(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料及びそれを用いたろう付け方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240730BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20240730BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23K35/363 H
B23K35/22 310A
B23K1/19 E
B23K1/19 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503664
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 US2022074063
(87)【国際公開番号】W WO2023009971
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ、ユルゲン フリードリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンタール、モーリッツ カール
(57)【要約】
ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料及びそれを用いてろう付けする方法が提供される。ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料は、主成分としてのCs含有フラックス材料と、第1の少量成分としての共晶ブレンド組成物と、任意選択的に、第2の少量成分としての媒介化合物とを含む。第2の少量成分は、低溶融温度フラックス材料中に、第1の少量成分より少ない量で存在する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料であって:
主成分として、Cs含有フラックス材料と、
第1の少量成分として、共晶ブレンド組成物と、
を含む、低溶融温度フラックス材料。
【請求項2】
前記Cs含有フラックス材料は、セシウム-アルミニウム-フッ素フラックス材料を含み、前記共晶ブレンド組成物は、テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物を含む、請求項1に記載の低溶融温度フラックス材料。
【請求項3】
前記Cs含有フラックス材料は、前記低溶融温度フラックス材料中に、約80モル%~約90モル%の量で存在し、前記共晶ブレンド組成物は、前記低溶融温度フラックス材料中に、約7モル%~約13モル%の量で存在する、請求項1に記載の低溶融温度フラックス材料。
【請求項4】
第2の少量成分として、媒介化合物を更に含み、前記媒介化合物は、前記低溶融温度フラックス材料中に、約3モル%~約7モル%の量で存在する、請求項3に記載の低溶融温度フラックス材料。
【請求項5】
前記媒介化合物は、酸化亜鉛を含む、請求項4に記載の低溶融温度フラックス材料。
【請求項6】
前記低溶融温度フラックス材料は、粉末又はペーストの形態である、請求項1に記載の低溶融温度フラックス材料。
【請求項7】
低溶融温度フラックス材料を使用してろう付けする方法であって:
2つの金属基板を提供又は入手するステップと、
ろう付け材料を提供又は入手するステップと、
前記低溶融温度フラックス材料を提供又は入手するステップであって、前記低溶融温度フラックス材料は:
主成分として、Cs含有フラックス材料と、
第1の少量成分として、共晶ブレンド組成物と、
第2の少量成分として、媒介化合物と、を含み、
前記第2の少量成分は、前記低溶融温度フラックス材料中に、前記第1の少量成分より少ない量で存在するステップと、
前記ろう付け材料及び前記低溶融温度フラックス材料を、前記2つの金属基板のうちの1つの接合領域に塗布するステップと、
前記接合領域において前記2つの金属基板を接触させるステップと、
前記接合領域を、前記ろう付け材料の溶融温度より高く、かつ前記低溶融温度フラックス材料の溶融温度より高いが、前記2つの金属基板の溶融温度より低い温度に加熱するステップと、
前記接合領域を、前記ろう付け材料の前記溶融温度より低く、かつ前記低溶融温度フラックス材料の前記溶融温度より低く冷却することを可能にするステップと、
を含む、方法。
【請求項8】
前記ろう付け材料は、アルミニウム-亜鉛材料である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記2つの金属基板は、アルミニウム材料又はアルミニウム合金材料を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記Cs含有フラックス材料は、セシウム-アルミニウム-フッ素フラックス材料を含み、前記低溶融温度フラックス材料中に、約80モル%~約90モル%の量で存在し、
前記共晶ブレンド組成物は、テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物を含み、前記低溶融温度フラックス材料中に、約7モル%~約13モル%の量で存在し、
前記媒介化合物は、酸化亜鉛を含み、前記低溶融温度フラックス材料中に、約3モル%~約7モル%の量で存在する、
請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年7月28日に出願された米国仮特許出願第63/203,674号の利益を主張するものであり、当該米国仮特許出願は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、ろう付け用途に有用な材料及び関連するろう付け方法に関する。より詳細には、本開示は、ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料及びそれを使用したろう付け方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ろう付けは、金属又は金属合金であり得る金属物品間に画定される接合部にろう材を融解し流すことによって、2つ以上の金属物品が一緒に接合される、金属接合プロセスである。より具体的には、ろう付けは、接合される金属より低い融点を有するろう材を金属の間の接合部に導入することによって、接合される金属の融点未満で行われる熱誘導金属結合プロセスである。その後の冷却時に、ろう材は、金属物品をそれらの接着表面で一体に結合するフィレットを形成する。加熱中にろう材のみを確実に選択して融解するには、ろう材の融点は、典型的には、接合される金属物品中の金属の融点より低く選択される。アルミニウム物品を一体にろう付けするために、例えば、好適なろう付け合金は、アルミニウム-ケイ素(Al-Si)又はアルミニウム-亜鉛(Al-Zn)共晶組成物である。
【0004】
ろう付けプロセスは、表面上及び材料内の両方で起こる多数の冶金及び化学プロセスを伴う。例えば、金属物品の表面上の融解ろう材の良好な濡れ及び広がりによって、毛管現象が起こるどうかが決定される。毛管流は、適切に離間した接合部で、許容可能なろう付けフィレット、すなわち提供された融解ろう材が、接合される両方の表面を確実に濡らすことが主要な物理的原理である。毛管流は、酸化膜の存在、表面粗さ、並びにろう付け雰囲気の条件及び特性によって影響を受ける。
【0005】
ろう付けされる金属物品にろう材を塗布するために、様々な技法が用いられている。1つのかかる技法では、接合される表面のうちの少なくとも1つは、アルミニウムろう付け合金の層で事前に被膜されている。ろう付けシートとして一般に知られている、かかる事前に被膜されている物品は、比較的高価であり、多くの場合、被膜以外のいくつかの形態でろう材を提供することが好ましい。既知の1つの代替策は、好適な液体又はペースト様の担体中に担持されている、粉末形態又は粒子状形態のろう材を、一方若しくは両方の接合面に又は一方若しくは両方の接合面に隣接して塗布することである。かかる方法では、粉末形態のろう材の水性担体中での混合物、又は結合剤と混合された混合物が、接合される表面上にコーティングされる。水性担体に含まれる場合、コーティングを次に乾燥させ、次いで表面をろう付け温度に加熱し、それによってろう付けが完了する。結合剤、例えばろう付けされる物品の表面にろう材を結合させるポリマー性材料と共に含まれる場合、一般的に、結合剤は、コーティングを表面上に堆積した後に物品を予熱することを通じて、ろう付け前に燃焼されて消失する。
【0006】
アルミニウム及びその合金などのいくつかの金属物品のろう付けは、空気に晒されると表面上に酸化膜が形成されるため、特に困難である。アルミニウム上の酸化膜のバリア作用は、濡れを妨害し、毛管流を阻害する。融解ろう材と物品のベース金属との間の密接な接触を可能にするために、例えば、フラックスとして機能する無機塩の使用を通じて、酸化物を破壊する必要がある。酸素及び水蒸気を含まない不活性のろう付け雰囲気は、融解ろう材の再酸化及びフラックス自体の酸化の防止を容易にし得る。これは、窒素下でのろう付け、又は真空を使用することによるろう付けによって達成することができる。フラックスは、ろう付け温度で金属酸化物を破壊及び/又はそうでなければ除去することが可能でありながら、ろう付け温度で物品の金属、例えばアルミニウムに対して本質的に不活性なままである必要がある。フラックスは、通常、少なくとも部分的に溶融している場合にのみ反応性であるので、例えばアルミニウムろう付け用のフラックスはろう付け温度で溶融しているべきである。これまでアルミニウムのろう付けに商業的に用いられているフラックス材料は、一般的には、主に塩化物塩の混合物であり、場合によっては少量のフッ化物が添加されている。
【0007】
それらの塑性相の欠如及び比較的低い溶融温度のために、亜鉛リッチであるAl-Znろう付け材料は、アルミニウム構成要素どうしを一体にろう付けするために望ましい。これらのろう材は、例えば、98Zn/2Al、95Zn/5Al、90Zn/10Al、85Zn/15Al(モル%)を含む。これらのろう付け材料は、アルミニウムの優れた濡れ性、良好な強度、及び耐食性を提供する。しかしながら、現在利用可能なフラックス材料は、それらの比較的高い融点又は塩化亜鉛(ZnCl2)若しくは塩化アンモニウム(NH4Cl)などの腐食性塩のそれらの含有に起因して、これらの低溶融温度Al-Znろう付け材料に関連して使用するのに適していない。
【0008】
したがって、低溶融温度Al-Znろう付け材料と共に使用するのに適した新しいフラックス材料を提供することが望ましい。これらの新しいフラックス材料は、Al-Znろう付け材料より低い融点を有し、腐食性の塩を含まないことが望ましい。更に、そのような新しいフラックス材料を使用してろう付けする方法を提供することが望ましい。更に、本発明の主題の他の望ましい特徴及び特性は、後続する本発明の主題の「発明を実施するための形態」及び添付の「特許請求の範囲」を、本発明の主題の「背景技術」と併せ読むことで明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0009】
例示的な一実施形態では、ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料が開示され、その低溶融温度フラックス材料は、主成分としてのセシウム含有(Cs含有)フラックス材料と、第1の少量成分としての共晶ブレンド組成物と、任意選択的に第2の少量成分としての媒介化合物とを含む(含む又はからなる)。第2の少量成分は、低溶融温度フラックス材料中に、第1の少量成分より少ない量で存在する。
【0010】
別の例示的な一実施形態では、主成分としてCs含有フラックス材料を含む(含む又はからなる)ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料が開示される。Cs含有フラックス材料としては、セシウム-アルミニウム-フッ素フラックス材料が挙げられる。低溶融温度フラックス材料は、第1の少量成分として、共晶ブレンド組成物を更に含む。共晶ブレンド組成物は、テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物を含む。更に、低溶融温度フラックス材料は、第2の少量成分として、媒介化合物を含む。媒介化合物は、酸化亜鉛を含む。第2の少量成分は、低溶融温度フラックス材料中に、第1の少量成分より少ない量で存在する。更に、低溶融温度フラックス材料は、粉末又はペーストの形態である。
【0011】
更に別の例示的な一実施形態では、低溶融温度フラックス材料を使用してろう付けする方法が開示され、その方法は、2つの金属基材を提供又は入手するステップと、ろう付け材料を提供又は入手するステップと、低溶融温度フラックス材料を提供又は入手するステップとを含む。低溶融温度フラックス材料は、主成分としてのCs含有フラックス材料と、第1の少量成分としての共晶ブレンド組成物と、第2の少量成分としての媒介化合物とを含む。第2の少量成分は、低溶融温度フラックス材料中に、第1の少量成分より少ない量で存在する。この方法は更に、ろう付け材料及び低溶融温度フラックス材料を2つの金属基板のうちの1つの接合領域に塗布するステップと、接合領域において2つの金属基板を接触させるステップと、接合領域をろう付け材料の溶融温度より高く、かつ低溶融温度フラックス材料の溶融温度より高いが、2つの金属基板の溶融温度より低い温度に加熱するステップと、接合領域をろう付け材料の溶融温度より低く、かつ低溶融温度フラックス材料の溶融温度より低く冷却するステップとを含む。
【0012】
この「発明の概要」は、以下の「発明を実施するための形態」で更に詳述される、選定された概念を単純な形態で紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の主な特徴又は本質的な特徴を識別することを意図するものではない。また、特許請求される主題の範囲の決定を支援するものとして使用されることを意図するものでもない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の「発明を実施するための形態」は、本質的に単なる例示であり、本発明又は本発明の用途及び使用を限定することを意図するものではない。更に、前述の発明の「背景技術」又は以下の「発明を実施するための形態」で提示される、いずれの理論によっても制約されることは意図していない。
【0014】
本明細書で使用される場合、不定冠詞「a」、「an」、又は定冠詞「the」は、別段の指定がない限り、1つ以上を意味する。用語「又は」は、連言的又は選言的であり得る。本明細書及び「特許請求の範囲」を通して数値に関連して使用される「約」という用語は、当業者によく知られ、許容される精度の間隔を示す。一般に、そのような精度の間隔は±10%である。したがって、「約10」は9~11を意味する。量、材料の比、材料の物理的特性、及び/又は使用を示す本明細書における全ての数字は、特に明示的に示されている場合を除き、「約」という語によって修飾されているものとして理解されるべきである。本明細書で使用される場合、本開示に記載される「%」は、別段の指示がない限り、モル百分率を指す。
【0015】
本開示の実施形態は、広義には、ろう付け用途のための非腐食性の低溶融温度フラックス材料及びそれを使用するろう付け方法に関する。本明細書に記載されるフラックス材料は、セシウム(Cs)及び様々な追加の化合物を含み、融点が約385℃~約420℃の範囲内である上述の低溶融温度Al-Znろう付け材料が、アルミニウムに接合されることを可能にする。本開示のフラックス材料は、CsAlF4(融点435℃)などの既知のCs含有フラックス材料に基づくものである。これらのCs含有フラックス材料の融点を、低溶融温度Al-Znろう付け材料に適合する適切な範囲に低下させるために、本発明者らは、驚くべきことに、少量の低融点共晶ブレンド組成物を、ろう付け材料とアルミニウム基材との間の適合性のための媒介化合物と任意選択的に共に、添加して、Cs含有フラックス材料の融点を400℃未満に低下させることが可能であるということを発見した。有益なことには、共晶ブレンド組成物も媒介化合物も、Clなどの腐食性元素を含まない。以下、本開示の様々な実施形態を説明する。
【0016】
Cs含有フラックス材料
最初に述べたように、本開示の低溶融温度フラックス材料は、主成分としてCs含有フラックス材料を含む。そのようなフラックス材料は、アルミニウム(Al)及びフッ素(F)を更に含む組成物、(すなわち、セシウム-アルミニウム-フッ素フラックス材料)として提供されてもよい。例示的な組成物は、セシウム、アルミニウム、及びフッ素、並びに任意選択的に水を含む。このような組成物は、ある選択された、アルミニウム:セシウム:フッ素のモル比を有し得る。例えば、アルミニウム:セシウム:フッ素のモル比は、約(1):(1~1.5):(3.5~4.5)であり得る。ある特定の実施形態では、アルミニウム:セシウム:フッ素のモル比は、約(1):(1.1~1.2):(4.0~4.2)、例えば約(1):(1.15~1.20):(4.10~4.15)であり得る。
【0017】
質量百分率に基づいて、例示的な組成物は、組成物の総質量に基づいて約6~約12質量%のアルミニウムを含有するように形成され得る。より具体的には、例示的な組成物は、組成物の総質量に基づいて約9~約10質量%のアルミニウムを含有して形成され得る。更に、例示的な組成物は、組成物の総質量に基づいて、約50~約70質量%のセシウムを含有して形成され得る。より具体的には、例示的な組成物は、組成物の総質量に基づいて約58~約61質量%のセシウムを含有して形成され得る。また、例示的な組成物は、組成物の総質量に基づいて、約20~約40質量%のフッ素を含有して形成され得る。より具体的には、例示的な組成物は、組成物の総質量に基づいて、約29~31質量%のフッ素を含有して形成され得る。
【0018】
特定の実施形態において、例示的なCs含有フラックス材料は、水和テトラフルオロアルミン酸セシウム(CsAlF4(H2O)2)の組成物を用いて形成され得る。他の実施形態において、例示的なCs含有フラックス材料は、ペンタフルオロアルミン酸セシウム水和物(Cs2AlF5・(H2O)2)の組成物を用いて形成され得る。更なる実施形態において、例示的なCs含有フラックス材料は、(六方晶)テトラフルオロアルミン酸セシウム(CsAlF4)の組成物を用いて形成され得る。
【0019】
Cs含有フラックス材料は、酸化アルミニウム(Al2O3)とフッ化水素酸(HF)とを組み合わせ、テトラフルオロアルミン酸(HAlF4)を形成することによって形成され得る。その後、水酸化セシウム(CsOH)をテトラフルオロアルミン酸と混合する。次いで、この混合物のpHを、約4.5~約9、例えば約7~約8の範囲に増加させてもよい。次いで、混合物は、噴霧乾燥を受ける前に前処理され得る。例えば、混合物は、約40℃の温度など、約30℃~約50℃の温度に冷却され得る。更に、冷却された混合物は、噴霧乾燥ユニットに送達されて、そこで混合物は、圧縮機から噴霧器(例えば回転ディスク)に流れる加圧ガス流との接触を通じて噴霧され得る。
【0020】
混合物及び加圧ガス流は、選択された入口温度で噴霧器を通過して乾燥チャンバに入る。例えば、入口温度は、約200℃~約400℃、又は約220℃~約300℃など、約200℃より高くてもよい。選択された入口温度で噴霧器を通過させることにより、乾燥粒子又は粉末の形態でCs含有フラックス材料が形成される。乾燥粒子及びガスの流れは、約80℃~約150℃、例えば約90℃~約125℃の温度で、乾燥チャンバから出ることができる。
【0021】
最初に述べたように、Cs含有フラックス材料は、本開示の低溶融温度フラックス材料の主成分であってもよい。したがって、一実施形態において、Cs含有フラックス材料は、モル基準で約80%~約90%の範囲内で、低溶融温度フラックス材料中に存在してもよい。特定の一実施形態では、Cs含有フラックス材料は、モル基準で約82%~約88%の範囲内で、低溶融温度フラックス材料中に存在してもよい。更に、一実施形態では、Cs含有フラックス材料は、低溶融温度フラックス材料中に、モル基準で約85%で存在してもよい。
【0022】
低融点共晶ブレンド組成物
最初に述べたように、上述のCs含有フラックス材料に少量の低融点共晶ブレンド組成物を添加して、本開示の低溶融温度フラックス材料の溶融温度を低下させることが可能である。低融点共晶ブレンド組成物は、基材表面の十分な濡れを達成し、その上の酸化物の形成を防止するために、Cs含有フラックス材料と物理的及び化学的に適合性であるべきである。したがって、本発明者らは、テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム(NaBF4/NaF)共晶ブレンド組成物が前述の基準を満たすということを発見した。
【0023】
テトラフルオロホウ酸ナトリウムは、無色又は白色の水溶性斜方晶の形態の無機塩である。同様に、フッ化ナトリウムは、無色又は白色の水溶性立方晶の形態の無機塩である。テトラフルオロホウ酸ナトリウム対フッ化ナトリウムの特定の相対比において、共晶ブレンド組成物が達成され得る。例えば、テトラフルオロホウ酸ナトリウム対フッ化ナトリウムの好適な相対比は、モル基準で、約88:12~約92:8、例えば約89:11~約91:9、一実施形態では約90:10であってよい。この共晶ブレンド組成物は、約384℃などの約383℃~約385℃の温度で溶融し、これは、上述のAl-Znろう付け材料に関連して使用するための所望の溶融範囲内である。
【0024】
テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物を少量でCs含有フラックス材料に添加して、低溶融温度フラックス材料の溶融温度を400℃未満に低下させ、低溶融温度フラックス材料が上述のAl-Znろう付け材料との使用に適合するようにしてもよい。したがって、一実施形態において、テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物は、低溶融温度フラックス材料中に、モル基準で約7%~約13%の範囲内で存在し得る。特定の実施形態では、テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物は、低溶融温度フラックス材料中に、モル基準で約9%~約11%の範囲で存在し得る。更に、一実施形態では、Cs含有フラックス材料は、低溶融温度フラックス材料中に、モル基準で約10%で存在し得る。
【0025】
媒介化合物
最初に上述したように、ろう付け材料とアルミニウム基材との間の適合性の目的のために、媒介化合物の少量成分を本開示の低溶融温度フラックス材料に添加することが望ましいということが見出されている。媒介化合物は任意選択的成分である。低溶融温度フラックス材料中に存在する媒介化合物の量は、存在するテトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物の量未満であってもよい。一実施形態では、媒介化合物は酸化亜鉛(ZnO)であってもよい。酸化亜鉛は白色粉末の形態の無機化合物である。上述のAl-Znろう付け材料中の亜鉛の量が比較的多いため、酸化亜鉛は、アルミニウム基材との適切な媒介化合物として機能する。
【0026】
したがって、一実施形態では、酸化亜鉛媒介化合物は、低溶融温度フラックス材料中に、モル基準で約0%~約7%の範囲内、又は約3%~約7%の範囲内で存在してもよい。特定の一実施形態では、酸化亜鉛媒介化合物は、低溶融温度フラックス材料中に、モル基準で約4%~約6%の範囲内で存在してもよい。更に、一実施形態において、酸化亜鉛媒介化合物は、低溶融温度フラックス材料中に、モル基準で約5%で存在してもよい。
【0027】
以下の表1は、本開示のいくつかの実施形態による、低溶融温度フラックス材料の最小、最大、及び例示的な組成範囲を提供する(表1中の全ての値の単位はモル%である)。
【0028】
【0029】
低溶融温度フラックス材料は、Cs含有フラックス材料、テトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物、及び酸化亜鉛媒介化合物のそれぞれの粉末形態を一緒に混合して、粉末形態の低溶融温度フラックス材料を提供することによって調製することができる。代替的一実施形態では、低溶融温度フラックス材料は、前述の粉末形態に高沸点グリコールブレンド、レオロジー添加剤(増粘剤)、及び/又はUVマーカーを添加することによって、ペーストの形態で提供されてもよい。高沸点グリコールブレンドは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、例えばポリオキシアルキレンエーテルなどのグリコール樹脂、アルキルアルコール、及び水(それらの様々な配合物が当該技術分野で公知であり、当該技術分野で市販されている)を含むことができる。レオロジー添加剤としては、ペーストが非ニュートン特性を示すことを可能にする様々な化合物の任意のものが挙げられる。更に、UVマーカーとしては、紫外(UV)光の下で可視になる様々な化合物の任意のものが挙げられる。
【0030】
ろう付け方法
本開示の実施形態は更に、上述のようなAl-Znろう付け材料及び低溶融温度フラックス材料を使用する、ろう付け方法に関する。最初のステップとして、低溶融温度フラックス材料が調製される。一般に、低溶融温度フラックス材料は、モル基準で、過半量がCs含有フラックス材料であり、半量未満がテトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物であり、また半量未満が酸化亜鉛媒介化合物である組成を有し得、存在する酸化亜鉛媒介化合物の量は、存在するテトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物の量より少ない。一実施形態では、低溶融温度フラックス材料は、モル基準で、約80%~約90%がCs含有フラックス材料であり、約7%~約13%がテトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物であり、かつ約0%~約7%、又は約3%~約7%が酸化亜鉛媒介化合物である組成を有し得る。更なる一実施形態では、低溶融温度フラックス材料は、モル基準で、約82%~約88%がCs含有フラックス材料であり、約9%~約11%がテトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物であり、かつ約4%~約6%が酸化亜鉛媒介化合物である組成を有し得る。更に別の一実施形態では、低溶融温度フラックス材料は、モル基準で、約85%がCs含有フラックス材料であり、約10%がテトラフルオロホウ酸ナトリウム/フッ化ナトリウム共晶ブレンド組成物であり、かつ約5%が酸化亜鉛媒介化合物である組成を有し得る。また、最初のステップでは、Al-Zn系ろう付け材料が入手される。Al-Zn系ろう付け材料は、モル基準で、98Zn/2Al、95Zn/5Al、90Zn/10Al、85Zn/15Alのいずれかであり得る。特定の一実施形態において、Al-Znろう付け材料は、98Zn/2Alである。更に、最初のステップでは、一体にろう付けされる2つの金属基板が入手される。一実施形態において、金属基板は、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成され得る。
【0031】
その後、ろう付け方法は、ある量のAl-Znろう付け材料及び低溶融温度フラックス材料の両方を、2つの金属基材のうちの1つの接合領域に塗布することに進む。塗布に続いて、2つの金属基材を接合領域で接触させ、接合領域を、Al-Znろう付け材料及び低溶融温度フラックス材料のそれぞれの溶融温度よりわずかに高いが、金属基材の溶融温度より低い温度に加熱する。このようにして、Al-Znろう付け材料は毛細管現象により接合領域に流れ込む。次いで、それは、「濡れ」として知られるプロセスで金属基材上を流れる。その後、接合領域は、ろう付け材料及び低溶融温度フラックス材料のそれぞれの溶融温度未満に冷却されて、ろう付け方法を完了し、その結果、金属基板は、堅固な方法で一体にろう付け/接合される。
【0032】
以上のように、本開示は、ろう付け用途のための非腐食性低溶融温度フラックス材料と、それを使用するろう付け方法とを提供した。本明細書に記載されるフラックス材料は、セシウム(Cs)及び様々な追加の化合物を含み、融点が約385℃~約420℃の範囲である上述の低溶融温度Al-Znろう付け材料がアルミニウムに接合されることを可能にする。有益なことに、開示された低溶融温度フラックス材料は、塩化亜鉛又は塩化アンモニウムなどの腐食性塩を含まない。
【0033】
前述の本発明の主題の詳細な説明で、少なくとも1つの例示の実施形態が提示されてきたが、膨大な数の変更例が存在することを理解されたい。例示の実施形態又は複数の例示の実施形態は、あくまで例示であり、いかなるようにも本発明の主題の範囲、適用性、又は構成を制限する意図がないこともまた理解されたい。むしろ、前述の詳細な説明は、当業者らに本発明の主題の例示の実施形態を実装するのに簡便なロードマップを提供するだろう。添付の特許請求の範囲に記載される本発明の主題の範囲から逸脱することなく、例示の実施形態に説明された要素の機能及び構成に様々な変更を加えることができるものと理解される。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろう付け用途のための低溶融温度フラックス材料であって:
主成分として、Cs含有フラックス材料と、
第1の少量成分として、共晶ブレンド組成物と、
を含む、低溶融温度フラックス材料。
【請求項2】
前記Cs含有フラックス材料は、前記低溶融温度フラックス材料中に、約80モル%~約90モル%の量で存在し、前記共晶ブレンド組成物は、前記低溶融温度フラックス材料中に、約7モル%~約13モル%の量で存在し、
前記低溶融温度フラックス材料は、第2の少量成分として、媒介化合物を更に含み、前記媒介化合物は、前記低溶融温度フラックス材料中に、約3モル%~約7モル%の量で存在し、かつ前記媒介化合物は、酸化亜鉛を含む、請求項1に記載の低溶融温度フラックス材料。
【請求項3】
低溶融温度フラックス材料を使用してろう付けする方法であって:
2つの金属基板を提供又は入手するステップと、
ろう付け材料を提供又は入手するステップと、
前記低溶融温度フラックス材料を提供又は入手するステップであって、前記低溶融温度フラックス材料は:
主成分として、Cs含有フラックス材料と、
第1の少量成分として、共晶ブレンド組成物と、
第2の少量成分として、媒介化合物と、を含み、
前記第2の少量成分は、前記低溶融温度フラックス材料中に、前記第1の少量成分より少ない量で存在するステップと、
前記ろう付け材料及び前記低溶融温度フラックス材料を、前記2つの金属基板のうちの1つの接合領域に塗布するステップと、
前記接合領域において前記2つの金属基板を接触させるステップと、
前記接合領域を、前記ろう付け材料の溶融温度より高く、かつ前記低溶融温度フラックス材料の溶融温度より高いが、前記2つの金属基板の溶融温度より低い温度に加熱するステップと、
前記接合領域を、前記ろう付け材料の前記溶融温度より低く、かつ前記低溶融温度フラックス材料の前記溶融温度より低く冷却することを可能にするステップと、
を含む、方法。
【国際調査報告】