(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】改良された試料ホルダ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/03 20060101AFI20240730BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20240730BHJP
G01N 21/3577 20140101ALI20240730BHJP
【FI】
G01N21/03 Z
G01N21/01 B
G01N21/3577
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503481
(86)(22)【出願日】2022-07-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 IB2022056826
(87)【国際公開番号】W WO2023007341
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンソン,ヒュー,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,フィリップ,ヴァルモント
(72)【発明者】
【氏名】ピアース,ケリー,アン
【テーマコード(参考)】
2G057
2G059
【Fターム(参考)】
2G057AA01
2G057AB01
2G057AB02
2G057AB03
2G057AC01
2G057BA01
2G057BB01
2G057BB06
2G057BC07
2G057BD09
2G057CB05
2G057DA04
2G057DA13
2G057DB01
2G059AA01
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2G059BB13
2G059CC16
2G059DD13
2G059EE01
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2G059GG02
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ01
2G059JJ11
2G059JJ21
2G059KK01
2G059KK04
2G059LL01
2G059MM01
2G059NN01
(57)【要約】
本発明は、分子吸収分光法において使用する試料ホルダに関する。試料ホルダは、第1の所定の幾何学的形状を有する第1の表面と、第2の所定の幾何学的形状を有する第2の表面とを備えている。第1の表面は、第2の表面に対向している。試料ホルダは、第1の表面と第2の表面との間の距離が試料ホルダの光学経路長を規定するように、第1の表面と第2の表面との間に測定試料を保持するように構成されている。第1の表面及び第2の表面の所定の幾何学的形状は、光学経路長の連続する範囲を提供するように、試料ホルダにわたって連続的に変化する断面を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の所定の幾何学的形状を有する第1の表面と、
第2の所定の幾何学的形状を有する第2の表面であって、前記第1の表面は、前記第2の表面に対向しているものである第2の表面と
を備えている分子吸収分光法において使用する試料ホルダであって、
前記試料ホルダは、前記第1の表面と前記第2の表面との間の距離が前記試料ホルダの光学経路長を規定するように、前記第1の表面と前記第2の表面との間に測定試料を保持するように構成され、
前記第1の表面及び前記第2の表面の前記所定の幾何学的形状は、光学経路長の連続する範囲を提供するように、前記試料ホルダにわたって連続的に変化する断面を提供するものである
試料ホルダ。
【請求項2】
前記連続的に変化する断面は、
前記第1の表面と前記第2の表面との間の最小距離が最小光学経路長を規定する第1の測定ゾーンと、
前記第1の表面と前記第2の表面との間の最大距離が最大光学経路長を規定する第2の測定ゾーンと
を備え、
前記連続的に変化する断面は、前記第1の測定ゾーンと前記第2の測定ゾーンとの間の光学経路長の連続する範囲を提供するものである、請求項1に記載の試料ホルダ。
【請求項3】
前記第1の測定ゾーンにおいて、前記第1の表面は、前記第2の表面と接触して、ゼロの最小光学経路長を提供する、請求項2に記載の試料ホルダ。
【請求項4】
前記光学経路長の連続する範囲は、約1μm~3mm程度の光学経路長の変動を提供するものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の試料ホルダ。
【請求項5】
前記第1の表面は、湾曲しているものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の試料ホルダ。
【請求項6】
前記第1の所定の幾何学的形状及び前記第2の所定の幾何学的形状のうちの一方又は両方は、
球体と、
放物柱と、
円形放物面と、
楕円形放物面と、
任意の滑らかな非球面と
のうちのいずれか1つによって画定される、請求項5に記載の試料ホルダ。
【請求項7】
前記第2の表面は、実質的に平坦である、請求項5に記載の試料ホルダ。
【請求項8】
前記試料ホルダは、
前記第1の表面を提供する湾曲した側面を有する平凸レンズを含み、
前記平凸レンズは、前記第1の表面が前記第2の表面から分離される開位置と、前記第1の表面が前記第2の表面に接触し、前記第2の表面に対向して配置される閉位置との間で移動可能である、請求項1~7のいずれか一項に記載の試料ホルダ。
【請求項9】
前記第1の表面の位置は、前記第2の表面に対して固定されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の試料ホルダ。
【請求項10】
前記試料ホルダは、1つ以上のプラスチック材料から作製される、請求項1~9のいずれか一項に記載の試料ホルダ。
【請求項11】
前記試料ホルダは、1つ以上のガラス材料から作製される、請求項1~9のいずれか一項に記載の試料ホルダ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の試料ホルダを有する分光光度計。
【請求項13】
前記分光光度計は、UV-VISの範囲で動作する、請求項12に記載の分光光度計。
【請求項14】
前記分光光度計は、NIRの範囲又はIRの範囲で動作する、請求項12に記載の分光光度計。
【請求項15】
前記光学経路長の連続する範囲のうちの各光学経路長における前記測定試料の吸光度を検出する検出器を更に含み、
単一点検出器と、
1次元アレイ検出器と、
2次元アレイ検出器と
のうちのいずれか1つの検出器である、請求項12~14のいずれか一項に記載の分光光度計。
【請求項16】
光源を更に含み、
前記光源は、
広帯域光源と、
LEDと、
レーザと
のうちのいずれか1つを含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の分光光度計。
【請求項17】
前記光源は、前記測定試料全体にわたって同時に光を提供するものである、請求項16に記載の分光光度計。
【請求項18】
前記光源は、光ビームを提供し、前記光ビームは、前記測定試料に対して移動可能であり、前記光学経路長の範囲内のうちの各光学経路長について透過率の値が順次検出可能となるように前記測定試料を走査する、請求項16に記載の分光光度計。
【請求項19】
前記光源と前記試料ホルダとの間に位置決めされたマスクであって、前記マスクを通過する光が、前記検出器による検出のために所定のシャドーパターンを投影するようになっているものであるマスクを更に含み、前記分光光度計は、前記検出されたシャドーパターンに基づいて、前記試料ホルダの前記第1の表面及び前記第2の表面のうちの一方又は両方における屈折によって引き起こされる効果を較正するように構成される、請求項16又は17に記載の分光光度計。
【請求項20】
前記測定試料の温度を制御する温度コントローラを更に含む、請求項12~19のいずれか一項に記載の分光光度計。
【請求項21】
分光光度計を使用して、請求項1~11のいずれか一項に記載の試料ホルダ内に配置された測定試料を分析するコンピュータ実施方法であって、前記分光光度計は、前記測定試料を通して光を放射する光源と、前記測定試料を透過した光強度を検出する検出器とを有し、
前記試料ホルダの各光学経路長に対応する検出された透過率の値を取得するステップであって、前記検出された透過率の値は、前記検出器からの1つ以上の光強度の測定値に基づくものである、取得するステップと、
前記試料ホルダの各光学経路長に対応する推定された透過率の値を計算するステップと、
前記検出された透過率の値と前記推定された透過率の値との間の誤差を最小化する前記測定試料の減衰係数を決定するステップと
を含む方法。
【請求項22】
前記推定された透過率の値を計算するステップは、
対応する検出された透過率の値に基づいて前記測定試料の推定された減衰係数を計算することと、
前記推定された減衰係数に基づいて推定された透過率の値を計算することと
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記測定試料の減衰係数を決定する前記ステップは、反復プロセスである、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記測定試料の屈折率に応じて各光学経路長の値を決定するステップを更に含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
分光光度計を使用して、請求項1~11のいずれか一項に記載の試料ホルダ内に配置された測定試料を分析するコンピュータ実施方法であって、前記分光光度計は、前記測定試料を通して光を放射する光源と、前記測定試料を透過した光強度を検出する検出器と、高空間周波数の特徴が前記検出器によって検出されることができるように前記光源に関連付けられたより高い空間周波数の変調パターンとを有するものであり、
予め定義された屈折率の範囲内の各屈折率に対応し、かつ各光学経路長に対応する前記検出器の光強度の値を予測する所定の変調モデルを提供するステップと、
各光学経路長に対応する検出された透過率の値を取得するステップであって、前記検出された透過率の値は、前記検出器からの1つ以上の光強度の測定値に基づくものである、取得するステップと、
前記所定の変調モデルに基づいて、各光学経路長及び各屈折率に対応する前記測定試料の推定透過率の値を計算するステップと、
前記検出された透過率の値と前記推定された透過率の値との間の誤差を最小化する前記測定試料の減衰係数を決定するステップと
を含む方法。
【請求項26】
分光光度計を使用して、請求項1~11のいずれか一項に記載の試料ホルダ内に配置された測定試料を分析するコンピュータ実施方法であって、前記分光光度計は、前記測定試料を通して光を放射する光源と、前記測定試料を透過した光強度を表す照明信号を検出する検出器と、高空間周波数の特徴が前記検出器の前記照明信号内で検出されることができるように前記光源に関連付けられたより高い空間周波数の変調パターンとを含むものであり、
前記照明信号をフィルタリングして、前記照明信号から前記高空間周波数の特徴が抽出された第1のフィルタリングされた照明データと、前記照明信号から前記高空間周波数の特徴が除去された第2のフィルタリングされた照明データとを取得するステップと、
前記第1のフィルタリングされた照明データに基づいて屈折率の値を計算するステップと、
各光学経路長に対応する検出された透過率の値を取得するステップであって、前記検出された透過率の値は、前記第2のフィルタリングされた照明データに基づくものである、検出された透過率の値を取得するステップと、
前記計算された屈折率に基づいて、各光学経路長に対応する前記測定試料の推定された透過率の値を計算するステップと、
前記検出された透過率の値と前記推定された透過率の値との間の誤差を最小化する前記測定試料の減衰係数を決定するステップと
を含む方法。
【請求項27】
請求項21~26のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法を実施するコンピュータ実行可能命令を有する1つ以上の有形の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項28】
請求項1~11のいずれか一項に記載の試料ホルダを製造する方法であって、
前記試料ホルダの第1の部分を形成して、前記第1の表面を提供することと、
前記試料ホルダの第2の部分を形成して、前記第2の表面を提供することと、
前記第1の部分が、前記測定された試料の配置又は除去を可能にする開位置と、前記第1の表面が前記第2の表面に対して固定位置にあり、前記試料ホルダにわたって前記連続的に変化する断面を提供する閉位置との間で前記第2の部分に対して移動可能であるように、前記第1の部分を前記第2の部分に取り付けることと
を含む方法。
【請求項29】
請求項1~11のいずれか一項に記載の試料ホルダを製造する方法であって、
前記試料ホルダの第1の部分を形成して、前記第1の表面を提供することと、
前記試料ホルダの第2の部分を形成して、前記第2の表面を提供することと、
前記第1の表面が前記第2の表面に対して固定されて、前記試料ホルダにわたって前記連続的に変化する断面を提供するように、前記第1の部分を前記第2の部分に取り付けることと、
前記第1の部分と前記第2の部分との間の空洞内への前記測定試料の注入を可能にする開口部を形成することと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された試料ホルダに関する。特に、本発明の実施形態は、分子吸収分光法(molecular absorption spectroscopy)において使用する試料ホルダ、試料ホルダを含む分光光度計、及び試料ホルダ内に配置された測定試料を分析するために分光光度計を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収分光法(absorption spectroscopy)の分野では、液体物質の光吸収スペクトル(optical absorption spectra)が測定されている。吸収スペクトルは、光波長に応じた光減衰の測定値である。単純な分光光度計では、測定試料は、キュベット、試料セル、又は試料ホルダとして一般に既知の透明な容器に入れられる。既知の波長及び強度の光が試料ホルダの一方の側に入射し、検出器が試料ホルダから出る光の強度を測定する。試料ホルダの形状は、光が試料を通過する距離を規定する。この距離は、試料ホルダの光学経路長(optical pathlength)と称されている。一般に、測定試料を透過した光は、吸収スペクトルに基づいて測定試料の特性を決定することができるような既知の関係に従う。換言すれば、所与の物質の吸収スペクトルが既知である場合、測定試料中のその存在及び濃度を決定することができる。
【0003】
多くの場合、溶液中の目的の化合物は、高度に濃縮されている。例えば、タンパク質、DNA又はRNA等の或る特定の生体試料は、吸光度が測定される場合、分光光度計の線形範囲外の濃度で存在することが多い。したがって、機器の線形範囲内にある吸光度値を測定するには、多くの場合、試料の希釈が必要となる。従来、濃縮された試料は、約1mm~10mmの光学経路長で好適な吸光度(多くの場合、0.2吸光度単位(absorbance unit)~1.2吸光度単位の範囲)が得られるように、分析前に希釈される。いくつかの例では、試料を複数回希釈する必要があるため、測定及び下流のアプリケーションにおいてヒューマンエラー及び不正確さが生じる可能性がある。さらに、追加の希釈ステップを実行する必要があるため、測定に時間及び労力がかかる。したがって、見込まれる濃度を知らずに既存の試料を採取し、希釈することなくこれらの試料の吸収量を測定することが望ましい。
【0004】
従来、分光光度計の試料ホルダに関連付けられる光学経路長は固定されている。近年、測定可能な範囲内の吸光度値を達成するように、試料測定を2つ以上の光学経路長で行うことができる分光計及び試料ハンドリング技術が開発されている。
【0005】
例えば、CTech(登録商標)SoloVPE(商標)システムは、試料ホルダ内で垂直方向に移動可能な光ファイバプローブを提供することによって、可変経路長における試料吸光度の測定を可能にしている。プローブは、試料ホルダ内の試料を測定する光を提供する。検出器は、試料を透過したプローブから発する光を受光するように配置されている。試料ホルダ内の試料内のプローブの移動は、分析のための可変の経路長を効果的に提供する。
【0006】
しかしながら、正確かつ実行可能な測定を達成するために、検出器に対して試料内でプローブをゆっくりと移動させることは、時間のかかるプロセスとなりうる。さらに、CTech(登録商標)SoloVPE(登録)システムは、プローブを移動させて、経路長のそれぞれについて一度に1つずつ測定を行い、回帰分析に基づいて試料特性を計算している。多くの場合、測定のための最適な信号対雑音比を達成することは困難となりうる。
【0007】
また、プローブの移動により、プローブから発せられる光放射の強度が不安定になり、吸光度が低い試料についての測定の精度に影響を与える可能性がある。加えて、プローブは、プローブの線形移動に影響を及ぼすためのモータを含む駆動アセンブリに関連付けられている。正確かつ反復可能な測定を提供するシステムの能力は、駆動アセンブリの動作における正確さ及び再現性に依存している。必然的に、駆動アセンブリ内の機械的構成要素の移動は、例えば、ヒステリシス、熱膨張、摩擦、クリアランスによる移動、及び種々のモータ関連誤差等により、不正確さが生じる。駆動アセンブリはまた、摩耗及び断裂の影響を受ける。したがって、許容可能なレベルの精度を維持するためには、頻繁な点検及び整備が必要となる。さらに、低濃度試料の場合、比較的長い経路長(例えば、最大15mm)を使用する必要があり、比較的大きな試料体積を必要とする。これは、試料の供給が非常に不足している場合、及び/又は非常に高価である場合(つまり、非常に不足している場合、又は非常に高価である場合、あるいはそれらの両方の場合)に不利となる可能性がある。
【0008】
別の例では、NanoDrop(登録商標)分光光度計は、2つの対向する表面の間に測定試料を保持する試料ホルダを提供している。2つの対向する表面は、互いに対して移動して、光学経路長の変化を効果的に提供することができる。しかしながら、経路長の変化を提供するために可動部品に依存することは、測定の精度及び再現性において本質的な限界がある。更なる例において、Unchained Labs社のLunatic(登録商標)分光光度計は、試料を運ぶ2つの経路長を有する試料セルを提供している。試料セルは、測定方向におけるセルの厚さの離散的な変化を提供し、それによって2つの異なる離散的な経路長を提供している。いずれの例においても、限られた数の離散経路長しか提供されない。さらに、特に短い経路長(例えば、多くの場合、50μm~100μmの領域)では、特定の測定において許容可能な精度を達成することは困難となりうる。50μmの経路長の場合、1%の精度を達成するためには500nm未満の誤差が必要であり、これを達成することは非常に困難となりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施の形態は、上述の欠点又は問題のうちの1つ以上を克服又は改善する、又は少なくとも消費者に有用な選択肢を提供する試料ホルダ、分光光度計、及び動作方法を提供することができる。
【0010】
本明細書における特許文献又は従来技術として特定される任意の他の事項への言及は、特許請求の範囲のいずれかの優先日において、その文献又は他の事項が既知であったこと、又はそれに含まれる情報が共通の一般知識の一部であったことを認めるものと解釈されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様によれば、分子吸収分光法において使用する試料ホルダであって、
第1の所定の幾何学的形状を有する第1の表面と、
第2の所定の幾何学的形状を有する第2の表面であって、第1の表面は、第2の表面に対向している、第2の表面と
を備え、
試料ホルダは、第1の表面と第2の表面との間の距離が試料ホルダの光学経路長を規定するように、第1の表面と第2の表面との間に測定試料を保持するように構成され、
第1の表面及び第2の表面の所定の幾何学的形状は、光学経路長の連続する範囲を提供するように、試料ホルダにわたって連続的に変化する断面(continuously variable cross-section)を提供する、試料ホルダが提供される。
【0012】
試料ホルダは、任意の好適な一貫性を有する任意の好適な測定試料を保持するように構成することができる。例えば、測定試料は、任意の粘度を有することができる。典型的には、試料は液体試料である。
【0013】
第1の所定の幾何学的形状は、第2の所定の幾何学的形状と同じにすることができる。代替的に、第1の所定の幾何学的形状は、第2の所定の幾何学的形状と異なることができる。
【0014】
第1の表面及び第2の表面の予め定義された幾何学的形状は、試料ホルダにわたって連続的に変化する断面を提供し、これは、有利には、測定試料と接触する可動部品(moving parts)を必要とすることなく、光学経路長の連続する範囲を提供し、それによって、かかる可動部品に関連付けられる不正確性を回避する。
【0015】
連続的に変化する断面は、第1の表面と第2の表面との間の最小距離が最小光学経路長を規定する第1の測定ゾーンと、第1の表面と第2の表面との間の最大距離が最大光学経路長を規定する第2の測定ゾーンとを備えることができる。連続的に変化する断面は、第1の測定ゾーンと第2の測定ゾーンとの間の光学経路長の連続する範囲を提供することができる。
【0016】
いくつかの実施の形態において、第1の表面は第2の表面と接触して、第1の測定ゾーンにおいてゼロの最小光学経路長を提供することができる。他の実施の形態において、第1の表面は、第2の表面に接触することができず、最小光学経路長は、ゼロに近くすることができる。したがって、試料ホルダは、ゼロ~任意の所望の最大経路長までの光学経路長の連続する範囲を有利に提供することができる。実際には、本明細書に記載されるような接触点又はほぼ接触点を有するように試料ホルダの第1の表面及び第2の表面を配置することは、互いに対する表面の正確な位置決め、及び非ゼロの経路長の正確な制御を提供する。
【0017】
第1の表面及び第2の表面は、試料ホルダの所望の連続的に変化する断面を提供するように、任意の好適な幾何学的形状を有することができる。例えば、第1の表面及び第2の表面のうちの一方又は両方は、湾曲することができる。1つ以上の表面の湾曲は、規則的又は不規則な所定の幾何学的形状に従うことができる。典型的には、第1の表面は湾曲することができる。第2の表面は、平坦又は実質的に平坦とすることができる。
【0018】
いくつかの実施の形態において、第1の所定の幾何学的形状及び第2の所定の幾何学的形状のうちの一方又は両方は、
球体と、
放物柱と、
円形放物面と、
楕円形放物面と、
任意の滑らかな非球面と
のうちのいずれか1つによって画定される。
【0019】
本発明の実施の形態による試料ホルダでは、光学経路長の連続する範囲は、約1μm~3mm程度の光学経路長の変動を提供することが可能である。これは、有利には、高分解能で正確な試料測定が高速で実行されることを可能にする。
【0020】
したがって、試料ホルダは、測定試料と接触するいかなる可動部品もなしに、0μm~約1μm程度の経路長の変動を有する任意の最大経路長まで空間的に変動する光学経路長の連続する範囲を提供することができる。したがって、試料ホルダは、任意の未知の濃度、又は広範囲の許容可能な濃度内の任意の濃度の試料に対して、試料ホルダの少なくとも1つの領域において測定可能な経路長を提供することができる。
【0021】
さらに、試料ホルダが経路長の連続する範囲内の全ての経路長の測定を可能にするため、オペレータが測定可能な経路長の範囲を手動で選択する必要が回避され、それによって、作業効率が向上し、ヒューマンエラーが低減される。
【0022】
実際には、試料ホルダは、第1の表面を提供する湾曲した側面を有する平凸レンズ(plano-convex lens)を含むことができる。平凸レンズは、第1の表面が第2の表面から分離される開位置と、第1の表面が第2の表面に接触し、第2の表面に対向して配置される閉位置との間で移動可能とすることができる。
【0023】
典型的には、閉位置では、第1の表面の位置は、第2の表面に対して固定され、第1の表面と第2の表面との間の可変距離は、それらのそれぞれの所定の幾何学的形状によって生成される。
【0024】
試料ホルダは、任意の好適な材料、又は異なる好適な材料の組み合わせから作製することができる。いくつかの実施の形態において、試料ホルダは、使い捨てとすることができる。これらの実施の形態において、試料ホルダは、プラスチック材料から作製することができる。他の実施の形態において、試料ホルダは、再使用可能であり、ガラス材料から作製することができる。
【0025】
いくつかの実施の形態において、試料ホルダは、フローセル(flow cell)とすることができ、このフローセルは、入口と、入口を介して試料ホルダの中への測定試料の注入を可能にする通気口とを有する。これらの実施の形態において、試料ホルダの第1の表面及び第2の表面は、可撓性とすることができ、それにより、例えば、試料ホルダのフラッシングを介して、第1の表面及び第2の表面の洗浄を可能にする。
【0026】
有利には、本発明の実施の形態による試料ホルダは、試料と接触する可動部品を必要とすることなく、非常に低い試料体積(例えば、数マイクロリットル)のみを使用して、広いダイナミックレンジ(例えば、4桁を超える)にわたって濃度(例えば、典型的にはタンパク質濃度)の迅速で正確な定量化を可能にする。
【0027】
本発明の試料ホルダは、ゼロ又はほぼゼロから始まる連続する経路長の範囲で1μm程度の経路長の変動を提供することが可能であるため、試料ホルダはまた、低体積試料が正確に測定されることを可能にする。
【0028】
本発明の別の態様によれば、本明細書に記載の試料ホルダを有する分光光度計が提供される。
【0029】
分光光度計は、任意の好適な構成を有することができ、試料ホルダは、分光光度計内の任意の好適な場所に配置することができる。
【0030】
いくつかの実施の形態において、分光光度計は、紫外-可視(UV-VIS:ultraviolet-visible)範囲で動作することができる。いくつかの実施の形態において、近赤外(NIR:near-infrared)範囲又は赤外(IR:infrared)範囲である。
【0031】
分光光度計は、光学経路長の連続する範囲の各経路長における測定試料の吸光度を検出する検出器を更に含むことができる。任意の好適な検出器を使用することができる。いくつかの実施の形態において、検出器は、以下の検出器、すなわち
単一点検出器、
1次元アレイ検出器、又は
2次元アレイ検出器
のうちのいずれか1つとすることができる。
【0032】
分光光度計は、光源を更に含むことができる。任意の好適な光源を使用することができる。いくつかの実施の形態において、光源は、
広帯域光源と、
LEDと、
レーザと
のうちのいずれか1つを含むことができる。
【0033】
いくつかの実施の形態において、光源は、測定試料全体にわたって同時に光を提供する。これらの実施の形態において、光源を固定することができる。固定光源(stationary source)を有する分光光度計では、機器全体にわたって可動部品は必要とされない。これはさらに、測定における高い精度を維持しながら、更に高い測定速度に関連する利点を提供する。さらに、可動部品の保守は必要とされず、それによって下流のコストを低減する。
【0034】
分光光度計は、任意の好適な構成を有することができ、試料ホルダは、分光光度計内の光源及び検出器に対して任意の好適な場所に配置することができる。
【0035】
分光光度計は、光源と試料ホルダとの間に位置決めされたマスクであって、マスクを通過する光が、検出器による検出のために所定のシャドーパターンを投影するようになっているマスクを更に含むことができ、分光光度計は、検出されたシャドーパターンに基づいて、試料ホルダの第1の表面及び第2の表面のうちの一方又は両方における屈折によって引き起こされる効果を較正するように構成される。
【0036】
いくつかの実施の形態において、分光光度計は、1つ以上の光学要素を更に含むことができる。1つ以上の光学要素は、試料ホルダ、光源、及び検出器に対して任意の好適な場所に配置することができる。1つ以上の光学要素は、光分散要素又は光集束要素等のうちの任意の1つ以上とすることができる。例えば、光学要素は、1つ以上の鏡、レンズ、回折格子、プリズム、結晶、ファイバ、導波管、又はそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0037】
いくつかの実施の形態において、光源は、透過率の値(transmission value)が経路長の範囲内の各経路長に対して順次検出可能であるように、測定試料を走査するように測定試料に対して移動可能である光ビームを提供することができる。1つの実施の形態において、光ビームは、試料ホルダの一端から試料ホルダの反対端まで移動する。他の実施の形態において、光ビームは円運動で移動することができる。
【0038】
分光光度計は、測定試料の温度を制御する温度コントローラを更に含むことができる。
【0039】
本発明の更なる態様によれば、分光光度計を使用して、本明細書に記載の試料ホルダ内に配置された測定試料を分析するコンピュータ実施方法であって、分光光度計は、測定試料を通して光を放射する光源と、測定試料を透過した光強度を検出する検出器とを含む方法が提供される。この方法は、
試料ホルダの各光学経路長に対応する検出された透過率の値を取得するステップであって、検出された透過率の値は、検出器からの1つ以上の光強度測定値に基づくものであるステップと、
試料ホルダの各光学経路長に対応する推定された透過率の値を計算するステップと、
検出された透過率の値と推定された透過率の値との間の誤差を最小化する測定試料の減衰係数を決定するステップと
を含む。
【0040】
推定された透過率の値を計算するステップは、
対応する検出された透過率の値に基づいて測定試料の推定された減衰係数を計算するステップと、
推定された減衰係数に基づいて推定された透過率の値を計算するステップと
を含むことができる。
【0041】
測定試料の減衰係数を決定するステップは、反復プロセスとすることができる。
【0042】
この方法は、測定試料の屈折率に応じて各光学経路長の値を決定するステップを更に含むことができる。
【0043】
本発明の更に別の態様によれば、分光光度計を使用して、本明細書に記載の試料ホルダ内に配置された測定試料を分析するコンピュータ実施方法が提供される。分光光度計は、測定試料を通して光を放射する光源と、測定試料を透過した光強度を検出する検出器と、高空間周波数(high spatial frequency)の特徴が検出器によって検出されることができるように光源に関連付けられたより高い空間周波数変調パターンとを含む。この方法は、
予め定義された屈折率の範囲内の各屈折率に対応し、かつ各光学経路長に対応する検出器の光強度値を予測する所定の変調モデルを提供するステップと、
各光学経路長に対応する検出された透過率の値を取得するステップであって、検出された透過率の値は、検出器からの1つ以上の光強度測定値に基づくものであるステップと、
所定の変調モデルに基づいて、各光学経路長及び各屈折率に対応する測定試料の推定された透過率の値を計算するステップと、
検出された透過率の値と推定された透過率の値との間の誤差を最小化する測定試料の減衰係数を決定するステップと
を含むことができる。
【0044】
本発明の別の態様によれば、分光光度計を使用して、本明細書に記載の試料ホルダ内に配置された測定試料を分析するコンピュータ実施方法が提供される。分光光度計は、測定試料を通して光を放射する光源と、測定試料を透過した光強度を表す照明信号を検出する検出器と、高空間周波数の特徴が検出器の照明信号内で検出されることができるように光源に関連付けられたより高い空間周波数の変調パターンとを含む。この方法は、
照明信号をフィルタリングして、照明信号から高空間周波数の特徴が抽出された第1のフィルタリングされた照明データと、照明信号から高空間周波数の特徴が除去された第2のフィルタリングされた照明データとを取得するステップと、
第1のフィルタリングされた照明データに基づいて屈折率の値を計算するステップと、
各光学経路長に対応する検出された透過率の値を取得するステップであって、検出された透過率の値は、第2のフィルタリングされた照明データに基づくものであるステップと、
計算された屈折率に基づいて、各光学経路長に対応する測定試料の推定された透過率の値を計算するステップと、
検出された透過率の値と推定された透過率の値との間の誤差を最小化する測定試料の減衰係数を決定するステップと
を含むことができる。
【0045】
本発明の更に別の態様によれば、本明細書に記載のコンピュータ実施方法を実施するコンピュータ実行可能命令を有する1つ以上の有形の非一時的コンピュータ可読媒体が提供される。
【0046】
本発明の更なる態様によれば、本明細書に記載の試料ホルダを製造する方法が提供される。この方法は、
試料ホルダの第1の部分を形成して、第1の表面を提供するステップと、
試料ホルダの第2の部分を形成して、第2の表面を提供するステップと、
第1の部分が、測定された試料の配置又は除去を可能にする開位置と、第1の表面が第2の表面に対して固定位置にあって、試料ホルダにわたって連続的に変化する断面を提供する閉位置との間で第2の部分に対して移動可能であるように、第1の部分を第2の部分に取り付けるステップと
を含むことができる。
【0047】
本発明の更なる態様によれば、本明細書に記載の試料ホルダを製造する方法が提供され、この方法は、
試料ホルダの第1の部分を形成して、第1の表面を提供するステップと、
試料ホルダの第2の部分を形成して、第2の表面を提供するステップと、
第1の表面が第2の表面に対して固定されて、試料ホルダにわたって連続的に変化する断面を提供するように、第1の部分を第2の部分に取り付けるステップと、
第1の部分と第2の部分との間の空洞内への測定試料の注入を可能にする開口部を形成するステップと
を含む。
【0048】
本発明をより容易に理解し、実施することができるために、本発明の1つ以上の好ましい実施形態が、ここで、添付図面を参照して、単に例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1A】本発明の一実施形態による試料ホルダの部分断面を示す概略図である。
【
図1B】本発明の別の実施形態による試料ホルダの部分断面を示す概略図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態による分光光度計の概略図である。
【
図3】本発明の別の実施形態による分光光度計の概略図である。
【
図4】本発明の更なる実施形態による分光光度計の概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態による分光光度計を使用して試料を分析する方法を示すフロー図である。
【
図6A】
図1Aに示される試料ホルダの第1の表面と第2の表面との間の事前に計算された試料経路長を示すX-Yプロットである。
【
図6B】異なる吸光度を有する試料について、
図1Aの試料ホルダを使用した相対試料透過率を示すX-Yプロットである。相対試料透過率が、1次元アレイ検出器にわたる複数のピクセル位置に対してプロットされている。
【
図7A】
図1Aの試料ホルダを使用した相対試料透過率を示すXYZプロットである。相対試料透過率が、2次元アレイ検出器にわたる複数のピクセル位置に対してプロットされている。
【
図7B】
図1Aの試料ホルダを使用した相対試料透過率を示すXYZである。
図7Bに対応する試料は、
図7Aの試料と比較してより高い吸光度を有する。相対試料透過率が、2次元アレイ検出器にわたる複数のピクセル位置に対してプロットされている。
【
図8】減衰係数及び相対光源強度のパラメータ最適化後の測定された透過率の値及び予想の透過率の値を示すX-Yプロットである。
【
図9】本発明の一実施形態による分光光度計を使用して試料を分析する方法を示すフロー図である。
【
図10A】光源照明が、
図2に示される分光光度計構成に従って規則的に離間された薄い影を生成するマスクによって変調されるときの、アレイ検出器上の強度変動を示す線グラフである。
【
図10B】屈折率の変化によるアレイ検出器上の高空間周波数の特徴の予想される変位を示す線グラフである。
【
図11A】元の検出器信号から高空間周波数の特徴を除去するローパスフィルタリングからの出力を示す線グラフである。
【
図11B】元の検出器信号から高空間周波数の特徴を除去するローパスフィルタリングからの出力を示す線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の一実施形態による分子吸収分光法において使用する試料ホルダ100の部分断面図を
図1Aに示している。試料ホルダ100は、第1の所定の幾何学的形状を有する第1の湾曲した表面102を提供する第1の部分112と、第2の所定の幾何学的形状を有する第2の実質的に平坦な表面104を提供する第2の部分114とを有する。図面には具体的に示されていないが、第1の湾曲した表面102の第1の所定の幾何学的形状は、球体、放物柱、円形放物面、及び楕円形放物面のうちのいずれか1つとすることができる。
【0051】
これらの幾何学的形状の対称的な性質の1つの利点は、試料201内の気泡、又は第1の表面102と第2の表面104との間の空洞の不十分な充填等の任意の現象を容易に検出することができ、それにより、任意の誤差を修正するために適切な措置を講じることができることである。さらに、第1の湾曲した表面102が球状である実施形態において、球状の幾何学的形状の対称性質のため、試料ホルダ100の第1の部分102と第2の部分104との間の角度のいかなる変動も動作に影響を及ぼすことはない。
【0052】
試料ホルダ100は、第1の表面102と第2の表面104との間の距離d(
図1A)が試料ホルダ100の複数の異なる光学経路長106を規定するように、第1の表面102と第2の表面104との間に測定試料201(
図2も参照)を保持するように構成される。特に、第1の表面102及び第2の表面104の所定の幾何学的形状は、異なる光学経路長106の連続する範囲を提供するように、試料ホルダ100にわたって連続的に変化する断面を提供する。
【0053】
図1Aに示すように、試料ホルダ100の連続的に変化する断面は、第1の測定ゾーン108を含み、この第1の測定ゾーン108では、第1の表面102と第2の表面104との間の最小距離が最小光学経路長106を規定する。最小光学経路長106は、ゼロとすることができ、この場合、第1の表面102は第1の測定ゾーン108内で第2の表面104と接触する。代替的に、最小光学経路長106は、ゼロに近い小さい値であり、この場合、第1の表面102は、第1の測定ゾーン108内で第2の表面104と接触しない。試料ホルダ100の連続的に変化する断面は、第2の測定ゾーン110を更に含み、この第2の測定ゾーン110では、第1の表面と第2の表面との間の最大距離が最大光学経路長106を規定する。第1の測定ゾーン108における最小経路長106から第2の測定ゾーン110における最大経路長106までの範囲の異なる光学経路長106の連続する範囲が提供される。
【0054】
試料ホルダ100は、第1の測定ゾーン108と交差する中心面(図示せず)に関して対称であるため、第1の組の光学経路長106の連続する範囲は、中心面の一方の側に提供され、第1の組に一致する第2の組の光学経路長106の連続する範囲は、中心面の反対側に提供される。第1の湾曲した表面102が規則的な幾何学的形状(球体、放物柱、円形放物面、又は楕円形放物面等)を有する実施形態において、無限の組の一致する光学経路長の連続する範囲を提供することができる。典型的には、各組内の光学経路長の連続する範囲は、約1μm~3mm程度の光学経路長の変動を提供することができる。経路長の連続する範囲において小さな経路長の変動を提供する能力により、好適な測定範囲を広範な異なる試料濃度について決定することができ、高精度の測定を好適な測定範囲内で実行することができる。
【0055】
図1Aには示されていないが、第1の部分112は、第2の部分114に移動可能に取り付けることができ、又は固定して取り付けることができることが理解される。代替的に、第1の部分112は、第2の部分114とは別個とすることができる。試料ホルダ100は、1つ以上のプラスチック材料及び/又はガラス材料(つまり、プラスチック材料又はガラス材料あるいはそれらの両方)を含む、任意の好適な材料から作製することができる。
【0056】
有利には、光学経路長の精度は第1の表面102及び第2の表面104の幾何学的形状の精度にのみ依存するため、非常に高い精度で光学経路長106の連続する範囲を生成することが可能である。現在の光学製造技術を使用して、所定の表面幾何学的形状において高精度を達成することが可能である。
【0057】
使用中、光源208(
図2参照)からの光113は、試料ホルダ100の一方の側に入射する。光ビーム113は、試料ホルダ100及び測定試料201を透過し、検出器202に入射する。
図2~
図4を参照して以下で更に詳細に説明するように、異なる波長で検出器202によって検出された透過光を使用して、測定試料201の吸収スペクトルを構築することができる。
【0058】
典型的には、経路長が0に近い試料ホルダ100の中心(又は第1の測定ゾーン)108付近では、光ビーム108はほとんど減衰されない。経路長が最大である縁部(又は第2の測定ゾーン110)では、光ビーム108はより強く減衰される(
図6B参照)。
【0059】
実際には、試料ホルダ100及び測定試料201を透過した光110は、屈折116の影響を受ける。いくつかの実施形態において、試料201を分析するときに屈折率の値を決定することによって、光110の屈折の影響を考慮に入れることが必要である。これらの実施形態において、試料201の屈折率は、検出器202によって検出される強度パターン又は吸収スペクトルに影響を及ぼす。
図2に示すように、検出器202の表面に既知のシャドーパターンを投影するために、マスク210を提供することができる。このシャドーパターンの変化を検出して屈折率を計算することができる。これは、吸収スペクトルを補正するために、若しくは追加の分析出力として、又はその両方として使用することができる。屈折率に関する計算は、
図9~
図11Bを参照して以下で更に詳細に説明される。
【0060】
図1Bは、本発明の別の実施形態による試料ホルダ120の部分断面図を示している。試料ホルダ120は、湾曲した第1の表面122と、実質的に平坦な第2の表面124とを有する。第1の表面122は、任意の滑らかな非球面である。
図1Bにおける同様の数字は、
図1Aを参照して前述した同様の特徴を指す。第1の表面122及び第2の表面124の所定の幾何学的形状は、異なる光学経路長106の連続する範囲を提供するように、試料ホルダ120にわたって連続的に変化する断面を提供する。
【0061】
図2は、本発明の1つの実施形態による分光光度計200を示している。一般に、分光光度計は、紫外-可視(UV-Vis:ultraviolet-visible)範囲で動作するように構成される。分光光度計200は、
図1Aに示される部分断面に従った試料ホルダ100を含む。分光光度計200において、試料ホルダ100は、第1の部分112及び第1の湾曲した表面をその下側に提供する平凸レンズ204を含む。試料ホルダ100はまた、第2の部分及び第2の実質的に平坦な表面を窓206の上側に提供する実質的に平坦な窓206を含む。平凸レンズ204は、レンズ204の中心部分で窓206に接触するか、又はほぼ接触する。測定試料201は、レンズ204と窓206との間に配置される。
【0062】
分光光度計200において、光源208からの光113は、光源照明においてより高い空間周波数変調パターンを生成するためにマスク210上に投影される。マスク210は、検出器202上にシャドーパターンを生成し、屈折率の計算を容易にする。シャドーパターンの変化は検出可能であり、シャドーパターンの測定された変化に基づいて屈折率を推定することができる。試料の吸収率は、屈折率の虚部である。
図9~
図11Bを参照して以下で更に詳細に説明するように、測定された屈折率の実部を使用して、試料の吸収率を補正することができる。
【0063】
図2に示される特定の構成では、集束要素212及び213は、試料ホルダ100及び測定試料201を通過して、マスク210を検出器202上に結像する。検出器202は、試料ホルダ100及び測定試料201を透過した光113を検出する。検出器202によって検出された透過率は、測定試料201の吸収スペクトル及び他の特性を決定するために、例えばプロセッサによって処理される。
図2には示されていないが、プロセッサは、分光光度計200のハードウェアに内蔵された、又は分光光度計200とは別に提供された任意の好適なプロセッサとすることができることが理解される。
【0064】
さらに、他の特定の実施形態において、本発明の範囲から逸脱することなく、分光計200に対して異なる構成が可能である。例えば、いくつかの実施形態において、波長選択要素を試料ホルダ100の前の光路内に提供することができる。いくつかの実施形態において、モノクロメータを試料201の上流の光路内に提供することができる。いくつかの実施形態において、ポリクロメータ(polychromator)を試料201の下流の光路内に提供することができる。
【0065】
さらに、吸収スペクトルの対称パターンの中心は基準として容易に決定することができるため、検出器202に対するレンズ204の位置は重要ではない。実際、試料ホルダ100は、分光光度計200内の光源208及び検出器202に対して任意の好適な場所に配置することができる。
【0066】
典型的には、検出器202は2次元(2D:two-dimensional)アレイ検出器である。実際には、検出器202は、電荷結合デバイス(CCD:charge coupled device)アレイ検出器、相補型金属酸化膜半導体(CMOS:complementary metal oxide semiconductor)センサアレイ検出器、又はマイクロボロメータ(microbolometer)アレイ検出器を含むことができる。いくつかの実施形態において、1次元(1D:one-dimentional)アレイ検出器を使用することができる。
【0067】
いくつかの実施形態において、光源208は、白色光を提供することができ、測定試料201の後のポリクロメータによって、波長選択性を提供することができる。この構成を使用して、例えば、波長が1つの次元に分散され、経路長の変動が他の次元にわたって拡散される2Dアレイ検出器上で、透過率対波長及び経路長の出力を作成することができる。
【0068】
いくつかの実施形態において、LED(260nm,280nm,320nm)を光源208に使用することができる。これらの実施形態において、追加の波長選択性は、試料分析を実行するために必要とされない。
【0069】
いくつかの実施形態において、事前分散要素(pre-dispersion element)を測定試料201の前の光路内に設けることができる。いくつかの実施形態において、事後分散要素(post-dispersion element)を試料201の後の光路内に設けることができる。
【0070】
典型的には、高吸光度の試料201に対して、吸収画像の外側部分は、典型的には、非常にわずかな光及び不十分な信号対雑音比を有する。いくつかの実施形態において、良好な信号対雑音比を与えるのに十分な光が存在する吸収スペクトル画像の一部が含まれ、不十分な領域が除外されるように、最適化された重み関数を計算に適用することができる。
【0071】
さらに、試料ホルダ100内の任意の試料201について、関連する吸収スペクトル画像が比較的高い光レベルを有する領域を常に含むため、検出器202は、非常に低い光レベルで動作する必要はない。
【0072】
図2に示される分光光度計200では、光源208は固定されており、測定試料201全体にわたって同時に光を提供する。分光光度計200の場合、機器全体にわたって可動部品は必要とされない。
【0073】
図3に示すような代替的な実施形態において、分光光度計300の光源302は、光ビーム304を提供し、この光ビーム304は、試料ホルダ100の一端から試料ホルダ100の反対の端まで測定試料201を走査するように、測定試料201に対して移動可能である。この構成によれば、検出器202は、光源302が試料ホルダ100の一端から他端に移動するにつれて、経路長の範囲内の各経路長に対する透過率の値を順次検出する。
図3に示される分光光度計300は、近赤外(NIR:near-infrared)範囲又は赤外(IR:infrared)範囲で動作するように使用することができる。
図3に示すような可動光源302を使用することにより、光ビーム304を表面122及び試料201に対して実質的に垂直に設定することによって、屈折率の影響を低減することができる。
【0074】
一般に、赤外線測定では、典型的にはUV-VISスペクトル範囲では生じない課題が生じる。特に重要なのは、水による一部の波長範囲での高い減衰である。例えば、1650cm-1付近のタンパク質アミドIバンドは、1653cm-1を中心とする水吸収バンドと大幅に重複している。これは、低濃度のタンパク質を検出できるようにするためには、分光光度計300が、溶媒(水)による大きな吸光度の存在下で、分析物による吸光度の非常に小さな変化を分解できなければならないことを意味する。試料ホルダ100における第1の表面102及び第2の表面104の幾何学的形状の再現性により、表面102、104間の間隔(spacing)に依存しない基準測定値の正確な減算が可能になる。
【0075】
別の実施形態において、時間に対して経路長が変化する測定を達成するために、光源302は静止しており、試料ホルダ100は、光ビーム304が試料ホルダ100の一端から他端まで移動することを可能にするように移動可能である。上記の実施形態において、単一点検出器(single point detector)を使用して、試料201を通る光の透過を検出することができる。1つの例では、単一点検出器は、テルル化水銀カドミウム(MCT:mercury cadmium telluride)検出器とすることができる。いくつかの実施形態において、光源302は、単一点検出器と径方向に位置合わせすることができる。
【0076】
実際には、試料ホルダ100の移動は、比較的小さく、例えば、数ミリメートル程度とすることができる。いくつかの実施形態において、試料ホルダ100の移動は、屈曲機構を使用して達成することができる。いくつかの実施形態において、検出器202は、試料201に対して移動可能とすることができる。
【0077】
更なる代替的な実施形態において、IR範囲又はNIR範囲内で動作するために、分光光度計は、2つの試料間の比較を可能にするように構成することができる。特に、溶媒のみの試料の吸収を、溶媒及び分析物を含む試料と比較することができる。分光計は、2つの試料を保持する2つの同一の試料ホルダ、又は2つの試料を保持する2つの空洞を有する単一の試料ホルダを含むことができる。比較分析は、光ビームが両方の試料上に同時に投影されるダブルビーム構成を使用して同時に実行することができる。代替的に、2つの試料を順次保持するために単一の試料ホルダを提供することができる。
【0078】
これらの実施形態において、分光光度計は、測定試料の温度を制御する温度コントローラを含むことができる。特に、温度コントローラを使用して、試料の温度が測定中に実質的に一定であることを確実にすることができる。温度の変化は、しばしば、溶媒の吸光度の変化を引き起こす可能性がある。そのため、温度変化に関連する誤差は、温度コントローラを使用して測定試料内の温度を実質的に一定に維持することによって最小限に抑えることができる。特に、温度コントローラは、2つの比較試料の測定が同時に実行される場合に、試料にわたって空間的に実質的に一定の温度を維持するように提供することができる。代替的に、2つの比較試料の測定が順次実行される場合には、温度コントローラは、試料に対して一時的に実質的に一定の温度を維持するように提供することができる。
【0079】
実際には、光源302として量子カスケードレーザ(QCL:quantum cascade laser)を用いることができる。QCLは、単色IR放射の強力な光源である。QCLは、比較的小型の光源であり、光学システムに効率的に結合させることができる。比較的高いパワーにより、比較的効率的に結果を達成することができる。さらに、検出器の要件はそれほど重要ではないため、潜在的なコスト及び複雑さが低減される。例えば、極低温検出器(cryogenic temperature detector)の代わりに、室温又は熱電冷却された検出器を使用することができる。いくつかの用途では、少数の波長のみが対象となる。このような用途には、QCL源の使用が特に好適である。
【0080】
いくつかの実施形態において、検出器202は、マイクロボロメータアレイ検出器とすることができる。他の実施形態において、検出器202は、1D又は2Dのテルル化水銀カドミウム検出器とすることができる。
【0081】
図4は、本発明の更なる実施形態による分光光度計400を示している。分光光度計400では、試料ホルダ402は、その下側に湾曲した第1の表面を提供する平凸レンズ204と、その上側に実質的に平坦な第2の表面を提供する鏡面試料スライド404とを含む。試料ホルダ402は、第1の表面と第2の表面との間に測定試料201を保持するようになっている。分光光度計400において、光源406からの光ビームは、集束ミラー408を介して試料ホルダ402及び試料201上に方向を変えられる。鏡面試料スライド404は、試料201及び平凸レンズ204を通して、光を反射して結像ミラー410上に戻し、結像ミラー410は、試料201の光源406と同じ側に位置決めされた検出器412上に反射光を集束させる。
図4に示す実施形態で検出される有効光学経路長は、光が測定試料201を2回通過するため、約2倍になる。必要に応じて、マスク403が、検出器412上にシャドーパターンを作製するために提供することができて、以下に更に詳細に説明されるように、屈折率についての計算を容易にする。
【0082】
次に、本発明の実施形態による試料ホルダ及び分光光度計を使用して測定試料201中の分析物の減衰係数を計算する方法について、
図5~
図11Bを参照して以下に説明する。典型的には、以下に説明される方法は、分光光度計とともに、又は別個に提供される、コンピュータプロセッサ上で自動的に実行されるコンピュータ実施方法である。コンピュータプロセッサは、コンピュータ実施方法のステップのうちの1つ以上を実行するために、その上にインストールされたソフトウェアアプリケーションを含むことができる。代替的な実施形態において、ソフトウェアアプリケーションは、インターネット等のネットワークを介してアクセス可能なクラウドベースのアプリケーションとすることができる。いくつかの実施形態において、ソフトウェアアプリケーションは、ローカルネットワークを介して遠隔でアクセス可能とすることができる。
【0083】
1Dアレイ検出器又は2Dアレイ検出器(又は単一点検出器)からの各ピクセル測定は、光路を介して光強度を測定する。一般に、各ピクセル測定値は、試料ホルダ100の経路長に対応する。実際には、光路は、光学構成要素からの透過及び/又は反射損失(つまり、光学構成要素からの透過又は光学構成要素からの反射損失、あるいはそれらの両方)、構成要素間のインターフェース(interface)における透過損失、検出器の量子効率による検出損失、及び測定試料201内の吸光度を含む。
【0084】
以下の計算方法は、アレイ検出器からのピクセル測定値を参照するが、
図3に示すような移動可能な光源を有する代替的な構成が、同等の計算を使用することができることを理解されたい。
【0085】
図5のフロー図に示す計算方法500では、異なる試料間で試料屈折率の変化がほとんどないこと、又は試料ホルダ100の幾何学的形状が、屈折による像の動きを無視できる程度に保つように設計されていることが仮定される。いくつかの実施形態において、これは、第1の湾曲した表面102が比較的大きい曲率半径を伴う規則的な幾何学的形状を有する試料ホルダ100を提供することによって達成することができる。これらのシナリオでは、各ピクセルに対応する試料201内の光学経路長は、試料ホルダ100の第1の表面102及び第2の表面104の所定の幾何学的形状に基づいて事前に計算することができる。1つの例では、経路長は、市販の光学レイトレーシングソフトウェアプログラムを使用して事前に計算することができる。1つの実施形態において、各検出器ピクセルに対する試料経路長のルックアップテーブル503が、特定の試料ホルダ設計に対して事前に計算され、コンピュータプロセッサのメモリ内に記憶することができる。代替的に、コンピュータプロセッサは、試料ホルダ100の所定の幾何学的形状に基づいて、試料経路長をリアルタイムで計算することができる。
【0086】
各ピクセルについて光学経路長が分かると、検出器アレイが1次元であるか2次元であるか、又は複数の検出器の任意の位置決めが使用されるかどうかにかかわらず、以下の計算手法を使用することができる。この計算手法は、異なる試料経路長の分布を有する異なる光学幾何学的形状を有する試料ホルダにも適用することができる。
【0087】
図5~
図11Bにおいて本明細書で提供される例示的な図に関して、試料経路長は、1Dアレイ検出器と共に使用されるとき、第1の表面及び実質的に平坦な第2の表面に関して放物柱(parabolic cylinder)を有する試料ホルダに関するものであり、又は2Dアレイ検出器と共に使用されるとき、球状の第1の表面及び実質的に平坦な第2の表面を有する試料ホルダに関するものである。
【0088】
方法500のステップ502において、基準試料又はベースライン試料が試料ホルダ100内に配置される。検出器202の各ピクセルは、光源208からの光を、全光路及び検出器感度に起因するいくらかの減衰を伴って受光する。経路減衰は、経時的に実質的に一定のままであるが、光源の強度は、一定ではない場合がある。検出器202の各ピクセルで受信される信号は、本明細書では基準信号Srefと称される。基準信号は、検出器202によって測定され、コンピュータプロセッサによって記録される。各検出器ピクセルについて測定され記録された基準信号Srefは、式(1)を用いて以下のように表すことができる。
Sref[p]=Iref×T[p] (1)
ここで、
Sref[p]は、検出器ピクセルpによって受信される基準信号であり、
Irefは、基準信号Sref[p]が測定され記録されたときの光源強度であり、
T[p]は、光源208から検出器ピクセルpまでの全光路(基準試料経路を含む)の透過率である。
【0089】
ステップ504において、測定試料qが試料ホルダ100に配置される。各検出器ピクセルに到達する光は、試料qの吸光度によって減衰する。検出器202の各ピクセルで受信される信号は、本明細書では試料信号S
qと称される。各検出器ピクセルについて測定され記録された試料信号S
qは、式(2)を用いて以下のように表すことができる。
【数1】
ここで、
S
q[p]は、試料qについて検出器ピクセルpによって受信された試料信号であり、
I
qは、試料qについての試料信号が測定され、記録されたときの光源強度であり、
T[p]は、全光路の透過率であり、
A
qは、試料qの10進法での減衰係数(decadic attenuation coefficient)と基準試料のこの減衰係数との間の差であり、
L[p]は、ピクセルpに対する事前に計算された試料経路長である(例えば、データベース503内のルックアップテーブルによって提供される)。
【0090】
ステップ506において、式(1)及び(2)の比により、変数T[p](全光路の透過率)が相殺され、以下のように式(3)を導出することができる。
【数2】
ここで、
T
q[p]は、光源変化に対する補正を伴わない試料qに対する検出器ピクセルpの試料透過率(すなわち、ピクセルpの単一ビーム試料透過率)を表し、
K
qは、基準測定値に対する試料qの光源強度比である。
【0091】
各ピクセルpにおいて検出された信号は、新しい一組の式(3)の値を提供するので、ステップ506において、検出された信号及び事前に計算された経路長503に基づいて、光源の相対強度(Kq)及び試料の相対減衰係数(Aq)を計算することができる。
【0092】
例えば、
図6Aのグラフは、線形アレイ検出器のピクセルに対応する試料経路長の範囲を示している。
図6Bのグラフは、異なる吸光度を有する複数の異なる試料について、線形アレイ検出器の各ピクセルの予想される相対試料透過率を示している。ゼロ又はほぼゼロの試料経路長に対応する(すなわち、2つの光学表面が接触している試料ホルダの第1の測定ゾーン108内の)任意の検出器ピクセルに対しては、異常な透過率が予想される。これらの光路に対して、光学表面から試料へのフレネル損失(Fresnel loss)が消滅し、予想される透過率に不連続性が生じる。したがって、ゼロ又はほぼゼロの試料経路長に対応する検出器ピクセルを測定から除外することができる。
【0093】
図7A及び
図7Bのグラフは、試料ホルダ100が球状の第1の表面102及び平坦な第2の表面104を備えている2Dアレイ検出器の相対試料透過率を示している。
図7Bにおける透過率の値に対応する試料吸光度は、
図7Aの透過率の値よりも高い。
【0094】
1つの実施形態において、プロセッサは、計算方法500を実行するために上記の式(1)~(3)を適用する前に、
図7A及び
図7Bに示す2Dデータ点を(例えば、
図6Bに示すような)透過率と経路長との複数の1Dアレイに変換する。
【0095】
ステップ508において、プロセッサは、式(3)における光源の相対強度(Kq)及び試料の相対減衰係数(Aq)の初期推測値又は近似値を使用して推定された透過率の値を計算し、最適化アルゴリズムを使用してこれらの値を絞り込み、各ピクセルの推定された透過率の値と対応する検出された透過率の値との間の誤差を最小にする試料の減衰係数(Aq)の最終値を決定する。1つの実施形態において、以下のFitError関数(4)に基づく反復最適化プロセスを使用することができる。
Aq≧0;Kq≧0において、
FitError(Aq,Kq)を最小化する (4)
【0096】
FitError関数は、予測された一組の透過率の値を計算し、それらの透過率の値が測定された透過率の値とどの程度異なるかを表す値を生成する。誤差を最小化する1つの選択肢は、例えば以下のように、差の二乗の和を最小化することによる。
【数3】
【0097】
図8のグラフは、ステップ508において最適化アルゴリズムを適用した後の、データ点「+」によってマークされた測定された透過率と、データ点「・」によってマークされたフィッティングされた透過率とのプロットである。本明細書で説明される反復最適化プロセスは、規則的な対称光学表面に限定されないため、有利には、システムの柔軟性を提供しながら、光学設計を過度に制約することを回避する。
【0098】
いくつかのシナリオでは、屈折率の影響による検出器202で受信される信号の歪みを無視することができない。典型的には、これらのシナリオにおいて、各検出器ピクセルに対応する経路長は、屈折に起因して変化する。
【0099】
試料ホルダ100の第1の表面102の幾何学的形状が放物柱又は球体であり、第2の表面104が実質的に平坦である場合、屈折率の変化は、試料の減衰係数の変化と同様の透過パターンの変化をもたらす。測定におけるこの曖昧さは、例えば、以下の複数の異なる方法で解決することができる。
(a)均一な光源照明を使用し、屈折率又は減衰係数のいずれかが変化したときに透過パターンが容易に区別可能な方法で変化するように、試料ホルダ100の第1の表面102及び第2の表面104の幾何学的形状を選択する。
(b)試料減衰係数の変化により透過パターンに吸収に基づく変化が生じるが、屈折率の変化により空間変調の位置が歪むように、(例えば、
図2に示されるように検出器202上にシャドーパターンを集束させる光路内のパターン化フィルタ210を使用して)光源照明内により高い空間周波数変調パターンを含める。
【0100】
1つの実施形態において、解決策(a)は、2つの異なる次元において異なる表面勾配を有する、試料ホルダ100の第1の表面102の幾何学的形状、例えば、放物面表面を使用する。
z=a×x2+b×y2
ここで、a≠bである。
【0101】
この実施形態において、光学レイトレーシングプログラムを使用して、各検出器ピクセルに対応する試料経路長を計算する。この場合、経路長は試料の屈折率に依存する。異なる想定屈折率を有する複数の光線追跡を使用することによって、各検出器ピクセルに対して、屈折率に応じて経路長のモデルを作成することができる。屈折率に応じた経路長のルックアップテーブル、又は特定の試料ホルダ表面幾何学的形状に対する経路長と屈折率との間の関係を定義する一組の所定の関数は、メモリ510に記憶することができる(
図5参照)。
【0102】
上記の解決策(a)の場合、各経路長は、試料屈折率nの関数であり、検出器ピクセルの関数、すなわちL[p,n]である。
図5を参照して上述したような方法500の一般的なステップに従うことができる。しかしながら、方法500は、最適化される追加のパラメータとして屈折率を考慮に入れる。最適化の各反復において、推定透過率を以下の式(5)に基づいて決定することができる。
【数4】
【0103】
上記(b)の場合、例えば
図2に示すように、光源照明に高空間周波数の特徴が意図的に導入される。屈折率の変化に基づく検出器信号の歪みは、検出器202によって検出される高空間周波数の特徴の位置に影響を及ぼす。吸光度及び屈折率の複合効果を解決するために、2つの例示的な方法が、
図9~
図11Bを参照して以下に説明される。
【0104】
図9は、空間フィルタリングを使用して測定試料201の減衰係数を決定する方法900を示すフローチャートである。方法900によれば、光源照明は、検出器202のピクセルによって分解することができる急速に変化する空間パターンを提供する。特に、屈折率が変化すると、その検出器の信号パターンが引き伸ばされたり、歪んだりする。検出器の様々な部分におけるパターンの伸張の量は、試料ホルダ100の表面102、104の光学幾何学的形状に依存するが、試料201の減衰係数とは無関係である。
【0105】
試料経路長の滑らかな変化を提供することにより、検出器202上の照明の低空間周波数(low spatial frequency)のパターンにより試料の減衰係数の推定が可能になる。上述したように、屈折率差による歪みにより、その推定に誤差が生じる。方法900により屈折率を独立して推定することにより、これらの誤差の補正が可能になる。
【0106】
ステップ902において、元の検出器信号に空間フィルタリングが適用され、低空間周波数の特徴から高空間周波数の特徴が分離される。
図10Aは、検出器202において規則的に離間された薄い影を生成する光学マスク210によって光源照明が空間的に変調されるときに、アレイ検出器202から受信される高空間周波数の特徴を含む元の検出器信号を示している。
図10Aに示すように、試料吸光度が変化し、屈折率が一定のままであるとき、高空間周波数の特徴は、検出器信号に整列する。
図10Bは、試料吸光度が一定のままであり、屈折率が変化するときの高空間周波数の特徴の横方向変位を示している。
【0107】
ステップ904において、試料201の屈折率は、検出器信号の抽出された高空間周波数の成分に基づいて推定することができる。1つの実施形態において、ピーク同定技術を使用して、高空間周波数の特徴間の間隔を推定することができる。1つの実施形態において、異なる屈折率を有する複数のレイトレーシング(ray tracing)を使用して、特徴の間隔と対応する屈折率との間の関係を決定するために使用されるモデル又はルックアップテーブルを作成する。これらの実施形態において、観測された特徴間隔を最もよく予測する屈折率nを決定することができる。
【0108】
ステップ902において、検出器信号はまた、低空間周波数を抽出するためにフィルタリングされ、高周波数の照明の特徴を減衰又は回避する検出器ピクセル毎の一組の透過率の値を提供する。
Tq=LPF(Sq)/LPF(Sref)
ここで、
LPFは、ローパス空間フィルタ(1D又は2Dの検出器に合わせて次元が選択される)であり、
Srefは、基準試料から受信されたピクセル信号のアレイであり、
Sqは、試料qから受信されたピクセル信号のアレイであり、
Tqは、全てのピクセルpについてのピクセル透過率Tq[p]のアレイである。
【0109】
図11Aは、高空間周波数の特徴を除去するメジアン(median)フィルタリング及びサビツキーゴーレイ(Savitzky-Golay)フィルタリングの組み合わせの出力を示している。
図11Bは、予想される試料屈折率の範囲に対して、薄い影によって影響される可能性が高い任意のピクセルを除外するフィルタの出力を示している。
【0110】
ステップ906では、ステップ904で以前に推定された屈折率nをL[p,n]に代入することができ、パラメータ最適化により、以下の式(6)においてパラメータK
q(光源の相対強度)及びA
q(試料qの相対減衰係数)を推定することができる。
【数5】
【0111】
ステップ908において、最適化アルゴリズムを適用して、以下のような目的関数におけるフィッティング誤差を最小化する。
FitError=Sum((Tq[p]-Test[p])2)
また、最適化により試料の屈折率からの歪みについて補正された試料の減衰係数Aqの推定値を得ることができる。
【0112】
別の例示的な方法によれば、変調モデルを作成して、各検出器ピクセルの相対強度が屈折率に応じてどのように変化するかを決定することができる。変調モデルは、試料減衰係数及び屈折率の任意の可能な組み合わせに対して、検出器のピクセルにわたって予想される相対的信号分布を提供するルックアップテーブルを含むことができる。典型的には、任意の試料減衰係数及び屈折率に対して予想される相対的照明パターンを予測することができる場合、試料によって生成される相対的照明パターンを測定した後、観測されたものと一致するパターンを予測する減衰係数及び屈折率を決定することができる。
【0113】
変調モジュールは、パラメータ(屈折率nを含む)を最適化して、以下の式(7)に従って観測された透過率に一致する推定透過率を得るために使用することができる。
【数6】
ここで、M[p,n]は、所与の屈折率nに対して各ピクセルpにおいて検出器上に光源空間変調がどのように現れるかを決定する変調モデルである。上記の方法と同様に、パラメータn、K
q及びA
qの最適化を使用して、以下のような目的関数におけるフィッティング誤差を最小化することができる。
FitError=Sum((T
q[p]-T
est[p])
2)
【0114】
[解釈]
特許請求項の範囲を含んで、本明細書は、以下の通りに解釈されることを意図される。
【0115】
本明細書において説明する実施形態又は例は、発明の範囲を制限することなく、本発明を例証することを意図される。本発明は、当業者が容易に思いつくような種々の修正及び追加と共に実施されることが可能である。したがって、本発明の範囲が、説明されるか又は示される厳密な構成及び動作に限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが理解される。
【0116】
本明細書内の方法ステップ又は生成物元素の単なる開示は、そうであるように明示的に述べられるか又は特許請求の範囲で明示的に挙げられる場合を除いて、本明細書において特許請求される発明に絶対必要であると解釈されるべきでない。
【0117】
特許請求の範囲内の用語は、基準日時点で当業者によって与えられるであろう最も広い範囲の意味を有する。
【0118】
用語「一つの("a"及び"an")」は、別の方法で明示的に指定されない限り、「1つ以上(one or more)」を意味する。
【0119】
本出願の発明の名称も要約書も、特許請求される発明の範囲ほどに限定するものと決して解釈してはならない。
【0120】
特許請求の範囲のプリアンブルは、特許請求される発明の目的、利益、又は考えられる使用を述べるが、その目的、利益、又は考えられる使用のみを有することに、特許請求される発明を制限しない。
【0121】
特許請求項の範囲を含み、本明細書において、用語「備える(comprise)」、及び、「備える(comprises)」又は「備えている(comprising)」等の用語の変形は、別の方法で明示的に指定されない限り、又は、コンテキスト若しくは使用において、用語の排他的解釈が必要とされない限り、「含むが、それに限定されない(including but not limited to)」を意味するために使用される。
【0122】
本明細書において参照される任意の文書の開示は、本開示の一部としてではあるが、単に文書化した記述及び実施可能性のために、本特許出願に参照によって組み込まれ、また、本出願の任意の用語を制限する、規定する、又は別の方法で解釈するために決して使用されるべきでなく、本出願は、そのような参照による組み込みがなくとも、確認可能な意味を必ず提供する。いずれの参照による組み込みも、それ自体は、任意の組み込まれた文書に含まれる任意の陳述、意見、又は議論を支持するものでも承認するものでもない。
【国際調査報告】