(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】赤外エバネッセント波分光法を利用してバッテリ内の化学種をオペランド解析するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/35 20140101AFI20240725BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240725BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01N21/35
G02B6/02 376B
G02B6/02 401
G02B6/44 301A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505415
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2022071395
(87)【国際公開番号】W WO2023006966
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】519226908
【氏名又は名称】コレージュ・ド・フランス
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】512277622
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ・アン
(71)【出願人】
【識別番号】523169040
【氏名又は名称】エコール・ナシオナル・シュペリウール・ドゥ・シミ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】523169039
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・デ・シアンス・ザプリケ・ドゥ・レンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マリー・タラスコン
(72)【発明者】
【氏名】シャルロット・ジェルヴィリエ
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン・ブサール
(72)【発明者】
【氏名】シャン-フア・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック・アダム
【テーマコード(参考)】
2G059
2H250
【Fターム(参考)】
2G059AA03
2G059BB04
2G059BB15
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF05
2G059FF07
2G059HH01
2G059JJ01
2G059JJ17
2G059KK01
2G059MM12
2H250AB29
2H250AC00
2H250AC32
2H250AC33
2H250BA32
2H250BB01
2H250BD18
(57)【要約】
バッテリセル(12)の化学組成をオペランド解析するための方法であって、以下のステップ、すなわち、
カルコゲナイドガラスから作製された光ファイバ(14)をバッテリセル(12)に挿通するステップと、
バッテリ(12)をサイクリングするステップと、
バッテリ(12)をサイクリングするステップの最中に、光信号を生成し、光ファイバ(14)を通して光信号(O)を送信するステップと、
赤外線分光計(20)を使用して光ファイバ(14)の出力端部(14O)にて送信された光信号(O)を検出するステップと、
検出された光信号を経時的に記録するステップと、
ファイバエバネッセント波分光法を利用して、光信号がスペクトル内において所定の閾値を上回る強度となる特徴的な波長を特定するステップと、
前記特定された特徴的な波長を少なくとも1つの所定の化学種に関連づけるステップと
を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリセル(12)の化学組成をオペランド解析するための方法であって、以下のステップ、すなわち、
カルコゲナイドガラスから作製された少なくとも1つの光ファイバ(14)を前記バッテリセルに挿通するステップと、
光信号(O)を生成し、前記光ファイバ(14)を通して前記光信号(O)を送信するステップと、
赤外線分光計(20)を使用して、前記光ファイバ(14)の出力端部(14O)にて前記送信された光信号(O)を検出するステップと、
前記検出された光信号(O)を経時的に記録するステップと、
ファイバエバネッセント波分光法を利用して、前記光信号(O)が所定の閾値を上回る強度となる特徴的な波長を特定するステップと、
前記特定された特徴的な波長を少なくとも1つの所定の化学種に関連づけるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記バッテリをサイクリングするステップをさらに含み、光信号(O)を生成し前記光ファイバ(14)を通して前記光信号(O)を送信する前記ステップと、前記光ファイバ(14)の出力端部(14O)にて前記送信された光信号(O)を検出する前記ステップと、前記検出された光信号を経時的に記録する前記ステップとが、前記バッテリ(12)をサイクリングするステップの最中に実施される、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記検出された光信号(O)を経時的に記録するステップの後に、前記記録された光信号(O)のスペクトルを確立するステップを含む、請求項1または2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記特徴的な波長の前記記録された光信号(O)の強度を前記少なくとも1つの所定の化学種のモル量に関連づけるステップをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項5】
特徴的なピークを少なくとも1つの所定の化学種に関連づける前記ステップは、特定の赤外線波長を所定の化学種に関連づけるスペクトルデータベースと、前記特定された特徴的な波長を比較するステップを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項6】
前記スペクトルデータベースは、前記少なくとも1つの所定の化学種のモル量を、ある特定の波長について前記光信号(O)の前記強度に関連づける較正曲線をさらに含む、請求項5に記載の解析方法。
【請求項7】
前記スペクトルデータベースを確立する事前ステップを含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項8】
前記スペクトルデータベースを確立する前記ステップは、以下のサブステップ、すなわち、
カルコゲナイドガラスから作製された光ファイバ(14)を所定の化学種の溶液に挿入するステップと、
前記赤外線分光計(20)を使用して、前記光ファイバ(14)の出力端部にて前記送信された光信号を検出するステップと、
前記検出された光信号(O)を記録するサブステップと、
前記記録された光信号(O)が所定の閾値を上回る強度を有する波長または波長セットを特定するステップと、
前記波長または波長セットの前記所定の化学種に対する関連づけを前記スペクトルデータベースに入力するステップと
を含む、請求項7に記載の解析方法。
【請求項9】
前記溶液中の前記所定の化学種のモル量が記録され、前記波長または波長セットの前記記録された光信号(O)の前記強度と前記所定の化学種の前記モル量との関連づけが、前記データベースに入力される、請求項8に記載の解析方法。
【請求項10】
前記光ファイバ(14)は、前記バッテリセル(12)の電極中に埋設される、請求項1から9のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項11】
前記光ファイバ(14)は、前記バッテリセル(12)の電解質に挿通される、請求項1から10のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項12】
第1の光ファイバ(14)が、前記バッテリセル(12)の電極中に埋設され、第2の光ファイバ(14)が、前記バッテリセル(12)の前記電解質に挿通される、請求項10または11に記載の解析方法。
【請求項13】
前記光ファイバ(14)は、Te
2As
3Se
5ガラスから実質的になる材料から作製される、請求項1から12のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項14】
前記光ファイバ(14)の直径が、100~400μmの間からなる、請求項1から13のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項15】
前記光ファイバ(14)の前記カルコゲナイドガラスは、2~12μmの間からなる波数を有する電磁放射に対する透過性を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項16】
前記光ファイバ(14)は、前記バッテリセルの電極と同一の材料から作製されたコーティングで被覆され、前記コーティングは、好ましくは0~10μmの間からなる厚さを有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項17】
前記光ファイバ(14)は、星形状の断面か、またはV字型の局所断面を有するディスク形状の断面を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の解析方法。
【請求項18】
バッテリセル内の化学種を識別するための解析デバイスであって、
カルコゲナイドガラスから作製された、前記バッテリセル(12)に挿通される光ファイバ(14)と、
前記バッテリ(12)を充放電するための電源(18)と、
前記バッテリ(12)をサイクリングする最中に前記光ファイバ(14)を通る光信号を生成する赤外線光信号発生器(20)と、
前記光ファイバ(14)を通して送信された前記光信号(O)を前記光ファイバの出力端部(14O)にて検出する検出器(30)と、
前記検出された光信号(O)を記録するためのメモリと、
前記光信号(O)がスペクトル内において所定の閾値を上回る強度となる特徴的な波長を特定し、前記特定された特徴的な波長を少なくとも1つの所定の化学種に関連づけるプロセッサと
を備える、解析デバイス。
【請求項19】
前記光信号発生器および前記検出器(30)は、分光計(20)内に備えられ、前記分光計(20)は、例えば12000cm
-1~600cm
-1の間からなるスペクトル領域を有する水銀-カドミウム-テルル検出器を好ましくは備える、フーリエ変換赤外線分光計である、請求項18に記載の解析デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの分野に関し、より詳細には、バッテリサイクリング時に形成される、バッテリ用の固体電解質界面層(SEI)の形成に随伴する化学種の解析と、リチウムイオン(Liイオン)バッテリおよびナトリウムイオン(Naイオン)バッテリを含むがこれらに限定されない電解質の分解の観察との分野に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送および電力の両セクターにおいてバッテリの使用が増加しつつある状況において、バッテリの信頼性および性能を高める必要性が存在する。
【0003】
バッテリの分野において、熱力学的安定の範囲を超過する電位に対して電極表面にて電解質の自己限定的な部分触媒分解の結果として生じるSEI層すなわちパッシベーション膜の形成が、バッテリセルの性能に対して経時的に影響を及ぼす主要な要因の1つとなることはよく知られている。実際に、SEI層の形成は、バッテリセルが機能するために必須であるが、この形成が過剰に行われた場合には、望ましくないリチウムイオン消耗、インピーダンスの大幅な上昇、および活性電極面積の縮小につながる恐れがあり、それによりバッテリセルの性能の経時的な低下が生じ得る。そのため、セル寿命を主に左右するSEIの形成およびその安定性の確保は、セルの製造においてクリティカルかつ多大な費用を要するステップであり、製造業者間においてもそのプロトコルは企業秘密となっている。同様に、SEIの動的性質に基づき、経年劣化時またはサイクリング後の電解質の化学的な変化を認識することは、分解現象をよりよく理解するために重要となる。
【0004】
これまで、バッテリ分野内で行われる感知は、バッテリセル内部ではなくバッテリセル外部に配置されたセンサの使用に主として依拠するものであった。したがって、内部の化学パラメータおよび/または物理パラメータの認識は限定的なものとなる。より近年においては、非破壊的アプローチを介してセル内の様々な位置において高い感度で例えば温度、圧力、歪み、電解質組成、および熱流などの複数のパラメータの測定が可能な埋設可能な光学センサが展開されてきた。これを目的として、遡ること2013年には、物理学者らは、光信号の相対的信号安定性と波長多重化に対する信号安定性に加えて、SMF-FBG(シングルモードファイバ-ファイバブラッググレーティング)センサの使用を開始した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの技術は、SEIの形成をもたらすカスケード反応メカニズムを十分に理解するために必要となる化学種の性質および化学式を認識可能にするものではない。本発明の目的は、電解質分解の一連の反応、ならびにSEIを形成する例えばアルキルカーボネートおよびポリエチレングリコールなどの化学組成寄生化学種を識別可能にすることによって、この制約を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これを目的として、本発明は、バッテリセルの化学組成をオペランド解析するための方法に関する。この方法は、以下のステップ、すなわち
カルコゲナイドガラスから作製された光ファイバをバッテリセルに挿通するステップと、
光信号を生成し、光ファイバを通して光信号を送信するステップと、
赤外線分光計を使用して、光ファイバの出力端部にて送信された光信号を検出するステップと、
検出された光信号を経時的に記録するステップと、
光信号が所定の閾値を上回る強度となる特徴的な波長を特定するステップと、
特定された特徴的な波長を少なくとも1つの所定の化学種に関連づけるステップと
を含む。
【0007】
本発明は、有機電解質およびその分解生成物が、3~15ミクロンの波長領域内の赤外線放射と吸収により相互作用するという理解に基づいている。本発明は、電解質中における赤外線信号の送信を考慮することによりこの相互作用を活用し、バッテリのサイクリング中に出現し前記赤外線信号に影響を及ぼす化学種を、エバネッセント波分光法を利用することにより識別することを目的とする。しかし、一般的に遠隔通信において使用される従来的なシリカ(SiO2)光ファイバは、0.8~2ミクロンの波長でのみ送信を行い、したがって赤外線検出は不可能となる。
【0008】
好ましくは、光信号は、中赤外線からなるおよび好ましくは3~13ミクロンの間からなる波長を有する。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、3~13ミクロンの波長にわたって送信し得るカルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)ガラスを使用する。カルコゲナイド光ファイバをバッテリセルに挿通し、前記ファイバを通して光信号を送信することにより、光ファイバからのエバネッセント波は、バッテリセルの電解質および特にバッテリのサイクリングの最中に出現する有機溶剤分解生成物と、または光ファイバが電極内に配置される場合にはバッテリセルの電極と相互作用する。
【0010】
さらに、これは、光ファイバの出力端部にて送信された光信号に影響を及ぼす。したがって、前記信号を記録し、エバネッセント波分光法を利用することにより、記録された光信号のスペクトルを確立し、スペクトルの特徴的なピークを特定することが可能となり、また前記特定された特徴的なピークを所定の化学種に関連づけることにより、バッテリのサイクリングおよび/または経年劣化の最中における化学種の分解および形成、ならびにさらにはこのサイクリングのどの時点においてこれらの化学種が出現するかを識別することが可能となる。他の適用では、これらの化学種のモル量を評価することがさらに可能となる。
【0011】
したがって、本発明は、化学種の出現をリアルタイムでオペランド記録し、さらにはこれらを定量化することを可能にする。この方法を経時的に適用することが特に有利となる。
【0012】
これにより、特定の化学種の出現にリンクし、したがってバッテリ寿命を向上させるためにかかる寄生反応を除去するためのガイダンスを提供する、電解質の分解作用および不安定性のより優れた理解が可能となる。特に、本発明を利用することにより、SEIの形成を詳細にモニタリングすることができる。さらには、電解質の化学組成をこのようにリアルタイム認識することにより、バッテリサイクリングに対する例えば温度、電流、電圧等の種々のパラメータの影響を調査することができる。最後に、本発明による方法は、任意の種類のバッテリセルに対して適合化することが可能であり、これにより極めて好都合なものとなる。
【0013】
さらには、本方法を経時的にオペランド実施することにより、セルの構造を構成する材料中のイオンインターカレーションを追跡することが可能となる。
【0014】
本発明の特定の一実施形態によれば、本方法は、バッテリをサイクリングするステップをさらに含み、光信号を生成し光ファイバを通して光信号を送信するステップと、光ファイバの出力端部にて送信された光信号を検出するステップと、検出された光信号を経時的に記録するステップとが、バッテリをサイクリングするステップの最中に実施される。これにより、バッテリサイクリングの最中における化学種の分解および形成を識別することがとりわけ可能となる。
【0015】
好ましくは、特徴的な波長の特定と、それらの波長の所定の化学種に対する関連づけとを簡易化するために、本方法は、検出された光信号を経時的に記録するステップの後に、前記記録された光信号のスペクトルを確立するステップを含む。
【0016】
バッテリの化学組成を取得するのみならず、さらにはかように解析された化学種を定量化するために、本方法は、前記特徴的な波長の記録された光信号の強度を少なくとも1つの所定の化学種のモル量に関連づけるステップをさらに含む。
【0017】
化学種の解析を容易化するために、特徴的なピークを少なくとも1つの所定の化学種に関連づけるステップは、特定の赤外線波長を所定の化学種に関連づけるスペクトルデータベースと、特定された特徴的な波長を比較するステップを含む。
【0018】
好ましくは、スペクトルデータベースは、少なくとも1つの所定の化学種のモル量を、ある特定の波長について光信号の強度に関連づける較正曲線をさらに含む。
【0019】
本発明の特定の一実施形態によれば、本方法は、スペクトルデータベースを確立する事前ステップを含む。もう1つの可能性は、一般的なタイプの分子結合および官能基に対する一般的に波数で表される吸収周波数を示す、既に確立されているテーブルを使用することである。
【0020】
本発明の特定の一実施形態によれば、スペクトルデータベースを確立するステップは、以下のサブステップ、すなわち
カルコゲナイドガラスから作製された光ファイバを所定の化学種の溶液に挿入するステップと、
赤外線分光計を使用して、光ファイバの出力端部にて送信された光信号を検出するステップと、
検出された光信号を記録するステップと、
記録された光信号が所定の閾値を上回る強度を有する波長または波長セットを特定するステップと、
前記波長または波長セットの前記所定の化学種に対する関連づけをスペクトルデータベースに入力するステップと
を含む。
【0021】
バッテリ中の化学種の量を定量化することを可能にするために、溶液中の所定の化学種のモル量が記録され、波長または波長セットの記録された光信号の強度と所定の化学種のモル量との関連づけが、データベースに入力される。
【0022】
本発明の特定の一実施形態によれば、光ファイバは、バッテリセルの電極中に埋設される。これにより、SEIの化学種とSEIが形成される段階とを解析することが可能となる。
【0023】
本発明の特定の一実施形態によれば、光ファイバは、バッテリセルの電解質に挿通される。これにより、バッテリの電解質中の化学種を解析することが可能となる。
【0024】
本発明の特定の一実施形態によれば、第1の光ファイバが、バッテリセルの電極中に埋設され、第2の光ファイバが、バッテリセルの電解質に挿通される。このようにすることで、SEIの変化および電解質の組成の両方を並行的にモニタリングすることができる。
【0025】
好ましくは、光ファイバは、Te2As3Se5ガラスから実質的になる材料から作製される。この種のカルコゲナイドガラスは、バッテリの典型的な化学種により吸収される波長を有する赤外線信号を容易に透過させるため、本発明に特に適する。特に、FR2958403に記載の光ファイバを使用することが可能である。この特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0026】
好ましくは、光ファイバの直径は、100~400μmの間からなる。実際に、この直径が400μm超である場合には、ファイバは、硬くなり、遠隔に位置する装置に接続するためには不都合となる。他方において、この直径が100μm未満である場合には、光ファイバは脆弱になるまたは取り扱いにくいものとなる。
【0027】
好ましくは、バッテリの典型的な化学種により吸収される波長を有する赤外線信号を送信することを可能にするために、光ファイバのカルコゲナイドガラスは、2~12μmの間からなる波数を有する電磁放射に対する透過性を有する。
【0028】
特定の一実施形態によれば、光ファイバは、バッテリセルの電極と同一の材料から作製されたコーティングで被覆され、前記コーティングは、好ましくは0~10μmの間からなる厚さを有する。
【0029】
コーティングが電極の中の1つと同様の材料から作製されることにより、バッテリセルの動作中に、電極上に形成されるものと同様のSEI析出物が、ファイバの外方表面上に形成される。したがって、エバネッセント波は、前記SEI析出物と相互作用し、電極のSEI中に含まれる化学種の識別を可能にする。これにより、このSEI中に含まれる化学種の非常に正確な検出が可能となる。なぜならば、このSEIは、ファイバと直接接触状態にあり、したがって光信号により発生するエバネッセント波と直接接触状態になるからである。
【0030】
特定の一実施形態によれば、光ファイバの外方表面を増大させるために、光ファイバの断面は、星形状か、またはV字型の局所断面を有するディスク形状である。
【0031】
さらに、本発明は、バッテリセル内の化学種を識別するための解析デバイスに関する。この解析デバイスは、
カルコゲナイドガラスから作製された、バッテリセルに挿通される光ファイバと、
バッテリを充放電するための電源と、
バッテリをサイクリングする最中に光ファイバを通る光信号を生成する赤外線光信号発生器と、
光ファイバを通して送信された光信号を光ファイバの出力端部にて検出する検出器と、
検出された光信号を記録するためのメモリと、
光信号がスペクトル内において所定の閾値を上回る強度となる特徴的な波長を特定し、前記特定された特徴的な波長を少なくとも1つの所定の化学種に関連づけるプロセッサと
を備える。
【0032】
本発明の特定の一実施形態によれば、光信号発生器および検出器は、分光計内に備えられ、この分光計は、例えば12000cm-1~600cm-1の間からなるスペクトル領域を有する水銀-カドミウム-テルル検出器を好ましくは備える、フーリエ変換赤外線分光計である。この種の装置は、使用に好都合である適切な精度を実現するため、本発明の実施に特に十分に適したものとなる。
【0033】
添付の図面を参照とする以下の説明を考慮することにより、本発明がさらによく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の第1の特定の実施形態による解析デバイスの概略図である。
【
図2】
図1の解析デバイスの光ファイバの概略断面図である。
【
図3】本発明による解析デバイスおよび解析方法を利用して得られたスペクトルを示す第1のグラフである。
【
図4】本発明による解析デバイスおよび解析方法を利用して得られたスペクトルを示す第2のグラフ、ならびに
図1のバッテリのサイクリングを示すグラフである。
【
図5】本発明の第2の特定の実施形態によるバッテリの電極内の解析デバイスの光ファイバの概略断面図である。
【
図6】本発明の第3の特定の実施形態によるバッテリの電極内の解析デバイスの光ファイバの概略断面図である。
【
図7】複数の変形例による解析デバイスの光ファイバの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1では、バッテリセル12内の化学種を識別するための解析デバイス10が図示される。
【0036】
解析デバイス10は、バッテリセル12に挿通されたカルコゲナイドガラスから作製される光ファイバ14を備える。バッテリセルは、好ましくはNaイオンまたはLiイオンバッテリであり、例えば18650、パウチ、CR2032、またはスウェージロックなどの様々なフォーマットを有し得る。
図1では、バッテリセルは18650セルである。当然ながら、これらはバッテリセルのタイプおよびフォーマットの例にすぎず、本発明は任意のタイプのバッテリセルに対して使用され得る点を理解されたい。
【0037】
図1に示すように、光ファイバ14が、バッテリセル12の電極16に挿通される(埋設される)。電極16は、正電極または負電極のいずれかであることが可能である。一代替例としては、光ファイバ14は、バッテリセル12のゼリーロール中央空間内においてこのゼリーロールを貫通する。
【0038】
これにより、電極16(負または正のいずれかの)の材料内の化学種を解析することが可能となる。しかし、他の実施形態によれば、光ファイバ14は、電解質内の化学種を解析するためにバッテリセル12の電解質に挿通されてもよい。この場合には、ファイバ14は、バッテリセル12のセパレータ(図示せず)同士の間において電解質中に組み込まれる。
【0039】
例えば、
図1では、18650セル12への光ファイバの組込みが示される。この18650計装セルは、ファイバ14をゼリーロールの中央空部に貫通できるように、セル12の負側および正側の中央に2つの0.8mmの穴を穿孔される。この穿孔されたセル12は、一晩の間80℃で真空下において乾燥され、アルゴン充填されるグローブボックス内に導入される。ニードル(例えば0.45mm直径を有する)をガイドとして使用することにより、約60センチメートルの長さの光ファイバ14がセル12に貫通される。ファイバ14が、セルの各部分から同一の長さだけ延出した状態で配置されると、正電極側の穴がエポキシ樹脂で閉じられ、24時間にわたり硬化される。次いで、約5.3mlの電解質が、負側の穴から注入される。最後に、第2の穴もまたエポキシ樹脂で封止され、24時間にわたり硬化される。
【0040】
本発明のこの第1の実施形態によれば、光ファイバ14は、セル12の電解質の中に配置され、したがってこの電解質により囲まれる。
【0041】
好ましくは、光ファイバ14は、Te2As3Se5ガラスから実質的になる材料から作製される。Te2As3Se5ガラス「から実質的になる」材料は、少なくとも99%のTe2As3Se5ガラスからなることを意味する点に留意されたい。例えば、水素などの不純物がこのガラス中に時として見受けられる場合があるが、光ファイバの1%超の分量には満たない。この種のカルコゲナイドガラスは、バッテリの典型的な化学種により吸収される波長を有する赤外線信号を容易に透過させるため、本発明に特に適する。さらに、Te2As3Se5ファイバのガラス転移温度は137℃であり、これによりバッテリセル12への組込みが可能となる。
【0042】
光ファイバ14の直径は、好ましくは100~400μmの間からなる。実際に、光ファイバ14の直径が400μm超である場合には、ファイバは硬くなり、遠隔に位置する装置に接続するためには不都合となる。光ファイバ14の直径は、一定であってもよく、またはファイバ14は、上記において示したように検出を改善するために局所的にテーパ状になされてもよい。他方において、光ファイバ14の直径が100μm未満である場合には、光ファイバ14は脆弱になるまたは取り扱いにくいものとなる。
【0043】
好ましくは、バッテリの典型的な化学種により吸収される波長を有する赤外線信号を送信することを可能にするために、光ファイバ14のカルコゲナイドガラスが、2~12μmの間からなる波数を有する電磁放射に対する透過性を有する。換言すれば、分光計20が中赤外線を放出する。
【0044】
解析デバイス10は、バッテリ12のサイクリングとしても知られるバッテリセル12の連続的な充放電を行うための電源18を備える。かかる電源12は周知のものであり、さらには詳述しない。
【0045】
さらに、解析デバイス10は、バッテリのサイクリング最中に光ファイバ14を通る光信号を生成する赤外線光信号発生器を備える。この場合には、光信号発生器は、分光計20の一部である。フォーカシング付属品21が、
図1に示すように分光計20により放出される赤外線ビームを合焦するために追加されてもよい。
【0046】
赤外線光信号は、
図1の左側に示す光ファイバ14の入力端部14Iにて光ファイバ14へ送信される。
【0047】
より具体的には、
図2に示すように、ファイバ14は、入力端部14Iと出力端部14Oとの間において略長手方向Lに延在する。
【0048】
ファイバ14は、入力端部14Iから第2の端部14Oにかけて、赤外線波を案内するための第1のファイバセクション23を備える。この第1のセクション23は、入力端部14Iから遠い側において、第2の検出セクション25の第1の連結箇所24に対して連結され、前記第2のセクション25は、第1の連結箇所24から遠い側に位置する第2の箇所26により、赤外線波を案内するための第3のファイバセクション27に対して連結される。
【0049】
ファイバ14の第2の感知セクション25は、第1のセクション23の少なくとも1つの次元における横幅、直径、または断面より小さく、第3のセクション27の少なくとも1つの次元における横幅、直径、または断面よりも小さい、少なくとも1つの次元における横幅、直径、または断面を有する。換言すれば、第2の感知セクション25は、テーパ状を成す。しかし、全長にわたり均一な直径または断面を有するファイバ14を使用することもまた可能である。
【0050】
ファイバ14の第2の感知セクション25は、第1の連結箇所24と第2の連結箇所26との間および第1のセクション23と第3のセクション27との間において、ファイバ14の非ゼロ長さL1にわたって延在する。
【0051】
例えば、ファイバ14は、第1のセクション23および第3のセクション27において約400μmの平均直径を有し、約10cmである第2の検出セクションの長さL1にわたり第2の検出セクション25において約100μmの平均直径を有する。第1のセクション23は、第2の検出セクション25の長さよりも長い。第3のセクション27は、第2の検出セクション25の長さL1よりも長い。
【0052】
第1の連結箇所24は、例えば第1のセクション23から第2の検出セクション25にかけて、例えば
図2に示すような円錐台形であるなど、テーパ状を成す断面で形成される。第2の連結箇所26は、例えば第2の検出セクション25から第3のセクション27にかけて、例えば
図2に示すような形状の円錐台形であるなど、幅広になる断面を有する。第2の検出セクション25は、第1の連結箇所24と第2の連結箇所26との間に例えば一定の断面幅および/または一定の断面直径および/または一定の断面を有する。
【0053】
第2の検出セクション25は、ファイバ14中における赤外線波の伝搬に対して外部媒体によりもたらされる外乱を検出するために、この外部媒体と接触状態になるように意図される。この特定の実施形態では、第2の検出セクション25は、テーパ状を成し、それにより光ファイバ14はこれらの外乱に対する感度がより高くなり、第2のセクション25内における赤外線波の反射数をより増加させることが可能となる。
【0054】
図2は、入力端部14Iからセクション23中に送信された、ここでは赤外線波である光信号Oの経路をファイバ14の内部の太線矢印で示す。第2の検出セクション25内において、ファイバ14の断面を幅細にすることにより、第2の検出セクション25内において、ファイバ14の外方表面14Sに対する波の反射数がより増加する。
【0055】
外部媒体が第2の感知セクション25と接触状態になると、この第2のセクション25内における赤外線波Oの伝搬は、赤外線波Oの一部分が第2のセクション25から外部媒体へと進むことにより外乱を受ける。したがって、外部媒体との第2の検出セクション25の接触は、第1のセクション23から第3のセクション27まで送信された赤外線波Oに対して影響を及ぼす。
【0056】
より厳密には、赤外線波Oは、第2のセクション25内において一連の合計の内部反射数を経ることによりファイバ14を通して伝搬する。入射光信号波と反射光信号波との間における干渉により、結果として試料内部にエバネッセント波場28が発生する。これは、赤外線波Oの屈折率の関数であり、その振幅はファイバ芯から指数関数的に低下する。エバネッセント波場28は、各反射において部分的に吸収されて、透過スペクトルにおいて対応する波長低下をもたらす。
【0057】
反射数(N)は、ファイバの長さ(L)、ファイバの直径(d)、および法線からの光入射角度(θ)の関数となる。
【0058】
【0059】
ここで、この外部媒体が、バッテリセル12の電極16またはバッテリセル12の他の変形例の電解質である場合に、電極16の化学組成、とりわけそれらの化学成分に含まれる分子の化学結合は、入力端部14Iから出力端部14Oに送信された赤外線波Oに対して影響を及ぼす。
【0060】
本発明の作動原理は、この事実を活用し、ファイバエバネッセント波分光法を利用することである。
【0061】
したがって、解析デバイス10は検出器30を備え、この検出器30は、光ファイバ14が送信モードで使用される場合に、光ファイバの出力端部14Oにて光ファイバ14通して送信された光信号を検出する。
【0062】
しかし、他の図示しない変形例では、検出器30は、光ファイバが反射モードで使用される場合に備えて、光ファイバの入力端部14Iに配置され得る。この場合には、ミラーが、ファイバの出力端部14Oに配置される。
【0063】
さらに、
図1では検出器30が分光計20とは別個のデバイスであるが、これは一例の実施形態にすぎず、検出器30は分光計20内に備えられることも可能である点に留意されたい。
【0064】
好ましくは、検出器30は、液体窒素で冷却された水銀-カドミウム-テルル(MCT)検出器である。検出器30のスペクトル領域は、例えば12000cm-1~600cm-1の間からなり得る。
【0065】
光信号Oの振幅は、150μm直径および70cm長のTe2As3Se5ファイバの場合には約10000に制御される。全スペクトルに関して、100回のスキャニングが取得される。分解能は例えば4cm-1である。好ましくは、セル12の電解質の注入の前または後にバックグラウンドが取得される。
【0066】
有利には、フォーカシング付属品21、バッテリセル12、光ファイバ14、および検出器30は、例えば外部の大気、およびとりわけ例えば電解質の分解を観察するコンテクストにおいて特に関心対象となる化学種である二酸化炭素(CO2)などの、あらゆる寄生化学成分を除去するために、パージチャンバ34内に配置される。
【0067】
また、解析デバイス10は、検出された光信号Oを記録するためのメモリ(図示せず)を備える。前記メモリは、分光計内に、または分光計20に接続されたコンピュータ(図示せず)内に備えられてもよい。
【0068】
また、解析デバイス10は、例えば分光計20内またはコンピュータ内などに位置するプロセッサ(図示せず)を備え、光信号Oが所定の閾値を上回る強度となる特徴的な波長を特定する。換言すれば、光信号Oのピークが検出される。
【0069】
好ましくは、この特徴的な波長および関連する所定の化学種の特定を簡易化するために、検出された光信号を経時的に記録した後に、分光計20は、前記記録された光信号Oのスペクトルを確立する。
【0070】
次いで、プロセッサは、前記特定された特徴的な波長すなわちスペクトルのピークを、少なくとも1つの所定の化学種へと関連づける。
【0071】
化学種の解析を簡易化するために、特徴的なピークを少なくとも1つの特定の化学種へ関連づけることは、特定の赤外線波長を所定の化学種へ関連づけるスペクトルデータベースと、この特定された特徴的な波長を比較することを含む。
【0072】
このスペクトルデータベースは、事前に、または純粋な所定の化学種の溶液中に光ファイバ14を挿入することにより、確立されてもよい。次いで、赤外線分光計20を使用することにより、送信された光信号Oが検出および記録され、所定の閾値を上回る強度を有する記録された光信号の波長または波長セットが検出される。したがって、前記化学種の特徴的な波長が、取得され、スペクトルデータベースに入力される。これは、様々な予想される所定の化学種ごとに繰り返され得る。
【0073】
もう1つの可能性は、一般的なタイプの分子結合および官能基に対する一般的に波数で表される吸収周波数を示す、既に確立されているテーブルを使用することである。
【0074】
図3では、本発明によるデバイスの使用により取得された結果が示される。
図3は、経時的に光ファイバ14を通る光信号のスペクトルを示す。信号の強度は濃淡の濃さで示され、この電極内において様々な化学種が識別され得る。0.5hでは、光信号Oは、900cm
-1の波数に対応する波長にて高い強度を有する。この特定の波長は、NaPF
6の特徴的な波長に相当する。したがって、バッテリのサイクリングの開始後の0.5hの時点において、NaPF
6の存在が証明され得る。
【0075】
同様に、0.5hでは、高い光信号の強度を有する一連の波長が識別される。この一連の波長は、ジメチルカーボネート(DMC)の特徴的な波長である。したがって、バッテリのサイクリングの開始後の0.5hの時点において、DMCの存在が証明され得る。
【0076】
同様に、1hでは、高い光信号の強度を有する一連の波長が識別される。この一連の波長は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)の特徴的な波長である。したがって、バッテリのサイクリングの開始後の1hの時点において、FECの存在が証明され得る。
【0077】
図4では別の例を示す。ここでは、電極内の様々な化学種を識別するために、経時的に光ファイバ14を通る光信号のスペクトルがグラフ化され、バッテリセル12内における電圧の経時的なグラフと比較することによって、サイクリングとスペクトルとをリンクさせている。識別される化学種は、特徴的なピーク(高強度が検出および記録された波数)の上方または下方に示される。
【0078】
好ましくは、バッテリの化学組成の把握のみならずさらにはかように解析された化学種を定量化するために、プロセッサは、前記特徴的な波長の記録された光信号強度を、少なくとも1つの所定の化学種のモル量へと関連づける。
【0079】
このために、スペクトルデータベースは、少なくとも1つの所定の化学種のモル量を、ある特定の波長について光信号の強度に関連づける較正曲線を備え得る。
【0080】
かかる較正曲線は、吸収される光の割合が濃度および吸収波長により決定されることを考慮することによって取得され得る。媒体内に存在する化学種を定量化するためには、エバネッセントファイバに関するベール-ランバートの法則は、以下のように変換することができる。
【0081】
【0082】
ここで、A(λp)は、複数の化学種を含む溶液の吸収率であり、Lは、導波路長(ファイバ14の長さ)をcmで表したものであり、cは、モル濃度L-1であり、εpi(λp)は、i化学種のモル吸収係数をLモル-1cm-1で表したものである。したがって、p波長により解析された化学種の場合には、エバネッセントファイバについてのベール-ランバートの法則は、以下のように変換することができる。
【0083】
【0084】
係数εpi(λp)を決定するためには、所定の化学種の種々の濃度(または種々のモル量)の種々の溶液が用意され、化学種の濃度に対する吸収率の線形回帰をグラフ化することができる。次いで、特徴的な波長または波長セットの記録された光信号の強度の、所定の化学種の濃度への関連づけが、スペクトルデータベースに入力される。これにより、本発明によるデバイスおよび方法を較正することが可能となる。
【0085】
本発明の第2の実施形態によれば、
図5に示すように、光ファイバ14は、セルの電極42内に埋設される。この電極42は、集電器40の頂部に配置され得る。
【0086】
本発明の第3の実施形態によれば、
図6に示すように、光ファイバ14は、セルの電極の中の1つと同様の材料から作製されたコーティング44で被覆され、電解質内に浸漬される。好ましくは、コーティング44は、0~10μmの間からなる厚さを有する。その場合に、光ファイバ14は、好ましくは集電器40の頂部に配置される。
【0087】
コーティング44が電極42の中の1つと同様の材料から作製されることにより、バッテリセル12の動作中に、電極42上に形成されるものと同様のSEI析出物が、ファイバの外方表面上に形成される。したがって、エバネッセント波は、前記SEI析出物と相互作用し、電極42のSEI中に含まれる化学種の識別を可能にする。これにより、このSEI中に含まれる化学種の非常に正確な検出が可能となる。なぜならば、このSEIは、ファイバ14と直接接触状態にあり、したがって光信号により発生するエバネッセント波と直接接触状態になるからである。
【0088】
図示しない本発明の第4の実施形態によれば、第1の光ファイバが電解質内に配置され、第2の光ファイバがセルの電極内に埋設され、それにより本発明による方法を利用して、電解質および電極上に形成されるSEIの両方に出現する化学種を同時に識別する。
【0089】
変形例によれば、
図7に示すように、光ファイバ14は、ディスク形状、V字型の局所断面を有するディスク形状、または星形状のいずれかの断面を有し得る。これは、ファイバ14の外方表面を増大させるためであり、したがってファイバ14と例えば電極、コーティング、または電解質などのファイバ14の環境との間の境界面を増大させるためである。
【0090】
本発明は、任意の種類のバッテリ内における化学種を解析するために使用され得る。特に、本発明は、例えば有機電解質中において使用される典型的な溶媒、すなわち
環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3-ジオキソラン)
鎖状エーテル(メチル、ギ酸エチルおよびギ酸プロピル、酢酸メチルおよび酢酸エチル、プロピオン酸メチルおよびプロピオン酸エチル)脂肪族エーテル
鎖状カーボネート(エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)
環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート)
フッ化(4-フルオロトルエン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ジフルオロエチレンカーボネート,エチルジフルオロアセテート)、および
水性電解質(ここで、溶媒は酸(H2SO4)、ベース(KOH)、または塩(ZnCl2)と混合した水である)
上記の任意の混合物
を解析することができる。
【0091】
また、本発明は、例えばカーボネート(ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート)、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(TMSPi)およびスクシノニトリル(SN)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、ならびにそれらの任意の混合物などの、有機電解質中において使用される典型的な添加剤を解析するためにも適する。
【0092】
また、本発明は、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)またはヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)などのフッ化塩などの、有機電解質中において使用される典型的な塩を解析するためにも適する。
【0093】
したがって、本発明は、電解質の分解および化学種の出現をリアルタイムでオペランド記録し、さらにはこれらを定量化することを可能にする。これにより、特定の化学種の出現にリンクし、したがってバッテリ寿命を向上させるためにかかる寄生反応を除去するためのガイダンスを提供する、電解質の分解作用および不安定性のより優れた理解が可能となる。特に、本発明を利用することにより、SEIの形成を詳細にモニタリングすることができる。さらには、電解質の化学組成をこのようにリアルタイム認識することにより、バッテリサイクリングに対する例えば温度、電流、電圧等の種々のパラメータの影響を調査することができる。最後に、本発明による方法は、任意の種類のバッテリセルに対して適合化することが可能であり、これにより極めて好都合なものとなる。
【符号の説明】
【0094】
10 解析デバイス
12 バッテリセル
14 光ファイバ
14I ファイバの入力端部
14O ファイバの出力端部
16 セルの電極
18 電源
20 分光計
23 ファイバの第1のセクション
24 ファイバの第1の連結箇所
25 ファイバの第2のセクション
26 ファイバの第2の連結箇所
27 ファイバの第3のセクション
28 エバネッセント波場
30 検出器
34 パージチャンバ
L ファイバの長手方向
L1 第2の検出セクションの長さ
O 光信号
【国際調査報告】