(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】整数の素因数分解を実行する量子計算方法及び装置、論理ゲート回路を反転させる量子計算方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G06N 10/60 20220101AFI20240725BHJP
【FI】
G06N10/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508403
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2021072520
(87)【国際公開番号】W WO2023016650
(87)【国際公開日】2023-02-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521339153
【氏名又は名称】パリティ クオンタム コンピューティング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レヒナー,ヴォルフギャング
(72)【発明者】
【氏名】ランターラー,マーティン
(57)【要約】
整数の素因数分解を実行する量子計算方法は、論理ゲート(1010~1013、1020~1023、1030~1033、1040~1043)を含む論理ゲート回路(1000)を決定することを含み、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成される。量子計算方法は、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアン(H
G)を決定することを含み、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。量子計算方法は、構成要素(401~404、901~904、911~914)を含む量子システム(1100)を提供することを含み、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素に関連付けられる。量子計算方法は、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。量子計算方法は、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算方法は、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させることを含む。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。量子計算方法は、読み出しに基づいて整数の素因数を決定することを含む。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整数の素因数分解を実行する量子計算方法であって、
a)複数の論理ゲート(1010~1013、1020~1023、1030~1033、1040~1043)を含む論理ゲート回路(1000)を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
b)前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアン(H
G)を決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である、前記決定するステップと、
c)構成要素(401~404、901~904、911~914)を含む量子システム(1100)を提供するステップであって、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記提供するステップと、
d)前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
e)前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、
f)前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
g)前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
h)前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するステップと、
を有する量子計算方法。
【請求項2】
前記量子システムは、それぞれが前記構成要素のサブセットを含むローカルサブシステム(1110~1113、1120~1123、1130~1133、1140~1143)を含み、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンが、ローカルサブシステムに関連付けられる、
請求項1に記載の量子計算方法。
【請求項3】
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンについて、前記ゲートコード化ハミルトニアンから短距離量子相互作用を決定するステップであって、前記決定された短距離量子相互作用が、前記ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられた前記ローカルサブシステム内で作用する、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された短距離量子相互作用を実行することを含む、
請求項2に記載の量子計算方法。
【請求項4】
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンについて、前記ゲートコード化ハミルトニアンから単体相互作用を決定するステップであって、前記決定された単体相互作用が、前記ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられた前記ローカルサブシステム内で作用する単体ハミルトニアンによって表現可能である、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された単体相互作用を実行することを含む、
請求項2又は3に記載の量子計算方法。
【請求項5】
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは相互作用係数を有し、前記相互作用係数は単体相互作用にマッピングされる、
請求項4に記載の量子計算方法。
【請求項6】
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンについて、前記ゲートコード化ハミルトニアンから1つ以上の制約相互作用を決定するステップであって、前記1つ以上の制約相互作用が、前記ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられた前記ローカルサブシステム内で作用する制約ハミルトニアンによって表現可能である、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された1つ以上の制約相互作用を実行することを含む、
請求項2から5の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項7】
前記論理ゲート回路は、論理ゲートのペア間の複数のゲート相互接続(1050)を含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲート相互接続の各ゲート相互接続(1050)について、前記ゲート相互接続から1つ以上のゲート相互接続相互作用を決定するステップであって、前記1つ以上のゲート相互接続相互作用は、前記量子システムの少なくとも2つのローカルサブシステムを結合するゲート相互接続ハミルトニアン(1150)によって表現可能である、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定されたゲート相互接続相互作用を実行することを含む、
請求項2から6の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項8】
前記論理ゲート回路は、論理ゲートのグループの共通変数を含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
共通変数のセットの各共通変数について、前記共通変数から1以上の共通変数相互作用を決定するステップであって、前記1つ以上の共通変数相互作用が、共通変数ハミルトニアン(1151~1153、1161~1163、1171~1173)によって表現可能であり、前記量子システムの少なくとも2つのローカルサブシステムを結合する、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された共通変数相互作用を実行することを含む、
請求項2から7の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項9】
前記量子システムを発展させるステップが、総ハミルトニアンの基底状態に向かって前記量子システムを発展させるステップを含み、前記総ハミルトニアンが、第1のハミルトニアン及び第2のハミルトニアンを含む総和であり、前記第1のハミルトニアンが、前記短距離量子相互作用の第1セットを表し、前記第2のハミルトニアンが、前記短距離量子相互作用の第2のセットを表す、
請求項1から8の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項10】
前記量子システムを発展させるステップが、
前記量子システムを冷却するステップ、又は、
前記量子システムの断熱発展を実行するステップ、又は、
前記量子システムの反断熱発展を実行するステップ、又は、
前記量子システムのユニタリ発展を実行するステップ、又は、
それらの任意の組み合わせを含む、
請求項1から9の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項11】
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンが、古典的ハミルトニアン又は量子ハミルトニアンである、
請求項1から10の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項12】
前記論理ゲートは、ANDゲート及び/又はAND.FAゲートを含み、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートは、ANDゲート及びAND.FAゲートのうちの1つである、
請求項1から11の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項13】
ANDゲートである、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートについて、前記論理ゲートに関連付けられた前記ゲートコード化ハミルトニアンが以下の形式を有する、
請求項12に記載の量子計算方法。
【数34】
ここで、σ
u、σ
v及びσ
sは、それぞれ論理変数u、v及びsに関連付けられたスピン観測可能量であり、前記論理変数u及びvは前記ANDゲートの入力変数であり、前記論理変数sは前記ANDゲートの出力変数である。
【請求項14】
AND.FAゲートである、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートについて、前記論理ゲートに関連付けられた前記ゲートコード化ハミルトニアンが以下の形式を有する、
請求項12又は13に記載の量子計算方法。
【数35】
ここで、σu、σv、σs、σc、σs’及びσc’は、それぞれ論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量であり、前記論理変数u、v、s及びcは前記AND.FAゲートの入力変数であり、前記論理変数s’及びc’は前記AND.FAゲートの出力変数である。
【請求項15】
整数の素因数分解を実行する量子計算方法であって、
a)複数の論理ゲート(1010~1013、1020~1023、1030~1033、1040~1043)を含む論理ゲート回路(1000)を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
b)構成要素(401~404、901~904、911~914)を含む量子システム(1100)を提供するステップと、
c)前記論理ゲートに基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップであって、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートに対して、前記論理ゲートに関連付けられた前記構成要素のサブセット(1110~1113、1120~1123、1130~1133、1140~1143)を決定することと、前記構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で前記論理ゲートをコード化することと、を含む、前記決定するステップと、
d)前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、
e)前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットの実行を含み、前記量子システムを発展させるステップと、
f)前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
g)前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するステップと、
を有する量子計算方法。
【請求項16】
構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の基本的サブルーチンであって、
少なくとも4つの構成要素を含む前記量子システムの基本的サブシステム(S
AND)を決定するステップであって、
以下の式(A)で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
ANDの各被加数ハミルトニアンが、前記基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられており、
【数36】
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDは、論理変数u及びvを入力変数として有し、論理変数sを出力変数として有するANDゲートの入出力関係をコード化し、
σ
u、σ
v及びσ
sはそれぞれ前記論理変数u、v及びsに関連付けられたスピン観測可能量である、
前記基本的サブシステムを決定するステップと、
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDから前記基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定するステップと、
前記決定された短距離量子相互作用を前記基本的サブシステムで実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
を有する基本的サブルーチン。
【請求項17】
構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の基本的サブルーチンであって、
少なくとも4つの構成要素を含む前記量子システムの基本的サブシステム(S
AND)を決定するステップであって、
以下の式(B)で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAの各被加数ハミルトニアンが、前記基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられており、
【数37】
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAは、論理変数u、v、s及びcを入力変数として有し、論理変数s’及びc’を出力変数として有するAND.FAゲートの入出力関係をコード化し、
σ
u、σ
v、σ
s、σ
c、σ
s’及びσ
c’はそれぞれ前記論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量である、
前記基本的サブシステムを決定するステップと、
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAから前記基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定するステップと、
前記決定された短距離量子相互作用を前記基本的サブシステムで実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
を有する基本的サブルーチン。
【請求項18】
量子計算を実行する方法であって、
構成要素を含む量子システムを提供するステップと、
請求項16に記載の1つ以上の基本的サブルーチン及び/又は請求項17に記載の1つ以上の基本的サブルーチンを実行するステップと、
前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
を有する量子計算実行方法。
【請求項19】
複数の論理ゲート(21~28、1010~1013、1020~1023、1030~1033、1040~1043)を含む論理ゲート回路(200、1000)を反転する量子計算方法であって、
a)前記論理ゲート回路の未知の入力に対応する前記論理ゲート回路の出力を提供するステップと、
b)前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアン(H
G)を決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である、前記決定するステップと、
c)構成要素(320、401~404、750、901~904、911~914)を含む量子システム(300、700、1100)を提供するステップであって、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記提供するステップと、
d)前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
e)前記論理ゲート回路の出力に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、
f)前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
g)前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
h)前記読み出しに基づいて前記論理ゲート回路の前記未知の入力を決定するステップと、
を有する量子計算方法。
【請求項20】
整数の素因数分解を実行する装置(1200)であって、
古典的計算システム(1210)と、
構成要素を含む量子システム(1250)と、
量子処理ユニット(1220)と、
測定ユニット(1230)と、を備え、
前記古典的計算システムは、
複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和であり、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記決定するステップと、
前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、を実行するように構成されており、
前記量子処理ユニットは、前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるように構成されており、
前記測定ユニットは、前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されており、
前記古典的計算システムは、前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するように更に構成されている、
量子計算装置。
【請求項21】
整数の素因数分解を実行する装置(1200)であって、
古典的計算システム(1210)と、
構成要素を含む量子システム(1250)と、
量子処理ユニット(1220)と、
測定ユニット(1230)と、を備え、
前記古典的計算システムは、
複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップであって、前記複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、前記論理ゲートに関連する構成要素のサブセットを決定し、前記構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で前記論理ゲートをコード化する、前記第1のセットを決定するステップと、
前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、を実行するように構成されており、
前記量子処理ユニットは、前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるように構成されており、
前記測定ユニットは、前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されており、
前記古典的計算システムは、前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するように更に構成されている、
量子計算装置。
【請求項22】
複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を反転する装置(1200)であって、
古典的計算システム(1210)と、
構成要素を含む量子システム(1250)と、
量子処理ユニット(1220)と、
測定ユニット(1230)と、を備え、
前記古典的計算システムは、
前記論理ゲート回路の未知の入力に対応する前記論理ゲート回路の出力を提供するステップと、
前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和であり、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記決定するステップと、
前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
前記論理ゲート回路の出力に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、を実行するように構成されており、
前記量子処理ユニットは、前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるように構成されており、
前記測定ユニットは、前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されており、
前記古典的計算システムは、前記読み出しに基づいて前記論理ゲート回路の前記未知の入力を決定するように更に構成されている、
量子計算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施形態は、量子計算方法に関する。量子計算方法は、キュービットなどの構成要素を含む量子システムを使用する。量子システムの構成要素には、構成要素によって運ばれる情報を処理するために、例えば量子処理ユニットが作用する。量子システムの構成要素の一部は、構成要素に含まれる情報を明らかにするために測定される。測定から得られた読み出しに基づいて、計算問題が解かれる。本明細書に記載の更なる実施形態は、量子システムで演算する量子計算の基本的サブルーチンに関する。本明細書に記載の更なる実施形態は、開示された方法を実行するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全ての整数が素因数の積として分解できることは、基本的な数学的事実である。しかし、与えられた整数の素因数を計算する問題は、計算的に難しいことが知られている。実際、従来の (古典的な) コンピュータ用のアルゴリズムで、実行時に整数を因数分解し、問題の整数の桁数の多項式としてスケールできるアルゴリズムは知られていない。この因数分解問題の計算の難しさは、情報の暗号化に広く使用されているRSA (Rivest-Shamir-Adleman)などの暗号化プロトコルの基礎を形成している。
【0003】
量子コンピュータは、情報が量子システムに記憶される新しいタイプの計算装置である。量子システムは、情報の記憶と処理に使用されるキュービットなどの複数の構成要素で構成され得る。量子計算の終了時に、量子システムの少なくとも一部の測定を実行することで情報を読み出すことができる。量子システムは、量子物理学の法則に従うことで、量子効果を示す。このような量子効果を利用すると、既知の古典的なアルゴリズムよりも高速に特定の計算タスクを実行できる。
【0004】
整数因数分解を実行するための量子アルゴリズムが提案されている。ただし、このようなアルゴリズムのいくつかは、理論的には任意のサイズの整数を因数分解するタスクを実行できる可能性があるが、そのような量子アルゴリズムの実際の実施は経験的に非常に困難である。特に、中程度のサイズの整数を因数分解するのに必要なキュービットの数は、かなり多くなる可能性がある。更に、問題の量子アルゴリズムの実施に必要な量子相互作用は長距離相互作用である可能性があり、実現不可能ではないにしても、実現するのは経験的に困難である。
【0005】
例えば、1つのアプローチは、因数分解問題を二次無制約二値最適化(QUBO)問題などの最適化問題として定式化し、そのようなQUBO問題一般を解くために既存の量子アルゴリズムを使用することである。ただし、整数因数分解に対するこのようなQUBOアプローチには、通常、長距離量子アルゴリズムが含まれる。一部の実施では、これらの長距離相互作用は、その後、短距離量子相互作用のみを使用して整数因数分解を実現できる別の量子システムに量子システムをマッピングすることによって除去できる。例えば、最初のQUBO関連の量子アルゴリズムは、DWAVEシステムで使用される量子ハードウェアグラフにマッピングできる。DWAVEシステムには、短距離相互作用のみが含まれる。ただし、このような追加のマッピングでは、結果として得られる量子システムに必要なキュービットの数が犠牲になる。特に、短距離相互作用のみが含まれることを保証するために必要なキュービットの数は、(logN)4としてスケールされる可能性がある。Nは因数分解される整数のサイズ(桁数)である。このような4次スケーリングは、桁数が大きくなるにつれて扱いにくくなる可能性がある。
【0006】
上記の観点から、整数因数分解のための改良された量子アルゴリズムが必要である。
【発明の概要】
【0007】
一実施形態によれば、整数の素因数分解を実行する量子計算方法が提供される。量子計算方法は、複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定することを含み、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。量子計算方法は、複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定することを含み、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。量子計算方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含み、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素と関連付けられる。量子計算方法は、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。量子計算方法は、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算法方法は、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させることを含む。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。量子計算方法は、読み出しに基づいて整数の素因数を決定することを含む。
【0008】
更なる実施形態によれば、整数の素因数分解を実行する量子計算方法が提供される。量子計算方法は、複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定することを含み、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。量子計算方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含む。量子計算方法は、論理ゲートに基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。第1のセットを決定することは、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に、論理ゲートに関連する構成要素のサブセットを決定することと、構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で論理ゲートをコード化することとを含む。量子計算方法は、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算方法は、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させることを含む。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。量子計算方法は、読み出しに基づいて整数の素因数を決定することを含む。
【0009】
更なる実施形態によれば、構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の又はそのための基本的サブルーチンが提供される。基本的サブルーチンは、少なくとも4つの構成要素を含む量子システムの基本的サブシステムを決定することを含む。以下の式で定義されるゲートコード化ハミルトニアンHANDの各被加数ハミルトニアンは、基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられている。
【数1】
ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDは、論理変数u及びvを入力変数として有し、論理変数sを出力変数として有するANDゲートの入出力関係をコード化する。σ
u、σ
v及びσ
sはそれぞれ論理変数u、v及びsに関連付けられたスピン観測可能量である。基本的サブルーチンは、ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDから基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することを含む。基本的サブルーチンは、基本的サブシステムで決定された短距離量子相互作用を実行することを含み、量子システムを発展させることを含む。
【0010】
更なる実施形態によれば、構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の又はそのための基本的サブルーチンが提供される。基本的サブルーチンは、少なくとも8つの構成要素を含む量子システムの基本的サブシステムを決定することを含む。以下の式で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAの各被加数ハミルトニアンは、基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられている。
【数2】
ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAは、入力変数として論理変数u、v、s及びcを有し、出力変数として論理変数s’及びc’を有するAND.FAゲートの入出力関係をコード化する。σ
u、σ
v、σ
s、σ
c、σ
s’及びσ
c’は、それぞれ論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量である。基本的サブルーチンは、ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAから基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することを含む。基本的サブルーチンは、基本的サブシステムで決定された短距離量子相互作用を実行することを含み、量子システムを発展させることを含む。
【0011】
更なる実施形態によれば、量子計算を実行する方法が提供される。本方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含む。本方法は、ANDゲートに関わる1つ以上の基本的サブルーチン及び/又はAND.FAゲートに関わる1つ以上の基本的サブルーチンなど、本明細書に記載の1つ以上の基本的サブルーチンを実行することを含む。本方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。
【0012】
更なる実施形態によれば、複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を反転する量子計算方法が提供される。量子計算方法は、論理ゲート回路の未知の入力に対応する論理ゲート回路の出力を提供することを含む。量子計算方法は、複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定することを含み、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。量子計算方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含み、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素と関連付けられる。量子計算方法は、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。量子計算方法は、論理ゲート回路の出力に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算方法は、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させることを含む。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。量子計算方法は、読み出しに基づいて論理ゲート回路の未知の入力を決定することを含む。
【0013】
更なる実施形態によれば、整数の素因数分解を実行する装置が提供される。本装置は古典的計算システムを含む。本装置は、構成要素を含む量子システムを含む。本装置は量子処理ユニットを含む。本装置は測定ユニットを含む。古典的計算システムは、複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するように構成され、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。古典的計算システムは、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するように構成され、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素に関連付けられる。古典的計算システムは、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するように構成されている。古典的計算システムは、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するように構成されている。量子処理ユニットは、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させるように構成される。測定ユニットは、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されている。古典的計算システムは、読み出しに基づいて整数の素因数を決定するように更に構成されている。
【0014】
更なる実施形態によれば、整数の素因数分解を実行する装置が提供される。本装置は古典的計算システムを含む。本装置は構成要素を含む量子システムを含む。本装置は量子処理ユニットを含む。本装置は測定ユニットを含む。古典的計算システムは、複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するように構成され、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。古典的計算システムは、論理ゲートに基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するように構成されている。この決定することには、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に、論理ゲートに関連付けられた構成要素のサブセットを決定することと、構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で論理ゲートをコード化することとが含まれる。古典的計算システムは、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するように構成されている。量子処理ユニットは、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させるように構成されている。測定ユニットは、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されている。古典的計算システムは、読み出しに基づいて整数の素因数を決定するように更に構成されている。
【0015】
更なる実施形態によれば、複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を反転する装置が提供される。本装置は古典的計算システムを含む。本装置は構成要素を含む量子システムを含む。本装置は量子処理ユニットを含む。本装置は測定ユニットを含む。古典的計算システムは、論理ゲート回路の未知の入力に対応する論理ゲート回路の出力を提供するように構成されている。古典的計算システムは、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するように構成され、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素に関連付けられる。古典的計算システムは、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するように構成されている。古典的計算システムは、論理ゲート回路の出力に基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するように構成されている。量子処理ユニットは、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させるように構成されている。測定ユニットは、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されている。古典的計算システムは、読み出しに基づいて論理ゲート回路の未知の入力を決定するように更に構成されている。
【0016】
実施形態は、本明細書に記載のシステムを動作させる方法、及び、本明細書に記載の実施形態に係る方法を実行するためのシステムの使用にも関係する。
【0017】
本明細書に記載の実施形態と組み合わせることができる、更なる利点、特徴、態様及び詳細は、従属請求項、明細書及び図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
当業者に対する完全かつ実施可能な開示は、添付の図面への参照を含めて、明細書の残りの部分でより具体的に説明される。
【
図3】ローカルサブシステムを有する量子システムの概略図を示す。
【
図4】ANDゲートに関連付けられたローカルサブシステムの概略図を示す。
【
図5】本明細書に記載のゲートコード化ハミルトニアンから量子システムのローカルサブシステムの構成要素へのマッピングを概略的に示す。
【
図6】本明細書に記載のゲートコード化ハミルトニアンを介した論理ゲートから短距離量子ハミルトニアンへのマッピングを概略的に示す。
【
図7】
図2の論理ゲート回路に関連付けられた量子システムの概略図を示す。
【
図9】AND.FAゲートに関連付けられたローカルサブシステムの概略図を示す。
【
図10】乗算関数を計算する論理ゲート回路の概略図を示す。
【
図11】
図10の論理ゲート回路に関連付けられた量子システムの概略図を示す。
【
図12】本明細書に記載の実施形態に係る装置を示す。
【
図13】整数乗算の反転としての整数因数分解を示す。
【
図14】本明細書に記載の実施形態に係る方法を使用した乗算回路の量子システムへのマッピングを示す。
【
図15i】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15ii】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15iii】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15iv】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15v】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15vi】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15vii】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15viii】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図15ix】論理ゲート、論理ゲート間の相互接続、並びに、関連するローカルサブシステム及び量子ハミルトニアンを示す。
【
図16a)】ANDゲート及びAND.FAゲートで構成される乗算回路を示す。
【
図16b)】AND.FAゲートの内部構造を示す。
【
図17】ANDゲート及び関連するゲートコード化ハミルトニアンの特性を示す。
【
図18】AND.FAゲート及び関連するゲートコード化ハミルトニアンの特性を示す。
【
図19】量子コンピュータを使用して整数を因数分解するの様々な方法の性能を示す。
【
図20A】入力p及びqが3ビット整数である場合について、本明細書に記載の実施形態による整数因数分解を実行する方法を示す。
【
図20B】入力p及びqが3ビット整数である場合について、本明細書に記載の実施形態による整数因数分解を実行する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで、様々な例示的な実施形態を詳細に参照し、その1つ又は複数の例を各図に示す、各例は説明のために提供されており、限定を意味するものではない。例えば、一実施形態の一部として図示又は説明された特徴は、他の実施形態で、又は他の実施形態と併せて使用して、さらに別の実施形態を生み出すことができる。本開示は、そのような修正及び変形を含むことが意図されている。
【0020】
以下の図面の説明において、同じ参照番号は、同じ構成要素を指す。一般に、個々の実施形態に関する差異のみが説明される。図面に示される構造は、必ずしも縮尺どおりに描かれているわけではなく、実施形態のより良い理解を可能にするために誇張された方法で描かれた詳細を含む場合がある。
【0021】
本明細書に記載の実施形態は、整数の素因数分解を実行する量子計算方法に関する。量子計算方法は、複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定することを含み、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。量子計算方法は、複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアン(gate-encoding Hamiltonian)を決定することを含み、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。量子計算方法は、構成要素を含む量子システムを提供するステップを含み、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムのそれぞれの構成要素と関連付けられる。量子計算方法は、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。量子計算方法は、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算方法は、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットの実行を含む、量子システムを発展させるステップを含む。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップを含む。量子計方法は、読み出しに基づいて整数の素因数を決定するステップを含む。
【0022】
実施形態は、量子計算方法が短距離量子相互作用のみを含むという利点を提供する。長距離相互作用は経験的に実現不可能である可能性があるため、これは長距離相互作用を必要とする因数分解への他のアプローチよりも改善されている。特に、いくつかの実施形態によれば、量子システムの構成要素は、3次元体心格子の一部(具体的には、その一部は、上に積み重ねられた一対の2次元格子を含み得る)の頂点上に配置され、相互作用は、格子の隣接するユニットセルのペア間にのみ存在する。
【0023】
別の利点は、量子システムの構成要素の数が(logN)2としてスケールされることである。Nは、因数分解される整数のサイズ(桁数)である。したがって、例えば、(logN)4スケーリングを有する因数分解へのQUBOアプローチと比較すると、指数は係数2だけ改善される。
【0024】
別の利点は、本方法が、柔軟な方法で一緒に結合可能な基本構成ブロックから構成されるスケーラブルなアプローチを提供することである。これは、因数分解される整数のサイズが大きくなるにつれて、初期の量子システムをほぼ変更せずに、構成要素の基本グループ(本明細書ではローカルサブシステムと呼ぶ)を更に追加することによって、対応する量子システムをモジュール方式で拡大できることを意味する。同様に、必要な短距離量子相互作用もモジュール式である。つまり、整数のサイズの増加は、追加のローカルサブシステム間に新しい量子相互作用を追加することによって説明できるが、最初の短距離相互作用はそのまま維持できる。
【0025】
別の利点は、短距離量子相互作用の大きさ(強度)が、数学的にO(1)として表される定数によって制限されることである。つまり、相互作用の大きさは、因数分解される整数が大きくなるにつれて増加するのではなく、整数のサイズには依存しない。これは、O(N)以上の大きさの相互作用、つまり整数の桁数に応じた大きさの相互作用が必要な他のアプローチとは対照的である。このような大きさは、例えば非常に強い電磁場の適用が必要となるため、経験的には非常に困難である。
【0026】
量子システム
【0027】
本明細書に記載の量子システムは、量子効果を示す物理システムである。つまり、量子システムは、現実世界のオブジェクトである。量子システムには構成要素が含まれる。量子システムの構成要素は、物理的な量子実体そのものであり、共同して量子システムを形成する、より小さなdレベルの量子システムとみなすことができる。具体的には、量子システムの構成要素は、キュービットであり得る。キュービットは、2レベルの量子システムを実現する物理的実体として理解する必要がある。構成要素は、d>2のdレベル量子システム(「キューディット(qudits)」)であってもよく、dレベルのうちの2つのレベルのみが使用されてもよい。
【0028】
量子システムは、初期量子状態(量子計算の開始時に準備される)及び最終量子状態(量子計算によって最終的に終了する量子状態)などの、異なる量子状態にあり得る。最終量子状態は、量子システムの最終量子ハミルトニアンの基底状態になり得る。量子ハミルトニアンは、その固有値が量子システムの可能なエネルギーを表す量子システムの観測可能量(つまり、測定可能な量)である。量子システムは、初期量子状態から、量子システムの最終量子ハミルトニアンの基底状態まで発展可能である。このような発展は、現実世界のプロセスであり、特に、量子システムを初期量子状態から、計算問題の解に関する情報を含む先験的に未知の最終量子状態に導く、制御された技術プロセス(量子計算)である。前記情報は、量子システム又はその一部、つまりその構成要素の少なくとも一部を測定することによって明らかにすることができる。測定という行為は物理的/技術的なプロセスである。測定により、量子システムの読み出しを取得できる。量子システムの読み出しは、量子システムの構成要素との物理的相互作用を伴う、量子システムの構成要素の測定によって得られる測定値のセットである。
【0029】
量子システムは、K個のキュービットを含むことができ、Kは、少なくとも100、少なくとも1000、又は少なくとも10000であり得る。Kは、100~10000、又は、100~100000の範囲であり得るが、Kは、100000より大きくなってもよい。図に示され、例示される量子システムは、例示及び説明の目的で、はるかに小さい場合があるが、いかなる制限を与えるものではないことを理解する必要がある。
【0030】
欧州特許第3113084号明細書に記載されているように、量子システムの構成要素のグループ間の結合量子相互作用は、そのグループの構成要素が互いに近い場合にのみ実現可能である。短距離量子ハミルトニアンは、構成要素のグループ内の結合相互作用を表すハミルトニアンを指し、相互作用遮断距離DSRよりも長い距離だけ互いに離れている構成要素間では相互作用が起こらない。相互作用遮断距離DSRは一定の距離であってもよい。相互作用遮断距離DSRは、量子システムの構成要素の特定の配置における構成要素間の最大構成要素距離と比較して、はるかに小さい可能性がある。例えば、相互作用遮断距離は、最大構成要素距離の30%以下、具体的には20%以下、より具体的には10%以下であってもよい。構成要素が基本距離(格子定数)を有する格子内に配置されている場合、短距離量子ハミルトニアンは、格子の基本距離(格子定数)のr倍を超える距離だけ互いに離れた構成要素間では相互作用が起こらないようにすることができる。ここで、rは1~5であり得る。例えば、r=√2,2,3,4又は5であってもよい。
【0031】
短距離量子ハミルトニアンによって表される量子相互作用は、短距離量子相互作用と称される。量子システムの構成要素のグループ間の量子相互作用は、そのグループ内の構成要素の最大距離が相互作用遮断距離DSR以下である場合、短距離量子相互作用である。
【0032】
本明細書では、「古典的」という用語は、「量子」と区別するために使用される。「古典的」という用語は「量子ではない」と理解され得る。
【0033】
例えば、古典ビットなどの古典的情報担体は、キュービットなどの量子情報担体とは区別される。古典ビットは、2つの可能な値0及び1を想定できる情報担体である。量子ビット(すなわち、キュービット)は、2つのレベル(量子状態)|0>及び|1>を有する量子システムであり、量子ビットの状態空間には、a|0>+b|1>の形式(a及びbの複素係数を用いた)の量子状態の連続体が含まれる。本明細書に記載の量子システムの構成要素は、量子情報担体として機能する。
【0034】
別の例として、古典的計算システムは、量子計算システムと区別される。古典的計算システムは、古典ビットなどの古典的情報担体のみを使用して情報を記憶及び処理する計算システムとして理解され得る。古典的計算システムは、パーソナルコンピュータ又はパーソナルコンピュータのネットワークを含むことができる。古典的計算システムでは、情報の処理に量子情報担体を使用できない場合がある。量子計算システムは、情報を記憶及び処理するための量子情報担体として量子システムの構成要素を使用する。情報は、構成要素に記憶され、構成要素に対して演算を実行することによって(例えば、構成要素間の相互作用を提供することによって、1つ以上の構成要素の測定を実行することによってなど)、処理され得る。量子計算システムは、古典的情報担体及び量子情報担体の両方を使用するハイブリッドシステムであり得る。例えば、量子計算システムは、量子情報担体として機能する量子システムの構成要素(例えば、キュービット)、構成要素に記憶された情報を処理するための量子処理ユニット(例えば、レーザを含むシステム)、及び、どの演算を実行するかについて量子処理ユニットに指示するために、量子処理ユニットに接続された古典的計算システムを含むことができる。
【0035】
更に別の例として、古典的ハミルトニアンは、量子ハミルトニアンと区別される。古典的ハミルトニアンは、古典的スピンなどの古典的な実体間の相互作用を記述する関数である。古典的スピンは、有限の、すなわち少なくとも可算なセットを状態空間として有する変数又は量として理解され得る。例えば、古典的スピンは、+1及び-1などの2つの可能な状態を取ることができる変数zにすることができる。古典的スピンz1,z2,・・・のシステムの古典的ハミルトニアンは、古典的スピンのシステムにおける相互作用を表す関数H(z1,z2,・・・)になり得る。量子ハミルトニアンは、量子システムの構成要素間の量子相互作用を表す観測可能量(ヒルベルト空間に作用するエルミート演算子によって数学的に表現される)である。古典的ハミルトニアン及び量子ハミルトニアンの例を以下に示す。
【0036】
論理ゲート回路
【0037】
論理ゲートは、論理ゲート回路の基本構成要素である。論理ゲートの例としては、AND、OR、NOT、NAND、FA、AND.FAゲートなどがある。論理ゲートは、1つ以上の入力変数及び1つ以上の出力変数を含む論理変数を有する。論理変数は、0又は1(又は、同等に1及び-1など)などの2つの可能な値を取ることができる変数、つまりバイナリ変数であり得る。
【0038】
論理ゲートの真理値表は、論理ゲートの入力変数の値の全ての可能な構成を列挙し、このような構成のそれぞれについて、論理ゲートの出力変数の対応する値を与える、テーブル、行列、リスト、シーケンス、セットなどである。論理ゲートの真理値表は、行を含む場合がある。論理ゲートがk個の入力変数及びm個の出力変数を有する場合(kとmは、k及び/又はmが1に等しい場合を含め、ゼロ以外の任意の自然数であり得る)、真理値表の行は、a1・・・ak b1・・・bmの形式のシーケンスとして理解され得る。a1,・・・,akはk個の入力変数の値の可能な構成であり、b1,・・・,bmは問題の論理ゲートの作用に基づくm個の出力変数の対応する値である。論理ゲートの各入力変数が2つの可能な値0及び1を取ることができる場合、真理値表は合計2k個の行を含む。論理ゲートの真理値表はk+m個の列を有する場合がある。最初のk個の列のそれぞれは、k個の入力変数の1つに関連付けることができる。最後のm個の列のそれぞれは、m個の出力変数の1つに関連付けることができる。
【0039】
例えば、ANDゲートは、2つの入力変数u及びvと、1つの出力変数sとを有する論理ゲートである。u、v及びsは、それぞれ値0又は1を取ることができ、s=u・vである(したがって、u及びvの両方が1に等しい場合に限り、sは1に等しくなる)。ANDゲートの真理値表は、以下のテーブルで与えられる。
【数3】
上記の真理値表の第1列、第2列及び第3列は、それぞれANDゲートの入力変数u、入力変数v及び出力変数sに対応する。真理値表の各行には、行の最初の2つの位置に入力変数u及びvの取り得る値の構成が含まれ、行の3番目の位置に出力変数sの関連する値が含まれる。任意の論理ゲートの真理値表も同様の方法で構築できる。
【0040】
論理ゲートは、論理ゲートの論理変数毎に1本の脚を有するボックス又は他の形状によって概略的に表すことができる。例えば、3本の脚を有する形状としてのANDゲートの概略図を
図1に示す。
図1は、ANDゲートの入力変数uを表す第1の脚12、ANDゲートの入力変数vを表す第2の脚14及びANDゲートの出力変数sを表す第3の脚16を有するANDゲートを示す。
【0041】
論理ゲート回路は、入力xに作用して出力yを生成する論理ゲートのセットを含む。入力xは、x=(x1,x2,・・・,xK)の形式の文字列になり得る。例えば、入力の各成分xiはビットである。同様に、出力yは、y=(y1,y2,・・・,yM)の形式の文字列になり得る。各成分yjはビットである。入力xの長さK(成分xiの数)は、出力yの長さL(成分yjの数)と同じであっても、異なっていてもよい。論理ゲート回路の論理ゲートの一部は、論理ゲートの出力変数を別の論理ゲートの入力変数として使用できるという意味で、連結して適用することができる(そのような論理ゲートは(相互)接続されているといわれる)。論理ゲート回路は、論理ゲート回路の論理ゲート毎に1つずつボックスの集合によって概略的に表すことができ、いくつかのボックスを接続する脚は、一部のゲートの出力変数が他のゲートの入力変数として機能することを示す。
【0042】
図2は、論理ゲート21~28を含む論理ゲート回路200の一例を示す。論理ゲート回路は、入力x=(x
1,x
2,x
3,x
4,x
5,x
6,x
7)を出力y=(y
1,y
2,y
3,y
4,y
5)にマッピングする。各x
iと各y
jはビットであり得る。
図2に示す例示的な論理回路200では、計算は矢印で示すように左から右に進み、論理ゲート21、22、23が最初に適用され、論理ゲート28が最後に適用される。各論理ゲートは、ゲートの左側に論理ゲートの入力変数を表す1本以上の脚を有し、論理ゲートの右側に出力変数を表す1本以上の脚を有する。
図2に示す入力変数及び出力変数にそれぞれ対応する脚の左右分割は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。脚の一部は異なるゲートを相互に接続する。例えば、論理ゲート23及び論理ゲート25は脚15によって互いに接続されており、論理ゲート23の出力変数が論理ゲート25の入力変数として機能することを示している。論理ゲートのいくつかは共通の入力変数を有する。例えば、x
2は論理ゲート21の入力変数であり、論理ゲート24の入力変数でもある。
【0043】
論理ゲート回路は、論理ゲート回路の各入力xを出力yにマッピングする。y=f(x)で与えられる関数fは、論理ゲート回路によって計算される関数である。入力xが与えられると、論理ゲート回路を入力xに適用することで、対応する出力y=f(x)を決定できる。本明細書に記載の実施形態は、論理ゲート回路を反転するという逆問題、すなわち、未知の入力xに対応する出力yが与えられた場合に、タスクが入力xを決定することである問題に関する。論理ゲート回路を反転することは、比較的単純な論理ゲート回路であっても、計算的に難しいタスクであると考えられている。例えば、2つの整数の乗算を計算する論理ゲート回路(乗算は計算上簡単なタスク)を考えると、そのような論理ゲート回路を反転することは、前述のように、難しい問題であることが知られている素因数分解のタスクに相当する。論理ゲート回路を反転することの難しさは、論理ゲート回路の論理ゲートが不可逆ゲートになる可能性があるという事実に関係している。論理ゲートの複数の入力が同じ出力にマッピングされている場合、その論理ゲートは不可逆的であるため、出力のみに基づいて入力を取得することは不可能である。例えば、ANDゲートの出力0は、入力変数の3つの可能な構成、つまり(0,0)、(0,1)及び(1,0)に対応できる。出力0のみに基づいて、入力が(0,0)、(0,1)及び(1,0)であるかどうかを決定することはできない。
【0044】
本明細書に記載の実施形態は、論理ゲート回路を反転する量子計算方法に関する。本明細書に記載のいくつかの実施形態は、整数の素因数分解を実行する量子計算方法、すなわち、乗算関数を計算するように構成された論理ゲート回路(乗算回路)を考慮することによる方法に関する。
【0045】
本明細書に記載の量子計算方法は、論理ゲート回路の未知の入力xに対応する論理ゲート回路の出力yを提供するステップを含む。この方法によって実行されるタスクは、出力yから未知の入力xを決定することである。例えば、出力は2つの未知の素数pとqとの乗算である整数n(つまり、n=p・q)にすることができ、目的は未知の素因数の少なくとも1つを計算することである。出力yが「提供される」ということは、量子計算方法の後続の演算を実行できるように、出力がユーザ又は装置に利用可能になるという意味で理解されるであろう。出力を提供することには、例えば、出力が記憶されている可能性があるメモリから出力を取得すること、出力が別の場所からユーザ又は装置に伝達される場合に出力を受信すること、又は、出力を決定する(例えば、特定の前処理演算を実行して出力を決定する)ことなどが含まれ得る。
【0046】
ゲートコード化ハミルトニアンH
G
【0047】
反転される論理ゲート回路は、論理ゲートを含む。実施形態によれば、複数の論理ゲートの各論理ゲートGについて、ゲートコード化ハミルトニアンHGが論理ゲートから決定される。ゲートコード化ハミルトニアンの概念には、以下に説明するいくつかの態様が含まれる。
【0048】
ゲートコード化ハミルトニアンは、量子ハミルトニアン又は古典的ハミルトニアンであり得る。ゲートコード化ハミルトニアンは、量子システム、例えば、多数のキュービットを含む量子システムで発生する可能性のある相互作用を表す量子ハミルトニアンであり得る。或いは、ゲートコード化ハミルトニアンは、多数の古典的スピンを含む古典的システムで発生する可能性のある相互作用を表す古典的ハミルトニアンであってもよい。
【0049】
更に、ゲートコード化ハミルトニアン(量子ハミルトニアンか古典的ハミルトニアンかは問わない)は、論理ゲートの入出力関係をコード化する。次に、ゲートコード化ハミルトニアンが量子ハミルトニアンである場合について説明する。古典的なゲートコード化ハミルトニアンについては後述する。
【0050】
論理ゲートGがk個の入力変数及びm個の出力変数を有する場合(k及びmは、k及び/又はmが1に等しい場合を含む、ゼロ以外の任意の自然数であり得る)、対応するゲートコード化ハミルトニアンHGは、論理ゲートの真理値表をコード化する基底空間を有するk+m個のキュービットの量子ハミルトニアンであってもよい。基底空間は、|a1,・・・,ak,b1,・・・,bm>という形式の全ての2k個の量子状態(基底状態)から構成される基底を有し得る。このような各量子状態は、k+m個のキュービットの状態である。ここで、a1,・・・,akはk個の入力変数の値の全ての可能な構成の範囲(例えば、各値は0又は1であるため、合計2k個の構成がある)に亘り、b1,・・・,bmは、論理ゲートGの作用下でのm個の出力変数の対応する値である。換言すれば、各量子状態|a1,・・・,ak,b1,・・・,bm>は、論理ゲートGの真理値表の行に対応し得る。
【0051】
したがって、k個の入力変数及びm個の出力変数を有する論理ゲートGのゲートコード化ハミルトニアンHGは、k+m個のキュービットのシステムにおける量子相互作用を表す量子ハミルトニアンであり得る。略して、k+mは「ゲートコード化ハミルトニアンのキュービットの数」であると言われるか、又は、ゲートコード化ハミルトニアンは「k+m個のキュービットのハミルトニアン」であると言われる。前述のように、最初のk個のキュービットはそれぞれGの入力変数に対応し、最後のm個のキュービットはそれぞれGの出力変数に対応する。
【0052】
ゲートコード化ハミルトニアンHGの基底空間は、論理ゲート自体が不可逆ゲートである場合でも、論理ゲートGの作用の可逆コード化を提供する。可逆コード化は、Gの入力変数のどの値が出力変数のどの値にマッピングされるかを「記憶する」コード化として理解され得る。したがって、HGの基底空間は、Gの出力変数の値の所定の構成(出力構成)について、論理ゲートGの作用下で入力変数の値のどの構成が前記出力構成にマッピングされるかを決定することを可能にする情報を含む。換言すれば、HGの基底空間に含まれる情報により、論理ゲートGを反転することができる。
【0053】
例えば、ANDゲートのゲートコード化ハミルトニアンは、|0 0 0>、|0 1 0>、|1 0 0>及び|1 1 1>の4つの量子状態から構成される基底を有する基底空間を有する3個のキュービットの量子ハミルトニアンであり得る。上記の量子状態のそれぞれは、前述のANDゲートの真理値表の1行に対応する。ANDゲートの入力変数をu及びv、出力変数をsで表すと、上記の4つの量子状態のそれぞれの最初の2個のキュービットは入力変数u及びvに対応し、3番目のキュービットは出力変数sに対応する。
【0054】
ゲートコード化ハミルトニアンHGは、論理ゲートGの真理値表を考慮し、その後、前述の意味での真理値表に対応する基底空間、すなわち、|a1,・・・,ak,b1,・・・,bm>の基底を具備する基底空間を有する量子ハミルトニアンを決定することによって構築され得る。真理値表をコード化するそのような基底空間が与えられると、全て同じ基底空間を有するいくつかのハミルトニアンが存在する可能性があるため、対応するゲートコード化ハミルトニアンは一意ではない可能性がある。ゲートコード化ハミルトニアンの可能な形式を以下に説明する。
【0055】
論理ゲートGに関連付けられたゲートコード化ハミルトニアンH
Gは、被加数ハミルトニアンH
1,H
2,・・・の総和、換言すれば、H
G=H
1+H
2+・・・であってもよい。いくつかの実施形態によれば、ゲートコード化ハミルトニアンは、以下の形式を有する量子ハミルトニアンH
G
q(上付き文字qは、これが量子ハミルトニアンであることを示す)であってもよい。
【数4】
ここで、Z
iは、i番目のキュービットに作用するパウリσ
Z演算子(量子スピン-1/2観測可能)を示す。最大n個のパウリσ
Z演算子の積(テンソル積)を上記の式に含めることができる。nはゲートコード化ハミルトニアンのキュービットの数である(キュービットの数nは、前述のように、ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられた論理ゲートGの論理変数の数k+mに等しくてもよい)。さらに、c
i,c
ij,c
ijk,・・・は、ゼロ又は非ゼロの非ゼロ係数である。Iが恒等演算子で、cが別の係数である、cI形式の項を追加することもできるが、そのような項はエネルギー準位の全体的なシフトにのみ対応するため、上記の式の場合と同様に省略できる。非ゼロである係数c
i、c
ij、c
ijkは、本明細書ではゲートコード化ハミルトニアンH
G
qの相互作用係数と称される。問題の係数が非ゼロである上記の総和の各項は、ゲートコード化ハミルトニアンH
G
qの被加数ハミルトニアンである。換言すれば、ゲートコード化ハミルトニアンH
G
qは、被加数ハミルトニアンの総和であり、各被加数ハミルトニアンは、それぞれの相互作用係数が与えられたパウリσ
Z演算子の積(又は単一のパウリσ
Z演算子)である。
【0056】
パウリσZ演算子及びその積のみを含むゲートコード化ハミルトニアンの上記の形式は、例示であり、本開示はそれに限定されるものではない。例えば、キュービットの一部又は全てにユニタリ変換(基底の変更)を適用することにより、上記のゲートコード化ハミルトニアンHG
qを、例えば、パウリσX及び/又はσY演算子(それぞれX及びZで表される)を含む別の形式を有するゲートコード化ハミルトニアンに変換できる。このような変換されたゲートコード化ハミルトニアンも、最初のゲートコード化ハミルトニアンと同じ情報、つまり、論理ゲートの入出力関係をコード化するため、本方法の目的に使用できる。更に、上記の例は、キュービットシステムのハミルトニアンに言及しているが、例えば、2つの準位だけが占有されるd準位のシステムなど、他の量子システムも使用できる。
【0057】
ANDゲートの例に戻ると、対応するゲートコード化ハミルトニアンは、3つのキュービットの量子ハミルトニアン(これも上付き文字qで示される)である以下の量子ハミルトニアンである。
【数5】
ここで、Z
u、Z
v及びZ
sは、ANDゲートの論理変数u、v及びsに関連付けられた各キュービットに作用するパウリσ
Z演算子である。ハミルトニアンH
AND
qは、4個の被加数ハミルトニアン、すなわち、-Z
s、-Z
uZ
s、-Z
vZ
s及びZ
uZ
vZ
sを有する。ここで、-1、-1、-1及び1は、それぞれの相互作用係数である。H
AND
qの基底空間は、前述のANDゲートの真理値表の行に対応する、3個のキュービットの4つの量子状態|0 0 0>、|0 1 0>、|1 0 0>及び|1 1 1>から構成される正規直交基底を有する。第1キュービットは入力変数uに関連付けられ、第2キュービットは入力変数vに関連付けられ、第3キュービットは出力変数sに関連付けられる。
【0058】
前述のように、ゲートコード化ハミルトニアンは、量子ハミルトニアン又は古典的ハミルトニアンであり得る。次に、古典的なゲートコード化ハミルトニアンの場合について説明する。この点において、量子ゲートコード化ハミルトニアンの前述の例には、パウリσ
Z演算子のみが含まれることに注意すべきである。このような演算子は相互に可換である(つまり、共通基底で対角的である)ため、対応する古典的ハミルトニアンで特定できる。問題の古典的ハミルトニアンは、各パウリ演算子Z
iを、z
i∈{1,-1}などの2つの可能な状態を想定できる古典的スピンz
iに置き換えることによって取得できる。例えば、量子ハミルトニアンH
AND
qに対応する古典的ゲートコード化ハミルトニアンH
AND
cは、3つの古典的スピンの古典的ハミルトニアン(これは上付き文字cで示される)である以下の式によって与えられる。
【数6】
ここで、z
u、z
v及びz
sは、ANDゲートの論理変数u、v、sに関連付けられた古典的スピンであり、z
u,z
v,z
s∈{1,-1}となる。ハミルトニアンH
AND
cは、-z
s、-z
uz
s、-z
vz
s及びz
uz
vz
sという4個の被加数ハミルトニアンを有する。ここで、-1、-1、-1及び1は、量子の場合と同様に、それぞれの相互作用係数である。H
AND
cの基底空間は、4つのスピン構成(1,1,1)、(1,-1,1)、(-1,1,1)及び(-1,-1,-1)から構成される。ここで、各構成の最初の古典的スピンは入力変数uに関連付けられ、2番目の古典的スピンは入力変数vに関連付けられ、3番目の古典的スピンは出力変数sに関連付けられる。古典的スピンz∈{1,-1}は、z=1の場合はb
z=0、z=-1の場合はb
z=1という対応により、対応するビットbz∈{0,1}で特定可能である。したがって、H
AND
cの基底空間を形成する4つのスピン構成(1,1,1)、(1,-1,1)、(-1,1,1)及び(-1,-1,-1)は、それぞれビット構成(0,0,0)、(0,1,0)、(1,0,0)及び(1,1,1)に対応する。後者は、前述のANDゲートの真理値表の行である。したがって、H
AND
cの基底空間内の4つのスピン構成のそれぞれは、量子の場合と同様に、ANDゲートの真理値表の行に対応する。
【0059】
より一般的には、量子の場合と同様に、k個の入力変数及びm個の出力変数を有する論理ゲートGの古典的ゲートコード化ハミルトニアンH
G
cは、k+m個の古典的スピンのシステム内の相互作用を表す古典的ハミルトニアンであり得る。k+mは「ゲートコード化ハミルトニアンの古典的スピンの数」と言われるか、或いは、ゲートコード化ミルトニアンは「k+m個の古典的スピンのハミルトニアン」であると言われる。古典的ゲートコード化ハミルトニアンは以下の形式を有し得る。
【数7】
上記の形式は、前述の量子ハミルトニアンH
G
qと類似しているが、各パウリ演算子Z
iは古典的スピンz
i∈{1,-1}に置き換えられている。最大n個の古典的スピンの積が上記の式に含まれる場合がある。ここで、n=k+mは、ゲートコード化ハミルトニアンH
cの古典的スピンの数である。更に、c
i、c
ij、c
ijk・・・はゼロ又は非ゼロの係数であり、非ゼロである係数c
i、c
ij、c
ijkは、本明細書では量子の場合と同様にゲートコード化ハミルトニアンH
G
cの相互作用係数と呼ばれる。問題の係数が非ゼロである上記の総計の各項は、ゲートコード化ハミルトニアンH
G
cの被加数ハミルトニアンある。換言すれば、古典的ゲートコード化ハミルトニアンH
G
cは被加数ハミルトニアンの総和であり、各被加数ハミルトニアンはそれぞれの相互作用係数が与えられた複数の古典的スピンの積(又は単一の古典的スピン)である。
【0060】
本開示では、以下の表記が使用される。ゲートコード化ハミルトニアンHは、以下の形式の式で表すことができる。
【数8】
ここで、σ
i,σ
j,σ
k・・・は、各キュービットi,j,k・・・に作用するパウリ演算子Z
i,Z
j,Z
k・・・又は古典的スピンz
i,z
j,z
k・・・のいずれかを表すスピン観測可能量である。換言すれば、上記の式は、σ
i、σ
j、σ
kがどのように理解されるによって、前述のように、古典的ゲートコード化ハミルトニアンH
G
c及び量子ゲートコード化ハミルトニアンH
G
qの双方を包含する。例えば、ANDゲートの例に戻ると、対応するゲートコード化ハミルトニアンの以下の式は、スピン観測可能量σ
u、σ
v、σ
sをそれぞれパウリ演算子Z
u、Z
v、Z
sに設定する場合、量子ハミルトニアンH
AND
qとして理解でき、σ
u、σ
v、σ
sをそれぞれ古典的スピンz
u、z
v、z
sに設定する場合、古典的ハミルトニアンH
AND
cとして理解できる。
【数9】
【0061】
本明細書に記載の実施形態によれば、ゲートコード化ハミルトニアン(古典ハミルトニアンであるか量子ハミルトニアンであるかに関係なく)は、論理ゲート回路の各論理ゲートから決定される。ゲートコード化ハミルトニアンを決定する動作は、例えば、本明細書に記載の古典的計算システムによって実行される古典的手順として理解できる。ゲートコード化ハミルトニアンを決定することは、ゲートコード化ハミルトニアンの記述(つまり、古典的記述)を決定することとして理解できる。ゲートコード化ハミルトニアンを決定することは、ゲートコード化ハミルトニアンを特定可能にする、特にゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンを特定可能にする古典的情報を決定することとして理解できる。例えば、ゲートコード化ハミルトニアンを決定することは、ゲートコード化ハミルトニアンの数式を決定すること、各被加数ハミルトニアンの数式を個別に決定すること、どのパウリ演算子(量子の場合)又はどの古典的スピン(古典的な場合)がゲートコード化ハミルトニアン及び/又は各被加数ハミルトニアンに含まれるかを決定すること、各被加数ハミルトニアンがどのキュービット(量子の場合)又はどの古典的スピン(古典的な場合)に作用するように構成されているかを決定すること、各被加数ハミルトニアンの相互作用係数を決定すること、などを含むことができる。「決定する」という用語は、「計算する」(例えば、古典的計算システムによって)としても理解できるが、「読み取る」(たとえば、ゲートコード化ハミルトニアン及び/又は各被加数ハミルトニアンの記述が保存されているメモリから読み取る)としても理解できるし、「受信する」(例えば、ゲートコード化ハミルトニアンの記述が別の場所で計算され、その後、本方法を実行するために通信される場合に、その記述を受信する)としても理解できる。
【0062】
ゲートコード化ハミルトニアンに関する更なる態様は、ゲートコード化ハミルトニアンによって表される相互作用が物理的に実行されるかどうかという問題に関する。量子計算へのいくつかのアプローチによれば、ゲートコード化ハミルトニアンは量子ハミルトニアンであり、これらの量子ハミルトニアンは、論理ゲート回路を反転するための量子計算方法の一部として物理的に実行される。すなわち、量子システム(例えば、キュービットのシステム)を提供することができ、量子ゲートコード化ハミルトニアンによって表される量子相互作用を量子システム内で物理的に実現して、論理ゲート回路を量子システムにコード化することができる。ただし、ゲートコード化ハミルトニアンを物理的に実行するこのようなアプローチには、キュービット間の長距離相互作用が含まれる可能性があるという欠点がある。長距離相互作用は、通常、例えば、論理ゲートが論理ゲート回路内で互いに遠く離れた入力変数を有する場合に発生する。このような長距離相互作用を実際に実現することは、不可能ではないにしても、困難であり得る。
【0063】
本明細書に記載の実施形態によれば、ゲートコード化ハミルトニアンHG(古典ハミルトニアンであるか量子ハミルトニアンであるかに関係なく)は、実際の物理システムにおいて物理的に実行される必要はない。つまり、ゲートコード化ハミルトニアンのキュービット(量子の場合)や古典的スピン(古典的な場合)だけではなく、ゲートコード化ハミルトニアンによって表される相互作用も物理的に実行される必要はない。ゲートコード化ハミルトニアンHGは、中間の古典的演算として決定される。各ゲートコード化ハミルトニアンHGの古典的記述は、短距離量子ハミルトニアンHG
SRを決定するために使用され、後者のハミルトニアンHG
SRが、論理ゲート回路を反転するための量子計算方法の一部として物理的に実行される。短距離量子ハミルトニアンHG
SRは、量子システムの構成要素間の短距離量子相互作用を表す。これらの短距離量子相互作用は、対応するゲートコード化ハミルトニアンHGによって表される相互作用とは異なる。実際、量子システム自体も、以下で明らかになるように、ゲートコード化ハミルトニアンが関連するシステムとは完全に異なる可能性がある。短距離量子ハミルトニアンHG
SRが決定された後、対応する短距離量子相互作用が、本明細書に記載の量子計算方法の一部として量子システムにおいて物理的に実行される。
【0064】
ローカルサブシステム
【0065】
本明細書に記載の実施形態によれば、構成要素を含む量子システムが提供される。量子システムは、それぞれが量子システムの構成要素のサブセットから構成され得るローカルサブシステムを含むことができる。ローカルサブシステムは、相互に素であり得る(量子システムの各構成要素は、最大1つのローカルサブシステムに属することができる)。
【0066】
ローカルサブシステムは、量子システムの小さなサブシステムであり得る。ローカルサブシステム内の構成要素の数は、量子システムの構成要素の総数の30%以下、具体的には20%以下、より具体的には10%以下であってもよい。ローカルサブシステムには、20個以下の構成要素、より具体的には10個以下の構成要素が含まれる場合がある。
【0067】
ローカルサブシステムは、構成要素のサブセットであり得る。サブセット内の任意の2つの構成要素間の距離は、量子システムの局所直径(locality diameter)Dlocal以下である。局所直径Dlocalは、量子システムの構成要素の特定の配置における構成要素間の最大構成要素距離よりもはるかに小さい可能性がある。局所直径Dlocalは一定の距離であってもよい。例えば、局所直径Dlocalは、最大構成要素距離の30%以下、具体的には20%以下、より具体的には10%以下であってもよい。構成要素が基本距離(格子定数)を有する格子内に配置されている場合、局所直径Dlocalは、格子の基本距離のr倍であり得る。ここで、rは1~5であり得る。例えば、r=√2,2,3,4又は5であってもよい。局所直径Dlocalは、構成要素の空間的配置(例えば、構成要素が2次元格子に沿って配置されているか、3次元格子に沿って配置されているか、格子が正方形、三角形又は六角形の格子であるか又は格子ではない別の幾何学的構造であるかなど)に依存する可能性がある。更に、又は、代わりに、局所直径Dlocalは、構成要素間の利用可能な物理的相互作用の最大範囲の関数であってもよい。換言すれば、利用可能な相互作用の種類に応じて、互いに最大でも所定の距離だけ離れた構成要素を物理的に結合できる可能性がある。局所直径Dlocalは、後者の距離の関数であり得る。
【0068】
例えば、量子システムが2次元正方格子に沿って配置された構成要素によって形成される場合、格子のプラケット(基本正方形)を形成する4個の構成要素のサブセットは、量子システムのローカルサブシステムと考えることができる。同様に、構成要素が3次元正方格子に沿って配置されている場合、格子の基本立方体(8個の構成要素を有する)からなる構成されるサブシステムは、問題の量子システムのローカルサブシステムとして理解できる。これらの実例は単なる例示であり、本開示はこれらに限定されるものではない。例えば、2次元正方格子の場合、隣接する2つのプラケットから構成されるサブシステム、又は、1個のプラケットとそのプラケットに隣接する1個の追加の構成要素などから構成されるサブシステムも、問題の量子システムの特定の局所直径Dlocalに応じて、ローカルサブシステムであり得る。
【0069】
図3は、ローカルサブシステム350を有する量子システム300を示す。各ローカルサブシステム350は、量子システム300の構成要素320を含む。各ローカルサブシステム350の構成要素の数は、量子システム300の構成要素の総数と比較して小さい(
図3では、各ローカルサブシステムは5個以下の構成要素を含む)。局所直径D
localは、302で示されている。各ローカルサブシステム350内の構成要素の最大距離は、局所直径D
local未満である。
【0070】
短距離量子ハミルトニアンH
G
SR
【0071】
本明細書に記載の実施形態によれば、各ゲートコード化ハミルトニアンHG(Gは論理ゲート回路の論理ゲート)は、量子システムのローカルサブシステムSGの内部で発生する量子相互作用を表す短距離量子ハミルトニアンHG
SRにマッピングされる。ローカルサブシステムSGは論理ゲートGに関連付けられている。可能なマッピングを以下に説明する。
【0072】
問題のマッピングによれば、ゲートコード化ハミルトニアンHG=ΣiHiの各被加数ハミルトニアンHiは、ローカルサブシステムSGの各構成要素に関連付けられる(又は割り当てられる)。換言すれば、ゲートコード化ハミルトニアンHGの被加数ハミルトニアンHi毎に、サブシステムSG内の対応する構成要素が提供される。
【0073】
例えば、ANDゲートのゲートコード化ハミルトニアンH
AND=-σ
s-σ
uσ
s-σ
vσ
s+σ
uσ
vσ
sに関して、前述のように、このハミルトニアンは4個の被加数ハミルトニアンを有する。したがって、関連するローカルサブシステムS
ANDには、被加数ハミルトニアン毎に、1個ずつ、合計4個の構成要素が含まれる。4個の構成要素は、各被加数ハミルトニアンに現れる指数に対応して、それぞれ(s)、(u,s)、(v,s)及び(u,v,s)でラベル付けできる。
図4は、ANDゲート(
図1を参照)に関連付けられたローカルサブシステムS
ANDと、それぞれ401、402、403、404で示される、S
ANDの4個の構成要素(s)、(u,s)、(v,s)及び(u,v,s)を示している。問題の構成要素は、基本正方形(プラケット)に沿って配置されている。
【0074】
したがって、前述のマッピングに従ってゲートコード化ハミルトニアンHGに関連付けられる構成要素の数は、HGの被加数ハミルトニアンの数に依存することに留意されたい。前記被加数ハミルトニアンの数は、HGのキュービット(量子の場合)又は古典的スピン(古典的な場合)の数とは異なり、具体的にはそれより大きい場合がある。例えば、前述のように、ゲートコード化ハミルトニアンHANDは4個の被加数ハミルトニアンを有するため、HANDは4個の構成要素のセットにマッピングされる。対照的に、ハミルトニアンHAND自体は3個のキュービット/古典的スピンのハミルトニアンである。
【0075】
図5は、ゲートコード化ハミルトニアンH
GからローカルサブシステムS
Gの構成要素へのマッピングを示す。具体的にするために(範囲を制限するものではないが)、
図5に示すゲートコード化ハミルトニアンH
Gは4個の被加数ハミルトニアンH
iを有し、H
G=H
1+H
2+H
3+H
4となる。例えば、ゲートコード化ハミルトニアンH
Gは、ANDゲートに関連付けられたハミルトニアンH
ANDにすることができる。量子システムには、ゲートコード化ハミルトニアンH
Gに関連付けられたローカルサブシステムS
Gが含まれている。ローカルサブシステムS
Gは、4個の構成要素501、502、503及び504を含み、これら4個の構成要素のそれぞれは、被加数ハミルトニアンH
iの1個に関連付けられる。短距離量子ハミルトニアンH
G
SR(図示せず)は、ローカルサブシステムS
G内で作用する。上記の4個の構成要素がローカルサブシステムS
Gの一次構成要素である。図示のように、ローカルサブシステムS
Gは、H
Gの被加数ハミルトニアンに関連付けられていない更なる構成要素(サブシステムS
Gの中心に位置する2次構成要素)を含むことができる。
【0076】
HGの被加数ハミルトニアンHiに関連する構成要素は、被加数ハミルトニアンHiのパリティをコード化することができる。被加数ハミルトニアンHiがパウリ演算子又はパウリ演算子の(テンソル)積である場合(前述のように、ゲートコード化ハミルトニアンで発生する可能性があるZi Zj Zk・・・形式の演算子など)、被加数ハミルトニアンHiと関連する構成要素との対応を定義できる。ここで、固有値+1を有するHiの固有空間は構成要素の基底状態|0>にマッピングされ、固有値-1を有するHiの固有空間は構成要素の基底状態|1>にマッピングされる。この対応によれば、問題の構成要素は被加数ハミルトニアンHiのパリティをコード化していると言われている。このマッピングを各被加数ハミルトニアンに適用することにより、ゲートコード化ハミルトニアンHGは、HGの各被加数ハミルトニアンのパリティをコード化する構成要素のサブセットに関連付けられる。
【0077】
ローカルサブシステムSGは、HGの被加数ハミルトニアンに関連する前述の構成要素に加えて、更なる構成要素を含み得ることに留意されたい。これについては後述する。
【0078】
マッピングには、更に、ゲートコード化ハミルトニアンHGから短距離量子ハミルトニアンHG
SRを決定することが含まれる。短距離量子ハミルトニアンHG
SRは、ローカルサブシステムSG内の短距離量子相互作用を表す。HGからHG
SRへのマッピングは、両方のハミルトニアンの基底空間の間に対応があるように構成できる。HGが量子ハミルトニアンの場合、HG及びHG
SRの基底空間はそれぞれ量子状態の基底を有し、HGの基底空間の量子基底状態はHG
SRの基底空間の量子基底状態に対応する。対応は1対1の対応であってもよい。同様に、HGが古典的ハミルトニアンである場合、HG
SRは、HGの基底状態(古典的スピン構成)に対応する量子状態の基底を有する。したがって、HG及びHG
SRの基底空間は、異なるコード化を使用しているにも関わらず、両方とも対応する論理ゲートGの入出力関係をコード化する。前述のように、HGの基底空間はGの真理値表の行を直接的にコード化するが、HG
SRの基底空間は同じ真理値表を、被加数ハミルトニアンのパリティを関連する構成要素にコード化することによって、間接的な方法でコード化する。それでも、短距離量子ハミルトニアンHGSRの基底空間に含まれる情報により、ゲートコード化ハミルトニアンHGの基底空間、したがってGの入出力関係を、問題のマッピングを反転することによって導き出すことができる。したがって、HG
SRの基底空間が分かっている場合(例えば、量子計算の終了時)、それに基づいてGの真理値表を決定できる。
【0079】
短距離量子ハミルトニアンHG
SRの可能な形式を以下に説明する。短距離量子ハミルトニアンHG
SRは、2つのハミルトニアン、つまり単体ハミルトニアンH1-body及び制約ハミルトニアンHconsの総計であり得るため、HG
SR=H1-body+Hconsである。
【0080】
単体ハミルトニアンは、単体被加数ハミルトニアンの総和であるハミルトニアンとして理解することができ、各単体被加数ハミルトニアンは量子システムの単一の構成要素に作用する。単体ハミルトニアンは、H1-body=A1+A2+A3+・・・の形式を有し得る。ここで、各単体被加数ハミルトニアンAiは、量子システムのαi番目の構成要素にのみ作用する。例えば、H=a1Z1+a2Z2+a3Z3+・・・で、各aiが係数、各Ziがi番目の構成要素に作用するパウリσZ演算子である、という形式のハミルトニアンは、単体ハミルトニアンである。単体ハミルトニアンは、d=1のd体ハミルトニアンである。
【0081】
短距離量子ハミルトニアンHG
SRの一部を形成する単体ハミルトニアンH1-bodyの機能は、ゲートコード化ハミルトニアンHGに含まれる情報、具体的には、その相互作用係数に含まれる情報をコード化することである。単体ハミルトニアンH1-bodyは、単体被加数ハミルトニアンの総和であってもよく、各単体被加数ハミルトニアンは、HGの各被加数ハミルトニアンに関連付けられたSGの構成要素に作用し、単体被加数ハミルトニアンは、問題の被加数ハミルトニアンの関数である。例えば、ゲートコード化ハミルトニアンHGを被加数ハミルトニアンHiの総和HG=ΣiHiとして表すと、各被加数ハミルトニアンHiをaiZiの形式の項で置き換えることによって、単体ハミルトニアンH1-bodyを取得できる。ここで、aiは係数、Ziは被加数ハミルトニアンHiに関連付けられたローカルサブシステムSGの構成要素に作用するパウリσZ演算子である。したがって、HGがHG=ΣiHiの形式を有する場合、H1-bodyはH1-body=ΣiaiZiの形式を有し得る。いくつかの実施形態によれば、H1-bodyの各係数aiは、対応する被被加数ハミルトニアンHiの相互作用係数に等しいか、又は、より一般的にはその関数であり得る。パウリσZ演算子のみを含む単体ハミルトニアンの形式であるH1-body=ΣiaiZiは単なる一例であり、本開示はこれに限定されないことを理解されたい。例えば、構成要素の少なくとも一部に基底の変更を適用することにより、単体ハミルトニアンには、X演算子やY演算子などのパウリσZ演算子以外の演算子、更には他の(パウリ以外の)演算子を含めることができる。
【0082】
図5に示す例に関連して、ゲートコード化ハミルトニアンHGは、短距離量子ハミルトニアンH
G
SR=H
1-body+H
consにマッピングされる。単体ハミルトニアンH
1-bodyは、H
1-body=A
1+A
2+A
3+A
4という形式を有する。ここで、単体被加数ハミルトニアンA
1、A
2、A
3及びA
4は、それぞれ構成要素501、502、503及び504に作用する。
【0083】
HGの各基底状態について、前述のマッピングにより、単体ハミルトニアンH1-bodyの基底空間内に対応する基底状態が存在し得る。しかし、前述のように、HGに関連付けられる構成要素の数はHGの被加数ハミルトニアンの数に依存するため、HGのキュービット/古典的スピンの数よりも大きくなる可能性がある。換言すれば、ゲートコード化ハミルトニアンHGと量子システムの構成要素のセットとの関連付けには、自由度の数の増加が含まれる可能性がある。更に、HGの被加数ハミルトニアン間には依存関係がある可能性がある(例えば、以下で詳しく説明するように、HGの全ての被加数ハミルトニアンの積は1に等しいため、被加数ハミルトニアンの1つが残りの被加数ハミルトニアンの積として記述される可能性がある)。これは、H1-bodyの基底状態に反映されていない可能性がある。したがって、単体ハミルトニアンH1-bodyの基底空間には、HGの基底空間に対応する基底状態がない基底状態が含まれる可能性がある。制約ハミルトニアンHconsの機能は、この矛盾を取り除くことである。制約ハミルトニアンは、H1-bodyの基底空間に1つの更なる制約又は複数の更なる制約を課すことにより、基底空間の次元を削減し、マッピングの一貫性を確保する。つまり、ゲートコード化ハミルトニアンHGの基底空間と、短距離ハミルトニアンHG
SR=H1-body+Hconsの基底空間との間に対応関係があることを保証する。
【0084】
例えば、いくつかの実施形態によれば、ゲートコード化ハミルトニアンH
Gの全ての被加数ハミルトニアンの積は、恒等(identity)に比例し得る。量子ゲートコード化ハミルトニアンの場合、これは全ての被加数ハミルトニアンの積がcIに等しいことを意味する。ここで、Iは恒等演算子であり、cは係数である。古典的ゲートコード化ハミルトニアンの場合、これは、全ての被加数ハミルトニアンの積が定数c、つまりゲートコード化ハミルトニアンの古典的スピンz
i,z
j・・・から独立した係数に等しいことを意味する。例えば、H
Gが、前述のように、以下の形式で与えられる古典的ハミルトニアン又は量子ハミルトニアンである場合、
【数10】
H
Gの全ての被加数ハミルトニアンの積は、上記の総計の各インデックスi,j,k・・・について、問題のインデックスが現れる被加数ハミルトニアンの数(つまり、上記の総計内の非ゼロ項の数)が偶数である場合、恒等に比例する。ゲートコード化ハミルトニアンの積が恒等に比例するという特性は、K個のパウリσ
Z演算子の(テンソル)積である制約ハミルトニアンH
consを、H
GのK個の被加数ハミルトニアンに関連付けられたK個の構成要素に作用するH
cons=-kZZZ・・・の形式(kは係数)で追加することで、ローカルサブシステムS
Gで強制可能である。したがって、H
G
SR=H
1-body+H
consの基底空間には、H
Gの全ての被加数ハミルトニアンの積が1に等しいという条件と一致する量子状態のみが含まれる。
【0085】
より一般的には、いくつかの実施形態によれば、ゲートコード化ハミルトニアンHGの被加数ハミルトニアンのサブセットの積は、恒等に比例し得る。サブセットは、HGの被加数ハミルトニアンの一部又は全てで構成され得る。この特性は、適切な制約ハミルトニアンHconsを追加することによってローカルサブシステムSGで強制できる。適切な制約ハミルトニアンは、例えば、問題のサブセット内の被加数ハミルトニアンに関連付けられた全ての構成要素に作用するパウリσZ演算子の(テンソル)積である制約ハミルトニアンである。
【0086】
d体ハミルトニアン(dは自然数)は、量子システムのd以下の構成要素のグループ内の相互作用を表すハミルトニアンとして理解され得る。被加数ハミルトニアンの総計であるハミルトニアンは、各被加数ハミルトニアンがd以下の構成要素のグループ内の結合相互作用を表す場合、d体ハミルトニアンであり得る。構成要素のd体相互作用は、d体ハミルトニアンで表現できる相互作用である。
【0087】
制約ハミルトニアンは、d体ハミルトニアンであってもよい。ここで、dは自然数であり、dは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12であり得る。数dは4以下であってもよい。数dは3以上であってもよい。数dは定数であってもよい。制約ハミルトニアンH
consは、被加数ハミルトニアンB
iの総計、つまりH
cons=Σ
iB
iであり得る。制約ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、パウリ演算子(おそらく係数を伴う)であり得る。各被加数ハミルトニアンには、最大d個の構成要素に作用するZ演算子が含まれ得る。各被加数ハミルトニアンはC Z・・・Zの形式を有することができ、各被加数ハミルトニアンは最大d個の構成要素に対して制約強度Cで作用する。或いは、制約ハミルトニアンは単一の項、例えば複数の被加数ハミルトニアンの総計ではなく、単一のパウリ演算子であってもよい。例えば、
図5を参照すると、制約ハミルトニアンは、構成要素501、502、503及び504に作用する形式H
cons=C ZZZZ(単一項)の4体ハミルトニアンであってもよい。制約ハミルトニアンは、パウリσ
Z演算子(ここではZで示される)のみを含む必要はないことを理解されたい。例えば、ユニタリ変換(基底の変更)を構成要素の一部又は全てに適用することによって、例えばパウリσ
X演算子及び/又はパウリσ
Y演算子、更には他の(パウリ以外の)演算子を含む、異なる形式を有する制約ハミルトニアンが取得され得る。
【0088】
本明細書に記載のように、単体ハミルトニアン及び短距離量子ハミルトニアンHG
SRの制約ハミルトニアンは、パウリσZ演算子のみを含み得る。単体ハミルトニアン及び制約ハミルトニアンは可換ハミルトニアン(commuting Hamiltonians)であり得る。論理ゲート回路に関連付けられた全ての短距離量子ハミルトニアンHG
SRは、互いにペアで可換であり得る。
【0089】
ANDゲートと、対応する以下のゲートコード化ハミルトニアンの例では、
【数11】
関連するローカルサブシステムには、(s)、(u,s)、(v,s)及び(u,v,s)でラベル付けされた4個の構成要素が含まれることを前述した。これら4個の構成要素は、矩形格子のプラケットの頂点上に配置され得る。したがって、構成要素は量子システムのローカルサブシステムを形成するか、少なくともそれに属することができる。関連する短距離量子ハミルトニアンH
AND
SRは以下の形式を有し得る。
【数12】
ここで、-Z
(s)-Z
(u,s)-Z
(v,s)+Z
(u,v,s)は単体ハミルトニアンであり、Z
(s)、Z
(u,s)、Z
(v,s)及びZ
(u,v,s)は、それぞれキュービットs、(u,s)、(v,s)、(u,v,s)に作用するパウリ演算子である。更に、これらのパウリ演算子のそれぞれに与えられる各係数-1、-1、-1及び1は、ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDの相互作用係数と同じである。更に、-kZ
(s)Z
(u,s)Z
(v,s)Z
(u,v,s)は、問題の4個のパウリ演算子の積を含む制約ハミルトニアン(この例では、d=4のd体ハミルトニアン)であり、kは正の係数である。ハミルトニアンH
AND
SRの基底空間は、4個のキュービットの量子状態から構成される基底を有し、各基底状態は、ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDの基底状態に対応する。ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDでは、各インデックスu、v、sが偶数回出現するため、被加数ハミルトニアンの積(-σ
s)(-σ
uσ
s)(-σ
vσ
s)(σ
uσ
vσ
s)は恒等に比例する。これは、H
AND
SRの基底空間がこの条件に合致することを保証する制約ハミルトニアンH
cons=-kZ
sZ
(u,s)Z
(v,s)Z
(u,v,s)の存在によって反映されている。H
ANDからH
AND
SRへのマッピング、及び、2つの基底空間の間の対応に関する技術的な詳細については、後述の「更なる態様」の項で説明する。
【0090】
したがって、本方法によれば、各論理ゲートGは、当該論理ゲートの真理値表をコード化する基底空間を有するゲートコード化ハミルトニアンHGに関連付けることができる。次に、各ゲートコード化ハミルトニアンHGは、ローカルサブシステムSG内の構成要素間の短距離量子相互作用を表す短距離量子ハミルトニアンHG
SR=H1-body+Hconsにマッピングされる。このため、HG
SRの基底空間に含まれる情報により、HGの基底状態、つまり論理ゲートGの入出力関係を決定することができる。ゲートコード化ハミルトニアンHGを短距離量子ハミルトニアンHG
SRにマッピングすることは、HG
SRが短距離の相互作用のみを含むため、ゲートコード化ハミルトニアンHGに存在する可能性のある長距離相互作用が除去されるという利点を有する。
【0091】
図6は、前述のマッピングを示す。論理ゲートGは、ゲートコード化ハミルトニアンH
Gにマッピングされる(610)。ゲートコード化ハミルトニアンH
Gは、量子システムのローカルサブシステムS
Gにマッピングされる(620)。短距離量子ハミルトニアンH
G
SR=H
1-body+H
consはローカルサブシステムS
G内で作用し、H
Gの基底空間に対応する基底空間を有する。
【0092】
ゲート相互接続ハミルトニアン、共通変数ハミルトニアン
【0093】
前述のように、本明細書に記載の実施形態によれば、互いに素な複数のローカルサブシステムSGが提供され、各ローカルサブシステムは論理ゲート回路の論理ゲートGに関連付けられる。論理ゲート回路の論理ゲートは互いに独立していない。論理ゲート間に相互接続が存在する場合、及び/又は、異なる論理ゲートが共通の入力変数を有する場合もある。本明細書に記載の実施形態によれば、論理ゲート間のこのような依存関係は、対応するローカルサブシステムを互いに結合することによって量子システムに反映され得る。
【0094】
第1の論理ゲートG1及び第2の論理ゲートG2が互いに接続されていること(すなわち、換言すれば、2つの論理ゲート間に相互接続が存在すること)は、第1の論理ゲートG1の出力変数が第2の論理ゲートG2に入力されるため、G1の出力変数はG2の入力変数でもある、という意味で理解することができる。第1の論理ゲートG1は、前述のマッピングによって、第1のローカルサブシステムSG1及び第1の短距離量子ハミルトニアンHG1
SRに関連付けられ得る。第1の短距離量子ハミルトニアンHG1
SRの基底空間は、第1の論理ゲートG1の入出力関係を(前述のように間接的に)コード化する状態から構成される基底を有する可能性がある。同様に、第2の論理ゲートG2は、第2のローカルサブシステムSG2及び第2の短距離量子ハミルトニアンHG2
SRに関連付けられ得る。第2の短距離量子ハミルトニアンHG2
SRの基底空間は、第2の論理ゲートG2の真理値表を(やはり間接的に)コード化する基底を有する可能性がある。演繹的に、HG1
SR及びHG2
SRの各基底空間は互いに独立している。G1の出力変数がG2の入力変数でもあるということは、問題の2つの論理ゲートの論理変数に課せられる副条件又は制約と見なすことができる(つまり、ai=bjの形式の制約である。ここで、aiはG1の入力変数であり、bjはG2の出力変数である)。この副条件は、第1のローカルサブシステムSG1を第2のローカルサブシステムSG2に結合するゲート相互接続ハミルトニアンH12
connを導入することによって、量子システムでも同様に強制できる。ゲート相互接続ハミルトニアンH12
connは、これら2つのローカルサブシステム間の量子相互作用(本明細書ではゲート相互接続相互作用と呼ぶ)を表す量子ハミルトニアンである。より具体的には、ゲート相互接続ハミルトニアンは、ハミルトニアンHG1
SR+HG2
SR+H12
connの基底空間がこの副条件に従う基底状態のみを含むような方法で2つのローカルサブシステムを結合することができる。ハミルトニアンHG1
SR+HG2
SR+H12
connの各基底状態は、(ゲートコード化ハミルトニアンHG1及びHG2から短距離量子ハミルトニアンHG1
SR及びHG2
SRへのマッピングを反転することにより)、2つの論理ゲートの論理変数の「有効な」構成、つまり前述の第1の論理ゲートG1の出力変数が第2の論理ゲートG2の入力変数でもある構成に対応する可能性がある。したがって、ゲート相互接続ハミルトニアンは、論理変数の有効な構成に対応する量子状態をエネルギー的に優先する(つまり、低エネルギーを割り当てる)。ゲート相互接続ハミルトニアンの構築に関する更なる例及び技術的詳細は、後述の「更なる態様」の項で説明する。
【0095】
これに加えて、又は、この代わりに、2つの論理ゲートが共通の入力変数を有してもよい。すなわち、同じ論理変数が第1の論理ゲートG1及び第2の論理ゲートG2の入力変数であってもよい。ゲート相互接続について前述したことと同様に、2つの論理ゲートが共通の入力変数を有するということは、対応するハミルトニアン(本明細書では共通変数ハミルトニアンH12
com-varと呼ぶ)によって量子システム内で強制できる副条件とみなすことができる。共通変数ハミルトニアンは、ハミルトニアHG1
SR+HG2
SR+H12
com-varの基底空間がこの副条件に従う基底状態のみを含むような方法で、第1及び第2のローカルサブシステムを結合できる量子ハミルトニアンである。ハミルトニアンHG1
SR+HG2
SR+H12
com-varの各基底状態は、(ゲートコード化ハミルトニアンから第1/第2短距離量子ハミルトニアンへのマッピングを反転することによって)2つの論理ゲートの論理変数の「有効な」構成、すなわち、問題の入力変数が第1の論理ゲートG1及び第2の論理ゲートG2の共通の入力変数である構成に対応する可能性がある。共通変数ハミルトニアンの構築に関する更なる例及び技術的詳細は、後述の「更なる態様」の項で説明する。
【0096】
2つのゲートが相互に接続され、共通の入力変数を有する場合、HG1
SR+HG2
SR+H12
conn+H12
com-var形式のハミルトニアンなど、ゲート相互接続ハミルトニアン及び共通変数ハミルトニアンの組み合わせを提供できる。
【0097】
図7は、
図2に示す論理ゲート回路200に関連付けられる量子システム700を示す。量子システムは、円で示す構成要素750を含む(表現を容易にするため、2つの構成要素のみを参照符号750によって明示的に参照するが、
図7の各円は量子システムの構成要素を表すことを理解されたい)。量子システムは、
図2に示す論理ゲート回路200の論理ゲート21~28にそれぞれ関連付けられたローカルサブシステム721~728を含む。各ローカルサブシステムは、構成要素のセットを含む(明確にするために、各ローカルサブシステムは4つの構成要素を含むように示されているが、本開示はそれに限定されない)。各短距離量子ハミルトニアンH
G
SRは、ボックス731~738で示されているように、各ローカルサブシステムに作用する。ローカルサブシステムの一部は実線で接続されており、問題のローカルサブシステムを結合するゲート相互接続ハミルトニアンを表している。例えば、ゲート相互接続ハミルトニアンは、ローカルサブシステム721とローカルサブシステム724とを結合し、
図2の論理ゲート回路200が論理ゲート21と論理ゲート24との間の接続を含むので、これら2つのサブシステムを接続する実線によって示される。ローカルサブシステムの一部は破線で接続されており、問題のローカルサブシステムを結合する共通変数ハミルトニアンを表している。例えば、
図2に示される論理ゲート23及び25が共通の入力変数(すなわち、変数x
6)を有するため、共通変数ハミルトニアンは、ローカルサブシステム723とローカルサブシステム725とを結合し、これら2つのサブシステムを接続する破線で示される。
【0098】
以下では、「ゲート結合ハミルトニアン」という用語は、ゲート相互接続ハミルトニアン又は共通変数ハミルトニアンのいずれかを指すために使用されるものとする。
【0099】
前述のように、ローカルサブシステムSGは、ゲートコード化ハミルトニアンHGの被加数ハミルトニアンHiに関連付けられた構成要素を含むことができる。このような構成要素を、本明細書ではローカルサブシステムSGの一次構成要素と呼ぶ。一次構成要素に加えて、ローカルサブシステムは1つ以上の二次構成要素を含むことができる。ローカルサブシステムの二次構成要素は、ゲートコード化ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンに関連付けられておらず、ローカルサブシステムの「追加の」構成要素である場合がある。第1の論理ゲートG1に関連付けられた第1のローカルサブシステムSG1を第2の論理ゲートG2に関連付けられた第2のローカルサブシステムSG2に結合するゲート結合ハミルトニアンに関して(ゲート結合ハミルトニアンが、ゲート相互接続ハミルトニアンであるか、共通変数ハミルトニアンであるかに関係なく)、ゲート結合ハミルトニアンは、第1のローカルサブシステムの1つ以上の構成要素及び第2のローカルサブシステムの1つ以上の構成要素に共同して作用できる。第1のローカルサブシステムの1つ以上の構成要素は、第1のローカルサブシステムの1つ以上の一次構成要素及び/又は1つ以上の二次構成要素を含むことができる。第2のローカルサブシステムの1つ以上の構成要素は、第2のローカルサブシステムの1つ以上の一次構成要素及び/又は1つ以上の二次構成要素を含むことができる。
【0100】
ゲート結合ハミルトニアンは、k体ハミルトニアンであってもよい。ここで、kは自然数であり、kは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12であってもよい。数kは4以下であってもよい。数kは3以上であってもよい。数kは定数であってもよい。ゲート結合ハミルトニアンは、被加数ハミルトニアンの総和であってもよい。ゲート結合ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、パウリ演算子(おそらく係数付き)にすることができる。各被加数ハミルトニアンは、最大でk個の構成要素に作用するZ演算子を含む場合がある。各被加数ハミルトニアンは、K Z・・・Zの形式を有することができ、各被加数ハミルトニアンは最大k個の構成要素に対して結合強度Kで作用し得る。或いは、ゲート結合ハミルトニアンは単一の項、例えば、複数の被加数ハミルトニアンの総計ではなく、単一のパウリ演算子であってもよい。ゲート結合ハミルトニアンは、パウリσZ演算子のみを含む必要はないことが理解されるであろう。例えば、ユニタリ変換(基底の変更)を構成要素の一部又は全てに適用することにより、例えばパウリσX演算子及び/又はσY演算子、更には他の(非パウリ)演算子を含む、異なる形式を有するゲート結合ハミルトニアンを取得できる。
【0101】
出力コード化ハミルトニアン、総ハミルトニアン、論理ゲート回路の反転
【0102】
論理ゲートを有する論理ゲート回路(例えば、乗算回路)が与えられると、全ての短距離量子ハミルトニアンHG
SR(すなわち、論理ゲート回路の全ての論理ゲートGに亘る)と、全てのゲート結合ハミルトニアン(すなわち、全てのゲート相互接続ハミルトニアン及び全ての共通変数ハミルトニアン)との総計である第1のハミルトニアンH1を考慮することができる。第1のハミルトニアンH1は、量子システムの一次及び二次構成要素に作用する量子ハミルトニアンである。第1のハミルトニアンH1は、論理ゲート回路の有効な入出力構成、つまり各論理ゲートの各動作に従い、ゲートの相互接続及び共通変数(存在する場合)から生じる副条件に従う論理変数の構成をコード化する基底状態を有する基底空間を有する。
【0103】
前述のように、本明細書に記載の方法の目的は、論理ゲート回路を反転することである。つまり、論理ゲート回路の出力yが与えられた場合、その出力yに対応する入力xを決定することが課題となる。論理ゲート回路の出力がyに等しいということは、論理ゲート回路に課せられるもう一つの副条件とみなすことができる。ゲート結合ハミルトニアンの場合と同様に、この副条件は、本明細書では出力コード化ハミルトニアンと呼ばれる第2の量子ハミルトニアンH2を導入することによって量子システムでも強制できる。第2の量子ハミルトニアンは、第1のハミルトニアンH1に追加され、問題の出力yに対応する基底状態(複数ある場合は複数の基底状態)のみをエネルギー的に優先する。出力コード化ハミルトニアンには、1つ以上の一次構成要素及び/又は1つ以上の二次構成要素が含まれる場合がある。
【0104】
出力コード化ハミルトニアンは、r体ハミルトニアンであってもよい。ここで、rは自然数であり、rは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12であってもよい。数rは4以下であってもよい。例えば、数rは2以上であってもよい。数rは定数でもよい。出力コード化ハミルトニアンは、被加数ハミルトニアンの総計であり得る。出力コード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、パウリ演算子(おそらく係数付き)にすることができる。各被加数ハミルトニアンには、最大でr個の構成要素に作用するパウリσZ演算子(本明細書ではZで示す)が含まれる場合がある。各被加数ハミルトニアンは、R Z・・・Zの形式を有することができ、各被加数ハミルトニアンは最大r個の構成要素に対して結合強度Rで作用する。或いは、出力コード化ハミルトニアンは、単一の項、例えば、複数の被加数ハミルトニアンの総計ではなく、単一のパウリ演算子であってもよい。出力コード化ハミルトニアンは、パウリσZ演算子のみを含む必要がないことが理解されるべきである。例えば、ユニタリ変換(基底の変更)を構成要素の一部又は全てに適用することにより、例えばパウリσX及び/又はパウリσY演算子、更には他の(パウリ以外の)演算子を含む、異なる形式を有する出力コード化ハミルトニアンを取得できる。出力コード化ハミルトニアンの構築に関する更なる例及び技術的詳細は、後述の「更なる態様」の項で説明する。
【0105】
上記を考慮して、第1のハミルトニアンH1と出力コード化ハミルトニアンH2(第2のハミルトニアン)との総和によって与えられる量子ハミルトニアンである、総ハミルトニアンHTOTALを考慮することができる。したがって、
HTOTAL=H1+H2
ここで、
H1=Σ(全ての短距離量子ハミルトニアンHG
SR)+Σ(全てのゲート結合ハミルトニアン)である。
H1に関する上記の式の最初の総計及び2番目の総計は、それぞれ、論理ゲート回路に関連付けられた、全ての短距離量子ハミルトニアンHG
SRの総計及び全てのゲート結合ハミルトニアンの総計を概略的に表す。出力コード化ハミルトニアンH2のおかげで、HTOTALの基底空間は、出力yに対応する論理変数の構成(又は複数の構成)、換言すれば、未知の入力xをコード化する構成のみを含む量子状態の基礎を有する。したがって、未知の入力xは、量子システムを総ハミルトニアンHTOTALの基底状態に等しい(又はそれに近い)量子状態に発展させ、その後、量子システムの少なくとも一部を測定することによって決定できる。
【0106】
例えば、論理ゲート回路が、単一の入力xが出力yに対応するようなものである場合、総ハミルトニアンHTOTALは単一の基底状態を有し得る。この基底状態は、ゲートコード化ハミルトニアンから短距離量子ハミルトニアンHG
SRへのマッピングを介して、未知の入力xをコード化する。つまり、基底状態は、未知の入力xを決定できる情報を含んでいる。したがって、量子システムがHTOTALの基底状態又は基底状態に近いときに構成要素の少なくとも一部の測定を実行し、続いて前述のマッピングを反転することによって、論理ゲート回路の未知の入力xを決定することができる。同様に、総ハミルトニアンHTOTALが縮退した基底空間(複数の基底状態)を有する場合、同じ出力yに対応する複数の入力xが存在する可能性がある(つまり、論理ゲート回路は多対1関数を計算する可能性がある)。このような場合、同じ手順を適用して、未知の入力xの少なくとも1つを決定することができる。この場合も、測定を実行し、その後マッピングを反転する。
【0107】
測定に関しては、論理ゲート回路に関連付けられたゲートコード化ハミルトニアンH
Gのうちの1つの被加数ハミルトニアンに関連付けられた全ての構成要素(すなわち、量子システムの全ての一次構成要素)を、例えば、標準基底{|0>,|1>}で測定することができる。これらの測定から得られた読み出しに基づいて、本明細書に記載のマッピングを反転して、未知の入力x(例えば、因数分解される整数の素因数)を決定することができる。具体的には、各ローカルサブシステムS
Gの一次構成要素の測定から得られた測定結果を使用して、論理ゲート回路の各論理ゲートGについて、論理ゲート回路の出力がyであるという事実と一致するGの入力変数の値の構成(又は複数の構成)を決定することができる。具体的には、論理ゲート回路の入力に直接作用する全ての論理ゲートG(例えば、
図2では、これらは論理ゲート21、22、23、24及び25であり、
図10では、全ての論理ゲートは論理ゲート回路の入力に直接作用する)のサブセットに対してこれを実行し、論理ゲートのこの特定のサブセットのマッピングを反転することによって、出力yに対応する入力xを決定できる。
【0108】
或いは、未知の入力xを決定するには、一次構成要素のサブセットのみを測定するだけで十分な場合がある。例えば、論理ゲート回路の入力に直接作用するローカルゲートの前述のサブセットに対応するローカルサブシステムSGの一次構成要素のみを測定するだけで十分な場合がある。更に、ローカルサブシステムのこのサブセット内であっても、全ての一次構成要素を測定する必要はない場合がある。例えば、同じローカルサブシステムSG内では、SG内の1つ以上の一次構成要素の量子状態がSG内の残りの一次構成要素の量子状態によって決定されるという意味で、その一次構成要素間に依存関係が存在する可能性がある。このような場合、SGの構成要素のサブセットのみを測定するだけで十分な場合がある。
【0109】
いくつかの実施形態によれば、例えば一貫性チェックを実行するために、二次構成要素の少なくとも一部を測定することができる。
【0110】
本明細書に記載のように、総ハミルトニアンに現れる全てのハミルトニアン(すなわち、短距離量子ハミルトニアンHG
SR、ゲート相互接続ハミルトニアン、共通変数ハミルトニアン、出力コード化ハミルトニアン)は、Z演算子のみを含む可能性がある。したがって、総ハミルトニアンは、相互に可換なハミルトニアンから構成される総和である可能性がある。
【0111】
更に、総ハミルトニアンによって表される相互作用は、量子システムのサイズ(構成要素の数)とは独立した定数によって上限が設定されるそれぞれの大きさ(総ハミルトニアンに現れる係数によって表される)を有し得る。これは、より大きな論理ゲート回路、つまり、より大きな量子システムを考慮しても、量子計算方法を実現するために必要な相互作用の大きさ(相互作用強度)はそれに応じて増加せず、小さな一定の範囲内に留まる可能性があることを意味する。
【0112】
AND.FAゲート
【0113】
論理ゲート回路は、1つ以上のAND.FAゲートを含むことができる(「FA」は「全加算器」を表す)。AND.FAゲートは4つの入力変数u、v、s、c及び2つの出力変数s’、c’を有し、それぞれは0と1の値を取り得る。入力変数に対するAND.FAゲートの動作は、以下の関係によって定義される。
2c’+s’=s+c+u・v
上記の式は、入力変数の関数として出力変数の値を一意に定義する(例えば、u=v=s=c=1の場合、上記の式はc’=s’=1を意味する)。
【0114】
AND.FAゲートの可能なゲートコード化ハミルトニアンは、以下のように与えられる。
【数13】
ここで、σ
u、σ
v、σ
s、σ
c、σ
s’及びσ
c’は、それぞれ論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量である。これらのスピン観測可能量は、それぞれのキュービット又は古典的スピンz
u、z
v、z
s、z
c、z
s’及びz
c’に作用するパウリ演算子Z
u、Z
v、Z
s、Z
c、Z
s’及びZ
c’を表す可能性がある。換言すれば、前述のように、H
AND.FAは、古典的ゲートコード化ハミルトニアン又は量子ゲートコード化ハミルトニアンであり得る。ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAは8つの被加数ハミルトニアンを有する。したがって、H
AND.FAに関連付けられたローカルサブシステムS
AND.FAは8つの(一次)構成要素を含む。問題の構成要素は、各被加数ハミルトニアンに現れるインデックスに対応する(s,c,s’)、(u,s,c,s’)、(v,s,c,s’)、(u,v,s,c,s’)、(s,c,s’,c’)、(s,c’)、(c,c’)、(s’,c’)でラベル付けされ得る。関連する短距離ハミルトニアンは、H
AND.FA
SR=H
AND.FA
1-body+H
AND.FA
cons、つまり、単体ハミルトニアン及び制約ハミルトニアンの総和の形式を有する場合がある。ここで、H
AND.FA
1-body、H
AND.FA
consは、以下の通りである。
【数14】
単体ハミルトニアンH
AND.FA
1-bodyでは、各Z演算子は、H
AND.FAの対応する被加数ハミルトニアンの相互作用係数に等しい係数を有する。したがって、H
AND.FAの被加数ハミルトニアンとH
AND.FA
1-bodyの被加数ハミルトニアンとの間には直接の対応関係がある。制約ハミルトニアンH
AND.FA
cons(この例では4体ハミルトニアン)は、2つのパウリ演算子を含む総計であり、それぞれは4つのZ演算子の(テンソル)積であり、k
1及びk
2は正の係数である。
【0115】
ハミルトニアンHAND.FA
SRの基底空間は8個のキュービットの量子状態から構成される基底を有し、基底状態のそれぞれはゲートコード化ハミルトニアンHAND.FAの基底状態に対応する。ゲートコード化ハミルトニアンHAND.FAでは、最初の4つの被加数ハミルトニアンの積(-σsσcσs’)(-σuσsσcσs’)(-σvσsσcσs’)(σuσvσsσcσs’)が恒等に比例する(各インデックスが偶数回出現する)ことに留意されたい。これは、HAND.FA
SRの基底空間がこの条件と一致することを保証する制約ハミルトニアンHconsの第1項-k1Z(s,c,s’)Z(u,s,c,s’)Z(v,s,c,s’)Z(u,v,s,c,s’)の存在に反映されている。同様に、ゲートコード化ハミルトニアンHAND.FAでは、4つの被加数ハミルトニアンの第2のセットの積(-σsσcσs’σc’)(-σsσc’)(-σcσc’)(σs’σc’)が恒等に比例する。これは、HAND.FA
SRの基底空間もこの条件と一致することを保証する制約ハミルトニアンHconsの第2項-k2Z(s,c,s’,c’)Z(s,c’)Z(c,c’)Z(s’,c’)の存在に反映されている。
【0116】
8つの(一次)構成要素は、立方体の頂点に沿って配置することができ、(s,c,s’)、(u,s,c,s’)、(v,s,c,s’)及び(u,v,s,c,s’)は立方体の4つの下部頂点に位置し(立方体の第1プラケットを形成し、本明細書では「総和プラケット」と呼ばれる)、(s,c,s’,c’)、(s,c’)、(c,c’)及び(s’,c’)は立方体の4つの上部頂点に配置される(立方体の第2プラケットを形成し、本明細書では「キャリープラケット」と呼ばれる)。したがって、HAND.FA
consの第1項は立方体の4つの下部頂点によって形成される第1プラケットに作用し、第2項は4つの上部頂点によって形成される第2プラケットに作用する。これら8つの一次構成要素とは別に、ローカルサブシステムSAND.FAは二次構成要素を含む場合がある。AND.FAゲートが論理ゲート回路の別の論理ゲートに接続されている、及び/又は、論理ゲート回路の別の論理ゲートと共通変数を共有している場合、二次構成要素は、ゲート相互接続ハミルトニアン及び/又は共通変数ハミルトニアンによって作用され得る。二次構成要素は、例えば、8つの一次構成要素から構成される立方体(体心立方体)の中心に配置され得る。
【0117】
ハミルトニアンHAND.FA及びHAND.FA
SRに関する更なる技術的詳細と、関連するゲート結合ハミルトニアンの可能な形式については、「更なる態様」の項で説明する。
【0118】
図8は、AND.FAゲートの概略図を示す。入力変数u、v、s、c及び出力変数s’、c’は、それぞれAND.FAゲートの各脚(実線)に対応する。
【0119】
図9は、
図8に示すAND.FAゲートに関連付けられるローカルサブシステムS
AND.FAを示す。ローカルサブシステムS
AND.FAは、立方体の角に配置された、8つの一次構成要素(s,c,s’)、(u,s,c,s’)、(v,s,c,s’)、(u,v,s,c,s’)、(s,c,s’,c’)、(s,c’)、(c,c’)及び(s’,c’)を含む。それぞれ901、902、903及び904で示される構成要素(s,c,s’)、(u,s,c,s’)、(v,s,c,s’)及び(u,v,s,c,s’)は、第1プラケット(「総和プラケット」)を形成する立方体の4つの下部頂点に位置する。それぞれ911、912、913及び914で示される構成要素(s,c,s’,c’)、(s,c’)、(c,c’)及び(s’,c’)は、第2プラケット(「キャリープラケット」)を形成する4つの上部頂点に配置されている。ローカルサブシステムS
AND.FAは、立方体の中心に配置された二次構成要素950を含む。
【0120】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の論理ゲート回路の論理ゲートは、1つ以上のANDゲート及び1つ以上のAND.FAゲートを含み、具体的にはそれらから構成される。複数の論理ゲートの各論理ゲートは、ANDゲート又はAND.FAゲートであり得る。このような回路は、例えば、以下に説明するように、整数を因数分解するための量子計算方法という観点から興味深いものとなり得る。
【0121】
整数因数分解
【0122】
実施形態によれば、論理ゲート回路は乗算関数(乗算回路)を計算することができる。具体的には、論理ゲート回路は、2つの整数p及びqの積を計算することができる。回路の入力xには2つの整数p及びqのバイナリ表現が含まれる場合があり、出力yには積n=p・qのバイナリ表現が含まれる場合がある。したがって、論理ゲート回路を反転するタスクは、整数nを与え、n=p・qとなるように整数p及びqを決定することになる。p及びqが素数の場合、数値nは半素数と言われる。したがって、論理ゲート回路(乗算回路)を反転するタスクには、整数nの素因数を決定する問題が含まれる。したがって、本明細書に記載の実施形態は、素因数分解のための量子計算方法を含む。
【0123】
実施形態によれば、乗算回路は、各論理ゲートがANDゲート又はAND.FAゲートであるようなものであってもよい。
図10は、乗算関数を計算する論理ゲート回路1000、すなわち乗算回路を示す。論理ゲート回路の各論理ゲートは、ANDゲート又はAND.FAゲートのいずれかである。ANDゲートは1010、1011、1012及び1013で示される。AND.FAゲートは、1020、1021、1022及び1023(AND.FAゲートの第1行)、1030、1031、1032及び1033(AND.FAゲートの第2行)、並びに、1040、1041、1042及び1043(AND.FA ゲートの第3行)で示される。論理ゲート回路1000の入力は、バイナリ表現p=p
02
0+p
12
1+p
22
2+・・・及びq=q
02
0+q
12
1+q
22
2+・・・で提供される2つの整数p及びqによって構成され、p
i及びq
iは、ビットである。
図10に示す簡単な例では、p及びqは4ビット整数であるが、乗算回路を任意の整数に一般化することはすぐにできる。乗算回路の出力は、整数n=n
02
0+n
12
1+n
22
2+・・・(n=p・q)である。
図10では、計算は上から下に進む。
【0124】
図11は、
図10の論理ゲート回路100に関連付けられた量子システム1100を示す。量子システム1100は、
図10に示す乗算回路のANDゲートに関連付けられたローカルサブシステム1110、1111、1112及び1113と、ローカルサブシステム1120、1121、1122及び1123と、ローカルサブシステム1130、1131、1132及び1133と、
図10の乗算回路のAND.FAゲートに関連付けられたローカルサブシステム1140、1141、1142及び1143と、を含む。
図11のローカルサブシステムは、前述のように、それぞれローカルサブシステムS
AND及びS
AND.FAであってもよく、本明細書に記載のマッピングに従って構築されてもよい。具体的には、ANDゲートに関連付けられたローカルサブシステム1110、1111、1112及び1113のそれぞれは、例えば
図4に示すような、プラケットに沿って配置された4つの構成要素から構成され得る。AND.FAゲートに関連付けられたローカルサブシステム1120、1121、1122、1123、1130、1131、1132、1133、1140、1141、1142及び1143のそれぞれは、立方体に沿って配置された8つの一次構成要素と、例えば
図9に示すように、立方体の中心に配置された二次構成要素とから構成され得る。したがって、量子システムは、垂直に積み重ねられた2層の構成要素(一次構成要素)を含み得る。各層は2次元正方格子であり、二次構成要素が2つの層の間に配置される。量子システムのこの形式を
図14に更に示す。
【0125】
図10において論理ゲート間の実線で表される2つの論理ゲート間の各接続について、
図11において対応する実線で示される、対応するローカルサブシステムを結合するために、対応するゲート相互接続ハミルトニアンが提供され得る。論理ゲート間の例示的な接続は、
図10の1050に示されており、対応するゲート相互接続ハミルトニアンは、
図11の1150に示されている。
図10の乗算回路では、接続は隣接する論理ゲート間にのみ存在する(換言すれば、乗算回路では離れたゲート間に長距離接続は存在しない)ため、全てのゲート相互接続ハミルトニアンは短距離ハミルトニアンになる。
【0126】
更に、
図11においてローカルサブシステムを接続する破線によって示される共通変数ハミルトニアンは、対応する論理ゲートが共通の入力変数を有するローカルサブシステムを結合するために提供され得る。例えば、
図10では変数q
0が論理ゲート回路の全てのANDゲートに共通であり、ANDゲートは乗算回路のゲート1010、1011、1012及び1013の最上行を形成していることが分かる。前述のように、論理変数が一対の論理ゲートに共通であることは、論理ゲート回路に課せられる付帯条件として理解できる。したがって、
図10の乗算回路内のANDゲートの各対に対して、変数q
0が問題のANDゲートのペアに対する共通の入力変数であることを強制するための対応する副条件が提供され得る。ただし、結果として得られる副条件は全て互いに独立しているわけではない。換言すれば、そのような全ての副条件のセットには冗長性が含まれる。例えば、q
0が第1のANDゲート1010及び第2のANDゲート1011の共通変数であることを要求し、更にq
0が第2のANDゲート1011及び第3のANDゲート1012の共通変数であることを要求することは、q
0が第1のANDゲート1010及び第3のANDゲート1012の共通変数でもあることを意味する。したがって、第1のANDゲート1010及び第3のANDゲート1012に関する後者の副条件は、対応する共通変数ハミルトニアンによって量子システム内で明示的に強制される必要はない。したがって、
図11に示すように、共通変数q
0に関連する全ての副条件を課すためのANDゲートの行に対応する、ローカルサブシステム1110、1111、1112及び1113の行に対応するチェーンに沿って配列された共通変数ハミルトニアン1151、1152及び1153のセットを提供すれば十分である。特に、共通変数ハミルトニアン1151、1152及び1153のチェーンには、これらの共通変数ハミルトニアンのそれぞれが互いに隣接するローカルサブシステムを結合するため、短距離ハミルトニアンのみが含まれる。同様の考慮事項が残りの共通変数にも当てはまる。例えば、q
1は、乗算回路のAND.FAゲート(ゲート1020、1021、1022及び1023)の最上行の共通変数であり、これは、ローカルサブシステム1120、1121、1122及び1123の対応する行に沿ってチェーン状に配置された共通変数ハミルトニアン1161、1162及び1163のセットによって強制される。繰り返すが、結果として生じる共通変数ハミルトニアンのチェーンには、隣接するローカルサブシステムのペアのみが結合されているため、短距離ハミルトニアンのみが含まれる。更に別の例示的な例として、p
0は、乗算回路の右側にある斜めに配置されたゲートのセット(すなわち、ゲート1010、1020、1030及び1040)の共通変数であり、これは、対応する斜めに配置されたローカルサブシステム1110、1120、1130及び1140に沿ってチェーン状に配置された、共通変数ハミルトニアン1171、1172及び1173によって強制される。繰り返すが、結果として生じる共通変数ハミルトニアンのチェーンには、隣接するローカルサブシステムのペアのみが結合されているため、短距離ハミルトニアンのみが含まれる。
【0127】
上記を考慮すると、本明細書に記載のマッピングを
図10に示す乗算回路に適用すると、結果として得られるゲート結合ハミルトニアンは全て短距離ハミルトニアンとなり得る。
【0128】
短距離量子ハミルトニアンHAND
SR及びHAND.FA
SRを構築するための本明細書に記載のマッピング、並びに、ゲート相互接続及び論理ゲートの共通変数を反映するゲート結合ハミルトニアンの構築は、前述の乗算回路に適用することができる。同様に、因数分解される整数nは、出力コード化ハミルトニアンによって量子システムにコード化できる。この場合、出力コード化ハミルトニアンは2体ハミルトニアンになる。量子システムは、全ての短距離量子ハミルトニアンHAND
SR及びHAND.FA
SR、全てのゲート結合ハミルトニアン並びに出力コード化ハミルトニアンの総計である総ハミルトニアンHTOTALの基底状態まで(又は少なくともそれに向かって)発展させることができる。その後、測定を実行して読み出しを与え、それに基づいて、未知の入力、つまりnの未知の素因数を決定できる。これにより、整数n(乗算回路の出力)に基づいて、素因数p及びq(未知の入力)を計算する量子計算手法が得られる。
【0129】
図12は、整数の素因数分解を実行するための装置1200を示す。装置1200は、古典的計算システム1210、量子処理ユニット1220、測定ユニット1230、及び、破線で示すローカルサブシステムにグループ化され得る構成要素を含む量子システム1250を含む。量子システム1250は、本明細書に記載の任意の量子システム、例えば、量子システム300(
図3参照)、量子システム700(
図7参照)又は量子システム1100(
図11参照)であってよい。
【0130】
古典的計算システム1210は、量子処理ユニット1220及び測定ユニット1230に接続される。古典的計算システム1210は、量子処理ユニット1220及び/又は測定ユニット1230に命令を送信するように構成され得る。古典的計算システム1210は、量子処理ユニット1220及び/又は測定ユニット1230から情報を受信するように構成され得る。例えば、測定ユニット1230によって得られた測定結果は、古典的計算システム1210に送信され得る。古典的計算システム1210は、論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するように構成され得る。論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成され得る。古典的計算システム1210は、本明細書に記載のように、論理ゲートからゲートコード化ハミルトニアンを決定するように構成することができ、ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素に関連付けられる。古典的計算システム1210は、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用(例えば、総ハミルトニアンによって表される相互作用)の第1のセットを決定するように構成され得る。古典的計算システム1210は、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用(例えば、出力コード化ハミルトニアンによって表される相互作用)の第2のセットを決定するように構成され得る。
【0131】
量子処理ユニット1220及び測定ユニット1230は、量子システム1250に作用するように構成され得る。量子処理ユニット1220は、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含む、量子システム1250を発展させるように構成され得る。測定ユニット1230は、量子システム1250の少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成され得る。古典的計算システム1210は、読み出しに基づいて整数の素因数を決定するように構成され得る。
【0132】
装置1200は、より一般的には、論理ゲート回路を反転するための装置であり得る。装置1200は、本明細書に記載の実施形態に係る論理ゲート回路を反転する量子計算方法を実行するように構成され得る。
【0133】
構成要素の空間的配置
【0134】
量子システムのローカルサブシステムは、論理ゲート回路内の論理ゲートの空間的配置を反映する方法で空間的に配置することができる。これを
図7及び
図11に示す。
図7および
図11を参照すると、ローカルサブシステムが配置される幾何学的構造は、関連する論理ゲート回路内の論理ゲートの空間的配置に対応していることが分かる(例えば、
図2及び
図10参照)。したがって、論理ゲート回路内で論理ゲートG
2が論理ゲートG
1の近くに位置する場合、関連するローカルサブシステムも量子システム内で互いに近くに位置する可能性がある。論理ゲート回路の2つの論理ゲート間の接続(本明細書に記載のように、第1の論理ゲートの出力変数が第2の論理ゲートの入力変数として機能することを意味する)は、2つの論理ゲートが論理ゲート回路の遮断距離D
circuit以下の距離だけ互いに離れている場合、短距離接続と言われる。遮断距離D
circuitは一定の距離であってもよい。遮断距離D
circuitは、論理ゲート回路の論理ゲートの特定の配置における論理ゲート間の最大ゲート距離に比べてはるかに小さくなり得る。例えば、遮断距離D
circuitは、最大ゲート距離の30%以下、具体的には20%以下、より具体的には10%以下であってもよい。論理ゲート回路内の論理ゲート間の全ての接続が短距離接続である場合、論理ゲート回路は短距離ゲート相互接続のみを含むと言われる。論理ゲート回路におけるゲート間の短距離接続に対応するゲート相互接続ハミルトニアンは、短距離ハミルトニアンであってもよい。短距離ゲート相互接続のみを含む論理ゲート回路の場合、関連する量子システムに作用する全ての対応するゲート相互接続ハミルトニアンは短距離ハミルトニアンであり得る。例えば、本明細書に記載の乗算回路は短距離接続のみを含むため、関連するゲート相互接続ハミルトニアンは全て短距離ハミルトニアンである。
【0135】
更に、論理ゲート回路の構造は、関連する量子システムに作用する全ての共通変数ハミルトニアンが同様に短距離ハミルトニアンであるようなものであってもよい。論理変数vについて、入力変数としてvを有する論理ゲート回路の全ての論理ゲートのセットを考える。このセットから取られた論理ゲートの各ペアは、本明細書では共通変数副条件と呼ばれる、「vは論理ゲートX及び論理ゲートYの共通変数である」という形式の副条件を生じさせる。変数vに関連する全てのこのような共通変数副条件から構成されるセットComm-Var(v)には冗長性が含まれている。つまり、セット内の全ての共通変数副条件が互いに独立しているわけではない。例えば、「vは論理ゲートG1及び論理ゲートG2の共通変数である」という第1の副条件と、「vは論理ゲートG2及び論理ゲートG3の共通変数である」という第2の副条件は、「vは論理ゲートG1及び論理ゲートG3の共通変数である」という第3の副条件を意味する。変数vの共通変数副条件の最小サブセットは、変数vの残りの全ての共通変数副条件を意味する共通変数副条件のサブセットである。論理ゲート回路は、論理ゲート回路内の論理ゲートの共通変数である各論理変数について、その論理変数の共通変数副条件の最小サブセット内の全ての副条件が、論理ゲート回路の遮断距離Dcircuit以下の距離だけ互いに離れた論理ゲートを含む場合、短距離共通変数副条件のみを含むと言われる。論理ゲート回路が短距離共通変数副条件のみを含む場合、対応する全ての共通変数ハミルトニアンは短距離ハミルトニアンである可能性があります。例えば、前述のように、本明細書に記載の乗算回路は、短距離共通変数副条件のみを含むため、関連する共通変数ハミルトニアンは全て短距離ハミルトニアンである。
【0136】
実施形態によれば、論理ゲート回路は、短距離ゲート相互接続のみを含み得る、及び/又は、短距離共通変数副条件のみを含み得る。具体的には、乗算回路は、短距離ゲート相互接続のみを含む得る、及び/又は、短距離共通変数副条件のみを含み得る。
【0137】
量子システムの発展
【0138】
量子計算方法は、量子システムの構成要素を初期状態に初期化すること、量子システムを発展させること、及び、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含むことができる。量子システムの発展は、初期状態から最終状態まで続く可能性がある。最終状態は、総ハミルトニアンHTOTALの基底状態と少なくともほぼ等しくてもよい。量子システムが最終状態にあるときに、構成要素の少なくとも一部について測定を行うことができる。量子計算を実行する装置は、量子システムを初期状態に初期化し、及び/又は、量子システムの発展を制御するための量子処理ユニットを含むことができる。この装置は、量子システムの測定を実行するための測定ユニットを含んでもよい。
【0139】
本明細書に記載の実施形態によれば、量子計算方法は、総ハミルトニアンHTOTALの基底状態に向かって量子システムを発展させることを含む。量子システムを発展させることには、総ハミルトニアンによって表される量子相互作用(具体的には、本明細書に記載の短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセット)を実行することが含まれ得る。量子相互作用を実行する行為は、量子システム内の量子相互作用を物理的に実現又は操作するために1つ以上の演算を実行することとして理解できる。1つ以上の演算は、量子システムに結合された量子処理ユニット(例えば、レーザを含む)によって実行され得る。
【0140】
量子計算中の量子システムの発展は、アナログ駆動、特に断熱スイープ(量子アニーリング)によって制御され得る。断熱駆動(量子アニーリング)の背景は、欧州特許第3113084号明細書に記載されている。或いは、アナログ駆動は、追加の反断熱部分を有するハミルトニアンを使用する反断熱駆動であってもよく、この技術の背景は国際公開第2020/259813号に記載されている。欧州特許第3113084号明細書及び国際公開第2020/259813号は、参照することにより組み込まれる。
【0141】
量子システムを発展させることは、量子システムを初期量子状態に初期化することを含んでもよい。初期量子状態は、量子システムの初期ハミルトニアンHinitの基底状態であってもよい(又は、少なくともそのような基底状態に近いものであってもよい)。駆動ハミルトニアンとも呼ばれる初期ハミルトニアンHinitは、例えば(ただし範囲を限定するものではない)、ハミルトニアンΣiXiなど、既知の基底状態を有するハミルトニアンであってもよい。Xiは量子システムのi番目の構成要素に作用するパウリσX演算子である。初期ハミルトニアン及び総ハミルトニアンは互いに可換ではない可能性がある。例えば、初期ハミルトニアンにはσX演算子のみが含まれる場合があり、総ハミルトニアンにはσZ演算子のみが含まれる場合がある。
【0142】
量子システムを発展させることは、初期ハミルトニアンから中間ハミルトニアンを介して総ハミルトニアンHTOTALに徐々に移行することを含むことができる。量子ハミルトニアンH(t)のファミリーを考慮することができる。ここで、tは初期時間tinitから最終時間tfinまでの範囲の時間パラメータであり、t=tinitの場合、H(t)はHinitに等しくなり、t=tfinの場合、H(t)はHTOTALに等しくなる。tinitとtfinとの間の時間tの場合、ハミルトニアンH(t)は中間ハミルトニアンである。ハミルトニアンH(t)は、初期ハミルトニアンHinit及び総ハミルトニアンHTOTALの線形結合であり得る。より一般的には、ハミルトニアンH(t)は、初期ハミルトニアンHinitと、論理ゲート回路に関連付けられた短距離量子ハミルトニアンHG
SRと、論理ゲート回路に関連付けられたゲート相互接続ハミルトニアンと、論理ゲート回路に関連付けられた共通変数ハミルトニアンと、出力コード化ハミルトニアンと、を含む線形結合であり得る。線形結合内の各ハミルトニアンには係数が与えられる場合がある。線形結合におけるハミルトニアンの係数は、時間依存関数であり得る。各時間依存関数は、各ハミルトニアンの強度を表すことができる。時間依存関数は、時間の経過に伴うハミルトニアンの相対的な強度を記述できる。例示的な例では(ただし、範囲を限定するものではない)、tinit=0及びtfin=1であり、ハミルトニアンH(t)は以下の形式を有する可能性がある。
H(t)=(1-t)Hinit+tHTOTAL
上記の式において、t=0の場合、H(t)はHinitに等しく、t=1の場合、H(t)はHTOTALに等しくなる。
【0143】
初期ハミルトニアンから総ハミルトニアンへの移行は、初期ハミルトニアンのフェードアウト及び総ハミルトニアンのフェードインを含むことができる。フェードアウトには、時間の経過とともに減少する時間依存関数によって表される、対応するハミルトニアンダウンの強度の調整が含まれる場合がある。逆に、フェードインには、時間の経過とともに増加する時間依存関数によって記述される、対応するハミルトニアンの強度の調整が含まれる場合がある。
【0144】
量子システムを発展させることは、量子システムの断熱発展(量子アニーリング)を実行することを含むことができる。初期ハミルトニアンから総ハミルトニアンへの段階的な移行は、断熱的に実行されてもよい。例えば、特定の理論に束縛されるつもりはないが、量子力学の断熱定理を考慮して、量子システムの量子状態は、基底状態になるか、初期ハミルトニアンから総ハミルトニアンへの移行が十分にゆっくりと実行される場合、初期時間から最終時間までの時間パラメータtの全ての値について、少なくとも全てのハミルトニアンH(t)の基底状態によってよく近似される。したがって、断熱発展(量子アニーリング)は、初期時間の初期量子状態を最終時間の最終量子状態に発展させる。最終量子状態は、総ハミルトニアンの基底状態であるか、少なくとも総ハミルトニアンの基底状態式でよく近似される。
【0145】
いくつかの実施形態によれば、中間ハミルトニアンH(t)は、初期ハミルトニアンHinit、総ハミルトニアンHTOTAL及び追加のハミルトニアンHcount(反断熱ハミルトニアン)の線形結合であり得る。ハミルトニアンH(t)は、初期ハミルトニアンHinitと、論理ゲート回路に関連付けられた短距離量子ハミルトニアンHG
SRと、論理ゲート回路に関連付けられたゲート相互接続ハミルトニアンと、論理ゲート回路に関連付けられた共通変数ハミルトニアンと、出力コード化ハミルトニアンと、反断熱ハミルトニアンHcountと、を含む線形結合であり得る。前記線形結合における各ハミルトニアンには係数を与えることができる。前述のように、線形結合におけるハミルトニアンの係数は時間依存関数であり得る。例示的な例では(ただし、範囲を限定するものではない)、ハミルトニアンH(t)は以下の形式を有する可能性がある。
H(t)=A(t)Hinit+B(t)HTOTAL+C(t)Hcount
ここで、A(t)、B(t)及びC(t)は、A(tinit)=1=B(tfin)で、A(tfin)=C(tfin)=B(tinit)=C(tinit)=0であるような時間依存係数である。反断熱ハミルトニアンHcountは、初期ハミルトニアンHinitと可換でない場合、及び/又は、総ハミルトニアンHTOTALと可換でない場合がある。例えば、初期ハミルトニアンにはσX演算子のみが含まれる場合があり、総ハミルトニアンにはσZ演算子のみが含まれる場合があり、反断熱ハミルトニアンHcountにはσY演算子のみが含まれる場合がある。例えば、反断熱ハミルトニアンHcountはΣibiYiの形式を有する場合がある。ここで、Yiは量子システムのi番目の構成要素に作用するパウリσY演算子であり、各biは係数である。反断熱ハミルトニアンHcountを含む中間ハミルトニアンを有することにより、初期ハミルトニアンを総ハミルトニアンに発展させるための可能な「パス」のより広い空間が利用可能になる。このより大きな空間を利用して、初期ハミルトニアンを総ハミルトニアンに発展させるのに必要な時間を短縮できる。したがって、計算問題を解くためのより高速な実行時間を提供することができる。具体的には、反断熱ハミルトニアンを含む中間ハミルトニアンを経由することにより、初期ハミルトニアンを、発展を通じて量子システムの基底状態に十分に近い状態に維持したまま、断熱過程(又は、非断熱過程、反断熱過程)に従って総ハミルトニアンに発展させることができる。反断熱ハミルトニアンを含む中間ハミルトニアンを経由することにより、初期ハミルトニアンから総ハミルトニアンへの発展は、断熱的に、つまり断熱定理によって許容される速度よりも速く実行され、同時に総ハミルトニアンの基底状態に近い基底状態に到達することができる。
【0146】
量子計算中の量子システムの発展は、デジタル駆動、特にゲートベースの量子計算によって制御され得る。ゲートベースの量子計算では、量子システムの初期状態にユニタリ演算子のシーケンスを適用することによって量子計算が駆動される。ユニタリ演算子のシーケンスとそのパラメータは、少なくとも1つの前の回で量子システムを読み出し(測定し)、古典的なフィードフォワードを使用して後の回で最適化されたシーケンスを適用することにより、N回の演算で最適化できる。ゲートベースの量子計算技術の背景は、国際公開第2020/156680号に記載されている。国際公開第2020/156680号は、参照することにより組み込まれる。
【0147】
ゲートベースの量子計算の目的は、まず量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)でエネルギーE
min=min<Ψ|H
TOTAL|Ψ>を最小化することである。最小の(又は許容可能な低さの)エネルギーが決定されると、構成要素が、最小の(許容可能な低さの)エネルギーを有する量子状態にあるときに、測定によって読み出される。問題の量子状態は、総ハミルトニアンH
TOTALの基底状態に近いため、読み出しには、因数分解される整数yの素因数に関する情報が含まれる(より一般的には、論理ゲート回路が乗算回路ではない場合、読み出しには、出力yに対応する未知の入力に関する情報が含まれる)。ここで、以下の式が成り立つ。
【数15】
ここで、ユニタリ演算子はそれぞれのハミルトニアンの伝播関数であり、|init>は初期状態である。つまり、U
Hinit(α)=exp(-iαH
init)であり、U
H
TOTAL(β)=exp(-iβH
TOTAL)であることを意味する。最小化は、全てのパラメータα
1・・・α
m、β
1・・・β
m(変分パラメータ)に亘って行われる。1つの「グローバル」変分パラメータβを総ハミルトニアンに割り当てる演算子U
H
TOTAL(β)の代わりに、総ハミルトニアンの各項に対して異なる変分パラメータを考慮することも可能であり、結果として、U
H
TOTAL(β
(1),β
(2),β
(3),・・・)として示される複数のパラメータに依存する演算子U
H
TOTALが得られる。演算子U
H
TOTAL(β
(1),β
(2),β
(3)・・・)は演算子の積である場合があり、積内の各演算子は、形式exp(-iβ
(j)A)の伝播関数であり、独自の個々の変分パラメータβ
(j)を有する。ここで、Aは、(i)短距離量子ハミルトニアンH
G
SR、(ii)ゲート相互接続ハミルトニアン、共通変数ハミルトニアン、又は、出力コード化ハミルトニアンである。初期状態|init>は、例えば、本明細書に記載の初期ハミルトニアンH
initの基底状態であってもよい。
【0148】
最小化は、α1・・・αm、β1・・・βmなどの変分パラメータを、異なる演算回で個別に変更する変分法によって実行され得る。異なる演算回で得られたエネルギーを比較すると、より小さなエネルギーをもたらしたユニタリ演算子のシーケンスを選択し、選択したシーケンスを使用して小さな摂動によってパラメータを更に変更することができる。このようにして、最適化の次の回は、フィードフォワードされる前の回の古典的な情報に依存する可能性があり、エネルギーは常に低下するか、少なくとも増加しない。このような変分法の詳細は、国際公開第2020/156680号に記載されている。
【0149】
ユニタリ演算子UHinitは局所的であり、単一キュービットの回転及び位相回転によって実現可能である。ユニタリ演算子UH
TOTAL、より具体的には各制約ハミルトニアンの伝播関数は、国際公開第2020/156680号に記載されているように、CNOTゲート及び単一キュービット回転(Rz)によって実現可能である。
【0150】
本明細書に記載の量子計算方法は、ユニタリ演算子のシーケンスを決定することを含み得る。シーケンス内のユニタリ演算子は、以下のユニタリ演算子のセットから取得できる。すなわち、初期ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子、短距離量子ハミルトニアンHG
SRの関数であるユニタリ演算子、ゲート相互接続ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子、共通変数ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子、及び、出力コード化ハミルトニアンの関数であるユニタリ演算子である。関数は指数関数であってもよい。ユニタリ演算子は、前述のハミルトニアンの伝播関数であり得る。関数には変分パラメータが含まれる場合がある。ユニタリ演算子のシーケンス内の各ユニタリ演算子には、独自の変分パラメータが付属する場合がある。
【0151】
量子システムを発展させることは、ユニタリ演算子のシーケンスを量子システムに、具体的には量子システムの初期状態に適用することを含み得る。初期状態は、初期ハミルトニアンの基底状態であってもよい。ユニタリ演算子のシーケンスを適用する際、ユニタリ演算子のパラメータは第1の構成であってもよい。本方法は、第1の読み出しを取得するためにユニタリ演算子のシーケンスを適用した後、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定することを含み得る。本方法は、第1の読み出しから第1のエネルギーを導出することを含んでもよく、第1のエネルギーは、ユニタリ演算子のシーケンスを初期状態に適用した結果得られる量子状態の総ハミルトニアンのエネルギーであり得る。
【0152】
本方法は、ユニタリ演算子の第2のシーケンスを量子システムに、具体的には量子システムの初期状態に適用することを含み得る。ユニタリ演算子の第2のシーケンスを適用する際、ユニタリ演算子のパラメータは、第1の構成とは異なる第2の構成であってもよい。本方法は、第2の読み出しを取得するためにユニタリ演算子の第2のシーケンスを適用した後、量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定することを含み得る。本方法は、第2の読み出しから第2のエネルギーを導出することを含んでもよく、第2のエネルギーは、ユニタリ演算子の第2のシーケンスを初期状態に適用した結果得られる量子状態の総ハミルトニアンのエネルギーであり得る。本方法は、第1及び第2の読み出しに応じて第1又は第2のシーケンスを選択すること、具体的には第1のエネルギーが第2のエネルギーよりも低い場合には第1のシーケンスを選択し、第2のエネルギーが第1のエネルギーよりも小さい場合には第2のシーケンスを選択することを含んでもよい。
【0153】
本方法は、ユニタリ演算子の第3のシーケンスを量子システムに、具体的には量子システムの初期状態に適用することを含み得る。ユニタリ演算子の第3のシーケンスを適用する際、ユニタリ演算子のパラメータは第3の構成であってもよく、第1のシーケンスが選択された場合、第3の構成は第1の構成の変形であり、第2のシーケンスが選択された場合、第3の構成は第2のシーケンスの変形である。本方法は、N回の演算を含むことができ、N≧2であり、N回の演算の各回は、パラメータがi番目の構成にあるユニタリ演算子のi番目のシーケンスの適用を含み、i番目の読み出しを取得するために量子システムの構成要素の少なくとも一部を測定することを含み得る。本方法は、i番目の読み出しからi番目のエネルギーを導出することを含んでもよく、i番目のエネルギーは、ユニタリ演算子のi番目のシーケンスを初期状態に適用した結果得られる量子状態の総ハミルトニアンのエネルギーであり得る。パラメータのi番目の構成は、前の回の演算の1つ以上の読み出し(又は1つ以上のエネルギー)に基づいて決定され得る。i番目の構成は、選択された構成に対応する量子状態のエネルギーが減少する(又は少なくとも増加しない)ように決定され得る。
【0154】
本方法は、N回目の演算の後、ユニタリ演算子の最終シーケンスを量子システムに、具体的には初期状態に適用して、量子システムを最終状態に発展させることを含んでもよい。最終シーケンスは、そのパラメータの構成がN回の演算で決定されたN個のエネルギーの最小値を提供するように選択され得る。本方法は、量子システムが最終状態にあるときに、量子システム又はその少なくとも一部を測定することを含み得る。本方法は、この測定値の読み出しから、因数分解される整数の素因数(又は、より一般的には、論理ゲート回路の既知の出力yに対応する未知の入力x)を決定することを含み得る。
【0155】
量子システムを発展させることは、総ハミルトニアンの基底状態に向けて量子システムを冷却することを含む場合があり、これは冷却ユニットによって実行することができる。量子ハミルトニアンの基底状態は、温度がゼロの量子状態である。したがって、量子システムを十分に低い温度まで冷却することによって、少なくとも近似的に、総ハミルトニアンの基底状態を準備可能である。このような冷却プロセスは、例えば断熱、反断熱又はゲートベースの発展を更に実行する必要なしに、量子システムを総ハミルトニアンの基底状態(又はそれに近い状態)にすることができる。
【0156】
量子システムの例示的な実行
【0157】
本明細書に記載のように、量子システム及びその構成要素(キュービットなど)は物理的実体である。以下、量子システム/構成要素、及び、量子計算方法に含まれる相互作用の具体的な実行について説明する。しかしながら、本方法は、前記物理的実体及びそれらの相互作用の他の特定の実行に対して行うことができ、例示的な実行は限定的なものとはみなされない。
【0158】
構成要素は、超伝導キュービット、例えばトランスモン又は磁束キュービットであり得る。超伝導キュービットは、一次及び二次超伝導ループを含み得る。一次超電導ループ内をそれぞれ時計回り及び反時計回りに伝播する超伝導電流は、超電導キュービットの量子基底状態|1>及び|0>を形成することができる。更に、二次超伝導ループを通る磁束バイアスは、量子基底状態|0>及び|1>を結合可能である。
【0159】
単体ハミルトニアンは、超伝導キュービットと相互作用する複数の磁束によって実現可能である。磁束又は磁束バイアスは、超伝導キュービットの一次超伝導ループ及び二次超伝導ループを通って延びることがある。単体ハミルトニアンのパラメータは、複数の磁束又は磁束バイアスを調整することで調整可能である。或いは、単体ハミルトニアンは、複数の超伝導キュービットと相互作用する複数の電荷によって実現可能である。問題ハミルトニアンのパラメータは、複数の電荷バイアスフィールドを調整することで調整可能である。単体駆動ハミルトニアンを実現するために(例えば、断熱発展の観点から)、超伝導キュービットの一次超伝導ループを通る磁束バイアスは、基底状態|0>と|1>とが同じエネルギーを有する、すなわち、これらの基底状態のエネルギー差がゼロであるように設定され得る。更に、二次超伝導ループを通る磁束バイアスは、基底状態|0>と|1>とを結合可能である。その結果、hσx
(k)の形式の駆動ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンと、したがってHdrive=hΣkσx
(k)の形式の駆動ハミルトニアンも、複数の超伝導キュービットに対して実現可能である。
【0160】
d個のキュービットのグループ(例えば、プラケット)に作用するd体ハミルトニアン(ゲート相互接続ハミルトニアン、共通変数ハミルトニアン、出力コード化ハミルトニアン)は、補助キュービットを使用して実現することができる。補助キュービットは、d個のキュービットのグループ内に(例えば、プラケットの中心に)配置され得る。ckmσz
(k)σz
(m)の形式のキュービット間の相互作用は、結合ユニット、例えば誘導結合ユニットによって実現可能である。結合ユニットは、超伝導量子干渉デバイスを含む。超伝導量子干渉デバイスに調整可能な磁束バイアスを適用すると、係数ckmを調整できる。d体ハミルトニアンは、C(σz
(1)+σz
(2)+・・・σz
(d)-2σz
(p)-1)2によって実現可能である。これには、|0>及び|1>の量子基底状態間に課されたエネルギー差に対応する形式σz
(k)σz
(m)及び単体σz
(l)項の対相互作用のみが含まれる。ここで、σz
(p)は補助キュービットを表す。或いは、プラケットハミルトニアンのようなd体ハミルトニアンは、例えばトランスモンキュービットとして3島超伝導デバイスを使用するなど、補助キュービット無しで実現することもできる。結合ユニットに2つの追加の超伝導量子干渉デバイスを統合し、プラケットの4つのキュービットをコプレーナ共振器に容量結合することによって、-Cσz
(1)σz
(2)σz
(3)σz
(4)の形式の制約ハミルトニアンを実現可能である。結合係数Cは、2つの追加の超電導量子干渉デバイスを介した時間依存性の磁束バイアスによって調整可能である。
【0161】
超伝導キュービットのキュービット状態|0>及び|1>は、複数の超伝導量子干渉デバイス、具体的にはN個のヒステリシスDC超伝導量子干渉デバイスと、バイアス線によって制御されるN個のRF超伝導量子干渉デバイスのラッチ(バイアス線の数は√Nに従って変化する)と、を含む測定デバイスを使用して、高い忠実度で測定可能である。
【0162】
或いは、量子システムは、キュービットとしてトラップされたイオンのシステムを使用して実現してもよい。この場合、キュービットの量子基底状態|0>及び|1>は、ゼーマン多様体若しくは超微細多様体の2つの準位によって、又はCa40+などの、アルカリ土類若しくはアルカリ土類のような正荷電イオンの禁制光学遷移を横切って形成される。個々のイオンは、空間的分離又はエネルギー的分離によって対処可能である。空間的分離の場合には、音響光学偏向器、音響光学変調器、マイクロミラーデバイスなどを通過した、及び/又は、反射したレーザビームの使用が含まれる。エネルギー的分離の場合には、内部遷移周波数を変化させる磁場勾配の使用が含まれ、これにより、エネルギー差による選択、つまり印加磁場の離調が可能になる。単体ハミルトニアンは、内部遷移と共鳴又は非共鳴するレーザフィールド又はマイクロ波によって、或いは、空間磁場の差によって実現可能である。イオン間の相互作用は、フォノンバスを介して伝達可能である。この目的のために、フォノンの青側及び/又は赤側のバンド遷移に関して離調されたレーザ又はマイクロ波を使用可能である。レーザの強度及び離調により、相互作用の強度を調整できる。リュードベリ励起による直接相互作用も使用可能である。イオンは、イオンを2つの量子基底状態のうちの1つに決定論的に移すレーザを使用する光ポンピングによって初期化(初期状態に準備)することができる。このプロセスはエントロピーを減少させるため、イオンの内部状態の冷却とみなすことができる。単体ユニタリ演算子exp(itσx)又はexp(itσz)は、制御された磁気双極子遷移又は制御されたラマン遷移によって実現可能である。イオンベースの量子システムの測定は、蛍光分光法によって行うことができる。そこでは、イオンが2つのスピン状態のいずれかにある場合、イオンは短い寿命で遷移する。その結果、駆動状態にあるイオンは多くの光子を放出するが、他のイオンは暗いままになる。放出された光子は、市販のCCDカメラで記録できる。ブロッホ球上の任意の方向の測定は、蛍光分光法に先立って適切な単一キュービットパルスによって行われる。
【0163】
更に別の代替として、量子システムは、レーザフィールドから光格子又は大きな間隔の格子にトラップされた超低温原子、例えば超低温の中性アルカリ原子を使用して実現されてもよい。前記原子は、レーザ冷却を使用して、基底状態に向かって発展可能である。キュービットの量子基底状態は、原子の基底状態と高位のリュードベリ状態とによって形成可能である。キュービットはレーザ光によって対処可能である。単体ハミルトニアンは、レーザ周波数に対する電子遷移周波数の離調の変化によって実現可能である。キュービット間の相互作用は、d個の原子を励起するレーザの離調によって制御可能である。この場合、ハミルトニアンはd体ハミルトニアンである。d体ハミルトニアンは、d体相互作用から又は2体相互作用を有する補助キュービットから実行され得る。初期状態は、基底状態にある原子を大きな離調を伴ってリュードベリ状態に励起することによって準備され得る。単体ユニタリ演算子exp(itσx)又はexp(itσz)は、リュードベリ遷移の離調レーザ駆動で実現可能である。キュービットは、基底状態原子の選択的スイープ及びシングルサイト解像度での蛍光イメージングを実行することによって測定可能である。
【0164】
更に別の代替として、量子システムは、量子ドットを用いて実現されてもよい。量子ドットキュービットは、GaAs/AlGaAsヘテロ構造から製造し得る。キュービットはスピン状態でコード化されており、これはポテンシャルを単一井戸から二重井戸ポテンシャルに断熱的に調整することによって準備し得る。単体ハミルトニアンは、電場を用いて実現可能である。初期状態では、各キュービットは、|0>又は|1>の状態で準備される。これは、強力な追加磁場を使用して単一井戸から二重井戸に断熱的に切り替えることによって実行される。2つのキュービット間の相互作用は、電場勾配及び磁場によって調整可能である。d体ハミルトニアンは、追加の補助キュービットと、パルスシーケンス及び磁場で実現される相互作用とを使用することによって実現され得る。単体ユニタリ演算子exp(itσx)又はexp(itσz)は、電気パルスシーケンス及び磁場を使用して実現可能である。量子ドットキュービットは、急速な断熱通過によってパルスシーケンスから読み出すことができる。
【0165】
更に別の代替として、量子システムは、ダイヤモンド結晶の点欠陥であるNVセンターなどの固体結晶中の不純物を用いて実現し得る。他の不純物、例えば、クロム不純物に関連する色中心、固体結晶内の希土類イオン、又は、炭化ケイ素の欠陥中心が使用される可能性がある。NVセンターは、2つの不対電子を有し、スピン1の基底状態を提供する。これにより、おそらく周囲の核スピンと組み合わせてキュービットを実現するために使用できる、長寿命を有する2つの鋭い欠陥準位の特定が可能になる。マイクロ波パルスの印加による磁気共鳴を使用すると、キュービット状態をナノ秒の時間スケールでコヒーレントに操作することができる。選択的な単一キュービット操作は、近くの核スピンの状態を条件として達成することもできる。短距離ハミルトニアンを実現するためのNVセンター間の相互作用は、NVセンターを光場に結合することによって伝達可能である。NVセンターを用いて実現される量子システムの場合、NVセンターは、標準的な光学共焦点顕微鏡技術を使用することによって個別に対処され得る。初期化(初期状態の準備)及び測定は、非共鳴又は共鳴光励起によって実行可能である。単一キュービット演算は、核スピンを電子スピンに結合し、電子スピンをマイクロ波駆動することによって実行される。
【0166】
実施形態
【0167】
一実施形態によれば、整数の素因数分解を実行する量子計算方法が提供される。量子計算方法は、論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定することを含み、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。量子計算方法は、複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定することを含み、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートのうちの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。量子計算方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含み、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素と関連付けられる。量子計算方法は、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。量子計算方法は、整数に基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算方法には、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットの実行を含む、量子システムを発展させることが含まれる。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを得ることを含む。量子計算方法には、読み出しに基づいて整数の素因数を決定することが含まれる。
【0168】
論理ゲート回路が「決定される」ということは、量子計算方法の後続の演算を実行できるように、論理ゲート回路の記述がユーザ又は装置に利用可能になるという意味で理解することができる。論理ゲート回路を決定することは、例えば、論理ゲート回路の記述をそれが記憶されているメモリから検索すること、論理ゲート回路の記述を受信すること、例えば、論理ゲート回路の記述が別の場所からユーザ又は装置に伝達される場合に当該記述を受信すること、又は、例えば、特定の前処理操作を実行して、論理ゲート回路の記述が何であるかを決定することによって当該記述を計算すること、を含むことができる。
【0169】
「複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定する」という表現における「1つ」という用語は、複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、「1つの」ゲートコード化ハミルトニアンが決定されるという意味で理解されるべきである。問題の表現は、所定の論理ゲートに対して複数の、つまり1以上のゲートコード化ハミルトニアンが決定されることを除外するものではない。つまり、前述の表現における「1つ」という用語は、「1つだけ」という限定された意味ではなく、「少なくとも1つ」、換言すれば「1つ、場合によってはそれより多くの」という意味で理解されるべきである。
【0170】
複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンは、古典的ハミルトニアン又は量子ハミルトニアンであってもよい。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートのうちの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化する基底空間を有することができる。基底空間は、論理ゲートの真理値表をコード化することができる。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンは、論理変数を有する論理ゲートの入出力関係をコード化することができ、論理変数には、論理ゲートの1つ以上の入力変数(例えば、u,v,・・・)及び1つ以上の出力(例えば、s’,c’,・・・)が含まれる。ゲートコード化ハミルトニアンには、論理ゲートの論理変数毎に1つずつ、スピン観測可能量(例えば、σu,σv,σs’,σc’・・・)が含まれる場合がある。各スピン観測可能量は、古典的スピン又は量子観測可能量であり得る。
【0171】
複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンは、古典的ハミルトニアン又は量子ハミルトニアンであってもよい。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートのうちの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化する基底空間を有することができる。基底空間は、論理ゲートの真理値表をコード化することができる。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンは、論理変数を有する論理ゲートの入出力関係をコード化することができ、論理変数には、論理ゲートの1つ以上の入力変数(例えば、u,v,・・・)及び1つ以上の出力(例えば、s’,c’,・・・)が含まれる。ゲートコード化ハミルトニアンには、論理ゲートの論理変数毎に1つずつ、スピン観測可能量(例えば、σu,σv,σs’,σc’・・・)が含まれる場合がある。各スピン観測可能量は、古典的スピン又は量子観測可能量であり得る。
【0172】
短距離量子相互作用の第1のセットを決定することは、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンに対して、ゲートコード化ハミルトニアンから短距離量子相互作用を決定することを含み得る。短距離量子相互作用は、本明細書に記載の短距離量子ハミルトニアンHG
SRによって表される相互作用であり得る。決定された短距離量子相互作用は、短距離量子相互作用の第1のセットに含まれてもよい。決定された短距離量子相互作用は、ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられたローカルサブシステム内で作用する可能性がある。本明細書に記載の短距離量子相互作用の第1のセットを実行することは、決定された短距離量子相互作用を実行することを含むことができる。ゲートコード化ハミルトニアンHGに関連付けられた短距離量子相互作用及び/又は短距離量子ハミルトニアンHG
SRは、ゲートコード化ハミルトニアンHGに関連付けられたローカルサブシステムに論理ゲートGの入出力関係をコード化するように構成され得る。単体相互作用は、量子システムの単体ハミルトニアンで表現可能な相互作用として理解できる。単体相互作用は、例えば、量子システムの単一の構成要素を外部場と相互作用させることによって実現できる。
【0173】
本明細書に記載の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することは、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンについて、ゲートコード化ハミルトニアンから単体相互作用を決定することを含み得る。決定された単体相互作用は、短距離量子相互作用の第1のセットに含まれる可能性がある。短距離量子相互作用の第1のセットを実行することは、決定された単体相互作用を実行することを含むことができる。決定された単体相互作用は、ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられたローカルサブシステム内で動作する単体ハミルトニアンH1-bodyによって表現できる可能性がある。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、相互作用係数を有し得る。相互作用係数は、複数の単体相互作用のうちの1つの単体相互作用にマッピングされてもよい。単体相互作用は相互作用係数の関数であり得る。
【0174】
本明細書に記載の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することは、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンに対して、ゲートコード化ハミルトニアンから1つ以上の制約相互作用を決定することを含み得る。1つ以上の制約相互作用は、短距離量子相互作用の第1のセットに含まれてもよい。短距離量子相互作用の第1のセットを実行することは、決定された1つ以上の制約相互作用を実行することを含み得る。1つ以上の制約相互作用は、ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられたローカルサブシステム内で作用する制約ハミルトニアンHconsによって表現可能であり得る。ゲートコード化ハミルトニアンから決定される制約相互作用及び/又は制約ハミルトニアンは、ゲートハミルトニアンのキュービット又は古典的スピンと、ゲートコード化ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンに関連付けられた構成要素との間の一貫性を与えるように構成され得る。制約相互作用及び/又は制約ハミルトニアンは、短距離量子ハミルトニアンHG
SRの基底空間をゲートコード化ハミルトニアンHGの1つ以上の特性と一致させるように構成され得る。1つ以上の特性のそれぞれは、ゲートコード化ハミルトニアンHGの被加数ハミルトニアンのサブセットの積が恒等に比例すること、又は、HGの全ての被加数ハミルトニアンの積が恒等に比例することを規定することができる。
【0175】
本明細書に記載の論理ゲート回路は、論理ゲートのペア間のゲート相互接続を含むことができる。同じ論理変数が第1の論理ゲートの出力変数と第2の論理ゲートの入力変数との両方である場合、第1の論理ゲートと第2の論理ゲートとの間にゲート相互接続が存在する。短距離量子相互作用の第1のセットを決定することは、複数のゲート相互接続の各ゲート相互接続について、ゲート相互接続からゲート相互接続相互作用又はゲート相互接続のセットを決定することを含み得る。ゲート相互接続から決定される各ゲート相互接続又はゲート相互接続相互作用のセットは、量子システムの少なくとも2つのローカルサブシステムを結合するゲート相互接続ハミルトニアンによって表すことができる。ゲート相互接続ハミルトニアンは、第1のローカルサブシステム及び第2のローカルサブシステムに共同して作用することができる。第1のローカルサブシステムは、第1のゲートコード化ハミルトニアンと関連付けることができる。第2のローカルサブシステムは、第2のゲートコード化ハミルトニアンと関連付けることができる。第1のゲートコード化ハミルトニアン及び第2のゲートコード化ハミルトニアンは、それぞれ、論理ゲートの第1の論理ゲート及び第2の論理ゲートに関連付けることができる。第1の論理ゲート及び第2の論理ゲートは、複数のゲート相互接続のうちの1つのゲート相互接続によって互いに接続されてもよい。ゲート相互接続及び/又はゲート相互接続ハミルトニアンは、量子システムにおける論理ゲート回路のゲート相互接続をコード化するように構成され得る。
【0176】
決定されたゲート相互接続相互作用は、短距離量子相互作用の第1のセットに含まれてもよい。短距離量子相互作用の第1のセットを実行することには、決定されたゲート相互接続相互作用を実行することが含まれる。
【0177】
本明細書に記載の論理ゲート回路は、共通変数を含むことができる。共通変数は、2つ以上の論理ゲートのグループ内の各論理ゲートの入力変数である同じ論理変数である。短距離量子相互作用の第1のセットを決定することは、共通変数相互作用、又は、共通変数のセットの各共通変数から共通変数相互作用のセットを決定することを含み得る。共通変数から決定される共通変数相互作用又は共通変数相互作用のセットは、量子システムの少なくとも2つのローカルサブシステムを結合する共通変数ハミルトニアンによって表現可能であり得る。共通変数ハミルトニアンは、第1のローカルサブシステム及び第2のローカルサブシステムに共同して作用することができる。第1のローカルサブシステムは、第1のゲートコード化ハミルトニアンと関連付けることができる。第2のローカルサブシステムは、第2のゲートコード化ハミルトニアンと関連付けることができる。第1のゲートコード化ハミルトニアン及び第2のゲートコード化ハミルトニアンは、それぞれ、論理ゲートの第1の論理ゲート及び第2の論理ゲートに関連付けることができる。
【0178】
問題の共通変数は、第1の論理ゲート及び第2の論理ゲートの両方の入力変数であってもよい。共通変数相互作用及び/又は共通変数ハミルトニアンは、論理ゲート回路における共通変数の出現を量子システムにコード化するために構成され得る。
【0179】
決定された共通変数相互作用は、短距離量子相互作用の第1のセットに含まれてもよい。短距離量子相互作用の第1のセットを実行することには、決定された共通変数相互作用を実行することが含まれる。
【0180】
短距離量子相互作用の第2のセットを決定することは、因数分解される整数から、又は、より一般的には論理ゲート回路の出力から(論理ゲート回路が乗算回路でない場合)、出力コード化相互作用のセットを決定することを含んでもよい。出力コード化相互作用のセットは、出力コード化ハミルトニアンによって表現できる場合がある。出力コード化ハミルトニアンは、2体ハミルトニアンであってもよい。決定された出力コード化相互作用は、短距離量子相互作用の第2のセットに含まれてもよい。短距離量子相互作用の第2のセットを実行することには、決定された出力コード化相互作用を実行することが含まれる。出力コード化相互作用及び/又は出力コード化ハミルトニアンは、因数分解される整数、より一般的には論理ゲート回路の出力を、量子システムにコード化するように構成され得る。
【0181】
本明細書に記載の量子システムを発展させることは、総ハミルトニアン、例えば本明細書に記載の総ハミルトニアンHTOTALの基底状態に向けて量子システムを発展させることを含み得る。総ハミルトニアンは、第1のハミルトニアンと第2のハミルトニアンとを含む総和であってもよい。第1のハミルトニアンは、本明細書に記載のように、短距離量子相互作用の第1のセットを表すことができる。第1のハミルトニアンは、決定された単体相互作用に対応する単体ハミルトニアンと、決定された制約相互作用に対応する制約ハミルトニアンと、決定されたゲート相互接続相互作用に対応するゲート相互接続ハミルトニアンと、決定された共通変数相互作用に対応する共通変数ハミルトニアンと、又はそれらの任意の組み合わせとを含む総和であり得る。第2の量子ハミルトニアンは、本明細書に記載のように、短距離量子相互作用の第2のセットを表すことができる。第2のハミルトニアンは、本明細書に記載のゲートコード化ハミルトニアンであってもよい。総ハミルトニアンの基底状態は、因数分解される整数の少なくとも1つの素因数、又はより一般的には、問題の論理ゲート回路の未知の入力(論理ゲート回路が乗算回路でない場合)をコード化し得るか、或いは、少なくとも素因数/未知の入力を決定できるようにする情報をコード化し得る。本明細書に記載のように、読み出しを取得するために量子システムの少なくとも一部を測定することは、量子システムが総ハミルトニアンの基底状態と等しいかほぼ等しい量子状態にあるときに測定を実行することを含み得る。
【0182】
本明細書に記載の量子システムを発展させることには、量子システムを冷却することと、量子システムの断熱発展を実行することと、量子システムの反断熱発展を実行することと、量子システムのゲートベースの発展を実行することと、又はそれらの任意の組み合わせとが含まれる場合がある。
【0183】
本明細書に記載の論理ゲート回路の論理ゲートは、ANDゲート及び/又はAND.FAゲートを含むことができる。具体的には、複数の論理ゲートの各論理ゲートは、ANDゲート及びAND.FAゲートのうちの1つであり得る。
【0184】
ANDゲートである複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、論理ゲートに関連付けられたゲートコード化ハミルトニアンは、以下の形式を有し得る。
【数16】
ここで、σ
u、σ
v及びσ
sは、それぞれ論理変数u、v及びsに関連付けられたスピン観測可能量であり得る。スピン観測可能量は、古典的スピン又は量子観測可能量であり得る。論理変数u及びvは、ANDゲートの入力変数であってもよく、論理変数sは、ANDゲートの出力変数であってもよい。
【0185】
AND.FAゲートである複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、論理ゲートに関連付けられたゲートコード化ハミルトニアンは、以下の形式を有し得る。
【数17】
ここで、σ
u、σ
v、σ
s、σ
c、σ
s’及びσ
c’は、それぞれ論理変数u、v、s、c、s’及び/c’に関連付けられたスピン観測可能量であり得る。スピン観測可能量は、古典的スピン又は量子観測可能量であり得る。論理変数u、v、s及びcはAND.FAゲートの入力変数であり、論理変数s’及びc’はAND.FAゲートの出力変数であり得る。
【0186】
更なる実施形態によれば、整数の素因数分解を実行する量子計算方法が提供される。量子計算方法は、論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定することを含み、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。量子計算方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含む。量子計算方法は、論理ゲートに基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。決定することは、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に、論理ゲートに関連付けられた構成要素のサブセットを決定することと、構成要素のサブセットの短距離量子相互作用において論理ゲートをコード化することとを含む。量子計算方法は、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算方法には、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含む、量子システムを発展させることが含まれる。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。量子計算方法には、読み出しに基づいて整数の素因数を決定することが含まれる。整数の素因数分解を実行する量子計算方法は、本明細書に記載の量子計算方法に関連して説明される特徴又は態様のいずれかを含むことができる。
【0187】
量子計算方法は、複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して、論理ゲートからゲートコード化ハミルトニアンを決定することを含んでもよい。ゲートコード化ハミルトニアンは、論理ゲートの入出力関係をコード化することができ、被加数ハミルトニアンの総和になり得る。各被加数ハミルトニアンは、論理ゲートに関連付けられた構成要素のサブセットの各構成要素に関連付けることができる。
【0188】
量子システムは、本明細書に記載のように、それぞれが構成要素のサブセットを含むローカルサブシステムを含むことができる。複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、論理ゲートから決定されたゲートコード化ハミルトニアンをローカルサブシステムに関連付けることができる。ローカルサブシステムには、論理ゲートに関連付けられた構成要素のサブセットが含まれる場合がある。
【0189】
複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で論理ゲートをコード化することは、本明細書に記載のように、論理ゲートから決定されたゲートコード化ハミルトニアンから単体相互作用を決定することを含むことができる。決定された単体相互作用は、論理ゲートに関連付けられた構成要素のサブセット内で作用する単体量子ハミルトニアンによって表すことができる。
【0190】
複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で論理ゲートをコード化することは、本明細書に記載のように、論理ゲートから決定されたゲートコード化ハミルトニアンから1つ以上の制約相互作用を決定することを含むことができる。決定された制約相互作用は、論理ゲートに関連付けられた構成要素のサブセット内で作用する制約ハミルトニアンによって表すことができる。
【0191】
更なる実施形態によれば、構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の又は量子計算のための基本的サブルーチンが提供される。基本的サブルーチンには、少なくとも4つの構成要素を含む量子システムの基本的サブシステムを決定することが含まれる。以下の式で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
ANDの各被加数ハミルトニアンは、基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられている。
【数18】
ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDは、論理変数u及びvを入力変数として有し、論理変数sを出力変数として有するANDゲートの入出力関係をコード化する。ここで、σ
u、σ
v及びσ
sはそれぞれ論理変数u、v及びsに関連付けられたスピン観測可能量である。基本的サブルーチンには、ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDから基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することが含まれる。基本的サブルーチンには、基本的サブシステムで決定された短距離量子相互作用を実行することを含み、量子システムを発展させることが含まれる。基本的サブルーチンは、前述の量子計算方法に関連して説明した特徴又は態様のいずれかを含むか、又はそれらと組み合わせることができる。
【0192】
基本的サブシステムは、本明細書に記載のローカルサブシステムであってもよい。基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することには、ゲートコード化ハミルトニアンHANDから単体相互作用を決定することが含まれる場合がある。決定された単体相互作用は、ローカルサブシステム内で作用する単体ハミルトニアンによって表現され得る。ゲートコード化ハミルトニアンHANDの各被加数ハミルトニアンは相互作用係数を有する場合がある。相互作用係数は単体相互作用にマッピングできる。単体相互作用は相互作用係数の関数であり得る。決定された短距離量子相互作用を基本的サブシステムで実行することは、決定された単体相互作用を実行することを含み得る。基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することは、ゲートコード化ハミルトニアンHANDから1つ以上の制約相互作用を決定することを含む場合がある。決定された1つ以上の制約相互作用は、ローカルサブシステム内で作用する制約ハミルトニアンによって表現可能である。決定された短距離量子相互作用を基本的サブシステムで実行することは、決定された1つ以上の制約相互作用を実行することを含み得る。
【0193】
更なる実施形態によれば、構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の又は量子計算のための基本的サブルーチンが提供される。基本的サブルーチンには、少なくとも8つの構成要素を含む量子システムの基本的サブシステムを決定することが含まれる。以下の式で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAの被各加数ハミルトニアンは、基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられている。
【数19】
ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAは、論理変数u、v、s及びcを入力変数として有し、論理変数s’及びc’を出力変数として有するAND.FAゲートの入出力関係をコード化する。ここで、σ
u、σ
v、σ
s、σ
c、σ
s’及びσ
c’は、それぞれ論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量である。基本的サブルーチンには、ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAから基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することが含まれる。基本的サブルーチンには、基本的サブシステムで決定された短距離量子相互作用を実行することを含み、量子システムを発展させることが含まれる。基本的サブルーチンは、前述の量子計算方法に関連して説明した特徴又は態様のいずれかを含むか、又はそれらと組み合わせることができる。
【0194】
基本的サブシステムは、本明細書に記載のローカルサブシステムであってもよい。基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することには、ゲートコード化ハミルトニアンHAND.FAから単体相互作用を決定することが含まれる場合がある。決定された単体相互作用は、ローカルサブシステム内で作用する単体ハミルトニアンによって表現され得る。ゲートコード化ハミルトニアンHAND.FAの各被加数ハミルトニアンは相互作用係数を有する場合がある。相互作用係数は単体相互作用にマッピングできる。単体相互作用は相互作用係数の関数であり得る。決定された短距離量子相互作用を基本的サブシステムで実行することは、決定された単体相互作用を実行することを含むことができる。基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定することは、ゲートコード化ハミルトニアンHAND.FAから1つ以上の制約相互作用を決定することを含む場合がある。決定された1つ以上の制約相互作用は、ローカルサブシステム内で作用する制約ハミルトニアンによって表現可能である。決定された短距離量子相互作用を基本的サブシステムで実行することは、決定された1つ以上の制約相互作用を実行することを含み得る。
【0195】
更なる実施形態によれば、量子計算を実行する方法が提供される。本方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含む。本方法は、本明細書に記載の1つ以上の基本的サブルーチン、例えば、ANDゲートに関わる1つ以上の基本的サブルーチン及び/又はAND.FAゲートに関わる1つ以上の基本的サブルーチンを実行することを含む。本方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。
【0196】
一実施形態によれば、論理ゲートを含む論理ゲート回路を反転する量子計算方法が提供される。量子計算方法は、論理ゲート回路の未知の入力に対応する論理ゲート回路の出力を提供することを含む。量子計算方法は、複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定することを含み、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。量子計算方法は、構成要素を含む量子システムを提供することを含み、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素と関連付けられる。量子計算方法は、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定することを含む。量子計算方法は、論理ゲート回路の出力に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定することを含む。量子計算方法には、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させることが含まれる。量子計算方法は、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得することを含む。量子計算方法には、読み出しに基づいて論理ゲート回路の未知の入力を決定することが含まれる。量子計算方法は、前述の量子計算方法に関連して説明された特徴又は態様のいずれかを含むことができる。量子計算方法は、整数の素因数分解を行う方法であってもよい。論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成され得る。本明細書に記載のように、読み出しに基づいて未知の入力を決定することは、整数の素因数を決定することを含むことができる。
【0197】
更なる実施形態によれば、整数の素因数分解を実行するための装置が提供される。本装置は古典的計算システムを含む。本装置は構成要素を備えた量子システムを含む。本装置は量子処理ユニットを含む。本装置は測定ユニットを含む。古典的計算システムは、論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するように構成され、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。古典的計算システムは、複数の論理ゲートの各論理ゲートに対して1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するように構成され、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。ここで、複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素に関連付けられる。古典的計算システムは、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するように構成されている。古典的計算システムは、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するように構成されている。量子処理ユニットは、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させるように構成される。測定ユニットは、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されている。古典的計算システムは、更に、読み出しに基づいて整数の素因数を決定するように構成されている。本装置は、本明細書に記載のいずれかの実施形態に従って、量子計算方法又はその一部を実行するように構成され得る。量子計算方法に関連して前述した特徴及び態様は、本装置の実施形態にも適用可能である。
【0198】
本明細書に記載の量子処理ユニットは、量子システムを冷却するための冷却システムを含むことができる。量子処理ユニットは、量子システムの断熱発展を実行するように構成され得る。量子処理ユニットは、量子システムの反逆断熱発展を実行するように構成され得る。量子処理ユニットは、量子システムのユニタリ発展を実行するように構成され得る。量子処理ユニットは、前述の態様を任意に組み合わせて構成することができる。
【0199】
更なる実施形態によれば、整数の素因数分解を実行するための装置が提供される。本装置は古典的計算システムを含む。本装置は構成要素を備えた量子システムを含む。本装置は量子処理ユニットを含む。本装置は測定ユニットを含む。古典的計算システムは、論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するように構成され、論理ゲート回路は、出力として整数を有する乗算関数を計算するように構成されている。古典的計算システムは、論理ゲートに基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するように構成されている。第1のセットを決定することは、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に、論理ゲートに関連付けられた構成要素のサブセットを決定することと、構成要素のサブセットの短距離量子相互作用において論理ゲートをコード化することとを含む。古典的計算システムは、整数に基づいて構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するように構成されている。量子処理ユニットは、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させるように構成されている。測定ユニットは、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されている。古典的計算システムは、更に、読み出しに基づいて整数の素因数を決定するように構成されている。本装置は、本明細書に記載のいずれかの実施形態に従って、量子計算方法又はその一部を実行するように構成され得る。量子計算方法に関連して前述した特徴及び態様は、本装置の実施形態にも適用可能である。
【0200】
更なる実施形態によれば、構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の基本的サブルーチンを実行するためのコンポーネントが提供される。本コンポーネントには、古典的計算システムが含まれる。本コンポーネントには、少なくとも4つの構成要素を含む量子システムの基本的サブシステムが含まれる。HAND=-σs-σuσs-σvσs+σuσvσsで定義されるゲートコード化ハミルトニアンHANDの各被加数ハミルトニアンは、基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられる。ゲートコード化ハミルトニアンHANDは、論理変数u及びvを入力変数として有し、論理変数sを出力変数として有するANDゲートの入出力関係をコード化する。ここで、σu、σv及びσsは、論理変数u、v及びsにそれぞれ関連付けられたスピン観測可能量である。本コンポーネントには量子処理ユニットが含まれる。古典的計算システムは、ゲートコード化ハミルトニアンHANDから基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定するように構成されている。量子処理ユニットは、基本的サブシステムで決定された短距離量子相互作用を実行することを含み、量子システムを発展させるように構成されている。本コンポーネントは、本明細書に記載の実施形態に従って基本的サブルーチンを実行するように構成され得る。
【0201】
更なる実施形態によれば、構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の基本的サブルーチンを実行するためのコンポーネントが提供される。本コンポーネントには、古典的計算システムが含まれる。本コンポーネントには、少なくとも8つの構成要素を含む量子システムの基本的サブシステムが含まれる。以下の式で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAの各被加数ハミルトニアンは、基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられる。
【数20】
ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAは、論理変数u、v、s及びcを入力変数として有し、論理変数s’及びc’を出力変数として有するAND.FAゲートの入出力関係をコード化する。ここで、σ
u、σ
v、σ
s、σ
c、σ
s’及びσ
c’は、それぞれ論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量である。本コンポーネントには量子処理ユニットが含まれる。古典的計算システムは、ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAから基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定するように構成されている。量子処理ユニットは、基本的サブシステムで決定された短距離量子相互作用を実行することを含み、量子システムを発展させるように構成されている。本コンポーネントは、本明細書に記載の実施形態に従って基本的サブルーチンを実行するように構成され得る。
【0202】
更なる実施形態によれば、論理ゲートを含む論理ゲート回路を反転するための装置が提供される。本装置には古典的計算システムが含まれる。本装置には、構成要素を含む量子システムが含まれる。本装置は量子処理ユニットを含む。本装置は測定ユニットを含む。古典的計算システムは、論理ゲート回路の未知の入力に対応する論理ゲート回路の出力を提供するように構成されている。古典的計算システムは、複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するように構成され、各ゲートコード化ハミルトニアンは、複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である。複数のゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、量子システムの各構成要素に関連付けられる。古典的計算システムは、論理ゲート回路の論理ゲートに基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するように構成されている。古典的計算システムは、論理ゲート回路の出力に基づいて、構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するように構成されている。量子処理ユニットは、短距離量子相互作用の第1のセット及び短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、量子システムを発展させるように構成される。測定ユニットは、量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されている。古典的計算システムは、更に、読み出しに基づいて論理ゲート回路の未知の入力を決定するように構成されている。本装置は、本明細書に記載のいずれかの実施形態に従って、量子計算方法又はその一部を実行するように構成され得る。量子計算方法に関連して前述した特徴及び態様は、本装置の実施形態にも適用可能である。
【0203】
更なる態様
【0204】
【0205】
図13は、本明細書に記載の乗算回路を示す。因数分解(素因数分解)は、乗算回路を逆に実行すると考えることができる。左から右への矢印は乗算を示し、逆の矢印は因数分解を示す。不可逆ゲートである乗算回路の論理ゲート(ANDゲート、AND.FAゲート)は、対応するゲートコード化ハミルトニアンにマッピングされる。後者のハミルトニアンは、各論理ゲートの入出力関係(真理値表)が対応するゲートコード化ハミルトニアンの基底空間にコード化されるため、論理ゲートの可逆コード化を提供する。可逆コード化により、乗算回路を反転できる。
【0206】
図14は、本明細書に記載の実施形態に係る方法を示す。
図14の下部には、ANDゲート及びAND.FAゲートで構成される乗算回路が示されてる。乗算回路は、図の上部に示す量子システムにマッピングされる。各ANDゲートは、プラケットを形成する4つのキュービットで構成されるローカルサブシステムにマッピングされる。各AND.FAゲートは、体心立方体を形成する9つのキュービットで構成されるローカルサブシステムにマッピングされる。短距離量子ハミルトニアンH
AND
SR又はH
AND.FA
SRは、各ローカルサブシステムに作用する。ローカルサブシステムは、ゲート相互接続ハミルトニアン及び共通変数ハミルトニアンを使用して結合されており、その一部は
図14にそれぞれ三角形及び四角形で示されている。
【0207】
図15(i)は、量子システムのANDゲート(左)及び関連するローカルサブシステム(右)を示す。ローカルサブシステムは、プラケットの角に配置された4つのキュービットで構成される。短距離量子ハミルトニアンH
AND
SRは、ローカルサブシステムに作用し得る。ハミルトニアンH
AND
SRは、単体ハミルトニアン及び制約ハミルトニアンの総計である。単体ハミルトニアンは、係数+1又は-1(相互作用係数)を有するパウリσ
Z演算子の総計である。係数+1及び-1は、それぞれ白丸及び破線の丸で示されている。制約ハミルトニアンは、係数(-kなど、kは正の数)が与えられた、プラケットの4つのキュービットに作用するパウリσ
Z演算子のテンソル積によって与えられる4体ハミルトニアンである。制約ハミルトニアンは、4つのキュービットを接続する4本の実線によって形成される形状によって示される。
【0208】
図15(ii)は、量子システムのAND.FAゲート(左)及び関連するローカルサブシステム(右)を示す。ローカルサブシステムには8つのキュービット(一次キュービット)が含まれている。
図15(ii)には、4つのキュービットからなる2つのグループが示されており、1つのグループの各キュービットは各プラケットの角に配置されている。左のプラケットが「総和プラケット」、右のプラケットが「キャリープラケット」である。2つのプラケットを互いに積み重ねて立方体を形成することができ、総和プラケットが立方体の底部のプラケットとなる。短距離量子ハミルトニアンH
AND.FA
SRは、ローカルサブシステムに作用し得る。ハミルトニアンH
AND.FA
SRは、単体ハミルトニアン及び制約ハミルトニアンの総和である。単体ハミルトニアンは、係数+1又は-1(相互作用係数)を有するパウリσ
Z演算子の総和である。係数+1及び-1は、それぞれ白丸及び破線の丸で示されている。制約ハミルトニアンは、2つの項の総和によって与えられる4体ハミルトニアンである。つまり、第1項は、総和プラケット(係数が与えられる)に作用するパウリσ
Z演算子のテンソル積であり、第2項は、キャリープラケット(これにも係数が与えられる)に作用するパウリσ
Z演算子のテンソル積である。制約ハミルトニアンの第1項は、総和プラケットの4つのキュービットを接続する線によって示される。第2項は、キャリープラケットの4つのキュービットを接続する線によって示される。
【0209】
図15(iii)は、2つのANDゲート(左)及び2つの関連するローカルサブシステム(右)を示し、各ローカルサブシステムは、プラケット上に配置された4つのキュービットのグループとして示されている。2つのANDゲートは共通変数q
0を有し、これは2つのローカルサブシステムを結合する共通変数ハミルトニアンの存在によって量子システムに反映される。共通変数ハミルトニアンは斜線領域で示されている。共通変数ハミルトニアンは、第1のANDゲート(左側のプラケット)に関連付けられたローカルサブシステムの2つのキュービットと、第2のANDゲート(右側のプラケット)に関連付けられたローカルサブシステムの2つのキュービットとに作用するパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)の4体テンソル積である。
【0210】
図15(iv)は、共通変数q
0を有する2つのAND.FAゲートを示す。更に、2つのゲート間に相互接続が存在する。つまり、変数c
1は、一方のAND.FAゲートの出力変数であり、他方のAND.FAゲートの入力変数でもある。
図15(iv)は更に、2つの関連するローカルサブシステムを示す。各ローカルサブシステムは、立方体の角に配置された8つのキュービット(一次キュービット)、及び、立方体の中心にある追加のキュービット(二次キュービット、キャリーキュービット)で構成される。つまり、各ローカルサブシステムは、体心立方体の形状を有する。共通変数q
0は、2つのローカルサブシステムを結合する共通変数ハミルトニアンの存在によって反映される。共通変数ハミルトニアンは、ハッチングを施した四角形で示される。共通変数ハミルトニアンは、第1のAND.FAゲートに関連付けられたローカルサブシステムの総和プラケットの2つのキュービット、及び、第2のANDゲートに関連付けられたローカルサブシステムの総和プラケットの2つのキュービットに作用するパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)の4体テンソル積である。変数c
1に関連する相互接続は、2つのローカルサブシステムを結合するゲート相互接続のハミルトニアンによって反映される。ゲート相互接続ハミルトニアンは、3つの項、すなわち第1項、第2項及び第3項の総和である3体ハミルトニアンである。第1項は、2つの二次キュービット(キャリーキュービット)と、2つのローカルサブシステムのうちの第1のローカルサブシステムの一次キュービットとに作用する3つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第2項は、2つの更なる一次キュービットと、第1のローカルシステムの二次キュービットに作用する3つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第3項は、第2項に似ているが、第2のローカルサブシステムに適用される。第1項、第2項及び第3項はそれぞれ三角形で示されている。
【0211】
図15(v)は、相互接続が存在する2つのAND.FAゲートを示し、変数s
1は一方のAND.FAゲートの出力変数であり、他方のAND.FAゲートの入力変数である。
図15(v)は、更に、2つの関連するローカルサブシステムを示しており、各ローカルサブシステムは、前述のように体心立方体である。変数s
1に関連するゲート相互接続は、2つのローカルサブシステムを結合するゲート相互接続ハミルトニアンによって反映される。ゲート相互接続ハミルトニアンは、3つの項、すなわち第1項、第2項及び第3項の総和である4体ハミルトニアンである。第1項は、2つのローカルサブシステムそれぞれの各二次キュービット(キャリーキュービット)と1つの各一次キュービットとに作用する4つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第2項は、2つの更なる一次キュービットと第1のローカルシステムの二次キュービットとに作用する3つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第3項は、第2項に似ているが、第2のローカルサブシステムに適用される。第1項は四角形で示され、第2項及び第3項は三角形で示される。
【0212】
図15(vi)は、AND.FAゲートに接続されたANDゲートを示し、変数s
1は、ANDゲートの出力変数であるとともに、AND.FAゲートの入力変数である。
図15(vi)は、更に、2つの関連するローカルサブシステム、すなわちANDゲートに関連付けられたプラケット及びAND.FAゲートに関連付けられた体心立方体を示す。変数s
1に関連するゲート相互接続は、2つのローカルサブシステムを結合するゲート相互接続ハミルトニアンによって反映される。ゲート相互接続ハミルトニアンは、第1項及び第2項の総和である3体ハミルトニアンである。第1項は、ANDゲートに関連付けられたローカルサブシステムのキュービット、並びに、AND.FAゲートに関連付けられたローカルサブシステムの1次キュービット及び2次キュービット(キャリーキュービット)に作用する3つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第2項は、体心立方体の二次キュービット及び2つの更なる一次キュービットに作用する3つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第1項及び第2項はそれぞれ三角形で示されている。
【0213】
図15(vii)は、ゲート相互接続が間に存在する2つのAND.FAゲートを示し、変数csは、一方のAND.FAゲートの出力変数であり、他方のAND.FAゲートの入力変数でもある。更に、p
kは両方のAND.FAゲートの共通の入力変数である。
図15(vii)は、更に、2つの関連するローカルサブシステムを示しており、各ローカルサブシステムは、前述のように体心立方体である。ゲート相互接続は、2つのローカルサブシステムを結合するゲート相互接続ハミルトニアンによって反映される。ゲート相互接続ハミルトニアンは、3つの項、すなわち第1項、第2項及び第3項の総和である3体ハミルトニアンである。第1項は、2つの二次キュービット(キャリーキュービット)と第2のローカルサブシステムの1つの一次キュービットとに作用する3つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第2項は、第1のローカルシステムの2つの一次キュービット及び二次キュービットに作用する3つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。第3項は、第2項に似ているが、第2のローカルサブシステムに適用される。第1項、第2項及び第3項はそれぞれ三角形で示される。共通変数は、2つのローカルサブシステムを結合する共通変数ハミルトニアンによって反映される。共通変数ハミルトニアンは、単一の項、つまり各ローカルサブシステムの2つの各一次キュービットに作用する4つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積で構成される4体ハミルトニアンである。共通変数ハミルトニアンは四角形で示される。
【0214】
図15(viii)は、共通変数p
kを有するANDゲート及びAND.FAゲートを示す。
図15(viii)は、更に、2つの関連するローカルサブシステム、すなわちプラケットを形成する第1のローカルサブシステム及び体心立方体を形成する第2のローカルサブシステムを示す。共通変数は、2つのローカルサブシステムを結合する共通変数ハミルトニアンによって反映される。共通変数ハミルトニアンは、4体ハミルトニアン、つまり各ローカルサブシステムの2つの各一次キュービットに作用する4つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。共通変数ハミルトニアンは、ハッチングを施した四角形で示されている。
【0215】
図15(ix)は、共通の変数p
kを有する2つのAND.FAゲートを示す。
図15(ix)は、更に、2つの関連するローカルサブシステム、すなわちそれぞれが体心立方体を形成する第1のローカルサブシステム及び第2のローカルサブシステムを示す。共通変数は、2つのローカルサブシステムを結合する共通変数ハミルトニアンによって反映される。共通変数ハミルトニアンは、4体ハミルトニアン、つまり各ローカルサブシステムの2つの各一次キュービットに作用する4つのパウリσ
Z演算子(おそらく係数付き)のテンソル積である。共通変数ハミルトニアンは、ハッチングを施した四角形で示されている。
【0216】
図16(a)は、本明細書に記載のANDゲート及びAND.FAゲートから構成される乗算回路を示す。ゲート間の線は、本明細書に記載のゲート相互接続を表す。具体的には、AND.FAゲートから水平に延びる線は、乗算のキャリー演算を表す。垂直の線は総和演算を表す。p
iq
j=p
i∧q
jであるため、部分積p
iq
jはANDゲートを適用することで形成できる。これらを合計する1つの方法は、2Dアレイ上に配置された全加算器を利用することである。変数p
i及びq
jがそれぞれ垂直又は水平に繰り返されるため、ゲートは共通の入力変数を共有する。
【0217】
図16(b)は、左から右に向かって詳細レベルが増加するAND.FAゲートの内部構造を概略的に示す。
図16(b)の1番目の回路図は、AND.FAゲートを表したものである。2番目の回路図は、AND.FAゲートがANDゲート及び全加算器(FA)ゲートを含む基本的論理ゲート回路として形成できることを示している。3番目の回路図は、FAゲートがORゲート及び2つの半加算器(HA)ゲートを含む基本的論理ゲート回路として形成できることを示している。4番目の回路図は、HAゲートがANDゲート及びXORゲートを含む基本的論理ゲート回路として形成できることを示している。
【0218】
図17及び
図18は、それぞれANDゲート及びAND.FAゲートに関連付けられた、ゲートコード化ハミルトニアン及びそのスペクトルを示す。
【0219】
図19は、異なる量子計算方法による整数nの素因数分解を実行するために必要な構成要素(キュービット)の数の比較を示す。横軸は整数の大きさ(ビット数)l=|log
2(n)|を示す。縦軸は、各方法で必要なキュービットの数を示す。本明細書に記載の方法の実施形態(グラフ1910)は、lの2次式的にスケールされる多数のキュービットを使用する。対照的に、因数分解問題をQUBO問題にマッピングし、その後、後者の問題をアニーリングハードウェアにマッピングすることに基づくアプローチは、O(l
4)としてスケールされる(グラフ1920)。
【0220】
図20は、3ビット×3ビット乗算の例に基づく本方法を示す。
【0221】
整数乗算の難しさと整数因数分解の難しさとの間の基本的な非対称性は、暗号化の基礎となっており、RSAなどの有名なプロトコルの基礎を形成している。複雑性理論の観点からは、因数分解問題がNP完全又はPのいずれかである可能性は低い(NPは「非決定的多項式時間」を表し、Pは「多項式時間」を表す)。しかし、因数分解問題は、複雑性クラスNP及びBQP(「境界誤差量子多項式時間」)にあることが証明されている。ショアの量子アルゴリズムを使用すると、量子コンピュータ上で整数因数分解を多項式時間で実行できることが示され、既知の全ての古典的な因数分解アルゴリズムと比較して、(準)指数関数的な高速化が実現する。それでも、キュービットの数及び量子ゲートの品質に関して広範な要件があるため、ショアのアルゴリズムは依然として概念実証のデモンストレーションに限定されており、現実世界の暗号システムで使用されるサイズの因数分解からは程遠い。
【0222】
本開示では、因数分解問題のパリティベースのスピンモデルへの帰着(reduction)に基づく、整数因数分解のための量子アルゴリズムが提供される。量子アルゴリズムは、O(log2 (n))個のキュービットと、相互作用強度O(1)とを使用する。ここで、nは因数分解される整数である。これは、以前の量子アルゴリズムと比較して、必要なキュービットの数に関して大幅な改善である。本量子アルゴリズムでは、ANDゲート及びAND.FAゲートの可逆バージョンがパリティベースのコード化を使用して構築される。このコード化では、各論理ゲートの真理値表は、ハミルトニアン(本明細書に記載の短距離量子ハミルトニアンHG
SR)の基底状態でコード化される。これによりゲートが可逆になり、例えば、断熱量子計算プロトコルによって、乗算回路を量子力学的に反転できる。ハミルトニアンHG
SRの固有対称性を使用して、繰り返して結合できる基本構成ブロックから構成される量子因数分解デバイスが提供され、スケーラブルな量子アーキテクチャが得られる。
【0223】
量子コンピュータで整数因数分解を実行するこれまでのアプローチは、O(log2(n))個のキュービットを含む二次無制約二値最適化(QUBO)問題に基づいている。断熱量子計算技術を使用して最適化問題を解くには、QUBOアプローチから得られる長距離ハミルトニアンである2-ローカルハミルトニアンの構造を、例えば、マイナーな埋め込みを介して、D-WAVEシステムなどの利用可能なハードウェア上の短距離接続グラフにマッピングする必要がある。後者のマッピングでは、キュービットの数に更に2次のオーバーヘッドが追加される。したがって、QUBOに基づくこのようなアプローチでは、短距離相互作用のみを含む量子システムで因数分解を実行するには、O(log4(n))個のキュービットが必要である。
【0224】
比較すると、本明細書に記載の実施形態によれば、バイナリ乗算回路の論理は、直接、すなわちQUBO問題へのマッピングを行わずに実行されるため、O(log2(n))個のキュービットのみを使用して短距離量子相互作用で因数分解を実行でき、これにより、必要なキュービットの数が2次的に向上する。
【0225】
2つの整数p、qの2進バイナリ表現を入力として取り、これらの積nのバイナリ表現を出力するブール回路(乗算回路)を提供できる。
図16に示すように、この回路はANDゲート及びAND.FAゲートから構築できる。本明細書に記載のように、これらの論理ゲートの有効な入出力関係をコード化する基底空間を有する短距離量子ハミルトニアンH
G
SRを構築することができる。これにより、以下の式(1)のハミルトニアン(本明細書に記載の第1のハミルトニアン)は、正しい乗算ロジックに従う量子状態が広がる基底空間を有する。
H
1=Σ(全ての短距離量子ハミルトニアンH
G
SR)+Σ(全てのゲート結合ハミルトニアン)・・・(1)
特定の乗算を1つ選び出すために、対応する入力としてp及びqを有しない全ての量子状態にエネルギーペナルティを与える追加項H
in(p,q)を追加できる。したがって、ハミルトニアンH
product=H
1+H
in(p,q)の基底空間を見つけると、数値p及びqを乗算する(簡単な)タスクが解決される。同じアプローチが因数分解にも適用できる。出力nは、ハミルトニアンH
1に追加項H
out-enc(n)(出力コード化ハミルトニアン/本明細書に記載の第2のハミルトニアン)を追加することで固定できる。これにより、整数nの素因数p及びqをコード化する基底空間を有する総ハミルトニアンH
TOTAL=H
1+H
out-enc(n)が得られる。これらの素因数は、量子システムをH
TOTALの基底状態に発展させ、その後、量子システムを測定することによって決定できる。
【0226】
ハミルトニアンHG
SRの構築は、必要なリソースの数、つまりキュービットの数及び相互作用の数に関連する態様と、スケーラビリティを考慮することによって動機付けられる。ハミルトニアンHGSRの構築は、必要な相互作用の程度及び量を削減するパリティコード化に基づいている。結果として得られる総ハミルトニアンHTOTALは短距離ハミルトニアンである。総ハミルトニアンが作用する量子システムはユニットセル(ローカルサブシステム)で構成されており、これらのユニットセルを更に追加することで、より大きな整数の因数分解を実現できる。各ハミルトニアンHG
SRは2つの部分で構成される。ゲートGをコード化する単体ハミルトニアン(1体フィールド)、並びに、部分空間にペナルティを課すことによって、ヒルベルト空間を切り捨てるためのパリティ制約を追加する3体項及び4体項(本明細書に記載の制約ハミルトニアンを形成する)である。最後に、Hout-enc(n)を2体の最近傍ハミルトニアンとして定義することで、所望する整数nを特定できる。結果として得られるアーキテクチャは、基底状態がn=p・qとなるように素因数p及びqをコード化する、スケーラブルで短距離のプログラム可能な総ハミルトニアンを提供する。
【0227】
いくつかの表記法が導入されている。以下では、次の式(2)の形式の対角量子ハミルトニアンを繰り返し使用する。
【数21】
上記の式(2)では、Z=|0><0|-|1><1|で定義されるパウリ演算子Z(又は同等のσ
z)を使用する。Z
iは、キュービットiに作用する演算子Zを示す。ZiZjや更に簡潔にはZ
ijなどの用語は、テンソル積Z
i×Z
jの短縮表記として使用される。下付き文字は、演算子がどのスピンに作用するかを示す。特に、式(2)の形式のハミルトニアンは、相互に可換な観測可能量から構成されているため、古典的ハミルトニアンに対応する。対応する古典的ハミルトニアンは、各パウリ演算子Z
iを古典的スピンz
i∈{-1,1}で置き換えることによって取得できる。自然数n(及び、同様にp、q)は、n=Σ
in
i2
i及びn
i∈{0,1}を介して、バイナリ表現でn≡(n
l,・・,n
0)として表される。
【0228】
基底状態スピンロジックの背後にある考え方には、ビット列S⊆{0,1}
mのセットをハミルトニアンH
Sの基底空間に埋め込むことが含まれる。例えば、4つの有効なビット構成(u,v,s=u∧v)を定義するANDゲートを考える。ここで、u及びvはANDゲートの入力変数で、sはANDゲートの出力変数である。u,v,s∈{0,1}である。ANDゲートの入出力関係をコード化する、対応するハミルトニアンH
AND(ゲートコード化ハミルトニアン)には、以下の式(3)の基底空間が必要である。
【数22】
式(3)の基底空間を有するハミルトニアンのファミリー全体を構築可能である。特定の1つの選択肢は、以下の式(4)によって与えられる。
【数23】
式(4)のハミルトニアンH
ANDはいくつかの望ましい特性を有する。インデックスu、v、sはそれぞれ偶数回出現する(式(4)を拡張すると、u及びvはそれぞれ2回、sは4回出現する)。更に、ハミルトニアンH
ANDは、必要な最小限の項数である4つの項(被加数ハミルトニアン)のみで構成される。また、結合強度は-1又は1である。また、H
ANDのスペクトルは
図17に示すように、{-2,2}の2つの値のみを取る。
【0229】
上記のアプローチを使用すると、論理ゲートから構築された論理ゲート回路をハミルトニアンの基底空間にコード化することができる。これは、2つの整数間の乗算関係を実行する論理ゲート回路(乗算回路)に特に当てはまる。
図16は、ANDゲート及びAND.FAゲートに基づいてバイナリ乗算回路を作成する可能性を示している。AND.FAゲートは、
図16bに示すように、ANDゲート及び全加算器(FA)ゲートの連結で構成される。ANDゲートは、関係u∧v=u・vに基づいて、2つのビットu及びvのバイナリ乗算を実行し、FAゲートは、以下の式(5)に示す関係が満たされるように、総和変数s及びキャリー変数c(又はキャリーオーバーフロー変数)を新しい総和変数s’及び新しいキャリー変数c’にマッピングする。
【数24】
AND.FAゲートは式(5)で定義される。このゲートは6つのビットu、v、c、s、c’、s’で演算し、そのうち4つは入力変数(つまり、u、v、c、s)であるため、合計16個の有効な入出力構成が存在する。これらの入出力構成は、8つの項(つまり、8つの被加数ハミルトニアン)のみを有するゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAの基底空間にコード化できる。
【数25】
図18は、このハミルトニアンのスペクトルを示す。H
AND.FAの基底状態多様体はエネルギー-4を有し、他の状態(励起状態)はエネルギー0又は+4を有する。注目すべきことに、ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAの最初の4つの項(被加数ハミルトニアン)は、式(4)から、ANDゲートのゲートコード化ハミルトニアンH
ANDと非常によく似ている。項Z
sの代わりに、積Z
sZ
cZ
s’がある(上記導入した表記に従って、略してZ
scs’と表される)。出力変数「s」を特定するANDゲートと同様に、ハミルトニアンH
AND.FAのこの部分は、ANDゲートのロジックに後続する変数「u」及び「v」の入力に従って「(s,c,s’)」のパリティと一致する。したがって、H
AND.FAの最初の4つの項は、キャリー出力「c’」と相互作用しないため、総和項と呼ばれる。キャリー項(H
AND.FAの他の4つの項)がなければ、基底空間は32倍縮退し、c’を固定せずに全ての可能な状態が許可される。これらのキャリー項を追加すると、この縮退が除去され、AND.FAゲートの正しいロジックを実行する状態が優先されることによって、基底空間が分割される。
【0230】
ここでも、AND.FAロジックをコード化できるハミルトニアンのファミリー全体が存在するが、特に(拡張後)全てのインデックスu、v、s、c、c’及びs’が偶数回含まれるため、上記のハミルトニアンHAND.FAが望ましい。
【0231】
それぞれ式(4)及び式(6)のゲートコード化ハミルトニアンHAND及びHAND.FAなどのゲートコード化ハミルトニアンは、問題の論理ゲートの論理変数によってラベル付けされたキュービットのシステムで定義されたハミルトニアンである。例えば、HANDは3つのキュービットのシステムで定義され(ANDゲートは3つの論理変数を有するため)、HAND.FAは6つのキュービットのシステムで定義される(AND.FAゲートは6つの論理変数を有するため)。ゲートコード化ハミルトニアンが定義されるキュービットを「補助キュービット」と呼び、補助キュービットによって形成される量子システムを「補助量子システム」と呼ぶ。本明細書に記載のように、ゲートコード化ハミルトニアンの決定は中間の古典的ステップであり、換言すれば、ゲートコード化ハミルトニアンによって表される補助キュービットも相互作用も物理的に実行する必要はない。むしろ、ゲートコード化ハミルトニアンは、別の量子システム(補助キュービットを含まない)の構成要素にマッピングされ、物理的に実現されるのは後者の量子システムである。以下では、この量子システムを「補助量子システム」と区別するために「主量子システム」と呼ぶ。主量子システムは、特許請求の範囲に記載され、上記の対応する実施形態で説明された量子システムを指す。
【0232】
具体的には、ゲートコード化ハミルトニアンの各項(被加数ハミルトニアン)に対して、主量子システムのキュービット(本明細書では一次構成要素又は一次キュービットと呼ぶ)を導入する。補助キュービットi,j,k,・・・に作用する形式cZ
iZ
jZ
k・・・(cは係数)の被加数ハミルトニアン毎に、主量子システムの関連するキュービットは(i,j,k,・・・)でラベル付けできる。以下の条件が課される。
【数26】
ここで、右側の期待値は、補助量子システムの補助キュービットi,j,k,・・・に作用する演算子Z
iZ
jZ
k・・・の期待値である。左側の期待値は、被加数ハミルトニアンcZ
iZ
jZ
k・・・に関連付けられている主量子システムのキュービット(i,j,k,・・・)に作用する演算子Z
(i,j,k,・・・)の期待値である。式(7)は、補助量子システムの第1量子状態から主量子システムの第2量子状態へのマッピング又はコード化を定義する。このコード化によれば、補助量子システムの第1量子状態が位置i,j,k,・・・に偶数個の|1>を有する場合、主量子システムの第2量子状態は|0>であり、それ以外の場合は|1>である。したがって、第2量子状態は、第1量子状態の補助キュービットi,j,k,・・・の所定のサブセットのパリティをコード化する。その意味で、2体項Z
iZ
jは、並列補助キュービット(つまり、両方の補助キュービットが|0>状態にある、又は、両方とも状態|1>にある)によって広がる部分空間が、主量子システムの状態|0>にマッピングされ、反並列補助キュービット(つまり、1つの補助キュービットは状態|0>にあり、もう1つは状態|1>にある)によって広がる部分空間が、主量子システムの状態|1>にマッピングされるように、補助キュービットi及びjの間の相対的な向きに従ってのみ区別される。
【0233】
ANDゲートの場合、ハミルトニアンの式(4)は4つの項を有する。そのため、項Z
s、Z
uZ
s、Z
vZ
s及びZ
uZ
vZ
sの期待値をコード化する主量子システムの4つの(一次)キュービット(s)、(u,s)、(v,s)及び(u,v,s)を導入する。このマッピングの作用の下で、ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDは単体ハミルトニアン(ローカルフィールドの総和)に縮小する。主量子システムのローカルサブシステムを形成する、ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDに関連付けられた4つのキュービットのセット内で、前述の式(7)で定義されたマッピングを適用することによって取得される全ての量子状態の部分空間を、問題のローカルサブシステムの有効な部分空間として示す。有効な部分空間内の全ての量子状態は、同じパリティ条件に従う。すなわち、以下の式(8)が成立する。
【数27】
これは、式(4)の形式でのANDゲートコード化の特定の選択によるものである。ここで、H
ANDの各論理変数は偶数回出現し、一般に(Z
i)
2=1が成り立つ。したがって、有効な部分空間には2番目毎の基底状態のみが属する。これは、8つの可能なビット構成(u,v,s)がある、つまり、3つの補助キュービットのヒルベルト空間は2
3=8次元であり、これらを主量子システムの4つのキュービット(4つのキュービットは16次元のヒルベルト空間を有する)を有するシステムにマッピングするからだと理解できる。-kZ(s)Z(u,s)Z(v,s)Z(u,v,s)の形式のペナルティ項(制約ハミルトニアン)を追加すると、前記4つのキュービットのローカルサブシステムの状態セットが、それらのパリティに従って分割され、有効な部分空間がエネルギー的に優先される。要約すると、ゲートコード化ハミルトニアンは、主量子システムのローカルサブシステムを形成する4つのキュービットのセットに作用し、以下の形式を有する短距離量子ハミルトニアンH
AND
SRにマッピングされる。
【数28】
ここで、k>0である。問題の4つのキュービットは、4体ペナルティ項-kZ
(s)Z
(u,s)Z
(v,s)Z
(u,v,s)が幾何学的意味で局所的になるように、プラケット上に配置される。
【0234】
乗算回路は更にAND.FAゲートを含む。次に、式(6)のH
AND.FAゲートコード化ハミルトニアンがどのようにして短距離量子ハミルトニアンH
AND.FA
SRにマッピングできるかを示す。短距離量子ハミルトニアンH
AND.FA
SRは、2つの4体プラケットに配置された(主量子システムの)8つのキュービットに作用する単体フィールドを有し、各プラケットには4体パリティ制約が具備されている(
図15iiを参照)。H
AND.FAの最初の4つの項(被加数ハミルトニアン)は概念的にはANDゲートコード化に似ているため、これらの項を、単体ハミルトニアン-Z
(s,c,s’)-Z
(u,s,c,s’)-Z
(v,s,c,s’)+Z
(u,v,s,c,s’)を有するプラケット上に配置された(主量子システムの)4つのキュービット(s,c,s’)、(u,s,c,s’)、(v,s,c,s’)及び(u,v,s,c,s’)と、前記プラケットに作用する対応する4体パリティペナルティ項(制約ハミルトニアン)-kZ
(s,c,s’)Z
(u,s,c,s’)Z
(v,s,c,s’)Z
(u,v,s,c,s’)と、に割り当てることができる。このプラケットを総和プラケットと呼ぶ。H
AND.FAの形式により、H
AND.FAの他の4つの項もそれぞれ、これらのキュービットの状態が「有効な」状態である場合に限り、(主量子システムの)各キュービット(s,c,s’,c’)、(s,c’)、(c,c’)及び(s’,c’)で特定でき、Z
(s,c,s’,c’)Z
(s,c’)Z
(c,c’)Z
(s’,c’)=1となる。したがって、これらの項を第2プラケットに収集することが可能である。これをキャリープラケットと呼ぶ。これは、単体ハミルトニアン-Z
(s,c,s’,c’)-Z
(s,c’)-Z
(c,c’)+Z
(s’,c’)及び4体パリティ制約-kZ
(s,c,s’,c’)Z
(s,c’)Z
(c,c’)Z
(s’,c’)が作用する4つのキュービットで構成される(
図15ii参照)。したがって、ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAは、立方体の頂点に配置された8つのキュービット(s,c,s’)、(u,s,c,s’)、(v,s,c,s’)、(u,v,s,c,s’)、(s,c,s’,c’)、(s,c’)、(c,c’)、(s’,c’)のセットに作用する以下の短距離ハミルトニアンH
AND.FA
SRにマッピングされる。
【数29】
k>0である。H
AND.FAの直接の実行とは対照的に、H
AND.FA
SRの実行には、3つの2体、1つの3体、3回の1つの4体及び1つの5体の項ではなく、1体のフィールド及び2つの4体の項のみが必要である。更に、乗算回路全体を構築するためにH
AND.FAを直接実行すると、長距離ハミルトニアンが生成される。これは、入力変数p
i及びq
jがAND.FAゲートの行全体又は列全体の入力として機能するという事実から来ている(
図16aを参照)。比較すると、本明細書に記載の実施形態に係る方法は、短距離相互作用のみを含む。
【0235】
短距離ハミルトニアンHAND
SR及びHAND.FA
SRは、乗算回路をコード化する総ハミルトニアンを構築するために使用される構成ブロックである。これを実現するには、ハミルトニアンHAND
SR及びHAND.FA
SRをレンガのように接続し、前のゲートの出力が後続のゲートに入力されることを反映する必要がある。さらに、総ハミルトニアンは、複数のゲートが同じ入力を共有できることをコード化する。短距離ハミルトニアンHAND
SR及びHAND.FA
SRを使用し、所望するロジックが実行されるようにそれらを組み立てる方法を示す。
【0236】
まず、乗算回路の第1行に現れる2つの隣接するANDゲートに注目する(
図15iiiを参照)。対応する入力には、p
0,q
0及びp
1,q
0というラベルが付けられる。q
0は2回出現するため(第1及び第2のANDゲートの共通入力変数として)、入力情報をコード化するのに必要なキュービットは4つのキュービットではなく3つのキュービットだけである。これらの入力を特定すると、自由度が「失われる」。ただし、主量子システムでは、依然として各ANDゲートを4つのキュービットの各プラケットにコード化したい。2つのプラケットに含まれるキュービットの総数は8であるが、変数の1つが共通変数であるため、両方のANDゲートの論理変数の数は6ではなく5になる。8-5=3であるため、2つの入力変数の特定は、量子状態の半分にペナルティを与える制約を追加することで補償する必要がある。s
0を第1のANDゲートの出力、s
1を第2のANDゲートの出力とすると、第1のプラケットのキュービットのラベルはs
0,(q
0,s
0),(p
0,s
0),(p
0,q
0,s
0)になり、第2のプラケットのキュービットのラベルはs
1,(q
0,s
1),(p
1,s
1),(p
1,q
0,s
1)となる。変数q
0が共通入力変数であること、つまり両方のプラケットに現れることは、キュービット(p
0,s
0)、(p
0,q
0,s
0)及び(s
1)、(q
0,s
1)(
図15iiiを参照)にそれぞれ作用する4つのZ演算子で構成される追加の4体ハミルトニアン(共通変数ハミルトニアン)を導入することにより、量子システムで強制できる。
【0237】
具体性を高めるために、しかし一般性を失わずに、p及びqは両方ともl/2ビットのレジスタに収まる自然数であると仮定する。したがって、積n=pqは最大でもlビットを有する。対応する乗算回路を実行するするには、l/2個のANDゲート及びl/2(l/2-1)個のAND.FAゲートが必要である。ゲートの相互接続及び共通変数を考慮せず、ゲートの入力ノード及び出力ノードのみを数えると、システムを記述するには3l(l-1)/2個の論理変数が必要になる。ただし、これらのゲートを接続し、乗算回路を実行するために一部の入力変数が共通変数であることを強制することにより、これらの変数の以下のm
idを特定する必要がある(
図16a参照)。
m
id=l(l-5/2)
これは、望ましくない状態が広がる部分空間にペナルティを課すことによってヒルベルト空間を制限するために、主量子システムにm
id個の追加の独立制約(結合ハミルトニアン)を構築する必要があることを意味する。
【0238】
以下では、l/2ビットとl/2ビットの数値との乗算に対応する全ての有効な状態に跨る縮退スタビライザ空間を設計するための、AND及びAND.FAローカルサブシステムの可能な配置を示す。ゲートコード化ハミルトニアンHAND
SR及びHAND.FA
SRの項(被加数ハミルトニアン)に関連付けられた主量子システムのキュービット(s)、(u,s)、(v,s)及び(u,v,s)、並びに、(s,c,s’)、(u,s,c,s’)、(v,s,c,s’)、(u,v,s,c,s’)、(s,c,s’,c’)、(s,c’)、(c,c’)、(s,c’)は、主量子システムの一次キュービットと呼ばれる。3Dグリッドの2つの層に沿って一次キュービットを配置し、体心立方体グリッドの中心に二次キュービットを追加する。これらの二次キュービットを使用すると、短距離相互作用のみを使用して、欠落しているmid個の制約を3体又は4体パリティ制約(結合ハミルトニアン)として実行できる。更に、対象となる半素数をコード化する追加の制約を追加することで、基底空間の縮退をどのように分割できるかを示す。これにより、(p及びqの交換とは別に)素因数n=p・qの情報をコード化する単一の基底状態が分離される。
【0239】
前述のように、H
AND.FAの最初の4つの項(被加数ハミルトニアン)は、概念的にはH
ANDの項と同様である。これにより、総プラケット及びキャリープラケットという2つの別個のプラケットが生成される。ANDゲートに関連付けられたプラケットの行を拡張する2Dグリッド上に総プラケットを配置できる。乗算回路のレイアウトでは、入力変数p
0,・・・,p
l/2-1が垂直方向に繰り返され、q
0,・・・,q
l/2-1が水平方向に繰り返されるため(
図16aを参照)、共通変数が常に隣接するプラケットで共有されるように、これらのプラケットを配置することが可能である。共通変数を考慮するために、追加のパリティ制約(共通変数ハミルトニアン)を介してプラケットが接続される(
図14及び
図15参照)。欠落しているm
id-l(l/2-1)個の制約は、1つのゲートの出力ノードと別のゲートの入力ノード(ゲート相互接続)との特定に起因する。
【0240】
乗算回路全体は、以下のルールを使用して相互接続された個々のANDゲート及びAND.FAゲートで構成されていると考えることができる。
a)ANDゲートの総和出力をAND.FAゲートの総和入力で特定する(サム・ツー・サム)。
図15viを参照のこと。
b)2つのAND.FAゲートを「水平に」接続する。つまり、1つのAND.FAゲートのキャリー出力を別のAND.FAゲートのキャリー入力に接続する(キャリー・ツー・キャリー)。
図15ivを参照のこと。
c)第1のAND.FAゲートの総和出力を第2のAND.FAゲートの総和入力で特定することにより、2つのAND.FAゲートを「垂直に」接続する(サム・ツー・サム)。
図15vを参照のこと。
d)AND.FAゲートのキャリー出力を取得し、それを第2のAND.FAゲートの総和入力に入力する(キャリー・ツー・サム)。
図15viiを参照のこと。
【0241】
まずケースb)について説明し、
図15ivのラベルに従う。キャリー変数c
1によって与えられるゲート相互接続に加えて、入力変数q
0は両方のゲートへの共通入力変数である。
【0242】
q
0が共通入力変数であることを反映する第1の制約を構築するために、総プラケットを隣り合わせに配置し、追加の4体プラケット(パリティペナルティ項を備えた)のためのスペースを残す。これは
図15iiiに関連して説明した2つのANDゲートの場合と同様である。
【0243】
キャリー変数c
1によって与えられる相互接続を反映する第2の独立制約を構築するには、キャリープラケットを3Dグリッドの第2層(対応する総プラケットの真上)に配置する。それぞれの8つのキュービットによって形成される各立方体の中心に配置された(c’)で示される2次キュービットを追加し、この2次キュービット(c’)をキャリーキュービットと呼ぶ。キャリーキュービットの値を固定するために、H
AND.FAに現れる項Z
scs’とZ
scs’Z
c’はZ
c’だけ異なることに留意されたい。したがって、2つの主キュービット(s,c,s’)及び(s,c,s’,c’)と各立方体のキャリーキュービット(c’)とに作用する3体パリティ制約(ゲート相互接続ハミルトニアン)は、立方体のキャリーキュービットの状態が、対応するAND.FAゲートのキャリー出力値c’に対応するような状態を優先するように課すことができる(
図15ivを参照)。更に、この制約は、キャリーキュービットの導入後に増加したヒルベルト空間のサイズを修正する。キャリーキュービットの導入後、有効な論理代入が存在する場合、全てのインデックスはZ
(c’)Z
(s,c,s’)Z
(s,c,s’,c’)=1のように正確に2回出現する。
【0244】
図15ivに示すように2つのAND.FAゲートが水平に接続されている場合、最初のキャリー変数c
1は反復変数である。つまり、第2のプラケットのペアにも(c
1,c
2)として存在する。c
2を第2のAND.FAゲートの出力キャリー変数と呼ぶ場合(その値は対応するキャリーキュービットでコード化される)、3つの(c
1)、(c
2)及び(c
1,c
2)により、更なるパリティ制約、すなわち、各立方体のキャリーキュービット(c
1)、(c
2)及び立方体の1つのキュービット(c
1,c
2)に作用する3体ハミルトニアンの導入が可能になる(
図15ivを参照)。
【0245】
更に、各立方体にキャリーキュービットを追加し、前述の対応する3体パリティ制約を追加すると、ケースa)、c)及びd)も解決できる。
【0246】
ケースc)に関しては、
図15vのラベルに従って、変数s
1は、第2のAND.FAゲートの総和入力としても機能する、第1のAND.FAゲートの総和出力を示す。このゲート相互接続を強制するために、4体パリティ制約(Z演算子の積)が2つのキャリーキュービット(c
1)及び(c
3)と、両方とも最上層にある(c
1,s
1)及び(s
1,c
3)でラベル付けされた一次キュービットとに作用する。この制約は、
図15vにおいて四角形で示されている。
【0247】
ケースa)及びd)は境界ケースで、ANDゲートの第1行又はAND.FAゲートの左端の対角に関連する。
図15vi)はケースa)を示す。ANDゲートに関連付けられた4つのキュービットのプラケット内に(s
1)とラベル付けされたキュービットが存在するため、ANDゲートの総和出力に直接アクセスできる(
図15iを参照)。
図15viに示すように、この総和出力はAND.FAゲートの総和入力に接続される。対応するキャリー出力変数がc
3で示されている場合、
図15viに示すように、キュービット(s
1)、(s
1,c
3)及び(c
3)に作用するパリティ制約(Z演算子の積)を構築できる。ケースd)は、部分和がまだ存在せず、
図15viiに示すように別のAND.FAユニットを使用してp
k・q
l+1にキャリー(桁上げ)を追加したい場合に、次の列にキャリーされるオーバーフローを扱う。c
sで示される第1のFAゲートのキャリー出力は次のゲートの総和入力で特定されるため、この変数は関連する両方のハミルトニアンに現れる。したがって、第2のAND.FAゲートに関連付けられたローカルサブシステムには、ハミルトニアンH
AND.FAに従って組み合わせ(s,c’)に対応するキュービット(cs,c
3)が含まれる。これにより、キュービット(cs)、(cs,c
3)及び(c
3)に作用する別の独立したパリティ制約(Z演算子の積)が存在する。
【0248】
項目a)からd)で前述したゲート相互接続に加えて、変数p
i及びq
jが、
図16aに示す乗算回路に従って共通変数であることも強制されなければならない。2つのANDゲートの共通変数である変数q
iのケースについては前述した。
図15iiiに関連する説明を参照されたい。2つのAND.FAゲートの共通変数である変数q
iのケースは、
図15ivに関連して前述した。
図15viiiに示すように、ANDゲート及びAND.FAゲートの共通変数である変数p
jのケースも同様に扱われる。更に、変数p
jが2つのAND.FAゲートの共通変数であることは、
図15ixに示す方法で強制することができる。共通変数p
kを有する2つのAND.FAゲートの更なるケースを示す
図15viiも参照されたい。
【0249】
追加のキャリーキュービット(二次キュービット)の導入は、適切な出力コード化ハミルトニアンを使用して、所望する半素数n=n
0n
1n
2・・・(n
iはnのビット)を量子システムにコード化するのにも役立つ。これを説明するために、3ビット×3ビットの例に注目する(
図20を参照)。入力p及びqはそれぞれ3ビット整数、つまり0から7の範囲の整数である。したがって、積n=p・qは、6ビット整数である7×7=49より大きくならない。したがって、一般性を失うことなく、nを6ビット整数、つまりn=n
5n
4・・・n
0として表すことができる。最下位の有効ビットn
0は、乗算回路の右端のANDゲートの総和出力変数である(
図16a及び
図20aを参照)。したがって、ビットn
0は対応するプラケットの一次キュービット(n
0)として存在するため、n
0は(Z演算子によって)簡単に固定できる。ビットn
1はAND.FAゲートの総和出力変数である(
図16a及び
図20aを参照)。ビットn
1自体は、対応するキュービットとして直接アクセスできない。更に、問題のAND.FAゲートのキャリー出力変数をc
0で表すと、関連するローカルサブシステムのキャリープラケットはキュービット(n
1,c
0)を有し、(c
0)はローカルサブシステムのキャリーキュービットである。これらのキュービット間の相対的な位置合わせは、n
1にのみ依存する。したがって、2つの局所項±k・σ
c0σ
(n1,c0)を追加すると、相互作用の符号に応じて値n
1が固定される。同様に、(c
2,(n
2,c
2))、(c
3,(n
3,c
3))及び(n
5,(n
4,n
5))の間のパリティにより、値n
2、n
3及びn
4が固定される。値n
5は補助キュービットn
5にコード化されており、ローカルフィールド±k・σ
c5の符号によって固定できる。全加算器ゲートを繰り返し使用するため、前の総和やキャリーがない場合でも、AND.FAゲートの入力の一部をゼロに固定する必要がある。これは、(cs,(a
0,cs))、(c
0,(a
1,c
0))及び(c
2,(a
2,c
2))に反磁性/強磁性相互作用を課すことによってn
iの出力値を固定するケースと同様に行われる。
【0250】
一般に、整数nのビットn
0,・・・,n
1は、
図16aに示すように、AND.FAゲートの右端でAND.FAゲートの最下行の出力として出現する。全ての半加算器及び全加算器はAND.FAユニットで実現される。
図16aに示すように、最下位の有効ビットn
0はANDゲートの総和出力変数である。したがって、ビットn
0は、対応するプラケットの一次キュービット(n
0)として存在する。このため、n
0の値は、キュービット(n
0)に作用する単一キュービットZ演算子によって量子システムにコード化できる。更に、
図16aに示すように、最上位の有効ビットn
lはAND.FAゲートのキャリー出力変数である。後者のキャリー出力変数にも、対応するキャリーキュービット(二次キュービット)が導入されているため、直接アクセスできる。したがって、n
lの値は、問題のキャリーキュービットに作用する単一キュービットZ演算子によって量子システムにコード化できる。
図16aに更に示すように、ビットn
1,・・・,n
l-1は、AND.FAゲートの総和出力変数である。これらのビットのそれぞれは、キャリーキュービットc’と各ローカルサブシステムのキュービット(s’,c’)との間の2体演算子(ZZ形式)によって量子システムにコード化でき、その結果、総和出力s’の値が固定される。このようにして、前述の単体項と2体項との総和である出力コード化ハミルトニアンを提供できる。したがって、問題の出力コード化ハミルトニアンは2体ハミルトニアンである。
【0251】
更に
図16a)に示すように、最も右側のAND.FAゲートのキャリー入力cをゼロに設定することができる(AND.FAゲートを使用して半加算器の動作を実現するため)。これも、キュービットc’(キャリーキュービット)と(c,c’)(キャリープラケットの一次キュービット)との間に2体制約(ZZ形式)を課すことによって実行できる。
【0252】
l/2倍のl/2ビット数を乗算できる乗算回路は、サイズl=|log2(n)|ビットの出力nを生成する。このような回路は、l/2個のANDゲートとl/2(l/2-1)個のAND.FAゲートで構成される。中間層を形成するキャリーキュービットを含める場合、プラケットを構築するにはl(9l-10)/4個のキュービットが必要である。乗算回路を使用して奇数の半素数n=p・qの因数を求める場合、p及びqは両方とも奇数である必要があり、p0=q0=1となる。これにより、AND(u,1)=uが成り立つため、ANDゲートの第1行が不要になる。したがって、ANDゲートに関連する-4l+2個のキュービットは以下のようなカウントから削除できる。
mphys=(9l2-26l+8)/4
上記は必要なキュービットの数を示す。
【0253】
前述の構造は、両方の因数がサイズl/2のレジスタに収まるように、因数n=p・qに(キュービット数に関して)最適化されている。一般に、任意の半素数nに対する因数分解では、因数の十分な長さはLp=l=|log2(n)|及びLq=|1/2(l+1)|-1となる。因数の長さが事前に分からないわからないことは、因数分解問題の一部である。因数の1つが非常に小さい、又は、両方が等しいといった極端なケースには、古典的にアプローチ可能である。例えば、単純な試行分割では、rビットの特定のしきい値サイズまでの因数をチェックできる。一方、フェルマー法としての因数分解アルゴリズムは、両方の因数の値が近い場合に良好に機能する。RSAプロトコルを使用する場合、攻撃をできるだけ強力にすることに関心があるため、どちらの因数も小さくなく、同じサイズでもないと想定できる。この可能なサイズの範囲にまたがるには、回路は、(Lp-r)ビットとLqビット数の乗算をコード化してlビット数を生成できなければならない。前処理なし、つまりr=0の場合、必要な最大リソースは約3/2mphys(l)個のキュービットである。これにより、3.4l2個のキュービットと推定される。
【0254】
表Iはバイナリ乗算表を示している。p及びqをバイナリ表現すると、積n=p・qはビットp
i及びq
jで次のように書き換えられる。
【数30】
ただし、上記の展開の係数Σ
ip
iq
k-iは、nのバイナリ表現のビットn
kで特定できない。これは、Σ
ip
iq
k-iが0からmin(k+1,l-k)までの範囲の値を取ることができるためである。k=i+jに関連するべき乗2
kに従って表I内の二項積p
iq
iを列方向に収集すると、方程式のセットを導出できる。方程式の完全なセットは因数分解方程式とも呼ばれ、c
12のようなキャリー変数が含まれる。c
12という特定のケースでは、q
0p
1+q
1p
0=c
122+n
1のような2
1列に関連する全ての項の総和mod2を計算するときに、その変数がオーバーフローする可能性がある。乗算表の各列の項の数によって、必要なキャリー変数の数が決まる。最悪の場合、それらは全て1になるため、「#(項)」のバイナリ展開の先頭の項は、c
ij≠0が必要となる最上位の列jを定義する。
【表I】
【0255】
本明細書に記載の実施形態によれば、乗算表に現れる全ての積piqjに対してキャリー変数及び総和変数を導入することができる。キャリー変数は表の異なる列を接続するが、総和変数は異なる行を接続するため、乗算表全体をセルに分割する。pとqとの乗算を実行するには、高次の列に接続されているキャリー変数のバランスをとりながら、各列の全ての項の総和が計算される。総和変数は、部分和mod2を追跡し、キャリー変数は隣接する列のみを接続する。通常、これらの個々のセルのロジックはブール回路の言語で記述される。対応するセルは、それぞれ半加算器(HA)ゲートと全加算器(FA)ゲートとによって記述される。上の行からの前の部分和「s」と、前の列からのキャリー「c」とが与えられると、以下の関係は、新しい総和s’変数と新しいキャリーc’変数を定義する。
s+c+x=2c’+s’
乗算回路では、各セルxはpiqjの形式であり、変数piとqjとの間の論理ANDとして見ることができる。
【0256】
本明細書に記載のように、量子システムが総ハミルトニアンの基底状態に発展した後、量子システムの少なくとも一部(すなわち、主量子システム)を測定することができる。例えば、全ての一次キュービット(一次構成要素)を測定することができる。主量子システムのキュービットの各測定値は、パウリ演算子Zの測定値である可能性があり、1又は-1のいずれかの読み出しδ(測定結果)が得られる。本明細書に記載のパリティマッピング(例えば、式(7)を参照)のおかげで、主量子システムの一次キュービットa=(i,j,k,・・・)に作用するパウリ演算子Zは、ゲートコード化ハミルトニアンの被加数ハミルトニアンに対応する。被加数ハミルトニアンは、パウリ演算子ZiZjZk・・・の積に比例する。演算子Zi,Zj,Zk,・・・は、補助量子システムのキュービットi,j,k,・・・にそれぞれ作用する。変数σi∈{-1,1}は補助量子システムのキュービットiに割り当てられ、変数σj∈{-1,1}は、補助量子システムのキュービットjに割り当てられ、変数σk∈{-1,1}は、補助量子システムのキュービットkに割り当てられる等である。変数σi,σj,σk・・・は、それぞれ補助量子のキュービットi,j,k,・・・に作用する演算子Zi,Zj,Zk,・・・の可能な測定結果を表す。主量子システムの一次キュービット(i,j,k,・・・)に作用するパウリ演算子Zの測定により読み出しδが得られるということは、δ=σiσjσk・・・、つまり読み出しδは変数σi、σj、σk・・・の積であることを意味する。一次キュービットの各測定結果は、このようにパリティマッピングの下で補助量子システムの関連するキュービットに割り当てられた変数の積に対応する。パリティマッピングを反転するタスクは、主量子システムの一次キュービットを測定することによって得られた測定結果δのセットに基づいて、補助量子システムの各キュービットに関連付けられた変数σi,σj,σk・・・のセットを決定することに相当する。したがって、以下の形式の連立方程式を解く必要がある。
σω1=δ1,σω2=δ2,・・・,σωr=δr
ここで、各δa∈{-1,1}は、主量子システムの一次キュービットaを測定することによって得られる測定結果(読み出し)を示し、rは一次キュービットの数である。更に、σωaは積σωa=σωa1σωa2σωa3・・・の短縮表記である。σωai∈{-1,1}であり、a1,a2,a3,・・・は、前述のようにパリティマッピングの下で一次キュービットaに関連付けられた補助システムのキュービットである。
【0257】
{-1,1}からの要素の乗算は、変数{0,1}に対してXOR演算(又はモジュロ2加算)を実行することと同形である。したがって、変数s
k=(1-σ
k)/2及びd
i=(1-δ
i)/2を変更すると、上記の連立方程式は以下の第2の連立方程式と等価になる。
【数31】
そして、以下の式が成立する。
【数32】
このため、第2の連立方程式は、以下のSAT式と同等である。
【数33】
つまり、変数s
iの満足のいく割り当てを見つける問題である。シェーファーの二分定理によれば、XOR-SATは複雑性クラスPに属し、ガウス消去法で解くことができる(第2の連立方程式は、モジュロ2の連立一次方程式である)。問題のサイズl=|log
2(n)|の関数として2次式的に多くの論理変数が存在するため、パリティマッピングの逆変換は効率的に、つまりlの多項式時間で実行できる。
【0258】
3ビット×3ビット乗算器の具体例を
図20A、
図20Bに示す。入力数値(素因数)は、バイナリ展開で与えられるp=p
2p
1p
0及びq=q
2q
1q
0である。p及びqは両方とも0から7までの整数であるため、その積は49を超えることはできない。したがって、出力数値nは6ビットのレジスタn=n
5n
4・・・n
0に収まる。整数積n=p・qの2進数を計算するために、
図16a)に示す乗算回路は、2のより高いべき乗へのキャリーオーバーフローを考慮しながら、3
2=9個の二項積p
iq
jを合計する必要がある。対応する回路は、
図20Aに示すように、3つのANDゲート及び6つのAND.FAユニットから構築される。前述のように、ゲートノード間の各関係は、対応するローカルサブシステム間の独立した制約によって補償される。このような関係には2つのタイプがある。a)共通変数、つまり、2つの入力ノードが、これらの対応する状態が等しくなるように接続されるタイプ、及び、b)ゲート相互接続、つまり、前のゲートの出力ノードが後続のゲートの入力ノードでもあるタイプ、である。
【0259】
図20Aの左側のパネルに示すように、各変数q
jは3つのゲートの共通変数である。この意味で、q
0は3つのANDゲート全ての共通入力として機能し、q
1及びq
2はそれぞれ3つのAND.FAゲートの共通入力として機能する。図示の配置では、変数q
jは「水平方向」に繰り返す。同様に、入力変数p
iは「垂直方向」に繰り返す。ゲートの各列(1つのANDゲート及び2つのAND.FAゲートで構成されている)は共通の入力p
iを有する。3つの独立したANDゲートの場合とは対照的に、q
0によって与えられる第1行の入力ノード間の接続により、独立変数の数が2つ減る。3ビットの回路例は3行3列のゲートにわたって実行されるため、入力ノード間には合計2・2・3=12個の接続が存在する。
【0260】
図20Aの右側のパネルは、ゲート相互接続を示す。右端のANDゲートは最下位の有効ビットn
0を直接出力するが、他の2つのANDゲートは出力s
0及びs
1を後続の2つのAND.FAゲートに供給する。更に、AND.FAゲートの総和出力は、第2のAND.FAゲートの総和入力に2回接続される。4つの場合において、2つのAND.FAゲートがキャリー出力からキャリー入力に接続され、最後に1つのケースでは、キャリー出力がAND.FAゲートの総和入力に供給される。これにより、合計9つのゲート相互接続が得られる。
【0261】
要約すると、基本的なANDゲート及びAND.FAゲートから3ビット×3ビット乗算器を構築するには、12+9=21個の制約(12個の共通変数制約及び9個のゲート相互接続制約)が必要である。
図20Aは、関連する24個の論理変数のラベル付けを示している。そのうちの6つは入力p、qを保存し、6つは出力情報nを保持する。更に、4つの総和変数s
0、s
1、s
2、s
3、4つのキャリー変数c
0、c
1、c
3、c
4、及び、左端のキャリー出力を次の行の総和入力に接続するための特殊変数csが必要である。最後に、前のキャリーや総和がない場合でも、AND.FAゲートを繰り返し使用するため、3つの補助変数a
0、a
1、a
2を導入する。これらの入力をゼロに設定すると、全加算器の実行内で必要な半加算器を実行できるようになる。
【0262】
パリティモデルへの変換は上記のように進行する。各ANDゲートは4個のキュービットのプラケットとして実行され、AND.FAゲートは合計9個のキュービットの体心立方体によって実現される。更に、ゲート及びノードの接続は、裸のプラケットを接続するパリティ制約(ゲート相互接続ハミルトニアン、共通変数ハミルトニアン)に変換される。
図15i~
図15ixは、基本的な変換手順を示している。
【0263】
次に、共通変数ハミルトニアンについて説明する。
図15iii、
図15ivは、qj入力変数を「水平に」繰り返すケースを示している。前述のように、隣接するゲートに現れる共通入力変数q
jは、両方の総和プラケットを接続するパリティモデル内の追加の4体制約(共通変数ハミルトニアン)に変換される。入力変数の水平方向の接続に加えて、垂直方向に繰り返される変数p
iもある。水平のケースと同様に、これらの接続により、総和プラケットを接続する追加の4体制約が生じる(
図15vii~
図15ixを参照)。よりよく理解するには、より単純な回路を考えることが役立つ。サイズk×kのANDゲートの2Dグリッドを考える。回路が入力ノード間に2k(k-1)個の接続を有するように、ゲートの第1の入力ノードを列方向に接続し、第2の入力ノードを行方向に接続する。k
2個のプラケットを使用して、ANDゲートのロジックをパリティモデルに変換する。[i,j]によってANDゲートを列挙する。ここで、iは列インデックスを示し、jは行インデックスを示す(
図20Aの左側のパネルと同様)。s
i,jを[i,j]-ANDゲートの総和出力と呼ぶ場合、対応するプラケットにはラベル(s
i,j)、(p
i,s
i,j)、(q
j,s
i,j)及び(p
i、q
j、s
i、j)が付けられる。これらをセットR:={(s
i,j),(q
j,s
i,j)}及びL:={(p
i,s
i,j),(p
i,q
j,s
i,j)}にグループ化することもできるし、代わりにD:={(s
i,j),(p
i,s
i,j)}及びU:={(q
j,s
i,j),(p
i,q
j,s
i,j)}にグループ化することもできる。セット「右」R及び「左」Lからの2つのタプルは、列iとは無関係に形式的にはq
jだけ異なるが、「ダウン」D及び「アップ」Uの要素は、全ての行インデックスjについてp
iだけ異なる。したがって、隣接するANDパリティプラケット[i,j]、[i+1,j]は、例えば、L
1:={(p
i,s
i,j),(p
i,q
j,s
i,j)}及びR
2:={(s
i+1,j),(q
j,s
i+1,j)、つまり、第1のプラケットの左側のセットと第2のプラケットの右側のセットにラベル付けされたキュービットを含むパリティ制約に接続できる。同様に、垂直方向に隣接するANDパリティプラケット[i,j]、[i,j+1]は、D
1:={(s
i,j),(p
i,s
i,j)}及びU
2:={(q
j+1,s
i,j+1),(p
i,q
j+1,s
i,j+1)}のラベルを有するキュービットのパリティ制約で接続できる。特に、プラケット間のラベルを慎重に配置することにより、水平方向及び垂直方向のパリティ制約を同時に利用できる。考えられる方法は、上部のキュービットがセットUからのラベルでラベル付けされ、下部、右側、左側のキュービットがそれぞれラベル付けされるように、各プラケット内のラベル付けを配置することである。その意味では、右下角のキュービットはラベルRD=R∩D=(s
i,j)を取得する必要がある。同様に、LD=(p
i,s
i,j)、RU=(q
j,s
i,j)、LU=(p
i,q
j,s
i,j)が得られる。この配置によって2k(k-1)個の新しい4体パリティ制約が得られることを確認するのは簡単である。
【0264】
この分析を念頭に置いて、乗算回路にあるANDプラケット及びAND.FAプラケットの配置に再度焦点を当てる。すでに前述のように、2つのAND.FAプラケットのうちの1つは、概念的にはANDパリティプラケットと同様であることに留意されたい。つまり、対応するラベル付けは、総和出力ラベルsを3つのs、c、s’で正式に置き換えることによって取得される。この違いを除けば、乗算回路に関連する総和プラケットの全体的な構造は、ANDゲートの2Dグリッドの例と同じである。ここでも、入力変数p
iは垂直方向に繰り返され、変数q
jは水平方向に繰り返される。これにより、隣接するキュービットのプラケットに作用する2k(k-1)個の新しい4つのパリティ制約を使用して、プラケット及び対応するAND.FAゲートの総和プラケットを2D層に配置できることが容易に理解できる。k=3の場合、
図20Bの左側パネルに示すように、12個の新しい制約が存在する。これらのプラケットは第1層に配置される。
図20Bの左側パネルの図は、物理キュービットのラベル付けを示す。同じプラケットに属するキュービット間でいくつかのインデックスが繰り返し現れるため、簡略表記を導入する。ラベルの文字列を形式的に共通部分と固有部分とに分割する。
図20Bにおいて+(共通ラベル)の形式の表現によって示される共通部分はプラケットの中央に示され、固有の別個の部分はキュービットに関連付けられたラベルとして表される。読者がプラケットの中央に+(共通ラベル)の形式の表現を見つけたときは常に、これは前記プラケットの4つのキュービットのそれぞれのラベルが共通部分(共通ラベル)によって拡張され、実際のラベル文字列を形成すると理解されるべきである。例えば、
図20Bの左側パネルの右上角のプラケットに関して、前記プラケットの3つのキュービットは、(p
0,q
0),(q
0),(p
0)によってラベル付けされており、前記プラケットの1つのキュービットはラベルを有しない。更に、プラケットの中央には+n
0という表現が示されている。したがって、前記プラケットのキュービットラベルは、共通部分がn
0である(p
0,q
0,n
0)、(q
0,n
0)、(p
0,n
0)及び(n
0)として理解されるべきである。
【0265】
第1層を形成する9つのプラケット(すなわち、総和プラケット)の横に、第1層から依然として切断された6つのプラケット(6つのAND.FAゲート(キャリープラケット)に関連する)が存在する。ゲート相互接続は、キャリープラケットを第1層に結合するためのパリティ制約(ゲート相互接続ハミルトニアン)に変換される。基本的な構築ステップは前述されており、
図15iv~
図15viiに示されている。前述のように、総和及びキャリープラケットの各ペアに対して、対応するキャリーキュービットの値を制約が固定するように、3体パリティ制約(ゲート相互接続ハミルトニアン)及びキャリーキュービットが導入される。キャリープラケットは、それらの総和の対応物(
図20Bの右側のパネルを参照)の上にある第2層上に配置することができるが、キャリーキュービットは、これらの2つの層の間の中間層に配置することができる(
図20Bの中央のパネルを参照)。6つのc
0、c
1、cs、c
2、c
3、n
5の補助キャリーキュービットを利用して、ゲート相互接続に関連する欠落している9つの制約を表IIに示すように構築できる。
【表II】
【0266】
表IIでは、2つの変数を有するラベルは最上層のキュービットを参照し、1つの変数を含む他のラベルは、中間層のキャリーキュービット又は最下層のプラケットの第1行の出力キュービットのいずれかに関連付けられる(
図20Bを参照)。「comm.var.」列は、各ゲート相互接続に関連付けられた共通変数を示す。回路内のそのような各ゲート相互接続により、量子システムにおけるパリティ制約(ゲート相互接続ハミルトニアン)の構築が可能になる。それらのいくつかは、4体制約及び3体制約など、
図20Bで強調表示されている。3ビット×3ビット乗算器の例の3D概略図については、
図14も参照されたい。合計12+9=21個のパリティ制約により、生のゲートから乗算回路を構築するときに共通入力変数及びゲート相互接続によって行われる21個の特定が補償される。ラベルn
0及びn
5に関連付けられたキュービット上の単体フィールド(単体ハミルトニアン)と、ラベルのセット{(c
2),(n
2,c
2)}、{(c
3),(n
3,c
3)}及び{(c
5),(n
4,c
5)}に関連する2体ハミルトニアンとを導入することで、3ビット×3ビットの乗算アーキテクチャをプログラムできる。つまり、因数分解される整数nを量子システムにコード化できる。説明のために、
図20Bは、ビットn
2をプログラムするのに必要な2体ハミルトニアンのうちの1つを示す。更に、一部のキャリー入力a1、a2と総和入力a0は、{(cs),(a
0,cs)}、{(c
0),(a
1,c
0)}及び{(c
2),(a
2,c
2)}に作用する追加のハミルトニアンを追加することによってゼロに設定される。これにより、AND.FAゲートの実行内で半加算器のロジックを模倣することができる。
【0267】
前述の3ビット×3ビットの例は、簡単な方法で任意の整数に一般化できる。
【0268】
上記は実施形態を対象としたものであるが、特許請求の範囲によって決定される範囲から逸脱することなく、他の更なる実施形態を考案することができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整数の素因数分解を実行する量子計算方法であって、
a)複数の論理ゲート(1010~1013、1020~1023、1030~1033、1040~1043)を含む論理ゲート回路(1000)を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
b)前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアン(H
G)を決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である、前記決定するステップと、
c)構成要素(401~404、901~904、911~914)を含む量子システム(1100)を提供するステップであって、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記提供するステップと、
d)前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
e)前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、
f)前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
g)前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
h)前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するステップと、
を有する量子計算方法。
【請求項2】
前記量子システムは、それぞれが前記構成要素のサブセットを含むローカルサブシステム(1110~1113、1120~1123、1130~1133、1140~1143)を含み、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンが、ローカルサブシステムに関連付けられる、
請求項1に記載の量子計算方法。
【請求項3】
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンについて、前記ゲートコード化ハミルトニアンから短距離量子相互作用を決定するステップであって、前記決定された短距離量子相互作用が、前記ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられた前記ローカルサブシステム内で作用する、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された短距離量子相互作用を実行することを含む、
請求項2に記載の量子計算方法。
【請求項4】
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンについて、前記ゲートコード化ハミルトニアンから単体相互作用を決定するステップであって、前記決定された単体相互作用が、前記ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられた前記ローカルサブシステム内で作用する単体ハミルトニアンによって表現可能である、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された単体相互作用を実行することを含む、
請求項2又は3に記載の量子計算方法。
【請求項5】
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは相互作用係数を有し、前記相互作用係数は単体相互作用にマッピングされる、
請求項4に記載の量子計算方法。
【請求項6】
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンについて、前記ゲートコード化ハミルトニアンから1つ以上の制約相互作用を決定するステップであって、前記1つ以上の制約相互作用が、前記ゲートコード化ハミルトニアンに関連付けられた前記ローカルサブシステム内で作用する制約ハミルトニアンによって表現可能である、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された1つ以上の制約相互作用を実行することを含む、
請求項2から5の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項7】
(a)前記論理ゲート回路は、論理ゲートのペア間の複数のゲート相互接続(1050)を含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
複数の前記ゲート相互接続の各ゲート相互接続(1050)について、前記ゲート相互接続から1つ以上のゲート相互接続相互作用を決定するステップであって、前記1つ以上のゲート相互接続相互作用は、前記量子システムの少なくとも2つのローカルサブシステムを結合するゲート相互接続ハミルトニアン(1150)によって表現可能である、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定されたゲート相互接続相互作用を実行することを含む、
及び/又は、
(b)前記論理ゲート回路は、論理ゲートのグループの共通変数を含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップが、
共通変数のセットの各共通変数について、前記共通変数から1以上の共通変数相互作用を決定するステップであって、前記1つ以上の共通変数相互作用が、共通変数ハミルトニアン(1151~1153、1161~1163、1171~1173)によって表現可能であり、前記量子システムの少なくとも2つのローカルサブシステムを結合する、前記決定するステップを含み、
前記短距離量子相互作用の第1のセットを実行することが、前記決定された共通変数相互作用を実行することを含む、
請求項2から6の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項8】
前記量子システムを発展させるステップが、総ハミルトニアンの基底状態に向かって前記量子システムを発展させるステップを含み、前記総ハミルトニアンが、第1のハミルトニアン及び第2のハミルトニアンを含む総和であり、前記第1のハミルトニアンが、前記短距離量子相互作用の第1セットを表し、前記第2のハミルトニアンが、前記短距離量子相互作用の第2のセットを表す、
請求項1から
7の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項9】
(a)前記量子システムを発展させるステップが、
前記量子システムを冷却するステップ、又は、
前記量子システムの断熱発展を実行するステップ、又は、
前記量子システムの反断熱発展を実行するステップ、又は、
前記量子システムのユニタリ発展を実行するステップ、又は、
それらの任意の組み合わせを含む、
及び/又は、
(b)複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンが、古典的ハミルトニアン又は量子ハミルトニアンである、
請求項1から
8の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項10】
前記論理ゲートは、ANDゲート及び/又はAND.FAゲートを含み、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートは、ANDゲート及びAND.FAゲートのうちの1つである、
請求項1から
9の何れか1項に記載の量子計算方法。
【請求項11】
ANDゲートである、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートについて、前記論理ゲートに関連付けられた前記ゲートコード化ハミルトニアンが以下の形式を有する、
請求項
10に記載の量子計算方法。
【数34】
ここで、σ
u、σ
v及びσ
sは、それぞれ論理変数u、v及びsに関連付けられたスピン観測可能量であり、前記論理変数u及びvは前記ANDゲートの入力変数であり、前記論理変数sは前記ANDゲートの出力変数である。
【請求項12】
AND.FAゲートである、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートについて、前記論理ゲートに関連付けられた前記ゲートコード化ハミルトニアンが以下の形式を有する、
請求項
10又は
11に記載の量子計算方法。
【数35】
ここで、σu、σv、σs、σc、σs’及びσc’は、それぞれ論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量であり、前記論理変数u、v、s及びcは前記AND.FAゲートの入力変数であり、前記論理変数s’及びc’は前記AND.FAゲートの出力変数である。
【請求項13】
整数の素因数分解を実行する量子計算方法であって、
a)複数の論理ゲート(1010~1013、1020~1023、1030~1033、1040~1043)を含む論理ゲート回路(1000)を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
b)構成要素(401~404、901~904、911~914)を含む量子システム(1100)を提供するステップと、
c)前記論理ゲートに基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップであって、複数の前記論理ゲートの各論理ゲートに対して、前記論理ゲートに関連付けられた前記構成要素のサブセット(1110~1113、1120~1123、1130~1133、1140~1143)を決定することと、前記構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で前記論理ゲートをコード化することと、を含む、前記決定するステップと、
d)前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、
e)前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットの実行を含み、前記量子システムを発展させるステップと、
f)前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
g)前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するステップと、
を有する量子計算方法。
【請求項14】
構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の基本的サブルーチンであって、
少なくとも4つの構成要素を含む前記量子システムの基本的サブシステム(S
AND)を決定するステップであって、
以下の式(A)で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
ANDの各被加数ハミルトニアンが、前記基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられており、
【数36】
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDは、論理変数u及びvを入力変数として有し、論理変数sを出力変数として有するANDゲートの入出力関係をコード化し、
σ
u、σ
v及びσ
sはそれぞれ前記論理変数u、v及びsに関連付けられたスピン観測可能量である、
前記基本的サブシステムを決定するステップと、
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
ANDから前記基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定するステップと、
前記決定された短距離量子相互作用を前記基本的サブシステムで実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
を有する基本的サブルーチン。
【請求項15】
構成要素を含む量子システムで演算する量子計算の基本的サブルーチンであって、
少なくとも4つの構成要素を含む前記量子システムの基本的サブシステム(S
AND)を決定するステップであって、
以下の式(B)で定義されるゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAの各被加数ハミルトニアンが、前記基本的サブシステムの各構成要素に関連付けられており、
【数37】
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAは、論理変数u、v、s及びcを入力変数として有し、論理変数s’及びc’を出力変数として有するAND.FAゲートの入出力関係をコード化し、
σ
u、σ
v、σ
s、σ
c、σ
s’及びσ
c’はそれぞれ前記論理変数u、v、s、c、s’及びc’に関連付けられたスピン観測可能量である、
前記基本的サブシステムを決定するステップと、
前記ゲートコード化ハミルトニアンH
AND.FAから前記基本的サブシステムの短距離量子相互作用を決定するステップと、
前記決定された短距離量子相互作用を前記基本的サブシステムで実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
を有する基本的サブルーチン。
【請求項16】
量子計算を実行する方法であって、
構成要素を含む量子システムを提供するステップと、
請求項16に記載の1つ以上の基本的サブルーチン及び/又は請求項17に記載の1つ以上の基本的サブルーチンを実行するステップと、
前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
を有する量子計算実行方法。
【請求項17】
複数の論理ゲート(21~28、1010~1013、1020~1023、1030~1033、1040~1043)を含む論理ゲート回路(200、1000)を反転する量子計算方法であって、
a)前記論理ゲート回路の未知の入力に対応する前記論理ゲート回路の出力を提供するステップと、
b)前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアン(H
G)を決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和である、前記決定するステップと、
c)構成要素(320、401~404、750、901~904、911~914)を含む量子システム(300、700、1100)を提供するステップであって、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記提供するステップと、
d)前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
e)前記論理ゲート回路の出力に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、
f)前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるステップと、
g)前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するステップと、
h)前記読み出しに基づいて前記論理ゲート回路の前記未知の入力を決定するステップと、
を有する量子計算方法。
【請求項18】
整数の素因数分解を実行する装置(1200)であって、
古典的計算システム(1210)と、
構成要素を含む量子システム(1250)と、
量子処理ユニット(1220)と、
測定ユニット(1230)と、を備え、
前記古典的計算システムは、
複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和であり、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記決定するステップと、
前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、を実行するように構成されており、
前記量子処理ユニットは、前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるように構成されており、
前記測定ユニットは、前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されており、
前記古典的計算システムは、前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するように更に構成されている、
量子計算装置。
【請求項19】
整数の素因数分解を実行する装置(1200)であって、
古典的計算システム(1210)と、
構成要素を含む量子システム(1250)と、
量子処理ユニット(1220)と、
測定ユニット(1230)と、を備え、
前記古典的計算システムは、
複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を決定するステップであって、前記論理ゲート回路は、出力として前記整数を有する乗算関数を計算するように構成される、前記決定するステップと、
前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップであって、前記複数の論理ゲートの各論理ゲートについて、前記論理ゲートに関連する構成要素のサブセットを決定し、前記構成要素のサブセットの短距離量子相互作用で前記論理ゲートをコード化する、前記第1のセットを決定するステップと、
前記整数に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、を実行するように構成されており、
前記量子処理ユニットは、前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるように構成されており、
前記測定ユニットは、前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されており、
前記古典的計算システムは、前記読み出しに基づいて前記整数の素因数を決定するように更に構成されている、
量子計算装置。
【請求項20】
複数の論理ゲートを含む論理ゲート回路を反転する装置(1200)であって、
古典的計算システム(1210)と、
構成要素を含む量子システム(1250)と、
量子処理ユニット(1220)と、
測定ユニット(1230)と、を備え、
前記古典的計算システムは、
前記論理ゲート回路の未知の入力に対応する前記論理ゲート回路の出力を提供するステップと、
前記複数の論理ゲートの論理ゲート毎に1つずつ、ゲートコード化ハミルトニアンを決定するステップであって、各ゲートコード化ハミルトニアンは、前記複数の論理ゲートの1つの論理ゲートの入出力関係をコード化し、被加数ハミルトニアンの総和であり、複数の前記ゲートコード化ハミルトニアンの各ゲートコード化ハミルトニアンの各被加数ハミルトニアンは、前記量子システムの各構成要素と関連付けられる、前記決定するステップと、
前記論理ゲート回路の前記論理ゲートに基づいて、前記構成要素の短距離量子相互作用の第1のセットを決定するステップと、
前記論理ゲート回路の出力に基づいて前記構成要素の短距離量子相互作用の第2のセットを決定するステップと、を実行するように構成されており、
前記量子処理ユニットは、前記短距離量子相互作用の第1のセット及び前記短距離量子相互作用の第2のセットを実行することを含み、前記量子システムを発展させるように構成されており、
前記測定ユニットは、前記量子システムの少なくとも一部を測定して読み出しを取得するように構成されており、
前記古典的計算システムは、前記読み出しに基づいて前記論理ゲート回路の前記未知の入力を決定するように更に構成されている、
量子計算装置。
【国際調査報告】