(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】添加剤及びその調製のための方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240725BHJP
C08K 5/101 20060101ALI20240725BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240725BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240725BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/101
C08L21/00
C08K3/36
C08K5/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508811
(86)(22)【出願日】2021-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 IN2021051046
(87)【国際公開番号】W WO2023017527
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202121036690
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524055964
【氏名又は名称】エーティーシー・タイヤズ・ピーブイティー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シー・ハリモハン
(72)【発明者】
【氏名】パーテバン・マノハラン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC071
4J002DJ017
4J002EH036
4J002EH046
4J002EX008
4J002FD010
4J002FD018
4J002FD140
4J002GN01
(57)【要約】
本発明は、ステアリン酸とエタノールアミンを含む添加剤に関する。本発明はまた、前記添加剤を調製するための方法にも関する。本添加剤は、ゴム組成物のシリカ充填剤の分散を著しく改善し、酸化亜鉛添加量がより少ない前記組成物を生成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式のステアリン酸、
【化1】
並びに、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるエタノールアミン
を含む、添加剤。
【請求項2】
エタノールアミンがジエタノールアミンである、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
請求項1に記載の添加剤を調製するための方法であって、
a)100~180℃の範囲の温度で2~5分の範囲の時間、ステアリン酸をエタノールアミンと反応させて、添加剤を形成する工程、
b)工程(a)の添加剤を室温でクエンチして、固体状の添加剤を形成する工程
を含む、方法。
【請求項4】
工程(a)における温度が150℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)における時間が3分である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ステアリン酸の量が10%~100%の範囲であり、エタノールアミンが10%~100%の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
a)0.1~10質量部の範囲の、請求項1に記載の添加剤、
b)30~100質量部の範囲のポリマー、
c)30~90質量部の範囲のシリカ、
d)1~10質量部の範囲のシランを含む
ゴム組成物。
【請求項8】
ポリマーが天然ゴム、合成ゴム及び他のゴム、又はそれらのゴムの組合せから選択される、請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
a)0~5質量部の範囲の酸化亜鉛、
b)0~5質量部の範囲のステアリン酸、
c)0.5~3質量部の範囲のTMQ、
d)0.5~3質量部の範囲の6PPD、
e)0.2~3質量部の範囲の硫黄、
f)0.2~3質量部の範囲のTBBS、
g)0.2~3質量部の範囲のDPG、及び
h)0.2~3質量部の範囲のPVI
を更に含む、請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項10】
ゴム組成物中の酸化亜鉛の量を0~5質量部まで低減させるために使用される場合の、請求項1に記載の添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリン酸とエタノールアミンを含む添加剤に関する。本発明はまた、前記添加剤を調製するための方法にも関する。本添加剤は、ゴム組成物のシリカ充填剤の分散を著しく改善し、酸化亜鉛量がより少ない前記組成物を製造することができる。
【背景技術】
【0002】
タイヤにとって最も望ましい特徴は、湿った面と乾燥した面のいずれにおいても良好な静止摩擦を有することである。従来、この特徴は、タイヤ組成物中にカーボンブラック及び無機充填剤(シリカ)を含有させることにより達成されており、これが更に転がり抵抗を低減する。タイヤの転がり抵抗は、車両の燃費に影響するため、転がり抵抗の低いタイヤは、車両の走行コスト全体の節約をもたらす。
【0003】
無機充填剤(シリカ)は、機械物品の製造に常用されており、現在はタイヤのトレッドコンパウンドにおける使用が増加している。しかし、シリカ表面上の多数の水酸基は、強力な充填剤-充填剤の相互作用につながり、非極性ゴムとの相互作用は低減する。これを回避するため、シリカ充填コンパウンドにおいて、シリカの分散及びシリカとゴムとの間の相互作用を改善するために、シランカップリング剤又はシリカの表面処理又はポリマー鎖における水酸基の導入が実用上使用されている。更に、混合条件は、シラン化及び他の特性の良好なレベルを達成するために最適化された。
【0004】
上記に加え、ゴム製品の架橋の間、酸化亜鉛(ZnO)が最も効率的な活性剤と考えられており、現在世界中のゴム製造において利用されている。しかし、亜鉛の消費は世界中で環境上の懸念となっており、主要な原因である自動車産業には、その割合を減少するようにとの圧力が強まっている。
【0005】
この点について、ゴム組成物中のシリカの分散性改善に関する米国特許第9598563(B2)号を参照することができる。前記特許は、シランカップリング剤で表面処理したシリカを使用することを提案した。それに加え、シリカの分散を改善するために、(メタ)アクリレート水酸基を有するポリマーが添加されている。
【0006】
また、トリエタノールアミンを含有する沈殿シリカ補強ゴム組成物に関する、米国特許出願公開第2018/0327573(A1)号も参照することができる。この特許は更に、トリエタノールアミンを、タイヤのトレッド性能において補強充填剤(シリカ)と組み合わせて使用することに関する。
【0007】
ゴムコンパウンド中のシリカの分散は、ZnOの添加によってアルカリ-酸の反応のために妨害される可能性があると言及する、Maghami等による「Functionalized SBRs in Silica-reinforced Tire Tread Compounds: Interactions with filler and Zinc Oxide」と題された非特許文献も、更に参照される。更に、酸化亜鉛の添加は、シリカ補強コンパウンドの硬化特性に有害な影響を及ぼす可能性がある。酸化亜鉛はシラン化反応に介入してくるため、組成物中に官能性ポリマーが存在する場合に、より重要となった。その上、混合の後期段階で添加するZnOは、ゴムコンパウンドの粘弾特性に著しい影響をもつ。
【0008】
したがって、ゴム複合体中の均一なシリカの分散は、科学界にとって難題である。グローバル経済の持続可能性は、持続可能な材料の入手可能性に依存しており、このため、経済的に競争力のある持続可能な製品製造が必要となっている。
【0009】
これゆえ、出願人は、シリカ充填剤の分散を改善することができ、ゴム組成物中の酸化亜鉛の量を減少させることができる代替手段を見出すための研究を行った。
【0010】
上記に鑑みると、当技術分野には、シリカ充填剤の分散を改善し、酸化亜鉛の量を低減させることのできる添加剤を提供する必要性が存在する。シリカの分散を改善することは、より多くのシリカ化合物をタイヤに使用し、その結果、より効率的にエネルギーを使用することにつながる。更に、新規で進歩性のある添加剤は、より少ない量の酸化亜鉛でも、格別に優れたゴム組成物を生成することが可能である。添加剤を加えたゴム組成物は、優れた物理機械特性、耐摩耗性及びチップカット特性を有する。
【0011】
シリカ及び添加剤の使用を増加させることは、ゴム産業を持続可能な技術へと動かすことになる。加えて、重金属である亜鉛に関連する欠点を抑えることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第9598563(B2)号
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0327573(A1)号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Maghami等、「Functionalized SBRs in Silica-reinforced Tire Tread Compounds: Interactions with filler and Zinc Oxide」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、
下式のステアリン酸、
【0015】
【化1】
並びに、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるエタノールアミンを含む添加剤を提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、ゴム組成物中のシリカ充填剤の分散を改善する添加剤を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、前記添加剤を調製するための方法を提供することである。
【0018】
本発明のもう一つの目的は、より少ない量の酸化亜鉛でも優れた特性を有するゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、ステアリン酸及びエタノールアミンを含む添加剤を開示する。本発明はまた、前記添加剤を調製するための、環境に優しくて単純な方法も開示する。本発明の添加剤は、より少ない量の酸化亜鉛でもシリカ充填剤の分散を改善し、ゴム組成物を生成することができる。本発明の添加剤を含むゴム組成物は、優れた物理的及び機械的特性、耐摩耗性並びにチップカット特性を有する。
【0020】
添付の図面は、説明の一部を構成するものであり、本発明の更なる理解をもたらすために使用される。そのような添付の図面は、本発明の実施形態を例示し、それらは説明と共に本発明の原理を説明するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】スキーム1は、添加剤を調製するための方法を示す図である。
【
図2】
図1は、添加剤のFTIRスペクトルを、その成分であるステアリン酸及びトリエタノールアミンと共に示す図である。
【
図3】
図2は、添加剤の実施形態の1つの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、様々な改変及び代替的形態が生じ得るものであるが、その特定の実施形態を下記にて詳細に説明する。しかし、開示される特定の形態に本発明を制限することは意図されておらず、逆に、本発明は、添付する特許請求の範囲で定義されるような本発明の範疇に入る全ての改変、等価物、及び代替物をカバーするものであることが理解されるべきである。
【0023】
本明細書では、1つ若しくは複数の特徴及び/又は要素が、単一の実施形態の文脈においてのみ、又は代替的に、複数の実施形態の文脈において、又は更に代替的に、全ての実施形態の文脈において、説明され得るが、特徴及び/又は要素は、代わりに、個別又は任意の適切な組合せで、又は全く示されない場合がある。逆に、個別の実施形態の文脈において説明される任意の特徴及び/又は要素は、代わりに、単一の実施形態の文脈において共に存在していると理解することもできる。
【0024】
本明細書で使用される用語は、特定の様々な実施形態を説明する目的のものに過ぎず、様々な実施形態を制限することを意図したものではない。本明細書では、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に他を示さなければ、複数形をも包含することを意図している。
【0025】
実施形態の1つにおいて、本発明は、
下式のステアリン酸、
【0026】
【化2】
並びに、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるエタノールアミンを含む、添加剤を提供する。
【0027】
好ましい実施形態では、エタノールアミンは、ジエタノールアミンである。
【0028】
別の実施形態では、本発明は、添加剤を調製するための方法であって、
a)100~180℃の範囲の温度で、2~5分の範囲の時間、ステアリン酸をエタノールアミンと反応させて添加剤を形成する工程、
b)工程(a)の添加剤を室温でクエンチして、固体状の添加剤を形成する工程
を含む方法を提供する。
【0029】
好ましい実施形態では、添加剤を調製するための工程(a)における温度は、150℃である。
【0030】
別の好ましい実施形態では、添加剤を調製するための工程(a)における時間は、3分である。
【0031】
別の好ましい実施形態では、ステアリン酸の量は10%~100%の範囲であり、エタノールアミンは10%~100%の範囲である。したがって、ステアリン酸は、10%~100%存在し得る。同様に、エタノールアミンは、10%~100%存在し得る。
【0032】
更に別の実施形態では、本発明は、
a)0.1~10質量部の範囲の添加剤、
b)30~100質量部の範囲のポリマー、
c)30~90質量部の範囲のシリカ、
d)1~10質量部の範囲のシランを含む、ゴム組成物を提供する。
【0033】
更に別の実施形態では、ゴム組成物は、天然ゴム、合成ゴム及び他のゴム、又はそれらゴムの組合せから選択されるポリマーを含む。
【0034】
更に別の実施形態では、ゴム組成物は、
a)0~5質量部の範囲の酸化亜鉛、
b)0~5質量部の範囲のステアリン酸、
c)0.5~3質量部の範囲のTMQ、
d)0.5~3質量部の範囲の6PPD、
e)0.2~3質量部の範囲の硫黄、
f)0.2~3質量部の範囲のTBBS、
g)0.2~3質量部の範囲のDPG、及び
h)0.2~3質量部の範囲のPVIを更に含む。
【0035】
前記実施形態では、本発明のゴム組成物は、低レベルの活性化剤、酸化亜鉛で優れたシリカの分散及び良好な物理化学特性を示す。
【0036】
別の実施形態では、本発明の添加剤は、使用される場合、ゴム組成物中の酸化亜鉛の量を0~5質量部まで低減するために使用される。
【0037】
本発明は、以下、続く実施例により、非限定的な例示的実施形態に関してより詳細に示される。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は、本発明の完全な開示及び本発明をどのように作製し使用するかの説明を当業者に提供するために提示されるものであり、本発明者らが自らの発明とみなすものの範疇を制限することを意図するものではなく、下記の実験が、実施される全てであってそれ以外にはない実験であると表すことを意図するものでもない。下に示す作業実施例をもって、好ましい実施形態の少数を調製する方法論がより明白となる。
【0039】
(実施例1)
添加剤の調製
添加剤は、ステアリン酸のフレークをエタノールアミン中、継続的に撹拌して溶液を形成することで調製した。撹拌後、調製した溶液を100~180℃の範囲の温度で2~5分間マイクロ波加熱に供して、液状の添加剤を形成した。添加剤を室温でクエンチして、固体状の添加剤を形成した。前述の方法は、スキーム1に示す。
【0040】
本発明の添加剤は、マイクロ波加熱によって調製した。マイクロ波放射線は、電磁放射線であり、合成の目的で加熱源として幅広く使用されている。この技法は、多数の有機分子の合成にとって単純、清潔、迅速、効率的、かつ経済的である。マイクロ波援用法の別の利点には、環境に配慮した合成であること、廃棄物が生じないこと、及び早い反応速度及びナノ構造を形成する能力が挙げられる。しかも、それは大量生産にも拡大可能である。
【0041】
本発明の添加剤は、下記に説明するように、以下の試験について更に試験した。
【0042】
(実施例2)
添加剤の試験
2.1 分析試験
添加剤のFTIR分析
フーリエ変換赤外(FTIR)試験により、様々な位置でのピークが明らかとなる(
図1)。添加剤のスペクトルは、1570cm
-1及び1404cm
-1で追加のピークを示し、これはエステル反応及びN-H屈曲に帰するものとされた。全ての特徴的なピークは、パッケージフィルムが成功裏に製造されたことを示している。成分であるステアリン酸及びエタノールアミンに関してもスペクトルが得られている。
【0043】
2.2 ゴム組成物
異なるゴム組成物を、添加剤及び他の成分を含めることで調製した。結果は、以下の表1に要約する。
【0044】
【0045】
2.3 ゴム組成物の特性
得られたコンパウンド組成物は、より低レベルの活性剤ZnOでも優れたシリカの分散及び良好な物理的特性を示す。コンパウンドの特性を表2に示す。この開発により、従来の複合体と比較して、改善されたシリカの分散、より良い物理機械特性、優れた耐摩耗性、及びチップカット特性における実質的な改良が提示される。
【0046】
【0047】
シリカは極性構造を有し、疎水性のゴムとは本来、相溶性がない。シリカを加えたコンパウンドに添加剤を加えることで、ゴムコンパウンド中での分散が著しく改善される。改善された分散はペイン効果、物理機械試験及び耐摩耗性試験によって確認された。それに加え、シリカの表面上のシラノール基は、本来酸性であり、そのためアルカリ、例えば酸化亜鉛と反応することができる。このことは、カップリング剤との反応のためのシラノール基の利用性を低減することになるであろう。したがって、添加剤を利用することで、出願人は、ZnOの添加量を著しく低減させたゴムコンパウンド配合物を生成することが可能となり、それによってシラン化反応におけるZnOの負の影響を可能な限り低くした。
【0048】
本発明の利点
本添加剤の利点は以下の通りである:
- ゴム組成物中のシリカの分散を改善する。
- ゴム組成物中の酸化亜鉛の量を低減する。本添加剤を含むゴム組成物は、酸化亜鉛の含有量を最大75%まで低減した。
- 本添加剤を含むゴム組成物は、優れた耐摩耗性を有する。
- 本添加剤を含むゴム組成物は、より良いチップカット特性を有する。
【国際調査報告】