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特表2024-528946半導電性絶縁層を有するマグネットワイヤ
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  • 特表-半導電性絶縁層を有するマグネットワイヤ 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】半導電性絶縁層を有するマグネットワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20240725BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H01B7/00 303
H01B7/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506256
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 US2022039583
(87)【国際公開番号】W WO2023014976
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】17/395,136
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598077037
【氏名又は名称】エセックス フルカワ マグネット ワイヤ ユーエスエイ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】スコット テッド ジョリー
【テーマコード(参考)】
5G309
【Fターム(参考)】
5G309CA06
5G309CA09
5G309MA02
(57)【要約】
部分放電性能を向上させたマグネットワイヤは、導体と、導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁の第1層と、第1層の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁の第2層とを含んでもよい。第2の層は、ベースポリマー材料と、ベースポリマー材料内に分散したフィラー粒子とを含む半導電性層であってもよい。さらに、フィラー粒子の少なくとも60重量%は、第2の層の厚さの外側半分に配置されてもよい。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第1の層と、
前記第1の層の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第2の層であり、ベースポリマー材料、及び、ベースポリマー材料内に分散されたフィラー粒子を含む、該第2の層と、
を備え、
前記フィラー粒子の少なくとも60重量%は、前記第2の層の厚さの外側半分に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、金属又は金属酸化物の一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項3】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、酸化スズ、酸化インジウム、銀又は金のうち、少なくとも1つを含む、マグネットワイヤ。
【請求項4】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記ベースポリマー材料は、ポリイミド又はポリアミドイミドの一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項5】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも75重量%は、前記第2の層の外側半分に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項6】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも20重量%は、前記第2の層の外表面に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項7】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第2の層は、
前記第1の層に隣接する第1の表面と、
前記第1の表面の反対側の第2の表面と、
を備え、
前記第1の表面における前記第2の層の第1の表面抵抗率は、前記第2の表面における前記第2の層の第2の表面抵抗率よりも高い、
マグネットワイヤ。
【請求項8】
請求項7に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第1の表面抵抗率は1012Ω/□より大きく、かつ、前記第2の表面抵抗率は10Ω/□未満である、マグネットワイヤ。
【請求項9】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、前記第2の層の5重量%と20重量%との間における重量%を含む、マグネットワイヤ。
【請求項10】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第2の層は、前記マグネットワイヤの最外層を含む、マグネットワイヤ。
【請求項11】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第1の層と、
前記第1の層の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第2の層であって、ベースポリマー材料、及び、ベースポリマー材料内に分散したフィラー粒子を含む該第2の層と、
を備え、
フィラー粒子は、第2の層内に均一に分散しておらず、また
前記第1の層に隣接する前記第2の層の第1の表面は、第1の表面抵抗率を有し、前記第1の表面に対向する前記第2の層の第2の表面は、前記第1の表面抵抗率よりも小さい第2の表面抵抗率を有する、マグネットワイヤ。
【請求項12】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第1の表面抵抗率は1012Ω/□より大きく、かつ、前記第2の表面抵抗率は10Ω/□未満である、マグネットワイヤ。
【請求項13】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、金属又は金属酸化物の一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項14】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、酸化スズ、酸化インジウム、銀又は金のうち、少なくとも1つを含む、マグネットワイヤ。
【請求項15】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記ベースポリマー材料は、ポリイミド又はポリアミドイミドの一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項16】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも60重量%は、前記第2の層の外側半分に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項17】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも20重量%は、前記第2の層の外表面に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項18】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、前記第2の層の5重量%と20重量%との間における重量%を含む、マグネットワイヤ。
【請求項19】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第2の層は、前記マグネットワイヤの最外層を含む、マグネットワイヤ。
【請求項20】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第1の層であって、ポリアミド又はポリアミドイミドの一方を含む該第1の層と、
前記第1の層の周囲に形成された第2の層であって、ポリイミドを含むベースポリマー材料、及び、前記ベースポリマー材料内に分散した酸化スズフィラー粒子を含む該第2の層と、
を備え、
前記酸化スズ粒子の少なくとも60重量%は、前記第2の層の厚さの外側半分に配置している、マグネットワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2021年8月5日出願の「半導電性絶縁層を有するマグネットワイヤ(Magnet Wire with a Semi-Conductive Insulation Layer)」と題する米国特許出願第17/395,136号、に基づく優先権を主張し、その内容は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の実施形態は、一般に、マグネットワイヤに関し、より具体的には、部分放電に関連するエネルギーの散逸を支援する半導電性層を含むマグネットワイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
巻線又は磁気巻線とも称されるマグネットワイヤは、インバータ駆動モータ、モータ・スタータ・ジェネレータ、変圧器など、さまざまな電気機械及び装置に利用されている。マグネットワイヤは通常、中心導体の周囲に形成された高分子エナメル絶縁体を含む。エナメル絶縁は、ワニスをマグネットワイヤに塗布し、オーブン内でワニスを硬化させて溶剤を除去することにより、薄いエナメル層を形成することで形成される。この工程は、所望のエナメル構造又は厚さになるまで繰り返される。導体は、一般的に長方形又は円形の断面を得るために、通常、延伸、圧延、又は成形される。絶縁体は通常、単層又は多層構造として形成され、導体と、異なる電位にある他の導体又は取り囲んでいる構造物との間に誘電分離を提供します。このように、絶縁体は、絶縁体内の電気的破壊を防ぐために必要な絶縁耐力を提供するように設計されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、マグネットワイヤは、しばしば部分放電又は局所的な誘電破壊の影響を受けやすい。部分放電破壊は、しばしばエナメル層内の空隙、亀裂、異物、又は脆弱な箇所から始まる。多層絶縁材を使用したマグネットワイヤでは、異なる絶縁材間の境界に沿って部分放電が発生することも起こり得る。部分放電は通常、誘電体層内又はマグネットワイヤの層間(例えば、導体とエナメル層との間、エナメル層間など)に存在するガス充填空隙内で開始する。空隙の誘電率は周囲の絶縁材よりもかなり低いため、空隙を横切る電界は、同等の距離の誘電体を横切る電界よりもかなり高くなる。空隙を横切る電圧応力が、空隙内のガスに対するコロナ開始電圧よりも高くなると、部分放電が始まり、この部分放電は時間の経過とともに絶縁の完全な破壊につながる可能性がある。
【0005】
さらに、マグネットワイヤ導体が形成される際、導体の表面にはしばしば、バリ、へこみ、導電性材料の切れ端、異物の混入などの欠陥が含まれる。同様に、特定の用途(例えば、モータ用途)では、マグネットワイヤは、接地された構造的デバイス又はコンポーネント(例えば、ラミネートされた固定子など)、または異なる電位を有する他のコンポーネント(例えば、異なる相の巻線など)に近接して配置してもよい。導体表面に沿った欠陥、及び/又は、マグネットワイヤに近接する他のデバイス又はコンポーネントの外面に沿った欠陥は、マグネットワイヤの絶縁体内の欠陥、及び/又は、マグネットワイヤの絶縁体内の不均一な局所電界につながり得る。このような不均一な電界は、絶縁体の許容電気応力を超える可能性があり、その結果、部分放電の発生及びその後の進展につながり、後にマグネットワイヤの絶縁体の完全な破壊につながりかねない。このように、ワイヤ絶縁体への応力を軽減し、部分放電に関連するエネルギーを消散させる半導電層を組み込んだ、改良された巻線またはマグネットワイヤに対する好機が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
詳細な説明は、添付の図を参照しながら行う。図において、参照符号の左端の桁(複数可)は、参照符号が最初に現れる図を識別する。異なる図における同じ参照符号の使用は、類似または同一の項目を示すが、様々な実施形態は、図に示されたもの以外の要素及び/又は構成要素を利用してもよい。さらに、図面は、本明細書に記載される例示的な実施形態を説明するために提供されるものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
図1A】本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
図1B】本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
図2A】本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
図2B】本開示の様々な実施形態に従って形成され得る例示的なマグネットワイヤ構造の断面図を示す。
図3】本開示の例示的な実施形態による、半導電性エナメル層を含む例示的なマグネットワイヤ絶縁システムの断面図を示す。
図4】本開示の例示的な実施形態による、少なくとも1つの半導電性エナメル層を含むマグネットワイヤを形成するための例示的な方法のフローチャートである。
図5】本開示の例示的な実施形態による、マグネットワイヤ上に半導電性エナメル層を形成するための例示的な方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の特定の実施形態は、部分放電に関連するエネルギーの消散を補助する半導電性層を含むマグネットワイヤ及びマグネットワイヤをフォーマットするための方法を企図している。特定の実施形態では、半導電性絶縁層を含むマグネットワイヤが開示されている。マグネットワイヤは、導体と導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁の第1の層(例えば、ベースコート)とを含んでもよい。ポリイミド(”PI(polyimide)”)又はポリアミドイミド(”PAI(polyamideimide)”)など、多種多様な適切な高分子材料が第1層を形成するために利用され得る。さらに、マグネットワイヤは、第1層の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁の第2層を含んでもよい。本開示の一態様によれば、第2の層はベースポリマー材料と、ベースポリマー材料内に分散したフィラー粒子とを含み得る。さらに、特定の実施形態において、フィラー粒子の少なくとも60重量%は、第2の層の厚さの外側半分に配置されてもよい。特定の実施形態において、第2の層は、マグネットワイヤの最外層又はトップコート層であってもよい。
【0008】
他の実施形態では、半導電性絶縁層を含むマグネットワイヤを形成する方法が記載されている。導体を準備し、導体の周囲にポリマーエナメル絶縁の第1層(例えば、ベースコート)を形成することができる。PI又はPAIなどの多種多様な適切な高分子材料が第1層の形成に利用できる。その後、第1層の周囲に半導電性層として第2層を形成してもよい。第2層を形成するために、塩基性ポリアミック酸を準備し、金属塩又は可溶性弱金属錯体をポリアミック酸と錯形成してもよい。その後、ポリアミック酸を第1層の周りのマグネットワイヤに塗布してもよい。金属塩又は弱い金属錯体は、金属が第2層の外側表面に向かって移動するように変換されてもよい。例えば、半導電性酸化物が形成され(例えば、金属塩化物を酸化することによって形成されるなど)、その結果、金属が外表面に向かって移動し得る。別の例として、金属錯体はポリアミック酸中で還元され、金属は外表面に向かって移動し得る。特定の実施形態において、金属の少なくとも60重量%は、移動後の第2層の外側半分に位置することができる。次いで、半導電性エナメル層を形成するために、ポリアミック酸を硬化させてもよい。特定の実施形態では、第2層は、マグネットワイヤの最外層又はトップコート層として形成してもよい。
【0009】
多種多様な適切なベースポリマー材料は、第2層(例えば、半導電性層)と関連して利用してもよい。例えば、ベースポリマー材料はPI又はPAIを含んでもよい。別の例として、PI前駆体、又はPAI前駆体を第2層の形成中にポリアミック酸として利用してもよい。さらに、本開示の様々な実施形態において、多種多様な適切なフィラー粒子を所望に応じて第2層に組み込むことができる。フィラー粒子は、金属塩化物を酸化する、弱い金属錯体を還元する、又はポリアミック酸と化学的に錯化された金属塩、若しくは弱い金属錯体を変換するなどの多種多様な適切な方法を介して第2層に組み込むことができる。特定の実施形態において、フィラー粒子は、金属又は金属酸化物のいずれかを含んでもよい。例えば、特定の実施形態において、フィラー粒子は、酸化スズ(IV)(または二酸化スズ)、酸化インジウム(III)、銀、又は金のうちの少なくとも1つを含み得る。さらに、フィラー粒子は、任意の適切な充填率または比率で第2層に組み込むことができる。例えば、特定の実施形態において、フィラー粒子は、第2層の約5重量%(5.0%)~約20重量%(20.0%)の間を構成し得る。
【0010】
様々な実施形態において、フィラー粒子、金属、又は金属含有材料の任意の適切な重量パーセンテージは、第2層の外側半分内に配置されてもよい。例えば、少なくとも60重量%(60.0%)のフィラー粒子が、第2層の外側半分内に配置されてもよい。他の実施形態において、フィラー粒子の少なくとも75重量%(75.0%)は、第2層の外側半分内に配置されてよい。さらに、特定の実施形態において、フィラー粒子の少なくとも20重量%(20.0%)は、第2層の外面に配置されてもよい。さらに、第2層内のフィラー粒子の不均一な分布を考慮すると、第2層は、その内面及び外面で異なる表面抵抗率を有していてもよい。例えば、第2層は、第1層に隣接する第1の表面と、第1の表面とは反対側の第2の表面(すなわち、外側表面)とを含んでもよい。第1の表面抵抗率は第2の表面抵抗率より高くてもよい。例えば、第1の表面抵抗率は1012Ω/□より大きく、第2の表面抵抗率は10Ω/□より小さくてもよい。
【0011】
半導電性層として第2層を組み込む結果、マグネットワイヤの部分放電性能が改善される可能性がある。半導電性層は、部分放電イベントに関連するエネルギーを消散させ、それによってマグネットワイヤ絶縁における局所的な応力を低減することができる。この強化は、絶縁破壊試験及び/又は部分放電開始電圧の結果の改善など、比較的短期的な性能向上として現れる可能性がある。さらに、この強化は、高勾配の局所電界の発生源を緩和又は中和し、その後、絶縁体の老化プロセスを遅らせ、マグネットワイヤの寿命を延ばすため、絶縁体の長期性能を向上させ得る。
【0012】
以下、本開示の実施形態を、本開示の特定の実施形態が示されている添付図面を参照して、より詳細に説明する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化され得るものであり、本明細書に記載の実施形態に限定して解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えることができるように提供されるものである。同一の数字は、全体を通して同一要素を参照する。
【0013】
図面を参照すると、図1Aは、エナメル絶縁体で被覆された導体110を含み得る例示的な丸型マグネットワイヤ100の断面図を示す。任意の適切な数のエナメル層が、所望に応じて導体110の周囲に形成されてもよい。図示のように、第1のエナメル層120(又はベースコート)を導体110の周囲に形成し、第2のエナメル層130(又はトップコート)を第1の層120の周囲に形成してもよい。他の実施形態では、2層以上のエナメル絶縁を利用してもよい。さらに、これらエナメル層の少なくとも1つは、ベースポリマー材料内に分散されたフィラー粒子を含む半導電性層として形成され得る。例えば、第2のエナメル層130は、第1のエナメルベースコート層120の上に半導電性トップコート層として形成されてもよい。
【0014】
同様に、図1Bは、エナメル絶縁体で被覆された導体160を含み得る例示的な矩形マグネットワイヤ150の断面図を示す。任意の適切な数のエナメル層が、所望に応じて導体160の周囲に形成されてもよい。図示のように、第1のエナメル層170(又はベースコート)を導体160の周囲に形成し、第2のエナメル層180(又はトップコート)を第1の層170の周囲に形成してもよい。他の実施形態では、2層以上のエナメル絶縁を利用してもよい。さらに、エナメル層の少なくとも1つは、ベースポリマー材料内に分散されたフィラー粒子を含む半導電性層として形成され得る。例えば、第2のエナメル層180は、第1のエナメルベースコート層130の上に半導電性トップコート層として形成されてもよい。図1Aの丸形ワイヤ100を以下にさらに詳細に説明するが、図1Bの長方形ワイヤ150の様々な構成要素は、図1Aの丸形ワイヤ100について説明したものと同様であってよいことが理解されよう。
【0015】
導体110は、多種多様な適切な材料、又は材料の組み合わせから形成することができる。例えば、導体110は、銅、アルミニウム、アニール銅、無酸素銅、銀メッキ銅、ニッケルメッキ銅、銅クラッドアルミニウム(「“CCA(copper clad aluminum)”」)、銀、金、導電性合金、バイメタル、又は他の任意の適切な導電性材料から形成してもよい。さらに、導体110は、図示した円形または丸形の断面形状など、任意の適切な断面形状で形成することができる。他の実施形態では、導体110は、長方形(図1Bに示すように)、正方形、楕円形、長円形、又は任意の他の適切な断面形状を有することができる。長方形のような特定の断面形状に所望されるように、導体は、角丸めされた、鋭利にされた、滑らかにされた、湾曲された、角度付けされた、截頭された、又は他の方法で形成されたコーナーを有してもよい。導体110は、任意の適切なゲージ、直径、高さ、幅、断面積など、任意の適切な寸法で形成することもできる。
【0016】
図示したベースコート120又はトップコート130など、任意の数のエナメル層を導体110の周囲に形成してもよい。エナメル層は、通常、導体110に高分子ワニスを塗布し、適当なエナメルオーブン又は炉で導体110を焼成することにより形成される。ポリマーワニスは通常、一種類以上の溶剤に懸濁された熱硬化性ポリマー材料又は樹脂を含む。熱硬化性又は熱硬化性ポリマーは、柔らかい固体又は粘性の液体(例えば、粉末など)から不溶性又は架橋樹脂に不可逆的に硬化し得る材料である。熱硬化性ポリマーは通常、溶融プロセスがポリマーを破壊又は分解するので、押し出し成形によって、塗布するために溶融することはできない。そのため、熱硬化性ポリマーは、エナメルフィルムを形成するための塗布及び硬化をすることができるワニスを形成するために溶剤に懸濁される。ワニスを塗布した後、焼成又はその他の適切な硬化の結果、溶剤が除去され、固形のポリマーエナメル層が残る。所望に応じて、所望のエナメル厚さ又は肉持ち(例えば、導体及び任意の下層の厚さを差し引いて得られるエナメルの厚さ)を達成するために、エナメルの複数の層及び/又はサブレイヤーを導体110に適用してもよい。各エナメル層は、通常、同様のプロセスを利用して形成することができる。例えば、第1のエナメル層120は、例えば、適当なワニスを塗布し、導体をエナメルオーブンに通すことによって形成することができる。その後、適切なワニスを塗布し、導体を同じエナメルオーブン又は別のエナメルオーブンに通すことにより、第2のエナメル層130を形成することができる。実際、エナメル加工オーブンは、オーブンを通るワイヤの複数回の通過を容易にするように構成してもよい。様々な実施形態において所望されるように、1つ以上のエナメルオーブンに加えて、又は代替として、他の硬化装置を利用してもよい。例えば、1つ以上の適切な赤外光、紫外線、電子ビーム、及び/又は他の硬化システムを利用してもよい。
【0017】
所望に応じて、ベースコート120及びトップコート130のようなエナメルの各層は、任意の適切な数のサブレイヤーで形成され得る。例えば、ベースコート120は、単一のエナメル層を含んでもよく、若しくは、代わりに、所望のベースコートの肉持ち(ビルド)又は厚さが達成されるまで形成される複数のエナメル層又はサブレイヤーを含んでもよい。同様に、トップコート130は、1つまたは複数のサブレイヤーを含んでもよい。エナメルの各層は、任意の所望の厚さ、例えば、約0.0002、0.0005、0.007、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.010、0.012、0.015、0.017、または0.020インチの厚さ、前述の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる厚さ、及び/又は、前述の値のいずれかによって最小端又は最大端のいずれかで囲まれた範囲に含まれる厚さを有してもよい。同様に、エナメルの各層は、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、75、80、90、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、又は500マイクロメートルの厚さ、前述の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる厚さ、及び/又は前述の値のいずれかによって最小端又は最大端のいずれかで囲まれた範囲に含まれる厚さを有してもよい。さらに、マグネットワイヤ100に組み込まれるエナメル層の組み合わせ(例えば、ベースコート120及びトップコート130)は、任意の適切な全体的な厚さ又はビルドを有することができる。
【0018】
ベースコート120及び/又はトップコート130のようなエナメル層を形成するために、多種多様な異なる種類のポリマー材料を所望に応じて利用することができる。適切な熱硬化性材料の例としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、アミドイミド、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリケトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。半導電性トップコート層などの半導電性層の場合、適切な熱硬化性材料(例えば、PI、PAIなど)は、フィラー材が分散されたベースポリマー材料であってもよい。特定の実施形態において、複数のエナメル層は、同一のポリマー材料を含んでもよい。例えば、ベースコート120及びトップコート130の両方が、PI又はPAIを含んでもよい。他の実施形態において、少なくとも2つのエナメル層は、異なるポリマー材料で形成されてもよい。例えば、ベースコート120は第1のポリマー材料から形成され、トップコート130は第1のポリマー材料とは異なる第2のポリマー材料を含んでもよい。
【0019】
特定の実施形態において、ベースコート120は、1つ以上のエナメル層を含んでもよく、ベースコート120の各層は、適切なポリマー材料から形成され得る。さらに、ベースコート120の各層は、未充填層、または代替的に、任意の数の適切な添加剤及び/又はフィラー材を組み込んだ層のどちらかとして形成されてもよい。次いで、トップコート130は、ベースポリマー材料内に分散されたフィラー粒子を含む半導電性エナメル層としてベースコート上に形成することができる。所望に応じて、ベースコート120とトップコート130との間の任意の適切なビルド又は厚さ比を利用してもよい。特定の実施形態において、ベースコート120とトップコート130との間の厚さ又はビルド比は、約95/5と約85/15との間であってよい。換言すれば、半導電性トップコート130の厚さ又はビルドは、組み合わされたエナメル絶縁体の全体の厚さ又はビルドの約5.0%と約15.0%との間を構成することができる。他の実施形態において、トップコート310は、組み合わされたエナメル絶縁体の全体の厚さ又はビルドの約2、3、5、7、10、12、15、20、または25%、上記の値のうちの任意の2つの間の範囲に含まれる割合、又は上記の値のうちの1つ(例えば、少なくとも10%、25%以下など)による最小端若しくは最大端によって境界付けられた範囲に含まれる割合を構成することができる。
【0020】
図2Aは、例示的な3コート丸型マグネットワイヤ200の断面図である。図2Aに示す実施形態は、複数のエナメル層に囲まれた導体210を含む。任意の適切な数のエナメル層及び/又は他の絶縁層が導体210の周囲に形成されてもよい。図示されるように、第1のポリマーエナメル層220又はベースコート層が導体210の周囲に形成される。次に、第2のポリマーエナメル層230またはミッドコートがベースコートの周囲に形成される。次に、第3の絶縁層240又はトップコートが、第2のポリマーエナメル層230の周囲に形成される。同様に、図2Bは、例示的な3コート長方形マグネットワイヤ250の断面図を示す。ワイヤ250は、複数のエナメル層で囲まれた導体260を含む。図示されるように、導体260の周囲に第1のポリマーベースコート270層が形成され、ベースコート270の周囲に第2のポリマーミッドコート層280が形成され、ミッドコートの周囲に第3の絶縁層(またはトップコート)を形成されてもよい。図2Aの丸型ワイヤ200は、以下により詳細に説明されるが、図2Bの長方形ワイヤ250の様々な構成要素は、図2Aの丸型ワイヤ200について説明したものと同様であってもよいことが理解されよう。
【0021】
図2Aのワイヤ200に関して、導体210は、図1Aを参照して上述した導体110と同様であってよい。さらに、特定の実施形態では、3コート絶縁システムは、全てエナメル層から形成されてもよい。例えば、ベースコート220及びミッドコート230は、同一の種類のエナメルから形成されてもよいし、異なる種類のエナメルから形成されてもよく、そして、トップコート240は、半導電性エナメル層として形成されてもよい。換言すれば、半導電性層は、複数の他のエナメル層の上にトップコート240として形成されてもよい。別の例として、ベースコート220は第1のエナメル層として形成してもよく、ミッドコート230は半導電性層として形成してもよく、トップコート240は別のエナメル層(例えば、未充填エナメル層など)として形成してもよい。他の実施形態では、3コート絶縁システムは、エナメル層と他の種類の絶縁材料との組み合わせで形成されてもよい。例えば、ベースコート220は第1のエナメル層として形成してもよく、ミッドコート230はベースコート220の周囲の半導電性エナメル層として形成してもよい。その後、第3の絶縁層又はトップコート240を非エナメル層として形成してもよい。例えば、トップコート240は押出成形された熱可塑性層として、又はコンフォーマル材料の層として形成することができる。実際、多種多様な異なる種類のマグネットワイヤ構造は、任意の適切な数及び/又は組み合わせの絶縁層を含むことができる。本開示の一態様によれば、少なくとも1つの半導電性層を絶縁システムに組み込むことができる。上述したように、半導電性層は、特定の実施形態ではトップコートであってもよく、他の実施形態ではその周囲に形成された少なくとも1つの追加の絶縁層を有してもよい。
【0022】
多種多様な適切なポリマーは、図1Aを参照して上述した例示的な材料のいずれかのような、エナメル220、230、240の様々な層を形成するために利用され得る。半導電性トップコート層のような半導電性層の場合、適切な熱硬化性材料(例えば、PI、PAIなど)は、フィラー材が分散したベースポリマー材料であってもよい。さらに、マグネットワイヤ200に組み込まれる各エナメル層220、230、240は、任意の所望の数のサブレイヤーを含んでもよい。エナメルの各層はまた、図1Aを参照して上述したいずれかの厚さなど、任意の所望の厚さを有することができる。3層絶縁システムを組み込んだ様々な実施形態において所望されるように、半導電性層と他の絶縁層との間の任意の適切な肉持ち(ビルド)又は厚さ比を利用してもよい。例えば、トップコート半導電性層と複数の下地エナメル層との間の任意の適切な厚さ比を利用することができる。特定の実施形態において、半導電性層(例えば、半導電性トップコート240と組み合わされた他の絶縁層との間の厚さまたはビルド比は、約95/5と約85/15との間であってよい。換言すれば、半導電性層の厚さ又はビルドは、組み合わされた絶縁体の全体の厚さ又はビルドの約5.0%と約15.0%との間を構成することができる。他の実施形態では、半導電性層は、組み合わされた絶縁体の全体の厚さまたはビルドの約2、3、5、7、10、12、15、20、または25%、上記の値のうちの任意の2つの間の範囲に含まれる割合、または上記の値のうちの1つ(例えば、少なくとも10%、25%以下など)による最小端または最大端によって囲まれる範囲に含まれる割合を構成することができる。
【0023】
図1A~2Bのワイヤ100、150、200、250を引き続き参照すると、特定の実施形態では、1つ以上の適切な添加剤が、1つ以上のエナメル層に組み込まれてもよい。添加剤は、ワイヤの様々な構成要素及び/又は層間の接着促進、ワイヤに組み込まれた絶縁体の柔軟性の向上、耐湿性の向上、より高い温度安定性の促進、スリップ剤としての機能(例えば、ポリエチレンワックスなど)、又は、エナメル層の色の変更(例えば、染料など)など、多種多様な適切な目的を果たすことができる。例えば、添加剤は、導体とベースコートとの間、様々な絶縁層間、及び/又は、フィラー材とフィラー材が添加されたベースポリマー材料との間のより大きな接着を補助又は促進するための接着促進剤として機能することができる。様々な実施形態において、多種多様な適切な添加剤を所望に応じて利用することができる。潜在的な添加剤のいくつかの非限定的な例としては、アミン部分をアルデヒド材料(例えば、グリオキザール材、ホルムアルデヒド材など)と反応させることによって形成される材料から形成される、またはそれを含む添加剤、Cymel材などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
他の実施形態では、1つ以上の適切な表面改質処理を導体及び/又は任意の数のエナメル層に利用して、その後に形成される絶縁層との接着を促進することができる。適切な表面改質処理の例としては、プラズマ処理、紫外線(“UV(Ultraviolet)”)処理、コロナ放電処理、及び/又はガス炎処理が挙げられるが、これらに限定されない。表面処理は、導体層又はエナメル層のトポグラフィーを変化させ、及び/又は導体層又はエナメル層の表面に官能基を形成し、その後に形成されるエナメル層又は他の層の結合を強化又は促進し得る。特定の実施形態において、変化したトポグラフィーはまた、処理された層の表面張力を変化させることにより、後続のエナメル層を形成するために利用されるワニスの濡れ性を強化又は改善し得る。その結果、表面処理は層間剥離を減少させ得る。
【0025】
特定の実施形態において所望されるように、複数のエナメル層に加えて、1つまたは複数の他の絶縁層をマグネットワイヤ100、150、200、250に組み込んでもよい。図2Aを参照して上述したように、特定の実施形態では、エナメル層(例えば、半導電性層)上に非エナメル層を形成してもよい。適切な非エナメル層の例としては、1つ以上の押出成形熱可塑性層(例えば、押出成形オーバーコートなど)、テープ絶縁層(例えば、ポリマーテープなど)、及び/又は1つ以上のコンフォーマルコーティング(例えば、パリレンコーティングなど)が挙げられるが、これらに限定されない。所望に応じて、多種多様な他の絶縁構成及び/又は層の組み合わせを利用してもよい。
【0026】
本開示の一態様によれば、マグネットワイヤは、少なくとも1つの半導電性層を含んでもよい。さらに、半導電性層は、ベースポリマー材料内に不均一に分散されたフィラー材を含んでもよい。換言すれば、フィラー材の大部分は、半導電性層の上半分又は外半分に集中してもよい。特定の実施形態において、半導電性層は、トップコート層又は最外層として形成されてもよい。例えば、図1A~2Bのトップコート層130、180、240、290は、半導電性層として形成されてもよい。他の実施形態では、半導電性層は1つ以上の下層のエナメル層上に形成されてもよく、少なくとも1つの追加の絶縁層が半導電性層上に形成されてもよい。半導電性層がトップコートを構成するか否かに関わらず、半導電性層は、第1の下地エナメル層上に形成された第2のエナメル層であってもよい。
【0027】
半導電性層のベースポリマー材料としては、多種多様な適切な材料を利用することができる。例えば、図1Aを参照して上述した例示的な熱硬化性材料のいずれかを利用することができる。特定の実施形態において、ベースポリマー材料はPI又はPAIを含んでもよい。別の例として、PI前駆体又はPAI前駆体は、半導電性層の形成中にポリアミック酸として利用されてもよい。形成中、フィラー材はベースポリアミック酸と錯化され、ポリアミック酸がマグネットワイヤに塗布され硬化する際に半導電性エナメル層が形成し得る。
【0028】
さらに、本開示の様々な実施形態において所望されるように、多種多様な適切なフィラー粒子を半導電性層に組み込んでもよい。特定の実施形態において、フィラー粒子は、金属又は金属酸化物を含み得る。適切なフィラー材料の例としては、金属酸化物及び/又は他の金属材料が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な金属酸化物としては、二酸化スズ(SnO(IV))、酸化インジウム(III)、酸化インジウム/スズ、酸化鉛(II)、酸化アンチモン、酸化ビスマス(III)、酸化ゲルマニウム(IV)、酸化ガリウム(III)、酸化カドミウム/インジウム、酸化亜鉛/インジウム、酸化アルミニウム/亜鉛、半導電性挙動を示す任意の他の金属酸化物、及び/又はそれらの任意の適切な組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な金属材料の例としては、銀、金などが挙げられるが、これらに限定されない。フィラー材の成分はまた、任意の適切な粒子サイズ、表面積、及び/又は他の寸法を含んでもよい。例えば、フィラー材成分は、約1ミクロン未満の公称粒径を有してもよい。特定の実施形態において、フィラー材成分はナノ粒子を含み得る。
【0029】
フィラー粒子は、多種多様な適切な方法を介して半導電性層に組み込むことができる。特定の実施形態では、半導電性層の外表面に向かって移動する金属酸化物を形成するために、金属塩化物などの金属塩をポリアミック酸と錯化し、金属塩を酸素の存在下で変換(すなわち、酸化)してもよい。例えば、塩化スズをポリアミック酸(例えば、PI前駆体など)と錯化させてもよい。その後、酸素の存在下でポリアミック酸を熱環化すると、塩化スズが酸化スズに変換され、形成されたポリマー層(例えば、半導電性PI層など)の表面に向かって移動し得る。他の実施形態では、ポリアミック酸に可溶な弱い金属錯体をポリアミック酸と錯化させてもよい。弱い金属錯体は、ポリアミック酸内で化学的に還元され、これにより、金属粒子がポリアミック酸から形成されるポリマー層の外表面に向かって移動し得る。半導電性層を形成するためのいくつかの技術例を、図4を参照して以下にさらに詳細に説明する。
【0030】
フィラー粒子は、任意の適切な充填率又は比率で半導電性層に組み込んでよい。例えば、特定の実施形態では、フィラー粒子は、半導電性層の約5重量%(5.0%)と約20重量%(20.0%)との間を構成してもよい。別の例として、フィラー粒子は、半導電性層の約5重量%(5.0%)と約10重量%(10.0%)との間を構成することができる。他の実施形態では、フィラー粒子の量は、約5、7.5、10、12.5、15、17、17.5、20、25、又は30重量%、上記値のうちの任意の2つの間の範囲に含まれる量、または上記値のうちの1つによって最小端もしくは最大端のいずれかで囲まれる範囲に含まれる量であり得る。さらに、フィラーとしてフィラー材料の組み合わせを半導電性層に組み込む場合には、様々なフィラー成分について任意の適切な配合比を利用することができる。特定の実施形態において、フィラー材のブレンドは、様々なフィラー材成分のほぼ等重量(例えば、2つの異なるフィラー材成分についてそれぞれ約50重量%など)を含んでもよい。他の実施形態では、異なるフィラー成分の不均等な比率を利用してもよい。例えば、第1のフィラー成分と第2のフィラー成分との重量比は、約80/20、75/25、70/30、67/33、65/35、60/40、55/45、50/50、45/55、40/60、35/65、33/67、30/70、25/75、20/80、または任意の他の適切な比であってもよい。
【0031】
本開示の一態様によれば、フィラー粒子は、半導電性層のベースポリマー材料内に偏在していてもよい。特に、半導電性層の形成中にフィラー粒子が外表面に向かって移動することにより、フィラー粒子の大部分が半導電性層の外半分内に配置されることがある。換言すれば、半導電性層が厚さ「T」を有し、断面線が厚さ「T」を2等分する半分(すなわち、内側半分及び外側半分)である場合、フィラー粒子の大部分は、半導電性層の厚さ「T」内の外側半分に配置される。様々な実施形態において、任意の適切な重量%のフィラー粒子、金属、又は金属含有材料は、半導電性層の外側半分内に配置されてもよい。特定の実施形態では、フィラー粒子の少なくとも60重量%(60.0%)が、半導電性層の外側半分内に配置されてよい。他の実施形態において、フィラー粒子の少なくとも75重量%(75.0%)は、第2の層の外側半分内に配置されてよい。様々な他の実施形態において、フィラー粒子の少なくとも60、65、70、75、80、又は85重量%が、半導電性層の外側半分内に配置されてもよい。あるいは、半導電性層の外側半分内に配置されるフィラー粒子の割合は、上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれてもよい。さらに、特定の実施形態において、フィラー粒子の所望の重量%は、半導電性層の外面に配置されてもよい。例えば、特定の実施形態では、少なくとも20重量%(20.0%)のフィラー粒子が半導電性層の外面に配置されてもよい。他の実施形態では、フィラー粒子の少なくとも15、20、25、30、35、又は40重量%、又は上記の値のいずれか2つの間の範囲に含まれる重量%が、半導電性層の外面に配置されてもよい。
【0032】
さらに、半導電性層内のフィラー粒子の不均一な分布を考慮すると、半導電性層はその内面と外面とで異なる表面抵抗率を有し得る。例えば、半導電性層は下層のエナメル層に隣接する第1の表面(すなわち、第1の層)と、第1の表面の反対側の第2の表面(すなわち、外側の表面)とを含んでよい。第1の表面の抵抗率は、第2の表面の抵抗率より高くてもよい。特定の実施形態では、第1の表面抵抗率は1012Ω/□より大きく、第2の表面抵抗率は10Ω/□より小さくてよい。オーム/平方測定は、材料の任意の正方形面積(例えば1平方メートルなど)の表面抵抗率を示す。様々な実施形態において、第1の表面抵抗率は、約1011、1012、1013、又は1014Ω/□より大きくてもよく、又は上記の値の任意の2つの間の範囲に含まれてもよい。さらに、第2の表面抵抗率は、約10、10、10、10、10、又は10Ω/□より小さくてもよく、または上記の値の任意の2つの間の範囲に含まれてもよい。これらの異なる表面抵抗率を考慮すると、特定の実施形態では、半導電性層は、その外側表面で半導電性材料の特性を示し、その内側表面で絶縁材料の特性を示すことができる。
【0033】
マグネットワイヤに半導電層を取り込む(例えば、トップコートとして、又は第1のエナメル層上の第2の層としての半導電層を含む)結果、マグネットワイヤの部分放電性能は改善し得る。半導電性層は、部分放電事象に関連するエネルギーを分散させ、それによってマグネットワイヤ絶縁体における局所的な応力を低減することができる。この強化は、絶縁破壊試験及び/又は部分放電開始電圧(“PDIV(partial discharge inception voltage)”)の結果の改善など、比較的短期的な性能改善に現れる可能性がある。さらに、この強化は、高勾配の局所電界の発生源を緩和又は中和し、続いて絶縁体の老化プロセスを遅らせ、マグネットワイヤの寿命を延ばすため、絶縁体の長期性能を向上させる可能性がある。
【0034】
特定の実施形態において、半導電性層の組み込みは、半導電性層を含まない類似のエナメル層を使用したマグネットワイヤと比較して、マグネットワイヤのPDIVを少なくとも5.0%又は少なくとも10.0%改善し得る。例えば、半導電性PIトップコートを有するPIベース絶縁体を組み込んだマグネットワイヤのPDIVは、同様の厚さを有し、半導電性層を有しないPI絶縁体を有するマグネットワイヤのPDIVよりも少なくとも5.0%大きい(又は、場合によっては、少なくとも10.0%大きい)。異なるフィラー材の使用は、異なるPDIV改善をもたらす可能性があり、所望に応じて、所望のPDIV改善を達成するために、フィラー材及び使用量を選択してもよい。
【0035】
図1A~2Bを参照して上述したマグネットワイヤ100、150、200、250は、例示のためにのみ提供される。様々な実施形態において所望されるように、図示されたマグネットワイヤ100、150、200、250に対して多種多様な代替がなされ得る。例えば、エナメル層に加え、様々な種類の絶縁層をマグネットワイヤ100、150、200、250に組み込んでもよい。別の例として、マグネットワイヤ100、150、200、250及び/又は1つ以上の絶縁層の断面形状を変更してもよい。実際、本開示は、多種多様な好適なマグネットワイヤ構造を想定している。これらの構造は、任意の数の層及び/又はサブレイヤーを有する絶縁システムを含んでもよい。
【0036】
図3は、本開示の例示的な実施形態による、半導電性エナメル層を含む例示的なマグネットワイヤ絶縁システム300の断面図を示す。絶縁システム300は、図1Aに図示したものと同様であってよい。すなわち、マグネットワイヤは、導体310及び導体310の周囲に形成された第1のエナメル絶縁層320又はベースコートを含んでもよい。さらに、第2のエナメル絶縁層330(トップコートとして図示)を第1の層320の周囲に形成してもよい。本開示の一態様によれば、第2の層330は半導電性層であってもよい。上記でより詳細に述べたように、様々な層は、多種多様な好適な材料から形成されてよく、多種多様な好適な厚さ及び/又は他の寸法を有してよい。
【0037】
引き続き図3を参照すると、第2の層330又は半導電性層は、ベースポリマー材料内にフィラー粒子の不均一な分布を有するものとして図示されている。例えば、第2の層330は厚さ「T」を有してもよい。線350(例えば、マグネットワイヤの形状に一致する曲線)は、その厚さ「T」に対して内側半分と外側半分とに分割されるように、第2の層330をほぼ二等分してもよい。図示されるように、フィラー粒子のより大きな割合が、第2の層330の外側半分内に(すなわち、線350と第2の層の外側表面との間)配置され得る。上述のように、特定の実施形態では、フィラー粒子の少なくとも60%、少なくとも75%、又は別の適切な割合が、第2の層330の外側半分内に配置されてもよい。 さらに、特定の実施形態において、フィラー粒子のある割合(例えば、少なくとも20%、少なくとも25%など)は、第2の層330の外表面に配置され得る。
【0038】
図4は、本開示の例示的な実施形態による、少なくとも1つの半導電性エナメル層を含むマグネットワイヤを形成するための例示的な方法400のフローチャートである。方法400は、図1A~3に図示され、上記により詳細に説明されたワイヤのいずれかなど、多種多様な適切なマグネットワイヤを形成するために利用されてもよい。方法400はブロック405で開始され、適切なマグネットワイヤ導体が提供されて得る。特定の実施形態では、所望の寸法を有する予備成形された導体が提供されてもよい。他の実施形態では、入力材料が提供され、所望の寸法を有する導体を形成するために加工されてもよい。例えば、入力材料は、所望の寸法を有する導体を提供するために、ロッドミル、平坦機、及び/又はローラーによって処理されてもよい。
【0039】
ブロック410では、導体上にポリマーエナメル絶縁の第1の層を形成してもよい。図1Aを参照して上述した材料のいずれかなど、多種多様な適切な材料が、ポリマーエナメル絶縁の第1の層を形成するために利用されてもよい。特定の実施形態では、第1の層はPI又はPAIを含んでもよい。さらに、上記のように、第1の層は、任意の数のサブレイヤーを含んでもよい。例えば、第1の層は、PI又はPAIの複数のサブレイヤーを含み得る。特定の実施形態において、第1の層は、同一又は異なる材料から形成された複数の異なるエナメル層を含んでもよい。例えば、第1の層は、PI、PAI、及び/又は他のエナメル層の組み合わせを含んでもよい。
【0040】
ブロック415では、ポリマーエナメル絶縁の第2の層を、第1の層の周囲に半導電層として形成してもよい。第2の層を形成するために、多種多様な適切な方法又は技術を利用することができる。いくつかの技術例を、図5を参照して以下にさらに詳細に説明する。本開示の一態様によれば、第2の層は、PI又はPAIなどのベースポリマー材料内に偏在するフィラー材を含んでもよい。第2の層の形成中、フィラー材の少なくとも60重量%、75重量%、又は他の重量%が第2の層の外側半分内に配置されるように、フィラー材は層の外側表面に向かって移動してもよい。
【0041】
特定の実施形態において随意的であり得るブロック420では、1つ以上の追加の絶縁層がマグネットワイヤ上に形成されてもよい。例えば、適切な熱可塑性材料又は熱可塑性材料のブレンドを使用して押出絶縁層を形成してもよい。別の例として、コンフォーマル層(例えば、パリレン層)を蒸着によって形成してもよい。特定の実施形態では、方法400はブロック420の後で終了してもよい。他の実施形態では、1つ以上の追加の操作が実行されてもよい。例えば、特定の実施形態において、マグネットワイヤは、電気器具に組み込まれ得る1つ以上の物品(例えば、コイル、ヘアピンなど)に形成されてもよい。その後、方法400は、追加の操作の後に終了してもよい。
【0042】
図5は、本開示の例示的な実施形態に従って、マグネットワイヤ上に半導電性エナメル層を形成するための例示的な方法500のフローチャートである。特定の実施形態では、図5の方法500の操作は、図4の方法400のブロック415で実行されてもよい。さらに、方法500は、図1A~3に図示され、上記でさらに詳細に説明されたワイヤのいずれかなどの、多種多様な適切なマグネットワイヤ上に半導電性エナメル層を形成するために利用されてもよい。方法500はブロック505で開始してもよく、ベースとなるポリアミック酸が提供されてもよい。特定の実施形態において、ポリアミック酸は、ポリマーエナメル層が形成される前駆体であってもよい。例えば、PIエナメル層は、PI前駆体であるポリアミック酸から形成されてもよい。別の例として、PAIエナメル層は、PAI前駆体であるポリアミック酸から形成されてもよい。所望により、ポリアミック酸は、ポリアミック酸をマグネットワイヤに塗布し、その後硬化させることを可能にする1つ以上の適切な溶媒に懸濁させてもよい。
【0043】
ブロック510では、金属塩又は可溶性弱金属錯体をポリアミック酸と錯化させてもよい。これに関して、フィラー材がポリアミック酸に組み込まれてもよい。特定の実施形態において、金属塩は、ポリアミック酸と錯化される金属塩化物を含んでもよい。例えば、金属塩は、塩化スズ(IV)、塩化インジウム(III)、塩化インジウム/スズ、塩化鉛(II)、三塩化アンチモン、塩化ビスマス、又はその後酸化されて金属酸化物を形成することができる任意の他の適切な金属塩化物を含んでもよい。他の実施形態では、可溶性弱金属錯体は、銀及び/又は金などの任意の適切な金属フィラー材を含んでもよい。例えば、酢酸銀をポリアミック酸に組み込んでもよい。金属塩又は弱金属錯体に含まれる金属材料は、凝集物を減少させるため、及び/又は所望の金属粒子サイズを達成するために、ボールミル又は他の方法で粉砕されてもよいことが理解されよう。
【0044】
ブロック515では、ポリアミック酸と錯体化した金属含有材料とをマグネットワイヤに塗布してもよい。例えば、溶媒中にポリアミック酸と金属含有材料とを含むワニスをマグネットワイヤに塗布してもよい。ワニスをマグネットワイヤに塗布するには、ダイ塗布、ブラシ、ローラーなど、様々な適切な技術を利用することができる。特定の実施形態では、第1のエナメル層上に半導電性層として第2のエナメル層を形成するために、ポリアミック酸をマグネットワイヤに塗布してもよい。
【0045】
ブロック520では、金属塩又は弱金属錯体を変換して、塗布されたポリアミック酸の外表面及びポリアミック酸から形成されたポリマー層への金属の移動を促進してもよい。特定の実施形態では、ブロック525に示すように、外表面に向かって移動する半導電性酸化物が形成されてもよい。例えば、金属塩化物材料は、外表面に向かって移動する金属酸化物を形成するために酸化されてもよい。非限定的な代表例として塩化スズ(IV)を用いると、塩化スズは酸化して外表面に向かって移動する酸化スズ(IV)を形成し得る。他の実施形態では、ブロック530に示すように、金属が外表面に向かって移動するように、より弱い金属錯体をポリアミック酸中で還元してもよい。1つの非限定的な例として、酢酸銀は、銀が外表面に向かって移動するように、ポリアミック酸中で還元されてもよい。金属粒子が外表面に向かって移動する結果、金属粒子がベースポリマー材料(すなわち、ポリアミック酸から形成されたポリマー材料)中にフィラー粒子として偏在し得る。
【0046】
ブロック535では、ポリアミック酸は、エナメリングオーブンでの焼成など、任意の適切な方法又は技術によって硬化させてよい。その結果、溶媒が蒸発し、固体の高分子半導電性層が形成し得る。例えば、PI前駆体を硬化させると、フィラー粒子の不均一な分布を含む半導電性PI層が形成されることがある。別の例として、PAI前駆体を硬化させると、フィラー粒子の不均一な分布を含む半導電性PAI層が形成し得る。方法500は、ブロック535の後に終了してもよい。
【0047】
図4及び図5の方法400、500において説明され示される操作は、様々な実施形態において所望される任意の適切な順序で実施又は実行されてもよい。さらに、特定の実施形態では、操作の少なくとも一部を並行して実施してもよい。さらに、特定の実施形態では、図4及び図5に記載された操作より少ないか又は多い操作が実行されてもよい。
【0048】
[実施例]
以下の実施例は、例示的かつ非限定的なものであり、本発明の具体的な実施形態を示すものである。特に記載のない限り、実施例で取り上げたマグネットワイヤサンプルは全て、全エナメル絶縁の18AWG丸形ワイヤとして準備した。換言すれば、記載されたワイヤエナメルは、マルチパスコーティング及びワイピングダイを使用して18AWG銅ワイヤに塗布された。ベースライン又はコントロールサンプルは、半導電性トップコートなしのPIエナメルの多層又はパスを含んでいた。比較サンプルは、様々な半導電性PIトップコート層を有するPIベースコートを含む。
【0049】
表1に示す最初の例は、ポリイミドフィルム内での金属フィラー粒子の移動を調べたものである。PIフィルムを作製するために、塩化スズ及び塩化インジウムをそれぞれ7.9重量%の充填率でポリアミック酸に添加した。このポリアミック酸を用いて、ガラス板上に厚さ12ミル(0.30mm)のウェットフィルムを形成した。このフィルムを170℃のオーブンで30分間焼成した。その後、オーブン温度を300℃まで上げ、フィルムさらに1時間焼成した。フィルムの形成中、金属塩化物材料は酸化し、それにより、フィラー材は金属酸化物としてフィルムの外表面に向かって移動した。表1は、エネルギー分散分光法を用いてフィルムの異なる表面で測定されたスズ及びインジウム材料の量を示す。
【表1】
【0050】
表1に示すように、各PIフィルムにおいて、内表面よりも外表面の方が、より多くの金属が配置されていた。実際、スズのフィルム外表面への著しい移動が測定された。また、いくらかのインジウムの外表面への移動も測定された。さらに、スズを含むPIフィルムの表面抵抗率の有意な差が測定された。フィルムの外表面では、測定された表面抵抗率は半導電性材料のものであった。フィルム内面では、絶縁体の表面抵抗率が測定された。フィルムの外表面又はその近傍に金属フィラー粒子が集中することで、マグネットワイヤに組み込んだときのフィルムの部分放電性能が向上する可能性がある。
【0051】
表2に示す2番目の例は、異なる充填率で異なるフィラー材を組み込んだ様々なPI半導電性トップコートを有する例示的なマグネットワイヤの部分放電開始電圧(「PDIV」)の改善を比較したものである。最初の問題として、ベースラインPDIV値は、半導電性トップコートなしで様々なPIエナメルフィルムを有するマグネットワイヤについて決定された。あるサンプルのベースラインPDIV値は、電圧を増加させた状態で試験フィルムが破壊されたときに決定された。破壊はエナメルフィルムが最も弱い、又は、薄い箇所で起こると仮定した。ベースラインサンプルから、PDIV値の第1の傾向線をプロットした。第1の傾向線に対して最良の性能を有するベースライン試料(すなわち、傾向線より上のデータ値)が確認され、最良のPDIV性能を有するサンプルに基づいて、第1の傾向線と同一の傾きを有する第2の傾向線又は調整された傾向線がプロットされた。この第2の傾向線は、所定の肉持ち(ビルド)又は厚さを有する従来のPIエナメルから得られる最大PDIV値を代表するものである。
【0052】
さらに、それぞれが、PIエナメルのベースコート及び異なる金属フィラー粒子で異なる速度で形成された、異なるそれぞれの半導電性トップコートを有する比較サンプルを製造した。各比較サンプルは、所望のフィルムビルドを達成するために適切な数のサブレイヤー又はパスで形成されたPIベースコートを含む。さらに、半導電性トップコートを各サンプルにシングルパスで形成した。各トップコートは、対応するベースコートを形成するために利用されたものと一貫性のあるベースPI材料を利用して形成された(例えば、PI材料の一貫した固形分など)。比較サンプルが形成されると、Essex Furukawa Magnet Wire Testing Laboratoryで、いくつかの業界標準試験を用いてPDIV値が決定された。 この試験には、全米電機工業会(National Electric Manufacturers Association)によって定められたNEMA MW1000 Part 3 Test Method 3.8.7に準拠した25℃及び150℃でのショットボックス試験が含まれる。ショットボックス試験では、ある長さのワイヤを鉛のショットで満たされたボックスに入れ、ワイヤに通電して正電極を形成し、ショットを負電極として機能させ、PDIVを測定することができる。試験にはさらに、NEMA MW1000 Part 3試験方法3.8.3に従い、25℃及び150℃でのツイストペア試験も含まれる。試験済みペア試験では、2本の絶縁電線が形成され、撚り合わされる。通電すると、一方のワイヤがプラス電極となり、他方がマイナス電極となり、PDIVを測定することが可能になる。以下の表2は、同一のエナメルビルドを有するベースラインサンプルの対応する値(括弧内)に対する、異なる比較サンプルのPDIV測定値を示す。さらに、PDIV/milのワイヤ厚みも示す。
【表2】
【0053】
表2に示すように、半導電性トップコート層の形成により、マグネットワイヤの部分放電性能が向上し得る。いくつかの比較サンプルでは、PDIV値が5%以上改善された。また、測定されたPDIV値は、PIベースラインサンプルの最良の場合を想定した調整されたベースライン値と比較されたことに留意すべきである。比較サンプルは、最良の場合のシナリオを想定して調整されていないため、サンプルの測定されたPDIV値の一部は、最良の場合のベースライン値を下回った。これは、部分放電の早期発生につながる薄い斑点又は弱い斑点を持つエナメルフィルムの形成など、比較サンプルの不完全なフィルム形成によるものと考えられる。試験データから、半導電性トップコートを塗布することで、未充填絶縁体を含む従来のワイヤと比較して、マグネットワイヤのPDIV値が向上することが判明した。
【0054】
表3に示す第3の実施例は、例えばフィラー材としてスズを含有するマグネットワイヤの部分放電開始電圧(「PDIV」)の改善するものである。未充填PIの11パス(又はサブレイヤー)で形成されたベースコートをそれぞれ含む4つの比較サンプルが形成された。塩化スズをポリアミック酸に錯形成し、そのポリアミック酸をトップコート層として塗布し、硬化させて、酸化スズ(すなわち、外表面に向かって移動したスズ)の不均一な分布を有するPIトップコートを形成することによって、単一の半導電性トップコートが形成された。4つのサンプルは、異なるライン速度で塗布され、異なるオーブン温度で硬化されたトップコート層で形成された。例えば、各2つのサンプルは、それぞれ毎分15フィート及び毎分30フィートのライン速度で形成された。さらに、各ライン速度で形成された1つのサンプルは450°F及び650°Fのオーブン温度で硬化され、各ライン速度の第2のサンプルは550°F及び750°Fのオーブン温度で硬化された。サンプルの厚さ1ミルあたりのPDIV値(例えば、数千インチ)を、上述のショットボックス及びツイストペア試験を利用して決定し、PDIV値をベースライン値と比較した。表2に示したデータと同様に、ベースラインPDIVは、最良の場合のPDIV性能を想定した調整されたベースライン値であった。
【表3】
【0055】
表3に示すように、550/750°Fのオーブン温度で15fpmのライン速度で形成されたワイヤサンプルのPDIV測定値は、いずれもベースライン値より有意に高かった。実際、測定されたPDIV値は、同社が過去に測定したどの値よりも高かった。測定されたPDIVの改善は、統計的にベースライン値を上回っており、他のプロジェクトに関連する典型的なPDIVの改善を上回っていた。実際、典型的な良好なPDIV改善は、ベースライン値に対して5~10%以下である。しかし、図3のいくつかのワイヤサンプルで測定された改善は、はるかに大きかった。
【0056】
特に「できる(can)」、「できるかもしれない(could)」、「でもよい(might)」、または「あり得る(may)」などの条件付き言語は、特に明記されていない限り、又は使用される文脈内で理解されない限り、一般に、特定の実施形態が特定の特徴、要素、及び/又は動作を含むが、他の実施形態は含まないことを伝えることを意図している。したがって、このような条件付き言語は、一般に、特徴、要素、及び/又は操作が、1以上の実施形態に何らかの形で必要であること、又は1つ以上の実施形態が、ユーザ入力又はプロンプトの有無にかかわらず、これらの特徴、要素、及び/又は操作が、任意の特定の実施形態に含まれるか、または実行されるかどうかを決定するためのロジックを必ず含むことを意味するものではない。
【0057】
本明細書に記載された本開示の多くの変更及び他の実施形態は、前述の説明及び関連する図面に提示された教示の利益を得て明らかになるであろう。したがって、本開示は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、修正及び他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されることを理解されたい。本明細書では特定の用語が使用されているが、これらは一般的かつ説明的な意味でのみ使用されており、限定を目的とするものではない。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第1の層と、
前記第1の層の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第2の層であり、ベースポリマー材料、及び、ベースポリマー材料内に分散されたフィラー粒子を含む、該第2の層と、
を備え、
前記フィラー粒子の少なくとも60重量%は、前記第2の層の厚さの外側半分に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、金属又は金属酸化物の一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項3】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、酸化スズ、酸化インジウム、銀又は金のうち、少なくとも1つを含む、マグネットワイヤ。
【請求項4】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記ベースポリマー材料は、ポリイミド又はポリアミドイミドの一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項5】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも75重量%は、前記第2の層の外側半分に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項6】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも20重量%は、前記第2の層の外表面に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項7】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第2の層は、
前記第1の層に隣接する第1の表面と、
前記第1の表面の反対側の第2の表面と、
を備え、
前記第1の表面における前記第2の層の第1の表面抵抗率は、前記第2の表面における前記第2の層の第2の表面抵抗率よりも高い、
マグネットワイヤ。
【請求項8】
請求項7に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第1の表面抵抗率は1012Ω/□より大きく、かつ、前記第2の表面抵抗率は10Ω/□未満である、マグネットワイヤ。
【請求項9】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、前記第2の層の5重量%と20重量%との間における重量%を含む、マグネットワイヤ。
【請求項10】
請求項1に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第2の層は、前記マグネットワイヤの最外層を含む、マグネットワイヤ。
【請求項11】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第1の層と、
前記第1の層の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第2の層であって、ベースポリマー材料、及び、ベースポリマー材料内に分散したフィラー粒子を含む該第2の層と、
を備え、
フィラー粒子は、第2の層内に均一に分散しておらず、また
前記第1の層に隣接する前記第2の層の第1の表面は、第1の表面抵抗率を有し、前記第1の表面に対向する前記第2の層の第2の表面は、前記第1の表面抵抗率よりも小さい第2の表面抵抗率を有する、マグネットワイヤ。
【請求項12】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第1の表面抵抗率は1012Ω/□より大きく、かつ、前記第2の表面抵抗率は10Ω/□未満である、マグネットワイヤ。
【請求項13】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、金属又は金属酸化物の一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項14】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、酸化スズ、酸化インジウム、銀又は金のうち、少なくとも1つを含む、マグネットワイヤ。
【請求項15】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記ベースポリマー材料は、ポリイミド又はポリアミドイミドの一方を含む、マグネットワイヤ。
【請求項16】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも60重量%は、前記第2の層の外側半分に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項17】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子の少なくとも20重量%は、前記第2の層の外表面に配置されている、マグネットワイヤ。
【請求項18】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記フィラー粒子は、前記第2の層の5重量%と20重量%との間における重量%を含む、マグネットワイヤ。
【請求項19】
請求項11に記載のマグネットワイヤにおいて、前記第2の層は、前記マグネットワイヤの最外層を含む、マグネットワイヤ。
【請求項20】
マグネットワイヤであって、
導体と、
前記導体の周囲に形成されたポリマーエナメル絶縁体の第1の層であって、ポリアミド又はポリアミドイミドの一方を含む該第1の層と、
前記第1の層の周囲に形成された第2の層であって、ポリイミドを含むベースポリマー材料、及び、前記ベースポリマー材料内に分散した酸化スズフィラー粒子を含む該第2の層と、
を備え、
前記酸化スズ粒子の少なくとも60重量%は、前記第2の層の厚さの外側半分に配置している、マグネットワイヤ。
【請求項21】
マグネットワイヤを形成する方法であって、
導体を準備するステップと、
前記導体の周囲にポリマーエナメル絶縁体の第1の層を形成するステップと、
前記第1の層の周囲にポリマーエナメル絶縁体の第2の層を形成するステップと、
を備え、
前記第2の層を形成するステップにおいて、
塩基性ポリアミック酸を準備し、フィラー粒子を塩基性ポリアミック酸と錯化させるステップと、
前記第1の層の周囲に前記ポリアミック酸を塗布するステップと、
前記ポリアミック酸の前記フィラー粒子を前記第2の層の外表面に向かって移動させるステップと、及び、
前記ポリアミック酸を硬化させて半導電性エナメル層を形成ステップと、
を含み、
前記フィラー粒子の少なくとも60重量%が、移動後の第2の層の外側半分内に配置されるものである、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記フィラー粒子と前記塩基性ポリアミック酸との錯化は、金属塩又は可溶性の弱い金属錯体との錯化を含む、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記可溶性の弱い金属錯体は、銀又は金の一方を含む、方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法において、前記金属塩は、塩化スズ(IV)、塩化インジウム(III)、塩化インジウム/スズ、塩化鉛(II)、三塩化アンチモン、または塩化ビスマスのうちの1つを含む、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記フィラー粒子の移動は、半導電性酸化物を形成するステップを含む、方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法において、前記フィラー粒子の移動は、前記ポリアミック酸中の金属錯体を還元するステップを含む、方法。
【請求項27】
請求項21に記載の方法において、ベースポリアミック酸は、ポリイミド前駆体又はポリアミドイミド前駆体のいずれかを含む、方法。
【請求項28】
請求項21に記載の方法において、前記フィラー粒子の少なくとも75重量%は、移動後の第2の層の外半分内に配置される、方法。
【請求項29】
請求項21に記載の方法において、前記フィラー粒子の少なくとも20重量%が、移動後の第2の層の外表面に配置される、方法。
【請求項30】
請求項21に記載の方法において、前記第2の層は、
前記第1の層に隣接する第1の表面と、及び、
前記第1の表面の反対側の第2の表面と、
を備え、
前記第1の表面における前記第2の層の第1の表面抵抗率は、前記第2の表面における前記第2の層の第2の表面抵抗率よりも高い、方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、前記第1の表面抵抗率は10 12 Ω/□より大きく、かつ、前記第2の表面抵抗率は10 Ω/□未満である、方法。
【請求項32】
請求項21に記載の方法において、前記フィラー粒子は、前記第2の層の5重量%と20重量%との間における重量%を含む、方法。
【請求項33】
請求項21に記載の方法において、前記第2の層は、前記マグネットワイヤの最外層を含む、方法。
【国際調査報告】