(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】蛍光タンパク質の光抵抗性を強化する方法及び前記方法を実施するのに適した蛍光顕微鏡システム
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20240730BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G02B21/06
G01N21/64 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577856
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2022066617
(87)【国際公開番号】W WO2022263661
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521286743
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レットル
【氏名又は名称原語表記】PARIS SCIENCES ET LETTRES
【住所又は居所原語表記】60, rue Mazarine, 75006 Paris, FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】501455677
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】507416908
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】505129079
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・プール・ラグリキュルテュール,ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE RECHERCHE POUR L’AGRICULTURE,L’ALIMENTATION ET L’ENVIRONNEMENT
(71)【出願人】
【識別番号】510132347
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ
(71)【出願人】
【識別番号】523471655
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル デ シアンス エ アンデュストリー デュ ヴィヴァン エ ドゥ ランヴィロヌマン
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】エスパーニュ アガート
(72)【発明者】
【氏名】ブレテル クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン リュドヴィク
(72)【発明者】
【氏名】ル ソー トマ
(72)【発明者】
【氏名】リュドヴィコヴァ リュシー
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】ロベール リディヤ
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA02
2G043KA01
2G043KA02
2G043LA03
2H052AA08
2H052AA09
2H052AC04
2H052AC13
2H052AC14
2H052AC15
2H052AC33
2H052AC34
2H052AF14
(57)【要約】
蛍光顕微鏡技法に従い、蛍光タンパク質の幾つかの分子を含有する試料(2)の蛍光顕微鏡法で使用されるとき、蛍光タンパク質の光抵抗性を強化する方法であって、励起光ビーム(4)で試料を少なくとも部分的に照明することと、強化光ビーム(6)で試料の同じ領域を少なくとも部分的に照明することとを含む方法が提供される。上記の方法を実施するのに適した蛍光顕微鏡システム(1)も提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光顕微鏡技法に従い、蛍光タンパク質の幾つかの分子を含有する試料(2)の蛍光顕微鏡法で使用されるとき、前記蛍光タンパク質の光抵抗性を強化する方法であって、
- 前記蛍光顕微鏡技法に従い、且つ10kW/cm
2未満の所与の励起強度I
eを用いて、前記蛍光タンパク質の吸収帯域内の励起波長λ
eの励起光ビーム(4)で前記試料の少なくとも領域を照明することと、
- 強化強度I
+及び強化波長λ
+を有する強化光ビーム(6)で前記試料(2)の前記同じ領域を少なくとも部分的に照明することと
を含み、
- 前記強化強度I
+は、前記励起強度(I
e)以上であり、
- 前記強化波長λ
+は、前記励起波長λ
eよりも高く、
- 前記強化波長λ
+は、比率T
γ(λ)=P
12,γ(λ)/P
1,γが1+(T
max-1)/2よりも高いように選択され、式中、
- T
maxは、前記比率T
γ(λ)の最大値であり、
- P
1,γは、波長λ
e及び強度I
eの前記単独励起光ビームの固有周期であって、その後に、前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- P
12,γ(λ)は、波長λ
+及び強度I
+の前記強化照明並びに波長λ
e及び強度I
eの前記励起照明の両方の固有周期であって、その後に、前記蛍光タンパク質によって放出される前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- γは、1未満である、方法。
【請求項2】
前記強化波長は、前記比率T
γ(λ)を最大化するように選択された最適強化波長である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記強化照明は、T
γ’(2I)≦αT
γ’(I)に関して前記強化強度I
+の最小値である最適強化強度で行われ、式中、
- αは、2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.1に等しく、
- T
γ’(I)=P
12,γ’(I)/P
1,γであり、式中、
- P
12,γ’(I)は、前記強化波長λ
+及び強度Iでの前記強化照明並びに前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eでの前記励起照明の両方によって照明されるときの固有周期であって、その後に、前記蛍光タンパク質によって放出される前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
照明周期P
iは、前記単独励起照明によって照明されるとき、前記蛍光タンパク質の半減期P
1/2よりも長く、好ましくは前記半減期P
1/2の3倍よりも長く、より好ましくは前記半減期P
1/2の10倍よりも長い、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記照明周期は、1秒よりも長い、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記励起強度I
eは、1000W.cm
-2以下、好ましくは100W.cm
-2未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記強化強度I
+は、関係:3I
e≦I
+≦100I
eを満たす、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記強化波長(λ
+)は、近赤外線で選択され、好ましくは、前記強化波長λ
+は、700nm~1000nmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記励起及び強化照明は、連続照明である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記励起及び強化照明は、同時に行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記照明は、時間変調照明である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記試料は、生存種を含み、且つ非致死温度、好ましくは前記生存種の成長に適合する温度に維持される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記強化波長λ
+は、比率R(λ)=[Q
1+2(λ)-Q
2(λ)]/Q
1が1+(R
max-1)/2よりも高いように選択され、式中、
- R
maxは、R(λ)の最大値であり、
- Q
1は、前記励起強度I
eを用いて前記励起照明波長λ
eでの前記単独励起照明によって照明されるとき、照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量であり、
- Q
2(λ)は、前記強化強度I
+において波長λでの前記単独強化照明によって照明されるとき、前記照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量であり、
- Q
1+2(λ)は、前記波長λ及び前記強化強度I
+での前記強化照明並びに前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eでの前記励起照明の両方によって照明されるとき、前記照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を、前記蛍光顕微鏡技法を実施する蛍光顕微鏡システム(1)において実施する方法であって、前記システムは、照明系(3、5)であって、各波長λ
e及びλ
+がn個の異なる照明波長λ
kの中から選択され得、且つ各強度I
e及びI
+が、波長λ
kにおいて前記照明系によって到達可能な最大強度I
max(λ
k)以下である少なくとも2つの光ビーム(4、6)を同じ照明領域に送達することが可能な照明系(3、5)を含み、前記方法は、
- 前記蛍光顕微鏡技法に従った所与の強度I
eを用いて、前記蛍光タンパク質の吸収帯域内にあると共に、前記n個の異なる照明波長の中からの励起波長λ
eの励起光ビーム(4)で、前記蛍光タンパク質の幾つかの分子を含有する試料(2)の領域を照明し、且つ照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量を測定すること、
- 強化照明の強化波長λ
+を、
-前記励起波長λ
eよりも高く、且つ前記n個の照明波長の中からの強化波長λ
+
として決定することであって、前記強化波長λ
+は、
- 前記比率T
γ(λ)=P
12,γ(λ)/P
1,γを最大化し、式中、
- P
12-P
1,γは、波長λ
e及び強度I
eの前記単独起光ビームの固有周期であって、その後に、前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
,γ(λ)は、波長λ
+及び強度I
+の前記強化照明並びに波長λ
e及び強度I
eの前記励起照明の両方の固有周期であって、その後に、前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- λは、1未満である、決定すること、
- 前記システム(1)を、前記蛍光タンパク質を使用するとき、前記照明系が、少なくとも、
- 前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eを有する励起ビーム(4)、
- 前記強化波長λ
+及び前記強化波長λ
+で到達可能な最大強化強度I
max(λ
+)を有する強化ビーム(6)
を送達するように設定すること
を含む、方法。
【請求項15】
T
γ’(2I)≦αT
γ’(I)に関して前記強化強度I
+の最小値として最適強化強度I
+を選択することであって、式中、
- αは、2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.1に等しく、
- T
γ’(I)=P
12,γ’(I)/P
1,γであり、式中、
- P
12,γ’(I)は、前記強化波長λ
+及び強度Iでの前記強化照明並びに前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eでの前記励起照明の両方によって照明されるときの固有周期であって、その後に、前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期である、選択すること、
- 前記システム(1)を、前記照明系(3、5)が、少なくとも、
- 前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eを有する励起ビーム(4)、
- 前記最適強化波長λ
+及び前記最適強化強度I
+を有する強化ビーム(6)
を送達するように設定すること
を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法を実施するのに適した蛍光顕微鏡システムであって、少なくとも、
- 前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eを有する励起ビーム(4)、
- 前記強化波長λ
+及び前記強化強度I
+を有する強化ビーム(6)
を同じ領域に送達することが可能な照明系(3、5)を含む蛍光顕微鏡システム。
【請求項17】
前記照明系(3、5)は、少なくとも2つの光源(3、5)であって、1つは、少なくとも700nm~1000nmで調整可能な強化波長λ
+及び少なくとも20W.cm
-2~10kW.cm
-2で調整可能な強化強度I
+での強化照明を送達することが可能である調整可能な光源(5)である、少なくとも2つの光源(3、5)を含む、請求項16に記載の蛍光顕微鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光顕微鏡法の技術分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、蛍光種の光抵抗性を強化する方法及び前記方法を実施するのに適した蛍光顕微鏡システムに関する。
【0003】
本発明は、蛍光顕微鏡法による試料の観測中の蛍光標識の光退色の低減に関する。
【背景技術】
【0004】
蛍光顕微鏡法は、適切な波長の外部光源で照明されると蛍光を発する試料を観測する方法である。蛍光を得るために、試料は、蛍光種(又はフルオロフォア若しくは蛍光色素)に結合(又は標識若しくはタグ付け)され得る。フルオロフォアは、例えば、外部照明による励起の結果として発光可能な有機分子、タンパク質又はナノ粒子であり得る。
【0005】
図1に示されるように、蛍光は、最初に基底状態Aであるフルオロフォアが、フルオロフォアの吸収帯域の波長を有する励起照明からの光子の吸収によって一重項励起状態Bに励起する場合に発生する。フルオロフォアは、次いで、蛍光の放出F及び放熱によって初期基底状態Aに緩和して戻るか、又は系間交差(ISC)と呼ばれる現象を介して長寿命三重項励起状態Cに遷移する。長寿命三重項励起状態は、
- 基底状態Aに緩和して戻るか、
- 光退色状態Eに遷移する(フルオロフォアは、したがって、分解されて光分解生成物になる)か、又は
- 光子の吸収により、より高次の三重項励起状態Dに再励起し、そこから、フルオロフォアは、逆系間交差(RISC)を介して一重項励起状態Bに戻ることができるか、又は分解されて光分解生成物になることができる(光退色状態E)か
のいずれかである。
【0006】
光退色状態は、フルオロフォアの不可逆的非蛍光状態であり、そこから自然に又は光励起によって初期蛍光状態に戻ることは、不可能である。
【0007】
例えば、有機フルオロフォア及び蛍光タンパク質等の蛍光種は、典型的には、フルオロフォアのモル吸収係数100,000モル-1.L.cm-1及び500nmにおける励起強度1W.cm-2の場合、約100秒でフルオロフォアの吸光に繋がる105回の励起-放出サイクル後、分解されて光分解生成物になる。
【0008】
光退色は、蛍光状態から光退色状態への遷移による試料中の全てのフルオロフォアの漸次的な吸光に起因する。時間の関数としての蛍光シグナル減衰は、その後、蛍光シグナルが初期蛍光シグナルの所与の割合に等しくなる固有周期として定義される固有蛍光周期を測定することによって特徴付けられ得る。例えば、蛍光種の半減期は、その後、蛍光シグナルが初期蛍光シグナルの半分に等しくなる固有時間である。
【0009】
光退色は、全てのフルオロフォア及び蛍光撮像技法に関わり、種々の問題に繋がる。それは、実験の持続時間及び/又は時間分解能を制限し、生物動力学の適切なモニタリングを妨げる。それは、フルオロフォアによって放出される光子数を制限し、画質を低下させる。それは、蛍光変動の定量的分析を複雑にする。加えて、光退色したフルオロフォア状態は、研究中の試料にダメージを与える恐れがあり、光毒症の一因となる恐れがある。
【0010】
光退色を低減する幾つかの解決策が存在する。例えば、試料から酸素を除去して、酸素とフルオロフォアの三重項状態との相互作用による一重項酸素の形成を回避することが可能である。これは、通常、科学刊行物“Mechanochemical coupling in actomyosin energy transduction studied by in vitro movement assay”,Harada et al.,J.Mol.Biol.1990,216,49及び“Oxyrase cell membrane preparations simplify cultivation of anaerobic bacteria”,Thurston et al.,Lab.Med.2000,31,509”に記載のように、酸素を還元して水にする酵素を細胞培養培地に添加することによって行われる。
【0011】
別の既存の解決策は、電子移動反応(還元に続く酸化又はその逆)による蛍光種の三重項状態の消光を含む。この戦略は、Trolox及びROXS系(アスコルビン酸1mM+メチルビオローゲン1mM)等の還元剤と酸化剤との混合物を使用し、その説明は、科学刊行物“Nonblinking and long-lasting single-molecule fluorescence imaging”,Rasnik et al.,Nat.Methods 2006,3,891”及び“A reducing and oxidizing system minimizes photobleaching and blinking of fluorescent dyes”,Vogelsang et al.,Angew.Chem.Int.Ed.2008,47,5465”に見出すことができる。これは、細胞固定化及び酸素除去を必要とする。
【0012】
第3の戦略は、緑色蛍光タンパク質の光退色を特に低減するために使用され得る。光退色がフラビン等の生体関連電子受容体の存在下で加速するという観測に基づいて、リボフラビン及びピリドキーサルのない細胞培養培地を作成した。そのような培養培地は、科学刊行物“Cell culture medium affects GFP photostability:a solution”,Bogdanov et al.,Nat.Methods 2009,6,859”、“Anti-fading media for live cell GFP imaging”,Bogdanov et al.,Plos One 2012,7,e53004”及び“Influence of cell growth conditions and medium composition on EGFP photostability in live cells”,Mamontova et al.,BioTechniques 2015,58,258”に記載されている。
【0013】
したがって、既存の抗光退色技術は、試料環境を化学的に修飾することに基づく。それには、撮像前に時間のかかる準備が必要とされると共に、細胞生理学に対する副作用があり、それにより生細胞の長期実験での使用及び撮像に使用される培地における細胞の長期培養での使用から除外される。単一の各生成物は、限られた数のフルオロフォア及び生体試料のみに適合する。更に、環境の変更は、細胞培養又は微生物への解決策であり得るが、化学物質の拡散がこの手法の効率を制限する組織又は多細胞生物中の細胞の可視化に容易に適用することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、試料環境を化学的に改変せず、いかなる特定の試料準備も必要とすることなく、使用される蛍光タンパク質の光抵抗性を強化し、即ち蛍光タンパク質の光退色を遅らせる顕微鏡法蛍光撮像方法、前記方法を実施する方法及び対応する蛍光顕微鏡システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、蛍光顕微鏡技法に従い、蛍光タンパク質の幾つかの分子を含有する試料での蛍光顕微鏡法によって観測される蛍光タンパク質の光抵抗性を強化する方法が提供され、本方法は、
- 蛍光顕微鏡技法に従い、且つ10kW/cm2未満の所与の励起強度Ieを用いて、蛍光タンパク質の吸収帯域内の励起波長λeの励起光ビームで試料の少なくとも領域を照明することと、
- 強化強度I+及び強化波長λ+を有する強化光ビームで試料の同じ領域を少なくとも部分的に照明することと
を含み、
- 強化強度I+は、励起強度Ie以上であり、
- 強化波長λ+は、励起波長λeよりも高く、
- 強化波長λ+は、比率Tγ(λ)=P12,γ(λ)/P1,γが1+(Tmax-1)/2よりも高いように選択され、式中、
- Tmaxは、比率Tγ(λ)の最大値であり、
- P1,γは、波長λe及び強度Ieの単独励起光ビームの固有周期であって、その後に、蛍光タンパク質によって放出される蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- P12,γ(λ)は、波長λ+及び強度I+の強化照明並びに波長λe及び強度Ieの励起照明の両方の固有周期であって、その後に、蛍光タンパク質によって放出される蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- γは、1未満である。
【0016】
本発明では、「吸収帯域」という用語は、ピーク吸収値を中心とした約50nm波長間隔として理解されるべきであり、ピーク吸収値は、考慮される蛍光タンパク質で吸収が最大に達する波長値である。蛍光タンパク質は、2つ以上の吸収ピークを有し得、したがって2つ以上の吸収帯域を有し得る。
【0017】
本発明では、強度は、放射照度又は電力密度、即ち単位面積当たりで表面が受け取る電力として理解されるべきである。
【0018】
本発明では、Tmaxは、最適強化波長値での比率Tγ(λ)の最大値である。
【0019】
強化照明により、過渡状態が枯渇し、光退色状態への蛍光タンパク質の遷移が遅くなる。したがって、蛍光タンパク質の光安定性又は光抵抗性が増大し、光退色が遅くなる。光退色速度を下げることにより、試料の研究をより長期にわたってよりよい時間分解能で行うことが可能になり、記録される画像の品質が高くなる。
【0020】
更に、強化照明は、試料にとって有害であり得る活性酸素種(ROS)の形成を制限する。したがって、有利には、光毒性が低減する。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、強化波長λ+は、比率Tγ(λ)を最大化するように選択された最適強化波長である。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、強化照明は、Tγ’(2I)≦αTγ’(I)に関して強化強度I+の最小値である最適強化強度で行われ、式中、
- αは、2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.1に等しく、
- Tγ’(I)=P12,γ’(I)/P1,γであり、式中、
- P12,γ’は、強化波長λ+及び強度Iでの強化照明並びに励起波長λe及び励起強度Ieでの励起照明の両方によって照明されるときの固有周期であって、その後に、蛍光タンパク質によって放出される蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期である。
【0023】
一実施形態によれば、照明周期Piは、単独励起照明によって照明されるとき、蛍光タンパク質の半減期P1/2よりも長く、好ましくは半減期P1/2の3倍よりも長く、より好ましくは半減期P1/2の10倍よりも長い。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、照明周期Piは、1秒よりも長い。
【0025】
一実施形態によれば、励起強度Ieは、1000W.cm-2以下、好ましくは100W.cm-2未満である。
【0026】
一実施形態によれば、強化強度I+は、関係:3Ie≦I+≦100Ieを満たす。
【0027】
一実施形態によれば、強化波長λ+は、近赤外線で選択され、好ましくは、強化波長λ+は、700nm~1000nmである。
【0028】
近赤外線、好ましくは700~1000nmの強化波長は、有利には、より高い比率Tγ(λ)及び蛍光タンパク質の光退色の低速化に繋がる。加えて、近赤外線照明は、紫外線可視照明よりも光毒性が低く、紫外線可視光よりも生体試料への侵入深度が深い。
【0029】
一実施形態によれば、励起及び強化照明は、連続照明である。
【0030】
一実施形態によれば、励起及び強化照明は、同時に行われる。
【0031】
一実施形態によれば、照明は、時間変調照明である。
【0032】
一実施形態によれば、試料は、生存種を含み、且つ非致死温度、好ましくは生存種の成長に適合する温度に維持される。一実施形態によれば、強化波長は、比率R(λ)=[Q1+2(λ)-Q2(λ)]/Q1が1+(Rmax-1)/2よりも高いように選択され、式中、
- Rmaxは、R(λ)の最大値であり、
- Q1は、励起強度Ieを用いて励起照明波長λeでの励起照明単独によって照明されるとき、照明周期Pi中に蛍光タンパク質によって放出される蛍光量であり、
- Q2(λ)は、強化強度I+において波長λでの単独強化照明によって照明されるとき、照明周期Pi中に蛍光タンパク質によって放出される蛍光量であり、
- Q1+2(λ)は、波長λ及び強化強度I+での強化照明並びに励起波長λe及び励起強度Ieでの励起照明の両方によって照明されるとき、照明周期Pi中に蛍光タンパク質によって放出される蛍光量である。
【0033】
本発明の別の態様によれば、本発明による方法を、蛍光顕微鏡技法を実施する蛍光顕微鏡システムにおいて実施する方法が提供され、システムは、照明系であって、各波長がn個の異なる照明波長λkの中から選択され得、且つ各強度が、n個の照明波長λkにおいて照明系によって到達可能な最大強度Imax(λk)以下である少なくとも2つの光ビームを同じ照明領域に送達することが可能な照明系を含み、本方法は、
- 蛍光顕微鏡技法に従った所与の強度Ieを用いて、蛍光タンパク質の吸収帯域内にあると共に、n個の異なる照明波長λkの中からの励起波長λeの励起光ビームで、蛍光タンパク質の幾つかの分子を含有する試料の領域を照明し、且つ照明周期Pi中に蛍光タンパク質によって放出される蛍光量を測定すること、
- 強化照明の波長を、
- 励起波長λeよりも高く、且つn個の照明波長λkの中からの強化波長λ+
として決定することであって、強化波長λ+は、
- 比率Tγ(λ)=P12,γ(λ)/P1,γを最大化し、式中、
- P1,γは、波長λe及び強度Ieの単独励起光ビームの固有周期であって、その後に、蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- P12,γ(λ)は、波長λ+及び強度I+の強化照明並びに波長λe及び強度Ieの励起照明の両方の固有周期であって、その後に、蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- λは、1未満である、決定すること、
- システムを、蛍光タンパク質を使用するとき、照明系が、少なくとも、
- 励起波長λe及び励起強度Ieを有する励起ビーム、
- 強化波長λ+及び強化波長λ+で到達可能な最大強化強度Imax(λ+)を有する強化ビーム
を送達するように設定すること
を含む。
【0034】
一実施形態によれば、本方法は、Tγ’(2I)≦αTγ’(I)に関して強化強度I+の最小値として最適強化強度を選択することであって、式中、
- αは、2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.1に等しく、
- Tγ’(I)=P12,γ’(I)/P1,γであり、式中、
- P12,γ’(I)は、強化波長λ+及び強度Iでの強化照明並びに励起波長λe及び励起強度Ieでの励起照明の両方によって照明されるときの固有周期であって、その後に、蛍光タンパク質によって放出される蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期である、選択すること、
- システムを、照明系が、少なくとも、
- 励起波長λe及び励起強度Ieを有する励起ビーム、
- 強化波長λ+及び最適強化波長を有する強化ビーム
を送達するようにシステムを設定すること
を更に含む。
【0035】
本発明の別の態様によれば、本発明による方法を実施するのに適した蛍光顕微鏡システムが提供され、本システムは、少なくとも、
- 励起波長λe及び励起強度Ieを有する励起ビーム、
- 強化波長λ+及び強化強度I+を有する強化ビーム
を同じ領域に送達することが可能な照明系を含む。
【0036】
一実施形態によれば、照明系は、少なくとも2つの光源であって、1つは、少なくとも700nm~1000nmで調整可能な強化波長λ+及び少なくとも20W.cm-2~10kW.cm-2で調整可能な強化強度I+での強化照明を送達することが可能である調整可能な光源である、少なくとも2つの光源を含む。
【0037】
添付図面を参照して、以下の説明は、本発明がどのようなものからなり、本発明がどのように達成され得るかを明確にする。本発明は、図面に示された実施形態に限定されない。したがって、特許請求の範囲で述べられた特徴の後に参照符号が続く場合、そのような符号は、単に特許請求の範囲の理解度を向上させるためにのみ含まれ、決して特許請求の範囲を限定しないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】上述されており、励起光で励起した蛍光タンパク質による蛍光放出のメカニズムを示す。
【
図2】本発明による強化方法を実施するのに適した蛍光顕微鏡システムの概略図である。
【
図3】
図2の蛍光顕微鏡システムの観測エリアを示す。
【
図4】強化照明によって誘導される蛍光タンパク質の光退色の低速化への励起強度の影響を示す。
【
図5】蛍光タンパク質の光退色の低速化への強化波長の影響を示す。
【
図6】蛍光タンパク質の光退色の低速化への強化強度の影響を示す。
【
図7】本発明による方法の一実施形態により、励起照明に露光された場合並びに励起照明及び強化照明に露光された場合の蛍光タンパク質の瞬間蛍光の変化を示す。
【
図8】本発明による方法の一実施形態により、励起照明に露光された場合並びに励起照明及び強化照明に露光された場合の、蛍光タンパク質で標識された生体試料の瞬間蛍光の変化を示す。
【
図9】
図8の実施形態の瞬間蛍光の変化を示す顕微鏡写真を示す。
【
図10】本発明による方法の一実施形態に従って励起照明に露光された場合並びに励起照明及び強化照明に露光された場合の、蛍光タンパク質で標識された別の生体試料の瞬間蛍光の変化を示す。
【
図11】本発明による方法の別の実施形態に従って励起照明に露光された場合並びに励起照明及び強化照明に露光された場合の、蛍光タンパク質で標識された別の生体試料の瞬間蛍光の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
先に説明したように、本発明は、観測されている試料を励起ビーム及び強化ビームの両方で照明することにより、蛍光タンパク質の光退色を遅くし、蛍光顕微鏡法で使用された場合に関連する光毒性を低減することを目的とする。
【0040】
そうするために、
図2に示されるように、試料2の顕微鏡撮像に蛍光顕微鏡システム1を使用し得る。このシステム1は、励起波長λ
eを有する励起ビーム4を放出することによって励起照明を実行するように構成された第1の光源3と、強化波長λ
+を有する強化ビーム6を放出することによって強化照明を実行するように構成された第2の光源5とを含む。
【0041】
この実施形態では、システム1は、例えば、380nm~650nmを含むn個の波長λkの中から選択される励起波長を有する励起ビーム4を送達可能な第1の光源3を含む広視野蛍光顕微鏡である。例えば、第1の光源は、390nm、438nm、475nm、480nm、513nm、549nm、560nm、570nm、575nm又は632nmであるn=10個の異なる波長の励起ビームを送達することが可能である。各波長で、第1の光源は、n個の波長λkの各々で異なる最大強度Imax(λk)以下である励起強度Ieを有する光ビームを送達することが可能である。
【0042】
例えば、ここでは、第1の光源3は、10個の発光ダイオード(LED)31を含み、その1つのみが図に示されている。各LEDはビーム32を送達するように構成され、ビーム32はレンズ7によってコリメートされ、励起フィルタ8によって濾波されて励起ビーム4を形成する。励起ビーム4はレンズ33によって集束し、励起ビーム4を反射するように構成された第1のダイクロイックミラー9によって試料2に向けられる。
【0043】
本例では、第2の光源5は、レーザ源、ここでは700nm~1000nmで連続調整可能な強化波長と、20W.cm-2~10,000W.cm-2の強化強度I+とを有する励起ビームを送達可能な調整可能なレーザ源である。
【0044】
強化ビーム6は、従来のミラー10で最初に反射されてからレンズ34によって集束され、強化ビーム6を反射し励起ビーム4を伝達するように構成された第2のダイクロイックミラー11での2回目の反射の後、試料2に向けられる。この例では、励起ビーム4は、第1のダイクロイックミラー9での反射後、第2のダイクロイックミラー11を透過する。
【0045】
レンズ33及び34の目的は、励起ビーム4及び強化ビーム6を対物レンズ13の後側焦点面で集束させて、試料2の広視野照明のために対物レンズの出口において平行ビームを得ることである。対物レンズは、試料2が放出した蛍光シグナルも集め、それをコリメートして蛍光ビーム14にする。放出フィルタ15が、蛍光ビームを濾波するように構成され、第2のレンズ16は、濾波された蛍光ビームをCCDカメラ17に集束させるように構成される。
【0046】
カメラは測定モジュール26の一部であり、測定モジュール26は、蛍光タンパク質によって放出された蛍光の量Qを測定するように構成され、測定されたシグナルを正規化し、以下説明するように、測定されたシグナル又は正規化された測定シグナルに対して演算を実行するように構成された処理モジュールを含む。
【0047】
システムは、試料2を受けるように構成された観測エリアを更に含む(
図3)。例えば、試料2は、観測エリア上に保持されたガラスカバースリップ18に配置され、且つ試料の少なくとも一部が励起ビーム4及び強化ビーム6の両方によって照明されるように、励起ビーム4の経路上及び強化ビーム6の経路上に配置される。したがって、システム1は、第1の光4及び第2の光6の両方で試料2を、例えば連続して照明するように構成される。
【0048】
本発明者らは、励起ビーム4及び強化ビーム6で試料2を照明することにより、蛍光タンパク質の光抵抗性を強化可能なことを示すことに利点がある。励起ビーム及び強化ビームでのこの二重照明は、両事例で同じ強度の単独励起照明で達成されるよりも長い観測周期を可能にする。
【0049】
その後、蛍光顕微鏡法の上記のシステム1が選択された蛍光タンパク質で標識された試料2の観測に使用される、光ビーム4、6の適した波長及び適した強度を決定する方法を開示する。試料2は、当技術分野で既知の任意の標識方法を使用して標識し得、当業者は、考慮される用途及び使用される蛍光タンパク質に従った適切な方法の選択方法を知っている。
【0050】
図3に示されるように、システム1は、第1の照明エリア又は領域19をもたらす広視野照明として励起ビーム4を送達するように構成される。システム1は、第1の照明エリア19よりも小さく、第1の照明エリア19に含まれる第2の照明エリア20をもたらす強化ビームを送達するように更に構成される。好ましくは、各照明エリアは少なくとも2×10
-3mm
2の表面をカバーすべきである。例えば、ここでは、第1の照明エリアは、直径200μmを有する円形表面をカバーし、第2の照明エリアは、直径50μmを有する円形表面をカバーする。
【0051】
試料2は、蛍光タンパク質による蛍光放出をトリガーするために、蛍光タンパク質の吸収帯域にあるようにn個の異なる照明波長λkの中から選択された励起波長λeの励起光ビーム4で照明される。例えば、励起波長λeは、蛍光タンパク質の吸収ピークから最も近くなるように、n個の波長λkの中から選択される。多くのデータベースが励起波長に適切な波長を開示しており、この情報は蛍光タンパク質の提供業者によっても与えられるため、当業者は、励起波長の適切な波長の選択方法を知っている。
【0052】
励起波長λeの値は、好ましくは、最大吸収値前後を中心とした約50nmの範囲内で選択される。
【0053】
励起強度Ieは、蛍光顕微鏡技法(落射蛍光顕微鏡法、共焦点顕微鏡法等)に従って設定され、10kW/cm2未満である。当業者は、励起強度の選択方法を知っている。例えば、広視野顕微鏡法では、励起強度Ieは典型的には10W.cm-2未満であり、一方、レーザ走査型共焦点顕微鏡法では、励起強度Ieは典型的には1kW.cm-2よりも高い。
【0054】
実装形態の第1の例として、フルオロフォアは、ポリアクリルアミドゲルに組み込まれた高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)である。EGFPの吸収ピークは488nmであり、したがって、システム1で利用可能なものの中で吸収ピークに最も近い波長である480nmの励起波長が選択される。
【0055】
図4に示されるように、強化照明I
+によって誘導されるEGFPの光退色の低速化は、100W/cm
2未満の励起強度I
eで最大であり、32W/cm
2前後でピークであり、100W/cm
2~1kW/cm
2で低下し、3kW/cm
2よりも高い励起照明の場合、消える。したがって、実装形態は、32W.cm
-2の励起強度I
eを有する広視野照明を使用して行われる。
【0056】
励起波長λe及び励起強度Ieが設定されると、強化ビーム6に最良の設定を決定する必要がある。強化ビーム6は、蛍光タンパク質によって吸収されて、過渡状態から初期状態に戻る蛍光タンパク質の遷移をトリガーするように構成されるべきである。まず、強化波長λ+、即ち本発明者らによって示された強化効果を有する利用可能な波長範囲内の波長を構成することが有利である。この強化波長が識別されると、試料が受け取る光を制限し、したがって強化照明の生じ得る副作用を制限するように、強化強度I+を最適化することが有利であり得る。最初、強化波長を決定するために、強化波長の構成中、任意の所定の強化強度値、好ましくは低い強化強度値を選択し得る。ここで、任意の強化強度値は20W.cm-2に設定される。
【0057】
したがって、方法の最初のステップにおいて、照明中、時間の関数としての蛍光タンパク質によって放出される瞬間蛍光は、強化照明の存在下及び不在下において、異なる値の強化波長λ+で測定される。
【0058】
強化波長λ+の値は、蛍光タンパク質の光抵抗性を高めるものとして選択されるべきであり、即ち強化照明の存在下において、励起照明のみによってトリガーされる蛍光の減衰を遅らせるよう選択されるべきである。
【0059】
したがって、励起照明のみによって照明されるとき、蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰する、例えば、蛍光シグナルが50%減衰する固有周期P1,γ(この場合、固有周期はフルオロフォアの半減期である)と、励起照明及び強化照明の両方によって照明されるとき、蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰する、例えば、蛍光シグナルが50%減衰する固有周期P12,γとの比較が実行される。
【0060】
この比較は、比率Tγ(λ)=P12,γ(λ)/P1,γとして定量化される。比率Tγは、強化波長λ+の利用可能な全ての値で研究される。
【0061】
このために、励起ビーム4及び強化ビーム6の両方を用いた場合又はビーム4、6の一方のみを用いた場合の時間の関数として蛍光タンパク質によって放出される瞬間蛍光の幾つかの測定が実行される。光退色状態は、不可逆的であるため、2つの別個の測定を試料2の同じ場所に対して実行することはできない。
【0062】
図5は、所定の強化強度I
+値での強化波長λ
+の関数としてのγ=0.5の場合の比率T
γ(λ
+)の値の変化を示す。
【0063】
例えば、光退色の低速化がその最大値の少なくとも半分である最適強化波長λ+値、即ちTγ(λ+)>1+(Tmax-1)/2である強化波長値が保持され、式中、Tmaxは、所定の強化強度値でのTγの最大値である。
【0064】
より好ましくは、T
γ(λ
+)=T
maxである最適強化波長値が保持される。ここで、
図5から明白なように、最適強化波長λ
+値は、900nmに等しい。
【0065】
最適強化波長が決定され設定されると、先に決定された前記最適強化波長λ+値と関連して最適強化強度I+を決定することが有利である。
【0066】
そうするために、強化強度I+の利用可能な全ての値(システムの構成に依存する)について、比率Tγ’(I)=P12,γ’(I)/P1,γの値を研究する。好ましくは、強化強度は、励起強度Ieよりも高い値に制限される。例えば、強化強度は、3Ie≦I+≦100Ieの値に制限される。
【0067】
図6は、強化強度I
+の値の関数としての比率T
γ’(I)の値の変化を示す。
【0068】
比率Tγ’(I)の値が強化強度I+に伴って増大することを観測し得る。しかしながら、試料照明及び試料照明から生じる恐れのある任意の副作用を制限するために、強化強度I+の利用可能な最大値を選択することは、常に最良の選択であるわけではない。
【0069】
比率Tγ’(I)の値は強化強度の特定の値を超えるとプラトーを形成するため、強化強度のそれ以上の増大は有利ではない。その段階に属する比率Tγ’(I)に繋がる最小強化強度値を選択することが好ましい。
【0070】
このために、最適強化強度I+は、Tγ’(2I+)≦αTγ’(I+)であるように選択され、式中、
- αは1.1に等しく、
Tγ’(I)=P12γ’(I)/P1γであり、式中、
- P12,γ(I)’は、強化波長λ+及び強度Iを有する強化照明並びに励起波長λe及び励起強度Ieを有する励起照明の両方によって照明されるとき、蛍光シグナルがその初期値の1/γに等しくなる固有周期である。
【0071】
ここで、選択された強化強度は2kW.cm-2に等しく、Tγ’(I)=3.5である。
【0072】
特定の蛍光タンパク質(ここではEGFP)での強化波長λ+値及び強化強度I+値が決定されると、例えば、この蛍光タンパク質で標識された試料が関わる顕微鏡法実験又はこの特定の蛍光タンパク質を用いて行われ得る任意のタイプの実験、観測又は測定において、それらを使用してこの蛍光タンパク質の光抵抗性を強化し得る。
【0073】
本発明者らによって示された強化照明の効果は、先に開示された比率Tγの研究によって明らかである。
【0074】
図7は、本発明による蛍光タンパク質、ここではポリアクリルアミドゲルに組み込まれたEGFPの光抵抗性を強化する方法の一実施形態における正規化された測定シグナルの変化を示す。この実施形態では、強度及び波長値は、
図4、
図5及び
図6と関連して説明した決定方法において前に決定されたもの(I
e=32W.cm
-2、λ
e=480nm、I
+=2000W.cm
-2、λ
+=900nm)である。
【0075】
図7では、第1の曲線21は、時間の関数としての、励起照明のみによってトリガーされた瞬間蛍光放出を示す正規化された測定シグナルS(t)(t=0において1に正規化されるが、任意の正規化を採用し得る)の変化を示し、第2の曲線22は、励起照明及び強化照明の両方によってトリガーされた瞬間蛍光放出を示す正規化された測定シグナルS(t)の変化を示す。
【0076】
図7において、強化照明なしの蛍光シグナルS(t)(曲線21)の半減期P
1,1/2が約100秒であり、励起照明及び強化照明の両方を用いた蛍光シグナルS(t)(曲線22)の半減期P
12,1/2が約300秒であることが明らかである。したがって、上記の条件での強化照明あり及びなしでの半減期の比率T
1/2(λ)=P
12,1/2/P
1,1/2は3に等しい。
【0077】
半減期比率T1/2(λ)=P12,1/2/P1,1/2のそれらの値は、フルオロフォアの二重照明に起因したフルオロフォア光抵抗性の増大及び光退色の低速化の結果である。したがって、より長い周期にわたり蛍光データを取得することが可能である。
【0078】
上記の実施形態は、EGFPの強化波長λ+及び強化強度I+の決定に適用される。しかしながら、決定方法は任意の他のフルオロフォアに適用することも可能である。
【0079】
更に、上記の例では、フルオロフォアはポリアクリルアミドゲルに組み込まれた。しかしながら、本発明はポリアクリルアミドゲルに組み込まれた蛍光タンパク質に限定されず、本発明によって提供される有利な効果は、任意の適した支持体、例えば細菌又は真核細胞等の生体試料に結合された蛍光タンパク質を用いて取得することもできる。
【0080】
生体試料でのフルオロフォアの光抵抗性の強化についての本発明の妥当性の実証として、
図8~
図11は、幾つかの生体試料での本方法の実施結果を示す。
【0081】
図8及び
図9は、固定された真核細胞、即ち細胞質EGFPで標識されたHeLa細胞を用いた本発明の実施の結果を示す。
【0082】
この実施では、励起波長λeは480nmに等しく、励起強度Ieは32W.cm-2に等しく、強化波長λ+は900nmに等しく、強化強度I+は2kW.cm-2に等しい。
【0083】
図8において、励起照明のみの存在下での正規化された蛍光シグナルS(t)(曲線21)の半減期P
1,1/2が約50秒であり、励起照明及び強化照明の両方の存在下での正規化された蛍光シグナルS(t)(曲線22)の半減期P12,1/2が約225秒であることは明らかである。したがって、半減期比率T
1/2(λ)=P
12,1/2/P
1,1/2は、上記の条件下で4.5に等しい。
【0084】
図9は、
図8に関連して説明した実施形態の実行中に捕捉された3枚の顕微鏡写真を示す。最初の顕微鏡写真は瞬間t=0で撮影され、2枚目の顕微鏡写真は瞬間t=80秒で撮影され、3枚目の顕微鏡写真は瞬間t=240秒で撮影されている。各顕微鏡写真の右下にあるスケールバーは20μm長である。二重照明の効果を示すために、ビーム4及び6は
図3の構成に従って送達される。
【0085】
各顕微鏡写真で、明るいスポットは、細胞質EGFPで標識され、蛍光を放出しているHeLa細胞23である。全ての細胞は励起ビーム(広視野照明)で照明され、第2の照明エリア20にある細胞(点線の円で表されている)は励起ビーム4及び強化ビーム6の両方で照明されている。
【0086】
図9において、第2の照明エリアにおける細胞の蛍光が、第2の照明エリア20の外部の細胞の蛍光よりも遅く低下することは明らかである。240秒の期間後、第2の照明エリア20にある細胞のみがまだ蛍光を放出しており、他方の細胞は完全に光退色している。
【0087】
図10は、細胞質EGFPで標識された、ここではU2OS細胞である固定された真核細胞の別の試料を用いた本発明の実施結果を示す。
【0088】
この例では、励起波長λeは480nmに等しく、励起強度Ieは32W.cm-2に等しく、強化波長λ+は900nmに等しく、強化強度I+は125W.cm-2に等しい。
【0089】
図10において、励起照明のみの存在下での正規化された蛍光シグナルS(t)(曲線21)の半減期P
1,1/2が約60秒であり、励起照明及び強化照明の両方の存在下での正規化された蛍光シグナルS(t)(曲線22)の半減期P
12,1/2が200秒であることは明らかである。
【0090】
図11は、PBS寒天パッド(リン酸緩衝食塩水寒天パッド)上に配置され、EGFPで標識された生細菌、ここでは大腸菌(Escherichia coli)BL21細菌の試料を用いた本発明の実施結果を示す。
【0091】
この例では、励起波長λeは480nmに等しく、励起強度Ieは32W.cm-2に等しく、強化波長λ+は900nmに等しく、強化強度I+は125W.cm-2に等しい。
【0092】
図11において、励起照明のみの存在下での正規化された蛍光シグナルS(t)(曲線21)の半減期P
1,1/2が約48秒であり、励起照明及び強化照明の両方の存在下での正規化された蛍光シグナルS(t)(曲線22)の半減期P
12,1/2が132秒であることは明らかである。したがって、強化照明あり及びなしでの半減期比率T
1/2(λ)=P
12,1/2/P
1,1/2は2.8に等しい。
【0093】
本発明は、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を用いた実施に限定されず、他の緑色蛍光タンパク質を用いて実施することも可能である。
【0094】
例えば、励起波長λeが480nmに等しく、励起強度Ieが32W.cm-2に等しく、強化波長λ+が900nmに等しく、強化強度I+が125W.cm-2に等しく、緑色蛍光タンパク質で標識された生大腸菌(Escherichia coli)を用いた一実施形態では、
- 蛍光タンパク質がsfGFP(スーパーフォルダ緑色蛍光タンパク質)の場合、半減期比率T1/2(λ)は3.1に等しく、
- 蛍光タンパク質がacGFP(オワンクラゲ(Aequorea Coerulescens)緑色蛍光タンパク質)の場合、半減期比率T1/2は2.8に等しく、
- 蛍光タンパク質がemGFP(エメラルド緑色蛍光タンパク質)の場合、半減期比率T1/2は1.8に等しく、
- 蛍光タンパク質がmCloverの場合、半減期比率T1/2は2.6に等しい。
【0095】
本発明は緑色蛍光タンパク質に限定されず、他の色、例えば赤色又は黄色の蛍光タンパク質を用いて実施することも可能である。
【0096】
例えば、励起波長λeが480nmに等しく、励起強度Ieが37W.cm-2に等しく、強化強度I+が125W.cm-2に等しく、強化波長λ+が900nmに等しく、蛍光タンパク質が生大腸菌(Escherichia coli)である一実施形態では、半減期比率T1/2は1.8に等しい。
【0097】
励起波長λeが480nmに等しく、励起強度Ieが37W.cm-2に等しく、強化強度I+が125W.cm-2に等しく、強化波長λ+が900nmに等しく、蛍光タンパク質が生大腸菌(Escherichia coli)におけるEYFP(高感度黄色蛍光タンパク質)である別の実施形態では、半減期比率T1/2は1.8に等しい。
【0098】
励起波長λeが560nmに等しく、励起強度Ieが5.8W.cm-2に等しく、強化波長λ+が725nmに等しく、強化強度I+が250W.cm-2に等しく、生大腸菌(Escherichia coli)における赤色蛍光タンパク質を用いた別の実施形態では、
- 蛍光タンパク質がmCherryである場合、半減期比率T1/2は13.1に等しく、
- 蛍光タンパク質がmRFP1である場合、半減期比率T1/2は8.3に等しい。
【0099】
上述したように、本発明による方法は、光退色に対する有益な効果を有するのみならず、光毒性も低減する。
図12は、黄色蛍光タンパク質YPetで標識され、37℃において寒天パッド上で増殖し、初期面積に対して正規化された大腸菌の細菌微小コロニーの面積の2を底とする対数の時間にわたる変化を示す。曲線24(正方形を有する)は、571ナノメートル波長の励起照明のみの存在下でのこの変化を示し、曲線25(三角形を有する)は、いかなる光もない状態でのこの変化を表し、曲線26(ドットを有する)は、571ナノメートル波長を有する励起照明と、885ナノメートル波長の強化波長とを有する二重照明下でのこの変化を表す。
【0100】
試料が励起照明のみで照明される場合、細菌の増殖が遅くなり、二重照明により、細菌の正常な増殖、即ちいかなる照明も存在しない状態で生じる増殖と同一の増殖を得ることが可能になるように見える。
【0101】
上述した実施形態は、連続照明に関するが、本発明は、異なる種類の照明、例えば走査照明、パルス照明又は時間変調照明を用いて実行することも可能である。より正確には、励起照明及び強化照明は、異なる種類のものであり得るか、同時に実行され得るか、又は同時に実行されなくてもよい。少なくとも1つの照明が走査照明である実施形態では、対応する照明エリアは、前記走査照明によってカバーされるエリアとして理解されたい。
【0102】
上述した幾つかの例は、半減期T1/2である固有周期に関連するが、本発明は、異なる固有周期、例えば蛍光シグナルが値の10%を失う周期T0,1又は蛍光シグナルが値の90%を失う周期T0,9を用いて実行することも可能である。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光顕微鏡技法に従い、蛍光タンパク質の幾つかの分子を含有する試料(2)の蛍光顕微鏡法で使用されるとき、前記蛍光タンパク質の光抵抗性を強化する方法であって、
- 前記蛍光顕微鏡技法に従い、且つ10kW/cm
2未満の所与の励起強度I
eを用いて、前記蛍光タンパク質の吸収帯域内の励起波長λ
eの励起光ビーム(4)で前記試料の少なくとも領域を照明することと、
- 強化強度I
+及び強化波長λ
+を有する強化光ビーム(6)で前記試料(2)の前記同じ領域を少なくとも部分的に照明することと
を含み、
- 前記強化強度I
+は、前記励起強度(I
e)以上であり、
- 前記強化波長λ
+は、前記励起波長λ
eよりも高く、
- 前記強化波長λ
+は、比率T
γ(λ)=P
12,γ(λ)/P
1,γが1+(T
max-1)/2よりも高いように選択され、式中、
- T
maxは、前記比率T
γ(λ)の最大値であり、
- P
1,γは、波長λ
e及び強度I
eの前記単独励起光ビームの固有周期であって、その後に、前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- P
12,γ(λ)は、波長λ
+及び強度I
+の前記強化照明並びに波長λ
e及び強度I
eの前記励起照明の両方の固有周期であって、その後に、前記蛍光タンパク質によって放出される前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- γは、1未満である、方法。
【請求項2】
前記強化波長は、前記比率T
γ(λ)を最大化するように選択された最適強化波長である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記強化照明は、T
γ’(2I)≦αT
γ’(I)に関して前記強化強度I
+の最小値である最適強化強度で行われ、式中、
- αは、2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.1に等しく、
- T
γ’(I)=P
12,γ’(I)/P
1,γであり、式中、
- P
12,γ’(I)は、前記強化波長λ
+及び強度Iでの前記強化照明並びに前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eでの前記励起照明の両方によって照明されるときの固有周期であって、その後に、前記蛍光タンパク質によって放出される前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期である、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
照明周期P
iは、前記単独励起照明によって照明されるとき、前記蛍光タンパク質の半減期P
1/2よりも長く、好ましくは前記半減期P
1/2の3倍よりも長く、より好ましくは前記半減期P
1/2の10倍よりも長い、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記照明周期は、1秒よりも長い、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記励起強度I
eは、1000W.cm
-2以下、好ましくは100W.cm
-2未満である、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記強化強度I
+は、関係:3I
e≦I
+≦100I
eを満たす、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記強化波長(λ
+)は、近赤外線で選択され、好ましくは、前記強化波長λ
+は、700nm~1000nmである、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記励起及び強化照明は、連続照明である、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
前記励起及び強化照明は、同時に行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記照明は、時間変調照明である、請求項
1に記載の方法。
【請求項12】
前記試料は、生存種を含み、且つ非致死温度、好ましくは前記生存種の成長に適合する温度に維持される、請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記強化波長λ
+は、比率R(λ)=[Q
1+2(λ)-Q
2(λ)]/Q
1が1+(R
max-1)/2よりも高いように選択され、式中、
- R
maxは、R(λ)の最大値であり、
- Q
1は、前記励起強度I
eを用いて前記励起照明波長λ
eでの前記単独励起照明によって照明されるとき、照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量であり、
- Q
2(λ)は、前記強化強度I
+において波長λでの前記単独強化照明によって照明されるとき、前記照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量であり、
- Q
1+2(λ)は、前記波長λ及び前記強化強度I
+での前記強化照明並びに前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eでの前記励起照明の両方によって照明されるとき、前記照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量である、請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
請求項
1に記載の方法を、前記蛍光顕微鏡技法を実施する蛍光顕微鏡システム(1)において実施する方法であって、前記システムは、照明系(3、5)であって、各波長λ
e及びλ
+がn個の異なる照明波長λ
kの中から選択され得、且つ各強度I
e及びI
+が、波長λ
kにおいて前記照明系によって到達可能な最大強度I
max(λ
k)以下である少なくとも2つの光ビーム(4、6)を同じ照明領域に送達することが可能な照明系(3、5)を含み、前記方法は、
- 前記蛍光顕微鏡技法に従った所与の強度I
eを用いて、前記蛍光タンパク質の吸収帯域内にあると共に、前記n個の異なる照明波長の中からの励起波長λ
eの励起光ビーム(4)で、前記蛍光タンパク質の幾つかの分子を含有する試料(2)の領域を照明し、且つ照明周期P
i中に前記蛍光タンパク質によって放出される蛍光量を測定すること、
- 強化照明の強化波長λ
+を、
-前記励起波長λ
eよりも高く、且つ前記n個の照明波長の中からの強化波長λ
+
として決定することであって、前記強化波長λ
+は、
- 前記比率T
γ(λ)=P
12,γ(λ)/P
1,γを最大化し、式中、
- P
12-P
1,γは、波長λ
e及び強度I
eの前記単独起光ビームの固有周期であって、その後に、前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
,γ(λ)は、波長λ
+及び強度I
+の前記強化照明並びに波長λ
e及び強度I
eの前記励起照明の両方の固有周期であって、その後に、前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期であり、
- λは、1未満である、決定すること、
- 前記システム(1)を、前記蛍光タンパク質を使用するとき、前記照明系が、少なくとも、
- 前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eを有する励起ビーム(4)、
- 前記強化波長λ
+及び前記強化波長λ
+で到達可能な最大強化強度I
max(λ
+)を有する強化ビーム(6)
を送達するように設定すること
を含む、方法。
【請求項15】
T
γ’(2I)≦αT
γ’(I)に関して前記強化強度I
+の最小値として最適強化強度I
+を選択することであって、式中、
- αは、2以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.1に等しく、
- T
γ’(I)=P
12,γ’(I)/P
1,γであり、式中、
- P
12,γ’(I)は、前記強化波長λ
+及び強度Iでの前記強化照明並びに前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eでの前記励起照明の両方によって照明されるときの固有周期であって、その後に、前記蛍光シグナルがその初期値の1/γに減衰している、固有周期である、選択すること、
- 前記システム(1)を、前記照明系(3、5)が、少なくとも、
- 前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eを有する励起ビーム(4)、
- 前記最適強化波長λ
+及び前記最適強化強度I
+を有する強化ビーム(6)
を送達するように設定すること
を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項
14に記載の方法を実施するのに適した蛍光顕微鏡システムであって、少なくとも、
- 前記励起波長λ
e及び前記励起強度I
eを有する励起ビーム(4)、
- 前記強化波長λ
+及び前記強化強度I
+を有する強化ビーム(6)
を同じ領域に送達することが可能な照明系(3、5)を含む蛍光顕微鏡システム。
【請求項17】
前記照明系(3、5)は、少なくとも2つの光源(3、5)であって、1つは、少なくとも700nm~1000nmで調整可能な強化波長λ
+及び少なくとも20W.cm
-2~10kW.cm
-2で調整可能な強化強度I
+での強化照明を送達することが可能である調整可能な光源(5)である、少なくとも2つの光源(3、5)を含む、請求項16に記載の蛍光顕微鏡システム。
【国際調査報告】