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特表2024-529157GABABR1aの新規モジュレーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】GABABR1aの新規モジュレーター
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/04 20060101AFI20240725BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240725BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240725BHJP
   A61K 38/03 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C07K7/04 ZNA
C07K7/06
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/08
A61P25/28
A61P25/04
A61K38/03
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508688
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022072835
(87)【国際公開番号】W WO2023017190
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】21191352.0
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514185600
【氏名又は名称】ブイアイビー ブイゼットダブリュ
【氏名又は名称原語表記】VIB VZW
【住所又は居所原語表記】Suzanne Tassierstraat 1,9052 Gent,Belgium
(71)【出願人】
【識別番号】519399408
【氏名又は名称】ルーヴェン カトリック大学,ケー.ユー. ルーヴェン アールアンドディー
【氏名又は名称原語表記】KATHOLIEKE UNIVERSITEIT LEUVEN,K.U.LEUVEN R&D
【住所又は居所原語表記】Waaistraat 6 bus 5105,3000 Leuven,Belgium
(71)【出願人】
【識別番号】596099561
【氏名又は名称】ブレイエ・ユニバージテイト・ブリュッセル
【氏名又は名称原語表記】VRIJE UNIVERSITEIT BRUSSEL
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ ヴィット,ヨリス
(72)【発明者】
【氏名】サントス,アナ リタ
(72)【発明者】
【氏名】カルバーロ,ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】ガリバート,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ファン モール,イング
(72)【発明者】
【氏名】レムト,ハン
(72)【発明者】
【氏名】セラニール,シルヴァン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA02
4C084BA16
4C084BA17
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA06
4C084ZA08
4C084ZA12
4C084ZA16
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA15
4H045BA17
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
本発明は、中枢神経系および末梢神経系の障害、特に神経障害および精神障害の分野に、ならびにその予防および/または処置に関する。特に本発明は、可溶性アミロイド前駆体タンパク質α(sAPPα)に由来する短いペプチドがGABABR1aに結合し、これを調節するという発見に関する。これらのペプチドは、臨床使用、より具体的にはCMTなどの神経疾患および精神障害の処置のために提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列X1X2X3X4X5を含むGABABR1a結合ペプチドであって、ここで、
X1は、D、N、G、P、またはSであることができ;
X2は、VまたはIであることができ;
X3は、W、F、Y、またはHであることができ;
X4は、WまたはYであることができ;および
X5は、GまたはSであることができる、
前記ペプチドまたはそのペプチド模倣薬、ここでペプチドは5~17アミノ酸の長さを有し、およびここでGABABR1a結合ペプチドはDDSDVWWGGを含まない。
【請求項2】
X4が、Wである、請求項1に記載のGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬。
【請求項3】
ペプチドが、DVWWG、DVWWS、DIWWS、DIWWG、DIFWS、DIYWS、DIYWG、GVYWS、NIWWG、NVWWSおよびDVYWGからなるリストから選択される、請求項1に記載のGABABR1a結合ペプチド。
【請求項4】
X1がDであり、X2がIであり、X4がWであり、X5がSであり、およびここでX3が、イソエチルメチル-ベンゼン、6-クロロ-3-メチル-1H-インドール、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、2-ナフタレン、エチルベンゼン、1,1-ジフルオロ-4-シクロヘキシル、4-メチル-1-メトキシ-2-メチルベンゼン、1-クロロ-4-メチルベンゼン、4-メチルフェニル-メタノール、3-メチル安息香酸、N-エチルトリプトファン、および4-メチルアニリンからなるリストから選択される、請求項1に記載のGABABR1a結合ペプチドのペプチド模倣薬。
【請求項5】
ペプチド模倣薬が、VIB-0068911-011、VIB-0068894-001、VIB-0068905-001、VIB-0068903-001、VIB-0068895-001、VIB-0068902-001、VIB-0068910-001、VIB-0068907-001、VIB-0068870-001、VIB-0068906-001、VIB-0068914-001およびVIB-0068912-001からなるリストから選択される、請求項4に記載のペプチド模倣薬。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチドまたはペプチド模倣薬を含む、医薬組成物。
【請求項7】
医薬として使用するための、請求項1~5のいずれかに記載のGABABR1a結合ペプチドまたは請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
認知障害、不安、うつ病、てんかん、ジストニア、CMT、アルツハイマー病、神経障害性疼痛、ナルコレプシーまたは痙縮の処置に使用するための、請求項1~5のいずれかに記載のGABABR1a結合ペプチドまたは請求項6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、中枢神経系および末梢神経系の障害、特に神経障害および精神障害の分野に、ならびにその予防および/または処置に関する。特に本発明は、可溶性アミロイド前駆体タンパク質α(sAPPα)に由来する短いペプチドがGABABR1aに結合し、これを調節するという発見に関する。これらのペプチドは、臨床使用、より具体的にはCMTなどの神経疾患および精神障害の処置のために提供される。
【背景技術】
【0002】
背景
GABA B受容体(GABABRまたはGABABR)は、抑制性神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)の代謝調節型受容体であり、シナプス前神経伝達物質の放出とシナプス後膜の興奮性とを調節する(Gassmann & Bettler, 2012 Nat Rev Neurosci 13: 380-394)。これは、2つのサブユニット:GABAに結合するGABABR1および、Gタンパク質に連結するGABABR2から構成される(Pin & Bettler, 2016 Nature 540: 60-68)。2つの主要なアイソフォーム、GABABR1aとGABABR1bとは、aバリアントにのみ存在する2つのN末端Sushi反復が異なる(Pin & Bettler、2016 Nature 540: 60-68)。GABABRシグナル伝達は、認知障害、不安、うつ病、統合失調症、てんかん、強迫性障害、依存症、および疼痛などの多くの神経障害および精神障害に関与しているとされる(Calver et al 2002 Neurosignals 11;Bettler et al 2004 Physiol Rev 84: 835-867)。GABABR1a Sushiドメインの選択的結合パートナーは、GABABR1アイソフォームの局在化および機能の違い(Vigot et al 2006 Neuron 50: 589-601;Foster et al 2013 Br J Pharmacol 168: 1808-1819)ならびに現在の非特異的アゴニストの悪影響(Pin & Bettler, 2016 Nature 540: 60-68)のために、潜在的な治療上の関心を集めている。したがって、機能的なGABABR1a特異的結合パートナーは、神経障害および精神障害におけるGABABR1a特異的シグナル伝達を調節するための治療戦略の開発にとって、貴重な標的である。
【0003】
近年、GABABR1aが分泌型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)のシナプス受容体として作用することが実証された(Rice et al 2019 Science 363;WO2018015296A1)。sAPPは、その伸長ドメインを介してGABABR1aのSushiドメイン1と特異的に相互作用し、in vivoで海馬のシナプス可塑性および神経伝達を調節する;より具体的には、この相互作用は、シナプス放出を抑制し、神経回路の適切な恒常性制御を維持するための、活動依存性の負のフィードバック機構として機能する。興味深いことに、Sushiドメインとの相互作用に重要なsAPPアミノ酸の数を最小化することができた。17merのペプチドは完全長sAPPと同様の効果を発揮したが、9アミノ酸の短いペプチドでもGABABR1aのSushi1ドメインに結合することができる(WO2018015296A1)。最近、in silicoモデリングに基づく9merの修飾が、Fengらにより示唆された(2021 Chem Sci 12)。
【発明の開示】
【0004】
概要
本願では、新規なGABABR1aモジュレーターが開示される。より具体的には、本出願の発明者らは、野生型sAPP 9merのバリアントを開発し、該9merを機能的な8mer、7mer、および5merに短縮した。さらに、sAPP 17merと比較して、GABABR1a Sushiドメイン1への結合特性が改善された前記5merのペプチド模倣薬を開発した。
本出願は、配列X1X2X3X4X5を含むGABABR1a結合ペプチドであって、ここで、X1はD、N、G、P、またはSあることができ;X2はVまたはIであることができ;X3はW、F、Y、またはHであることができ;X4はWまたはYであることができ;およびX5はGまたはSであることができる前記ペプチド、または前記GABABR1a結合ペプチドのペプチド模倣薬を提供する。一態様において、ペプチドは5~9アミノ酸の長さを有し、DDSDVWWGGではない。別の態様において、GABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬は、位置X4にWを含む。具体的な態様において、GABABR1a結合ペプチドは、DVWWG、DVWWS、DIWWS、DIWWG、DIFWS、DIYWS、DIYWG、GVYWS、NIWWG、NVWWSおよびDVYWGからなるリストから選択される。別の具体的な態様において、GABABR1a結合ペプチドのペプチド模倣薬が提供され、ここでX1はDであり、X2はIであり、X4はWであり、X5はSであり、およびここで、X3は、イソエチルメチル-ベンゼン、6-クロロ-3-メチル-1H-インドール、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、2-ナフタレン、エチルベンゼン、1,1-ジフルオロ-4-シクロヘキシル、4-メチル-1-メトキシ-2-メチルベンゼン、1-クロロ-4-メチルベンゼン、4-メチルフェニル-メタノール、3-メチル安息香酸および4-メチルアニリンからなるリストから選択される。より具体的な態様において、ペプチド模倣薬は、VIB-0068911-001、VIB-0068894-001、VIB-0068905-001、VIB-0068903-001、VIB-0068895-001、VIB-0068902-001、VIB-0068910-001、VIB-0068907-001、VIB-0068870-001、VIB-0068906-001、VIB-0068914-001およびVIB-0068912-001からなるリストから選択される。
【0005】
本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかは、医薬として使用するために提供される。より具体的には、認知障害、不安、うつ病、てんかん、ジストニア、CMT、神経障害性疼痛、ナルコレプシー、痙縮、糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、またはCOVID-19の処置の使用のためである。これは、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかを、それを必要とする対象に投与することを含む、前記障害を処置する方法が提供されると言うのと同様である。さらに提供されるのは、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかを対象に投与することを含む、対象におけるGABABR1aの活性を調節する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、アッセイで使用する最適濃度を決定するための、FITC-9merペプチドと複合体を形成したGABABR1a Sushi1ドメイン(SD1)の交差滴定を示す。
図2図2は、sAPP 17merおよび9merペプチドの濃度を増加させた場合のSD1-FITC-9merの阻害を示す。未標識ペプチド(17merおよび9mer)を過剰に添加するとシグナルが減少し、SD1~9mer間の複合体形成が阻害される。2つのツール化合物について得られたIC50値は、以前の測定値と一致した(IC50 17mer=1.7μM;IC50 9mer=11μM)。反対に、sAPP 10merはいかなるシグナルの変化も示さず、これは、このペプチドがSD1-FITC-9merの相互作用を妨害または阻害できないことを意味する。
図3図3は、FACSによって測定された、本出願のGABABR1a結合ペプチドと野生型sAPP 9merとの間の競合を示す。GABABR1a-SD1を発現するHEK細胞を本出願のペプチドと共にインキュベートし、ペプチドの存在下で9merの結合を測定した。9merペプチドはビオチン化され、市販の抗体で検出される。
【0007】
図4図4は、ペプチド模倣剤の努力による結合効率の向上を示す。明るい丸印は天然アミノ酸からなる5mer(例:VIB_29、34、43)を表し、一方、暗い四角印は非天然実体を含む5mer化合物(例:VIB 0068894、VIB-0068895)を表す。天然および非天然の5merはどちらも、サイズが小さいにもかかわらず、17merおよび9merと比較して同様の親和性でSushi1ドメインに結合可能である。
図5A図5は、急性マウス海馬切片におけるfEPSP測定を示す。図5Aは、1μMのスクランブル対照ペプチドと比較して、1μMのsAPP 17merを投与した際の促進の増加を示す。
図5B図5Bは、切片をGABABRアンタゴニストCGP-54626(10μM)とプレインキュベートすると、17mer誘導による促進の増加がブロックされたことを示す。
図6図6は、スクランブル対照(scr 17mer)と比較して、5mer P34(1μM)およびP29(1μM)を添加した際の促進の増加を示す。
図7図7は、10μMのスクランブル陰性対照と比較して、P43、P34またはP47(すべて10μM)の投与による短期促進の統計的に有意な増加を示す。sAPP 17merを陽性対照として使用した。
図8図8は、海馬切片をGABABRアンタゴニストCGP-54626とプレインキュベートした場合、P34またはP43 5mer(すべて10μM)の投与時に以前に観察された短期促進の増加が検出されなかったことを実証する。
【0008】
詳細な説明
本出願の出願人らは以前に、可溶性APP(sAPP)が9アミノ酸の短い断片を介してGABABR1a Sushi1ドメインに結合することを開示した(WO2018015296A1)。In silico予測およびin vitro結果に基づき、9merをさらに機能的な5merに短縮した。天然および非天然アミノ酸からなる大規模な一連のペプチドを設計および試験した。驚くべきことにこれらのペプチドの選択物は、GABABR1aおよび9mer sAPPに結合することが示された。さらに、これらのペプチドのいくつかは、GABABR1a活性のex vivo調節を実証する。
【0009】
GABABR1a調節ペプチド
第1の側面において、配列X1X2X3X4X5を含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドが提供され、ここで、X1はD、N、G、P、またはSあることができ;X2はVまたはIであることができ;X3はW、F、Y、またはHであることができ;X4はWまたはYであることができ;およびX5はGまたはSであることができる。より具体的には、配列X1X2X3WX5を含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドが提供され、ここで、X1はD、N、G、PまたはSであることができ;X2はVまたはIであることができ;X3はW、F、Y、またはHであることができ;およびX5はGまたはSであることができる。
本明細書で使用される「GABABR1a」は、γ-アミノ酪酸(GABA)B受容体サブユニット1aを指し、より具体的にはGenBankアクセッション番号AAC98508のヒトGABA B1a受容体を指し、さらに具体的にはヒトGABA B1a受容体のSushiドメイン1を指す。以下の同義語は、本出願において交換可能に使用される:「GABABR1a」、「GABABR1a」、「GABA B1a受容体」、「GABAB受容体1a」。「GABABR1aのSushi1ドメイン」、「GABABR1a Sushi1ドメイン」、「Sushi1ドメイン」、「Sushiドメイン1」、「Sushi1タンパク質」、「SD1」または「GABABR1a-SD1」も交換可能に使用され、配列番号1を参照する。
配列番号1:ヒトGABA B1a受容体のSushiドメイン1:
TSEGCQIIHPPWEGGIRYRGLTRDQVKAINFLPVDYEIEYVCRGEREVVGPKVRKCLANGSWTDMDTPSRCV
【0010】
また、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドのいずれかのペプチド模倣薬も提供される。本明細書で使用される「ペプチド模倣薬」とは、非天然ペプチド、または少なくとも1つの非天然アミノ酸を含むペプチドを指す(以下により詳細に説明する)。ペプチド模倣薬は、強力かつ選択的なタンパク質間相互作用(PPI)モジュレーターの代替供給源を提供し、小分子と抗体などの生物製剤との間の化学的ギャップを占める。
本明細書で使用される「アミノ酸」とは、タンパク質を構成する構造単位(モノマー)を指す。それらは結合して、ペプチドと呼ばれる短いポリマー鎖、またはポリペプチドもしくはタンパク質と呼ばれる長い鎖を形成する。これらの鎖は直鎖状で分岐がなく、鎖内の各アミノ酸残基が2つの隣接するアミノ酸に付着している。普遍的な遺伝暗号によってコードされている20個のアミノ酸は、天然にポリペプチドに組み込まれており、タンパク質を構成するアミノ酸または天然アミノ酸と呼ばれる。
天然アミノ酸または天然に存在するアミノ酸は、グリシン(GlyまたはG)、アラニン(AlaまたはA)、バリン(ValまたはV)、ロイシン(LeuまたはL)、イソロイシン(IleまたはI)、メチオニン(MetまたはM)、プロリン(ProまたはP)、フェニルアラニン(PheまたはF)、トリプトファン(TrpまたはW)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、アスパラギン(AsnまたはN)、グルタミン(GlnまたはQ)、チロシン(TyrまたはY)、システイン(CysまたはC)、リシン(LysまたはK)、アルギニン(ArgまたはR)、ヒスチジン(HisまたはH)、アスパラギン酸(AspまたはD)、およびグルタミン酸(GluまたはE)である。
【0011】
すべてのアミノ酸(グリシンを除く)は、それらの構造の2つの異なる立体異性体または鏡像を有する。鏡像を区別するために、これらにはL(左巻き)とD(右巻き)というラベルが付けられている。L-アミノ酸は、動物、植物、菌類、および細菌によって生成されるすべてのタンパク質に含まれる。フィッシャー投影式では、L-アミノ酸のアミン基が左側に現れる。対照的にD-アミノ酸では、アミン基はフィッシャー投影式で右側に現れる。D-アミノ酸は、自然界においては稀にタンパク質の残基として見つかるのみである。哺乳動物のタンパク質を構成するアミノ酸はすべてL-アミノ酸である。したがって、天然に存在するヒトのタンパク質またはペプチドには、D-アミノ酸は含まれない。
一態様において、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかは、少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。具体的な態様において、少なくとも1つのD-アミノ酸は、D-アスパラギン酸またはD-セリンである。最も具体的な態様において、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかであって、X1がD-アスパラギン酸であるものが提供される。
【0012】
天然アミノ酸に加えて、非天然(non-natural)または非天然(unnatural)アミノ酸も開発されている。非天然アミノ酸は、天然のポリペプチド鎖には見られないために、そのように呼ばれる。これらは、タンパク質の重合に使用される生細胞のtRNAに付着する20個のアミノ酸には含まれていない。一部の非天然アミノ酸は天然に存在するが、しかしほとんどは化学的に合成される。これらは例えば天然アミノ酸の化学修飾によって作製され、例えば、N-メチルアミノ酸(メチル基がアミノ基の窒素に付着)、α-メチルアミノ酸(メチル基がアルファ炭素の水素に置き換わる)、β-アミノ酸(2番目の炭素がアミノ基とカルボキシ基の間に追加)、ホモアミノ酸(メチレン基がアルファ炭素と側基の間に追加)、またはβ-ホモアミノ酸(2番目の炭素がアミノ基とカルボキシ基の間に追加され、メチレン基がアルファ炭素と側基の間に追加される)である。非天然アミノ酸は、幅広い医薬品の製造における貴重な構成ブロックである。非天然アミノ酸は遊離酸として生物学的活性を示すことができ、生物学的活性を有する直鎖状または環状ペプチドに組み込むことができる。
【0013】
非天然アミノ酸の非限定的な例は以下である:イソエチルメチルベンゼン(本明細書ではF72とも呼ばれる)、6-クロロ-3-メチル-1H-インドール(本明細書ではF126とも呼ばれる)、メチルシクロヘキサン(本明細書ではF15とも呼ばれる)、エチルシクロヘキサン(本明細書ではF141とも呼ばれる)、2-ナフタレン(本明細書ではF195とも呼ばれる)、エチルベンゼン(本明細書ではF70とも呼ばれる)、1,1-ジフルオロ-4-シクロヘキシル(本明細書ではF182とも呼ばれる)、4-メチル-1-メトキシ-2-メチルベンゼン(本明細書ではF158とも呼ばれる)、1-クロロ-4-メチルベンゼン(本明細書ではF86とも呼ばれる)、4-メチルフェニル-メタノール(本明細書ではF44とも呼ばれる)、3-メチル安息香酸(本明細書ではF50とも呼ばれる)、4-メチルアニリン(本明細書ではF57とも呼ばれる)およびN-エチル-トリプトファン(本明細書ではF149とも呼ばれる)。
また、配列X1X2X3WX5を含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドであって、ここで、X1はD、N、G、PまたはSであることができ;X2はVまたはIであることができ;X3はW、F、Y、H、または非天然アミノ酸であることができ;およびX5はGまたはSであることができる、前記ペプチドも提供される。
また、配列X1X2X3WX5を含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドであって、ここで、X1はD、N、G、PまたはSであることができ;X2はVまたはIであることができ;X3はW、F、Y、またはHであることができ;およびX5は、GまたはSであることができる、またはここで、X1はDであり、X2はIであり、X5はSであり、およびX3は非天然アミノ酸である、前記ペプチドも提供される。
【0014】
本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬を、これ以降、本出願の任意のGABABR1a結合ペプチドと呼ぶ。
一態様において、本出願の任意のGABABR1a結合ペプチドは、長さが5~17アミノ酸、5~14アミノ酸、5~12アミノ酸、5~9アミノ酸、5~8アミノ酸、または5~7アミノ酸である。具体的な態様において、ペプチドまたはペプチド模倣薬の長さは、5、6、7、8または9アミノ酸である。別の具体的な態様において、本出願のGABABR1a結合ペプチドは、30、25、20、15、10またはそれ以下のアミノ酸の長さを有する。
別の態様において、本出願の任意のGABABR1a結合ペプチドは、DDSDVWWGGではない。具体的な態様において、本出願の任意のGABABR1a結合ペプチドは、DDSDVDWWGを含まない。別の態様において、本出願の任意のGABABR1a結合ペプチドは、DVWWGではない。具体的な態様において、本出願の任意のGABABR1a結合ペプチドは、DVWWGを含まない。
【0015】
別の態様において、本出願の任意のGABABR1a結合ペプチドであって、ここで非天然アミノ酸が、イソエチルメチルベンゼン、6-クロロ-3-メチル-1H-インドール、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、2-ナフタレン、エチルベンゼン、1,1-ジフルオロ-4-シクロヘキシル、4-メチル-1-メトキシ-2-メチルベンゼン、1-クロロ-4-メチルベンゼン、4-メチルフェニル-メタノール、3-メチル安息香酸および4-メチルアニリンからなるリストから選択される前記ペプチドが提供される。具体的な態様において、GABABR1a結合ペプチドは配列DIX3WSを含み、ここでX3は、イソエチルメチルベンゼン、6-クロロ-3-メチル-1H-インドール、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、2-ナフタレン、エチルベンゼン、1,1-ジフルオロ-4-シクロヘキシル、4-メチル-1-メトキシ-2-メチルベンゼン、1-クロロ-4-メチルベンゼン、4-メチルフェニル-メタノール、3-メチル安息香酸、N-エチル-トリプトファンおよび4-メチルアニリンからなるリストから選択される。さらにより具体的な態様において、配列DIX3WSを含むGABABR1a結合ペプチドは、VIB-0068911-011、VIB-0068894-001、VIB-0068905-001、VIB-0068903-001、VIB-0068895-001、VIB-0068902-001、VIB-0068910-001、VIB-0068907-001、VIB-0068870-001、VIB-0068906-001、VIB-0068914-001、およびVIB-0068912-001からなるリストから選択される。
【0016】
別の具体的な態様において、配列X1X2X3X4X5を含むGABABR1a結合ペプチドは、DVWWG、DVWWS、DIWWS、DIWWG、DIFWS、DIYWS、DIYWG、DIHWG、DIHWS、DVFWG、DVFWS、GVYWS、GIYWS、NIWWG、NIWWS、NVWWG、NVWWS、NIYWG、NIYWS、NFYWS、DVYWG、DVYWS、DVHWS、DIFWS、SVYWS、PIHWS、PIYWS、DDSDVWWG、DIYWS*(S*はC-N-(1,3,4-チアジアゾール-2-イル)アミドに連結したセリン)、dIYWS**(S**は(C-N-(2-(4-メチルピペラジン-1-イル)-2-オキソエチル)アミドに連結したセリン、およびdはD-アスパラギン酸)、*dIYWS(d*は(1-アミノシクロブチル)N-メタノンに連結したアスパラギン酸)、およびdIYWS(dはD-アスパラギン酸)である。
さらにより具体的な態様において、配列X1X2X3WX5を含むGABABR1a結合ペプチドは、DVWWG、DVWWS、DIWWS、DIWWG、DIFWS、DIYWS、DIYWG、GVYWS、NIWWG、NVWWSおよびDVYWGからなるリストから選択される。
別の側面において、IWWG、IWWS、DVWW、DDSDVWW、またはdIYYS(dはD-アスパラギン酸)を含むか、またはそれらからなるGABABR1a結合ペプチドが提供される。一態様において、前記GABABR1a結合ペプチドのペプチド模倣薬が提供される。
【0017】
別の側面において、DASAVWWGGまたはAASDVWWGGから選択される配列を含むか、またはそれらからなるGABABR1a結合ペプチドが提供される。一態様において、前記GABABR1a結合ペプチドのペプチド模倣薬が提供される。
別の側面において、配列DDSDVWWGGを含むか、またはそれからなるGABABR1a結合ペプチドが提供され、ここで少なくとも1つのアミノ酸残基はD-アミノ酸(すなわち、D-立体異性体)である。具体的な態様において、少なくとも1つのD-アミノ酸は、D-アスパラギン酸またはD-セリンである。さらにより具体的な態様において、少なくとも1つのD残基(すなわち、アスパラギン酸)がD-アスパラギン酸であり、および/またはSがD-セリンである、配列DDSDVWWGGを含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドが提供される。さらにより具体的な態様において、少なくとも2つのD残基(すなわち、アスパラギン酸)がD-アスパラギン酸であり、および/またはSがD-セリンである、配列DDSDVWWGGを含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドが提供される。さらにより具体的な態様において、3つのD残基(すなわち、アスパラギン酸)がD-アスパラギン酸であり、および/またはSがD-セリンである、配列DDSDVWWGGを含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドが提供される。最も具体的な態様において、少なくとも1つのD-アミノ酸(すなわち、D-立体異性体)を含む配列DDSDVWWGGを含むかまたはそれからなるGABABR1a結合ペプチドは、dDSDVWWG、DdSDVWGG、DDsDVWWGG、DDSdVWWGGおよびddsDVWWGGからなるリストから選択され、ここで、dはD-アスパラギン酸を指し、sはD-セリンを指す。一態様において、少なくとも1つのD-立体異性体を含む前記GABABR1a結合ペプチドの、ペプチド模倣薬が提供される。
【0018】
医薬組成物
別の側面において、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかを含む医薬組成物が提供される。より具体的には、医薬組成物は、薬学的に許容し得る担体と、薬学的有効量の、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドもしくはそのペプチド模倣薬、またはその塩のいずれかで構成される。一態様において、薬学的に許容し得る担体は、比較的非毒性で、活性成分の有効活性と一致する濃度で患者に対して無害であり、したがって担体に起因する副作用が活性成分の有益な効果を損なわないような担体である。GABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかの薬学的有効量は、処置される特定の状態に対して結果を生み出すか、または影響を与える量である。GABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれも、当技術分野で周知の薬学的に許容し得る担体と共に、即時型、徐放および持続放出の製剤を含む任意の有効な従来の投与単位形態を使用して、投与することができる。
【0019】
本出願の医薬組成物はまた、水中油型エマルションの形態であってもよい。エマルションはまた、甘味料および香味剤を含んでもよい。油性懸濁液は、活性成分を、例えば落花生油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナッツ油などの植物油、または流動パラフィンなどの鉱油に懸濁することによって、製剤化することができる。医薬組成物は、滅菌注射可能な水性懸濁液の形態であってもよい。かかる懸濁液は、すべて当業者に周知の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用する既知の方法に従って、製剤化することができる。滅菌注射用調製物はまた、非経口的に許容し得る非毒性の希釈剤または溶媒中の、滅菌注射用溶液または懸濁液であってもよい。使用できる希釈剤および溶媒は、例えば、水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液および等張グルコース溶液である。さらに滅菌固定油が、溶媒または懸濁媒体として従来使用されている。この目的には、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含む、任意の刺激の少ない固定油を使用し得る。さらに、オレイン酸などの脂肪酸は注射剤の調製に使用できる。本発明の組成物はまた、必要または所望に応じて、一般に担体または希釈剤と呼ばれる他の従来の薬学的に許容し得る配合成分を含有することもできる。追加の成分の性質およびそれらを本発明の組成物に添加する必要性は、関連分野の当業者の知識の範囲内である。かかる組成物を適切な剤形で調製するための、従来の手順を利用することができる。かかる成分および手順には、以下の参考文献に記載されているものが含まれ、その各々は参照により本明細書に組み込まれる:Powell, M. F. et al., "Compendium of Excipients for Parenteral Formulations" PDA Journal of Pharmaceutical Science & Technology 1998, 52(5), 238-311;Strickley, R.G "Parenteral Formulations of Small Molecule Therapeutics Marketed in the United States (1999)-Part-1" PDA Journal of Pharmaceutical Science & Technology 1999, 53(6), 324-349;およびNema, S. et al., "Excipients and Their Use in Injectable Products" PDA Journal of Pharmaceutical Science & Technology 1997, 51 (4), 166-171。
【0020】
GABABR1a Sushi1ドメイン結合剤の治療への応用
GABABRシグナル伝達は、認知障害、不安、うつ病、統合失調症、てんかん、強迫性障害、依存症、片頭痛および疼痛などの多くの神経障害および精神障害に関与すると考えられている(Calver et al 2002 Neurosignals 11; Bettler et al 2004 Physiol Rev 84: 835-867;Garcia-Martin et al 2017 Headache: The Journal of Head and Face Pain 57:1118-1135)。sAPPの野生型17merおよび9mer断片がGABABR1a Sushi1ドメインに結合し、17merがGABABR1aアゴニストのポジティブアロステリックモジュレーターとして作用することが以前に示されている(Rice et al 2019 Science;WO2018015296A1)。GABAが、鎮静効果を生み出す抑制性神経伝達物質の放出に不可欠であることを考慮すると、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドおよびそのペプチド模倣薬は、GABABR1a媒介性神経障害および精神障害の症状を軽減する役割を、より具体的には認知障害、不安、ストレス、恐怖、うつ病、統合失調症、てんかん、強迫性障害、依存症、片頭痛および/または疼痛を軽減する役割を果たすために提供される。
【0021】
本願は、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬が、GABABR1aアゴニストであることを記載している。したがって、前記GABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬は、GABABR1aアゴニストが処方される任意の疾患または障害に使用するためのものであることが想定される。GABABアゴニスト医薬の非限定的な例は、バクロフェン、プロガビド、フェニブトおよびレソガベラン(Lesogaberan)である。
中でもLioresalというブランド名で販売されているバクロフェンは、脊髄損傷、脳性麻痺、CMT、多発性硬化症などによる痙性運動障害または筋肉の痙縮を処置するために使用される薬剤である。バクロフェンはまた、アルコール使用障害の処置にも使用されている。プロガビドはフランスで、てんかんの処置における単独療法または補助的使用として承認されている。Anvifen、Fenibut、Noofenなどのブランド名で販売されているフェニブトは、不安、不眠症の処置、および無力症、うつ病、アルコール依存症、アルコール離脱症候群、心的外傷後ストレス障害、吃音、チック、前庭障害、メニエール病、めまいなどの処置、乗り物酔いの予防、および外科手術または痛みを伴う診断検査前後の不安の予防に使用されている。レソガベランは、胃食道逆流症の処置のために開発された(Bredenoord 2009 IDrugs 12:576-584)。
【0022】
したがって、別の側面において、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドもしくはそのペプチド模倣薬、または本明細書に記載の医薬組成物のいずれかは、医薬として使用するために提供される。上記の技術および概要から、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドもしくはそのペプチド模倣薬、または本明細書に記載の医薬組成物を含む、GABABR1aアゴニストを使用して、例えばてんかん、不安、ストレス、恐怖、吃音、チック、前庭障害などで起こる過剰刺激されたシナプス活動の鎮静効果を誘導できることは明らかである。前記GABABR1aアゴニストは筋弛緩剤として使用することもでき、したがって、例えばシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)、ジストニア、多発性硬化症(MS)、脳性麻痺または脊髄損傷における筋痙縮を処置するために使用することもできる。本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドもしくはそのペプチド模倣薬、または本明細書に記載の医薬組成物はまた、神経障害または精神障害の症状を処置または軽減するための使用にも提供される。非限定的な例としては、うつ病、アルコール依存症、心的外傷後ストレス障害、不眠症が挙げられる。前記GABABR1a結合ペプチドはまた、平衡障害の症状を処置または軽減するための使用のためにも提供される。非限定的な例としては、メニエール病、めまい、乗り物酔いが挙げられる。
【0023】
具体的な態様において、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドもしくはそのペプチド模倣薬、または本明細書に記載の医薬組成物は、認知障害、不安、ストレス、恐怖、うつ病、統合失調症、てんかん、ジストニア、CMT、神経障害性疼痛、ナルコレプシーまたは筋痙縮、またはGABABR1aアゴニストによって処置可能なあらゆる障害の症状を処置または軽減するための使用に提供される。これは、対象における認知障害、不安、うつ病、てんかん、ジストニア、CMT、神経障害性疼痛、ナルコレプシーまたは筋痙縮、またはGABABR1aアゴニストによって処置可能な任意の障害の症状を処置または軽減する方法が提供されると言っているのと同じであり、この方法は、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかの有効量を、対象に投与するステップを含む。
GABAB受容体アゴニストによる処置後のラット膵島では、インスリン含量および分泌がより高いことが実証されている(Ligon et al 2007 Diabetologia 50: 764-773)。さらに、GABAB受容体の活性化は、1型糖尿病(T1D)、多発性硬化症、関節リウマチ、およびCOVID-19のマウスモデルにおいて、疾患の進行を阻害することが最近示された(Tian et al 2021 Biomedicines 9:43)。本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬は、糖尿病、より具体的には1型糖尿病だけでなく、多発性硬化症、関節リウマチ、およびCOVID-19を処置するための使用にも提供される。
【0024】
アルツハイマー病に関連する神経毒性とシナプス喪失のよく知られた引き金であるアミロイドベータ42(Abeta42)ペプチドは、GABABR1aのSushi1ドメインに結合し、SD1結合についてsAPP 9merと競合することも報告されている(Mei et al 2022 Ac Chem Neurosci 13: 2048-2059)。本明細書に開示されるsAPP 5merのいくつかが、9merよりも高い結合親和性でSD1に結合することを考慮すると、これらの5merはAbeta42-SD1結合を克服または破壊し、したがってAbeta42神経毒性の一部を克服することが予想される。したがって、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬は、アルツハイマー病および/または他のアミロイドβ関連障害を処置するための使用にも提供される。最も具体的な態様において、DDSDVWWG、DIWWS、DIWWG、VIB_0068911、VIB_0068894、VIB_0068905、VIB_0068903、VIB_0068895、VIB_0068910、VIB_0068907およびVIB_0068904からなるリストから選択されるGABABR1a結合ペプチドは、アルツハイマー病および/または他のアミロイドβ関連障害の処置に使用するために提供される。
「処置」とは、未処置のまま放置した場合の疾患または障害の進行または予想される進行と比較した、疾患または障害の進行の任意の割合の減少または遅延を指す。より望ましくは、処置により、疾患または障害の進行が全くないかまたはゼロになる(すなわち、「阻害」または「進行の阻害」)か、またはすでに発症した疾患または障害が任意の割合で退行することさえある。
【0025】
本明細書で使用される「減少(軽減)」または「減少する(軽減する)」とは、GABABR1a結合剤の非存在下と比較して、本出願のGABABR1a結合剤の存在下での効果の、統計的に有意な減少を指す。より具体的には、GABABR1a結合ペプチドが投与されない対照状況と比較して、本発明のGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬を投与すると、統計的に有意な減少が見られる。具体的な態様において、前記統計的に有意な減少は、対照状況と比較して少なくとも25%、30%、35%、40%、45%または50%の減少である。
また開示されるのは、対象におけるGABABR1a活性を調節する方法であり、この方法は、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかの有効量を、対象に投与することを含む。一態様において、調節するとは、統計的に有意に増加または増強させることである。別の態様において、調節するとは、統計的に有意に減少または低下させることである。
また開示されるのは、対象、または対象のニューロンのサブセットにおけるシナプス活性を減少させる方法であって、この方法は、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかの有効量を、対象に投与することを含む。
また開示されるのは、対象における神経伝達物質放出のGABABR1a関連阻害を増強または刺激する方法であって、この方法は、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドまたはそのペプチド模倣薬のいずれかの有効量を、対象に投与することを含む。
【0026】
GABA B R1a調節の検出
in vitro、ex vivoまたはin vivoの両方でのGABABR1a活性の調節における、本明細書に開示されるGABABR1a結合ペプチドの有効性は、様々な周知の技術によって試験することもできる。例えば、本明細書に示すようなマウスの急性海馬切片を利用することによる。
【0027】
投与
GABABR1a調節は、GABABR1a結合剤の1つを発現するトランスジェニック生物の作製を通じて、または前記GABABR1a結合剤を対象に投与することによって、達成することができる。GABABR1a結合剤がGABABR1a活性を調節する限り、その効果がGABABR1a結合剤の発現によって達成されるか、または結合剤の投与によって達成されるかは、本発明にとって重要ではない。GABABR1a結合剤は、任意の適切なプロモーターを使用して、組換えの環状または線状DNAプラスミドから発現させることができる。これらのGABABR1a結合剤をプラスミドから発現させるための適切なプロモーターとしては、例えば、U6またはH1 RNA pol IIIプロモーター配列およびサイトメガロウイルスプロモーターが挙げられる。他の適切なプロモーターの選択は当業者の範囲内である。非限定的な例としては、ニューロン特異的プロモーター、グリア細胞特異的プロモーター、ヒトシナプシン1遺伝子プロモーター、Hb9プロモーター、またはUS7341847B2に開示されているプロモーターである。
組換えプラスミドはまた、特定の組織または特定の細胞内環境におけるGABABR1a結合剤の発現のための、誘導性または調節可能なプロモーターを含むこともできる。組換えプラスミドから発現されるGABABR1a結合剤は、標準的な技術により培養細胞発現系から単離することも、細胞内、例えば脳組織またはニューロン内で発現させることもできる。GABABR1a結合剤は、組換えウイルスベクターから細胞内で発現させることもできる。組換えウイルスベクターは、本発明のGABABR1a結合剤をコードする配列およびそれらを発現するための任意の適切なプロモーターを含む。GABABR1a結合剤は、GABABR1a調節を引き起こすのに十分な量である「有効量」で投与される。当業者は、所与の対象に投与されるGABABR1a結合剤の有効量を、疾患の浸透の程度、対象の年齢、健康状態および性別、投与経路、および投与が局所的かまたは全身的かなどの要因を考慮することにより、容易に決定することができる。一般に、GABABR1a活性を調節するGABABR1a結合剤の有効量は、約1ナノモル(nM)~約100nM、好ましくは約2nM~約50nM、より好ましくは約2.5nM~約10nMの細胞内濃度を含む。より多い量またはより少ない量の阻害剤を投与可能であることが企図される。
【0028】
血液脳関門を越える薬物投与
血液脳関門(BBB)は、脳の血管の内側を覆うしっかり結合した細胞の保護層であり、有害物質(毒素、感染因子など)の侵入を防ぎ、特定の輸送キャリアによって認識されない(非脂)可溶性分子の脳への侵入を制限する。これは、血液によって輸送される薬物が必ずしも血液脳関門を通過できるとは限らないため、本明細書に記載のGABABR1a結合剤などの薬物を中枢神経系または脳に送達する際に、難題を突き付ける。現在、BBBを越えて薬物を送達するための、いくつかのオプションが利用可能である(Peschillo et al. 2016, J Neurointervent Surg 8:1078-1082;Miller & O'Callaghan 2017, Metabolism 69:S3-S7;Drapeau & Fortin 2015, Current Cancer Drug Targets 15:752-768)。
薬物は、脳に直接注射することもでき(侵襲的戦略)、または薬理学的薬剤でBBBを破壊した後に脳に直接注入することもできる(薬理学的戦略)。BBB破壊の侵襲的手段は、疾患のある脳組織および正常な脳組織への、針またはカテーテルによる出血、感染、または損傷のリスクと関連する。直接的な薬物の沈着は、対流促進送達技術によって改善される可能性がある。治療用タンパク質の長期送達は、遺伝子組み換え幹細胞の移植、組換えウイルスベクター、浸透圧ポンプ、または治療薬物をポリマーに組み込む(徐放性;局所的に移植可能)ことによって達成可能である。
【0029】
薬理学的BBB破壊には非選択的であるという欠点があり、血圧および体の体液バランスに対する望ましくない影響を引き起こす可能性がある。これは、薬理学的BBB破壊剤の標的投与または選択的投与によって回避される。一例として、脳腫瘍における抗体(ベバシズマブ)の動脈内脳注入は、マンニトールによるBBBの浸透圧破壊後に実証された(Boockvar et al. 2011, J Neurosurg 114:624-632);BBBを薬理学的に破壊することができる他の薬剤には、ブラジキニンおよびロイコトリエンC4が含まれる(例えば、頸動脈内注入による;Nakano et al. 1996, Cancer Res 56:4027-4031)。
BBBトランスサイトーシスと排出阻害は、血液を介して供給される薬物の脳への取り込みを増加させるための、もう1つの戦略である。トランスフェリンまたはトランスフェリン受容体抗体を薬物の担体として使用することは、自然なBBBトランスサイトーシスプロセスを活用する一例である(Friden et al. 1996, J Pharmacol Exp Ther 278:1491-1498)。薬物送達のためにBBBトランスサイトーシスを活用することは、分子トロイの木馬戦略としても知られている。BBBの根底にあるもう1つのメカニズムである、排出ポンプまたはATP結合カセット(ABC)トランスポーター(乳がん耐性タンパク質(BCRP/ABCG2)およびP糖タンパク質(Pgp/MDR1/ABCB1)など)は、化合物の取り込みを増加させるためにブロックすることができる(例えば、Carcaboso et al. 2010, Cancer Res 70:4499-4508)。代替的に、治療薬をリポソームに充填して、それらのBBB通過を強化することもでき、このアプローチはリポソームトロイの木馬戦略としても知られている。
【0030】
治療薬を脳に送達するためのより最近の有望な手段は、超音波、より具体的には集束超音波による(一過性の)BBB破壊である(FUS; Miller et al. 2017, Metabolism 69:S3-S7)。この技術は非侵襲的であることに加えて、多くの場合リアルタイムイメージングと組み合わせて、脳の疾患領域を正確に標的化できるという利点がある。治療薬は、例えば、マイクロバブル中で送達することができ、例えば、アルブミンおよび他のタンパク質、脂質、ポリマーによって安定化される。治療薬は代替的に、またはマイクロバブルと併用して、他の任意の方法によって送達することができ、その後、FUSは、血液中に存在する任意の化合物の局所的取り込みを促進することができる(例えば、Nance et al. 2014, J Control Release 189:123-132)。ほんの一例は、マウスにおける病状の軽減を示す、毒性アミロイドβペプチドに対する抗体のFUS補助送達である(Jordao et al. 2010, PloS One 5:e10549)。治療薬を充填したマイクロバブルは、FUSを使用して標的細胞の近くで破裂させる(温熱効果)こともでき、熱ショックタンパク質遺伝子プロモーターによって駆動されると、治療用タンパク質の局所的な一時的発現を、超音波温熱療法によって誘導することができる(例えば、Lee Titworth et al. 2014, Anticancer Res 34:565-574)。温熱効果を誘導するための超音波の代替案は、マイクロ波、レーザー誘導組織内温熱療法(laser-induced interstitial thermotherapy)、および磁性ナノ粒子である(例えば、Lee Titworth et al. 2014, Anticancer Res 34:565-574)。
【0031】
細胞内薬物投与
GABABR1a活性を標的とする薬剤は、BBBを通過する必要があるだけでなく、細胞障壁も通過する必要があり得る。この問題に対する1つの解決策は、細胞透過性タンパク質またはペプチド(CPP)の使用である。かかるペプチドは、それらに連結した目的の薬物の、原形質膜を越えた移行を可能にする。CPPはタンパク質伝達ドメイン(TPD)とも呼ばれ、通常30個以下(例えば5~30個、または5~20個)のアミノ酸を含み、通常は塩基性残基が豊富で、天然に存在するCPP(通常は20個より長い)に由来し、またはモデリングもしくは設計の結果である。CPPの非限定的な選択には、TATペプチド(HIV-1 Tatタンパク質由来)、ペネトラチン(ショウジョウバエアンテナペディア(Drosophila Antennapedia)-Antp由来)、pVEC(マウス血管内皮カドヘリン由来)、シグナル配列ベースのペプチドまたは膜移行配列、モデル両親媒性ペプチド(MAP)、トランスポータン(transportan)、MPG、ポリアルギニンが含まれる;これらのペプチドに関する詳細は、Torchilin 2008(Adv Drug Deliv Rev 60:548-558)およびそこに引用されている参考文献に見出すことができる。
CPPを、ナノ粒子、リポソーム、ミセル、または一般に任意の疎水性粒子などの担体に連結させることができる。連結は吸収または化学結合により、例えばCPPと担体との間のスペーサーを介するなどで行うことができる。標的特異性を高めるために、標的特異的抗原に結合する抗体を、さらに担体に連結させることができる(Torchilin 2008、Adv Drug Deliv Rev 60:548-558)。CPPは、プラスミドDNA、オリゴヌクレオチド、siRNA、ペプチド核酸(PNA)、タンパク質およびペプチド、小分子およびナノ粒子などの多様なペイロードを、細胞内に送達するために、すでに使用されている(Stalmans et al. 2013, PloS One 8:e71752)。
【0032】
その他の定義
本発明は、具体的な態様に関しある図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載の図面は概略的なものにすぎず、限定的なものではない。図面において、いくつかの要素のサイズは説明目的で誇張されており、正確な縮尺で描かれていない場合がある。「含む」という用語が本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、それは他の要素またはステップを排除するものではない。単数名詞を指す際に不定冠詞または定冠詞が使用される場合、例えば「a」または「an」、「the」などは、特に明記されていない限り、その名詞の複数形が含まれる。さらに、説明および特許請求の範囲における第1、第2、第3などの用語は、同様の要素を区別するために使用され、必ずしも連続的または時系列の順序を説明するために使用されるわけではない。このように使用される用語は、適切な状況下では交換可能であり、本明細書に記載の本発明の態様は、本明細書に記載または図示された以外の順序で動作できることを理解されたい。以下の用語または定義は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。本明細書で特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての用語は、本発明の当業者にとっての意味と同じ意味を有する。専門家は特に、当技術の定義および用語について、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Press, Plainsview, New York (2012);およびAusubel et al., current Protocols in Molecular Biology (Supplement 100), John Wiley & Sons, New York (2012)を参照されたい。本明細書で提供される定義は、当業者が理解する範囲よりも狭い範囲を有すると解釈されるべきではない。
「sAPP」、「sAPPα」、「APPα」または「APP」は、本明細書では互換的に使用され、分泌されたアミロイドβ前駆体タンパク質、より具体的にはヒトsAPPαの伸長ドメインを指す。本発明の野生型17mer、9mer、および5merペプチドが由来する前記伸長ドメインの配列は、配列番号2:NVDSADAEEDDSDVWWGGADTDYADGSEDKVVEに示されている。
【実施例
【0033】
出願人らは以前に、GABABR1aがsAPP伸長ドメイン、より正確には17アミノ酸の長いストレッチ(long stretch)と特異的に相互作用することを報告した。さらなる切断実験により、sAPP 17mer内の保存された最小の9アミノ酸配列が、GABABR1aのSushi1ドメインへの直接結合に十分であることが明らかになった(Rice et al 2019 Science 363;WO2018/015296)。sAPP-GABABR1a相互作用、ひいてはGABABR1a活性を調節する化合物を設計するために、前記タンパク質の結合をさらに詳細に研究した。
【0034】
例1.sAPP 9merのバリアントは同様の親和性で結合する
まず、野生型sAPP 9merペプチドがSD1結合の観点から最適な配列であるかどうか、またはsAPP 9merの配列バリアントがGABABR1a-SD1への結合を改善するかどうかを疑問視した。したがって、単一および二重のsAPP 9mer変異体のパネルを生成した。アラニンスキャンを1位から7位の残基について実施した。ITCアッセイに基づき、これらの単一変異ペプチドは、同じかわずかに高いKdでSD1に結合した(表1)。また、二重変異体VIB_P04、VIB_P05、およびVIB_P19は、野生型9merと比較して、同様のKdでSD1に結合した。また、1位から4位のアミノ残基のD-異性体の影響を、単一または複数の組み合わせで試験した。どの変異も、測定されたKdに強い影響を及ぼさなかった(表1)。したがって我々は、野生型sAPP 9merはすでに最適化されているが、多くのバリアントはSD1に同様に良好に結合し、したがって同様の様式でGABABR1aを調節すると結論付ける。
【0035】
表1.ITCアッセイに基づく野生型sAPP 17merおよび9mer、ならびに9mer変異体の結合特性。
【表1】
【0036】
例2.sAPP 5merは依然としてGABABR1aに結合可能である
例1の突然変異誘発実験には、9位を欠く8merも含めた。我々は驚くべきことに、8merのDDSDVWWGが、3μMの9merと比較して1.95μMの改善されたKdを有することを見出した(表1)。これは、9merがさらに短縮される可能性があることを示唆する。したがって最初の3残基も除去したところ、驚くべきことに、DVWWG 5mer(本明細書ではVIB-P33とも呼ばれる)は依然としてGABABR1aのSushiドメイン1に9.09のKdで結合できることを見出した(表1)。
【0037】
例3.GABABR1a結合ペプチドをスクリーニングするための蛍光偏光アッセイ
5merの驚くべき結果に興味をそそられ、5mer配列を最適化するために中~高スループットのスクリーニングをセットアップすることにした。いくつかのアッセイを試験して、再現性があり、堅牢で、費用対効果が高く、ハイスループットスクリーニングにも適したアッセイを見出した。蛍光偏光(FP)アッセイを選択した。FP測定は、受容体結合アッセイでよく知られている。このアッセイは、溶液中の蛍光標識分子の回転運動に基づく。結合していない分子は急速に回転するため、発光前にランダムな配向となり、低い偏光値を示す。しかし、蛍光標識分子が大きな複合体に結合するためにその回転が遅くなると、高い分極値を示す。FPアッセイは、FITC標識sAPP 9merを使用して最適化した(図1)。
非標識試験化合物を用いてGABABR1a結合剤をスクリーニングするために、アッセイをFITC-9merを使用する競合アッセイに変更した。したがって、試験化合物の結合はFPシグナルの減少によって検出される。この阻害剤アッセイを検証するために、17mer、9mer、5merのIC50値、および3つの陰性対照:10mer、スクランブル17mer、およびスクランブル9merからのIC50値を決定した(図2)。17、9、および5merの場合、それぞれ1.7、11、および39μMのIC50値を得ることができたが、10merおよびスクランブルペプチドは結合しなかった。
【0038】
例4.新規かつ強力な5mer GABABR1a結合剤
次に、天然残基を含有するDVWWG 5merペプチドの35個のバリアントを、上記のFPアッセイで試験した。ペプチドは50μMの濃度で試験した。興味深いことに、さらに11個のペプチドが100μM未満のIC50値で同定できた。驚くべきことに、野生型sAPP 5mer VIB_P33よりも強力な5つのペプチドが見出された(表2)。
これらの結果は、4位のトリプトファン(W)が重要な残基であることを実証する。限られた数の代替残基が、他の位置において、IC50値に大きなペナルティを課すことなく許容される。1位のアスパラギン酸(D)は、アスパラギン(N)またはグリシン(G)だけでなく、セリン(S)またはプロリン(P)にも置き換えることができるが、SD1への最適な結合にはDが好ましい。同様の状況が3位でも発生する:トリプトファン(W)はチロシン(Y)、ヒスチジン(H)またはフェニルアラニン(F)で置き換えることができるが、Wが好ましい。sAPP 5merのSD1への結合は、2位のバリン(V)をイソロイシン(I)に置き換えることによって最適化可能である。最後に、5位のグリシン(G)をセリン(S)に置き換えることにより、IC50値は半分に低減する。興味深いことに、2位のVがIに、5位のGがSに置き換えられた場合、相乗効果を見出すことができた(VIB_P34)。
【0039】
表2.野生型5mer(VIB_P33)および5mer変異体の結合特性およびex vivo活性。
【表2】
要約すると、FPアッセイにおいてsAPP 9merのGABABR1a-SD1への結合を少なくとも30%、および100μM未満のIC50で阻害する、5つの天然アミノ酸からなる13のペプチドが同定された。ペプチドはコンセンサス配列X1X2X3WX5を有し、ここで、X1はD、N、G、PまたはSであることができ;X2はVまたはIであることができ;X3はW、F、H、またはYであることができ;およびX5はGまたはSであることができる。
【0040】
例5.非天然GABABR1a結合剤
DIYWS-SD1およびDIWWS-SD1共結晶の構造情報に基づき、非天然残基を含有する48個のペプチドを手動で設計し、GABABR1aSD1への結合を、FPアッセイにおいて50μMの濃度でチェックした。これらの非天然ペプチドは、FPアッセイで得られたIC50値に基づいて分類した(表3)。FPアッセイでIC50が100μMを超えるペプチドはリストされていない。興味深いことに、野生型5mer VIB-P33と比較して、SD1に7倍強力に結合するいくつかの非天然ペプチドが同定され(表2および3)、一方、他のペプチド(VIB-0068911およびVIB-0068894)は17merと同様に良好に結合した(表1および3)。リストされた非天然5merはすべて、1位にD-アスパラギン酸(9merの残基4位)、2位にL-イソロイシン(9merの残基5位)、4位にL-トリプトファン(9merの残基7位)および5位のL-セリン(9merの残基8位)を共有し、一方、3位は、L-チロシン、イソエチルメチルベンゼン、6-クロロ-3-メチル-1H-インドール、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、2-ナフタレン、エチルベンゼン、1,1-ジフルオロ-4-シクロヘキシル、4-メチル-1-メトキシ-2-メチルベンゼン、1-クロロ-4-メチルベンゼン、4-メチルフェニル-メタノール、3-メチル安息香酸および4-メチルアニリンからなるリストから選択される。
【0041】
表3.非天然5mer APPペプチドの結合特性。S*=C-N-(1,3,4-チアジアゾール-2-イル)アミドに連結したL-セリン;S**=C-N-(2-(4-メチルピペラジン-1-イル)-2-オキソエチル)アミドに連結したL-セリン;d*=(1-アミノシクロブチル)N-メタノンに連結したD-アスパラギン酸、F72=(イソエチルメチル)ベンゼン、F126=6-クロロ-3-メチル-1H-インドール、F15=メチルシクロヘキサン、F141=エチルシクロヘキサン、F195=2-ナフタレン、F70=エチルベンゼン、F182=1,1-ジフルオロ-4-シクロヘキシル、F158=4-メチル-1-メトキシ-2-メチルベンゼン、F86=1-クロロ-4-メチルベンゼン、F44=(4-メチルフェニル)メタノール、F50=3-メチル安息香酸、F57=4-メチルアニリン、F149=N-エチル-トリプトファン
【表3】
また、例4に記載したDIYWS 5mer(VIB_P43)のバリアントも試験した。L-アスパラギン酸をD-立体異性体に変異させても、野生型9merの結合特性には影響を及ぼさず(表1を参照)、DIYWS 5merのIC50値は21.18μMから11.64μMに減少した(表3)。4位(9merの残基7位)でL-トリプトファンをL-チロシンに変異させると、IC50の減少がゼロになった。最後に、化学基のセリンまたはD-アスパラギン酸への追加が、dIYWSペプチドの結合特性に影響を与えるかどうかを試験した(表3)。
【0042】
例7.ITCおよび細胞ベースのアッセイによるGABABR1a結合剤の確認
FPアッセイでの最も強力な天然ペプチドと非天然ペプチドを、ITC効力測定によって確認した。FPアッセイとは対照的に、等温滴定熱量測定(ITC)アッセイは直接結合アッセイである。FPの結果は、いくつかのペプチドが野生型17merと同等の性能を示す一方、他のペプチドは野生型5mer(VIB-P33)よりも20倍強力であることが確認できた(表2&3)。
次に、上位にランク付けされた化合物を、細胞ベースの結合アッセイで試験した。HEK293細胞を形質転換して、SD1を含むGABABR1aの細胞外ドメインを発現するようにした。この細胞ベースのアッセイにおいて、SD1は、GABABR1a細胞外ドメイン上で発現され、一次アッセイ(FPアッセイ)で使用された精製SD1タンパク質と比較して、より生理学的立体構造をとることができる。活性化合物を試験する前に、9mer(ビオチンでタグ付け)が、GABABR1bではなくGABABR1a-SD1を発現する細胞に特異的に結合することが確認された。9merスクランブルペプチドはいかなる結合も示さなかった。
試験したすべての化合物は、9merのGABABR1a-SD1への結合を阻害することができた。最も強力なペプチドは、9merの結合を85%以上減少させることができた(表3、図3)。
最後に、最も興味深い天然および非天然ペプチドの結合効率指数も決定した。したがって相互作用親和性を、分子量(MW)で正規化した。こうして結合効率指数は、化合物の親和性(ITCアッセイで測定されるKd値)と分子サイズの関係を可視化する。図4から分かるように、列挙されたすべての化合物は、野生型sAPP 17merと比較して著しく優れた性能を示した。
【0043】
例8.シナプス活動の調節
GABABR1a-SD1結合剤の選択の、シナプス伝達に対する効果は、CA3-CA1シェーファー側枝(SC)シナプスの完全な回路を含む急性マウス海馬切片を用いたex vivo実験で試験した。すなわち、20Hzで5回の刺激をバーストしてシェーファー側枝に加え、短期的促進を誘発した;これは神経伝達物質放出の確率と逆相関する。我々は以前、このアッセイにおいて、1μMのsAPPα組換えタンパク質の適用により、対照と比較して促進が増加することを示し、sAPPαがこのシナプスでGABABR依存的にシナプス小胞放出を制御することを実証した(Rice et al 2019 Science)。
最初にこの実験を、sAPPα組換えタンパク質の代わりにsAPP 17merを用いて繰り返した。図5Aから、1μMのsAPP 17merの急性海馬切片への投与は、スクランブル対照ペプチドと比較して促進を増加させ、シナプス小胞放出確率の減少を示すことが理解され得る。さらに、GABABRアンタゴニストCGP-54626(10μM)とのプレインキュベーションは、sAPP17merによる促進の増加をブロックし、この効果がGABABR依存性であることを示した(図5B)。
【0044】
次に、sAPP 5merペプチドの、促進に対する効果を試験した(図6)。5mer P34(1μM)およびP29(1μM)を添加すると、スクランブル対照と比較して同様の統計的に有意な促進の増加が見られた。これは、これらの5merがex vivoでシナプス小胞放出を抑制することを示す。
次に、ITCにより測定されたSD1への結合親和性が低いことを考慮して、5mer P43、P34、およびP47を10μM濃度で試験した(表2)。P43、P34、およびP47、および陽性対照としての17mer(すべて10μM)はすべて、10μMのスクランブル陰性対照と比較して、短期促進の統計的に有意な増加を示した(図7)。
P34およびP43 5merは、GABABRアンタゴニストCGP-54626とプレインキュベートした海馬切片でも試験した(図8)。以前に観察された短期促進の増加はもはや検出できず、DIWWSおよびDIYWSペプチドがGABABR依存的にSCシナプスでの小胞放出を制御していることが実証された。
【0045】
実験の詳細
組換えSushi1の発現および精製
生物物理学および構造生物学の目的で、Sushi1タンパク質を細菌発現系で発現させた。Sushi1タンパク質の残基26~96をコードする合成遺伝子をpFloat-SUMOベクターにクローニングし、Hisタグ付きSUMO-Sushi1融合タンパク質を生成した。この構築物は、His-SUMOタグを除去するための3Cプロテアーゼ切断部位も含んでいた。pFloat-SUMO-Sushi1プラスミドを、BL21(DE3)細胞に形質転換し、カナマイシン(100μg/ml)を含有するLB寒天プレート上にプレーティングした。100μg/mlのカナマイシンを補充した小さいLB培養物に、BL21(DE3)(pFloat-SUMO-Sushi1)の単一コロニーを接種し、37℃で一晩増殖させた。続いて、1リットルのLB培養物にこの前培養物20mlを接種し、OD600が0.8に達するまで37℃で増殖させた。この時点で、タンパク質発現の誘導を、0.5mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて実施した。細胞を20℃でさらに一晩インキュベートし、その後遠心分離により回収した(Beckmanローター8.1000、5000rpm、15分間、4℃)。ペレットを、20mMのTris、pH7.5、500mMのNaCl、10mMのイミダゾール、5mMのβ-メルカプトエタノール、0.1mg/mLの4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド塩酸塩(AEBSF)、1μg/mLのロイペプチン、50μg/mLのDNaseIおよび20mMのMgCl中に再懸濁した。細胞を、フレンチプレス(Constant Systems)を20kpsiで使用して溶解し、細破片を遠心分離により除去した。細胞溶解物を、20mMのTris、pH7.5、500mMのNaCl、10mMのイミダゾール、5mMのβメルカプトエタノールで平衡化した、Ni-セファロースFF HiLoadカラム(GEHealthcare)にロードした。結合タンパク質は、500mMイミダゾールまでの直線勾配を用いて溶出した。His-SUMO-Sushi1タンパク質を含有する画分をプールし、3Cプロテアーゼで切断しながら、20mMのTris、pH7.5、150mMのNaClに対して一晩透析した。切断された試料を、同じ緩衝液で平衡化したNi-セファロースFF HiLoadカラムに再度ロードした。Sushi1タンパク質を含有するFTを濃縮し、50mMのKPi緩衝液、pH6.0、50mMのNaCl中で平衡化したBioRad S100 16/60サイズ排除カラムに適用した。
13C/N15標識したSushi1培養物を、50mg/LのEDTA、0.2mg/LのHBO、3mg/LのCuCl・2HO、7mg/LのZnSO・7HO、8mg/LのCoCl・6HO、12mg/mLのMnCl・4HO、60mg/LのFeSO・7HO、2mMのMgSO、0.2mMのCaCl、2.5g/Lの13Cグルコース、1g/Lの15NHClおよび50μg/mlのカナマイシン(1mlのLB前培養物を接種)をLBの代りに補充した、500mLのMin9培地(6.8g/LのNaHPO、3g/LのKHPO、1g/lのNaCl)中で増殖させた。発現および精製プロトコルの他のすべてのステップは変更なしであった。
【0046】
等温滴定熱量測定(ITC)測定
Sushi-1タンパク質をPBS緩衝液で一晩透析し、同じ緩衝液で30μMに希釈した。ペプチドをストック濃度3mMでPBSに再懸濁し、同じ緩衝液でさらに300μMに希釈した。ITC実験はMicrocal ITC200デバイスで実施した。滴定は、タンパク質へのペプチドの26×1.5μL注入を90秒間隔で行った。リガンドの最初の注入(0.5μL)を行い、データ分析中に廃棄した。データは、Microcal LLC ITC200(メーカーが提供するオリジナルソフトウェア)を用いて、単一結合部位モデルに適合させた。
【0047】
多電極アレイ電気生理学
記録は、C57BL/6Jマウス(生後2か月)で実施した。組織調製のために、マウスをイソフルランで麻酔して迅速に断頭し、厚さ300μmの急性傍矢状脳切片をLeica VT1200ビブラトーム上で調製した。切片化は、(mM単位):87のNaCl、2.5のKCl、1.25のNaHPO、10のグルコース、25のNaHCO、0.5のCaCl、7のMgCl、75のスクロース、1のキヌレン酸、5のアスコルビン酸、3のピルビン酸(pH7.4、5%CO/95%O)からなる冷却スクロースベースの切断溶液(ACSF)中で実施した。切片を34℃で35分間回復させ、その後使用前に少なくとも30分間、室温に維持した。記録前に切片を、目的のペプチドまたはスクランブル/対照ペプチド(1または10μM)を含有する人工脳脊髄液(ACSF、119mMのNaCl、2.5mMのKCl、1mMのNaHPO、11mMのグルコース、26mMのNaHCO、4mMのMgClおよび4mMのCaCl、pH7.4)中でプレインキュベートした。プレインキュベーションは、カスタムメイドの局所炭素化リング(5%CO/95%O)を使用して、多電極アレイ記録チャンバー(60MEA200/30iR-Ti-gr、Multichannel Systems)内で32℃で60分間実施した。フィールド興奮性シナプス後電位(fEPSP)は、適切な(視覚的に識別された)電極(MEA-2100、Multichannel Systems)を刺激して記録することにより、シェーファー側枝CA1シナプスから記録した。入出力曲線は、各切片について、500~2750mVの範囲の単一刺激を250mV刻みで適用することにより記録した。入出力曲線の最大応答の35%に相当する刺激強度を、次の記録に使用した。10、20、および50Hzのトレイン刺激(トレインごとに5つの刺激)を10分間隔で記録した。記録は、Multi Channel Experimenterソフトウェア(Multi Channel Systems)を用いて処理および分析した。
【0048】
蛍光偏光アッセイ
この出願のペプチドがSD1-9mer複合体を破壊できるかどうかを確認するために、試験した各ペプチド(単一点または用量反応曲線)をSD1タンパク質と室温で1時間インキュベートした。この最初のインキュベーションの後、FITC-9merを前の混合物に添加し、室温で2時間インキュベートした。シグナル強度は、適切なプレートリーダーで以下の設定を用いて測定した:ウェルあたりのフラッシュ数:200;励起:F482-16;二色性フィルター:FLP504;放出A F530-40;ゲインA:738、ゲインB:736。アッセイは384ウェルプレートで実施した。
【0049】
フローサイトメトリーアッセイ
HEK293を、N末端にHisタグを有するGABABR1aの細胞外ドメインをコードするプラスミド(Rice et al.,2019と同様)でトランスフェクトした。24時間の発現の後、細胞を回収し、氷冷2%FBS/PBSで1×10細胞/mLの濃度に調整した。各ペプチド(用量反応曲線における)とのインキュベーションを4℃で1時間実施し、続いてビオチン-9mer(10μM)ペプチドと30分間インキュベートした。Hisタンパク質またはビオチンのいずれかを認識する検出抗体を30分間添加した。細胞を含有するアッセイプレートをAttune NxTサイトメーターにロードし、パラメーターを細胞型およびシグナル強度に応じて調整した。各実験において、陽性対照と陰性対照をプレートに加えた。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】