい。伝動装置リザーバから両方のポンプの流体を取り出すことにより、伝動装置リザーバ内の流体レベルの低下をもたらすことができ、これによって伝動装置の浸漬がわずかになり、ひいては伝動装置の損失がわずかのみになる。
【0020】
ただ1つの単一の双方向ポンプと、2つのリザーバ、すなわちモータ側リザーバおよび伝動装置側リザーバとを備えた実施形態(図4A図4D)では、双方向ポンプの第1の吸込ラインは、モータ側リザーバに液圧式に接続可能であり、双方向ポンプの第2の吸込ラインは、伝動装置リザーバに液圧式に接続可能である。この場合、低速モード(図4B)では、双方向ポンプが、電気機械を冷却するためにモータ側リザーバからステータ経路に流体を供給すべく駆動されるように、液圧式装置を制御することが可能であり、高速モード(図4C)では、双方向ポンプが、伝動装置を冷却するために伝動装置側リザーバから伝動装置経路に流体を供給すべく駆動されるように、液圧式装置を制御することが可能である。
【0021】
上記のいずれの実施形態にも適用可能な実施形態では、液圧式の伝動装置経路は、駆動シャフトの内側長手方向孔への分岐導管を含むことができる。伝動装置の能動的な潤滑は、高圧流体の供給を必要としないので、高速モードでは、駆動シャフトを介して電気機械に低圧冷却流体を供給することができる。高速モードでは、駆動シャフトの長手方向孔をロータおよび/またはステータに接続している駆動シャフトの半径方向孔を介して、電気機械に流体を供給することができる。これによってロータを冷却することができ、流体を、ステータおよびステータ端部巻線に向かってさらに遠心分離することができ、これによってステータ端部巻線も冷却される。さらに、液圧式のステータ経路は、電気機械のハウジング内に配置された電気機械のジャケット冷却構造体へと分岐されたジャケットラインを含むことができる。これにより、電気機械のジャケットを、電気駆動装置の内側部分を冷却するために使用される流体と同じ流体によって冷却することができ、すなわち、別個の水冷却が不要となる。
【0022】
上記のいずれの実施形態においても、電気駆動装置のハウジングは、内部空間をモータ側チャンバと伝動装置側チャンバとに隔てている中間壁を含むことができる。中間壁には、貫通開口部が配置されてよく、貫通開口部を通って伝動装置側リザーバからモータ側リザーバへと流体を流すことができる。上述のように、低速モードでは、サンプから伝動装置に受動的に流体を供給することができ、低速モードでは、伝動装置側リザーバ内の流体レベルを、高速モードにおける流体レベルよりも高くすることができる。
【0023】
自動車用電気駆動装置の例示的な実施形態およびさらなる利点を、添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】本発明による電気駆動装置の第1の例示的な実施形態を示す概略図である。
図1B】低速モードにおける図1Aの実施形態を示す図である。
図1C】中速モードにおける図1Aの実施形態を示す図である。
図1D】高速モードにおける図1Aの実施形態を示す図である。
図2】修正された実施形態における本発明による電気駆動装置を示す概略図である。
図3A】本発明による電気駆動装置の別の例示的な実施形態を示す概略図である。
図3B】低速モードにおける図3Aの実施形態を示す図である。
図3C】中速モードにおける図3Aの実施形態を示す図である。
図3D】高速モードにおける図3Aの実施形態を示す図である。
図4A】本発明による電気駆動装置の別の例示的な実施形態を示す概略図である。
図4B】低速モードにおける図4Aの実施形態を示す図である。
図4C】高速モードにおける図4Aの実施形態を示す図である。
図5】種々の動作モードを表の形式で示す図である。
【0025】
図1とも総称される図1A図1Dは、第1の実施形態における本発明による電気駆動装置2を示す。電気駆動装置2は、ハウジング3と、電気機械4と、伝動装置5と、サンプ6とを含み、これらは、電気機械4の回転軸線A4に沿った縦断面の概略図として示されている。電気機械4は、ハウジング3に接続されていて、かつステータ端部巻線8を含んでいるステータ7と、ステータ7に対して回転可能なロータ9とを有する。駆動シャフト10は、ロータ9に接続されており、軸受19,19’を介して回転軸線A4を中心にして回転可能となるようにハウジング3に支持されている。伝動装置5は、図示されていない車両のドライブラインを駆動するために駆動シャフト10からの回転運動を伝達するように適合させられている。伝動装置5は、例えば図示されていない減速歯車機構、差動歯車機構、およびカップリングのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0026】
液圧式装置12が概略的に示されており、この液圧式装置12は、流体供給ライン15を介してサンプ6に液圧式に接続されている第1の双方向ポンプ13および第2の双方向ポンプ14と、複数の弁を備えた弁装置16と、ステータ7に流体を供給するために2つのポンプ13,14の各々を電気機械4の一部に接続している液圧式のステータ経路17と、伝動装置3を冷却するために2つのポンプ13,14の各々を伝動装置3の一部に接続している液圧式の伝動装置経路18とを含む。したがって、液圧式装置12を、液圧式回路または冷却装置と称することもできる。
【0027】
弁20,21,22,23;20’,21’,22’,23’は、それぞれの双方向ポンプ13,14の回転方向に応じて、電気機械4を冷却するためにサンプ6から第1の吸込ライン24,24’を通ってステータ経路17に流体が供給されるか、または伝動装置5の一部を冷却するためにサンプ6から第2の吸込ライン25,25’を通って伝動装置経路18に流体が供給されるように構成および/または配置されている。弁20,21,22,23;20’,21’,22’,23’のうちの少なくともいくつかを逆止弁として構成してもよいが、これに限定されているわけではない。
【0028】
以下では、液圧式装置について第1のポンプ13に関して説明する。第1の弁20は、第1の吸込ライン24に配置されており、第2の弁21は、第2の吸込ライン25に配置されており、第3の弁22は、伝動装置経路18の一部である第1の圧力ライン26に配置されており、第4の弁23は、ステータ経路17の一部である第2の圧力ライン27に配置されている。第1の吸込ライン24は、ポンプ13の第1の入口に接続されており、第2の吸込ライン25は、ポンプ13の第2の入口に接続されている。第2のポンプ14の液圧式装置は、第1のポンプ13の液圧式装置に機能的に並列に配置されていて、かつ第1のポンプ13の液圧式装置と同様に構成されており、本明細書では略してその説明を参照するものとし、その際には、ラインおよび弁のそれぞれの参照符号に添え字が付されている。流体供給ライン15に、吸込フィルタ11が配置されている。ステータ経路17におけるポンプ13,14の下流に、熱交換器19が配置されている。
【0029】
ステータ経路17は、第1のステータ冷却ユニット29に流体を供給するための第1の分岐28と、反対側の第2のステータ冷却ユニット29’に流体を供給するための第2の分岐28’とに分割されている。冷却ユニット29,29’は、リングチャネルと、それぞれの第1のステータ端部巻線8および第2のステータ端部巻線8’に向けられた、周方向に分配された複数の冷却ノズルとをそれぞれ含むことができる。ステータ経路17に流体を供給するように液圧式装置が動作させられると、ステータ7の、特にステータ端部巻線8,8’の、高い冷却効果を伴う能動的な冷却が達成される。
【0030】
液圧式の伝動装置経路18は、伝動装置5の内側部分への分岐30を含み、この分岐30は、例えばサンプ6よりも高いレベルに配置された伝動装置リザーバ31を含むことができる。したがって、伝動装置リザーバ31に供給された流体は、重力によって歯車および軸受のような伝動装置の回転部分へと流下または滴下して、この回転部分を冷却および/または潤滑することができる。次いで、流体をサンプ6に収集して、ポンプによって再循環させることができる。伝動装置経路18は、駆動シャフト10の内側長手方向孔33への分岐32をさらに含む。したがって、電気駆動装置2が高速モードで動作させられていて、かつ流体が主に伝動装置5に供給されている場合には、駆動シャフト10を介して電気機械4に低圧冷却流体が供給される。このために、駆動シャフト10は、長手方向孔33に接続された半径方向孔34,34’を有する中空シャフトとして構成されている。これにより、ロータ9の一部を冷却することができ、流体を、半径方向外側にステータ7に向かって、特にステータ端巻線8,8’に向かって遠心分離することができる。したがって、伝動装置5に流体を供給するように液圧式装置が動作させられると、同時に電気機械4が受動的に冷却される。
【0031】
2つの双方向ポンプ13,14を含んでいる図1に示された実施形態では、液圧式装置12を複数の異なる動作モードで制御することができる。低速/高トルクモードでは、第1の双方向ポンプ13および第2の双方向ポンプ14の両方が、電気機械4を冷却するためにサンプ6から流体供給ライン15と吸込ライン24,24’と圧力ライン27,27’とを通ってステータ経路17を通って流体を供給すべく駆動されてよい。低速/高トルクモードの流体供給は、図1Bに実線で示されている。両方のポンプ13,14は、同じ回転方向に、例えば時計回りに駆動される。
【0032】
中速/中トルクモードでは、双方向ポンプ14が、サンプ6からステータ経路17に流体を供給すべく駆動され、その一方で、他方のポンプ13が、サンプ6から伝動装置経路18に流体を供給すべく駆動される。中速/中トルクモードの流体の流れは、図1Cに実線で示されている。ポンプ13,14は、互いに逆向きの回転方向に、すなわち一方が時計回りに、他方が反時計回りに駆動される。
【0033】
高速/低トルクモードでは、両方の双方向ポンプ13,14が、サンプ6から伝動装置経路18に流体を供給すべく駆動される。高速/低トルクモードの流体の流れは、図1Dに実線で示されている。両方のポンプ13,14は、同じ回転方向に、例えば反時計回りに駆動される。
【0034】
図1に示された実施形態では、電気駆動装置2は、電気機械4の流体と伝動装置5の流体とが収集される1つの共同のサンプ6を含み、すなわち、両方の双方向ポンプ13,14のそれぞれの第1の吸込ライン24,24’および第2の吸込ライン25,25’は、単一のサンプ6に接続された1つの単一の流体供給ライン15を介して共同のサンプ6に液圧式に接続されている。
【0035】
オプションとして、電気駆動装置2のハウジング3は、ハウジング内部空間をモータ側チャンバと伝動装置側チャンバとに隔てている中間壁35を含む。中間壁35には、貫通開口部36が設けられており、貫通開口部36を通って、それぞれの流体レベルに応じて伝動装置側リザーバからモータ側リザーバへと、またはその逆へと流体を流すことができる。
【0036】
さらに、ハウジング3は、オプションとして電気機械4のためのジャケット冷却体37を含むことができる。ジャケット冷却体37は、ステータ7を冷却するためにステータ7の周りを周方向に延在している冷却構造体を含むことができる。冷却構造体は、例えば1つまたは複数のメアンダ状の流路を有することができ、ステータによって発生した熱を吸収するために、このメアンダ状の流路を通って冷却流体、特に水系冷却剤を流すことができる。
【0037】
図2は、修正された実施形態における本発明による電気駆動装置2を示す。この実施形態は、図1に示された実施形態に広範囲に対応しており、したがって、共通する特徴については上記の説明が参照される。図2に示された実施形態の唯一の相違点は、ジャケット冷却構造体37のために、電気駆動装置2の内側部分のために使用される流体と同じ流体が使用されることである。このために、液圧式のステータ経路17は、電気機械4のハウジング3内に配置された電気機械4のジャケット冷却構造体37に接続された分岐されたジャケットライン38を含む。
【0038】
図3とも総称される図3A図3Dは、別の実施形態における本発明による電気駆動装置2を示す。この実施形態は、図1に示された実施形態に広範囲に対応しており、したがって、共通する特徴については上記の説明が参照される。これに関して、同じ詳細には、図1の参照符号と同じ参照符号が付されている。
【0039】
本実施形態は、2つの双方向ポンプ13,14と、2つの別個のリザーバ、すなわちモータ側リザーバ39および伝動装置側リザーバ40を備えたサンプ6とを含む。この場合、両方の双方向ポンプ13,14の第1の吸込ライン24,24’は、モータ側リザーバ39に液圧式に接続されており、相応に、両方のポンプ13,14の第2の吸込ライン25,25’は、伝動装置側リザーバ40に液圧式に接続されている。モータサンプライン15が、第1の双方向ポンプ13の第1の吸込側入口に接続された第1の吸込ライン24と、第2のポンプ14のそれぞれの第1の入口に接続された第1の吸込ライン24’とに液圧式に接続されている。相応に、伝動装置サンプライン41が、第1のポンプ13の第2の入口に接続された第2の吸込ライン25と、第2のポンプ14の第2の入口に接続された第2の吸込ライン25’とに液圧式に接続されている。
【0040】
それぞれの流体の流れが図3Bに実線で示されている低速/高トルクモードでは、両方のポンプ13,14が、主に電気機械4のステータ7および/または巻線ヘッド8,8’を冷却するためにモータ側リザーバ39からモータサンプライン15を通って冷却ユニット29,29’に流体を供給すべく駆動されてよい。モータリザーバ39から液体を取り出すことにより、伝動装置リザーバ40内の流体レベルの上昇をもたらすことができ、これによって伝動装置5をより浸漬させることが可能となる。このモードでは、伝動装置5は、受動的な潤滑を伴って動作している。
【0041】
それぞれの流体の流れが図3Cに実線で示されている中速/中トルクモードでは、2つのポンプは、機能的に互いに逆向きに動作することができ、すなわち、ポンプ13は、伝動装置5を冷却するために伝動装置リザーバ40からライン41を通って流体を吸入して、この流体を主に伝動装置5に供給し、ポンプ14は、電気機械4のステータ7および/またはロータ9を冷却するためにモータリザーバ39からライン15を通って流体を吸入して、この流体を冷却ユニット29,29’に供給する。この場合、伝動装置リザーバ40から流体を取り出すことにより、流体レベルの低下がもたらされ、これによって歯車の浸漬が減少させられる。このモードでは、伝動装置5は、撹拌損失を低減させて高効率を得るために能動的に潤滑される。
【0042】
それぞれの流体の流れが図3Dに実線で示されている高速/低トルクモードでは、両方のポンプ13,14が、伝動装置リザーバ40からライン41,24,25’,26,26’,18,30,32を通って伝動装置5の1つまたは複数の部分に流体を供給すべく駆動されてよい。伝動装置リザーバ40から両方のポンプ13,14の流体を取り出すことにより、伝動装置リザーバ40内の流体レベルの低下をもたらすことができ、これによって伝動装置5の浸漬がわずかになり、ひいては伝動装置5の損失がわずかのみになる。
【0043】
図4とも総称される図4A図4Cは、別の実施形態における本発明による電気駆動装置2を示す。この実施形態は、図3に示された実施形態に広範囲に対応しており、したがって、共通する特徴については上記の説明が参照される。これに関して、同じ詳細には、それぞれ図3図2、および図1の参照符号と同じ参照符号が付されている。
【0044】
図4に示された本実施形態は、ただ1つの双方向ポンプ13が設けられていて、かつサンプ6が2つの別個のリザーバ、すなわちモータ側リザーバ39と、伝動装置側リザーバ40とを含んでいることを特徴としている。双方向ポンプ13の第1の吸込ライン24は、モータ側リザーバ39に液圧式に接続されており、ポンプ13の第2の吸込ライン25は、伝動装置リザーバ40に液圧式に接続されている。
【0045】
この実施形態では、低速モードでは、双方向ポンプ13が、主に電気機械4を冷却するためにモータ側リザーバ39からステータ経路17に流体を供給すべく駆動されるように、液圧式装置12を制御することが可能である。このモードの流れの経路は、図4Bに実線で示されている。高速/低トルクモードでは、双方向ポンプ13が、主に伝動装置5を冷却するために伝動装置側リザーバ40から伝動装置経路18に流体を供給すべく駆動される。この高速モードの流れの経路は、図4Cに実線で示されている。
【0046】
図5には、図1図3のうちのいずれかに示されているような2つの双方向ポンプ13,14を備えた電気駆動装置2のための例示的な動作モードが概略的に示されている。ここで、P1は、第1のポンプに関し、P2は、第2のポンプに関し、CSは、冷却システムに関し、MDは、モードに関し、OPは、電気駆動装置2の動作に関する。
【0047】
電気駆動装置2の低電力動作(Olp)では、第1のポンプ(P1)および第2のポンプ(P2)をスイッチオフ(0)することができ、したがって、冷却システムは、受動的な潤滑(C0)のみを伴って動作し、すなわち、能動的な油冷却が行われない。システムは、省エネモード(Ms)で動作する。
【0048】
電気駆動装置2の高トルクおよび低速動作(Ot)では、第1のポンプP1および第2のポンプP2の両方がスイッチオンされて、同じ回転方向(rd1)に、例えば時計回りに駆動され、したがって、冷却システムは、主にステータ端部巻線8,8’を冷却するために電気モータ4への、特に冷却ユニット29,29’への最大の流体供給を生成する(Cm)。このモードは、Mtとして示された最大トルクを特徴としている。電気駆動装置の伝動装置は、受動的に潤滑かつ/または冷却され、すなわち能動的なロータ冷却は行われず、伝動装置内の流体レベルは高くなっている。
【0049】
電気駆動装置2の中トルクおよび中速動作(Omed)では、第1のポンプ(P1)および第2のポンプ(P2)の両方が、互いに逆向きの回転方向(rd1,rd2)に駆動されるようにスイッチオンされ、したがって、冷却システムは、電気モータ4および伝動装置5への中程度の流体供給を生成する(Cmed)。このモードを、Mmedとして示された移行モードと称することができる。したがって、低流量の噴霧冷却が、制限されたロータ冷却および能動的な伝動装置の潤滑と組み合わされ、伝動装置の油レベルを低下させることが可能である。
【0050】
電気駆動装置2の高速動作(Ov)では、第1のポンプP1および第2のポンプP2の両方が、同じ回転方向(rd2)に、例えば反時計回りに駆動されるようにスイッチオンされ、したがって、冷却システムは、伝動装置5およびロータ9への最大の流体供給を生成する(Ct)。このモードを、Mvとして示された高速モードと称することができる。したがって、ロータからの遠心分離された油を介して能動的な伝動装置の潤滑と、巻線ヘッドの冷却とが提供され、伝動装置の油レベルを低下させることが可能である。
【0051】
液圧式装置の動作を、電気機械の動作モードに応じて制御することができる。低速および高トルクでは、銅の損失が大きいので、ステータおよび端部巻線を冷却することが重要である。低トルクおよび高速では、積層体および磁石における渦電流の損失が大幅に増加する。このような状態では、磁石とロータおよびステータの積層体とを冷却することは、特に注意を要する。伝動装置の潤滑も、動作状況に合わせて調整されるべきである。高トルクおよび低速では、受動的な潤滑で十分であろう。高速および低トルクでは、能動的な潤滑を使用して撹拌損失を最小限に抑えるために、油の流れを減少および集中させることができる。
【符号の説明】
【0052】
2 電気駆動装置
3 ハウジング
4 電気機械
5 伝動装置
6 サンプ
7 ステータ
8,8’ ステータ端部巻線
9 ロータ
10 駆動シャフト
11,11’ 吸込フィルタ
12 液圧式装置
13 双方向ポンプ
14 双方向ポンプ
15 流体供給ライン
16 弁装置
17 ステータ経路
18 伝動装置経路
19 熱交換器
20,20’ 弁
21,21’ 弁
22,22’ 弁
23,23’ 弁
24,24’ 吸込ライン
25,25’ 吸込ライン
26,26’ 圧力ライン
27,27’ 圧力ライン
28,28’ 分岐
29,29’ 冷却ユニット
30 分岐
31 伝動装置リザーバ
32 分岐
33 長手方向孔
34,34’ 半径方向孔
35 中間壁
36 貫通開口部
37 ジャケット冷却構造体
38 ジャケットライン
39 サンプ
40 サンプ
A 軸線
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5
【国際調査報告】