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▶ ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システムの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】RBM20変異のゲノム編集
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240730BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240730BHJP
   A01K 67/0275 20240101ALI20240730BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240730BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N5/10
A01K67/0275
A61K35/76
A61P9/04
A61K48/00
A61K38/46
A61K31/7105
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580779
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 US2022035666
(87)【国際公開番号】W WO2023278660
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】63/335,647
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/218,221
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.プルロニック
3.TRITON
4.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】508152917
【氏名又は名称】ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF REGENTS OF THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】オルソン エリック エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】バッセル-デュビー ロンダ
(72)【発明者】
【氏名】西山 崇比古
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA44
4C084CA53
4C084DC22
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA37
4C084ZC51
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA37
4C086ZC51
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA17
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA37
4C087ZC51
(57)【要約】
本明細書における開示は、CRISPR/Cas9システム用に設計された単一ガイドRNA(sgRNA)を含む組成物、および1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置するためのその使用法を対象とする。例えば、本明細書において、ヒト細胞およびマウスにおけるRBM20変異の正確なゲノム編集による拡張型心筋症の修正のための組成物および方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:1~4のいずれか1つから選択される標的指向核酸配列を含む、ガイドRNA(gRNA)。
【請求項2】
単一分子ガイドRNA(sgRNA)である、請求項1記載のgRNA。
【請求項3】
ヒトRBM20遺伝子中の配列を改変するためのものである、請求項1または2記載のgRNA。
【請求項4】
ヒトRBM20における変異を標的とするgRNA、および塩基エディターを含む、組成物。
【請求項5】
塩基エディターが、アデニン塩基エディター(ABE)である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記gRNAが、請求項1~3のいずれか一項記載のgRNAである、請求項4記載の組成物。
【請求項7】
塩基エディターが、アデニン塩基エディター(ABE)である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
塩基エディターが、アデノシンデアミナーゼに連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含む、請求項4~7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが触媒的に障害されている、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼである、請求項8または9記載の組成物。
【請求項11】
前記Cas9ヌクレアーゼが、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)から単離されているかまたはそれに由来する(spCas9)、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項記載の第1のgRNAをコードする配列、
塩基エディターをコードする配列、
第1のプロモーターをコードする配列であって、該第1のプロモーターが該第1のgRNAをコードする配列の発現を駆動する、配列、および
第2のプロモーターをコードする配列であって、該第2のプロモーターが該塩基エディターをコードする配列の発現を駆動する、配列
を含む、核酸。
【請求項13】
前記塩基エディターが、アデニン塩基エディター(ABE)である、請求項12記載の核酸。
【請求項14】
前記塩基エディターが、アデノシンデアミナーゼに連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含む、請求項12または13記載の核酸。
【請求項15】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが触媒的に障害されている、請求項14記載の核酸。
【請求項16】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼである、請求項14または15記載の核酸。
【請求項17】
前記Cas9ヌクレアーゼが、以下から単離されているかまたはそれに由来する:ストレプトコッカス・ピオゲネス(spCas9)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(SaCas9)、スタフィロコッカス・アウリクラーリス(Staphylococcus auricularis)(SauCas9)、またはスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)(SlugCas9)、
請求項16記載の核酸。
【請求項18】
前記第1のプロモーターをコードする配列および前記第2のプロモーターをコードする配列のうちの少なくとも1つが、細胞型特異的プロモーターを含む、請求項12~17のいずれか一項記載の核酸。
【請求項19】
細胞型特異的プロモーターが、心筋細胞特異的プロモーターである、請求項18記載の核酸。
【請求項20】
筋特異的プロモーターが、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターである、請求項19記載の核酸。
【請求項21】
前記第1のプロモーターをコードする配列が、U6プロモーター、H1プロモーター、または7SKプロモーターをコードする配列を含む、請求項12~20のいずれか一項記載の核酸。
【請求項22】
DNA配列を含む、請求項12~21のいずれか一項記載の核酸。
【請求項23】
RNA配列を含む、請求項12~22のいずれか一項記載の核酸。
【請求項24】
ポリアデノシン(ポリA)配列をさらに含む、請求項12~23のいずれか一項記載の核酸。
【請求項25】
ポリA配列が、ミニポリA配列である、請求項24記載の核酸。
【請求項26】
請求項12~25のいずれか一項記載の核酸を含む、細胞。
【請求項27】
請求項12~25のいずれか一項記載の核酸を含む、組成物。
【請求項28】
請求項27記載の組成物を含む、細胞。
【請求項29】
請求項28記載の細胞を含む、組成物。
【請求項30】
請求項12~25のいずれか一項記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項31】
転移因子の逆位末端反復配列(ITR)をコードする配列をさらに含む、請求項30記載のベクター。
【請求項32】
転移因子が、トランスポゾンである、請求項31記載のベクター。
【請求項33】
トランスポゾンが、Tn7トランスポゾンである、請求項32記載のベクター。
【請求項34】
T7トランスポゾンの5' ITRをコードする配列およびT7トランスポゾンの3' ITRをコードする配列をさらに含む、請求項33記載のベクター。
【請求項35】
非ウイルスベクターである、請求項30~34のいずれか一項記載のベクター。
【請求項36】
非ウイルスベクターが、プラスミドである、請求項35記載のベクター。
【請求項37】
ウイルスベクターである、請求項30~34のいずれか一項記載のベクター。
【請求項38】
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはアデノウイルスベクターである、請求項37記載のベクター。
【請求項39】
前記AAVベクターが、複製欠損または条件付き複製欠損である、請求項38記載のベクター。
【請求項40】
前記AAVベクターが、組換えAAVベクターである、請求項38または39記載のベクター。
【請求項41】
前記AAVベクターが、血清型1のAAVベクター(AAV1)、血清型2のAAVベクター(AAV2)、血清型3のAAVベクター(AAV3)、血清型4のAAVベクター(AAV4)、血清型5のAAVベクター(AAV5)、血清型6のAAVベクター(AAV6)、血清型7のAAVベクター(AAV7)、血清型8のAAVベクター(AAV8)、血清型9のAAVベクター(AAV9)、血清型10のAAVベクター(AAV10)、血清型11のAAVベクター(AAV11)またはそれらの任意の組み合わせから単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項38~40のいずれか一項記載のベクター。
【請求項42】
前記AAVベクターが、血清型9のAAVベクター(AAV9)から単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項38~41のいずれか一項記載のベクター。
【請求項43】
前記AAVベクターが、血清型2のAAVベクター(AAV2)から単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項38~42のいずれか一項記載のベクター。
【請求項44】
前記AAVベクターが、AAV2から単離されたまたはそれに由来する配列およびAAV9から単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項38~43のいずれか一項記載のベクター。
【請求項45】
哺乳動物細胞での発現のために最適化されている、請求項30~44のいずれか一項記載のベクター。
【請求項46】
ヒト細胞での発現のために最適化されている、請求項30~45のいずれか一項記載のベクター。
【請求項47】
請求項30~46のいずれか一項記載のベクターを含む、組成物。
【請求項48】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項47記載の組成物。
【請求項49】
請求項45または46記載の組成物を含む、細胞。
【請求項50】
ヒト細胞である、請求項49記載の細胞。
【請求項51】
心筋細胞である、請求項49または50記載の細胞。
【請求項52】
人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項49または50記載の細胞。
【請求項53】
請求項49~52のいずれか一項記載の細胞を含む、組成物。
【請求項54】
ヒトRBM20における変異を修正するための方法であって、前記第1のgRNAおよび前記アデニン塩基エディターの発現に適した条件下で、細胞と請求項47または48のいずれか一項記載の組成物とを接触させる段階を含み、前記第1のgRNAが前記アデニン塩基エディターと複合体を形成し、該複合体が変異を改変し、それによりRBM20の正しいコード配列を復元する、方法。
【請求項55】
請求項54記載の方法によって産生される、細胞。
【請求項56】
それを必要とする対象における拡張型心筋症を処置する方法であって、請求項47または48のいずれか一項記載の組成物の治療有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項57】
前記組成物が、局所的に投与される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
前記組成物が、心臓組織に直接投与される、請求項56または57記載の方法。
【請求項59】
前記組成物が、注入または注射によって投与される、請求項56~58のいずれか一項記載の方法。
【請求項60】
前記組成物が、全身に投与される、請求項56記載の方法。
【請求項61】
前記組成物が、静脈内注入または注射によって投与される、請求項60記載の方法。
【請求項62】
前記組成物の投与後に、前記対象が、サルコメア構造の正常なアーキテクチャ、RBM20の核局在化、RNP顆粒形成がないこと、またはそれらの組み合わせを示す、請求項56~61のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
前記組成物の投与後に、前記対象が、改善されたLV機能を示す、請求項56~62のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
前記対象が、新生児、幼児、子供、若年成人、または成人である、請求項56~63のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
前記対象が、男性である、請求項56~64のいずれか一項記載の方法。
【請求項66】
前記対象が、女性である、請求項56~64のいずれか一項記載の方法。
【請求項67】
それを必要とする対象における拡張型心筋症を処置するための、請求項47または48のいずれか一項記載の組成物の治療有効量の使用。
【請求項68】
である標的指向核酸配列を含む、ガイドRNA(gRNA)。
【請求項69】
プライム編集(pe)gRNA(pegRNA)である、請求項68記載のgRNA。
【請求項70】
C1906A変異を修正するためにヒトRBM20遺伝子を改変するためのものである、請求項68または69記載のgRNA。
【請求項71】
である核酸配列を含むプライマー結合部位をさらに含む、請求項68記載のgRNA。
【請求項72】
である核酸配列を含む逆転写酵素テンプレートをさらに含む、請求項71記載のgRNA。
【請求項73】
ヒトRBM20における変異を標的とするgRNA、およびプライムエディターを含む、組成物。
【請求項74】
プライムエディターが、逆転写酵素に連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含む、請求項73記載の組成物。
【請求項75】
前記gRNAが、請求項89~94のいずれか一項記載のgRNAである、請求項73記載の組成物。
【請求項76】
プライムエディターが、逆転写酵素に連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含む、請求項75記載の組成物。
【請求項77】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが触媒的に障害されている、請求項76記載の組成物。
【請求項78】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼである、請求項76または77記載の組成物。
【請求項79】
前記Cas9ヌクレアーゼが、ストレプトコッカス・ピオゲネスから単離されているかまたはそれに由来する(spCas9)、請求項78記載の組成物。
【請求項80】
第2鎖ニッキングsgRNAをさらに含む、請求項73~79のいずれか一項記載の組成物。
【請求項81】
請求項68~72のいずれか一項記載の第1のgRNAをコードする配列、
プライムエディターをコードする配列、
第1のプロモーターをコードする配列であって、該第1のプロモーターが該第1のgRNAをコードする配列の発現を駆動する、配列、および
第2のプロモーターをコードする配列であって、該第2のプロモーターが該プライムエディターをコードする配列の発現を駆動する、配列
を含む、核酸。
【請求項82】
前記プライムエディターが、逆転写酵素に連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含む、請求項81記載の核酸。
【請求項83】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが触媒的に障害されている、請求項82記載の核酸。
【請求項84】
前記CRISPR/Casヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼである、請求項82または83記載の核酸。
【請求項85】
前記Cas9ヌクレアーゼが、ストレプトコッカス・ピオゲネスから単離されているかまたはそれに由来する(spCas9)、請求項84記載の核酸。
【請求項86】
第2鎖ニッキングsgRNAをコードする配列をさらに含む、請求項81~85のいずれか一項記載の核酸。
【請求項87】
前記第1のプロモーターをコードする配列および前記第2のプロモーターをコードする配列のうちの少なくとも1つが、細胞型特異的プロモーターを含む、請求項81~86のいずれか一項記載の核酸。
【請求項88】
細胞型特異的プロモーターが、心筋細胞特異的プロモーターである、請求項87記載の核酸。
【請求項89】
筋特異的プロモーターが、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターである、請求項88記載の核酸。
【請求項90】
前記第1のプロモーターをコードする配列が、U6プロモーター、H1プロモーター、または7SKプロモーターをコードする配列を含む、請求項81~89のいずれか一項記載の核酸。
【請求項91】
DNA配列を含む、請求項81~90のいずれか一項記載の核酸。
【請求項92】
RNA配列を含む、請求項81~91のいずれか一項記載の核酸。
【請求項93】
ポリアデノシン(ポリA)配列をさらに含む、請求項81~92のいずれか一項記載の核酸。
【請求項94】
ポリA配列が、ミニポリA配列である、請求項93記載の核酸。
【請求項95】
請求項81~94のいずれか一項記載の核酸を含む、細胞。
【請求項96】
請求項81~94のいずれか一項記載の核酸を含む、組成物。
【請求項97】
請求項96記載の組成物を含む、細胞。
【請求項98】
請求項97記載の細胞を含む、組成物。
【請求項99】
請求項81~94のいずれか一項記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項100】
転移因子の逆位末端反復配列(ITR)をコードする配列をさらに含む、請求項99記載のベクター。
【請求項101】
転移因子が、トランスポゾンである、請求項100記載のベクター。
【請求項102】
トランスポゾンが、Tn7トランスポゾンである、請求項101記載のベクター。
【請求項103】
T7トランスポゾンの5' ITRをコードする配列およびT7トランスポゾンの3' ITRをコードする配列をさらに含む、請求項102記載のベクター。
【請求項104】
非ウイルスベクターである、請求項99~103のいずれか一項記載のベクター。
【請求項105】
非ウイルスベクターが、プラスミドである、請求項127記載のベクター。
【請求項106】
ウイルスベクターである、請求項99~103のいずれか一項記載のベクター。
【請求項107】
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項129記載のベクター。
【請求項108】
前記AAVベクターが、複製欠損または条件付き複製欠損である、請求項107記載のベクター。
【請求項109】
前記AAVベクターが、組換えAAVベクターである、請求項107または108記載のベクター。
【請求項110】
前記AAVベクターが、血清型1のAAVベクター(AAV1)、血清型2のAAVベクター(AAV2)、血清型3のAAVベクター(AAV3)、血清型4のAAVベクター(AAV4)、血清型5のAAVベクター(AAV5)、血清型6のAAVベクター(AAV6)、血清型7のAAVベクター(AAV7)、血清型8のAAVベクター(AAV8)、血清型9のAAVベクター(AAV9)、血清型10のAAVベクター(AAV10)、血清型11のAAVベクター(AAV11)またはそれらの任意の組み合わせから単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項107~109のいずれか一項記載のベクター。
【請求項111】
前記AAVベクターが、血清型9のAAVベクター(AAV9)から単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項107~110のいずれか一項記載のベクター。
【請求項112】
前記AAVベクターが、血清型2のAAVベクター(AAV2)から単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項107~111のいずれか一項記載のベクター。
【請求項113】
前記AAVベクターが、AAV2から単離されたまたはそれに由来する配列およびAAV9から単離されたまたはそれに由来する配列を含む、請求項107~112のいずれか一項記載のベクター。
【請求項114】
哺乳動物細胞での発現のために最適化されている、請求項99~113のいずれか一項記載のベクター。
【請求項115】
ヒト細胞での発現のために最適化されている、請求項99~114のいずれか一項記載のベクター。
【請求項116】
請求項99~115のいずれか一項記載のベクターを含む、組成物。
【請求項117】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項116記載の組成物。
【請求項118】
請求項116または117記載の組成物を含む、細胞。
【請求項119】
ヒト細胞である、請求項118記載の細胞。
【請求項120】
心筋細胞である、請求項18または119記載の細胞。
【請求項121】
人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項118または119記載の細胞。
【請求項122】
請求項118~121のいずれか一項記載の細胞を含む、組成物。
【請求項123】
ヒトRBM20における変異を修正するための方法であって、前記第1のgRNAおよび前記プライムエディターの発現に適した条件下で、細胞と請求項116または117のいずれか一項記載の組成物とを接触させる段階を含み、前記第1のgRNAが前記プライムエディターと複合体を形成し、該複合体が変異を改変し、それによりRBM20の正しいコード配列を復元する、方法。
【請求項124】
請求項123記載の方法によって産生される、細胞。
【請求項125】
それを必要とする対象における拡張型心筋症を処置する方法であって、請求項116または117のいずれか一項記載の組成物の治療有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項126】
前記組成物が、局所的に投与される、請求項125記載の方法。
【請求項127】
前記組成物が、心臓組織に直接投与される、請求項125または126記載の方法。
【請求項128】
前記組成物が、注入または注射によって投与される、請求項125~127のいずれか一項記載の方法。
【請求項129】
前記組成物が、全身に投与される、請求項125記載の方法。
【請求項130】
前記組成物が、静脈内注入または注射によって投与される、請求項129記載の方法。
【請求項131】
前記組成物の投与後に、前記対象が、サルコメア構造の正常なアーキテクチャ、RBM20の核局在化、RNP顆粒形成がないこと、またはそれらの組み合わせを示す、請求項125~130のいずれか一項記載の方法。
【請求項132】
前記組成物の投与後に、前記対象が、改善されたLV機能を示す、請求項125~131のいずれか一項記載の方法。
【請求項133】
前記対象が、新生児、幼児、子供、若年成人、または成人である、請求項125~132のいずれか一項記載の方法。
【請求項134】
前記対象が、男性である、請求項125~133のいずれか一項記載の方法。
【請求項135】
前記対象が、女性である、請求項125~133のいずれか一項記載の方法。
【請求項136】
それを必要とする対象における筋ジストロフィーを処置するための、請求項116または117のいずれか一項記載の組成物の治療有効量の使用。
【請求項137】
マウスであって、そのゲノムが、R636Q変異をコードするRbm20の少なくとも1つのアレルを含む、マウス。
【請求項138】
C57/BL6遺伝子バックグラウンドを有する、請求項137記載のマウス。
【請求項139】
前記ゲノムが、R636Q変異をコードするRbm20のアレルに対してホモ接合型である、請求項137記載のマウス。
【請求項140】
心機能障害を患っている、請求項137記載のマウス。
【請求項141】
拡張終期の間の左心室内径(LVIDd)および収縮終期の間の左心室内径(LVIDs)が増加している、請求項140記載のマウス。
【請求項142】
心機能障害が、心房および心室の拡張である、請求項140記載のマウス。
【請求項143】
心機能障害が、低下した短縮率である、請求項140記載のマウス。
【請求項144】
請求項137~143のいずれか一項記載のマウスから単離された、細胞。
【請求項145】
心筋細胞である、請求項144記載の細胞。
【請求項146】
請求項137~143のいずれか一項記載のマウスにおいて少なくとも1つの候補薬剤をスクリーニングするための方法であって、1つまたは複数の候補薬剤を該マウスに投与する段階を含む、方法。
【請求項147】
前記少なくとも1つの候補薬剤が、左心室機能を改善するその能力に関してスクリーニングされる、請求項146記載の方法。
【請求項148】
前記少なくとも1つの候補薬剤が、心腔サイズを救済するその能力に関してスクリーニングされる、請求項146記載の方法。
【請求項149】
前記少なくとも1つの候補薬剤が、生存期間を延長するその能力に関してスクリーニングされる、請求項146~148のいずれか一項記載の方法。
【請求項150】
前記候補薬剤が、請求項12~25のいずれか一項記載の核酸を含む、請求項146~148のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年4月27日に出願された米国仮出願番号63/335,647、および2021年7月2日に出願された米国仮出願番号63/218,221の優先権の利益を主張するものであり、これらの各々の内容全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1. 分野
本発明は、概して、分子生物学、医学、および遺伝学の分野に関する。より特定すると、本発明は、ヌクレオチド編集アプローチを使用してインビボで変異を修正するためのゲノム編集のための組成物およびその使用に関係する。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
心筋症は、心筋が拡張する、厚くなる、および/または硬くなる心筋の疾患である。心筋症が進行するにつれて、心臓は、より弱くなり、心不全または不規則な心拍(すなわち、不整脈)に至る可能性がある。拡張型心筋症(DCM)は、左心室または両心室の拡大および収縮機能障害を特徴とする重度の心筋疾患であり、心不全の主要なリスク要因である(1)。RNA結合モチーフタンパク質20(RBM20)における変異は、心筋症の一般的な原因であり、家族性DCM患者の2~5%を占める(2、3)。多くのRBM20変異が、核局在化を媒介するアルギニン/セリンリッチ(RSリッチ)ドメイン内に集積している(4~7)。これらのRBM20変異を有する患者は、高い割合で不整脈事象および心臓突然死を経験する(8~10)。
【0004】
RBM20は、サルコメアおよびカルシウム調節タンパク質をコードする多くの重要な心臓遺伝子の選択的スプライシングを調節する(7、11)。RBM20関連心筋症の主な原因は、チチン(TTN)などの心臓遺伝子の選択的スプライシングの欠如であると想定された(12)。しかしながら、最近の報告書は、RSリッチ領域におけるRBM20R636S変異が、細胞質におけるRBM20の誤った局在化および相分離リボ核タンパク質(RNP)顆粒の形成を誘導したことを示しており(13)、このことから、心筋細胞(CM)中の異常なRNP顆粒は、DCMの潜在的原因に関係しているとされる(13~16)。ほとんどの療法は、疾患の根底にある遺伝子変異をそのまま残したまま、その症状に対処しているかまたは二次的効果を標的としているため、DCMの有効な治療法はない。
【発明の概要】
【0005】
概要
塩基編集(BE)およびプライム編集(PE)などの正確なCRISPR-Cas9遺伝子編集技術は、病因性変異を恒久的に修正する可能性をもたらし、心筋症を処置するための新たな治療的アプローチを提供する(17、18)。この目的のために、本発明者らは、sgRNAを設計して、CRISPR-Cas9アデニン塩基編集(ABE)によりヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞においてRBM20(R634Q)変異を修正し、機能的な心筋細胞の回復を観察した。さらに加えて、本発明者らは、重度の心機能障害および突然死を示し、DCM患者において観察される表現型を再現する、Rbm20(R636Q)マウスモデルを作製した。インビボでRBM20心筋症を救済するために、アデノ随伴ウイルス(AAV)送達系を使用してABE遺伝子編集成分をマウスに送達した。本発明者らはまた、ABEによって修正不能な他のRBM20変異を修正するためのプライム編集(PE)用のpegRNAも設計した。これらの知見は、RBM20変異およびDCMの根底にある他の遺伝子変異の恒久的な修正のための有望な治療的アプローチを提供する。
【0006】
本開示は、少なくとも部分的には、塩基対編集を通じて遺伝子変異を修正することによってDCMなどの家族性心筋症に関連する表現型を成功裏に転換させる、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システムと共に使用するためのガイドRNA(gRNA)の発見に基づく。言い換えると、本開示は、CRISPR/Cas9システム用に設計された単一ガイドRNA(sgRNA)を含む組成物、および1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置するためのその使用法を対象とする。
【0007】
本開示の局面は、1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置するためのCRISPR/CAS9システム用に設計されたgRNAを提供する。いくつかの態様では、本明細書におけるgRNAは、拡張型心筋症(DCM)を含む1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置し得る。
【0008】
いくつかの態様では、本明細書におけるgRNAは、SEQ ID NO:1~4のいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を含み得る。いくつかの態様では、本明細書におけるgRNAは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)をさらに含み得る。
【0009】
一態様では、本明細書において、SEQ ID NO:1~4のいずれか1つから選択される標的指向核酸配列を含む、ガイドRNA(gRNA)が提供される。標的指向核酸配列は、SEQ ID NO:1~4のいずれか1つに対して少なくとも85%同一、90%同一、または95%同一である配列を有し得る。gRNAは、単一分子ガイドRNA(sgRNA)であり得る。gRNAは、ヒトRBM20遺伝子中の配列を改変するためのものであり得る。
【0010】
いくつかの態様では、本明細書におけるgRNAは、少なくとも1つの遺伝子における少なくとも1つの変異を修正し得、ここで、少なくとも1つの遺伝子は、RBM20を含む。いくつかの態様では、本明細書におけるgRNAは、RBM20遺伝子におけるR634Q変異またはその哺乳動物同等物を修正し得る。
【0011】
本開示の他の局面は、CRISPR/CAS9システムを提供する。いくつかの態様では、本明細書におけるCRISPR/CAS9システムは、本明細書に開示されるようなCas9ヌクレアーゼおよび少なくとも1つのgRNAをコードするポリヌクレオチド分子を含む、少なくとも1つのベクターを含み得る。いくつかの態様では、本明細書におけるCRISPR/Cas9システムは、ストレプトコッカス(Streptococcus)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、および/またはそのバリアントからなるCas9ヌクレアーゼを含み得る。
【0012】
一態様では、本明細書において、ヒトRBM20における変異を標的とするgRNA、および塩基エディターを含む、組成物が提供される。gRNAは、SEQ ID NO:1~4のいずれか1つから選択される標的指向核酸配列を含み得る。標的指向核酸配列は、SEQ ID NO:1~4のいずれか1つに対して少なくとも85%同一、90%同一、または95%同一である配列を有し得る。gRNAは、単一分子ガイドRNA(sgRNA)であり得る。
【0013】
塩基エディターは、アデニン塩基エディター(ABE)であり得る。塩基エディターは、アデノシンデアミナーゼに連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含み得る。CRISPR/Casヌクレアーゼは、触媒的に障害されている可能性がある。CRISPR/Casヌクレアーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)から単離され得るまたはそれに由来し得るCas9ヌクレアーゼ(例えば、spCas9)であり得る。
【0014】
一態様では、本明細書において、ヒトRBM20における変異を標的とする第1のgRNAをコードする配列、塩基エディターをコードする配列、第1のプロモーターをコードする配列であって、第1のプロモーターが第1のgRNAをコードする配列の発現を駆動する、配列、および第2のプロモーターをコードする配列であって、第2のプロモーターが塩基エディターをコードする配列の発現を駆動する、配列を含む、核酸が提供される。
【0015】
gRNAは、SEQ ID NO:1~4のいずれか1つから選択される標的指向核酸配列を含み得る。標的指向核酸配列は、SEQ ID NO:1~4のいずれか1つに対して少なくとも85%同一、90%同一、または95%同一である配列を有し得る。gRNAは、単一分子ガイドRNA(sgRNA)であり得る。塩基エディターは、アデニン塩基エディター(ABE)であり得る。塩基エディターは、アデノシンデアミナーゼに連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含み得る。CRISPR/Casヌクレアーゼは、触媒的に障害されている可能性がある。CRISPR/Casヌクレアーゼは、以下から単離され得るまたはそれに由来し得るCas9ヌクレアーゼであり得る:ストレプトコッカス・ピオゲネス(例えば、spCas9)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(例えば、SaCas9)、スタフィロコッカス・アウリクラーリス(Staphylococcus auricularis)(例えば、SauCas9)、またはスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)(例えば、SlugCas9)。
【0016】
第1のプロモーターおよび/または第2のプロモーターは、細胞型特異的プロモーターであり得る。細胞型特異的プロモーターは、例えば、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターなどの心筋細胞特異的プロモーターであり得る。第1のプロモーターは、U6プロモーター、H1プロモーター、または7SKプロモーターであり得る。
【0017】
核酸は、DNAまたはRNAであり得る。核酸は、ポリアデノシン(ポリA)配列を含み得、該配列はミニポリA配列であり得る。核酸は、組成物中に含まれ得、組成物は細胞中に含まれ得る。核酸は、細胞中に含まれ得、細胞は組成物中に含まれ得る。
【0018】
核酸は、ベクター中に含まれ得る。ベクターは、例えば、トランスポゾン(例えば、Tn7トランスポゾン)などの転移因子の逆位末端反復配列(ITR)をコードする配列を含み得る。ベクターは、T7トランスポゾンの5' ITRをコードする配列およびT7トランスポゾンの3' ITRをコードする配列を含み得る。ベクターは、例えば、プラスミドなどの非ウイルスベクターであり得る。ベクターは、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはアデノウイルスベクターなどのウイルスベクターであり得る。AAVベクターは、複製欠損または条件付き複製欠損であり得る。AAVベクターは、組換えAAVベクターであり得る。AAVベクターは、以下のAAVベクター:血清型1(AAV1)、血清型2(AAV2)、血清型3(AAV3)、血清型4(AAV4)、血清型5(AAV5)、血清型6(AAV6)、血清型7(AAV7)、血清型8(AAV8)、血清型9(AAV9)、血清型10(AAV10)、血清型11(AAV11)、AAV9-rh74-HB-P1、AAV9-AAA-P1-SG、AAVrh10、AAVrh74、AAV9P、MyoAAV1A、MyoAAV2A、MyoAAV3A、MyoAAV4A、MyoAAV4CもしくはMyoAAV4E、またはそれらの任意の組み合わせから単離されたまたはそれに由来する配列を含み得、ここで、AAVの後の数は、AAV血清型を示している。例えば、WO2019193119;WO2022053630;Weinmann et al., 2020, Nature Communications, 11:5432;およびTabebordbar et al., 2021, Cell, 184:1-20を参照されたく、それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0019】
ベクターは、例えば、ヒト細胞などの哺乳動物細胞での発現のために最適化され得る。
【0020】
ベクターは、組成物中に含まれ得、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。ベクターは、ヒト細胞、心筋細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞などの細胞中に含まれ得る。細胞は、組成物中に含まれ得る。
【0021】
一態様では、本明細書において、ヒトRBM20における変異を修正するための方法であって、第1のgRNAおよびアデニン塩基エディターの発現に適した条件下で、細胞と本態様のいずれか1つの核酸またはベクター組成物とを接触させる段階を含み、第1のgRNAがアデニン塩基エディターと複合体を形成し、複合体がジストロフィンスプライス部位を改変し、それによりRBM20の正しいコード配列を復元する、方法が提供される。また、係る方法によって産生される細胞も提供される。
【0022】
本開示の他の局面は、細胞における少なくとも1つの心筋症関連遺伝子を改変する方法を提供する。いくつかの態様では、細胞における少なくとも1つの心筋症関連遺伝子を改変する方法は、細胞と本明細書におけるCRISPR/CAS9システムをコードする少なくとも1つの種類のベクターとを接触させる段階を含み得、ここで、CRISPR/CAS9システムは、心筋症関連遺伝子の変異アレルに指向され得、かつ/または、少なくとも1つの種類のベクターは、本明細書に開示されるようなCas9ヌクレアーゼおよび1つもしくは複数のgRNAをコードするポリヌクレオチド分子を含み得る。
【0023】
本開示の他の局面は、対象における1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置する方法を提供する。いくつかの態様では、対象における1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置する方法は、1つまたは複数のアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を対象に投与する段階を含み得、ここで、AAV粒子は、本明細書に開示されるようなCas9ヌクレアーゼおよび本明細書に開示されるような1つまたは複数のgRNAをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含み得る。
【0024】
一態様では、本明細書において、
である標的指向核酸配列を含むガイドRNA(gRNA)が提供される。標的指向核酸配列は、SEQ ID NO:5に対して少なくとも85%同一、90%同一、または95%同一である配列を有し得る。gRNAは、プライム編集(pe)gRNA(pegRNA)であり得る。gRNAは、C1906A変異を修正するためにヒトRBM20遺伝子を改変するためのものであり得る。
【0025】
gRNAは、
である核酸配列を含むプライマー結合部位をさらに含み得る。プライマー結合部位配列は、SEQ ID NO:6に対して少なくとも85%同一、90%同一、または95%同一である配列を有し得る。gRNAは、
である核酸配列を含む逆転写酵素テンプレートをさらに含み得る。逆転写酵素テンプレート配列は、SEQ ID NO:7に対して少なくとも85%同一、90%同一、または95%同一である配列を有し得る。
【0026】
一態様では、本明細書において、ヒトRBM20遺伝子におけるC1906A変異を修正するgRNA、およびプライムエディターを含む、組成物が提供される。gRNAは、ヒトRBM20遺伝子を改変して、RBM20のコード配列を回復させ得る。gRNAは、
である標的指向核酸配列を含み得る。標的指向核酸配列は、SEQ ID NO:5に対して少なくとも85%同一、90%同一、または95%同一である配列を有し得る。gRNAは、プライム編集(pe)gRNA(pegRNA)であり得る。
【0027】
プライムエディターは、逆転写酵素に連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含み得る。CRISPR/Casヌクレアーゼは、触媒的に障害されている可能性がある。CRISPR/Casヌクレアーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネスから単離され得るまたはそれに由来し得るCas9ヌクレアーゼ(例えば、spCas9)であり得る。組成物は、第2鎖ニッキングsgRNAをさらに含み得る。
【0028】
一態様では、本明細書において、ヒトRBM20遺伝子を標的とする第1のgRNAをコードする配列、プライムエディターをコードする配列、第1のプロモーターをコードする配列であって、第1のプロモーターが第1のgRNAをコードする配列の発現を駆動する、配列、および第2のプロモーターをコードする配列であって、第2のプロモーターがプライムエディターをコードする配列の発現を駆動する、配列を含む、核酸が提供される。
【0029】
プライムエディターは、逆転写酵素に連結されたCRISPR/Casヌクレアーゼを含み得る。CRISPR/Casヌクレアーゼは、触媒的に障害されている可能性がある。CRISPR/Casヌクレアーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネスから単離され得るまたはそれに由来し得るCas9ヌクレアーゼ(例えば、spCas9)であり得る。組成物は、第2鎖ニッキングsgRNAをさらに含み得る。
【0030】
第1のプロモーターおよび/または第2のプロモーターは、細胞型特異的プロモーターであり得る。細胞型特異的プロモーターは、例えば、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターなどの心筋細胞特異的プロモーターであり得る。第1のプロモーターは、U6プロモーター、H1プロモーター、または7SKプロモーターであり得る。
【0031】
核酸は、DNAまたはRNAであり得る。核酸は、ポリアデノシン(ポリA)配列を含み得、該配列はミニポリA配列であり得る。核酸は、組成物中に含まれ得、組成物は細胞中に含まれ得る。核酸は、細胞中に含まれ得、細胞は組成物中に含まれ得る。
【0032】
核酸は、ベクター中に含まれ得る。ベクターは、例えば、トランスポゾン(例えば、Tn7トランスポゾン)などの転移因子の逆位末端反復配列(ITR)をコードする配列を含み得る。ベクターは、T7トランスポゾンの5' ITRをコードする配列およびT7トランスポゾンの3' ITRをコードする配列を含み得る。ベクターは、例えば、プラスミドなどの非ウイルスベクターであり得る。ベクターは、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはアデノウイルスベクターなどのウイルスベクターであり得る。AAVベクターは、複製欠損または条件付き複製欠損であり得る。AAVベクターは、組換えAAVベクターであり得る。AAVベクターは、血清型1のAAVベクター(AAV1)、血清型2のAAVベクター(AAV2)、血清型3のAAVベクター(AAV3)、血清型4のAAVベクター(AAV4)、血清型5のAAVベクター(AAV5)、血清型6のAAVベクター(AAV6)、血清型7のAAVベクター(AAV7)、血清型8のAAVベクター(AAV8)、血清型9のAAVベクター(AAV9)、血清型10のAAVベクター(AAV10)、血清型11のAAVベクター(AAV11)またはそれらの任意の組み合わせから単離されたまたはそれに由来する配列を含み得る。ベクターは、例えば、ヒト細胞などの哺乳動物細胞での発現のために最適化され得る。
【0033】
ベクターは、組成物中に含まれ得、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。ベクターは、ヒト細胞、心筋細胞、または人工多能性幹(iPS)細胞などの細胞中に含まれ得る。細胞は、組成物中に含まれ得る。
【0034】
一態様では、本明細書において、ヒトRBM20における変異を修正するための方法であって、第1のgRNAおよびプライムエディターの発現に適した条件下で、細胞と本態様のいずれか1つの核酸またはベクター組成物とを接触させる段階を含み、第1のgRNAがプライムエディターと複合体を形成し、複合体が変異を改変し、それによりRBM20の正しいコード配列を復元する、方法が提供される。また、係る方法によって産生される細胞も提供される。
【0035】
一態様では、本明細書において、それを必要とする対象における拡張型心筋症を処置する方法であって、本態様のいずれか1つの薬学的組成物の治療有効量を該対象に投与する段階を含む、方法が提供される。また、それを必要とする対象における拡張型心筋症を処置するための本態様のいずれか1つの薬学的組成物の治療有効量の使用も提供される。
【0036】
組成物は、局所的に投与され得る。組成物は、心臓組織に直接投与され得る。組成物は、筋肉内注入または注射によって投与され得る。組成物は、全身に投与され得る。組成物は、静脈内注入または注射によって投与され得る。
【0037】
組成物の投与後に、対象は、サルコメア構造の正常なアーキテクチャ、RBM20の核局在化、RNP顆粒形成がないこと、またはそれらの組み合わせを示し得る。組成物の投与後に、対象は、改善されたLV機能を示し得る。
【0038】
対象は、新生児、幼児、子供、若年成人、または成人であり得る。対象は、男性または女性であり得る。
【0039】
本開示の他の局面は、本明細書に開示される方法の実施および/または本明細書に開示される構築物のいずれかの作製において使用するためのキットを提供する。いくつかの態様では、本明細書におけるキットは、(a)本明細書に開示されるような少なくとも1つのCas9ヌクレアーゼおよび本明細書に開示されるような1つまたは複数のgRNAをコードするポリヌクレオチド分子を含む少なくとも1つのベクターと、少なくとも(b)容器とを含み得る。
【0040】
本開示の他の局面は、本明細書において使用するための薬学的組成物を提供する。いくつかの態様では、組成物、ベクター、AAV粒子、CRISPR/CAS9システム、および/またはgRNAのいずれかを、本明細書に開示されるような薬学的組成物として製剤化することができる。いくつかの態様では、本明細書における薬学的組成物は、本明細書におけるCas9ヌクレアーゼおよび本明細書に開示されるような1つまたは複数のgRNAをコードするポリヌクレオチド分子を含む少なくとも1つのベクターと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤とを含み得る。いくつかの態様では、本明細書における薬学的組成物は、少なくとも1つのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含み得る。いくつかの態様では、本明細書における薬学的組成物は、ウイルス粒子中にパッケージングされた少なくとも1つのAAVベクターを含み得る。いくつかの態様では、本明細書における薬学的組成物は、AAV粒子を含み得る。
【0041】
一態様では、本明細書において、ゲノムが、R636Q変異をコードするRbm20遺伝子の少なくとも1つのアレルを含む、遺伝子改変マウスが提供される。マウスは、C57/BL6遺伝子バックグラウンドを有し得る。ゲノムは、R636Q変異をコードするRbm20のアレルに対してホモ接合型であり得る。マウスは、心機能障害を患っている可能性がある。例えば、拡張終期の間の左心室内径(LVIDd)および収縮終期の間の左心室内径(LVIDs)が増加し得る。心機能障害は、心房および心室の拡張であり得る。心機能障害は、低下した短縮率であり得る。また、係るマウスから単離された細胞も提供される。細胞は、心筋細胞であり得る。
【0042】
一態様では、本明細書において、本態様のいずれか1つに係るマウスにおいて少なくとも1つの候補薬剤をスクリーニングするための方法であって、1つまたは複数の候補薬剤を該マウスに投与する段階を含む、方法が提供される。少なくとも1つの候補薬剤は、左心室機能を改善するその能力に関してスクリーニングされ得る。少なくとも1つの候補薬剤は、心腔サイズを救済するその能力に関してスクリーニングされ得る。少なくとも1つの候補薬剤は、生存期間を延長するその能力に関してスクリーニングされ得る。候補薬剤は、本態様のいずれか1つのgRNAを含み得る。
【0043】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な例は、本発明の好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の趣旨および範囲内における様々な変更および改変が当業者に明らかになることから、例示を目的としてのみ与えられるものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本発明のある特定の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書に提示される具体的な態様の詳細な説明と併せて、これらの図面の1つまたは複数を参照することによってより良く理解され得る。
【0045】
図1図1A~1E。iPSCにおけるアデニン塩基編集によるRBM20R634Q変異の正確な修正。(図1A)アルギニン/セリンリッチ(RSリッチ)領域をコードするエクソン9中のホットスポット変異を強調しているヒトRBM20遺伝子のエクソン8~10。示しているヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:8である。示しているアミノ酸配列は、SEQ ID NO:9である。(図1B)sgRNA1およびABEmax-VRQR-SpCas9を使用したR634Q変異のアデニン塩基編集(ABE)修正を描写している図解。オンターゲット部位は、A6に位置しており、考えられるバイスタンダー部位は、A14にある。PAMを示している。SEQ ID NO:10に示されるR634Qヌクレオチド配列。示しているR634Qアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11である。SEQ ID NO:12に示される修正されたヌクレオチド配列。示している修正されたアミノ酸配列は、SEQ ID NO:13である。(図1C)ABE修正後のホモ接合型R634Q/R634Q iPSCにおけるアデニン(A)からグアニン(G)への編集効率。データは、平均値±SEMとして表す(n=3)。(図1D)ABE修正の前後のヘテロ接合型(R634Q/+)iPSCにおける正常アレルのパーセンテージ。データは、平均値±SEMとして表す(n=3)。対応のないスチューデントのt検定を実施した。p値 ****P<0.0001。(図1E)正常(WT)、R634Q/+、R634Q/R634QおよびABE修正されたR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞の免疫細胞化学。α-アクチニン、RBM20およびDAPI。スケールバー、10μm。
図2図2A~2F。アデニン塩基編集によるiPSC由来RBM20R634Q心筋細胞の病理学的表現型の修正。(図2A)正常(WT)、ヘテロ接合型(R634Q/+)、ホモ接合型(R634Q/R634Q)および修正されたR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞における選択的スプライシングパターンのヒートマップ。(図2B)TTN遺伝子の代替スプライスアイソフォーム、TTN-N2BAおよびTTN-N2Bを示している図解。(図2C)qRT-PCRによって定量されたTTN-N2Bアイソフォームの相対発現。データは、平均値±SEMとして表す(n=3)。一元配置分散分析を実施した。p値 ****P<0.0001。(図2D)AAV6媒介ABE修正後の修正されたR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞におけるアデニン(A)からグアニン(G)への編集率。A6は、オンターゲット部位である。A14は、バイスタンダー部位である。(図2E)AAV6媒介ABE修正の前後のR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞におけるRBM20細胞内局在化の定量(各群中の総細胞n=100~150個;3つの独立した分化にわたって定量を実施した)。カラムの各ペアにおいて、左側のカラムは「R634Q/R634Q」であり、右側のカラムは「修正された」である。データは、平均値±SEMとして表す。二元配置分散分析とボンフェローニの多重比較検定を実施した。p値 ****P<0.0001。(図2F)正常(WT)、R634Q/R634QおよびAAV6-ABE修正されたR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞の免疫細胞化学。α-アクチニン、RBM20およびDAPI。スケールバー、10μm。
図3図3A~3C。Rbm20R636Qマウスにおける心機能障害。(図3A)4週齢の野生型(WT)、ヘテロ接合型(R636Q/+)およびホモ接合型(R636Q/R636Q)マウスからの代表的なMモード心エコー投影図。(図3B)心エコー検査によって測定された短縮率(FS)、左心室の収縮終期径(LVIDs)および拡張終期径(LVIDd)。データは、平均値±SEMとして表す(1遺伝子型当たりn=6)。一元配置分散分析を実施した。p値 *P<0.05および****P<0.0001。(図3C)指定の遺伝子型の12週齢マウスからの代表的な心臓。スケールバー、1mm。
図4図4A~4E。AAV9を用いたアデニン塩基編集成分の全身送達は、心機能を回復させた。(図4A)ABE修正の6週間後のホモ接合型(R636Q/R636Q)変異マウスの心臓由来のcDNAにおけるアデニン(A)からグアニン(G)への編集率。A6は、オンターゲット部位である。A14は、バイスタンダー部位である。A4およびA13は、サイレント変異(褐色)である。データは、平均値±SEMとして表す(n=4)。(図4B)野生型(WT)、ホモ接合型(R636Q/R636Q)およびABE修正されたR636Q/R636Q(修正された)マウスにおけるABE修正の4週間および8週間後の心エコー検査によって測定された短縮率(FS)、左心室の収縮終期径(LVIDs)および拡張終期径(LVIDd)。データは、平均値±SEMとして表す(1群当たりn=6)。二元配置分散分析とテューキーの多重比較検定を実施した。各三つ組のカラムにおいて、左側のカラムは「WT」であり、中央のカラムは「R636Q/R636Q」であり、右側のカラムは「修正された」である。p値 *P<0.05、**P<0.01および****P<0.0001。(図4C)ABE修正の12週間後のWT、R636Q/R636QおよびABE修正されたR636/R636Qマウスからの4チャンバー組織切片のH&E染色。スケールバー、1mm。(図4D)WT(n=15)、R636Q/R636Q(n=16)およびABE修正されたR636Q/R636Qマウス(n=15)のカプラン・マイヤー生存曲線。ログランク(マンテル・コックス)検定を実施した。WTまたはABE修正されたR636Q/R636Q対R636Q/R636Qの比較についてのp値 ****p<0.0001。(図4E)ABE修正の12週間後のWT、R636Q/R636QおよびABE修正されたR636Q/R636Qマウスの心筋細胞におけるRBM20の転座を示している免疫組織化学。心臓トロポニンT、RBM20およびDAPI。スケールバー、10μm。
図5図5A~5B。RBM20R634Q同質遺伝子iPSC株の作製。(図5A)ヒトRBM20遺伝子のエクソン9を標的とするsgRNAの配列。PAM(CGG)を強調している。核酸の配列は、SEQ ID NO:14に示される。(図5B)正常(WT;SEQ ID NO:15)、ヘテロ接合型(R634Q/+;SEQ ID NO:16)およびホモ接合型(R634Q/R634Q;SEQ ID NO:17)iPSC株におけるRBM20R634Q変異(下線付き)にまたがるゲノム領域のサンガー配列。
図6図6A~C。ABE8e-SpCas9バリアントおよびABE8e-SaCas9を使用したアデニン塩基編集。(図6A)sgRNA1およびABE8e-NG-SpCas9またはABE8e-VRQR-SpCas9を使用したABE修正後のR634Q/R634Q iPSCにおけるアデニン(A)からグアニン(G)への編集率。A6は、オンターゲット部位である。A14は、バイスタンダー部位である。データは、平均値±SEMとして表す(n=3)。(図6B)RBM20R634Q変異の領域中のsgRNA2、3および4の結合位置を示している図解。オンターゲット部位およびバイスタンダー部位を表示している。示している核酸配列は、SEQ ID NO:10である。示しているアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11である。(図6C)sgRNA2、3および4を各ABE8e塩基エディターと併用したABE修正後のR634Q/R634Q iPSCにおけるアデニン(A)からグアニン(G)への編集率。オンターゲット部位。バイスタンダー部位。データは、平均値±SEMとして表す(n=3)。
図7図7。iPSC由来心筋細胞におけるTTN選択的スプライシングの回復。パーセントスプライスイン(percent spliced in)(PSI)によって測定した場合のTTN遺伝子のスプライシングパターンは、エクソンインクルージョン比を示す。ABE修正されたR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞は、TTNスプライシングの回復を示している。
図8図8A~8C。アデニン塩基編集は、iPSC由来心筋細胞において遺伝子発現を回復させた。(図8A)正常(WT)、R634Q/+、R634Q/R634QおよびABE修正されたR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞の差次的に調節された遺伝子発現を示しているヒートマップ。(図8Bおよび8C)正常iPSC由来心筋細胞と比較してR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞においてアップレギュレーションされた遺伝子およびダウンレギュレーションされた遺伝子に関連する遺伝子オントロジーターム。分化後40日目の3つの独立した分化iPSC由来心筋細胞に対してRNAシーケンシングを実施した。
図9図9A~9B。アデニン塩基編集は、iPSC由来心筋細胞においてカルシウムハンドリングの異常を回復させた。(図9A)ピークまでの時間によるカルシウム放出相および(図9B)タウによるカルシウム再取り込み相の定量(各群中の細胞n=50個;3つの独立した分化にわたって定量を実施した)。データは、平均値±SEMとして示す。一元配置分散分析を実施した。p値 ****P<0.0001。
図10図10A~10B。iPSCにおけるアデニン塩基編集のオフターゲット解析。(図10A)ABEmax-VRQR-SpCas9と併用したsgRNA1の上位8つの予測オフターゲット部位。表中の配列は、上から下に、それぞれSEQ ID NO:18~26である。(図10B)上位8つの予測オフターゲット部位におけるサンガーシーケンシングによって決定されたアデニン(A)からグアニン(G)への編集率。データは、平均値±SEMとして表す(n=3)。一元配置分散分析を実施した。p値 ****P<0.0001。
図11図11A~11D。AAV6媒介アデニン塩基編集は、分化したiPSC由来心筋細胞においてRBM20の核局在化を回復させた。(図11A)iPSC由来心筋細胞にABE成分を送達するために使用される二重AAVベクターの図解。ABEmax、VRQR-SpCas9およびインテイン(Int)は、心臓トロポニンTプロモーターによって駆動される。sgRNA発現カセットは、U6 RNAポリメラーゼIIIプロモーターによって駆動される。AAV血清型6を分化したiPSC由来心筋細胞に使用した。(図11B)分化したiPSC由来心筋細胞へのAAV6によるABE送達の実験設計を示している略図。(図11C)正常(WT;SEQ ID NO:27)、未修正(R634Q/R634Q;SEQ ID NO:28)、およびABE修正されたホモ接合型(修正された;SEQ ID NO:27)iPSC由来心筋細胞におけるRBM20R634Q変異(下線付き)のゲノム領域の代表的なサンガー配列。(図11D)正常(WT)、R634Q/R634QおよびABE修正されたR634Q/R634Q iPSC由来心筋細胞の免疫細胞化学。α-アクチニン、RBM20およびDAPI。スケールバー、20μm。
図12図12A~12C。Rbm20R636Q変異を担持するノックインマウスモデルの作製。(図12A)Rbm20遺伝子のエクソン9を標的とするsgRNAの配列。PAMを強調している。示している核酸は、SEQ ID NO:29である。(図12B)Rbm20R636Q変異のゲノム領域周辺のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を示している図解。ノックインRbm20R636Q変異は、示しているヌクレオチドと置き換わる。示しているヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:30である。示しているアミノ酸配列は、SEQ ID NO:31である。(図12C)野生型(WT;SEQ ID NO:32)、ヘテロ接合型(R636Q/+;SEQ ID NO:33)およびホモ接合型(R636Q/R636Q;SEQ ID NO:34)マウスにおけるRbm20R636Q変異のゲノム領域のサンガー配列。
図13図13A~13B。ホモ接合型R636Q/R636Qマウスにおけるアデニン塩基編集のための戦略。(図13A)sgRNAおよびABEmax-VRQR-SpCas9を使用したR636Q変異(配列決定された核酸は、SEQ ID NO:30であり;アミノ酸配列は、SEQ ID NO:31である)のアデニン塩基編集(ABE)修正を描写している図解。オンターゲット部位は、A6に位置している。バイスタンダー変異は、A14およびA20にある。サイレント変異は、A4、A13およびA19に位置している。PAMを示している。修正された核酸配列は、SEQ ID NO:35である。修正されたアミノ酸配列は、SEQ ID NO:36である。(図13B)AAV9媒介ABE修正の全身送達のための戦略。出生後5日目、R636Q/R636Qマウスに2.5×1014個のvg/kgの総AAV9成分を腹腔内注射した。
図14図14A~14C。インビボでのAAV9媒介アデニン塩基編集によるRbm20R636Q変異の修正。AAV9媒介ABE修正の6週間後のABE修正されたR636Q/R636Q(修正された)マウスの全心臓由来の(図14A)DNAおよび(図14B)cDNAにおけるアデニン(A)からグアニン(G)への編集率。データは、平均値±SEMとして表す(n=4)。対応のないスチューデントのt検定を実施した。p値 ****P<0.0001。(図14C)WT(SEQ ID NO:37)、R636Q/R636Q(SEQ ID NO:38)およびABE修正されたR636Q/R636Q(SEQ ID NO:39)マウスにおけるcDNAのRbm20R636Q変異の領域を示しているサンガーシーケンシング。
図15図15。ABE成分の全身送達は、ホモ接合型R636Q/R636Qマウスにおいて心機能を救済した。AAV9媒介ABE修正の8週間後の野生型(WT)、ホモ接合型(R636Q/R636Q)およびABE修正されたR636Q/R636Q(修正された)マウスのMモード心エコー投影図。
図16図16A~16B。ホモ接合型R636Q/R636Qマウス心臓の組織学的分析。AAV9投与の12週間後の正常(WT)、R636Q/R636QおよびABE修正されたR636Q/R636Q(修正された)マウスの左心室の(図16A)H&E染色および(図16B)マッソントリクローム染色。スケールバー、50μm。
図17図17A~17B。アデニン塩基編集は、チチン(Ttn)遺伝子の選択的スプライシングを部分的に回復させた。チチン(Ttn)遺伝子の(図17A)N2Bアイソフォームおよび(図17B)N2BAアイソフォームの相対発現を、AAV9媒介ABE修正の6週間後にWT、R636Q/R636QおよびABE修正されたR636Q/R636QマウスにおいてqRT-PCRによって定量した。データは、平均値±SEMとして表す(n=4)。一元配置分散分析を実施した。p値 ***P<0.001および****P<0.0001。
図18図18A~18C。アデニン塩基編集は、心臓における転写発現を回復させた。(図18A)AAV9媒介ABE修正の6週間後のWT、R636Q/R636QおよびABE修正されたR636/R636Qマウスにおける差次的に調節された遺伝子の発現を示しているヒートマップ(n=4)。(図18Bおよび18C)WTマウスと比較してR636Q/R636Qマウスにおいてアップレギュレーションされた遺伝子およびダウンレギュレーションされた遺伝子に関連する遺伝子オントロジーターム。
図19図19A~19D。iPSCにおけるRBM20R636S変異のプライム編集。(図19A)RBM20R636S変異(示している配列は、SEQ ID NO:40である)の修正のためのプライム編集(PE)戦略の図解。プライム編集ガイドRNA(pegRNA)は、スペーサー(SEQ ID NO:5)、プライム(prime)結合部位(PBS、11nt長;SEQ ID NO:6)および逆転写酵素テンプレート(RT、17nt長;SEQ ID NO:7)を含有する。RBM20R636S変異および目的の編集されたヌクレオチドを赤で色付けしている。PAMを破壊するためのサイレント変異を青で色付けしている。pegRNAのニッキング部位を緑の矢印によって表示している。sgRNAの第2のニッキング部位を矢印によって表示している。(図19B)正常(WT;SEQ ID NO:41)、未修正(R636S/R636S;SEQ ID NO:42)およびPE修正された(SEQ ID NO:43)iPSC株におけるRBM20R636S変異(下線付き)のゲノム領域のサンガー配列。(図19C)R636S/R636S iPSCにおける、PE3b修正およびPE3bmaxを操作されたpegRNA(epegRNA)と組み合わせた修正後のアデニン(A)からシトシン(C)への編集率。データは、平均値±SEMとして表す(n=3)。対応のないスチューデントのt検定を実施した。p値 ***P<0.001。(図19D)正常(WT)、R636S/R636SおよびPE修正されたR636S/R636S iPSC由来心筋細胞の免疫細胞化学。α-アクチニン、RBM20およびDAPI。スケールバー、10μm。
図20図20は、本開示の様々な局面に係る患者由来人工多能性幹細胞(iPSC)におけるRBM20 R634Q変異を含有するヒト細胞株モデルの作製を示している代表的な概略図を描写する。示しているヒトヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:44である。示しているアミノ酸配列は、SEQ ID NO:45である。WT配列は、SEQ ID NO:15である。R634Q配列は、SEQ ID NO:17である。
図21A図21Aおよび21Bは、本開示の様々な局面に係る野生型細胞(図21A)と比較した心筋細胞に分化したRBM20 R634Q変異を含有する患者由来人工多能性幹細胞(iPSC)(iPSC-CM)(図21B)の免疫蛍光染色を示している代表的な画像を描写する。
図21B図21Aおよび21Bは、本開示の様々な局面に係る野生型細胞(図21A)と比較した心筋細胞に分化したRBM20 R634Q変異を含有する患者由来人工多能性幹細胞(iPSC)(iPSC-CM)(図21B)の免疫蛍光染色を示している代表的な画像を描写する。
図22図22は、本開示の様々な局面に係るヒト細胞でのRBM20遺伝子のR634Q変異の修正に使用した例示的なCRISPR/CAS9システムを示している代表的な概略図を描写する。示しているヒトヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:44である。示しているアミノ酸配列は、SEQ ID NO:45である。WT配列は、SEQ ID NO:46である。R634Q配列は、SEQ ID NO:47である。
図23図23は、本開示の様々な局面に係るマウス配列中の対応する領域(R636Q)を標的とすることによりRBM20遺伝子のヒトR634Q変異をモデル化するために作製された遺伝子改変マウス系統を示している代表的な概略図を描写する。示しているヒトヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:48である。示しているアミノ酸配列は、SEQ ID NO:49である。クロマトグラム中の配列は、SEQ ID NO:50である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
RNA結合モチーフタンパク質20(RBM20)における変異は、ヒトでの拡張型心筋症(DCM)の一般的な原因である。本明細書において、RBM20の病原性R634Q変異を修正するためのCRISPR-Cas9アデニン塩基編集(ABE)システムが提供される。このシステムをヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞において使用して、心筋細胞の機能を回復させた。
【0047】
本開示は、少なくとも部分的には、塩基対編集を通じて遺伝子変異を修正することによってDCMなどの家族性心筋症に関連する表現型を成功裏に転換させる、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)-CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システムと共に使用するためのガイドRNA(gRNA)の発見に基づく。したがって、本明細書において、CRISPR/CAS9システム用に設計された単一ガイドRNA(sgRNA)を含む組成物、および1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置するためのその使用法が提供される。
【0048】
例示的な方法では、ヒト細胞でのRBM20変異の修正にCRISPR/CAS9を使用した。簡潔に述べると、患者由来人工多能性幹細胞(iPSC)を単離し、これを使用して、これらの例示的な研究において使用するためのRBM20(R634Q)変異を含有するiPSC(Mut)を作製した。RBM20は、チチン選択的スプライシングを調節するRNA結合タンパク質をコードする遺伝子である。RBM20によってコードされるタンパク質のRSリッチドメインのミスセンス変異は、DCMと診断された患者の約6%の家族性拡張型心筋症(DCM)の根本原因である。図20に示しているように、「CGG」(634位に野生型アミノ酸残基「R」をコードする)に対応するヌクレオチドを、ヒト配列の634位にあるアミノ酸残基の「Q」へのRBM20変異を模倣する変異(R634Q)をコードする「CAG」に変異させた。次に、RBM20 R634Q変異を含有する患者由来人工多能性幹細胞(iPSC)を心筋細胞(iPSC-CM)に分化させた(図21A~21B)。結果として得られた野生型iPSC-CMおよび変異(R634Q)細胞の心筋細胞をアクチンおよびサルコメアのタンパク質マーカーについて染色した。図21A~21Bは、R634Q iPSC-CMにおけるサルコメア破壊を示している。
【0049】
図22は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を有するgRNAを示している。プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を有するgRNAをコードするプラスミドとABEmax-SpCas9-NGをコードするプラスミドのヌクレオフェクションに続き、変異アデニンヌクレオチドが野生型グアニンヌクレオチドに戻るロバストな編集を編集効率について評価したところ、CRISPR/Cas9システムが高い効率でR634Q変異を修正したことが示された。次に、R634Q変異を含有する患者由来人工多能性幹細胞(iPSC)(Mut)または上述したCRISPR/CAS9法を使用して修正されたiPSC(Cor)を単離し、心筋細胞(iPSC-CM)に分化させた。Mut iPSC-CMおよびCor iPSC-CMによる力発生(force generation)の分析ならびに細胞表現型に対するその影響を実施例2に記載するように評価した。
【0050】
さらに加えて、重度の心機能障害および突然死を呈し、ヒトDCM表現型を再現する、対応するRBM20変異を保有するヒト化マウスモデルを作製した。特に、ヒトRBM20 R634Q変異をモデル化するために遺伝子改変マウス系統を作製した(図23)。具体的には、このマウス系統は、RBM20遺伝子内にR636Qで同じヒト病因性変異を含有し、これはヒトRBM20 R634Q変異に対応する。片方のアレル上にミスセンス変異を担持するマウスおよび両方のアレル上にミスセンス変異を担持するマウスを、野生型マウスと比較して心臓表現型および心臓線維化についてモニタリングした。ヒトRBM20 R634Q変異のマウスモデルにおけるRBM20 R636Q変異を修正するために、マウス系統でのアデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく修正用にsgRNAを設計した。マウスにおけるオンターゲットおよびオフターゲット編集効率を、AAV送達および/またはA塩基エディターを使用して判定した。AAVを介してヒトRBM20 R634Q変異のマウスモデルにsgRNAを投与した後、心機能を評価し、sgRNAの投与前の心機能と比較して、マウスにおける表現型救済を測定した(図15)。アデノ随伴ウイルス送達を用いたABE成分の全身送達は、インビボでRBM20心筋症を救済した。
【0051】
さらに、ABEによって修正不能な他の報告されているRBM20変異を修正するためのプライム編集(PE)システムが提供される。これらの知見は、RBM20変異およびDCMの根底にある他の遺伝子変異の恒久的な修正のための有望な治療戦略を提供する。
【0052】
近年の医学の進歩にもかかわらず、家族性心筋症に対する有効な治療法は、未だ課題を抱えている。BEおよびPEなどの正確な遺伝子編集技術は、心血管疾患における病因性変異を修正するための革新的な機会を提供する。しかしながら、BEおよびPEシステムの大きなサイズは、AAVによるこれらの遺伝子編集成分の効率的な送達において課題をもたらす。ナノ粒子などの他の送達法は、そのような障壁を解決する可能性がある。それにもかかわらず、本発明者らの研究は、RBM20の病因性遺伝子変異を正確にかつ恒久的に修正するための概念実証戦略を提供し、DCMに対するCRISPR-Cas9遺伝子編集の治療転換への前進となる。
【0053】
I. 拡張型心筋症
拡張型心筋症(DCM)は、収縮機能障害を伴う左心室拡張を特徴とし、およそ2500人に1人が罹患する。この障害は、サルコメアおよび他の構造タンパク質をコードする多くのものを含め、40個の異なる遺伝子における変異を伴い、非常に遺伝的に異質である。いくつかの場合、その障害は、タンパク質RBM20(GenBank Accession No. NP_001127835.2)をコードするヒトの第10番染色体上に位置するRNA結合モチーフタンパク質20(RBM20)(GenBank Accession No. NM_001134363.3を参照されたく、これは参照により本明細書に組み入れられる)という遺伝子における変異によって引き起こされ、その配列は、以下に再現される。
【0054】
ネズミ科Rbm20タンパク質は、参照により本明細書に組み入れられるGenBank Accession No. NM_001170847.1によってコードされ、以下のアミノ酸配列(GenBank Accession No. NP_001164318.1)を有する。
【0055】
拡張型心筋症(DCM)は、心臓の働きの低下ならびに高い罹患率および死亡率を特徴とする世界的に蔓延している病気である心不全の最も一般的な原因の1つである。拡張型心筋症は、間質性線維化の蓄積を伴う左心室(LV)拡大および収縮不全の存在によって定義される。拡張型心筋症患者はまた、心室性不整脈および突然死のリスクも高い。心不全が進行するにつれて、エビデンスに基づく多剤併用および心臓再同期療法を含む治療選択肢は、効果がなくなっていく可能性があり、最終手段としてごく少数の人だけが利用可能な心臓移植が残る。心不全の初期診断後の5年死亡率は、およそ50%のままである。50を超える遺伝子の遺伝的変異が、拡張型心筋症の原因として関わっている。罹患者の約25~35%は、家族性の拡張型心筋症を有し、ほとんどの変異が細胞骨格タンパク質をコードする遺伝子に影響を及ぼす一方で、一部は収縮に関与する他のタンパク質に影響を及ぼす。
【0056】
拡張型心筋症は、異質性疾患である。特に、拡張型心筋症には、虚血型に加え、そのバリアントのアテローム性動脈硬化を伴う非虚血性心筋症である非虚血型も存在することが知られている。虚血性拡張型心筋症では、冠動脈疾患が根本原因であるとされる。非虚血性拡張型心筋症では、冠動脈疾患が心筋症の主な根本原因とされず、遺伝的、代謝的および炎症的状態がそれに代わる。一部は、弁疾患における肥大または動脈肥大後の病理学的状態も非虚血性拡張型心筋症を引き起こし得る。アテローム性動脈硬化が、観察される心筋症の根本原因でないため、アテローム性動脈硬化を伴う非虚血性心筋症は、診断が特に難しい。
【0057】
拡張型心筋症は、心エコー検査を使用して容易に診断することができる。しかしながら、心エコー検査は、心筋症の根本原因に関する情報を提供しない。このことは、2つ以上の原因を考慮する必要のある症例、例えば、糖尿病において特に当てはまる。さらに、主に侵襲的な方法である本方法は、疾患の進行の原因となる機序を説明できない。
【0058】
II. CRISPRシステム
本開示は、1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置するための組成物を提供する。いくつかの態様では、本明細書における組成物は、ガイドRNA(gRNA)を含むことができる。いくつかの態様では、本明細書における組成物は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9)システムを含むことができる。いくつかの態様では、本明細書における組成物は、本明細書に開示されるgRNAおよび/またはCRISPR/Cas9システムの送達のためのAAVベクター、AAVウイルス粒子、またはそれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの態様では、本明細書における組成物は、1つまたは複数の薬学的組成物を形成するために製剤化することができる。
【0059】
遺伝子編集は、生存細胞内の標的遺伝子の改変を可能にする技術である。最近になって、オンデマンドの遺伝子編集を実施することにCRISPRの細菌免疫系を利用することが、科学者のゲノム編集へのアプローチ手法に変革をもたらした。RNAガイド下DNAエンドヌクレアーゼである、CRISPRシステムのCas9タンパク質は、そのガイドRNA配列を変更することにより、新たな部位を比較的簡単に標的とするように操作することができる。この発見により、配列特異的な遺伝子編集は、機能的に有効なものになった。
【0060】
概して、「CRISPRシステム」は、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現またはその活性の指向に関与する転写物および他の要素のことを総称して指し、これには、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)、tracr-mate配列(「直列反復配列」および内因性CRISPRシステムとの関連でtracrRNAプロセシング部分直列反復配列を包含する)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムとの関連で「スペーサー」とも称される)、および/またはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物が含まれる。
【0061】
CRISPR/Cas9システムは、遺伝子編集に使用されるRNAガイド下DNA標的化プラットフォームとして再利用されている、原核生物の天然に存在する防御機構であり得る。CRISPR/Cas9システムは、DNAの切断を標的とするために、DNAヌクレアーゼCas9と、2つの非コードRNAであるcrisprRNA(crRNA)およびトランス活性化RNA(tracrRNA)(すなわち、gRNA)とに依拠している。CRISPRは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートの略称であり、この回文配列リピートは、例えば、原核生物に感染したまたはそれを攻撃したウイルスにより、過去に細胞に曝露された外来DNAと類似性を持つDNA断片(スペーサーDNA)を含有する、細菌および古細菌のゲノム中に見られるDNA配列のファミリーである。これらのDNAの断片は、原核生物によって、再導入時に、例えば、その後の攻撃の間に類似のウイルスからの、類似の外来DNAを検出および破壊するために使用される。CRISPR遺伝子座の転写は、外来の外因性DNAを認識および切断可能なCas(CRISPR関連)タンパク質と会合しかつそれを標的とするスペーサー配列を含むRNA分子の形成をもたらす。数多くの種類およびクラスのCRISPR/Casシステムが記載されている(例えば、Koonin et al., (2017) Curr Opin Microbiol 37:67-78を参照のこと)。
【0062】
crRNAは、典型的には標的DNA中の20ヌクレオチド(nt)配列とのワトソン・クリック塩基対合を通じて、CRISPR/CAS9複合体の配列認識および特異性を駆動する。crRNA中の5'側の20ntの配列を変化させることで、特定の遺伝子座へのCRISPR/CAS9複合体の標的指向が可能になる。CRISPR/CAS9複合体は、標的配列の後にプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称される特定の短いDNAモチーフ(配列NGGを有する)が続く場合に、crRNAの最初の20ntと一致する配列を含有するDNA配列にのみ結合する。tracrRNAは、crRNAの3'端とハイブリダイズしてRNA二重鎖構造を形成し、これにCas9エンドヌクレアーゼが結合して触媒活性のCRISPR/CAS9複合体を形成し、次いでこれが標的DNAを切断できる。CRISPR/CAS9複合体が標的部位でDNAに結合したら、Cas9酵素内の2つの独立したヌクレアーゼドメインが各々、PAM部位の上流にあるDNA鎖の一方を切断し、DNAの両方の鎖が塩基対(平滑末端)で終結した二本鎖切断(DSB)をもたらす。CRISPR/CAS9複合体が特定の標的部位でDNAに結合して、部位特異的DSBが形成された後、次の重要な工程は、DSBの修復である。細胞は、2つの主要なDNA修復経路を使用して、DSBを修復する:非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え修復(HDR)。
【0063】
NHEJは、非分裂細胞を含めた大部分の細胞型で高度に活性であるように見えるロバストな修復機構である。NHEJは、エラーが起こりやすく、しばしばDSBの部位で1~数百ヌクレオチドの除去または付加をもたらし得るが、そのような改変は、典型的には<20ntである。結果として生じた挿入および欠失(インデル)は、遺伝子のコードまたは非コード領域を破壊し得る。その代わりに、HDRは、内因的にまたは外因的に提供される長く続く相同なドナーDNAを使用して、高い忠実度でDSBを修復する。HDRは、分裂細胞でのみ活性であり、ほとんどの細胞型で比較的低い頻度で起こる。本開示の多くの態様では、NHEJが修復オペラントとして利用される。
【0064】
CRISPR/CasヌクレアーゼまたはCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、DNAに配列特異的に結合する非コードRNA分子(ガイド)RNA、およびヌクレアーゼ機能(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCasタンパク質(例えば、Cas9)を含むことができる。CRISPRシステムの1つまたは複数の要素は、例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネスなどの内因性CRISPRシステムを含む特定の生物に由来する、I型、II型、またはIII型CRISPRシステムに由来することができる。
【0065】
いくつかの態様では、Cas9(CRISPR関連タンパク質9)エンドヌクレアーゼを、本明細書に記載されるような1つまたは複数の心筋症を予防、改善または処置するために本明細書におけるCRISPR法において使用することができる。「Cas9分子」は、本明細書において使用される場合、gRNA分子と相互作用し、gRNA分子と協力して、標的配列およびPAM配列を含む部位に局在化(例えば、標的指向またはホーミング)できる分子のことを指す。Cas9タンパク質は、限定されないが、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis);コリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae);コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens);コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum);コリネバクテリウム・クロッペンステッティイ(Corynebacterium kroppenstedtii);マイコバクテリウム・アブセッサス(Mycobacterium abscessus);ノカルジア・ファルシニカ(Nocardia farcinica);ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis);ロドコッカス・ジョスティイ(Rhodococcus jostii);ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus);アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus);アルスロバクター・クロロフェノリカス(Arthrobacter chlorophenolicus);クリベラ・フラビダ(Kribbella flavida);サーモモノスポラ・クルバタ(Thermomonospora curvata);ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium);ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum);スラッキア・ヘリオトリニレデューセンス(Slackia heliotrinireducens);ペルセフォネラ・マリーナ(Persephonella marina);バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis);カプノサイトファガ・オクラセア(Capnocytophaga ochracea);フラボバクテリウム・サイクロフィルム(Flavobacterium psychrophilum);アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila);ロセイフレクサス・キャステンホルツィイ(Roseiflexus castenholzii);ロセイフレクサス(Roseiflexus);シネコシスティス(Synechocystis);エルシミクロビウム・ミヌトゥム(Elusimicrobium minutum);フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes);バチルス・セレウス(Bacillus cereus);リステリア・イノキュア(Listeria innocua);ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei);ラクトバチルス・ラムノースス(Lactobacillus rhamnosus);リジラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius);ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae);ストレプトコッカス・ディスガラクティアエ・エクイシミリス(Streptococcus dysgalactiae equisimilis);ストレプトコッカス・エクイ・ズーエピデミクス(Streptococcus equi zooepidemicus);ストレプトコッカス・ガロリティカス(Streptococcus gallolyticus);ストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii);ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans);ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes);ストレプトコッカス・ピオゲネスM1 GAS;ストレプトコッカス・ピオゲネスMGAS5005;ストレプトコッカス・ピオゲネスMGAS2096;ストレプトコッカス・ピオゲネスMGAS9429;ストレプトコッカス・ピオゲネスMGAS 10270;ストレプトコッカス・ピオゲネスMGAS6180;ストレプトコッカス・ピオゲネスMGAS315;ストレプトコッカス・ピオゲネスSSI-1;ストレプトコッカス・ピオゲネスMGAS 10750;ストレプトコッカス・ピオゲネスNZ131;ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)CNRZ1066;ストレプトコッカス・サーモフィルスLMD-9;ストレプトコッカス・サーモフィルスLMG 18311;クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)A3 Loch Maree;クロストリジウム・ボツリヌムB Eklund 17B;クロストリジウム・ボツリヌムBa4 657;クロストリジウム・ボツリヌムF Langeland;クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)H10;フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)ATCC 29328;ユウバクテリウム・レクターレ(Eubacterium rectale)ATCC 33656;マイコプラズマ・ガリセプティカム(Mycoplasma gallisepticum);マイコプラズマ・モービレ(Mycoplasma mobile)163K;マイコプラズマ・ペネトランス(Mycoplasma penetrans);マイコプラズマ・シノビアエ(Mycoplasma synoviae)53;ストレプトバチルス・モニリホルミス(Streptobacillus moniliformis)DSM 12112;ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)BTAi1;ニトロバクター・ハンブルゲンシス(Nitrobacter hamburgensis)X14;ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)BisB18;ロドシュードモナス・パルストリスBisB5;パルビバクラム・ラバメンティボランス(Parvibaculum lavamentivorans)DS-1;ディノロセオバクター・シバエ(Dinoroseobacter shibae)DFL 12;グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカス(Gluconacetobacter diazotrophicus)Pal 5 FAPERJ;グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカスPal 5 JGI;アゾスピリルム(Azospirillum)B510 uid46085;ロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)ATCC 11170;ディアフォロバクター(Diaphorobacter)TPSY uid29975;ベルミネフォロバクター・エイセニアエ(Verminephrobacter eiseniae)EF01-2;ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitides)053442;ナイセリア・メニンギティディスアルファ14;ナイセリア・メニンギティディスZ2491;デスルホビブリオ・サレキシゲンス(Desulfovibrio salexigens)DSM 2638;キャンピロバククー・ジェジュニ・ドイレイ(Campylobacter jejuni doylei)269 97;カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)81116;カンピロバクター・ジェジュニ;カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)RM2100;ヘリコバクター・ヘパチカス(Helicobacter hepaticus);ウォリネラ・サクシノゲネス(Wolinella succinogenes);トルモナス・アウエンシス(Tolumonas auensis)DSM 9187;シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)T6c;シューワネラ・ペアレアナ(Shewanella pealeana)ATCC 700345;レジオネラ・ニューモフィラ・パリス(Legionella pneumophila Paris);アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)130Z;パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida);フランシセラ・ツラレンシス・ノビシダ(Francisella tularensis novicida)U112;フランシセラ・ツラレンシス・ハラークティカ(Francisella tularensis holarctica);フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)FSC 198;フランシセラ・ツラレンシス;フランシセラ・ツラレンシスWY96-3418;およびトレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)ATCC 35405などを含めた、多くのCRISPRシステムに存在することが知られている。
【0066】
いくつかの態様では、本明細書におけるCas9酵素は、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、またはそのバリアントに由来し得る。野生型Cas9が使用されても、または、本明細書において提供されるようなCas9の改変型(例えば、Cas9の進化型、またはCas9オルソログもしくはバリアント)が使用されてもよいことが理解されるべきである。いくつかの局面では、本明細書におけるCas9酵素は、ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)バリアントであり得る。いくつかの局面では、本明細書におけるCas9酵素は、NGG PAMと適合するストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)バリアントであり得る。標準的なPAMは、配列5'-NGG-3'であり、式中、「N」は、任意の核酸塩基であり、その後に2つのグアニン(「G」)核酸塩基が続く。いくつかの局面では、本明細書におけるCas9酵素は、非NGG PAMと適合するストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)バリアントであり得る。いくつかの局面では、本明細書におけるCas9酵素は、非NGG PAMと適合するストレプトコッカス・ピオゲネスCas9 (SpCas9)バリアントであり得る。いくつかの局面では、本明細書におけるCas9酵素は、アデニン塩基エディター(ABE)のバリアントABEmaxであり得、非NGG PAMと適合するストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)バリアントを使用する。いくつかの例では、本明細書におけるCas9酵素は、ABEmax-SpCas9-NGであり得る。
【0067】
いくつかの態様では、活性なCas9分子の標的核酸と相互作用してそれを切断する能力は、PAM配列依存的である。PAM配列は、標的核酸中の配列である。いくつかの態様では、本明細書におけるPAMは、TGA、CGG、またはTGGのヌクレオチド配列と少なくとも85%(例えば、約85%、90%、95%、99%、100%)の配列同一性を有するポリヌクレオチド配列を有し得る。いくつかの態様では、本明細書におけるPAMは、TGA、CGG、またはTGGのヌクレオチド配列を有し得る。いくつかの態様では、標的核酸の切断は、PAM配列から上流で起こる。異なる細菌種由来の活性なCas9分子は、異なる配列モチーフ(例えば、PAM配列)を認識することができる。いくつかの態様では、S. ピオゲネスの活性なCas9分子は、配列モチーフ「NGG」を認識し、その配列から1~10、例えば、3~5塩基対上流の標的核酸配列の切断を指向することができる。いくつかの態様では、S. ピオゲネスの活性なCas9分子は、非NGG配列モチーフを認識し、その配列から1~10、例えば、3~5塩基対上流の標的核酸配列の切断を指向することができる。
【0068】
いくつかの態様では、本明細書における操作されたCRISPR遺伝子編集システム(例えば、哺乳動物細胞での遺伝子編集のための)は、(1)標的指向ドメイン(ゲノムDNA標的配列にハイブリダイズ可能である)とCas(例えば、Cas9)酵素に結合可能である配列とを含む、本明細書に開示されるようなガイドRNA分子(gRNA)、および(2)Cas(例えば、Cas9)タンパク質を含むことができる。この第2のドメインは、tracrドメインと称されるドメインを含み得る。標的指向ドメインとCas(例えば、Cas9)酵素に結合可能である配列とは、同じ分子上に配置されても(ときに、単一gRNA、キメラgRNAまたはsgRNAと称されることもある)または異なる分子上に配置されてもよい(ときに、二重gRNAまたはdgRNAと称される)。異なる分子上に配置される場合、各々は、分子が、例えばハイブリダイゼーションを通じて会合するのを可能にする、ハイブリダイゼーションドメインを含む。
【0069】
ある特定の態様では、標的配列において二本鎖切断を生成するために、本明細書におけるCRISPR/Cas9システムが、ガイド核酸(gRNA)によって決定されたとおりの標的配列に結合することができ、かつ、ヌクレアーゼが、標的配列を切断するために標的配列に隣接するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を認識する。いくつかの態様では、本明細書におけるCRISPR/Cas9システムは、核酸ガイドヌクレアーゼと適合する足場配列を含むことができる。他の態様では、ガイド配列を、標的配列の効率的な編集のために、任意の所望の標的配列と相補的となるように操作することができる。他の態様では、ガイド配列を、任意の所望の標的配列にハイブリダイズするように操作することができる。いくつかの態様では、標的核酸配列は、20ヌクレオチド長を有する。いくつかの態様では、標的核酸は、20未満のヌクレオチド長を有する。いくつかの態様では、標的核酸は、20超のヌクレオチド長を有する。いくつかの態様では、標的核酸は、少なくとも5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30またはそれ以上のヌクレオチド長を有する。いくつかの態様では、標的核酸は、多くても5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30またはそれ以上のヌクレオチド長を有する。
【0070】
いくつかの態様では、本明細書におけるCRISPR/Cas9システムの標的配列は、原核もしくは真核細胞にとって、または検証もしくはその他の目的のためにインビトロ系において内因性もしくは外因性の任意のポリヌクレオチドであることができる。他の態様では、標的配列は、真核細胞の核に存在するポリヌクレオチドであることができる。標的配列は、遺伝子産物(例えば、タンパク質)をコードする配列または非コード配列(例えば、調節ポリヌクレオチドまたはジャンクDNA)であることができる。本明細書においては、標的配列は、PAM;すなわち、本明細書におけるCRISPR/Cas9システムによって認識される短い配列に会合されるべきであると想定される。いくつかの態様では、PAMに関する配列および長さの要件は、選択される核酸ガイドヌクレアーゼに応じて異なる。ある特定の態様では、PAM配列は、望まれるPAMに応じて、標的配列に隣接する約2~5塩基対配列またはより長いものであることができる。PAM配列の例は、以下の実施例のセクションに与えられるが、本発明の概念のこの局面を限定することを意図していないため、当業者は、所与の核酸ガイドヌクレアーゼと共に使用するためのさらなるPAM配列を同定することができるだろう。さらに、PAM相互作用(PI)ドメインを操作することは、PAM特異性のプログラミングを可能にし、標的部位の認識忠実度を改善し、核酸ガイド下ヌクレアーゼゲノム操作プラットフォームの汎用性を高めることができる。
【0071】
CRISPRシステムは、本明細書において考察するように、標的部位での二本鎖切断(DSB)とそれに続く破壊を誘導することができる。他の態様では、「ニッカーゼ」と見なされるCas9バリアントを使用して、標的部位で一本鎖に切り込みを入れる。対になったニッカーゼを使用して、例えば、特異性を改善することができ、各ニッカーゼは、配列を標的とする一対の異なるgRNAによって、ニックの同時導入に際し5'オーバーハングが導入されるように指向される。他の態様では、触媒能のないCas9が、塩基編集酵素または逆転写酵素などの異種エフェクタードメインに融合される。
【0072】
塩基編集およびプライム編集の操作されたCRISPR技術は、個々のヌクレオチドで正確な編集を可能にすることによって、遺伝子変異を潜在的に修正するための遺伝子編集戦略のツールボックスを拡大した(Chemello et al., 2020)。塩基編集では、Cas9ニッカーゼ(nCas9)または不活性化Cas9(dCas9)が、デアミナーゼタンパク質に融合され、sgRNAのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位との関連で、規定された編集ウィンドウ内でDSBなしに正確な一塩基対変換が可能になる(Rees et al., 2018)。DNA塩基エディターには、2つの主要なクラス:C:G塩基対をT:A塩基対に変換するシトシン塩基エディター(CBE)、およびA:T塩基対をG:C塩基対に変換するアデニン塩基エディター(ABE)がある。したがって、塩基エディターは、DNAにおいて一塩基置換の効率的な導入を可能にする。例えば、アデノシンデアミナーゼは、一本鎖DNAにおいてアデノシン(A)からイノシン(I)への編集を誘導し、これが次に、DNA修復または複製後にAからGへのトランジションをもたらす。アデニン塩基エディター(ABE)は、操作されたアデノシンデアミナーゼに連結されたプログラム可能なDNA結合ドメイン(例えば、触媒的に障害されているRNAガイド下CRISPR/Casヌクレアーゼ)の融合物である。プログラム可能なDNA結合ドメインがCRISPR/Casヌクレアーゼである場合、標的のアデニンは、CRISPR-Cas RNA-タンパク質複合体によって誘導された一本鎖(ss)DNAバブル(R-ループ)中の「編集ウィンドウ」内にある。最もよく使用されるABEは、操作された大腸菌(E. coli)TadAバリアント(例えば、ABEmax)または単一の操作された大腸菌TadAバリアント(例えば、ABE8e、ABE8eV106W、またはABE8.20-m)に融合された大腸菌TadA(野生型)からなるアデノシンデアミナーゼヘテロ二量体、ならびにニッカーゼCas9および核局在化配列(NLS)を含む。ABEは、複数の細胞型および生物においてAからGへの置換の導入に成功裏に使用されており、ヒト疾患に関連することが知られている数多くの変異を潜在的に転換させることができるだろう。ABEの例には、米国特許公報US20200308571、PCT公報WO2020214842、およびPCT公報WO2021025750に記載されているものが含まれ、これらは、各々、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。2018年8月2日に公開された国際公開番号WO 2018/027078;2019年4月25日に公開された国際公開番号WO 2019/079347;2019年11月28日に公開された国際公開番号WO 2019/226593;2018年3月15日に公開された米国特許公開番号2018/0073012(2018年10月30日に米国特許第10,113,163号として発行された);および2017年5月4日公開された米国特許公開番号2017/0121693号(2019年1月1日に米国特許第10,167,457号として発行された)を参照されたい。
【0073】
プライム編集は、ポリメラーゼ(すなわち、融合タンパク質の形態でまたはそれ以外ではCRISPRシステムとトランスで提供される)と共同で働くCRISPRシステムを使用して指定のDNA部位に新たな遺伝情報を直接書き込む汎用性の高い正確なゲノム編集法であり、ここで、プライム編集システムは、プライム編集(pe)ガイドRNA(「pegRNA」)でプログラミングされ、このpegRNAは、ガイドRNA上に(例えば、5'もしくは3'端で、またはガイドRNAの内部部分で)操作された伸長(DNAまたはRNAのいずれか)により、標的部位を指定し、かつ置換DNA鎖の形態で所望の編集の合成の鋳型となる。プライム編集システムは、プライム編集ガイドRNA(pegRNA)および操作された逆転写酵素に融合されたnCas9から構成される。pegRNAは、(5'から3'に)標的部位にアニーリングするsgRNA、nCas9のための足場、所望の編集を含有する逆転写テンプレート(RTテンプレート)、および非標的鎖に結合するプライマー結合部位(PBS)からなる。RTテンプレートは、すべての可能な塩基のトランジションおよびトランスバージョンならびに任意の長さのヌクレオチドの挿入および欠失を含め、あらゆる種類の編集を導入するようにプログラミングすることができる。したがって、プライムエディターは、pegRNA(または「伸長したガイドRNA」)の存在下で、標的ヌクレオチド配列上でのプライム編集を可能にする。「プライムエディター」という用語は、Cas9ニッカーゼおよび逆転写酵素を含む融合構築物のことを指す。プライム編集システムは、非編集鎖と置き換わるようにDNA修復を優先することにより編集効率を高める追加のニッキングsgRNAを含むことによって、さらに増強される。したがって、「プライムエディター」という用語は、融合タンパク質、またはpegRNAと複合体化されたおよび/もしくは第2鎖ニッキングsgRNAとさらに複合体化された融合タンパク質のことを指し得る。いくつかの態様では、プライムエディターはまた、融合タンパク質(Cas9に融合された逆転写酵素)、pegRNA、および本明細書に記載されるような非編集鎖の第2部位ニッキング工程を指向可能な標準的なガイドRNAを含む複合体のことを指し得る。他の態様では、「プライムエディター」の逆転写酵素成分は、トランスで提供され得る。プライムエディターおよびそれらの使用のさらなる例は、PCT公報WO2020191249に提供されており、それは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0074】
いくつかの局面では、CasヌクレアーゼおよびsgRNA(標的配列に特異的なcrRNAと固定されたtracrRNAとの融合物を含む)が細胞に導入される。概して、gRNAの5'端の標的部位は、相補的塩基対合を使用して、Casヌクレアーゼを、標的部位、例えば、遺伝子に標的指向する。標的部位は、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または10ヌクレオチド長であり得る。標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列のすぐ5'側にある場所、例えば、典型的にはNGG、NG、NAG、NNNRRT、またはNNGGに基づいて選択され得る。概して、CRISPRシステムは、標的配列の部位でCRISPR複合体の形成を促進する構成要素を特徴とする。典型的には、「標的配列」は、概して、ガイド配列が相補性を有するように設計される配列のことを指し、この場合、標的配列とガイド配列との間でハイブリダイゼーションが起こるとCRISPR複合体の形成が促進される。ハイブリダイゼーションを引き起こしかつCRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要とされない。
【0075】
標的配列は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリヌクレオチドを含み得る。標的配列は、細胞の細胞小器官内など、細胞の核または細胞質に位置し得る。概して、標的配列を含む標的とされる遺伝子座中への組換えに使用され得る配列またはテンプレートは、「編集テンプレート」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と称される。いくつかの局面では、外因性テンプレートポリヌクレオチドが、編集テンプレートと称される場合もある。いくつかの局面では、組換えは、相同組換えである。
【0076】
典型的には、内因性CRISPRシステムとの関連で、CRISPR複合体(標的配列にハイブリダイズし、1つまたは複数のCasタンパク質と複合体化された、ガイド配列を含む)の形成は、標的配列中またはその近く(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50またはそれ以上の塩基対内)の一方または両方の鎖の切断をもたらす。野生型tracr配列の全部または一部(例えば、野生型tracr配列の約20、26、32、45、48、54、63、67、85もしくはそれ以上、または約20、26、32、45、48、54、63、67、85超もしくはそれ以上のヌクレオチド)を含み得るまたはそれからなり得るtracr配列もまた、例えば、tracr配列の少なくとも一部分に沿って、ガイド配列に機能的に連結されたtracr mate配列の全部または一部にハイブリダイズすることによって、CRISPR複合体の一部を形成し得る。tracr配列は、tracr mate配列に対して、ハイブリダイズしてCRISPR複合体の形成に関与するのに十分な相補性、例えば、最適に整列させたときにtracr mate配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の配列相補性を有する。
【0077】
CRISPRシステムの要素の発現により1つまたは複数の標的部位でのCRISPR複合体の形成が指向されるように、CRISPRシステムの1つまたは複数の要素の発現を駆動する1つまたは複数のベクターを細胞に導入することができる。成分はまた、タンパク質および/またはRNAとして細胞に送達することができる。例えば、Cas酵素、tracr-mate配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列を各々、別々のベクター上の別々の調節要素に機能的に連結することもできる。gRNAは、構成的プロモーターの制御下にあり得る。
【0078】
あるいは、同じまたは異なる調節要素から発現される要素の2つ以上を、単一のベクターにおいて、第1のベクターに含まれないCRISPRシステムの任意の成分を提供する1つまたは複数の追加のベクターと組み合わせてもよい。ベクターは、1つまたは複数の挿入部位、例えば、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(「クローニング部位」とも称される)を含み得る。いくつかの態様では、1つまたは複数の挿入部位は、1つまたは複数のベクターの1つまたは複数の配列要素の上流および/または下流に位置する。複数の異なるガイド配列が使用される場合、CRISPR活性を細胞内の複数の異なる対応する標的配列に標的指向するために単一の発現構築物が使用され得る。
【0079】
ベクターは、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に機能的に連結された調節要素を含み得る。Casタンパク質の非限定例には、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(またCsn1およびCsx12としても公知)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、またはそれらの改変型が含まれる。これらの酵素は、公知である;例えば、S. ピオゲネスのCas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースにてアクセッション番号Q99ZW2で確認することができる。
【0080】
CRISPR酵素は、Cas9(例えば、S. ピオゲネスまたはS. ニューモニエ(S. pneumonia)またはS. アウレウスまたはS. アウリクラーリスまたはS. ルグドゥネンシス由来)であることができる。CRISPR酵素は、標的配列の場所で、例えば、標的配列内および/または標的配列の相補鎖内で、一方または両方の鎖の切断を指向することができる。変異したCRISPR酵素が、標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を切断する能力を欠くように、ベクターは、対応する野生型酵素に対して変異したCRISPR酵素をコードすることができる。例えば、S. ピオゲネス由来のCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換する。いくつかの態様では、Cas9ニッカーゼは、それぞれDNA標的のセンス鎖およびアンチセンス鎖を標的とするガイド配列(複数)、例えば、2つのガイド配列と組み合わせて使用され得る。この組み合わせにより、両方の鎖に切り込みが入り、この鎖を使用してNHEJまたはHDRを誘導することが可能となる。
【0081】
いくつかの態様では、Cas9ポリペプチドは、不活性化(例えば、変異したdCAs9)Cas9ポリペプチドであることができ、ここで、不活性化Cas9は、HNHおよび/またはRuvCニッカーゼ活性を含まない。HNHおよびRuvCモチーフは、S. サーモフィルス(S. thermophilus)において特徴付けられており(例えば、Sapranauskas et al. Nucleic Acids Res. 39:9275-9282 (2011)を参照のこと)、当業者は、他の生物由来のCas9ポリペプチドにおいてこれらのモチーフを同定および変異させることができるだろう。例えば、変異D10AおよびH840Aは、S. ピオゲネスのCas9のヌクレアーゼ活性を完全に不活化させる。注目すべきことに、ニッカーゼ活性が低下、不活性化および/または欠如するようにHNHモチーフおよび/またはRuvCモチーフを特異的に変異させたCas9ポリペプチドは、DNA、RNAおよびPAMの認識および結合活性を含めたその他の公知のCas9機能の1つまたは複数を保持でき、したがって、依然としてこれらの活性に関して機能的でありながら、一方または両方のニッカーゼ活性に関して非機能的であることができる。
【0082】
代わりの態様では、CRIPSR酵素は、Casタンパク質、好ましくはCas9(Genbankアクセッション番号NC_002737.2のヌクレオチド配列およびGenbankアクセッション番号NP_269215.1のタンパク質配列を有する)である。ここでも、Cas9タンパク質はまた、活性が向上するように改変され得る。例えば、Cas9タンパク質は、D10Aアミノ酸置換を含んでよく、このニッカーゼは、crRNAと相補的でかつそれによって認識されるDNA鎖のみを切断する。代わりの態様では、Cas9タンパク質は、代替的にまたは追加的にH840Aアミノ酸置換を含んでよく、このニッカーゼは、sRNAと相互作用しないDNA鎖のみを切断する。この態様では、Cas9は、ペア(すなわち2つ)のsgRNA分子(またはそのようなペアを発現する構築物)と共に使用してもよく、結果として、反対のDNA鎖上の標的領域を切断することができ、特異性を100~1500倍向上させる可能性がある。さらなる態様では、Cas9タンパク質は、D1135E置換を含み得る。Cas9タンパク質はまた、VQRまたはVRQRバリアントであり得る。あるいは、Cas9タンパク質は、xCas9(NG、GAAおよびGATを含めた広範なPAM配列を認識することができるストレプトコッカス・ピオゲネスバリアント)であり得る。他の選択肢では、Cas9バリアントは、SpCas9-NG(PAMモチーフの第3のヌクレオチドに対する優先度が緩く、その結果、このバリアントは、PAMモチーフがNGGではなくNGNである配列を認識することができる)、SaCas9(NNGRR(T)PAM配列を認識することができるS. アウレウス由来;Ran, F. A. et al. In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9. Nature 520, 186-191, doi:10.1038/nature14299 (2015)を参照のこと)、SaCas9-KKH(NNNRRT PAM配列を認識することができる、S. アウレウス由来のバリアント)、SauCas9(NNGG PAM配列を認識することができるS. アウリクラーリス由来;Genbankアクセッション番号WP_107392933.1)、またはSlugCas9(NNGG PAM配列を認識することができるS. ルグドゥネンシスM23590由来;Genbankアクセッション番号WP_002460848.1)である。
【0083】
いくつかの態様では、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、特定の細胞、例えば真核細胞での発現のためにコドン最適化されている。真核細胞は、特定の生物、例えば、限定されないがヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌまたは非ヒト霊長類を含めた哺乳動物のものであり得るかまたはそれに由来し得る。概して、コドン最適化は、天然アミノ酸配列を維持しながら、天然配列の少なくとも1つのコドンを宿主細胞の遺伝子においてより頻繁にまたは最も頻繁に使用されるコドンと置き換えることによって、関心対象の宿主細胞で発現が増強されるように核酸配列を改変するプロセスのことを指す。様々な種が、特定のアミノ酸のある特定のコドンに対して特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度の差)は、しばしば、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳の効率と相関し、これは次に、とりわけ、翻訳されるコドンの性質および特定のトランスファーRNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられる。選択されたtRNAの細胞における優位性は、概して、ペプチド合成において最も頻繁に使用されるコドンを反映する。したがって、コドン最適化に基づき、所与の生物での最適な遺伝子発現のために遺伝子を調整することができる。
【0084】
概して、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズしてCRISPR複合体の標的配列への配列特異的結合を指向するのに十分な標的ポリヌクレオチド配列との相補性を有する、任意のポリヌクレオチド配列である。いくつかの態様では、ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、好適な整列アルゴリズムを使用して最適に整列させたときに、約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%もしくはそれ以上、または約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%超もしくはそれ以上である。
【0085】
表2のガイド配列の各々は、例えば、使用されるCas9に適した任意の公知の配列を使用して、crRNAを形成するまたはそれをコードするための追加のヌクレオチドをさらに含み得る。いくつかの態様では、crRNAは、(5'から3'に)少なくともスペーサー配列および第1の相補的ドメインを含む。第1の相補的ドメインは、sgRNAの場合は同じ分子の一部であるかまたは二重もしくはモジュラーgRNAの場合はtracrRNA中にあり得る第2の相補的ドメインと、二重鎖を形成するのに十分に相補的である。第1および第2の相補的ドメインを含むcrRNAおよびgRNAドメインの詳細な考察については、例えば、US 2017/0007679を参照されたい。
【0086】
概して、ガイドポリヌクレオチドは、適合する核酸ガイドヌクレアーゼと複合体化でき、標的配列とハイブリダイズし、それによりヌクレアーゼを標的配列に指向することができる。ガイドポリヌクレオチドと複合体化可能な対象の核酸ガイドヌクレアーゼは、ガイドポリヌクレオチドと適合する核酸ガイドヌクレアーゼと称することができる。加えて、核酸ガイドヌクレアーゼと複合体化可能なガイドポリヌクレオチドは、核酸ガイドヌクレアーゼと適合するガイドポリヌクレオチドまたはガイド核酸と称することができる。
【0087】
単一分子ガイドRNA(sgRNA)は、5'から3'の方向に、任意のスペーサー伸長配列、スペーサー配列、最小CRISPR反復配列、単一分子ガイドリンカー、最小tracrRNA配列、3'tracrRNA配列および/または任意のtracrRNA伸長配列を含むことができる。任意のtracrRNA伸長は、ガイドRNAに対する追加の機能性(例えば、安定性)に寄与する要素を含むことができる。単一分子ガイドリンカーは、最小CRISPR反復および最小tracrRNA配列と連結して、ヘアピン構造を形成することができる。任意のtracrRNA伸長は、1つまたは複数のヘアピンを含むことができる。特定の態様では、本開示は、スペーサー配列およびtracrRNA配列を含むsgRNAを提供する。
【0088】
ガイドRNAは、エンドヌクレアーゼ結合に必要な足場配列およびゲノム標的配列に結合するのに必要なスペーサー配列を含むように考慮することができる。
【0089】
ガイド配列の3'端でガイド配列に続く、SaCas9との使用に適した例示的な足場配列は、5'から3'の方向に、
である。いくつかの態様では、ガイド配列の3'端に続くSaCas9と使用するための例示的な足場配列は、SEQ ID NO:54に対して少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一である配列、またはSEQ ID NO:54とわずか1、2、3、4、5、10、15、20もしくは25ヌクレオチドだけ異なる配列である。
【0090】
最適な整列は、配列を整列させるための任意の好適なアルゴリズムを用いることによって決定することができ、その非限定例には、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づくアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies)、ELAND(Illumina, San Diego, Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cn)、およびMaq(maq.sourceforge.netで入手可能)が含まれる。
【0091】
CRISPR酵素は、1つまたは複数の異種タンパク質ドメインを含む融合タンパク質の一部であり得る。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意の追加のタンパク質配列と、任意で、いずれか2つのドメイン間のリンカー配列を含み得る。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例には、非限定的に、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、および以下の活性の1つまたは複数を有するタンパク質ドメインが含まれる:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性、核酸結合活性、塩基編集活性、または逆転写活性。エピトープタグの非限定例には、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ、およびチオレドキシン(Trx)タグが含まれる。レポーター遺伝子の例には、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含めた自己蛍光タンパク質が含まれるが、それらに限定されない。CRISPR酵素は、限定されないがマルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4A DNA結合ドメイン融合物、および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物を含めた、DNA分子に結合するまたは他の細胞分子に結合するタンパク質またはタンパク質の断片をコードする遺伝子配列に融合され得る。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得る追加のドメインは、US 20110059502に記載されており、これは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0092】
RNAガイド下タンパク質として、Cas9は、DNA標的の認識を指向するために短いRNAを必要とする。Cas9は、PAM配列(例えば、NGGまたはNGまたはNNNRRTまたはNNGG)を含有するDNA配列を優先的に調べるが、プロトスペーサー標的なしここに結合することができる。しかしながら、Cas9-gRNA複合体は、二本鎖切断を創出するためにgRNAとの厳密な一致を必要とする。細菌のCRISPR配列は、複数のRNAで発現され、その後、プロセシングされて、RNAのためのガイド鎖を創出する。真核細胞系は、CRISPR RNAをプロセシングするために必要なタンパク質の一部を欠いているので、合成構築物gRNAを創出して、RNAポリメラーゼIII型プロモーターU6で発現される単一RNA内に、Cas9標的指向のために必須のRNA片を組み合わせた。RNA Pol IIIの制御下の他のプロモーターには、リボソーム5S rRNA、tRNAおよび数種の他の小さなRNA、RNase PおよびRNase MRP RNA、7SL RNA(シグナル認識粒子のRNA成分)、Vault RNA、Y RNA、SINE(短鎖散在反復配列)、7SK RNA、2つのマイクロRNA、いくつかの小さな核小体RNAならびに数種類の調節アンチセンスRNAのためのものが含まれる。合成gRNAは、最小の長さで100bpをわずかに超えるもので、PAM配列の直前の20または21個のプロトスペーサーヌクレオチドを標的とする部分を含有する。sgRNAの長さはまた、5'側でその標準的な長さに関して特定の基準に合うように短縮することもでき、例えば、ポリメラーゼIII型転写活性を阻害できる一連のチミンの除去もできる。gRNAは、PAM配列を含有しない。
【0093】
いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、ガイド配列を含むことができる。ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズして、複合体化した核酸ガイドヌクレアーゼの標的配列への配列特異的結合を指向するのに十分な標的ポリヌクレオチド配列との相補性を有する、ポリヌクレオチド配列である。ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、好適な整列アルゴリズムを使用して最適に整列させたときに、約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%もしくはそれ以上、または約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%超もしくはそれ以上であり得る。最適な整列は、配列を整列させるための任意の好適なアルゴリズムを用いることによって決定することができる。いくつかの態様では、本明細書におけるガイド配列は、約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75もしくはそれ以上、または約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75超もしくはそれ以上のヌクレオチド長であることができる。他の態様では、本明細書におけるガイド配列は、約75、50、45、40、35、30、25、20未満のヌクレオチド長であることができる。好ましくは、ガイド配列は、10~30ヌクレオチド長である。いくつかの局面では、本明細書におけるガイド配列は、15~20ヌクレオチド長であることができる。
【0094】
いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、足場配列を含むことができる。概して、「足場配列」は、標的可能なヌクレアーゼ複合体(例えば、CRISPR/Cas9システム)の形成を促進するのに十分な配列を有する任意の配列を含むことができ、ここで、標的可能なヌクレアーゼ複合体は、限定されないが、核酸ガイドヌクレアーゼを含み、ガイドポリヌクレオチドは、足場配列およびガイド配列を含むことができる。標的可能なヌクレアーゼ複合体の形成を促進するのに十分な足場配列内の配列は、足場配列内の2つの配列領域、例えば、二次構造の形成に関与する1つまたは2つの配列領域の長さに沿ってある相補性の程度を含むことができる。いくつかの局面では、1つまたは2つの配列領域は、同じポリヌクレオチド上に含まれ得るかまたはコードされ得る。いくつかの局面では、1つまたは2つの配列領域は、別々のポリヌクレオチド上に含まれ得るかまたはコードされ得る。最適な整列は、任意の好適な整列アルゴリズムによって決定することができ、いずれか1つまたは2つの配列領域内の自己相補性のような二次構造をさらに考慮することができる。いくつかの態様では、最適に整列させたときに2つのうち短い方の長さに沿った1つまたは2つの配列領域間の相補性の程度は、約25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97.5%、99%もしくはより高いか、または約25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97.5%、99%超もしくはより高くてよい。いくつかの態様では、2つの配列領域の少なくとも1つは、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50もしくはそれ以上、または約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50超もしくはそれ以上のヌクレオチド長であることができる。
【0095】
いくつかの態様では、本明細書における対象のガイドポリヌクレオチドの足場配列は、二次構造を含むことができる。いくつかの態様では、二次構造は、シュードノット領域を含むことができる。いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチドの核酸ガイド下ヌクレアーゼに対する結合動力学は、足場配列内の二次構造によって部分的に決定される。いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチドの核酸ガイドヌクレアーゼに対する結合動力学は、足場配列内の核酸配列によって部分的に決定される。
【0096】
ある特定の態様では、スペーサー変異をプラスミドに導入して、いつ置換gRNA配列が創出されるかまたは欠失もしくは挿入変異体が創出されるかを試験することができる。これらのプラスミド構築物の各々を使用して、例えば、欠失、置換または挿入を有するゲノム編集の精度および効率を試験することができる。あるいは、いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物および方法によって創出されたgRNA構築物を、所定の時間にわたって編集効率を観察することにより選択標的に対する最適なゲノム編集時間について試験することができる。これらの態様に従って、本明細書に開示される組成物および方法によって創出されたgRNA構築物を最適なゲノム編集ウィンドウについて試験して、編集効率および精度を最適化することができる。
【0097】
本明細書に開示される操作されたgRNAの使用のための標的ポリヌクレオチドの例は、シグナル伝達生化学経路に関連する配列/遺伝子または遺伝子セグメント、例えば、シグナル伝達生化学経路関連遺伝子またはポリヌクレオチドを含むことができる。本明細書に開示される操作されたgRNAの使用のための標的ポリヌクレオチドの例に関する本明細書において想定される他の態様は、疾患関連遺伝子またはポリヌクレオチドに関係するものを含むことができる。
【0098】
「疾患関連」または「障害関連」遺伝子またはポリヌクレオチドは、対照と比較して転写もしくは翻訳産物を異常なレベルで生じるかまたは非疾患対照の組織もしくは細胞と比較して疾患罹患組織に由来する細胞中に異常な形態を生じる、任意の遺伝子またはポリヌクレオチドを指すことができる。それは、異常に高いレベルで発現されるようになる遺伝子であることができ;それは、異常に低いレベルで発現されるようになる遺伝子であることができ、あるいは、遺伝子が1つもしくは複数の変異を含有する場合、ならびに変更された発現または変異した遺伝子の発現が健康な状態または障害の発生および/または進行と直接相関する場合である。疾患または障害関連遺伝子は、疾患もしくは障害の原因もしくは進行に直接関与するまたはそれに関与する遺伝子(複数)と連鎖不平衡にある変異(複数)または遺伝的変異を保有する遺伝子を指すことができる。転写されたまたは翻訳された産物は、既知または未知であることができ、正常または異常なレベルにあることができる。
【0099】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるgRNAは、心筋症関連遺伝子またはポリヌクレオチドに関係するポリヌクレオチドを標的とし得る。いくつかの局面では、心筋症関連遺伝子またはポリヌクレオチドは、DCM関連遺伝子またはポリヌクレオチドであり得る。いくつかの態様では、本明細書に開示されるgRNAは、限定されないがRBM20などの心筋症関連遺伝子に関係するポリヌクレオチドを標的とし得る。
【0100】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるgRNAは、1つまたは複数の変異を保有する心筋症関連遺伝子またはポリヌクレオチドに関係するポリヌクレオチドを標的とし得る。いくつかの態様では、本明細書に開示されるgRNAは、1つまたは複数の変異を保有する心筋症関連遺伝子に関係するポリヌクレオチドを標的とし得るが、ここで、心筋症関連遺伝子は、RBM20であることができる。いくつかの他の例では、本明細書に開示されるgRNAは、RBM20遺伝子のR634Q変異またはその哺乳動物同等物に関係するポリヌクレオチドを標的とし得る。
【0101】
いくつかの態様では、gRNAは、野生型RBM20遺伝子内の部位を標的とする。いくつかの態様では、gRNAは、変異RBM20遺伝子内の部位を標的とする。いくつかの態様では、gRNAは、ジストロフィンエクソンを標的とする。いくつかの態様では、gRNAは、1つまたは複数のRBM20アイソフォームにおいて発現されかつその中に存在するRBM20エクソン中の部位を標的とする。
【0102】
いくつかの態様では、本開示のgRNAは、RBM20遺伝子に対応するコード配列または非コード配列内の標的配列と相補的な配列を含み、それゆえ、標的配列にハイブリダイズする。
【0103】
いくつかの態様では、本明細書に開示される操作されたポリヌクレオチド(gRNA)は、合成tracrRNAおよびcrRNAを包含する断片に分割することができる。いくつかの局面では、本明細書におけるgRNAは、SEQ ID NO:1~5のいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも85%(例えば、約85%、90%、95%、99%、100%)の配列同一性を有することができる。いくつかの局面では、本明細書におけるgRNAは、SEQ ID NO:1~5のいずれか1つのヌクレオチド配列を有することができる。
【0104】
いくつかの態様では、核酸は、gRNAをコードする1つまたは複数の配列を含み得る。いくつかの態様では、核酸は、gRNAをコードする1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または21個の配列を含み得る。いくつかの態様では、配列のすべてが、同じgRNAをコードする。いくつかの態様では、配列のすべてが、異なるgRNAをコードする。いくつかの態様では、配列の少なくとも2個が、同じgRNAをコードし、例えば、配列の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21個が、同じgRNAをコードする。
【0105】
いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、DNAであることができる。いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、RNAであることができる。いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、RNAとDNAの両方であることができる。いくつかの態様では、本明細書におけるガイドポリヌクレオチド(例えば、gRNA)は、改変されたまたは天然に存在しないヌクレオチドを含むことができる。本明細書におけるガイドポリヌクレオチドがRNAを含む態様では、RNAガイドポリヌクレオチドは、本明細書に開示されるようなプラスミド、線状構築物または編集カセットなどのポリヌクレオチド分子上のDNA配列によってコードされることができる。
【0106】
いくつかの態様では、ヌクレオチド遺伝子編集は、インビトロまたはエクスビボで実施され得る。いくつかの態様では、細胞を、ヌクレオチド編集Cas9、およびジストロフィン部位を標的とするgRNAと、インビトロまたはエクスビボで接触させる。いくつかの態様では、細胞を、Cas9およびガイドRNAをコードする1つまたは複数の核酸と接触させる。いくつかの態様では、1つまたは複数の核酸は、細胞に、例えば、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを使用して導入される。ヌクレオチド遺伝子編集はまた、受精卵において実施され得る。態様では、受精卵に、Cas9およびジストロフィン部位を標的とするgRNAをコードする1つまたは複数の核酸が注射され得る。受精卵は、その後、宿主に注射され得る。
【0107】
いくつかの態様では、Cas9は、ベクター上に提供される。態様では、ベクターは、S. ピオゲネスに由来するCas9(SpCas9)を含有する。いくつかの態様では、ベクターは、S. アウレウスに由来するCas9(SaCas9)を含有する。いくつかの態様では、ベクターは、S. アウリクラーリスに由来するCas9(SauCas9)を含有する。いくつかの態様では、ベクターは、S. ルグドゥネンシスに由来するCas9(SlugCas9)を含有する。いくつかの態様では、Cas9配列は、ヒト細胞またはマウス細胞での発現のためにコドン最適化されている。いくつかの態様では、ベクターは、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用してCas9発現細胞を選別することが可能になるGFPなどの蛍光タンパク質をコードする配列をさらに含有する。いくつかの態様では、ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターである。
【0108】
いくつかの態様では、gRNAは、ベクター上に提供される。いくつかの態様では、ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターである。態様では、Cas9およびガイドRNAは、同じベクター上に提供される。態様では、Cas9およびガイドRNAは、異なるベクター上に提供される。
【0109】
任意の種類のベクター、例えば、本明細書に記載されるもののいずれかが使用され得る。いくつかの態様では、ベクターは、脂質ナノ粒子である。いくつかの態様では、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの態様では、ウイルスベクターは、非組み込み型ウイルスベクターである(すなわち、ベクターから宿主染色体に配列を挿入しない)。いくつかの態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、レンチウイルスベクター、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アルファウイルスベクター、または単純ヘルペスウイルスベクターである。いくつかの態様では、ベクターは、心筋細胞特異的プロモーターを含む。いくつかの態様では、心筋細胞特異的プロモーターは、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターである。前述の態様のいずれかにおいて、ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)であり得る。
【0110】
ベクターが使用される場合、ベクターは、非組み込み型ウイルスベクターなどのウイルスベクターであり得る。いくつかの態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アルファウイルスベクター、または単純ヘルペスウイルスベクターである。いくつかの態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。いくつかの態様では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10(例えば、米国特許第9,790,472号のSEQ ID NO:81を参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)、AAVrh74(例えば、米国特許公開番号2015/0111955のSEQ ID NO:1を参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)、AAV9ベクター、AAV9Pベクター(AAVMYOとしても公知であり、Weinmann et al., 2020, Nature Communications, 11:5432を参照のこと)、Tabebordbar et al., 2021, Cell, 184:1-20に記載されているMyo-AAVベクター(例えば、MyoAAV 1A、2A、3A、4A、4C、または4E)、およびWO2022053630に記載されているAAV9-rh74-HB-P1、AAV9-AAA-P1-SGベクターである。ここで、AAVの後の数は、AAV血清型を示している。いくつかの態様では、AAVベクターは、一本鎖AAV(ssAAV)である。いくつかの態様では、AAVベクターは、二本鎖AAV(dsAAV)である。AAVベクターの任意のバリアントまたはその血清型、例えば自己相補性AAV(scAAV)ベクターが、AAVベクター、AAV1ベクターなどの一般用語の範囲内に包含される。様々なAAVベクターの詳細な考察については、例えば、McCarty et al., Gene Ther. 2001; 8:1248-54、Naso et al., BioDrugs 2017; 31:317-334、およびその中に引用されている参考文献を参照されたい。いくつかの態様では、ベクターは、AAV9ベクターである。
【0111】
インビトロまたはエクスビボヌクレオチド編集Cas9の効率は、T7 E1アッセイまたはシーケンシングなどの当業者に公知の技法を使用して評価され得る。RBM20機能の回復は、RT-PCR、ウエスタンブロッティングおよび免疫細胞化学などの当業者に公知の技法を使用して確認され得る。
【0112】
いくつかの態様では、インビトロまたはエクスビボ遺伝子編集は、心臓細胞において実施される。いくつかの態様では、遺伝子編集は、iPSCまたはiCM細胞において実施される。態様では、iPSC細胞は、遺伝子編集後に分化する。例えば、iPSC細胞は、編集後に心臓細胞に分化し得る。態様では、iPSC細胞は、心臓の筋細胞に分化する。態様では、iPSC細胞は、心筋細胞に分化する。iPSC細胞は、当業者に公知の方法に従って分化するように誘導され得る。
【0113】
いくつかの態様では、細胞をヌクレオチド編集Cas9およびgRNAと接触させることは、RBM20機能を回復させる。態様では、インビトロもしくはエクスビボで編集された細胞、またはそれに由来する細胞は、野生型細胞と同等なRBM20機能レベルを示す。態様では、編集された細胞、またはそれに由来する細胞は、野生型のRMB20機能レベルの少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはその中の任意のパーセンテージのRBM20機能レベルを示す。
【0114】
III. 核酸送達
いくつかの態様では、発現カセットを用いて、その後の精製および細胞/対象への送達か、または遺伝子ベースの送達アプローチにおいて直接使用するかのいずれかのために、タンパク質産物を発現させる。本明細書において、ヌクレオチド編集Cas9およびRBM20変異部位を標的とする少なくとも1つのRBM20ガイドRNAをコードする1つまたは複数の核酸を含有する発現ベクターが提供される。いくつかの態様では、ヌクレオチド編集Cas9をコードする核酸および少なくとも1つのガイドRNAをコードする核酸は、同じベクター上に提供される。さらなる態様では、ヌクレオチド編集Cas9をコードする核酸および少なくとも1つのガイドRNAをコードする核酸は、別々のベクター上に提供される。
【0115】
本明細書におけるCRISPR/Cas9システムの成分をコードするポリヌクレオチド配列は、1つまたは複数のベクターを含むことができる。「ベクター」という用語は、本明細書において使用される場合、それに連結されている別の核酸を輸送可能な核酸分子を指すことができる。ベクターには、限定されないが、一本鎖、二本鎖または部分的に二本鎖である核酸分子;1つまたは複数の遊離端を含む、遊離端を含まない(例えば、環状)核酸分子;DNA、RNAまたは両方を含む核酸分子;および当技術分野において公知のポリヌクレオチドの他のバリアントが含まれる。ベクターの1つのタイプは、「プラスミド」であり、これは、標準的な分子クローニング技術などによってさらなるDNAセグメントを挿入できる環状の二本鎖DNAループのことを指す。ベクターの別のタイプは、ウイルスベクターであり、ここで、ウイルス(例えば、レトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)へのパッケージングのためにベクター中にウイルスに由来するDNAまたはRNA配列が存在する。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)を、宿主細胞への導入によって宿主細胞のゲノムに組み込むことができる。組換え発現ベクターは、本発明の概念の核酸を宿主細胞での核酸の発現に適した形態で含むことができ、このことは、組換え発現ベクターが、発現される核酸配列に機能的に連結された、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択され得る1つまたは複数の調節要素を含むことを意味することができる。
【0116】
発現には、適切なシグナルが、ベクター内に提供され、かつ、関心対象の遺伝子の細胞での発現を駆動する、ウイルスおよび哺乳動物の両方を起源とするエンハンサー/プロモーターなどの様々な調節要素を含むことが必要である。また、メッセンジャーRNAの宿主細胞での安定性および翻訳可能性を最適化するように設計された要素も定義される。また、産物を発現する永続的で安定な細胞クローンを確立するための多数のドミナント薬物選択マーカーの使用条件が提供され、薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現に関係付ける要素も提供される。
【0117】
いくつかの態様では、ベクターは、本明細書におけるCas9ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に連結された調節要素を含むことができる。本明細書におけるCas9ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド配列は、原核または真核細胞などの特定の細胞での発現のためにコドン最適化することができる。真核細胞は、酵母、真菌、藻類、植物、動物またはヒトの細胞であることができる。真核細胞は、特定の生物、例えば、限定されないがヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、または非ヒト霊長類を含む非ヒト哺乳動物を含めた哺乳動物に由来するものであることができる。植物細胞は、非限定的に、種子、懸濁培養物、胚、分裂組織領域、カルス組織、葉、根、新芽、配偶体、造胞体、花粉および小胞子からの細胞を含むことができる。
【0118】
本明細書において使用される場合、「コドン最適化」は、天然アミノ酸配列を維持しながら、天然配列の少なくとも1つまたは複数のコドンを宿主細胞の遺伝子においてより頻繁にまたは最も頻繁に使用されるコドンと置き換えることによって、関心対象の宿主細胞で発現が増強されるように核酸配列を改変するプロセスを指すことができる。様々な種が、特定のアミノ酸のある特定のコドンに対して特定のバイアスを示す。本明細書において想定されるように、コドン最適化に基づき、所与の生物での最適な遺伝子発現のために遺伝子を調整することができる。コドン使用頻度の表は、例えば、「コドン使用頻度データベース」で容易に入手可能である。
【0119】
いくつかの態様では、本明細書におけるCas9ヌクレアーゼおよび1つまたは複数のガイド核酸(例えば、gRNA)を、DNAまたはRNAのいずれかとして送達することができる。共にRNA(未改変であるかまたは塩基もしくは骨格改変を含有する)分子としての本明細書におけるCas9ヌクレアーゼおよびガイド核酸の送達を用いて、細胞において核酸ガイドヌクレアーゼが持続する時間を短縮することができる(例えば、半減期の短縮)。このことは、標的細胞でのオフターゲット切断活性のレベルを低下させることができる。mRNAとしてのCas9ヌクレアーゼの送達は、タンパク質に翻訳される時間を要するため、本明細書におけるある局面は、核酸ガイドヌクレアーゼタンパク質との相互作用に利用可能なガイド核酸のレベルを最大化するために、Cas9 mRNAの送達の数時間後にガイド核酸を送達することを含むことができる。他の場合では、Cas9 mRNAおよびガイド核酸を同時に送達することができる。他の例では、ガイド核酸を、例えば、Cas9 mRNAの0.5、1、2、3、4時間後またはそれ以上後に、逐次的に送達することができる。
【0120】
いくつかの態様では、RNAの形態またはDNA発現カセット上にコードされたガイド核酸(例えば、gRNA)を、ベクターまたは染色体上にコードされた核酸ガイドヌクレアーゼを含む宿主細胞に導入することができる。ガイド核酸は、1つまたは複数のポリヌクレオチドを有するカセット中に提供することができ、ポリヌクレオチドは、カセット中に連続的または非連続的であることができる。いくつかの態様では、ガイド核酸は、単一の連続ポリヌクレオチドとしてカセット中に提供することができる。他の態様では、分布および活性を追跡するために、追跡物質をガイド核酸に加えることができる。
【0121】
他の態様では、gRNAおよび/またはCas9ヌクレアーゼを宿主細胞に導入するために多様な送達系を使用することができる。これらの態様に従って、本明細書に開示される態様に使用するための系は、酵母系、リポフェクション系、マイクロインジェクション系、バイオリステック系、ビロソーム、リポソーム、免疫リポソーム、ポリカチオン、脂質:核酸コンジュゲート、ビリオン、人工ビリオン、ウイルスベクター、エレクトロポレーション、細胞膜透過性ペプチド、ナノ粒子、ナノワイヤ、エクソソームを含むことができるが、それらに限定されない。
【0122】
いくつかの態様では、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、例えば、本明細書に記載されるような1つもしくは複数のベクターもしくは線状ポリヌクレオチド、その1つもしくは複数の転写物、および/またはそれから転写された1つもしくは複数のタンパク質を宿主細胞に送達するための方法が提供される。いくつかの局面では、本発明の概念は、そのような方法によって産生される細胞をさらに提供し、生物は、そのような細胞を含むかまたはそれから産生され得る。いくつかの態様では、ガイド核酸と組み合わされた(かつ任意でそれと複合体化された)操作されたヌクレアーゼが細胞に送達される。
【0123】
ある特定の態様では、従来のウイルスおよび非ウイルスベースの遺伝子移入法を使用して、細胞、例えば原核細胞、真核細胞、植物細胞、哺乳動物細胞、または標的組織に核酸を導入することができる。そのような方法を使用して、本明細書におけるCRISPR/Cas9システムの成分をコードする核酸を、培養中の細胞または宿主生物中の細胞に投与することができる。非ウイルスベクター送達系には、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載されるベクターの転写物)、裸の核酸、およびリポソームなどの送達ビヒクルと複合体化された核酸が含まれる。ウイルスベクター送達系には、細胞への送達後にエピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有するDNAおよびRNAウイルスが含まれる。当技術分野において公知の任意の遺伝子治療法が本明細書における使用に想定される。核酸の非ウイルス送達の方法が含まれることも、本明細書において想定される。また、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターを使用して、例えば、核酸およびペプチドのインビトロ産生において、ならびにインビボおよびエクスビボ遺伝子治療手順のために、細胞に標的核酸を形質導入することができる。
【0124】
いくつかの態様では、本明細書における構築物(例えば、gRNA、Cas9)のいずれかをコードする核酸を、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使用して細胞に送達することができる。AAVは、小型のウイルスであり、宿主ゲノムに部位特異的に組み込まれ、それゆえ、導入遺伝子を送達することができる。逆位末端反復配列(ITR)が、AAVゲノムおよび/または関心対象の導入遺伝子に隣接して存在し、複製起源の役目を果たす。また、AAVゲノム中に、転写された際に標的細胞への送達のためにAAVゲノムをカプセル化するカプシドを形成する、repおよびcapタンパク質も存在する。これらのカプシド上の表面受容体は、どの標的臓器にカプシドが主に結合するのか、したがって、どんな細胞にAAVが最も効率的に感染するのかを決めるAAV血清型を付与する。12種の現在知られているヒトAAV血清型がある。いくつかの態様では、本明細書に記載されるコード核酸を送達するために任意の哺乳動物AAV血清型を本明細書において使用することができる。中でも、アデノ随伴ウイルスは、いくつかの理由で遺伝子治療に最も頻繁に使用されるウイルスである。第1に、AAVは、ヒトを含めた哺乳動物に投与しても免疫応答を誘発しない。第2に、AAVは、とりわけ適切なAAV血清型を選択することを考慮した場合に、標的細胞に効果的に送達される。最後に、組み込みなしにゲノムが宿主細胞内で持続できるので、AAVは、分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染する能力を有する。この特性により、AAVは、遺伝子治療の理想的な候補となっている。
【0125】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるポリヌクレオチド(例えば、gRNA、Cas9)を、少なくとも1つのAAVベクターを使用して細胞に送達することができる。AAVベクターは、典型的には、タンパク質をベースとしたカプシド、およびカプシドによってカプシド形成された核酸を含む。核酸は、例えば、逆位末端反復配列に隣接した導入遺伝子を含むベクターゲノムであり得る。AAV「カプシド」は、個々の「カプシドタンパク質」または「サブユニット」を含むほぼ球状のタンパク質シェルである。AAVカプシドは、典型的には、T=1正20面体対称で会合かつ配置された約60個のカプシドタンパク質サブユニットを含む。AAVベクターが本明細書においてAAVカプシドタンパク質を含むとして記載される場合、AAVベクターが、カプシドを含み、カプシドが、1つまたは複数のAAVカプシドタンパク質(すなわち、サブユニット)を含むものと理解されよう。また、導入遺伝子を含むベクターゲノムまたは核酸を全く含まないカプシドのことを指す「ウイルス様粒子(viral-like particles)」または「ウイルス様粒子(virus-like particles)」も本明細書に記載される。本開示のウイルスベクターはさらに、国際特許公報WO 00/28004およびChao et al., (2000) Molecular Therapy 2:619に記載されているような「標的化された」ウイルスベクター(例えば、指向された親和性(directed tropism)を有する)および/または「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、その中のウイルスTRおよびウイルスカプシドは、異なるパルボウイルスに由来する)であることができる。本開示のウイルスベクターはさらに、国際特許公報WO 01/92551(その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載されているような二重鎖のパルボウイルス粒子であることができる。したがって、いくつかの態様では、二本鎖(二重鎖)ゲノムを本発明の概念のウイルスカプシドにパッケージングすることができる。さらに、ウイルスカプシドまたはゲノム要素は、挿入、欠失および/または置換を含めた他の改変を含有することができる。
【0126】
いくつかの態様では、本明細書に開示されるAAVベクターは、標的細胞での導入遺伝子発現のためにゲノムの送達に使用できるウイルス粒子中にパッケージングされ得る。いくつかの態様では、本明細書に開示されるAAVベクターは、一過性トランスフェクション、産生細胞株の使用、ウイルスの特徴をAd-AAVハイブリッドに組み合わせること、ヘルペスウイルス系の使用、またはバキュロウイルスを使用した昆虫細胞での産生によって、粒子にパッケージングすることができる。
【0127】
いくつかの態様では、本明細書におけるパッケージング細胞を作製する方法は、AAV粒子産生に必要な成分のすべてを安定に発現する細胞株を創出することを伴う。例えば、AAV repおよびcap遺伝子を欠いたrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離されたAAV repおよびcap遺伝子ならびにネオマイシン耐性遺伝子などの選択マーカーを含むプラスミド(または複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al., 1982, Proc. Natl. Acad. S6. USA, 79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlin et al., 1983, Gene, 23:65-73)または直接的な平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter, 1984, J. Biol. Chem., 259:4661-4666)などの手順によって細菌プラスミドに導入されてきた。次いで、パッケージング細胞株に、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスを感染させる。この方法の利点は、細胞が、選択可能であり、rAAVの大規模産生に適するという点である。好適な方法の他の例は、プラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いて、rAAVゲノムならびに/またはrepおよびcap遺伝子をパッケージング細胞に導入する。
【0128】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるような1つまたは複数のベクター、線状ポリヌクレオチド、ポリペプチド、核酸-タンパク質複合体、またはそれらの任意の組み合わせが、宿主細胞に一過性にまたは非一過性にトランスフェクトされる。いくつかの態様では、細胞は、インビトロ、培養下、またはエクスビボでトランスフェクトすることができる。いくつかの態様では、細胞は、対象において自然に発生するようにトランスフェクトすることができる。いくつかの態様では、トランスフェクトされた細胞は、対象から採取することができる。いくつかの態様では、細胞は、細胞株などの対象から採取された細胞に由来する。
【0129】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるような1つまたは複数のベクター、線状ポリヌクレオチド、ポリペプチド、核酸-タンパク質複合体、またはそれらの任意の組み合わせがトランスフェクトされた細胞を使用して、1つまたは複数のトランスフェクション由来配列を含むことができる新たな細胞株を確立してもよい。いくつかの態様では、本明細書に記載されるような操作された核酸ガイドヌクレアーゼシステムの成分が一過性にトランスフェクトされ(例えば、1つまたは複数のベクターの一過性トランスフェクション、またはRNAのトランスフェクションによって)、操作されたヌクレアーゼ複合体の活性を通じて改変された細胞を使用して、改変を含有するが任意の他の外因性配列を欠いた細胞を含むことができる新たな細胞株を確立してもよい。
【0130】
いくつかの態様では、本明細書に記載される1つまたは複数のベクターを使用して、非ヒトトランスジェニック細胞、生物、動物、または植物を産生してもよい。いくつかの態様では、トランスジェニック動物は、マウス、ラットまたはウサギなどの哺乳動物であり得る。トランスジェニック細胞、生物、植物および動物を産生するための方法は、当技術分野において公知であり、概して、本明細書に記載されるような細胞の形質転換またはトランスフェクションの方法を用いて開始される。
【0131】
本明細書に開示されるいくつかの態様は、例えば、遺伝子を標的としてノックアウトする、遺伝子を増幅させる、ならびに/またはDNA反復配列不安定性および医学的障害に関連する特定の変異を修復するための、本明細書に開示されるCRISPR/Cas9システムの使用に関する。いくつかの態様では、本明細書におけるCRISPR/Cas9システムを使用して、ゲノム不安定性のこれらの欠陥を抑制かつ修正することができる。他の態様では、本明細書に開示されるCRISPR/Cas9システムを、心筋症に関連する遺伝子の欠陥を修正するために使用することができる。
【0132】
A. 調節要素
いくつかの態様では、標的可能なCRISPR/Cas9システムの1つまたは複数の成分の発現を駆動するために、調節要素を、本明細書における標的可能なCRISPR/Cas9システムの1つまたは複数の要素に機能的に連結することができる。
【0133】
本出願全体を通して、「発現カセット」という用語は、核酸コード配列の一部または全部が転写かつ翻訳可能である、すなわち、プロモーターの制御下にある、遺伝子産物をコードする核酸を含有するあらゆる種類の遺伝子構築物を含むことを意味する。「プロモーター」は、遺伝子の特異的な転写を開始するために必要とされる、細胞の合成機構によって認識されるかまたは合成機構に導入されるDNA配列のことを指す。「転写制御下」という語句は、RNAポリメラーゼの開始および遺伝子の発現を制御するためにプロモーターが核酸に対して正しい場所および方向にあることを意味する。「発現ベクター」は、複製可能である遺伝子構築物に含まれる、したがって、複製起源、転写終結シグナル、ポリA領域、選択マーカーおよび多目的クローニング部位の1つまたは複数を含む、発現カセットを含むことを意味する。
【0134】
プロモーターという用語は、RNAポリメラーゼIIの開始部位の周囲に集合した転写制御モジュールの一群のことを指すためにここで使用される。プロモーターがどのように組織されているかについての考察の多くは、HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写ユニットに対するものを含めたいくつかのウイルスプロモーターの分析から得られる。より最近の研究により強化されたこれらの研究は、プロモーターが、別個の機能的モジュールから構成され、各々が、およそ7~20bpのDNAからなり、転写活性化因子または抑制タンパク質に対する1つまたは複数の認識部位を含有することを示している。
【0135】
各プロモーター中の少なくとも1つのモジュールは、RNA合成のための開始部位を位置付けるように機能する。これの最も知られた例は、TATAボックスであるが、哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子に対するプロモーターおよびSV40後期遺伝子に対するプロモーターなどのTATAボックスを欠いたいくつかのプロモーターでは、開始部位自体に重なる別個の要素が、開始の場所を固定するのを助ける。
【0136】
いくつかの態様では、本開示のヌクレオチド編集Cas9構築物は、筋細胞特異的プロモーターによって発現される。この筋細胞特異的プロモーターは、構成的に活性であり得るか、または誘導性プロモーターであり得る。
【0137】
さらなるプロモーター要素は、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは、開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、最近になって、多数のプロモーターが開始部位の下流にも機能的要素を含有していることが示された。要素が反転するかまたは互いに相対的に移動する場合にプロモーター機能が保存されるように、プロモーター要素間の間隔はフレキシブルであることが多い。tkプロモーターでは、プロモーター要素間の間隔は、50bp間隔にまで増加し得、その後、活性が減退し始める。プロモーターに応じて、個々の要素は、転写を活性化するために、協同的または独立のいずれかに機能することができると考えられる。
【0138】
ある特定の態様では、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス長末端反復、ラットインスリンプロモーターおよびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼなどのウイルスプロモーターを使用して、関心対象のコード配列の高レベル発現を得ることができる。発現のレベルが所与の目的に満足できるものであるならば、関心対象のコード配列の発現を達成するために当技術分野において周知の他のウイルスまたは哺乳動物細胞または細菌ファージプロモーターの使用も同じく想定される。周知の特性を有するプロモーターを用いることによって、トランスフェクションまたは形質転換後の関心対象のタンパク質の発現のレベルおよびパターンを最適化することができる。さらに、特定の生理学的シグナルに応答して調節されるプロモーターの選択は、遺伝子産物の誘導性発現を可能にすることができる。
【0139】
エンハンサーは、DNAの同じ分子上の遠位に位置するプロモーターからの転写を増加させる遺伝子要素である。エンハンサーは、プロモーターとほとんど同じように組織される。すなわち、これらは、多くの個々の要素から構成され、その各々が、1つまたは複数の転写タンパク質と結合する。エンハンサーとプロモーターとの間の基本的な差異は、機能性である。エンハンサー領域は全体として、離れて転写を刺激することができなければならない;このことは、プロモーター領域またはその成分要素にもそうである必要はない。他方で、プロモーターは、特定の部位でかつ特定の方向でRNA合成の開始を指令する1つまたは複数の要素を有しなければならないが、エンハンサーはこれらの特異性を欠く。プロモーターおよびエンハンサーは、しばしば、重複し、連続的であり、しばしば、極めて類似したモジュール機構を有すると考えられる。
【0140】
以下は、発現構築物において関心対象の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて使用できるプロモーター/エンハンサーおよび誘導性プロモーター/エンハンサーの一覧である。さらに加えて、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(Eukaryotic Promoter Data Base EPDBによる)も、遺伝子の発現を駆動するために使用できる。適切な細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部としてまたは追加の遺伝子発現構築物としてのいずれかで提供される場合、真核細胞は、ある種の細菌プロモーターからの細胞質転写を支援することができる。
【0141】
プロモーターおよび/またはエンハンサーは、例えば、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、T細胞受容体、HLA DQ aおよび/またはDQ β、β-インターフェロン、インターロイキン-2、インターロイキン-2受容体、MHCクラスII 5、MHCクラスII HLA-Dra、β-アクチン、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、プレアルブミン(トランスチレチン)、エラスターゼI、メタロチオネイン(MTII)、コラゲナーゼ、アルブミン、α-フェトタンパク質、t-グロビン、β-グロビン、c-fos、c-HA-ras、インスリン、神経細胞接着分子(NCAM)、α1-アンチトリプシン(antitrypain)、H2B(TH2B)ヒストン、マウスおよび/またはI型コラーゲン、グルコース調節タンパク質(GRP94およびGRP78)、ラット成長ホルモン、ヒト血清アミロイドA(SAA)、トロポニンI(TN I)、血小板由来成長因子(PDGF)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、SV40、ポリオーマ、レトロウイルス、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ならびにテナガザル白血病ウイルスであり得る。
【0142】
いくつかの態様では、誘導性要素が使用され得る。いくつかの態様では、誘導性要素は、例えば、MTII、MMTV(マウス乳腺腫瘍ウイルス)、β-インターフェロン、アデノウイルス5 E2、コラゲナーゼ、ストロメライシン、SV40、ネズミ科MX遺伝子、GRP78遺伝子、α-2-マクログロブリン、ビメンチン、MHCクラスI遺伝子H-2κb、HSP70、プロリフェリン、腫瘍壊死因子、および/または甲状腺刺激ホルモンα遺伝子である。いくつかの態様では、誘導因子は、ホルボールエステル(TFA)、重金属、糖質コルチコイド、ポリ(rI)x、ポリ(rc)、ElA、ホルボールエステル(TPA)、インターフェロン、ニューキャッスル病ウイルス、A23187、IL-6、血清、インターフェロン、SV40巨大T抗原、PMA、および/または甲状腺ホルモンである。本明細書に記載される任意の誘導性要素が、本明細書に記載される任意の誘導因子と共に使用され得る。
【0143】
特に興味深いのは、心筋細胞特異的プロモーターである。いくつかの態様では、心筋細胞特異的プロモーターは、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターである。
【0144】
cDNA挿入断片が用いられる場合、典型的には、遺伝子転写物の適正なポリアデニル化を達成するためにポリアデニル化シグナルを含めることが望ましい。ヒト成長ホルモンおよびSV40ポリアデニル化シグナルなどの任意のポリアデニル化配列が用いられ得る。また、ターミネーターも発現カセットの要素として想定される。これらの要素は、メッセージレベルを増強し、カセットから他の配列へのリードスルーを最小限に抑えるために役立つことができる。
【0145】
B. 2Aペプチド
いくつかの態様では、昆虫ウイルスであるゾセア・アシグナ(Thosea asigna)由来の2A様自己切断ドメイン(TaV 2Aペプチド)
が使用される。これらの2A様ドメインは、真核生物全体で機能することが示されており、アミノ酸の開裂を、2A様ペプチドドメイン内で同時翻訳的に起こさせる。それゆえ、TaV 2Aペプチドを含めることで、単一のmRNA転写物から複数のタンパク質の発現が可能となる。重要なことに、真核細胞系で試験した場合、TaVのドメインは、99%を超える切断活性を示した。他の許容される2A様ペプチドには、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2Aペプチド
、豚テッショウウイルス-1(PTV1)2Aペプチド
および口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aペプチド
またはそれらの改変型が含まれるが、それらに限定されない。
【0146】
いくつかの態様では、レポーターとヌクレオチド編集Cas9を同時に発現させるために2Aペプチドが使用される。レポーターは、例えば、GFPまたはmCherryであり得る。
【0147】
使用され得る他の自己切断ペプチドには、核内封入タンパク質a(Nia)プロテアーゼ、P1プロテアーゼ、3Cプロテアーゼ、Lプロテアーゼ、3C様プロテアーゼ、またはそれらの改変型が含まれるが、それらに限定されない。
【0148】
C. トランス-スプライシングインテイン
いくつかの態様では、分割されたヌクレオチド編集Cas9の共有スプライシングを可能にするために、トランス-スプライシングインテインが使用される。送達サイズの制限により、ヌクレオチド編集Cas9をN末端およびC末端ペプチドで分割することができる。分割されたヌクレオチド編集Cas9の半分がそれぞれ、トランス-スプライシングインテインに連結されると、翻訳後に、その非分割の完全長同等物と比較して類似の編集効率を保持する機能的なヌクレオチド編集Cas9へと再構築される。
【0149】
いくつかの態様では、ヌクレオチド編集Cas9のN末端およびC末端ペプチドは、N. プンチフォルメ(N. puntiforme)(Npu)由来の分割されたDnaEインテイン半部に融合される。
【0150】
使用され得る他のトランス-スプライシングインテインには、Sce VMA、Mtu RecA、Ssp DnaEが含まれるが、それらに限定されない。
【0151】
D. 発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞に導入することができる多数の手法がある。ある特定の態様では、発現構築物は、ウイルス、またはウイルスゲノムに由来する操作された構築物を含む。ある種のウイルスの持つ、受容体媒介エンドサイトーシスを介して細胞に侵入する能力、宿主細胞ゲノムに組み込まれて、ウイルス遺伝子を安定的かつ効率的に発現させる能力は、これらのウイルスを、哺乳動物細胞への外来遺伝子の移入のための魅力的な候補にした。これらは、外来DNA配列に対して比較的低い容量を有し、制限された宿主範囲を有する。さらに、許容細胞におけるそれらの発がん能および細胞変性効果は、安全性に関する懸念を引き起こす。これらは、8kBまでの外来遺伝物質しか収容することができないが、多様な細胞株および実験動物に容易に導入することができる。
【0152】
インビボ送達のための1つの方法は、アデノウイルス発現ベクターの使用を伴う。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築物のパッケージングを支援し、かつ(b)その中にクローニングされているアンチセンスポリヌクレオチドを発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含有するそのような構築物を含むことを意味する。この関連で、発現は、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0153】
発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。36kBの線状の二本鎖DNAウイルスというアデノウイルスの遺伝子構成の知見から、アデノウイルスDNAの大きな断片を最大7kBまでの外来配列で置換することが可能である。アデノウイルスDNAは、潜在的な遺伝子毒性なしにエピソーム様式で複製できるので、レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞のアデノウイルス感染は、染色体組み込みをもたらさない。また、アデノウイルスは、構造的に安定であり、膨大な増幅の後に、ゲノム再編成が検出されていない。アデノウイルスは、細胞周期段階に関係なくほぼすべての上皮細胞に感染できる。今のところ、アデノウイルス感染は、ヒトでの急性呼吸器疾患などの軽度の疾患にのみ関係していると考えられる。
【0154】
アデノウイルスは、中程度の大きさのゲノム、操作の容易性、高い力価、広い標的細胞範囲および高い感染性ゆえに、遺伝子移入ベクターとして使用するのに特に適している。このウイルスゲノムの両端は、100~200塩基対逆反復配列(ITR)を含有し、これは、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシス要素である。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は、ウイルスDNAの複製の開始によって分けられる異なる転写ユニットを含有する。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび数種の細胞遺伝子の転写の調節に関与するタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNAの複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現および宿主細胞シャットオフに関与する。大部分のウイルスカプシドタンパク質を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって生じた単一の一次転写物の重要なプロセシング後にのみ発現される。MLP(16.8m.u.に位置する)は、感染後期の間に特に効率的であり、このプロモーターから生じたmRNAはすべて、5'三連リーダー(TPL)配列を保有し、それにより、これらは翻訳のための好ましいmRNAになる。ある系では、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組換えから、組換えアデノウイルスが生成される。このプロセスから、2つのプロウイルスベクター間の可能な組換えにより、野生型アデノウイルスが生成される可能性がある。それゆえ、個々のプラークからウイルスの単一クローンを単離し、そのゲノム構造を調べることが重要である。
【0155】
複製欠損である現行のアデノウイルスベクターの生成および繁殖は、Ad5 DNA 断片によってヒト胚腎臓細胞から形質転換され、E1タンパク質を構成的に発現する、293と呼ばれる固有のヘルパー細胞株に依存する。E3領域は、アデノウイルスゲノムに不可欠ではないため、現行のアデノウイルスベクターは、293細胞の助けを受けて、E1、D3または両方の領域のいずれかに外来DNAを担持する。性質上、アデノウイルスは、野生型ゲノムのおよそ105%をパッケージングでき、約2kb余分のDNAの収容能力を提供する。E1およびE3領域において置換可能なおよそ5.5kbのDNAと組み合わせると、現行のアデノウイルスベクターの最大収容能力は、7.5kb未満、またはベクターの全長の約15%未満である。アデノウイルスウイルスゲノムの80%超は、ベクター骨格中に残存し、ベクター媒介細胞傷害性の原因となる。また、E1欠失ウイルスの複製欠損は、不完全である。
【0156】
ヘルパー細胞株は、ヒト胚腎臓細胞、筋細胞、造血細胞または他のヒト胚間葉細胞もしくは上皮細胞などのヒト細胞に由来し得る。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスを許容する他の哺乳動物種の細胞に由来し得る。そのような細胞には、例えば、ベロ細胞または他のサル胚間葉細胞もしくは上皮細胞が含まれる。上で述べたように、好ましいヘルパー細胞株は、293である。
【0157】
本開示のアデノウイルスは、複製欠損または少なくとも条件付き複製欠損である。アデノウイルスは、42個の異なる公知の血清型またはサブグループA~Fのいずれかのものであり得る。サブグループCのアデノウイルス5型は、本開示において使用するための条件付き複製欠損アデノウイルスベクターを得るための好ましい出発物質である。
【0158】
レトロウイルスは、そのRNAを感染細胞内で逆転写プロセスにより二本鎖DNAに変換する能力を特徴とする一本鎖RNAウイルスの一群である。結果として生じたDNAは、その後、細胞の染色体にプロウイルスとして安定的に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を指令する。組み込みにより、ウイルス遺伝子配列はレシピエント細胞内およびその子孫細胞内に保持される。レトロウイルスゲノムは、カプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ成分をそれぞれコードする3つの遺伝子gag、polおよびenvを含有する。gag遺伝子から上流に見いだされる配列は、ビリオン中へのゲノムのパッケージングのシグナルを含有する。2つの長末端反復(LTR)配列がウイルスゲノムの5'および3'端に存在する。これらは、強力なプロモーターおよびエンハンサー配列を含有し、また宿主細胞ゲノム中への組み込みに必要とされる。
【0159】
レトロウイルスベクターを構築するために、関心対象の遺伝子をコードする核酸が、複製欠損のウイルスを産生するように特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノムに挿入される。ビリオンを産生するために、gag、polおよびenv遺伝子を含有するがLTRおよびパッケージング成分のないパッケージング細胞株が構築される。cDNAをレトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と一緒に含有する組換えプラスミドが、この細胞株に導入されると(例えば、リン酸カルシウム沈殿により)、パッケージング配列により、組換えプラスミドのRNA転写物がウイルス粒子にパッケージングされ、その後、ウイルス粒子が培養培地に分泌される。次いで、組換えレトロウイルスを含有する培地が、収集され、任意で濃縮され、遺伝子移入に使用される。レトロウイルスベクターは、広範囲の細胞型に感染することができる。しかしながら、組み込みおよび安定な発現は、宿主細胞の分裂を必要とする。
【0160】
本開示のすべての局面においてレトロウイルスベクターの使用にある特定の制限がある。例えば、レトロウイルスベクターは、通常、細胞ゲノム内のランダムな部位に組み込まれる。これは、宿主遺伝子の中断を通じてまたは隣接する遺伝子の機能を妨害し得るウイルス調節配列の挿入を通じて挿入変異誘発へと導き得る。欠損レトロウイルスベクターの使用に関する別の懸念は、パッケージング細胞中での野生型の複製能を有するウイルスの潜在的出現である。これは、宿主細胞ゲノムに組み込まれたgag、pol、env配列から上流に組換えウイルス由来のインタクト配列が挿入される組換え事象から生じ得る。しかしながら、組換えの可能性を大きく減少させるはずである新たなパッケージング細胞株が、現在入手可能である。
【0161】
本開示において他のウイルスベクターを発現構築物として用いてもよい。ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびヘルペスウイルスなどのウイルスに由来するベクターを用いてもよい。これらは、様々な哺乳動物細胞にとっていくつかの魅力的な特徴を提供する。
【0162】
態様では、特定態様では、ベクターは、AAVベクターである。AAVは、ヒトおよび一部の他の霊長類種に感染する小型のウイルスである。AAVは、現在のところ、疾患を引き起こすことは知られていない。ウイルスは、極めて穏やかな免疫応答を引き起こし、このことが、その病原性の明白な欠如をさらに支持している。多くの場合、AAVベクターは、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、このことは、ある種の用途に重要であり得るが、望まない結果をもたらす恐れもある。AAVを使用した遺伝子治療ベクターは、分裂細胞と静止細胞の両方に感染することができ、宿主細胞のゲノムへの組み込みなしに染色体外状態で持続することができるが、天然ウイルスでは、ウイルスが担持する遺伝子の宿主ゲノムへの組み込みが起こることがある。これらの特徴により、AAVは、遺伝子治療のためのウイルスベクターを作製するための、また同質遺伝子ヒト疾患モデルの作製のための非常に魅力的な候補になっている。網膜の遺伝子治療にAAVを使用した最近のヒト臨床試験では、有望性が示された。AAVは、デペンドパルボウイルス属に属し、これがパルボウイルス科ファミリーに属する。ウイルスは、小型(20nm)の複製欠損の無エンベロープウイルスである。
【0163】
野生型AAVは、多数の特徴により遺伝子治療研究者から大きな関心を集めている。これら中で主要なのは、ウイルスの病原性の明白な欠如である。このAAVはまた、非分裂細胞に感染することもでき、かつヒトの第19番染色体における特定の部位(AAVS1と呼ばれる)で宿主細胞ゲノムに安定的に組み込まれる能力を有する。この特徴から、AAVは、時にはがんの発生につながるランダムな挿入および変異誘発の恐れがあるレトロウイルスよりも、幾分より予測可能である。AAVゲノムは、言及した部位に最も高頻度に組み込まれる一方で、ゲノムへのランダムな組み込みは無視できるほどの頻度でしか起こらない。しかしながら、遺伝子治療ベクターとしてのAAVの開発は、ベクターのDNAからrepおよびcapを除去することによってこの組み込み能を排除した。所望の遺伝子が、遺伝子の転写を駆動するプロモーターと一緒に、一本鎖ベクターDNAが宿主細胞DNAポリメラーゼ複合体によって二本鎖DNAに変換された後に核内でのコンカテマー形成を援助する逆位末端反復配列(ITR)間に挿入される。AAVベースの遺伝子治療ベクターは、宿主細胞の核内でエピソームコンカテマーを形成する。非分裂細胞では、これらのコンカテマーは、宿主細胞の生涯にわたって無傷のまま留まる。分裂細胞では、エピソームDNAが宿主細胞DNAと共に複製されないため、AAV DNAは細胞分裂を通じて失われる。AAV DNAの宿主ゲノムへのランダム組み込みは、検出可能であるが、非常に低い頻度で起こる。AAVはまた、外見上は中和抗体の生成に限定される非常に低い免疫原性を示すが、これらは、明確に定義された細胞傷害反応を誘導しない。静止細胞に感染する能力と共に、この特徴は、ヒト遺伝子治療のためのベクターとしてアデノウイルスに勝る優位性を提示する。
【0164】
AAVの使用は、いくつかの欠点を提示する。ベクターのクローニング容量は、比較的限定されており、ほとんどの治療用遺伝子は、ウイルスの4.8キロベースゲノムの完全な置換を必要とする。大きな遺伝子は、それゆえ、標準的なAAVベクターでの使用に適さない。この限定されたコーディング容量を克服するために、現在、オプションが検証されている。2つのゲノムのAAV ITRをアニーリングして、頭-尾結合(head to tail)コンカテマーを形成することができ、これによりベクターの収容能力がほぼ2倍になる。スプライス部位の挿入は、転写物からのITRの除去を可能にする。
【0165】
AAVの特殊な遺伝子治療上の利点から、研究者らは、自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)と呼ばれるAAVの改変型を創出した。AAVは、DNAの一本の鎖をパッケージングし、その2番目の鎖が合成されるのを待たなければならないが、scAAVは、互いに相補的な2本のより短い鎖をパッケージングする。2番目の鎖の合成を回避することによって、scAAVは、より迅速に発現できるが、留意点として、scAAVは、すでに限定されているAAVの収容能力の半分しかコードできない。最近の報告書は、scAAVベクターが、一本鎖アデノウイルスベクターよりも免疫原性が高く、細胞傷害性Tリンパ球のより強い活性化を誘導することを示唆している。
【0166】
野生型の感染によって起こる液性免疫は、非常によく見られる事象であると考えられる。それに伴う中和活性は、最もよく使用される血清型AAV2の有用性をある特定用途に限定している。したがって、現在進行中のほとんどの臨床試験は、比較的免疫学的に恵まれた器官である脳へのAAV2の送達を困難にしている。脳では、AAV2は、強くニューロン特異的である。
【0167】
AAVゲノムは、約4.7キロベースの長さのプラス鎖またはマイナス鎖のいずれかの一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)から構築される。ゲノムは、DNA鎖の両端にある逆位末端反復配列(ITR)と、2つのオープンリーディングフレーム(ORF):repおよびcapを含む。前者は、AAVのライフサイクルに必要なRepタンパク質をコードする4つの重複遺伝子から構成され、後者は、カプシドタンパク質:VP1、VP2およびVP3の重複ヌクレオチド配列を含有し、これらは一緒に相互作用して、正20面体対称のカプシドを形成する。
【0168】
逆位末端反復(ITR)配列は、145個の塩基をそれぞれ含む。これらは、その対称性からそのように命名され、AAVゲノムの効率的な増殖に必要であると示された。この特性を与えるこれらの配列の特徴は、2番目のDNA鎖のプライマーゼ非依存的合成を可能にするいわゆる自己プライミングに寄与するヘアピンを形成する能力である。ITRはまた、宿主細胞ゲノム(ヒトの第19番染色体)へのAAV DNAの組み込みおよびそれからの脱出にも、完全にアセンブルされたデオキシリボヌクレアーゼ耐性AAV粒子の生成と組み合わさったAAV DNAの効率的なカプシド形成にも必要であることが示された。
【0169】
遺伝子治療に関して、ITRは、治療用遺伝子の次にシスで必要とされる唯一の配列であると考えられる:構造(cap)およびパッケージング(rep)タンパク質をトランスに送達することができる。この仮定により、レポーターまたは治療用遺伝子を含有する組換えAAV(rAAV)ベクターの効率的な産生のために多くの方法が確立された。しかしながら、効果的な複製およびカプシド形成のためにシスで必要な要素はITRだけではないことも公表された。少数の研究グループは、rep遺伝子のコード配列内にシス作用性のRep依存性要素(CARE)と呼ばれる配列を同定した。CAREは、シスで存在する場合、複製およびカプシド形成を強化することが示された。
【0170】
ゲノムの「左側」に、p5およびp19と呼ばれる2つのプロモーターがあり、それから、異なる長さの2つの重複するメッセンジャーリボ核酸(mRNA)が産生され得る。これらの各々は、スプライシングで切り出され得るまたはされ得ないイントロンを含有する。これらの可能性を考慮すると、4つの様々なmRNA、およびその結果としての重複配列を有する4つの様々なRepタンパク質が合成され得る。それらの名称は、そのサイズをキロダルトン(kDa)で示している:Rep78、Rep68、Rep52およびRep40。Rep78および68は、ITRによって自己プライミング作用で形成されたヘアピンに特異的に結合し、ヘアピン内の末端分解部位と呼ばれる特定領域で開裂することができる。これらはまた、AAVゲノムのAAVS1特異的組み込みに必要であることも示された。4つのRepタンパク質はすべて、ATPに結合し、ヘリカーゼ活性を保有することが示された。また、これらが、p40プロモーターからの転写をアップレギュレーションするが(下記言及)、p5とp19の両プロモーターをダウンレギュレーションすることも示された。
【0171】
プラス鎖AAVゲノムの右側は、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3の重複配列をコードし、これは、p40と呼ばれる1つのプロモーターから始まる。これらのタンパク質の分子量は、それぞれ87、72および62キロダルトンである。AAVカプシドは、正20面体対称に1:1:10の比で配置された合計60個のモノマーのVP1、VP2およびVP3の混合物から構成され、サイズは3.9メガダルトンと推定される。
【0172】
cap遺伝子は、アセンブリ活性化タンパク質(AAP)と呼ばれるさらなる非構造タンパク質を産生する。このタンパク質は、ORF2から産生され、カプシドアセンブリプロセスに必要不可欠である。アセンブリプロセスにおけるこのタンパク質の正確な機能およびその構造は、今のところ解明されていない。
【0173】
3つのVPはすべて、1つのmRNAから翻訳される。このmRNAが合成された後、mRNAは、2つの異なる様式でスプライシングされ得る:長いまたは短いいずれかのイントロンが切除され、その結果、mRNAの2つのプール:2.3kbおよび2.6kbの長さのmRNAプールが形成され得る。通常、特にアデノウイルスの存在下では、長いイントロンが優先され、そのため、2.3kbの長さのmRNAが、いわゆる「主要スプライス」となる。この形態では、VP1タンパク質の合成が開始される最初のAUGコドンが切断され、その結果、VP1タンパク質合成のレベル全体が低下する。主要スプライス中に留まる最初のAUGコドンは、VP3タンパク質のための開始コドンである。しかしながら、同じオープンリーディングフレーム中のそのコドンの上流には、最適なコザックコンテキストに囲まれたACG配列(トレオニンをコードする)がある。これは、VP2タンパク質の低レベルの合成に寄与し、VP2タンパク質は、実際には、VP1と同様、さらなるN末端残基を有するVP3タンパク質である。
【0174】
スプライシングで切り出されるのにより大きなイントロンが優先されるため、かつ、主要スプライスにおいてACGコドンがはるかに弱い翻訳開始シグナルであるため、インビボのAAV構造タンパク質が合成される比は、約1:1:20であり、これは成熟ウイルス粒子の場合と同じである。VP1タンパク質のN末端にある固有の断片は、ホスホリパーゼA2(PLA2)活性を保有することが示されており、これは、おそらく後期エンドソームからのAAV粒子の放出に必要であろう。Muralidharらは、VP2およびVP3が、正しいビリオンアセンブリに重要であることを報告した。しかしながら、さらに最近になって、Warringtonらは、VP2が完全なウイルス粒子の形成および効率的な感染性に不要であることを示し、また、VP2がそのN末端で大きな挿入を許容できる一方で、VP1はおそらくPLA2ドメインの存在のために許容できないことも提示した。
【0175】
AAVベクターは、複製欠損または条件付き複製欠損であり得る。態様では、AAVベクターは、組換えAAVベクターである。いくつかの態様では、AAVベクターは、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはそれらの任意の組み合わせのAAVベクターから単離されたまたはそれに由来する配列を含む。
【0176】
いくつかの態様では、ヌクレオチド編集Cas9および少なくとも1つのgRNAをコードする核酸を細胞に送達するために、単一のウイルスベクターが使用される。いくつかの態様では、ヌクレオチド編集Cas9は、第1のウイルスベクターを使用して細胞に提供され、少なくとも1つのgRNAは、第2のウイルスベクターを使用して細胞に提供される。一部の態様では、ヌクレオチド編集Cas9は、タンパク質トランススプライシングによって完全長ヌクレオチドエディターを再構成する分割インテイン二重AAVシステムを使用し得る。これらのシステムでは、Cas9タンパク質または塩基エディターは、各々がインテインシステムの1つの部分に融合された2つのセクションに分割される(例えば、それぞれdnaEnおよびdnaEcによってコードされるインテイン-Nおよびインテイン-C)。共発現されると、Cas9タンパク質またはヌクレオ塩基エディターの2つのセクションは、インテイン媒介タンパク質スプライシングを介して一緒にライゲーションされる。米国特許公報US20180127780を参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0177】
いくつかの態様では、ヌクレオチド編集Cas9および少なくとも1つのgRNAをコードする核酸を細胞に送達するために、単一のウイルスベクターが使用される。いくつかの態様では、ヌクレオチド編集Cas9は、第1のウイルスベクターを使用して細胞に提供され、少なくとも1つのgRNAは、第2のウイルスベクターを使用して細胞に提供される。一部の態様では、ヌクレオチド編集Cas9は、タンパク質トランススプライシングによって完全長ヌクレオチドエディターを再構成する分割インテイン二重AAVシステムを使用し得る。センスまたはアンチセンス遺伝子構築物の発現を成し遂げるために、発現構築物は、細胞に送達されなければならない。細胞は、筋細胞、衛星細胞、メサンジオブラスト、骨髄由来細胞、間質細胞または間葉系幹細胞であり得る。態様では、細胞は、心臓の筋細胞、骨格筋細胞、または平滑筋細胞である。態様では、細胞は、前脛骨筋、大腿四頭筋、ヒラメ筋、三頭筋、長趾伸筋、横隔膜、または心臓中の細胞である。いくつかの態様では、細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)または内部細胞塊細胞(iCM)である。さらなる態様では、細胞は、ヒトiPSCまたはヒトiCMである。いくつかの態様では、本開示のヒトiPSCまたはヒトiCMは、培養幹細胞株、成体幹細胞、胎盤幹細胞に由来し得るか、またはヒトの胚の破壊を必要としない成体もしくは胚性幹細胞の別の起源に由来し得る。細胞への送達は、細胞株を形質転換するための実験室手順の場合のようにインビトロで、またはある特定の疾患状態の処置の場合のようにインビボもしくはエクスビボで達成され得る。1つの送達機構は、ウイルス感染を介するものであり、この場合、感染性ウイルス粒子中に発現構築物がカプシド形成される。
【0178】
また、培養哺乳動物細胞への発現構築物の移入のためのいくつかの非ウイルス法も本開示により想定される。これらには、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、直接マイクロインジェクション、DNA装填リポソームおよびリポフェクタミン-DNA複合体、細胞音波粉砕法、高速マイクロプロジェクタイルを使用した遺伝子銃、ならびに受容体媒介トランスフェクションが含まれる。これらの技術のいくつかは、インビボまたはエクスビボ使用に上手く適合され得る。
【0179】
発現構築物が細胞に送達されたら、関心対象の遺伝子をコードする核酸は、異なる部位に位置付けられ、発現され得る。ある特定の態様では、遺伝子をコードする核酸は、細胞のゲノムに安定的に組み込まれ得る。この組み込みは、相同組換えを介して同じ場所および方向で行われ得るか(遺伝子置換)、またはランダムで非特異的な場所で組み込まれ得る(遺伝子増強)。なおさらなる態様では、核酸は、DNAの別々のエピソームセグメントとして細胞中に安定的に維持され得る。そのような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞周期とは無関係に、または宿主細胞周期と同期して、維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現構築物がどのように細胞に送達されるか、また、核酸が細胞内のどこに留まるのかは、用いられる発現構築物の種類に依存する。
【0180】
さらに別の態様では、発現構築物は、単純に裸の組換えDNAまたはプラスミドからなり得る。構築物の移入は、細胞膜を物理的または化学的に透過処理する上に挙げた方法のいずかによって実施され得る。これは、特に、インビトロでの移入に適用可能であるが、インビボ使用にも適用され得る。関心対象の遺伝子をコードするDNAは、インビボでも同様に移入され、遺伝子産物を発現し得る。
【0181】
裸のDNA発現構築物を細胞に移入するためのさらに別の態様は、微粒子銃を伴う場合がある。この方法は、DNAでコーティングされたマイクロプロジェクタイルを高速に加速して、マイクロプロジェクタイルが細胞を死滅させることなく細胞膜に穴を開け、細胞に侵入するのを可能にする能力に依存する。小さな粒子を加速するための装置がいくつか開発されている。このような装置の1つは、電流を発生させて原動力を供給するために高圧放電に依拠する。使用されるマイクロプロジェクタイルは、タングステンまたは金ビーズなどの生物学的に不活性な物質で構成されている。
【0182】
いくつかの態様では、発現構築物は、対象の肝臓、皮膚および/または筋組織に直接送達される。これは、銃と標的器官との間のあらゆる介在組織を排除するために、組織または細胞の外科的露出、すなわち、エクスビボ処置を必要とし得る。この場合も同じく、特定の遺伝子をコードするDNAは、この方法を介して送達してもよく、なお本開示により組み入れられる。
【0183】
さらなる態様では、発現構築物は、リポソーム中に封入され得る。リポソームは、リン脂質二重膜および内部水性媒体を特徴とする小胞構造である。多層リポソームは、水性媒体により分離された複数の脂質層を有する。これらは、リン脂質を過剰の水溶液に懸濁させたときに自然に形成される。脂質成分が自己再編成を受けた後、閉じた構造を形成し、水および溶解した溶質を脂質二重層間に閉じ込める。また、リポフェクタミン-DNA複合体も想定される。
【0184】
インビトロでの外来DNAのリポソーム媒介核酸送達および発現は、大きな成功を収めている。Lipofectamine 2000(商標)として公知の試薬が広く使用され、市販されている。
【0185】
ある特定の態様では、細胞膜との融合を容易にし、リポソームカプセル化DNAの細胞侵入を促進するために、リポソームは、血球凝集性ウイルス(HVJ)と複合体化され得る。他の態様では、リポソームは、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体化され得るか、または一緒に用いられ得る。なおさらなる態様では、リポソームは、HVJとHMG-1の両方と複合体化され得るか、または一緒に用いられ得る。そのような発現構築物は、インビトロおよびインビボでの核酸の移入および発現での使用に成功しており、これらを本開示に適用可能である。細菌プロモーターがDNA構築物中に用いられる場合、リポソーム内に適切な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましい。
【0186】
特定の遺伝子をコードする核酸を細胞に送達するために用いることができる他の発現構築物は、受容体媒介送達ビヒクルである。これらは、ほぼすべての真核細胞において受容体媒介エンドサイトーシスによる巨大分子の選択的取り込みを利用する。様々な受容体の細胞型特異的な分布により、送達は高度に特異的であることができる。
【0187】
受容体媒介型遺伝子標的指向ビヒクルは、概して、2つの成分:細胞受容体特異的リガンドおよびDNA結合物質からなる。いくつかのリガンドが受容体媒介遺伝子移入に使用されている。最も広範に特徴付けられているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)およびトランスフェリンである。ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達ビヒクルとして使用されており、また、上皮成長因子(EGF)も扁平上皮がん細胞に遺伝子を送達するために使用されている。
【0188】
E. AAV-Cas9ベクター
いくつかの態様では、Cas9塩基エディターまたはプライムエディターがAAVベクターにパッケージングされ得る。いくつかの態様では、AAVベクターは、野生型AAVベクターである。いくつかの態様では、AAVベクターは、1つまたは複数の変異を含有する。いくつかの態様では、AAVベクターは、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはそれらの任意の組み合わせのAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。
【0189】
例示的なAAV-Cas9ベクターは、Cas9配列を含む中央の配列領域に隣接する2つのITR(逆位末端反復)配列を含有する。いくつかの態様では、ITRは、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはそれらの任意の組み合わせのAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。いくつかの態様では、ITRは、AAV血清型の完全長および/または野生型配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、AAV血清型の短縮配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、AAV血清型の伸長配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、同じAAV血清型の野生型配列と比較して配列変異を含む配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、配列変異は、置換、欠失、挿入、反転または転位の1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、ITRは、少なくとも100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149または150個の塩基対を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149または150個の塩基対を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、110±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、120±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、130±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、140±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、150±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、115、145または141個の塩基対長を有する。
【0190】
いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、1つまたは複数の核局在化シグナル(NLS)を含有し得る。いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、1、2、3、4、または5つの核局在化シグナルを含有する。例示的なNLSには、c-myc NLS、SV40 NLS、hnRNPAI M9 NLS、ヌクレオプラスミンNLS、インポーチン-アルファからのIBBドメインの配列
、筋腫Tタンパク質の配列VSRKRPRP(SEQ ID NO:60)およびPPKKARED(SEQ ID NO:61)、ヒトp53の配列PQPKKKPL(SEQ ID NO:62)、マウスc-abl IVの配列
、インフルエンザウイルスNS1の配列DRLRR(SEQ ID NO:64)およびPKQKKRK(SEQ ID NO:65)、肝炎ウイルスデルタ抗原の配列RKLKKKIKKL(SEQ ID NO:66)ならびにマウスMx1タンパク質の配列REKKKFLKRR(SEQ ID NO:67)が含まれる。さらなる許容される核局在化シグナルには、2部構成の核局在化配列、例えば、ヒトポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの配列
またはステロイドホルモン受容体(ヒト)糖質コルチコイドの配列
が含まれる。
【0191】
いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、ベクターのパッケージングおよびCas9の発現を容易にするためのさらなる要素を含み得る。いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、ポリA配列を含み得る。いくつかの態様では、ポリA配列は、ミニポリA配列であり得る。いくつかの態様では、AAV-CAs9ベクターは、転移因子を含み得る。いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、調節要素を含み得る。いくつかの態様では、調節要素は、活性化因子または抑制因子である。
【0192】
いくつかの態様では、AAV-Cas9は、1つまたは複数のプロモーターを含有し得る。いくつかの態様では、1つまたは複数のプロモーターは、Cas9の発現を駆動する。いくつかの態様では、1つまたは複数のプロモーターは、心筋細胞特異的プロモーターである。例示的な心臓特異的プロモーターには、心臓トロポニンTプロモーターおよびα-ミオシン重鎖プロモーターが含まれる。
【0193】
いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、酵母、細菌、昆虫細胞、または哺乳動物細胞での産生のために最適化され得る。いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、ヒト細胞での発現のために最適化され得る。いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、バキュロウイルス発現系での発現のために最適化され得る。
【0194】
本開示の遺伝子編集構築物のいくつかの態様では、構築物は、プロモーターおよびヌクレアーゼを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、cTnTプロモーターおよびCas9ヌクレアーゼを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、cTnTプロモーターおよびスタフィロコッカス・ピオゲネス(「SpCas9」)から単離されたまたはそれに由来するCas9ヌクレアーゼを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、SpCas9ヌクレアーゼは、
に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。
【0195】
いくつかの態様では、プロモーターおよびヌクレアーゼを含む構築物は、少なくとも2つの逆位末端反復(ITR)配列をさらに含む。いくつかの態様では、プロモーターおよびヌクレアーゼを含む構築物は、血清型2のAAV(AAV2)から単離されたまたはそれに由来する少なくとも2つのITR配列をさらに含む。いくつかの態様では、プロモーターおよびヌクレアーゼを含む構築物は、
であるヌクレオチド配列を各々が含むかまたはそれからなる少なくとも2つのITR配列をさらに含む。いくつかの態様では、プロモーターおよびヌクレアーゼを含む構築物は、少なくとも2つのITR配列をさらに含み、第1のITR配列は、
であるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなり、かつ第2のITR配列は、
であるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のAAV2 ITR、cTnTプロモーターをコードする配列、SpCas9ヌクレアーゼをコードする配列および第2のAAV2 ITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる構築物は、ポリA配列をさらに含む。いくつかの態様では、ポリA配列は、ミニポリA配列を含むかまたはそれからなる。本開示の例示的なミニポリA配列は、
であるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、ポリA配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、ミニポリA配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のAAV2 ITR、cTnTプロモーターをコードする配列、SpCas9ヌクレアーゼをコードする配列、ミニポリA配列および第2のAAV2 ITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、ポリA配列および第2のITRを含む構築物は、少なくとも1つの核局在化シグナルをさらに含む。いくつかの態様では、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、ポリA配列および第2のITRを含む構築物は、少なくとも2つの核局在化シグナルをさらに含む。本開示の例示的な核局在化シグナルは、
であるヌクレオチド配列または
であるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、ポリA配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、第2の核局在化シグナルをコードする配列、ポリA配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、第2の核局在化シグナルをコードする配列、ポリA配列および第2のITRを含む構築物は、終止コドンをさらに含む。終止コドンは、TAG、TAA、またはTGAの配列を有し得る。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、第2の核局在化シグナルをコードする配列、終止コドン、ポリA配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、5'から3'に、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、第2の核局在化シグナルをコードする配列、終止コドン、ポリA配列および第2のITRを含むかまたはそれからなる構築物は、転移因子逆反復配列をさらに含む。本開示の例示的な転移因子逆反復配列は、
であるヌクレオチド配列および/または
であるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1の転移因子逆反復配列、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、第2の核局在化シグナルをコードする配列、終止コドン、ポリA配列、第2のITR、および第2の転移因子逆反復配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、5'から3'に、第1の転移因子逆反復配列、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、第2の核局在化シグナルをコードする配列、終止コドン、ポリA配列、第2のITR、および第2の転移因子逆反復配列を含むかまたはそれからなる構築物は、調節配列をさらに含む。本開示の例示的な調節配列は、
であるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、5'から3'に、第1の転移因子逆反復配列、第1のITR、プロモーターをコードする配列、第1の核局在化シグナルをコードする配列、ヌクレアーゼをコードする配列、第2の核局在化シグナルをコードする配列、終止コドン、ポリA配列、第2のITR、調節配列および第2の転移因子逆反復配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、構築物は、1つまたは複数のスペーサー配列をさらに含み得る。本開示の例示的なスペーサー配列は、1~1500ヌクレオチド長を有し、その間のすべての範囲を包含する。いくつかの態様では、スペーサー配列は、ITR、プロモーター、核局在化配列、ヌクレアーゼ、終止コドン、ポリA配列、転移因子逆反復配列、および/または調節要素に対して5'または3'のいずれかに位置し得る。
【0196】
F. AAV-sgRNAベクター
いくつかの態様では、少なくともgRNAをコードする第1の配列およびgRNAをコードする第2の配列が、AAVベクターにパッケージングされ得る。いくつかの態様では、少なくともgRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、およびgRNAをコードする第3の配列が、AAVベクターにパッケージングされ得る。いくつかの態様では、少なくともgRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、およびgRNAをコードする第4の配列が、AAVベクターにパッケージングされ得る。いくつかの態様では、少なくともgRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、gRNAをコードする第4の配列、およびgRNAをコードする第5の配列が、AAVベクターにパッケージングされ得る。いくつかの態様では、gRNAをコードする複数の配列が、AAVベクターにパッケージングされる。例えば、gRNAをコードする1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の配列が、AAVベクターにパッケージングされ得る。いくつかの態様では、gRNAをコードする各配列が異なる。いくつかの態様では、gRNAをコードする配列の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個が同じである。いくつかの態様では、gRNAをコードする配列のすべてが同じである。
【0197】
いくつかの態様では、AAVベクターは、野生型AAVベクターである。いくつかの態様では、AAVベクターは、1つまたは複数の変異を含有する。いくつかの態様では、AAVベクターは、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはそれらの任意の組み合わせのAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。
【0198】
例示的なAAV-sgRNAベクターは、sgRNA配列を含む中央の配列領域に隣接する2つのITR(逆位末端反復)配列を含有する。いくつかの態様では、ITRは、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはそれらの任意の組み合わせのAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。いくつかの態様では、ITRは、第1の血清型のAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来し、AAV-sgRNAベクターのカプシドタンパク質をコードする配列は、第2の血清型のAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。いくつかの態様では、第1の血清型および第2の血清型は、同じである。いくつかの態様では、第1の血清型および第2の血清型は、同じでない。いくつかの態様では、第1の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11である。いくつかの態様では、第2の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11である。いくつかの態様では、第1の血清型はAAV2であり、第2の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11である。いくつかの態様では、第1の血清型はAAV2であり、第2の血清型はAAV9である。
【0199】
例示的なAAV-sgRNAベクターは、gRNA配列を含む中央の配列領域に隣接する2つのITR(逆位末端反復)配列を含有する。いくつかの態様では、ITRは、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはそれらの任意の組み合わせのAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。いくつかの態様では、第1のITRは、第1の血清型のAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来し、第2のITRは、第2の血清型のAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来し、AAV-sgRNAベクターのカプシドタンパク質をコードする配列は、第3の血清型のAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。いくつかの態様では、第1の血清型および第2の血清型は、同じである。いくつかの態様では、第1の血清型および第2の血清型は、同じでない。いくつかの態様では、第1の血清型、第2の血清型、および第3の血清型は、同じである。いくつかの態様では、第1の血清型、第2の血清型、および第3の血清型は、同じでない。いくつかの態様では、第1の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11である。いくつかの態様では、第2の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11である。いくつかの態様では、第3の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11である。いくつかの態様では、第1の血清型はAAV2であり、第2の血清型はAAV4であり、第3の血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11である。いくつかの態様では、第1の血清型はAAV2であり、第2の血清型はAAV4であり、第3の血清型はAAV9である。例示的なAAV-sgRNAベクターは、sgRNA配列を含む中央の配列領域に隣接する2つのITR(逆位末端反復)配列を含有する。いくつかの態様では、ITRは、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11またはそれらの任意の組み合わせのAAVベクターから単離されているかまたはそれに由来する。いくつかの態様では、ITRは、AAV血清型の完全長および/または野生型配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、AAV血清型の短縮配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、AAV血清型の伸長配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、同じAAV血清型の野生型配列と比較して配列変異を含む配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、配列変異は、置換、欠失、挿入、反転または転位の1つまたは複数を含む。いくつかの態様では、ITRは、少なくとも100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149または150個の塩基対を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149または150個の塩基対を含むかまたはそれからなる。いくつかの態様では、ITRは、110±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、120±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、130±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、140±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、150±10個の塩基対長を有する。いくつかの態様では、ITRは、115、145または141個の塩基対長を有する。
【0200】
いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、ベクターのパッケージングおよびsgRNAの発現を容易にするためのさらなる要素を含み得る。いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、転移因子を含み得る。いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、調節要素を含み得る。いくつかの態様では、調節要素は、活性化因子または抑制因子を含む。いくつかの態様では、AAV-sgRNA配列は、非機能的または「スタッファー」配列を含み得る。本開示の例示的なスタッファー配列は、哺乳動物(ヒトを含む)のゲノム配列に対していくらかの(ゼロ以外のパーセンテージの)同一性または相同性を有し得る。あるいは、本開示の例示的なスタッファー配列は、哺乳動物(ヒトを含む)のゲノム配列に対して同一性または相同性を有し得ない。本開示の例示的なスタッファー配列は、天然に存在する非コード配列または対象へのAAVベクターの投与後に転写も翻訳もされない配列を含み得るかまたはそれからなり得る。
【0201】
いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、酵母、細菌、昆虫細胞、または哺乳動物細胞での産生のために最適化され得る。いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、ヒト細胞での発現のために最適化され得る。いくつかの態様では、AAV-Cas9ベクターは、バキュロウイルス発現系での発現のために最適化され得る。
【0202】
いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、少なくとも1つのプロモーターを含む。いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、少なくとも2つのプロモーターを含む。いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、少なくとも3つのプロモーターを含む。いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、少なくとも4つのプロモーターを含む。いくつかの態様では、AAV-sgRNAベクターは、少なくとも5つのプロモーターを含む。例示的なプロモーターには、例えば、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、T細胞受容体、HLA DQ aおよび/またはDQ β、β-インターフェロン、インターロイキン-2、インターロイキン-2受容体、MHCクラスII 5、MHCクラスII HLA-Dra、β-アクチン、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、プレアルブミン(トランスチレチン)、エラスターゼI、メタロチオネイン(MTII)、コラゲナーゼ、アルブミン、α-フェトタンパク質、t-グロビン、β-グロビン、c-fos、c-HA-ras、インスリン、神経細胞接着分子(NCAM)、α1-アンチトリプシン、H2B(TH2B)ヒストン、マウスおよび/またはI型コラーゲン、グルコース調節タンパク質(GRP94およびGRP78)、ラット成長ホルモン、ヒト血清アミロイドA(SAA)、トロポニンI(TN I)、血小板由来成長因子(PDGF)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、SV40、ポリオーマ、レトロウイルス、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、およびテナガザル白血病ウイルスが含まれる。さらなる例示的なプロモーターには、U6プロモーター、H1プロモーター、および7SKプロモーターが含まれる。
【0203】
いくつかの態様では、AAVベクターは、gRNAをコードする第1の配列およびgRNAをコードする第2の配列を含み、第1のプロモーターは、gRNAをコードする第1の配列の発現を駆動し、第2のプロモーターは、gRNAをコードする第2の配列の発現を駆動する。いくつかの態様では、第1および第2のプロモーターは、同じである。いくつかの態様では、第1および第2のプロモーターは異なる。いくつかの態様では、第1および第2のプロモーターは、H1プロモーター、U6プロモーター、および7SKプロモーターから選択される。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列およびgRNAをコードする第2の配列は、同一である。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列およびgRNAをコードする第2の配列は、同一でない。
【0204】
いくつかの態様では、AAVベクターは、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、およびgRNAをコードする第3の配列を含み、第1のプロモーターは、gRNAをコードする第1の配列の発現を駆動し、第2のプロモーターは、gRNAをコードする第2の配列の発現を駆動し、第3のプロモーターは、gRNAをコードする第3の配列の発現を駆動する。いくつかの態様では、第1、第2および第3のプロモーターの少なくとも2つは、同じである。いくつかの態様では、第1、第2および第3のプロモーターの各々は異なる。いくつかの態様では、第1、第2および第3のプロモーターは、H1プロモーター、U6プロモーター、および7SKプロモーターから選択される。いくつかの態様では、第1のプロモーターは、U6プロモーターである。いくつかの態様では、第2のプロモーターは、H1プロモーターである。いくつかの態様では、第3のプロモーターは、7SKプロモーターである。いくつかの態様では、第1のプロモーターは、U6プロモーターであり、第2のプロモーターは、H1プロモーターであり、第3のプロモーターは、7SKプロモーターである。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、およびgRNAをコードする第3の配列は、同一である。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、およびgRNAをコードする第3の配列は、同一でない。
【0205】
いくつかの態様では、AAVベクターは、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、およびgRNAをコードする第4の配列を含み、第1のプロモーターは、gRNAをコードする第1の配列の発現を駆動し、第2のプロモーターは、gRNAをコードする第2の配列の発現を駆動し、第3のプロモーターは、gRNAをコードする第3の配列の発現を駆動し、第4のプロモーターは、gRNAをコードする第4の配列の発現を駆動する。いくつかの態様では、第1、第2、第3および第4のプロモーターの少なくとも2つは、同じである。いくつかの態様では、第1、第2、第3および第4のプロモーターの各々は異なる。いくつかの態様では、第1、第2、第3および第4のプロモーターの各々は、H1プロモーター、U6プロモーター、および7SKプロモーターから選択される。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、およびgRNAをコードする第4の配列は、同一である。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、およびgRNAをコードする第4の配列は、同一でない。
【0206】
いくつかの態様では、AAVベクターは、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、gRNAをコードする第4の配列、およびgRNAをコードする第5の配列を含み、第1のプロモーターは、gRNAをコードする第1の配列の発現を駆動し、第2のプロモーターは、gRNAをコードする第2の配列の発現を駆動し、第3のプロモーターは、gRNAをコードする第3の配列の発現を駆動し、第4のプロモーターは、gRNAをコードする第4の配列の発現を駆動し、第5のプロモーターは、gRNAをコードする第5の配列の発現を駆動する。いくつかの態様では、第1、第2、第3、第4および第5のプロモーターの少なくとも2つは、同じである。いくつかの態様では、第1、第2、第3、第4および第5のプロモーターの各々は異なる。いくつかの態様では、第1、第2、第3および第4のプロモーターの各々は異なる。いくつかの態様では、第1、第2、第3、第4および第5のプロモーターの各々は、H1プロモーター、U6プロモーター、および7SKプロモーターから選択される。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、gRNAをコードする第4の配列、およびgRNAをコードする第5の配列は、同一である。いくつかの態様では、gRNAをコードする第1の配列、gRNAをコードする第2の配列、gRNAをコードする第3の配列、gRNAをコードする第4の配列、およびgRNAをコードする第5の配列は、同一でない。
【0207】
IV. 薬学的組成物および送達法
本明細書に開示されるポリヌクレオチドをコードするAAVウイルス粒子、AAVベクター、ポリヌクレオチド、またはベクターのいずれかは、薬学的組成物に製剤化され得る。いくつかの態様では、薬学的組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤をさらに含み得る。本方法において使用される薬学的組成物のいずれかは、凍結乾燥された製剤または水溶液の形態で薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤を含むことができる。
【0208】
薬学的組成物中の担体は、組成物の有効成分と適合し、好ましくは、有効成分を安定化可能で、処置される対象に有害でないという意味で「許容される」ものでなければならない。例えば、「薬学的に許容される」は、生理学的に忍容性であり、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト)に投与されたときに不都合な反応を生じない、分子実体およびそれを含む組成物の他の成分のことを指し得る。いくつかの例では、本明細書に開示される薬学的組成物中に使用される「薬学的に許容される」担体は、哺乳動物、より特定するとヒトにおいて使用するために、連邦もしくは州政府の規制機関により承認されているかまたは米国薬局方もしくは他の一般に認識される薬局方に列記されているものであり得る。
【0209】
緩衝液を含む薬学的に許容される担体は、当技術分野において周知であり、リン酸、クエン酸、および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤;低分子量ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン;アミノ酸;疎水性ポリマー;単糖;二糖;および他の炭水化物;金属錯体;ならびに/または非イオン性界面活性剤を含み得る。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. (2000) Lippincott Williams and Wilkins, Ed. K. E. Hooverを参照されたい。
【0210】
いくつかの態様では、薬学的組成物または製剤は、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、心臓内、関節内または陰茎海綿体内注射による投与のためのものであることができる。いくつかの態様では、薬学的組成物または製剤は、非経口投与、例えば静脈内、脳室内注射、大脳槽内(intra-cisterna magna)注射、実質内注射、腹腔内、心臓内、関節内もしくは陰茎海綿体内注射またはそれらの組み合わせのためのものである。そのような薬学的に許容される担体は、無菌の液体、例えば、水および油であることができ、落花生油、大豆油、鉱油などの、石油、動物、植物または合成起源のものを含む。また、食塩水ならびに水性デキストロース、ポリエチレングリコール(PEG)およびグリセロール溶液を、液体担体、特定すると注射液用の液体担体として用いることができる。本明細書に開示される薬学的組成物は、追加の成分、例えば、防腐剤、緩衝液、等張化剤、酸化防止剤および安定剤、非イオン性の湿潤または清澄剤、粘度増強剤などをさらに含み得る。本明細書に記載される薬学的組成物は、単一投与剤形または複数投与剤形にパッケージングすることができる。
【0211】
非経口投与に適した製剤には、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性の無菌注射液;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の無菌懸濁液が含まれる。水溶液は、適切に緩衝化され得る(好ましくは、pH 3~9に)。無菌条件下での好適な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術によって容易に達成される。
【0212】
インビボ投与に使用される薬学的組成物は無菌でなければならない。これは、例えば、無菌濾過膜による濾過によって容易に達成される。無菌注射液は、概して、必要量のAAV粒子を、適切な溶媒中に、必要に応じて上に挙げた様々な他の成分と共に組み入れ、続いて、濾過滅菌を行うことによって調製される。概して、分散液は、基本的な分散媒と上に挙げたものから必要とされる他の成分とを含有する無菌ビヒクル中に滅菌した有効成分を組み入れることによって調製される。無菌注射液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌濾過したその溶液から任意の追加の望ましい成分を加えた有効成分の粉末をもたらす真空乾燥法および凍結乾燥法である。
【0213】
本明細書に開示される薬学的組成物はまた、希釈剤およびアジュバントなどの他の成分も含み得る。許容される担体、希釈剤およびアジュバントは、レシピエントに対して無毒であり、好ましくは、用いられる投与量および濃度で不活性であり、リン酸、クエン酸もしくは他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子量ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリン;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む単糖、二糖および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;ならびに/またはTween、プルロニックもしくはポリエチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0214】
臨床適用のために、薬学的組成物は、意図した用途に適した形態で調製される。概して、これは、発熱物質、ならびにヒトまたは動物に有害な可能性のある他の不純物を本質的に含まない組成物を調製することを必要とする。
【0215】
薬物、タンパク質または送達ベクターを安定にし、標的細胞による取り込みを可能にするために、適切な塩および緩衝液が使用される。本開示の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散された薬物、ベクターまたはタンパク質の有効量を含む。「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与されたときに有害な反応、アレルギー反応、または他の不都合な反応を生じない分子実体および組成物のことを指す。本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、医薬、例えば、ヒトへの投与に適した医薬の製剤化における使用に許容される、溶媒、緩衝液、溶液、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。本開示の有効成分と不適合でない任意の従来の媒体または薬剤、治療用組成物におけるその使用が、意図される場合がある。組成物のベクターまたは細胞を不活化しないのであれば、補助的な有効成分も組成物に組み入れることができる。
【0216】
いくつかの態様では、本開示の活性組成物は、古典的な薬学的調製物を含み得る。本開示に係るこれらの組成物の投与は、標的組織が対応可能である限りどんな一般的経路を介するものであってもよいが、概して全身投与を含む。これには、経口、経鼻または経頬が含まれる。あるいは、投与は、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内もしくは静脈内注射、または筋組織への直接注射によるものであり得る。そのような組成物は、通常、上記のように、薬学的に許容される組成物として投与されるだろう。
【0217】
活性化合物はまた、非経口でまたは腹腔内に投与され得る。実例として、遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中に調製することができる。分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中ならびに油中に調製することもできる。通常の貯蔵および使用条件下で、これらの調製物は、概して、微生物の増殖を防ぐための防腐剤を含有する。
【0218】
注射用途に適した剤形には、例えば、無菌水溶液または分散液および無菌注射液または分散液の即時調製用無菌粉末が含まれる。概して、これらの調製物は、無菌であり、容易に注射できる程度に流動性である。調製物は、製造および貯蔵条件下において安定でなければならず、また細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されていなければならない。適切な溶媒または分散媒は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物および植物油を含有し得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要な粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の吸収延長は、組成物中での吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0219】
無菌注射液は、適切な量の活性化合物を、適切な溶媒中に、必要に応じて任意の他の成分(例えば、上に挙げたような)と共に組み入れ、続いて、濾過滅菌することによって調製され得る。概して、分散液は、基本的な分散媒と例えば上に挙げたような所望の他の成分とを含有する無菌ビヒクル中に様々な滅菌した有効成分を組み入れることによって調製される。無菌注射液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌濾過したその溶液から任意の追加の望ましい成分を加えた有効成分の粉末をもたらす真空乾燥法および凍結乾燥法を含む。
【0220】
いくつかの態様では、本開示の組成物は、中性または塩の形態で製剤化される。薬学的に許容される塩には、例えば、無機酸(例えば、塩酸またはリン酸)、または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸など)から誘導される酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)が含まれる。また、タンパク質の遊離カルボキシル基と形成される塩を、無機塩基(例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄)または有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン)などから誘導することもできる。
【0221】
製剤化されたら、溶液は、好ましくは、投与製剤と適合する様式で、かつ治療上有効であるような量で投与される。製剤は、注射液、薬物放出カプセルなどの多様な投与形態で容易に投与され得る。水溶液で非経口投与するために、例えば、その溶液は、概して、適切に緩衝化され、液体希釈剤が、最初に、例えば十分な食塩水またはグルコースで等張にされる。そのような水溶液は、例えば、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に使用され得る。好ましくは、無菌水性媒体が、当業者に公知のように、特に本開示に照らして用いられる。実例として、単回用量を、1mlの等張NaCl溶液に溶解して、1000mlの皮下注入液に加えるか、または注入の予定部位に注射するかのいずれかをしてもよい(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版の1035-1038および1570-1580ページを参照のこと)。処置される対象の状態に応じて、投与量にいくらかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにしろ、投与を担う人が、個々の対象に合わせた適切な用量を決定するだろう。さらに、ヒト投与では、調製物は、FDA生物製剤標準局(FDA Office of Biologics standards)により要求されるような無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準を満たすべきである。
【0222】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるヌクレオチド編集Cas9およびgRNAは、養子細胞移入(ACT)を使用して患者に送達され得る。養子細胞移入では、1つまたは複数の発現構築物は、患者を起源とする細胞(自己由来)または患者以外の1人以上の個人を起源とする細胞(同種異系)にエクスビボで提供される。細胞は、その後、患者に導入または再導入される。したがって、いくつかの態様では、ヌクレオチド編集Cas9およびジストロフィンスプライス部位を標的とするガイドRNAをコードする1つまたは複数の核酸が、細胞にエクスビボで提供された後に、細胞が患者に導入または再導入される。
【0223】
様々な態様では、本明細書に開示される組成物は、必要とする対象への投与に続いて心臓疾患を処置するのに有効であり得る。他の態様では、本明細書に開示される組成物は、必要とする対象への投与に続いて1つまたは複数の心筋症を処置するのに有効であり得る。さらに他の態様では、本明細書に開示される組成物は、必要とする対象への投与に続いてDCMを処置するのに有効であり得る。他の態様では、本明細書に開示される組成物は、必要とする対象への投与に続いてDCMの少なくとも1つの症状を改善するのに有効であり得る。
【0224】
本明細書における好適な対象には、ヒト、家畜動物、伴侶動物、実験動物、または動物学上の動物(zoological animal)が含まれる。いくつかの態様では、対象は、げっ歯類、例えば、マウス、ラット、モルモットなどであり得る。いくつかの態様では、対象は、家畜動物であり得る。好適な家畜動物の非限定例には、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラマおよびアルパカが含まれ得る。いくつかの態様では、対象は、伴侶動物であり得る。伴侶動物の非限定例には、イヌ、ネコ、ウサギおよびトリなどのペットが含まれ得る。さらに別の態様では、対象は、動物学上の動物であり得る。本明細書において使用される場合、「動物学上の動物」は、動物園で見られ得る動物のことを指す。そのような動物には、非ヒト霊長類、大型のネコ、オオカミおよびクマが含まれ得る。具体的な態様では、動物は、実験動物である。実験動物の非限定例には、げっ歯類、イヌ科、ネコ科および非ヒト霊長類が含まれ得る。ある特定の態様では、動物は、げっ歯類である。げっ歯類の非限定例には、マウス、ラット、モルモットなどが含まれ得る。好ましい態様では、対象は、ヒトである。
【0225】
様々な態様では、必要とする対象は、少なくとも1つの心臓疾患を有すると診断を受けている可能性がある。いくつかの局面では、対象は、1つまたは複数の心筋症を有し得る。いくつかの態様では、対象は、DCMを有し得る。いくつかの態様では、対象は、DCMの少なくとも1つの症状を有し得る。いくつかの局面では、DCMの症状は、倦怠感であり得る。いくつかの態様では、DCMの症状は、呼吸困難であり得る。いくつかの態様では、DCMの症状は、浮腫であり得る。いくつかの態様では、DCMの症状は、腹水であり得る。いくつかの態様では、DCMの症状は、胸痛であり得る。さらに他の局面では、DCMの症状は、心雑音であり得る。
【0226】
いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物を投与する方法は、同一の疾患状態および予測転帰を有する未処置の対象における心筋症誘発心臓線維化と比較して、心筋症誘発心臓線維化を減少および/または転換させ得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物を投与する方法は、同一の疾患状態および予測転帰を有する未処置の対象における心筋症誘発左心室拡張と比較して、心筋症誘発左心室拡張を減少および/または転換させ得る。
【0227】
本開示の他の態様は、必要とする対象に本明細書に開示される組成物を投与する方法であって、投与により心筋症(例えば、DCM)を処置する、方法である。本開示のさらに他の態様は、必要とする対象に本明細書に開示される組成物を投与する方法であって、心筋症(例えば、DCM)の少なくとも1つの症状が投与後1ヶ月以内に少なくとも25%改善される、方法である。
【0228】
様々な態様では、本明細書に開示される組成物は、非経口投与によって投与され得る。本明細書において使用される場合、「非経口投与によって」は、消化管を経由する以外の経路を介した本明細書に開示される組成物の投与のことを指す。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物は、非経口注射によって投与され得る。いくつかの局面では、非経口注射による開示される組成物の投与は、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、心臓内、関節内、または陰茎海綿体内注射によるものであり得る。いくつかの態様では、非経口注射による開示される組成物の投与は、当分野において公知のような緩徐(slow)またはボーラス法によるものであり得る。いくつかの態様では、非経口注射による投与の経路は、標的場所にとって判定され得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物は、心臓内注射による非経口投与用に製剤化され得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物は、カテーテルを用いた冠動脈内注入による非経口投与用に製剤化され得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物は、心膜注射による非経口投与用に製剤化され得る。
【0229】
様々な態様では、投与される本明細書に開示される組成物の用量は、特に限定されず、予防的処置および/または治療的処置の目的、疾患の種類、対象の体重または年齢、疾患の重症度などの条件に応じて適切に選択され得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物の用量の投与は、本明細書に開示される組成物の治療有効量を含み得る。本明細書において使用される場合、「治療有効」という用語は、心臓疾患を処置する、心臓疾患に関連する少なくとも1つの症状の提示を低下させる、心線維化を転換/防止する、少なくとも1つの心室の拡張を転換/防止する、全体の心臓重量を低下させる、心臓機能を改善する、生存可能性を高める、またはそれらの組み合わせをもたらす、投与される組成物の量のことを指す。
【0230】
いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物は、それを必要とする対象に1回投与され得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物は、それを必要とする対象に2回以上投与され得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物の1回目の投与に続いて、本明細書に開示される組成物の2回目の投与が行われ得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物の1回目の投与に続いて、本明細書に開示される組成物の2回目および3回目の投与が行われ得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物の1回目の投与に続いて、本明細書に開示される組成物の2回目、3回目および4回目の投与が行われ得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物の1回目の投与に続いて、本明細書に開示される組成物の2回目、3回目、4回目および5回目の投与が行われ得る。
【0231】
組成物がそれを必要とする対象に投与され得る回数は、医療専門家の裁量、心臓疾患の重症度、および対象の製剤に対する反応に依存し得る。いくつかの態様では、本明細書に開示される組成物は、継続的に投与され得る;あるいは、投与される薬物の用量は、ある一定時間にわたり、一時的に減量され得るかまたは一時的に停止され得る(すなわち、「休薬日」)。いくつかの局面では、休薬日の長さは、ほんの一例ではあるが2日間、1週間、1ヶ月、6ヶ月および1年を含め、2日間~1年で変動し得る。別の局面では、休薬日中の用量の減量は、ほんの一例ではあるが10%、25%、50%、75%および100%を含め、10%~100%であり得る。
【0232】
様々な態様では、本明細書に開示される組成物の所望の1日用量は、単回用量でまたは同時に(または短期間で)もしくは適切な間隔で投与される分割用量として提示され得る。他の態様では、本明細書に開示される組成物の投与は、対象に、約1日1回、約1日2回、約1日3回投与され得る。さらに他の態様では、本明細書に開示される組成物の投与は、対象に、少なくとも1日1回、約2日間にわたり少なくとも1日1回、約3日間にわたり少なくとも1日1回、約4日間にわたり少なくとも1日1回、約5日間にわたり少なくとも1日1回、約6日間にわたり少なくとも1日1回、約1週間にわたり少なくとも1日1回、約2週間にわたり少なくとも1日1回、約3週間にわたり少なくとも1日1回、約4週間にわたり少なくとも1日1回、約8週間にわたり少なくとも1日1回、約12週間にわたり少なくとも1日1回、約16週間にわたり少なくとも1日1回、約24週間にわたり少なくとも1日1回、約52週間にわたり少なくとも1日1回およびそれ以降に投与され得る。好ましい態様では、本明細書に開示される組成物の投与は、対象に、約4週間に1回投与され得る。
【0233】
いくつかの態様では、開示されるような組成物が最初に投与された後、1つまたは複数の異なる組成物または処置レジメンの後続投与が行われ得る。他の態様では、1つまたは複数の異なる組成物または処置レジメンの投与後に、開示されるような組成物が投与され得る。
【0234】
V. キット
本開示のいくつかの態様は、CRISPR/Cas9システムおよび/または本明細書に開示される新規gRNAもしくは本明細書に開示される公知のgRNAを包装および輸送するためのキットを含み、さらに少なくとも1つの容器を含む。
【0235】
いくつかの態様では、キットは、さらに加えて、本明細書に記載される方法のいずれかにおけるCRISPR/Cas9システム、gRNAおよび/またはAAV粒子の使用説明書を含むことができる。含まれる説明書は、対象において意図する活性を達成するために本明細書に開示されるような薬学的組成物を対象に投与する説明を含み得る。キットは、対象が処置を必要とするかどうかを特定することに基づき処置に適した対象を選択する説明をさらに含み得る。いくつかの態様では、説明書は、心筋症を有するかまたは有すると疑われる対象に本明細書に開示される薬学的組成物を投与する説明を含み得る。
【0236】
VI. 定義
「ヌクレオチド編集Cas9」という用語は、塩基エディターまたはプライムエディターに融合されたCas9タンパク質のことを指す。Cas9の非限定例には、SpCas9、SpCas9-NG、SaCas9、SaCas9-KKH、SauCas9、およびSlugCas9が含まれる。塩基エディターの非限定例には、ABEmax、ABE8e、ABE8eV106W、ABE8.20-mが含まれる。
【0237】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそのポリマーのことを指す。具体的に限定されない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、かつ、天然に存在するヌクレオチドと類似した様式で代謝される、天然ヌクレオチドの公知の類似体を含有する核酸を包含する。特に指示のない限り、特定の核酸配列はまた、明確に示された配列に加えて、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)、アレル、オルソログ、SNPおよび相補的配列も暗に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);およびRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0238】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」および「導入遺伝子」という用語はまた、本明細書において互換的に使用され、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)ならびにそのポリマーを含めた、あらゆる形態の核酸、オリゴヌクレオチドのことを指す。ポリヌクレオチドには、ゲノムDNA、cDNAおよびアンチセンスDNA、ならびにスプライシングされたまたはスプライシングされていないmRNA、rRNA、tRNAおよび阻害性DNAまたはRNA(RNAi、例えば、小型または低分子ヘアピン(sh)RNA、マイクロRNA(miRNA)、小型または低分子干渉(si)RNA、トランス-スプライシングRNA、またはアンチセンスRNA)が含まれる。ポリヌクレオチドは、天然に存在する、合成の、および意図的に改変または変更されたポリヌクレオチド(例えば、バリアント核酸)を含むことができる。ポリヌクレオチドは、一本鎖、二本鎖または三重鎖の線状または環状であることができ、任意の好適な長さであることができる。ポリヌクレオチドを考察する際に、特定のポリヌクレオチドの配列または構造は、本明細書において、配列を5'から3'の方向に提供する慣例に従って記載され得る。核酸「骨格」は、糖-ホスホジエステル連結、ペプチド-核酸結合(「ペプチド核酸」またはPNA;PCT第WO 95/32305)、ホスホロチオエート連結、メチルホスホネート連結またはそれらの組み合わせの1つまたは複数を含めた、多様な連結から構成され得る。核酸の糖部分は、リボース、デオキシリボース、または置換、例えば、2'メトキシもしくは2'ハロゲン化物置換を有する類似化合物であることができる。窒素塩基は、従来の塩基(A、G、C、T、U)、その類似体(例えば、5-メトキシウリジン、シュードウリジンもしくはN1-メチルシュードウリジンなどの改変ウリジン、またはその他);イノシン;プリンまたはピリミジンの誘導体(例えば、N4-メチルデオキシグアノシン、デアザ-またはアザ-プリン、デアザ-またはアザ-ピリミジン、5または6位に置換基を有するピリミジン塩基(例えば、5-メチルシトシン)、2、6、または8位に置換基を有するプリン塩基、2-アミノ-6-メチルアミノプリン、O6-メチルグアニン、4-チオ-ピリミジン、4-アミノ-ピリミジン、4-ジメチルヒドラジン-ピリミジン、およびO4-アルキル-ピリミジン;米国特許第5,378,825号およびPCT第WO 93/13121号)であることができる。一般的な考察については、The Biochemistry of Nucleic Acids 5-36, Adams et al., ed., 11th ed., 1992を参照されたい。核酸は、1つまたは複数の「脱塩基」残基を含むことができ、この場合、骨格は、ポリマーの位置に窒素塩基を含まない(米国特許第5,585,481号)。核酸は、従来のRNAまたはDNA糖、塩基および連結のみを含むことができるか、または、従来の成分と置換の両方を含むことができる(例えば、2'メトキシ連結を有する従来の塩基、または従来の塩基と1つもしくは複数の塩基類似体の両方を含有するポリマー)。核酸は、二環式フラノース単位がRNA模倣糖配置中にロックされた1つまたは複数のLNAヌクレオチド単量体を含有する類似体である「ロックド核酸」(LNA)を含み、これは、相補的RNAおよびDNA配列に対するハイブリダイゼーション親和性を増強する(Vester and Wengel, 2004, Biochemistry 43 (42):13233-41)。RNAおよびDNAは、異なる糖部分を有し、RNAではウラシルまたはその類似体、DNAではチミンまたはその類似体の存在により異なり得る。
【0239】
ポリペプチドをコードする核酸は、しばしば、ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む。特に指示のない限り、特定の核酸配列はまた、縮重コドン置換を含む。
【0240】
核酸は、オープンリーディングフレームに機能的に連結された1つまたは複数の発現制御または調節要素を含むことができ、この場合、1つまたは複数の調節要素は、哺乳動物細胞においてオープンリーディングフレームによってコードされたポリペプチドの転写および翻訳が指向されるように構成される。発現制御/調節要素の非限定例には、転写開始配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、TATAボックスなど)、翻訳開始配列、mRNA安定配列、ポリA配列、分泌配列などが含まれる。発現制御/調節要素は、任意の好適な生物のゲノムから得ることができる。
【0241】
本明細書において使用される場合、「AAV」は、アデノ随伴ウイルスベクターのことを指す。本明細書において使用される場合、「AAV」は、限定されないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10(例えば、US 9,790,472のSEQ ID NO:81を参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)、AAVrh74(例えば、US 2015/0111955のSEQ ID NO:1を参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)、AAV9ベクター、AAV9Pベクター(AAVMYOとしても公知であり、Weinmann et al., 2020, Nature Communications, 11:5432を参照のこと)、およびTabebordbar et al., 2021, Cell, 184:1-20に記載されているMyo-AAVベクター(例えば、MyoAAV 1A、2A、3A、4A、4C、または4E)を含む、任意のAAV血清型およびバリアントのことを指し、ここで、AAVの後の数は、AAV血清型を示している。「AAV」という用語はまた、任意の公知のAAV(ベクター)系のことを指すこともできる。いくつかの態様では、AAVベクターは、一本鎖AAV(ssAAV)である。いくつかの態様では、AAVベクターは、二本鎖AAV(dsAAV)である。AAVベクターの任意のバリアントまたはその血清型、例えば自己相補性AAV(scAAV)ベクターが、AAVベクター、AAV1ベクターなどの一般用語の範囲内に包含される。様々なAAVベクターの詳細な考察については、例えば、McCarty et al., Gene Ther. 2001;8:1248-54、Naso et al., BioDrugs 2017;31:317-334、およびその中に引用されている参考文献を参照されたい。構造的に、AAVは、正20面体カプシドを有する小型(25nm)の一本のDNA鎖の無エンベロープウイルスである。そのカプシドタンパク質の組成および構造が異なる、天然に存在するまたは操作されたAAV血清型およびバリアントは、異なる指向性、すなわち、異なる細胞型を形質導入する能力を有する。活性プロモーターと組み合されると、この指向性が遺伝子発現の部位を規定する。
【0242】
「ガイドRNA(Guide RNA)」、「ガイドRNA(guide RNA)」、および単に「ガイド」は、本明細書において互換的に使用され、crRNA(CRISPR RNAとしても公知)、またはcrRNAとtrRNA(tracrRNAとしても公知)の組み合わせのいずれかを指す。crRNAおよびtrRNAは、単一のRNA分子(単一ガイドRNA、sgRNA)としてまたは2つの別々のRNA分子(二重ガイドRNA、dgRNA)で会合し得る。「ガイドRNA(Guide RNA)」または「ガイドRNA(guide RNA)」は、それぞれの種類のことを指す。trRNAは、天然に存在する配列、または天然に存在する配列と比較して改変もしくは変異を有するtrRNA配列であり得る。明確にするために、「ガイドRNA」または「ガイド」という用語は、本明細書において使用される場合、かつ、具体的に他のことを指定しない限り、RNA分子(A、C、G、およびUヌクレオチドを含む)もしくはそのようなRNA分子をコードするDNA分子(A、C、G、およびTヌクレオチドを含む)、またはその相補的配列のことを指し得る。概して、ガイドRNAをコードするDNA核酸構築物の場合、本明細書に記載されるRNA配列のいずれかにおけるU残基はT残基と置き換わっている可能性があり、本明細書に記載されるDNA配列のいずれかによってコードされるガイドRNA構築物の場合、T残基はU残基と置き換わっている可能性がある。
【0243】
Cas9の核酸基質が二本鎖核酸であるので、Cas9の標的配列は、ゲノムDNAのプラス鎖とマイナス鎖の両方(すなわち、所与の配列とその配列の逆相補配列)を含む。したがって、ガイド配列が「標的配列と相補的」であると言う場合、ガイド配列が、ガイドRNAを標的配列の逆相補配列に結合するように指向し得ると理解されるべきである。したがって、いくつかの態様では、ガイド配列が標的配列の逆相補配列に結合する場合、ガイド配列は、ガイド配列においてTがUで置換された以外は標的配列(例えば、PAMを含まない標的配列)の特定のヌクレオチドと同一である。
【0244】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼおよび適正な転写に必要とされる他の因子のための認識を提供することによってコード配列の発現を指令および/または制御する、通常はコード配列の上流(5')にあるヌクレオチド配列のことを指す。「プロモーター」は、TATAボックスと任意で転写開始の部位を特定するのに役立つ他の配列とからなる短いDNA配列である最小プロモーターを含み、そこに発現の制御のための調節要素が付加される。
【0245】
「エンハンサー」は、転写活性を刺激することができるDNA配列であり、発現のレベルまたは組織特異性を増強するプロモーター固有の要素または異種要素であり得る。エンハンサーは、どちらの方向(5'→3'または3'→5')でも作動可能であり、プロモーターの上流または下流のどちらに配置されても機能することが可能である。
【0246】
プロモーターおよび/またはエンハンサーは、その全体が天然遺伝子に由来し得るか、または天然に見いだされる異なる要素に由来する異なる要素から構成され得るか、またはさらには合成DNAセグメントからなり得る。プロモーターまたはエンハンサーは、刺激、生理学的または発生学的条件に応答して転写開始の有効性をモジュレート/制御する、タンパク質因子の結合に関与するDNA配列を含み得る。
【0247】
非限定例には、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV前初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、pol IIプロモーター、pol IIIプロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが含まれる。加えて、ネズミ科メタロチオネイン遺伝子などの非ウイルス遺伝子に由来する配列も、本明細書において有用であろう。例示的な構成的プロモーターには、特定の構成的または「ハウスキーピング」機能をコードする以下の遺伝子に対するプロモーターが含まれる:ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、アデノシンデアミナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ、ホスホグリセロールムターゼ、アクチンプロモーター、および当業者に公知の他の構成的プロモーター。加えて、多くのウイルスプロモーターは、真核細胞において構成的に機能する。これらには、数多くのものの中でも、SV40の初期および後期プロモーター;モロニー白血病ウイルスおよび他のレトロウイルスの長末端反復配列(LTR);ならびに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーターが含まれる。したがって、上で参照した構成的プロモーターのいずれかを使用して、異種遺伝子挿入断片の転写を制御することができる。
【0248】
「導入遺伝子」は、本明細書において、細胞または生物に意図されるまたは導入されている核酸配列/ポリヌクレオチドを簡便に指すために使用される。導入遺伝子には、阻害性RNAまたはポリペプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子などの任意の核酸が含まれ、概して、天然に存在するAAVゲノム配列に対して異種である。
【0249】
「形質導入する」という用語は、ベクター(例えば、ウイルス粒子)による細胞または宿主生物への核酸配列の導入のことを指す。ウイルス粒子による細胞への導入遺伝子の導入は、それゆえ、細胞の「形質導入」と称することができる。導入遺伝子は、形質導入された細胞のゲノム核酸に組み込まれても、組み込まれなくてもよい。導入された導入遺伝子がレシピエント細胞または生物の核酸(ゲノムDNA)に組み込まれることになれば、導入遺伝子は、その細胞または生物において安定的に維持され、レシピエント細胞または生物の後代細胞または生物にさらに継代または受け継がれ得る。最後に、導入された導入遺伝子は、レシピエント細胞または宿主生物において染色体外に存在し得るか、または一過性でのみ存在し得る。「形質導入された細胞」は、それゆえ、形質導入によって導入遺伝子が導入された細胞である。したがって、「形質導入された」細胞は、導入遺伝子が導入された細胞、またはその後代である。形質導入された細胞は、増殖させることができ、導入遺伝子を転写することができ、コードされた阻害性RNAまたはタンパク質を発現させることができる。遺伝子治療の使用および方法に関して、形質導入された細胞は、哺乳動物中に存在し得る。
【0250】
核酸/導入遺伝子は、それが別の核酸配列と機能的な関係性にあるとき、「機能的に連結されている」。RNAiもしくはポリペプチドをコードする核酸/導入遺伝子、またはポリペプチドの発現を指令する核酸は、コードされたポリペプチドの転写を制御するための誘導性プロモーター、または組織特異的プロモーターを含み得る。発現制御要素に機能的に連結された核酸はまた、発現カセットと称することができる。
【0251】
本明細書において使用される場合、「改変する」または「バリアント」という用語およびその文法上の変形は、核酸、ポリペプチドまたはその部分配列が参照配列に由来することを意味する。改変された配列およびバリアント配列は、それゆえ、参照配列と実質的に同じ、より大きなまたはより小さな発現、活性または機能を有するが、少なくとも参照配列の部分的な活性または機能を保持し得る。バリアントの特定の種類は、変異タンパク質であり、これは、変異、例えば、ミスセンスまたはナンセンス変異を有する遺伝子によってコードされるタンパク質のことを指す。
【0252】
概して、「CRISPRシステム」は、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現またはその活性の指向に関与する転写物および他の要素のことを総称して指し、これには、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)、tracr-mate配列(「直列反復配列」および内因性CRISPRシステムとの関連でtracrRNAプロセシング部分直列反復配列を包含する)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムとの関連で「スペーサー」とも称される)、および/またはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物が含まれる。
【0253】
本明細書において使用される場合、時に本明細書および文献において「スペーサー」、「プロトスペーサー」、「ガイド配列」または「標的指向配列」とも称される「スペーサー配列」は、標的配列と相補的であり、Cas9による切断のためにガイドRNAを標的配列に向かわせるように機能する、ガイドRNA内の配列のことを指す。明確にするために、「スペーサー配列」、「スペーサー」、「プロトスペーサー」、「ガイド配列」または「標的指向配列」という用語は、本明細書において使用される場合、かつ、具体的に他のことを指定しない限り、RNA分子(A、C、G、およびUヌクレオチドを含む)もしくはそのようなRNA分子をコードするDNA分子(A、C、G、およびTヌクレオチドを含む)、またはその相補的配列のことを指し得る。
【0254】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」バリアントは、野生型と比較して遺伝子が変更されている改変された配列のことを指す。配列は、コードされたタンパク質配列を変更することなく遺伝子改変され得る。あるいは、配列は、バリアントタンパク質をコードするように遺伝子改変され得る。核酸またはポリヌクレオチドバリアントはまた、野生型タンパク質配列などの参照配列に対して少なくとも部分的な配列同一性をなお保持するタンパク質をコードするようにコドン改変され、またバリアントタンパク質をコードするようにもコドン改変されている、組み合わせ配列を指すことができる。例えば、そのような核酸バリアントのいくつかのコドンは、それによってコードされるタンパク質のアミノ酸を変更することなく変化し、核酸バリアントのいくつかのコドンは変化して、今度はこれが、それによってコードされるタンパク質のアミノ酸を変化させる。
【0255】
「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、互換的に使用され、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基からなる化合物のことを指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を含むことができるアミノ酸の最大数に制限は設けられない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いにつながれた2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書において使用される場合、この用語は、当技術分野において概して例えばペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも称される短い鎖と、当技術分野において概してタンパク質と称され、この中には多くの種類がある、より長い鎖の両方のことを指す。「ポリペプチド」には、例えば、とりわけ、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、改変ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、またはそれらの組み合わせが含まれる。本明細書に開示される「核酸」または「ポリヌクレオチド」または「導入遺伝子」によってコードされる「ポリペプチド」には、部分長または完全長の天然配列に加え、天然に存在する野生型および機能的多型タンパク質、その機能的部分配列(断片)、ならびにその配列バリアントも、そのポリペプチドがある程度の機能または活性を保持する限り、含まれる。したがって、本開示の方法および使用において、核酸配列によってコードされるそのようなポリペプチドは、欠陥を有する内因性タンパク質、またはその活性、機能もしくは発現が処置される哺乳動物において不十分である、欠乏しているもしくは存在しない内因性タンパク質と、同一である必要はない。
【0256】
アミノ酸改変の例は、保存的アミノ酸置換または欠失である。特定の態様では、改変された配列またはバリアント配列は、未改変配列(例えば、野生型配列)の機能または活性の少なくとも一部を保持する。
【0257】
アミノ酸改変の別の例は、ウイルス粒子のカプシドタンパク質に導入された標的指向ペプチドである。組換えウイルスベクターまたはナノ粒子を様々な器官および組織に標的指向するペプチドが同定されている。
【0258】
分子の「バリアント」は、天然分子の配列と実質的に類似する配列である。ヌクレオチド配列に関して、バリアントは、遺伝コードの縮重により天然タンパク質の同一のアミノ酸配列をコードする配列を含む。このような天然に存在するアレルバリアントは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびハイブリダイゼーション技法などの分子生物学的技法の使用により同定することができる。バリアントヌクレオチド配列はまた、合成的に誘導されたヌクレオチド配列、例えば、天然タンパク質をコードする、例えば、部位特異的変異を使用することによって生成された配列、ならびにアミノ酸置換を有するポリペプチドをコードする配列も含む。概して、本開示のヌクレオチド配列バリアントは、天然(内因性)ヌクレオチド配列に対して少なくとも40%、50%、60%~70%、例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%~79%、概して少なくとも80%、例えば、81%~84%、少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%~98%の配列同一性を有するだろう。ある特定の態様では、バリアントは、生物学的に機能的である(すなわち、野生型の活性または機能の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%または100%を保持する)。
【0259】
特定の核酸配列の「保存的変異」は、同一または本質的に同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列のことを指す。遺伝コードの縮重により、数多くの機能的に同一の核酸は、任意の所与のポリペプチドをコードする。例えば、コドンCGT、CGC、CGA、CGG、AGAおよびAGGはすべて、アミノ酸アルギニンをコードする。したがって、コドンによってアルギニンが指定されるいずれの位置でも、コードされたタンパク質を変更することなく、コドンを、記載される対応するコドンのいずれかに変更することができる。そのような核酸変異は、「保存的に改変された変異」の一種である「サイレント変異」である。ポリペプチドをコードする本明細書に記載されるあらゆる核酸配列はまた、別途記述される場合を除き、あらゆる可能なサイレント変異も表す。当業者は、核酸中の各コドン(通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるATGを除く)を、標準的な技法によって、機能的に同一の分子が得られるように改変することができることを認識するだろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各「サイレント変異」は、記載される各配列において暗示される。
【0260】
ポリヌクレオチド配列の「実質的同一性」という用語は、ポリヌクレオチドが、標準的パラメーターを使用した記載の整列プログラムの1つを使用して、参照配列と比較して少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、もしくは79%、または少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、もしくは89%、または少なくとも90%、91%、92%、93%、もしくは94%、またはさらには少なくとも95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。当業者は、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の対応する同一性を決定するために、コドンの縮重、アミノ酸類似性、リーディングフレームの位置付けなどを考慮することによってこれらの値を適切に調整することができることを認識するだろう。これらの目的のためのアミノ酸配列の実質的同一性は、通常、少なくとも70%、少なくとも80%、90%、またはさらには少なくとも95%の配列同一性を意味する。
【0261】
ポリペプチドとの関連での「実質的同一性」という用語は、ポリペプチドが、指定された比較ウィンドウにわたって参照配列に対して少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、もしくは79%、または80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、もしくは89%、または少なくとも90%、91%、92%、93%、もしくは94%、またはさらには95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列を含むことを示す。2つのポリペプチド配列が同一であるとの指標は、1つのポリペプチドが、第2のポリペプチドに対して生成された抗体と免疫学的に反応性であることである。したがって、例えば、2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合に、ポリペプチドは、第2のポリペプチドと同一である。
【0262】
本明細書において使用される場合、用語「処置する(treat)」、「処置すること(treating)」、「処置(treatment)」などは、特に指示のない限り、そのような用語が適用される疾患、障害もしくは状態、またはそのような疾患、障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状を転換すること、緩和すること、その過程を阻害すること、または予防することを指すことができ、かつ、症状もしくは合併症の発生を防止する、または症状もしくは合併症を緩和する、または状態もしくは障害を排除するための、本明細書に記載される組成物、薬学的組成物もしくは投与形態のいずれかの投与を含む。「処置する(treat)」および「処置(treatment)」という用語はまた、治療的処置と予防的または防止的手段の両方のことも指し、その目的は、望ましくない生理学的変化または障害、例えば、障害の発生、進行または悪化を防止する、阻害する、低減させる、または減少させることである。本開示の目的では、有益なまたは所望の臨床結果には、検出可能であるか検出不能であるかを問わず、症状の緩和、疾患の程度の縮小、疾患の症状または有害効果の安定化(すなわち、悪化または進行させない)、疾患進行の遅延または減速、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分的であるか完全であるかを問わない)が含まれるが、それらに限定されない。「処置(treatment)」はまた、処置を受けていない場合に予想される生存期間と比較した生存期間の延長を意味することができる。処置を必要とするものには、状態または障害を既に有するもの、ならびに素因(例えば、遺伝子アッセイによって判定されるような)を有するものが含まれる。
【0263】
本明細書において使用される場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つまたは複数のことを意味し得る。特許請求の範囲において使用される場合、単語「含む(comprising)」と一緒に使用されるときに、単語「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つまたは1つ超のことを意味し得る。
【0264】
本明細書において用いられる専門用語および学術用語は、説明のためのものであり、限定するものと見なされるべきではない。例えば、「1つの(a)」などの単数形の用語の使用は、項目の数を限定することを意図しているわけではない。また、限定されないが「上(top)」、「下(bottom)」、「左(left)」、「右(right)」、「上の(upper)」、「下の(lower)」、「下に(down)」、「上に(up)」および「側(side)」などの関係語の使用は、図面への具体的な言及において、明確にするために説明で用いられ、本発明の概念または添付の特許請求の範囲を限定することを意図しているわけではない。
【0265】
特許請求の範囲における「または(or)」という用語の使用は、選択肢のみまたは相互に排他的な選択肢を指すように明示的に示されない限り、「および/または(and/or)」のことを意味するために用いられるが、本開示は、選択肢のみと「および/または」のことを指す定義を支持する。さらに、「または」と「および/または」という用語は、本明細書において使用される場合、包括的である、またはいずれか1つもしくはいずれかの組み合わせを意味するものと解釈されるべきである。それゆえ、「A、BまたはC」または「A、Bおよび/またはC」は、以下のいずれかを意味する:「A」、「B」または「C」;「AおよびB」;「AおよびC」;「BおよびC」;「A、BおよびC」。この定義の例外は、要素、機能、工程または行為の組み合わせが、何らかの形で、本質的に相互に排他的であるときにのみ生じる。本明細書において使用される場合、「別の(another)」は、少なくとも2番目またはそれ以降を意味し得る。
【0266】
本出願全体を通して、「約」という用語は、値が、その値を決定するために用いられる装置に固有の誤差の変動、方法に固有の変動、研究対象間に存在する変動、または記述された値の10%以内の値を含むことを示すために使用される。例えば、「約」という用語は、列記された値、例えば、量、用量、温度、時間、パーセンテージなどに対して、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%を意味することができる。
【0267】
「含む(comprising)」、「含む(including)」、「encompassing(包含する)」および「有する(having)」という用語は、本開示において互換的に使用される。「含む(comprising)」、「含む(including)」、「encompassing(包含する)」および「有する(having)」という用語は、そのように記載されたものを含むことを意味するが、必ずしもそのものに限定されるわけではない。
【0268】
本明細書において使用される場合、指定の成分に関する「本質的に含まない(essentially free)」とは、指定の成分のいずれも、意図的に組成物に製剤化されていないおよび/または混入物質としてしかもしくは微量でしか存在しないことを意味するために本明細書で使用される。それゆえ、組成物の任意の意図しない混入から生じる指定の成分の総量は、十分に0.05%を下回る、好ましくは0.01%を下回る。最も好ましいのは、標準的な分析方法により指定の成分量が全く検出できない組成物である。
【0269】
また、反対のことを明確に示さない限り、1を超える工程または行為を含む本明細書に主張される任意の方法において、方法の工程または行為の順序は、方法の工程または行為が列記されたその順序に必ずしも限定されないことが理解されるべきである。
【0270】
本発明の概念は、多くの異なる形態の態様の影響を受けやすいため、本開示は、本発明の概念の原理の一例として考慮されるべきものと意図され、示されておりかつ記載されている特定の態様に本発明の概念が限定されることを意図していない。本発明の概念の特徴のいずれか1つは、別々に使用されても、または任意の他の特徴と組み合わせて使用されてよい。説明における「一態様(embodiment)」、「複数の態様(embodiments)」および/または類似用語への言及は、言及されている1つの特徴および/または複数の特徴が、少なくとも、説明の1つの局面に含まれることを意味する。説明における「一態様(embodiment)」、「複数の態様(embodiments)」および/または類似用語への別々の言及は、必ずしも同じ態様のことを指すわけではなく、またそのように記述されない限りおよび/またはその説明から当業者に容易に明らかである場合を除き、相互に排他的でもない。例えば、一態様において記載される特徴、構造、プロセス、工程、行為などはまた、他の態様に含まれてもよいが、必ずしも含まれるわけではない。したがって、本発明の概念は、本明細書に記載される態様の多様な組み合わせおよび/または統合を含み得る。さらに加えて、本明細書に記載されるような本開示のすべての局面は、その実践に必要不可欠ではない。同様に、本発明の概念の他の系、方法、特徴および利点は、当業者に明らかであるか、または図および説明を精査することによって明らかになるであろう。そのようなさらなる系、方法、特徴および利点はすべて、この説明の範囲内に含まれ、本発明の概念の範囲内にあり、かつ特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【実施例
【0271】
VII. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実践において十分に機能することが本発明者によって発見された技術を表しており、したがって、その実施のための好ましい形態を構成していると見なすことができると、当業者によって理解されるはずである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様に多くの変更を加えることができ、それでもなお同様のまたは類似の結果が得られることを理解するはずである。
【0272】
実施例1-材料および方法
研究設計。当研究は、拡張型心筋症(DCM)のヒト細胞およびマウスモデルにおけるRNA結合モチーフタンパク質20遺伝子(RBM20)変異に対する塩基編集(BE)およびプライム編集(PE)の治療可能性を調べることを目指した。すべての実験に雄マウスを使用した。すべての心エコー実験は、1人の盲検作業技師によって実施および分析された。各実験は、図の説明にn値によって示されるように反復で実施した。
【0273】
研究承認。当研究における動物が関わるすべての実験手順は、テキサス大サウスウェスタン医学センターの施設内動物実験委員会によって審査され、承認を受けた。人工多能性幹細胞株の使用は、テキサス大サウスウェスタン医学センターの幹細胞研究監視委員会によって審査され、承認を受けた。
【0274】
オールインワンSpCas9-ABEバリアントおよびSaCas9-ABEベクター。SpCas9およびSaCas9のすべてのバリアントをg-Block(Integrated DNA Technologies)によって合成し、In-Fusion ligation(Takara Bio)を製造業者のプロトコルに従って使用して、Feng Zhang実験室(Broad Institute)からのAgeI/FseI消化pSpCas9(BB)-2A-GFP(px458)(Addgene plasmid #48138)(25)にサブクローニングした。これらのベクターをAgeIおよびApaIによって消化した。David Liu実験室(Broad Institute)からのNG-ABEmax(Addgene plasmid #124163)(26)およびNG-ABE8e(Addgene plasmid #138491)(20)から挿入断片を転写した。これらの挿入断片を、In-Fusion cloning kit(Takara Bio)を製造業者のプロトコルに従って使用して、事前消化したpSpCas9-NG-2A-GFP、pSpCas9-VRQR-2A-GFPおよびpSaCas9-2A-GFPにサブクローニングした。RBM20R634Q変異のアデニン塩基編集(ABE)用のsgRNAを、BbsIおよびT4ライゲーションを使用して操作ベクターにサブクローニングした。プライマーを表1に列記する。
【0275】
ヒトiPSC培養および同質遺伝子系列の生成。ヒトiPSC培養を過去に記載されているように実施した(27)。簡潔に述べると、iPSCを、mTeSRプラス培地(STEMCELL Technologies)中で維持し、Versene(Thermo Fisher)および10μMのRock阻害剤Y-27632(Selleckchem)を使用して4日毎に継代した。8×105個のiPSCの単一細胞懸濁液を、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)テンプレートおよびRBM20のエクソン9に対するsgRNAを含有する5μgのpSpCas9(BB)-2A-GFP(px458)プラスミドと混合した。混合物を、Primary Cell 4D-Nucleofector X kit(Lonza)により製造業者のプロトコルに従ってトランスフェクトした。ヌクレオフェクション後、iPSCを、Rock阻害剤およびPrimocin(Invivogen)を含むmTeSRプラス培地中で維持した。ヌクレオフェクションの48時間後にFACSによってGFP+細胞を選別し、拡大させた。GFP+シングルiPSCを選び、ゲノムシーケンシングを実施した。
【0276】
iPSCにおけるBEおよびPE。ABEのために、sgRNAを含む操作オールインワンベクター5μgを、ヌクレオフェクションによってヘテロ接合型(R634Q/+)またはホモ接合型(R634Q/R634Q)iPSCにトランスフェクトした。48時間後、GFP+細胞をFACSによって選別し、拡大させた。PEのために、pegRNAおよびepegRNAを、David Liu実験室からのpU6-pegRNA-GG-アクセプタープラスミド(Addgene plasmid #132777)(22)にサブクローニングした。ニッキングsgRNAを、Ervin Welker実験室(Hungarian Academy of Sciences)からのpmCherry_gRNAプラスミド(Addgene plasmid #80457)にサブクローニングした。PE3bシステムでは、David Liu実験室からのpCMV-PE2-P2A-GFP(Addgene plasmid #132776)(22)、pegRNAおよびニッキングsgRNAプラスミド(それぞれ、4.5μg、1.5μgおよび0.75μg)を、ヌクレオフェクションによって8×105個のホモ接合型(R636S/R636S)iPSCにトランスフェクトした。epegRNAと組み合わせたPE3bmaxでは、David Liu実験室からのpCMV-PEmax(Addgene plasmid #174820)(24)、epegRNAおよびニッキングsgRNAプラスミド(それぞれ、4.5μg、1.5μgおよび0.75μg)をヌクレオフェクションによってトランスフェクトした。48時間後、PE3b処理iPSCにおけるGFP+およびmCherry+細胞ならびにPE3bmax処理iPSCにおけるmCherry+細胞をFACSによって選別し、拡大させた。DNAを抽出した後、RBM20中のエクソン9の領域をPCRによって増幅させ、PCR産物を製造業者のプロトコルに従うExoSAP-IT(Thermo Fisher)に供して、配列決定した。
【0277】
ヒトiPSC心筋細胞の分化。iPSCを、過去に記載されている方法(28)を使用して、心筋細胞(CM)に分化するように誘導した。iPSCを、CDM3を補充したRPMI 1640(Thermo Fisher Scientific)中、CHIR 99021(Selleckchem)で2日間処理した(1~2日目)。培地をWNT-C59(Selleckchem)を補充したRPMIに2日間交換した(3~4日目)。iPSC由来CM(iPSC-CM)を、B27-サプリメント(Thermo Fisher Scientific)を補充したRPMI 1640中で維持した。iPSC-CMを、5mM ナトリウム、DL-乳酸およびCDM3サプリメントを補充したグルコース不含RPMI 1640(Thermo Fisher Scientific)中、6日間の代謝選択によって精製した(10~16日目)。代謝選択後、Tryple Express(Thermo Fisher Scientific)を使用して、iPSC-CMを6ウェルプレートに再び蒔いた。分化後35~40日目にCMを実験に使用した。ABEおよびPE修正されたiPSC-CMに関して、単一クローンを単離し、アッセイのためにiPSC-CMへと分化させた。
【0278】
iPSC由来CMの免疫細胞化学。iPSC-CMの免疫細胞化学を過去に記載されているように実施した(29)。簡潔に述べると、iPSC-CMをポリ-D-リシンで被覆された12mmのカバーガラス上に載せた。4% PFAによる固定(15分)および0.3% Triton-Xによる透過処理(15分)の後、カバーガラスを5%ヤギ血清/リン酸緩衝食塩水で1時間ブロッキングした。5%ヤギ血清/リン酸緩衝食塩水中のウサギ抗RBM20抗体(Novus Biologicals, NBP2-34038, 1:250)およびマウス抗アルファ-アクチニン(Sigma-Aldrich, A7811, 1:800)をアプライし、4℃で一晩インキュベートした。次いで、カバーガラスを、フルオレセインコンジュゲートヤギ抗ウサギAlexa Fluor 488および抗マウスIgG Alexa Fluor 555(Invitrogen)とインキュベートした。20×対物レンズを使用したZeiss LSM-800顕微鏡および100×オイル対物レンズを使用したN-SIM S Super Resolution Microscope(Nikon)によって、画像を取得した。
【0279】
免疫組織化学。心臓を単離し、リン酸緩衝食塩水中の4%パラホルムアルデヒド中で48時間固定した。固定後、Zeiss AxioZoom.V16 systemによって全体の心臓の画像を取得した。心臓をパラフィン包埋し、切片化した。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)およびマッソントリクローム染色を実施した。Digital Microscope(Keyence)によって4×および40×の対物レンズ倍率で画像を取得した。免疫組織化学のために、切片を脱パラフィンし、エピトープ賦活化溶液(IHC WORLD)を製造業者のプロトコルに従って使用した抗原賦活化に供した。心臓トロポニンTの一次抗体(Thermo scientific, 1:200)およびRBM20(Dr. Wei Guoから寄贈、1:400)によって心筋細胞を染色した。切片を、DAPI、フルオレセインコンジュゲートヤギ抗ウサギAlexa Fluor 488および抗マウスIgG Alexa Fluor 555(Invitrogen)とインキュベートした。100×オイル対物レンズを使用したN-SIM S Super Resolution Microscope(Nikon)によって、画像を取得した。
【0280】
ヒトiPSC由来CMのカルシウムイメージング。カルシウムイメージングを過去に記載されているように実施した(29)。簡潔に述べると、CMを解離させ、35mmのガラスボトムディッシュ(Thermo Fisher Scientific)に播種した。蒔いた3日後にカルシウムイメージングを評価した。CMに、Tyrode液(Sigma-Aldrich, T2397)中で20分間5μMの蛍光カルシウムインジケーターFluo-4-AM(Thermo Fisher Scientific, F14201)をロードした。Nikon A1R+共焦点顕微鏡を使用して、自発的に拍動しているiPSC-CMのカルシウムトランジェントを37℃で測定した。Fijiソフトウェアによってデータを処理し、Microsoft Excelを使用して分析した。
【0281】
分化したiPSC由来CMへのAAV送達。心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターを、William Pu実験室(Harvard)からのpAAV:cTNT::Luciferase(Addgene plasmid #69915)(30)から抽出した。ABEmax-VRQR-SpCas9のN末端およびC末端領域を、それぞれDavid Liu実験室からのCMV_Npu-ABEmax N末端(Addgene plasmid #137173)(31)とhu6 HGPS sgRNA発現およびABE7.10max VRQR C末端AAVベクター(Addgene plasmid #154430)(21)から抽出した。これらの挿入断片を、In-Fusionクローニングを使用してpSSV9一本鎖AAVプラスミドにサブクローニングした。SmaIおよびAhdIを使用してAAVベクターを消化して、インタクトな逆位末端反復配列(ITR)完全性を確認した。ボストン小児病院ウイルスコア(Viral Core)で、血清型6(AAV6)および血清型9(AAV9)カプシドを有するAAVウイルスを作製した。分化後40日目に、ホモ接合型(R634Q/R634Q)iPSC-CMにAAV6ウイルスを4×105個のvg/細胞で感染させた。感染の20日後、DNAを抽出した。
【0282】
Rbm20R636Qノックインマウスの作製。過去に記載されているように(32)、ssODNテンプレートを用いたCRISPR-Cas9技術を使用してRbm20R636Qノックインマウスを作製した。Rbm20のエクソン9に対するsgRNAをpSpCas9(BB)-2A-GFP(px458)にクローニングした。MEGA shortscript T7 Transcription kitを使用してsgRNAを転写し、MEGA clear kit(Life Technologies)によって精製した。Cas9 mRNA、Rbm20 sgRNAおよびRbm20R636Q変異を含有するssODNをマウスの前核および細胞質に注射した。妊娠させるためにマウス胚を代理雌親に移入した。F0世代の仔を順位付けし、陽性ファウンダーを野生型C57/BL6マウスと交配させた。F1世代のRbm20R636Qノックインマウスをシーケンシングによって同定した。尾のゲノムDNAを抽出し、ジェノタイピングに使用した。
【0283】
インビボでの全身AAV9送達。P5ホモ接合型(R636Q/R636Q)マウスに、超微細BDインスリンシリンジ(Becton Dickinson)を使用して、N末端およびC末端-ABEmax-VRQR-SpCas9-sgRNAを含有するAAV9の100μl(合計2.5×1014個のvg/kg)を腹腔内注射した。
【0284】
経胸壁心エコー検査。VisualSonics Vevo2100撮像システムを使用した2次元経胸壁心エコー検査によって心機能を評価した。短縮率、拡張終期での左心室内径(LVIDd)および収縮終期での左心室内径(LVIDs)を、Mモード投影を使用して測定した。測定はすべて、当研究に盲検の作業技師によって実施された。
【0285】
ゲノムDNAの抽出。DirectPCR溶解試薬(VIAGEN)を製造業者のプロトコルに従って使用して、iPSC、iPSC-CMおよびネズミ心臓のゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを、PrimeSTAR GXL DNAポリメラーゼ(TAKARA Bio)を製造業者のプロトコルに従って使用して増幅させた。PCR産物を配列決定し、EditRによって遺伝子編集効率について分析した。PCRプライマーを表1に列記する。
【0286】
RNA単離、RT-PCR、およびqRT-PCR。miRNeasy(Qiagen)を使用して、分化後40日目のiPSC-CMおよび注射の6週間後のネズミ心臓から全RNAを抽出し、iScript Reverse Transcription Supermix(Bio Rad Laboratories)を製造業者のプロトコルに従って使用してcDNAを逆転写した。RT-PCRのために、PrimeSTAR GXL DNAポリメラーゼ(TAKARA Bio)を使用してcDNAを増幅させた。qRT-PCRのために、KAPA SYBR FAST Master mix(KAPA)を使用して遺伝子発現を測定し、Ct法によって定量した。qRT-PCRの正規化のために、本発明者らは18sを使用した。RT-PCRおよびqRT-PCRプライマーを表1に列記する。
【0287】
RNA-seq解析。KAPA mRNA Hyper prep kit(Roche, KK8581)を製造業者のプロトコルに従って使用して、全RNAからのライブラリー調製を実施した。Illumina Nextseq 500システムでペアエンドシーケンシング用の75bpハイアウトプットシーケンシングキットを使用して、シーケンシングを実施した。品質およびアダプタートリミングにTrim Galore(ワールド・ワイド・ウェブ上のbioinformatics.babraham.ac.uk/projects/trim_galore/で利用可能)を使用した。RNAシーケンシングライブラリーの品質は、Bowtie(v2.3.4.3)(33)を使用して、ヒト転写物およびリボソームRNA配列(Ensemblリリース89)上にリードをマッピングすることによって推定した。STAR(v2.7.2b)(34)を用いて、ヒトゲノム(hg38)上にリードを整列させた。SAMtools(v1.9)(35)を用いて整列をソーティングし、HTSeq Python package(36)を用いて1遺伝子当たりのリードを計数した。edgeR R Bioconductor package(37~39)を使用してリード数を正規化し、発現変動(DE)遺伝子を同定した。DE遺伝子(正常と比較してホモ接合型で>2の倍率変化、調整済みp値<0.05)は、iPSC-CMまたはネズミ心臓を実験に使用して分析した。Metascape(40)を使用して遺伝子オントロジー(GO)解析を実施し、選択されたGOタームが示された。SpliceFisher(github.com/jiwoongbio/SpliceFisherで利用可能)を使用して、差次的な選択的スプライシング事象を同定し、PSI(パーセントスプライスイン)値を算出した。
【0288】
(表1)当研究で使用したプライマーの一覧
【0289】
実施例2-結果
RSリッチ領域中のRBM20R634Q変異(c.1901 G>A)は、グアニンからアデニンへのトランジションによって引き起こされ、これはアデニン塩基編集(ABE)に適している(19、20)(図1Aおよび1B)。この変異を正確に修正するためにABEを適合できるかどうかを調べるために、CRISPR-Cas9遺伝子編集を使用して、健常対照iPSCからヘテロ接合型(R634Q/+)およびホモ接合型(R634Q/R634Q)変異を有するヒト同質遺伝子人工多能性幹細胞(iPSC)株を作製した(図5Aおよび5B)。ABEの効率を評価するために、4つの単一ガイドRNA(sgRNA)(表2)を設計し、異なるSpCas9バリアントまたはSaCas9を発現するオールインワンABE8eベクターに各sgRNA(sgRNA 1~4)をサブクローニングした。最初に、各sgRNAを異なるABE8eバリアントと共に試験したところ、オンターゲット編集に加えて潜在的に有害なバイスタンダー変異が観察された(図6A~6C)。それゆえ、塩基エディターをより狭い編集ウィンドウを有するABEmaxに切り替えた。A6位にオンターゲット部位を有するsgRNA1とオールインワンABEmax-VRQR-SpCas9との併用(図1B)は、目立ったバイスタンダー変異の誘導なしに(<1%)、AからGへの高い編集効率(89%)を示した(図1C)。加えて、iPSCにおけるR634Q/+変異のABEmax-VRQR-SpCas9編集は、正常なRBM20アレルのパーセンテージを50%から91%に増加させた(図1D)。それゆえ、ABEmax-VRQR-SpCas9(以降、ABEと称される)をさらなる研究に選んだ。
【0290】
(表2)RBM20R634Q変異に対する塩基編集の単一ガイドRNA
【0291】
iPSCに由来する健常ヒトCM(iPSC-CM)では、RBM20は、主に核に局在していた(図1E)。対照的に、R634Q/R634Q iPSC-CMでは、RBM20は、細胞質RNP顆粒に局在していたが、R634Q/+iPSC-CMは、核と細胞質の両方に分散されたRBM20を示した(図1E)。RBM20R634Q変異を修正するために、ABEおよびsgRNA1を使用し、RBM20の核局在化、RNP顆粒形成がないこと、およびα-アクチニンによってマークされたサルコメア構造の正常なアーキテクチャが観察された(図1E)。
【0292】
RNP顆粒形成に加えて、RBM20の変異もRNAスプライシング欠陥を引き起こす。RBM20によって調節される遺伝子の選択的スプライシングを分析するために、正常、未修正およびABE修正されたR634Q/R634Q iPSC-CMに対してRNA-seq解析を実施した。ヒートマップ(図2A)に示しているように、未修正CMにおいて、心臓サルコメアおよびカルシウムシグナル伝達タンパク質、例えばTTN、ミオシン重鎖6(MYH6)、トロポニンT2(TNNT2)、ならびにカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIδ(CAMK2D)をコードする遺伝子を含めた15個の遺伝子が異常なスプライシングパターンを示した。TTNミススプライシングは、RBM20関連DCMの主な指標であるので、TTN遺伝子のスプライシングパターンを評価するために、パーセントスプライスイン(PSI)によりエクソンインクルージョン比を測定した(図7)。TTNの正常なスプライシングは、エクソン51~エクソン218を欠いているN2Bと呼ばれる強固なアイソフォームを産生する(図2B)。未修正のR634Q/R634Q iPSC-CMでは、エクソン51~218は、適正にスプライシングされずに、N2BAアイソフォームを生成した(図7)。このミススプライシングされたアイソフォームは、心臓の硬さを低下させ、DCMに導く。同様に、R634Q/+iPSC-CMはまた、正常iPSC-CMと比較して異常な選択的スプライシングパターンを示した(図7)。反対に、ABE修正されたiPSC-CMは、健常iPSC-CMのように正常なTTNスプライシングパターンを呈した(図7)。ABE修正されたiPSC-CMにおけるN2Bアイソフォームの発現はまた、qRT-PCR分析によっても検証された(図2C)。それゆえ、RBM20R634Q変異のABE修正は、適正なRNAスプライシングを回復させるのに有効であった。
【0293】
遺伝子発現およびカルシウムハンドリングの調節障害は、RBM20変異を有するCMにおいて見られる一般的な病原性表現型である。RBM20R634Q変異の転写結果およびABE遺伝子編集の効果を評価するために、正常、未修正およびABE修正されたR634Q/R634Q iPSC-CMに対してRNA-seqおよび遺伝子オントロジー(GO)解析を実施した(図8A~8C)。R634Q/R634Q iPSC-CMにおいてダウンレギュレーションされた遺伝子は、DCMの表現型と一致して、心筋症および横紋筋収縮に関係するカテゴリーを含んだ。R634Q/R634Q iPSC-CMにおいて見られた異常なトランスクリプトームは、iPSC-CMのABE編集後に回復した。ピークまでの時間および崩壊率(タウ)を含むカルシウムトランジェント動力学は、R634Q/+およびR634Q/R634Q iPSC-CMの両方で異常に上昇した(図9Aおよび9B)。ABE媒介修正後、R634Q/R634Q iPSC-CMは、健常対照iPSC-CMのものと似た正常なカルシウムトランジェント動力学を呈し(図9Aおよび9B)、このことは、カルシウム放出および再取り込みの回復を示している。可能性のあるオフターゲット編集を評価するために、上位8つの予測オフターゲット部位のゲノムDNAを配列決定し、潜在的なオフターゲット部位のいずれにおいても検出可能なゲノム変異は見つからなかった(図10Aおよび10B)。
【0294】
RBM20核局在化の回復およびRNP顆粒の排除が、適正な心機能に必要とされる。しかしながら、分化したCMから蓄積したRNP顆粒を根絶させることが効果的であるかどうかは不明であった。分化したiPSC-CMにおけるRNP顆粒の排除を確認するために、アデノ随伴ウイルス血清型-6(AAV6)およびトランス-スプライシングインテインシステム(21)を使用して、心臓トロポニンTプロモーター(cTnT)によって駆動されるABE成分を、分化したR634Q/R634Q CMに送達した(図11Aおよび11B)。ABE修正後、修正されたiPSC-CMは、ゲノムレベルで63%の編集効率を示した(図2Dおよび11C)。免疫細胞化学は、核でのRBM20の局在化および細胞質におけるRNP顆粒の排除を示した(図2E、2Fおよび11D)。これらの知見は、ABEが、RNP顆粒の形成を逆戻りさせることによって正常な心臓表現型を救済することを示している。
【0295】
インビボDCM治療のためのABEの可能性を評価するために、ヒトRBM20R634Q変異と類似したRbm20R636Q変異マウスモデルを作製した(図12A~12C)。心エコー検査により4週齢変異マウスにおいて心機能を測定した。ホモ接合型(R636Q/R636Q)マウスは、劇的に低下した短縮率(FS%)を示した(図3Aおよび3B)。拡張終期の間の左心室内径(LVIDd)および収縮終期の間の左心室内径(LVIDs)は、野生型(WT)マウスと比較して、R636Q/R636Qマウスにおいて実質的に増加した。ヘテロ接合型(R636Q/+)マウスは、軽度の心機能障害を実証した(図3Aおよび3B)。12週齢のR636Q/R636Qマウスの心臓は、心房および心室の拡張を含めDCMと一致した形態学的特徴を示した(図3C)。したがって、R636Q/R636Qマウスは、RBM20R634Q変異を保有するDCM患者の表現型を再現する。
【0296】
R636Q/R636Q変異マウスモデルは、ABEによるRBM20R634Q変異のインビボ修正の評価を可能にした。マウスにおけるABE修正では、標的のアデニンはsgRNA中のA6位に位置し、考えられるバイスタンダー変異はA14およびA20に、サイレント変異はA4、A13およびA19に見られる(図13A)。ABE成分を、出生後5日目のマウスに、AAV9の腹腔内注射によりAAV毎に1.25×1014個のvg/kgの用量(合計2.5×1014個のvg/kg)で投与した(図13B)。ABE媒介修正がインビボで効果的であるかどうかを確認するために、DNA編集効率を心臓において評価した。AAVによるABE成分の投与の6週間後、標的のアデニンの15%がDNA編集を受けた(図14A)。心臓の細胞の最大3分の2を含む内皮細胞および心臓線維芽細胞などの他の細胞型は、心臓特異的TnTプロモーターの制御下で発現されるABE成分によって編集されないため、ゲノムINDEL解析は、ABE編集効率を低く見積もる。それゆえ、ABE遺伝子編集をcDNAレベルでさらに評価し、RBM20 cDNA転写物の71%が正確に修正されたことが判明した(図4A、14B、および14C)。
【0297】
ABE修正後の心機能を評価するために、ABE遺伝子編集成分の全身送達の4週間および8週間後にR636Q/R636Qマウスにおいて心エコー検査を実施した。未修正のR636Q/R636Qマウスは、2~3月齢で重度の心不全および早死を示した。対照的に、全身ABE成分を受けたR636Q/R636Qマウスは、短縮率による測定でLV機能の実質的な改善を示した(図4Bおよび15)。加えて、心腔サイズも部分的に救済された(図4B)。AAV9投与の12週間後のABE修正されたR636Q/R636Q心臓の組織学的分析は、心臓拡張からの回復を示した一方で、未処置心臓は心房および心室拡大を明らかにした(図4C)。組織学的評価は、処置したR636Q/R636Qマウスにおいて左心室筋の顕著な線維化がないことを明らかにした(図16Aおよび16B)。重要なことに、ABE編集成分の全身送達はまた、修正されたR636Q/R636Qマウスの生存期間を顕著に延長した(図4D)。
【0298】
心機能の回復がRBM20の機能回復に起因するかどうかを判定するために、インビボでRBM20の局在化を評価した。WTマウスでは、RBM20は、核に局在し、RNP顆粒の形成がなかった(図4E)。対照的に、R636Q/R636QマウスのCMは、R634Q/R634Q iPSC-CMと同様に核周囲領域にRNP顆粒を示した。R636Q/R636QマウスのABE媒介修正は、免疫組織化学によって評価されたように、核へのRBM20局在化を回復させ、RNP顆粒を排除した(図4E)。次に、全身ABE遺伝子編集後のR636Q/R636QマウスにおいてTtnのスプライシングパターンを評価した。qRT-PCR分析は、R636Q/R636Qマウスにおいて強固なN2Bアイソフォームの低減および柔軟なN2BAアイソフォームの増加を示した(図17Aおよび17B)。反対に、ABE修正されたR636Q/R636Q心臓は、N2Bアイソフォームの部分的な回復(68%)およびN2BAアイソフォームの低減(63%)を示した(図17Aおよび17B)。
【0299】
ABE遺伝子編集がR636Q/R636Qマウスにおいて遺伝子発現を正常化するかどうかを判定するために、RNA-seq解析を実施した。ABE遺伝子編集は、修正されたR636Q/R636Qマウスの転写プロファイルを救済した一方で、R636Q/R636Qマウスは、心臓収縮および細胞外マトリックスを含め、変更された遺伝子発現およびGOタームを示した(図18A~18C)。これらの知見は、ABE遺伝子編集が、炎症および細胞損傷などの有害事象を誘導することなく心臓を保護することを実証している。
【0300】
RBM20R634Q変異のABE遺伝子編集の高効率にもかかわらず、BEは、制限された編集ウィンドウ、不必要なバイスタンダー編集、およびいくつかの標的ヌクレオチド近くの適正なPAM配列の欠如のために、すべてのRBM20変異を修正することができない。これらの制限を克服するために、p.R636S(c.1906 C>A)変異に対してプライム編集(PE)戦略を開発した。PEシステムは、逆転写酵素に融合されたCas9ニッカーゼとゲノム中の標的部位での目的配列の組み込みを可能にするプライマー結合部位(PBS)および逆転写(RT)テンプレートを含有するプライム編集ガイドRNA(pegRNA)とを含む(22)。最近の研究は、分解から3'伸長を保護するためにさらなるRNAモチーフを有する操作されたpegRNA(epegRNA)が、プライムエディターの新たなバリアント(PEmax)との組み合わせで、PE効率を改善することを報告した(23、24)。pegRNAを設計して、PBS長を11ntに、RTテンプレート長を17ntにした(図19A)。編集効率を最適化するために、PE3bシステムのためにニッキングsgRNAを選び、構造化RNAモチーフを挿入することによってepegRNAを創出した。PEの効率を評価するために、ホモ接合型RBM20R636S(R636S/R636S)変異を有する同質遺伝子iPSC株を作製した。epegRNAと組み合わせたPE3bmaxは、意図しないゲノム編集を伴うことなく、AからCへの編集を効率40%でもたらした(図19Bおよび19C)。未修正のR636S/R636S iPSC-CMの細胞質中にRNP顆粒が検出されたが、PE修正されたiPSC-CMでは核局在化の正常パターンが観察された(図19D)。
【0301】
本明細書において開示および主張される方法はすべて、本開示に照らし、過度な実験を行うことなく作製および実行することができる。本発明の組成物および方法は、好ましい態様に関して記載しているが、当業者には、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される方法に、および方法の工程または工程の順序において変更を加えることができることは明らかである。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連するある特定の作用物質が、本明細書に記載される作用物質に代わりに用いられても、同様のまたは類似の結果が達成されることは明らかである。当業者に明らかなそのような類似の代用物および変更物はすべて、添付の特許請求の範囲により定義される発明の趣旨、範囲および概念の範囲内にあるものと見なされる。
【0302】
参考文献
以下の参考文献は、これらが、例示的な手順または本明細書に示されるものを補完する他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
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【配列表】
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【国際調査報告】