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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】マグネットシステム
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/3815 20060101AFI20240730BHJP
   H01F 7/20 20060101ALI20240730BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20240730BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G01R33/3815
H01F7/20 C ZAA
H01F6/06
A61B5/055 331
A61B5/055 332
G01N24/00 600C
G01N24/00 610Y
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580784
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 GB2022051665
(87)【国際公開番号】W WO2023275540
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】2109447.9
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507329985
【氏名又は名称】オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーニー アンドリュー ジョン
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB32
4C096AD08
4C096CA02
4C096CA15
4C096CA23
(57)【要約】
標的領域において均一磁場を発生させるためのマグネットシステムが提供される。マグネットシステムは、中心軸を定めるように巻かれた低温超電導(LTS)材料から形成された第1のマグネットであって、第1のマグネットは、使用時に中心軸上に位置する標的領域において第1の磁場を発生するように配置され、第1の磁場が第1のレベルの均一性を有する、第1のマグネットと、高温超電導(HTS)材料から形成され、使用時に標的領域において第2の磁場を発生するように配置された第2のマグネットであって、第2の磁場は第2のレベルの均一性を有する、第2のマグネットと、を備える。第1の磁場の第1のレベルの均一性は最大10ppmであり、第2の磁場の第2のレベルの均一性は最大10ppmであり、標的領域における第1及び第2の磁場の組み合わせは、使用時に最大10ppmの均一性を有する結果として生じる磁場を発生させ、第1のマグネット及び第2のマグネットは独立した電流回路である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的領域において均一磁場を発生させるためのマグネットシステムであって、
低温超電導(LTS)材料から形成され且つ中心軸を定めるように形成された第1のマグネットであって、前記第1のマグネットは、使用時に前記中心軸上に位置する前記標的領域において第1の磁場を発生するように配置され、前記第1の磁場は、第1のレベルの均一性を有する、第1のマグネットと、
高温超電導(HTS)材料から形成され、使用時に前記標的領域において第2の磁場を発生するように配置された第2のマグネットであって、前記第2の磁場は第2のレベルの均一性を有する、第2のマグネットと、
を備え、
前記第1の磁場の第1のレベルの均一性は最大10ppmであり、前記第2の磁場の第2のレベルの均一性は最大10ppmであり、前記標的領域における前記第1の磁場及び前記第2の磁場の組み合わせは、使用時に最大10ppmの結果として生じる均一性を有する結果として生じる磁場を生成し、前記第1のマグネット及び前記第2のマグネットは独立した電流回路である、マグネットシステム。
【請求項2】
前記第1のレベルの均一性は最大1ppmであり、前記第2のレベルの均一性レベルは最大1ppmであり、前記結果として生じる均一性は最大1ppmである、請求項1に記載のマグネットシステム。
【請求項3】
前記第1のマグネットに第1の電流を供給し且つ前記第2のマグネットに第2の電流を供給するように配置された制御システムを更に備え、前記第1の電流及び前記第2の電流が、互いに独立して制御される、請求項1又は2に記載のマグネットシステム。
【請求項4】
使用時に前記第1のマグネットに電力を供給するように配置された第1の電源と、使用時に前記第2のマグネットに電力を供給するように配置された第2の電源と、を更に備え、前記第1の電源及び前記第2の電源が互いに独立している、請求項1~3の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項5】
前記第1のマグネットは、第1の補償ソレノイドマグネットを含む、請求項1~4の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項6】
前記第1の補償ソレノイドマグネットは、少なくとも1つのソレノイドと、第1の補償コイルのセットと、を含み、前記第1の補償コイルのセットは、使用時に前記少なくとも1つのソレノイドを補償するように配置される、請求項5に記載のマグネットシステム。
【請求項7】
前記第2のマグネットが、コイルのセットを含む、請求項1~6の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項8】
前記第2のマグネットが、前記中心軸上に配置されたコイルのセットを含む、請求項7に記載のマグネットシステム。
【請求項9】
前記第2のマグネットが、少なくとも1つのソレノイド及び使用時に前記少なくとも1つのソレノイドに補償を提供するように作動する第2の補償コイルのセットを含む第2の補償ソレノイドマグネットを備え、
前記第2の補償コイルのセットが次式:
に従って配置され、
ここで、r0は前記少なくとも1つのソレノイドの内側半径であり、rpはそれぞれの補償コイルの中心の半径であり、zpは前記補償コイルの中心の軸方向位置である、
請求項1~8の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項10】
前記第2の補償コイルのセットは、
に従って配置される、請求項9に記載のマグネットシステム。
【請求項11】
前記第2の補償ソレノイドマグネットの前記少なくとも1つのソレノイドは、前記標的領域から軸方向に対称に離れるように軸中心から延びる一次ソレノイドコイルを含み、前記第2の補償コイルのセットは、パンケーキコイルであり、前記一次ソレノイドコイルの軸方向端部にて前記一次ソレノイドコイルに隣接して配置される、請求項9又は10に記載のマグネットシステム。
【請求項12】
0は前記一次ソレノイドコイルの内側半径である、請求項11に記載のマグネットシステム。
【請求項13】
前記第2の補償ソレノイドマグネットの前記少なくとも1つのソレノイドが、前記一次ソレノイドコイルに対して前記中心軸上に同軸状に且つ前記一次ソレノイドコイルの半径方向内側に配置された二次ソレノイドコイルを含む、請求項9~12の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項14】
前記第2の補償コイルは、前記一次ソレノイドコイルと少なくとも部分的に半径方向の重なりを有して前記一次ソレノイドコイルの各端部の軸方向外側に配置された補償コイル及び/又は前記一次ソレノイドコイルの各軸方向端部において前記一次ソレノイドコイルの半径方向外側に配置された補償コイルを含む、請求項9~13の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項15】
前記第2の補償コイルの各々は、前記一次ソレノイドコイルに対して順方向に巻かれている、請求項9~14の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項16】
標的領域において均一磁場を発生させるためのマグネットシステムであって、
中心軸の周りに円筒形状の超電導材料から形成された第1のマグネットであって、使用時に前記中心軸上に位置する前記標的領域において第1の磁場を発生するように配置された第1のマグネットと、
使用時に前記第1の磁場の均一性を提供するように動作される補償コイルのセットと、
を備え、
前記第1のマグネットは、前記標的領域から軸方向に対称的に離れて軸中心から延び、前記補償コイルのセットが、次式
に従って配置され、ここで、r0は、前記第1のマグネットの内側半径であり、rpはそれぞれのパンケーキコイルの中心の半径であり、zpは前記パンケーキコイルの前記中心の軸方向位置である、マグネットシステム。
【請求項17】
前記補償コイルのセットは、前記第1のマグネットの軸方向端部において前記第1のマグネットに隣接して配置されている、請求項16に記載のマグネットシステム。
【請求項18】
前記補償コイルは、前記第1のマグネットと少なくとも部分的に半径方向で重なりを有して前記第1のマグネットの各端部の軸方向外側に位置する補償コイル及び/又は前記第1のマグネットの各軸方向端部において前記第1のマグネットの半径方向外側に位置する補償コイルを含む、請求項17に記載のマグネットシステム。
【請求項19】
前記第1のマグネットに対して前記中心軸上に同軸状に配置され且つ前記第1のマグネットの半径方向内側に配置された第2のマグネットを更に備える、請求項16~18の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項20】
前記第1のマグネットは一次ソレノイドコイルであり及び/又は前記第2のマグネットは第2のソレノイドコイルである、請求項19に記載のマグネットシステム。
【請求項21】
第2の補償コイルの各々は、前記一次ソレノイドコイルに対して順方向に巻かれている、請求項16~20の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、核磁気共鳴(NMR)に使用可能な超電導マグネットシステムのようなマグネットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々なNMRモダリティにおいて、均一性の高い磁場を得ることが望ましい。これは、磁気共鳴イメージング(MRI)を含み、特にNMR分光法に関連する。
【0003】
NMR分光法では、分子構造などの試料に関する化学情報を測定することが可能である。このNMR測定プロセスは、標的領域を含むワーキングボリューム内に高強度で一様な(均一とも呼ばれる)の磁場を発生させることによって達成され、このワーキングボリュームは、典型的にはNMRデバイスのボアである。
【0004】
試料を分析するために、試料は標的領域に置かれ、その後RF照射を受けて、特定の原子核のスピンを歳差運動させる。RF照射を取り除くと、スピンは静止状態に戻り、その歳差運動周波数をモニターすることができることで、構造情報等を示すことができる。例えば、化学構造の正確な測定値を得るためには、標的領域内に高度に均一な磁場が必要とされる。
【0005】
NMRデバイス用のマグネットシステムは、典型的には、使用時に極低温(例えば100ケルビン(K)未満)に保持された超電導マグネット配置を含む。超電導マグネットは、典型的には、試料を位置決めするためのワーキングボリュームが配置される中心軸を有するボアを定めるソレノイドとして形成される。無限長ソレノイドであれば、標的領域に完全に均一な磁場を作り出すことにある。しかしながら、このようなソレノイドは、実際には製造することができないので、標的領域における磁場の均一性を改善するために、ソレノイドからの何らかの末端効果、特に末端効果を補正するため補償コイルを中心軸の周りに巻くことができる。
【0006】
補償コイル(当技術分野では「ギャレットコイル」とも呼ばれることがある)は、典型的にはマグネットと直列に巻かれ、ソレノイド又はパンケーキコイルの形態をとることができる。これらは、通常、無限長にできないマグネットの設計から生じる磁場の不均一性を補正するために配置される。高分解能NMRのような用途では、ソレノイドマグネット単独では、典型的には、補正コイルを用いても、例えば、設計と比較して製造プロセス中に生じる偏差に起因して、所望のレベルの均一性をもたらさない。また、マグネットシステムの使用中、例えば磁場の環境変動に起因する均一性のシフトに対応することができない。従って、典型的には、超電導ワイヤから構成された超電導シムコイル、強磁性材料を使用したパッシブシム、及び銅線材から巻かれた常温シムコイルなど、不均一性の発生源を補正するための追加手段が使用されている。
【0007】
巨大タンパク質の構造的機能的研究等の用途において高感度NMRに望まれる約23.5テスラ(T)を上回る磁場強度のような超高磁場強度を達成するためには、低温超電導(LTS)マグネットと高温超電導(HTS)マグネットの組み合わせが必要である。しかしながら、1つには材料費の高さ(及び層巻線の場合、巻線自体内に継ぎ目を構築する必要性を避けながら、より長い材料長を利用できること)に起因して、HTSソレノイドコイルは短くなる傾向があり、また、高電流密度で動作する。従って、補償がされなければ、そのサイズに対して比較的多大な不均一性を発生する。
【0008】
LTSコイルは、HTS及びLTSマグネットの組み合わせ全体の不均一性を補償するように設計することができる。つまり、HTSコイル及びLTSコイルは、別個のユニットとして不均一性なままである。不均一性が残っていると、LTSコイルと比較してHTSコイルの軸方向のオフセットが極めて小さく(例えば約0.1ミリメートル、mm)なり、中心場の不均一性が適切な限度外になる可能性がある。更に、HTSコイル及びLTSコイルを異なる電流で運転する場合(調査のため及び/又は材料の異なる特性を最も有効に利用するため)、電流が一定の比率で保持されない限り、均一性は中心磁場が変化するにつれて大きく変化することになる。このことはまた、HTSマグネット又はLTSマグネットの動作電流の変化(例えば、電源変動に起因する)が、中心磁場値と同様にマグネットの均一性の変化をもたらすことを意味し、中心磁場の変化を補償する従来の手段(例えば、「NMRロック」)は、中心磁場値と同様に磁場の均一性が大きく変化している場合に実施することがはるかに困難になる可能性がある。更に、補償コイルは、発生する放射状場に起因して高い軸方向力及び圧力を示す傾向があり、このことは、特にマグネットの高磁場領域では、このような力によって誘起される移動に起因するクエンチングにつながる可能性がある。しかしながら、HTS材料で作られたコイルは、この後者の結果に対してはるかに堅牢であることが期待される。
【0009】
更に、パンケーキコイル単独で作られたHTSマグネットは、本質的に電流密度が非一様になる。このため、理論的設計と比較して電流密度の偏差の影響に起因して、従来のNMR用途に使用することが極めて難しくなる。これは、1つには、このような構造における電流の流れ方に起因し、また1つには、製造公差に起因する。
【0010】
これらの問題を参酌すると、より正確で高分解能のNMRデータを得るためには、標的領域における磁場の均一性と均一性の安定性を更に高めることが望まれる。
【発明の概要】
【0011】
第1の態様によれば、標的領域において均一磁場を発生させるための(すなわち、適した)マグネットシステムが提供され、マグネットシステムは、低温超電導(LTS)材料から形成され且つ中心軸を定めるように形成(巻かれるなど)された第1のマグネットであって、第1のマグネットは、使用時に中心軸上に位置する標的領域において第1の磁場を発生するように配置され、第1の磁場は第1のレベルの均一性を有する、第1のマグネットと、高温超電導(HTS)材料から形成され、使用時に標的領域において第2の磁場を発生するように配置される第2のマグネットであって、第2の磁場は第2のレベルの均一性を有する、第2のマグネットと、を備え、第1の磁場の第1のレベルの均一性は最大10ppmであり、第2の磁場の第2のレベルの均一性は最大10ppmであり、標的領域における第1及び第2の磁場の組み合わせは、使用時に最大10ppmの結果として生じる均一性を有する結果として生じる磁場を生成し、第1のマグネット及び第2のマグネットは独立した電流回路である。
【0012】
発明者らは、マグネットシステムをこのように構成することにより、第1及び第2の超電導マグネットの一方又は他方に不均一性の原因(マグネットのオフセット又はマグネットの電流変動等)がある場合でも、結果として生じる均一性を所望のパラメータ内に保持できることを見出した。これは、第1の超電導マグネット及び第2の超電導マグネットのそれぞれの不均一性を補正する(すなわち、特定の均一性レベルまで達成する)ことによって達成される。
【0013】
この配置なしでは、2つの超電導マグネットを別個の電流回路として稼働した場合、各々の超電導マグネットが標的領域での全体の不均一性(結果として生じる均一性)に寄与することになる。この結果、全不均一性は、第1及び第2の超電導マグネットそれぞれの不均一性の比例和となる。
【0014】
このような状況では、2つの超電導マグネットのうちの一方の不均一性を補正する必要がある。このことは、2つの超電導マグネットの一方と直列に接続され、これによりそれぞれの1つの超電導マグネットと同じ電流回路で稼働される補正コイルを適用することによって達成される。この原理を利用することで、2つの超電導マグネットの一方の不均一性が、他方の超電導マグネットの不均一性を相殺するように設計され、結果として生じる均一性レベルの仕様を満たすようにされる。同様の状況で、同じ電流回路の一部を形成しているなど、複数の超電導マグネットが(電気的に)直列に接続された場合、超電導マグネットの1つのマグネットの均一性に適用される又は均一性に影響を与える何らかの変更は、複数の超電導マグネットの他の超電導マグネットの各々の均一性に波及効果を有する。
【0015】
第1の態様によるマグネットシステムとは異なり、2つの超電導マグネットのうちの1つの超電導マグネットの結果として生じる均一性への寄与にばらつきがある場合、組立体全体の不均一性は、もはや完全に又は同程度には補正されない。このような変動の原因は、例えば、相対的オフセット又は超電導マグネットの少なくとも一方の動作電流の変化に起因するものとすることができる。補正が完全なものでなくなる理由は、相殺がもはや完全でなくなるか、又は完全であることができなくなるためである。しかしながら、発明者らが発見したことを適用しなければ、このような補正の程度の変化などを低減することはできない。
【0016】
代わりに、第1の態様による配置を採用することにより、マグネットの移動又は動作電流の変化によって生じる変化など、均一性を変えることになる変化は、その変化が生じるマグネットの均一性に影響を与えないか、又はその変化が生じるマグネットの均一性にのみ影響を与える。従って、例えば結果として生じる磁場の均一性への影響は、著しく制限される。従って、これにより、非独立の均一性を有するマグネットシステムにおいて、均一性が相互依存する場合に許容できない全体的な均一性レベルを生じるような不均一性の原因が低減される。このように、マグネットの全体的な均一性が改善され、マグネットシステムは、不均一性の原因に対してより強くなる。
【0017】
標的領域は、約0.5センチメートル(cm)直径の球形体積(dsv)から、1センチメートルdsvなどの約2センチメートルdsvのサイズを有することができる。標的領域は、典型的には、第1のマグネット(及び典型的には第2のマグネット)の幾何学的中心である中心軸の中心点を中心とすることができる。本明細書で呼ばれる均一性は、典型的には、球状標的領域内の磁場(一次磁場方向である)のz成分(すなわちBz)の磁場強度の、当該領域の中心における磁場に対する変動を考慮することによって測定される。例えば、標的領域内で最大10ppmの均一性を有する磁場は、標的領域内の何れかの位置において10ppm未満だけ変化するBz成分を有する(すなわち、標的領域内の最大磁場と標的領域内の最小磁場との間の差が、当該領域の原点における磁場値の10ppm未満である)。
【0018】
ある領域(標的領域など)にわたる磁場の変動は、球面調和関数の観点から分析することができる。当該領域内の何れかの点における磁場は、その成分の和である。更に、当該領域(例えば上記で言及した10ppm)にわたる全体の均一性は、当該領域内の最大変動によって定義される。磁場の各成分(すなわち球面調和関数)は、均一性に対し異なる寄与をする。Z2成分を例にとると、これは、軸に沿った距離の2乗として変化するので、+1cmと-1cmで同じ値になる。1cm dsvを考慮すると、この成分の最大値は+/-0.5cmとなり、Z2が不均一性に対する唯一の寄与であった場合、4ppm/cm2のZ2(各成分はppm/cmnの単位を有し、ここでnは成分の球面調和次数である)は、1cm dsvにわたって1ppmの値に対応する。
【0019】
均一性の値は、正の値又は負の値として定めることができるが、上記の第1のレベルの均一性及び/又は第2のレベルの均一性及び/又は結果として生じる均一性は、絶対値であると考えることができる。従って、これらは、1つ、2つ又は3つの記載された均一性の各々について正又は負の10ppmのように、記載されたレベルに対する正及び負の均一性を包含することを意図している。均一性又は球面調和値が負であると具体的に記載されている場合、又は負であると記載されている均一性と同じ関連で記載されている場合を除き、本明細書に開示された全ての均一性は、絶対値として考えることができ、従って、記載されたレベルの正及び負の均一性を包含することを意図している。この一環として、ppmの均一性については、数値が小さい(すなわちゼロに近い)ほど、均一性が優れていると理解できる。このように、±1ppmの均一性は、±10ppmの均一性よりも優れており、ひいては±100ppmの均一性よりも優れている。従って、記載された均一性値に関して「最大」という用語は、均一性がゼロを含めてゼロから、記載された均一性値を含めて均一性値までの範囲に存在できることを意味する。
【0020】
「LTS材料」という用語は、工学的臨界電流密度100アンペア/平方ミリメートル(A/mm2)において、4.2Kで最大でも約22Tまでの最大磁場強度を可能にする超電導材料を意味する。これは、ニオブ-チタン(NbTi)及びニオブ-スズ(Nb3Sn)等の材料を含む。LTS材料は、4.2K未満でこれらを動作させることにより、性能のある程度の増強を提供することができる。しかしながら、NbTi及びNb3Snの場合、これは、最大磁場強度の限界を約2~2.5T引き上げるだけである。Nb3Snの工学的臨界電流密度は、約20Tを超える磁場強度で急激に低下し、この材料は、約20Tを超えると効率が大幅に低下し、4.2Kでは約23.5Tを超えて使用できなくなる。
【0021】
「HTS材料」という用語は、30Tを超え、40Tでも(及び約4.2K以下の温度で、典型的には8K、20K、77K又は90Kのような約4.2Kを超える温度で)名目上使用可能な超電導特性を示す超電導材料を意味することを意図している。このような材料としては、希土類バリウム銅酸化物(REBCO)及びビスマスストロンチウムカルシウム銅酸化物(BSCCO、例えばBSCCO 2212又はBSCCO 2223)が挙げられる。
【0022】
上記から分かるように、HTS材料はLTS材料と比較して高い臨界磁場を有するので、第2マグネットがHTS材料で形成されることにより、標的領域でより高い磁場を発生させることが可能となる。これは、現在の技術で、約20Tをはるかに超える磁場強度(例えば23.5Tを超える)を発生できる使用可能なマグネットシステムを提供するために、HTS材料が必要とされることによる。しかしながら、これはLTS材料よりも桁違いに高価であるので、マグネットシステムは典型的にはハイブリッド型となり、最初の15T~20TはLTS巻線によって供給される。
【0023】
HTS材料は、LTS材料よりも高い温度で超電導を維持するが、典型的には、第1及び第2のマグネットを共通の温度で使用するのが最も便利である。従って、第1及び第2のマグネットは、使用時に第1及び第2のマグネットを共通の温度まで冷却するように構成されたデュワー等の同じ極低温ベッセル内に収容することができる。典型的には、極低温ベッセルは液体ヘリウムで満たされ、使用時に第1及び第2のマグネットを約4K(4.2Kなど)まで冷却する。しかしながら、第1及び/又は第2のマグネットを冷却するために、パルス管冷凍機のような無冷媒冷凍機を使用することもできる。
【0024】
「独立電流回路」という用語は、別個の回路であり、従って、これらの間の回路の一部としての接合又は物理的接続を有していない回路を意味するものとする。このように、独立した電流回路は、(互いに)非接合とすることができる。このことは、例えば一方の回路が他方の回路によって誘導充電可能であること、又は電流回路の独立性を維持できる電圧分配器等の何らかの機構がある限り、各回路に同じ電源を使用することを妨げるものではない。
【0025】
「オフセット」という用語は、均一性の変化又は不均一性を増大させる原因について議論する場合に用いられる。「オフセット」という用語は、コイル、マグネット又はマグネットの一部が、配置されるように設計された位置に対して及び/又は更なるコイル、マグネット又はマグネットの一部に対して移動又は誤配置されることを意味する。例えば、コイルの約1mm又は0.5mmの軸方向オフセットとは、コイル及び/又はマグネット又はマグネットシステムの中心軸と同軸状に沿った方向のコイルの意図された位置からの移動又は位置決めのことであり、使用時にコイルが受ける力に起因する物理的な移動、又は何らかの他の理由による移動、又は組み立て中に(不注意に)誤って位置決めされたことによる移動の何れかである。このようなオフセットは、製造公差、組み立て技術、又は前述のようにコイルが受ける力の結果とすることができる。
【0026】
第1のマグネットは、標的領域において最大1ppmの均一性を有することができる。更に又は代替的に、第2のマグネットは、標的領域において最大1ppmの均一性を有することができる。第1及び第2のマグネットの各々が最大1ppmの均一性を有する場合、結果として生じる磁場は最大1ppmの均一性を有することができる。このように、典型的には、第1のレベルの均一性は最大1ppmとすることができ、第2のレベルの均一性は最大1ppmとすることができ、結果として生じる均一性は最大1ppmとすることができる。これにより、マグネットシステムは、NMR用途での使用に好適にすることができ、結果として生じる磁場の正確な全均一性は、典型的には、第1及び第2のマグネットからの相対的な結果として生じる磁場寄与に依存する。
【0027】
第1のマグネット及び第2のマグネットがそれぞれ完全に均一であるような「完全な」システムにおける比較として、何れかのマグネットの位置又は電流の変化の影響は、組み合わされたマグネットの均一性にゼロの影響を与えることになる。本明細書に開示された態様によるマグネットシステムの目的は、この完全な解に実用的に限りなく近いものを達成することである。日常的な実用性を考慮すると、現実的には、これは、このようなマグネットシステムが用途に適しているために必要な変化を制限することを意味する(例えば、1ppm又は10ppmの均一性限界まで)。
【0028】
マグネットシステムは、第1のマグネットに第1の電流を供給し、第2のマグネットに第2の電流を供給し、第1及び第2の電流が互いに独立して制御されるように配置された制御システムを更に含むことができる。これにより、独立した電流回路に別々の電流を供給する手段と、第1のマグネット及び第2のマグネットの各々に供給される電流を制御する能力が提供される。
【0029】
マグネットシステムは、独立した電流回路を提供するために、第1のマグネット及び第2のマグネットの各々が並列に接続される単一の電源を(のみ)有することができる。上記で言及したように、これは電圧分配器を使用して達成することができる。或いは、単一の電源を第1又は第2のマグネットの一方のみ(第1のマグネットなど)に接続することができ、使用時に、独立した電流回路を維持しながら第2のマグネットを誘導充電するように配置することができる。しかしながら、典型的には、マグネットシステムは、使用時に第1のマグネットに電力を供給するように配置される第1の電源と、使用時に第2のマグネットに電力を供給するように配置される第2の電源とを更に含むことができ、第1の電源及び第2の電源は互いに独立している。これにより、独立した電流回路が更に互いに分離され、各電流回路の独立した制御が容易になり、第1マグネット及び第2マグネット間の意図しない結合が低減される。
【0030】
第1のマグネットは、バルク超電導体又は様々なマグネット幾何形状を含むことができる。典型的には、第1のマグネットは巻線マグネットである。このように、第1のマグネットは、第1の補償ソレノイドマグネットを含むことができる。これにより、第1のマグネットの均一性の精度及び予測可能性を高めることができる。
【0031】
第1のマグネットは、中心軸の周り(及びボアの外側)に巻かれた超電導材料から形成された複数のソレノイドを含むことができ、各ソレノイドは、それぞれの半径方向位置に配置される。第1のマグネットの最も外側のソレノイドは、NbTiから形成することができる。NbTiは、Nb3Sn及びHTS材料よりも比較的脆弱ではなく、著しく安価であるため、中心軸から半径方向に離れたマグネットシステムの低磁場領域において望ましい。
【0032】
第1のマグネットは、例えば、層巻きソレノイドのような1又は2以上のソレノイドの使用に純粋に基づき、適切な均一性を有するように設計することができる。典型的には、第1の補償ソレノイドマグネットは、少なくとも1つのソレノイド及び第1の補償コイルのセットを含み、第1の補償コイルのセットは、使用時に少なくとも1つのソレノイドを補償するように配置される。
【0033】
従って、このような補償コイルは、第1のマグネットの設計及び構造(すなわち、無限に長いソレノイドでないことによる)から生じる標的領域における磁場の不均一性を補正するために設けることができる。
【0034】
例えば、第1のマグネットは、第1のソレノイドと電気的に直列に接続された第1の補償コイルのペアを有することができる。補償コイルの第1のペアは、第1のソレノイドを下回る中心軸からの半径方向位置に配置することができる。
【0035】
第1のソレノイド及び第1の補償コイルのペアは、Nb3Snから形成することができる。Nb3Snは、高磁束密度で超電導を維持できる能力があるので望ましい。従って、補償コイルは、マグネットシステムの高磁場領域で使用することができる。
【0036】
第2のマグネットは、バルク超電導体、強磁性材料、抵抗性電磁石、又は超電導ワイヤ若しくはテープのような、任意の適切な磁気形状であるか、又は任意の適切な磁気形状を含むことができる。典型的には、第2のマグネットは、中心軸上(及び典型的にはボアの外側)に配置されたコイルのセットなどのコイルのセットを含み、各コイルは、それぞれの半径方向位置に配置することができる。コイルのセットは、1又は2以上のソレノイド及び/又は1又は2以上のパンケーキコイルとすることができる。ソレノイドは、層巻きソレノイドとすることができる。コイルのセットを使用することにより、第2のマグネットの均一性の精度及び予測可能性がより高くなる。
【0037】
第2のマグネットは、第1のマグネットに対して中心軸上で同軸状に、及び第1のマグネットの半径方向内側に配置することができる。これにより、マグネットシステムの全体のサイズを最小化し、標的領域における結果として生じる磁場への寄与を可能な限り大きくすることができる。
【0038】
第2のマグネットは、少なくとも1つのソレノイド及び少なくとも1つのソレノイドに補償を提供するように使用時に動作される第2の補償コイルのセットを含む、第2の補償ソレノイドマグネットを含むことができ、第2の補償コイルのセットは次式:
に従って配置され、ここで、r0は少なくとも1つのソレノイドの内側半径であり、rpは(第2の補償コイルのセットの)それぞれの補償コイルの中心の半径であり、zpは前記補償コイルの中心の軸方向位置である。典型的には、第2の補償コイルのセットは、第2のマグネットの電流回路の一部として(電気的に)直列に接続される。これにより、少なくとも1つのソレノイドによって生成可能な磁場の不均一性を補償することができる。従って、このような補償コイルは、第2のマグネットの設計から生じる標的領域での磁場の不均一性を補正するために設けることができる。
【0039】
第2の補償コイルのセットは、次式:
に従って配置することができる。
【0040】
第2の補償ソレノイドマグネットの少なくとも1つのソレノイドは、標的領域から軸方向に対称に離れるように軸中心から延びる第1の(層巻き)ソレノイドコイルを含むことができ、第2の補償コイルのセットはパンケーキコイルであり、一次ソレノイドコイルの軸方向端部に一次ソレノイドコイル隣に接して配置される。この場合、r0は一次ソレノイドコイルの内側半径とすることができる。
【0041】
パンケーキコイルのみで構成されたコイルセットは、本質的に電流密度が不均一になるため、例えば、理論設計と比較して電流密度の偏差の影響に起因して従来のNMR用途に使用することは極めて難しくなる。これは、1つにはこのような構造における電流の流れ方に起因し、また1つには製造公差に起因する。しかしながら、マグネットの標的領域にて見られるこれらの影響の大きさは、中心から離れるにつれて急激に小さくなる。従って、記載の配置は、技術的に困難で高価な層巻きHTS補償コイルを使用する必要なく、所望の均一性を有する補償された第2のマグネットを提供する簡単な手段を提供する。
【0042】
パンケーキコイルは、当該技術分野において知られており、導体が原点の周りに共通の平面に沿って外側に螺旋状に巻かれる場合に生じる。この場合、原点は、マグネットシステムの中心軸に沿って配置され、平面は中心軸に垂直である。原理的には単一のパンケーキコイルのみを使用することができるが、実際にはマグネットの軸方向に沿って複数のパンケーキコイルを積層することができる。例えば、2つのパンケーキコイルをスタックすると「ダブルパンケーキ」を形成する。これは、1つのパンケーキの外側から第2のパンケーキコイルの最も内側の位置まで螺旋状の導体が巻かれ、そこから半径方向外側に導体が巻かれ、第2のパンケーキは第1のパンケーキと同軸状に配置され、第1のパンケーキと同じ方向に巻かれる。更にパンケーキコイルが同じスタックに巻かれる場合、各コイルは、連続しているパンケーキコイルの螺旋の端部がどこに位置しているかに応じて、半径方向最も内側の位置又は半径方向最も外側の位置の何れかで同じ方法で隣接コイルに接続される。このようにして(及びこのように接続された複数のパンケーキコイルの任意の配置に対して)パンケーキコイルの接続されたスタックが形成される。
【0043】
第2のマグネットは更に、一次ソレノイドコイルに対して中心軸上に同軸状に、及び一次ソレノイドコイルの半径方向内側(但し、典型的にはボアの外側)に配置された二次ソレノイドコイルを含むことができる。これにより、所望の均一性レベルを維持しながら、磁場強度の増加を達成することができる。
【0044】
第2の補償コイルは、一次ソレノイドコイルと少なくとも部分的に半径方向に重なりを有して一次ソレノイドコイルの各端部の軸方向外側に位置する補償コイル、及び/又は一次ソレノイドコイルの各軸方向端部において一次ソレノイドコイルの半径方向外側に位置する補償コイルを含むことができる。上述した効果と同様に、これにより、パンケーキコイルによる高次調和関数への影響が制限されると同時に、第2マグネットの磁場均一性が改善される。
【0045】
各第2の補償コイルは、1次ソレノイドコイルに対して逆巻きにすることができる。しかしながら、典型的には、各第2の補償コイルは、1次ソレノイドコイルに対して順方向に巻くことができる。これにより、各第2の補償コイルは標的領域に正のゼロ次磁場に寄与する。
【0046】
第2の態様によれば、標的領域において均一磁場を発生させるためのマグネットシステムが提供され、このマグネットシステムは、中心軸の周りに円筒形状の超電導材料から形成された第1のマグネットであって、第1のマグネットは、使用時に中心軸上に位置する標的領域において第1の磁場を発生するように配置された、第1のマグネットと、使用時に第1の磁場の均一性を提供するように動作される補償コイルのセットと、を備え、第1のマグネットは、標的領域から軸方向に対称的に離れて軸中心から延び、補償コイルのセットは、次式;
に従って配置され、ここで、r0は第1のマグネットの内側半径であり、rpはそれぞれのパンケーキコイルの中心の半径であり、zpはパンケーキコイルの中心の軸方向位置である。
【0047】
補償コイルのセットは、第1のマグネットの軸方向端部において、第1のマグネットに隣接して配置されてもよい。
【0048】
補償コイルは、第1のマグネットの各端部の軸方向外側に、第1のマグネットと少なくとも部分的に半径方向で重なりを有して配置された補償コイル、及び/又は第1のマグネットの各軸方向端部において第1のマグネットの半径方向外側に配置された補償コイルを含むことができる。
【0049】
第2の態様によるマグネットシステムは更に、第1のマグネットに対して中心軸上に同軸状に配置され且つ第1のマグネットの半径方向内側に配置された第2のマグネットを含むことができ、任意選択的に、第1のマグネットは一次ソレノイドコイルとすることができ、及び/又は第2のマグネットは第2のソレノイドコイルとすることができる。
【0050】
各第2の補償コイルは、第1ソレノイドコイルに対して順方向に巻かれることができる。
【0051】
第2の態様のマグネットシステムは、第1の態様の第2のマグネットを提供することができ、第1の態様の第2のマグネットに関連して上述した何れかの個々の特徴又は特徴の組み合わせを含む又は組み込むことができる。加えて又は代替的に、第2の態様のマグネットシステムは、HTS材料で形成されてもよい。
【0052】
本明細書に記載のマグネットシステムは、特に高磁場において好適であり、典型的には標的領域において20Tを超えて、好ましくは25Tを超える磁場を発生するように配置される。MRIシステムは、典型的には、より大きな試料を使用するので、一般に、これらのシステムでは、より大きな標的領域にわたって均一性を達成することがより適切とすることができる。その結果、1cmdsvの標的領域にわたって極めて高い均一性を有することは、一般に、MRIシステムには関係しない。従って、少なくとも第1の態様によるマグネットシステムは、NMR分光法における使用に特に適しており、典型的には1ppm未満など、標的領域において5ppm未満の均一性をもたらす。第3の態様は、従って、第1の態様又は第2の態様によるマグネットシステムを含むNMR分光計であり、このNMR分光計は、典型的には、均一性を更に改善するために、超電導シム等の追加の構成要素を含む。NMR分光計は、NMR分光計の動作の動作中にマグネットシステムを10K未満など100K未満まで冷却するように構成された極低温冷却システムを更に含むことができる。冷却システムは、マグネットシステムを5K以下、4.2K以下(すなわち、幾つかの例では約2Kまで)まで冷却するように構成することができる。このマグネットシステムは、フーリエ変換質量分析、FTMR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、FT-ICRとも呼ばれる)などの他のNMRシステムでの使用にも適している。
【0053】
例示的なマグネットシステムについて、添付図を参照しながら以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】先行技術のマグネットシステムの概略図である。
図2】別の先行技術のマグネットシステムの概略図である。
図3】第1の実施例のマグネットシステムの概略図である。
図4図5から図9に示すマグネットシステムに対する比較例のマグネットシステムの概略図である。
図5】第2の実施例のマグネットシステムの概略図である。
図6】第3の実施例のマグネットシステムを示す概略図である。
図7】第4の実施例のマグネットシステムを示す概略図である。
図8】第5の実施例のマグネットシステムの概略図である。
図9】第6の実施例のマグネットシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
既存のマグネットシステムの一例を図1の1’に概略的に示す。この図は、先行技術のマグネット組立体による円筒形コイルセットを通る断面の概略図である。
【0056】
断面は、マグネットのボアに沿って延びる中心軸20’に沿って取られている。ボアの上方及び下方に組立体の2つの側面が図1に示されている。他の全ての図では、それぞれのマグネット組立体又はマグネットシステムの一方の側のみが示されているが、コイルは、各それぞれの組立体又はシステムの中心軸の反対側に対称的に配置されており、単に明瞭にするために図に示されている訳ではないことが理解されよう。
【0057】
図1に示す組立体1’は、第1のソレノイド2’、第2のソレノイド3’及び第3のソレノイド4’を含む第1の超電導マグネット10’を有する。第1、第2及び第3のソレノイドの各々は、NbTi及びNb3SnのようなLTS材料で形成されている。
【0058】
第1のソレノイド2’は、半径方向で最も内側のソレノイドであり、第2のソレノイド3’は、半径方向において第1のソレノイドと第3のソレノイド4’の間に配置されている。このように、第3のソレノイドは、半径方向で最も外側のソレノイドである。更に、第1のソレノイドはまた、第1のソレノイド自体と第2のソレノイドとの間に半径方向の離隔距離を有するが、第2のソレノイド及び第3のソレノイドは、互いにほぼ半径方向に隣接している。
【0059】
第1の超電導マグネット10’の各ソレノイドによって占有される軸方向空間との関係において、第1のソレノイド2’は、互いにほぼ同じ軸方向空間を占有する第2のソレノイド3’及び第3のソレノイド4’の各々よりも少ない軸方向空間を占有する。
【0060】
第1の超電導マグネット10’の各ソレノイド2’~4’は、中心軸20’を中心として同軸状に巻かれている。マグネット組立体1’はまた、第1のコイル5’及び第2のコイル6’を備えた第2の超電導マグネット30’を有する。第2の超電導マグネットのコイルもまた、中心軸を中心として同軸状に巻かれている。
【0061】
第1のコイル5’は、第2の超電導マグネット30’の半径方向最内側のコイルである。第1のコイル及び第2のコイル6’は半径方向に互いに隣接している。更に、これらのコイルは、第1の超電導マグネット10’のソレノイド2’、3’、4’の半径方向内側に配置され、第1のソレノイド2’から半径方向に離間している。
【0062】
第1のコイル5’は、第2のコイル6’よりも少ない軸方向スペースを占有し、その結果、第1のソレノイド2’よりも少ない軸方向スペースを占有する。
【0063】
第1のコイル5’及び第2のコイル6’の各々は、BSCCO 2212のようなHTS材料で形成されている。
【0064】
第2~第5ソレノイドの各々の径方向の厚さについて、第2ソレノイド3’、第1コイル5’及び第2のコイル6’は、互いにほぼ同じ径方向の厚さである。第1ソレノイド2’は、これらのソレノイドよりも小さい軸方向の長さを有し、第3ソレノイド4’は、これらのソレノイドよりも長い軸方向長さを有する。
【0065】
図1に示すマグネット組立体1’は、非補償型ソレノイドマグネット組立体である。
【0066】
マグネット組立体1’は、所定の仕様を満たす磁場均一性を有するように設計されている。図1に示すような非補償型マグネット組立体は、1cm dsvにわたって100ppm未満の均一性を有するように設計することができる。
【0067】
マグネット組立体1’が設計通りに構築され意図した通りに動作して、第1の超電導マグネット10’及び第2の超電導マグネット30’(すなわち、それぞれLTSマグネット及びHTSマグネット)が所定の動作電流Iopで動作する場合、球面調和関数を用いたマグネット組立体全体の不均一性への寄与(すなわち、LTSマグネット及びHTSマグネットの均一性の和、ひいては結果として得られる磁場の均一性)は、ppm/cm^n単位で、表1に示されるようになる。


表1
【0068】
これは、マグネット組立体全体からの全中心磁場に対する値である表中に提供される球面調和成分に関する実施例を示している。
【0069】
このようなマグネットの場合、第2の超電導マグネット30’のコイルと第1の超電導マグネット10’のソレノイドとの間(すなわち、HTSマグネットとLTSマグネットの間)に1mmの軸方向オフセットがあるとすると、各々が所定の動作電流Iopで動作している場合、球面調和関数に関するマグネット組立体1’全体の不均一性への寄与(すなわち、LTSマグネット及びHTSマグネットの均一性の合計、及びひいては結果として生じる磁場の均一性)は、表2に示すようになる。

表2
【0070】
表1と同様に、表2は、マグネット組立体全体からの全中心場に対する値である表中の球面調和成分に関する実施例を示している。上記の詳細事項に沿って、例えば、Z1調和関数はppm/cmの単位を有し、Z2調和関数はppm/cm2の単位を有し、Z3調和関数はppm/cm3の単位を有する。これはまた、表2及び以下の表3の対応する値にも当てはまる。
【0071】
表1と表2とを比較すると分かるように、第1の超電導マグネット10’のソレノイドに対して第2の超電導マグネット30’のコイルを1mm軸方向にオフセットすると、Z1調和関数では70ppm/cmの均一性が得られ、Z3調和関数では1ppm/cm3の均一性が得られる。Z1調和関数の70ppm/cmの変化は、小さなオフセットに対する均一性の大きな変化である。
【0072】
更に、第2の超電導マグネットに電流変動があった場合、このマグネットはZ2調和関数において351ppm/cm2の均一性を有するので(図1のマグネット組立体は補償されていないため、第2の超電導マグネットの設計に起因して)、動作電流に1%の変動があった場合には、Z2球面調和関数において3ppm/cm2より大きな均一性の変化につながる可能性がある。しかしながら、第1超電導マグネット及び第2超電導マグネット間の軸方向オフセットに起因するZ2球面調和への影響はほとんどない。
【0073】
図1に示す先行技術のマグネット組立体1’により表される「100ppmマグネット」は、マグネットを補正することによって「1ppmマグネット」(すなわち、磁場均一性が約1ppmのマグネット組立体)に変えることができる。このようなマグネット組立体の一例が、図2の1’’に一般的に示されている。上述したように、この図は、後続の各図と同様に、中心軸の片側のマグネットの構成のみを示している。
【0074】
図2に示すマグネット組立体1’’は、第1の超電導マグネット10’’及び第2の超電導マグネット30’’を有する。第2の超電導マグネットは、図1のマグネット組立体1’と全く同じコイル構成を有する。このように、図2に示す第2の超電導マグネット30’’は、中心軸20’’の周りに同軸状に巻かれたコイル5’’及び6’’を有し、各々がHTS材料で形成されている。
【0075】
図2のマグネット組立体1’’の第1の超電導マグネット10’’に目を向けると、これは、図1のマグネット組立体1’の第1の超電導マグネット10’と同じ構成及び組成の第1のソレノイド2’’、第2のソレノイド3’’及び第3のソレノイド4’’を有する。しかしながら、第1から第3のソレノイドに加えて、図2に示す第1の超電導マグネットは、第1の補償コイル7a’’及び第2の補償コイル7b’’も有する。
【0076】
補償コイル7a’’、7b’’は、中心軸20’’の周りに同軸状に巻かれており、第1のソレノイド2’’の半径方向内側に配置されている。各補償コイルはLTS材料で形成され、ソレノイド2’’、3’’、4’’と直列に接続されている。
【0077】
補償コイル7a’’、7b’’は、互いに同じ半径方向位置に配置されている。軸方向位置に関しては、補償コイルは、中心軸20’’の軸方向中心から等距離に軸方向に配置され、互いに同じ量の軸方向空間及び半径方向厚さを占める。従って、補償コイルは、中心軸20’’に沿った幾何学的中心点の周りに軸方向にオフセットを有して対称に配置される。これは、不均一性の軸方向の奇数次数(例えばZ3など)を相殺するためである。
【0078】
更に、補償コイルの半径方向の厚さは、第1のソレノイド2’’の半径方向の厚さとほぼ同じである。各補償コイルの軸方向中心は、第2の超電導マグネット30’’の第1のコイル5’’の軸方向端部とほぼ一致している。これらの補償コイルは、第1の超電導マグネット10’’のソレノイド2’’、3’’、4’’及び第2の超電導マグネット30’’の補償を行う。
【0079】
第1の超電導マグネット10’’及び第2の超電導マグネット30’’を所定の動作電流Iopで動作させた状態で、マグネット組立体1’’を設計通りに構成し、意図した通りに動作させた場合、各超電導マグネットの磁場及びマグネット組立体全体の球面調和関数の均一性は、表3に示すようになる。

表3
【0080】
表3に示すように、意図した条件下では、図2のマグネット組立体1’’は1ppmマグネットであることが分かる(前述の通り)。これは、Z2調和関数における均一性が4ppm/cm2であることに起因し、上述したように、1cm dsvにわたって約1ppmのマグネット組立体の全体的な均一性に相当する。
【0081】
図1のマグネット組立体1’と比較した均一性のこの改善は、補償コイル7a’’、7b’’によって提供される。しかしながら、第2の超電導マグネット30’’と第1の超電導マグネット10’’のコイル間に1mmの軸方向オフセットがある場合を表4に示す。

表4
【0082】
図1のマグネット組立体1’と比較して、Z2球面調和関数では引き続き不均一性の低減が見られるが、表4は、Z1球面調和関数では、オフセットによって生じる不均一性は図1のマグネット組立体と同じであることを示している。更に、第2の超電導マグネット30’’からのZ2調和関数における均一性が351ppm/cm2であるため、動作電流の1%の変動は、依然としてZ2調和関数における均一性の3ppm/cm2以上の変化をもたらす。このように、補償コイルを追加しても、軸方向のオフセットによる均一性の変化にはほとんど影響しない。従って、HTSマグネット及びLTSマグネットの間にわずかなオフセットがある場合でさえ、標準的な補償磁気組立体は非補償磁気組立体に対してほとんど改善効果がないことを示している。
【0083】
しかしながら、発明者らは、本明細書に開示された態様に対応するマグネットシステムを使用することにより、均一性を改善できることを見出した。その例を図3及び図5図9に示す。ある態様によるマグネットシステムの例は、一般に図3に符号1として示されている。
【0084】
図3に示す例では、第1の超電導マグネット10がある。これは、図2に示したマグネット組立体1’’の第1の超電導マグネット10’’と同一の構成のソレノイド2、3、4及び補償コイル7a、7bを有する。これは、図3の実施例の補償コイル7a、7bが、図2に示された第1の超電導マグネットの補償コイル7a’’、7b’’よりも軸方向の占有スペースが少ないこととは別のことである。従って、ソレノイド及び補償コイルと中心軸20との関係は、図2と同じである。更に、図3の実施例に示す第1の超電導マグネットのソレノイド2、3、4及び補償コイルは、引き続きLTS材料で形成されている。
【0085】
図3に示す例のマグネットシステム1は、第2の超電導マグネット30も有する。第2の超電導マグネットは、図1及び図2のマグネット組立体1’、1’’の第1のコイル5’、5’’と同一の構成を有する第1のコイル5を有する。更に、図3に示す第1のコイルは、図1及び図2の対応するコイルの場合と同様に、中心軸及び第1の超電導マグネット10との半径方向及び軸方向の関係を有する。
【0086】
図1及び図2に示した第2のコイル6’、6’’の代わりに、図3に示す例では、第2の超電導マグネット30は5つのコイルを有する。これらはそれぞれ中心軸20の周りに同軸状に巻かれ、互いに直列に接続され、及び第2の超電導マグネットの第1のコイル5と接続されている。これら5つのコイルは、図1及び図2の第2のコイルと同じ半径方向位置に配置されている。これらのコイルの軸方向端部も、図1及び図2の第2のコイルと軸方向にほぼ同じ位置に配置されている。5つのコイルの各々は、HTS材料で形成されている。
【0087】
図3の例における第2の超電導マグネット30の5つの更なるコイルは、第2の中央コイル8を含む。このコイルの軸中心は、この実施例のマグネットシステム1の残りの部分に対する中心軸の軸中心と一致している。第2の中央コイルはまた、5つの更なるコイルの中で最も短い軸方向の長さを有する。
【0088】
第2の中央コイル8に対して軸方向外側に、そこから等距離及びそれに対して対称に配置された2つの第2の中間コイル9a、9bがある。これらは、第2の中央コイルから軸方向に間隔を置いて配置されている。第2の中間コイルは、互いに同じ軸方向長さを有し、及び第2の中央コイルの軸方向長さの約2~3倍の軸方向長さを有する。
【0089】
2つの第2の中間コイル9a、9bの軸方向外側に及び軸方向端部に隣接して、2つの第2の外側コイル11a、11bがある。これらは第2の中央コイル8に対して対称に配置され、及び互いに同じ軸方向長さを有し、第2の中間コイルの軸方向長さの約2倍である。第2の中間及び中央コイルの軸方向の大きさと組み合わせて、これにより、第2の外側コイルは、第1のコイル5の軸方向端部よりも軸方向の中心に近い軸方向の内側の端部を有する。第2の外側コイルの軸方向端部は、第1のコイルの軸方向端部よりも軸方向外側に、第1のコイルの軸方向長さの約4分の1だけ突出している。中央、中間及び外側の軸方向コイル8、9a、9b、11a、11bは、互いに同じ半径方向厚さを有し、これは、図1及び図2に示す第2のコイル6’、6’’とほぼ同じ半径方向厚さである。
【0090】
図3に示す例の第1の超電導マグネット10及び第2の超電導マグネット30は、互いに独立した電流回路である。図3に示す例では、これは、第1の超電導マグネット及び第2の超電導マグネットそれぞれに対して、互いに独立した第1の電源40及び第2の電源50によって実現されている。第1及び第2の電源は、マグネットを作動させるための電力を供給するために、各マグネットに適切な方法で接続される。更に、図3では超電導マグネットに近接して示されているが、電源は超電導マグネットの電源としては従来の場所に配置される。これは典型的には、超電導マグネットによって発生させることができる磁場が電気製品に影響を与えることができる容積の外側にある。
【0091】
独立した電流回路として動作することにより、図3に示す例の第1の超電導マグネット10及び第2の超電導マグネット30は、使用時に独立した磁場を発生する。これらが組み合わさって、中心軸20の軸中心を中心とする約1cm dsvの標的領域に結果として生じる磁場を発生させる。マグネットシステム1が意図した通りに作動しているときのこの標的領域における結果として生じる磁場の均一性を表5に示す。

表5
【0092】
表5に示す値は、第1及び第2超電導マグネット10、30の間に1mmの軸方向オフセットがある場合のマグネットシステム1の均一性と比較することができ、表6に示す。

表6
【0093】
表6から分かるように、図3の例では、第1超電導マグネット10に対して第2超電導マグネット30を1mm軸方向にオフセットすると、Z1調和関数では1ppm/cmしか生じない。しかしながら、表5と比較すると、結果としての磁場の均一性の変化は、表4の例と比較して、数桁、大幅に減少しており、実質的な改善を示していることが分かる。
【0094】
更に、軸方向オフセットの有無に関わらず、第2の超電導マグネット30の均一性はZ2調和関数において1ppm/cm2であるため、軸方向オフセットの有無に関わらず、第2の超電導マグネット30の均一性はZ2調和関数において1ppm/cm2である。これは、中央、中間及び第2の外側コイル8,9a,9b,11a,11bの構成によるものである。表6から、Z2調和関数において1ppm/cm2より大きい均一性の変化を生じさせるためには、30%より大きい動作電流の変動が必要であることが分かる。
【0095】
従って、図3に示す実施例は、1mmのオフセットがあっても標的領域(すなわち1cm dsv)にわたって約1ppmの均一性を提供することができる。このレベルの均一性を維持できることにより、均一性の信頼性が向上し、及びこのようなマグネットシステムは、NMR分光器のような均一性に1ppmの制限を設けるマグネットシステムの仕様内に維持される。これは、第1のマグネット10及び第2のマグネット30が、独立して補償されることによって提供することが可能であるように、独立して均一性であることによって達成される。この観点から、第1のマグネット及び第2のマグネットのそれぞれの均一性は、それぞれのマグネットのソレノイド及び/又はコイルの配置によって決定される。このように、第1のマグネット及び第2のマグネットは、それぞれの均一性を決定するために、互いに独立して設計することが可能である。
【0096】
更なる実施例は、表5及び表6が関係する実施例に示されたものと同様の効果を示す。本明細書に開示された態様によるマグネットシステムを提供するために見ることができるこのような例の1つは、図3に関連して上述した同じ概略配置(正確に同じ寸法ではないが)を使用し、同じZ1球面調和成分をppm/cmの単位で使用する。この例では、第1の超電導マグネット10について15ppm/cm^2、及び第2の超電導マグネット30について-5ppm/cm^2のppm/cm^2単位のZ2球面調和成分の初期セットが、第1の超電導マグネットについて135A、及び第2の超電導マグネットについて350Aの動作電流Iopで存在する場合、10ppm/cm^2のZ2球面調和成分の均一性が結果として存在する。第2の超電導マグネットの1mmの軸方向オフセットが、この段落に記載された初期値の配置と比較して存在する場合、本明細書に開示された態様によるマグネットシステムでは、個々の超電導マグネット(すなわち、第1の超電導マグネット及び第2の超電導マグネット)の均一性に変化はなく、オフセットが存在しない場合と比較して、結果として生じる均一性に1ppm/cmの変化しかない。このことから、Z2調和関数で3ppm/cm^2よりも大きい均一性の変化をもたらすには、50%よりも大きい動作電流の変動が必要であることが分かる。このことは、例えば表4に関連する配置の詳細と比較して、大幅な改善が見られることを示している。
【0097】
第2のマグネットの設計の概略図が、図3の例に対する比較例として提供される図4の60’に図示されている。この図は一般にマグネットシステム100’を示している。このシステムは、例えば図3の第1のマグネットに対応する第1のマグネット10’’’を有する。しかしながら、そのマグネットの詳細は、図4図9に関連して説明される第2のマグネットの詳細とは関連しないので、図4及び図5において破線で示され、これらの図においてのみ示される。これは、このようなマグネットが、従来設計されたシステム及び本明細書に開示された態様によるシステム(すなわち、図5図9に示された例示的なシステムなど)において存在することが可能であるが、それらの図に関連して説明されたマグネットの機能性又は構成に影響を与えないことを示すためである。
【0098】
図4において、第2のマグネット60’は7つのコイルを有する。これらはそれぞれ中心軸20’’’の周りに同軸状に巻かれ、互いに直列に接続されている。図4に示す例では、7つのコイルはそれぞれHTS材料で形成されている。
【0099】
図4の例における第2の超電導マグネット60’の7つのコイルは、中央コイル101を含む。このコイルの軸方向中心は、図4に示すマグネットシステムの中心軸を作る破線20’’’と交差する破線21’’’で示される軸方向中心と一致している。この交点は、図4に示すマグネットシステム100’の軸方向中心及び幾何学的中心を示す。
【0100】
中央コイル101の各軸方向端部には、第1の中間コイル102がある。これらのコイルの半径方向内側は、中央コイルの半径方向内側と整列している。この位置において、第1の中間コイルは、中心コイルの半径方向位置が中心軸20’’’から配置されるのとほぼ同じ軸方向位置にある。これは、第一中間コイルの自然な位置決めである。これは、高次の軸方向調和関数のバランスをとる能力を提供するために、「ヘルムホルツコイル」の位置に近いからである。
【0101】
第1の中間コイル102の位置及び配置に関する他の詳細に関しては、第1の中間コイルの各々は、中心コイル101よりも半径方向外側に延び、中心コイルの軸方向範囲の約3分の1の軸方向範囲を有する。中心コイルの半径方向の広がりの割合として、第1の中間コイルは、中心コイルよりも更に半径方向外側に約4分の1から3分の1延びる。
【0102】
第1の中間コイル102の各々の軸方向外側の端部において、第2のマグネット60’は第2の中間コイル103を有する。第1の中間コイルと同様に、これらのコイルの半径方向内側は、中央コイル101の半径方向内側と整列している。第2の中間コイルの各々は、中央コイル未満の半径方向外側に延び、各第1の中間コイルの軸方向範囲とほぼ同じ軸方向範囲を有する。中心コイルの半径方向の広がりの割合として、第2の中間コイルは、中心コイルよりも半径方向に約4分の1から3分の1未満に広がっている。
【0103】
第2中間コイル103の各々の軸方向外端部には外側コイル104が配置されている。これらのコイルの半径方向内側は、中央コイル101の半径方向内側と整列している。各外側コイルは、中央コイルよりも大きく半径方向外側に延び、及び第1中間コイル102よりも半径方向外側に短く延びている。外側コイルの軸方向の広がりは、図4に示す例では、中央コイルの軸方向の広がりの約2倍である。他の実施例では、外側コイルの軸方向範囲は異なることができる。これは、図4に示されるよりも小さい軸方向範囲とすることができ、又は中央コイルの軸方向範囲の約3倍又は約4倍等のそれ以上の軸方向範囲とすることができる。
【0104】
図4に示す例のコイルの配置は、典型的にはパンケーキコイルスタックから構成される公知の「ノッチ付きコイル」方式の一例である。使用時、これは、「中心点」とも呼ばれる中心軸20’’’と軸方向中心線21’’’との交点において均一であるような、標的領域における磁場を提供する。これは、図3の第2のマグネット30の代わりに使用することができるが、切り欠き配置のため、例えば図5の例示的なマグネットシステム110の第2のマグネット60と比較して、この中心点付近のコイルターン密度が低い。これは、磁場強度を低下させ、標的均一性を達成するためにコイルをバランスさせること(すなわち、中心コイル、第1及び第2の中間コイル、並びに外側コイルの各々の寄与をバランスさせること)をより困難にする。この例として、コイルが直列に接続され、互いに同じ巻数密度を有する場合、例えば第1の中間コイルの1つに1mmの軸方向又は半径方向のずれがあると、Z1球面調和において約500ppm/cm、Z3球面調和において約10~20ppm/cm3の不均一性が生じる可能性がある。更に、及びこのようなマグネットシステムにとって懸念されることであるが、これは、Z5球面調和において約0.2~0.7ppm/cm5のような高い球面調和次数における不均一性を発生させる。
【0105】
更なる例として、第1の中間コイルの1つを約0.5mm軸方向に変位させると、Z2球面調和では約60ppm/cm2、Z3球面調和では約10ppm/cm3、Z4及びZ5球面調和ではそれぞれ0.1ppm/cm4及び0.1ppm/cm5を超える不均一性が生じる。Z2球面調和関数への寄与は、他の(従って対向配置された平衡)第1中間コイルと比較したZ3球面調和関数への寄与の変化に由来する。
【0106】
本明細書では、球面調和関数の軸方向の次数(すなわち、Z1~Z8のようなZ軸に沿った次数)のみが一般的に考慮されるが、このようなマグネットシステムの設計によって意図された配置と比較して電流密度の誤った配置によって発生する不均一性は、これらの軸上の(すなわち、Z軸に沿った)成分に限定されないことは注目に値する。これによって生じる不要な軸外成分を補正することは、軸上成分を補正するよりも厄介な場合があり、理想的には避けたい。
【0107】
図4に示した例が、図5図9に示した例と比較して、それ自体では最適でない配置であると考えられる理由は、標的位置で評価される球面調和関数の変動が、意図した位置からの電流ループの相対オフセット(δb)に比例し、標的位置からのその電流ループの距離(r0)に反比例し、標的位置で評価されるように、意図した位置で電流ループによって生成される高次の球面ハーモニック(複数可)に比例することを示すことができるからである。このことは、例えば、Z2不均一性を補正するように設計されたコイルの軸方向の位置ずれが、図4に示される第1の中間コイル102の1つの変位のようなコイルの変位がある場合に、意図しないZ1不均一性のかなりの量を導入する可能性があることを意味する。
【0108】
このことから、コイルの中心点からの距離を大きくすることで、均一性の意図しない変化がはるかに少なくなることが分かった。不均一性拡張における高次の項の強さは、1/r0よりも距離とともに急速に減少するため、不要な高次の項ではその効果が更に顕著になる。コイルを増加させる適切な距離については、以下の式1及び式2のようにコイルを配置することで、コイルの変位による均一性の変化が許容できる程度まで減少することを見出した。
【0109】
従って、コイルの適切な位置は、次のように考えることができる。
ここで、r0は中心コイルの内側半径、及びrpは補償コイルの中心の半径、zpはそのコイルの中心の軸方向位置であり、又は、
である。
【0110】
しかしながら、現実的なコイルの配置と、適切な磁場強度及び均一性を達成する能力が必要である。発明者らは、層巻きテープソレノイドコイルに、補償コイルとしてパンケーキコイルを層巻きコイルとは別に巻き、パンケーキコイルの位置を層巻きソレノイドの内側半径よりも中心軸から大きな半径上に配置することで、このような配置が得られることを見出した。このような配置の例を図5図9に示す。
【0111】
上述したように、図5に110で一般的に図示された例示的なマグネットから始めると、これは、図3の例示的なマグネットシステム1の第1のマグネット10と同等の第1のマグネット10を有する。第1のマグネットの半径方向内側には、第2のマグネット60がある。これは、中心軸20と同軸状に巻かれ、及び中心軸と交差する図中破線21で示す軸中心の周りに対称に配置された層巻きソレノイドコイル12を有する。
【0112】
図5に示す例はまた、第2のマグネット60の一部を形成するソレノイドコイル12と直列に接続された補償コイル13a,13bのペアを有する。これらの補償コイルは及びソレノイドコイルと共に順方向に巻かれている。これにより、これらのコイルは正の中心ゼロ次磁場を寄与することができる。
【0113】
補償コイル13a、13bは中心軸20と同軸状に巻かれている。これらのコイルは、製造が複雑な層巻きソレノイドコイルではなく、パンケーキを積み重ねて構成されている(このように構成されたコイルを、以下「パンケーキコイル」と呼ぶ)。パンケーキコイルは、ソレノイドコイルの軸方向両端に1つずつ配置される。図5に示す例では、パンケーキコイルはソレノイドコイルの軸方向外側に配置され、ソレノイドコイルの軸方向両端と各パンケーキコイルとの間に間隔が設けられている。
【0114】
パンケーキコイル13a,13bの半径方向の位置及び範囲について、各パンケーキコイル13a,13bの半径方向内側は、ソレノイドコイル12の半径方向内側よりも半径方向外側にある。図5に示す例では、パンケーキコイルの半径方向内側は、ソレノイドコイルの半径方向外側よりも半径方向内側にある。パンケーキコイルの半径方向の広がりは、ソレノイドコイルの半径方向の広がりの約2~3倍である。
【0115】
ソレノイドコイル12及びパンケーキコイル13a,13bは、HTS材料で形成されている。パンケーキコイルはHTSテープで形成されている。パンケーキコイルの幅は、テープの幅及びパンケーキコイルのスタック数に依存するため、これは各パンケーキコイルの軸方向の広がりに影響を与える。
【0116】
典型的なHTSテープの半径方向の幅は、約0.5mm及び1mmの間である。HTSテープの軸方向の幅は、典型的には8mm~10mmである。このように、図5に示す実施例に対応する第1の実施例では、パンケーキコイル13a、13bはそれぞれ約3cmの軸方向幅を有する。従って、各パンケーキコイルは、3枚のパンケーキのスタックである。
【0117】
図5に示す実施例に対応する第2の実施例では、パンケーキコイル13a,13bはそれぞれ第1の実施例のパンケーキコイル13a,13bの2倍の巻数密度を有し、これは軸方向幅が半分のHTSテープを使用する場合に達成できる。これにより、軸方向の幅が約1.5cmのパンケーキコイルが得られることになる。
【0118】
パンケーキコイルが配置されている第2のマグネット60の端部の電界強度が、中央部よりも小さいため、第1の実施例と第2の実施例との間で巻数密度を2倍にすることが可能である。これは、同じ材料でより高い臨界電流密度が可能であることに等しく、従って、第2のマグネットを超電導状態に維持しながら、より高い動作電流密度を可能にする。
【0119】
使用時、第2のマグネット60の層巻きソレノイドコイル12は、標的領域におけるゼロ次球面調和(すなわちZ0)磁場の大部分、すなわち磁場のBz成分を生成する。これはまた、図4の例に示されたノッチ付きマグネット60’よりも、導入される不均一性をより良好に制御して達成される。これに加えて、パンケーキコイル13a、13bは、その位置関係により、0次中心磁場への寄与がはるかに小さくなる。要求される均一性のレベルでは、これは、層巻きソレノイドコイルによって導入される不均一性を打ち消すために符号を逆にした同じ量の高次磁場項で達成される。
【0120】
ページ上では、これを実現するマグネット形状を構成することは可能であろう。しかしながら、製造公差などによるパンケーキコイルからの電流密度のわずかなずれは残る。これは、図4に示す例のような既知の切り欠き付きマグネットに存在するような、不均衡な均一性という問題を依然として引き起こすことになる。このような形状は、中心付近に極めて幅の狭いパンケーキコイルのセットを有する層巻きソレノイドを有するものであろう。このような幅の狭いパンケーキコイルは、長いソレノイドに比べてゼロ次にはほとんど寄与せず、それでも均一性は名目上正しく保たれる。しかしながら、実際には、このような狭いパンケーキコイルのセットは、更に高次の未補正の磁場不均一性の項を導入することになる。
【0121】
図5に示した例に対応するような第2のマグネット60を式1及び式2に示した不等式に沿って設けることにより、紙面上だけでなく実際上も均一性制御の改善が達成できることを見出した。例えば、上述の第1のセットによるパンケーキコイルを備えて図5に示す実施例に対応するものを用いると、標的領域において、最大のファクタが1ppm/cm2未満のZ2球面調和における勾配であることで、1ppm未満の均一性を達成することができる。
【0122】
このような例では、パンケーキコイル13a、13bの1つに対して軸方向又は半径方向に1mmのオフセットがある場合、Z1球面調和において約30ppm/cm、Z3球面調和において約0.2ppm/cm3の不均一性しか生じない。各パンケーキコイルに複数のスタックを使用しても同様の結果が得られる。これらの均一性を、図4に示した例について上記で開示したものと比較すれば分かるように、これは均一性のかなりの改善である。
【0123】
このことから、図5に示す実施例は、図4に示す実施例よりも大きな利点を提供することが分かる。このため、図4の第2のマグネット60’は、図5に示すマグネットシステム110の一部として単独で使用するには最適なシステムではない。しかしながら、図5に示す例のソレノイドコイル12の代わりに、又は、以下に示すように、補償コイルを適切に配置して、以下に詳細に説明する図6から図9に示す例の何れかに使用することができる。これが実施された場合、組み合わされたシステムは、図4に示された第2のマグネットのみを使用した場合に達成可能な均一性よりも、同様に改善された均一性をもたらすであろう。
【0124】
図6図9に示す実施例は、図5の実施例について設定したものと同等の結果を提供する。最初に図6に示す例を考えると、これは一般に120で示されるマグネットシステムを有する。第1のマグネット(図示せず)と同様に、これは第2のマグネット60を有する。
【0125】
図6に示す第2のマグネット60は、図5に示す例の層巻きソレノイドコイル12と同一の層巻きソレノイドコイル12を有する。このように、これは中心軸20に同軸状に巻かれており、及び破線21で示された軸中心に関して軸対称である。
【0126】
図6に示す例では、ソレノイドコイル12には、図5に示す例と同様に(すなわち直列に)パンケーキコイル13a,13bが接続されており、同じ機能を有している。図5のパンケーキコイルと同様に、図6に示すパンケーキコイルは、中心軸20上に同軸状に巻かれている。しかしながら、ソレノイドコイルの軸方向外側に配置される代わりに、1つのパンケーキコイルがソレノイドコイルの各軸方向端部領域に隣接して配置される(すなわち、ソレノイドコイルの軸方向端部の軸方向内側及び各パンケーキコイルの幅の約半分以内)。これにより、パンケーキコイルは、ソレノイドコイルの半径方向内側の半径方向位置の約3~4倍の軸方向位置に配置される。
【0127】
更に、図6に示す例では、パンケーキコイル13a,13bは、ソレノイドコイル12の半径方向外側に配置されている。図6では、ソレノイドコイル及びパンケーキコイルの間に半径方向の離隔距離がある。パンケーキコイルの半径方向の位置決めにより、ソレノイドコイルの半径方向内側よりも半径方向外側に2倍に近い半径方向の位置決めがなされる。
【0128】
図6の実施例に関連して、パンケーキコイルが約3cmの幅を有する(すなわち、上記図5に関連して説明した第1の実施例と同様の構造を有する)実施例において、パンケーキコイル13a、13bの一方の0.5mmの軸方向オフセットが存在する場合、これは、Z2球面調和関数においてわずか2ppm/cm2の不均一性、Z3球面調和関数において0.1ppm、及びZ4及びZ5球面調和関数において無視できる(従って、それぞれ0.1ppm/cm4及び0.1ppm/cm5より有意に小さい)不均一性を生じる。図4の例における同程度の値に対するZ2球面調和関数の減少は、この場合も、対向配置されたバランシング・パンケーキ・コイルと比較して、Z3の寄与の変化が図4の例よりもはるかに小さいことに起因する。
【0129】
図7に示す例は、図5及び図6に示す例の組み合わせに匹敵する。これは、一般的に130で示されるように、マグネットシステムを示している。第1のマグネット(図示せず)に加えて、これは第2のマグネット60を有する。
【0130】
図7に示す実施例の第2のマグネット60は、図5に示す実施例の層巻きソレノイドコイル12及び図6に示す実施例の層巻きソレノイドコイル12と同一の層巻きソレノイドコイル12を有する。このように、これは中心軸20上で同軸状に巻かれ、破線21で示される軸中心の周りに軸対称である。
【0131】
図7に示す例では、パンケーキコイルスタックの2つのペアがある。これは、軸方向内側のパンケーキコイルスタック13a、13bのペアと軸方向外側のパンケーキコイルスタック14a、14bのペアとを含む。パンケーキコイルスタックの各ペアは、中心軸20上に同軸状に巻かれた1又は2以上のパンケーキコイルのセットである。
【0132】
軸方向内側のパンケーキコイル13a、13bは、図6に示す実施例のパンケーキコイルとほぼ同じ軸方向位置及び半径方向位置にある。図6に示した例の幾つかの変形例では、軸方向内側のパンケーキコイルの軸方向外側の端部は、ソレノイドコイル12の軸方向外側の端部と整列している。
【0133】
軸方向外側のパンケーキコイル14a、14bは、図5に示す例のパンケーキコイルとほぼ同じ軸方向及び半径方向の位置に配置されている。しかしながら、図7に示す実施例では、パンケーキコイルが2ペアあるため、各ペアの軸方向範囲又は軸方向広がりは、2つのペアが各々補償を提供するため、図5及び図6の同等のパンケーキコイルより小さくすることができる。これは、補償を提供するパンケーキコイルのペアが1つだけの場合よりも、各ペアがより小さい補償を提供すればよいことを意味する。これは、2対の補償コイルが使用時に提供する補償の累積効果によるものである。
【0134】
図8及び図9に示す実施例に目を向けると、これらは一般に、それぞれ140及び150におけるマグネットシステムを示しており、それぞれ第2のマグネット60(及び図示されていない第1のマグネット)を備えている。これらの各例は、図5及び図6にそれぞれ示されたパンケーキコイルの例と同等のパンケーキコイル13a、13bの配置を提供する。これは、各実施例において、パンケーキコイルが中心軸20上に同軸状に巻かれていることを意味する。図8の例では、これは、パンケーキコイルが、層巻きソレノイドコイル12の軸方向外側に、その半径方向内側よりもソレノイドコイルの半径方向内側がわずかに半径方向内側に配置されていることを意味する。図9の例では、これは、パンケーキコイルが、ソレノイドコイルの軸方向端部領域において、層巻きソレノイドコイル12の半径方向外側よりも半径方向外側に位置することを意味する。
【0135】
しかしながら、パンケーキコイル13a,13bの軸方向及び径方向の位置関係は、図8では図5とほぼ同じであり、図9では図6とほぼ同じであるが、図8及び図9の各パンケーキコイルはサイズが大きくなっている。これは、各実施例の第2のマグネットが内側ソレノイドコイル15も含み、従って、それぞれのパンケーキコイルによって追加の補償が提供されるためである。各実施例の内側ソレノイドコイルは、層巻きソレノイドコイル12の半径方向内側に配置されている。
【0136】
図8及び図9に示す実施例では、内側ソレノイドコイル15は、直列に接続される層巻きソレノイドコイル12と中心軸上で同軸状に巻かれている。更に、層巻きソレノイドコイル及び内側ソレノイドコイルは、破線21で示された軸中心の周りに対称となるように軸方向に配置されている。しかしながら、内側ソレノイドは、層巻きソレノイドコイルの約80%~90%の軸方向の広がりを有し、層巻きソレノイドコイルに対して半径方向の広がりが同等に減少している。
【0137】
図8及び図9の実施例のパンケーキコイル13a、13bは、図5及び図6の実施例のパンケーキコイルよりも大きく、図5及び図6の実施例のパンケーキコイルとは若干異なる位置を有する。上述したように、これは、図8及び図9の実施例のパンケーキコイル13a,13bが、全てのコイルを通る直列電流で完全な第2のマグネット60の軸方向の不均一性を補償するためである。
【0138】
図8及び図9の実施例の内側ソレノイドコイル15は、HTS材料で形成されている。幾つかの実施例では、このコイルは層巻きテープ又はワイヤである。このコイルは、層巻きソレノイドコイル12と同じ材料で形成される必要はない。例えば、様々な実施例において、層巻きソレノイドコイル12はBSCCOテープであり、内側ソレノイドコイル15は巻線反応型BSCCO丸線である。
【0139】
図5から図9までの各実施例の第2マグネット60は、図3による実施例の第2マグネット30の代わりに使用することができる。そのため、図5図9には示されていないが、各実施例の第2のマグネットは、図3による実施例の全てのコイル5、8、9a、9b、11a、11bに取って代わり、これらのコイルとほぼ同じ軸方向及び半径方向の位置に配置される。パンケーキコイル13a、13bが層巻きソレノイドコイル12の半径方向外側に位置する実施例については、これらは、様々な実施例において、第1のマグネット10の補償コイル7a、7bの軸方向外側に位置することになる。更に、図3による実施例の第2のマグネット30の代わりに、図5図9のそれぞれによる実施例の第2のマグネット60は、第1のマグネット10の第1の電源40とは独立した第2の電源50に接続される。従って、これは、図5図9の各々による実施例の第2のマグネット60に対して、任意の第1のマグネットから独立した電流回路を形成する。
【0140】
上述した例示のマグネットシステムは、中心点(すなわちz=0)の周りで軸対称である。例示のマグネットシステムが具現化する概念及びこれらシステムの対応する解析は、非対称解(すなわち、中心点に関して非対称な解)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0141】
1 マグネットシステム
2、3、4 ソレノイド
5 第1のコイル
7a、7b 補償コイル
8 第2のコイル
9a、9b 第2の中間コイル
10 第1の超電導マグネット
30 第2の超電導マグネット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的領域において均一磁場を発生させるためのマグネットシステムであって、
低温超電導(LTS)材料から形成され且つ中心軸を定めるように形成された第1のマグネットであって、前記第1のマグネットは、使用時に前記中心軸上に位置する前記標的領域において第1の磁場を発生するように配置され、前記第1の磁場は、第1のレベルの均一性を有する、第1のマグネットと、
高温超電導(HTS)材料から形成され、使用時に前記標的領域において第2の磁場を発生するように配置された第2のマグネットであって、前記第2の磁場は第2のレベルの均一性を有する、第2のマグネットと、
を備え、
前記第1の磁場の第1のレベルの均一性は最大10ppmであり、前記第2の磁場の第2のレベルの均一性は最大10ppmであり、前記標的領域における前記第1の磁場及び前記第2の磁場の組み合わせは、使用時に最大10ppmの結果として生じる均一性を有する結果として生じる磁場を生成し、前記第1のマグネット及び前記第2のマグネットは独立した電流回路である、マグネットシステム。
【請求項2】
前記第1のレベルの均一性は最大1ppmであり、前記第2のレベルの均一性レベルは最大1ppmであり、前記結果として生じる均一性は最大1ppmである、請求項1に記載のマグネットシステム。
【請求項3】
前記第1のマグネットに第1の電流を供給し且つ前記第2のマグネットに第2の電流を供給するように配置された制御システムを更に備え、前記第1の電流及び前記第2の電流が、互いに独立して制御される、請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項4】
使用時に前記第1のマグネットに電力を供給するように配置された第1の電源と、使用時に前記第2のマグネットに電力を供給するように配置された第2の電源と、を更に備え、前記第1の電源及び前記第2の電源が互いに独立している、請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項5】
前記第1のマグネットは、第1の補償ソレノイドマグネットを含む、請求項1~4の何れか1項に記載のマグネットシステム。
【請求項6】
前記第1の補償ソレノイドマグネットは、少なくとも1つのソレノイドと、第1の補償コイルのセットと、を含み、前記第1の補償コイルのセットは、使用時に前記少なくとも1つのソレノイドを補償するように配置される、請求項5に記載のマグネットシステム。
【請求項7】
前記第2のマグネットが、コイルのセットを含む、請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項8】
前記第2のマグネットが、前記中心軸上に配置されたコイルのセットを含む、請求項7に記載のマグネットシステム。
【請求項9】
前記第2のマグネットが、少なくとも1つのソレノイド及び使用時に前記少なくとも1つのソレノイドに補償を提供するように作動する第2の補償コイルのセットを含む第2の補償ソレノイドマグネットを備え、
前記第2の補償コイルのセットが次式:
に従って配置され、
ここで、r0は前記少なくとも1つのソレノイドの内側半径であり、rpはそれぞれの補償コイルの中心の半径であり、zpは前記補償コイルの中心の軸方向位置である、
請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項10】
前記第2の補償コイルのセットは、
に従って配置される、請求項9に記載のマグネットシステム。
【請求項11】
前記第2の補償ソレノイドマグネットの前記少なくとも1つのソレノイドは、前記標的領域から軸方向に対称に離れるように軸中心から延びる一次ソレノイドコイルを含み、前記第2の補償コイルのセットは、パンケーキコイルであり、前記一次ソレノイドコイルの軸方向端部にて前記一次ソレノイドコイルに隣接して配置される、請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項12】
0は前記一次ソレノイドコイルの内側半径である、請求項11に記載のマグネットシステム。
【請求項13】
前記第2の補償ソレノイドマグネットの前記少なくとも1つのソレノイドが、前記一次ソレノイドコイルに対して前記中心軸上に同軸状に且つ前記一次ソレノイドコイルの半径方向内側に配置された二次ソレノイドコイルを含む、請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項14】
前記第2の補償コイルは、前記一次ソレノイドコイルと少なくとも部分的に半径方向の重なりを有して前記一次ソレノイドコイルの各端部の軸方向外側に配置された補償コイル及び/又は前記一次ソレノイドコイルの各軸方向端部において前記一次ソレノイドコイルの半径方向外側に配置された補償コイルを含む、請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項15】
前記第2の補償コイルの各々は、前記一次ソレノイドコイルに対して順方向に巻かれている、請求項に記載のマグネットシステム。
【請求項16】
標的領域において均一磁場を発生させるためのマグネットシステムであって、
中心軸の周りに円筒形状の超電導材料から形成された第1のマグネットであって、使用時に前記中心軸上に位置する前記標的領域において第1の磁場を発生するように配置された第1のマグネットと、
使用時に前記第1の磁場の均一性を提供するように動作される補償コイルのセットと、
を備え、
前記第1のマグネットは、前記標的領域から軸方向に対称的に離れて軸中心から延び、前記補償コイルのセットが、次式
に従って配置され、ここで、r0は、前記第1のマグネットの内側半径であり、rpはそれぞれのパンケーキコイルの中心の半径であり、zpは前記パンケーキコイルの前記中心の軸方向位置である、マグネットシステム。
【請求項17】
前記補償コイルのセットは、前記第1のマグネットの軸方向端部において前記第1のマグネットに隣接して配置されている、請求項16に記載のマグネットシステム。
【請求項18】
前記補償コイルは、前記第1のマグネットと少なくとも部分的に半径方向で重なりを有して前記第1のマグネットの各端部の軸方向外側に位置する補償コイル及び/又は前記第1のマグネットの各軸方向端部において前記第1のマグネットの半径方向外側に位置する補償コイルを含む、請求項17に記載のマグネットシステム。
【請求項19】
前記第1のマグネットに対して前記中心軸上に同軸状に配置され且つ前記第1のマグネットの半径方向内側に配置された第2のマグネットを更に備える、請求項16に記載のマグネットシステム。
【請求項20】
前記第1のマグネットは一次ソレノイドコイルであり及び/又は前記第2のマグネットは第2のソレノイドコイルである、請求項19に記載のマグネットシステム。
【請求項21】
第2の補償コイルの各々は、前記一次ソレノイドコイルに対して順方向に巻かれている、請求項16に記載のマグネットシステム。
【国際調査報告】