(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物を有効成分として含む肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/165 20060101AFI20240725BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240725BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20240725BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K31/165
A61P17/02
A61K31/167
A61K31/341
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506618
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 KR2022011265
(87)【国際公開番号】W WO2023014003
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】10-2021-0101359
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0094406
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523037716
【氏名又は名称】セルリオンバイオメッド インク.
【氏名又は名称原語表記】CELLIONBIOMED INC.
【住所又は居所原語表記】#A-407ho, Daedeok Biz Center, 17 Techno 4-ro, Yuseong-gu, Daejeon, 34013, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】キム ソンジン
(72)【発明者】
【氏名】キム ソンミョン
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA19
4C206JA24
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA89
(57)【要約】
本発明は、ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物を有効成分として含む肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物に関する。前記ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物は、皮膚線維化に関与する線維芽細胞、角質細胞および血管内皮細胞で細胞内Ca
2+濃度の増加および細胞増殖を抑制し、細胞外基質(extracellular matrix)であるコラーゲンの合成を抑制することによって、難治性肥厚性瘢痕およびケロイドを効果的に治療する効能を有する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[化学式1]で表されるベンズヒドリルチオアセトアミド化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、ことを特徴とする肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物。
【化1】
(上記化学式1において、X
1~X
10は、水素(H)またはフッ素(F)、塩素(Cl)であり、すべて同一又は異なっていてもよく;Yは、硫黄(S)またはスルホキシド(S=O)であり、*は、キラル体を意味し;R
1は、水素、水酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アクリル基、ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、フラン基、ヒドロフラン基、シクロプロパン基、オキラン基、サイクリックフェニル基のうちいずれか1つである。)
【請求項2】
前記[化学式1]化合物は、線維芽細胞、角質細胞、血管内皮細胞内でCa
2+濃度の増加および細胞増殖を抑制し、細胞外基質であるコラーゲンの合成を抑制する効能を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物。
【請求項3】
前記[化学式1]化合物は、2-(ベンズヒドリルスルフィニル)アセトアミド;2-(ベンズヒドリルチオ)-N-[(テトラヒドロフラン-2-イル)メチル]アセトアミド;2-(ベンズヒドリルチオ)-N-フェニルアセトアミド;2-(ベンズヒドリルスルフィニル)-N-メチルアセトアミド;2-(ベンズヒドリルスルフィニル)-N-[(テトラヒドロフラン-2-イル)メチル]アセトアミド;2-(ベンズヒドリルチオ)-エン-メチルアセトアミド;2-[ビス(2-フルオロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド;2-[ビス(3-フルオロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド;2-[ビス(4-フルオロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド;2-[ビス(4-クロロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド;2-(ベンズヒドリルスルフィニル)-N-ヒドロキシアセトアミドの中から選択されたいずれか1つである、
ことを特徴とする請求項1に記載の肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物。
【請求項4】
前記[化学式1]化合物は、2-(ベンズヒドリルスルフィニル)アセトアミド(modafinil)である、
ことを特徴とする請求項1に記載の肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物。
【請求項5】
前記[化学式1]化合物は、2-(ベンズヒドリルスルフィニル)-N-ヒドロキシアセトアミド(adrafinil)である、
ことを特徴とする請求項1に記載の肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物。
【請求項6】
前記[化学式1]化合物は、2-[ビス(4-フルオロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド(lauflumide)である、
ことを特徴とする請求項1に記載の肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物。
【請求項7】
前記[化学式1]化合物は、2-[ビス(4-クロロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミドである、
ことを特徴とする請求項1に記載の肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物を有効成分として含む肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物に関し、より詳細に説明すると、前記ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物は、皮膚線維化に関与する線維芽細胞、角質細胞および血管内皮細胞で細胞内Ca2+濃度の増加および細胞増殖を抑制し、細胞外基質(extracellular matrix)であるコラーゲンの合成を抑制することによって、難治性肥厚性瘢痕およびケロイドを効果的に治療する効能を有する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、人体内で傷が治る過程は、炎症と増殖および再構成の3段階を経る。まず、炎症段階では、傷部位が止血し、白血球と好中球などの免疫細胞が外部から流入する危害物質と損傷組織を除去する。次に、増殖段階には、血管内皮細胞が傷部位に移動し、損傷組織に新しい血管を形成し、コラーゲンやエラスチンのような細胞外組織構成タンパク質が生成されると同時に、線維芽細胞が肉芽組織を形成する。
【0003】
最後に、再構成段階では、増殖した上皮細胞が成熟し、線維組織が形成されることにより、新しく合成された組織と増殖した細胞間の接合力と弾力性が増加する。このような傷治癒過程は、傷の程度によって数ヶ月~数年の時間がかかる。また、真皮層の深さまで損傷を受けた場合、皮膚の緊張度を維持する真皮層にコラーゲンが増殖し、皮膚に治癒跡である「傷痕(scar)」を残すことになる。
【0004】
人体が傷を治癒する過程で線維組織が過剰に密集すると、傷部位が異常に肥大成長する「肥厚性瘢痕(hypertrophic scar)」や「ケロイド(keloid)」が生成されることがある。肥厚性瘢痕(「肥大傷痕」ともいう)は、傷部位を越えず、時間が経つにつれて徐々に消失する傾向が見られるが、ケロイドは、時間が経つにつれて傷部位よりさらに広く成長し、正常皮膚まで侵すという点から異なっている。
【0005】
皮膚線維症(skin fibrosis)の一種である肥厚性瘢痕とケロイドは、傷治癒過程で細胞の移動が過剰に活性化したり、組織の細胞と毛細血管が異常増殖し、コラーゲンが過剰に蓄積されて発生する。統計的に手術患者の40~70%程度が1年以内に肥厚性瘢痕やケロイドに発展するほど非常に一般的であるが、これを効果的に抑制できる治療剤は、まだ開発されていない。
【0006】
従来、肥厚性瘢痕やケロイドまたは皮膚線維化を有効に抑制できる治療剤を開発しようとする努力は、ずっと試みられてきた。例えば、特許文献1(韓国登録特許第10-2026138号(2019年09月23日))には、CRIF1(CR6 interacting factoR1)遺伝子の発現抑制剤を有効成分として含むケロイドおよび肥厚性瘢痕形成の抑制または治療用薬学組成物が開示されている。前記CRIF1は、ミトコンドリアに存在するタンパク質の一種であり、前記有効成分としては、CRIF1遺伝子に特異的に結合するアンチセンスヌクレオチドまたはsiRNAを含む。
【0007】
また、特許文献2(韓国登録特許第10-2206017号(2021年01月15日))には、PARP1(poly ADP-ribose polymerase 1)の発現または活性阻害剤を有効成分として含む皮膚線維化疾患の予防または治療用薬学的組成物が開示されている。前記有効成分としては、卵巣がん治療剤に用いられるルカパリブ(rucaparib)が例示されている。
【0008】
特許文献3(韓国登録特許第10-2232072号(2021年03月19日))には、次の[化学式A]で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む皮膚線維症の予防または治療用組成物が開示されている。
【化1】
(上記化学式Aにおいて、R1およびR2は、それぞれ独立して、C1~C3アルキルである。)
【0009】
上記[化学式A]化合物は、線維芽細胞でHMGB1(High-mobility group boX1)と、コラーゲンI、コラーゲンIII、フィブロネクチンおよびエラスチンの発現を抑制する。また、上記[化学式A]化合物のうち代表的な化合物は、ピルビン酸で修飾されたエチルピルベート(ethyl pyruvate)である。
【0010】
なお、特許文献4(韓国登録特許第10-1947277号(2019年02月01日))には、KCa3.1チャネル遮断剤であるTRAM-34(1-[(2-chlorophenyl)diphenylmethyl]-1H-pyrazole)を含有する肥厚性瘢痕形成の予防または治療用薬学組成物が開示されている。前記KCa3.1チャネルは、線維芽細胞に特異的に分布するポタシウム(K+)チャネルの一種であり、線維芽細胞の活性に主に関与する。
【0011】
また、特許文献5(韓国登録特許第10-1414831号(2014年06月26日))には、嗜眠症治療剤と知られたモダフィニル(modafinil)およびその誘導体がKCa3.1チャネルの電流を抑制する効能があり、KCa3.1チャネル介在性疾患、すなわち鎌状赤血球貧血、自己免疫疾患、がん疾患、トラウマ脳損傷、退行性神経疾患、分泌性下痢などの治療剤に用いられ得ると報告されている。
【0012】
また、本発明者は、特許文献6(韓国登録特許第10-2277739号(2021年07月09日))およびこれに対応する特許文献7(国際公開WO2020/055166A1(2020年03月19日))に、ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物を有効成分として含む肝線維化または肺線維化疾患の治療用組成物を提示したことがある。前記ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物は、モダフィニル(modafinil)を含み、細胞膜でKCa2.3チャネルタンパク質の発現を抑制する効能がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【特許文献1】韓国登録特許第10-2026138号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10-2206017号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10-2232072号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10-1947277号公報
【特許文献5】韓国登録特許第10-1414831号公報
【特許文献6】韓国登録特許第10-2277739号公報
【特許文献7】国際公開WO2020/055166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
多くの細胞は、刺激を受けると、細胞内でCa2+の濃度が増加し、その機能が活性化する。Ca2+は、細胞内信号伝達過程で二次メッセンジャー(secondary messenger)として作用して細胞の機能調節に非常に重要な役割をする。皮膚線維化過程においても細胞内Ca2+は、線維化関連細胞の活性化および筋線維芽細胞の形成、細胞外基質の生成と分泌などを調節する非常に重要な役割をする。したがって、細胞内Ca2+濃度の増加を抑制すると、皮膚線維化、特に肥厚性瘢痕およびケロイドの生成を効果的に抑制することができる。
【0015】
これより、本発明の目的は、皮膚線維化関連細胞で細胞内Ca2+濃度の増加および細胞増殖を抑制し、さらには、細胞外基質であるコラーゲンの合成を抑制することによって、結果的に、肥厚性瘢痕およびケロイドの生成を効果的に治療できる新しい医薬組成物を提供することにある。
【0016】
また、本発明の他の目的は、従来に開発された肥厚性瘢痕治療剤としてKCa3.1チャネルを遮断する効能を有するTRAM-34などと併用投与し、肥厚性瘢痕およびケロイドの治療効能を高めることができる新しい医薬組成物を提供することにある。
【0017】
参考として、本明細書において「治療」という用語の意味は、疾患、病気または症状の発展を抑制すること、そして軽減または除去することを全部含む。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による肥厚性瘢痕およびケロイド治療用組成物は、下記[化学式1]で表されるベンズヒドリルチオアセトアミド化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含むことを特徴とする。
【0019】
【化2】
(上記化学式1において、X
1~X
10は、水素(H)またはフッ素(F)、塩素(Cl)であり、すべて同一又は異なっていてもよく;Yは、硫黄(S)またはスルホキシド(S=O)であり、*は、キラル体を意味し;R
1は、水素、水酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アクリル基、ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、フラン基、ヒドロフラン基、シクロプロパン基、オキラン基、サイクリックフェニル基のうちいずれか1つである。)
【0020】
上記[化学式1]で表されるベンズヒドリルチオアセトアミド化合物は、線維芽細胞、角質細胞、血管内皮細胞内でCa2+濃度の増加および細胞増殖を抑制し、さらには、細胞外基質であるコラーゲンの合成を抑制する効能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明による上記[化学式1]のベンズヒドリルチオアセトアミド化合物は、難治性肥厚性瘢痕およびケロイドを効果的に治療できる効能を有し、必要に応じてポタシウムチャネル抑制効能を有する従来の肥厚性瘢痕治療剤とともに併用投与することもでき、さらには、治療補助剤や化粧用組成物などに用いられ得ることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】線維芽細胞を対象に本発明によるCBM-N1~N10化合物に対する細胞内Ca
2+増加の抑制効果を測定したグラフである。
【
図2】角質細胞と血管内皮細胞を対象に本発明によるCBM-N1、N3、N5化合物に対する細胞内Ca
2+増加の抑制効果を測定したグラフである。
【
図3】線維芽細胞を対象に細胞内Ca
2+流入遮断物質であるLa
3+に対する細胞内Ca
2+増加の抑制効果を測定したグラフである。
【
図4】線維芽細胞を対象に本発明によるCBM-N1~N5、N8~N10化合物に対する細胞増殖抑制効果を測定したグラフである。
【
図5】角質細胞を対象に本発明によるCBM-N1~N10化合物とLa
3+に対する細胞増殖抑制効果を測定したグラフである。
【
図6】線維芽細胞を対象に本発明によるCBM-N1~N8化合物に対する線維化抑制効果を測定したグラフである。
【
図7】線維芽細胞を対象に本発明によるCBM-N1~N7化合物に対する線維化抑制効果を測定したグラフである。
【
図8】ウサギの耳を用いた肥大傷痕モデルで皮膚拡大鏡で肥大傷痕を観察してCBM-N1、N3、N5、N9化合物の効果を分析した写真とグラフである。
【
図9】ウサギの耳を用いた肥大傷痕モデルで肥大傷痕の表皮厚さを測定してCBM-N1、N3、N5、N9化合物の効果を分析した顕微鏡写真とグラフである。
【
図10】ウサギの耳を用いた肥大傷痕モデルで瘢痕隆起指数(SEI)を測定してCBM-N1、N3、N5、N9化合物の効果を分析した顕微鏡写真とグラフである。
【
図11】ウサギの耳を用いた肥大傷痕モデルでコラーゲン密度を測定してCBM-N1、N3、N5、N9化合物の効果を分析した顕微鏡写真とグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明を実施するのに必ず必要な構成であるとしても、従来技術に紹介されていたり、通常の技術者が公知技術から容易に実施できる事項については、具体的な説明を省略する。
【0024】
本発明による上記[化学式1]のベンズヒドリルチオアセトアミド化合物は、具体的には、次のCBM-N1~CBM-N10化合物を含む。ここで、CBM-N1~N10は、本発明者が付与したコード名であり、それぞれの化学名は、次のとおりである。
1)CBM-N1;2-(ベンズヒドリルスルフィニル)アセトアミド
2)CBM-N2;2-(ベンズヒドリルチオ)-N-[(テトラヒドロフラン-2-イル)メチル]アセトアミド
3)CBM-N3;2-(ベンズヒドリルチオ)-N-フェニルアセトアミド
4)CBM-N4;2-(ベンズヒドリルスルフィニル)-N-メチルアセトアミド
5)CBM-N5;2-(ベンズヒドリルスルフィニル)-N-[(テトラヒドロフラン-2-イル)メチル]アセトアミド
6)CBM-N6;2-(ベンズヒドリルチオ)-エン-メチルアセトアミド
7)CBM-N7;2-[ビス(2-フルオロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド
8)CBM-N8;2-[ビス(3-フルオロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド
9)CBM-N9;2-[ビス(4-フルオロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド
10)CBM-N10;2-[ビス(4-クロロフェニル)メタンスルフィニル]アセトアミド
【0025】
前記CBM-N1化合物は、「モダフィニル(modafinil)」という一般名称と知られており、CBM-N9化合物は、「ラウフルミド(lauflumide)」という一般名称と知られている。また、前記CBM-N1~N10化合物は、全部人体内でほぼ類似の薬理機序を示す。
【0026】
前記CBM-N1化合物の製造方法は、多様に知られており、商用化した原料を購入して使用することもできる。また、前記CBM-N2~N6化合物の製造方法は、韓国登録特許第10-1345860号などに周知であり、前記CBM-N7~N9化合物の製造方法は、国際公開WO2020/055166A1などに周知である。
【0027】
前記CBM-10化合物は、新規の化合物であり、前記CBM-9化合物と同じ方法で製造することができる。ただし、出発物質としてビス(4-フルオロフェニル)メタノールの代わりに、ビス(4-クロロフェニル)メタノールを使用する。このような方法で製造されたCBM-10化合物の1H NMR(DMSO-d6)は、7.3~7.7ppm(m、8H)、5.4ppm(s、1H)、3.45ppm(d、1H)、3.2ppm(d、1H)で分析された。
【0028】
前記CBM-N1~N10化合物以外に、アドラフィニル(adrafinil)という一般名称と知られた2-(ベンズヒドリルスルフィニル)-N-ヒドロキシアセトアミドは、前記CBM-N1化合物、すなわちモダフィニルの前駆体としてモダフィニルと同じ薬理作用を有する(CNS Drug Reviews Vol5,No.3 193-212,1999)。
【0029】
上記[化学式1]化合物は、皮膚線維化に関与する線維芽細胞、角質細胞、血管内皮細胞などで細胞内Ca2+濃度の増加を抑制する。細胞内Ca2+は、線維化関連細胞の活性化および筋線維芽細胞の形成、細胞外基質の生成と分泌に関与して肥厚性瘢痕やケロイドの形成を促進する。
【0030】
また、上記[化学式1]化合物は、皮膚線維化過程に補助的役割をする角質細胞(keratinocyte)の機能を抑制する。角質細胞は、各種成長因子(growth factor)を分泌し、線維芽細胞を刺激して成長因子を生成させる。また、筋線維芽細胞(myofibroblast)の形成を刺激し、肥厚性瘢痕とケロイドの形成に寄与する。
【0031】
また、上記[化学式1]化合物は、皮膚線維化過程に補助的役割をする血管内皮細胞の機能を抑制する。血管内皮細胞は、血管を新生させ、線維芽組織の成長に必要な血液供給を円滑にし、線維芽組織の成長に寄与する。
【0032】
本発明による薬学組成物は、上記[化学式1]化合物の薬学的に許容可能な塩を含む。ここで、「薬学的に許容可能な塩」というのは、通常の金属塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などを含む。
【0033】
本発明による薬学組成物は、上記[化学式1]化合物の溶媒和物および水和物を全部含み、可能なすべての立体異性体をも含んでもよい。前記溶媒和物、水和物および立体異性体は、通常の方法を用いて製造することができる。また、上記[化学式1]化合物の結晶形態または非結晶形態を含み、結晶形態で製造される場合、任意に水和されたり溶媒化されてもよい。
【0034】
本発明による薬学組成物は、薬学的分野において公知の方法によって、それ自体または薬学的に許容される担体(carrier)、賦形剤(forming agent)、希釈剤などと混合して多様な剤形で製造することができる。例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ、エマルジョンのような経口型剤形や、外用剤または注射剤などの剤形で製造することができる。
【0035】
特に本発明による組成物の用途が皮膚傷に生成される肥厚性瘢痕およびケロイドの治療という点を考慮すると、局所投与が可能な皮膚外用剤または注射剤の形態であることがより好ましい。前記皮膚外用剤の形態としては、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、スプレー剤、パッチ剤、ゲル剤、エアロゾル剤などを例示することができる。
【0036】
本発明による組成物は、薬学的に有効な用量で投与することができる。このような有効投与量は、傷の種類およびサイズと深さ、患者の年齢および性別、薬物の活性、薬物感受性、投与時間、投与経路および排出割合、治療期間、同時使用薬物などを含む諸般要素を考慮して決定することができる。
【0037】
上記[化学式1]化合物の好ましい1日有効投与量は、0.2~20mg/kg、具体的には、0.5~10mg/kgであってもよく、1日に1回~2回投与することができるが、これに制限されない。
【実施例】
【0038】
以下、本発明によるベンズヒドリルチオアセトアミド化合物について次のような方法で肥厚性瘢痕およびケロイドの治療効能の試験を行った。
【0039】
[線維芽細胞、角質細胞および血管内皮細胞を用いたin vitro試験]
1)試験方法
ダルベッコ培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;Hyclone,Logan,UT)で線維芽細胞NIH-3T3(CRL-2795;American Type Culture Collection,VA,USA)とマウス大動脈の血管内皮細胞を培養し、MV2培地(PromoCell GmbH)で角質細胞(HaCaT keratinocyte)を培養した。
【0040】
前記線維芽細胞は、線維化誘発物質であるTGF-β(5ng/mL)に、そして、角質細胞は、ATP(10μM)にそれぞれ露出させて、細胞内Ca2+濃度、すなわち[Ca2+]iを増加させた。
【0041】
[Ca2+]iが安定状態に到達したとき、本発明のCBM-N1~N10化合物を投与し、[Ca2+]iに及ぼす影響を観察した。
【0042】
なお、[Ca2+]iの測定方法は、次のとおりである。まず、細胞培養用プレート(12 well)でカバーグラスの上に細胞を培養し、その培養液にCa2+感受性色素であるFura-2/AM(2μM)を添加し、37℃で25分間Fura-2/AMを細胞の中に浸透させた。
【0043】
倒立顕微鏡(DM IRB,Leica,Germany)でphotometric Ca2+測定装置(Photon Technology International Inc)を用いて360および380nmの光源を50Hzで細胞に交互に照明した。細胞から発散する蛍光を510nmで測定し、当該結果から細胞内Ca2+の濃度を換算した。また、多様なCa2+チャネルを介したCa2+の流入を遮断するために、La3+(10μM)を使用した。
【0044】
前記線維芽細胞と角質細胞をTGF-β(5ng/mL)、TGF-β+CBM-N1~N10およびTGF-β+La3+に24時間露出させた後、MTTアッセイあるいはCCK-8アッセイ方法で細胞増殖に及ぼす影響を分析した。
【0045】
また、前記線維芽細胞をTGF-β(5ng/mL)およびTGF-β+CBM-N1~N7に24時間露出させ、線維化マーカーであるα-平滑筋アクチン(α-SMA)、コラーゲン 1α(Col1α)、コラーゲン 3α(Col3α)の発現量をウェスタンブロットあるいはPCRで分析した。
【0046】
2)試験結果
図1は、線維芽細胞でTGF-β(5ng/mL)による細胞内Ca
2+濃度([Ca
2+]
i)の増加とこれに及ぼすCBM-N1~N10の効果を示す図である(平均±SEで表記し、n=5.***<0.001である)。
【0047】
図2は、角質細胞(AとB)と血管内皮細胞(CとD)でATP(10μM)による[Ca
2+]
iの増加とこれに及ぼすCBM-N1、N3、N5の効果を示す図である(平均±SEで表記し、n=5.***<0.001である)。
【0048】
図3は、線維芽細胞でTGF-β(5ng/mL)による[Ca
2+]
i増加とこれに及ぼすLa
3+(10μM)の効果を示す図である(平均±SEで表記し、n=5.***<0.001である)。前記La
3+(10μM)は、多様なCa
2+チャネルを介してCa
2+の細胞内流入を遮断することが知られている。
【0049】
図4は、線維芽細胞でTGF-β(5ng/mL、24時間露出)による細胞増殖(relative proliferation)を遮断するCBM-N1~N5、N8~N10化合物の効果を示す図である(平均±SEで表記し、n=5.*<0.05、**<0.01である)。前記細胞増殖は、MTTアッセイで測定した。
【0050】
図5は、角質細胞でTGF-β(5ng/mL、24時間露出)による細胞増殖を遮断するCBM-N1~N10化合物の効果を示す図である(平均±SEで表記し、n=5.***<0.001である)。前記細胞増殖は、CCK-8アッセイで測定した。
【0051】
図6は、TGF-β(5ng/mL)に24時間露出させた線維芽細胞でCBM-N1化合物(1μM)がα-平滑筋アクチン(α-SMA)、collagen 3α(Col3α)、collagen 1α(Col1α)の発現に及ぼす効果を示す図である(平均±SEで表記し、n=5.**<0.01である)。前記α-SMA、Col3α、Col1αタンパク質の発現は、ウェスタンブロット方法で測定した。
【0052】
図7は、TGF-β(5ng/mL)に24時間露出させた線維芽細胞でCBM-N1~N7化合物(1μM)がα-SMAとCol1αの発現に及ぼす効果を示す図である(平均±SEで表記し、n=5.**<0.01である)。前記α-SMA、Col1αmRNAの発現は、RT-PCR方法で測定した。
【0053】
3)評価および分析
図1と
図2、
図4および
図5から分かるように、本発明のCBM-N1~N10化合物は、線維化関連細胞である線維芽細胞、角質細胞および血管内皮細胞でTGF-βあるいはATPによる細胞内Ca
2+濃度の増加と細胞増殖を効果的に抑制することが確認された。
【0054】
また、
図3と
図5から分かるように、La
3+を用いてCa
2+の細胞内流入を遮断すると、細胞増殖の増加が抑制されることが確認された。この結果は、本発明のCBM-N1~N10化合物がCa
2+の細胞内流入を抑制し、細胞増殖を抑制することを意味する。
【0055】
また、
図6と
図7から分かるように、CBM-N1~N7化合物は、線維化誘発物質であるTGF-βによるα-SMA、Col1αまたはCol3αの発現増加を抑制した。線維芽細胞で細胞内Ca
2+の増加は、α-SMAおよびコラーゲンのような細胞外基質の形成に重要な役割をすることが知られている。したがって、本発明のCBM-N1~N7化合物によるα-SMA、Col1αあるいはCol3αの発現抑制は、Ca
2+の増加抑制による結果と推定される。
【0056】
参考として、線維化過程に最も重要な段階は、筋線維芽細胞が形成されることであり、筋線維芽細胞が形成される場合に、線維化過程が起こる。筋線維芽細胞は、線維芽細胞が活性化したり血管内皮細胞、平滑筋細胞などが上皮間葉転換(epithelial mesenchymal transition)を通じて形成される。
【0057】
α-SMAは、筋線維芽細胞のマーカーであり、α-SMA発現の増加は、筋線維芽細胞が生成されることを示す。また、筋線維芽細胞が生成されると、コラーゲン生成が増加する。したがって、α-SMA発現とコラーゲン形成が増加するというのは、線維化過程の非常に重要な根拠となる筋線維芽細胞の形成を意味する。
【0058】
前述のような試験結果は、本発明による[化学式1]のベンズヒドリルチオアセトアミド化合物が線維芽細胞の活性化を抑制することによって、結果的に、皮膚線維化を抑制する効能があることを意味する。
【0059】
[ウサギの肥大傷痕モデルを用いたin vivo試験]
1)試験モデルの準備
New Zealand White Rabbit 2.6~3kg雌8匹を麻酔し、8mm 生検パンチを用いてウサギの耳皮膚の表皮、真皮および軟骨膜を円形で除去して創傷を生成した。このような創傷は、ウサギの片方の耳部位当たり3個ずつ生成した。ウサギの手術部位を消毒し、3週間の自然治癒を通じて肥大傷痕の生成を誘導した。
【0060】
3週間の自然治癒後に傷痕部位の完全な上皮化および肥大傷痕の生成を確認し、試験群別に治療を始めた。前記試験群は、正常群(正常組織)、対照群(治療しない創傷、肥大傷痕組織)、試験群1(溶媒塗布)、試験群2(CBM-N1 10%)、試験群3(CBM-N3 10%)、試験群4(CBM-N 10%)、試験群5(CBM-N 10%)に分類した。
【0061】
各試験群に対して2週(14日)間毎日0.5mLずつ薬物を塗布して治療した後、組織解剖検査を実施した。生検した組織は、10%ホルマリン溶液に保管し、組織スライドを製作した。肥大傷痕治療の有効性の有無を皮膚拡大鏡および組織学的評価によって確認した。
【0062】
2)目視評価
対照群および試験群の皮膚組織部位を治療開始日と治療終了日(治療14日目)に皮膚拡大鏡を用いて観察し、肥大傷痕の生成程度によって次の[表1]のように目視評価に対するスコアを付与した。
【0063】
【0064】
図8から分かるように、創傷後3週間自然治癒して肥大傷痕が生成された時点(Day 0)では、対照群および各試験群間に目視評価スコアで有意差がなかった。これは、各試験群で肥大傷痕が類似に生成されたことを意味する。
【0065】
しかしながら、2週間の治療を終了した時点(Day 14)では、対照群(Control)および溶媒処理群(Vehicle)に比べて、CBM-N1、N3、N5、N9化合物を処理した試験群においてそれぞれ評価スコアが顕著に低く現れた。評価スコアが低いというのは、肥大傷痕のサイズが正常な傷痕に近く減少したことを意味する。
【0066】
3)表皮厚さ(epidermis thickness)の分析
固定されたウサギの耳組織のパラフィンブロックを製作し、3μmの厚さで切片し、組織スライドを製作した。水和過程を経てヘマトキシリン・エオジン溶液で染色を進めた。染色された組織スライドを200倍率で顕微鏡撮影し、ZEISS ZEN 顕微鏡ソフトウェアを用いて表皮厚さを測定した。
【0067】
図9から分かるように、肥大傷痕が生成された対照群(Control)と溶媒処理群(Vehicle)は、正常皮膚(Normal)に比べて、表皮の厚さが有意に増加したが(p<0.05)、CBM-N1、N3、N5、N9処理群は、対照群および溶媒処理群に比べて、平均的に薄い表皮厚さが観察された。
【0068】
4)瘢痕隆起指数(Scar Elevation Index)の分析
固定されたウサギの耳組織を表皮厚さ分析法と同一にヘマトキシリン・エオジン溶液で染色を進め、染色された組織スライドを50倍率で撮影した。ZEISS ZEN 顕微鏡ソフトウェアを用いて傷痕部位と正常皮膚に対して表皮から軟骨までの長さを測定し、当該結果から瘢痕隆起指数(SEI)を算出した。ここで、瘢痕隆起指数(SEI)は、「傷痕部位で最も厚い地点の表皮から軟骨までの長さ」を「正常皮膚部位の表皮から軟骨までの長さ」で割った値である。
【0069】
図10から分かるように、肥大傷痕が生成された対照群(Control)と溶媒処理群(Vehicle)は、正常皮膚(Normal)に比べて、SEI値が有意に増加したが(p<0.05)、CBM-N1、N3、N5、N9処理群は、対照群および溶媒処理群に比べて、平均的に低いSEI値が観察された。
【0070】
5)コラーゲン密度(Collagen density)の分析
固定されたウサギの耳組織を用いてパラフィンブロックを製作し、3μmの厚さで切片し、組織スライドを製作した。水和過程を経てビーブリッヒ・スカーレット-酸フクシン溶液で5分間染色および洗浄過程を実施した後、さらに、リンタングステン酸/リンモリブデン酸で5分間染色を進めた。
【0071】
次に、アニリンブルー・酢酸溶液で染色を進め、染色された組織スライドを400倍率で撮影した。撮影された写真において全体面積のうち青色で染色された部分、すなわちコラーゲンが占める面積の割合をImage J(The National Institutes of Health,USA)で分析した。
【0072】
図11から分かるように、肥大傷痕が生成された対照群(Control)と溶媒処理群(Vehicle)は、正常皮膚(Normal)に比べて、コラーゲン密度が有意に減少し、CBM-N1、N3、N5、N9処理群は、対照群および溶媒処理群と比較して、平均的にさらに低いコラーゲン密度が観察された。
【0073】
6)評価および分析
図8から分かるように、ウサギの耳の創傷が3週間自然治癒しながら形成された肥大傷痕をCBM-N1、N3、N5、N9化合物で治療した結果、対照群や溶媒処理群に比べて、肥大傷痕のサイズが顕著に減少した。また、
図9、
図10および
図11の試験結果では、CBM-N1、N3、N5、N9化合物を処理した試験群において表皮厚さと瘢痕隆起指数およびコラーゲン密度が相対的に減少した。
【0074】
このような試験結果は、本発明のCBM-N1、N3、N5、N9化合物がコラーゲン密度と表皮厚さを減少させて、結果的に、肥大傷痕の生成を抑制する効能があることを意味する。
【0075】
[結論]
本発明の[化学式1]化合物を代表するCBM-N1~N10化合物は、線維化関連細胞である線維芽細胞、角質細胞、血管内皮細胞において全部類似のレベルで細胞内Ca2+濃度の増加を抑制し、さらには、細胞の増殖とα-SMAおよび細胞外基質であるコラーゲンの合成を抑制する効能を有することが確認された。また、CBM-N1、N3、N5、N9化合物は、ウサギの肥大傷痕モデルで創傷による肥大傷痕の生成を抑制する効能を有することが確認された。
【0076】
現実的条件上、すべての[化学式1]化合物に対して同じ効能試験を実施しない限界があるが、薬物動力学的な経験によれば、前記試験から除外された他の[化学式1]化合物も、前記CBM-N1~N10化合物と同一または類似の薬理作用を示すことが予想される。したがって、本発明による[化学式1]ベンズヒドリルチオアセトアミド化合物は、全部肥厚性瘢痕およびケロイドの生成を効果的に抑制または治療する効能を有するといえる。
【国際調査報告】