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特表2024-528972細胞から培養食肉、組織及びそれらと関連製品を生産するシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】細胞から培養食肉、組織及びそれらと関連製品を生産するシステム
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/06 20060101AFI20240725BHJP
   C12M 3/02 20060101ALI20240725BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20240725BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20240725BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240725BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C12M3/06
C12M3/02
C12M1/02 A
C12N5/074
C12N5/0775
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506562
(86)(22)【出願日】2022-04-10
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 IB2022053341
(87)【国際公開番号】W WO2023012523
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】17/395,452
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522217821
【氏名又は名称】アヴァント ミーツ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AVANT MEATS COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】11 Science Park West Avenue Unit 620,6/F,Biotech Centre 2,Building 11 W Hong Kong(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チン, ポ サン マリオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, カイ イー キャリー
(72)【発明者】
【氏名】リ, チュン ワイ
(72)【発明者】
【氏名】スピッターズ, ティム
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029DF05
4B029DF08
4B029DG06
4B029DG08
4B029GB03
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB07
4B065BB31
4B065BB40
4B065CA41
(57)【要約】
細胞/組織培養システムは、少なくとも一種類の細胞を保持して組織を培養するように構成される少なくとも一つのバイオリアクターと、透析薄膜を含む透析部と、新鮮培地部と、透析液から代謝廃物を除去するように構成される廃物除去部とを備え、前記代謝廃物は、アンモニア及び乳酸を含み、前記廃物除去部は、乳酸を分解して細胞の成長を促進する炭素源を生成するように構成される生体触媒又は酵素を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種類の細胞を保持して組織を形成するように構成されるバイオリアクターと、
前記細胞に栄養素を補給し、前記バイオリアクターから代謝廃物を透析液に移すように構成される透析薄膜を含む透析部と、
前記透析部に接続され、前記透析部に透析液を供給するように構成される新鮮培地部と、
前記新鮮培地部に接続され、前記透析液から前記代謝廃物を除去する廃物除去部とを含む、生体外食肉の生産システムであって
前記透析液は、前記細胞の栄養素を含み、
前記代謝廃物は、アンモニア及び乳酸を含み、
前記廃物除去部は、アンモニアを分解するように構成される第一の生体触媒を含み、
前記廃物除去部は、乳酸を分解するように構成される第二の生体触媒を含み、
前記バイオリアクター、前記透析部、前記新鮮培地部及び前記水分除去部のそれぞれは、前記システムに着脱可能に接続されている、システム。
【請求項2】
前記第二の生体触媒は、乳酸を分解するように構成される酵素である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記廃物除去部は、前記バイオリアクター内で細胞の成長を促進可能な新鮮炭素源を生成するように更に構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記新鮮炭素源は、ピルビン酸である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第一の生体触媒は、硝化細菌である、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記透析薄膜は、少なくとも一つの500Da分子量カットオフ(MWCO)薄膜であり、前記薄膜は、セルロースエステル(CE)、再生セルロース(RC)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記透析薄膜は、少なくとも100Daを有するタンパク質、リン脂質(レシチン、セラミド)、脂質(DHA、AHA)、多糖類(グリコーゲン)、プロテオグリカン(ヘパリン、コンドロイチン)、核酸(DNA、RNA)、インシュリン様成長因子及び/又は形質転換成長因子ベータを含む巨大分子を、前記バイオリアクター内に保持するように構成される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
少なくとも一つの追加のバイオリアクターを更に含み、前記少なくとも一つの追加のバイオリアクターと前記バイオリアクターが並列に接続されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記バイオリアクターは、
細胞がその上で三次元的に成長するプラットフォームと、
少なくとも一つのプラットフォームを受け取って保持するように構成されるホルダとを含み、前記プラットフォームは、可食の骨組み又は細胞外マトリックスである、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記バイオリアクターは、細胞の成長を懸濁状態又はマイクロキャリア上でサポートするように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記バイオリアクターに接続されたポンプ及び管を更に含み、前記ポンプは、前記システム内に撹拌器又は撹拌装置がない場合に、前記バイオリアクター内の流体中に栄養素を均等に分配する流体の流れを作り出すように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
生体外食肉の生産方法であって、
請求項1に記載のシステムを準備し、
少なくとも一種類の細胞を前記バイオリアクター内に入れ、前記バイオリアクター内で組織を生成し、
前記透析部によって、前記バイオリアクターから少なくともアンモニア及び乳酸を透析液に抽出し、
前記廃物除去部で細胞の成長を促進する新鮮炭素源を前記廃物除去部で生成し、
そのような新鮮炭素源を透析液からバイオリアクターに移すステップを含む、方法。
【請求項13】
前記新鮮炭素源は、ピルビン酸である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アンモニア抽出は、硝化細菌を提供することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記乳酸抽出ステップ及び新鮮炭素源生成ステップは、乳酸脱水素酵素を提供することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞は、間葉幹細胞、人工多能性幹細胞、及び衛星細胞といった様々な起源の幹細胞か又は遺伝子組換え細胞であり得る、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも100Daを有するタンパク質、リン脂質(レシチン、セラミド)、脂質(DHA、AHA)、多糖類(グリコーゲン)、プロテオグリカン(ヘパリン、コンドロイチン)、核酸(DNA、RNA)、インシュリン様成長因子及び形質転換成長因子ベータを含む巨大分子を、前記バイオリアクター内に保持するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記透析液から栄養素を移すことにより、前記バイオリアクター内の細胞にそのような前記栄養素を補給するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年8月5日に出願された米国非仮出願第62/17/395,452号に対する優先権を主張するものであり、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、細胞培地を育てる、改良したシステム及び方法に関する。また、生体外食肉生産及び組織構築/工学のための、改良したシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
動物の肉は、タンパク質が豊富で、身体機能のサポートに用いられるタンパク質を作るために必要なすべてのアミノ酸の供給源となる。消費される食肉は、伝統的には、養殖場で飼われる動物や魚から得られる。しかしながら、動物の肉を生産する畜産業や水生動物養殖業では、大量のエネルギーと資源が必要であり、カーボンフットプリントも高くなる。畜産業や水生動物養殖業で生産された食肉は、生産プロセスにおいて、病気や汚染源や毒素に露呈されるかもしれないので、そのような食肉では、人々の健康が危険にさらされかねない。人口増加、食肉需要の高まり、環境問題、陸地や水域の限りある資源、生物多様性の損失及び動物の屠殺に関しての否定的な見方と言った多くの懸念があって、科学者が、代替的なプロセスで食肉を生産する技法を開発する運びとなった。
【0004】
生体外食肉生産は、細胞培養技法を用いて、実験室で、動物の筋肉組織又は臓器組織を成長させて食肉及び食肉製品を製造するプロセスである。ここで用いられている通り、生体外食肉及び食肉製品には、可溶な形態や固形であったりする動物タンパク質製品ならびに非食肉製品が含まれる。まだ開発の初期段階ではあるが、生体外食肉及び食肉製品には、健康及び環境上の利点及び動物福祉にとっての利益と言った、伝統的な食肉製品に無い数多くの利点がある。それは、細胞畜産業又は細胞培養での畜産製品の生産と言う、より広い分野の一部として運用される次世代の新興の技術である。
【0005】
生体外食肉の生産のための細胞は、動物バイオプシーから取られる細胞(例えば、筋肉細胞、体細胞、幹細胞など)であり、そして、それは、バイオリアクター又はその他の種類の無菌制御環境における培養基(培地)で、動物から分離されて育てられる。その細胞は、バイオリアクターに置かれる三次元の可食の骨組みに付着することで、動物臓器を模した半固形又は固形へと成長する。開始細胞は、動物組織又は連続細胞株から直接得られる一次細胞である。適切な培養基において正しい条件で育てられたら、一次細胞は、成長して増殖するが、細胞のDNAの端におけるテロメア長に関連する有限の回数だけである。他方、連続細胞株は、生体外で、長期間培養できる。細胞生物学の研究によって、一次細胞を如何にして不死の連続細胞株に変えるのかについて手順が確立されている。ウイルス性癌遺伝子、化学処理、又は、テロメアが縮むのを防ぐためのテロメラーゼ逆転写酵素の過剰発現を用いて、一次細胞は、連続細胞株へと形質転換される。
【0006】
培養基は、アミノ酸、塩、ビタミン、成長因子、及びpHを制御するための緩衝システムといった細胞の増殖に必要な成分を含む。牛胎児血清(FBS)によって、生体巨大分子、成長因子、及び免疫分子が供給されるので、現在の方法では、FBSを、使用に先立って培養基に加える。しかしながら、FBSは、胎内の仔牛から得られるので、動物製品は使わないと言う目的と折りが合わない。動物成分を含まない培養基で細胞を育てることが、生体外食肉生産の研究に従事する科学者が考える重要な要素である。成長因子には、ヒト、動物又は組換え源に由来するものがある。
【0007】
商品食肉系の牛肉、豚肉、家禽肉は、生産するのが困難であって費用もかさむ複数種類の細胞を含む複雑な組織の有機体を有する。現在の生体外食肉の細胞は、通常、植物由来の成分から作られた食品グレードの生体適合骨組みに付着/固着する。その結果、培養食肉製品は、動物細胞と可食の骨組みとの組み合わせとなる。このような食肉製品は、動物細胞と植物由来の可食の形態付与充填材料とを混合したものに過ぎないため、従来の食肉に比べて構造が均質である。現在の生体外食肉製品は、従来の食肉の味と食感を模することが難しいため、消費者を満足させることができない。また、複数種類の細胞を含む複雑な組織の有機体を有していない。消費者の要求に応え、一般大衆から長期的な支持を得るためには、生体外食肉の構造、食感、組織の有機体を従来の肉と同様に改善する必要がある。
【0008】
また、生体外食肉の生産、又は再生医療/組織工学/組織構築の臨床への適用においては、十分な細胞数を収穫することが不可欠である。生体外食肉の生産という用途では、1kgのタンパク質が約8×1012個の筋肉細胞を含む。再生医療への適用では、治療毎に約1010個から1012個の細胞がほとんどの用途で必要とされる。例えば、成人では、損傷した心臓組織を置き換えるのに1×109個から2×109個の心筋細胞が必要とされよう。肝不全を治療するには、肝細胞の細胞数1010個を必要とするだろう。
【0009】
現在の細胞培養のアプローチは、培養基の存在下で、培養容器の2D培地表面に細胞を接種する。一般に、培養基は、グルコース、ビタミン、無機塩、アミノ酸、及びその他の栄養素を含む。細胞が成長すると、栄養素が徐々に枯渇して代謝廃物が蓄積する。したがって、培養基を2、3日ごとに取り替えて、栄養素を補給し、廃物を取り除く。この細胞培養のアプローチには、いくつかの問題がある。第一に、細胞は、培地を取り替える間の、次善の条件で育つ。とりわけ、細胞に高度な増殖性があり、代謝率が高ければ、細胞は、グルコースのような栄養素を消費して、短時間で、乳酸や、アンモニアのような廃物を蓄積する。代謝廃物又は成長インヒビターのレベルが高くなると、細胞の成長が抑止され得る。これによって、次の培地の取り替えまで、細胞の、最適な速度での成長が妨げられる。第二に、培養基を変えると、栄養素と成長因子が無駄になってしまい、生産費が嵩んでしまう。使用済みの培養基を取り替えるときでも、それにはまだ栄養素が残っている。とりわけ、使用済みの培養基の成長因子は、血清サプリメントのものでも、細胞が分泌したものでも、培地を取り替える間に取り除かれてしまう。これによって、血清サプリメントの用量が増し、それが、培地の費用や生産費のかなりの部分に寄与してしまう。第三に、培地は、手作業で変える必要があるが、これによって、生産費が上昇し、大規模の製造においては、汚染の機会が増えてしまう。
【0010】
また、培養基中のアンモニウム又は乳酸塩の蓄積により、細胞の成長及び細胞の生産性が阻害される可能性があることが観察される。培地中のアンモニアの蓄積を低減するために、複数のアプローチが提案されている。これらには、グルコース及びグルタミンを代替糖及びアミノ酸で置換すること、グルコース及びグルタミン酸センサを使用して最適なレベルにグルコース又はグルタミンをリアルタイムにフィードバック制御すること、及び、インキュベーション温度を下げることが含まれる。しかしながら、これらの方法はいずれも、細胞の成長に悪影響を及ぼさずにアンモニア生成を低減するという点で、細胞株及びバイオプロセス全体に普遍的に有効ではない。
【0011】
また、培地中の乳酸の蓄積を低減するために、複数のアプローチが提案されている。これらには、グルコース及びグルタミンを代替糖及びアミノ酸で置換すること、グルコース及びグルタミンを代替糖及び代替アミノ酸でリアルタイムにフィードバック制御すること、グルコース又はグルタミン酸センサを用いてグルコース又はグルタミンを最適なレベルでリアルタイムにフィードバック制御すること、培地に銅イオンを補給すること、インキュベーション温度を下げること、培地のpHを下げることが含まれる。しかしながら、これらの方法はいずれも、細胞の成長に悪影響を及ぼさずに乳酸生成を低減するという点で、細胞株及びバイオプロセス全体に普遍的に有効ではない。
【0012】
既存のバイオリアクターは、上記の問題を解決し、上記の要求を一挙に達成することはできない。とりわけ、既存の撹拌懸濁バイオリアクターは、高い細胞密度の細胞の成長をサポートできないため、複数の細胞種を含む複雑な組織の有機体を有する生体外食肉の生産には適していない。そのような撹拌懸濁バイオリアクター内の細胞は懸濁状態であり、そのようなバイオリアクター内の細胞密度はせん断応力により制限される。最も重要なことは、そのようなバイオリアクターには、細胞を細胞外マトリックス(ELM)上に沈着させたり、組織を形成したりするための成分が存在しないことである。そのような撹拌懸濁バイオリアクターの製品は、従来の食肉から得られるような構造、食感及び組織の有機体を提供することができない。
【0013】
生体機能チップは、細胞培養技術の一つであるが、大規模生産には使用できないため、生体外食肉の生産には適していない。
【0014】
既存の撹拌懸濁バイオリアクター及び生体機能チップを使用した生体外食肉の生産の生産コストは、細胞の成長及び手作業のプロセスで特定の代謝物を保持したり、成長インヒビターを廃棄したりすることができないため、経済的ではない。
【0015】
最後に、既存の撹拌懸濁バイオリアクター又は生体機能チップは、細胞を培養するための環境に優しいアプローチではない。細胞培養により生じた廃物の処理は行われていない。大規模に生産すると、環境問題が発生する。
【0016】
要約すると、既存のバイオリアクターはいずれも、生体外食肉の生産に商業的に実行可能な規模で、既存の食肉と同様の構造、食感及び組織の有機体を有する生体外食肉を経済的に生産することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本開示の例は、前記課題を解決する、ヒトが消費する生体外食肉の生産方法に適用される方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の背景を考慮すると、一態様では、本発明の目的は、(1)従来の食肉に類似した、改善された構造、食感及び組織の有機体を有し、(2)経済的で、(3)環境に優しいアプローチ(例えば、廃物が少なくなる)を用いるなどの利点を有する、消費可能な生体外食肉の生産のための代替的なバイオリアクターシステム及び方法、及び/又は、組織工学/再生医療/組織構築への適用を提供することである。本発明のバイオリアクターシステム及び方法は、前述の背景技術に記載された全ての課題を一つの仕組みで解決する。本発明のバイオリアクターシステム及び方法は、汚染リスク、労力、培養基の使用を最小限に抑えつつ、廃物を除去してバイオリアクター内の栄養素を補給することができるフェドバッチを用いる。本発明は、栄養素を継続的に補給し、蓄積した成長インヒビターを除去し、細胞に作用するせん断応力を低減するため、バッチプロセス及び従来の灌流技術と比較して、高い細胞密度の成長をサポートする。本発明のバイオリアクターシステム及び方法は、従来の食肉に類似した、改善された構造、食感及び組織の有機体を有する経済的な生体外食肉生産細胞に非常に適している。また、複数種類の細胞を含む複雑な組織の有機体を有する生体外食肉の生産にも適している。又、本発明の目的は、生体外食肉生産にとって、最適な培養条件、安定した栄養素レベル、及び/又は最低の成長インヒビターレベルを維持するシステムを提供することである。更に、本発明のもう一つの目的は、使用されていない成長因子を保持して、生産性を高め、費用を低減しながら、自動的に、栄養素を補給し、細胞が生成した成長インヒビターを取り除くことができる大規模生体外食肉生産システムを提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、生体外食肉生産システムを用いる生体外食肉の生産方法を提供することである。更に、本発明の目的は、このシステムを用いる組織工学/組織構築の方法を提供することである。更に、本発明の目的は、再生医療応用のために細胞を臨床的に意味がある数まで拡大させる方法を提供することである。
【0020】
また、本発明のもう一つの目的は、培養基から代謝廃物(例えば、アンモニア及び乳酸)を取り除く代替的な方法を提供し、それによって生体外食肉の生産コストを低減し、その生産性を向上させることである。
【0021】
更に、本発明によって、次の利点が得られる。(1)培養基において、最適な細胞の生存力と細胞の成長のために、グルコースのような栄養素を最適なレベルに保ち、アンモニアや乳酸のような廃物を最低のレベルに保つ。(2)細胞が分泌する成長因子を保持し、培養基における動物由来の血清の使用を低減する。(3)乳酸(代謝廃物)を細胞が使用可能な炭素源に変換することにより、細胞の成長、分化、及び細胞外マトリックスの沈着を促進する。(4)細胞が成長するための生体内環境に似た細胞外マトリックス及びせん断応力低減環境を提供する。(5)骨組み又は細胞外マトリックスを保持するための信頼できるホルダを提供する。成長因子は高価であり、したがって、本発明は、廃物を取り除いて変換しつつも、培養基に成長因子を保持することで、費用を下げ、培地の使用を最適化するのに役立つ。
【0022】
以下により詳細に説明する通り、本発明によって、劇的に、(1)細胞培養システムから排出される廃物が低減し、(2)従来の技法と比べて細胞の大量生産が増進する。
【0023】
本開示の一つの例によれば、生体外食肉の生産システムは、少なくとも一種類の細胞を保持して組織を形成するように構成されるバイオリアクターと、細胞に栄養素を補給し、バイオリアクターから代謝廃物を透析液に移すように構成される透析薄膜を含む透析部と、透析部に接続され、透析部に透析液を供給するように構成される新鮮培地部と、新鮮培地部に接続され、透析液から代謝廃物を除去する廃物除去部とを含み、透析液は、細胞の栄養素を含み、代謝廃物は、アンモニア及び乳酸を含み、廃物除去部は、アンモニアを分解するように構成される第一の生体触媒を含み、廃物除去部は、乳酸を分解するように構成される第二の生体触媒を含み、バイオリアクター、透析部、新鮮培地部及び水分除去部のそれぞれは、システムに着脱可能に接続されている。
【0024】
バイオリアクターは、細胞を三次元的に成長させるためのプラットフォームと、少なくとも一つのプラットフォームを受け取って保持するホルダとを更に備え、前記プラットフォームは、可食性の骨組み又は細胞外マトリックスであっても良い。
【0025】
本開示の他の一例によれば、生体外食肉の生産方法は、本発明のシステムを準備し、少なくとも一種類の細胞をバイオリアクター内に入れ、バイオリアクター内で組織を生成し、透析部によって、バイオリアクターから少なくともアンモニア及び乳酸を透析液に抽出し、廃物除去部で細胞の成長を促進する新鮮炭素源を廃物除去部で生成し、そのような新鮮炭素源を透析液からバイオリアクターに移すステップを含む。
【発明の効果】
【0026】
ここに開示される例は、前記課題を解決する、ヒトが消費する生体外食肉の生産システム及び方法、及び/又は組織工学/組織構築/再生医療応用にあてはまる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
添付した図面を関連させて考慮すると、本開示は、詳細な説明を参照することで、よりよく理解される。図面中の構成要素は、必ずしも一定の比例に応じておらず、むしろ、開示の本質を例証することに重点が置かれている。
【0028】
図1図1は、本開示の一つの例による、生体外食肉生産の方法のフローチャートである。
図2図2は、本開示の一つの例による、固相サポートを有する生体外食肉生産に用いられるバイオリアクターの概略的又は概念上の断面図である。
図3図3は、本開示の一つの例による、図2に類似するが第二の固相を有するバイオリアクターの概略的又は概念上の断面図である。
図4図4は、本開示の一つの例による細胞培養システムの概略図である。
図5図5は、本開示の一つの例による新鮮培地部の概略図である。
図6図6は、本開示の一つの例による廃物除去部の概略図である。
図7A図7Aは、コラーゲンをベースとする骨組みで培養されたHEK293細胞の、デイ0の明視野画像とLIVE/DEAD染色画像を示す。
図7B図7Bは、コラーゲンをベースとする骨組みで培養されたHEK293細胞の、デイ4の明視野画像とLIVE/DEAD染色画像を示す。
図7C図7Cは、コラーゲンをベースとする骨組みで培養されたHEK293細胞の、デイ11の明視野画像とLIVE/DEAD染色画像を示す。
図8図8は、図4の細胞培養システムにおける11日間の培養の後、生産した細胞集団を、トリプシン処理及び遠心分離によって、コラーゲンをベースとする骨組みから抽出した細胞集団の画像を示す。細胞培養システムで育った細胞は、成長して、対照におけるものより、より大量の微細組織を形成した。細胞培養システムにおいては、微細組織の凝集塊が観察されたが、対照においては観察されなかった。説明:バイオリアクターでは、実用の、細胞培養システムのプロトタイプで細胞が培養された。対照では、6ウェルプレートで細胞が培養された。
図9図9は、細胞培養システム及び6ウェルプレートにおける細胞培養が11日を超えた培養基におけるグルコース濃度の変化のグラフである。
図10図10は、本開示の他の一例による細胞培養システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで用いられている通り、「生体外食肉生産」とは、細胞培養技法を用いて動物及び/又は植物の組織を実験室で育て、食肉及び食肉製品を製造する、細胞ベースの食肉生産プロセス又は細胞ベースの畜産プロセスのことを指して言うものである。ここで用いられている通り、「バイオリアクター」、「細胞培養部」及び「細胞/組織培養部」は、互換的に用いられ、生体外食肉生産用のバイオリアクターを指して言うものである。次に図面を参照し、とりわけ、図1を参照すると、生体外食肉生産の方法10が示されている。
【0030】
ブロック12で、動物又は植物から組織が分離される。一つの例において、その組織は、ハタ、スズキ、又はニベと言った海水魚を含む硬骨魚綱の硬骨魚から得られる。他の例においては、牛組織のような他の種類の動物組織が分離される。例によっては、ブロック12には、魚から浮き袋のような臓器組織を収集して細胞懸濁液を作ることが含まれる。以下の説明では、魚を供給源として得られる組織が主に記述されているが、この概念を、他の種類の動物及び/又は植物を供給源として得られる組織に適用して、他の種類の生体外食肉及び/又は動物タンパク質製品、及び菜食主義者用食肉及び/又はタンパク質製品が提供されるようにしても良いことは理解されるものである。
【0031】
分離される細胞の多くは成体細胞で、医療研究において確立された種々の方法を継続的に用いて増殖させることが可能である(ブロック14)。例えば、山中因子のような特定の遺伝子を用いて、成体細胞を人工多能性幹細胞(iPSC細胞)のような幹細胞へとプログラムし直しても良い。代わりに、分離された成体細胞を、テロメラーゼ逆転写酵素過剰発現によって連続細胞株へと変換しても良い。他の例においては、他の種類の細胞が、成体幹細胞や胚性幹細胞のように分離されても良い。この点について、本発明の開示の方法には、あらゆる細胞株が供給源として含まれる。
【0032】
次のブロック16では、バイオリアクターのような無菌室又は無菌容器において、食品グレードの生体適合骨組み又は細胞外マトリックスに付着/固着することによって、細胞が、魚臓器のような動物臓器を模した固体又は半固体構造体へと成長する。無菌室又は無菌容器は、温度制御され、化学薬品、栄養素、及び細胞のような物質を導入して取り除くための導入口と排出口を有していても良い。例によっては、無菌容器において、抗生剤や抗菌化合物の無いままブロック16が行われる。ブロック18は、細胞の生存と成長をサポートするための、培養基のバイオリアクターへの供給に関する。培養基は、無機塩(例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、等々)、アミノ酸、ビタミン(例えば、チアミン、リボフラビン、葉酸、等々)と言った成分、及びグルコース、β-メルカプトエタノール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びピルビン酸ナトリウムと言ったその他の成分を含む緩衝溶液であっても良い。ただし、成分が、それらに限定される訳では無い。限定されない成長培地には、例として、ライボビッツL-15培地、イーグル最小必須培地(MEM)、培地199、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、ハムF10培地、マッコイ5A培地、グラスゴー改変イーグル培地(GMEM)、イスコヴ改変ダルベッコ培地、及びRPMI 1640が含まれるが、それらに限定される訳ではない。
【0033】
ブロック20によると、食品グレードの成長因子及びサイトカインが、バイオリアクターの培養基に導入されて、細胞の成長と増殖をサポートする。成長因子及びサイトカインには、インシュリン成長因子1(IGF-1)、インシュリン、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、インターロイキン11(IL-11)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、及びトランスフェリンが含まれるが、それらに限定される訳ではない。ブロック20が、牛胎児血清(FBS)の非存在下で、生体工学的に作り出された細胞と、分離された細胞との同時培養に関するものもある。生体工学的に作り出された細胞は、成長因子とサイトカインを分泌し、これらの生体分子を、分離された細胞に、成長と増殖に必要なだけ供給するように作り出される。
【0034】
ここで用いられている通り、「生体工学的に作り出された」細胞は、遺伝子組換え細胞と同等ではない。生体工学的に作り出された細胞は、一つ以上の特定のタンパク質を過剰発現する特定の遺伝子を有する。生体工学的に作り出された細胞は、魚の細胞又は、牛の細胞と言った、他の種類の動物の細胞であっても良い。生体工学的に作り出された細胞は、最終食肉製品には含まれない。限定されるわけではない例として、生体工学的に作り出された魚の細胞が、分離された魚の細胞と同時培養されても良く、あるいは、生体工学的に作り出された牛の細胞が、分離された牛の細胞と同時培養されても良い。本発明の開示の同時培養方法によると、培養基において、動物由来である牛胎児血清(FBS)が必要で無くなる。更には、その同時培養方法によって、食品グレードの、特定の成長因子とサイトカインが、成長する分離された細胞に本来の位置(in situ)で継続的に供給され、生産プロセスが簡素化され、その費用が低減される。しかしながら、他の例においては、ブロック16では、細胞の成長をサポートするために、FBS、又はその他の血清を用いて、成長因子、サイトカイン、及びその他の栄養素を供給しても良い。
【0035】
図2には、分離した細胞の培養及び/又は生体外食肉生産に用いる典型的なバイオリアクター30が示されている。バイオリアクター30における無菌室36に保持されている食品グレードの骨組み又は細胞外マトリックス34に備えられる固相サポート32に、細胞が付着して成長する。骨組み又は細胞外マトリックス34は、食肉製品の形を規定する。食品グレードの骨組みは、アガロース、アルジネート、キトサン、菌糸体、及びコンニャクグルコマンナンと言った植物ベース又は菌類ベースの材料で作られても良い。ただし、材料が、それらに限定される訳では無い。細胞が、固相サポート32の内側表面に付着して成長するように、サポート32は多孔質である。細胞に栄養素を供給する培養基が、導入口38からバイオリアクター30へと導入され、排出口40からバイオリアクター30の外に取り出される。
【0036】
図3には、図2のバイオリアクター30に類似するが、細かいメッシュ54で固相サポート32から分離される第二の固相52を更に含むバイオリアクター50が示されている。第二の固相52は、本来の位置である固相サポート32上で成長する細胞に、栄養素、成長因子、及びサイトカインを分泌する、生体工学的に作り出された細胞を包含するかサポートし、固相サポート32上の細胞から生体工学的に作り出された細胞を物理的に分離している。第二の固相52は、固相サポート32に類似する植物ベースの材料から作られる。メッシュ54は、栄養素、成長因子、及びサイトカインを透過させるが、細胞は透過させない。図3のバイオリアクター50は、生体工学的に作り出された細胞の、成長する細胞との同時培養を可能にする。例によっては、図2及び図3のバイオリアクター30及び50を縦に並べているものもある。他の例においては、プロセスの規模を拡大するために、バイオリアクター30が数台、バイオリアクター50が数台、又は、バイオリアクター30及び50が混合して、直列に並べられている。バイオリアクター30は、主に、バイオマス生産に用いられ、一方、バイオリアクター50は、成長する細胞に、栄養素、成長因子、及びサイトカインを提供するのに用いられる。
【0037】
図4において、典型的な細胞/組織培養システム100は、細胞培養部102と、新鮮培地部104と、廃物除去部106とを備える。細胞培養部102は、ポンプ108a及び108bを通して新鮮培地部104と接続されており、それにより、第一の流体が、バイオリアクター102から、ポンプ108aを通って新鮮培地部104へと流れ、かつ、その第一の流体が、新鮮培地部104から、ポンプ108bを通ってバイオリアクター102へと流れることができる。それによって、第一の流体が、バイオリアクター102と新鮮培地部104との間で循環する。第一の流体を流通させる管と、ポンプ108a、108bの少なくとも一方とは、バイオリアクター102内の栄養素を均等に分配する流体の流れを作り出すように構成されている。このような流体の流れは、細胞/組織培養システム100において、撹拌器又は撹拌装置がない場合に達成される。
【0038】
新鮮培地部104は、更に、ポンプ108c及び108dを通して廃物除去部106と接続されており、それにより、第二の流体が、新鮮培地部104から、ポンプ108cを通って廃物除去部106へと流れ、かつ、その第二の流体が、廃物除去部106から、ポンプ108dを通って新鮮培地部104へと流れることができる。それによって、第二の流体が、新鮮培地部104と廃物除去部106との間で循環する。第一の流体は、FBS、成長因子、又はサイトカインを補った基礎培地を含む細胞培養基であっても良い。成長因子又はサイトカインには、インシュリン成長因子1(IGF-1)、インシュリン、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、インターロイキン11(IL-11)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、及びトランスフェリンが含まれるが、それらに限定される訳ではない。第二の流体は、無機塩(例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、等々)、アミノ酸、ビタミン(例えば、チアミン、リボフラビン、葉酸、等々)と言った成分、及びグルコース、β-メルカプトエタノール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びピルビン酸ナトリウムと言ったその他の成分を含む緩衝溶液を含んでも良い新鮮基礎培地(透析液)であっても良い。ただし、成分が、それらに限定される訳では無い。限定されない成長培地には、例として、ライボビッツL-15培地、イーグル最小必須培地(MEM)、培地199、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、ハムF10培地、マッコイ5A培地、グラスゴー改変イーグル培地(GMEM)、イスコヴ改変ダルベッコ培地、及びRPMI 1640が含まれるが、それらに限定される訳ではない。
【0039】
ポンプ108は、ぜん動ポンプか、類似するその他の適切なポンプであっても良い。
【0040】
細胞/組織培養システム100には、一つ以上の容器が含まれる。バイオリアクター102、新鮮培地部104、及び廃物除去部106は、各々、容器であっても良い。例によっては、細胞/組織培養システム100には、バイオリアクター102、新鮮培地部104、及び廃物除去部106が、二つ以上含まれていても良い。複数のバイオリアクター102は、並列又は直列に接続され、互いに近接して配置される。複数の新鮮培地部104は、並列又は直列に接続され、互いに近接して配置される。複数の廃物除去部106は、並列又は直列に接続され、互いに近接して配置される。例によっては、細胞/組織培養システム100には、単一の新鮮培地部104及び廃物除去部106に並列に接続されたバイオリアクター102が、二つ以上含まれていても良い。例によっては、バイオリアクター102の大きさ又は容量は、変化し得る。これにより、細胞/組織培養システム100の生産は、容易にスケールアップ及びスケールダウンすることができる。
【0041】
例によっては、細胞/組織培養システム100は、バイオリアクター102内の細胞にガスを供給するように構成されるガス源を更に含んでも良い。ガス源は、窒素、酸素、二酸化炭素、又はガスの混合物であっても良い。
【0042】
バイオリアクター102は、骨組み又は細胞外マトリックスと培養基とを保持し、細胞が、固体又は半固体構造体の組織へと成長するように構成される。例によっては、細胞が、バイオリアクター102の内部の、食品グレードの生体適合骨組又は細胞外マトリックスに付着/固着することによって、魚臓器のような動物臓器を模した固体又は半固体構造体へと成長するものもある。バイオリアクター102は、少なくとも一種類の細胞を含有するように構成されても良い。適切な種類の細胞には、骨、軟骨、筋肉、肝臓、皮膚、心臓、肺臓、及びそれらの任意の組み合わせが含まれるが、それらに限定される訳ではない。本発明内で、他の種類の、哺乳動物細胞、又は魚細胞を使用しても良い。他の植物種及び動物種の細胞も使用することができる。その他の開始細胞は、間葉幹細胞、人工多能性幹細胞、及び衛星細胞といった様々な起源の幹細胞であっても良い。開始細胞はまた、遺伝子組換え細胞や、いずれかの細胞株であっても良い。生体工学的に作り出された細胞も同様に使っても良い。
【0043】
バイオリアクター102において拡大する、異なる種類の、特定化した細胞は、生きた動物の生検によって得られる。
【0044】
バイオリアクター102には、ポンプ108bを通して新鮮培地部104から第一の流体を受け入れるよう構成されている導入口と、ポンプ108aを通して新鮮培地部104へと第一の流体を移す/放出するよう構成されている排出口とが、更に含まれていても良い。バイオリアクター102には、バイオリアクター102の内部を所定の温度に加熱するよう構成される加熱装置と、バイオリアクター102内の温度をそのような所定の温度に維持する温度制御部とが、更に含まれていても良い。その所定の温度は、およそ25°Cから45°Cまでの範囲とすることができる。
【0045】
バイオリアクター102には、バイオリアクター102内で第一の流体を所定の速度で撹拌するように構成される撹拌器が少なくとも一台更に含まれていても良い。その所定の速度は、およそ1分当たり10回転(rpm)から300rpmとすることができる。例によっては、バイオリアクター102に接続されたポンプ及び管は、バイオリアクター102内の栄養素を均等に分配する流体の流れを作り出すように構成されている。このような流体の流れは、細胞/組織培養システム200において、撹拌器又は撹拌装置がない場合に達成される。
【0046】
バイオリアクター102には、窒素、酸素、二酸化炭素、又はガスの混合物であり得るガス源に接続されるガス排出口とガス導入口とが更に含まれていても良い。ガスは、細胞培養条件を最適化するためにガス導入口を通してバイオリアクター102へと送り込まれる。廃棄されるガスは、ガス排出口を通して放出される。ガスの流れは、バルブによって制御される。
【0047】
例によっては、バイオリアクター102は、図2に示されるようなバイオリアクター30とすることができる。また、例によっては、バイオリアクター102は、図3に示されるようなバイオリアクター50とすることができる。例によっては、バイオリアクター102は、容器である。例によって、バイオリアクター102は、どのようなサイズであっても良い。例によって、バイオリアクター102の容量は、0.1Lから2000Lの範囲であっても良い。
【0048】
図5において、新鮮培地部104は、ポンプ108a及びポンプ108bにそれぞれ接続するように構成される第一の流体導入口110及び第一の流体排出口112を備える。加えて、新鮮培地部104は、ポンプ108d及びポンプ108cにそれぞれ接続するように構成される第二の流体導入口114及び第二の流体排出口116を更に備える。加えて、新鮮培地部104は、第一の透析薄膜123で分離される第一の流体コンパートメント120と第二の流体コンパートメント122を有する第一の透析部118を少なくとも一台備える。第一の流体導入口110と第一の流体排出口112は、第一の流体コンパートメント120に接続される。第二の流体導入口114と第二の流体排出口116は、第二の流体コンパートメント122に接続される。セルロースエステル(CE)、再生セルロース(RC)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む、透析薄膜123は、異なる種類を用いても良い。分子量カットオフ(MWCO)が異なる透析薄膜123を用いて、第一の流体中に望ましい巨大分子を保持したり(例えば、培養容器における細胞が分泌する成長因子)、第一の透析部118の第一の流体から廃物が取り除かれるようにしたりしても良い。また、望ましい巨大分子には、第一の流体中の異なる種類のタンパク質及び他の巨大分子(両方とも少なくとも100Daを有する)が含まれても良く、例えば、リン脂質(レシチン、セラミド)、脂質(DHA、AHA)、多糖類(グリコーゲン)、プロテオグリカン(ヘパリン、コンドロイチン)、核酸(DNA、RNA)、インシュリン様成長因子(IGF、組換え型の場合7.5kDa)、形質転換成長因子ベータ(TGFベータ、プロTGF-ベータの場合44kDa)などが挙げられる。例えば、100Da~1,000,000Da MWCO薄膜、好ましくは、500Da MWCO薄膜を用いて、第一の流体中に、インシュリン様成長因子(IGF、組換え型の場合7.5kDa)及び形質転換成長因子ベータ(TGFベータ、プロTGFベータの場合44kDa)を保持しつつ、乳酸(89Da)とアンモニア(17Da)が第一の流体から除去できるようにしても良い。また、その様な薄膜を使うことで、グルコース(180Da)の様な第二の流体の栄養素が、薄膜を通り抜けて第一の流体に補給されるようにしても良い。例によっては、透析部118は、半透性の中空糸を含む中空糸カートリッジの形態であっても良い。
【0049】
新鮮培地部104は、透析部内において流体を所定の速度で撹拌するように構成される撹拌器を少なくとも一台、コンパートメントの一方又は双方に備えていても良い。その所定の速度は、およそ1分当たり10rpmから500rpmとすることができる。
【0050】
新鮮培地部104は、望ましい流体の追加や補給、除去を行うために、コンパートメントの一方又は双方に接続される、分離した導入口及び排出口を更に含んでも良い。その望ましい流体は、細胞培養基、新鮮基礎培地、及び/又は分化培地(これらは全て、バイオリアクター102内の細胞のための栄養素を含む)であっても良い。
【0051】
図6において、廃物除去部106は、ポンプ108c及びポンプ108dにそれぞれ接続するように構成される廃物導入口124及び補給排出口126を備える。加えて、廃物除去部106は、廃物除去導入口128及び廃物除去排出口130を更に備える。加えて、廃物除去部106は、第二の透析薄膜137で分離される廃物コンパートメント134と廃物除去コンパートメント136を有する第二の透析部132を少なくとも一台備える。廃物導入口124と新鮮培地排出口116は、廃物コンパートメント134に接続される。廃物除去導入口128と廃物排出口130は、廃物除去コンパートメント136に接続される。例によっては、透析部132は、半透性の中空糸を含む中空糸カートリッジの形態であっても良い。廃物除去部106は、第二の流体から廃物を除去する他の廃物除去技法を用いても良い。例えば、吸着剤としてのゼオライトに第二の流体を通すことによって、廃物除去を行っても良い。ゼオライトは、微小孔性アルミノ珪酸鉱物である。例となるのは、方沸石、菱沸石、斜プチロル沸石、輝沸石、ソーダ沸石、フィリプス沸石、及び束沸石である。廃物除去部106には、柱状の充填層ゼオライトが含まれていても良い。第二の流体が、一端から廃物除去部106に流れ込み、ゼオライトを通って、別の一端から廃物除去部106を抜け出る。ゼオライトは、毒性の薬品、又は、第二の流体において細胞の成長を阻害する薬品、例えば、アンモニアや乳酸を吸収する。
【0052】
廃物除去部106は、アンモニアや乳酸の様な、第二の流体における代謝廃物を取り除き、グルコースの様な、廃物培地における栄養素を最大量保留できるように構成されている。100Da~1,000,000Da MWCO、好ましくは、100Da MWCOの透析薄膜を用いて、アンモニアや乳酸を、透析液に入り込ませ、グルコースを第二の流体に保持しておけるようにしても良い。透析液は、廃物除去コンパートメント136に入り込むが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、又はその他の可能な緩衝液であり得る。
【0053】
例によっては、バイオリアクター102、新鮮培地部104、及び廃物除去部106は、各々、取り外し可能なプラグインモジュールであっても良い。すなわち、バイオリアクター102、新鮮培地部104及び廃物除去部106は、各々、細胞/組織培養システム100に着脱可能に接続される。前述の各部の導入口と排出口の各々は、細胞/組織培養システム100の各ポンプの導入口や排出口と接続、及び/又は切断しても良い。例えば、新鮮培地部104、又は廃物除去部106は、システムからそのプラグを抜き取って、新しいユニットのプラグを細胞/組織培養システム100に差し込むことで、迅速に取り替えても良い。本発明の例では、ユニットの一つが故障した場合に停止時間を低減し得る。更に、ユニットの各々は、細胞/組織培養システム100からプラグを抜き取って、それ自体で作動し、独立して使用できる。
【0054】
ここで、細胞/組織培養システム100を使用して細胞培地及び組織を育てる方法を説明する。ここに記述される方法は、培養食肉を生産するために、皮膚、筋肉、脂肪、及び骨細胞のような細胞/組織を培養するのに用いられる。その方法に含まれるのは、バイオリアクター102を有する細胞/組織培養システム100を準備し、代謝廃物、又は成長インヒビターを備える培養基を新鮮培地部104の第一の透析部118へと移し、新鮮培地部104の第一の透析部118において、培養基に栄養を補給し、かつ培養基から成長インヒビターを除去し、代謝廃物、又は成長インヒビターを備える基礎培地を新鮮培地部104の第一の透析部118から廃物除去部106へと移し、廃物除去部106において基礎培地から成長インヒビター及び代謝廃物を除去するステップである。これにより、バイオリアクター102内の代謝廃物及び成長インヒビターが除去され、第一の透析部118を通してバイオリアクター102内の細胞に栄養素が補給される。
【0055】
バイオリアクター102には、少なくとも一種類の細胞が加えられる。適切な種類の細胞には、骨、軟骨、筋肉、肝臓、皮膚、心臓、肺臓、及びそれらの任意の組み合わせが含まれるが、それらに限定される訳ではない。本発明内で、他の種類の、哺乳動物細胞、又は魚細胞を使用しても良い。他の植物種及び動物種の細胞も使用することができる。
【0056】
培養容器において拡大する、異なる種類の、特定化した細胞は、生きた動物の生検によって得られる。その他の開始細胞は、間葉幹細胞、人工多能性幹細胞、及び衛星細胞といった様々な起源の幹細胞であっても良い。開始細胞はまた、遺伝子組換え細胞や、いずれかの細胞株であっても良い。
【0057】
バイオリアクター102のような無菌室又は無菌容器において、食品グレードの生体適合骨組み又は細胞外マトリックスに付着/固着することによって、細胞が、魚臓器のような動物臓器を模した固体又は半固体構造体の組織へと成長する。例によっては、バイオリアクター102は、食品グレードの骨組み、又はその上での細胞の成長を収容する細胞外マトリックスの層を保持するように構成されても良い組織培養ホルダを備える。成長細胞は、所定の条件下で細胞外マトリックスを沈着するように指示されても良い。骨組み又は細胞外マトリックスは、細胞が発達して組織を形成するための三次元構造を提供する。細胞培養ホルダは、複数の骨組み又は細胞外マトリックスホルダを有してもよく、各ホルダは、少なくとも一つの骨組み又は細胞外マトリックスを受け取って保持するように構成されても良い。また、細胞培養ホルダは、ホルダ内に積層され得る、厚さの異なる複数の骨組み又は細胞外マトリクスを受け取って保持する。組織培養ホルダは、バイオリアクター102内の流体が、骨組み上又は細胞外マトリックス上の細胞と全ての面から相互作用可能にするように、流体透過性構造を更に備えていても良い。組織培養ホルダは、当該技術分野で知られている通常の滅菌方法、例えば、消毒剤、紫外線、オートクレーブでは損傷しない材料で作製することができる。そのような材料としては、例えば、ステンレス鋼、ガラス、耐高温樹脂などが挙げられる。二つ以上の組織培養ホルダは、バイオリアクター102の無菌室内に保持することができ、したがって生産需要に応じた容易なスケールアップが可能になる。例によっては、組織培養ホルダは、支持トレイ又は多孔質プレートであっても良く、そのようなトレイ又はプレートは、培地の流れを可能にする少なくとも一つの多孔質を含む。
【0058】
組織培養ホルダは、発生中の組織が直接灌流せず、栄養素が拡散して送達されるため、組織培養ホルダでの培養基の流れを最小限に抑えながら、細胞と培養基との間の栄養素及び廃物の交換を最適化し、細胞に作用するせん断応力を低減するように構成される。過剰なせん断応力は、細胞を死滅させる可能性があり、収率を低下させることをもたらす。組織培養ホルダは、組織培養ホルダ内の位置を固定するための骨組み又は細胞外マトリックスを保持するホルダを更に備えても良い。組織培養ホルダは、培養基が流れるにつれて、その振動が最小限に抑えられるように最適化される。これは、細胞が骨組み又は細胞外マトリックスに強固に付着することを補助し、それにより、収率を向上させる。
【0059】
また、例によっては、バイオリアクター102は、培養ホルダ、食品グレードの骨組み及び細胞外マトリックスを含まない。バイオリアクター102内の細胞は、バイオリアクター102内において懸濁状態で培養されても良い。バイオリアクター102は、細胞に作用するせん断応力を低減するために、バイオリアクター102におけるせん断応力を制御するように構成されても良い。また、バイオリアクター102は、細胞がその上で増殖するようにマイクロキャリアを含んでも良い。
【0060】
バイオリアクター102の温度は制御され、培養基は、バイオリアクター102へと、その導入口にて導入され、化学薬品、栄養素、成長インヒビター及び細胞のような物質を除去するためにバイオリアクター102の排出口から放出される。食品グレードの生体適合骨組みは、最終可食製品の一部となる。
【0061】
成長因子、植物加水分解物、植物抽出物、及び牛胎児血清(FBS)サプリメント又は組換え源から得られるサイトカインが、バイオリアクターの培養基に導入されて、細胞の成長と増殖をサポートする。成長因子及びサイトカインには、インシュリン成長因子1(IGF-1)、インシュリン、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、インターロイキン11(IL-11)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、及びトランスフェリンが含まれるが、それらに限定される訳ではない。その用途は、FBSの非存在下でバイオリアクター102において培養された細胞と、生体工学的に作り出された細胞を同時培養することに関係する場合がある。生体工学的に作り出された細胞は、上記成長因子とサイトカインを分泌し、これらの生体分子を、培養された細胞に、成長と増殖に必要なだけ供給するように作り出される。本開示の同時培養方法によると、培養基において、動物由来である牛胎児血清(FBS)が必要で無くなる。更には、その同時培養方法によって、食品グレードの、特定の成長因子とサイトカインが、成長する分離された細胞に本来の位置で継続的に供給され、生産プロセスが簡素化され、その費用が低減される。しかしながら、他の例においては、細胞の成長をサポートするために、FBS、他の血清、又は組換え源から得られるタンパク質を用いて、成長因子、サイトカイン、及びその他の栄養素を供給しても良い。
【0062】
例によっては、細胞培養条件を最適化するためにガスを導入しても良い。窒素、酸素、二酸化炭素又はガスの混合物を用いても良い。バイオリアクター102には、0~10%の二酸化炭素が含有されても良い。バイオリアクター102には、15~30%の酸素が含有されても良い。バイオリアクター102には、60~85%の窒素が含有されても良い。
【0063】
例によっては、細胞培養条件を最適化するために温度が制御されても良い。細胞の種類が異なると、最適培養温度も異なる。温度は、25°Cから45°Cの範囲であっても良い。
【0064】
例によっては、バイオリアクター102の培養基が撹拌される。せん断応力に対する細胞の反応は異なるということが知られているので、培養容器の撹拌速度を最適化して、細胞の拡大を増進しても良い。撹拌速度を最適化して、流入する培養基とバイオリアクター102内の培養基との混合を増進しても良い。撹拌速度は、10rpmから300rpmの範囲であっても良い。
【0065】
ポンプ108aによって、培養基は、バイオリアクター102から、新鮮培地部104の第一の透析部118まで移されても良い。
【0066】
第一の透析部118において、CE、RC、又はPVDFを含む、種類の異なる透析薄膜を用いても良い。分子量カットオフ(MWCO)が異なる透析薄膜を用いて、培養基(例えば、本特定の例における第一の流体)に望ましい巨大分子を保持したり(例えば、培養容器における細胞が分泌する成長因子)、第一の透析部118の培養基から廃物が除去されるようにしたりしても良い。例えば、100Da~1,000,000Da MWCO薄膜、好ましくは、500Da MWCO薄膜を用いて、培養基に、インシュリン様成長因子(IGF、組換え型の場合7.5kDa)及び形質転換成長因子ベータ(TGFベータ、プロTGFベータの場合44kDa)を保持しつつ、乳酸(89Da)とアンモニア(17Da)が培養基から除去できるようにしても良い。また、そのような薄膜を使うことで、グルコース(180Da)のような新鮮基礎培地/透析液(例えば、本特定の例における第二の液体)の栄養素が、薄膜を通り抜けて培養基に補給されるようにしても良い。
【0067】
透析が行われるよう、新鮮基礎培地で第二の流体コンパートメント122が満たされており、一方、培養基で第一の流体コンパートメント120が満たされている。例えば、乳酸、アンモニア、及びその他の廃物は、培養基から第一の透析薄膜123を通って新鮮基礎培地へと移され、グルコース及びその他の成長を増進する成分は、新鮮基礎培地から第一の透析薄膜123を通って培養基へと移される。新鮮基礎培地の容量、透析薄膜内に入れられる培養基の容量、薄膜面積、温度、及び透析部での撹拌による振動を変えることによって、透析の速度を制御することができる。また、バイオリアクター102から、第一の透析部118の第一の流体コンパートメント120へと流体を流入させるポンプ汲み出し速度を1ml/分から10L/分までの範囲で変えることによって、透析部における培養基の栄養補給と廃物除去の速度を制御しても良い。
【0068】
代謝廃物、又は成長インヒビターは、培養基から第一の透析部118内の新鮮基礎培地へと移動する。成長インヒビターは、時間が経つにつれて新鮮基礎培地に蓄積していく。成長インヒビター(乳酸、アンモニアを含むが、それらに限定される訳ではない)が蓄積した基礎培地は、ここでは、廃物培地と称する。廃棄培地は、ポンプ108cによって廃物除去部106に移されても良い。廃物培地のアンモニアや乳酸と言った代謝廃物は、廃物除去部106の第二の透析部132で透析の原理を用いて除去される。廃物除去方法によると、グルコースの様な栄養素を最大量、廃物培地に保留できるべきである。100Da~1,000,000Da WMCO薄膜、好ましくは、100Da WMCO薄膜の透析薄膜を用いて、グルコースを廃物培地に保持したまま、アンモニア及び乳酸が透析液に入り込めるようにしても良い。透析液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、又はその他の可能な緩衝液であり得る。透析液の容量、透析薄膜137内に入れられる廃物培地の容量、薄膜面積、温度、及び透析部132での撹拌による振動を変えることによって、透析の速度を制御することができる。撹拌速度は、10rpmから500rpmの範囲であっても良い。また、新鮮培地部104の第一の透析部118から、廃物除去部106へと流体を流入させるポンプ汲み出し速度を変えることによって、廃物除去部106における廃物除去の速度を制御しても良い。透析によって綺麗になった廃物培地は、新鮮培地部104の第一の透析部118へと戻され得る。ポンプ汲み出し速度は、1ml/分から10L/分までの範囲であっても良い。
【0069】
新鮮基礎培地部104及び廃物培地部106から細胞/組織培地を分離することによって、生産の間中、バイオリアクター102をしっかりと閉ざしておくことができる。いずれかのユニットに汚染があっても、影響のあったユニットに閉じ込められ、他のユニットには影響しない。
【0070】
更には、廃物除去部106は、第二の流体から代謝廃物を抽出することによって、細胞/組織培養システム100全体から、そのような廃物を集中させ、抽出及び/又は収集するのに役立つ。そして、細胞/組織培養システム100全体の廃物は、簡単に収集して、排出できる。それによって、排出される廃物と、細胞培養全体の運営費が、従来の細胞培養技法と比べて低減する。背景技術の欄で説明した通り、従来の細胞培養技法では、栄養素と廃物の双方を含有する使用済みの培養基を廃棄して、それを新しい培養基と取り換える。従って、従来の方法において生じる廃物の量/容量(すなわち、使用済みの培養基)は、本発明において生じる廃物の量/容量よりも多い。
【0071】
また、新鮮培地部104と廃物除去部106は、運営費を下げ、細胞培地を育てるための培地の使用を最適化するのに役立つ。細胞培養基は、高価なFBS、成長因子、又はサイトカインを含有しているので、一般に、細胞培養基は、基礎培地よりも高価である。新鮮培地部104の助けもあって、細胞培養基は、早々に廃棄する必要もなく、回復される(すなわち、その廃物を除去して基礎培地から栄養素を得る)ことが可能である。
【0072】
皮膚、骨、軟骨、心臓、及び肝臓が含まれるが、それらに限定される訳ではない異なる種類の細胞を、適切な骨組み又は細胞外マトリックスで培養して、バイオリアクター102において組織を形成することができる。また、間葉幹細胞、人工多能性幹細胞、及び衛星細胞といった様々な起源の幹細胞を適切な骨組みで培養して、工学的な組織の作り出しに応用できる。骨組み又は細胞外マトリックスにおける幹細胞の拡大の後、続いて分化が起きるように、分化培地の成分を、第一の透析部118、又は第二の透析部132の基礎培地に加えて、工学的に機能組織を形成することができる。例えば、デキサメタゾン、アスコルビン酸、及びβ-グリセロリン酸と言った骨誘導培地成分を、骨組みにおける幹細胞の骨分化のための基礎培地に加えることができる。骨誘導培地の成分が培養基に入り込めるようにするには、100Daから1,000,000Da WMCOの範囲にある、好ましくは、500Da WMCOの第一の透析薄膜123を選択すべきである。
【0073】
あるいは、幹細胞は、バイオリアクター102において2D培養表面上又はマイクロキャリア上で拡大できる。幹細胞を拡大し、トリプシン処理して、再生医療応用のための高密度細胞懸濁液を得ることができる。例えば、ヒト間葉幹細胞は、患者から分離して、バイオリアクター102の培養皿又はマイクロキャリア上で拡大できる。コンフルーエンスすると、細胞をトリプシン処理して高密度細胞懸濁液を形成する。そして、細胞懸濁液を、治療のために患者の損傷部位に注入する。
【0074】
例1
HEK293細胞の培地をPBSで洗ってトリプシン処理し、細胞密度が2.5e6個/mlの細胞懸濁液を形成する。2.5e6個/mlの懸濁液から、細胞懸濁液を200μl取り、予め正方形(1cm×1cm)に切ったコラーゲンをベースとする骨組みに載せて、合計細胞数5e5個の組織構築物を作った。組織構築物を37°C、5%CO2で4時間培養した。各ウェルの横に、培地を800μl静かに加えた。そして、組織構築物を、細胞培養部102のバイオリアクター、及び対照用の6ウェル培養プレートへと移した。デイ0、デイ4、及びデイ11に、骨組み内の細胞の画像を明視野顕微鏡で撮影した。デイ0、デイ4、及びデイ11に、以下のプロトコールに従って、LIVE/DEAD染色を行った。デイ0、デイ4、及びデイ11に、組織培養ビン、対照、及び透析部から培地を収集してグルコースを測定した。
【0075】
骨組みにおける細胞のLIVE/DEAD染色
1.カルセインAMとエチジウムホモ二量体-1(サーモフィッシャーのLIVE/DEADキット)を1:1000でDPBSに加えて、染色試薬を得た。
2.サンプルを一度DPBSで洗浄した。
3.サンプルを200~250μlの染色試薬で30分間染色した。
4.サンプルを一度DPBSで洗浄して、蛍光顕微鏡で観察した。
【0076】
結果
観察可能な微細組織が、バイオリアクターには形成されたが、対照においては形成されなかった。
【0077】
図7A~7Cには、バイオリアクターのプロトタイプ及び対照における、組織構築物の成長と細胞生存度が示されている。バイオリアクターの列には、稼働する細胞培養システムのプロトタイプにおいて培養された細胞が示されている。対照の列には、6ウェルプレートにおいて培養された細胞が示されている。デイ0で、図7Aに示されるように細胞が集合する骨組みに細胞が付着した。デイ4で、図7Bに示されるように、細胞の集合体が、バイオリアクターにおいてより大きな長球へと成長した。デイ11で、図7Cに示されるように、長球が凝集して、バイオリアクターにおいては微細組織を形成する一方で、対照における長球は、明白には成長をしていないように見えた。LIVE/DEAD染色により、バイオリアクターにおける微細組織は、生存力のある長球を結び付けることで形成されることが示されたが、それらは、対照においてのものよりずっと大きかった。
【0078】
図8には、デイ11に形成された微細組織が示されている。バイオリアクターにおいて、観察可能な微細組織の集団が骨組みに形成されたが、これらの微細組織は対照においては観察されなかった。トリプシン処理後、骨組みを消化した後、微細組織が放出されており、顕著に、バイオリアクター内の微細組織の容量は、対照よりもはるかに大きかった。
【0079】
図9には、バイオリアクターの細胞培養部102の培養容器において、グルコースのレベルが維持されたことが示されている。
【0080】
デイ0での、本発明の培養容器の細胞培養部102におけるグルコース濃度=18.8mmol/L。対照培地プレートにおけるグルコース濃度=18.7mmol/L。第一の透析部118におけるグルコース濃度=20.9mmol/L。
【0081】
デイ4での、本発明の培養容器の細胞培養部102におけるグルコース濃度=19.1mmol/L。対照培地プレートにおけるグルコース濃度=4.9mmol/L。第一の透析部118におけるグルコース濃度=20.0mmol/L。
【0082】
デイ11での、本発明の培養容器の細胞培養部102におけるグルコース濃度=10.4mmol/L。対照培地プレートにおけるグルコース濃度=検出不可。第一の透析部118におけるグルコース濃度=12.5mmol/L。
【0083】
図10において、本発明の他の一例に係る典型的な細胞/組織培養システム200は、バイオリアクター202と、新鮮培地部204と、廃物除去部206と、複数のポンプ208と、透析部210とを備える。バイオリアクター202及び新鮮培地部204の各々は、通気用又はサンプリング用の無菌コネクタに接続されたポート212a/212bを更に備えても良い。バイオリアクター202内には、少なくとも一つの細胞培養部214が更に配置されても良い。細胞培養システム200は、第一の循環216と、第二の循環218とを更に備える。
【0084】
第一の流体循環216は、バイオリアクター202と、第一のポンプ208aと、透析部210とを接続する。第一の循環216は、バイオリアクター202と透析部210との間で第一の流体を循環させるように構成されても良い。第一のポンプ208a及び/又は第一の循環216の管は、バイオリアクター202内の栄養素を均等に分配する流体の流れを作り出すように構成されている。このような流体の流れは、バイオリアクター202において撹拌器又は撹拌装置がない場合に達成される。第一の流体は、FBS、植物加水分解物、植物抽出物、成長因子又はサイトカインを補った基礎培地を含む細胞培養基であっても良い。成長因子又はサイトカインには、インシュリン成長因子1(IGF-1)、インシュリン、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、インターロイキン11(IL-11)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、及びトランスフェリンが含まれるが、それらに限定される訳ではない。
【0085】
第二の流体循環218は、新鮮培地部204と、透析部210と、第二のポンプ208bと、廃物除去部206とを接続する。第二の循環218は、新鮮培地部204と透析部210と廃物除去部206との間で第二の流体を循環させるように構成される。第二の流体は透析液であり、新鮮基礎培地であっても良く、それには無機塩(例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、等々)、アミノ酸、ビタミン(例えば、チアミン、リボフラビン、葉酸、等々)と言った成分、及びグルコース、β-メルカプトエタノール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びピルビン酸ナトリウムと言ったその他の成分を含む緩衝溶液が含まれていても良い。ただし、成分が、それらに限定される訳では無い。
【0086】
細胞/組織培養システム200は、少なくとも一つのセンサ220と、新鮮培地部204に流体接続された少なくとも一つのガス及び/又は液体導入口224を有する少なくとも一つの質量コントローラ222とを更に備えても良い。ガス及び/又は液体導入口ガス224は、新鮮培地部204の内部からガス及び/又は液体を取り込むように構成される。センサ220は、温度、グルコースレベル、グルタミンレベル、二酸化炭素レベル、アンモニアレベル、ピルビン酸レベル、乳酸レベル、pHを取得することができる。センサ220及び質量コントローラ222は、更に、通信ネットワークを介してコンピュータシステム226に接続されても良い。コンピュータシステム226は、センサ220とデータを交換し、ユーザが制御アプリケーションに指示するパラメータ及びセンサ220から取得されたデータに従って、質量コントローラ222及びポンプ208を制御することができる。コンピュータシステム226は、更に、センサ220の読み取り値を表示するために表示部228に接続されても良い。
【0087】
例によっては、バイオリアクター202、新鮮培地部204、廃物除去部206及び透析部210の各々は、取り外し可能なプラグインモジュールであっても良い。すなわち、バイオリアクター202、新鮮培地部204、廃物除去部206及び透析部210のそれぞれは、無菌コネクタを介して細胞/組織培養システム200に着脱可能に接続される。
【0088】
例によっては、細胞/組織培養システム200には、バイオリアクター202が、二つ以上含まれていても良い。例によっては、細胞/組織培養システム200には、一組の新鮮培地部204及び廃物除去部206を備えるバイオリアクター202が、二つ以上含まれていても良い。例によっては、バイオリアクター202の大きさ又は容量は、変化し得る。これにより、細胞/組織培養システム200の生産は、容易にスケールアップ及びスケールダウンすることができる。
【0089】
以下、細胞/組織培養システム200の各構成要素の詳細について説明する。
【0090】
バイオリアクター202は、新鮮培地部204及び廃物除去部206から物理的に分離された、隔離された単体ユニットである。バイオリアクター202は、第一の流体循環216に着脱可能に接続できるように、無菌コネクタを介して第一の流体循環216に接続されても良い。
【0091】
組織培養ホルダ214は、所定の条件下で成長した幹細胞により生産された骨組み又は細胞外マトリックス上の細胞の成長を収容する食品グレードの骨組みを保持するように構成されても良い。細胞は、三次元環境下で骨組み又は細胞外マトリックス上に成長し、組織構造を形成しても良い。組織培養ホルダ214は、複数の骨組みホルダ又は細胞外マトリックスホルダを有してもよく、各ホルダは、少なくとも一つの骨組み又は細胞外マトリックスを受け取って保持するように構成されても良い。また、細胞培養ホルダは、ホルダ内に積層され得る、厚さの異なる複数の骨組み又は細胞外マトリクスを受け取って保持する。組織培養ホルダ214は、バイオリアクター202内の流体が、骨組み上又は細胞外マトリックス上の細胞と全ての面から最小のせん断応力で相互作用可能にするように、流体透過性構造を更に備えていても良い。組織培養ホルダ214は、当該技術分野で知られている通常の滅菌方法、例えば、消毒剤、紫外線、オートクレーブでは損傷しない材料で作製することができる。そのような材料としては、例えば、ステンレス鋼、ガラス、耐高温樹脂などが挙げられる。二つ以上の組織培養ホルダ214は、細胞培養部202の無菌室内に保持することができ、したがって生産需要に応じた容易なスケールアップが可能になる。例によっては、組織培養ホルダ214は、支持トレイ又は多孔質プレートであっても良く、そのようなトレイ又はプレートは、培地の流れを可能にする少なくとも一つの多孔質を含む。
【0092】
組織培養ホルダ214は、発生中の組織が直接灌流せず、栄養素が拡散して送達されるため、組織培養ホルダ214での培養基の流れを維持しながら、細胞と培養基との間の栄養素及び廃物の交換を最適化し、細胞に作用するせん断応力を低減するように構成される。過剰なせん断応力は、細胞を死滅させる可能性があり、収率の低下をもたらす。組織培養ホルダ214は、組織培養ホルダ214内の位置を固定するための骨組み又は細胞外マトリックスを保持するホルダを更に備えても良い。組織培養ホルダ214は、培養基がその周りを移動する際にその振動が最小となるように最適化される。これは、細胞が骨組み又は細胞外マトリックスに強固に付着することを補助し、それにより、収率を向上させる。
【0093】
また、例によっては、バイオリアクター202は、培養ホルダ214、食品グレードの骨組み及び細胞外マトリックスを含まない。バイオリアクター202内の細胞は、懸濁状態であっても良い。バイオリアクター202は、細胞に作用するせん断応力を低減するために、バイオリアクター202におけるせん断応力を制御するように構成されていても良い。また、バイオリアクター202は、細胞がその上で培養するようにマイクロキャリアを含んでも良い。
【0094】
第一の流体循環216は、その中の流体がバイオリアクター202及び/又は透析部210を選択的にバイパスさせるためのバイパス路を含んでも良い。これにより、バイオリアクター202内の組織/細胞は、何らかの故障があった場合に、第一の流体循環内の流体の汚染から保護され得る。
【0095】
新鮮培地部204及び廃物除去部206の各々は、第二の流体循環218に着脱可能に接続することができるように、無菌コネクタを介して第二の流体循環216に接続されても良い。
【0096】
第二の流体循環218は、その中の流体が新鮮培地部204、廃物除去部206及び/又は透析部210を選択的にバイパスさせるためのバイパス路を含んでも良い。これにより、バイオリアクター202内の組織/細胞は、何らかの故障があった場合に、第一の流体循環内の流体の汚染から保護され得る。
【0097】
例によっては、透析部210は、第一の流体循環216中に望ましい巨大分子を保持し、かつバイオリアクター202内の細胞に栄養素を補給するために、第二の流体循環218内の第二の流体の栄養素、例えば、グルコース(180Da)、ピルビン酸、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどを第一の流体中に浸透させるように構成された透析薄膜210aを含む。それにより、透析薄膜210aは、バイオリアクター202内に望ましい巨大分子を保持するように構成される。また、望ましい巨大分子には、第一の流体中の異なる種類のタンパク質及び他の巨大分子(両方とも少なくとも100Daを有する)が含まれても良く、例えば、リン脂質(レシチン、セラミド)、脂質(DHA、AHA)、多糖類(グリコーゲン)、プロテオグリカン(ヘパリン、コンドロイチン)、核酸(DNA、RNA)、インシュリン様成長因子(IGF、組換え型の場合7.5kDa)、形質転換成長因子ベータ(TGFベータ、プロTGF-ベータの場合44kDa)などが挙げられる。
【0098】
セルロースエステル(CE)、再生セルロース(RC)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む、透析薄膜は、異なる種類を用いても良い。分子量カットオフ(MWCO)が異なる透析薄膜210aを用いて、第一の流体中に望ましい巨大分子を保持したり(例えば、培養容器における細胞が分泌する成長因子)、透析部210の第一の流体から廃物が取り除かれるようにしたりしても良い。廃物は、アンモニウム又は乳酸を含む成長インヒビターであっても良い。アンモニウム又は乳酸の蓄積は、細胞の成長及び細胞の生産性を阻害する可能性があることが観察される。透析薄膜210aとしては、例えば、100Da~1,000,000Da MWCO薄膜、好ましくは、500Da MWCO薄膜を用いて、第一の流体中に、インシュリン様成長因子(IGF、組換え型の場合7.5kDa)及び形質転換成長因子ベータ(TGFベータ、プロTGFベータの場合44kDa)を保持しつつ、乳酸(89Da)とアンモニア(17Da)が第一の流体から除去できるようにしても良い。このような薄膜は、細胞の増殖及び/又は分化を最適化するために、グルコース(180Da)、ピルビン酸、アミノ酸、ビタミン及びミネラルなどの第二の流体の栄養素が薄膜を通って第一の流体に補給されることを可能にするために使用することもできる。詳細は後述するが、薄膜はまた、ゼオライト、硝化細菌及び酵素を第二の流体中に保持するように構成されても良い。例によっては、透析部210は、半透性の中空糸を含む中空糸カートリッジの形態であっても良い。
【0099】
廃物除去部206は、第二の流体中の成長インヒビターを低減又は除去するための生体触媒又は酵素を含んでも良い。廃物除去部206は、柱状の充填層ゼオライト、アンモニアを低減又は除去する硝化細菌を含む生体触媒、及び/又は乳酸を炭素源に変換することによって乳酸を低減又は除去する酵素を含む生体触媒を備えても良い。
【0100】
例によっては、硝化細菌は、懸濁培養の形態で廃物除去部206に組み込むことができる。また、例によっては、硝化細菌は、アルギン酸塩、アガロース又はゼラチンビーズ中に、微粒子又はその他の固定化方法を用いて膜上に固定化することもできる。微生物細胞の固定化により、細菌生体触媒の効率的な使用が可能になり、細菌と第二の流体の分離が簡素化され、生体触媒の継続使用が可能になる。硝化細菌は、ニトロソモナス属、ニトロソコッカス属、ニトロバクター属、ニトロスピナ属、ニトロスピラ属、ニトロコッカス属のいずれかであっても良い。これらの細菌は、アンモニウム又はアンモニアを亜硝酸塩と硝酸塩に酸化する。
【0101】
例によっては、酵素を生体触媒として使用して、代謝廃産物(例えば、乳酸)を、細胞が細胞の成長、分化及び細胞外マトリックスの沈着に使用できる炭素源に変換することができる。例によっては、生体触媒は、新鮮培地部204に追加されても良い。例によっては、酵素は、乳酸脱水素酵素である。
【0102】
例によっては、コンピュータシステム222は、リモートコンピュータシステムである。例えば、リモートコンピュータシステム222は、センサ216との間で信号を送受信可能なソフトウェアモジュールを備えた制御装置を含んでも良い。リモートコンピュータシステム222は、マイクロプロセッサ(図示せず)と、ソフトウェア及びデータを記憶するための、マイクロプロセッサに接続されたコンピュータ可読記憶媒体又はメモリ(図示せず)とを含んでも良い。
【0103】
次に、細胞生産のために、細胞/組織培養システム200を利用する方法に移る。ここに記述される方法は、生体外食肉を生産するために、皮膚、筋肉、脂肪、及び骨細胞のような細胞を培養するのに用いられる。その方法は、バイオリアクター202を有する細胞/組織培養システム200を準備し、透析部210において代謝廃物及び成長インヒビターを第一の流体から第二の流体に移し、透析部210において第二の流体から第一の流体に栄養素を補給し、廃物除去部206において第二の流体から成長インヒビター及び代謝廃物を除去するステップを含む。これにより、バイオリアクター202内の代謝廃物及び成長インヒビターが除去され、透析部210を通してバイオリアクター202内の細胞に栄養素が補給される。
【0104】
バイオリアクター202には、少なくとも一種類の細胞が加えられる。適切な種類の細胞には、骨、軟骨、筋肉、肝臓、皮膚、心臓、肺臓、及びそれらの任意の組み合わせが含まれるが、それらに限定される訳ではない。本発明内で、他の種類の、哺乳動物細胞、又は魚細胞を使用しても良い。他の植物種及び動物種の細胞も使用することができる。
【0105】
バイオリアクター202において拡大する、異なる種類の、特定化した細胞は、生きた動物の生検によって得られる。その他の開始細胞は、間葉幹細胞、人工多能性幹細胞、及び衛星細胞といった様々な起源の幹細胞であっても良い。開始細胞はまた、遺伝子組換え細胞や、いずれかの細胞株であっても良い。
【0106】
バイオリアクター202のような無菌室又は無菌容器において、食品グレードの生体適合骨組み又は細胞外マトリックスに付着/固着することによって、細胞が、魚臓器のような動物臓器を模した固体又は半固体構造体の組織へと成長する。食品グレードの生体適合骨組みは、最終可食製品の一部となる。
【0107】
牛胎児血清(FBS)サプリメント、又は組換え源から得られる成長因子及びサイトカインが、バイオリアクター202の培養基(例えば、特定の例では、第一の流体)に導入されて、細胞の成長と増殖をサポートする。成長因子及びサイトカインには、インシュリン成長因子1(IGF-1)、インシュリン、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、インターロイキン11(IL-11)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、及びトランスフェリンが含まれるが、それらに限定される訳ではない。その用途は、FBSの非存在下でバイオリアクター202において培養細胞と、生体工学的に作り出された細胞を同時培養することに関係する場合がある。生体工学的に作り出された細胞は、上記成長因子とサイトカインを分泌し、これらの生体分子を、培養細胞に、成長と増殖に必要なだけ供給するように作り出される。本開示の同時培養方法によると、培養基において、動物由来である牛胎児血清(FBS)が必要で無くなる。更には、その同時培養方法によって、食品グレードの、特定の成長因子とサイトカインが、成長する分離された細胞に本来の位置で継続的に供給され、生産プロセスが簡素化され、その費用が低減される。しかしながら、他の例においては、細胞の成長をサポートするために、FBS、他の血清、又は組換え源から得られるタンパク質を用いて、成長因子、サイトカイン、及びその他の栄養素を供給しても良い。また、例によっては、バイオリアクター202は、図2に示されるようなバイオリアクター30、図3に示されるようなバイオリアクター50、図4に示されるようなバイオリアクター100とすることができる。
【0108】
例によっては、細胞培養条件を最適化するためにガスを導入しても良い。窒素、酸素、二酸化炭素又はガスの混合物を用いても良い。細胞培養部202には、0~10%の二酸化炭素が含有される。バイオリアクター202には、15~30%の酸素が含有されても良い。バイオリアクター202には、60~85%の窒素が含有されても良い。
【0109】
例によっては、細胞培養条件を最適化するために温度が制御されても良い。細胞の種類が異なると、最適培養温度も異なる。温度は、25°Cから45°Cの範囲であっても良い。
【0110】
例によっては、バイオリアクター202の培養基が撹拌される。せん断応力に対する細胞の反応は異なるということが知られているので、培養容器の撹拌速度を最適化して、細胞の拡大を増進しても良い。撹拌速度を最適化して、流入する培養基と細胞培養部202内の培養基との混合を増進しても良い。撹拌速度は、10rpmから300rpmの範囲であっても良い。
【0111】
ポンプ208aは、培養基をバイオリアクター202から透析部210に循環させ、またバイオリアクター202に戻すことができ、それによって培養基をバイオリアクター202から透析部210に移すことができる。
【0112】
バイオリアクター202内の細胞に対する栄養素を含む新鮮基礎培地/透析液(例えば、本特定の例では第二の流体)は、新鮮培地部204又は第二の循環218に導入される。ポンプ208bは、新鮮基礎培地を新鮮培地部204から透析部210へ、次いで廃物除去部206へと循環させることができる。廃物除去部206を通過すると、新鮮基礎培地/透析液は、新鮮培地部204に戻る。
【0113】
透析部210では、透析が行われる。例えば、乳酸、アンモニア、及びその他の廃物は、培養基から透析部210の透析薄膜210aを通って新鮮基礎培地へと移され、グルコース及びその他の成長を増進する成分を含む栄養素は、新鮮基礎培地から透析部210の透析薄膜を通って培養基へと移される。透析部210の透析薄膜210aはまた、培養基中に望ましい巨大分子を保持することができる。透析部210への新鮮基礎培地の流量、透析部210への培養基の流量、透析薄膜の表面積、温度、透析部210内での撹拌による振動を変えることによって、透析の速度を制御することができる。また、バイオリアクター202から透析部210へと流体を流入させるポンプ汲み出し速度を1ml/分から10L/分までの範囲で変えることによって、透析部210における培養基の栄養素補給と廃物除去の速度を制御しても良い。同様に、新鮮培地部204から透析部210へと流体を流入させるポンプ汲み出し速度を1ml/分から10L/分までの範囲で変えることによって、透析部210における培養基の栄養素補給と廃物除去の速度を制御しても良い。
【0114】
代謝廃物又は成長インヒビターは、培養基から透析部210内の新鮮基礎培地/透析液へと移動する。成長インヒビターは、時間が経つにつれて新鮮基礎培地/透析液に蓄積していく。次いで、成長インヒビター(乳酸、アンモニアを含むが、それらに限定される訳ではない)が蓄積した基礎培地は、ポンプ208bによって廃物除去部206に移される。廃物培地のアンモニア及び乳酸と言った代謝廃物は、ゼオライトを吸着剤として使用することで除去することができる。ゼオライトは、微小孔性アルミノ珪酸鉱物である。例となるのは、方沸石、菱沸石、斜プチロル沸石、輝沸石、ソーダ沸石、フィリプス沸石、及び束沸石である。廃物除去部206には、柱状の充填層ゼオライトが含まれていても良い。第二の流体が、一端から廃物除去部206に流れ込み、ゼオライトを通って、別の一端から廃物除去部206を抜け出る。ゼオライトは、毒性の薬品、又は、第二の流体において細胞の成長を阻害する薬品、例えば、アンモニアや乳酸を吸収する。
【0115】
ゼオライトに加えて、又はその代わりに、硝化細菌を用いて、第二の流体中のアンモニアを低減又は除去することができる。第二の流体循環218は、第一の流体循環216から分離されており、選択された分子のみは、薄膜を通して第一の流体と第二の流体との間で交換することができるため、細胞培養システム200において硝化細菌を用いてアンモニアを除去することができる。第一の流体循環216と第二の流体循環218の分離により、硝化細菌によるバイオリアクター202の細胞培地の汚染のリスクが低減される。硝化細菌を用いて、細胞培地と直接接触する培養基からアンモニアを直接除去すると、細胞培地を汚染する可能性がある。
【0116】
ゼオライト及び/又は硝化細菌に加えて、又はその代わりに、生体触媒を用いて、細胞培養中の乳酸塩を低減又は除去することができる。酵素を含む生体触媒を使用して、代謝廃産物(例えば、乳酸)を細胞の成長、分化、細胞外マトリックスの沈着に使用できる炭素源(例えば、ピルビン酸)に変換することができる。例によっては、酵素は、乳酸をピルビン酸に変換する乳酸脱水素酵素である。増殖中、培養基(第一の流体)での変化は、乳酸の蓄積によるpHの低下によって特徴付けられる。ここに記述される生体触媒は、透析部210において、乳酸を培養基から新鮮基礎培地/透析液に移動させ、新鮮基礎培地/透析液中で新鮮炭素源(例えばピルビン酸)に交換することにより、pH変化を調整するのに役立つ。その後、新鮮炭素源を培養基に移して、組織の持続可能な成長と発達を更に促進することができる。
【0117】
生体触媒を用いて乳酸を除去することは、多くの利点がある。グルコースのような炭素源を加えることは、高価であり、培養に侵襲的であり、人的及び機械的な誤差が発生しやすい可能性がある。したがって、代謝廃産物を細胞が増殖、分化、細胞外マトリックスの沈着に利用できる炭素源に変換することにより、生産コストを低減し、生産効率を向上させることができる。
【0118】
ピルビン酸代謝により、生成される有害なアンモニア濃度が低下し、pCO2が減少することが実証される。したがって、透析部210を通じて培養中の乳酸濃度を低下させることにより、ピルビン酸代謝が促進され、その結果、アンモニア生成が減少し、pCO2が低下する。
【0119】
本例における硝化細菌及び生体触媒を用いたアンモニア及び乳酸の除去は、細胞/組織培養システム200に適用することができる。特に、硝化細菌及び生体触媒は、廃物除去部206に組み込むことができる。
【0120】
上述の通り、また、本発明によると、グルコースのような栄養素は、最適なレベルに保たれ、細胞の生育力や細胞の成長にとって最適なように、アンモニアや乳酸のような成長インヒビターは最低のレベルに保たれる。
【0121】
本発明はまた、代謝廃産物の新鮮炭素源への酵素的変換の使用が、細胞の成長、分化、及び細胞外マトリックスの沈着を促進できることを示す。これにより、培養基及び生産プロセスのコストを低減する。
【0122】
加えて、本発明によると、細胞が分泌する成長因子を保持し、培養基においての動物由来の血清の使用を低減することによって、細胞拡大プロセスが増進され、生体外食肉産業及び組織工学の生産費が低減される。本発明は、大規模食肉生産に用いることができる。
【0123】
本開示の生体外食肉生産方法によると、細胞が一種類の単純組織有機体を備える食肉製品が提供される。細胞が一種類の食肉製品は、複数種類の細胞を有する他の培養食肉に比べて、製造し、開発し、商品化するのが容易である。本開示の他の代替的な例では、複数種類の細胞の組織の有機体を有する食肉製品が提供される。生体工学的に作り出された細胞は、成長する動物細胞と同時培養され、成長する魚細胞に、本来の位置での細胞成長と増殖のための食品グレードの成長因子とサイトカインを供給し、培養基における動物由来のFBSの必要性を低減又は削除する。同時培養技法によって、生産プロセスが簡素化され、生産費用が低減される。
【0124】
更には、生体外食肉製品の栄養素をカスタマイズして、より健康的な食料製品を生成しても良い。例えば、生体外食肉製品を、栄養士からのダイエット勧告又は当人のゲノム検査に従ってカスタマイズしても良い。食肉製品における、高密度コレステロール、多価不飽和脂肪酸、及び一不飽和脂肪酸と言った健康的な栄養素を、細胞を特定の条件で培養することによって濃縮しても良い。代わりに、又はこれとの組み合わせにおいて、低密度コレステロールや飽和脂肪酸と言った健康を損なうことが知られている栄養素を、細胞を特定の条件で培養することによって低減しても良い。ビタミンやミネラルと言った微量栄養素もまた、強化されても良い。生体外食肉製品の栄養素のカスタマイズは、1)細胞培養の間に成長細胞に与えられる栄養素を調整し、及び/又は、2)異なる細胞で積層する骨組み又は細胞外マトリックスの比率を制御すると言った様々なやり方で達成される。
【0125】
生体外食料製品は、清潔、無菌かつ高度に制御されたプロセスの下で生産される。そうして、食料製品における栄養素の、細菌や菌類と言った微生物による望ましくない劣化を最小限のものとする。微生物が栄養素を分解することによる望ましくない風味や臭いもまた最小限のものとされる。この特性によって、培養食品の、料理での新しい使い方が可能となり、新しいレシピを作り出すのに役立つ。生体外食品をそのように適用した一例は、魚の浮き袋から得られる生体外魚浮き袋である。従来の魚浮き袋には、生産プロセスにおいて細菌がアミンを分解するために、望ましくない魚臭い風味と匂いがある。この望ましくない特性のために、食品の材料としては、熱いか温かいまま出されて風味のある料理に限定されることもある。細胞培養技法で生産される生体外魚浮き袋は、望ましくない魚臭さや匂いがない。熱くて風味のある料理に加え、生体魚浮き袋は、デザートとして、あるいは、冷やして又は環境温度で出される直ぐに食べられる形で、甘い料理にも用いることができる。
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【国際調査報告】