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特表2024-529107フィブリノゲン組成物および調製方法
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  • 特表-フィブリノゲン組成物および調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】フィブリノゲン組成物および調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/36 20060101AFI20240725BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240725BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240725BHJP
   A61J 3/00 20060101ALI20240725BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K38/36
A61P7/04
A61K9/19
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/12
A61J3/00 300C
A61J1/05 310
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508328
(86)(22)【出願日】2022-08-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2022072679
(87)【国際公開番号】W WO2023017153
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】21191286.0
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595107379
【氏名又は名称】ビオテスト・アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Biotest AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】マネーク,オリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ゾホル,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】メラー,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】オット,ヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】シャイヒ,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047CC03
4C047DD02
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC14
4C076DD09
4C076DD23
4C076DD43
4C076DD51
4C076DD67
4C076FF13
4C076GG47
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA26
4C084DC11
4C084MA44
4C084NA01
4C084NA03
4C084ZA531
4C084ZA532
(57)【要約】
本発明は血液製剤、特にフィブリノゲンおよびフィブリノゲン製剤の領域に関する。本発明は、残留水分量2-5%(w/w)である乾燥状態の、例えば凍結乾燥状態のフィブリノゲン製剤を提供する。発明者は、前記残留水分量が、乾熱によるウイルス不活化に有利であることを発見した。この有利な不活化は、特にウイルスの危険性がなく、かつ安定な製剤をもたらす。この発明はさらに、乾燥状態、例えば凍結乾燥状態であって、特に少ない数のサブビジブル粒子(SVP)を持つフィブリノゲン製剤、およびそのような製剤の群を提供する。前記製剤は1gのフィブリノゲンを注射溶液に再構成し、10-100μmのSVP含量が6000個以下、25-100μmのSVP含量が600個以下であるフィブリノゲン溶液を得ることに適する。本発明の製剤の調製方法およびフィブリノゲン欠乏症の治療に用いるためのこれら製剤も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留水分量2-5%(w/w)、場合により残留水分量2.5-3.5%(w/w)の乾燥状態、好ましくは凍結乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含む、容器(10)。
【請求項2】
フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、また、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、請求項1に記載の容器(10)。
【請求項3】
乾燥状態、好ましくは凍結乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含み、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、また、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、容器(10)。
【請求項4】
乾燥状態、好ましくは凍結乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群であって、前記群の少なくとも10個の容器(10)について、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、また、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、容器(10)の群。
【請求項5】
フィブリノゲン製剤が、残留水分量2-5%(w/w)、好ましくは2.5-3.5%(w/w)のフィブリノゲン製剤である、請求項3または4に記載の容器(10)または容器(10)の群。
【請求項6】
請求項3-5のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群であって、
a)ポリソルベート、好ましくはポリソルベート80、
b)場合により、充填剤、好ましくはトレハロース、
c)場合により、アミノ酸、好ましくはアルギニン、および/または、
d)場合により、塩、例えば塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、またはこれらの組み合わせ
を含み、
製剤が、より好ましくは、ポリソルベート80、トレハロース、アルギニン、ナトリウム、塩化物、クエン酸塩および残留水分を含む、容器(10)または容器(10)の群。
【請求項7】
再構成時の濃度が20g/Lである、請求項2-6のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群。
【請求項8】
再構成時のフィブリノゲン濃度を20g/Lとしたとき、アルブミン濃度が0.5g/Lであり、かつサッカロースまたはグルタミン酸を含まない、請求項2-7のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群。
【請求項9】
請求項2-8のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群であって、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、また、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が3500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が35個以下であり、
場合により、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、また、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が2500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が30個以下である、容器(10)または容器(10)の群。
【請求項10】
2-25℃において少なくとも6か月間安定であり、好ましくは、少なくとも5年間安定である、請求項2-9のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群。
【請求項11】
含まれる凝集物の割合が20%未満である、請求項2-10のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群。
【請求項12】
請求項2-11のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)を製造する方法であって、
a)フィブリノゲン原薬のバルク溶液を濾過滅菌する工程、
b)濾過滅菌後の溶液を受取タンク(6)で、場合により、撹拌手段(8)を備えた撹拌機(7)を有する受取タンク(6)で受け取る工程、
c)場合により、撹拌手段(8)が前記バルク溶液中に沈んでいるときに受取タンク(6)内のバルク溶液を撹拌する工程、
d)容器(10)を予め定められた量の溶液で満たす工程、
e)容器(10)内の溶液を凍結乾燥し、凍結乾燥状態の製剤を得る工程、
f)凍結乾燥状態の製剤を乾熱処理する工程、
g)場合により、製剤を含む容器(10)を包装する工程
を含む方法。
【請求項13】
受取タンク(6)が容量50-150Lであって円筒形であり、また、撹拌手段(8)が最大150rpmで回転する中心の駆動軸に固定された複数のブレード(または棒)であり、撹拌時間が最大1時間、場合により約5分であり、好ましくは、工程c)の撹拌が少なくとも10分間であり、バルク溶液を工程d)で撹拌しない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13のいずれかに記載の方法であって、
凍結乾燥が
a)-29℃以下、好ましくは-50℃以下で4時間以上凍結する工程、
b)-10℃以下かつ40μbar(4Pa)以上で段階的に乾燥する第1乾燥工程、ここで、好ましくは、-25℃未満かつ200μbar(20Pa)以上の条件から始め、段階的に温度を上昇させる、
c)17-23℃で2時間以上乾燥する第2乾燥工程
を含み、凍結乾燥後の残留水分量が2-5%(w/w)であり、
凍結乾燥が、場合により、
a)-52℃以下で8時間以上凍結する工程、
b)約-36℃、約280μbar(28Pa)で約48時間行う第1ステップ、約-23℃、約70μbar(7Pa)で約40時間行う第2ステップ、および約-10℃、約40μbar(4Pa)で約78時間行う第3ステップを含む第1乾燥工程、
c)約20℃、約10μbar(1Pa)で約3-4時間乾燥する第2乾燥工程
を含む、方法。
【請求項15】
乾熱処理が、製剤を100±1.5℃で30±3分間加熱する工程を含み、場合により、スチームオートクレーブでこれを行う、請求項12-14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項12-14のいずれかに記載の方法によって得ることができる、請求項1-11のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群。
【請求項17】
フィブリノゲン欠乏症の治療に用いるための、請求項1-11、および16のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤を含む容器(10)またはフィブリノゲン製剤を含む容器(10)の群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液製剤の領域、特にフィブリノゲンおよびフィブリノゲン製剤に関する。本発明は、残留水分量が2-5%(w/w)である乾燥状態の、例えば凍結乾燥状態の、フィブリノゲンを提供するものである。本発明者らは、前記残留水分量が乾熱処理によるウイルスの不活化に有利であり、感染性ウイルスに対して高い安全域を持つ安定な製剤および前記製剤を含む容器をもたらすことを発見した。本発明はさらに、含まれるサブビジブル粒子(Sub-visible Particle)(SVP)の数が特に少ない、乾燥状態の、例えば凍結乾燥状態の、フィブリノゲン製剤、およびその製剤を含む容器を提供する。加えて、本発明は、前述の容器または製剤の群も提供する。前記製剤は、例えば前記製剤の1gのフィブリノゲンを含む1つの容器を水溶液に、例えば注射用水に再構成し、10-100μmのSVP含量が6000個以下かつ25-100μmのSVP含量が600個以下のフィブリノゲン溶液を得ることに適する。本発明の製剤の調製方法およびフィブリノゲン欠乏症の治療に使用するためのこれら製剤も開示される。
【背景技術】
【0002】
フィブリノゲンは、血中の主要な構造タンパク質であり、血餅形成の原因である。組織および血管が損傷している間、フィブリノゲンはトロンビンによって酵素反応的にフィブリンへと変換され、そしてフィブリンを基とした網目状の構造物となり、血餅の基礎を作る。フィブリン血餅の主要な役割は、傷ついた血管を塞いで出血を止めることである。また、フィブリンはトロンビンと結合し、トロンビンの活性を低下させる。この働きは、過剰な凝血を防ぐフィードバック機構を提供する。さらに、フィブリンは血小板および血管内皮細胞の拡張、組織線維芽細胞の分化、毛細血管の形成、および血管新生に寄与し、これにより血行再建および傷の再生を促進する。これは止血障害の治療に利用し得る。
【0003】
フィブリノゲン分子は、フィブリノゲンα鎖、フィブリノゲンβ鎖、フィブリノゲンγ鎖という3種の異なるポリペプチド鎖から構成される3量体2つから構成される、可溶血漿糖タンパク質として血中を循環している。フィブリノゲンの典型的な分子量は~340kDaである。ヒトの血漿中における標準的なフィブリノゲン濃度は150-400mg/dLであり、病的な出血および/またはトロンボシスに伴って、この範囲を超えて著しく減少もしくは上昇する(Wikipedia)。
【0004】
フィブリノゲン欠乏症においては、血餅を作る能力が損なわれ、致命的な出血のリスク、および止血が遅れるリスクの大幅な上昇をもたらす。
【0005】
重度の先天性フィブリノゲン欠乏症においては、患者の、十分な量の機能性フィブリノゲンを合成する能力が、損なわれるかまたは完全に失われる。こうした患者には頻繁に濃縮フィブリノゲンを注射することが求められる。後天性フィブリノゲン欠乏症においては、患者は内因性のフィブリノゲンを失い、制御不能な出血をもたらし得る状態である。後天性欠乏症のよく見られる原因は、複雑な手術中の大失血であるが、重度の外傷の結果として起こることもある。この場合では、フィブリノゲンを経静脈投与し、致命的な値を上回るようフィブリノゲン濃度を上昇させることで、出血を止める必要がある。
【0006】
したがって、フィブリノゲン製剤およびそれを調製する方法は当業界でよく知られている。例えば、Haemocomplettan(登録商標)はCSL Behring(Marburg, Germany)により製造される。WO00/47621A1はフィブリノゲンおよびフィブロネクチンを含む組成物の調製方法を開示するものである。WO2018/115800A1、WO2008/117746A1、EP0085923A1、EP0804933A2、WO95/26749A1、WO98/55105A1およびEP0345246A2は、様々な安定化剤を伴ったフィブリノゲン組成物に関する。
【0007】
WO01/48016A1、WO2004/007533A1、WO2012/038410A1、WO2009/155626A2はフィブリノゲン組成物を製造する方法を開示する。例えば、フィブリノゲンは非常に敏感なタンパク質であり、凝集体を形成する傾向にあることから、WO2006/015704は、フィブリノゲン製剤の熱処理に関し、ここでは凝集体の形成が最小化されている。
【0008】
一般的に、タンパク質を含む製剤は粒子性の物質を含む可能性があり、これは製剤中のタンパク質が自己凝集して粒子を形成したものである可能性がある(Carpenter et al., J Pharm Sci. 2009 Apr: 98(4): 1201 - 1205)。粒子は目に見えるものまたは肉眼では見ることができないものでありうる。サブビジブル粒子(SVP)は一般的に100μmまでの直径を持つ。その最大径は、ヒトの肉眼で検出できる限界を表す。すなわち、100μm以下の粒子は“サブビジブル”と称される。
【0009】
製剤の安定性および品質の一面はすなわち、SVPの有無である(Abraham et al., 2011. BioPharm International 24(4))。このような粒子は、凝集したタンパク質および/または加工材料または容器閉鎖システムから脱落した成分からなる可能性があり、製剤の効果および免疫原性に直接影響し得る。また、SVPはしばしば、さらなるタンパク質凝集の凝集核としても働き、かつ/または集積によるさらに大きな粒子の発達をもたらす。製剤中のSVPの粒子径および濃度を測ることは、SVPの効果的な制御のため必要不可欠な前段階であり、かつ、産業が‘欠陥のない’かつ‘基本的に粒子を含まない’製品を目指して努力していることから、ますます重要性を増している(Carpenter et al., 2015, www.europeanpharmaceuticalreview.com/article/35952/meeting-biopharmaceutical-analytical-requirements-for-subvisible-particle-sizing-and-counting/)。光遮蔽法<788>という、SVP解析のための標準的な試験についての現行の米国薬局方(USP)の要件は、10μmより大きな微粒子を容器につき6000個以下に制御し、25μmより大きな粒子を容器につき600個以下に制限することを規定している。これらの限度は、注射の際に粒子が毛細血管(平均直径約7μm)をブロックするという懸念に関連する。他の健康問題、例えば免疫原性の増加などが、さらに全ての粒子径のSVPにおいて存在する可能性がある(Carpenter et al. 2009. Journal of Pharmaceutical Sciences 98(4):1201-1205)。
【0010】
現在のところ、血漿タンパク質、および筋肉注射、および皮下注射用のタンパク質は比較的多くのSVPを含む可能性があるため、これらのタンパク質については例外がある。しかしながら、このことは懸念がないことによるものではなく、むしろ、再現性よくかつ機械的にSVP含量の十分低い血漿製剤を生産することがこれまで不可能であったという事実によるものだということは明らかである。
【0011】
WO2013/106772A2は、粒子解析機を用いて粒子の集団の特徴を決定する方法を開示し、SVPの生成は調製の条件および/または容器詰めのプロセスの条件で引き起こされる可能性があると説明した。
【0012】
WO2016/057739A1、WO2014/100143A2、およびWO2019/060062A1は、SVP含量が低く、かつポリソルベートなどの脂肪酸エステル、および/または界面活性剤を含む抗体組成物を開示する。
【0013】
それにもかかわらず、SVP含量の低い、血漿製剤、例えばフィブリノゲン製剤に対する大きな需要が未だ存在する。
【0014】
フィブリノゲンは典型的には血漿から精製されるが、ドナーに対する厳しいスクリーニングおよびドネーション試験が要求されるにも関わらず、血漿に感染性ウイルスが含まれないことは保証され得ない。他の一般的な問題の1つは、ウイルスによる汚染である。このことは、ウイルスの除去またはウイルス不活化工程を製造プロセスに組み込むことを余儀なくさせる。除去は、例えばナノフィルトレーション(例えばLFB SA (Courtaboeuf Cedex, France)のFibclot(登録商標)の場合)によって行われ得るが、この方法はフィルターが高価であり、またフィルターがしばしば詰まる点で不利である。クロマトグラフィーも使用され得る。ウイルス不活化は、溶媒/界面活性剤(S/D)処理、パスチャライゼーション、または熱処理(例えばWO97/42980A1に記載)、酸性pHによる不活化、または照射、例えばUV光照射による不活化に基づき得る。サッカロース存在下における熱不活化は、CSL Behringの製剤Haemocomplettan(登録商標)に対して行われるが、糖尿病患者において発生する問題から、不適切であると考えられる可能性がある。ウイルス不活化/除去のための有効な方法の組み合わせもまた、脂質エンベロープウイルスに対して、欧州医薬品庁(EMA)管轄下では義務として、当業界でしばしば用いられている。
【0015】
第VIII因子製剤中のウイルスは、例えばEP0844005A1では残留水分量が0.8%である凍結乾燥状態の組成物を熱処理することで不活化される。JPS6289628Aは、フィブリノゲンを残留水分量0.05-3%まで乾燥し、そして60℃で65-90時間、ジサッカライド存在下で熱処理を行うと説明している。WO93/05067A1はポリソルベート80を抗ウイルス物質として、かつ局所用フィブリノゲン複合体の可溶化剤として示した。ウイルス不活化の成功は、組成物および製剤の調製における複数の要素に依存しており、かつ実験的に、例えばウイルス添加実験などで確かめられる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
現技術水準を考慮して、発明者らは、これらの課題のうち1つ以上に対処する、有利なフィブリノゲン製剤を提供するという課題に対処した。特に、発明者は、例えば経静脈投与などのための特に安全な製剤であって、活性であり、長期間安定で、かつウイルスの危険性がないフィブリノゲン製剤を提供するための課題に対処した。好ましくは、本フィブリノゲン製剤は、良好な可溶性、非常に低いSVP含量、および安定化またはその他の用途のための副次的なタンパク質を実質的に含まないことを特徴とすべきである。さらに、血液製剤は、再現性のよい手法においてよく標準化されたプロセスで生産可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のフィブリノゲン製剤
この課題は、本発明の内容、例えば、請求項に記載の内容によって解決される。有利なことに、本発明は、ウイルスに対する安全性および/またはSVPの数、またはその両方に関して、使用上特に安全なフィブリノゲン製剤、およびこのような製剤を含む容器を提供する。
【0018】
1つの実施形態において、本発明は、残留水分量2-5%(w/w)の、好ましくは2.5-4%(w/w)の乾燥状態、好ましくは凍結乾燥状態の、フィブリノゲン製剤を含む容器を提供する。残留水分量2.5-3.5%、例えば、約3%(w/w)は、ウイルス不活化および安定性の最適化に関して特に好ましいことが示されている。したがって、より好ましくは、本発明のフィブリノゲン製剤は乾燥状態、好ましくは凍結乾燥状態であり、かつ、残留水分量2.5-3.5%(w/w)、好ましくは約3%(w/w)である。残留水分量は、好ましくは近赤外分光法(NIR spectroscopy)に準じて測定される。あるいは、残留水分量はカールフィッシャー法で決定され得る。他に記載のない場合は、残留水分量%はw/w(水の重量/製剤の重量)に関する。
【0019】
当業者には周知のように、製剤とは医薬組成物であり、すなわち、最終投与剤型であって、必要であれば溶媒によるさらなる再構成の後、医薬として患者に対して投与する準備の整ったもの、および/または販売の準備、および/または患者または医師への供給の準備が整ったものをいう。一般的に、製剤はバルク原薬から調製される。本開示では、本発明の製剤、または本発明の製剤を含む容器もまた本発明の物として称される。
【0020】
本発明によると、本発明の製剤は乾燥状態であるが、これには水が全く存在しないということを意味する意図はなく、しかしむしろ、製剤が固体であり、かつ典型的には、乾燥されていることをいう。現技術水準の他のフィブリノゲン製剤と比較して、本発明の製剤は前記のように2-5%(w/w)という比較的高い残留水分量を持つ。凍結乾燥は乾燥において好ましい選択肢だが、もう1つの選択肢として、製剤は噴霧乾燥または噴霧凍結乾燥され得る。水分とは水のことを表す。製剤はその他の溶媒のいずれをも著明な量含まず、特に、医薬用途、例えば経静脈投与などに不適な量の溶媒(またはその他の成分)を含まない。
【発明の効果】
【0021】
発明者は、驚くべきことに、乾熱処理によるウイルス不活化の効果、特にノンエンベロープウイルスに対するウイルス不活化の効果が、前記残留水分量において著しく向上すること、および、前記残留水分量を持つ、前記ウイルスを添加して製造された製剤はそれでもなお、高い安定性と良好な可溶性を持つことを発見した。このような特に効率的なウイルス不活化および高い安定性および可溶性は、下記の実施例および図によって説明される。したがって、本発明の製剤は特に、ウイルスに対して安全であり、安定性が高く、かつ再構成において良好な可溶性を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で使用されるとき、“フィブリノゲン”とは主要構造タンパク質であって血餅の形成の原因となり、血漿中に存在するタンパク質を表し、そして好ましくはフィブリノゲンの糖タンパク質形態全体を表す。好ましくは、“フィブリノゲン”は血漿のフィブリノゲン、すなわち血漿由来のフィブリノゲンを表す。あるいは、本発明中で使用されるフィブリノゲンは、遺伝子組み換えによって製造され得る。
【0023】
好ましくは、本発明の製剤は投与単位剤型に詰められる。典型的に、フィブリノゲンについては、これは約1gのフィブリノゲンが詰められることを意味する。患者に投与する前に、乾燥状態、例えば凍結乾燥状態のフィブリノゲン製剤は典型的に、溶液を得るため、溶媒に、特に水性溶媒に再構成される。1gのフィブリノゲンを、例えば注射用水、バッファー、または血漿などに、典型的にはそれら50mL中に、再構成し、総タンパク質量が、主にフィブリノゲンが、約20g/Lの溶液を提供してもよい。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含み、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、かつ、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、容器を提供する。“再構成するのに適する”とは、1つの容器の内容物を溶媒に、特に注射用水に再構成した際、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、フィブリノゲン溶液が得られるということを意味する。本明細書で、SVPの量とは、それぞれの投与単位(例えば50mL、または50-100mL)中のそれぞれの容器中におけるSVPの絶対的な量を表す。
【0025】
典型的には、フィブリノゲン製剤は約50-98%(w/w)の、好ましくは、70-95%の、例えば、80-90%の活性フィブリノゲンを含む。したがって、1gの(活性)フィブリノゲンを詰めることが望ましい場合、しばしば1gより多くの製剤が、例えば約1.5-2gのフィブリノゲン製剤が容器中に含まれる。製剤は、典型的には、さらに添加物、例えば下記に説明されるようなものを含む。好ましくは、前記のSVPの最大濃度は、例えば1gのフィブリノゲンを含むフィブリノゲン製剤の1つの容器を再構成する際に適用される。SVPの前記最大濃度は、例えば2g以上のフィブリノゲンを含む、場合により3gまたは5gのフィブリノゲンを含むフィブリノゲン製剤の1つの容器を再構成する際にも適用されてよい。
【0026】
1つの実施形態において、本発明は、残留水分量2-5%(w/w)、場合により残留水分量2.5-3.5%(w/w)、例えば約3%(w/w)の乾燥状態、好ましくは凍結乾燥状態のフィブリノゲン製剤であって、製剤が水溶液に、好ましくは注射溶液に再構成するのに適しており、かつ、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、製剤を提供する。
【0027】
欧州薬局方2.9.19および米国薬局方788(注射の粒子性物質の基準を提供する文書)に準じた、SVPに対する公的な要件は、本発明の製剤を以て初めて、フィブリノゲン製剤に合致する。欧州薬局方2.9.19および米国薬局方788は一般的に、10μm以上の粒子に対しては50mL容器あたり6000個以下であること、および25μm以上の粒子に対しては50mL容器あたり600個以下であることを要求しており、これは10μm以上の粒子について1mLあたり120個、25μm以上の粒子に対して1mLあたり12個に対応する。
【0028】
分子径0.05μm(Hall et al, 1959)の、フィブリノゲン分子の数(再構成された製剤(DP)におけるフィブリノゲン濃度:20g/L、分子量約340kDa、濃度約60μmol/L)は、例えば1mLあたり約17.7・1018個であり得る。
【0029】
再構成は薬学的に許容できる溶媒、典型的には水性溶媒で行われる。好ましくは、注射用水が用いられるが、例えば生理食塩水またはPBSなどのバッファーにも再構成し得る。再構成の間、フィブリノゲン製剤は溶媒に溶かされる。再構成は、例えば容器に溶媒を加えることで行われ得るし、場合により、例えばボルテックスミキサー、振盪、シリンジへ吸い上げるなどによる混合を含み、場合により、繰り返し行われ得る。SVPの数を解析する目的で行われる再構成は、濾過を含まない。
【0030】
欧州薬局方2.9.19及び米国薬局方788に準じ、SVPの量は光遮蔽法、例えば粒子計測機Hiac Model 9703+ (Beckman,Krefeld, Germany)という、2から400μmの範囲の粒子径に対応したHiac Model HRLD-400センサーを搭載した装置によって計測される。各計測において、5mLのタンパク質溶液が微細な管を通って吸引され、センサーの隣を通過する。1回目の計測はシステムを洗浄するために用いられ、そして計測結果は破棄される。続く4回の計測の平均が、溶液中のSVPの数を決定するために用いられる。タンパク質溶液が測定前に濾過されないことに留意するのは重要である。
【0031】
最終フィブリノゲン製剤(DP)においては、10μm以上のSVPおよび25μm以上のSVPの数が好ましく測定される。この測定のため、凍結乾燥されたDPは好ましくは50mLの注射用水(WFI)に再構成される。再構成された溶液は、さらにいかなる濾過を受けることなく粒子計測機に移送される。全ての試料は好ましくは3回計測される。容器あたりの粒子の全量の平均値が報告される。25μm以上のSVPは10μm以上のSVPのグループにも含まれるため、10μm以上のSVPの数は常に25μm以上のSVPの数より多い。
【0032】
本発明の製剤に含まれるSVP数の少なさのため、前記製剤を事前の濾過なく安全に投与することが可能である。このことは、一刻を争う場面において特に有利である。しかしながら、例えば泡が形成されるのを避けるような方法で乾燥状態の製剤の溶液を得るために、濾過を行ってもよい。
【0033】
本発明は、初めて再現性のよい方法でこのようなフィブリノゲン製剤およびフィブリノゲン製剤を含む容器を提供する。したがって、本発明は、乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含む容器の群(batch)であって、前記群の少なくとも10個の容器について、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、また、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、容器の群も提供する。好ましくは、これらの条件は少なくとも本発明の容器の群の少なくとも100個の容器に対して、場合により、少なくとも200個の容器に対して適用される。この限定は本発明の容器の群の少なくとも500個の容器に対して適用されてもよく、場合により、前記群の実質的に全ての容器に対して適用されてもよい。本発明の容器は群の中からランダムに選ばれてもよく、好ましくは、先に容器へ満たされた群の前半および次に容器へ満たされた群の後半から均等に、またはほぼ均等に選ばれてもよい。
【0034】
本発明は、乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含む容器の群であって、群の少なくとも最後の10%の容器について、好ましくは、前記群の少なくとも最後の20%の容器について、場合により、実質的に前記群の全ての容器について、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、かつ、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、容器の群も提供する。この文脈における“最後の”は、一番後に満たされたことを意味する。
【0035】
好ましくは、本発明で用いられるフィブリノゲン製剤はさらに低いSVP含量を持つ。例えば、本製剤は水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適し、かつ前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が3500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が60個以下である。場合により、本発明で用いられるフィブリノゲン製剤は水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適し、かつ前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が3500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が35個以下である。本発明はまた、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適し、かつ前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が2500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が30個以下である、本発明のフィブリノゲン製剤も提供すると、発明者は示すことができる。
【0036】
本発明が、本発明のフィブリノゲン製剤を含む容器の群に関する限りでは、前記フィブリノゲン製剤は残留水分量2-5%(w/w)、好ましくは、2.5-3.5%(w/w)である。これは、群の中の各製剤が前記残留水分量を持つということである。
【0037】
本発明のフィブリノゲン製剤はバイアル、例えばガラス製バイアルやプラスチック製(例えばポリエチレン製)バイアルなどの容器に詰められる。好ましくは、容器はガラス製容器である。容器は、例えば少なくとも50mLの溶液を加えることが可能な容量を有してもよい。好ましくは、容器は表示上の充填容量100mLを持つ。容器はシリンジ、例えばシングルチャンバーシリンジであってもよい。容器は、ダブルチャンバーシリンジであって、うち1つのチャンバーに本発明のフィブリノゲン製剤を含む容器であってもよい。
【0038】
本発明は、適切な容器、例えばバイアルに入った本発明の製剤、および/または適切な移送デバイスを含む、キットを提供する。より好ましくは、前記移送デバイスは、適切な溶媒(例えば注射用水など)を、前記溶媒を含む容器から製剤を含む容器へ、清潔にまたは無菌的に移送することを容易にするデバイスである。さらにより好ましくは、前記移送デバイスは、溶解した製剤を投与用のデバイス、例えばシリンジへ移送することも容易にするデバイスである。このような移送デバイスは市販されており(例えばMix2Vial(登録商標)(West), Nextaro(登録商標)(SFM))、そして当業者には周知である。前記移送デバイスは場合により1つ以上のフィルター、例えばバクテリアを除去可能な、かつ/または、溶液中および/または製剤中の粒子を取り除くことが可能なフィルターを含む。このようなフィルターは、例えば容器の蓋を貫通したことで製剤中または溶液中に入る粒子(例えばゴム栓を針で貫通したことで入る、ゴム栓由来の物質)の除去を確実にするため用いてもよい。
【0039】
適切であると判断される場合、メッシュフィルターまたはメンブレンフィルターを用いてもよい。このようなフィルターのポアサイズは3μmから25μmの範囲であってもよく、好ましくは4から10μmの範囲であってもよい。“ポアサイズ”という用語は、表示上のポアサイズに関する。
【0040】
溶解した製剤が通過するフィルターについては、好ましくはメンブレンフィルターが用いられる。好ましくは、前記フィルターは3から10μm、より好ましくは4から9μm、例えば5または8μmのポアサイズを持つ。発明者は、アクリル共重合体製のメンブレンフィルターを用いることで特によい結果が達成されることを発見した。
【0041】
したがって、本発明は、適切な容器(例えばバイアル)に入った本発明の製剤、および前記の適切な移送デバイスを含むキットにも関する。好ましくは、前記キットは、製剤を溶解するための水性溶媒(例えば注射用水など)を含む適切な容器も含む。例えば、本発明は、(i)適切な容器(例えばバイアルなど)に入った本発明の製剤、(ii)製剤を濾過するための、ポアサイズ3から10μmのフィルターを含む適切な移送デバイス、および(iii)水性溶媒(例えば注射用水など)を含む適切な容器を含むキットにも関する。
【0042】
本発明の容器は典型的には1gのフィブリノゲンを含むフィブリノゲン製剤を含むが、その他の量、例えば0.5-10g、または1-5g、2gまたは5gなどのフィブリノゲンを含んでもよい。
【0043】
好ましくは、本発明の容器、例えばバイアルは、フィブリノゲン濃度20g/Lで注射用水50mLに再構成するのに適する。本明細書で定められるSVPの数を計測するための再構成もまた、典型的には前記濃度で行われる。
【0044】
本発明のフィブリノゲン製剤は乾燥状態、好ましくは凍結乾燥状態である。製剤は、噴霧乾燥または噴霧凍結乾燥されてもよい。
【0045】
本発明で用いられるフィブリノゲン製剤は、フィブリノゲン及び前記残留水分に加え、
a)ポリソルベート、
b)場合により、充填剤、
c)場合により、アミノ酸および/または
d)場合により、塩
を含んでもよい。
【0046】
例えば、本発明で用いられるフィブリノゲン製剤は、好ましくは、ポリソルベート、例えばポリソルベート80を含む。これは、該ポリソルベートが、好ましい残留水分量における乾熱処理の際、ウイルス量の減少に寄与し、そしてさらにSVPの減少を助ける可能性があることを、発明者は示すことができたためである。ポリソルベート20も選択肢の1つである。
【0047】
本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群はまた、充填剤、場合により、トレハロースを含んでもよい。好ましくは、該充填剤は凍結保護剤としても働く。マンノースがもう1つの選択肢として用いられ得るが、発明者はトレハロースがより良いケーキ様構造とより良い溶解特性をもたらすことを発見した。
【0048】
本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群はさらに、アミノ酸、場合により、アルギニンを含んでもよい。該アミノ酸は好ましくは安定化効果を持つ。リシンが代替として用いられ得るが、発明者はアルギニンがより良いケーキ様構造とより良い溶解特性をもたらすことを発見した。
【0049】
さらに、本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群は、塩、好ましくは塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、またはそれらの組み合わせを含んでもよく、場合により、塩化ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムを含んでもよい。該塩は、例えばバッファーとして、および/または等張性溶液を提供するよう機能してもよい。好ましくは、カリウムの毒性のため、本発明の組成物は著明な量のカリウムを含まない。
【0050】
したがって、本発明で用いられるフィブリノゲン製剤は、例えば
a) ポリソルベート80、
b) トレハロース、
c) アルギニンおよび
d) 塩、好ましくは塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせ
を含んでもよい。
【0051】
好ましくは、本発明で用いられるフィブリノゲン製剤は、ポリソルベート80、トレハロース、アルギニン、ナトリウム、塩化物(chloride)、クエン酸塩(citrate)、および残留水分を含む。製剤はさらにカルシウム、好ましくは濃度1mM未満のカルシウムを含んでもよい。より高いカルシウム濃度は、望まない複合体形成に寄与する可能性がある。本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群はさらに、アルブミン、フィブロネクチン、A2マクログロブリン、IgG、IgAまたはIgMなどの免疫グロブリン、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、フィブリノペプチドAおよびD-ダイマーを含む群から選択される追加の血漿タンパク質を、例えばそれら少量、好ましくは、下記の実施例に提供するおおよその濃度で含んでもよい。
【0052】
本発明で用いられる好ましいフィブリノゲン製剤は、実質的に前記の成分からなる。すなわち、フィブリノゲン、ポリソルベート80などのポリソルベート、トレハロースなどの充填剤、アルギニンなどのアミノ酸、塩化ナトリウムおよび/またはクエン酸ナトリウムなどの塩、またはアルブミン、フィブロネクチン、A2マクログロブリン、IgG、IgAまたはIgMなどの免疫グロブリン、フォン・ヴィレブランド因子、フィブリノペプチドAおよびD-ダイマーを含む群から選択される血漿タンパク質、および残留水分である。
【0053】
例えば、好ましい実施形態において、本発明で用いられるフィブリノゲン製剤は、前記製剤の1gのフィブリノゲンを注射用水に20g/Lで再構成した際、本明細書で説明されるように、95-135mmol/Lのナトリウム、1mmol/L未満のカルシウム、100-160mmolの塩化物、3-7mmol/Lのクエン酸塩、25-55mmol/Lのアルギニン、22-38mmol/Lのトレハロースおよび0.03-0.07%のポリソルベート80を含んでもよい。
【0054】
特に、好ましくは、本発明の製剤は前記より著しく多いアルブミンを含まない。例えば、本発明の製剤は、フィブリノゲン濃度20g/Lで再構成した際、0.5g/L未満のアルブミン、好ましくは、0.15g/L未満のアルブミンを含む。したがって、患者に対するフィブリノゲンおよびアルブミンの適切な投与を別々に提供することができ、そしてさらに、フィブリノゲンおよびアルブミンの両方に対して品質管理プロセスを行う必要がない。好ましくは、フィブリノゲン濃度20g/Lで再構成した際、前記のフィブリノゲンでない血漿タンパク質のいずれも含量0.5g/L以下であり、別々に投与することが可能となっている。
【0055】
加えて好ましいこととして、本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群はサッカロースおよび/またはグルタミン酸を含まず、好ましくは、サッカロースとグルタミン酸のいずれをも含まない。サッカロースは、特に糖尿病の背景において問題がある。グルタミン酸に関する懸念は、“中華料理店症候群”の背景において議論されている。
【0056】
発明者は、本発明で用いられるフィブリノゲン製剤が非常に安定であることを発見した。発明者は、有利なことに、本発明の製剤は、乾燥状態で保存したとき、2-25℃で少なくとも6か月間、好ましくは少なくとも1年間、場合により少なくとも5年間安定であることを発見した。さらに、下記の実施例に示されるように、再構成後、製剤は2-8℃で少なくとも8週間、著しく分解することなく保存し得る。安定とは、好ましくは製剤が、元々含まれるフィブリノゲン比活性の少なくとも80%、場合により少なくとも90%を維持することを意味する。
【0057】
本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群は、好ましくは20%未満、好ましくは10%未満の凝集物を含む。凝集物は、典型的にはフィブリノゲンの重合体、例えば2量体、3量体などである。凝集物の割合はHP-SEC解析で決定され得る。割合は、フィブリノゲンの総量と比較した、凝集物の形で存在するフィブリノゲンの検出量として記載される。
【0058】
1つの実施形態において、本発明は、本発明の乾燥状態の製剤を水性溶媒、特に注射用水に再構成することで得られる本発明のフィブリノゲン溶液も提供する。この溶液は、本明細書で定められるように、SVP含量が低い。注射用水または別の水性溶媒を乾燥状態の本発明の製剤に加えることを含む、前記フィブリノゲン溶液を再構成する方法も提供する。
【0059】
本発明のフィブリノゲン製剤を含む容器の調製方法
別の実施形態において、本発明は、本発明のフィブリノゲン製剤を含む容器を製造するための方法であって、
a)フィブリノゲン原薬のバルク溶液を濾過滅菌する工程、
b)濾過滅菌したバルク溶液を受取タンクで、場合により撹拌手段を備えた撹拌機を有する受取タンクで受け取る工程、
c)場合により、撹拌手段が前記バルク溶液中に沈んでいるときに受取タンク内のバルク溶液を撹拌する工程、
d)例えばポンプを用いるなどして、容器を予め定められた量の前記溶液で満たす工程、
e)容器中の溶液を凍結乾燥し、凍結乾燥状態の製剤を得る工程、および
f)凍結乾燥状態の製剤を乾熱処理する工程、および
g)場合により、製剤を含む容器を包装する工程
を含む方法を提供する。
【0060】
1つの実施形態において、本発明の方法は
a)フィブリノゲン原薬のバルク溶液を濾過滅菌すること、
b)濾過滅菌したバルク溶液を受取タンクで受け取ること、
c)受取タンク内のバルク溶液を撹拌しないこと、
d)例えばポンプを用いるなどして、容器を予め定められた量の前記溶液で満たすこと、
e)容器中の溶液を凍結乾燥し、凍結乾燥状態の製剤を得ること、および
f)凍結乾燥状態の製剤を乾熱処理すること、および
g)場合により、製剤を含む容器を包装すること
を含む。
【0061】
発明者は、驚くべきことに、充填工程の前および/または充填工程中にバルク溶液を撹拌することは、必ずしも要求されないことを発見した。溶液は、充填プロセス全体にわたって、例えば2-3時間にわたって撹拌せずとも均質性を保つ。充填中に採取された試料は、充填プロセス全体にわたって、一切撹拌しなくても、フィブリノゲンおよび他の成分について一定の濃度を示した。発明者は、撹拌プロセスを減らすまたは避けることでSVPの量が減少することも発見した。
【0062】
それでもなお、非均質性のリスクを避けるために、短時間かつ/または穏やかな条件での撹拌が、本発明の方法に含まれ得る。したがって、典型的には、本発明の方法は
a)フィブリノゲン原薬のバルク溶液を濾過滅菌する工程
b)濾過滅菌したバルク溶液を受取タンクで、撹拌手段を備えた撹拌機を有する受取タンクで受け取る工程、
c)撹拌手段が前記バルク溶液中に沈んでいるときに受取タンク内のバルク溶液を撹拌する工程、
d)例えばポンプを用いるなどして、容器を予め定められた量の前記溶液で満たす工程、
e)容器中の溶液を凍結乾燥し、凍結乾燥状態の製剤を得る工程、および
f)凍結乾燥状態の製剤を乾熱処理する工程、および
g)場合により、製剤を含む容器を包装する工程
を含む。
【0063】
撹拌を行うことには、溶液の非均質性およびその結果生じる非均質な容器詰めを確実に避ける点で優位性がある。しかしながら、発明者は、たとえ撹拌しなくても溶液は十分均質であることを発見した。
【0064】
本発明で用いられる可能性がある代表的な充填ラインを、図1に示す。
【0065】
工程a)の濾過滅菌は、好ましくはメッシュサイズ0.2μmのフィルターで行われ、これにより、溶液は濾過滅菌される。フィブリノゲン原薬の溶液は、典型的には、ステンレス鋼製タンクまたはプラスチック容器(バッグなど)であってもよく、例えば80L保持できる送出タンクから、前記フィルターを通過する。溶液は加圧ラインによって加圧されてフィルターを通る。移送圧力は最大で600mbar(600hPa)である。場合により、濾過滅菌後、溶液は受取タンク(工程b)中へ直接受け渡される。
【0066】
工程b)では、濾過滅菌されたバルク溶液が受取タンク、例えばステンレス鋼製タンクで受け取られる。容量は例えば50Lであってもよい。受取タンクは場合により、撹拌手段、好ましくは撹拌バー(stirring bar)または撹拌棒(stirring rod)を備えた撹拌機を有する。本発明の文脈では、「a(不定冠詞)」は「少なくとも1つ」を意味すると解される。したがって、撹拌タンクは2つ以上の撹拌機を有してもよい。撹拌機もまた、少なくとも1つの撹拌手段、例えば1つの撹拌ブレードを備えてもよい。好ましくは、撹拌機は2つ以上の撹拌手段、例えば2つ以上の撹拌ブレードを備える。ブレード2つを備えた撹拌機においては、ブレードは典型的にはそれぞれ反対側に配置される。撹拌手段、例えば撹拌ブレードは、好ましくは水平に回転することで溶液を撹拌する。撹拌ブレードは、典型的には回転し、そして撹拌ブレードを動かすような中心駆動軸に固定されてもよい。撹拌手段は撹拌子(stir bar)、例えば磁気撹拌子(magnetic stir bar)であってもよい。撹拌手段は揺動板(swinging plate)、または多数の揺動板であってもよい。
【0067】
場合によって行う工程c)では、撹拌手段が前記バルク溶液中に沈んでいるときに、受取タンク内でバルク溶液が撹拌される。したがって、撹拌ブレードやその他の撹拌手段(複数あるならば、全ての撹拌手段またはブレード)が沈む前は、溶液は撹拌されない。つまり、先行技術の方法と対照的に、撹拌手段が沈むのに十分な量の溶液が受取タンクに受け取られる前には溶液は撹拌されない。これには、撹拌の際、前記バルク溶液の表面が、撹拌手段によって乱されないという効果がある。したがって、泡の形成が防がれ、かつ、溶液にかかる剪断力が最小化される。充填中に溶液が撹拌される場合、受取タンクから容器へと溶液が満たされ、受取タンク内の溶液の液位が再び下がるときにも、溶液の液位が撹拌手段より下に下がる前に撹拌が止められ、撹拌の際、前記バルク溶液の表面は撹拌手段によって乱されない。
【0068】
50Lの受取タンクについては、剪断ストレスへの曝露をさらに最小化するため、撹拌の時間は好ましくは最大1時間、より好ましくは最大10分、最も好ましくは最大5分に制限される。この時間は溶液およびタンクの容量に応じて変更でき、例えばより大きなタンクおよび/またはより多くの溶液については、撹拌の時間はより長くなり得る。
【0069】
小スケール実験では、撹拌の速さや速度、撹拌の時間および撹拌機の幾何特性が、形成されるSVPの数に影響し得ることが示された。
【0070】
好ましくは、撹拌機、例えば2つの平行な撹拌ブレードが回転する垂直駆動軸に取り付けられた、上に説明したような撹拌機は、最大150rpmの速さで、例えば30-100rpmまたは50-80rpmで回転する。好ましくは、溶液が曝される剪断力は、50Lの円筒形ステンレス鋼製受取タンク中で、前記のような2つの撹拌ブレードを持つ好ましい撹拌機が最大150rpm、例えば80rpmの速さで回転するのに曝された溶液が受ける剪断力よりも小さい。
【0071】
特に好ましい実施形態において、例えばBausch & Stroebel, Ilshofen, Germanyの充填ラインKS1025、例えばモデルAS18.3を伴う、50Lの円筒形ステンレス鋼製タンクにおいては、0-5分間行われる、150rpm以下、例えば80rpmの速さの撹拌が、SVPの生成を最小化することが示された。
【0072】
さらに、充填中の撹拌は要求されないということも示された。受取タンクに追加のバルク製剤溶液が加えられる場合、上で説明したような限られた時間の撹拌を再開することが可能である。この場合においては、過度に長い時間撹拌される製剤溶液がないことを確実にするため、最大の撹拌時間は撹拌全体に適用される。追加の溶液を加えなければならない場合、もし撹拌ブレードが備えられているなら、撹拌ブレードが回転しても液の表面が乱されないように、大量の溶液がまだ受取タンク中に残っている間に追加の溶液を加えるのが有利である。
【0073】
発明者は、驚くべきことに、このような滑らかまたは穏やかな撹拌、そしてそれによる、フィブリノゲン溶液が曝される剪断力の最小化が、本発明で用いられる製剤に含まれるSVPの数の有利な少なさをもたらしていることを発見した。発明者によって行われた試験は、濾過滅菌後にフィブリノゲン溶液が曝される剪断力が、再構成後の製剤においてSVPの数の著しい増加をもたらす可能性があることを示した。特に、受取タンク中での撹拌は重要な工程である。撹拌は均質な製剤を得るために重要かもしれないが、過剰な撹拌、または誤った条件下での撹拌、例えば溶液の表面が乱される、または泡が生成されるときの撹拌は、より多数のSVPをもたらすことが示された。
【0074】
工程d)では、ポンプまたはその他の手段を用い、容器が予め定められた量の溶液で満たされる。ポンプは300rpmまでの速さ、例えば200-290rpm、例えば最大270rpmの速さで用いられるペリスタルティックポンプであってもよい。容器中の予め定められた量のフィブリノゲンは、好ましくは1-5g、場合によって1g、2gまたは3g、例えば1gである。
【0075】
工程e)では、満たされた容器、例えばバイアル中の原薬が凍結乾燥される。好ましくは、容器は予め冷やされた凍結乾燥機に入れられる。これによってタンパク質溶液の急速凍結が可能であり、そして、水の昇華が改善されて、好ましい多孔性のケーキ様構造がもたらされる。本発明の方法では、凍結乾燥の条件は、凍結乾燥後の残留水分量2-5%(w/w)、場合によって2.5-4%、または2.5-3.5%(w/w)、例えば約3%(w/w)を得るため、好ましく選択される。
【0076】
本発明で用いられる凍結乾燥後の製剤における残留水分量は、主に凍結乾燥の条件に依存する。製剤の成分、例えばポリソルベート80は、望ましい残留水分量を得るために凍結乾燥の条件を改善することが求められる可能性がある限りにおいて、残留水分量に対する影響を持つ。
【0077】
本発明の好ましい製剤における比較的高い残留水分量特有の利点は、発明者らが発見したように、この高い残留水分量によって、ウイルス不活化が、凍結乾燥の後に行われる乾熱処理の間特に有効であるということである。一般的に、高い残留水分量は製剤の完全性にとって有害であるが、発明者は驚くべきことに、前記残留水分量を持つ本発明の製剤は非常に安定であることを発見した。残留水分量2.5-3.5%を持つ製剤が、両方のパラメーターに関して最適であると示された。
【0078】
改善された乾熱処理によるウイルス不活化は、例えば豚パルボウイルス(PPV)などのノンエンベロープウイルスについて示され得る。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)またはBVDV(牛ウイルス性下痢ウイルス)などのエンベロープウイルスに対する試験では、この効果は非常に明確には示されなかった。これは、その他のウイルス不活化効果、例えば本発明の製剤に好ましくは含まれるポリソルベートが、凍結乾燥の際すなわち乾熱処理の前に、解析した全ての残留水分量で、すなわち残留水分量がより低くても、エンベロープウイルスに対して非常によいウイルス不活化を既にもたらしていることなどによる可能性がある。したがって、フィブリノゲン製剤の調製において、ノンエンベロープウイルスは好ましくは、場合により、ポリソルベート、例えばポリソルベート80などの存在下で、残留水分量2-5%に凍結乾燥されたフィブリノゲン溶液の乾熱処理によって、不活化される。エンベロープウイルスは好ましくは、ポリソルベート、例えばポリソルベート80などの存在下で行われるフィブリノゲン溶液の凍結乾燥および/またはUV-C処理によって、本明細書で説明されるように、不活化される。好ましくは、これら全ての手段が行われ、そして、ウイルスの危険性がない製剤の提供に寄与する。
【0079】
好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥の方法は、
a)-29℃以下で4時間以上、好ましくは-50℃以下で約8時間、凍結(好ましくは急速凍結)する工程、
b)-10℃以下かつ40μbar(4Pa)以上で段階的に乾燥する第1乾燥工程、ここで、好ましくは、-25℃未満かつ200μbar(20Pa)以上、好ましくは280μbar(29Pa)の条件から始め、段階的に温度を上昇させる、
c)17℃から23℃で2時間以上乾燥する第2乾燥工程
を含む。
【0080】
前記のように、好ましくは、前記凍結乾燥後の残留水分量は2-5%(w/w)である。
【0081】
凍結乾燥の方法は、より具体的には
a)-52℃以下で8時間以上凍結させる工程、
b)約-36℃、約280μbar(28Pa)で約5-48時間行う第1ステップ、約-23℃、約70μbar(7Pa)で約25-45時間行う第2ステップ、および約-10℃、約40μbar(4Pa)で約45-84時間行う第3ステップ、例えば約-36℃、約280μbar(28Pa)で約45時間行う第1ステップ、約-23℃、約70μbar(7Pa)で約45時間行う第2ステップ、および約-10℃、約40μbar(4Pa)で約45時間行う第3ステップを含む第1乾燥工程、
c)約20℃、約10μbar(1Pa)で約3-4時間行う第2乾燥工程
を含んでもよい。
【0082】
もう1つの選択肢として、工程b)の第一乾燥工程は、例えば約-36℃で約5時間かつ約280μbarで行う第1ステップ、約-23℃、約70μbarで約25時間行う第2ステップ、-10℃、約40μbarで約78時間行う第3ステップを伴い行われ得る。
【0083】
本発明の方法において、工程f)では、乾熱処理が行われる。乾熱処理は例えば製剤を100℃±1.5℃、例えば99-100℃に熱することを含んでもよい。乾熱処理は20-60分間、好ましくは20-40分間行われてもよい。30±3分で、よい結果が得られた。乾熱処理は、好ましくはスチームオートクレーブで、もちろん、例えば貫通可能なゴム栓などで容器を閉じた後で行われる。
【0084】
製剤は場合により工程g)で包装される。添付文書、例えば製剤がフィブリノゲン20g/Lで注射用水に溶かすものであること、および/または製剤が経静脈投与のためのものであることなどを記載した文書が加えられてもよい。製剤の容器とともにフィルターが包装されてもよい。
【0085】
本発明の製剤を含む容器を調製するための好ましい方法は、以下の工程を含んでもよい:
原薬、すなわち調製済みの製剤を濾過滅菌(0.2μm)した後、これを例えばバイアルなどの容器に満たす。充填においては、好ましくは、原薬が受取タンクに受け取られ、場合により、撹拌機の撹拌ブレードまたはその他の撹拌手段が原薬溶液に覆われている間、泡の形成を避けながら、例えば最大5分間慎重に撹拌され、または一切撹拌されない。撹拌機は150rpm以下で、好ましくは80rpm以下で動作する。そして原薬が、好ましくは、290rpm以下、例えば270rpm以下で動作するペリスタルティックポンプによって容器に満たされる。典型的には、32mL、例えば約1gのフィブリノゲンに対応する量が容器に満たされる。その後、残留水分量2-5%に凍結乾燥され、そして約30分間、約99-100℃での乾熱処理が、さらなるウイルス不活化のため行われる。製剤を含む容器はその後、包装されてもよい。
【0086】
場合により、本発明の方法はさらに、工程a)の前にフィブリノゲン原薬を調製する工程を含む。例えば、フィブリノゲンは以下で説明される方法、あるいは実施例の中で説明される方法に従って調製されてもよい。フィブリノゲンは例えば当業界で知られる方法など、他の方法に従って調製されてもよい。
【0087】
フィブリノゲンを製造するための典型的な出発原料は、ヒトの血漿である。凍結血漿を0-4℃で融解し、そして遠心分離またはその他の分離手段によって沈殿を分離することで、ヒト血漿のクリオプリシピテートを得てもよい。
【0088】
クリオプリシピテート1kgあたり、2.91kgの水(WFI)、114gの25%(v/v)エタノール、9000IUのヘパリンの混合物が調製されてもよい。クリオプリシピテートは撹拌下のWFI/エタノール/ヘパリン溶液へ加えられてもよい。pH値が7.0に調整されてもよい。
【0089】
用いられるクリオプリシピテート1kgあたり108gの2%水酸化アルミニウム懸濁液が加えられ、そして混合物が22.5℃で撹拌されてもよい。pH値は6.55に調製されてもよく、その後、連続的に遠心分離機を操作することで遠心分離されてもよい。
【0090】
撹拌中、1%のポリソルベート80および0.3%のリン酸トリ-n-ブチルが加えられてもよい。タンパク質溶液は25℃で少なくとも8時間にわたって撹拌されてもよい。
【0091】
陰イオン交換ゲルToyopearl(登録商標) TSK DEAE-650(ジエチルアミノエチル基を伴うマトリックス材としてのヒドロキシル化メタクリル酸ポリマーのビーズ)が、カラムクロマトグラフィーによるさらなる精製に用いられてもよい。タンパク質負荷量は、陰イオン交換ゲル1mLにつきタンパク質約50±10mgであってもよい。
【0092】
タンパク質溶液における塩化物の含量は、塩化ナトリウム溶液を加えることで120mmol/Lに調整されてもよい。タンパク質溶液はカラムにアプライされてもよい。流出分画はフィブリノゲンを含み、このフィブリノゲンはさらなる処理のために集められてもよい。
【0093】
得られたフィブリノゲン溶液(流出物)はグリシン沈殿を受けてもよい。フィブリノゲンを沈殿させるため、最終濃度1.2Mになるようグリシンを加えてもよい。最終濃度2Mになるよう塩化ナトリウムを加えてもよい。そして、遠心分離によってフィブリノゲンを含む沈殿が分離されてもよい。フィブリノゲンのペーストは-70℃以下の温度で保存されてもよい。
【0094】
沈殿はバッファー(15mMクエン酸三ナトリウム二水和物、pH値:6.9±0.1、導電率:3.3±0.5mS/cm)に再懸濁されてもよい。組成物は、その他のタンパク質(例えば0.7-0.9U/mgのvWF)に加え、TnBP、ポリソルベート80、グリシンおよび塩化ナトリウムを含む。組成物は濾過されてもよく、またウイルス不活化のためUVivatec(登録商標)デバイス(Sartorius Stedim Biotech)などのデバイスを用いたUV-C処理を受けてもよい。UV照射は好ましくは254nm±1nmで、125-200J/mを用いて行われる。
【0095】
続く陽イオン交換クロマトグラフィーの工程では、カラム(POROS(商標)50 HS)が平衡化バッファー(15mMクエン酸三ナトリウム二水和物、65mM塩化ナトリウム、pH値:6.5±0.1、導電率:9.0±1.5mS/cm、2-5カラムボリューム)で平衡化されてもよい。
【0096】
UV-C照射工程を経たフィブリノゲンを含む液相が、組成物を15mMクエン酸三ナトリウム、pH値:6.5±0.1、および導電率9.0±1.5mS/cmに調整することで調製されてもよい。カラムに樹脂容量1Lあたり10g-20gのタンパク質を負荷してもよい。
【0097】
カラムは洗浄バッファー(15mMクエン酸三ナトリウム二水和物、65mM塩化ナトリウム、pH値:6.5±0.1、導電率:9.0±1.0mS/cm、2-5カラムボリューム)でリンスされてもよい。
【0098】
そして、フィブリノゲンは溶出バッファー(7.5mMクエン酸三ナトリウム二水和物、150mM塩化ナトリウム、75mM L-アルギニン塩酸塩、pH値:7.0±0.1、導電率19.5±1.5mS/cm)を用いて溶出されてもよい。この工程においてフィブリノゲンがカラムから溶出される。vWFのほとんどがまだカラムに結合している。
【0099】
そして、カラムはより高い塩濃度のバッファー(15mMクエン酸三ナトリウム二水和物、1.5M塩化ナトリウム、pH値:6.5±0.1、導電率113.5±5.0mS/cm)でリンスされてよく、これによりカラムからvWFが溶出される。そして、カラムは1M水酸化ナトリウムを用いて洗浄されてもよい。
【0100】
この方法では、アルブミンおよびIgGのほとんどが沈殿工程で既にフィブリノゲンから分離されているが、これらは陽イオン交換材に結合することもない。フィブリノゲンを含む液相に存在するvWFの50%より多くが、この方法を用いることで除去され得る。
【0101】
原薬の生産において、溶出分画は限外濾過によって濃縮され、そしてタンパク質濃度はクエン酸バッファーを用いて1リットルあたりフィブリノゲン33gに調整されてもよい。例えば本明細書で説明されるような最終原薬を形成するため、さらなる成分が加えられてもよい。
【0102】
工程a)およびそれに続く工程で説明されたように、原薬はその後、好ましくは異なる容器、例えばバイアルなどへ、前記の条件で濾過(0.2μm)され、そして、残留水分量2-5%に乾燥、好ましくは凍結乾燥される。そして、好ましくは、スチームオートクレーブ(例えば100℃、30分)による最終熱処理が、さらなるウイルス不活化工程として行われる。得られる製剤は驚くほど安定である。
【0103】
本発明の方法はSVPの数を減少させるため、特に本明細書で説明される限度にまで減少させるため有利に用いられてもよい。この目的の達成には、穏やかな充填条件が特に関連する。本発明の方法はまた、例えばノンエンベロープウイルスなどのウイルスの数を減少させるために有利に用いられてもよい。この目的の達成には、残留水分量2-5%における、好ましくは、例えばポリソルベート80などのポリソルベート存在下で行う乾熱処理が特に関連する。これらの組み合わせによって、本発明の方法は患者にとって特に安全な製剤をもたらす。
【0104】
本発明は、本明細書で説明されるような本発明の方法によって得られる、本発明のフィブリノゲン製剤を含む容器や、フィブリノゲン製剤を含む容器の群も提供する。
【0105】
用途、特に、医薬用途
別の実施形態において、本発明は、フィブリノゲン欠乏症の治療に用いるためのフィブリノゲン製剤を含む容器を提供する。例えば、フィブリノゲン製剤は、遺伝性フィブリノゲン関連疾患の治療に用いるためのものであってもよい。好ましくは、製剤は先天性フィブリノゲン欠乏症の治療に用いるためのものである。フィブリノゲン欠乏症は、例えば先天性無フィブリノゲン血症、先天性低フィブリノゲン血症、フィブリノゲン蓄積症、先天性異常フィブリノゲン血漿、遺伝性フィブリノゲンAα鎖アミロイドーシス、先天性低フィブリノゲン/異常フィブリノゲン血症 (congenital hypodysfibrinogenemia)、クリオフィブリノゲン血症などであってもよい。
【0106】
本発明のフィブリノゲン製剤は後天性異常フィブリノゲン血症や後天性低フィブリノゲン血症などの後天性フィブリノゲン関連疾患の治療に用いられるためのものであってもよい。
【0107】
フィブリノゲン欠乏症が後天的であった場合、本発明のフィブリノゲン製剤は好ましくは失血または出血の治療に用いられ、場合により、(重大な)外科手術中で用いられるためのものである。失血または出血は、外傷によるものであってもよい。
【0108】
本発明の製剤は、新鮮凍結血漿などの血漿製剤の代わりに投与されてもよい。本発明のフィブリノゲン製剤を、このような血漿製剤の代わりに、またはさらにアルブミンなどの他の血漿タンパク質を多量に含むフィブリノゲン製剤の代わりに投与することは、本製剤を用いれば患者の必要に応じて血漿タンパク質を別々に投与することができる点で、有利である。特に、フィブリノゲンの投与は出血に備えるため、すなわち出血の治療のため、またはフィブリノゲン欠乏症がある場合には出血の予防のため必要とされる。本発明の製剤はまた、ウイルスの危険性がない。
【0109】
別の実施形態において、本発明はフィブリノゲン欠乏症を治療するための方法であって、それを必要とする患者、例えば前述した病気のいずれかに罹っている患者に対して本発明のフィブリノゲン製剤を投与することを含む、フィブリノゲン欠乏症の治療方法を提供する。製剤の投与を受ける患者は、好ましくはヒトの患者である。
【0110】
典型的には、本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群は、再懸濁の後患者への経静脈投与に用いるため調製される。本明細書で記したようなSVPの数の少なさから、本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群は、再懸濁後、事前に濾過することなく投与することに有利に適している。このことは、特に緊急の場合において時間の節約になる。しかしながら、本発明のフィブリノゲン製剤は再懸濁および濾過の後に用いられてもよい。フィルターが、本発明のフィブリノゲン製剤を含む容器およびフィルター、好ましくは移送デバイスまたはシリンジ口フィルターを含む、本発明のキットの一部として含まれてもよい。濾過は本発明の製剤を再懸濁する際、特に、泡の形成を避けるまたは減少させるために役に立ち得る。あるいは、泡の形成を避けるために、穏やかな振盪によって再懸濁が行われ得る。
【0111】
本発明のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群は、例えば絆創膏などにおけるフィブリン糊として用いられてもよい。代替の用途には、細胞培養用培地の一部として、または臓器プリンティング、例えば3D臓器プリンティングの一部としての用途がある。
【0112】
本発明の実施形態
本発明は、例えば下記の実施形態を提供する:
【0113】
実施形態1は、残留水分量2-5%(w/w)の乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含む容器である。実施形態2においては、実施形態1のフィブリノゲン製剤を含む容器が、残留水分量2.5-3.5%(w/w)、例えば約3%(w/w)を持つ。
【0114】
実施形態3においては、実施形態1または2のいずれかの容器中の製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である。実施形態4においては、実施形態1-3のいずれかの容器中の製剤について、1つの容器を溶媒に、特に注射用水に再構成した際、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下であるフィブリノゲン溶液が得られる。
【0115】
実施形態5においては、本発明は、乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含む容器であって、フィブリノゲン製剤が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、容器を提供する。実施形態6においては、実施形態5の容器中の製剤について、1つの容器を溶媒に、特に注射用水に再構成した際、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下であるフィブリノゲン溶液が得られる。
【0116】
実施形態7においては、本発明は乾燥状態のフィブリノゲン製剤を含む容器の群であって、前記群の少なくとも10個の容器について、フィブリノゲン製剤が水溶液に、好ましくは注射溶液に再構成するのに適しており、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が6000個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が600個以下である、容器の群を提供する。実施形態8においては、実施形態7の群の少なくとも100個の容器について、場合により少なくとも200個の容器についてこれらの条件が適用される。実施形態9においては、実施形態7の群の少なくとも500の容器について、場合により、前記群の実質的に全ての容器についてこれらの条件が適用される。実施形態10においては、実施形態7-9のいずれかの群の少なくとも最後の10%について、好ましくは、前記群の少なくとも最後の20%について、場合により、前記群の実質的に全ての容器についてこれらの条件が適用される。
【0117】
実施形態11においては、実施形態5-10のいずれかのフィブリノゲン製剤を含む容器またはフィブリノゲン製剤を含む容器の群が残留水分量2-5%(w/w)を持つ。実施形態12においては、実施形態5-11のいずれかのフィブリノゲン製剤を含む容器、またはフィブリノゲン製剤を含む容器の群が、残留水分量2.5-3.5%(w/w)、例えば約3%(w/w)を持つ。
【0118】
実施形態13においては、実施形態1-12のいずれかのフィブリノゲン製剤がバイアルに詰められる。すなわち、容器はバイアルである。実施形態14においては、実施形態1-13のいずれかの容器中のフィブリノゲン製剤が、凍結乾燥状態である。実施形態15においては、実施形態1-14のいずれかの容器が、1から3gのフィブリノゲンを含み、場合により、1gのフィブリノゲンを含む。実施形態16においては、実施形態1-11のいずれかの再構成が、フィブリノゲン濃度20g/Lで行われる。
【0119】
実施形態16においては、実施形態1-15のフィブリノゲン製剤を含む容器またはフィブリノゲン製剤を含む容器の群において、フィブリノゲン製剤が水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、そして前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が3500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が60個以下である。したがって、実施形態17においては、実施形態1-16のいずれかのフィブリノゲン製剤を含む容器について、1つの容器を溶媒に、特に注射用水に再構成した際、10-100μmのSVP含量が3500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が60個以下であるフィブリノゲン溶液が得られる。
【0120】
実施形態18においては、実施形態1-17のいずれかの容器中のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が3500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が35個以下である。したがって、実施形態19においては、実施形態1-18のいずれかの容器中の製剤について、1つの容器を注射用水に再構成した際、10-100μmのSVP含量が3500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が35個以下であるフィブリノゲン溶液が得られる。
【0121】
実施形態20においては、実施形態1-19の容器中のフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群が、水溶液に、好ましくは注射用水に再構成するのに適しており、前記製剤の1gのフィブリノゲンより前記再構成を行ったフィブリノゲン溶液について、10-100μmのSVP含量が2500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が30個以下である。したがって、実施形態21においては、実施形態1-20のいずれかの容器中の製剤について、1つの容器を溶媒に、特に注射用水に再構成した際、10-100μmのSVP含量が2500個以下であり、かつ25-100μmのSVP含量が30個以下であるフィブリノゲン溶液が得られる。
【0122】
実施形態22においては、実施形態1-21の容器、またはフィブリノゲン製剤を含む容器の群におけるフィブリノゲン製剤が
a)ポリソルベート、
b)場合により、充填剤、
c)場合により、アミノ酸および/または
d)場合により、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される塩
を含む。
【0123】
実施形態23においては、実施形態1-22の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、ポリソルベート、場合によりポリソルベート80を含む。実施形態24においては、実施形態1-23の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤またはフィブリノゲン製剤の群が、充填剤、場合によりトレハロースを含む。実施形態25においては、実施形態1-24の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、アミノ酸、場合によりアルギニンを含む。実施形態26においては、実施形態1-25の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される塩、場合により塩化ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムを含む。
【0124】
実施形態27においては、実施形態1-26の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、
a) ポリソルベート、好ましくはポリソルベート80、
b) 充填剤、好ましくはトレハロース、
c) アミノ酸、好ましくはアルギニンおよび
d) 塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される塩
を含む。
【0125】
実施形態28においては、実施形態1-27の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、ポリソルベート80、トレハロース、アルギニン、ナトリウム、塩化物、クエン酸塩および残留水分を含む。実施形態29においては、実施形態1-28の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、1mM未満のカルシウムを含む。実施形態30においては、実施形態1-29の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤がさらに、アルブミン、フィブロネクチン、A2マクログロブリン、IgG、IgAまたはIgMなどの免疫グロブリン、フォン・ヴィレブランド因子、フィブリノペプチドAおよびD-ダイマーを含む群から選択される追加の血漿タンパク質を含む。実施形態31においては、実施形態1-30の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、前記の成分、すなわち、フィブリノゲン、ポリソルベート80などのポリソルベート、トレハロースなどの充填剤、アルギニンなどのアミノ酸、塩化ナトリウムおよび/またはクエン酸ナトリウムなどの塩、またはアルブミン、フィブロネクチン、A2マクログロブリン、IgG、IgAまたはIgMなどの免疫グロブリン、フォン・ヴィレブランド因子、フィブリノペプチドAおよびD-ダイマーを含む群から選択される血漿タンパク質、または前記群からなる血漿タンパク質、からなる。
【0126】
実施形態32においては、実施形態1-31の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、再構成時のフィブリノゲン濃度を20g/Lとした際、0.5g/L未満のアルブミンを、好ましくは0.15g/L未満のアルブミンを含む。実施形態33においては、実施形態1-32の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、サッカロースおよび/またはグルタミン酸を含まず、好ましくは、サッカロースとグルタミン酸のいずれをも含まない。好ましくは、前記のフィブリノゲンでない血漿タンパク質のいずれも、0.5g/Lより高い濃度で含まれない。
【0127】
実施形態34においては、実施形態1-33の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、2-25℃で少なくとも6か月間、好ましくは、少なくとも1年間、場合により、少なくとも5年間安定である。
【0128】
実施形態35においては、実施形態1-34の容器中に含まれるフィブリノゲン製剤が、20%未満の凝集物、好ましくは、10%未満の凝集物を含む。
【0129】
実施形態36においては、本発明は、実施形態1-35のいずれかのフィブリノゲン製剤を含む容器を製造する方法であって、
a)フィブリノゲン原薬のバルク溶液を濾過滅菌する工程、
b)濾過滅菌したバルク溶液を受取タンクで、場合により撹拌手段を備えた撹拌機を有する受取タンクで受け取る工程、
c)場合により、撹拌手段が前記バルク溶液中に沈んでいるときに受取タンク内のバルク溶液を撹拌する工程、
d)例えばポンプを用いるなどして、容器を予め定められた量の溶液で満たす工程、
e)凍結乾燥状態の製剤を得るため、容器中の溶液を凍結乾燥する工程、および
f)凍結乾燥状態の製剤を乾熱処理する工程
を含む方法を提供する。溶液が工程c)で撹拌される場合は、受取タンクは撹拌手段を有する撹拌機を備える。
【0130】
実施形態37においては、実施形態36の方法がさらに
g)製剤を含む容器を包装する工程
を含む。
【0131】
実施形態38においては、実施形態36または37のいずれかの方法において、凍結乾燥後の残留水分量が2-5%(w/w)、場合により、2.5-3.5%(w/w)、例えば約3%(w/w)である。
【0132】
実施形態39においては、実施形態36-38のいずれかの凍結乾燥方法が、
a)-29℃以下で少なくとも4時間、好ましくは-50℃以下で凍結する工程、
b)-10℃以下かつ40μbar(4Pa)以上で段階的に乾燥する第1乾燥工程、ここで、好ましくは、-25℃未満かつ200μbar(20Pa)以上の条件から始め、段階的に温度を上昇させる、
c)17-23℃で2時間以上乾燥する第2乾燥工程
を含み、凍結乾燥後の残留水分量が2-5%である。
【0133】
実施形態40においては、実施形態39の凍結乾燥方法が
a)-52℃以下で8時間以上凍結する工程、
b)約-36℃、約280μbar(28Pa)で約48時間行う第1ステップ、約-23℃、約70μbar(7Pa)で約40時間行う第2ステップ、および約-10℃、約40μbar(4Pa)で約78時間行う第3ステップを含む第1乾燥工程、
c)約20℃、約10μbar(1Pa)で約3-4時間乾燥する第2乾燥工程
を含む。
【0134】
実施形態41においては、実施形態36-40のいずれかの方法において、乾熱処理(工程f)が、製剤を100℃±1.5℃に熱することを含む。実施形態42においては、実施形態36-41のいずれかの方法において、乾熱処理が30±3分間行われる。実施形態43においては、実施形態36-42のいずれかの方法において、乾熱処理がスチームオートクレーブで行われる。
【0135】
実施形態44においては、実施形態36-43のいずれかの方法において、工程d)で溶液が撹拌されず、工程c)で、例えば最大1時間、好ましくは最大1時間撹拌される。実施形態45においては、実施形態36-44のいずれかの方法において、工程c)中の撹拌が最大10分間で行われ、例えば最大5分間で行われる。実施形態46においては、実施形態36-45のいずれかの方法において、撹拌が最大150rpmで行われ、ここで好ましくは受取タンクが容量50-150Lかつ円筒形であり、かつ、撹拌手段が、最大150rpm、例えば80rpmで回転する中心駆動軸に固定された撹拌ブレード(例えばブレード状の形態または棒状の形態)である。実施形態47においては、実施形態36-46のいずれかの方法において、撹拌棒が溶液の表面を乱す可能性があり、かつ/または泡が形成され得るときには、溶液が撹拌されない。
【0136】
実施形態48においては、実施形態36-43のいずれかの方法において、工程c)または工程d)のいずれにおいても溶液が撹拌されない。
【0137】
実施形態49においては、本発明は、実施形態36-48のいずれかの方法から得られる、実施形態1-35のいずれかのフィブリノゲン製剤を含む容器またはフィブリノゲン製剤を含む容器の群を提供する。
【0138】
実施形態50においては、本発明は、実施形態1-35または49のいずれかのフィブリノゲン製剤を含む容器または容器の群であって、フィブリノゲン欠乏症の治療に用いるための容器または容器の群を提供する。実施形態51においては、実施形態49の容器中のフィブリノゲン製剤が、遺伝性フィブリノゲン関連疾患の治療に用いるための製剤である。実施形態52においては、実施形態49-50のいずれかの容器中のフィブリノゲン製剤が、先天性フィブリノゲン欠乏症の治療に用いるための製剤である。実施形態53においては、実施形態49の容器中のフィブリノゲン製剤が、後天性フィブリノゲン関連疾患の治療に用いるための製剤である。実施形態54においては、実施形態50または53のいずれかの容器中のフィブリノゲン製剤が、失血/出血の治療に用いるための製剤であり、場合により、(重大な)外科手術中に用いるための製剤である。実施形態55においては、実施形態50または53のいずれかの容器中のフィブリノゲン製剤が、外傷による失血/出血の治療に用いるための製剤である。
【0139】
実施形態56においては、実施形態50-55のいずれかの容器中のフィブリノゲン製剤が、再構成後に患者に対して経静脈投与されるための製剤である。実施形態57においては、実施形態50-56のいずれかの容器中のフィブリノゲン製剤が、再構成後に、かつ事前に濾過することなく投与されるための製剤である。
【0140】
実施形態58においては、実施形態36-48のいずれかの方法が製剤中のSVPの数を減少させるため、特に、本明細書で説明される限度まで減少させるために用いられる。実施形態59においては、実施形態36-48のいずれかの方法が、製剤中のウイルス、例えばノンエンベロープウイルスの数を減少させるために用いられる。実施形態60では、実施形態36-48のいずれかの方法が、製剤中のSVPの数を減少させるため、特に、本明細書で説明される限度まで減少させるため、かつ、製剤中のウイルス、例えばノンエンベロープウイルスの数を減少させるために用いられる。
【0141】
本発明はさらに描写されるが、以下の実施例および図によって制限されることはない。引用された全ての文献は、ここにて本明細書に完全に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
図1】本発明で用いられる好ましい充填プラントの説明図。(1):空気流入口、(2):加圧ライン、(3):送出タンク、例えば容量80L、(4):最終フィルター、(5):製剤流出口、(6):受取タンク、(7):撹拌機、好ましくは150rpmまで、(8):撹拌ブレード、(9):ペリスタルティックポンプ、例えば290rpm以下、(10):容器、例えばバイアル、(11):凍結乾燥機
図2】残留水分量はウイルス不活化動態に著しく影響する(I)。PPVを添加したフィブリノゲン試料を、ポリソルベート80(PS80)の存在下および非存在下(ポリソルベートを伴わない試料-H3、再構成した製剤中に0.05%のポリソルベートを伴う試料-H5)で残留水分量1%(w/w)未満に凍結乾燥し、そして、部分的に、実施例4で説明されるような、その他の定められた残留水分量に調整した。乾熱(DH)処理を全ての試料に対して99℃で0分、30分、45分、または60分行った。
図3】残留水分量はウイルス不活化動態に著しい影響を与える(II)。PPVを添加したフィブリノゲン試料を、ポリソルベート80(PS80)の存在下および非存在下(ポリソルベートを伴わない試料-H3(図3Aに記載)、再構成した製剤中に0.05%のポリソルベートを伴う試料-H5(図3Bに記載))で残留水分量1%(w/w)未満に凍結乾燥し、そして、部分的に、実施例4で説明されるような、その他の定められた残留水分量に調整した。乾熱(DH)処理を全ての試料に対して99℃で0分、30分、45分、または60分行った。
図4】2-8℃および23-27℃における、再構成された本発明のフィブリノゲン製剤の安定性。2-8℃において、フィブリノゲン製剤は少なくとも8週間安定であった。23-27℃において、フィブリノゲン製剤は少なくとも4週間安定であった(試験B)。
図5】6年保存後の本発明のフィブリノゲン製剤の安定性(試験C)。
図6】撹拌した原薬および撹拌しない原薬の均質性。受取タンク内の原薬を短時間撹拌し、そして溶液の表面、中間、および底部から試料を採取した(t=0、左のカラムグループ)。5時間のインキュベーション後、同じ場所からさらなる試料を採取した(t=5、中間のカラムグループ)。そして、タンクを再び撹拌し、さらなる試料を採取した(t=5+S、右のカラムグループ)。試料を採取する場所によっても、インキュベーション後かまたは撹拌後かによっても、タンパク質濃度(A)、フィブリノゲン比活性(B)、10μm以上のSVP(C)、25μm以上のSVP(D)または凝集物(E)に著しい違いはなかった。AおよびBにおいては、破線が規格下限を示し、A中の一点鎖線が規格上限を示す。C-Eでは、破線が規格上限を示す。
【実施例
【0143】
方法
タンパク質測定
タンパク質測定はUV吸光法(Spektralphotometer Genesys(商標)6, Spektralphotometer Genesys(商標)10)によって行った。溶液中のタンパク質は、主にチロシンおよびトリプトファンなどの芳香族アミノ酸の存在により、波長280nmのUV光を吸収する。この性質が280nmにおけるタンパク質測定の原理である。UV分光法によるタンパク質測定の正確性は、試験検体による光の散乱によって低下し得る。この効果を補正するため、360nmにおける吸光を280nmにおける吸光から差し引いた。
【0144】
フィブリノゲン計測(免疫比濁法)
免疫比濁法による濃度を、BN Prospec(Siemens)の比濁計を用いた比濁分析によって測定した。フィブリノゲンは特異的抗体と複合体を形成する。この複合体は照射された光の分散を引き起こす。この分散の増大が、フィブリノゲン濃度と相関する。
【0145】
凝固し得るタンパク質によるフィブリノゲンの活性計測
フィブリノゲン活性(=凝固し得るタンパク質)の測定のため、調製試料を、十分なトロンビンを含み、かつ37℃でインキュベーションされた適切な緩衝溶液と混合した。残留したタンパク質を、上清において280/360nmのUV分光法で測定し、その後、結果をタンパク質総量(前記)から差し引いて凝固し得るタンパク質を計算した。
【0146】
フィブリノゲン比活性の測定
フィブリノゲン比活性を、UV吸光(280nm)で計測したタンパク質総量に対する、凝固し得るタンパク質の活性から測定した。
【0147】
PPVの添加
22±4℃で、検査物にウイルスストックを添加し、そして34mLの小分けを容器、例えばバイアルに満たした。ストックから、およびウイルスが添加された検査物から試料を採取し、滴定した。全てのバイアルは凍結乾燥を受けた。凍結乾燥後、NIR(近赤外分光法)によって各容器の残留水分量を測定した。ウイルス滴定のため、凍結乾燥体を50mLのWFI(注射溶液)に再懸濁した。
【0148】
ウイルス接種材の調製
PPVのウイルスストックを、ウイルスに感染した細胞から調製した。ウイルス確認試験のためのウイルスストックの放出分について、力価を少なくとも3回の独立した滴定によって確かめ、ここで各滴定について連続した3倍希釈液を用いて、かつ各希釈倍率につき8つの反復試料を用いた。
【0149】
ウイルス滴定
試料のウイルス含量を調べるため、ウイルス特異的細胞を用いた感染性解析(ウイルス滴定)によって、試料を定量的に解析した。(該当する場合)試料を再懸濁した後、試料を希釈し、そしてすぐに感受性の高い細胞株へ滴定した。しばらくインキュベーションした後、ウイルスが引き起こす細胞変性効果を評価した。
【0150】
ウイルス力価の計算手法
好ましくは、Spearman および Kaerber (Spearman C, Kaerber G.l In: Mayr A, Bachmann PA, Bibrack B, Wittmann G; eds. Virologische Arbeitsmethoden, Vol. I, p. 37-39 Fischer Verlag Stuttgart, 1974.)に準じて、またはポワソン分布を(例えば感染性が検出されなかったとき)適用することで、ウイルス力価を計算した。
【0151】
ウイルス減少因子の計算
各実験のウイルス減少因子(virus reduction factor)は、ウイルス添加試験の検査物におけるウイルス負荷(総ウイルス)と熱処理後の検査物におけるウイルス負荷の比の常用対数として定めた。ウイルス負荷は、ウイルス力価の濃度と容量の積で計算した。
【0152】
カールフィッシャーに準じる、およびNIR(近赤外分光法)に準じる残留水分量計測
これらの計測方法は、EP0844005A1で説明されたとおりに行った。
【0153】
凝集物の含量の計測
欧州薬局方2.2.30および米国薬局方621に準じ、凝集物の含量はサイズ排除クロマトグラフィーにUV検出を組み合わせて計測する。したがって、タンパク質溶液をカラム樹脂上にアプライすると、そこでタンパク質が多孔性の樹脂と、サイズ依存的に相互作用する。小さなタンパク質またはタンパク質の断片はカラム樹脂とより強い相互作用を示し、したがって残留時間は長くなるが、より大きなタンパク質やタンパク質凝集物(二量体、三量体など)は残留時間が短く、したがって最初に溶出する。タンパク質分画はカラム終端のUV検出器で検出する。
【0154】
SVPの計測
欧州薬局方2.9.19および米国薬局方788に準じ、SVPの量は光遮蔽法で、例えば2から400μmの範囲の粒子径に対応したHiac Model HRLD-400センサーを搭載した粒子計測器Hiac Model 9703+(Beckman,Krefeld, Germany)で測定する。各測定について、タンパク質溶液は微細な管を通って吸引され、そしてセンサーの隣を通過する。1回目の計測はシステムを洗浄するために用いられ、計測結果は破棄される。続く4回の計測の平均が、溶液中のSVPの数を決定するために用いられる。タンパク質溶液が測定前に濾過されないことに留意するのは重要である。
【0155】
実施例1-フィブリノゲンの製造
1A)総合的なプロセスの情報
以下のプロセスは、本発明のフィブリノゲン製剤を調製するために用いることができるフィブリノゲンを調製するための好ましいプロセスである。その他の工程、例えば当業界で知られるプロセスも用いられ得る。
【0156】
濃縮フィブリノゲン原薬(DS)は、例えば第VIII因子を製造するプロセスの付帯的な分画から製造されてもよい。本製造プロセスはGMP条件下で行った。本プロセスは、陰イオン交換クロマトグラフィーの工程を含み、ここではVIII因子がクロマトグラフィー材に結合し、そしてさらなる処理を受けた。第VIII因子のプロセスの、陰イオン交換クロマトグラフィーの流出物をフィブリノゲン調製のため用い、また、集め、そしてクエン酸三ナトリウムで安定化した。その後、グリシン、塩化ナトリウムおよび塩化カルシウムを加えることでフィブリノゲンを沈殿させた。沈殿はフロースルー遠心分離によって分離した。得られた中間体“グリシンペースト”は次の使用まで-70℃以下で保存可能であった。
【0157】
濃縮フィブリノゲンDSの製造のため、凍結された中間体“グリシンペースト”をクエン酸ナトリウムバッファー(溶液F01)に溶解し、そして濾過した。その後、ウイルス不活化のため、UV-C照射を行った。さらなる精製のため、POROS 50 HSを用いた陽イオン交換クロマトグラフィーでタンパク質をクロマトグラフ的に精製した。集められたカラム溶出分画を限外濾過(UF)によって濃縮した。ポリソルベート80(PS80)およびトレハロースを加えた後に、pHおよびタンパク質濃度を調節した。最終バルクDSはさらに製剤(DP)へと処理した。
【0158】
濃縮フィブリノゲンDPは、濃縮フィブリノゲンDSから製造した。このプロセスはGMP条件下で行った。調製された最終バルクDSを、最終容器に満たし、ここでは100mLのガラス製バイアルに32.0mLのタンパク質溶液を満たした。蓋をバイアルに緩く取り付け、そして予め冷却された凍結乾燥機の棚にこれを入れ、そして凍結乾燥プロセスを開始した。凍結乾燥後、凍結乾燥された製剤を、エンベロープウイルスおよび特にノンエンベロープウイルスの不活化のため、スチームオートクレーブにて30分間100℃(製剤の温度)で熱処理した。
【0159】
1B)濃縮フィブリノゲン原薬および濃縮フィブリノゲン製剤の詳細な製造プロセス
以下のリストに、フィブリノゲンDS(原薬)および1g充填サイズのフィブリノゲンDP(製剤)を調製するためのプロセスの工程の概要を示した。
【0160】
工程DS1 出発原料(ヒト血漿)
【0161】
工程DS2 血漿の貯留および融解
【0162】
工程DS3 クリオプリシピテートの分離
遠心分離
温度=2±2℃
-25℃以下におけるクリオプリシピテートの保存
【0163】
工程DS4 クリオプリシピテートの貯留
pH値=7.05±0.05
温度=22.5±2.5℃
撹拌時間≧30分
【0164】
工程DS5 水酸化アルミニウム処理
15-30分で行う、2%水酸化アルミニウム懸濁液の追加
撹拌時間=5分
温度=22.5±2.5℃
pH値=6.55±0.05
温度=15℃±1.0℃
【0165】
工程DS6 ポリソルベート80/TnBP処理(ウイルス不活化)
タンパク質≦10g/L
塩化カルシウム=0.001M
pH値=7.1±0.1
温度=25.0±1.0℃
ポリソルベート80=10±3g/kg
リン酸トリ-n-ブチル=3±0.9g/kg
撹拌時間=8-14時間
【0166】
工程DS7 陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
DEAE Toyopearl
温度=22±4℃
流量=192L/h
【0167】
工程DS8 流出物の収集
【0168】
工程DS9 グリシン沈殿
温度=22±4℃
タンパク質溶液1kgあたりクエン酸三ナトリウム0.0059kg、撹拌時間≧5分
タンパク質溶液1kgあたりグリシン0.091g、撹拌時間≧15分
タンパク質溶液1kgあたり塩化ナトリウム0.117kg、およびタンパク質溶液1kgあたり塩化カルシウム二水和物0.000035kg、撹拌時間≧5分
バッファーA(前記陰イオン交換クロマトグラフィーの平衡化および洗浄バッファー):10mMクエン酸三ナトリウム、120mM塩化ナトリウム、120mMグリシン、1mM塩化カルシウム、pH7.0-7.1
流出物にグリシンおよび塩化ナトリウムを混合し、フィブリノゲンを沈殿させた(例えば、室温で、グリシン濃度:1.2M、塩化ナトリウム濃度:2.0M)。フロースルー遠心分離によってグリシンペーストを製造した。
固体のグリシンペーストを凍結し、特に、-50℃以下(例えば-50℃から-70℃)で急速凍結し、凝集物の形成を減少させた。
【0169】
工程DS10 UV-C光照射によるウイルス不活化(ウイルス不活化)
温度=18±2℃
UV-C照射量=125-200J/m、例えば、波長254nm
導電率=9±1mS/cm
グリシンペーストをクエン酸ナトリウムバッファー(バッファーF01)に再懸濁し、濾過した。
照射のため、EP0840624B1に従い、円周形のチューブを備えた照射機を用いた。254nmにおける125-200J/mの照射は、製剤に対して特に均質かつ穏やかな処理だった。
【0170】
工程DS11 陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(CEX)
POROS 50 HS
タンパク質負荷量=1サイクルあたり、樹脂1Lあたり10-20g
導電率=9±1mS/cm
温度=22±4℃
流速=200±100cm/h
CEXはvWFおよびさらなるタンパク質およびTnBPおよびポリソルベート80の濃度を減少させる。
カラムは洗浄バッファーF02(15mMクエン酸バッファー(クエン酸三ナトリウム)、65mM塩化ナトリウム、pH6.5)で平衡化した。フィブリノゲンを含む分画を加え、フィブリノゲンをカラムに結合させた。溶出は、アルギニン/クエン酸/塩化ナトリウムを伴い、溶出バッファー(F03:7.5mMクエン酸バッファー(クエン酸三ナトリウム)、150mM塩化ナトリウム、75mMアルギニン、pH7.0)で行った。
【0171】
工程DS12 限外濾過
タンパク質濃度=55g/L±10g/L
【0172】
工程DS13 タンパク質溶液の調整、0.2μmフィルター濾過および原薬の品質管理
トレハロース二水和物=タンパク質溶液1kgあたり0.0170±0.0017
ポリソルベート80=0.075±0.0075%
pH=7.0±0.5
フィブリノゲン濃度=30-36g/L
タンパク質濃度を33g/Lに調整し、またクエン酸バッファーでpHを7.0に調整した。タンパク質1kgあたり0.017kgのトレハロースを加えた。0.075%(w/v)のポリソルベート80(安定化のため、溶解性を改善するため、ノンエンベロープウイルス、例えばパルボウイルスの減少を強めるため)。凍結乾燥の前に、ポリソルベートの濃度を0.075%(w/v)に調整した。これにより、再構成の後、典型的にはポリソルベート濃度0.05%となる。
→原薬(最終バルク)
【0173】
工程DP1+2 最終濾過滅菌および最終容器/販売単位への充填
0.2μmフィルター濾過
約32mLの充填
【0174】
工程DP3 凍結乾燥
-29℃以下における4時間以上の凍結
-10℃以下における段階的な第1乾燥
20℃±3℃における4時間以下の第2乾燥
総乾燥約150-200時間
【0175】
工程DP4 熱処理(ウイルス不活化)
製剤温度:100±1.5℃で30±3分
残留水分2.0-5.0%
80℃以下への冷却
【0176】
工程DP5+6 DPの品質管理および包装
5℃±3℃における保存
【0177】
製剤の好ましい製造プロセスは、EP192149193(出願番号、未公開)中で、および下記の本発明の重要な工程中で、より詳細に説明される。
【0178】
実施例2-充填プロセス
濃縮フィブリノゲン原薬(DS)の最終充填のための本発明の好ましいプロセスにおいては、薬剤タンパク質を充填するための標準化された/機械的な充填ラインを採用した(Bausch & Stroebel, Ilshofen, Germany, KS 1025, model: AS 18.2)。装置は図1に示される。
【0179】
a)充填のため、最終DSを、フィルター4(例えば、フィルター型式:Sartorius 5235307H9--SS、0.2m、セルロースアセテート(CA)メンブレン)を用いて、送出タンク3(典型的には、ステンレス鋼製タンクで、例えば表示上の充填容量80Lのもの)から受取タンク6(典型的には、ステンレス鋼製タンクで、例えば表示上の充填容量50Lのもの)へ、加圧ライン2および空気流入口1における圧力の重ね合わせ(例えば600mbar(600hPa)以下)によって、製剤流出口5に沿って、0.2μmフィルター濾過した。撹拌機7の撹拌バー8(もしくは撹拌棒)がフィブリノゲン溶液に覆われているとき、例えば受取タンク6のおよそ15Lが満たされた後、撹拌機の撹拌バー8を沈めたまま、撹拌機7を低速で、特に150rpm以下で、好ましくは80rpm±20rpmで、動かし始めた。これにより、タンパク質溶液の表面を撹拌手段より上に保ち、泡の生成を防いだ。そして、例えば受取タンクへの原薬移送が完了した後に、ポンプ速度290rpm以下の、好ましくは270rpm以下のペリスタルティックポンプ9を用いて、充填を開始した。ガラス製のバイアル10(表示上の充填容量:100mL、直径:5.2cm)をそれぞれ原薬32mLで満たした。溶液の表面が撹拌棒/撹拌手段8に達するとき、あるいはそれより前に撹拌機7を止めた。
【0180】
バイアル10のいくつか、特に50個を枠の中に、特に金属製の枠の中に集め、予め(-50℃以下に)冷却された凍結乾燥機11へ、遅滞なく移送した。
【0181】
得られた製剤は本明細書で説明されるように、少ないSVPの形成数で再構成することができた。これは穏やかな撹拌条件によるものである。
【0182】
b)もう1つの選択肢として、充填のため、最終DSを、例えば、フィルター型式:Sartorius 5235307H9--SS、0.2m、セルロースアセテート(CA)メンブレン)を用いて、送出タンク3(典型的には、ステンレス鋼製タンクで、例えば表示上の充填容量80Lのもの)から受取タンク6(典型的には、ステンレス鋼製タンクで、例えば表示上の充填容量50Lのもの)へ、加圧ライン2および空気流入口1における圧力の重ね合わせ(例えば600mbar(600hPa)以下)によって、製剤流出口5に沿って、0.2μmフィルター濾過した。受取タンクへの原薬の移送が完了した後、撹拌機7を低速で、特に150rpm以下で、好ましくは80rpm±20rpmで動かし始めた。溶液を5分間撹拌し、そして撹拌を止めた。ポンプ速度290rpm以下の、好ましくは270rpm以下のペリスタルティックポンプ9を用いて充填を開始した。ガラス製のバイアル10(表示上の充填容量:100mL、直径5.2cm)をそれぞれ原薬32mLで満たした。
【0183】
残っていた原薬溶液と追加された原薬溶液とによって沈んでいるときに撹拌機7を用いることができるよう、受取タンク6が空になる前に、残りの原薬を受取タンクへ満たした。溶液を5分間撹拌し、そして撹拌機を止め、そして充填プロセスを再開した。あるいは、撹拌のとき撹拌手段が常に沈んでいることが確保される場合、充填は撹拌中に初めてもよい。
【0184】
バイアル10のいくつか、特に50個を、枠の中に、特に金属製の枠の中に集め、予め冷却された(-50℃以下の)凍結乾燥機11へ遅滞なく移送した。
【0185】
充填プロセス中の異なる段階から試料を採取し、そして試料を例えばフィブリノゲンの濃度などについて比較することで、発明者は、驚くべきことに、穏やかかつ短い撹拌が均質な製剤のため十分であることを発見した。撹拌をしなくても、不均質性は発見されなかった。
【0186】
SVPの数は、再現性よく、a)よりもさらに低かった。
【0187】
c)撹拌する場合および撹拌しない場合における均質性を比較するため、受取タンク6中の原薬を短時間撹拌し、そして溶液の表面、中間および底部から試料を採取した。5時間のインキュベーション後(t=5)、同じ場所からさらなる試料を採取した。そして、タンクを再び撹拌し、さらなる試料を採取した(t=5+S)。試料を採取した場所によっても、インキュベーション後かまたは撹拌後かによっても著しい違いはなかった(図6)。
【0188】
実施例3-凍結乾燥
満たされた容器10を予め冷却された凍結乾燥機に入れることは、特に有利である。これによって、タンパク質溶液の急速凍結が可能となり、そして水の昇華が改善され、好ましい多孔性のケーキ様構造をもたらした。凍結乾燥は残留水分2.5-5%になるような方法で行われた。
【0189】
最終容器の充填後の、好ましいプロセスにおいて、乾燥プログラムを開始した。最初の工程は-52℃における8時間の凍結工程からなり、続いて第1乾燥を行った。第1乾燥は3つのステップに細別された:280μbar(28Pa)かつ-36℃における6時間の乾燥(ステップ1)、70μbar(7Pa)かつ-23℃における25-45時間の乾燥(ステップ2)、および40μbar(4Pa)かつ-10℃における45-78時間の乾燥(ステップ3)(好ましくは、ステップ1が45時間、ステップ2が45時間、かつステップ3が45時間、またはステップ1が5時間、ステップ2が25時間、かつステップ3が78時間)。この手順は最終産物の溶解性を改善し、かつSVPの量を減少させた。第2乾燥に移るため、圧力上昇試験(0.044μbar(0.44Pa)で3分間)を通過する必要があった。10μbar(1Pa)かつ20℃における3時間の第2乾燥は、残留水分のばらつきを減少させ、そして、熱処理(100℃で30分間)後、より均質な凍結乾燥体の挙動をもたらす。加えて、20℃における第2乾燥は最終産物のSVPの量を低下させた。
【0190】
残留水分は各群についてNIRまたはカールフィッシャー法を用いて試験した。NIRの結果は、本発明の試料のため較正された表を用いてカールフィッシャー法に相関させることができる。解析のため、凍結乾燥体から水を抽出し、そして続く反応によって化学的に定量した。
【0191】
表1に示すように、カールフィッシャー法で検出した、本発明の方法で調製された製剤中の残留水分量は、典型的には2.5-3.5%(w/w)の間であった。市販の製剤と比較すると、市販の製剤は残留水分量が1%(w/w)未満と著しく低いことが示された。
【表1】
【0192】
実施例4-残留水分量に依存したウイルス不活化の比較
エンベロープウイルスは、前記のような原薬の調製中行われる、溶媒/界面活性剤工程で確実に除去される。ノンエンベロープウイルスはさらに除去されなければならない。以降の実験で最適な条件を解析した。
【0193】
ノンエンベロープウイルスにおける実験のため、まず、PPVを添加したフィブリノゲン試料を、ポリソルベート80(PS80)の存在下または非存在下(ポリソルベートを伴わない試料-H3、再構成した製剤中に0.05%のポリソルベートを伴う試料-H5)で残留水分量1%(w/w)未満まで凍結乾燥した。凍結乾燥後の試料の水分はNIR(近赤外分光法)によって計測した。
【0194】
その後、いくつかの試料を開封し、凍結乾燥体に触れることなく、定められた量の注射用水(WFI)をバイアルの中に加えた。バイアルを再び蓋で閉じ、加えられた注射用水が蒸発するまでインキュベーションした。全てのバイアルにおいて同等の圧力を得るため、バイアルを開封し、凍結乾燥機のチャンバーに設置した。その後、真空下でバイアルを閉じた。水分量を再びNIRで計測、または平行コントロール試料においては、有機溶媒に抽出した後、カールフィッシャー法に準じて、本明細書で説明されるように計測した。
【0195】
乾熱(DH)処理はすべてのサンプルに対して99℃で0分、30分間、45分間または60分間行った。0分とは凍結乾燥された試料で乾熱処理を受けていないものを表す。ウイルス力価の減少は対数(log10)の形で計算され、減少の計算のための開始値として凍結乾燥前の物質を用いた。0分においてウイルスの著しい減少はなかった。残留水分4%においては、加熱の時間が長くなるにつれ(30分、45分、60分)、ウイルス不活化の増大が見られた(log10値約2.5-4、熱処理30分後にウイルス減少因子がlog10値2を下回る外れ値あり)。残留水分1%未満の試料におけるウイルス不活化は、全ての時点でlog10値1-1.5の範囲内であった。このような低水分においては、ポリソルベートの効果は見られなかった。より高い残留水分においては、ポリソルベート80の有益な効果がみられる傾向があった。全ての時点において、最も大きな減少は、残留水分約4%かつポリソルベート80を伴う試料で得られた(図2)。
【0196】
さらなる一連の実験において、別のフィブリノゲン試料に対してウイルス添加実験を繰り返し行った。ここでは、前記のように凍結乾燥の後計測し、そして調整した、0から5%までの異なる残留水分量を用いた。ポリソルベート80を伴わない試料(H3)およびポリソルベート80を伴う試料(H5-再構成した製剤中0.05%)を試験した。
【0197】
PPVに対して示された、残留水分とウイルス不活化との関係を、PS80を伴わない試料について、およびPS80を伴う試料についての両方で確認し得た。
【0198】
図3Aおよび図3Bにおいては、試料をその残留水分に応じてグループ分けし、そして99℃で異なる時間行われる乾熱(DH)処理について、ウイルス減少を示した。45分または60分のDHを行った試料においては、残留水分の最も高い試料グループで著しく高いウイルス不活化を示し得た。PS80の存在下(図3B)において、または3.2より高く4.3%までの残留水分、または、好ましくは少なくとも4%の残留水分が、ウイルス不活化の著しい効果のため最適と見受けられたが、ポリソルベートを伴わない試料(図3A)については、5%の残留水分が最適だった。
【0199】
実施例5-製剤の配合
本発明のフィブリノゲン製剤の1個の容器、例えば1個のバイアルは、経静脈投与に適した条件である、20g/Lで注射用水50mLに再構成した際、例えば以下の特性を持ってもよい:
【0200】
pH7.0
浸透圧≧240mosmol/kg
タンパク質20g/L
比活性≧80%、例えば98%±0.8%(n=7)
ナトリウム95-135mmol/L、例えば約115mmol/L
カルシウム<1mmol/L
塩化物100-160mmol/L、例えば約130mmol/L
クエン酸塩3-7mmmol/L、例えば約5mmol/L
アルギニン25-55mmol/L、例えば約40mmol/L
トレハロース22-38mmol/L、例えば約30mmol/L
ポリソルベート800.03-0.07%、例えば約0.05%
凝集物の含量≦20%、例えば11±1%(n=11)(HP-SEC解析で測定)
【表2】
【表3】
【0201】
実施例6:SVPの計測
欧州薬局方2.9.19および米国薬局方788に準じ、SVPの量を前記のように計測した。
【0202】
最終濃縮フィブリノゲン製剤(フィブリノゲン製剤、DP)について、10μm以上の粒子および25μm以上の粒子の数を測定した。凍結乾燥したDPは50mLの注射用水(WFI)に再構成した。再構成した溶液は、さらなる濾過を行うことなく粒子計測器に移送した。全ての試料を3回ずつ計測した。1バイアルあたりの総粒子量の平均値を報告した。25μm以上の粒子は10μm以上の粒子のグループにも含まれるため、10μm以上の粒子の数は常に25μmの粒子の数より高くなった。
【0203】
本発明の方法で製造された最後の5群の結果は、最終産物中のSVPの数が常に規格内であることを示した(表4)。よって、投与の前に追加の濾過は必要とされない。
【表4】
【0204】
比較の目的で、以下の表5では、いくつかの競合他社の製剤において解析されたSVP数を示す。
【表5】
【0205】
本発明の製剤におけるSVP量の低さは、好ましくは、最終的な配合によるものであり、特に、フィブリノゲンに対して適切に適用された、ポリソルベートの存在、穏やかな充填プロセスおよび凍結乾燥プロセスによるものである。
【0206】
実施例7-製剤の安定性
7.1試験A-凍結乾燥した製剤の長期安定性
フィブリノゲン製剤の長期安定性を調べるため、フィブリノゲン製剤の4つの群を、安定性試験のため保存した。1群は36か月間、また、3群は60か月間、それぞれ5℃(±3℃)および25℃(±2℃)で保存した。この試験のデータを基として、フィブリノゲン製剤について5℃(±3℃)および25℃(±2℃)において少なくとも60か月の貯蔵寿命が示された。
【0207】
安定性試験のため、各保存条件(5℃、25℃、55-65%相対湿度(RH))について、予め定められた時点で再構成した後の活性について、前記群を試験した。すなわち、再構成直後の再構成された水溶液、および再構成から6時間および24時間室温(およそ25℃)でインキュベーションした後の再構成された水溶液においてフィブリノゲン活性を試験した。本調査は濃縮フィブリノゲンの臨床における日常的使用をシミュレートした。
【0208】
5℃(±3℃)における保存:安定性を示すパラメーターについての全ての結果は、60か月後(群B524071、B524084およびB524032)および36か月後(群B524031)それぞれにおいて基本的に変化しないままであった。すなわち、再構成したフィブリノゲンの活性、pH値、浸透圧、色および蛋白光は変化しないままであった。凍結乾燥体の溶解時間は5分から30分の間でばらついていたが、これは許容可能であった。凝集物の増加は検出されなかった。全ての時点で、再構成した溶液の安定性は、室温で24時間に及ぶことが示された。クエン酸塩、トレハロースおよびアルギニンなどの添加物の含量はほぼ変化しないままであった。試験した全ての溶液は無菌であり、かつ発熱物質を含まなかった。前記群中で計測した残留水分量は、36か月後および60か月後それぞれで、2.1から3.0%だった。この値は、保存前よりおよそ0.2%から0.3%パーセントポイント低かった。
【0209】
25℃(±2℃)における保存:安定性を示すパラメーターについての全ての結果は、60か月後(群B524071、B524084およびB524032)および36か月後(群B524031)それぞれにおいて基本的に変化しないままであった。すなわち、再構成したフィブリノゲンの活性、pH値、浸透圧、色および蛋白光は変化しないままであった。溶解時間は5分から30分の間でばらついていたが、これは許容可能であった。
【0210】
安定性試験で試験した全ての試料は、全ての保存条件において無菌であり、かつ発熱物質を含まなかった。5℃(±3℃)および25℃(±2℃)での60か月間の保存中、アルミニウムの濃縮はなかった。
【0211】
要約すると、保存温度5℃および25℃において、60か月の貯蔵寿命にわたる予め定められた時点について、再構成直後に得られた結果、および6時間後および24時間後に得られた結果を比較することで、フィブリノゲン活性は再構成後少なくとも最初の24時間安定なままであることが示された。
【0212】
7.2試験B-再構成した製剤の安定性
群番号B524071について、安定性試験を行い、ここでは、再構成の後、製剤を2-8℃または23-27℃で8週間まで保存した(図4)。測定したこの群の残留水分は2.4%であった。
【0213】
2-8℃での、8週間に及ぶ保存において、タンパク分解活性または凝集物の含量の上昇はなく、また、比活性の著しい減少もなかった。23-27℃での保存においても、試料は少なくとも4週間安定であった。8週間後経って初めて、比活性は緩徐に減少し、また、タンパク分解活性は上昇した。
【0214】
7.3試験C-再構成した製剤(6年間保存したもの)の安定性
第3の安定性試験を行い、ここでは6年間保存したフィブリノゲン製剤(群番号B524032、5℃または25℃で、それぞれ、6年間保存)を、5℃±3℃および25℃±2℃(60%RH±5%RH)で注射用水に再構成した後、定められた時間後、すなわち0時間、6時間、24時間および48時間後に、活性について試験した。結果は図5に示す。
【0215】
再構成中の微生物汚染を明らかにするため、所定の時点で、試料採取後の微生物試験を行った。どのサンプルも微生物汚染は示さなかった。全ての試料のpHは6.9だった。蛋白光および色は全ての試料で同一だった。
【0216】
結論として、乾燥状態の製剤を6年(72か月)保存した後であっても、それを再構成した製剤はフィブリノゲン活性の低下を示さなかった。さらに、再構成した製剤は、5℃および25℃で、48時間後でもまだ安定だった。試験した全てのパラメーターは、再構成の直後およびその後試験した全ての時点のいずれにおいても、規格の目標範囲に収まっていることが示された。“総タンパク質”、“凝集物”、および“サブビジブル粒子”のパラメーターについてのみ、わずかな変動が見られた。本明細書で説明したように、例えば相当量のアルブミンなどの安定化因子が存在しないことを踏まえるとなおさら、この高い安定性は驚くべきことである。
【0217】
実施例8-再構成の特性
比較的高い残留水分は、製剤の溶解性に著しく有害な影響を持たないことが示された。その他の製剤との比較において、本発明の製剤は同様の溶解性を持っていた。
【0218】
再構成または溶解のプロセスは、本発明の製剤について、注射用水に溶解した場合は、典型的には3-8分間で終了する。LFB SA (Courtaboeuf Cedex, France)のFibCLOT(登録商標)は、約4-5分間で溶解し、ここでは泡の強い形成が見られる。Octapharma (Langenfeld, Switzerland)のFibryga(登録商標)は8分後に溶解する。CSL Behring (Marburg, Germany)のHaemocomplettan(登録商標)は約10分後に溶解する。溶解の方法そのもの(バイアルへの水の直接追加、またはMix2Vial(登録商標)(フィルターを通した水の追加および溶解した製剤の濾過)、手による振盪または振盪機の使用)は結果に著しい影響を持たないと見受けられる。ここで、一般的には、泡の形成はMix2Vial(登録商標)の方法で低くなる。
【0219】
要約すると、本発明の方法に準じた凍結乾燥および乾熱処理は、充填プロセスと配合との組み合わせにおいて、ウイルスの危険性がなく、活性であり、かつ溶解性の高い製剤をもたらす。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
【国際調査報告】