(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】肛門失禁の予防及び治療のための最適化された方法で使用される筋原性前駆細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20240725BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240725BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K35/12
A61P21/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507119
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2022072088
(87)【国際公開番号】W WO2023012334
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524046766
【氏名又は名称】インノヴァセル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーナー,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】マークシュタイナー,ライナー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BC03
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA81
(57)【要約】
本発明は、対象における肛門失禁の予防及び/又は治療方法において使用するための筋原性前駆細胞(MPC)であって、前記対象が肛門失禁を発症する危険性があるか又は肛門失禁に20年以下、より好ましくは約6ヶ月~約20年又は約6ヶ月~約10年患っている、筋原性前駆細胞(MPC)に関する。本発明はまた、本発明による肛門失禁の予防及び/又は治療方法に使用するための、MFCと、医薬的に許容される賦形剤及び/又は担体とを含む医薬組成物にも言及する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における肛門失禁の予防及び/又は治療のための方法における使用のための筋原性前駆細胞(MPC)であって、前記対象が肛門失禁を発症するリスクにある又は20年以内、より好ましくは約6か月から約20年間若しくは約6か月から10年間、肛門失禁を患っていることを特徴とする、筋原性前駆細胞(MPC)。
【請求項2】
前記対象の肛門失禁又は肛門失禁の発症リスクが筋肉損傷によって惹起されることを特徴とする、請求項1に記載のMPC。
【請求項3】
前記対象が、治療の前に1週間当たり6回を超える、好ましくは7回を超える、好ましくは8回を超える、好ましくは9回を超える、又は好ましくは10回を超える失禁エピソードとして定義される失禁の重症度を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用のためのMPC。
【請求項4】
前記対象が、治療前にほとんど又はそれ以上と分類される週2回を超える失禁エピソードとして定義される失禁の重症度を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項5】
前記MPCが、前記対象の肛門括約筋内又は肛門括約筋組織に隣接して、好ましくは外肛門括約筋内、内肛門括約筋内及び/又は恥骨直腸筋内に投与されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項6】
前記方法が、MPCの投与前及び/又は投与後に肛門括約筋組織を刺激することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項7】
刺激が、MPCの投与後の少なくとも2週間の肛門括約筋組織の刺激、より好ましくはMPCの投与前後の少なくとも2週間の肛門括約筋組織の刺激を含むことを特徴とする、請求項6に記載の使用のためのMPC。
【請求項8】
前記刺激が、ケーゲル運動及び/又は経皮的電気刺激によって行われることを特徴とする、請求項6又は7に記載のMPC。
【請求項9】
前記経皮電気刺激が毎日、好ましくは1日当たり少なくとも2回又は少なくとも3回行われる、請求項8に記載の使用のためのMPC。
【請求項10】
各刺激が少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも20分間であることを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項11】
(i)CD56及びCD90のマーカーの陽性発現によって、特にMPCの少なくとも60%がCD56を発現し、筋原性前駆細胞の少なくとも60%がCD90を発現することによって、及び/又は
(ii)約20mU
rel~約1000mU
rel、より好ましくは約30mU
rel~約800mU
rel、より好ましくは約50~約700mU
relのAChE活性によって測定され、前記AChE活性が2×10
5細胞当たりで測定されること
で特徴付けられる、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項12】
約60~約99.9%のMPCが細胞マーカーCD56を発現し、約80~約99.9%のMPCが細胞マーカーCD90を発現し、約0~約10%のMPCが細胞マーカーCD34を発現することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項13】
前記方法が、好ましくは
(i)約1億~約2億MPC、約4000万~約6,000万MPC、約400万~約600万MPC、又は約4,000万~約6,000万MPCの投与、及び/又は
(ii)約1×10
2mU
rel_
total~約1×10
6mU
rel_
total、より好ましくは約1×10
3mU
rel_
total~約5×10
5mU
rel_
totalのAChE活性を有する量のMPCの投与、10
5mU
rel_
total、さらにより好ましくは約7×10
4mU
rel_
total~約2×10
5mU
rel_
totalの合計AchE活性を有する量のMPCの投与
のMPCの有効量の投与を含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項14】
前記MPCが、前記対象の肛門括約筋内及び/又はその近傍への1回以上の注射によって、好ましくは外肛門括約筋、、内肛門括約筋及び/又は恥骨直腸筋への1回以上の注射によって投与されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のためのMPC。
【請求項15】
対象における肛門失禁の予防及び/又は治療のための方法に使用するための、MPCと薬学的に許容される添加剤及び/又は担体とを含む医薬組成物であって、前記対象が肛門失禁を発症するリスクがあるか、又は20年間以内、より好ましくは約6か月間から約20年間、若しくは約6か月間から約10年間肛門失禁を患っている、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、対象における肛門失禁の予防及び/又は治療のための方法において使用するための筋原性前駆細胞(MPC)に関し、前記対象は、肛門失禁を発症する危険性があるか、又は20年以下、より好ましくは約6か月~約20年間、又は約6か月~約10年間、肛門失禁を患っている。本発明はまた、本発明による肛門失禁の予防及び/又は治療のための方法で使用するための、MPC及び薬学的に許容される添加剤及び/又は担体を含む医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
肛門失禁とその疫学
自制心を維持する能力は、社会的存在としての私たちの幸福の基礎である。肛門の随意調節の喪失は、身体的、生理的、社会的ハンディキャップをもたらす。
一般に、肛門失禁は主に高齢者や障害者が患うと考えられているが、これらの症状はあらゆる年齢層に発生する可能性がある。肛門失禁の範囲、つまり腸の内容物の制御不能の範囲は、下着に残る小さな便の跡(痕跡)から放屁の喪失、軟便又は固形便の制御不能な排便という大規模なエピソードまで多岐にわたる。その理由は多層的かつ複雑である可能性がある。罹患者の生活の質が極度に損なわれているとは関係なく、肛門随意調節の障害は公衆衛生システムにとって過小評価できないコスト要因となる。米国では、肛門失禁支援プログラムに年間4億ドル以上が費やされている。さらに、肛門失禁は、老人ホームに入院する理由として2番目に多い(認知症よりも多い)。老人ホームや病院にいる高齢者の3分の1が便失禁をしている。
【0003】
肛門失禁の解剖学と生理学
肛門の随意調節に必要な解剖学的構造は、肛門内画像技術の可能性により、過去10年間にさらに詳細に研究された。これにより、肛門随意調節のメカニズムと、肛門随意調節の維持に関与する要因についての理解も深まった。肛門の随意調節には、異なる生理学的機能を備えた異なる解剖学的構造の調整が必要である。損傷を受けていない感覚は、直腸の充満状態の認識と便の質の認識を保証する。機能的な神経支配により、特殊なリング状の筋肉(括約筋)が増大する肛門の「閉鎖要求」に適切な方法で(自発的及び非自発的に)応答できるようになる。最後に、括約筋が無傷であれば、排便が適切になるまで肛門管を完全に閉塞する。これらの構造の1つが機能不全に陥ると、肛門の随意調節の障害をもたらす。括約筋組織の機能は、平滑筋組織からなる肛門内側の肛門括約筋(内肛門括約筋)の不随意安静圧と、肛門外側の肛門括約筋(外肛門括約筋)から生じる不随意安静圧及び随意絞り圧に基づいている。恥骨直腸筋の一定のベースライン緊張により、肛門管と直腸の間に90°の角度を形成する結合に向かう肛門直腸移行部の「歪み」が生じる。この肛門直腸の角度は、肛門の随意調節の維持にも貢献する。しかし、恥骨直腸筋だけでは随意調節を維持することは不可能である。肛門の随意調節はさらに、内外肛門括約筋の相互作用によってもたらされる。括約筋によって締めつけられた肛門管粘膜の直腸のクッションは、最終的に気密な閉塞をもたらす。安静状態では、肛門管は外肛門括約筋の一定の強張性活動と内肛門括約筋のベースライン静止圧力によって閉塞される。内肛門括約筋は、結腸の円形平滑筋層の延長及び拡大であり、閉じた肛門管のベースライン圧力の約75~85%を提供する。この平滑筋成分の活動は、直腸の拡張、いわゆる直腸肛門抑制反射によって完全に阻害される。この弛緩には、外肛門括約筋と恥骨直腸筋の反射収縮が伴い、不適切な場合には排便が妨げられる。その時点で排便が都合よければ、外肛門括約筋と恥骨直腸筋が弛緩し、結腸直腸の不随意運動活動が引き起こされ、その結果肛門圧よりも直腸圧が大きくなり、その後便が排出される。便意が生じたときに排便が不都合な場合は、恥骨直腸筋と外肛門括約筋を自発的に収縮させ、排便が都合よくなるまで便を直腸内に押し戻すことで排便を延期することができる。
【0004】
肛門失禁の原因
これらの構造の機能不全が失禁につながるため、随意調節に関する記載された構造の重要性が強調される。肛門失禁を患う患者のほとんどは、肛門括約筋の異常と診断される。これらの異常は、外肛門括約筋、内肛門括約筋、又はその両方で発生する可能性がある。括約筋関連の失禁は、(1)産科又は偶発的な外傷、(2)手術や放射線治療などの医原性外傷、(3)多発性硬化症や糖尿病などの神経原性疾患、又は(4)加齢に伴う筋萎縮によって引き起こされる可能性がある。産科外傷は、経膣分娩の最大9%が肛門括約筋の破裂につながるため、女性の失禁の主な原因である。
【0005】
肛門失禁の治療
食事の変更、バイオフィードバック運動、下痢止め薬などの保存的治療が失敗したり、治療が不十分に成功したり、重度の解剖学的生理学的又は神経学的機能不全のためにそもそも実行できなかった場合、患者は侵襲的治療に紹介される。従来の侵襲的治療には、括約筋に欠陥がある場合には肛門括約筋の修復と再作成(括約筋形成術、人工肛門括約筋、薄膜形成術)などの外科的アプローチ、又は完全な脊髄損傷により失禁が発生した場合には人工肛門造設術や順行性抑制浣腸などの外科的アプローチが含まれる。しかし、括約筋修復のための従来の外科的アプローチは失敗率が50%と高く、新しい括約筋を作製する外科的アプローチは罹患率が高くなる。失禁に対する侵襲性の低い治療法の1つは、肛門管の圧力を高めると考えられている増量剤の肛門周囲注射である。単一のランダム化偽対照試験では、NASHA Dx(ヒアルロン酸で安定化されたデキストラノマー)の注射が偽注射よりも有意に良好な治療結果をもたらすことが分かった。詳細には、偽治療を受けた患者の32%と比較して、患者の52%では1週間当たりの失禁エピソードが少なくとも50%減少したことが判明した。しかし、完全に随意調節的であることが判明した患者はわずか6%であり、現在までに入手可能な有効性データは最大6か月の短期効果のみをカバーしている。また、増量剤が患者の生活の質に及ぼす影響は限られていることが指摘された。したがって、肛門失禁に対するより効果的な治療が必要とされている。過去 20年間に、神経調節は失禁の治療選択肢として注目を集めたが、その中で仙骨神経刺激(SNS)が有効性の点で最も有望なものになった。SNS療法は、神経筋機能を改善するために仙骨神経に慢性的な低電圧電気刺激を使用する医療機器(例:Interstim、メドトロニック、米国)の埋め込みに基づいているが、作用機序(MoA;mode of action)はまだ不明である。成功率は、SNS後の1週間当たりの失禁頻度(IEF)が少なくとも50%減少した患者の割合として定義され、61件の試験と短期(12か月未満)、中期(12~36か月)及び長期(>36か月)の成功率の中央値から集約され、それぞれ63%、58%、54%であることが確認された。しかし、スクリーニングされた患者の13.1%はテスト刺激に反応しなかったため、永久埋め込みは受けられず、長期追跡調査に含まれた患者の約25%は合併症(技術的又は感染症)又は効力の損失のために刺激装置の解釈を受けた。
【0006】
失禁は主に直腸の筋肉組織の欠損/弱さによって引き起こされるため、筋肉再生の動物モデルは筋肉内注射された細胞が宿主の筋肉内に生着することを示唆しており、筋肉由来の細胞の注射による腹圧性尿失禁の治療に関する初期の臨床試験は有望であると考えられた。細胞療法によって肛門括約筋を再生するというアイデアが生まれた(Frudingerら、2009)。しかし、失禁治療のための細胞療法の市場承認、ひいては広範な適用を可能にするためには、治療法の有効性がプラセボ効果よりも優れている必要があり、必要な対象に十分な利益及び/又は完全な寛解が得られるという点で臨床的に関連性がある必要がある。1週間当たりの失禁エピソードの少なくとも50%の減少の効果は、臨床的に関連があると考えられる。方法が有用であるためには、プラセボ治療を受けた患者と比較して、細胞療法治療を受けた患者の割合が有意に高く、方法が効果的であるとみなすためには、そのような減少が必要である。
【0007】
上記で概説したように、失禁は多くの異なる原因、病歴、重症度を伴う非常に複雑な状態であるため、特定の方法から恩恵を受ける最も適切な患者集団を選択する必要がある。治療法ごとに、重要で関連性のある治療効果を達成するためのターゲットとなる患者集団が異なる可能性がある。
【0008】
EP210976B1は、直腸損傷を患っている対象の外肛門括約筋に筋芽細胞を注射することによる肛門失禁の予防及び治療のための筋芽細胞の使用方法を開示している。WO2014/044867A1は、骨格筋由来細胞の投与による、尿失禁及び/又は肛門失禁、あるいは尿失禁又は肛門失禁を発症するリスクのある女性及び男性に対する治療方法を開示している。WO2019/115790は、失禁の治療に使用するための骨格筋由来細胞を開示している。WO2020/193460は、対象における疾患又は障害を治療する方法に使用するための誘導平滑筋細胞を開示している。便失禁の治療における筋肉細胞の潜在的な有効性をテストするために臨床研究が実施されたが、プラセボ効果と比較してこれらの方法の優れた効果は実証されなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した先行技術に鑑みてなされたものである。したがって、本発明の1つの目的は、肛門失禁の予防及び/又は治療のために筋原性前駆細胞を使用する効果的な方法を提供することである。
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、一部の対象では筋原性前駆細胞の注射が全く効果を示さないか、あるいはほとんど効果がなかった一方、他の対象では筋原性前駆細胞の注射により対象の状態が大幅に改善されたことを発見した。
【0011】
上述の開示はいずれも、失禁の広範な適応症の範囲内で、肛門失禁の改善された予防/治療のために筋原性前駆細胞の投与に最終的に適格である狭義の患者集団を選択するものではない。したがって、本発明の基礎となる目的は、個別化された治療アプローチの状況において、筋原性前駆細胞の注射によって効果的に治療され得る対象のグループを同定することであった。本発明の別の目的は、肛門失禁のより効果的な治療をもたらす、肛門失禁の予防及び/又は治療のための筋原性前駆細胞の使用のための最適化された方法を提供することである。
【0012】
上述の開示はいずれも、失禁に関連する対象の状態、失禁の期間、及び/又は失禁の重症度に従って患者集団を選択するものではない。したがって、本発明の別の目的は、肛門失禁の予防及び/又は治療のための筋原性前駆細胞の使用方法において、失禁に関連する対象の状態、失禁の持続時間及び/又は失禁の重症度に従って患者集団を選択することを提供することである。
【0013】
上述の開示はいずれも、肛門失禁の予防及び/又は治療のための安全かつ有効な細胞数を選択するものではない。したがって、本発明の1つの目的は、肛門失禁の予防及び/又は治療のための筋原性前駆細胞の使用方法における特定の細胞用量を選択することである。
【0014】
さらに、上述の開示はいずれも、肛門失禁の予防及び/又は治療のための筋原性前駆細胞の使用方法に付随する最適化された刺激を選択していない。したがって、本発明の別の目的は、肛門失禁の予防及び/又は治療のための筋原性前駆細胞の使用方法において最適化された付随刺激を選択することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、特許請求の範囲で定義される主題によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下の図は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに実証するために含まれている。本発明は、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つ又は複数を参照することによって、よりよく理解され得る。
【0017】
【
図1】
図1は、包括解析(ITT)集団における治療群(低細胞数-LCC、高細胞数-HCC、プラセボ-PBO)における実施例5の研究期間にわたる、ベースライン(A、B)からの1週間当たりの失禁エピソード頻度(IEF)の変化(A、B)及び50%反応率(C、D)を示す。ここで、痕跡として分類されたエピソードは分析のためにカウントされるか(A、C)、又は除外される(B、D)。
【
図2】
図2は、実施例5による、ベースラインから治療後12ヶ月までの1週間当たりのIEFの変化(A、B)及び治療後12ヶ月における50%反応率(C、D)を示し、それぞれ(A、C)を含めるか除外する(B,D)ことによって計算される各々が失禁エピソードとしてカウントされたことから明らかにされる。実施例6の対象選択に従って、異なる患者集団における治療群(PBO、LCC、HCC)間でデータを視覚化した。TPP1と呼ばれる実施例6で定義された異なる患者集団は、10年以下の便失禁に患っている患者である。TPP2は、ベースラインで2回を超えるエピソードを患い、少量又はより多量と分類される患者である。TPP3は、10年以下の便失禁と、ベースラインで1週間当たり2回を超えるIEFで少量以上と分類される患者である。NR1は10年以上便失禁(FI)に患っている患者であり、NR2は「少量」又は「より多量」に分類される2回以下の失禁エピソード(IE)を患っている患者である。PBOとLCC又はHCCを比較する両側ウィルコクソン検定(A、B)又はフィッシャーの正確確率検定(C、D)のp値がp<0.05の有意しきい値に達した場合は常にp値が示される。
【
図3】
図3は、実施例1によって単離され、実施例2に従って分化能について試験された筋原性前駆細胞の位相差顕微鏡画像を示す。倍率600倍で筋管が見え、複数の核(黒い矢印)が含まれており、それによって単核MPCの相互に融合する潜在能力が実証されている。
【
図4】
図4は、実施例5に従って実施された臨床研究の概要を示す。評価されたパラメータを含む研究通院、及びデータ収集のタイムラインがAに示されている。治療の割り当ては、Bの数字(N)で示される。QoL=生活の質、V=通院、VAS=視覚的アナログスケール、WIE=1週間当たりの失禁エピソード、CGI=床全体的な印象スケール。
【
図5】
図5は、実施例1に従って単離され、実施例2に従ってインビトロ分化した後、実施例3に従ってAChE活性について測定されたMPCを含有するLCC(A)及びHCC(B)バッチのアセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性を集約するチューキーの箱ひげ図を示す。活性は、2×10
5細胞当たりの相対mUとして示される。LCCバッチ(n=83)は、36~568の範囲の241.90±151.90の平均±SD AChE活性を保有することが判明した。HCCバッチ(n=75)は、49~680の範囲の213±137.40の平均±SD AChE活性を保有することが判明した。
【
図6】
図6は、実施例1に従って調製され実施例4による表面マーカーの試験された、低細胞数(LCC、n=83)(A)及び高細胞数(HCC、n=75)製剤のいずれかの表面細胞マーカーCD34、CD56及びCD90に対して陽性であるMPCのパーセンテージを示す。データはチューキーの棒グラフとして視覚化される(外れ値は点として見える)。すべてのLCC及びHCCバッチはCD34陰性であることが判明した(LCCについては1.29±1.37、HCCについては1.10±0.90の平均±SDで%CD34陽性)。すべてのLCC及びHCCバッチはCD56陽性であることが判明した(LCCについては92.06±6.73、HCCについては89.86±7.06の平均±SDで%CD56陽性)。すべてのLCC及びHCCバッチはCD90陽性であることが判明した(LCCについては94.00±5.00、HCCについては94.99±4.52%の平均±SDで%CD90陽性)。
【
図7】
図7は、ベースラインのIEF(痕跡を含む)の数の増加に従ってさらにサブグループ化したITTセット患者における、治療群(PBO、LCC、HCC)間のベースラインから治療後6ヵ月までのIEFの変化を示している。データは平均値±SEMとして可視化した。ベースラインから6ヵ月後までのIEFの変化は、全群でベースラインIEFの低い患者を連続的に除外することにより増加したが、LCCおよびHCCではPBO患者よりも顕著であった。
【
図8】
図8は、ITT、TPP1、TPP2、TPP3、NR1およびNR2の患者集団において、LCCまたはHCCとPBO治療とを、失禁エピソードとして痕跡を考慮する(A、C)か考慮しない(B、D)かのいずれかで比較することにより算出した、ベースラインから治療後12ヵ月までのIEFの効果量(コーエンのd)(A、B)、および治療後12ヵ月における50%レスポンダー率のオッズ比(C、D)をそれぞれ示している。
【
図9】
図9は、TPP3セット患者および肛門括約筋損傷に関連した便失禁を有する患者(TPP3_損傷)のみを選択するためにさらにサブグループ化したTPP3患者における、治療群(PBO、LCC、HCC)間のベースラインから治療後12ヶ月までのIEFの変化(A、B)および50%レスポンダー率(C、D)を示している。データは、失禁エピソードとしての痕跡を含むもの(A、C)、または痕跡を含まないもの(B、D)のいずれかで示した。データは平均値±SEMで示した。LCCまたはHCCとPBOを比較した両側ウイルコクソン順位和検定のP値がα誤差0.05未満であることをIEFの変化について示した。LCCまたはHCCとPBO治療の反応率を比較したフィッシャーの正確検定のP値は、0.05未満の場合に示した。
【
図10】
図10は、TPP3およびTPP3_損傷患者集団において、LCCまたはHCCとPBO治療とを、失禁エピソードとして痕跡を考慮するか(A、C)、考慮しないか(B、D)のいずれかで比較することにより算出した、ベースラインから治療後12ヵ月までのIEFの効果量(コーエンのd)(A、B)、および治療後12ヵ月における50%レスポンダー率のオッズ比(C、D)をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[用語と定義]
本明細書で使用する「肛門失禁」という用語は、放屁、液体又は固体の糞便など、肛門を通した腸内容物の望ましくない喪失を指す。この用語は、3つの重症度グレードすべてで構成される:グレード1は気体のみ、グレード2は液体及び軟便、グレード3は固体で形成された便である。
【0019】
本明細書で使用される「肛門括約筋」又は「肛門括約筋組織」という用語は、好ましくは、肛門挙筋及び肛門括約筋の一部としての肛門括約筋及び恥骨直腸筋を指す。ただし、恥骨尾骨筋、尾骨筋、腸骨尾骨筋及び陰部神経も含まれる場合がある。
【0020】
本明細書で使用される「便失禁」という用語は、好ましくは、液体又は固体の糞便に限定される、肛門を通した腸内容物の望ましくない喪失を指す。この用語は、「肛門失禁」の重症度グレード:グレード2=液体及び軟便、グレード3=固形の形成された便を含む場合がある。
【0021】
本明細書で使用される用語「筋原性前駆細胞」又は短的に「MPC」は、好ましくは、筋原性潜在性を有する細胞を指し、これは、筋肉組織に由来する初代細胞及び/又はインビトロ培養細胞であり得、あるいは、例えば脂肪組織又は他の幹細胞を含む組織、例えば骨髄などからのものであるが、これらに限定されない筋原性潜在性が由来する他の細胞に関する。この用語はまた、多能性幹細胞である細胞、又は単離及び培養して筋肉細胞になるか、又は筋肉組織内又は筋肉組織に隣接する投与後に筋肉細胞になることができる多能性幹細胞に由来する細胞を含む。筋原性前駆細胞は、好ましくは筋肉組織の単離によって得られるため、「筋原性前駆細胞」という用語は、いくつかの異なる細胞型の懸濁液を指す場合もあり、前記細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、又は少なくとも99%が本明細書で定義される「筋原性前駆細胞」である。好ましくは、前記懸濁液は単一細胞の懸濁液であり、前記単一細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、又は少なくとも99%が同じ細胞型の均一であり、すなわち筋原性前駆細胞である。本明細書で定義される筋原性前駆細胞に加えて、前記懸濁液は、脂肪組織、軟骨形成組織、骨形成組織、及び/又は線維形成組織起源の細胞などの他の細胞型も含み得る。そのような細胞は、間葉細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、及び/又はプロセス関連不純物であり得る、及び/又は筋原性前駆細胞と一緒に単離され得る他の任意の細胞型であり得る。そのような細胞は、筋原性前駆細胞懸濁液の最大1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、又は50%を含み得る。
【0022】
「筋原性の潜在力」という用語は、好ましくは、細胞(a cell)、細胞(cells)、又は細胞集団が筋組織を発達、再生、及び/又は増強する潜在力を指す。本明細書で使用される筋原性の潜在力はさらに、インビトロで多核筋管に分化し、及び/又は酵素的に活性なアセチルコリンエステラーゼを発現する細胞(a cell)、細胞(cells)又は細胞集団の潜在力に関連し得る。
【0023】
本明細書で使用される「穿通」という用語は、好ましくは、注射プロセスにまだ影響を与えることなく、注射装置、例えば針を体組織に導入するプロセスを指す。
【0024】
本明細書で使用される「注射」という用語は、好ましくは、注射装置から人体内の特定の部位、特に肛門の失禁をもたらす筋肉組織内又は筋肉組織に隣接して(例:肛門括約筋組織)、上記の細胞を放出する注射溶液の放出を指す。注射プロセスは、静的注入であってもよいが、これに限定されない。すなわち、注射装置は到達した位置に留まる。前記静的注射プロセスは、好ましくは、注射溶液の排出中、前記注射装置が静止している、すなわち、排出された注射溶液に対して動かない注射プロセスを指す。代替的に、注射プロセスは動的であってもよい。前記動的注射プロセスは、好ましくは、注射溶液の排出中に、前記注入装置が動的である、すなわち、排出された注射溶液に対して移動する注射プロセスを指す。動的注射プロセスは、例えば、中空針を移動させることによって実行され得る。外肛門括約筋内で針の軌道を逆方向に通過し、それによって同時に注射液が排出される。あるいは好ましくは、本明細書で使用される「注射」という用語は、細胞を肛門括約筋組織に隣接させるのに適した任意の投与経路を指す。このような投与経路は、好ましくは、経口、局所、静脈内、又は動脈内投与を含む。
【0025】
本明細書で使用される「注射部位」という用語は、好ましくは、注射プロセスが開始され得る人体内の部位、例えば肛門失禁に近い部位又は筋肉組織に近い部位を指すが、これに限定されない。注射部位は、注射プロセスが終了する部位と同一であってもよく、同一でなくてもよい。
【0026】
本明細書で使用される「注射装置」という用語は、対象の注射部位に到達し、前記注射側に溶液、特に筋原性前駆細胞を含む溶液を対象の注射部位に送達するためにヒト組織を穿通するのに適した任意の装置を含む。
【0027】
本明細書で使用される「受動失禁」という用語は、好ましくは、便の喪失の感覚認識の欠如を指す。これには、肛門の基準圧力値が低いこと、及び肛門及び直腸の粘膜の感覚能力が欠如していることが含まれる。
【0028】
本明細書で使用する「切迫性尿失禁」又は「切迫性切迫感」という用語は、好ましくは、排便衝動の認識後5分以上排便を遅らせる能力が欠如していることを指す。このような患者は、すぐにトイレに行かなければならない、及び/又は、腸内容物をトイレに排泄するのに十分な早さでトイレに行くことができず、その結果、不随意の排便が生じる。
【0029】
本明細書で使用される「CD56+」又は「CD56陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーCD56を発現する細胞を指す。「CD56+」又は「CD56陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントがCD56細胞マーカーを発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0030】
本明細書で使用される用語「CD56-」又は「CD56陰性」は、好ましくは、細胞マーカーCD56を発現しない細胞を指す。「CD56-」又は「CD56陰性」という用語は、好ましくは多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1又は0パーセントの細胞集団が細胞マーカーCD56を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0031】
本明細書で使用される用語「A2B5+」又は「A2B5陽性」は、好ましくは、細胞マーカーA2B5を発現する細胞を指す。「A2B5+」又は「A2B5陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーA2B5を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0032】
本明細書で使用される用語「A2B5-」又は「A2B5陰性」は、好ましくは、細胞マーカーA2B5を発現しない細胞を指す。「A2B5-」又は「A2B5陰性」という用語は、好ましくは多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1又は0パーセントの細胞集団が細胞マーカーA2B5を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0033】
本明細書で使用される「デスミン陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーであるデスミンを発現する細胞を指す。「デスミン陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーデスミンを発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0034】
本明細書で使用される「デスミン陰性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーであるデスミンを発現しない細胞を指す。「デスミン陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1又は0パーセントが細胞マーカーデスミンを発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0035】
本明細書で使用される「CD105+」又は「CD105陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーCD105を発現する細胞を指す。「CD105+」又は「CD105陽性」という用語は、好ましくは、細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーCD105を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0036】
本明細書で使用される用語「CD105-」又は「CD105陰性」は、好ましくは、細胞マーカーCD105を発現しない細胞を指す。「CD105-」又は「CD105陰性」という用語は、好ましくは多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1又は0パーセントの細胞集団が細胞マーカーCD105を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0037】
本明細書で使用される「CD34+」又は「CD34陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーCD34を発現する細胞を指す。「CD34+」又は「CD34陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーCD34を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用され得る。
【0038】
本明細書で使用される用語「CD34-」又は「CD34陰性」は、好ましくは、細胞マーカーCD34を発現しない細胞を指す。「CD34-」又は「CD34陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の50%未満、又は多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1若しくは0パーセントが細胞マーカーCD34を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。特に好ましい実施形態では、「CD34-」又は「CD34陰性」という用語は、好ましくは多くとも19、10、5、4、3、2、1又は0パーセントの細胞マーカーCD34を発現する場合、異なる細胞を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0039】
本明細書で使用される「CD90+」又は「CD90陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーCD90を発現する細胞を指す。「CD90+」又は「CD90陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーCD90を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0040】
本明細書で使用される「CD90-」又は「CD90陰性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーCD90を発現しない細胞を指す。「CD90-」又は「CD90陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の50%未満、又は多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1若しくは0パーセントが細胞マーカーCD90を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0041】
本明細書で使用される「Tuj1+」又は「Tuj1陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーTuj1を発現する細胞を指す。「Tujl+」又は「Tujl陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーTuj1を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0042】
本明細書で使用される用語「Tuj1-」又は「Tuj1陰性」は、好ましくは、細胞マーカーTuj1を発現しない細胞を指す。「Tujl-」又は「Tujl陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の50%未満、又は多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1若しくは0パーセントが細胞マーカーTuj1を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0043】
本明細書で使用される「ネスチン+」又は「ネスチン陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーであるネスチンを発現する細胞を指す。「ネスチン+」又は「ネスチン陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントがその細胞マーカーネスチンを発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0044】
本明細書で使用される「ネスチン-」又は「ネスチン陰性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーであるネスチンを発現しない細胞を指す。「ネスチン-」又は「ネスチン陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の50%未満、又は多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1若しくは0パーセントが細胞マーカーネスチンを発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0045】
本明細書で使用される用語「Sca-1+」又は「Sca-1陽性」は、好ましくは、細胞マーカーSca-1を発現する細胞を指す。「Sca-1+」又は「Sca-1陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーSca-1を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0046】
本明細書で使用される「Sca-1-」又は「Sca-1陰性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーSca-1を発現しない細胞を指す。「Sca-1-」又は「Sca-1陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の50%未満、又は多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1、若しくは0パーセントが細胞マーカーSca-1を発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0047】
本明細書で使用される「MyoD+」又は「MyoD陽性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーMyoDを発現する細胞を指す。「MyoD+」又は「MyoD陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが、細胞マーカーMyoDを発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0048】
本明細書で使用される「MyoD-」又は「MyoD陰性」という用語は、好ましくは、細胞マーカーMyoDを発現しない細胞を指す。「MyoD-」又は「MyoD陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の50%未満、又は多くとも49、40、30、20、10、5、4、3、2、1若しくは0パーセントが発現する場合、異なる細胞型を含む細胞集団に対しても使用することができる。
【0049】
本明細書で使用される「分化培地」という用語は、好ましくは、多核融合コンピテント細胞又は筋原性前駆細胞、例えば筋芽細胞で融合を誘導する細胞培養培地を指す。しかし、この用語は、多核融合コンピテント細胞又は筋原性細胞がそれぞれの誘導なしに融合できる場合、融合の誘導に必要な物質を含まない細胞培養培地を指す場合もある。
【0050】
本明細書で使用される「細胞増殖培地」という用語は、好ましくは、インキュベーション容器(フラスコ又はディッシュ)の表面上に前記哺乳動物細胞を付着させることができる、筋原性前駆細胞などの哺乳動物細胞のインキュベーションに適した任意の培地を指す。
【0051】
本明細書で使用される「失禁エピソード」又は「IE」という用語は、好ましくは、直腸を通る液体又は固体の糞便が制御されず、予期せず、及び/又は不本意に失われる事象を指す。失禁のエピソードは、「痕跡」、「少量」、又は「より多量」に分類できる。この分類は、患者に日記を記入してもらうことによって行うことができ、これにより失禁事象が発生した日時を追跡することができ、できれば失禁のサイズ及び/又は量を分類することができる。前記日記は、好ましくは少なくとも1週間、より好ましくは約1~約4週間、約1~約3週間、又は約1~約2週間保存される。
【0052】
本明細書で使用される「1週間当たりの失禁エピソードの頻度」は、「1週間当たりのIE頻度」とも言われ、「1週間当たりのIEF」とも言われ、好ましくは、7日間の期間に正規化され次のように計算される28日間の期間中に発生した失禁エピソードの数を指す:
1週間当たりのIEF=(期間中に報告された失禁エピソード数/期間中に完結した日数)x7
【0053】
本明細書において「痕跡」として分類される失禁のエピソードは、好ましくは、液体又は固体の糞便が対象の直腸から予期せず漏出し、そのため糞便の量が非常に少ないため、リネンの汚れ又は跡として現れる肛門失禁のエピソードに相当する。このような「痕跡」は、その量が下着のリネンに吸収されるため、患者が下着を交換する必要がない場合がある。
【0054】
本明細書で使用される「レスポンダー」という用語は、好ましくは、2つの失禁日記を比較することによって計算された1週間当たりのIEFが少なくとも50%減少している患者を指し、そのうちの1つの日記は特定の介入(例えば本発明による筋原性前駆細胞の使用のための方法)前の特定の期間中に記入されたもおのであり、及び、1つは特定の介入後の特定の期間中に記入されたものである。介入前及び/又は介入後のそのような期間は、好ましくは1週間、より好ましくは2週間、さらにより好ましくは3週間、さらにより好ましくは4週間である。
【0055】
本明細書において「少量」として分類される失禁エピソードは、好ましくは、対象の直腸から液体又は固体の便が予期せず漏れ、その便の量が対象のリネンに汚れや跡として現れる以上の量の肛門失禁のエピソードを指す。しかし、その量は通常の排便の結果と比較するとほんのわずかである。そのようなエピソードでは、その量がリネンに効率的に吸収されず不快感を引き起こすため、患者は下着を交換する必要がある場合がある。
【0056】
本明細書で「より多量」として分類される失禁エピソードは、好ましくは、液体又は固体の糞便が対象の直腸から予期せず漏出し、そのため糞便の量が対象のリネンに汚れや跡として現れる以上の量である可能性がある肛門失禁のエピソードを指す。その量は、通常の排便で生じる量に匹敵する可能性がある。そのようなエピソードでは、下着と二次衣類の両方が影響を受け、重度の不快感につながるため、好ましくは患者は両方を交換する必要がある。
【0057】
本明細書で使用される「増分圧搾圧力」という用語は、好ましくは、最大肛門圧搾圧力から肛門安静圧力を差し引いた結果に相当する。
【0058】
本明細書で使用される「失禁に関連する状態」という用語は、好ましくは、肛門失禁を発症する危険性がある対象又は肛門失禁を発症した対象を検査するときに得られる医師の結果に相当する。そのような対象は、筋肉損傷及び/又は筋萎縮の状態を定義するために、例えば超音波及び/又は圧力測定による検査によって、肛門括約筋組織について検査される可能性がある。さらに、検査者は、骨盤底機能不全、神経損傷、又は貯蔵能力の喪失などの状態が、肛門失禁を発症するリスクと関連しているのか、又は発症した肛門失禁と関連しているのかを検討する可能性がある。失禁に関連する症状として分類されるものには、下痢や便秘もある。
【0059】
本明細書で使用される「骨盤底機能不全」という用語は、好ましくは、対象が排尿又は排便のために骨盤底の筋肉を正しく弛緩させ調整することができない状態に相当する。骨盤底機能不全の影響を受ける骨盤底臓器は、膀胱、子宮、膣、前立腺、直腸などである。排尿痛、失禁、又はトイレに行きたいという一貫した切迫感は、骨盤底機能不全の兆候である可能性がある。
【0060】
本明細書で使用される用語「筋肉損傷」は、好ましくは、肛門括約筋組織の筋肉の欠損に相当する。このような筋肉の損傷は、肛門括約筋を視覚化するために超音波又はその他の有用な検査技術を実施するときに医師によって検出される場合がある。このような筋肉の損傷は、例えば外肛門括約筋及び/又は内肛門括約筋に影響を与える可能性がある。超音波で見える筋肉損傷の典型的な例は、出産時の括約筋破裂後の瘢痕形成である。
【0061】
本明細書で使用される用語「筋萎縮」又は代替的に「萎縮」は、好ましくは、肛門括約筋の筋肉量の減少に相当する。このような筋肉量の減少は、筋肉細胞間の結合組織及び/又は脂肪組織の沈着を伴う可能性がある。筋萎縮は、加齢や筋肉が使われないままになっているときに発生することがある。医師は、例えば超音波によって、肛門括約筋組織の筋萎縮を検出できる可能性がある。
【0062】
本明細書で使用される用語「神経損傷」は、好ましくは、通常は肛門括約筋組織を機能的に支配し、括約筋組織の一部である神経組織の機能の欠如に相当する。そのような神経は、陰部神経及び/又は陰部神経につながる神経であり得る。この用語はさらに、失禁に関連する可能性のある神経組織の欠損に相当する場合がある。
【0063】
本明細書で使用される「貯蔵能力の喪失」という用語は、好ましくは、直腸の許容容積の異常に相当する。手術、炎症、又は放射線療法により直腸が硬くなり、正常な弾力性を失った場合、貯蔵能力の喪失が発生する可能性がある。直腸の貯蔵能力の喪失は、直腸の伸長(stretch)(すなわち伸長(elongate))能力の欠如につながり、その結果、直腸を通って過剰な便が漏れる結果となる。
【0064】
本明細書で使用される「失禁の持続時間」という用語は、好ましくは、失禁の発症日又は診断日から経過した時間に相当する。失禁の発症日は、好ましくは、症状の発症日、すなわち失禁エピソードの最初の発生日と一致する。失禁の診断日は、好ましくは、医師が患者を失禁と診断した日付に相当する。前記失禁の診断日は、好ましくは、症状の発症日と同一であるか、あるいは代替的に症状の発症日よりも遅い。便失禁の場合、「失禁の継続時間」という用語は、「FIの継続時間」又は「失禁の継続時間」と言われることもある。失禁の診断から失禁の継続時間が測定される場合、「失禁の継続時間」という用語は「FIの最初の診断からの時間」を指す場合もある。
【0065】
本明細書で使用される「失禁の重症度」という用語は、好ましくは、肛門失禁を発症した対象の負担の量に相当する。このような重症度は、1週間当たりの失禁エピソードの数、患者の生活に対する失禁の影響、便失禁の生活の質スコア及び/又はウェクスナースコアによって表現される場合がある。好ましくは、ウェクスナースコアは、Jorgeら、1993の表3に開示されている排便・排尿の随意調節の評価尺度に相当する。
【0066】
本明細書で使用される「刺激する」という用語は、好ましくは、筋肉の収縮をもたらす肛門括約筋組織に対して行われる任意の動作に相当する。本明細書で使用される刺激は、肛門括約筋の自発的収縮を含むか、又は電気刺激によって実行され得る。後者は、肛門括約筋を支配する神経を刺激することによって、又は外肛門括約筋及び/又は内肛門括約筋などの肛門括約筋を直接刺激することによって実行され得る。
【0067】
本明細書で使用される「含む」という用語は、「からなる」(すなわち、追加の他の物質の存在を除く)という意味に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、「含む」は、任意選択で追加の物質が存在し得ることを意味する。「含む」という用語は、その範囲内に含まれる特に想定される実施形態として、「からなる」(すなわち、追加の他の物質の存在を除く)及び「含むが~からならない(すなわち、追加の他の物質の存在を必要とする)」を包含し、前者が、より好ましい。
【0068】
本明細書で使用される「AChE陽性」又は「AChE+」という用語は、好ましくは、(すなわち、陽性の)アセチルコリンエステラーゼ酵素(AChE)活性を示す細胞又は細胞集団を指す。特に、このようなAChE活性は、2×105個の細胞が約20mUrel~約1000mUrel、より好ましくは約30mUrel~約800mUrel、さらにより好ましくは約50mUrel~約700mUrelのAChE活性を示す場合に陽性である。好ましくは、前記2×105個の細胞は、例えば、本明細書の実施例に記載される骨格筋分化培地中で培養される。単位「mUrel」は、ヨウ化アセチルチオコリン(ATI)及び5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)の添加60分後に測定
された2×105個の細胞の相対「mU/ml」を指し、原液の希釈液のODが6~8分、好ましくはATI及びDTNBの添加後6、7、又は8分に、すでに測定されている点を除き、同じ条件下で4~500mU/mlの範囲のAChE原液の希釈系列によって得られる直線方程式に関連した相対「mU/ml」を指す。「mUrel」という用語は、実施例3で測定及び計算された2×105個の細胞の相対「mU/ml」を指す場合もある。
【0069】
本明細書で使用される「AChE陰性」又は「AChE-」という用語は、好ましくは、AChE活性を有さない(すなわち、陰性の)細胞又は細胞集団を指す。特に、2×105個の細胞が約0mUrel~約19mUrelのAChE活性を示す場合、このようなAChE活性は陰性であり、細胞は好ましくは例えば骨格筋分化培地中で培養される。これについては本明細書の実施例2に記載されている。
【0070】
本明細書で使用される「多分化能」という用語は、好ましくは、少なくとも脂肪生成系統、軟骨形成系統、及び骨形成系統に対するインビトロ分化能を特徴とする間葉細胞の分化能を指す。
【0071】
本明細書で使用される「オリゴポテント」という用語は、好ましくは、平滑筋、横紋筋、及び/又は心筋などの筋原性系統に限定されるインビトロ分化能を特徴とする細胞の分化能を指す。
【0072】
本明細書で使用される「筋原性分化能」という用語は、好ましくは、インビボで筋原性細胞によって発現されることが知られている検出可能な量のタンパク質、例えば、これらに限定されないが、以下のマーカーのデスミン及びミオシンの1つ又は複数を発現する細胞の能力を指す。インビトロ培養細胞におけるそのようなマーカーの発現に関する試験は、当業者によく知られている。このような試験は、好ましくは、フローサイトメトリー及び/又は蛍光免疫染色及びウェスタンブロッティングを含む他の免疫細胞化学的アッセイが含まれる。あるいは、細胞(例えば、筋原性前駆細胞)が多核筋管を形成する能力を指す、筋原性分化能という用語の使用が好ましい。このような筋管は、好ましくは少なくとも3つの別個の核を含む筋細胞として当業者に知られている。もともと単核細胞によるこのような筋管の形成は、例えば、細胞内で起こる。したがって、分化培地は、筋原性分化能の試験として使用することができる。
【0073】
本明細書で使用される用語「筋管」は、好ましくは、少なくとも3つの別個の核を含む筋細胞を指す。好ましくは、そのような筋管は、単核細胞(例えば、筋原性前駆細胞)の融合によって形成される。
【0074】
本明細書で使用される「神経性分化能」又は「神経分化能」という用語は、好ましくは、マーカーA2B5、TUJ1、NCAM、ネスチン又は同等のマーカーのうちの1つ以上などの神経マーカーを発現する細胞集団を指すが、これらに限定されない。好ましくは、前記用語は、細胞の少なくとも60%がA2B5を発現する、より好ましくは細胞の少なくとも60%がA2B5及びTUJ1を発現する、又は細胞の少なくとも60%がA2B5及びNCAMを発現する、又は細胞の少なくとも60%がA2B5及びネスチンを発現する、又は少なくとも60%の細胞がTUJ1及びNCAMを発現する、又は少なくとも60%の細胞がTUJ1及びネスチンを発現する、又は少なくとも60%の細胞がNCAM及びネスチンを発現する細胞集団を指す。より好ましくは、前記用語は、少なくとも60%の細胞がA2B5、TUJ1及びNCAMを発現するか、少なくとも60%の細胞がTUJ1、NCAM及びネスチンを発現するか、少なくとも60%の細胞がA2B5、NCAM及びネスチンを発現する細胞集団を指す。さらにより好ましくは、前記用語は、少なくとも60%の細胞がA2B5、TUJ1、NCAM及びネスチンを発現する細胞集団を指す。インビトロ培養細胞におけるそのようなマーカーの発現に関する試験は、当業者によく知られている。このような試験は、好ましくは、フローサイトメトリー及び/又は蛍光免疫染色及びウェスタンブロッティングを含む他の免疫細胞化学的アッセイが含まれる。
【0075】
本明細書で使用される「隣接する」という用語は、医薬品成分を患者に注射する場合に、好ましくは、事前に特定された位置と実際に到達した位置との間の距離を指す。好ましくは、「隣接する」位置は、事前に特定された位置に直接隣接するものである。あるタイプの組織が別のタイプの組織に直接隣接する、すなわち互いに直接接触することによって、好ましくは「隣接する」という用語は、粘膜、粘膜下層、粘膜筋層又は肛門管上皮に限定されない肛門括約筋組織の筋肉に間接的に、より好ましくは直接的に接着している任意のタイプの組織を指す。代替的に好ましくは、「隣接する」という用語は、対象内の注射部位から対象内の所望の部位に向かって、細胞、好ましくは筋原性前駆細胞が注射部位から目的の部位に移動し得る距離、好ましくは0.3~15mmを指す。代替的に、「隣接する」とは、実際の注射部位と所望の位置との間の相対距離を指し、2つの位置が互いに5cm以上、より好ましくは1cm、さらにより好ましくは0.5cm未満離れていないことが好ましい。
【0076】
[実施形態の説明]
本発明は、対象における肛門失禁の予防及び/又は治療のための方法で使用するための筋原性前駆細胞(MPC)を対象とし、前記対象は、20年以下、より好ましくは6か月~約20年間、又は約6か月~約10年間肛門失禁を患っていることを特徴とする。
【0077】
対象の選択
本発明者らは、実施例5の広範な患者集団(ITT)を選択し、この患者集団内の患者を本発明の方法に従ってMPCで治療すると、ITT集団内の同等の患者集団のプラセボ治療よりも失禁症状が有意に高い減少を示すことを見出した(
図1)。しかしながら、統計的に有意であることは、その効果がランダムではないこと(例えば、プラセボ効果又はMPCに無関係な効果によるものではないこと)を示すに過ぎない。第二に、観察された効果が臨床的に適切である必要がある。週間IEFの減少率が高いほど、及び/又は、レスポンダーの割合が高いほど、特定の患者集団における治療法の結果は臨床的に適切である。本出願人は、実施例7に記載されたように、ITTから患者の異なる部分集団を選択することにより、治療効果が変化することを見出した。
【0078】
IEに罹患して10年以下であると定義された実施例5のITT集団(TPP1集団)から、実施例7に従って患者のサブグループを選択すると、これらの患者において、LCC及び/又はHCC治療が、ITT患者においてLCC又はHCC治療が行っているよりも、1週間当たりのIEFのより高い減少をもたらし、より高いレスポンダー率をもたらすことが観察された(
図2)。本発明者らは、このような狭い対象集団を導入することにより、MPCの使用方法が、効果量及びオッズ比の点で広い患者集団に比べてより効果的であり(
図8)、したがってMPCの使用方法がすでに知られている方法と比べて有利であることを見出した。
【0079】
従って、本発明の好ましい実施形態では、肛門失禁、より好ましくは便失禁に罹患している前記対象者は、限られた時間の間、前記失禁に罹患している。より好ましくは、そのような期間は、約6ヶ月~約20年に限定され、より好ましくは、約6ヶ月~約10年に限定され、より好ましくは、約6ヶ月~約8年に限定され、より好ましくは、約6ヶ月~約6年に限定され、より好ましくは、約6ヶ月~約4年に限定され、さらに好ましくは、約6ヶ月~約2年に限定される。好ましい時期の開始点は、失禁の発症又は失禁の診断のいずれかである。
【0080】
好ましい一実施形態において、本発明は、対象が肛門失禁、好ましくは便失禁の点で健康な対象であるが、しかし、好ましくは括約筋組織の組織学的及び/又は解剖学的異常のために、前記失禁を発症する危険性がある場合、特に、肛門失禁、好ましくは便失禁の予防方法における使用のためのMPCを提供する。前記異常は、筋肉の損傷(例えば、産科的肛門括約筋損傷又は肛門性交による)、遺伝性疾患(例えば、ヒルシュスプルング病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)、肛門周囲瘻、外科的処置(例えば、グラシル形成術、括約筋オーバーラップ修復術、癌切除術)によって引き起こされる。好ましくは、前記異常は、外肛門括約筋及び/又は内肛門括約筋などの肛門括約筋の断裂又は裂傷に関連する。より好ましくは、前記破裂又は裂け目は、超音波画像内で肛門括約筋が見える全角度360°に対して180°未満の角度である。
【0081】
予防の場合は、筋肉が損傷した時点、又は肛門失禁を発症する危険性があると診断された時点など、肛門失禁を発症する危険性が生じた時点から開始することが望ましい。
【0082】
本発明の別の好ましい実施形態は、治療される対象が肛門失禁、特に便失禁、より好ましくは切迫性便失禁及び/又は受動性便失禁、より好ましくは切迫性便失禁に罹患している、治療のための方法における使用のためのMPCを提供する。
【0083】
本発明の好ましい一実施形態では、対象の肛門失禁、好ましくは便失禁、又は前記失禁を発症する危険性は、例えば上述したような筋肉の損傷によって引き起こされる。好ましくは、前記筋損傷は、肛門内超音波によって可視化される外肛門括約筋及び/又は内肛門括約筋内の瘢痕として存在する。前記筋損傷は、外肛門括約筋、内肛門括約筋、又はその両方で生じ得る。その原因としては、(1)産科的外傷や偶発的外傷、(2)手術や放射線などの異所性外傷、(3)多発性硬化症や糖尿病などの神経原性疾患、(4)加齢に伴う筋萎縮などがある。膣分娩の最大9%が肛門括約筋の破裂につながるため、産科的外傷は女性における失禁の主な原因である。
【0084】
好ましくは、前記対象は、十分に定義された重症度によって便失禁に罹患している。好ましくは、そのような重症度は、特定の量の失禁エピソード頻度に患うことによって定義される。より好ましくは、そのような肛門失禁又は便失禁患者は、2回を超える、より好ましくは3回を超える、さらにより好ましくは4回を超える、さらにより好ましくは5回を超える、さらにより好ましくは6回を超える、さらにより好ましくは7回を超える、さらにより好ましくは8回を超える、さらにより好ましくは9回を超える、さらにより好ましくは10回を超える、さらにより好ましくは11回を超える、さらにより好ましくは10回を超える1週間当たりの失禁エピソードを患っており、ここで、「痕跡」、「少量」、及び/又は「より多量」に分類されるすべての種類のエピソードが考慮される。
【0085】
本発明者らは、重症度が増加する(すなわち、ベースラインIEFが増加する)患者は、MPC治療に対してより反応性が高いことを見出した(
図7)。本発明者らは、実施例7に従って、TPP1の定義に加えて、治療前に6を超える週間IEFを有することによって定義される(TPP2)患者のそのような狭いサブグループを選択することによって、MPC(LCC又はHCC)の投与後の前記患者集団において、より広範な患者集団(ITT、TPP1)において観察されたものと比較して、週間IEFの減少が増加し、応答率が増加し、効果量及びオッズ比が増加することを見出した(
図2)。これはさらに、全体的な効果の大きさとオッズ比の増加によって強調される(
図8)。
【0086】
さらに、本発明者らは、本発明による肛門失禁又は便失禁の治療は、「痕跡」と比較して「より多量」及び「少量」と定義されるエピソードタイプに最も効果的であることを見出した(表3)。従って、好ましくは、前記重症度は、特定の量の週単位の失禁エピソード頻度に患うことによって定義される。好ましい実施形態では、重症度を評価するためのエピソード頻度は、「少量」及び「より多量」と定義される失禁エピソードに限定され、それにより「痕跡」は除外される。本発明者らは、効果量及びオッズ比の増加(
図8)によって実施例7に例示されるように、治療前の失禁重症度によって「少量」又は「より多量」の失禁エピソードが週2回を超えると定義されたTPP1の部分集団(TPP3)が、他の患者集団(ITT、TPP1及びTPP2)よりもLCC又はHCCによる治療に反応性が高いことを見出した。
【0087】
代替的に好ましい実施形態において、MPCは、対象における肛門失禁の治療のための方法における使用のためのものであり、ここで、前記対象は、治療前に「少量」又は「より多量」と分類される1週間当たりの失禁エピソードが2回を超える、より好ましくは3回を超える、さらにより好ましくは4回を超えると定義される失禁の重症度を有する、治療前に「少量」又は「より多量」と分類される失禁エピソードが定義される。治療前とは、好ましくは、本発明による治療を指す。従って、好ましくは、週単位の失禁エピソードは、本明細書に記載されるMPCの投与の前に分類される。好ましくは、「治療前」には、例えば、ロペラミドによる保存的治療又はグラシロプラスティもしくは括約筋形成術による外科的治療のような、本発明による治療以外の治療の試みは含まれない。
【0088】
本発明者らは、実施例7に従って、TPP1の定義に加えて、治療前に6週間を超えるIEFを有することによって定義される患者のサブグループ(TPP2)を選択すると、MPC(LCC又はHCC)の投与後に、より広範な患者集団(ITT、TPP1)で観察されたものと比較して、当該患者集団において、週間IEFの減少が増加し、レスポンダー率が増加することを見出した(
図2)。これはさらに、全体的な効果量とオッズ比の増加によって強調される(
図8)。したがって、この狭い範囲の患者集団の選択は、当該技術分野ですでに知られている広い範囲の患者集団の選択と比較して有利である。
【0089】
従って、本発明の非常に好ましい実施形態において、MPCは、対象における肛門失禁、より好ましくは便失禁の治療方法における使用のためのものであり、ここで、前記対象は
(i)肛門失禁、より好ましくは便失禁を、20年以下、より好ましくは約6ヶ月~約10年間患っており、及び
(ii)治療前に週6回を超える失禁エピソードがあり、及び/又は
(iii)治療前に、少量又はより多量と分類される、2回を超える、3回を超える、又は4回を超える1週間当たりの失禁エピソードの失禁の重症度を有する。
【0090】
本発明者らは、限定された失禁期間と、「痕跡」として分類されるエピソードが除外される週単位の失禁エピソード頻度という点におけるFIの重症度の増加との組み合わせが、本発明に従ってMPCを使用して便失禁を治療する方法からはるかに良好な利益を得る患者を選択するための実施例7の好適な選択プロセスであることを見出した。本発明者らは、TPP1の定義に加えて、治療前(TPP3)に、痕跡が失禁エピソードとして計上されない週2回を超えるIEFを有することによって定義される、実施例7に従った患者のそのような狭いサブグループを選択することによって、MPC(LCC及び/又はHCC)の投与後の前記患者集団において、より広い患者集団(ITT、TPP1)において観察されたものと比較して、週1回のIEFの減少が増大し、レスポンダー率が増大することを見出した(
図2)。これはさらに、全体的な効果量とオッズ比の増加によって強調される(
図8)。したがって、この狭い範囲の患者集団の選択は、当該技術分野ですでに知られている広い範囲の患者集団の選択と比較して有利である。
【0091】
本発明者らは、便失禁の初診から10年以下であり、治療前に週2回を超えるIEFの、筋損傷を伴う便失禁を患う患者のサブグループを選択すると、本発明の方法による症状の治療に特に反応することを見出した(実施例7、
図9及び
図10)。
【0092】
好ましい実施形態では、対象者は18歳以上である。さらに好ましい実施形態において、対象は、6ヶ月以上便失禁に罹患しており、これは、関連する病歴及び肛門検査によってスクリーニング時に確認される。さらに好ましい実施形態では、対象者は、ウェクスナースコアが9を超え、かつ、例えば2、3又は4週間などの一定期間にわたって腸日記で測定した便失禁のエピソードが週に少なくとも3回ある。さらに好ましい実施形態では、対象は、上記のように日記を用いて測定された1週間当たり少なくとも3回の非気体性失禁エピソードを有する。
【0093】
好ましい実施形態において、対象は、MPCを投与する日以前の過去6ヶ月以内に肛門手術を受けていない。さらに好ましい実施形態において、対象は、オーバーラップ修復手術を過去に1回以上受けていない。本明細書で使用される「オーバーラップ修復」という用語は、好ましくは、当該技術分野において出生時の裂傷の場合に急性損傷を修正するために通常行われるような一次オーバーラップ修復を指す。好ましくは、前記用語はまた、一次オーバーラップ修復で行われるが後の時期(急性損傷なし)に行われる同等の治療を指し、この治療はまた「括約筋形成術」とも呼ばれ得る。さらに好ましい実施形態では、対象者は合計で2回を超える肛門外科手術(例えば、分娩後の一次修復と、後に行われる1回のオーバーラップ修復、又は永久神経刺激システムの挿入及び抜去)を受けていない。さらに好ましい実施形態において、対象は、外肛門括約筋の重複修復及び関連する早期萎縮を有さない。さらに好ましい実施形態において、対象は、人工肛門括約筋(AAS)手術の既往歴がない。好ましい実施形態において、対象は、いかなる増量製品の経又は肛門周囲注射も受けていない。好ましい実施形態において、対象は、腸及び骨盤の放射線療法を受けていない。好ましい実施形態において、対象は、MPCを投与する日以前の過去5年以内に化学療法を受けていない。好ましい実施形態において、対象は、腸及び骨盤の化学療法関連神経障害を有さない。好ましい実施形態において、対象は免疫抑制療法を受けていない。好ましい実施形態において、対象は、慢性炎症性腸疾患の診断を受けていない。好ましい実施形態において、対象は、現在及び肛門瘻疾患の診断を有さない。好ましい実施形態において、対象は、慢性下痢を有さない。好ましい実施形態において、対象は、産科的外傷及び他の外傷、急性椎間板脱落、又は神経疾患(脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病、脳卒中など)を含む急性肛門括約筋損傷を有さない。好ましい実施形態において、対象は、制御されていないI型又はII型糖尿病を有しておらず、又は糖尿病性末梢神経障害性疼痛を患っていない。好ましい実施形態において、対象は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、急性又は慢性のウイルス性肝炎HCV、急性又は慢性のウイルス性肝炎HBV、活動性梅毒、HTLV(例えば、治験責任医師によるリスク評価に基づいて検査される)と診断されていない。好ましい実施形態において、対象は、電気刺激治療領域に金属部品の埋め込みがない。好ましい実施形態において、対象は、慢性便秘及び/又は溢流性尿失禁を有していない。
【0094】
好ましい実施形態において、対象は、筋肉損傷、骨盤底機能障害、神経損傷、貯蔵能力の喪失、又は萎縮の失禁に関連する状態を有する。好ましい実施形態において、対象の便失禁は、受動性失禁、切迫性失禁、又は便の染み出しである。非常に好ましい実施形態において、対象は、筋肉損傷、萎縮、及び/又は切迫性便失禁の便失禁に関連する状態を有する。
【0095】
本発明に従って使用するためのMPCは、好ましくは、本明細書においてさらに記載されるように、前記対象の肛門括約筋組織に、好ましくは外肛門括約筋に、内肛門括約筋に、及び/又は恥骨筋に、又は隣接して投与される。投与は、好ましくは、注射によって行われる。注射工程は、静的な注入、すなわち、注射装置が到達した位置に留まる注射であってもよいが、これに限定されない。あるいは、注射工程は動的であってもよい。あるいは、MPCの投与は、細胞を肛門括約筋組織に隣接させるのに適した任意の投与経路を含んでよい。このような投与経路は、例えば、経口投与、局所投与、静脈内投与、又は動脈内投与からなる。
【0096】
本実施形態の上記の好ましい実施形態のいずれかにおいて、前記方法は、MPCの投与前及び/又は投与後に肛門括約筋組織を刺激することをさらに含む。好ましくは、前記刺激は、MPCの投与後、少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも4週間の肛門括約筋組織刺激を含み、より好ましくは、MPCの投与前、及びMPCの投与後、少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも4週間の肛門括約筋組織刺激を含む。
【0097】
好ましくは、前記刺激は、ケーゲル運動及び/又は電気刺激によって、より好ましくは、ケーゲル運動及び/又は経皮的電気刺激によって行われる。前記経皮電気刺激は、好ましくは毎日、より好ましくは1日2回、さらに好ましくは1日3回行われる。好ましくは、前記刺激のいずれかが少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも20分間行われる。また、好ましくは、刺激は1日に複数回、より好ましくは1~10回、さらに好ましくは1~5回、さらに好ましくは3回行われる。
【0098】
前記電気刺激は、好ましくは1日あたり特定の時間、例えば1回あたり少なくとも5分、好ましくは少なくとも15分、より好ましくは少なくとも20分間行う。好ましくは、患者は、1日に3回、それぞれ約1~60分間、好ましくは約10~30分間、より好ましくは約20分間刺激を実施する。好ましくは、電気刺激は、刺激装置に取り付けられた直腸肛門プローブの使用を含む。好ましくは、前記直腸肛門プローブは、刺激中に対象の直腸内に挿入される。好ましくは、前記刺激装置は電気パルスをプローブに送信するようにプログラムされ、パルスは好ましくは二相性又は単相性である。好ましくは、前記パルスは、休止、増加、平衡、減少、休止のシーケンスで埋め込まれる。好ましくは、前記二相又は単相パルスは、前記平衡において、約10Hz~約100Hz、より好ましくは約25Hz~約75Hz、より好ましくは約50Hzの周波数を有する。好ましくは、各平衡相は、各増加相又は減少相と同じ持続時間を有する。好ましくは、各休止、増加、減少、又は平衡相は、約1秒~約15秒、より好ましくは約2秒~約8秒、より好ましくは約4秒持続する。好ましくは、平衡相における電流の強さは、約1mA~約1000mA、より好ましくは約10mA~約500mA、より好ましくは約50mA~約250mA、より好ましくは約75mA~約150mA、より好ましくは約100mAに設定される。好ましくは、二相又は単相パルスは、約50μs~約500μs、より好ましくは約150μs~約300μs、より好ましくは約200μs~約300μs、より好ましくは約250μsの幅を有する。
【0099】
ケーゲル運動は、好ましくは、対象により骨盤底筋の随意的な収縮によって行う。好ましくは、収縮は約1秒から約10秒、より好ましくは約2秒から約5秒、より好ましくは約3秒保持される。収縮後、好ましくは筋肉は約1秒~約10秒、より好ましくは約2秒~約5秒、より好ましくは約3秒弛緩される。好ましくは、前記収縮と前記弛緩のシーケンスは、1~20回、より好ましくは5~15回、より好ましくは約10回繰り返される。好ましくは、前記回数のシーケンスの各セットは、好ましくは毎日1~10回、より好ましくは3~5回、より好ましくは3回繰り返される。
【0100】
本発明者らは、電気刺激と細胞注入の組み合わせ(例えば、実施例1によるHCC又はLCC治療)が、電気刺激と偽注入単独(例えば、実施例1によるPBO治療)よりも良好であることを見出し(
図1)、MPCと電気刺激の組み合わせが失禁の有効な治療法であることを示唆した。
【0101】
細胞用量の選択
好ましくは、MPCは、対象における肛門失禁の予防及び/又は治療のための方法における使用のためのものであり、該方法は、有効量のMPC、好ましくは約100万~約2億MPC、好ましくは約400万~約6000万MPC、より好ましくは約400万~約600万MPC又は約4000万~約6000万MPCの投与を含む。
【0102】
本発明者らは、幅広い患者集団(ITT)において、4,000万~6,000万MPCの(HCC)注射後、治療後6ヵ月で、痕跡を失禁エピソードとしてカウントした場合(
図1A)、及び治療後12ヵ月で、痕跡を失禁エピソードとして除外した場合(
図IB)に、プラセボ注射(PBO)と比較して、週単位の失禁エピソード頻度が有意に高い減少を示すことを見出した。実施例5の全試験期間において、失禁エピソードとして痕跡を含める/含めないにかかわらず、HCCの方がPBOよりも週単位の失禁頻度の減少率が高い傾向が観察された(
図1)。さらに、ITT患者集団において痕跡を含めると(
図1C)、PBO群と比較してLCC及びHCC群で一貫して高いレスポンダー数が認められた(
図ID)。また好ましくは、本実施形態によれば、患者1人当たり400万~600万細胞の量である。本出願人は、PBO治療と比較して、400万~600万細胞(LCC)によるITT患者の治療後に、週IEFの減少及びレスポンダー率の増加の高い傾向の両方が観察されることを見出した(
図1)。この傾向は、便失禁から10年以上経過していない便失禁患者に対して400万~600万個の細胞を用いた場合に顕著になった。本発明者らは、このような患者に対して、LCC移植は、ベースラインから治療後12ヶ月までIEFを有意に減少させ(
図2A及びB)、また、ほとんどの患者において、1週間当たりのIEF(痕跡を除く)を少なくとも50%減少させることにより臨床的に重要であることを見出した(
図2D)。本発明者らはさらに、4,000万~6,000万個の細胞を注入した患者は、400万~600万個の細胞を注入した患者と比較して、便失禁症状(1週間当たりのIEF)がより高い減少傾向を示すことを見出した。
【0103】
注射手順
本発明の好ましい実施態様において、MPCは対象の肛門括約筋組織内又は肛門括約筋組織に隣接して注射される。好ましくは、前記細胞は、外肛門括約筋、内肛門括約筋、及び/又は恥骨筋の中又はそれに隣接して注射される。より好ましくは、前記細胞は外肛門括約筋、内肛門括約筋又は恥骨筋に注射される。最も好ましくは、前記細胞は外肛門括約筋に注射される。本発明者らは、MPCの外肛門括約筋への注射が、プラセボ治療と比較して有効であることを見出した(
図1)。本発明者らは、実施例1に従って単離された細胞を、実施例5に従って必要とする対象に注射することが成功することを見出した。注射部位は、肛門括約筋組織に属する外肛門括約筋とした。
【0104】
本発明の好ましい一実施態様では、MPCは所定の組織又は損傷部位に注射され、それによってMPCは溶液又は懸濁液中の治療上有効な細胞数、例えば約1×106~約2×108個の細胞を含む。注射用の前記細胞数は、好ましくは約0.1mL~約100mL、より好ましくは約1mL~約10mL、より好ましくは約3mL~約6mL、さらに好ましくは6mLの溶液に懸濁される。注射液は、血清の有無にかかわらず、生理学的に許容される媒体である。生理学的に許容される媒体は、非限定的な例として、生理食塩水、又はリン酸緩衝溶液であってもよい。
【0105】
本発明の好ましい一実施形態において、肛門括約筋組織へのMPC注射は、外肛門括約筋及び/又は内肛門括約筋を増強、改善、及び/又は修復するために、肛門失禁の治療として実施される。好ましくは、MPCは外肛門括約筋及び/又は内肛門括約筋に注射されるか、又は隣接して注射され、生存して成熟筋肉細胞に分化し、括約筋を増強及び/又は括約筋機能を改善する。本実施形態に従ったMPCの実現可能性及び長期生存は、以前に示されている(Messnerら、2021;Thumerら、2020)。
【0106】
本発明の別の好ましい実施形態では、MPC注射は、既存の失禁組織を増強及び/又は強化することによって肛門失禁を予防するために、肛門括約筋組織に行われる。健康な筋肉組織へのMPC注射の実行可能性は、既に実証されている(Frudingerら、2015年)。
【0107】
本発明の好ましい一実施態様では、有効細胞数は1つ又は複数の細胞懸濁液の分割量(アリコート)で投与される。好ましくは、患者あたり複数の分割量が注射され、より好ましくは2~50アリコート、より好ましくは2~20アリコート、さらに好ましくは5~15アリコート、好ましくは、患者当たり合計0.1~100ml、より好ましくは1~10ml、さらに好ましくは3~6mlが注射される。本発明者らは、このような分注数及び分注量が有効であり(すなわち、プラセボ適用より優れている)、臨床的に適切である(すなわち、ほとんどの患者が1週間当たりのIEFを少なくとも50%減少させる)ことを見出した(
図1及び
図2)。
【0108】
本発明の好ましい実施形態において、MPCは、前記対象の肛門括約筋組織内及び/又は肛門括約筋組織に隣接する1回以上の注射によって、好ましくは外肛門括約筋、内肛門括約筋及び/又は恥骨筋への1回以上の注射によって投与される。好ましくは、本発明に従って使用するためのMPCは、対象の内肛門括約筋に注射され、ここで、対象は、さらに、受動性便失禁又は受動性便失禁及び切迫性便失禁に罹患していることを特徴とする。好ましくは、本発明に従って使用するためのMPCは、対象の外肛門括約筋及び/又は恥骨筋、より好ましくは外肛門括約筋に注射され、ここで前記対象はさらに、切迫性便失禁又は切迫性及び受動性便失禁に罹患していることを特徴とする。好ましくは、MPCの注入は、肛門括約筋組織全体の複数の位置で行われる。
【0109】
好ましくは、MPCは1箇所又は複数箇所、より好ましくは約2~約20箇所、より好ましくは約6~約18箇所、より好ましくは約10~約15箇所、さらに好ましくは約12箇所に注射する。本発明者らは、実施例1のMPCの注射を実施例5に従って患者に分布させることが有効であり、プラセボ治療よりも有意に有効であることを見出した(
図1)。
【0110】
本発明で使用するMPC
本発明は、本発明に従って使用するためのMPCを提供する。本発明の一実施形態においてMPCは、EP2120976B1に既に開示されている「筋肉由来細胞」として特徴付けられる。このような細胞の非限定的な例としては、筋組織に存在する筋芽細胞、線維芽細胞、筋由来幹細胞が挙げられる。また、本発明では、特に肛門括約筋組織の修復に使用するための、筋原性の可能性を有する細胞(例えば、脂肪吸引した組織15、又は他の幹細胞を保有する組織(骨髄)、又は脂肪由来細胞から)も使用することを意図している。特に、本発明で使用する細胞は、インビトロ及び/又はインビボで融合(少なくとも3つの細胞の合胞体を形成)し、配向性の収縮性細胞骨格(アクチン・ミオシン配列)を確立することができる。本発明に従って、筋芽細胞を含むMPCは、初代細胞であっても培養細胞であってもよい。これらは、ヒトを含むレシピエントに対して組織適合性(自家)であっても非組織適合性(同種)であってもよい。本発明の特定の実施形態は、筋芽細胞及び筋由来幹細胞であり、レシピエントにとって異物とは認識されない自己の筋芽細胞及び筋由来幹細胞を含む。この点で、筋芽細胞は主要組織適合の中心(ヒトではMHC又はHLA)に対して適合させることができる。このようなMHC又はHLA適合細胞は自家細胞でもよい。あるいは、同じか類似のMHCやHLA抗原プロファイルを持つヒトの細胞であってもよい。患者はまた、同種MHC抗原に寛容であるか、あるいは細胞がMHCタンパク質を欠くように操作され、それによって元々HLAが不一致のレシピエントに対して免疫寛容となる。
【0111】
本発明の別の実施形態では、MPCは、米国特許5,538,722号に記載されているような、MHCクラスI及び/又はII抗原を欠いている。
【0112】
非常に好ましい実施形態では、MPCは骨格筋由来細胞(SMDC)の細胞集団であり、細胞の少なくとも60%がCD56陽性であり、細胞の少なくとも80%がCD90陽性であり、細胞の多くとも10%がCD34陽性である。好ましくは、さらに少なくとも60%の細胞がA2B5及びCD105に対して陽性である。好ましくは、SMDCの前記細胞集団はSca-1陰性であり、特に、細胞の多くとも10%又は0%がSca-1を発現する。好ましくは、また、細胞の少なくとも60%がデスミンに対して陽性である。好ましくは、SMDCの前記細胞集団はMyoD陰性であり、特に、細胞の多くとも5%又は10%がMyoDを発現する。
【0113】
さらに好ましい実施形態では、MPCはSMDCの細胞集団であり、細胞の約64%~約99.9%がCD56陽性であり、細胞の約80%~約99.9%がCD90陽性であり、細胞の約0%~約9%がCD34陽性である。好ましくは、細胞の少なくとも60%がA2B5及びCD105に陽性である。好ましくは、SMDCの前記細胞集団はSca-1陰性であり、特に、細胞の多くとも10%又は0%がSca-1を発現する。好ましくは、また、細胞の少なくとも60%がデスミンに対して陽性である。好ましくは、SMDCの前記細胞集団はMyoD陰性であり、特に、細胞の多くとも5%又は10%がMyoDを発現する。
【0114】
本発明の別の実施形態において、MPCは、WO2019/115790(Thumerら、2019年、115790頁)に開示される「骨格筋由来細胞」(SMDC)として特徴付けられる。SMDCは、好ましくは、特徴的な発現パターンを示す。好ましくは、前記SMDCの約60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は98%以上が、CD56及びA2B5を発現する。好ましくは、前記SMDCはCD34、Sca-1及びMyoDを発現しない。これにより、「発現しない」という用語は、好ましくは、SMDCの40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満又は2%未満が前記マーカーを発現することを意味する。好ましい実施形態では、前記SMDCの0%がSca-1を発現する。
【0115】
さらなる好ましい実施形態において、MPCは、SMDCの細胞集団であり、この集団は、少なくとも90%のCD56陽性、少なくとも90%のA2B2陽性、少なくとも90%のCD105陽性、及び少なくとも90%のデスミン陽性細胞からなり、集団の10%未満がCD34、Sca-1及びMyoDを発現する。好ましい実施形態では、前記SMDCの0%がSca-1を発現する。
【0116】
上記のようなSMDCの発現パターンは、分化を必要とせずに、細胞培養の筋原性指標を決定するために使用することができる。したがって、前記SMDCの発現パターンは、骨格筋由来細胞を筋機能不全の治療、特に尿失禁及び/又は肛門失禁などの失禁の治療に使用できるかどうかを確認するために使用することができる。
【0117】
本発明の別の実施態様において、本明細書に記載されるMPCは、WO2020/193460に開示される「筋原性前駆細胞」として特徴付けられる。好ましくは、これらの細胞は、CD56及びCD90の陽性発現、ならびにCD34の陰性発現によって特徴付けられる。本発明のさらに好ましい実施形態では、MPCは乏遺伝子である。本発明者らは、このような細胞が本発明の方法に有用であることを見出した(
図1)。
【0118】
本発明の別の実施形態において、本明細書に記載されるMPCは、WO2020/193460に開示される「間葉系間質細胞」又は「MSC」として特徴付けられ、CD105、CD73の陽性発現、及びCD34、及びCD56の陰性発現によって特徴付けられる。本発明のさらに好ましい実施形態において、MPCは、デスミンの陰性発現及び/又はCD90の陽性発現によって特徴付けられるMSCである。本発明のさらに好ましい実施形態において、MPCは多能性MSCである。
【0119】
本発明の別の実施態様において、本明細書に記載のMPCは、aSMA、CD49a、デスミン、CD56、及びCD146の陽性発現、ならびにCD34の陰性発現によって特徴付けられる。
【0120】
本発明の別の実施態様において、本明細書に記載のMPCは、aSMA、CD49a及びCD146の陽性発現、ならびにCD56の陰性発現によって特徴付けられる。
【0121】
非常に好ましい実施形態において、本発明による方法において使用するためのMPCは、CD56及びCD90のマーカーの陽性発現によって特徴付けられ、特に、MPCの少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも95%がCD56を発現し、筋原性前駆細胞の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも95%がCD90を発現する。好ましくは、前記MPCの約60~約99.9%がCD56を発現し、前記MPCの約80~約99.9%がCD90を発現する。好ましくは、前記MPCはマーカーCD34及び/又はSca-1の陰性発現によってさらに特徴付けられ、特にMPCの最大10%、より好ましくは最大5%、さらに好ましくは最大1%がCD34及び/又はSca-1を発現する。さらに好ましくは、MPCはマーカーデスミンの陽性発現によってさらに特徴付けられ、特に、細胞の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも95%がデスミン陽性である。
【0122】
好ましい実施形態において、本発明による方法において使用するためのMPCは、以下のマーカー発現特性を有する細胞集団から構成される:
前記細胞集団(すなわちMPC)の約60~約99.9%が細胞マーカーCD56を発現し、前記細胞集団の約60~約99.9%がマーカーCD90を発現し、前記細胞集団の約0~約15%がマーカーCD34を発現する。より好ましくは、前記細胞集団の約60~約99.9%が細胞マーカーCD56を発現し、前記細胞集団の約70~約99.9%が細胞マーカーCD90を発現し、前記細胞集団の約0~約10%が細胞マーカーCD34を発現する。より好ましくは、前記細胞集団の約80~約99%が細胞マーカーCD56を発現し、前記細胞集団の約80~約99.9%がマーカーCD90を発現し、前記細胞集団の約0~約5%がマーカーCD34を発現する。
【0123】
本発明による使用のためのMPCは、さらに以下のマーカー発現特性を有することができる:
前記細胞集団の約60~約100%が細胞マーカーデスミンを発現し、及び/又は前記細胞集団の約60~約100%がマーカーCD105を発現する。より好ましくは、前記細胞集団の約60~約99.9%が細胞マーカーデスミンを発現し、約90~約100%の細胞が細胞マーカーCD105を発現する。好ましくは、前記細胞集団の約60~約100%がさらに細胞マーカーA2B5を発現する。
【0124】
さらに特に好ましい実施形態では、MPCは以下のマーカー発現特性を有する:
前記細胞集団の約60~約100%が細胞マーカーCD56を発現し、前記細胞集団の約60~約100%が細胞マーカーCD90を発現し、前記細胞集団の約0~約10%が細胞マーカーCD34を発現し、前記細胞集団の約60~約100%が細胞マーカーデスミンを発現し、前記細胞集団の約60~約100%が細胞マーカーA2B5を発現し、前記細胞集団の約60~約100%が細胞マーカーCD105を発現する。好ましくは、前記細胞集団の約0%~約10%が細胞マーカーSca-1の発現を示す。
【0125】
上記のMPCに関する全ての実施形態のさらに好ましい実施形態では、MPCの約0~約10%がMyoDを発現し、及び/又はMPCの約0~約10%がSca-1を発現する。
【0126】
ある特定の好ましい実施形態において、本発明による使用のためのMPCは、以下のマーカー発現特性を有する:
前記細胞集団の約60~約100%が細胞マーカーCD56を発現し、前記細胞集団の約80~約99.9%が細胞マーカーCD90を発現し、前記細胞集団の約0%~約10%の細胞マーカーCD34を発現し、前記細胞集団の約60%~約100%が細胞マーカーデスミンを発現し、前記細胞集団の約60%~約100%が細胞マーカーA2B5を発現し、前記細胞集団の約60%~約100%が細胞マーカーCD105を発現し、前記細胞集団の約0%~約10%が細胞マーカーMyoD及び/又は前記細胞集団の約0%~約10%が細胞マーカーSca-1を発現する。
【0127】
本発明の別の好ましい実施態様において、本発明の方法において使用するためのMPCは、細胞系譜への分化能によって特徴付けられる。好ましくは、MPCは、インビトロ及び/又はインビボで筋原性分化能を含むものとして特徴付けられ、それによって分化能は、多核筋線維の形成によって、又は複数の単一核細胞の電気生理学的結合によって、すなわち、成熟筋組織を増大させる、形成する、又は成熟筋組織になる能力として定義される。好ましくは、MPCは、インビトロ及び/又はインビボにおいて、成熟筋組織を増大させ、形成し、又は成熟筋組織となり得る。好ましくは、MPCは、インビトロ及び/又はインビボにおいて、成熟骨格筋組織及び/又は平滑筋組織を増大させ、形成し、又は成熟骨格筋組織及び/又は平滑筋組織になることができる。MPCはさらに、培養において有糸分裂によって自己複製する能力、及び対象への投与後に有糸分裂を終了する能力によって特徴付けられる。
【0128】
本発明の別の実施形態では、MPCは筋原性及び神経原性の分化能を有することが特徴である。さらに、MPCは、さらなる分化能、すなわち、オリゴ、マルチ又は多能性を有することができる。好ましくは、MPCは、必要とする肛門失禁対象の前記注射部位に隣接する全ての組織に対する分化能を含む。より好ましくは、このような分化能は、骨格組織、平滑組織及び/又は神経細胞組織への分化を含む。好ましくは、前記細胞は、肛門括約筋組織の骨格筋組織及び平滑筋組織の増大及び再生を可能にする多能性である。より好ましくは、前記細胞は、肛門括約筋組織の骨格筋組織及び平滑筋組織、ならびに神経組織の増大及び再生を可能にするために多能性である。筋原性及び/又は神経原性の可能性を含む細胞は、筋組織から、好ましくは筋生検を行うことによって単離することができる。好ましくは、筋原性の可能性を持つ細胞は、骨格筋由来細胞(SMDC)を得ることによって筋生より単離される。
【0129】
このような細胞は、当業者に公知の方法で筋原性潜在能について試験することができる。本発明によるMPCの筋原性及び/又は神経原性の可能性を決定するために、細胞は、本発明の実施例又は当業者に公知の他の方法(例えば、Thumerら、2018)に従って、そのAChE活性について陽性と試験される。
【0130】
本発明に従って使用するためのMPCは、好ましくは約20mUrel~約1000mUrel、より好ましくは約30mUrel~約800mUrel、さらに好ましくは約50~約700mUrelのAChE活性を有し、各AChE活性は、好ましくは約5~約7日間骨格筋分化培地で培養された2x105細胞当たりで測定される。
【0131】
上記のように対象に投与される選択された細胞用量の細胞は、好ましくは約lx102mUrel_total~約lx106mUrel_totalの総AChE活性を示し、より好ましくは約lx103mUrel_total~約5x105mUrel_total、さらに好ましくは約7x104mUrel_total~約2x105mUrel_totalである。前記総AChE活性を決定するために、2x105個の細胞について決定されたAChE活性を外挿することができる。例えば、細胞のバッチが2x105個の細胞あたり50mUrelのアセチルコリンエステラーゼ酵素活性を有する場合、そのような細胞を5000万個含む細胞の懸濁液が合計1.25x104mUrelの総アセチルコリンエステラーゼ酵素活性を有することを外挿することができる。従って、単位「mUrel_total」は、好ましくは、ある数の細胞の外挿AChE活性を指し、ここで、AChE活性は、mUrelで測定された相対AChE活性から直線的に外挿される。さらなる好ましい実施形態において、mUrel_totalで与えられる総AChE活性は、本明細書に記載されるようなAChE標準に対するMPCの細胞集団又は細胞用量の総AChE活性である。従って、単位「mUrel_total」はまた、原液の希釈液のODが、ATI及びDTNBの添加の6~8分後、好ましくは6、7、又は8分後に既に測定されることを除いて、同じ条件下で、4~500mU/mlの範囲のAChE原液の希釈系列によって得られる直線式に関して、ATI及びDTNBの添加の60分後に測定される前記細胞集団又はMPCの細胞用量の相対的な「mU/ml」を指す場合がある。
【0132】
本発明者らは、本発明に開示された方法に従って得られたMPCが、LCCバッチの場合、36mUrel~568mUrelの範囲の241.90±SD AChE活性を保有することを見出した(ここで、前記AChE活性はそれぞれ2x105個の細胞当たりで測定される)。HCCバッチ(n=75)は、49mUrel~680mUrelの範囲の平均±SD AChE活性213±137.40mUrelを保有することが見出された。
【0133】
筋原性前駆細胞を得るための方法
本発明による方法で使用するMPCは、好ましくは筋組織の単離細胞である。これらは、当業者に周知の方法、例えば、筋生検からの単離によって得ることができる。好ましくは、細胞は、筋組織から、好ましくは筋生検を得ることによって単離することができる。好ましくは、筋生検は外科手術によって対象から得られる。好ましくは、MPCは、対象から、より好ましくはヒト対象から、さらに好ましくは、例えば失禁に罹患している対象のような必要としているヒト対象から単離される。好ましくは、MPCは、対象の筋生検から単離されるか、又は代わりに、脂肪組織もしくは結合組織のような、しかしこれらに限定されない別の組織源から単離される。好ましくは、前記筋生検は骨格筋から得られ、より好ましくは、大胸筋、上腕二頭筋、又は広背筋から得られる。
【0134】
MPCは、(a)得られた筋生検の冷却;(b)サンプルの処理及び冷却;(c)ステップ(b)のサンプルを、少なくとも1つの酵素を含む血清を含む培地に再懸濁し、38℃まで1~20時間加熱する;サンプルをペレット化する;及び(d)ステップ(c)のサンプルのペレットを再懸濁し、ステップ(c)のサンプルから単一細胞懸濁液を提供し、それによってMPCを得る、という以下のステップを含む方法によって、得られた筋生検から好ましくは得られる。ステップ(a)は筋生検を実施することを含む。MPCの供給源となるこのような筋生検は、損傷部位の筋肉から、又は臨床外科医がより容易にアクセスし得る別の部位から得ることができる。さらなる好ましい実施形態において、ステップ(a)は、16℃より低い温度、好ましくは1~16℃、好ましくは4~10℃、特に好ましくは7℃の温度範囲で;そして最大96時間の範囲の時間で実施される。したがって、ステップ(a)は、1~16℃の温度範囲、又はこの範囲の中間の任意の温度、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15℃、又はこの範囲内の任意の中間温度、例えば6~8℃の温度範囲で実施することができる。あるいは、温度範囲は4℃以下、好ましくは1~3℃の範囲である。ステップ(a)は、好ましくは、96時間までの範囲の時間、又はこの範囲内の任意の時間、例えば、12時間~96時間、12時間~72時間、12時間~48時間、24時間~96時間、24時間~72時間、24時間~48時間、又は他の任意の中間範囲の時間で実施される。好ましくは、ステップ(b)の処理は、ハサミ、メス、ピンセット、フィルター、ボールミル、遠心分離機の使用を含む。前記の処理とは、特に前記組織試料の機械的破壊を指す。試料の処理は、好ましくは室温で行われる。ステップ(b)における冷却は、好ましくは、試料の処理後に実施される。ステップ(b)における冷却は、1~16℃の範囲内の温度、又はこの範囲内の任意の温度、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15℃、又はこの範囲内の任意の中間温度、例えば4~8℃の範囲内、又は1~3℃の範囲内の温度で実施することができる。ステップ(b)、特に冷却は、2~48時間、2~36時間、又は2~24時間などの明確な時間範囲で実施することができる。ステップ(c)は、好ましくは、トリプシン、パパイン、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ及びDNAseからなる群から選択されるいずれか1種以上を含む溶液を用いて酵素処理を行うことからなる。好ましい実施形態では、ステップ(c)はコラゲナーゼの使用を含む。ステップ(c)における再懸濁は、好ましくは、ステップ(b)の試料を遠心分離し、上清を捨て、細胞ペレットをトリプシンなどの少なくとも一種の酵素を含む血清入り培地に再懸濁することを含む。ステップ(c)はさらに、緩衝液のような適切な溶液中で細胞をボルテックスすることを含む、一つ以上の洗浄ステップを含んでもよい。ステップ(b)の試料は、好ましくは、インキュベーション時間後に遠心分離して試料の細胞をペレット化し、酵素含有上清を廃棄する。ステップ(c)は、25~38℃、好ましくは36~38℃の範囲の温度で実施することができる。好ましくは、ステップ(d)は、FACSソーティング、遠心分離、動電泳動ソーティング、音響泳動ソーティング、ビーズベースセルソーティング、及び光学ソーティングの少なくとも1つから選択される方法を含む。単一細胞懸濁液を得るのに適した濃縮法は、磁気活性化細胞ソーティング(MACS(登録商標))である。MACS法では、特定の表面抗原に対する抗体をコートした粒子と細胞をインキュベートすることにより、細胞を分離することができる。その後、インキュベートされた細胞は磁場中に置かれたカラムに移される。このステップでは、抗原を発現してナノ粒子に付着した細胞はカラム上に留まり、抗原を発現していない他の細胞はカラムを通過する。この方法により、細胞は特定の抗原に対してポジティブ及び/又はネガティブに分離される。好適な濃縮方法の別の例は、例えばWebsterら(Exp Cell Res. 1988 Jan; 174(l):252-65)に記載されているような蛍光活性化細胞選別(FACS(登録商標)である。ステップ(d)で得られた単一細胞懸濁液のインキュベーションを含むステップ(d)の後に、さらなる任意のステップ(e)を実施することができ、ステップ(e)のインキュベーションは、好ましくは25~38℃、好ましくは36~38℃、特に好ましくは37℃の範囲の温度で実施され、それによって接着MPCを得る。このさらなる任意のインキュベーションステップにより、細胞を増殖させ、より多量のMPCを得ることができる。ステップ(e)の後、任意に、ステップ(e)の非付着細胞を廃棄することを含むさらなるステップ(f)を実施してもよく、ステップ(f)は好ましくは少なくとも6時間~4日後に実施される。ステップ(f)の後、任意に、ステップ(e)の接着細胞を増殖させるさらなるステップ(g)を実施してもよく、ステップ(h)の増殖は、接着細胞を70~80%コンフルエントまで1~5継代培養することからなる。
【0135】
本発明の別の実施態様では、MPCは任意のドナー、及びインビトロで培養可能で初期化可能な任意の体細胞から得られる。好ましくは、これらの体細胞はまず、Klf-4、Sox-2、Oct4及びMycからなる初期化因子の異所性発現によって、誘導多能性幹細胞に初期化される(Takahashiら、2007;Takahashii・Yamanaka、2006;Yamanaka、2008)、続いて、先行技術にすでに記載されているように、MPCへの指向性分化を行う(Bajpaiら、2012;Incittiら、2020;Miyagoe-Suzuki & Takeda、2017;Xuanら、2021)。より好ましくは、筋原性前駆由来細胞は、当該技術分野で公知の方法(Hiraiら、2018;Itoら、2017)に従って、多能性中間体を含まない直接的な初期化により体細胞から誘導される。
【0136】
本発明はまた、対象における肛門失禁を予防又は治療する方法を提供し、該方法は、(a)肛門失禁、より好ましくは便失禁を発症する危険性のある対象、又は肛門失禁に罹患している対象を選択する工程を包含する、より好ましくは便失禁を、失禁に関連する対象の状態に従って選択する工程 (b)有効量のMPCを肛門括約筋組織内又は肛門括約筋組織に隣接して投与する工程、好ましくは注射する工程、及び(c)任意に、工程(b)の前及び/又は後に肛門括約筋組織を刺激する工程を包含する。
【0137】
好ましくは、前記方法は、上述され、使用のためのMPCが提供される対象における肛門失禁の予防及び/又は治療のための方法と同じ方法である。従って、失禁の期間、重篤度及び原因性の観点からの対象の選択に関連する実施形態、MPCの特徴に関連する実施形態、細胞用量、標的組織及び分布の観点からの有効量のMPCの注入に関連する実施形態、及び/又は電気刺激及びケーゲル運動の観点からの刺激に関連する実施形態など、上述した全ての実施形態もまた、本発明による方法の実施形態を表す。
【0138】
本発明による方法のステップ(a)は、失禁に関連する状態として筋肉損傷を有する対象を選択することからなる場合がある。代替的又は追加的に、ステップ(a)は、肛門失禁期間が20年以下、好ましくは10年以下、又は上記に開示されたさらなるそれぞれの時間範囲のいずれかを有する対象を選択することを含む場合がある。代替的又は追加的に、ステップ(a)は、治療前に、6回を超えて、好ましくは7回を超えて、好ましくは8回を超えて、9回を超えて、又は10回を超えて1週間当たりの失禁エピソードとして定義される失禁の重症度を有する対象を選択することを含む場合がある。代替的又は追加的に、ステップ(a)は、治療前に、週2回を超えた失禁エピソードが少量又はより多量と分類されると定義される失禁の重症度を有する対象を選択することを含む場合がある。ステップ(c)は、MPCを注射した後、又はMPCを注射する前及び注射した後に、好ましくは少なくとも2週間の肛門括約筋組織刺激を含む。
【0139】
本発明はまた、MPCと、対象における肛門失禁、好ましくは便失禁の予防及び/又は治療のための方法において使用するための医薬上許容される賦形剤及び/又は担体とを含む医薬組成物であって、前記対象が20年以下、より好ましくは約6ヶ月~約20年、又は約6ヶ月~約10年の間、肛門失禁、好ましくは便失禁を発症する危険性があるか、又は肛門失禁、好ましくは便失禁に罹患している、医薬組成物を提供する。特に、本発明は、(i)本発明の全ての実施形態による方法において使用するためのMPC、及び(ii)薬学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む医薬組成物を提供する。
【0140】
本発明による医薬組成物は、さらに、1つ又は複数の従来の添加剤を含むことができる。このような添加物の例としては、生理学的に許容される緩衝液、アルブミン、コラーゲン、ラミニン、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0141】
本発明はさらに、本発明による方法において使用するための医薬組成物を調製するためのプロセスに向けられている。好ましくは、前記プロセスは、MPCを、薬学的に受容可能な希釈剤、賦形剤、又は担体と混和する工程を包含する。
【0142】
本発明はさらに、1つ以上のコンパートメントを含む医薬パックに向けられ、ここで少なくとも1つのコンパートメントは、本発明による方法において使用するためのMPCを含む。
【0143】
本発明はさらに、本明細書に記載されるような対象における肛門失禁、好ましくは便失禁の予防及び/又は治療のための医薬品としてのMPCの使用に向けられている。
【0144】
本発明はさらに、本明細書に記載されるような対象における肛門失禁、好ましくは便失禁の予防及び/又は治療のための医薬の製造におけるMPCの使用に向けられている。
【0145】
上述した実施形態のいずれかに従って疾患を治療又は発症予防する対象は、好ましくはヒト又は動物、特に哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0146】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明を限定するものではないと考えられる。
【実施例】
【0147】
実施例1-骨格筋由来筋原細胞(MPC)の単離
本出願人が実施した臨床試験(EudraCT番号:2010-021463-32)において、WO2019115790に既に開示されているように、ヒト便失禁患者からMPCを単離した。WO2019115790では、少数の患者のサンプルからの筋原性骨格筋前駆細胞の単離が実施されたが、上記の臨床試験では、約170人の別個の患者のサンプルからの骨格筋由来筋原性前駆細胞の単離が実施された。したがって、当該試験に使用されたサンプルの質は、患者及び得られた生検の質に応じて、WO2019115790で使用されたサンプルとは部分的にかなり異なっていた可能性がある。詳細には、実施例5に従って治療される各失禁患者の大胸筋又は上腕二頭筋から骨格筋生検を採取した。生検を行うために、まず、大胸筋の筋膜に達するまで、約1cmの長さで筋肉の上を切開して皮膚を開いた。筋膜を開いた後、1cm
3の筋組織(生検)を採取した。生検は、ゲンタマイシン(最終濃度1~5μg/ml)を添加したHam F10基礎培地からなる、約4℃に予冷された生検輸送培地に直接移された。生検は生検輸送培地内で1~11℃で約26時間保存した。次に、生検をlx PBSで満たしたシャーレに移した。滅菌鉗子とメスを用いて筋組織を結合組織から分離した。次に、筋組織をlx PBSを満たした別のシャーレに移し、メスを用いて2~3mm
2の大きさに切り分けた。上記のような追加的な移送ステップの後、組織片をさらに1mm角に切断した。この断片を最後に、lx PBSを満たした遠心チューブに移し、1300rpmで10分間遠心した。遠心後、上清を除去し、筋肉組織を8μg/mlのゲンタマイシンを添加したlx PBSに懸濁した。その後、筋組織懸濁液を2~8℃に48時間冷却した。冷却後、筋組織懸濁液を1300rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した後、1~5mg/mlのコラゲナーゼ、2~4%v/vのHepes緩衝液、0.1~10%v/vの子牛胎児血清、5~10μg/mlのゲンタマイシンをHam F10に溶解した消化液2.5mlを添加した。筋組織懸濁液を37℃、5%CO
2で6~20時間インキュベートした。次に、懸濁液を1300rpmで10分間遠心し、上清を除去し、ペレットを10~20%v/vのFCS、1~3ng/mlのbFGF、3~10μg/mlのゲンタマイシンを含むHam F10培地に再懸濁し、細胞培養フラスコにプレーティングした。培養フラスコの底に付着したMPCは、3~4日ごとに培地を交換し、コンフルエントに達した後に剥離した後、サブ培養を行うことでさらに維持した。サブ培養は1x10
6~8x10
7MPCに達するまで行った。本実施例に従って単離されたMPCは、分化条件(実施例2及び3)で培養すると多核筋管を形成し、AChE活性が非常に陽性であることがわかった(
図3及び
図5)。さらに、実施例4に従って細胞を分析したところ、CD56とCD90が陽性であり、CD34が陰性であった(
図6)。さらに、実施例2に従って分化条件で培養すると、細胞は多核筋管を形成することがわかった(
図3)。
【0148】
実施例2-MPCの分化能
実施例1に従って得られた2x106個のMPCを、24ウェルNunclon(登録商標)Delta Surfaceプラスチックプレートに播種した。播種から約2~4日後、増殖培地を骨格筋細胞分化培地(500mL、PromoCell GmbH、ドイツ)に交換し、10mLの骨格筋細胞分化培地サプリメントパック(PromoCell GmbH、ドイツ)と240μLのゲンタマイシン(8mg/mL、Sandoz GmbH、オーストリア)を添加することにより、細胞の骨格筋分化を開始した。細胞を約5~7日間培養し、位相差顕微鏡で分析した。
【0149】
実施例1によって得られたMPCを、適切な培養条件下で骨格筋原系へのインビトロ分化について試験した。実施例5による処理に用いたMPCの全バッチにおいて、分化の成功が認められた。筋原性分化の成功は、少なくとも1個の筋管、すなわち複数の単一核MPCの融合により形成された少なくとも3個の別々の核を有する筋肉細胞の顕微鏡観察により決定した(
図3)。
【0150】
実施例3-AChE酵素活性測定
実施例1に従って単離した細胞を、実施例2に従って分化条件下で5~7日間培養した後、AChEの発現を分析した。
【0151】
試薬調製
米国公衆衛生協会(APHA)リン酸緩衝液、pH7.2(Sigma-Aldrich Co.LLC、ドイツ)を製造業者の指示に従って調製した。要約すると、17gの粉末混合物(リン酸一カリウム22.66g/L及び炭酸ナトリウム7.78g/L)を400mLの蒸留水に添加した。0.5mLのTriton X-100を添加した後、混合物を室温で30分間マグネチックスターラー上で溶解した。最終体積をメスシリンダーで500mLとし、さらに希釈せずに使用した。緩衝液は使用するまで4°Cで保管した。エルマン試薬(5,5’-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸、DTNB、0.5mM)は、1.5mLのエッペンドルフチューブに2mgを秤量し、各AChEアッセイ用に新たに調製した。これを1mLのリン酸緩衝液(pH7.2、0.1%triton X-100)に1~2分間ボルテックスして溶解した。リン酸緩衝液(pH7.2、0.1%triton X-100)を入れた15mLファルコンチューブで最終容量を10mLとし、使用まで4℃で保存した。ヨウ化アセチルチオコリン(ATI、5.76mM)は、1.5mLエッペンドルフチューブに2mgを秤量し、各AChEアッセイ用に新たに調製した。1.2mLの蒸留水に1~2分間ボルテックスして溶解し、使用まで4℃で保存した。
【0152】
AChE標準酵素の調製と測定:
AChE標準希釈液はリン酸緩衝液(pH7.2、0.1%triton X-100)で調製し、直ちに使用した。直ちに使用可能な50U/mLのAChEストック(Electrophorus electricus由来)をAAT Bioquest(登録商標)Inc. Sunnyvale,CA,米国より購入した。このAChEを、製造者の指示に従い1000mU/mLのAChEを調製するために希釈し、さらに1:2の比率で希釈して、4~500mU/mLの範囲で8種類の希釈液を得た。各AChE標準酵素希釈液200μLを0.5mM DTNB 300μL及び5.76mM ATI 50μLと混合した。さらに、0mU/mLのリン酸緩衝液と上記のDTNB及びATIを混合し、少なくとも1つのブランク反応ミックスを作製した。標準品とブランクは、暗所30℃で6分、7分、又は8分間インキュベートした後、Anthos Zenyth 340rt マイクロプレートリーダー(Biochrom Ltd., Cambridge,英国)で412nmのOD測定を行った。ブランク反応のOD値は、標準酵素反応のOD値から差し引いた。ブランク補正したOD412nm値と標準希釈液のAChE濃度(mU/mL)との相関は、GraphPad Prismソフトウェアで可視化した。AChE濃度と補正OD値の直線式を計算した。
【0153】
細胞の測定
細胞のAChE活性を測定するために、実施例2に従って骨格筋分化培地で培養して得られた細胞を以下のように処理した:分化培地を24ウェルプレートから注意深く除去し、直ちに300μLの0.5mM DTNB溶液(リン酸緩衝液、pH7.2、0.1%triton X-100で調製)を添加した。室温、暗所で2分間インキュベートした後、50μLの5.76mM ATI(蒸留水で調製)を加えた。さらに、リン酸緩衝液とDTNB及びATIを上記のように混合して、少なくとも1つのブランク反応ミックスを作製した。すべての反応ミックスを30℃、暗所で60分間インキュベートした後、Anthos Zenyth 340rt マイクロプレートリーダー(Biochrom Ltd., Cambridge,英国)で412nmのOD測定を行った。
【0154】
mUrelにおけるAChEの計算:
細胞の60分間の比色測定後、上記のようにして得られたOD412nm値を、ブランク反応からのOD412nm値の減算によって補正した。60分後の細胞の補正されたOD412nm値を、AChE標準酵素反応(ATI及びDTNBの添加後6、7又は8分後に412nmのODを測定した上記の概説)から生成された直線式に入力し、AChE標準に対する2x105個の細胞当たりのAChE活性を決定した。従って、前記決定されたAChE活性の単位は、2x105個の細胞の相対AChE活性を意味するmUrelで与えられる。
【0155】
実施例1に従って製造され、実施例5に従って治療に使用されたMPCは、本実施例3に従って測定した場合、2x10
5個の細胞あたり少なくとも36、最高680mU
relのAChEを有することが判明した(
図4)。
【0156】
実施例4-表面マーカー発現
実施例1に従って単離され、約170人の異なる対象に由来する細胞を、表面マーカーCD34、CD56、CD90の発現について試験した。表面マーカー発現を決定するために、フローサイトメトリーをGuava easyCyte 6HT 2Lフローサイトメーター(Merck Millipore,Darmstadt,ドイツ)で行った。簡潔に説明すると、実施例1によって得られた細胞を、37℃で5分間、IXトリプシンで覆うことによって採取し、400*gで遠心分離し、1%FCSを添加したIx PBSに再懸濁した。40,000個の細胞を195μlの1x PBSに懸濁し、5μLのCD34-PE、CD56-PE、CD90-PE(ベックマン・コールター社製)を加えた後、1.5mLのエッペンドルフチューブで20分間、4℃、暗所でインキュベートした。次に、各反応に5μLの生存率色素7-アミノアクチノマイシン D(Beckman Coulter Inc.、フランス)を加え、プレートを暗所、室温で10分間インキュベートした。最後に、Guava InCyte(商標)v.2.3 ソフトウェアを使用して細胞イベントを取得した。ヒストグラムとドットプロットは、サンプル流量1.8μL/mLで最小5000イベントで生成された。陽性染色は、少なくとも95%陰性として設定されたアイソタイプコントロールとの比較、又はコントロール(陰性)細胞との比較によって得られた。
【0157】
さらに、実施例1により得られた細胞の個々の無作為かつ例示的に選択されたバッチを、フローサイトメトリーによりSca-1、A2B5及びCD105の発現について試験した。そこで、フローサイトメトリー分析は、Guava easyCyte 6HT 2Lフローサイトメーター(Merck Millipore, Darmstadt,ドイツ)を用いて行った。簡潔に言うと、細胞をトリプシンにより37℃で5分間採取し、400rcfで遠心分離し、1%FCSを添加したlx PBSに再懸濁した。40000/反応濃度の細胞を、5μLのIgGl-PE(Beckman Coulter)、Isotype Alexa488(Sigma)、抗CD105-PE(Beckman Coulter、フランス)又はA2B5-Alexa488抗体(Millipore)と共に、1.5mLエッペンドルフ(登録商標)チューブ中、暗所、4℃で15分間インキュベートした。細胞を1mLのPBSで洗浄し、400rcfで遠心分離し、96ウェル丸底プレートでのFACS分析のために200μLの1xPBSに再懸濁した。洗浄及び再懸濁後、各反応に生存率色素7-アミノアクチノマイシンD(Beckman Coulter Inc.、フランス)5μLを加え、プレートを4℃で10分間インキュベートした。細胞イベントはGuava InCyte(登録商標)v2.3 ソフトウェアを使用して取得した。ヒストグラムとドットプロットは、サンプル流量1.8μL/mLで最小3000イベントで生成された。少なくとも99%陰性として設定されたアイソタイプコントロールとの比較により、陽性染色が得られた。
【0158】
実施例1に従って製造され、実施例5に従って治療に使用されたMPCバッチは、64.10%~99.83%の範囲でCD56陽性、80.05%~99.88%の範囲でCD90陽性、0.04%~8.33%の範囲でCD34陽性であることが判明した。この発現プロファイルは、約170人の異なる患者の生検から単離されたMPCバッチについて決定された。さらに、前記MPCバッチから無作為に例示的に選択された個々のバッチは、各マーカーについてバッチあたり少なくとも60%の細胞がA2B5及びCD105を陽性に発現し、多くとも10%の細胞がSca-1を陽性に発現するSca-1陰性であることが判明した。
【0159】
実施例1に従って分離した細胞におけるデスミン、及びMyoD発現の細胞内検出のために、免疫細胞化学を行った。まず、細胞培養皿の上清を捨て、細胞をPBSで3回洗浄した。透過固定は、4%ホルムアルデヒド溶液(v/v;PBSで希釈)で細胞を覆い、室温で20分間行った。その後、各インキュベーションステップの後、細胞をPBSで3回洗浄した。その後、細胞を500μlの過酸化水素ブロック(Thermo Fisher Scientific)で覆い、室温で5分間インキュベートした。最終濃度40μg pro ml (w/v)の一次抗体(デスミン又はMyoD)を細胞にピペッティングし、少なくとも90分間インキュベートした(37℃、5%CO2)。次に、細胞を500μlのビオチン標識二次抗体(ヤギ抗ウサギ、ポリクローナル、Thermo Fisher Scientific)で覆い、一次抗体と同じ条件下でインキュベートしたが、少なくとも60分間はインキュベートした。抗体結合を可視化するために、500μlの西洋ワサビストレプトアビジンペルオキシダーゼ(Vectorlabs)を最終濃度2~5μg/ml(PBSで希釈)で添加し、37℃、5%CO2、20分間インキュベートした。結果を観察する前に、PBSで最終洗浄を行った。免疫細胞化学でデスミン陽性に染色された細胞は暗赤色で可視化される。
【0160】
上記のように実施例1に従って単離されたMPCのバッチから無作為に例示的に選択された個々のバッチは、デスミン陽性であることが見出され、ここで細胞の少なくとも60%が陽性であることが見出された。さらに、実施例1に従って単離されたMPCバッチの無作為かつ例示的に選択された個々のバッチは、MyoD陰性であることが見出され、ここで細胞の多くとも10%がMyoD陽性であることが見出された。
【0161】
実施例5-MPCを用いた便失禁患者の治療
本出願人は、臨床現場で実際に遭遇する多様性を反映した患者集団において、筋原性前駆細胞を用いた治療の有効性を調査する概念実証試験として、多国籍、多施設、無作為、二重盲検、プラセボ対照、並行群間臨床第IIb試験を実施した。患者の組み入れ基準及び除外基準を以下に示す(表1)。実施された診察と検査の概要と患者の流れを
図4に示す。
【0162】
表1:実施例5による臨床試験のITT集団に含めるべき患者の包含基準及び除外基準。
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
適格な患者は、3つの治療群(無作為化手順については補足的方法を参照)のいずれかに無作為化され、実施例1に従って単離された注入細胞の低用量(LCC、5±1x10
6)又は高用量(HCC、50±10x10
6)と4週間の電気刺激との組み合わせによる細胞治療を受けるか、又は電気刺激と組み合わせた無細胞培地の注入による対照治療を受けた。MPCの移植は、訓練を受けた医師により、麻酔をかけた患者を対象として、前述のように行われた。患者は仰臥位にされ、細胞又はプラセボが、特別に設計された注射装置を用いて、直接超音波ガイド下で注射された。各患者には、適切な細胞濃度に乳酸リンゲルで希釈した凍結細胞の一定分量が投与された。その結果、総容量6mlが12個のデポ(12x0.5ml)で注射され、各デポは外肛門括約筋(EAS)に直接円形に配列された。縦走筋、内肛門括約筋、上皮下への細胞注射は避けた。この治療のために、すべての患者は1日入院した。実施例1に従って単離され、移植に用いられた細胞は、骨格筋分化能(実施例2)、AChE酵素活性(実施例3)及び表面マーカー発現(実施例4)について分析された。試験中に生産された細胞バッチはすべて、多核筋管を形成する可能性が陽性であることが判明した(
図3)。さらに、LCCとHCCの両方の治療に用いられた細胞集団は、CD56が64.10%~99.83%、CD90が80.05%~89.99%陽性であり、CD34が0.04%~8.33%陽性であることがわかった(
図6)。骨盤底筋電気刺激療法は、筋肉の成長と成長に関連したシグナル伝達を刺激することが知られているため、便失禁の保存的治療のゴールドスタンダードと考えられている。試験の概要は
図4のAに示されている。本試験で治療に選択された患者(包括解析集団、ITT)は、表2に示す基本的な集団統計学的パラメータを有していた。
【0167】
表2:臨床試験のITT患者集団におけるデモグラフィック、FI初診からの期間、及び関連する括約筋異常
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
実施例6-有効性の分析
実施例5の最初のスクリーニング診察の後、患者は、次の診察で大胸筋から筋生検サンプルを採取する前に、失禁日記を2週間記入するよう指示された。その後、4週間の電気刺激治療が開始された。さらに4週間日誌を記入した後、患者は細胞(LCC又はHCC)又は対照(PBO)注射を受け、翌日に移植後のコントロールを受けた。患者はさらに4週間の電気刺激治療を受け、日記をつけた。注射後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月の時点で患者を調査し、4週間の日誌をつける前に対照群と面談した。日記では、便失禁が1日にどのような悪影響を及ぼすかを視覚的アナログスケール(VAS)で毎日点数化し、便失禁エピソードを記録し、「痕跡」、「少量」、「より多量」の3つのカテゴリーに分類することが求められた。さらなるパラメータは、スキームに概説されているように、応答率の評価、肛門マノメトリー、超音波測定、及びFI-QoL質問票で構成される。主要評価項目として、注射前4週間のベースライン値(VO)と比較して、注射後6ヵ月(
図1ではV4=治療後6ヵ月)までの4週間の失禁エピソード頻度(IEF)の変化を評価した。副次評価項目は、4週間の日記期間の平均値から算出したVASの変化とQOLである。さらに、ベースラインと比較してIEFが25%以上、50%以上、75%以上、90%以上減少した患者の割合、肛門マノメトリー及び超音波検査データの経時的変化を評価した。さらなる探索的エンドポイントは、ベースラインから注射後12ヵ月までのIEF及びその他のパラメータの変化、さまざまなタイプの失禁エピソード(IE)の変化、失禁のない日数であった。
【0172】
肛門内視鏡検査、超音波検査、肛門内圧測定は、参加した各施設で設定された基準に従って行われた。評価項目は、肛門管の長さ、安静時圧、最大絞り圧などであった。バルーン排出試験により、最初の感覚に達するまでの充填量、排便欲求量、排便切迫量、最大耐容量が測定された。
【0173】
試験期間中、有害事象(AE)及び重篤なAEの発生が記録され、健康診断、血液学、血液化学、尿検査の標準検査が実施され、併用薬が登録された。本試験は、独立したデータ安全性モニタリング委員会によって監督された。この評価により、合計252例の患者が1:1:1の割合で3つの治療群に無作為に割り付けられた。主要エンドポイント解析には、p値<0.025を有意とみなして片側ウイルコクソン順位和検定を適用した。連続変数の副次評価項目は、p値<0.05を有意とみなして対応のないt検定(比較した試験群が正規分布している場合)又はウイルコクソン順位和検定(比較した試験群が正規分布していない場合)により試験群間で比較した。非連続変数はカイ2乗検定又はフィッシャー検定により試験群間で比較した。
【0174】
異なるタイプの失禁エピソードに対するPBO、LCC、HCC治療の5回目の来院時(治療後12ヵ月)の50%レスポンダー率という観点から治療効果を分析した結果、レスポンダー率は一貫して「痕跡」に分類されるエピソードで最も低いことが明らかになった(表3)。したがって、IEFの変化とレスポンダー率のさらなる分析のために、すべてのエピソードタイプを数える場合と、「少量」と「より多量」のエピソードタイプのみを数える場合の計算が行われた。
【0175】
表3:治療群(LCC、HCC、PBO)及びエピソードのタイプ(痕跡、少量、より多量)別に、ベースラインから治療後12ヵ月までに週1回の失禁エピソードが少なくとも50%減少した患者の割合。
【0176】
【0177】
ITT患者集団における治療群間のIEFの変化を分析した結果、すべてのエピソードタイプをカウントした場合、又はトレースを除外した場合にかかわらず、すべての治療群で移植後の来院期間にわたって一貫した減少が認められた(
図1A、
図IB、表4、表5)。IEFの低下は、HCC群で治療後のすべての診察で最も高く、次いでLCC群、最後にPBO群であった。ITTセットにおいて、HCC対PBO及びLCC対PBOの間で、αレベル0.05の2側ウイルコクソン マンーホイットニー検定を実施したところ、ベースラインから移植後の来院時までのIEFの変化は、痕跡を含めると治療後6ヵ月で(p=0.035)、痕跡を除くと12ヵ月で(p=0.034)、PBOと比較してHCCで有意に増加することが判明し(
図1A及びB)、MPCの高細胞数移植がプラセボ治療よりも優れていることが示唆された。
【0178】
表4:ITT患者集団における治療群別、実施例5の試験期間中のベースライン(VO)からの週間IEF(痕跡を含む)の絶対変化量。PBO、プラセボ。LCC、低細胞数。HCC、高細胞数。SD、標準偏差。N、患者数。
【0179】
【0180】
表5:ITT患者集団における治療群別、実施例5の試験期間中のベースライン(VO)からの週間IEF(痕跡を除く)の絶対変化量。PBO、プラセボ。LCC、低細胞数。HCC、高細胞数。SD、標準偏差。N、患者数。
【0181】
【0182】
レスポンダー率
他の研究者(Rao,2016)と一致するように、われわれはIEFが50%以上減少することを臨床的に意義のある改善とみなし、この程度の減少を示す患者をレスポンダーと分類し、減少がより小さい非レスポンダーとは区別した。したがって、注射後1ヵ月及び3ヵ月のデータを含め、各治療群におけるレスポンダーの割合に関するデータを評価し、上記のサブグループを再検討した。我々は、定義されたすべての群及び小集団において、レスポンダーの割合が6ヵ月の追跡調査まで継続的に増加し、すべての症例で細胞群が対照群を上回り、ほとんどの症例でHCCがLCCを上回ったことを検出した(ITT患者集団における治療群別の、実施例5によるベースラインから治療後の来院まで、1週間当たりのIEF(痕跡を含む)が少なくとも50%減少した患者の割合)。PBO、プラセボ。LCC、低細胞数。HCC、高細胞数(表6)。6ヵ月から12ヵ月の間に、対照群とLCC群ではレスポンダー率は横ばいか低下したが、HCC群では痕跡を含めると50%以上(表6)、痕跡を除くと60%以上(表7)まで増加し続けた。ITT患者におけるLCC又はHCCとPBO治療との間の50%レスポンダー率について、有意差をp=0.05としてフィッシャーの正確検定を行ったところ、解析から痕跡を除いた場合、治療後1ヵ月(p=0.037)及び12ヵ月(p=0.006)において、PBO治療よりもHCC治療の優位性が認められた(
図1D、表7)。このことは、筋原性前駆細胞の高細胞数適用が、失禁に対する効果的かつ臨床的に適切な治療法であることを示唆している。
【0183】
表6:ITT患者集団の治療群別で、実施例5に従ってベースラインから治療後の来院まで、毎週のIEF(痕跡を含む)が少なくとも50%減少した患者の割合。PBO、プラセボ。LCC、低細胞数。HCC、高細胞数。
【0184】
【0185】
表7:ITT患者集団の治療群別で、実施例5に従ってベースラインから治療後の来院まで、1週間当たりのIEF(痕跡を除く)が少なくとも50%減少した患者の割合。PBO、プラセボ。LCC、低細胞数。HCC、高細胞数。
【0186】
【0187】
実施例7-患者の特徴と治療結果との関係
実施例5で概説した臨床試験では、288人の患者がスクリーニングされ、251人が無作為に割り付けられ、そのうち244人が試験薬を投与された。女性218人、男性19人が少なくとも6ヵ月の追跡調査まで試験を完了した(96%)(
図4)。参加者の年齢中央値は63歳(四分位範囲、IQR、53.8~70)で、FIに罹患していた期間は中央値で5.3年(IQR、2.7~9.9)であった。主要評価項目の解析に利用可能なITT患者のベースライン人口統計学的及び臨床的特徴を表2に要約した。
【0188】
サブグループ特異的影響
プラセボよりも細胞治療に特異的に反応する患者グループを確立するために、探索的な事後解析を行った。この目的のために、次のような仮説駆動型のアプローチを適用した。注射された細胞がEASの機能を回復させるためには、既存の筋組織に注射されるか、その近くに注射されることが有効であるという仮説を立てた。これは、移植後のMPCの遊走能が限られているためと考えられる。従って、損傷したEASの瘢痕形成が持続するため、あるいは時間依存性のサルコペニアのため、筋組織が希薄な患者では筋再生が損なわれている可能性がある。どちらの状態も試験前のFI期間と相関する。10年未満のFIに罹患している患者(ITTセットの73%;対象集団1、TPP1)のみを対象として治療効果を再分析したところ、LCC群とHCC群におけるIEFの低下は、最終的に対照群におけるIEFの低下を有意に上回り、その結果、ITTセットにおけるそれぞれの変化と比較して、ベースラインから12ヵ月後までのIEFの変化は、痕跡を除外した場合、はるかに高いものとなった(
図2B)。レスポンダー率とTPP1患者サブグループ内では、痕跡を除外した場合、治療後12カ月でPBOよりもHCCで有意に高い50%レスポンダー率が認められた(
図2B)。
【0189】
細胞治療の明らかな影響を減少させるもう一つの要因は、対照群でもIEFが低下したことである。したがって、細胞注入の効果を明確に捉えるためには、ベースラインのIEFが高い方が、治療後のIEFの減少が大きく、PBO群と細胞群(LCC、HCC)の間に明確な差が見られるという仮説を立てた。この仮説は、ベースラインIEF(痕跡を含む)に応じてITTセット患者をサブグループ分けし、治療群とサブグループ間でベースラインから6ヵ月後までのIEFの変化を比較することによって検証した。その結果、ベースラインIEFが低い患者をその後除外すると、すべての群でIEFの変化が増加することがわかった。しかし、PBO群と細胞群との間の差は、ベースラインIEFが高くなるにつれてますます顕著に現れた(
図7、表8)。このことは、ベースラインIEFが高い患者は、ベースラインIEFが低い患者に比べ、MPCに基づく治療からより多くの利益を得ることを示唆している。ベースラインIEFが6を超えると、治療群間の差が急速に拡大したため、TPP1とこの特徴を組み合わせてTPP2(FI初診から10年未満、ベースラインIEFが6を超える)とした。これらの患者のみを対象に治療効果を再分析すると、LCC群とHCC群のIEFの低下は対照群のそれを有意に上回り、その結果、ITT群とTPP1群のそれぞれの変化と比較すると、ベースラインから12ヵ月後までのIEFの変化ははるかに大きかった(
図2A)。TPP2患者サブグループのレスポンダー率に関しては、治療後12カ月でPBOよりもHCCで有意に高い50%のレスポンダー率が認められ、最終的にITT患者のHCCグループと比較してTPP2のHCCグループでレスポンダー率が高くなった(
図2C)。このことは、TPP2症例がITT症例と比較してMPCベースの治療により反応性が高いことを示唆している。
【0190】
痕跡として分類される失禁エピソードは、実施例5による治療に対して最も反応性が低く、ベースラインIEFが高い患者はMPCに基づく治療に対してより良好に反応することが上記で実証されたので、「痕跡」として分類されない可能性のあるベースラインIEFを2を超えるTPP1患者を分析した。この患者集団をTPP3と呼んだ。TPP3の患者のみを対象に治療効果を再分析したところ、LCC群とHCC群におけるIEFの低下は、痕跡をカウントしなかった対照群のそれを有意に上回り(
図2B)、最終的に、ITT、TPP1、TPP2のそれぞれの変化と比較すると、ベースラインから12ヵ月までのIEFの変化がはるかに大きくなった(
図2A及び
図2B)。TPP3患者サブグループの奏効率に関しては、痕跡を含めると、治療後12ヵ月の時点でPBOよりもHCCで有意に高い50%の奏効率が認められた。痕跡を解析に含めなかった場合、HCCとLCCの両方で、PBOと比較して有意に高いレスポンダー率が認められた。最終的に、HCC治療患者のTPP3レスポンダー率は、痕跡をエピソードとしてカウントするかどうかにかかわらず、他のすべての患者群と比較して最も高かった(
図2C、
図2D)(表11、表12)。このことは、TPP3患者が、ITT、TPP1、TPP2患者と比較して、MPCに基づく治療に最も反応することを示唆している。その逆に、TPP3のサブグループ分けによって除外された患者(すなわち、10年を超えるFI期間を持つ「NR1」、又はベースライン時のIEFが2未満(痕跡を除く)の「NR2」)は、TPP1、TPP2、TPP3の患者よりもIEFの変化と反応率が低かった。患者群の選択は、LCC又はHCCによる細胞治療がIEF低下と奏効率にどのような影響を及ぼすかだけでなく、プラセボ(PBO)治療がどのような影響を及ぼすかにも影響を及ぼす可能性がある。そこでさらに、IEF変化率とレスポンダー率について、それぞれ効果量とオッズ比を算出した。詳細には、表13に従って、患者サブグループのLCC又はHCCとPBO治療の比較を行い、コーヘンのdと奇数比を算出した。痕跡をエピソードとしてカウントするかどうかに関係なく、TPP3患者は、効果量及び奇数比の点で、LCC又はHCC治療(それぞれPBO治療と比較)による治療効果が最も高かった(
図8)。
【0191】
さらに、治療前の便失禁に関連する外肛門括約筋の損傷(TPP3_損傷)を有するTPP3患者と比較した、すべてのTPP3患者におけるベースラインから治療後12ヶ月までのIEF変化とレスポンダー率、それに関連する効果量とオッズ比を分析した(表9、表10、表11、表12)。これらの患者群を比較すると、筋損傷によるFIに罹患しているTPP3患者では、FIの原因が特定されていないTPP3患者と比較して、HCC治療後のIEF低下がより高いことがわかった(
図9 A及びB)。この効果は、痕跡をFIとしてカウントするかどうかとは無関係に認められた。また、TPP3_損傷集団では、HCC治療後のIEF減少は、PBO治療と比較して有意に高かった。同様に、TPP3_損傷集団では、痕跡を数える、数えないにかかわらず、50%レスポンダー率が高いことがわかった(
図9 C及びD)。TPP3_損傷患者において、PBO治療よりもHCC治療の方が有意に高いレスポンダー率が認められたが、その痕跡を解析から除外すると、最終的にHCC治療患者のレスポンダー率は87.5%となり、全期間最高となった(表12)。TPP3_損傷患者において、PBO治療と比較したLCC又はHCCによるIEF変化及びレスポンダー率の効果量及びオッズ比を解析したところ、TPP3_損傷患者集団では、痕跡を失禁エピソードとみなすかどうかに関係なく、TPP3患者集団よりもHCC治療の方が高い効果量を示した(
図10 A、B)。50%レスポンダー率のオッズ比もまた、LCCとHCC治療の両方において、TPP3患者集団と比較してTPP3_損傷患者集団で高いことが、それぞれ痕跡のカウントや除外とは無関係に見出された(
図10 C、D)。これらの結果は、治療前にEAS損傷に苦しんでいた患者が、FIに関連する状態(例えば、EAS萎縮、骨盤底機能障害など)の複数の可能性を有するより広範な患者集団と比較して、異なる数のMPCで治療した場合に、失禁エピソードのより高い減少及び反応に対するより高い変化を経験していることを示唆している。
【0192】
表8:治療群(PBO、LCC、HCC)間でベースラインのIEFに従ってさらにグループ分けしたITTセットにおけるベースラインから治療後6ヵ月までのIEFの変化。平均値、標準偏差「SD」、患者数「N」を示す。
【0193】
【0194】
表9:ベースラインから治療後12ヵ月までのIEF(痕跡を含む)治療群(PBO、LCC、HCC)、及び平均値、標準偏差(SD)及び患者数(N)で示した患者集団の変化。
【0195】
【0196】
表10:治療群(PBO、LCC、HCC)によるベースラインから治療後12ヵ月までのIEF(痕跡を除く)、及び平均値、標準偏差(SD)及び患者数(N)で示した患者集団の変化。
【0197】
【0198】
表11:治療群(PBO、LCC、HCC)及び患者集団別に、ベースラインから治療後12ヵ月までにIEF(痕跡を含む)が少なくとも50%減少した患者の割合。
【0199】
【0200】
表12:治療群(PBO、LCC、HCC)及び患者集団別に、ベースラインから治療後12ヵ月までにIEF(痕跡を除く)が少なくとも50%減少した患者の割合。
【表12】
【0201】
表13:患者数(N)、便失禁の重症度、便失禁の診断からの時間、及びFLに関連する状態による、実施例7に従って分析した患者集団の概要
M.D.=筋損傷、P.F.D.=骨盤底機能障害、N.D.=神経損傷、LOSC=貯蔵能力の喪失、AT=萎縮。
【0202】
【0203】
参考文献
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【国際調査報告】