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特表2024-529321社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の動物モデル及び前記疾患の予防または治療用薬学組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の動物モデル及び前記疾患の予防または治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/0276 20240101AFI20240730BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/36 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240730BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240730BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240730BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A01K67/0276
A61K45/00 ZNA
A61P43/00 111
A61P25/14
A61K38/16
A61P29/00
A61P17/02
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/36
A61P25/00
A61P25/18
C12N15/12
C07K14/47
C12Q1/6851 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501195
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 KR2022009893
(87)【国際公開番号】W WO2023282678
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】10-2021-0089195
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】524011292
【氏名又は名称】アデル、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク、チ ソン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA29
2G045AA40
2G045CB17
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ28
4B063QQ52
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR35
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR72
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA22
4C084MA17
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA02
4C084ZA05
4C084ZA12
4C084ZA18
4C084ZA89
4C084ZB11
4C084ZC39
4C084ZC41
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA21
(57)【要約】
本発明は、社会的優位性が欠如した動物モデル及び社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。本発明による動物モデルは、CRTC3(CREB-regulated transcription coactivator 3)遺伝子またはタンパク質の発現または活性を抑制することにより、社会的優位性が欠如するようにし、このような動物モデルは、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患のモデルとして用いることができる。また、本発明は、脳のEGF(Epidermal growth factor)受容体に対するアゴニスト(agonist)を含む組成物を用いて、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患を予防するか、改善または治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CRTC3(CREB-regulated transcription coactivator 3)遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制された、社会的優位性(social dominance)欠如動物モデル。
【請求項2】
前記動物モデルは、脳特異的にCRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制されたものである、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項3】
前記動物モデルは、脳のアストロサイト(astrocyte)特異的にCRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制されたものである、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項4】
前記動物モデルは、CRTC3遺伝子がノックアウト(knockout)またはノックダウン(knockdown)されたものである、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項5】
前記動物モデルは、野生型(wildtype)動物と比較し、脳におけるアンフィレグリン(Amphiregulin)遺伝子またはタンパク質の発現または活性が減少されるものである、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項6】
前記動物モデルは、野生型動物と比較し、記憶に関連する行動、感覚に関連する行動、またはこれらの両方に対する変化が現れないものである、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項7】
前記動物モデルは、野生型動物と比較し、脳の前頭前皮質(prefrontal cortex)と頭頂皮質(parietal cortex)の機能的連結性が低下したものである、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項8】
前記動物モデルは、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患に対するモデルである、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項9】
前記疾患は、社会的敗北ストレス(social defeat stress)を伴うか、これによって誘発される疾患である、
請求項8に記載の薬学組成物。
【請求項10】
前記疾患は、慢性炎症(chronic inflammation)、自傷(self-harming)、自殺衝動(suicidal ideation)、反社会性パーソナリティ障害(anti-social personality disorder)、攻撃的性格(aggressive personality)、慢性ストレス(chronic stress)、不安神経症(anxiety neurosis)、薬物中毒(drug intoxication)または薬物中毒による精神または行動障害、統合失調症(schizophrenia)、気分障害、躁病(mania)、うつ病(depressive disorder)、双極性障害(bipolar disorder)、脆弱X症候群(fragile X syndrome)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)及び自閉症(autism)からなる群から選択される1種以上である、
請求項8に記載の動物モデル。
【請求項11】
前記動物は、マウス、ハムスター、ラット、モルモット、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ及びヤギからなる群から選択される、
請求項1に記載の動物モデル。
【請求項12】
CRTC3(CREB-regulated transcription coactivator 3)遺伝子またはタンパク質の発現または活性を抑制させる段階を含む、社会的優位性(social dominance)欠如動物モデルを製造する方法。
【請求項13】
前記段階は、CRTC3遺伝子をノックアウト(knockout)またはノックダウン(knockdown)させることを含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の社会的優位性(social dominance)欠如動物モデルに精神疾患の治療のための候補薬物を投与する段階;及び前記動物モデルの社会的優位性が改善されるかどうかを確認する段階を含む、
精神疾患治療剤のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記精神疾患は、社会的優位性の欠如または減少の症状を伴う、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記確認段階は、社会的優位性評価のための行動試験、脳波(Electroencephalogram, EEG)分析、脳MRI分析、前記動物モデルに由来する生物学的試料内のアンフィレグリンの発現または活性レベルの測定、またはこれらの組み合わせによって行われる、
請求項14に記載の方法。
【請求項17】
脳のEGF(Epidermal growth factor)受容体に対するアゴニスト(agonist)を有効成分として含む、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項18】
前記EGF受容体に対するアゴニストは、アンフィレグリン、この断片またはこれらを暗号化する核酸を含む、
請求項17に記載の薬学組成物。
【請求項19】
前記アンフィレグリンまたはこの断片は、アンフィレグリンのEGFドメインを含む、
請求項18に記載の薬学組成物。
【請求項20】
前記アンフィレグリンは、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む、
請求項18に記載の薬学組成物。
【請求項21】
前記アンフィレグリンのEGFドメインは、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む、
請求項19に記載の薬学組成物。
【請求項22】
前記疾患は、CRTC3(CREB-regulated transcription coactivator 3)の発現障害または活性低下によって誘発されるものである、
請求項17に記載の薬学組成物。
【請求項23】
前記疾患は、社会的敗北ストレス(social defeat stress)を伴うか、これによって誘発されるものである、
請求項17に記載の薬学組成物。
【請求項24】
前記疾患は、慢性炎症(chronic inflammation)、自傷(self-harming)、自殺衝動(suicidal ideation)、反社会性パーソナリティ障害(anti-social personality disorder)、攻撃的性格(aggressive personality)、慢性ストレス(chronic stress)、不安神経症(anxiety neurosis)、薬物中毒(drug intoxication)または薬物中毒による精神または行動障害、統合失調症(schizophrenia)、気分障害、躁病(mania)、うつ病(depressive disorder)、双極性障害(bipolar disorder)、脆弱X症候群(fragile X syndrome)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)及び自閉症(autism)からなる群から選択される1種以上である、
請求項17に記載の薬学組成物。
【請求項25】
前記組成物は、脳内注射(intracerebral injection)または脳室内注射(Intracerebroventricular injection, ICV)によって投与される、
請求項17に記載の薬学組成物。
【請求項26】
請求項17~請求項25のいずれか一項による薬学組成物を対象に投与することを含む、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、社会的優位性(social dominance)が欠如した動物モデル及び社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患または状態を予防または治療するための組成物に関する。より具体的には、本発明は、CRTC3(CREB-regulated transcription coactivator 3)遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制された社会的優位性欠如動物モデル及び脳のEGF(Epidermal growth factor)受容体に対するアゴニスト(agonist)を有効成分として含む社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。
【0002】
本出願は、2021年7月7日に出願された韓国特許出願第10-2021-0089195号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された全ての内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
cAMP反応要素結合タンパク質(cAMP-responsive element binding protein, CREB)は様々な細胞で発現され、いくつかの真核生物の転写因子を活性化させることでよく知られている。特に、CREBは様々な種類の脳細胞で社会的優位(social dominance)に関連する神経伝達物質及びホルモンの遺伝子発現を調節する重要な細胞内タンパク質であり、うつ病治療に対する標的として研究されてきた。CREBがリン酸化される時、CREBに結合するCBP/P300補助活性化因子(coactivator)がcAMP応答エレメント媒介遺伝子転写(cAMP response element(CRE)-mediated gene transcription)を活性化するために動員される。最近、新しいCREB補助活性化因子であるCREB-調節転写補助活性化因子(CREB-regulated transcription coactivator、CRTC;調節されたCREB活性トランスデューサー、TORC)が研究されている。基底状態において、CRTCは、14-3-3タンパク質に結合し、細胞質でリン酸化状態で存在する。cAMP及びカルシウムの増加は、CRTCの脱リン酸化及び14-3-3タンパク質の放出を誘導する。脱リン酸化されたCRTCは核に移動し、CREBのbZIP DNAドメインに結合してCRE-媒介遺伝子転写を活性化させる。
【0004】
哺乳動物組織で発現されるCRTCは、三つのアイソタイプ(CRTC1、CRTC2及びCRTC3)で構成される。CRTC1は、主に記憶、行動、概日時計及びエネルギー消費に関連し、脳で生成される。また、CRTC2は、ホルモン恒常性を調節する脳及び膵島(pancreatic islet)で発現される。CRTC2とCRTC3は、末梢組織、肝臓、脂肪、骨髄由来の免疫細胞で発見される。CRTC2は、肝臓でグルコース恒常性を維持するが、CRTC3は、脂肪組織のエネルギーバランス及びマクロファージの炎症調節機能と関連している。しかし、CRTC3が脳でどのように作動するかについての研究は皆無である。従って、CRTC3が脳で発現するかどうかと、その役割に対する研究が非常に必要な実情である。特に、CRTC3がCREB活性化以外の遺伝子発現にも影響を及ぼすかを明らかにする必要がある。
【0005】
一方、動物とヒト社会は、社会的階級と密接に関連している。ヒトと異なる多くの社会は、社会的階級を維持し、コミュニケーションを達成するために社会的相互作用が必要な技術が要求される。このような社会的関係における社会的優位(social dominance)は、全ての動物システムの中で多数の社会的種でしばしば観察される行動である。ほとんどの動物社会における個体は、他の個体を相対的に支配的であるか、従属的な状態にする。このように形成された社会的階層化(social stratification)は、健康と福祉に重要な影響を及ぼす。すなわち、社会的地位と優位は、生存、健康及び生殖成功の程度を決定する重要な要素として知られている。特に、このような社会的優位は、ヒトの心理状態とつながり、様々な精神疾患状態と関連し得ることが報告されている。具体的には、社会的優位は、薬物中毒(drug intoxication;非特許文献1)、統合失調症(schizophrenia;非特許文献2及び3)、うつ病(depressive disorder;非特許文献4)、脆弱X症候群(fragile X syndrome;非特許文献5)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)及び自閉症(autism;非特許文献2及び6)の状態と関連し得ることが報告された。
【0006】
社会神経科学分野の神経イメージング及び分子的技術の発展により、様々な動物モデルとヒトの頭脳イメージング方法を通じて、社会階層を形成する神経基質を調査することができるようになった。認知社会的優位(perception social dominance)において、海馬(hippocampus)、扁桃体(amygdala)、線条体(striatum)、前頭前皮質(prefrontal cortex, PFC)及び頭頂間溝(intraparietal sulcus)を含み、脳の様々な位置で観察される神経活性化パターンが発見された。
【0007】
海馬におけるグルココルチコイド受容体の動員は、社会的優位または服従によって調節される。興味深いことに、扁桃体は、社会的順位、社会的報酬及び情緒的反応を学習する際に重要な役割を果たす脳領域である。扁桃体は、海馬、線条体及びPFCに関連している。しかし、最近の研究は、社会的優位とPFCの関連性を示した。PFCは、ストレス、うつ病及び社会的優位に関連しており、多くの研究は、げっ歯類の脳におけるPFC及び扁桃体に関連する社会的行動関連神経回路、特に攻撃的な行動及び社会的付着について報告した。この二つの行動に関するニューロン回路の研究は広範囲に特徴づけられたが、社会的優位行動に関する研究は依然として知られていなかった。
【0008】
これに関連して、最近の研究は、ストレスによる社会的優位の変化がPFCから扁桃体への神経投影を活性化させることが示された。また、PFCにおけるAMPA(α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid)-タイプグルタミン酸受容体(AMPA-R)のリン酸化は、社会的優位で媒介される。実際、扁桃体とPFCは、社会的優位に関連している可能性がある。AMPA-Rのサブユニット、GluA1(Glutamate receptor 1)及びGluA2(Glutamate receptor 2)のリン酸化は、社会的優位の調節のための主要分子に関与する。GluA1のpS818及びpS831は、慢性拘束ストレスによって有意に減少し、長期強化(long-term potentiation, LTP)中のシナプス統合に必要である。社会的優位におけるAMPA-Rの役割に関するいくつかの証拠があるにもかかわらず、CRTC3によるCREB調節に関与する基底分子メカニズムはほとんど知られていない。
【0009】
一方、アンフィレグリン(Amphiregulin, AREG)は、第1型膜貫通糖タンパク質合成タンパク質として様々な細胞で成長因子として発見された(非特許文献7)。AREGは、元来がん種細胞株の成長を抑制するが、線維芽細胞(fibroblast)及び卵母細胞(oocyte)、角質細胞(keratinocyte)及び神経幹細胞(neural stem cell)のような正常細胞では増殖を促進する因子として知られている。このように、AREGは、増殖、生存、運動性及び血管形成において双方向の機能を有する(非特許文献8~10)。
【0010】
AREG発現部位において、これらの役割についての研究は活発に行われているが、脳でAREGを発現する細胞とこれらが脳でどのような役割を果たしているかについての研究はほとんど行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Anacker AM, Smith ML, Ryabinin AE. Establishment of stable dominance interactions in prairie vole peers: relationships with alcohol drinking and activation of the paraventricular nucleus of the hypothalamus. Soc Neurosci. 2014;9(5):484-94.
【非特許文献2】Zhou Y, Kaiser T, Monteiro P, Zhang X, Van der Goes MS, Wang D, Barak B, Zeng M, Li C, Lu C, Wells M, Amaya A, Nguyen S, Lewis M, Sanjana N, Zhou Y, Zhang M, Zhang F, Fu Z, Feng G. Mice with Shank3 Mutations Associated with ASD and Schizophrenia Display Both Shared and Distinct Defects. Neuron. 2016 Jan 6;89(1):147-62.
【非特許文献3】Wallen-Mackenzie A, Nordenankar K, Fejgin K, Lagerstrφm MC, Emilsson L, Fredriksson R, Wass C, Andersson D, Egecioglu E, Andersson M, Strandberg J, Lindhe O, Schiφth HB, Chergui K, Hanse E, Lεngstrφm B, Fredriksson A, Svensson L, Roman E, Kullander K. Restricted cortical and amygdaloid removal of vesicular glutamate transporter 2 in preadolescent mice impacts dopaminergic activity and neuronal circuitry of higher brain function. J Neurosci. 2009 Feb 18;29(7):2238-51.
【非特許文献4】Yang CR, Bai YY, Ruan CS, Zhou HF, Liu D, Wang XF, Shen LJ, Zheng HY, Zhou XF. Enhanced aggressive behaviour in a mouse model of depression. Neurotox Res. 2015 Feb;27(2):129-42.
【非特許文献5】Saxena K, Webster J, Hallas-Potts A, Mackenzie R, Spooner PA, Thomson D, Kind P, Chattarji S, Morris RGM. Experiential contributions to social dominance in a rat model of fragile-X syndrome. Proc Biol Sci. 2018 Jun 13;285(1880):20180294.
【非特許文献6】Huang WH, Wang DC, Allen WE, Klope M, Hu H, Shamloo M, Luo L. Early adolescent Rai1 reactivation reverses transcriptional and social interaction deficits in a mouse model of Smith-Magenis syndrome. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Oct 16;115(42):10744-10749.
【非特許文献7】Fukuda S, Nishida-Fukuda H, Nakayama H, Inoue H, Higashiyama S. Monoubiquitination of pro-amphiregulin regulates its endocytosis and ectodomain shedding. Biochem Biophys Res Commun. 2012 Apr 6;420(2):315-20.
【非特許文献8】Shoyab M, Plowman GD, McDonald VL, Bradley JG, Todaro GJ. Structure and function of human amphiregulin: a member of the epidermal growth factor family. Science. 1989 Feb 24;243(4894 Pt 1):1074-6.
【非特許文献9】Kato M, Inazu T, Kawai Y, Masamura K, Yoshida M, Tanaka N, Miyamoto K, Miyamori I. Amphiregulin is a potent mitogen for the vascular smooth muscle cell line, A7r5. Biochem Biophys Res Commun. 2003 Feb 21;301(4):1109-15.
【非特許文献10】Falk A, Frisιn J. Amphiregulin is a mitogen for adult neural stem cells. J Neurosci Res. 2002 Sep 15;69(6):757-62.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述の問題点を全て解決することをその目的とする。
【0013】
本発明は、社会的優位性が欠如した動物モデル及びこの製造方法を提供することを一目的とする。
【0014】
本発明は、社会的優位性が欠如した動物モデルを用いて、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患または精神疾患の治療剤をスクリーニングする方法を提供することを他の目的とする。
【0015】
本発明は、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療用組成物を提供することをまた他の目的とする。
【0016】
本発明は、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療方法を提供することをまた他の目的とする。
【0017】
本発明の目的は、前記で言及した目的に制限されない。本発明の目的は、以下の説明でより明らかになり、特許請求の範囲に記載された手段及びその組み合わせにより実現されるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するための本発明の代表的な構成は以下の通りである。
【0019】
本発明の一態様によると、CRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制された社会的優位性欠如動物モデル及びこの製造方法が提供される。
【0020】
本発明の他の態様によると、前記社会的優位性欠如動物モデルを用いて、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患または精神疾患の治療薬をスクリーニングする方法が提供される。
【0021】
本発明のまた他の態様によると、脳のEGF(Epidermal growth factor)受容体に対するアゴニスト(agonist)を有効成分として含む、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療用薬学組成物が提供される。
【0022】
本発明のまた他の態様によると、脳のEGF受容体に対するアゴニストを投与する段階を含む、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるCRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制された社会的優位性欠如動物モデルは、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患、特に社会的敗北ストレス(social defeat stress)を伴うか、これによって誘発される疾患に対する動物モデルとして用いることができる。また、本発明による脳のEGF受容体に対するアゴニストを有効成分として含む薬学組成物は、個体の社会的優位順位を上昇させる効果があるため、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患を効果的に予防して治療することができる。従って、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患である慢性炎症(chronic inflammation)、自傷(self-harming)、自殺衝動(suicidal ideation)、反社会性パーソナリティ障害(anti-social personality disorder)、攻撃的性格(aggressive personality)、慢性ストレス(chronic stress)、不安神経症(anxiety neurosis)、薬物中毒(drug intoxication)または薬物中毒による精神または行動障害、統合失調症(schizophrenia)、気分障害、躁病(mania)、うつ病(depressive disorder)、双極性障害(bipolar disorder)、脆弱X症候群(fragile X syndrome)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)、自閉症(autism)等の予防及び治療に活用することができると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1a図1a図1cは、脳の各部位別にCRTC3の発現の有無を確認した結果を示す。図1aは、WTマウス脳の凍結切片を免疫組織化学法によってCRTC3に対する染色を行って得たイメージであり、それぞれ前辺縁皮質(Prelimbic cortex, PrL)を含む前頭前皮質(Prefrontal cortex, PFC)、帯状皮質(Cingulate cortex, Cg)、歯状回(Dentate gyrus、DG)、CA(Cornu Ammonis)3領域、海馬(Hippocampus)、視床下部(Hypothalamus, Hy)、扁桃体(Amygdala, Amy)、腹側被蓋野(Ventral tegmental area, VTA)及び内側背側核(Medial dorsal nucleus, MD)を含み、脳の全体的な領域に対するCRTC3の発現程度を確認した。
図1b図1bは、脳で発現したCRTC3及び特定細胞のマーカーを二重染色した結果を示したものであり、それぞれアストロサイトマーカー(GFAP, s100β)、ニューロンマーカー(NeuN)及びミクログリアマーカー(Iba1)を使用し、共同位置化を確認した顕微鏡イメージである。
図1c図1cは、一次アストロサイト、ニューロン及びミクログリアで発現されるCRTC3 mRNAレベルを確認するために、qRT-PCRを行った結果をグラフで示す(one-way ANOVA, *** p < 0.001)。
図2a図2a図2mは、CRTC3がノックアウト(knockout, KO)されたマウスで社会的優位性が減少することを確認した行動実験結果を示す(全てのグラフでデータは平均±平均の標準誤差(Mean±SEM)で表示)。図2aは、チューブ優位試験(tube dominance test)において、勝利/敗北確定方法に関連する写真を示す。
図2b図2bは、チューブ優位試験において、WTマウス及びCRTC3 KOマウスの勝点を示す(WT, n = 33; CRTC3 KO, n = 20; Mann-Whitney U test, p = 0.0003)。
図2c図2cは、チューブ優位試験において、WTマウス及びCRTC3 KOマウスの押した(Push-initiated;図2c)回数及び平均時間をグラフで示す(Mann-Whitney U test、いずれもp < 0.0001)。
図2d図2dは、チューブ優位試験において、WTマウス及びCRTC3 KOマウスの押された(Push-back;図2d)回数及び平均時間をグラフで示す(Mann-Whitney U test、いずれもp < 0.0001)。
図2e図2eは、チューブ優位試験において、マウスが押されている間に抵抗した時間の百分率をグラフで示す(Mann-Whitney U test, p = 0.1524)。
図2f図2fは、チューブ優位試験において、マウスが押されている間に後退した時間の百分率をグラフで示す(Mann-Whitney U test, p = 0.1524)。
図2g図2gは、同じケージで飼育されたり(左側グラフ、Familiar group; WT、n = 51; CRTC3 KO、n = 28; チューブ試験、n = 56; Chi-square、*** p < 0.001)、互いに直面しない異なるケージで飼育された(右側グラフ、Unfamiliar group; WT、n = 12; CRTC3 KO、n = 11; チューブ試験、n = 55; Chi-square、*** p < 0.001)WTマウス及びCRTC3 KOマウスに対するチューブ優位試験の結果であり、勝利したマウスは1点、敗北したマウスは0点と設定して計算された。
図2h図2hは、同じ重さのWTマウスとCRTC3マウスをマッチングし、チューブ優位試験を行った結果を示す。
図2i図2iは、同じケージで飼育されたメスWTマウス及びメスCRTC3 KOマウスに対するチューブ優位試験の結果を示す。
図2j図2jは、異なるケージで飼育されたメスWTマウス及びメスCRTC3 KOマウスに対するチューブ優位試験の結果を示す。
図2k図2kは、ウォームスポット試験において、マウスがウォームスポットに滞在した時間(左側グラフ)及びこれによって測定した社会的順位(右側グラフ)をグラフで示す(Mann-Whitney U test, p < 0.0001)。
図2l図2lは、尿表示試験において、WTマウスとCRTC3 KOマウスの尿スポット面積をグラフで示す。
図2m図2mは、尿表示試験において、WTマウスとCRTC3 KOマウスの尿スポットをニンヒドリン反応を用いて格子模様が描かれたOHPフィルム上にそれぞれ表示した絵を示す。
図3a図3a図3dは、CRTC3 KOマウスに対する様々な行動実験結果を示す。図3aは、Y-迷路試験において、新しいアームを探索する時間(左側グラフ)及び進入回数(右側グラフ)をWTマウスとCRTC3 KOマウスそれぞれについて測定したグラフを示す(WT, n = 17; CRTC3 KO, n = 16; t-test)。
図3b図3bは、モリス水迷路試験において、脱出プラットフォームに到達するための水泳時間(s)、水泳距離(cm)及びプローブ試験中にプラットフォームが設置された領域に滞在した時間(s)をWTマウス及びCRTC3 KOマウスでそれぞれ測定した結果を示す(WT, n = 21; CRTC3 KO, n = 18; t-test)。
図3c図3cは、嗅覚嗜好試験において、ピーナッツバターと2-MBA(2-methylbutyric acid)に対して関心を示す時間をWTマウスとCRTC3 KOマウスそれぞれについて測定した結果を示す。
図3d図3dは、新しい物体認識試験において、新しい模型に近づいて探索する時間をWTマウスとCRTC3 KOマウスそれぞれについて測定した結果を示す。
図4a図4a及び図4bは、CRTC3に関連する遺伝子の発現確認のために、マウスcDNAマイクロアレイを用いて、全体の転写体プロファイル分析を行った結果を示す。図4aは、WTマウス及びCRTC3 KOマウスのアストロサイトに25μMのフォルスコリン(FSK)を2時間処理した後、遺伝子の発現倍数変化値を示したヒートマップである。
図4b図4bは、WTマウス及びCRTC3 KOマウスのアストロサイトにおいて、遺伝子発現の相対的な比率をマイクロアレイで分析した結果であり、フォルスコリン処理後の各マウスにおける遺伝子の転写レベルの違いを比較し、その値が大きい遺伝子から低い遺伝子順に羅列したグラフである。
図5a図5a図5fは、アストロサイトにおいて、AREGとCRTC3の関連性及びAREGの細胞形態回復効果を確認した結果を示す。図5aは、AREGを発現する細胞を確認するために、一次アストロサイト、ニューロン及びミクログリアからcDNAを合成してqRT-PCRを行った結果を示す(One-way ANOVA, *** p < 0.001)。
図5b図5bは、WTマウスとCRTC3 KOマウスの一次アストロサイトサンプルでqRT-PCRを行い、AREGの発現を確認した結果を示す(Unpaired t-test, ** p = 0.0041)。
図5c図5cは、WTマウスとCRTC3 KOマウスの一次アストロサイトに25μMフォルスコリン(FSK)を処理し、AREGの発現レベルを確認した結果を示す(Two-way ANOVA, * p < 0.05, ** p < 0.01, *** p < 0.001)。
図5d図5dは、ルシフェラーゼ分析結果を示したものであり、AREGプロモーターにルシフェラーゼ発現遺伝子を挿入した後、ルシフェラーゼの活性を測定することにより、CRTC3の発現またはフォルスコリン(FSK)の処理有無によるAREGの発現量を測定した結果を示す。
図5e図5eは、CRTC3 KO一次アストロサイトにAREG(200ng/ml)を処理した後、免疫細胞化学法によりGFAPで染色し、WT及びAREG未処理のCRTC3 KOアストロサイトとその形態を比較したイメージを示す。
図5f図5fは、AREG処理有無によるCRTC3 KOアストロサイトの細胞形態指数(CIS)を評価した結果を示す(One-way ANOVA, * p < 0.05, ** p < 0.01)。
図6a図6a及び図6bは、WTマウスとCRTC3 KOマウスの大脳皮質(CTX)及び扁桃体(AMY)において、p-STAT3、STAT3、p-GluA1及びGluA1の発現レベルをウェスタンブロッティングで測定した結果を示す。全てのバンドはβ-アクチンで正規化され、グラフにおけるデータは平均±平均の標準誤差(Mean±SEM)で表示された。図6aは、CRTC3 KOマウスの大脳皮質(CTX)において、p-STAT3の発現はSTAT3と比較して減少し(** p = 0.0031)、p-GluA1及びGluA1の発現レベルがわずかに減少することを示す(p-GluA1, p = 0.0973; GluA1, p = 0,0578)(Unpaired t-test, Mann-Whitney test)。
図6b図6bは、CRTC3 KOマウスの扁桃(AMY)において、p-STAT3の発現が顕著に減少し(Mann Whitney test, * p = 0.0379)、STAT3、p-GluA1及びGluA1の発現レベルは増加したことを示す(STAT3, ** p = 0.0079; p-GluA1, ** p = 0.0021; GluA1, *** p = 0.0006)(Unpaired t-test, Mann-Whitney test)。
図7a図7a図7fは、CRTC3 KOマウスと低い順位を有するC57BL/6マウスにAREG、AREG-EGF、AREG-HBまたはEGFを注入し、チューブ優位試験またはウォームスポット試験を通じ、社会的順位の変化を測定した結果を示す。薬物注入前後の全てのチューブ試験の勝点グラフにおいて、灰色のグラフは各個別マウスの勝点を示し、赤色のグラフは平均勝点の変化を示す。図7aは、WTマウスとCRTC3 KOマウスグループにおいて、AREG注入前後のチューブ試験結果を示す。
図7b図7bは、WTマウスとCRTC3 KOマウスグループにおいて、AREG注入前後にウォームスポット試験によって評価された順位(左側グラフ)及びウォームスポットに滞在した時間(右側グラフ)の変化を示す(Wilcoxon signed rank test, p = 0.0313(左側グラフ)、p = 0.0129(右側グラフ))。
図7c図7cは、C57BL/6マウスグループにおいて、最も低い順位のマウスにAREGを注入した前後のチューブ優位試験の結果を示す。
図7d図7dは、C57BL/6マウスグループにおいて、最も低い順位のマウスにAREG-EGFを注入した前後のチューブ優位試験の結果を示す。
図7e図7eは、WTマウスとCRTC3 KOマウスグループにおいて、AREG-EGFを注入した前後のチューブ優位試験の結果を示す。
図7f図7fは、C57BL/6マウスグループにおいて、最も低い順位のマウスにAREG-HBまたはマウスEGF(mEGF)を注入した前後のチューブ優位試験の結果を示す。
図8a図8a及び図8bは、CRTC3 KOマウスにおいて、アストロサイト特異的にアンフィレグリンを発現させた場合、社会的優位順位が回復することを確認した結果である。図8aは、CRTC3 KOマウスにAAV5-GFAP-mAREG 94-191ウイルスを投与し、アストロサイト特異的にAREGを発現させた前後のチューブ優位試験の結果を示す。
図8b図8bは、CRTC3 KOマウスにAAV5-GFAP-mAREG 94-191ウイルスを投与し、アストロサイト特異的にAREGを発現させた前後のウォームスポット試験結果を示す。
図9a図9a図9cは、ラットにおいて、AREG-EGFの処理によるPFCとPCとの間のrsFCを確認した結果を示す。図9aの左側グラフは、げっ歯類の社会的優位-関連脳ROIのrsFCマトリックスを示し、PBS(左側下段)及びAREG-EGF(右側上段)グループで示される。カラーバーはFisher z-変換相関係数(z-CorrCoef)を示す。図9aの右側グラフは、rsFC(AREG-EGF-PBS)と同じROIで示されたグループ差別性マップを示す(# P < 0.05, @ P < 0.01, Student's t-test)。カラーバーはグループ差を示す。
図9b図9bは、PFCとPC中心のROI間の平均rsFCマトリックスを示す(* p < 0.05、Student's t-test;L、左側半球;R、右側半球)。
図9c図9cの左側イメージは、fMRI測定位置としてCa1/2(24b'/24a')領域を中心に指定して撮影したものを示す(冠状(coronal)断面(上)及び矢状(sagittal)断面(下)での撮影位置を示す)。図9cの右側イメージは、PBS(上段)及びAREG-EGF(中段)投与グループにおけるrsFCの差を脳断面での信号変化で示したものであり、下段イメージは、PBSとAREG-EGF投与グループ間の差を示す。
図10a図10a図10eは、マウスにおいて、AREGの投与によるPFCとPCとの間のrsFCを確認した結果を示す。図10aは、WTマウスとCRTC3 KOマウスにおいて、AREG投与前のげっ歯類の社会的優位-関連脳ROIのrsFCマトリックス(右側)及びrsFC(WT-KO)と同じROIで示されたグループ差別性マップを示す。
図10b図10bは、WTマウスとCRTC3 KOマウスにおいて、AREGの投与前のPFCとPC中心のROI間の平均rsFCマトリックスを示す。
図10c図10cは、WTマウスとCRTC3 KOマウスにおいて、AREGの投与後のげっ歯類の社会的優位-関連脳ROIのrsFCマトリックス(右側)及びrsFC(WT-KO)と同じROIで示されたグループ差別性マップを示す。
図10d図10dは、WTマウスとCRTC3 KOマウスにおいて、AREGの投与後のPFCとPC中心のROI間の平均rsFCマトリックスを示す。
図10e図10eの左側イメージは、WTマウスとCRTC3 KOマウスにおいて、それぞれAREG投与前後のrsFCの差を脳断面での信号変化で示したものであり、下段イメージは、WTマウスとCRTC3 KOマウスとの間の差を示す。図10eの右側イメージは、fMRI測定位置としてCa1/2領域を中心に指定して撮影したものを示す。
図11a図11a及び図11bは、AREGのEGF及びHBドメインが様々な種で保存された結果を示す。図11aは、様々な種において、AREGタンパク質のアミノ酸配列を示す(Homo sapiens、ヒト;Bos Taurus、ウシ;Sus scrofa、ブタ;Mus musculus、マウス;Rattus norvegicus、ドブネズミ)。
図11b図11bは、マウスに投与されたAREG-EGF及びAREG-HBドメインのアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
後述する本発明についての詳細な説明は、本発明が実施され得る特定の実施態様に関し、特定の図面を参照して記述されるが、本発明はこれに限定されず、適切に説明されると、それらの請求項が主張するものと均等な全ての範囲に加え、添付の請求項によってのみ限定される。本発明の様々な実施態様/実施例は互いに異なるが、相互に排他的である必要はないことが理解されるべきである。例えば、本明細書に記載されている特定の形状、構造及び特性は、本発明の技術的思想と範囲を逸脱することなく、一実施態様/実施例から他の実施態様/実施例に変更したり、実施態様/実施例を組み合わせて具現することができる。本明細書に使用される技術及び学術用語は、他に定義されない限り、本発明が属する分野で一般的に使用されるものと同じ意味を有する。本明細書を解釈する目的で下記の定義が適用され、単数で使用される用語は、適切な場合には複数形を含み、その反対も同様である。
【0026】
定義
本明細書で使用される用語「動物モデル」は、ヒトの疾患と類似する状態の疾患にかかったり、先天的にその疾患にかかるように作製された動物を意味する。
【0027】
用語「社会的優位(性)(social dominance)」は、集団または群集を成して生活する社会的動物の間に現れる社会性行動の一部類であり、上下関係を含む他者との社会的相互関係の一体を意味する。本用語「社会的優位(性)」は、用語「社会的優勢(性)」または「社会的支配(性)」と相互交換的に使用することができ、用語「社会的優越(性)(social superiority)」または「社会的階級(social hierarchy)」が有する意味を包括する。
【0028】
用語「社会的敗北ストレス(social defeat stress)」は、社会的相互関係または社会的対峙(social confrontation)のうち、社会的敗北による従属動物または社会的優位順位が相対的に低い動物に現れるストレス反応を意味する。本発明において、社会的優位性が欠如または減少した動物は、社会的敗北ストレス反応が現れることがある。
【0029】
用語「遺伝子」は、生物学的機能に関連する任意の核酸を示すことに広範囲に使用される。遺伝子は、コード配列及び/またはこれらのコード配列の発現のために要求される調節配列を含むことができる。
【0030】
用語「遺伝子の発現抑制」は、遺伝子の発現を減少させるあらゆる行為を意味し、具体的には、遺伝子ノックアウト(knockout)、ノックダウン(knockdown)、遺伝子DNA配列に欠失、重複、逆位、または交替等の変異を導入することによって成され得る。
【0031】
用語「タンパク質の活性抑制」は、標的タンパク質の活性を抑制または阻害するあらゆる行為を意味する。前記タンパク質の活性抑制は、標的タンパク質の活性を直接的に抑制するか、他のタンパク質との相互作用を妨害してその機能を抑制することを意味することができる。前記タンパク質の活性を抑制することができる物質としては、例えば、タンパク質に特異的に結合する化合物、ペプチド、ペプチド模倣体、基質類似体、アプタマー、抗体等があるが、これに制限されない。本発明において、前記標的タンパク質はCRTC3タンパク質を意味する。
【0032】
用語「アストロサイト(astrocyte)」は「星状細胞」とも呼ばれ、神経系に最も多くの数を占める細胞であり、ニューロンが分泌する神経伝達物質を適切に除去したり、脳内のイオン濃度を調節しながらニューロンの活性を補助する役割を果たすと知られている。
【0033】
用語「野生型(wildtype)動物」は、当業者によって理解される当該分野の用語であり、突然変異または変異体形態と区別される、自然で発生する典型的な形態の動物を意味する。
【0034】
用語「機能的連結性(functional connectivity)」は、解剖学的に区分された脳の領域で同期化(synchronized)された活動を示すことを意味する。すなわち、空間的には離れているが、時間的には類似する活動パターンを示す頭脳領域は機能的に連結されていることとする。
【0035】
用語「アゴニスト(agonist)」は、受容体と結合して受容体を活性化させることにより、シグナル伝達経路のような生物学的反応を活性化させる全ての化合物を意味する。本発明において、EGF受容体アゴニストは、EGF受容体に結合し、EGFで誘導されるシグナル伝達経路を活性化させる全ての化合物を意味することができる。
【0036】
用語「個体」は「患者」と相互交換的に使用され、社会的優位性の欠如または低下の予防または治療を必要とする哺乳動物、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ペット(例えば、イヌ、ネコ等)、家畜動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等)及び実験室動物(例えば、ラット、マウス、モルモット等)であり得る。本発明の一実施態様において、個体はヒトである。
【0037】
用語「治療」は、一般的に目的とする薬理学的効果及び/または生理学的効果を収得することを意味する。これらの効果は、疾患及び/またはこれらの疾患による有害な効果を部分的または完全に治癒するという点で、治療的効果を有する。好ましい治療的効果は、疾患の発生または再発の防止、症状の改善、疾患の任意の直接または間接的な病理学的結果の縮小、転移の防止、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、及び快方または改善された予後を含むが、これらに制限されない。好ましくは、「治療」は、既に現れた疾患または障害の医療的介入を意味することができる。
【0038】
用語「予防」は、疾患またはその症状を部分的または完全に予防するという観点で、目的とする予防的な薬理学的効果及び/または生理学的効果を収得することを意味する。
【0039】
用語「投与」は、個体に予防的または治療的目的(例えば、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療)を達成するための物質(例えば、脳のEGF受容体に対するアゴニスト)を提供することを意味する。
【0040】
本明細書で使用される略語(略称)のフルネーム(full name)は、下記表1に記載の通りである。
【0041】
【表1】
【0042】
動物モデル及びこの製造方法
本発明は、部分的にCRTC3が社会的優位性と有意な関連性があり、動物において、CRTC3の機能阻害によって社会的優位性が欠乏または著しく減少することがあるという驚くべき発見をその基礎とする。本発明の一実施態様によると、CRTC3が脳の様々な領域で発現され、脳に存在する様々な種類の細胞のうち、主にアストロサイト(astrocyte)で発現されることを確認し、前記CRTC3遺伝子の機能を明らかにするために、CRTC3遺伝子がノックアウトされたオス及びメスのCRTC3 KOマウスにおいて、チューブ優位試験、ウォームスポット試験及び尿表示試験を通じて社会的優位性を評価した結果、野生型(wildtype, WT)マウスと比較し、CRTC3マウスの社会的優位順位(または社会的配列)が著しく低いことを発見した(実施例1及び実施例3参照)。特に、CRTC3 KOマウスをWTマウスと共に飼育した場合と分離して飼育した場合の両方で、CRTC3 KOマウスはWTマウスよりも社会的優位順位が低いことと示された。このように、動物(特に、社会的動物)において、CRTC3遺伝子の機能が欠乏または減少すると、社会的優位性が欠如または減少する可能性がある。
【0043】
本発明の他の実施例によると、CRTC3 KOマウスは、前記社会的優位性の欠如や減少以外に、短期記憶や長期記憶の損傷、視覚、嗅覚等のような感覚に関連する行動の変化は現れないことが確認された(実施例4参照)。
【0044】
このように、本発明者らは、CRTC3遺伝子またはタンパク質は、動物の他の精神活動や行動にはほとんど影響を及ぼさず、社会的優位に関連する行動に重大な影響を及ぼすという事実を発見した。従って、本発明による動物モデルは、社会的優位性が欠如した動物モデルとして用いることができ、さらに、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患(例えば、精神疾患)モデルとして活用することができる。
【0045】
本発明の一態様によると、CRTC3(CREB-regulated transcription coactivator 3)遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制された社会的優位性(social dominance)欠如動物モデルが提供される。また、CRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性を抑制する段階を含む、社会的優位性欠如動物モデルの製造方法が提供される。
【0046】
一実施態様において、前記動物モデルは、脳特異的にCRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制されたものであり得る。また、前記動物モデルは、脳に存在する細胞のうち、アストロサイト特異的にCRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制されたものであり得る。
【0047】
他の実施態様において、前記製造方法は、動物における脳特異的にCRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性を抑制する段階を含むことができる。また、前記製造方法は、動物における脳のアストロサイト特異的にCRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性を抑制する段階を含むことができる。
【0048】
前記「CRTC3遺伝子またはタンパク質の発現または活性が抑制された」は、CRTC3遺伝子またはCRTC3タンパク質の機能が阻害または妨害されることを意味する。このような阻害または妨害は、CRTC3遺伝子の転写を妨害したり、またはCRTC3遺伝子のmRNAの翻訳を阻害することによって成され得る。または、CRTC3タンパク質の活性部位に特異的に結合したり、タンパク質構造変形を起こすことにより、CRTC3タンパク質の活性を減少または不活性化させることができる。
【0049】
また他の実施態様において、前記動物モデルは、CRTC3遺伝子をノックアウト(knockout)またはノックダウン(knockdown)して製造されたものであり得る。前述のように、CRTC3遺伝子の発現抑制は、遺伝子のノックアウト、ノックダウン以外にも、遺伝子のDNA配列に欠失、重複、逆位、または交替等の変異を導入することによって成され得る。
【0050】
ここで、用語「ノックアウト」は、遺伝子の欠損が誘発されたDNAを外部から導入し、正常遺伝子に完全不活性化を誘導することを意味し、用語「ノックダウン」は、例えば、RNAi等を用いて発現するmRNAを低下(degradation)させ、遺伝子の発現量を減少させることを意味する。例えば、CRTC3ノックアウト動物は、このCRTC3遺伝子が不活性化されるか、破壊されるか、欠失されるか、または「ノックアウト」される。
【0051】
また他の実施態様において、前記動物モデルは、CRTC3タンパク質の活性が抑制されたものであり得る。前述のように、CRTC3タンパク質の活性抑制は、CRTC3タンパク質に特異的に結合する化合物、ペプチド、ペプチド模倣体、基質類似体、アプタマー、抗体等によって行うことができ、公知の技術を制限なく用いることができる。
【0052】
また他の実施態様において、前記動物モデルは、野生型(wildtype, WT)動物と比較し、アンフィレグリン(Amphiregulin, AREG)遺伝子またはタンパク質の発現または活性が減少していることを特徴とすることができる。後述するように、CRTC3はCREBの標的遺伝子であるAREGの発現を直接調節し、従って、前記動物モデルは、特に脳において、AREGの発現または活性が著しく減少する。このようなAREGの欠如または減少により、社会的優位性の損傷が発現すると考えられる。
【0053】
また、前記動物モデルは、WT動物と比較し、記憶に関連する行動、感覚に関連する行動、またはこれらの両方に対する変化が現れないことがある。これらの特質により、本発明の動物モデルは、社会的優位性の欠如または減少に関連する様々な疾患や状態に対するモデルとして活用することができる。
【0054】
さらに、前記動物モデルは、野生型動物と比較し、脳の前頭前皮質(prefrontal cortex, PFC)と頭頂皮質(parietal cortex, PC)の機能的連結性が低下したものであり得る。一実施例によると、CRTC3 KOマウスは、WTマウスと比較し、PFCとPCとの間のrsFC(安静時機能的接続性)が著しく低下していることが確認され、これはCRTC3が脳において、PFCとPC領域間の連結性に重要な機能を果たしていることを示す(実施例11参照)。
【0055】
また他の実施態様において、前記動物モデルは、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患に対する動物モデルとして使用することができる。
【0056】
前記疾患は、社会的敗北ストレス(social defeat stress)を伴うか、これによって誘発される疾患であり得、詳細な内容は下記の「薬学組成物及びこれを用いた疾患の予防または治療方法」の部分に記述された内容と同じである。
【0057】
一実施態様において、前記社会的敗北ストレスを伴うか、これによって誘発される疾患は、慢性炎症(chronic inflammation)、自傷(self-harming)、自殺衝動(suicidal ideation)、反社会性パーソナリティ障害(anti-social personality disorder)、攻撃的性格(aggressive personality)、慢性ストレス(chronic stress)、不安神経症(anxiety neurosis)、薬物中毒(drug intoxication)または薬物中毒による精神または行動障害、統合失調症(schizophrenia)、気分障害、躁病(mania)、うつ病(depressive disorder)、双極性障害(bipolar disorder)、脆弱X症候群(fragile X syndrome)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)及び自閉症(autism)からなる群から選択される1種以上であり得る。各疾患に関連する詳細な内容は、下記「薬学組成物及びこれを用いた疾患の予防または治療方法」の部分に記載された内容と同じである。
【0058】
前記動物モデルで使用することができる動物は、ヒトに現れる各種疾患を有する動物であり、数世代を要する長期間の遺伝研究や直接ヒトを対象に実験が困難な臓器移植実験等、人体疾患の解明と治療法開発に使用される動物モデルに該当し得るヒトを除外した動物を制限なく含む。具体的には、マウス、ラット、モルモット、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、及びヤギからなる群から選択されるものであり得る。前記動物のうち、マウスまたはラットは、繁殖能力、発育能力、及び環境適応能力が良く、子孫の数が多く、実験群に属する個体数を多く確保することができ、信頼することができる結果を得ることができ、操作が簡単という利点があるため、本発明の具体的な実施例では、マウス及びラットを使用したが、これに制限されない。
【0059】
一実施態様において、社会的優位性欠如動物モデルの製造のために抑制されるCRTC3遺伝子またはCRTC3タンパク質は、公知のCRTC3の遺伝子またはタンパク質情報に基づき、公知の方法によって行うことができる。
【0060】
下記の表2に、マウス(Mus musculus)、ラット(Rattus norvegicus)及びサル(Macaca mulatta)の例示的なCRTC3遺伝子(CRTC3 mRNAのORF)及びタンパク質の情報が提供される。他の実施態様において、マウスを用いて本発明の動物モデルを製造する場合、当業者は、下記配列番号1の塩基配列を有するCRTC3 DNA(またはmRNA)をノックアウトまたはノックダウンすることができる。または、代案的に、下記配列番号2のアミノ酸配列を有するCRTC3タンパク質に特異的な物質を使用し、CRTC3の活性を阻害することもできる。
【0061】
ラット、サル等をモデル動物として使用する場合にも前記と同様である。一方、下記表2に記載された特定の動物のCRTC3配列は例示的なものであり、他の動物に対するCRTC3のDNAまたはタンパク質配列は、米国国立生物工学情報センター(www.ncbi.nlm.nih.gov)で提供するデータベースから容易に探すことができる。
【0062】
【表2-1】
【0063】
【表2-2】

【0064】
【表2-3】

【0065】
【表2-4】

【0066】
【表2-5】

【0067】
【表2-6】
【0068】
治療剤のスクリーニング方法
本発明のまた他の態様によると、前記社会的優位性欠如動物モデルを用いて、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患または精神疾患の治療剤のスクリーニング方法が提供される。一実施態様において、前記スクリーニング方法は、(a)前記社会的優位性欠如動物モデルに候補薬物を投与する段階及び(b)前記動物モデルの社会的優位性が改善されるかどうかを確認する段階を含むことができる。
【0069】
他の実施態様において、前記動物モデルの社会的優位性が改善されるかどうかを確認する段階は、(b-1)動物モデルにおける候補薬物の処理前と後の社会的優位順位を測定し、互いに比較する段階を含むことができる。ここで、社会的優位順位は、公知の行動試験方法または本明細書に詳細に記述されたチューブ優位試験、ウォームスポット試験または尿表示試験等によって測定、評価及び比較することができる。
【0070】
本スクリーニング方法が前記段階(b-1)を含む場合、前記スクリーニング方法は、(c-1)動物モデルにおける候補薬物を処理する前と比較し、候補薬物を処理した後の社会的優位順位が上昇した場合、候補薬物を社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の治療剤として選択する段階をさらに含むことができる。
【0071】
また他の実施態様において、前記動物モデルにおける社会的優位性が改善されるかどうかを確認する段階は、(b-2)動物モデルまたはその生物学的試料における候補薬物の処理前と後のアンフィレグリンの発現または活性レベルを測定し、互いに比較する段階を含むことができる。ここで、アンフィレグリンの発現または活性レベルの測定は、アンフィレグリンmRNAの転写量レベルを測定するか、アンフィレグリンタンパク質の発現または活性レベルを測定して行うことができる。前記mRNAの転写量レベルの測定は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real-time PCR)、RNase 保護分析法(RNase protection assay, RPA)、マイクロアレイ(microarray)及びノーザンブロッティング(northern blotting)からなる群から選択される1種以上のmRNAの転写量レベルの測定法で行うことができるが、これらに制限されない。前記タンパク質の発現または活性レベルの測定は、ウェスタンブロッティング(western blotting)、免疫染色法(immunostaining)、放射免疫分析法(radioimmunoassay, RIA)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降法(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)、免疫蛍光染色法(immunofluorescence)、オクタロニー(ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(Rocket)免疫電気泳動、補体固定分析法(complement fixation assay)及びタンパク質チップ(protein chip)からなる群から選択される1種以上のタンパク質の発現または活性レベルを測定する方法で行ってもよいが、これらに制限されない。
【0072】
本スクリーニング方法が前記段階(b-2)を含む場合、前記スクリーニング方法は、(c-2)候補薬物を処理する前と比較し、候補薬物を処理した後、動物モデルまたはその生物学的試料におけるアンフィレグリンの発現または活性レベルが増加した場合、候補薬物を社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の治療剤として選択する段階をさらに含むことができる。
【0073】
また他の実施態様において、前記確認段階(段階(b))は、前記社会的優位性評価のための行動試験及びアンフィレグリンの発現または活性レベルの測定以外に、脳波(Electroencephalogram, EEG)分析または脳MRI分析、またはこれらの任意の組み合わせを通じて行うことができる。
【0074】
薬学組成物及びこれを用いた疾患の予防または治療方法
本発明はまた、社会的優位性が欠如または減少した動物にEGF受容体を活性化させることができる物質(例えば、アンフィレグリンまたはこの断片)を投与する場合、社会的優位順位(または社会的配列)が変化する可能性があるという驚くべき発見をその基礎とする。本発明者らは、CRTC3とアンフィレグリン(Amphiregulin, AREG)との間の関連性を発見し、AREG、特にAREGのEGFドメインが動物の損傷した社会的優位性を回復することに核心的な役割を果たすことを実験を通じて確認した。従って、このような社会的優位性の回復を通じ、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患を予防し、治療することができる。
【0075】
本発明の一実施例によると、AREGは、フォルスコリン(FSK)によるCRTC3の活性化によりその発現レベルが増加するが、CRTC3 KOマウスでは発現の増加が現れず、AREGプロモーターにルシフェラーゼ発現遺伝子を挿入し、その活性測定を通じ、AREGがCRTC3の下流シグナルタンパク質であることを確認した(実施例5及び6参照)。
【0076】
他の実施例によると、CRTC3の欠乏は、アストロサイトの複雑性を減少させ、このような異常な形態は、AREGの投与により回復することを確認した(実施例7参照)。また、CTCR3 KOマウスは、WTマウスと比較し、大脳皮質及び扁桃体でAREGシグナル伝達経路に関与するp-STAT3が減少し、社会的優位性に関連するタンパク質の一つとして知られているGluA1が大脳皮質で著しく減少することを確認した(実施例8参照)。
【0077】
本発明のまた他の実施例によると、社会的優位性が欠如または減少したCRTC3 KOマウスにAREGまたはAREGのEGFドメイン(AREG-EGF)を投与した場合、社会的優位順位が上昇することを確認した。また、驚くべきことに、WTマウスグループで相対的に社会的優位順位が低いWTマウスにAREGまたはAREG-EGFを投与した場合にも、前記WTマウスの社会的優位順位が上昇した(実施例9参照)。このような結果は、CRTC3 KOマウスでアストロサイト特異的にAREGを発現させた場合にも同様に現れた(実施例10参照)。従って、AREG、特にAREGのEGFドメインを用いてEGF受容体を活性化させると、損傷した社会的優位性を回復させることができる。
【0078】
本発明のまた他の実施例によると、社会的優位性が欠如したCRTC3 KOラットまたはマウスにおいて、前頭前皮質(PFC)と頭頂皮質(PC)の機能的連結性が著しく低下することを確認した(実施例11参照)。これは、CRTC3の欠乏による社会的優位性の損傷がPFCとPCの機能的連結性の低下によっても発生することを示すものであり、AREGの投与によって前記機能的連結性もまた回復することができる。
【0079】
本発明の一態様によると、脳のEGF(Epidermal growth factor)受容体に対するアゴニスト(agonist)を有効成分として含む、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患(例えば、精神疾患)の予防または治療用の薬学組成物が提供される。また、脳のEGF受容体に対するアゴニストを有効成分として含む組成物を個体に投与する段階を含む、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または治療方法が提供される。
【0080】
前述の実施例によると、動物における社会的優位性の欠如は、アンフィレグリン(Amphiregulin、AREG)、特にAREGのEGFドメインによって回復することができる。従って、前記AREGのEGFドメインによって活性化される脳のEGF受容体に対するアゴニストは、社会的優位に関連するアンフィレグリンの機能と同等の機能を発揮することができる。
【0081】
一実施態様において、前記EGF受容体に対するアゴニストは、アンフィレグリン、この断片またはこれらを暗号化する核酸を含むことができる。また、前記アンフィレグリンまたはこの断片は、アンフィレグリンのEGFドメインを含むことができる。
【0082】
本明細書の用語「アンフィレグリン(Amphiregulin, AREG)」は、第1型膜貫通糖タンパク質合成タンパク質であり、pro-AREGとも呼ばれる(非特許文献7)。AREGは、N-末端のpro-領域、ヘパリン-結合ドメイン(Heparin-binding domain, HB)、表皮成長因子(Epidermal growth factor, EGF)-類似ドメイン、膜横断ドメイン(transmembrane domain, TM)及びC-末端で構成される。Pro-AREGのN-末端部分は、核と関連することが知られている二つの連続したLys-Arg-Arg-Argモチーフを含有するが、これは核ターゲットシグナルとして知られている。AREGまたはAREGエクトドメインシェディングの可溶性形態は、膜貫通タンパク質分解酵素であるADAM-17/TACEのタンパク質分解活性によって生成される。pro-AREGまたは切断されたAREGは、異なる方式でシグナルを転送することができる。隣接分泌(juxtacrine)、自己分泌(autocrine)及び周辺分泌(paracrine)の方式で、細胞内核転座またはエクソソームに含ませてシグナルを転送することができる。AREGは、EGF受容体(EGFR)のリガンドの一つとしてよく知られている。AREGによるEGFRの活性は、Ras/MAPK、PI3K/AKT、mTOR、STAT、PLCγ、多重細胞内シグナル経路のような下流(downstream)受容体の活性を調節する。
【0083】
他の実施態様において、前記アンフィレグリンは、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むことができるが、これに制限されず、前記配列番号8の配列と80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列が含まれる。
【0084】
また他の実施態様において、前記アンフィレグリンのEGFドメインは、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むことができるが、これに制限されず、前記配列番号10の配列と80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列が含まれる。
【0085】
下記表3に、前記配列番号8及び配列番号10を含む例示的なヒトアンフィレグリンのDNA(またはmRNAのORF)配列及びタンパク質配列、ヒトアンフィレグリンEGFドメインのDNA配列及びタンパク質配列が提供される。
【0086】
【表3】
【0087】
また他の実施態様において、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患は、CRTC3の発現障害または活性低下によって誘発されるものであり得る。本明細書において、用語「社会的優位性の欠如または減少」は、社会的階層を形成して表現する能力の欠如または減少を意味するものであり、「社会的萎縮(social withdrawal)」を含む概念として使用される。具体的には、前記社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患は、社会的優位性の欠如または減少が現れる疾患及び社会的優位性の欠如または減少によって誘発される疾患の両方を含む。また他の実施態様において、前記社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患は、CRTC3(CREB-regulated transcription coactivator 3)の発現障害または活性低下によって誘発されるものであり得る。また、社会的優位性が欠如または減少した動物は、社会的敗北ストレス(social defeat stress)にさらされたり、社会的優位性の欠如または減少によって社会的敗北ストレスが誘発される可能性がある。従って、本発明の他の実施態様において、前記疾患は、社会的敗北ストレスに関連する疾患であり得る。具体的には、前記社会的敗北ストレスに関連する疾患は、社会的敗北ストレスが現れる疾患及び社会的敗北ストレスによって誘発される疾患の両方を含む。前記社会的優位性の欠如または減少が現れる疾患または社会的優位性の欠如または減少によって誘発される疾患は、社会的敗北ストレスを伴うか、社会的敗北ストレスによって誘発される疾患であり得る。
【0088】
また他の実施態様において、前記疾患は、慢性炎症(chronic inflammation)であり得る。社会的優位順位は、免疫遺伝子の発現に影響を及ぼし、特に低い社会的配列は、先天性免疫防御及び炎症に関与する遺伝子の上向き調節につながることが知られている(文献[Lea AJ, Akinyi MY, Nyakundi R, Mareri P, Nyundo F, Kariuki T, Alberts SC, Archie EA, Tung J. Dominance rank-associated gene expression is widespread, sex-specific, and a precursor to high social status in wild male baboons. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Dec 26;115(52):E12163-E12171.]参照)。従って、低い社会的優位順位による社会的敗北ストレスは慢性炎症を誘発し、このような慢性炎症は、老化及び疾患の危険因子であるため、寿命の短縮及び各種疾患の発症とも関連している。
【0089】
また他の実施態様において、前記疾患は、自傷(self-harming)、自殺衝動(suicidal ideation)を含む反社会性パーソナリティ障害(anti-social personality disorder)であり得る。特に、社会的敗北ストレスは、自傷、自殺衝動のような精神的状態を引き起こすことがあり、反社会性パーソナリティ障害のような疾患が発生し得る(文献[Wolke D, Lereya ST. Long-term effects of bullying. Arch Dis Child. 2015 Sep;100(9):879-85. doi: 10.1136/archdischild-2014-306667. Epub 2015 Feb 10.]、文献[Mueller AS, Abrutyn S, Pescosolido B, Diefendorf S. The Social Roots of Suicide: Theorizing How the External Social World Matters to Suicide and Suicide Prevention. Front Psychol. 2021 Mar 31;12:621569.]及び文献[Halpern J, Jutte D, Colby J, Boyce WT. Social dominance, school bullying, and child health: what are our ethical obligations to the very young? Pediatrics. 2015 Mar;135 Suppl 2(Suppl 2):S24-30.] 等参照)。
【0090】
また他の実施態様において、前記疾患は慢性ストレス(chronic stress)であり得る。従来の研究において、社会的優位性と慢性ストレスに対する反応は有意な関連性があり、特に社会的優位順位が低いオス動物は、高いストレス状況でより不安な行動を示すと報告されている(文献[Karamihalev S, Brivio E, Flachskamm C, Stoffel R, Schmidt MV, Chen A. Social dominance mediates behavioral adaptation to chronic stress in a sex-specific manner. Elife. 2020 Oct 9;9:e58723.]参照)。
【0091】
また他の実施態様において、前記疾患は、攻撃的性格(aggressive personality)、不安神経症(anxiety neurosis)、統合失調症(schizophrenia)、気分障害(mood disorder)、躁病(mania)、うつ病(depressive disorder)または双極性障害(bipolar disorder)であり得る。特に、社会的優位順位が高い上位階層によって下位階層の社会的敗北ストレスが過度になる場合、下位階層で攻撃的性格、不安神経症、統合失調症、躁病、うつ病または双極性障害のような精神疾患が現れる可能性があることが知られている(文献[J Price. The dominance hierarchy and the evolution of mental illness. The Lancet. Vol 290, Issue 7509, 243-246]参照)。また、統合失調症及びうつ病に関連する動物モデルでも、社会的支配行動に深刻な欠陥が現れることが報告されている(非特許文献2及び4参照)。
【0092】
また他の実施態様において、前記疾患は、薬物中毒(drug intoxication)または薬物中毒による精神または行動障害であり得る。社会的敗北ストレスは、薬物に対する感受性をより敏感に変化させ、従って、社会的優位性が欠如または減少した動物は、薬物により容易に中毒になる可能性がある。
【0093】
また他の実施態様において、前記疾患は、脆弱X症候群(fragile X syndrome)であり得る。前記脆弱X症候群の表現型の特徴は、社会的優位性の欠如または社会的萎縮と知られている(非特許文献5参照)。
【0094】
また他の実施態様において、前記疾患は、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)または自閉症(autism)であり得る。従来の研究によると、自閉症及び自閉症スペクトラム障害の動物モデルは、社会的支配行動に深刻な欠陥が現れ、社会的相互作用の欠如もまた現れる(非特許文献2及び6参照)。
【0095】
従って、本発明の薬学組成物は、前記のように、社会的優位性が欠如または減少することにより発生する社会的敗北ストレスに関連する(すなわち、社会的敗北ストレスが誘発される、または社会的敗北ストレスによって誘発される)様々な疾患及び状態を予防または治療することができる。また、本発明の方法によると、脳のEGF受容体に対するアゴニストを予防的または治療的有効量で個体に投与し、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患を予防または治療することができる。
【0096】
一方、本発明の薬学組成物を製造するために、前記脳のEGF受容体に対するアゴニスト、アンフィレグリン、この断片またはこれらを暗号化する核酸は、製薬上許容される担体及び/または賦形剤と混合することができる。薬学組成物は、凍結乾燥製剤または水性溶液の形態で製造することができる。例えば、文献[Remington's Pharmaceutical Sciences and U.S. Pharmacopeia: National Formulary, Mack Publishing Company, Easton, PA (1984)]を参照する。
【0097】
許容される担体及び/または賦形剤(安定化剤を含む)は、使用される用量及び濃度で個体に無毒性であり、バッファー(例えば、リン酸塩、クエン酸塩または他の有機酸);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸またはメチオニン);防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10以下の残基)ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン);親水性重合体(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン);単糖類、二糖類、及び他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、またはデキストリン;キレート剤(例えば、EDTA);糖(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトール);塩形成反対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び(または)非イオン系界面活性剤(例えば、TWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)またはポリエチレングリコール(PEG))を含んでもよく、これらに制限されない。
【0098】
本発明の薬学組成物は、その投与経路に応じて、当業界に公知の適合する形態で製剤化することができる。
【0099】
本明細書において、用語「予防的または治療的有効量」または「有効量」は、個体における社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患を予防または治療するために有効な組成物の有効成分の量であり、医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比で前記疾患を予防または治療するために十分であり、副作用を引き起こさない程度の量を意味する。前記有効量のレベルは、患者の健康状態、疾患の種類及び重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与方法、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、配合または同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野でよく知られている要素によって決定することができる。この時、前記の要素を全て考慮し、最小限の副作用または副作用なく、最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは通常の技術者によって容易に決定することができる。
【0100】
具体的には、本発明の薬学組成物における有効成分の有効量は、個体(患者)の年齢、性別、体重、疾患の種類及び程度、薬物の形態、投与経路及び期間等によって異なることがあり、当業者によって適切に選択することができる。一般的に、これによって本発明の範囲は制限されないが、1日の投与量が0.01~200mg/kg、具体的には0.1~200mg/kg、より具体的には0.1~100mg/kgであり得る。投与は、1日に1回投与することもでき、数回に分けて投与することもでき、注入用ポンプ等を移植して長時間または長期間にわたって投与することもできる。
【0101】
本発明による組成物は、対象に様々な経路で投与することができる。投与のあらゆる方式は予想することができるが、例えば、非経口投与であり得、非経口投与は、注射(例えば、ボーラス注射)または注入による投与を意味する。非経口投与には、皮下投与(subcutaneous injection)、静脈内投与(intravenous injection)、筋肉内投与(intramuscular injection)、動脈内投与(intraarterial injection)、腹腔内投与(intraperitoneal injection)、脳内投与(Intracerebral injection)、髄腔内投与(intrathecal injection)または脳室内投与(intracerebroventricular injection)が含まれる。本発明による組成物は、脳内投与または脳室内投与が好ましい。
【0102】
食品組成物及び健康機能食品組成物
本発明のまた他の態様によると、脳のEGF(Epidermal growth factor)受容体に対するアゴニスト(agonist)を有効成分として含む、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防または改善用の食品組成物が提供される。
【0103】
本発明の食品組成物は、また健康機能食品であり得る。
【0104】
本明細書において、用語「健康機能食品」は、人体に有用な機能性を有する原料や成分を使用して製造及び加工した食品を意味し、本発明においては、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患の予防及び改善にその有益な効果がある。
【0105】
本発明の前記脳のEGF受容体に対するアゴニストまたはアンフィレグリンまたはこの断片を食品添加物として使用する場合、前記アゴニストまたはアンフィレグリンまたはこの断片をそのまま添加したり、他の食品または食品成分と共に使用することができ、通常の方法に従って適切に使用することができる。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康または治療的処置)に応じて適合して決定することができる。一般的に、食品または飲料の製造時に前記アゴニストまたはアンフィレグリンまたはこの断片は、原料に対して15重量%以下、または10重量%以下の量で添加することができる。しかし、健康及び衛生を目的としたり、または健康調節を目的とする長期間の摂取の場合、前記量は前記範囲以下であり得、安全性の面で何の問題もないため、有効成分は前記範囲以上の量でも使用することができる。
【0106】
前記食品の種類には、特に制限はない。前記物質を添加することができる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディ類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤等があり、通常の意味での健康機能食品を全て含む。
【0107】
本発明による健康飲料組成物は、通常の飲料のように、様々な香味剤または天然炭水化物等を追加成分として含有することができる。前述の天然炭水化物は、グルコース及びフルクトースのようなモノサッカライド、マルトース及びスクロースのようなジサッカライド、デキストリン及びシクロデキストリンのようなポリサッカライド、及びキシリトール、ソルビトール及びエリトリトール等の糖アルコールである。甘味料としては、タウマチン、ステビア抽出等を使用することができる。
【0108】
前記の他に、本発明の組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクト酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤等を含有することができる。その他、本発明の組成物は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含有することができる。これらの成分は、独立または組み合わせて使用することができる。これらの添加剤の比率はそれほど重要ではないが、本発明の組成物100重量部あたり0.01~0.20重量部の範囲で選択されることが一般的である。
【0109】
前述の食品組成物または健康機能食品組成物に関連する事項以外に、残りの構成についての具体的な説明は、前記「薬学組成物」の部分を参照する。
【実施例
【0110】
以下、本発明を下記の実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲はこれらのみに限定されない。
【0111】
実施例
I. 社会的優位性が欠如または低下した動物モデル:CRTC3 KOマウス
実施例1. 脳におけるCRTC3の発現確認
実施例1.1. 脳におけるCRTC3の発現領域確認
脳では主にCRTC1及びCRTC2が発現することがよく知られている。しかし、脳におけるCRTC3の発現に関する研究は皆無の状況である。そこで、本発明者らは、脳でCRTC3が発現するかどうかを調査した。下記の実験例1.5に記述したような方法で野生型(WT)マウスの脳を凍結切片し、CRTC3を特異的に認識する抗体を使用して染色し、脳の様々な領域を調査してCRTC3が発現される位置を確認した。
【0112】
その結果、CRTC3は、前頭前皮質(PFC)、帯状皮質(Cg)、海馬、歯状回(dentate gyrus, DG)、CA(Cornu Ammonis)3領域、視床下部(Hy)、扁桃体(Amy)、腹側被蓋野(VTA)及び内側背側核(MD)で発現することが確認された(図1a)。図1aに示した脳領域以外にも、CRTC3は嗅球(olfactory bulb)、小脳(cerebellum)等でも発現することが確認された(データ省略)。これらの実験結果は、脳の様々な領域でCRTC3が発現することを立証するものである。
【0113】
実施例1.2. CRTC3を発現する細胞の確認
次に、CRTC3を発現する細胞の種類を識別するために二重染色を行った。脳の主要細胞を識別することができるマーカーとして、NeuN(ニューロン)、GFAP(アストロサイト)、s100β(アストロサイト)及びIba1(ミクログリア)を染色に使用した。
【0114】
実験結果、CRTC3はGFAPと共に位置することが示された(図1b)。これらの結果は、CRTC3がグリア細胞、ニューロンではなくアストロサイトでのみ独占的に発現することを意味する(DIV 14)。
【0115】
前記の結果を交差検証するために、各種の細胞を一次培養し、qRT-PCRによりCRTC3 mRNAのレベルを確認した。
【0116】
前記の結果と一致して、CRTC3 mRNAの発現レベルは、一次アストロサイトで最も高いことが示され、ミクログリアではほとんど発現しないことを確認した(図1c)。
【0117】
本実施例1の実験結果は、CRTC3が脳の様々な領域で発現し、特に脳の様々な細胞のうち、主にアストロサイトで発現することを示す。
【0118】
実施例2. CRTC3 KOマウスの製造
実施例2.1. 実験動物
CRTC3 KO(knockout)マウスは、蔚山大学から入手した。前記CRTC3 KOマウスは、文献[Song Y, Altarejos J, Goodarzi MO, Inoue H, Guo X, Berdeaux R, Kim JH, Goode J, Igata M, Paz JC, Hogan MF, Singh PK, Goebel N, Vera L, Miller N, Cui J, Jones MR; CHARGE Consortium; GIANT Consortium, Chen YD, Taylor KD, Hsueh WA, Rotter JI, Montminy M. CRTC3 links catecholamine signalling to energy balance. Nature. 2010 Dec 16;468(7326):933-9.]に記述されたものに従って製造した。具体的には、CREB-結合ドメイン(CREB-biding domain, CBD)をエンコードするエクソン1の代わりにNeo選択マーカーを含むCRTC3標的化ベクターを使用し、相同組換えにより突然変異CRTC3対立遺伝子を有する(すなわち、CBDをエンコードするエクソン1が欠失した)CRTC3-/-マウスを生成した。標的化ベクターは、CBDをコードするCRTC3遺伝子のエクソン1をホスホグリセロールキナーゼ(phosphoglycerol kinase, pgk)-ネオマイシン選択カセットに代替して構築した。また、標的化ベクターは、陰性選択のためのpgk-ジフテリア毒素Aカセットを含む。前記のように構築されたベクターを線形化した後、電気穿孔法(electroporation)によりR1胚性幹細胞に導入した。G418耐性クローンは、相同組換えについてサザンブロッティングを用いてスクリーニングした。CRTC3-/-マウスは、本研究のために最大3世代にわたってC57/BL6マウスで逆交配した。
【0119】
CRTC3 KOマウス及び野生型(wildtype, WT)マウスを比較するために、出生後、2組~3組の兄弟(sibling)を分離してケージに共に収容した。兄弟グループの各マウスは無作為に選択された。12週齢のオスC57BL/6マウスは、コアテックテクノロジー(ソウル、韓国)から購入した。前記C57BL/6マウスは、3組の兄弟が出生時からケージに共に収容された。前記マウスの各兄弟グループは、互いに異なるケージに収容され、水と餌に自由に接近することができるようにし、周辺環境は12:12時間の明暗周期及び一定の温度(22±1℃)に維持された。
【0120】
全ての動物実験手順は、牙山生命科学研究院の動物実験倫理委員会(ソウル、韓国)の承認を得て行われた。
【0121】
実施例2.2. 実験動物の遺伝子型分析(Genotyping)
尾部生検により遺伝体(genomic)DNAを収得した後、下記表4に記載のプライマーセットを使用して遺伝子型を分析し、WTマウス及びCRTC3 KOマウスの遺伝子型を最終確認した。
【0122】
【表4】
【0123】
実施例3. CRTC3 KOマウスの社会的優位性減少の確認
CRTC3が脳でどのような役割を果たすかを決定するために、WT及びCRTC3 KOマウスを使用して一連の行動実験を行った。まず、実験動物の社会的優位(または社会的優勢、社会的階級)を評価するためのチューブ優位試験(Tube dominance test)、ウォームスポット試験(Warm spot test)及び尿表示試験(Urine marking test)を行った(図2a図2m)。
【0124】
実施例3.1. チューブ優位試験(Tube dominance test)によるCRTC3 KOマウスの社会的優位性減少の確認
実施例3.1.1. チューブ優位試験方法
チューブ優位試験は、げっ歯類の社会的階層による優位順位を決定することができる標準試験であり、他にも様々な種類の行動試験が社会的優位を確認することができることが知られている。チューブ試験の利点は、マウスを激しい状態にさらさずとも、比較的安全に進行することができることである。また、様々な変形が可能であり、同じケージまたは互いに異なるケージで試験を安全に行うことができるため、様々な試験データを得ることができる。基本的に要求される必須装備は、マウスが通過することができる狭い円筒形チューブであり、非常に簡単な試験である点もまた本チューブ試験の利点である。
【0125】
チューブ優位試験のための装置は、長さ30cm、内径2.5cmの透明なプラスチックチューブで作製された。マウスがチューブの内部を通過することに適応させるために、各マウスを連続して2日または3日間、チューブの両側で交互にチューブを横切って通過する訓練を行った。訓練期間中、マウスのストレスを誘発せず、可能な限り自然にチューブを通過させるようにした。全てのマウスがストレスなくチューブを自由に通過することができることが確認された後に本実験を行った。
【0126】
優位試験期間中、チューブの両端にそれぞれ1匹のマウス、合計2匹のマウスを位置させ、チューブの中間で出会うようにした。一方のマウスが相手のマウスをチューブの外に押し出した場合、勝点1点を獲得し、試験は3回繰り返された。例えば、一方のマウスが勝点2~3点を得ると勝利し、相手のマウスは敗北したとみなされた。同じケージに収容されたマウスの場合、社会的優位順位を決める際に、3匹のマウスに対して交互にチューブ試験を行った。例えば、1番マウスは2番マウス及び3番マウスとチューブ試験を行い、両方の相手のマウスに全て勝利すると、順位は1位となる。一方、2番マウスが1番マウスに敗北し、3番マウスには勝利すると、順位は2位となる。この二つの試験において、3番マウスは両方の相手のマウスに全て敗北したため、3位となる。各試験ごとに勝利は勝点で決定された。
【0127】
本実施例においては、次のようにチューブ優位試験を行った。まず、マウスを習慣化した後、同じケージでWT及びCRTC3 KOマウスをそれぞれチューブの両端に置き、チューブの中央で出会うようにした。2匹のマウスがチューブの中央で互いに出会わない場合、実験を繰り返した。2匹のマウスがチューブ内で出会い、一方のマウスが相手のマウスをチューブの外に押し出すと、チューブ試験は終了した(図2a)。試験時間は2分を超過せず、2分を超過すると、試験を再度行った。相手のマウスをチューブの外に押し出したマウスが勝利し、勝点1点を得る。反対にチューブから押し出されたマウスは敗北する。この2匹のマウスは、合計3回のチューブ試験を行い、この過程で2点以上の勝点を得たマウスが最終的に勝利したとみなされた。CRTC3 KOマウスのケージ内における社会的優位順位(社会的配列)を確認するために、チューブ優位試験を5日間行った。
【0128】
一方、各試験開始前にチューブを70%エタノールで滅菌した。
【0129】
実施例3.1.2. チューブ優位試験結果
チューブ優位試験において、オスのCRTC3 KOマウスは、その行動に大きな変化を示した(図2b図2f)。
【0130】
WTマウスと比較して、CRTC3 KOマウスの勝点は著しく低かった(図2b)。WTマウスとCRTC3 KOマウスの押したり(Push-initiated)、押されたり(Push-back)する回数及び持続時間を比較した結果でも、CRTC3 KOマウスの社会的優位性がより低いことを確認することができた(図2c図2f)。
【0131】
また、WTマウスとCRTC3 KOマウスの社会的優位を比較するために、試験を二つの方式で行った。
【0132】
第一の方法として、同じケージに収容された兄弟マウスを用いて実験を行った(図2gの左側グラフ、Familiar group)。具体的には、マウスを各ケージに分離する際に、WT及びCRTC3 KOマウスを共に収容して飼育した。同じケージで飼育されたWT及びCRTC3 KOマウスのチューブ試験が全ての場合で行われた。WT及びCRTC3 KOマウス試験は25個のケージで行われ、WTマウスは84%、CRTC3 KOマウスは16%が勝利を占めた。すなわち、CRTC3 KOマウスの勝利回数は、WTマウスと比較して著しく低かった(WT、n = 50; CRTC KO、n = 28; チューブ試験、n = 56; ***p < 0.0001)。
【0133】
第二の方法として、互いに異なるケージに分離して収容されたWTマウスとCRTC3 KOマウスとの間で社会的配列が比較された(図2gの右側グラフ、Unfamiliar group)。互いに異なるケージで飼育された場合にも、WTマウスは69%、CRTC3 KOは31%が勝利し、CRTC3 KOマウスの勝利回数は、WTマウスと比較して著しく減少することが示された(WT、n = 12; CRTC3 KO、n = 11; チューブ試験、n = 55)。結果的に、CRTC3 KOマウスは、WTマウスと比較して順位が低いことが示された。
【0134】
一方、社会的優位の差がマウスの体格差によるものである可能性を排除するために、同じ体重のオスマウスでチューブ試験を行った。同じ体重でマッチングされたマウス実験においても、CRTC3 KOマウスは低い社会的配列を示した(図2h)。
【0135】
さらに、メスマウスにおいても、オスマウスと同様にCRTC3が社会的優位順位に影響を及ぼすかどうかを確認した。メスマウスの場合も、前記オスマウスの場合と同様に二つの方式でチューブ優位テストを行った。
【0136】
その結果、メスWTマウスとメスCRTC3 KOマウスを同じケージで飼育したグループ(図2i)と互いに異なるケージで飼育したグループ(図2j)共に、メスWTマウスに比べ、メスCRTC3 KOマウスの社会的優位順位が著しく低いことを確認した(図2i及び図2j)。このような結果は、オスマウスだけでなくメスマウスにおいても、CRTC3が優位な社会的配列形成に重要な役割を果たすことを立証する。
【0137】
実施例3.2. ウォームスポット試験(Warm spot test)によるCRTC3 KOマウスの社会的優位性減少の確認
実施例3.2.1. ウォームスポット試験方法
ウォームスポット試験は、次のような装置及び方法で行った。試験装置は、横と縦がそれぞれ30cmのボックスであり、底面は氷によって冷たく保たれた。底面の一方の角部分に3cm程度の扇形にヒーティングマットを敷き、該当底面部分のみを暖かくした。最初の試験においては、全ての底面が冷たい状態のボックスにマウスを入れ、30分間維持して環境に慣れるようにした。30分経過後、マウスを底面の一方の角部分にヒーティングマットが敷かれたボックスに移し、20分間それぞれのマウスがヒーティングマットが敷かれた底面を占めた時間を測定し、これに基づいて各マウスのグループ内の順位を決定した。
【0138】
実施例3.2.2. ウォームスポット試験結果
WTマウス及びCRTC3 KOマウスでウォームスポット試験を行った結果、CRTC3 KOマウスのウォームスポットでの時間は、WTマウスのウォームスポットでの時間と比較して著しく低いことが示された。これにより、前記チューブ優位試験結果と一致して、ウォームスポット試験でもCRTC3 KOマウスの優位順位もまた低いと評価された(図2k)。
【0139】
実施例3.3. 尿表示試験(Urine marking test)によるCRTC3 KOマウスの社会的優位性減少の確認
実施例3.3.1. 尿表示試験方法
尿表示試験において、社会的順位が優位なマウスは、尿表示(urine marking)をより頻繁に、より多くすることが知られており、前記チューブ優位試験及びウォームスポット試験のようにマウスの社会的配列を知ることができる。
【0140】
尿表示試験は、次のような方法で行った。まず、28cm×6.5cm面積のケージに濾紙を敷き、ケージの中央に金網を設置して区域を分離した。この時、各区域に配置されたマウスは、接触したり匂いを嗅ぐことができるようにした。同じケージで飼育されたWTマウス及びCRTC3 KOマウスを分けられた区域にそれぞれ配置した後、2時間観察した。2時間経過後、濾紙にニンヒドリン(ninhydrin)溶液を噴射し、UVで確認した。0.4mm×0.4mmサイズの格子模様が描かれたOHPフィルム上にニンヒドリン反応が起こった領域を表示した。尿スポット(Urine spot)の格子模様の面積を計算してデータ化し、1日に1組のWTマウスとCRTC3 KOマウスを組んで実験を行った。例えば、WTマウス1匹、CRTC3 KOマウス2匹が共に飼育された場合、WTマウスとCRTC3 KOマウスを各1匹ずつ1日に1回実験を行い、合計2日にわたって実験を行った。
【0141】
実施例3.3.2. 尿表示試験結果
WTマウス及びCRTC3 KOマウスで尿表示試験を行った結果、CRTC3 KOマウスは、WTマウスに比べて尿表示スポットの面積が著しく低いことを確認することができた(図2l及び図2m)。すなわち、CRTC3 KOマウスは、WTマウスに比べて低い社会的配列を示すことを尿表示スポットで確認した。
【0142】
本実施例3.1~実施例3.3の実験結果は、脳でCRTC3が欠如した動物は、社会的優位性が低いことを示す。
【0143】
実施例4. CRTC3 KOマウスにおける社会的優位以外の他の行動変化の確認
CRTC3 KOマウスで現れる他の行動変化を確認するために、様々な行動実験を行った(図3a図3d)。具体的には、実験動物の長期及び短期記憶を評価するためのY-迷路試験(Y-maze test)及びモリス水迷路試験(Morris water maze test)を行った。また、実験動物の嗅覚、視覚等の感覚に関連する行動変化を評価するための嗅覚嗜好試験(Olfactory preference test)及び新しい物体認識試験(Novel object recognition test)を行った。
【0144】
実施例4.1. CRTC3 KOマウスの短期記憶損傷の有無の確認
実施例4.1.1. Y-迷路試験方法(Y-maze test)
Y-迷路試験は、迷路のアームがそれぞれ120°の角度で対称的に分離されている三つのアーム(3-arm)が備えられた水平迷路(10cm Х 50cm Х 20cm)で行われる短期記憶に関する試験である。短期記憶力を試験するために、最初のセッションで迷路のアーム一つを隠し、残りの二つのアームを開けた。マウスを迷路の中心に位置させた後、10分間、開いている二つのアームを自由に探索することができるようにした。3時間後、試験セッションにおいては、新しいアームを探索させるため、閉じていたアームを開けた。マウスを迷路の中心に位置させた後、開いた三つのアームを5分間自由に探索することができるようにした。試験は、スマートビデオ追跡システム(ソフトウェアバージョン3.0、Panlab、Harvard Apparatus、米国)によって測定及び記録された。新しく開いたアームに進入した時間及び進入回数に対するデータを収集して分析した。各試験の開始前に、70%エタノールを用いて洗浄し、残留臭を除去した。
【0145】
実施例4.1.2. Y-迷路試験結果
前記実施例4.1.1で記述したように、初期には三つのアームのうち一つのアームをふさぎ、残りの二つのアームのみマウスが自由に移動することができるようにした。2時間後にふさがれた一つのアームを開き、マウスが新しいアームに進入した回数と新しいアームに滞在する時間を測定した。Y-迷路試験の結果は、WTマウスとCRTC3 KOマウス間で有意な差を示さなかった(図3a)。
【0146】
実施例4.2. CRTC3 KOマウスの長期記憶損傷の有無の確認
実施例4.2.1. モリス水迷路試験方法(Morris water maze test)
長期記憶力試験のためのモリス水迷路試験は、円形プール(高さ50cm Х 直径120cm、温度24±1℃の水)を使用して行われた。試験のために、直径10cmの円形脱出プラットフォームをNW象限の中央の水面下1.5cmの地点に配置させた。プールは、水に脱脂乳を溶解して作製した液体を40cmの深さまで満たし、毎日新しい液体に交替した。追加の迷路の手がかり(cue)は、プールが位置する部屋の壁、ポスター及び家具の幾何学的模様で構成された。脱出プラットフォーム近くの水中迷路プールの壁に一つの手がかりが付着された。
【0147】
実験手順は、4日間の訓練試験日及び1日間のプローブ(probe)試験日で構成された合計5日間の試験で行われた。訓練試験期間中、マウスを壁に向かう第3象限に置き、1分間脱出プラットフォームを探すようにした。指定された時間内に脱出プラットフォームを見つけた場合には1分間そのままにし、そうでない場合には脱出プラットフォームに案内され、1分間そのままにした。各マウスには3回の訓練セッション及び各訓練セッション間に1分間の休息を与えた。3回の訓練セッションにおいて、マウスは脱出プラットフォームが位置しない他の象限(NE、SE及びSW)に配置した。訓練セッション後、マウスは脱出プラットフォームなしでプローブ試験を行った。マウスをSE象限に壁に向かうように置き、プラットフォームを微調整した。全ての実験は、スマートビデオ追跡システム(ソフトウェアバージョン3.0、Panlab)によって測定及び記録された。データは、脱出プラットフォームに到達するための水泳時間(s)及び水泳距離(cm)で収集され、分析された。
【0148】
実施例4.2.2. モリス水迷路試験結果
前記実施例4.2.1で記述したように、訓練試験日中には、マウスをプールに置き、脱出プラットフォームを探すようにするための訓練をさせた。訓練試験を4日間行った後、翌日には脱出プラットフォームを除去し、マウスが除去されたプラットフォームが位置していたところに滞在する時間を測定した。
【0149】
その結果、CRTC3 KOマウスは、WTマウスと比較して長期記憶力の面で差は示されなかった(図3b、Time in platform)。また、訓練試験4日間にもWTマウスとCRTC3 KOマウスは、プラットフォームを探すために移動した距離が互いに類似していた(図3b、Distance to target)。一方、訓練試験1日目には、CRTC3 KOマウスがWTマウスよりもさらに短い時間内にプラットフォームを探すように見えたが、残りの3日間の訓練試験では、CRTC3 KOマウスとWTマウス間の差は示されなかった(図3b、Latency to target)。プローブ試験において、除去された脱出プラットフォームを探すのにかかった時間を比較すると、CRTC3 KOマウスとWTマウス共に類似する時間が所要され、プラットフォームが設置されていた領域に滞在する時間もまた差がないことを確認した(図3b)。
【0150】
実施例4.3. CRTC3 KOマウスの感覚関連行動変化の確認
実施例4.3.1. 嗅覚嗜好試験(Olfactory preference test)方法
嗅覚嗜好試験のために、四つの空のケージと10%の2-MBA(2-methylbutyric acid)、10%のピーナッツバター溶液を準備した。マウスを四つのケージに順番にそれぞれ15分間習慣化(habituation)させた。4番目のケージで15分経過した後、希釈した香り(scent)溶液がついたフィルター紙をマウスの反対側に置き、3分間ビデオ撮影を行った。3分後、フィルター紙を除去し、他の香りをつけたフィルター紙を前記と同じ方法で撮影し、フィルター紙に近づいて関心を示す時間を測定した。
【0151】
実施例4.3.2. 新しい物体認識試験(Novel object recognition test)方法
新しい物体認識試験は、次のような手順によって行われた。まず、40×40cmサイズのボックスの両端に同じ模様の模型を置き、15分間マウスに探索させた。15分後、一つの模型を色と模様の異なる模型に交替した後、15分間観察しながら、新しい模型に近づいて探索する時間を測定した。
【0152】
実施例4.3.3. 嗅覚嗜好試験及び新しい物体認識試験結果
前記実施例4.3.1及び実施例4.3.2に記述した方法に従って嗅覚嗜好試験及び新しい物体認識試験を行い、CRTC3 KOマウスで感覚に関連する行動の変化が現れるかどうかを確認した。
【0153】
嗅覚嗜好試験において、CRTC3 KOマウスは、WTマウスと比較して差を示さなかった(図3c)。CRTC3 KOマウスグループとWTマウスグループ共にピーナッツバターに対する嗜好度が高く、2-MBA(2-methylbutiric acid)は忌避する傾向を示した。
【0154】
新しい物体認識試験を通じてマウスが新しい物体に反応する時間を測定した時、CRTC3 KOマウスは、WTマウスと類似する関心度を示すことが確認された(図3d)。
【0155】
本実施例4.1~4.3の実験結果は、脳におけるCRTC3の欠如が短期記憶または長期記憶の損傷や感覚関連行動等の変化をもたらさないことを示す。
【0156】
前記実施例の結果を総合すると、CRTC3 KOマウスは、WTマウスに比べて社会的優位性が著しく低下する一方、長期記憶、短期記憶または感覚等に関連する行動には変化がないことが示された。従って、CRTC3は、動物において、社会的優位を認識するのに重要な役割を果たし、このCRTC3遺伝子の発現が抑制または減少したり、CRTC3タンパク質の活性が抑制または減少した動物は、社会的優位性欠如動物モデルとして用いることができ、さらに、社会的優位性の欠如または減少に関連する様々な疾患または状態、例えば、慢性炎症(chronic inflammation)、自傷(self-harming)、自殺衝動(suicidal ideation)、反社会性パーソナリティ障害(anti-social personality disorder)、攻撃的性格(aggressive personality)、慢性ストレス(chronic stress)、不安神経症(anxiety neurosis)、薬物中毒(drug intoxication)または薬物中毒による精神または行動障害、統合失調症(schizophrenia)、気分障害、躁病(mania)、うつ病(depressive disorder)、双極性障害(bipolar disorder)、脆弱X症候群(fragile X syndrome)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)及び自閉症(autism)等のような精神疾患の動物モデルとしても用いることができる。
【0157】
II. アンフィレグリン(Amphiregulin, AREG)またはこのEGFドメインの疾患治療用途
実施例5. CRTC3によって直接調節される標的遺伝子としてのAREGの確認
CRTC3欠乏に関連する遺伝子の発現変化を確認するために、下記の実験例1.3に記述したように、マウスcDNAマイクロアレイを用いて全体の転写体プロファイル分析を行った(図4)。CRTC3を発現する細胞でCRTC3に関連する遺伝子の発現変化を確認するために、アストロサイトにフォルスコリン(forskolin, FSK)を処理し、CRTC3を活性化させた。FSKは、シグマ-アルドリッチ(セントルイス、米国)から購入し、DMSOを使用して25μMの濃度に製造して使用した。FSKは、CRTCを脱リン酸化させて核転移を誘導することにより、遺伝子の発現を調節する。2時間FSKを処理したサンプルを非処理サンプルと比較して得た倍数変化値をWTマウス及びCRTC3 KOマウス間で比較した。具体的には、WTマウスにFSKを処理した後、発現が増加した遺伝子を羅列し、発現レベルが高い上位29個の遺伝子を選別してCRTC3 KOマウスと比較した。CRTC3の標的遺伝子として確認された前記29個の遺伝子は、下記表5に記載した。
【0158】
【表5】
【0159】
WTマウスにおいては、FSKの処理によってほとんどの遺伝子の発現が増加したが、CRTC3 KOマウスにおいては、そうではなかった(図4a)。WTマウスとCRTC3 KOマウスで各遺伝子の発現レベルの差を比較し、差の値が大きい遺伝子から低い遺伝子の順に15個の遺伝子を分類した(図4b)。これらのうち、Procr及びAREG遺伝子の場合、WTマウスではFSKの処理により発現レベルが増加したが、CRTC3 KOマウスでは増加せず(図4a)、WTとCRTC3 KOマウスの遺伝子発現レベルの比較において、その差の値が最も高いことが示された(図4b)。特に、AREGは細胞から分泌され、EGF(Epidermal growth factor)受容体や他の細胞表面受容体と結合し、シグナル伝達を発生させるタンパク質として知られていたため、AREGが脳で社会的優位性(または社会的支配性)を調節するのに関与するタンパク質であると予想された。本実施例の実験結果は、CRTC3 KOマウスのアストロサイトにおいて、アンフィレグリン(AREG)はFSKによる発現促進が抑制され、AREGはCRTC3によって直接調節されるCREB標的遺伝子であることを示す。
【0160】
実施例6. AREGの発現様相及びCRTC3との関連性の確認
CRTC3の標的遺伝子とAREGの関連性を調査するために、WTマウスの脳に存在する様々な種類の細胞を一次培養し、下記実験例1.2に記述した方法に従ってqRT-PCR分析を行った。
【0161】
その結果、実施例1で確認したCRTC3の発現様相と類似に、AREGは主にアストロサイトで発現し、ニューロンとミクログリアでは発現しないことを確認した(図5a)。
【0162】
また、前記実施例5のマイクロアレイ分析結果のように、CRTC3 KOアストロサイトでAREGの発現がまた減少するかどうかを確認するために、下記実験例1.2に記述した方法に従ってqRT-PCRを行った。
【0163】
その結果、WTマウスの一次アストロサイトに比べ、CRTC3 KOマウスのアストロサイトでAREGの発現レベルが著しく低いことを確認した(図5b)。 また、FSKを処理してCRTC3を活性化させた場合にも、WTマウスの一次アストロサイトではFSK処理によってAREGの発現レベルが増加する反面、CRTC3 KOマウスの一次アストロサイトではFSK処理にもかかわらず、AREGの発現増加は示されなかった(図5c)。
【0164】
このようなAREGの発現がCRTC3によって影響を受けるかを確認するために、ルシフェラーゼ分析(luciferase assay)を行った。AREGプロモーターにルシフェラーゼ発現遺伝子を挿入した後、ルシフェラーゼの活性を測定した。
【0165】
その結果、CRTC3を発現する細胞では、AREGプロモーターが作動してルシフェラーゼが活性化され、FSKを処理した場合には、さらに多く活性化された(図5d)。一方、AREG-CRE突然変異では、CRTC3の発現やFSKの処理にもかかわらず、ルシフェラーゼの活性が著しく低いことを確認した。これらの結果は、AREGがCRTC3の下流(downstream)シグナルタンパク質であることを裏付ける。
【0166】
実施例7. AREGのアストロサイト形態回復効果の確認
次に、アストロサイトで誘導される細胞変化におけるCRTC3の局所化の有無を確認するために、CRTC3 KOマウス及びWTマウスにおけるアストロサイトの形態を比較確認した。アストロサイトマーカーとしてGFAPを使用し、細胞の形状を下記実験例1.4に記述した方法に従って蛍光染色により観察した。
【0167】
その結果、CRTC3 KOマウスのアストロサイトは、WTマウスのアストロサイトと比較し、細胞のサイズがより大きく、形態が複雑でないことが確認された(図5e)。
【0168】
アストロサイトの形態をより正確に比較するために、下記のように定義された細胞形状指数(cell shape index, CSI)を使用し、アストロサイト形態の複雑さを決定した(下記式において、Pは細胞の周囲であり、Aは細胞の面積である):
【0169】
【数1】
【0170】
アストロサイトは、神経伝達物質を伝達したり、神経シグナルを誘導するために、ニューロン及び毛細管と連結している。従って、より複雑な細胞はCSIが高い。
【0171】
CRTC3 KOマウスにおいて、アストロサイトのCSIは、WTマウスのアストロサイトと比較して有意に低い値を示した(図5f)。このようなCSIの変化がAREGによって再び回復するかを確認した結果、AREGはCRTC3 KOマウスで一次アストロサイトのCSIをWTアストロサイトのレベルに増加させた(図5f)。これらの結果は、AREGが異常に変形したCRTC3 KOマウスのアストロサイトの形態を回復させたことを立証するものである。
【0172】
本実施例7の結果は、CRTC3の欠如により、その形態が損傷したアストロサイトをAREGの処理で回復させることができることを示す。
【0173】
実施例8. CRTC3 KOマウスにおけるp-STAT3及びGluA1の発現レベル減少の確認
AREGはEGFRリガンドファミリーの一つであり、EGFRと相互作用し、 MAPK(Mitogen-activated protein kinase)、PI3K(phosphatidylinositol 3kinase)/Akt(protein kinase B)及びSTAT3(Signal transducer and activator of transcription 3)のような後続のシグナル伝達経路を活性化する。そこで、CRTC3の崩壊がAREGシグナル伝達及び社会的優位に関連するタンパク質レベルの変化を誘発するかどうかを調査するために、CRTC3 KOマウスの脳の皮質(cortex, CTX)及び扁桃体(amygdala, AMY)で、下記実験例1.6に記述した方法でウェスタンブロッティング分析を行った(図6a及び図6b)。
【0174】
実験結果、CRTC3 KOマウスの脳の皮質(CTX)及び扁桃体(AMY)サンプル両方において、リン酸化されたSTAT3、すなわち、p-STAT3が有意に減少することを確認した(p < 0.005;図6a及び図6b)。これらのデータは、CRTC3 KOマウスでAREGが減少する結果と一致するものであり、AREGシグナル伝達経路の下流シグナル分子であるp-STAT3の発現レベルもまた減少していることを確認したものである。一方、CRTC3 KOマウスの扁桃体では、STAT3の発現レベルが増加することが示された(図6b、右上段グラフ)。
【0175】
以前の研究によると、ストレスによる社会的優位性欠乏マウスの内側前頭前皮質(medial prefrontal cortex, mPFC)で、AMPA(α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid)受容体のリン酸化が減少することが報告されている(文献[Park MJ, Seo BA, Lee B, Shin HS, Kang MG. Stress-induced changes in social dominance are scaled by AMPA-type glutamate receptor phosphorylation in the medial prefrontal cortex. Sci Rep. 2018 Oct 9;8(1):15008.]参照)。また他の研究においては、社会的発達障害を特徴とする自閉症スペクトラム障害(ASD)マウスモデルのmPFCで、AMPA受容体のサブユニットであるGluA1(Glutamate receptor 1)とGluA2の発現が減少することを示した。このマウスモデルにおいて、AMPA 陽性アロステリック調節因子(positive-allosteric modulator, PAM)の投与は、AMPA受容体の発現レベルを改善させ、社会的優位の欠乏を回復させることが示された(文献[Kim JW, Park K, Kang RJ, Gonzales ELT, Kim DG, Oh HA, Seung H, Ko MJ, Kwon KJ, Kim KC, Lee SH, Chung C, Shin CY. Pharmacological modulation of AMPA receptor rescues social impairments in animal models of autism. Neuropsychopharmacology. 2019 Jan;44(2):314-323.]参照)。
【0176】
前記の研究に基づき、本実施例においては、CRTC3 KOマウスにおけるAMPA受容体のGluA1サブユニットの発現レベルの変化を確認した。その結果、皮質におけるGluA1の発現レベルは有意に減少し(図6a、右下段グラフ;p = 0.0578)、扁桃体におけるGluA1の発現レベルは著しく増加することが確認された(図6b、右下段グラフ;p < 0.005)。
【0177】
まとめると、CTCR3 KOマウスの大脳皮質及び扁桃体において、AREGシグナル伝達経路に関与するp-STAT3が減少し、社会的優位を調節するタンパク質の一つであるGluA1が大脳皮質で著しく減少した。
【0178】
本実施例8の結果は、CRTC3 KOマウスの大脳皮質(CTX)におけるp-STAT3及びGluA1の発現レベルがいずれもWTマウスの場合と比較して有意に減少することを示すものである。
【0179】
実施例9. CRTC3 KOマウスにおけるAREGまたはAREG-EGFの投与による社会的優位順位の上昇効果の確認
実施例9.1. 実験材料
本実施例で使用する組換えマウスAREG及びEGFは、R&Dシステムズ(ミネアポリス、米国)から購入した。AREG-EGFペプチド及びAREG-HBペプチドは、(株)ペプトロン(大田、韓国)から購入した。前記マウスAREG及びEGFのアミノ酸配列とAREG-EGFペプチド及びAREG-HBペプチドのアミノ酸配列は、下記表6に示した。
【0180】
【表6】
【0181】
一方、実施例1.2と同じ方式で、3.5ヶ月齢のCRTC3 KOマウスを準備した。
【0182】
実施例9.2. 実験方法
CRTC3 KOマウスで示される低い社会的優位順位への行動変化におけるAREGの役割を決定するために、3.5ヶ月齢のCRTC3 KOマウスに脳室内注射(Intracerebroventricular injection, ICV)を通じ、AREGまたはAREG-EGFを伝達し、社会的優位順位の変化を調べた(図7)。
【0183】
まず、1ヶ月になった時からCRTC3 KOマウスとWTマウスを一つのグループに収容し、2ヶ月間共に飼育した。これにより、同じグループのマウスの間で自然に社会的順位が形成されるようにした。グループ内でマウスの配列変化を確認するために、3ヶ月になった時点から15日間、毎日チューブ優位試験によって社会的優位順位をつけた。グループ内で各マウスは互いに交互に試験を行い、グループ内のマウスの優位順位は勝点によって決定された。グループ内のマウスの社会的優位順位が一定に維持されることを確認した後、下記の実験例2.1に記述された方法に従って、浸透ポンプを使用して右脳の側面脳室にそれぞれAREG(図7a及び図7c)、AREG-EGF(図7d及び図7e)及びAREG-HB(図7f)を1ヶ月間投与した。実験は、CRTC3 KOマウスとWTマウスが共に飼育されるケージ(図7a及び図7e)またはC57BL/6のみが飼育されるケージ(図7c図7d及び図7f)の二つのマウスグループで行われた。それぞれのケージで社会的優位順位が低いCRTC3 KOマウスまたはC57BL/6マウスにAREG、AREG-EGF、AREG-HBまたはmEGFを含む薬物を投与し、順位が高いWTマウス(C57BL/6マウス)には対照群としてPBSを投与した。マウスに実験例2.1に記述した方法に従って浸透ポンプを移植した後、1週間の回復期間が与えられた。移植手術後1週間経過した時点から毎日チューブ優位試験を行い、社会的優位順位の変化を再度観察した。
【0184】
実施例9.3. AREG投与の社会的優位順位上昇効果
16匹のCRTC3 KOマウスを含む16個のケージで試験した結果、CRTC3 KOマウスにAREGを投与した後、優位順位の変化は13個のケージで観察された(13/16、81%;図7aのバーグラフ)。また、薬物投与前後の勝点を比較した時、AREGを投与したCRTC3 KOマウスは、投与前と比較して投与後の勝点が増加することが示された。 また他の順位決定実験であるウォームスポット試験においても、薬物注入後、CRTC3 KOマウスはウォームスポットを占める時間が増加し、社会的優位順位もまた増加した(図7b)。これらの結果は、CRTC3 KOマウスの低い社会的優位配列がAREGの投与によって向上されることを示す。
【0185】
次に、AREGの投与がCRTC3 KOマウスの低い社会的優位順位を高めることができるという前記の実験結果に基づき、結果の一貫性を確認するために、WTマウス(=C57BL/6マウス)のみがグループ化されたケージで同じ実験を行った(図7c)。具体的には、3ヶ月齢のC57BL/6マウスを購入し、同じケージに収容し、1週間、新しい環境に適応させた。1週間が経過した後、マウスがチューブを通過することに適応するように訓練させ、グループ内の各マウスの順位が一定に維持する時まで、毎日チューブ優位試験を行った。社会的配列が最も低いマウスに対してAREGを投与し、薬物を投与する間に前記実験のような優位順位の変化が観察された。すなわち、CRTC3 KOマウスでAREGの投与によって社会的優位順位が上昇した前記結果と一致して、C57BL/6マウスの場合にも、AREGの投与によって最も配列が低いマウスの順位を上昇させる効果が示された。このような社会的優位順位の上昇効果は、17個のケージ中12個のケージで観察された(12/17、71%;図7cのバーグラフ)。
【0186】
実施例9.4. AREG-EGF投与の社会的優位順位上昇効果
一方、AREGタンパク質におけるEGFドメインが社会的優位順位の変化を誘発する重要な要素であることを確認するために、C57BL/6マウスグループ(図7d)及びWT、CRTC3 KOマウスグループ(図7e)でそれぞれ社会的優位試験が行われた。
【0187】
実験結果、AREG-EGFの投与により、C57BL/6マウスグループでは、10個のケージ中8個のケージで最も低い配列のC57BL/6マウスの順位増加が示された(8/10、80%;図7dのバーグラフ)。また、低い社会的優位順位を示したCRTC3 KOマウスにAREG-EGFを投与した際にも、8個のケージ中4個のケージで投与後の勝点の変化及びチューブ試験順位の上昇が確認された(4/8、50%;図7eのバーグラフ)。
【0188】
さらに、AREGの他のドメインであるHBドメインと対照群としてマウスEGF(mEGF)を使用し、前記と同じ方法で実験を行った。
【0189】
AREG-HBを投与した場合には、ただ一つのケージでのみ社会的優位順位の上昇が観察された(1/10、10%;図7f上段グラフ)。mEGF投与グループの場合には、投与前に決定された社会的優位順位にいかなる変化も示されなかった(0/4、0%;図7f下段グラフ)。これらの結果は、AREGのEGFドメインが優位順位の変化を引き起こす重要な領域であることを示すものである。
【0190】
本実施例9.3及び9.4の結果は、社会的優位順位が低いWTマウスとCRTC3 KOマウスの両方において、AREGまたはAREG-EGFの投与により、社会的優位順位が上昇することができることを示す。
【0191】
実施例10. CRTC3 KOマウスにおけるアストロサイト特異的AREGの発現による社会的優位順位の上昇効果確認
アストロサイトで生産されるAREGタンパク質がCRTC3 KOマウスの社会的配列変化を引き起こすかを確認するために、下記の実験例2.2に記述されたAAV5ウイルスシステムを用いて、アストロサイト特異的にAREGタンパク質を発現させた。アストロサイト特異的発現のためにGFAPプロモーターシステムを使用し、シグナル配列(signal sequence)の後にマウスAREGのアミノ酸配列のうち、EGFドメインを含むアミノ酸94-191が合成されるように作製物を構成した。
【0192】
前記実施例9において、AREGのEGFドメインは、CRTC3 KOマウスの社会的優位順位を変化させる重要なドメインであることが判明したため、アストロサイトにAREGのEGFドメインが特異的に発現するようにした。このように作製したウイルスをCRTC3 KOマウスの右側脳室に注入した後、社会的優位試験を行った。
【0193】
ウイルス注入後、25日経過後からCRTC3 KOマウスのチューブ優位試験の勝点が増加し、社会的配列が変化することを確認することができた(図8a)。特に、ウイルス注入後、30日経過した後には、マウスの社会的配列が逆転し、CRTC3 KOマウスがWTマウスより高い社会的配列を占めることが確認された(図8a)。
【0194】
他の種類の社会的優位確認実験であるウォームスポット試験においても、CRTC3 KOマウスは、アストロサイトでAREGを発現するようにウイルスを注入した後、ウォームスポットを占める時間が増加することを確認した(図8b)。
【0195】
本実施例10の結果は、社会的優位順位が低いCRTC3 KOマウスにおいて、アストロサイト特異的AREGの発現誘導によって社会的優位順位が増加することができることを示すものであり、これは、AREGタンパク質またはAREGのEGFドメインをマウスの脳に直接投与した時、マウスの社会的優位順位が変化することを確認した前記実施例9の結果と一致するものである。
【0196】
実施例11. AREG-EGF投与による脳の機能的活性化の確認
実施例11.1. 野生型ラットにおける脳fMRI結果
AREG-EGFの投与が脳のどの領域に影響を与えるかを確認するために、AREG-EGFを注入した野生型ラットでfMRIを行った。対照群としてPBSを投与したラットとAREG-EGFを投与したラットを1ヶ月後にfMRIで撮影した時、脳の様々な領域間の相互作用シグナルを確認した。具体的には、ラットはSD(Spraque Dawley)ラット種で5~6週齢のオス8匹をオリエントバイオから購入した。AREG-EGFは、ラット購入後6~7週目に脳室内注射(ICV)で投与され、投与後21日経過した時点でfMRI撮影を行った。fMRI撮影は、麻酔をかけたラットに対して日常状態での撮影を先に行った後(pre-state)、遭遇したことのない他のラットの尿をつけた綿を撮影中のラットが匂いを嗅げるように位置させてfMRIを再撮影した(post-state)。げっ歯類の場合、相手個体の尿ラベル(urine marking)によって社会的識別のような社会的反応が起こるため、社会的反応を起こすために見知らぬラットの尿を使用した。AREG-EGFの投与及びMRI分析の具体的な方法は、下記の実験例2.1及び実験例3を参照する。
【0197】
実験結果、PFC(prefrontal cortex)とPC(parietal cortex)の間でシグナルが増加したことを確認した(図9a、左側)。脳の領域差の値の変化を確認した結果は、図9aの右側に示した。PFCとPC領域のみを平均z-変換相関係数(z-CorrCoef;Fisher z-変換相関係数)で比較した場合、PBSグループと比較してAREG-EGF投与グループで有意に高い活性を示した(図9b)。
【0198】
fMRI実験結果によって確認された脳の部位別変化(減少または増加)領域を下記表7に記載した(略称は前記表1参照)。
【0199】
【表7】
【0200】
次に、PFCでAREG-EGF投与によって調節される休息状態機能的連結性(resting-state functional connectivity, rsFC)の空間的位置を確認するために、シード-相関関係(seed-correlation)空間マップを示した(図9c)。脳のCa1/2(24b'/24a')領域は、帯状皮質(Cg1、Cg2)と後部(posterior part; 24b'及び24a')を意味する。統計マップにおけるrsFCは、PC(LPtA及びMPtA)だけでなく、運動(M1)、体性感覚(S1DZ、S1BF及びS1Tr)及び視覚(V1B)皮質で著しく向上された領域が観察された(図9c)。
【0201】
実施例11.2. マウスにおける脳fMRI結果
野生型ラットにおいて、AREGの投与によるfMRI結果と一致するかを確認するために、CRTC3 KOマウスグループでfMRIを行った。前記実施例11.1で確認された結果、すなわち、ラットでAREG投与後、rsFCがPFC及びPC領域で活性化するという結果を基に、CRTC3 KOマウスグループでもrsFCを比較した。
【0202】
その結果、WTマウスと比較してCRTC3 KOマウスでは、様々な脳領域でrsFCの変化を示した(図10a)。ラットで確認された領域であるPFCとPCのrsFCがCRTC3 KOマウスでも顕著に減少したことが示された(図10b; ** p = 0.0099)。シード-ベースの統計マップ分析においても、PFC、PC及び他の様々な領域でWTマウスグループとCRTC3 KOマウスグループ間の差が確認された(図10eの左側パネル(Pre-treatmentカラム))。これらの結果は、CRTC3がマウス脳でPCとPFC領域間の連結性(connectivity)に重要な役割を果たすという事実を立証する。
【0203】
また、AREGの投与がラットと同様にCRTC3 KOマウスのPCとPFC領域のrsFCに変化を引き起こすかを確認するために、AAV5-GFAP-AREG遺伝子発現システムを用いた実験を行った。具体的には、アストロサイトに特異的にAREGを発現させるAAVウイルスをマウスの脳室に注入した。ウイルス注入前後に対するfMRI分析の結果、CRTC3 KOマウスで減少したrsFCがAREGウイルスの注入後、WTマウスグループと類似するレベルに回復することを確認することができた(図10c及び図10d;p = 0.4751)。このような結果は、シード-ベースの統計マップ分析でも明確に確認することができた(図10eの中間パネル(Post-treatmentカラム))。AREGウイルス投与前には、WTマウスとCRTC3 KOマウスグループ間で脳の様々な部位でrsFCの差を示したが、ウイルス投与後には、WTマウスとCRTC3 KOマウスグループ間でrsFCの差を示さないことを確認することができた。これらの結果は、CRTC3によって減少したPCとPFC部位のrsFCがアストロサイトから生産されたAREGによって再び回復することができるという事実を立証する。
【0204】
本実施例11.1及び実施例11.2の結果は、休息状態(resting state)でAREGによって脳のPFCとPCとの間に機能的に活性が起こることを示す。
【0205】
実施例12. AREGのEGF及びHBドメインの種間配列保存の確認
他のEGFファミリー成長因子のように、AREGの前駆体(pro-AREG)は、EGFドメイン、疎水性膜横断領域及び親水性細胞質C-末端で構成される。また、AREGはHB-EGFと類似するヘパリン結合ドメインを含む。切断、エクトドメインシェディング(ectodomain shedding)中に原形質膜から親水性N-末端工程が成熟したタンパク質として放出されるようにする。本実施例においては、AREGのアミノ酸配列を様々な種におけるAREG配列と整列して比較した。
【0206】
その結果、ほとんどのAREGは、EGFドメイン及びHBドメインで保存されていた(図11a)。また、ヒト(Homo sapiens)とマウス(Mus musculus)でAREGの各ドメイン配列が高度に保存されていることを確認した(図11b)。
【0207】
本実施例12の結果は、AREGのEGF及びHBドメインが様々な種で保存されていることを示す。
【0208】
前記実施例5~実施例12の結果を総合すると、CRTC3 KOマウスは、WTマウスに比べて社会的優位順位が非常に低く、このようなCRTC3 KOマウスの社会的劣勢を再び上昇させる分子はアンフィレグリン(AREG)、特にAREGのEGFドメインであり、前記AREGは、脳のアストロサイトから分泌されることを確認した。これは、AREGの調節によって社会的優位性が変化することができることを示すものである。従って、前記のように新たに明らかになった事実を応用すると、アンフィレグリンは、CRTC3の欠陥による社会的優位性の低下または社会的劣勢によって現れる様々な疾患または状態、例えば、 慢性炎症(chronic inflammation)、自傷(self-harming)、自殺衝動(suicidal ideation)、反社会性パーソナリティ障害(anti-social personality disorder)、攻撃的性格(aggressive personality)、慢性ストレス(chronic stress)、不安神経症(anxiety neurosis)、薬物中毒(drug intoxication)または薬物中毒による精神または行動障害、統合失調症(schizophrenia)、気分障害、躁病(mania)、うつ病(depressive disorder)、双極性障害(bipolar disorder)、脆弱X症候群(fragile X syndrome)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)及び自閉症(autism)等のような疾患状態を予防するか、治療または改善することができる。
【0209】
III. 材料及び方法
実験例1. 試験管内(in vitro)実験の材料及び方法
実験例 1.1. 細胞の培養及び分離
細胞の種類によるCRTC3及びAREGの発現レベル測定及び転写体プロファイリングのためのqRT-PCR及びマイクロアレイ実験に使用された細胞は、以下のような方法により準備した。
【0210】
一次皮質ニューロンを培養するために、従来の文献に記述されているように、胚芽16日(E16)のマウスの子の脳から脳皮質を収得した(文献[Seibenhener ML, Wooten MW. Isolation and culture of hippocampal neurons from prenatal mice. J Vis Exp. 2012 Jul 26;(65):3634.]参照)。皮質から脳膜を除去するために、無カルシウム、無マグネシウムの冷たいHBSS(Hank's Balanced Salt Solution)で皮質を切開した。切開した組織を0.05%トリプシン-EDTAと共に37℃で15分間培養し、5分ごとに前記組織が入ったチューブを裏返した。培養後、20% FBS(fetal bovine serum)が含有されたDMEMでトリプシンを不活性化させ、700rpmで15分間遠心分離した。生成されたペレットはパスツールピペット(pasteur pipette)を使用して穏やかに再懸濁した。B-27補充剤(Gibco, Life Technologies/Thermo Fisher Scientific, 米国)が添加された神経基礎培地(neurobasal medium)に解離した細胞を適切な細胞密度を有するようにプレートに分注した。前記プレートは、ポリ-D-リジン(PDL)(シグマ-アルドリッチ、米国)及びラミニン(Life Technologies/Thermo Fisher Scientific、米国)でコーティングして使用した。ニューロンは、5% CO2、37℃及び加湿された環境で維持された。
【0211】
神経膠細胞(glial cell)の培養のために、出生後1~3日目のマウスの子から大脳皮質を準備した(文献[Lee J, Kim DE, Griffin P, Sheehan PW, Kim DH, Musiek ES, Yoon SY. Inhibition of REV-ERBs stimulates microglial amyloid-beta clearance and reduces amyloid plaque deposition in the 5XFAD mouse model of Alzheimer's disease. Aging Cell. 2020 Feb;19(2):e13078.]参照)。一次ニューロン細胞の培養と同様に、切開した組織を37℃で15分間トリプシン-EDTAで処理した。細胞を700rpmで5分間遠心分離し、GM-CSF(5ng/ml)を含有する完全培地(complete medium)に再懸濁した。再懸濁した細胞を75Tフラスコにプレーティングし、10日間37℃で培養した。
【0212】
一次ミクログリア(primary microglia)を分離するために、フラスコを225rpmで2時間振盪させ、混合されたグリア細胞を収集した。浮遊一次ミクログリアをPDLがコーティングされたプレート上にプレーティングした。振盪フラスコは、他の細胞を分離するために16時間維持した。一晩振盪させた後、付着した一次アストロサイト(primary astrocyte cell)を実験のためにプレートで培養した。
【0213】
この研究に使用された全ての動物実験手順は、牙山生命科学研究院の動物実験倫理委員会によって承認された。
【0214】
実験例 1.2. RNAの準備及び定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)
総RNAは、メーカーの指針に従ってNucleSpin RNAキット(ACHEREY-NAGEL、ドイツ)を使用して細胞から抽出した。RNA濃度は、ND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies, 米国)を使用して測定した。RNAの純度及び完全性は、ND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies)及びアジレント2100バイオ分析器(Agilent Technologies、米国)を使用して評価した。
【0215】
cDNAを合成するために、メーカーの指針に従って、ReverTra Ace qPCR RTキット(TOYOBO、日本)を使用し、0.8μgのRNAを合成した。混合物の総反応体積は、iQ SYBR Greenスーパーミックス(Bio-Rad、米国)及びプライマーと共に20μlで構成された。定量化は、メーカーの指針に従って、LightCycler(登録商標) 480システム(Roche diagnostics、オランダ)を使用して行った。
【0216】
ここで使用した全てのプライマーは、コスモジンテック(ソウル、韓国)に依頼して合成され、プライマー配列は、下記表8に記載の通りである。
【0217】
【表8】
【0218】
実験例 1.3. マイクロアレイ(microarray)分析
実験例 1.3.1. 実験方法
転写体プロファイリングのために、メーカーのプロトコルに従って、GeneChip Whole Transcript PLUS reagent キット(Affymetrix、米国)を使用し、全体の転写体発現アレイ(whole transcript expression array、Affimetrix、米国)を行った。cDNAは、メーカーの指針に記述されているようにGeneChip WT(Whole Transcript)増幅キットを使用して合成した。続いて、センスcDNAをGeneChip WT末端ラベリングキットを使用し、末端デオキシヌクレオチド伝達酵素(Terminal deoxynucleotidyl Transferase, TdT)で断片化し、ビオチンで標識した。約5.5μgの標識されたDNA標的をGeneChipマウス遺伝子2.0 STアレイ(Affymetrix、米国)を使用し、45℃で16時間混成化させた。混成化されたアレイをGeneChip Fluidics Station 450で洗浄及び染色し、GCS3000スキャナー(Affymetrix、米国)を使用してスキャンした。シグナル値はGeneChip Command Consoleソフトウェア(Affymetrix、米国)を使用して計算した。
【0219】
実験例 1.3.2. 原始データの処理及び統計分析
マイクロアレイによって収得した原始データは、GeneChip Command Consoleソフトウェア(Affymetrix、米国)から提供するデータ抽出プロトコルによって自動的に抽出された。CELファイルを持ってきた後、Expression Console(EC)ソフトウェア(Affymetrix、米国)に具現されたRMA(robust multi-array average)方法でデータを要約して正規化した。遺伝子レベルのRMA分析で結果を出力し、差分的に発現された遺伝子(differentially expressed gene, DEG)分析を行った。
【0220】
試験サンプルと対照サンプルとの間の比較分析は、倍数変化(fold change)を使用して行った。DEGセットについて、類似性の尺度として完全連係及びユークリッド距離(Euclidean distance)を使用し、階層的群集分析(Hierarchical cluster analysis)を行った。重要なプローブ目録に対する遺伝子セット濃縮度分析(Gene set enrichment analysis)及び機能的注釈分析(Functional annotation analysis)は、遺伝子オントロジー(http://geneontology.org/)及びKEGG(http://kegg.jp)を使用して行った。
【0221】
DEGに対する全ての統計的検定及び視覚化は、R統計言語(R statistical language, v.3.1.2, www.r-project.org)を使用して行った。
【0222】
実験例 1.4. 免疫細胞化学法(Immunocytochemistry)
免疫細胞化学法は、次のように行った。まず、PDLでコーティングされた12mmカバースリップ(Marienfeld、ドイツ)を24-ウェルプレートに入れ、ここに細胞をプレーティングした。この後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(Biosesang、韓国)で10分間固定させた。細胞をPBSで3回洗浄した後、室温で5分間0.1%トリトンX-100を含有するPBSで透過化(permeabilization)させた。再び細胞を3回洗浄し、5% BSA(Bovine serum albumin)を含有するPBSで37℃で30分間ブロッキング(blocking)した。細胞を3回洗浄した後、マウス抗-GFAP抗体(Chemicon-Millipore、米国)と共に4℃で一晩培養した。続いて、細胞を5回洗浄し、2次抗体(Invitrogen、米国)と培養した後、イメージングのために蛍光マウンティング溶液(DAKO、米国)を用いてサンプルをマウンティングした。
【0223】
実験例 1.5. 免疫組織化学法(Immunohistochemistry)
免疫組織化学法は、次のように行った。まず、マウスから脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒド(Biosesang、韓国)で4℃で24時間固定させた後、PBSで洗浄した。凍結切片(cryosection)のために、サンプルを30%スクロースを含有するPBSに入れ、4℃で24時間培養した。サンプルをO.C.T.コンパウンド(Tissue-Tek、Sakura Finetek、米国)に包埋し、切片化(sectioning)するまで、-80℃で保管されたドライアイスでスナップ-凍結させた。この後、凍結されたサンプルは、ライカCM 1860を使用し、-25℃で30μmの厚さに切片化した。収得した切片をPBSで5分間3回繰り返し洗浄し、1% NGS(normal goat serum)、0.3% トリトンX-100含有PBSで30分間ブロッキングした。一次抗体は、ブロッキング緩衝液で希釈して使用し、4℃で一晩処理した。使用した1次抗体は、次の通りである:ウサギ抗-CRTC3抗体(abcam、米国)、マウス抗-GFAP抗体(Chemicon-Millipore、米国)、ウサギ抗-s100β抗体(abcam、米国)、マウス抗-NeuN抗体(abcam、米国)、ヤギ抗-Iba1抗体(abcam、米国)。続いて、PBSで5回洗浄した後、Alexa Fluor 488抗体(Invitrogen、米国)、ビオチン化抗-ウサギIgG抗体(Vector Laboratories、米国)及びAlexa Flour 594接合ストレプトアビジン(Invitrogen、米国)を室温で60分間処理した。イメージングのために蛍光マウンティング溶液(DAKO、米国)を用いてサンプルをマウンティングした。
【0224】
実験例 1.6. ウェスタンブロッティング
総タンパク質抽出のために、細胞を氷上でPRO-PREP(商標)試薬(イントロンバイオテクノロジー、韓国)ベースの溶解緩衝液(lysis buffer)で15分間溶解させ、遠心分離して細胞残骸物を除去した。タンパク質サンプルの濃度は、ブラッドフォード分析法を使用して測定した。
【0225】
ウェスタンブロッティング分析のために、同量のタンパク質をサンプル緩衝液(62.5 mM Tris-HCl[pH 6.8]、1%[w/v] SDS、2.5%[v/v] グリセロール、0.5%[v/v] β-メルカプトエタノール及びブロモフェノールブルー)と混合し、100℃で5分間沸騰させた後、使用するまで-20℃で貯蔵した。タンパク質を一定の電圧(100V)下でSDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)により分離した後、100Vで1.5時間ポリフッ化ビニリデン膜(polyvinylidene difluoride membrane, PVDF膜;気孔サイズ、0.2mm;BioRad、米国)に移動させた。2%(w/v)BSA及び2%(v/v)NHS(normal horse serum)を含有するPBST緩衝液(0.1%[v/v]tween-20含有)で1時間培養した後、ブロット(前記PVDF膜)を一次抗体と共に4℃で一晩培養した。続いて、ブロッ トをPBSTバッファーで洗浄し、HRP(Horseradish peroxidase)接合抗-IgG抗体(1:5,000; Pierce、米国)と共に培養した。この後、ブロットにECL(Enhanced chemiluminescence)試薬(Amersham、米国)を処理し、X-線フィルムに可視化した。ウェスタンブロッティングに使用した1次抗体は、次の通りである:ウサギ抗-CRTC3抗体(1:1,000; Cell Signaling、米国)、ウサギ抗-p-STAT3抗体(1:500, Cell Signaling、米国)、マウス抗-STAT3抗体(1:2000, Cell Signaling、米国)、ウサギ抗-p-GluA1(p831)抗体(1:2000; Millipore、米国)、ウサギ抗-GluA1(p831)抗体(1:2000; Millipor、米国)、マウス抗-β-アクチン抗体(Sigma、米国)。バンドの強度は、ImageJ(Javaベースのイメージ処理及び分析;National Institutes of Health、米国)を使用して測定及び分析した。
【0226】
実験例2. 実験動物に対する手術方法
実験例 2.1. 浸透ポンプ移植(Osmotic pump implantation)
AREG、AREG-EGF、AREG-HB及びマウスEGFタンパク質は、PBSに溶解して注入した。溶解したタンパク質をマイクロ浸透ポンプ(モデル1004、Alzet、フランス)に満たし、25日間0.11μl/hrの流速で注入されるようにした。タンパク質で満たされたマイクロ浸透ポンプを4mm長さのビニールチューブ(内径0.69mm)を介してカニューレに連結した(脳注入キット3、Alzet、フランス)。完成した脳注入用ポンプをPBSで満たされた円錐形のチューブに入れ、37℃で48時間プライミングした後、マウスの皮下に移植した。
【0227】
脳注入用ポンプの移植は、マウスをイソフルラン(誘導:5%、マスク:2%)で麻酔した後、定位固定装置(stereotaxic apparatus)を使用して行った。カニューレは、右側脳室(ブレグマ基準、AP[anteroposterior] = -0.3mm, ML[mediolateral] = 1mm)に移植し、浸透ポンプはマウスの背側に移植した。移植手術が終わる頃、マウスに抗疼痛薬物としてケトプロフェン(8mg/kg)を皮下投与した。翌日、ケトプロフェン注射をもう一回繰り返し投与した。回復のため、移植手術を終えたマウスは、7日間チューブ優位試験を行わなかった。
【0228】
fMRI分析の場合、ラット内に移植されたマイクロ浸透ポンプ(モデル2004、Alzet、フランス)をAREG-EGF及びPBSで満たし、28日間0.25μl/hrの流速で注入されるようにした。カニューレは、28ゲージのPEEK(Polyether ether ketone)カニューレに交替した。このカニューレを定位固定装置を用いて5~6週齢ラットの側脳室に移植した(ブレグマ基準、AP = -1.2mm, ML = -2mm, DV[dorsoventral] = 5mm)。fMRI撮影は手術21日後に行い、麻酔後の基本状態(日常状態)でfMRI撮影を行い(pre-state)、この後一度も接触したことのない他のラットの尿をつけた綿の匂いを嗅がせた状態でfMRI撮影を行った(post-state)。ラットは全てのfMRI撮影を行い、翌日犠牲になった。
【0229】
マウスにおけるfMRI分析もラットの場合と同じ方法で行った。具体的には、マウスにウイルス注入する1週間前にfMRI撮影を行い(pre injection)、ウイルス注入後の行動実験を行った後、4~5週目にfMRI撮影を行い(post injection)、マウスはfMRI撮影を完了してから7日後に犠牲になった。
【0230】
実験例 2.2. ウイルスの定位注入(Virus stereotaxic injection)
脳のアストロサイトでAREGタンパク質を発現させるためのAAV5-GFAP-mAREG SP_94_191 作製物及びこれを用いたAAV5-GFAP-mAREG 94-191ウイルスの作製は、ベクタービルダー社に依頼した。前記作製物におけるmAREG 94-191のヌクレオチド配列は、下記表9に記載した:
【0231】
【表9】
【0232】
生産されたウイルスは、半球(hemisphere)あたり1×1011gc(genome copies)の量でマウスの右側脳室に注入した。具体的には、マウスを麻酔して定位固定装置に固定させ、マウスの頭蓋骨のブレグマ(bregma)を基準として、AP = -0.3mm、ML = -1.0mm、DV = -3.0mmの位置を表示した。表示された前記位置に穴を開け、ハミルトン注射器(Hamilton syringe)を使用し、0.4μl/分の速度でウイルスを注入した。注入後5分程度経過した後、1分かけてゆっくりと注射器を除去した。ウイルス注入が完了したマウスは、約1週間程度の回復期間を経た後、行動実験を行った。
【0233】
実験例3. MRIデータの収集及び分析
実験例 3.1. MRIデータ収集
MRI は、72mm送受信体積型コイル(volume coil)と受信用ラット脳表面コイルを含む7.0 T Bruker PharmaScan 70/16 MRIシステム(Bruker BioSpin、ドイツ)をParaVision 6.0.1ソフトウェアと共に使用して行われた。ラットは50mg/kgのゾラゼパムチレタミン複合剤(Zoletil(登録商標)、Virbac、オーストラリア)及び12.5mg/kgのロンプン(Bielkorea、韓国)で麻酔を行った。マウスの場合、麻酔剤として0.05mg/kgのメデトミジン(medetomidine)を使用し、MRI撮影後、麻酔回復剤として0.25mg/kgのアチパメゾール(atipamezole)を注入した。
【0234】
動物の呼吸をモニタリングしながら、循環水槽システム(CW-05G恒温循環水槽;Midwest Scientific、米国)を使用し、動物の体温が37.5±0.5℃に安定的に維持されるようにした。
【0235】
単一ショットGE-EPI(Gradient-echo echo-planar imaging)シークエンスは次のような媒介変数と共に使用された:繰り返し時間(TR) = 1000ms;エコー時間(TE) = 20.3ms;マトリックスサイズ = 64Х64;視野(FOV) = 25Х25mm2;スライス個数 = 23;スライス厚 = 1mm;スライス間隔 = 0mm;フリップ角度 = 45°、スキャンあたり300ボリューム。
【0236】
また、解剖学的イメージは、次のような媒介変数を使用し、RARE(Rapid Imaging with Refocused Echoes)シークエンスにより急速イメージングで獲得した:繰り返し時間(TR) = 5250ms;エコー時間(TE) = 66ms;マトリックスサイズ = 256Х256;視野(FOV) = 25Х25mm2;スライス個数 = 23;スライス厚 = 1mm;スライス間隔 = 0mm;励起回数(NEX) = 2。
【0237】
実験例 3.2. rsfMRI(resting state fMRI)データ収集
rsfMRIの全てのデータは、AFNI(Analysis of Functional NeuroImages; ver.19.2.23, National Institutes of Health、米国、関連文献[PMID: 8812068, 9430344及び9673664]参照)及びマットラブ(MathWorks、米国)の内部コード(in-house code)を使用して処理された。一般的に、ヒトrsfMRIデータ処理で使用されるものをラットrsfMRIデータ処理に最適化するように調整して使用した。
【0238】
前処理パイプラインには、次の5段階が含まれた:第一に、rsfMRIイメージはアフィン変換(affine transformation; 3dAllineate)を使用し、ラット脳のEPIテンプレートに共同登録された。第二に、共同登録されたrsfMRIイメージはラットの頭の動きに合わせて修正され、6-モーション媒介変数はASCII形式(3dvolreg)で出力された。第三に、過渡スパイク除去(3dDespike)及び多項トレンド除去(3dDetrend)を通じて動きが補正されたrsfMRIイメージを得た。第四に、マスクセットテンプレート(3dmaskave)を使用し、対象の脳脊髄液(CSF)のトレンドが除去された(detrended)rsfMRIイメージを抽出した。最後に、バンドパスフィルタリング(band-pass filtering; 0.01~0.1 Hz)及び妨害物回帰(nuisance regression)(3dTproject)が適用された空間平坦化(Spatial smoothing)(FWHM = 0.7mm)を使用し、トレンドが除去されたrsfMRIイメージを得た。妨害物シグナルの評価のために6-モーション媒介変数及びCSFシグナルを評価した。CSFのROI(region of interest)は、SIGMAラット脳テンプレート(文献[PMID: 31836716]参照)のCSFマスクテンプレートを使用し、前記SIGMA CSFマスクには、脳領域の外部領域が存在するため、脳室内部領域を厳格に含むように修正した。登録後のイメージの一部は、原本CSFマスクの外部領域に皮質領域をオーバーレイした。CSFマスクの外部領域の除去は、ITK-SNAPプログラム(ver.3.6、文献[PMID: 16545965]参照)を使用して行われた。本実施例においては、厳格な脳室CSFマスクを使用した。厳格なCSFマスク領域のタイムラプスシグナルの平均は、トレンドが除去されたrsfMRIイメ―ジ(3dmaskave)で推算された。
【0239】
マウスにおけるrsfMRIデータ収集は、ラットの場合と同じ方法で行った。
【0240】
実験例 3.3. rsFC(Resting-state functional connectivity)分析
ラットの脳における区域間rsFCを測定するために、シード(seed)-ベースのrsFC分析を行った。げっ歯類の社会的支配行動に関連するrsFCを評価するために、合計33個のROIを評価した。定義された解剖学的ラット脳アトラスの各ROIで平均時間コースシグナル(time-course signal)は、該当の領域をSIGMAラット脳アトラスとブレインマップス(Brain maps)4.0を使用して定義された内部ROIマスクを使用した。ラットの脳とROIとの間のrsFC強度は、ピアソン相関係数を使用して推定した。この後、相関値は正規性を向上させるために、フィッシャーのz-変換(Fisher r-to-z transformation)を経た。グループレベルのrsFCマップが生成され、これはFWER(family-wise error rate)及びFDR(false discovery rate; p < 0.05)を使用して補正された。シード-ベースの空間FCマップは、後帯状皮質(Cg 1、24b'及び24a')で1mmの球形シードで行われた。グループレベルのシードマップは、シードされた空間FCマップそれぞれについての平均を使用して計算された(3dTcorr1D、3dttest++及びFDR補正(p < 0.05))。
【0241】
マウスにおけるrsFC分析は、ラットの場合と同じ方法で行った。
【0242】
実験例4. 統計分析
実施例におけるデータ分析は、グラフパッドプリズム5ソフトウェアを使用して行った。行動実験の場合、マン-ホイットニー検定(Mann-Whitney test)、独立標本t検定(unpaired t-test)、一元分散分析後のボンフェローニ多重比較検定(One-way ANOVA post hoc Bonferroni's Multiple Comparison Test)及びテューキー多重比較検定(Tukey's Multiple Comparison Test)でデータを分析した。薬物投与実験における前後比較は、ウィルコクソン符号順位検定(Wilcoxon signed rank test)が使用された。ウェスタンブロッティングバンド分析のために、適切な場合、t検定またはマン-ホイットニー検定を二つのグループの比較に使用した。バートレット検定(Bartlett's test)で評価した分散が同一でない場合、クラスカル-ウォリス検定(Kruskal-Wallis test)及びダン多重比較検定(Dunn's multiple comparisons test)を使用し、ノンパラメトリック分析を行った。データの正規性検定には、ダゴスティーノピアソンオムニバス正規性検定(D'Agostino-Pearson omnibus normality test)を使用した。5%未満の確率(p < 0.05)が有意なものとみなされた。全ての値は、平均±平均の標準誤差(Mean±SEM)で表示した。
【産業上の利用可能性】
【0243】
本発明による社会的優位性欠如動物モデルは、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患、特に社会的敗北ストレス(social defeat stress)を伴うか、これによって誘発される疾患に対する動物モデルとして用いることができ、脳のEGF受容体に対するアゴニストを有効成分として含む薬学組成物は、社会的優位性の欠如または減少に関連する疾患を効果的に予防して治療することができるため、産業的利用可能性が大きいと期待される。
図1a
図1b
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図11a
図11b
【配列表】
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【国際調査報告】