IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハミングバード・バイオサイエンス・プライベート・リミテッドの特許一覧

特表2024-529141HER3抗原結合性分子を使用したがんの処置および予防
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】HER3抗原結合性分子を使用したがんの処置および予防
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240725BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508570
(86)(22)【出願日】2022-08-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2022072674
(87)【国際公開番号】W WO2023017151
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】63/232,883
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522176919
【氏名又は名称】ハミングバード・バイオサイエンス・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ボイド-カーカップ,ジェローム・ダグラス
(72)【発明者】
【氏名】カー,シュレヤ
(72)【発明者】
【氏名】パシュキェヴィチ,コンラッド
(72)【発明者】
【氏名】タッカー,ディッティ
(72)【発明者】
【氏名】イングラム,ピアーズ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、(i)活性化突然変異を含まない、HERS媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子、または(ii)不活性化突然変異を含まない、HERS媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む、がんの処置または予防のための、HERSに結合する抗原結合性分子の使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法における使用のための、HER3に結合する抗原結合性分子であって、HER3関連がんが、(i)活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか、または(ii)不活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む、抗原結合性分子。
【請求項2】
対象におけるHER3関連がんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造における、HER3に結合する抗原結合性分子の使用であって、HER3関連がんが、(i)活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか、または(ii)不活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む、使用。
【請求項3】
対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法であって、HER3に結合する治療または予防有効量の抗原結合性分子を対象に投与するステップを含み、HER3関連がんが、(i)活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか、または(ii)不活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む、方法。
【請求項4】
HER3関連がんが、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異を含まないか、または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含まない、請求項1に記載の使用のための抗原結合性分子、請求項2に記載の使用、または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
HER3関連がんが、(i)KRASに対する活性化突然変異を含まないか、または(ii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まないか、または(iii)BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(iv)PTENに対する不活性化突然変異を含まない、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用または方法。
【請求項6】
HER3関連がんが、(i)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(iii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(iv)KRASに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(v)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(vi)BRAFに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(vii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(viii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(ix)BRAFに対する活性化突然変異を含まず、KRASに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(x)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(xi)KRASに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まない、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用または方法。
【請求項7】
HER3関連がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含まない、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用または方法。
【請求項8】
HER3関連がんが、同等の非がん性細胞による発現レベルよりも高いレベルでNRG1を発現する細胞を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用または方法。
【請求項9】
対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法における使用のための、HER3に結合する抗原結合性分子であって、HER3関連がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含み、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、抗原結合性分子。
【請求項10】
対象におけるHER3関連がんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造における、HER3に結合する抗原結合性分子の使用であって、HER3関連がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含み、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、使用。
【請求項11】
対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法であって、HER3に結合する抗原結合性分子の治療または予防有効量を対象に投与するステップを含み、HER3関連がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含み、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、方法。
【請求項12】
HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異が、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異またはHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異である、請求項9に記載の使用のための抗原結合性分子、請求項10に記載の使用、または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
HER3関連がんが、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異;ならびに/または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含む、請求項9から12のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【請求項14】
HER3関連がんが、KRASに対する活性化突然変異、PIK3CAに対する活性化突然変異、BRAFに対する活性化突然変異、またはPTENに対する不活性化突然変異のうちの1つまたは複数を含む、請求項9から13のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【請求項15】
HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択する方法であって、
(a)対象のがんを解析して、がんが、(i)活性化突然変異を含まないHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異を含まないHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むかどうかを判定するステップと、
(b)対象のがんが、ステップ(a)においてそのような突然変異を含まないと判定された場合、HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップと
を含む、方法。
【請求項16】
(c)HER3に結合する抗原結合性分子を、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップ
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよび(ii)HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択する方法であって、
(a)対象のがんを解析して、がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含むかどうかを判定するステップと、
(b)対象のがんが、ステップ(a)においてそのような突然変異を含むと判定された場合、(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよび(ii)HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップと
を含む、方法。
【請求項18】
(c)(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよび(ii)HER3に結合する抗原結合性分子を、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
HER3関連がんが、固形腫瘍、乳がん、乳癌、乳管癌、胃がん、胃癌、胃腺癌、結腸直腸がん、結腸直腸癌、結腸直腸腺癌、頭頸部がん、頭頸部扁平上皮癌、肺がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、扁平上皮肺癌、卵巣がん、卵巣癌、漿液性卵巣腺癌、腎がん、腎細胞癌、腎明細胞癌、腎細胞腺癌、乳頭状腎細胞癌、膵がん、膵腺癌、膵管腺癌、子宮頸がん、子宮頸部扁平上皮癌、皮膚がん、黒色腫、食道がん、食道腺癌、肝がん、肝細胞癌、胆管癌、子宮がん、子宮体内膜癌、甲状腺がん、甲状腺癌、褐色細胞腫、傍神経節腫、膀胱がん、膀胱尿路上皮癌、前立腺がん、前立腺腺癌、肉腫、および胸腺腫から選択される、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【請求項20】
HER3に結合する抗原結合性分子が、10D1F、セリバンツマブ、エルゲムツマブ、パトリツマブ、GSK2849330、ルムレツズマブ、CDX-3379、AV-203、バレセタマブ、TK-A3、TK-A4、MP-EV20、1A5-3D4、9F7-F11、16D3-C1、NG33、A5、F4、huHER3-8、REGN1400およびゼノクツズマブから選択される、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【請求項21】
HER3に結合する抗原結合性分子が、
(i)以下のCDR:
配列番号40のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号43のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号48のアミノ酸配列を有するHC-CDR3
を組み込んでいる重鎖可変(VH)領域、および
(ii)以下のCDR:
配列番号66のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号69のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号74のアミノ酸配列を有するLC-CDR3
を組み込んでいる軽鎖可変(VL)領域
を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【請求項22】
抗原結合性分子が、
(i)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号45のアミノ酸配列を有するHC-CDR3
を組み込んでいるVH領域、および
(ii)以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3
を組み込んでいるVL領域
を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【請求項23】
抗原結合性分子が、
配列番号33のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVH領域、および
配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVL領域
を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【請求項24】
抗原結合性分子が、
配列番号75のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこれからなるポリペプチド、および
配列番号76のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこれからなるポリペプチド
を含む、請求項1から2のいずれか一項に記載の使用のための抗原結合性分子、使用、または方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年8月13日に出願されたUS63/232,883からの優先権を主張し、その内容および要素は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の分野
本開示は、分子生物学の分野に関し、より具体的には、抗体技術ならびに医学的な処置および予防の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
HER3活性化は、複数の適応症において腫瘍進行および標準治療に対する獲得耐性の両方についての重要な機構として浮上している。これまでのHER3標的化アプローチは、期待された臨床的有効性を示していない。HER3媒介性シグナル伝達の最適以下の阻害が1つの考えられる説明である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様では、本開示は、対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法における使用のための、HER3に結合する抗原結合性分子であって、HER3関連がんが、(i)活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む、抗原結合性分子を提供する。
【0005】
また、対象におけるHER3関連がんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造における、HER3に結合する抗原結合性分子の使用であって、HER3関連がんが、(i)活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む、使用も提供する。
【0006】
また、対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法であって、HER3に結合する治療または予防有効量の抗原結合性分子を対象に投与するステップを含み、HER3関連がんが、(i)活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異を含まない、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む、方法も提供する。
【0007】
本開示の様々な態様に従う、一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含まない。本開示の様々な態様に従う、一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択される遺伝子に対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含まない。
【0008】
一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRASに対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まないか;または(iii)BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(iv)PTENに対する不活性化突然変異を含まない。一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRASに対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まないか;または(iii)PTENに対する不活性化突然変異を含まない。
【0009】
一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(iii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(iv)KRASに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(v)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(vi)BRAFに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(vii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まないか;または(viii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(ix)BRAFに対する活性化突然変異を含まず、KRASに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(x)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(xi)KRASに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まない。一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(iii)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まないか;または(iv)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まない。
【0010】
一部の実施形態では、HER3関連がんは、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含まない。
【0011】
一部の実施形態では、HER3関連がんは、同等の非がん性細胞による発現レベルよりも高いレベルでNRG1を発現する細胞を含む。
【0012】
また、対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法における使用のための、HER3に結合する抗原結合性分子であって、HER3関連がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含み、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、抗原結合性分子も提供する。
【0013】
また、対象におけるHER3関連がんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造における、HER3に結合する抗原結合性分子の使用であって、HER3関連がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含み、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、使用も提供する。
【0014】
また、対象におけるHER3関連がんを処置または予防する方法であって、HER3に結合する抗原結合性分子の治療または予防有効量を対象に投与するステップを含み、HER3関連がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含み、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、方法も提供する。
【0015】
一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異は、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異またはHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異である。
【0016】
本開示の様々な態様に従う、一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異;ならびに/または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含む。本開示の様々な態様に従う、一部の実施形態では、HER3関連がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択される遺伝子に対する活性化突然変異;ならびに/または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含む。
【0017】
一部の実施形態では、HER3関連がんは、KRASに対する活性化突然変異、PIK3CAに対する活性化突然変異、BRAFに対する活性化突然変異、またはPTENに対する不活性化突然変異のうちの1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、HER3関連がんは、KRASに対する活性化突然変異、PIK3CAに対する活性化突然変異、またはPTENに対する不活性化突然変異のうちの1つまたは複数を含む。
【0018】
また、HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択する方法であって、
(a)対象のがんを解析して、がんが、(i)活性化突然変異を含まないHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異を含まないHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むかどうかを判定するステップと、
(b)対象のがんが、ステップ(a)においてそのような突然変異を含まないと判定された場合、HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップと
を含む、方法も提供する。
【0019】
一部の実施形態では、方法は、
(c)HER3に結合する抗原結合性分子を、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップ
をさらに含む。
【0020】
また、(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよび(ii)HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択する方法であって、
(a)対象のがんを解析して、がんが、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含むかどうかを判定するステップと、
(b)対象のがんが、ステップ(a)においてそのような突然変異を含むと判定された場合、(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよび(ii)HER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップと
を含む、方法も提供する。
【0021】
一部の実施形態では、方法は、
(c)(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよび(ii)HER3に結合する抗原結合性分子を、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップ
をさらに含む。
【0022】
本開示の様々な態様に従う、一部の実施形態では、HER3関連がんは、固形腫瘍、乳がん、乳癌、乳管癌、胃がん、胃癌、胃腺癌、結腸直腸がん、結腸直腸癌、結腸直腸腺癌、頭頸部がん、頭頸部扁平上皮癌、肺がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、扁平上皮肺癌、卵巣がん、卵巣癌、漿液性卵巣腺癌、腎がん、腎細胞癌、腎明細胞癌、腎細胞腺癌、乳頭状腎細胞癌、膵がん、膵腺癌、膵管腺癌、子宮頸がん、子宮頸部扁平上皮癌、皮膚がん、黒色腫、食道がん、食道腺癌、肝がん、肝細胞癌、胆管癌、子宮がん、子宮体内膜癌、甲状腺がん、甲状腺癌、褐色細胞腫、傍神経節腫、膀胱がん、膀胱尿路上皮癌、前立腺がん、前立腺腺癌、肉腫、および胸腺腫から選択される。
【0023】
本開示の様々な態様に従う、一部の実施形態では、HER3に結合する抗原結合性分子は、10D1F、セリバンツマブ、エルゲムツマブ、パトリツマブ、GSK2849330、ルムレツズマブ、CDX-3379、AV-203、バレセタマブ、TK-A3、TK-A4、MP-EV20、1A5-3D4、9F7-F11、16D3-C1、NG33、A5、F4、huHER3-8、REGN1400およびゼノクツズマブから選択される。
【0024】
一部の実施形態では、HER3に結合する抗原結合性分子は、
(i)以下のCDR:
配列番号40のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号43のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号48のアミノ酸配列を有するHC-CDR3
を組み込んでいる重鎖可変(VH)領域、および
(ii)以下のCDR:
配列番号66のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号69のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号74のアミノ酸配列を有するLC-CDR3
を組み込んでいる軽鎖可変(VL)領域
を含む。
【0025】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、
(i)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号45のアミノ酸配列を有するHC-CDR3
を組み込んでいるVH領域、および
(ii)以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3
を組み込んでいるVL領域
を含む。
【0026】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、
配列番号33のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVH領域、および
配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVL領域
を含む。
【0027】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、
配列番号75のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこれからなるポリペプチド、および
配列番号76のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはこれからなるポリペプチド
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、HER3媒介性シグナル伝達のメディエーターをコードする遺伝子に対する突然変異を欠くがんが、抗HER3抗体による処置に例外的に良好に応答するという、本発明者らの予期せぬ観察に基づく。特に、KRAS、PIK3CAおよびPTENに対してホモ接合性の野生型遺伝子型を有するがん、またはKRAS、PIK3CA、BRAFおよびPTENに対してホモ接合性の野生型遺伝子型を有するがんが、抗HER3抗体処置に高度に応答した。
【0029】
HER3およびHER3媒介性シグナル伝達
HER3(例えば、ERBB3、LCCS2、MDA-BF-1としても知られている)は、UniProt P21860によって特定されたタンパク質である。
【0030】
HER3の構造および機能は、例えば、ChoおよびLeahy Science(2002)297(5585):1330~1333、Singerら、Journal of Biological Chemistry(2001)276、44266~44274、Roskoskiら、Pharmacol.Res.(2014)79:34~74、BazleyおよびGullick Endocrine-Related Cancer(2005)S17~S27、ならびにMujooら、Oncotarget(2014)5(21):10222~10236に記載されており、それらの各々は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。HER3は、2つのロイシンリッチサブドメイン(それぞれ、配列番号15および17に示される、ドメインIおよびIII)と、2つのシステインリッチサブドメイン(それぞれ、配列番号16および18に示される、ドメインIIおよびIV)とを含む、N末端細胞外領域(配列番号9)を有する1回膜貫通型ErbB受容体チロシンキナーゼである。ドメインIIは、他のHER受容体分子との分子間相互作用に関与する、βヘアピン二量体化ループ(配列番号19)を含む。細胞外領域は、膜貫通領域(配列番号10)を介して、細胞質領域(配列番号11)へと連結される。細胞質領域は、膜近接セグメント(配列番号12)、タンパク質キナーゼドメイン(配列番号13)、およびC末端セグメント(配列番号14)を含む。
【0031】
本明細書では、「HER3」とは、任意の種に由来するHER3を指し、任意の種に由来する、HER3のアイソフォーム、断片、バリアント(突然変異体を含む)、または相同体を含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、タンパク質の「断片」、「バリアント」、または「相同体」は、任意選択で、参照タンパク質(例えば、参照アイソフォーム)のアミノ酸配列に対して、少なくとも60%、好ましくは、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のアミノ酸配列同一性のうちの1つを有することとして特徴付けられ得る。一部の実施形態では、参照タンパク質の断片、バリアント、アイソフォーム、および相同体は、参照タンパク質により果たされる機能を果たす能力により特徴付けられ得る。
【0033】
「断片」とは、一般に、参照タンパク質の部分を指す。「バリアント」とは、一般に、参照タンパク質のアミノ酸配列と比べて、1つまたは複数のアミノ酸の置換、挿入、欠失、または他の修飾を含むが、参照タンパク質のアミノ酸配列に対する、かなりの程度の配列同一性(例えば、少なくとも60%)を保持するアミノ酸配列を有するタンパク質を指す。「アイソフォーム」とは、一般に、参照タンパク質の種と同じ種により発現される、参照タンパク質のバリアントを指す(例えば、ヒトHER3アイソフォーム1~5は全て互いのアイソフォームである)。「相同体」とは、一般に、参照タンパク質の種と比較して、異なる種により産生される、参照タンパク質のバリアントを指す。例えば、ヒトHER3アイソフォーム1(P21860-1、v1;配列番号1)と、アカゲザルHER3(UniProt:F7HEH3-1、v2;配列番号20)とは、互いの相同体である。相同体は、オルソログを含む。
【0034】
参照タンパク質の「断片」は、任意の長さ(アミノ酸の数による)であり得るが、任意選択で、参照タンパク質(すなわち、断片が由来するタンパク質)の長さの少なくとも20%であってもよく、参照タンパク質の長さの50%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のうちの1つの最大の長さを有してもよい。
【0035】
HER3の断片は、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200アミノ酸のうちの1つの最小の長さを有してもよく、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、または1300アミノ酸のうちの1つの最大の長さを有してもよい。
【0036】
一部の実施形態では、HER3は、哺乳動物に由来するHER3(例えば、霊長動物(アカゲザル、カニクイザル、非ヒト霊長動物、またはヒト)、および/または齧歯動物(例えば、ラットまたはマウス)のHER3)である。HER3のアイソフォーム、断片、バリアント、または相同体は、任意選択で、所与の種、例えば、ヒトに由来する、未成熟または成熟のHER3アイソフォームのアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、好ましくは、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のアミノ酸配列同一性のうちの1つを有することとして特徴付けられ得る。
【0037】
アイソフォーム、断片、バリアント、または相同体は、任意選択で、例えば、機能的特性/活性に適切なアッセイによる解析により決定する場合、参照HER3(例えば、ヒトHER3アイソフォーム1)の機能的特性/活性を有する、機能的なアイソフォーム、断片、バリアント、または相同体であり得る。例えば、HER3のアイソフォーム、断片、バリアント、または相同体は、HER2、NRG1(I、II、III、IV、V、またはVI型)、またはNRG2(αまたはβ)のうちの1つまたは複数との会合を呈し得る。
【0038】
一部の実施形態では、HER3は、配列番号1~8のうちの1つに対して、少なくとも70%、好ましくは、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のアミノ酸配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むか、またはこれらからなる。
【0039】
一部の実施形態では、HER3の断片は、配列番号9~19のうちの1つ、例えば、配列番号9、16、または19のうちの1つに対して、少なくとも70%、好ましくは、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のアミノ酸配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むか、またはこれらからなる。
【0040】
HER3を介するシグナル伝達は、受容体のヘテロ多量体化(すなわち、他のErBB受容体、例えば、HER2、EGFRとの)、およびその結果として生じる細胞質領域のチロシン残基のタンパク質キナーゼドメインによる自己リン酸化に関与する。HER3はキナーゼ活性を欠き、安定したホモ二量体を形成しない。したがって、HER3は、シグナル変換を起こすためにキナーゼ活性ヘテロ二量体パートナー(例えば、EGFRまたはHER2)と結合することによりトランスリン酸化されなければならない(Berger MBら、FEBS Lett 2004;569:332~6;Kim HHら、Biochem J 1998;334:189~95)。
【0041】
HER受容体ファミリーメンバーの多量体化(例えば、二量体化)は、細胞成長シグナル伝達経路を活性化するために必要とされ、HER3は、リガンド依存的およびリガンド非依存的の両方で他のHERファミリーメンバーと二量体化することができる。HER3の細胞外ドメイン(ECD)は、「閉鎖型」不活性コンフォメーションと「開放型」活性コンフォメーションとの間の可逆的平衡で存在し、ドメインII内の二量体化アームが露出して、ドメインIIの二量体化界面に沿って、特にシステインリッチCR1領域を介して二量体化を可能にする(Carraway,K.L.ら、Nature、1997.387(6632):512~6;Riese,D.J.ら、Mol Cell Biol、1995.15(10):5770~6;Harari,D.ら、Oncogene、1999.18(17):2681~9;Zhang,D.ら、Proc Natl Acad Sci USA、1997.94(18):9562~7;Meyerら、Nature、1995.378(6555):386~90;Jura,N.ら、Proc Natl Acad Sci USA、2009.106(51):21608~13;Fornaro,L.ら、Nat Rev Gastroenterol Hepatol、2011.8(7):369~83;Motaら、Oncotarget(2015)5:89284~306)。HER3は、平衡が開放型コンフォメーションに有利にシフトし、活性ヘテロ二量体を形成する可能性が高まると、「活性化する」。活性化の従来のモデルはリガンド依存的であり、すなわち、開放型コンフォメーションのHER3がニューレグリン(NRG)、例えば、NRG1(ヘレグリン、HRGとしても知られている)またはNRG2などのそのリガンドと結合することによって安定化されると、平衡がシフトする。加えて、十分な濃度でのいずれかの二量体化パートナーの存在は、開放型コンフォメーションで一時的にHER3に結合し、安定化するため、開放型コンフォメーションに有利な平衡にシフトさせる。これはリガンド非依存的活性化として知られている(Jura,N.ら、Proc Natl Acad Sci USA、2009.106(51):21608~13;Fornaro,L.ら、Nat Rev Gastroenterol Hepatol、2011.8(7):p.369~83;Motaら、Oncotarget(2015)5:89284~306)。
【0042】
本明細書において、「HER3媒介性シグナル伝達」とは、HER3および/またはHER3を含む多量体ErBBファミリーメンバー受容体複合体によって媒介されるシグナル伝達を指す。「シグナル伝達」とは、シグナル変換および細胞活性を制御する他の細胞プロセスを指す。HER3媒介性シグナル伝達は、HER3受容体含有複合体、例えば、HER3および他のHER受容体(例えば、HER2、EGFR)を含むヘテロ多量体複合体によって媒介され得る。HER3媒介性シグナル伝達は、リガンド依存的であってもよく、例えば、NRG(例えば、NRG1、NRG2)の結合によって引き起こされてもよいか、またはリガンド非依存的であってもよい。
【0043】
HER3媒介性シグナル伝達は、MAPK/ERKおよびPI3K/AKT/mTOR経路を介して細胞内で進行して細胞の生存および増殖を促進する。HER3媒介性シグナル伝達は、例えば、GalaおよびChandarlapaty、Clin Cancer Res.(2014)20(6):1410~1416、Mishraら、Oncol Rev.(2018)12(1):355、Baselgaら、Nat Rev Cancer(2009)9:463~75、Yardenら、Nat Rev Mol Cell Biol(2001)2:35052073、Motaら、Oncotarget(2015)5:89284~306、ならびにHaikalaおよびJanne、Clin.Cancer Res.(2021)27:3528~39に記載されており、これらの全ては、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0044】
HER3含有受容体複合体のタンパク質キナーゼドメインにおけるリン酸化チロシン残基は、そのSH2ドメインとの相互作用を介して、アダプター/エフェクタータンパク質GRB2を動員する。リガンド刺激により、活性化された受容体(EGFR/HER2)は自己リン酸化を受け、GRB2を動員するためのホスホ-チロシン残基を提供する。GRB2はそのSH3ドメインを介してグアニンヌクレオチド交換因子SOSに結合する。GRB2-SOS複合体において活性化されたSOSは、H-Ras、N-RasおよびK-RasなどのRasファミリーGTPaseからのGDPの除去、およびそれによるRasファミリーGTPaseの活性化を促進する。活性化されたRas GTPaseは次いで、A-Raf、B-RafおよびC-RafなどのRAFキナーゼを活性化する。RAFキナーゼは次いでMEK1およびMEK2をリン酸化し、活性化し、次いでそれはMAPK(ERKとしても知られている)をリン酸化し、活性化する。活性化されたMAPKは、c-Mycなどの転写因子の活性を直接調節することができる。活性化されたMAPKはまた、RSKのリン酸化、ならびにその結果として生じる40Sリボソームタンパク質S6のリン酸化および活性化を介してタンパク質へのmRNAの翻訳を上方調節する。活性化されたMAPKはまた、MNKをリン酸化し、活性化し、それは次いで転写因子CREBをリン酸化し、活性化する。
【0045】
HER3のタンパク質キナーゼドメインにおけるリン酸化チロシン残基はまた、そのSH2ドメインを介してPI3Kのp85サブユニットも動員する。p85の会合は、PI3Kの脂質キナーゼp100αサブユニットのアロステリック活性化を引き起こす。活性化されたPI3KはPIP3へのPIP2の変換をもたらし、それはAKTを動員して、mTORC2およびPDK1によってリン酸化され、活性化される。リン酸化されたAKTは、CREBおよびmTORを活性化することを含む、多くの活性を有する。PTENはPIP3をPIP2に脱リン酸化することによってPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達に拮抗し、PP2AはAKTを脱リン酸化することによってPI3K/AKT/mTOR経路を阻害する。
【0046】
発がん性Src相同領域2プロテインチロシンホスファターゼ2(SHP2)は、腫瘍の進行を促進し、PI3K/Akt、Ras/Raf/MAPKなどの複数の発がん性シグナル伝達経路をつなぐ極めて重要なハブとして機能する(Dongら、Front.Cell Dev.Biol.、11 March 2021)。GAB2はGRB2に結合し、複数のチロシン残基でリン酸化され、SHP2およびp85のSH2ドメインに結合可能になる(Adamsら、Mol Cancer Res.2012 Oct;10(10):1265~70;(Liuら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(2016)113、984~989)。相互作用はコンフォメーション変化を誘導し、それぞれ、SHP2触媒部位の自己阻害を軽減し(Neelら、Trends Biochem Sci.2003 Jun;28(6):284~93)、PI3Kのp110触媒サブユニット上のp85の阻害を軽減する(Cuevasら、J Biol Chem.2001 Jul 20;276(29):27455~6)。SHP2は、RASの直接脱リン酸化(Bundaら、Nat Commun.2015 Nov 30;6():8859)、RASGAP(RAS GTPase活性化タンパク質)(Neelら、Trends Biochem Sci.2003 Jun;28(6):284~93)およびSPRY(Hanafusaら、J Biol Chem.2004 May 28;279(22):22992-5)の阻害によってRASを活性化することが示されている。SHP2の過剰発現は、PI3K/Akt軸を活性化することによって腫瘍浸潤を増強することが示され(Huら、Onco Targets Ther.(2017)10、3881~3891)、一方、SHP2のノックダウンは細胞遊走を阻害し、SHP2の腫瘍促進作用はAktシグナル伝達に部分的に関連している(Caoら、Pathol.Res.Pract.(2019)215:152621)。
【0047】
STAT3および5タンパク質は、p85α、p110αおよびAKT1の発現を増強し、それによってPI3K/AKTシグナル伝達カスケードを介するシグナル伝達を増加させる転写因子である(Radlerら、Mol Cell Endocrinol.2017 August 15;451:31~39)。JAK2によって活性化されると、リン酸化されたSTAT5は、PRLシグナル伝達依存的にPI3Kのp85α調節サブユニットのSH2ドメインに結合することにより、STAT5もPI3K複合体のシグナル伝達に直接関与し得ることが示唆される。EGFRをリン酸化する別のキナーゼは、サイトカインにより調節されるチロシンキナーゼJak2であり、したがってEGFRのキナーゼ欠損突然変異体によってさえもMAPK活性化を可能にする(Mishraら、Oncol Rev.(2018)12(1):355、Baselgaら、Nat Rev Cancer(2009)9:463~75)。活性STAT5およびAKTを過剰発現もしくは欠失させるか、または変異型PTENを発現させる遺伝子モデルにおける集団的観察は、正常乳腺発達中の生存因子として、および乳がん発症中の発がん遺伝子としてのSTAT5機能が、PI3K/AKT経路によって媒介されるという考えを支持する(Radlerら、Mol Cell Endocrinol.2017 August 15;451:31~39)。
【0048】
がん
本開示は、がんの処置および予防に関する。
【0049】
本開示に従うがんは、任意の望ましくない細胞増殖(または望ましくない細胞増殖によりそれ自体で現れる任意の疾患)、新生物、または腫瘍であり得る。がんは、良性であってもよいか、または悪性であってもよい。がんは、原発性であってもよいか、または続発性(例えば、転移性)であってもよい。新生物または腫瘍は、細胞の任意の異常な成長または増殖である場合があり、任意の器官/組織に位置(および/またはその細胞に由来)してもよい。
【0050】
がんは、例えば、副腎、副腎髄質、肛門、虫垂、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、盲腸、中枢神経系(脳を含むか、または除外する)、小脳、子宮頸部、結腸、十二指腸、子宮内膜、上皮細胞(例えば、腎臓上皮)、胆嚢、食道、神経膠細胞、心臓、回腸、空腸、腎臓、涙腺、喉頭、肝臓、肺、リンパ、リンパ節、リンパ芽球、顎、縦隔、腸間膜、子宮筋層、鼻咽頭、網、口腔、卵巣、膵臓、耳下腺、末梢神経系、腹膜、胸膜、前立腺、唾液腺、S字結腸、皮膚、小腸、軟部組織、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、舌、扁桃腺、気管、子宮、外陰、および/または白血球に由来する細胞のがんであり得る。
【0051】
がんは、1つまたは複数の腫瘍であってもよいか、またはそれを含んでもよい。がんは、神経膠腫、髄芽腫、髄膜腫、神経線維腫、上衣腫、シュワン細胞腫、神経線維肉腫、星状細胞腫および希突起神経膠腫、黒色腫、中皮腫、骨髄腫、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、骨髄異形成症候群(MDS)、肝がん、類表皮癌、前立腺がん、乳がん、肺がん、NSCLC、結腸がん、卵巣がん、膵がん、胸腺がん、血液がんまたは肉腫であり得る。
【0052】
一部の実施形態では、本開示に従うがんは、固形腫瘍、乳がん、乳癌、乳管癌、胃がん、胃癌、胃腺癌、結腸直腸がん、結腸直腸癌、結腸直腸腺癌、頭頸部がん、頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)、肺がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、扁平上皮肺癌、卵巣がん、卵巣癌、漿液性卵巣腺癌、腎がん、腎細胞癌、腎明細胞癌、腎細胞腺癌、乳頭状腎細胞癌、膵がん、膵腺癌、膵管腺癌、子宮頸がん、子宮頸部扁平上皮癌、皮膚がん、黒色腫、食道がん、食道腺癌、肝がん、肝細胞癌、胆管癌、子宮がん、子宮体内膜癌、甲状腺がん、甲状腺癌、褐色細胞腫、傍神経節腫、膀胱がん、膀胱尿路上皮癌、前立腺がん、前立腺腺癌、肉腫、および胸腺腫から選択される。
【0053】
一部の実施形態では、本開示に従うがんは、胃がん(例えば、胃癌、胃腺癌、消化管腺癌)、頭頸部がん(例えば、頭頸部扁平上皮癌)、乳がん、卵巣がん(例えば、卵巣癌)、肺がん(例えば、NSCLC、肺腺癌、扁平上皮肺細胞癌)、黒色腫、前立腺がん、口腔がん(例えば、口腔咽頭がん)、腎臓がん(例えば、腎細胞癌)または結腸直腸がん(例えば、結腸直腸癌)、食道がん、膵がん、固形がんおよび液性がん(すなわち、血液がん)から選択される。
【0054】
一部の実施形態では、がんは、EGFRファミリーメンバー(例えば、HER3、EGFR、HER2またはHER4)を発現する細胞、および/またはEGFRファミリーメンバーに対するリガンドを発現する細胞を含む。一部の実施形態では、処置/予防されるがんは、EGFRファミリーメンバーについて陽性であるがんである。一部の実施形態では、がんは、EGFRファミリーメンバーおよび/またはEGFRファミリーメンバーに対するリガンドを過剰発現する。EGFRファミリーメンバーおよび/またはEGFRファミリーメンバーに対するリガンドの過剰発現は、同等の非がん性細胞/非腫瘍組織による発現レベルよりも高いがん細胞/腫瘍組織による発現レベルの検出によって決定され得る。
【0055】
発現は、任意の適切な手段により決定され得る。発現は、遺伝子発現であり得るか、またはタンパク質発現であり得る。遺伝子発現は、例えば、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)により、例えば、HER3をコードするmRNAの検出により決定され得る。例えば、タンパク質の発現は、抗体ベースの方法、例えば、ウェスタンブロット、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、またはELISAにより決定され得る。
【0056】
一部の実施形態では、本開示に従うがんは、HER3関連がんである。
【0057】
HER3、ならびにがんとのその関連、およびがんにおけるその役割は、例えば、Karachaliouら、BioDrugs.(2017)31(1):63~73、およびZhangら、Acta Biochimica et Biophysica Sinica(2016)48(1):39~48に概説されており、これらの両方は参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0058】
本明細書で使用される場合、「HER3関連」がんとは、HER3の遺伝子および/またはタンパク質発現が、がんの発生、発症、進行、または症状の重症度の危険性因子である(例えば、正に関連する)がんを指す。一部の実施形態では、がんはHER3を過剰発現する。一部の実施形態では、がんは、例えば、同等の非がん性細胞(例えば、同じ型の非がん性細胞、例えば、同じ器官/組織に由来する非がん性細胞)による発現レベルと比較して、上昇したHER3の遺伝子および/またはタンパク質発現を有する細胞を含み得る。
【0059】
好ましい実施形態では、HER3関連がんは、HER3を発現する細胞を含むがんであり得る。一部の実施形態では、がんは、HER3タンパク質を発現する細胞を含む。HER3タンパク質を発現する細胞を含むがんは、「HER3陽性」がんと称され得る。一部の実施形態では、がんは、細胞表面(すなわち、細胞膜内または細胞膜)においてHER3タンパク質を発現する細胞を含む。
【0060】
一部の実施形態では、HER3関連がんは、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、胃がん、膀胱がん、膵がん、肺がん、黒色腫、結腸直腸がん、扁平上皮癌および口腔がんから選択され得る。
【0061】
NRG1の血漿レベルの上昇は、結腸直腸がん患者における抗EGFR抗体セツキシマブによる処置に対するde novo耐性と関連している(Yonesakaら、Transl Med.(2011)3(99)。セツキシマブ処置に応答した患者は、処置前の腫瘍試料において顕著に低いNRG1の発現を示した。Liuら、Journal of Clinical Oncology(2016)34(36):4345~4353は、進行した白金耐性または難治性の卵巣がんを有する患者において、NRG1発現がんはセリバンツマブによる処置に対して良好に応答することを報告している。
【0062】
一部の実施形態では、処置/予防されるがんは、HER3に対するリガンド(例えば、NRG1および/またはNRG2)を発現する細胞を含む。一部の実施形態では、処置/予防されるがんは、同等の非がん性細胞/非腫瘍組織による発現レベルよりも高いNRG1および/またはNRG2の発現レベルを発現する細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、野生型対立遺伝子のみを保有する同等の細胞と比較して、HER3に対するリガンド(例えば、NRG1および/またはNRG2)の(遺伝子および/またはタンパク質)発現の増加をもたらす突然変異を含む。
【0063】
HER3に対するリガンドの発現の増加を引き起こす突然変異は、例えば、WO2021/048274A1に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、HER3に対するリガンドの発現の増加をもたらす突然変異は、NRG遺伝子融合体である。一部の実施形態では、HER3に対するリガンドは、NRG遺伝子融合体の産物(すなわち、NRG遺伝子融合体によってコードされるポリペプチド)である。本明細書で使用される場合、「NRG遺伝子融合体」とは、(i)NRGタンパク質(例えば、NRG1、NRG2、NRG3またはNRG4、例えば、NRG1またはNRG2)のアミノ酸配列、および(ii)NRGタンパク質以外のタンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする遺伝的バリアントを指す。
【0064】
NRG遺伝子融合体は、例えば、WO2021/048274A1(本明細書上記で参照により組み込まれる)に記載されている。一部の実施形態では、NRG遺伝子融合体は、CLU-NRG1、CD74-NRG1、DOC4-NRG1、SLC3A2-NRG1、RBPMS-NRG1、WRN-NRG1、SDC4-NRG1、RAB2IL1-NRG1、VAMP2-NRG1、KIF13B-NRG1、THAP7-NRG1、SMAD4-NRG1、MDK-NRG1、TNC-NRG1、DIP2B-NRG1、MRPL13-NRG1、PARP8-NRG1、ROCK1-NRG1、DPYSL2-NRG1、ATP1B1-NRG1、CDH6-NRG1、APP-NRG1、AKAP13-NRG1、THBS1-NRG1、FOXA1-NRG1、PDE7A-NRG1、RAB3IL1-NRG1、CDK1-NRG1、BMPRIB-NRG1、TNFRSF10B-NRG1、MCPH1-NRG1およびSLC12A2-NRG2から選択される。
【0065】
本開示の態様および実施形態は、HER3媒介性シグナル伝達に関与する因子をコードする遺伝子のある特定のバリアントの非存在または存在によって特徴付けられるがんの処置/予防のための治療的および予防的介入に関する。
【0066】
突然変異、対立遺伝子および遺伝子型
本明細書で使用される場合、「突然変異」とは、所与の遺伝子の最も一般的なヌクレオチド配列に対する差異を指す。突然変異は、遺伝子の最も一般的なヌクレオチド配列に対するヌクレオチド配列の挿入、欠失、置換、またはより大規模な転座/再配列であり得るか、またはこれらを含み得る。
【0067】
シグナル伝達(例えば、HER3媒介性シグナル伝達、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達)の上方調節を「もたらす」突然変異は、突然変異を含む対立遺伝子の1つまたは複数のコピーを有する細胞において、突然変異を含む対立遺伝子のコピーを欠く同等の細胞(例えば、野生型対立遺伝子に対してホモ接合性である同等の細胞)によるシグナル伝達のレベルと比較して、関連するシグナル伝達のレベルの増加を引き起こすことが知られているか、または予測される突然変異であり得る。
【0068】
HER3媒介性シグナル伝達は、例えば、HER3媒介性シグナル伝達の相関因子、例えば、細胞増殖、ならびに/またはPI3K/AKT/mTOR、および/もしくはMAPK/ERKのシグナル伝達経路の1つもしくは複数のシグナル伝達分子のリン酸化についてのアッセイを使用して解析され得る。例えば、PI3K/AKT/mTORおよび/またはMAPK/ERKシグナル伝達のレベルは、PI3K/AKT/mTORおよび/またはMAPK/ERK経路の構成要素のうちの1つまたは複数のリン酸化レベルの検出および定量化によって解析され得る。このような解析は、例えば、WO2019185878A1の8.9の実施例4.3に記載されているように、HER3媒介性シグナル伝達の細胞ベースのアッセイにおいてin vitroで実施され得る。
【0069】
所与の遺伝子のヌクレオチド配列の最も一般的なバージョンは、遺伝子の野生型対立遺伝子と称され得る。突然変異を含む所与の遺伝子のヌクレオチド配列のバージョンは、遺伝子の突然変異型対立遺伝子と称され得る。所与の遺伝子の突然変異型対立遺伝子のヌクレオチド配列は、野生型対立遺伝子のヌクレオチド配列と同一ではないヌクレオチド配列を有することが理解されるであろう。
【0070】
本明細書で使用される場合、「活性化突然変異」とは、関連遺伝子の発現レベルの増加をもたらす突然変異、および/または遺伝子産物の活性の増加をもたらす突然変異を指す。反対に、「不活性化突然変異」とは、所与の遺伝子の発現レベルの減少をもたらす突然変異、および/または遺伝子産物の活性の減少をもたらす突然変異を指す。
【0071】
一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異は、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異は、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異である。
【0072】
本明細書において、特定の特徴を有する細胞を含むがんは、本明細書において単にそれらの特徴を有するがんと称され得る。本明細書における実施形態では、特定の特徴を有する細胞を含むがんは、それらの特徴を有する細胞を含む1つまたは複数の腫瘍であり得るか、またはそれを含み得ることが理解されるであろう。すなわち、がんが所与の突然変異状態、対立遺伝子または遺伝子型を有すると記載される場合、がんの細胞が、関連する突然変異状態、対立遺伝子または遺伝子型を有することが理解されるであろう。例示として、がんが、所与の突然変異を含むと記載されている場合、がんは、突然変異を含む細胞を含む。同様に、がんが、所与の対立遺伝子に対してホモ接合性であると記載されている場合、がんは、対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0073】
がんが、所与の突然変異状態、対立遺伝子または遺伝子型を有すると記載されている場合、がんの1つまたは複数の細胞が、関連する突然変異状態、対立遺伝子または遺伝子型を有する。一部の実施形態では、がんが、所与の突然変異状態、対立遺伝子または遺伝子型を有すると記載されている場合、がんの細胞の多数(すなわち、50%超)が、関連する突然変異状態、対立遺伝子または遺伝子型を有する。一部の実施形態では、がんの細胞の60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または100%のうちの1つが、関連する突然変異状態、対立遺伝子または遺伝子型を有する。
【0074】
一部の実施形態では、所与の突然変異/対立遺伝子/遺伝子型を含むがんは、がんの細胞の10%超(例えば、20%以上、50%以上、40%以上、50%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または100%のうちの1つ)が、突然変異/対立遺伝子/遺伝子型を含むがんであり得る。一部の実施形態では、所与の突然変異/対立遺伝子/遺伝子型を含まないがんは、がんの細胞の25%未満(例えば、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、1%以下または無しのうちの1つ)が、突然変異/対立遺伝子/遺伝子型を含むがんであり得る。
【0075】
本明細書において、細胞が所与の突然変異を含むと記載されている場合、関連遺伝子の一方または両方の対立遺伝子が、そのような突然変異を含む(すなわち、細胞が突然変異/突然変異型対立遺伝子に対してヘテロ接合性またはホモ接合性である)ことが理解されるであろう。反対に、細胞が所与の突然変異を含まないと記載されている場合、関連遺伝子の対立遺伝子がどちらもそのような突然変異を含まない(すなわち、細胞が突然変異/突然変異型対立遺伝子に対してホモ接合性でもヘテロ接合性でもない)ことが理解されるであろう。
【0076】
一部の実施形態では、本開示に従う活性化突然変異は、遺伝子の転写を増加させることができ;遺伝子によってコードされるRNAのレベルを増加させることができ;遺伝子によってコードされるRNAの分解を減少させることができ;遺伝子によってコードされるタンパク質のレベルを増加させることができ;遺伝子によってコードされるpre-mRNAの正常なスプライシングを増加させることができ(促進することができ);遺伝子によってコードされるタンパク質をコードするmRNAの翻訳を増加させることができ;遺伝子によってコードされるタンパク質の正常な翻訳後プロセシングを増加させることができ(促進することができ);遺伝子によってコードされるタンパク質の正常な輸送を増加させることができ(促進することができ);遺伝子によってコードされるタンパク質の分解を減少させることができ;遺伝子によってコードされるタンパク質の機能のレベルを増加させることができ;かつ/または遺伝子によってコードされるタンパク質に新規な性質を付与することができる。
【0077】
一部の実施形態では、本開示に従う不活性化突然変異は、遺伝子の転写を減少させることができ;遺伝子によってコードされるRNAのレベルを減少させることができ;遺伝子によってコードされるRNAの分解を増加させることができ;遺伝子によってコードされるタンパク質のレベルを減少させることができ;遺伝子によってコードされるpre-mRNAの正常なスプライシングを減少させることができ(破壊することができ);遺伝子によってコードされるタンパク質をコードするmRNAの翻訳を減少させることができ;遺伝子によってコードされるタンパク質の正常な翻訳後プロセシングを減少させることができ(破壊することができ);遺伝子によってコードされるタンパク質の正常な輸送を減少させることができ(破壊することができ);遺伝子によってコードされるタンパク質の分解を増加させることができ;かつ/または遺伝子によってコードされるタンパク質の機能のレベルを減少させることができる。
【0078】
本明細書で使用される場合、所与の経路を介するシグナル伝達の「正の調節因子」とは、その発現/活性が一般的に、関連する経路を介するシグナル伝達に対して正に寄与する(すなわち、強化する、増強する)因子を指す。正の調節因子の発現および/または活性のレベルが増加すると、(例えば、そのようなシグナル伝達の相関物の解析によって決定されるように)関連する経路を介するシグナル伝達のレベルの増加をもたらし得る。正の調節因子の発現および/または活性のレベルが減少すると、関連する経路を介するシグナル伝達のレベルの減少をもたらし得る。
【0079】
所与の経路を介するシグナル伝達の「負の調節因子」とは、その発現/活性が一般的に、関連する経路を介するシグナル伝達に負に寄与する(すなわち、阻害する、拮抗する)因子を指す。負の調節因子の発現および/または活性のレベルが増加すると、(例えば、そのようなシグナル伝達の相関物の解析によって決定されるように)関連する経路を介するシグナル伝達のレベルの減少をもたらし得る。負の調節因子の発現および/または活性のレベルが減少すると、関連する経路を介するシグナル伝達のレベルの増加がもたらされ得る。
【0080】
HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性ではない/ヘテロ接合性ではない/これを含まないがん
本開示の態様および実施形態は、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす1つまたは複数の突然変異に対してホモ接合性ではない、ヘテロ接合性ではない、またはこれを含まないがんに関する。このようながんは、HER3に結合する抗原結合性分子による治療的/予防的介入(例えば、単剤療法として)に対して特に高感度である/感受性が高い(したがって、良好に応答する可能性が高い)と考えられ得る。
【0081】
本開示に従う一部の態様および実施形態では、処置/予防されるがんは、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含まない。
【0082】
一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異を含まない。
【0083】
一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対して不活性化突然変異を含まない。
【0084】
一部の実施形態では、処置/予防されるがんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含まない。
【0085】
一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異を含まない。
【0086】
一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異を含まない。
【0087】
一部の実施形態では、処置/予防されるがんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含まない。
【0088】
一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異を含まない。
【0089】
一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してヘテロ接合性ではない。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異を含まない。
【0090】
本明細書において、HER3媒介性シグナル伝達/MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達/PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子は、所与の経路を介するシグナル伝達に正に寄与する(すなわち、強化する)任意の因子、および/またはその機能的帰結であり得る。HER3媒介性シグナル伝達/MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達/PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子は、所与の経路を介するシグナル伝達に負に寄与する(すなわち、拮抗する、阻害する)任意の因子、および/またはその機能的帰結であり得る。
【0091】
一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択され得る。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択され得る。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、KRAS、PIK3CAおよびPIK3CBから選択され得る。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、KRASである。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、PIK3CAである。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、PIK3CBである。
【0092】
一部の実施形態では、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GAB2、GRB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、KRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1およびCREB1から選択され得る。一部の実施形態では、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GAB2、GRB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、KRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、およびBRAFから選択され得る。一部の実施形態では、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、KRASである。一部の実施形態では、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、BRAFである。
【0093】
一部の実施形態では、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GAB2、SHP2、CREB1、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択され得る。一部の実施形態では、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、PIK3CAである。一部の実施形態では、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子は、PIK3CBである。
【0094】
一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子は、PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択され得る。一部の実施形態では、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子は、PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、BADおよびPHLPP1から選択され得る。一部の実施形態では、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子は、NF1であり得る。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子は、PTENである。一部の実施形態では、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子は、PTENである。
【0095】
一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0096】
一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0097】
一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0098】
一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むKRASの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むKRASの対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、KRASの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、KRASの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0099】
KRASに対する活性化突然変異は、例えば、HobbsおよびDer、Cancer Discov.(2019)9(6):696~698に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。KRASに対する活性化突然変異には、G12に対する突然変異(例えば、G12A、G12D、G12D、G12R、G12C、G12SおよびG12V)、G13に対する突然変異(例えば、G13D、G13C)、Q61に対する突然変異(例えば、Q61H、Q61L、Q61K、Q61R)、A146に対する突然変異(例えば、A146T、A146V)およびK117に対する突然変異(例えば、K117N)が含まれる。一部の実施形態では、本開示に従うKRASに対する活性化突然変異は、G12Cである。
【0100】
一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CAの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CAの対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、PIK3CAの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、PIK3CAの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0101】
PIK3CAに対する活性化突然変異は、例えば、Ligrestiら、Cell Cycle.(2009)8(9):1352~1358に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。PIK3CAに対する活性化突然変異には、H1047に対する突然変異(例えば、H1047R、H1047L)、E542に対する突然変異(例えば、E542K、E542Q)、E545に対する突然変異(例えば、E545K)、P449に対する突然変異(例えば、P449T)およびQ546に対する突然変異(例えば、Q546R)が含まれる。一部の実施形態では、本開示に従うPIK3CAに対する活性化突然変異は、Q546RまたはP449Tである。
【0102】
一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CBの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CBの対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、PIK3CBの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、PIK3CBの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0103】
PIK3CBに対する活性化突然変異は、例えば、Nakanishiら、Cancer Res.(2016)76(5):1193~203に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。PIK3CBに対する活性化突然変異には、D1067(例えば、D1067Y、D1067A、D1067V)に対する突然変異が含まれる。一部の実施形態では、本開示に従うPIK3CBに対する活性化突然変異は、D1067Yである。
【0104】
一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むBRAFの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むBRAFの対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、BRAFの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0105】
BRAFに対する活性化突然変異は、例えば、Van Cutsemら、Journal of Clinical Immunology(2011)29(15):2011~2019に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。BRAFに対する活性化突然変異には、V600(例えば、V600EまたはV600K)、T119(例えば、T119S)およびL597(例えば、L597R)に対する突然変異が含まれる。一部の実施形態では、本開示に従う活性化突然変異は、V600E、V600K、T119S、またはL597Rである。
【0106】
一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPTENの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含まない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPTENの対立遺伝子をコードする細胞を含まない。一部の実施形態では、がんの細胞において、PTENの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子である。一部の実施形態では、がんは、PTENの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含まない。
【0107】
PTENに対する不活性化突然変異は、例えば、Changら、Biomolecules.(2019)9(11):713に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。PTENに対する不活性化突然変異には、R130に対する突然変異、R173に対する突然変異、R233に対する突然変異、K267に対する突然変異、およびN323に対する突然変異が含まれる。
【0108】
一部の実施形態では、がんは、(i)活性化突然変異を含まないHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異を含まないHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。
【0109】
一部の実施形態では、がんは、(i)活性化突然変異に対してホモ接合性ではないHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異に対してホモ接合性ではないHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。
【0110】
一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択される遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。
【0111】
一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択される遺伝子に対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含まない。
【0112】
一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。
【0113】
一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異を含まないか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含まない。
【0114】
本明細書において、「遺伝子」への言及は「少なくとも1つの遺伝子」を意味し、「1つまたは複数の遺伝子」を含むことが理解されるであろう。したがって、所与のリストから選択される「遺伝子」は、(リストに列挙された遺伝子の数に応じて)リストの1つの遺伝子であってもよいか、またはリストに列挙された遺伝子の2、3、4、5、6、7、9、10個もしくはそれ以上、または全てのうちの1つであってもよい。明確にするために、がんは、項目(i)に列挙された遺伝子のうちの少なくとも1つが、活性化突然変異を欠くか、または項目(ii)に列挙された遺伝子のうちの少なくとも1つが、不活性化突然変異を欠くことを条件として、以前の段落の条件を満たす。
【0115】
一部の実施形態では、がんは、
(i)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(ii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(iii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、BRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(iv)PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(v)PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、BRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(vi)PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、BRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(vii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(viii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、BRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(ix)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、BRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;
(x)PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、BRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではないか;または
(xi)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性ではなく、BRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性ではない。
【0116】
一部の実施形態では、がんは、
(i)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず;
(ii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まず;
(iii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず;
(iv)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まず;
(v)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず;
(vi)PTENに対する不活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず;
(vii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まず;
(viii)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず;
(ix)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず;
(x)PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まず;
(xi)KRASに対する活性化突然変異を含まず、PIK3CAに対する活性化突然変異を含まず、PTENに対する不活性化突然変異を含まず、BRAFに対する活性化突然変異を含まない。
【0117】
HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む/これに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であるがん
本開示の態様および実施形態は、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす1つまたは複数の突然変異を含むか、これに対してヘテロ接合性であるか、またはこれに対してホモ接合性であるがんに関する。このようながんは、HER3に結合する抗原結合性分子による治療的/予防的介入(例えば、単剤療法として)に対して感受性が低い/耐性が高い(したがって、良好に応答する可能性が低い)と考えられ得る。
【0118】
本開示に従う一部の態様および実施形態、特に、HER3媒介性シグナル伝達の阻害剤およびHER3に結合する抗原結合性分子を使用する併用介入に関する態様および実施形態では、処置/予防されるがんは、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性である。
【0119】
一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0120】
一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0121】
一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性である。
【0122】
一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0123】
一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0124】
一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性である。
【0125】
一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0126】
一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0127】
一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、HER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、HER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0128】
一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むMAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0129】
一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の負の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の正の調節因子をコードする遺伝子の対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0130】
一部の実施形態では、がんは、KRASの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、KRASの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むKRASの対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むKRASの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0131】
一部の実施形態では、がんは、PIK3CAの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、PIK3CAの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CAの対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CAの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0132】
一部の実施形態では、がんは、PIK3CBの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、PIK3CBの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CBの対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むPIK3CBの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0133】
一部の実施形態では、がんは、BRAFの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、BRAFの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むBRAFの対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、活性化突然変異を含むBRAFの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0134】
一部の実施形態では、がんは、PTENの突然変異型対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんの細胞において、PTENの1つまたは両方のコピーは、野生型対立遺伝子ではない。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPTENの対立遺伝子をコードする細胞を含む。一部の実施形態では、がんは、不活性化突然変異を含むPTENの対立遺伝子に対してホモ接合性である細胞を含む。
【0135】
一部の実施形態では、がんは、(i)活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異を含むHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。
【0136】
一部の実施形態では、がんは、(i)活性化突然変異に対してホモ接合性であるHER3媒介性シグナル伝達の正の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むか;または(ii)不活性化突然変異に対してホモ接合性であるHER3媒介性シグナル伝達の負の調節因子をコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。
【0137】
一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択される遺伝子に対する活性化突然変異を含むか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含む。一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異を含むか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異を含む。
【0138】
明確にするために、がんは、項目(i)に列挙された遺伝子のうちの少なくとも1つが活性化突然変異を含むか、または項目(ii)に列挙された遺伝子のうちの少なくとも1つが不活性化突然変異を含むことを条件として、以前の段落の条件を満たす。
【0139】
一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3およびSTAT5から選択される遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である。一部の実施形態では、がんは、(i)KRAS、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CD、ERBB3、ERBB2、ERBB4、EGFR、IGF1R、NRG1、NRG2、EGF、IRS2、GRB2、GAB2、PTPN11、SHP2、SOS1、HRAS、NRAS、RAF1、MAP2K1、MAP2K2、MAPK1、MYC、RPS6KA1、RPS6、MKNK1、CREB1、MTOR、PDK1、AKT1、AKT2、AKT3、JAK2、STAT3、STAT5、およびBRAFから選択される遺伝子に対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;または(ii)PTEN、PPP2CA、PIK3R1、PIK3R2、NF1、BADおよびPHLPP1から選択される遺伝子に対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0140】
一部の実施形態では、がんは、
(i)KRASに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異を含むか;
(ii)KRASに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異を含むか;
(iii)KRASに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異を含むか;
(iv)PIK3CAに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異を含むか;
(v)PIK3CAに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異を含むか;
(vi)PTENに対する不活性化突然変異を含む、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異を含むか;
(vii)KRASに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異を含むか;
(viii)KRASに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異を含むか;
(ix)KRASに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異を含む、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異を含むか;
(x)PIK3CAに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異を含む、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異を含むか;または
(xi)KRASに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異を含む、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異を含む、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異を含む。
【0141】
一部の実施形態では、がんは、
(i)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(ii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(iii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(iv)PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(v)PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(vi)PTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(vii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(viii)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(ix)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;
(x)PIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性であるか;または
(xi)KRASに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPIK3CAに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはPTENに対する不活性化突然変異に対してホモ接合性である、かつ/もしくはBRAFに対する活性化突然変異に対してホモ接合性である。
【0142】
抗原結合性分子
本開示は、HER3に結合する抗原結合性分子の治療的および予防的使用に関する。
【0143】
「抗原結合性分子」とは、標的抗原に結合することができる分子を指す。抗原結合性分子には、それらが、関連する標的分子への結合を呈する限りにおいて、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体および多特異性抗体(例えば、二特異性抗体)、ならびに抗体断片(例えば、Fv、scFv、Fab、scFab、F(ab’)、Fab、ダイアボディー、トリアボディー、scFv-Fc、ミニボディー、単一ドメイン抗体(例えば、VhH)など)が含まれる。
【0144】
本開示に従う抗原結合性分子には、抗体由来分子、例えば、抗体に由来する抗原結合性領域/ドメインを含む分子も含まれる。抗体由来の抗原結合性分子は、抗体の抗原結合性領域(例えば、抗体の抗原結合性断片)を含むか、またはこれからなる抗原結合性領域/ドメインを含み得る。一部の実施形態では、抗体由来の抗原結合性分子の抗原結合性領域/ドメインは、抗体のFv(例えば、scFvとして提供される)もしくはFab領域、または抗体全体であり得るか、またはこれを含み得る。例えば、本開示に従う抗原結合性分子には、(例えば、本明細書以下に記載されているような)(細胞傷害性)薬物部分を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)が含まれる。本開示に従う抗原結合性分子にはまた、BiTE、BiKEおよびTriKEを含む、(エフェクター)免疫細胞を動員するためのドメインを含む免疫細胞エンゲージャー分子などの多特異性抗原結合性分子も含まれる(例えば、GoebelerおよびBargou、Nat.Rev.Clin.Oncol.(2020)17:418~434ならびにEllerman、Methods(2019)154:102~117に概説されており、これらの両方は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)。本開示に従う抗原結合性分子には、抗原結合性機能およびT細胞活性化機能の両方を提供する組換え受容体であるキメラ抗原受容体(CAR)も含まれる(CARの構造、機能および操作は、例えば、Dottiら、Immunol Rev(2014)257(1)に概説されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0145】
本開示の抗原結合性分子は、標的抗原に結合することができる部分を含む。一部の実施形態では、標的抗原に結合することができる部分は、標的抗原に特異的に結合することができる抗体の抗体重鎖可変領域(VH)と、抗体軽鎖可変領域(VL)とを含む。一部の実施形態では、標的抗原に結合することができる部分は、標的抗原に結合することできるアプタマー、例えば、核酸アプタマー(例えば、ZhouおよびRossi Nat Rev Drug Discov.2017 16(3):181~202に概説されている)を含むか、またはこれらからなる。一部の実施形態では、標的抗原に結合することができる部分は、抗原結合性ペプチド/ポリペプチド、例えば、ペプチドアプタマー、チオレドキシン、モノボディー、アンチカリン、Kunitzドメイン、アビマー(avimer)、ノッティン(knottin)、フィノマー(fynomer)、アトリマー(atrimer)、DARPin、アフィボディー、ナノボディー(すなわち、単一ドメイン抗体(sdAb))、アフィリン、アルマジロリピートタンパク質(ArmRP)、OBody、またはフィブロネクチン(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Reverdattoら、Curr Top Med Chem.、2015;15(12):1082~1101に概説されている(例えば、Boersmaら、J Biol Chem(2011)286:41273~85およびEmanuelら、Mabs(20113:38~48もまた参照されたい))を含むか、またはこれらからなる。
【0146】
本開示の抗原結合性分子は、一般に、標的抗原に特異的に結合することができる抗体のVHおよびVLを含む、抗原結合性ドメインを含む。本明細書では、VHおよびVLにより形成される抗原結合性ドメインはまた、Fv領域とも称され得る。
【0147】
抗原結合性分子は、抗原結合性ポリペプチド、または抗原結合性ポリペプチド複合体であってもよいか、またはこれらを含んでもよい。抗原結合性分子は、併せて、抗原結合性ドメインを形成する、1つを超えるポリペプチドを含んでもよい。ポリペプチドは、共有結合的に会合する場合もあり、非共有結合的に会合する場合もある。一部の実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドを含む、より大型ポリペプチドの一部を形成する(例えば、VHおよびVLを含むscFvの場合、またはVH-CH1およびVL-CLを含むscFabの場合)。
【0148】
抗原結合性分子は、1つを超えるポリペプチド(例えば、2つ、3つ、4つ、6つ、または8つのポリペプチド)、例えば、2つの重鎖ポリペプチドと、2つの軽鎖ポリペプチドとを含む、IgG様抗原結合性分子の非共有結合的または共有結合的複合体を指す場合がある。
【0149】
本開示の抗原結合性分子は、HER3に結合することができるモノクローナル抗体(mAb)の配列を使用して、設計および調製され得る。単鎖可変断片(scFv)、Fab、およびF(ab’)断片などの抗体の抗原結合性領域もまた、使用され得る/もたらされ得る。「抗原結合性領域」とは、所与の抗体が特異的である標的に結合することができる抗体の任意の断片である。
【0150】
抗体は、一般に、重鎖可変(VH)領域内の3つ:HC-CDR1、HC-CDR2、およびHC-CDR3、ならびに軽鎖可変(VL)領域内の3つ:LC-CDR1、LC-CDR2、およびLC-CDR3である、6つの相補性決定領域であるCDRを含む。6つのCDRは、併せて、標的抗原に結合する抗体の部分である抗体のパラトープを規定する。
【0151】
VH領域およびVL領域は、各CDRのいずれの側にも、CDRのための足場をもたらすフレームワーク領域(FR)を含む。N末端からC末端へと、VH領域は以下の構造:N末端-[HC-FR1]-[HC-CDR1]-[HC-FR2]-[HC-CDR2]-[HC-FR3]-[HC-CDR3]-[HC-FR4]-C末端を含み、VL領域は、以下の構造:N末端-[LC-FR1]-[LC-CDR1]-[LC-FR2]-[LC-CDR2]-[LC-FR3]-[LC-CDR3]-[LC-FR4]-C末端を含む。
【0152】
Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)、Chothiaら、J.Mol.Biol.196:901~917(1987)に記載されているもの、ならびにRetterら、Nucl.Acids Res.(2005)33(suppl 1):D671~D674に記載されているVBASE2などの、抗体のCDRおよびFRを規定するためのいくつかの異なる慣例が存在する。本明細書で記載される抗体クローンのVH領域およびVL領域のCDRおよびFRは、Lefrancら、Dev.Comp.Immunol.(2003)27:55~77に記載されているIMGT Vドメイン番号付け規則を使用する、国際的IMGT(ImMunoGeneTics)情報システム(LeFrancら、Nucleic Acids Res.(2015)43(Database issue):D413~22)に従い規定された。
【0153】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、HER3に結合することができる抗原結合性分子のCDRを含む。一部の実施形態では、抗原結合性分子は、HER3に結合することができる抗原結合性分子のFRを含む。一部の実施形態では、抗原結合性分子は、HER3に結合することができる抗原結合性分子のCDRおよびFRを含む。すなわち、一部の実施形態では、抗原結合性分子は、HER3に結合することができる抗原結合性分子のVH領域およびVL領域を含む。
【0154】
一部の実施形態では、本開示に従うHER3に結合することができる抗原結合性分子は、WO2019185878A1(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている抗原結合性分子のいずれかの実施形態、10D1F(例えば、WO2019185878A1に記載されている)、セリバンツマブ(MM-121としても知られており、例えば、Schoeberlら、Sci.Signal.(2009)2(77):ra31に記載されている)、エルゲムツマブ(LJM-716としても知られており、例えば、Garnerら、Cancer Res(2013)73:6024~6035に記載されている)、パトリツマブ(U-1287およびAMG-888としても知られており、例えば、Shimizuら、Cancer Chemother Pharmacol.(2017)79(3):489~495に記載されている)、GSK2849330(例えば、Clarkeら、Eur J Cancer.(2014)50:98~9に記載されている)、ルムレツズマブ(RG7116およびRO-5479599としても知られており、例えば、Mirschbergerら、Cancer Research(2013)73(16)5183~5194に記載されている)、CDX-3379(KTN3379としても知られており、例えば、Leeら、Proc Natl Acad Sci USA.2015 Oct 27;112(43):13225に記載されている)、AV-203(CAN-017としても知られており、例えば、Meetzeら、Eur J Cancer 2012;48:126に記載されている)、バラセタマブ(ISU104としても知られており、例えば、Kimら、Cancer Res(2018)78(13 Suppl):Abstract #830に記載されている)、TK-A3、TK-A4(例えば、Malmら、MAbs(2016)8:1195~209に記載されている)、MP-EV20(例えば、Salaら、Transl.Oncol.(2013)6:676~84に記載されている)、1A5-3D4(例えば、Wangら、Cancer Lett(2016)380:20~30に記載されている)、9F7-F11、16D3-C1(例えば、Lazrekら、Neoplasia(2013)15:335~47に記載されている)、NG33、A5、F4(例えば、Gaboritら、PNAS USA(2015)112:839~44に記載されている)、huHER3-8(例えば、Kugelら、Cancer Res.(2014)74:4122~32に記載されている)、REGN1400(例えば、Zhangら、Mol Cancer Ther(2014)13:1345~1355に記載されている)、およびゼノクツズマブ(MCLA-128としても知られており、例えば、de Vries Schultinkら、Clin Pharmacokinet.(2020)59:875~884に記載されている)から選択され得る。
【0155】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、10D1Fおよびセリバンツマブから選択される。一部の実施形態では、抗原結合性分子は、10D1Fである。
【0156】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、10D1_c89、10D1、10D1_c75、10D1_c76、10D1_c77、10D1_c78v1、10D1_c78v2、10D1_11B、10D1_c85v1、10D1_c85v2、10D1_c85o1、10D1_c85o2、10D1_c87、10D1_c90、10D1_c91、10D1_c92および10D1_c93から選択されるHER3結合抗体クローンのCDRを含むか、またはこのVHおよびVLを含む。
【0157】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、
(1)以下のCDR:
配列番号40のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号43のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号48のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号66のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号69のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号74のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(2)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号41のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号44のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(3)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号41のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号44のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号64のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(4)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号41のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号44のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号65のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号71のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(5)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号45のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(6)以下のCDR:
配列番号39のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号45のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(7)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号44のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号68のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(8)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号46のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号68のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(9)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号47のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号68のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号70のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(10)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号42のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号45のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号72のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
(11)以下のCDR:
配列番号38のアミノ酸配列を有するHC-CDR1
配列番号41のアミノ酸配列を有するHC-CDR2
配列番号44のアミノ酸配列を有するHC-CDR3、
またはHC-CDR1、HC-CDR2、もしくはHC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVH領域、および
以下のCDR:
配列番号63のアミノ酸配列を有するLC-CDR1
配列番号67のアミノ酸配列を有するLC-CDR2
配列番号73のアミノ酸配列を有するLC-CDR3;
またはLC-CDR1、LC-CDR2、もしくはLC-CDR3の1つもしくは複数における1つもしくは2つもしくは3つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換されている、これらのバリアント
を組み込んでいるVL領域
を含む。
【0158】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、以下を含む。
【0159】
(12)配列番号21のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号49のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0160】
(13)配列番号22のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号50のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0161】
(14)配列番号23のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号51のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0162】
(15)配列番号23のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号52のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0163】
(16)配列番号23のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号53のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0164】
(17)配列番号26のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号53のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0165】
(18)配列番号27のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号53のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0166】
(19)配列番号28のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号54のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0167】
(20)配列番号29のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号54のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0168】
(21)配列番号30のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号54のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0169】
(22)配列番号31のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号54のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0170】
(23)配列番号32のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号57のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0171】
(24)配列番号33のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号58のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0172】
(25)配列番号34のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域;および配列番号59のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0173】
(26)配列番号35のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域、および、)配列番号60のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0174】
(27)配列番号22のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域、および、配列番号61のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0175】
(28)配列番号32のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVH領域、および、配列番号62のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むVL領域。
【0176】
1つまたは複数のアミノ酸が、別のアミノ酸で置換される本開示に従う実施形態では、置換は、例えば、以下の表に従う、保存的置換であり得る。一部の実施形態では、中欄の同じブロック内のアミノ酸が置換される。一部の実施形態では、最も右の欄の同じ連なりのアミノ酸が置換される。
【0177】
【表1】
一部の実施形態では、置換は機能的に保存的であり得る。すなわち、一部の実施形態では、置換は、同等の非置換分子と比較して置換を含む抗原結合性分子の1つまたは複数の機能的特性(例えば、標的への結合)に影響を及ぼさない場合がある(または実質的に影響を及ぼさない場合がある)。
【0178】
抗体の抗原結合性領域のVHおよびVL領域は、併せて、Fv領域を構成する。一部の実施形態では、本開示に従う抗原結合性分子は、HER3に結合するFv領域を含むか、またはこれからなる。一部の実施形態では、FvのVHおよびVL領域は、リンカー領域により接合された、単一のポリペプチド、すなわち、単鎖Fv(scFv)として提供される。
【0179】
一部の実施形態では、本開示の抗原結合性分子は、免疫グロブリンの重鎖定常配列の1つまたは複数の領域を含む。一部の実施形態では、免疫グロブリンの重鎖定常配列は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgD、IgE、またはIgMの重鎖定常配列であるか、またはこれらに由来する。
【0180】
抗体の抗原結合性領域のVLおよび軽鎖定常(CL)領域、ならびにVH領域および重鎖定常1(CH1)領域は、併せて、Fab領域を構成する。一部の実施形態では、本開示の抗原結合性分子は、HER3に結合するFab領域を含むか、またはこれからなる。
【0181】
一部の実施形態では、本明細書で記載される抗原結合性分子は、HER3に結合する全抗体を含むか、またはこれからなる。本明細書で使用される場合、「全抗体」とは、免疫グロブリン(Ig)の構造と、実質的に同様の構造を有する抗体を指す。異なる種類の免疫グロブリン、およびそれらの構造は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、SchroederおよびCavacini、J Allergy Clin Immunol.(2010)125(202):S41~S52に記載されている。
【0182】
G型の免疫グロブリン(すなわち、IgG)は、2つの重鎖と、2つの軽鎖とを含む、約150kDaの糖タンパク質である。N末端からC末端へと、重鎖は、VHに続き、3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を含む、重鎖定常領域を含み、同様に、軽鎖は、VLに続き、CLを含む。重鎖に応じて、免疫グロブリンは、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgD、IgE、またはIgMと分類され得る。軽鎖は、カッパ(κ)の場合もあり、ラムダ(λ)の場合もある。
【0183】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、HER3に結合するIgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgD、IgE、またはIgMを含むか、またはこれらからなる。
【0184】
一部の実施形態では、抗原結合性分子は、
(i)配列番号75のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、好ましくは、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のアミノ酸配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むか、またはこれからなる1つまたは複数(例えば、2つ)のポリペプチド;および
(ii)配列番号76のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、好ましくは、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のアミノ酸配列同一性のうちの1つを有するアミノ酸配列を含むか、またはこれからなる1つまたは複数(例えば、2つ)のポリペプチド
を含むか、またはこれからなる。
【0185】
本開示による抗原結合性分子は、そのような抗原結合性分子を含む組成物の形態で提供され得る。抗原結合性分子は、臨床使用のための医薬組成物または医薬として製剤化されてもよく、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントを含み得る。組成物は、注射または注入を含み得る、局所、非経口、全身、腔内、静脈内、動脈内、筋内、髄腔内、眼内、結膜内、腫瘍内、皮下、皮内、髄腔内、経口、または経皮投与経路のために製剤化され得る。
【0186】
適切な製剤は、滅菌媒体中または等張性媒体中の抗原結合性分子を含み得る。医薬および医薬組成物は、ゲル形態を含む、流体中で製剤化され得る。流体製剤は、ヒトまたは動物の身体の血液、腫瘍、または選択された領域への注射または注入(例えば、カニューレを介する)による投与のために製剤化され得る。一部の実施形態では、組成物は、例えば、血管または腫瘍への注射または注入のために製剤化され得る。
【0187】
HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト
本開示の態様および実施形態は、(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)HER3に結合する抗原結合性分子による治療的/予防的介入に関する。
【0188】
本開示に従うHER3結合抗原結合性分子は、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストとして作用し得るが、併用処置に関連する本開示の態様および実施形態に従って、組合せの成分(i)および(ii)は、好ましくは同一ではない(すなわち、それらは異なる薬剤である)ことが理解されるであろう。
【0189】
本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストによる処置は、特に、本明細書上記の「HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む/これに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であるがん」と題された節に記載されるがんの処置/予防のための治療的/予防的介入に関連して企図される。このような実施形態に従って、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストによる処置は、シグナル伝達のレベルを、突然変異の非存在下で観察されるレベル(すなわち、野生型対立遺伝子のみを保有する同等の細胞によるシグナル伝達のレベル)に回復させるのに有効であり得る。
【0190】
このように、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストによる処置は、本明細書に記載されるHER3結合抗原結合性分子による処置について対象の状態を整えるのに有用であり得る。すなわち、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストの投与は、好ましくは、HER3結合抗原結合性分子による対象のがんの処置が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストによる処置がない場合よりも効果的であるように、HER3結合抗原結合性分子による処置に対してがんを感作する(すなわち、がんを感受性にする)のに有効である。
【0191】
本開示に従う併用処置において利用されるHER3媒介性シグナル伝達の特定のアンタゴニストは、処置されるがんの突然変異状態/遺伝子型に従って選択され得ることが理解されるであろう。例示として、がんがKRASに対する活性化突然変異を含む場合、アンタゴニストは、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達のアンタゴニストであり得る。同様に、がんがPIK3CAに対する活性化突然変異またはPTENに対する不活性化突然変異を含む場合、アンタゴニストは、PI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達のアンタゴニストであり得る。
【0192】
一部の実施形態では、本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、pan-ErbB阻害剤(例えば、サピチニブまたはSym013)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、EGFRにより媒介されるシグナル伝達の阻害剤(例えば、セツキシマブ、パニツムマブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、アファチニブ、ブリガチニブ、イコチニブ、オシメルチニブ、ザルツムマブ、バンデタニブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、ダコミチニブ、ドゥリゴツズマブ、またはマツズマブ)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、HER2により媒介されるシグナル伝達の阻害剤(例えば、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、MM-111、ゼノクツズマブ、MCLA-128、またはマルゲツキシマブ)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、HER3により媒介されるシグナル伝達の阻害剤(例えば、セリバンツマブ、ルムレツズマブ、エルゲムツマブ、KTN3379、AV-203、GSK2849330、REGN1400、MP-RM-1、EV20、ペルツズマブ、ドゥリゴツズマブ、MM-111、ゼノクツズマブ、イスチラツマブ、MCLA-128、パトリツマブ、EZN-3920、RB200、U3-1402、TX2-121-2、EZN-3920、およびmiR-205)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、HER4により媒介されるシグナル伝達の阻害剤(例えば、ラパチニブ、イブルチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、またはネラチニブ)である。
【0193】
一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、HER3シグナル伝達の下流のエフェクターを阻害する。HER3媒介性シグナル伝達の下流のエフェクターは、例えば、PI3K、AKT、KRAS、BRAF、MEK/ERK、およびmTORを含む。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、MAPK/ERK経路の阻害剤である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、PI3K/ATK/mTOR経路の阻害剤である。
【0194】
一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、PI3K阻害剤(例えば、ピクチリシブ、ブパルリシブ、ダクトリシブ、SAR245409、AZD8186、イデラリシブ、コパンリシブ、またはドュベリシブ)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、AKT阻害剤(例えば、MK-2206、AZD5363、GSK690693、GSK2110183、イパタセルチブ、VQD-002、ペリホシン、またはミルテホシン)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、KRASの阻害剤(例えば、ソトラシブ(AMG510としても知られている)、ARS-1620、アダグラシブ(MRTX849としても知られている)、LY3499446、ARS-3248/JNJ-74699157、BI2852、またはRRSPキメラ毒素)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、BRAF阻害剤(例えば、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、SB590885、XL281、RAF265、エンコラフェニブ、ベルバラフェニブ、PLX8394、LY3009120、LXH254、GDC-0879、PLX-4720、ソラフェニブ、またはLGX818)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、MEK/ERK阻害剤(例えば、トラメチニブ、コビメチニブ、ビニメチニブ、セルメチニブ、ピマセルチブ、PD-325901、CI-1040、PD035901、またはTAK-733)である。一部の実施形態では、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストは、mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシン、デフォロリムス、テムシロリムス、エベロリムス、リダフォロリムスまたはサパニセルチブ)である。
【0195】
治療的および予防的介入
本開示の態様および実施形態は、本明細書に記載されるがんの処置および予防のための治療的および予防的介入に関する。
【0196】
本開示は、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法における使用のための、HER3に結合する抗原結合性分子を提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造におけるHER3に結合する抗原結合性分子の使用も提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法であって、HER3に結合する治療または予防有効量の抗原結合性分子を対象に投与するステップを含む、方法も提供する。
【0197】
本開示はまた、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法における使用のための、HER3に結合する抗原結合性分子であって、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、抗原結合性分子も提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造におけるHER3に結合する抗原結合性分子の使用であって、方法が、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、使用も提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法であって、HER3に結合する治療または予防有効量の抗原結合性分子を対象に投与するステップを含み、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを投与するステップをさらに含む、方法も提供する。
【0198】
本開示はまた、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法における使用のための、(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)HER3に結合する抗原結合性分子も提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造における、(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)HER3に結合する抗原結合性分子の使用も提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法であって、治療または予防有効量の(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)HER3に結合する抗原結合性分子を対象に投与するステップを含む、方法も提供する。
【0199】
前出の段落の態様に従う実施形態では、(i)および(ii)の提供は、併用療法としてであってもよい。一部の実施形態では、(i)および(ii)は、同時に、または逐次的に提供されてもよい。
【0200】
本開示はまた、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法における使用のためのHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストであって、方法が、HER3に結合する抗原結合性分子を投与するステップをさらに含む、アンタゴニストも提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する際における使用のための医薬の製造におけるHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストの使用であって、方法が、HER3に結合する抗原結合性分子を投与するステップをさらに含む、使用も提供する。また、対象における本明細書に記載されるがんを処置または予防する方法であって、治療または予防有効量のHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを対象に投与するステップを含み、HER3に結合する抗原結合性分子を投与するステップをさらに含む、方法も提供する。
【0201】
本開示に従う治療的または予防的介入は、がんの発症もしくは進行を低減させ、がんの1つもしくは複数の症状を緩和し、またはがんの病態を低減させるのに効果的であり得る。介入は、がんの進行を予防する、例えば、がんの増悪を予防するか、またはがんの発症速度を遅くするのに効果的であり得る。一部の実施形態では、介入は、がんの改善、例えば、がんの症状の低減、またはがんの重症度/活動性の他の一部の相関因子の低減をもたらし得る。一部の実施形態では、方法は、がんの後期(例えば、より重篤な段階または転移)の発症を予防し得る。
【0202】
一部の実施形態では、治療的または予防的介入は、がんの症状の発生/進行を遅延させる/予防すること、がんの症状の重症度を低減すること、がんの細胞の生存/成長/浸潤/転移を低減すること、がんの細胞の数を低減すること、および/または対象の生存期間を延長することのうちの1つまたは複数を目的とし得る。
【0203】
本開示の物品(すなわち、HER3結合抗原結合性分子およびHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト)の投与は、好ましくは、「治療有効」または「予防有効」量であり、これは、対象に対して、治療または予防利益を示すのに十分な量である。投与される実際の量、および速度、ならびに投与の時間経過は、疾患/状態の性質および重症度、ならびに投与される特定の物品に依存するであろう。処置の処方、例えば、投与量についての決定などは、一般的な従事者および他の医師の責任の範囲内にあり、典型的に、処置される疾患/障害、個々の対象の状態、送達部位、投与方法、および従事者に公知の他の因子を考慮に入れる。上記で言及された技法およびプロトコールの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、20版、2000、pub.Lippincott、Williams & Wilkinsに見出され得る。
【0204】
投与は、任意の適切な経路、例えば、注射または注入(例えば、カニューレを介して)によってであってもよい。投与は、血液、腫瘍、またはヒトもしくは動物の身体の選択された領域(例えば、がんの症状が現れる器官/組織)に対してであってもよい。投与の特定の様式および/または部位は、処置効果が必要とされる場所に応じて選択することができる。
【0205】
2つ以上の薬剤(例えば、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよびHER3結合抗原結合性分子)が組み合わされて投与される場合、薬剤は同時または逐次的のいずれかで投与され得る。
【0206】
同時投与とは、2つ以上の薬剤(例えば、HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストおよびHER3結合抗原結合性分子)の併せた投与、例えば、両方の薬剤を含有する医薬組成物(組合せ調製物)としての投与、または互いの直後(例えば、1、4、6、8または12時間以内)における、任意選択で、同じ投与経路を介する、例えば、同じ動脈、静脈、または他の血管への投与を指す。
【0207】
逐次投与とは、薬剤の1つの投与に後続する、所与の時間間隔の後における、別の薬剤の別個の投与を指す。薬剤が同じ経路により投与されることは要求されないが、一部の実施形態では、これが該当する。時間間隔は、任意の時間間隔であり得る。
【0208】
一部の実施形態では、本開示に従う治療的または予防的介入は、(i)HER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト(例えば、本明細書に記載されるHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト)を、がん(例えば、本明細書に記載されるHER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む/これに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であるがん)を有する対象に投与するステップ、および(ii)HER3に結合する抗原結合性分子(例えば、本明細書に記載されるHER3結合抗原結合性分子)を対象に投与するステップを含む。一部の実施形態では、(i)および(ii)は、同時に実施される。一部の実施形態では、(i)および(ii)は、逐次的に実施される(例えば、(i)の後に(ii)が続いてもよいか、または(ii)の後に(i)が続いてもよい)。
【0209】
一部の実施形態では、本発明は、例えば、がんの処置/予防のための、さらなる治療的または予防的介入を含む。一部の実施形態では、治療的または予防的介入は、化学療法、免疫療法、放射線療法、手術、ワクチン接種、および/またはホルモン療法から選択される。一部の実施形態では、治療的または予防的介入は、白血球除去療法を含む。一部の実施形態では、治療的または予防的介入は、幹細胞移植を含む。
【0210】
本開示の物品の複数回投与が提供され得る。複数回投与は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、もしくは31日間、または1、2、3、4、5、もしくは6カ月間のうちの1つであるように選択され得る、所定の時間間隔により隔てられ得る。例を目的として述べると、投与は、7、14、21、または28日(±3、2、または1日)ごとに与えられ得る。投与の1つもしくは複数、または各々は、別の治療剤の同時投与または逐次投与を伴ってもよい。
【0211】
診断および予後の方法、ならびに患者選択
本開示はまた、本明細書に記載されるがんに関連する診断、予後および予測の方法も提供する。
【0212】
方法は、in vitroの対象から得た試料に対して実施され得るか、または対象から得た試料の処理後に実施され得る。試料が回収されると、対象は、in vitro法の実施に立ち会うことを要求されないため、方法は、ヒトまたは動物体内に対しては行われない方法であり得る。しかしながら、一部の実施形態では、方法は、in vivoで実施され得る。
【0213】
試料は、任意の組織または体液から採取され得る。試料は、多量の血液;フィブリン塊および血液細胞を除去した後で得られる血液の流体部分を含み得る、対象の血液に由来する多量の血清;組織試料または生検;胸水;脳脊髄液(CSF);または対象から単離された細胞を含み得るか、またはこれらに由来し得る。一部の実施形態では、試料は、疾患/状態の影響を受ける、1つの組織または複数の組織(例えば、疾患の症状が顕在化するか、または疾患/状態の発症機序に関与する、1つの組織または複数の組織)から得られ得るか、またはこれらに由来し得る。一部の実施形態では、試料は、がん、腫瘍、またはそれらの細胞から得られ得るか、またはこれらに由来し得る。
【0214】
方法は、がん(例えば、本明細書に記載されるがん)を診断する目的のために実施され得る。方法は、本明細書に記載される治療的/予防的介入に対する対象の起こり得る応答を予後/予測する目的のために実施され得る。方法は、例えば、有効性の観点から、所与の治療的/予防的介入に対する起こり得る応答を予測するのに有用であり得、したがって臨床的意思決定を支援するのに有用であり得る。方法は、本明細書に記載される治療的/予防的介入について対象を特定/選択する目的のために実施され得る。
【0215】
一部の態様および実施形態では、方法は、対象のがんを解析して、がんが本明細書に記載されるがん、例えば、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性ではない/これに対してヘテロ接合性ではない/これを含まないがん、またはHER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む/これに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であるがんかどうかを判定するステップを含む。
【0216】
一部の実施形態では、方法は、がんを評価して、がんが本明細書上記の1つまたは複数の突然変異を含むかどうかを判定するステップを含む。一部の実施形態では、方法は、がんを評価して、がんが本明細書上記の突然変異を含む対立遺伝子の1つまたは複数のコピーを含む細胞を含むかどうかを判定するステップを含む。
【0217】
このような解析後に、突然変異を含まない、かつ/または突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含む細胞を含まないと特定されたがんは、本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子による介入に適したがんとして特定され得る。
【0218】
このような解析後、突然変異を含む、かつ/または突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含む細胞を含むと特定されたがんは、(i)本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子の組合せによる介入に適したがんとして特定され得る。
【0219】
本開示の態様および実施形態はまた、本開示に従う治療的または予防的介入について対象を選択するステップも含む。
【0220】
このような解析後、突然変異を含まない、かつ/または突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含む細胞を含まないと特定されたがんを有する対象は、本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子を使用した処置について選択され得る。
【0221】
このような解析後、突然変異を含む、かつ/または突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含む細胞を含むと特定されたがんを有する対象は、(i)本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子を使用した処置について選択され得る。
【0222】
一部の実施形態では、対象は、がんが本明細書に記載される突然変異、および/または本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含む細胞を含むかどうかを判定するための対象のがんの解析の結果に基づいて、本開示に従う治療的介入について選択される/選択されない。
【0223】
一部の実施形態では、方法は、対象が、本明細書に記載される突然変異を含まないがんを有すること、および/または対象のがんの細胞が、本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つまたは複数のコピーを含むと判定されていないという判定に基づいて、本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップを含む。
【0224】
一部の実施形態では、方法は、対象が、本明細書に記載される突然変異を含むがんを有すること、および/またはがんの細胞が、本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含むという判定に基づいて、(i)本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップを含む。
【0225】
一部の態様および実施形態では、方法は、
(a)対象のがんを解析して、がんが、本明細書に記載される突然変異、および/または本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含むかどうかを判定するステップ;ならびに
(b)対象のがんが、ステップ(a)において本明細書に記載される突然変異に対してホモ接合性ではない/これに対してヘテロ接合性ではないか、またはこれを含まないと判定される場合(例えば、対象のがんが、「HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性ではない/これに対してヘテロ接合性ではない/これを含まないがん」と題された節に記載されるがんの実施形態に従うがんであると判定される場合)、本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップ
を含む。
【0226】
一部の実施形態では、方法は、
(c)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子を、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップ
をさらに含む。
【0227】
一部の態様および実施形態では、方法は、
(a)対象のがんを解析して、がんが、本明細書に記載される突然変異、および/または本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含むかどうかを判定するステップ;ならびに
(b)対象のがんが、ステップ(a)において本明細書に記載される突然変異を含むか、またはこれに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であると判定される場合(例えば、対象のがんが、「HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む/これに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であるがん」と題された節に記載されるがんの実施形態に従うがんであると判定される場合)、(i)本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップ
を含む。
【0228】
一部の実施形態では、方法は、
(c)(i)本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子を、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップ
をさらに含む。
【0229】
一部の態様および実施形態では、方法は、
(a)対象のがんを解析して、がんが、本明細書に記載される突然変異、および/または本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含むかどうかを判定するステップ;
(b)対象のがんが、ステップ(a)において本明細書に記載される突然変異を含むか、またはこれに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であると判定される場合(例えば、対象のがんが、「HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む/これに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であるがん」と題された節に記載されるがんの実施形態に従うがんであると判定される場合)、(i)本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニスト、および(ii)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子による処置について対象を選択するステップ;
(c)本開示に従うHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップ;ならびに
(d)本開示に従うHER3に結合する抗原結合性分子を、ステップ(b)において処置について選択された対象に投与するステップ
を含む。
【0230】
前出の段落のステップ(c)および(d)は、同時に、または逐次的に実施されてもよいことは理解されるであろう。
【0231】
がんの解析は、HER3媒介性シグナル伝達に関与する1つまたは複数の因子をコードする遺伝子のヌクレオチド配列(例えば、がんから得られた核酸含有試料中)を解析して、がんが、本明細書上記の突然変異(例えば、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異、MAPK/ERK経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異、および/またはPI3K/AKT/mTOR経路を介するシグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異;例えば、前記シグナル伝達/シグナル伝達経路の正の調節因子をコードする遺伝子に対する活性化突然変異、および/または前記シグナル伝達/シグナル伝達経路の負の調節因子をコードする遺伝子に対する不活性化変異)を含むかどうかを判定するステップを含み得る。解析は、がんの細胞の解析であってもよい。解析は、がん/その細胞から得られた核酸含有試料/生検の解析であってもよい。このような解析は、好ましくは、in vitroで実施される。
【0232】
目的の遺伝子のヌクレオチド配列を評価するための方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、古典的な連鎖終結法による配列決定、および次世代配列決定(NGS)技術を含み、これらは、例えば、Metzker,M.L.、Nat Rev Genet(2010)11(1):31~46(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に概説されている。突然変異の存在/非存在について目的の遺伝子のヌクレオチド配列を評価するためのさらなる方法には、ゲノムDNAの制限断片長多型特定(RFLPI)、ゲノムDNAのランダム増幅多型検出(RAPD)、増幅断片長多型検出(AFLPD)、多座位反復配列多型(multiple locus variable number tandem repeat)(VNTR)解析(MLVA)、SNPジェノタイピング、多座位配列タイピング、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ、およびオリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはビーズが含まれる。他の適切な方法は、例えば、Edenberg HJおよびLiu Y、Cold Spring Harb Protoc;2009;doi:10.1101/pdb.top62、ならびにTsuchihashi ZおよびDracopoli NC、Pharmacogenomics J.、2002、2:103~110に記載されている。
【0233】
さらなる態様では、本開示は、対象が、HER3に結合する抗原結合性分子を使用した治療的または予防的介入に対して良好に応答する可能性が高いかどうかを判定するための方法を提供する。
【0234】
所与の治療的または予防的介入に対する対象/がんの応答は、応答評価の改定基準(Revised Criteria for Response Assessment):Lugano分類(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Chesonら、J Clin Oncol(2014)32:3059~3068に記載されている)に従って評価され得る。一部の実施形態では、対象/がんは、以下:完全奏効、部分奏効、または安定疾患のうちの1つを達成した場合、所与の介入に対して「応答した」とみなされる。一部の実施形態では、対象/がんは、以下:完全奏効または部分奏効のうちの1つを達成した場合、所与の介入に対して「応答した」とみなされる。
【0235】
一部の実施形態では、方法は、対象のがんを解析して、がんが、本明細書に記載される突然変異、および/または本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含むかどうかを判定するステップであって、本明細書に記載される突然変異を含むか、またはこれに対してヘテロ接合性/これに対してホモ接合性であると判定されたがんを有する対象(例えば、対象のがんが、「HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異を含む/これに対してヘテロ接合性である/これに対してホモ接合性であるがん」と題される節に記載されるがんの実施形態に従うがんであると判定された場合)は、HER3に結合する抗原結合性分子を使用した治療的または予防的介入に対して良好に応答する可能性が低いと判定される、ステップを含む。
【0236】
一部の実施形態では、方法は、対象のがんを解析して、がんが、本明細書に記載される突然変異、および/または本明細書に記載される突然変異を含む対立遺伝子の1つもしくは複数のコピーを含むかどうかを判定するステップであって、本明細書に記載される突然変異に対してホモ接合性ではない/これに対してヘテロ接合性ではないか、またはこれを含まないと判定されたがんを有する対象(例えば、対象のがんが、「HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異に対してホモ接合性ではない/これに対してヘテロ接合性ではない/これを含まないがん」と題される節に記載されるがんの実施形態に従うがんであると判定された場合)は、HER3に結合する抗原結合性分子を使用した治療的または予防的介入に対して良好に応答する可能性が高いと判定される、ステップを含む。
【0237】
対象
本開示の態様に従う対象は、任意の動物またはヒトであり得る。対象は、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトである。対象は、非ヒト哺乳動物であり得るが、より好ましくは、ヒトである。対象は、雄、または雌であり得る。対象は、患者であり得る。対象は、処置を要求する疾患もしくは状態(例えば、本明細書に記載されるがん)を有すると診断されている場合があり、このような疾患/状態を有することが疑われる場合があり、またはこのような疾患/状態を発症する/このような疾患/状態に罹患する危険性がある場合がある。
【0238】
対象はがんを有する可能性がある。対象は、本明細書に記載されるように、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす1つもしくは複数の突然変異に対してホモ接合性ではないか、これに対してヘテロ接合性ではないか、またはこれを含まないがんを有する可能性がある(例えば、有すると判定されている可能性がある)。対象は、本明細書に記載されるように、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす1つもしくは複数の突然変異を含むか、これに対してヘテロ接合性であるか、またはこれに対してホモ接合性であるがんを有する可能性がある(例えば、有すると判定されている可能性がある)。
【0239】
キット
本開示はまた、部材キットも提供する。本開示に従うキットは、本明細書に記載される方法の全部または一部を実施するための構成要素を含み得る。
【0240】
一部の実施形態では、キットは、(i)がんが本明細書に記載される1つまたは複数の突然変異を含むかどうかを判定するためにがんを評価するための手段、および(ii)本明細書に記載されるHER3に結合する抗原結合性分子を含み得る。一部の実施形態では、キットは、本明細書に記載されるHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを含み得る。
【0241】
がんが本明細書に記載される1つまたは複数の突然変異を含むかどうかを判定するためにがんを評価するための手段は、例えば、本明細書に記載される遺伝子のヌクレオチド配列に対して相補性を有する1つまたは複数のオリゴヌクレオチドを含み得る。
【0242】
キットは、がんが本明細書に記載される1つまたは複数の突然変異を含むかどうかを判定するためにがんを評価するための指示書を含み得る。キットは、本明細書に記載されるHER3に結合する抗原結合性分子を対象に投与するための指示書を含み得る。キットは、本明細書に記載されるHER3媒介性シグナル伝達のアンタゴニストを対象に投与するための指示書をさらに含み得る。
【0243】
キットは、本開示に従う方法の実行に要求される試薬、緩衝液および/または標準物をさらに含み得る。
【0244】
配列同一性
本明細書で使用される場合、「配列同一性」とは、配列の間で、最大の配列同一性パーセントを達成するように、配列をアライメントし、必要な場合は、ギャップを導入した後で、参照配列内のヌクレオチド/アミノ酸残基と同一である対象配列内のヌクレオチド/アミノ酸残基のパーセントを指す。2つ以上のアミノ酸配列または核酸配列の間の配列同一性パーセントを決定することを目的とするための、対での複数の配列アライメントは、例えば、ClustalOmega(Soding、J.2005、Bioinformatics 21、951~960)、T-coffee(Notredameら、2000、J.Mol.Biol.(2000)、302、205~217)、Kalign(LassmannおよびSonnhammer 2005、BMC Bioinformatics、6(298))、およびMAFFT(KatohおよびStandley 2013、Molecular Biology and Evolution、30(4)、772~780)ソフトウェアなどの市販のコンピュータソフトウェアを使用して、当業者に公知の様々な手段で達成され得る。このようなソフトウェアを使用する場合、例えば、ギャップペナルティーおよび伸長ペナルティーについての、デフォルトのパラメータを使用することが好ましい。
【0245】
配列
【0246】
【表2-1】
【0247】
【表2-2】
【0248】
【表2-3】
【0249】
【表2-4】
【0250】
【表2-5】
【0251】
【表2-6】
【0252】
【表2-7】
本開示は、このような組合せが、明らかに許容されないか、または明示的に回避される場合を除き、記載される態様と好ましい特徴の組合せを含む。
【0253】
本明細書で使用される節の小見出しは、構成上の目的だけのものであり、記載される対象物を限定するものと見なすべきではない。
【0254】
ここで、付属の図面を参照しながら、例を目的として、本開示の態様および実施形態が例示される。当業者には、さらなる態様および実施形態が明らかであろう。本文で言及される全ての文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0255】
後続の特許請求の範囲を含む、本明細書を通して、文脈によりそうでないことが要求されない限り、「含む(comprise)」という語、ならびに「含む(comprises)」および「含むこと」などの変化形は、言明された整数またはステップまたは整数もしくはステップの群の包含を含意し、他の任意の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群の除外は含意しないように理解される。
【0256】
そうでないことが文脈により明確に指示されない限り、本明細書および付属の特許請求の範囲において使用される単数形の「ある(a)」、「ある(an)」、および「その」は、複数の指示対象を含むことに注意されたい。本明細書では、範囲は、「約」1つの特定の値から、かつ/または「約」別の特定の値までの範囲として表され得る。このような範囲が表される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から、かつ/または他の特定の値までの範囲を含む。同様に、値が、先行詞である「約」の使用により、近似値として表される場合、特定の値は、別の実施形態を形成することが理解されるであろう。
【0257】
本明細書で核酸配列が開示される場合、その逆相補体もまた、明示的に想定される。
【0258】
本明細書に記載される方法は、好ましくは、in vitroで実施され得る。「in vitro」という用語が、培養物中の細胞に対して実施される手順を包含することが意図されるのに対し、「in vivo」という用語は、無傷の多細胞生物に対する/上の手順を包含することが意図される。
【0259】
ここで、付属の図を参照しながら、本開示の原理を例示する実施形態および実験が論じられる。
【図面の簡単な説明】
【0260】
図1A】in vitroおよびin vivo研究における解析によって決定された、異なるがん細胞株に対する10D1F/10D1Pの抗がん有効性の比較を示す棒グラフおよびグラフである。(1A)細胞株由来異種移植モデルにおけるin vitro、またはin vivoでの、示したがん細胞株の細胞の成長を阻害する10D1F/10D1Pの有効性を示す。
図1B】in vitroおよびin vivo研究における解析によって決定された、異なるがん細胞株に対する10D1F/10D1Pの抗がん有効性の比較を示す棒グラフおよびグラフである。(1B)in vitroおよびin vivoでの10D1F/10D1Pによる細胞株の処置について決定された有効性の間の関係をモデル化した線形回帰を示す。
図2A】in vitroおよびin vivo研究における解析によって決定された、(2A)10D1F/10D1P、および(2B)セリバンツマブによる処置に対する異なる遺伝子型(実施例2を参照のこと)を有するがん細胞株の応答を示すグラフである。****P≦0.0001。
図2B】in vitroおよびin vivo研究における解析によって決定された、(2A)10D1F/10D1P、および(2B)セリバンツマブによる処置に対する異なる遺伝子型(実施例2を参照のこと)を有するがん細胞株の応答を示すグラフである。****P≦0.0001。
図3A】in vitroおよびin vivo研究における解析によって決定された、(3A)10D1F/10D1P、および(3B)セリバンツマブによる処置に対する異なる遺伝子型(実施例3を参照のこと)を有するがん細胞株の応答を示すグラフである。****P≦0.0001。
図3B】in vitroおよびin vivo研究における解析によって決定された、(3A)10D1F/10D1P、および(3B)セリバンツマブによる処置に対する異なる遺伝子型(実施例3を参照のこと)を有するがん細胞株の応答を示すグラフである。****P≦0.0001。
【実施例
【0261】
本実施例では、本発明者らは、抗HER3抗体による処置に対する応答の程度が、HER3媒介性シグナル伝達の調節因子をコードする遺伝子のがんの突然変異状態に依存することを実証する。彼らは、KRAS、PIK3CA、BRAF、およびPTENに対する突然変異を欠くがんは、抗HER3抗体による処置に例外的に良好に応答することを示している。実施例は、NRG1発現が抗HER3抗体治療に対する肯定的な応答を予測することをさらに示す。
【0262】
実施例1
in vitroにおける細胞増殖の阻害とin vivoにおける腫瘍成長の阻害との間の相関関係の解析
本発明者らは、in vitroでがん細胞株の細胞の成長を阻害する、抗HER3抗体10D1F hIgG1(VH=配列番号33、VL=配列番号58を含む)または10D1P hIgG1(VH=配列番号21、VL=配列番号49を含む)の能力の解析の結果が、in vivoでの細胞株由来異種移植腫瘍の腫瘍成長を阻害する能力を予測するかどうかを調べた。
【0263】
解析した細胞株は、N87(胃がん)、FaDu(頭頸部がん)、OvCAR8(卵巣がん)、SNU16(胃がん)、A549(肺がん)、HCC95(肺がん)、AHCN(腎臓がん)および22Rv1(前立腺がん)であった。
【0264】
in vitroでの成長の阻害の解析のために、異なる細胞株の細胞を、抗HER3抗体(1500μg/mlの最高濃度から開始して3倍希釈)の10点の系列希釈濃度により3連で処理した。細胞生存率は、3~5日後にCCK-8アッセイ(Dojindo)を使用して測定した。細胞の成長の阻害パーセンテージを、緩衝液のみ(PBS)により処理した細胞についてのCCK-8アッセイシグナルとの比較によって計算した。in vitroでの有効性を、1500μg/mlで観察された阻害パーセンテージであると決定した。
【0265】
in vivoでの成長の阻害の解析のために、細胞株由来異種移植モデルを、雌NCrヌードマウス(約6~8週齢)の右脇腹への細胞の皮下注射により確立した。抗HER3抗体を、投与1回当たり25mg/kg体重で週に2回、腹腔内注射によって投与した。対照処置群には等量のPBSを投与した。腫瘍体積は、デジタル式キャリパーを使用して毎週3回測定し、式[L×W2/2]を使用して計算した。対照アームの腫瘍が、1.5cm超の長さと測定されたら、研究の終点に到達したとみなした。in vivoでの有効性を、研究終了時の腫瘍成長阻害パーセンテージであると決定した。
【0266】
in vitroおよびin vivoでの研究からの有効性データを、最大阻害率を100%、および最小阻害率を0%として設定するように正規化し、値はこの範囲を上回るかまたは下回る場合があった。in vitro-in vivoでの有効性の相関関係は、単純な線形回帰によって研究し、相関係数(R)を、GraphPad Prismソフトウェアを使用して計算した。
【0267】
解析の結果を図1Aおよび1Bに示す。in vitro研究で得られた結果とin vivo研究で得られた結果との間に強い相関関係があった(R=0.8061)。これは、in vitroでのがん細胞成長の阻害の解析の結果が、in vivoでの腫瘍成長阻害の有効性の予測であることを示している(逆も同様である)。
【0268】
実施例2
HER3媒介性シグナル伝達の調節因子の突然変異状態に基づくがんを処置するためのHER3結合抗原結合性分子の有効性の解析
本発明者らは、10D1F/10D1Pまたはセリバンツマブの抗がん活性のin vivoおよびin vitro研究からのデータの組合せを利用して、がん細胞株の突然変異状態が抗体を使用した処置の有効性の予測であるかどうかを調べた。
【0269】
乳がん、胃がんおよび非小細胞肺がん、結腸直腸がんおよびSCCHN、ならびに前立腺がん由来の細胞株を解析に含めた。細胞株を、COSMIC、セロサウルス(Cellosaurus)およびCCLEなどの公開データベースを使用して、KRAS、PIK3CAにおける点突然変異の存在について、およびPTEN喪失について解析した。細胞株を、(i)KRAS、PIK3CAおよびPTENについて野生型(「野生型」);(ii)KRASもしくはPIK3CAに対する活性化突然変異についてヘテロ接合性、またはPTENに対する不活性化突然変異についてヘテロ接合性(「ヘテロ接合性」);(iii)KRASもしくはPIK3CAに対する活性化突然変異についてホモ接合性、またはPTENに対する不活性化突然変異についてホモ接合性(「ホモ接合性」)として分類した。
【0270】
10D1F/10D1Pについての処置に対する応答をスコア付けする際に、10D1F hIgG1を使用したin vivo研究からの腫瘍成長阻害(TGI)データを優先した。このようなデータを入手できなかった場合、10D1P hIgG1からのTGIデータを使用した。細胞株についてin vivoデータを入手できなかった場合、in vitro阻害データを使用した。
【0271】
10D1F/10D1Pまたはセリバンツマブによる処置に対する正規化された機能的応答と突然変異状態との間の関係は、GraphPad Prismを使用して解析した。野生型、ヘテロ接合性、およびホモ接合性の群の間の比較のために、対応のないt検定を実施した。
【0272】
KRAS、PIK3CAおよびPTENについての細胞株の遺伝子型、ならびに10D1F/10D1Pまたはセリバンツマブによる処置に対するそれらの正規化された機能的応答(実施例1に記載されるin vitroまたはin vivo研究における解析によって決定した)を以下の表に示し、データを図2Aおよび2Bにグラフで表す。
【0273】
【表3】
解析により、抗HER3抗体による処置に対する応答が、HER3媒介性シグナル伝達の上方調節をもたらす突然変異の存在に依存する、非常に顕著なパターンが明らかになった。野生型群における細胞株は、ヘテロ接合性またはホモ接合性の群における細胞株と比較して、抗HER3抗体処置に対してはるかに高い応答性であった。このパターンは、解析された異なるがん型の全ての範囲にわたって観察された。
【0274】
実施例3
PTEN/KRAS/PIK3CA/BRAFの突然変異状態およびNRG1 mRNA存在量に基づくがんを処置するためのHER3結合抗原結合性分子の有効性の解析
さらなる研究において、本発明者らは、10D1F/10D1Pまたはセリバンツマブの抗がん活性のin vivoおよびin vitro研究からのデータを利用して、BRAFの突然変異状態が、抗HER3抗体処置の有効性を予測するために実施例2に記載される三重遺伝子シグネチャー(PTEN/KRAS/PIK3CA)に追加され得るかどうかを調べた。
【0275】
乳がん、胃がんおよび非小細胞肺がん、結腸直腸がんおよびSCCHN、ならびに前立腺がん由来の細胞株を解析に含めた。細胞株を、KRAS、PIK3CAおよびBRAFにおける点突然変異の存在について、ならびにPTEN喪失について経験的配列解析によって評価した。細胞株を、(i)KRAS、PIK3CA、PTEN、およびBRAFについて野生型(「野生型」);(ii)KRASもしくはPIK3CAもしくはBRAFに対する活性化突然変異についてヘテロ接合性、またはPTENに対する不活性化突然変異についてヘテロ接合性(「ヘテロ接合性」);(iii)KRASもしくはPIK3CAもしくはBRAFに対する活性化突然変異についてホモ接合性、またはPTENに対する不活性化突然変異についてホモ接合性(「ホモ接合性」)として分類した。NRG1 mRNAの発現レベルも各細胞株について測定した。
【0276】
10D1F/10D1Pについての処置に対する応答をスコア付けする際に、10D1F hIgG1を使用したin vivo研究からの腫瘍成長阻害(TGI)データを優先した。このようなデータを入手できなかった場合、10D1P hIgG1からのTGIデータを使用した。in vivoデータを細胞株について入手できなかった場合、in vitro阻害データを使用した。
【0277】
10D1F/10D1Pまたはセリバンツマブによる処置に対する正規化された機能的応答と突然変異状態との間の関係を、GraphPad Prismを使用して解析した。野生型、ヘテロ接合性およびホモ接合性の群の間の比較のために、対応のないt検定を実施した。
【0278】
配列解析によって決定されたKRAS、PIK3CA、PTENおよびBRAFについての細胞株の遺伝子型、ならびに10D1F/10D1Pまたはセリバンツマブによる処置に対するそれらの正規化された機能的応答(実施例1に記載されるin vitroまたはin vivo研究における解析によって決定した)を以下の表に示し、データを図3Aおよび3Bにグラフで表す。
【0279】
【表4】
解析により、PIK3CA、KRAS、およびPTENと組み合わせたBRAFの突然変異状態が抗HER3抗体処置の有効性を予測し、野生型群における細胞株が、ヘテロ接合性またはホモ接合性の群からの細胞株と比較して、抗HER3抗体処置に対してはるかに高い応答性であったことが明らかになった(図3Aおよび3Bを参照のこと)。このパターンは、広範囲の前臨床がんモデルにわたって観察された。
【0280】
上記の表のデータは、NRG1発現と処置の有効性との間の関連性をさらに実証し、NRG1発現の増加が、抗HER3抗体処置の有効性の向上と相関している。
【0281】
結論として、PIK3CA、KRAS、BRAF、およびPTENの突然変異状態を含む遺伝子シグネチャーは、前臨床がんモデルにおける抗HER3抗体処置の有効性を一貫して有意に予測し、この遺伝子シグネチャーは、追加の予測因子としてNRG1 mRNA存在量と組み合わせることができる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
【配列表】
2024529141000001.xml
【国際調査報告】