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特表2024-529163前立腺がんのためのリスク予測モデル
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  • 特表-前立腺がんのためのリスク予測モデル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】前立腺がんのためのリスク予測モデル
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240725BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/53 X
G01N33/53 P
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508772
(86)(22)【出願日】2022-08-10
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2022072425
(87)【国際公開番号】W WO2023017072
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】2111635.5
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512145734
【氏名又は名称】ランドックス ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィッツジェラルド,ステファン ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ラドック,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ラモント,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マッケンナ,デクラン
(57)【要約】
単一のマーカーは、高いtPSA及び異常なDREを提示する患者においてPCaのリスクを層別化するための感度及び特異性の両方が欠失している。本研究において確認された新規の血清マーカーの組み合わせは、「低」及び「高」リスクカテゴリーへの患者のトリアージを助けることにより、一般開業医(GP)に一次医療の状況における患者の管理を改善させ、不必要な、侵襲性の、コストのかかる治療への紹介の数を潜在的に低減するのに用いられ得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺がん様症状を有する患者における前立腺がんの診断を補助する方法であって、i)前記患者から得られたエキソビボ血液、血清又は血漿サンプルにおける、総前立腺特異抗原(tPSA)のレベル、並びに、インターロイキン8(IL-8)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、上皮増殖因子(EGF)及びニューロン特異的エノラーゼ(NSE)のうちの1つ以上のレベルを決定すること、並びに、ii)バイオマーカー濃度値のそれぞれを統計的方法に入力して、前記バイオマーカーの濃度の有意性を確立し、前立腺がんを有する又は発症している前記患者のリスクを示す出力を生成することを含む、方法。
【請求項2】
以下のいずれかの組み合わせ:
i)tPSA及びIL-8
ii)tPSA及びMCP-1
iii)tPSA及びEGF
iv)tPSA及びNSE
v)tPSA、IL-8及びMCP-1
vi)tPSA、IL-8及びEGF
vii)tPSA、MCP-1及びEGF
viii)tPSA、EGF及びNSE
ix)tPSA、MCP-1及びNSE
x)tPSA、IL-8及びNSE
xi)tPSA、MCP-1、IL-8及びEGF
xii)tPSA、MCP-1、IL-8、EGF及びNSE
のレベルが決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インターロイキン10(IL-10)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、可溶性腫瘍壊死因子受容体1(sTNFR1)、C反応性タンパク質(CRP)又はD-ダイマーのうちの1つ以上のレベルも、前記患者サンプルにおいて決定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
tPSA、MCP-1、IL-8及びEGFのレベルが決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
付着した結合分子を含むソリッドステートデバイスであって、前記結合分子が、tPSA、並びに、別々に、IL-8及びMCP-1のうちの少なくとも1つに特異的な親和性を有しており、それぞれについての前記結合分子が支持体材料における個別の箇所にある、前記ソリッドステートデバイス。
【請求項6】
前記結合分子が、別々に、tPSA、IL-8、MCP-1及びEGFに親和性を有する、請求項5に記載のソリッドステートデバイス。
【請求項7】
非前立腺がん状態と前立腺がんとを区別するための血清IL-8の使用。
【請求項8】
前記非前立腺がん状態が良性前立腺肥大症(BPH)である、請求項7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
前立腺がん(PCa)は非常に一般的であり、英国ではほぼ50,000人(非特許文献1)、米国ではほぼ240,000人(非特許文献2)の男性が各年において診断されている。PCaは、毎年、米国においてほぼ35,000人の男性を死なせている(非特許文献2)。前立腺の腫瘍は、低いグリソンスコアでは限局性である傾向があり、臨床的によく見えない(非特許文献3)。成長が遅いPCaは、深刻な危害を引き起こさないことがある(非特許文献4)。しかし、侵襲性の強い前立腺がんは、転移して深刻な疾患を引き起こす可能性がある。
【背景技術】
【0002】
PCaの症状として、排尿の際の痛い感覚又は灼熱感、頻尿(特に夜間(夜間頻尿))、排尿の停止及び開始が困難であること、突発性の勃起機能不全、尿中の血液(血尿症)又は精液中の血液、骨痛、並びに体重減少が挙げられる。
【0003】
PCaのリスク因子として、患者年齢(50歳超)、民族(アフリカ系アメリカ人民族及び他の少数民族は、白色人種の男性よりも、進行のリスクが大きく、また、侵襲性の強いがんに罹りやすい)、肥満(肥満の患者はPCaのリスクがより高い)、及び家族歴(血縁、例えば、親)が挙げられる(非特許文献5)。PCa及びその後の治療の合併症として、疾患の転移の拡大、尿失禁及び勃起機能不全が挙げられる(非特許文献6)。
【0004】
PCaを診断するための絶対的基準は、経直腸超音波誘導体系(TRUS)針生検によって得られる前立腺組織の組織学的評価である。PCaのグレードを評価するのに使用される最も一般的な尺度はグリソンスコアである(非特許文献7)。グリソンスコアが高いほど、がんが急速に成長且つ拡大する傾向が強い(非特許文献8)。
【0005】
PCaの患者をスクリーニングすることは、過剰治療の可能性に起因して、物議を醸したままであり、推奨されていない(非特許文献9)。the Surveillance, Epidemiological and End Results(SEER)レジストリによって提示されているデータは、前立腺特異抗原(PSA)のみを使用したPCaのスクリーニングが、米国において、過剰診断される患者を結果として28%増加させると見積もっている(非特許文献10)。さらに、欧州における前立腺がんスクリーニングの無作為化研究(ERSPC)の試験もまた、PSAがPCaのスクリーニングツールとして単独で使用されるとき、患者のほぼ50%が過剰診断されると見積もられている(非特許文献11)。
【0006】
PCa管理は進展しているが、依然として、通常、PSAの上昇及び異常な直腸指診(DRE)が、調査のための紹介を正当化している。結果として、PSAが上昇した多くの患者が、侵襲性がありコストがかかる手技の二次医療へと紹介されている(非特許文献12)。これらは、さらなる調査のために紹介された患者のほぼ75%が生検陰性を有しているため、多くの場合において不必要である(非特許文献13)。また、患者の一部2.5%~3%は、深刻な感染(尿路感染及び/又は細菌性前立腺炎)によりTRUS手術から1週間以内に入院している。このことは、一次医療におけるより良好な意思決定により回避され得るものであるが、患者の疾患についてのより生物学的な情報を一般開業医(GP)が利用可能であるようにする必要がある。
【0007】
現在、PSAに代わる感度及び特異性を有するバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせは確認されていない(非特許文献14)。また、PSAの感度及び特異性は低く
、当該試験は遅発性のがん又は侵襲性の強いがんを区別できないにもかかわらず、新しいバイオマーカーを採用することには抵抗がある(非特許文献15)。さらに、PSAのレベルは真の診断とはならない(非特許文献15)。例えば、患者は、10ng/ml超のPSAを有し且ついずれのがんも有してない可能性があるが、PSA1ng/ml未満である別の患者は、侵襲性の強いがんを有している可能性がある。したがって、患者を少なくとも層別化し、且つ可能であれば診断ができる新規の検査が急務となっている。しかし、PCaの不均質な性質を考慮すると、単独のバイオマーカーで診断可能となることが判明する可能性は非常に低い。
【0008】
PCaの有効な管理は、正確な診断を必要とする。しかし、臨床医にとっての課題は、類似の症状を提示する良性状態(良性前立腺肥大症(BPH))をPCaと区別することである。PSA試験は、推定人口を基準として、負の利益対害の比率を示す(非特許文献11)。したがって、PSAの感度及び特異性に寄与し得るバイオマーカーは、患者をさらなる調査のための二次医療に紹介するか、又は一次医療において管理するかについて、より情報に基づく管理決定がなされ得るように、臨床医にさらなる情報を提供することができる。
【0009】
本発明は、PCa様症状を有して一次医療に訪れる患者における、血清バイオマーカーの組み合わせであって、低及び高リスクカテゴリーへの患者のトリアージを改善することにより患者管理を向上するために使用され得る、上記血清バイオマーカーの組み合わせを提示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cancer Research UK: Prostate Cancer Statistics. https://www.cancerresearchuk.org/health-professional/cancer-statistics/statistics-by-cancer-type/prostate-cancer.
【非特許文献2】Prostate Cancer: Statistics | Cancer.Net. January. https://www.cancer.net/cancer-types/prostate-cancer/statistics. Published 2019.
【非特許文献3】Popiolek M, Rider JR, Andren O, et al. Natural history of early, localized prostate cancer: A final report from three decades of follow-up. Eur Urol. 2013;63(3):428-435. doi:10.1016/j.eururo.2012.10.002.
【非特許文献4】Prostate cancer - Symptoms and causes - Mayo Clinic. https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/prostate-cancer/symptoms-causes/syc-20353087. Accessed June 10, 2021.
【非特許文献5】Hamilton W, Sharp DJ, Peters TJ, Round AP. Clinical features of prostate cancer before diagnosis: A population-based, case-control study. Br J Gen Pract. 2006;56(531):756-762.
【非特許文献6】Simoneau AR. Treatment- and disease-related complications of prostate cancer. Rev Urol. 2006;8 Suppl 2(Suppl 2): S56-67.
【非特許文献7】Rubin MA, Dunn R, Kambham N, Misick CP, O’Toole KM. Should a Gleason score be assigned to a minute focus of carcinoma on prostate biopsy? Am J Surg Pathol. 2000;24(12):1634-1640. doi:10.1097/00000478-200012000-00007.
【非特許文献8】Epstein JI. Prostate cancer grading: a decade after the 2005 modified system. Mod Pathol. 2018;31(S1):47-63. doi:10.1038/modpathol.2017.133.
【非特許文献9】Stark JR, Mucci L, Rothman KJ, Adami HO. Screening for prostate cancer remains controversial. BMJ. 2009;339. doi:10.1136/bmj.b3601.
【非特許文献10】Etzioni R, Gulati R, Cooperberg M, Penson D, Weiss N, Thompson I. Limitations of basing screening policies on screening trials: The US preventive services task force and prostate cancer screening. Med Care. 2013;51(4):295-300. doi:10.1097/MLR.0b013e31827da979.
【非特許文献11】Alberts AR, Schoots IG, Roobol MJ. Prostate-specific antigen-based prostate cancer screening: Past and future. 2015. doi:10.1111/iju.12750.
【非特許文献12】Young SM, Bansal P, Vella ET, Finelli A, Levitt C, Loblaw A. Guideline for referral of patients with suspected prostate cancer by family physicians and other primary care providers. Can Fam Physician. 2015;61(1):33-39.
【非特許文献13】Prostate cancer diagnosis and management Guidance NICE. https://www.nice.org.uk/guidance/ng131/chapter/Recommendations#assessment-and-diagnosis.
【非特許文献14】McNally CJ, Ruddock MW, Moore T, Mckenna DJ. Biomarkers That Differentiate Benign Prostatic Hyperplasia from Prostate Cancer: A Literature Review. 2020. doi:10.2147/CMAR.S250829.
【非特許文献15】Duffy MJ. Biomarkers for prostate cancer: Prostate-specific antigen and beyond. Clin Chem Lab Med. 2020;58(3):326-339. doi:10.1515/cclm-2019-0693.
【非特許文献16】FitzGerald SP, Lamont J V., McConnell RI, Benchikh EO. Development of a high-throughput automated analyzer using biochip array technology. Clin Chem. 2005;51(7):1165-1176. doi:10.1373/clinchem.2005.049429.
【非特許文献17】Kurth MJ, McBride WT, McLean G, et al. Acute kidney injury risk in orthopaedic trauma patients pre and post-surgery using a biomarker algorithm and clinical risk score. Sci Rep. 2020;10(1):20005-20005. doi:10.1038/s41598-020-76929-y.
【非特許文献18】R Core Team. R: A Language and Environment for Statistical Computing. 2018.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様は、前立腺がん様症状を有する患者における前立腺がんの診断を補助する方法であって、i)患者から得られたエキソビボ血液、血清又は血漿サンプルにおける、総前立腺特異抗原(tPSA)のレベル、並びに、インターロイキン8(IL-8)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、上皮増殖因子(EGF)及びニューロン特異的エノラーゼ(NSE)のうちの1つ以上のレベルを決定すること、並びに、ii)バイオマーカー濃度値のそれぞれを統計的方法に入力して、前記バイオマーカーの濃度の有意性を確立し、前立腺がんを有する又は発症している患者のリスクを示す出力を生成することを含む、方法である。好ましくは、tPSAレベルは、IL-8及びMCP-1のうちの1つ又は両方のレベルと併せて決定される。一実施形態において、tPSA、IL-8、MCP-1及びEGFのレベルが測定される。
【0012】
さらなる実施形態において、インターロイキン10(IL-10)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、可溶性腫瘍壊死因子受容体1(sTNFR1)、C反応性タンパク質(CRP)又はD-ダイマーのうちの1つ以上のレベルも、患者サンプルにおいて決定され得る。
【0013】
本発明の方法は、基材において、その上に固定化されている活性化表面を、当該活性化表面の個別の領域において有している、当該基材、tPSAに特異的な1つ以上の結合分子、並びに、IL-8、MCP-1及びEGFのうちの1つ以上を含むソリッドステートデバイスによって可能とされ得る。IL-10、VEGF、IL-1β、NSE、IL-6、sTNFR1、CRP又はD-ダイマーに特異的な1つ以上の結合分子は、上記ソリッドステートデバイスの表面に存在していてもよい。
【0014】
本発明のさらなる態様は、非前立腺がん状態と前立腺がんとを区別するための血清IL-8の使用である。一実施形態において、非前立腺がん状態は良性前立腺肥大症(BPH)である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、前立腺がんモデルである。(A)検体モデル(AUROC0.860)及びtPSA(AUROC0.700)についてのAUROC。モデル(EGF、Log10IL-8、Log10MCP-1及びLog10tPSA)についてのAUROCをtPSAについてのAUROCと比較したとき、モデルは、非PCaをPCa患者と区別する際に、tPSA単独(DeLong p<0.001)において有意に改善した。(B)カットオフ0.054でのモデルに関する診断による患者スコアの簡単なボックスプロット(非PCa(0)及びPCa(1);平均±SD)。(C)マーカーモデルに関する患者スコアによる予測確率についての適合線と簡単な散布図(r=0.95)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前立腺生検を経験した男性のほぼ70%が、PCaに陰性となる。これらの侵襲性生検は、患者を、潜在的に深刻な副作用、すなわち、勃起機能不全及び重篤な敗血症にさせる。しかし、臨床的課題は、生検が必要であるときを決定することである。一次医療において患者を積極的にトリアージすることができるリスクベースのモデルは、生検に紹介する患者の数を有意に低減し得る。この研究において、PCaに潜在的に関与する19の血清マーカーが調査された。結果は、11/16(68.8%)のサイトカインが、非PCa対PCa群間で有意差があったことを示した。これらのマーカーのうちの7つがPCa群において上昇した一方で、4つのマーカーが非PCa群において上昇した。PCa群では、2/3(66.6%)のがんマーカー(遊離PSA及び総PSA)も上昇した。
【0017】
IL-10、EGF、VEGF、MCP-1、sTNFR1、CRP及びD-ダイマーの血清レベルが、PCa患者において有意により高かった。前立腺がんは炎症性疾患であるが、4/11(36.4%)の炎症マーカー(IL-8、IL-1β、NSE及びIL-6レベル)が、PCa患者において有意により低かったことが分かった。この研究において、19/61(31.1%)のPCa患者(前立腺生検の組織学的検査によって確認された)が、4.0ng/mlの絶対的基準未満のtPSA値を有した。これらのPCa患者は、一次医療内で誤診されていた可能性があった。
【0018】
本発明は、前立腺がん様症状を有する患者における前立腺がんの診断を補助する方法であって、患者から得られたエキソビボサンプルにおけるtPSA、IL-8、MCP-1、NSE及びEGFからなるリストから選択される2つ以上のバイオマーカーの濃度を決定すること;並びにバイオマーカーの濃度の有意性を確立することを含む、方法を提供する。これらのバイオマーカーのいずれか2つ、3つ又は4つのマーカーの組み合わせが、前立腺がんの診断を補助する際に有用であり得る。本発明の好ましい実施形態において、2つ以上のバイオマーカーのうちの1つがtPSAである、なぜなら、これは前立腺がん診断の絶対的基準であるからであり、本発明は、これを改善する方法を提供する。前立腺がんの診断のためのマーカーの好ましい組み合わせとして、tPSA及びIL-8、tPSA及びMCP-1、tPSA及びEGF、tPSA及びNSE、tPSA、EGF及びIL-8;tPSA、EGF及びMCP-1;tPSA、EGF及びNSE;tPSA、IL-8及びMCP-1;tPSA、IL-8及びNSE;tPSA、MCP1及びNSE;tPSA、EGF、IL-8及びMCP1;並びにtPSA、EGF、IL-8、MCP-1及びNSEが挙げられる。好ましくは、マーカーの組み合わせは、tPSA並びにIL-8及びMCP-1のうちの1つ又は両方を含み、さらにより好ましくは、マーカーの組み合わせは、tPSA、IL-8、MCP1及びEGFからなる。
【0019】
本発明のさらなる態様は、前記組み合わせに加え、インターロイキン10(IL-10)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、可溶性腫瘍壊死因子受容体1(sTNFR1)、C反応性タンパク質(CRP)又はD-ダイマーのうちの1つ以上の測定である。
【0020】
用語「バイオマーカー」は、本発明の文脈において、患者の生物学的サンプルにおいて存在する分子を指し、そのレベルは、前立腺がんの指標となり得る。かかる分子は、ペプチド/タンパク質又は核酸及びその誘導体を含んでいてよい。本明細書において使用されているとき、用語「決定する」は、存在する物質、この場合、患者サンプルにおけるバイオマーカーの量について定量的に分析することを意味する。
【0021】
用語「tPSA」は、本明細書において使用されているとき、総前立腺特異抗原(UniProt P07288)を指し、遊離及び結合PSAの両方を含む。
【0022】
用語「MCP-1」は、本明細書において使用されているとき、ケモカインC-Cモチーフリガンド2(CCL2)としても知られている、単球走化性タンパク質1(UniProt P13500)を指す。
【0023】
用語「EGF」は、本明細書において使用されているとき、上皮増殖因子(UniProt P01133)を指す。
【0024】
用語「IL-8」は、本明細書において使用されているとき、インターロイキン8(UniProt P10145)を指す。
【0025】
用語「NSE」は、本明細書において使用されているとき、ガンマエノラーゼ及びエノラーゼ2(ENO2)としても知られている、ニューロン特異的エノラーゼ(UniProt P09104)を指す。
【0026】
本発明の文脈において、「対照」又は「対照値」は、前立腺がんを有していない患者において典型的に見られるバイオマーカーのレベルを意味することが理解される。バイオマーカーの対照レベルは、前立腺がんを有していない人から単離されたサンプルの分析によって決定されてよく、このような人に典型的であると当業者によって理解されるバイオマーカーのレベルであってよい。バイオマーカーの対照値は、当該分野において知られている方法によって決定されてよく、バイオマーカーについての正常値は、バイオマーカーレベルを決定するのに使用されるアッセイの製造者からの文献が参照されてよい。対照は、較正として確立され得、もしくは、較正曲線は、複数の濃度において検体調製物を使用して作成され得る。サンプルから生成されるアッセイシグナル出力は、較正曲線に適用されて、前記サンプルの検体レベルの定量化を可能にする。
【0027】
バイオマーカーの「レベル」は、サンプル内のバイオマーカーの量、発現レベル又は濃度を指す。このレベルは、別のバイオマーカー又は以前のサンプルとの比較における相対的なレベルであり得る。バイオマーカーレベルは、比として、例えば、同じバイオマーカーについての患者レベル及び対照レベル間の、又は、患者サンプル内の異なるバイオマーカーのレベル間の比として表されてよい。
【0028】
本明細書において使用される、用語「サンプル」は、患者又は対象から得られる生物学的サンプルを含み、血液、血漿、血清又は尿を含んでいてよい。本明細書に記載されている本発明の方法は、エキソビボで実施される。誤解を避けるために、用語「エキソビボ」は、当該分野におけるその通常の意味を有しており、サンプルが以前に得られている対象の体外の人工環境において対象から得られるサンプル内で又は上で実施される方法を指している。サンプルは、本発明のバイオマーカーが決定され得る対象から得られたいずれのサンプルであってもよい。好ましいサンプルとして、血液サンプル、血清サンプル及び血漿サンプルが含まれる。最も好ましくは、サンプルは、血清サンプルである。
【0029】
用語「患者」及び「対象」は、本明細書において互換可能に使用され、限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ科動物、ネコ科動物、齧歯動物などを含めたあらゆる動物(例えば、哺乳動物)を指す。好ましくは、対象又は患者は、男性ヒトである。より好ましくは、本発明の患者は、排尿の際の痛い感覚又は灼熱感、頻尿(特に夜間(夜間頻尿))、排尿の停止及び開始が困難であること、突発性の勃起機能不全、尿中の血液(血尿症)又は精液中の血液、骨痛、及び体重減少を含めた、1つ以上の前立腺がん様症状を提示している患者である。用語「前立腺がん様症状」は、本明細書において使用されているとき、以前に決定されている総PSA結果の上昇又は異常なDRE所見を含むことも意図される。
【0030】
本発明のバイオマーカーの濃度は、患者から以前に単離されたサンプルにおいて逐次的又は同時のいずれで決定されてもよい。サンプルにおけるバイオマーカーのレベルの決定は、当該分野において知られている常套的な方法、例えば、免疫学的方法、例えば、免疫比濁アッセイ又はELISAベースのアッセイによって決定されてよい。好ましくは、本発明の方法は、患者から単離されたサンプルにおけるバイオマーカーのレベルを決定するためにソリッドステートデバイスを使用する。ソリッドステートデバイスは、基材において、これに固定化されているバイオマーカーに特異的に結合する抗体を有している、上記基材を含む。かかる抗体は、基材の活性化表面の控えめな領域で固定化されてよい。ソリッドステートデバイスは、患者から単離されたサンプルにおける1つのバイオマーカーのレベルが当該サンプルにおける対象となる1つ以上のさらなるバイオマーカーのレベルと同時に決定され得るようにマルチ検体アッセイを行ってよい。この実施形態において、ソリッドステートデバイスは、基材と共有結合する所望の抗体をそれぞれ持つ多数の個別の反応部位を有しており、かかる反応部位間の基材の表面は、標的バイオマーカーに関して不活性である。ソリッドステートの、マルチ-検体デバイスは、したがって、非特異的結合をほとんど又は全く示さなくてよい。ここで、バイオマーカーのうちの1つ以上は、これらがELISA又は免疫比濁アッセイなどの好適なフォーマットを使用して同時に又は実際には別々に決定され得るマルチ検体フォーマットと適合可能ではない。
【0031】
本発明において使用され得るデバイスは、好適な基材の表面を活性化し、当該表面における個別の部位に抗体のアレイをアプライすることによって調製されてよい。所望により、他の活性領域がブロックされてよい。リガンドは、リンカーを介して基材に結合していてよい。特に、活性化表面が、オルガノシラン、二官能性リンカー及び抗体と連続的に反応することが好ましい。好ましい固体支持体材料は、バイオチップの形態である。バイオチップは、典型的には、例えば鉱物又はポリマーベースであってよいが好ましくはセラミックである平面状の基材である。本発明の方法において使用されるソリッドステートデバイスは、例えば、GB特許番号GB2324866に開示されている方法にしたがって製造されてよい。好ましくは、本発明の方法において使用されるソリッドステートデバイスは、Biochip Array Technologyシステム(BAT)(Randox Laboratories Limitedから入手可能、Crumlin、Northern Ireland)である。より好ましくは、Evidence Evolution、Evidence Investigator及びMultistat装置(Randox Laboratoriesからも入手可能)が使用されて、サンプルにおけるバイオマーカーのレベルを決定してよい。
【0032】
ソリッドステートデバイスは、これに付着した結合分子を含み、前記結合分子が、tPSA、並びに、別々に、IL-8、MCP-1、EGF及びNSEのうちの1つ以上に特異的な親和性を有している。好ましくは、結合分子は、tPSA、並びに、別々に、IL-8及びMCP-1のうちの1つ又は両方に親和性を有する。さらにより好ましくは、結合分子は、個別の箇所においてそれぞれ、tPSA、IL-8、MCP1及びEGFに特異的な親和性を有する。
【0033】
ソリッドステートデバイスは、個別の箇所においてそれぞれ、インターロイキン10(IL-10)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)、可溶性腫瘍壊死因子受容体1(sTNFR1)、C反応性タンパク質(CRP)又はD-ダイマーのうちの1つ以上から選択されるさらなるバイオマーカーに特異的な親和性をそれぞれ有している1つ以上の結合分子をさらに含んでいてよい。
【0034】
本発明は、患者における前立腺がんの診断を補助するための方法において記載されているソリッドステートデバイスの使用も提供する。
【0035】
用語「免疫測定法」、「免疫検出」及び免疫学的方法」は、本明細書において互換可能に使用され、サンプルにおけるタンパク質の存在又はレベルを同定するための抗体ベースの技術を指す。かかるアッセイ及び方法の例は、当業者によく知られている。
【0036】
用語「結合分子」は、本明細書において使用されているとき、標的分子が特異的結合の結果として検出され得るように、標的分子、この場合にはバイオマーカーに特異的に結合することが可能であるいずれの分子も指す。本発明において使用され得る結合分子として例えば、抗体、アプタマー、ファージ及びオリゴヌクレオチドが挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、結合分子は、抗体である。用語「抗体」、又はその複数形は、重鎖及び軽鎖(VHS及びVLS)の免疫グロブリン可変ドメイン、より具体的には、相補性決定領域(CDR)の結合特性によって決定される、標的においてエピトープを特異的に認識する免疫グロブリンを指す。多くの潜在的な抗体形態が当該分野において知られており、限定されないが、複数のインタクトモノクローナル抗体又はポリクローナル混合物(インタクトモノクローナル抗体、抗体断片(例えば、Fab、Fab’、及びFr断片、線状抗体、単鎖抗体、及び抗体断片を含む多重特異性抗体)、単鎖可変断片(scFv’s)、多重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、並びに標的における所与のエピトープの認識に必要なドメインを含む融合タンパク質を含む)を挙げることができる。好ましくは、本発明の文脈における抗体への言及は、ポリクローナル又はモノクローナル抗体を指す。抗体は、限定されないが、放射性核種、フルオロフォア、又は染料を含めた、診断結果に関する各種レポーター部位にコンジュゲートされていてもよい。
【0037】
用語「特異的に結合する」は、抗体-エピトープ相互作用の文脈において、抗体及びエピトープが、抗体又はエピトープのいずれかが代替分子、例えば無関係のタンパク質に置き換えられているときよりも、より頻繁に若しくは迅速に、又は、より高い持続時間若しくは親和性と、又は、これらのいずれかの組み合わせと関連する相互作用を指す。概して、必ずしもではないが、結合への言及は、特異的認識を意味する。モノクローナル抗体による標的の特異的結合またはその欠失を決定するための、当該分野において知られている技術として、限定されないが、FACS分析、免疫細胞化学的染色、免疫組織化学、ウエスタンブロッティング/ドットブロッティング、ELISA、親和性クロマトグラフィが挙げられる。例として、限定することなく、特異的結合又はその欠失は、上記標的を特異的に認識するために当該分野において知られている抗体を使用することを含む対照、及び/又は、上記標的の非存在、若しくは最小の特異的認識を含む対照(例えば、対照が非特異的抗体の使用を含む)との比較分析によって決定されてよい。上記比較分析は、定性的又は定量的のいずれであってもよい。しかし、所与の標的の特異的認識を実証する抗体又は結合部位は、当該標的への特異性が、例えば当該標的及び相同タンパク質の両方を特異的に認識する抗体と比較したとき、より高いと言われていることが理解される。
【0038】
がんを有する患者から単離されたサンプルに存在するバイオマーカーは、対照のものと異なるレベルを有し得る。しかし、対照と比較して異なるいくつかのバイオマーカーのレベルは、許容可能な精度でがんを診断するのに使用され得るような、がんと強い充分な相関を示さないことがある。2つ以上のバイオマーカーが診断方法において使用されるべきであるときには、好適な数学又は機械学習分類モデル、例えば、ロジスティック回帰式などが導出され得る。かかるモデルは、本明細書に記載されているとき、「統計的方法」と称され得る。バイオマーカーのレベルの有意性は、前記モデルを入力することによって確立され得る。かかる分類モデルは、決定木、人工ニューラルネットワーク、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、又は、実際には、当該分野にお
いて知られている分類モデルを開発するほかのいずれかの方法のうちの、少なくとも1つから選ばれてよい。本明細書において使用されているモデルの出力は、前立腺がんを有する又は発症している患者のリスクと相関し得る。かかる出力は、数値、例えば、0と1との間の数、オッズ比の値、リスク比/相対リスク値、又は、アルファベット出力、例えば、「イエス(yes)」若しくは「ノー(no)」、又は、「高リスク」、「低リスク」などであり得る。
【0039】
変数は、データが正常に分布していないとき、回帰モデルにおいて対数変換され得る。本発明の一実施形態において、IL-8、MCP-1及びtPSAの値をEGF、log10IL-8、log10MCP-1、及びlog10tPSAの組み合わせでlog10変換し、tPSA単独の予測性能を有意に改善してPCaを有する患者を同定した。このマーカー組み合わせは、tPSAと比較して、増加したAUROC(0.860対0.700)、感度(78.7%対68.9%)、特異性(76.5%対67.2%)、陽性的中率(PPV)(76.2%対66.7%)及び陰性的中率(NPV)(79.0%対69.4%)を有した。当業者は、所与の集団について生成されたモデルが、異なる集団又は患者コホートから得られるデータセットへの適用のために調整される必要がある場合があることを認識するであろう。
【0040】
診断テストの文脈において使用されている用語「感度」は、真陽性率と称されることがある、バイオマーカー試験によって陽性であるとされた対象のうち、実際に陽性である対象の百分率又は比示す表すものである。診断テストの文脈において使用されている用語「特異性」は、バイオマーカー試験によって陰性とされる対象のうち、実際に陰性の状態にある対象の百分率又は比(真陰性率)を示す。これらの研究において、陽性対象の数については、これらの分析が行われ得るために、試験の現在の絶対的基準(この場合には、生検された腫瘍組織の組織病理)によって予め決定されることが慣例である。
【0041】
臨床試験の診断精度を定量化するための1つの従来の目標は、その性能を単一の数字によって表現することである。最も一般的な世界的尺度は、受信者動作特性(ROC)プロットの曲線下面積(AUC)である。ROC曲線下面積は、認識される測定が状態の正確な同定を可能にする確率の尺度である。慣例により、この面積は、典型的には≧0.5である。値は、1.0(2つの群の試験値の完全な分離)と0.5(2つの群の試験値間に明らかな分布の差が無い)との間の範囲である。面積は、対角線に最も近い点又は90%の特異性での感度などのプロットの特定の部分のみによって決まるのでは無く、プロット全体によって決まる。これは、ROCプロットが完全な1(面積=1.0)にどれだけ近いかの定量的な、描写的表現である。本発明の文脈において、2つの異なる状態は、患者が前立腺がんを有するか否かである。表4は、tPSA単体および他のマーカーとの組み合わせについての曲線下面積を示す。臨床の場においては、100%の感度で前立腺がんを割り付けることが望ましい。これは、結局はこのカテゴリーの外側となる対象の大部分が、前立腺がんが除外され、不必要な生検を回避することができることを意味する。
【0042】
同定されたマーカー(EGF、IL-8及びMCP-1)とtPSAとの組み合わせを使用して、一次医療を受けたPCaの疑いがある患者をトリアージするアルゴリズムを開発した。当該PCaモデルは、バイオチップアッセイから生じたデータの統計的分析及び数学モデリングを使用して開発した。LASSOモデリングを使用して、モデルの過学習を同時に低減しながら精度に寄与する血清マーカーを同定した。PCaモデルは、再サンプリング方法を使用する厳しい試験を経ることにより、この患者コホートにおける実行可能性を求めた。このデータセットでの感度及び特異性を最大にする患者リスクスコア出力となるように、カットオフ値を選択した。バイオマーカーの正常な又は「バックグラウンド」濃度が、例えば、年齢、性別、又は民族的/地理的遺伝子型に起因する僅かな変動を示し得ることが当該分野においてよく理解されている。結果として、本発明の方法におい
て使用されるカットオフ値もまた、標的患者又は集団に応じた最適化に起因して変動し得る。カットオフを調整することもまた、特異性を犠牲にして感度を増加させ得、逆もまた然りである。また、当該モデルを、PCaの患者のリスクを簡潔且つ有効に可視化し得る動的ノモグラムを使用して試験した。各マーカーについてのデータをノモグラムに入れ、Appが数字出力を返す;0から1の確率(すなわち、非PCa、及びPCaのリスク)。
【0043】
PCaモデルは、バイオマーカーリスクスコア(BRS)に基づいて症候性患者を低及び高リスクカテゴリーに層別化し得る。PCaモデルは、非PCa患者を、PCaを有する患者から層別化することにおいて、tPSA単独よりも効率が良かった。PCaモデルは、臨床医が、患者管理、すなわち、いつ患者を生検のために二次医療に紹介するかに関してエビデンスに基づく決定をすることを可能にするために臨床的に使用され得ることが提案される。
【0044】
リスク予測モデルを開発するための多変量アプローチ及びモデリングは、単一のマーカーのものと比較して精度において有利である。プロテオーム、ゲノム及び臨床測定を組み合わせることにより、臨床医にエビデンスに基づく意思決定を与える。これらのリスク層別化方法も、PCaについての英国国立医療技術評価機構(NICE2019)ガイドラインによって推奨されている。
【0045】
さらに、本発明の方法を利用することで、臨床的特徴を、単一の「リスクスコア」に組み合わされ又はBRS及び別個の臨床リスクスコア(CRS)として提示され得るバイオマーカー結果に加えて、入力することが可能である。現在、PCaに関するいくつかの臨床的リスク、例えば、年齢、前立腺容量、及びPCaの家族歴が同定されている。臨床的リスクをバイオマーカーからの結果と共に組み込むことにより、臨床医が、エビデンスに基づく決定をすることを可能にし、患者管理を支援し得る。本発明者らの研究は、PCaモデルが、臨床的因子、例えば、年齢、PCaの家族歴、BMIレベル、及び他の臨床的因子の収集によりさらに改善され得ることを示唆している。例えば、バイオマーカーリスクスコア(本明細書に提示されているバイオマーカーの組み合わせのいずれかによって決定される)及び臨床的リスクスコアの両方について陽性である患者が、2つのリスクスコアのうちの1つについてのみ陽性である患者よりも高いリスクのカテゴリーに置かれ得る。したがって、本発明のさらなる実施形態は、前立腺がん様症状を提示する患者をリスク群に分類するためのBRS及びCRSの組み合わせることである。前記モデルは、tPSAに置き換わるように設計されたものではなく、その限界を認識して、どの患者が生検に紹介されるべきかを推奨するときに臨床医にさらなる管理エビデンスを潜在的に提供するものである。
【0046】
循環IL-8血清レベルは、PCaの診断、悪性度又は予後の有意な予測因子であることはこれまで示されていない。しかし、増加した循環IL-8血清レベルは、基礎炎症性疾患を有する患者において検出されてきた。本発明者らの研究において、IL-8を、炎症性疾患、すなわち、BPHを有する患者を潜在的に同定することによって、非PCaをPCaから区別し得るマーカーとして同定した。驚くべきことに、IL-8レベルは、非前立腺がん対照と比較して前立腺がん患者において有意により低かった。非前立腺対照のほぼ50%がBPHを有し(30/64)、前立腺がん患者におけるIL-8レベルも、0.671のAUROCを有するBPH患者(BPE143.60+257.38pg/ml(n=30)対PCa(n=61)28.35+42.39pg/ml)のみと比較したとき、有意により低かった(信頼区間-0.555-0.787)。
【0047】
そのため、本発明のさらなる態様は、非前立腺がん状態と前立腺がんとの区別を助けるための血清IL-8の使用である。好ましくは、非前立腺状態はBPHである。
【実施例
【0048】
材料及び方法
患者コホート及びサンプル収集
この研究において、125の患者が含まれた。患者コホートは、2つの独立した患者サンプルセットからなった。
【0049】
第1の患者セット(N=33;n=10 非PCa及びn=23 PCa)を、2015~2018の間に、Royal Surrey County Hospital、Frimley Park Hospital、Wexham Park Hospital及びBasingstoke and North Hampshire Hospitalの泌尿器科の診療所によってリクルートした(ProCure Study 170858、Diagnosis of Clinically Significant Prostate Cancer;倫理リファレンス:15/LO/0218)。試験対象患者基準は、異常なPSA試験の原因を調査するためにGPによって紹介された18歳以上の男性を含んだ。除外基準は、尿一般検査又は途中の尿顕微鏡検査確認された、活動性尿路感染症の、PSA4未満及び20ng/ml超を有する男性、PCaであると既に診断されている男性、悪性腫瘍の既往または併発のある男性(皮膚の基底細胞がんは除く)、並びに、インフォームド・コンセントを与えることができない男性を含んだ。血液(24ml)及び尿(20~30ml)を前立腺検査後に詳細な病歴と併せて収集した。ヘルシンキ宣言及び記載されているインフォームド・コンセントに適合する研究を全ての参加者から得た。
【0050】
第2の患者コホート(N=92;n=54 非PCa及びn=38 PCa)をDiscovery Life Sciences(DLS)、California、USAから得た。患者サンプルを匿名化して公表し、施設内倫理委員会(IRB)の承認の要求が免除された(Exempt Category4、IRB/EC)。しかし、サンプルを、承認されたプロトコル45CFR46.116の下で本人によって提供されたインフォームド・コンセントに従って入手した。病歴を有する血清(1ml)を各DLS患者から得た。サンプルを、前立腺関連状態についてICD-10コードに基づいて治療未経験の患者から選択した。
【0051】
前立腺生検の病理学検査
前立腺がんを、両方のサンプルセットからの前立腺生検の組織学的検査によって確認した。病理学者によって割り付けられたグリソンスコアを表1に記載する。非PCa群は、良性前立腺肥大症(BPH)と確認された患者を含んだ(n=30/61(49.2%))。全ての患者が、前立腺生検の時点で治療未経験であった。
【0052】
両方の患者コホートを合わせ(N=125)、病理報告書に応じて2つの群に分けた:非PCa(n=64/125(51.2%))及びPCa(n=61/125(48.8%))。
【0053】
臨床的因子及び挙動
臨床的因子は、全ての患者に利用可能という訳ではなかった。しかし、データが利用可能であった場合には、最も一般的な主症状には:BPH、下部尿路症状(LUTS)、尿閉、尿意切迫、夜間頻尿、腰痛、顕微鏡的血尿、高脂血症、及び高血圧が含まれた。患者の中の多くが、PCa診断の前に良性疾患の既往歴が無かった。
【0054】
喫煙歴及びアルコール消費量(単位/週)も、限られた数の患者で利用可能であった。多くのPCa患者が喫煙経験者であった。データが利用可能であった場合、1日当たりの
喫煙本数が10~25の範囲であった。タバコの箱年データは利用可能で無かった。アルコール消費量は、1~48単位/週の範囲であった(データが利用可能であった場合)。
【0055】
限られた数の患者について薬剤も記述した;データが利用可能であった場合、特許が処方された最も一般的な薬物には:セルトラリン、ロラタジン、オメプラゾール、アスピリン、タムスロシン、シンバスタチン、ロサルタン、アトルバスタチン、インバスタチン、ベンドロフルメチアジド、シタロプラム、シルデナフィル、フルオキセチン、ラニチジン、メトホルミン及びビソプロロール;が含まれた。
【0056】
バイオマーカー分析
患者サンプルを、Randox Laboratory Clinical Services(RCLS)、Antrim、UKにより、患者データについて二重盲検で科学者によって分析した。合計で19のバイオマーカーを、製造元の指示にしたがって、Evidence Investigatorアナライザー(Randox Laboratories Ltd、Crumlin、UK)を使用してバイオチップアレイ技術(BAT)(Randox Laboratories Ltd、Crumlin、UK)(非特許文献16)によって調査した。バイオチップアレイにおけるマーカーについての検出限界(LOD)は:EGF 2.5pg/ml、IFNγ 2.1pg/ml、IL-1α 0.9pg/ml、IL-1β 1.3pg/ml、IL-2 4.9pg/ml、IL-4 3.5pg/ml、IL-6 0.4pg/ml、IL-8 2.3pg/ml、IL-10 1.1pg/ml、MCP-1 25.5pg/ml、TNFα 3.7pg/ml、VEGF 10.8pg/ml、CRP 0.67mg/l、D-ダイマー 2.1ng/ml、NSE 0.26ng/ml及びsTNFR1 0.24ng/ml、CEA 0.29ng/ml、fPSA 0.02ng/ml及びtPSA 0.045ng/mlであった。LOD未満のバイオマーカーをLODの90%として記録した(非特許文献17)。
【0057】
統計解析
Rバージョン4.0.5を使用して統計解析に着手した(非特許分析18)。ウィルコクソンの順位和検定を使用して、差次的に発現されているマーカーを同定した。p<0.05のマーカーを有意であるとみなした。マーカーがPCaを予測する能力を、ロジスティックLasso回帰、続いて、いくつかのモデルの交差検証試験を使用してさらに調査した。個々のマーカー及びマーカーの組み合わせについて、受信者操作特性下面積(AUROC)(及び95%CI)、感度(及び95%CI)、特異性(及び95%CI)、陽性的中率(PPV)並びに陰性的中率(NPV)を算出して、2つの診断群間で区別されたモデルを同定した(非PCa対PCa)。DeLong検定を使用してモデルについてのAUROCを比較し、tPSA;p<0.05を有意であるとみなした。
【0058】
結果
この研究に関する患者の臨床的及び病理学的特徴を表1に記載する。tPSA及びfPSAの両方がPCa群において有意に上昇した。しかし、CEAは、有意差が無かった。
【0059】
【表1】
【0060】
バイオチップアレイ技術
バイオチップアレイを使用して得られたマーカー結果から、11/16(68.8%)のマーカーが非PCa及びPCa患者群間で有意差があった(表2)。これらのうち、MCP-1及びEGFを含めた、7/16(43.8%)のマーカーが、PCa患者対非PCaにおいて有意に上昇し;IL-8を含めた、4/16(25%)が、PCa対非PCaにおいて有意により低く、5/16(31.2%)が、いずれの群間でも有意差が無かった。
【0061】
【表2】
【0062】
回帰分析
ロジスティックLasso回帰により、tPSA単独に対してより高い感度及び特異性を実証したマーカーの組み合わせについてのモデルを同定した(表3)。PCa患者を同定するためにLasso回帰によって選択された4つのマーカーは、EGF、IL-8、MCP-1及びtPSAを含んだ(図1A)。データのいくつかが正常に分布していなかったため、log10変換をモデルにおけるIL-8、MCP-1及びtPSAに適用した。
【0063】
tPSAに対するLasso(EGF+log10IL-8+log10MCP-1+log10tPSA)によって同定された新しいモデルをそのまま比較すると、偽陽性の数が21/64(32.8%)から15/64(23.4%)に減少した。
【0064】
【表3】
【0065】
患者リスクスコア(PRS)の計算
PCaのリスクは、以下のマーカー組み合わせに基づいた:EGF、log10IL-8、log10MCP-1及びlog10tPSA。PRS=-8.961+(0.010EGF)+(-1.524log10IL-8)+(3.958log10MCP-1)+(1.315log10tPSA)の式をこのデータセットから導出し、カットオフ0.054(図1Bに示されている)を適用してPCaを有する患者を同定するための最も高い感度及び特異性を達成し;PRS<0.054、患者はPCaについて陰性である一方で、PRS≧0.054、患者はPCaについて陽性であり得た。PRS(バイオマーカーリスクスコアとも称される)が、患者をトリアージするときに、臨床的リスク因子と併用され得ることに注意されるべきである。そのため、陽性のリスクスコア及び陽性の臨床的リスク因子(例えば、排尿の際の痛い感覚又は灼熱感、頻尿、排尿の停止又は開始が困難であること、突発性の勃起機能不全、尿又は精液中の血液)を有する患者を、さらなる調査のために緊急紹介することが優先される。臨床的リスク因子について陽
性であり且つBRSについて陰性であった患者を、潜在的に、一次医療において管理し、又は必要に応じて調査に紹介すること可能性がある。重要なことに、このタイプの組み合わされた測定アプローチは、PCaに関する英国国立医療技術評価機構(NICE2019)ガイドラインによってリスク層別化方法に推奨されている。
【0066】
モデルの線形性を試験するために、予測確率を患者スコアに対してプロットした(図1C)。予測確率及び患者スコア間の高い相関(r=0.95)は、モデルにおける信頼性を示唆している。
【0067】
【表4】
図1
【国際調査報告】