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特表2024-529308細胞、組織又は臓器を保存するための単離されたミトコンドリアを含む組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】細胞、組織又は臓器を保存するための単離されたミトコンドリアを含む組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240730BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500483
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 KR2022010765
(87)【国際公開番号】W WO2023003418
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0097204
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】521466954
【氏名又は名称】パエアン バイオテクノロジー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PAEAN BIOTECHNOLOGY INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】カン, ヨン‐チョル
(72)【発明者】
【氏名】ハン, キュボム
(72)【発明者】
【氏名】キム, チュン‐ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ホン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】キム, スミン
(72)【発明者】
【氏名】タノト, ヘンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, イン ホア
(72)【発明者】
【氏名】リン, ジ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ホイ シン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065BB07
4B065BB08
4B065BB12
4B065BB25
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、単離されたミトコンドリアを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存するための保存液組成物;及びこれを使用して、単離された細胞、組織又は臓器を保存する方法に関する。本発明の保存液組成物は、単離された細胞、組織又は臓器の活性を維持したまま、優れた長期保存性を有する。したがって、本発明は、最終的に移植成功率を向上させるために移植医療分野で、そして再生医療分野等において、効果的に利用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたミトコンドリアを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存するための保存液組成物。
【請求項2】
前記ミトコンドリアが、血小板、筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、幹細胞又は粘膜細胞から得られる、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項3】
前記組成物が、ヒスチジン、トリプトファン及びケトグルタレートからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項4】
前記組成物が、単離されたミトコンドリアと、ヒスチジン、トリプトファン及びケトグルタレートからなる群から選択される少なくとも1種との混合物を含む、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項5】
前記組成物中の単離されたミトコンドリアの濃度が0.01μg/mL~1mg/mLである、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項6】
前記組成物中のヒスチジンの濃度が1mM~500mMである、請求項3又は4に記載の保存液組成物。
【請求項7】
前記組成物中のトリプトファンの濃度が1μM~100mMである、請求項3又は4に記載の保存液組成物。
【請求項8】
前記組成物中のケトグルタレートの濃度が1μM~100mMである、請求項3又は4に記載の保存液組成物。
【請求項9】
前記細胞、組織又は臓器が、哺乳類に由来する細胞、組織又は臓器である、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項10】
前記哺乳類がヒトである、請求項9に記載の保存液組成物。
【請求項11】
前記細胞、組織又は臓器が生体への移植のためのものである、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項12】
前記臓器が心臓、肝臓、腎臓、小腸、胃、膵臓、肺、胆嚢、神経、皮膚、血管、歯、目及び角膜から選択されるいずれか1種である、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項13】
前記組成物が灌流又は再灌流のためのものである、請求項1に記載の保存液組成物。
【請求項14】
単離された細胞、組織又は臓器を、単離されたミトコンドリアを含む保存液組成物の存在下で保管することを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存する方法。
【請求項15】
前記保管が冷蔵状態で行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記保管が最長で10日間行われる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離されたミトコンドリアを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存するための保存液組成物;及びこれを使用して、単離された細胞、組織又は臓器を保存する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植とは、機能不全の組織又は臓器を別の正常な組織又は臓器に置き換えることをいう。1980年代に免疫抑制剤が開発されたことで、臓器移植手術の成功率は上昇し、今日に至るまで優れた臓器移植手術法が開発されている。加えて、2020年に韓国で「臓器移植法」が施行されてから、脳死の人からの臓器提供による臓器移植手術が急増した。
【0003】
ドナーから単離された組織又は臓器の機能を体外で長期間維持することは難しいため、できるだけ早く移植すれば生体への移植の成功率が高くなる。しかし、残念ながら、単離された組織又は臓器を移植を必要とする患者の元に届けるのには時間がかかり、最終的には組織又は臓器が使用できなくなったり、移植された組織又は臓器の機能が低下したりするという問題がある。単離された組織又は臓器の機能を損なうことなく組織又は臓器を保存できれば、組織又は臓器の輸送がより一層容易になり、患者は移植の準備をすることができ、貴重な組織又は臓器が廃棄されることがなくなり、生体への移植の成功率も高めることができる。近年、組織及び臓器を保存する研究が行われている(国際公開第2021-007275号)。
【0004】
しかし、単離された組織又は臓器の活性を長期間維持できる保存液又は保存装置の開発はまだ不十分である。したがって、単離された組織又は臓器の生物学的機能を維持し、単離された組織又は臓器を長期間保存できる保存液又は保存装置の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、単離された細胞、組織又は臓器を長期間保存できる保存液の開発を試みた。その結果、単離されたミトコンドリアを含む保存液は、単離された細胞、組織又は臓器の活性を長期間維持できることを確認した。したがって、本発明者らは、細胞、組織又は臓器の保存に効果的に使用できる保存液を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様において、単離されたミトコンドリアを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存するための保存液組成物を提供する。
【0007】
本発明の別の態様において、単離された細胞、組織又は臓器を、単離されたミトコンドリアを含む保存液組成物の存在下で保管することを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存する方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の単離されたミトコンドリアを含む保存液は、単離された細胞、組織又は臓器の活性を維持したまま、上記細胞、組織又は臓器を長期間保存することができる。したがって、移植のための生体の組織の活性を維持することができ、最終的に、移植の成功率が上がる可能性が高くなる。したがって、本発明の単離されたミトコンドリアを含む保存液は、移植医療分野だけでなく、再生医療分野でも産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ミトコンドリア含有ヒスチジン-トリプトファン-ケトグルタレート(HTK)液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した単離された心臓についての正規化灌流液量対時間(h)を表すグラフである。
図2】単離された心臓をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した場合の保管時間(h)別の筋原線維細胞の画像を示す。
図3】ミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した後の単離された臓器の画像を示す。
図4】単離された腎臓をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した場合の上記腎臓におけるACE2酵素活性レベルを解析した結果を表すグラフである。
図5】単離された心筋細胞を、ミトトラッカー(MitoTracker)(商標)で染色したミトコンドリアあり又はなしのHTK液に保管した後、ミトコンドリアの動きを確認した結果を表す共焦点顕微鏡写真である。ここで、hPl-mitoはヒト血小板由来ミトコンドリアを指す。
図6】単離された心筋細胞をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した後、心筋細胞の生存率の上昇の程度を確認した結果と、WST-1アッセイ測定の結果を表した図である。
図7】単離された心筋細胞をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した後、心筋細胞の生存率の上昇の程度を確認した結果と、細胞内ATP測定の結果を表した図である。
図8】単離された心臓組織をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した後、心臓組織内におけるミトコンドリアの動きを確認した結果を表す共焦点顕微鏡写真である。
図9】単離された心臓をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した場合の心臓におけるATP合成酵素活性レベルを解析した結果を表すグラフである。
図10】単離された心臓をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した場合の心臓におけるクエン酸合成酵素活性のレベルを解析した結果を表すグラフである。
図11】単離された腎臓をミトコンドリアを様々な濃度で含有するミトコンドリア-HTK液に保管した場合の腎臓におけるACE2酵素活性レベルを解析した結果を表すグラフである。
図12】単離された腎臓を活性化又は不活化した各種由来ミトコンドリア-HTK液に保管した場合の腎臓におけるACE2酵素活性レベルを解析した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ミトコンドリアを含む保存液組成物
本発明の一態様において、単離されたミトコンドリアを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存するための保存液組成物を提供する。
【0011】
本明細書で用いる場合、「ミトコンドリア」という用語は、エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の合成と制御に関与する、真核細胞の生存に不可欠な細胞小器官である。ミトコンドリアは、細胞シグナル伝達、細胞分化、細胞死並びに細胞周期及び細胞成長の制御など、生体内での様々な代謝経路に関与している。
【0012】
本明細書で用いる場合、「単離されたミトコンドリア」という用語は、自家、同種又は異種の供給源から得られたミトコンドリアを指すことができる。
【0013】
本明細書で用いる場合、「自家ミトコンドリア」という用語は、同じ対象者の組織又は細胞から得られたミトコンドリアのことをいう。加えて、「同種ミトコンドリア」という用語は、対象者と同じ種に属し、対立遺伝子に関して異なる遺伝子型を有する別の対象者の組織又は細胞から得られたミトコンドリアのことをいう。加えて、「異種ミトコンドリア」という用語は、異なる種に属する対象者の組織又は細胞から得られたミトコンドリアのことをいう。
【0014】
この場合、対象者は哺乳類であってもよく、好ましくはヒトであってもよい。
【0015】
ミトコンドリアは対象者の組織又は細胞から単離することができる。例えば、ミトコンドリアは、体細胞、生殖細胞又は幹細胞から得ることができる、若しくは血液細胞又は血小板から単離することができる。加えて、ミトコンドリアは、正常なミトコンドリア生物活性を有する細胞から得られる正常なミトコンドリアでもよい。加えて、ミトコンドリアは、生体外で培養された自己細胞又は同種細胞から得ることができる。
【0016】
本明細書で用いる場合、「細胞」という用語は、細胞膜に囲まれた細胞質からなり、タンパク質や核酸などの生体分子を含む、生体を構成する構造的又は機能的単位のことをいう。細胞とは、細胞膜の内側にミトコンドリアを有する細胞のことをいう。
【0017】
本明細書で用いる場合、「体細胞」という用語は、生物を構成する細胞のことをいい、生殖細胞は除く。体細胞は、筋細胞、肝細胞、神経細胞、線維芽細胞、上皮細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、血小板、粘膜細胞及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1種でもよい。好ましくは、体細胞は優れたミトコンドリア活性を有する筋細胞又は肝細胞から得ることができる。加えて、体細胞は自己又は同種の血液PBMC細胞から得ることができる。
【0018】
本明細書で用いる場合、「血小板」という用語は、血液の有形成分である血液細胞の一種のことをいう。血小板は骨髄で生成され、血管や組織が損傷した後の止血及び血液凝固に重要な役割を果たしている。ミトコンドリアは自己又は同種血小板から得ることができる。
【0019】
本明細書で用いる場合、「生殖細胞」という用語は、生殖に関与する細胞であり、有性生殖を行う生物の配偶子である精子及び卵子、並びにこれらの発生のすべての段階にある先祖細胞を含む。ミトコンドリアは、自己又は同種の生殖細胞から得ることができる。生殖細胞は精子又は卵子でもよい。
【0020】
本明細書で用いる場合、「幹細胞」という用語は、様々な種類の組織細胞に分化する能力を持つ未分化細胞のことをいう。幹細胞は、間葉系幹細胞、成体幹細胞、脱分化幹細胞、胚性幹細胞、骨髄幹細胞、神経幹細胞、角膜縁幹細胞、組織由来幹細胞及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1種でもよい。
【0021】
この場合、間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、胎盤、滑液、精巣、骨膜及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1種でもよい。好ましくは、間葉系幹細胞はヒト臍帯に由来することができる。
【0022】
加えて、ミトコンドリアは、対象者から単離された、又は生体外で培養された細胞又は組織サンプルを濃縮し破壊することによって得ることができる。加えて、ミトコンドリアは、冷凍保管後に解凍した細胞又は組織サンプルを破壊することによって得ることができる。
【0023】
加えて、ミトコンドリアは、冷凍乾燥した、冷凍保管した、又は冷凍保管後に解凍した細胞又は組織サンプルから得られたものであってもよいが、得られたミトコンドリアの生物活性に悪影響を及ぼさない限り特に限定されない。
【0024】
加えて、ミトコンドリアは損傷を受けておらず、正常な生物学的活性を持ち得る。具体的には、正常な生物学的活性を有するミトコンドリアは、(i)膜電位を有すること、(ii)ミトコンドリア内でATPを生成すること及び(iii)ミトコンドリア内でROSを除去するかROSの活性を低下させること、からなる群から選択される1種又は複数の特性を有することができる。
【0025】
保存液組成物は、ヒスチジン、トリプトファン及びケトグルタレートからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含むことができる。
【0026】
ケトグルタレートは、アルファ-ケトグルタレートでもよい。
【0027】
組成物は、単離されたミトコンドリアと、ヒスチジン、トリプトファン及びケトグルタレートからなる群から選択される少なくとも1種との混合物を含むことができる。
【0028】
組成物中の単離されたミトコンドリアの濃度は、約0.01μg/mL~約1mg/mL、約0.01μg/mL~約100μg/mL、約0.01μg/mL~約90μg/mL、約0.01μg/mL~約80μg/mL、約0.01μg/mL~約70μg/mL、約0.01μg/mL~約60μg/mL、約0.01μg/mL~約50μg/mL、約0.01μg/mL~約40μg/mL、約0.01μg/mL~約30μg/mL、約0.01μg/mL~約20μg/mL、約0.01μg/mL~約10μg/mL、約0.01μg/mL~約9μg/mL、約0.01μg/mL~約8μg/mL、約0.01μg/mL~約7μg/mL、約0.01μg/mL~約6μg/mL、約0.01μg/mL~約5μg/mL、約0.1μg/mL~約10μg/mL、約0.5μg/mL~約10μg/mL、約1μg/mL~約10μg/mL、約2.5μg/mL~約10μg/mL又は約5μg/mL~約10μg/mLでもよい。
【0029】
組成物中のヒスチジンの濃度は、約1mM~約500mM、約5mM~約500mM、約10mM~約500mM、約25mM~約500mM、約50mM~約500mM、約75mM~約500mM、約100mM~約500mM、約125mM~約500mM、約150mM~約500mM、約175mM~約500mM、約198mM~約500mM、約100mM~約400mM、約100mM~約300mM、約100mM~約200mM又は約100mM~約198mMでもよい。
【0030】
組成物中のトリプトファンの濃度は、約1μM~約100mM、約1μM~約90mM、約1μM~約80mM、約1μM~約70mM、約1μM~約60mM、約1μM~約50mM、約1μM~約40mM、約1μM~約30mM、約1μM~約20mM、約1μM~約10mM、約1μM~約5mM、約10μM~約10mM、約100μM~約10mM、約0.5mM~約10mM、約1mM~約10mM、約1.5mM~約10mM又は約2mM~約10mMでもよい。
【0031】
組成物中のケトグルタレートの濃度は、約1μM~約100mM、約1μM~約90mM、約1μM~約80mM、約1μM~約70mM、約1μM~約60mM、約1μM~約50mM、約1μM~約40mM、約1μM~約30mM、約1μM~約20mM、約1μM~約10mM、約1μM~約5mM、約10μM~約10mM、約100μM~約10mM、約250μM~約10mM、約500μM~約10mM、約750μM~約10mM、約1mM~約10mM、約1mM~約5mM又は約1mM~約2mMでもよい。
【0032】
加えて、保存液組成物は、単離された細胞、組織又は臓器を長期保存するための冷蔵保管液や冷凍保存液をさらに含むことができる。
【0033】
冷蔵保管液は、ヒドロキシエチルスターチ(HES)、N-アセチルシステイン(NAC)及びデキサメタゾン(DEX)を含むことができる。HESは、テトラヒドロキシエチルスターチ(T-HES)、ペンタヒドロキシエチルスターチ(P-HES)又はヘキサヒドロキシエチルスターチ(H-HES)でもよいが、これらに限定されない。
【0034】
冷蔵保管液は、必須アミノ酸、インスリン及びグルコースをさらに含むことができるが、これらに限定されない。
【0035】
冷凍保存液は、ヒドロキシエチルスターチ(HES)及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含むことができる。冷凍保存液はDMEM又はMEMなどの細胞培養培地及びPlasmaLyte又はPBSなどの生理的緩衝液を含むことができる。
【0036】
具体的には、冷凍保存液は、アセトアミド、アガロース、アルギネート、1-アナリン、アルブミン、酢酸アンモニウム、ブタンジオール、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エリスリトール、エタノール、エチレングリコール、ホルムアミド、グルコース、グリセロール、α-グリセロリン酸、グリセロールモノアセテート、グリシン、ヒドロキシエチルスターチ、イノシトール、乳糖、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、フェノール、プルロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、プロピレングリコール、ピリジンN-オキシド、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、スクロース、トレハロース、トリエチレングリコール、酢酸トリメチルアミン、尿素、バリン、キシロース、デキストリン、デキストラン及びイソマルトオリゴ糖からなる群から選択される少なくとも1種の追加の凍結防止物質を含むことができる。
【0037】
一方、保存液組成物は、IAP(アポトーシス阻害剤)、Rho関連プロテインキナーゼ(ROCK)シグナル経路阻害剤及び/又はEGF、FGF、PDGF、IGF、EPO、BDNF、TGF、TNF及び/又はVEGFなどの成長因子に属するタンパク質をさらに含むことができる。
【0038】
加えて、保存液組成物は、抗酸化剤、浸透圧調節剤及びエネルギー源から選択される1種又は複数の添加剤を含むことができる。
【0039】
抗酸化剤としては、アルファトコフェロール(ビタミンE)、アルファトコフェロール酢酸エステル、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシキノン、ブチル化ヒドロキシトルエン、ヒドロキシクマリン、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ラウリル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、トリヒドロキシブチロフェノン、ジメチルフェノール、レシチン、コエンザイムQ10、エタノールアミン又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
浸透圧調節剤としては、デキストラン、塩化ナトリウム、グルコース、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、デキストロース、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウム、リンゲル液、乳酸リンゲル液、ヒドロキシエチルスターチ、ラフィノース、グリセロール又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
エネルギー源としては、アデノシン-5-三リン酸(ATP)、アデノシン-5-三リン酸二ナトリウム塩、グルコース、マルトース、マンノース、ガラクトース又はフルクトースが挙げられるが、これらに限定されず、アデノシン-5-三リン酸(ATP)及び/又はアデノシン-5-三リン酸二ナトリウム塩でもよい。
【0042】
一実施形態では、保存液組成物は、ヒスチジン、トリプトファン及びケトグルタレートからなる群から選択される少なくとも1種の物質に加えて、活性成分として、アデノシン、グルタチオン、BES(N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、HES(ヒドロキシエチルスターチ)又はPEG(ポリエチレングリコール)を含むことができる。加えて、冷蔵保管用EC(ユーロコリンズ)液、UW(ウィスコンシン大学)液ビアスパン(Via-span)(登録商標)、セルシオール(Celsior)(登録商標)、カストジオール(Custodiol)(登録商標)、IGL-1(登録商標)、BGP-HMP(N,N-ビス-ヒドロキシエチル-2-アミノエタンスルホン酸(BES)-グルコネート-ポリエチレングリコール[BGP]系液(低体温機械灌流[HMP])液、BGP-CS(冷蔵保管)液などを添加してもよいが、これらに限定されない。
【0043】
細胞、組織又は臓器は哺乳類に由来することができる。哺乳類は、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギ又はネコでもよい。
【0044】
細胞、組織又は臓器は生体への移植のためのものでもよい。
【0045】
細胞としては、組織又は臓器を構成する細胞が挙げられ、例えば、筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、幹細胞又は粘膜細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
組織は、皮膚、筋肉、角膜、軟骨、神経及び骨から選択され得る。
【0047】
臓器は、心臓、肝臓、腎臓、小腸、胃、膵臓、肺、胆嚢、神経、皮膚、血管、歯、目、角膜、脳、脊髄、甲状腺、骨髄、筋肉、胸腺、脾臓、大腸、精巣及び卵巣から選択されるいずれか1種でもよい。
【0048】
保存液組成物は、単離された細胞、組織又は臓器の長期保存効率を高め得る添加剤をさらに含むことができる。添加剤は、水、糖類(例えば、スクロース、ラフィノース、デンプン)、pH緩衝剤(例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム)、ATP、緩衝剤、アルブミン又は抗酸化剤(例えば、ビタミンE)でもよい。
【0049】
灌流又は再灌流のためのミトコンドリアを含む組成物
本発明の別の態様において、灌流又は再灌流のための単離されたミトコンドリアを含む組成物を提供する。
【0050】
灌流は、単離された細胞、組織又は臓器に灌流液を注入又は連続的に流すことによって原形質を人工液で置換することでもよい。再灌流は、単離された細胞、組織又は臓器への血液供給を一時的に停止し、その後血流を回復することでもよい。
【0051】
組成物は、非経口投与用組成物でもよい。組成物は液体でもよい。加えて、組成物は1種又は複数の添加剤を含むことができる。添加剤としては、賦形剤、希釈剤、付着防止剤、保存剤、溶媒、界面活性剤又はこれらの組み合わせが挙げられる。加えて、組成物は、MgCl、CaCl、NaCl、KCl又はこれらの組み合わせなどの塩をさらに含むことができる。
【0052】
組成物は医薬組成物でもよい。
【0053】
保存液組成物を使用して細胞、組織又は臓器を保存する方法
本発明の別の態様において、単離された細胞、組織又は臓器を、単離されたミトコンドリアを含む保存液組成物の存在下で保管することを含む、単離された細胞、組織又は臓器を保存する方法を提供する。
【0054】
細胞、組織、臓器、ミトコンドリア及び保存液組成物は上記の通りである。
【0055】
本明細書で用いる場合、「保存液組成物の存在下」という用語は、本発明の保存液組成物を保存対象物、すなわち、細胞、組織又は臓器に接触させることを指すことができる。
【0056】
一実施形態では、上記方法は本発明の保存液組成物に細胞、組織又は臓器等を浸漬することにより、保存液を保存対象物に接触させる、細胞、組織又は臓器等を保存する方法である。保存対象物に対する保存液の量は特に限定されないが、保存対象物が完全に浸漬する量より多い量が好ましい可能性がある。
【0057】
保存容器は特に限定されず、密閉容器か開放容器のどちらでも使用できる。保存容器は目的に応じて適宜選択すればよい。好ましくは、保存容器は好気的条件(酸素、二酸化炭素及び窒素等の気体が自由に通れる条件)を維持できる容器でもよい。
【0058】
保管は冷蔵状態で行ってもよい。冷蔵状態は、約-4℃~約25℃、約-4℃~約20℃、約-4℃~約15℃、約-4℃~約10℃、約-2℃~約10℃、約-2℃~約8℃、約0℃~約15℃、約0℃~約10℃、約0℃~約8℃、約0℃~約6℃、約0℃~約5℃、約0℃~約4℃、約0℃~約3℃又は約2℃~約5℃でもよい。
【0059】
一方、保存対象物を本発明の保存液組成物に浸漬して冷凍保存する場合には、必要に応じて公知の凍結防止剤(例えば、DMSO、グリセリン等)を保存液組成物に添加することができる。
【0060】
保管期間は、目的に応じて適切な期間を設定すればよい。具体的には、保管は、最長で約10日間、最長で約9日間、最長で約8日間、最長で約7日間、約0時間~約7日間、約0時間~約6日間、約0時間~約5日間、約0時間~約4日間、約0時間~約3日間、約0時間~約2日間、約0時間~約42時間、約0時間~約36時間、約0時間~約30時間、約0時間~約24時間、約0時間~約18時間、約0時間~約12時間、約0時間~約9時間、約0時間~約6時間又は約0時間~約3時間行うことができるが、これらに限定されない。
【0061】
上記の方法は細胞からミトコンドリアを単離することをさらに含むことができる。細胞からミトコンドリアを単離する際は、当分野で知られている方法を用いることができる。細胞からミトコンドリアを単離することは、細胞を溶解し、溶解物からミトコンドリアを単離することを含むことができる。単離は遠心分離によって行うことができる。
【実施例
【0062】
以下、次の実施例により本発明をより詳細に説明する。しかし、次の実施例は本発明を説明するためだけのものであり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0063】
実施例1.単離されたミトコンドリア含有液の利用による心臓機能の確認
【0064】
実施例1.1.血小板の調製
約40mL~約50mLの濃縮ヒト血小板を2,000×gで約30分間遠心分離した。血漿を含む上清を除去し、生じた血小板沈殿物(ペレット)を得た。得られた血小板沈殿物を血漿と同量のTTG混合保存液(0.195Mトレハロース、20mMトリス及び65mMグリシン:TTG)に再懸濁した。再懸濁した血小板沈殿物を1mLずつ分注し、使用するまで-80℃で保管した。
【0065】
実施例1.2.血小板からのミトコンドリアの取得
冷凍保管した血小板を解凍し、約5分間ボルテックスすることによって破壊し、2,000×gで約5分間遠心分離した。生じた上清を12,000×gで10分間遠心分離し、沈殿したミトコンドリアを得た。
【0066】
実施例1.3.単離された心臓の安定化
心臓の機能を確認するため、まず単離された心臓を安定化させた。
【0067】
具体的には、SD(Sprague-Dawley)ラット(12週齢、雄)をケタミンで麻酔し、次いで屠殺した。ラットの心臓を摘出し、単離された心臓を大動脈カテーテルを介してランゲンドルフに置いた。単離された心臓をクレブス-ヘンゼライト液で約20分間灌流して心臓を洗浄した。冷蔵保管されたヒスチジン-トリプトファン-ケトグルタレート(HTK)液を心臓の大動脈から注入し、約10分間灌流して心臓を安定化させた。
【0068】
HTK液には198mMヒスチジン、2mMトリプトファン、1mMケトグルタレート、30mMマンニトール、4mMMgCl、15μMCaCl、15mMNaCl及び9mMKClが含まれていた。
【0069】
実施例2.ミトコンドリア含有液の利用による摘出した心臓の灌流液維持の確認
実施例1.2.で調製したミトコンドリアをHTK液に添加し、5μg/mLミトコンドリアを含むミトコンドリア-HTK液を調製した。
【0070】
実施例1.3.で調製した安定化した心臓に、5μg/mLミトコンドリアを含むミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液を約2分間注入した。その後、心臓を150μg/30mLのミトコンドリア-HTK液及び30mLのミトコンドリアを含まないHTK液それぞれに浸漬し、約4℃で保管した。10、12及び29時間後、保管した心臓を大動脈カテーテルを介してランゲンドルフに置き、クレブス-ヘンゼライト液を通過させた。心臓を通過した灌流液の量を測定した。このとき、灌流液の量の変化は心拍数に依存しており、心拍数と関連している。したがって、経時的な正規化された灌流液量(mL)を測定し、図1に示した。
【0071】
図1に示すように、ミトコンドリアを含まないHTK液のみに保管した場合と比較して、ミトコンドリア-HTK液に保管した場合、9、10、12及び29時間において心臓の灌流液が約20%増加した。
【0072】
加えて、心臓を単離した後、単離された心臓をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管し、心拍の持続時間を確認した。
【0073】
心臓を単離してから9時間後、ミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管された心臓の拍動は明確に区別可能であった。ミトコンドリアを含まないHTK液に保管された心臓は、9時間後において非常に弱い心拍を示したが、ミトコンドリア-HTK液に保管された心臓は、9時間後でもミトコンドリアを含まないHTK液に保管された心臓よりも速く、より安定した心拍を示した。
【0074】
したがって、単離された心臓は、ミトコンドリア含有液の存在下で長期間にわたり心収縮性を維持していたことを確認した。
【0075】
実施例3.ミトコンドリア含有液の利用による摘出した心臓における筋原線維細胞の維持の確認
実施例2で灌流液を測定した心臓から筋原線維細胞を単離した。単離された細胞の状態を顕微鏡で観察した。単離された心臓をミトコンドリア-HTK液又はミトコンドリアを含まないHTK液に保管した場合の保管時間別(9、10、12及び29時間)の筋原線維細胞の画像を図2に示す。
【0076】
図2に示すように、ミトコンドリア-HTK液に保管した場合、ミトコンドリアを含まないHTK液に保管した場合に比べて約2~3倍多くの心臓の心筋細胞が単離された。
【0077】
したがって、ミトコンドリア含有液の存在下で心臓を保管した場合、ミトコンドリアが存在しない場合に比べて心臓の心筋細胞の数が増加することを確認した。
【0078】
実施例4.単離されたミトコンドリアを含む液に保管した心臓、肝臓及び腎臓の機能の確認
【0079】
実施例4.1.単離された心臓、肝臓及び腎臓の機能の確認の準備
C57BL6マウス(7週齢、雄)をケタミンで麻酔し、次いで心臓、肝臓及び腎臓を摘出した。摘出した心臓、肝臓及び腎臓をPBSで数回洗浄し、血液や異物を除去した。洗浄した臓器を冷蔵保管したミトコンドリアを含まないHTK液及びミトコンドリア-HTK液それぞれに浸漬し、次いで冷蔵保管した。
【0080】
実施例4.2.ミトコンドリア含有液の利用による摘出した心臓、肝臓及び腎臓の色度変化の確認
実施例4.1.で保管された心臓、肝臓及び腎臓をPBSで数回洗浄し、次いで写真を撮り色度を比較した。図3に示すように、ミトコンドリア-HTK液に保管した場合、心臓はその明るい赤色を維持したが、ミトコンドリアを含まないHTK液に保管した場合、赤色は消失した。同様の結果が肝臓及び腎臓でも見られた。
【0081】
実施例4.3.ミトコンドリア含有液の利用による摘出した腎臓における酵素活性の維持の確認
実施例4.1.で保管した腎臓全体を、60及び160時間後それぞれで均質化し、次いで腎臓で高発現しているACE2(アンジオテンシンII変換酵素)の活性を、ACE2活性アッセイキット(カタログ番号K897-100、Biovision)を使用して、製造業者のマニュアルに従って測定した。図4に示すように、ミトコンドリアを含まないHTK液及びミトコンドリア-HTK液においてACE2の活性が時間の経過とともに増加した。特に、ミトコンドリア-HTK液に腎臓を保管した場合、ミトコンドリアを含まないHTK液のみに保管した場合と比べて、ACE2活性の上昇がより遅くなる、すなわち、ACE2活性の上昇が遅れることを確認した。
【0082】
言い換えれば、臓器単離後の継続的なエネルギーの減少とストレスの増加により、ACE2の発現と活性が増加する。その結果、ミトコンドリアで処理することによってACE2の活性上昇は臓器のストレスを軽減し、エネルギーを供給し、それによりACE2の活性を低下させることが分かった。
【0083】
実施例5.摘出した心臓に対するミトコンドリア含有液の利用効果の確認
【0084】
実施例5.1.摘出した心臓からの心筋細胞の単離
摘出した心臓の左心室断片をコラゲナーゼ(Worthington Biochemical Co.、カタログ番号LS004194)及びプロテアーゼ(Sigma Aldrich、カタログ番号 p4630)で5分間処理した後、2,000×gで遠心分離して心筋細胞を得た。
【0085】
実施例5.2.単離されたミトコンドリアの染色
血小板から単離したミトコンドリアを、ミトコンドリア特異的染色試薬であるミトトラッカー(商標)(ThermoFisher、カタログ番号 M7512)で10分間染色した。その後、12,000×gで遠心分離して上清を除去し、ミトコンドリア単離液に再懸濁した。
【0086】
実施例5.3.ミトコンドリア含有液の利用による心筋細胞生存率の上昇の確認
実施例5.1.で単離した心筋細胞を、ミトコンドリアを含まないHTK液及び実施例5.2で調製した染色したミトコンドリア-HTK液に9時間保管し、その後共焦点顕微鏡を用いてミトコンドリアの動きを確認した。その結果、図5に示すように、液中のミトコンドリアが心筋細胞内に移動したことを確認した。
【0087】
加えて、WST-1(水溶性テトラゾリウム塩)及び細胞内ATPの測定結果から、ミトコンドリアが心筋細胞内に移動することによる生存率の上昇を確認した(図6及び図7)。
【0088】
実施例5.4.ミトコンドリア含有液の利用による心臓組織内のミトコンドリアの動きの確認
摘出した心臓を、ミトコンドリアを含まないHTK液及び実施例5.2.で調製した染色したミトコンドリア-HTK液に保管した。9時間後、心臓を固定して切片化した。その後、共焦点顕微鏡を用いて組織内に移動したミトコンドリアを確認した(図8)。
【0089】
実施例5.5.ミトコンドリア含有液の利用による心臓組織におけるミトコンドリア酵素活性の増加の確認
摘出して保管していた心臓組織からミトコンドリアを単離し、次いでATP合成酵素及びクエン酸合成酵素の活性をそれぞれ測定した。その結果、図9及び図10に示すように、ミトコンドリア-HTK液を適用した場合、ATP合成酵素及びクエン酸合成酵素はともに顕著に高い活性を示した。
【0090】
実施例6.ミトコンドリア濃度に応じた腎臓の酵素活性維持の確認
保管時間を192時間とし、ミトコンドリア-HTK液の処理を濃度依存的(0、5、10、15及び20μg/mL)にした以外は実施例4.1.と同様の方法で腎臓を調製し、ACE2の活性を測定した。図11に示すように、ミトコンドリアによりACE2の活性が濃度依存的に低下することを確認した。
【0091】
実施例7.ミトコンドリア含有液の利用によるミトコンドリアの由来と活性化に応じた酵素活性維持の確認
保管時間を192時間とし、ミトコンドリアの由来と活性化が異なるミトコンドリア-HTK液で処理した以外は実施例4.1と同様の方法で腎臓を調製し、ACE2の活性を測定した。このとき、不活化ミトコンドリアは超音波処理後、56℃で30分間加熱処理した。
【0092】
その結果、図12に示すように、各熱不活化ミトコンドリアを適用してもACE2の活性は低下しないが、臍帯血間葉系幹細胞(UC-MSC)、血小板及び末梢血単核細胞(PBMC)から単離された様々な由来のミトコンドリアはACE2の活性を低下させることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】