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特表2024-528997放射線誘発性唾液機能低下を予防するためのAQP1遺伝子療法
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  • 特表-放射線誘発性唾液機能低下を予防するためのAQP1遺伝子療法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】放射線誘発性唾液機能低下を予防するためのAQP1遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240725BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240725BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20240725BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240725BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240725BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240725BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K38/17
A61K35/76
A61P1/00
A61P43/00 105
A61P39/00
C12N15/12 ZNA
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506727
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 US2022074559
(87)【国際公開番号】W WO2023015269
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】63/229,279
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/297,342
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510002280
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】チオリーニ、ジョン エー.
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン、マシュー ピー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA18
4C084CA25
4C084DC50
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA66
4C084ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZB21
(57)【要約】
電離放射線(IR)で処理する前にアクアポリン-1(AQP1)相補的デオキシリボ核酸(cDNA)を唾液腺に投与することで、その後のIR誘発性機能喪失が予防される。(例えば、頭頸部がん患者における)IR治療の前にAQP1(例えば、ヒトAQP1;hAQP1)を投与すると、IR誘発性唾液機能低下を軽減又は予防することができ、その結果、唾液分泌量が増加する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する方法であって、
(a)アクアポリン(AQP)タンパク質をコードしているベクターを前記対象に投与すること、及び
(b)(a)に続いて電離放射線を前記対象に投与すること、
を含み、
それにより、前記対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する方法。
【請求項2】
対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する方法におけるアクアポリン(AQP)タンパク質をコードしているベクターの使用であって、前記方法が、
(a)アクアポリン(AQP)タンパク質をコードしているベクターを前記対象に投与すること、及び
(b)(a)に続いて電離放射線を前記対象に投与すること、
を含み、
それにより、前記対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する、使用。
【請求項3】
前記ベクターが前記対象の唾液腺に投与される、請求項1に記載の方法又は請求項2に記載の使用。
【請求項4】
AQPタンパク質が、AQP1タンパク質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項5】
前記AQP1タンパク質が、ヒトAQP1タンパク質を含む、請求項4に記載の方法又は使用。
【請求項6】
前記ベクターが、ウイルスベクターを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項7】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクターを含む、請求項6に記載の方法又は使用。
【請求項8】
前記アデノウイルスベクターが、血清型2又は血清型5を含む、請求項7に記載の方法又は使用。
【請求項9】
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む、請求項6に記載の方法又は使用。
【請求項10】
前記AAVベクターが、AAV2、AAV5、AAV6、AAV44.9、又はBAAVを含む、請求項9に記載の方法又は使用。
【請求項11】
前記AAVベクターが、前記AAVベクターを含むビリオンとして投与される、請求項9又は10に記載の方法又は使用。
【請求項12】
前記ビリオンが、AAVビリオンを含む、請求項11に記載の方法又は使用。
【請求項13】
唾液腺の機能が、前記電離放射線を投与する前の唾液腺の機能と等価又は少なくとも等価なレベルで維持される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項14】
前記対象が、ヒト患者である、請求項1~13のいずれかに記載の使用の方法。
【請求項15】
前記患者が、頭頚部がんを有する、請求項14に記載の方法又は使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、参照により援用される、2021年8月4日出願の米国仮特許出願第63/229,279号の利益を主張する。この特許出願はまた、参照により援用される、2022年1月7日出願の米国仮特許出願第63/297,342号の利益を主張する。
【0002】
電子的に提出された文献の参照による援用
本明細書と同時に提出され、以下の通り特定されるコンピュータ読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸配列表は、その全体が参照により本明細書に援用される:2022年8月4日付の「763111.xml」という名称の6,274バイトのファイル。
【背景技術】
【0003】
頭頸部がん患者に対する一般的な治療には、電離放射線(IR)が用いられる。しかし、これら患者にIRを投与すると唾液腺が損傷し、不可逆的なダメージを受け、患者のQOLに悪影響を及ぼす。
【0004】
この状態に対する従来の治療法は存在しない。しかし、放射線療法後にアクアポリン-1(AQP1)をコードしているベクターを投与すると、唾液腺の修復及び再設計に影響を与え得ることが判明した。このプロセスは、幾つかの点では有効であるが、患者にかなりの疼痛及び苦痛を与えることに加えて、口腔の健康にも大きな問題をもたらす場合がある。従って、IR療法が唾液腺に及ぼす悪影響に対抗するために頭頸部がん患者等のIR治療を受けている患者を治療するための改善された法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、驚くべきことに、AQPIをコードしているベクターを照射前に投与することにより、IR療法の有害な影響を軽減又は予防できることが見出された。IRで処理する前にAQP1相補的デオキシリボ核酸(cDNA)を唾液腺に投与することで、その後のIR誘発性機能喪失が予防される。(例えば、頭頸部がん患者における)IR治療の前にAQP1(例えば、ヒトAQP1;hAQP1)を投与すると、IR誘発性唾液機能低下を軽減又は予防することができ、その結果、唾液分泌量が増加する。
【0006】
従って、態様によれば、本発明は、対象における放射線誘発性唾液機能不全(例えば、機能低下)を予防又は軽減するための、AQP1タンパク質をコードしているベクター(例えば、AAVベクター)及びそのようなベクターを含むビリオン(例えば、AAVビリオン)を提供する。対象の放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減するための医薬を調製するためのベクター又はビリオンの使用も提供される。一態様においては、そのようなベクター又はビリオンは、放射線誘発性唾液機能不全から対象を保護するのに有用である。
【0007】
態様によれば、本発明は、対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する方法を提供する。方法は、(a)アクアポリン(AQP)タンパク質をコードしているベクターを対象に投与すること、及び(b)(a)に続いて電離放射線を対象に照射すること、を含み、それにより対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する。一態様においては、唾液腺の機能は、電離放射線を投与する前の唾液腺機能と等価又は少なくとも等価なレベルで維持され得る。
【0008】
AQPタンパク質は、AQP1タンパク質を含むがこれに限定されない任意の好適なAQPタンパク質であり得る。例えば、一態様においては、AQP1タンパク質は、ヒトAQP1(hAQP1)タンパク質であるか又はそれを含む。
【0009】
AQP(例えば、hAPQP1)をコードしているベクターは、ウイルスベクターを含むがこれに限定されない任意の好適なベクターであってもよく、又はそれを含んでいてもよい。例えば、一態様においては、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター(例えば、血清型2又は血清型5のアデノウイルスベクター)であるか又はそれを含む。別の態様においては、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、AAV2、AAV5、AAV6、AAV44.9、又はBAAV)であるか又はそれを含む。
【0010】
ウイルスベクター(例えば、AAVベクター)は、ベクターとして、又はベクター(例えば、AAVベクター)を含むビリオンとして対象に投与してよい。一態様においては、ビリオンは、AAVビリオンであるか又はそれを含む。ベクター又はビリオンは、任意の好適な位置及び任意の好適な投与経路で対象に投与してよい。態様においては、ベクター又はビリオンは、対象の唾液腺に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、AQP1で処理したマウスにおける唾液流量を示すグラフである。唾液流量はマイクロリットル/gm(体重)で提示する。
図2図2は、AQP1で処理したマウスにおける唾液流量を示すグラフである。唾液流量はマイクロリットル/gm(体重)で提示する。
図3図3は、AQP1で処理したマウスにおける唾液流量を示すグラフである。唾液流量はマイクロリットル/gm(体重)で提示する。
図4図4は、シングルセルRNAseqによって解析した唾液腺細胞のヒートマップである。非IRマウス、GFP処理IRマウス、又は前(AQP1 B)若しくは後(AQP1A)にAQP1処理したマウスのいずれかのシングルセルRNAseqのデータを用いてUMAPを作成し、16の異なる細胞クラスターを同定した(y軸)。4つの条件それぞれにおける異なるクラスター間の細胞分布の比較を用いて、ヒートマップを作成した。
図5A-5D】図5A~Dは、マウスの顎下腺の組織学的検査から得られた画像である。画像は、門近傍の各腺のおおよそ同じ領域をスキャンしたスライド全体から撮影された。5×の区切られた挿入図における破線枠は、放射線誘発性の変化、線維化、萎縮、及び炎症を含む特徴を強調するためのものである。図5Aは、照射前のAAV-GFPに対応する。図5Bは、照射前のAAV-AQP1に対応する。図5Cは、照射後のAAV-GFPに対応する。図5Dは、照射後のAAV-AQP1に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、唾液腺(例えば、耳下腺、顎下腺、又は舌下腺)に影響を及ぼすIR治療を受けている対象(例えば、ヒト患者)を、アクアポリン(AQP)タンパク質をコードしているベクターで前処理することを含む方法を提供する。例えば、方法は、頭頸部がん等のがんのIR治療を受けている対象に適用することができる。従って、第1の態様によれば、本発明は、対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する方法であって、(a)アクアポリン(AQP)タンパク質をコードしているベクターを対象に投与すること、及び(b)(a)に続いて電離放射線を対象に照射すること、を含み、それにより対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する方法を提供する。
【0013】
本明細書で使用するとき、AQPタンパク質とも呼ばれるアクアポリンタンパク質は、水の通過を可能にするチャネルを形成する能力等の、例示的なアクアポリンタンパク質(例えば、ヒトアクアポリン(「hAQP」))の活性を示す任意のタンパク質であってもよく、又はそれを含んでいてもよい。AQPのタンパク質、核酸、及び関連ベクターは、当業者に公知であり、非限定的な例としてはその全体が参照により本明細書に援用される米国特許第10,166,299号に記載されている。
【0014】
本発明の文脈におけるAQPタンパク質は、野生型(wt)AQP配列(すなわち、天然のAQPタンパク質と同じアミノ酸配列を有する)を有していてもよく若しくはそれを含んでいてもよく、wt AQPタンパク質の任意の部分であってもよく若しくはそれを含んでいてもよく、又は天然のAQPタンパク質のバリアントであってもよく若しくはそれを含んでいてもよいが、ただし、そのような部分又はバリアントは、水の通過を可能にするチャネルを形成する能力を保持している。本発明のAQPタンパク質の水の通過を可能にするチャネルを形成する能力を判定するためのアッセイは、当業者に公知である(例えば、Lui et al.,Journal of Biological Chemistry,281,15485-15495(2006)を参照、その全体が参照により本明細書に援用される)。
【0015】
一態様においては、本発明の方法において有用なタンパク質は、天然に存在するAQP1タンパク質の全アミノ酸配列を含むAQP1タンパク質である。ヒトAQP1タンパク質の例としては、NCBI参照番号NP_932766.1(配列番号1)、NCBI参照番号NP_001171989.1(配列番号2)、及びNCBI参照番号NP_001171990.1(配列番号3)、及びNP_001171991.1(配列番号4)が挙げられるが、これらに限定されない。マウスAQP1タンパク質の例としては、配列番号5が挙げられるが、これに限定されない。
【0016】
本発明で使用するためのAQPのタンパク質、核酸、及び関連ベクターの例は、本明細書及び米国特許第10,166,299号に記載されており、その全体が参照により援用される。
【0017】
一態様においては、AQP1タンパク質は、AQP1タンパク質のアミノ酸配列の一部を含み、AQP1タンパク質のそのような部分は、水の通過を可能にするチャネルを細胞膜に形成する能力を保持している。AQP1タンパク質には幾つかのアイソフォームが存在する。従って、一態様においては、AQP1タンパク質は、AQPタンパク質のアイソフォームであるか又はそれを含み、そのようなアイソフォームは水の通過を可能にするチャネルを形成する能力を保持している。一態様においては、AQP1タンパク質は、AQP1タンパク質のアイソフォーム又は他の天然に存在するバリアントの一部であるか又はそれを含み、そのような部分は、水の通過を可能にするチャネルを膜に形成する能力を保持している。AQP1タンパク質の機能的部分及びバリアント、例えば保存的バリアントを生成する方法は、当業者に公知である。
【0018】
また、遺伝子操作によって変化したAQP1タンパク質バリアントも本発明に包含される。このようなバリアントに関しては、バリアントが本明細書に記載される少なくとも1つのAQP1タンパク質活性を保持している限り、アミノ酸配列のいかなる種類の変化も許容可能である。このような多様性の例としては、アミノ酸の欠失、アミノ酸の挿入、アミノ酸の置換、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、そのタンパク質の活性に著しい影響を与えることなく、タンパク質のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端から1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)のアミノ酸を除去できる場合が多いことは、当業者によく理解されている。同様に、タンパク質の活性に著しい影響を与えることなく、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)のアミノ酸をタンパク質に挿入できる場合も多い。
【0019】
前述のように、本発明の単離されたバリアントタンパク質は、本明細書に開示される野生型AQP1タンパク質と比較してアミノ酸置換を含有することもできる。タンパク質の活性に著しい影響を与えない限り、いかなるアミノ酸置換も許容可能である。この点に関して、アミノ酸はその物理的性質に基づいてグループに分類できることが当技術分野では理解されている。このようなグループの例としては、荷電アミノ酸、非荷電アミノ酸、極性非荷電アミノ酸、及び疎水性アミノ酸等が挙げられるが、これらに限定されない。置換を含む好ましいバリアントは、アミノ酸が同じグループのアミノ酸で置換されたものである。このような置換は、保存的置換と呼ばれる。
【0020】
当業者であれば、そのような置換が望まれる時点で所望のアミノ酸置換(保存的であろうと非保存的であろうと)を決定することができる。例えば、アミノ酸置換を使用して、AQP1タンパク質の重要な残基を同定したり、本明細書に記載されるAQP1タンパク質の親和性を増大若しくは低下させたりすることができる。従って、一態様においては、AQP1タンパク質バリアントは、本明細書に記載されるAQP1タンパク質(例えば、配列番号1~5)に対する少なくとも1つの(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、又はそれらの値の任意の範囲)アミノ酸置換(例えば、保存的置換)を含む。一態様においては、AQP1タンパク質は、本明細書に記載のAQP1タンパク質(例えば、配列番号1~5)と少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0021】
本発明のタンパク質は、本明細書に開示される配列及びその開示されるバリアントのみからなっていてもよいが、そのようなタンパク質は、AQP1活性を付与しないが他の有用な機能を有するアミノ酸配列を更に含有し得る。追加の配列が水の通過を可能にするチャネルを形成するタンパク質の能力に望ましくない影響を与えることのない限り、単離されたタンパク質配列に任意の有用な追加のアミノ酸配列を付加してもよい。例えば、本発明の単離されたタンパク質は、ペプチドの可視化又は精製に有用なアミノ酸配列を含有し得る。このような配列は、標識(例えば酵素)又はタグ(例えば抗体結合部位)として作用する。このような標識及びタグの例としては、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、グルタチオン-s-トランスフェラーゼ、チオレドキシン、HISタグ、ビオチンタグ、及び蛍光タグ等が挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質を標識又はタグ付けするための他の有用な配列は、当業者に公知である。
【0022】
上記の修飾に加えて、本発明の単離されたタンパク質は、そのような修飾が水の通過を可能にするチャネルを形成するタンパク質の能力に著しい影響を与えない限り、更に修飾されてもよい。そのような修飾は、例えば、タンパク質の安定性、溶解性、又は吸収性を高めるために行ってよい。そのような修飾の例としては、ペプチドのペグ化、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリスチル化、パルミトイル化、アミド化、及び/又は他の化学修飾が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
AQP1タンパク質は、機能的なAQP1タンパク質を発現する任意の種に由来していてよい。AQP1タンパク質は、ヒト又は他の哺乳動物のAQP1タンパク質の配列又はその一部を含み得る。更なる例としては、マウス、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、若しくは他のコンパニオンアニマル、他の動物園動物、又は他の家畜のAQP1タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。一態様においては、AQP1タンパク質は、ヒトAQP1タンパク質のアミノ酸配列又はその一部を含む。別の態様においては、AQP1タンパク質は、マウスAQP1タンパク質のアミノ酸配列又はその一部を含む。
【0024】
一態様においては、AQP1タンパク質は融合セグメントに接合され、そのようなタンパク質はAQP1融合タンパク質と呼ばれる。そのようなタンパク質は、AQP1タンパク質ドメイン(本明細書ではAQP1ドメインとも呼ばれる)及び融合セグメントを含む。融合セグメントは、AQP1タンパク質の特性を向上させることができる任意のサイズのアミノ酸セグメントである。例えば、本発明の融合セグメントは、AQP1融合タンパク質の安定性を増大させる、柔軟性を付加する、又はAQP1融合タンパク質の多量体化を強化若しくは安定化することができる。融合セグメントの例としては、免疫グロブリン融合セグメント、アルブミン融合セグメント、並びにタンパク質の生物学的半減期を延長する、タンパク質に柔軟性を与える、及び/又は多量体化を強化若しくは安定化する任意の他の融合セグメントが挙げられるが、これらに限定されない。1つ以上の融合セグメントを使用することは、本開示の範囲内である。融合セグメントは、本発明のAQP1タンパク質のアミノ末端及び/又はカルボキシル末端に接合させてよい。本明細書で使用するとき、「接合」とは、遺伝子工学技術を用いた結合によって組み合わせることを指す。そのような態様においては、2つのコード配列がインフレームであり、転写産物が連続融合タンパク質を形成するように、AQP1タンパク質をコードしている核酸分子を、融合セグメントをコードしている核酸分子に物理的に連結させる。一態様においては、AQP1タンパク質を融合セグメントに直接接合させてもよく、又はAQP1タンパク質を1つ以上のアミノ酸のリンカーによって融合セグメントに連結させてもよい。
【0025】
本明細書に記載のAQP1タンパク質(例えば、AQP1融合タンパク質)をコードしている核酸分子(ポリヌクレオチド)もまた、本発明の態様として提供される。核酸分子は、DNA、cDNA、及び/又はRNAを含んでいてよく、一本鎖又は二本鎖であってよく、天然、合成、及び/又は組換えであってよい。
【0026】
ポリヌクレオチドは、ヌクレオチドの類似体又は誘導体(例えば、イノシン又はホホロチオエートヌクレオチド等)を含み得る。コード配列のサイレント変異は、遺伝暗号の縮重(すなわち、冗長性)に起因し、それによって、1つを超えるコドンが同じアミノ酸残基をコードすることができる。従って、例えば、CTT、CTC、CTA、CTG、TTA、又はTTGがロイシンをコードすることができ;TCT、TCC、TCA、TCG、AGT、又はAGCがセリンをコードすることができ;AAT又はAACがアスパラギンをコードすることができ;GAT又はGACがアスパラギン酸をコードすることができ;TGT又はTGCがシステインをコードすることができ;GCT、GCC、GCA、又はGCGがアラニンをコードすることができ;CAA又はCAGがグルタミンをコードすることができ;TAT又はTACがチロシンをコードすることができ;ATT、ATC、又はATAがイソロイシンをコードすることができる。
【0027】
ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドと、細胞へのポリヌクレオチドの送達及び/又は細胞内でのポリヌクレオチドの発現を可能にするエレメントとを含むコンストラクトの一部として提供され得る。例えば、AQP1をコードしているポリヌクレオチド配列は、発現制御配列に動作可能に連結され得る。コード配列に動作可能に連結された発現制御配列は、発現制御配列に適合する条件下でコード配列が発現するようにライゲーションされる。発現制御配列としては、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードしている遺伝子の前にある開始コドン(すなわちATG)、イントロンのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能にする遺伝子の正しい読み枠の維持、及び停止コドン等が含まれるが、これらに限定されない。好適なプロモーターとしては、SV40初期プロモーター、RSVプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトCMV最初期I型プロモーター、ポックスウイルスプロモーター、30Kプロモーター、I3プロモーター、sE/Lプロモーター、7.5Kプロモーター、40Kプロモーター、及びC1プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
AQP1又は融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写に基づく増幅系(TAS)、自己持続配列複製系(3SR)、及びQOE≦レプリカーゼ増幅系(QB)等のインビトロ法によってクローニング又は増幅することができる。例えば、ジンクフィンガータンパク質をコードしているポリヌクレオチドは、分子のDNA配列に基づくプライマーを用いたcDNAのポリメラーゼ連鎖反応によって単離することができる。多種多様なクローニング及びインビトロ増幅の方法論は当業者に周知である。
【0029】
本発明で使用するためのベクターとしては、プラスミド(例えば、DNAプラスミド)、細菌ベクター、及びウイルスベクター、例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ポックスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、及びアルファウイルスベクターが挙げられる。ベクターがプラスミド(例えば、DNAプラスミド)である場合、プラスミドをキトサンと複合体化してもよい。
【0030】
一態様においては、ベクターは、アデノウイルスベクター(例えば、血清型2又は血清型5)又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等のウイルスベクターであるか又はそれを含む。そのようなAAVベクターは、AAV1ベクター、AAV2ベクター、AAV3ベクター、AAV4ベクター、AAV5ベクター、AAV6ベクター、AAV7ベクター、AAV8ベクター、AAV9ベクター、AAV10ベクター、AAV11ベクター、AAV12ベクター、AAV44.9(その全体が本明細書に援用される米国特許出願公開第2018/0355376号及び前述の米国特許第10,166,299号に記載)、AAAVベクター、及びBAAVベクターから選択することができ、このようなベクターはいずれも、本明細書に記載されるAQP1タンパク質をコードしている。
【0031】
一態様においては、AAVベクターは、AAV2ベクター、AAV5ベクター、AAV6ベクター、又はBAAVベクターであるか又はそれを含み、それぞれのベクターは、本明細書に記載のAQP1タンパク質をコードしている。一態様においては、AAVベクターは、AAV ITRと、AQP1タンパク質をコードしている核酸分子に動作可能に連結されたCMVプロモーターと、を含む。
【0032】
AQP1タンパク質をコードしているプラスミドベクターも提供される。そのようなプラスミドベクターはまた、AAV ITR等の制御領域、AQP1タンパク質をコードしている核酸分子に動作可能に連結されたプロモーター、1つ以上のスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結部位を含んでいてもよい。そのようなプラスミドベクターはまた、通常、薬物耐性をコードしている核酸分子と共に、多数の制限酵素部位を含む。
【0033】
また、本発明は、AAVビリオンを提供する。本明細書で使用するとき、AAVビリオンは、AAVカプシドにカプシド形成された本発明のAQP1タンパク質をコードしているAAVベクターを含む。AAVカプシドの例としては、AAV1カプシド、AAV2カプシド、AAV3カプシド、AAV4カプシド、AAV5カプシド、AAV6カプシド、AAV7カプシド、AAV8カプシド、AAV9カプシド、AAV10カプシド、AAV11カプシド、AAV12カプシド、AAV44.9カプシド、AAAVカプシド、BAAVカプシド、及び当業者に公知の他のAAV血清型由来のカプシドが挙げられる。一態様においては、カプシドは、キメラカプシド、すなわち1つを超える血清型由来のVPタンパク質を含むカプシドである。本明細書で使用するとき、本発明のAAVビリオンの血清型は、VPカプシドタンパク質によって付与される血清型である。例えば、AAV2ビリオンは、AAV2 VP1、VP2、及びVP3のタンパク質を含むビリオンである。ビリオンが唾液腺の腺管細胞又は腺房細胞に効率的に形質導入できる限り、任意のAAVビリオンを用いて本発明の方法を実施することもできる。
【0034】
一態様においては、AAVビリオンは、AAV2ビリオン、AAV5ビリオン、AAV6ビリオン、及びBAAVビリオンから選択され、ビリオン内のAAVベクターはAQP1タンパク質をコードしている。
【0035】
本明細書で開示するAAVベクター及びAAVビリオンの生成に有用な方法は、当業者に公知である。簡潔に述べると、本発明のAAVベクターは、例えば制限酵素消化、ライゲーション、PCR増幅等の当業者に公知の技術を用いることによって、本明細書に記載の通り対象となる核酸配列を単離し、互いに接合させるために組換えDNA又はRNA技術を用いて生成することができる。本発明のAAVビリオンを生成する方法は、通常、(a)本発明のAAVベクターを宿主に導入すること、(b)ヘルパーベクターを宿主細胞に導入することであって、該ヘルパーベクターがAAVベクターから失われたウイルス機能を備えていること、及び(c)ヘルパーウイルスを宿主細胞に導入すること、を含む。AAVベクターの複製及びAAVビリオンへのパッケージングを達成するためには、AAVビリオンの複製及びパッケージングのための全ての機能が存在する必要がある。幾つかの例では、ヘルパーベクターによってコードされるウイルス機能のうちの少なくとも1つが宿主細胞によって発現され得る。ベクター及びヘルパーウイルスの導入は、標準的な技術を用いて行うことができ、同時又は連続的に行うことができる。次いで、宿主細胞を培養してAAVビリオンを生成し、次いで、CsCl勾配等の標準的な技術を用いて精製する。残存するヘルパーウイルス活性は、熱不活化等の公知の方法を用いて不活化することができる。そのような方法では、通常、使用できる状態の高力価の高度に精製されたAAVビリオンが得られる。
【0036】
特定の血清型のAAVベクターは、同じ血清型のカプシドにパッケージングすることができる。例えば、AAV2ベクターはAAV2カプシドにパッケージングすることができる。他の例では、得られたビリオンの向性を変更するために、特定の血清型のAAVベクターを異なる血清型のカプシドにパッケージングする。当業者であれば、AAVベクターの血清型とAAVカプシドの血清型との組み合わせを決定することができる。
【0037】
本発明で使用するためのベクターは、発現制御配列に適合する条件下でコード配列の発現が達成されるように、コード配列に動作可能に連結された発現制御配列を含み得る。発現制御配列としては、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードしている遺伝子の前にある開始コドン(すなわちATG)、イントロンのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能にする遺伝子の正しい読み枠の維持、及び停止コドン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書で使用するとき、「エンハンサー」という用語は、例えば、それが動作可能に連結されるヌクレオチド配列の転写を増加させるDNA配列を指す。エンハンサーは、ヌクレオチド配列のコード領域から何キロベースも離れて位置していてもよく、調節因子の結合、DNAメチル化のパターン、又はDNA構造の変化を媒介することができる。様々な異なる供給源からの多数のエンハンサーが当技術分野において周知であり、(例えば、ATCC等の寄託機関、並びに他の商用又は個人の供給源から)クローニングされたポリヌクレオチドとして又は該ポリヌクレオチド内で入手可能である。プロモーターを含むポリヌクレオチド(一般的に使用されているCMVプロモーター等)の多くは、エンハンサー配列も含む。エンハンサーは、コード配列の上流、内、又は下流に位置し得る。例えば、ポリペプチドをコードしているヌクレオチドは、CMVエンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモーター(「CAGプロモーター」とも呼ばれる)に動作可能に連結され得る。更に、ベクターは、ベクターのトランスフェクション/形質導入効率を特定するためのレポーターをコードしている核酸配列を含み得る。
【0039】
AQPタンパク質をコードしているベクター(例えば、AAVベクター)を含む組成物も提供される。AQP1タンパク質をコードしているAAVベクターを含むAAVビリオンを含む組成物も提供される。そのような組成物は、担体(例えば、薬学的又は生理学的に許容される担体)を含み得る。例えば、そのような組成物は、生理学的に適合するバッファ等の水溶液を含み得る。組成物に含まれる賦形剤の例としては、水、生理食塩水、リンゲル液、及び他の生理学的平衡塩水溶液が挙げられる。幾つかの態様においては、例えば粒子の安定性を維持するため又は凝集を防ぐために賦形剤が添加される。そのような賦形剤の例としては、当業者に公知の粒子の安定性を維持するためのマグネシウム、粘着性を低下させるためのプルロン酸、凝集を低減するためのマンニトール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
組成物は、対象への投与に適した形態で製剤化するのが好都合である。そのような組成物を製剤化する技術は、当業者に公知である。例えば、本発明のベクター(例えば、AAVベクター)又はビリオンは、生理食塩水又は他の薬学的に許容される溶液と組み合わせることができる。幾つかの態様においては、賦形剤も添加される。別の態様においては、ベクター(例えば、AAVベクター)又はビリオンを含む組成物を乾燥させ、投与前に生理食塩水又は他の薬学的に許容される溶液を組成物に添加してよい。
【0041】
更に、ベクター又はビリオンは、単独で又は医薬製剤の一部として、本明細書に記載の方法において使用することができる。
【0042】
組成物(例えば、医薬組成物)は、1つ以上の他の追加の治療剤を含んでいてもよい。組成物において使用するのに好適であり得るそのような追加の治療薬の例としては、遺伝子治療剤、抗炎症剤、フリーラジカルスカベンジャー、放射線防護剤、並びに唾液の産生を増加させる剤又は薬物が挙げられる。
【0043】
ウイルスベクター(例えば、AAVベクター)は、ベクターとして、又はベクター(例えば、AAVベクター)を含むビリオンとして対象に投与してよい。一態様においては、ビリオンは、AAVビリオンである。ベクター又はビリオンは、任意の好適な位置及び任意の好適な投与経路で対象に投与してよい。態様においては、ベクター又はビリオンは、対象の唾液腺に投与される。
【0044】
本明細書で使用するとき、放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減するベクター又はビリオンの能力とは、放射線誘発性唾液機能不全を完全に又は部分的に排除するそのようなベクター又はビリオンの能力を指す。例えば、唾液流量に関して、本発明の方法は、そのような流量を正常個体(すなわち、放射線が投与されていない個体)で観察される値の70%、80%、85%、90%、95%、又は100%に戻すことができる。
【0045】
本開示は、ベクター又はビリオンを対象に投与することを含む方法であって、そのような投与によって、放射線照射後にそのような対象の唾液腺機能が維持される方法を提供する。本明細書で使用するとき、ベクター又はビリオンが投与された対象において唾液腺機能が維持されるとは、放射線投与後の唾液腺機能が、放射線投与前のその対象における唾液腺機能と等価(又は少なくとも等価)であることを意味する。例えば、ベクター又はビリオンが投与された対象への照射後、対象の唾液腺機能は悪化せず、照射前の機能と等価(又は少なくとも等価)である。本発明の態様においては、方法は、(a)電離放射線で処理されていない対象にAQPタンパク質をコードしているベクターを投与すること、及び(b)(a)に続いて電離放射線を対象に投与することと、を含み、それにより対象における放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する。
【0046】
本明細書で使用するとき、「対象」には、ヒト及び他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、他のコンパニオンアニマル、他の動物園動物、実験動物(例えばマウス)、及び家畜が含まれる。
【0047】
ベクター又はビリオンは、様々な経路で投与することができる。幾つかの態様においては、ベクター又はビリオンは、エアロゾルによって投与される。幾つかの態様においては、ベクター又はビリオンは、粘膜に投与される。幾つかの態様においては、ベクター又はビリオンは、組織又は臓器に直接投与される。幾つかの態様においては、ベクター又はビリオンは、唾液腺(例えば、耳下腺、顎下腺、又は舌下腺)に投与される。
【0048】
本発明はまた、放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減するためのエクスビボ法を提供する。そのような方法は、ベクター又はビリオンを対象の体外の細胞、組織、又は臓器に投与し、次いで、その細胞、組織、又は臓器を体内に入れることを含み得る。そのような方法は、当業者に公知である。
【0049】
態様においては、本発明は、AQP1タンパク質をコードしているAAVベクターでトランスフェクトされた細胞(例えば、唾液腺細胞)、組織、又は臓器を提供する。細胞(例えば、唾液腺細胞)、組織、又は臓器(例えば、耳下腺、顎下腺、又は舌下腺等の唾液腺)は、照射を計画中であるか若しくは照射を受けた対象のものであってもよく、又はエクスビボの細胞、組織、若しくは臓器であってもよい。
【0050】
ベクター、ビリオン、又はその組成物(例えば、医薬組成物)は、単独で、又は1つ以上の他の追加の治療剤と組み合わせて投与することができる。好適であり得るそのような追加の治療薬の例としては、遺伝子治療剤、抗炎症剤、フリーラジカルスカベンジャー、放射線防護剤、並びに唾液の産生を増加させる剤又は薬物が挙げられる。
【0051】
有効である(すなわち、放射線誘発性唾液機能不全を予防又は軽減する)ように対象に投与される本明細書に開示される組成物の用量は、対象の状態、投与方法、及び処方する医師の判断に依存する。例示的な用量は、対象1キログラム当たりビリオン粒子約10個~1キログラム当たりビリオン粒子約1012個の範囲であり得る(例えば、10個、10個、10個、10個、10個、10個、1010個、1011個、1012個、及びそれらの範囲)。好ましい用量は、1キログラム当たりビリオン粒子約10個~1キログラム当たりビリオン粒子約1012個の範囲である。より好ましい用量は、1キログラム当たりビリオン粒子約10個~1キログラム当たりビリオン粒子約1012個の範囲である。
【0052】
例示的な用量は、腺1グラム当たりビリオン粒子約10個~腺1グラム当たりビリオン粒子約1012個の範囲であり得る(例えば、約10個、10個、10個、10個、10個、10個、1010個、1011個、1012個、又はそれらの範囲)。
【0053】
幾つかの態様においては、用量は腺を満たすのに必要な流体の量によって決定される。ベクターと細胞との接触が生じるためには、ベクターを細胞に導入するために腺を流体で満たさなければならない。IR患者の場合、体積は、萎縮及び線維化に応じて、約500μL~約2.5mLの範囲である(例えば、以下の通り)、500μL、600μL、700μL、800μL、900μL、1mL、1.1mL、1.2mL、1.3mL、1.4mL、1.5mL、1.6mL、1.7mL、1.8mL、1.9mL、2mL、2.1mL、2.2mL、2.3mL、2.4mL、2.5mL、又はそれらの範囲)。
【実施例
【0054】
以下の実施例は本発明を更に説明するが、無論、決してその範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0055】
実施例1
この実施例は、IR治療の前後にAQP1をコードしているベクター(AAVベクター)を投与することで、唾液腺機能が促進されることを実証する。
【0056】
全てのマウス実験は、米国国立歯科頭蓋顔面研究所(NIDCR)動物飼育使用委員会の承認を得た。8週齢の雌性C3Hマウス(国立がん研究センター動物実験施設)を用いた。照射(IR)の10日前又は2ヵ月後に、7~8頭のC3Hマウスの群を、GFP、AQP1、ニュールツリン、又はAAV2-AQP1+AAV2-ニュールツリンの組み合わせのいずれかをコードしているAAV2ベクターで処理した。
【0057】
具体的には、処理群は、IR10日前又はIR60日後にAAV2-GFP(1010vp/g)又はAAV2-hAQP1(1010又は10vp/g)又はAAV2NRTN(10、10、又は1010vp/g)を注射することを含んでいた。ベースライン唾液(非IR)は、ベクターの送達又はIRの前に採取したものであった。唾液腺に照射するために、各動物を特別に作られたルーサイト製治具に入れた。この治具は麻酔薬を使用せずに動物を固定し、頭頸部にのみIRを行うことを可能にする。
【0058】
Therapax DXT300 X線照射装置(Pantak)を用いて5回に分けてマウスに照射した(6Gy/日、5日間)。IR後、動物を治具から取り出し、気候及び採光が制御された環境に収容し(1ケージあたり5頭)、餌及び水に自由にアクセスできるようにした。ウイルスベクターを顎下腺に送達するために、マウスをケタミン(60mg/kg)及びキシラジン(8mg/kg)で筋肉内麻酔し、その後、ベクターを管後方に注入することにより両顎下腺に送達した。カニューレ挿入中は、形質導入効率を高めるために、0.5mg/kgのアトロピンを筋肉内に適用して唾液の分泌を抑制した。
【0059】
唾液を採取するために、マウスを上記のように麻酔した後、唾液分泌を刺激するために体重1kg当たり0.25mgのピロカルピンを皮下注射した。75mmヘマトクリット管(Drummond)を用いて1.5mLの予め秤量したエッペンドルフチューブに20分間全唾液を採取し、直ちに凍結させた。10ヵ月後、マウスを二酸化炭素室で殺処分し、分析のために腺を摘出した。実験開始前にマウスから唾液を採取した(ベースライン/非IR)。結果を図1~3に提示する。
【0060】
結果は、AAV2-GFP処理マウスと比較して、AAV2-AQP1処理は、IR前に投与した場合唾液流量の喪失を防ぐことができた、又はIR後に唾液流量の回復を惹起することができた(p<.01)ことを示した(図1~3参照)。対照的に、ニュールツリンは唾液流量の喪失を防ぐことしかできず、実質的な回復を惹起することはできなかった。更に、2つのベクターを組み合わせても相乗効果はなく、AAV2AQP1ベクター単独をIRの前又は後に投与して達成されるレベルを超えて唾液流量が実質的に増加した。
【0061】
これら結果は、IR処理前後にAAV-AQP1を投与すると唾液腺機能が促進されることを裏付けている。
【0062】
本発明以前は、AQP1発現によって流体移動のための促進された経路を形成するためにAQP1遺伝子療法には安定した上皮細胞が必要であるというのが従来の理解であった。AQP1の臨床試験では、患者はIR処理後少なくとも2年間経過している必要があった。IR処理後の細胞のターンオーバー及びリモデリングは著しいので、IR処理後に形質導入された細胞からAQP1 AAV DNAが失われ(すなわち、持続しない)、従って流体移動のための促進された経路を形成できないであろうと予想される。例えば、Malik et al.,J.Virol.,71(3):1776-1783(1997))には、AAVは非分裂細胞でのみ持続することができ、分裂集団では経時的に失われることが教示されている。Li et al.,Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.,62(5):1510-1516(2005))には、IR後に腺が著しくリモデリングされ、その変化に続いて機能が喪失することが教示されている。更に、Vitolo et al.,Oral Diseases,8:183-191(2002))には、AQP1遺伝子療法が腺の修復のためであるのに対し、他のアプローチは腺に対するIR損傷を予防するためであることが教示されている。Vitoloらはまた、唾液腺はゆっくりと分裂する細胞集団であり、唾液腺ではAAVの形質導入が持続し得ることも開示している。
【0063】
従って、本発明以前は、AQP1遺伝子療法はIR後の唾液腺のように変化及びリモデリングする環境では持続しないため、AQP1遺伝子療法はIR誘発性機能低下に対する予防アプローチとは考えられていなかった。しかし、本明細書に記載されているように、IR処理の前後にAAV-AQP1を投与することにより唾液腺機能が促進されるという本明細書に開示される発明は、驚くべきであり、かつ予想外である。
【0064】
実施例2
この実施例は、IR前後の唾液流の機序を特徴付けるものである。
【0065】
非IRマウス、GFP処理IRマウス、又は前(AQP1B)若しくは後(AQP1A)にAQP1処理したマウスのいずれかのシングルセルRNAseqのデータを用いてUMAPを作成し、16の異なる細胞クラスターを同定した。4つの条件それぞれにおける異なるクラスター間の細胞分布の比較を用いて、図4のヒートマップを作成した。
【0066】
AQP1Bは、非IRと同じクレードにみられるが、GFP及びAQP1Aは、互いにかつAQP1B/非IRクレードとは別のクレードにある。この結果は、AQP1AとAQP1Bとの間で細胞集団が異なることを示唆している。更に、AQP1Bにおける細胞型をベースとする分布のクレード構成は、非IRに最も類似しているが、AQP1Aはこの群及びIR効果GFP群とは異なるクレードを形成している。
【0067】
これら結果は、IRの前に投与された場合、唾液流量は腺の保護の結果であるが、IRの後に投与された場合、唾液流量の回復は、異なる細胞集団及び環境において可能であることを裏付けている。
【0068】
実施例3
この実施例は、照射前にAAV-AQP1を投与すると、照射後にAAV-AQP1を投与した場合に比べて病理学的変化が少ないことを実証する。
【0069】
マウスの顎下腺の組織学的評価を行った。照射前にAAV-GFPを投与したマウス(図5A)、照射前にAAV-AQP1を投与したマウス(図5B)、照射後にAAV-GFPを投与したマウス(図5C)、及び照射後にAAV-AQP1を投与したマウス(図5D)の画像を、門近傍の各腺のおおよそ同じ領域をスキャンしたスライド全体から撮影した。腺の全体的な形態学的変化をH&E染色で評価した。
【0070】
0~3の採点スコアを用いて、切片の萎縮、線維化、及び免疫浸潤を評価した。全体として、全てで萎縮及び線維化が増加していた。また、腺内胚中心形成を伴う炎症が増加し、腺カプセル内に反応性リンパ節が存在していた。多核腺房細胞の数が増加し、幾つかの管過形成の領域もみられた。
【0071】
しかし、処理後群の平均スコアは2.2±0.75点、処理前群は1.5±0.54点であった(p>0.05)。従って、IR処理後群では、IR処理前群と比較して、より顕著な病理学的変化を示す傾向があった(図5A~D)。
【0072】
これら結果は、AQP1をコードしているベクターを照射前に投与すると、AQPIをコードしているベクターを照射後に投与した場合に観察される有害な影響が軽減されることを裏付けている。
【0073】
本明細書に引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参照文献は、各参照文献が個々にかつ具体的に参照によって援用されると示されており、その全体が本明細書に記載されているかのように、参照によって本明細書に援用される。
【0074】
本発明の説明に関連して(特に以下の特許請求の範囲に関連して)用語「a」及び「an」及び「the」及び「少なくとも1つ」、並びに類似の参照対象の使用は、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、単数形及び複数形の両方を網羅すると解釈されるべきである。1つ以上の項目のリストの後の用語「少なくとも1つ」の使用(例えば、「A及びBのうちの少なくとも1つ」)は、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、列挙される項目から選択される1つの項目(A又はB)又は列挙される項目のうちの2つ以上の任意の組み合わせ(A及びB)を意味すると解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」は、特に断らない限り、オープンエンドな用語である(すなわち、「含むがこれらに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において他の指定がない限り、単に、範囲内の各別個の値を個々に参照する省略法として機能することを意図し、各別個の値が、本明細書に個々に列挙されているかのように明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書に提供される任意の及び全ての例又は例示的な表現(例えば、「等」)の使用は、特に主張しない限り、単に本発明をより深く解明することを意図し、本発明の範囲の限定を提起するものではない。明細書中の表現はいずれも、任意の請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すと解釈されるべきではない。
【0075】
本発明を実施するための本発明者らに公知の最良の形態を含む本発明の好ましい実施形態が、本明細書に記載される。好ましい実施形態の変形は、前述の記載を読んだときに当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者がこのような変形を適宜使用すると予想し、そして、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されているのとは別の方法で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、準拠法によって認められている通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に列挙される発明主題の全ての変形及び等価物を含む。更に、その全ての可能な変形における上記要素の任意の組み合わせは、本明細書において他の指定がない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、本発明によって包含される。
【0076】
生物学的配列
本明細書では以下の配列を参照する:
配列番号1:
1 masefkkklf wravvaefla ttlfvfisig salgfkypvg nnqtavqdnv kvslafglsi
61 atlaqsvghi sgahlnpavt lglllscqis ifralmyiia qcvgaivata ilsgitsslt
121 gnslgrndla dgvnsgqglg ieiigtlqlv lcvlattdrr rrdlggsapl aiglsvalgh
181 llaidytgcg inparsfgsa vithnfsnhw ifwvgpfigg alavliydfi laprssdltd
241 rvkvwtsgqv eeydldaddi nsrvemkpk

配列番号2:
1 mpgarplplv lvpqntlawm qldakapahp rplqllgrvg pgsrqladgv nsgqglgiei
61 igtlqlvlcv lattdrrrrd lggsaplaig lsvalghlla idytgcginp arsfgsavit
121 hnfsnhwifw vgpfiggala vliydfilap rssdltdrvk vwtsgqveey dldaddinsr
181 vemkpk

配列番号3:
1 mfwtfgyeav spagpshlfa slllgvllti tfmpgarplp lvlvpqntla wmqldakapa
61 hprplqllgr vgpgsrqlad gvnsgqglgi eiigtlqlvl cvlattdrrr rdlggsapla
121 iglsvalghl laidytgcgi nparsfgsav ithnfsnhwi fwvgpfigga lavliydfil
181 aprssdltdr vkvwtsgqve eydldaddin srvemkpk

配列番号4:
1 mqsgmgwnvl dfwladgvns gqglgieiig tlqlvlcvla ttdrrrrdlg gsaplaigls
61 valghllaid ytgcginpar sfgsavithn fsnhwifwvg pfiggalavl iydfilaprs
121 sdltdrvkvw tsgqveeydl daddinsrve mkpk

配列番号5
1 maseikkklf wravvaefla mtlfvfisig salgfnyple rnqtlvqdnv kvslafglsi
61 atlaqsvghi sgahlnpavt lglllscqis ilravmyiia qcvgaivata ilsgitsslv
121 dnslgrndla hgvnsgqglg ieiigtlqlv lcvlattdrr rrdlggsapl aiglsvalgh
181 llaidytgcs inparsfgsa vltrnfsnhw ifwvgpfigg alavliydfi laprssdftd
241 rmkvwtsgqv eeydldaddi nsrvemkpk
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】