(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】繊維試料の疲労評価
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20240730BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G01N3/00 G
G01N3/32 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501656
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2022067230
(87)【国際公開番号】W WO2023285103
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521042714
【氏名又は名称】ユニリーバー・アイピー・ホールディングス・ベスローテン・ヴェンノーツハップ
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】リー,ケネス・スチュアート
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA15
2G061AB05
2G061BA15
2G061CA12
2G061CB05
2G061DA12
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB04
2G061EB05
(57)【要約】
毛髪繊維を含む繊維試料の疲労を評価するための装置、方法及び関連するコンピュータプログラムコードを開示する。本方法は、複数の負荷サイクルについて、繊維試料の疲労試験データを受け取ることであって、疲労試験データが、変位又は歪みに対する力又は応力のデータを含む、受け取ることと、サイクルの少なくとも1つの小集合について、疲労試験データからのデータに基づいて負荷エネルギーを特定することと、サイクルの少なくとも1つの小集合の負荷エネルギーに基づいて、繊維試料の疲労の指標を判定することと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪繊維試料の疲労を評価する方法であって、
複数の負荷サイクルについて、前記繊維試料の疲労試験データを受け取ることであって、前記疲労試験データが、変位又は歪みに対する力又は応力のデータを含む、受け取ることと、
前記サイクルの少なくとも1つの小集合について、前記疲労試験データからのデータに基づいて負荷エネルギーを特定することと、
前記サイクルの少なくとも1つの小集合の前記負荷エネルギーに基づいて、前記繊維試料の疲労の指標を判定することと、
を含む方法。
【請求項2】
疲労度の指標を判定することが、サイクル数に対する前記負荷エネルギーの変化率を判定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記負荷エネルギーの変化率が、前記複数のサイクルの前記負荷エネルギーの平滑値に基づく、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記疲労度の指標が、初期負荷サイクルに基づいて判定され、前記初期負荷サイクルが、10,000サイクル、20,000サイクル、又は50,000サイクルのうちの1つより少ないサイクルを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記疲労度の指標が、初期負荷サイクルに基づいて判定され、前記初期負荷サイクルとなる負荷サイクル数は、サイクル数に対する前記負荷エネルギーの初期勾配の変化率が閾値に達することによって判定される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維試料の初期状態の指標を、サイクル数に対する前記負荷エネルギーの最大値の数に基づいて判定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
サイクルの前記負荷エネルギーが、そのサイクルの負荷部分の変位/歪みに対する力/応力を積分することによって特定される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
サイクルの前記負荷エネルギーに基づいて前記疲労の指標を判定することが、そのサイクルの負荷部分の変位又は歪みに対する力又は応力を積分することによって判定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記疲労の指標を判定することが、そのサイクルの除荷部分の変位又は歪みに対する力又は応力を積分して、そのサイクル内で失われたエネルギーを特定することを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記疲労の指標が所定の値を満たすと判定したことに応答して、試料の自動試験スケジュールを中止することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記毛髪繊維試料が、ヒト又は動物の毛髪繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の負荷サイクルの疲労試験を実行することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
使用時に、請求項1~10のいずれかに記載の方法をプロセッサに実行させるように構成されたコンピュータプログラムコードを含む、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項14】
使用時に、請求項12に記載の方法を実行するように構成されたコントローラを備える疲労試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維試料の疲労を評価するための方法、並びに関連するコンピュータプログラムコード及び装置に関する。特に、本方法は、ヒト毛髪試料の疲労を評価することに関連し得る。
【背景技術】
【0002】
機械試験、特に引張試験及び疲労分析は、製品及び材料の特性を分析するために多様な産業で用いられており、技術者が設計及び化学配合を改善することを可能にしている。
【0003】
変化の早い消費財の分野では、ヘアケア製品の開発において、化学処理剤としての製品の効果を評価し、既存の配合物の効果と比較することができるように、毛髪繊維の特性に対する製品の効果を試験する必要がある。典型的には、そのような分析は、製品処理が適用されたものと適用されていないものとで、繊維の機械的特性を比較することによって行うことができる。これらの比較に用いられる一般的な機械的パラメータは、ヤング率である。これは、単純な引張試験(力対歪み、又は応力対歪みの測定)を用いて測定することができる。いくつかの例では、引張試験は、各種類(処理済対未処理)につき約50本の繊維に対して繰り返される。この種の試験は、「古典的な引張試験(classical tensile test)」と呼ばれることがある。実験全体は比較的迅速であり、これを配合物のスクリーニングに用いることによって、所望の方法で繊維試料の物理的特性に影響を与えた際の、それらの有効性を判定することができる。
【0004】
しかし、繊維疲労実験は、応力/歪み測定と比べて、ヒト毛髪を含むいくつかの材料の実世界の条件における性能と関連がより深い。いくつかの例では、疲労測定は試料の歪みと回復とを周期的に繰り返すことによって行われ得る。ヘアケア製品試験では、このような分析は、古典的な引張試験と比べて、グルーミング中に毛髪繊維が受ける機械的損傷をよく表す。典型的には、この周期的な過程を繊維が破断するまで繰り返してもよい。この種の試験は「単繊維疲労試験」と呼ばれることがある。「破断までのサイクル」の平均数は、多数の繊維(例えば、30本若しくは50本、又はそれ以上の繊維)について記録することができる。また、文献によれば、疲労測定では、従来の測定と比べて、毛髪の種類の違いがはるかに大きくなり得ることが報告されている。
【0005】
しかしながら、統計的に有意な疲労分析は非常に時間がかかるため、疲労測定を用いて活性組成物をスクリーニングすることは現在実現可能ではない。複数の繊維のそれぞれに対して、繊維が破損するまで測定を繰り返す(数千サイクル)必要があることが制限要因である。一例として、30本の繊維を必要とする研究では、実験全体に何週間もかかる可能性がある。
【0006】
実験パラメータを変更することによって、繊維破断を加速することが可能であってもよい。これには、実験で使用される応力、力又は歪みの量を変更することを含み得る。同様に、実験が行われる湿度又は他の環境パラメータを調整して、繊維を破断するのに必要なサイクル数に影響を及ぼすことができる。しかしながら、これらの物理的パラメータを大幅に変更すると、試験が実世界の、消費者に関連する条件から実質的に逸脱する可能性があり、したがって評価の証明力が低下する可能性がある。
【0007】
本開示のいくつかの態様は、配合物のスクリーニングが実用的となるように、所望の消費者関連条件内で毛髪繊維疲労測定を迅速化する方法に関する。
【0008】
本開示の他の態様は、試験中の繊維試料の初期物理的特性を識別することに関する。
【発明の概要】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、1つ又は複数の繊維試料の疲労を評価する方法であって、
複数の負荷サイクルについて、繊維試料の疲労試験データを受け取ることと、
サイクルの少なくとも1つの小集合について、疲労試験からのデータに基づいて負荷エネルギーを特定することと、
サイクルの少なくとも1つの小集合の負荷エネルギーに基づいて、疲労の指標を判定することと、
を含む方法が提供される。
【0010】
疲労試験は、単繊維疲労試験であってもよい。
【0011】
1つ又は複数の実施形態では、疲労度の指標を判定することは、サイクル数に対する負荷エネルギーの変化率を判定することを含む。
【0012】
1つ又は複数の実施形態では、負荷エネルギーの変化率は、複数のサイクルの負荷エネルギーの平滑値に基づく。
【0013】
1つ又は複数の実施形態では、疲労度の指標は、初期負荷サイクルに基づいて判定される。
【0014】
1つ又は複数の実施形態では、疲労試験データの複数サイクルは、10,000サイクル、20,000サイクル、又は50,000サイクルのうちの1つより少ないサイクルを含む。
【0015】
1つ又は複数の実施形態では、方法は、繊維試料の初期状態の指標を、サイクル数に対する負荷エネルギーの最大値の数に基づいて判定することを更に含む。
【0016】
1つ又は複数の実施形態では、疲労試験データは、変位又は歪みに対する力又は応力のデータを含む。更に、力又は引張変位を用いる代わりに、疲労試験データは、変位又は歪みの関数として、曲げ又は捻りの力又は応力を含んでもよい。
【0017】
1つ又は複数の実施形態では、1サイクルの負荷エネルギーは、そのサイクルの負荷部分の変位又は/歪みに対する力又は/応力を積分することによって特定される。
【0018】
1つ又は複数の実施形態では、1サイクルの負荷エネルギーは、そのサイクルの負荷/除荷ヒステリシス内の変位又は/歪みに対する力又は/応力を積分することによって特定される。方法は、コンピュータで実装される方法であってもよい。
【0019】
1つ又は複数の実施形態では、1サイクルの負荷エネルギーに基づいて疲労の指標を判定することは、そのサイクルの負荷部分の変位又は歪みに対する力又は応力を積分することによって判定することを含む。
【0020】
1つ又は複数の実施形態では、疲労の指標を判定することは、そのサイクルの除荷部分の変位又は歪みに対する力又は応力を積分して、そのサイクル内で失われたエネルギーを特定することを更に含む。
【0021】
1つ又は複数の実施形態では、本方法は、疲労の指標が所定の値を満たすと判定したことに応答して、試料の自動試験スケジュールを中止することを更に含む。
【0022】
1つ又は複数の実施形態では、1つ又は複数の繊維試料は、ヒト又は動物の毛髪繊維を含む。
【0023】
1つ又は複数の実施形態では、方法は、複数の負荷サイクルの疲労試験を実行することを更に含み、この試験は自動試験スケジュールとして実行されてもよい。
【0024】
本開示の更なる実施形態によれば、方法であって、
複数の負荷サイクルについて、繊維試料の疲労試験データを受け取ることと、
サイクルの少なくとも1つの小集合について、疲労試験からのデータに基づいて負荷エネルギーを特定することと、
サイクル数に応じた負荷エネルギーの特徴に基づいて、繊維の初期状態の指標を判定することと、
を含む方法が提供される。
【0025】
別の態様によれば、本開示は、電子データ伝送によって配布可能なコンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータにロードされたときに、本明細書に記載の方法のいずれかの手順をコンピュータに実行させるように適合されたコンピュータプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム、又は、前記プログラムがコンピュータにロードされたときに、本明細書に記載の方法のいずれか1つの手順をコンピュータに実行させるように適合されたコンピュータプログラムコード手段を有するコンピュータ可読媒体、を含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【0026】
本開示の更なる実施形態によれば、使用中に、本明細書に記載の方法の1つ又は複数を実行するように構成されたコントローラを備えた疲労試験装置が提供される。
【0027】
ここで、添付の図面を参照して、1つ又は複数の実施形態を例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】繊維試料の疲労を評価する方法を示す図である。
【
図2】繊維負荷サイクルの、力-歪みヒステリシス曲線のプロット図である。
【
図3】サイクル数の関数としての、測定された負荷エネルギーのプロット図である。
【
図4】
図3のものよりも顕著に多い部分的破断点を有する試料についての、サイクル数の関数としての、測定された負荷エネルギーのプロット図である。
【
図5】「破断までのサイクル」実験の結果を、未処理の毛髪試料と熱処理された毛髪試料とを比較して示す図である。
【
図6A】
図1~
図4を参照して前述の分析方法を適用した結果を、未処理の毛髪試料と熱処理された毛髪試料とを比較して示す図である。
【
図6B】
図1~
図4を参照して前述の分析方法を適用した結果を、未処理の毛髪試料と熱処理された毛髪試料とを比較して示す図である。
【
図6C】
図1~
図4を参照して前述の分析方法を適用した結果を、未処理の毛髪試料と熱処理された毛髪試料とを比較して示す図である。
【
図7】繊維試料の疲労を評価する方法を実行するためのシステムの概略ブロック図である。
【
図8】コンピュータプログラムコードを含むコンピュータ可読媒体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、繊維試料の疲労を判定する改善された方法に関する。場合によっては、熱処理などの損傷処理、又は様々なシャンプー若しくは他の消費者製品配合物などの化学処理についての効率的な比較試験を可能にするために、繊維試料は、ヒト又は動物の毛髪繊維を含んでもよい。あるいは、繊維試料は、合成繊維又は天然繊維を含んでもよい。
【0030】
図1は、繊維試料の疲労を評価するための例示的な方法100を概説している。方法は、複数の負荷サイクルについての繊維試料の疲労試験データを受信すること102を含む。疲労試験データは、変位又は歪みに対する力又は応力のデータを含んでもよい。いくつかの例では、方法は、疲労試験を行って疲労試験データを取得することを含むことができ、実際には、複数の異なる試料に対して様々な条件で試験を行い、1つ又は複数の製品の性能の比較を可能にし得ることが理解されよう。
【0031】
サイクルの少なくとも1つの小集合について、疲労試験からのデータに基づいて負荷エネルギーが特定される(104)。
【0032】
次いで、サイクルの少なくとも1つの小集合の負荷エネルギーに基づいて、疲労の指標が判定される(106)。
【0033】
特許請求された方法100は、実際の破断事象の発生を待つ必要なく、実験中の繊維破断を予測する方法を提供する。これにより、様々な処理配合物の有効性を評価する際の効率を改善することができ、所与の期間内に更に多くの配合物をスクリーニングすることができる。特に、負荷エネルギーを用いることによって、繊維試料間での疲労性能の有用な比較を、繊維試料を破損するまで試験する必要なく行えるようになる予測因子が提供されることが分かった。したがって、本明細書に記載の疲労試験データは、繊維試料の破損試験を必ずしも含まない。
【0034】
疲労の指標の判定を含む本方法の様々な態様は、
図2~
図4を参照して以下で更に詳述される。特に、疲労の第1の指標が
図3を参照して説明され、疲労の第2の指標が
図4を参照して説明される。
【0035】
以下の説明から理解されるように、本方法の様々な態様によって、適用される疲労サイクルの数に伴い変化する特定のパラメータの変遷を研究することが可能となる。いくつかの例では、試料の各セットの結果を、従来の、破断までのサイクル数での疲労測定の評価指標と相関させることができる。
【0036】
図2は、単一の負荷サイクルについての、負荷サイクル200の例示的な力-歪みヒステリシス曲線を示す。X軸は、繊維試料に生じる歪み210を示し、Y軸は、試料にかかる力208を表す。代替的に、Y軸は応力を示し、X軸は歪みを示し、同様の結果を得ることができる。繊維試料に印加される力は、試験対象の材料に応力を誘発する。選択されたサイクルについて捕捉されたデータは、試料の、サイクル200の負荷部分202全体(上の曲線)と、サイクル200の除荷部分204全体(下の曲線)とを含む。実験は、所定の応力まで伸長させることによって行った。サイクルの負荷部分は、この応力に達したときに終わる。実験の他の実施態様では、一定の力又は一定の歪みを用いることができる。
【0037】
サイクル200の力/歪み負荷部分202の下の領域は、負荷エネルギーの尺度となる。所与のサイクルの負荷エネルギーは、そのサイクルの負荷部分202の変位/歪みに対する力/応力を積分することによって特定し得る。負荷エネルギーは、繊維試料に印加される負荷サイクル数に伴い変化する。負荷エネルギーパラメータを使用して、繊維試料が破断するのに必要なサイクル数を特定することができる。したがって、負荷エネルギーを監視することによって、繊維試料の疲労の予測可能な評価が得られる。例えば、この分析によって、必ずしも破断繊維ごとの予測を行えるわけではないが、特定された値に基づいて繊維試料間の疲労性能を比較することができる。サイクル数に対する負荷エネルギーの変化率が大きい繊維試料は、変化率が小さい繊維試料よりも高い疲労度を示す。
【0038】
疲労試験データは、既存の市販の機器を使用し、標準的なデータ取得パラメータ及び技術を用いて取得することができる。疲労データは、ダイアストロン(Dia-Stron)CYC801を用いて取得してもよい。従来の実験では、破断までのサイクル数のみが記録される。一方、本開示の方法では、サイクルの少なくとも1つの小集合について、疲労試験からのデータに基づいて負荷エネルギーが特定される。図示のデータでは、疲労実験の選択されたサイクルの間(この例では200サイクルごと)に、力/歪み曲線が記録されている。
【0039】
負荷部分202と除荷部分204との間の領域206は、負荷サイクル200の間に失われたエネルギーの量を示す。領域206によって示される損失エネルギーは、負荷曲線202の下の領域(負荷エネルギー)から除荷曲線204の下の領域(除荷エネルギー)を引いたものに相当する。
【0040】
負荷エネルギーから導出された追加のパラメータを使用して、疲労の指標を判定してもよい。サイクル200の負荷部分202の下の領域、又はサイクル200の除荷部分204の下の領域又はヒステリシス曲線内の領域206を用いて、そのサイクル中に繊維試料を通して失われたエネルギーを特定することができる。サイクルで失われたエネルギーは、繊維破断の予測指標をもたらすパラメータとして使用することができる。より具体的には、選択された各サイクルについて測定された、サイクル200の負荷部分202、サイクル200の除荷部分202、及びヒステリシス曲線内の領域206の形状の変化によって、繊維破断又は疲労の可能性の指標を判定できるようになる。
【0041】
疲労の指標を判定する方法の第1の態様は、
図3に関して以下に説明される。
【0042】
図3は、物理的検体(すなわち繊維試料)の選択されたデータ試料302を含む、時系列グラフ300を示す。グラフ300は、選択された各試料302のサイクル数306に対する負荷領域304を示す。
図3の各点は、選択されたサイクルの負荷エネルギーを表し、これは、例えば、
図2を参照して前述した測定を用いて、各点について特定することができる。あるいは、各点は、サイクル中に失われるエネルギー(負荷エネルギーから除荷エネルギーを引いたもの)などの、負荷エネルギーから導出されるパラメータに対応してもよい。
【0043】
疲労は、負荷サイクル数に対する負荷曲線の変化によって実証されることが分かっている。負荷サイクルという用語は、本明細書で用いられる場合、その従来の意味、すなわち負荷が印加され除去されるサイクルであることが理解されよう。したがって、負荷曲線の下の領域の変遷は、破損の予測パラメータとして、及び疲労の指標として使用することができる。
図3のデータの傾向を用いることによって、繊維が完全に破壊される前に繊維破断の兆候/予測を提供することができる。例えば、
図3に示すように、初めに負荷エネルギー(負荷領域304によって示される)は、サイクル数306が増加するにつれて減少する。特に、負荷エネルギーは、サイクル数306の対数として減少する。
【0044】
サイクル数306が増加するにつれて繊維は弱くなり、したがって各サイクル中に失われるエネルギー量(すなわち、負荷曲線の下の負荷領域304)も減少する。これは、印加された力によって繊維試料が変形しやすくなるためと考えられる。
【0045】
疲労度の指標は、サイクル数に対する負荷エネルギーの変化率を判定することを含む。特に、サイクル数に対する負荷エネルギーの初期勾配は、疲労の有用な指標を提供し得ることが分かっている。疲労度の指標は、初期負荷サイクルに基づいて判定されてもよい。これは、繊維試料の初期状態に対して失われたエネルギーを比較することによって、例えば、負荷領域が10%又は20%などの閾値水準だけ減少したときに判定することができる。あるいは、初期負荷サイクルは、例えば5,000、10,000、20,000又は50,000サイクルなどの、固定数のサイクルを含むことができる。更なる代替として、初期負荷サイクルとなる負荷サイクル数は、サイクル数に対する負荷エネルギーの初期勾配の変化率が閾値に達する時点を判定することに基づいてもよい。
【0046】
負荷エネルギーの変化率は、複数のサイクル306の負荷エネルギー304の平滑値に基づいてもよい。従来の平滑化関数を適用することは、試料間の変動を除去し、平滑化関数に基づいて計算された変化率と全体的な傾向との適合性を改善するのに有用である。すなわち、平滑化されたデータの一次導関数によって、サイクル数に対する負荷領域の実効減少率が得られる。
【0047】
図3に示すように、データはまた、曲線中に不測の突出部308を含む。これらの突出部は、繊維の部分的破断事象に対応すると理解される。
【0048】
収集されたデータを使用して繊維の破損を予測できるようにするためには、負荷曲線の下の領域の時間的変遷を、部分的な破損事象の干渉なしに考慮することが好ましい。異常値、又は部分的破断事象の影響があるデータ試料は、試料の負荷領域が、先行する試料(又はデータ試料の群)の負荷領域よりも閾値水準だけ大きい場合を判定するなどの、従来の技術を用いて除外することができる。あるいは、データ内の最大値を検出し、それらのデータ試料を除去することによって異常値を除外してもよい。
【0049】
分析はまた、データの一次導関数の最頻値をとることによって、小さな/部分的な破断事象に関連するスパイクの影響を受けにくくなり得ることが分かっている。他の平均値を使用することもできるが、部分的破断の影響を除去するために追加の信号処理が必要な場合がある。
【0050】
このようにして、
図3に示すデータの初期部分の一次導関数は、方法の第1の態様による試験を受ける繊維試料の疲労の指標を提供すると考えることができる。このような方法は、データが200サイクルごとに捕捉される場合の10,000サイクル目に対応する、50番目(すなわち、50*200サイクル)のデータサンプリング点の後、異なる処理を受けた繊維試料(例えば、未処理の毛髪繊維と熱処理された毛髪繊維)間の違いを識別することが分かった。したがって、2種類の処理の比較に計20,000サイクルしか必要としない。すなわち、この例では、2種類の試料それぞれについて、データの初期部分である最初の10,000サイクルのみが考慮される。これは、破損まで試験する方法を用いた場合に必要なサイクル数よりも約1桁少ない。したがって、上記の方法を用いることによって、試料試験を著しく改善することができ、例えば、結果を検証するために、より多くの処理を効率的に試験すること、又は同じ処理を何度も試験することができる。
【0051】
一階微分は、測定指標のいくつかの他の候補と比べて、対数/線形データの様々な積分及び導関数の取得に関連した、時系列分析(SARIMAX)、対数/線形適合、自己相関を含む、実質的に改善された疲労の指標を提供することが分かっている。
【0052】
本方法の第1の態様の具体的な実施例を以下に説明する。
【0053】
図1に関して説明したように、実際には、本方法は、複数の負荷サイクルの疲労試験を実行することを更に含んでもよい。一具体例では、繊維破断を予測するために必要なデータ処理は、以下の段階を含む。
【0054】
各繊維試料について、
1.ダイアストロン(Dia-Stron)CYC801又は他の同様のシステムなどの市販の疲労試験機を使用したデータ取得、
2.ラップトップコンピュータなどの好適なシステムへのデータ転送、
3.Jupyter Notebook又は任意の他のデータ処理システムにおけるPythonを使用したデータ処理、
3.1 データの視覚化(任意選択的に、分析は視覚化せずにバッチモードで実行できる)及びクリーンアップ。
【0055】
3.2 各サイクルのデータの準備:
力/歪みデータにおける閾値を求める。
【0056】
力/歪み曲線の負荷部分の下の領域=「負荷領域」を求める。
【0057】
3.3 応答を構築する:負荷領域対サイクル数
3.4 応答データを平滑化し、各データ点において局所的な一次導関数を用いて減衰定数を得る。これは、サビツキー・ゴーレイ・フィルタ(Savitzky-Golay filter)(signal.savgol_filter Pythonパッケージ、バージョン1.6.3、The SciPyコミュニティ、https://docs.scipy.org/doc/scipy/reference/signal.html)を用いて行われる。
【0058】
3.5 この繊維のデータ全体について、減衰定数値の最頻値を計算する(最頻値計算の例は、
図6を参照して以下に更に詳細に説明される)。
【0059】
3.6 データの各セットについて、
繊維処理ごとに、1セットのデータが40個の値を含み、少なくとも2種類の繊維処理がある場合、
マン・ホイットニーのU検定(scipy.stats.mannwhitneyu Pythonパッケージ、バージョン1.6.3、The SciPyコミュニティ、https://docs.scipy.org/doc/scipy/reference/generated/scipy.stats.mannwhitneyu.html)を用いて、一対の繊維処理間でデータを比較する。
【0060】
上記のデータ分析は、数千サイクルにつき、数千のデータ点を含んでもよい。
【0061】
繊維試料の初期状態を判定することを含む、方法の第2の態様を、
図4に関して以下に説明する。
【0062】
図4は、
図3を参照して前述したものと同様の種類の、サイクル数406に対する負荷領域404の、別の例示的な時系列グラフ400を示す。
図4において、データは、
図3の試料試験よりも多数の、不測の突出部408を示す。前述の通り、これらの突出部又は異常値は、繊維の部分的な破断事象に対応すると理解される。
【0063】
図4には、物理的に重要でないいくつかの誤ったデータ点410も含まれている。これらのデータ点は、例えば閾値処理によって分析からスクリーニングしてもよい。
【0064】
グラフ400における、繊維試料の部分的破壊事象の検出数の違いは、繊維試料が他の繊維試料と比較して異なる初期状況又は初期状態にあったことを示すと理解される。初期状態とは、疲労試験前の繊維の状態を意味する。したがって、初期状態は、測定前の全てのグルーミング事象及び処理の影響を含む、繊維の全ての過去の履歴を含む。初期状態の態様には、例えば、繊維強度、健全性、物理的損傷(繊維の分裂など)及び水分濃度を含んでもよい。初期状態は、疲労試験前に繊維試料が受けた損傷の程度を表すことができる。初期に、より無傷に近い状態の繊維は、完全に破断するまでに、部分的な破断事象により長く耐えることができる。したがって、多数の不測の突出部408は、少数の突出部を生じる繊維よりも、初期に繊維が無傷に近かった、損傷の少ない初期状態の繊維を表し得る。
【0065】
すなわち、データ取得中により多くの突出部408を示す繊維は、突出部が少ない繊維よりも良好な初期状態にあると考えることができる。したがって、より良好な初期状態の繊維は、全体的に破断する前の、又は負荷エネルギーが閾値水準に達する点まで脆弱化する前の、実験中のより小さな/部分的な破断事象に耐えることができる。
【0066】
繊維の部分的な破断事象の数を観察することによって、従来の試験では利用できない、繊維の初期状態の指標がもたらされる。すなわち、従来の試験では、繊維試料の初期状態を考慮することができず、繊維試料の疲労の測定値が広範化する可能性がある。
【0067】
したがって、部分的な破断事象の数(破損まで、又は10万回などの所定のサイクル数までのいずれか)を数えることで、繊維試料の初期状態を規定する、既存の繊維損傷の尺度が得られる。
【0068】
このように、
図3又は
図4のデータで検出された部分的破断事象の数によって、方法の第2の態様による試験を受ける繊維試料の初期状態の指標が得られると考えることができる。
【0069】
図5及び
図6は、従来の疲労測定実験と
図1の新しい方法とを用いて得られたデータを比較している。実験で使用した試料は、以下の種類の毛髪から採取した。
【0070】
a)未処理の、コーカサス人のミディアムブラウンの混合毛髪1房、及び
b)熱処理済(ヘアスタイリングアイロンを使用して450°Fで30回)の、コーカサス人のミディアムブラウンの混合毛髪1房。
【0071】
未処理毛髪は、International Hair Importersから供給された。両方の種類の毛髪について、繊維の先端から試料を採取した。したがって、試料は2種類である。
【0072】
「一定応力モード」にしたサイクル試験機(Dia-Stron CYC801)を用い、相対湿度80%(80%RH)で疲労試験を行った。疲労速度を60mm/sに設定し、破断までのサイクル数を、目標応力105MPaを用いて相対湿度80%で測定した。なお、これらの実験では、力及び応力の両方を記録した(応力=力/断面積)。しかしながら、疲労過程によって繊維の有効断面積が変化する(繊維の有効断面積は亀裂伝播の関数として減少する)ので、分析は力/歪み曲線に関して行われる。これはまた、総繊維断面寸法を用いてデータを補正する必要性を排除する。我々は同一の繊維について、サイクル間のパラメータの変遷を研究しているため、このことは本出願では正当である。応力を計算するために、繊維の寸法を(繊維に沿った5点で)60%RHで測定した。
【0073】
各実験には約40本の繊維を使用した。機器の問題により、実験のいくつかのセルについてデータセットが少なくなった。また、1つの実験中に保存できるデータの量が限られるため、何本かの繊維(破断に非常に多くのサイクルを必要とするもの)については再実行する必要があり、1本の繊維につき2つ以上のデータファイルが得られた。
【0074】
図5は、未処理の毛髪試料と熱処理された毛髪試料を比較した、「破断までのサイクル」実験の結果を示す図である。どちらの場合も、ヘアピースの先端から毛髪を採取した。
【0075】
図6は、
図1~
図4を参照して前述した分析方法を、A)全データセット(破断までのサイクルのデータ全部)と、B)初めの100個のデータ点と、C)初めの50個のデータ点と、に適用した結果を示す。
【0076】
図5と
図6の比較から分かるように、古典的な分析方法及び新しい分析方法を使用した、熱処理条件と非熱処理条件の両方で、毛髪の疲労性能に同様の質的変化がある。
【0077】
図6A~
図6Cの結果はまた、3つのデータセット全てについて、試料間の良好な識別を達成できることを示している。したがって、例えば、初めの50個のデータ点のみを用いて良好な結果を得ることができる。これは、
図6Cに示す実験結果を得るために必要なデータ量が、
図5を参照して説明した従来の疲労測定に比べて7分の1に減少することを表す。
【0078】
図6を作成するためのデータ処理工程について以下に説明する。前述したように、各時点について一次導関数が計算されている。得られたデータは、カウント対一次導関数の値のヒストグラムに形成されている。この例では、一次導関数の値に100のビンが用いられているが、これは変更することができる。カウント数が最大のビンが判定され、そのビンの中間点が減衰定数に割り当てられている。この処理は、セット内の各繊維に対して実行され、各繊維セットの減衰定数の最頻値の分布を提供する。ヒストグラムは、Pythonパッケージであるmatplotlib.pyplot.histを使用して得られる(https://matplotlib.org/stable/api/_as_gen/matplotlib.pyplot.hist.htmlを参照)。ヒストグラムの最大値は、Pythonパッケージであるnumpy.argmaxを使用して求められる(https://numpy.org/doc/stable/reference/generated/numpy.argmax.htmlを参照)。
【0079】
図7は、前述の方法を実施するために使用され得るシステム700の概略ブロック図を示す。システム700は、メモリ704と通信する1つ又は複数のプロセッサ702を備える。メモリ704は、コンピュータ可読記憶媒体の一例である。1つ又は複数のプロセッサ702は、1つ又は複数の入力装置706及び1つ又は複数の出力装置708とも通信する。システム700の様々な構成要素は、当技術分野で公知の、一般的な計算手段を用いて実装されてもよい。例えば、入力装置706は、キーボード又はマウスを含んでもよく、出力装置708は、モニタ又はディスプレイ、及びスピーカなどの音声出力装置を含んでもよい。更に、システム700は、従来のものであり得る疲労試験装置を備え、疲労試験装置710は、1つ又は複数のプロセッサ702に少なくとも部分的に制御されるようになっている。
【0080】
図8は、非一時的コンピュータ可読記憶媒体800を開示する。非一時的コンピュータ可読記憶媒体は、プロセッサに本明細書で開示される方法を実行させるように構成されたコンピュータプログラムコードを含む。
【0081】
コンピュータを用いて計算を実行することで、対応する破断までのサイクル実験よりも迅速に計算を実行することができ、それによって繊維試料をより迅速に試験できる。また、即時的処理、すなわち各疲労サイクルからのデータを取得した直後に処理を行うことができる可能性も生じる。これにより、実験中に品質管理を実施することが可能になる。これはまた、ある所定の品質水準及び適合水準に到達したことをデータが示すと、自動制御で実験を停止させる可能性をもたらす。この手法は、更なる時間節約につながる可能性がある。例えば、本方法は、疲労の指標が所定の値を満たすと判定したことに応答して、特定の試料の自動試験スケジュールを中止することを更に含んでもよい。いくつかの例では、試験スケジュールを中止することは、繊維試料に任意の追加の負荷サイクルが適用されるのを停止することを含む。
【国際調査報告】