(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】電気化学センサの構成
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240725BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20240725BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20240725BHJP
G01N 27/401 20060101ALI20240725BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01N27/416 311K
G01N27/30 B
G01N27/30 F
G01N27/333 331A
G01N27/401 313F
G01N27/416 338
G01N27/416 336H
G01N27/327 353F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507875
(86)(22)【出願日】2022-08-08
(85)【翻訳文提出日】2024-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2022072177
(87)【国際公開番号】W WO2023016954
(87)【国際公開日】2023-02-16
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520075199
【氏名又は名称】ウニベルシタ ロヴィラ イ ヴィルギリ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドラーデ フランシスコ ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ブランキング ペール ロバート エリック ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ブロンドゥー パスカル
(72)【発明者】
【氏名】バエス バスケス ジョナタン フランク
(57)【要約】
本発明は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を判定するための電気化学センサに言及し、電気化学センサは、水溶液に透過性の細孔を含み、標的分析物に対する感受性面を含む前面電極;水溶液に透過性の電解導体架橋;および少なくとも1つの表面と、任意選択的に支持体とを含む裏面電極を含む。前面電極および裏面電極は、電解導体架橋を介して電気的に接続され、前面電極は、前面電極の外面と電解導体架橋とを接続する、相当直径0.2μm超の細孔を含む。電気化学センサは、水溶液が、前面電極の細孔を介して水溶液と順に接触する電解導体架橋を通って裏面電極と接触するように構成される。電気化学センサは、前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定するための手段をさらに備え;電気化学的状態のそのような差の決定は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液(122)中の過酸化水素の存在および/または濃度を決定する方法であって、以下を含む電気化学センサ(10)を使用し:
i.前記水溶液(122)に透過性の細孔を含み、前記過酸化水素に対する感受性面(12)含む前面電極(11);
ii.前記水溶液(122)に透過性の電解導体架橋(14);および
iii.少なくとも1つの表面と、任意選択的に支持体(13)とを含む裏面電極(16);
前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)とが、前記電解導体架橋(14)を介して電気的に接続され;
前記前面電極(11)が、前記前面電極(11)の外面と前記電解導体架橋(14)とを接続する相当直径0.2μm超の細孔を含み;
前記前面多孔質電極の前記感受性面(12)が過酸化水素感受性面(12)であり、銅、ニッケル、プルシアンブルーコーティング材料、プルシアンブルーコーティング複合材、パラジウム、パラジウムナノ材料、および白金または白金誘導体、例えば黒色白金および白金ナノ材料からなるリストのいずれかから選択され;
前記電気化学センサ(10)が、前記水溶液(122)が、前記前面電極(11)の前記細孔を介して順に前記水溶液(122)と接触する前記電解導体架橋(14)を通って前記裏面電極(16)と接触するように構成され;
前記電気化学センサ(10)が、前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間の電気化学的状態の差を決定するための手段(18)をさらに備え;前記電気化学的状態のそのような差の決定が、前記水溶液(122)中の前記過酸化水素の存在および/または濃度を示し;
a.前記水溶液(122)を前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)の前記感受性面(12)と接触させること;
b.前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間の前記電気化学的状態の差を決定すること;および
c.前記電気化学的状態の差に基づいて、前記水溶液(122)中の前記分析物の存在および/または濃度を決定することを含む、方法。
【請求項2】
前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)が、2500秒/100mL未満のHerzbergフローを提供するように構成された細孔密度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)が、好ましくは0.2μm~50μm、より好ましくは1μm~25μm、さらにより好ましくは1.5μm~10μmの相当直径の細孔を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気化学センサ(10)が、前記前面電極(11)が作用電極であり、前記裏面電極(16)が対電極であるような電流ベースのセンサであり;前記対電極が、前記作用電極で行われた反応と相補的なファラデー反応を行い;前記電気化学的状態の差を決定するための手段(18)が、前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間に接続され、前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間を流れる電流を測定するように構成されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記電流ベースのセンサが、前記水溶液(122)と接触しているときに前記前面電極(11)の界面で生成されるエネルギーを利用して前記センサに電力を供給する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記電流ベースのセンサが、前記電極間に電位を印加するように構成された、前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間に接続された電圧源(29)をさらに備える、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記電極を接続する前記電流ベースのセンサの前記電解導体架橋(14)が、高分子電解質、固体ポリマー電解質、イオノゲル、およびアイオノマー、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーからなるリストのいずれかから選択される、請求項4~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記電流ベースのセンサの前記裏面電極(16)が、亜鉛、銀/塩化銀、PEDOT-PSSなどの導電性ポリマー、および白金または白金誘導体、例えば白金コーティング炭素材料および白金ナノ材料からなるリストのいずれかから選択される導電性材料を含む、請求項4~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記電流ベースのセンサの前記前面電極(11)および前記裏面電極(16)の前記過酸化水素感受性面(12)が、白金を含むか、または白金から作製される、請求項4~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記電流ベースのセンサの前記前面電極(11)および前記裏面電極(16)の前記過酸化水素感受性面(12)が、白金を含むかまたは白金から作製され、前記電解導体架橋(14)が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーである、請求項4~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学センサ(10)が電位ベースのセンサであり;前記前面電極(11)が作用電極であり、前記裏面電極(16)が基準電極であり;前記基準電極が、安定した電位を提供し;前記電気化学的状態の差を決定するための手段(18)が、前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間に接続され、前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間の電圧差を測定するように構成されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記電極を接続する前記電位ベースのセンサの前記電解導体架橋(14)が、高分子電解質、固体ポリマー電解質、イオノゲル、およびアイオノマー、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーからなるリストのいずれかから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項13】
前記電位ベースのセンサの前記基準電極が、銀、白金、金、ニッケル、亜鉛、銅、銀/塩化銀、PEDOT-PSSなどの導電性ポリマー、アルミニウムおよび炭素からなるリストのいずれかから選択される導電性材料を含む、請求項11または12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記電位ベースのセンサの前記前面電極(11)および前記裏面電極(16)の前記過酸化水素感受性面(12)が、白金を含むか、または白金から作製される、請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記電位ベースのセンサの前記前面電極(11)および前記裏面電極(16)の前記過酸化水素感受性面(12)が、白金を含むかまたは白金から作製され、前記電解導体架橋(14)が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーである、請求項11~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)および/または前記裏面電極(16)が、導電性材料をさらに含む支持体(13)をさらに含む、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)、前記電解導体架橋(14)、および前記裏面電極(16)が、これらが積層されるように構成され、好ましくはこれらが垂直に積層される、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーでコーティングされている、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)および前記裏面電極(16)が、同じ材料、好ましくは白金で作製される、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
過酸化水素の測定によって標的分析物の存在および/または濃度をさらに決定する方法であって;
前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)が、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ビリルビンデヒドロゲナーゼ、アミノ酸オキシダーゼおよびアミノ酸デヒドロゲナーゼからなる群から選択されるオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼ酵素で官能化されており;前記電気化学センサ(10)が測定する前記標的分析物と接触すると過酸化水素を生成するように構成されており;
前記方法は、
a.前記水溶液(122)を前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)の前記感受性面(12)と接触させる工程;
b.前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間の前記電気化学的状態の差を決定する工程;
c.前記電気化学的状態の差に基づいて、前記水溶液(122)中の前記過酸化水素の存在および/または濃度を決定する工程;および
d.決定された過酸化水素の濃度に基づいて、前記水溶液(122)中の前記標的分析物の存在および/または濃度を決定する工程、を含む、請求項1~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
過酸化水素の測定によって、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度をさらに決定する方法であって;
前記電気化学センサ(10)、好ましくは前記前面電極(11)が、前記標的分析物を捕捉する捕捉エンティティで官能化されており、
前記方法は、
a.存在する場合、前記標的分析物に前記捕捉エンティティが結合するように、前記水溶液(122)を前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)の前記感受性面(12)と接触させる工程;
b.存在する場合、前記標的分析物に検出エンティティが結合するように、工程a)の前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)の前記感受性面(12)を前記検出エンティティと接触させる工程;
c.場合により前記感受性面(12)をすすぎ、標識された検出エンティティが存在する場合、前記過酸化水素を生成するように基質を添加する工程;
d.前記前面電極(11)と前記裏面電極(16)との間の前記電気化学的状態の差を決定する工程;および
e.前記電気化学的状態の差に基づいて、前記水溶液(122)中の前記過酸化水素の存在および/または濃度を決定する工程、を含む、請求項1~19のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記電気化学センサ(10)が、前記標的分析物を検出するための手段(18)をさらに含み、前記手段(18)が、少なくとも検出エンティティおよび基質であり、前記検出エンティティが、前記標的分析物を検出することができ、前記基質に曝露された場合に過酸化水素を生成することができる酵素で標識される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記水溶液(122)に、前記センサを前記溶液(122)に浸漬することによって、前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)に接触させる、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
単一体積の前記溶液を前記センサ(122)に添加することによって、前記水溶液(122)を前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)に接触させる、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記センサを前記溶液(122)の連続フローに曝露することによって、前記水溶液(122)を前記電気化学センサ(10)の前記前面電極(11)に接触させる、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、獣医学、植物学、健康、栄養、食品マニピレーション、インビボ診断、インビトロ診断および予後を含むライフサイエンス、特に電気化学センサを使用することによる試料中の分析物の存在および/または濃度の決定に関する。より詳細には、本発明は、いくつかの電極を標的分析物を含有する溶液に曝露しなければならない、または基準電極および/または内部溶液を備える複雑なシステムを使用しなければならないという問題、ならびにレドックス活性種による干渉の問題をただ1つの電極を溶液に曝露し、電極を多孔質にしてそこから溶液か浸透して裏面電極に到達できるようにすることによって解決する。
【背景技術】
【0002】
この議論は、本実施形態の様々な態様のより良い理解を促進するための背景情報を読者に提供するのに役立つと考えられる。したがって、これらの記述は、この観点から読まれるべきであり、従来技術の承認として読まれるべきではないことを理解されたい。
【0003】
電気化学センサを使用して、溶液(分析物)中の化学化合物を検出することができる。酸化または還元され得る任意の分析物がこの種の検出の候補であることは周知である。
【0004】
電気化学センサの使用は、ライフサイエンス業界全体の様々な分野で一般的である。例えば、電気化学センサは、病院(ICUモニタリング)または病院外環境(ウェアラブル)のいずれかでヒトの分析物を監視し、動物および植物の薬物および疾患を追跡して流行を制御し、あらゆる種類の動物のウイルスを検出し、ヒトおよび動物の栄養値を制御し、アレルギーを追跡し、食品加工および製造汚染レベルを監視するだけでなく、あらゆる種類のインビトロ診断および予測を実行するのに役立つことができる。
【0005】
この電気化学センサの望ましい用途は、グルコースの測定であった。糖尿病の人々は、血中のグルコースレベルを頻繁に測定および制御して、レベルが特定の範囲内に維持されることを確実にする必要がある。したがって、アンペロメトリックセルまたは電位差測定セルのいずれかの電気化学センサを使用して血中のグルコースを検出する方法を求めて、この方向でのいくつかの技術が開発されている。
【0006】
最初に過酸化水素感受性セルの使用が開発されたのは、グルコースオキシダーゼはグルコースを過酸化水素(H
2O
2)に容易に酸化することができ、したがって血液などの所定の溶液中のグルコースの存在および/または濃度の適切なマーカーであるからである。単純なグルコースオキシダーゼベースのセンサを用いて、グルコースオキシダーゼの以下の酵素反応が利用される。
【数1】
【0007】
次いで、過酸化水素(H
2O
2)は、電気化学センサを使用して監視され、過酸化水素は、以下のように酸化される。
【数2】
【0008】
次に、過酸化水素酸化によって生成された電流は、グルコースオキシダーゼによって触媒されるその分解の副産物であるため、グルコースの濃度に関連付けることができる。この方法の感度は、電気活性物質、この場合は過酸化水素に対する作用電極の露出領域によって制限される。検出装置は作用電極、対電極および基準電極を備える場合、溶液と接触する全領域のほんの一部がレドックス活性検出面として機能する。
【0009】
しかしながら、過酸化物の直接のアンペロメトリック検出は複雑である。白金などの使用可能な材料は、センサをアスコルビン酸などのレドックス活性種による深刻な干渉を受けやすくする作業電位で操作されなければならない。オキシダーゼベースの1つのさらなる問題は、H2O2を生成するために必要とされる酸素の消費である。これは、典型的には、グルコースの流れを制限し、したがって酸素の消費を低減する膜の使用によって克服されてきた。
【0010】
これらの問題は、新しいセンサのいくつかの「世代」に取って代わられたこの分野における進歩の示導動機となっている。提案された解決策は、以下の戦略のうちの1つに入る:
a.電極の表面を保護するための選択透過性膜、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーを使用する。これは有用であるが、アンペロメトリックセンサでは電流が作用電極の表面積に比例するため、全体的に効果的ではなく、感度を低下させる可能性がある。コーティングは、このような面積を減少させ、したがって、この構成ではセルの感度を低下させる。
b.レドックスメディエーターを使用して作業電位を低下させ、電子移動効率を改善する。
c.グルコースを検出するためのアプローチ(典型的にはH2O2に基づく)のほとんどは、アスコルビン酸干渉の問題と対決するために、H2O2とは異なる他のタイプの酵素生成物分析物を測定しようと試みてきた。しかしながら、そのようなアプローチは、感度を著しく低下させる。
【0011】
したがって、感度を低下させることなくオキシダーゼベースシステムのレドックス活性種による干渉問題および酸素消費を克服することができる、過酸化水素に感受性の電気化学セルが必要とされている。これらのシステムの使用者は医療対象ではないため、血液を得るには、グルコースを測定できる試料を得るために侵襲的な方法(例えば、指先穿刺、または針による連続監視システム)が必要である。したがって、測定の品質が向上するだけでなく、ユーザにとっての体験の不快感を低減することができるので、これらのシステムの感度を高める必要がある。さらに、グルコメータアンペロメトリックセンサを外部電源から独立させることができれば、より信頼性の高い、より小さなウェアラブルデバイスを達成することができる。
【0012】
さらなるアンペロメトリックバイオセンサは、自己給電型センサとして知られるものを達成した。これらは、溶液中の生化学反応によって生成されたエネルギーを使用して、機能するためのエネルギーを得、したがって外部電源に依存しないアンペロメトリックセンサである。例えば、カソードおよびアノードの両方のバイオ電極触媒反応が同じ基板によって駆動される、コレステロール自己給電型バイオセンサが達成された(Vagin et al.,2014.Analytical chemistry,86(19)、9540-9547)。それはコレステロールオキシダーゼを使用して、レドックスメディエーターとしてプルシアンブルーを使用してカソードで還元される過酸化水素を得、一方コレステロールは媒介コレステロールオキシダーゼによってアノードで酸化される。また、線形応答を有する小型アンペロメトリック自己給電型連続グルコースセンサ(SPGS)が既に記載されている(Liu et,al,Analytical Chemistry 2012 84(7),3403-3409)。システムは、有線グルコースオキシダーゼアノード;白金/炭素カソード;上層のグルコース流束制限膜;およびアノードとカソードとを架橋する抵抗器を備えた。アノードでは、グルコースがH2O2に分解され、次いで酸化されて水素イオンが生じた。一方、カソードは、水素イオンおよび酸素を水分子に還元した。さらなる自己給電型グルコメータの実装では、発生した電荷をコンデンサに転送し、その電圧をグルコースの濃度に相関させることができた(Merino-Jimenez et al.,2021 Adv.Mater.Technol.,Volume 6,Issue 5 200105)。また、バイオアノードおよびバイオカソードを固定化酵素と組み合わせることによって構築された、自己給電型グルコースバイオセンシングシステムが記載されている(Slaughter et.al,Biosens Bioelectron.2016;78:45-50)。これは、グルコースからの電子移動を直接検出し、電荷ポンプ集積回路とコンデンサとを組み合わせることによって構築される。最後に、別のプルシアンブルーベースのバイオセンサは、過酸化水素の検出時にノイズを低減して高性能を達成した(Komkova et al,Anal.Chem.2017,89,12,6290-6294)。
【0013】
これらの自己給電型電極は、センサが機能するための電源の必要性を克服したが、それらは複雑であり、依然として検知する露出領域を著しく増加させることができない、すなわち、電極の検知領域は、依然として露出領域全体の少ない部分であった。2013年に、検知溶液と接触する作用電極を含み、作用電極が多孔質膜構造を含む、試料中に存在する過酸化水素(H2O2)の量を測定するためのアンペロメトリックセンサが記載された(国際公開第2013/039455 A1号)。このシステムは、対電極が基準溶液を使用してレドックス反応式を相殺し、回路を閉じるので、作用電極が検知溶液に曝されることのみを必要とした。これによりセンサの感度を高めることが可能になったが、ナノポーラス膜およびミクロポーラス膜の製造においてだけでなく、センサに含まれるべき基準溶液に応じてセンサ構成がさらに複雑になり、センサはより大型になった。
【0014】
したがって、これらのシステムの複雑さおよびサイズを増大させることなく、これらのシステムの感度を向上させる必要が依然としてある。さらに、電流を得るために必要なレドックス反応に起因して、異なる電極を同じ溶液中で使用しなければならないか、または同じ材料で作られている場合、各電極に異なる環境を提供しなければならない。最後に、アスコルビン酸および他のレドックス活性種の干渉なしに連続フローモードで過酸化水素を検出する、より良い方法を見出す必要もある。
【0015】
本発明では、本発明者らは、作用(前面)電極と対(裏面)電極とが電解導体架橋を介して接続され、作用電極が多孔質であり、それによって水溶液が電解導体架橋、最終的には対電極に到達することを可能にする、過酸化水素感受性自己給電型セルの異なる構成を提示する。したがって、作用電極のみが問題の溶液に曝露され、曝露領域を電流発生面として最大限に利用することが達成され、過酸化水素に対する感度が向上する。さらに、対電極が単に電解導体架橋を介して溶液と接触している場合、対電極に到達する溶液は作用電極のレドックス反応から生じるイオンを運び、H202レベルは無視できるので、対電極の化学環境は作用電極のものとは異なる。したがって、これにより、白金などの同じ材料から作られた前面電極および裏面電極の使用が可能になるが、基準溶液を添加することによって異なる化学環境を構築する必要はない。さらに、本発明は、過酸化物を検出することを可能にするための西洋ワサビペルオキシダーゼなどの第2の酵素を必要としないが、適切な反応速度でその酸化を直接検出することができる。この構成のさらなる利点は、連続フロー測定においてアスコルビン酸に起因する干渉が生じないことであり、このような条件においてさらに良好なセンサとなる。
【0016】
この構成は、前面電極のみが標的分析物を含有する水溶液に直接曝され、前面電極は多孔質であるため、水溶液はそれを通って浸透し、電解導体架橋を通って裏面電極に効果的に到達することができ、他の目的のための他のアンペロメトリックセルおよび電位差測定セルまでさらに広げることができる。したがって、作用電極と対電極との間に電圧源をさらに備える給電アンペロメトリックセンサ、基準電極をさらに備える従来のアンペロメトリックセンサ、および電位差測定センサ(裏面電極が基準電極である)は、上述の構成で可能である。発明者らの知る限り、これは溶液中の化学種の検出のためのこの種の構成についての最初の報告であり、そのような構成の概略図が
図1Aに提供される。
【発明の概要】
【0017】
本明細書に記載の本発明は、以下のように要約することができる。
【0018】
本発明の第1の態様は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を判定するための電気化学センサに言及し、電気化学センサは、
水溶液に透過性の細孔を含み、標的分析物に対する感受性面を含む前面電極;
水溶液に透過性の電解導体架橋;および
少なくとも1つの表面と、好ましくは感受性面と、および任意選択的に支持体とを含む裏面電極を含む。
この発明の第1の態様では、前面電極と裏面電極とが、電解導体架橋を介して電気的に接続され;前面電極は、前面電極の外面と電解導体架橋とを接続する相当直径0.2μm超の細孔を含み;電気化学センサは、水溶液が、前面電極の細孔を介して順に水溶液に接触する電解導体架橋を通って裏面電極と接触するように構成されている。さらに、電気化学センサは、前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定するための手段を備え;電気化学的状態のそのような差の決定は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を示す。
【0019】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、前面電極は、2500秒/100mL未満のHerzbergフローを提供するように構成された細孔密度を含む。より好ましくは、前面電極は、好ましくは0.2μm~50μm、より好ましくは1μm~25μm、さらにより好ましくは1.5μm~10μmの相当直径の細孔を含む。
【0020】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかのさらに好ましい実施形態では、電気化学センサは、前面電極が作用電極であり、裏面電極が対電極であるような電流ベースのセンサであり;対電極は、作用電極で行われた反応と相補的なファラデー反応を行い;電気化学的状態の差を決定するための手段は、前面電極と裏面電極との間に接続され、前面電極と裏面電極との間を流れる電流を測定するように構成されている。そのような手段は、電流計、抵抗器、コンデンサ、または任意の他の電気的手段、ならびにそれらの組み合わせであってもよい。以後、本発明の第1の態様の電気化学センサが本明細書で定義される電流ベースのセンサである場合、それは「電流ベースの実施形態」と呼ばれる。
【0021】
電流ベースの実施形態の好ましい実施形態では、センサは、水溶液と接触しているときに前面電極の界面で生成されるエネルギーを利用してセンサに電力を供給する。あるいは、センサは、電極間に電位を印加するように構成された、前面電極と裏面電極との間に接続された電圧源をさらに備える。
【0022】
電流ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかのさらに好ましい実施形態では、前面多孔質電極の感受性面は過酸化水素感受性面であり、銅、ニッケル、プルシアンブルーコーティング材料、プルシアンブルーコーティング複合材、パラジウム、パラジウムナノ材料および白金、または白金誘導体、例えば黒色白金および白金ナノ材料からなるリストのいずれかから選択され、電流ベースのセンサは、標的分析物として過酸化水素を選択的に測定するように構成される。以降、電流ベースのセンサの実施形態がさらに、本明細書に記載のように過酸化水素感受性である場合、それは「過酸化水素感受性電流ベースの実施形態」と呼ばれる。
【0023】
過酸化水素感受性電流ベースの実施形態の好ましい実施形態では、電極を接続する電解導体架橋は、高分子電解質、固体ポリマー電解質、イオノゲル、およびアイオノマー、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーからなるリストのいずれかから選択される。より好ましくは、裏面電極は、亜鉛、銀/塩化銀、PEDOT-PSSなどの導電性ポリマー、および白金または白金誘導体、例えば白金コーティング炭素材料および白金ナノ材料からなるリストのいずれかから選択される導電性材料、好ましくは白金を含む。
【0024】
過酸化水素感受性電流ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、前面電極および裏面電極の過酸化水素感受性面は、白金を含むかまたは白金から作製され、より好ましくは、電解導体架橋は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーである。
【0025】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの、代替え的なさらに好ましい実施形態では、電気化学センサは電位ベースのセンサであり;前面電極は作用電極であり、裏面電極は基準電極であり;基準電極は安定した電位を提供し;電気化学的状態の差を決定するための手段は、前面電極と裏面電極との間に接続され、前面電極と裏面電極との間の電圧差を測定するように構成されている。以後、本発明の第1の態様の電気化学センサが本明細書で定義される電位ベースのセンサである場合、それは「電位ベースの実施形態」と呼ばれる。
【0026】
電位ベースの実施形態の好ましい実施形態では、前面多孔質電極は過酸化水素選択性電極であり、その感受性面は、白金、プルシアンブルー、亜鉛、銅、金からなるリストのいずれか、好ましくは白金から選択され;電位ベースのセンサは、標的分析物として過酸化水素を選択的に測定するように構成される。以降、電位ベースのセンサの実施形態がさらに、本明細書に記載のように過酸化水素感受性である場合、それは「過酸化水素感受性電位ベースの実施形態」と呼ばれる。
【0027】
過酸化水素感受性電位ベースの実施形態の好ましい実施形態では、電極を接続する電解導体架橋は、高分子電解質、固体ポリマー電解質、イオノゲル、およびアイオノマー、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーからなるリストのいずれかから選択される。より好ましくは、基準電極は、銀、白金、金、ニッケル、亜鉛、銅、銀/塩化銀、PEDOT-PSSなどのレドックス活性表面を有する導電性ポリマー、アルミニウムおよび炭素からなるリストのいずれかから選択される導電性材料を含む。
【0028】
過酸化水素感受性電位ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、過酸化水素選択性電極および基準電極は、白金を含むかまたは白金から作製され、より好ましくは、電解導体架橋は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーである。
【0029】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、前面電極および/または裏面電極は、導電性材料を順に含む支持体をさらに含む。
【0030】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、前面電極、電解導体架橋および裏面電極は、これらが積層されるように構成され、好ましくは垂直に積層される。より好ましくは、前面電極は、裏面電極の真上にある。
【0031】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、電気化学センサは、浸漬されたときに前面電極のみが試験される水溶液に曝されるように被覆される。
【0032】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、前面電極は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーでコーティングされる。
【0033】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、前面電極および裏面電極は同じ材料、好ましくは白金で作製される。
【0034】
過酸化水素感受性実施形態(電流ベースもしくは電位ベースのいずれか)のいずれかまたはそれらの好ましい実施形態のいずれかの好ましい実施形態では、前面電極は、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ビリルビンデヒドロゲナーゼ、アミノ酸オキシダーゼおよびアミノ酸デヒドロゲナーゼからなる群から選択されるオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼ酵素で官能化され、電気化学センサが測定する標的分析物と接触すると過酸化水素を生成するように構成される。以後、過酸化水素感受性実施形態のいずれかが本明細書に記載されるようにさらに官能化されている場合、それらは「第1の官能化実施形態」と呼ばれる。
【0035】
過酸化水素感受性実施形態(電流ベースまたは電位ベースのいずれか)のいずれかまたはそれらの好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、センサシステムは過酸化水素感受性センサを含み、電気化学センサ(好ましくは前面電極)は、標的分析物を捕捉する捕捉エンティティで官能化される。以後、過酸化水素感受性実施形態のいずれかが本明細書に記載されるようにさらに官能化されている場合、それらは「第2の官能化実施形態」と呼ばれる。
【0036】
第2の官能化実施形態の好ましい実施形態では、システムは、標的分析物を検出するための手段をさらに含み、前記手段は、少なくとも検出エンティティおよび基質であり、前記検出エンティティは、標的分析物を検出することができ、基質に曝露された場合に過酸化水素を生成することができる酵素で標識される。
【0037】
本発明の第2の態様は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.水溶液を、本発明の第1の態様の第1または第2の官能化実施形態以外の実施形態のいずれかの前面電極の感受性面と接触させること;
b.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;および
c.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0038】
本発明の第2の態様の代替的実施形態は、過酸化水素の測定によって水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.水溶液を、本発明の第1の態様の第1の官能化実施形態の前面電極の感受性面と接触させること;
b.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;
c.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の過酸化水素の存在および/または濃度を決定すること;および
d.決定された過酸化水素の濃度に基づいて、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0039】
本発明の第2の態様の別の代替的実施形態は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.存在する場合、標的分析物に捕捉エンティティが結合するように、水溶液を本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態の第2の官能化実施形態の前面電極の感受性面と接触させること;
b.存在する場合、標的分析物に検出エンティティが結合するように、工程a)の電気化学センサの前面電極の感受性面を検出エンティティと接触させること;
c.場合により感受性面をすすぎ、標識された検出エンティティが存在する場合、過酸化水素を生成するように基質を添加すること;
d.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;および
e.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0040】
本発明の第2の態様の別の代替的実施形態は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.存在する場合、標的分析物に捕捉エンティティが結合するように、水溶液を本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態の第2の官能化実施形態の前面電極の感受性面と接触させること;
b.存在する場合、標的分析物に検出エンティティが結合するように、工程a)の電気化学センサの前面電極の感受性面を検出エンティティと接触させること;
c.場合により感受性面をすすぎ、標識された検出エンティティが存在する場合、過酸化水素を生成するように基質を添加すること;
d.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;および
e.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の過酸化水素の存在および/または濃度を決定すること;および
f.決定された過酸化水素の濃度に基づいて、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0041】
本発明の第2の態様の代替のいずれかの好ましい実施形態では、センサを溶液に浸漬することによって、水溶液を電気化学センサの前面電極に接触させる。あるいは、単一体積の溶液をセンサに添加することによって、水溶液を電気化学センサの前面電極に接触させる。さらなる代替では、センサを溶液の連続フローに曝露することによって、水溶液を電気化学センサの前面電極に接触させる。
【0042】
本発明の第2の態様の代替のいずれかまたはその好ましい実施形態のいずれかの好ましい実施形態では、前面電極支持体の多孔質感受性面は、電気活性材料をスパッタリングすることおよび/または前面電極支持体上に電気活性材料のナノ粒子を塗布することによって形成される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1A】電気化学センサ(支持体なし)の概略図である。
【
図1B】電気化学センサ(前面電極に支持体あり)の概略図である。
【
図2A】電流ベースのセンサ(自己給電型)の概略図である。
【
図2B】電流ベースのセンサ(外部給電型)の概略図である。
【
図3】支持体、コーティングおよびケーシングを含む電位ベースのセンサの概略図である。
【
図4】異なる構成下で電極材料のそれぞれを含むセンサの性能表である。
【
図5】実施例で使用される過酸化水素検出構成用の電流ベースの自己給電型単一電極センサを示す図である。
【
図6A】溶液モードにおける
図5のセンサの応答である。
【
図6B】溶液モードにおける
図5のセンサの検量線である。
【
図7A】単一体積モードにおける
図5のセンサの応答である。
【
図7B】単一体積モードにおける
図5のセンサの検量線である。
【
図8】
図5のセンサの異なる注入量の電流信号を示す図である。
【
図9A】連続フローモードにおける
図3のセンサの応答である。
【
図9B】連続フローモードにおける
図3のセンサの検量線である。
【
図10】自己給電モードでのフローにおけるグルコースセンサの時間トレースである(数字は注入されたグルコース濃度を示す)。
【
図11】100μMのH
2O
2および100μMのアスコルビン酸を用いた連続フローモードにおける
図5のセンサの時間トレースを示す。
【
図12A】免疫反応後の単一電極の経時的な電位読み出しおよびGOx標識抗体を示す。信号は、グルコースの添加の増加(0.1および1mM)に対応する。
【
図12B】免疫反応後の単一電極の経時的な電流読み出しおよびGOx標識抗体を示す。信号は、グルコースの添加の増加(0.1および1mM)に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の説明
以下の説明は、本開示の様々な実施形態に関する。図面は必ずしも縮尺通りではない。実施形態のある特徴は、縮尺において、または幾分概略的な形態において誇張されて示されている場合があり、従来の要素のいくつかの細部は、明確さおよび簡潔さのために示されていない場合がある。これらの実施形態のうちの1つまたは複数が好ましいかもしれないが、開示された実施形態は、特許請求の範囲を含む本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、あるいは使用されるべきではない。以下で論じられる実施形態の異なる教示は、所望の結果をもたらすために別々にまたは任意の適切な組み合わせで使用され得ることを十分に認識されたい。さらに、当業者は、以下の説明が広範な適用を有し、任意の実施形態の説明がその実施形態の例示のみを意図し、特許請求の範囲を含む開示の範囲がその実施形態に限定されることを暗示することを意図しないことを理解するであろう。
【0045】
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の言及を含む。さらに、「または」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味する。同様に、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含む(including)」は交換可能であり、限定することを意図するものではない。
【0046】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および/または科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の方法および材料が本開示の方法および組成物の実施に使用されることができるが、例示的な方法、装置、および材料が本明細書に記載される。
【0047】
上記および本文を通して論じられた刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、そのような開示が先行する資格を有さないことを先行開示によって本発明者らが承認している、と解釈されるべきではない。
【0048】
本明細書で使用される場合、以下に記載される単語または用語は、以下の定義を有する。
【0049】
「分析物」という用語は、その化学成分が同定および測定されている物質を指す。
【0050】
「標的分析物」という用語は、センサがその存在および/または濃度を決定するように特に設計されている分析物を指す。
【0051】
「化学センサ」という用語は、分析物中の化学的品質を測定および検出し、感知された化学的特性を電子データに変換する装置を指す。
【0052】
「電気化学的状態の差」という用語は、2つの電極の状態またはそれらの環境の間の任意の差、例えば一方の電極から他方の電極に流れる差動電流、または電気的に測定できる任意の他の化学的差の存在を指す。
【0053】
「電気化学センサ」という用語は、電極界面における化学的相互作用を利用して、そのような電極と別の対電極または基準電極との間の電気化学的状態の差を測定することによって前記変化の基質の存在および/または濃度を監視する、任意のセンサまたはセルを指す。これらの相互作用は、ファラデーおよび/または非ファラデーであり得る。ファラデープロセスが関与する場合、対電極は電荷を平衡させる反応を行う。電位ベースの測定では、ファラデープロセスが関与しない場合、対電極は基準(または擬似基準)電極として機能する可能性がある。また、「電気化学セル」(すなわち、作用電極および対電極および高分子電解質層の集合体)という用語は、特に明記しない限り区別なく使用され得る。
【0054】
「水溶液」または「電解液」という用語は、好ましくは流体として、例えば全血、好ましくは無希釈全血、細胞内液、唾液、粘液、脳脊髄液、血清、血漿、汗、尿、または任意の好適な緩衝液もしくは問題の溶液として理解される。本発明の文脈において、水溶液は、水性基剤を含む流体に限定されず、前面電極の細孔および電解導体架橋を通って効果的に浸透することができる任意の流体に及ぶことが理解される。
【0055】
「電気的接続」という用語は、好ましくは、電子またはイオンのいずれかの電荷キャリアに移動性を提供する導電経路による接続として理解される。
【0056】
「作用電極」という用語は、好ましくは、標的分析物との主要な相互作用が生じる電極として理解される。
【0057】
「対電極」という用語は、好ましくは、作用電極で行われる反応に相補的なファラデー反応を提供する電極として理解される。
【0058】
「基準電極」という用語は、好ましくは、作用電極電位の変化が参照される、安定したレベルの電位を確立するための基準として機能する電極として理解される。
【0059】
「前面電極」という用語は、好ましくは水溶液に直接曝される電極として理解され、特に明記しない限り、作用電極であり、したがって区別なく使用される。
【0060】
「導体架橋」という用語は、好ましくは、電極間のイオン性電気接続を提供する要素として理解される。
【0061】
「裏面電極」という用語は、好ましくは、水溶液に直接曝されず、特定の条件下で水溶液に間接的にのみ曝される電極として理解される。
【0062】
「細孔」という用語は、好ましくは物質が通過し得る、要素の微小な開口として理解される。
【0063】
「相当直径」という用語は、細孔に言及される場合、好ましくは、前記直径の円形細孔と同様の流体力学的特性を付与する形状を有する細孔として理解される。
【0064】
「マクロポーラス」という用語は、好ましくは、相当直径0.2μmを超える細孔を含み、それによって分子の大きな集合体を含む流体の要素の輸送がそこから容易に浸透することができる、多孔質要素として理解される。「マクロ細孔」、「マクロポロシティ」または任意の他の関連する用語は、本明細書に照らして読まれることが理解される。
【0065】
「電流ベースのセンサ」という用語は、好ましくは、電流(電子の流れ)に依存して、存在および/または濃度が決定される標的分析物の濃度を測定するセンサまたはセルとして理解される。したがって、従来「アンペロメトリックセンサ」と呼ばれていたものと同様に理解されてもよいが、但し「電流ベースのセンサ」という好ましい用語は、従来のアンペロメトリックセンサとは大きく異なる本発明の特別な特徴を強化するために使用されている。
【0066】
「電位ベースのセンサ」という用語は、好ましくは、2つの電極間の電圧(より正確には、起電力)に依存して、存在および/または濃度が決定される分析物の濃度を測定するセンサまたはセルとして理解される。保護の対象を、厳密な定義を有する電位差計だけでなく、電極間の電位に依存する任意のセンサに広げることは、「電位差測定センサ」という用語とは区別されている。
【0067】
「複合材」という用語は、好ましくは、少なくとも2つの異なる物質で作られた任意の材料として理解される。
【0068】
「感受性面」という用語は、好ましくは、センサが測定するように設計された標的分析物との電気化学的に測定可能な相互作用を効果的に生成することができる材料で作られた表面として理解される。それはしたがって、それが一部になっている要素に同じ感受性特質を付与する。例えば、過酸化水素感受性面を含む電極を含むセンサの場合、それはさらに過酸化水素感受性センサであり、過酸化水素感受性電極を含むと言える。なお、裏面電極の表面を指す場合の「感受性面」という用語は、(電流ベースのセンサの文脈における)作用電極で行われる反応に対して相補的なファラデー反応を効果的に生成することができる材料で作られた表面、または(電位ベースのセンサの文脈における)作用電極電位の変化が参照される、安定したレベルの電位を確立するための基準として効果的に機能することができる材料で作られた表面を指す。
【0069】
「支持体」という用語は、好ましくは、別の1つまたは複数の構成要素のための構造要素として機能する要素として理解される。
【0070】
「電極界面」という用語は、好ましくは、相互作用する要素と接触する電極の表面として理解される。
【0071】
「捕捉エンティティ」という用語は、好ましくは、標的分析物を捕捉する抗体、抗原、抗体様エンティティ、核酸(DNA、RNAおよびそれらの異なる形態)、ビオチン、ストレプトアビジンなどの任意のエンティティとして理解される。
【0072】
「基質」という用語は、好ましくは、酵素の文脈において、検出可能な物質の前駆体として作用する任意の物質として理解される。
【0073】
「検出エンティティ」という用語は、好ましくは、抗体、抗原または抗体様エンティティなどの任意のエンティティであって、酵素または任意の標識など、その前駆体である基質に曝露されると反応を起こしてその生成物が検出され得る、検出分子をさらに含むエンティティとして理解される。
【0074】
「Herzbergフロー」という用語は、100mLの脱気水が10cmの一定の静水圧ヘッドで10cm2の濾過領域を通過するのにかかる時間として定義される。本発明において、前面多孔質電極上の細孔の密度は、Herzbergフローを用いたその濾過流量によって定義される。
【0075】
本明細書に記載されるすべての図は、本発明を例示するにすぎず、本発明を限定するものではない。
【0076】
説明
既に示したように、本発明は、電気化学センサまたはセルを使用することによる溶液中のグルコース(および他の分析物)の検出のために、少なくとも2つの電極、特に作用電極および基準電極または対電極が溶液と接触していなければならないという問題に直面しており、これにより一連の実務上の問題が生じる。電流ベースの技術では、作用電極面積の減少は感受性の低下を意味する。さらに、他の電極を試料成分に曝すと、誤差または不安定性の原因になり得る。1つの電極を使用するたけの現在の解決策は、裏面電極のための基準溶液を含む複雑な設計を必要とする。このような要件により、これらのシステムは、システムが効率的に動作するために使用される電極の正確な配置に大きく依存する。本発明は、電気化学センサまたはセルの各電極を、電極間に設けられた電解導体架橋で接続することによってこの問題を解決し、電解導体架橋に接触する各電極の表面は、それらを効果的に接続させる。水溶液に直接曝す代わりに、電解導体架橋を使用して裏面電極を水溶液と効果的に接触させることによってそのような電気化学センサまたはセルは、作用電極および/または対電極の空間分布に依存せず、それによって溶液を介して回路を効果的に閉じることができ、感知領域をセルの全露出領域まで増加させることができ、容易に小型化することができる。さらに、露出した(前面)電極が、目的の分析物を含有する溶液がそれを通って浸透し、1つまたは複数の裏面電極に到達することができるようなマクロポーラスである場合、同じ溶液がすべての電極で使用されるので、システムは基準溶液として作用する追加の溶液を必要としない。
【0077】
すなわち、従来のアンペロメトリック測定は3つの電極(測定(作用)電極、対電極および基準電極)の使用を必要とし、自己給電型アンペロメトリック測定および従来の電位差測定は2つの電極(それぞれ測定(作用)電極および対電極または基準電極)を必要とする。しかしながら、本発明では、そのような測定は2つの電極(前面(測定)電極および裏面電極)の使用を必要とし、電極は、前面電極のみが分析物に曝される電解導体架橋によって接続され、回路は、多孔質前面電極を通って先に浸透している溶液と先に接触している電解質架橋によって閉じられる。前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定するためのいくつかの手段、例えば電流計または電圧計が使用される。さらに、いくつかの電気的または電子的手段、例えば抵抗器またはコンデンサを回路に追加して、測定を促進または強化することができる。前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差は、存在および/または濃度が測定されている分析物の濃度に関連する。
【0078】
さらに、過酸化水素の直接アンペロメトリー測定は複雑であり、アスコルビン酸などのレドックス活性種による深刻な干渉の存在をもたらす。本発明は、この問題を克服するための注目すべき利点を提供する。印加される外部電位が存在しないので、アスコルビン酸などのレドックス活性種による干渉の大きさは、(特に電流ベースのモードにおいて)最小限に抑えられる。システムを連続フローセルモードで動作させると、
図11に見られるように、アスコルビン酸に対する応答はほとんどなくなる。これは、部分的には、電極が作動している電位差が低いことによって説明することができる。また、多孔質電極では、濃度勾配の構造が電気化学的応答に重要な役割を果たす。したがって、このマクロポーラス電極は、過酸化物に対する応答を高め、干渉の悪影響を低減する固有の界面を作り出す。
【0079】
本発明はまた、前面電極を通した浸透によって水溶液を添加することによって試料を電気化学セルに導入する、新しい方法を提案する。このアプローチは、いくつかの利点を提供する。
【0080】
a.前面電極のみが露出しているので、試料と接触している全領域が電気化学信号を生成するために使用される。これは、必要な試料量の削減(または所与の領域での感受性の向上)を意味する。
b.よりコンパクトな構成は小型化を促進し、フローセル内に露出する電極が1つだけであるため、ウェアラブルグルコメータなどのフローシステムで特に有用である。
c.対向および/または基準システムは高分子電解質を介して保護されているため、望ましくない反応またはそれらの化学環境の変化の問題を起こしにくい。これにより、システムがより安定かつ堅牢になる。
d.液滴分析では、細孔を通る試料の浸透が表面張力を破壊し、大きな液滴の形成を回避する。これは、化学的相互作用を促進する電極表面との接触を改善する。また、液体の薄層が生成されるため、大気中の酸素の拡散が促進され、これはいくつかの化学システムにとって有益であり得る。
【0081】
したがって、本発明の第1の態様は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定するのに適した電気化学センサまたはセルであって、それは
水溶液に透過性の細孔を含み、標的分析物に対する感受性面を含む前面電極;
水溶液に透過性の電解導体架橋;および
少なくとも1つの表面、好ましくは感受性面、および任意選択的に支持体を含む裏面電極を含み、
前面電極および裏面電極は、電解導体架橋を介して電気的に接続されており;前面電極は、相当直径が0.2μmを超える細孔を含み、それが前面電極の外面と電解導体架橋とを接続し;電気化学センサは、水溶液が、順に前面電極の細孔を介して水溶液と接触する電解導体架橋を通って裏面電極と接触するように構成されており;電気化学センサは、前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定するための手段をさらに含み;電気化学的状態のそのような差の決定は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を示す。
【0082】
前面電極としてマクロポーラス電極を使用すると、実施例2に示すように、センサの標的分析物に対する感度に驚くべき効果がもたらされる。これは、マクロポーラスの重要性の組み合わせの結果である。第1に、水溶液が細孔を通って浸透すると、裏面電極は水溶液から隠されることができ、露出領域の作用電極割合を最大にする。第2に、単一体積および連続フロー分析では、水溶液の浸透が水溶液の表面張力を破壊し、大きな液滴の形成が回避される。これは、化学的相互作用を促進する電極との接触を改善する。また、大気中の酸素の拡散が促進され、これはいくつかの化学システムにとって有益であり得る。先に開示されたナノポーラス電極とは対照的に、本マクロポーラス電極は、その表面を通して水溶液を完全に浸透させ、電解導体架橋に到達させる。したがって、その機能は、レドックスメディエーターおよび/または電極触媒による表面の官能化には関連しないが、標的分析物を含有する水溶液に対するそのような電極の透過性に関連する。
【0083】
前面電極と裏面電極とは電解導体架橋を介して電気的に接続されているが、これは、いくつかの構成(垂直方向、横方向、非線形)で行うことができる。2つの電極が電解導体架橋を介して接続されている限り、任意の適切な構成を使用できることが理解されよう。同様に、前面電極および裏面電極の形状およびサイズは、2つの電極が電解導体架橋を介して接続されている限り、いくつかの点で異なっていてもよい。電解導体架橋は、二重の機能する、すなわち電極間の電気回路を閉鎖させ、さらに電極の正電荷と負電荷とを平衡させる媒体として機能する。
【0084】
水溶液は、前面電極のマクロ細孔を貫通することによってのみ、裏面電極および電解導体架橋に到達することに留意しなければならない。したがって、水溶液への裏面電極の曝露は、電極に提示された標的分析物を含有する水溶液が好ましく電極に到達しないという意味で間接的にすぎないが、水溶液の変更されたバージョンは、到達中の溶液が必然的に前面電極を通して浸透し、レドックス反応を既に経ているので到達するであろう。アイオノマーなどの高分子電解質の使用の場合、それらが選択透過性挙動を示す、すなわち負に帯電した種の障壁として作用することは周知である。また、それらは、いくつかの化学反応を促進し得る、増強されたプロトン伝導性および酸素に対する高い溶解度を提供する。
【0085】
裏面電極表面が水溶液と接触すると、電極の電気化学的状態に影響を及ぼす表面-水溶液界面の変化が生じることに留意しなければならない。裏面電極は水性試料に直接暴露されていないが、関連するレドックスまたは基準反応が起こり、センサがそのように作用することができるように、電気化学界面を生成するのに適した環境を必要とする。したがって、水溶液は、この構成を使用してセンサを作成するために、間接的ではあるが、前面電極細孔および電解導体架橋ナノ細孔を通って常に裏面電極に到達しなければならない。これは、例えば、測定の開始時に、少量の電解液(例えば、緩衝液)を前面電極に添加し、安定化させることによって達成することができる。裏面電極が乾燥している場合、システム内を流れる電流は非常に低い(<1nA)が、バックグラウンド電解液(緩衝液のみ、分析物なし)の液滴を添加すると、電流は増加し、安定化する。センサが乾燥すると、電流は再び低下し、前記と同じ方法で回復することができる。電位の場合、センサが乾燥している場合、電位の差(前-裏)は非常にノイズが多く不規則である。センサが湿潤すると、ノイズは低減され、電位は、通常約20mVで安定する。これは、前面電極と裏面電極との間の導電率の測定からも明らかである。センサが乾燥している場合、導電率は非常に低い(抵抗が高い)。バックグラウンド溶液を添加すると、導電率が増加する(化学反応を可能にし、さらにイオンブリッジ内の電荷移動性を可能にするために液体が必要である)。
【0086】
センサは、3つの電極を有するシステムとして構築することもできることにも留意しなければならない。この場合、水溶液へのブリッジの手前で前面電極が露出し、電解導体架橋の後方で基準電極および対電極が遮蔽される。これらの電極を配置する構成はいくつかある。例えば、裏面電極(基準および対向)は、(一方が他方の前に)並列に積み重ねられ、電解導体架橋中に、または同じ平面もしくは異なる平面内でその後方に挿入され得る。この構成では、3つの電極が使用される場合、本明細書に記載されていない他の構成が可能である。
【0087】
図1Aは、多孔質感受性面12を含む前面電極11と、電解導体架橋14と、裏面電極16と、前面電極11と裏面電極16との間の電気化学的状態の差を決定するための手段18とを備える電気化学センサ10の概略図を示す。前面電極12は多孔質であり、それを通って水溶液122を浸透させ、電解導体架橋14へアクセスさせる。手段18は、前面電極11および裏面電極16に、各電極11および16をそれと接続する低抵抗ワイヤ182を介して、それらの電気化学的状態の差を決定することができるように接続される。前面電極11と裏面電極16とが電解導体架橋14を介して接続されることにより、溶液122は、マクロポーラス前面電極11から間接的に裏面電極16に到達することができる。前面電極と裏面電極との電気化学的状態の差を決定することが可能である限り、電流計や電圧計などいくつかの手段でそのような効果を達成することができることに留意すべきである。追加の電気的または電子的手段を電気回路に追加して、本明細書に記載の実施形態のいずれかにおける測定を容易にすることができることにも留意しなければならない。
【0088】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの好ましい実施形態では、前面電極は、2500秒/100mL未満のHerzbergフローを提供するように構成された細孔密度を含む。
【0089】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、前面電極は、好ましくは0.2μm~50μm、より好ましくは1μm~25μm、さらにより好ましくは1.5μm~10μmの相当直径の細孔を含む。
【0090】
電気化学センサは、電極で生じる化学反応の異なる特性を利用して、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定することができるので、前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定するために使用される手段の種類によって分類することができる。2つの電極間の電気化学的状態の差を決定するために使用される2つの一般的な手段は、電極間を流れる電流を測定する電流計、および電極間の電圧を測定する電圧計である。しかしながら、当該技術分野で知られている他の手段を使用して、電極間の電流および電位を測定することもできる。各手段は、以下に観察されるような特定の特性を有する電気化学センサの異なる分野を想定している。
【0091】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかのさらに好ましい実施形態(以降、「電流ベースの実施形態」と呼ぶ)では、電気化学センサは、前面電極が作用電極であり、裏面電極が対電極であり;対電極が、作用電極で行われた反応と相補的なファラデー反応を行い;電気化学的状態の差を決定するための手段が、前面電極と裏面電極との間に接続され、前面電極と裏面電極との間を流れる電流を測定するように構成されている、電流ベースのセンサである。そのような手段は、電流計、抵抗器、コンデンサ、または任意の他の電気的もしくは電子的手段、ならびにそれらの組み合わせであってもよい。
【0092】
電流ベースのセンサは、アノードおよびカソードで自発的に発生するファラデー(レドックス)反応に依存しており、これは、アノードに放出された電子を電流計を介してカソードに到達させ、そこで電子は、アノードからレドックス方程式を平衡させる裏面電極媒体に放出される。
【0093】
電流ベースの実施形態の好ましい実施形態では、電流ベースのセンサは、水溶液と接触しているときに前面電極の界面で生成されるエネルギーを利用してセンサに電力を供給する。したがって、この実施形態では、センサは、自己給電型センサとして知られているものとして機能し、「自己給電」とは、センサが電極内のレドックス反応を支持するために外部電圧の入力を必要としないが、そのような電圧を提供するのは前面電極の界面で生成されるエネルギーであるという事実を指す。
【0094】
図2Aは、多孔質感受性面22を含む前面電極21と、電解導体架橋24と、裏面電極26と、前面電極21と裏面電極26との間を流れる電流を決定するための電流計28とを備える、自己給電型電流ベースのセンサ20の概略図を示す。前面電極21は多孔質であり、それを通って流体溶液222を浸透させ、電解導体架橋24へアクセスさせる。電流計28は、前面電極21および裏面電極26に、各電極21および26をそれと接続する低抵抗ワイヤ282を介して、電極21と26との間を流れる電流を決定することができるように接続される。回路は、電解導体架橋24によって閉じられ、これにより前面電極22と裏面電極26との間に電流が流れ、溶液222は、マクロポーラス前面電極21から裏面電極26に到達することができる。
【0095】
電流ベースの実施形態の別の好ましい実施形態では、電流ベースのセンサは、電極間に電位を印加するように構成された、前面電極と裏面電極との間に接続された電圧源をさらに備える。電極での反応を支持する電位を印加すると((生)化学反応によって生成されたものに加えた)、
図4に示すようにセルの性能をさらに制御することが可能になる。
【0096】
図2Bは、多孔質感受性面22を含む多孔質前面電極21、電解導体架橋24、裏面電極26および電流計28を備える電流ベースのセンサ20の概略図を示す。前面電極21は多孔質であり、それを通って流体溶液222を浸透させ、電解導体架橋24へアクセスさせる。単一電極20は、ワイヤ292を介して前面電極21および裏面電極26に接続された電圧源29をさらに備える。電圧源29は、電極での反応を支持し(電位は生化学反応からのものに加えられる)、セルの性能を制御することを可能にする。電圧源29は、主電源、1つ以上のバッテリ、定電圧または定電流電源などを備えることができる。
【0097】
電流ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では(以降、「過酸化水素感受性電流ベースの実施形態」と呼ぶ)、前面多孔質電極の感受性面は過酸化水素感受性面であり、銅、ニッケル、プルシアンブルーコーティング材料、プルシアンブルーコーティング複合材、パラジウム、パラジウムナノ材料および白金、または白金誘導体、例えば黒色白金および白金ナノ材料からなるリストのいずれかから選択され;その結果、電流ベースのセンサは、標的分析物として過酸化水素を選択的に測定するように構成される。
【0098】
過酸化水素感受性電流ベースのセンサの前面(アノード)電極および裏面(カソード)電極材料の重要性は特に意義がある。伝統的なアンペロメトリーは、金および炭素材料などの材料に依存しており、この過酸化水素感受性電流ベースのセンサシステムでは、それらが過酸化物との直接的な自発電子移動反応を触媒しないので適していない。作用電極は、過酸化水素レドックス感受性材料に厳密に限定されているように思われるが、対電極は、導電性ポリマーも使用され得るように、あまり限定されない。その独特の設計により、架橋および多孔質前面電極が、前面電極および裏面電極の過酸化水素感受性面の環境が異なることを保証し、レドックス反応を閉回路で発生させる場合、異なる溶液を必要とせずに同じ材料で作られた2つの電極を使用する可能性があることにも留意しなければならない。そのような場合、異なる化学界面に起因して、電極の一方はアノードとして作用し、他方はカソードとして作用する。
【0099】
このような構成は当技術分野で知られているような従来のアンペロメトリーでは直感に反し、なぜなら、レドックス反応は電子供与体(アノード-酸化)および電子受容体(カソード-還元)を必要とし、同じ溶液の場合、材料は常に特定の電位下で2つの反応のいずれか1つを起こしやすいが、反対の反応が起きることは、従来のアンペロメトリーが常に予想していたことに逆らうからである。この以前には予測できなかった反応の説明は、検知溶液(測定される分析物を含む水溶液)が単に電解導体架橋を介して裏面電極と接触する場合、前面(作用)マクロポーラス電極を通って浸透する溶液を捕捉する、裏面(直接露出していない)電極が曝される異なる媒体に依存する。具体的には、前面電極は、酸化された過酸化水素を含む溶液に曝露され、特定の濃度レベルでは、過酸化水素は前面電極表面で急速に分解されるため、裏面電極に到達することはできない。したがって、浸透した溶液は、前面電極が曝される溶液とは異なり、ORR(酸素還元反応)が裏面電極で自発的に発生することを可能にする。しかしながら、この異なる構成は、電極用の従来の材料のいくつか、例えば金および炭素材料と適合性がないことが示されている。したがって、電極材料の選択は些細な決定ではない。一般的に、過酸化物が電極表面との電気化学反応を起こす場合、それは作用電極として使用され得るが、このシステムの最適化は、裏面電極の適切な組み合わせを通して経験的に見出されなければならない。
【0100】
前面電極の任意の過酸化水素感受性面を使用して、オキシダーゼ酵素によって触媒される反応の副生成物をさらに検出することができ、したがって標的分析物を検出することに留意しなければならない。したがって、これらの実施形態のいずれも、そのような場合に適用可能であると理解されなければならない。
【0101】
過酸化水素感受性電流ベースの実施形態の好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電流ベースのセンサの電極を接続する電解導体架橋は、高分子電解質、固体ポリマー電解質、イオノゲル、およびアイオノマー、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーからなるリストのいずれかから選択される。電流ベースのセンサでは、作用電極での正電荷と対電極での負電荷とを平衡させなければならないため、電解導体架橋が非常に重要な機能を果たすことに留意しなければならない。電解導体架橋は、平衡化が起こるための媒体を提供し、裏面電極に水性媒体を提供する。
【0102】
過酸化水素感受性電流ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電流ベースのセンサの裏面電極は、亜鉛、銀/塩化銀、PEDOT-PSSなどの導電性ポリマー、および白金または白金誘導体、例えば白金コーティング炭素材料および白金ナノ材料からなるリストのいずれかから選択される導電性材料、好ましくは白金を含む。適切な裏面電極は、ORR(または溶液成分による代替的な還元)を効率的に起こすことができる材料で作製されることに留意することが重要である。
【0103】
前面電極、電解導体架橋、および裏面電極リストの任意の組み合わせが適切であり、したがって電流ベースのセンサで機能することができることに留意されたい。電極の選択は、相補的なレドックス反応を発生させるその能力および作動電位に依存することにさらに留意しなければならない。したがって、いくつかの組み合わせは、可能ではあるが、特定の分析物にとって最良の選択ではない。例えば、Ptを前面電極として、Znを裏面電極として試験した。しかしながら、実施例1に示すように、双方の間の大きな電位差およびORRに対するZnの高い効率は、非常に大きなベースライン電流を生成し、検出を理想的にしない。電位差もまた、関与する反応の性質のために重要である。選択された裏面電極に応じて、前面電極はカソードとして作用するように強制され得る。
【0104】
過酸化水素感受性電流ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電流ベースのセンサの前面電極および裏面電極の過酸化水素感受性面は、白金を含むかまたは白金から作製される。
【0105】
過酸化水素感受性電流ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかのさらなる好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電流ベースのセンサの前面電極および裏面電極の過酸化水素感受性面は、白金を含むかまたは白金から作製され、電解導体架橋は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーから作製または構成される。
【0106】
テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーの使用は、化学反応を支持するために使用されることに留意されたい。電解導体架橋としての使用によって、ナノ細孔を介した水およびイオンの輸送、(スルホナート基中のプロトンによる)高い局所酸性度の発生、およびこの酸性コポリマー中のその高い溶解度による高濃度のO2が可能になる。したがって、電解導体架橋としてテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーを使用すると、ORRの条件が有利になる。
【0107】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの、代替え的なさらに好ましい実施形態では(以下、「電位ベースの実施形態」と呼ぶ)、電気化学センサは電位ベースのセンサであり;前面電極が作用電極であり、裏面電極が基準電極であり;基準電極は、安定した電位を提供し;電気化学的状態の差を決定するための手段は、前面電極と裏面電極との間に接続され、前面電極と裏面電極との間の電圧差を測定するように構成されている。そのような手段は、電圧計または任意の他の電気的もしくは電子的手段、ならびにそれらの組み合わせであってもよい。
【0108】
電位ベースの実施形態の好ましい実施形態では(以下、「過酸化水素感受性電位ベースのセンサ」と呼ぶ)、電位ベースのセンサの前面多孔質電極の感受性面は、過酸化水素感受性面であり、その感受性面は、白金、プルシアンブルー、亜鉛、銅および金からなるリストのいずれか、好ましくは白金から選択され;電位ベースのセンサは、標的分析物として過酸化水素を選択的に測定するように構成される。
【0109】
過酸化水素感受性電位ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電位ベースのセンサの電極を接続する電解導体架橋は、高分子電解質、固体ポリマー電解質、イオノゲル、およびアイオノマー、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーからなるリストのいずれかから選択される。
【0110】
過酸化水素感受性電位ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電位ベースのセンサの基準電極は、銀、白金、金、ニッケル、亜鉛、銅、銀/塩化銀、PEDOT-PSSなどの導電性ポリマー、アルミニウムおよび炭素からなるリストのいずれかから選択される導電性材料を含む。
【0111】
前面電極、電解導体架橋、および裏面電極材料リストの任意の組み合わせが適切であり、したがって電位ベースのセンサで機能することができることに留意されたい。電極の選択は、相補的なレドックス反応を発生させるその能力および作動電位に依存することにさらに留意しなければならない。したがって、いくつかの組み合わせは、可能ではあるが、最良の選択ではない。
【0112】
過酸化水素感受性電位ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電位ベースのセンサの前面電極および基準電極の過酸化水素感受性面は、金もしくは白金を含むか、または金もしくは白金から作製される。
【0113】
過酸化水素感受性電位ベースの実施形態またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、過酸化水素感受性電位ベースのセンサの前面電極および基準電極の過酸化水素感受性面は、金もしくは白金を含むか、または金もしくは白金から作製され、電解導体架橋は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーから作製または構成される。
【0114】
電流ベースのセンサと同様に、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーの使用は、化学反応を支持するために使用される。電解導体架橋としての使用によって、ナノ細孔を介した水およびイオンの輸送、(スルホナート基中のプロトンによる)高い局所酸性度の発生、およびこの酸性コポリマー中のその高い溶解度による高濃度のO2が可能になる。したがって、電解導体架橋としてテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーを使用すると、ORRの条件が有利になる。
【0115】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、前面電極および/または裏面電極は、導電性材料を順に含む支持体をさらに含む。そのような支持体は、本発明を実施するために使用することができる電極の支持要素として機能する限り、プラスチック、紙、ゴム、織物、複合材、および任意の材料の組み合わせによって形成され得ることに留意されたい。前面電極の場合、そのマクロポロシティ要件のために、支持体材料は、このマクロポロシティから生じる特性が限定されないことを保証しなければならず、例えば、支持体材料は、水溶液が依然としてそれを通って浸透することができる程度に、依然として多孔質でなければならない。同様に、支持体は、電極で生じる化学反応のプロセスを妨げないものとするが、その触媒として機能することができ、電気伝導性がこれらの支持体によって影響されてはならない。例えば、アイオノマーであるテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーは、白金中の酸素還元反応を促進するので、このアイオノマーで紙を浸漬することによって支持体を形成することができる。
【0116】
図1Bは、多孔質感受性面12および支持体13を含む前面電極11と、電解導体架橋14と、裏面電極16と、前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定するための手段18とを備える電気化学センサ10の概略図を示す。支持体13は、水溶液122がそれを通って浸透することを可能にし、多孔質感受性面で生じる電気化学反応を妨げない。この図には明示的に示されていないが、裏面電極も支持体を有することができ、裏面電極のみが支持体を有する反対の構成も可能であることに留意されたい。
【0117】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、電気化学センサの前面多孔質、電解導体架橋および裏面電極は、これらが積層されるように構成され、好ましくは垂直に積層される。
【0118】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、電気化学センサの前面多孔質、電解導体架橋および裏面電極は、これらが積層されるように構成され、好ましくは垂直に積層され、より好ましくは、前面電極が裏面電極の直上にある。
【0119】
前面多孔質、電解導体架橋および裏面電極は、いくつかの構成で(垂直方向、横方向、非線形に)積層することができることに留意されたい。重力および/または毛細管現象を使用して水溶液の浸透を促進することができるように、前面電極は裏面電極の真上にあってもよく、またはその逆であってもよいことにさらに留意しなければならない。水溶液が前面多孔質電極と接触すると裏面電極に到達することができる限り、任意の適切な構成を使用してもよいこと、ならびに電極および/または導体架橋の毛細管現象および水溶液の流速が重力を必要とせずにこれを達成することができる場合、重力は制限要因ではないことが理解されよう。
【0120】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、電気化学センサは、浸漬されたときに前面電極のみが試験される水溶液に曝されるように被覆される。いくつかの材料および戦略を使用して、水溶液が前面電極のみに直接到達できるように電気化学センサを適合させることができることに留意されたい。ゴム、プラスチック、金属、および他の不透過性材料のような材料を使用して、すべての電気化学センサを外部から保護するケーシングを作製することができ、ケーシング上の小さな開口が前面電極へのアクセスを提供する。したがって、電気化学センサを水溶液と接触させると、水溶液は前面電極のみに直接到達するが、事前に多孔質前面電極および電解導体架橋を通って浸透した水溶液が裏面電極に間接的に到達する。
【0121】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、電気化学センサの電極を接続する電解導体架橋は、高分子電解質、固体ポリマー電解質、イオノゲル、およびアイオノマー、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーからなるリストのいずれかから選択される。電解導体架橋は、イオン導電性および透水性を提供するイオン結合媒体であり得る他の材料から作製することができることに留意されたい。
【0122】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、電気化学センサの前面電極は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーでコーティングされる。電流ベースのセンサの場合、コーティング(例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマー)の使用は感度を低下させる可能性があることに留意されたい。しかしながら、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーの役割は、支持体の毛細管現象による電解質のフローを封じ込め、制限することでもある。したがって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーは、応答のベースラインおよび安定性を制御するのに有用である。
【0123】
図3は、コーティング324でコーティングされた多孔質感受性面32を含む前面電極31と、電解導体架橋34と、裏面電極36と、前面電極31と裏面電極36との間の電位差を決定するための電圧計38とを備える、電位ベースのセンサ30の概略図を示す。前面電極31は多孔質であり、それを通って流体溶液322を浸透させ、電解導体架橋34へアクセスさせる。電圧計38は、前面電極31および裏面電極36に、各電極31および36をそれと接続する低抵抗ワイヤ382を介して、電極31と36との間を流れる電位を決定することができるように接続される。
【0124】
コーティング324は、感度を低下させる可能性がある。しかしながら、その役割は、電解導体架橋34の毛細管現象に起因する電解質のフローを封じ込め、制限することでもある。したがって、応答のベースラインおよび安定性を制御するのに有用である。いくつかの実施形態では、コーティングは、前面電極31の表面全体に塗布されてもよく、他の実施形態では、前面電極31は、所望の応答を提供するために部分的にコーティングされてもよいことに留意されたい。また、
図3では、前面電極31の前面のみがコーティングされているが、他の実施形態では、コーティング324は、側面など、前面電極31の他の露出領域にも塗布され得ることに留意されたい。ケーシング302は、電解導体架橋34および裏面電極36が流体溶液322に曝されないことを確実にする。ケーシングは、流体溶液322が、単に多孔質前面電極31を通って電解導体架橋34および裏面電極36に到達することができるような、防水機能を有する任意の手段によって形成されてもよい。
【0125】
本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、電気化学センサの前面電極および裏面電極は同じ材料、好ましくは白金で作製される。標的分析物の存在および/または濃度を決定できるように、各電極内の異なる電気化学的状態の存在を確保するために電気化学センサが各ハーフセル上に異なる環境を必要とするので、異なる溶液を必要としない、同じ材料で作られた2つの電極を使用することは、些細なことではないことに再び留意されたい。この場合も、前面電極の過酸化水素感受性面および裏面電極の環境が異なることを電解導体架橋が保証するので、これは可能である。
【0126】
過酸化水素感受性実施形態またはそれらの好ましい実施形態のいずれかの好ましい実施形態では(以下、「第1の官能化実施形態」と呼ぶ)、過酸化水素感受性センサ(電流ベースまたは電位ベース)の前面電極は、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ビリルビンデヒドロゲナーゼ、アミノ酸オキシダーゼおよびアミノ酸デヒドロゲナーゼからなる群から選択されるオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼ酵素で官能化され、電気化学センサが測定する標的分析物と接触すると過酸化水素を生成するように構成される。これにより、センサを使用して、例えば、任意の種類の工業用、天然または生物学的流体中の過酸化水素の濃度を選択的かつ直接決定することが可能になることに留意されたい。生物学的流体は、好ましくは、希釈されていない全血、細胞内液、唾液、血清および尿、または任意の適切な緩衝液または問題の溶液である。特に、水溶液中の過酸化水素の濃度の前記選択的かつ直接的な決定は、順に前記溶液中のグルコース、ガラクトース、コレステロール、尿酸、乳酸、およびアミノ酸の存在および/または濃度を決定する。
【0127】
過酸化水素感受性実施形態またはそれらの好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態(以下、「第2の官能化実施形態」と呼ぶ)では、センサシステムは、過酸化水素感受性センサ(電流ベースまたは電位ベース)を含み、電気化学センサ(好ましくは前面電極)は、捕捉エンティティで官能化され、捕捉エンティティは標的分析物を直接捕捉するか、または分析物を標的化することができ、電気化学センサを官能化する捕捉エンティティに結合することができる分子で標識される別の捕捉エンティティを介して標的分析物を間接的に捕捉する。
【0128】
捕捉エンティティは、標的分析物を直接的または間接的に捕捉する抗体、抗原、抗体様エンティティ、核酸(DNA、RNAおよびそれらの異なる形態)、ビオチン、ストレプトアビジンなどの任意のエンティティであり得ることに留意されたい。
【0129】
第2の官能化実施形態の好ましい実施形態では、システムは、標的分析物を検出するための手段をさらに含み、前記手段は、少なくとも検出エンティティおよび基質であり、前記検出エンティティは、標的分析物を検出することができ、基質に曝露された場合に過酸化水素を生成することができる酵素で標識される。これにより、例えば生体分子を選択的かつ直接標識するために、センサをさらに使用できることに留意されたい。検出エンティティは、抗体、抗原または抗体様エンティティなど、その前駆体である基質に曝露されると反応を起こしてその生成物が検出され得る、酵素または任意の標識などの検出分子をさらに含む任意のエンティティであり得る。
【0130】
本発明の第2の態様は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.水溶液を、本発明の第1の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの前面電極の感受性面と接触させること;
b.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;および
c.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0131】
本発明の第2の態様の方法のいずれかが機能するために、水溶液は必ずしも裏面電極に浸透する必要はないが、センサが支持電解質(バックグラウンドイオン溶液)によって既に濡れている場合、水溶液が電解導体架橋に到達し、電気回路を閉じるのに十分であることに留意しなければならない。
【0132】
本発明の第2の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの代替的実施形態のいずれかの好ましい代替的実施形態では、センサの前面電極の感受性面を水溶液と接触させる前に、電解導体架橋および裏面電極を飽和させるバックグラウンドイオン溶液と先に接触させる。バックグラウンドイオン溶液は、試験下のものと同じ水溶液または任意の他の緩衝液もしくは溶液であり得る。この実施形態は、センサが何らかの方法で官能化されるものを含む、本発明の第2の態様の可能な実施形態のすべてに及ぶことに留意しなければならない。
【0133】
本発明のこの第2の態様の好ましい実施形態では、水溶液は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトから予め得られた生物学的流体である。血液などの試料は、好ましくは、希釈されていない全血、細胞内液、唾液、血清および尿、または任意の適切な緩衝液または問題の溶液である。水溶液中の分析物の存在および/または濃度の前記選択的かつ直接的な決定は、電気化学センサの作用電極中の前記分析物の存在によって生成される電気化学的状態の差に基づく。
【0134】
本発明のこの第2の態様またはその好ましい実施形態のいずれかのさらに好ましい実施形態では、前記生物学的試料は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトから単離された血液、血漿または血清試料である。過酸化水素の存在および/または濃度の決定は、生物学的試料中の過酸化水素の前駆体の存在および/または濃度をさらに決定する。これにより、いくつかの代謝障害および癌において活性酸素種(ROS)を検出することができ、または酵素的もしくは標識反応が別々に行われる場合、または自動化フローシステムなどにおいて、センサを単に過酸化物の存在を検出するために使用することができる。
【0135】
本発明の第2の態様の代替的実施形態は、過酸化水素の測定によって水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.水溶液を、本発明の第1の態様の第1の官能化実施形態の前面電極の感受性面と接触させること;
b.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;
c.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の過酸化水素の存在および/または濃度を決定すること;および
d.決定された過酸化水素の濃度に基づいて、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0136】
本発明の第2の態様のこの代替的実施形態の好ましい実施形態では、水溶液中の標的分析物を選択的に測定するための電気化学センサは、工業用、天然または生物学的流体の任意の種類である水溶液中で使用される。生物学的流体は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトから先に入手することができる。生物学的流体は、好ましくは、希釈されていない全血、細胞内液、唾液、血清および尿、またはそれらのいずれかを含む任意の適切な緩衝液または問題の溶液である。水溶液中の過酸化水素の濃度の前記選択的かつ直接的な決定は、順に前記溶液中のグルコース、ガラクトース、コレステロール、尿酸、乳酸、ビリルビンまたはアミノ酸、ならびに当該技術分野で知られている前記溶液中に存在する任意の他の分析物の存在および/または濃度を決定する。
【0137】
本発明の第2の態様またはその好ましい実施形態のいずれかのこの代替的実施形態のさらに好ましい実施形態では、前記生物学的試料は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトから単離された血液、血漿、血清試料もしくは任意の他の試料;または前記試料が含有されている緩衝液である。
【0138】
本発明の第2の態様のさらなる代替的実施形態は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.存在する場合、標的分析物に捕捉エンティティが直接的または間接的に結合するように、水溶液を本発明の第1の態様の第2の官能化実施形態のいずれかに定義された電気化学センサの前面電極の感受性面と接触させること;
b.存在する場合、標的分析物に検出エンティティが結合するように、工程a)の電気化学センサの前面電極の感受性面を検出エンティティと接触させること;
c.場合により感受性面をすすぎ、標識された検出エンティティが存在する場合、過酸化水素を生成するように基質を添加すること;
d.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;および
e.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0139】
本発明のこの第2の態様の別のさらなる代替的実施形態は、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定する方法に言及し、方法は、
a.存在する場合、標的分析物に捕捉エンティティが直接的または間接的に結合するように、水溶液を本発明の第1の態様の第2の官能化実施形態のいずれかに定義された電気化学センサの前面電極の感受性面と接触させること;
b.存在する場合、標的分析物に検出エンティティが結合するように、工程a)の電気化学センサの前面電極の感受性面を検出エンティティと接触させること;
c.場合により感受性面をすすぎ、標識された検出エンティティが存在する場合、過酸化水素を生成するように基質を添加すること;
d.前面電極と裏面電極との間の電気化学的状態の差を決定すること;および
e.電気化学的状態の差に基づいて、水溶液中の過酸化水素の存在および/または濃度を決定すること;および
f.決定された過酸化水素の濃度に基づいて、水溶液中の標的分析物の存在および/または濃度を決定することを含む。
【0140】
本発明の第2の態様のこれらのさらなる代替物のいずれかの好ましい実施形態では、方法は、標識核酸に基づく方法、例えば酵素標識DNAまたはRNA(それらの形態のいずれか)を使用するジェノセンサ(genosensor)、および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)としての酵素標識免疫アッセイを含む過酸化水素を生成する任意の標識アッセイ、ドット、ノーザンブロット、サザンブロットおよびウエスタンブロットを含むブロット法、ラテラルフロー試験およびグルコースオキシダーゼ(GOx)標識方法、ならびに当技術分野で公知の他の関連技術の一部であり、ここで、オキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼなどの過酸化水素放出酵素が使用される。したがって、分光検出法は、本発明の第1の態様に記載のセンサを使用する電気化学検出法に置き換えることができる。例えば、特定の分析物(グルコースなど)は、作用電極に引き付けられる磁性ナノ粒子を含む抗体で、さらにこれらの酵素の1つ(グルコースオキシダーゼなど)を含む別の抗体でタグ付けされる。次いで、タグ付けされた分析物を含む溶液を電気化学センサに曝露し、水溶液下で酵素が過酸化水素を遊離させ、電気化学センサがそれを検出してその存在および/または濃度を決定することができる。実施例4は、GOx標識抗体に基づくIgGについてのELISAにおけるこの方法の使用を示す。
図12は、免疫反応後の単一電極の経時的な電位読み出しおよびGOx標識抗体を示す。
【0141】
本発明によるELISAは、典型的には、少なくとも1つのタンパク質またはその断片に受動的に結合する96ウェル(または384ウェル)ポリスチレンプレートで実施される。試薬の結合および固定化は、ELISAの設計および実行を簡易にする。ELISAの反応物をマイクロプレート表面に固定化することにより、アッセイ中に結合した物質を結合していない物質から容易に分離することが可能になる。非特異的に結合した物質を洗い流すこの能力は、ELISAを粗調製物内の特定の分析物を測定するための強力なツールにする。ELISAに使用される場合のセンサシステムは、任意選択的に以下の調製試薬:偽陽性結果を防ぐための未結合部位に対するブロッキング試薬;標識、好ましくは酵素にコンジュゲートされた抗(種)IgG、IgMおよび/またはIgA;および標識、好ましくは酵素と反応して陽性反応を示す基質、の1つ以上を含む。手順試薬に加えて、洗浄緩衝液、停止液および安定剤などの追加の試薬は、ELISAアッセイの品質を高めることができる。
【0142】
本発明のこれらのさらなる代替の第2の態様のいずれかまたはその好ましい実施形態のいずれかのさらに別の好ましい実施形態では、前記方法は、対象におけるウイルスもしくは細菌の検出またはウイルスに対する抗体の存在のためのインビトロ診断方法であり、前記対象は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトであり、前記ウイルスタンパク質または前記断片と前記生物学的試料中に存在する抗体との間の抗原抗体複合体が検出された場合、前記対象はウイルスに対する抗体を有すると診断される。
【0143】
本発明のこれらのさらなる代替の第2の態様のいずれかまたはその好ましい実施形態のいずれかのさらに別の好ましい実施形態では、前記方法は、ウイルスに対する抗体を有する個体を、ウイルスに対する抗体を有さない個体からスクリーニングするためのインビトロ方法である。
【0144】
本発明の第2の態様のいずれかまたはその好ましい実施形態のいずれかの好ましい実施形態(以下、「浸漬法」と呼ぶ)では、センサを溶液に浸漬することによって水溶液を電気化学センサの前面電極に接触させる。この使用では、溶液は、前記溶液が裏面電極に浸透するような量で前面電極と接触することが留意される。さらに、センサは、多くの異なる位置で浸漬されてもよく、露出した前面電極は、上方、下方または横方向に向いており、いずれの場合でも、電解導体架橋および裏面電極は、溶液から完全に隔離されており、前面電極を通って浸透した溶液とのみ接触することができることに留意されたい。
【0145】
浸漬法の好ましい実施形態では、水溶液は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに予め挿入された針を通して得られ、その中で分析される。血液などの水溶液の試料は、好ましくは希釈されていない全血、好ましくは希釈されていない全血、細胞内液、唾液、血清および尿、または任意の適切な緩衝液または問題の溶液である。水溶液中の過酸化水素の濃度の前記選択的かつ直接的な決定は、順に前記溶液中のグルコース、ガラクトース、コレステロール、尿酸、乳酸、ビリルビンまたはアミノ酸、ならびに当該技術分野で知られている前記溶液中に存在する任意の他の分析物の存在および/または濃度を決定する。
【0146】
本発明の第2の態様のいずれかまたはその好ましい実施形態のいずれかの好ましい代替的実施形態(以下、「単一体積法」と呼ぶ)では、単一体積の溶液をセンサに添加することによって、水溶液を電気化学センサの前面電極に接触させる。前記体積は、溶液の最小電流を記録することができるように、1滴、2滴、または任意の滴下数であってもよい。この方法では、前面電極と接触する溶液の量は、応答が生成されるような量であることに留意されたい。センサが乾燥している場合、前記溶液が裏面電極に浸透するのに十分な量でなければならない。一方、センサが先に支持電解質に曝露されており、これが浸透して裏面電極に到達して安定した電流を提供している場合、
図8に示すように、nLスケールのより少ない量の問題の溶液を使用することができる。
【0147】
さらに、センサは、多くの異なる位置にあってもよく、露出した前面電極は、上方、横方向またはさらには下方を向いており、いずれの場合でも、電解導体架橋および裏面電極は、水溶液から完全に隔離されており、前面電極を通って浸透した溶液とのみ接触することができることに留意されたい。本構成によれば、この方法が、
図7に示すように減少した体積での検出を可能にすることを強調することが特に重要である。この方法は、好ましくは、少なくとも100nLの過酸化物が溶液中の含有量である1滴で行われる。注目すべきことに、幾何学的最適化に基づいて、nLスケールまで体積をさらに減少させることが可能である。異なる注入体積について得られた電流信号を
図7に示す。同様に、これらの少量に対するシステムの応答は、幾何学的最適化に基づいて100ミリ秒の時間スケールで可能である。さらに、この構成を使用する場合、アスコルビン酸による干渉はない。
【0148】
単一体積法の好ましい実施形態では、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに予め挿入された針を通して得られた水溶液の1滴または数滴が電気化学センサに曝される。血液などの試料は、好ましくは、希釈されていない全血、細胞内液、唾液、血清および尿、または任意の適切な緩衝液または問題の溶液である。水溶液中の過酸化水素の濃度の前記選択的かつ直接的な決定は、順に前記溶液中のグルコース、ガラクトース、コレステロール、尿酸、乳酸、ビリルビンまたはアミノ酸、ならびに当該技術分野で知られている前記溶液中に存在する任意の他の分析物の存在および/または濃度を決定する。
【0149】
本発明の第2の態様のいずれかまたはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい代替的実施形態(以下、「連続フロー法」と呼ぶ)では、溶液の連続フローにセンサを曝露することによって、水溶液を電気化学センサの前面電極に接触させる。この方法では、裏面電極に浸透する初期支持電解質が存在する限り、前面電極と接触することを要求される溶液の量が低減されることに留意されたい。これは、センサが緩衝液中で既に飽和している場合、電解液との接触によって回路が閉じられるためである。したがって、連続フロー法では、センサが乾燥している場合、水溶液は最初に前面電極に浸透し、裏面電極に到達し得る。その上から、より少ない量が必要とされる。あるいは、センサは、回路を閉じる電解液で予め飽和されていてもよく、問題の水溶液は、センサが機能するために前面電極と接触しているだけでよい。
【0150】
さらに、センサは、多くの異なる位置にあってもよく、露出した前面電極は、上方、横方向またはさらには下方を向いており、いずれの場合でも、電解導体架橋および裏面電極は、水溶液から完全に隔離されており、前面電極を通って浸透した溶液とのみ接触することができることに留意されたい。典型的な感度が40mV/decade程度である浸漬法とは異なり、この連続フロー法では150mV/decade程度の感度が得られ(
図10参照)、センサは、
図11に示すようにアスコルビン干渉の影響を受けないことが示されている。
【0151】
過酸化水素の存在および/または濃度の検出、ならびにオキシダーゼ酵素によって触媒される反応によって過酸化物を得ることができる間接的な標的分析物(生体分子)検出のために、方法は、好ましくは、少なくとも1μM濃度の過酸化物が溶液中の含有量である、緩衝液の連続フロー中で行われる。注目すべきことに、幾何学的最適化に基づいて、nLスケールまで体積をさらに減少させることが可能である。同様に、これらの少量に対するシステムの応答は、幾何学的最適化に基づいて100ミリ秒の時間スケールで可能である。結果は、既に開示された2電極自己給電型センサの結果に匹敵する。さらに、この構成を使用する場合、アスコルビン酸による干渉はない。
【0152】
連続フロー法の好ましい実施形態では、前面電極を対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに導入する。水溶液中の過酸化水素の濃度の前記選択的かつ直接的な決定は、順に前記溶液中のグルコース、ガラクトース、コレステロール、尿酸、乳酸、ビリルビンまたはアミノ酸、ならびに当該技術分野で知られている前記溶液中に存在する任意の他の分析物の存在および/または濃度を決定する。連続フロー法は、ユーザにおける前記代謝産物の存在および/または濃度のリアルタイム測定を可能にすることができる。特に、連続フロー法の使用は、ユーザにおける前記代謝産物の存在および/または濃度のリアルタイム連続測定を可能にすることができる。連続フロー法を使用するグルコース自己給電型センサのこの方法の使用は、実施例3に見ることができる。
【0153】
連続フロー法またはその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、水溶液中の標的分析物を選択的に測定するための電気化学センサは、有機電気化学トランジスタに使用される。マクロポーラス電極は、トランジスタのチャネルの上に積層され、ゲートとして使用することができる。有機電気化学トランジスタにおける連続フロー法のさらに好ましい実施形態では、トランジスタはグルコースセンサの一部であり、グルコースの検出時に、トランジスタはその状態を変化させ、システムの状態のさらなる変化を可能にし、トランジスタは、インスリンショットの提供などの他の動作の一部を形成し、それを実行する。
【0154】
連続フロー法またはその好ましい実施形態のいずれかのなおさらに好ましい実施形態では、電気化学センサはグルコースに対して感受性であり、有機電気化学トランジスタまたはグルコメータの一部であり、前面電極は対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに導入される。水溶液中の過酸化水素の濃度の前記選択的かつ直接的な決定は、順にグルコースの存在および/または濃度を決定する。この実施形態では、グルコースの検出をリアルタイムで連続的に行うことができる。
【0155】
本発明の第2の態様またはその好ましい実施形態のいずれかの好ましい実施形態では、前面電極支持体の多孔質感受性面は、電気活性材料をスパッタリングすることおよび/または前面電極支持体上に電気活性材料のナノ粒子を塗布することによって形成される。電気活性材料は、紙のミクロンサイズの細孔に影響を与えないように、薄いままであることが重要である。また、電気活性材料の小さな層を堆積させる他の形態、例えば電着、ドロップキャスト、導電性インク、複合材、および水溶液の浸透を可能にする当技術分野で知られている他のものを使用することができる。
【0156】
過酸化物の直接検出は複雑であることに留意しなければならない。使用可能な材料は、アスコルビン酸などのレドックス活性種による深刻な干渉を受けやすくする作業電位で操作されなければならない。この点において、本発明は顕著な利点を提供する。センサが浸漬されると、アスコルビン酸の典型的な干渉が性能に影響を及ぼす。それにもかかわらず、システムをオープンフローセルモードで動作させると、アスコルビン酸に対する応答はほとんどなくなる。
図11は、100μM過酸化物溶液および100μMアスコルビン酸の応答を比較する。これは、血液中に通常見られる最大レベルであり、この物質の干渉を評価するために使用される。従来のシステムでは、この干渉は電極応答に深刻な影響を及ぼす。このケースでは、干渉は無視できる。
【0157】
これは、部分的には、電極が作動している電位差が低いことによって説明することができる。また、多孔質電極では、濃度勾配の構造が電気化学的応答に重要な役割を果たす。この場合、作用電極が空気に曝されると、電気化学界面は、液体の薄層、空気、水和セルロースおよび金属の相互作用を伴う複雑な系となる。したがって、このマクロポーラス電極は、過酸化物に対する応答を高め、干渉の悪影響を低減する固有の界面を作り出す。
【0158】
以下の実施例は、本発明を例示するにすぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0159】
材料および方法
本発明では、作用電極および基準電極に金属スパッタリング紙、および導電性媒体としてNafion(商標)膜を使用する新しいセルジオメトリが、過酸化水素検出、すなわちオキシダーゼ酵素反応のバイオマーカー、ならびにモデルバイオマーカーとしてのグルコース用の紙ベース電気化学全固体センサの構築に適用される。Nafion(商標)は、イオノマー、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーの市販品である。
【0160】
実験セクション
試薬Nafion(商標)117溶液(低級脂肪族アルコールと水の混合物中10%);グルコースオキシダーゼ(GOx)(アスペルギルス・ニガー製タイプX-S、凍結乾燥粉末(100000万~250000単位/g)D-グルコース);過酸化水素(30重量%水中)およびD-グルコース(Glu)は、Sigma-Aldrichから購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH=7.4(0.1MのNaCl、0.003MのKCl、0.1MのNa2HPO4、0.02MのK2HPO4)を、18.2MΩcm-1二重脱イオン水(Milli-Q水系、Merck Millipore)を使用して調製した。IgG、抗(IgG)および抗(IgG)GOx標識をAbcam(英国)から購入した。
【0161】
白金紙のスパッタリングWhatman(商標)グレード5の定性濾紙の円周物を、3mTorrで65秒間、200Wで操作する高周波スパッタリングプロセス(ATC Orion 8-HV、AJA International)を用いてPtでコーティングした。
【0162】
紙センサ構造(
図5)2つの導電性紙ストリップを使用する、すなわち、前面(上部)ストリップ(導電性材料スパッタリング紙製)は、WE(作用電極)として作用し;裏面(下側)ストリップは、基準電極(RE)として作用する導電性紙である。WEおよびREを、一滴のNafion(商標)10%を使用して接着する(プラスチックマスクの間に挟む)。上部プラスチックマスク上のオリフィスは、前面電極の電気化学的活性領域を露出させたままにする。典型的には、この円形ウィンドウの半径は1.5mmである。最後に、一滴のNafion(商標)5%が電気化学的活性ウィンドウ上に位置し、WEの露出領域を覆う。すべての場合において、導電性紙ストリップを0.4cmの幅で切断した。
【0163】
結果
実施例1:最良の電極材料の決定
図4は、異なる構成からの性能結果を要約する表を示す。従来のアンペロメトリックセル構成では、7種類の電極材料構成を試験した。この構成では、本電極は使用されていなかったが、各材料性能を決定することのみを目的として従来の構成が使用されたことに留意されたい。異なる実験条件(電極サイズ、支持電解質など)が異なる性能をもたらす可能性があるため、この構成下での性能値は原理の証明を示すことを意図していることにも留意しなければならない。
【0164】
白金電極を用いて過酸化水素を直接測定すると、市販のスクリーン印刷されたPt電極を作用電極または対電極として使用した場合でも応答があるため、紙ベースの電極に特有のものではないことが示された。また、いずれのシステムも応答が得られなかったため、Auはこの構成の電極に適した材料ではないことが証明された。銀電極は明らかに摩耗し、亜鉛は非常に大きなベースライン電流を生成し、システムの制御を困難にする。最後に、CNT電極は応答を提示しない。
【0165】
したがって、溶液中の過酸化水素の直接的な(すなわち、レドックスメディエーターなし)自己給電型電気化学的検出のために、Ptを使用することが可能であることが示された。また、アンペロメトリックセンサの一般的な材料は、この構成には適していない。
【0166】
実施例2:溶液中、液滴中および連続フロー中の過酸化水素検出
異なる構成における過酸化水素検出の検出を分析するために、紙支持体上にスパッタリングされた導電性材料は白金であった。
【0167】
図6Aは、H
2O
2の溶液に浸漬したときの電気化学センサの応答を示す。添加は、0.001~0.1mMのH
2O
2の線形範囲で8.4μA/mMのH
2O
2の感度で陽性応答(0.04~1.65μA)を与える(
図6Bは、対応する検量線を報告する)。重要なことに、これらの結果は、溶液に対して多孔質である前面電極を含む単一の露出電極構成を使用する提案されたアンペロメトリックセルが、回路を効果的に閉じ、溶液中のH
2O
2の検出を可能にすることを確認した。さらに、同じ材料からの2つの電極(前面および裏面)を使用して、溶液中のH
2O
2を検出することが可能であると確認した。発明者らの知る限り、これは溶液中の化学種の検出のためのこの種の構成についての最初の報告である。
【0168】
さらに、提案された構成は、低減された体積での検出を可能にする。
図7Aは、電気化学センサの、単一体積がその前面電極に接触したときの応答を示す。検出は、試料サイズを減少させる100~1000nLの一滴で行われ、これは、例えば、指先穿刺またはウェアラブルにおいて重要である。注目すべきことに、幾何学的最適化に基づいて、1μLまで体積をさらに減少させることが可能であった。異なる注入体積について得られた電流信号を
図8に示す。分析図は、シフトした線形範囲を有するが、溶液中のものと同等である。ここでの感度は、0.1~1mMの線形範囲で100nA/mMであった(
図7Bは、対応する検量線を報告する)。この感度は、単一体積分析での他のセンサよりも最大5倍高く、これは顕著な増加であることに留意されたい。前述のように、これは露出領域を増加させ、化学的相互作用を容易にする大気酸素の拡散を促進する、作用電極のマクロポロシティによって説明される。さらに、100ミリ秒の時間スケールで、極めて速い応答が観察された。発明者らの知る限り、これは、単一体積中の化学種の検出のためのこの種の構成についての最初の報告である。
【0169】
電気化学センサの構成の最終用途は、
図9Aに示すような連続フロー中の検出である。検出は、100μL/分(1、6μL/秒)の緩衝液の連続フロー中で行い、そこに異なる濃度の過酸化物の20μL注入を行った。結果は、ベースラインの極めて良好な安定性、信号の高レベルの再現性、非常に良好な感度、および必要な試料の体積が少ない検出限界を示した。感度は9nA/μMであり、1~200μMの線形範囲であった(
図9Bは対応する検量線を報告する)。センサを、1~6μMの様々な異なる低濃度で較正することにより、優れた安定性、感度および再現性が得られた(最適条件下でRSD<5%)。これらの結果は、この構成が連続フローシステムに適用可能であり、主チャネルの1つが単一フローチャネルに3つの電極を同時に組み込むべきであることを示した。この構成は、電流設計を単純化しながら、より小型の電極またはより高感度の電極のいずれかを提供するためのウィンドウを開く。さらに、
図11に見られるように、この構成を使用する場合、アスコルビン酸による干渉はない。発明者らの知る限り、これは、連続フロー中の化学種の検出のためのこの種の構成についての最初の報告である。
【0170】
実施例3:グルコース検出
さらに、グルコース電流ベースのセンサを構築し、作用電極によって検出されるH
2O
2を生成する溶液に添加されたグルコースの酸化に触媒作用を及ぼすように、GOx酵素をNafion(商標)の第1の層に捕捉した。
図10は、対応するグルコース濃度が注入されたフロー中のグルコース自己給電型センサの経時的トレースを示す。突出した検出は、10~100μMの範囲で得られた。したがって、これらの結果から、新しい構成が実際の用途に使用でき、他の報告されたグルコースバイオセンサと同様の分析性能を有することが確認される。
【0171】
実施例4:抗体GOx標識に基づくIgGのELISA
過酸化水素およびグルコース検出に加えて、免疫反応が検出された。第1の抗体を前面電極のNafion(商標)コーティングに固定化し、次いでIgGをセンサに添加し(1μg/mL)、最終的に抗体をGOxで標識した。適切な洗浄手順の後、
図12は、PBS中の0.1および1mmグルコースの連続添加に応じた検出を示す。
図12Aは、免疫反応後の単一電極の経時的な電位読み出しおよびGOx標識抗体を示す。
図12Bは、免疫反応後の単一電極の経時的な電流読み出しおよびGOx標識抗体を示す。これらの実験から、標識に基づく反応を検出できることが示される。
【国際調査報告】