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特表2024-529327二次元液体クロマトグラフィー質量分析を使用するウイルス粒子特性評価のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】二次元液体クロマトグラフィー質量分析を使用するウイルス粒子特性評価のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240730BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240730BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20240730BHJP
   C07K 14/015 20060101ALN20240730BHJP
   C07K 1/18 20060101ALN20240730BHJP
   C07K 1/20 20060101ALN20240730BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20240730BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/88 J
G01N30/06 E
G01N30/26 A
G01N30/34 E
G01N30/72 C
G01N33/68
H01J49/16 500
C07K14/015
C07K1/18
C07K1/20
C12N7/01
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501503
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 US2022036723
(87)【国際公開番号】W WO2023287723
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】63/220,651
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/275,138
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/359,554
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/359,557
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ハイボ・チウ
(72)【発明者】
【氏名】ジージエ・ウー
(72)【発明者】
【氏名】ホンシァ・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ニン・リー
(72)【発明者】
【氏名】ヨナタン・ヴェルト
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041FA11
2G041FA12
2G041GA01
2G041HA01
2G045CB30
2G045DA36
2G045FB06
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065CA24
4B065CA44
4H045AA30
4H045CA01
4H045DA50
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA23
4H045GA25
(57)【要約】
ウイルスタンパク質成分を同定し、ウイルス粒子の試料中のそのようなウイルスタンパク質成分の相対存在量を定量化するための方法が開示される。実施形態では、本方法は、試料のインタクトなウイルスカプシド成分を分離するための一次元クロマトグラフィー、インタクトなウイルスタンパク質を産生するためのウイルスカプシド成分のオンライン変性、ウイルスタンパク質を分離するための二次元クロマトグラフィー、及びウイルスタンパク質の質量を決定し、試料のウイルスタンパク質成分を同定するための質量分析を含む。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定するための方法であって、
(a)前記ウイルス粒子の試料に一次元クロマトグラフィーを受けさせて、前記試料のインタクトなウイルスカプシド成分を分離することと、
(b)前記インタクトなウイルスカプシド成分の少なくとも一部にオンライン変性を受けさせて、個々のインタクトなウイルスタンパク質を生じさせることと、
(c)前記インタクトなウイルスタンパク質に二次元クロマトグラフィーを受けさせて、前記インタクトなウイルスタンパク質を分離することと、
(d)分離された前記インタクトなウイルスタンパク質の質量を決定して、前記ウイルス粒子の試料の前記ウイルスタンパク質成分を同定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記分離されたインタクトなウイルスカプシド成分の一部を選択することを更に含み、前記インタクトなウイルスカプシド成分の少なくとも一部にオンライン変性を受けさせて、個々のウイルスタンパク質を生じさせることが、前記分離されたインタクトなウイルスカプシド成分の選択された前記一部にオンライン変性を受けさせることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウイルス粒子の試料が、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記AAV粒子が、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-Rh10、AAV-retro、AAV-PHP.B、AAV8-PHP.eB、又はAAV-PHP.Sの粒子である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記AAV粒子が、血清型AAV1又はAAV8の粒子である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記インタクトなウイルスカプシド成分が、空ウイルスカプシド及び完全ウイルスカプシドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記一次元クロマトグラフィーが、イオン交換クロマトグラフィーを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン交換クロマトグラフィーが、アニオン交換クロマトグラフィーである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記二次元クロマトグラフィーが、逆相クロマトグラフィーを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記二次元クロマトグラフィーが、親水性相互作用液体クロマトグラフィーを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定することが、前記分離されたインタクトなウイルスタンパク質にエレクトロスプレーイオン化質量分析を受けさせることを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスタンパク質成分が、AAV粒子のVP1、VP2、及び/又はVP3を含む、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスタンパク質成分が、VP1、VP2、及び/又はVP3の翻訳後バリアントを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記VP1、VP2、及び/又はVP3の翻訳後バリアントが、VP1、VP2、及び/又はVP3のアセチル化、リン酸化、及び/又は酸化バリアントを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記VP1、VP2、及び/又はVP3の翻訳後バリアントが、アスパラギン酸-プロリン結合の切断及び/又はアスパラギン酸-グリシン結合の切断から産生されるVP1、VP2、及び/又はVP3の断片を含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記一次元クロマトグラフィーによって分離された前記インタクトなウイルスカプシド成分を検出することと、空ウイルスカプシド対完全及び部分的完全ウイルスカプシドの比を同定することと、を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記二次元クロマトグラフィーによって分離された前記インタクトなウイルスタンパク質を検出することと、前記ウイルス粒子の試料の前記ウイルスタンパク質成分の相対存在量を定量化することと、を更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記インタクトなウイルスカプシド成分及び/又は前記インタクトなウイルスタンパク質が、紫外線又は蛍光検出器を使用して検出される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定するための方法であって、
(a)前記AAV粒子の前記試料にアニオン交換クロマトグラフィーを受けさせて、前記試料中のインタクトなウイルスカプシド成分を分離することであって、前記インタクトなウイルスカプシド成分が、異種核酸分子を含む、インタクトな空ウイルスカプシド及びインタクトな完全ウイルスカプシドを含む、分離することと、
(b)オンライン脱塩及び変性のために、前記インタクトなウイルスカプシド成分の一部を選択することと、
(c)前記インタクトなウイルスカプシド成分の選択された前記一部にオンライン脱塩及び変性を受けさせて、個々のインタクトなウイルスタンパク質を生じさせることであって、前記インタクトな個々のウイルスタンパク質が、VP1、VP2、VP3、及びVP1、VP2、又はVP3の少なくとも1つのバリアントを含む、生じさせることと、
(d)前記インタクトなウイルスタンパク質に逆相液体クロマトグラフィー又は親水性相互作用液体クロマトグラフィーを受けさせて、前記インタクトなウイルスタンパク質を分離することと、
(e)前記分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定して、前記AAV粒子の試料の前記ウイルスタンパク質成分を同定することと、を含む、方法。
【請求項20】
前記アニオン交換クロマトグラフィーによって分離された前記インタクトなウイルスカプシド成分を検出することと、空ウイルスカプシド対完全及び部分的完全ウイルスカプシドの比を同定することと、を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記逆相液体クロマトグラフィー又は親水性相互作用液体クロマトグラフィーによって分離された前記インタクトなウイルスタンパク質を検出することと、前記AAV粒子の試料の前記ウイルスタンパク質成分の相対存在量を定量化することと、を更に含む、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記AAV粒子が、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-Rh10、AAV-retro、AAV-PHP.B、AAV8-PHP.eB、又はAAV-PHP.Sの粒子である、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記AAV粒子が、血清型AAV1又はAAV8の粒子である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記VP1、VP2、又はVP3の少なくとも1つのバリアントが、VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントを含む、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントが、VP1、VP2、又はVP3のアセチル化バリアントを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントが、VP1、VP2、又はVP3のリン酸化バリアントを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントが、VP1、VP2、又はVP3の酸化バリアントを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントが、アスパラギン酸-プロリン結合の切断から産生されるVP1、VP2、又はVP3の断片を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントが、アスパラギン酸-グリシン結合の切断から産生されるVP1、VP2、又はVP3の断片を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記インタクトなウイルスカプシド成分及び/又は前記インタクトなウイルスタンパク質が、紫外線又は蛍光検出器を使用して検出される、請求項20~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定することが、前記分離されたインタクトなウイルスタンパク質にエレクトロスプレーイオン化質量分析を受けさせることを含む、請求項19~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記インタクトなウイルスタンパク質が、逆相液体クロマトグラフィーを受ける、請求項19~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記インタクトなウイルスタンパク質が、親水性相互作用液体クロマトグラフィーを受ける、請求項19~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
アニオン交換クロマトグラフィーを受けた前記試料の前記インタクトなウイルスカプシド成分が、8~9のpHにおいて15mM~25mMのビストリスプロパン(BTP)、250mM~1Mの塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、及び1mM~3mMの塩化マグネシウムを含む、第1の移動相を使用して分離される、請求項8又は19~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の移動相が、8.5±0.1のpHにおいて、20mM±2mMのBTP、500mM±50mMのTMAC、及び2mM±0.2mMのMgClを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
アニオン交換クロマトグラフィーを受けた前記試料の前記インタクトなウイルスカプシド成分が、前記第1の移動相、並びに8~9のpHにおいて15mM~25mMのビストリスプロパン(BTP)及び1mM~3mMの塩化マグネシウムを含む、第2の移動相を使用して分離される、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
前記第2の移動相が、8.5±0.1のpHにおいて、20mM±2mMのBTP、及び2mM±0.2mMのMgClを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
アニオン交換クロマトグラフィーを受けた前記試料の前記インタクトなウイルスカプシド成分が、前記第1の移動相、前記第2の移動相、並びに1.5M~2.5Mの塩化ナトリウムを含む第3の移動相を使用して分離される、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
前記第3の移動相が、2M±0.1Mの塩化ナトリウムを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記インタクトなウイルスカプシド成分の前記分離が、移動相勾配を用いて実施される、請求項38又は39に記載の方法。
【請求項41】
前記移動相勾配が、順に、1分間の10%の第1の移動相及び90%の第2の移動相と、20分の期間にわたって前記第1の移動相を10%から42%まで増加させ、前記第2の移動相を90%から58%まで減少させることと、5分間の100%の第3の移動相と、10分間の10%の第1の移動相及び90%の第2の移動相と、を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記試料中のインタクトな空ウイルスカプシドの量及び完全ウイルスカプシドの量を同定することと、前記試料中の前記インタクトな空ウイルスカプシド及びインタクトな完全ウイルスカプシドの相対存在量を決定することと、を更に含む、請求項34~41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次元液体クロマトグラフィー質量分析プラットフォームを使用する、ウイルス粒子(例えば、AAVカプシド)の品質属性の特性評価のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非エンベロープ一本鎖DNAウイルスであるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、インビボで広範囲の種及び組織を形質導入するその能力、免疫毒性の低いリスク、並びに軽度の自然及び適応免疫応答に起因して、遺伝子療法のために遺伝物質を宿主細胞に送達するための治療剤の魅力的なクラスとして出現している。AAVなどのウイルスベクターの複雑な性質は、製品試験及び特性評価を可能にするための具体的な分析方法を必要とする。
【0003】
既存の分析技法はしばしば、臨床グレードのウイルスベクター調製物の産生のための均質性を定量化するための十分な分解能を提供しない。その配列及び翻訳後修飾(PTM)を含む、AAVベクターのカプシドタンパク質などの構成ウイルスカプシドタンパク質の完全な特性評価が、製品の品質及び一貫性を確保するために望ましい。したがって、ウイルス粒子の均質性を決定し、ウイルス粒子内のウイルスタンパク質の様々な種を同定するために、方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、ウイルス粒子(例えば、AAV)特性評価のためのオンライン二次元液体クロマトグラフィー質量分析(2DLC-MS)プラットフォームを対象とし、これは、質量分析と合体したウイルス粒子及びウイルスタンパク質のクロマトグラフィー分離によって、空及び完全な比並びにウイルスタンパク質の特性評価を同時に実施することができる。例示的な実施形態では、空及び完全な比並びにウイルスタンパク質の特性評価は、それぞれ、質量分析(MS)と合体したアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)及び逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)によって実施される。
【0005】
一態様では、本開示は、ウイルス粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定するための方法であって、(a)ウイルス粒子の試料に一次元クロマトグラフィーを受けさせて、試料のインタクトなウイルスカプシド成分を分離することと、(b)インタクトなウイルスカプシド成分の少なくとも一部にオンライン変性を受けさせて、個々のインタクトなウイルスタンパク質を生じさせることと、(c)インタクトなウイルスタンパク質に二次元クロマトグラフィーを受けさせて、インタクトなウイルスタンパク質を分離することと、(d)分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定して、ウイルス粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定することと、を含む、方法を提供する。
【0006】
いくつかの実施形態では、本方法は、分離されたインタクトなウイルスカプシド成分の一部を選択することを更に含み、インタクトなウイルスカプシド成分の少なくとも一部にオンライン変性を受けさせて、個々のウイルスタンパク質を生じさせることが、分離されたインタクトなウイルスカプシドタンパク質の選択された一部にオンライン変性を受けさせることを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、ウイルス粒子の試料は、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を含む。場合によっては、AAV粒子は、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-Rh10、AAV-retro、AAV-PHP.B、AAV8-PHP.eB、又はAAV-PHP.Sの粒子である。場合によっては、AAV粒子は、血清型AAV1の粒子である。場合によっては、AAV粒子は、血清型AAV5の粒子である。場合によっては、AAV粒子は、血清型AAV8の粒子である。
【0008】
いくつかの実施形態では、インタクトなウイルスカプシド成分は、空ウイルスカプシド及び完全ウイルスカプシドを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、一次元クロマトグラフィーは、イオン交換クロマトグラフィーを含む。場合によっては、イオン交換クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィーである。
【0010】
いくつかの実施形態では、二次元クロマトグラフィーは、逆相クロマトグラフィーを含む。いくつかの実施形態では、二次元クロマトグラフィーは、親水性相互作用液体クロマトグラフィーを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定することは、分離されたインタクトなウイルスタンパク質にエレクトロスプレーイオン化質量分析を受けさせることを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、ウイルスタンパク質成分は、AAV粒子のVP1、VP2、及び/又はVP3を含む。場合によっては、ウイルスタンパク質成分は、VP1、VP2、及び/又はVP3の翻訳後バリアントを含む。場合によっては、VP1、VP2、及び/又はVP3の翻訳後バリアントは、VP1、VP2、及び/又はVP3のアセチル化、リン酸化、及び/又は酸化バリアントを含む。場合によっては、VP1、VP2、及び/又はVP3の翻訳後バリアントは、アスパラギン酸-プロリン結合の切断及び/又はアスパラギン酸-グリシン結合の切断から産生されるVP1、VP2、及び/又はVP3の断片を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、本方法は、一次元クロマトグラフィーによって分離されたインタクトなウイルスカプシド成分を検出することと、空ウイルスカプシド対完全及び部分的完全ウイルスカプシドの比を同定することと、を更に含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、本方法は、二次元クロマトグラフィーによって分離されたインタクトなウイルスタンパク質を検出することと、ウイルス粒子の試料のウイルスタンパク質成分の相対存在量を定量化することと、を更に含む。
【0015】
場合によっては、インタクトなウイルスカプシド成分及び/又はインタクトなウイルスタンパク質は、紫外線又は蛍光検出器を使用して検出される。
【0016】
一態様では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定するための方法であって、(a)AAV粒子の試料にアニオン交換クロマトグラフィーを受けさせて、試料中のインタクトなウイルスカプシド成分を分離することであって、インタクトなウイルスカプシド成分が、異種核酸分子を含むインタクトな空ウイルスカプシド及びインタクトな完全ウイルスカプシドを含む、分離することと、(b)オンライン脱塩及び変性のためにインタクトなウイルスカプシド成分の一部を選択することと、(c)インタクトなウイルスカプシド成分の選択された一部にオンライン脱塩及び変性を受けさせて、個々のインタクトなウイルスタンパク質を生じさせることであって、インタクトな個々のウイルスタンパク質が、VP1、VP2、VP3、及びVP1、VP2、又はVP3の少なくとも1つのバリアントを含む、生じさせることと、(d)インタクトなウイルスタンパク質に逆相液体クロマトグラフィー又は親水性相互作用液体クロマトグラフィーを受けさせて、インタクトなウイルスタンパク質を分離することと、(e)分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定して、AAV粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定することと、を含む、方法を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、インタクトなウイルスタンパク質は、逆相液体クロマトグラフィーを受ける。いくつかの実施形態では、インタクトなウイルスタンパク質は、親水性相互作用液体クロマトグラフィーを受ける。
【0018】
いくつかの実施形態では、本方法は、アニオン交換クロマトグラフィーによって分離されたインタクトなウイルスカプシド成分を検出することと、空ウイルスカプシド対完全及び部分的完全ウイルスカプシドの比を同定することと、を更に含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、本方法は、逆相液体クロマトグラフィー又は親水性相互作用液体クロマトグラフィーによって分離されたインタクトなウイルスタンパク質を検出することと、AAV粒子の試料のウイルスタンパク質成分の相対存在量を定量化することと、を更に含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、AAV粒子は、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-Rh10、AAV-retro、AAV-PHP.B、AAV8-PHP.eB、又はAAV-PHP.Sの粒子である。場合によっては、AAV粒子は、血清型AAV1の粒子である。場合によっては、AAV粒子は、血清型AAV5の粒子である。場合によっては、AAV粒子は、血清型AAV8の粒子である。
【0021】
いくつかの実施形態では、VP1、VP2、又はVP3の少なくとも1つのバリアントは、VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントを含む。場合によっては、VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントは、VP1、VP2、又はVP3のアセチル化バリアントを含む。場合によっては、VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントは、VP1、VP2、又はVP3のリン酸化バリアントを含む。場合によっては、VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントは、VP1、VP2、又はVP3の酸化バリアントを含む。場合によっては、VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントは、アスパラギン酸-プロリン結合の切断から産生されるVP1、VP2、又はVP3の断片を含む。場合によっては、VP1、VP2、又はVP3の翻訳後バリアントは、アスパラギン酸-グリシン結合の切断から産生されるVP1、VP2、又はVP3の断片を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、インタクトなウイルスカプシド成分及び/又はインタクトなウイルスタンパク質は、紫外線又は蛍光検出器を使用して検出される。
【0023】
いくつかの実施形態では、分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定することは、分離されたインタクトなウイルスタンパク質にエレクトロスプレーイオン化質量分析を受けさせることを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、アニオン交換クロマトグラフィーを受けた試料のインタクトなウイルスカプシド成分は、8~9のpHにおいて15mM~25mMのビストリスプロパン(BTP)、250mM~1Mの塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、及び1mM~3mMの塩化マグネシウムを含む、第1の移動相を使用して分離される。場合によっては、第1の移動相は、8.5±0.1のpHにおいて、20mM±2mMのBTP、500mM±50mMのTMAC、及び2mM±0.2mMのMgClを含む。いくつかの実施形態では、アニオン交換クロマトグラフィーを受けた試料のインタクトなウイルスカプシド成分は、第1の移動相、並びに8~9のpHにおいて15mM~25mMのビストリスプロパン(BTP)及び1mM~3mMの塩化マグネシウムを含む、第2の移動相を使用して分離される。場合によっては、第2の移動相は、8.5±0.1のpHにおいて、20mM±2mMのBTP、及び2mM±0.2mMのMgClを含む。いくつかの実施形態では、アニオン交換クロマトグラフィーを受けた試料のインタクトなウイルスカプシド成分は、第1の移動相、第2の移動相、並びに1.5M~2.5Mの塩化ナトリウムを含む第3の移動相を使用して分離される。場合によっては、第3の移動相は、2M±0.1Mの塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、インタクトなウイルスカプシド成分の分離は、移動相勾配を用いて実施される。場合によっては、移動相勾配は、順に、1分間の10%の第1の移動相及び90%の第2の移動相と、20分の期間にわたって第1の移動相を10%から42%まで増加させ、第2の移動相を90%から58%まで減少させることと、5分間の100%の第3の移動相と、10分間の10%の第1の移動相及び90%の第2の移動相と、を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、本方法は、試料中のインタクトな空ウイルスカプシドの量及び完全ウイルスカプシドの量を同定することと、試料中のインタクトな空ウイルスカプシド及びインタクトな完全ウイルスカプシドの相対存在量を決定することと、を更に含む。
【0026】
様々な実施形態では、上記又は本明細書で考察される実施形態の特徴又は構成要素のうちのいずれかが、組み合わせられてもよく、そのような組み合わせは、本開示の範囲内に包含される。上記又は本明細書で考察される任意の具体的な値は、範囲の上限及び下限を表す値を有する範囲を列挙するように、上記又は本明細書で考察される別の関連する値と組み合わせられてもよく、そのような範囲は、本開示の範囲内に包含される。
【0027】
他の実施形態は、後に続く発明を実施するための形態の検討から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】異種核酸分子(例えば、治療用遺伝子又は目的の遺伝子(GOI))を含むAAVカプシド(図1A)、空カプシド、部分的完全カプシド、及び完全カプシド(図1B)、並びに広範囲の理論的カプシド化学量論を生じさせる3つのウイルスタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)の60個のコピーから構成されるAAVカプシド(図1C)を図示する。
図1B】異種核酸分子(例えば、治療用遺伝子又は目的の遺伝子(GOI))を含むAAVカプシド(図1A)、空カプシド、部分的完全カプシド、及び完全カプシド(図1B)、並びに広範囲の理論的カプシド化学量論を生じさせる3つのウイルスタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)の60個のコピーから構成されるAAVカプシド(図1C)を図示する。
図1C】異種核酸分子(例えば、治療用遺伝子又は目的の遺伝子(GOI))を含むAAVカプシド(図1A)、空カプシド、部分的完全カプシド、及び完全カプシド(図1B)、並びに広範囲の理論的カプシド化学量論を生じさせる3つのウイルスタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)の60個のコピーから構成されるAAVカプシド(図1C)を図示する。
図2A】質量スペクトル分析のために、ウイルスカプシドが一次元で分離され、ウイルスタンパク質が二次元で分離される、本開示の実施形態による例示的な二次元液体クロマトグラフィー質量分析システム(2DLC-MS)を図示する。
図2B】質量スペクトル分析のために、ウイルスカプシドが一次元で分離され、ウイルスタンパク質が二次元で分離される、本開示の実施形態による例示的な二次元液体クロマトグラフィー質量分析システム(2DLC-MS)を図示する。
図2C】本開示の実施形態による2DLC-MSシステムのための弁設定を図示する。部分(a)は、第2の液体クロマトグラフィーフローが、RPLCカラム温度を維持するために使用され、トラッピングループからの1つの画分が、脱塩及び変性のためにトラップカラムに進入する、弁設定のための第1の位置を図示する。部分(a)は、変性ウイルスカプシド(例えば、AAV)からのウイルスタンパク質が、分離、続いて、質量スペクトル分析のために、トラップカラムから分析カラム(例えば、RPLC)に移動される、弁設定のための第2の位置を更に図示する。部分(b)(c)(d)は、トラップカラムあり(部分(c))又はなし(部分(b))であり、異なる流量(部分(c)では0.2mL/分、部分(d)では0.1mL/分)を用いたウイルスタンパク質の分離を図示する。示されるように、ウイルスタンパク質の更なる分離が、トラップカラムの使用によって達成され、流量の変化を伴うピークの著しい変化はない。部分(e)は、例示された弁設定を使用して、(デコンボリューションされたスペクトルに由来する)3つのAAVウイルスタンパク質に関連して塩付加物が観察されないことを示す。
図2D】オンライン変性(下のクロマトグラム)が、試料注入前に変性を必要とすることなく、AAVウイルスタンパク質の効果的な解離を提供することを実証する、一対のクロマトグラムを示す。
図2E】(AAV8-GOI1について)2DLC-MSシステムから取得された高分子量種を表し、VP3二量体及びVP2+VP3ヘテロ二量体としての高分子量種の同一性を確認する、ピークの未加工スペクトル及びデコンボリューションされたスペクトルを示す。オンライン変性のためのトラップカラムの使用は、高分子量種を排除した(それぞれ、トラップカラムなしの高分子量種の存在、及びトラップカラムありのその非存在を示す、図2Cの部分(b)及び(c)を比較する)。
図3A】一次元クロマトグラフィー(例えば、AEX)から取得されたクロマトグラムを表し、それぞれ、塩化テトラメチルアンモニウム又は塩化テトラエチルアンモニウムのいずれかを使用する(図3A)、様々なAAV血清型からの(図3B)ウイルスカプシド(空、又はGOIを含む)の分離を示す。
図3B】一次元クロマトグラフィー(例えば、AEX)から取得されたクロマトグラムを表し、それぞれ、塩化テトラメチルアンモニウム又は塩化テトラエチルアンモニウムのいずれかを使用する(図3A)、様々なAAV血清型からの(図3B)ウイルスカプシド(空、又はGOIを含む)の分離を示す。
図3C】二次元クロマトグラフィー(例えば、RPLC)及び質量分析から取得されたクロマトグラム及び質量スペクトルを表し、GOIを含むか、又は含まないAAV試料中のウイルスタンパク質を、AAV8及びAAV1試料の両方で効果的に分離することができ、GOIが分離を妨げず(図3C)、質量分析と合体したウイルスタンパク質の分離を使用して、ウイルスタンパク質を同定することができる(図3D)ことを示す。
図3D】二次元クロマトグラフィー(例えば、RPLC)及び質量分析から取得されたクロマトグラム及び質量スペクトルを表し、GOIを含むか、又は含まないAAV試料中のウイルスタンパク質を、AAV8及びAAV1試料の両方で効果的に分離することができ、GOIが分離を妨げず(図3C)、質量分析と合体したウイルスタンパク質の分離を使用して、ウイルスタンパク質を同定することができる(図3D)ことを示す。
図4A】(i)空カプシド(AAV8-Em)が目的の遺伝子(AAV8-GOI)を含むカプシドから分離されているクロマトグラム、(ii)変性のための分離されたカプシドの一部の選択(「ハートカッティング」)、(iii)ウイルスタンパク質(VP1、VP2、VP3、及びその他)が相互から分離されているクロマトグラム、及び(iv)分離されたウイルスタンパク質に対応する質量スペクトルを示す、本開示の実施形態によるプロセスを図示する。
図4B】AAV8-GOI試料中のピークのウイルスタンパク質成分を同定及び特性評価するための、一次元クロマトグラフィー(例えば、AEX)、続いて、二次元クロマトグラフィー(例えば、RPLC)及び質量分析後のピークの複数の「ハートカッティング」を図示する。
図5】異種核酸分子(例えば、目的の遺伝子又はGOI)を含むカプシドから空ウイルスカプシドを分離する際の一次元クロマトグラフィーの有効性を図示する。クロマトグラフィー分離は、(i)空カプシド、並びに(ii)部分的完全カプシド及び完全カプシドが、分析超遠心分離(AUC)技法から生成されたデータと一致している、ウイルスカプシドの比を生じさせる。
図6】二次元クロマトグラフィーを介したウイルスタンパク質のクロマトグラフィー分離、並びに(AAVの)VP1、VP2、及びVP3の各々の相対量を図示する。
図7A】二次元クロマトグラフィーを介したウイルスタンパク質(AAVのVP1、VP2、及びVP3)並びにウイルスタンパク質の翻訳後バリアントのクロマトグラフィー分離を図示する。図7Aが、豊富な種の標識を示す一方で、図7Bは、低存在量種の標識を示す。
図7B】二次元クロマトグラフィーを介したウイルスタンパク質(AAVのVP1、VP2、及びVP3)並びにウイルスタンパク質の翻訳後バリアントのクロマトグラフィー分離を図示する。図7Aが、豊富な種の標識を示す一方で、図7Bは、低存在量種の標識を示す。
図7C】各々の観察された質量及び理論的質量とともに、ウイルス粒子のAAV8試料について図7A及び7Bで標識された種の同一性を示す。「Ac」は、アセチル化を指し、「P」は、リン酸化を指し、「クリップ(DP)」は、アスパラギン酸-プロリン結合の切断によって産生される断片を指し、「Ox」は、酸化を指し、「クリップ(DG)」は、アスパラギン酸-グリシン結合の切断によって産生される断片を指す。
図7D図7Cと同じ様式でウイルス粒子のAAV1試料の種の同一性を示す。
図8A】空であるか、又は目的の遺伝子(GOI)を含むかのいずれかである、AAV8又はAAV1カプシドのウイルスタンパク質成分に対応する質量スペクトルを示す。
図8B】空であるか、又は目的の遺伝子(GOI)を含むかのいずれかである、AAV8又はAAV1カプシドのウイルスタンパク質成分に対応する質量スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を記載する前に、記載される特定の方法及び実験条件が変化し得るため、本発明は、そのような方法及び条件に限定されないことを理解されたい。本発明の範囲が添付の特許請求の範囲のみによって限定されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであり、限定的であることを意図していないことも理解されたい。
【0030】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の言及される数値に関して使用されると、値が言及される値から1%以下だけ変化し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現には、99及び101、並びにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)が含まれる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であるように意図され、それぞれ、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0032】
本明細書に記載されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料を本発明の実践又は試験に使用することができるが、好ましい方法及び材料をこれから記載する。本明細書で言及される全ての特許、出願、及び非特許刊行物は、参照によりそれらの全体で本明細書に組み込まれる。
【0033】
選択された略語
2DLC-MS-二次元液体クロマトグラフィー質量分析
LC-MS-液体クロマトグラフィー質量分析
MS:質量分析又は質量分析計
ESI:エレクトロスプレーイオン化
rAAV:組換えAAV粒子又はカプシド
AAV:アデノ随伴ウイルス
LC:液体クロマトグラフィー
RPLC:逆相液体クロマトグラフィー
HILIC-親水性相互作用液体クロマトグラフィー
AEX-アニオン交換クロマトグラフィー
IEX-イオン交換クロマトグラフィー
GOI-目的の遺伝子
VP1-AAVのウイルスタンパク質1サブユニット
VP2-AAVのウイルスタンパク質2サブユニット
VP3-AAVのウイルスタンパク質3サブユニット
UV-紫外線
FLR-蛍光
【0034】
定義
「インタクトなウイルスカプシド成分」とは、インタクトであり(すなわち、それらの構成要素部分(例えば、異なるウイルスタンパク質)に変性又は別様に分解若しくは崩壊されていない)、ウイルスカプシドの構造特性(例えば、AAVカプシドの20面体立体構造)を保持する、ウイルスカプシド(例えば、空ウイルスカプシド、部分的完全ウイルスカプシド、及び/又は完全ウイルスカプシド)を指す。
【0035】
「空ウイルスカプシド」又は「空カプシド」という用語は、図1Bに図示されるように、異種核酸分子(例えば、治療用遺伝子)を含まないカプシドを指す。
【0036】
「部分的完全ウイルスカプシド」又は「部分的完全カプシド」という用語は、図1Bに図示されるように、異種核酸分子(例えば、治療用遺伝子)の一部のみを含むカプシドを指す。
【0037】
「完全ウイルスカプシド」又は「完全カプシド」という用語は、図1Bに図示されるように、完全異種核酸分子(例えば、治療用遺伝子又は目的の遺伝子)を含むカプシドを指す。
【0038】
本明細書で使用される場合の「試料」という用語は、例えば、分離及び分析を含む、本発明の方法による操作を受ける、少なくとも1つのウイルスカプシド成分(すなわち、空カプシド、部分的完全カプシド、及び/又は完全カプシド)を含むウイルス粒子(例えば、AAV粒子)の混合物を指す。
【0039】
「分析」又は「分析すること」という用語は、互換的に使用され、目的のウイルス粒子又はウイルスタンパク質(例えば、AAVタンパク質)を分離、検出、単離、精製、及び/又は特性評価する様々な方法のうちのいずれかを指す。例としては、質量分析、例えば、ESI-MS、液体クロマトグラフィー(例えば、AEX、RPLC、又はHILIC)、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用される場合の「接触させること」は、溶液相又は固相中の少なくとも2つの物質を一緒にすること、例えば、クロマトグラフィー材料の固定相を、ウイルス粒子又はウイルスタンパク質を含む試料などの試料と接触させることを含む。
【0041】
本明細書で使用される場合の「インタクト質量分析」は、ウイルスタンパク質がインタクトなタンパク質として特性評価される、実験を含む。インタクト質量分析は、試料調製を最小限に低減することができる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体によって運ばれる化学混合物が、固定液相又は固体相の周囲又は上を流動する際の化学物質の微分分布の結果として成分に分離され得る、プロセスを指す。液体クロマトグラフィーの非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーが挙げられる。
【0043】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、具体的な分子種を検出し、それらの質量を正確に測定することが可能な装置を指す。本用語は、ウイルスタンパク質(例えば、AAVタンパク質)が検出及び/又は特性評価のために溶出され得る、任意の分子検出器を含むように意図され得る。質量分析計は、3つの主要な部分:イオン源、質量分析器、及び検出器からなる。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物原子、分子、又はクラスターを、気相中に移送し、(エレクトロスプレーイオン化の場合のように)同時にイオン化することができる。イオン源の選択は、用途に依存する。本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」という用語は、溶液中のカチオン又はアニオンのいずれかが、溶液を含むエレクトロスプレーエミッタ針の先端と対電極との間に電位差を印加することから生じる、高帯電液滴の流れの大気圧での形成及び脱溶媒和を介して気相に移送される、スプレーイオン化のプロセスを指す。溶液中の電解質イオンからの気相イオンの産生には、3つの主要なステップがある。これらは、(a)ES注入先端での帯電液滴の産生、(b)気相イオンを産生することが可能な小さな高帯電液滴につながる、溶媒蒸発による帯電液滴の収縮、及び繰り返しの液滴崩壊、並びに(c)気相イオンが非常に小さい高帯電液滴から産生される機構である。段階(a)~(c)は一般的に、装置の大気圧領域で生じる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレーイオン化源」という用語は、ウイルス粒子の質量分析に使用される質量分析計と適合性があり得るエレクトロスプレーイオン化システムを指す。
【0045】
ネイティブMSは、生物学的分析物が非変性溶媒から噴霧される、エレクトロスプレーイオン化に基づく特定のアプローチである。これは、大きな生体分子及びその複合体などの生体分子が、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)のプロセスを介して、凝縮液相における三次元の機能的存在から気相に移送され得る、プロセスとして定義される。
【0046】
本明細書で使用される場合の「ナノエレクトロスプレー」又は「ナノスプレー」という用語は、しばしば、外部溶媒送達の使用を伴わない、非常に低い溶媒流量、典型的には、毎分数百ナノリットル以下の試料溶液におけるエレクトロスプレーイオン化を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」とは、種、すなわち、原子、分子、又はクラスターを、それらの質量に従って分離することができる装置を指す。高速タンパク質シークエンシングに採用され得る質量分析器の非限定的な例は、飛行時間(TOF)、磁気/電気セクタ、四重極質量フィルタ(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)、また、加速器質量分析(AMS)の技法である。
【0048】
本明細書で使用される場合、「質量対電荷比」又は「m/z」が、統一原子質量単位のイオンの質量を(符号に関係なく)その電荷数で除算することによって形成される無次元量を示すために使用される。
【0049】
本明細書で使用される場合、「四重極オービトラップハイブリッド質量分析器」という用語は、四重極質量分析器をオービラップ質量分析器に結合することによって作製されたハイブリッドシステムを指す。四重極オービトラップハイブリッド質量分析計を使用する時間的タンデム実験は、四重極質量分析計からの選択された狭いm/z範囲内のイオンを除く全てのイオンの放出から始まる。選択されたイオンは、オービトラップに挿入され、最も頻繁に低エネルギーCIDによって断片化され得る。トラップのm/z許容範囲内の断片は、トラップ内に残留するべきであり、MS-MSスペクトルを取得することができる。
【0050】
「アデノ随伴ウイルス」又は「AAV」は、非エンベロープで約4.7kbのゲノムである、一本鎖DNAを有する非病原性パルボウイルスであり、20面体立体構造を有する。AAVは、アデノウイルス調製物の汚染物質として1965年に最初に発見された。AAVは、ディペンドウイルス属及びパルボウイルス科に属し、複製のためにヘルペスウイルス又はアデノウイルスのいずれかからのヘルパー機能を必要とする。ヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは、19q13.4位でヒト19番染色体に統合することによって、潜伏を設定することができる。AAVゲノムは、2つのAAV遺伝子Rep及びCapの各々に1つずつ、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)からなる。AAV DNA末端は、145bpの逆位末端反復(ITR)を有し、125個の末端塩基は、パリンドロームであり、特徴的なT字型ヘアピン構造につながる。
【0051】
本明細書で使用される場合の「ポリヌクレオチド」又は「核酸」という用語は、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれかである、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。したがって、本用語には、一本鎖、二本鎖又は多重鎖DNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、又はプリン塩基及びピリミジン塩基、若しくは他の天然、化学あるいは生化学的修飾、非天然、若しくは誘導体化ヌクレオチド塩基を含む、ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。核酸の骨格は、糖及びリン酸基(典型的にはRNA又はDNAで見出され得る)、又は修飾若しくは置換された糖若しくはリン酸基を含むことができる。
【0052】
「組換えウイルス粒子」とは、少なくとも1つのウイルスヌクレオチド配列に隣接し得る1つ以上の異種配列(例えば、ウイルス起源ではない核酸配列)を含む、ウイルス粒子を指す。
【0053】
「組換えAAV粒子」とは、少なくとも1つ、例えば、2つのAAV逆位末端反復配列(ITR)に隣接し得る、1つ以上の異種配列(例えば、AAV起源ではない核酸配列)を含む、アデノ随伴ウイルス粒子を指す。そのようなrAAV粒子は、好適なヘルパーウイルスに感染しており(又は好適なヘルパー機能を発現しており)、AAV rep及びcap遺伝子産物(すなわち、AAV Rep及びCapタンパク質)を発現している宿主細胞に存在する場合に複製及びパッケージ化され得る。
【0054】
「ウイルス粒子」とは、少なくとも1つのウイルスカプシドタンパク質及びカプシド封入ウイルスゲノムから構成されるウイルス粒子を指す。
【0055】
「異種」とは、実体が比較されるか、又は導入されるか、若しくは組み込まれる、残りの実体と遺伝子型的に明確に異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子操作技法によって異なる細胞型に導入される核酸は、異種核酸である(発現されると、異種ポリペプチドをコードすることができる)。同様に、ウイルス粒子に組み込まれる細胞配列(例えば、遺伝子又はその一部)は、ウイルス粒子に関する異種ヌクレオチド配列である。
【0056】
「逆位末端反復」又は「ITR」配列は、反対の配向にあるウイルスゲノムの末端で見出される比較的短い配列である。「AAV逆位末端反復(ITR)」配列は、一本鎖AAVゲノムの両方の末端に存在する約145ヌクレオチド配列である。
【0057】
「対応する」という用語は、位置、目的、又は構造の類似性を示す相対的な用語である。特定のペプチド又はタンパク質に起因する質量スペクトルシグナルは、ペプチド又はタンパク質に対応するシグナルとも称される。ある特定の実施形態では、タンパク質などの特定のペプチド配列又はアミノ酸のセットを、対応するペプチド質量に割り当てることができる。
【0058】
本明細書で使用される場合の「単離される」という用語は、成分が自然に生じるか、又はトランスジェニックで発現される、生物の細胞中の他の生物学的成分から実質的に分離、産生、又は精製されている生物学的成分(核酸、ペプチド、タンパク質、脂質、ウイルス粒子、又は代謝産物など)を指す。
【0059】
「ペプチド」、「タンパク質」、及び「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合又はペプチド結合模倣体によって接合されるアミノ酸及び/又はアミノ酸類似体のポリマーを互換的に指す。20個の天然に存在するアミノ酸並びにそれらの1文字及び3文字の指定は、以下の通りである:アラニンA Ala、システインC Cys、アスパラギン酸D Asp、グルタミン酸E Glu、フェニルアラニンF Phe、グリシンG Gly、ヒスチジンH His、イソロイシンI He、リジンK Lys、ロイシンL Leu、メチオニンM Met、アスパラギンN Asn、プロリンP Pro、グルタミンQ Gln、アルギニンR Arg、セリンS Ser、トレオニンT Thr、バリンV Val、トリプトファンw Trp、及びチロシンY Tyr。
【0060】
アミノ酸の質量への言及は、天然存在量などの所与の同位体存在量でのアミノ酸のモノアイソトピック質量又は平均質量を意味する。いくつかの実施例では、アミノ酸の質量は、例えば、アミノ酸を同位体で標識することによって歪曲され得る。アミノ酸の平均質量の周囲のある程度の変動が、アミノ酸の正確な同位体組成に基づいて、個々の単一アミノ酸について予期される。アミノ酸のモノアイソトピック質量又は平均質量を含む質量は、当業者によって容易に取得可能である。
【0061】
同様に、ペプチド又はタンパク質の質量への言及は、天然存在量などの所与の同位体存在量でのペプチド又はタンパク質のモノアイソトピック質量又は平均質量を意味する。いくつかの実施例では、ペプチドの質量は、例えば、ペプチド及びタンパク質中の1つ以上のアミノ酸を同位体で標識することによって歪曲され得る。ペプチドの平均質量の周囲のある程度の変動が、ペプチドの正確な同位体組成に基づいて、個々の単一ペプチドについて予期される。特定のペプチドの質量を、当業者によって決定することができる。
【0062】
本明細書で使用される場合の「ベクター」とは、インビトロ又はインビボのいずれかで宿主細胞内に送達される核酸を含む、組換えプラスミド又はウイルスを指す。
【0063】
「組換えウイルスベクター」とは、1つ以上の異種配列(すなわち、ウイルス起源ではない核酸配列)を含む組換えポリヌクレオチドベクターを指す。
【0064】
「親水性相互作用クロマトグラフィー」又はHILICという用語は、親水性化合物が疎水性化合物よりも長く保持される、親水性固定相及び疎水性有機移動相を採用するプロセスを含むことを意図している。ある特定の実施形態では、本プロセスは、水混和性溶媒移動相を利用する。
「逆相液体クロマトグラフィー」又はRPLCという用語は、分析物と固定相(例えば、基質)との間の非極性相互作用に基づいて分析物を分離するプロセスを含むことを意図している。非極性分析物は、非極性固定相と会合し、それによって保持される。吸着強度は、分析物の非極性とともに増加し、非極性分析物と(移動相に対する)非極性固定相との間の相互作用は、溶出時間を増加させる。移動相におけるより非極性溶媒の使用が、分析物の保持時間を減少させる一方で、より極性の溶媒は、保持時間を増加させる傾向がある。
【0065】
「アニオン交換クロマトグラフィー」又はAEXという用語は、ジエチル-アミノエチル基などの正電荷を持つ基を含むイオン交換樹脂を使用して、それらの電荷に基づいて物質を分離する、プロセスを含むことを意図している。溶液中、樹脂は、正電荷を持つ対イオンで被覆される。
【0066】
概要
本開示は、ウイルス粒子(例えば、AAV粒子)の試料のウイルスタンパク質成分の敏感かつ迅速な同定及び定量的特性評価を提供する、二次元液体クロマトグラフィー及びネイティブ質量分析(MS)方法を提供する。AAV粒子の試料のウイルスカプシド成分のウイルスタンパク質成分などのウイルス粒子組成物のウイルスタンパク質成分の完全な特性評価が、製品の品質及び一貫性を確保して、組成物の安全性及び有効性を維持するために必要である。
【0067】
組換えウイルスベクター組成物(例えば、AAVベクター組成物)は、様々なレベルのウイルスタンパク質、並びに様々な産生、精製、及び貯蔵条件から生じる、そのようなウイルスタンパク質の翻訳後修飾を含むことができる。本方法は、ウイルス粒子の試料中のウイルスカプシド成分の比を同定及び定量化し、かつウイルスタンパク質のアセチル化、リン酸化、酸化、及び断片化バリアントを含む、低存在量ウイルスタンパク質成分を含む、ウイルス粒子のウイルスタンパク質成分を同定及び定量化するための分析技法を提供する。
【0068】
ウイルスタンパク質成分を同定及び定量化するための方法
本開示の態様は、二次元液体クロマトグラフィー質量分析(2DLC-MS)システムにおいてウイルス粒子(例えば、組換えAAV粒子)の試料中のウイルスタンパク質成分を同定及び定量化するための方法を対象とする。
【0069】
場合によっては、本方法は、(a)ウイルス粒子の試料に一次元クロマトグラフィーを受けさせて、試料のインタクトなウイルスカプシド成分を分離することと、(b)インタクトなウイルスカプシド成分の少なくとも一部にオンライン変性を受けさせて、個々のインタクトなウイルスタンパク質を生じさせることと、(c)インタクトなウイルスタンパク質に二次元クロマトグラフィーを受けさせて、インタクトなウイルスタンパク質を分離することと、(d)分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定して、ウイルス粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定することと、を含む。
【0070】
場合によっては、本方法は、(a)AAV粒子の試料にアニオン交換クロマトグラフィーを受けさせて、試料中のインタクトなウイルスカプシド成分を分離することであって、インタクトなウイルスカプシド成分が、異種核酸分子を含むインタクトな空ウイルスカプシド及びインタクトな完全ウイルスカプシドを含む、分離することと、(b)オンライン脱塩及び変性のためにインタクトなウイルスカプシド成分の一部を選択することと、(c)インタクトなウイルスカプシド成分の選択された一部にオンライン脱塩及び変性を受けさせて、個々のインタクトなウイルスタンパク質を生じさせることであって、インタクトな個々のウイルスタンパク質が、VP1、VP2、VP3、及びVP1、VP2、又はVP3の少なくとも1つのバリアントを含む、生じさせることと、(d)インタクトなウイルスタンパク質に逆相液体クロマトグラフィー又は親水性相互作用液体クロマトグラフィーを受けさせて、インタクトなウイルスタンパク質を分離することと、(e)分離されたインタクトなウイルスタンパク質の質量を決定して、AAV粒子の試料のウイルスタンパク質成分を同定することと、を含む。
【0071】
本方法の様々な実施形態では、ウイルスタンパク質成分は、ウイルスタンパク質及びウイルスタンパク質の翻訳後バリアントを含む。例えば、AAV粒子の組成物では、ウイルスタンパク質成分は、ウイルスタンパク質VP1、VP2、及びVP3、並びに場合によっては、VP1、VP2、及び/又はVP3のアセチル化、リン酸化、及び/又は酸化バリアント、並びに/若しくはペプチド結合の切断(例えば、アスパラギン酸-プロリン結合の切断及び/又はアスパラギン酸-グリシン結合の切断)から産生されるVP1、VP2、及び/又はVP3の断片を含む、VP1、VP2、及び/又はVP3の翻訳後バリアントを含む。
【0072】
本明細書で開示される方法では、2DLC-MSシステムは、図2A及び図2Bに図示される概略図によって例示される。図2Bに示される実施例では、2DLC-MSシステム100は、ウイルス粒子101(例えば、AAV粒子)が導入されて、試料のウイルスカプセル成分を相互から分離する、一次元液体クロマトグラフィーカラム102(例えば、AEXカラム)と、一次元カラム102から溶出液を検出するための検出器104(例えば、FLR検出器)と、試料の溶出及び分離されたウイルスカプシド成分の一部の選択を可能にするためのピークピッキング又はハートカッティングソフトウェア106と、オンライン脱塩及び変性のため、かつ二次元クロマトグラフィーカラムに移送される選択されたウイルスカプシド成分を一時的に貯蔵するためのトラッピングループ108と、選択されたウイルスカプシド成分が移送されて、インタクトなウイルスタンパク質を相互から分離するために勾配が適用される前に(例えば、開始移動相を介して)ウイルスカプシドからインタクトなウイルスタンパク質を生じさせる、二次元クロマトグラフィーカラム110(例えば、RPLCカラム)と、二次元クロマトグラフィーカラム110から溶出液を検出するための検出器112(例えば、FLR検出器)と、分離されたウイルスタンパク質の質量を決定し、それによって、質量スペクトル116においてウイルス粒子101の試料のウイルスタンパク質成分を同定するための質量分析計114(例えば、ESI-MS)と、を含む。MS特性評価のために二次元でMS適合性試薬を使用する前に、一次元での高分解能分離のためにMS不適合性塩を組み込む能力における、本明細書で考察される2DLC-MSシステムの1つの利点。この利点は、例えば、図2Cに例示される弁設定を使用して達成することができる。図2Dに示されるように、オンライン変性は、ウイルスタンパク質の効率的な分離を可能にする。
【0073】
本明細書で考察される方法の様々な実施形態では、一次元クロマトグラフィーにおけるウイルスカプシド成分(例えば、空カプシド及び完全カプシド)の分離を使用して、ウイルス粒子の試料内のカプシド成分の相対量を決定することができる。AEXクロマトグラフィーとの関連で、例えば、空ウイルスカプシド(すなわち、異種核酸分子を含まないもの)は、部分的完全ウイルスカプシド及び完全ウイルスカプシド内に封入された負電荷を持つ核酸(例えば、DNA)が、正電荷を持つAEX樹脂に対して、より低い等電点(pI)値及びより高い親和性をもたらすため、部分的完全ウイルスカプシド又は完全ウイルスカプシドの前に溶出する。この分離の例は、目的の遺伝子(GOI)を含むカプシドの前に溶出するAAV1、AAV5、及びAAV8空カプシドを示す、図3Bに図示される。そのような分離は、例えば、図3Aに示されるように、塩化テトラメチルアンモニウム又は塩化テトラエチルアンモニウムを使用して達成することができる。図5に図示されるように、次いで、(例えば、蛍光検出器を介した)溶出されたウイルスカプシド成分の検出を使用して、空カプシド対GOIを含むカプシドの比を決定することができる。これらのデータは、AUC測定値から生成されたデータと一致し、これは概して、空、部分的、及び完全ウイルスカプシド成分の相対量を決定するための最先端の技術とみなされる(部分的完全又は完全ウイルスカプシド成分が、図5に示される表のAEXカラムにおいて組み合わせられることに留意されたい)。
【0074】
様々な実施形態では、本開示の方法を使用して、2DLC-MSシステムを受けた試料のウイルス粒子内に含有される様々なウイルスタンパク質成分の同一性及び化学量論を決定することができる。実施形態では、一次元クロマトグラフィーからの分離されたウイルスカプシド成分は、変性を受けて、ウイルスカプシド(例えば、AAVカプシドのVP1、VP2、及びVP3)を以前に含んだインタクトなウイルスタンパク質を生じさせる。次いで、インタクトなウイルスタンパク質は、二次元クロマトグラフィーを受けて、ウイルスタンパク質の修飾バリアント(例えば、自然に、又は産生、精製、若しくは貯蔵条件から生じる翻訳後バリアント)を含み得る、ウイルスタンパク質を分離する。この分離の例は、GOIの存在がウイルスタンパク質の分離に影響を及ぼさないことを示す図3C、及びRPLCカラム上で分離された空AAV8カプシドのウイルスタンパク質を示す図3D(上)に図示される。図3Dのクロマトグラムは、AAVカプシドの3つの天然ウイルスタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)のピーク、並びにペプチド結合の切断から産生されたVP3のバリアント(未特定)のピークを示す。
【0075】
次いで、分離されたウイルスタンパク質は、質量分析を受けて、様々なウイルスタンパク質の同一性を確認する。質量スペクトルの例は、VP2ウイルスタンパク質及び(AAVカプシド由来の)リン酸化VP2ウイルスタンパク質の同定を示す、図3D(下)に図示される。ウイルスタンパク質の相対比の更なる同定、並びにウイルスタンパク質及びバリアントの同定が、図6、7A、7B、7C、及び7Dに図示される。
【0076】
本明細書で考察される方法の実施形態では、2DLC-MSシステムの二次元クロマトグラフィー及び質量分析部分における変性及び分離/分析のために、一次元クロマトグラフィーにおいて分離されたウイルスカプシド成分のサブセットを選択することも可能である。図4Aに図示されるように、「ハートカッティング」を実施して、二次元クロマトグラフィーにおける更なる処理、及び後続の質量分析のために、一次元クロマトグラフィーから溶出液の特定部分を選択することができる。この技法は、調査中の試料中に存在し得るウイルスタンパク質の低存在量種などの具体的な成分の分解能及び分析の改善を可能にする。また、複数の「ハートカッティング」を使用して、図4Bに示されるように、一次元クロマトグラフィーからの様々なピークを分析することもできる。
【0077】
本明細書で考察される方法は、カプシドについての情報が所望される目的のウイルス粒子などのウイルス粒子のウイルスカプシドのタンパク質成分を分離するために、ウイルスタンパク質の試料に逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)又は親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)を受けさせることを含む。実施形態では、RPLC又はHILICカラムは、一次元クロマトグラフィー及び変性後に、インタクトなウイルスタンパク質と接触される。ある特定の実施形態では、本方法は、例えば、本明細書に記載されるものなどの質量分析技法を使用して、ウイルスカプシドのタンパク質成分の質量を決定し、二次元クロマトグラフィー(例えば、RPLC又はHILIC)によって分離されたタンパク質成分を同定することを含む。実施形態では、本方法は、例えば、RPLC又はHILICカラムから溶出されるにつれて、ウイルスカプシドのタンパク質成分の紫外線(UV)検出又は蛍光(FLR)検出を使用して、分離からのウイルスカプシドのタンパク質成分の相対存在量を計算し、ウイルス粒子のウイルスカプシドのタンパク質成分の化学量論を決定することを含む。例えば、UV又はFLRピークの面積は、カプシドタンパク質の相対存在量を決定するために使用し、かつウイルスカプシド中のカプシドタンパク質の化学量論を計算するために使用することができる。別の実施例では、ピーク高さ及び/又はピークUV若しくはFLR強度は、相対存在量を決定するために使用される。いくつかの実施形態では、二次元クロマトグラフィーカラム(例えば、RPLC又はHILIC)上の異なるタンパク質の保持時間は、使用される移動相の関数として決定され、後続の分析では、この保持時間を使用して、化学量論の決定が行われる度に、タンパク質の質量及び/又は同一性を決定する必要なく、ウイルス粒子からタンパク質及びタンパク質の相対存在量を決定することができ、例えば、1つ又は複数の標準値を作成することができる。場合によっては、二次元クロマトグラフィーカラムを、ウイルスタンパク質成分の変性及び分離の両方に使用することができる。場合によっては、本明細書で考察される方法を使用して、ウイルス粒子の血清型を決定することができる。例えば、各AAV血清型のVP1、VP2、及びVP3の質量は、固有であり、AAVカプシド血清型を同定又は区別するために使用することができる。加えて、分離されたカプシドタンパク質は、例えば、インタクトなタンパク質レベルでの正確な質量測定による、カプシドタンパク質のタンパク質配列及び翻訳後修飾の決定などの下流分析を受けることができる。
【0078】
本明細書で考察される方法のいくつかの実施形態では、本方法を使用して、ウイルス粒子のカプシド中のタンパク質成分の異種性を決定することができる。実施形態では、本方法は、ウイルス粒子に一次元クロマトグラフィーを受けさせて、ウイルスカプシド成分を分離することと、ウイルスカプシド成分の少なくとも一部に二次元クロマトグラフィーを受けさせて、ウイルス粒子カプシドのタンパク質成分を分離することと、を含む。実施形態では、本方法は、ウイルスカプシドのタンパク質成分の質量を決定することを含む。場合によっては、ウイルスカプシドのタンパク質成分の質量は、ウイルスカプシドの理論的質量と比較される。ウイルスカプシドのタンパク質成分の質量のうちの1つ以上の偏差は、カプシドの1つ以上のタンパク質が異種であることを示す。逆に、いかなる偏差も、カプシドのタンパク質が同種であることを示さない。実施形態では、異種性は、混合血清型、バリアントカプシド、カプシドアミノ酸置換、短縮カプシド、又は修飾カプシドのうちの1つ以上に起因する。いくつかの実施形態では、ウイルス粒子のウイルスカプシドのタンパク質成分の化学量論の決定、及びウイルス粒子のカプシド中のタンパク質成分の異種性の決定は、同じ試料で行われる。
【0079】
ある特定の実施形態では、ウイルス粒子は、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子であり、開示される方法を使用して、AAV粒子のカプシド中のタンパク質成分の同一性(及び任意選択的に化学量論)、及び/又はAAV粒子のカプシド中のタンパク質成分の異種性を決定することができる。実施形態では、タンパク質カプシドのタンパク質成分は、AAV粒子のVP1、VP2、及びVP3、並びにVP1、VP2、又はVP3の1つ以上のバリアントを含む。実施形態では、AAV粒子は、組換えAAV(rAAV)粒子である。実施形態では、AAV粒子は、異種導入遺伝子をコードするAAVベクターを含む。いくつかの実施形態では、本開示の決定又は計算された質量(例えば、AAV粒子のVP1、VP2、及び/若しくはVP3、又はそのバリアントの決定又は計算された質量)は、参照、例えば、1つ以上のAAV血清型のVP1、VP2、及び/若しくはVP3、又はそのバリアントの理論的質量と比較され得る。参照は、AAV血清型のうちのいずれかの1つ以上のVP1、VP2、及び/若しくはVP3、又はそのバリアントの理論的質量を含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、VP1、VP2、及び/若しくはVP3、又はそのバリアントの質量は、AAV1カプシド、AAV2カプシド、AAV3カプシド、AAV4カプシド、AAV5カプシド、AAV6カプシド、AAV7カプシド、AAV8カプシド、AAVrh8カプシド、AAV9カプシド、AAV10カプシド、AAV11カプシド、AAV12カプシド、又はそのバリアントのうちの1つ以上の理論的質量と比較される。いくつかの実施形態では、決定又は計算された質量(例えば、AAV粒子のVP1、VP2、及び/又はVP3の決定又は計算された質量)は、対応するAAV血清型のVP1、VP2、及び/又はVP3の理論的質量と比較され得る。
【0080】
ウイルス粒子
ある特定の態様では、ウイルス粒子は、AAV粒子であり、開示される方法を使用して、AAV粒子の試料中のウイルスカプシド成分の相対存在量、並びにウイルスカプシドのウイルスタンパク質成分の同一性及び化学量論を決定することができる。AAV粒子は、組換えAAV(rAAV)粒子であり得る。rAAV粒子は、異種導入遺伝子又は異種核酸分子をコードするAAVベクターを含む。
【0081】
ある特定の態様では、AAV粒子は、AAV1カプシド、AAV2カプシド、AAV3カプシド、AAV4カプシド、AAV5カプシド、AAV6カプシド、AAV7カプシド、AAV8カプシド、AAVrh8カプシド、AAV9カプシド、AAV10カプシド、AAV11カプシド、AAV12カプシド、又はそのバリアントを含む。ある特定の態様では、AAV粒子は、血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-Rh10、AAV-retro、AAV-PHP.B、AAV8-PHP.eB、又はAAV-PHP.Sの粒子である。いくつかの実施形態では、AAV粒子は、血清型AAV1又はAAV8の粒子である。
【0082】
AAVは、本開示のためのモデルウイルス粒子であったが、開示される方法は、様々なウイルス、例えば、ウイルス科、亜科、及び属を特性評価するために適用され得ることが企図される。本開示の方法は、例えば、ウイルス粒子を特性評価して、ウイルス粒子の組成物の産生、精製、又は貯蔵中に、そのような組成物中のウイルスカプシド成分の相対存在量、並びにウイルスカプシドのウイルスタンパク質成分の同一性及び化学量論を監視又は検出するために使用され得る。
【0083】
例示的な実施形態では、ウイルス粒子は、アデノウイルス科、パルボウイルス科、レトロウイルス科、バキュロウイルス科、及びヘルペスウイルス科からなる群から選択されるウイルス科に属する。
【0084】
ある特定の態様では、ウイルス粒子は、アタデノウイルス、アビアデノウイルス、イクタデノウイルス、マスタデノウイルス、シアデノウイルス、アンビデンソウイルス、ブレビデンソウイルス、ヘパンデンソウイルス、イテラデンソウイルス、ペンスチルデンソウイルス、アムドパルボウイルス、アベパルボウイルス、ボカパルボウイルス、コピパルボウイルス、ディペンドパルボウイルス、エリスロパルボウイルス、プロトパルボウイルス、テトラパルボウイルス、アルファレトロウイルス、ベータレトロウイルス、デルタレトロウイルス、イプシロンレトロウイルス、ガマレトロウイルス、レンチウイルス、スプマウイルス、アルファバキュロウイルス、ベータキュロウイルス、デルタバキュロウイルス、ガンマバキュロウイルス、イルトウイルス、マルディウイルス、単純ウイルス、バリセロウイルス、サイトメガロウイルス、ムロメガロウイルス、プロボシウイルス、ロゼロウイルス、リンフォクリプトウイルス、マカウイルス、ペルカウイルス、及びラジノウイルスからなる群から選択されるウイルス属に属する。
【0085】
ある特定の態様では、レトロウイルス科は、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプマウイルス、フレンドウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウマ免疫不全ウイルス(EIV)、ビスナ・マエディウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、又はサル免疫不全ウイルス(SIV)である。
【0086】
いくつかの態様では、ウイルス粒子(例えば、AAV粒子)は、異種核酸分子(例えば、治療用遺伝子又は目的の遺伝子)を含む。いくつかの態様では、異種核酸分子は、プロモーターに動作可能に連結される。例示的なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター及びCK6プロモーター、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、TKプロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター(TRE)、HBVプロモーター、hAATプロモーター、LSPプロモーター、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、E2Fプロモーター、テロメラーゼ(hTERT)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリベータ-アクチン/ウサギベータ-グロビンプロモーター、並びに伸長因子1-アルファプロモーター(EF1-アルファ)プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、プロモーターは、ヒトベータ-グルクロニダーゼプロモーター、又はニワトリベータ-アクチン(CBA)プロモーターに連結されたサイトメガロウイルスエンハンサーを含む。プロモーターは、構成的、誘導性、又は抑制性プロモーターであり得る。いくつかの態様では、本発明は、CBAプロモーターに動作可能に連結された本開示の異種導入遺伝子をコードする核酸を含む、組換えベクターを提供する。場合によっては、導入遺伝子のための天然プロモーター又はその断片が使用される。天然プロモーターは、導入遺伝子の発現が天然発現を模倣するべきであることが所望されるときに使用され得る。天然プロモーターは、導入遺伝子の発現が、時間的若しくは発生的に、又は組織特異的な様式で、又は具体的な転写刺激に応答して調節されなければならないときに使用され得る。更なる態様では、エンハンサー要素、ポリアデニル化部位、又はコザックコンセンサス配列などの他の天然発現制御要素もまた、天然発現を模倣するために使用され得る。
【0087】
二次元液体クロマトグラフィー質量分析(2DLC-MS)システム
本明細書に開示される方法は、ウイルス粒子に二次元液体クロマトグラフィー/質量分析(2DLC-MS)を受けさせることを含む。当技術分野で公知であるように、LC/MSは、イオンの物理的分離のための液体クロマトグラフィー、及びイオンからの質量スペクトルデータの生成のための質量分析を利用する。そのような質量スペクトルデータは、例えば、分子量又は構造、質量、量、純度などによる粒子の同定を決定するために使用され得る。これらのデータは、時間(例えば、保持時間)と比べた信号強度(例えば、存在量)、又は質量対電荷比と比べた相対存在量などの検出されたイオンの特性を表し得る。図2Bに図示される例示的な2DLC-MSシステムは、ウイルス粒子の試料中のウイルスカプシド成分の相対存在量を決定し、かつウイルスカプシド(又はその一部)のウイルスタンパク質成分を同定及び定量化するために使用することができる。しかしながら、図示される例示的なシステムに対する修正もまた、インタクトなウイルスカプシド成分の相対存在量を決定し、かつウイルスカプシドのウイルスタンパク質成分を同定及び定量化するために採用することができる。
【0088】
一次元及び二次元液体クロマトグラフィーカラム102及び110(図2Bを参照)の非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、及び疎水性クロマトグラフィーが挙げられる。HPLCを含む液体クロマトグラフィーは、ウイルス粒子の試料の成分をウイルスカプシド成分に分離し、かつ更なる分析のためにウイルスカプシドのウイルスタンパク質成分を分離するために使用することができる。いくつかの実施形態では、一次元クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィーを含み、二次元クロマトグラフィーは、逆相液体クロマトグラフィーを含む。いくつかの実施形態では、一次元クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィーを含み、二次元クロマトグラフィーは、親水性相互作用液体クロマトグラフィーを含む。
【0089】
様々な実施形態では、一次元クロマトグラフィーは、水中の20mMのビストリスプロパンを含有する移動相A、並びに20mMのビストリスプロパン及び1Mのテトラアルキルアンモニウム塩(例えば、塩化テトラメチルアンモニウム又は塩化テトラエチルアンモニウム)を含有する移動相Bを採用する、アニオン交換クロマトグラフィーを含む。場合によっては、テトラアルキルアンモニウム塩は、約0.1M~約10Mの濃度で存在する。様々な実施形態では、テトラアルキルアンモニウム塩は、約0.5M、約0.6M、約0.7M、約0.8M、約0.9M、約1M、約1.1M、約1.2M、約1.3M、約1.4M、約1.5M、約1.6M、約1.7M、約1.8M、約1.9M、約2M、約2.5M、約3M、約3.5M、約4M、約4.5M、約5M、約6M、約7M、約8M、約9M、又は約10Mの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、移動相A、移動相B、又は移動相A及び移動相Bの両方は、約1Mの塩化ナトリウムを含む。様々な実施形態では、塩化ナトリウムは、約0.1M~約10Mの濃度で存在する。様々な実施形態では、塩化ナトリウムは、約0.5M、約0.6M、約0.7M、約0.8M、約0.9M、約1M、約1.1M、約1.2M、約1.3M、約1.4M、約1.5M、約1.6M、約1.7M、約1.8M、約1.9M、約2M、約2.5M、約3M、約3.5M、約4M、約4.5M、約5M、約6M、約7M、約8M、約9M、又は約10Mの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、移動相A若しくは移動相B、又は両方は、上記の濃度のうちのいずれかでアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物塩(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、又はマグネシウムの塩化物、臭化物、又はヨウ化物塩)を含有する。場合によっては、移動相のpHは、約7~約12である。場合によっては、移動相のpHは、約8~約11である。場合によっては、移動相のpHは、約9、約9.1、約9.2、約9.3、約9.4、約9.5、約9.6、約9.7、約9.8、約9.9、又は約10である。いくつかの実施形態では、流量は、約0.1mL/分、又は約0.2mL/分、若しくは約0.3mL/分である。
【0090】
様々な実施形態では、二次元クロマトグラフィーは、逆相液体クロマトグラフィー又は親水性相互作用液体クロマトグラフィーを含む。場合によっては、二次元クロマトグラフィーは、水中の0.1%~0.5%ジフルオロ酢酸(DFA)を含有する移動相A、及びアセトニトリル(ACN)中の0.1%~0.5%DFAを含有する移動相Bを採用する、逆相液体クロマトグラフィーを含む。様々な実施形態では、DFA濃度は、約0.1%、約0.15%、約0.2%、約0.25%、約0.3%、約0.35%、約0.4%、約0.45%、又は約0.5%である。いくつかの実施形態では、流量は、約0.1mL/分、又は約0.2mL/分、若しくは約0.3mL/分である。
【0091】
様々な実施形態では、一次元及び/又は二次元クロマトグラフィーからの溶出液は、FLR検出器のUVを使用して検出される。場合によっては、FLR検出器は、約260nm~約300nm(例えば、約280nm)の励起波長、及び約310~約370nm(例えば、約330nm又は約350nm)の発光波長を利用した。
【0092】
様々な実施形態では、ウイルスカプシド成分(又はその一部)の変性は、約10%酢酸を用いて実施される。いくつかの実施形態では、変性は、変性プロセスから産生されたインタクトなウイルスタンパク質を分離するために勾配を適用する前に、ある期間(例えば、約10分)にわたって開始移動相を適用することによって、二次元クロマトグラフィーカラムにおいて達成される。いくつかの実施形態では、開始移動相は、80%の移動相A及び20%の移動相Bを含み、移動相Aは、水中の0.1%~0.5%ジフルオロ酢酸(DFA)を含み、移動相Bは、アセトニトリル中の0.1%~0.5%DFAを含む。
【0093】
いくつかの実施形態では、一次元クロマトグラフィー及び/又は二次元クロマトグラフィーの移動相は、水性移動相である。例示的な実施形態では、二次元クロマトグラフィーからウイルスタンパク質を溶出するために使用される移動相は、質量分析計と適合性がある移動相である。いくつかの例示的な実施形態では、一次元又は二次元液体クロマトグラフィーカラムで使用される移動相は、水、アセトニトリル、ジフルオロ酢酸、又はそれらの組み合わせを含むことができる。移動相は、イオン対合剤、例えば、アセトニトリル及び水のを含むか、又は含まない緩衝液を含み得る。イオン対合剤としては、酢酸塩、ジフルオロ酢酸、及び塩が挙げられる。緩衝液の勾配を使用することができ、例えば、2つの緩衝液が使用される場合、第1の緩衝液の濃度又は割合が減少し得る一方で、第2の緩衝液の濃度又は割合は、クロマトグラフィー実行にわたって増加する。例えば、第1の緩衝液の割合は、クロマトグラフィー実行にわたって、約100%、約99%、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約50%、約45%、若しくは約40%~約0%、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、又は約40%から減少し得る。別の実施例として、第2の緩衝液の割合は、同じ実行にわたって約0%、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、若しくは約40%~約100%、約99%、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約50%、約45%、又は約40%から増加し得る。ある特定の態様では、クロマトグラフィーにおける移動相Aの割合は、経時的に増加する。任意選択的に、第1及び第2の緩衝液の濃度又は割合は、クロマトグラフィー実行の終了時にその開始値に戻ることができる。割合は、線形勾配として、又は非線形(例えば、段階的)様式で徐々に変化し得る。例えば、勾配は、多相性、例えば、二相性、三相性などであり得る。
【0094】
いくつかの例示的な実施形態では、移動相は、約0.1μL/分~約100mL/分、又は約0.05mL/分~約5mL/分の液体クロマトグラフィーカラムを通した流量を有することができる。場合によっては、流量は、約0.05mL/分、約0.06mL/分、約0.07mL/分、約0.08mL/分、約0.09mL/分、約0.1mL/分、約0.11mL/分、約0.12mL/分、約0.13mL/分、約0.14mL/分、約0.15mL/分、約0.16mL/分、約0.17mL/分、約0.18mL/分、約0.19mL/分、約0.2mL/分、約0.21mL/分、約0.22mL/分、約0.23mL/分、約0.24mL/分、約0.25mL/分、約0.26mL/分、約0.27mL/分、約0.28mL/分、約0.29mL/分、約0.3mL/分、約0.4mL/分、約0.5mL/分、約0.6mL/分、約0.7mL/分、約0.8mL/分、約0.9mL/分、約1mL/分、約2mL/分、約3mL/分、約4mL/分、約5mL/分、約6mL/分、約7mL/分、約8mL/分、約9mL/分、又は約10mL/分である。場合によっては、流量は、0.1mL/分である。場合によっては、流量は、0.2mL/分である。
【0095】
いくつかの態様では、質量分析(例えば、本明細書に記載される2DLC-MSで使用される)は、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を指し得る。ESI-MSは、質量分析を使用して溶液に由来するイオンを分析するために電気エネルギーを使用する技法として当技術分野で公知である。溶液中又は気相中でイオン化される中性種を含むイオン種は、帯電液滴のエアロゾル中の分散によって溶液から気相に移送される。その後、溶媒蒸発が、帯電液滴のサイズを縮小するために行われる。次いで、溶液が接地に対する電圧を有する細い毛細管を通過するにつれて、試料イオンが帯電液滴から放出される。例えば、周辺ESIチャンバの壁は、試料を揮発性酸及び有機溶媒と混合し、高電圧で充電された導電性針を通してそれを注入することによって実施される。針端部から噴霧(又は放出)される帯電液滴は、質量分析計の中に指向され、飛行するにつれて熱及び真空によって乾燥させられる。液滴が乾燥した後、残りの帯電分子は、電磁レンズによって質量検出器の中に指向され、質量分析される。一態様では、溶出された試料は、毛細管からエレクトロスプレーノズルの中に直接堆積され、例えば、毛細管は、試料ローダとして機能する。別の態様では、毛細管自体は、抽出装置及びエレクトロスプレーノズルの両方として機能する。
【0096】
いくつかの例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化エミッタは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つのエミッタノズル、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、又は8つのエミッタノズルなどの複数のエミッタノズルを備える。いくつかの例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化エミッタは、8つのエミッタノズルを含む、Newomics(Berkeley,CA)からのM3エミッタである。
【0097】
いくつかの例示的な実施形態では、他のイオン化モード、例えば、ターボスプレーイオン化質量分析、ナノスプレーイオン化質量分析、サーモスプレーイオン化質量分析、音波スプレーイオン化質量分析、SELDI-MS及びMALDI-MSが使用される。一般に、(ESI-MSのような)これらの方法の利点は、試料の「ジャストインタイム」精製及びイオン化環境への直接導入を可能にすることである。様々なイオン化及び検出モードが、使用される脱着溶液の性質に独自の制約を導入することに留意することが重要であり、脱着溶液が両方に適合することが重要である。例えば、多くの用途における試料マトリクスは、低いイオン強度を有するか、又は特定のpH範囲内などで存在しなければならない。ESIでは、試料中の塩は、イオン化を低下させることによって、又はノズルを詰まらせることによって、検出を妨げ得る。この問題は、低塩で分析物を提示することによって、及び/又は揮発性塩の使用によって対処することができる。MALDIの場合、分析物は、標的上のスポッティング及び採用されるイオン化マトリックスに適合する溶媒中にあるべきである。
【0098】
いくつかの例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化源は、約1μL/分~約20μL/分の溶媒流量を有するエレクトロスプレーを提供する。様々な実施形態では、ESIエミッタ内への流量は、約1μL/分、約2μL/分、約3μL/分、約4μL/分、約5μL/分、約6μL/分、約7μL/分、約8μL/分、約9μL/分、約10μL/分、約11μL/分、約12μL/分、約13μL/分、約14μL/分、約15μL/分、約16μL/分、約17μL/分、約18μL/分、約19μL/分、又は約20μL/分である。
【0099】
質量分析計は、ネイティブESI質量分析システムであり得る。いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、四重極オービトラップハイブリッド質量分析計であり得る。四重極オービトラップハイブリッド質量分析計は、Q Exactive(商標)Focus Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)BioPharmaプラットフォーム、Q Exactive(商標)UHMR Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)HF Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)HF-X Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、及びQ Exactive(商標)Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計であり得る。いくつかの例示的な実施形態では、質量分析システムは、Thermo Exactive EMR質量分析計である。質量分析システムはまた、紫外線光検出器を含むこともできる。
【0100】
限定されないが、飛行時間(TOF)分析器、四重極質量フィルタ、四重極TOF(QTOF)、及びイオントラップ(例えば、フーリエ変換ベースの質量分析計又はオービトラップ)を含む、LC/MSに好適な様々な質量分析器が当技術分野で公知である。オービトラップでは、接地電位におけるバレル様外側電極及びスピンドル様中央電極が、遠心力及び静電力のバランスによって限定される、中心軸に沿った振動で中央電極の周囲を楕円形に回転する軌道でイオンを捕捉するために使用される。そのような機器の使用は、フーリエ変換動作を採用して、イメージ電流の検出からの時間ドメイン信号(例えば、周波数)を高分解能質量測定値に変換する。
【実施例
【0101】
以下の実施例は、本発明の方法及び組成物をどのように作製し使用するかという完全な開示及び説明を当業者に提供するように記載され、発明者がその発明とみなすものの範囲を限定することを意図していない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力がなされているが、いくらかの実験誤差及び偏差を考慮に入れるべきである。別段の指示がない限り、部は重量部、分子量は平均分子量、温度は摂氏、圧力は大気圧又は大気圧付近である。
【0102】
実施例1: AAVカプシドのウイルスタンパク質成分の特性評価
異なる血清型のAAV空及び完全試料を社内で調製した。空及び完全AAV試料を混合し、Agilent 1290 Infinity II 2D-LCシステムを使用して直接分析した。一次元では、空及び完全AAVカプシドを、ProPac SAX-10カラム(Thermo Scientific)によって分離した。二次元では、AAVカプシドを最初に変性及び脱塩し、ウイルスタンパク質をACQUITY UPLC Protein BEH C4カラム(Waters Corporation)によって分離した。ウイルスタンパク質のMS分析を、Q Exactive(商標)Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap質量分析計(Thermo Scientific)上で実施し、Xcalibur(Thermo Scientific)及びIntact Mass(商標)(Protein Metrics Inc.)を使用して、MSデータを分析した。
【0103】
化学物質及び試薬
別段の記載がない限り、全ての化学物質及び試薬を、MilliporeSigma(Burlington,MA,USA)から入手した。3つのAAV血清型(AAV8、AAV5、及びAAV1)の空カプシド及び完全カプシドが、Regeneron Pharmaceuticals Inc.(Tarrytown,NY,USA)において社内で産生され、詳細な試料情報及び濃度が、以下の表1に示される。アセトニトリル(ACN)を、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA,USA)から入手した。ジフルオロ酢酸(DFA)を、Waters Corporations(Milford,MA,USA)から購入した。脱イオン水(ミリQ水)を、Milli-Q一体型水精製システム(MilliporeSigma)から取得した。
【表1】
【0104】
アニオン交換クロマトグラフィー(AEX)実験
AAV試料を、いずれの試料前処理も伴わずにAEXによって直接分析した。蛍光検出器を装備したACQUITY UPLC I-Classシステム(Waters Corporation)上のThermo ProPac SAX-10カラム(10μm、2mm×250mm)(Thermo Fisher Scientific)を使用して、AEX分離を実施した。移動相A(MPA)は、ミリQ水中に20mMのビス-トリスプロパンを含有し、移動相B(MPB)は、ミリQ水中に20mMのビストリスプロパン、及び1Mの塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)又は塩化テトラエチルアンモニウム(TEAC)のいずれかを含有した。塩酸を使用して、MPA及びMPBの両方をpH9.5に調整した。AEXの流量は、0.2mL/分であり、勾配は、0~10分間の10%~30%MPB、10~10.1分間の30%~90%MPB、及び12分までの90%MPBからなった。MPBを12分~12.1分で10%まで低減し、次いで、20分の勾配の終了まで10%で維持した。全てのAEX分析のために、1μLの試料を注入した。それぞれ、280nm及び350nmの励起(Ex)波長及び発光(Em)波長とともに蛍光検出器を使用して、データを記録した。
【0105】
逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)実験
AAV試料を、RPLC分析の前に10分間、10%酢酸で変性させた。蛍光検出器を装備したACQUITY UPLC I-Classシステム(Waters Corporation)上のACQUITY UPLC Protein BEH C4カラム(1.7μm、300Å、2.1mm×150mm)(Waters Corporation)を使用して、RPLC実験を実施した。MPAをミリQ水中の0.1%DFAで調製し、MPBをアセトニトリル中の0.1%DFAで調製した。勾配を、0~1分で20%~32%MPBから開始して、続いて、1~16分で32%~36%MPB、20~21.5分で36%~80%MPB、21.5~22分で80%~20%MPB、次いで、30分の勾配の終了まで20%MPBで、0.2mL/分において実行した。全てのRPLC分析のために、1μLの試料を注入した。280nmのEx波長及び350nmのEm波長をとともに蛍光検出器を使用して、データを収集した。
【0106】
二次元液体クロマトグラフィー(2DLC)条件
2DLC実験を、Agilent 1290 Infinity II 2D-LC System(Agilent Technologies,Santa Clara,CA,USA)上で実施した。AEX勾配を、0.2mL/分の代わりに0.1mL/分の流量で一次元に適用した。このより低い流量では、40μLのトラッピングループは、0.4秒の試料トラッピングを可能にした。目的の遺伝子1(GOI1)を含有する6μLのAAV8試料を注入した。高分解能サンプリングのための時間ベースのモードを使用して、ハートカッティングを実施し、280nm波長におけるUVスペクトルに基づいて、ピークを選択した。次いで、試料を、トラッピングループから二次元RPカラムに移送した。RPLC勾配も二次元に適用し、80%MPAで10分間の保持期間を追加して、インタクトなウイルスカプシドのAEX分離及びオンライン変性に使用されたMS不適合性塩を除去した。ACQUITY UPLC Protein BEH C4カラム(1.7μm、300Å、2.1mm×50mm)(Waters Corporation)を、150mmの長さを有する分析カラムの前にトラップカラムとして使用した。迂回弁を利用して、変性及び除塩中に廃棄物に、かつ下流分析のために分析カラムに流動を指向した。分析カラムの温度を維持するために、追加のLCポンプを使用して、開始RPLC移動相を0.05mL/分で保った。
【0107】
質量分析(MS)データ収集
Thermo Scientific Q Exactive(商標)Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap質量分析計(Bremen,Germany)を使用して、RPLC-MSデータを収集した。データ収集のために、分解能を17,500に、AGC標的を3e6に、最大注入時間を500ミリ秒に設定した。スプレー電圧を3.8kVに設定し、SレンズRFレベルを50に設定した。シース及び補助ガス流は、それぞれ、40及び15であり、毛細管温度及び補助ガスヒーター温度は、両方とも250℃に設定された。1,000~3,000m/zのスペクトルを入手した。
【0108】
全ての2DLC-MSデータを、Thermo Scientific NanoSpray Flexイオン源を装備したThermo Scientific Orbitrap Exploris 480質量分析計(Bremen,Germany)上で収集した。Analytical Scientific Instruments(Richmond,CA,USA)からのナノフロースプリッタを50に設定し、エレクトロスプレーイオン化エミッタ先端(CoAnn Technologies,Richland,WA,USA)をエレクトロスプレーに使用した。データ収集のために、分解能、AGC標的、最大注入時間、及びマイクロスキャンの数を、それぞれ、15,000、3e6、自動、及び3に設定した。スプレー電圧を2,200Vに設定し、RFレンズレベルを50%に設定し、イオン移送管温度を275℃に設定した。1,000~3,000m/zの質量スペクトルを入手した。
【0109】
データ分析
Waters機器上で収集されたデータについては、分析をEmpower 3バージョン1.65上で実施した。Xcalibur 4.3.73.11を使用して、質量分析データを分析した。OpenLAB CDS ChemStation Edition Rev.C.01.07 SR2を使用して、Agilent機器上で収集されたデータを分析した。Intact Mass(商標)バージョン3.11-1(Protein Metrics Inc.,Cupertino,CA,USA)を使用して、インタクト質量分析を実施した。
【0110】
結果及び考察
2DLC-MSプラットフォーム(図2Bに図示される概略図)をAAV特性評価に利用した。本方法は、空及び完全ウイルスカプシド分離のために、一次元で高分解能AEXを実装した(図3A、3B、及び5)。MS不適合性塩のオンライン変性及び脱塩後、ウイルスタンパク質は、第2のRPLC次元におけるインタクトタンパク質分離及びMSによるインタクトタンパク質特性評価を受けた(図3C、3D、6、7A、7B、7C、7D、8A、及び8B)。
【0111】
一次元では、AEXを使用して、空及び完全AAVカプシドの分離を実施した。従来的に使用されている塩化ナトリウムと比較して、塩化テトラメチルアンモニウム及び塩化テトラエチルアンモニウムのいずれかを使用する塩勾配を用いて、空及び完全AAVカプシドを、全ての試験された試料についてベースライン分解した。空カプシド、及び目的の遺伝子(GOI)を含むカプシドを、AAV1、AAV5、及びAAV8血清型の各々について分離した(図3A及び3B)。空カプシド及び完全カプシドの分離は、AUCによって決定されたものと一致した、試料中の空カプシド及び完全カプシドの相対的割合の定量化を可能にした(例えば、図5)。一次元における空カプシド及び完全カプシドの高分解能分離後、オンライントラッピングを実施して、目的のピークを選択した。インタクトなAAVカプシドを、二次元におけるRPLC分析の前に個々のウイルスタンパク質に変性させた。RPLCの開始移動相組成物を使用して、酸性化を通してAAVカプシドを変性させるとともに、AEX分離で使用されるMS不適合性塩を除去した。二次元では、イオン対合試薬としてジフルオロ酢酸を使用するRPLCによって、ウイルスタンパク質を分離した。ウイルスタンパク質のMS分析は、非修飾、リン酸化、及び酸化的プロテオフォームを含む、低存在量種を明らかにした。加えて、VP2のリン酸化レベルの差異がAAV試料間で観察された(例えば、図7A、7B、7C、7D、8A、及び8B)。
【0112】
AAVカプシドは、3つのタイプのウイルスタンパク質(VP)サブユニットVP1、VP2、及びVP3を含み、1:1:10(VP1:VP2:VP3)の比で合計して60個のコピーになる。これらのカプシドタンパク質は、代替的に、1つのmRNAからスプライシングされ、したがって、共通配列を共有する。
【0113】
逆相液体クロマトグラフィー質量分析(RPLC-MS)分析では、主要なプロテオフォームには、アセチル化VP1及びそのリン酸化形態、VP2及びそのリン酸化形態、アセチル化VP3、並びにVP3クリップ種が含まれた。少量のプロテオフォームには、アスパラギン酸-プロリン(DP)結合の切断から生じるものが含まれた。このDP結合切断は、アセチル化VP1クリップ、VP2クリップ及びそのリン酸化形態、並びにアセチル化VP3クリップ及びDPクリップ断片を含む、種を生成する。クリップ種は、変性及び分離中に導入され得る、アスパラギン酸-プロリン(DP)結合の切断から生じる。加えて、非修飾及び酸化VP3種が、アスパラギン酸-グリシン(DG)結合が破壊された追加のアセチル化VP3クリップ種とともに観察された(図8A)。
【0114】
同様に、AAV1-空カプシド試料のRPLC-MS分析により、主要なプロテオフォームには、アセチル化VP1及びそのリン酸化形態、VP2及びそのリン酸化形態、アセチル化VP3、並びにDP結合切断から生じるVPクリップが含まれることが明らかになった。DP結合切断はまた、VP2クリップ及びそのリン酸化形態、並びにアセチル化VP3クリップ及びクリップ断片などのプロテオフォームを生成した。低存在量酸化プロテオフォームが、3つ全てのVPについて検出された。DG結合切断も観察され、追加のアセチル化VP3クリップ種及びDGクリップ断片を提供した(図8B)。
【0115】
プロテオフォーム同定に加えて、インタクト質量分析もまた、翻訳後修飾(PTM)レベルの差異を明らかにした。以前の研究は、Ser149がAAV8配列内の主要なリン酸化部位であることを示している。3つのウイルスタンパク質が代替的に切断されるため、Ser149は、VP3配列に含まれなかった。VP1中のリン酸化レベルは、3つのAAV8試料間で同様のままであったが、VP2中のリン酸化レベルは、著しく変化した(図8A)。GOIを含む両方のAAV8試料は、GOIを含まないAAV8試料と比較して、VP2リン酸化レベルの上昇を示した。AAV1については、リン酸化の差異は、空カプシド及び完全カプシドについてウイルスタンパク質では観察されなかった(図8B)。
【0116】
本明細書で実証された2DLC-MS法は、単一のシステムにおける高スループット及び多属性AAV特性評価を可能にした。一次元では、AEXは、TMAC又はTEACを使用して、空カプシド及び完全カプシドの高分解能分離を提供した。オンライン変性及び脱塩が、AAVカプシドをウイルスタンパク質に解離させるために達成された。二次元では、MSに結合するRPLCを使用して、ウイルスタンパク質を特性評価した。この方法を使用して、AAV試料を、試料前処理を伴わずに直接分析して、試料取扱を最小化し、試料損失を回避した。プラットフォームは、1つの分析で2つの特性評価技法を組み合わせ、良好な分離及び高い感度を提供し、主要及び少量の両方のウイルスタンパク質プロテオフォーム及び断片の検出を可能にした。
【0117】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施形態によって範囲を限定されるものではない。実際には、本明細書に記載されるものに加えて本発明の様々な修正が、前述の記載から当業者に明らかとなるであろう。そのような変更は、添付される特許請求の範囲の内にあることを意図している。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
【国際調査報告】