(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】デュプレックスボディ
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240730BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240730BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240730BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240730BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240730BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240730BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240730BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240730BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240730BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240730BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P31/12
A61P37/06
A61K47/68
A61K39/395 W
A61K39/395 Y
A61K39/395 U
A61K39/395 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503490
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2022071490
(87)【国際公開番号】W WO2023007023
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520396474
【氏名又は名称】アフィメド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ロイシュ ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】コッホ ヨアヒム
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC03
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC35
4C076CC41
4C076EE59
4C076EE59Q
4C076FF31
4C085AA25
4C085AA33
4C085BB01
4C085BB31
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、以下:(i)少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)であって、該第1の結合ドメイン(A)が、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する免疫調節抗原である第1の標的(A')に特異的に結合することができ、該免疫エフェクター細胞がナチュラルキラー細胞またはマクロファージである、該少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A);および(ii)第2の結合ドメイン(B)であって、標的細胞の表面に存在する抗原である第2の標的(B')に特異的に結合することができる、該第2の結合ドメイン(B)を含む、抗体構築物に関する。本発明はまた、関連する核酸分子、ベクター、宿主細胞、抗体構築物を生産する方法、薬学的組成物、医学的使用、およびキットにも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(i)少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)であって、該第1の結合ドメイン(A)が、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する免疫調節抗原である第1の標的(A')に特異的に結合することができ、該免疫エフェクター細胞がナチュラルキラー細胞またはマクロファージである、該少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A);
(ii)第2の結合ドメイン(B)であって、標的細胞の表面に存在する抗原である第2の標的(B')に特異的に結合することができる、該第2の結合ドメイン(B);および
(iii)2つのCH3ドメインを含む半減期延長ドメインを含む第4のドメイン(D)
を含む、抗体構築物であって、
互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)の第1のCH3ドメインのC末端に融合されており、一方で、互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)の第2のCH3ドメインのC末端に融合されている、
抗体構築物。
【請求項2】
第1の標的(A')が、CD16A、CD56、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD47、SIRPα、CD89、CD96、CD137、CD160、TIGIT、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、CTLA-4、TIM-3、KIR2DL1~5、KIR3DL1~3、KIR2DS1~5、KIR3DS1、およびCD3からなる群より選択される、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項3】
第2の標的(B')以外である、標的細胞の表面に存在する抗原である第3の標的(C')に、特異的に結合することができる、第3の結合ドメイン(C)
を含む、請求項1または2記載の抗体構築物。
【請求項4】
第2の結合ドメイン(B)が、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項5】
第2の標的(B')が、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvlll、HER2、およびGD2からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項6】
第1の結合ドメイン(A)が、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項7】
第1の標的(A’)がCD16Aである、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項8】
第1の結合ドメイン(A)が、生理学的Fcγ受容体結合ドメインに対してC末端にある、CD16A上のエピトープに結合し、該エピトープが、好ましくはSEQ ID NO: 13のY158を含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項9】
第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項10】
別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の別のヒンジのN末端に融合されている、請求項9記載の抗体構築物。
【請求項11】
第1の結合ドメイン(A)が、
以下:
(a)SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 78に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、およびSEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3;
(b)SEQ ID NO: 83に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 84に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 85に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 86に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 87に示されるCDR-L2、およびSEQ ID NO: 88に示されるCDR-L3;ならびに
(c)SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 89に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、およびSEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3
より選択される、CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含むVH領域ならびにCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含むVL領域
を含む、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項12】
SEQ ID NO: 148、149、150および151、152および153、154および155、156および157、158および159、160および161、162および163、ならびに180~183、190、ならびに191および192からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、前記請求項のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物をコードする配列を含む核酸分子、または該核酸分子を含むベクター。
【請求項14】
請求項13記載の核酸分子またはベクターを含む、宿主細胞。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物を生産する方法であって、請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物の発現を可能にする条件下で請求項14記載の宿主細胞を培養する段階、および任意で、生産された抗体構築物を培養物から回収する段階を含む、方法。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物または請求項15記載の方法によって生産された抗体構築物を含む、薬学的組成物。
【請求項17】
治療法において使用するための、請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物。
【請求項18】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、または免疫学的障害より選択される疾患の予防、処置、または改善において使用するための、請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物または請求項15記載の方法によって生産された抗体構築物。
【請求項19】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、または免疫学的障害を処置または改善する方法であって、それを必要とする対象に、請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物または請求項15記載の方法によって生産された抗体構築物を投与する段階を含む、方法。
【請求項20】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、または免疫学的障害より選択される疾患の予防、処置、または改善のための組成物を調製するための、請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物または請求項15記載の方法によって生産された抗体構築物の使用。
【請求項21】
請求項1~12のいずれか一項記載の抗体構築物もしくは請求項15記載の方法によって生産された抗体構築物、請求項13記載の核酸分子、請求項13記載のベクター、および/または請求項14記載の宿主細胞を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、(i)少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)であって、該第1の結合ドメイン(A)が、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する免疫調節抗原である第1の標的(A')に特異的に結合することができ、該自然免疫エフェクター細胞がナチュラルキラー細胞またはマクロファージである、該少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A);および(ii)第2の結合ドメイン(B)であって、標的細胞の表面に存在する抗原である第2の標的(B')に特異的に結合することができる、該第2の結合ドメイン(B)を含む、抗体構築物に関する。本発明はまた、関連する核酸分子、ベクター、宿主細胞、抗体構築物を生産する方法、薬学的組成物、医学的使用、およびキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
背景
腫瘍抗原(例えば、EGFR、HER2)の高発現が、様々な腫瘍において報告されており、このことがきっかけで、これらの腫瘍標的を対象とする薬物(例えばモノクローナル抗体)の開発が行われていた。しかし、これらの腫瘍抗原は、不均一に発現されることが多く、特定の腫瘍亜型においてのみ高発現されるか、または腫瘍組織内でのみ高発現されるかのいずれかである(Hoadley et al 2007; Bedard et al 2013; Passaro et al 2020; Zhang et al. 2020)。腫瘍細胞およびがん幹細胞におけるマーカーの多様な発現は、腫瘍内の不均一性を反映している。腫瘍細胞およびがん幹細胞上の(例えば、下方制御または脱落による)腫瘍抗原の低発現または減少は、治療耐性をもたらし得る(Salih et al 2002; Paczulla et al 2019; Reim et al 2009)。なぜなら、腫瘍が、回避戦略として、治療期間中に、標的とされる腫瘍抗原を下方制御する可能性があるからである。先行技術の一般的な抗腫瘍抗体は、腫瘍抗原を高発現する腫瘍細胞を標的とすることにおいて、より有効である。しかし、腫瘍抗原を高発現する腫瘍細胞のみを標的とすることは、最終的に、腫瘍抗原を低発現する腫瘍細胞の増殖および治療に対する臨床応答の欠如を招くと考えられる。標的とされる腫瘍抗原が少ない腫瘍細胞は、最初の完全寛解後に再発する可能性の原因となり得る。したがって、いくつかの腫瘍適応症に対するターゲット療法は、腫瘍不均一性が原因で、依然として困難である。したがって、本発明の目的は、腫瘍抗原が不均一に発現される場合でさえ腫瘍を処置するための手段および方法を提供することである。
【発明の概要】
【0003】
概要
本発明は、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する免疫調節抗原に特異的な少なくとも4つの結合ドメインと、標的細胞の表面に存在する抗原に対する少なくとも1つの結合ドメインとを有する、二重特異性抗体構築物が、標的抗原を低発現または極低発現する標的細胞でさえ、効率的に殺滅することができるという驚くべき知見に基づいている。
【0004】
本明細書の実施例10に示されるように、EGFRに対する1つまたは2つの結合ドメインおよびCD16Aに対する4つの結合ドメインを有する二重特異性抗体は、CD16Aに対する2つの結合ドメインのみを有する抗体と比べて、EGFRを極低発現するDaudi細胞に対して驚くほど増大した効力および有効性を有する。
【0005】
したがって、本発明の抗体構築物は、標的抗原を高発現する腫瘍内の細胞だけでなく、腫瘍幹細胞を含む、標的抗原を低発現または極低発現する細胞もまた除去できるので、腫瘍治療に有用であることができる。したがって、該抗体構築物は、腫瘍全体を標的とすることができる。したがって、本発明の抗体構築物は、標的抗原を不均一に発現する腫瘍を標的とするのに有用であることができる。
【0006】
したがって、本発明は、(i)少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)であって、該第1の結合ドメイン(A)が、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する免疫調節抗原である第1の標的(A')に特異的に結合することができ、該免疫エフェクター細胞がナチュラルキラー細胞またはマクロファージである、該少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A);および(ii)第2の結合ドメイン(B)であって、標的細胞の表面に存在する抗原である第2の標的(B')に特異的に結合することができる、該第2の結合ドメイン(B)を含む、二重特異性抗体構築物に関する。
【0007】
本発明はまた、本発明の抗体構築物をコードする配列を含む核酸分子にも関する。
【0008】
本発明はまた、本発明の核酸分子を含むベクターにも関する。
【0009】
本発明はまた、本発明の核酸分子または本発明のベクターを含む宿主細胞にも関する。
【0010】
本発明はまた、本発明の抗体構築物を生産する方法であって、本発明の抗体構築物の発現を可能にする条件下で本発明の宿主細胞を培養する段階、および任意で、生産された抗体構築物を培養物から回収する段階を含む、該方法に関する。
【0011】
本発明はまた、本発明の抗体構築物または本発明の方法によって生産された抗体構築物を含む、薬学的組成物にも関する。
【0012】
本発明はまた、治療法において使用するための本発明の抗体構築物にも関する。
【0013】
本発明はまた、増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、または免疫学的障害を処置または改善する方法であって、それを必要とする対象に、本発明の抗体構築物または本発明の方法によって生産された抗体構築物を投与する段階を含む、該方法にも関する。
【0014】
本発明はまた、標的細胞および免疫エフェクター細胞に同時に結合する方法であって、本発明の抗体構築物を対象に投与する段階を含み、該標的細胞が第2の標的(B')を低発現する、該方法にも関する。
【0015】
本発明はまた、本発明の抗体構築物もしくは本発明の方法によって生産された抗体構築物、本発明の核酸分子、本発明のベクター、および/または本発明の宿主細胞を含む、キットにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1-1】
図1: 少なくとも4つの第1の結合ドメインを含む抗体構築物(A~E)および参照抗体構築物(F~H)の概略図。
【
図2-1】
図2: 抗体構築物の生化学的特徴付け。(A)Bi-scDb-IgAb_06(SEQ ID NO: 162およびSEQ ID NO: 163)、(B)Bi-scDb-Fc_01(SEQ ID NO: 148)、(C)Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 149)、(D)aBi-scDb-Fc_01(SEQ ID NO: 150およびSEQ ID NO: 151)、(E)aBi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 152およびSEQ ID NO: 153)、(F)aBi-scDb-Fc_03(SEQ ID NO: 154およびSEQ ID NO: 155)、(G)aBi-scDb-Fc_04(SEQ ID NO: 156およびSEQ ID NO: 157)、(H)aBi-scDb-Fc_05(SEQ ID NO: 158およびSEQ ID NO: 159)、ならびに(H)aBi-scDb-Fc_06(SEQ ID NO: 160およびSEQ ID NO: 161)。左のパネル:プロテインAクロマトグラフィーおよび分取サイズ排除クロマトグラフィーによって精製された構築物。右のパネル:非還元条件(nR)下または還元条件(R)下でのSDS-PAGE解析。
【
図3】NK細胞による、MCF-7標的細胞の濃度依存的溶解。カルセインで標識されたMCF-7細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としての濃縮初代ヒトNK細胞と5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、溶解した標的細胞から上清中に放出されたカルセインの蛍光を定量し、特異的溶解率(%)の計算に使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしている。
【
図4】NK細胞による、Daudi標的細胞の濃度依存的溶解。カルセインで標識されたDaudi細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としての濃縮初代ヒトNK細胞と5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、溶解した標的細胞から上清中に放出されたカルセインの蛍光を定量し、特異的溶解率(%)の計算に使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしている。
【
図5】様々な抗体構築物による、NK細胞フラトリサイドの濃度依存的誘導。カルセインで標識された濃縮初代ヒトNK細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としての自己由来NK細胞と1:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、溶解した標的細胞から上清中に放出されたカルセインの蛍光を定量し、特異的溶解率(%)の計算に使用した。抗CD38 IgG1(IgAb_51)を陽性対照として使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしている。
【
図6】マクロファージによる、DK-MG標的細胞の濃度依存的食作用。CMFDAで標識されたDK-MG細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としてのヒト単球由来マクロファージと5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、細胞を抗CD11bおよび生死判別色素eF780で染色した。標識された標的細胞に対する食作用を、生細胞に対するCMFDA
+/CD11b
+細胞の比率(%)をフローサイトメトリーによって解析することによって定量した。抗体の非存在下でのADCPを、標準化のために使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしており、1つの代表的な実験を示している。
【
図7】マクロファージによる、EGFRを低発現するMCF-7標的細胞に対する濃度依存的食作用。CMFDAで標識されたMCF-7細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としてのヒト単球由来マクロファージと5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、細胞を抗CD11bおよび生死判別色素eF780で染色した。標識された標的細胞に対する食作用を、生細胞に対するCMFDA
+/CD11b
+細胞の比率(%)をフローサイトメトリーによって解析することによって定量した。抗体の非存在下でのADCPを、標準化のために使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしており、1つの代表的な実験を示している。
【
図8】NK細胞による、A-431標的細胞の濃度依存的溶解。カルセインで標識されたA-431細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としての濃縮初代ヒトNK細胞と5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、溶解した標的細胞から上清中に放出されたカルセインの蛍光を定量し、標準化された特異的溶解の計算に使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしている。
【
図9】NK細胞による、BCMA
+ MM.1S細胞の濃度依存的溶解。カルセインで標識されたMM.1S細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としての濃縮初代ヒトNK細胞と5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、溶解した標的細胞から上清中に放出されたカルセインの蛍光を定量し、特異的溶解率(%)の計算に使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしている。
【
図10】特異的抗体結合能(SABC)に基づく、HER2発現およびEGFR発現に関する腫瘍細胞株のスコアリング。
【
図11】マクロファージによる、EGFRを発現するHCT-116標的細胞に対する濃度依存的食作用。CMFDAで標識されたHCT-116細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としてのヒト単球由来マクロファージと5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、細胞を抗CD11bおよび生死判別色素eF780で染色した。標識された標的細胞に対する食作用を、生細胞に対するCMFDA
+/CD11b
+細胞の比率(%)をフローサイトメトリーによって解析することによって定量した。抗体の非存在下でのADCPを、標準化のために使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしており、1つの代表的な実験を示している。
【
図12】NK細胞による、CD19
+Daudi標的細胞の濃度依存的溶解。カルセインで標識されたDaudi細胞を、指定された抗体の段階希釈物の存在下にて、エフェクター細胞としての濃縮初代ヒトNK細胞と5:1のE:T比で、同時培養した。4時間のインキュベーション後、溶解した標的細胞から上清中に放出されたカルセインの蛍光を定量し、特異的溶解率(%)の計算に使用した。2つ1組の値の平均値およびSDをプロットしている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
「結合ドメイン」という用語は、本発明に関連して、標的分子(抗原)、例えば自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原(CD16AもしくはNKp46など)および/または例えば標的細胞の表面に存在する抗原の、それぞれの、所与の標的エピトープまたは所与の標的部位に特異的に結合/それらと相互作用/それらを認識することができる、ドメインの特徴を説明する。(例えば自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原を認識する)第1の結合ドメインの構造および/または機能、(例えば標的細胞の表面に存在する抗原を認識する)第2の結合ドメインの構造および/または機能、ならびにまた、(標的細胞の表面に存在する抗原を認識する)第3の結合ドメインの構造および/または機能は、好ましくは、抗体の、例えば、完全長免疫グロブリン分子もしくは全長免疫グロブリン分子の構造および/もしくは機能に基づいているか、かつ/または抗体もしくはその断片の可変重鎖(VH)ドメインおよび/もしくは可変軽鎖(VL)ドメインに由来する。
【0018】
「特異的に結合する」という用語は、本明細書において使用される場合、結合ドメインが、その結合相手が他の分子または他の構造物の混合物中に存在する場合でさえ、優先的に標的に結合するかまたは標的を認識することを意味する。結合は、共有結合的相互作用もしくは非共有結合的相互作用または両方の組合せによって媒介され得る。好ましい態様において、「標的細胞および免疫エフェクター細胞への同時結合」は、結合ドメインと細胞上のそれらの標的との物理的相互作用を含むが、好ましくは、これら2つの細胞に対する同時結合によって引き起こされる作用の誘導も含む。このような作用は、免疫エフェクター細胞の免疫エフェクター機能、例えば細胞障害効果であってよい。
【0019】
「抗体構築物」という用語は、構造および/または機能が、抗体の、例えば、完全長免疫グロブリン分子もしくは全長免疫グロブリン分子の構造および/もしくは機能に基づいているか、かつ/または抗体もしくはその断片の可変重鎖(VH)ドメインおよび/もしくは可変軽鎖(VL)ドメインに由来する、分子を意味する。したがって、抗体構築物は、その特異的な標的または抗原に特異的に結合することができる。さらに、本発明において定義される抗体構築物の結合領域は、標的結合を可能にする、抗体の最小構造要件を含む。この最小要件は、例えば、少なくとも3個の軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)ならびに/または3個の重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)、好ましくは6個のCDRすべてが存在することと定義され得る。抗体の最小構造要件を定めるための代替アプローチは、それぞれ、特異的標的の構造内の抗体エピトープ、すなわちエピトープ領域(エピトープクラスター)を構成する標的タンパク質のタンパク質ドメインを定義することであるか、または定義済の抗体に対するエピトープと競合する特異的抗体を参照することによる。本発明において定義される構築物のベースとなる抗体には、例えば、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体が含まれる。
【0020】
本発明において定義される抗体構築物の結合領域は、例えば、前述したCDRの群を含んでよい。好ましくは、これらのCDRは、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)の骨格に含まれる;しかし、両方とも含まなければならないわけではない。例えば、Fd断片は、2個のVH領域を有し、しばしば、無傷の抗原結合領域の抗原結合機能をいくらか保持している。抗体断片、抗体バリアント、または結合ドメインのフォーマットについてのさらなる例には、(1)Fab断片、すなわち、VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインを有する一価の断片;(2)F(ab')2断片、すなわちヒンジドメインにおいてジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を有する二価の断片;(3)2つのVHドメインおよびCH1ドメインを有するFd断片;(4)抗体の1つのアームのVLドメインおよびVHドメインを有するFv断片;(5)VHドメインを有するdAb断片(Ward et al., (1989) Nature 341 :544-546);(6)単離された相補性決定領域(CDR);ならびに(7)単鎖Fv(scFv)が含まれ、後者が好ましい(例えば、scFvライブラリーに由来する)。
【0021】
本発明において定義される抗体構築物は、完全長抗体の断片、例えば、VH、VHH、VL、(s)dAb、Fv、Fd、Fab、Fab'、F(ab')2、または「rIgG」(「半抗体」)を含んでよい。本発明において定義される抗体構築物はまた、抗体バリアントとも呼ばれる改変された抗体断片、例として、scFv、di-scFvもしくはbi(s)-scFv、scFv-Fc、scFvジッパー、scFab、Fab2、Fab3、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ(scDb)、タンデムダイアボディ(TandAb's)、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFv、「マルチボディ」、例えばトリアボディまたはテトラボディ、および単一ドメイン抗体、例えばナノボディまたは単一可変ドメイン抗体も含んでよく、該単一可変ドメイン抗体は、VHH、VH、またはVLであり得るただ1個の可変ドメインを含み、他のV領域またはVドメインに依存せずに抗原またはエピトープに特異的に結合する。
【0022】
本明細書において使用される場合、「単鎖Fv」、「単鎖抗体」、または「scFv」という用語は、重鎖および軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが定常領域を欠いている、単一ポリペプチド鎖の抗体断片を意味する。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にする所望の構造を形成するのを可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。この目的のために好ましいリンカーはグリシンセリンリンカーであり、これは、好ましくは約15~約30個のアミノ酸を含む。好ましいグリシンセリンリンカーは、GGS、GGGS(SEQ ID NO: 1)、またはGGGGS(SEQ ID NO: 6)の1つまたは複数の繰り返しを有してよい。このようなリンカーは、好ましくは、GGSの5個、6個、7個、8個、9個、および/もしくは10個の繰り返し、好ましくは(GGS)6(SEQ ID NO: 4)(好ましくは、配置VH-VLを有するscFvのために使用される)、または好ましくは(GGS)7(SEQ ID NO: 5)(好ましくは、配置VL-VHを有するscFvのために使用される)を含む。「単鎖抗体」を安定化させるために、H44-L100変異(Zhao et al., 2010)を用いてドメイン間ジスルフィド架橋を導入することができる。H44は、システインに変更されなければならない、VH中のアミノ酸番号44(Kabatの番号付与)を表す。一方、L100は、システインに変更されなければならない、VL中のアミノ酸番号100(Kabatの番号付与)を表す。単鎖抗体は、Plueckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 1 13, Rosenburg and Moore eds. Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)によって詳細に考察されている。単鎖抗体を作製する様々な方法が公知であり、米国特許第4,694,778号および同第5,260,203号;国際特許出願公開WO 88/01649; Bird (1988) Science 242:423-442; Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Ward et al. (1989) Nature 334:54454; Skerra et al. (1988) Science 242:1038-1041において説明されているものが含まれる。特定の態様において、単鎖抗体はまた、二重特異性抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、および/もしくはヒト化抗体、ならびに/または合成抗体であってよい。本明細書において使用される「bi-scFv」または「ta-scFv」(タンデムscFv)という用語は、一体に融合された2つのscFvを意味する。このようなbi-scFvまたはta-scFvは、これら2つのscFv部分の間にリンカーを含んでよい。通常、各scFv内のポリペプチド鎖におけるVHドメインおよびVLドメインの配置は、任意の順序であってよい。これは、「ta-scFv」の「bi-scFv」が、VH(1)-VL(1)-VH(2)-VL(2)、VL(1)-VH(1)-VH(2)-VL(2)、VH(1)-VL(1)-VL(2)-VH(2)、またはVL(1)-VH(1)-VL(2)-VH(2)の順序で配置され得ることを意味し、ここで、(1)および(2)は、第1のscFvおよび第2のscFvをそれぞれ表す。
【0023】
本明細書において使用される「二重Fab」という用語は、一体に融合されている、好ましくは少しずつずらして配列された、2つのFab断片を意味する。その際、第1のFabの第1の鎖が、N末端で第2のFabの第1の鎖に融合されているか、もしくは第1のFabの第2の鎖が、N末端で第2のFabの第2の鎖に融合されているか、または両方、すなわち、第1のFabの第1の鎖および第1のFabの第2の鎖が、第2のFabの第1の鎖および第2の鎖にそれぞれ融合されている。リンカーが、第1のFabと第2のFabの融合される鎖の間に存在してよい。第1のFabおよび第2のFabの第1の鎖および第2の鎖は、各FabがVH、VL、CH1、およびCLを含む限り、Fabの軽鎖由来の鎖(VL-CL)、Fabの重鎖由来の鎖(VH-CH1)より独立に選択され得る。例示的な例として、第1のFabの軽鎖由来の鎖を、第2のFabの軽鎖由来の鎖に融合することができる。別の例示的な例として、第1のFabの重鎖由来の鎖を、第2のFabの重鎖由来の鎖に融合することができる。さらに別の例示的な例として、第1のFabの重鎖由来の鎖を、第2のFabの軽鎖由来の鎖に融合することができる。いくつかの二重Fabにおいて、2つのFabの両方の鎖が、一体に融合されている。例えば、第1のFabの軽鎖由来の鎖を第2のFabの軽鎖由来の鎖に融合することができ、同時に、第1のFabの重鎖由来の鎖を、第2のFabの重鎖由来の鎖に融合することができる。あるいは、第1のFabの軽鎖由来の鎖を第2のFabの重鎖由来の鎖に融合することができ、同時に、第1のFabの重鎖由来の鎖を、第2のFabの軽鎖由来の鎖に融合することができる。2つのFab鎖の融合物は、任意でリンカーを含んでもよい。適切かつ好ましいリンカーは、上部ヒンジ配列(SEQ ID NO: 11)または最大で約20個のアミノ酸、好ましくは最大で10個のアミノ酸、もしくは最も好ましくは10個のアミノ酸を有するグリシンセリンリンカー、例えば、GGGGS(SEQ ID NO: 7)の2個の繰り返しを含む。二重Fabに含まれるグリシンセリンリンカーは、GGS、GGGS(SEQ ID NO: 1)、またはGGGGS(SEQ ID NO: 6)の1つまたは複数の繰り返し、例えば、1個、2個、3個、または4個の繰り返しを有してよい。
【0024】
本明細書において使用される場合、「ダイアボディ」または「Db」とは、2つの結合ドメインを含む抗体構築物を意味し、該構築物は、本明細書において開示される重鎖および軽鎖を用いて、また本明細書において開示される個々のCDR領域を用いることによって、構築され得る。典型的には、ダイアボディは、短すぎるために同じ鎖の2つのドメイン間の対合は起こさせないリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。この目的のために好ましいリンカーには、最大で約12個のアミノ酸、好ましくは最大で約10個のアミノ酸を有するグリシンセリンリンカーが含まれる。好ましいグリシンセリンリンカーは、GGS、GGGS(SEQ ID NO: 1)、またはGGGGS(SEQ ID NO: 6)の1つまたは複数の繰り返しを有してよい。好ましいリンカーは、(GGS)2(SEQ ID NO: 2)である。別の好ましいリンカーは、(GGS)3(SEQ ID NO: 3)である。したがって、1つの断片のVHドメインおよびVLドメインは、別の断片の相補的なVHドメインおよびVLドメインと対になることを余儀なくされ、それによって、2つの抗原結合部位を形成する。ダイアボディは、VHおよびVLをそれぞれが含む2本の別個のポリペプチド鎖によって形成され得る。あるいは、4つの可変ドメインすべてが、2つのVHドメインおよび2つのVLドメインを含む1本のポリペプチド単鎖に含まれてもよい。このような場合、ダイアボディは、「単鎖ダイアボディ」または「scDb」と呼ぶこともできる。典型的には、scDbは、好ましくはリンカーを介して一体に融合されている、非単鎖ダイアボディの2本の鎖を含む。この目的のために好ましいリンカーはグリシンセリンリンカーであり、これは、好ましくは約15~約30個のアミノ酸を含む。好ましいグリシンセリンリンカーは、GGS、GGGS(SEQ ID NO: 1)、またはGGGGS(SEQ ID NO: 6)の1つまたは複数の繰り返しを有してよい。このようなリンカーは、好ましくは、GGSの5個、6個、7個、8個、9個、および/もしくは10個の繰り返し、好ましくは(GGS)6(SEQ ID NO: 4)、または好ましくは(GGS)7(SEQ ID NO: 5)を含む。ポリペプチド鎖において、scDbの可変ドメインは、(N末端からC末端に向かって)VL-VH-VL-VHまたはVH-VL-VH-VLの順序で配置され得る。同様に、3次/4次構造における4つのドメインの空間的配置も、VL-VH-VL-VHまたはVH-VL-VH-VLの順序であることができる。ダイアボディという用語は、さらに別の結合ドメインがダイアボディに融合することを除外しない。また、「単鎖ダイアボディ」は、H44-L100変異(Zhao et al., 2010)を用いてドメイン間ジスルフィド架橋を導入することによって、安定化させることもできる。H44は、システインに変更されなければならない、VH中のアミノ酸番号44(Kabatの番号付与)を表す。一方、L100は、システインに変更されなければならない、VL中のアミノ酸番号100(Kabatの番号付与)を表す。
【0025】
さらに、「抗体構築物」という用語の定義は、通常、2つの抗原性構造物にのみ特異的に結合する、二重特異性構築物を含む、多価構築物、ならびに別個の結合ドメインを介して、2個より多い、例えば、3個、4個、またはそれより多い抗原性構造物に特異的に結合する多特異性/多重特異性構築物も、含む。本発明の抗体構築物は、少なくとも二重特異性(例えば、二重特異性または三重特異性)である多価(例えば、五価または六価の)抗体構築物である。さらに、「抗体構築物」という用語の定義は、1本のポリペプチド鎖のみからなる分子、および複数のポリペプチド鎖からなる分子であって、該鎖が同一であってもよく(ホモ二量体、ホモ三量体、もしくはホモオリゴマー)または異なっていてもよい(ヘテロ二量体、ヘテロ三量体、もしくはヘテロオリゴマー)、分子、も含む。上記に特定した抗体およびそのバリアントまたは派生物の例は、特に、Harlow and Lane, Antibodies a laboratory manual, CSHL Press (1988)およびUsing Antibodies: a laboratory manual, CSHL Press (1999), Kontermann and Dubel, Antibody Engineering, Springer, 2nd ed. 2010、ならびにLittle, Recombinant Antibodies for Immunotherapy, Cambridge University Press 2009で説明されている。
【0026】
「価」または「結合価」という用語は、測定される数の抗原結合ドメインが抗原結合タンパク質中に存在することを意味する。文脈に応じて、「価」または「結合価」は、特定の標的を対象とする抗原結合ドメインの数に向けられてよく、これは、他の標的に特異的であるさらなる抗原結合ドメインの存在を除外しない。例示的な例として、天然IgGは、2つの抗原結合ドメインを有し、二価である。別の例示的な例として、本発明において定義される抗体構築物は、第1の標的に対して少なくとも四価であり、かつ第2の標的に特異的である少なくとも1つのさらなる結合ドメインを含む。
【0027】
本明細書において使用される「二重特異性の」という用語は、「少なくとも二重特異性」である抗体構築物を意味し、すなわち、該抗体構築物は、少なくとも、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインを含み、その際、第1の結合ドメインは、1つの抗原または標的(本明細書では、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原)に結合し、第2の結合ドメインは、別の抗原または標的(本明細書では、標的細胞の表面に存在する抗原)に結合する。したがって、本発明において定義される抗体構築物は、少なくとも2個の異なる抗原または標的に対する特異性を含む。例えば、第1の結合ドメインは、好ましくは、ヒト、マカク属(Macaca)の種、およびげっ歯動物の種より選択される1つまたは複数の種が有するNK細胞受容体の細胞外エピトープに結合する。
【0028】
本明細書において使用される「三重特異性の」という用語は、「少なくとも三重特異性」である抗体構築物を意味し、すなわち、該抗体構築物は、少なくとも、第1の結合ドメイン、第2の結合ドメイン、および第3の結合ドメインを含み、その際、第1の結合ドメインは第1の抗原または標的(本明細書では、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原)に結合し、第2の結合ドメインは、第2の抗原または標的(本明細書では、標的細胞の表面に存在する抗原)に結合し、かつ第3の結合ドメインは、第3の抗原または標的(本明細書では、第2の標的以外の、標的細胞の表面に存在する抗原)に結合する。したがって、本発明において定義されるいくつかの抗体構築物は、少なくとも3個の異なる抗原または標的に対する特異性を含む。例えば、第1の結合ドメインは、好ましくは、ヒト、マカク属の種、およびげっ歯動物の種より選択される1つまたは複数の種が有するNK細胞受容体の細胞外エピトープに結合する。
【0029】
「CD16A」または「CD16a」は、NK細胞の細胞表面で発現される、FcγRIIIAとしても公知である活性化受容体CD16Aを指す。CD16Aは、NK細胞の細胞障害活性を引き起こす活性化受容体である。ヒトCD16Aのアミノ酸配列は、UniProtエントリーP08637(2020年8月12日のバージョン212)およびSEQ ID NO: 13に示されている。CD16Aに対する抗体の親和性は、NK細胞活性化を引き起こすそれらの能力と直接的に関係しており、したがって、CD16Aに対する親和性が高いほど、活性化のために必要とされる抗体の用量は低減する。抗原結合タンパク質の抗原結合部位はCD16Aに結合するが、好ましくはCD16Bに結合しない。例えば、CD16Aに結合するがCD16Bには結合しない重(VH)鎖可変ドメインおよび軽(VL)鎖可変ドメインを含む抗原結合部位は、C末端配列SFFPPGYQ(SEQ ID NO: 13の201~208位)のアミノ酸残基ならびに/またはCD16B中には存在しないCD16Aの残基G147および/もしくはY158を含むCD16Aのエピトープに特異的に結合する抗原結合部位によって、提供され得る。
【0030】
「CD16B」は、好中球および好酸球で発現される、FcγRIIIBとしても公知である受容体CD16Bを指す。この受容体は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によって固定されており、CD16B陽性免疫細胞のいかなる種類の細胞障害活性も引き起こさないと理解されている。
【0031】
「標的細胞」という用語は、本発明の抗体構築物によって及ぼされる作用様式の標的である、細胞または細胞群を意味する。この細胞/細胞群は、本発明の抗体構築物を介してこれらの細胞とエフェクター細胞を結合させることによって排除または阻害される、例えば病理学的細胞を含む。好ましい標的細胞は、がん細胞である。
【0032】
同義的に使用される「標的細胞表面抗原」または「標的細胞の表面に存在する抗原」という用語は、細胞によって発現され、かつ本明細書において説明される抗体構築物に接近できるように細胞表面に存在する、抗原性構造物を意味する。これは、タンパク質、好ましくはタンパク質の細胞外部分、(HLA-A2、HLA-A11、HLA-A24、HLA-B44、HLA-C4を含む)MHCと関連して細胞表面で提示されるペプチド、または炭水化物構造物、好ましくはタンパク質の炭水化物構造物、例えば糖タンパク質であってよい。これは、好ましくは、腫瘍関連抗原または腫瘍限定抗原である。CD16A、CD56、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1、CD89、CD96、CD160、TIGIT、TIM-3、KIR2DL1~5、KIR3DL1~3、およびKIR2DS1~5は、本発明による標的細胞表面抗原ではないことが想定される。
【0033】
本明細書において使用される「免疫調節抗原」という用語は、好ましくは受容体である抗原に関する。該抗原または好ましくは受容体は、シグナルを受信および/または伝達することができ、そのエンゲージメントは、自然免疫細胞応答の質および強さに影響すると考えられている。このような抗原には、抑制性受容体、活性化受容体、接着分子、および共刺激分子が含まれる。このような「免疫調節抗原」には、CD16A、CD56、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD47/SIRPα、CD89、CD96、CD137、CD160、TIGIT、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、CTLA-4、TIM-3、KIR2DL1~5、KIR3DL1~3、KIR2DS1~5、KIR3DS1、およびCD3が含まれるが、それらに限定されるわけではない。「免疫活性化抗原」という用語は、免疫細胞の機能を刺激することができる、免疫細胞(例えば、NK細胞、マクロファージ)の免疫応答の正の調節因子に関する。「免疫活性化抗原」という用語はまた、活性化受容体、接着分子、および共刺激分子を含む。活性化受容体は、しばしば、細胞ストレスの条件下で発現される自己分子を検出する。いくつかの活性化受容体は、例えば、通常は関連分子に含まれる免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を介して、免疫受容体チロシンベーススイッチモチーフ(ITSM)を介して、または他のチロシンベースシグナル伝達モチーフを介して、シグナル伝達する。このような「免疫活性化抗原」は、CD16A、CD56、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD137、CD89、CD160、およびキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR2DS1~5およびKIR3DS1)を含むが、それらに限定されるわけではない。「免疫抑制性抗原」という用語は、(自然)免疫細胞(例えば、NK細胞、マクロファージ)の免疫応答の負の調節因子に関する。「免疫抑制性抗原」は、好ましくは受容体である。抑制シグナルは、通常、受容体の細胞内テールに位置する免疫受容体チロシンベース抑制性モチーフ(ITIM)を介して伝達される。このような「免疫抑制性抗原」は、NKG2A、TIGIT、PD-1、PD-L1、CD47、SIRPα、LAG-3、CTLA-4、CD96、TIM-3、CD137、KIR2DL1~5、およびKIR3DL1~3を含むが、それらに限定されるわけではない。
【0034】
本発明の抗体構築物は、少なくとも二重特異性であるが、多重特異性抗体構築物、例えば三重特異性抗体構築物、または3種より多い(例えば、4種、5種、6種、...)特異性を有する構築物をもたらすさらなる特異性を含んでもよい。しかし、これらの多重特異性構築物においても、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原に特異的であるのは第1の結合ドメインのみであることが想定される。三重特異性抗体構築物または多重特異性抗体構築物の例は、例えば、WO 2015/158636、WO 2017/064221、WO/2019/198051、およびEllwanger et al. (MAbs. 2019 Jul;11(5):899-918)において提供されている。
【0035】
本発明において定義される抗体構築物が(少なくとも)二重特異性であることを考慮に入れると、これらは天然には存在せず、かつこれらは、天然産物とは著しく異なっている。したがって、「二重特異性」抗体構築物は、互いに異なる特異性を有する少なくとも2種の異なる結合面(side)を有する人工のハイブリッド抗体である。二重特異性抗体構築物は、ハイブリドーマの融合またはFab'断片の連結を含む様々な方法によって、生産され得る。例えば、Songsivilai & Lachmann, Clin. Exp. Immunol. 79:315- 321 (1990)を参照されたい。
【0036】
本発明の抗体構築物の結合ドメインおよび可変ドメイン(VH/VL)は、ペプチドリンカー(スペーサーペプチド)を含んでも含まなくてもよい。本発明によれば、「ペプチドリンカー」という用語は、本明細書において定義される抗体構築物の1つの(可変および/または結合)ドメインのアミノ酸配列と別の(可変および/または結合)ドメインのアミノ酸配列とがそれによって互いに連結される、アミノ酸配列を含む。ペプチドリンカーはまた、本明細書において定義される抗体構築物の1つのドメインを別のドメインに融合するためにも使用され得る。このような場合において、これは、好ましくは、短いリンカーであり、好ましくは、約10nmもしくはそれ未満、好ましくは約9nmもしくはそれ未満、好ましくは約8nmもしくはそれ未満、好ましくは約7nmもしくはそれ未満、好ましくは約6nmもしくはそれ未満、好ましくは約5nmもしくはそれ未満、好ましくは約4nmもしくはそれ未満、またはさらにそれより短い長さを有する。リンカーの長さは、好ましくは、Rossmalen et al Biochemistry 2017, 56, 6565-6574によって説明されているようにして決められ、該文献はまた、当業者に周知である適切なリンカーを説明している。そのようなリンカーの例は、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む、グリシンセリンリンカーまたはセリンリンカーである。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)GGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。このようなペプチドリンカーの好ましい技術的特徴は、それがいかなる重合活性も含まないことである。
【0037】
本発明において定義される抗体構築物は、好ましくは、「インビトロで作製された抗体構築物」である。この用語は、上記の定義に従う抗体構築物であって、可変領域の全部または一部分(例えば、少なくとも1つのCDR)が、免疫細胞選択ではない方法、例えば、インビトロファージディスプレイ法、タンパク質チップ、または候補配列の抗原への結合能力を試験できる他の任意の方法によって作製される、抗体構築物を意味する。したがって、この用語は、好ましくは、動物の免疫細胞におけるゲノム再構成だけを用いて作製された配列を含まない。また、本発明の抗体構築物が組換え抗体であるか、または組換え抗体に基づくことも企図される。「組換え抗体」とは、組換えDNA技術または遺伝子工学の使用によって作製される抗体である。
【0038】
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」(mAb)またはモノクローナル抗体構築物という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られた抗体を意味する。すなわち、この集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る天然に起こり得る変異および/または翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて、同一である。様々な決定基(またはエピトープ)に対する様々な抗体を含むことが典型的である従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体は高度に特異的であり、抗原上の単一の抗原面(side)または抗原決定基を対象としている。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって合成され、それゆえ他の免疫グロブリンが混入しないという点で、有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られるという抗体の特徴を示すのであって、任意の特定の方法による抗体の生産を必要とすると解釈されるべきではない。
【0039】
モノクローナル抗体を調製するために、持続的な細胞株培養物によって生産される抗体を提供する任意の技術を使用することができる。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、Koehler et al., Nature, 256: 495 (1975)によって最初に説明されたハイブリドーマ法によって作製してよく、または組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)によって作製してよい。ヒトモノクローナル抗体を生産するためのさらなる技術の例には、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor, Immunology Today 4 (1983), 72)、およびEBVハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. (1985), 77-96)が含まれる。
【0040】
その場合、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)および表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))解析などの標準的方法を用いてハイブリドーマをスクリーニングして、指定された抗原に特異的に結合する抗体を生産する1種または複数種のハイブリドーマを同定することができる。任意の形態の関連抗原、例えば、組換え抗原、天然に存在する形態、任意のバリアントまたはその断片、およびそれらの抗原ペプチドが、免疫原として使用され得る。BIAcoreシステムにおいて使用される表面プラズモン共鳴を用いて、標的細胞表面抗原のエピトープに結合するファージ抗体の効率を高めることができる(Schier, Human Antibodies Hybridomas 7 (1996), 97-105; Malmborg, J. Immunol. Methods 183 (1995), 7-13)。モノクローナル抗体を作製する別の例示的な方法は、タンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージディスプレイライブラリーまたはリボソームディスプレイライブラリーをスクリーニングすることを含む。ファージディスプレイ法は、例えば、Ladner et al.、米国特許第5,223,409号; Smith (1985) Science 228:1315-1317、Clackson et ai, Nature, 352: 624-628 (1991)、およびMarks et al., J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)において説明されている。
【0041】
ディスプレイライブラリーの使用のほかに、関連抗原を用いて、非ヒト動物、例えば、げっ歯動物(マウス、ハムスター、ウサギ、またはラットなど)を免疫化することができる。1つの態様において、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部分を含む。例えば、ヒトIg(免疫グロブリン)遺伝子座の大型断片を有する、マウス抗体産生に欠陥のあるマウス系統を人工的に作ることが可能である。ハイブリドーマ技術を用いて、これらの遺伝子に由来し所望の特異性を有する抗原特異的モノクローナル抗体を生産し選択することができる。例えば、XENOMOUSE(商標)、Green et al. (1994) Nature Genetics 7:13-21、US 2003-0070185、WO 96/34096、およびWO 96/33735を参照されたい。
【0042】
モノクローナル抗体はまた、非ヒト動物から取得し、次いで、当技術分野において公知の組換えDNA技術を用いて改変、例えば、ヒト化、脱免疫化、キメラ状態にするなどできる。改変抗体構築物の例には、非ヒト抗体のヒト化バリアント、「親和性成熟」抗体(例えば、Hawkins et al. J. Mol. Biol. 254, 889-896 (1992)およびLowman et al., Biochemistry 30, 10832-10837 (1991)を参照されたい)、およびエフェクター機能が変えられた抗体変異体(例えば、米国特許第5,648,260号、Kontermann and Dubel (2010)、前記、およびLittle (2009)、前記を参照されたい)が含まれる。
【0043】
免疫学において、親和性成熟は、B細胞が、抗原に対する親和性が高まった抗体を免疫応答の過程で産生するプロセスである。同じ抗原に繰り返し曝露すると、宿主は、親和性が次第に高まった抗体を産生するようになる。天然の原始型と同様に、インビトロの親和性成熟は変異および選択の原理に基づいている。インビトロの親和性成熟は、抗体、抗体構築物、および抗体断片を最適化するために首尾よく使用されている。CDR内のランダム変異は、放射線照射、化学的変異原、またはエラープローンPCRを用いて導入される。さらに、チェーンシャッフリングによって遺伝的多様性を高めることもできる。ファージディスプレイのようなディスプレイ法を用いて変異および選択を2回または3回行うと、通常、低ナノモル範囲の親和性を有する抗体断片が得られる。
【0044】
抗体構築物のアミノ酸置換変種の好ましいタイプは、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の1つまたは複数の超可変領域残基の置換を含む。一般に、その後の開発のために選択される得られたバリアントは、それらが作製される元である親抗体と比べて改善された生物学的特性を有している。このような置換変種を作製するための簡便な方法は、ファージディスプレイを用いる親和性成熟を伴う。簡単に説明すると、いくつかの超可変領域面(side)(例えば、6~7個の面(side))を変異させて、起こり得るすべてのアミノ酸置換を各面(side)に生じさせる。このようにして作製した抗体バリアントを、各粒子内部に詰められたM13の遺伝子III産物への融合物として繊維状ファージ粒子から一価の様式でディスプレイする。次いで、ファージディスプレイさせたバリアントを、本明細書において開示されるそれらの生物活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングする。改変のための候補超可変領域面(side)を特定するために、アラニンスキャニング変異誘発を実施して、抗原結合に顕著に貢献している超可変領域残基を特定することができる。あるいはまたはさらに、抗原-抗体複合体の結晶構造を解析して、結合ドメインと例えばヒト標的細胞表面抗原との接触点を特定することも有益である場合がある。このような接触残基および隣接残基は、本明細書において詳述する技術による置換の候補である。このようなバリアントを作製した後で、バリアントのパネルを本明細書において説明されるスクリーニングに供し、1つまたは複数の関連するアッセイ法において優れた特性を有している抗体を、さらなる開発のために選択することができる。
【0045】
本開示のモノクローナル抗体および抗体構築物には、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)およびそのような抗体の断片が、それらが所望の生物活性を示す限り、具体的に含まれ、該「キメラ」抗体では、重鎖および/または軽鎖の一部分が、特定の種に由来するかまたは特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体中の対応配列と同一であるかまたは相同である一方で、該鎖の残りの部分が、別の種に由来するかまたは別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体中の対応配列と同一であるかまたは相同である(米国特許第4,816,567号;Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81 : 6851-6855 (1984))。本明細書において、関心対象のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列およびヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。キメラ抗体を作るための様々なアプローチが説明されている。例えば、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A. 81 :6851, 1985; Takeda et al., Nature 314:452, 1985; Cabilly et al., 米国特許第4,816,567号; Boss et al., 米国特許第4,816,397号; Tanaguchi et al., EP 0171496; EP 0173494; およびGB 2177096を参照されたい。
【0046】
抗体、抗体構築物、抗体断片、または抗体バリアントはまた、例えばWO 98/52976またはWO 00/34317において開示されている方法によるヒトT細胞エピトープの特異的欠失(「脱免疫化」と呼ばれる方法)によって改変することもできる。簡単に説明すると、抗体の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを、MHCクラスIIに結合するペプチドについて解析することができる;これらのペプチドは、(WO 98/52976およびWO 00/34317において定義されている)潜在的なT細胞エピトープに相当する。WO 98/52976 およびWO 00/34317において説明されているように、潜在的なT細胞エピトープを検出するために、「ペプチドスレッディング」と呼ばれるコンピューターモデリングアプローチを適用することができ、かつさらに、ヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースを、VH配列およびVL配列中に存在するモチーフを求めて検索することができる。これらのモチーフは、18種の主要なMHCクラスII DRアロタイプのいずれかに結合し、したがって、潜在的T細胞エピトープを構成する。検出された潜在的T細胞エピトープは、可変ドメイン内の少数のアミノ酸残基を置換することによって、または好ましくは単一アミノ酸置換によって、排除することができる。典型的には、保存的置換が行われる。すべてではないが多くの場合、ヒト生殖系列抗体配列内のある位置に高頻度で存在するアミノ酸が、使用され得る。ヒト生殖系列配列は、例えば、Tomlinson, et al. (1992) J. Mol. Biol. 227:776-798; Cook, G.P. et al. (1995) Immunol. Today Vol. 16 (5): 237-242;およびTomlinson et al. (1995) EMBO J. 14: 14:4628-4638に開示されている。V BASEディレクトリは、(Tomlinson, LA. et al. MRC Centre for Protein Engineering, Cambridge, UKによってまとめられた)ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的なディレクトリを提供する。これらの配列は、例えばフレームワーク領域およびCDRのための、ヒト配列の供給源として使用することができる。例えば米国特許第6,300,064号に記載されているようなコンセンサスヒトフレームワーク領域もまた、使用され得る。
【0047】
「ヒト化」抗体、抗体構築物、例えば本発明の抗体構築物、それらのバリアントまたは断片(例えば、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、もしくは抗体の他の抗原結合部分配列)は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含む、大部分がヒト配列に由来する抗体または免疫グロブリンである。その大部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域(CDRも同様)に由来する残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ハムスター、またはウサギなどの非ヒト(例えばげっ歯動物)種の超可変領域(ドナー抗体)に由来する残基で置き換えられている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基で置き換えられる。さらに、本明細書において使用される「ヒト化抗体」はまた、レシピエント抗体中にもドナー抗体中にも存在しない残基を含んでもよい。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良し、最適化するために施される。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域についての少なくとも一部分(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含んでよい。さらに詳細な内容については、Jones et al., Nature, 321: 522-525 (1986); Reichmann et al., Nature, 332: 323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol., 2: 593-596 (1992)を参照されたい。
【0048】
ヒト化抗体またはその断片は、抗原結合に直接的に関与していないFv可変ドメインの配列をヒトFv可変ドメイン由来の等価な配列で置き換えることによって作製することができる。ヒト化抗体またはその断片を作製するための例示的な方法は、Morrison (1985) Science 229: 1202-1207によって;Oi et al. (1986) BioTechniques 4: 214によって;ならびにUS 5,585,089; US 5,693,761; US 5,693,762; US 5,859,205;およびUS 6,407,213によって提供される。これらの方法は、重鎖または軽鎖の少なくとも1つに由来する免疫グロブリンFv可変ドメインについてのすべてまたは一部分をコードする核酸配列を単離、操作、および発現させることを含む。このような核酸は、上記のような、所定の標的に対する抗体を産生するハイブリドーマから、および他の供給源から、取得され得る。次に、ヒト化抗体分子をコードする組換えDNAを適切な発現ベクター中にクローニングすることができる。
【0049】
ヒト化抗体はまた、ヒト重鎖遺伝子およびヒト軽鎖遺伝子を発現するが、内因性マウス免疫グロブリンの重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子を発現する能力がないマウスなどのトランスジェニック動物を用いて生産してもよい。Winterは、本明細書において説明するヒト化抗体の調製に使用され得る例示的なCDR移植法を説明している(米国特許第5,225,539号)。特定のヒト抗体のCDRのすべてを、非ヒトCDRの少なくとも一部分で置き換えてもよく、またはCDRのうちのいくつかのみを、非ヒトCDRで置き換えてもよい。所定の抗原に対するヒト化抗体の結合に必要な数のCDRを置き換えることのみが、必要である。
【0050】
ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖系列置換、および/または復帰変異の導入によって最適化することができる。このような変更された免疫グロブリン分子は、当技術分野で公知であるいくつかの技術のいずれかによって作製することができる(例えば、Teng et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 80: 7308-7312, 1983; Kozbor et al., Immunology Today, 4: 7279, 1983; Olsson et al., Meth. Enzymol., 92: 3-16, 1982、およびEP 239 400)。
【0051】
「ヒト抗体」、「ヒト抗体構築物」、および「ヒト結合ドメイン」という用語は、例えば、Kabat et al. (1991)(前記)によって記載されたものを含む、当技術分野で公知のヒト生殖系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する抗体領域、例えば可変および定常の領域またはドメインを有する、抗体、抗体構築物、例えば本発明の抗体構築物、および結合ドメインを含む。本発明において定義されるヒト抗体、抗体構築物、または結合ドメインは、例えばCDR中、特にCDR3中に、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってはコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムなもしくは部位特異的な変異誘発によってまたはインビボでの体細胞変異によって導入される変異)を含んでよい。ヒト抗体、抗体構築物、または結合ドメインは、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってはコードされないアミノ酸残基で置換された、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれより多い位置を有し得る。しかし、本明細書において使用されるヒト抗体、抗体構築物、および結合ドメインの定義はまた、Xenomouseなどの技術または系を用いることによって得ることができるものとして、抗体の非人工的かつ/または遺伝的に変更されたヒト配列のみを含む「完全ヒト抗体」も企図する。好ましくは、「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含まない。
【0052】
いくつかの態様において、本明細書において定義される抗体構築物は、「単離された」または「実質的に純粋な」抗体構築物である。本明細書において開示される抗体構築物を説明するために使用される場合、「単離された」または「実質的に純粋な」とは、抗体構築物が、その生産環境に存在する構成成分から特定され、分離され、かつ/または回収されたことを意味する。好ましくは、抗体構築物は、その生産環境に由来する他のすべての構成成分を付随しないか、または実質的に付随しない。その生産環境に存在する混入構成成分、例えば、トランスフェクトされた組換え細胞に由来するものは、ポリペプチドの診断的使用または治療的使用を典型的に妨げると思われる物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク性溶質または非タンパク性溶質が含まれ得る。抗体構築物は、例えば、所与の試料において総タンパク質の少なくとも約5重量%または少なくとも約50重量%を構成し得る。単離されたタンパク質は、その環境に応じて、タンパク質総含有量の5重量%~99.9重量%を構成し得ることが理解される。ポリペプチドは、高い濃度レベルで作製されるように、誘導性プロモーターまたは高発現プロモーターを用いて有意に高い濃度で作製してもよい。この定義は、当技術分野において公知である多種多様の生物および/または宿主細胞における抗体構築物の生産を含む。好ましい態様において、抗体構築物は、(1)スピニングカップ配列決定装置を用いてN末端アミノ酸配列もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るのに十分な程度まで、または(2)クマシーブルーもしくは好ましくは銀染色を用いる非還元条件下もしくは還元条件下でのSDS-PAGEにより均質となるまで、精製される。しかし、通常は、単離された抗体構築物は、少なくとも1つの精製段階によって調製される。
【0053】
本発明によれば、結合ドメインは、1つまたは複数のポリペプチドの形態である。このようなポリペプチドは、タンパク質性部分および非タンパク質性部分(例えば、化学的リンカーまたは化学的架橋剤、例えばグルタルアルデヒド)を含み得る。タンパク質(その断片、好ましくは生物学的に活性な断片、および通常は30個未満のアミノ酸を有するペプチドを含む)は、(アミノ酸の鎖を生じる)共有ペプチド結合を介して相互に連結された2個またはそれより多いアミノ酸を含む。
【0054】
本明細書において使用される「ポリペプチド」または「ポリペプチド鎖」という用語は、30個より多いアミノ酸からなることが通常である分子のグループを表す。「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語はまた、例えば、グリコシル化、アセチル化、およびリン酸化などのような翻訳後修飾によって修飾が加えられている、天然に修飾されたペプチド/ポリペプチド/タンパク質も意味する。本明細書において言及される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、または「タンパク質」はまた、化学修飾、例えばペグ化されていてもよい。このような修飾は当技術分野において周知であり、本明細書において後述する。上記の修飾(グリコシル化、ペグ化など)はまた、本発明の抗体構築物にも適用される。
【0055】
好ましくは、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原に結合する結合ドメイン、標的細胞の表面に存在する抗原に結合する結合ドメイン、および/または標的細胞の表面に存在する別の抗原に結合する結合ドメインは、ヒト結合ドメインである。少なくとも1つのヒト結合ドメインを含む抗体および抗体構築物は、非ヒト、例えば、げっ歯動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、またはウサギ)の可変領域および/または定常領域を有する抗体または抗体構築物に付随する問題のうちのいくつかを回避する。そのようなげっ歯動物由来タンパク質の存在は、抗体もしくは抗体構築物の迅速なクリアランスを引き起こす場合があり、または患者による抗体もしくは抗体構築物に対する免疫応答の発生をもたらす場合がある。げっ歯動物由来の抗体または抗体構築物の使用を回避するために、げっ歯動物が完全ヒト抗体を産生するようにげっ歯動物にヒト抗体機能を導入することにより、ヒト抗体/抗体構築物または完全ヒト抗体/抗体構築物を作製することができる。
【0056】
YACにおいてメガベースサイズのヒト遺伝子座をクローニングおよび再構築し、かつそれらをマウス生殖系列に導入できることは、非常に大きいかまたはおおまかにマッピングされた遺伝子座の機能的構成要素の解明およびヒト疾患の有用なモデルの作製のための強力なアプローチとなる。さらに、マウス遺伝子座をそれらのヒト等価物で置換するためにこのような技術を使用することにより、発生時のヒト遺伝子産物の発現および調節、他の系とのそれらの情報交換、ならびに疾患の誘発および進行へのそれらの関与についての独自の見識が与えられ得る。
【0057】
このような戦略の重要な実際の応用は、マウス体液性免疫系の「ヒト化」である。内因性Ig遺伝子が不活性化されたマウスにヒト免疫グロブリン(Ig)遺伝子座を導入することにより、抗体のプログラムされた発現および組立てならびにB細胞の発生におけるそれらの役割の根底にあるメカニズムを研究する機会がもたらされる。さらに、このような戦略は、ヒト疾患における抗体療法の期待を実現するために重要なマイルストーンである、完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)の生産のための理想的な供給源を提供し得る。完全ヒト抗体または完全ヒト抗体構築物は、マウスまたはマウス誘導体化mAbに固有の免疫原性応答およびアレルギー応答を最小化すること、ならびにしたがって、投与される抗体/抗体構築物の有効性および安全性を向上させることが期待される。完全ヒト抗体または完全ヒト抗体構築物の使用は、反復的な化合物投与を必要とする慢性および再発性のヒト疾患、例えば、炎症、自己免疫、およびがんの処置において実質的な利点をもたらすことが予想され得る。
【0058】
この目標に向けた1つのアプローチは、マウスがマウス抗体の非存在下で大規模なレパートリーのヒト抗体を産生することを期待して、ヒトIg遺伝子座の大型断片を有する、マウス抗体産生に欠陥のあるマウス系統を人工的に作ることであった。大型ヒトIg断片は、大きな可変遺伝子多様性ならびに抗体産生および発現の適切な調節を維持すると思われる。抗体の多様化および選択ならびにヒトタンパク質に対する免疫寛容の欠如のためにマウスを用いる仕組みを利用することによって、これらのマウス系統において再現されたヒト抗体レパートリーは、ヒト抗原を含む関心対象の任意の抗原に対する高親和性抗体を生じるはずである。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する抗原特異的ヒトmAbを容易に生産し選択することができ得る。この一般的な戦略は、最初のXenoMouseマウス系統の作製に関連して実証された(Green et al. Nature Genetics 7:13- 21 (1994)を参照されたい)。XenoMouse系統は、可変領域および定常領域のコア配列を含む、ヒト重鎖遺伝子座およびκ軽鎖遺伝子座についてのそれぞれ245kbおよび190kbの大きさの生殖細胞系列配置の断片を含む酵母人工染色体(YAC)を用いて操作された。ヒトIgを含むYACは、抗体の再構成および発現の両方に関してマウス系への適合性があることが判明しており、不活性化されたマウスIg遺伝子を置換する能力を有した。このことは、B細胞発生を誘導し、成熟したヒトレパートリーの完全ヒト抗体を生産し、かつ抗原特異的ヒトmAbを生成できるそれらの能力によって実証された。また、これらの結果は、より多数のV遺伝子、付加的な調節エレメント、およびヒトIg定常領域を含むヒトIg遺伝子座のより大きな部分を導入することにより、感染および免疫化に対するヒト体液性応答に特徴的である実質的に完全なレパートリーが再現され得ることも示唆した。Greenらの研究は、最近、ヒト重鎖遺伝子座およびヒトκ軽鎖遺伝子座それぞれのメガベースサイズの生殖細胞系列配置YAC断片を導入することによるヒト抗体レパートリーの約80%超の導入にまで拡大された。Mendez et al. Nature Genetics 15:146-156 (1997)および米国特許出願第08/759,620号を参照されたい。
【0059】
XenoMouseマウスの作製については、米国特許出願第07/466,008号、同第07/610,515号、同第07/919,297号、同第07/922,649号、同第08/031,801号、同第08/112,848号、同第08/234,145号、同第08/376,279号、同第08/430,938号、同第08/464,584号、同第08/464,582号、同第08/463,191号、同第08/462,837号、同第08/486,853号、同第08/486,857号、同第08/486,859号、同第08/462,513号、同第08/724,752号、および同第08/759,620号;ならびに米国特許第6,162,963号;同第6,150,584号;同第6,114,598号;同第6,075,181号、および同第5,939,598号、ならびに日本特許第3068180 B2号、同第3068506 B2号、および同第3068507 B2号においてさらに考察され記述されている。Mendez et al. Nature Genetics 15:146-156(1997)およびGreen and Jakobovits J. Exp. Med. 188:483-495(1998)、EP0463151 B1、WO 94/02602、WO 96/34096、WO 98/24893、WO 00/76310、およびWO 03/47336もまた参照されたい。
【0060】
代替のアプローチにおいて、GenPharm International, Inc.を含む他の会社は、「ミニ遺伝子座」アプローチを利用している。ミニ遺伝子座アプローチでは、Ig遺伝子座に由来する細片(個々の遺伝子)を含めることにより、外因性Ig遺伝子座を模倣する。したがって、1つまたは複数のVH遺伝子、1つまたは複数のDH遺伝子、1つまたは複数のJH遺伝子、μ定常領域、および第2の定常領域(好ましくはγ定常領域)から、動物に挿入するための構築物が形成される。このアプローチは、Suraniらに対する米国特許第5,545,807号ならびにそれぞれLonbergおよびKayに対する米国特許第5,545,806号;同第5,625,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号;同第5,770,429号;同第5,789,650号;同第5,814,318号;同第5,877,397号;同第5,874,299号;および同第6,255,458号、KrimpenfortおよびBernsに対する米国特許第5,591,669号および同第6,023,010号、Bernsらに対する米国特許第5,612,205号;同第5,721,367号;および同第5,789,215号、ならびにChoiおよびDunnに対する米国特許第5,643,763号、ならびにGenPharm Internationalの米国特許出願第07/574,748号、同第07/575,962号、同第07/810,279号、同第07/853,408号、同第07/904,068号、同第07/990,860号、同第08/053,131号、同第08/096,762号、同第08/155,301号、同第08/161,739号、同第08/165,699号、同第08/209,741号に記載されている。また、EP 0546073 B1、WO 92/03918、WO 92/22645、WO 92/22647、WO 92/22670、WO 93/12227、WO 94/00569、WO 94/25585、WO 96/14436、WO 97/13852、およびWO 98/24884、ならびに米国特許第5,981,175号も参照されたい。さらに、Taylor et al. (1992)、Chen et al. (1993)、Tuaillon et al. (1993)、Choi et al. (1993)、Lonberg et al. (1994)、Taylor et al. (1994)、およびTuaillon et al. (1995)、Fishwild et al. (1996)も参照されたい。
【0061】
Kirinもまた、マウスからのヒト抗体の作製を実証しており、この場合、ミクロセル融合によって大型の染色体細片または染色体全体が導入された。欧州特許出願第773288号および同第843961号を参照されたい。Xenerex Biosciencesは、ヒト抗体を潜在的に生成するための技術を開発中である。この技術では、SCIDマウスが、ヒトリンパ細胞、例えばB細胞および/またはT細胞を用いて再構成される。次いで、マウスは抗原で免疫化され、該マウスは、その抗原に対して免疫応答を生じることができる。米国特許第5,476,996号;同第5,698,767号;および同第5,958,765号を参照されたい。
【0062】
ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答がきっかけとなって、キメラ抗体またはそうでなければヒト化抗体の調製に業界が取り組むようになった。しかし、特に抗体を長期利用または多数回利用する際には、ある種のヒト抗キメラ抗体(HACA)応答が観察されることが予想されている。したがって、HAMA応答またはHACA応答の懸念および/または影響をなくすために、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原に対するヒト結合ドメインおよび/または標的細胞の表面に存在する抗原に対するヒト結合ドメインを含む抗体構築物を提供することが望ましいと思われる。
【0063】
「エピトープ」という用語は、結合ドメイン、例えば抗体もしくは免疫グロブリンまたは抗体もしくは免疫グロブリンの派生物、断片、もしくはバリアントが特異的に結合する、抗原上の面(side)を意味する。「エピトープ」は抗原性であり、したがってエピトープという用語は、本明細書において「抗原性構造物」または「抗原決定基」と呼ばれることもある。したがって、結合ドメインは、「抗原相互作用部位」である。該結合/相互作用が「特異的認識」を定めることもまた、理解されている。
【0064】
「エピトープ」は、連続アミノ酸またはタンパク質の三次フォールディングによって近接する非連続アミノ酸の両方から形成され得る。「直線状エピトープ」とは、認識されるエピトープをアミノ酸一次配列が構成しているエピトープである。典型的には、直線状エピトープは、特有の配列内に、少なくとも3個または少なくとも4個、およびより一般的には少なくとも5個もしくは少なくとも6個または少なくとも7個、例えば約8個~約10個のアミノ酸を含む。
【0065】
直線状エピトープとは対照的に、「コンフォメーショナルエピトープ」は、エピトープを構成するアミノ酸の一次配列が、認識されるエピトープの唯一の定義要素ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が必ずしも結合ドメインによって認識されないエピトープ)である。典型的には、コンフォメーショナルエピトープは、直線状エピトープよりも多数のアミノ酸を含む。コンフォメーショナルエピトープの認識に関して、結合ドメインは、抗原、好ましくはペプチドもしくはタンパク質またはそれらの断片の三次元構造を認識する(本発明において、結合ドメインのうちの1つに対する抗原性構造物は、標的細胞表面抗原タンパク質内に含まれている)。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造物を形成する場合、コンフォメーショナルエピトープを形成する特定のアミノ酸および/またはポリペプチド骨格が近接した状態になり、それによって抗体が該エピトープを認識できるようになる。エピトープの立体構造を明らかにする方法には、X線結晶解析、二次元核磁気共鳴(2D-NMR)分光法および部位特異的スピン標識、ならびに電子常磁性共鳴(EPR)分光法が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0066】
結合ドメインとエピトープまたはエピトープを含む領域との相互作用は、結合ドメインが特定のタンパク質または抗原(本明細書では、例えば、それぞれ、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原、例えばCD16A、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する別の抗原)上のエピトープ/エピトープを含む領域に対して評価可能な親和性を示し、かつ通常は、自然免疫エフェクター細胞の表面、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する他の抗原など以外のタンパク質または抗原に対する有意な反応性を示さないこと、を暗に示している。「評価可能な親和性」は、約10-6M(KD)またはそれより強い親和性での結合を含む。好ましくは、結合は、結合親和性が約10-12~10-8M、10-12~10-9M、10-12~10-10M、10-11~10-8M、好ましくは約10-11~10-9Mである場合に、特異的とみなされる。ある結合ドメインが標的に特異的に反応または結合するかどうかは、とりわけ、標的タンパク質または抗原に対する該結合ドメインの反応を、自然免疫エフェクター細胞の表面、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する他の抗原など以外のタンパク質または抗原に対する該結合ドメインの反応と比較することによって、容易に試験することができる。
【0067】
「本質的/実質的に結合しない」または「結合することができない」という用語は、本発明の結合ドメインが、例えば、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する他の抗原など以外のタンパク質または抗原に結合しない、すなわち、それぞれ、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する他の抗原などに対する結合を100%に設定した場合に、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する他の抗原など以外のタンパク質または抗原に対して30%を超える反応性を示さないこと、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、または5%以下であることを意味する。
【0068】
特異的結合は、結合ドメインおよび抗原のアミノ酸配列内の特定のモチーフの影響を受けると考えられる。したがって、結合は、それらの一次、二次、および/または三次構造の結果として、かつこれらの構造の二次的改変の結果として達成される。抗原の相互作用面(side)とその特異的抗原との特異的相互作用は、抗原に対する該面(side)の単純な結合をもたらし得る。さらに、抗原相互作用面(side)とその特異的抗原とが特異的に相互作用した結果、例えば、抗原の立体構造の変化、抗原のオリゴマー化などの誘導により、代替的にまたは付加的にシグナルが開始され得る。
【0069】
「可変」という用語は、配列に可変性を示し、かつ個々の抗体の特異性および結合親和性の決定に関与している、抗体または免疫グロブリンドメインの一部分(すなわち、「可変ドメイン」)を意味する。可変重鎖(VH)と可変軽鎖(VL)の対合は、合わさって単一の抗原結合面(side)を形成する。
【0070】
可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均等に分布しているのではなく、重鎖可変領域および軽鎖可変領域の各々のサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変領域」または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインの保存の度合いが高い(すなわち、非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRMまたはFR)と呼ばれ、三次元空間内の6つのCDRが抗原結合表面を形成するための足場を提供する。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、たいていはβシート配置を選び3つの超可変領域によって連結された4つのFRM領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)を含み、これらの超可変領域は、βシート構造を連結し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成する。各鎖の超可変領域は、FRMによって極めて近くにまとめられており、他方の鎖の超可変領域と共に、抗原結合面(side)の形成に寄与している(Kabat et al.、前記を参照されたい)。
【0071】
「CDR」およびその複数形である「CDRs」という用語は、相補性決定領域を意味し、そのうちの3つが軽鎖可変領域の結合特徴を作りだし(CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3)、かつ3つが重鎖可変領域の結合特徴を作りだす(CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3)。CDRは、抗体と抗原の特異的相互作用を担う残基のほとんどを含み、したがって抗体分子の機能的活性に寄与している:これらは、抗原特異性の主な決定因子である。
【0072】
厳密に定義されるCDRの境界および長さは、様々な分類および番号付与方式によって変わる。したがって、CDRは、本明細書において説明される番号付与方式を含む、Kabat、Chothia、接触定義、または他の任意の境界定義を用いて言及されてよい。境界が異なるものの、これらの各方式は、可変配列内のいわゆる「超可変領域」を構成するものにおいて、ある程度の重複を有する。したがって、これらの方式に基づくCDRの定義は、長さおよび隣接するフレームワーク領域との境界領域の点で異なる可能性がある。例えば、Kabat(異種間の配列可変性に基づくアプローチ)、Chothia(抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ)、および/またはMacCallum(Kabat et al., 前記; Chothia et al., J. Mol. Biol, 1987, 196: 901-917; およびMacCallum et al., J. Mol. Biol, 1996, 262: 732)を参照されたい。抗原結合面(side)を特徴づけるためのさらに別の基準は、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用されるAbM定義である。例えば、Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains. In: Antibody Engineering Lab Manual (Ed.: Duebel, S. and Kontermann, R., Springer-Verlag, Heidelberg)を参照されたい。2つの残基同定技術が、重複するが同一領域ではない領域を定義する程度まで、それらを組み合わせてハイブリッドCDRを定義することができる。しかし、いわゆるKabat方式に従う番号付与が好ましい。
【0073】
典型的には、CDRは、カノニカル構造として分類され得るループ構造を形成する。「カノニカル構造」という用語は、抗原結合(CDR)ループが採択する主鎖の立体構造を意味する。比較構造研究によって、6個の抗原結合ループのうちの5個は、利用可能な立体構造に関して限られたレパートリーのみを有することが見出されている。各カノニカル構造は、ポリペプチド骨格のねじれ角に基づいて特徴付けることができる。したがって、抗体間で似ているループは、該ループの大部分において高度のアミノ酸配列可変性が認められるにもかかわらず、非常によく似た三次元構造を有し得る(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol., 1987, 196: 901; Chothia et al., Nature, 1989, 342: 877; Martin and Thornton, J. Mol. Biol, 1996, 263: 800)。さらに、採択されるループ構造とその周囲のアミノ酸配列との間に関連性が認められる。特定のカノニカルクラスの立体構造は、ループの長さならびに該ループ内および保存されたフレームワーク内(すなわち、ループ外)の重要な位置に存在するアミノ酸残基によって決まる。したがって、これらの重要なアミノ酸残基の存在に基づいて、特定のカノニカルクラスへの割当てを行うことができる。
【0074】
「カノニカル構造」という用語はまた、例えばKabat(Kabat et al., 前記)によって挙げられているように、抗体の直鎖状配列についての考慮事項も含み得る。Kabatの番号付与スキーム(方式)は、一貫した様式で抗体可変ドメインのアミノ酸残基に番号を付与するために広く採用されている標準であり、本明細書の別の場所でも言及するように本発明において適用される好ましいスキームである。構造についての付加的な考慮事項もまた、抗体のカノニカル構造を明らかにするために使用され得る。例えば、Kabatの番号付与によっては十分に反映されない違いを、Chothiaらの番号付与方式によって説明することができ、かつ/または他の技術、例えば結晶学および二次元もしくは三次元のコンピューターモデリングによって明らかにすることができる。したがって、所与の抗体配列を、とりわけ、(例えば、様々なカノニカル構造をライブラリーに含めたいという願望に基づき)適切なシャーシ配列の同定を可能にするカノニカルクラスに入れてよい。抗体のアミノ酸配列に対するKabatの番号付与およびChothia et al., 前記によって説明されるような構造の考慮、ならびに抗体構造の標準的な外観を解釈するためのそれらの関連付けは、文献に記載されている。様々なクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元立体配置は、当技術分野で周知である。抗体構造の総説については、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, eds. Harlow et al., 1988を参照されたい。免疫情報学における包括的リファレンスは、IMGT(国際ImMunoGenetics情報システム)の三次元(3D)構造データベースである(Ehrenmann et al., 2010, Nucleic Acids Res., 38, D301-307)。IMGT/3D構造DB構造データは、Protein Data Bank (PDB)から得られ、内部ツールを用いてIMGTの分類概念に基づいてアノテーションを付与される。したがって、IMGT/3D構造DBは、3D構造物のアミノ酸配列をIMGTドメイン参照ディレクトリとアライメントすることにより、これらの配列において発現される最も近い遺伝子および対立遺伝子を提供する。このディレクトリは、抗原受容体の場合、定常部遺伝子ならびに生殖系列の可変部遺伝子および結合部遺伝子の翻訳によってコードされるドメインのアミノ酸配列を含む。本発明者らのアミノ酸配列のCDR領域は、好ましくは、IMGT/3D構造データベースを用いることによって明らかにした。
【0075】
軽鎖のCDR3および特に重鎖のCDR3は、軽鎖および重鎖の可変領域内の、抗原結合に最も重要な決定基を構成し得る。いくつかの抗体構築物において、重鎖CDR3は、抗原と抗体との主な接触領域を構成すると思われる。CDR3のみを変更するインビトロの選択スキームを用いて、抗体の結合特性を変更するか、またはどの残基が抗原結合に寄与しているかを判定することができる。したがって、CDR3は、抗体結合面(side)内での分子多様性の最大の供給源であることが典型的である。例えば、H3は、わずか2個のアミノ酸残基と短くても、または26個より多いアミノ酸であってもよい。
【0076】
古典的な完全長の抗体または免疫グロブリンにおいて、各軽(L)鎖は1つの共有結合性ジスルフィド結合によって重(H)鎖に連結されており、2本のH鎖は、H鎖のアイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合によって互いに連結されている。VHに最も近いCHドメインは、通常、CH1と呼ばれる。定常(「C」)ドメインは、抗原結合に直接的に関与しないが、抗体依存性の細胞媒介性細胞障害性および補体活性化など様々なエフェクター機能を示す。抗体のFc領域は、重鎖定常ドメイン内に含まれ、例えば、細胞表面に配置されたFc受容体と相互作用することができる。
【0077】
組立ておよび体細胞変異後の抗体遺伝子の配列は高度な多様性を示し、これらの多様化した遺伝子は1010種の異なる抗体分子をコードすると推定されている(Immunoglobulin Genes, 2nd ed., eds. Jonio et al., Academic Press, San Diego, CA, 1995)。したがって、免疫系は免疫グロブリンのレパートリーを提供する。「レパートリー」という用語は、少なくとも1つの免疫グロブリンをコードする少なくとも1つの配列に全面的または部分的に由来する、少なくとも1つのヌクレオチド配列を意味する。これらの配列は、重鎖のVセグメント、Dセグメント、およびJセグメントならびに軽鎖のVセグメントおよびJセグメントがインビボで再構成されることによって生じ得る。あるいは、これらの配列は、再構成が起こるもの、例えばインビトロ刺激に応答した細胞から生成させることもできる。あるいは、これらの配列の一部またはすべてを、DNAスプライシング、ヌクレオチド合成、変異誘発、および他の方法によって取得してもよく、例えば、米国特許第5,565,332号を参照されたい。レパートリーは、ただ1つの配列を含んでもよく、または遺伝的に多様なコレクションの中の配列を含む、複数の配列を含んでもよい。
【0078】
本発明において定義される抗体構築物はまた、例えば分子の単離に役立つかまたは分子の適合された薬物動態プロファイルに関係する、付加的なドメインも含んでよい。抗体構築物の単離に役立つドメインは、単離方法、例えば単離用カラムにおいて捕捉することができるペプチドモチーフまたは二次的に導入される部分より選択され得る。そのような付加的ドメインの非限定的な態様は、Mycタグ、HATタグ、HAタグ、TAPタグ、GSTタグ、キチン結合ドメイン(CBDタグ)、マルトース結合タンパク質(MBPタグ)、Flagタグ、Strepタグおよびその変種(例えばStrepIIタグ)、ならびにHisタグとして公知のペプチドモチーフを含む。同定されたCDRを特徴とする本明細書において開示される抗体構築物はすべて、分子のアミノ酸配列中に、連続したHis残基の繰り返し、好ましくは5個、およびより好ましくは6個のHis残基(ヘキサヒスチジン)として一般に公知であるHisタグドメインを含んでよい。Hisタグは、例えば、抗体構築物のN末端またはC末端に位置してよく、好ましくはC末端に位置する。最も好ましくは、ヘキサヒスチジンタグは、本発明による抗体構築物のC末端にペプチド結合によって連結される。さらに、持続放出の適用および薬物動態プロファイルの向上のために、コンジュゲート系であるPLGA-PEG-PLGAをポリヒスチジンタグと組み合わせてもよい。
【0079】
本明細書において説明される抗体構築物のアミノ酸配列改変もまた、企図される。例えば、抗体構築物の結合親和性および/または他の生物学的特性を向上させることが望ましい場合がある。抗体構築物のアミノ酸配列バリアントは、適切なヌクレオチド変更を抗体構築物核酸に導入することによってまたはペプチド合成によって、調製される。以下に記載されるアミノ酸配列改変はどれも、未改変の親分子の所望の生物活性(例えば、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する他の抗原に対する)を引き続き保持している抗体構築物をもたらすはずである。
【0080】
「アミノ酸」または「アミノ酸残基」という用語は、典型的には、その技術分野で認められている定義を有するアミノ酸、例えば、アラニン(AlaまたはA);アルギニン(ArgまたはR);アスパラギン(AsnまたはN);アスパラギン酸(AspまたはD);システイン(CysまたはC);グルタミン(GlnまたはQ);グルタミン酸(GluまたはE);グリシン(GlyまたはG);ヒスチジン(HisまたはH);イソロイシン(IleまたはI);ロイシン(LeuまたはL);リジン(LysまたはK);メチオニン(MetまたはM);フェニルアラニン(PheまたはF);プロリン(ProまたはP);セリン(SerまたはS);スレオニン(ThrまたはT);トリプトファン(TrpまたはW);チロシン(TyrまたはY);およびバリン(ValまたはV)からなる群より選択されるアミノ酸を意味するが、所望に応じて、改変アミノ酸、合成アミノ酸、または希少アミノ酸も使用され得る。通常、アミノ酸は、非極性側鎖(例えば、Ala、Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Val);負荷電側鎖(例えば、Asp、Glu);正荷電側鎖(例えば、Arg、His、Lys);または非荷電極性側鎖(例えば、Asn、Cys、Gln、Gly、His、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyr)を有するものとしてグループ分けすることができる。
【0081】
アミノ酸改変には、例えば、抗体構築物のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/またはそれへの挿入、および/またはその置換が含まれる。最終構築物が所望の特徴を備えていることを条件として、最終構築物に行き着くために欠失、挿入、および置換の任意の組合せを行ってよい。アミノ酸変更によって、抗体構築物の翻訳後プロセスが変わる場合もあり、例えば、グリコシル化部位の数または位置が変わる。
【0082】
例えば、1個、2個、3個、4個、5個、または6個のアミノ酸が、各CDRにおいて(当然、それらの長さに依存して)挿入、置換、または欠失されてよく、一方、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、または25個のアミノ酸が各FRにおいて挿入、置換、または欠失されてよい。好ましくは、抗体構築物へのアミノ酸配列挿入には、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個の残基から100個または100個超の残基を含むポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端融合および/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。対応する改変はまた、本発明において定義される抗体構築物の第3の結合ドメインの内部で実施されてもよい。本発明において定義される抗体構築物の挿入バリアントは、抗体構築物のN末端もしくはC末端への酵素の融合またはポリペプチドの融合を含む。
【0083】
置換変異誘発に関して最大の関心対象の部位には、重鎖および/または軽鎖のCDR、特に超可変領域が含まれる(が、限定されるわけではない)が、重鎖および/または軽鎖のFRの変更もまた、企図される。これらの置換は、好ましくは、本明細書において説明される保存的置換である。好ましくは、CDRまたはFRの長さに応じて、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個のアミノ酸がCDRにおいて置換されてよく、一方、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、または25個のアミノ酸がフレームワーク領域(FR)において置換されてよい。例えば、CDR配列が6個のアミノ酸を含む場合、これらのアミノ酸のうちの1個、2個、または3個が置換されることが想定される。同様に、CDR配列が15個のアミノ酸を含む場合、これらのアミノ酸のうちの1個、2個、3個、4個、5個、または6個が置換されることが想定される。
【0084】
変異誘発のために好ましい位置である、抗体構築物の特定の残基または領域を特定するために有用な方法は、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれ、Cunningham and Wells in Science, 244: 1081-1085 (1989)によって説明されている。本明細書では、抗体構築物内の残基または標的残基群が同定され(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電残基)、該アミノ酸とエピトープとの相互作用に影響を与えるように中性アミノ酸または負荷電アミノ酸(最も好ましくは、アラニンまたはポリアラニン)で置換される。
【0085】
次いで、これらの置換に対して機能的感受性を示すアミノ酸位置を、置換部位にまたは置換部位に対して別のまたは他のバリアントを導入することによって、より正確に定める。このように、アミノ酸配列変種を導入するための部位または領域はあらかじめ決定されるが、変異の性質それ自体はあらかじめ決定される必要はない。例えば、所与の部位における変異の働きを解析または最適化するために、アラニンスキャニングまたはランダム変異誘発を標的のコドンまたは領域に対して実施してよく、かつ所望の活性の最適な組み合わせを求めて、発現された抗体構築物バリアントをスクリーニングする。公知の配列を有するDNA内の所定の部位において置換変異を起こすための技術は周知であり、例えば、M13プライマー変異誘発およびPCR変異誘発である。変異体のスクリーニングは、例えば、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原、標的細胞の表面に存在する抗原、および/または標的細胞の表面に存在する別の抗原に対する結合についてなどの抗原結合活性についてのアッセイ法を用いて行われる。
【0086】
一般に、重鎖および/または軽鎖のCDRの1つもしくは複数またはすべてにおいてアミノ酸が置換される場合、その時に得られる「置換された」配列が「元の」CDR配列と少なくとも60%または少なくとも65%同一であることが好ましく、より好ましくは少なくとも70%または少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも80%または少なくとも85%、および特に好ましくは少なくとも90%または少なくとも95%同一である。これは、元の配列が「置換された」配列と同一である程度がCDRの長さに依存することを意味する。例えば、5個のアミノ酸を有するCDRは、少なくとも1つのアミノ酸が置換されるためには、その置換されたアミノ酸配列と少なくとも80%同一であることが好ましい。したがって、抗体構築物のCDRは、それらの置換された配列に対して様々な程度の同一性を有してよく、例えば、CDRL1は少なくとも80%の同一性を有してよく、CDRL3は少なくとも90%の同一性を有してよい。
【0087】
好ましい置換(または置き換え)は、保存的置換である。しかし、抗体構築物が、例えば、第1の結合ドメイン(A)を介して、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原に結合する、第2の結合ドメイン(B)を介して、標的細胞の表面に存在する抗原に結合する、かつ/もしくは任意の第3の結合ドメイン(C)を介して、標的細胞の表面に存在する他の抗原に結合する能力を保持し、かつ/または、そのCDRが、その時に置換された配列(「元の」CDR配列に対して少なくとも60%もしくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%もしくは少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも80%もしくは少なくとも85%、および特に好ましくは少なくとも90%もしくは少なくとも95%同一である)に対して同一性を有している限り、任意の置換(非保存的置換または下記の表3に列挙される「例示的置換」からの1つもしくは複数を含む)が想定される。
【0088】
保存的置換は、表1の「好ましい置換」という項目の下に示している。このような置換によって生物活性が変化する場合は、表1で「例示的置換」と呼ばれているかまたはアミノ酸クラスに関してさらに後述する、より大幅な変更を導入し、それらの産物を所望の特徴についてスクリーニングしてよい。
【0089】
【0090】
本発明の抗体構築物の生物学的特性の大幅な改変は、(a)例えば、シート状もしくはらせん状の立体構造としての、置換領域のポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖のかさの維持に対する影響が有意に異なる置換を選択することによって、達成される。天然に存在する残基は、共通の側鎖特性に基づいて、以下のグループに分けられる:(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;(2)中性親水性;cys、ser、thr、asn、gln;(3)酸性:asp、glu;(4)塩基性:his、lys、arg;(5)鎖の向きに影響する残基:gly、pro;および(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0091】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。抗体構築物の適切な立体構造の維持に関与していない任意のシステイン残基を、通常はセリンで置換して、分子の酸化安定性を向上させ、異常な架橋を防止してよい。逆に、システイン結合を抗体に追加して安定性を向上させてもよい(特に、抗体が、Fv断片などの抗体断片である場合)。
【0092】
アミノ酸配列に関して、配列同一性および/または類似性は、Smith and Waterman, 1981, Adv. Appl. Math. 2:482の局所配列同一性アルゴリズム、Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48:443の配列同一性アライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman, 1988, Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 85:2444の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、Devereux et al., 1984, Nucl. Acid Res. 12:387-395によって説明されている、好ましくはデフォルト設定を使用するBest Fit配列プログラムを非限定的に含む当技術分野で公知の標準的技術を使用することによるか、または検査によって明らかにされる。好ましくは、同一性パーセントは、以下のパラメーターを用いてFastDBによって計算される:ミスマッチペナルティー1;ギャップペナルティー1;ギャップサイズペナルティー0.33;および結合ペナルティー30、"Current Methods in Sequence Comparison and Analysis", Macromolecule Sequencing and Synthesis, Selected Methods and Applications, pp 127-149 (1988), Alan R. Liss, Inc.。
【0093】
有用なアルゴリズムの例はPILEUPである。PILEUPでは、プログレッシブなペアワイズアライメントを用いて、関連配列のグループから多重配列アライメントを生成する。PILEUPはまた、アライメントを生成するために使用されたクラスタリング関係を示すツリーをプロットすることもできる。PILEUPは、Feng & Doolittle, 1987, J. Mol. Evol. 35:351-360のプログレッシブアライメント法を簡略化した方法を使用する;この方法はHiggins and Sharp, 1989, CABIOS 5:151-153によって説明されているものに類似している。有用なPILEUPパラメーターには、デフォルトのギャップウェイト3.00、デフォルトのギャップ長ウェイト0.10、および重み付き末端ギャップが含まれる。
【0094】
有用なアルゴリズムの別の例は、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410; Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; およびKarin et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:5873-5787で説明されているBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al., 1996, Methods in Enzymology 266:460-480から得られたWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2では、いくつかの検索パラメータを使用し、その大半はデフォルト値に設定されている。調整可能なパラメーターは、以下の値を用いて設定される:オーバーラップスパン=1、オーバーラップ比=0.125、ワード閾値(T)=11。HSP SパラメーターおよびHSP S2パラメーターは、動的な値であり、個々の配列の構成および関心対象の配列が検索される個々のデータベースの構成に応じて、プログラムそれ自体によって定められる。しかし、これらの値を調整して感度を高めることができる。
【0095】
別の有用なアルゴリズムは、Altschul et al., 1993, Nucl. Acids Res. 25:3389~3402によって報告されているギャップドBLASTである。ギャップドBLASTは、BLOSUM-62置換スコアを用い;閾値Tパラメーターは9に設定され;ギャップなし伸長を引き起こすためのツーヒット法では、ギャップ長kに10+kのコストを課し;Xuは16に設定され、かつXgは、データベース検索段階では40に、アルゴリズムの出力段階では67に設定される。ギャップありアライメントは、約22ビットに相当するスコアによって引き起こされる。
【0096】
一般に、個々のバリアントCDRまたはVH/VL配列間のアミノ酸相同性、類似性、または同一性は、本明細書において示される配列に対して少なくとも60%であり、より典型的には相同性または同一性が少なくとも65%または70%に高まることが好ましく、より好ましくは少なくとも75%または80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、およびほぼ100%である。同様の様式で、本明細書において特定される結合タンパク質の核酸配列に関する「核酸配列同一性パーセント(%)」は、抗体構築物のコード配列中のヌクレオチド残基と同一である候補配列中のヌクレオチド残基のパーセンテージと定義される。ある具体的な方法では、デフォルトパラメーターに設定されたWU-BLAST-2のBLASTNモジュールを使用し、オーバーラップスパンおよびオーバーラップ比はそれぞれ1および0.125に設定される。
【0097】
一般に、個々のバリアントCDRまたはVH/VL配列をコードするヌクレオチド配列と本明細書において示されるヌクレオチド配列の間の核酸配列相同性、類似性、または同一性は、少なくとも60%であり、より典型的には相同性または同一性が少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%、およびほぼ100%に高まることが好ましい。したがって、「バリアントCDR」または「バリアントVH/VL領域」は、本発明において定義される親CDR/VH/VLに対して指定された相同性、類似性、または同一性を有するものであり、親CDRまたはVH/VLの特異性および/または活性の少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%を非限定的に含む、生物学的機能を有している。
【0098】
1つの態様において、ヒト生殖系列に対する本発明による抗体構築物の同一性パーセンテージは、70%以上もしくは75%以上、より好ましくは80%以上もしくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上、および最も好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、またはさらに96%以上である。ヒト抗体生殖系列遺伝子産物に対する同一性は、処置中の患者において治療的タンパク質が薬物に対する免疫応答を引き起こすリスクを低減するために重要な特徴と考えられている。Hwang & Foote ("Immunogenicity of engineered antibodies"; Methods 36 (2005) 3-10)は、薬物抗体構築物の非ヒト部分を減らすと、処置中の患者において抗薬物抗体を生じさせるリスクが低下することを実証している。網羅的な数の臨床的に評価された抗体薬物およびそれぞれの免疫原性データの比較により、抗体のV領域のヒト化によってタンパク質の免疫原性が未改変の非ヒトV領域を有する抗体(平均23.59%の患者)と比べて低くなる(平均5.1%の患者)傾向が示されている。したがって、抗体構築物の形態のV領域ベースのタンパク質治療物質にとっては、ヒト配列に対する同一性が高いことが望ましい。生殖系列との同一性を測定するこの目的のために、Vector NTIソフトウェアを用いてVLのV領域をヒト生殖系列VセグメントおよびJセグメントのアミノ酸配列(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)とアライメントし、同一のアミノ酸残基をVLのアミノ酸残基の総数で割ることによりアミノ酸配列のパーセントを算出することができる。VHセグメント(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)についても同じことができるが、ただし、VH CDR3は多様性が高く、かつアラインメントの相手となる既存のヒト生殖系列VH CDR3がないために除外してよい点が異なる。次いで、組換え技術を用いてヒト抗体生殖系列遺伝子に対する配列同一性を高めることができる。
【0099】
「EGFR」という用語は、上皮増殖因子受容体(ヒトにおけるEGFR;ErbB-1;HER1)を意味し、活性化、変異と共に説明され、かつ病態生理学的プロセスに関係付けられている、すべてのアイソフォームまたはバリアントを含む。EGFR抗原結合部位は、EGFRの細胞外ドメイン中のエピトープを認識する。特定の態様において、抗原結合部位は、ヒトEGFRおよびカニクイザルEGFRに特異的に結合する。上皮増殖因子受容体(EGFR)は、受容体型チロシンキナーゼのHERファミリーのメンバーであり、次の4つのメンバーからなる:EGFR(ErbB1/HER1)、HER2/neu(ErbB2)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4)。リガンド結合(例えば、EGF、TGFa、HB-EGF、ニューレグリン、ベータセルリン、アンフィレグリン)によって受容体が刺激されると、チロシンリン酸化を介して細胞内ドメイン内の内在性受容体型チロシンキナーゼが活性化され、HERファミリーメンバーとの受容体のホモ二量体化またはヘテロ二量体化が促進される。これらの細胞内ホスホ-チロシンは、SHC、GRB2、PLCg、およびPI(3)K/Aktを含む様々なアダプタータンパク質または酵素のためのドッキング部位の役割を果たし、これらは、細胞の増殖、血管新生、アポトーシス耐性、浸潤、および転移に影響する多くのシグナル伝達カスケードを同時に開始する。
【0100】
「免疫エフェクター細胞」という用語は、本明細書において使用される場合、例えば、がん、感染病原体によって引き起こされる疾患、外来物質、または自己免疫反応からの体の保護に関与している任意の白血球または前駆体を意味し得る。例えば、免疫エフェクター細胞は、Bリンパ球(B細胞)、Tリンパ球(CD4+T細胞およびCD8+T細胞を含むT細胞)、NK細胞、NKT細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、肥満細胞、顆粒球、例えば、好中球、好塩基球、および好酸球、自然リンパ系細胞(ILC-1、ILC-2、およびILC-3を含むILC)、γδT細胞、またはそれらの任意の組合せを含む。「自然免疫エフェクター細胞」という用語は、自然免疫系に属する免疫エフェクター細胞を意味する。例えば、免疫エフェクター細胞は、天然の、改変された、もしくは操作された、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、肥満細胞、顆粒球、例えば、好中球、好塩基球、および好酸球、自然リンパ系細胞(ILC-1、ILC-2、およびILC-3を含むILC)、人工多能性幹細胞(iPSC)に由来する自然免疫細胞(例えば、iPSC-NK細胞、iPSC-マクロファージ)、免疫調節受容体(例えば、CD16A、NKp46)を発現する操作された免疫エフェクター細胞(例えばT細胞)、またはそれらの任意の組合せを含む。好ましくは、自然免疫エフェクター細胞という用語は、NK細胞および/またはマクロファージを意味する。
【0101】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、ウイルスに感染した細胞および形質転換細胞を死滅させることができ、自然免疫系の不可欠な細胞サブセットを構成する、CD56+CD3-大顆粒リンパ球である(Godfrey J, et al. Leuk Lymphoma 2012 53:1666-1676)。細胞障害性CD8+Tリンパ球とは異なり、NK細胞は、事前の感作を必要とせずに腫瘍細胞に対する細胞障害性を発生させ、またMHC-I陰性細胞を根絶することもできる(Narni-Mancinelli E, et al. Int Immunol 2011 23:427-431)。NK細胞は、サイトカインストーム(Morgan R A, et al. Mol Ther 2010 18:843-851)、腫瘍崩壊症候群(Porter D L, et al. N Engl J Med 2011 365:725-733)、およびオンターゲット、オフ腫瘍効果といった致命的な可能性がある厄介な問題を回避することができるため、より安全なエフェクター細胞である。
【0102】
単球は、骨髄によって、単芽球と呼ばれる造血幹細胞前駆体から産生される。単球は、約1~3日間、血流中を循環し、その後、典型的には全身の組織中に移動する。単球は、血液中の白血球の3~8%を構成する。組織内で、単球は、様々な解剖学的位置において成熟して様々な種類のマクロファージになる。単球には、免疫系において次の2つの主な機能がある:(1)正常な状態下で在住マクロファージおよび樹状細胞を補充すること、ならびに(2)炎症シグナルに応答して、単球は、組織内の感染部位に迅速に(約8~12時間)移動し、かつマクロファージおよび樹状細胞に分割/分化して免疫応答を誘発できること。通常、単球は、大きな二葉核に基づいて、染色されたスメアにおいて特定される。
【0103】
マクロファージは、自然免疫系の強力なエフェクターであり、次の少なくとも3つの異なる抗腫瘍機能を果たすことができる:食作用、細胞性細胞障害性、および適応免疫応答を組織化するための抗原提示。T細胞は、T細胞受容体またはキメラ免疫受容体を介した抗原依存性の活性化を必要とするが、マクロファージは、様々な方法で活性化することができる。直接的なマクロファージ活性化は抗原に依存せず、Toll様受容体(TLR)による病原体関連分子パターン認識などのメカニズムに依拠している。免疫複合体を媒介とした活性化は抗原依存性であるが、抗原特異的抗体が存在することおよび抑制性CD47-SIRPa相互作用が存在しないことを必要とする。
【0104】
T細胞またはTリンパ球は、細胞表面にT細胞受容体(TCR)が存在することに基づいて、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球と区別することができる。これらは、胸腺内で成熟することからT細胞と呼ばれている(ただし、一部は扁桃内でも成熟する)。T細胞にはいくつかのサブセットがあり、それぞれ別個の機能を有する。
【0105】
Tヘルパー細胞(TH細胞)は、形質細胞およびメモリーB細胞へのB細胞の成熟ならびに細胞障害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的プロセスにおいて他の白血球を補助する。これらの細胞は、表面にCD4糖タンパク質を発現することから、CD4+T細胞としても公知である。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面で発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原を提示された場合、活性化される。ひとたび活性化されると、ヘルパーT細胞は急速に分裂し、サイトカインと呼ばれる、能動免疫応答を調節または補助する小型タンパク質を分泌する。これらの細胞は、TH1、TH2、TH3、TH17、TH9、またはTFHを含むいくつかのサブタイプのうちの1つに分化することができ、該サブタイプは、異なるサイトカインを分泌して、異なるタイプの免疫応答を促進する。
【0106】
細胞障害性T細胞(TC細胞またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶にも関係付けられている。これらの細胞は、表面にCD8糖タンパク質を発現することから、CD8+T細胞としても公知である。これらの細胞は、すべての有核細胞の表面に存在しているMHCクラスI分子に結合した抗原に結合することによって、標的を認識する。制御性T細胞によって分泌されるIL-10、アデノシン、および他の分子を介して、CD8+細胞を不活性化してアネルギー状態にすることができ、これによって自己免疫疾患が予防される。
【0107】
メモリーT細胞は、感染症が消失した後に長期にわたって持続する抗原T異的細胞のサブセットである。メモリーT細胞は、コグネイト抗原に再び曝露されると急速に増殖して多数のエフェクターT細胞となり、したがって、過去の感染に対する「記憶」を有する免疫系を実現する。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであってよい。典型的には、メモリーT細胞は細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0108】
以前はサプレッサーT細胞として公知であった制御性T細胞(Treg細胞)は、免疫寛容の維持にとって非常に重要である。これらの主な役割は、免疫反応の終わりに向けてT細胞性免疫を停止すること、および胸腺でのネガティブ選択の過程を逃れた自己反応性T細胞を抑制することである。CD4+Treg細胞の2種の主なクラスが説明されており、これらは天然Treg細胞および適応性Treg細胞である。
【0109】
ナチュラルキラーT(NKT)細胞(ナチュラルキラー(NK)細胞と混同すべきではない)は、適応免疫系と自然免疫系の橋渡しをする。主要組織適合性複合体(MHC)分子によって提示されるペプチド抗原を認識する従来のT細胞とは違って、NKT細胞は、CD1dと呼ばれる分子によって提示される糖脂質抗原を認識する。
【0110】
本明細書において使用される場合、「操作された免疫エフェクター細胞」という用語は、遺伝子編集を可能にする方法またはツールによって遺伝子改変された免疫細胞に関する。免疫細胞操作のための方法の例には、ウイルス形質導入、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびCRISPR/Cas9が含まれるが、それらに限定されるわけではない。操作された免疫細胞にはまた、例えば、自然免疫細胞によって普通は発現される免疫調節受容体(例えば、CD16A、NKp46)を発現することによって自然免疫機能を獲得する適応免疫細胞(例えばT細胞)が含まれ得る(出典:(CD16A CAR T cells D'Aloia et al Chimeric Antigen Receptor T Cells, 18(2):278-290)。
【0111】
本明細書において使用される場合、「半減期延長ドメイン」という用語は、抗体構築物の血清半減期を長くする部分に関する。半減期延長ドメインは、抗体の一部分、例えば、免疫グロブリンのFc部分、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、および/またはCH4ドメインを含み得る。最適ではないが、半減期延長ドメインはまた、抗体に含まれていないエレメント、例えば、ほんの数例を挙げれば、アルブミン結合ペプチド、アルブミン結合タンパク質、またはトランスフェリンを含むこともできる。半減期延長ドメインは、免疫調節機能を有さないことが好ましい。半減期延長ドメインが、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、および/またはCH3ドメインを含む場合、半減期延長ドメインは、Fc受容体に本質的には結合しないことが好ましい。これは、例えば、Fcγ受容体結合ドメインを「サイレンシング」することによって実現することができる。
【0112】
本明細書において使用される場合、Fc受容体結合ドメインまたはFcγ受容体結合ドメインの「サイレンシング」は、Fc受容体、特にFcγ受容体へのCH2ドメインの結合を低減させる任意の改変を意味する。このような改変は、Fc(γ)受容体結合に関与している1つまたは複数のアミノ酸の置換および/または欠失によって行うことができる。このような変異は当技術分野において周知であり、例えば、Saunders (2019, Front. Immunol. 10:1296)によって説明されている。例えば、変異は、233位、234位、235位、236位、237位、239位、263位、265位、267位、273位、297位、329位、および331位のうちのいずれか1つに位置してよい。このような変異の例は次のとおりである:Glu233→Proの欠失、Glu233、Leu234→Phe、Leu234→Ala、Leu234→Gly、Leu234→Glu、Leu234→Val、Leu234の欠失、Leu235→Glu、Leu235→Ala、Leu235→Arg、Leu235→Phe、Leu235の欠失、Gly236の欠失、Gly237→Ala、Ser239→Lys、Val263→Leu、Asp265→Ala、Ser267→Lys、Val273→Glu、Asn297→Gly、Asn297→Ala、Lys332→Ala、Pro329→Gly、Pro331→Ser、およびそれらの組合せ。好ましくは、このような改変は、Leu234→AlaおよびLeu235→Ala(「LALA」変異としても公知)の一方または両方を含む。好ましくは、このような改変は、Pro329→Gly変異もさらに含み、「LALA-PG」変異としても公知である(Leu234→Ala、Leu235→Ala、およびPro329→Gly)。好ましくは、このような改変は、変異Leu234→Phe、Leu235→Glu、およびAsp265→Alaのうちの1つ、2つ、または3つ、より好ましくはこれらの変異の3つすべてを含む。Leu234→Phe、Leu235→Glu、およびAsp265→Alaの組合せは、本発明において好ましい改変であり、「FEA」変異としても公知である。好ましくは、このような改変は、Asn297→Glyをさらに含む。このような好ましい改変は、変異Leu234→Phe、Leu235→Glu、Asp265→Ala、およびAsn297→Glyを含む。
【0113】
「フラトリサイド」という用語は、本発明において、細胞障害性の殺滅によるエフェクター細胞の低減、およびそれによる、利用可能なエフェクター細胞集団/コンパートメントの低減を意味する。フラトリサイドは、2つの免疫細胞の架橋によって引き起こされ得る。例示的な例として、NK細胞同士の架橋は、該NK細胞のいずれか一方または両方の殺滅を引き起こし得る。抗体構築物が、2種の異なるタイプのエフェクター細胞、例えば、NK細胞およびマクロファージまたはNK細胞およびT細胞を動員する場合において、一方のタイプのエフェクター細胞が他方のタイプのエフェクター細胞によって排除されることも、フラトリサイドとして理解される。フラトリサイドは、例えば、実施例7で本質的に説明するようなアッセイ法で測定することができる。
【0114】
詳細な説明
本発明は、腫瘍塊が、所与の腫瘍抗原の発現レベル(高、中、低)に関して著しく不均一であるという知見に基づく。抗腫瘍処置の過程において、腫瘍は、回避戦略として、治療期間中に、標的とされる腫瘍抗原を下方制御する可能性がある。標的とされる腫瘍抗原が少ない腫瘍細胞は、最初のCR後に再発する可能性の原因となり得る。これは、腫瘍抗原を標的とする全ての戦略にとって共通の難題であると考えられている。
【0115】
二重特異性または多重特異性の免疫エフェクター細胞エンゲージャーを適用する場合、標的とされる腫瘍抗原の下方制御によって、エンゲージされるシグナル伝達能力のある腫瘍抗原/免疫細胞抗原複合体の数が、NK細胞などの自然免疫受容体細胞による効率的な殺滅に必要とされる閾値を下回る数に減少する。しかし、驚くべきことに、エンゲージされる個々の腫瘍抗原あたりの、免疫エフェクター細胞の免疫調節抗原に対する結合ドメインの数を増加させることによって、標的とされる腫瘍抗原が少ない腫瘍細胞をもっと上手く殺滅することを実現できる可能性があることが、本出願の発明者らによって見出された。
【0116】
したがって、本発明は、自然免疫エフェクター細胞の活性化閾値および親和性/細胞表面保持を増大させるための、自然免疫エフェクター細胞の免疫調節抗原に対して4価を有する二重特異性または多重特異性の免疫エフェクター細胞エンゲージャーフォーマットを提供する。自然免疫エフェクター細胞抗原に対する結合ドメインの数を増加させることによって、1つの腫瘍抗原が、最大4つの自然免疫エフェクター細胞抗原、例えばCD16Aを介して、活性化を誘導することができる。
【0117】
自然免疫細胞の免疫調節抗原に対する少なくとも4つの結合ドメインを含むエンゲージャーを使用することにより、NK細胞および/またはマクロファージなどの自然免疫細胞の長期に持続する最大有効性がもたらされ得る。さらに、そのようなエンゲージャーの殺滅動態は、自然免疫細胞の免疫調節抗原に対する結合ドメインを4つ未満(例えば、1つまたは2つ)有する従来のエンゲージャーと比べた場合、より高速であることができる。自然免疫細胞の免疫調節抗原に対する少なくとも4つの結合ドメインを有する二重特異性または多重特異性のエンゲージャーはまた、より大きな応答を示し、したがって、標的陽性腫瘍細胞の完全な根絶をもたらすことができる。このことは、標的細胞の表面に存在する少なくとも2つの抗原に対してエンゲージャーが特異的である二重ターゲティングアプローチとの組合せにとって特に興味深い。したがって、本発明の二重特異性エンゲージャーおよび多重特異性エンゲージャーは、存在量が非常に少ない腫瘍抗原(ペプチド/MHC-I複合体を含む)を標的とするための好ましいフォーマットである可能性がある。
【0118】
したがって、本発明の抗体構築物は、標的抗原の発現が下方制御された腫瘍細胞または標的抗原を天然に低発現する腫瘍細胞を効果的に標的とすることができる。これにより、該抗体構築物は腫瘍全体を標的とすることができるので、該抗体構築物は、腫瘍抗原を不均一に発現する天然腫瘍の処置に特に有用となる。さらに、低発現細胞、例えば、腫瘍幹細胞を殺滅することによって、抗体構築物はまた、腫瘍の再発を防止することもできる。
【0119】
したがって、本発明は、(i)少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)であって、該第1の結合ドメイン(A)が、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する抗原である第1の標的(A')に特異的に結合することができる、該少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A);および(ii)第2の結合ドメイン(B)であって、標的細胞の表面に存在する抗原である第2の標的(B')に特異的に結合することができる、該第2の結合ドメイン(B)を含む、抗体構築物を企図する。自然免疫細胞の表面に存在する抗原は、好ましくは、免疫調節抗原である。自然免疫細胞は、好ましくは、ナチュラルキラー細胞またはマクロファージである。
【0120】
第1の結合ドメイン(A)に関して、「少なくとも4」という用語は、5、6、7、8、またはさらに大きな数を含む。しかし、4、5、および6が好ましく、4が最も好ましい。同様に、第2の結合ドメイン(B)に関して、本開示の抗体構築物は、複数の第2の結合ドメイン、例えば、2つ、3つ、4つ、またはさらにそれより多い第2の結合ドメインを含むことができる。しかし、本発明の抗体構築物は、1つまたは2つの第2の結合ドメイン(B)を含むことが好ましく、2つが最も好ましい。第2の標的(B')は、第1の標的(A')を発現する自然免疫エフェクター細胞と同じ細胞ではない標的細胞の表面に存在することが理解される。
【0121】
本発明の抗体構築物は、標的細胞および(自然)免疫エフェクター細胞に同時に結合することができ得る。(自然)免疫エフェクター細胞への結合は、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの少なくとも1つを介することができる。標的細胞への結合は、少なくとも1つの第2の結合ドメイン(B)および/または少なくとも1つの任意の第3の結合ドメイン(C)を介することができる。本開示の抗体構築物は、二重特異性であり得る。本開示の抗体構築物はまた、三重特異性であり得る。しかし、二重特異性抗体構築物が好ましい。
【0122】
少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数が第1の標的(A')に結合すると、活性化シグナルを誘導することまたは抑制シグナルを遮断することにより、免疫エフェクター細胞の機能性が増強され得、該第1の標的(A')は、本明細書において、特にNK細胞および/またはマクロファージ上の「免疫調節抗原」と呼ばれる。このような「免疫調節抗原」には、CD16A、CD56、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD47、SIRPα、CD89、CD96、CD137、CD160、TIGIT、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、CTLA-4、TIM-3、KIR2DL1~5、KIR3DL1~3、KIR2DS1~5、KIR3DS1、およびCD3が含まれるが、それらに限定されるわけではない。さらに、第1の標的(A')は、作用機序に応じて種々のカテゴリーにグループ分けすることができる免疫調節抗原である:(1)免疫エフェクター細胞の活性化を誘導する抗原。限定されるわけではないが、CD16A、CD56、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD137、CD89、CD160、およびキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR2DS1~5およびKIR3DS1)が含まれ、本明細書において「免疫活性化抗原」と呼ばれる。(2)エフェクター細胞上の抑制性抗原。例えば、NKG2A、TIGIT、PD-1、PD-L1、CD47、SIRPα、LAG-3、CTLA-4、CD96、TIM-3、CD137、KIR2DL1~5、およびKIR3DL1~3が含まれ、本明細書において「免疫抑制性抗原」と呼ばれ、阻害および/または機能的消耗に対抗するために妨害される場合がある。「免疫活性化抗原」に対する第1の結合相手(A)は、好ましくはアゴニストである。「免疫抑制性抗原」に対する第1の結合相手(A)は、好ましくはアンタゴニストである。
【0123】
エフェクター細胞の活性化を誘導する抗原は、シグナル伝達カスケードに基づくグループにさらに分類することができる:(1)CD3ζに依存した/CD16Aに関連したシグナル伝達、例えばCD16A、NKp46、NKp30、ならびに(2)CD3ζに依存しないシグナル伝達、例えば、限定されるわけではないが、NKG2D、NKp44、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、およびキラー細胞免疫グロブリン様受容体(例えばKIR2DS1)。
【0124】
少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)に対する抗原の選択によって、種々の細胞型が、標的とされ/活性化される可能性があり、例えば、限定されるわけではないがCD16A、CD56、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD137、CD160、KIR2DS1~5、NKG2A、TIGIT、PD-1、PD-L1、CD47、LAG-3、CTLA-4、CD96、TIM-3、CD137、KIR2DL1~5、およびKIR3DL1~3などを含む群より選択される抗原を用いて、NK細胞が;ならびに/またはCD16A、CD89、SLAMF7、SIRPα、および/もしくはCD47などを含む群より選択される抗原を用いて、単球、マクロファージ、および/もしくは好中球が、標的とされ/活性化される可能性がある。さらに、抗原に依存的に、種々の部分集団(例えば、CD56弱陽性CD16強陽性NK細胞、CD56強陽性CD16陰性NK細胞、末梢NK細胞または組織常在NK細胞、M1マクロファージまたはM2マクロファージ、腫瘍関連マクロファージ)を扱うこともできる。
【0125】
いくつかの態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、好ましくは、CD16A、CD56、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD47、SIRPα、CD89、CD96、CD137、CD160、TIGIT、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、CTLA-4、TIM-3、KIR2DL1~5、KIR3DL1~3、KIR2DS1~5、KIR3DS1、およびCD3からなる群より選択される、(CD)抗原に特異的である。
【0126】
本開示によれば、第1の標的(A')は、好ましくは、CD16A、CD56、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD47、SIRPα、CD89、CD96、CD137、CD160、TIGIT、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、CTLA-4、TIM-3、KIR2DL1~5、KIR3DL1~3、KIR2DS1~5、KIR3DS1、およびCD3からなる群より選択され、CD16AおよびNKp46が好ましく、CD16Aが最も好ましい。これに関連して、好ましい第1の標的(A')は、NK細胞および/またはマクロファージ上に存在する標的である。少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、第1の標的(A')の同じエピトープに結合することができる。
【0127】
本開示の抗体構築物は、第3の標的(C')に特異的に結合することができる第3の結合ドメイン(C)を含み得る。第3の標的(C')は、第2の標的(B')以外である、標的細胞の表面に存在する抗原である。しかし、本開示の抗体構築物は、複数の第3の結合ドメイン(C)、例えば、2つ、3つ、4つ、またはさらにそれより多い第3の結合ドメイン(C)を含むことができる。しかし、本開示の抗体構築物は、1つまたは2つの第3の結合ドメイン(B)を含むことが好ましい。したがって、本開示の好ましい抗体構築物は、1つの第2の結合ドメイン(B)および1つの第3の結合ドメイン(C)、2つの第2の結合ドメイン(B)および1つの第3の結合ドメイン(C)、1つの第2の結合ドメイン(B)および2つの第3の結合ドメイン(C)、または2つの第2の結合ドメイン(B)および2つの第3の結合ドメイン(C)を含み得、ここで、1つの第2の結合ドメイン(B)および1つの第3の結合ドメイン(C)が最も好ましい。
【0128】
第1の結合ドメイン(A)は、好ましくは抗体に由来する。第1の結合ドメイン(A)は、好ましくは、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む。第1の結合ドメイン(A)の例示的な構造には、Fv、scFv、Fab、またはダイアボディ(Db)、scDb、bi-scFv、もしくは二重Fabに含まれ得るVLおよびVHのペアが含まれ、ここで、scDbまたはbi-scFvに含まれるVLおよびVHのペアが好ましい。
【0129】
第2の結合ドメイン(B)もまた、好ましくは抗体に由来する。第2の結合ドメイン(B)は、好ましくは、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む。第2の結合ドメイン(B)の例示的な構造には、Fv、scFv、Fab、またはダイアボディ(Db)、scDb、もしくは二重Fabに含まれ得るVLおよびVHのペアが含まれ、ここで、scFvまたはFabが好ましい。
【0130】
第3の結合ドメイン(C)もまた、好ましくは抗体に由来する。第3の結合ドメイン(C)は、好ましくは、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む。第3の結合ドメイン(C)の例示的な構造には、Fv、scFv、Fab、またはダイアボディ(Db)、scDb、もしくは二重Fabに含まれ得るVLおよびVHのペアが含まれ、ここで、scFvまたはFabが好ましい。
【0131】
本開示の抗体構築物は、本明細書において説明される半減期延長ドメインを含む、第4のドメイン(D)を含んでよい。半減期延長ドメインは、CH2ドメインのFcγ受容体結合ドメインがサイレンシングされている、該CH2ドメインを含んでよい。半減期延長ドメインは、2つのこのようなCH2ドメインを含んでよい。半減期延長ドメインがCH2ドメインを含むときは常に、該CH2ドメインのFcγ受容体結合ドメインはサイレンシングされている。半減期延長ドメインは、1つのCH3ドメインを含んでよい。半減期延長ドメインは、2つのCH3ドメインを含んでよい。半減期延長ドメインは、1つのヒンジドメインを含んでよい。半減期延長ドメインは、2つのヒンジドメインを含んでよい。半減期延長ドメインは、1つのCH2ドメインおよび1つのCH3ドメインを含んでよい。このような場合、CH2ドメインおよびCH3ドメインは、好ましくは(アミノからカルボキシル)の順にCH2ドメイン-CH3ドメインとして、互いに融合されていることが好ましい。このような融合の非限定的な例は、SEQ ID NO: 39~58に示している。半減期延長ドメインは、1つのヒンジドメインおよび1つのCH2ドメインを含んでよい。このような場合、ヒンジドメインおよびCH2ドメインは、好ましくは(アミノからカルボキシル)の順にヒンジドメイン-CH2ドメインとして、互いに融合されていることが好ましい。半減期延長ドメインは、1つのヒンジドメイン、1つのCH2ドメイン、および1つのCH3ドメインを含んでよい。このような場合、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインは、好ましくは(アミノからカルボキシル)の順にヒンジドメイン-CH2ドメイン-CH3ドメインとして、互いに融合されていることが好ましい。半減期延長ドメインは、ヒンジドメイン-CH2ドメインエレメントを2つ、CH2ドメイン-CH3ドメインエレメントを2つ、またはヒンジドメイン-CH2ドメイン-CH3ドメインエレメントを2つ、含んでよい。このような場合、これら2つの融合物は、2つの異なるポリペプチド鎖上に配置されてよい。あるいは、これらの融合物は、同じポリペプチド鎖上に配置することもできる。ヒンジドメイン-CH2ドメイン-CH3ドメインエレメント2つが同じポリペプチド鎖上に配置される場合の例示的な例は、「単鎖Fc」または「scFc」フォーマットである。この場合、両方のヒンジ-CH2-CH3サブユニットが、Fcドメインの組立てを可能にするリンカーを介して一体に融合されている。この目的のために好ましいリンカーはグリシンセリンリンカーであり、これは、好ましくは約20個~約40個のアミノ酸を含む。好ましいグリシンセリンリンカーは、GGS、GGGS(SEQ ID NO: 1)、またはGGGGS(SEQ ID NO: 6)の1つまたは複数の繰り返しを有してよい。このようなリンカーは、好ましくは、GGGGSの4~8個の繰り返し(例えば、4個、5個、6個、7個、または8個の繰り返し)を含む。このようなリンカーは、好ましくは(GGGGS)6(SEQ ID NO 9)である。このようなscFcドメインの例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。さらに別のscFc定常ドメインは当技術分野において公知であり、とりわけ、WO 2017/134140に記載されている。
【0132】
通常、第2の標的(B')および/または任意で第3の標的(C')に関して、本開示の抗体構築物は、第2の標的(B')および/または任意で第3の標的(C')のいずれか1つに対して、一価、二価、三価であることができるか、またはさらに高い結合価を有することができる。第1の標的(A')に対して、本開示の抗体構築物は、四価であることができるか、またはさらに高い結合価を有することができる。したがって、本開示の抗体構築物は、第1の結合ドメイン(A)のいずれか1つについて4個、5個、6個、またはさらに多くを含んでよい。本開示の抗体構築物は、第2の結合ドメイン(B)について1個、2個、3個、またはさらに多くを含むことができる。任意で、本開示の抗体構築物は、第3の結合ドメイン(C)について1個、2個、3個、またはさらに多くを含むことができる。本開示の抗体構築物について、該抗体構築物が第1の標的(A')に対して少なくとも四価であり第2の標的(B')に対して少なくとも一価または少なくとも二価であることが、好ましい。本開示の抗体構築物について、該抗体構築物が第1の標的(A')に対して少なくとも四価であり、第2の標的(B')に対して少なくとも一価であり、かつ第3の標的(C')に対して少なくとも一価であることが、さらに好ましい。より好ましくは、本開示の抗体構築物は、第1の標的(A')に対して四価であり、第2の標的(B')に対して一価である。より好ましくは、本開示の抗体構築物は、第1の標的(A')に対して四価であり、第2の標的(B')に対して一価であり、かつ第3の標的(C')に対して一価である。さらにより好ましくは、本開示の抗体構築物は、第1の標的(A')に対して四価であり、第2の標的(B')に対して二価である。本開示の抗体構築物について、該抗体構築物が少なくとも2つ4つの第1の結合ドメイン(A)および少なくとも1つまたは少なくとも2つの第2の結合ドメイン(B)を含むことが好ましい。本開示の抗体構築物について、該抗体構築物が少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)、少なくとも1つの第2の結合ドメイン(B)、および少なくとも1つの第3の結合ドメイン(C)を含むことが、さらに好ましい。より好ましくは、本開示の抗体構築物は、4つの第1の結合ドメイン(A)および1つの第2の結合ドメイン(B)を含む。より好ましくは、本発明の抗体構築物は、4つの第1の結合ドメイン(A)、1つの第2の結合ドメイン(B)、および1つの第3の結合ドメイン(C)を含む。さらにより好ましくは、本開示の抗体構築物は、4つの第1の結合ドメイン(A)および2つの第2の結合ドメイン(B)を含む。
【0133】
免疫エフェクター細胞フラトリサイドを低減するために、4つの第1の結合ドメイン(A)は、2つの免疫エフェクター細胞に対する同時結合が低減されるかまたは好ましくは防止される方式で、互いに位置付けられるべきであることもまた、想定される。これは、例えば、第1の結合ドメイン(A)間の距離を短くすることによって実現することができる。例えば、1つめの第1の結合ドメイン(A1)と2つめの第1の結合ドメイン(A2)とが、互いに融合されて、本明細書において二量体とも呼ばれるペア(A1A2)を形成し得る。このような二量体(A1A2)は、bi-scFv、二重fab、Db、またはscDbの形態であり得る。しかし、このような二量体(A1A2)は、bi-scFvまたはscDbの形態であることが好ましい。bi-scFvの可変ドメインの空間的配置は、任意の適切な順序であることができ、VH-VL-VH-VLの順序が好ましい。scDbの可変ドメインの空間的配置は、任意の適切な順序であることができ、VL-VH-VL-VHの順序が好ましい。2つの第1の結合ドメインからなる二量体(A1A2)の最も好ましい形態は、scDbフォーマットである。このようなscDbにおいて、ポリペプチド鎖上のポリペプチドのドメインは、好ましくは、(NからCに)VL-VH-VL-VHの順序で配置されている。
【0134】
同様に、3つめの第1の結合ドメイン(A3)と4つめの結合ドメイン(A4)とが、互いに融合されて、二量体とも呼ばれるペア(A3A4)を形成することもできる。やはり、このような二量体(A3A4)は、bi-scFv、二重Fab、Db、またはscDbの形態であり得る。しかし、このような二量体(A3A4)は、bi-scFvまたはscDbの形態であることが好ましい。bi-scFvの可変ドメインの空間的配置は、任意の適切な順序であることができ、VH-VL-VH-VLの順序が好ましい。scDbの可変ドメインの空間的配置は、任意の適切な順序であることができ、VL-VH-VL-VHの順序が好ましい。2つの第1の結合ドメインからなる二量体(A3A4)の最も好ましい形態は、scDbフォーマットである。このようなscDbにおいて、ポリペプチド鎖上のポリペプチドのドメインは、好ましくは、(NからCに)VL-VH-VL-VHの順序で配置されている。
【0135】
少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、好ましくは、第4のドメインに融合される。第1の結合ドメインは単量体として配置されることができるが、第1の結合ドメインは、少なくとも2つの二量体((A1A2)および(A3A4))の形態であることが好ましい。好ましい第4の結合ドメインは、scFcの形態、または好ましくはFcの形態であることができる、ヒンジドメイン-CH2ドメイン-CH3ドメインエレメントを、2つ含む。通常、4つの第1の結合ドメイン(A)は、scFcまたは好ましくはFcの任意のN末端またはC末端に融合され得る。好ましい配置において、互いに融合されている1つめの結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)は、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合される。好ましい配置において、互いに融合されている1つめの結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)は、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合される。好ましい配置において、互いに融合されている3つめの結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)は、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合される。好ましい配置において、互いに融合されている3つめの結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)は、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合される。
【0136】
本開示の抗体構築物において、互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)は、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合され得、一方で、互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)は、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合される。しかし、第1の結合ドメイン間の距離をより短くするために、第1の結合ドメインの両方の二量体、すなわち(A1A2)および(A3A4)が、第4のドメイン(D)のFcの2つのN末端、またはより好ましくは、第4のドメイン(D)のFcの2つのC末端、のいずれかに融合されることが好ましい。したがって、本開示の好ましい抗体構築物において、互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)は、第4のドメイン(D)の第1のヒンジドメインのN末端に融合され、一方で、互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)は、第4のドメイン(D)の第2のヒンジドメインのN末端に融合される。本開示のさらにより好ましい抗体構築物において、互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)は、第4のドメイン(D)の第1のCH3ドメインのC末端に融合され、一方で、互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)は、第4のドメイン(D)の第2のCH3ドメインのC末端に融合される。
【0137】
本開示の抗体構築物において、第2の結合ドメイン(B)は、第4のドメイン(D)に融合され得る。通常、第2の結合ドメイン(B)は、そのような融合に適した任意の位置で、特に第4のドメイン(D)の任意のN末端またはC末端で、融合され得る。したがって、第2の結合ドメイン(B)は、第4のドメイン(D)のヒンジドメインのN末端に融合され得る。第2の結合ドメインはまた、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端にも融合され得る。
【0138】
抗体構築物が少なくとも2つの第2の結合ドメイン(B)を含む場合、該少なくとも2つの第2の結合ドメインは、そのような融合に適した任意の位置で、特に第4のドメイン(D)の任意のN末端またはC末端で、個々に融合され得る。例えば、1つの第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジドメインのN末端に融合され得、一方で、別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合される。しかし、2つの第2の結合ドメインが、両方とも第4のドメイン(D)のN末端に融合されているかまたは両方とも第4のドメイン(D)のC末端に融合されている配置が、好ましい。したがって、第2の結合ドメイン(B)が第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合され、一方で、別の第2の結合ドメイン(B)が第4のドメイン(D)の別のヒンジのN末端に融合されることが、好ましい。第2の結合ドメイン(B)が第4のドメイン(D)のCH3のC末端に融合され、一方で、別の第2の結合ドメイン(B)が第4のドメイン(D)の別のCH3のC末端に融合されることもまた、好ましい。
【0139】
第3の結合ドメイン(C)を含む抗体構築物において、第3の結合ドメイン(C)は、第4のドメイン(D)に融合され得る。通常、第3の結合ドメイン(C)は、そのような融合に適した任意の位置で、特に第4のドメイン(D)の任意のN末端またはC末端で、融合され得る。したがって、第3の結合ドメイン(C)は、第4のドメイン(D)のヒンジドメインのN末端に融合され得る。第3の結合ドメインはまた、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端にも融合され得る。
【0140】
本開示の抗体構築物において、第2の結合ドメイン(B)は、第4のドメイン(D)のヒンジドメインのN末端に融合され得、一方で、第3の結合ドメイン(C)は、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されるか、またはその逆である。しかし、第2の結合ドメイン(B)および第3の結合ドメイン(C)が、両方とも第4のドメイン(D)のN末端に融合されているかまたは両方とも第4のドメイン(D)のC末端に融合されている配置が、好ましい。したがって、第2の結合ドメイン(B)が第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合され、一方で、第3の結合ドメイン(C)が第4のドメイン(D)の別のヒンジのN末端に融合されることが、好ましい。第2の結合ドメイン(B)が第4のドメイン(D)のCH3のC末端に融合され、一方で、第3の結合ドメイン(C)が第4のドメイン(D)の別のCH3のC末端に融合されることもまた、好ましい。
【0141】
好ましい抗体構築物において、2つの第1の結合ドメインからなる第1の二量体(A1A2)および2つの第1の結合ドメインからなる第2の二量体(A3A4)は、Fc領域の2つのC末端に融合されている。このような融合フォーマットを
図1A~Cに例示的に示している。第1の二量体(A1A2)において、2つの第1の結合ドメイン(A1およびA2)は、好ましくは1つめの第1の結合ドメイン(A1)のVLドメインを介して、ダイアボディまたは単鎖ダイアボディの形態で一体に融合されることが好ましい。同様に、第2の二量体(A3A4)において、2つの第1の結合ドメイン(A3およびA4)は、好ましくは3つめの第1の結合ドメイン(A3)のVLドメインを介して、ダイアボディまたは単鎖ダイアボディの形態で一体に融合されることが好ましい。第1の二量体(A1A2)および/または第2の二量体(A3A4)は、リンカーを介して抗体の定常ドメインに融合されてよい。このようなリンカーは、好ましくは、短いリンカーであり、好ましくは、約10nmもしくはそれ未満、好ましくは約9nmもしくはそれ未満、好ましくは約8nmもしくはそれ未満、好ましくは約7nmもしくはそれ未満、好ましくは約6nmもしくはそれ未満、好ましくは約5nmもしくはそれ未満、好ましくは約4nmもしくはそれ未満、または好ましくはさらにそれより短い長さを有する。リンカーの長さは、好ましくは、Rossmalen et al Biochemistry 2017, 56, 6565-6574によって説明されているようにして決められ、該文献はまた、当業者に周知である適切なリンカーも説明している。適切なリンカーの例は、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む、グリシンセリンリンカーまたはセリンリンカーである。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数のGGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)
2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)
4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)
6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。第1の二量体(A1A2)および/または第2の二量体(A3A4)は、好ましくはscDbのVLドメインを介してFcドメインの2つのC末端に融合されているscDb断片であることが好ましい。したがって、(NからCに向かっての)ポリペプチド鎖の配置は、好ましくは...-CH2-CH3-VL-VH-VL-VHであり、任意でFcとscDbの間にリンカーを有する。1つまたは2つの第2の結合ドメイン(B)は、抗体構築物の任意の適切な位置に配置され得る。同様に、第3の結合ドメイン(C)もまた、抗体構築物の任意の適切な位置に配置され得る。抗体構築物がFc領域を含む場合、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)は、直接的かまたはヒンジドメインの少なくとも1つの部分を介して連結されるかのいずれかによって、Fc領域のN末端に配置され得る。本明細書において開示される他のリンカーもまた、第2の結合ドメインおよび/または第3の結合ドメインをFcドメインに連結するために使用することができる。しかし、この目的には、ヒンジドメインの方が好ましい。第2の結合ドメイン(B)は、FabおよびscFvを含む、本明細書において開示される任意の適切な構造であり得るが、scFv構造が好ましい。同様に、第3の結合ドメイン(C)も、FabおよびscFvを含む、本明細書において開示される任意の適切な構造であり得るが、scFv構造が好ましい。scFvの場合、scFvは、好ましくは、scFvに含まれるVL領域を介してFcドメインに融合される。
【0142】
本発明の好ましい抗体構築物は、
図1Aに本質的に示されるフォーマットであることが好ましい。このような抗体構築物は、任意でリンカーを介して重鎖のC末端に融合された2つのscDb断片を有する免疫グロブリンを含み、該リンカーは、好ましくはグリシンセリンリンカーまたはセリンリンカー、好ましくはグリシンセリンリンカーであり、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)GGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)
2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)
4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)
6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。これら2つのscDbのうちの一方が2つの第1の結合ドメイン(A1およびA2)を含み、他方のscDbもまた、2つの第1の結合ドメイン(A3およびA4)を含む。1つの第2の結合ドメイン(B)は、1つのFc領域の1つのN末端に融合される。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)(または最適ではないがVH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)、VL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)、もしくはVL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2))の、1本のポリペプチド鎖、および配置ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。このような抗体構築物の例示的な例を、SEQ ID NO: 152~153およびSEQ ID NO: 158~159に示している。
【0143】
本発明の好ましい抗体構築物は、
図1Bに本質的に示されるフォーマットであることが好ましい。このような抗体構築物は、任意でリンカーを介して重鎖のC末端に融合された2つのscDb断片を有する免疫グロブリンを含み、該リンカーは、好ましくはグリシンセリンリンカーまたはセリンリンカー、好ましくはグリシンセリンリンカーであり、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)GGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)
2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)
4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)
6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。これら2つのscDbのうちの一方が2つの第1の結合ドメイン(A1およびA2)を含み、他方のscDbもまた、2つの第1の結合ドメイン(A3およびA4)を含む。2つの第2の結合ドメイン(B)は、Fc領域のN末端に融合される。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)(または最適ではないがVH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)、VL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)、もしくはVL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。このような抗体構築物の例示的な例を、SEQ ID NO: 148~149に示している。
【0144】
本発明の好ましい抗体構築物は、以下で定義されるフォーマットであることが好ましい。このような抗体構築物は、任意でリンカーを介して重鎖のC末端に融合された2つのscDb断片を有する免疫グロブリンを含み、該リンカーは、好ましくはグリシンセリンリンカーまたはセリンリンカー、好ましくはグリシンセリンリンカーであり、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)GGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。これら2つのscDbのうちの一方が2つの第1の結合ドメイン(A1およびA2)を含み、他方のscDbもまた、2つの第1の結合ドメイン(A3およびA4)を含む。第2の結合ドメイン(B)および第3の結合ドメイン(C)は、Fc領域のN末端に融合される。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)(または最適ではないがVH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)、VL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)、もしくはVL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VH(C)-VL(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(C)-VL(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VL(C)-VH(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVL(C)-VH(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。
【0145】
本発明の好ましい抗体構築物は、
図1Cに本質的に示されるフォーマットであることが好ましい。このような抗体構築物は、任意でリンカーを介して重鎖のC末端に融合された2つのscDb断片を有する免疫グロブリンを含み、該リンカーは、好ましくはグリシンセリンリンカーまたはセリンリンカー、好ましくはグリシンセリンリンカーであり、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)GGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)
2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)
4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)
6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。これら2つのscDbのうちの一方が2つの第1の結合ドメイン(A1およびA2)を含み、他方のscDbもまた、2つの第1の結合ドメイン(A3およびA4)を含む。2つの第2の結合ドメイン(B)は、免疫グロブリンの結合部位によって形成されている。このような抗体構築物は、4本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(B)-CLおよびVL(B)-CLの2本の軽鎖、配置VH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)(または最適ではないがもしくは最適ではないがVH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)、VH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)、もしくはVH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2))の、scDbに融合された1本の重鎖、および配置VH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、scDbに融合された1本の重鎖を含んでよい。このような抗体構築物の例示的な例を、SEQ ID NO: 162~163に示している。
【0146】
本発明の好ましい抗体構築物は、以下で定義されるフォーマットであることが好ましい。このような抗体構築物は、任意でリンカーを介して重鎖のC末端に融合された2つのscDb断片を有する免疫グロブリンを含み、該リンカーは、好ましくはグリシンセリンリンカーまたはセリンリンカー、好ましくはグリシンセリンリンカーであり、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)GGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示している。これら2つのscDbのうちの一方が2つの第1の結合ドメイン(A1およびA2)を含み、他方のscDbもまた、2つの第1の結合ドメイン(A3およびA4)を含む。1つの第2の結合ドメイン(B)および1つの第3の結合ドメイン(C)は、免疫グロブリンの結合部位によって形成されている。このような抗体構築物は、4本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(B)-CLおよびVL(C)-CLの2本の軽鎖、配置VH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)(または最適ではないがもしくは最適ではないがVH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)、VH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)、もしくはVH(B)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2))の、scDbに融合された1本の重鎖、および配置VH(C)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(C)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VH(C)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVH(C)-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、scDbに融合された1本の重鎖を含んでよい。
【0147】
本開示の抗体構築物において、2つの第1の結合ドメインからなる第1の二量体(A1A2)および2つの第1の結合ドメインからなる第2の二量体(A3A4)はまた、抗体の2つの定常ドメインのペア(例えば二量体)、例えば、2つのCH3ドメインのペア、2つのCH2ドメインのペア、またはCH1ドメインとCLドメインのペアのN末端に融合され得る。好ましい態様において、第1の二量体(A1A2)は、あるCH2ドメインのN末端に融合され、かつ第2の二量体(A3A4)は、別のCH2ドメインのN末端に融合される。好ましい態様において、第1の二量体(A1A2)および第2の二量体(A3A4)は、Fc領域の2つのN末端に融合される。本開示の抗体構築物について、第1の二量体(A1A2)が第1のヒンジドメインのN末端に融合され、かつ第2の二量体(A3A4)が第2のヒンジドメインのN末端に融合されることが、好ましい。このような融合フォーマットを
図1Dに例示的に示している。第1の二量体(A1A2)および/または第2の二量体(A3A4)は、本明細書において開示されるリンカー(例えば、好ましくは約75個以下のアミノ酸、好ましくは約50個以下のアミノ酸を含む、グリシンセリンリンカーまたはセリンリンカー、好ましくはグリシンセリンリンカー)を介して、抗体の定常ドメインに融合されてよい。例示的な例において、適切なリンカーは、1つまたは複数の(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)GGGGS配列(SEQ ID NO: 6)、例えば、(GGGGS)
2(SEQ ID NO: 7)、(GGGGS)
4(SEQ ID NO: 8)、または好ましくは(GGGGS)
6(SEQ ID NO: 9)を含む。リンカーについての他の例示的な例は、SEQ ID NO: 2~5に示されているか、またはヒンジドメインであり、ヒンジドメインが好ましい。
【0148】
通常、本開示の抗体構築物に含まれるヒンジドメインは、完全長ヒンジドメイン、例えばSEQ ID NO: 26に示されるヒンジドメインを含んでよい。ヒンジドメインはまた、短縮および/または改変されたヒンジドメインを含んでもよい。短縮されたヒンジドメインは、例えばSEQ ID NO: 27に示されるような上部ヒンジドメインまたは例えばSEQ ID NO: 28に示されるような中央ヒンジドメインを含んでよいが、ヒンジドメイン全体は含まず、後者の方が好ましい。本発明において好ましいヒンジドメインは、Dall'Acqua et al (J Immunol. 2006 Jul 15;177(2):1129-38)またはWO 2009/006520に記載されている野生型ヒンジドメインを有する抗体構築物と比べて、調節された柔軟性を示す。本開示のいくつかの抗体構築物にとっては、特に、二量体(A1A2)および/または第2の二量体(A3A4)がヒンジドメインに融合されている場合、低い柔軟性を示すヒンジドメインが好ましい。さらに、好ましいヒンジドメインは、25個未満のアミノ酸残基からなることを特徴とする。より好ましくは、ヒンジの長さは10~20アミノ酸残基である。本開示の抗体構築物に含まれるヒンジドメインはまた、IgG2サブタイプヒンジ配列ERKCCVECPPCP(SEQ ID NO: 23)、IgG3サブタイプヒンジ配列ELKTPLDTTHTCPRCP(SEQ ID NO: 30)もしくはELKTPLGDTTHTCPRCP(SEQ ID NO: 131)、および/またはIgG4サブタイプヒンジ配列ESKYGPPCPSCP(SEQ ID NO: 132)を含むかまたはそれからなってよい。本発明において使用され得るさらに別のヒンジドドメインは当業者に公知であり、例えばWO 2017/134140に記載されている。
【0149】
第1の二量体(A1A2)が、あるCH2ドメインのN末端に融合され、かつ第2の二量体(A3A4)が、別のCH2ドメインのN末端に融合される場合、例えば、第1の二量体(A1A2)および第2の二量体(A3A4)がFc領域の2つのN末端に融合される場合、1つの第2の結合ドメイン(B)が、本明細書において開示されるリンカーを任意で介して、Fc領域のC末端に融合され得る。第2の結合ドメインは、好ましくは、scFvの形態である。scFvは、好ましくは、そのVHドメインを介してFc領域に融合される。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)、VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B)、もしくはVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)-ヒンジ-CH2-CH3(または最適ではないがVH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)-ヒンジ-CH2-CH3)の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。このような抗体構築物の例示的な例を、SEQ ID NO: 150~151およびSEQ ID NO: 156~157に示している。
【0150】
第1の二量体(A1A2)が、あるCH2ドメインのN末端に融合され、かつ第2の二量体(A3A4)が、別のCH2ドメインのN末端に融合される場合、例えば、第1の二量体(A1A2)および第2の二量体(A3A4)がFc領域の2つのN末端に融合される場合、2つの第2の結合ドメイン(B)が、本明細書において開示されるリンカーを任意で介して、Fc領域のC末端に融合され得る。これらの第2の結合ドメインは、好ましくは、scFvの形態である。scFvは、好ましくは、そのVHドメインを介してFc領域に融合される。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)、VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B)、もしくはVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)(または最適ではないがVH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)、VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B)、もしくはVH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。
【0151】
第1の二量体(A1A2)が、あるCH2ドメインのN末端に融合され、かつ第2の二量体(A3A4)が、別のCH2ドメインのN末端に融合される場合、例えば、第1の二量体(A1A2)および第2の二量体(A3A4)がFc領域の2つのN末端に融合される場合、第2の結合ドメイン(B)および第3の結合ドメイン(C)が、本明細書において開示されるリンカーを任意で介して、Fc領域のC末端に融合され得る。該第2の結合ドメインおよび/または第3の結合ドメインは、好ましくは、scFvの形態である。scFvは、好ましくは、そのVHドメインを介してFc領域に融合される。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)、VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B)、もしくはVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(C)-VL(C)(または最適ではないがVH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(C)-VL(C)、VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(C)-VH(C)、もしくはVH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(C)-VH(C))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。
【0152】
本開示の抗体構築物において、2つの第1の結合ドメインからなる第1の二量体(A1A2)は、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよく、一方で、2つの第1の結合ドメインからなる第2の二量体(A3A4)は、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよい。このような場合、第2の結合ドメイン(B)は、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよい。第1の二量体および第2の二量体(A1A2)および(A3A4)は、好ましくはscDbの形態である。第2の結合ドメイン(B)は、好ましくは、scFvの形態である。このような融合フォーマットを
図1Eに例示的に示している。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)、VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B)、もしくはVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B))の、1本のポリペプチド鎖、および配置ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。このような抗体構築物の例示的な例を、SEQ ID NO: 154~155およびSEQ ID NO: 160~161に示している。
【0153】
本開示の抗体構築物において、2つの第1の結合ドメインからなる第1の二量体(A1A2)は、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよく、一方で、2つの第1の結合ドメインからなる第2の二量体(A3A4)は、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよい。このような場合、第2の結合ドメイン(B)は、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよい。第1の二量体および第2の二量体(A1A2)および(A3A4)は、好ましくはscDbの形態である。第2の結合ドメイン(B)は、好ましくは、scFvの形態である。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3)の、1本のポリペプチド鎖、および配置VH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。
【0154】
本開示の抗体構築物において、2つの第1の結合ドメインからなる第1の二量体(A1A2)は、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよく、一方で、2つの第1の結合ドメインからなる第2の二量体(A3A4)は、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよい。このような場合、1つの第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよく、かつ、別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよい。第1の二量体および第2の二量体(A1A2)および(A3A4)は、好ましくはscDbの形態である。これらの第2の結合ドメイン(B)は、好ましくは、scFvの形態である。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)、VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B)、もしくはVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。
【0155】
本開示の抗体構築物において、2つの第1の結合ドメインからなる第1の二量体(A1A2)は、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよく、一方で、2つの第1の結合ドメインからなる第2の二量体(A3A4)は、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよい。このような場合、第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよく、かつ、第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよい。第1の二量体および第2の二量体(A1A2)および(A3A4)は、好ましくはscDbの形態である。第2の結合ドメイン(B)および第3の結合ドメイン(C)は、好ましくは、scFvの形態である。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(B)-VL(B)、VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B)、もしくはVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(B)-VH(B))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VH(C)-VL(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(C)-VL(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VL(C)-VH(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVL(C)-VH(C)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。
【0156】
本開示の抗体構築物において、2つの第1の結合ドメインからなる第1の二量体(A1A2)は、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよく、一方で、2つの第1の結合ドメインからなる第2の二量体(A3A4)は、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよい。このような場合、第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されてよく、かつ、第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されてよい。第1の二量体および第2の二量体(A1A2)および(A3A4)は、好ましくはscDbの形態である。第2の結合ドメイン(B)および第3の結合ドメイン(C)は、好ましくは、scFvの形態である。このような抗体構築物は、2本のポリペプチド鎖、すなわち、配置VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(C)-VL(C)(または最適ではないがVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(C)-VL(C)、VL(A2)-VH(A1)-VL(A1)-VH(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(C)-VH(C)、もしくはVH(A2)-VL(A1)-VH(A1)-VL(A2)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(C)-VH(C))の、1本のポリペプチド鎖、および配置VH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)(または最適ではないがVH(B)-VL(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4)、VL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VL(A4)-VH(A3)-VL(A3)-VH(A4)、もしくはVL(B)-VH(B)-ヒンジ-CH2-CH3-VH(A4)-VL(A3)-VH(A3)-VL(A4))の、もう1本のポリペプチド鎖を含んでよい。
【0157】
通常、2つの重鎖のC末端に融合される、4つの第1の結合ドメイン(A1~A4)を含む2つのscDb断片を有する、本明細書において説明される抗体構築物が、好ましい。これらの抗体構築物のうちで、Fc領域の1つまたは2つのN末端に融合されている、scFvの形態の1つまたは2つの第2の結合ドメイン(B)を含むものが、最も好ましい。重鎖のC末端に融合されている、2つの第1の結合部位(A1およびA2またはA3およびA4)を含む1つのscDb断片を含み、かつFc領域のN末端に融合されている、2つの第1の結合部位(A3およびA4またはA1およびA2)を含む別のscDb断片を含む、本明細書において説明される抗体構築物は、最適ではない。Fc領域の2つのN末端に融合される、4つの第1の結合ドメイン(A1~A4)を含む2つのscDb断片を有する、本明細書において説明される抗体構築物は、好ましくない。
【0158】
理想的には、第1の結合ドメイン(A1、A2、A3、A4)の結合部位間の距離は短い。したがって、2つの結合ドメインは、約30またはそれ未満、好ましくは約25nmまたはそれ未満、より好ましくは約22nmまたはそれ未満、より好ましくは約20nmまたはそれ未満、より好ましくは約19nmまたはそれ未満、より好ましくは約18nmまたはそれ未満、より好ましくは約17nmまたはそれ未満、より好ましくは約16nmまたはそれ未満、より好ましくは約15nmまたはそれ未満、より好ましくは約14nmまたはそれ未満、より好ましくは約13nmまたはそれ未満、より好ましくは約12nmまたはそれ未満、より好ましくは約11nmまたはそれ未満、より好ましくは約10nmまたはそれ未満、より好ましくは約9nmまたはそれ未満、より好ましくは約8nmまたはそれ未満、より好ましくは約7nmまたはそれ未満、より好ましくは約6nmまたはそれ未満、より好ましくは約5nmまたはそれ未満の距離の範囲内にあることが、好ましい。好ましくは、距離は、結合部位の中心からの距離として測定される。ドメイン間の距離は、互いに対する距離が最も長い2つの第1の結合ドメイン(A1、A2、A3、A4、...)の間の距離として測定されることが好ましい。2つの結合ドメイン間の距離を測定するためには、結晶構造が好ましい。結晶構造が入手できない場合、Rossmalen et al Biochemistry 2017, 56, 6565-6574に従う構造的考察が、特にリンカーに関して、適用されることが好ましい。
【0159】
本発明の抗体構築物がCH3領域を含む場合、CH3領域に改変を導入して、CH3領域を含むポリペプチドのヘテロ二量体対合を強化することができる。CH3 領域は、例えば、WO96/027011、Ridgway, J., B., et al., Protein Eng 9 (1996) 617-621;およびMerchant, A. M., et al., Nat Biotechnol 16 (1998) 677-681においていくつかの例を用いて詳細に説明されている「ノブイントゥーホール」技術によって改変することができる。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用面を改変して、これら2つのCH3ドメインを含む両方の重鎖のヘテロ二量体化を増大させる。(2本の重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれが、「ノブ」となることができ、他方が「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入により、ヘテロ二量体は安定し(Merchant, A. M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681; Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、収率が上昇する。
【0160】
したがって、本開示の抗体構築物は、1つのポリペプチド鎖のCH3ドメインと別のポリペプチド鎖のCH3ドメインとが、抗体CH3ドメイン間の元の境界面を含む境界面であって抗体構築物の形成を促進するように改変されている該境界面においてそれぞれ出会うことを、さらに特徴とし得る。改変は以下のことを特徴としてよい:a)一方のポリペプチド鎖のCH3ドメインの元の境界面であって抗体構築物内で他方のポリペプチド鎖のCH3ドメインの元の境界面に出会う該境界面内で、あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方のポリペプチド鎖のCH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である、一方のポリペプチド鎖のCH3ドメインの境界面内の隆起が生じるように、一方のポリペプチド鎖のCH3ドメインが改変されること、およびb)第2のCH3ドメインの元の境界面であって抗体構築物内で第1のCH3ドメインの元の境界面に出会う該境界面内で、あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である、第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみが生じるように、他方のポリペプチド鎖のCH3ドメインが改変されること。
【0161】
好ましくは、側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。好ましくは、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群より選択される。
【0162】
両方のCH3ドメインは、両方のCH3ドメイン間のジスルフィド架橋が形成され得るように、各CH3ドメインの対応する位置のアミノ酸としてシステイン(C)を導入することにより、さらに改変される。
【0163】
好ましい態様において、抗体構築物は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、ならびに「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S変異、L368A変異、およびY407V変異を含む。また、例えば、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中へのY349C変異および「ホール鎖」のCH3ドメイン中へのE356C変異またはS354C変異の導入による、CH3ドメイン間の付加的な鎖間ジスルフィド架橋も使用され得る(Merchant, A.M, et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681)。あるいは、抗体構築物は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366Y、および「ホール鎖」にY407T変異を含んでよい。同様に使用され得る他のノブインホール技術は、Labrijn AF, Janmaat ML, Reichert JM, Parren P. Bispecific antibodies: a mechanistic review of the pipeline. Nat Rev Drug Discov 2019; 18:585-608において説明されている。好ましいタイプのノブ鎖CH2-CH3重鎖定常ドメインを、SEQ ID NO: 44、46、48、50、52、54、56、および58に示している。好ましいタイプのホール鎖CH2-CH3重鎖定常ドメインを、SEQ ID NO: 43、45、47、49、51、53、55、および57に示している。
【0164】
好ましい抗体構築物において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、CD16Aに特異的に結合することができ、好ましくは、CD16AとCD16Bを識別する能力を含む。言い換えると、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、好ましくは、CD16Bよりも高い親和性でCD16Aに結合し、該親和性は、少なくとも約10倍高いか、少なくとも約100倍高いか、または少なくとも約1000倍高くてよい。より好ましくは、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、CD16Bに本質的には結合しない。したがって、第1の結合ドメインは、好ましくは、サイレンシングされていないCH2ドメイン、すなわちCD16AおよびCD16Bの両方に結合できるCH2ドメインではないことが理解される。
【0165】
したがって、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、CD16Bには存在しない、CD16AのC末端配列SFFPPGYQ(SEQ ID NO: 13の201~209位)ならびに/または残基G147および/もしくは残基Y158のアミノ酸残基を含む、CD16Aのエピトープに結合することが好ましい。エフェクター細胞の表面のCD16Aに結合する第1の結合ドメインが、CD16Aの生理学的Fcγ受容体結合ドメインと比べて膜に近い、CD16A上のエピトープに結合することが、本発明において好ましい。Y158を含むエピトープに特異的に結合する結合ドメインが好ましく、その理由は、このエピトープが細胞膜に近く、したがって第2の免疫エフェクター細胞に同時に結合する可能性の低減にさらに寄与することにある。各結合ドメインの例は、例えば、以下のCDRのグループを特徴とする:
SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 78に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3、および同じエピトープに結合する結合ドメイン;
SEQ ID NO: 83に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 84に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 85に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 86に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 87に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 88に示されるCDR-L3、および同じエピトープに結合する結合ドメイン;ならびに
SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 89に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3、および同じエピトープに結合する結合ドメイン。
好ましいCD16A結合ドメインは、以下のCDRのグループを特徴とする:SEQ ID NO: 83に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 84に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 85に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 86に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 87に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 88に示されるCDR-L3、および同じエピトープに結合する結合ドメイン。
このようなCD16Aバインダーの例は、WO2020043670にも記載されている。
【0166】
いくつかの態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、同じCDR配列を含む。いくつかの態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、以下より選択されるCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含むVH領域ならびにCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含むVL領域を含む:
SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 78に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3、および同じエピトープに結合する結合ドメイン;
SEQ ID NO: 83に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 84に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 85に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 86に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 87に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 88に示されるCDR-L3、および同じエピトープに結合する結合ドメイン(これが好ましい);ならびに
SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 89に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3、および同じエピトープに結合する結合ドメイン。
【0167】
いくつかの態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、同じVL配列およびVH配列を含む。いくつかの好ましい態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、SEQ ID NO: 59およびSEQ ID NO: 68、SEQ ID NO: 60およびSEQ ID NO: 69、ならびにSEQ ID NO: 61およびSEQ ID NO: 70からなる群より選択される配列ペアにおいて示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含み、SEQ ID NO: 60およびSEQ ID NO: 69が好ましい。いくつかの態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、同じアミノ酸配列を含む。
【0168】
いくつかの態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、以下の3つの重鎖CDRを含むVHドメインおよび以下の3つの軽鎖CDRを含むVLドメインを含む:SEQ ID NO: 83に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 84に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 85に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 86に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 87に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 88に示されるCDR-L3。
【0169】
いくつかの好ましい態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、SEQ ID NO: 60およびSEQ ID NO: 69からなる群より選択される配列ペアにおいて示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含む。
【0170】
本開示の第1の標的(A')に対する抗体は、当技術分野において周知である。CD16Aに対する抗体は、例えばWO2020043670に記載されている。CD56に対する抗体は、例えばWO2012138537およびWO2017023780に記載されている。NKG2Aに対する抗体は、例えば、WO2008009545、WO2009092805、WO2016032334、WO2020094071、WO2020102501に記載されている。NKG2Dに対する抗体は、例えば、WO2009077483、WO2018148447、WO2019157366に記載されている。NKp30に対する抗体は、例えばWO2020172605に記載されている。NKp46に対する抗体は、例えばWO2011086179およびWO2016209021に記載されている。DNAM-1に対する抗体は、例えばWO2013140787に記載されている。SLAMF7に対する抗体は、例えばUS2018208653に記載されている。OX40に対する抗体は、例えば、WO2007062245、US2010136030、US2019100596、WO2013008171、WO2013028231に記載されている。CD47、SIRPαに対する抗体は、例えば、WO9727873、WO2005044857、US2014161799に記載されている。CD89に対する抗体は、例えば、WO02064634、WO2020084056に記載されている。CD96に対する抗体は、例えばWO2019091449に記載されている。CD137に対する抗体は、例えば、WO2005035584、WO2006088464、US2006188439に記載されている。CD160に対する抗体は、例えば、US2012003224、US2013122006に記載されている。TIGITに対する抗体は、例えばUS2020040082およびWO2019062832に記載されている。ネクチン-4に対する抗体は、例えばWO2018158398に記載されている。PD-1に対する抗体は、例えば、WO2009014708、US2012237522、US2013095098、およびUS2011229461に記載されている。PD-L1に対する抗体は、例えば、US2012237522、WO2014022758、WO2014055897、およびWO2014195852に記載されている。LAG-3に対する抗体は、例えば、WO2008132601、US2016176965、およびWO2010019570に記載されている。CTLA-4に対する抗体は、例えば、WO2005092380、US2009252741、およびWO2006066568に記載されている。TIM-3に対する抗体は、例えば、US2014134639、WO2011155607、およびWO2015117002に記載されている。KIR2DS1~5に対する抗体は、例えばWO2016031936に記載されている。CD3に対する抗体は、例えば、US6750325、WO9304187、およびWO9516037に記載されている。
【0171】
いくつかの好ましい態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、NKG2Dに特異的である。少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、以下の3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含むことが好ましい:SEQ ID NO: 96に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 97に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 98に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 99に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 100に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 101に示されるCDR-L3。
【0172】
いくつかの好ましい態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、SEQ ID NO: 63およびSEQ ID NO: 72の配列ペアにおいて示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含む。
【0173】
いくつかの好ましい態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)は、NKp46に特異的である。少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、以下の3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含むことが好ましい:SEQ ID NO: 90に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 91に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 92に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 93に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 94に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 95に示されるCDR-L3。
【0174】
いくつかの好ましい態様において、少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つまたは複数、好ましくは全ては、SEQ ID NO: 62およびSEQ ID NO: 71の配列ペアにおいて示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含む。
【0175】
いくつかの態様において、第2の結合ドメイン(B)は、腫瘍関連抗原である第2の標的(B')に特異的である。第2の標的(B')は、好ましくは、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvlll、HER2、GD2からなる群より選択される。
【0176】
いくつかの態様において、第3の結合ドメイン(B)は、腫瘍関連抗原である第3の標的(B’)に特異的である。第3の標的(B’)は、好ましくは、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvlll、HER2、GD2からなる群より選択される。
【0177】
標的細胞の表面に存在するこれらの細胞表面抗原は、特定の疾患実体と関係づけられている。CD30は、ホジキンリンパ腫の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。CD19、CD20、CD22、CD70、CD74、およびCD79bは、非ホジキンリンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、T細胞リンパ腫(形質転換菌状息肉症/セザリー症候群TMF/SSおよび未分化大細胞リンパ腫(ALCL)を含む、末梢性および皮膚性の両方))の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。CD52、CD33、CD123、CLL1は、白血病(慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML))の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。BCMA、FCRH5は、多発性骨髄腫の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。EGFR、HER2、GD2は、固形がん(トリプルネガティブ乳がん(TNBC)、乳がんBC、結腸直腸がん(CRC)、非小細胞肺がん(NSCLC)、小細胞がん(「小細胞肺がん」または「燕麦細胞がん」としても公知のSCLC)、前立腺がん(PC)、膠芽腫(多形性膠芽腫(GBM)としても公知)に特徴的な細胞表面抗原である。
【0178】
このような標的に対する抗体は、当技術分野において周知である。CD19に対する抗体は、例えば、WO2018002031、WO2015157286、およびWO2016112855に記載されている。CD20に対する抗体は、例えば、WO2017185949、US2009197330、およびWO2019164821に記載されている。CD22に対する抗体は、例えば、WO2020014482、WO2013163519、US10590197に記載されている。CD30に対する抗体は、例えば、WO2007044616、WO2014164067、およびWO2020135426に記載されている。CD33に対する抗体は、例えば、WO2019006280、WO2018200562、およびWO2016201389に記載されている。CD52に対する抗体は、例えば、WO2005042581、WO2011109662、およびUS2003124127に記載されている。CD70に対する抗体は、例えば、US2012294863、WO2014158821、およびWO2006113909に記載されている。CD74に対する抗体は、例えば、WO03074567、US2014030273、およびWO2017132617に記載されている。CD79bに対する抗体は、例えば、US2009028856、US2010215669、およびWO2020088587に記載されている。CD123に対する抗体は、例えば、US2017183413、WO2016116626、およびUS10100118に記載されている。CLL1に対する抗体は、例えばWO2020083406に記載されている。BCMAに対する抗体は、例えば、WO02066516、US10745486、およびUS2019112382に記載されている。FCRH5に対する抗体は、例えばUS2013089497に記載されている。EGFRに対する抗体は、例えば、WO9520045、WO9525167、およびWO02066058に記載されている。EGFRvlllに対する抗体は、例えばWO2017125831に記載されている。HER2に対する抗体は、例えば、US2011189168、WO0105425、およびUS2002076695に記載されている。GD2に対する抗体は、例えば、WO8600909、WO8802006、およびUS5977316に記載されている。
【0179】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)はEGFRに特異的であり、かつ好ましくは、以下の3つの重鎖CDRを含むVHドメインおよび以下の3つの軽鎖CDRを含むVLドメインを含む:SEQ ID NO: 114に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 115に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 116に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 117に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 118に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 119に示されるCDR-L3。
【0180】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)は、SEQ ID NO: 66およびSEQ ID NO: 75の配列ペアにおいて示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含む。
【0181】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)はBCMAに特異的であり、かつ好ましくは、以下の3つの重鎖CDRを含むVHドメインおよび以下の3つの軽鎖CDRを含むVHドメインを含む:SEQ ID NO: 102に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 103に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 104に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 105に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 106に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 107に示されるCDR-L3。
【0182】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)は、SEQ ID NO: 64およびSEQ ID NO: 73に示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含む。
【0183】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)はCD19に特異的であり、かつ好ましくは、以下の3つの重鎖CDRを含むVHドメインおよび以下の3つの軽鎖CDRを含むVHドメインを含む:SEQ ID NO: 108に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 109に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 110に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 111に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 112に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 113に示されるCDR-L3。
【0184】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)は、SEQ ID NO: 65およびSEQ ID NO: 74に示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含む。
【0185】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)はHER2に特異的であり、かつ好ましくは、以下の3つの重鎖CDRを含むVHドメインおよび以下の3つの軽鎖CDRを含むVHドメインを含む:SEQ ID NO: 120に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 121に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 122に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 123に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 124に示されるCDR-L2、SEQ ID NO: 125に示されるCDR-L3。
【0186】
いくつかの好ましい態様において、第2の結合ドメイン(B)および/または第3の結合ドメイン(C)は、SEQ ID NO: 67およびSEQ ID NO: 76に示される配列を有する、VH鎖およびVL鎖のペアを含む。
【0187】
本発明の抗体構築物は、SEQ ID NO: 148、149、150および151、152および153、154および155、156および157、158および159、160および161、162および163、180~183、190、ならびに191および192からなる群より選択される抗体構築物であることが好ましい。
【0188】
本発明の抗体構築物は、SEQ ID NO: 148、149、150および151、152および153、154および155、156および157、158および159、160および161、162および163、180~183、190、ならびに191および192からなる群より選択される抗体構築物のバリアントであって、これら前述の抗体構築物のいずれか1つに対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有し、好ましくは、これらの抗体構築物に含まれるCDR配列が改変されていないことを条件とする、該バリアントであることが好ましい。
【0189】
本発明の抗体構築物は、「低められた」程度のフラトリサイドとも呼ばれる、低度のフラトリサイドを誘導することを特徴とする。フラトリサイドの程度は、細胞障害性アッセイ法、例えば、実施例7で本質的に説明するようなアッセイ法で測定することができる。このようなアッセイ法は、以下のように実施することが好ましい。カルセイン放出NK細胞フラトリサイドアッセイ法のために、濃縮初代ヒトNK細胞を、10μMの蛍光色素カルセインAMで30分間標識し、そして、5×104個の標識された細胞のアリコートを、指定された試験抗体構築物または対照抗体構築物の100μg/mLから始まる10段階の1:5希釈物の存在下で、非標識の濃縮された自己由来NK細胞と共に1:1のエフェクター:標的(E:T)比で、丸底96ウェルマイクロプレートの個々のウェルに、好ましくは2つ1組にして播種する。ダラツムマブに由来するFabドメインを有する抗CD38 IgG1(IgAb_51、SEQ ID NO: 166およびSEQ ID NO: 167)を、好ましくは陽性対照として使用する。自発的放出、最大放出、およびエフェクター細胞による抗体非依存性溶解を測定するための対照試料を、好ましくは4レプリケートで試験する。4時間インキュベートした後、100μLの無細胞培養上清を各ウェルから回収して、溶解した標的細胞から放出された蛍光カルセインを、マルチプレート蛍光リーダーを用いて定量する。自発的に溶解した細胞の蛍光を全ての試料から差し引いた後、各試料の蛍光を、完全に溶解した細胞の蛍光に対して標準化して、各試料について特異的溶解を明らかにするべきである。特異的標的細胞溶解(%)の平均値および標準偏差(SD)をプロットすることができ、そして、GraphPad Prism(v6およびv7; GraphPad Software, La Jolla California USA)を用いて非線形回帰モデルをシグモイド用量反応曲線(可変勾配)にフィットさせることによって、インビトロでの効力(EC50)および有効性(Emax)を明らかにすることができる。
【0190】
いくつかの態様において、「低度のフラトリサイド」は、試験分子、例えば本発明の抗体構築物のフラトリサイドの程度が約40%またはそれ未満であることを意味する。本発明の抗体構築物のフラトリサイドの程度は、好ましくは約35%またはそれ未満、より好ましくは約30%またはそれ未満、より好ましくは約25%またはそれ未満、より好ましくは約22%またはそれ未満、より好ましくは約20%またはそれ未満、より好ましくは約19%またはそれ未満、より好ましくは約18%またはそれ未満、より好ましくは約17%またはそれ未満、より好ましくは約16%またはそれ未満、より好ましくは約15%またはそれ未満、より好ましくは約14%またはそれ未満、より好ましくは約13%またはそれ未満、より好ましくは約12%またはそれ未満、より好ましくは約11%またはそれ未満、より好ましくは約10%またはそれ未満であり、この測定は好ましくは濃度100μg/mLで行われる。
【0191】
いくつかの態様において、本発明の抗体構築物は、SEQ ID NO: 167およびSEQ ID NO: 168に示される抗CD38抗体と比べてより低い程度のフラトリサイドを誘導し、この測定は好ましくは濃度100μg/mLの試験抗体および対照を用いて行われる。
【0192】
いくつかの態様において、本発明の抗体構築物本発明の抗体構築物は、2つのみまたは1つのみの第1の結合ドメイン(A)を有する参照抗体と比べて、細胞障害性アッセイ法において、より高い効力(より低いEC50)を有する。好ましい参照抗体は、好ましくは、第1の標的(A')に対して二価であり、第2の標的(B')に対して二価である。好ましい参照抗体は、第2の標的(B')に特異的であるscFvが各重鎖のC末端に融合されている、第1の標的(A')に特異的である完全長免疫グロブリンからなる。例示的な例として、このような参照抗体は、SEQ ID NO: 170およびSEQ ID NO: 171に示される重鎖配列および軽鎖配列を有してよい。あるいは、好ましい参照抗体は、第1の標的(A')に特異的であるscFvが各重鎖のC末端に融合されている、第2の標的(B')に特異的である完全長免疫グロブリンからなる。例示的な例として、このような参照抗体は、SEQ ID NO: 176およびSEQ ID NO: 177に示される重鎖配列および軽鎖配列を有してよい。本発明の抗体の少なくとも4つの第1の結合ドメインは、好ましくは、参照抗体の第1の標的(A')に特異的な結合ドメインと同じCDR配列を含む。さらにより好ましくは、本発明の抗体の少なくとも4つの第1の結合ドメインは、好ましくは、参照抗体の第1の標的(A')に特異的な結合ドメインと同じVL配列およびVH配列を含む。効力(EC50)は、好ましくは、実施例6で本質的に説明されるような細胞障害性アッセイ法において測定される。いくつかの態様において、本発明の抗体構築物のEC50は、参照抗体のEC50と比べて約0.5倍またはそれ未満、好ましくは約0.4倍またはそれ未満、好ましくは約0.3倍またはそれ未満、好ましくは約0.2倍またはそれ未満、好ましくは約0.1倍である数値を有する。原則的に、効力は、第2の標的(B')を発現する任意の標的細胞を用いて測定され得る。しかし、細胞は、好ましくは腫瘍またはがんの細胞株である。標的細胞は、第2の標的(B')を高発現し得る。このような場合、本発明の抗体構築物のEC50は、参照抗体と比べて約0.5倍またはそれ未満である数値を有し得る。しかし、有効性の上昇は、第2の標的(B')を低発現またはさらに極低発現する標的細胞が使用される場合、より顕著になる。このような場合、本発明の抗体構築物のEC50は、参照抗体のEC50と比べて約0.5倍またはそれ未満、好ましくは約0.4倍またはそれ未満、好ましくは約0.3倍またはそれ未満、好ましくは約0.2倍またはそれ未満、より好ましくは、参照抗体のEC50と比べて約0.1倍またはそれ未満である数値を有し得る。
【0193】
細胞株上の第2の標的(B')の発現レベルを測定するための、当技術分野におけるいくつかの方法がある。本開示による好ましい方法は、特異的抗体結合能(SABC)の測定である。SACBアッセイ法は、当技術分野において公知である(Serke et al., 1998, Cytometry, 33(2):179-87)。このようなアッセイ法は、実施例5で本質的に説明するようにして実施され得る。具体的には、1つまたは複数の細胞株の表面に存在する抗原の密度を、製造業者の説明書に従ってQIFIKIT(Dako)および適切な抗体、例えば抗HER2 mAb MAB 1129(RnD Systems)または抗EGFR mAb H11(Dianova)を用いて、測定することができる。手短に言えば、1×106個の細胞のアリコートを、適切な抗体(例えば、mAb MAB 1129またはmAb H11)で、続いてFITC結合型ヤギ抗マウスIgGのF(ab')2断片で、染色することができる。陰性対照として、1×106個の細胞のアリコートを、陰性対照抗体(例えばmAb 9E10(Acris))で、続いてFITC結合型ヤギ抗マウスIgGのF(ab')2断片で、染色することができる。特異的抗体結合能を計算するために、種々の異なる数のmAb分子を有する5つのビーズ集団を含むキャリブレーションビーズを、FITC結合型ヤギ抗マウスIgGのF(ab')2断片で染色することができる。得られた蛍光強度中央値から、検量線を作成することができる。この検量線を使用して、それぞれの細胞株に対するそれぞれの抗体(例えば、mAb MAB 1129またはmAb H11)の特異的抗体結合能(SABC)を計算することができる。種々の第2の標的(B')についての高発現細胞株が、当技術分野において説明されている。EGFRについては、高発現細胞株はA-431である。CD19については、高発現細胞株はJOK-1である(Reusch et al., 2015 MAbs, 7(3): 584-604)。CD20については、高発現細胞株はDHL-10である(Watanabe et al., J Immunol February 1, 2015, 194 (3) 911-920)。CD22については、高発現細胞株はJOK-1である。CD30については、高発現細胞株はHDLM-2である(Zhao et al, 2015, ASCO abstract 3050)。CD33については、高発現細胞株はMOLM-13である(Friedrich et al., 2014, Mol Cancer Ther 13(6):1549-1557)。CD52については、高発現細胞株はU-698である(human protein atlas)。CD70については、高発現細胞株はU-266である(human protein atlas)。CD74については、高発現細胞株はHDLM-2である(human protein atlas)。CD79bについては、高発現細胞株はDaudiである(Engelberts et al, 2020, EBioMedicine, vol. 52, 102625)。CD123については、高発現細胞株はMOLM-13である。CLL1については、高発現細胞株はEOL-1である。BCMAについては、高発現細胞株はNCI-H929である。FCRH5については、高発現細胞株はU-698である(human protein atlas)。EGFRvIIIについては、高発現細胞株はDK-MGである。HER2については、高発現細胞株はSK-BR-3である。GD2については、高発現細胞株はT98Gである(Golinelli et al, 2020 Cancer Gene Therapy 27:558-570)。前述の細胞株のいずれか1つが、それぞれの第2の標的についての高発現細胞株に対する好ましい参照細胞株である。細胞株は、参照高発現細胞株と比べて、それぞれの第2の標的(B')について少なくとも50%のSABCスコアを有する場合、高発現細胞株として分類されることが好ましい。細胞株は、参照高発現細胞株と比べて、それぞれの第2の標的(B')について15%またはそれ未満のSABCスコアを有する場合、低発現細胞株として分類されることが好ましい。細胞株は、参照高発現細胞株と比べて、それぞれの第2の標的(B')について5%またはそれ未満のSABCスコアを有する場合、極低発現細胞株として分類されることが好ましい。極低発現細胞株は、低発現細胞株のサブグループとして理解されるべきである。低発現細胞株および極低発現細胞株は、好ましくは、SABCアッセイ法において、それぞれの第2の標的(B')の検出可能な発現を依然として示すことが理解される。
【0194】
いくつかの態様において、本発明の抗体構築物本発明の抗体構築物は、2つのみまたは1つのみの第1の結合ドメイン(A)を有する参照抗体と比べて、細胞障害性アッセイ法において、より高い有効性(より高いEmax)を有する。好ましい参照抗体は、好ましくは、第1の標的(A')に対して二価であり、第2の標的(B')に対して二価である。好ましい参照抗体は、第2の標的(B')に特異的であるscFvが各重鎖のC末端に融合されている、第1の標的(A')に特異的である完全長免疫グロブリンからなる。例示的な例として、このような参照抗体は、SEQ ID NO: 170およびSEQ ID NO: 171に示される重鎖配列および軽鎖配列を有してよい。あるいは、好ましい参照抗体は、第1の標的(A')に特異的であるscFvが各重鎖のC末端に融合されている、第2の標的(B')に特異的である完全長免疫グロブリンからなる。例示的な例として、このような参照抗体は、SEQ ID NO: 176およびSEQ ID NO: 177に示される重鎖配列および軽鎖配列を有してよい。本発明の抗体の少なくとも4つの第1の結合ドメインは、好ましくは、参照抗体の第1の標的(A')に特異的な結合ドメインと同じCDR配列を含む。さらにより好ましくは、本発明の抗体の少なくとも4つの第1の結合ドメインは、好ましくは、参照抗体の第1の標的(A')に特異的な結合ドメインと同じVL配列およびVH配列を含む。有効性(Emax)は、好ましくは、実施例6で本質的に説明されるような細胞障害性アッセイ法において測定される。
【0195】
本発明はまた、本明細書において開示される抗体構築物をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子(DNAおよびRNA)にも関する。本開示はまた、本発明の核酸分子を含むベクターも包含する。本発明はまた、前記核酸分子または前記ベクターを含む宿主細胞も包含する。遺伝コードの縮重により、いくつかのコードが同じアミノ酸を指定する他のコドンによって置換されることが可能であるため、本開示は、本明細書において説明される抗体構築物をコードするある特定の核酸分子に限定されず、機能的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むあらゆる核酸分子を包含する。これに関して、本開示はまた、本開示の抗体構築物をコードするヌクレオチド配列にも関する。
【0196】
本出願において開示される核酸分子は、この核酸分子の発現を可能にするために調節配列(または複数の調節配列)に「機能的に連結され」てよい。
【0197】
DNAなどの核酸分子は、転写調節および/または翻訳調節に関する情報を含む配列エレメントをそれが含み、かつそのような配列が、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「機能的に連結され」ている場合、「核酸分子を発現することができる」または「ヌクレオチド配列の発現を可能にする」ことができると言われる。機能的な連結とは、調節配列エレメントおよび発現されるべき配列が、遺伝子発現を可能にするように結合されている連結である。遺伝子発現に必要な調節領域の厳密な性質は、種によって様々であり得るが、一般に、これらの領域はプロモーターを含み、プロモーターは、原核生物では、プロモーターそれ自体、すなわち、転写開始を指示するDNAエレメントと、RNAに転写されると翻訳開始のシグナルを出すDNAエレメントとの両方を含む。通常、このようなプロモーター領域は、転写および翻訳の開始に関与する5'非コード配列、例えば、原核生物では-35/-10ボックスおよびシャイン・ダルガノエレメント、または真核生物ではTATAボックス、CAAT配列、および5'キャッピングエレメントを含む。また、これらの領域は、エンハンサーエレメントまたはリプレッサーエレメント、ならびに天然のポリペプチドを宿主細胞の特定の区画にターゲティングするための翻訳されるシグナル配列またはリーダー配列も含み得る。
【0198】
さらに、3'非コード配列は、転写終結またはポリアデニル化などに関与している調節エレメントも含み得る。しかし、これらの終結配列が、特定の宿主細胞において充分に機能的ではない場合、該終結配列は、その細胞において機能的なシグナルで置き換えられてよい。
【0199】
したがって、本開示の核酸分子は、プロモーター配列などの調節配列を含み得る。いくつかの態様において、本開示の核酸分子は、プロモーター配列および転写終結配列を含む。真核細胞における発現に有用なプロモーターの例は、SV40プロモーターまたはCMVプロモーターである。
【0200】
本開示の核酸分子はまた、ベクターまたは他の任意の種類のクローニングビヒクル、例えば、プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミド、もしくは人工染色体の一部分であることもできる。
【0201】
このようなクローニングビヒクルは、前述の調節配列および本明細書において説明される抗体構築物をコードする核酸配列とは別に、発現に使用される宿主細胞と適合性のある種に由来する複製配列および制御配列、ならびに形質転換された細胞またはトランスフェクトされた細胞に選択可能な表現型を与える選択マーカーを含むことができる。多数の適切なクローニングベクターが当技術分野において公知であり、市販されている。
【0202】
本開示はまた、本開示の抗体構築物を生産するための方法であって、該抗体構築物が、該抗体構築物またはその任意のサブユニットをコードする核酸から出発して生産される、方法にも関する。この方法は、インビボで実施することができ、例えば、ポリペプチドを、細菌宿主生物または真核性宿主生物において生産し、次いで、この宿主生物またはその培養物から単離することができる。また、例えば、インビトロの翻訳系を用いて、本開示の抗体構築物をインビトロで生産することも可能である。
【0203】
インビボで抗体構築物を生産する場合、そのようなポリペプチドをコードする核酸が、組換えDNA技術を用いて、適切な細菌宿主生物または真核性宿主生物中に導入される。この目的のために、宿主細胞は、確立された標準的方法を用いて、本明細書において説明される抗体構築物をコードする核酸分子を含むクローニングベクターで形質転換されてよい。次いで、宿主細胞は、異種DNAの発現、したがって対応するポリペプチドまたは抗体構築物の合成を可能にする条件下で培養されてよい。続いて、該ポリペプチドまたは抗体構築物が、細胞または培養培地のいずれかから回収される。
【0204】
適切な宿主細胞は、真核性の、例えば不死化された哺乳動物細胞株(例えば、HeLa細胞もしくはCHO細胞)または初代哺乳動物細胞であることができる。
【0205】
本明細書において説明される本開示の抗体構築物は、必ずしも、遺伝子工学だけを用いて作製または生産しなくてもよい。もっと正確に言えば、このようなポリペプチドは、メリフィールド固相ポリペプチド合成などの化学合成によって、またはインビトロの転写および翻訳によって、得ることもできる。タンパク質を固相合成および/または溶相合成するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、Bruckdorfer, T. et al. (2004) Curr. Pharm. Biotechnol. 5, 29-43を参照されたい)。
【0206】
本開示の抗体構築物は、当業者に公知の十分に確立した方法を用いるインビトロの転写/翻訳によって生産され得る。
【0207】
本発明はまた、本発明の抗体構築物を含む組成物、好ましくは薬学的組成物も提供する。
【0208】
特定の態様は、本発明において定義される抗体構築物ならびに1種または複数種の他の賦形剤、例えばこのセクションおよび本明細書の別の場所で例示的に説明されるものを含む、薬学的組成物を提供する。これに関して、賦形剤は、多種多様の目的のために本発明において使用することができ、例えば、製剤の物理的、化学的、もしくは生物学的特性の調整、例として粘度の調整のために、ならびに/または有効性を高めるおよび/もしくはそのような製剤を安定化させるための本発明の1つの局面の工程のために、ならびに製造時、輸送時、貯蔵時、使用前の調製時、投与時、およびその後に生じる圧力などに起因する分解および損傷に対抗する工程のために、使用することができる。
【0209】
特定の態様において、薬学的組成物は、例えば、組成物のpH、浸透圧、粘度、清澄度、色、等張性、臭い、無菌性、安定性、分解または放出の速度、吸着または浸透を変更、維持、または保持するための製剤材料を含んでよい(REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, 18" Edition, (A.R. Genrmo, ed.), 1990, Mack Publishing Companyを参照されたい)。このような態様において、適切な製剤材料には、以下が含まれるが、それらに限定されるわけではない:
・荷電アミノ酸、好ましくはリジン、酢酸リジン、アルギニン、グルタミン酸、および/またはヒスチジンを含む、グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、トレオニン、プロリン、2-フェニルアラニンなどのアミノ酸
・抗細菌剤および抗真菌剤などの抗微生物剤
・アスコルビン酸、メチオニン、亜硫酸ナトリウム、または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;
・組成物を生理学的pHまたはわずかに低いpHで維持するために使用される緩衝液、緩衝系、および緩衝化剤;緩衝剤の例はホウ酸塩、重炭酸塩である
・トリス-HCI、クエン酸塩、リン酸塩、または他の有機酸、コハク酸塩、リン酸塩、およびヒスチジン;例えば、pH約7.0~8.5のTris緩衝液;
・プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルなどの非水性溶剤;
・生理食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール性/水性溶液、乳濁液、または懸濁液を含む、水性担体;
・ポリエステルなどの生分解性ポリマー;
・マンニトールまたはグリシンなどの増量剤;
・エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;
・等張化剤および吸収遅延剤;
・カフェイン、ポリビニルピロリドン、β-シクロデキストリン、またはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなどの複合体形成剤
・充填剤;
・単糖類、二糖類、および他の炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、またはデキストリン);炭水化物は、非還元糖、好ましくはトレハロース、スクロース、オクタ硫酸、ソルビトール、またはキシリトールであってよい;
・ヒトまたはウシの血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなど、好ましくはヒト由来の(低分子量)タンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質性担体;
・着色剤および矯味剤;
・グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、[α]-モノチオグリセロール、およびチオ硫酸ナトリウムなどの硫黄含有還元剤、
・希釈剤;
・乳化剤;
・ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;
・ナトリウムなどの、塩を形成する対イオン;
・抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどの保存剤;例は、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、または過酸化水素である;
・Zn-タンパク質複合体などの金属複合体;
・溶剤および補助溶剤(グリセリン、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールなど);
・糖および糖アルコール、例えば、トレハロース、スクロース、オクタ硫酸、マンニトール、ソルビトール、またはキシリトールスタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、ミオイニシトース、ガラクトース、ラクチトール、リビトール、ミオイニシトール、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えばイノシトール)、ポリエチレングリコール、および多価糖アルコール;
・懸濁化剤;
・表面活性剤または湿潤剤、例えば、プルロニック、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20などのポリソルベート類、ポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパル;表面活性剤は、好ましくは分子量が1.2KDより大きい界面活性剤および/または好ましくは分子量が3KDより大きいポリエーテルであってよい;好ましい界面活性剤の非限定的な例は、Tween20、Tween40、Tween60、Tween80、およびTween85である;好ましいポリエーテルの非限定的な例は、PEG3000、PEG3350、PEG4000、およびPEG5000である;
・スクロースまたはソルビトールなどの安定性増強剤;
・アルカリ金属ハライド、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトールソルビトールなどの浸透圧上昇剤;
・塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、または不揮発性油を含む、非経口送達ビヒクル;
・液体および栄養素補充液、電解質補充液(例えば、リンゲルデキストロースを主成分とするもの)を含む、静脈内送達ビヒクル。
【0210】
薬学的組成物の様々な構成要素(例えば、上に列挙したもの)が様々な効果を有し得ることは当業者にとって明らかであり、例えば、アミノ酸は、緩衝剤、安定化剤、および/または抗酸化剤の役割を果たすことができ;マンニトールは、増量剤および/または浸透圧上昇剤の役割を果たすことができ;塩化ナトリウムは、送達ビヒクルおよび/または浸透圧上昇剤の役割を果たすことができるなどである。
【0211】
特定の態様において、最適な薬学的組成物は、例えば、意図される投与経路、送達様式、および所望の投薬量に応じて、当業者によって決定される。例えば、前記のREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCESを参照されたい。例えば、適切なビヒクルまたは担体は、非経口投与向け組成物において一般的な他の物質を場合によっては添加された、注射用水、生理的食塩水、または人工脳脊髄液であってよい。中性の緩衝生理食塩水または血清アルブミンと混合した生理食塩水は、さらに別の例示的なビヒクルである。
【0212】
本発明の1つの局面による薬学的組成物の1つの態様において、組成物は、患者に静脈内投与される。
【0213】
本明細書において説明される薬学的組成物を静脈内(iv)投与するための方法およびプロトコールは、当技術分野において周知である。
【0214】
本発明の抗体構築物および/または薬学的組成物は、好ましくは増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、および/または免疫学的障害より選択される疾患の予防、処置、または改善において使用されることが好ましい。好ましくは、腫瘍性疾患は、悪性疾患、好ましくはがんである。
【0215】
本発明の抗体構築物および/または薬学的組成物の1つの態様において、特定される悪性疾患は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、および固形腫瘍からなる群より選択される。
【0216】
本開示によれば、本発明の抗体構築物および/または薬学的組成物は、好ましくは、第2の標的(B')を発現する細胞を含む腫瘍を処置する際に使用するためのものである。腫瘍内の第2の標的(B')の発現は、不均一であり得る。例えば、第2の標的(B')は、ある種の腫瘍亜型において、または腫瘍組織内で、より高度に発現され得る。しかし、不均一な腫瘍内発現にもかかわらず、腫瘍は、腫瘍または腫瘍組織における全体的発現に基づいて、特定の抗原についての高発現体または低発現体に分類することができる。このような分類の好ましい方法は、免疫組織化学的検査による。
【0217】
本発明の抗体構築物は、第2の標的(B')を発現する任意のがん腫瘍を処置するために使用することができ、該がん腫瘍には、第2の標的を高発現するがんもしくは腫瘍、または第2の標的を低発現もしくは極低発現するがんもしくは腫瘍が含まれ、後者の2つが好ましい。本発明の抗体構築物は、第2の標的(B')の低発現時または極低発現時でさえ自然免疫エフェクター細胞を活性化することができる少なくとも4つの第1の結合ドメインのおかげで、第2の標的を低発現または極低発現するがんまたは腫瘍の処置に特に有利であると考えられる。本発明の抗体構築物は、さらに好ましくは、第2の標的(B')を低発現または極低発現する悪性細胞を含む疾患の処置において使用のためのものである。したがって、本発明の抗体構築物は、腫瘍細胞および/またはがん幹細胞上の(例えば、下方制御または脱落による)第2の標的(B')の発現の低下を示す細胞を処置する用途のためのものであってもよく、さもなければ治療耐性をもたらし得る。
【0218】
本発明の抗体構築物は、第2の標的(B')を高発現する細胞の処置に有効であるだけでなく、第2の標的を低発現または極低発現する細胞の処置にも有効であるため、該抗体構築物はまた、疾患の再発の予防にも有用であり得る。本発明の抗体構築物はまた、第2の標的(B')についての低発現細胞または極低発現細胞に対して有効であり得るので、これらの細胞は、本発明の抗体構築物による処置によって、効果的に除去され得る。別の状況では、例えば、他の抗体構築物などの他の治療法を用いる場合、このような低発現細胞は、他の治療法による処置を回避して、疾患の再発を引き起こす可能性がある。したがって、本発明の抗体構築物は、疾患の処置および/または疾患の再発の予防において使用するためのものであり得る。特に、疾患の処置における使用は、疾患の再発の予防を含み得る。
【0219】
本発明はまた、疾患を処置または改善するための方法であって、それを必要とする対象に本発明による抗体構築物を投与する段階を含む方法も提供する。
【0220】
疾患を処置または改善するための前記方法の1つの態様において、対象は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、感染症、例えばウイルス性疾患、または免疫学的障害に罹患している。前記腫瘍性疾患が悪性疾患、好ましくはがんであることが好ましい。
【0221】
疾患を処置または改善するための前記方法の1つの態様において、前記悪性疾患は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、および固形腫瘍からなる群より選択される。
【0222】
本発明はまた、標的細胞および免疫エフェクター細胞に同時に結合する方法であって、本発明の抗体構築物を対象に投与する段階を含み、該標的細胞が、好ましくは、第2の標的(B')を低発現または極低発現する、該方法にも関する。このような方法は、好ましくは、本明細書において定義される疾患を処置または改善するためのものである。標的細胞および免疫エフェクター細胞への同時結合は、好ましくは、免疫エフェクター細胞の、標的細胞特異的な活性化を含む。
【0223】
本発明はまた、本発明の抗体構築物、本発明の核酸分子、本発明のベクター、または本発明の宿主細胞を含むキットにも関する。典型的には、本発明のキットは、本発明の抗体構築物、本発明の核酸分子、本発明のベクター、または本発明の宿主細胞を含む容器、ならびに任意で、緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用に関する指示が記載された添付文書を含む、商業的観点かつ使用者の観点から望ましい材料を含む1つまたは複数の他の容器を含む。
【0224】
いくつかの態様において、本発明の抗体構築物は、低レベルの標的抗原を発現する標的細胞の(好ましくは濃度依存的な)溶解を媒介する。例えば、実施例で試験された全てのEGFR/CD16A二重特異性抗体が、低レベルのEGFRを発現する標的細胞の濃度依存的溶解(MCF-7について測定された平均SABC:4546)および極めて低レベルのEGFRを発現する細胞の濃度依存的溶解(Daudiについて測定された平均SABC:868)を媒介した。さらに、実施例で試験された全てのEGFR/NKp46二重特異性抗体が、低レベルのHER2を発現するA431標的細胞の、NK細胞による濃度依存的溶解を媒介した。
【0225】
いくつかの態様において、4つの第1の結合ドメイン(A)を有する本発明の抗体構築物は、2つまたは1つの第1の結合ドメイン(A)を有する構築物よりも、高い効力および/または有効性を示す。例えば、実施例で試験された、4つの抗Fvドメインを有する3種の構築物(Bi-scDb-Fc_02、aBi-scDb-Fc_05、およびBi-scDb-IgAb_06)はどれも、2つまたは1つの抗CD16A Fvドメインを有する構築物よりも、高い効力および有効性を示した。これらの構築物のうちで、ただ1つの抗EGFRドメインを有するaBi-scDb-Fc_05は、2つの抗EGFR Fvドメインを有する構築物と比べて、低い効力を示した。IgGベースの構築物Bi-scDb-IgAb_06は、Fcベースの構築物よりも、わずかであるが再現可能に低い有効性を示したことから、エフェクターと標的結合ドメインとの距離が長いことが、有効性に対して負の影響を有することが示唆された。さらに、2つの抗NKp46ドメインを有する構築物(AIG-2scFv_27)よりも高い効力および有効性が、4つの抗NKp46ドメインを有する構築物(AIG-2scDb_06)の場合に示された。
【0226】
いくつかの態様において、第2の標的(B')を発現する標的細胞に対して、4つの第1の結合ドメイン(A)を有する本発明の抗体構築物は、2つの第1の結合ドメイン(A)を有する抗体構築物よりも高い有効性で、マクロファージによる濃度依存的食作用を媒介する。標的細胞は、第2の標的(B')を高発現し得る。あるいは、標的細胞は、第2の標的(B')を低発現し得る。高レベルのEGFRを発現する標的細胞に対して、試験されたEGFR/CD16A二重特異性抗体はどれも、マクロファージによる濃度依存的食作用を媒介し、その際、4つの抗Fvドメインを含む構築物(Bi-scDb-Fc_02、aBi-scDb-Fc_05、およびBi-scDb-IgAb_06)が最も高い有効性を示した。しかし、低レベルのEGFRを発現する標的細胞に対しては、4つの抗Fvドメインを有する構築物(Bi-scDb-Fc_02、aBi-scDb-Fc_05、およびBi-scDb-IgAb_06)のみが、マクロファージによる食作用を同様のレベルまで誘導した。
【0227】
本発明はさらに、以下の項目を特徴とする。
【0228】
項目1. 以下:
(i)少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)であって、該第1の結合ドメイン(A)が、自然免疫エフェクター細胞の表面に存在する免疫調節抗原である第1の標的(A')に特異的に結合することができ、該免疫エフェクター細胞がナチュラルキラー細胞またはマクロファージである、該少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A);および
(ii)第2の結合ドメイン(B)であって、標的細胞の表面に存在する抗原である第2の標的(B')に特異的に結合することができる、該第2の結合ドメイン(B)
を含む、抗体構築物。
【0229】
項目2. 1つの標的細胞および1つの免疫エフェクター細胞に同時に結合する、項目1の抗体構築物。
【0230】
項目3. 第1の標的(A')が免疫活性化抗原または免疫抑制性抗原である、項目1または2の構築物の抗体。
【0231】
項目4. 第1の標的(A')が、CD16A、CD56、NKG2A、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80、DNAM-1(CD226)、SLAMF7(CD319)、CD244(2B4)、OX40、CD47、SIRPα、CD89、CD96、CD137、CD160、TIGIT、ネクチン-4、PD-1、PD-L1、LAG-3、CTLA-4、TIM-3、KIR2DL1~5、KIR3DL1~3、KIR2DS1~5、KIR3DS1、およびCD3からなる群より選択される、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0232】
項目5. 二重特異性である、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0233】
項目6. 第2の標的(B')以外である、標的細胞の表面に存在する抗原である第3の標的(C')に、特異的に結合することができる、第3の結合ドメイン(C)
を含む、項目1~4のいずれか一つの抗体構築物。
【0234】
項目7. 半減期延長ドメインを含む第4のドメイン(D)をさらに含む、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0235】
項目8. 半減期延長ドメインがCH2ドメインを含み、Fcγ受容体結合ドメインがサイレンシングされている、項目7の抗体構築物。
【0236】
項目9. 半減期延長ドメインがCH3ドメインを含む、項目7または8の抗体構築物。
【0237】
項目10. アミノからカルボキシルの順にヒンジ-CH2ドメイン-CH3ドメインの形式で、CH2ドメインに融合された少なくとも1つのヒンジドメインおよびCH3ドメインを含む、項目7~9のいずれか一つの抗体構築物。
【0238】
項目11. ヒンジ-CH2ドメイン-CH3ドメインエレメントを少なくとも2つ含む、項目7~10のいずれか一つの抗体構築物。
【0239】
項目12. 第2の結合ドメイン(B)が抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0240】
項目13. 第2の結合ドメイン(B)がFabまたはscFvである、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0241】
項目14. 第2の標的(B')が、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvlll、HER2、およびGD2からなる群より選択される、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0242】
項目15. 第3の結合ドメイン(C)が抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む、項目6~14のいずれか一つの抗体構築物。
【0243】
項目16. 第3の結合ドメイン(C)がFabまたはscFvである、項目6~15のいずれか一つの抗体構築物。
【0244】
項目17. 第3の標的(C')が、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvlll、HER2、およびGD2からなる群より選択される、項目6~16のいずれか一つの抗体構築物。
【0245】
項目18. 第1の結合ドメイン(A)が抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0246】
項目19. 第1の標的(A')がCD16Aである、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0247】
項目20. 第1の結合ドメイン(A)が、生理学的Fcγ受容体結合ドメインに対してC末端にある、CD16A上のエピトープに結合し、該エピトープが、好ましくはSEQ ID NO: 13のY158を含む、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0248】
項目21. 2つの免疫エフェクター細胞に対する同時結合が低減されるかまたは好ましくは防止される方式で、4つの結合ドメイン(A)が互いに位置付けられている、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0249】
項目22. 少なくとも4つの第1の結合ドメイン(A)が、
(a)同じCDR配列を含み、
(b)同じVL配列およびVH配列を含み、かつ/または
(c)同じアミノ酸配列を含む、
前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0250】
項目23. 4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの1つめの第1の結合ドメイン(A1)および2つめの第1の結合ドメイン(A2)が、bi-scFv、二重Fab、Db、またはscDbの形態で、好ましくはbi-scFvまたはscDbの形態で、好ましくはscDbの形態で、互いに融合されており(A1A2)、該scDbの可変ドメインが、好ましくはVL-VH-VL-VHの順序で配置されている、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0251】
項目24. 4つの第1の結合ドメイン(A)のうちの3つめの第1の結合ドメイン(A3)および4つめの第1の結合ドメイン(A4)が、bi-scFv、二重Fab、Db、またはscDbの形態で、好ましくはbi-scFvまたはscDbの形態で、好ましくはscDbの形態で、互いに融合されており(A3A4)、該scDbの可変ドメインが、好ましくはVL-VH-VL-VHの順序で配置されている、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0252】
項目25. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0253】
項目26. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0254】
項目27. 互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0255】
項目28. 互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0256】
項目29. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)の第1のCH3ドメインのC末端に融合されており、かつ互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)の第2のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0257】
項目30. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジのN末端に融合されており、かつ互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジのN末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0258】
項目31. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されており、かつ互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0259】
項目32. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、項目7~29および31のいずれか一つの抗体構築物。
【0260】
項目33. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~28および30~31のいずれか一つの抗体構築物。
【0261】
項目34. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されており、かつ別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の別のヒンジのN末端に融合されている、項目7~25、27、および29のいずれか一つの抗体構築物。
【0262】
項目35. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されており、かつ別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の別のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~24、26、28、および30のいずれか一つの抗体構築物。
【0263】
項目36. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されており、かつ別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~28および31のいずれか一つの抗体構築物。
【0264】
項目37. 第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~28および30~33のいずれか一つの抗体構築物。
【0265】
項目38. 第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、項目7~29および31~33のいずれか一つの抗体構築物。
【0266】
項目39. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されており、かつ第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の別のヒンジのN末端に融合されている、項目7~25、27、および29のいずれか一つの抗体構築物。
【0267】
項目40. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されており、かつ第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の別のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~24、26、28、および30のいずれか一つの抗体構築物。
【0268】
項目41. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されており、かつ第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~28および31のいずれか一つの抗体構築物。
【0269】
項目42. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されており、かつ第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、項目7~28および31のいずれか一つの抗体構築物。
【0270】
項目43. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)の第1のCH3ドメインのC末端に融合されており、かつ互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)の第2のCH3ドメインのC末端に融合されており、かつ第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のヒンジのN末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0271】
項目44. 別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の別のヒンジのN末端に融合されている、項目43の抗体構築物。
【0272】
項目45. 第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の別のヒンジのN末端に融合されている、項目43の抗体構築物。
【0273】
項目46. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジのN末端に融合されており、かつ互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジのN末端に融合されており、かつ第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0274】
項目47. 別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の別のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目46の抗体構築物。
【0275】
項目48. 第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の別のCH3ドメインのC末端に融合されている、項目47の抗体構築物。
【0276】
項目49. 互いに融合されている1つめの第1の結合ドメインおよび2つめの第1の結合ドメイン(A1A2)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されており、かつ互いに融合されている3つめの第1の結合ドメインおよび4つめの第1の結合ドメイン(A3A4)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されている、項目7~24のいずれか一つの抗体構築物。
【0277】
項目50. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されている、項目49の抗体構築物。
【0278】
項目51. 別の第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されている、項目50の抗体構築物。
【0279】
項目52. 第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されている、項目50の抗体構築物。
【0280】
項目53. 第2の結合ドメイン(B)が、第4のドメイン(D)の第2のヒンジ-CH2-CH3エレメントのN末端に融合されている、項目49の抗体構築物。
【0281】
項目54. 第3の結合ドメイン(C)が、第4のドメイン(D)の第1のヒンジ-CH2-CH3エレメントのC末端に融合されている、項目53の抗体構築物。
【0282】
項目55. 第1の結合ドメイン(A)が、
以下:
(a)SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 78に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、およびSEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3;
(b)SEQ ID NO: 83に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 84に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 85に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 86に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 87に示されるCDR-L2、およびSEQ ID NO: 88に示されるCDR-L3;ならびに
(c)SEQ ID NO: 77に示されるCDR-H1、SEQ ID NO: 89に示されるCDR-H2、SEQ ID NO: 79に示されるCDR-H3、SEQ ID NO: 80に示されるCDR-L1、SEQ ID NO: 81に示されるCDR-L2、およびSEQ ID NO: 82に示されるCDR-L3
より選択される、CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含むVH領域ならびにCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含むVL領域
を含む、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0283】
項目56. SEQ ID NO: 148、149、150および151、152および153、154および155、156および157、158および159、160および161、162および163、180~183、190、ならびに191および192からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0284】
項目57. 細胞障害性アッセイ法において、SEQ ID NO: 166およびSEQ ID NO: 167の重鎖配列および軽鎖配列を有する参照抗体と比べてより低い程度のNK細胞フラトリサイドを誘導する、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0285】
項目58. 40%またはそれ未満のNK細胞フラトリサイドを誘導する、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0286】
項目59. 2つのみまたは1つのみの第1の結合ドメイン(A)を有する参照抗体と比べて、細胞障害性アッセイ法において、より高い効力(より低いEC50)を有する、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0287】
項目60. 抗体構築物のEC50が、好ましくは、第2の標的(B')を高発現する標的細胞を用いて測定され、参照抗体のEC50と比べて約0.5倍またはそれ未満である数値を有する、項目59の抗体構築物。
【0288】
項目61. 抗体構築物のEC50が、好ましくは、第2の標的(B')を低発現する標的細胞を用いて測定され、参照抗体のEC50と比べて約0.1倍またはそれ未満である数値を有する、項目59の抗体構築物。
【0289】
項目62. 2つのみまたは1つのみの第1の結合ドメイン(A)を有する参照抗体と比べて、細胞障害性アッセイ法において、より高い有効性(より高いEmax)を有する、前記項目のいずれか一つの抗体構築物。
【0290】
項目63. 項目1~62のいずれか一つの抗体構築物をコードする配列を含む、核酸分子。
【0291】
項目64. 項目63の核酸分子を含むベクター。
【0292】
項目65. 項目63の核酸分子または項目64のベクターを含む宿主細胞。
【0293】
項目66. 項目1~62のいずれか一つの抗体構築物の発現を可能にする条件下で項目65の宿主細胞を培養する段階、および任意で、生産された抗体構築物を培養物から回収する段階を含む、項目1~62のいずれか一つの抗体構築物を生産する方法。
【0294】
項目67. 項目1~62のいずれか一つの抗体構築物または項目66の方法によって生産された抗体構築物を含む、薬学的組成物。
【0295】
項目68. 治療法において使用するための、項目1~62のいずれか一つの抗体構築物。
【0296】
項目69. 増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、または免疫学的障害より選択される疾患の予防、処置、または改善において使用するための、項目1~62のいずれか一つの抗体構築物または項目65の方法によって生産された抗体構築物。
【0297】
項目70. 疾患が、がんまたは腫瘍、好ましくは、第2の標的(B')を低発現するがんまたは腫瘍である、項目69の使用のための抗体構築物。
【0298】
項目71. 疾患が、第2の標的(B')を低発現する悪性細胞を含む、項目69または70の使用のための抗体構築物。
【0299】
項目72. 使用が、疾患の再発を予防する、項目69~71のいずれか一つの、使用のための抗体構築物。
【0300】
項目73. 増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、または免疫学的障害を処置または改善する方法であって、それを必要とする対象に、項目1~62のいずれか一つの抗体構築物または項目66の方法によって生産された抗体構築物を投与する段階を含む、方法。
【0301】
項目74. 1つの標的細胞および1つの免疫エフェクター細胞に同時に結合する方法であって、項目1~62のいずれか一つの抗体構築物を対象に投与する段階を含み、該標的細胞が第2の標的(B')を低発現する、方法。
【0302】
項目75. 項目1~62のいずれか一つの抗体構築物もしくは項目66の方法によって生産された抗体構築物、項目63の核酸分子、項目64のベクター、および/または項目65の宿主細胞を含む、キット。
【0303】
本明細書において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において特に別段の指示が無い限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「1つの試薬」への言及は、そのような様々な試薬のうちの1つまたは複数を含み、「その方法」への言及は、修正され得るか、または本明細書において説明される方法の代わりに使用され得る、当業者に公知である同等の段階および方法への言及を含む。
【0304】
別段の定めが無い限り、要素の系列の前にある「少なくとも」という用語は、その系列中の全要素を指すと理解されるべきである。当業者は、本明細書において説明される本発明の具体的態様の数多くの等価物を認識するか、または日常的にすぎない実験を用いて確認することができるであろう。このような等価物は、本発明によって包含されると意図される。
【0305】
「および/または」という用語は、本明細書において使用される場合はいつでも、「および」、「または」、および「該用語によって連結される要素のすべてまたは他の任意の組合せ」の意味を含む。
【0306】
本明細書において使用される場合、「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、所与の値または範囲から(プラス(+)またはマイナス(-))10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは2%以内、さらにより好ましくは1%以内を意味する。しかし、この用語は、その実際の数もまた含み、例えば、約20は20を含む。
【0307】
「未満」または「超」という用語は、その実際の数を含む。例えば、20未満は、「より少ない」または「等しい」ことを意味する。同様に、「より大きい」または「超」は、それぞれ、「より大きい」もしくは「等しい」、または「超」もしくは「等しい」を意味する。
【0308】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲全体を通して、文脈において特に指示が無い限り、「含む(comprise)」という単語、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、記載した整数もしくは段階、または整数もしくは段階の群を包含するが、他の整数および段階ならびに整数および段階の群のどれも除外しないことを意味するものと理解される。本明細書において使用される場合、「含む(comprising)」という用語の代わりに、「含有する」もしくは「含む(including)」という用語、または時には、本明細書において使用される場合、「有する」という用語を用いることができる。
【0309】
本明細書において使用される場合、「からなる」は、特許請求の範囲の要素において指定されていない任意の要素、段階、または成分を除外する。本明細書において使用される場合、「から本質的になる」は、特許請求の範囲の基本的および新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料も段階も除外しない。
【0310】
本明細書の各例において、「含む」、「から本質的になる」、および「からなる」という用語のいずれも、他の2つの用語のどちらかで置き換えられてよい。例えば、「含む」という用語の開示は、「から本質的になる」という用語の開示および「からなる」という用語の開示を含む。
【0311】
本発明は、本明細書において説明される特定の方法論、プロトコール、材料、試薬、および物質などに限定されず、したがって変化できることを理解すべきである。本明細書において使用される専門用語は、特定の態様のみを説明することを目的とし、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することは意図されない。
【0312】
本明細書の本文を通して引用されるすべての刊行物および特許(すべての特許、特許出願、科学的出版物、製造業者の仕様書、取扱い説明書などを含む)は、前述であるか後述であるかを問わず、全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書における何事も、以前の発明によるそのような開示に本発明が先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。参照により組み入れられる資料が本明細書と矛盾するか、または一致しない範囲では、本明細書が任意のそのような資料に優先するものとする。
【0313】
本発明およびその利点のさらに深い理解は、例示のみを目的として提供される以下の実施例から得られるであろう。これらの実施例は、本発明の範囲を限定することを決して意図しない。
【実施例】
【0314】
実施例1:抗体構築物の発現および精製
抗体構築物の安定な発現を、Ellwanger et al (MAbs. 2019 Jul;11(5):899-918)によって説明されているようにして実施した。IMACと組み合わせたプロテインA、プロテインL、またはIMACと組み合わせたCタグのいずれかと、それに続く分取SECをそれぞれ含む、2段階または3段階の手順で、清澄化したCHO細胞培養上清からデュプレックスボディ構築物を精製した。プロテインAの場合は、清澄化した上清をHiTrap MabSelectSuReカラムにロードした。リン酸緩衝食塩水(pH7.4)および10mMリン酸ナトリウム(pH7.0)を用いて洗浄した後、タンパク質を、10mM酢酸ナトリウム(pH3.5)および10mMグリシン/HCL(pH2.0)を用いる2段階勾配で溶出させた。プロテインLの場合は、清澄化した上清を5mL容HiTrapプロテインLクロマトグラフィーカラムにロードした。リン酸緩衝食塩水(pH7.4)および10mMリン酸ナトリウム(pH7.0)を用いて洗浄した後、タンパク質を、10mMグリシン/HCL(pH3.0)および10mMグリシン/HCL(pH2.0)を用いる2段階勾配で溶出させた。Cタグの場合には、清澄化した上清をCaptureSelect Cタグ XLカラムにロードした。リン酸緩衝食塩水(pH7.4)を用いて洗浄した後、タンパク質を、20mMクエン酸ナトリウム(pH3.0)を用いて溶出させた。IMACの場合には、標的タンパク質を含む画分をHisTrap FFクロマトグラフィーカラムにロードした。IMAC A緩衝液で洗浄した後、25%IMAC B緩衝液および100%IMAC B緩衝液で順番に洗浄することによって、hisタグ付き標的タンパク質を溶出させた。画分の純度を、SE-HPLCおよびSDS-PAGEを用いて解析した。許容範囲の純度を示す画分を集め、Superdex 200分取グレードカラムを用いる分取ゲルろ過に供した。精製されたデュプレックスボディ構築物を含む溶出液画分を集め、Sephadex G-25カラムを用いる、10mM酢酸ナトリウム、4.5%ソルビトール(pH5.0)との緩衝液交換に供し、そして限外ろ過によって濃縮した。最終試料を、還元条件下および非還元条件下でのSDS-PAGEによって評価した(
図2を参照されたい)。試料を、非還元性の2×SDS-PAGE試料緩衝液と、または還元剤としてジチオトレイトール(DTT)を含む還元性の2×SDS-PAGE試料緩衝液と、混合した。全ての試料を95℃で5分間加熱した後、4~20%Criterion TGX プレキャストSDS Pageゲルにロードした。1レーン当たり2μgの精製されたタンパク質試料を使用した。ゲル中のこれらのタンパク質を分離するために、SDS-PAGEを、1×Tris/グリシン/SDS緩衝液中、300Vで約22分間、実行した。全タンパク質を、Criterion無染色分子イメージングシステム(BioradBio-Rad)を用いてゲル中で可視化した。Page Ruler未染色タンパク質ラダーを分子量マーカーとして使用した。純度(Bi-scDb-IgAb_06(SEQ ID NO: 162およびSEQ ID NO: 163)約93%、Bi-scDb-Fc_01(SEQ ID NO: 148)約92%、Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 149)約94%、aBi-scDb-Fc_01(SEQ ID NO: 150およびSEQ ID NO: 151)約98%、aBi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 152およびSEQ ID NO: 153)約98%、aBi-scDb-Fc_03(SEQ ID NO: 154およびSEQ ID NO: 155)約98%、aBi-scDb-Fc_04(SEQ ID NO: 156およびSEQ ID NO: 157)約97%、aBi-scDb-Fc_05(SEQ ID NO: 158およびSEQ ID NO: 159)約96%、aBi-scDb-Fc_06(SEQ ID NO: 160およびSEQ ID NO: 161)約96%)は、Superdex 200 Increase 10/300GLカラムを用いて分析SE-HPLCによって評価した。精製したタンパク質を、さらに使用するまで-80℃でアリコートとして保存した。
【0315】
実施例2:バフィコートからの末梢血単核細胞(PBMC)の単離
密度勾配遠心分離によってPBMCをバフィコートから単離した。バフィコート試料を2~3倍体積量のPBSで希釈し、Lymphoprep(Stem Cell Technologies、カタログ番号:7861)層の上に重層し、800×g、ブレーキなしで、室温にて25分間、遠心分離した。境界面に位置するPBMCを採取し、PBSで3回洗浄した後、それらをPBMCサブセットの濃縮またはフローサイトメトリー解析のために使用した。たいていの場合は、10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリンGナトリウム、および100μg/mL硫酸ストレプトマイシンを添加されたRPMI1640培地(本明細書では完全RPMI1640培地と呼ばれる)中、37℃および5%CO2、加湿雰囲気において、PBMCを一晩培養した後、それらをNK細胞の濃縮のために使用した。
【0316】
実施例3:ヒトPBMCからのNK細胞の濃縮およびマクロファージの分化
製造業者の取扱い説明書に従って、無傷のヒトNK細胞を免疫磁気単離するためのEasySep(商標)NK濃縮キット(Stem Cell Technologies、カタログ番号17955)を用いて、PBMCからNK細胞を濃縮した。NK細胞単離の純度をフローサイトメトリーによって測定した。マクロファージ分化のために、PBMCを一晩培養後に廃棄し、一方で、接着性の単核細胞を、その後の分化プロトコールのために使用した。ヒトM-CSF(最終50ng/mL)を添加された完全RPMI1640培地を、単球に添加し、5~6日ごとに補充した。細胞の形態、密度、および増殖に応じて、1~4週間後にアキュターゼ処理を用いて、その後の解析のために接着性マクロファージを回収した。
【0317】
実施例4:腫瘍細胞株の培養
MCF-7細胞株を、DSMZから購入し(カタログ番号ACC115)、供給業者によって推奨されるように10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリンGナトリウム、100μg/mL硫酸ストレプトマイシン、および1mMピルビン酸ナトリウムを添加されたRPMI1640培地中、37℃および5%CO2、加湿雰囲気において、標準的条件下で培養した。
【0318】
Daudi細胞株を、DSMZから購入し(カタログ番号ACC78)、供給業者によって推奨されるように10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリンGナトリウム、および100μg/mL硫酸ストレプトマイシンを添加されたRPMI1640培地中、37℃および5%CO2、加湿雰囲気において、標準的条件下で培養した。
【0319】
MM.1S細胞株を、ATCCから購入し(カタログ番号CRL-2974)、供給業者によって推奨されるように10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリンGナトリウム、および100μg/mL硫酸ストレプトマイシンを添加されたRPMI1640培地中、37℃および5%CO2、加湿雰囲気において、標準的条件下で培養した。
【0320】
DK-MG細胞株を、DSMZから購入し(カタログ番号ACC277)、供給業者によって推奨されるように10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリンGナトリウム、および100μg/mL硫酸ストレプトマイシンを添加されたRPMI1640培地中、37℃および5%CO2、加湿雰囲気において、標準的条件下で培養した。
【0321】
HCT-116細胞株を、DSMZから購入し(カタログ番号ACC581)、供給業者によって推奨されるように10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリンGナトリウム、100μg/mL硫酸ストレプトマイシンを添加されたRPMI1640培地中、37℃および5%CO2、加湿雰囲気において、標準的条件下で培養した。
【0322】
実施例5:腫瘍細胞株における抗原発現レベルの尺度としての特異的抗体結合能の定量
種々の細胞株の表面に存在するHER2およびEGFRの密度を、製造業者の説明書に従ってQIFIKIT(Dako)および抗HER2 mAb MAB 1129(RnD Systems)または抗EGFR mAb H11(Dianova)を用いて、測定した。手短に言えば、1×10
6個の細胞のアリコートを、mAb MAB 1129またはmAb H11で、続いてFITC結合型ヤギ抗マウスIgGのF(ab')
2断片で、染色した。陰性対照として、1×10
6個の細胞のアリコートを、mAb 9E10(Acris)で、続いてFITC結合型ヤギ抗マウスIgGのF(ab')2断片で、染色した。特異的抗体結合能を計算するために、種々の異なる数のmAb分子を有する5つのビーズ集団を含むキャリブレーションビーズを、FITC結合型ヤギ抗マウスIgGのF(ab')
2断片で染色した。得られた蛍光強度中央値から、検量線を作成した。この検量線を使用して、種々の細胞株に対するmAb MAB 1129およびmAb H11の特異的抗体結合能(SABC)を計算した。表1のHER2密度およびEGFR密度(SABC)は、少なくとも2回の独立した実験の平均値を表す。抗HER2 mAb MAB 1129を用いて測定されたSABC値およびHER2 IHCスコアを使用して、抗EGFR mAb H11を用いて測定されたSABC値に基づいて人工的なEGFRスコアを生成した(表1)。特異的抗体結合能(SABC)に基づく、HER2発現およびEGFR発現に関する腫瘍細胞株のスコアリングを、
図10に示している。
【0323】
(表1)様々な腫瘍細胞株に対する、抗HER 2 mAb MAB 1129および抗EGFR mAb H11を用いて測定された特異的抗体結合能(SABC)、ならびに発現レベルのスコアリング
n.d.:未測定。
【0324】
実施例6:漸増濃度の種々の抗体構築物の存在下での、エフェクター細胞としてNK細胞を用いた(E:T=5:1)、腫瘍標的細胞に対するカルセイン放出細胞障害性アッセイ法
カルセイン放出細胞障害性アッセイ法のために、標的細胞を、10μMの蛍光色素カルセインAM(Invitrogen、カタログ番号:C3100MP)で30分間標識し、そして、1×104個の標識された標的細胞のアリコートを、指定された抗体の通常は30μg/mLから始まる12段階の1:5希釈物の存在下で、新しく単離され濃縮された初代ヒトNK細胞と共に5:1のエフェクター:標的(E:T)比で、丸底96ウェルマイクロプレートの個々のウェルに、別段の指示がない限り2つ1組にして、播種した。自発的放出、最大放出、およびエフェクター細胞による抗体非依存性溶解を測定するための対照試料を、4レプリケートで試験した。4時間インキュベートした後、100μLの無細胞培養上清を各ウェルから回収して、溶解した標的細胞から放出された蛍光カルセインをマルチプレート蛍光リーダーを用いて定量した。自発的に溶解した細胞の蛍光を全ての試料から差し引いた後、各試料の蛍光を、完全に溶解した細胞の蛍光に対して標準化して、各試料について特異的溶解を明らかにした。特異的標的細胞溶解(%)の平均値および標準偏差(SD)をプロットし、そして、GraphPad Prism(v6およびv7;GraphPad Software, La Jolla California USA)を用いて非線形回帰モデルをシグモイド用量反応曲線(可変勾配)にフィットさせることによって、インビトロでの効力(EC50)および有効性(Emax)を明らかにした。
【0325】
実施例7:漸増濃度の様々な抗体構築物によって誘導されるNK細胞フラトリサイドを評価するための、4時間のカルセイン放出アッセイ法
カルセイン放出NK細胞フラトリサイドアッセイ法のために、濃縮初代ヒトNK細胞を、10μMの蛍光色素カルセインAMで30分間標識し、そして、5×104個の標識された細胞のアリコートを、指定された抗体の100μg/mLから始まる10段階の1:5希釈物の存在下で、非標識の濃縮された自己由来NK細胞と共に1:1のエフェクター:標的(E:T)比で、丸底96ウェルマイクロプレートの個々のウェルに、2つ1組にして播種した。ダラツムマブに由来するFabドメインを有する抗CD38 IgG1(IgAb_51、SEQ ID NO: 166およびSEQ ID NO: 167)を、陽性対照として使用した。自発的放出、最大放出、およびエフェクター細胞による抗体非依存性溶解を測定するための対照試料を、4レプリケートで試験した。4時間インキュベートした後、100μLの無細胞培養上清を各ウェルから回収して、溶解した標的細胞から放出された蛍光カルセインを、マルチプレート蛍光リーダーを用いて定量した。自発的に溶解した細胞の蛍光を全ての試料から差し引いた後、各試料の蛍光を、完全に溶解した細胞の蛍光に対して標準化して、各試料について特異的溶解を明らかにした。特異的標的細胞溶解(%)の平均値および標準偏差(SD)をプロットし、そして、GraphPad Prism(v6およびv7;GraphPad Software, La Jolla California USA)を用いて非線形回帰モデルをシグモイド用量反応曲線(可変勾配)にフィットさせることによって、インビトロでの効力(EC50)および有効性(Emax)を明らかにした。
【0326】
実施例8:漸増濃度の種々の抗体構築物の存在下での、エフェクター細胞としてマクロファージを用いた(E:T=5:1)、腫瘍標的細胞に対する食作用アッセイ法
食作用アッセイ法のために、マクロファージを96ウェルUpCellプレートに播種し、一晩培養した。標的細胞を0.5μMのCellTracker(商標)Green CMFDA色素によって37℃で30分間標識し、洗浄し、一晩培養した。マクロファージの上に標的細胞を重ねて播種し(5:1のE:T比)、そして、指定された抗体を、段階的濃度(0.3pg/mL~30μg/mL)で、2つ1組で添加した。4時間のインキュベーション後、氷上でのインキュベーションによって培養プレートから細胞を剥離し、A700標識抗CD11bおよび固定可能な生死判別色素eF780によって4℃で30分間、染色した。標識された標的細胞に対する食作用を、生細胞に対するCMFDA+/CD11b+細胞の比率(%)をフローサイトメトリーによって解析することによって定量した。抗体の非存在下でのADCPを、標準化のために使用した。さらに、標識された標的細胞の減少を、生細胞に対するCMFDA+/CD11b-細胞の比率(%)をフローサイトメトリーによって解析することによって定量した。抗体の非存在下での標的細胞の減少を、標準化のために使用した。
【0327】
実施例9:低レベルのEGFRを発現するMCF-7標的細胞に対する4細胞障害性アッセイ法における、EGFRを標的とする自然細胞エンゲージャーの効力および有効性
EGFRを標的とする多価の抗CD16A自然細胞エンゲージャー(Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO:149)、aBi-scDb-Fc_05(SEQ ID NO: 158およびSEQ ID NO: 159)、Bi-scDb-IgAb_06(SEQ ID NO: 162およびSEQ ID NO: 163))のインビトロADCC活性を、二価の抗EGFRエンゲージャー(scFv-IgAb_43(SEQ ID NO: 174およびSEQ ID NO: 175)、scFv-IgAb_167(SEQ ID NO: 178およびSEQ ID NO: 179))、ならびにFcが増強された(S239D/I332E)抗EGFR IgG1(IgAb_53(SEQ ID NO: 168およびSEQ ID NO: 169))と比較するために、実施例6で説明したように、エフェクター細胞としての初代濃縮ヒトNK細胞を5:1のE:T比で用いて、低レベルのEGFRを発現するMCF-7標的細胞(平均SABC:4,546)に対して4時間のカルセイン放出細胞障害性アッセイ法を実施した。表2に要約される結果および
図3の例示的なグラフは、二価の抗CD16A構築物(scFv-IgAb)またはFcが増強された抗EGFR IgG1と比べて、4つの抗CD16A Fvドメインを有する多価の自然細胞エンゲージャーの効力および有効性が優れていることを、はっきりと実証する。多価エンゲージャーのうちで、2つの抗EGFR Fvドメインを有する構築物は、ただ1つの抗EGFR Fvドメインを有する構築物aBi-scDb-Fc_05よりも約2.5倍高い効力を示した。要約すると、これらの結果は、多価のCD16Aエンゲージメントが、ADCCを誘導する自然細胞エンゲージャーの効力に関して有利であるだけでなく、NK細胞によって媒介される標的細胞溶解における有効性に関しても有利であることを示す。
【0328】
(表2)MCF-7標的細胞に対する細胞障害性アッセイ法において測定された、抗EGFR抗体構築物の効力および有効性
効力(EC
50)および有効性(E
max)を、エフェクター細胞としてのNK細胞を5:1のE:T比で用いた、MCF-7標的細胞に対する4カルセイン放出細胞障害性アッセイ法において測定した。3つの独立した実験の平均値が示される。
【0329】
実施例10:極低レベルのEGFRを発現するDaudi標的細胞に対する4時間の細胞障害性アッセイ法における、EGFRを標的とする自然細胞エンゲージャーの効力および有効性
EGFRを標的とする自然細胞エンゲージャーのADCC活性に対する多価CD16Aエンゲージメントの影響を評価するために、5:1のE:T比の、極低レベルのEGFRを発現するDaudi標的細胞(平均SABC:868)およびエフェクター細胞としての濃縮初代ヒトNK細胞に対して、4時間のカルセイン放出細胞障害性アッセイ法を実施した。実施例6で説明されるように実施されるアッセイ法を使用して、種々の血液ドナーに由来するNK細胞を用いる3回の独立したアッセイ法において、多価抗CD16A構築物(Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 149)、aBi-scDb-Fc_05(SEQ ID NO: 158およびSEQ ID NO: 159)、Bi-scDb-IgAb_06(SEQ ID NO: 162およびSEQ ID NO: 163))を、2つの抗CD16Aドメインを含む構築物(scFv-IgAb_43(SEQ ID NO: 174およびSEQ ID NO: 175)およびscFv-IgAb_167(SEQ ID NO: 178およびSEQ ID NO: 179))と、ならびにFcが増強された(S239D/I332E)抗EGFR IgG1(IgAb_53(SEQ ID NO: 168およびSEQ ID NO: 169))と、比較した。表3に要約される結果および
図4の例示的なグラフは、二価の抗CD16A scFv-IgAb構築物またはFcが増強された抗EGFR IgG1と比べて、多価の抗CD16A構築物の効力および有効性が優れていることを、実証する。注目すべきことに、EGFRに対してただ1つのFvドメインを有するaBi-scDb-Fc_05は、4つの抗CD16Aドメインおよび2つの抗EGFRドメインを含む他の構築物と比べて、約2分の1の効力を示す。これらの結果は、ADCCを媒介する自然細胞エンゲージャーに対する多価抗CD16Aエンゲージメントおよび二価の腫瘍ターゲティングの利点を明らかに示している。
【0330】
(表3)Daudi標的細胞に対する細胞障害性アッセイ法において測定された、抗EGFR抗体構築物の効力および有効性
効力(EC
50)および有効性(E
max)を、エフェクター細胞としてのNK細胞を5:1のE:T比で用いた、Daudi標的細胞に対する4カルセイン放出細胞障害性アッセイ法において測定した。3つの独立した実験の平均値が示される。
【0331】
実施例11:4時間カルセイン放出細胞障害性アッセイ法における、多価抗CD16Aエンゲージャーによって媒介されるNK細胞フラトリサイドの評価
EGFRを標的とする多価抗CD16A自然細胞エンゲージャーが、NK細胞と他のNK細胞とを架橋し、それによってNK細胞フラトリサイドを誘導する能力を有するかどうかを評価するために、実施例7で説明したように、標的細胞として濃縮初代ヒトNK細胞およびエフェクター細胞として自己NK細胞を用いる4時間のカルセイン放出アッセイ法。表4の独立したアッセイ法の要約および
図5の例示的なグラフは、陽性対照として使用された、ダラツムマブに由来するFabドメインを有する抗CD38 IgG1(IgAb_51(SEQ ID NO: 166およびSEQ ID NO: 167))によって誘導された、強力かつ有効なNK細胞フラトリサイドを示す。Fcが増強された抗EGFR IgG1(IgAb_53(SEQ ID NO: 168およびSEQ ID NO: 169))ならびにscFv-IgAb(scFv-IgAb_43(SEQ ID NO: 174およびSEQ ID NO: 175)およびscFv-IgAb_167(SEQ ID NO: 178およびSEQ ID NO: 179))は、NK-NK細胞溶解を誘導しなかったか、またはごくわずかなNK-NK細胞溶解しか誘導しなかった(平均E
max:<7%)。4つの抗CD16A Fvドメインを含む多価自然細胞エンゲージャーは、わずかに高めの有効性でNK細胞フラトリサイドを誘導した。しかし、抗CD38 IgG1と比べて、多価抗CD16Aエンゲージャーは、低度のNK細胞フラトリサイド(平均E
max:<30%)のみを、高い抗体濃度(>100pM)でのみ、誘導した。
【0332】
(表4)NK細胞フラトリサイドアッセイ法において測定された、抗EGFR抗体構築物の効力および有効性
効力(EC
50)および有効性(E
max)を、標的細胞およびエフェクター細胞として濃縮初代ヒトNK細胞を1:1のE:T比で用いた、4時間のカルセイン放出NK細胞フラトリサイドアッセイ法において測定した。3つの独立した実験の平均値が示される。n.a.、該当なし;
§は、2回の独立したアッセイ法で測定された。
【0333】
実施例12:DK-MG細胞に対する4時間の食作用アッセイ法
EGFRを標的とする自然細胞エンゲージャーのADCP活性に対する多価CD16Aエンゲージメントの影響を評価するために、5:1のE:T比の、高レベルのEGFRを発現するDK-MG標的細胞(平均SABC:222648)およびエフェクター細胞としての単球由来ヒトマクロファージに対して、4時間の食作用アッセイ法を実施した。実施例8で説明されるように実施されるアッセイ法を使用して、種々の血液ドナーの単球から生じさせたマクロファージを用いる3回の独立したアッセイ法において、多価抗CD16A構築物(Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 149)、aBi-scDb-Fc_05(SEQ ID NO: 158およびSEQ ID NO: 159)、Bi-scDb-IgAb_06(SEQ ID NO: 162およびSEQ ID NO: 163))を、2つの抗CD16Aドメインを含む構築物(scFv-IgAb_43(SEQ ID NO: 174およびSEQ ID NO: 175))と、Fc野生型抗EGFR IgG1(IgAb_49(SEQ ID NO: 164およびSEQ ID NO: 165))と、ならびにFcが増強された(S239D/I332E)抗EGFR IgG1(IgAb_53(SEQ ID NO: 168およびSEQ ID NO: 169))と、比較した。
図6の代表的な例示的グラフは、二価の抗CD16A scFv-IgAb構築物、Fc野生型抗EGFR IgG1抗体、またはFcが増強された抗EGFR IgG1抗体と比べて、多価抗CD16A構築物が、より高度に食作用を誘導したことを、実証する。最も低度の食作用は、IgAb_49およびFcが増強された抗EGFR IgG(IgAb_53)によって誘導された。これらの結果は、ADCPを媒介する自然細胞エンゲージャーに対する多価抗CD16Aエンゲージメントの利点を明らかに示している。
【0334】
実施例13:MCF-7細胞に対する4時間の食作用アッセイ法
EGFRを標的とする自然細胞エンゲージャーのADCP活性に対する多価CD16Aエンゲージメントの影響を評価するために、5:1のE:T比の、低レベルのEGFRを発現するMCF-7標的細胞(平均SABC:4,546)およびエフェクター細胞としての単球由来ヒトマクロファージに対して、4時間の食作用アッセイ法を実施した。実施例8で説明されるように実施されるアッセイ法を使用して、種々の血液ドナーの単球から生じさせたマクロファージを用いる3回の独立したアッセイ法において、多価抗CD16A構築物(Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 149)、aBi-scDb-Fc_05(SEQ ID NO: 158およびSEQ ID NO: 159)、Bi-scDb-IgAb_06(SEQ ID NO: 162およびSEQ ID NO: 163))を、2つの抗CD16Aドメインを含む構築物(scFv-IgAb_43(SEQ ID NO: 174およびSEQ ID NO: 175))と、Fc野生型抗EGFR IgG1(IgAb_49(SEQ ID NO: 164およびSEQ ID NO: 165))と、ならびにFcが増強された(S239D/I332E)抗EGFR IgG1 (IgAb_53(SEQ ID NO: 168およびSEQ ID NO: 169))と、比較した。
図7の代表的な例示的グラフは、多価抗CD16A構築物が食作用を誘導することを実証する。対照的に、scFv-IgAb_43、IgAb_49、およびIgAb_53は、マクロファージによるMCF-7標的細胞の食作用を誘導しなかった。これらの結果は、ADCPを媒介する自然細胞エンゲージャーに対する多価抗CD16Aエンゲージメントの利点を明らかに示している。
【0335】
実施例14:A-431に対する4時間のカルセイン放出アッセイ法
EGFRを標的とする多価の抗NKp46自然細胞エンゲージャー(AIG-2scDb_06(SEQ ID NO: 180~183))のインビトロADCC活性を、二価の抗HER2エンゲージャー(AIG-2scFv_27(SEQ ID NO: 184~187))と比較するために、実施例6で説明したように、エフェクター細胞としての初代濃縮ヒトNK細胞を5:1のE:T比で用いて、低レベルのHER2を発現するA-431標的細胞(平均SABC:6,150)に対して4時間のカルセイン放出細胞障害性アッセイ法を実施した。
図8の代表的なグラフは、二価の抗NKp46構築物と比べて、4つの抗NKp46 Fvドメインを有する多価の自然細胞エンゲージャーの効力および有効性が優れていることを、はっきりと実証する。要約すると、これらの結果は、多価のNKp46エンゲージメントが、ADCCを誘導する自然細胞エンゲージャーの効力に関して有利であるだけでなく、NK細胞によって媒介される標的細胞溶解における有効性に関しても有利であることを示す。
【0336】
実施例15:CD16Aに対するEGFR/CD16AエンゲージャーまたはBCMA/CD16Aエンゲージャーの結合についてのELISA調査
コーティングさせた抗原へのEGFR/CD16抗体またはBCMA/CD16抗体の結合をELISAにおいて評価するために、96ウェルELISAプレート(Immuno Maxisorp, Nunc)を、100mM炭酸-重炭酸緩衝液に混合した濃度1.5μg/mLの、単量体ヒトFcに融合された組換えCD16抗原バリアントで、4℃で一晩コーティングした。リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した3%(w/v)脱脂粉乳でブロックした後、二重特異性抗体構築物の段階希釈物を、抗原でコーティングされたプレート上で、室温で1.5時間、インキュベートした。0.1%(v/v)Tween 20を含む300μL/ウェルのPBSで3回洗浄した後、プレートを5μg/mLの抗AFM24 mAb 62-1-1と共に1時間インキュベートし、続いて、洗浄し、0.3%(w/v)脱脂粉乳を含むPBSで1:10,000希釈したペルオキシダーゼ結合型ヤギ抗マウスIgG(H+L)-HRPO(MinX Hu,Bo,Ho)を用いて検出した。洗浄後、プレートを、テトラメチルベンジジン基質(Seramun)と共に1~2分間インキュベートした。0.5M H2SO4(100μL/ウェル)を添加することによって反応を停止させた。マルチウェルプレートリーダーを用いて450nmでの吸収を測定し、プロットし、GraphPad Prismソフトウェアを用いて非線形回帰モデルをシグモイド用量反応曲線にフィット(4パラメーターロジスティックフィット)させることによって、EC50値を求めた。
【0337】
コーティングさせたまたは抗原が捕捉されたEGFR/CD16抗体またはBCMA/CD16抗体への可溶性CD16A抗原の結合を評価するために、96ウェルELISAプレート(Immuno Maxisorp, Nunc)を、100mM炭酸-重炭酸緩衝液に混合した濃度3.5~5μg/mL(24~27nMに等しい)の種々の多価二重特異性エンゲージャーで、4℃で一晩コーティングした。捕捉アプローチのために、96ウェルELISAプレート(Immuno Maxisorp, Nunc)を、それぞれ3.0μg/mLまたは0.4μg/mLの濃度のHisタグ付きヒトEGFR細胞外ドメインまたはHisタグ付きBCMA細胞外ドメインで、4℃で一晩コーティングした。リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した3%(w/v)脱脂粉乳でブロックした後、抗原でコーティングされたプレートを、0.3%(w/v)脱脂粉乳を含むPBSに混合した濃度3~5μg/mLの種々の多価二重特異性エンゲージャーを捕捉するために使用した。0.1%(v/v)Tween 20を含む300μL/ウェルのPBSで3回洗浄した後、プレートを、0.3%(w/v)脱脂粉乳を含むPBSで希釈した、ビオチン化された二量体CD16A抗原または単量体CD16A抗原の段階希釈物と共に、室温で1.5時間インキュベートした。洗浄後、プレートを、0.3%(w/v)脱脂粉乳を含むPBSで1:10,000希釈した検出用コンジュゲートであるストレプトアビジンHRPと共に1時間インキュベートし、続いて、洗浄し、テトラメチルベンジジン基質(Seramun)と共に1~2分間インキュベートした。0.5M H2SO4(100μL/ウェル)を添加することによって反応を停止させた。マルチウェルプレートリーダーを用いて450nmでの吸収を測定し、プロットし、GraphPad Prismソフトウェアを用いて非線形回帰モデルをシグモイド用量反応曲線にフィット(4パラメーターロジスティックフィット)させることによって、EC50値を求めた。
【0338】
表5に要約されるELISAの結果は、種々のアッセイ法設定を用いたELISAにおける、CD16A抗原に対する二価および四価のCD16結合エンゲージャー構築物の全体的に同等の結合強度を示す。
【0339】
(表5)EGFRまたはBCMAを標的とする四価または二価のCD16結合構築物の、CD16結合についての最大半量結合値をELISAにおいて解析した
コーティングさせた組換えCD16A抗原への抗体構築物の濃度依存的結合、またはコーティングさせたもしくは標的抗原が捕捉された抗体構築物への可溶性の単量体もしくは二量体CD16抗原バリアントの濃度依存的結合を、ELISAにおいて解析した。GraphPad Prismソフトウェアを用いて非線形回帰モデルをシグモイド用量反応曲線にフィット(4パラメーターロジスティックフィット)させることによって、最大半量結合濃度(EC
50)を求めた。
【0340】
実施例16:多価CD16A結合能を有する二重特異性NK細胞エンゲージャーを用いた、BCMA
+標的細胞に対する細胞障害性アッセイ法
BCMAを対象とする多価NK細胞エンゲージャーの効力および有効性、ならびに同時に、EGFRを標的とするNK細胞エンゲージャーの特異性を評価するために、本質的に実施例6で説明したように、漸増濃度の指定された構築物の存在下で、5:1のE:T比の、カルセインで標識されたBCMA
+/EGFR
- MM.1S標的細胞およびエフェクター細胞としての濃縮NK細胞に対して、4時間のカルセイン放出細胞障害性アッセイ法を実施した。表6に要約され、
図9の例示的なグラフに示されるアッセイ法の結果は、濃度依存的に、BCMA特異的エンゲージャーによって媒介されるMM.1S標的細胞の強力(1.0pM~2.4pMの範囲のEC
50値)かつ有効な(46.4%~62.8%の範囲のE
max値)溶解を明らかに実証する。CD16A NK細胞への多価結合にもかかわらず、EGFRを標的とするエンゲージャーは、EGFR
- MM.1S標的細胞の溶解を誘導しなかったことから、標的抗原が標的細胞上で発現される場合にのみNK細胞による標的細胞の溶解を媒介するという多価抗CD16A自然細胞エンゲージャーの特異性が実証された。
【0341】
(表6)BCMA
+ MM.1S標的細胞に対する4時間の細胞障害性アッセイ法において測定された多価抗体構築物の効力および有効性
効力(EC
50)および有効性(E
max)を、5:1のE:T比の標的細胞およびエフェクター細胞として、濃縮初代ヒトNK細胞を用いた、カルセインで標識されたMM.1S標的細胞に対する4カルセイン放出細胞障害性アッセイ法において、測定した。3つの独立した実験の平均値が示される。n.a.、該当なし。
【0342】
実施例17:極低レベルのEGFRを発現するDaudi標的細胞に対する4時間の細胞障害性アッセイ法における、EGFRを標的とする自然細胞エンゲージャーの有効性
多価CD16AエンゲージメントによるADCC活性の評価を、CD16Aを標的とする2種の異なる配列の比較に拡大適用した。これには、実施例10で説明されるようにDaudi標的細胞に対する4時間のカルセイン放出細胞障害性アッセイ法を使用し、種々の血液ドナーに由来するNK細胞を用いる6回の独立したアッセイ法において、多価抗CD16A構築物(Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 149)、scFv-Fc-scDb_04(SEQ ID NO: 190)を、2つの抗CD16Aドメインを含む構築物(scFv-IgAb_43(SEQ ID NO: 174およびSEQ ID NO: 175)と共に用いて、行った。表7に要約される結果は、二価の抗CD16A scFv-IgAb構築物と比べて多価抗CD16A構築物の有効性が優れていることを、裏付ける。
【0343】
(表7)Daudi標的細胞に対する細胞障害性アッセイ法において測定された抗EGFR抗体構築物の有効性
有効性(E
max)を、エフェクター細胞としてのNK細胞を5:1のE:T比で用いた、Daudi標的細胞に対する4カルセイン放出細胞障害性アッセイ法において測定した。3つの独立した実験の平均値が示される。
【0344】
実施例18:HCT-116細胞に対する4時間の食作用アッセイ法
EGFRを標的とする自然細胞エンゲージャーのADCP活性に対する多価CD16Aエンゲージメントの影響をさらに実証するために、中レベルのEGFRを発現するHCT-116標的細胞(平均SABC:33,822)に対して、4時間の食作用アッセイ法を実施した。実施例8で説明したように、種々の血液ドナーの単球から生じさせたマクロファージを用いる3回の独立したアッセイ法において、多価抗CD16A構築物(Bi-scDb-Fc_02(SEQ ID NO: 149)、aBi-scDb-Fc_05(SEQ ID NO: 158およびSEQ ID NO: 159)、Bi-scDb-IgAb_06(SEQ ID NO: 162およびSEQ ID NO: 163))を、2つの抗CD16Aドメインを含む構築物(scFv-IgAb_43(SEQ ID NO: 174およびSEQ ID NO: 175))と、Fc野生型抗EGFR IgG1(IgAb_49(SEQ ID NO: 164およびSEQ ID NO: 165))と、ならびにFcが増強された(S239D/I332E)抗EGFR IgG1 (IgAb_53(SEQ ID NO: 168およびSEQ ID NO: 169))と、比較した。
図11Aの代表的な例示的グラフは、多価抗CD16A構築物による食作用誘導を実証する。対照的に、scFv-IgAb_43、IgAb_49、およびIgAb_53は、マクロファージによるHCT-116標的細胞の低レベルの食作用しか示さなかった。さらに、
図11Bの代表的な例示的グラフは、マクロファージとの4時間の同時培養の終了時に測定された、多価抗CD16A構築物によって媒介されるHCT-116標的細胞の濃度依存的減少を示している。対照的に、scFv-IgAb_43、IgAb_49、およびIgAb_53の存在下では、HCT-116標的細胞の濃度依存的減少を示さなかった。これらの結果は、ADCPを媒介する自然細胞エンゲージャーに対する多価抗CD16Aエンゲージメントの利点を明らかに示している。
【0345】
実施例19:Daudi標的細胞に対する4時間の細胞障害性アッセイ法における、CD19を標的とする自然細胞エンゲージャーの有効性
CD19を標的とする自然細胞エンゲージャーのADCC活性に対する多価CD16Aエンゲージメントの影響を評価するために、高レベルのCD19を発現するDaudi標的細胞および5:1のE:T比のエフェクター細胞としての濃縮初代ヒトNK細胞に対して、4時間のカルセイン放出細胞障害性アッセイ法を実施した。実施例6で説明したように実施されるアッセイ法を使用して、種々の血液ドナーに由来するNK細胞を用いる2回の独立したアッセイ法において、多価抗CD16A構築物(IG-scDb_10(SEQ ID NO: 191およびSEQ ID NO: 192))を、2つの抗CD16Aドメインを含む構築物(scFv-IgAb_398(SEQ ID NO: 193およびSEQ ID NO: 194))と、比較した。
図12の代表的な例示的グラフは、二価の抗CD16A scFv-IgAb構築物と比べて多価抗CD16A構築物の効力および有効性が優れていることを、実証する。この結果は、ADCCを媒介する自然細胞エンゲージャーに対する多価抗CD16A結合および二価の腫瘍ターゲティングの利点を明らかに示している。
【0346】
【0347】
本明細書において例示的に説明する態様は、本明細書において具体的に開示しない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限の非存在下で、適切に実施することができる。したがって、本明細書において使用される用語および表現は、限定するのではなく説明する用語として使用されており、そのような用語および表現を使用する際、示し説明する特徴またはその一部分の任意の等価物を除外する意図はないが、請求される本発明の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。したがって、本発明の態様は好ましい態様および任意の特徴によって具体的に開示されるが、その修正および変更を当業者は行ってもよいこと、ならびにそのような修正および変更が本発明の範囲内であるとみなされることを理解すべきである。また、一般的開示の範囲に入る下位種および亜属のグループのそれぞれも、本発明の一部分をなす。これは、属から任意の主題を除く条件または消極的限定を伴う本発明の一般的な説明を、削除される題材が本明細書において具体的に挙げられているか否かに関わらず、含む。さらに、特徴がマーカッシュ群の観点から説明される場合、本開示はまた、それによって、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーの下位集団の観点からも説明されることを、当業者は認識すると考えられる。
【0348】
等価物:当業者は、本明細書において説明される本発明の具体的態様の数多くの等価物を認識し、または日常的実験の域を超えない実験を用いて確認することができるであろう。このような等価物は、添付の特許請求の範囲によって包含されると意図される。さらなる態様は、添付の特許請求の範囲から明らかになる。
【配列表】
【国際調査報告】