(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】衝突生存モデリングのための流れベースの方法
(51)【国際特許分類】
G01M 10/00 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
G01M10/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507123
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-03-14
(86)【国際出願番号】 US2022039331
(87)【国際公開番号】W WO2023014833
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524046836
【氏名又は名称】ナテル エナジー ホールディングス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,アブラハム ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ワトソン,スターリング マリーナ
【テーマコード(参考)】
2G023
【Fターム(参考)】
2G023BC01
(57)【要約】
計算流体力学(CFD)モデルは、損傷の機序が正確にモデリングされる場合、タービンの生物学的性能を評価するための有用な手法を提供し、及び魚にとって安全な設計の開発における設計ツールとして使用され得る。球形離散要素モデル(DEM)粒子軌道データから導出された新規な衝突強度メトリック(HITメトリック)は、種々のブレード幾何形状によって衝突されたニジマスについて実験室内で観察された生存転帰と相関され、及びモデルは、改善された生存予測を可能にする。モデリング方法は、任意の幾何形状との衝突についての生存予測も可能にし、及び広範囲の生物に適用するように拡張可能である。CFDでシミュレートされた生物は、単一のDEM粒子又はDEM粒子のクラスタを含み得る。生物-流れ場相互作用のシミュレーションは、受動的移流及び接触力学の両方を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物の衝突生存率をモデリングする方法であって、
異なる衝突条件下で生物を物体と衝突させることと、
前記衝突条件の各々の下での前記生物の衝突生存率を記録することと、
前記記録された衝突生存率に対して回帰分析を行って、衝突生存率と衝突強度メトリックとの間の関係を得ることと、
前記生物、前記物体及び前記衝突条件を計算流体力学モデル内でシミュレートすることと、
前記シミュレートされた衝突条件の各々の下において、前記シミュレートされた生物によって経験される衝突強度メトリックを算出することと、
衝突生存率と衝突強度メトリックとの間の前記関係に基づいて、前記シミュレートされた衝突条件下での前記シミュレートされた生物の衝突生存率を推定することと
を含む方法。
【請求項2】
前記衝突条件は、
衝突速度、
前記物体の幾何形状、及び
前記生物の幾何形状
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物は、魚であり、前記生物の前記幾何形状は、前記魚の長さを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記魚の長さは、100mm~600mmの範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記物体は、水力タービンブレードであり、前記物体の前記幾何形状は、前記ブレードの厚さ及び前記ブレードの前縁傾斜角を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記前縁傾斜角は、30度~90度の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ブレードの前記厚さは、10mm~250mmの範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突速度は、3.0m/s~25m/sの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
衝突強度メトリックを前記算出することは、
前記シミュレートされた生物が、前記シミュレートされた物体に接触する衝突時点を決定することと、
前記衝突時点前の第1の距離における、前記シミュレートされた生物の衝突前速度の成分を決定することと、
前記衝突時点後の第2の距離における、前記シミュレートされた生物の衝突後速度の成分を決定することと、
前記衝突強度メトリックを前記衝突前速度及び前記衝突後速度の変化の成分の大きさとして算出することと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の距離及び前記第2の距離は、等しい、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記生物は、長さを有するニジマスであり、前記第1の距離及び前記第2の距離は、両方とも前記ニジマスの前記長さの0.04倍~0.06倍の範囲である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
シミュレートする前記ステップは、前記生物を球形離散要素法(DEM)粒子としてシミュレートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
シミュレートする前記ステップは、前記生物を非球形離散要素法(DEM)粒子としてシミュレートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
シミュレートする前記ステップは、前記生物を離散要素法(DEM)粒子のクラスタとしてシミュレートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記回帰分析は、対数ロジスティック回帰分析である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、2021年8月3日に出願された米国仮特許出願第63/228,912号の利益を主張し、この出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002] 本開示の態様は、概して、水力タービンブレードなどの物体との激突後の魚などの生物の生存率を推定する方法に関する。より詳細には、本開示の態様は、計算流体力学シミュレーションを使用して魚の生存率を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 水力施設は、魚及び他の水生生物の通過に脅威を与え、現代の水力施設は、多くの場合、水力計画が環境持続可能性のための厳格な基準に合格することができる場合にのみ実施され得る。しかし、魚及び他の水生生物に対するタービンの通過の影響を設置前に評価することは、困難であり得、タービンが魚及び他の水生生物に対する重大なリスクをもたらすと決定された場合、再設計及び再設置は、大きいコストを発生させ得る。
【発明の概要】
【0004】
[0004] 本開示の一部の態様は、生物の衝突生存率をモデリングする方法に関する。本方法は、異なる衝突条件下で生物を物体と衝突させることと、衝突条件の各々の下での生物の生存率を記録することと、記録された衝突生存率に対して回帰分析を行って、衝突生存率と衝突強度メトリックとの間の関係を得ることと、生物、物体及び衝突条件を計算流体力学モデル内でシミュレートすることと、シミュレートされた衝突条件の各々の下において、シミュレートされた生物によって経験される衝突強度メトリックを算出することと、衝突生存率と衝突強度メトリックとの間の関係に基づいて、シミュレートされた衝突条件下でのシミュレートされた生物の衝突生存率を推定することとを含み得る。
【0005】
[0005] 一部の態様では、衝突条件は、衝突速度、物体の幾何形状及び生物の幾何形状を含み得る。
【0006】
[0006] 一部の態様では、生物は、魚であり得、生物の幾何形状は、魚の長さを含み得る。
【0007】
[0007] 一部の態様では、魚の長さは、60mm~600mmの範囲であり得る。
【0008】
[0008] 一部の態様では、物体は、水力タービンブレードであり得、物体の幾何形状は、ブレードの厚さ及びブレードの前縁傾斜角を含み得る。
【0009】
[0009] 一部の態様では、前縁傾斜角は、30度~90度の範囲であり得る。
【0010】
[0010] 一部の態様では、ブレードの厚さは、10mm~250mmの範囲であり得る。
【0011】
[0011] 一部の態様では、衝突速度は、3.0m/s~25m/sの範囲であり得る。
【0012】
[0012] 一部の態様では、衝突強度メトリックを算出することは、シミュレートされた生物が、シミュレートされた物体に接触する衝突時点を決定することと、衝突時点前の第1の距離における、シミュレートされた生物の衝突前速度の成分を決定することと、衝突時点後の第2の距離における、シミュレートされた生物の衝突後速度の成分を決定することと、衝突強度メトリックを衝突前速度及び衝突後速度の変化の成分の大きさとして算出することとを含み得る。
【0013】
[0013] 一部の態様では、第1の距離及び第2の距離は、等しくてもよい。
【0014】
[0014] 一部の態様では、生物は、長さを有するニジマスであり得、第1の距離及び第2の距離は、両方ともニジマスの長さの0.04倍~0.06倍の範囲であり得る。
【0015】
[0015] 一部の態様では、シミュレートするステップは、生物を球形離散要素法(DEM)粒子としてシミュレートすることを含み得る。
【0016】
[0016] 一部の態様では、シミュレートするステップは、生物を非球形離散要素法(DEM)粒子としてシミュレートすることを含み得る。
【0017】
[0017] 一部の態様では、シミュレートするステップは、生物を離散要素法(DEM)粒子のクラスタとしてシミュレートすることを含み得る。
【0018】
[0018] 一部の態様では、回帰分析は、対数ロジスティック回帰分析であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
[0019] 本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を形成する添付の図面は、本開示を例示し、本記載と共に本開示の原理を説明し、当業者がそれを作製及び使用することを可能にする役割をさらに果たす。
【0020】
【
図1】[0020]一部の態様に係る生魚衝突試験におけるブレード構成である。
【
図2】[0021]一部の態様に係る衝突試験で試験されるブレード幾何形状を示す。
【
図3】[0022]一部の態様に係る衝突試験の計算流体力学モデルである。
【
図4】[0023]RHT100ブレードの前方の3つの異なる場所から放出された流線、ラグランジュ粒子及びDEM粒子の軌道比較を示す。
【
図5A】[0024]一部の態様に係る流線シミュレーションについて、経路長に対してプロットされた衝突付近の速度の成分及び大きさを示す。
【
図5B】[0025]一部の態様に係るラグランジュ粒子シミュレーションについて、経路長に対してプロットされた衝突付近の速度の成分及び大きさを示す。
【
図5C】[0026]一部の態様に係るDEM粒子シミュレーションについて、経路長に対してプロットされた衝突付近の速度の成分及び大きさを示す。
【
図6】[0027]可変の衝突前及び衝突後のサンプリング長さについて、2パラメータ対数ロジスティック曲線におけるパラメータb及びeの百分率誤差を示す。
【
図7A】[0028]一部の態様に係る流線シミュレーションによって算出された衝突速度の大きさに対してプロットされた衝突生存を示す。
【
図7B】[0029]一部の態様に係るラグランジュ粒子シミュレーションによって算出された衝突速度の大きさに対してプロットされた衝突生存を示す。
【
図8】[0030]一部の態様に係る、速度の成分の変化を表すDEM粒子HITメトリックに対してプロットされた衝突生存を対数ロジスティック回帰と共に示す。
【
図9】[0031]一部の態様に係る、物体の表面と衝突する生物の生存率を推定する方法である。
【
図10】[0032]一部の態様に係る、水力タービンの計算流体力学モデルである。
【
図11】[0033]
図10のタービンと相互作用した際のシミュレートされた魚の軌道の部分セットを示す。
【
図12】[0034]
図10のタービンに関する集団生存率推定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[0035] 以下の説明では、本開示の態様の詳細な理解を提供するために多くの具体的な詳細が説明される。しかし、構造、システム及び方法を含む態様は、これらの具体的な詳細なしに実施され得ることが当業者に明らかであろう。本明細書における記述及び表現は、当技術分野における経験者又は当業者により、その研究の内容を他の当業者に最も効果的に伝えるために用いられる共通の手段である。他の場合、よく知られた方法、手順、構成要素及び回路機構は、本開示の態様を不必要に不明瞭にすることを回避するために詳細に説明されていない。
【0022】
[0036] 本明細書における「一態様」、「態様」、「例示的な態様」などへの言及は、説明される態様が特定の特徴、構造又は特性を含み得るが、全ての態様がその特定の特徴、構造又は特性を必ずしも含まない場合があることを示す。さらに、このような表現は、必ずしも同じ態様に言及しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造又は特性がある態様に関して説明されるとき、明示的に説明されるか否かにかかわらず、他の態様に関するこのような特徴、構造又は特性にも関係することは、当業者の知識の範囲内であることが提示される。
【0023】
[0037] 以下の例は、本開示の例示であり、その限定ではない。当技術分野で通常遭遇し、及び当業者に明らかであろう種々の条件及びパラメータの他の好適な変更形態及び適合形態も本開示の趣旨及び範囲に含まれる。
【0024】
[0038] 魚及び他の水生生物が水力施設を下流に通過することは、多くの河川魚種に脅威を与え、回遊性魚種にとって、それらが海洋に回遊する際に複数の水力施設に遭遇するという重大な集団レベルのリスクをもたらす。したがって、(例えば、生物を傷つけないことによって)水力施設が魚及び他の水生生物に与える影響を最小限にとどめることが望ましい。水力施設の相当な設置、運転及び維持コスト並びに新たな水力施設に適用される規制要件のため、水力タービンの下流通過が魚及び他の水生生物に及ぼすことになる影響を設置前に理解することも望ましいか又は必要であり得る。
【0025】
[0039] 正確な生存モデリングツールの開発は、魚が水力タービン内で直面する主要な脅威:急速減圧、剪断損傷及びブレード衝突に応じた魚の損傷及び死亡の可能性を評価するために有用である。これらの生存モデリングツールは、下流に通過する魚の生存転帰を改善するより安全なブレード幾何形状及び運転モードを開発するためにタービン設計プロセスで用いることもできる。
【0026】
[0040] 本開示では、実験室内で行われる制御されたブレード衝突のCFDシミュレーションに基づく3つの異なるブレード衝突モデリングの手法:無質量流線、球形ラグランジュ粒子及び球形離散要素法(「DEM」)粒子が比較され、衝突生存データに対する粒子軌道データの相関に基づく衝突強度メトリック(「HITメトリック」)が提案される。DEM粒子から導出されたHITメトリックが衝突生存率に対する最も強い相関を有すると結論される。
【0027】
[0041] 本開示のモデリング方法は、特定の種の魚と衝突する相似物のタービンブレードを用いて試験されるが、本方法は、タービンブレード又は魚に限定されないことが理解される。一部の態様では、モデリング方法は、水生のカエル、ザリガニ又は卵などの他の魚種又は水生生物にも適用可能である。一部の態様では、モデリング方法は、ステーベーン、ウィケットゲート、ピヤーなどの任意の幾何形状又は任意の表面を有する任意の物体の衝突の影響をモデリングするために適用することができる。最後に、3つのCFDシミュレーション手法のみが試験されるが、粒子のクラスタなど、任意の他の一般的に知られたCFDシミュレーション手法を本開示のモデリング方法で適用することもできる。
【0028】
方法
[0042] 本開示では、生魚の実験的ブレード衝突データを、CFDでシミュレートされた衝突についての推定生存率に関係付けるために、45個のブレード衝突条件からの魚生存データを用いた。
【0029】
生魚の実験室衝突試験
[0043] 本開示で用いられる生魚衝突生存データは、直線状魚衝突施設内でニジマス(Oncorhynchus mykiss)を用いて行われた2つの別個の研究:2006及び2007年に行われた第1の研究並びに2019年に行われた第2の研究に由来する。
図1に示されるように、直線状衝突施設は、可動カート108が取り付けられたガイドレール106のセットを具備する長方形断面のフルーム100からなり、異なる幾何形状のブレード200がカート108に交換可能に取り付けられた。カート108は、ウィンチ及びケーブルにより、例えば3.0m/s~12m/sの範囲の指定速度で引かれ、再現可能な場所に位置付けられ、接近するブレード200に対して90°の角度で配向された麻酔された魚300(すなわちニジマス)に衝突した。これらの研究では、魚衝突生存に影響を及ぼすパラメータがブレード速度(すなわち衝突速度)、L/t比(ここで、Lは、魚300の長さであり、tは、ブレード前縁の厚さである)及び前縁傾斜角を含み、評価された。
【0030】
[0044]
図2は、試験されたブレード200の合計6つの異なる幾何形状を示す。2006年及び2007年に行われた第1の研究では、139、390、402、480及び442mmの翼弦長cをそれぞれ有する、10、25、50、100及び150mmの厚さtを有する直線の前縁を有するブレード(EPRI150、EPRI100、EPRI50、EPRI25、EPRI10)が、3.0m/s~12.1m/sの範囲のブレード速度において、108~264mm(0.67~25のL/t比に対応する)の範囲の魚の長さLで試験された。表1は、2006年及び2007年に行われた第1の研究で試験された衝突条件A~Xを、試験された魚の総数N、ブレード中心線に対する魚の質量中心のオフセット及び条件ごとの平均生存率と共に記録している。
【0031】
[0045] 2019年に行われた第2の研究では、100mmの厚さt、約517の翼弦長c及び30°~90°の範囲の傾斜角で衝突が行われることを可能にする、湾曲した前縁を有する新たなブレード幾何形状(RHT100)が試験された。2019年に行われた第2の研究では、約1.4~約2の範囲のL/t比に対応する2つの魚サイズのグループが、90°~30°の範囲の傾斜角に対応するRHT100ブレードの湾曲した前縁に沿った5つの場所でブレード速度7.0m/s~12.0m/sにおいて試験された。表2は、2019年に行われた第2の研究で試験された衝突条件a~uを、試験された魚の総数N、ブレード中心線に対する魚の質量中心のオフセット及び条件ごとの平均生存率と共に記録している。
【0032】
[0046] 高速ビデオが全ての衝突のために取り込まれ、衝突前のブレード中心線に対する魚の位置を決定するために分析された。
【0033】
【0034】
【0035】
衝突試験フルームのCFDシミュレーション
[0047] 各物理衝突試験条件(すなわち衝突条件A~X及びa~u)は、直線状衝突フルームの3D計算流体力学モデル内でシミュレートされた。
【0036】
[0048]
図3は、CFDモデルを構築するために用いられる幾何形状を示す。長方柱形状の単一の流体領域1010が直線状衝突フルーム施設10の形態を再現している。カート1108の単純化バージョンに取り付けられたブレード1200からなる衝突ブレードアセンブリは、フルームブレード200の上流及び下流に約5翼弦長でフルーム1100長さ方向の中心に配置されている。ブレード1200は、例えば、
図2に示される任意の幾何形状を有することができ、
図3に示されるとおりの態様では、RHT100が用いられる。カートガイドレール1106は、全範囲に延びるようにモデリングされている。流体領域1010及びブレード1200を含むカート1108の壁は、静止したものとしてモデリングされ、均一速度の境界条件が入口1110に適用され、均一圧力の出口境界条件が出口1112に適用された。フルーム1100の流体ボリュームは、全ての4つの側面で壁によって境界されているもの(滑りなし条件を有する)としてモデリングされ、壁1102は、入口1110に適用されるのと同じ速度で運動するものとしてモデリングされた。
【0037】
[0049] 2次対流スキームを用いる3D分離型RANSソルバがSST(Menter)k-w乱流モデル及び全y+壁処理と併せて用いられた。
【0038】
[0050] ブレード1200の一部は、急激に先細状になった又は鈍い後縁などの流れの分離の影響を受けやすい幾何形状を有する。この理由のため、低y+メッシュが利用された。
【0039】
[0051] 衝突は、3m/s~12.1m/sの範囲の速度でシミュレートされた。最大速度では、壁に隣接した全ての角柱セルの99.96%の上でy+が<3であった。
【0040】
魚衝突モデリングの手法
[0052] CFDモデル内でブレード前縁との魚の相互作用をシミュレートするために、無質量流線、ラグランジュ粒子及びDEM粒子が用いられた。粒子は、試験条件ごとの魚の質量中心の場所に対応するyオフセットでブレードの約1.5m上流において投入された。
【0041】
[0053] 流線表現は、単純に、周囲の流れの速度で流れ範囲を通して運動する受動的に移流される粒子として魚を扱った。対照的に、ラグランジュ及びDEMの手法の両方は、流れによって作用を受ける球形粒子として魚を表現した。ラグランジュ/DEM粒子速度
【数1】
は、ラグランジュフレームワーク内で保存運動方程式を解くことによって決定された(式1)。ここで、粒子は、抗力
【数2】
、圧力勾配力
【数3】
、仮想質量力
【数4】
、重力
【数5】
、及びDEMの場合には接触力
【数6】
によって作用を受けた。ラグランジュの球接触は、球重心と壁との交差によって検出された一方、DEMの手法は、球形粒子表面と壁との接触を解明し、粒子-壁の重なりから接触力を計算し、それをより物理的に現実的なものにした。
【数7】
【0042】
[0054] ラグランジュ及びDEMの両方の手法のための粒子直径は、魚のサイズごとに均等な質量の球の直径に基づいて選定され、粒子密度は、中性浮力を表す流体密度(998kg・m-3)に等しく設定された。
【0043】
[0055] 生魚の軌道の算出のために必要とされる力平衡に対する形状の影響を表現するために、非球形抗力モデルは、全ての生魚衝突条件のために上述されたラグランジュ粒子表現と併せて用いられた。
【0044】
[0056] 粒子放出場所から開始する流線座標及びラグランジュ軌道が収束流れ場から算出された。
【0045】
[0057] DEMシミュレーションを行うために、収束流れ場は、凍結され、DEM粒子放出の陰的非定常シミュレーションが行われた。DEM粒子とブレード壁との相互作用をモデリングするために、Hertz-Mindlin接触モデルが用いられた。この非定常シミュレーションからDEM粒子軌道が計算された。
【0046】
衝突強度メトリック(HIT)の計算
[0058] 魚の生存を衝突時点における速度に関係付ける以前の研究と異なり、本開示では、衝突の過程にわたる速度の変化を考慮するメトリックが提案される。衝突時点は、DEM粒子について粒子がブレード境界に接触した最初の時点として識別され、ラグランジュ粒子及び流線について、それは、軌道に沿った速度の大きさが最も低い場所として分類された。
図6A~
図6Cは、それぞれ流線並びにラグランジュ及びDEM粒子について、軌道経路長に対してプロットされた速度成分を示す。
【0047】
[0059] CFDからの軌道データは、離散的であるため、速度データは、線形補間され、衝突時点前及び後に魚によってたどられた距離を表す、全ての条件の衝突時点前及び後の距離σにおける衝突前及び衝突後の値についてサンプリングされた。
【0048】
[0060] 衝突強度メトリック(HITメトリック)は、ms
-1の単位を用いて速度の変化の成分の大きさとして算出された(式2)。
【数8】
【0049】
結果
異なる粒子追跡の手法からの結果
[0061] 流線、ラグランジュ粒子軌道及びDEM粒子軌道は、全ての45個の衝突条件にわたって中間格子上のシミュレーションのために算出され、表3及び表4に要約された。
【0050】
【0051】
【0052】
[0062]
図4では、DEM粒子、ラグランジュ粒子及び流線を表す、RHT100ブレードに対して異なる場所から放出された3つの衝突条件(t、q、e)に関する軌道が示されている。ここで、最も明るい線は、流線を表し、中間の不透明度の線は、ラグランジュ粒子軌道を表し、太い線は、DEM粒子軌道を表す。
【0053】
[0063] 流線及びラグランジュ粒子は、衝突事象の前後で同様の結果をもたらし、ブレードに先立って若干減速し、その後、衝突後に前縁前後でそれらの接近速度を超える速度に直ちに加速した。場合により、流線及びラグランジュ粒子(シミュレーションでは点粒子として表現される)は、ブレードを完全に逃れた。対照的に、DEM粒子は、衝突の過程にわたる速度の大きさの低下を経験し、最終的に、それらがブレードを通り越すにつれて、それらの接近速度よりも大きい速度に加速した。
【0054】
[0064]
図7Aでは、流線衝突速度が全ての45個の条件にわたって生存率に対してプロットされている。
図7Bでは、ラグランジュ粒子衝突速度が全ての45個の条件にわたって生存率に対してプロットされている。
図8では、式2から算出されたHIT衝突メトリックが全ての45個の条件にわたってDEM粒子の生存率に対してプロットされている。2パラメータ対数ロジスティック回帰は、式3を用いてHIT衝突メトリック対生存率について行われた。
【数9】
【0055】
HITメトリック算出のための衝突前及び衝突後経路長σの選択
[0065] 粒子がブレード接近時に自由流速度から減速する効果及び接触後の粒子の最小速度を捉えた距離σにおいて、DEM軌道データから衝突前及び衝突後速度がサンプリングされた(
図5C)。
【0056】
[0066] いずれのサンプリング場所が、45個の衝突条件にわたり、計算されたHIT値を魚の生存に最も良好に相関させるかを決定するために、距離σは、1~30mmで変更された。
図6にこれがプロットされている。9mmのσ値が対数ロジスティック曲線係数における最も低い誤差をもたらし、したがって本開示で報告されるHIT値の算出に用いられた。距離σは、魚の長さと比較して記述することもでき、例えば、距離σは、試験されたニジマスの長さの0.04倍~0.06倍の範囲であり得る。
【0057】
考察
[0067] 流線及びラグランジュの方法は、流れ場から直接計算され、魚をブレード壁との衝突中に点物体として表現するため、計算的にシミュレートするために最も単純であった。それらは、衝突の近傍でほぼ同一の軌道を作り出し、ブレードの後縁付近でのみ逸脱する傾向も有した。中心線オフセットがそれぞれ24.5及び15.3mmである2つのEPRI10ブレードの場合(G、H)、流線及びラグランジュ軌道は、ブレードに全く当たらなかったが、DEM軌道は、接触を記録した。場合により、特に流線が最も厚いブレード(すなわちEPRI100及びEPRI150)のよどみ点の非常に近くでブレードに接近したとき、それは、境界層に進入し、ブレード全体にわたってその内部にとどまった。この発生は、ラグランジュ粒子でより可能性が低く、DEM粒子について不可能であった。
【0058】
[0068] 小さい先端傾斜θ≦45°で発生する大部分の低死亡率の衝突(f、g、h、i、k、l)は、DEM HITメトリックの手法の場合、低過酷度として正しく記録したが、流線及びラグランジュ粒子軌道から導出された衝突速度の場合、より高い過酷度(より低い生存率)の衝突と区別不可能であった。流線/ラグランジュの手法の別の弱点は、粒子が境界層に滑らかに進入し、それを通して移動し、予想されるよりも低い衝突時速度/過酷度を記録する傾向であった。これらの条件下では、DEM粒子は、ブレードとのその球形表面の相互作用の解明のため、物理的に実現可能な軌道をたどり、衝突にわたる速度の変化を捉えた。
【0059】
[0069] ブレード中心線から最も遠くオフセットした放出点に対応する2つの衝突条件(b、s)は、DEM、流線及びラグランジュの手法によって良好にモデリングされなかった。全ての軌道タイプは、これらの2つの条件についてブレードを迂回し、流線/ラグランジュの軌道についてブレードの近傍における高い速度の大きさ、DEM/HITの手法について低い速度変化をもたらした。このシナリオは、球形粒子が魚体の(その質量中心付近の)「衝突敏感」領域を適切に表現しない高いL/t比においてより高頻度で発生すると予想される。
【0060】
[0070] 全ての3つのCFDベースの軌道手法は、実効衝突速度を低下させるように作用し得るブレードの接触に先立って魚に作用する局所的な流れの影響を取り込むため、相対速度(及びL/t比)のみを考慮する生存モデルよりも有用な結果をもたらす。
【0061】
[0071] しかし、流線及びラグランジュの衝突速度の大きさのデータのいずれも、試験された種々の衝突条件にわたる対応する生存データと組み合わされると、有用な傾向をもたらさなかった。対照的に、DEM軌道データからのHIT衝突過酷度メトリックは、6m/s前後における生存率の明確な減少を示し、対数ロジスティック用量反応曲線適合によく適した。
【0062】
結論
[0072] 本開示では、45個の固有の実験室衝突試験条件からの生存データが、衝突速度の大きさ及び各条件のCFDシミュレーションから導出された新規な衝突強度(HIT)メトリックと比較された。各CFDシミュレーションでは、ブレードの速度及び形状並びにブレードに対する魚のサイズ及び位置は、生きたニジマスを用いて行われた実験条件を再現した。本開示は、それが流れ場及び魚をブレードの直接経路から遠ざけるように輸送するその傾向に注目し、シミュレーション出力を既知の生存転帰に直接関係付ける点において、魚類生理学並びに異なる種及び生命段階の魚がタービンブレードによって損傷を受け得る種々の方法に注目する他の手法と異なる。これらの流体力学効果は、タービンに進入する全ての魚のために適切であり、この手法は、特に、それらを魚にとってより安全にする設計特徴(より厚い傾斜したブレード及び低い又は中程度のブレード速度)を採用する水力技術を評価するために適切であると予想される。
【0063】
[0073] 流れによって受動的に移流される粒子を表現する流線及び指定直径の球上での力平衡に基づいて軌道が算出されるラグランジュ粒子は、衝突まで及びその近傍で同様の結果をもたらした。ブレードに接触する単一の点として粒子を表現するこれらの手法と異なり、DEM粒子の手法は、衝突中のブレード壁とのモデリングされた表面接触相互作用を有する球として粒子を扱う。DEM粒子は、流線及びラグランジュ粒子と異なる軌道を取り、衝突の過程にわたる速度成分の急激な変化も明らかにした。この速度変化及び試験された条件の範囲にわたる衝突生存とのその強い相関がHITメトリックの根拠を形成した。
【0064】
[0074] 45個の試験条件にわたるDEMベースの衝突過酷度HITメトリックと平均生存との間の対数ロジスティック回帰によって表された用量反応関係は、完全なタービンのシミュレーションを通過する様々なサイズの魚の集団についての衝突生存率を評価するために用いられ得る。ブレード衝突のモデリングへのこのCFDベースの手法は、同じCFDシミュレーション内の流れ、水頭、動力及び効率の典型的な係数と連携して評価される、設計段階における魚の安全性のためのタービン設計に情報を与え得る。
【0065】
[0075]
図9は、物体の表面と衝突する生物の生存率を推定する方法900を示す。一部の態様では、ステップ902において、物体の幾何形状912からCFDシミュレーションを作成し、解かれた流れ場914を算出する。一部の態様では、ステップ904において、シミュレートされた生物モデル916を、解かれた流れ場914と相互作用させ、生物と物体との間の相互作用をシミュレートし、シミュレートされた生物軌道データ918を生成する。一部の態様では、ステップ906において、軌道データ918を用いて、シミュレートされた生物916についてのHITメトリック値920を算出する。一部の態様では、HITメトリック920は、シミュレートされた生物904により、それが流れ場914を通して移動する際に経験される3次元速度変化を表す。最後に、一部の態様では、ステップ908において、生魚衝突試験からのデータなど、適切な生物学的用量反応データ922をHITメトリック920と相関させ、シミュレートされた生物916の生存率を算出する。一部の態様では、生物学的用量反応データ922をHITメトリック920に適合させるために回帰分析を行う。一部の態様では、生物学的用量反応データ922をHITメトリック920に適合させるために対数ロジスティック回帰分析を行う。一部の態様では、多くのシミュレートされた生物916を流れ場914内に放出することができ、集団生存の推定が算出されることを可能にする。
【0066】
[0076] ステップ904におけるシミュレートされた生物-流れ場相互作用は、流れ場内の生物の位置を決定する運動学方程式及び力平衡の組によって推進される。本開示で詳細に説明されるデータセットでは、生物-流れ場相互作用モデルは、運動が完全に流れ場からの力及び任意の壁接触からの力によって決まる受動的粒子として魚を扱った。しかし、生物の意志(すなわちその周囲に応じた魚の挙動)をモデリングするための力など、シミュレートされた生物に作用する追加の体積力を含めることも可能である。
【0067】
[0077] 一部の態様では、本開示のモデリング方法の1つの適用は、タービンを下流に通過される生物の集団衝突生存率を推定することである。
図10は、ラジアルインフローウィケットゲート402及び2つのブレード200を有するランナ404を有する水力タービン400のCFDモデルを示す。一部の態様では、ブレード200の厚さは、10mm~250mmの範囲である。3つの異なる長さ(100mm、200mm及び300mm)の魚を表現する特性を有するDEM粒子1300としてモデリングされた多くのシミュレートされた魚は、ウィケットゲート402の上流の投入場所403で流れ場914内に放出される。
図11は、高いHIT値によって特徴付けられるシミュレートされた魚軌道の部分セットを示す。
図12は、ランナ直径によって正規化された衝突半径方向場所に対する衝突の分布及び
図10におけるタービン400の幾何形状について、その特定の運転条件で魚のサイズごとに得られた集団生存推定を示す。これらの出力は、その後、広範囲のタービン運転条件における推定魚生存率を特徴付ける追加のプロットを生成するためにさらに利用することができる。
【0068】
[0078] 一部の態様では、本開示のモデリング方法は、タービンブレードだけでなく、任意の壁幾何形状に接触する生物の集団通過生存率を推定するために用いることができる。例えば、本方法は、ステーベーン、ウィケットゲート、ピヤー又は任意の他の壁などの他の表面との衝突からの生存率の予測に用いることもできる。
【0069】
[0079] 一部の態様では、本開示のモデリング方法は、本明細書に開示されるデータセットだけでなく、生物学的用量反応データの任意の適切なセットと共に用いることができる。例えば、本明細書に開示されるデータセットで用いられるニジマスと比べて非常に異なる身体タイプを有するチョウザメなどの異なる種は、異なる形状の用量反応回帰曲線を有する可能性があるが、全体的方法は、身体形状に関係なく適用可能であるはずである。一部の態様では、モデリング方法は、60mm~600mmの範囲の長さを有する魚をモデリングするために用いることができる。一部の態様では、モデリング方法は、カエル、ザリガニ又は卵などの魚以外の他の生物に用いることもできる。
【0070】
[0080] 一部の態様では、シミュレートされた生物モデルは、本開示で詳細に述べられたもの(すなわち流線、ラグランジュ粒子及び球形DEM粒子)を超えて、特定の生物の衝突挙動をより良好に解明し、したがってモデリングするために使用され得る粒子のクラスタ又は非球形粒子の使用を含むように拡張され得る。このモデリングの手法から恩恵を受けるであろう魚のよい例は、非常に細長い身体を有するウナギ又はヤツメウナギであり、DEM粒子のクラスタは、単一点粒子では行われない方法で魚-壁接触の予測を適切に可能にするであろう。
【0071】
[0081] 概要及び要約のセクションではなく、詳細な説明のセクションは、請求項を解釈するために用いられることを意図されることを理解されたい。概要及び要約のセクションは、本発明者によって企図されるとおりの本開示の、全てではないが、1つ以上の例示的な態様を説明し得、したがって決して本開示及び添付の請求項を限定することを意図されない。
【0072】
[0082] 特定の態様の上述の説明は、他者が、当技術分野の技能の範囲内の知識を適用することにより、本開示の一般概念から逸脱することなく、必要以上の実験を行うことなく、このような特定の態様を容易に変更し、及び/又は様々な適用のために適合させることができる程度に十分に本開示の一般的本質を明らかにするであろう。したがって、このような適合形態及び変更形態は、本明細書で提示される教示及び手引きに基づいて、本開示の態様の均等物の意味及び範囲に含まれることを意図される。本明細書における術語又は専門用語は、限定ではなく、説明を目的とするものであり、このため、本明細書の専門用語又は術語は、教示及び手引きを考慮して当業者によって解釈されるべきであることを理解されたい。
【0073】
[0083] 本開示の広さ及び範囲は、上述の例示的な態様のいずれによっても限定されてはならず、添付の請求項及びその均等物にのみ従って定義されるべきである。
【国際調査報告】