(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】治療薬の逆行性冠状静脈又は洞投与
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240725BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240725BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240725BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240725BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240725BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240725BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240725BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61P9/04
A61P9/00
A61P9/10
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508812
(86)(22)【出願日】2022-08-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-05
(86)【国際出願番号】 US2022074944
(87)【国際公開番号】W WO2023019272
(87)【国際公開日】2023-02-16
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516131876
【氏名又は名称】テンプル ユニバーシティー オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイアー エデュケーション
(71)【出願人】
【識別番号】524056008
【氏名又は名称】リノバコア, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RENOVACOR, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】フェルドマン, アーサー エム.
(72)【発明者】
【氏名】マイヤーズ, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ボローニャ, マーシャ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA44
4C084MA55
4C084MA70
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZA36
4C084ZA37
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC11
4C087BC83
4C087MA55
4C087MA70
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZA36
4C087ZA37
(57)【要約】
本発明は、心臓に治療薬を送達する方法を提供する。一実施形態において、方法は、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して対象に治療薬を投与し、それによって治療薬を心臓に送達するステップを含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬を心臓に送達する方法であって、左主幹冠状動脈を閉塞することなく、又は順向性の流れを閉塞することなく、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して対象に前記治療薬を投与し、それによって前記治療薬を前記心臓に送達するステップを含む、方法。
【請求項2】
治療薬を心臓に送達する方法であって、左主幹冠状動脈を閉塞しながら、又は順向性の流れを閉塞しながら、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して対象に前記治療薬を投与し、それによって前記治療薬を前記心臓に送達するステップを含む、方法。
【請求項3】
前記治療薬が核酸又はタンパク質を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸がタンパク質をコードする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質がBCL2-Associated Athanogene 3(BAG3)を含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸が発現ベクターを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記発現ベクターがウイルスベクター、真核生物ベクター又は酵母ベクターを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記AAVベクターが、以下のAAV血清型:AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11又はAAV12のいずれか1つ由来のカプシド又は逆末端反復を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記発現ベクターが心臓において機能的であるプロモーターを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記プロモーターが心臓特異的である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記発現ベクターが、心臓で機能的であるプロモーター、及び、BAG3ポリヌクレオチド又はcDNA配列を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記対象がヒトである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象又はヒトが心不全に罹患している、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象又はヒトが、駆出率が低下した心不全又は駆出率が維持された心不全に罹患している、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象又はヒトが家族性拡張型心筋症に罹患している、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象又はヒトが非家族性拡張型心筋症に罹患している、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記対象又はヒトが虚血性心疾患又は心筋症に罹患している、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記対象又はヒトが非虚血性心疾患又は心筋症に罹患している、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記対象又はヒトが虚血/再灌流傷害のリスクを有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象又はヒトが、虚血/再灌流傷害につながり得る血管インターベンション又は医療処置の予定であるか、又は候補者である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記治療薬が、冠状静脈洞の近位であり、大心臓静脈の遠位に配置されたカテーテルによって前記心臓に送達される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記治療薬が、冠状静脈洞内に又は冠状静脈洞を閉塞しながら、大心臓静脈の起始部又は大心臓静脈の遠位に配置されたカテーテルによって前記心臓に送達される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記血管インターベンション又は医療処置が、カテーテル、ステント、血管形成術、バイパス手術又は冠状動脈バイパスグラフトを用いる処置を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記対象又はヒトが末梢血管疾患手術の予定であるか、又は候補者である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記対象又はヒトが、内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドに変異を有する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記対象又はヒトが、内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現又は活性が低下している、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記治療薬が、大心臓静脈を介して前記対象又はヒトに投与される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記治療薬が、大心臓静脈の近位であるが遠位に配置されたカテーテルを介して投与される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記治療薬が、大心臓静脈、左奇静脈、又は冠状静脈洞から供給される任意の静脈に送達される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記治療薬が、最長約20分間、注入を介して投与される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記治療薬が約1ml/分~5ml/分の速度で投与される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記治療薬が約1ml/分の速度で投与される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記治療薬が約10mL~約100mLの体積で投与される、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記治療薬が約20mL~約75mLの体積で投与される、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記治療薬が約30mL~約60mLの体積で投与される、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記治療薬が約40mL~約50mLの体積で投与される、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記治療薬が、前左心室、前外側左心室、下外側左心室、下外側心室、中隔又は右心室のうちの1つ又は複数に送達及び/又は発現される、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記治療薬が心臓全体に発現される、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記治療薬が心疾患の1つ又は複数の症状を軽減する、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記治療薬が心不全の1つ又は複数の症状を軽減する、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記治療薬が心機能又は心収縮力を改善する、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記治療薬が左室駆出率を増加させる、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記治療薬が核酸又はタンパク質を含む、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記核酸が発現ベクターを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記治療薬がウイルスベクターを含む、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記治療薬又はタンパク質がBCL2-Associated Athanogene 3(BAG3)を含むか、又は前記核酸若しくは前記発現ベクターがBAG3をコードするか、又は前記ウイルスベクターがBAG3をコードする核酸若しくは発現ベクターを含む、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記ウイルスベクターが真核生物ベクター又は酵母ベクターである、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターを含む、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項50】
前記AAVベクターが、以下のAAV血清型:AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11又はAAV12のいずれか1つ由来のカプシド又は逆末端反復を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記ウイルスベクターが約1×10
11vg/kg~約1.0×10
14vg/kgの用量で投与される、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記ウイルスベクターが約1.0×10
12vg/kg~約0.5×10
14vg/kgの用量で投与される、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記ウイルスベクターが約3.0×10
12vg/kg~約1.0×10
13vg/kgの用量で投与される、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記ウイルスベクターが約3.0×10
12vg/kg~約9.0×10
12vg/kgの用量で投与される、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記ウイルスベクターが約3.0×10
12vg/kg~約8.0×10
12vg/kgの用量で投与される、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記ウイルスベクターが約3.0×10
12vg/kg~約5.0×10
12vg/kgの用量で投与される、請求項46~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記閉塞が約30秒~約20分間の期間維持される、請求項2~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記閉塞が約1分~約15分間の期間維持される、請求項2~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記閉塞が約2分~約12分間の期間維持される、請求項2~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記閉塞が約3分~約10分間の期間維持される、請求項2~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記閉塞が約4分~約6分間の期間維持される、請求項2~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記閉塞が約5分間の期間維持される、請求項2~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記閉塞が前記開口部又はその近傍にある、請求項2~62のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[導入]
[0001]最近の研究により、心臓遺伝子の機能変異が拡張型心筋症(DCM)の発症につながることが示されている。遺伝子治療は、非心臓性の家族性疾患における疾患の改善に成功しているが、DCMにおける遺伝子発現を補正する試みは成功しておらず-これにより、心臓のウイルスベクターを用いた形質導入は成功し得るのかが疑問となっている。
【0002】
[概要]
[0002]BCL2-Associated Athanogene 3(BAG3)遺伝子の変異は家族性DCMの発症と関連しており、患者は野生型(WT)BAG3の心臓形質導入によって治療できる可能性がある。心臓への異なる送達経路の有効性を評価するために、大型動物モデルにおいて、順向性送達及び逆行性送達が試験された。
【0003】
[0003]組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを用い、組換えアデノ随伴ウイルス血清型2/9(AAV2 ITR、AAV9カプシド;rAAV2/9)-BAG3遺伝子をユカタンミニブタに順向性に左冠動脈から、及び逆行性に大心臓静脈の遠位から選択的に送達するためにカテーテル挿入を行った。その後のベクター遺伝子導入を、rAAVベクター投与後の心臓の様々な領域で測定した。
【0004】
[0004]本発明に従って、心臓に治療薬を送達する方法が提供される。一実施形態において、方法は、逆行性冠状静脈送達又は洞送達を介して対象に治療薬を投与し、それによって治療薬を心臓に送達するステップを含む。
【0005】
[0005]他の実施形態において、方法は、左主冠状幹動脈を閉塞することなく、又は順向性の流れを閉塞することなく、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して対象に治療薬を投与し、それによって治療薬を心臓に送達するステップを含む。
【0006】
[0006]他の実施形態において、方法は、左主冠状幹動脈を閉塞しながら、又は逆行性の流れを閉塞しながら、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して対象に治療薬を投与し、それによって治療薬を心臓に送達するステップを含む。
【0007】
[0007]特定の局面において、治療薬は、冠状静脈洞の近位であり、大心臓静脈の遠位に配置されたカテーテルによって心臓に送達される。
【0008】
[0008]特定の局面において、治療薬は、冠状静脈洞内に、又は冠状静脈洞を閉塞しながら、大心臓静脈の起始部又は大心臓静脈の遠位に配置されたカテーテルによって心臓に送達される。
【0009】
[0009]特定の局面において、タンパク質はBCL2-Associated Athanogene 3(BAG3)を含む。
【0010】
[0010]特定の局面において、核酸は発現ベクターを含む。
【0011】
[0011]特定の局面において、発現ベクターは、ウイルスベクター、真核生物ベクター又は酵母ベクターを含む。
【0012】
[0012]特定の局面において、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターを含む。
【0013】
[0013]特定の局面において、AAVベクターは、以下のAAV血清型:AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11又はAAV12のいずれか1つ由来のカプシド又は逆末端反復を含む。
【0014】
[0014]特定の局面において、発現ベクターは心臓で機能的なプロモーターを含む。
【0015】
[0015]特定の局面において、プロモーターは心臓特異的である。
【0016】
[0016]特定の局面において、発現ベクターは、心臓で機能的なプロモーター及びBAG3ポリヌクレオチド又はcDNA配列を含む。
【0017】
[0017]特定の局面において、対象はヒトである。
【0018】
[0018]特定の局面において、対象又はヒトは心不全に罹患している。
【0019】
[0019]特定の局面において、対象又はヒトは、駆出率が低下した心不全に罹患している。
【0020】
[0020]特定の局面において、対象又はヒトは、駆出率が維持された心不全に罹患している。
【0021】
[0021]特定の局面において、対象又はヒトは家族性拡張型心筋症に罹患している。
【0022】
[0022]特定の局面において、対象又はヒトは非家族性拡張型心筋症に罹患している。
【0023】
[0023]特定の局面において、対象又はヒトは虚血性心疾患又は心筋症に罹患している。
【0024】
[0024]特定の局面において、対象又はヒトは非虚血性心疾患又は心筋症に罹患している。
【0025】
[0025]特定の局面において、対象又はヒトは虚血/再灌流傷害のリスクを有する。
【0026】
[0026]特定の局面において、対象又はヒトは、虚血/再灌流傷害につながり得る血管インターベンション又は医療処置の予定であるか、又はその候補者である。
【0027】
[0027]特定の局面において、血管インターベンション又は医療処置は、カテーテル、ステント、血管形成術、バイパス手術又は冠状動脈バイパスグラフトを用いる処置を含む。
【0028】
[0028]特定の局面において、対象又はヒトは、末梢血管疾患手術の予定であるか、又はその候補者である。
【0029】
[0029]特定の局面において、対象又はヒトは、内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドに変異を有する。
【0030】
[0030]特定の局面において、対象又はヒトは、内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現又は活性が低下している。
【0031】
[0031]特定の局面において、治療薬は、大心臓静脈を介して対象又はヒトに投与される。
【0032】
[0032]特定の局面において、治療薬は、大心臓静脈の近位であるが遠位に配置されたカテーテルを介して投与される。
【0033】
[0033]特定の局面において、治療薬は、大心臓静脈、左奇静脈、又は冠状静脈洞から供給される任意の静脈に送達される。
【0034】
[0034]特定の局面において、治療薬は、最長約20分間、注入を介して投与される。
【0035】
[0035]特定の局面において、治療薬は約1ml/分~5ml/分の速度で投与される。
【0036】
[0036]特定の局面において、治療薬は約1ml/分の速度で投与される。
【0037】
[0037]特定の局面において、治療薬は約10mL~約100mLの体積で投与される。
【0038】
[0038]特定の局面において、治療薬は約20mL~約75mLの体積で投与される。
【0039】
[0039]特定の局面において、治療薬は約30mL~約60mLの体積で投与される。
【0040】
[0040]特定の局面において、治療薬は約40mL~約50mLの体積で投与される。
【0041】
[0041]特定の局面において、治療薬は、前左心室、前外側左心室、下左心室、下外側心室、中隔又は右心室のうちの1つ又は複数に送達及び/又は発現される。
【0042】
[0042]特定の局面において、治療薬は心臓全体に発現される。
【0043】
[0043]特定の局面において、治療薬は心疾患の1つ又は複数の症状を軽減する。
【0044】
[0044]特定の局面において、治療薬は心機能又は心収縮力を改善する。
【0045】
[0045]特定の局面において、治療薬は左室駆出率を増加させる。
【0046】
[0046]特定の局面において、ウイルスベクターなどの治療薬が投与又は使用される。
【0047】
[0047]特定の局面において、ウイルスベクターは約1×1011vg/kg~約1.0×1014vg/kgの用量で投与又は使用される。
【0048】
[0048]特定の局面において、ウイルスベクターは約1.0×1012vg/kg~約0.5×1014vg/kgの用量で投与される。
【0049】
[0049]特定の局面において、ウイルスベクターは約3.0×1012vg/kg~約1.0×1013vg/kgの用量で投与される。
【0050】
[0050]特定の局面において、ウイルスベクターは約3.0×1012vg/kg~約9.0×1012vg/kgの用量で投与される。
【0051】
[0051]特定の局面において、ウイルスベクターは約3.0×1012vg/kg~約8.0×1012vg/kgの用量で投与される。
【0052】
[0052]特定の局面において、ウイルスベクターは約3.0×1012vg/kg~約5.0×1012vg/kgの用量で投与される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図2】
図2は、大型動物モデルにおける逆行性投与と順向性投与を比較する初期試験からの選択サンプルにおけるGFP(27kDa)のウェスタンブロットを示す。GFPは逆行性投与後のLVで発現している。対照的に、順向性投与後のLVではGFPの発現は検出されなかった。
【
図3】
図3は、ほとんどの領域における心筋細胞あたり≧1ベクターゲノム(vg)コピー数を示す。逆行性冠状静脈洞注入(RCSI)による心臓切片全体にわたる広範な発現。ビヒクル(グラフ上には見えない)、5e13vg(低用量)、1e14vg(中用量)、2.5e14vg(高用量)。
【
図4】
図4は、AAV9-BAG3の逆行性注入後のブタの冠状静脈洞の心筋にわたるベクターゲノム(vg)の分布を、除外基準:個々の動物について平均から3標準偏差を超える結果を除外、を適用した後に示した。この基準を適用した結果、3つの値が除外され、各動物は心臓あたり1つの組織切片を評価し、試験には8匹の動物がいたため、3/144サンプルが除外基準を満たした。筋細胞あたりの平均SEM vg。左心室5領域から得られた組織からの測定値。前(AN)、前外側(AL)、下外側(IL)、下(IN)、中隔(S)及び右心室(RV)。
【
図5】
図5は、心臓の輪及び領域の標識に使用される命名法を示す。サンプルは急速凍結又はホルマリン固定される。
【
図6】
図6は、逆行性冠状静脈洞注入(RCSI)を介して投与されたBAG3の心臓の生体分布を示す。BAG3は広範に分布し、用量依存的で強力且つ拡散性にBAG3が形質導入された。平均VCNは、約1、3、及び6(それぞれ低、中、及び高用量コホート;動物あたり低=1e14vg、中=2.5e14、及び高=5e14vg)であった。
【
図7】
図7は、心臓における広範なBAG3分布を示す。一元配置分散分析事後Tukey検定
*=p≦0.05、
**=p≦0.01、
***=p≦0.001、
****=p≦0.0001。
【
図8A】
図8Aは、心臓へのBAG3の用量依存的な形質導入を示す。一元配置分散分析事後Tukey検定
*=p≦0.05、
**=p≦0.01、
***=p≦0.001、
****=p≦0.0001。
【
図8B】
図8Bは、心臓へのBAG3の用量依存的な形質導入を示す。一元配置分散分析事後Tukey検定
*=p≦0.05、
**=p≦0.01、
***=p≦0.001、
****=p≦0.0001。
【
図8C】
図8Cは、心臓へのBAG3の用量依存的な形質導入を示す。一元配置分散分析事後Tukey検定
*=p≦0.05、
**=p≦0.01、
***=p≦0.001、
****=p≦0.0001。
【0054】
[詳細な説明]
[0065]本発明は、治療薬を心臓に送達する方法を提供する。一実施形態において、方法は、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して対象に治療薬を投与し、それによって治療薬を心臓に送達するステップを含む。
【0055】
[0066]本発明はまた、核酸又はタンパク質(又はその両方)を心臓に送達する方法を提供する。一実施形態において、方法は、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して対象に核酸又はタンパク質を投与し、それによって核酸又はタンパク質を心臓に送達するステップを含む。
【0056】
[0067]本発明はまた、発現ベクターを心臓に送達する方法を提供する。一実施形態において、方法は、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して発現ベクターを対象に投与し、それによって発現ベクターを心臓に送達するステップを含む。
【0057】
[0068]本発明はまた、ウイルスベクターを心臓に送達する方法を提供する。一実施形態において、方法は、逆行性冠状静脈又は洞送達を介してウイルスベクターを対象に投与し、それによってウイルスベクターを心臓に送達するステップを含む。
【0058】
[0069]本発明の方法及び使用において使用し得るウイルスベクター。特定の実施形態において、本発明において使用し得るウイルスベクターは、例えば、限定するものではないが、レトロウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)を含む。
【0059】
[0070]BCL-2-Associated Athanogene 3;MFM6;Bcl-2-Binding Protein Bis;CAIR-1;ドッキングタンパク質CAIR-1;BAGファミリー分子シャペロン制御因子3;BAG-3;BCL2-Binding Athanogene 3;又はBISとしても知られるBcl-2 associated anthanogene-3(BAG3)は、HSP70への結合についてHip-1と競合する細胞保護ポリペプチドである。BAG3のNCBI参照アミノ酸配列は、Genbankのアクセッション番号NP_004272.2;Public GI:14043024に見ることができる。Genbankアクセッション番号NP_004272.2;Public GI:14043024のアミノ酸配列を、本明細書では配列番号1と称する。BAG3のNCBI参照核酸配列は、Genbankのアクセッション番号NM_004281.3 GI:62530382に見ることができる。Genbankアクセッション番号NM_004281.3 GI:62530382の核酸配列を、配列番号2と称する。他のBAG3アミノ酸配列としては、例えば、限定するものではないが、095817.3 GI:12643665(配列番号3);EAW49383.1 GI:119569768(配列番号4);EAW49382.1 GI:119569767(配列番号5);及びCAE55998.1 GI:38502170(配列番号6)が挙げられる。本発明のBAG3ポリペプチドは、機能性を保持する限り、本明細書に記載のポリペプチドのバリアントであり得る。
【0060】
[0071]本明細書で使用される場合、「薬剤」は、疾患、障害又は他の病状を予防、改善又は治療することができる任意の分子、化学的実体、組成物、薬剤、治療剤、又は生物学的薬剤又は実体を包含することを意味する。この用語には、低分子化合物、アンチセンス試薬、siRNA、試薬、抗体、酵素、ペプチド有機又は無機分子、天然又は合成化合物、細胞及びミトコンドリアなどのオルガネラが含まれる。薬剤は、臨床試験中、試験前試験中、又はFDA承認後のいずれの段階においても、本発明の方法及び使用に従ってアッセイすることができる。
【0061】
[0072]用語「ポリペプチド」、「タンパク質」及び「ペプチド」は、本明細書において互換的に使用される。「ポリヌクレオチド配列」によってコードされる「ポリペプチド」、「タンパク質」及び「ペプチド」は、部分配列、改変形態、又はバリアントが、ネイティブな全長タンパク質の機能性をある程度保持する限り、天然に存在するタンパク質と同様に、全長のネイティブ配列、並びに機能的な部分配列、改変形態、又は配列バリアントを含む。ポリヌクレオチド配列によってコードされるこのようなポリペプチド、タンパク質及びペプチドは、治療される患者の内在性タンパク質と同一であり得るが、同一である必要はない。
【0062】
[0073]用語「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、本明細書において、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)を含む核酸、オリゴヌクレオチドの全ての形態を指すために互換的に使用される。核酸は、ゲノムDNA、cDNA及びアンチセンスDNA、並びにスプライシング又は非スプライシングmRNA、rRNA tRNA及び阻害性DNA又はRNA(RNAi、例えば、小又は短ヘアピン(sh)RNA、マイクロRNA(miRNA)、小又は短干渉(si)RNA、トランススプライシングRNA、又はアンチセンスRNA)を含む。
【0063】
[0074]核酸は、天然に存在する、合成、及び意図的に改変又は変更されたポリヌクレオチドを含む。核酸は、一重、二重、又は三重であり得、直鎖状又は環状であり得、任意の長さであり得る。核酸を議論する場合、特定のポリヌクレオチドの配列又は構造は、5’から3’方向に配列を提供する慣例に従って本明細書中に記載し得る。
【0064】
[0075]「異種性」ポリヌクレオチド又は核酸配列は、ベクターを介するポリヌクレオチドの細胞への導入/送達を目的としてプラスミド又はベクターに挿入されるポリヌクレオチドを指す。異種性核酸配列は、ウイルス核酸とは異なる、すなわち、ウイルス核酸に対して非ネイティブである。一旦細胞内に導入/送達されると、ベクター内に含まれる異種核酸配列は発現され得る(例えば、転写され、そして適切であれば翻訳される)。或いは、ベクター内に含まれる、細胞内に導入/送達された異種性ポリヌクレオチドは、発現されなくてもよい。本明細書において、用語「異種性」は、核酸配列及びポリヌクレオチドに関して常に使用されるわけではないが、修飾語「異種性」がない場合であっても、核酸配列又はポリヌクレオチドへの言及は、省略にもかかわらず、異種性核酸配列及びポリヌクレオチドを含むことが意図される。
【0065】
[0076]本明細書で使用される用語「発現ベクター」は、転写可能な遺伝子の全部又は少なくとも一部をコードする核酸配列(例えば、BAG3)を含むベクターを指す。場合によっては、RNA分子は次いでタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドに翻訳される。他の場合には、これらの配列は、例えばアンチセンス分子、siRNA、リボザイムなどの産生においては翻訳されない。発現ベクターは、特定の宿主生物において作動可能に連結されたコード配列の転写及び場合によっては翻訳に必要な核酸配列を指す、様々な制御配列を含むことができる。転写及び翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクター及び発現ベクターは、他の機能を果たす核酸配列を同様に含み得る。
【0066】
[0077]発現制御又は調節エレメントは、発現ベクター中のポリヌクレオチド又は核酸配列の転写を付与又は増強する。発現制御エレメントには、例えば、プロモーター及びエンハンサーが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
[0078]本明細書で使用される「プロモーター」は、典型的には核酸配列(例えば、BAG3)に隣接して位置するDNA配列を指し得る。プロモーターは、典型的には、プロモーターが存在しない場合に発現される量と比較して、発現される核酸配列(例えば、BAG3)の量を増加させる。
【0068】
[0079]本明細書で使用される「エンハンサー」は、核酸配列(例えば、BAG3)に隣接して位置する配列を指し得る。エンハンサーエレメントは、典型的には、プロモーターエレメントの上流に位置するが、核酸配列(例えば、BAG3)の下流又は核酸配列内においても機能し、位置し得る。したがって、エンハンサーエレメントは、核酸配列(例えば、BAG3)の100塩基対、200塩基対、又は300塩基対以上上流又は下流に位置し得る。エンハンサーエレメントは、典型的には、核酸配列(例えば、BAG3)の発現を、プロモーターエレメントによって与えられる発現の増加を上回って増加させる。
【0069】
[0080]本発明による方法及び使用において使用し得る発現制御エレメント又は発現調節エレメントの例としては、例えば、限定するものではないが、サイトメガロウイルス(CMV)即時初期プロモーター/エンハンサー、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター/エンハンサー、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、及び伸長因子-1α(EF1α)プロモーターが挙げられる。
【0070】
[0081]特定の実施形態において、本発明の方法及び使用において使用し得るウイルスベクター。特定の実施形態において、本発明において使用し得るウイルスベクターとしては、例えば、限定するものではないが、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、ヘルパー依存性アデノウイルス、ハイブリッドアデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、エプスタイン-バーウイルス、ワクシニアウイルス、及びヒトサイトメガロウイルスベクターが挙げられ、それらの組換えバージョンが含まれる。
【0071】
[0082]組換えAAV(rAAV)ベクターのようなウイルスベクターの修飾語としての、並びに組換えポリヌクレオチド及びポリペプチドのような配列の修飾語としての「組換え」という用語は、一般的に自然界では起こらない様式で組成物が操作された(manipulated)(すなわち、操作された(engineered))ことを意味する。したがって、「組換えウイルスベクター」とは、1つ又は複数の異種性遺伝子産物又は配列を含むウイルスベクターを指す。
【0072】
[0083]多くのウイルスベクターは、パッケージングに関連したサイズ制約を示すため、異種性遺伝子産物又は配列は、典型的には、ウイルスゲノムの1つ又は複数の部分を置換することによって導入される。このようなウイルスは複製不全になる可能性があり、ウイルスの複製及びカプセル化の際に、欠失した機能(複数可)をトランス(すなわち、「ヘルパー」機能)で(例えば、AAV rep、AAV cap、ヒトアデノウイルスE4及びアデノウイルスVA RNAのような、複製及び/又はカプセル化に必要な遺伝子産物を有するヘルパーウイルス又はパッケージング細胞株を使用することによって)提供する必要がある。送達されるべきポリヌクレオチドをウイルス粒子の外側に保有する改変ウイルスベクターもまた記載されている(例えば、Curiel,D T,et al.,PNAS 88:8850~8854,1991を参照のこと)。
【0073】
[0084]組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの特定の例は、野生型AAVゲノムに通常存在しない核酸(異種性ポリヌクレオチド)がAAVゲノム内に挿入される場合である。その例は、治療用タンパク質又はポリヌクレオチド配列をコードする核酸(例えば、遺伝子)が、AAVゲノム内で遺伝子が通常関連する5’、3’及び/又はイントロン領域の有無にかかわらず、ベクターにクローン化される場合である。本明細書において、AAVベクター並びにポリヌクレオチドのような配列に関して「組換え」という用語は必ずしも使用されないが、AAVベクター、ポリヌクレオチドなどを含む組換え形態は、そのような省略にもかかわらず明示的に含まれる。
【0074】
[0085]例えば、「rAAVベクター」は、分子的方法を用いて野生型AAVゲノムの全部又は一部を除去し、治療用タンパク質又はポリヌクレオチド配列をコードする核酸などの非ネイティブ(異種性)核酸と置換することにより、AAVの野生型ゲノムから得られる。典型的には、rAAVベクターでは、AAVゲノムの逆末端反復(ITR)配列の一方又は両方が保持される。rAAVは、AAVゲノムの全部又は一部が、治療用タンパク質又はポリヌクレオチド配列をコードする異種性核酸など、AAVゲノム核酸に関して非ネイティブ配列に置き換えられているため、AAVゲノムとは区別される。したがって、非ネイティブ(異種性)配列の組み込みは、AAVを「組換え」AAVベクターとして定義し、これは「rAAVベクター」と称し得る。
【0075】
[0086]組換えAAVベクター配列(又はゲノム)は、ex vivo、in vitro又はin vivoで細胞に続けて感染(形質導入)させるために、パッケージ化-本明細書では「粒子」と称する-することができる。組換えベクター配列がAAV粒子にカプセル化又はパッケージ化される場合、粒子は「rAAV」、「rAAV粒子」及び/又は「rAAVビリオン」とも称し得る。このようなrAAV、rAAV粒子及びrAAVビリオンは、ベクターゲノムをカプセル化又はパッケージ化するタンパク質を含む。特定の例としては、AAVの場合、カプシドタンパク質が挙げられる。
【0076】
[0087]「ベクターゲノム」とは、「vg」と略されることもあるが、最終的にパッケージ化又はカプセル化されてrAAV粒子を形成する組換えプラスミド配列の部分を指す。組換えプラスミドを使用して組換えAAVベクターを構築又は製造する場合、AAVベクターゲノムは、組換えプラスミドのベクターゲノム配列に対応しない「プラスミド」の部分は含まない。組換えプラスミドの非ベクターゲノム部分は「プラスミドバックボーン」と称され、増殖及び組換えAAVベクター産生に必要なプロセスであるプラスミドのクローニング及び増幅に重要であるが、それ自体はrAAV粒子にパッケージ化又はカプセル化されない。したがって、「ベクターゲノム」は、rAAVによってパッケージ化又はカプセル化される核酸を指す。
【0077】
[0088]本明細書で使用される場合、AAVベクターに関する用語「血清型」は、他のAAV血清型とは血清学的に異なるカプシドを意味する。血清学的に異なるとは、あるAAVに対する抗体と他のAAVに対する抗体との間に交差反応性がないことに基づいて決定される。交差反応性の差異は通常、カプシドタンパク質の配列/抗原決定基の差異に起因する(例えば、AAV血清型のVP1、VP2、及び/又はVP3の配列の差異に起因する)。あるAAVに対する抗体は、カプシドタンパク質配列の相同性に起因して、1つ又は複数の他のAAV血清型と交差反応する可能性がある。
【0078】
[0089]従来の定義では、血清型は、目的のウイルスが、中和活性について、現存し、特徴付けられた全ての血清型に特異的な血清に対して試験され、目的のウイルスを中和する抗体が見つかっていないことを意味する。より多くの天然に存在するウイルス単離株が発見され、及び/又はカプシド変異体が作製されるにつれ、現存する血清型のいずれとも血清学的に差異がある場合もあるし、ない場合もある。したがって、新しいウイルス(例えば、AAV)に血清学的な差異がない場合、この新しいウイルス(例えば、AAV)は対応する血清型のサブグループ又はバリアントであろう。多くの場合、中和活性の血清学的試験は、従来の血清型の定義に従った別の血清型であるかどうかを決定するために、カプシド配列が改変された変異ウイルスに対してはまだ実施されていない。したがって、便宜上、及び繰り返しを避けるために、「血清型」という用語は、広範には血清学的に異なるウイルス(例えば、AAV)並びに所定の血清型のサブグループ内又はバリアントであり得る血清学的に異ならないウイルス(例えば、AAV)の両方を指す。
【0079】
[0090]rAAVベクターには、任意のウイルス株又は血清型が含まれる。例えば、限定するものではないが、rAAVベクターのゲノム又は粒子(VP1、VP2及び/又はVP3などのカプシド)は、例えばAAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-12、AAV3B又はAAV-2i8などの任意のAAV血清型に基づき得る。このようなベクターは、同じ株又は血清型(又はサブグループ又はバリアント)に基づいていても、又は互いに異なっていてもよい。例えば、限定するものではないが、1つの血清型ゲノムに基づくrAAVプラスミド又はベクターゲノム又は粒子(カプシド)は、ベクターをパッケージ化するカプシドタンパク質の1つ又は複数と同一であり得る。加えて、rAAVプラスミド又はベクターゲノムは、ベクターゲノムをパッケージ化するカプシドタンパク質の1つ又は複数とは異なるAAV血清型ゲノムに基づいている可能性があり、この場合、3つのカプシドタンパク質のうちの少なくとも1つは、異なるAAV血清型、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8(AAV2/AAV8キメラ)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、又はそれらのバリアントなどであり得る。より具体的には、rAAV2ベクターゲノムは、AAV2 ITRを含み得るが、異なる血清型、例えばAAV1、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-2i8、又はそのバリアント由来のカプシドを含み得る。したがって、rAAVベクターは、特定の血清型に特徴的な遺伝子/タンパク質配列と同一の遺伝子/タンパク質配列、並びに「混合」血清型を含み、これは「偽型」とも称し得る。
【0080】
[0091]特定の実施形態において、rAAVベクターは、1つ又は複数のAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12のカプシドタンパク質(VP1、VP2、及び/又はVP3配列)と少なくとも70%以上(例えば75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%など)同一であるカプシド配列を含むか、又はこれからなる。特定の実施形態において、rAAVベクターは、1つ又は複数のAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12 ITR(複数可)と少なくとも70%以上(例えば、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%など)同一である配列を含むか、又はこれからなる。
【0081】
[0092]特定の実施形態において、rAAVベクターは、例えば、国際公開第2013/158879号(国際出願PCT/US2013/037170)、国際公開第2015/013313号(国際出願PCT/US2014/047670)及び米国特許出願公開第2013/0059732号(米国特許出願第13/594,773号)に記載されているような、そのAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12バリアント(例えば、ITR及びカプシドバリアント、例えばアミノ酸の挿入、付加、置換及び欠失など)を含む。
【0082】
[0093]rAAV、例えばAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びバリアント、ハイブリッド及びキメラ配列は、1つ又は複数の機能的AAV ITR配列が隣接する1つ又は複数の異種性ポリヌクレオチド配列(導入遺伝子)を含むように、当業者に公知の組換え技術を用いて構築することができる。このようなAAVベクターは、典型的には、組換えベクターのレスキュー、複製、及びrAAVベクター粒子へのパッケージ化に必要な、少なくとも1つの機能的な隣接ITR配列(複数可)を保持する。したがって、rAAVベクターゲノムは、複製及びパッケージ化にシスで必要な配列(例えば、機能的ITR配列)を含むであろう。
【0083】
[0094]特定の実施形態において、本発明において使用されるレンチウイルスは、ヒト免疫不全症ウイルス-1(HIV-1)、ヒト免疫不全症ウイルス-2(HIV-2)、サル免疫不全症ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全症ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全症ウイルス(BIV)、ジェンブラーナ病ウイルス(JDV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、又はカプリン関節炎脳炎ウイルス(CAEV)であり得る。レンチウイルスベクターは、in vitro及びin vivoの両方で、異種性ポリヌクレオチド配列の非分裂細胞への効率的な送達、統合、及び長期発現をもたらすことが可能である。種々のレンチウイルスベクターが当技術分野で公知であり、Naldini et al,(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:11382~11388(1996);Science,272:263~267(1996))、Zufferey et al,(Nat.Biotechnol.,15:871~875,1997)、Dull et al,(J Virol.1998 Nov;72(11):8463~71,1998)、米国特許第6,013,516号及び第5,994,136号を参照されたく、これらのいずれかが、本発明で使用するための適切なウイルスベクターであり得る。
【0084】
[0095]組換えウイルスベクターの用量は、任意の適切な用量で製剤化、投与又は送達することができる。一般的に、用量は、効果を達成するために、患者の体重1kgあたり少なくとも1×108ベクターゲノム(vg/kg)又はそれ以上、例えば1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、又は1×1014、又はそれ以上の範囲である。マウスでは1×1010~1×1011vg/kg、及びイヌでは1×1012~1×1013vg/kgの範囲のrAAV用量が有効であった。より詳細には、約1×1011vg/kg~約5×1014vg/kg(端点を含む)、又は約5×1011vg/kg~約1×1014vg/kg(端点を含む)、又は約5×1011vg/kg~約5×1013vg/kg(端点を含む)、又は約5×1011vg/kg~約1×1013vg/kg(端点を含む)、又は約5×1011vg/kg~約5×1012vg/kg(端点を含む)、又は約5×1011vg/kg~約1×1012vg/kg(端点を含む)の用量である。用量は、例えば、約5×1014vg/kg、又は約5×1014vg/kg未満、例えば、約2×1011~約2×1014vg/kg(端点を含む)、特に、例えば、約2×1012vg/kg、約6×1012vg/kg、又は約2×1013vg/kgの用量であり得る。
【0085】
[0096]「有効量」、「十分量」又は「治療上有効量」は、単回又は複数回の投与で、単独で、又は1つ若しくは複数の他の組成物、治療、プロトコル、又は治療レジメン剤と組み合わせて、任意の持続時間(長期又は短期)の検出可能な応答、任意の測定可能な又は検出可能な程度の、又は任意の持続時間(例えば、分、時間、日、月、年、又は治癒)の、患者における期待される若しくは所望の結果、又は利益を提供する量を指す。状態、障害又は疾患の治療についての「有効量」又は「十分量」の用量は(例えば、状態、障害又は疾患を改善するため、又は治療上の利益若しくは改善を提供するために)、典型的には、疾患の1つ、複数又は全ての有害な症状、結果又は合併症、例えば、状態、障害又は疾患によって引き起こされる、又は関連する、状態、障害又は疾患の1つ又は複数の有害な症状、障害、疾患、病理、又は合併症に対する応答を測定可能な程度までもたらすのに有効であるが、状態、障害又は疾患の進行又は悪化の低下、低減、阻害、抑制、制限又は制御することが満足すべき結果である。
【0086】
[0097]有効量又は十分量は、単一の製剤又は投与で提供し得るが、必ずしもそうでなくてもよく、複数回の投与を必要とし得、そして単独で、又は他の組成物(例えば、薬剤)、治療、プロトコル若しくは治療レジメンと組み合わせて投与し得るが、必ずしもそうでなくてもよい。例えば、量は、患者の必要性、治療される状態、障害若しくは疾患の種類、状態及び重症度、又は治療の副作用(もしあれば)によって示されるように、比例的に増加され得る。加えて、有効量又は十分量は、第2の組成物(例えば、他の薬物又は薬剤)、治療、プロトコル又は治療レジメンを伴わずに単回又は複数回投与される場合に有効又は十分である必要はなく、これは、所与の患者において有効又は十分であると判断されるためには、そのような用量を超える追加の用量、量又は期間、又は追加の組成物(例えば、薬物又は薬剤)、治療、プロトコル又は治療レジメンが含まれ得るためである。有効であると判断される量には、他の治療、治療レジメン又はプロトコルの使用の減少をもたらす量も含まれる。
【0087】
[0098]有効量又は十分量は、治療された各患者において有効である必要はなく、所与の群又は集団において治療された患者の大多数において有効である必要もない。有効量又は十分量とは、特定の患者における有効性又は十分性を意味し、群又は一般集団における有効性又は十分性を意味しない。このような方法において典型的であるように、一部の患者は、所与の治療方法又は使用に対して、より大きな反応を示すか、又はより少ないか、又は全く反応を示さない。
【0088】
[0099]したがって、本発明の方法、使用及び製剤は、検出可能又は測定可能な有益な効果を患者に提供すること、又は状態、障害又は疾患において、客観的又は主観的な一過性又は一時的、又はより長期的な改善(例えば、治癒)を提供することを含む。したがって、患者の状態、障害若しくは疾患の漸増的改善、又は状態、障害若しくは疾患の1つ又は複数の関連する有害な症状又は合併症の重症度、頻度、期間又は進行の部分的減少、又は状態、障害若しくは疾患の1つ又は複数の生理学的、生化学的又は細胞的症状又は特性の阻害、減少、除去、予防又は逆転が認められる場合に、満足のいく臨床エンドポイントが達成される。したがって、治療上の利益又は改善(improvement)(「改善(ameliorate)」は同義に使用される)は、状態、障害又は疾患に関連する有害な症状又は合併症のいずれか又は全ての完全な除去である必要はないが、状態、障害又は疾患における測定可能又は検出可能な、客観的又は主観的な、意味のある任意の改善である。例えば、数日間、数週間、又は数ヶ月間だけであっても、状態、障害、疾患、又は関連する有害な症状の完全な除去が達成されなくても、状態、障害、疾患、又は関連する症状の悪化又は進行を阻害すること(例えば、1つ又は複数の症状、合併症、又は生理学的若しくは心理学的効果若しくは反応の進行を遅らせるか、又は安定化させること)は、有益な効果であると考えられる。
【0089】
[0100]「治療」は、状態、障害又は疾患の発症を予防すること、病態又は1つ若しくは複数の症状を変化させること、又は状態、障害若しくは疾患の進行若しくは悪化を遅延させることを意図して行われる介入である。したがって、「治療」は、治療的処置と予防的若しくは防止的手段の両方を指す。「治療」はまた、緩和ケアとして指定されることもある。
【0090】
[0101]「予防」及びその文法的変形は、対象への接触、投与又はin vivo送達が、状態、障害又は疾患(又は関連する症状若しくは生理学的若しくは心理学的反応)の発現又は発症の前に行われ、状態、障害又は疾患、又は関連する症状を有する確率、感受性、発症又は頻度を排除、予防、抑制、減少又は低減できるような、本発明に従う方法を意味する。予防の標的となる患者は、本明細書で記載されるように、心不全、駆出率が低下した心不全、駆出率が維持された心不全、又は関連する症状、又は以前に診断された状態、障害又は疾患、又は関連する症状の再発などの状態、障害又は疾患に罹患するリスク(確率又は感受性)が増大した患者であり得る。
【0091】
[0102]治療を必要とするものには、既に状態、障害又は疾患を有するもの、並びに状態、障害又は疾患を予防するものも含まれる。したがって、状態、障害又は疾患を「治療すること」又はこれらの「治療」は;(1)状態、障害又は疾患に罹患している、又は罹患する素因がある可能性があるが、まだ状態、障害又は疾患の臨床症状又は不顕性症状を経験又は発現していないヒト又は他の哺乳動物において、発症している状態、障害又は疾患の臨床症状の出現を予防又は遅延させること;(2)状態、障害又は疾患を阻害すること、すなわち、状態、障害又は疾患の発症、又はその再発(維持療法の場合)又はその少なくとも1つの臨床症状若しくは不顕性症状を阻止、軽減又は遅延させること;又は(3)疾患を緩和すること、すなわち、状態、障害又は疾患若しくはその少なくとも1つの臨床症状若しくは不顕性症状の退行を引き起こすことを含む。治療される患者に対する利益は、統計的に有意であるか、又は患者若しくは医師にとって少なくとも知覚可能であるかのいずれかである。
【0092】
[0103]「改善する」という用語は、患者の状態、障害若しくは疾患、又はその症状、又は基礎となる細胞反応における、検出可能又は測定可能な改善を意味する。検出可能又は測定可能な改善は、状態、障害若しくは疾患、又は状態、障害若しくは疾患によって引き起こされる若しくはこれに関連する合併症の発生、頻度、重症度、進行若しくは期間における主観的又は客観的な減少、低減、阻害、抑制、制限若しくは制御、又は状態、障害若しくは疾患の症状若しくは基礎的原因若しくは結果の改善、又は状態、障害若しくは疾患の逆転を含む。
【0093】
[0104]製剤は、1日に1回以上;1日おきに1回;週に1回以上;月に1回以上;年に1回以上;又は患者の生涯にわたって1~2回投与することができる。当業者は、特定の因子が、状態、障害又は疾患の重症度、所望の結果、以前の治療、患者の一般的な健康及び/又は年齢、及び存在する他の疾患を含むがこれらに限定されない、患者を治療するために必要な用量及びタイミングに影響を及ぼし得ることを理解するであろう。さらに、本発明に従って治療上有効量で患者を処置することは、単一の処置又は一連の処置のような複数の処置を含み得る。
【0094】
[0105]本発明の製剤、組成物及び医薬組成物は、活性剤が、意図された治療目的を達成するために有効量で含有される組成物を含む。有効量を決定することは、当技術分野で公知の技術及び指導を使用し、本明細書で提供される教示を使用する当業者である医療従事者の能力の範囲内である。
【0095】
[0106]医薬組成物などの製剤は、コードされたタンパク質の核酸転写及び翻訳を可能にするように、患者に送達され得る。特定の実施形態において、医薬組成物などの製剤は、状態、障害又は疾患を治療するために、患者における治療上有効量のBAG3の産生を可能にするのに十分な遺伝物質を含む。
【0096】
[0107]「調節する」という用語によって、本明細書に具体化される化合物の言及された活性のいずれかが、例えば、増加、増強、増大、促進、アゴナイズ(アゴニストとして作用する)、減少、低減、阻害、抑制、ブロック又はアンタゴナイズ(アンタゴニストとして作用する)されることを意味する。調節は、その活性をベースライン値よりも低下又は減少させることができ、例えば、1~5分の1、1~10分の1、5~10分の1、10~20分の1、20~30分の1、40~50分の1などの低下又は減少、又は少なくとも1倍、2分の1、3、5分の1、10分の1、20分の1、50分の1、100分の1などの低下又は減少が挙げられる。調節はまた、ベースライン値よりも活性を増加又は増強させることができ、例えば、1~5倍、1~10倍、5~10倍、10~20倍、20~30倍、40~50倍など、又は少なくとも1倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍などの増加又は増強が挙げられる。
【0097】
[0108]本発明の方法及び使用は、霊長類(例えば、ヒト)及び獣医学的医療用途に使用することができる。したがって、好適な患者としては、ヒトのような哺乳動物、並びにヒト以外の哺乳動物が挙げられる。好適な患者としては、BAG3の発現又はBAG3活性の増加が必要であるか、又はその利益を受けるであろう、ヒトなどの哺乳動物が挙げられる。
【0098】
[0109]「患者」及び「対象」という用語は、ヒト、非ヒト霊長類(類人猿、テナガザル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、マカク)、家畜(イヌ及びネコ)、家畜(ニワトリ及びアヒルなどの家禽、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ)、及び実験動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット)などの動物、典型的には哺乳動物を指す。ヒト患者には、胎児、新生児、乳児、幼児、及び成人対象が含まれる。患者には、動物疾患モデル、例えば、BAG3不全のマウス及び他の動物モデルも含まれる。
【0099】
[0110]組成物及び製剤は無菌であってもよく、方法及び使用は無菌技術を用いて、任意選択で無菌組成物及び製剤を用いて実施することができる。組成物は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、ブドウ糖、及び水を含むがこれらに限定されない、任意の生体適合性医薬担体と共に製剤化され得るか、又はこれらの中で投与され得る。組成物は、単独で、又は投与量、投与頻度及び/若しくは治療効果に影響を及ぼす他の薬剤と組み合わせて、製剤化、患者に投与又は送達し得る。
【0100】
[0111]本発明の製剤、方法及び使用には、全身的、領域的又は局所的(例えば、特定の領域、組織、器官又は細胞への)、又は任意の経路、例えば、注射又は注入による送達及び投与が含まれる。In vivoでの組成物、製剤及び医薬組成物の投与又は送達は、一般的に、従来の注射器又はカテーテルを用いた注射によって達成し得るが、他の送達方法も想定される。例えば、製剤及び組成物は、逆行性冠状静脈又は洞送達を介して患者に投与し得る。
【0101】
[0112]また、本発明に従って、核酸、ウイルスベクター及びウイルス粒子を含む発現ベクターは、リポソーム、ナノ粒子、脂質ナノ粒子、ポリマー、マイクロ粒子、マイクロカプセル、ミセル、又は細胞外小胞とカプセル化又は複合化することができる。
【0102】
[0113]「脂質ナノ粒子」又は「LNP」は、ナノスケール、すなわち約10nm~約1000nm、又は約50nm~約500nm、又は約75nm~約127nmの寸法を有する核酸、ウイルスベクターを含む発現ベクターの投与又は送達に有用な脂質ベースの小胞を指す。理論に束縛されるものではないが、LNPは核酸、発現ベクター又は組換えウイルスベクターに免疫系からの部分的又は完全な遮蔽を提供すると考えられている。遮蔽により、核酸、発現ベクター又はウイルスベクターの組織又は細胞への送達が可能になり、同時にin vivoでの核酸、発現ベクター又はウイルスベクターに対する実質的な免疫応答の誘導が回避される。遮蔽はまた、実質的な免疫応答を誘導することなく、反復投与を可能にし得る。遮蔽はまた、送達効率、治療効果の持続時間、及び/又はin vivoでの治療効果を改善又は増加させ得る。
【0103】
[0114]AAV表面はわずかに負に荷電している。そのため、LNPが、例えばアミノ脂質のようなカチオン性脂質を含むことが有益であり得る。例示的なアミノ脂質は、米国特許第9,352,042号、同第9,220,683号、同第9,186,325号、同第9,139,554号、同第9,126,966号、同第9,018,187号、同第8,999,351号、同第8,722,082号、同第8,642,076号、同第8,569,256号、同第8,466,122号、及び同第7,745,651号並びに米国特許出願公開第2016/0213785号、同第2016/0199485号、同第2015/0265708号、同第2014/0288146号、同第2013/0123338号、同第2013/0116307号、同第2013/0064894号、同第2012/0172411号及び同第2010/0117125号に記載されている。
【0104】
[0115]本明細書において、「カチオン性脂質」及び「アミノ脂質」という用語は、1、2、3、又はそれ以上の脂肪酸又は脂肪アルキル鎖と、pH滴定可能なアミノ基(例えば、アルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基)とを有する脂質及びその塩を含むために互換的に使用される。カチオン性脂質は、典型的には、カチオン性脂質のpKa未満のpHではプロトン化(すなわち、正に荷電)しており、pKaを上回るpHでは実質的に中性である。カチオン性脂質はまた、滴定可能なカチオン性脂質であり得る。特定の実施形態において、カチオン性脂質は:プロトン化可能な第三級アミン(例えば、pH滴定可能)基;C18アルキル鎖を含み、各アルキル鎖は独立して0~3個(例えば、0、1、2、又は3個)の二重結合;及び頭部基とアルキル鎖との間のエーテル、エステル、又はケタール結合を有する。
【0105】
[0116]特定の実施形態において、カチオン性脂質は、LNPの約10重量%~脂質ナノ粒子の約85重量%、又はLNPの約50重量%~LNPの約75重量%の量で存在し得る。
【0106】
[0117]LNPは中性脂質を含み得る。中性脂質は、生理的pHにおいて非荷電又は中性の双性イオン形態のいずれかで存在する任意の脂質種を含み得る。このような脂質としては、限定するものではないが、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、セファリン、及びセレブロシドが挙げられる。中性脂質の選択は、一般的に、特に、粒子サイズ及び必要な安定性を考慮して導かれる。特定の実施形態において、中性脂質成分は、2つのアシル基(例えば、ジアシルホスファチジルコリン及びジアシルホスファチジルエタノールアミン)を有する脂質であり得る。
【0107】
[0118]特定の実施形態において、中性脂質は、脂質ナノ粒子の約0.1重量%~LNPの約75重量%、又はLNPの約5重量%~LNPの約15重量%の量で存在し得る。
【0108】
[0119]生物学的サンプルは、典型的には、生物から得られるか、又は生物によって産生される。分析し得る患者由来の生物学的サンプルの例としては、例えば、限定するものではないが、全血、血清、血漿など、及びその組合せが挙げられる。患者由来の他の生物学的サンプルとしては、例えば、限定するものではないが、脳脊髄液又は単に髄液が挙げられる。生物学的サンプルは、細胞を含まない場合も、又は細胞(例えば、赤血球、血小板及び/又はリンパ球)を含む場合もある。
【0109】
[0120]本発明は、包装材料及びその中に1つ又は複数の成分を含むキットのような組成物を提供する。キットは、典型的には、成分の説明又は成分のin vitro、in vivo、又はex vivoでの使用説明書を含むラベル又は包装挿入物を含む。キットは、例えば、核酸、組換えベクター、ウイルス(例えば、AAV、レンチウイルス)ベクター、又はウイルス粒子のような成分の集合体を含み得る。
【0110】
[0121]キットは、キットの1つ又は複数の成分を収容する物理的構造物を指す。包装材料は成分を無菌的に維持することができ、そのような目的に一般的に使用される材料(例えば、紙、段ボール繊維、ガラス、プラスチック、ホイル、アンプル、バイアル、チューブなど)で作成し得る。
【0111】
[0122]ラベル又は挿入物は、そこに含まれる1つ又は複数の成分の識別情報、投与量、作用機序、薬物動態学及び薬力学を含む有効成分(複数可)の臨床薬理学を含み得る。ラベル又は挿入物は、製造業者、ロット番号、製造場所及び日付、有効期限を特定する情報を含み得る。ラベル又は挿入物は、製造業者情報、ロット番号、製造場所及び日付を特定する情報を含み得る。ラベル又は挿入物は、キットの成分を使用し得る状態、障害又は疾患に関する情報を含み得る。ラベル又は挿入物は、臨床医又は患者に対して、方法、使用、治療プロトコル又は治療レジメンにおける1つ又は複数のキット成分の使用に関する指示を含み得る。指示は、本明細書に記載される方法、使用、治療プロトコル又は予防若しくは治療レジメンのいずれかを実施するための投与量、頻度又は期間、及び指示を含み得る。
【0112】
[0123]ラベル又は挿入物は、予防的又は治療上の利益など、成分が提供し得る利益に関する情報を含み得る。ラベル又は挿入物は、特定の組成物を使用することが適切でない状況に関する患者又は臨床医への警告など、潜在的な副作用、合併症又は反応に関する情報を含み得る。有害な副作用又は合併症は、患者が組成物と適合性でない可能性のある1つ又は複数の他の薬剤を摂取する、摂取する予定である、又は現在摂取している場合、又は患者が組成物と適合性ではない他の治療プロトコル又は治療レジメンを有する、有する予定である、又は現在有している場合にも起こり得るため、指示はそのような不適合なものに関する情報を含み得る。
【0113】
[0124]ラベル又は挿入物は、「印刷物」、例えば、紙又は厚紙、又は分離しているか若しくは成分、キット若しくは梱包材(例えば、箱)に貼付されたもの、又はキット成分を含むアンプル、チューブ又はバイアルに添付されたものを含む。
【0114】
[0125]特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるが、好適な方法及び材料を本明細書に記載する。
【0115】
[0126]本明細書で引用する全ての特許、特許出願、刊行物、及び他の参考文献、GenBank引用、及びATCC引用は、参照によりその全体が組み込まれる。矛盾がある場合には、定義を含む本明細書が支配する。
【0116】
[0127]本明細書に開示された全ての特徴は、任意の組合せで組み合わせることができる。本明細書で開示される各特徴は、同一、同等、又は類似の目的を果たす代替的な特徴で置き換えることができる。したがって、明示的に別段の記載がない限り、開示された特徴は、同等又は類似の特徴の属の一例である。
【0117】
[0128]本明細書で使用される場合、単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数の参照語を含む。したがって、例えば、「核酸」への言及は、複数のそのような核酸を含み、「ベクター」への言及は、複数のそのようなベクターを含み、「ウイルス」又は「粒子」への言及は、複数のそのようなウイルス及び粒子を含む。
【0118】
[0129]本明細書で使用される場合、項目、組成物、製剤、方法、プロセス、システムなどの定義又は記載された要素に関する用語「含む(comprising)」、「含む(comprise)」又は「含む(comprised)」、及びその変形は、追加要素を許容する包括的又はオープンエンドであることを意味し、それによって、定義又は記載された項目、組成物、製剤、方法、プロセス、システムなどが、それらの指定された要素-又は必要に応じてその等価物-を含み、他の要素が含まれる可能性があり、依然として定義された項目、組成物、製剤、方法、プロセス、システムなどの範囲/定義に含まれることが示される。
【0119】
[0130]用語「約(about)」又は「約(approximately)」は、当業者によって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるか、すなわち測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣行に従って、1標準偏差以内又は1標準偏差超を意味し得る。或いは、「約」は、所与の値内で最大20%、又は最大10%、又は最大5%の範囲を意味し得る。或いは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、例えば、所与の値の5倍以内、4倍以内、3倍以内、2倍以内、又は1倍以内など、1桁以内を意味し得る。本願及び特許請求の範囲に特定の値が記載されている場合、特に断らない限り、「約」という用語は特定の値について許容可能な誤差範囲内を意味すると理解されるべきである。
【0120】
[0131]全ての数値又は数値範囲には、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、その範囲内の整数、及び範囲内の数値又は整数の分数が含まれる。したがって、例示のために、95%以上の低減への言及は、95%、96%、97%、98%、99%、100%など、並びに95.1%、95.2%、95.3%、95.4%、95.5%など、96.1%、96.2%、96.3%、96.4%、96.5%なども含む。したがって、例示のために、「1~4」のような数値範囲への言及は、2、3、並びに1.1、1.2、1.3、1.4なども含む。例えば、「1~4週間」は、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、又は28日を含む。
【0121】
[0132]さらに、「0.01~10」などの数値範囲への言及は、0.011、0.012、0.013、並びに9.5、9.6、9.7、9.8、9.9などを含む。例えば、患者の体重の約「1×1011vg/kg~約1.0×1014vg/kg」の投与量は、1.1×1011vg/kg、1.2×1011vg/kg、1.3×1011vg/kg、1.4×1011vg/kg、1.5×1011vg/kgなど、並びに0.9×1014vg/kg、0.8×1014vg/kg、0.7×1014vg/kg、0.6×1014vg/kg、0.5×1014vg/kgなどを含む。
【0122】
[0133]超(より大きい)又は未満の整数への言及は、それぞれ参照番号より大きい又は小さい任意の数を含む。したがって、例えば、2超への言及は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15などを含む。例えば、組換えウイルスベクターの「2回以上」の投与は、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、又はそれ以上の回数を含む。
【0123】
[0134]さらに、「1~90」などの数値範囲への言及は、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5など、並びに81、82、83、84、85などを含む。例えば、「約1分~約90日の間」は、1.1分、1.2分、1.3分、1.4分、1.5分など、並びに1日、2日、3日、4日、5日.....81日、82日、83日、84日、85日などを含む。
【0124】
[0135]「任意選択の」又は「任意選択で」は、その後に記述される状況が発生してもしなくてもよく、そのような状況が発生する場合と発生しない場合とが記述に含まれることを意味する。
【0125】
[0136]本発明は、一般的に、本発明の多数の実施形態を説明するために肯定的な表現を用いて本明細書に開示される。本発明はまた、組成物又は製剤、使用、方法ステップ及び条件、プロトコル、又は手順のような、特定の主題の全部又は一部が除外される実施形態を特に含む。例えば、本発明の特定の実施形態において、組成物及び/又は方法ステップが除外される。したがって、本明細書において、本発明が一般的に何を含まないかについて表現されていない場合でも、本発明において明示的に除外されていない局面は、それにもかかわらず、本明細書において開示される。
【0126】
[0137]本発明の多数の実施形態を説明してきた。それにもかかわらず、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明を様々な使用及び条件に適合させるために様々な変更及び改変を行うことができる。したがって、以下の実施例は、特許請求される本発明を例示するためのものであるが、その範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【0127】
[実施例]
実施例1
[0138]レポーター遺伝子(GFP)を有するAAV9を用いて送達方法の初期評価を行った。本試験は、1e13vg及び5e13vgの2つのAAV用量を用いて行った。ウェスタンブロッティングは、CRO(Absorption Systems)によって、左心室由来の1つ、右心室由来の1つ、及び中隔由来の1つのサンプルを用いて行った。このブロットでは、1e13vgのAAV9-GFPを後眼窩投与したマウスの組織を対照として用いた。
【0128】
[0139]本試験の結果(
図2)は、5e13vgを投与した動物における逆行性送達法の明らかな優越性を示した。
【0129】
実施例2
[0140]rAAV2/9-BAG3実験デザイン:
【0130】
【0131】
[0141]方法:健康な雄のユカタンミニブタ(体重:30~40kg)を鎮静状態にし、蛍光透視下で冠状静脈洞(CS)に留置したカテーテルの先端からrAAV2/9-BAG3(vg=rAAVベクターゲノム)の3用量(5e13vg(A、n=4)、1e14vg(B、n=2)、2.5e14vg(C、n=1))の1つを投与する群に無作為に割り当てた。CSの閉塞は注入前に静脈造影で確認した。AAV9-BAG3ベクターを40~80mLのビヒクル中で20分かけて2~5mL/分の間で注入し、同時にバルーンで開口部(ostium)を閉塞した。
【0132】
[0142]投与から8週間後、
図4に示すように、左心室組織の長軸方向6点における3つの短軸円周セグメント及び右心室自由壁から18の組織切片を得た。AAVベクターゲノム(vg)の存在は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応及び導入遺伝子プラスミドの既知のコピー数の標準曲線によって評価した。ベクターメッセンジャーRNAは、ベクター相補的DNAを標的とする定量的ポリメラーゼ連鎖反応を用いて評価し、18Sハウスキーピング遺伝子に対する相対量として表した。BAG3の発現は免疫組織化学を用いて評価した。結果は、動物あたりの相対量、DNAのvg/mg、又は可能な場合にはvg/心筋細胞(例えば、n≧1)の群ごとの平均SEMとして表される。
【0133】
[0143]動物の平均値から3標準偏差(SD)を超えるvg又は転写物の測定値は除外した。vg/心筋細胞を表すために、各ブタ心筋細胞は8個の核を有すると仮定した。
【0134】
[0144]ゲノムDNA(単位:vg/μg)は、全ての組織サンプルに様々なレベルで存在した(群A:7,043±3,579 vg/μg;群B:24,832±3,307 vg/μg;群C:15,744 vg/μg、n=1)。vgの平均量は、群B及びCに与えられた用量において、ブタ心筋細胞あたり≧1であった(群A:0.70±0.2;群B:2.0±0.8;群C:1.3)。
【0135】
[0145]BAG3導入遺伝子の転写もまた、群A、B及びCにおいて測定した。18SリボソームRNAに対して正規化したベクター転写物の相対量(±SEM)は、ビヒクル群:0.99;群A:4.1±1.0、群B:9.0±4.5、及び群C:8.5であった。免疫組織化学によって測定されたBAG3タンパク質レベルは変化しないままだった。
【0136】
[0146]結果:本試験では、RCSIを用いて心筋にAAV9-BAG3を安全且つ効率的に形質導入した。前左心室、前外側左心室、下外側左心室、下外側心室、中隔及び右心室を含む心筋全体にベクターDNA/二倍体ゲノムの広範な分布が観察された。平均して、1×10
14vg(3.45×10
12vg/kg)及び2.5×10
14vg(7.58×10
12vg/kg)の総vg用量を用いて、各心筋細胞は導入された遺伝子を少なくとも1コピー有していた。上記の除外基準を適用した後、1e14vgの用量で心臓にAAVベクターを形質導入すると、細胞の最大の導入が得られると考えられる(
図3)。本試験は、AAVベクターを含むウイルスベクターが心臓にDNAを送達できるという強力な証拠を提供している。予想されたように、BAG3タンパク質レベルは変化しなかったが、これはおそらくBAG3が自己調節されているためである。
【0137】
[0147]比較的低用量のAAV9-BAG3の投与後にブタの心臓にベクターゲノム(vg)が存在し転写されることから、RCSIは機能的なBAG3タンパク質の発現を効果的に提供することができ、それによってハプロイン不全症などのBAG3欠損症の状況において治療効果を発揮することができる。心筋全体に見られる生体分布のばらつきは、遺伝子の分布が心筋系統の固有の不均一性に影響される可能性があるという仮説を支持するものである。
【0138】
[0148]結論として、カテーテルベースの経静脈的逆行性CS投与を用いたAAV9-BAG3 vgの比較的低用量での安全な送達は、心筋の拡散性形質導入をもたらした。逆行性CSによる局所的/標的化送達を使用して、より低い総vg用量を使用することは、臨床における安全性の利点につながり得る。
【0139】
実施例3
[0149]進行中である後続の用量毒性試験は、AAV9-BAG3ベクターを用いて、AAVベクターの用量、投与体積、1分あたりの用量を以下に記載するように改変した以外は、実施例2に記載したように実質的に実施した。本試験は、動物1匹あたり1e14vg、2.5e14、及び5e14vgの3種類のAAVベクター用量を用いて実施した。用量体積は20mLに低下させ、20分かけて投与した(1mL/分)。後述の結果は、注入後3ヶ月で分析した動物から得られたものである。
【0140】
[0150]方法:健康な雄のユカタンミニブタ(体重:30~40kg)を鎮静状態にし、蛍光透視下で冠状静脈洞(CS)に留置したカテーテルの先端からrAAV2/9-BAG3(vg=rAAVベクターゲノム)の3用量(1e14vg(n=6)、2.5e14vg(n=6)、2.5e14vg(n=6))の1つを投与する群に無作為に割り当てた。CSの閉塞は注入前に静脈造影で確認した。AAV9-BAG3ベクターを20mLのビヒクル中で20分かけて注入し、同時にバルーンで開口部を閉塞した。AAV9-BAG3ベクター投与後、閉塞を5分間維持し、そのためベクターは冠状静脈洞に留まった。
【0141】
[0151]投与から3ヶ月後、
図5に示すように、左心室組織の長軸方向6点における3つの短軸円周セグメント及び右心室自由壁から18の組織切片を得た。AAVベクターゲノム(vg)の存在は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応及び導入遺伝子プラスミドの既知のコピー数の標準曲線によって評価した。ベクターメッセンジャーRNAは、ベクター相補的DNAを標的とする定量的ポリメラーゼ連鎖反応を用いて評価し、18Sハウスキーピング遺伝子に対する相対量として表した。BAG3の発現は免疫組織化学を用いて評価した。
【0142】
[0152]結果:この後続用量毒性試験において、RCSIを用いて心筋にAAV9-BAG3を安全且つ効率的に形質導入した。ベクターDNA/二倍体ゲノムの広範な用量依存的分布は、前左心室、前外側左心室、下外側左心室、下外側心室、中隔及び右心室を含む心筋全体に再び観察された(
図6~8)。
【0143】
[0153]核(VCN)あたりのBAG3ベクターコピーは、投与された用量と相関していた。特に、1e14vg、2.5e14及び5e14vgの用量について、核あたりそれぞれ約1、3及び6ベクターコピーが存在した(
図6)。
【0144】
[0154]逆行性冠状静脈洞注入(RCSI)によって投与されたこれらの例示的用量の各々は、BAG3を提供する。AAVベクター用量は、例えば左心室質量及び/又は表面積に基づいてヒトに推定することができる。
【0145】
[0155]3ヶ月を超えるBAG3発現のさらなる耐久性(持続性)は、注入後6ヶ月(n=4)及び9ヶ月(n=4)で評価する。
【0146】
実施例4
[0156]核あたりのベクターコピー数(VCN)の計算方法:
1)標準曲線及び変換
a.導入遺伝子プラスミドをXhoI及びPacI制限酵素で消化し、予想されるバンドを精製し、ODする。
b.hBag3 プラスミドDNAの濃度 ng/μL(又はμg/mL)を、以下の式に従ってコピー数/μLに変換する:
DNAのコピー(又は分子)/μL
=(DNA(ng/μL×10-9g/ng×6.022×1023分子/モル))
/(6048bp×650g/bp/モル)
i.この計算は、hBag3プラスミドDNAの長さが6048塩基対であること、並びに塩基対(bp)の平均分子量が650ダルトンであり、アボガドロ数が6.022×1023分子/モルであるという仮定に基づいている。
c.標準曲線(下に示す曲線例)を、反応ごとに以下のコピー数で作成する:107、106、105、104、103、102、50、25、10、及び0。標準曲線式を用いて、1000ng反応あたりのコピー数を決定する(この数値は下式のNである)。
【0147】
【0148】
2)DNA1μgあたりのコピー数の二倍体ゲノムあたりのコピー数への変換
a.ユカタンミニブタの二倍体ゲノムのサイズは、核1個あたり約DNA5.33pgである。
b.1000ng/約5.33pg=約187,600個の核(又は細胞、単一核の場合)
c.標準曲線では、AAVのようなssDNAを扱う場合、標準DNA1コピーに対して2ベクターゲノムが存在する。
d.コピー数(N)/1ug DNAの換算式及び核あたりのvgへの換算:
i.[2vg/コピー]×[Nコピー/ug DNA]×[1ug DNA/187,600核]=vg/核
3)例
a.CROの例a-これは実際のデータを使用したものではない
i.2,000,000コピー/1ug DNA*1ug DNA/約187,600細胞*2vg/コピー=約21.3vg/細胞(二倍体ゲノム、単一核)
【国際調査報告】