(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】バッテリパックの冷却システム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/653 20140101AFI20240725BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240725BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20240725BHJP
【FI】
H01M10/653
H01M10/613
H01M10/651
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506503
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 IB2022055747
(87)【国際公開番号】W WO2023012536
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/057034
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレゴワール,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】アレリー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】マシャド・アモラン,ティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】アンブラー,マチュー
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE01
(57)【要約】
本発明は、金属被覆された鋼板を備える、バッテリパックの冷却システムを扱い、該金属コーティングは、アルミニウムをベースとし、ケイ素及び不可避的不純物を任意選択的に含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コーティングで被覆された鋼板を備える、バッテリパックの冷却システムであって、前記金属コーティングが、アルミニウムをベースとし、並びにケイ素及び不可避的不純物を任意選択的に含む、バッテリパックの冷却システム。
【請求項2】
前記金属コーティングが、重量で、8~12%のケイ素、任意選択的に最大4%の鉄を含み、残部が、アルミニウム及び不可避的不純物である、請求項1に記載のバッテリパックの冷却システム。
【請求項3】
液体冷却剤と接触する側のコーティングの厚さが、10~40μmである、請求項1又は2に記載のバッテリパックの冷却システム。
【請求項4】
両側のコーティングの重量の合計が、50~200g/m
2である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバッテリパックの冷却システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の冷却システムを備える、バッテリパック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車産業で使用することができるバッテリを扱い、より具体的には、液体冷却剤との接触において良好な耐腐食性を有する電気又はハイブリッド車両内のバッテリパックの冷却システムのための材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車両又はハイブリッド車両は、それらのエンジンに電力を供給するために少なくとも1つの重くてかさばるバッテリパックを埋め込まなければならない。このバッテリパックは、複数のバッテリモジュールから作製されており、各モジュールはバッテリセルを包有する。セルは、セルの両電極間の電位差を保存、保持及び要求に応じて与えるように設計されている。しかしながら、電解質を通る荷電粒子の移動もまた温度に依存するため、セルの機能的能力はそれらの動作温度に大きく依存する。
【0003】
このため、バッテリパックは、特定の温度動作範囲に合わせて設計されている。通常の動作範囲は、20~40℃である。また、バッテリパック内の温度差を最小限(通常、5℃以下)に抑える必要がある。バッテリパックをそれらの動作範囲内に保つための冷却システムがなかった場合、それらの性能は低下することとなり得、それらは動作を停止することとなり得る。さらに、バッテリが過熱した場合又はバッテリパック内に不均一な温度分布がある場合、熱暴走及び火災爆発などの熱安定性の問題が発生する可能性がある。生命を脅かす安全上の問題及びバッテリパックの寿命に関連する環境問題を前にして、冷却システムは非常に重要である。
【0004】
対流による空冷は、第1世代の電気車両の技術的解決策であった。しかしながら、電気自動車は、より頻繁に充電を必要とせずに、より高いエネルギーでより頻繁に使用されており、純粋に空冷式のバッテリパックでは安全性の問題が生じている。したがって、液体冷却システムは、現在、電気車両に一般的に実装されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
図1に描写されているように、バッテリパックの可能な設計は、底部から頂部に向かって以下の部品である、
-下部シールド要素1、
-下部横材2、
-液体冷却システム3、
-外側フレーム4、
-バッテリセルからの起こり得る振れを保持するためのトレイ5、
-内側フレーム6、
-上部横材7、
-任意選択の追加の液体冷却システム8、
-頂部カバー9
を備え得る。
【0006】
冷却システムの構造は、バッテリパックの形状に依存し、自動車製造業者ごとに見た目が異なることとなる。冷却システムの設計に応じて、冷却システムはトレイ(5)の下に直接取り付けられ得、トレイ(5)と接触してバッテリセルに対して熱を交換することができる。代替的に、冷却システムは、トレイ(5)内に置くことによってバッテリパック内に含めることができる。
【0007】
液体冷却システムは、液体冷却剤が通って循環する管を有する熱交換器からなる。冷却剤と交換器表面との適合性は、冷却システムの耐久性にとって重要である。
【0008】
液体冷却剤は、通常、90%を超えるグリコール、エチレングリコールのようなポリグリコール又はプロピレングリコールなどを含む。それは、沸点の温度を上昇させ、凝固点の温度を低下させるため、主成分として選択されている。残部は、腐食、キャビテーション及び堆積を防止するための添加剤、表面抑制剤である。また、pH緩衝剤、消泡剤、安定剤及び苦味剤を含んでもよい。
【0009】
腐食抑制剤は、バッテリパック内の冷却システムの回路に沿って見られる多数の異種金属に発生する腐食を防止するように設計されている。液体冷却剤の組成は供給業者によって異なり、各自動車製造業者は、冷却システムのそれらの特定の設計に適合するものを推奨する。
【0010】
本発明の目的は、液体冷却剤中の添加剤にかかわらず、優れた耐食性を有する冷却システムを提供することである。
【0011】
この目的は、請求項1に記載の冷却システムを提供することによって達成される。冷却システムはまた、請求項2~4の特徴のうちのいずれか又はすべてを含むことができる。本発明の別の目的は、本発明による冷却システムを含むバッテリパックである。
【0012】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0013】
本発明を例示するために、特に以下の図を参照して、非限定的な例の様々な実施形態及び試行を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】冷却剤と考慮される金属コーティングとの適合性を査定するために実施例で使用されるサンプルの寸法及び設計を示す。
【
図3】冷却剤と考慮される金属コーティングとの適合性を査定するために実施例で使用されるサンプルホルダを示す。
【
図5】冷却システムの同じ可能な設計の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、金属被覆された鋼板を備える、バッテリパックの冷却システムに関し、該金属コーティングは、アルミニウムをベースとし、任意選択的にケイ素及び不可避的不純物を含む。
【0016】
この目的のために、本発明のフレームには任意の鋼を使用することができる。好ましくは、良好な成形性を有する鋼がよく適している。例えば、冷却システムは、以下の、C≦0.01%;Si≦0.3%;Mn≦1.0%;P≦0.1%;S≦0.025;Al≧0.01%;Ti≦0.12%;Nb≦0.08%;Cu≦0.2%の重量組成を有するIF鋼などの深絞り用の軟鋼で作製することができる。
【0017】
例えば、冷却システムは、以下の、C≦0.1%;Si≦0.5%;Mn≦1.4%;P≦0.04%;S≦0.025%;Al≧0.01%;Ti≦0.15%;Nb≦0.09%;Cu≦0.2%の重量組成を有する高強度低合金(HSLA)鋼で作製することができる。
【0018】
鋼板は、鋼スラブの熱間圧延、及び例えば0.6~1.0mmとすることができる所望の厚さに応じて、その後の得られた鋼コイルの冷間圧延によって得ることができる。
【0019】
次いで、鋼板は、任意の被覆工程によって金属コーティングで被覆される。例えば、鋼板は、アルミニウムをベースとし任意選択的にケイ素及び不可避的不純物を含む、溶融浴中で溶融めっきされる。
【0020】
次いで、鋼板をブランクに切断することができる。好ましい実施形態では、冷却システムは2枚の板で作製されており、一方の板は成形されている。
図4に描写されているように、下板(3a)は、スタンピングされたダクト(3c)を通して冷却剤液体を流すように形成されている。板の形成は、プレススタンピングによって行うことができる。下板(3a)は、上板(3b)によって覆われ、次いで、両方とも液体冷却剤と接触する。
図5の部分断面図に示すように、上板(3b)は、下板(3a)のスタンピングされたダクトを閉鎖する。2つの板は、接触線(3d)を有する。冷却剤液体回路の気密性のために、両方の板を接触線に沿って抵抗シーム溶接によって互いに溶接することができる。
【0021】
本発明で使用される金属コーティングは、アルミニウムをベースとし、ケイ素及び製作工程から生じる不可避的不純物を任意選択的に含む。
【0022】
好ましい実施形態では、金属コーティングは、8~12重量%のケイ素、任意選択的に最大4重量%の鉄を含み、残部はアルミニウム及び不可避的不純物である。
【0023】
例えば、コーティングは、以下の、10%のケイ素、90%のアルミニウムである重量組成を有するAluSi(登録商標)である。
【0024】
コーティング重量は、両側で合計50~200g/m2以下とすることができる。例えば、液体冷却剤と接触する側のコーティング厚さは、10~40μmである。
【0025】
本発明者らは、異なる液体冷却剤を用いてこのコーティングの性能を示すいくつかの試験を行った。驚くべきことに、このようなコーティングは、すべての試験された冷却剤に対して、異なる組成を有する他のコーティングの場合にはない良好な挙動を示す。
【実施例】
【0026】
冷却剤と考慮される金属コーティングとの適合性を査定するために、1991年に発行されたフランス規格NF R15-602に基づいて試験を実施した。それは、自動車冷却システムに存在する典型的な金属に対する冷却剤の腐食抑制特性を評価するための実験室試験方法を規定している。冷却剤の腐食抑制特性は、ガラス製品腐食法によって測定される。試験の最後に、質量増加及び化学洗浄後の質量損失に関してサンプルが測定される。増加及び損失の両方について、試験後の質量差は、規格に従って2.5mg/サンプルを超えてはならない。
【0027】
試験は、ほとんどの電気車両製造業者をカバーする、供給会社MOTULの3つの通常の冷却剤を用いて実施された。
【0028】
3つの材料がこれらの液体と組み合わせて試験され、それらの商品名が表1にまとめられている。試験された3つの材料は、溶融めっきされた鋼板から切断された。
【0029】
材料1は、Extragal(登録商標)GIで被覆されている。溶融めっきは、重量で0.2のアルミニウムを含有し、残部は亜鉛である。コーティング重量は、140g/m2である。
【0030】
材料2は、Galfanで被覆されている。溶融めっきは、5重量%のアルミニウムを含有し、残部は亜鉛である。コーティング重量は、200g/m2である。
【0031】
材料3は、AluSi(登録商標)で被覆されている。溶融めっきは、重量で10%のケイ素を含有し、残部はアルミニウムである。コーティング重量は、150g/m2である。
【0032】
【0033】
鋼板を、
図2に描写するように中心孔を有する5×2.5cmのサンプルに切断した。次いで、
図3に描写するように、サンプルは6つのセットでサンプルホルダに装着され、各クーポンは、ガルバニック結合を避けるためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のみと接触している。実際、6つのサンプル(31)は、5つのPTFEスペーサ(32)によって分離されており、すべての他の保持装置は、PTFE又は絶縁された真鍮で作製されている。次いで、サンプルホルダを750mlの容積を有する冷却剤反応器に入れる。次いで、冷却剤を、148mg/molのNa
2SO
4、165mg/lのNaCl及び138mg/lのNaHCO
3を含有する合成の腐食性水に、体積分率で33%に希釈する。得られた溶液を100℃で加熱して冷却剤反応器に充填し、同時に冷却剤にバブリングする空気を100ml/分の流量に設定する。14日後、サンプルを反応器から取り出し、質量増加、質量損失に関して特性評価する。質量増加は、反応器から取り出したサンプルを秤量することによって得られる。
【0034】
質量損失は、腐食生成物の除去後にサンプルを秤量することによって得られる。この目的のために、2009年に発行されたISO 8407規格が適用された。除去方法は、考慮される材料に依存する。亜鉛をベースとする材料1及び2については、化学洗浄手順C.9.1を、腐食試験片をグリシンの化学溶液に浸漬することによって適用した。アルミニウムをベースとする材料3については、化学洗浄手順C.1.1を、腐食試験片を硝酸の化学溶液に浸漬することによって適用した。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
材料1及び2は、少なくとも1つの液体冷却剤に対して2.5mg/サンプルを超える質量増加又は質量損失を有する。材料3のみが、各冷却剤に対して2.5mg/サンプル未満の質量増加及び質量損失を有する。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コーティングで被覆された鋼板を備える、バッテリパックの冷却システムであって、前記金属コーティングが、アルミニウムをベースとし、並びにケイ素及び不可避的不純物を任意選択的に含む、バッテリパックの冷却システム。
【請求項2】
前記金属コーティングが、重量で、8~12%のケイ素、任意選択的に最大4%の鉄を含み、残部が、アルミニウム及び不可避的不純物である、請求項1に記載のバッテリパックの冷却システム。
【請求項3】
液体冷却剤と接触する側のコーティングの厚さが、10~40μmである、請求項
1に記載のバッテリパックの冷却システム。
【請求項4】
液体冷却剤と接触する側のコーティングの厚さが、10~40μmである、請求項2に記載のバッテリパックの冷却システム。
【請求項5】
両側のコーティングの重量の合計が、50~200g/m
2である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のバッテリパックの冷却システム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の冷却システムを備える、バッテリパック。
【請求項7】
請求項5に記載の冷却システムを備える、バッテリパック。
【国際調査報告】