IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジョンソン、マッセイ、フュエル、セルズ、リミテッドの特許一覧

<>
  • 特表-酸素発生反応触媒 図1
  • 特表-酸素発生反応触媒 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】酸素発生反応触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20240730BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240730BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240730BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20240730BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240730BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240730BHJP
   B01J 35/70 20240101ALI20240730BHJP
   B01J 23/648 20060101ALI20240730BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/88 K
H01M8/10 101
B01J37/00 F
B01J37/08
B01J37/04 102
B01J35/70
B01J23/648 M
H01M4/92
H01M4/90 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578083
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 GB2022051869
(87)【国際公開番号】W WO2023002177
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】2110478.1
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレイク、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】バートン、サラ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ、トーマス ロバートソン
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA14
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC56A
4G169BC56B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC73A
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BC75A
4G169CB81
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EB18Y
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FB30
4G169FB63
4G169FB78
4G169FC07
4G169FC08
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB08
5H018DD08
5H018EE12
5H018HH02
5H018HH05
5H018HH08
5H126AA05
5H126BB06
5H126FF04
5H126FF05
5H126GG12
5H126HH01
5H126JJ02
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
本発明は、酸素発生反応触媒であって、酸素発生反応触媒が、イリジウム、タンタル、及びルテニウムを含む酸化物材料であり、酸素発生触媒が、ルチル結晶構造を有する結晶質酸化物相を含み、結晶質酸化物相が、4.510Åより大きい格子定数aを有する、酸素発生反応触媒を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素発生反応触媒であって、前記酸素発生反応触媒が、イリジウム、タンタル、及びルテニウムを含む酸化物材料であり、
前記酸素発生触媒が、ルチル結晶構造を有する結晶質酸化物相を含み、
前記結晶質酸化物相が、4.510Åより大きい格子定数aを有する、酸素発生反応触媒。
【請求項2】
ルテニウムが、前記酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子百分率に基づいて、1~15原子%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の酸素発生反応。
【請求項3】
前記酸素発生反応触媒が、少なくとも30m/gのBET表面積を有する、請求項1又は2に記載の酸素発生反応触媒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の酸素発生反応触媒の合成方法であって、
イリジウム、タンタル、及びルテニウムの化合物の水溶液を提供する工程と、
前記溶液を噴霧乾燥して、乾燥粉末を形成する工程と、
前記粉末を焼成に供して、それによって前記酸素発生反応触媒を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項5】
イリジウム、タンタル、及びルテニウムの化合物の水溶液を提供する前記工程が、
イリジウムの化合物及びルテニウムの化合物の水溶液を提供するサブ工程と、
前記水溶液をタンタルの化合物の水溶液と混合するサブ工程と、を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イリジウム、タンタル、及びルテニウムの化合物の前記水溶液が、5~7:2~4:0.5~1.5のIr:Ta:Ruのモル比を有する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
焼成が、400℃~800℃の範囲の温度で実行される、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の酸素発生反応触媒と、第2の電極触媒材料と、を含む、触媒層。
【請求項9】
カソード層が、アノード触媒層、任意選択的にプロトン交換膜燃料電池のためのアノード触媒層である、請求項8に記載の触媒層。
【請求項10】
前記第2の電極触媒材料が、
白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウム)、
金若しくは銀、
卑金属、又は
これらの金属若しくはこれらの酸化物のうちの1つ以上を含む合金若しくは混合物から選択される、請求項8又は9に記載の触媒層。
【請求項11】
前記触媒層中の前記酸素発生反応触媒と、前記第2の電極触媒材料との重量比が、10:1~1:10である、請求項8~10のいずれか一項に記載の触媒層。
【請求項12】
ガス拡散層と、請求項8~11のいずれか一項に記載の触媒層と、を含む、ガス拡散電極。
【請求項13】
イオン伝導性膜と、請求項8~11のいずれか一項に記載の触媒層と、を含む触媒膜。
【請求項14】
請求項8~11のいずれか一項に記載の触媒層、請求項12に記載のガス拡散電極、又は請求項13に記載の触媒膜を含む、膜電極アセンブリ。
【請求項15】
請求項8~11のいずれか一項に記載の触媒層、請求項12に記載のガス拡散電極、請求項13に記載の触媒膜、又は請求項14に記載の膜電極アセンブリを含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生反応触媒に関し、具体的には、排他的ではないが、電気化学燃料電池における使用に好適な三元酸化物触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を含む電気化学電池である。燃料、例えば、水素、メタノール若しくはエタノールなどのアルコール、又はギ酸が、アノードに供給され、酸化剤、例えば、酸素又は空気が、カソードに供給される。電気化学反応が電極で発生し、燃料及び酸化剤の化学エネルギーが電気エネルギー及び熱に変換される。電解触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化、及びカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は、通常、用いられる電解質の性質に応じて分類される。多くの場合、電解質は固体ポリマー膜であり、この膜は、電子的に絶縁性であるがイオン伝導性である。プロトン交換膜燃料電池において、膜はプロトン伝導性であり、アノードで生成されたプロトンは、膜を介してカソードに輸送され、そこで酸素と結合して水を形成する。
【0004】
プロトン交換膜燃料電池の主要構成要素は、本質的に5つの層から構成される膜電極接合体である。中心層は、ポリマーイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜のいずれかの側には、特定の電解反応用に設計された電極触媒を含有する電極触媒層が存在する。最後に、各電解触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電解触媒層に到達することを可能にする必要があり、電気化学反応によって生成される電流を伝導する必要がある。したがって、ガス拡散層は、多孔質であり、導電性である必要がある。膜電極接合体は、いくつかの方法によって構築され得る。電極触媒層がガス拡散層に適用されて、ガス拡散電極を形成し得る。2つのガス拡散電極がイオン伝導性膜の両側に配置され、一緒に積層されて、5層膜電極接合体を形成し得る。代替的に、電極触媒層がイオン伝導性膜の両面に適用されて、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成し得る。続いて、ガス拡散層が触媒コーティングされたイオン伝導性膜の両面に適用される。最後に、膜電極接合体は、片側上に電極触媒層でコーティングされたイオン伝導性膜、その電極触媒層に隣接するガス拡散層、及びイオン伝導性膜の反対側上のガス拡散電極から形成され得る。
【0005】
典型的には、大部分の用途に十分な電力を提供するには、数十又は数百の膜電極接合体が必要とされるので、燃料電池スタックを構成するための複数の膜電極接合体が接合される。フィールドフロープレートを使用して、膜電極接合体を分離する。プレートは、いくつかの機能:反応物質を膜電極接合体に供給することと、生成物を除去することと、電気的接続を提供することと、物理的担持体を提供することと、を実行する。
【0006】
アノード又はカソードのいずれかで水電気分解触媒を燃料電池に組み込むことが有益であることが証明し得る多くの状況が存在することが知られている。例えば、国際公開第01/15247号は、水を電気分解する目的で、アノードにおいて追加の又は第2の触媒組成物を組み込むことが、電池電圧の反転に対する燃料電池の耐性をどのように改善し得るかを記載している。電池電圧の反転は、電池が不十分な燃料の供給を受けた場合に(例えば、燃料欠乏の結果として)発生し得る。これが発生する場合、水の電気分解及びアノード構成要素の酸化を含む、燃料酸化以外の反応が燃料電池アノードにおいて行われ得る。アノード構成要素の酸化は、アノードの有意な劣化をもたらし得るので望ましくない。酸素発生反応を促進するアノードでの触媒組成物の組み込みによって、アノード構成要素の酸化よりも水の電気分解を促進することによって、アノードの劣化が低減又は回避され得る。
【0007】
水の電気分解の促進が有益であり得る状況の別の例は、シャットダウン中、又は電池がしばらくの間アイドル状態であった後に再始動する場合に、窒素などの不活性ガスを用いてアノードガス空間から水素をパージすることが実用的又は経済的でもない燃料電池の場合である。これらの状況は両方とも、空気がカソード上に存在する一方で、アノード上に水素と空気との混合組成物をもたらし得る。これらの状況下では、Tangら(Journal of Power Sources 158(2006)1306-1312)によって記載されているように、内部電池が存在し得、これは、カソード上に高電位をもたらす。高電位は、触媒層が炭素を含有する場合、触媒層の構造に非常に損傷を与える炭素の酸化を引き起こし得る。しかしながら、カソード層が酸素発生をサポートし得る場合、高電位は、炭素の腐食ではなく、水の電気分解を推進するのに使用され得る。
【0008】
最後に、再生燃料電池では、電極は、二機能性であり、アノード及びカソードの両方が、異なる時間に2つの電気化学反応の種類をサポートしなければならない。燃料電池として動作する場合、カソードは、酸素を還元しなければならず、アノードは水素を酸化する。電解槽として動作する場合、カソードは、水素を発生しなければならず、アノードは酸素を発生する。したがって、従来の水素酸化反応触媒及び酸素発生反応触媒の両方を、このような燃料電池のアノードに組み込むことが有益であり得、なぜなら、このような配置では、アノードは、水素酸化反応及び酸素発生反応の両方を効果的に実行し得るからである。
【0009】
酸素発生反応のための様々な電極触媒が当該技術分野において知られている。例えば、国際公開第11/021034号は、電極触媒と酸素発生反応触媒とを含む触媒層を開示しており、酸素発生反応触媒は、イリジウム又は酸化イリジウムと、1つ以上の金属M又はその酸化物とを含み、Mは、ルテニウムを除く遷移金属及びSnからなる群から選択される。
【0010】
しかしながら、改善された酸素発生反応触媒を提供することが望ましく、特に、繰り返される反転事象中の膜電極接合体の安定性を改善し得る触媒を提供することが望ましい。更に、イリジウムは、希少であり、高価になる可能性があるので、既知の触媒と同様の性能を示すが、より少ないイリジウムを使用する触媒材料を提供することが望ましいであろう。
【0011】
本発明は、上記の考慮事項に照らして考案されている。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、三元酸化物が上で記載された問題のうちの1つ以上を克服し得ることを見出した。
【0013】
したがって、第1の態様では、本発明は、酸素発生反応触媒であって、酸素発生反応触媒が、イリジウム、タンタル、及びルテニウムを含む酸化物材料であり、
酸素発生触媒が、ルチル結晶構造を有する結晶質酸化物相を含み、
結晶質酸化物相が、4.510Åより大きい格子定数aを有する、酸素発生反応触媒を提供する。
【0014】
イリジウムは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子組成に基づいて、50~80原子%の範囲の量で存在し得る。好ましくは、イリジウムは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子組成に基づいて、70原子%未満、より好ましくは最大で65原子%の量で存在する。
【0015】
タンタルは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子組成に基づいて、10~40原子%の範囲の量で存在し得る。好ましくは、タンタルは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子百分率に基づいて、少なくとも15原子%の量で存在する。好ましくは、タンタルは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子組成に基づいて、最大で35原子%の量で存在する。
【0016】
ルテニウムは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子百分率に基づいて、1~20原子%の範囲の量で存在し得る。好ましくは、ルテニウムは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種、及びルテニウム種の総原子百分率に基づいて、少なくとも5原子%の量で存在する。好ましくは、ルテニウムは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種、タンタル種及びルテニウム種の総原子組成に基づいて、最大で15原子%の量で存在する。
【0017】
イリジウム、タンタル、及びルテニウムの量は、材料の調製に含まれるイリジウム、タンタル、及びルテニウムのモル量によって決定され、誘導結合プラズマ質量分析(inductively coupled plasma mass spectrometry、ICPMS)を使用して確認され得る。
【0018】
本発明者らは、上で記載されたような組成を有する酸素発生反応触媒が、いくつかの既知の酸素発生反応触媒と比較して、増加した安定性を提供し、イリジウムを節約しながら、好適な活性を有する膜電極接合体を提供し得ることを見出した。特に、IrTa系材料又はRuIr系材料などの二元混合金属酸化物の酸素発生反応触媒と比較する場合。
【0019】
酸素発生反応触媒は、イリジウム、タンタル、及びルテニウム以外の金属種を、例えば、酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて、最大で5原子%、好適には、酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて、最大で1原子%の量で、任意選択的に含み得る。好ましくは、イリジウム、タンタル、及びルテニウムは、酸素発生反応触媒中に存在する金属種の実質的に全てを構成する。言い換えれば、酸素発生反応触媒中の金属種は、イリジウム、タンタル、及びルテニウムから本質的になるか又は、好ましくはこれらからなる。イリジウム、タンタル、及びルテニウムの合計と酸素との比は、典型的には、約1:2である。酸素発生反応触媒は、金属的形態での金属種を、例えば、酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて、最大で5原子%、好適には酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて、最大で1原子%の量で、任意選択的に含み得る。金属的形態でのこのような金属種は、イリジウム及び/又はタンタルを含み得る。
【0020】
結晶質酸化物相は、ルチルMO(Mは、金属種である)構造を有する。相同定は、X線回折パターンを、PDF-4+データベース(2021リリース)を参照して比較することによって実行される。材料は、ルチルMO相に一致する反射強度を有するが、IrOに一致しない反射位置を有する単一結晶質酸化物相を含有する。言い換えれば、結晶質酸化物相は、イリジウム、タンタル、及びルテニウムを含む単一酸化物構造であり得る。結晶質酸化物相は、IrTaRu(式中、x+y+z=1)として記載され得る。例えば、xは、0.50~0.70であり得、yは、0.20~0.40であり得、zは、0.05~0.15であり得る。特に、xは、0.55~0.65であり得、yは、0.25~0.35であり得、zは、0.08~0.12であり得る。
【0021】
結晶質酸化物相の格子定数aは、好ましくは4.550Åより大きい。格子定数aの上限は、特に限定されないが、aは、典型的には4.800Å未満、好ましくは4.750Å未満、より好ましくは4.650Å未満である。例えば、格子定数aは、約4.567Åであり得る。結晶質酸化物相の格子定数cは、3.120Åより大きくてもよく、好ましくは3.140Åより大きくてもよい。格子定数cの上限は、特に限定されないが、cは、典型的には3.180Å未満、好適には3.160Å未満である。例えば、格子定数cは、約3.158Åであり得る。格子定数a及びcに提供される値は、周囲温度、すなわち約25℃で得られる。粉末X線回折(Powder X-ray diffraction、PXRD)データは、Bruker AXS D8回折計を使用し、CuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を使用して、10<2θ<130°の範囲にわたって0.04°工程で、反射幾何学的配置において収集される。格子定数を抽出するために、NIST660 LaBから収集された参照データを用いて、基本パラメータ手法[2]を使用して、反射プロファイルをモデル化し、Topas[1]を使用してPawley精密化が実行される。P4/mnm(IrOと同じ空間群)におけるPawleyモデルを使用して、データを20~77°2Θに適合させて、格子定数を抽出する。比較のために、ルチル結晶相パラメータは、IrO(a=0.4498nm)及びRuO(a=0.4491nm)について記載された。
【0022】
結晶質酸化物相は、6.0nm~16.0nm、好適には8.0nm~14.0nm、好ましくは10.0nm~12.0nmの範囲の、(011)hkl反射から計算された結晶子径を有し得る。粉末X線回折(PXRD)データは、Bruker AXS D8回折計を使用し、CuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を使用して、10<2θ<130°の範囲にわたって0.04°工程で、反射幾何学的配置において収集された。ピーク相精密化は、NIST660 LaBから収集された参照データを用いて、基本パラメータ手法[2]を使用して、反射プロファイルをモデル化し、Topas[1]を使用して実行される。ルチル相からの反射を、独立したサンプルのブロードニングを有する一連のピークを使用して適合させて、結晶学的平面に沿った結晶子径を得た。結晶子径は、体積加重カラム高さLVol-IB法を使用して計算される。[3]
【0023】
酸素発生反応触媒は、非晶質相、好適には非晶質酸化物相、例えばタンタルの酸化物、典型的には五酸化タンタルTaを含み得る。しかしながら、酸化物材料は、大部分が結晶質酸化物相である。好適には、酸素発生反応触媒の結晶化度、すなわち結晶質酸化物相と非晶質相との面積比は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%である。粉末X線回折(PXRD)データは、Bruker AXS D8回折計を使用し、CuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を使用して、10<2θ<130°の範囲にわたって0.04°工程で、反射幾何学的配置において収集された。結晶化度の決定のために、結晶質酸化物相及び非晶質相からのX線散乱データを、20~77°2Θに適合させる。結晶質相からの、かつ総X線散乱からの寄与をモデル化するピークからの合計面積を使用して、散乱百分率を計算する。最も好ましくは、酸化物材料の実質的に全てが、結晶質酸化物相である。
【0024】
酸素発生反応触媒は、ISO規格9277:2010(en)に準拠して、77KでのN吸着等温線に基づいて決定されるような、少なくとも30m/gのBET表面積を有し得る。好ましくは、BET表面積は、少なくとも35m/g、より好ましくは少なくとも40m/gである。増加したBET表面積を提供することによって、材料の触媒性能が改善され得る。表面積の上限は、特に限定されないが、例としては、200m/gである。
【0025】
第2の態様では、本発明は、本発明による酸素発生反応触媒の合成方法であって、
イリジウム、タンタル、及びルテニウムの化合物の水溶液を提供する工程と、
溶液を噴霧乾燥して、乾燥粉末を形成する工程と、
当該粉末を焼成に供して、それによって酸素発生反応触媒を形成する工程と、を含む、方法を提供する。
【0026】
イリジウム、タンタル、及びルテニウムの化合物の水溶液を提供する工程は、
イリジウムの化合物及びルテニウムの化合物の水溶液を提供するサブ工程と、
当該水溶液をタンタルの化合物の水溶液と混合するサブ工程と、を含み得る。
【0027】
イリジウム化合物、タンタル化合物、及びルテニウム化合物は、イリジウム対タンタル対ルテニウムの所望の比、例えば、約6:3:1のIr:Ta:Ruのモル比を与えるのに好適な量で提供され得る。酸素発生反応触媒の作製において、焼成工程が使用される。焼成工程は、単一焼成工程であり得る。代替的に、2段階焼成プロセスが使用され得、粉末は、第1の特定時間、焼成に供され、続いて、第2の特定時間、更なる焼成に供される。第1及び第2の焼成工程は、同じ温度で行われ得るか、又は異なる温度で行われ得る。単一焼成工程及び特定の焼成時間は、約400℃~約800℃、好ましくは約500℃~約700℃の温度で実行され得る。第1及び第2の時間は、同じであり得るか、又は異なり得る。単一焼成工程の長さ、焼成のための第1の特定時間及び第2の特定時間は、好適には1時間以上、典型的には3時間以上であり得る。単一焼成工程の長さ、焼成のための第1の特定時間及び第2の特定時間は、好適には最大で10時間であり得る。
【0028】
任意選択的に、追加の処理工程が、第1の焼成工程と第2の焼成工程との間で実行され得、例えば、粉末は、撹拌又は粉砕され得る。これは、第2の焼成工程の前に、凝集体が破壊され得、より均一な焼成を可能にするという利点を有する。しかしながら、第1及び第2の焼成工程は、連続して実行され得、第1の焼成工程と第2の焼成工程との間に更なる処理工程は実行されない。
【0029】
焼成は、好適なガス雰囲気中、例えば、空気、N、Ar、He、CO、CO、O、H、及びこれらの混合物中で実行され得る。好ましくは、焼成は、空気雰囲気中で実行される。
【0030】
本発明の酸素発生反応触媒は、様々な電気化学用途において用途を見出し得る。しかしながら、1つの特に好ましい用途は、電気化学燃料電池においてである。
【0031】
第3の態様では、本発明は、本発明による酸素発生反応触媒と第2の電極触媒材料とを含む触媒層を提供する。この場合、本発明の酸素発生反応触媒は、第1の電極触媒である。
【0032】
第2の電極触媒材料は、好適には、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウム)、
(ii)金若しくは銀、
(iii)卑金属、
又はこれらの金属若しくはこれらの酸化物のうちの1つ以上を含む合金若しくは混合物から選択され得る。卑金属は、貴金属ではないスズ又は遷移金属である。貴金属は、白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、若しくはオスミウム)、又は金である。好ましい卑金属は、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉄、チタン、モリブデン、バナジウム、マンガン、ニオブ、タンタル、クロム、及びスズである。
【0033】
第2の電極触媒材料は、好ましくは、イリジウム又はタンタルを含まない。好ましくは、第2の電極触媒材料は、燃料電池のアノード又はカソード、好ましくはアノード、電極触媒材料である。典型的には、第2の電極触媒材料は、イリジウム以外の白金族金属、又はイリジウム以外の白金族金属の合金、好ましくは卑金属、好ましくは上で定義されたような卑金属を含む。特に、第2の電極触媒材料は、白金、又は白金と卑金属、好ましくは上で定義されたような卑金属、より好ましくはチタン、バナジウム、クロム、ニオブ、又はタンタルとの合金を含む。代替的に、好ましくは、第2の電極触媒材料は、白金と別の白金族金属、好ましくはロジウム又はルテニウムとの合金を含み得る。
【0034】
好ましくは、触媒層は、アノード触媒層、好ましくはプロトン交換膜燃料電池のためのアノード触媒層である。
【0035】
触媒層中の第2の電極触媒材料の第1次金属、例えば、本明細書で定義されるような白金族金属の担持量は、触媒層の意図される用途に基づいて、特に、触媒層がアノードでの使用が意図されているか、又はカソードでの使用が意図されているかに基づいて選択され得る。アノード、好ましくはプロトン交換膜燃料電池のために使用する場合、触媒層における第1次金属、例えば本明細書で定義されるような白金族金属の担持量は、好適には0.02~0.2mg/cm、典型的には0.02~0.15mg/cm、好ましくは0.02~0.1mg/cmであり得る。
【0036】
第2の電極触媒材料は、担持され得るか、又は担持され得ない粒子の形態であることが好ましい。「担持される」という用語は、当業者によって容易に理解されるであろう。例えば、「担持される」という用語は、電極触媒粒子が担持材料上に分散されており、かつ物理的又は化学的結合によって担持材料に結合又は固定されていることを意味することが理解される。例えば、電解触媒は、イオン結合若しくは共有結合、又はファンデルワールス力などの非特異的相互作用によって担持材料に結合又は固定されてもよい。
【0037】
本発明の酸素発生反応触媒は、担持され得るか又は担持され得ない、好ましくは担持され得ない粒子の形態であることが好ましい。本発明の酸素発生反応触媒は、好ましくは、触媒層中で分散された粒子の形態である。
【0038】
粒子が担持される場合、担体材料は、電気伝導性炭素担持材料であり得る。好適には、担持材料は、例えば、カーボンブラック又はグラファイト化カーボンブラック、例えば市販のカーボンブラック(Cabot Corp.(Vulcan(登録商標)XC72R)又はAkzo Nobel(Ketjen(登録商標)ブラックシリーズ)など)であり得る炭素粉末である。別の好適な炭素担持材料は、アセチレンブラック(例えば、Chevron Phillips(Shawinigan Black(登録商標))又はDenkaから入手可能なもの)である。担持材料はまた、国際公開第2013/045894号に記載されているものなど、燃料電池において使用するために具体的に設計された電気伝導性炭素担持材料であり得る。代替的に、担持材料は、非炭素質材料であり得る。このような担持材料の例としては、チタニア、ニオビア、タンタラ、炭化タングステン、酸化ハフニウム、又は酸化タングステンが挙げられる。このような酸化物及び炭化物はまた、その電気伝導性を高めるために他の金属でドープされ得、例えばニオブをドープしたチタニアである。
【0039】
本発明の酸素発生反応触媒及び第2の電極触媒材料は、同じ担持材料又は異なる担持材料上に担持され得る。
【0040】
触媒層における本発明の酸素発生反応触媒と第2の電極触媒材料との重量比は、10:1~1:10であり得る。重量比は、触媒層がアノードでの使用が意図されているか、又はカソードでの使用が意図されているかに応じて選択され得る。好ましくはプロトン交換膜燃料電池のためのアノード触媒層の場合、重量比は、好適には少なくとも0.5:1、好ましくは少なくとも0.75:1である。重量比は、好適には最大で10:1、好ましくは最大で5:1、より好ましくは最大で2:1、更により好ましくは最大で1:1である。好ましくはプロトン交換膜燃料電池のためのカソード触媒層の場合、重量比は、好適には1:1~1:10、好ましくは1:2~1:5である。
【0041】
触媒層は、本発明による酸素発生反応触媒及び第2の電極触媒材料に加えて、更なる構成要素を含み得る。このような成分としては、層内のイオン伝導性を改善するために含まれるプロトン伝導性ポリマーなどのイオン伝導性ポリマー、過酸化水素分解触媒、反応物及び水輸送特性を制御するための疎水性添加剤(例えば、表面処理を伴うか又は伴わない、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)又は無機固体などのポリマー)又は親水性添加剤(例えば、酸化物などのポリマー又は無機固体)が挙げられ得るが、これらに限定されない。追加成分の選択は、触媒層がアノード又はカソードで使用されるかどうかに依存し、それは、どの追加の成分が適切であるかを決定するための当業者の能力の範囲内である。
【0042】
触媒層を調製するために、担持された又は担持されていない本発明の酸素発生反応触媒、及び担持された又は担持されていない第2の電極触媒材料、並びに任意の追加の成分が、水性溶媒及び/又は有機溶媒中に分散して、触媒インクを調製し得る。必要に応じて、高剪断混合、ミリング、ボールミリング、マイクロフルイダイザーの通過など、又はこれらの組み合わせなどの、当該技術分野において既知の方法によって粒子の破壊が実行され、好適な粒径分布を達成し得る。触媒インクの調製後、インクが基材(例えば、ガス拡散層、イオン伝導性膜、又は担体/転写基材)上に堆積して、触媒層を形成し得る。グラビアコーティング、スロットダイ(スロット、押出)コーティング、スクリーンプリント、ロータリスクリーンプリント、インクジェットプリント、スプレー、塗装、バーコーティング、パッドコーティング、ナイフ又はドクターブレードオーバーロールなどのギャップコーティング技術、及び計量ロッドの適用を含むが、これらに限定されない、当該技術分野において既知の任意の好適な技術によって、インクを堆積してもよい。
【0043】
触媒インクが担体/転写基材上にコーティングすることによって、担体/転写基材上に触媒層が堆積されると、触媒担体/転写基材を形成する。担体/転写基材は、後続の工程で層から除去されることが意図される。例えば、触媒層は、デカール転写によって、ガス拡散層又はイオン伝導性膜に転写されてもよく、担体/転写基材は、転写プロセスの直後、又はその後のある時点で除去される。
【0044】
担体/転写基材を除去する前に、追加の層を触媒層の露出面上に堆積させることができ、例えば、イオン伝導性アイオノマー層は、触媒層の堆積に関して上述したように既知の任意の好適な堆積技術を使用して、アイオノマーの分散液から適用されてもよい。例えば、国際出願第GB2015/050864号に記載されているように、必要に応じて更なる追加の層を追加することができる。担体/転写基材は、適切な時間に触媒層から除去される。担体/転写基材は、触媒層が損傷することなく除去することができる任意の好適な材料から形成され得る。好適な材料の例としては、フルオロポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ethylene tetrafluoroethylene、ETFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー(perfluoroalkoxy polymer、PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP-ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー)、及びポリオレフィン、例えば、二軸延伸ポリプロピレン(biaxially oriented polypropylene、BOPP)が挙げられる。
【0045】
触媒層の特性、例えば厚さ、電極触媒の担持量、多孔率、細孔径分布、平均細孔径、及び疎水性は、それがアノード又はカソードのどちらで使用されているかによって異なる。触媒層の厚さは、好適には少なくとも1μm、典型的には少なくとも5μmであり得る。触媒層の厚さは、好適には15μm以下、典型的には10μm以下であり得る。
【0046】
第4の態様では、本発明は、第3の態様によるガス拡散層及び触媒層を含むガス拡散電極を提供する。
【0047】
好ましくは、触媒層は、ガス拡散層に直接隣接している。これは、例えば触媒層をガス拡散層上に直接堆積させることによって、達成され得る。ガス拡散層は、従来のガス拡散基材をベースとし得る、又はそれらを含み得る。典型的な基材としては、炭素繊維のネットワーク及び熱硬化性樹脂結合剤を含む不織紙若しくはウェブ(例えば、Toray Industries Inc.,Japanから入手可能な炭素繊維紙のTGP-Hシリーズ、若しくはFreudenberg FCCT KG、Germanyから入手可能なH2315シリーズ、若しくはSGL Technologies GmbH、Germanyから入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ、若しくはBallard Power Systems Inc.のAvCarb(登録商標)シリーズ)、又は炭素織布が挙げられる。カーボン紙、ウェブ、又は布は、電極の製作前に前処理を施し、それをより湿潤性(親水性)又はより耐湿潤性(疎水性)のいずれかにするために膜電極接合体に組み込まれ得る。任意の処理の性質は、燃料電池の種類及び使用される動作条件に依存する。基材は、液体懸濁液からの含浸による非晶質カーボンブラックなどの材料を組み込むことにより、湿潤性を高めることができ、又はPTFE若しくはポリフルオロエチレンプロピレン(polyfluoroethylenepropylene、FEP)などのポリマーのコロイド懸濁液で基材の細孔構造を含浸させ、続いてポリマーの融点を超えて乾燥及び加熱することによって、疎水性を高めることができる。プロトン交換膜燃料電池などの用途の場合、微多孔質層も、触媒層に接触する面上のガス拡散基材に適用され得る。微多孔質層は、典型的には、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマーとの混合物を含む。
【0048】
第5の態様では、本発明は、第3の態様によるイオン伝導性膜及び触媒層を含む触媒膜を提供する。
【0049】
ここで、触媒インクの膜上への直接コーティング、又は担体若しくは転写基材からの間接転写によって、触媒層がイオン伝導性膜上に堆積して、触媒コーティングされた膜を形成する。イオン伝導性膜は、プロトン交換膜燃料電池における使用に好適な任意の膜であり得、例えば、膜は、Nafion(商標)(Chemours Company)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymers)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Group)、及びAciplex(商標)(Asahi Kasei Chemicals Corp.)などのパーフルオロ化スルホン酸材料をベースとしたものであり得る。代替的に、膜は、FuMA-Tech GmbHからfumapem(登録商標)P、E又はKシリーズの製品として入手可能なもの、JSR、東洋紡、及び他の企業から入手可能なものなどの、スルホン化炭化水素膜をベースとしたものであってもよい。代替的に、膜は、120℃~180℃の範囲で動作するリン酸でドープされたポリベンゾイミダゾールをベースとしたものであってもよい。
【0050】
イオン伝導性膜構成要素は、イオン伝導性膜構成要素に機械的強度を付与する1つ以上の材料を含んでもよい。例えば、イオン伝導性膜構成要素は、膨張PTFE材料又はナノファイバーネットワーク、例えば、電界紡糸ファイバーネットワークなどの多孔質補強材料を含んでもよい。
【0051】
イオン伝導性膜は、膜の片面若しくは両面上の層として、又は膜内に埋め込まれた層として、層全体を通して又は層内に均一に分散されて、1つ以上の過酸化水素分解触媒を含んでもよい。使用に好適な過酸化水素分解触媒の例は、当業者に既知であり、酸化セリウム、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、及び酸化ランタンなどの金属酸化物、好適には、酸化セリウム、酸化マンガン又は酸化チタン、好ましくは、二酸化セリウム(セリア)が挙げられる。
【0052】
イオン伝導性膜構成要素は、任意選択的に、再結合触媒、特に、アノード及びカソードからそれぞれ膜に拡散して、水を生成し得る未反応のH及びOの再結合のための触媒を含み得る。好適な再結合触媒は、高表面積酸化物担体材料(シリカ、チタニア、ジルコニアなど)上に金属(例えば白金)を含む。再結合触媒の更なる例は、欧州特許第0631337号、及び国際公開第00/24074号に開示されている。
【0053】
第6の態様では、本発明は、第3の態様による触媒層、第4の態様によるガス拡散電極、又は第5の態様による触媒膜を含む膜電極接合体を提供する。
【0054】
当業者であれば理解するように、膜電極接合体は、少なくとも1つの触媒層を含有するという条件で、いくつかの方法によって構築され得る。例えば、膜電極接合体は、少なくとも1つが本発明の触媒層である、2つの触媒層を含む触媒コーティングされたイオン伝導性膜を含み得、ガス拡散層は、各触媒層に適用される。代替的に、膜電極接合体は、2つのガス拡散電極の間に挟まれたイオン伝導性膜を含み得、2つのガス拡散電極のうちの少なくとも1つは、本発明のガス拡散電極である。膜電極接合体はまた、1つの触媒層を有する触媒コーティングされたイオン伝導性膜と、イオン伝導性膜の反対面上にガス拡散電極と、を含み得、触媒層及びガス拡散電極のいずれか又は両方は、本発明のものである。
【0055】
本発明の触媒層、ガス拡散電極、触媒膜、及び膜電極接合体が使用され得る電気化学デバイスとしては、燃料電池、特にプロトン交換膜が挙げられる。したがって、第7の態様では、本発明は、第3の態様による触媒層、第4の態様によるガス拡散電極、第5の態様による触媒膜、又は第6の態様による膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。本発明の燃料電池は、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池である。
【0056】
プロトン交換膜燃料電池は、アノードにおいて水素又は水素を多く含む燃料で動作し得るか、又はメタノールなどの炭化水素燃料で燃料供給され得る。本発明の触媒層、ガス拡散電極、触媒膜、及び膜電極接合体は、膜がプロトン以外の電荷担体を使用する燃料電池においても使用され得、例えば、Solvay Solexis S.p.A、FuMA-Tech GmbHから入手可能ものなどのOH伝導性膜が挙げられる。
【0057】
本発明の触媒層及びガス拡散電極は、水性酸及びアルカリ性溶液又は濃リン酸などの液体イオン伝導性電解質を用いる他の低温燃料電池においても使用され得る。本発明の触媒層、ガス拡散電極、触媒膜、及び膜電極接合体が使用され得る他の電気化学デバイスは、水素酸化反応及び酸素発生反応の両方が実行される再生燃料電池のアノード電極としてである。
【0058】
本発明の酸素発生反応触媒は、プロトン交換膜電解槽のアノードにおいても使用され得る。したがって、第8の態様では、本発明は、プロトン交換膜電解槽のためのアノード触媒層を提供し、アノード触媒層は、本発明の酸素発生反応触媒を含む。第9の態様では、本発明は、本発明の第8の態様のアノード触媒層を含むプロトン交換膜電解槽を提供する。当業者であれば、このような触媒層と本発明の第3の態様の触媒層との間には類似点が存在すること、及びプロトン交換膜電解槽のアノードに適合する、本発明の第3の態様の触媒層に関して上で考察された任意の態様が、本発明の第8の態様の触媒層に適用されることを意図していることを理解するであろう。
【0059】
本発明は、そのような組み合わせが明らかに不可欠であるか、又は明示的に回避されることを除いて、記載された態様及び好ましい特徴の組み合わせを含む。具体的には、本発明の任意の態様は、特に文脈が要求しない限り、本発明の任意の他の態様と組み合わされ得る。任意の態様の好ましい又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明の任意の態様と、単一又は組み合わせで、組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本発明の原理を示す実施形態及び実験について、添付の図面を参照してここで考察する。
図1】本発明による酸素発生反応触媒のX線回折パターンを示す。
図2】本発明の酸素発生反応触媒及び比較の酸素発生反応触媒を含有する試験ボタンについての湿潤電池におけるサイクル数に対する電流のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明の態様及び実施形態を、添付の図面及び実施例を参照してここで考察する。更なる態様及び実施形態は、当業者には明らかであろう。本明細書で言及される全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
2つの異なる材料を調製し、特徴付けた。これらのうちの第1のもの(「実施例1」)は、本発明による酸素発生反応触媒である。第2の材料(「比較例1」)は、国際公開第11/021034号に開示されているようなイリジウムタンタル混合酸化物の酸素発生反応触媒である。
【0063】
以下に示され考察されるように、本発明による酸素発生反応触媒は、湿潤電池試験中に比較材料よりもわずかに高い活性を示す一方で、(より低いイリジウム含有量に起因する)イリジウム節約の利益、及び改善された安定性を提供することが見出された。
【0064】
実施例1:三元混合酸化物材料の合成
この実施例による三元混合酸化物の合成方法は、3つの主要な工程に分けられ得る:
1)イリジウム、ルテニウム、及びタンタルの化合物の水溶液を提供する工程、
2)得られた混合物を噴霧乾燥する工程、及び
3)生成物を焼成して、酸素発生反応触媒を形成する工程。
【0065】
TaCl(Alfa Aesar)を、各々約100gmsの密封アンプルで受け取った。これらにスコアをつけ、TaCl粉末をガラスボトルに注いだ。TaClの質量を、+/-0.01gの精度で測定した。200mlの濃HClを測定し、別個のガラスボトルに注いだ。TaClを、濃HCl中一定の撹拌下でゆっくりと溶解した。測定したTaClの質量を使用して、IrClを秤量し、6:3の最終的なIr:Ta比を得た。次いで、それを、1400mlの脱塩HOを含有するビーカー内で一定の撹拌下で溶解した。同様に、RuClを秤量して1:3の最終的なRu:Taを得た。次いで、それをビーカー内の溶液中で溶解した。このプロセスを更に4回繰り返して、200mlの濃HCl中に約100gのTaClを含有する5つの別個のボトルと、Ir:Ta:Ru(6:3:1)のモル比を有するHO中に溶解したIrCl及びRuClを含有する5つの対応するビーカーと、を得た。
【0066】
噴霧乾燥の前に、TaCl(濃HCl中)を、その対応するIrCl及びRuCl(脱塩HO中)溶液と混合し、撹拌した。この混合物を、5mm直径のシリコーン供給チューブ及び1.0mlのノズルを通して供給し、290℃の入口温度、2バールのアトマイザー圧力、9kg/時±0.5kg/時の流量で噴霧乾燥した(GEA-Niro A/Sモバイルユニット噴霧乾燥機)。得られた粉末を粉末ボトルに収集し、このプロセスを各TaCl/IrCl及びRuClの対について繰り返した。
【0067】
乾燥したIr/Ta/Ru塩化物を含有する各粉末ボトルを別個のるつぼに配置し、500℃の温度(10℃/分-1の傾斜率)で6時間焼成した。次いで、粉末を0.08cmのふるいメッシュサイズを用いて14000RPMで粉砕して、凝集体を破壊した。粉砕された粉末を500℃(10℃/分-1の傾斜率)で、追加で6時間更に焼成した。このプロセスを各るつぼについて繰り返し、最終生成物の各々をローラ上でブレンドした。
【0068】
比較例1:二元混合酸化物材料の合成
比較のために、IrTa混合酸化物の酸素発生反応触媒を、国際公開第2011/021034号に開示されているような従来の方法を使用して調製した。焼成を500℃の温度で実行し、イリジウム及びタンタルの原子百分率は、それぞれ70及び30であった。
【0069】
X線回折分析
図1は、実施例1に従って生成された材料のX線回折パターンを示す。
【0070】
X線データ収集
粉末X線回折(PXRD)データを、Bruker AXS D8回折計を使用し、CuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を使用して、10<2θ<130°の範囲にわたって0.04°工程で、反射幾何学的配置において収集した。相同定を、Bruker AXS Diffrac Eva V4.2(2014)を使用して、PDF-4+データベース(2021リリース)を参照して実行した。これは、材料が、ルチルMO相に一致する反射強度を有するが、IrOに一致しない反射位置を有する単一結晶質酸化物相を含有することを示した。
【0071】
サンプル適合
Pawley精密化及びピーク相精密化を、NIST660 LaBから収集された参照データを用いて、基本パラメータ手法[2]を使用して、反射プロファイルをモデル化し、Topas[1]を使用して実行した。P4/mnm(IrOと同じ空間群)におけるPawleyモデルを使用して、データを20~77°2θに適合させて、格子定数を抽出した。ルチル相について、独立したサンプル依存のブロードニングを有する一連のピークを使用して、データを別個に適合させて、結晶学的平面の選択に沿った結晶子径を得た。任意の非晶質材料を、結晶化度の計算を可能にするために、別個の一連のピークを使用して適合させ得る。全ての結晶子径を、体積加重カラム高さLVol-IB法を使用して計算している。[3]
【0072】
表1は、実施例1で収集されたデータから得られた格子定数a及びcを提供する。
【0073】
【表1】
【0074】
表2は、(011)hkl反射から得られた結晶子径を提供する。
【0075】
【表2】
【0076】
湿潤電池試験のためのボタンの調製
100mgの触媒を12重量%のNafion1100水性イオノマー及び20重量%のIPAと混合することによって、各触媒のインクを作製した。続いて、このインクを4gの超純水で希釈し、6%のPTFEでテフロン加工された東レカーボン紙のシート上に直接噴霧した。Fischerscop XDV XRFを使用して測定した場合の触媒の目標担持量は、20 μgIr/cmであった。20mmの円形パンチを使用して、このコーティングされた電極からディスクを切断した。これらの円形電極を1MのHSOの溶液中に浸漬し、真空チャンバに入れ、圧力を400mbarに45分間低減させて、電極を酸で含浸させた。
【0077】
湿式電池イリジウム溶解試験
電極を標準的な3つの電極電気化学電池に金線コネクタを介して作用電極として導入した。電気化学電池は、Pd/C参照電極、Ptメッシュ対向電極を有し、100mlの体積を、加熱水浴によって供給される加熱ジャケットを使用して60℃まで加熱した。電解質を通して窒素ガスを少なくとも20分間バブリングすることによって、電解質から酸素を取り除いた。作用電極の電位を、ポテンシオスタットを使用して制御した。最初に、酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction:OER)に対する電極のBOL活性を、サイクリックボルタモグラムとして決定し、0V~1.35V~0V対RHEから50mV/秒の走査速度で作用電極の電位を循環させることによって記録した。次に、電極の電位を、0.6V~1.35V対RHEの間で100mV/秒の三角波形を使用して1000回循環させた。最後に、OERに対する電極のEOL活性を、サイクリックボルタモグラムとして決定し、0V~1.35V~0V対RHEから50mV/秒の走査速度で作用電極の電位を循環させることによって記録した。BOL CVの後かつEOL CVの前に電解質の1mlのサンプルを採取し、電解質中のIr濃度をICPMSによって測定した。
【0078】
図2は、本発明の実施例1の酸素発生反応触媒及び比較例1の比較の酸素発生反応触媒を含有する、試験ボタンについての湿潤電池におけるサイクル数に対するイリジウムのA/mgのプロットを示す。実施例1及び比較例1の両方についてのサイクルデータは、最初の50~100サイクルにおける酸化電流の初期減衰、続いて残りのサイクルについての一定の電流を示す。これは、初期触媒減衰後、非常に安定した活性を有する材料が両方の場合において形成されることを示唆する。
【0079】
湿潤電池活性試験
電極を標準的な3つの電極電気化学電池に金線コネクタを介して作用電極として導入した。電気化学電池は、Pd/C参照電極、Ptメッシュ対向電極を有し、100mlの体積を、加熱水浴によって供給される加熱ジャケットを使用して60℃まで加熱した。電解質を通して窒素ガスを少なくとも20分間バブリングすることによって、電解質から酸素を取り除いた。作用電極の電位を、ポテンシオスタットを使用して制御した。OERに対する電極の活性を、線形掃引ボルタモグラムとして決定し、1V~1.55V~0V対RHEから1mV/秒で作用電極の電位を掃引することによって記録した。
【0080】
チャート1は、本発明の実施例1の酸素発生反応触媒及び比較例1の比較の酸素発生反応触媒の酸素発生反応過電圧を示す。過電圧は類似しており、本発明の酸素発生反応触媒は、比較例1と同様に活性であり、安定した活性を維持しながらイリジウムを節約し得る。
【0081】
【表3】
【0082】
BET表面積分析
実施例1で生成された酸化物材料のBET表面積を、40.3m/gと測定した。BET表面積を、ISO規格9277:2010(en)に準拠して、77KでのN吸着等温線に基づいて決定した。
【0083】
参考文献
1. Topas v4.2/v5.0:General Profile and Structure Analysis Software for Powder Diffraction Data,Bruker AXS,Karlsruhe,Germany,(2003-2015).
2. R.W.Cheary and A.Coelho,J.Appl.Cryst.(1992),25,109-121
3. F.Bertaut and P.Blum(1949)C.R.Acad.Sci.Paris 229,666
図1
図2
【国際調査報告】