IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナノテンパー・テクノロジーズ・ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2024-529277蛍光粒子のレシオメトリック特徴付けのための方法およびデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】蛍光粒子のレシオメトリック特徴付けのための方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240730BHJP
   G01N 33/542 20060101ALI20240730BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240730BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N33/542 A
C12Q1/06
C12M1/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580721
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022068114
(87)【国際公開番号】W WO2023275274
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21183266.2
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515132571
【氏名又は名称】ナノテンパー・テクノロジーズ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】バースケ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ランゲル,パトリック・アンドレアス・マクルス
【テーマコード(参考)】
2G043
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA14
2G043BA16
2G043BA17
2G043CA04
2G043DA01
2G043EA01
2G043FA06
2G043KA01
2G043KA02
2G043KA09
2G043LA02
2G043LA03
4B029AA07
4B029BB01
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA01
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ05
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QS31
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのためのデバイスおよび方法に関する。特に、蛍光標識化された粒子の試料は、様々な条件/環境下において蛍光励起および対応する蛍光放射の検出によって、分析される。粒子は、これらの様々な条件/環境下において、検出された蛍光放射を分析することによって特徴付けられる。より具体的に、本発明は、蛍光標識化された粒子の分子間および/もしくは分子内相互作用、ならびに/またはコンフォメーション改変および/もしくは局在のレシオメトリック特徴付けのための方法およびデバイスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのための方法であって:
a)第1の条件下において溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を提供するステップと、
b)第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するステップと、
c)第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するステップと、
d)第2および第3の波長における蛍光強度間の比を計算するステップであって、第3の波長が、第2の波長とは異なる、ステップと、
e1)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の前記試料についてステップb)~d)を反復するステップ、または
e2)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の第2の試料についてステップa)~d)を反復するステップであって、
第2の条件が、第1の条件とは異なる、ステップと、
f)異なる条件について得られた計算された比に基づいて、蛍光標識化された粒子を特徴付けるステップであって、
第2および第3の波長が、同時に検出され、
第2の波長が、第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長が、第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より長い、ステップと
を含む、上記方法。
【請求項2】
蛍光標識化された粒子を含有する試料体積が、100μl未満、好ましくは1μl~25μlである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蛍光標識化された粒子を含有する試料が、キャピラリーにおいて提供される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
蛍光標識化された粒子が、環境感受性標識により標識化される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
粒子が、有機分子、生体分子、ナノ粒子、微粒子、小胞、生物細胞または細胞レベル下の断片、生物組織、ウイルス粒子、ウイルス、細胞小器官、脂質ナノ粒子(LNP)およびウイルス様粒子からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
生体分子が、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、単糖および二糖、多糖、脂質、糖脂質、脂肪酸、ステロール、ビタミン、神経伝達物質、酵素、ヌクレオチド、代謝物、核酸ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶液中の蛍光標識化された粒子の濃度が、10pM~10μM、好ましくは50pM~500nMである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
蛍光標識化された粒子の検出された蛍光強度における変動が、スペクトルシフト、もしくはスペクトルの広幅化もしくはスペクトルの狭小化、またはこれらの組合せから生ずる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
蛍光標識化された粒子の蛍光強度が、蛍光標識化された粒子のコンフォメーション変化、蛍光標識化された粒子の再局在、蛍光標識化された粒子と1つまたはそれ以上のリガンドとの間の相互作用、およびこれらの組合せからなる群から選択される機構のために変化する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップf)において得られた計算された比が、蛍光標識化された粒子の局在、または解離定数、50%効果濃度(EC50)、平衡定数、結合速度論、酵素反応速度論、熱力学パラメーター、アンフォールディングもしくはリフォールディング速度論、開放および閉鎖反応、ならびにこれらの組合せからなる群から選択されるパラメーターを決定するために使用される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップe)の第2の条件が、リガンドおよび/または異なる濃度のリガンドを添加することによって変動され、ステップf)において得られた計算された比が、蛍光標識化された粒子およびリガンドの解離定数を決定するために使用される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
蛍光標識化された粒子の第1および第2の条件が、それらの温度および/または化学組成の点で異なる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)の第2および第3の波長における蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度が、規定の温度摂動中に検出される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
特に請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を行うために適合された、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのためのデバイスであって:
複数の条件下における溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を保持するための試料ホルダーと;
第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するための手段と;
第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するための手段と;
第2および第3の波長における蛍光強度間の比を計算するための手段であって、第3の波長が、第2の波長とは異なり;
該デバイスが、連続的に蛍光励起し、蛍光放射を検出し、異なる条件における試料についての比を計算するように構成される、
手段と;
異なる条件について得られた計算された比に基づいて、蛍光標識化された粒子を特徴付けるための手段であって、
該デバイスが、第2および第3の波長を同時に検出するように構成され、
第2の波長が、異なる条件の第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長が、異なる条件の第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より長い、
手段と
を含む、上記デバイス。
【請求項15】
励起するための手段が、励起光源、好ましくはレーザー、レーザーファイバレーザー、ダイオードレーザー、LED、HXP、ハロゲン、LEDアレイ、HBOからなる群からの少なくとも1つの光源である、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
検出するための手段が、光検出器、好ましくはPMT、siPM、APD、CCDまたはCMOSカメラからなる群からの少なくとも1つの検出器である、請求項14または15に記載のデバイス。
【請求項17】
プログラムがコンピューターによって実行される場合、コンピューターに請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を行わせる命令を含む、コンピュータープログラム。
【請求項18】
コンピューターによって実行される場合、コンピューターに請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を行わせる命令を含む、コンピューター可読データキャリア。
【請求項19】
好ましくは請求項1~13のいずれか1項に記載の方法による、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのための請求項14~16のいずれか1項に記載のデバイスの使用。
【請求項20】
蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのためのキャピラリーの使用であって、溶液中の蛍光標識化された粒子の試料が、キャピラリー中に満たされ、特に請求項1~13のいずれか1項に記載の方法による分析のために提供される、上記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのためのデバイスおよび方法に関する。特に、蛍光標識化された粒子の試料は、様々な条件/環境下において蛍光励起および対応する蛍光放射の検出によって、分析される。粒子は、これらの様々な条件/環境下において、検出された蛍光放射を分析することによって特徴付けられる。より具体的に、本発明は、蛍光標識化された粒子の分子間および/もしくは分子内相互作用、ならびに/またはコンフォメーション改変および/もしくは局在のレシオメトリック特徴付けのための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光標識の蛍光スペクトルは、化学周囲環境における変化および温度変化などの環境変化に感受性である。したがって、同じ蛍光標識は、強度および/またはスペクトルシフトおよび/またはスペクトル形状の点で、その蛍光スペクトルにおける変動を示し得る。
【0003】
この効果は周知であるので、それは、内因的にまたは外因的に蛍光標識化された粒子の相互作用を研究するために使用される。当該技術分野において、蛍光強度における変動は、解離定数(K)(NPL1、NPL2)を決定することによって、主に結合反応を特徴付けるために使用される。分子間相互作用を特徴付けることに加えて、決定される相互作用は、蛍光標識化された粒子の分子内相互作用、ならびに/または改変(コンフォメーション変化)および/もしくは局在(の変化)をさらに含み得る。例えば、タンパク質のコンフォメーション変化および分析物濃度は、フェルスター蛍光共鳴エネルギー移動(Forster resonance energy transfer:FRET)(WO2017/087912A2)と呼ばれる機構に関する方法に基づいて当該技術分野において決定される。FRETの基礎的機構は、励起された電子状態におけるドナーフルオロフォアを含み、これはその励起エネルギーを、2つのフルオロフォア間の距離および/または角度における相互作用媒介性(例えばリガンド媒介性)変化のための双極子-双極子カップリングを通して、近くのアクセプターフルオロフォアへ移行し得る。そのため、FRET測定は、2つまたはそれ以上の蛍光標識、すなわち、少なくとも1つのドナーおよび少なくとも1つのアクセプターフルオロフォアを必要とする。しかしながら、それぞれ環境変化への異なる感受性を有し得る2つの異なる蛍光標識が使用されるので、FRET測定は、フルオロフォアの局所的環境における望まれない変化によって歪曲され得る。さらに、エネルギー移行によって励起された場合のアクセプターフルオロフォアからの蛍光放射は、通常、直接励起から生ずるアクセプターフルオロフォア放射強度の測定値よりも低いシグナルの強さを提供する。一般的に、FRET測定は、例えば、2つの部位特異的標識化化学物質を適用することによる、標的分子上の規定の距離内のドナーおよびアクセプターフルオロフォアの正確な位置決めを必要とするが、これは、今度は、すべての種類の標的にとって実行可能ではない場合がある。対照的に、例えばリジン反応性色素またはシステイン反応性色素による、ランダム標識化は、様々なFRET距離をもたらし、したがって、FRET測定の失敗をもたらし得る。要約すると、本発明におけるような単一の蛍光標識のみを含む測定と比較して、FRET測定は、より低い、シグナル対ノイズ比を有し、分析される蛍光標識化された粒子が、ただ1つの種類の蛍光標識により標識化されることが望ましい。
【0004】
蛍光標識それ自体の相互作用および特徴に依存して、蛍光スペクトルにおける変動は、1%より小さく、それゆえ、ピペッティングエラーの通常の範囲内に入り得る。現在、当該技術分野において使用可能な方法/デバイスにより1%より小さい変動を分解することは、不可能でなければ困難である。
【0005】
蛍光標識の蛍光スペクトルにおける変動は、通常、蛍光分光光度計により検出され、これは大きなスペクトル範囲にわたり記録/測定するように設計されており、したがって、蛍光強度における小さな変化を分解することができない。加えて、市販の蛍光標識は、現在、環境変化に対してより強固であるように設計されているので、分光光度法測定の分解能を増加させるために超感受性蛍光標識を適合させる必要がある(NPL3、NPL4、NPL5)。
【0006】
分光光度測定の分解能を向上させる別の可能性は、複数の測定を組み合わせることによって達成され得る。この場合、調べられる試料は第1の波長において励起され、その放射は第1の測定において第2の波長にて測定され、続いて、第1の波長における励起ステップおよび第2の測定における第3の波長でのその放射の測定を反復する。第1および第2の測定から得られた検出された放射強度は、その後組み合わせられる。それゆえ、例えば手動の取り扱いのために導入される任意のアーティファクトから独立した、目的の純粋な情報が決定され得る。しかしながら、2つの測定の続く実行のために、この方法はより煩雑であり、時間がかかる。また、第1および第2の測定中の条件は、変動し得る。さらに、退色が起こった可能性があり、これは結果の歪曲をさらにもたらし得る。この手法を使用することによって、室温において測定される場合4.5%までの蛍光変化は分解された(NPL2)。
【0007】
一般的に、市販の蛍光分光光度デバイスによる測定は、蛍光強度における変動を十分に分解するために、大きな試料体積(すなわち、石英製キュベットまたはマルチウェルプレートを使用することによる)、その結果、より高い試料濃度を必要とする。以下に、より小さな試料体積(すなわち、10μl)を必要とする、当該技術分野において公知のさらなる方法が説明される。
【0008】
例えば、室温における絶対強度変動がピペッティングエラーと比較して小さ過ぎる場合、ピペッティングエラーは、温度関連性強度変化(TRIC)に基づく特徴付け方法を適用することによって除去され得る(WO2018/234557)。F/F、すなわち、室温において測定される強度に基づく蛍光強度と第2の典型的により高い温度において測定される強度との比を計算することによって、分子間および/または分子内相互作用の意味のある測定がそれでも決定され得る。
【0009】
しかしながら、温度の増加は、摂氏数度(℃)だけでさえも:
- 測定される粒子は必ずしも耐えられない。したがって、この方法は、不安定なタンパク質などの不安定性試料に関する相互作用を特徴付けるのに好適ではない。
【0010】
- 蛍光強度は、蛍光標識化された粒子について、およびリガンドと複合体化された蛍光標識化された粒子について等しく変化し得る。この場合、「F/F」は、両方の場合において同じ値を有し、相互作用パートナー間の相互作用は起こるが、結合曲線は得ることができない。
【0011】
- 凝集物のある特定の小部分を含有する試料などの不均質な試料は、対流のために再現不可能な蛍光トレースをもたらす場合があり、これは、「F/F」におけるノイズは、実質的に大きくなり得ることを意味する。したがって、小さいシグナル振幅を有する系について結合曲線を得ることは不可能である。
【0012】
さらに、三元複合体、例えば、標識化された分子A、Aに結合する別の分子B、およびBに結合する第3の分子Cを含有する複合体の相互作用を分析すると、TRICにおける変化は、多くの場合、前記相互作用を分解するのに十分ではない。
【0013】
温度およびリガンドの結合による迅速な相互作用変化が蛍光強度変化を引き起こす場合、TRIC法は、シグモイド1対1結合モデルにより分析され得ない二相用量応答曲線をもたらし得るか、または解離定数の測定された値は、実際の値から逸脱し得る(例えば、測定された結合親和性は、より低い温度ではなく、より高い温度におけるより弱い結合に対応する)。
【0014】
蛍光粒子の分子内および/または分子間相互作用を調査するための異なる手法は、ナノ示差走査型蛍光定量法(nano differential scanning fluorimetry)である(WO2017/055583)。この方法は、トリプトファン(Trp)およびチロシン(Tyr)残基を含有するタンパク質の内因性蛍光強度の変化を測定することに基づく。しかしながら、タンパク質は典型的に、それらの蛍光芳香族アミノ酸残基のいくつかを含有する。通常、それらのうちのすべてが結合反応に関与するわけではないので、励起に際して、シグナルの振幅を減少させる高い蛍光バックグラウンドが起こる。さらに、TrpおよびTyr残基は典型的に、タンパク質の疎水性コア内に位置し、リガンドの結合によって大きく影響されない場合がある。多くの場合、TrpおよびTyrの蛍光と同じ範囲内に存在するので、リガンドの自己蛍光はリードアウトに干渉する。
【0015】
対照的に、外因性蛍光標識により標識化することによって、ただ1つの色素(すなわち、1つの種類の色素)が標的分子に結合し、その色素のみがリガンド結合によって影響を受ける必要があるように制御することができる。さらに、色素が、化学微小環境における変化を検出するために最適であるロケーション(例えば、リガンド結合部位の近位)に置かれ得るように、標識化化学は適合され得る。さらに、外因性色素は、通常、タンパク質表面上に位置し、それゆえ、化学微小環境に対する変化を感知するために理想的な曝露を有する。色素蛍光範囲がリガンドの自己蛍光に干渉しないように、色素蛍光範囲は選択され得る。最後に、外因性色素は一層明るく、測定は一層低い標的分子の濃度において行うことができ、したがって、試料消費を低減し、ピコモルの親和性の測定さえも可能にする。
【0016】
したがって、蛍光標識化された粒子の分子間および/もしくは分子内相互作用、ならびに/または改変(コンフォメーション変化)および/もしくは局在(の変化)の特徴付けのための改善もしくは代替方法、または改善もしくは代替デバイスについての要求が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、独立請求項に記載の特性によって定義される、蛍光標識化された粒子の分子間および/もしくは分子内相互作用、ならびに/または改変(コンフォメーション変化)および/もしくは局在(の変化)の特徴付けのための新規方法およびデバイスを提供する。本発明のさらに好ましい実施形態は、独立請求項において定義される。特に、本発明は、好ましくはまさに1つの蛍光標識に基づいて、かつ蛍光標識化された粒子の特徴(例えば、温度安定性、凝集物形成)およびサイズとは独立して、標識化された蛍光粒子の蛍光スペクトルにおける任意の小さい変動を経済的に分解する技術的問題を解決する。
【0018】
本発明は、蛍光標識化された粒子の分子間および/もしくは分子内相互作用、ならびに/またはコンフォメーション改変および/もしくは局在のレシオメトリック特徴付けのための方法およびデバイスに関する。特に、本発明の方法は、以前に公知の方法によって分解することができなかった、蛍光標識化された粒子の小さい試料体積内の蛍光標識の蛍光スペクトルにおける変動を検出することにおいて感受性の改善を提供する。さらに、本発明の方法は、温度感受性および/または不安定性試料の短時間測定さえも可能にする。規定の温度摂動と組み合わせて、本発明の方法は、相互作用の熱力学および速度論パラメーターの測定を可能にする。本発明の方法において、好ましくは少なくとも1つの蛍光標識により標識化された、蛍光標識化された粒子が用いられる。本発明の方法は、蛍光標識化された粒子の局在を決定することを可能にする(例えば、蛍光標識化された粒子が、脂質ナノ粒子(LNP)内ならびに/または細胞内ならびに/またはLNPおよび細胞を取り囲む緩衝溶液中に位置するかどうか)。
【0019】
第1の態様において、本発明は、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのための方法に関する。第1の態様の方法は、以下の:
a)第1の条件下において溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を提供するステップと、
b)第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するステップと、
c)第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するステップと、
d)第2および第3の波長における前記蛍光強度間の比を計算するステップであって、
前記第3の波長が、前記第2の波長とは異なる、ステップと
を含む。
【0020】
e1)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の前記試料についてステップb)~d)を反復するステップ、または
e2)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の第2の試料についてステップa)~d)を反復するステップであって、
前記第2の条件が、前記第1の条件とは異なる、ステップ
はさらに好ましい。
【0021】
f)その後、蛍光標識化された粒子は、異なる条件について得られた計算された比に基づいて特徴付けられてもよく、
第2および第3の波長は、好ましくは同時に検出され、第2の波長は、好ましくは第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長は好ましくはより長い。
【0022】
第2の態様において、本発明は、規定の温度摂動/温度変化と組み合わせて、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのための方法に関する。第2の態様の方法は、以下の:
a)第1の条件下において溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を提供するステップと、
b)第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するステップと、
c)第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するステップであって、
前記強度が、規定の温度摂動中に検出される、ステップと、
d)第2および第3の波長における前記蛍光強度間の比を計算するステップであって、前記第3の波長が、前記第2の波長とは異なる、ステップとを含む。
【0023】
第1の態様についてと同様に、また、
e1)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の前記試料についてステップb)~d)を反復するステップ、または
e2)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の第2の試料についてステップa)~d)を反復するステップであって、
前記第2の条件が、前記第1の条件とは異なる、ステップと、
f)異なる条件について得られた計算された比に基づいて、蛍光標識化された粒子を特徴付けるステップであって、
第2および第3の波長が、好ましくは同時に検出され、第2の波長が、好ましくは第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長がより長い、ステップと
は好ましい。
【0024】
第3の態様において、本発明は、規定の温度摂動/温度変化と組み合わせて、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の熱力学および/または速度論パラメーターの特徴付けのための方法に関する。
【0025】
第4の態様において、本発明は、規定の温度摂動/温度変化と組み合わせて、またはこれを伴わずに、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の局在の特徴付けのための方法に関する。
【0026】
本発明の関係において、ステップc)の第2および第3の波長における蛍光放射強度は、同時に検出されることが好ましく、このことは、好ましくは1秒未満、より好ましくは750ミリ秒未満、より好ましくは500ミリ秒未満、より好ましくは250ミリ秒未満、より好ましくは100ミリ秒未満、より好ましくは50ミリ秒未満、より好ましくは25ミリ秒未満、より好ましくは10ミリ秒未満、より好ましくは5ミリ秒未満、さらにより好ましくは2.5ミリ秒未満の短い時間間隔以内を意味する。この関係において、典型的な時間間隔は、50ミリ秒、10ミリ秒および1ミリ秒である。
【0027】
本発明の一部の特定の態様は、以下の通り要約され得る:
一部の態様において、本明細書において説明される方法は、a)第1の条件下において溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を提供するステップと、b)第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するステップと、c)第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するステップと、d)第2および第3の波長における前記蛍光強度間の比を計算するステップであって、前記第3の波長が、前記第2の波長とは異なる、ステップと、e1)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の前記試料についてステップb)~d)を反復するステップ、またはe2)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の第2の試料についてステップa)~d)を反復するステップであって、前記第2の条件が、前記第1の条件とは異なる、ステップと、f)異なる条件について得られた計算された比に基づいて、蛍光標識化された粒子を特徴付けるステップであって、第2および第3の波長が、同時に検出され、第2の波長が、第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長がより長い、ステップとを含む。
【0028】
本発明の一部の態様において、蛍光標識化された粒子を含有する試料体積は、100μl未満、好ましくは1μl~25μlである、すなわち、蛍光標識化された粒子を含有する試料は、100μl未満、好ましくは1μl~25μlの体積において提供される。
【0029】
本発明の一部の態様において、蛍光標識化された粒子を含有する試料は、1μl~25μlの体積において提供されることが好ましい。
本発明の一部の態様において、蛍光標識化された粒子を含有する試料は、キャピラリーにおいて提供される。
【0030】
本発明の一部の態様において、蛍光標識化された粒子は、環境感受性標識により標識化される。
本発明の一部の態様において、粒子は、有機分子、生体分子、ナノ粒子、微粒子、小胞、生物細胞または細胞レベル下の断片、生物組織、ウイルス粒子、ウイルス、細胞小器官、脂質ナノ粒子(LNP)およびウイルス様粒子からなる群から選択される。
【0031】
本発明の一部の態様において、生体分子は、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、単糖および二糖、多糖、脂質、糖脂質、脂肪酸、ステロール、ビタミン、神経伝達物質、酵素、ヌクレオチド、代謝物、核酸ならびにこれらの組合せからなる群から選択される。
【0032】
本発明の一部の態様において、溶液中の蛍光標識化された粒子の濃度は、10pM~10μM、好ましくは50pM~500nMである。
本発明の一部の態様において、蛍光標識化された粒子の検出された蛍光強度における変動は、スペクトルシフト、もしくはスペクトルの広幅化もしくはスペクトルの狭小化、またはこれらの組合せから生ずる。
【0033】
本発明の一部の態様において、蛍光標識化された粒子の蛍光強度は、蛍光標識化された粒子のコンフォメーション変化、蛍光標識化された粒子の再局在、蛍光標識化された粒子と1つまたはそれ以上のリガンドとの間の相互作用、およびこれらの組合せからなる群から選択される機構のために変化する。
【0034】
本発明の一部の態様において、ステップf)において得られた計算された比は、蛍光標識化された粒子の局在、または解離定数、50%効果濃度(EC50)、平衡定数、結合速度論、酵素反応速度論、熱力学パラメーター、アンフォールディングもしくはリフォールディング速度論、開放および閉鎖反応、ならびにこれらの組合せからなる群から選択されるパラメーターを決定するために使用される。
【0035】
本発明の一部の態様において、ステップe)の第2の条件は、リガンドおよび/または異なる濃度のリガンドを添加することによって変動され、ステップf)において得られた計算された比は、蛍光標識化された粒子およびリガンドの解離定数を決定するために使用される。
【0036】
本発明の一部の態様において、蛍光標識化された粒子の第1および第2の条件は、それらの温度および/または化学組成の点で異なる。
本発明の一部の態様において、ステップc)の第2および第3の波長における蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度は、規定の温度摂動中に検出される。
【0037】
また、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのためのデバイスが、本明細書において提供される。一部の態様において、本発明のデバイスは、本明細書において説明される方法を行うために適合される。一部の態様において、デバイスは、複数の条件(すなわち、多数の異なる条件)下における溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を保持するための試料ホルダーと;第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するための手段と;第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するための手段と;第2および第3の波長における前記蛍光強度間の比を計算するための手段であって、前記第3の波長が、前記第2の波長とは異なり;デバイスが、連続的に蛍光励起し、蛍光放射を検出し、異なる条件における試料についての比を計算するように構成される、手段と;異なる条件について得られた計算された比に基づいて、蛍光標識化された粒子を特徴付けるための手段であって、デバイスが、第2および第3の波長を同時に検出するように構成され、第2の波長が、第1の条件(異なる条件の)下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長がより長い、手段とを含む。
【0038】
本発明の一部の態様において、励起するための手段は、励起光源、好ましくはレーザー、レーザーファイバレーザー、ダイオードレーザー、LED、HXP、ハロゲン、LEDアレイ、HBOからなる群からの少なくとも1つの光源である。
【0039】
本発明の一部の態様において、検出するための手段は、光検出器、好ましくはPMT、siPM、APD、CCDまたはCMOSカメラからなる群からの少なくとも1つの検出器である。
【0040】
また、プログラムがコンピューターによって実行される場合、使用されるコンピューターに本明細書において説明される方法を行わせる命令を含むコンピュータープログラムが本明細書において提供される。
【0041】
また、コンピューターによって実行される場合、使用されるコンピューターに本明細書において説明される方法を行わせる命令を含むコンピューター可読データキャリアが本明細書において提供される。
【0042】
また、本明細書において説明される方法による、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのためのデバイスの使用が、本明細書において提供される。
また、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのためのキャピラリーの使用であって、溶液中の蛍光標識化された粒子の試料が、キャピラリー中に満たされ、本明細書において説明される方法による分析のために提供される、使用が、本明細書において提供される。
【0043】
以下に、本発明の好ましい実施形態は、図について詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1Aは、同一の蛍光色素により標識化された4つの異なるタンパク質試料の励起スペクトルを示す図である。試料は、520~670nmにおいて励起された。試料の放射は、690nmにおいて記録された。図1Bは、(A)の励起ピークの拡大図である。
図2図2Aは、同一の蛍光色素により標識化された4つの異なるタンパク質試料の放射スペクトルを示す図である。試料は、605nmにおいて励起された。試料の放射は、620~750nmにおいて記録された。図2Bは、(A)の放射ピークの拡大図である。
図3図3Aは、蛍光色素の蛍光スペクトルの変動に対する標識化された分子のリガンド近位の潜在的効果を示す図である。図3Bは、蛍光色素の蛍光スペクトルの変動に対する標識化された分子のコンフォメーション変化の潜在的効果を示す図である。図3Cは、スペクトルの浅色性(青色)または深色性(赤色)シフトを示す図である。図3Dは、スペクトルの広幅化または狭小化を示す図である。
図4図4Aは、単独の、およびその天然のリガンドであるビオチンと組み合わせた、蛍光標識化されたタンパク質ストレプトアビジンの放射ピークを示す図である。図4Bは、(A)の放射ピークの拡大図である。
図5図5Aは、単独の、および阻害剤トリ-N-アセチル-D-グルコサミン(NAG3)と組み合わせた、蛍光標識化されたタンパク質リゾチームの放射ピークを示す図である。図5Bは、(A)の放射ピークの拡大図である。
図6図6Aは、本発明の二重放射配置を使用することにより検出されたフロセミドと複合体化した炭酸脱水酵素の比トレースを示す図である。フロセミド結合に際しての炭酸脱水酵素の蛍光比における変化は0.5%である。図6Bは、得られる、結合相互作用の用量応答曲線を示す図である。
図7図7Aは、上昇温度中の標識化されていないリゾチームおよび様々な濃度のNAG3の内因性トリプトファン蛍光の比350nm/330nmを示す図である。変性の温度をモニターするために、各試料を35℃から95℃まで加熱する。NAG3の濃度を増加させると、リゾチームの熱安定化、すなわち、熱シフトをもたらす。このシフトは、この相互作用の解離定数を抽出するために使用することはできない。図7Bは、NAG3の濃度に対して35℃における内因性タンパク質蛍光の初期比350nm/330nmをプロットすることによって、シグモイド用量応答曲線およびそれゆえ、前記温度における解離定数(K)が得られることを示す図である。
図8図8Aは、本発明による様々な実施形態を示し、二重放射光学系およびIRレーザーによる好ましい実施形態を示す図である。図8Bは、本発明による様々な実施形態を示し、二重放射光学系による実施形態を示す図である。図8Cは、本発明による様々な実施形態を示し、二重励起光学系およびIRレーザーによる実施形態を示す図である。図8Dは、本発明による様々な実施形態を示し、二重励起光学系による実施形態を示す図である。図8Eは、本発明による様々な実施形態を示し、二重励起および二重放射光学系ならびにIRレーザーによる実施形態を示す図である。図8Fは、本発明による様々な実施形態を示し、二重励起および二重放射光学系による実施形態を示す図である。
図9図9Aは、赤色(Cy5)蛍光色素のための二重励起配置に適用可能な例示的なフィルター配置を示す図である。図9Bは、緑色(Cy3)蛍光色素のための二重放射配置に適用可能な例示的なフィルター配置を示す図である。
図10A図10は、(A)市販のマイクロプレートリーダーによる測定、または(BおよびC)本発明による二重放射配置による測定のいずれかに基づく、レシオメトリック特徴付けにより得られたCy5標識化されたDNAアプタマーとAMPとの間の用量応答曲線を示す図である。
図10B図10は、(A)市販のマイクロプレートリーダーによる測定、または(BおよびC)本発明による二重放射配置による測定のいずれかに基づく、レシオメトリック特徴付けにより得られたCy5標識化されたDNAアプタマーとAMPとの間の用量応答曲線を示す図である。
図10C図10は、(A)市販のマイクロプレートリーダーによる測定、または(BおよびC)本発明による二重放射配置による測定のいずれかに基づく、レシオメトリック特徴付けにより得られたCy5標識化されたDNAアプタマーとAMPとの間の用量応答曲線を示す図である。
図11図11Aは、AMPの連続希釈物と混合したCy5標識化されたDNAアプタマーの蛍光トレースを示す図である。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替え、蛍光強度の応答を31秒間の期間にわたり測定する。現二重放射配置において、放射された蛍光トレースは、628~653nmの波長(「650nm」)において記録された。図11Bは、AMPの連続希釈物と混合したCy5標識化されたDNAアプタマーの蛍光トレースを示す図である。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替え、蛍光強度の応答を31秒間の期間にわたり測定する。現二重放射配置において、放射された蛍光トレースは、665~727nmの波長(「670nm」)において記録された。放射された蛍光トレースは、(A)および(B)において同時に記録された。
図12図12Aは、図9の測定の初期蛍光強度の分析を示す図である。650nmについて得られた初期蛍光強度に基づいて、シグモイド用量応答曲線は得られず、それゆえ、相互作用の親和性も得られない。図12Bは、図9の測定の初期蛍光強度の分析を示す図である。670nmについて得られた初期蛍光強度に基づいて、シグモイド用量応答曲線は得られず、それゆえ、相互作用の親和性も得られない。
図13図13Aは、図11の測定の蛍光強度トレースのレシオメトリック分析を示す図であり、これは、670nmにおける蛍光トレースを、650nmにおける蛍光トレースで点ごとに割ることによって得られる。測定の3つの異なる相、すなわち、相1~相3が、強調されている。図13Bは、相1中、すなわちIRレーザーをオンにする前の比を分析することにより、300超のシグナル対ノイズ比を有する用量応答曲線が得られることを示す図である。
図14図14Aは、図13AのレシオメトリックデータについてのK経時曲線を示す図である。200ミリ秒間隔でとられる「垂直スライス」を分析して、時間間隔の各々についての用量応答曲線を得る。経時的温度変化が分かっており、相互作用が、温度変化が起こるよりも速いタイムスケールにおいて平衡化する場合、温度に対するKの関係が得られ得る。図14Bは、ファントホッフ(Van’t Hoff)分析を行うことによって、相互作用の結合エンタルピー(ΔH)および結合エントロピー(ΔS)は、前記温度に対するKの関係から決定され得ることを示す図である。
図15図15Aは、AMPの連続希釈物と混合したCy3標識化されたDNAアプタマーの蛍光トレースを示す図である。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替え、蛍光強度の応答を6秒間の期間にわたり測定する。現二重励起配置において、放射された蛍光トレースは次に、(A)475~495nmの波長における青色LEDによる第1の励起に際して、単一の検出器によって記録される。図15Bは、AMPの連続希釈物と混合したCy3標識化されたDNAアプタマーの蛍光トレースを示す図である。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替え、蛍光強度の応答を6秒間の期間にわたり測定する。現二重励起配置において、放射された蛍光トレースは次に、(B)550~575nmの波長における緑色LEDによる次なる励起に際して、単一の検出器によって記録される。
図16A図16Aは、図15の測定の初期蛍光強度のレシオメトリック分析を示す図であり、これは、緑色LEDによる励起に際して測定された蛍光トレースを、青色LEDによる励起に際して測定された蛍光トレースで点ごとに割ることによって得られる。測定の3つの異なる相、すなわち、相1~相3が、強調されている。図16Bは、相1中、すなわちIRレーザーをオンにする前の比を分析することにより、およそ80のシグナル対ノイズ比を有する用量応答曲線が得られることを示す図である。図16Cは、相3中、すなわちIRレーザーをオンにした後の比を分析することにより、130を超えるシグナル対ノイズ比の改善を有する用量応答曲線が得られることを示す図である。
図16B図16Aは、図15の測定の初期蛍光強度のレシオメトリック分析を示す図であり、これは、緑色LEDによる励起に際して測定された蛍光トレースを、青色LEDによる励起に際して測定された蛍光トレースで点ごとに割ることによって得られる。測定の3つの異なる相、すなわち、相1~相3が、強調されている。図16Bは、相1中、すなわちIRレーザーをオンにする前の比を分析することにより、およそ80のシグナル対ノイズ比を有する用量応答曲線が得られることを示す図である。図16Cは、相3中、すなわちIRレーザーをオンにした後の比を分析することにより、130を超えるシグナル対ノイズ比の改善を有する用量応答曲線が得られることを示す図である。
図16C図16Aは、図15の測定の初期蛍光強度のレシオメトリック分析を示す図であり、これは、緑色LEDによる励起に際して測定された蛍光トレースを、青色LEDによる励起に際して測定された蛍光トレースで点ごとに割ることによって得られる。測定の3つの異なる相、すなわち、相1~相3が、強調されている。図16Bは、相1中、すなわちIRレーザーをオンにする前の比を分析することにより、およそ80のシグナル対ノイズ比を有する用量応答曲線が得られることを示す図である。図16Cは、相3中、すなわちIRレーザーをオンにした後の比を分析することにより、130を超えるシグナル対ノイズ比の改善を有する用量応答曲線が得られることを示す図である。
図17図17は、二重放射配置によるレシオメトリック測定により得られる、蛍光標識化されたストレプトアビジンと混合されたビオチンの連続希釈物12点の用量応答曲線を示す図である。破線は、1対1結合モデルフィットである。標的濃度は、解離定数(K)よりも一層高いので、化学量論点における特徴的なよじれが観察され得る。
図18図18は、二重放射配置によるレシオメトリック測定により得られる、蛍光標識化されたウシ炭酸脱水酵素IIと混合された低分子アセタゾラミドの連続希釈物15点の用量応答曲線を示す図である。破線は、1対1結合モデルフィットである。比は、およそ0.7%だけ変化する。
図19図19Aは、二重放射配置によるレシオメトリック測定により得られる、ビオチニル化タンパク質Lと蛍光標識化された一価のストレプトアビジンとの事前に形成された複合体と混合された、標識化されていないモノクローナル抗体ハーセプチン(トラスツズマブ)の連続希釈物16点の用量応答曲線を示す図である。図19Bは、ビオチニル化タンパク質Lと蛍光標識化された一価のストレプトアビジンとの事前に形成された複合体と混合された、標識化されていないモノクローナル抗体ハーセプチン(トラスツズマブ)を示す図であり、したがって、この複合体は、三元複合体をもたらす。
図20図20Aは、マルトースと、ビオチニル化マルトース結合タンパク質と、ストレプトアビジンと、蛍光標識化されたビオチニル化DNAとの複合体の略図を示す図である。図20Bは、二重放射配置によるレシオメトリック測定により得られる、標識化されていないストレプトアビジンおよび蛍光標識化されたビオチニル化DNAと混合することによって蛍光標識化された、ビオチニル化マルトース結合タンパク質と、マルトースとの間の用量応答曲線を示す図である。
図21図21は、5nMの蛍光標識化された治療用抗体CR3022を添加することによって標識化された20nM Cov-19スパイクタンパク質と混合されたアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)の連続希釈物14点の用量応答曲線を示す図である。
図22図22は、約20分間の期間にわたる、蛍光標識化されたマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ14(p38-α)の蛍光比の4つの後続の測定を示す図である。蛍光比は、4つの測定について一定ではないが、線形的に増加しているように見え、このことは、タンパク質が室温で安定ではないが、徐々に変性することを示す。
図23図23Aは、アデノシンについてのCy5標識化されたDNAアプタマーと低分子AMPとの間の相互作用についてのK経時曲線を示す図である。図23Bは、32℃において測定される、1つの鎖がCy5により標識化された2つの11マー相補的DNA鎖間のDNAハイブリダイゼーションを示す図である。K経時曲線がIRレーザーの温度摂動にどのくらい素早く追随することができるかは、その相互作用の結合および解離速度論がどのくらい速いかを示す。図23Cは、22℃において測定される、1つの鎖がCy5により標識化された2つの11マー相補的DNA鎖間のDNAハイブリダイゼーションを示す図である。K経時曲線がIRレーザーの温度摂動にどのくらい素早く追随することができるかは、その相互作用の結合および解離速度論がどのくらい速いかを示す。
図24A図24Aは、22℃と32℃との間のDNAハイブリダイゼーションについて正規化したK経時曲線を示す図である。y軸は、測定全体を通したKの倍増を示す(比較のためにすべてを1に正規化した)。x軸は、IRレーザーのオンタイムを示す。図24Bは、本発明によるIRレーザーを伴う二重放射配置によるDNAハイブリダイゼーションの測定値についてのK経時曲線を示す図である。試料温度は22℃であり、IRレーザー加熱後の温度はおよそ32℃であった。K値は、IRレーザーオンタイム中に、およそ10nMからおよそ500nMまで変化する。図24Cは、2つの異なる温度における2つのK値のファントホッフ分析の結果を示す図である。図24DおよびEは、6つの異なる試料温度(22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃)における蛍光比測定値の古典的ファントホッフ分析から得られる、相互作用の熱力学パラメーターを示す図であり、これは非常に類似する熱力学パラメーターを産出するが、IRレーザーによる熱力学測定よりも長くかかる。
図24B図24Aは、22℃と32℃との間のDNAハイブリダイゼーションについて正規化したK経時曲線を示す図である。y軸は、測定全体を通したKの倍増を示す(比較のためにすべてを1に正規化した)。x軸は、IRレーザーのオンタイムを示す。図24Bは、本発明によるIRレーザーを伴う二重放射配置によるDNAハイブリダイゼーションの測定値についてのK経時曲線を示す図である。試料温度は22℃であり、IRレーザー加熱後の温度はおよそ32℃であった。K値は、IRレーザーオンタイム中に、およそ10nMからおよそ500nMまで変化する。図24Cは、2つの異なる温度における2つのK値のファントホッフ分析の結果を示す図である。図24DおよびEは、6つの異なる試料温度(22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃)における蛍光比測定値の古典的ファントホッフ分析から得られる、相互作用の熱力学パラメーターを示す図であり、これは非常に類似する熱力学パラメーターを産出するが、IRレーザーによる熱力学測定よりも長くかかる。
図24C図24Aは、22℃と32℃との間のDNAハイブリダイゼーションについて正規化したK経時曲線を示す図である。y軸は、測定全体を通したKの倍増を示す(比較のためにすべてを1に正規化した)。x軸は、IRレーザーのオンタイムを示す。図24Bは、本発明によるIRレーザーを伴う二重放射配置によるDNAハイブリダイゼーションの測定値についてのK経時曲線を示す図である。試料温度は22℃であり、IRレーザー加熱後の温度はおよそ32℃であった。K値は、IRレーザーオンタイム中に、およそ10nMからおよそ500nMまで変化する。図24Cは、2つの異なる温度における2つのK値のファントホッフ分析の結果を示す図である。図24DおよびEは、6つの異なる試料温度(22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃)における蛍光比測定値の古典的ファントホッフ分析から得られる、相互作用の熱力学パラメーターを示す図であり、これは非常に類似する熱力学パラメーターを産出するが、IRレーザーによる熱力学測定よりも長くかかる。
図24D図24Aは、22℃と32℃との間のDNAハイブリダイゼーションについて正規化したK経時曲線を示す図である。y軸は、測定全体を通したKの倍増を示す(比較のためにすべてを1に正規化した)。x軸は、IRレーザーのオンタイムを示す。図24Bは、本発明によるIRレーザーを伴う二重放射配置によるDNAハイブリダイゼーションの測定値についてのK経時曲線を示す図である。試料温度は22℃であり、IRレーザー加熱後の温度はおよそ32℃であった。K値は、IRレーザーオンタイム中に、およそ10nMからおよそ500nMまで変化する。図24Cは、2つの異なる温度における2つのK値のファントホッフ分析の結果を示す図である。図24DおよびEは、6つの異なる試料温度(22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃)における蛍光比測定値の古典的ファントホッフ分析から得られる、相互作用の熱力学パラメーターを示す図であり、これは非常に類似する熱力学パラメーターを産出するが、IRレーザーによる熱力学測定よりも長くかかる。
図24E図24Aは、22℃と32℃との間のDNAハイブリダイゼーションについて正規化したK経時曲線を示す図である。y軸は、測定全体を通したKの倍増を示す(比較のためにすべてを1に正規化した)。x軸は、IRレーザーのオンタイムを示す。図24Bは、本発明によるIRレーザーを伴う二重放射配置によるDNAハイブリダイゼーションの測定値についてのK経時曲線を示す図である。試料温度は22℃であり、IRレーザー加熱後の温度はおよそ32℃であった。K値は、IRレーザーオンタイム中に、およそ10nMからおよそ500nMまで変化する。図24Cは、2つの異なる温度における2つのK値のファントホッフ分析の結果を示す図である。図24DおよびEは、6つの異なる試料温度(22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃)における蛍光比測定値の古典的ファントホッフ分析から得られる、相互作用の熱力学パラメーターを示す図であり、これは非常に類似する熱力学パラメーターを産出するが、IRレーザーによる熱力学測定よりも長くかかる。
図25図25Aは、異なる解離速度についてのシミュレートされたK経時曲線を示す図である。凡例は、シミュレーションにおいて使用される様々なオフ速度を示す。10s-1~0.001s-1の解離速度は、20秒間のIRレーザー加熱を含む典型的な測定により分解され得ることを示す。図25Bは、異なる解離速度についてのシミュレートされたK経時曲線を示す図である。凡例は、シミュレーションにおいて使用される様々なオフ速度を示す。0.036s-1~0.154s-1の小さな差でさえも、十分に分解され得ることを明らかにする。
図26図26は、6つの異なる濃度のCov-19スパイクRBDと迅速に混合される、蛍光標識化されたナノボディのミックス・アンド・メジャー(mix-and-measure)手法についての、レシオメトリック蛍光シグナルを使用する緩徐結合速度論の測定値を示す図である。2nMの蛍光標識化されたナノボディは、6つの異なる濃度のCOV-19スパイクRBD(20nM~625pM)と迅速に混合される。次に、90秒ごとにレシオメトリック蛍光測定を行って、緩徐結合速度論を追う。全体的なフィッティングモデルは、相互作用のkon、koffおよびKを産出し得る。
図27図27Aは、蛍光標識化されたmRNA、脂質ナノ粒子(LNP)および細胞の略図を示す図である。レシオメトリック測定は、蛍光標識化されたmRNA分子の局在を決定するために使用され得る。図27Bは、すべての蛍光標識化されたmRNA分子が、LNP内に位置することを示す図である。図27Cは、すべての蛍光標識化されたmRNA分子が、緩衝液を含有するチャンバー中に位置することを示す図である。図27Dは、すべての蛍光標識化されたmRNA分子が、細胞内に位置することを示す図である。図27Eは、LNP、緩衝液チャンバーおよび細胞内の標識化されたmRNA分子の均等な分布を示す図である。
図28図28Aは、様々な状態において蛍光標識化されたmRNAをロードされたLNPのレシオメトリック測定を示す図である。図28Bは、LNPの状態の追加の情報は、単一の波長(ここでは:670nm)における蛍光トレースを分析することによって得られ得ることを示す図であり、このトレースは、20分間の遠心分離ステップ後に得られる「でこぼこの」凝集物トレース、または90℃までの10分間の加熱後に得られる「滑らかな」トレースを明らかにする。
図29A図29Aは、四量体ストレプトアビジンと、2つのビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子と、ビオチニル化標的分子との複合体の略図を示す図である。二重放射配置におけるレシオメトリック測定は、(B)四量体ストレプトアビジンとビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子との複合体の化学量論、および(C)ストレプトアビジン-リンカー複合体とビオチニル化標的分子との間の用量応答曲線を決定するために使用され得る。
図29B図29Aは、四量体ストレプトアビジンと、2つのビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子と、ビオチニル化標的分子との複合体の略図を示す図である。二重放射配置におけるレシオメトリック測定は、(B)四量体ストレプトアビジンとビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子との複合体の化学量論、および(C)ストレプトアビジン-リンカー複合体とビオチニル化標的分子との間の用量応答曲線を決定するために使用され得る。
図29C図29Aは、四量体ストレプトアビジンと、2つのビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子と、ビオチニル化標的分子との複合体の略図を示す図である。二重放射配置におけるレシオメトリック測定は、(B)四量体ストレプトアビジンとビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子との複合体の化学量論、および(C)ストレプトアビジン-リンカー複合体とビオチニル化標的分子との間の用量応答曲線を決定するために使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、蛍光標識化された粒子の分子間および/もしくは分子内相互作用、ならびに/またはコンフォメーション改変および/もしくは局在のレシオメトリック特徴付けのための方法およびデバイスを提供する。特に、本発明の方法は、以前に公知の方法によって分解することができなかった、蛍光標識化された粒子の小さい試料体積内の蛍光標識の蛍光スペクトルにおける変動を検出することにおいて感受性の改善を提供する(例えば実施例1を参照されたい)。さらに、本発明の方法は、温度により誘導される蛍光スペクトル変化に必ずしも頼らず、それゆえ、温度感受性および/または不安定性試料の短時間測定さえも可能にする。規定の温度摂動と組み合わせて、本発明の方法は、相互作用の熱力学および速度論パラメーターの測定を可能にする。
【0046】
本発明の方法は、蛍光標識化された粒子の局在(すなわち、蛍光標識化された粒子が、脂質ナノ粒子(LNP)内ならびに/または細胞内ならびに/またはLNPおよび細胞を取り囲む緩衝溶液中に位置するかどうか)を決定することを可能にする。本発明の方法において、ただ1つの蛍光標識により標識化された、蛍光標識化された粒子が用いられる。「ただ1つの蛍光標識により標識化された」とは、本明細書において、「ただ1つの種類の蛍光標識により標識化された」ことを意味する。このことは、次に、ただ1つの単一の蛍光部分(例えば1つのCy5分子)、またはただ単一の種類の2つもしくはそれ以上の蛍光部分(例えば2つもしくはそれ以上のCy5分子)による標識化であり得る。
【0047】
本発明に関して、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動は測定され、レシオメトリック分析されて、前記蛍光標識化された粒子の結合親和性などを含む相互作用を特徴付ける。
【0048】
本発明の方法のステップは、溶液中の蛍光標識化された粒子の1つまたはそれ以上の試料を提供するステップを含む。1つまたはそれ以上の試料は、好ましくは定常励起波長において蛍光励起される。放射される蛍光は、好ましくは所定の定常温度において、好ましくは2つの異なる放射波長にて同時に検出される。2つの放射波長における蛍光強度の比が決定され得る。したがって、2つの得られた放射された蛍光の測定値は、レシオメトリックな様式において特徴付けられ得る。
【0049】
2つの放射波長の検出は、好ましくは同時に行われ、それゆえ、同一の妨害値または誤差が測定値に影響を及ぼすので、レシオメトリック特徴付けは、純粋な情報の抽出をもたらし、したがって、測定方法の分解能を改善する。
【0050】
本発明者らは、生体分子などの粒子に結合された蛍光標識の蛍光スペクトルにおける変動は、とりわけ、リガンドと生体分子との間のコンフォメーション状態(フォールディングされた状態/アンフォールディングされた状態)および/または相互作用パラメーターを決定するために使用され得ることを発見した。
【0051】
本発明に関して、「検出される」および「記録される」という用語は、互換的に使用され、蛍光標識化された粒子の蛍光シグナルの決定を指す。
第1の態様において、本発明は、例えば所定の温度における、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのための方法に関する。
【0052】
本発明の第1の態様の方法は、以下の:
a)第1の条件下において溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を提供するステップと、
b)第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するステップと、
c)第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するステップと、
d)第2および第3の波長における前記蛍光強度間の比を計算するステップであって、前記第3の波長が、前記第2の波長とは異なる、ステップと、
e1)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の前記試料についてステップb)~d)を反復するステップ、または
e2)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の第2の試料についてステップa)~d)を反復するステップであって、
前記第2の条件が、前記第1の条件とは異なる、ステップと、
f)異なる条件について得られた計算された比に基づいて、蛍光標識化された粒子を特徴付けるステップであって、
第2および第3の波長が、同時に検出され、第2の波長が、第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長がより長い、ステップと
を含む。
粒子
本発明によると、「粒子」という用語は、分子、特に、有機分子、生体分子、ナノ粒子、微粒子および小胞を含む。本発明の、生体分子、例えば核酸およびタンパク質への適用は、特に重要である。また、「粒子」という用語は、生物細胞(例えば、細菌細胞もしくは真核細胞)または細胞レベル下の断片、生物組織、ウイルス粒子、ウイルス様粒子またはウイルスおよび細胞小器官、脂質ナノ粒子(LNP)などを含む。また、ナノ粒子は、ナノディスクを含む。ナノディスクとは、2つの両親媒性タンパク質によって遮断される疎水性の端を伴うリン脂質の脂質二重層からなる合成モデル膜系である。
【0053】
生体分子は、好ましくは、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、単糖および二糖、多糖、脂質、糖脂質、脂肪酸、ステロール、ビタミン、神経伝達物質、酵素、ヌクレオチド、代謝物、核酸ならびにこれらの組合せまたは複合体からなる群から選択される。より好ましくは、生体分子は、タンパク質、ペプチド、酵素、核酸およびこれらの組合せまたは複合体からなる群から選択される。
【0054】
好ましくは、粒子(標識化された粒子中の)は生体分子、最も好ましくはタンパク質または核酸である。
タンパク質は、酵素(例えば、炭酸脱水酵素、ベータラクタマーゼTEM1、またはキナーゼ、例えばMEK1およびp38)、輸送タンパク質(例えばMBP)、阻害性タンパク質(例えば、ベータラクタマーゼ阻害性タンパク質BLIP、アナキンラ)、構造タンパク質、シグナル伝達タンパク質、リガンド結合タンパク質、シャペロン(例えば熱ショックタンパク質HSP90)、抗体(例えばトラスツズマブ)、膜タンパク質および受容体(例えばインターロイキン1受容体)からなる群から選択される。
【0055】
核酸とは、DNA、RNA(例えば、mRNA、tRNA、rRNAなど)、LNAおよびPNAを含む。また、改変された(例えば化学改変された)核酸は、本発明に関して分析され得る。ロックド核酸(LNA)は、多くの場合インアクセシブル(inaccessible)RNAとも称され、改変されたRNAヌクレオチドである。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2’酸素および4’炭素を接続する余分の架橋により改変される。ペプチド核酸(PNA)は、DNAまたはRNAに類似する人工合成ポリマーである。DNAおよびRNAは、それぞれ、デオキシリボースおよびリボース糖骨格を有するが、一方でPNAの骨格は、ペプチド結合によって連結された反復N-(2-アミノエチル)-グリシンユニットなどのペプチドからなる。様々なプリンおよびピリミジン塩基は、メチレン架橋(-CH-)およびカルボニル基(-(C=O)-)によって骨格に連結される。
【0056】
本発明に関して、ナノ粒子は、100nm未満の平均サイズを有する粒子である。「平均サイズ」という用語は、例えばBrookhaven Instrumentsの90PlusまたはMalvern Zetasizer Z90粒子サイジング器を使用して、動的光散乱法によって測定される平均有効直径を説明する。好ましくは、ナノ粒子サイズは、1nm~100nm、好ましくは1~70nmの範囲内である。ナノ粒子は、有機または無機粒子であり得る。また、ナノ粒子は、複合粒子、例えば有機分子が表面に結合した無機コアとして存在してもよい。
【0057】
微粒子は、1mm未満の最も長い寸法を有するが、通常100nm超である顕微鏡サイズの粒子である。透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)および準弾性光散乱(QELS)を用いるサイジング法は、微粒子を特徴付けるために使用され得る。また、微粒子は、マイクロビーズの形態で存在してもよい。
【0058】
微粒子は、例えばコーティングされたまたはコーティングされていないシリカ/ガラス/生分解性粒子、ポリスチレン/コーティングされた/フローサイトメトリー/PMMA/メラミン/NIST粒子、アガロース粒子、磁気粒子、コーティングされたまたはコーティングされていない金粒子または銀粒子または他の金属粒子、遷移金属粒子、生体材料、半導体、有機および無機粒子、蛍光ポリスチレンミクロスフェア、非蛍光ポリスチレンミクロスフェア、複合材料、リポソーム、細胞などであってもよい。
【0059】
市販の微粒子は、セラミックス、ガラス、ポリマーおよび金属を含む、広く様々な材料において使用可能である。日常生活において遭遇する微粒子は、花粉、砂、塵、小麦粉および粉末化糖を含む。生物系において、微粒子は、血小板および内皮細胞などの、血流と接触している細胞に由来する、血液中を循環する小さい膜結合小胞である。
【0060】
マイクロビーズは、好ましくは、最も大きな寸法において5mm未満の、製造される固形プラスチック粒子である。また、マイクロビーズは、典型的に0.5~500μmの直径の、均一なポリマー粒子であり得る。
【0061】
「改変された粒子」または「改変されたビーズ」という用語は、特に、分子、好ましくは生体分子を含むか、またはこれに連結されたビーズまたは粒子に関する。また、これは、これらの分子(生体分子)によるそのようなビーズまたは粒子のコーティングを含む。
【0062】
本発明による粒子またはビーズは、例えば、生体分子、例えばDNA、RNAまたはタンパク質が粒子またはビーズに結合(一部の実施形態において特異的に結合および/または共有結合)することが可能であり得るように、改変され得る。それゆえ、ビーズおよび/または粒子、ならびに特にそのようなビーズまたは粒子に結合または連結される分子の特徴の分析は、本発明の範囲内である。特に、そのような分子は、生体分子である。したがって、「改変された(マイクロ)ビーズ/(ナノまたは微)粒子」という用語は、特に、分析されるか、または特徴付けられる追加の分子を含むビーズまたは粒子に関する。改変されたまたは改変されていない微粒子/(ナノまたは微)粒子は、溶液中の他の粒子/分子、例えば生体分子(例えば、DNA、RNAまたはタンパク質)と相互作用することが可能であり得る。
【0063】
本発明において使用される蛍光標識化された粒子の好ましい濃度は、好ましくは10pM~10μM、さらにより好ましくは50pM~500nMである。
本発明の方法において、溶液中の蛍光標識化された粒子の濃度は、50pM~500nMであることが好ましい。
【0064】
本発明の方法において、少なくとも1つの蛍光標識、好ましくはまさに1つの蛍光標識により標識化された、標識化された粒子が用いられる。本発明に関して、2つ以上の蛍光標識により標識化された粒子は、ただ1つの種類の蛍光標識(すなわち、粒子につきただ単一の種類の標識)により標識化される。本発明に関して、「標識化された粒子」とは、蛍光手段によって検出され得る蛍光標識化された粒子または他の粒子、例えば、内因性フルオロフォアを含む分子/粒子、または融合タンパク質によりタグ付けされた粒子/分子、または外因性フルオロフォアが結合した粒子/分子を指す。
【0065】
特に、標識化された粒子は、好ましくは、標識に結合された、例えば、共有結合された(例えばNHA標識化、マレイミド標識化などにより);高親和性タンパク質タグ、例えばHISタグ、AVIタグ、SPOTタグ、SNAPタグなどにわたり標識に可逆的に結合された;または銅(I)触媒アジド-アルキン環化付加(CuAAC)、歪みにより促進されるアジド-アルキン環化付加(SPAAC)など(クリック化学としても公知)もしくは類似物によりバイオコンジュゲートされた粒子である。
【0066】
タンパク質タグは、組換えタンパク質上に遺伝子的に移植されたペプチド配列である。これらは、ポリ(His)タグ、ポリアニオンアミノ酸、例えばFLAGタグ、V5タグ、Mycタグ、HAタグおよびNEタグのようなエピトープタグ、特異的酵素改変(例えばビオチンリガーゼによるビオチニル化)または化学改変(例えば蛍光イメージングのためのFlAsH-EDT2による反応)を可能にし得るタグを含む。
蛍光標識
本発明に関して、「標識」および「色素」という用語は、互換的に使用され、フルオロフォア/蛍光色素、すなわち、励起に際して光を再放射する蛍光性化学化合物を指す。
【0067】
本発明において有用な標識は、環境変化に感受性である、すなわち、色素の蛍光スペクトルが、環境変化、例えば、化学微小環境(リガンド結合、コンフォメーション変化)および/もしくはマクロ環境(例えば細胞内のロケーションに対するLNP内のロケーション)における変化、ならびに/または温度変化(例えば加熱もしくは冷却)に際して変動する、標識である。
【0068】
本発明に関して、蛍光標識は、結合相互作用が起こることが予測される前記粒子上のロケーション/位置、例えばタンパク質の結合ポケットなどに近接して、粒子に有利に結合される。
【0069】
本発明による使用のための蛍光標識は、内因性蛍光標識、融合タンパク質、外因性蛍光標識などからなる群から選択され得る。
内因性蛍光標識は、トリプトファン残基、チロシン残基、フェニルアラニン残基を含む。融合タンパク質は、青色放射蛍光タンパク質、シアン放射蛍光タンパク質、緑色放射蛍光タンパク質、黄色放射蛍光タンパク質および赤色放射蛍光タンパク質などからなる群から選択され得る。当該技術分野において周知のデータベースであるFPbaseについて参照がなされ、これは、現在公知の蛍光タンパク質の包括的なリストを提供する(https://www.fpbase.org/table/;Lambert, TJ(2019)FPbase:a community-editable fluorescent protein database. Nature Methods. 16、277~278. doi:10.1038/s41592-019-0352-8)。
【0070】
本発明の好ましい実施形態において、蛍光標識は、外因性蛍光標識である。
外因性蛍光標識は、市販の標識、例えば、Cy5、Cy3を含むシアニン色素、Atto647、Atto647N、Alexa647 Dy647などを含み得るが、これらに限定されない。
【0071】
好ましい外因性蛍光標識は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2018/234557において説明される環境感受性色素である。環境感受性色素は当該技術分野において公知であり、例えば、Klymchenko, A. S.(2017)(Solvatochromic and fluorogenic dyes as environment-sensitive probes: design and biological applications. Accounts of chemical research、50(2)、366~375.)において説明される。特に、WO2018/234557は、環境変化、例えば、化学組成における変化、温度変化などに非常に感受性である蛍光標識に関する。好ましい実施形態により、これらの色素は、NanoTemper赤色、緑色および青色色素(例えば、NanoTemper Technologies GmbH、Munich、ドイツからタンパク質標識化キットとして市販されている)からなる群から選択される。
【0072】
外因性蛍光標識により標識化することによって、ただ1つの色素が標的分子に結合し、その色素のみがリガンド結合によって影響を受ける必要があるように制御され得る。さらに、標識化化学は、色素が化学環境における変化を検出するために最適であるロケーション(例えば、リガンド結合部位の近位)に置かれ得るように、適合され得る。さらに、外因性色素は、通常タンパク質表面上に位置し、それゆえ、化学微小環境への変化を感知するために理想的な曝露を有する。色素蛍光範囲は、それがリガンドの自己蛍光に干渉しないように選択され得る。最後に、外因性色素は一層明るく、測定は一層低い標的分子の濃度において行うことができ、したがって、試料消費を低減し、ピコモルの親和性の測定さえも可能にする。
【0073】
本発明による蛍光スペクトルにおける変動は、蛍光標識の蛍光強度における変化を含むが、スペクトルシフト(図3Cを参照のこと)および/またはそれらのスペクトルの広幅化もしくは狭小化(図3Dを参照のこと)もまた含む。本発明によると、異なる波長または波長範囲において蛍光を検出することは好ましく、これは、例えばバンドパスフィルターを使用することによって、達成され得る。これらの異なる波長/波長範囲において検出される強度および各々の比は、全放射スペクトルのスペクトルシフト、スペクトルの広幅化および/または狭小化の検出を可能にする。
【0074】
本発明に関して、スペクトルシフトは、好ましくは深色性(すなわち、赤色)シフトおよび/または浅色性(すなわち、青色)シフトを含む。
本発明に関して、スペクトルシフトのマグニチュードは、好ましくは少なくとも50pm、より好ましくは少なくとも100pm、さらにより好ましくは少なくとも500pmである。
【0075】
本発明によると、蛍光標識化された粒子の蛍光強度は、好ましくは蛍光標識化された粒子のコンフォメーション変化、蛍光標識化された粒子の再局在、蛍光標識化された粒子と1つもしくはそれ以上のリガンドとの相互作用、またはそれらの組合せなどからなる群から選択される機構のために変化する。
試料チャンバー
本発明において使用される試料は、好ましくは試料チャンバー、好ましくはキャピラリー、マルチウェルプレート、マイクロ流体チップ、キュベット、反応管、ピペットチップ、マイクロ流体技術、液滴、天然組織、細胞小器官、3D印刷された組織、3D印刷された細胞小器官および半透明容器からなる群から選択される試料チャンバー中に提供される。半透明容器は、ガラス容器またはプラスチック容器であり得る。
【0076】
本発明の好ましい実施形態において、蛍光標識化された粒子を含有する試料は、キャピラリーにおいて提供される。
本発明の別の好ましい実施形態において、蛍光標識化された粒子を含有する試料は、マルチウェルプレート、例えば96ウェル、384ウェルまたは1536ウェルプレートにおいて提供される。
【0077】
好ましくは、キャピラリーは、ガラスおよび/もしくはポリマー、ならびに/またはホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸3.3ガラス(例えばDURANガラス)、suprasil、infrasilのような石英ガラス、合成溶融シリカ、ソーダ石灰ガラス、Bk-7、ASTMタイプ1クラスAガラス、ASTMタイプ1クラスBガラスの要素のうちの少なくとも1つから作製される。ポリマーは、PTFE、PMMA、Zeonor(商標)Zeonex(商標)、Teflon AF、PC、PE、PET、PPS、PVDF、PFA、FEPおよび/またはアクリルガラスを含み得る。
【0078】
特に、キャピラリーの少なくとも1つの範囲は、200nm~1000nm、好ましくは250nm~900nmの波長を有する光について透過性であることが好ましい。また、キャピラリーの前記範囲は、以下の波長範囲:940nm~1040nm(好ましくは980nm+/-10nm)、1150nm~1210nm、1280nm~1600nm(好ましくは1450nm+/-20nmおよび/または1480nm+/-20nmおよび/または1550nm+/-20nm)、1900nm~2000nm(好ましくは1930nm+/-20nm)を有する光について透過性であることが特に好ましいが、これらに限定されない。当業者は、また、透過性範囲は、キャピラリー全体にわたり延長してもよいことを理解する。換言すれば、キャピラリーは透過性であってもよく、好ましくは上記に挙げられる材料のうちの1つから一体的に作製される。
【0079】
好ましくは、使用されるキャピラリーは、0.1mm~0.8mm、好ましくは0.2mm~0.6mm、さらに好ましくは0.5mmの内径を有する。好ましいキャピラリーの外径は、好ましくは0.2mm~1.0mm、好ましくは0.3mm~0.65mmである。
【0080】
キャピラリーの幾何形状は、ある特定の形状に限定されない。好ましくは、円形断面または楕円形断面を有する管様キャピラリーが使用される。しかしながら、様々な断面、例えば、三角形、四角形、五角形または多角形を有するキャピラリーを使用することも可能である。好ましくは、キャピラリーは、キャピラリーの長さ全体にわたり、特定の断面のうちの1つを含む。さらに、キャピラリーの内寸および/または外寸は、キャピラリーの長さ全体に沿って一定であることがさらに好ましい。例えば、円筒状(管状)キャピラリーはキャピラリーの長さ全体に沿って同じ内径および同じ外径を含むことが好ましい。換言すれば、キャピラリーの長さにわたり一定であるかまたは一定ではない直径および/または断面を有するキャピラリーが使用され得る。
【0081】
特に、本発明に使用される試料チャンバーは、広いスペクトル範囲にわたり低い自己蛍光を呈する。前記自己蛍光は、好ましくは20%より低く、より好ましくは10%より低く、さらにより好ましくは5%より低い。
【0082】
1μm~20mm、特に1μm~6mm、特に1μm~500μm、特に1μm~250μm、特に1μm~100μm、特に3μm~50μm、特に5μm~30μmの、蛍光励起ビームの方向における厚みを有するチャンバー内において、試料プローブを提供することは有利である。当業者は、チャンバーという用語は、例えば、キャピラリー、マイクロ流体チップまたはマルチウェルプレートにも関することを理解する。
シリコン表面
試料チャンバーが置かれる好ましい表面は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2017/055583において説明される。特に、WO2017/055583は、本発明の試料チャンバー(例えばキャピラリー)が好ましく置かれるシリコン表面に関する。
試料体積
典型的に、蛍光標識化された粒子を含有する試料体積は、500μl未満、好ましくは200μl未満、より好ましくは100μl未満、さらにより好ましくは1μl~25μlである。
試料
典型的に、本発明の方法において使用される試料は、蛍光標識化された粒子およびリガンドを含む溶液である。本明細書において、標識化された粒子は、溶液中に溶解または分散され得る。
【0083】
標識化された粒子は、リガンドを含有する溶液と接触するようにされる固体支持体上に固定化され得る。好ましくは、標識化された粒子は、有機溶液および/または水溶液、特に緩衝水溶液からなる群から選択される溶液中に溶解または分散される。緩衝水溶液は、好ましくは、緩衝液を使用して2~10、より好ましくは4~10、さらにより好ましくは5~9、最も好ましくは6~8.5のpH値に調節される。
蛍光測定(励起/放射)
本発明によると、標識化された粒子/分子を励起、好ましくは蛍光励起するための好ましい手段は、レーザー、ファイバレーザー、ダイオードレーザー、発光ダイオード(LED)、ハロゲン、LEDアレイ、HBO(HBOランプは、例えば、放電アークが高圧下において水銀蒸気の気体中にて発火するショート・アーク・ランプである)、HXP(HXPランプは、例えば、放電アークが超高圧下において水銀蒸気の気体中にて燃焼するショート・アーク・ランプであり、例えば、HBOランプとは対照的に、それらは実質的により高圧において作動し、それらはハロゲンサイクルを用いる。HXPランプは、UV、および赤色光の顕著な部分を含む可視光を生成する)などからなる群から選択される任意の好適なデバイスであり得る。
【0084】
好ましくは、本発明に関して、励起光源は、高度に集束した励起を可能にする。本発明に関して、励起光源は、好ましくはレーザー、さらにより好ましくはLEDである。
本明細書において用いられる「蛍光」という用語は、「蛍光」それ自体に限定されないこと、しかし、本明細書において開示される手段、方法およびデバイスは、他の手段、特に発光、例えばりん光の使用によっても使用され、用いられ得ることが当業者によって理解される。したがって、「第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起する」というステップb)の用語は、上記に特定される方法における「励起ステップ」に関し、発光の対応する励起を含んでもよく、例えば、励起は、次なる放射の検出よりも短い波長において行われる。それゆえ、本発明に関する「第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出する」という用語は、励起後の前記放射の検出のステップを意味する。当業者は、本発明に関して、「励起」波長および「放射」波長は分けられなければならないことを認識する。加えて、当業者は、本発明に関して、検出される第3の波長は、検出される第2の波長とは異なることを認識する。レシオメトリック分析に必要とされる2つのシグナルは、「二重励起」配置または「二重放射」配置のいずれかを使用することによって得られ得る。
【0085】
典型的に、レシオメトリック分析は、例えば、図8Bにおいて提供される例示的な二重放射光学系を使用することによる、「二重放射」配置に基づく。特に、蛍光標識化された粒子を含有する1つまたはそれ以上の試料は、単一の一定波長において励起され、それらの放射スペクトルは、2つの異なる波長において検出される(図10および13と共に、それぞれ実施例1および2を、ならびに図17~28と共に実施例4~12を参照されたい)。「二重放射」配置を使用することによって、2つの放射シグナルは、同じ位置および同じ時間において検出され得る。さらに、多くの蛍光標識(例えばCy5)は、より少ない秒の励起ピークを有し、これは効率的な励起のために使用され得る一方で、放射スペクトルを2つに分けるためにより大きな波長における十分なバンド幅を可能にする(図9A)。
【0086】
本発明の好ましい実施形態において、「二重放射」配置は、「赤色」蛍光標識、例えば、Cy5、RFPなどと組み合わせて使用される。そのような標識は、およそ650nmにおいてそれらの最大励起を有し、二次励起ピークはおよそ600nm、最大放射はおよそ660nmであり、十分に適した励起および放射波長は、およそ570nm~615nmの励起、およそ625nm~650nmの第1の放射の検出、およびおよそ670nm~725nmの第2の放射の検出を含む(図9A)。「二重放射」配置のために使用され得る例示的な成分は、表1に示される。
【0087】
【表1】
【0088】
本発明によると、第2の波長は、好ましくは第1の条件下における蛍光標識化された粒子の最大放射より短い波長において検出され、第3の波長は、より長い波長において検出される。当業者は、本発明に関して、最大放射は、局所最大放射または絶対最大放射であり得ることを認識する。あるいは、検出は、最大放射ではなく、放射スペクトルの鞍点付近であり得る。
【0089】
最大放射に隣接する領域における小変化(例えば波長シフト)は、蛍光スペクトルの変動に対して比較的大きな影響(例えば、強度の点において)を有する。
したがって、本発明の好ましい実施形態において、放射蛍光強度は、最大放射に近接して検出され、例えば、第2の波長は、第1の条件下における蛍光標識化された粒子の前記最大放射よりも、少なくとも2.5nm短い波長(例えば10nm短い波長)において検出され、第3の波長は少なくとも2.5nm長い波長(例えば10nm長い波長)において検出される。
【0090】
本発明によると、励起された蛍光標識化された粒子を検出するための、特に蛍光を検出するための好ましい手段は、電荷結合素子(CCD)カメラ(2DまたはラインスキャンCCD)、ラインカメラ、光電子増倍管(PMT)、シリコン光電子増倍管(siPM)、アバランシェフォトダイオード(APD)、フォトダイオードアレイ(PDA)、相補形金属酸化膜半導体(CMOS)カメラなどからなる群から選択される任意の好適なデバイスであり得る。
代替の蛍光測定
本発明の別の実施形態において、レシオメトリック分析は、例えば図8Dにおいて提供される例示的な二重励起光学系を使用することによって、「二重励起」配置に基づく。特に、蛍光標識化された粒子を含有する1つまたはそれ以上の試料は、2つの異なる波長において励起され、それらの放射スペクトルは、単一の波長において検出される(図16と共に実施例3を参照されたい)。この配置を使用することによって、2つの励起スペクトルは、同時に検出することはできず、このことは、それらが引き続いて取得される必要があることを意味する。この手法は、より時間がかかり、2つの引き続く測定間の時間遅延は、例えば、第1の励起後に誘導される退色事象、試料凝集などによって、前記測定間の実質的な差を引き起こし得る。
【0091】
2つの励起光源が1秒未満またはさらに速くオンオフ切り替えられ、データが交互に収集される「ストロボスコープ」励起手法を使用することによって、上記に挙げられる問題の一部は、解決され得る。しかしながら、2つの異なる励起光源は、試料の異なる退色速度をもたらす場合があり、それはより長い取得時間を取り扱う場合、レシオメトリックシグナルの評価に対して負の効果を有し得る。
【0092】
本発明の別の実施形態において、「二重励起」配置は、「緑色」蛍光標識、例えばCy3、GFPなどと組み合わせて使用される。そのような標識は、およそ540nmにおいてそれらの最大励起を有し、最大放射はおよそ560nm、二次放射ピークはおよそ600nmであるので、十分に適した励起および放射波長は、およそ475nm~495nmの励起、およそ550nm~575nmの第1の放射の検出、およびおよそ590nm~680nmの第2の放射の検出を含む(図9B)。「二重放射」配置のために使用され得る例示的な成分は、表2に示される。
【0093】
【表2】
【0094】
励起体積は、典型的に、励起光源によって蛍光励起される試料体積の部分である。検出体積は、放射スペクトルが検出される試料体積の部分である。本発明によると、励起体積および/または検出体積は、好ましくは2mm×2mm×5mmまたはそれ未満、より好ましくは1mm×1mm×5mmまたはそれ未満、さらにより好ましくは0.5mm×0.5mm×5mmまたはそれ未満のサイズの体積である。
【0095】
しかしながら、蛍光標識化された粒子を励起するためおよび励起された前記粒子の蛍光を検出するための手段は、限定されず、当業者に公知の任意の好適な手段が用いられ得る。
レシオメトリック特徴付け
本発明によると、レシオメトリック分析は、好ましくは、点ごとの除法によって、第2および第3の波長において検出された蛍光強度間の比を構築することに基づく。当業者は、本発明に関して、前記蛍光強度の比は、第3の波長を第2の波長で割るかまたはその逆(例えば、第2の波長を第3の波長で割る)によって得られ得ることを認識する。
【0096】
本発明の関係において、比の例示的な相対的パーセント変化(すなわち、スペクトルシフト後の比のパーセント変化)は、少なくとも0.5%、少なくとも1.1%、少なくとも5.5%、少なくとも37.3%である。好ましくは、本明細書において、相対的パーセント変化は、少なくとも3%である。
相互作用の特徴付け
本発明の関係において、蛍光標識化された粒子の相互作用は、特に例えばさらなる(生体)分子、粒子、ビーズとの生体分子、ならびに(生体)分子の安定性、フォールディングおよびアンフォールディングのためのそれらのコンフォメーション、またはそれらの化学環境(例えば、水溶液、脂質ナノ粒子もしくは細胞内でのそれらのロケーション)を含む。さらなる相互作用特徴付けは、平衡測定、結合速度論測定、および熱力学パラメーターの測定を含む。
【0097】
本発明によると、計算された比は、好ましくは、蛍光標識化された粒子の局在、または解離定数、半数効果濃度(EC50)、平衡定数、結合速度論、酵素反応速度論、熱力学パラメーター、安定性パラメーター(例えば、タンパク質の熱変性、タンパク質の化学変性など)、アンフォールディングもしくはリフォールディング速度論、開環および閉環反応、ならびに/もしくはそれらの組合せなどからなる群から選択されるパラメーターを決定するために使用される。
【0098】
本発明の関係において、当業者は、相互作用の解離定数(K)は、データをラングミュアの式とフィットさせることによって、得られた蛍光強度比から決定することができ、半数効果濃度(EC50)は、ヒルの式とフィットさせることによって、得られた蛍光強度比から決定することができることを認識する(Ganellin, C. R.、Jefferis, R.およびRoberts, S. M.(編).(2013).Introduction to biological and small molecule drug research and development: theory and case studies. Academic Press.、第1章、38および39ページ)。
【0099】
本発明によると、蛍光標識化された粒子の第1および第2の条件は、それらの化学組成および/または温度および/または化学マクロ環境内の局在について異なり得る(例えば、蛍光標識化された粒子の第1の条件は、第1の担体、例えば、ベクター内の粒子のロケーションに関し、第2の条件は、第2の担体、例えば、レシピエント内または両方の担体を含有する緩衝溶液中の粒子のロケーションに関する)。
【0100】
また、本発明による蛍光標識の蛍光スペクトルは、蛍光標識化された粒子/分子が1つまたはそれ以上の他の分子、例えばリガンドとの複合体において存在する場合、変化し得る(例えば、リガンドの近接(図3Bを参照されたい)および/またはリガンドの結合に際してのコンフォメーション変化(図3Bを参照されたい)を通して)。
【0101】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、第2の条件は、リガンドおよび/または異なる濃度のリガンドを添加することによって変動される場合があり、得られた、計算された比は、蛍光標識化された粒子およびリガンドの用量応答曲線および解離定数(K)を決定するために使用される。
【0102】
本発明の関係において、標識化された粒子へのリガンドの「結合」という用語は、好ましくは、共有結合、または分子間力、例えばイオン性結合、水素結合およびファンデルワールス力による結合を指す。
【0103】
タンパク質のような標的生体分子へのリガンド結合は、アミノ酸側鎖、ループまたはドメインの移動などの広範囲のコンフォメーション変化をもたらし得る。本発明により使用され得るリガンドは、イオン、金属、化合物、薬物断片(生物標的にただ弱く結合し得る低分子化学物質断片)、炭水化物、低分子(低分子量(900ダルトン未満)を有する有機化合物;低分子は生物プロセスを調整することを補助し、通常1nmの単位のサイズを有し得る)、薬物、プロドラッグ、脂質、タンパク質、ペプチド、ペプトイド、酵素、核酸、アプタマー、ナノ粒子、リポソーム、単層小胞(小単層小胞(SUV)および巨大単層小胞(GUV)を含む)、ポリマー、有機分子、無機分子、金属複合体、ホルモン、香料、匂い物質、粒子ならびに(マイクロ)ビーズからなる群から選択され得る(が、これらに限定されない)。好ましくは、リガンドは、イオン、金属、化合物、薬物断片、炭水化物、低分子、薬物、プロドラッグ、脂質、タンパク質、ペプチド、ペプトイド、酵素、核酸、アプタマー、ホルモン、香料および匂い物質からなる群から選択される。
【0104】
リガンドの濃度は、好ましくは、0.01pM~1M、好ましくは1pM~100mM、より好ましくは1pM~10mMである。
温度関連性強度変化(TRIC)とマイクロスケール熱泳動(MST)との組合せ
本発明による蛍光標識化された粒子のレシオメトリック分析は、温度により誘導される蛍光強度変化に必ずしも頼らないが、蛍光強度測定は、一定の所定の温度において、または規定の温度摂動中に行われ得る。
【0105】
第2の態様において、本発明は、規定の温度摂動と組み合わせて、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の特徴付けのための方法に関する。
【0106】
本発明の第2の態様の方法は、以下の:
a)第1の条件下において溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を提供するステップと、
b)第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するステップと、
c)第2および第3の波長において、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するステップであって、
前記強度が、規定の温度摂動中に検出される、ステップと、
d)第2および第3の波長における前記蛍光強度間の比を計算するステップであって、前記第3の波長が、前記第2の波長とは異なる、ステップと、
e1)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の前記試料についてステップb)~d)を反復するステップ、または
e2)第2の条件下において、蛍光標識化された粒子の第2の試料についてステップa)~d)を反復するステップであって、
前記第2の条件が、前記第1の条件とは異なる、ステップと、
f)異なる条件について得られた計算された比に基づいて、蛍光標識化された粒子を特徴付けるステップであって、
第2および第3の波長が、同時に検出され、第2の波長が、第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長がより長い、ステップと
を含む。
【0107】
本発明の第2の態様の好ましい実施形態の方法において、加熱または冷却は、加熱および/もしくは冷却液もしくは気体、発熱素子(例えば発熱抵抗体、もしくは金属発熱素子、セラミック発熱体、ポリマーPTC発熱体、複合発熱体、半導体発熱素子のようなジュール加熱に基づく他の素子)もしくは熱電素子、例えば、ペルチェ素子、または電磁放射(例えばLED、例えばIR-LED、もしくはレーザー、例えばIRレーザー、もしくはマイクロ波)からなる群から選択されるテンパリング素子(すなわち、加熱および/または冷却源)を使用して行われ得る。IRレーザーの使用は、速い試料加熱を可能にする。
【0108】
ペルチェ素子は、試料を加熱するためおよび/または試料を冷却するため(例えば、試料を環境温度未満に冷却するため)に使用され得るので、ペルチェ素子は、好ましく使用される。特に、ペルチェ素子を通して電流の方向を逆にすることによって加熱から冷却へ転換することが可能である。ペルチェ素子は、加熱することができるが、室温以下に能動的に冷却することもできる数少ない素子のうちの1つである。
【0109】
レーザー、好ましくはその電磁放射が試料によって直接的に吸収されるレーザーは、試料への機械的な接触なしに、温度が試料中で迅速かつ直接的に変化され得るので、好ましく使用される。
【0110】
また、前記レーザーが、0.01W~10W、好ましくは4W~6Wの範囲内の高出力レーザーであることは好ましい。
また、前記レーザーが、1mW~1W、好ましくは1mW~500mW、より好ましくは1mW~250mWの範囲内のレーザーであることは好ましい。
【0111】
レーザー放射は、試料によって直接的に吸収され、熱に変換され、例えば、波長980nm+/-30nm、1480nm+/-30nm、1550nm+/-30nm、1940nm+/-30nmのIRレーザー光は、水によって非常によく吸収され、非常に素早く熱くなる。この加熱法は、非接触式であり、したがって速く、かつ夾雑のリスクを有しない場合がある。試料チャンバーは、レーザー光についてただ透過性でなければならないが、発熱素子の手段による接触加熱とは対照的に、優れた熱伝導率を必要としない。
【0112】
IRレーザーでは、非常に小体積(例えば、ナノリットルの体積範囲)でも加熱することができ、その蛍光は、蛍光光学系によって測定される(典型的に単に100μm×100μm×100μm=1nl体積)。
【0113】
本発明によると、また、調査される試料は、規定の一定速度、例えば1℃/分または1K/分においてテンパリング素子を加熱および/または冷却することによって線形温度勾配へかけてもよい。典型的に、加熱および/または冷却速度は、例えばペルチェ素子による接触加熱を使用して0.1K/分~50K/分である。
【0114】
別の実施形態において、試料は、1K/秒~100K/秒の典型的な加熱速度によりIRレーザー(「光学加熱」)によって加熱され得る。
本発明の第2の態様による方法は、好ましくは-20℃~160℃、より好ましくは0℃~120℃の温度範囲内において行われる。
【0115】
初期比の測定のための好ましいデータ取得時間は1秒~5秒であり、温度摂動中に得られる比についての好ましいデータ取得時間は5秒~20秒であるが、また、取得時間はより短く、例えばただ10ミリ秒~100ミリ秒であってもよく、またはより長く、例えば、数分、数時間もしくは数日でさえあり得る。
【0116】
また、比は、温度変化の任意の後の時間において分析され得る。これは、振幅が室温においては非常に小さいが、より高温においては増加する場合、有益であり得る(図13Aと共に実施例2を参照されたく、ここでは、相3における分析は、相1における分析より大きな振幅をもたらす)。
【0117】
本発明の第2の態様の好ましい実施形態において、レシオメトリック分析は、温度摂動と組み合わせた「二重放射」配置に基づく、すなわち、図8Aにおいて示される例示的な二重放射光学系およびIRレーザーを使用することによる。
【0118】
本発明の別の実施形態において、レシオメトリック分析は、温度摂動と組み合わせた「二重励起」配置に基づく、例えば、図8Cにおいて示される例示的な二重励起光学系およびIRレーザーを使用することによる。
【0119】
本発明の別の実施形態において、レシオメトリック分析は、「二重励起」および「二重放射」配置の両方に基づく、すなわち、図8Fにおいて示される例示的な「二重励起/二重放射」光学系を使用することによる。
【0120】
本発明の別の実施形態において、レシオメトリック分析は、温度摂動と組み合わせた「二重励起」および「二重放射」配置の両方に基づく、例えば、図8Eにおいて示される例示的な「二重励起/二重放射」光学系およびIRレーザーを使用することによる。
レシオメトリック法とTRIC/MSTとを組み合わせることによる熱力学および速度論パラメーターの決定
第3の態様において、本発明は、規定の温度摂動/温度変化と組み合わせて、蛍光標識化された粒子の蛍光スペクトルにおける変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の熱力学および/または速度論パラメーターの特徴付けのための方法に関する。
【0121】
本発明に関して、熱力学パラメーターとして、エンタルピー、エントロピー、熱容量(Cp)が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に関して、速度論パラメーターとして、平衡定数、解離速度、会合速度、酵素反応速度、フォールディングおよびアンフォールディング速度、放出速度(例えばLNPの場合ペイロード放出速度)、凝集速度、侵入速度(例えば、mRNAのようなペイロードが細胞へ侵入する速度)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本発明の第3の態様によると、好ましくは相互作用の熱力学パラメーターは、単一の測定からIRレーザーによりレシオメトリック蛍光データを収集する場合、決定され得る。測定の各時点における試料温度が公知であるので(トレイが、制御された様式において加熱され、参照標識の蛍光が測定される、較正測定における決定)、解離定数Kは、各時点について得られ得る(図14Aと共に実施例2を参照されたい)。
【0123】
本発明の第3の態様によると、また、反応の熱力学は、様々な完全に平衡化された試料温度において古典的K測定を行うことによって、例えば試料温度を22℃、24℃、26℃、28℃、30℃および32℃に続いて設定し、各温度について結合親和性測定を行うことによって、決定され得ることが加えられる(図24と共に実施例10を参照されたい)。
【0124】
この手法の正確さは、最新の等温滴定熱量(ITC)測定の正確さに必ずしも到達しない場合でさえも、本測定はおよそ100倍速く、非常に少ない試料消費は正確さの欠落より重要であり得る。例えば、ある特定の分子について、情報は、エントロピーまたはエンタルピーバインダーである場合、とりわけ初期開発段階中は非常に価値があり得る。
【0125】
本発明の第3の態様によると、好ましくは、相互作用の熱力学パラメーターは、単一の測定からIRレーザーによりレシオメトリック蛍光データを収集する場合、決定され得る。
適用:レシオメトリック法をTRIC/MSTと組み合わせることによる、蛍光標識化されたmRNAの局在のモニタリング
第4の態様において、本発明は、好ましくは、規定の温度摂動/温度変化と組み合わせて、またはこれを伴わずに、蛍光標識化された粒子の蛍光における変動を分析することによる、溶液中の蛍光標識化された粒子の局在の特徴付けのための方法に関する。
【0126】
本発明に関して、「ロケーション」および「局在」という用語は、互換的に使用され、蛍光標識化された粒子の場所/位置の決定を指す。
核酸、例えばDNAおよびRNAなどを含むすべての遺伝子および細胞治療法は、薬物送達(例えば、組込み、および緩衝溶液中に溶解された脂質ナノ粒子(LNP)などの担体からの放出による、標的細胞への、運搬される核酸の送達;図27Aを参照されたい)の成功を決定する固有の問題を有する。
【0127】
送達の成功を決定する前でさえも、生物生産(例えば、LNPの非ロード、部分ロード、完全ロードおよび/または過剰ロード状態を含む送達系のローディング)は、決定的なステップであり、このステップは徹底的に評価する必要がある。
【0128】
本発明の第4の態様によると、担体は、金属ナノ粒子およびナノ構築物、ポリマーナノ粒子、脂質ベースの担体系(例えば、リポソーム、他の脂質含有複合体)、炭素質の担体、ナノエマルション、ナノ懸濁液、ナノミセル、デンドリマー、乳由来担体、エンドソーム、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス)、ウイルス様粒子(VLP)、真核細胞、原核細胞、細胞断片などからなる群から選択され得る。上記の観点において、前記担体の組合せもまた本発明の範囲内である。
【0129】
本発明の第4の態様の好ましい実施形態において、蛍光標識化された粒子は、蛍光標識化されたmRNAであり、担体は、LNPである。
LNPは、1000nm、500nm、250nm、200nm、150nm、100nm、75nm、50nmまたは25nm未満の直径を有する任意の粒子を指す。例えば、適切な緩衝液中において、mRNAを満たしたLNPは、65nm~85nmの流体力学的直径を有し得る。あるいは、ナノ粒子は、1~1000nm、1~500nm、1~250nm、25~200nm、25~100nm、35~85nmまたは25~60nmのサイズに及び得る。
【0130】
LNPは、カチオン性、アニオン性または中性脂質から作製され得る。中性脂質、例えば、膜融合リン脂質DOPEまたは膜成分コレステロールは、トランスフェクション活性およびナノ粒子安定性を向上させる「ヘルパー脂質」としてLNPに含まれ得る。カチオン性脂質の制限として、安定性の乏しさおよび迅速なクリアランスのための低い有効性、ならびに炎症または抗炎症応答の生成が挙げられる。
【0131】
また、LNPは、疎水性脂質、親水性脂質、または疎水性および親水性脂質の両方からなり得る。
当該技術分野において公知である任意の脂質または脂質の組合せは、LNPを生産するために使用され得る。LNPを生産するために使用される脂質の例は:DOTMA、DOSPA、DOTAP、DMRIE、DC-コレステロール、DOTAP-コレステロール、GAP-DMORIE-DPyPEおよびGL67A-DOPE-DMPE-ポリエチレングリコール(PEG)である。カチオン性脂質の例は:98N12-5、C12-200、DLin-KC2-DMA(KC2)、DLin-MC3-DMA(MC3)、XTC、MD1および7C1である。
【0132】
中性脂質の例は:DPSC、DPPC、POPC、DOPEおよびSMである。PEG改変脂質の例は、PEG-DMG、PEG-CerC14およびPEG-CerC20である。
【0133】
蛍光標識の蛍光スペクトルは、環境変化、例えば化学環境における変化に非常に感受性であり、前記スペクトルは、環境変化に際して変動するので、蛍光標識化された粒子(例えば、mRNA)のロケーションは、本発明によるレシオメトリック測定から推論され得る。
【0134】
色素と第2および第3の放射波長との非限定的な組合せについての一例として:すべての蛍光標識化されたmRNA分子がLNP内に適切に位置する場合、本方法による特徴付け後の比は2.1に対応する(図27Bと共に実施例12を参照されたい)。すべての蛍光標識化されたmRNA分子がLNPの外側に位置する場合、得られる比は1.2に対応する(図27Cと共に実施例12を参照されたい)。
【0135】
細胞内の化学環境はLNPまたは緩衝溶液中の化学環境とは非常に異なるので、当業者は、本発明に関して、すべての蛍光標識化されたmRNA分子が標的細胞へうまく送達される場合、得られる比は上記に挙げられる値(すなわち、1.2および2.1)とは異なることを認識する(図27Dと共に実施例12を参照されたい)。さらに、中間状態、例えば、蛍光標識化されたmRNA分子が細胞、LNPおよび緩衝溶液中に部分的に位置する場合、得られる蛍光比は、3つの上記に挙げられる状態について得られる比の線形的な組合せである。
【0136】
本発明のこの例示的な態様によると、蛍光標識化された粒子(例えば、mRNA)の局在の決定は、非常に小さい試料体積および検出体積ならびに短い実験手技に基づく。同じ関係において、当該技術分野において公知の現在適用される方法(例えば、フィールドフロー分画および液体クロマトグラフィー)は、様々な方法に基づき、より時間を必要とするだけでなく、一層大きな試料体積の、しばしば限定的で、高価な試料を必要とする。
ビオチニル化分子についてのキット
第5の態様において、本発明は、本発明の方法による溶液中の蛍光標識化された粒子、例えば1つまたはそれ以上のビオチン分子により標識化された粒子(すなわち、ビオチニル化粒子)の特徴付けのためのキットおよびキットの使用に関する。
【0137】
キットは、主要な成分として規定の化学量論比の(i)少なくとも2つの(好ましくは4つの)ビオチンについての結合部位を含む(好ましくは四量体の)ビオチン結合タンパク質、および(ii)連結部分(本明細書において「リンカー」とも呼ばれる)を含む。キットは、好ましくは、本発明の方法のうちの少なくとも1つにおけるキットの使用を説明する使用説明マニュアルをさらに含む。
【0138】
本発明の第5の態様によると、ビオチン結合タンパク質は、ストレプトアビジン、アビジンおよびその変異体からなる群から選択され得る。本発明の関係において、変異体は、ニュートラアビジン、フラビジン(flavidin)、二価のストレプトアビジンなどを含む。
【0139】
本発明において有用なキットは、(i)ビオチン結合タンパク質、および(ii)好ましくは1端においてビオチン分子、他端において蛍光標識により改変/標識化されたリンカーを含む単一のバイアルを含み得る。ビオチン結合タンパク質が好ましくは四量体タンパク質、さらにより好ましくは四量体ストレプトアビジンであることは、本発明の第5の態様の好ましい実施形態である。
【0140】
ストレプトアビジンは、ビオチン(ビタミンB7としても公知)についての非常に高い親和性を有するホモ四量体である。それは、有機溶媒、変性剤(例えば、塩化グアニジニウム)、洗剤(例えば、SDS、トリトン)、タンパク質分解酵素、ならびに極端な温度およびpHへのストレプトアビジン-ビオチン複合体の抵抗性のために、分子生物学およびバイオナノテクノロジーにおいて広範に使用される。
【0141】
例えば当該技術分野において説明される通り(NPL6)、蛍光標識がリンカーに結合されることは、本発明の第5の態様のさらに好ましい実施形態である。
本発明の第5の態様によると、リンカーは、ポリマー、好ましくは核酸、好ましくは一本鎖核酸、より好ましくは一本鎖DNA、さらにより好ましくは一本鎖DNAオリゴマー(すなわち、オリゴヌクレオチド)であり、好ましくは6~24ヌクレオチドの長さを有する。例えば、12マーオリゴ-dT鎖が使用され得る。
【0142】
しかしながら、本発明の関係において使用されるリンカーは、リンカーの長さ(リンカーが、フルオロフォアが標的に到達し得るのに十分長い限り)および/またはタイプ(リンカーのタイプが、その長さが調節され得る特質を有する限り、例えば、DNA、アリール基を含む芳香環など)によって限定されず、当業者に公知の任意の好適なリンカーは、本発明の方法によって特徴付けられるように、粒子へ蛍光標識を間接的に結合するように用いられ得る。
【0143】
本発明による使用のためのリンカーは、1端においてビオチン分子、他端において蛍光標識を含有する。本発明の第5の態様の好ましい実施形態において、リンカーは、その3’末端においてビオチンにより、その5’末端において蛍光標識により改変されているか、その逆である。
【0144】
各キットは、多数の標識化反応に十分な材料を含有し得る。キットのサイズおよび使用される生体分子の量によって、およそ500~最大3840のシングルポイントレシオメトリック特徴付け実験に十分な材料が提供され得る。
【0145】
本発明の第5の態様の好ましい実施形態において、蛍光標識化された粒子は、四量体ストレプトアビジン分子と、ビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子と、ビオチニル化標的分子との複合体である(図29Aを参照されたい)。蛍光標識化された粒子が、1つの四量体ストレプトアビジン分子と、2つのビオチニル化された蛍光標識化されたリンカー分子と、1つのビオチニル化標的分子との複合体であることは特に好ましい。
【0146】
四量体ビオチン結合タンパク質と改変されたリンカーとの化学量論比は、好ましくは、平均して四量体ビオチン結合タンパク質上の4つの結合部位のうちの2つが占有されており(例えば、バイアルに2nMストレプトアビジンおよび4nMリンカーを供給することによって)、残りの2つの結合部位が、目的のビオチニル化粒子との結合事象に使用可能であるように調節される。
【0147】
したがって、本発明の第5の態様において、平均して、1つのストレプトアビジン分子が2つのリンカー分子により標識化される、すなわち、1つのストレプトアビジン分子が2つの蛍光標識を有するように、四量体ストレプトアビジンおよびリンカーが1:2の比において混合されることはさらに好ましい。ストレプトアビジン分子の残りの2つの結合部位は、ビオチニル化分子(例えば、タンパク質)を捕獲し得る。標識化ストレプトアビジンおよびビオチニル化分子を1:1の比において混合することによって、平均して、ただ1つのビオチニル化分子がストレプトアビジン-リンカー複合体へ結合されることが達成され得る。しかしながら、また、化学量論を、ビオチニル化二量体タンパク質(例えば、インターフェロン遺伝子のビオチニル化された刺激剤(STING)、二価のストレプトアビジン)について好都合に利用してもよく、ここでは、機能的二量体は、1つのストレプトアビジン-リンカー複合体により標識化され得る。二価のビオチン結合タンパク質の場合、二価のビオチン結合タンパク質と改変されたリンカーとの比は、平均して、二価のビオチン結合タンパク質上の2つの遊離結合部位のうちの1つが占有され(例えば、バイアルに2nMストレプトアビジンおよび2nMリンカーを供給することによって)、残りの結合部位が、目的のビオチニル化粒子との結合事象に使用可能であるように調節され得る。
【0148】
正確な化学量論は、ストレプトアビジンがリンカーに対して滴定される本発明によるスペクトルシフト測定によって(例えば、二重放射配置を使用することによって)標識化プロセス中に確証され得る。
【0149】
遊離リンカー分子(すなわち、その3’末端においてビオチンにより、その5’末端においてCy5により標識化された12マーのポリT鎖)は、0.8より小さい比を有し(図29B、遊離リンカーを参照されたい)、ただ1つのリンカー分子により標識化されたストレプトアビジンがおよそ1.05の比を有する(図29B、1つのリンカーを参照されたい)一方で、2つのリンカー分子により標識化されたストレプトアビジンは、より高い比、すなわち、およそ1.15を有し、両方の蛍光標識とストレプトアビジン分子の残りの2つの結合部位との相互作用から生ずる二相用量応答曲線におけるピークに対応する(図29B、理想比を参照されたい)。ビオチニル化分子がストレプトアビジン-リンカー複合体へ付加される場合、比は減少する。すべてのビオチン結合部位がそれらの完全な活性を保持するので、ビオチニル化分子は、非常に高い親和性により捕獲することができ、用量応答曲線において化学量論点における特徴的なよじれをもたらす(図29Cを参照されたい)。
【0150】
本発明のこの例示的な態様により、非常に低い最終濃度のキット成分およびビオチニル化標的分子(例えば、1nMストレプトアビジン、2nMリンカーおよび1nMビオチニル化分子)が使用される。そのため、本発明の第5の態様によるキットは、本発明の方法を使用することによって、非常に制御可能かつ再現性のある標識化プロセス(当該技術分野において公知の標識化キット、例えば、タンパク質Hisタグ標識化キットRED-トリス-NTA第2世代(NanoTemper Technologies)と比較して)に基づいてピコモルの親和性を測定するために好適である。同じ関係において、当該技術分野において公知の現在適用されるキット(例えば、タンパク質Hisタグ標識化キットRED-トリス-NTA第2世代)は、緩衝液の限定、緩徐標識化結合速度論、すでにビオチニル化された分子との非適合性を含む、さらなる限定を有し、加えて、当該技術分野において公知の標識化キットは、コストがかかり、労働力を要する。
一般原理および例示的な態様
以下に、本発明の一般原理は、さらに詳細に説明され、本発明の例示的な実施例または好ましい実施形態に基づく。
【0151】
蛍光標識の蛍光スペクトルはそれが位置する微小環境に強く依存するので、例えば、それが結合する分子または粒子に依存して、同じ標識は非常に異なる蛍光を示し得る。特に、蛍光標識の結合部位の周囲の各タンパク質上の微小環境は、標識を消光するか、標識と衝突するか、標識と一過的に相互作用するかまたは積み重ねをもたらし得るアミノ酸残基について異なる。
【0152】
図1Aは、同一の蛍光標識(タンパク質標識化キットRED-NHS第2世代(NanoTemper Technologies))により標識化された4つの異なるタンパク質の励起スペクトルを示す。放射は、690nmの波長において検出された。励起は、520nm~670nmにおいて変動した。同じ蛍光標識により標識化されたが、4つのタンパク質の最大放射ピーク波長は異なり、およそ659nm~およそ664nmに及ぶ(図1B)。
【0153】
図2Aから、一定波長(すなわち、605nm)において4つの異なるタンパク質を励起し、620nm~750nmにおいて放射を記録した場合、同じ効果/現象が検出されたことが明白である。上記と同様に、タンパク質が同じ蛍光標識により標識化されたが、最大放射ピーク波長は、およそ659nm~およそ664nmに及んだ(図2B)。
【0154】
微小環境は、前記分子/粒子上の位置(例えば、タンパク質のリジン残基に、標識化されたものが結合されているか、または標識が核酸分子の3’もしくは5’末端に結合されている)、前記分子/粒子のコンフォメーション(例えば、フォールディングもしくはアンフォールディングされたタンパク質)または前記分子/粒子と標識との間のリンカーの長さ/組成に基づいてさらに変化し得る。また、蛍光標識のマクロ環境は、その蛍光スペクトルに対して影響を有する。例えば、粒子/分子のロケーション(例えば、水性緩衝溶液中、LNP内、細胞内)によって、前記標識の蛍光スペクトルは異なる。
【0155】
加えて、また、蛍光標識化された粒子/分子が1つまたはそれ以上の他の分子(すなわち、リガンド)との複合体として存在する場合、蛍光標識の蛍光スペクトルは変化し得る。例えば、リガンド近位(図3A)、および/またはリガンドの結合に際してのコンフォメーション変化(図3B)は、蛍光標識の励起または放射蛍光スペクトルのシフト(図3C)、および/または広幅化もしくは狭小化(図3D)をもたらし得る。本発明のレシオメトリック特徴付け方法を使用することによって、蛍光強度における変化のみでなく、蛍光標識の微小環境の変動に際しての完全吸収および放射スペクトルにおける変化も検出することが可能である。
【0156】
上記の観点から、図4は、605nmの波長における励起に際しての、天然リガンドビオチン(2μM)との複合体として存在する場合の、およそ664nmからおよそ661nmへの、ストレプトアビジン(200nM)の最大放射ピーク波長のシフト(すなわち、3nm)を示す。同列において、図5は、585nmの波長における励起に際しての、単独およびリゾチーム阻害剤トリ-N-アセチル-D-グルコサミン(NAG3)(80μM)との複合体の、リゾチーム(100nM)の最大放射ピーク波長のわずかなシフト(すなわち、1nm未満)を示す。3nmおよびおよそ500pmのシフトは、それぞれ、約37.3%および5.5%の蛍光比における相対変化に対応する(表3)。
【0157】
【表3】
【0158】
蛍光標識の励起および/または放射スペクトルの変動は、非常に小さい(例えば、単に数Å)場合があるので、当該技術分野において公知の方法/デバイスにより、必要とされる正確さをもってそれらを測定/分解することは可能ではない。しかしながら、本発明の方法およびデバイスにより、蛍光スペクトルにおける小さい変化でさえも、分解され得る。例えば、炭酸脱水酵素とフロセミドとの間の結合の場合(図6A)の、0.5%の蛍光比の変化(表3)をもたらす単に50pmの波長シフトは、容易に測定/検出することができ、シグモイド用量-応答曲線が得られ得る(図6B)。
【0159】
蛍光スペクトルにおける変動は、蛍光標識の性質とは独立的である、すなわち、それらは、内因性および外因性蛍光標識において平等に現れる。しかしながら、蛍光スペクトルにおける変動の程度は、ある特定のクラスの標識について増加され得る。図7Aは、変性の特徴付けのための35℃~95℃の熱融解勾配中のトリプトファン蛍光の蛍光比測定の使用、および天然リゾチームとその阻害剤トリ-N-アセチル-D-グルコサミン(NAG3)との間の結合親和性を示す。非常に高濃度のNAG3は、熱安定化、すなわち、リゾチームの熱シフトをもたらす。このシフトを使用して、解離定数(K)を得ることはできないが、K(ここでは:35℃における)を明らかにするシグモイド用量応答曲線は、NAG3の濃度に対して35℃における初期比をプロットした場合、得ることができる(図7B)。
【0160】
図8A~8Fは、本発明による測定デバイスの様々な例示的な実施形態を示す。概して、本発明によるデバイスは、好ましくは、複数の条件下における溶液中の蛍光標識化された粒子の試料を保持するための試料ホルダーを含む。上記に挙げられる通り、本発明の試料ホルダーはキャピラリーであり得るが、そのようなキャピラリーに限定されない。また、試料を保持するための他の手段、例えば、マルチウェルまたはチップが使用され得る。
【0161】
図8A~8Fは、励起するための光を試料へ方向付けることを補助し、試料からの蛍光放射を検出するための光学素子の配置についての例を示し、ここで、試料それ自体は図中に示されていない。好ましくは、試料容器、例えばキャピラリーは、レンズ1の下に位置する。前記レンズ1は、好ましくは、非球面レンズ、または複数のレンズを有するレンズ系であり、以下では対物レンズとも呼ばれる。
【0162】
また、本発明のデバイスは、第1の波長において、蛍光標識化された粒子を励起するための少なくとも1つの手段を含む。例えば、励起光を提供するための光源8は、提供され得る。上記に説明される通り、本発明は、単一の励起光源に限定されない。あるいは、1つの光源の使用に、第2の励起光源16またはさらなる追加の光源(示されていない)が提供され得る(特に「二重励起」モードについて)。本発明のレシオメトリック分析は、「二重励起」配置または「二重放射」配置のいずれかを使用することによって、得られ得る。「二重放射」配置について、少なくとも1つの光源を提供することが好ましい。「二重励起」配置について、2つまたはさらにより多くの光源を提供することが好ましい。しかしながら、当業者は、複数の光源が「二重放射」配置について提供され得ることをさらに理解する。しかしながら、この場合、これらの光源のうちの1つが励起に使用される場合それは十分であり得る。
【0163】
第1の励起光源8は、好ましくは、レーザー、ファイバレーザー、ダイオードレーザー、LED、HXP、ハロゲン、LEDアレイ、HBOからなる群のうちの少なくとも1つである。第2の励起光源16についても同じことが当てはまる。
【0164】
好ましくは、第1の光分離素子7、例えば、ダイクロイックミラーは、励起された光を試料へ方向付けるために、および好ましくは蛍光励起光を蛍光放射光から分離するために使用される。励起光を試料へ方向付けるための追加の光学素子、例えば、レンズ系9を提供して、例えば、励起光源のビーム特質を決定してもよい(例えば、1、2またはそれ以上のレンズ)。さらに、また、励起フィルター10は、励起された光、例えばバンドパス/ロングパスをフィルターにかけるために提供され得る。当業者は、どの種類のフィルターが異なる光源について好ましいか理解し得る。ここでもまた、第2の励起光源16について、同様の光学素子が提供され得る。例えば、図8C、8D、8Eおよび8Fにおいて示される通り、例えば、第2の励起光源16のビーム特質を決定するために、レンズ系17が提供され得る。さらに、さらなる光分離素子18、例えば、ダイクロイックミラーは、例えば、2つの異なる励起光源8および16からの光を組み合わせるために使用され得る。
【0165】
また、本発明のデバイスは、蛍光標識化された粒子の蛍光放射強度を検出するための手段を含む。「二重放射」配置について、2つの異なる波長を検出するための手段を提供することが好ましく、「二重励起」配置について、検出するための手段がただ単一の波長または単一の波長範囲を検出するように構成される場合それは十分であり得る。本発明によると、各波長または波長範囲について少なくとも1つの光検出器を提供することが好ましい。例えば、「二重励起」配置について、単一の光検出器14を提供することが十分であり得る(例えば、図8Cおよび8Dを参照されたい)。「二重放射」配置について、図8A、8B、8Eおよび8Fにおいて示される通り、2つの別々の光検出器14および15を提供することが好ましい。しかしながら、当業者は、2つの光検出器が「二重励起」配置について提供され得ることをさらに理解する。しかしながら、この場合、これらの光検出器14および15のうちの1つのみが放射検出のために使用される場合、それは十分であり得る。第1および/または第2の光検出器は、PMT、siPM、APD、CCDまたはCMOSカメラからなる群の光検出器であり得る。
【0166】
ここでもまた、放射光を第1および第2の光検出器14および15へ分離するために、追加の光学素子、例えば、光分離素子11が提供され得る。例えば、図8Bは、励起光源8ならびに2つの光検出器14および15を伴う、「単一励起」、「二重放射」配置についての好ましい配置を示す。個々の検出器への放射光は、光分離素子11、例えば、ダイクロイックミラーによって分離される。2つの検出器14および15の上流の追加のフィルター12および13は、異なる放射波長、例えば、第2および第3の波長を規定するために提供される場合があり、ここで、第2の波長は、第1の条件下における蛍光標識化された粒子の蛍光放射の最大放射より短く、第3の波長はより長い。前記放射フィルター12および13は、任意の好適な種類のフィルター素子、例えば、バンドパスまたはロングパスフィルターから選択され得る。
【0167】
図8A、8Cおよび8Eにおいて示される通り、ホットミラー2は追加的に提供される場合があり、これは、IR光をIRレーザー3から試料へ方向付けるために好ましく使用される。例えば、ホットミラー2は、高IR反射および好ましくは可視光透過>80%を提供し得る。IR光源3は、好ましくは少なくとも1つのIRレーザーであり、好ましくは例えば、1455nm、1480nm、1550nmおよび/または980nmの放射波長を伴う。さらに、IRレーザーの力は好ましくは、好ましく0.01W~10Wである。IR光を試料へ方向付けるために、さらなる光学素子、例えば、レーザーファイバ4(シングルモードもしくはマルチモード)、レーザーファイバ連結器5(コリメータを伴うかもしくは伴わない)、ならびに/または例えばレーザービーム直径および焦点を決定するためのビームシェイピングモジュール6(例えば、1、2もしくはそれ以上のレンズを含むレンズ系)が使用され得る(図8A、8Cおよび8Eを参照されたい)。しかしながら、IR光の入力は、追加の温度依存性測定または追加の測定について単に自由選択である。
【0168】
また、本発明のデバイスは、第2および第3の波長における前記蛍光強度間の比を計算するための手段を含み、前記第3の波長は、前記第2の波長とは異なる。前記手段は、好ましくはプロセッサー、または少なくとも1つのプロセッサーを含む回路によって提供される。
【実施例
【0169】
実施例1
以下の実施例は、2つの分子間の用量応答曲線を得るために、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用と比較して、当該技術分野において公知のレシオメトリック特徴付け方法を使用することにおける相違を例示する。それゆえ、蛍光標識化されたDNAアプタマーとアデノシンモノホスフェート(AMP)とを含有する試料は、市販されている蛍光分光光度計によって、および本発明の二重放射配置によって測定された。
試料調製
標識化されていないAMPの1対1連続希釈物14点を調製した。DNAアプタマーを、Cy5により蛍光標識化し、等量においてAMP連続希釈物へ添加して、20nMの最終試料濃度を得た。AMPの最高濃度は、5mMに対応した。標準の蛍光マイクロプレートリーダー(CLARIOstar、BMG Labtech)による測定のために、95μlの試料をマイクロウェルプレートにロードした。本発明の二重放射配置による測定のために、5~10μlの試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
マイクロプレートリーダー測定のために、試料を590nmの波長において励起し、放射を最初に628nm~652nmの波長において検出した。その後、試料を再び、590nmの波長において励起し、放射を665nm~725nmの波長において検出した。次の3回の、連続希釈物の蛍光強度測定を行った。本発明によるレシオメトリック測定のために、各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースは、628nm~653nmの第2の波長、および665nm~727nmの第3の波長において同時に測定した。
レシオメトリックデータ分析
蛍光マイクロプレートリーダーとの相互作用を特徴付けるために、1ウェル当たりの蛍光強度間の比を、市販の計算ツール(Microsoft Excel)を使用することによって、手動で計算した。より高い波長において検出された蛍光を、より低い波長において検出された蛍光で割った。図10Aにおいて提供されるシグモイド用量応答曲線は、およそ0.95の比の値において開始し、およそ0.90の比の値において終わる。相互作用の解離定数(K)に対応する中点は、およそ20~30μMにある。しかしながら、相互作用のシグナル対ノイズ比(S/N)は非常に低く、反復間の偏差は非常に大きい。
【0170】
対照的に、本発明の方法により同じ試料を測定することによって、図10Bにおいて提供される用量応答曲線は、改善されたシグナル対ノイズ比(S/N)を示し、39.3μMの相互作用のKを明白に示す。より低い試料濃度、すなわち、250pMを使用する場合、本発明によるレシオメトリック測定について、シグナル対ノイズ比(S/N)は、それでも非常によく(19.8)、相互作用のKは、容易に決定され得る(図10C)。
【0171】
要約すると、この実施例は、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法について、およそ1000分の1の試料でも、プレートリーダーによる測定と比較してより優れたデータを与えることを証明する。市販されているマイクロプレートリーダーによる測定については、ノイズが、測定される必要があるシグナル振幅よりも10倍超高い。
【0172】
実施例2
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、2つの分子間の用量応答曲線を得るための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。それゆえ、蛍光標識化されたDNAアプタマーとAMPとを含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
標識化されていないAMPの1対1連続希釈物12点を調製した。DNAアプタマーを、Cy5により蛍光標識化し、等量においてAMP連続希釈物へ添加して、20nMの最終試料濃度を得た。AMPの最高濃度は、2mMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替えた。蛍光強度の応答を、31秒間同時に測定した。628nm~653nm(「650nm」)において記録された蛍光トレースを、図11Aに示す。665nm~727nm(「670nm」)において記録された蛍光トレースを、図11Bに示す。最初に記録された蛍光強度が大きな変動を示したので、親和性決定のためのシグモイド用量応答曲線は得ることができなかった。結果として、図12に示される2つの放射波長のいずれの初期蛍光からも、結合情報を抽出することはできなかった。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、670nmおよび650nmにおける蛍光トレースの点ごとの除法を行った。得られた比トレースは、IRレーザーをオンにする前(図13A、相1)または後(図13A、相2または相3)のいずれかで分析され得る。IRレーザーをオンにする前に記録されたデータ(図13A、相1)をレシオメトリック分析することによって、300よりも高いシグナル対ノイズ比(S/N)を伴う用量応答曲線が得られ、試料温度、すなわち、室温における両方の分子間のKが産出された(図13B)。
【0173】
IRレーザーをオンにした後(図13A、相2または相3)にレシオメトリック分析を行うことによって、より高い温度におけるK値を得ることができる。この手法は、室温における振幅が非常に小さく、より高い温度において増加すると予測される場合とりわけ推奨される。
相互作用の熱力学パラメーターの決定
相互作用のK経時曲線を得るために、図13Aに示される比トレースの200ミリ秒の時間間隔における「垂直スライス」をとり、これらのスライスの各々についての用量応答曲線のKを決定した(図14A)。経時的な温度変化は較正測定から公知であった、すなわち、試料トレイは制御された様式において加熱され、参考色素の蛍光は測定され、相互作用はより速いタイムスケール、その後発生温度変化において平衡化していたので、温度に対するKの関係を得ることができた。ファントホッフ分析を行うことによって:
【0174】
【数1】
【0175】
相互作用の結合エンタルピー(ΔH)および結合エントロピー(ΔS)(図14B)を決定した。この相互作用について、AMPは優勢にエンタルピー的に結合する(ΔH<0)ことが見出された。
【0176】
実施例3
以下の実施例は、二重励起配置に基づく、2つの分子間の用量応答曲線を得るための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。それゆえ、蛍光標識化されたDNAアプタマーとAMPとを含有する試料を第1および第2の波長において励起し、放射された蛍光強度を第3の波長において測定した。
試料調製
標識化されていないAMPの1対1連続希釈物16点を調製した。DNAアプタマーを、Cy3により蛍光標識化し、等量においてAMP連続希釈物へ添加して、250nMの最終試料濃度を得た。AMPの最高濃度は、12.5mMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、480nm(「青色」LED)の第1の波長において励起した。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替えた。蛍光強度の応答を、590nmから680nmまで6秒間検出した。以下では、各試料を、540nm(「緑色」LED)の第2の波長において励起した。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替えた。蛍光強度の応答を、検出器によって590nmから680nmまで6秒間記録した。試料を「青色」LEDにより励起することによって得られた蛍光トレースを、図15Aに示す。試料を「緑色」LEDにより励起することによって得られた蛍光トレースを、図15Bに示す。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、緑色LEDによる励起によって得られた蛍光トレースの、青色LEDによる励起によって得られた蛍光トレースによる、点ごとの除法を行った。得られた比トレースは、IRレーザーをオンにする前(図16A、相1)または後(図16A、相2または相3)のいずれかで分析され得る。IRレーザーをオンにする前に記録されたデータ(図16A、相1)をレシオメトリック分析することによって、およそ80のシグナル対ノイズ比(S/N)を伴う用量応答曲線が得られ、試料温度、すなわち、室温における両方の分子間のKが産出された(図16B)。IRレーザーをオンにした後に記録されたデータ(図16A、相3)をレシオメトリック分析することによって、130超のシグナル対ノイズ比(S/N)を伴う用量応答曲線が得られ、両方の分子間のKが産出された(図16C)。室温における分析と比較して、この比がより高い温度において分析された場合、シグナル対ノイズ比の改善が得られた。
【0177】
実施例4
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、2つの分子間の用量応答曲線を得るための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。それゆえ、蛍光標識化されたストレプトアビジンとその天然に存在するリガンドであるビオチンとを含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
標識化されていないビオチンの1対1連続希釈物12点を調製した。ストレプトアビジンを、タンパク質標識化キットRED-NHS第2世代(NanoTemper Technologies)により蛍光標識化し、等量においてビオチン連続希釈物へ添加して、20nMの最終試料濃度を得た。ビオチンの最高濃度は、500nMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図17に示される用量応答曲線から明らかである通り、ストレプトアビジンがビオチンに非結合であるか、またはビオチンと複合体形成したとき、それぞれ、比はおよそ2.2からおよそ1.2の値に変化した。標的濃度はKよりも一層高いので、80nMのビオチンの濃度において化学量論点の特徴的なよじれが観察され得る。
【0178】
実施例5
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、2つの分子間の用量応答曲線を得るための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。それゆえ、蛍光標識化されたウシ炭酸脱水酵素IIとアセタゾラミドとを含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
標識化されていないアセタゾラミドの1対1連続希釈物15点を調製した。ウシ炭酸脱水酵素IIを、タンパク質標識化キットRED-NHS第2世代(NanoTemper Technologies)により蛍光標識化し、等量においてアセタゾラミド連続希釈物へ添加して、20nMの最終試料濃度を得た。アセタゾラミドの最高濃度は、2.5μMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図18に示される用量応答曲線において、比はおよそ0.944からおよそ0.951の値に、およびそれゆえ、およそ約0.7%変化した。得られた用量応答曲線は30超のシグナル対ノイズ比(S/N)を有した。このことは、比における小さな変化でさえも、本発明のレシオメトリック特徴付け方法により測定され得ることを明らかにする。
【0179】
実施例6
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、3つの分子間の用量応答曲線を得るための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。それゆえ、蛍光標識化された一価のストレプトアビジンと、ビオチニル化タンパク質Lと、抗体ハーセプチンとを含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
標識化されていない抗体ハーセプチンの1対1連続希釈物16点を調製した。一価のストレプトアビジンを、タンパク質標識化キットRED-NHS第2世代(NanoTemper Technologies)により蛍光標識化し、そのうちの20nMを、等体積の4nMのビオチニル化タンパク質Lと混合した。その後、混合物を、等量においてハーセプチン連続希釈物へ添加して、アッセイ中の5nMの標識化された一価のストレプトアビジンおよび1nMのビオチニル化タンパク質Lの最終試料濃度を得た。ハーセプチンの最高濃度は、1μMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図19Aに示される用量応答曲線は、本発明の方法が三元複合体の測定を可能にし、ここで、標識化は、ビオチニル化タンパク質とリガンドとの相互作用の測定のために、標識化された第3の分子(図19B)、例えば標識化ストレプトアビジンを介して間接的に行われることを明らかにする。
【0180】
実施例7
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、低分子とビオチニル化されたタンパク質(すなわち、ビオチン分子がそれに共有結合されている)との間の用量応答曲線を得るための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。蛍光標識化のために、ビオチニル化タンパク質を、タンパク質ストレプトアビジン(SA)、ならびに3’末端においてビオチンおよび5’末端においてフルオロフォアCy5により改変した低分子核酸(bDNA)と混合した。SAは、ビオチンについての異常に高い親和性を有するホモ四量体である(ビタミンB7としても公知)。それは、有機溶媒、変性剤(例えば、塩化グアニジニウム)、洗剤(例えば、SDS、トリトン)、タンパク質分解酵素、ならびに極端な温度およびpHへのストレプトアビジン-ビオチン複合体の抵抗性のために分子生物学およびバイオナノテクノロジーにおいて広範に使用される。
【0181】
実施例において、マルトース結合タンパク質(MBP)を含有する試料を、以下のこの手法によって蛍光標識化した。その後、MBPを低分子マルトースと混合し、第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
ストレプトアビジンを、1mg/mL(約19μM)のストック濃度において調製し、その後、リン酸緩衝食塩水中に4nMまで希釈した。bDNA(5’末端に結合されたCy5分子および3’末端に結合されたビオチン分子を伴う12マーオリゴ-dT配列)は、DNA業者が化学合成および整列させた。100μMのストック溶液を調製し、その後、再蒸留水(ddHO)中に希釈して、8nMの最終濃度にした。その後、SAおよびbDNAを、1:1の体積比において混合し、4nM SA、8nM bDNA溶液(1:2化学量論)を得た。このステップを通して、Cy5標識化ビオチニル化bDNAへの結合によって、SAは蛍光標識化された。
【0182】
次に、100μlの100nMビオチニル化MBPを、100μlの4nM SA、8nM bDNA溶液と混合して、200μlの2nM SA、4nM bDNA、50nM MBP溶液を得た。SAは四量体タンパク質であるので、平均して、ビオチンについてのその4つの結合部位のうちの2つは占有されず、ビオチニル化MBPに結合することができ、bDNA-SA-MBP複合体、すなわち、蛍光標識化MBPを作出する(図20A)。
【0183】
次に、標識化されていないマルトースの1対1連続希釈物16点を調製した。蛍光標識化MBPを、等量においてマルトース連続希釈物へ添加して、1nM SA、2nM bDNAおよび25nM MBPの最終標的濃度を得た。マルトースの最高濃度は、500μMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。各キャピラリーは、3秒間の時間の間測定した。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図20Bに示される用量応答曲線は、本発明の方法が四元複合体の測定を可能にし、ここで、標識化は、標識化されていない第3の分子および標識化された第4の分子、例えば標識化されていないSAおよび標識化されたビオチニル化一本鎖DNAオリゴマーを介して間接的に行われることを明らかにする。
【0184】
実施例8
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、2つの分子間の用量応答曲線を得るための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。それゆえ、蛍光標識化された治療用抗体CR3022と、Cov-19(「SARS CoV-2」)スパイクタンパク質と、タンパク質アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)とを含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
標識化されていないタンパク質ACE2の1対1連続希釈物14点を調製した。治療用抗体CR3022を、タンパク質標識化キットRED-NHS第2世代(NanoTemper Technologies)により蛍光標識化し、そのうちの10nMを等体積の80nMのCov-19スパイクタンパク質と混合した。その後、混合物を等量においてACE2連続希釈物へ添加して、5nMの標識化CR3022および20nMのスパイクタンパク質の最終試料濃度を得た。ACE2の最高濃度は、250nMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図21に示される用量応答曲線は、本発明の方法が三元複合体の測定を可能にし、ここで、標識化は、標識化された第3の分子、例えば標識化抗体を介して間接的に行われることを明らかにする。
【0185】
実施例9
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、タンパク質のコンフォメーション状態を特徴付けるための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する。それゆえ、蛍光標識化されたタンパク質を含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ14(p38-α)を、タンパク質標識化キットRED-NHS第2世代(NanoTemper Technologies)により蛍光標識化した。その後、標識化タンパク質を20nMの濃度まで希釈し、ポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。希釈直後(t=0分)およびキャピラリー内において再び3、8および19分後に測定を行った。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図22に示されるように、測定の開始時にわたり蛍光比をプロットすると、この比は、4回の測定の期間にわたり一定ではないが、経時的に線形的に増加することが明らかになる。この比の増加は、標識化タンパク質が室温において安定ではなく、徐々に変性することを示す。
【0186】
実施例10
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、短期結合速度論を測定するための、本発明の方法を説明する。それゆえ、アデノシンについての蛍光標識化されたDNAアプタマーと低分子AMPとを含有する試料、および1つのDNA鎖がCy5により蛍光標識化された2つの11マー相補的DNA鎖を含有する試料を、第1の波長において励起した。前記試料についての放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
アプタマーについて、標識化されていないAMPの1対1連続希釈物12点を調製した。DNAアプタマーを、Cy5により蛍光標識化し、等量においてAMP連続希釈物へ添加して、20nMの最終試料濃度を得た。AMPの最高濃度は、2mMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
【0187】
DNAハイブリダイゼーションのために、標識化されていない11マー(配列:5’CCT GAA GTC C3’)の1対1連続希釈物16点を調製した。相補的11マー(配列:5’GGA CTT CAG G3’)を、その5’末端においてCy5により蛍光標識化し、等量において連続希釈物へ添加して、10nMの最終試料濃度を得た。標識化されていない11マーの最高濃度は、100μMに対応した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。時点0秒において、IRレーザーをオンに切り替えた。蛍光強度の応答は、6秒間(アプタマー)、それぞれ21秒間(DNAハイブリダイゼーション)、同時に測定した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において測定した。
【0188】
上記から、本発明の方法が短期IRレーザー加熱と組み合わせて使用される場合、結合相互作用についての情報(例えば、K)は、レシオメトリックトレースに沿った時間における任意の「垂直」スライスに由来し得ることが明らかである。K経時曲線として説明され得る新しい種類の曲線が生成され得る。この曲線から、熱力学についての情報のみでなく、相互作用の結合速度論についての情報が決定され得る。特に、相互作用の平衡速度論がIRレーザーによる加熱よりも遅い場合、K経時曲線は特徴的な遅れを示す。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図23に示されるK経時曲線は、異なる解離定数Kおよび結合速度論を伴う3つの異なる相互作用を明らかにする。Cy5により標識化されたDNAアプタマーとAMPとの間の相互作用について、およそ30μMのKを決定し、10s-1超のkoffを見積もった(図23A)。32℃において測定された2つの11マー相補的DNA鎖間の相互作用、すなわち、DNAハイブリダイゼーションについて、およそ500nMのKを決定し、およそ1s-1のkoffを見積もった(図23B)。22℃における上記に挙げられる2つの11マー相補的DNA鎖の測定は、およそ5nMのKおよび0.01s-1より小さいkoffを明らかにした(図23C)。
【0189】
上記に説明されるDNAハイブリダイゼーションについての22℃~32℃のK経時測定についての詳細な情報は、図24Aにおいて示される。y軸は、測定全体にわたるKの倍増を示す。より遅い速度論を伴う相互作用について、K経時曲線は、温度変化に直ちに従わず、むしろ別個の遅れを示し、これによって、遅れはより大きくなり、相互作用速度論はより遅くなる。それゆえ、この遅れを分析することは、相互作用の結合速度論についての価値のある情報を提供し得る。koffおよびkonの正確な値を得ることができない場合でさえも、リガンドを比較し、より速く解離するリガンドを特定する能力は、すでに本方法のすばらしい利点である。
【0190】
さらに、IRレーザー加熱の20秒後に、新しいより高い温度において平衡が回復すると仮定して、2つの異なる温度、すなわち、初期試料温度としての22℃およびIRレーザー加熱後の温度としてのおよそ32℃(上記に説明される較正実験から決定される)におけるファントホッフ分析、相互作用のエンタルピーおよびエントロピーが得られた(図24Bおよび図24Cを参照されたい)。試料トレイ温度を多数の異なる温度(例えば、22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃)に調節し、それらの各々におけるKを測定することによって、得られる熱力学パラメーターは、古典的ファントホッフ分析から得られるパラメーターと同様である(図24Dおよび図24Eを参照されたい)。
【0191】
異なる解離速度についてのK経時曲線に対するシミュレーションデータは、図25に示される。図25Aに示されるシミュレートされたK経時曲線は、10s-1~0.001s-1の解離速度が、20秒のIRレーザー加熱と組み合わせて本発明の方法を行うことによって分解され得ることを明らかにする。図25Bに示されるシミュレートされたK経時曲線は、0.036s-1~0.154s-1の小さな差でさえも分解することができることを明らかにする。
【0192】
実施例11
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、緩徐結合速度論を測定するための、本発明の方法を説明する。それゆえ、蛍光標識化されたナノボディとCov-19スパイクRBDタンパク質とを含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
Cov-19スパイクタンパク質に対するナノボディを、タンパク質標識化キットRED-NHS第2世代(NanoTemper Technologies)により蛍光標識化した。2nMの蛍光標識化したナノボディを、(20nM~625pM)に及ぶ6つの異なる濃度のCov-19スパイクRBDタンパク質と迅速に混合した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。この実施例においては、試料は反復して測定され、温度変化は結合速度論に影響する場合があったので、IRレーザーをオンにしなかった。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。図26に示される比経時曲線は、本発明による方法は、そのような「ミックス・アンド・メジャー」手法を使用する場合、緩徐結合速度論を追うことが可能であることと、結合速度論は、試料を調製し、測定を開始するために必要とされる時間よりも遅いこととを明らかにする。グローバルフィッティングモデルを適用することによって、前記ナノボディとCov-19スパイクRBDタンパク質との間の相互作用のkon=6.9×10-1-1、koff=2.9×10-4-1およびK=415pMが決定された。
【0193】
実施例12
以下の実施例は、二重放射配置に基づく、蛍光標識化された粒子を位置付けるための、本発明によるレシオメトリック特徴付け方法の使用を説明する(図27)。それゆえ、蛍光標識化されたmRNAを含有する試料を第1の波長において励起し、放射された蛍光強度を第2および第3の波長において測定した。
試料調製
mRNAを、Atto647N蛍光色素により蛍光標識化し、脂質ナノ粒子(LNP)へ組み込んだ。これらの二連のmRNA含有LNP調製物を、様々な種類のストレス、すなわち、0.25%の洗剤ポリソルベート20(Tween-20)を添加すること、90℃において10分間沸騰させること、1分間ボルテックスにかけることまたは14,000rpmにおいて20分間遠心分離することに曝露した。非処理mRNA含有LNPを対照として使用した。その後、試料をポリマーコーティングしたホウケイ酸ガラスキャピラリー(Monolith NT.115 Premium Capillaries、MO-K025、NanoTemper Technologies)にロードした。
測定
各試料を、591nmの波長において励起した。蛍光トレースを、628nm~653nmの第2の波長(「650nm」)、および665nm~727nmの第3の波長(「670nm」)において同時に測定した。
【0194】
絶対蛍光比のみを決定する測定のために、各キャピラリーを、3秒間の期間測定した。LNPの凝集状態を決定する測定のために、IRレーザーによる測定を行った(60秒間のレーザーオンタイム)。
【0195】
示される、以前に行われた対照測定から、本発明の二重放射配置における、LNP内に位置する、Atto647Nにより蛍光標識化されたmRNAのレシオメトリック蛍光シグナルは、およそ2.1に等しいことが明らかである。対照的に、すべての蛍光標識化されたmRNA分子がLNPの外側に位置する場合、レシオメトリック蛍光シグナルはおよそ1.2に等しい。
レシオメトリックデータ分析
レシオメトリック分析(すなわち、蛍光トレースの比を得ること)のために、「670nm」の、「650nm」による点ごとの除法を行った。非処理対照、すなわち、蛍光標識化されたmRNA分子すべてがLNP内に位置することについて、レシオメトリック蛍光シグナルは、2.1に等しい(図28A、対照)。高濃度の洗剤を添加することによって、LNPの脂質膜は破裂/損傷し、それゆえ、蛍光標識化されたmRNA分子は、もはやLNP内に組み込まれていない(図28A、+0.25%Tween)。この場合、レシオメトリック蛍光シグナルは、1.2に等しい。およそ2.1の比から明らかである通り、蛍光標識化されたmRNAは、ボルテックスにかけられた、または遠心分離されたLNP調製物内にまだ位置する(図28A、ボルテックス1分、遠心分離20分)。しかしながら、IRレーザーをオンにした後に得られた「でこぼこの」蛍光トレースを分析すると(図28B)、前記処理はLNP調製物の凝集をもたらす。対照的に、LNP調製物を90℃において10分間沸騰させた場合に得られる1.2の比は、蛍光標識化されたmRNAがもはやLNP内に組み込まれていないことを示した(図28A、90℃において10分間)。これは、IRレーザーをオンにした後の蛍光トレースを分析することによってさらに確証された。沸騰後にでこぼこを有しない蛍光トレースが観察されたので、蛍光標識化されたmRNA分子はLNP(潜在的にまだ凝集しているLNP)を離れたことが確認された。
【0196】
上記から明らかである通り、本発明のレシオメトリック特徴付け方法は、蛍光標識化されたmRNAの局在を決定することを可能にする。
引用符号表:
1:レンズ(例えば、非球面レンズ)もしくはレンズ系、または対物レンズ
2:ホットミラー、高IR反射、可視光透過>80%
3:IRレーザー(例えば、1455nm、1480nm、1550nm、980nm、0.01W~10W)または位置決めのためのレーザー
4:レーザーファイバ(シングルモードまたはマルチモード)
5:レーザーファイバカプラーw/oコリメータ
6:レーザービーム直径およびフォーカシングを決定するためのビームシェイピングモジュール(例えば、1、2またはそれ以上のレンズを含むレンズ系)
7:蛍光励起を放射から分離するための第1の光分離素子(例えば、ダイクロイックミラー)
8:第1の励起光源(例えば、レーザー、ファイバレーザー、ダイオードレーザー、LED、HXP、ハロゲン、LEDアレイ、HBO)
9:励起光源のビーム特性を決定するためのレンズ系(例えば、1、2またはそれ以上のレンズ)
10:励起フィルター(例えば、バンドパス/ロングパス)
11:より低いおよびより高い波長成分における放射を分けるための第2の光分離素子(例えば、ダイクロイックミラー)
12:第1の放射フィルター(例えば、バンドパス/ロングパス)
13:第2の放射フィルター(例えば、バンドパス/ロングパス)
14:第1の光検出器(例えば、PMT、siPM、APD、CCDまたはCMOSカメラ)
15:第2の光検出器(例えば、PMT、siPM、APD、CCDまたはCMOSカメラ)
16:第2の励起光源(例えば、レーザー、ファイバレーザー、ダイオードレーザー、LED、HXP、ハロゲン、LEDアレイ、HBO)
17:励起光源のビーム特性を決定するためのレンズ系
18:2つの異なる励起光源を組み合わせるための第3の光分離素子(例えば、ダイクロイックミラー)
引用した非特許文献
【0197】
【表4】
【0198】
本明細書に引用したすべての特許および非特許文献は参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図24C
図24D
図24E
図25
図26
図27
図28
図29A
図29B
図29C
【国際調査報告】