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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】生体信号センシング電極
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/263 20210101AFI20240725BHJP
【FI】
A61B5/263
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507991
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2022028379
(87)【国際公開番号】W WO2023017721
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】63/231,850
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー,ブレンダン ビー
(72)【発明者】
【氏名】ドリスコール, ニコレット
(72)【発明者】
【氏名】ヴィターレ,フラヴィア
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 宏介
(72)【発明者】
【氏名】藤脇 未伽
(72)【発明者】
【氏名】部田 武志
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA01
4C127LL22
(57)【要約】
生体信号センシング電極であって、基材とその上に配置された導電性膜とを含み;前記導電性膜が、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含み;前記層が、式Mで表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、かつ、前記基材の表面に対して平行に配向し;官能基として、C=Oと、OHおよびNHの少なくとも一方と、を有するポリマーを含む保護材が、前記導電性膜の少なくとも端部を被覆し、前記官能基が前記層状材料の粒子に結合し、前記導電性膜の前記第2面の少なくとも一部が前記保護材から露出している、生体信号センシング電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号センシング電極であって、
基材と、
前記基材上に配置された導電性膜であって、該基材側の第1面および該基材と反対側の第2面を有する導電性膜と
を含み、
前記導電性膜が、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含み、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、かつ、前記基材の表面に対して平行に配向し、
官能基として、C=Oと、OHおよびNHの少なくとも一方と、を有するポリマーを含む保護材が、前記導電性膜の少なくとも端部を被覆し、前記官能基が前記層状材料の粒子に結合し、前記導電性膜の前記第2面の少なくとも一部が前記保護材から露出している、生体信号センシング電極。
【請求項2】
前記ポリマーが、前記導電性膜中に浸透している、請求項1に記載の生体信号センシング電極。
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリイソシアネート架橋アクリル樹脂、エポキシ架橋アクリル樹脂、およびポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の生体信号センシング電極。
【請求項4】
前記保護材が、前記導電性膜の前記第2面の外周領域を更に被覆している、請求項1~3のいずれかに記載の生体信号センシング電極。
【請求項5】
前記導電性膜の前記第2面上に配置されるカバーであって、前記第2面の一部がカバーから露出している、カバーを更に含む、請求項1~4のいずれかに記載の生体信号センシング電極。
【請求項6】
前記Mが、TiC、Ti、Ti(CN)、(CrTi)C、(MoTi)C、(MoTi)C、および(Mo2.71.3)Cからなる群より選択される少なくとも1つで表される、請求項1~5のいずれかに記載の生体信号センシング電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号センシング電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の電気デバイスへのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。MXeneは、導電性膜(乾燥膜)の形態にて、脳波センサ、筋電センサ、心電センサ等の生体信号センシング電極として用いると、高い感度を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nicolette Driscoll, et al., "Two-Dimensional Ti3C2 MXene for High Resolution Neural Interfaces", ACS Nano, 2018, Vol. 12, Issue 10, pp. 10419-10429
【非特許文献2】Fanjie Xia, et al., "Ambient oxidation of Ti3C2 MXene initialized by atomic defects", Nanoscale, 2019, Vol. 11, Issue 48, pp. 23330-23337
【非特許文献3】Chien-Wei Wu, et al., "Excellent oxidation resistive MXene aqueous ink for micro-supercapacitor application", Energy Storage Materials, 2020, Vol. 25, pp. 563-571
【非特許文献4】Varun Natu et ai., "Edge Capping of 2D-MXene Sheets with Polyanionic Salts to Mitigate Oxidation in Aqueous Colloidal Suspensions", Angewandte Chemie International Edition, 2019, Volume 58, Issue 36, pp. 12655-12660
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MXeneは、特に水を含んだ溶媒中で、酸化され易いことが報告されている(非特許文献2参照)。また、MXeneは、空気(通常、水および酸素を含む)中でも経時的に酸化されることが知られている。
【0006】
よって、MXeneを導電性膜(乾燥膜)の形態で生体信号センシング電極として用いると、被検体であり得る生体等に由来する汗や血液など(通常、水を含む)と接触したり、空気に曝されたりすることよって導電性膜中のMXeneが経時的に酸化され、この結果、導電性膜のセンシング能が経時的に劣化する。
【0007】
従来、MXeneの酸化を防止する方法としては、MXeneの粒子の水性分散液とアスコルビン酸ナトリウム水溶液を混合する方法(非特許文献3参照)や、MXeneの水性コロイド懸濁液にポリアニオン塩(具体的には、ポリリン酸、ポリケイ酸またはポリホウ酸の塩)を添加する方法(非特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、これらの方法は、MXeneの粒子が水性分散液/懸濁液を成す場合においてMXeneの酸化を防止する方法であって、MXeneの粒子が導電性膜(乾燥膜)を成す場合に直接対処したものではない。これらの方法で酸化防止処理したMXene粒子を用いて導電性膜を形成するには、MXene粒子を液相から分離して膜形成する追加の工程が必要になる。
【0008】
本発明の目的は、MXeneの粒子を含む導電性膜を用いた生体信号センシング電極であって、センシング能の経時劣化が効果的に低減された生体信号センシング電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの要旨によれば、生体信号センシング電極であって、
基材と、
前記基材上に配置された導電性膜であって、該基材側の第1面および該基材と反対側の第2面を有する導電性膜と
を含み、
前記導電性膜が、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含み、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、かつ、前記基材の表面に対して平行に配向し、
官能基として、C=Oと、OHおよびNHの少なくとも一方と、を有するポリマーを含む保護材が、前記導電性膜の少なくとも端部を被覆し、前記官能基が前記層状材料の粒子に結合し、前記導電性膜の前記第2面の少なくとも一部が前記保護材から露出している、生体信号センシング電極が提供される。
【0010】
本発明の1つの態様において、前記ポリマーが、前記導電性膜中に浸透し得る。
【0011】
本発明の1つの態様において、前記ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリイソシアネート架橋アクリル樹脂、エポキシ架橋アクリル樹脂、およびポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0012】
本発明の1つの態様において、前記保護材が、前記導電性膜の前記第2面の外周領域を更に被覆し得る。
【0013】
本発明の1つの態様において、前記生体信号センシング電極が、前記導電性膜の前記第2面上に配置されるカバーであって、前記第2面の一部がカバーから露出している、カバーを更に含み得る。
【0014】
本発明の1つの態様において、前記Mが、TiC、Ti、Ti(CN)、(CrTi)C、(MoTi)C、(MoTi)C、および(Mo2.71.3)Cからなる群より選択される少なくとも1つで表され得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)の粒子を含む導電性膜を用いた生体信号センシング電極において、官能基として、C=Oと、OHおよびNHの少なくとも一方と、を有するポリマーを含む保護材で、導電性膜の少なくとも端部を被覆し、該官能基がMXene粒子に結合していることにより、センシング能の経時劣化が効果的に低減された生体信号センシング電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の1つの実施形態における生体信号センシング電極を説明する図であって、(a)は生体信号センシング電極の概略模式断面図を示し、(b)は(a)の概略模式上面図を示す。
図2】本発明の1つの実施形態における生体信号センシング電極を説明する図であって、(a)は図1(a)にて一点鎖線にて囲まれた領域の概略模式拡大断面図を示し、(b)は導電性膜におけるMXene粒子および(保護材に由来する)ポリマーの概略模式断面図を示し、(c)は導電性膜におけるMXene粒子の概略模式斜視図を示す。
図3】本発明の1つの実施形態における導電性膜に利用可能な層状材料であるMXene粒子を示す概略模式断面図であって、(a)は単層のMXene粒子を示し、(b)は多層(例示的に二層)のMXene粒子を示す。
図4図1の生体信号センシング電極の1つの改変例を示す概略模式断面図である。
図5図1の生体信号センシング電極のもう1つの改変例を示す概略模式断面図である。
図6】本発明のもう1つの実施形態における生体信号センシング電極を説明する図であって、(a)は生体信号センシング電極の概略模式断面図を示し、(b)は(a)の概略模式下面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の1つの実施形態における生体信号センシング電極およびその製造方法について詳述する。
【0018】
図1(a)~(b)を参照して、本実施形態の生体信号センシング電極20は、基材11と、基材11上に配置された導電性膜13とを含む。導電性膜13は、基材11側の第1面13aおよび基材11と反対側の第2面13bを有する。第1面13aおよび第2面13bは、互いに対向し、例えば互いに平行な面であり得る。導電性膜13は、端部13cを更に有する。導電性膜13の端部13cは、第1面13aと第2面13bとの間を接続する表面(端面)である。後述するように、保護材15が、導電性膜13の少なくとも端部13cを被覆している。導電性膜13の第2面13bの少なくとも一部が、保護材15から露出し、図示する態様においては、第2面13bの領域A(以下、「センシング領域」と称す)が、保護材15から露出している。図示する態様において、導電性膜13は、その任意の適切な部分にて、引き出し線17と接続され得るが、基材11の少なくとも表面11aが導電性である場合、このことは必須ではない。なお、生体信号センシング電極20が引き出し線17を有する場合、引き出し線17の長さは任意であり、引き出し線17の導電性膜13側とは反対側において、他の電気回路要素と接続するためのパッド(図示せず)が形成されていてもよい。
【0019】
基材11は、導電性であっても、導電性でなくてもよい。また、基材11の寸法、形状等は、生体信号センシング電極20の用途に応じて様々であり得、可撓性および剛性のいずれであってもよい。基材11は、例えばポリマー、金属、半導体、セラミックスなどの、任意の適切な材料から成り得る。基材11は、1つの材料から成っていても、2つ以上の材料から成っていてもよい。例えば、表面11aに金属層を有する、ポリマー、半導体、セラミックスなどであってよい。本実施形態においては、基材11として、ポリイミド等のポリマーからなるフレキシブル基材が用いられる。
【0020】
図2(a)~(c)を参照して、導電性膜13は、所定の層状材料の粒子10を含む。所定の層状材料は、MXeneであり、次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「M」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0021】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0022】
MXeneは、上記の式:Mが、以下のように表現されるものが知られている。
ScC、TiC、TiN、ZrC、ZrN、HfC、HfN、VC、VN、NbC、TaC、CrC、CrN、MoC、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)C、(Ti,Nb)C、WC、W1.3C、MoN、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti、Ti、Ti(CN)、Zr、(Ti,V)、(TiNb)C、(TiTa)C、(TiMn)C、Hf、(HfV)C、(HfMn)C、(VTi)C、(CrTi)C、(CrV)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoSc)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(MoV)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
Ti、V、Nb、Ta、(Ti,Nb)、(Nb,Zr)、(TiNb)C、(TiTa)C、(VTi)C、(VNb)C、(VTa)C、(NbTa)C、(CrTi)C、(Cr)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(Mo)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C、(Mo2.71.3)C(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0023】
代表的には、Mが、TiC、Ti、Ti(CN)、(CrTi)C、(MoTi)C、(MoTi)C、および(Mo2.71.3)Cからなる群より選択される少なくとも1つで表される。
【0024】
かかるMXeneの粒子(以下、単に「MXene粒子」と言う)10は、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
AX
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、Mで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「M層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したM層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。
【0025】
上記エッチングは、フッ素系樹脂容器を用いて、HF、HCl、HBr、HI、硫酸、リン酸、硝酸等の酸でエッチング処理を行う。例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。上記エッチング処理では、室温以上、40度以下の温度にて、おおよそ5時間以上、48時間以下の間、攪拌を行う。次いで洗浄工程として、エッチング処理後の液体を、例えば遠沈管に移し、純水を加えて攪拌し、遠心分離器で上澄みと沈殿を分離し、上澄みを捨てる作業を、5回以上、20回以下繰り返すことが挙げられる。
【0026】
その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneに分離すること)を促進してもよい。例えば、機械式振とう器、ボルテックスミキサー、ホモジナイザー、超音波バス等を用いて、所定時間、デラミネーション処理を行い得る。次いで、遠心分離器で上澄みと沈殿を分離し、回収した上澄みを、単層化されたMXene粒子の分散液として得ることができる。
【0027】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、導電性膜(およびこれを用いた生体信号センシング電極)の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0028】
このようにして合成されるMXene粒子10は、図3に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料の粒子(MXene粒子10の例として、図3(a)中に1つの層のMXene粒子10aを、図3(b)中に2つの層のMXene粒子10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、Mで表される層本体(M層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M」とも表され、sは任意の数である。MXene粒子10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在するもの(図3(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXene粒子10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体(図3(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXene粒子10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene粒子10は、単層MXene粒子10aおよび/または多層MXene粒子10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXene粒子である場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0029】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法(粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上、例えば200μm以下、特に40μm以下である。
【0030】
MXene粒子が積層体(多層MXene)粒子である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図3(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm未満、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法(粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上、例えば100μm以下、特に20μm以下である。
【0031】
MXene粒子における層の総数は、1または2以上であればよいが、例えば1以上20以下であり、積層方向の厚さ(粒子の「厚さ」に対応し得る)は、例えば0.8nm以上20nm以下である。
【0032】
MXene粒子が積層体(多層MXene)粒子である場合、層数の少ないMXeneであってよい。用語「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることを言う。また、層数の少ない多層MXeneの積層方向の厚さは、10nm未満であり得る。本明細書において、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」とも称する。
【0033】
本実施形態を限定するものではないが、MXene粒子は、その大部分が単層MXeneおよび/または少層MXeneから構成される粒子(ナノシートとも称され得る)であってよい。本明細書において、単層MXeneと少層MXeneを併せて「単層・少層MXene」と称することがある。
【0034】
なお、上述したこれら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求めてもよい。
【0035】
再び図2(a)を参照して、かかるMXene粒子10の層は、基材11の表面11aに対して平行に配向している。MXene粒子10の層が、基材11の表面11aに対して平行に配向しているとは、MXene粒子10の全体のうち、その大部分、例えば全体の80%以上、特に90%以上のMXene粒子10が、基材11の表面11aに対して、MXene粒子10の層の2次元面(シート面)が±10°以内の角度を成していることを意味する。
【0036】
基材11の表面11aは、導電性膜13の第1面13aと接触する面である。基材11の表面11aに対してMXene粒子10の層が平行に配向した導電性膜13は、任意の適切な方法で製造してよい。本実施形態を限定するものではないが、例えば、上記のように合成したMXene粒子を適切な溶媒に分散および/または懸濁させたスラリーを調製し、スラリーを基材11の表面11aに対してスプレーし、溶媒を(少なくとも部分的に、好ましくは実質的に全部を)乾燥除去することによって、かかる導電性膜13を基材11上に形成することができる。乾燥は、基材11上に供給される間に自然にもたらされるもの、および/またはその後に実施されるものであり得る。かかるスプレーおよび乾燥により、基材11の表面11aに対して、MXene粒子10の層が平行に配向した状態で、MXene粒子10が堆積される。これにより得られる導電性膜13は、バインダレスであり得る。
【0037】
スプレーおよび乾燥は、所望の膜厚さが得られるまで適宜繰り返してもよい。例えば、スプレーと乾燥との組み合わせを複数回繰り返して実施してもよい。しかしながら、MXene粒子10を比較的高濃度で含むスラリーを使用する場合、1回のスプレー(および場合により乾燥)を実施するだけで、比較的厚い膜(例えば厚さ0.5μm以上)を得ることができ、所望の膜厚さが得られるまでに実施するスプレー(および場合により乾燥)の回数を低減することができる。
【0038】
導電性膜13の厚さは、特に限定されないが、例えば200nm以上20μm以下であり得る。導電性膜13の厚さが200nm以上であることにより、膜の連続性が保たれ、安定してセンシングを行うことができる。導電性膜13の厚さが20μm以下であることにより、基材の可撓性を損なうことがなく、また、屈曲による応力集中が小さいため、安定してセンシングを行うことができる。好ましくは、導電性膜13の厚さは、500nm以上および/または10μm以下であり得る。
【0039】
再び図1(a)~(b)を参照して、導電性膜13の少なくとも端部13cが、保護材15で被覆される。本実施形態において、保護材15は、導電性膜13の第2面13bの外周領域を更に被覆しているが、このことは本発明に必須ではない。第2面13bの外周領域は、端部13cに隣接した第2面13b上の任意の領域であり得、図示する態様では、第2面13bのうちセンシング領域Aを除いた領域であるが、これに限定されない。
【0040】
保護材15は、官能基として、(i)C=Oと、(ii)OHおよびNHの少なくとも一方と、を有するポリマー16を含むものであればよい。図2(a)および(b)を参照して、ポリマー16のこれら官能基は、MXene粒子10に結合し、より詳細には、MXene粒子10の修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)と水素結合を形成することができる(図2(a)中、保護材15中および保護材15に由来して導電性膜13中に浸透したポリマー16を波線にて模式的に示し、図2(b)中、水素結合を点線にて模式的に示す)。より詳細には、表1を参照して、修飾/終端Tの水素ドナーに対して、官能基のアクセプターが水素結合を形成でき、修飾/終端Tのアクセプターに対して、官能基の水素ドナーが水素結合を形成できる。
【0041】
【表1】
【0042】
MXene粒子10は、層のエッジにおいて酸化され易いが、導電性膜13中にてMXene粒子10の層を基材11の表面11aに対して平行に配向させ、かつ、導電性膜13の少なくとも端部13cを、上記官能基を有するポリマー16を含む保護材15で被覆して、ポリマー16の官能基が、少なくとも端部13cにおいて、MXene粒子10と結合(修飾/終端Tと水素結合)することによって、MXene粒子10の酸化を効果的に抑制(好ましくは防止)できる。保護材15のかかる効果は、MXene粒子10の酸化からの保護として理解され得る。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、周囲環境である空気や、被検体であり得る生体等に由来する成分であって、MXene粒子10の酸化をもたらす成分(水、水蒸気、酸素など)は、導電性膜13の端部13cから、MXene粒子10の層のエッジを通じて侵入し易く、MXene粒子10の層のエッジから酸化が開始され得ると考えられるところ、本実施形態ではポリマー16がMxene粒子10に強く結合(水素結合)することで、水、水蒸気、酸素などの上記成分が導電性膜13の端部13cにアクセスすることを効果的に防止できると考えられる。
【0043】
更に、上記のように水素結合を形成可能な官能基を有するポリマー16は、導電性膜13中に浸透することができる。より詳細には、かかるポリマー16は、導電性膜13のMXene粒子10の間に入っていくことができ、導電性膜13の内部において、ポリマー16の官能基が、MXene粒子10と結合(修飾/終端Tと水素結合)でき、これにより、MXene粒子10の酸化をより一層効果的に抑制できる。(なお、保護材15のうち、導電性膜13に浸透していない部分は、保護膜とも称され得る。)
【0044】
導電性膜13の内部へのポリマー16の浸透は、MXene粒子10の1つ分以上の深さであり得る。保護材15が端部13cを被覆していることによる、端部13cから厚さ方向の浸透深さdtは、MXene粒子10の厚さ以上であり得る。保護材15が第2面13bの外周領域を更に被覆している場合、第2面13bから面内方向の浸透深さdpは、MXene粒子10の面内寸法以上であり得る。
【0045】
MXene粒子10は、修飾/終端Tとして、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種を必ず有し、よって、表1から理解されるように、水素ドナーになり得る修飾/終端Tと、水素アクセプターになり得る修飾/終端Tとの少なくとも一方を必ず有するので、官能基として、(i)水素アクセプターであるC=Oと、(ii)水素ドナーであるOHおよびNHの少なくとも一方と、を有するポリマー16を選択することにより、ポリマー16がMXene粒子10に対して相互作用を示すことを確実にでき、これらの間で結合力が生じる。多くの場合において、MXene粒子10は、水素ドナーになり得る修飾/終端T(水酸基および水素原子の少なくとも一方)と、水素アクセプターになり得る修飾/終端T(フッ素原子、塩素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1つ)との両方を有する。かかる場合、官能基として、(i)水素アクセプターであるC=Oと、(ii)水素ドナーであるOHおよびNHの少なくとも一方と、を有するポリマー16を選択することにより、ポリマー16がMXene粒子10に対して強い相互作用を示すことができ、これらの間で高い結合力が得られる。MXene粒子10は、アクセプターの修飾/終端Tを有する割合が高いことから、水素アクセプターであるC=Oに加えて、水素ドナーであるOHおよびNHの少なくとも一方を有するポリマー16を選択することにより、ポリマー16がMXene粒子10に対してより強い相互作用を示し、MXene粒子に対してより高い結合力が得られる。
【0046】
具体的には、ポリマー16は、ポリビニルアルコール、ポリイソシアネート架橋アクリル樹脂、エポキシ架橋アクリル樹脂、およびポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1つであってよい。これらポリマーは、表2に示すように、MXene粒子に結合(修飾/終端Tと水素結合)可能な官能基を有し、MXene粒子に対して高い結合力が得られ、MXene粒子同士を強固に結びつけることができ、導電性膜13から剥がれ難い。しかしながら、本実施形態に利用可能なポリマーはこれらに限定されない。
【0047】
【表2】
【0048】
導電性膜13の所定の領域(少なくとも端部13cおよび場合により第2面13aの外周領域)を保護材15で被覆する方法は、特に限定されない。例えば、塗布、バーコーター、スクリーン印刷などを適宜利用できる。
【0049】
存在する場合、引き出し線17は、最終的に導電性膜13と接続される限り、任意の適切なタイミングで形成され得る。例えば、引き出し線17は、導電性膜13を形成する前に、基材11に設けられていてよく、基材11が表面11aに金属層を有する場合には、かかる金属層と一体形成されていてもよい。また例えば、引き出し線17は、保護材15を導電性膜13の所定の領域を保護材15で被覆した後、保護材15で被覆されていない導電性膜13の領域に(例えばはんだ付けなどで)接続してもよい。
【0050】
導電性膜13のセンシング領域A(および場合により他の1つまたはそれ以上の領域、例えば引き出し線17を接続するための領域B(図示せず))は、保護材15では被覆されず、保護材15から露出している。
【0051】
センシング領域Aは、生体信号を検知するように意図および/または設計された領域である。センシング領域Aは、保護材15から露出し、かつ、生体信号を検知可能である限り、様々な態様であってよい。センシング領域Aは、被検体であり得る生体ないし生体組織と直接的または間接的に接触して、被検体からの生体信号を直接的または間接的に検知可能であればよい。生体は広義の被検体として理解され得、生体組織は狭義の被検体として理解され得る。生体組織は生体(例えば人体)の一部を成し得るが、生体から分離されたものであってもよい。
【0052】
生体信号を発する被検体としての生体組織(測定対象)は、より詳細には、人体等の皮膚であり得、また、皮膚下にある、血管、筋肉、脳、その他の臓器等であり得る。測定対象が、外部に露出した生体組織(例えば皮膚)である場合、センシング領域Aを測定対象の生体組織に(後述するように直接的または間接的に)接触させて、測定対象の生体組織からの生体信号を直接的に検知(測定)してよい。測定対象が、外部に露出した他の生体組織(例えば皮膚)の下にある生体組織である場合、センシング領域Aを該他の生体組織(例えば皮膚)に(後述するように直接的または間接的に)接触させて、測定対象の生体組織からの生体信号を間接的に検知(測定)してよい。
【0053】
センシング領域Aは、図1に示すように、生体信号センシング電極20の外部雰囲気に曝されて(露出して)いてよい。この場合、センシング領域Aを生体ないし生体組織に直接的に接触させ得る。あるいは、センシング領域Aは、センシング領域Aが任意の適切な他の積層物(図示せず)で被覆されてよい。この場合、センシング領域Aを生体ないし生体組織に、該他の積層物を介して間接的に接触させ得る。かかる他の積層物は、例えば、導電性材料層や、イオンを透過可能なゲルまたはフィルム、等であり得る。イオンを透過可能なフィルムは、多孔膜であってよい。多孔膜は、微細な孔を多数有し、孔の径よりも小さいサイズのイオンや分子を選択的に透過させ得る膜であってよい。かかる他の積層物は、特に限定されず、有機材料、無機材料、またはそれらの混合物で形成され得る。例えば、有機材料として親水性ポリマー等のポリマー、無機材料としてセラミックス、またはこれらの組み合わせたものが挙げられる。上記他の積層物の厚さは、例えば0.1μm以上300μm以下であり得る。上記多孔膜は、例えば、平均孔径が1nm以上1μm以下であり得る。上記多孔膜は、孔形状別に、例えば、凝集粒子状多孔膜、網目状多孔膜、繊維状多孔膜、孤立および/または連通した管孔を複数有する多孔膜、ハニカム構造の多孔膜等であってよい。
【0054】
センシング領域Aの面積は、特に限定されないが、例えば0.5mm以上750mm以下であり得る。センシング領域Aの面積が0.5mm以上であることにより、被検体であり得る生体ないし生体組織(例えば皮膚)への(直接的または間接的な)接触が良好になり、安定した生体信号のセンシングを行うことができる。センシング領域Aの面積が750mm以下であることにより、被検体の動き(例えば体動)によるモーションアーティファクトの影響を最低限に抑え、安定した生体信号のセンシングを行うことができる。好ましくは、センシング領域Aの面積は、2mm以上および/または500mm以下であり得る。
【0055】
センシング領域Aは、少なくとも生体信号をセンシングするときに、生体ないし生体組織と直接的または間接的に接触できればよい。例えば、センシング領域A(および存在する場合には上記他の積層物)は、剥離可能な保護シール(図示せず)で被覆されていてよく、生体信号センシング電極20で生体信号をセンシングするときに保護シールを剥離して、センシング領域Aを生体ないし生体組織と直接的または(上記他の積層物を介して)間接的に接触させてよい。
【0056】
本実施形態の生体信号センシング電極20によれば、MXene粒子10を含む導電性膜13を使用することで、比較的高い導電性(ひいては比較的低いインピーダンス)を実現しつつ、上述のように導電性膜13におけるMXene粒子10の酸化を効果的に抑制でき、これにより、センシング能の経時劣化を効果的に低減することができる。センシング能は、具体的には、センシング領域Aにおける、導電性膜13と生体ないし生体組織(例えば人体の皮膚)との間の界面インピーダンスであり得、代表的には、3電極法により測定される導電性膜のインピーダンスであり得る。本実施形態によれば、導電性膜13のインピーダンスの経時変化を効果的に低減でき、高い安定性が得られる。
【0057】
以上、本発明の1つの実施形態における生体信号センシング電極について詳述したが、上記実施形態の生体信号センシング電極は種々の改変が可能である。
【0058】
例えば、図4および図5に示すように、生体信号センシング電極21、23は、導電性膜13の第2面13b上に配置されるカバー19であって、センシング領域A(および存在する場合には上記他の積層物)がカバー19から露出している、カバー19を更に含んでいてもよい。
【0059】
より詳細には、1つの改変例において、図4に示す生体信号センシング電極21のように、第2面13bの一部であるセンシング領域A(および存在する場合には上記他の積層物)が保護材15から露出し、より詳細には、保護材15は、第2面13bの外周領域を被覆し、導電性膜13とカバー19との間に存在していてよい。この場合、保護材15は、カバー19を導電性膜13に接着する機能、およびカバー19を基材11に接着する機能を果たし得る。なお、この例においても、保護材15に由来するポリマーが、導電性膜13中に浸透し得る。
【0060】
もう1つの改変例において、図5に示す生体信号センシング電極23のように、第2面13bの全部が保護材15から露出し、第2面13bの一部であるセンシング領域A(および存在する場合には上記他の積層物)がカバー19から露出し、より詳細には、保護材15は、第2面13bの外周領域を被覆せず、導電性膜13とカバー19との間に存在していなくてもよい。この場合、保護材15は、カバー19を基材11に接着する機能を果たし得る。なお、この例においても、保護材15に由来するポリマーが、導電性膜13中に浸透し得る。
【0061】
いずれの改変例においても、接着機能は、水素結合を利用したものであってよいが、これに限定されない。
【0062】
カバー19の寸法、形状等は、生体信号センシング電極21、23の用途に応じて様々であり得、可撓性および剛性のいずれであってもよい。カバー19は、例えばポリマー、金属、半導体、セラミックスなどの、任意の適切な材料から成り得る。カバー19は、1つの材料から成っていても、2つ以上の材料から成っていてもよい。
【0063】
本発明の生体信号センシング電極は、上述した実施形態および改変例に限定されない。例えば図6を参照して、もう1つの実施形態の生体信号センシング電極25は、基材11と、基材11上に配置された導電性膜13とを含み、第2面13bの一部であるセンシング領域A(および存在する場合には上記他の積層物)が保護材15から露出し、より詳細には、保護材15が、導電性膜13の端部13cおよび第2面13bの外周領域を被覆していてよい。更に、図示する態様において、カバー19が、保護材15を介して、導電性膜13の端部13cおよび第2面13bの外周領域に接着されていてよい。生体信号センシング電極25において、基材11は導電性であり得、導電性の端子部12と接続または一体成型されていてよい。例えば、基材11および端子部12は金属から成っていてよい。なお、この図6に示す実施形態において、カバー19は必須でなく、カバー19は設けられていなくてもよい。
【0064】
なお、図4~6を参照して説明した生体信号センシング電極において、特段説明のない限り、図1~3を参照して説明した生体信号センシング電極に関する説明が当て嵌まり得る。
【実施例
【0065】
保護材のポリマーが種々異なる生体信号センシング電極サンプルを作製し、それらのセンシング能の安定性を評価した。また、各サンプルの導電性膜の断面を分析した。
【0066】
・サンプル作製
MXene粒子を水中に10mg/mLの濃度で分散させたスラリーを準備した。金蒸着したスライドガラスの上(金の蒸着面上)に、上記で準備したスラリーをスプレー塗布し、70℃の真空オーブン(350mmTorr)内で一晩乾燥させて、金蒸着スライドガラス上に、MXene粒子の導電性膜を形成した。その後、この導電性膜の端部および導電性膜の上面の所定の領域(センシング領域Aと引き出し線を接続するための領域Bとを除いた領域)に保護材含有液(後述)をスクリーン印刷で付着させた。その後、上記所定の領域上に、これに対応するポリマーフィルム(センシング領域Aに対応する開口と引き出し線を接続するための領域Bに対応する開口とを有する)を配置し、70℃のオーブンで5時間乾燥させた。その後、リード線からなる引き出し線(評価用)を導電性膜に上記領域Bにてはんだ付けした。はんだ付けした部分に対して、領域Bを周囲雰囲気から封止するように、カプトンテープで被覆した。これにより、生体信号センシング電極サンプルを作製した。
【0067】
保護材含有液(保護材の原料を含む液状物)として、実施例1~4および比較例1~4で、表3に示す各ポリマーが溶媒(例えば、ポリビニルアルコールの場合は水)に分散した液状物を使用した。実施例1~4および比較例1~4で、異なる保護材含有液を使用したこと以外は同じ条件として、保護材のポリマーが異なる生体信号センシング電極サンプルを作製した。
【0068】
・センシング能(インピーダンス)の安定性の評価
ビーカー内のリン酸緩衝食塩水(PBS:Quality Biological、pH7.4)に各サンプルを浸漬し、4時間毎に、導電性膜のインピーダンスを測定した。リン酸緩衝食塩水およびインピーダンス測定の温度は室温とした。インピーダンス測定は、AUTOLAB社製のポテンショスタットを使用して、3電極法にて、サンプルを作用極として使用し(より詳細には、金蒸着膜上の導電性膜を、リード線を介して作用極として使用し)、対極に白金を使用し、参照極に銀/塩化銀電極を使用して(これにより測定されるのは、参照極と作用極との間のインピーダンスである)、10Hzの条件で行った。浸漬前、12時間浸漬後、24時間浸漬後の測定値を表3に併せて示す。
【0069】
表3を参照して、実施例1~4(ポリマー:ポリビニルアルコール、ポリイソシアネート架橋アクリル樹脂、エポキシ架橋アクリル樹脂、ポリアミドイミド)では、24時間浸漬しても、インピーダンスの測定値に経時変化がほとんど認められ、高い安定性を示した。他方、比較例1~4(ポリマー:ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)では、12時間の浸漬で、インピーダンスの測定値に経時変化が認められ、安定性に劣っていた。
【0070】
【表3】
【0071】
・導電性膜の断面分析
導電性膜を切断し、これにより露出した断面を赤外分光分析(IR)により分析して、ポリマーが検知されるか否かを調べた。結果を表3に併せて示す。実施例1~4(ポリマー:ポリビニルアルコール、ポリイソシアネート架橋アクリル樹脂、エポキシ架橋アクリル樹脂、ポリアミドイミド)では、導電性膜の内部においてポリマーが検知された。他方、比較例1~4(ポリマー:ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)では、導電性膜の内部においてポリマーが検知されなかった。
【0072】
以上の結果から、実施例1~4のポリマーは、官能基として、C=Oと、OHおよびNHの少なくとも一方と、を有し、導電性膜中に浸透でき、そして、ポリマーの官能基がMXene粒子に結合(修飾/終端Tと水素結合)することができて、MXene粒子同士を強く結合させ、導電性膜の端部からの生理食塩水に由来する水等の侵入を防止でき、MXene粒子の酸化を効果的に低減でき、この結果、インピーダンスの経時変化を防止でき、高い安定性が得られたものと考えられる。他方、比較例1~4のポリマーは、官能基として、C=Oと、OHおよびNHの少なくとも一方と、を有さず、上記のような効果が得られなかったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の生体信号センシング電極は、任意の適切な用途に利用され得、生体信号をセンシングするために、導電性膜のセンシング領域を、被検体であり得る生体ないし生体組織(例えば人体の皮膚等)に直接的または間接的に接触させて使用され得るが、これに限定されない。
【0074】
本出願は、2021年8月11日に米国特許商標庁に出願された米国仮特許出願第63/231,850号を基礎とし、その優先権を主張するものであって、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0075】
1a、1b 層本体(M層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene(層状材料)粒子
11 基材
12 端子部
13 導電性膜
13a 第1面
13b 第2面
13c 端部
15 保護材
16 ポリマー
17 引き出し線
19 カバー
20、21、23、25 生体信号センシング電極
A センシング領域
dp 面内方向の浸透深さ
dt 厚さ方向の浸透深さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】