(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】抗微生物性銅系ポリウレタン
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20240730BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20240730BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20240730BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240730BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240730BHJP
A47C 27/14 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08L75/04
C08G18/00 F
C08G18/76 057
C08K3/22
C08K5/09
A47C27/14 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501133
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 US2022036379
(87)【国際公開番号】W WO2023283350
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524009668
【氏名又は名称】キュプロン・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクラム・カンムクラ
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル・サラ・サルヴァトリ
【テーマコード(参考)】
3B096
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
3B096AD07
4J002CK021
4J002DE096
4J002EF057
4J002EG026
4J002FB236
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4J002GB01
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4J034QC01
4J034QD03
4J034RA02
4J034RA03
4J034RA10
4J034SA01
(57)【要約】
抗微生物性ポリウレタン及び抗微生物性ポリウレタンの製造方法は、複数の疎水性の抗微生物性金属化合物粒子を反応混合物に混合することを含み得る。反応混合物は、ポリオール及びイソシアネートを含んでもよい。本方法は、ポリオールを複数の疎水性酸化銅粒子と混合して、ポリオールスラリーを生成し、続いて、ポリオールスラリーをイソシアネートと混合して、ポリウレタン発泡体を形成することを含み得る。他のポリウレタン物品及び方法を利用してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン発泡体の製造方法であって、以下の工程:
複数の酸化銅粒子を処理して、複数の疎水性酸化銅粒子を製造する工程;
ポリオール及び前記の複数の疎水性酸化銅粒子を混合して、ポリオールスラリーを形成する工程;及び
前記のポリオールスラリーをイソシアネートと混合して、ポリウレタン発泡体を形成する工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
疎水性酸化銅粒子が、表面改質された酸化銅粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化銅粒子が、脂肪酸との反応によって表面改質される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
脂肪酸がステアリン酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
脂肪酸が疎水性尾部を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸化銅粒子が、オレイン酸又はヤシ油との反応によって表面改質される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
酸化銅粒子が、飽和脂肪酸との反応によって表面改質される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
ポリウレタン発泡体が、3.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
イソシアネートが、メチレンジフェニルジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ポリマー増粘剤及び界面活性剤のうちの少なくとも1つをポリオール及び酸化銅と混合する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
酸化銅の表面部分を疎水性化合物と反応させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
疎水性化合物が脂肪酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ポリウレタン;及び
酸化銅粒子の少なくとも一部分がその表面に疎水性コーティングを有する、複数の酸化銅粒子、
を含む、抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項14】
ポリウレタンが、メチレンジフェニルジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートの少なくとも1つに由来するモノマーを含む、請求項11に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項15】
ポリウレタン発泡体であり、かつ、2.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有する、請求項11に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項16】
ポリウレタン発泡体であり、かつ、3.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有する、請求項11に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項17】
マットレス、枕、カーペットパディング、断熱材、シートクッション、車両用シート、創傷被覆材、台所用スポンジ、スポンジ、包装、中敷を含む履物、積層体、繊維、及びスパンデックス繊維の少なくとも1つである、請求項11に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に発泡プラスチック材料、より具体的には抗微生物性を有する発泡ポリウレタンに関する。本発明は、均一に分布し、ばらつきのない酸化第一銅を含む、効果の高い抗微生物性発泡体製品を作製する方法及び組成物について記載している。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、至る所で見られ、液体コーティング及び塗料、他の強靭なエラストマー、例えばローラーブレード車輪、硬質断熱材、及び柔らかい可撓性発泡体に見出すことができる。
【0003】
可撓性ポリウレタン発泡体は、種々の消費者向け製品並びに寝具、家具、自動車内装、カーペット下敷及び包装を含む市販品のためのクッション材として使用されている。可撓性発泡体は、任意のさまざまな種類の形状及び硬さで作成され得る。それは、軽くて耐久性があり、補助的でかつ快適である。
【0004】
これらの可撓性発泡体基材、特に寝具商品、例えばマットレス、マットレス・トッパー、枕などは、微生物が繁栄し増殖するための優れた基材である。これは、健康管理環境及び消費者環境のどちらについても当てはまる。
【0005】
Langeら(2014)は、病院の枕の38%にMRSA及び大腸菌が定着していることを発見し、病院のベッドで使用するのに使い捨て枕がより衛生的な選択肢になり得ると結論付けた。Shikら(2014)は、熱傷治療室で名目上防液型(縫い合わせ部分)の枕を切り開いて、その多くが目でみて体液で汚染されていることを発見した。Mottarら(2006)は、熱傷センターで枕の質量に顕著な差異を観察した。調査によって、縫い目を通って枕の内部に体液漏出があり、枕の内側から複数の病原体が単離されたことが明らかになり、それが患者の感染症とよく相関しており、そのような潜在的な感染源であることを示している。Lippmannら(2014)は、ドイツにおける肺炎桿菌カルバペネマーゼ(Klebsiella pneumoniae carbapenemase)(KPC)の大量発生を説明するために感染源を探した。彼らは、位置決め枕の内部が汚染されており、少なくとも6カ月間そのままであったことを発見した。
【0006】
これらの開示から、枕及びマットレスを防水カバーに入れるという一般的な方法では、病原体が枕又はマットレス内に侵入し増殖するのを防げないことが明らかである。枕は通常の使用中に必然的に圧縮及び膨張するため(又は構造の他の部分)、枕が膨張すると共に空気が流入し、枕が圧縮すると共に流出しなければならない。枕を圧縮又は膨張させると、約2リットルの空気が数秒以内に枕に出入りすると推定される。簡単な防水枕の場合には、空気は開口フラップを通って流れるか、又は、カバーが縫い付けられている場合、カバーの縫い目の縫合穴を通って流れる可能性がある。この後者のシナリオが特に厄介である。高濃度の汚染物質は、枕内部の縫い合わせ部分のすぐ内側に導入され得る(Dewhurstら2012)。ここで、それらは存続し、潜伏増殖する。続いて、汚染された空気は、患者がその頭を枕の上に置くと、小さな縫合穴を通って枕から排出される。排出された空気は、微生物のエアゾールを生成し、それは周囲空気中に長時間存続する可能性があり、患者又は続発的に発症した患者だけでなく、患者の環境にもコロニーを再形成する能力がある(Kalogerakis 2005)。
【0007】
充填のために使用されるポリマー材料は、利用可能な炭素及び窒素の供給源をもたらして増殖を支える(Jenkinsら、2005)。Woodcockら(2006)もまた、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、アウレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)を含む47種の真菌類が枕に固有であることを発見した。
【0008】
「Antimicrobial Activity of Copper Sulfate and Copper Oxide Embedded on Polyurethane Foam」, Materials Science Forum, Vol. 917, 22~26頁(2018)においてPulutanらは、CuSO4及びCuO堆積ポリウレタン発泡体について記載している。CuSO4堆積ポリウレタン発泡体は、CuSO4溶液に発泡体を浸漬し、発泡体を圧縮成形することによって調製された。ポリウレタン発泡体の圧縮成形は、発泡体キャビティからの空気の除去及び溶液と発泡体とのより完全な接触を確実にし、溶液からの銅イオンがこれらのキャビティに入るように行われた。
【0009】
CuOをポリウレタン発泡体に堆積(deposit)させるために、CuOを、70℃の熱浴上で水酸化ナトリウム溶液に加えた。水酸化ナトリウムは銅イオンと反応して、水酸化銅の沈殿物を形成し、これは準安定であり、酸化して酸化銅になる。次いでポリウレタン発泡体は、溶液に浸漬させ、圧縮成形して発泡体上に銅を堆積させる。ポリウレタン発泡体を処理するこの方法は、厄介であり、特別な処理及び取り扱いが必要である。
【0010】
別の方法では、「Investigation of Industrial Polyurethane Foams Modified with Antimicrobial Copper Nanoparticles」, Materials, Vol. 9, 544(2016)においてSportelliらは、電気合成され、織物生産における詰め物又は空調システム用のフィルターとして使用される工業用ポリウレタン発泡体の制御された含浸に適用された抗微生物活性銅ナノ粒子について記載している。この方法には、高価なナノ粒子の使用が含まれ、適用方法によっては発泡体基材全体に抗微生物活性が均一及び均質に分布しない可能性がある。
【0011】
米国特許出願番号第20120322903号において、Karandikarは、銀、亜鉛、又は銅を使用して抗微生物性を有するポリウレタン発泡体を製造する方法について記載している。この発明はまた、基材内でサッカリン酸銀及び銀ナノ粒子が一貫して均一に分布していないという重大な欠点があり、その結果、発泡体製品の抗微生物性能にかなりのばらつきが生じる。更に、この発明は、抗微生物性添加剤の安定したブレンドを形成するための錯化剤の必要性を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願番号第20120322903号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Pulutanら「Antimicrobial Activity of Copper Sulfate and Copper Oxide Embedded on Polyurethane Foam」, Materials Science Forum, Vol. 917, 22~26頁(2018)
【非特許文献2】Sportelliら「Investigation of Industrial Polyurethane Foams Modified with Antimicrobial Copper Nanoparticles」, Materials, Vol. 9, 544(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
抗微生物性ポリウレタン発泡体が必要とされている。また、微生物の増殖及び生存を防ぐために、枕及びマットレス、特に病院で使用される枕及びマットレス用の抗微生物性ポリウレタン発泡体充填剤も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ポリウレタンの製造方法の実施形態は、ポリオール、イソシアネート、及び複数の疎水性の抗微生物性金属化合物粒子を混合して、ポリウレタン発泡体を形成することを含む。このような実施形態では、その方法は、ポリオールを複数の疎水性酸化銅粒子と混合して、ポリオールスラリーを製造し、続いて、ポリオールスラリーをイソシアネートと混合して、ポリウレタン発泡体を形成することを含み得る。
【0016】
抗微生物性化合物粒子には、以下には限定されないが、酸化銅、酸化第一銅、酸化第二銅、ヨウ化銅、酸化亜鉛(ZnO)、酸化銀(Ag2O)を挙げることができる。例えば、抗微生物性粒子は、水不溶性銅化合物粒子であってもよい。水不溶性銅化合物粒子は、ポリマー材料の表面から露出し、突き出ている可能性があり、そこで水不溶性酸化銅粒子が流体と接触するとCu+イオン及びCu++イオンの少なくとも一方を放出する。酸化銅は、酸化第二銅又は酸化第一銅であってもよい。
【0017】
疎水性酸化銅粒子は、親水性ポリオールとの混合性が低い。疎水性酸化銅粒子の実施形態は、表面改質酸化銅粒子であってもよい。表面改質は、酸化銅粒子表面に疎水性を与える任意の改質でもよい。表面改質は、酸化銅表面部分と疎水性化合物を反応させることによって達成することができる。例えば、酸化銅粒子は、例えば、飽和脂肪酸等の脂肪酸と反応させることによって表面改質することができる。脂肪酸は、ステアリン酸であってもよい。或いは、疎水性コーティング又は部分コーティングを酸化銅粒子に適用してもよい。コーティングは、酸化銅粒子が流体と接触したらCu+イオン及びCu++イオンの少なくとも一方を放出して抗微生物活性をもたらすようなものであるべきである。
【0018】
ポリオールは、イソシアネートと反応してポリマーを形成し得る任意のポリオールであってよい。本明細書では、「ポリオール」は、それだけには限らないが、二官能性ポリオールすなわちジオールを含めた少なくとも2個のヒドロキシル基を有する化合物と、それだけには限らないがトリオール等の3個以上のヒドロキシル基を含む化合物である。実施形態では、例示的なポリオールは、約2~約5個のヒドロキシル基を有していてもよい。いくつかの実施形態では、ポリオールは、二官能性ポリオールであってもよい。さらに、ポリオールは、アミノ末端基を含んでもよい。
【0019】
実施形態では、ポリオールは、アルケンオキシドポリオール、エチレンオキシドポリオール、プロピレンオキシドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、炭化水素ポリオール、ポリシロキサンポリオール、これらのポリマーのコポリマーポリオール、その組合せ等であってもよい。
【0020】
実施形態では、イソシアネートは、メチレンジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、及びその組合せのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0021】
別の実施形態は、抗微生物性ポリウレタン物品である。抗微生物性ポリウレタン物品は、発泡体、繊維、コーティング、エラストマー、又は他の物品であってもよい。抗微生物性ポリウレタン物品の実施形態は、ポリウレタン及び複数の抗微生物性粒子を含み、抗微生物性粒子の少なくとも一部分は、疎水性になるように改質されている。
【0022】
抗微生物性ポリウレタン物品の実施形態は、ポリオールとイソシアネートの反応に由来するモノマーであってもよい。イソシアネートは、以下には限らないが、メチレンジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、及びその組合せを含む群から選択することができる。
【0023】
ポリウレタン物品の実施形態には、発泡体、マットレス、枕、カーペットパディング、断熱材、シートクッション、車両用シート、創傷被覆材、台所用スポンジ、スポンジ、包装、中敷(インソール)を含む履物、積層体、それだけは限らないが、スパンデックス繊維を含む繊維、及び他の物品を挙げることができる。本方法を使用して、そのような物品を製造することができる。更に、ポリウレタン物品は、3.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有するポリウレタン発泡体であってもよい。
【0024】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術及び科学用語を含む)は、本発明が属する分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味である。更に、一般的に使用されている辞書で定義されている用語等の用語は、関連技術及び本開示に照らしてその意味と一致する意味を有しているものと解釈すべきであること、また、本明細書においてそのように明確に定義されていない限り、理想化された又は過度に形式的な意味で解釈されることがないことは理解されよう。
【0025】
本発明の説明において、多数の技術及び工程が開示されていることが理解されよう。これらのそれぞれは、個々の利益を有し、それぞれはまた、他の開示される技術の1つ又は複数、或いは場合によっては、その全てと併用することができる。従って、明瞭にする目的で、この説明は、不必要な方法で個々の工程のあらゆる可能な組合せを繰り返すことを避ける。しかしながら、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組合せが、本発明の範囲及び特許請求の範囲の中に完全に収まることを理解して、読まれるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ポリウレタンの製造方法の実施形態は、ポリオール、イソシアネート、及び複数の疎水性の抗微生物性金属化合物粒子を混合して、ポリウレタン発泡体を形成することを含む。複数の疎水性の抗微生物性金属化合物は、個別に、原料のブレンドの一部として、マスターバッチで、又はその組合せのいずれかで他の成分に添加してもよい。例えば、本方法は、複数の抗微生物性の疎水性酸化銅粒子を含むマスターバッチをポリオール又はイソシアネートと混合することを含み得る。或いは、本方法は、ポリオールを複数の疎水性酸化銅粒子と直接混合して、ポリオールスラリーを製造し、続いて、そのポリオールスラリーをイソシアネートと混合して、ポリウレタン発泡体を形成することを含み得る。
【0027】
<抗微生物性粒子>
本方法及びポリウレタン物品は、任意の疎水性の抗微生物性金属化合物粒子を含んでもよい。疎水性金属化合物には、抗微生物性金属酸化物粒子が挙げられるが、それだけには限定されない。この金属化合物は、得られたポリウレタン製品中でそれらの抗微生物性が保持されるように、疎水性になるように処理すべきである。
【0028】
本発明者らは、驚くべきことに、疎水性の抗微生物性粒子が、他の抗微生物性粒子よりも抗微生物性効果及び活性が改善されることを発見した。本発明を限定するものではないが、疎水性粒子は、発泡体ネットワーク構造の中心からネットワークの外表面に移動することが仮定されている。この構造によって、本ポリウレタン物品、例えばポリウレタン発泡体は、より大きな抗微生物活性を有する。
【0029】
本ポリウレタン及び本方法において使用され得る疎水性抗微生物性化合物粒子には、それだけには限定されないが、酸化銅、酸化第一銅、酸化第二銅、ヨウ化銅、酸化亜鉛(ZnO)、酸化銀(Ag2O)が含まれる。例えば、抗微生物性粒子は、水不溶性銅化合物粒子であってもよい。水不溶性銅化合物粒子は、ポリマー材料の表面から露出し、突き出ている可能性があり、そこで水不溶性酸化銅粒子が流体と接触するとCu+イオン及びCu++イオンの少なくとも一方を放出する。酸化銅は、酸化第二銅又は酸化第一銅であってもよい。
【0030】
疎水性酸化銅粒子は、親水性ポリオールとの混合性が低い。実施形態において、疎水性酸化銅粒子は、表面改質された酸化銅粒子である。表面改質は、酸化銅粒子表面に疎水性を与える任意の改質であってよい。表面改質は、酸化銅の表面部分と疎水性化合物を反応させることによって達成することができる。例えば、酸化銅粒子は、例えば、飽和脂肪酸等の脂肪酸と反応させることによって表面改質することができる。脂肪酸は、ステアリン酸であってもよい。或いは、疎水性コーティング又は部分コーティングを酸化銅粒子に施してもよい。コーティングは、酸化銅粒子が流体と接触したら、Cu+イオン及びCu++イオンの少なくとも一方を放出して抗微生物活性をもたらすようなものであるべきである。
【0031】
本明細書では、「疎水性」は、コーティング又は他の疎水性改質により、粒子と水の間の接触角が90度より大きくなることを意味する。ポリウレタン物品の外側領域への粒子の偏析を改善するためには、接触角は120度より大きくてもよい。本明細書で使用されるステアリン酸で改質された疎水性酸化銅粒子は、水との接触角が120度よりも大きい。
【0032】
抗微生物性金属化合物粒子は、平均粒径が0.5~10ミクロンの範囲であってもよい。他の実施形態では、酸化銅粒子は、平均粒径が1.0~2.0ミクロンの粒子を有していてもよい。
【0033】
<ポリオール>
ポリオールは、イソシアネートと反応してポリマーを形成し得る任意のポリオールであってよい。本明細書では、「ポリオール」は、それだけには限らないが、二官能性ポリオールあるいはジオールを含めた少なくとも2個のヒドロキシル基を有する化合物と、それだけには限らないが、トリオール等の3個以上のヒドロキシル基を含む化合物である。実施形態では、例示的なポリオールは、約2~約5個のヒドロキシル基を有していてもよい。いくつかの実施形態では、ポリオールは、二官能性ポリオールであってもよい。そのうえ、ポリオールは、アミノ末端基を含んでもよい。
【0034】
実施形態では、ポリオールは、アルケンオキシドポリオール、エチレンオキシドポリオール、プロピレンオキシドポリオール、それだけには限らないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール、それだけには限らないが、分枝状ポリエステルポリオール等のポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、炭化水素ポリオール、ポリシロキサンポリオール、これらのポリマーのコポリマーポリオール、環状エーテルから形成されたポリオール、その組合せ等であってもよい。
【0035】
<イソシアネート>
実施形態では、イソシアネートは、メチレンジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、及びその組合せのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0036】
別の実施形態は、抗微生物性ポリウレタン物品である。抗微生物性ポリウレタン物品は、発泡体、繊維、コーティング、エラストマー、又は他の物品であってもよい。抗微生物性ポリウレタン物品の実施形態は、ポリウレタン及び複数の抗微生物性粒子を含み、抗微生物性粒子の少なくとも一部は、疎水性になるように改質されている。
【0037】
抗微生物性ポリウレタン物品の実施形態は、ポリオールとイソシアネートの反応に由来するモノマーであってもよい。イソシアネートは、それだけには限らないが、メチレンジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、及びその組合せを含む群から選択することができる。
【0038】
ポリウレタン物品は、3.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有するポリウレタン発泡体であってもよい。
【0039】
<発泡体試料の抗微生物性効果>
用語「抗微生物性」は、抗細菌性、抗真菌性、抗ウィルス性、並びに/又は駆虫活性、原生動物、酵母、及び/若しくはカビに抗する活性を包含することが理解されよう。抗微生物性は、例えば殺菌性又は静菌性であってもよい。
【0040】
実施例では、疎水性抗微生物性粒子は、水不溶性銅化合物粒子であってもよい。水不溶性酸化銅粒子は、流体と接触してCu+イオン及びCu++イオンの少なくとも一方を放出する。水不溶性銅化合物粒子は、ポリウレタンの表面から露出し、突き出ている可能性があり、そこで水不溶性酸化銅粒子が流体と接触するとCu+イオン及びCu++イオンの少なくとも一方を放出する。
【0041】
<疎水性酸化銅の調製>
酸化銅粒子は、ステアリン酸による表面処理によって調製した。ステアリン酸でコーティングされた銅粒子を調製するために、ステアリン酸17gを1Lビーカーに加え、次いでエタノール400mL及び蒸留水200mLを加えた。その混合物を70℃まで加熱し、ステアリン酸が完全に溶解するまで常に撹拌した。次に、酸化銅粒子100gをそのステアリン酸溶液に加え、70℃において5時間、常に撹拌した。その混合物を静置し、最後にろ過して生成物を得た。ステアリン酸でコーティングされた酸化銅を真空乾燥器中60℃において6時間乾燥させ、次いで粉砕して粉末を形成した。
【0042】
<ポリウレタン発泡体の製造方法>
発泡体スラブを作製するために、複数の疎水性の酸化第一銅粒子(上で調製した)をポリオール(Dow Chemical社から入手可能なVoranol 1447(商標))に加え、高速ミキサーを使用して実質的に均一になるまでブレンドした。相溶性界面活性剤及び相溶性ポリマー増粘剤(それぞれ5w/w%未満の値で)を疎水性抗微生物剤と共にポリオールに加えた。オクタン酸スズを触媒として0.1重量%で加えて、反応の開始を制御した。
【0043】
次いでこのポリオールスラリーをトルエンジイソシアネート(TDI)又はメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)のいずれかに加え、使い捨てのろう紙コップ中で混合した。次いでその反応物を四角形のろう紙型に注ぎ込んだ。数分以内に、その混合物が発泡及び硬化し始めるにつれて、型に注ぎ込まれた反応物が膨張した。型及びその内容物を、約30分間換気したフード内部で非常に弱い光の下で放置した。このとき、硬化した発泡体の質量は、触ると非粘着性であった。発泡体を型から取り出し、使い捨て紙タオルの山の上に置き、5~10分間電子レンジ中で加熱した。次いで、試料の発泡体を55℃の従来型のオーブンへ移し、夜通しで完全に乾燥させた。対照の発泡体試料は、複数の疎水性酸化第一銅粒子を添加しなかったこと以外は同じ方法で作製した。
【0044】
全ての発泡体試料は、抗微生物性効果についてAATCC-100試験方法を使用して評価した。試験用に、厚さ0.5インチの1インチ×1インチ試料を発泡体基材から切り出した。発泡体試料に、細菌を播き、接触時間とよばれる一定期間培養した(通常24時間又は2時間)。前記の接触時間後、細菌は、ストマッキング(stomaching)によって試料から回収した。回収した細菌は、系列希釈法を使用してコロニー形成単位によって計数した。
【0045】
【0046】
【0047】
24時間の接触時間では、上記の両方の試料(試験2.1及び試験2.2)は、MDIを用いて作製した試料の酸化第一銅含有量が低かったものの、同じ効果を示し、抗微生物性能の観点から互いに区別がつかなかった。驚くべきことに、2時間の接触時間では、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)を用いて作製した試料は、MDI試料の酸化第一銅含有量が低いものの、トルエンジイソシアネート(TDI)を用いて作製した発泡体試料よりも著しく優れた性能を示したことを発見した。
【0048】
<活性銅>
活性銅は、発泡体を破壊せずに抽出できる発泡体内で容易に利用可能な銅の量を測定することによって決定される。公知の銅錯化剤であるビシンコニン酸(BCA)からなる溶液は、リン酸緩衝溶液(PBS)中で調製される。既知の量の発泡体試料を、BCA溶液中に2時間浸漬させる。このあいだに、BCAは銅と反応して、紫色のBCA-銅錯体を形成する。2時間経過後、少量の溶液が得られ、溶液中の銅を比色アッセイによって見積もる。
【0049】
【0050】
TDIを用いて作製した発泡体試料から抽出した活性銅%は、12%~23%の範囲であったが、驚くべきことに、MDIを用いて作製した発泡体試料は、抽出可能な銅をはるかに多く有し、46%~56%の範囲であった。
【0051】
別の実施例では、ポリウレタン発泡体は、異なる2つの密度(2.2ポンド/立方フィート及び3.5ポンド/立方フィート)で作製され、活性銅について比較した。
【0052】
【0053】
驚くべきことに、より高い密度を有するポリウレタン発泡体試料は、より高い%割合の抽出可能な銅又は活性銅を示した。
【0054】
別の実施例では、酸化第一銅を、ステアリン酸ナトリウムで処理することによって疎水性にする。ポリウレタン発泡体は、通常の酸化第一銅及びステアリン酸ナトリウムで処理した疎水性酸化第一銅を用いて作製した。これらの試料を、活性銅について比較した。
【0055】
【0056】
驚くべきことに、疎水性処理を施した酸化第一銅を含有するポリウレタン発泡体試料は、通常の酸化第一銅よりも、はるかに高い%割合の抽出可能な銅又は活性銅を示した。
【0057】
記載されたポリウレタン製品及びポリウレタン製品の製造方法の実施形態は、本明細書に開示されている特定の実施形態、構成要素、方法工程、及び材料に限定されず、なぜならこのような構成要素、方法工程、及び材料は変わり得るからである。加えて、本発明の種々の実施形態の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されるものであるので、本明細書で使用される専門用語は、例示的な実施形態を説明する目的のみに使用され、この専門用語は、限定することを意図したものではない。
【0058】
したがって、本発明の実施形態は例示的実施形態を参照しながら説明したが、当業者は、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内で変形及び修正が実施され得ることを理解されよう。したがって、本発明の種々の実施形態の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲及び全ての均等物によってのみ定義されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン発泡体の製造方法であって、以下の工程
:
ポリオール及
び複数の疎水性酸化銅粒子を混合して、ポリオールスラリーを形成する工程;及び
前記のポリオールスラリーを
メチレンジフェニルジイソシアネートと混合して、ポリウレタン発泡体を形成する工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
疎水性酸化銅粒子が、表面改質された酸化銅粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化銅粒子が、脂肪酸との反応によって表面改質され
ている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
脂肪酸がステアリン酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
脂肪酸が疎水性尾部を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸化銅粒子が、オレイン酸又はヤシ油との反応によって表面改質され
ている、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
酸化銅粒子が、飽和脂肪酸との反応によって表面改質され
ている、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
ポリウレタン発泡体が、3.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ポリマー増粘剤及び界面活性剤のうちの少なくとも1つをポリオール及び酸化銅と混合する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
酸化銅の表面部分を疎水性化合物と反応させる工程を
さらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
疎水性化合物が脂肪酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ポリウレタン;及び
酸化銅粒子の少なくとも一部分がその表面に疎水性コーティングを有する、複数の酸化銅粒子、
を含む、抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項13】
ポリウレタンが、
少なくとも1つのメチレンジフェニルジイソシアネー
トに由来するモノマーを含む、請求項
12に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項14】
ポリウレタン発泡体であり、かつ、2.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有する、請求項
12に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項15】
ポリウレタン発泡体であり、かつ、3.0ポンド/平方フィートより大きい密度を有する、請求項
12に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【請求項16】
マットレス、枕、カーペットパディング、断熱材、シートクッション、車両用シート、創傷被覆材、台所用スポンジ、スポンジ、包装、中敷を含む履物、積層体、繊維、及びスパンデックス繊維の少なくとも1つである、請求項
12に記載の抗微生物性ポリウレタン物品。
【国際調査報告】