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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ポリシラザン組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/14 20060101AFI20240730BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240730BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240730BHJP
   C08L 83/16 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C09D183/14
C09D7/20
C09D7/63
C08L83/16
C08L83/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500615
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 NO2022050167
(87)【国際公開番号】W WO2023282768
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】20210883
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】524008340
【氏名又は名称】ナナイズ エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】イウ,キングスリー オディナカ
(72)【発明者】
【氏名】クアン,グエン ホン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヴィヴェック クマール
(72)【発明者】
【氏名】ヤシーン,アニサ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002AB014
4J002CP05X
4J002CP08X
4J002CP08Y
4J002CP21W
4J002EN136
4J002FA044
4J002FD156
4J002GH00
4J002HA05
4J038BA022
4J038DL032
4J038DL161
4J038GA03
4J038GA09
4J038GA15
4J038JA25
4J038JA54
4J038JB01
4J038KA19
4J038MA07
4J038NA05
4J038PB08
4J038PB09
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、ポリシラザン組成物、特に基板をコーティングするための組成物およびその使用ならびに前記組成物から作られたコーティングを含む基板に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)有機ポリシラザン、無機ポリシラザンおよび任意の2種以上の有機および/または無機ポリシラザンの混合物を含む群から選択される組成物の重量に対して0.5~30wt%のポリシラザン成分と、
ii)前記組成物の重量に対して0.1~15wt%の少なくとも1個の求核基を含むPOSSと、
iii)前記組成物の重量に対して0.0001~2wt%の第四級アンモニウム塩R(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、アルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシシリルおよびアルケニルを含む群から選択され、かつXはF、Cl、Br、I、PFまたはBFおよびOHから選択される)と、
iv)不活性溶媒と
を含む組成物。
【請求項2】
前記ポリシラザン成分の重量に対して1~30wt%の硬化剤をさらに含む、請求項1に記載組成物。
【請求項3】
前記組成物の重量に対して0.005~5wt%の求核基を含んでいないPOSSをさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物の重量に対して0.01~1.5wt%のフロー・レベリング剤をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物の重量に対して0.05~5wt%の光開始剤をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の重量に対して0.01~10wt%のナノファイバーをさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1個の求核基はC=O、OH、NH、NH、S=O、SH、C=N、エポキシまたはC≡Nから選択される、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記POSSはフルオロ置換基をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記POSSは1~10個のフルオロ置換基を有するC~Cフルオロアルキル基を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記求核基を含んでいないPOSSは、少なくとも1個のアルコキシシリル基を含む、請求項3に従属する請求項8または請求項3に従属する請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記POSSはフルオロ置換基を含んでいない、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記POSSはフルオロおよび非フルオロ置換基の組み合わせを有する、請求項1~7に記載の組成物。
【請求項13】
前記POSSはダンベル構造を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
、R、R、Rはそれぞれtert-ブチル基である、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
基板をコーティングするための前記請求項のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項16】
少なくとも部分的に請求項1~14のいずれかに記載の組成物から作られているコーティングを含む基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザン組成物、特に基板をコーティングするための組成物およびその使用ならびに前記組成物から作られたコーティングを含む基板に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染および混入などの汚れからの様々な表面の保護は、広範囲な技術分野において非常に重要である。ほこりの粒子の化学的および物理的結合および他の種類の汚染に対して抵抗性であるような防汚もしくはセルフクリーニング特性を有する表面は、光起電モジュールおよび太陽熱システムにとってだけでなく、スマートフォンの表面への指紋の跡および汚れまたは壁の落書きを防止すること、および汚れた場合にそれらの表面を容易に綺麗にすることと同程度にありふれた目的のためにも極めて重要である。防汚、防シミおよび防食特性はコーティングの広く必要とされている特性である。広く異なる分野で使用されるコーティングへの異なる要求により、防汚性を特定の使用に合わせて調整された特定のコーティング特徴と組み合わせた新しい防汚コーティングが絶えず必要とされている。
【0003】
ポリマーなどの特定の不活性有機分子の防汚性は、摩擦係数(CoF)に関連している。CoFが低くなるほど、表面は負荷がかかった時により滑りやすくなる。低いCoFにより、例えば表面への機械的損傷を有しないか僅かな損傷を有する表面に最終的に蓄積するあらゆる汚れをブラシで除去するのがより容易になる。それは、より衝撃の大きい粒子、例えば砂嵐の中の砂の粒子を、大きい摩耗を引き起こすことなく表面から跳ね返らせるようにもすることができる。さらに、低いCoFはヒトの体感を高めるため、例えば新しいスマートフォンの画面の滑らかな感覚のためにも望ましいものであり得る。そのような望ましい特性を有し得るコーティングの一例はフルオロポリマーであり、これを使用してこの柔らかく滑らかな感覚および良好な防指紋および防汚性を得ることができる。
【0004】
さらに、低い屈折率を有するコーティングが必要とされている。屈折率(光学および光電子工学において最も基本的な量)は、リフレクター、フィルターおよび共振器などの光学部品の多くの性能指数を決定する。それはレンズの集光力、プリズムの分散能、レンズコーティングの反射率および光ファイバーの導光性を決定する。低い屈折率で媒質の中に入る場合、光は法線から媒質の表面に向かって屈折される。
【0005】
ポリシラザン、すなわちそれらのSi-N-Si骨格を特徴とするポリマーの群は、コーティングにおけるそれらの使用のために、ここ数年にわたって益々関心を集めている。コーティングの種類および配合に応じて、ポリシラザンコーティングは様々な好ましい特性を示すことができる。ポリシラザンの高い反応性により、例えば高い硬度および耐候性、優れた接着性および耐引掻性および耐摩耗性、低い表面粗さ、および塗面の高い光沢を有するコーティングを得ることができる。優れた熱的、化学的およびUV抵抗性が文書化されている。有機ポリシラザンコーティングは、同じ硬化条件を用いて5Bの鉛筆硬度を有するより広く使用されている(ポリ)シロキサンコーティングとは対照的に、室温で硬化された場合に5Hの鉛筆硬度を有することが報告されている。他のポリシラザンコーティングは、有名な付着防止テフロンの0.04と同様に、国際公開第2014008443A2号に示されているように0.03~0.05の摩擦係数を有するが、さらに優れた耐引掻性および耐摩耗性を有する。UV光/HまたはH/80℃下で硬化された無機ペルヒドロポリシラザンコーティング(SiOが得られる)については、3Gpaと同程度のコーティング硬度および700~1000℃での空気中での硬化による非常に高い13Gpaが報告されており、これはポリシラザンの官能単位における架橋の深さを証明している。それらの使いやすさおよび/または周囲条件下での低い反応性を理由に用いられることが多い(ポリ)シロキサン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、PMMAなどの他の一般的なポリマーは別として、ポリシラザンはそれらの高い反応性により、そのクラス(湿式化学配合で使用されるポリマー)の中で究極の結合剤と呼ばれてきた。ポリシラザンコーティングは、米国特許第2008/0131706A1号に開示されているように金属表面に対する永久的な防指紋コーティングなどの目的のために使用されてきたが、防汚コーティングとしての広範な使用はまだ見出されていない。
【0006】
ポリシラザンおよび他の構成成分を含むコーティング配合物が当該技術分野で知られている。一例は、1.52~1.54の屈折率を有するコーティングが得られる米国特許第9593241B2号のシロキサン樹脂、有機ポリシラザンおよびアルキルもしくはアリールを有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンの配合物である。求核基に対するポリシラザンの高い反応性により、コーティング配合物で使用される添加剤はこれらの基を含んでいない場合が多く、あるいはそれらの濃度は非常に低く維持される。ヒドロキシル、アミンを含むそのような求核基、およびヘテロ原子を含む不飽和結合(例えばカルボニル、S=O)は、ポリシラザンのフラグメント化を引き起こすことが知られている。しかし、これらの基は添加剤をコーティング中のポリシラザンと共有結合的に結合させるのに有用であり得る。従ってそれらの除外は、ポリシラザンおよび添加剤が互いに共有結合的に、かつ強く結合されないことを意味し、これによりコーティングからの添加剤の浸出または相分離のような悪影響が生じる場合がある。
【0007】
故に、改良されたポリシラザンコーティングが必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試料48T-2のコーティングの高倍率光顕微鏡画像を示す。
図2】試料48Tのコーティングの高倍率光顕微鏡画像を示す。
図3】試料48T-40のコーティングの高倍率光顕微鏡画像を示す。
図4】20MPa(画像の左側)および250MPa(画像の右側)の負荷時のトライボロジー挙動を示す試料48T-2のコーティングの光顕微鏡画像を示す。
図5】20MPa(画像の左側)および250MPa(画像の右側)の負荷時のトライボロジー挙動を示す試料48Tのコーティングの光顕微鏡画像を示す。
図6】20MPa(画像の左側)および250MPa(画像の右側)の負荷時のトライボロジー挙動を示す試料48T-40のコーティングの光顕微鏡画像を示す。
図7】20MPa(画像の左側)および250MPa(画像の右側)の負荷時のトライボロジー挙動を示す試料48Rのコーティングの光顕微鏡画像を示す。
図8】H蒸気を含む高湿雰囲気下で硬化された試料MTDS-1および周囲雰囲気下で硬化された試料のFT-IRスペクトルを示す。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様では、本発明は、
i)本組成物の重量に対して0.5~30wt%の有機ポリシラザン、無機ポリシラザンおよび任意の2種以上の有機および/または無機ポリシラザンの混合物の群から選択されるポリシラザン成分と、
ii)本組成物の重量に対して0.1~15wt%の少なくとも1個の求核基を含むPOSSと、
iii)本組成物の重量に対して0.0001~2wt%の第四級アンモニウム塩R(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、アルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシシリルおよびアルケニルを含む群から選択され、かつXはF、Cl、Br、I、PFまたはBFおよびOHから選択される)と、
iv)不活性溶媒と
を含む、請求項1に記載の組成物に関する。
【0010】
第2の態様では、本発明は、基板をコーティングするための前記請求項のいずれかに記載の組成物の使用に関する。
【0011】
第3の態様では、本発明は、少なくとも部分的に前記組成物から作られているコーティングを含む基板に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
別途定義されていない限り、本明細書で使用される全ての専門用語、記号および他の科学用語は、本開示が属する当業者によって一般に理解される意味を有することを意図している。場合によっては、一般に理解される意味を有する用語は明確性のため、および/またはすぐに参照できるように本明細書において定められており、本明細書にそのような定義を含めることは、必ずしも当該技術分野において一般に理解される定義に関してかなりの違いを表すものとして解釈されるべきではない。
【0013】
一態様では、本発明はポリシラザン成分、POSSおよび第四級アンモニウム塩を含むコーティング組成物を提供する。本発明のコーティング組成物を基板にコーティングする場合、硬化後に得られるコーティングは、好ましい防汚性および/または低屈折率などの有利な特性を有する。
【0014】
本明細書で使用される「得られるコーティング」という用語は、基板に任意に他の構成成分を含む特定のコーティング組成物を塗布し、その後にコーティングを得るために硬化させることにより得られるコーティングを指す。この用語は、意図される意味が明確である場合には「コーティング」という用語と同義で使用される。本明細書で使用される「コーティング」という用語は、典型的には「基板」とも呼ぶ目的の表面にあるあらゆる層、被膜または被覆を意味する。本コーティングは実質的に連続的であっても非連続的であってもよい。それは表面全体または表面の一部のみを覆っていてもよい。それは単層コーティングまたは多層コーティングであってもよい。本明細書で使用される「硬化させる」および「硬化させること」という用語は、基板に塗布した際のコーティング組成物の任意の種類の強化および/または固化を指し、熱、プラズマ、放射線、電子ビームおよび/または化学的添加剤などにより能動的に誘導されてもそうでなくてもよい。
【0015】
本明細書に開示および特許請求されている組成物の全てを、例えばコーティングを形成するためのコーティング目的のために使用することができるため、「組成物」および「コーティング組成物」という用語は同義で使用される。
【0016】
本発明は、
i)本組成物の重量に対して0.5~30wt%の有機ポリシラザン、無機ポリシラザンおよび任意の2種以上の有機および/または無機ポリシラザンの混合物の群から選択されるポリシラザン成分と、
ii)本組成物の重量に対して0.1~15wt%の少なくとも1個の求核基を含むPOSSと、
iii)組成物の重量に対して0.0001~2wt%の第四級アンモニウム塩R(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、アルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシシリルおよびアルケニルを含む群から選択され、かつXはF、Cl、Br、I、PFまたはBFおよびOHから選択される)と、
iv)不活性溶媒と
を含むコーティング組成物を提供する。
【0017】
本発明の組成物はポリシラザン成分を含む。ポリシラザン成分は、本組成物の重量に対して0.5~30wt%の有機ポリシラザン、無機ポリシラザンおよび任意の2種以上の有機および/または無機ポリシラザンの混合物を含むかそれらからなる群から選択されるポリシラザン成分を含んでもよい。好ましくはポリシラザン成分は、有機ポリシラザン、2種以上の有機ポリシラザンの混合物または1種以上の有機ポリシラザンと1種以上のペルヒドロポリシラザンとの混合物から選択される。本明細書で使用される「有機ポリシラザン」(「OPSZ」)という用語は、式[R’R’’Si-NR’’’]の任意のポリシラザンを指すために使用され、式中、R’、R’’およびR’’’のうちの少なくとも1つは有機置換基であり、その残りは水素であり、ここでは有機置換基は炭素を含む任意の置換基を定める。「ペルヒドロポリシラザン」(「PHPS」)および「無機ポリシラザン」という用語は、式[HSi-NH]の任意のポリシラザンを指すために同義で使用される。
【0018】
本発明のコーティング組成物中に存在するポリシラザンは直鎖状もしくは分岐鎖状であってもよい。それらは環式であってもよい。ポリシラザン成分は有利には有機ポリシラザンを含み、ここでは有機置換基の1つ以上、好ましくは全てがメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、フェニル、ビニル、3-(トリエトキシシリル)プロピルおよび3-(トリメトキシシリルプロピル)などの直鎖状、分岐鎖状、環式および/または芳香族C~Cアルキルの群から選択される。好ましくは有機置換基の1つ以上はメチルおよびエチルの群から選択される。但し、いくつかの実施形態では、有機置換基の1つ以上は直鎖状もしくは分岐鎖状C~C10アルキル、好ましくは分岐鎖状C~C10アルキルから選択される。有利には、有機置換基は三重結合またはC=C結合以外の二重結合を含んでいない。有機置換基はヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0019】
ポリシラザン成分は、例えば150~150,000g/モルの範囲の数平均分子量(Mn)を有していてもよい。当業者によって理解されるように、得られるコーティングの特定の特性、例えば疎水性、屈折率および防汚性を得るためにポリシラザン成分を選択することができる。
【0020】
有機ポリシラザンDurazane 1500 Rapid Cure(「D1500 RC」)を含む組成物に商標Durazane 1800(「D1800」)(構造I)によって知られている有機ポリシラザンを含めることにより、特にPOSS上に高濃度の求核基および/または本組成物中に高濃度の別のより反応性のポリシラザンを有するコーティングの品質に好ましい影響を与えることが本発明者らによって観察された。D1500 RCの構造は以下に示されている(構造II)。a、bおよびcは本発明者らによって知られていない専有情報である。ポリマーの骨格にグラフトされたプロピルトリエトキシシランに加えて、D1500 RCは、さらなる硬化剤として機能するために添加される3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)も有していてもよい。製造業者のMerck社によって提供された情報によれば、D1500 RC中のプロピルトリエトキシシランおよびAPTESの総量は、本組成物の総重量に対して10%超であって30%未満である。
【化1】
【化2】
【0021】
目視検査により、D1800を含む実験1のコーティングがより滑らかで、より均一であり、かつD1800を含まない対応するコーティングよりも良好な防汚性を有することが分かった。これらの効果は、D1800がD1500 RCよりも立体障害され、それにより、より遅く、かつより制御された反応が生じ得、硬化されるとエチルになるD1800のビニル基はD1800のメチル基よりも疎水性であり、かつD1800中の有機基の量が多くなるとそれが界面活性剤として機能するのを可能にし、本組成物の被膜形成特性を向上させることができるという事実によるものであり得る。
【0022】
D1800、D1500 RCおよびDurazane 1500 Slow Cure(「D1500 SC」)は全て、好ましいポリシラザン構成成分の例を表している。同様にMerck社によって製造されているD1500 SCの構造に関して入手可能な情報は存在しないが、D1500 SCは、グラフトされたトリエトキシシランを含んでいない(Z=0)が3%超かつ10%未満の範囲の「遊離」APTESを含むと考えられている(故にそれは、D1500 RCよりも遅く硬化する)。D1500 SC中の有機基はメチルであると考えられている。
【0023】
ポリシラザン成分は、総コーティング組成物の重量に対して0.5~30wt%、例えば1~8wt%、例えば5~15wt%、例えば20~30wt%の量で存在する。当業者であれば、ポリシラザンの量は例えば基板への本コーティング組成物の塗布のために使用される技術に基づいて選択し得ることを分かっているであろう。
【0024】
本発明の組成物はPOSSを含む。POSSすなわち多面体オリゴマーシルセスキオキサンは、化学式[RSiO3/2(R=H、アルキル、アリール、アリールアルキルまたはアルコキシル、フルオロアルキル、パーフルオロアルキル、シロキサン/(ポリ)シロキサン、エーテル/ポリエーテル)の化合物であり、これはかご状構造(図1)を有し得、かつそれらの化学組成はハイブリッド、すなわちケイ素(SiO)の組成とシリコーン(RSiO)の組成との中間(RSiO1.5である。各POSS分子は、POSSモノマーの重合またはポリマー鎖へのグラフト化に適した共有結合的に結合された反応性官能基と、様々なポリマー系とのPOSSの溶解度および適合性のために非反応性有機官能基とを含んでいてもよい。様々な異なるPOSS分子が入手可能であり、かつより多くのものが開発中である。
【0025】
POSSの利点としては、1~3nm(Si-O-Siコア)の小さいサイズにより分子レベルでポリシラザンとの混合が可能になるという事実、およびPOSSは典型的なナノ粒子のようにではなく分子のように挙動し、異なる溶媒中でPOSSの非常に安定な濃厚分散を可能にするという事実が挙げられる。故にコーティング組成物の配合は容易になる。さらにPOSS分子のSi-O-Si主鎖は、POSSがそのコーティング中に含まれている場合にコーティングの光透過率が悪影響を受けないことを意味する。
【0026】
本発明のコーティング組成物中で使用される場合、POSS分子のボールのような性質は、得られるコーティングの摩擦係数をPOSSを含んでいない匹敵するコーティングに対して減少させることに寄与することができ、硬いSi-O-Si骨格が低摩擦(滑りやすい)分子、例えばポリシラザンまたはPOSSそれ自体のいずれかからのアルキル、フルオロアルキルと組み合わせられ、かつそれにより囲まれた場合、POSSは滑りやすい成分のためのローラーのように機能するボールと見なし得る。
【0027】
POSSのR基は独立して、H、アルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシル、アルコキシシリルまたはアルケニルを含むかそれらからなる群から選択されてもよい。いくつかの実施形態では、R基は、H、C~C18アルキル、C~C24アリール、C~C34アリールアルキル、C~C18アルコキシル、C~C12(C~Cアルコキシシリル)アルキルおよびC~C18アルケニルから、例えばH、C~C12アルキル、C~C12アリール、C~C22アリールアルキルおよびC~C12アルコキシル、C~C(C~Cアルコキシシリル)アルキルおよびC~C12アルケニルから、好ましくはH、C~Cアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシルなど)、フェニル、C~C18アリールアルキル、C~Cアルコキシル、C~C(C~Cアルコキシシリル)アルキルおよびC~Cアルケニルから選択される。アルキル、アリールアルキル、アルコキシル、アルコキシシリルおよびアルケニル基は直鎖状および/または分岐鎖状であってもよい。アルキル、アリールアルキル、アルコキシル、アルコキシシリルおよびアルケニル基は環式であってもよい。R基は全て同じであってもよく、あるいはR基の1個、2個、それ以上または全てがそれ以外のR基とは異なってもよい。
【0028】
有利にはアルケニル基またはアルコキシシリル基は、コーティング後に反応してそのコーティングに共有結合的に結合することができるようにしてもよい。そのような結合は、塩などの結合していない構成成分の浸出を防止してもよい。但し、そのような基の数はあまり高くならないようにしなければならず、最大5個、例えば最大3個に限定しなければならない。高分岐アルキル基などのPOSS中のどこかにある末端メチル基の存在により、好ましい防汚性を有するコーティングを得てもよい。
【0029】
本発明にとって有用なPOSSは、ポリシラザンと反応して(Siに共有結合的に結合して)フラグメント化を引き起こし得る少なくとも1個の基を含む。C=OおよびS=Oなどの不飽和結合は通常では求核剤として考えられないが、どちらもいくつかの状況では求核剤として機能することができる。本発明者らは、酢酸ブチル中のカルボニルおよびジメチルスルホキシド中のS=Oが本発明者らのコーティング配合物中のポリシラザンと反応することを見い出した。従って、求核基を広い意味で本発明で使用して、ポリシラザンと反応することができる不飽和結合を含めてフラグメント化を引き起こす。求核基はO、NおよびSから選択されるヘテロ原子を含む。求核基はC=O、OH、NH、NH、S=O、SH、C=NおよびC≡Nを含む群から選択されてもよい。いくつかの実施形態では、求核基はNH、C=OおよびOHから選択される。求核基はR基上の置換基として存在してもよく、あるいはSi原子に直接結合されていてもよい。いくつかの実施形態では、POSSは1~8個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個の求核基を含む。
【0030】
ポリシラザン中のSi原子(Si-H、およびSi-NH-Siもあり得る)は求核攻撃の容易な標的である。故にPOSS分子の求核基は、コーティング組成物中のポリシラザンと反応し得る。可能な機構は、Si原子と中間体供与共有結合を形成し、それによりSiを5配位状態にし、その後に結合を破壊するためのPOSSの求核基による求核攻撃であり、これによりSi-N結合が破壊される場合、ポリシラザン鎖のフラグメント化が生じる。フラグメント化の程度は求核剤の種類、ポリシラザンの種類および/または濃度によって決まってもよい。
【0031】
POSS分子は、開放かご型または閉鎖かご型またはランダム構造または梯子状構造であってもよい。T8かご型(8個のSi原子、構造III)、T10かご型、T12かご型および任意の2つ以上の混合物などの、様々なかごサイズの閉鎖かご型POSS分子が本発明のコーティング組成物において特に有用であり得る。
【化3】
【0032】
有利には、POSSは少なくとも1個のフルオロ置換基をさらに含む。フルオロ置換基はSi原子に直接結合されてもよい。有利には、フルオロ置換基はR基上の置換基として存在し、R基をフッ素化R基にする。いくつかの実施形態では、フッ素化R基は(ポリ)シロキサンなどのシロキサンをベースとしている。好ましいPOSS分子は、R基としてフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロアリールアルキル、フルオロアルコキシル、フルオロアルコキシシリルまたはフルオロアルケニルから選択される少なくとも1個の基を含む。いくつかの実施形態では、R基はC~C18フルオロアルキル、C~C24フルオロアリール、C~C34フルオロアリールアルキル、C~C18フルオロアルコキシル、C~C12フルオロ(C~Cアルコキシシリル)アルキルおよびC~C18フルオロアルケニルから、例えばC~C12フルオロアルキル、C~C12フルオロアリール、C~C22フルオロアリールアルキルおよびC~C12フルオロアルコキシル、C~Cフルオロ(C~Cアルコキシシリル)アルキルおよびC~C12フルオロアルケニルから、例えばC~Cフルオロアルキル(フルオロメチル、ノナフルオロヘキシル、フルオロエチル、トリフルオロプロピル、ペンタフルオロブチル、イソフルオロブチル(isofluorobutyl)、ヘプタフルオロペンチル、シクロフルオロヘキシルなど)、ペンタフルオロフェニル、C~C18フルオロアリールアルキル、C~Cフルオロアルコキシル、C~Cフルオロ(C~Cアルコキシシリル)アルキルおよびC~Cフルオロアルケニルから選択される。アルキル、アリールアルキル、アルコキシル、アルコキシシリルおよびアルケニル基は直鎖状および/または分岐鎖状であってもよい。アルキル、アリールアルキル、アルコキシル、アルコキシシリルおよびアルケニル基は環式であってもよい。R基は全て同じであってもよく、あるいはR基の1個、2個、それ以上または全てがそれ以外のR基とは異なってもよい。言及されているフッ素化R基の全てについて、フッ素化R基は1個以上のフルオロ置換基、例えば1、2、3、4、5、6、7個またはそれ以上などのフッ素置換基を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、POSSは、R基として1~15個のフッ素置換基を有する少なくとも1個のC~C10フルオロアルキル基を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、POSSはフルオロ置換基を含んでいない。特定の実施形態では、POSSは、フッ素化されていない5~7個のR基を含み、かつフェニルなどのアリールおよび/またはメチルなどのアルキルおよび/または(ポリ)シロキサンおよびフッ素化されていない1~3個のR基を含み、かつC=O、OH、NH、NH、S=O、SH、C=NまたはC≡Nを含むかそれらからなる群から選択される1個以上の求核基を含む。
【0034】
フルオロ置換基を含むPOSS分子は、フルオロ置換基を含まないPOSSと比較して得られるコーティングの防汚効果の向上を与え得る。フルオロ置換基を含むPOSS分子は、フルオロ置換基を含まないPOSSと比較して得られるコーティングの屈折率を低下させ得る。さらに、CO-POSSを用いる以下の実施例に示すように、フッ素化POSSはより低い摩擦係数も生じ得る。
【0035】
T8、T10、T12かご型POSSの8、10または12個のSi中心により、コーティング組成物および得られるコーティングの表面化学を最適化させることが可能になる。例えば、低い表面エネルギー(防汚性)および低い摩擦係数が必要である場合、中心の大部分がフルオロアルキル基を有すると共に、1個または2個のみが反応性求核基を有することができる。有利にはPOSS構造により、各フルオロアルキル鎖または目的の他の鎖がそれ自体の反応性および/または官能性基を有する大部分の一般的な分子とは異なり、多すぎる反応基を導入することなくコーティングの表面をCFおよびCF基で豊富にさせることが可能になる。
【0036】
POSSは追加または代わりとして、少なくとも1個のクロロ置換基などの上で言及されていない他の置換基を含んでいてもよい。POSS分子は抗菌剤、紫外線吸収剤/安定化剤、IR吸収剤および/またはアップコンバージョン蛍光体などの特にそれらの特性のために選択される基または置換基をR基として、またはR基の中に含んでいてもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、好ましいPOSSはCO-POSSである。CO-POSSはSi中心の1つを除く全てに結合されたイソブチル基、ならびに最後のSi中心にメタクリル酸プロピルとパーフルオロドデシル(-CHCH(CFCF)との混合物を有する。CO-POSSにおけるR基のこの組み合わせにより、フルオロ置換基と関連づけられた好ましい特性を有するPOSSが得られ、それはかなり疎水性であり、ポリシラザンと共に安定な溶液を形成することができ、顕微鏡によって観察されるようにポリシラザンマトリックスにおいてPOSSのかなり一様な分配が得られる。
【0038】
さらなる好ましいPOSSは、T8 POSS上にCO-POSSよりも大きい数のフッ素化R基、例えば最大7個のフッ素化基、例えば最大6個のフッ素化基を有するPOSSである。これらのPOSS分子を本発明のコーティング組成物中に含めることは、他の匹敵するコーティングに対して低い摩擦係数および/または良好な防汚性/洗浄容易性を有するコーティングが得られると予測される。そのような好ましいPOSSの例は、CHCH(CFCF(式中、0≦n≦8、より好ましくは0≦n≦7である)などのフッ素化鎖を有するT8 POSSである。より大きいかごサイズを有するPOSSは、対応してより大きい数のフッ素化鎖を有し得る。有用なPOSSのいくつかの非限定的な例が以下に示されている(構造IV~VI)。
【化4】
【0039】
いくつかの実施形態では、(CFCF(式中、0≦n≦8(T8かご型と仮定する)である)などのフッ素化鎖を有するPOSSを使用してもよい。これらのPOSS分子はさらに任意に、より多くの求核性および/または極性官能基を含んでいてもよい。これは、特により長いフルオロアルキル鎖(例えばn≧3)により、溶媒への溶解度を高めるのを助けてもよい。これらの実施形態では、本コーティング組成物は、そのようなPOSSの溶解度をさらに高めるために、例えば唯一の溶媒として、あるいは例えば別の溶媒と組み合わせたフッ素化溶媒を含んでいてもよい。当業者は、様々なフッ素化溶媒に関する知識および溶媒混合物のための適合可能な溶媒の知識を有する。化合物VIIは、そのような構造の有用なPOSSの例である。
【化5】
【0040】
フルオロ置換基を含むPOSS分子は全て、任意の他の種類のフッ素化および/または非フッ素化R基、例えば限定されるものではないが、直鎖状もしくは分岐鎖状アルキル、アリール(例えばフェニル)、(ポリ)シロキサンおよびアルコキシシリル(アルキル-O-Si)をさらに含んでいてもよい。フッ素化および非フッ素化置換基の組み合わせにより、特に非フッ素化溶媒へのPOSSの溶解度を高めるのを助けてもよい。それにより、CFおよび/またはCF基を含む化合物などのフッ素化分子が互いに付着または相分離する傾向、高い表面粗さをもたらし得る現象、曇ったコーティングおよびさらには摩擦係数の上昇も抑えてもよい。アルコキシシリル、例えばメトキシシリルおよびエトキシシリルは、水分の存在下で非常に速く加水分解してシラノールを形成し、これはポリシラザンの高速硬化に寄与する。また、アルコキシシリル基のみまたはアルコキシシリル基の大部分を有するPOSS分子は、反応性官能基を含む1個のR基を含めて/含めずに使用してもよい。
【0041】
本発明において使用されるフッ素化(トリフルオロプロピル)および非フッ素化R(フェニルおよびイソブチル)基と組み合わせたPOSS分子の例としては、以下が挙げられる。
【化6】
【0042】
本発明者らは、フェニルまたはアルキル(イソブチル、イソオクチルなど)とフルオロアルキル(トリフルオロプロピル、ヘプタフルオロペンチルなど)との組み合わせにより、溶媒へのより良好な溶解性および/またはポリマーマトリックス中でのより良好な分散を有するPOSSが得られ、これにより構造IVおよびVにおいてよく見られるコーティングの濁りをなくし、かつ例えば目視観察に基づく全体的に向上したコーティング品質が得られるということを発見した。例えば構造VIIIをVIとは異なり濁りを示さないポリシラザン濃度に関して40wt%まで試験した。構造VII~XIに示されている理論上の比はR基の組み合わせと同様に単なる例示である
【0043】
本発明の組成物に使用されるPOSS分子に1個以上のフェニル基を含めることにより、引張強度などにより測定される機械的靱性などの得られるコーティングの靱性を高めてもよい。さらにそれにより、空間中の電子、プロトンおよび/またはUVなどの有害な放射線への抵抗性を高めてもよい。従っていくつかの実施形態では、少なくとも1個のR基はフェニル基を含む。
【0044】
さらに、POSSが天然に滑りやすいR基を含む場合、得られるコーティングは比較的低い摩擦係数を有するように思われる。そのような天然に滑りやすいR基の例は、ポリエーテル、(ポリ)シロキサンおよびフッ素化鎖である。
【0045】
本発明者らによって調査された別のPOSSはN-POSSであり、ここでは8個のR基のうちの3つが3-アミノプロピル基である。3個のアミノ基を有するN-POSSの分子(T8かご型を仮定している)は、1個のOHまたはC=O基のみを有するPOSSの分子よりもポリシラザンと3~6倍多く反応することができる。従って、N-POSSはCO-POSSよりもポリシラザンと激しく反応する。
【0046】
さらに本発明のPOSSはフッ素化されていなくてもよいが、不活性であるか不活性基を含むR基を有する。そのような不活性基の例としては、フェニル、アルキル、アルケン、シロキサンおよびエーテルが挙げられる。非フッ素化POSSは2個以上のR基の組み合わせを有していてもよい。そのような組み合わせ、例えばフェニルとビニル、アルキルとビニルまたはアルキルとフェニルにより、溶媒およびコーティングマトリックス中での分散および適合性を高めてもよい。非フッ素化POSSの例としては、アミノプロピルイソブチルPOSS(トリフルオロプロピルがイソブチルで置き換えられた構造IV)およびトリシラノールイソブチルPOSS(開放かご型)が挙げられる。後者は反応性が高過ぎことが分かり、適当なシランと反応してシリルエーテルを形成することによるシラノール濃度の減少を必要とする。
【0047】
本発明の組成物中に存在するPOSSは典型的に、T8かご型(8個のSi原子)、T10かご型またはT12かご型あるいは任意の2つ以上の混合物を有する。T14またはT18などのより大きいかご型構造を有するPOSSも、本発明のコーティング組成物において有用であり得る。いくつかの実施形態では、T8が好ましい。他の実施形態では、コーティングにより大きい機械的強度を与えることができるため、T10および/またはT12が好ましい。さらにこれらにより、より小さいT8と比較してより少ない最密充填によりそれらのT8対応物よりも僅かに高いナノ多孔性を得てもよい。いわゆるダンベル型および/または星型POSSも有用であり得る。いくつかの実施形態では、POSSは、2つのPOSSのかごが互いに連結されているダンベル形状を有する。いくつかの実施形態では、POSSは3つ、4つまたはそれ以上のPOSSのかごが互いに連結されている「拡大されたダンベル」の形状を有する。そのような構造は有利には、1~3個のみの求核基、例えば2個の求核基、好ましくは1個の求核基を含んでいてもよい。1つのPOSS構造当たりの少ない数の求核基により反応性を低下させてもよく、このようにして反応の制御を高める。ダンベル型POSSの使用により、本組成物中のPOSSのかごのより一様な分布を与えることなどにより本組成物にわたるPOSSのかごの分配を高めてもよい。この効果により、得られるコーティングの透過率を向上させてもよい。ダンベル形状を有する有用なPOSSの例が以下に示されている。
【化7】
【0048】
ダンベル構造は全て、採用される合成手法により反応性求核剤として第二級アミンを有する。他の求核剤を使用してもよい。さらにR基の比は例示である。ダンベル構造の一方のボール上のR基は他方のボール上のものとは異なってもよい。
【0049】
POSSは、本コーティング組成物の重量に対して0.1~15wt%、例えば0.2~15wt%、例えば0.5~10wt%、例えば1~5wt%の量で本発明のコーティング組成物中に存在する。
【0050】
2つ以上のPOSS型の組み合わせを使用してもよい。例えば、主としてフッ素化基を含むPOSSおよび1つまたは2つの求核剤を含むR基を、アルコキシシリルおよびフッ素化R基を含む別のPOSSと組み合わせてもよい。異なるPOSS構造(T8、T10、T12、開放もしくは閉鎖かご型)の組み合わせを使用してもよい。POSS構造VIII、IXおよびXは、T8構造および閉鎖かご型を得るように設計された方法によって合成した。但し、核磁気共鳴(NMR)による分析により、VIIIおよびIX(フェニルとトリフルオロプロピルとの組み合わせ)では当該生成物の約2~4%が開放かご型であり、Xでは約9%が開放かご型であることが分かった。さらにトリフルオロプロピル:非フッ素化R基の比は理論上の値とは僅かに異なっており、フェニル:トリフルオロプロピルPOSS構造は理論上の値よりも僅かに高いトリフルオロプロピル含有量を有し、かつイソブチル:トリフルオロプロピルの組み合わせではその逆であった。構造およびR基におけるこれらのばらつきは、当然のことながらそれらの派生的なダンベル構造に当てはまる。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、本組成物の総重量に対して0.005~5wt%、例えば0.05~5wt%、例えば1~3wt%の反応性求核基を含んでいないPOSSをさらに含む。
【0052】
本発明の組成物は、POSSとポリシラザン成分との反応を促進し、かつ/またはポリシラザンの脱フラグメント化を引き起こし得る化合物を含む。当該化合物はアニオンなどの求核性成分を含む。好ましくは、当該化合物は塩である。より好ましくは、当該塩は第四級アンモニウム塩Rである。本明細書で使用される「第四級アンモニウム塩」という用語は、四価の窒素および負の対イオン(アニオン)を有する一価で正に帯電された群Rを指す。アニオンXはフッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物から選択されてもよい。あるいは、XはPF またはBF などの多原子アニオンまたはOHであってもよい。いくつかの実施形態では、XはF、Cl、Br、I、PFまたはBFおよびOHから選択される。いくつかの実施形態では、XはF、ClおよびBrから選択される。R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、C~C10アルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシシリルおよびアルケニルを含むかそれらからなる群から選択される。有利には、アルコキシシリルのアルコキシシリル基はシラノールに加水分解することができ、これはポリシラザン加水分解からの他のシラノールと重縮合して、コーティング後に共有結合を与えることができる。活性化されたC=C二重結合を有するアルケニル基などの共有結合を確立するために、コーティング後にポリシラザンまたは添加剤と反応することができる他の基も有利であり得る。
【0053】
当該塩により、POSS上の求核基および/または本コーティング組成物の他の構成成分とポリシラザンとの反応を促進してもよい。この活性化は、配位などのXとポリシラザンのケイ素原子との相互作用であってもよく、これにより求核攻撃のためにケイ素原子の活性化が生じる。
【0054】
また当該塩は脱フラグメント化のための触媒として機能する場合がある。上で考察されているように、本コーティング組成物中のPOSSにおける求核性(反応性)中心の存在によりポリシラザン鎖のフラグメント化が生じる。フラグメント化はポリシラザン成分とPOSSとの混合直後に開始する場合がある。得られる断片は揮発性であったり、元のポリシラザンよりも反応性が低かったり、さらには非反応性であったりする場合がある。それらのより小さいサイズにより、それらは蒸発によって失われる場合がある。それらは硬化されたコーティング中に未反応の極性基を残す場合もあり、本コーティングの防汚性を低下させる。
【0055】
それらの作用機序に関するいかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、実験において以下で考察されている第四級アンモニウム塩の存在の観察された好ましい効果についての可能な説明は、ポリシラザン断片がNHおよびNH官能単位を含むという事実、および第四級アンモニウム塩がSi-H中の求電子性Si原子とNHおよびNHなどの求核剤との反応を促進し得るという事実に関するものであってもよい。これらの特性は、より大きいポリマーネットワークへの断片の再組み込みを可能にしてもよい。重要なことに、当該塩のアニオンは反応中の求核剤(NHおよびNH)よりも強力な求核剤であり、かつ
「断片」-N-H+「鎖」-Si-H→「断片」-N-Si-「鎖」+H(g)
(式中、「鎖」はポリシラザンポリマー骨格の鎖を示す)と記載することができる反応を触媒することができる。ポリシラザンと触媒との混合時の発泡(すなわち発生気体)の観察はこの理論を支持する。2つの異なるポリマー骨格が互いに連結されている場合(このようなことが起こり得る)、この現象を溶液架橋と呼ぶ。ポリシラザン(Si-NH-Si)のNH基は触媒の存在下でSi-Hと反応し、Si-N結合の形成を引き起こす可能性があるため、溶液架橋はPOSS(またはポリシラザン断片)の非存在下で起こる可能性がある。
【0056】
好ましい第四級アンモニウム塩は、商業的に入手可能なフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB)、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAC)、および水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムである。
【0057】
当該塩は、本組成物の重量に対して0.0001~2wt%、例えば0.001~1wt%、例えば0.1~0.5wt%の量で本コーティング組成物中に存在してもよい。
【0058】
本発明の組成物は硬化剤を含んでいてもよい。本明細書で使用される「硬化剤」という用語は、ポリマー鎖の架橋によるポリマーの硬化を促進するために当業者によって知られているあらゆる化合物を指す。好ましい硬化剤の例は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、アルキルトリエトキシシラン(例えばエチルトリエトキシシラン)およびアルキルトリメトキシシランである。APTESはそのアミノ基によりポリシラザンと反応することができ、従って反応性添加剤と見なすことができ、これは脱フラグメント化触媒の使用が必要とされる場合があることを意味する。立体障害が少ないアルコキシシリル基は急速に加水分解することができ、これによりシラノールの形成が生じ、従ってポリシラザンの硬化を促進する。
【0059】
当該硬化剤はD1500 RCに見られるようにポリマー鎖上にグラフトされていてもよい。
【0060】
当該硬化剤は、ポリシラザン成分の重量に対して1~30wt%、例えば3~30wt%、例えば3~10wt%、例えば10~20wt%の量で本コーティング組成物中に存在してもよい。
【0061】
本発明の組成物は不活性溶媒を含む。本明細書で使用される「溶媒」という用語は、その中の化合物が当該化合物を溶解するか部分的に溶解するための所与の濃度で十分に可溶であるか部分的に可溶である液体物質を指す。その用語は、当該文脈がそうでないことを示していない限り、溶媒混合物(すなわち、複数の成分からなる溶媒)および純粋な化合物(すなわち単一成分からなる溶媒)の両方を指す。本明細書で使用される「不活性溶媒」という用語は、本コーティング組成物の他の構成成分と反応しないことが当業者によって知られている溶媒を意味する。溶媒は本組成物の総重量に対して20~99wt%の量で存在しなければならない。溶媒はテトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(MTHF)、ジブチルエーテル(DBE)、メトキシパーフルオロブタン(MPB)、シクロペンチルメチルエーテル、キシレンおよびトルエンなどの芳香族溶媒ならびにポリシラザンと反応することができる官能基を含んでいない他の極性非プロトン性および非極性溶媒を含むかそれらからなるリストから選択されてもよい。それは典型的にはエーテルまたは炭化水素である。いくつかの実施形態では、溶媒はTHF、DBE、MTHF、MPBおよびキシレンを含むかそれらからなるリストから選択される。THF、MTHFおよびジブチルエーテルは好ましい溶媒の例である。溶媒であるDMSOおよび酢酸ブチルはTBAFまたは他の触媒の存在下でポリシラザンと反応することができ、従ってTBAFおよび他の第四級フッ化アンモニウムまたは触媒はSi-Hを含むそのような二重もしくは三重結合の反応を促進する場合があるため、ヘテロ原子を含む不飽和結合を含む他の溶媒を避けなければならないのと同様に、好ましくは避けなければならない。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、フロー・レベリング剤、光開始剤、繊維、ポリマー安定化剤、充填剤および顔料を含むかそれらからなる群から選択される1種以上の構成成分をさらに含む。
【0063】
本発明の組成物はフロー・レベリング剤をさらに含んでいてもよい。本明細書で使用される「フロー・レベリング剤」という用語は、コーティングの均一性を高め、かつピンホール、「フィッシュアイ」、「オレンジピール」、高い粗さなどの欠陥を排除することができることが当業者によって知られている1種以上の化合物を指す。フロー・レベリング剤は、本コーティング組成物の重量に対して0.01~1.5wt%、例えば0.1~0.8wt%、例えば0.3~0.5wt%の量で存在してもよい。フロー・レベリング剤はC=O、OH、NH、NH、S=O、SH、C=NまたはC≡Nの群から選択される反応性求核基を有していなくてもよい。フロー・レベリング剤の一例は、「TEGO(登録商標)Glide 410」(TG4)として商業的に入手可能なポリエーテルシロキサンコポリマーである。いくつかの実施形態では、特にフルオロ置換基を含む添加剤またはポリシラザンを使用する場合に、より低い表面張力を有するコーティング配合物を達成するためなどに、有機フッ素基を含むレベリング剤が好ましい。有機フッ素基を含むレベリング剤の非限定的な例は、以下に示されている構造を有する、米国特許出願公開第20110319581A1号に報告されているレベリング剤の誘導体である(構造XVII)。
【化8】
【0064】
フロー・レベリング剤はポリシラザンと反応するものであってはならず、従って構造XVIIにおいて、Rfは1~10個の炭素原子を含む直鎖状もしくは分岐鎖状パーフルオロアルキル基を表してもよく、Xはトリフルオロメチル基を表し、Qは1~12個の炭素原子を含むエーテルを表してもよく、Rは1~6個の炭素原子を含むアルキル基またはアシル基であり、RおよびRは独立して1~10個の炭素原子を含むアルキル基、アリール基またはアラルキル基である。
【0065】
本発明の組成物は、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの光開始剤をさらに含んでいてもよい。硬化がUVもしくは可視光によって支援される場合に、光開始剤によりコーティングの硬化をさらに支援してもよい。光開始剤は、本コーティング組成物の重量に対して0.05~5wt%、例えば0.1~4wt%、例えば0.3~1wt%の量で存在してもよい。
【0066】
本発明の組成物は、セルロースナノファイバーなどのナノファイバーなどの繊維をさらに含んでいてもよい。当該繊維は、1個以上のアルキルおよび/またはフルオロアルキル基ならびにポリシラザンに共有結合的に結合することができる求核剤を含む基を有していてもよい。繊維を含めることにより、得られるコーティングの屈折率を本コーティング中でのエアポケットの形成などにより低下させてもよい。また繊維により衝撃靱性および引張強度などの本コーティングの機械的特性を高めてもよい。当該繊維は本組成物の重量に対して0.01~10wt%、例えば0.1~7wt%、例えば1~3wt%の量で存在してもよい。
【0067】
本組成物は、1種以上の直鎖状、分岐鎖状もしくは環式(ポリ)シロキサンをさらに含んでいてもよい。1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンの一例が以下に示されている(構造XVIII)。
【化9】
【0068】
1個以上の水素原子がアルキル、アリール、(ポリ)シロキサン、例えばフルオロアルキルなどの有機フルオロ、3-アミノプロピルまたは6-ヒドロキシヘキシルなどの反応基および/またはアルコキシシリル基で置換されている構造Xの修正は好ましいものであり得る。言及されている基は、ポリシラザンおよび/またはPOSS中に存在するかのような同様の機能を有していてもよく、例えば反応基はポリシラザンに共有結合的に結合することができ、不活性有機基および有機フルオロ基は、得られるコーティングのコーティング配合物安定性ならびに防汚性を向上させ得、アルコキシシリル基はポリシラザンの硬化を高め得る。(ポリ)シロキサンベースの添加剤は本組成物の重量に対して0.05~15wt%、例えば0.08~10wt%、例えば1~3wt%の量で、本コーティング配合物中に存在してもよい。(ポリ)シロキサンベースの添加剤の特定の利点は、POSSと同程度に結晶性かつ硬くなくてもよく、従って得られるコーティングの柔軟性を高め得るという点にある。他の利点としては光透過率の向上を挙げることができる。
【0069】
本発明の組成物はポリマー安定化剤をさらに含んでいてもよい。本明細書で使用される「ポリマー安定化剤」という用語は、ポリシラザン成分および/または本コーティングのあらゆる分解を阻害または遅延させ得るあらゆる化合物または組成物を指す。一般的なポリマー分解プロセスとしては、酸化、UV損傷、熱分解、オゾン分解、光酸化などのそれらの組み合わせならびに触媒残留物、色素または不純物との反応が挙げられる。ポリマー安定化剤は、ラジカルスカベンジャー、ヒドロペルオキシドスカベンジャー、オゾン劣化防止剤などの抗酸化剤;UV安定化剤、クエンチャー、ヒンダードアミン光安定化剤などの光安定化剤;酸スカベンジャー;金属不活性化剤;熱安定化剤;難燃剤;殺生物剤およびそれらの任意の組み合わせを含むかそれらからなる群から選択されてもよい。好ましくは、ポリマー安定化剤はUV安定化剤、すなわち紫外線を吸収することなどによりポリシラザン成分または本コーティングの光分解を防止する化合物または組成物である。
【0070】
本コーティング組成物は、1種以上のさらなる充填剤および/または顔料、例えば珪灰石、カーボンブラック、雲母状酸化鉄および/またはチクソ剤をさらに含んでいてもよい。
【0071】
本発明の組成物は、コーティングを得るために基板上にコーティングし、かつ硬化させてもよい。従って別の態様では、本発明は基板をコーティングするための本明細書に開示されている組成物のいずれかの使用に関する。
【0072】
さらに別の態様では、本発明は、少なくとも部分的に本明細書に開示されている組成物のいずれかから作られているコーティングを含む基板に関する。いくつかの実施形態では、本コーティングは本明細書に開示されている組成物から作られている。
【0073】
基板はどんな材料で作られていてもよい。低い表面エネルギー(高い水接触角度)を有する材料の場合、コーティング前の表面活性化が必要となる場合がある。そのような活性化は典型的には、本コーティング組成物をコーティングし、かつコーティングを基板に共有結合させることなどにより、湿潤性を促進する求核性官能基を生成することを含み、例えば大気プラズマ、UVまたは化学処理を用いて達成することができる。大気プラズマ処理はより高速かつより安全であり得るため、好ましいものであり得る。例えばポリエチレンの表面を30秒以内で大気プラズマで処理してヒドロキシル、カルボニルおよびカルボキシルなどの官能基を生成してもよい。またガラスなどの他の基板を処理して、求核性官能基の濃度を上昇させ、かつそれにより湿潤性およびコーティング接着を高めてもよい。これらの求核基をSi-Hによりポリシラザンに共有結合的に結合させ、強力なコーティング接着を得ることができる。基板がガラスである場合、共有結合は、ガラス表面上のシラノールとポリシラザンの加水分解によって生成されるシラノールとの反応に基づいて達成することができ、それによりSi-O-Si結合を得る。ガラスの大気プラズマ活性化により表面シラノール基の濃度を上昇させ、このようにしてより強力なコーティング接着を得てもよい。
【0074】
本コーティング組成物の調製および/または塗布のために、ノルウェー特許出願第20200778号、そこから生じたあらゆる特許もしくは特許出願またはそこからの優先権主張に開示されているコーティング方法を使用してもよい。故に、ポリシラザンのフラグメント化を制限するために、
i)コーティング組成物を調製する工程であって、
a.成分Aをコーティング組成物容器に導入し、
b.成分Bを当該コーティング組成物容器に導入して成分Bを成分Aと混合し、かつ
c.成分Cを当該コーティング組成物容器に導入して成分Cを構成成分AおよびBと混合する
下位工程を含み、
構成成分A、BおよびCはそれぞれ、ポリシラザンの群、第四級アンモニウム塩の群または反応性ナノ材料の群および/またはPOSSなどの自発的にポリシラザンポリマー骨格と反応してフラグメント化を引き起こし得る反応性分子から選択し、
構成成分A、BおよびCは全て異なる群から選択し、
構成成分A、BおよびCのそれぞれのための群の選択は互いに対する構成成分の公知の反応性に基づいて予め決定する工程と、
ii)本コーティング組成物を基板に塗布する工程であって、
工程ii)は互いに対する構成成分の公知の反応性に基づいて所定の期間tiiで開始し、
所定の期間tiiは1≦tii≦1200秒になるように選択してもよく、
下位工程ic)における成分Cの導入は、下位工程ib)における成分Bの導入後の所定の期間tで開始し、かつtは0≦t<900秒になるように選択する工程と
を含むポリシラザンコーティング方法を使用してもよい。
【0075】
あるいは、本コーティング組成物の構成成分の全てなどの構成成分の2つ以上は同時に一緒に混合してもよく、これは本コーティング組成物を基板に塗布する前にt=0であることを意味し、ここでは基板への本コーティング組成物の塗布は、前記混合後のtii1~1200秒の所定の期間で開始し、かつtiiは互いに対する構成成分の公知の反応性に基づいて予め決定する。
【0076】
いくつかの実施形態では、ポリシラザンをポリシラザンと反応しない任意の添加剤(例えばTG4)と混合し、それとは別に反応性添加剤(例えばPOSS)および第四級アンモニウム塩を一緒に混合する。そのような溶液の内容物とのそれらの適合性に応じて、抗菌剤、UV安定化剤などの他の添加剤をポリシラザンを含む溶液またはPOSSを含む溶液に添加してもよい。この2つの混合物を組み合わせて混合する。次いで、2つの混合物の混合後1~1200秒などの所定の期間tiiで基板への本コーティング組成物の塗布を開始してもよい。
【0077】
いくつかの実施形態では、ポリシラザンをポリシラザンと反応しない任意の添加剤と混合し(溶液A)、かつそれとは別に反応性添加剤(例えばPOSS)および第四級アンモニウム塩を一緒に混合し(溶液B)、第3の混合物は、例えば紫外線吸収剤、光開始剤、ラジカル硬化剤、抗菌剤などのポリシラザンと反応することができる添加剤を含む(溶液C)。AおよびBを最初に一緒に混合し、Cをその後1~1000秒で導入する。次いで、AおよびBの混合後1~1200秒などの所定の期間tiiで基板への本コーティング組成物の塗布を開始してもよい。反応性添加剤の定義は、そのような添加剤の濃度および種類に関するものであってもよい。反応性成分は、例えば不純物または添加剤の一部としてそのような少量で存在していてもよいが、ポリシラザンに対する有意なフラグメント化効果を有していない。次いで、それを溶液A中でポリシラザンと組み合わせてもよい。
【0078】
コーティング塗布前の本コーティング配合物における溶液Cの持続時間(すなわち、スプレーコーティングによる溶液Cの導入から塗布までの時間)は、本コーティング配合物中のその内容物を均一に混合するのに十分であるが、その内容物とポリシラザンとの反応を制限するのに十分に短い時間が存在するように選択してもよい。これは、この添加剤のセットの活性がそれらの上の官能基、例えばヒドロキシル、カルボニルの存在に関係しているため、それらが活性なままである(例えばUV吸収剤として)ことを保証するためである。そのような官能基はポリシラザンに対して反応性である。溶液Cの構成成分とポリシラザンとの反応の確率をさらに下げるために、当該溶液を例えば溶液C中に適当な量の溶媒を添加することにより、あるいは溶液Cの導入前にAおよびBの混合物を希釈することにより希釈してもよい。
【0079】
本コーティング配合物をさらなる反応性成分(溶液C)を含めて/含めずにコーティング前に希釈してもよい。
【0080】
また当業者に知られている他のコーティング方法、混合方法および/または調製方法を使用してもよい。
【0081】
本コーティング組成物は、当業者に知られている任意の技術を用い、限定されるものではないが、超音波スプレーコーティング、スプレー塗装または空気圧スプレーなどのスプレー;スピンコーティング;ダイカスト;インクジェット印刷;ドクターブレード、エレクトロスピニング、および溶液処理された化学組成物をコーティングまたは膜に変換するための当該技術分野で知られている他のプロセスを含むリストから選択される方法などによって基板に塗布してもよい。スプレー塗布を使用する利点は、より希薄なコーティング組成物を使用し、より薄い被膜が得られる点である。
【0082】
塗布されるコーティングの厚さは典型的には0.1~10μmの範囲である。
【0083】
硬化は、全てが水および/またはアンモニアおよび/またはHの蒸気の存在下でのプラズマ、熱およびUVもしくは可視光の1つ以上によって支援してもよい。UVおよびプラズマ硬化は、ラジカル(例えばヒドロキシルラジカル)およびオゾンまたは例えば水の励起分子の存在により高速である。これらのエネルギー性分子により、迅速な加水分解を引き起こしてSi-OHを形成してもよく、かつより速い重縮合のためにシラノール上のそれらのエネルギーにさらに影響を与えてもよい。水分に曝露した場合、Si-HおよびSi-NH-Si基は加水分解してシラノールを生じ、次いでSi-O-Si結合を得るためにこれを架橋させる。これらの反応は、空気に曝されると容易に加水分解された状態になる硬化剤、例えばAPTESにより高めることもできる。そのような硬化剤の使用は特に有機ポリシラザンの場合に、それらの反応性が立体障害により制限されるので重要である。ポリシラザン分子中に存在するアルコキシ基は加水分解および架橋を加速させてもよい。
【0084】
高速硬化はロールツーロールコーティングを可能にしてもよい。完全な硬化は、求核基の全てまたは大部分が消費されているため、耐摩耗性および/または耐摩擦性を高め、かつ/またはより良好な防汚性を促進し得る。高速硬化は有利には、30%超、60%超のRHなどの適当なレベルの相対湿度(RH)を有する空気(標準状態)、窒素、フォーミングガスであり得る環境で、硬化手段としての大気プラズマおよび/またはUVの使用により得てもよい。環境中の湿度は調整してもよい。標準大気条件下での硬化と比較して硬化期間を短縮させ得る他の好ましい方法としては、加湿雰囲気下での赤外線加熱が挙げられる。
【0085】
例えば本組成物に関する態様について、一態様の文脈に記載されている実施形態および特徴は、本組成物の使用、コーティングを含む基板などの本発明の他の態様にも当てはまる。
【0086】
本発明は、図示されている実施形態および実施例に限定されないものとする。本開示の様々な実施形態が本明細書に記載されているが、そのような実施形態は単なる一例として提供されていることは当業者には明らかであろう。本開示から逸脱することのない本明細書に記載されている実施形態に対する数多くの修正および変更ならびにそれらの変形および置換は当業者には明らかであろう。当然のことながら、本開示の実施において本明細書に記載されている実施形態の様々な代替形態を用いることができる。
【0087】
当然のことながら、本開示の全ての実施形態は任意に本明細書に記載されている他の実施形態のいずれか1つ以上と組み合わせることができる。
【0088】
当然のことながら、本明細書に開示されている各成分、化合物またはパラメータは単独で、あるいは本明細書に開示されているそれぞれおよび全ての他の成分、化合物またはパラメータの1つ以上と組み合わせて開示されているものとして解釈されるべきである。本明細書に開示されている各成分、化合物またはパラメータの各量/値または量/値の範囲は、本明細書に開示されているあらゆる他の成分、化合物またはパラメータについて開示されている各量/値または量/値の範囲との組み合わせでも開示されているものとして解釈されるべきであり、かつ従って本明細書に開示されている2つ以上の成分、化合物またはパラメータの量/値または量/値の範囲の任意の組み合わせも本明細書の目的のために互いに組み合わせで開示されていることをさらに理解されたい。本明細書に記載されているありとあらゆる特徴およびそのような特徴の組み合わせは、それらの特徴が相互に矛盾しない限り本発明の範囲内に含まれる。
【0089】
当然のことながら、本明細書に開示されている各範囲の各下限は同じ成分、化合物またはパラメータについて本明細書に開示されている各範囲の各上限との組み合わせで開示されているものとして解釈されたい。従って、2つの範囲の開示は各範囲の各下限と各範囲の各上限とを組み合わせることにより得られる4つの範囲の開示として解釈されるべきである。3つの範囲の開示は各範囲の各下限と各範囲の各上限とを組み合わせることにより得られる9つの範囲の開示として解釈されるべきであり、それ以上の数も同様である。さらに本明細書または実施例において開示されている成分、化合物またはパラメータの具体的な量/値は、範囲の下限または上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、従ってあらゆる他の下限もしくは上限または範囲あるいは本願のどこかに開示されている同じ成分、化合物またはパラメータの具体的な量/値と組み合わせてその成分、化合物またはパラメータの範囲を形成することができる。
【実施例
【0090】
コーティング組成物(実験1)
【表1】
【0091】
表1では、PSはポリシラザンD1500、D1500 SCおよびD1500 RCを指し、TG4は上に定義されているとおりであり、PIは光開始剤1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを指す。D1500 RCの濃度は、ストック溶液の分解により表に示されているものよりも最大30~40%低くなっていたかもしれない。
【0092】
方法
コーティング組成物の調製
特に明記しない限り、ポリシラザンおよび存在すればTG4を1つの容器で混合し、かつそれとは別に他の構成成分(POSS、TBAFおよびPI)を別の容器で混合し(容器はどちらもさらなる溶媒(THF)を含む)、次いで2つの混合物を組み合わせて5分間混合して当該コーティング組成物を調製した。
【0093】
コーティング
当該コーティング組成物をドロップキャスティングによりガラス基板に塗布し、ガラス棒で広げた。
【0094】
硬化
硬化は、UV光(405および360nmのランプ)による10分間の処理およびその後の150℃に維持したホットプレート上での40%以上の相対湿度による50~60分間の加熱により達成した。
【0095】
表面粗さ
表面粗さは、表面形状測定器Mitutoyo Surftest SJ 301で測定した。報告されている粗さ値すなわちRa(平均粗さ)は、粗さプロファイル座標の絶対値の算術平均である。
【0096】
摩耗試験
一方向ボールオンディスク式トライボメーター(Phoenix Tribology社、英国ニューベリー)を用いてトライボロジー研究を行った。ここでは動かないボール
【数1】
を回転しているコーティングに押し付けた。試験は、対応物としてアルミナボールを用いて約250MPa、および対応物としてテフロンボールを用いて20MPaの最大ヘルツ接触圧で行った。試験ごとに120サイクルを行った(5および4mmの半径)。試験期間は1分に設定した。各試験の前に、ボールをエタノール中で10分間超音波洗浄し、その後に新しいエタノールで洗い流し、加圧空気で乾燥した。当該コーティングに空気を吹き付けて固体粒子の存在をなくした。試験した表面を光学顕微鏡で調べて当該コーティングの損傷を評価した。500MPa(アルミナボール)および40MPa(テフロンボール)のより高い接触圧を用いた試験も行った。
【0097】
パーマネントマーカー試験
防汚性の尺度として、防指紋、防汚、落書き防止などに適用可能なパーマネントマーカー試験を使用した。パーマネントマーカーを当該コーティング上に付け、その影響を観察した。マーカーがビーズ状のしずく(破線状)を形成するか、コーティングされていないガラスと比較して有意に収縮する場合に防汚効果が存在するとみなした。10~60秒後にパーマネントマーカー線をティシュで拭って汚れ除去の容易性を決定した。コーティングされていないガラスではマーカーを拭い取ることができず、拭っている間に大きい力をかけた場合にごく稀に縁で広がった(汚れの形成)。
【0098】
CoF試験
アルミナまたはテフロンで作られた動かないボール
【数2】
を回転しているコーティングに押し付けた状態で第5節に記載されているトライボメーターを用いて、コーティング48T-2のCoFを測定した。最初に、対応物としてアルミナボールを用いて約500MPaおよび対応物としてテフロンボールを用いて40MPaの最大ヘルツ接触圧を加える2Nの負荷で試験を行った。ここでは、「負荷」および「ヘルツ接触圧」という用語は同義で使用される。その後に、20MPa(テフロンボール)および250MPa(アルミナボール)の最大ヘルツ接触圧に対応するコーティング48T-2および48Tに対する1Nの負荷で試験を行った。
【0099】
結果および発見
純粋なポリシラザン、N-POSSおよびTBAF
POSSを含んでいない試料61のコーティングは、パーマネントマーカー試験において防汚効果を全く示さず、添加剤を高める性能を有しない純粋なポリシラザンコーティングの限られた防汚を示した。さらにマーカーは僅かしか拭い取れなかった。
【0100】
N-POSSを含む試料62のコーティングは61よりも不十分な結果を示し、防汚効果およびパーマネントマーカーが拭い取られているというどんな表示のいずれも示さなかった。これらの観察は、当該コーティングへのマーカーの強力な結合を引き起こす未反応極性基(例えばNH、NHおよびSi-H)を生じさせる多くのポリシラザン断片を生成する反応性N-POSSによって説明することができる。これは、上で考察されているように第四級アンモニウム塩の存在の重要性を示している。目視検査により、62は外見において滑らかな48コーティングに匹敵して滑らかであり、かつ46、50および48R(以下)よりも明らかに非常に良好であるように見えたことに留意されたい。しかしその表面粗さは、フラグメント化の効果を示す0.03±0.01のRaから0.1±0.01nmのRaと同程度の高さまでの範囲であった。しかしその表面粗さの上限は50と同様である。従って、50はパーマネントマーカーに対する明らかな撥水性および拭い取り易さを示したので、その限られた/不十分な防汚性は高い表面粗さに関連していなかった。
【0101】
試料50のコーティング組成物では、試料61および62と比較してより大きい粒子が溶液中で形成された。この観察についての可能な説明は、試料50の組成物がTBAFを含んでいたという事実であり、故に特定のレベルの溶液の架橋および脱フラグメント化が生じていたと予測することができる。さらにN-POSSは非常に反応性が高く、これは沈殿物の形成にも影響を与える場合がある。沈殿物の存在は当該コーティングの高い表面粗さの原因になり得る。興味深いことに、試料50のコーティングが試料61および62よりも有意に高い表面粗さおよび不十分な被膜品質を示したとしても、それはパーマネントマーカーへの明らかな撥水性を示し、それは容易に拭い取られた。
【0102】
試料46のコーティングは、D1500 RCに加えてポリシラザンD1800の存在により試料50とは異なる。このコーティングはさらにより高い表面粗さを有していたが、50の撥水性よりも低いがパーマネントマーカーに対してなお撥水性であった。これは、パーマネントマーカーに対する試料62のコーティングの撥水性の不存在が表面粗さに関連していないことをさらに示している。
【0103】
試料50または46型への光開始剤の添加は、表面粗さまたはパーマネントマーカーへの撥水性に対するどんな効果も示さなかった。光開始剤の意図された役割は、UV下でのコーティングの硬化を高めることであったが、さらなる実験はどんな目立った利点も示さなかった。これは、光開始剤それ自体がそのカルボニルおよび/またはヒドロキシル基を介してポリシラザンと反応することができるという事実、すなわちUV光に対して反応させないようにし得るプロセスと関連づけられ得る。それは、直接的なUV加熱(水分の存在下または非存在下での熱硬化)が光開始剤の光硬化効果の影響を覆い隠すということかもしれない。
【0104】
CO-POSS
これらの実験では、非常に反応性の高いN-POSSを、その多くの不活性なR基によりかなり異なる種類のPOSSを表すCO-POSSで置き換えた。
【0105】
POSSの選択以外は試料50を反映している試料48Tのコーティングは、目視検査により46および50よりも滑らかであり、かつ高い光学的品質であると共に、パーマネントマーカー試験において50よりも良好な防汚性/洗浄容易性も提供することが観察された。従って48シリーズを表面粗さ、摩擦係数および耐摩耗性についてより詳細に調べた。
【0106】
試料48T-2では、48Tと同一であるコーティング組成物をたった2分間の混合後にガラス基板にコーティングした。得られるコーティングは、ベアガラス基板と同様の20±10nmの表面粗さRaによって証明される非常に滑らかなコーティング表面を示した。
【0107】
混合時間の効果を評価するために、48Tと同じコーティング組成物を再び用いて試料48T-40を調製し、ここでは当該組成物を40分後にガラス基板にコーティングした。図1図2および図3は、試料48T-2、48Tおよび48T-40のコーティングの高倍率光顕微鏡画像をそれぞれ示す。これらは、48Tについてどのように当該コーティングが48T-2では明らかでない樹状突起様粒子からなるかを示す。48T-40では、これらの樹状突起は、光顕微鏡下で光学の不均質性(色のパターン)を生じるのに十分な程に大きく成長していた。目視検査により48T-40のコーティングはなお透明であるように見えた。
【0108】
摩耗試験では、試料48-T2のコーティングは僅かな摩耗を示し、これは20および250MPaの両方による単なる研磨作用であると理解される。48Tは20MPaでは摩耗を示さなかったが、250MPaでは僅かな摩耗(研磨)を示した。20および250MPaのヘルツ接触圧下では48T-40は完全に摩耗されており、不十分なコーティング接着および硬化を示すベアガラスを現した。図4図5および図6は試料48T-2、48Tおよび48T-40のコーティングのトライボロジー挙動をそれぞれ示す。
【0109】
48T-40のコーティングの不十分な耐摩耗性についての可能な説明は、多過ぎる溶液架橋が塗布前に生じ、Si-HおよびSi-NH-Si官能基の理想的な濃度が低下したことであり得る。これらの基はコーティング後の硬化に必要であり、Si-H基は、ガラス基板またはヒドロキシル、カルボニル、カルボキシルなどのような求核基を含むあらゆる他の基板への共有結合のためにも極めて重要である。
【0110】
48T-2と比較して48Tのより良好なトライボロジー特性の理由は、溶液架橋によりより高分子量のポリシラザンが生じたが、48T-40のように多過ぎないということであり得る。この仮説は、48T-2と比較して48Tのより高い表面粗さによって支持される。48Tは48T-2よりも少ない利用可能な官能基を有すると予測されるため、接着または硬化が役割を果たさないと予測される。48T-5中の官能基の濃度はコーティング後の硬化および接着のために十分であると主張することができる。次いでこれは、より高分子量のポリマーまたはポリマー-POSSと塗布後処理とのバランスを示し、これは塗布前の最適混合時間により達成される。
【0111】
なおスマートスクリーン、アイウェア、ソーラパネルなどのガラスに通常塗布される防指紋および防汚コーティングは通常、接着および硬化のためにケイ素アルコキシまたはアクリレート末端基を有するフッ素化ポリマー鎖から調製される。摩耗試験のための典型的な印加負荷は、例えばShin-Etsu社製のSUBELYN(商標)(Siアルコキシ末端基を有するパーフルオロポリエーテル)およびDaikin chemicals社製のOPTOOL DSX-E(Siアルコキシ末端基を含むフルオロポリマー)に対して約0.1MPa(1kg/cm)である。より低い印加負荷に関する文献にも例が存在する。本発明に係るコーティング組成物から作られたコーティングの摩耗試験のための非常により高い印加負荷は、防汚用途のためにより強力であり、かつかなりより耐久性があるコーティングであることを示す。
【0112】
D1500 RCをより「反応性の高い」D1500 SCで置き換えた48Tの変形を調製した(48Rと命名)。D1500 SCは、1500RCよりも高い溶液反応性を示し、これは同じ分子量でより高濃度のSi-H基に起因し得る。コーティング塗布の際にD1500 RCはより高い濃度のAPTESにより、より反応性が高い(より速く硬化する)。
【0113】
CO-POSSの存在および安定化効果を有していても、当該コーティング溶液の反応性は50および他の同様の試料のものと同程度に活発になり、図7から明らかなように、大きくかつ塊になった粒子が散らばった滑らかな表面からなるコーティングが生じた。透明であり、かつ48シリーズと同程度に良好な防汚性(パーマネントマーカーの接着および拭い取り易さ)を示すが、当該コーティングの目視粗さにより、エクスタティック用途にとってあまり有用でないものとなる。興味深いことに、試料48Rは250MPaで摩耗(研磨または深い摩耗)の兆候を示さなかった。
【0114】
溶媒の効果
OPSZブランドのいくつかの既成の配合物は、主要もしくは唯一の溶媒として酢酸ブチルを用いて作られている。特定の製造業者はPHPSを希釈するためにジブチルエーテルの使用も推奨している。酢酸ブチルはPHPSと反応する可能性が高く、これはそれがなぜPHPSのために推奨される溶媒のリストの中にないかを説明している。本発明者らは、TBAFの存在下でn-酢酸ブチルがコーティング組成物中のOPSZに対して反応性であり、20MPaのヘルツ接触圧で完全に摩耗されたコーティングが生じることを発見した。48T-40で見られる大きい粒子の存在および色パターンが酢酸ブチルを含むコーティング組成物でも観察された。これは、溶媒のカルボニル基によるSi-H官能基の過剰な消費(触媒TBAFによって増強されるプロセス)を示し得、これによりSi-Hは触媒の存在下で不飽和結合と反応できることが確認される。従って、TBAFまたは同様に挙動する触媒が使用される場合、ヘテロ原子を含む不飽和結合を含む溶媒はポリシラザン組成物に使用するのに好ましくない。
【0115】
摩擦係数(CoF)
CoF試験において試料48T-2を研磨されたテフロンと比較した。テフロン対向面(40MPa)およびアルミナ対向面(500MPa)を用いた場合、純粋かつ十分に研磨されたテフロンシートはそれぞれ0.05~0.06および0.07~0.08のCoFを示し、試料48T-2は両方の対向面で0.01~0.015を示した。48T-2に対する250MPa(アルミナボール)のより低いヘルツ接触圧でのさらなる試験は、0.03~0.04のCoFを示した。そのより滑らかな表面および研磨性により48T-2を選択した。但し、48Tに対する20MPa(テフロンボール)および250MPa(アルミナボール)でのさらなる試験は48T-2よりも僅かに低い0-.02~0.03のCoF値を示した。これらの結果は、48シリーズのコーティングの非常に低いCoFを示している。
【0116】
通常、より高い負荷を用いた場合、より高いCoFが測定されると予測されるように、CoFおよび印加負荷は相関しているものと予測される。48T-2コーティングを用いた場合に逆の傾向が観察された。この観察についての説明は、潤滑機構がナノベアリングの機構のように、ボールのようなPOSS添加剤が接触/界面において滑り摩擦を回転摩擦に変えることができるというものであり得る。
【0117】
さらなる実験(以下の計画された実験の一部)
実験2
完全にフッ素化されたPOSS(例えば構造IV)と比較して、混合されたフッ素化および非フッ素化R基を有するPOSS試料により、より良好なコーティング特性、大部分が濁りがなく、かつ非均一な外見および特に超音波スプレーコーティングによるより良好な外見が得られた。ダンベル型POSSは全体として、例えばコーティング硬度、より低い屈折率および外見に関して良好であった。
【0118】
以下の表2は、コーティング疎水性および表面粗さに対するPOSS XIII濃度の効果の要約である。当該コーティングを調製するために、D1500 RC(200μl)およびTG4をエッペンドルチューブ(溶液A、0.5mlの総体積)中で混合した。溶液B(0.5mlの総体積)は、ポリシラザンおよびTBAFに対して異なる濃度のPOSS XIIIを含んでいた。両方の溶液をボルテックスすることにより混合し、かつ組み合わせて22wt%のポリシラザン、0.03wt%のTBAFおよび0.6wt%のTG4を含む組成物を得た。先に言及したように、D1500 RC中の硬化剤の割合はポリシラザン分子に対して10~30wt%であると報告されている。溶液AおよびBを5分間混合した後に、200ulの得られた溶液をガラススライドの上に滴下し、ガラス棒で広げた。当該コーティングを100℃に維持したホットプレート上で10分間乾燥させた。その後に当該コーティングを、H蒸気を含む高湿雰囲気下で硬化させた。
【0119】
45度に傾けた場合に当該コーティングの表面を転がり落ちる水の量(μl)であるWDRV(水滴ローリング体積)、および12μlの水が当該コーティングの表面を滑り落ち始める角度である滑り角度(SA)を現地で作製されたセットアップを用いて測定した。
【0120】
全てのコーティングがパーマネントマーカーに対して抵抗性(ビーズ状のしずくの形成および容易な拭い取り)を示した。
【0121】
より疎水性のD1800の効果を最小限に抑えるために、1500RCのみを使用した。POSSまたは触媒を含まないコーティングでは、(PS+TG4)WDRVおよび滑り角度は有意により高く、容易な洗浄および撥水性の傾向がより低いことを示した。FT-IRデータは、POSSを含むコーティングと比較してより低い硬化レベルも示す。
【0122】
3wt%のXIIIを含むコーティングについて最も低いWDRVおよびSAが記録され、1.5wt%は概ね同様の値を有していた。POSS濃度を4.5wt%にさらに上昇させることにより、より低いPOSS濃度を有するコーティングと比較してより高いWDRVおよびSAが得られた。これは、増加量のPOSSによるより高いフラグメント化の効果、すなわち増加量のTBAFにより相殺され得る効果によるものであり得る。後者はその限界を有しないわけではない。すなわち触媒の量の増加により、より高い反応性(より強力な発泡によって証明される)が生じ、これは当該コーティングプロセスの制御の難しさを高める。但し、4.5wt%のPOSSコーティングの疎水性はPS+TG4のものよりもなお良好である。
【表2】
【0123】
POSSおよびTBAFを含むコーティングのより高い表面粗さは、当該コーティング配合物における反応、すなわち溶液架橋およびポリマー鎖へのPOSSの組み込みによるものであり得る。
【0124】
実験3
D1500 RC(360μl)、D1800(40μl)、MTHF(800μl)およびTG4をエッペンドルチューブ(溶液A、1.4mlの総体積)中で混合した。溶液B(2.6mlの総体積)は、ジブチルエーテル(1600μl)、TBAFおよびPOSS XIVを含んでいた。両方の溶液をボルテックスすることにより混合し、かつ組み合わせて約12wt%のポリシラザン、0.012wt%のTBAFおよび0.3wt%のTG4を含む組成物を得た。5分間の混合後に、200μlの得られた溶液をガラススライドの上に滴下し、ガラス棒で広げた。当該コーティング配合物中のMTHF:DBEの体積比は1.5:1であった。当該コーティング配合物では、適当な体積を得る前にだけ、TG4、POSS XIVおよびTBAFをMTHFに溶解した。
【0125】
当該コーティングを80℃に維持した乾燥器中で10分間乾燥させた。さらに、MTDS-1およびMTDP-1をH蒸気を含む高湿雰囲気下で硬化させた。乾燥工程後にMTDS-4を周囲環境下に放置した。MTDS-4のために十分な時間を可能にするために、14日後にこれらのコーティングの鉛筆硬度を分析した。結果は表3に示されている。
【表3】
【0126】
MTDS-1とMTDP-1との硬度の差は、コーティング硬度にとって最適なPOSS濃度の重要性を示す。
【0127】
MTDS-4の不十分な鉛筆硬度は、ポリシラザンの最適以下の硬化(Si-OHを形成するためのSi-NH-SiおよびSi-Hの加水分解およびその後のSi-O-Siを形成するための凝縮)によるものである。これをFT-IRスペクトル(図8)により確認し、これは、Si-NH-SiおよびSi-Hにそれぞれ属する約900および1260cm-1におけるピーク位置が、他のコーティングと比較してMTDS-4においてなお強いことを示す。本発明者らは、参照試料(POSSまたはTBAFのいずれかあるいは両方を欠いている)について、これらの官能基、特にSi-NH-Siの加水分解および重縮合も限られていることも発見した。
【0128】
未硬化極性基(Si-NH-SiおよびSi-H)の存在により、湿度および汚染物質、特にそれらと水素もしくは共有結合または化学的相互作用することができる汚染物質が存在する環境下でのコーティングの塗布が制限される可能性がある。一例として本発明者らは、コーティング調製後24時間未満に、周囲条件下で硬化させたか水蒸気のみで硬化させたコーティングをアセトンまたはイソプロパノールに浸漬させた布で拭うことにより当該コーティングを損傷する可能性があることを発見した。
【0129】
MTDS-4を含む表3中の全てのコーティングはパーマネントマーカーに対して撥水性を示した。拡散共面表面バリア放電(DCSBD)大気プラズマシステムを用いて、ガラススライド基板を15秒間プラズマ活性化させた(洗浄後)。
【0130】
実験4
D1033(80μl)、D1800(20μl)、THF:MPB(1:1)(300μl)およびTG4をエッペンドルチューブ(溶液A、500μlの総体積)中で混合した。溶液B(500μlの総体積)は、THF、MPB、TBAFおよびPOSS Xを含んでいた。両方の溶液をボルテックスすることにより混合し、かつ組み合わせて約10wt%のポリシラザン、0.5wt%のTG4および2.7wt%のPOSS Xを含む組成物を得た。溶液AおよびBを5分間混合した後に、200μlの得られた溶液をガラススライドの上に滴下し、ガラス棒で広げた。THF:MPBの体積比は約3.5:1であった。当該コーティング配合物では、適当な体積を得る前にだけ、TG4、POSS XおよびTBAFをTHFに溶解した。
【0131】
当該コーティングを80℃に維持した乾燥器中で10分間乾燥させ、H蒸気を含む高湿雰囲気下で硬化させた。
【表4】
【0132】
反応性POSSの量に応じて、最も低い屈折率を与える最適濃度の触媒(TBAF)が存在する。0wt%のTBAFを含む参照コーティングの高い屈折率は、赤外線分光法により見られるような表面粗さの非均一性および/またはポリシラザンからの相対的に高い濃度の極性基(不十分または限られた加水分解および重縮合)に起因し得る。0.22wt%のTBAF後の屈折率の僅かな増加は過剰な溶液架橋の表示であってもよく、これにより48-T40に既に示されているように、当該コーティング中により大きい微粒子が生じる可能性がある。
【0133】
実験5
D1500 RC(720μl)、D1800(80μl)、THF(1600μl)およびTG4をエッペンドルチューブ(溶液A、2.800ml総体積)中で混合した。溶液B(5.200ml総体積)は、ジブチルエーテル(3200μl)、TBAFおよびPOSS VIIIを含んでいた。両方の溶液をボルテックスすることにより混合し、かつ組み合わせて11.4wt%のポリシラザン、0.013wt%のTBAF、0.3wt%のTG4および2.3wt%のPOSS VIIIを含む組成物を得た。THF:DBEの体積比は1.5:1であった。当該コーティング配合物では、適当な体積を得る前にだけ、POSS VII、TG4およびTBAFをTHFに溶解した。
【0134】
溶液AおよびBを5分間混合した後、4mLの得られた溶液をシリンジに入れ、LRS ASからの超音波スプレーコーターに装着した。50%の電力出力で動作させたノズルの周波数は45Hzであり、シリンジ速度(液体流量)は35mm/sであった。プラズマ活性化(15s)および非活性化ガラススライドを基板として使用した。当該コーティングを80℃に維持した乾燥器中で10分間乾燥させ、H蒸気を含む高湿雰囲気下で硬化を行った。プラズマ活性化基板では、コーティング鉛筆硬度は48時間および7日後にそれぞれFおよび2Hであった。非活性化基板上のコーティングについては、その値は48時間および7日後にそれぞれBおよびHBであった。従ってプラズマ活性化により、より良好な浸潤によりコーティング接着が高まった。
【0135】
実験6
当該コーティング調製工程、組成物、乾燥および硬化は、THFをMTHFで置き換え、かつPOSS VIIIの代わりにPOSS XVを使用したこと以外は実験5と同じである。
【0136】
コーティングされていないまたはハードコーティングされた平らなポリチオウレタン(PTU)レンズ材料を洗浄し、超音波スプレーコーティングによるコーティング塗布前に15秒間プラズマ活性化させた。透過率の調査のために、当該コーティングを平らな基板の両側面に塗布した。
【0137】
PTU基板の両側面への当該コーティングの塗布により、ハードコーティングされたまたはコーティングされていないPTU基板のそれぞれについて約4~約5%の透過率の上昇が記録され、これは当該コーティングのより低い屈折率の結果である。従って、透過率は500nmにおいて約93%まで上昇した。これは、耐引掻性または防汚性のどちらもない主流のアイウェア材料であるCR39の透過率に近い。コーティングされていないまたはハードコートされたPTUについて4BおよびHBのコーティング硬度がそれぞれ記録された。本発明のコーティングの塗布により、コーティングされていないまたはハードコートされたPTUレンズの硬度をそれぞれHBおよびFに上昇させた。さらに、有名なアイウェア製造業者からのものを含むコーティングは、非常に良好もしくは優れた撥水性およびパーマネントマーカーに対する拭い易さを示した。上と同じ手順を用いて、当該コーティングを湾曲したPTUレンズに上手く塗布し、乾燥し、かつ硬化させた。平らな基板上と同じパーマネントマーカー試験結果が得られた。実際に、市販の防汚コーティングを含むレンズ(湾曲した)(それらは防汚コーティングが既に塗布された状態で地元のアイウェア会社から受け取った)と比較して、パーマネントマーカーを本発明のコーティングから拭き取るのは非常により容易であった。従って本発明のコーティングは、高屈折率材料の光透過率を高めるというさらなる利点と共に、アイウェアおよび関連する製品上の耐引掻性層および防汚層の両方として機能する能力を有する。
【0138】
計画された実験
以下の実験を計画する(表5)。
【表5】
【0139】
表5では、構成成分は以下のように定められている。
【0140】
POSS:(T8閉鎖かご型構造すなわち構造IIIに基づいているが、同じR基の比の他のかご型および非かご型構造に適用可能である)。
【0141】
NA1:0~7個のR基はY(CFCFであり、0~7個のR基はフッ素化されておらず、かつアリール(例えばフェニル)および/またはアルキル(例えばメチル、プロピル、イソブチル、イソオクチル)および/または(ポリ)シロキサン(例えば180~800g/モルの低分子量シロキサン)を含み、1~3個のR基はフッ素化されておらず、かつポリシラザンと反応し、かつフラグメント化を引き起こし得る1個以上の求核基、例えば3-プロピルアミン(NH反応性単位)、3-メタクリル酸プロピル(C=O反応性単位)、2-プロポキシエタノール(OH反応性単位)を含む。Yはアルキル、アリール、エーテル、シロキサンまたはそれらの任意の組み合わせであってもよく、あるいはフッ素化基がPOSSのかごのSiに直接結合されている場合にはそれは結合であってもよい。nは0~7の整数である。
【0142】
NA2:0~6個のR基はY(CFCFであり、1~6個のR基はフッ素化されておらず、かつアリールおよび/またはアルキルおよび/またはシロキサンを含み、1~6個のR基はフッ素化されておらず、かつメトキシシリルおよびエトキシシリルなどのアルコキシシリルを含む。nは0~7の整数である。
【0143】
NA3:1~6個のR基はY(CFCFであり、1~6個のR基はフッ素化されておらず、かつメトキシシリル、エトキシシリルなどのアルコキシシリルを含み、1~2個の基はフッ素化されておらず、かつポリシラザンと反応してフラグメント化を引き起こし得る1個以上の求核基を含む。nは0~7の整数である。
【0144】
NA4:1~6個のR基はアルコキシシリルを含み、1~2個のR基はポリシラザンと反応してフラグメント化を引き起こし得る1個以上の求核基を含む。
【0145】
NA5:全てのR基はアルコキシシリル基を含み、上で特定されている他の基を含んでいない。
【0146】
NA6:5~7個のR基はフッ素化されておらず、かつアリール(例えばフェニル)および/またはアルキル(例えばメチル)および/またはシロキサンを含み、1~3個のR基はフッ素化されておらず、かつポリシラザンと反応し、かつフラグメント化を引き起こし得る1個以上の求核基を含む。
【0147】
ポリシロキサン:直鎖状、分岐鎖状もしくは環式であり、構造Xは一例である。
【0148】
NA7:1~3.5個のR基はY(CF2)CFであり、0.5~3個のR基はフッ素化されておらず、かつアリールまたはアルキルを含み、0.5~3個のR基はフッ素化されておらず、かつアルコキシシリルを含む。nは0~7の整数である。
【0149】
NA8:1~3.5個のR基はY(CFCFであり、0.5~3個のR基はフッ素化されておらず、かつアルコキシシリルを含み、0.5~1個のR基はフッ素化されておらず、かつポリシラザンと反応してフラグメント化を引き起こし得る1個以上の求核基を含む。nは0~7の整数である。Rは水素であってもよく、あるいはNA7-NA8中に0.5~1個の水素原子または0.5~1個のSi-H基などのSi-Hを含む。
【0150】
NA9:例えば、ヒドロキシル基のいくつかが有機フッ素基またはそれらを含む分子で置換されており、かつ/またはいくつかのヒドロキシル基はアルキルもしくはアリール基またはそれらを含む分子で置換されており、かついくつかのヒドロキシル基は置換されていないままであるセルロースナノ繊維。
【0151】
NA10:いくつかまたは残りのヒドロキシル基が、ポリシラザンと反応してフラグメント化を引き起こし得る官能基を有する分子、例えば2-プロポキシエタノール、3-アミノプロピルで置換されていること以外はNA9と同様。
【0152】
D1033:XおよびYがそれぞれ0.33および0.67であると報告されている構造XIのポリシラザンを意味する。
【化10】
【0153】
当該実験に含まれるが表に列挙されていないさらなる構成成分:
1.0.001~2wt%の量で添加される第四級アンモニウム塩などの求核性触媒。
2.当該コーティング組成物の0.001~2wt%の量で添加されるTG4またはフッ素化レベリング剤(例えば、パーフルオロポリエーテルで修飾されたTG4)などのレベリング剤。
3.テトラヒドロフラン、ジブチルエーテルまたはメトキシパーフルオロブタンなどのエーテルであってもよい溶媒、キシレンなどの芳香族溶媒またはポリシラザンと反応することができる官能基を含んでいない他の極性非プロトン性および非極性溶媒。溶媒は混合されていても単体であってもよく、かつ当該コーティング組成物の20~99%を構成する。
4.フッ素化類似体を使用して所与のコーティング組成物中のポリシラザンの1つまたは全てを部分的または完全に置換し、表に示されているコーティングの修正された形態を得てもよい。
【0154】
様々な添加剤は既に記載されている同じ機能を行うように設計されている。
【0155】
この表は、既に特定されている典型的な課題に対処するように設計された本組成物により計画された実験へのガイドを表す。例えば、
1.上記添加剤は反応基を含むので、Aと比較してNA1およびNA3の量の減少ならびにコーティングB中のNA10の不存在は、より反応性のPHPSの存在下で溶液反応性のより良好な制御をもたらすのを助けることができる。溶液反応性の制御は、溶媒に対してより低いPS+P濃度から恩恵を受けることもできる。同じことがコーティングEおよびFに当てはまる。
2.NA1およびNA3はコーティングA中のそれらのより初期の濃度まで回復されているので、コーティングC中のより嵩高いD1800の有意な存在により、PHPSの存在下で溶液反応性を制御するのを助けてもよい。同じように、コーティングE中のNA9の使用またはPHPSを含む全て組成物中のより反応性のNA10の不存在により、溶液反応性を制御するのを助けてもよい。
3.コーティングG(NA1、NA4、NA8およびNA10の合計)中の反応性POSSの濃度の増加は、より嵩高く、よりゆっくり反応するD1800の濃度を増加させて溶液反応性の制御においてより柔軟性を与える。
4.D1800の使用により、例えばD1500 RCと比較してそのより長いR基により、より柔軟な被膜を得てもよい。R基の種類および長さの選択により同じ効果を達成してもよく、例えばより柔軟な(ポリ)シロキサンおよびポリエーテル基を使用してもよい。
5.NA1、NA3、NA4、NA6、NA8、NA9およびNA10中に存在する求核性官能(反応性)基は、これらをポリシラザン骨格に共有結合的に結合し、ポリシラザンマトリックス中での添加剤の一様分布を保証する。これが、反応性求核基を有しないNA2と比較してより高い濃度で使用できる理由である。
6.NA2-NA5およびNA7-NA8上に固定されたアルコキシシリル基は、水分の存在下でより速い加水分解および硬化を保証する。これらの添加剤のいくつかも反応基を含むため、当該コーティングマトリックス中のアルコキシシリル基の分配は最適化される。
7.例えば、NA1およびNA8上のフルオロ基または置換基は防汚および低摩擦性を高めてもよい。
8.場合により有機フルオロ基と合わせたアリールおよびアルキル基の選択により、コーティング配合物中でのナノ添加剤の安定性および分散を高めてもよく、これはコーティング組成物の均一性に対する第1の工程である。これは、それらの極性をポリシラザンおよび溶媒の極性と一致させることにより達成される。
9.NA2がフッ素化されている反応基を含む場合、それは通常、当該コーティング組成物の上に浮かんでいる。これにより、特定の濃度限界内で防汚および屈折率特性を高めてもよい。前記限界は当該コーティング組成物中に3%未満の濃度であってもよく、好ましくは1%以下であってもよい。NA2の上限は、例えば反応基を含むフッ素化POSSよりも意図的に低く維持される。決定された濃度上限を超えた場合、NA2および他のフッ素化添加剤中のフルオロ基は互いに付着し、かつコーティングの濁りを引き起こし始める。
10.高濃度のフッ素化NA2を有し得るコーティングIは、防汚および/または低摩擦性を与えるが、必ずしも高い透明度は与えることを意図していない。
11.NA2中のアルコキシシリル基の存在は、添加剤が加水分解により生成されたシラノールを介して当該コーティングマトリックスに共有結合的に結合され、それにより浸出に関するあらゆる問題を未然に防ぐことを保証する。
【0156】
コーティングの塗布および硬化:
当該コーティングは、超音波スプレーコーティング、空気圧スプレーコーティング、ローラーコーティングまたは当該技術分野で知られているあらゆる他のプロセスにより塗布してもよい。
【0157】
硬化は、シラノールの形成および重縮合に至る加水分解を促進することが知られている熱(例えば赤外線加熱)、プラズマ、UVおよび他の方法の1つ以上により達成される。硬化中の湿度は最適化されている。
【0158】
コーティングの特性評価
当該コーティングを以下について特性評価する。
1.例えば、エリプソメーターまたはAbbey5屈折計を用いた屈折率
2.透過
3.官能基および硬化の程度、表面化学種およびUV、湿熱または化学的および環境攻撃下での故障機構を特定するための化学的分析。FT-IR、XPS、EDSおよび他の公知の技術を用いてもよい。
4.トライボメーター、鉛筆硬度、摩耗試験機などの公知のプロセスによる硬度、耐摩耗および引掻性
5.防汚性および洗浄容易性
6.水接触角度
7.CoF
8.低摩擦、防汚、セルフクリーニングかつ洗浄容易性の透明のコーティングに使用するためのコーティングを定量化および最適化するための他の公知の方法を利用してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】