(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ブロードスキャニング変異誘発によって発見された化膿性連鎖球菌Cas9中の新規変異は、DNA切断活性の増強を実証する
(51)【国際特許分類】
C07K 14/195 20060101AFI20240730BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240730BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C07K14/195
C12N15/09 110
C12N15/63 Z ZNA
C12N9/16 Z
C12N15/11 Z
C12N15/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579717
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 US2022036079
(87)【国際公開番号】W WO2023278886
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510288529
【氏名又は名称】インテグレイテツド・デイー・エヌ・エイ・テクノロジーズ・インコーポレイテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ,ナサニエル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,リーヤン
(72)【発明者】
【氏名】バクルスカス,クリストファー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045BA54
4H045DA89
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムにおいて使用するための変異Cas9核酸及びタンパク質、並びにそれらの使用方法に関する。特に、本発明は、単離された変異Cas9タンパク質であって、単離された変異Cas9タンパク質は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムにおいて活性であり、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す、単離された変異Cas9タンパク質に関する。本発明はまた、変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す変異Cas9タンパク質を有するリボ核タンパク質複合体及びCRSPR/Casエンドヌクレアーゼシステムを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された変異Cas9タンパク質であって、前記単離された変異Cas9タンパク質は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムにおいて活性であり、前記CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す、単離された変異Cas9タンパク質。
【請求項2】
前記単離された変異Cas9タンパク質が、
(a)表2に示されている位置の1つから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された単一の置換変異;又は
(b)表2に示されている変異と組み合わされた位置:R691から選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異
からなる群から選択される置換変異を含む、請求項1に記載の単離された変異Cas9タンパク質。
【請求項3】
前記単離された変異Cas9タンパク質が、表2に示されている変異の1つと組み合わされた位置R691Aから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異からなる群から選択される置換変異を含む、請求項1に記載の単離された変異Cas9タンパク質。
【請求項4】
単離されたリボ核タンパク質複合体であって、
変異Cas9タンパク質、及び
gRNA複合体
を含み、
前記単離されたリボ核タンパク質複合体はCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムとして活性であり、得られたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す、単離されたリボ核タンパク質複合体。
【請求項5】
前記gRNAが、crRNAとtracrRNAを化学量論的(1:1)比で含む、請求項4に記載の単離されたリボ核タンパク質複合体。
【請求項6】
前記gRNAが、
所与の遺伝子座についての特定の編集標的部位に対して向けられたALT-R(R)crRNAを含む単離されたcrRNA、及び
ALT-R(R)tracrRNAを含むtracrRNA
を含む、請求項5に記載の単離されたリボ核タンパク質複合体。
【請求項7】
前記gRNAがsgRNAを含む、請求項5に記載の単離されたリボ核タンパク質複合体。
【請求項8】
前記変異Cas9タンパク質が、
(a)表2に示されている位置の1つから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された単一の置換変異;又は
(b)表2に示されている変異と組み合わされた位置:R691から選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異
からなる群から選択される置換変異を含む、請求項5に記載の単離されたリボ核タンパク質複合体。
【請求項9】
前記変異Cas9タンパク質が、表2に示されている変異の1つと組み合わされた位置R691Aから選択される、配列番号1二重のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異からなる群から選択される置換変異を含む、請求項5に記載の単離されたリボ核タンパク質複合体。
【請求項10】
前記変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸であって、前記変異Cas9タンパク質は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムにおいて活性であり、前記CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す、変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸。
【請求項11】
前記変異Cas9タンパク質が、
(a)表2に示されている位置の1つから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された単一の置換変異;又は
(b)表2に示されている変異と組み合わされた位置:R691から選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異
からなる群から選択される置換変異を含む、請求項10に記載の変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸。
【請求項12】
前記変異Cas9タンパク質が、表2に示されている変異の1つと組み合わされた位置R691Aから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異からなる群から選択される置換変異を含む、請求項11に記載の変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸。
【請求項13】
変異Cas9タンパク質及びgRNAを含むCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムであって、前記CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項14】
前記CRISPR/CasエンドヌクレアーゼシステムがDNA発現ベクターによってコードされる、請求項13に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項15】
DNA発現ベクターがプラスミド由来ベクターを含む、請求項13に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項16】
DNA発現ベクターが細菌発現ベクター及び真核生物発現ベクターから選択される、請求項13に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項17】
前記gRNAが、crRNAとtracrRNAを化学量論的(1:1)比で含む、請求項13に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項18】
前記crRNAが、所与の遺伝子座についての特定の編集標的部位に対して向けられたALT-R(R)crRNAを含み、tracrRNAが、ALT-R(R)tracrRNAを含む、請求項17に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項19】
前記gRNAがsgRNAを含む、請求項13に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項20】
前記変異Cas9タンパク質が、
(a)表2に示されている位置の1つから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された単一の置換変異;又は
(b)表2に示されている変異と組み合わされた位置:R691から選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異
からなる群から選択される置換変異を含む、請求項13に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項21】
前記変異Cas9タンパク質が、表2に示されている変異の1つと組み合わされた位置R691Aから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異からなる群から選択される置換変異を含む、請求項13に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム。
【請求項22】
増加したオンターゲット編集活性を有する遺伝子編集を行う方法であって、
候補編集標的部位遺伝子座を、変異Cas9タンパク質を有する活性なCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと接触させる工程を含み、前記活性なCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す、方法。
【請求項23】
前記変異Cas9タンパク質が、
(a)表2に示されている位置の1つから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された単一の置換変異;又は
(b)表2に示されている変異と組み合わされた位置:R691から選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異
からなる群から選択される置換変異を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記変異Cas9タンパク質が、表2に示されている変異の1つと組み合わされた位置R691Aから選択される、配列番号1のWT-Cas9タンパク質中に導入された二重置換変異からなる群から選択される置換変異を含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月2日に出願された「NOVEL MUTATIONS IN STREPTOCOCCUS PYOGENES CAS9 DISCOVERED BY BROAD SCANNING MUTAGENESIS DEMONSTRATE ENHANCEMENT OF DNA CLEAVAGE ACTIVITY」という名称の米国仮特許出願第63/217,881号に対する米国特許法第119条に基づく優先権の恩典を主張し、各出願の内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。______________に作成されたASCIIコピーは、IDT01-020-PRO_ST25.txtと名付けられ、サイズは_______バイトである。
【0003】
本発明は、Cas9変異遺伝子、これによってコードされるポリペプチド、及びオンサイトの標的化された切断活性を改善するためのCRISPR-Casシステムの組成物におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
SpCas9は、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)適応免疫系を利用するRNAガイド型エンドヌクレアーゼである。Cas9は、一般にプロトスペーサーと呼ばれる20ヌクレオチドのDNA標的配列に相補的なRNAガイドを利用する。SpCas9に対する正しいDNA標的の認識にとって重要なものには、crRNA及びプロトスペーサーのすぐ下流の3bp配列であるカノニカル「NGG」プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の両方が含まれる。Cas9-gRNAリボ核タンパク質(RNP)複合体は二本鎖DNA切断(DSB)を媒介し、次いで、二本鎖DNA切断(DSB)は、適切な鋳型核酸が存在すれば、正確な編集のために非相同末端結合(NHEJは、典型的には、切断部位に変異又はインデルを導入する)又は相同組換え修復(HDR)系のいずれかによって修復される。
【0005】
現在、SpCas9の特異性を改善してオフターゲット編集を軽減するために多くの点変異が同定されているが、オンターゲット効力の著しい犠牲を伴う[1]。しかしながら、オフターゲット編集がそれほど懸念されない用途(高スループット遺伝子スクリーニングなど)では、すべての標的化可能な部位にわたって均一な編集効率を有する高活性SpCas9が望ましい。さらに、別のPAM選好性を有する多くのSpCas9変異形が開発されているが、それらの有用性は、低下したオンターゲット効力に限定される[3]。変異誘発によるSpCas9のオンターゲット活性を増加させることは、RNPとして送達された場合のヒト細胞におけるこれらのPAM変異形の不十分な性能を救済し得る。さらに、SpCas9のオンターゲット活性は、塩基編集及びプライム編集などの、SpCas9の上に確立された高度な遺伝子編集プラットフォームの律速段階であることが示唆されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Vakulskas CA,et al.A high-fidelity Cas9 mutant delivered as a ribonucleoprotein complex enables efficient gene editing in human hematopoietic stem and progenitor cells.Nat Med.2018 Aug;24(8):1216-1224.
【非特許文献2】Kim HK,Yu G,Park J,et al.Predicting the efficiency of prime editing guide RNAs in human cells.Nat Biotechnol.2021;39(2):198-206.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、Cas9ゲノム編集の特異性を改善するための方法が依然として必要とされている。特に、この分野によって広く採用されている様々な遺伝子編集プラットフォームの性能を改善するためにSpCas9のオンターゲット活性を増強又は増加させるための新規な点変異を同定する必要性が存在する[4]。本開示は、この分野によって広く採用されている様々な遺伝子編集プラットフォームの性能を改善し得るSpCas9のオンターゲット活性を増強するための新規点変異を生成するという長年にわたる要求に対する解決策を提供する[4]。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、CRISPRシステムにおいて使用するためのCas9変異遺伝子及びポリペプチド、並びにそれらの使用方法に関する。
【0009】
第1の態様において、単離された変異Cas9タンパク質が提供される。単離された変異Cas9タンパク質は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質エンドヌクレアーゼシステム(「CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム」)において活性である。このCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す。
【0010】
第2の態様において、単離されたリボ核タンパク質(RNP)複合体が提供される。RNP複合体は、変異Cas9タンパク質及びgRNA複合体を含む。単離されたリボ核タンパク質複合体は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムとして活性であり、得られたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す。
【0011】
第3の態様において、変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸が提供される。変異Cas9タンパク質は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムにおいて活性であり、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す。
【0012】
第4の態様において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが提供される。CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、変異Cas9タンパク質及びgRNAを含む。このCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す。
【0013】
第5の態様において、増加したオンターゲット編集活性を有する遺伝子編集を行う方法が提供される。この方法は、候補編集DNA標的部位遺伝子座を、適切なgRNA(例えば、crRNA:tracrRNA複合体又はsgRNA)と複合体を形成した変異Cas9タンパク質を有する活性なCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと接触させる工程を含む。前記相互作用は、任意の状況において、例えば、生きた動物において、生きた細胞において、又はインビトロで、単離されたDNAにおいて起こり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、自然対数スケールでの濃縮された変異レプリケート1及びレプリケート2の例示的なピアソン相関を示す。この図は、レプリケート間での優れた一致を示し、増加した切断活性を有するSpCas9変異体の割合を示す。
【
図2】
図2は、ミスマッチを含むガイドRNAを利用してDNA切断を増強する個々の新規SpCas9変異の例を示す。切断アッセイは、変異体が野生型SpCas9より選択下でより高い生存率を示す初期スクリーニング工程の検証を示す。大腸菌(E.coli)の生存は、毒素をコードするプラスミド上の意図された標的部位を切断するCas9の能力に依存していた。パネルA~Mは、「ミスマッチ15」ガイドRNAを有する野生型SpCas9プラスミド(A);完全にマッチしたガイドRNAを有する野生型SpCas9(B);ガイドRNAを有さない野生型SpCas9プラスミド(C):パネルD~M:「ミスマッチ15」ガイドRNAを用いた変異誘発スクリーニングから同定された変異体単一アミノ酸変異を有するSpCas9ポリペプチド:SpCas9 D54W(D);SpCas9 D54K(E);SpCas9 N46L(F);SpCas9 S6T(G);SpCas9 T67D(H);SpCas9 S55N(I);SpCas9 D54A(J);SpCas9 R71W(K);SpCas9 A68D(L);及びSpCas9 V16I(M)を示す。
【
図3A】
図3Aは、ヒト細胞における増強されたオンターゲット編集効率を有する例示的なSpCas9変異体を示す。大腸菌(E.coli)活性アッセイにおいて有益な効果を有する推定変異をHifi-Cas9(R691A)のバックグラウンドに導入した。変異タンパク質を精製し、3つの標的部位を編集することによってHEK293細胞において評価した。新規Cas9変異体のオンターゲット編集効率。点線は、各標的における基準タンパク質(R691A)の編集効率を強調している。
【
図3B】
図3Bは、基準タンパク質(R691A)に対する各変異体の正規化された編集効率を示す。注目すべきことに、D54A/KはR691Aのオンターゲット活性を有意に上昇させ、WT-SpCas9をも上回った。
【
図3C】
図3Cは、EMX1オフターゲット部位における新規Cas9変異体のオフターゲット編集を示す。WT-SpCas9のみが、いずれかの測定可能なオフターゲット効果を示した。すべての新規Cas9変異体は非常に特異的なままであった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に記載されている本発明の方法及び組成物は、CRISPR-Casシステムにおいて使用するための変異SpyCas9核酸及びポリペプチドを提供する。本発明は、野生型タンパク質と比較してオンターゲット編集活性を増加させた新規Cas9変異体を記載する。本発明のこれら及び他の利点、並びにさらなる本発明の特徴は、本明細書で提供される本発明の説明から明らかになるであろう。
【0016】
本発明を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)用語「a」及び「an」及び「the」並びに同様の指示対象の使用は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、特に明記しない限り、非限定的な用語(すなわち、「含むが、限定されない」を意味する。)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書に別段の指示がない限り、その範囲内に含まれるそれぞれの別個の値を個別に参照する簡略方法としての役割を果たすことが意図されているに過ぎず、それぞれの別個の値は、本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に組み入れられる。本明細書に記載されているすべての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。本明細書で提供されるあらゆる例又は例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく明らかにすることを意図しており、特に請求されない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる言語も、特許請求されていない要素を本発明の実施に必須であると示すものと解釈されるべきではない。
【0017】
「野生型Cas9タンパク質」(「WT-Cas9」又は「WT-Cas9タンパク質」)という用語は、天然に存在する化膿性連鎖球菌Cas9と同一のアミノ酸配列(例えば、配列番号1)を有し、活性なCRISPR-Casエンドヌクレアーゼシステムを形成するために適切なガイドRNA(例えば、sgRNA又は二重crRNA:tracrRNA組成物)と組み合わされた場合に生化学的及び生物学的活性を有するタンパク質を包含する。
【0018】
「野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム」という用語は、野生型Cas9タンパク質及び適切なgRNAを含むCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムを指す。
【0019】
「活性なCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す」という語句は、両CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが所与の標的配列について同一のgRNAを含む場合に、配列番号1の野生型Cas9タンパク質を含む野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムの強化された又は増加されたオンターゲット編集活性を示す変異Cas9タンパク質を含むCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムの活性を指す。CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムの好ましいオンターゲット活性は、関心対象のgRNA及び標的配列に依存し、変異Cas9タンパク質を有するCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムのこのような好ましい増加したオンターゲット活性が本明細書に例示されている。
【0020】
「ポリペプチド」という用語は、1つより多いアミノ酸を含む任意の直鎖又は分岐状ペプチドを指す。ポリペプチドは、このようなタンパク質、断片又は融合物が有用な生化学的又は生物学的活性を保持する限り、タンパク質又はその断片又はその融合物を含む。
【0021】
融合タンパク質は、典型的には、追加のアミノ酸情報が共有結合しているタンパク質には天然に存在しない追加のアミノ酸情報を含む。このような追加のアミノ酸情報は、融合タンパク質の精製又は同定を可能にするタグを含み得る。このような追加のアミノ酸情報は、融合タンパク質が細胞内に輸送され、及び/又は細胞内の特定の位置に輸送されることを可能にするペプチドを含み得る。
【0022】
「単離された核酸」という用語は、DNA、RNA、cDNA及びこれらをコードするベクターを含み、DNA、RNA、cDNA及びベクターは、細胞成分などの、それらが由来し得る又は関連し得る他の生体物質を含まない。典型的には、単離された核酸は、細胞成分などの、それらが由来し得る又は関連し得る他の生物学的材料から精製される。
【0023】
「単離された野生型Cas9核酸」という用語は、野生型Cas9タンパク質をコードする単離された核酸である。単離された野生型Cas9核酸の例としては、配列番号2及び3によってコードされる核酸などの、大腸菌(E.coli)又はヒト細胞における効率的な発現のために設計されたコドン最適化バージョンが挙げられる。
【0024】
「単離された変異Cas9核酸」というは、R691A変異を有するCas9タンパク質(配列番号4)などの変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸である。単離された変異Cas9核酸の例としては、それぞれ配列番号5及び6によってコードされる核酸などの、大腸菌(E.coli)又はヒト細胞における効率的な発現のために設計されたコドン最適化バージョンが挙げられる。
【0025】
「長さが修飾された」という用語は、この用語がRNAを修飾する場合、ヌクレオチド配列を欠く、基準RNAの短縮された若しくは切断された形態、又は追加のヌクレオチド配列を含む、基準RNAの伸長された形態を指す。
【0026】
「化学的に修飾された」という用語は、この用語がRNAを修飾する場合、RNAに共有結合した化学的に修飾されたヌクレオチド又は非ヌクレオチド化学基を含有する基準RNAの形態を指す。本明細書に記載される化学的に修飾されたRNAは、一般に、修飾されたヌクレオチドがRNAオリゴヌクレオチドの合成中に取り込まれるオリゴヌクレオチド合成手順を使用して調製される合成RNAを指す。しかしながら、化学的に修飾されたRNAには、合成後に適切な修飾剤で修飾された合成RNAオリゴヌクレオチドも含まれる。
【0027】
ALT-R(R)という用語は、この用語がRNA(例えば、crRNA、tracrRNA、ガイドRNA又はsgRNAなど)を修飾する場合、単離された化学的に合成された合成RNAを指す。
【0028】
ALT-R(R)という用語は、この用語がタンパク質(例えば、Cas9タンパク質など)を修飾する場合、単離された組換えタンパク質を指す。
【0029】
能力を備えたCRISPR-Casエンドヌクレアーゼシステムは、単離されたCas9タンパク質と、二重crRNA:tracrRNA組み合わせ又はキメラ単一分子sgRNAのうちの1つから選択される単離されたガイドRNAとで形成されるリボ核タンパク質(RNP)複合体を含む。いくつかの実施形態において、crRNA及びtracrRNAの単離された長さが修飾された及び/又は化学的に修飾された形態は、発現ベクター中で、精製されたCas9タンパク質、Cas9タンパク質をコードする単離されたmRNA又はCas9タンパク質をコードする遺伝子と組み合わされる。ある種のアッセイでは、crRNA及びtracrRNAの単離された長さが修飾された及び/又は化学的に修飾された形態が、Cas9遺伝子をコードする内因性発現カセットからCas9タンパク質を安定に発現する細胞株中に導入され得る。他のアッセイでは、変異Cas9 mRNA又は変異Cas9タンパク質のいずれかと組み合わされたcrRNA及びtracrRNAの長さが修飾された及び/又は化学的に修飾された形態の混合物が、細胞中に導入され得る。
【0030】
増加したオンターゲット遺伝子編集活性を有する変異Cas9タンパク質
第1の態様において、単離された変異Cas9タンパク質が提供される。単離された変異Cas9タンパク質は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質エンドヌクレアーゼシステム(「CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステム」)において活性である。得られたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示す。
【0031】
増強された切断活性を有する変異を同定するために、SpCas9の細菌に基づく定向進化を実施した。SpCas9の1~75位にわたってアミノ酸レベルですべての可能な点変異を含有するディープスキャニング変異誘発ライブラリーが最初に作製され、ほとんどのクローンは1つの変異のみを含有した[2]。このタイプのライブラリーは、細菌スクリーニングにおいて野生型(WT)タンパク質に対する相対生存率を測定することによって、各点変異の表現型を直接評価することを可能にする。SpCas9活性は一般に大腸菌(E.coli)において極めて高いので、切断活性を低下させる方向に調整するために、crRNA及びミスマッチを有する標的部位が選択され、それによって増強された活性を有する変異体を同定するための適切な選択圧を作出した(表1)。
【0032】
表1:Cas9スクリーニングのために使用されたRNAガイド。WTガイドRNAと比較した、選択のために使用されたミスマッチガイド。
【0033】
【0034】
高活性変異体を同定するために、SpCas9ライブラリー及び毒素プラスミド上の単一部位を標的とする、ミスマッチを含むcrRNAで、毒素プラスミドを有するスクリーニング株を形質転換した。回収及び誘導後、誘導しながら細胞を選択培地上に播種し、37℃で一晩インキュベートした。生存している大腸菌(E.coli)細胞によって保有されるSpCas9発現プラスミドを抽出し、精製した。入力プラスミドライブラリー及び選択されたプラスミドライブラリーの両方をNGSで配列決定して、両ライブラリーにおけるSpCas9の各位置での変異の頻度を決定した。選択されたライブラリーと入力ライブラリーの間での正規化された頻度の比として、各点変異の相対生存率を計算した。選択下での細胞生存の程度はSpCas9の切断活性を示すので、WTを上回って選択中に濃縮される任意の変異形は、増強された活性を有する変異形であろう。
【0035】
表2及び
図1は、ミスマッチを含むgRNAによる切断活性を測定する細菌スクリーニングにおけるSpCas9の266の点変異の表現型を要約している。3つの生物学的レプリケートを高い一貫性で実施し、これにより、本発明者らは、確信をもって、増強された活性を有する多数の新規SpCas9変異形を単離することができた。したがって、本発明者らは、大腸菌(E.coli)切断アッセイにおいていくつかの候補を選択して検証した。個々の変異プラスミドをクローニングし、ミスマッチを含むgRNAの存在下での大腸菌(E.coli)株スクリーニングに供した。複数の新規SpCas9変異体は、野生型タンパク質と比べて大腸菌(E.coli)におけるDNA切断の有意な改善を示し、これは選択時の生存率の大幅な増加によって示される(
図2)。これらの結果は、本発明者らの高スループットスクリーニングの結果が非常に正確であり、ヒト細胞でのさらなる検証のための多数の候補を提供したことを示唆している。
【0036】
表2:WT SpCas9より濃縮された点変異(配列番号1)。自然対数で示される表現型濃縮スコアは、Cas9活性を改善する点変異を実証する。
【0037】
【0038】
次に、本発明者らは、ヒト細胞のゲノム編集における新規Cas9点変異の性能を評価した。本発明者らは、Hifi-Cas9(R691A)(ポリペプチド配列:配列番号4;コドン最適化核酸配列:配列番号5及び6)の大腸菌(E.coli)スクリーニングにおいて同定された9つの点変異を選択して導入した。各変異タンパク質を大腸菌(E.coli)内で発現させ、逐次クロマトグラフィーを通して精製した。各変異体のオンターゲット編集効率を3つの標的部位にわたって評価した(表3)。
【0039】
表3:SpCas9変異体のオンターゲット活性及びオフターゲット活性を評価するために使用された標的部位
【0040】
【0041】
満足のいくことに、これらの点変異はHifi-Cas9のオンターゲット効力を高め(
図3A、B)、したがって大腸菌(E.coli)において得られた本発明者らの前の結果を検証した。注目すべきことに、D54Aは、特にHifi-Cas9によって十分に編集されない低活性部位(HPRT38231)において、オンターゲット効力の最も著しい上昇をもたらした。この新規変異形(D54A/R691A)の活性は、WT-SpCas9よりさらに高い(
図3A、B)。本発明者らは、EMX1オフターゲット部位1での新規Cas9変異形のオフターゲット編集レベルをさらに研究した(表3)。驚くべきことに、いずれの変異体もオフターゲット効果を著しく増加させず、これらの新規変異体がHifi-Cas9(R691A)と適合的であり、R691Aとは異なる機構を介してオンターゲット部位及びオフターゲット部位での全体的なCas9タンパク質活性に影響を及ぼすことを示唆した。結論として、本発明者らのデータは、本発明者らの細菌スクリーニングによって発見された新規点変異が、ヒトゲノム工学のためのWT-SpCas9の直接的代替物としての役割を果たすことができるその優れた標的化特異性を維持しながら、Hifi-Cas9のオンターゲット性能を増強することができることを実証した。
【0042】
好ましい単一変異Cas9タンパク質は、表2において特定された位置の1つに導入された、WT-Cas9中の置換変異を含む。得られた変異Cas9タンパク質がCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムとして活性であり、得られたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示すのであれば、単一変異Cas9タンパク質アミノ酸配列のアミノ酸バックグラウンド中にさらなる置換変異を含めることができる。
【0043】
好ましい二重変異Cas9タンパク質は、表2に示されている変異の1つと組み合わされて、R691中に導入されたWT-Cas9中の変異を含む。非常に好ましい二重変異Cas9タンパク質は、表2に示されている変異の1つと組み合わせて、R691Aに導入されたWT-Cas9中の変異を含む。得られた変異Cas9タンパク質がCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムとして活性であり、得られたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示すのであれば、二重変異Cas9タンパク質アミノ酸配列のアミノ酸バックグラウンド中にさらなる置換変異を含めることができる。表2に示されている例示的な変異は、例えば、それぞれ2017年10月10日及び2018年4月26日に出願された米国特許出願第15/729,491号及び第15/964,041号(それぞれ、代理人整理番号IDT01-009-US及びIDT01-009-US-CIP)に開示されている位置などの他の位置で組み合わされ得、これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0044】
第2の態様において、単離されたリボ核タンパク質複合体が提供される。RNPは、変異Cas9タンパク質及びgRNA複合体を含む。1つの点において、gRNAは、crRNA及びtracrRNAを化学量論的(1:1)比で含む。第2の点において、crRNAは、所与の遺伝子座についての特定の編集標的部位に対して向けられたAlt-R(R)crRNA(Integrated DNA Technologies、Inc.(Coralville、IA(米国))を含み、tracrRNAは、Alt-R(R)tracrRNA(Integrated DNA Technologies、Inc.(Coralville、IA(米国))を含む。別の点において、gRNAはsgRNAを含む。好ましい変異Cas9タンパク質としては、上記のものが挙げられる。
【0045】
第3の態様において、変異Cas9タンパク質をコードする単離された核酸が提供される。好ましい単離された核酸は、上記の変異Cas9タンパク質をコードする。変異Cas9タンパク質をコードする例示的な単離された核酸は、組換えDNA手順又は化学合成法を使用して、野生型Cas9タンパク質をコードする核酸から容易に生成され得る。この目的のための好ましい核酸には、細菌(例えば、大腸菌(E.coli))又は哺乳動物(例えば、ヒト)細胞におけるCas9タンパク質の発現に関して最適化されたものが含まれる。WT-Cas9(配列番号1)を大腸菌(E.coli)及びヒト細胞において発現させるための例示的なコドン最適化核酸には、それぞれ配列番号1及び2が含まれる。大腸菌(E.coli)及びヒト細胞において変異Cas9タンパク質(例えば、R691A変異Cas9タンパク質;配列番号7)を発現させるための例示的なコドン最適化核酸には、それぞれ配列番号3及び4が含まれる。さらに、本発明は、WT-Cas9及び変異Cas9のコード配列が、真核細胞における融合タンパク質の核局在化(「NLS」)をコードするアミノ酸配列又はタンパク質の精製を容易にするためのアミノ酸配列に融合されている、WT-Cas9及び変異Cas9の融合タンパク質を企図する。WT-Cas9アミノ酸配列又は変異Cas9アミノ酸配列(例えば、R691A変異Cas9タンパク質)のいずれかを含む例示的な融合タンパク質。
【0046】
1つの点において、単離された核酸は、上述の変異Cas9タンパク質の1つをコードするmRNAを含む。第2の点において、単離された核酸は、上述の変異Cas9タンパク質の1つに対する遺伝子をコードするDNAを含む。好ましいDNAは、変異Cas9タンパク質をコードする遺伝子をコードするベクターを含む。このような送達方法は、当業者に周知のプラスミド及び様々なウイルス送達ベクターを含む。変異Cas9タンパク質はまた、変異Cas9を構成的又は誘導的に発現する細胞株を作製するために適切な発現ベクターを使用して細胞中に安定に形質転換され得る。上述の方法はまた、変異Cas9を構成的又は誘導的に発現する子孫動物を作製するために胚に適用され得る。
【0047】
第4の態様において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが提供される。CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、変異Cas9タンパク質を含む。好ましい変異Cas9タンパク質としては、上記のものが挙げられる。1つの点において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、DNA発現ベクターによってコードされる。一実施形態において、DNA発現ベクターはプラスミド由来ベクターである。第2の実施形態において、DNA発現ベクターは、細菌発現ベクター及び真核生物発現ベクターから選択される。第3の点において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムは、変異Cas9タンパク質及びgRNA複合体を含むリボ核タンパク質複合体を含む。1つの点において、gRNAは、crRNA及びtracrRNAを化学量論的(1:1)比で含む。第2の点において、crRNAは、所与の遺伝子座についての特定の編集標的部位に対して向けられたALT-R(R)crRNA(Integrated DNA Technologies、Inc.(Coralville、IA(米国))を含み、tracrRNAは、ALT-R(R)tracrRNA(Integrated DNA Technologies、Inc.(Coralville、IA(米国))を含む。別の点において、gRNAはsgRNAを含む。
【0048】
第5の態様において、増加したオンターゲット編集活性を有する遺伝子編集を行う方法が提供される。この方法は、候補編集標的部位遺伝子座を、変異Cas9タンパク質を有する活性なCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと接触させる工程を含む。1つの点において、この方法は、表2に示されている位置の1つに導入された、配列番号1のWT-Cas9中の変異を有する単一変異Cas9タンパク質を含む。得られた変異Cas9タンパク質がこの方法においてCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムとして活性であり、得られたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示すのであれば、単一変異Cas9タンパク質アミノ酸配列のアミノ酸バックグラウンド中にさらなる置換変異を含めることができる。
【0049】
別の点において、この方法は、表2に示される変異のうちの1つと組み合わされて位置R691に導入された、配列番号1のWT-Cas9中の変異を有するCas9タンパク質変異形を含む。得られた変異Cas9タンパク質がこの方法においてCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムとして活性であり、得られたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムが野生型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムと比較して増加したオンターゲット編集活性を示すのであれば、二重変異Cas9タンパク質アミノ酸配列のアミノ酸バックグラウンド中にさらなる置換変異を含めることができる。
【0050】
Cas9をベースとしたツールの用途は多く、様々である。用途としては、植物遺伝子編集、酵母遺伝子編集、哺乳動物遺伝子編集、生きている動物の器官内の細胞の編集、胚の編集、ノックアウト/ノックイン動物系統の迅速な作製、疾患状態の動物モデルを作製すること、疾患状態の矯正、レポーター遺伝子を挿入すること及び全ゲノム機能スクリーニングが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
選択された野生型及び変異Cas9タンパク質のDNA及びアミノ酸配列。
【0052】
以下のリストは、本発明に記載されている異なる野生型(WT)ヌクレアーゼ及び変異Cas9ヌクレアーゼを示す。多くの場合、1つより多くのコドンが同じアミノ酸をコードすることができるので、多くの異なるDNA配列が同じアミノ酸(AA)配列をコード/発現することができることが当業者によって理解されよう。以下に示されているDNA配列は例としての役割を果たすに過ぎず、同じタンパク質(例えば、同じアミノ酸配列)をコードする他のDNA配列が企図される。NLSドメインなどの、さらなる特徴、要素又はタグが、前記配列に付加され得ることがさらに理解される。WT Cas9及び変異R691A Cas9に対して例が示されており、Cas9単独並びにC末端及びN末端のSV40 NLSドメイン及びHISタグの両方に融合されたCas9として、これらのタンパク質のアミノ酸及びDNA配列を示している。他のCas9変異体については、アミノ酸配列のみが提供されているが、哺乳動物細胞において使用するための組換えタンパク質を作製する上での使用を容易にするために、NLS及びHisタグドメインの同様の付加が追加され得ることが企図される。WT配列と異なる変異は、下線付きの太字フォントを使用して特定されている。
【0053】
配列番号1
WT SpyCas9 AA配列。
【0054】
【0055】
配列番号2
WT SpyCas9 DNA配列、大腸菌(E.coli)における発現に関して最適化されたコドン。
【0056】
【0057】
配列番号3
WT SpyCas9 DNA配列、ヒト(H.sapiens)における発現に関して最適化されたコドン。
【0058】
【0059】
配列番号4
R691A変異SpyCas9 AA配列。
【0060】
【0061】
配列番号5
R691A変異SpyCas9 DNA配列、大腸菌(E.coli)における発現に関して最適化されたコドン。
【0062】
【0063】
配列番号6
R691A変異SpyCas9 DNA配列、ヒト(H.sapiens)における発現に関して最適化されたコドン。
【0064】
【0065】
【0066】
本明細書で引用される刊行物、特許出願及び特許を含むすべての参考文献は、各参考文献が個別的に及び具体的に参照により組み入れられることが示され、その全体が本明細書に記載されているのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0067】
本発明を実施するための本発明者らに知られた最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態の変形は、前述の説明を読めば当業者には自明となろう。本発明者らは、当業者がこのような変形を適宜使用することを予想しており、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されている以外の態様で実施されることを予定している。したがって、本発明は、適用法によって許容されるように、添付の特許請求の範囲に列挙された主題のすべての改変及び均等物を含む。さらに、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、そのすべての可能な変形における上述の要素の任意の組み合わせが本発明によって包含される。
【配列表】
【国際調査報告】